※関連記事
とある魔術の禁書目録SS 幻想魔笛 『帰らず村』
前編
後編(魔術ルート)
後編(科学ルート)
上記の記事を1つにまとめたものです。内容的には違いはありません。
後編は魔術ルートと科学ルートが交互になります。
この話はとある魔術の禁書目録のSSです
系統で言えば「伝奇系」だと思います
物語はフイクションであり、実在の個人・団体・宗教等とは一切関係御座いません
また内容には残酷な現実、グロテスクな描写が含まれておりますので、どうかご理解の上でお読み下さい
それでは最後までお付き合い頂ければ幸いです
元スレ
とある魔術の禁書目録SS 幻想魔笛 『帰らず村』
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373334420/
――とある魔術の禁書目録SS 幻想魔笛 『“帰らず村”前編 ~S村伝説~』
――学園都市『外』の某駅のホーム チュートリアル
アナウンス『4番線に列車が入りまぁす。お客様は白線の内側にまでお下がりくだぁさい』
上条「……」
五和「うっわー人多いですねー。あ、見て下さい上条さん、ゴスロリ着てる人が」
上条「学園都市のメイド中学を見慣れてると有り難みが……いやいやっ、そう言う事じゃなくってだ」
上条「つーか俺はどうして巻き込まれているの?ナチュラルに関係無いよね?」
五和「それがですねぇ。学園都市の生徒さんが“外”で失踪したらしくって、我々はその調査に行くんですから!」
上条「気合い入りすぎ……ってか、学園都市の話なのにどうして五和、つーか天草式の出番になるんだ?」
五和「あるぇ?説明しませんでしたっけ?」
上条「朝一で襲撃された上、事情も聞かされずに荷物ごと連行されたからなっ!」
五和「はい、インデックスさんもこちらでお預かりしてますし」
上条「いやまぁ学園都市側の都合に付き合わせないのは理解出来るけど、何で俺!?俺も学生だよなぁっ!?」
五和「今回の失踪事件、どうやらオカルトが関わっている可能性がありまして」
五和「学園側が学外で動くのは……憶測だけでは問題があるそうで。ですからオカルトにはオカルトのプロである私達の出番です!」
上条「下請けの下請けなんだろ?つーか駅のホームでオカルト連呼するのはどうかと思う」
五和「仕方が無いじゃないですか!イギリス清教の方々が日本で隠密行動なんて出来ないでしょうっ!?」
上条「シスター服の集団がウロウロと。そう言う映画あったよね」
五和「とにかくっ!そんな訳で付き合って下さいお願いしますっ!」
上条「やめろって!ホームで付き合うとか言うなっ!」
五和「え、ダメなんですか?」
上条「待てよっ!?周りの皆さんが『あのウニ頭、あんな可愛い子をフりやがって何様?』的な目で見てるからねっ!?」
上条「違うから!そーゆー話じゃないでしょおっ!」
五和「一生面倒見ます!」
上条「そーゆー話になってた!?あれ、おかしいのは俺の方なのかな?」
五和「話が失踪ですからねぇ。意外とどこかで遊び回っている可能性もありますし、勘違いでしたー、で済む話ならそれに越した事はありませんけど」
上条「まぁ、分かったよ。俺も付き合う――けど、オカルトってどんな話?三沢塾みたいなカルトじゃないんだよな?」
五和「あ、それは電車の中でお話しします」
上条「あぁ――っと?」 ピピッ
五和「メールですか?あぁインデックスさんから」
上条「いや、インデックスは使えない。一応携帯も持たせてんだけどなぁ」 ピッ
上条「……スパムみたい。何か変な質問か書かれている」
五和「質問ですか?こういうのって『貴方は100人に一人の幸運を手にしました!』って感じじゃ?」
上条「えっとなー……『母狼、兄狼、弟狼がいます。ある時、兄弟狼は川に流されてしまいました』」
五和「のっけからヘビーな展開ですね」
上条「『母狼はどちらを助けるでしょうか?』だって」
五和「スパムというよりは心理学テストっぽいですかね。私だったらどっちも、って答えますけど、それは多分ハズレかもです」
上条「心情的に考えれば弟の方なんだろうけど、だったら俺は兄狼の方かな?」
ジジッ
円周「うん、うんっ。科学的な見地からすれば正しい結論だよね、当麻お兄ちゃん」
円周「例えば兄狼は泳げたとしたって、助かる確率が高い方を選ぶのは当然なんだよ」
上条「……はい?」
円周「どうしたの当麻お兄ちゃん?……あ、エッチなのは後で、ね?」
上条「思ってもねぇよっ!?つーか小学生相手にどうこうする趣味はねぇしな!そうじゃなくって、今五和と話を――」
円周「逸話?だぁれ?」
上条「え、いやだって俺と話してたのは」
円周「失踪した学園生を探しに行く、って説明したよね?」
上条「した、けど。それは」
円周「うん、なーに?」
上条「……いや、なんでもない」
円周「これは独り言だけど、世界には色々な選択肢があるんだよっ」
円周「当麻お兄ちゃんがシスターさんを拾わなかったセカイ、第一位に負けたセカイとかね?」
円周「そういった『様々なセカイがごちゃ混ぜになって世界を構成している』んだ」
上条「明らかに俺に話しかけてると思うけど……それが?」
円周「能力開発でも教わったよね――自分だけの現実(パーソナルリアリティ)」
上条「俺には出来なかったけどな」
円周「超能力者が力を発現するためには、『重なり合っている現実を認識し、そこから自分だけの現実を構築する』」
円周「つまり、学生都市の能力者は様々なセカイから、『自分に都合の良いセカイ』を引き寄せてるんだね、ふっしぎーっ!」
上条「……良く分からないんだが」
円周「そうだねぇ――あ、お兄ちゃん。やっぱり正義ヒーロー側としては、弟狼を選ぶのがベターだと思うよ。好感度的にも」
上条「そんなもんは考慮してねぇ!……いや、まぁ確かに弟の方を助けたくなるけどさ」
ジジジッ
五和「やっぱり若い方が好みなんですかっ!?」
上条「やっぱりって言うなよ!俺は別に年下好きをこじらせて、る訳じゃ……」
五和「で、ですよねっ。年上系姉さん女房が至高だと思います!」
上条(俺は今、誰と喋ってたんだっけ……?)
