【前編】の続きです。
-学園都市、『壁』周辺
辺りには黒煙と砂塵が立ちこめていた。
もうすぐ完全に日没となるために光のない倉庫街は真っ暗である。
倉庫街、というよりも倉庫街跡地と言った方がこの場合は妥当である。
十数分前に宇宙空間からのレーザー爆撃を受けた倉庫街は大半が消滅していた。
『壁』の真上に落ちた白色レーザーは直径3Kmをクレーターにし、更にその円周を更地に変えた。
つまり、学園都市を囲う様に建設された『壁』はおよそ3・5Kmに渡る大穴が空いていた。
そして、視界0の暗闇の中に学園都市外部から来た車が続々と突っ込んで行く。
???「…今この瞬間、学園都市に入りました、とミサカはカーナビの車が表示されない異空間に突っ込んだ映像を見て確認します」
その内の先頭であるワゴン車の車内で無表情な少女が後部座席から身を乗り出してカーナビを注視する。
地面がむき出しなので路面はガタガタ。そのため車内も不安定にガタガタと揺れていた。
匪口「あっつ~…暑すぎるだろこれ。もっとクーラーいれてよクーラー」
その隣で顔を手で扇ぎながらメガネの青年、匪口裕也がダラダラと文句をたれていた。
???「これでもフル稼働ですが、とミサカは我慢のできないゆとりをたしなめます」
匪口「ゆとり世代じゃなくても我慢できないだろ。何度あるんだこれ」
レーザー爆撃からまだ十数分しか経っていないために、煙と共に熱も籠もっている。
とてもじゃないが爆撃の中心地には近寄れない。車がぶっ壊れる様な温度に人間が耐えられるわけがない。
なので匪口率いるHALの兵隊達は二手に分かれて学園都市へと突入していった。
???「しかし車のヘッドライトしか見えませんね、とミサカは久々の帰省なのに景色が見えないことに落胆します」
匪口「たしかにな。ま、それももう少しの辛抱だ。それよか携帯型の扇風機とかない?」
???「それももう少しの辛抱です、ミサカはかけられた言葉をバットで打ち返します」
煙の中に入ってから車内はずっとこんな感じである。
できれば穴の両端から入りたいところだが、すでに爆撃から十数分も経っているためにそこはより厳重に固められている可能性がある。
学園都市に入ってすぐに蜂の巣になるよりは、車が耐えられるギリギリのところを通って暑いのを我慢した方がいいにきまっている。
ほんの数分車を走らせているとようやく少しだけ明るさが戻ってきた。
それに伴い路面の凸凹も治まり初め、車内もあまりガタガタしなくなってきた。
???「ようやく煙の中から出たようですね、とミサカは砂ぼこりと煤にまみれた窓のせいで未だ景色が見えないことに再び落胆します」
匪口「いいよ、窓空けようぜ。まだ外気はちょっと熱いかもしれないけどその内冷えるだろ。もう10月だし」
???「いやっふう、とミサカは嬉々としてパワーウインドウを降ろします」
言葉だけでまったく表情を変えない少女は脇にあるスイッチを指で押し込んだ。
うぃーん、という音と共に窓ガラスが降りていく。外気は車内温度よりも少しばかり低く、風が車内に舞い込んできた。
先ほどからまったく喋らない運転手も洗浄液を出してワイパーでフロントガラスをきれいにしていく。
見た限り瓦礫ばかりで人影は近くにない。匪口達を取り押さえようとしている治安部隊などはないようだ。
匪口「…なるほど、HALを恐れて電波が使えないから連絡系統も乱れてるのか。それともHALが既に何か手を打ってくれたのかな?」
???「どちらでしょうね。ミサカがMNWに復帰できれば連絡を取れるのですが、とミサカは上位個体にハブられたことを恨めしく思います」
匪口「ま、仕方ない。ミサカの上司もバカじゃないってことだ。どっちにしてもその上位個体ってのを見つけなきゃ俺らもHALの場所が…ん?」
急に匪口はしゃべるのをやめた。そして何かを見つけたかの様に少女の隣に身を乗り出す。
???「あー…逃げた方がよさそうですね、とミサカは遠くに見えるカラフルな煙と車が爆発したみたいな音を以て提案します」
匪口「なにあれ?なにが起きてんの?」
匪口と少女が見つけたのは何かの爆発だった。それにより匪口達と分かれて学園都市に侵入した車が更地の向こうで次々に吹っ飛んでいるようだ。
だが、奇妙なことに上がる煙は黒でなく七色だった。何をどうすればあんな煙が上がるのか匪口には見当がつかなかった。
???「【ナンバーセブン】。学園都市に七人しかいないLevel5の第七位ですね、とミサカは以前MNWにアップロードされていた情報を思い出します」
匪口「! じゃああれは超能力か!」
???「ええ、どちらの意味でも超能力ですね、とミサカは匪口裕也を肯定します」
匪口「ハハッ!スゲー!スゲーよ!生身の人間が一個人の力で走ってる車吹っ飛ばしてんのかよ!」
学園都市に初めて来た青年は遠くに見える超常現象を目の当たりにして顔いっぱいに笑みを浮かべた。
窓から身を乗り出し、その光景を目に焼き付けようと目を見開く。
匪口「なあ!もっと近く行こうぜ!あんなもんめったに見れるもんじゃねーよ!」
???「バカ言わないでください、とミサカは少年の様な匪口裕也をたしなめます」
匪口「いいじゃん!ケンカ売りに行くわけじゃねーんだしさ!ただどんなヤツか見たいだ…え?」
再び匪口はセリフを切る。再び何かを発見したのだ。
ワゴン車の正面に急に人が現れた。それも時代錯誤も甚だしい白ランをはためかせ、同様に長いハチマキもはためかせている。
【ナンバーセブン】削板軍覇が時速80キロで走っているワゴン車の前に突如として現れた。
削板「何人たりともここは通さん」
もちろんワゴン車は止まらない。止まる気もない。むしろ、運転手はアクセルを底まで踏み込んだ。
グオッ、という音と共にワゴン車は一気に加速する。
グワッシャン!と車の前面が電柱に激突したかのように思い切り凹んだ。
対して削板は腰を落として右手を車のエンジン部分に突き刺している。
突っ込んでくる車に対して削板がとった行動は避けるでもいなすでもなくまさかの正拳突き。
『すごいパンチ』がワゴン車のエンジン、それどころか後部座席も突き抜けて後続の車まで吹き飛ばした。
だが、それでも止まった車はその直線上の車だけ。車の大群はまだまだ唸りを上げて削板の横を通過しようとする。
削板「吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ドッパァン!という音と共に七色の煙が爆発的に吹き上がる。
それに飲み込まれる形で車は次々に宙を舞う。
侵入者達はまだ誰一人倉庫街から出られていなかった。
Level5の第七位【ナンバーセブン】削板軍覇、押し寄せる侵入者の大群を前に一歩も退かず、己の根性を誇り、貫き通す。
匪口「イテテ…なんだったんだ?今の…」
しりもちをついたような体制で匪口は呟く。
車の窓から身を乗り出していたのが幸いし、削板の正拳突きの衝撃で窓から落ち、そこから逃げたために爆発から辛くも逃げていた。
削板「何者だ?お前ら」
匪口「お、わ」
グン、と匪口の身体が宙に浮く。削板が匪口の胸ぐらを掴んで持ち上げたのだ。
いくら匪口が細身とはいえ、人体を片手で持ち上げる人間などそうそういたものではない。
削板「どいつもこいつも目の色を失ってまともに喋ろうともせん。その点、お前はまだマシなようだな」
匪口「ぐえ…」
削板「さあ吐け。お前らは何者で、何が目的だ?返答次第では地獄を見せる」
匪口を片手に高々と掲げ、なお一層凄む削板。その威圧感は常人が出せるようなものではない。
だが、自分の身体が片手で持ち上げられているにもかかわらず、匪口は不敵に微笑んだ。
削板「む…?」
匪口「ハハ…リアル無双かよ…。だったらこっちも負けられないね」
ヒュッ、と何かが匪口と削板の僅かな隙間を通過した。
その直後、匪口の身体が地面に落ちる。
匪口「イテッ!」
削板「な…!?」
???「ミサカを忘れてもらっては困りますね、とミサカは少年マンガっぽく助太刀に入ります」
再びしりもちをついて後ろに下がった匪口の前にに黒い得物を持った無表情な少女が割って入った。
匪口と削板の間を通過したのは磁力で形成された砂鉄の剣。それが匪口の服の胸ぐら部分のみを切り裂いたのだ。
削板「まさか…【超電磁砲】か!?お前ほどの根性の持ち主がなんでこいつらに味方してんだ!?」
???「ここがミサカの新天地だからですよ、とミサカは意味深な発言で【ナンバーセブン】を惑わせます」
削板「見損なったぞ!お前は俺の好敵手と言えるほどの根性の持ち主だと」
匪口「こっちも忘れてんじゃねーよ」
バッ、とどこからともなく削板の左右に何人もの兵隊が現れる。
その全員が跳びながら身体をひねり、回転し、上半身を丸め、縦に連なり、削板の頭から脚まで至るところに回し蹴りをかました。
削板「ガ!?」
むちゃくちゃな戦法にむちゃくちゃパワー。同じタイミングで放たれた回し蹴りによって削板の身体は遥か彼方に飛んでいった。
匪口「学園都市に入る前にこいつらに見せたのは【電子ドラッグ】ver2。
こいつらは車が吹っ飛ばされたくらいじゃリタイアしない。その気になれば素手でビルすら倒壊させる」
そしてその兵隊達は恐れることなく削板を追いかける。その速度も常人のそれとは段違いである。
???「どうせジェンガ建築でしょう、とミサカは一人でいい気になってる匪口裕也を小脇に抱えます」
匪口「耐震偽装なんかしてねービルだよ」
???「はいはいそうですか、とミサカは話半分で聞きながらずらかります」
そう言いながらクローンの少女は脇にメガネの青年を抱えて後ろに大きく跳んだ。
直後、そこに学園都市に新たに侵入してきた大型トラックが突っ込んできた。
そのトラックの側面を磁力によって上り詰め、ストン、と二人は屋根に着地した。
匪口「うへぇ、俺の一張羅がズタボロだ」
???「ワイルドだろぅ、とミサカは匪口裕也がなけなしの力こぶを強調することを期待します」
匪口「しねえよ。絶対しねえ」
そんなやり取りをしていると、遠くで派手な音と共に再び七色の煙が上がった。
恐らく大量の兵隊と削板が交戦していることだろう。
その間に後続の部隊が次々に学園都市へと侵入する。
治安部隊に一網打尽にされることを警戒して左右とも二陣に分けたことが功を奏した。
匪口「オープニングからトばしすぎだろ。最初からクライマックスにも限度があるぜ?」
???「これが学園都市。ミサカの生まれ故郷です、ミサカは胸を張ります」
匪口「ハンパねぇな。やっぱり俺が望んだ以上にカオスな街だ。もうずっと鳥肌が総立ちだよ」
???「まだですよ。この街はまだ何もあなたに見せちゃいません」
そして無表情な少女はその日初めて笑顔を見せた。
???「ようこそおいでませ、科学と能力者のワンダーランドへ、とミサカは両手を広げます」
-一時間後、第十一学区倉庫街跡地
辺りに広がっているのは炎上した車と意識を失った人間の数々。
レーザー爆撃による熱は大分ひき、煙も大分治まってきたものの、今度は炎上した車から黒煙が上がっていた。
戦争か紛争の現場だったと言われれば信じてしまいそうな空間の中でただ一人、白ランに身を包んだ男だけが立っていた。
削板「スマン雲川。大分取り逃がした。この削板軍覇、一生の不覚だ」
携帯電話を片手に男は沈んだ声を出す。その表情にも悔しさがにじみ出ていた。
雲川『まあいい。そもそもお前一人では物理的に無理があったと思うのだけど』
削板「それを根性でなんとかするのが漢だろうが」
雲川『お前くらいだ。その思考回路を人類の半数に押しつけるな』
削板「男と漢はまったく別の生き物だろう?」
雲川『…恐らく電話でする話としては不適合だと思うのだけど』
電話の向こうの人物、統括理事会の一人のブレーンである雲川芹亜は半ば呆れた声をだす。
どういう訳か、二人とも電波に関して警戒心を抱いたりはしていないようだ。
削板「それともう一つ報告だ。相手方に【超電磁砲】がいた」
雲川『【超電磁砲】? 第三位が?ありえないけど』
削板「俺もそう思ったがな…どこからどう見ても【超電磁砲】だったぞ。アイツなら学園都市に外部の人間を手引きするのもできるだろ?」
先ほどの大規模爆撃はかなりの破壊力を持つ兵器でなければ不可能。
それほどのものなら確実に学園都市の防衛機構のどこかにひっかかるはずある。
だがそれも【超電磁砲】なら、この街で最高の電子制御の能力を持つ人間ならそれを欺くこともできる。
逆に【超電磁砲】が学園都市の大規模兵器を操ったという可能性もありえる。
雲川『…ああ、そういうこと。安心しろ。そいつは【超電磁砲】ではない』
だが、電話の向こうの天才少女はバッサリとその可能性を切って捨てた。
削板「なに?なんでそう言い切れるんだ?」
雲川『第一位の消息が絶たれたあと、他のLevel5の動向はこちらで完全に把握している。第三位は確かに常盤台の学生寮に戻っているよ』
削板「…なら俺が見た女は?」
雲川『ふむ、そうだな…。偏光能力…もしくは特殊メイクなどの可能性もあるな。Level5が相手となれば尻込みする連中もいる。それが狙いだと思うけど』
削板「…ハ…ハハ、なんだそういうことか!クソッ、一杯食わされたな!」
雲川『…それにしては随分明るい声だけど』
削板「おう!俺は嬉しいぞ!【超電磁砲】があんな根性無しの味方でないと分かったんだからな!」
もはや爽やかすら感じる声で削板は携帯電話を片手にしゃべる。
自分の好敵手の潔白、それが証明されただけでも大満足なのに好敵手に対する幻想も守られた。
これほど嬉しいことはない。
雲川『…そうか。とにかく、警備員の連絡網もようやく復旧した。直そちらに着くからお前にはその引き継ぎも任せたいのだけど』
削板「任せろ!その後は自由にしていいんだろ!?」
雲川『定期的に連絡を入れてくれれば問題はない。一応なにをするか知りたいのだけど』
削板「修行を兼ねて侵入した連中を片っ端から捕まえにいく!自分のケツくらい自分で拭かんとな!それに今の俺では【超電磁砲】に顔向けできん!」
自分の力が及ばなかったが故に大きな被害が出ることだろう。その責任はしっかりとらねばなるまい。
そして、一時でも自分の好敵手を疑ってしまった償いもしなければ。
きっとその好敵手もここのところの騒動で悪党どもを懲らしめているに違いない。
一方で自分は大失態まで犯してしまった。みっちり鍛え直さねば申し訳も立たない。
雲川『…ふむ、それなら問題ない。今後も用件があればこちらからも連絡するけど』
削板「どんと来い!もう二度とこのような失態は犯さん!この俺の根性に誓ってな!」
-翌日、第七学区街頭
-止まりません!!【電子ドラッグ】は人々の脳から去っていません!!-
-今日も街頭では…何かの弾みで暴動が頻発しています!!-
街頭モニターには暴れ回る大人たちとそれを伝えるヘルメットをかぶったレポーターが映し出されていた。
そのモニターを視界の端に捉えながら、御坂と白井は連続でテレポートを続ける。
道中、暴れる学生や大人も多々見かけたが全て無視して目的地へと急いでいた。
緊迫した表情で二人が向かうのは『風紀委員』一七七支部。
朝一番で白井に届いた報せは『風紀委員』一七七支部が襲撃されたという内容だった。
その言葉を聞いた瞬間、二人はそれ以上何も聞かずに支部へと向かった。
昨晩は初春が支部に泊まっていた。その瞬間を狙われたのなら初春の身に何かあったに違いない。
初春ほどの技術を持った者ならあのプログラム人格に狙われても何もおかしくはなく、初春自身が兵隊にかなうはずもない。
初春の安否をその目で確かめるべく、二人は支部へと急いだ。
-『風紀委員』一七七支部
ヒュン、と二人が支部の中央に転移する音が鳴った。
白井「初春!無事ですの!?初春!?」
開口一番に白井が叫んだ。だが、支部には荒らされた備品が転がっているばかり。
花飾りの少女の姿はどこにもなく-
???「ふぁい?」
ふと、死角となっていたパソコンの向こう側から声が聞こえた。
そして、そこから見覚えのある花と顔だけがひょっこりと現れた。
初春「あ、白井さんに御坂さん。おはようございまーす」
拍子抜けするようなあめ玉転がした声で、いつも通りに初春は笑顔で朝の挨拶してきた。
白井「初春!ああ、よかった…!無事でしたのね!?」
自分の心配が杞憂であったことを確かめ、白井は安堵の色を浮かべた。
御坂「大丈夫!?初春さん!何か変なこととかされてない!?」
一安心はしながらも二人は初春の身を心配しながら駆け寄った。
初春「ええ、何も心配いりませんよ。もーまんたいです」
花飾りの少女はにっこり笑ってその二人を迎えた。
白井「よかった…!本当に心配しましたのよ!?」
初春「へ?す、すみません、黄泉川先生がちゃんと伝えておくって言ってたんですけど…」
御坂「え?私たち黄泉川先生から連絡を聞いて…ってそう言えば支部が襲撃されたとしか聞いてないかも…」
白井「うげ、黄泉川先生から鬼電かかってきてますの」
初春「えー、と…つまりどういうことですか?」
御坂「私たち黄泉川先生からの着信で起きてさ、そしたらこの支部が襲撃されたって言うから慌ててここに来て…」
初春「ああ、だからパジャマとネグリジェなんですか」
御坂「へ!?」
白井「きゃああ!?」
初春「…ってまさか気づいてなかったんですか?」
御坂「気づいてないわよ!あーもーすっかり忘れてた…」
白井「わた、わたく、しはまさか、こ、こんな下着も同然の、姿で街な、かを…」ガクガク
初春「白井さん」
白井「は、はい?」
初春「風紀委員ですの!」キリッ
白井「」
御坂「あはは…」
初春「でも二人とも我を忘れるほど私の心配をしてくれたんですよね。ありがとうございます」ペコリ
白井「それで、昨日は一体何がありましたの?」
とりあえず白井は支部に置いてあった『風紀委員』の訓練用兼貸出用ジャージに着替えていた。
黄泉川からの電話は怖いからとりあえず後回しだ。それにきっと長くなるだろうし、今の内に話を聞いておきたいというのもある。
初春「えーとですね、昨日御坂さんの言っていたプログラム人格の居場所を探っていたら急に窓を【電子ドラッグ】の中毒者らしき人が突き破ってきて…」
そう言って初春はガムテープと段ボールでふさがれている窓を指した。
御坂「…たしか『風紀委員』の窓ガラスってとんでもなく頑丈なのよね?」
白井「ええ、そこいらの銃火器ではビクともしない程度には」
初春「怖かったですよ…なんせ肩車しながら巨大な鉄骨で襲い掛かってきたんですから」
御坂「え?」
白井「肩車?どういうことですの?」
初春「こう…肩車されてる人の上にまた肩車する感じで…
で、私はデスクの下で縮こまってんですけど、私に気付く前に警備員が来てくれたので無事だったんです」
御坂「んー…いまいちピンとこないけど…」
白井「まあ、そこの床がでっかくエグれてますので事実なのでしょうね…」
初春「話聞いてるだけじゃ分からないですよね。私も未だに自分の見た光景が信じられませんから」アハハ…
白井「とにかく、警備員の迅速な対応に感謝ですの。下手したら初春は殺されていたかもしれませんの」
御坂「ホントよね。昨日もなんか爆撃テロみたいのがあって学園都市の壁が破壊されたって話だし…また学園都市が荒れ始めるわね」
一連の首謀者であるプログラム人格HALはもともと学園都市の外で生まれた存在。
となれば、昨夜の『壁』に対する爆撃テロとの関連性は限りなく高い。
初春「ええ、私もドジって危機一髪でしたけど…だからって諦めませんよ!今度こそプログラム人格の居場所を突き止めてみせます!」
御坂「…ムリしなくてもいいのよ?そもそも私の問題なんだし…」
初春「いいえ!これは私の意志で御坂さんに協力してるんですから!」
白井「そうですわお姉様。その件に関してはもう言い合いっこなしですの」
御坂「…ありがとう。つくづく感謝するわ」
初春「気にしないでください。それに困ってる学生を助けるのは『風紀委員』の務めですから」フンス
白井「あらあら、初春も言うようになりましたわね」クスクス
-???