上条「……あのさぁ五和さん?」
五和「どうしました、改まって」
上条「えっと、なんで学園都市を離れているのか、って話はしたよね?」
五和「はい、させて頂きました」
上条「狼の家族の話は……どっちを選んだんだ?」
五和「私が『どっちも助けられたいいのに』って言ったら、上条さんが『兄の方を……いや弟の方を助けたくなるよな』って」
上条(『自分だけの現実』の話が無くなってる……?)
上条「……あっれー……?」
五和「無理矢理連れ出しといて言うのも何なんですけど、体調良くないんでしたら、戻りましょうか?」
上条「いや、大丈夫。何も問題はないよ」
アナウンス『3番線に列車が入りまぁす。お客様は白線の内側にまでお下がりくだぁさい』
五和「って来ましたねー。じゃあ行きましょうかっ」
上条「……テンション上げられてもなー」
――列車内
上条(さて、状況を確認――する、前にだ)
上条(俺が一緒に旅しているのは、『だれ』だっけ?)
1.五和
2.木原円周
(※このレス投下後、続く3レスで多数決)
――科学ルート
上条(そうだっけ?このちっこい娘さんと二人旅?)
円周「どうしたの当麻お兄ちゃん?」
上条「ん、いやいや学園側はなんで円周と俺を選んだのかな、って」
円周「夏休みに暇そうだったのが他にいなかったんじゃないかな?」
上条「暇って。まぁ暇だけどもな、言い方とかあるよね?」
円周「学園生の失踪ったって、本当かどうか分からないじゃない。だから取り敢えず調べとけば諦めますよー、って病理おばちゃんが」
上条「……まぁ取り越し苦労で済むんだったら、それに越した事はねぇけど」
円周「あ、今日はお弁当を作ってきたんだっ。お兄ちゃんの分もーっ!」
上条「おー、そりゃありがたい。ってか円周作れんの?」
円周「お兄ちゃんはわたしを甘く見てるぜ!」 ガソゴソ
上条「おー……キャラ弁?」
円周「うん、オリゼ○だよ」
上条「良かった……内蔵系のキワモノが来るのとばかり。もやしも○好きなんだ?」
円周「蛍君も沢木君が好きなんだよねっ」
上条「うん、答えにすっげー困る質問なんだけど、裏の意味なんて無いよな?純粋な意味なんだよな?」
円周「女装しない方が萌えるよねっ」
上条「よーしっ!お弁当美味しそうだなっ!」
円周「ボケはスルーするの?」
上条「下手に突っ込んでも大事故になる未来しか見えないもの!……あ、ごめん箸は?」
円周「えっとぉ……あー、ごめんなさい。一膳しか持ってきてないや。当麻お兄ちゃんが先食べて?」
上条「っていう訳にも行かないだろ。先食べなよ」
円周「あ、んじゃ、あーんっ!わたしが当麻お兄ちゃんに、あーんってしてあげるよっ」
円周「そうやって交互に食べれば解決だよねっ」
上条「ん、まぁいいけど」
円周「どれから食べる?どれも数多おじさんに作り方教えて貰ったんだよっ」
上条「その人は知らないけれど、つーか君とは初対面だけどな。オリ○ーの髪?いなり寿司が食べたい」
円周「はい、あーん」
上条「ん」 モグモグ
上条「――美味い」
上条(ちゃんとみりんの寿司飯を使ってる……なんだこれ、家庭レベルの味じゃないぞ)
上条(しかも夏だからご飯が傷まないように、梅肉を刻んで混ぜてあるし)
円周「そっかーっ良かったぁ!わたしちゃんとしたお料理作るの初めてで、不安だったんだぁ」
上条「マジでか?だとしたら君、すっげー才能あるかも」
円周「やたっ、それじゃわたしもおいなり食べよっと」
円周「……ん」 チュッ
上条「あれ?どうしてそんな雰囲気たっぷりに食べ――」
円周「んっ、ちゅぶ……くぷ」 ペロペロ
上条「必要ないよね?箸を雰囲気たっぷりにペロペロする必然性は皆無だよね?」
円周「ね?間接キスしちゃったね、お兄ちゃんとっ」
上条「間違ってる!その台詞はもっとウブな場面でしか使わねぇさっ!」
円周「……わたしの初めて、また当麻お兄ちゃんにあげちゃった、ね?」
上条「電車の中で言う台詞じゃねぇっ!?つーか周囲の皆さんドン引きだろうがよおおおおぉぉっ!」
――XX県XX郡 無人駅 14時
上条「ここの駅?周りに森しか見えないんだけど」
円周「ここから半日ぐらい歩くみたいだねー、あっ」
男 イソイソ(電車から降ろした荷物を軽トラックに積み上げている)
円周「すいませーんっ、XX村に行きたいんですが、どうすれば行けますかー?」
男「XX村?あそこは廃村になっちまってて、誰も住んでないよ?」
円周「うんっ、肝試しに来たんだよね。ね?」
上条「待て待てっ!そう言う主旨じゃないだろっ!」
円周「えー、キャンプに行こうって円周がお願いしたら、『ここなら良いよ』って言ってくれたじゃーん」
上条(微妙に口調が変わってる?合わせとけって意味か?)
男「んー……村の鎮守様は余所へ移しちまってるし、まぁ大したもんはないと思うけど」
円周「えー、刀夜お兄ちゃんとキャンプ楽しみにしてたのにー」
男「まぁいいけど。んじゃ軽トラの荷台に乗りな。送ってくから」
円周「ありがとうございまーすっ」
上条「ありがとうございます……すいません、ご面倒をおかけして」
男「いいって。徒歩だと大人でも山道半日ぐらいかかるから。街から来た人にゃ辛いだろうし」
円周「おじさん、親切なんだねー?」
男「ただ、荷台はちっと狭いかも知れねぇけどな」
――軽トラックの荷台
ガタガタッ、ガタガタッ
上条 (乗り心地は良くない、けどまぁ文句も言ってられないか)
上条(林道の中を俺達が乗ったトラックは走っていく)
上条(少し前までは一応舗装された道路だったのに、一本脇道に入った瞬間鬱蒼とした木々の間を抜ける羽目になった)
上条(両脇の森からは、まるで木が手を伸ばすように荷台を枝葉が掠めていく――)
上条(――ってのは考えすぎなんだろうけど)
上条「……」
上条(学園生が失踪した。だから学園側は俺達へ探索を要請する、と)
上条(なんでXX県の山奥まで来てるかと言えば、学園生のPCに残ってた記録にはここの住所と、ある都市伝説が書いてあったらしい)
上条(ちなみに俺達を運んでくれてるおじさんは、俺らみたいな子供は見てないそうだ)
上条(っても近くの村に電車で届いた荷物を運ぶのは一日一回だけ。おじさんが来なかった時に入った可能性は否定出来ない)
上条「……」
上条(……あぁ失踪した子が調べていた都市伝説の話だな。えっと)
上条(――『S村伝説』)
上条(昔々、つっても比較的最近の昭和ぐらいの話。XX県にあったS村では事件が起きた)
上条(気の触れた人間か、それとも嫉妬に狂った愛憎のもつれか、兎に角S村の住人全員が殺害された。本人も後を追って自殺)
上条(誰も居なくなった村は朽ち、僅かな新聞記事のデータベースにしか残らない――筈、だった)
上条(しかし、山の中へ迷い込んだ旅人はある廃村を発見する)
上条(『この先、日本国憲法通じず』と書かれた立て看板、そして足下にあるドクロに似た岩)
上条(水を一杯貰おうと村へ旅人が入り込むと、そこには無くなった筈のS村があった)
上条(朽ちてボロボロになってる家屋には、未だ渇かぬ血痕の跡が残り――)
上条(『おや人影が?』と思っていると――)
上条(そして旅人も姿を消す。彼の残した手記かメモ帳が、後日川の下流で見つかる)
上条(家族や警察が上流を調べてみても、廃村はおろか村があった記録すら残っていない)
上条(しかし山の中で迷い、廃村を見つけたとしても絶対に入ってはいけない)
上条(何故ならそこには殺されたS村の住人達が、今も尚彷徨っているからだ――)
上条(――ってのが『S村伝説』だ)
上条「……」
上条(この『都市伝説』を俺はどう考えるべきだろうか?)
上条(確かに魔術の存在は知っているし、そういう世界があるのも理解している)
上条(かといって、全てが全て魔術が絡んでいるとも思えない)
上条(だから俺は一緒に荷台で座っている彼女へ向かって、こう聞いたんだ)
1.「なぁ五和、専門家が見ればどんな感じなんだ?」
2.「なぁ円周、科学的に見ればどんな感じなんだ?」
(※このレス投下後、続く3レスで多数決)
――魔術
五和「せ、専門家って私ですかっ!?」
上条「他に居ないじゃない。つーかここで第三者が出て来たらそっちの方が怖いわっ」
五和「はいっ喜んで!……『聖ワルプルガ』ですね」
上条「……誰?」
五和「ワルプルギスの夜と言った方が良いでしょうか?元々は十字教より古い信仰、古代ケルトの節分みたいなもんですね」
上条「節分て。分かり易くはあるけど」
五和「季節と季節の境の日であり、悪魔や魔女が自由に出歩き、我が世の春を謳歌する――と言う伝説です」
上条「つまり、その日には――」
五和「はい。人が森の奥へと誘われ、姿を消します。その人間は魔女に食べられたとか、魅入られたとか言われて」
五和「『人里離れた場所に人知を越えた何物かが住んでいる』と言う伝承ですね」
上条「魔女達が悪さをしていく、ってのも『S村伝説』と共通するものがあるよな」
五和「まぁ世界各国で似たようなお話はありますし、たまたま現代は『S村伝説』だっただけかと」
五和「本当に居るのか在るのかは別にして、ですけどね」
上条「つまりこの事件はそっちが関わっているって?」
五和「可能性としてはあります。ただ断言するような段階ではありません。まだ憶測にしか過ぎませんから」
上条「……五和と来て良かったよ」
五和「えぇっ!?そんな求婚なんてっ!?」
上条「してないよね?どんな脈絡もなかったよね?」
五和「じゃ、じゃあ新婚旅行はS村でチャチャッっと!」
上条「不吉すぎるっ!存在するしないに関わらず、縁起も悪い上に悪い意味で記憶に残るわっ!?」
――『帰らず村』 16時
上条(長い長い緑のトンネルを抜け、俺達は『村』に着いた)
上条(村の入り口にトラックを寄せ俺達を下ろすと、おじさんはさっさと帰ってしまう)
上条(村の名前は……どこにでもあるようなありふれた名前で、聞いたら忘れちまうような平凡な名前だ)
上条(消えた学園生のPCにあった呼び名、『帰らず村』って言った方がしっくり来る)
上条(村――ざっと見た所、20前後の昔の日本家屋が立ち並んではいるが、その半分ぐらいは崩れてる)
上条(残った半分も辛うじて原形を留めている、か?)