匪口「よー!久しぶりだね、HAL!」
HAL「ああ、待っていたよ匪口裕也」
学園都市の某所、その暗く大きな部屋でとうとう1の世界の天才と1と0の世界天才が会合を果たした。
???「どうもはじめましてHAL。ミサカ11018号です、とミサカは丁寧に頭を下げて自己紹介します」
HAL「ああ、君が匪口裕也の協力者か。世話になったね」
11018号「このくらいどうってことありません、とミサカは懐の深さをアピールします」
大きく映し出されたモニターの前には一人の青年と一人の少女が立っていた。
そして、そのモニターに映っているのは当然1と0の世界の住人【電人】HAL。
HAL「二人とも、まずはご苦労。君たちはやはり一流だ」
11018号「当然です。ミサカはデキる女ですから、とミサカは胸を張ります」フフン
HAL「ククク、違いない。まさか私の許にたどり着くだけでなくミサカネットワークまで復旧してくれるとは思わなかったよ」
匪口「ひでーよなあ。同じ方法で連絡するっつってんのにいきなりそのネットワーク切断するなんてさ」
ちなみに、匪口の当初の学園都市への潜入プランでは学園都市の監視衛星を一時的に止めるだけ。
その後『妹達』によって門の監視カメラのごまかしと周辺の人間を排除を任せるという予定だった。
だが数日間ミサカネットワークが復旧しなかったために事前にHALから送られていた【電子ドラッグ】Ver3を見せたミサカ11018号単体で強行突破を敢行。
さらに、クラッキングの最中に『ひこぼしⅡ号』の実体を暴いたためにレーザー爆撃を行ったのだ。
HAL「すまなかったね。ミサカネットワークに対する情報が完璧ではなかったんだ」
匪口「へえ、あんたにもそんなことがあるんだ」
HAL「実際ここの環境は外に比べて厳しすぎるよ。情報量もセキュリティレベルもケタ違いだ。
私自身の管理を少しでも怠れば、鼠より無力な地を這う鳥になり下がる」
匪口「やっぱスパコンの性能差は否めないか。とにかくさっき連れて来た幼女が打ち止めだよ。
少し【電子ドラッグ】の効きが悪いから再教育させてる。やっぱ長期的に完全に支配するには元祖【電子ドラッグ】の方がむいてるね」
HAL「ああ、見ていたよ。…だが、キミが一緒に連れて来たあの者は?見たところこの街の人間だったと思うが」
匪口「逃げ場に困った打ち止めが最終的に頼った人間だよ。大したことなかったけど…なかなか面白いヤツだったから連れてきた」
HAL「さて、君たちにも大まかに状況を説明しておこうか…」
匪口「そうだね。あんたがここまで追い詰められた経緯なんか興味がある」
11018号「ミサカの方はMNWによりある程度は把握しています、とミサカは久々に他個体と繋がれたことを嬉しく思います」
HAL「ふむ、ならば君の望むところからはじめようか。匪口裕也」
HAL「私はスパコンごと学園都市に入ってからは着々と兵隊を増やしてきた。外で行った時と同じように」
HAL「しかし…少々この街を甘く見ていたようでね。一度はこの街の長と交渉にまでこぎつけたのだが、
少しばかり気が逸ったせいで外部との接続を絶たれ、『スフィンクス』も一度に多く失った」
匪口「…へえ、兵隊たちを蹴散らせるような連中がゴロゴロいんのか」
HAL「ああ、警備員と暗部…風紀委員も一応注意が必要だな。もとが治安維持の他に能力者の暴走を取り締まる組織。
暗部に至ってはこの街の非合法な自浄装置の役割を担っている。扱える力はとてつもなく大きいぞ」
匪口「…名称でよく分かんねーけど、要するに全部警察みたいなモンだろ?ま、そこまでやるなら警戒は必要だな」
HAL「それと、警戒すべき存在はまだいる。Level5だ」
匪口「! アレだろ?この街に7人しかいないってヤツ」
HAL「その通り。一個人で軍隊クラスの武力を持つ者たちだ」
匪口「ああ、知ってるよ。なんせ昨日ここに来る時に会ってきたんだからさ」
HAL「ほう、あのような入り方の後にLevel5に目をつけられてよく無事だったな」
匪口「無事なもんかよ。俺の一張羅はズタボロだし兵隊も半分くらいやられた。ありゃー軍隊クラスどころじゃないね」
HAL「ククク…では、その中でも要注意人物を挙げておこう」
HAL「第三位の【超電磁砲】御坂美琴、第五位の【心理掌握】食蜂操祈。この二人だ」
匪口「…あれ?三位と五位なの?こーゆーのは普通一位二位じゃね?」
HAL「戦闘面に関して言えばLevel5は全員警戒対象だ。しかし中でも第三位と第五位はその能力が厄介でね。
第三位は学園都市で唯一、この世界で私にたどり着ける可能性を持っている。第五位は唯一、私の【電子ドラッグ】を上回る洗脳力を持っている」
匪口「…なるほどね。そりゃ厄介だ。超能力ってなんでもアリだな」
HAL「詳しい資料はのち程渡そう…まあ…その資料も完全かは分からないがね」
匪口「でもさ、三位ならこっちもいるじゃん。このミサカだってかなりのモンに仕上がってると思うけど?」
11018号「100パー無理です、とミサカは無茶振りされるであろう話に敏感に反応します」
匪口「そうなの?」
11018号「例えば昨日使った砂鉄の剣ですが、ミサカは地中から砂鉄を抽出し形を安定させるまで一分半前後かかりますし、長さもせいぜい1m程です。
ですがお姉さまは形の安定までに10秒かかりません。しかも変幻自在で伸縮自在です、とミサカは越えられない壁があることを具体例で示します」
匪口「ふーん【電子ドラッグ】でも無理か。見ようによっちゃこの街の方がよっぽどおおっぴらに悪いことやってるよな」
HAL「ククク、違いない…」
匪口「じゃあさ、外部との接続を切り離したってのはそのミサカの姉ちゃんがやったの?」
HAL「いや、また別の人物だ。能力ではない、君と同じく一流のハッカーの仕業だよ」
匪口「…だったらそっちも警戒が必要なんじゃねーの?」
HAL「その必要はない。すでに彼女はこちら側の人間だ」
匪口「あ、そうなん?」
HAL「ああ、昨日の夕方だがね。だが、今はまだ日常生活を送らせている。本格的にこちら側で活動させるのはまだ先だ」
匪口「…なんか問題でもあんの?」
HAL「彼女自身はとても優秀だが、いかんせん戦闘面となると話は別でね。彼女は御坂美琴と親しい仲にある。現状、Level5と真っ向から戦うには時期尚早すぎる」
匪口「なるほど。でも、よく一晩で別人格を構成させるまでハマらせたね」
HAL「思いの外【電子ドラッグ】の効きが良くてね。恐らくは彼女自身…ククク、相当腹黒いのだろう」
11018号「…戦力の問題ですが、とミサカは二人の会話に参戦します」
匪口「お、どした?ミサカ」
11018号「MNWを切断して手に入れた最強の兵隊がいるはずですが、とミサカはひょろモヤシを思い出します」
HAL「ああ、一方通行か」
匪口「あくせられーた?誰それ?」
11018号「Level5の第一位です、とミサカはかつての被験者を紹介します」
匪口「そんなヤツが堕ちてんの?じゃあもう心配いらねーじゃん。昨日のあいつで七位なんだから一位なんて地球ぶっ壊せるくらい強いんじゃね?」
11018号「別に学園都市は強さで順位決める様な中2な街じゃねーよ、とミサカはそれでもあながち間違ってないあたりちょっと生まれ故郷に恥ずかしさを覚えます」
HAL「ククク、確かに彼は学園都市の最大兵器と言い換えても問題はない。だが…その分コントロールするのが難しいんだ」
匪口「…俺が作った【電子ドラッグ】でも?」
HAL「ああ。せいぜいが動きを止める程度。どうやら『自分だけの現実』というのが関係しているらしい。第四位はまだなんとかなったのだがね…」
匪口「『自分だけの現実』って?」
11018号「妄想やら信心やら…自分だけが信じている考えと言ってもいいかもしれません。
とにかく、よりはっきりとした『自分』を持っていることがより強い能力の発現の一因となります、とミサカはざっくり説明します」
HAL「つまり、ある意味彼は【電子ドラッグ】でもブレないほどの強固な脳を持っているのだよ」
匪口「おっそろしいな。そいつホントに人間かよ?その内暴れだすんじゃねーの?」
HAL「案ずるには及ばないよ。今はチョーカーの電源を切っている…彼はただの人形だ」
11018号「彼は諸事情あってチョーカーの電源を入れてないと能力を使えないのです、とミサカは質問される前に答えます」
匪口「…つーかチョーカーってアクセサリーじゃね?」
匪口「ま、とりあえずはいいや。大体把握した」
HAL「そうか。他に知りたい情報があれば検索してくれ。機材は一式揃っている。君ならば…どんな情報も引き出せるだろう」
匪口「まーね。…それよかちょっとお願いなんだけどさ」
HAL「うん?」
匪口「俺にも能力開発やってくれよ」
HAL「…君に?」
匪口「ああ。兵隊に困ってんだろ?だったらどんどん強い能力者を作りゃいい」
HAL「…」
匪口「ぶっちゃけ人類の憧れだぜ?手から火ぃ出したり水を操ったり…俺も自分にどんな可能性があるか知りたいしさ。だから」
???「やめた方がいい」
匪口「…? だれ?あんた」
HAL「木山春生。大脳生理学者で…この街で最初の私の協力者だ」
匪口「へえ…」
木山「【電子ドラッグ】の中毒者たちは脳に強い負担がかかっている。すでに能力開発を受けた者はかまわないが、
新たにとなると脳への負担が大きすぎる。最悪、廃人となるケースもあるだろう…一研究者としてお勧めはできないね」
匪口「そっか…じゃあ仕方ないね」
木山「だが、不可能というわけでもない…ゆっくりと、長期的に開発すればできないこともないだろう」
匪口「それでもやっぱりやめとくよ。やるとしたら『ピラミッド』が完成してからだ」
HAL「そうしてもらおう…さて、次の一手だ。君に頑張ってもらうよ、木山春生」
木山「…ああ」
11018「どうでもいいけど服くらい着ろや露出狂、とミサカはひょろメガネのポーカーフェイスが下半身にまで回ってないことを嘲笑います」 ハン
匪口「ちょっ…!」
木山「スパコン自体の熱で暑くてね…空調も調子悪いし、早く直せる人間を回してもらいたいものだ」 フゥ
黄泉川『話の途中でいきなりブチ切ることないじゃんよー』
白井「申し訳ありませんの!私すっかり動転してしまって…」
黄泉川『友達想いなのは素晴らしいけど、風紀委員なら冷静さも重要じゃん』
白井「おっしゃる通りですの…」
寮監「貴様ら、届け出も無しに早朝から外出とはいい度胸だな」
御坂「ヒ、いや、その…」
寮監「集団生活という場においては規律こそが重要となる。そしてただ一人の身勝手な行動が規律を乱す原因となるのだ」
御坂「す…すいませんでした!」
-常盤台中学学生寮二○八号室
御坂「あ~、朝から疲れた…」
白井「ここまで謝り倒した朝ははじめてですの…」
部屋に入った瞬間、二人してベッドに突っ伏した。
支部で話を聞いたあと、朝食の時間に遅れると点呼に間に合わないと気付き、即座に【空間移動】で学生寮にとんぼ返り
しようとしたところで黄泉川から電話がかかってきてお叱りを受けた。
結局点呼には間に合わず、寮監にバレて大目玉。
せめてもの救いは先日の騒動で思う存分暴れたせいか、寮監の首コキャがなかったことだ。
御坂「ま、いつまでもグダグダしてらんないわね」
そう言って御坂はベッドから起き上がる。
白井「? 何をなさるおつもりですの?」
御坂「せっかくの休日なんだし、今日という今日こそあのプログラム人格を見つけだしてやるわ」
こうしてる間にも『妹達』は操られて犯罪行為をやらされているかもしれない。
『絶対能力者進化実験』の時のように『妹達』が殺されていくことはないだろうが、だからといってこのままにしていいわけがない。
一刻も早く助けださねば。
白井「そうですか…くれぐれもお気をつけてくださいまし」
御坂「大丈夫よ。…もしもの時は躊躇しなくていいわよ」
白井「不吉なこと言わないでくださいな!」
-???
ここのところ毎日行っていたように、自分の意識を電脳世界へとダイブさせる。
唯一の違いと言えば、白井に見つからないように行う必要がなくなったおかげで自室のパソコンからダイブしているということ。
つまり、いつもの端末よりも高性能な媒体であるということだ。
正直、御坂にしてみれば端末だろうがパソコンだろうが大きな差はない。
だがその僅かな違いのせいか、いつも徒労に終わっていた行為は徒労に終わらなかった。
御坂「ありふれた遊園地のホームページ…」
電脳世界ではあくまでイメージであるが、御坂の意識が身体として反映される。
ダイブした意識がたどり着いたのは学園都市に数ある遊園地うちの一つのホームページ。
幻想的なまでに美しく回るメリーゴーランド。
月光を受けてキラキラ光る大きな滝。
御坂「フェイクね」
ピシ、と空間にヒビが入った。
直後に幻想的な空間は弾け飛び、突如として未来人の様な巨大なヒューマノイドが三体現れた。
さらには侵入してきた外敵を排除すべく御坂に襲い掛かる。
御坂「無駄よ」
ヒュパ、という音と共に二体のヒューマノイドが細切れとなる。
電脳世界に送った意識、文字通り思念体とも言える身体は御坂の意思通りに形を変える。
そしてその右手には砂鉄の剣の様な得物が握られていた。
御坂「こっちはアンタを消去させるつもりで来てんのよ?」
いつの間にか御坂は残る一体のヒューマノイドの上を取っていた。
それに気づいたと同時に、ヒューマノイドは首を刎ねられた。
御坂「防御プログラムを攻撃するプログラムも万全に組んできた。この程度のプロテクトじゃ私を排除することなんてできないわ」
ジュアッ、という音ともにヒューマノイドの残骸は黒くどろどろになり、すぐに消滅した。
学園都市が誇るLevel5の第三位【超電磁砲】御坂美琴。
電子制御の最高能力者である彼女に電脳世界でできぬことなどほぼ皆無だ。
???「さすがだな、御坂美琴。ここまで入って来れるのは君と【守護神】しかいない」
ふと、つい最近聞いたことのある男の声がした。
この数日間、御坂が探し求めていた人間の声だ。
声のした方を向き、因縁の相手を見つけてにらみつける。
そこにあったのは暗い電脳世界に構築された城。その城の上で【電人】HALは満足そうに笑顔を浮かべていた。
HAL「ようこそ、私の1と0の世界へ」
御坂「ふん、何が私の世界よ」
ジジ、という音と共に御坂の左手にもう一本砂鉄の剣が現れる。
自分の居場所が割れてなおも笑っているプログラム人格に苛立ちが募った。
御坂「…一応確認だけしとくけどさ、アンタ私がなんでここまで血眼になってるか…分かってるわよね?」
HAL「ククク、当然だとも。風紀委員と繋がりが深い君だ。私が『妹達』を支配下にいれた情報もとうに仕入れているのだろう?」
御坂「やっぱりか…私の妹に手ぇ出して!覚悟は出来てんでしょうね!」
ブォン、という音と共に今度は数百本の砂鉄の剣が御坂の背後で大きな三対の羽の様に配列されて現れる。
さらにはその数百本の剣は一斉にHALへと切っ先を向けた。
御坂「さあ、このまま八つ裂きにされるか『妹達』を解放するか好きな方を選びなさい!!」
HAL「図に乗るな御坂美琴。ここは私の支配世界だ。君に勝ち目などありはしない」
だが、大量の剣を前にして【電人】HALは落ち着き払っていた。
そしてそれが御坂を更に苛立たせる。
御坂「アンタまさか私に勝てるとでも思ってんの!?学園都市の外で開発されたプログラムがこの私に!?」
HAL「君こそ私に勝てると思っているのか?【守護神】すら打ち負かしたこの私に?」
御坂「【守護神】…ああ、初春さんのこと?それだったらアンタは勝ってなんかいない。
アンタを守るプロテクトはほとんど初春さんの手で破れたも同然。残りのプロテクトも私が全部壊した。丸裸のアンタに勝ち目なんか…」
HAL「ククク、何を勘違いしている?」
御坂「…なによ」
HAL「言ったはずだぞ。ここまで入って来れるのは君と【守護神】だけだ、と」
御坂「…!」
HAL「【守護神】が敗れたプロテクトはあの程度のものではない!」
ズドド!と羽よりも遥かに巨大な『スフィンクス』が三体、突如として御坂の前に現れた。
御坂「な…!?」
HAL「スーパーコンピューター専用アプリ『スフィンクス』。こちらが本命だ」
それぞれの『スフィンクス』から翼の生えた異形な生物が数万匹ほど飛び立つ。
更にその生物は悪意をもって御坂を攻撃しはじめた。
御坂「く…!こんなもので…やられるもんか!」
一体一体が【原子崩し】を連想させるようなビームを放ち、御坂の剣を次々と撃墜していく。
しかし御坂も負けずと応戦し、宙に浮かぶ剣を操り、両手に持った二刀を振るい立ち向かう。
HAL「無駄だ」
三体の『スフィンクス』の頭部が輝きだす。次第に輝きを増していき、ついには巨大な球体となる。
ゴウ!と唸りを上げ、数万匹の生物を巻き込み、御坂へと向かって球体は射出された。
御坂「きゃああああああああああああああああああ!」
HAL「【守護神】【超電磁砲】どちらも倒れたか…」
HAL「これで…証明された」
HAL「1と0の世界において…私は無敵だ」
HAL「…だが、待っているよ……【超電磁砲】御坂美琴よ」
-時を少し遡り、常盤台中学学生寮二○八号室
白井「…全ての動きを停止してまでデータを探すお姉様ははじめて見ますの」
白井「いつもならちょちょいのちょいですものね…」
白井「静かに見えるお姉様とパソコンの間では膨大なデータのやりとりが行われているのでしょう…」ジー
白井「…………あら?ってことは……お姉様にあんなことやこんなことができる千載一遇のチャンスですの!」キュピーン
白井「い、いやいや!待つのよ黒子!お姉様は私に全幅の信頼を寄せているからこそこの様な無防備な状態ですのよ!」ブンブン
白井「変な真似をすればその信頼を裏切ることに…でも据え膳食わぬはと言いますし…あれは殿方のみでしたか…でもこの男女平等社会に殿方限定の格言など…」モンモン
白井「…バレなければOKですの」ウン
白井「となると、足がつくものはダメですわね…」ウーン
白井「キ、キスならしてもバレませんわよね?そうと決れば軽くグロスですの」ヌリヌリ
白井「よ、よし準備OKですの」ドキドキ
白井「う…さ、さすがに唇を奪うわけには参りませんわね…」ドキドキドキドキ
白井「でしたらこの綺麗なホッペに黒子の熱い口付けを…」ドキドキドキドキドキドキ
バチィ!と紫電をまとった御坂が弾け飛んだ。
白井「きゃ!?」
弾け飛んだ御坂はそのまま自分のベッドまで叩きつけられる。
いきなりの出来事に驚いた白井は慌てて御坂に駆け寄った。
白井「お、お姉様!どうなさいましたの!?中で一体どうなって…」
御坂「…勝てない」
白井「え?」
御坂「今のままじゃ…アイツたどり着くことはできない。【電人】って…名乗るだけの事はあるわ」
白井「お姉様…」
御坂「ん?」グロス?
白井「あ」
御坂「」ワタシニ?
白井「」コクン
御坂「」バリバリバリバリ!
白井「」アbbbbbbbbb!
白井「…妨害ですの?」プスプスプス…
御坂「初春さんが言ってた妨害データによるジャミング攻撃…並大抵のものじゃなかった。あの『スフィンクス』を破壊しなきゃアイツにはたどり着けない」
白井「…スフィンクス…ですの?」
御坂「あー…つまり妨害データを送ってきたスパコンのこと。そいつがあのプログラム人格を援護してるからアイツの居場所を特定できないの」
白井「なるほど…。ですが学園都市の外ならいざ知らず、この街にはスーパーコンピューターは数えきれないほどありますの。それを探すとなると…」
警備員が『妹達』に撃退された後、再び警備員が突入をかけたがそこはすでにもぬけの殻だった。
つまり、『スフィンクス』は場所を変えることができるのだ。
そうなってくると居場所を再度突き止めるのは限りなく難しい。
御坂「大丈夫、目星はついてるわ。そのスパコンの場所もカモフラージュされてたけど、プログラム人格に比べればガードは薄かったから」
白井「ああ、そうですの。そう言えば初春も同じ様なことを言ってましたわね」
御坂「そしてその場所の一つがね…どう考えても私たちにケンカ売ってるとしか思えなかったわ」
白井「…どういうことですの?」
御坂「第二十三学区の今は封鎖されてるはずの研究所…テレスティーナと決着をつけたところよ」
白井「…!」
テレスティーナ=木原=ライフライン。8月上旬までMARの隊長を勤めていた人間だ。
この街の科学者の中枢でもある木原一族の一人であり、木原一族にふさわしいマッドサイエンティストでもある。
8月上旬に『暴走能力の法則解析用誘爆実験』の犠牲者と初春のルームメイトである春上衿依を利用して絶対能力者を作り上げようとした。
この実験では関係者が全員命の危険にさらされるだけでなく、最悪のケースでは学園都市が吹き飛ぶ可能性もあった。
その全貌を知った御坂、白井、佐天、初春、そして木山の五人がその実験を全身全霊で阻止。
実験が行われようとしていた第二十三学区の研究所は【超電磁砲】の撃ち合いにより最下層ブロックの一部が破壊された。
更に中央管制室のコンピューターの一部が金属バット思い切り殴られて破壊されたために現在は封鎖となっていた。
御坂「ま、そういう訳だからまずはここから行きましょうか」
白井「本当ですの?そんな明らかな挑発に乗らずとも…」
御坂「遅かれ早かれ行くことにはなるでしょ?それならいつ行ったって同じよ」
白井「…そうかもしれませんが…」
御坂「ここに『妹達』がいるかは分からないけど、だからって立ち止まってられない。少しでも前に進むわ」
白井「…了解ですの。まずはそこから参りましょう。初春と佐天さんにも連絡しておきますわ」
御坂「ううん、私がしておく。アイツが電波に何か仕掛けてくるかもしれないし、用心にこしたことはないわ」
白井「…でしたら黒子は何をすれ」グ-
御坂「…朝食の調達をお願いするわ」ググ-
白井「…りょ、了解ですの」
-第五学区、とある大学正門
食蜂「あ~、やっと終わったわぁ」
垣根「おう、ご苦労さん」
第五学区のとある大学から出てきたのはLevel5第五位の【心理掌握】食蜂操祈と第二位の【未元物質】垣根帝督。
二人は与えられた任務を数日かけてようやく終わらせたところだった。
これまでに検診した人数はすでに三ケタに達していた。
食蜂「まったく、この私が毎日毎日コキ使われるなんて…」
垣根「しょうがねえだろ?お上にゃ逆らえねえよ」
食蜂「…あなたからそんな言葉が聞けるなんてねぇ」
垣根「…どういう意味だ?」
食蜂「あなたがお上を見る目はとても敬っている様に見えなかったわぁ。むしろ見下してる目ね」
垣根「…はっ、薄汚えジジイババアなんざ敬う必要ねえだろ」
食蜂「その上であなたの目は野心に燃えてる。Level5の第二位という立場で尚、あなたには大きな野望がある」
垣根「…」
食蜂「能力が効かなくてもあなたの考えてることは読み取れるわぁ。何万回も心理を掌握してれば身体面との共通項くらい割り出せるしねぇ」
食蜂操祈は常日頃からその強力な能力を使っている。
それは別に洗脳だけでなく読心や念話など多岐に渡る。
その際、彼女が見てるのは心理だけでなく表情面も観察している。
観察している、というよりは勝手に目に入ってくるのだが、彼女の優秀な脳はその心理状態と表情などの表層面とを簡単に分析していた。
それらのデータを参考に他人と相対すれば能力を使えずとも大まかな考えの目星はつく。
【心理掌握】を利用しようと近づき、能力を使えない状況で交渉を進めようとする大人達をこの方法で手玉に取っては優越感に浸っていた。
垣根「で?俺の計画を知っててめえはどうするってんだ?」
食蜂「特に何もしないわぁ。強いて言えばこれからもボディーガードをお願いするくらい」
垣根「…それだけか?」
食蜂「えぇ。もう何日も兵隊さんが私たちを取り囲みながら見張ってることくらい分かってるわぁ。私があなたと別れた瞬間を狙ってることも」
HALの兵隊たちは決して食蜂に対する警戒を緩めている訳ではない。
御坂と同レベルで危険だと思われる食蜂を放っておく訳がない。
だが、闇雲に攻撃すれば垣根に軽く蹴散らされてしまいのは目に見えている。
限りある兵隊たちをむざむざ失うことはできない。仮に持久戦に持ち込むのであれば全兵力を注ぎ込まねば勝ち目はない。
だからこそ遠巻きに食蜂と垣根を取り囲むようにつかず離れず動いている。
垣根という障害が離れた瞬間、兵隊たちは一斉に食蜂に襲い掛かるだろう。
食蜂一人では兵隊の大群に勝つ見込みはない。
そして、食蜂の提案を受けて垣根はニヤリと笑った。
垣根「そうか。なら話ははえぇ。次行くぞ」
食蜂「え!?つ、つぎ!?」
まさかの発言に食蜂は思わず狼狽した。
垣根「おお、これが新しいリストだ。ちょいちょい暗部連中も混ざってる。
これ以上はお前を付き合わせるのはまずいからお前がついてくると言わなきゃ断念しろとのお達しだがな」
食蜂「」
垣根「むしろ俺はこっちが本命だ。他の暗部連中なんざめったにお目にかかれねえしな。守ってやるからもうちょい付き合え」
そう言って垣根は足取りも軽く、近く止めさせていたリムジンへと向かった。
本来ならば暗部は存在を知られること自体がタブー。
しかし、一度『アイテム』と接触した食蜂は話が別。やるかやらないかの選択権を与えたのはせめてもの良心であろう。
食蜂「ハ、ハメられたわぁ…」
結局、食蜂も肩を落としてリムジンへと向かっていった。
-第七学区、柵川中学学生寮前
佐天「ごめんなさい、遅れましたか?」
白井「時間ぴったりですの。私たちが少々早すぎましたので」
柵川中学学生寮の前で御坂と白井の二人が佐天を迎えた。
これから二十三学区の研究所に乗り込むためである。
ちなみに佐天は事の顛末を話したら二つ返事で一緒に乗り込むことを承諾した。
御坂「そーゆーこと。じゃ、行きましょうか」
佐天「あれ?初春は来ないんですか?」
白井「初春は昨夜のことで事情聴取を受けてますの。時間がありませんので今回はおやすみですわ」
『スフィンクス』の場所が変更できるのならのんびりとしている暇はない。
二十三学区の研究所に『スフィンクス』があるのは挑発だろうが、だからといって場所を変えないことにはならない。
むしろ待ち構えられてる上に『スフィンクス』を破壊できないのなら完全な無駄骨である。
佐天「そうですか…後で初春のお見舞いも行かなきゃ。それと、どうやって二十三学区まで行きます?やっぱ地下鉄…」
御坂「タクシーで行くわ。もうそこに待たせてる」
佐天「…さすがお嬢様」
白井「? 別に大した額にはなりませんの」
佐天「…言ってみたいなあ。そんな言葉」
御坂「とにかく早く行きましょ。こうしてる内に相手がスパコンの場所を変えてるかもしれないわ」
佐天「はーい。あ、運転手さん」
運転手「はいはい、なんでしょ?」
佐天「トランク使わせてもらっていいですか?」
運転手「どうぞどうぞ。なにを乗せるんだい?」
佐天「えーと、金属バットとヘルメットです」
運転手「? ソフトボールの試合かい?」
-第七学区、地下街
匪口「スッゲー!これホントにケータイかよ!スマホだのアイフォンだのが馬鹿らしくなってくんな!」
11018号「…」
匪口「どーやったらこんなケータイ作れんだ?巻き取り式の液晶なら見たことあるけど、こんなSFっぽい感じのは初めて見たぜ」
11018号「…」
匪口「ん?どした?ミサカ」
11018号「…フフ、ゲコ太…」ニヘラ
匪口「」 ビクッ
11018号「…ハッ…コホン…どうかしましたか?匪口裕也、とミサカは平静を取り繕います」
匪口「…な、なんでもねーや。…そのペア契約のオマケ、そんなに嬉しかったの?」
11018号「ええ、このゲコ太は非売品の上に学園都市でしか手に入りませんから、とミサカは限定ゲコ太を握りしめます」
匪口「あ、そ…じゃあこれもいるか?俺別にいらねーし」
11018号「! よろしいのですか!?とミサカはいつになく気前のいい匪口裕也に驚愕します」
匪口「お、おお…」
11018号「…ゲコ太だけじゃなくピョン子まで…」ニヘラ
匪口「」
匪口「ま、とりあえず今日のところは帰るか」
11018号「おや、もうよろしいのですか?とミサカは睡眠時間を削ってまで来た割りには早い撤収に疑問を抱きます」
匪口「まーね。とりあえず目当てのモンは見たし買えたし。念のためにミサカには休んでもらわねーと」
11018号「だったらこんなところまで引きずり回すんじゃねーよ、とミサカはそれでも作戦の要であることに優越感を覚えます」
匪口「ワリーね、こんな科学の総本山に来たらテンション上がっちゃってさ」
11018号「まるで小学生ですね、とミサカは能力者が暴れ回る様を見て瞳孔全開だった匪口裕也を思い出します」
匪口「そりゃー当然さ。あれこそ俺の求めるカオスな世界、それすらも越えた世界だ」
11018号「あなたはその世界の人間ではなく傍観者ですがね、とミサカは暴走能力者を見世物と捉える人間性を疑います」
匪口「いーや違うね。俺もまとも振ってるだけでかなりイカれてる。じゃなきゃあんな入り方しねーよ」
11018号「それもそうですね、とミサカは同意します」
匪口「だろ?…そういえば…あいつに似た者同士の気配を感じたな」
11018号「…あいつとは?とミサカは聞き返します」
匪口「さっき会ったあいつさ。俺と属性が同じ気配だった。けっこー気が合うと思うんだよね」
-第二十三学区、某研究所前
白井「ここまでは順調ですわね…」
タクシーに乗り込んだ三人は何の妨害も受けずに目的地である研究所にたどり着いた。
ここへ誘導するように挑発してきたのだから何か罠があると思っていた三人はなんとなく拍子抜けした気分になった。
御坂「…あくまでこの研究所で迎え撃ちたいのかしらね…」
佐天「な、なんだかドキドキしますね…行方不明者続出のピラミッドに入る探検家になった気分です」
白井「あながち間違ってませんの。スーパーコンピューターを守るために墓守や罠が待ち構えていること請け合いですの」
佐天「む、武者震いが…」
御坂「…引き返すなら今のうちよ?」
佐天「…絶対嫌です。私だって御坂さんを助けることくらい、できるんですから!」
白井「さすがは佐天さんですの!よく言いましたわ」
御坂「…よし、じゃあ行きますか!目指すは最下層ブロックよ!」
-研究所内、階段
佐天「…誰もいませんね…」
カンカン、と階段を降りる音が三人分、人気のない薄暗い研究所に響き渡る。
ちなみに佐天はすでにヘルメットをかぶっていて、手には金属バットが握られている。
スーパーコンピューターを動かしているために研究所全体に通電はしているからエレベーターも使えないことはない。
だが、エレベーターでは万が一の状況で身動きが取れないし身を隠すこともできない。
扉が開いた瞬間蜂の巣にされるのが関の山だ。
なので、三人は階段で最下層ブロックまで行くことにした。
御坂「…そうね…私の能力でも感知できる人間はいないわ」
ちなみに、順番としては御坂、白井、佐天の順である。
緊急の場合、白井の能力で三人まとめて避難するためである。
そのために索敵能力にも特化している御坂が先頭を歩き、前に進む。
白井「ですが油断は禁物ですの。ここは敵の本拠地。次の瞬間どこからともなく敵が現れるとも限りませんわ」
最初は白井の能力で一気に最下層ブロックまで移動することも考えた。
だが、白井がこの建物の構造をあまり把握していないために危険性が高い。
それに、転移したら目の前に大量の敵が、というケースも考えられる。
結局、御坂の電磁レーダーで索敵しながら進むのが一番安全だ、という結論に至ったのだ。
佐天「…そういえば気になったんですけど…」
白井「なんですの?」
佐天「そのスパコンって壊してもまた新しいスパコンを用いれば状況的に元通りになっちゃうんじゃないですか?」
御坂「…そうね…その防衛アプリ自体はプログラム人格が保有してるだろうし、いくらでも増やせるんだと思う」
佐天「じゃあ私達がここでスパコンを壊しても堂々巡りになっちゃうんじゃ…」
白井「心配ご無用ですの。スパコンがある施設には警備員と風紀委員が数名ずつ配置されてますの。敵の手に渡る可能性は低いですし、最悪奪われた情報だけは入りますの」
佐天「なるほど…でも、学園都市の外にもスパコンはあるんですよね?再接続とかされちゃったら…」
御坂「それも心配ないわ。外部との接続が絶たれてる中でそんなデカい回線がずっとあったら誰かが絶対気付くもの」
佐天「そっか…じゃあ、ここでスパコンを壊せば事件の解決に大きく前進することは間違いないんですね?」
御坂「そーゆーこと。…着いたわ。最下層ブロックよ」
-研究所、最下層ブロック
御坂「…おっかしいわね…」
佐天「…誰かいましたか?」
最下層ブロックの部屋の扉を開けたところで、三人は固まっていた。
部屋に入る前に御坂の能力で状況を把握するためだ。
御坂「…ううん、誰もいない。だからおかしいのよ…」
しかし、御坂の電磁レーダーには何も引っ掛からなかった。
完全に裳抜けの殻である。
白井「お姉様…まさか別の研究所と間違えた、などということはございませんわよね?」
御坂「それはないわよ!絶対にこの研究所!そしてこの部屋にあるスパコンよ!」
半ば憤慨しながら御坂は薄暗い室内に入っていく。それについて行く形で後の二人も続いた。
そこはかつて『暴走能力の法則解析用誘爆実験』の被害者達が集められた大きな部屋だった。
部屋というよりは広間という表現の方が正しいかもしれない。
そしてテレスティーナ=木原=ライフラインと決着をつけた場所でもある。
広間の様な部屋は二層からなっており、入り口がある上の層が御坂とテレスティーナが【超電磁砲】の撃ち合いをした場所。
階段を降りた下の層は木山の教え子である『暴走能力の法則解析用誘爆実験』の被害者達が昏睡から目を覚ました場所だ。
そして、下の層にあるスパコン。木山が自分の教え子を起こすために使用したスパコンこそが『スフィンクス』がインストールされているスパコンだ。
三人は大きな部屋の中程にある階段を慎重に降り、ついにはスパコンの真正面に立った。
佐天「…本当にここまでなんにもなかったんですけど…ちゃんと合ってます?」
御坂「合ってるってば!ホラ、なんかこのスパコン電源入ってるし!間違ってたら封鎖されてる研究所のスパコンに電源入ってる訳ないじゃない!」
白井「ですが…あまりに不自然すぎますの…」
大きなスーパーコンピューターにはキーボードもモニターも一体化されている。
モニターを見る限り明らかに電源は入っている様だが、いくらなんでも守りが手薄過ぎる。
佐天「もしかしてここにスパコンを置いたのって挑発でもなんでもなかったんじゃないですか?」
白井「どういうことですの?」
佐天「私達とテレスティーナが戦ったことなんてなんにも知らなくて、ただ見つからなさそうな封鎖された研究所に隠しただけ、とか」
御坂「うーん、可能性が無い訳じゃないと思うけど…」
いくらなんでも甘すぎる。
外部から学園都市に潜入できるほどの明晰な頭脳を持つ者が、自分の守りの要をこんな危険な状況にさらすだろうか?
ともあれ、現にここのスーパーコンピューターは丸裸だ。
あれこれ推測する必要性もない。
むしろ、佐天の推測が正しいのであればさっさと壊してさっさとずらかった方がいい。
御坂「まあいっか。さっさと終わらせるわ。ちょっと離れてて」
そう言って御坂は一歩前に出た。対して白井と佐天は言われたままに後ろに下がる。
バチバチバチィ!という激しい音と共にスーパーコンピューターは電撃包まれた。
モニターは一瞬で暗転し、本体は黒い煙を上げ、スーパーコンピューターは呆気なく壊れてしまった。
御坂「…ふー」
佐天「…これで終わりですか?」
白井「ええ、恐らくは…」
佐天「なーんだ。緊張して損しちゃったなー」
御坂「あはは、確かに拍子抜けした感じ…。…!!」
バッ、と御坂は急に部屋の入り口のを見据えた。
角度的に見えはしないのだが、その視線の直線上には上の層を隔てて確かに入り口がある。
佐天「ど、どうしたんですか!?」
いきなりの御坂の行動に、思わず佐天は慌てた。
御坂「…誰か来る」
白井「!」
佐天「ええ!?」
御坂「誰!?出てきなさい!」
促されるように一人の人間が上の層から姿を現した。
その人間は白衣に身を包んだ女性。多少のくせ毛で目の下には大きな隈。
かつて【多重能力者】として警備員の一部隊を壊滅させた人間。
???「やあ…久しぶりだね…御坂君、白井君、佐天君…」
御坂「…っ。なんでよりによってここにいんのよ、アンタ…」
白井「まさかとは思いましたが…やはり『そちら側』でしたのね…」
佐天「木山先生…」
大脳生理学者、木山春生がそこにいた。
木山「フ…さすがに警戒されているか…」
そう言って木山は苦笑した。
両腕を白衣のポケットに入れ、こちらを見下ろしている。
木山「だがもう遅い。ここまで入って来たら…もう私からは逃げられない」
御坂「…何が遅いのよ。『スフィンクス』は既にぶっ壊した!手遅れなのはそっちでしょう!?」
木山「ああ、そいつはダミーだ。『スフィンクス』はインストールされていない」
御坂「な!?」
佐天「…えーと、御坂さん?」
白井「どういうことですの?」
御坂「ち、違う!嘘よ!そんなはず…」
木山「御坂君は間違っていないよ。『スフィンクス』は最下層ブロックにある。別室に移動させただけだ。結標君がいればもっと大規模な移動もできたが…」
白井「! あの女も『そちら側』ですの!?」
木山「おや、結標君とも面識があるのか…。残念だが彼女は脱落した。今は療養中だそうだ…」
御坂「…あんな女のことなんてどうでもいいわ」
パチリ、と御坂の前髪で火花が飛ぶ。
御坂「ったく、変な汗かいちゃったでしょうが。私たちはさっさと『スフィンクス』を壊したいの。痛い目にあいたくなかったらおとなしくしてなさい」
木山「…そうか。ならば、私はおとなしくしていよう」
佐天「…え?いいんですか?もしかして木山先生【電子ドラッグ】にハマッてないんじゃ…」
木山「代わりに…面白いものを見せてやろう…」
御坂「…! まさか!」
いち早く反応したのは御坂。
しかし、木山の言葉に感付いた訳ではない。
それとは別に気付いてしまったのだ。
電磁レーダーを含むその能力で。
ザッ、と常盤台中学の制服に身を包んだ四人の少女が上の層から姿を現した。
???「お久しぶりですね、お姉さま」
???「とミサカはオリジナルに高みから会釈します」
???「そしてはじめまして、お姉さまの友人方」
???「とミサカは友人の皆さまにも高みから会釈します」
御坂「アンタ達…っ!」
白井「お、お姉様がたくさん…?ひい、ふう…」
佐天「もしかして…これが御坂さんの?」
木山「紹介しよう。『妹達』だ」
タン、と四人のクローンは一斉に上の層から飛び降りた。
そして磁力を利用してふわりと三人の前に着地する。
その額に装着されているのは電子ゴーグル。
その両手に握られているのはアサルトライフル『オモチャの兵隊』。
『絶対能力者進化実験』当時の『妹達』の標準装備だ。
佐天「わ、わ、ライフルって…!ほ、本物!?」
御坂「下がってて佐天さん。こいつらは私がやる。黒子は佐天さんをお願い」
白井「お姉様!いくらなんでもお一人では危険ですの!」
御坂「大丈夫。ヤンチャな妹に躾をするのも姉の務めよ」
???「そう簡単にいきますかね、とミサカ10032号は不敵に笑います」
???「いくらお姉さまと言えど難しいでしょう、とミサカ10039号は丸腰とアサルトライフルではどちらが有利か暗に問いかけます」
???「能力差も【電子ドラッグ】のおかげで『オモチャの兵隊』でカバーできるまでに向上しているはずです、とミサカ13577号は現在のスペックの高さをアピールします」
???「それでもお姉さまがHALの邪魔をするのであれば容赦はしません、とミサカ19090号は『オモチャの兵隊』を構えます」
木山「待て、『妹達』」
ピタリ、と四人のクローンは動きを止めた。
御坂「…てゆーか、そもそもなんでアンタがこの子達を統制してんのよ」
木山「私が彼女達の力を最大限に発揮させることができるからだよ」