上条「……」
上条(8月の、それも盆も近い時だって言うのに、なんか、何かおかしい気がする)
上条(斜になった太陽が俺達を照りつけるが、どこか弱々しい印象を受ける)
上条(それは何だったろうと少し考えて――俺は同行者へ同意を求めた)
――五和
上条「何か、おかしくないかな?」
五和「えぇ私もそんな気がします。なんでしょうね、これ」
上条「……」
シーン
上条「虫、か?」
五和「虫、ですか?」
上条「蝉の鳴き声どころか、ヤブ蚊の一匹もいない。山ん中でだぞ?」
五和「確かに。蚊取り線香持ってきたんですがねー」
上条「余裕だよなっ?もうちょっと大事じゃないの?」
五和「いえいえ冗談ですって。除虫菊でも生えているのかも」
上条「女中さん?」
五和「除虫剤の方です。殺虫剤の成分にもなってまして、畑の隅で育てると他の作物に虫がつきにくいんですよ」
上条「へー。でも、無いよね?花なんて」
五和「……」
上条「……」
五和「――はいっ!と言う訳で、もう少し日が落ちればヒグラシが鳴き出すでしょうが――その前に、村を見て歩きましょうかっ!」
上条「強引すぎやしないかな?言ってる内容は分かるが」
五和「一応キャンプセットは持って来ていますけど、出来れば野宿は避けたいなー、なんて?」
上条「分かったけどさ。んじゃ俺はこっちから探してみるよ」
五和「了解ですっ」
五和「……」
五和(……あれ?確か教皇代理が何か作戦を立てていたような?)
建宮(回想)『二人で見回るのが大チャンスなのよな!その隠れ巨乳最大限に活用する時のな!』
建宮(回想)『何かの弾みでビックリ抱きつきキャー大作戦!これなら女教皇に勝てるのよ!』
五和「……」
五和(スルーしちゃったあああぁぁぁっ!?)
五和(い、いやいやいやっ!まだチャンスはある筈ですっ!今日はっ)
五和(何と言っても『お泊まり』なんですからねっ!)
――『帰らず村』 探索中16時15分
上条(っとまぁ二手に分かれてはみたけれど、パッと見て危険ぽい所はない)
上条(精々崩れそうな家があるぐらいだけど、流石にそのぐらいは分かるだろうし)
上条(失踪した学園生が生き――いやいや、居るんだったら騒いでいる俺達に気づいている筈)
上条(なのに出て来ないってのは居ないか隠れている……でも隠れる必然性は無いよな?)
上条(兎に角、今大切なのは今晩の宿だ。テントと寝袋は持ってきたけど、気分的に屋内で寝たいしなぁ)
上条(……んじゃ、寝床になりそうな所を探そっか)
――廃屋
上条(村の入り口に近い所にある家だ)
上条(中は……まぁ、荒れてる。外壁が落ちてるし、何とかアート?って落書きもチラホラと)
上条(でも別に家財道具が残ってる訳じゃ無くって、ガランってしてるけどなー)
上条(埃や土の具合から察するに、特に最近誰かが入った形跡はない。ハズレっと)
上条「……」
上条(……でも、クモの一匹もいない。どういう事だろう?)
――村の中央の屋敷
上条(寝床を探すのが先って事で、一番外観がしっかりしている建物を選んでみた)
上条(昔ながらの、と言うか昔そのままの日本家屋だ。土間があって、畳があって)
上条(屋敷の東側には井戸が、西側には10mぐらいの……杉?何かすらっとした木が生えている)
上条(家の中を覗くと奇跡的にも障子の貼った襖が残っている……所も、ある)
上条(流石に手を出す気にはなれなかったのか、落書きの類は全然見えない)
上条(……実は『もしかしてまだ誰か住んでないか?』って、ビビってたんだけど)
上条(床に積もった埃を見る分には、年単位で人は入ってないみたいだ)
上条(嵩張る荷物はここへ置き、探索を続けよう)
上条「……」
上条「……でも、ここにも」
上条(虫どころか、鼠の一匹も居ない……)
――社
上条(村の一番高い所、ちょっとした高台の上に神社がある)
上条(境内の土は踏み固められ、嘗て大勢の人達がここへ集まったんだなと、言う名残を見せている)
上条(……いつの話だろう?あのおじさんに聞けば良かったか)
上条(社の正面にあった筈の社名の名札?は取り外されてて、読めなかった)
上条(社の周りぐるっと一周しても、何かヒントになるようなものはない)
上条(ただし裏側、丁度社の真後ろに当たる部分に軽自動車ぐらいの黒っぽい岩がある)
上条(縄文土器によく似た縄の跡、縄目が縦横無尽に広がっている)
上条(これが人為的に作られたものか、俺には判断出来ない――が、自然にあったとするのは不自然だろう)
上条(ふと思いついて鳥居まで戻ると、刻まれてあった社名から俺は『帰らず村』の神社の名前を知った)
上条(――『石神井(しゃくじい)神社』か)
――別の廃屋
上条(……幾つか見て回ってきたけど。人の居る気配は全然しない)
上条(立ち入った形跡もない、と。うーん?)
上条(この家は……まぁ、代わり映えはしないしよなぁ。落書きはないけど)
上条(落書きがされている家、しない家には規則性でもあるのかな?)
上条(……いやいや、アンチスキルみたいな連中が一々拘るとも思えないし、その時の気分なんだろうけど)
上条「んじゃ次……あれ?」
上条(この家の裏手に……『祠(ほこら)』?)
――祠
上条(大きさは俺の腰ぐらい。木で作られた祠だ、正面が観音開きになっている)
上条「……」
上条(……どうしよっか?)
上条(勝手に調べる、のも何か気が引けるよなぁ)
上条 パンパンッ(両手を合わせて祈る)
上条(右手で触らないよう、そーっと) ググッ
上条「……?」
上条(御札、かな?)