スッ、と木山は白衣のポケットから小型の何かを取り出した。
木山「この研究所には至るところにスピーカーが設置されている。覚えているかな?」
御坂「!」
白井「まさか…【キャパシティダウン】ですの!?」
白衣のポケットから取り出されたそれは小型のリモコンだった。
かつてこの研究所には能力者の動きを封じるためにテレスティーナが開発した【キャパシティダウン】を流すスピーカーが設置されていた。
スピーカーは研究所全体に設置されており、それゆえに御坂も白井も苦汁を舐めさせられた。
木山「早計だよ白井君。それでは『妹達』も動きが取れなくなってしまう。それに【キャパシティダウン】はすでに警備員に押収されている」
佐天「なら…一体なにを…?」
木山「…私が【幻想御手】の副産物のおかげで一時的に【多重能力者】になれたのは知っているだろう?」
そもそも木山が【幻想御手】を広めたのは【樹系図の設計者】に代わる演算装置を得るためだ。
だが、多数の能力者の脳波を自身の脳波にリンクさせた副産物として、多数の能力を同時に操ることができたのだ。
木山「あの時私はあらゆる能力の全てを把握していた…どの演算式を使えばどの能力を使えるか手に取るように分かった。そしてその能力の法則も」
つまり、木山は一時的に特殊な能力を除いて全ての能力の実体を把握したのだ。
木山「その経験を基に…どこをどう刺激すれば能力を強化する事ができるかもおおよそ把握した。…非合法ではあるがね」
【幻想御手】は巨大な脳のネットワークで能力を補強するのであって、本人の能力そのものを永続的に強化させる訳ではない。
その証拠に【幻想御手】から解放された使用者のレベルは皆元に戻っていた。
だが大脳生理学者である木山は、今度は個人の脳そのものを強化させる方法を発見したのだ。
木山「今から流すのは共感覚性により能力者を操る【電子ドラッグ】Ver.4。
それを『妹達』専用に入念に調整したものだ。私が必要としたのはそれを最大限に作用させることのできる高音質のスピーカーだよ」
プチ、と木山はリモコンのスイッチを押した。
『フ一一一一一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪』
御坂「…は?」
白井「これは…」
佐天「…国歌?」
妹達「「「「力がみなぎってきマ一一一ス!!とミサカはヘヴン状態デース!!ハッハ一一一ッ!!!」」」」
御坂「」
白井「」
佐天「」
木山「さあ、あの日の続きだ…御坂美琴」
木山「君に一万の脳を統べる私を止められるかな…?」
『フ一一一一一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪』
10032号「先手必勝デース!とミサカはぶっ放しマース!」
ズガガガガ!とアサルトライフルが火を噴いた。
御坂「アンタらねぇ…!」
しかし、弾丸はすべて御坂の目の前で静止した。
Level5である彼女が発生させる磁力は音速で飛来する弾丸さえ簡単に止めてみせた。
御坂「国歌聞いてパワーアップとかふざけてんのかぁ!」
10039号「クソ真面目デース!」
19090号「とミサカはブーストさせマース!」
ヒュン、と先ほどまで数メートル先にいた二人の『妹達』が静止している弾丸の後ろに現れた。
そして二人がかりの磁力で静止している弾丸を押し返そうとする。
御坂「な…あ!?」
白井「まずいですの!」
一瞬の均衡の後、弾丸は御坂へと突き進む。
嫌な結果を直感した御坂は間一髪でそれを躱した。
弾丸は先ほどとほぼ同じ威力をもって背後の白井たちへと迫る。
佐天「え?」
ヒュン、という音がした。
ビシビシビシ!という音もほぼ同時にした。
間一髪で白井が佐天とともに転移に成功。弾丸はすべて壁へとめり込んだ。
御坂「黒子!佐天さん!」
白井「問題ありませんの!」
佐天「お、おっかな…」
先ほどとは大分離れたところで二人の声がした。
二人の無事を確認して御坂はほんの一瞬安堵した。
13577号「まだまだいくぜぇ!とミサカはファイア!」
ズガガガガガガガ!と再び銃声が響き渡る。
【電子ドラッグ】に操られた『妹達』にはもはやかつての姉を敬う念は見られない。
御坂「ヤバッ…!」
いくら御坂とて放たれた後の弾丸に反応できる訳ではない。
事前に強力な磁界を張って初めて弾丸を無力化できるのだ。
しかし『妹達』が加速させた弾丸を避けたために、今御坂の前に磁界はない。
それでも弾丸は御坂に当たらない。
ビシビシビシ、と弾丸は再び遠くの壁にめり込んだ。
御坂(ま、間に合った…)
弾丸の威力全てを止めるほどの磁界を張るのは不可能であったために、反射的に受け流すように磁界を張った。
下手すれば御坂の身体に直撃だったものの、なんとか上手くいったようだ。
ミサカ「安心してる場合デスカ?」
御坂「!」
気が付くとまた『妹達』が目の前にいた。もはや乱戦状態でどれがどの『妹達』なのか見当もつかない。
ミサカ「ハッハァ!」
御坂「かふ!」
ズン、と【電子ドラッグ】で強化された『妹達』の掌底が御坂の腹部にキレイに決まった。
その力のせいか、御坂は後方へと大きく吹き飛ぶ。
白井「お姉様!」
ダン!と御坂はそのまま壁へと叩きつけられた。
御坂「ガ…は、ゲホケホッ!」
佐天「御坂さん!大丈夫ですか!?」
御坂「…大丈夫、平気よ」
うずくまって咳き込みながらも、御坂はかけよろうとする佐天を制した。
ミサカ「サスガはお姉さまデース」
ミサカ「ヒットする瞬間に磁力と脚力で後ろへ跳ばれてしまっては大したダメージもあたえられまセンネ」
ミサカ「デも、コレで証明されマーシタ」
ミサカ「ミサカ2人がかりならお姉さまの出力をも上回りまーす!」
妹達「「「「4人のミサカが相手ならお姉さまに勝ち目はありまセーン!とミサカはファイアー!」」」」
4つのアサルトライフルが再び火を吹く。
照準を完全に一点に集中させ、御坂を蜂の巣にしようと襲い掛かる。
御坂「ナメるなあ!」
しかし、銃弾は御坂の磁力に促されて御坂を避けるように軌道を変えて壁に吸い込まれていく。
そのうち最後の数発を再び眼前で止め、電撃をまとった自らの拳で殴りつける。
さらに自らの拳が当たった瞬間、拳に込めた膨大な電流を数発の銃弾に流しこむ。
すると、眼前の銃弾は全てローレンツ力により音速を越えた速さで先ほどと逆の方向に突き進む。
あえて名称をつけるなら【散弾超電磁砲】。それが『妹達』へ向けて炸裂した。
妹達「「「「オットット」」」」
しかし、銃弾はひとつも当たらず、壁と黒煙を上げているスパコンに命中した。
その破壊力により当たった壁はことごとく大穴が空き、スパコンは爆発音と共に粉々になった。
御坂「チッ…」
ミサカ「ここまでやってまだ手加減しマスカ?」
ミサカ「もはやミサカとお姉さまは同格でーす!」
ミサカ「そんなハンパな力じゃミサカには届きまセーン!」
ミサカ「モットモ、全力出したらこの研究所潰れチャイますケドネ」
妹達「「「「とミサカは高笑いしマース!HAHAHAHAHA!」」」」
御坂「…ホンット腹立つわねコイツら」
『フ一一一一一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪』
白井「…もう見ていられませんの!」
離れたところで佐天と共にいた白井が激昂した。
目の前で敬愛するお姉様が苦戦を強いられているのに指をくわえて見ていられる訳がない。
佐天「待ってください!私も行きます!」
そしてそれは佐天も同じだ。
散々御坂を助けると言っておきながらずっと蚊帳の外になどいられない。
白井「佐天さん…ですが…」
強い眼差しで迫られた白井は逡巡した。
正直な話、ヘルメットと金属バットだけで勝てる相手ではない。
このまま共に戦えば良くて重傷、最悪の場合死亡するだろう。
しかし、佐天の気持ちはよく分かる。自分だって御坂の助けになりたいのだがら。
ほんの数秒だけ迷ったあと、白井は答えを出した。
白井「佐天さん、ここは私に任せてくださいな」
佐天「そんな!私も」
白井「その代わり向こうをお願いしますの」
ヒュン、と佐天の姿が消える。
訴えかける佐天の言葉を最後まで聞かず、白井は有無を言わさず佐天を転移させた。
白井「さて…」
つい先日聞いた話ではあのクローン達のレベルは2~3程度。
だが、どう見たってそんな次元の強度ではない。【電子ドラッグ】の効果で格段に強化されている。
ならば【電子ドラッグ】を流しているスピーカーを壊せばいいのだろうが、そう簡単にはいかない。
どこにスピーカーが設置されているのか正確に分からない上に、研究所の至るところにスピーカーが設置されているのだ。
鉄矢を無闇に打ち込んでも無駄骨である。
白井「少々気が引けますが…」
カカカ、と四人の『妹達』の内二人のアサルトライフルから鉄矢が生えた。
ミサカ「ハ?」
次いで白井はクローンの真横に転移する。
白井「お許しくださいまし!妹様!」
ドン!と白井のドロップキックがクローンの側頭部にキレイに決まった。
銃弾を止めるほどの磁界が発生しているのに、スピーカーはハウリング一つしない。
ならば、同じ様な力で『妹達』の誰かがスピーカーを保護しているにちがいない。
このクローンに狙いを定めたのは風紀委員としての白井の勘だ。
ミサカ「ったぁ~…ちょっと!なにすんのよ黒子!」
白井「え、あ、お姉様…」
ゴーグルとアサルトライフルを装備していながら、白井はクローンと本物の御坂と間違え、うろたえた。
それほどまでに気配も声もリアクションも御坂そのものだった。
ミサカ「隙アリデース!」
白井「ぎゃん!」
その一瞬の隙を突かれ、白井の身体に雷撃の槍が突き刺さった。
短い断末魔の声を挙げ、白井は動かなくなった。
御坂「黒子!」
ミサカ「ミッションコンプリートデース!とミサカは鼻を高くシマース!」
御坂「アンタらぁ…いい加減にしなさい!」
ミサカ「その調子デスヨお姉さま!」
ミサカ「本気のお姉さまを倒さなければ下克上になりまセーン!」
ミサカ「オリジナルを倒してこそミサカの野望は達成されまーす!」
妹達「「「「ミサカはLevel5を凌駕するほどのデキる女になってみせるゼ!」」」」
『フ一一一一一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪』
<とミサカは高笑いしマース!HAHAHAHAHA!
木山「フ…効き目は上々といったところか」
乱戦状態の下の層を上の層から木山は眺めていた。
少々性格が変わってしまう副作用も出ているが、自身が開発した【電子ドラッグ】の効果は納得のいくものだった。
???「わ!」
ドサリ、と後ろから音がした。
振り向くとそこにはセーラー服でヘルメットをかぶり、金属バットを持った少女がいた。
木山「佐天君…ああ、なるほど。白井君の能力で飛ばされたのか」
佐天「っ、木山先生…」
木山「どうだ、君も見たまえ…ここから広がる世界が私の望む世界だ」
佐天「なに言ってるんですか!こんなムチャクチャなことして」
<ぎゃん!
佐天「! 白井さん!」
木山「…やられたか。すでに『妹達』の強度はLevel5に達しているかもしれないな」
佐天「そんな…」
もはや佐天はいてもたってもいられない。
すぐに御坂と白井を助けにいこうと階段へと駆け出した。
佐天(…ううん、違う)
だが、2・3歩走ったところで佐天は思い留まった。
白井は言った。そちらをお願いしますの、と。
佐天(白井さんは私を避難させたんじゃない。木山先生を私に任せてくれたんだ)
ならば、やるべきことは二人に駆け寄ることではない。木山を止めることだ。
そしてそれが結果として御坂と白井を救うことに繋がるはずだ。
佐天「でやああああああああああああああ!」
階段に背を向け、金属バットを振りかぶり、木山めがけて佐天は突進した。
木山「む…」
ブン、と佐天は盛大に空振った。さらに勢い余って木山を通りすぎ、危うく転びそうになった。
木山「危ないじゃないか…何をするんだ」
佐天「その小型リモコンですよね!?この国歌を操作してるの!それ止めてください!」
木山「もちろん却下だ。私がそんな意見に従うはずないだろう?」
佐天「そんな…」
木山「別に私のリモコンでなくとも止められるよ。【電子ドラッグ】を流しているのは君たちの目的である『スフィンクス』だ。
スパコンを壊せばこの音も止まる。…もっとも、私はそれをやすやすと見逃すつもりはないがね」
佐天「…っ。てゆーか、なんで御坂さんのクローンは国歌であんなことになってるんですか!?」
木山「言っただろう?これは立派な【電子ドラッグ】だ。雛型は数日前に学園都市全体に流したものさ…」
学園都市全体に緊急放送と銘打って流された【電子ドラッグ】。
能力者のみを対象としたあの放送が【電子ドラッグ】Ver.4だという。
木山「ただ、多種多様な能力者を操ることではなく【電撃使い】の強化を目的としている。
加えて【電子ドラッグ】を『妹達』の脳や『自分だけの現実』に最適化させることで更なる強化を目指した。
そのためにより適合する波長を含んだメロディーやコード、リズムや音色などを選別していたらいつの間にか限りなく国歌に近くなってだね…」
佐天「なんなんですかそれ!」
木山「だが効果は絶大だ。あの御坂君がまるで防戦一方じゃないか」
『フ一一一一一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪』
ミサカ「そろそろ弾丸ドッジボールにも飽きマシタ」
御坂「そう?だったらおとなしく降参してもらうと嬉しいんだけど」
肩で息をしながら苦笑する御坂。
『妹達』の能力が大幅に上昇しているため、かなりのハイペースを強いられている。
ミサカ「そもそもお姉さま相手に普通の銃弾を使うコト自体間違ってまーす」
ミサカ「っというわけデシてね」
ミサカ「チェンジです」
シャコ、と二人の『妹達』は弾搶を取出して別のものと入れ替えた。
御坂「…弾を強化したからって状況が変わるわけじゃないわよ?」
ミサカ「オゥ、オフコース。なので弾は劣化させマシタ」
ミサカ「警備員が使う模擬戦用のプラスチック弾デース」
御坂「げ…!?」
ミサカ「殺傷力はダウンしマスが、丸腰のお姉さまに穴空けるくらいの威力はありマスシね」
ミサカ「もう弾丸を止めるコトも反らすコトもできませんヨ」
ジャキン、と二人の『妹達』はアサルトライフルを構える。
妹達「「「「ファイア!」」」」
ズガガガガガ、とこの日十数度目の銃声が響き渡る。
御坂「なんの!」
低く籠もった轟音と一緒に部屋の床がせり上がる。御坂の能力で鉄骨ごと床が引き剥がされたのだ。
床はそのまま盾となり、プラスチック弾から御坂を守った。
ミサカ「ッダーカラ!」
ミサカ「ミサカの強度はお姉さまと同格デース!」
『オモチャの兵隊』を持っていない二人が盾の左右に瞬時に移動し、御坂から盾を奪おうとする。
御坂「ふん!私とアンタ達が同格なわけないでしょ!」
しかし、盾は『妹達』の磁力では動かず御坂の方へと動いた。
ミサカ「な」
更に御坂は盾となっている塊を完全に床からひきちぎり、自分の腕に密着させて『妹達』と距離を取る。
ミサカ「なんデスト………?」
御坂「私がLevel1の頃から必死になって培ってきたこの能力は一朝一夕で手に入れられるモンじゃないの!私に言わせればアンタ達はまだまだ格下よ!」
『フ一一一一一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪』
木山「ふむ…そう簡単にはいかないか」
佐天「ホラ、これで分かったじゃないですか!御坂さんには勝てませんてば!だから早くこの歌を止めてください!」
木山「止めないと言ってるじゃないか。君もしつこいな…」
佐天「なんでですか!こんなことしたら木山先生だって捕まっちゃうんですよ!?」
木山「…」
佐天「そうなれば私たちも枝先さんたちも悲しみます!今ならまだ【電子ドラッグ】のせいになりますから!」
木山「…それでもかまわない。どうせ本来なら私は塀の内側いなければならない人間だ」
佐天「え…!?」
木山「君も私の被害者じゃないか。【幻想御手】のことだよ」
ふ、と木山は佐天の方を見て薄く微笑んだ。
佐天「あ…」
木山「…【冥土返し】の先生が枝先たちを回復させるために釈放手続きを早めただけだ。一万の学生を巻き込んだ私がこんなに早く出てきていいはずがない」
視線を変え、階下で起きている激戦を無表情な顔で眺めながら、木山は淡々と話しはじめた。
木山「それに今の私は教師ですらない。【幻想御手】における一連の犯罪で教員免許は剥奪され、再取得も許されなかった」
木山「もう私はただの犯罪者だ。枝先たちから歳月をむしり取り、この街の学生を幻想で振り回し、自分のエゴで枝先たちを含む学生の意識を奪って与えて…」
自嘲した笑みを浮かべ、疲れたように頭を軽く振る。
もはや佐天はどう反応していいのか分からなかった。
木山「今でも私と水穂の方にはどこからか事の全貌を聞いた生徒や教師からメールや電話がくるよ」
木山「『死ね、犯罪者』『何様のつもりだ』『学生はおもちゃじゃない』『どのツラさげて生きてんだ』…」
佐天「…」
木山「……なあ、佐天君。君もそう思うだろう?…それが普通だよ」
グイ、と木山はリモコンのスイッチを押した。
『『『フ一一一一一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪』』』
『『『一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪』』』
『『『フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪』』』
佐天「うわぁ!?」
建物全体が斉唱しているかのように大音量の国歌が響き渡る。
あまりの大きさに壁も床も手すりもビリビリと振動していた。
木山「もう一度話がしたかったんだ!天気でも成績でも、どんなにくだらない話でもいい!もう一度あの子たちの笑顔が見たかったんだ!!」
木山「それが悪い事か!!助けたいと思う事が犯罪か!!」
木山「だったら…!だったら人間全員犯罪者じゃないか!!」
自身の内側を全てぶちまけるように木山は叫ぶ。
普段の冷静沈着な様子は影も見当たらない。
木山「もっと音をよこせ『スフィンクス』!!『妹達』を最大までパワーアップさせる狂乱のサウンドを!!」
木山「世界を創れ!!犯罪者が堂々と大手を振って歩ける世界を!!」
佐天「木山先生…!」
『『『フ一一一一一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪』』』
『『『一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪』』』
『『『フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪』』』
御坂「うるっさ…なんなのよ一体…」
床をひっこぬいて作った盾でプラスチック弾から身を守りつつ、御坂は呟いた。
ただでさえ腹立つ国歌の音量が何倍にも大きくなっているのだ。うっとしいことこの上ない。
妹達「「「「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHH!!」」」」
御坂「!?」
急に聞こえてきた『妹達』の咆哮に一瞬身をすくませた。
なにが起きているのかは目前の巨大な盾で何も見えない。
ミサカ「もう我慢ならねェ!」
ミサカ「とミサカはオリジナルから再度盾をかっぱらッタル!」
再び二人の『妹達』が盾の両端に現れる。御坂の盾を奪おうと襲いかかる。
御坂「うあ!?」
もはや御坂は一瞬たりとて盾をキープできなかった。
何倍にも強化された能力。そして同様に強化された腕力。
そんな力で引き裂かれた床はピンと張った新聞紙のように、簡単に真っ二つになった。
御坂(ヤバい!銃弾が一一)
次の瞬間御坂は唖然とし、思考回路も一時停止した。
盾を引き剥がした二人とその後方の二人の間、その上空に青くまがまがしいしい巨大な何かが浮かんでいた。
その何かは一度だけ見たことがある。その時は『妹達』も一緒にいた。
『絶対能力者進化実験』における最後の実験で白い悪魔が生み出したものだ。
御坂「ま、まさか…高離電気体(プラズマ)!?」
そして高離電気体は『妹達』の制御により御坂に襲い掛かる。
妹達「「「「二度と…二度と格下なんて言わせねェッ!!!」」」」
木山「邪魔する者は排除するのみ!!」
佐天「御坂さん逃げて!」
木山「消え去れ御坂美琴ォッ!!」
ズプン、と御坂は高離電気体の中へと飲み込まれていった。
佐天「御坂さん…!うそ…!」
木山「あはははは!いいぞ!もっとだ!」
高離電気体は御坂を飲み込み、今もまだその形を成していた。
膨大なエネルギーの中では何が起きているか分からないが、すでに御坂の姿は何一つ見えない。
佐天(…まだだ!諦めるな!)
しかし佐天は挫けない。形を成しているということは『妹達』も確かな手応えを感じていない証拠だ。
つまり、御坂はまだ生きている!
佐天「ええええい!」
再び金属バットを振りかざし、木山へと襲い掛かる。
しかし、木山はいとも簡単にそれを躱してしまう。
佐天「止めてください!このままじゃ御坂さんが!」
木山「いやだと言っている。この音によって『妹達』は自身の持つ限界の力を引き出せるんだ。
当然普通の人間なら脳が焼き切れてしまうが、ミサカネットワークへ負荷を分散させることで持続的に演算を継続できる」
木山「そう!私の世界を邪魔する人間が存在する限りは!」
佐天「お願いだからやめてください!木山先生本当はこんな事望んでないじゃないですか!」
木山「何を知ったような口を聞いている!これが私の望みだ!!犯罪者の楽園を作るためなら、私はなんだってする!!」
木山「犯罪を犯した人間だけが犯罪者なんて不公平だろう!?皆が犯罪への願望を持っているのに!!」
木山「だったら皆が平等に犯罪を犯せば…犯罪者なんて言葉すら無くなるんだ!!」
木山「それを可能にするのが【電子ドラッグ】だ!ハマッた人間の罪の意識を取り去り!あらゆる望みを犯罪で叶える事ができるんだ!!」
佐天「違う…!木山先生に本気でそれができるわけない!!だって木山先生」
佐天「本当は操られてないから」
『『『フ一一一一一一一一ンフ♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一一一一一ン♪フ一一一一一……
御坂「…へえ。音が止んだらこの子達の力が弱くなったわ」
徐々に浮かび上がる高離電気体の下から御坂がゆっくりと姿を現した。
御坂「…だけどもう遅いわ。さすがの私もちょーっと頭にキちゃったから」
その出で立ちたるや、髪の毛は逆立ちながらゆらゆらと揺れ、制服のブレザーもスカートもはたはたと波打つ。
御坂「しっかりその身にたたき込みなさい。これが私の」
そもそも電撃とは空気中の原子から電子をはぎ取って起こるプラズマである。
御坂「アンタ達のお姉さまの」
つまり、御坂とて言い換えればプラズマ使い。しかも自分と同じ演算式、制御法で生み出されたものなら御坂に操れぬわけがない。
御坂「御坂美琴の全力…」
天井ギリギリにまで浮かんだ高離電気体は
御坂「だああああああああああああああああ!!!」
『妹達』全員に思い切り叩きこまれた。
妹達「「「「デ一一一一一一一一一一一一一一一ム!!!!」」」」
佐天「はー、はー…、終わったぁ…」
床に倒れ込みながら木山のリモコンを握っている手を押さえ込んだ佐天はヘナヘナと全身の力を抜いた。
木山「なぜ…なぜ分かった?私が【電子ドラッグ】にハマッていないと…」
押さえつけられて仰向けになった木山はそのままの体勢で佐天に問いかけた。
佐天「…だって明らかに違うじゃないですか」
同じく佐天もうつぶせになった体勢のまま語りはじめる。
佐天「初春と白井さんの話じゃ【電子ドラッグ】は罪の意識を取り去っちゃうからみんな犯罪に走るんだって…実際私が見た中毒者もそう見えたし。
でも木山先生は、罪の意識があったからこそ…それを忘れたくて犯罪を犯そうとしてた」
佐天「じゃなかったら…あんな辛そうな顔しませんもん」
木山「…正確にはまったくハマッていなかったわけじゃないよ。少なくとも7割はHALの支配下にあった」
言いながら木山は空いた方の手で自分の目の中に指先を入れようとした。
佐天「ちょっ…!?」
木山「妙な勘違いをしないでくれ…残りの3割を防いだのはこれだよ」
そう言って木山は自分の人差し指を佐天の前に差し出した。
佐天「…コンタクトレンズ?」
木山「偏光レンズだ。映像の解析で一部の波長が特に脳に影響する事が分かっていたから…それを防ぐのが目的だった」
ピン、と木山は親指の爪でそのコンタクトレンズを弾いた。
木山「だが、まだまだ未完成でね…一定時間の一部自由意志を除けばほぼHALに支配されていた。…でなければここまでやったりしないよ」
カンカンカン、と階段を駆け足で登ってくる音がした。
御坂「佐天さん!」
見ると、ところどころ制服が煤けている御坂が駆け寄ってくる所だった。
佐天「御坂さん!無事ですか!?白井さんは!?」
念のために木山の手を押さえつけたまま、佐天は上体を起こした。
御坂「私は平気。黒子も気を失ってるだけ。脈拍も呼吸も安定してたからたぶん大丈夫よ」
佐天「そうですか…!あと、スゴいことになってましたけどクローンの人達は…?」
御坂「心配ないわ。私の妹だしね。ちょっとキツ目のお仕置きよ」
佐天「…あははっ、アレがお仕置きですか」
佐天「…本当はこんなこと言っちゃダメなんでしょうけど…」
御坂「ん…?」
佐天「…ちょっとだけ木山先生が【電子ドラッグ】に冒されて良かったです」
御坂「え?」
木山「…?」
佐天「だって木山先生の本当の気持ちが聞けましたから。辛い気持ちを誰にも吐き出さずに生きるのって何より辛いですから」
佐天「私も一人で勝手に思い詰めちゃって【幻想御手】に手 出した人間ですしね」
木山「…」
佐天「でも初春や御坂さんに白井さん。それにアケミ達もいてくれたから私は立ち直れたんです」
佐天「だからえっと…木山先生も私達にいろいろ吐き出しちゃってください。
私はあんまり頭よくないから答えは出せないかも知れないけど、相談に乗ったり愚痴聞くくらいならできますよ」
佐天「…それと、言っておきますけど【幻想御手】も案外悪くないもんですよ。昏睡状態から目覚めても能力が向上したって人多いですし。私もその一人」
【幻想御手】の使用者は全身、元のレベルよりも高度な能力を一時的に得た。
そのため、より次元の高い能力を出すコツを体得して本当にレベルが上がった人間もいる。
実際、佐天もレベルこそ上がらなかったものの数値自体は上昇していた。
木山「…はは、私は本当に教師失格だな…」
空いている方の腕で自分の目を力なく覆い、木山は呟いた。
木山「まさか学生にここまで諭されるとは……本当にすまなかった……」
少しだけ震えた声で木山は二人に向けて謝罪した。
御坂「…はあ、なーんか興醒めしたわ。アンタにもたっぷりお仕置きしてあげようと思ったのに」
話の全てを聞いていなかった御坂にとっては木山と佐天の間で何があったのか分からない。
だが、こんな表情をしている木山をこれ以上攻撃する事など御坂にはできなかった。
御坂「『スフィンクス』の場所だけ教えなさい。それでとりあえずは許してあげる」
木山「…この部屋を出て右手へ。突き当たりの部屋に『スフィンクス』がインストールされているスパコンがある」
御坂「ん。それとアンタ、結局【電子ドラッグ】にハマッてんの?」
木山「7割方、といったところだ。しばらく放っておけばまた中毒症状で【電子ドラッグ】を見ようとするだろう」
佐天「え!?」
御坂「あっそ。…どのみち食蜂さんに頼んで『妹達』の洗脳を解いてもらわないといけないんだし、ついでに解いてもらうよう頼んでみるわ」
佐天「…食蜂さん?」
御坂「うちの学校のもう一人のLevel5よ」
佐天「! 第五位の人ですか!」
木山「…すまないね、何から何まで…」
-第二十三学区、某研究所正面出入口
御坂「悪いわね、こんなところまで来てもらって」
食蜂「御坂さんが私に頼み事なんて珍しいからねぇ。たまたま所用で近くにいたし、かまわないわぁ」
地下での激戦を終えて数十分後、爽やかな秋晴れの下で御坂は自分と同じ最高レベルの能力者を迎えた。
???「お前が第三位か。なるほど、そんなに制服がボロボロだってのにピンピンしてるあたりそこらのお嬢様とはちげえな」
御坂「…はあ? 誰よアンタ」
だが、最高レベルの能力者は一人ではなく二人いた。
金髪のホスト崩れの様な男が値踏みするように御坂を見定めている。
???「【未元物質】っつー能力名くらい聞いたことあるだろ?」
御坂「! へぇ、じゃあアンタが…」
垣根「そういうことだ。今は第五位のボディーガードをやってるんで一緒についてきた」
御坂「…ボディーガード…?」
垣根「まあな」
御坂「………ああ、そう。うん、いいと思う」
垣根「は?」
御坂「そのくらい余裕あるなら食蜂さんに好き勝手されてないんでしょ?うん、それならナイトにピッタリよ!私は応援するわ!」
垣根「…ちょっと待てコラ。愉快な勘違いしてんじゃねえよ」
食蜂「この人とはお互い仕事上協力してるだけよぉ。御坂さんが思う様な甘いカンケイじゃないわぁ」
御坂「え?そうなの?」
垣根「あたり前だ。つーかよくボディーガードっつー単語でそこに行き着いたな。さすがLevel5、妄想力がちげえな」
御坂「な、アンタもLevel5でしょうが!」
垣根「心配するな、自覚はある」
食蜂「あるのねぇ…」
食蜂「それで、治してほしい人っていうのは?」
御坂「あー…中にいるんだけど、えっと…」
そう言い淀んで、御坂は金髪のホスト崩れを見た。
垣根「垣根だ。垣根帝督」
御坂「垣根さん、悪いけど垣根さんは入らないでほしいんだけど…」
垣根「…なんか訳ありか?」
御坂「…まあそんなところ」
垣根「…かまわねえよ。暴走した第四位すら返り討ちにするコンビならボディーガードもいらねえだろ」
御坂「ありがとう。見かけによらず紳士ね」
垣根「一言余計だ。さっさと終わらせてこい」
御坂「分かった。じゃあついてきて、食蜂さん」
食蜂「…えぇ」
垣根「…第三位の訳ありねえ…」
トン、と研究所の壁に背中を預けて垣根帝督は考える。
垣根(十中八九クローンのことだろうな…)
実は垣根はすでに『妹達』についてかなりの情報を有している。
それどころか後に行うつもりである学園都市相手に大波乱を起こす計画に組み込んですらいる。
垣根(だが、あそこに一方通行の弱点がいるとは限らねえ。後のこと考えるならクローンに僅かでも悪いイメージを与えるのは得策じゃねーな)
今この場に目当ての少女がいると言うのであれば、垣根は計画を前倒しで実行しただろう。
【滞空回線】の採取による情報解析の計画もあるが、垣根個人としては憎き第一位に一杯食わせてやりたいところだ。
しかし、焦ってはいけない。ここに目的の少女がいるか分からないなら慎重になるべきだ。
そして、その選択は当たっている。この研究所に打ち止めはいない。
学園都市統括理事長も、この街の能力者の頂点も、学園都市そのものも全て相手取るのだ。慎重に慎重を重ねてもまだ足りないくらいだ。
垣根(第三位にゃ悪いが…全て上手く行けばお前にもメリットが出てくる計画だ。一万体いる人形を一体パクるくらい大目に見ろよ)
垣根「…っつーかお嬢様なら敬語くらい使えよな」
-研究所内、最下層ブロック
食蜂「…ふぅん、これが例の…」
目の前で横たわる同じ顔をした四人の少女をしげしげと眺めながら、食蜂は小さく呟いた。
外と違って薄暗い最下層ブロックは焦げ臭い匂いで満ちていた。
爆発したスパコンやら高離電気体やらのせいであちこちが焼け焦げているせいだ。
場所を移したいところだったが、意識の無い四人の『妹達』を担いで移動させるのは難しかった。
それに、意識の戻った白井に無理をさせるのも気が引けた。
御坂「…意外と反応薄いわね。もっと驚くと思ったけど…」
食蜂「…私の情報収拾力ならこの街で起きていることはおおむね把握できるわぁ。でも、実際にこうして見るとまた別ねぇ」
とはいえ、食蜂も御坂のクローンが実際にいる。程度でしか知らない。
どうせこの街のことだ。クローンを作ることすら何かの前段階の可能性さえある。とは思うが。
食蜂(あの第二位の顔…見当がついてるって感じだったわねぇ)
第二位に対して能力は効かないが、ある程度予想はつく。
しかし、あくまである程度だ。具体的な内容まで分かるということではない。
ハッタリで第二位には「読み取れる」と言ったりはしたが。
食蜂(気に食わないわぁ…もし向こうもクローンを何かに利用するつもりなら私が先に仕掛けるべきよねぇ)
実際には垣根が利用しようとしているのは打ち止めのみ。他のクローン体はどうでもいい。
だが、食蜂はそのことを知らない。一方通行の弱点を探ってたどり着いた『妹達』と、御坂の弱味を探ってたどり着いた『妹達』では知る内容が変わっていた。
食蜂(御坂さんには精神状態の判断力がないから私がクローンに何をしても分からないし…ここは)
御坂「この子達も完全に【電子ドラッグ】にハマッちゃって…食蜂さんにしか治せないの。お願い、この子達を助けて」
食蜂「…!?」
思わず食蜂は目を見開いた。あの御坂美琴が深々と頭を下げているのだ。
自分の派閥に入ることもなく、かといって自分で派閥を作るでもなく、唯我独尊を貫いてきた気に食わない女が。
脅そうとも能力を行使しようとも決して屈しなかった女が、とうとう自分に頭を下げている。
ぞくり、と食蜂の背中を何かが上り詰めた。
食蜂の中で『自分だけの現実』がほんの一部新たに構築され、付け加えられた瞬間である。
そして食蜂はそれを瞬時に把握し受け入れた。
食蜂「…いいわぁ。その代わり御坂さんに一つ貸しだゾ☆」
御坂「う…見返りはお手柔らかにしてもらえるとありがたいんだけど」
食蜂「もっちろぉん♪」
そう言って食蜂はいつものレースの手袋を取り外し、中からメタリックな手袋、マイクロマニピュレータを取り出した。
食蜂(犬がいいかしら猫がいいかしら…頭を下げただけでこの征服感。四つんばいになってる御坂さんなんて想像するだけでゾクゾクする)ジュルリ
御坂(…うわ、見たことないようなエグい顔してる…後が怖いわ)
御坂「ねえ、ついでにもう一人治してもらえないかしら?」
『妹達』の頭を掴んでは離し、次々と治療していく食蜂に声をかけた。
食蜂「そぉいえばクローンだけとは聞いてなかったわねぇ。いいわよ、どこにいるのかしら?」
そして、いつになく上機嫌な食蜂はその用件を笑顔でいとも簡単に飲み込んだ。
御坂「ちょっと別室にね…意識ははっきりしてるんだけど【電子ドラッグ】にハマりかけてるから暴れださないように友達に監視してもらってるの」
食蜂「ハマりかけてる?」
御坂「ええと【電子ドラッグ】を見たってことも自覚してるし、完全に別人格が形成されてるんじゃないみたい。本人曰く、7割方だって」
食蜂「ふぅん…」
とりあえずは納得したものの、食蜂は腑に落ちない表情を浮かべた。
食蜂(その程度なら喜んで引き受ける精神系能力者なんて常盤台にいくらでもいるでしょうに…
一回共闘しただけでもう心許してるのかしらねぇ…)
『妹達』のような重症患者ならまだしも、ハマりかけている程度なら食蜂でなくとも治療はできる。
御坂は常盤台中学ではLevel5ということもあって人望はかなりある。
あくまで尊敬の対象であって友人と呼べる人間はあまりいないが。
その御坂が頼み込めば常盤台の精神系能力者は嬉々として治療してくれるだろう。
それなのに、わざわざ校内での敵対関係が明白な自分に頼み込んでいる。
誰かは知らないが、御坂と接点を持ってるとなれば自分が何かを仕掛ける可能性があるとは思わないのだろうか。
たかが第四位を一緒に追い返しただけでもう全てが解消されたと思っているなら楽観的すぎだ。
この街にはそんなに甘い人間なんて少ないだろう。
そしてこの食蜂の考えの方がこの街では正しい。御坂が単純に他人を信じた結果、クローンが生まれて悲劇も生まれたのだから。
食蜂(ま、今は御坂さんの四つんばいが見れるならなんでもいいけど♪)
-最下層ブロック、実験データ保管・閲覧室
佐天「そろそろ来ますよね…もうちょっと頑張ってくださいね」
木山「ああ、今のところはなんの兆しもない。安心してくれ」
『スフィンクス』があった部屋とはまた別の部屋では佐天が木山を監視していた。
監視と言えば聞こえは悪いが、要は木山に中毒症状が出ないように気を紛らわせているのだ。
二人は空っぽの棚が大量に並んでいる部屋、その奥に置かれている閲覧用に備え付けられた簡素な机に並んで腰をかけていた。
佐天「白井さんも無理しないでくださいね」
白井「申し訳ありませんの…しばらくすれば回復いたしますので」
そして机の近くに置かれていたソファーには白井が横たわっていた。
あれから意識は戻ったものの、全快とはほど遠い状態だった。
到底演算などできず、歩くのがやっと。しかし、いざ木山が暴れたとなれば佐天をなんとか逃がすつもりだ。
木山「しばらくは安静にしていた方がいい。あの時点ですでに『妹達』の強度はLevel5に到達する寸前だった」
白井「お構い無く。電撃には慣れておりますので……それにしてもまさか一発退場とは……情けないですの」
ガチャリ、と扉が開く音が入り口の方から聞こえてきた。
そして徐々に足音が近づき、棚の影から常盤台の制服に身を包んだ少女が二人、姿を現した。
御坂「お待たせ。なんともない?」
佐天「ええ、異常なしです。それでそっちの人が…」
食蜂「食蜂操祈よぉ。よろしくね、佐天さん」
佐天「あれ?なんで私の名前…」
食蜂「私の情報収拾力ならこのくらい簡単に舞い込んでくるわぁ。あなた意外と有名人よ?」
佐天「ゆ、有名人!?私が…?」
食蜂「金属バット一本で研究所を壊滅させるほどの破壊力を持つ【幻想巨乳】(バストアッパー)の強能力者…」
佐天「なんですかそれ!私周りからそんな風に認識されてんですか!?」
御坂「…なるほど【幻想巨乳】…だからそんなに…」
佐天「御坂さん!?」
食蜂「それで治してほしいのはどちらかしらぁ?ソファーで気力をなくしてる白井さん?それともそちらの…?」
木山「ああ、私の方だ…よろしく頼むよ」
白井「私の方は少々放っておいてくださいまし…」
御坂「ちょっと黒子、アンタ大丈夫なの?」
白井「…身体は大丈夫ですが心はズタズタですの…」
御坂「…アンタは十分活躍したわよ。くよくよしなくていいの」
白井「…はいですの…」
食蜂「なんだか分からないけどぉ、この後も予定があるからさっさとやっちゃうわよぉ?」
木山「ああ…お願いするよ…」
木山(HALよ…私は君の命令を忠実に実行した)
木山(君は私に多くを教えなかったが…これで満足なのだろう?)
木山(あとのことは君次第だ…健闘を祈る)
-???
ご苦労だった木山春生!!
君は期待通りの仕事をしたよ…!
これで私の目的に大きく近付いた!!
永遠に生きる事が出来るのだ…1と0の狭間の世界で!!
-???
HAL「打ち止め」
打ち止め「はーい!ってミサカはミサカは元気にお返事!」
ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ…!!!
匪口「これで【心理掌握】の拡散は防いだ。じゃ、こっちもはじめようか。ミサカ」
11018号「本当に大丈夫なのでしょうね、とミサカはケーブルだらけのヘッドギアを装着します」
匪口「理論上はどう検証しても破綻はない。実証はミサカの姉ちゃんがほとんどやってるようなモンだ」
11018号「信用してよいのですね?とミサカはベッドに横たわります」
匪口「HALの知恵とミサカの生まれ故郷の技術だ。これ以上信用できるものはない。俺が保証するよ」
11018号「…あなたの保証ですか、とミサカはゲコ太とピョン子を握りしめます」
匪口「俺の保証じゃ心配だってか。心配しなくても寝てれば終わるよ」
11018号「…分かりました。では、おやすみなさい、とミサカは無限の彼方へ旅立ちます」
匪口「うん。おやすみ、ミサカ。こっからは俺らの出番だ。学園都市ひっくり返してやんよ」
-数日後、第七学区街頭
-警備員の発表によりますと【電子ドラッグ】の中毒者と見られる逮捕者は昨日ついに一万人を突破しました-
-中には学園都市外部の人間も混ざっており、先日の第十一学区の倉庫街における爆撃テロに乗じて侵入したものと思われます-
-尚、テロによる被害総額はおよそ225億円。未曾有の大規模テロとなりましたが人的被害はなく、現在のところ物価への影響も見られません-
-また、テロ当時警備員の連絡網に何者かによる妨害で不具合が発生していたことから
警備員は今回の【電子ドラッグ】による一連の騒動の首謀者及びテログループは学園都市に潜伏しているものとして調査を進めています-
-都市住民の皆さまには引き続き外部との接続ができない環境に対するご理解、そして携帯電話を含む端末類は極力使用を控えるように…
御坂「一万人…そんなに暴れてる人がいるのも驚いたけど、よくそんな数の人間捕まえられたわね」
平日の放課後、少しずつ傾き始めた太陽の下で御坂は街頭のニュースを歩きながら見ていた。
白井「なんでも白ランにハチマキの殿方が中毒者を片っ端からちぎっては投げてるらしいですの」
御坂「白ランにハチマキ…もしかしてちょっと前のアレ?」
白井「ですの」
こくり、と小さなツインテールの頭がうなずいた。
あの日白井は『妹達』と一緒に入院したのだが、ほんの一晩で退院した。
医者の腕がどうこうではなく、白井の電気に対する耐性が異常なのだとか。
事実すぐに風紀委員の仕事に出れるほどに回復しており、無断外泊じゃなかったのかと寮監に疑われたほどだった。
御坂「…まあ、私の【超電磁砲】を歯で受けとめるようなヤツだもんね。生半可な兵隊じゃ相手にならないでしょ」
白井「ほとんど人外の領域ですの」
御坂「とにかく黒子が無事でよかったわ。『妹達』の方もなんとかなりそうだし一安心よね」
白井「本当にご心配おかけしました…次の機会があれば、絶対に汚名返上してみせますの!」
『妹達』の方は未だに意識は戻らないが、命に関わる状況ではないし植物状態になる可能性も0だそうだ。
【電子ドラッグ】にどっぷりハマりすぎてしまっただけで、少々時間をかければ元に戻る。【冥土返し】のお墨付きだ。
そして、残る二体の『スフィンクス』は足取りが掴めなくなっていた。
あの日は御坂も電池切れ寸前の上に負傷者が多数。とてもじゃないが別の『スフィンクス』の場所にまで殴り込みに行く余裕はなかった。
それに『妹達』も全員奪い返したので一度体制を立て直しに撤退。
後日『スフィンクス』があったであろう場所に向かってみたが、もぬけの殻だった。
御坂「そんなに重く受けとめなくてもいいってば。一緒について来てくれただけで十分感謝してるわよ」
白井「いえ!このままでは風紀委員である資格もお姉様の露払いを努める資格もありませんの!」
御坂「…そこまで意気込んでるなら私に止める権利もないけどさ、無茶だけはするんじゃないわよ」
白井「…失態を冒した黒子をそこまで気遣ってくれますなんて…黒子は感激ですの!」ガバッ
御坂「だからって抱きつかない!」バチィ!