――魔術
五和「流石です上条さんっ!」
上条「ってビックリしたっ!急に近寄ってくるなよぉっ!?」
五和「すいませんっ、いつものクセが出ちゃって」
上条「ニンジャ的なあれなの?魔術師のイメージがどんどん変わっていくんだけど」
五和「あ、いえいえ、流石ってのは私がお邪魔したお宅の祠には何にもなくてですね」 ヒョイッ
上条「あ、こらっ危なくないのかよ」
五和「えっと……あぁこれは――」
上条「分かるのかっ!?」
五和「私にはちょっと……」
上条「役に立たねぇなっ!?」
五和「待って下さい!そうじゃないんですってば!大体分かりますって、大体はっ!」
上条「……そうなの?」
五和「見て下さいよっ、『虫』って言葉が一杯書いてあるじゃないですか!」
上条「あーうん、それぐらいは俺にも分かるけど」
五和「昔、ネズミ除けのお札を見た事があるんです。そのお札にはネズミが嫌いな『猫』って言葉が沢山書いてありました」
上条「へー」
五和「ですからこのお札も『虫を使って何かを払おう』ってものに決まっています、えぇ!」
上条「何か、って何?」
五和「うっ」
上条「つーか虫を使って払えるのって何だ?」
五和「ううっ」
上条「そもそもそのお札の真ん中に書かれてある『閇美』って何?なんて読むの?」
上条「閉じる、って字の片仮名の『オ』を反対にしたような字だけど」
五和「……死のう」
上条「待て待て待て待てっ!?俺が悪かったからっ!言い過ぎちゃったから、ねっ!?」
上条「うっわー、やっぱ凄いって五和さん!俺じゃ絶対に分からなかったお札を、何となく分かっちゃったもの!」
上条「もうアレだよねっ!ご飯は美味いし頭もいいしっ、おっぱ――ゲフンゲフン、スタイルも良いしっ!引く手数多だよね!」
五和「……はいっ!ありがとうございますっ」
上条(つーか何でこの子普段よりも情緒不安定なの?初めて会った頃はテンション高めじゃなかった気もするし)
五和「まぁ、その御札は」 バシャッ
上条「写メ?」
五和「はい。衛星電話で天草式に送って解析して貰います」
上条「グローバル化の波がこんな所にまで……んじゃこれ、どうしようか?」
五和「持ってても害はないと思いますけど」
上条「いやぁ、他人のだしなぁ」
五和「他の祠に入ってなかったって事は、多分村を放棄した時点で用済みになったんでしょうし」
五和「とはいえ、以前の住んでらした方が、意図的に残したのかも知れませんから、念のために戻しておいた方が良いとは思います」
上条「分かった」 ギギィッ
五和「じゃそろそろテントを張りましょうか。もうすぐ――」
五和「――日が、堕ちますから」
――夕方
……カナカナ……カナ……
上条(俺達は村の中心にある屋敷に一泊する事にした。遠くの方でヒグラシが鳴いている)
上条(軽く掃除して、縁側へ障子を貼った襖を並べればどうにか泊れる……と、思う事にした)
上条(……厳密には不法侵入とか、私有地への無断での立ち入りとか、色々とヤバいんだけど、大目に見てくれると助かる)
上条(帰る時には来た時よりも綺麗にするし、うん)
上条「……」
上条(しかし、俺達が探している学園生の姿は影も形も見えなかった)
上条(事故や事件に遭った形跡がないのは良かったけど、わざわざここまで来る必要があったのかどうか)
上条(ちょっとしたキャンプと思えば、まぁまぁ?)
上条(……とはいえ、だ。何かがおかしい。それが何かは分からないけど)
上条(虫の声がしない村、ネズミや野生動物もいない)
上条(御札の意味も分かってはいないし……んー?)
上条(っていうか、人の心配している場合じゃない気がヒシヒシと)
上条(……まぁ、明日朝一で駅へ向かえば問題ないだろ)
上条(歩いて半日、最悪終電を逃したって駅で寝泊まりすりゃいいし)
上条(――と、俺は屋敷の外で作業している『彼女』へ伝える事にする)
1.「何やってんだ、五和?」
2.「何やってるんだ、円周?」
――科学
円周「うん……お守り、みたいなものかな?」
上条(黒いペットボトルの液体を地面に撒いている)
上条「って言うか、凄い臭いだな?ニコチン?酢酸?」
円周「へ、似せた化合物だね。自然に分解されるから環境にも優しいんだよね」
上条「凄いな学園都市」
上条(学園都市と連絡がつかなくなって大分混乱してたみたいだし、まだ本調子じゃないみたいだな)
上条(放置するのは良くない、つったってどうしようも無い、か)
上条(……あー、アレがあるにはあったけど。でもなぁ)
円周「……おわり、っと。ん、どうしたの当麻お兄ちゃん?」
上条(黙って見てるのも気分良くないよなぁ……酷い誤解を受けるだろうけど)
上条「……あー、円周さ。さっきの勝負ってどっちの勝ちなんだ?」
円周「え、勝負って?」
上条「婿入りがどうこう、ってヤツ」
円周「……なんだぁ、当麻お兄ちゃんってば――えっち」
上条「何でエッチ!?つーかどういう発想だっ!?」
円周「わたしのニーソックス、そんなに欲しいだなんて。ねっ、変態さんだよねっ?」
上条「うん、まぁ個人的にニーソは嫌いじゃないけど、どういう文脈からそう読み取ったのか、まずはそこから意見合わせて行こうか?」
円周「またまたーっ」 ギュッ
上条「お、おいっ!」
円周「……ありがとう、ね?当麻お兄ちゃん」
上条「……ん、どうしたしまして」
上条(気を遣われているのは俺の方か……つーか賢い子なんだな)
上条(でもまだ小学生だし、俺が守らないといけない。それは、絶対に)
――深夜
上条「……なんだ?」
上条(虫の声すら一つしない深夜、俺は何かの物音で目を覚ました)
上条「……」
上条(暫く耳を澄ませていたけど、特に聞こえるものはなく、再び横になった)
上条(だがしかし慣れない緊張感からか、睡魔が来るまでには暫くかかりそう……)
上条(突然、と言うか成り行きで来た『帰らず村』も、明日の朝一で出る事に決まった)
上条(失踪した学園生は出て来ないし、行方も掴めない。少なくともここへ来たという証拠は見つからなかった)
上条(それはまぁ、良かったとは思うけど……ならどこへ行ったのか、ってのは気になる)
上条(意外と何かの手違いでしたー、的なオチなら良いんだけど)
――科学ルート
上条(結局、俺と円周は同じ部屋で眠る事にした)
上条(持ってきた寝袋は使わず、一つの毛布に二人でくるまっている)
上条(高原特有の寒さが這い寄ってきているけど、お子様の高い体温が有り難かった)
上条「……」
上条(――って言ったら怒ると思うけど。まぁ女の子ってよりは小動物を相手にしている感じが強い)
上条「……」
上条(べ、別にロリコ×じゃないんだからねっ!)