白井「アふン!…いつもより少し弱めの電撃…さりげない配慮に黒子はもう…」
御坂「よーし次は今の10倍の電力でいってみようかしら」
未だに【電子ドラッグ】の中毒者がいるとはいえ、学園都市には、少なくともこの空間にはいつも通りの風景が戻ってきた。
なんのことはない、ごくごくいつも通りの風景だ。
雲ひとつない学園都市の青空には飛行船がゆったりと浮かんでいた。
-第七学区、『風紀委員』一七七支部
初春「…はぁ~…ダメです~。まったく手がかり掴めません…」
自分のパソコンのディスプレイの前で花飾りの少女はうなだれながら弱音を吐いた。
左側にはブラインドと強化ガラスの代わりに段ボールがガムテープで張られていた。
HALの兵隊に壊された窓ガラスはなかなか修理されなかった。
なんでも、あちこちでガラスが壊された上に倉庫街もやられて供給が追い付かないのだとか。
佐天「なんだか花まで萎れちゃってるよ、初春。ちょっと休憩した方がいいんじゃないの?」
うなだれたままキーボードの上に倒れこみそうな花飾りの少女に黒髪の少女が提案した。
『妹達』救出作戦では大手柄の佐天だったが、ダメージを受けてはいた。主に心に。
周りからの自分の認識もゴシップの存在を知らなかったことも精神的大ダメージだった。
しかし、まあそれはそれ。
大抵のゴシップは少し浮上したらすぐに沈んでしまうのが常だと知っている彼女は翌日には復活していた。
初春「うー…だって御坂さんも佐天さんも大活躍だったらしいじゃないですか。私だけ置いてきぼりなんて嫌ですよ」
あれからというもの、プログラム人格は再び電脳世界の奥深くに潜り込んでしまった。
御坂と初春が時間をみつけては捜索しているのだが、一向に見つからない。
しかし、スパコンが奪われたという報告も外部との接続が復旧した形跡もないため、『スフィンクス』が増えたという可能性はない。
おそらくは『妹達』を奪還された上に『スフィンクス』まで壊されてしまったのだから今まで以上に慎重になっているのだろう。
というのが御坂達が出した結論だった。
固法「ちょっと仮眠したら?最近ろくに眠ってないんでしょ?」
パソコンの向こう側からこの支部の責任者、固法美偉の声がした。
初春「大丈夫ですよ。ちゃんと寝てます」
佐天「嘘はよくないぞ~、初春。目の下が木山先生みたいになってるじゃん」
初春「…でも、白井さんは活躍しなかったみたいだから見返すにはこのタイミングしか…」
佐天「それが本音かい」
固法「そんなフラフラの頭で白井さんを見返せるわけないでしょ。15分くらい仮眠すればすっきりするから少し寝なさい」
初春「…分かりました。じゃあお言葉に甘えて…」
とうとう折れた初春は自分の席を立ち、支部の奥にあるソファーへと向かった。
隣にいた佐天は少し退いて初春に道を譲り、初春についていった。
固法「あら、泊まる時の寝室使ってもいいわよ?」
初春「それだと明日の朝まで眠っちゃいそうなんで…ソファーで十分です」
佐天「健気だねぇ初春は。そんながんばり屋さんの初春に佐天さんがタオルケットでももってきてあげよう」
初春「あ、すいません。お願いします」
固法「たしか押し入れの奥の方に入ってたと思うわ」
佐天「はーい。分かりました」
しばらくすると、佐天がタオルケットを小脇に抱えて戻ってきた。
佐天「やー、ちょっと探すのに手間取っちゃいま」
固法「しーっ」
時間がかかった理由を説明しようとすると、自分のデスクに座っていた固法が唇に人差し指を当ててそれを制した。
佐天「? どうしたんです?」ヒソヒソ
たしなめられた理由は分からないが、とりあえず佐天は声を落として尋ねた。
固法は微笑みながらソファーの方をちょんちょんと指差す。
なんだか分からないがとりあえずタオルケットを抱えたまま指された方向、ソファーへと進んだ。
するとそこには穏やかな表情ですやすやと寝息を立てている初春の姿があった。
佐天「おぉう…」
固法「よっぽど疲れてたみたいね。一時間くらい寝かせてあげましょ」ヒソヒソ
いつの間にか隣に来ていた固法がそっと佐天に耳打ちした。
佐天「そうですね」ヒソヒソ
そう言って佐天は初春に優しくタオルケットをかけてあげた。
肩から足まですっぽりとタオルケットに包まれた初春。
そんな初春を見ていた佐天はついついイタズラ心が沸いてしまい、そーっとタオルケットの足の方をつまみあげて
固法「風紀委員の支部何してんの」
佐天「あたっ」
固法にチョップで止められた。
佐天「それにしても、学校半ドンで終わっちゃうからやることないんですよね。
まあ、あんな大冒険から生還したばかりだからしばらくはこれでいいって言えばいいんですけど」
固法「そうね。ここ最近なら2~3回は出動命令が出るのに今日はないし」
佐天「じゃあ暇なんでテレビでも見ますか」
固法「いいけど音量小さくしてね。初春さん寝てるから」
佐天「はいはーい。…でもこの時間帯ってお堅いニュースと夜の番組の番宣しかやってないんですよね」
-では、続いてのニュースです-
-学園都市に共同展開する予定でした『シュプリーム・会屠楼』ですが、『会屠楼』の店長である陳ヤマト氏が危篤状態となり-
佐天「なにい!?」ガタッ!
固法「ちょっと佐天さん声」
佐天「だって陳ヤマトが危篤ですよ!?これが落ち着いてられますか!」
固法「誰よ陳ヤマトって」
佐天「中華の超有名店の店長ですよ!知りません!?『スパイラル豚足』!」
固法「初めて聞いたわ」
-これにザり延期されていた『シュザザリーム・会屠楼』のザザザザはさらに延期ザザザザザザザザ、むしろザザザザザザザザザザ-
佐天「ちょっ、どうしたのさテレビ!しっかりしろ!」バンバン!
固法「だから佐天さん静かにして!」
HAL『こんにちは、学園都市の諸君』
HAL『少しだけ時間をくれるかな?自己紹介をしたいんだ』
-同時刻、第七学区『警備員』第七三活動支部
黄泉川「ん?誰だこいつ」
鉄装「よ、黄泉川さん大変です!地上波が乗っ取られてます!」
黄泉川「! また電波ジャックか!じゃあこいつが…!」
HAL『今世間を騒がせている【電子ドラッグ】…及び現在統括理事会を騒がせているLevel5第一位の失踪』
HAL『それら全てを計画したのはこの私だ』
HAL『私は人にして人間に非ず。コンピュータ上に組み立てられたプログラム人格』
HAL『私の名前はHAL…【電人】HALだ!!』
-同時刻、第一五学区繁華街
削板「あの飛行船に映ってるのは…この根性無しどもの親玉か?」
原谷「っぽいですね…」
削板「むう…」
原谷「なんです?珍しく難しい顔して」
削板「いや…根性無しの親玉にしてはやけに…面構えが、と思ってな」
原谷「はあ…?」
HAL『ほんの2つ。君達に飲んでもらいたいのは、ほんの2つの要求だ』
HAL『ひとつめの要求は私と私がいるこの地に…決して危害を加えないこと』
HAL『今私は第二学区の地下演習場にいる。駆動鎧を含めた地上兵器を用いて様々な環境下での演習を行う所だ』
HAL『もちろん、君たちはこのような要求をただで飲みはしないだろう』
HAL『そこでだ。少し上空を見てもらいたい』
-同時刻、第三学区屋内レジャー施設『アイテム』隠れアジト
麦野「見える?絹旗、フレンダ」
絹旗「…あー、私の目が節穴じゃなければ超ヤバいもんが飛んでますね」
フレンダ「えっ?どこどこ?」
絹旗「アレです。あの黒いの」
滝壷「…南南東から電波が来てる」
麦野「…はっ、ちょうど第二学区の方向だよ」
フレンダ「うわ、アレってもしかして…」
HAL『警備員や兵器開発等に携わっている人間には理解していただけただろう』
HAL『今各学区の上空を旋回しているのは学園都市最新鋭の無人攻撃ヘリHsAFH-11。通称【六枚羽】だ』
HAL『スペックとしては最大速度マッハ2・5。装備としては機銃にミサイル、摩擦弾頭、砂鉄と高圧電流による対ミサイル兵器等々…挙げればキリがない』
HAL『さらに言わせてもらえば【六枚羽】の他にもいくつか自動操縦の兵器を拝借させてもらった』
HAL『…しかし、私が手に入れた兵器はそれだけだ。学園都市と全面戦争となれば勝ち目は薄い』
HAL『なので…もう少し私の手の内をお見せしよう』
-同時刻、第七学区【学舎の園】
婚后「きゃあ!?」
泡浮「婚后さん!大丈夫ですか!?」
湾内「な、なんなのでしょう…!この揺れは…!」
婚后「ああ、申し訳ありません、泡浮さん…。しかし、【乱雑開放】は私がとうに解決したはずですわ!どうなってますの!?」
HAL『ふむ、震度4弱と言ったところか』
HAL『諸君らには分からないだろうが、今学園都市には完全に同じ規模の揺れが発生した』
HAL『もとは東京都西部にしか過ぎない小さな領土面積とはいえ、同じ規模の揺れというのはあり得ない』
HAL『では、私は何をしたのか』
HAL『少々信じがたいだろうが、地球が自転するベクトルを一点に集め各学区に均等に分散させたんだ』
HAL『博識な者たちなら分かるだろう?誰が私に味方しているのか』
HAL『付け加えるなら私の指示一つで学園都市を地盤から崩壊させることも可能だ』
HAL『例えば何が起きても倒れないようなビルがあろうとも、地盤が砕けてしまっては立ってはいられまい?』
-同時刻、第七学区窓の無いビル
アレイスター「ほう…」
HAL『…それともうひとつの要求は、現在学園都市で使われているスーパーコンピューター…』
HAL『それら全ての使用の権限を…私に与えてもらいたい』
HAL『私自身まだまだ性能をパワーアップしたくてね』
HAL『そのためには…他のパワーあるコンピューターと接続する事が不可欠なんだ』
HAL『私が指定するいくつかのスパコンは…直に接続するためにこの施設に運び入れ』
HAL『その他の外部のスパコンも…私が接続している時は一切の邪魔を禁止する』
HAL『これを破った者はすぐさま探り当てる…【電子ドラッグ】の餌食になってもらうためにね』
HAL『約束しよう人間達よ』
HAL『以上の要求を受け入れれば…私の方から現在以上の危害は加えない!!』
-同時刻、第一二学区カトリック教会前
垣根「ヒュウ、イカれてやがんなこいつ。その2つの要求飲んだらこの都市は終わりだろうが」
食蜂「1の世界がどうなろうと私の知るところではない、だそうよぉ。前にお話しした時に聞いたわぁ」
垣根「はっ、横暴だな。そんでムカついた。学園都市をひっくり返すのも一方通行を潰すのも俺だ。
勝手に人の獲物を横取りしてんじゃねえぞコラ」
HAL『YESかNOか、行動で示してもらおう』
HAL『良い行動を…期待しているよ』
HAL『それでは…』
-同時刻、第七学区『風紀委員』一七七支部
ブツン、と支部のテレビは電源が切れてしまった。
佐天「…」
固法「…」
支部に居た佐天と固法はしばらく呆然としていた。
たった今目の前で放送されていたものが現実のものとは思えなかった。
佐天「…こ、これって…まずいんじゃないですか?」
固法「まずいなんてものじゃないわよ!学園都市がテロリストに占拠されたのよ!?」
佐天「ですよね…」
しかし、だからといって何をすればいいのか分からない。
事態のスケールが大きすぎる。学園都市がいきなり占拠されるなど考えたこともなかった。
佐天「そ、そうだ!初春!」
急いで佐天はソファーで安眠している花飾りの少女に駆け寄った。
少女はたった今起きた前代未聞の放送など何も知らずに安らかな顔でタオルケットにくるまっていた。
佐天「起きて初春!大変な事になっちゃったんだよ!?」
初春を起こそうと佐天は初春の身体を揺さ振る。
しかし、初春は一向に起きない。未だにすやすやと眠っている。
佐天「早く起きてよ初春!大変なんだってばぁ!」
こんなに起こそうとしているのに少しも反応がない初春に苛立ちが募った。
一層激しく身体を揺さ振るもまだ起きない。
そうこうしているうちにタオルケットが地面に滑り落ちた。
佐天「ねえういは…!?」
瞬間、佐天はピタリと動きを止めた。
タオルケットの下の初春の服装が異様だったからだ。
いつもまくっていたスカートのウエストラインが肩まであがってるではないか。
おかげでスカートはほとんど美容室で着せられる髪除けみたいになっている。
下半身に至ってはほぼ丸出しだ。
佐天「」
初春「」
そして佐天は気が付いた。
さっきまで眠っていた初春が目を見開いてこちらを凝視していることに。
そしてなんの前触れもなく、初春は飛び起きた。
佐天「うあ!?」
さらにそのままものすごい勢いで支部の入り口へと突き進む。
固法「!? 初春さ、きゃあ!?」
驚いていた固法を押し退け、初春は突き進む。
よくよく見れば、スカートとブレザーの端からチラチラ覗いているパンツは水玉でもクローバーでもない。
男物の柄パンだアレは。
そして後少しで入り口というところで初春は直角に右に曲がり、自身のパソコンが置いてあるデスクの方へと姿を消した。
そこから先は他の二人には見えなかったが、バフッという音だけは聞こえた。
恐らくは初春が段ボールへと突っ込んだ音-
佐天「ちょっ、初春!?」
固法「ここ二階よ!?」
風紀委員の支部を頭から飛び降りた花飾りの少女は落下しながら小さく呟いた。
初春「査楽」
すると、落下中の初春の背後に一人の青年が現れる。
査楽「はっ」
青年が花飾りの少女に手を触れると、地面すれすれのところで二人は姿を消した。
そして、少し離れた街灯のてっぺんに姿を現す。
初春「とうとうこの時が来ました」
査楽「ええ、これにてHALの天下。ひいては我々の天下ですね」
初春「他の皆さんも一様にHALの許へと集う頃です。私達も向かいましょう」
査楽「分かりました」
すると二人は再び姿を消した。
飛び降りた支部の窓枠からは二人の少女が血眼になって花飾りの少女を探す姿が見られたが、ついぞ発見することはできなかった。
-???
HAL「ム…」
ピク、とHALは何かを感じとった。
それは自分の支配世界に誰かが入りこんできた感覚。
先ほどの大規模電波ジャックに使った大量のエネルギーの出どころをたどってきたのであろう。
恐らくはウイルスのようなモノが電脳世界のHALを攻撃しようとしている。
HAL「…一人しかいないな」
電脳世界に構築された城の頂上でゆっくりと辺りを見渡し、そしてニヤリと笑った。
HAL「【超電磁砲】御坂美琴よ」
その視線の先には常盤台中学の制服と紫電に身を包んだ女子中学生がいた。
これでもかというほどに怒気を含んでこちらをにらみつけている。
HAL「だが…君とて理解しているだろう?『スフィンクス』はまだ2体残っている。1と0の狭間で私を倒すことは不可能だ」
御坂「何がしたいの…?」
HAL「うん?」
御坂「一体何がしたいの!?学園都市をメチャクチャにして!日本中の電子頭脳を乗っ取って!大勢の人間を洗脳して!
そこまでして何がしたいの!?アンタ達になんのメリットがあるのよ!!」
最初は気にもとめなかった。あっさり解決してしまうと思ったから。
『妹達』が洗脳下にあると分かった時はそれだけで頭がいっぱいだった。
そしてここにきて初めて疑問が湧いた。ここまでのことをしてこのプログラム人格は、その制作者は一体何がしたいのか。
その問いに【電人】HALはいつものように不気味な妖しい笑顔で答えてみせた。
HAL「…私の目的は生きることだ。1と0の狭間でなんとしても生きることだ。そのためには如何なる手段も問わない」
それがHALの答え。
日本の人口の約8割支配下に置き、機構を制圧し、日本中の電子頭脳を乗っ取り、学園都市でも同じように全てを支配しようとしている。
そこまでして成し遂げたい【電人】の目的はなんてことはない。
生存。
ただ生きることだった。
御坂「…なによそれ…それだけのためにこんなことしたの!?それにそれじゃあ現実世界のアンタにはなんのメリットもないじゃない!」
金銭目的なら分かる。二~三十年先の科学技術を誇る学園都市には巨万の富があふれている。
技術目的なら分かる。その科学技術を利用すれば外で荒稼ぎもできるし、学者として知的好奇心というのも筋が通る。
だがプログラム人格曰く、1と0の狭間で生きるのが目的。なら、1の世界で生きている制作者のメリットは?
HAL「…そう言えば…まだ言ってなかったかな?」
そう言いながら、HALいっそう妖しい笑みを浮かべる。
御坂「…なにを?」
HAL「私のオリジナルである春川の命脈は…私の手足が断ち切った。すでにこの世にはいない」
御坂「!?」
HAL「言っておくが私と春川の目的は同じだ。先ほども言ったように1と0の狭間で生きることだ。だがそれは…私には可能で彼には不可能だった」
なんでもないことだという雰囲気でHALは話し続ける。
御坂に見せ付けるように指先から大きめのナイフを作ってみせた。
HAL「この目的を達成できないなら…我々にとっては死んだと同じ事だ。彼がそれを知って絶望する前に…楽にしてやっただけだ」
御坂「なによ…それ…!」
HAL「ククク…君には理解できないよ」
御坂「ふざけるな…ふざけるなあ!」
電脳世界に青い雷撃の槍がほとばしる。HALを滅ぼそうと一直線に突き進む。
瞬間、下から巨大な何かが城と御坂の間に現れ雷撃の槍は弾かれた。
その何かとは大樹。世界樹とも呼称していいほどの巨大な樹だ。
しかし、葉はほとんどない。代わりに樹のてっぺんには巨大な花が咲いている。
花の周りには人間を丸呑みしそうな牙の生えた奇妙な触手のようなものが。
樹の幹には断末魔の人間の顔のようなものが無数にひしめいている。
そのあまりの巨大さ故にHALも城もすっかり隠れてしまった。
御坂「な、んなの…コレ…これも『スフィンクス』なの?」
突如現れた謎の大樹に戸惑う御坂。今までの『スフィンクス』とは毛色が違いすぎる。
ブン、と大樹の前にモニターが現れた。そこに映っているのは大樹に遮られて見えなくなった【電人】HAL。
HAL「『朽ちる世界樹』(イビルツリー)…【守護神】が制作した最も強固な防衛プログラムだ」
御坂「な…!?まさか…アンタ、初春さんにまで!?」
HAL「ククク…彼女はとても優秀でね。1と0の狭間でだけでなく…1の世界でも十分役に立ってくれている。
強化した彼女の能力【絶対定温】(ヒートキーパー)のおかげで…私とスフィンクスを一点に集めることもできた」
満足げにしゃべるHAL。これで確定した。電脳世界で御坂と同じ実力を持つ親友は、支配され操られている。
御坂「…っ許さない!アンタだけは絶対に許さない!」
HAL「ククク…だが、どうするつもりだ?私の本体は…『スフィンクス』と『朽ちる世界樹』によって守られている」
ズン!と大樹の両脇に『スフィンクス』が一体ずつ現れる。
そしてどちらも御坂に照準を合わせている。
HAL「更にこれらは一方通行を含む私の兵隊によって守られている。君の勝ち目は消えたのだよ」
御坂「…」
目の前のモニターに映るHALを睨み付けながら御坂は歯を食い縛る。
電脳世界では『スフィンクス』相手に勝ち目はない。恐らくは『朽ちる世界樹』にも。
現実世界で一方通行相手に勝ち目はない。あったらあと50人近く『妹達』を救えていた。
もう御坂にはどうしようもない。
【電人】HALはもはや御坂の手の届かない領域にいた。
HAL「さらばだ【超電磁砲】御坂美琴よ。君は…学園都市は実に強敵だった」
-常盤台中学学生寮、二○八号室
スッ、と御坂は閉じていた目を開き、現実世界に意識を戻した。
白井「お姉様!いかがでしたか!?」
その隣には不安げな表情で御坂を見つめる白井の姿があった。
あの放送のあと二人はすぐに学生寮に戻り、自前のパソコンでHALへの接触を試みていた。
御坂「…ダメだった…電脳世界じゃアイツは倒せない…」
白井「そう…ですの…」
残念そうに肩を落とす白井。この街の第三位なら、敬愛するお姉様ならと思っていたのだが、そう簡単にはいかないようだ。
御坂「それだけじゃない…初春さんが、初春さんが【電子ドラッグ】に…」
白井「な!?う、初春が!?」
御坂「…私のせいだ…私のせいで、初春さんは…」
今にも泣き出しそうな顔で御坂は自分を責める。
自分が『妹達』のことを話したせいで初春は無理に捜査を進めてHALの毒牙にかかったのだと、そう思っていた。
白井「…お姉様のせいではありません。初春とて風紀委員の端くれ。自分の行動には自己責任で当たっておりますの」
御坂「でも…でも私があんなこと話さなければ…!初春さんだってもっと慎重に…!」
なおも白井は言い返そうとしたが、ある音に遮られた。
ドンドンという音がした。誰かが御坂達の部屋を強めにノックしている。
???「おーいみーさかー。しーらいー。いーるかー?」
とっさに御坂は目をこすった。
こんな姿を白井以外に見せる訳にはいかなかった。
御坂「ええ、いるわよ。入ってきて」
なんとか平静を取り繕い、部屋の外にいる人間を促した。
ガチャリ、と扉が開く。
そこには屋内用お掃除ロボに座ってクルクル回っているメイド、土御門舞夏がいた。
御坂「土御門?どうしたの?」
舞夏「ちょっとなー。二人に頼みがあって来たんだぞー」
掃除ロボの上に座ってクルクル回ったまま、土御門舞夏は二人に近付いてきた。
白井「頼み事…ですの?」
舞夏「おー」
ようやくピタリと止まると、ちょっとだけ不機嫌そうな顔で二人に向かって言い放った。
舞夏「ウチの兄貴がなー、二人に会いたいんだってよー」
-三十分後、第一二学区大通り
???「いたいた。ようやく見つけたわ」
次の現場に行こうとリムジンに乗ろうとした垣根と食蜂の前に、丈の短い派手なドレスを着たサングラスの少女が現れた。
食蜂「…? どちら様かしらぁ?」
初めて見る少女を値踏みするように上から下まで見定めながら食蜂が呟いた。
垣根「ああ、俺の仕事仲間だ」
食蜂「ふぅん…なるほど。まるでパーティーにでも行くようなメルヘンな格好だものねぇ」
心理定規「そこを判断基準にしないでもらえるかしら」
垣根「つーかお前そのグラサンどうしたんだ?」
心理定規「コレかけてると【電子ドラッグ】が効かないんですって。私が中毒者じゃないってことの証明代わりよ」
そう言ってドレスの少女はサングラスのフレームをコツコツと人差し指の先で叩いた。
垣根「…そんな便利なもんが即座に開発される訳ねえな。
やっぱずっと前から知ってた上で泳がせてやがったか。相変わらず腐ってやがんな、アレイスター」
食蜂「それであなたは何しに来たのかしらぁ?」
心理定規「この人への伝令よ。『スクール』に召集命令。受けるかどうかはあなたが決めて」
垣根「ほぉ、具体的な内容は?」
心理定規「詳しくは言ってなかったけど第一位の討伐任務ですって。もしかしたら他の暗部組織と連携になるかもしれないみたいよ」
垣根「…一方通行ごときに警戒しすぎだろ。だが、他の暗部組織ってのはおもしれぇな」
少し不満をもらしたが、いいことを思いついたとばかりに垣根はニヤリと笑う。
心理定規「受ける?一応彼に下部組織の指揮採らせて準備はさせてるけど」
暗部組織『スクール』は幹部四人と大勢の下部組織で構成されている。
四人の幹部の内一人は【電子ドラッグ】の餌食となってしまったが、その他の構成員はほぼ無傷だ。
組織としては十分機能できる。実際今までも垣根抜きで任務をこなしてはいたのだ。
垣根「その必要はねえ。『スクール』から出るのは俺だけだ。『電話の男』と回線繋いでくれ」
食蜂「ちょ、ちょっと待ちなさいよぉ!」
自分抜きでポンポン進んでいく話を食蜂が制した。
垣根「なんだ?」
食蜂「あなたがいなくなったら誰が私を守るの?兵隊さん達はまだ私を狙ってるのよぉ?」
Level5第五位の【心理掌握】食蜂操祈はHALにとって一番の天敵だ。
なんせHALがじっくりと洗脳してきた兵隊を瞬く間に正気に戻してしまうのだから。
しかし【心理掌握】は戦闘面においてはさほど強くない。
というよりも身体面からしてあまり動けるタイプでもないのだ。
洗脳されるよりも速く、一撃で決めてしまえば怖くはない。
だから食蜂を護衛するために垣根がいたのだ。
HALとしても【未元物質】という強大な戦力を【心理掌握】に釘付けにできるというだけでメリットはあった。
しかし、ここで垣根が食蜂から離れてしまえばもはや食蜂を守る者はいない。
ほんの数十秒で食蜂は八つ裂きにされてしまうだろう。
心理定規「ああ、それなら大丈夫。ちゃんと代わりを連れてきたから」
食蜂「代わり?」
心理定規「ええ。今暴れてた中毒者がいたから取り押さえに行ってるけど…ああ、帰ってきた」
すると、大通りの角から時代錯誤な白ランの男が現れた。
削板「うおっす!選手宣誓以来だな!【心理掌握】!」
食蜂「」
心理定規「こちらLevel5第七位の削板軍覇さん」
垣根「ははっ、なるほどな」
削板「おう、お前が嬢ちゃんの仲間の第二位か!【心理掌握】のために身体張るなんて根性あるな!」
垣根「…まあな。じゃあ俺は用事できたから、ここからはお前に任せるわ」
削板「おう!この【ナンバーセブン】の削板軍覇!か弱い女を付け狙う根性無し相手に遅れは取らんぞ!」
垣根「おーおー、頼もしいこった。じゃあな、第五位。機会があればまたいつか会おうぜ」
食蜂「」
-三十分後、第三学区屋内レジャー施設『アイテム』隠れアジト
麦野「だからよ、私ら『アイテム』だけで十分だろが。なんだって他の暗部組織の連中にツラ晒さなきゃなんねぇんだ」
???「こいつときたらー!私が電話じゃなくて直接伝令に来てるんだから事の重大さが分かるだろがー!」
第三学区の隠れアジトに女が五人、集まっていた。その内の一人はサングラスをかけている。
五人の内四人は暗部組織『アイテム』の幹部。残った一人は普段は絶対に姿を見せない『アイテム』の上司役『電話の女』。
フレンダ「…『電話の女』の正体、初めて見た…」
絹旗「ま、超ダミーの可能性もありますけど」
???「こいつときたらー!こんな麗しい声の持ち主なんて一人しかいないだろが!」
滝壷「…いつもどんな声だったっけ?」
麦野「とにかくだ。私らの通常任務は裏切りもんの粛正だの不穏分子の排除だのだ。いつ裏切るかも分からねぇ奴らにツラ晒したら今後の任務に支障が出る。
今回の依頼は受け付けねぇ。どうしてもやらせてぇなら『アイテム』単独の任務で回せ」
???「それがそういう訳にもいかないんだコレが」
麦野「あ?」
???「今回の依頼はアレイスターの厳命。コレ蹴っちゃったら私もあんたらも首が危ういのよ。職務的な意味でも物理的な意味でも」
麦野「はあ!?無茶苦茶言ってんじゃねぇぞ!んな理不尽極りねぇ話がまかり通ってたまるか!」
???「やれやれこいつときたら。暗部組織のリーダーやってるくせに何を今さら」
麦野「…クソが。ならせめて互いに顔合わせねぇ様にしろ。それが最大の譲歩だ」
???「それができたら今まで通り電話で指示出してるっつの。電波が使えない状況で互いに顔合わせないでどう打ち合わせすんのよ」
麦野「…正気か?私らがしくじればてめえにも害はあんだろ」
???「正気も正気。その代わりウチの切り札、滝壷は今回お役御免でいいってさ」
滝壷「私だけお休み?」
???「そ。こんな合同任務で大事な滝壷と体晶を消費するなんて馬鹿らしいしね。
それと下部組織もいらない。無駄に数減らすだけで終わっちゃいそうだし」
麦野「…だが、いくらなんでもデメリットが多すぎる。その条件じゃ受けられねえ」
???「…はぁ、こいつときたらまだ言うか。そっちの二人は?」
フレンダ「結局『アイテム』は麦野がリーダーだからね。麦野に従うだけな訳よ」
絹旗「それに今んとこ麦野の方が超正論吐いてますし」
???「…しょうがない。できれば使いたくなかったけど、私のとっておきを使うか」
フレンダ「とっておき?」
???「アレイスターから送られてきた音声データ。よーく聞きなさい」スチャ
絹旗「? 別に統括理事長の演説なんか聞いたくらいで麦野の考えが変わるとは…」
???『よし、麦犬!』
???『ワン?』
???『お手!』
???『ワン♪』
???『よ~し、えらいえらい』
???『クゥン』
麦野「」
滝壷「」
絹旗「」
フレンダ「」
???「…アレイスターが断るならこのデータばらまくってさ」
フレンダ「うわぁ…」
絹旗「超うわぁ…」
麦野「て、てめ…どこで、コレ…」プルプル
???「だーからアレイスターからもらったんだって」
麦野「ふざけんな!渡せ!今すぐ渡せ!」
???「いいけど多分アレイスターはコピー取ってると思うわよ?」
麦野「」
滝壷「大丈夫。麦犬な麦野も私は応援して」
麦野「ぶっ殺されてぇのか滝壷テメェ!!」
???「こいつときたらー!元はと言えば簡単に洗脳された挙げ句パンピーにやられるあんたが悪いんでしょうが!分かったらとっと行ってこーい!」
-第七学区、コンサートホール前広場
屋外用お掃除ロボに切り替えた土御門舞夏に白井と共についていくと、コンサートホール前の広場についた。
先の放送のせいか、そろそろ完全下校時刻になるせいか人はほとんどいない。
太陽はもう大分傾き、三人の影はそれに比例して伸びていた。
舞夏「兄貴ー!連れてきたぞー!」
ふいにお掃除ロボに乗ったメイドが大声を張った。
御坂も白井も急に叫ばれたので少々面食らったが、気付くといつの間にか一人の男が三人に近付いてきていた。
土御門「おお舞夏!ご苦労様だにゃー!」
その男は金髪グラサンアロハシャツという、とても真面目そうな人間には見えない男だった。
舞夏「紹介するぞー。これがウチの兄貴だ」
土御門「どーもはじめまして!舞夏の義理の兄の土御門元春ですたい!よろしく頼むぜぃ!」
おまけに妙な口調に軽いノリだ。胡散臭さがプンプンする。
御坂「…はじめまして、御坂美琴です」
白井「白井黒子ですの」
とはいえ、友人の兄に初対面で邪険にするのも礼儀に反する。
とりあえず二人は頭を下げて軽く自己紹介を済ませた。
土御門「そんなにかしこまらなくても結構だぜい?タメ口でいいぜよタメ口で」
ハッハッハ、と手を振って笑う土御門兄。こんな人物が一体何の用があるというのか。
舞夏「言っとくけど私がいないところで二人に手ぇ出したら承知しないからなー」
土御門「心配ご無用!俺が舞夏以外に手を出したら腹切って詫びるぜよ!」
御坂「…アンタ達って…」
そういえばこのメイドはその手のマンガを好んでいた。
しかし、まさか実際にそっちの恋愛感情があったとは。
白井「お姉様、恋の形は人それぞれですの」
同じく一般的な恋愛には興味のない白井はすぐに受け入れたようだが。
舞夏「二人も身の危険を感じたら丸焦げにしてもハリネズミにしてもかまわないぞー」
土御門「ひどい疑われ様だにゃー。兄ちゃん悲しいぜよ」
舞夏「…念のため、だ。それじゃ私は帰るぞー。まーたなー」
そう言って土御門舞夏の方はお掃除ロボに乗ったまま帰っていった。
相変わらずどうやってお掃除ロボを操作しているのかはまったく分からないが。
土御門「おーう。気を付けてなー!」
その後ろ姿を金髪アロハの義理の兄は両手を振って見えなくなるまで見送った。
御坂「それで?一体何の用?私も黒子も門限までに帰らないとマズイから手短にお願いしたいんだけど」
瞬間、金髪アロハの纏っていた空気が変わった。
土御門「門限を気にする必要はない。常盤台には正式な手続きでお前達二人の外泊許可を出させた」
今までとは打って変わって真面目な表情になった土御門。
妙な口調も軽いノリも消え失せていた。
一瞬にしてその場の大気に緊張が走る。
御坂「…外泊許可?外部の人間がどうやって…」
土御門「とある重要実験のために【超電磁砲】【空間移動】の能力を試用したい、とな。
常盤台の寮監は何やら訝しんでいたようだが、常盤台中学の理事会からの圧力だ。受理せざるをえない」
目の前の男は真顔で淡々と話す。とても嘘をついているようには見えない。
白井「貴方は…何者ですの…?」
常盤台中学の理事会を動かせる人間などそう居るものではない。
挙げ句、纏う雰囲気が一般人ともスキルアウトとも違う。
この男は何者で、一体何を考えているのか。
土御門「良く言えば学園都市を守るヒーロー。悪く言えば一般人を戦場に連れていこうとしている悪党だ」
目の前の男はそう言って少しだけ自嘲気味にほほえんだ。
御坂「…この場合、一般人っていうのは私達でいいのよね?」
土御門「ああ」
御坂「じゃあ、戦場っていうのは?」
土御門「学園都市第二学区」
白井「! ですが、そこは…」
土御門「一方通行を倒し、プログラム人格を破壊する策がある。そのために二人の力を借りたい」
白井「!」
御坂「うそ…どうやって?」
土御門「知りたければついてきてくれ」
そう言って土御門は顎で広場の出入口を指す。
そこには黒いワゴン車が停車していた。
御坂と白井を誘う様に、後部座席のドアが開かれている。
土御門「ついて来る来ないは自由だ。それについて来る途中で怪しいと確信したなら…丸焦げでもハリネズミでも好きにしろ」
-第二学区、とあるビル
ワゴン車に揺られ、着いた先は一見普通なビルだった。
ワゴン車に乗ってる最中に具体的な内容について二、三質問を繰り返したが、土御門ははぐらかすばかりだった。
ワゴン車から降りた後、土御門の先導でビルの中へと入っていく。
小綺麗なエントランスを抜け、エレベーターに乗り3階へ。
長い通路を歩いた先には『小会議室』と書かれた部屋が待ち構えていた。
土御門「ここだ」
そう言って土御門は扉を押し開け部屋へと入る。
御坂と白井もそれに続く形で中に入っていった。
会議室の中には6人ほどの人間がそれぞれ何人かごとに分かれて固まっていた。
具体的には3人と2人と1人。それぞれ壁にもたれかかったり椅子にすわったりしている。
それらの人間は皆、部屋に入ってきた御坂達に目をやった。
そこで御坂は気付く。この部屋に居る人間はどいつもこいつも御坂と因縁のある相手ばかりだ。
フレンダ「うげっ…」
麦野「ああ?なんで【超電磁砲】が来るんだよ」
絹旗「…もうこの時点で超嫌な予感しかしないです…」
出入口の近くの椅子と机に固まって座っている3人の少女。
数日前に【学舎の園】で派手に戦った『アイテム』という組織だ。
結標「ハァーイ、こんばんは白井さん」
白井「結標淡希…!貴女は【電子ドラッグ】にハマッたはずでは…?」
結標「あら、情報通ね。でももう中毒症状は抜け切ったわ。あそこの第四位と一緒で」
麦野「あ?」
少し離れた壁ぎわには男女が一人ずつ。
女性の方は『残骸』事件で御坂とも白井とも直に対立した【座標移動】の大能力者、結標淡希。
この事件で病院送りにされた白井はすでに警戒心をむき出しにして睨み付けている。
海原「…ご無沙汰しております、御坂さん」
御坂「…アンタは…どっちの海原光貴なの?」
海原「……以前貴女に多大な迷惑をおかけした方、です」
そして男の方は以前ひっきりなしに御坂の前に現れていた偽者の海原光貴。
彼は御坂自身に危害を加えたことはない。
しかし、本物の海原光貴から腕の皮膚を剥がされた上に殺されそうになったという話を聞いた。
しかも上条と建設中のビルの骨組みが崩壊するレベルの大喧嘩をしたという事実もあり、御坂にしてみればもう会いたくない相手だった。
垣根「…第三位か。そっちのツインテールの娘は誰だ?」
最後に結標と海原の反対側の壁にもたれかかっているのはLevel5の第二位【未元物質】垣根帝督。
御坂と白井にしてみれば彼だけが唯一まともな、少なくとも悪事を働いているとは思えない人間だった。
御坂「垣根さんもいたんだ。私の後輩で風紀委員の黒子。白井黒子よ」
垣根「……風紀委員、だと?」
白井「はじめまして、白井黒子と申しますの。失礼ですが、あなたは?」
垣根「…垣根帝督」
御坂「垣根さんはLevel5の第二位なの」
白井「まあ!Level5の方でしたの!?しかもお姉様より序列が上ですの!?」
垣根「まあな」
白井(Level5であるということをひけらかさないこの余裕…。まさしくLevel5ですの)
御坂「それより食蜂さんは?一緒じゃないの?」
垣根「第五位は置いてきた。代わりに第七位がボディーガードやってる」
御坂「へぇ…まあアイツなら問題ないか」
垣根「ん?第七位とは知り合いか?」
御坂「前にちょっとね」
土御門「さて、そろそろいいか?」
ふと、土御門の声が響き渡る。
会議室の一番前、ホワイトボードの前の少しせりあがったところに立ち会議室にいる全員に向き合っている。
土御門「『グループ』の土御門だ。今回の打ち合わせに限りアレイスターからまとめ役を一任されている。俺の進行で進ませてもらうぞ」
『グループ』が何かは御坂も白井も分からなかったが、周りの人間は気にも止めていないようだ。
いちいち進行を妨げたくもないので、二人はそのまま聞き流した。
土御門「ここにいる各人、何のために集まってもらったかは分かっているな?
一方通行の討伐、ひいては一連の騒動の首謀者であるプログラム人格の討伐だ」
ぐるりと会議室を見渡して土御門は続ける。
土御門「ひとまず状況だけ確認しておく。ここ最近の都市住民の暴動はプログラム人格が作った【電子ドラッグ】これが原因だ。
しかし、先の放送から【電子ドラッグ】の中毒者による暴動はなくなった。その代わり都市住民の一部が次々に失踪している」
土御門「恐らく失踪者は全員【電子ドラッグ】の中毒者。
何人かが第二学区で目撃されていることからプログラム人格の許に集結しているものだと推測される」
これは御坂と白井も把握していない情報だった。
しかしそうとなればHALに操られている二人の親友もそこにいるはずだ。
一層この作戦に全力を尽くさねばならなくなった。
土御門「また、この失踪者の中には一方通行も含まれている。コイツも【電子ドラッグ】にハマッており、プログラム人格の手先と化した」
土御門「さらに【電子ドラッグ】の中毒者はシラフの状態より戦闘能力が向上する傾向にある。
ただでさえ厄介な化け物がさらに厄介になっていると考えてくれ」
この時点で御坂は今回の事件の解決が非常に困難であることを再認識した。
あそこの金髪アロハの言うシラフの状態で御坂は一方通行に手も足も出なかったのだ。
例えこの人数でも、Level5が三人もいようとも勝てるかどうか。
土御門「そこで最強の化け物を手中にしたプログラム人格は先ほどの放送で学園都市を占拠すると遠回しに宣言した」
土御門「だが、当然学園都市はこれを認めない。このプログラム人格を破壊し、この騒動を終結させる。
ここに集まってもらった人間には一方通行及びプログラム人格の討伐、その後発隊として参加してもらいたい」
白井「ちょ、ちょっとよろしいですの!?」
少し狼狽しながらも白井が声を発した。
土御門「なんだ?」
白井「そんなことをしてしまっては…プログラム人格から報復が来るのでは?」
そもそもこの事件はそこが一番ネックだったはずだ。
少しでもプログラム人格に手を出せば自動操縦の兵器が学園都市に向かって牙を剥く。
最悪の場合、学園都市最強の兵器がこの学園都市を地盤から破壊してしまう。
土御門「今、一般住民達には非常用のシェルターに避難してもらっている。先発隊が突入するのは避難が完了してからだ」
学園都市には都市住民全員が避難できるほどのシェルターの数があり、各学区に存在する。
その強度は核シェルターほどもあり、並大抵の兵器ではビクともしない。
土御門「また、一方通行がこの学園都市を地盤から崩壊させるには多少なり時間が必要になる。それにその間一方通行はほとんど動けない。
先発隊の後にすぐさま波状攻撃を仕掛けることは有効だ。また、あのプログラム人格は学園都市のスーパーコンピューターを狙っている。
自分の目当ての物に早々に見切りをつけるとは思えない。学園都市を地盤から崩壊させるのはヤツにとっても最後の手段だ」
フレンダ「…本当に?筋は通ってるけどもし間違ってたら大惨事になるわよ?」
『アイテム』の一人から疑問の声が上がる。
当然だ。一か八かに近い突入を推測で判断しているのだから。
御坂「…大丈夫よ。アイツ自身が言ってたの。自分の目的は生きることだって」
そう、【電人】HALは生きることが目的。
もしかしたら、自身のスパコンと『スフィンクス』だけを残して地盤を崩壊させるという最悪な曲芸をしてくるかもしれないが。
しかし、それでもここまで苦労して手に入れたこの状況を易々と崩壊させるとは思えない。
海原「言ってたとは…プログラム人格本人が、ですか?」
御坂「ええ、電脳世界で直接会ってきたからね。そっち方面からプログラム人格を破壊することは障害が多すぎてできないんだけど」
土御門「…さて、次に作戦の概要だが…まず討伐に行くメンバーは俺と結標を抜かしたここにいる全員だ」
垣根「あん?お前は来ねぇのか?」
土御門「俺と結標は別の現場に向かわなければならん。それにこんな曲者揃いのメンツを現場でまとめられる自信も無いんでな。
作戦のアウトラインだけ説明する。後は最低限それに添っていれば各々自由にやってもらってかまわない」
麦野「…はっ、確かにな。テメェの指揮で犬死になんざ御免だ」
土御門「続けるぞ。まず向こうで待ち受けていると思われるのは【電子ドラッグ】の中毒者だ。こいつらも相当手強いが…ここにいる人間なら問題無いだろう」
絹旗「…まあ確かに」
土御門「ただ…こいつらはあくまで一般人だ。洗脳されているだけで罪はない。殺害だけは自重しろ」
麦野「…チッ、めんどくせぇな」
土御門「そして、最後に待ち受けていると思われるのが一方通行。ここで鍵となるのが…【超電磁砲】御坂美琴だ」
そう言って土御門は御坂に目を向ける。
他の目も一斉に御坂の方を向いた。
御坂「…私?」
土御門「そうだ。そして恐らくは…一方通行を討ち取るのも御坂になると思う」
サングラスでほとんど見えないが、目も表情も真剣そのものだ。
改めて広場で会った時と同一人物だとは思えない。
御坂「……無理よ。私に何を期待してるのか知らないけど、私じゃアイツに歯が立たない。何もできずに終わるのがオチよ」
珍しく弱音を吐く御坂。しかしそれも仕方がなかった。
なんせ自分の力が一方通行に及ばなかったばかりに自分の妹を守れず、何人も犠牲にしてしまったという過去を持っているのだから。
土御門「それがな…違うんだよ。お前は今の一方通行にとって天敵なんだ」
御坂「…天敵?」
土御門「詳しくは俺も知らないが、一方通行はとある事件で脳に障害を負った」
御坂「!」
土御門「本来ならば一方通行は立つことすらままならないが、外部からの補助を受けることで日常生活も戦闘も可能にしている。
その補助というのが電波を介して行われているんだ。一方通行も弱点だと把握しているが、何をしようが御坂相手に電波の類いで勝てやしない」
目の前の男が話していることなら、確かに御坂は天敵だ。
学園都市が誇るLevel5の第三位【超電磁砲】御坂美琴は電気系最高の能力者。
例え一方通行が小細工をしたところで御坂の専門分野のど真ん中での勝負なら勝ち目はない。
垣根「…なるほどな。確かに第三位なら一方通行を無力化できる」
そして、その理論を後押しするように垣根からも声が上がる。
土御門「他の人間は御坂の援護に回ってもらいたい。一方通行はプログラム人格がインストールされているスパコンの前で立ちふさがるだろう。
しかし、一人で待ち構えている可能性は低い。恐らく兵隊と化した中毒者が大勢いる。これらから御坂を守ってくれ」
御坂「…」
土御門「それとな御坂。一方通行を無力化した後だが…殺して構わん」
御坂「!?」
結標「ちょっと!土御門!?」
土御門「上の総意だ。手綱の取れない巨大な兵器なら処分した方がいい、とな」
御坂「…」
土御門「お前と一方通行の因縁はこちらも把握している。一方通行を正常に戻してくれ、などとは言えないさ。
一方通行を無力化した後は殺そうが手足を切り捨てようが構わん。煮るなり焼くなり丸焦げにするなり好きにしろ」
麦野「ちょっと待て」
土御門「ん?」
麦野「聞いてりゃ【超電磁砲】の役目はジャミング電波を出すだけだろ?それなら他の【電撃使い】で事足りる。
なんで一般人の【超電磁砲】なんだ?他の暗部組織にも【電撃使い】の数人くらいいるだろ。こんなジャリガキじゃなくてもよ」
御坂「…誰がジャリガキよ。アンタが私にそんなこと言えんの?」
麦野「覚悟の話をしてんだよ。今から行くところは殺し上等の戦場だ。
ぬるいシャバの世界でぬくぬく生きてるガキが来ていい場所じゃねぇんだよ」
御坂「あっそ。そりゃ悪かったわね麦犬。ご主人様に危険を教えてくれるなんて大した忠犬ぶりじゃない」
ギロリ、と麦野が御坂を睨み付ける。
その顔は赤鬼そのものだ。
麦野「…おいおい殺してほしいならちゃんとそう言えよ。私ゃテメェより序列が下だからよぉ、ちゃんと言ってくれなきゃわっかんねぇよ」
フレンダ「む、麦野抑えて抑えて…」
白井「お姉様もその辺に…」
各自の取り巻きがそれぞれ間を取り持とうとするが、当人達にはまるで聞こえていなかった。
御坂「あら?誉めてあげたのになんで怒ってんの?あの時みたいにもっとお尻振って喜びなさいよ。ほぉらおいで。頭ナデナデしてあげるから」
ブチッ
麦野「コロス」
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィー
麦野「がぁ!?」
絹旗「っ!なんですかこれ!頭が…」
フレンダ「麦野!絹旗!どうしたの!?」
御坂「ぅ…これは…!」
白井「間違いなく…!」
突如として流れ始めた甲高い音に部屋にいた人間の半分ほどがうずくまる。
一様に頭を押さえ、苦痛に顔を歪めていた。
土御門「騒ぎすぎだお前ら。作戦に移る前に潰し合ってどうする」
その音の中で部屋の一番前にいた金髪アロハはうずくまる人間を見下ろしていた。
垣根「…こいつらの反応を見るに…【キャパシティダウン】か?まあ、Level5を3人も一ヶ所に集めてんだ。当然の準備か」
海原「おや、貴方には効かないのですか?」
垣根「所詮音響兵器なんざその音さえ聞かなきゃ効果はねえ。一定周波数の音は俺の能力で遮断させてんだ。その周波数に合わせんのに苦労したがな」
土御門「…大したチートっぷりだな。さすがに俺も想定外だぞ」
結標「いいから早く止めなさいよ土御門!」
土御門「おお、すまんすまん」
ィィィィィィィィィィ…
白井「…あ、止まりましたの…?」
絹旗「…ったく、だから言ったじゃないですか…超嫌な予感するって」ブツブツ
土御門「…例え暗部組織にも戦闘面で御坂より強い【電撃使い】はいない。お前自身体験済みだろう?」
麦野「…チッ…」
土御門「話を戻すぞ。先発隊についても少し話しておく。先発隊は主に警備員で構成されている。
駆動鎧の装備に加えて持ち運び式のAIMジャマーや今の【キャパシティダウン】を持って行ってる」
土御門「また、後発隊のために施設内のAIMジャマーがあれば撤去しているはずだ。
まあ、向こうの切り札が一方通行だけなら先発隊だけでなんとかなるはずなんだ。後発隊はほとんど保険に近い」
土御門「…とまあ、ここまでで質問はあるか?」
フレンダ「んじゃ私」ハイ
土御門「なんだ?」
フレンダ「えっとさ、第一位は【電子ドラッグ】にやられて、第二位~第四位は今回の作戦に参加。第五位と第七位は別行動で治療行脚でしょ?