上条「……」
上条(……あっれー?否定したのに、むしろ疑惑が高まってるような……?)
円周「……」 スースー
上条(……まぁでも、落ち着いてくれて良かったか)
……ズズッ
上条(……ん?)
……ズズッ、ズズズッ
上条(外から音がする、よな)
円周「……」
……ズズ、ズズズッ
上条(近づいて……は、多分無いような?でも、遠ざかってもない)
上条(水で濡れた土嚢袋を引き摺っているような、そんな音だ)
上条「……」
上条(室内は真っ暗、外は月明かりが出ている。破れた障子から覗けば、もしかしたら確かめられるかもれしない)
上条(どうするべきか……まぁ、決まってるんだけど)
円周「……」 スースー
上条(勝手に守るって決めたんだからな) ソッ
上条「……」
上条(……グロいのは勘弁して下さい。あと心霊ホラー的なのもノーサンキューでっ!)
上条 ジーーーーーーッ
上条(真っ暗、だけど……いや、何か動いている)
上条(波打つように、たくさん。いやいやっ、下は土だぞ?)
上条(白い波のように顫動している、あれは――)
上条「蛇、だ――」
シィンッ、クィッ、クィッ、クイッ
上条(俺の呟きに反応したように……いや、実際に反応したのだろう)
上条(白い蛇たちは屋敷の周囲を這いずっていたのを止め、次々と鎌首をもたげる)
上条(一匹、また一匹と蛇達の視線はこちらを凝視する)
上条(一面の白い花畑から、大小様々な花が咲くような――いや、そんな良いものじゃない!)
上条(蛇達は大きいもので数メートル、小さいものでも1メートル程)
上条「……有り得ないっ。そんな――」
円周「……お兄ちゃん……?」
上条(俺が振り向く直前、蛇達が微かに震えた気がした。だがそれも錯覚なんだろう)
上条「……大丈夫だ」 ギュッ
円周「……えへー、お兄ちゃんったら心配性なんだよねっ」
上条(円周は震えを隠しながら俺を抱きしめてくれる……いや、震えているのは俺の方かも知れない)
上条「……な、円周。表の『アレ』、なんだか分かるかな?」
円周「……見ちゃったんだ、『アレ』。出来れば今夜ぐらいは知らない方が良かったのに」
上条「それじゃお前は知ってたんだ?」
円周「神社と御札、あと異常に少ない虫さんから推測はしてたんだけど」
円周「ね?あんまり驚かないで、聞いてね?」
上条「……その前振りもどうかと思うけど」
円周「この村にはね。昔から神様が居たみたい」
上条「神様……?それってまさか!」
円周「うん、そうだよ。そうなんだよっ、この村は――」
円周「――蛇を神様として崇めていたんだ」
とある魔術の禁書目録SS 幻想魔笛 『“帰らず村”前編 ~S村伝説~』 -終-
とある魔術の禁書目録SS 幻想魔笛 『“帰らず村”後編 ~■■■■■■~』 -予告編-
――失踪した学園生の部屋に残されていた“と、される”メモ
都市伝説の一つ、『■■■■■■』。
始まりは村に人を食う蛇がいた。
退治して貰おうと巫女に依頼し拮抗するも、ついには巫女が下半身を呑まれる。
村人は蛇と取引。巫女の腕を切り落とし、呑ませやくする事で取引が成立する。
が、村では片腕のない死体が見つかるようになる。
一定の周期で、持ち回りで管理していた。
その封じていたモノ、管理していたアレとの境を不用意に踏み越え、死ぬ思いをした人間が事の顛末を聞く事になる。
……しかし、■■■■■■を崇めていた家々は廃れ、また村そのものも維持出来なくなる。
そして当然のようにアレは外へ出て来る事になるだろう。
そうすれば、きっと。おそらくは。
肝試しか、あるいは迷い込んだ登山者か、暇潰しの研究者か、誰
『帰らず村』の由来を知
場所;XX県XX郡にある、
からす村、行き方。無人駅 石神井
――魔術ルート
上条「五和っ!?どうしてだよっ!一緒に帰ろうって約束しただろっ!?」
五和「……ごめんなさい、上条さん。その約束、守れそうにありません」
上条「そんな訳ねぇだろうが!だったらっ俺がその幻想を――」
五和「……覚えていますか?駅のホームでのスパムメール、狼の家族の誰を助けるか、って話」
五和「私は、全員、助けます。助けを求めているのであれば、救いの手を」
五和「自ら救いを求めているのであれば、余計に!」
五和「それが私の――信念です!」
――科学ルート
円周「……ねぇ、お兄ちゃん。ちょっと走るの疲れちゃったよ」
上条「大丈夫だ、俺が、俺がっおんぶするからなっ」
円周「そうじゃなくって……昨日のね、狼さんの家族の話覚えているかな?」
上条「何を急に――」
円周「お母さんはね、『生きる力の強い兄を助けるべき』なんだよ。科学的見地からすれば、少しでも助かる可能性がある方を、ね?」
円周「だから、お兄ちゃんもね――わたしを置いて、逃げ、よ?」
円周「わたしは大丈夫だからっ!だから、だからっ――」
円周「――当麻お兄ちゃんだけでも、生き、て?」
――『帰らず村』に落ちている“かもしれない”手帳
上条(――昨日から散々な出来事が俺、いや俺達に降りかかってきた)
上条(勿論二人で帰るつもりではあるが、万が一のためにこの学生手帳にあった事を記しておく)
上条(願わくば第三者に手に渡る事を――って、それだと俺達はマズイのか。まぁいいや)
上条(冗談は兎も角、そろそろ俺は覚悟を決めようと思う)
上条(俺は――)
1.五和と一緒にカンカンダラを祓う(魔術ルート確定)
2.円周と一緒にこの村から脱出する(科学ルート確定)
(※このレス投下後、次回投下するまで多数決。多分来週ぐらい)
とある魔術の禁書目録SS 幻想魔笛 『“帰らず村”後編 ~■■■■■■~』 -予告編 終-
――二日目 早朝
上条「……」
上条(……どうにか、朝になった。なってくれた、って言うか)
上条(時間の経つのがこれほど遅く感じた事はない……まぁ覚えている限りでは、だけども)
上条(あれから一睡も出来ずに、只々辛い時間だけが流れた)
上条(『アレ』は俺達の泊っている屋敷の周りをずっと這いずり回っていた)
上条(ヤスリで金属を磨くような不快感。少しずつ精神が摩耗していく)
上条(生きた心地がしない……それなりに危ない橋を渡っているけれど、これは『異質』だ)
上条(死ぬか生きるか、ってのはまぁまぁあったけど――いや、あって欲しくはないけど)
上条(自分が死んだ後、つまり……喰われるってのは、流石になぁ)
上条「……」
上条(……でも、まぁ?俺は一人じゃない。それを考えると)
上条(出来るか出来ないかじゃなく、生きなきゃいけない)
上条(取り敢えずは……情報、かな。昨夜の『アレ』が何だったのか)
上条(事情を知っていそうな彼女へ話を振った)
――五和
上条「……昨日の『アレ』ってさ、何だったんだ?」
上条「つーか話している暇があったら下山した方がいいんじゃねぇかな、って気もするんだけど」
五和「ええとまず、落ち着いて――って言うのは無理だと思いますが、可能な限り冷静に聞いて下さいね?」
上条「……分かった」
五和「なんでしたらぎゅってしましょうか?」
上条「おいっ!」
五和「まぁ流石に冗談ですけど、冗談でなくともウェルカムですっ!バッチこーいっ!」
上条「いやだから時間が惜しいってのに、別の案件で体力消耗しても意味ないよね?」
上条「つーかADVでその選択肢取ったら、DeadEndまっしぐらだよな?」
五和「ある意味私的にはグッドエンドなんですが!」
上条「ウルセェよ!そのポジティブシンキングがウルセェ!」
上条(気ぃ遣わせちまってんなぁ、うん……気を遣ってんだよね?素で言ってるんじゃないよな?)
五和「えっとですね。失踪した学園生の残したメモに、実は都市伝説が二つ書かれていたんです」
上条「え?聞いてないんだけど、二つ?えぇ!?」
五和「メモにはここ、『帰らず村』のアドレスが書いてあったので、私――と言うか天草式は、『学園生が「帰らず村」に行った』と判断したんです」
五和「でも、実際はそうじゃなくって『学園生はその都市伝説を探しに、帰らず村へ入ろうとしていた』ようです」
上条「……何?目的自体がもう一つの都市伝説、『帰らず村』だけじゃなくって」
五和「そもそも学園生は『帰らず村』が本命ではなく、もう一つの結果がそうだと考えていたようです」
上条「……つまりその都市伝説の結果、村人全員が居なくなる惨事を招いた、と?」
五和「はい。その都市伝説は――『カンカンダラ』」
五和「人に仇をなす、半人半蛇の神です」
――円周
上条「……昨日の『アレ』ってさ、何だったんだ?」
上条「つーか話している暇があったら下山した方がいいんじゃねぇかな、って気もするんだけど」
円周「……うん、出来ればそうした方が良いと思うんだけど。あの暗い山道、振り切れる程速く歩くのは難しいんじゃないかな?」
上条「だからってこのままって訳にも行かないだろうが!」
円周「お、お兄ちゃん?」
上条「あ、ごめんっ!強く掴んじまってて」
円周「……初めては、優しく、ね?」 ポテッ
上条「しないしないしないっ!緊急事態に無駄な体力使ったらDeadEnd確定だからね?」
円周「お兄ちゃんの――幻想殺しっ」
上条「ごめんな?俺のアイデンティティーに『意気地無し』的な意味はないからね?」
上条「つーか君や知り合いの中学生にも言いたんだけど、『幻想殺し』にバステちょい載せするのやめて貰えるかな?」
上条(気ぃ遣わせちまってんなぁ、うん……気を遣ってんだよね?素で言ってるんじゃないよな?)
円周「実はね、失踪した学園生が残したメモってのがあるんだよ。ほらっ」 ピッ
上条「あーうん。この『カンカンダラ』って単語か?」
円周「前にも言ったけど『結果には必ず経過と要因がある』って言ったよね?」
円周「その学園生も『帰らず村』が“結果”だって思ってたみたい」
上条「と、すると『カンカンダラ』?が経過兼要因って事で」
円周「ぶっちゃけ『帰らず村』の村人達を殺したのは、『カンカンダラ』なんじゃないか、って学園生は思ってたみたいだね」
上条「……つー事は何?何かもう嫌な予感がひしひしとするんだけども」
円周「その“要因”が今もまだ村に残ってて――」
円周「――それが『アレ』だって話だよ、お兄ちゃん」
――カンカンダラ
上条(都市伝説――『カンカンダラ』)
上条(それが失踪した学園生が調べていたモノらしい)
上条(残されたメモの殆どが『帰らず村』の行き方や推測を書き連ねてあり、大して重要視はされなかった――が、だ)
上条(実際に俺達が『帰らず村』へ足を踏み入れれば、牙を剥いて来たのは『蛇』だった)
上条(二つの都市伝説は独立した点ではなく線、最初からイコールで括られていた、って話だ)
上条(……そもそも『カンカンダラ』とは何か?彼女が俺に教えてくれたのをまとめれば)
上条(まず田舎の村だか町に、悪さをするガキが居たらしい。高校~中学生ぐらいの?)