じゃあ第六位は?結局一人だけ何してるか分からない訳よ。他のLevel5はみんな分かってるのにさ」
麦野「…確かにな。元々表向きの情報はほとんどねぇヤツだったろ。こんな時までアンノウンで貫き通す気か?」
土御門「第六位はすでに別任務で活動している。少なくとも敵に回ってることはないから安心しろ」
フレンダ「ふぅん…」
垣根「…気に食わねえな。俺たちゃこうして顔合わせてんだぜ?暗部の人間だってのに。一人だけ出てこねえなんざ不公平だろ」
土御門「心配するな。今やってる任務が滞りなく済めば後発隊の後詰めとして入る予定だ」
白井「その…先ほどから仰っている暗部組織とは…なんのことですの?」
ピシリ、と一瞬場の空気が凍った。
それもそのはず。ここにいる人間のほとんどが暗部の人間でどういう存在かを知っているのだから。
土御門「…統括理事会直属の部隊みたいなものだ。これ以上詳しく知りたがらないことを奨めるがな」
白井「…詳しく知ってはならないことですの?そのような怪しいもの、風紀委員として放っておく訳には…」
御坂「黒子」
さらに白井が追及しようとしたところを御坂が声を上げて制した。
白井「お姉様…ですが…」
御坂「…私が言っても説得力ないけど…今はそこを追及している場合じゃないでしょ?」
白井「…本当に説得力なさすぎですの」
ほんの数分前に全員を巻き込んで何をしていましたか、とジト目で白井は御坂に訴える。
とはいえ、言っている事は正しい。
決まりの悪い顔をしている御坂の顔を立てるためにも白井はそれ以上食い下がらなかった。
垣根「じゃあ俺からも質問だ。第三位が今回の作戦に参加すんのに異論はねえ。
二度も第四位を退けたって話だしな。だがこの風紀委員の娘はなんなんだ?」
白井「あら、私とてLevel4の【空間移動】でしてよ?他の皆さまに遅れをとったりはしませんの」
垣根「いや、能力の強度が問題じゃなくてだな…」
土御門「ああ、もっともな質問だ。だが、白井は今回の作戦に必要な存在なんだ。なんせ」
そこまで言って、土御門は満面の笑みを浮かべた。
土御門「白井黒子、そして絹旗最愛は今回の作戦の切り札だからにゃー」
フレンダ(…にゃー?)
麦野(…急にどうしたコイツ)
白井「切り札…ですの?私が?」
絹旗「へぇ、麦野も【超電磁砲】も【未元物質】も差し置いてこの私が切り札ですか。超気分いいですね」
土御門「まず二人には…これを装備してもらう」
ドン、と土御門の前にある机に何かが置かれた。
白井「…ランドセル?」
絹旗「と…体操服ですか?あのでっかい名札が縫い付けられてる」
意外な物に首を傾げながらも、二人は話の続きを促した。
学園都市のことだ。それらはどちらも っぽいもの というだけできっと何かしらの技術が施されているに違いない。
そう思っていた。
土御門「ここに資料映像がある。とあるスキルアウトと一方通行の銃撃戦だ。まずはこれを観てもらいたい」
するとホワイトボードに動画が流され、土御門は邪魔にならない様に脇に退いた。
映像は恐らくスキルアウト自身が設置した監視カメラだ。
固定されたカメラの中で黒い大男と白いひょろひょろの男が対峙している。
監視カメラの割には画質は鮮明だった。これも学園都市だからこそ為せる技術であろう。
ふいに大男が何かをばらまいた。
土御門「今まいたのはチャフだ。御坂にはこの役割を行ってもらう」
どうやらチャフの効果は大きいらしく、一方通行は防戦一方で逃げ回っている。
大男の方はすでに【電子ドラッグ】を見ているのではないかというほどの動き、そして破壊力だ。
だが、その状況もほんの数分で終わる。
どうやってか電波を確保したらしい一方通行は反射を取り戻し、自身も拳銃を用いて反撃に出た。
ここまで来ると後は一方的で、大男は壁に叩きつけられてノックアウトとなった。
御坂「ちょ、ちょっと!これじゃああの人殺されちゃうじゃない!」
土御門「まあ黙って見ていろ」
すると画面の奥、細い通路の出入口にまだ小学生くらいの少女が現れた。
フレンダ「え…うそ、フレメア?」
絹旗「? 知り合いですか?」
そして先ほどまで殺気に満ちた本気の殺し合いをしていた二人はその少女に気付く。
両者共に拳銃を手に持ったままだ。
フレンダ「何やってんのフレメア!早く逃げなさい!」
麦野「落ち着けバカ。これは記録映像だろうが」
だが、その声は届かない。
金髪にベレー帽の少女は画面の中の金髪にベレー帽の少女に注意を促そうと声を張り上げる。
フレンダ「フレメア!フレメア!」
大男『這ッ!這ッ!』
大男『這って動く……!白ッ!!』
全員「」
土御門「…あー、見てもらった通り、この、スキルアウトは、【電子ドラッグ】の、中毒者だ」
笑いをこらえながら途切れ途切れに金髪アロハはしゃべりだす。
土御門「単刀直入に言おう。一方通行は…ロリコンだ」
全員「」
土御門「そこで…白井黒子と、絹旗最愛には…この小学生スタイルになってもらう」
白井「」
絹旗「」
土御門「後発隊が突入して15分、音沙汰がなかったら…その時は後発隊が劣勢な状況であるはずだ。
そんな時に二人が【空間移動】で颯爽と登場すれば…恐らく一方通行は…このような反応を、する、はずだ」
大男『這って動く……!白ッ!!』
白井「」
絹旗「」
土御門「…とまあ、ここまで来れば後は簡単。一方通行の反射膜は自身の身体を覆うように展開されているからな。
チョーカーから伸びてるコードを引きちぎるなりチョーカー自体を壊すなりで一方通行は無力化し…」
白井「ほ、本気で言ってますの!?仮にもLevel5の第一位ともあろうものがそのような」
海原「残念ながら本当です」
結標「真性のロリータコンプレックスよ。諦めなさい」
白井「」
垣根「ーっ!ーっ!」バンバン!
白井「笑いすぎですの垣根様!」ウガー!
フレンダ「…とりあえずあのロリコンエクソシストは抹殺確定な訳よ」ゴゴゴゴゴゴ…
麦野「なあ、絹旗…」
絹旗「…なんです?今超鬱入ってて死にそうなんですが…」
麦野「お前…確か第一位の『自分だけの現実』植え付けられてんだよな。ってことはお前も将来的にはそっちに」
絹旗「これ以上死にたくなるような追い討ちかけないでくれませんかねマジで。超マジで」
土御門「それにいざとなったら【空間移動】で脱出できる。
戦闘面でも場慣れしているから気に充てられて演算をしくじる可能性も低い。これが白井を選んだ理由だ」
垣根「あ、ああ、分かった。ぷっ、十分、納得したよ、ックク」プルプル
土御門「ともあれだ。御坂と白井はこの作戦から降りても構わんぞ。
俺達がこの任務をこなすことは義務だが、お前たちにそれはないからな。手を貸してもらいたいのは事実だが、強制ではない」
御坂「…アイツに10031分の1でも『妹達』の苦しみを味あわせてやれるなら私は参加するけど…」
ちらり、と御坂は白井を見た。
白井「…はぁ、私も参加しますの」
御坂「…いいの?あんなもの付けなきゃなんないのに…」
白井「お姉様が死地に向かわれますのに露払いである黒子がお供しない訳には参りませんの。それに…」
今度は白井が別の方をちらり、と見た。
絹旗「逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな超逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな超逃げるな逃げるな逃げるな逃げるな…」
白井「…ここで参加しなかったらそれはそれで殺されそうですの」
垣根「あともう一つ聞くがよ、てめえら『グループ』はどう責任取るつもりだ?」
ひとしきり笑い終えた後も余韻が残っているのか、微笑みながら垣根は質問を繰り返した。
結標「はあ?責任?」
垣根「そうだ。一方通行はてめえら『グループ』の人員だろ?なら俺らに借りができることになる。その借りはどう返すんだってことだ」
海原「一方通行さんが向こう側に堕ちたのは彼の単独任務の際でしたので…我々にはどうにも…」
土御門「上層部を通して報酬が出るだろう。もちろん御坂と白井にもな」
垣根「Level5ともなると報酬なんざどうでも良くてな。それよりも行動で示してほしいんだよ」
結標「…行動?」
垣根「ま、早い話が今度なにかあったらよろしくなって話だ」
笑みを崩さないまま気さくに垣根は条件を提示した。
土御門「…内容による。俺達も命は惜しいんでな。下手な案件を下手なタイミングで持ち込まれても…」
だが、土御門の口上を聞き終える前に垣根は低い声で早口に呟いた。
垣根「繚乱家政、常盤台、第十学区少年院」
結標「!」
海原「な…?」
土御門「貴様…!」
それらの単語を聞いた瞬間『グループ』の人間は全員垣根を睨み付けた。
今挙げられたワードは『グループ』の幹部の弱味そのものだ。
垣根「おいおい何睨んでんだよ。ただ困ったときはお互い様ってだけだろ?」
麦野「…キナくせぇな【未元物質】。テメェ何考えやがる」
『グループ』に対してニヤニヤと笑いかけている垣根に麦野が近づく。
その顔は暗部組織のリーダーである者のそれだ。
垣根「あ?なんの話だよ」
麦野「他の暗部についてやけに詳しいみてぇじゃねぇか。第一位の能力制限についても熟知してるような口振りだったしよ。
そういやさっき第六位の動向についても知りたがってたな。そんなに自分に向けられる可能性があるLevel5が気になるか?」
垣根「おいおい、難癖にもほどがあるだろ。俺はただ」
麦野「そのくせテメェの組織から出てきたのはお前だけ。さらにうちの滝壺を今回の作戦に組み込まないよう交渉したのもテメェだろ。
うちの馬鹿上司は能天気に喜んでたがな。滝壺の能力まで調べ上げてるとは恐れ入ったよ。そこまで叩いてどんな石橋を渡ろうってんだ?」
瞬間的に室内全体が静まり返り、緊張が走る。
誰も身動きもせず、物音もしない。
ただ、視線だけが垣根に注がれていた。
垣根「…さすがに第四位ともなると頭が回るな。だが、回しすぎだぜ?考えすぎだ、考えすぎ」
麦野「はっ、どうだかな」
垣根「どの道今は仲間だろ?証拠もねえのに仲間を疑っちゃいけねえだろ。仲良くやろうぜお互いに」
スッ、と垣根は右手を差し出した。
麦野「お断りだクソボケ」
しかし、麦野はそれを一瞥して垣根に背を向けた。
土御門「…チッ、とにかく。各学区の人間の避難が完了した後、先発隊がヤツの本拠地に突入する。
先発隊からは15分毎にウチの海原に連絡が入ることになっている。20分経っても連絡がなかったらその時は後発隊の出番だ」
結標「私と土御門は悪いけど一足先に別の現場付近で待機してるわよ。
健闘だけ祈っといてあげるわ。…あなたは願わくば一方通行と相討ちになってほしいけど」
垣根「はぁ、おいおい邪険にすんなよ」
麦野「当然だろうが」
フレンダ「…雰囲気悪いなぁ。結局こんなので上手く行く訳?」
海原「各々の動きは自由が利きますし、個々の能力は高いですから」
御坂「…確かにそれだけは言えるわね。軍隊相手でも勝てそうな顔触れなのは事実よ」
白井「…私としてはできれば警備員の方たちで解決してもらいたいのですが…」
絹旗「超同感です」
-二時間後、第二学区屋内演習場
都市住民の避難が完了したという報告を各学区の念話能力者から受け、先発隊は地下演習場へと突入した。
部隊編成は駆動鎧が大半だが、歩兵も多くいる。
屋内戦では大きな駆動鎧では不利な点も多くある。また、今回はAIMジャマーの撤去も同時進行で行わなければならない。
さらには小型化に成功した【キャパシティダウン】の発動なども状況に応じて必要になる。
どうしても小回りの利く歩兵が必要だった。
後発隊への報告は派遣の者が行うという。先の念話能力者からの報告もそうだが妙な報告の方法だった。
始めは普通の携帯電話を渡された。電波は使えないのではなかったのかと思ったが、既に回線は繋がった後だった。
報告を受けている内に気付いたが、よくよく観察すると音声は携帯電話ではなく、それについているストラップから聞こえた。
というか、ストラップのキャラクターが喋っているようだった。
曰く、携帯電話とストラップは能力の補強であるらしい。
確かに自分の能力を補うために道具を使っている能力者は多くいる。
言われてみれば補強でもしなければ如何に大能力者と言えど、学区の端から端へ念話ができる訳がない。
一階、制圧。
というよりは人一人いない。上の予想では大人数が待っているとの話だったが。
いよいよ地下に入る。
ここの演習場は地下一階までしかない。が、異様に深い。
より実戦近付けるために高さを出し、また、学園都市の先端技術により気温や湿度、果ては周り景色や障害物までも立体映像で自由自在にできる。
ここで開発されたシステムは民間企業にも提携されていたはずだ。
ファッションから水着、宇宙服などのカタログや雑誌掲載の際にその場で撮影ができる。という点に着目した企業がビル内に組み込んでいた。
噂では超能力者の誰かがその映像を誤って街頭に流し、子ども向けの水着で全力ではしゃいでいるところを衆目に晒して大恥かいたとかなんとか。
だが、ここは民間企業に払い下げられた技術よりも更に高い技術が使われている。
ここは開発中の駆動鎧が全力の演習を行おうが暴走しようがビクともしない。
どのような材質でどのような構造をしているのかは不明だが、一説によると『窓の無いビル』と同じ材質なのだと居候が言っていた。
更に、戦場の広さも設定できる様になっている。
確か150M×150Mが最大の戦場。それより狭い戦場にしたい場合は縦横20M毎に設置された壁がせりあがり、戦場を限定する。
一つの小隊を即席で編成させ、演習場以外の設備へ向かわせる。
残った本隊は全員演習場へ突入。
件のプログラム人格がインストールされているスーパーコンピューターはここにあるとされている。
理由は他の部屋にはスーパーコンピューターを置くスペースがないからだ。
向こうに【空間移動】の能力者がいるかもしれないが、それではウチの元居候を有効に活用できない。
何をしても壊れないという最強の盾と、学園都市の頂点という最強の戈。
これ以上の防衛策はあるまい。
本隊が突入した演習場はとても狭かった。
ざっと目算で40M×20M。縦長の戦場だ。
ただ、周りにはなんの景色も立体化されていない。少しだけ薄暗いだけでなにもない。
本隊の全員が突入した瞬間、急に入り口から差し込む光が消えた。
ガゴン!という音と共に入り口は閉ざされた。
そして周りの壁、むしろ六面すべてに同じ文字が浮かび上がった。
『画像を見る時は部屋を暗くして、画面に密着して見てね』
ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ-
目の前の壁が降りた。本隊は全員前に進む。
そこに居たのは三人。一人は中肉中背の青年。その青年の前に常盤台中学の制服を着た少女。その少女の隣にメガネをかけた痩身の青年。
匪口「…けっこういるな。50人くらい?」
11018号「パッと見それくらいですね、とミサカは駆動鎧の影なって歩兵が見えず数えにくいことに辟易します」
ガチャリ、と手に持った『メタルイーター』を構える。
黄泉川「…両手を頭の後ろで組み、うつ伏せになれ」
11018号「…おや?【電子ドラッグ】は効いてないみたいですよ?とミサカは両手を頭の後ろで組みます」
匪口「…偏光レンズか。駆動鎧にまで仕込んでるとなると、木山とは別ルートで開発したな?ま、そのくらい俺にでも発想はつく」
減らず口を叩きながらも、目の前の三人は両手を頭の後ろで組み、うつ伏せとなった。
11018号「ミサカのパンツを覗こうものなら貴様に明日はないぞ、とミサカは背後に回り込むのが趣味の変態に警告します」
査楽「滅相もない」
黄泉川「よし、確保じゃん!」
自身の後ろに居た本隊の人間が一斉に押さえにかかる。
だが、後少しというところで中肉中背の青年が両手を解く。
直後、三人の姿は消え失せた。
黄泉川「!…チッ、【空間移動】か」
さらには後ろの空間が新たにせりあがった壁により狭まる。
20M×20M。その空間に本隊の8割が囲まれた。
残りの2割も壁を隔てた向こう側で同じ状況に陥っているだろう。
匪口『あんな放送したけどさ、実はあんたらがバンバン兵隊捕まえちゃうから人手不足なんだ。
今も空っぽの学園都市からスパコン奪いに行ったり別の要所守ったりで全然足りねーの。だから大歓迎』
どこからか声がする。恐らくは別室から放送を入れているのだろう。
黄泉川「…それがどうした?ウチらに【電子ドラッグ】が効かないのは証明済みじゃんよ!」
偏光レンズは歩兵も駆動鎧にも仕込んでいる。誰一人として汚染者はいない。
匪口『あぁ、そうだね。じゃあ見せてやるよ。一位すら洗脳してみせた最強の【電子ドラッグ】を』
ブン、と再び六面に光が灯る。
しかし、今回はさっきと違う文章が並んでいた。
匪口『HALが開発した元祖がVer.1。俺が作ったのがVer.2。この街の能力者にあわせて作ったのがVer.3。木山のオリジナルがVer.4とするなら、これはVer.5。新型だ』
???「!」
駆動鎧の一人がその文字列を理解し、とっさに『メタルイーター』を構える。
だが、こんな状態で撃ったら確実に跳弾が歩兵に当たり大惨事になる。
匪口『元祖【電子ドラッグ】をベースに操られた側の俺と能力者である【守護神】がプログラミングを補助。
更に木山の能力強化と共感覚性についてまとめたレポート。
そして何よりミサカネットワークにアップロードされた【心理掌握】の洗脳データ』
黄泉川「待て恵美!まだ発砲命令は出していない!」
手塩「愛穂は、分かってない!アレは、危険だ!」
匪口『あんまり情報量が多いんでローディングに時間がかかるのが難点なんだけどね』
だが、ローディングは完了したようだ。
目の前がカッ、と光った。
匪口『せっかく学園都市で作ったんだ。名前だけそれっぽくつけといてやったよ…』
フュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ
イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ
イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ
Iris Agate 00
Five-Over.Modelcase-"MENTALOUT"
イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ
イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ
イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ
【後編】 に続きます。