上条(そいつらの父親が悪さに怒って、ある場所へ行けるもんなら言ってみろ!と挑発すると)
上条「……」
上条(多少導入が強引な気がしないでもないが、まぁ悪ガキどもはある場所とやらに行くんだ)
上条(村外れの誰も来ないような場所、鬱蒼として気味の悪い所だったが、ガキどもは構わず突き進む)
上条(何やら良く分からない紐や棒、それで念入りに隔離されていた小さな塚のような所まで来るが――)
上条(何も異常は無い。静かすぎる程に、静かだ)
上条(何だつまらない、とガキどもは苦笑しながら帰ろうとするが)
上条(じぃっと、誰か――いや何かがこちらを見ているのに気づく)
上条(闇の奥から女の顔が覗いている)
上条(そいつは手をこちらへ向ける。一本、二本、三本、四本、五本、六本!)
上条(左腕が三本、右手も三本!抱きしめるためか、捕食するためか、そいつは両手――いや、全ての手を伸ばしてくる!)
上条(悪ガキどもは悲鳴を上げながら逃げ出し、暗闇の中を散々駆け回る)
上条(……その甲斐あった、のかは分からないが、命からがら自宅までたどり着けた、と)
上条(だが悪ガキの仲間の一人、そいつに一番近かった奴が『何か』を見てしまい。半狂乱状態となる)
上条(まさか本当に行くとは思っていなかった両親達は驚き、どこかへと連絡を取った)
上条「……」
上条(いや、色々とおかしいような気もするけど、そこもスルーすべきなんだろうな)
上条(悪ガキどもはどこかから現われた巫女さんや黒服から、『カンカンダラ』の伝説を聞く事となる)
上条(昔々、その村には『人を喰らう蛇』が居た)
上条(流石に困った村人達は、とある霊力の強い巫女へ退治を依頼した)
上条(巫女は快諾し、大蛇へと挑んだ――が、蛇と巫女の力は拮抗していた)
上条(巫女は次第に疲労が蓄積し……ついに下半身が蛇に呑まれてしまう)
上条(もうダメだ、と判断した村人達は蛇へ契約を持ちかける)
上条(『巫女の両手を切り落として、呑ませやすくする事で自分達は許してくれ』と)
上条「……」
上条(……随分な話だよな。つーかそんな取引が通用するんだったら、そもそも退治する話になっていないような気がする)
上条(……まぁ、村人達は蛇の提案を受け入れ、村には日常が戻ってきた)
上条(人喰らいの蛇から恒常的に命を脅かされるっていう、異様なものなんだけど)
上条(でも話はそこで終わらない)
上条(村では蛇の被害ではなくなり、片手を引き抜かれた屍体が見つかるようになった)
上条(巫女が――蛇に呑まれた彼女が蛇と同化して、失われた腕を求めて人を殺めるようになったからだ)
上条(以来、村では巫女を数家で交代して手厚く供養し、新しい犠牲者を出さないように努めてきた)
上条(それが『カンカンダラ』の大まかな話だ)
――魔術
五和「……悲しいお話ですよね」
上条「だよなぁ――って、そんな話じゃねぇって。同情するのは良いんだけど、ピンポイントで名前呼ばれている俺は?」
上条「流暢に話してる暇あったら、とっとと逃げた方が良いんじゃ?」
五和「まぁそれはあまり心配しなくて良いかと思います。結論から言えば『魅入られている』状態ですので」
上条「……うっわー。ヤな響きー」
五和「『牡丹灯籠』もしくは上田秋成の『雨月物語』と言うお話をご存じでしょうか?」
上条「『雨月物語』は教科書に載ってたかも?いや、土御門から聞いたんだっけかな」
上条「一目惚れしたけど死んじゃった女の子が、幽霊になって、会いに、来る、って……」
五和「つまりですね。上条さんも――」
上条「聞きたくないっ知りたくないっ理解したくねぇっ!」
五和「戦わなきゃ、現実と!」
上条「ウルセェよっ!?俺の知ってる現実じゃ、蛇のバケモノに因縁はつけられねえからな!」
五和「正しい意味の因縁で合ってます。むしろフラグを立てた?しきりに会いたがっていたようですしねー」
上条「え?そんな単純な話なの?」
上条「イヤでも待ってくれよ。前にインデックスから聞いたんだけど、俺は右手が幸運とか赤い糸とか打ち消してるらしいんだって」
上条「だからその、『カンカンダラ』からの因縁もヘシ折れるんじゃねぇのかっ!?」
五和「かも知れません。意外と村の外へ出れば追って来ないかも?」
上条「だよなっ!」
五和「でも学園都市へ帰ってインデックスさんと『もう、とうまは相変わらずとうまなんだよ!』とか、お帰りなさいガブーしている間に」
上条「違うよね?お約束になってるけど、それは挨拶じゃないよ?」
五和「ベランダから『ズズ、ズズッ』っていう何かを引き摺る音が聞こえるとしたら?」
上条「怖っ!?戦闘能力皆無の二人にどうこう出来る相手じゃねぇし!」
五和「と、言う訳で私達プロの出番ですっ!」
上条「流石っ!頼りになるぜ僕達の天草式っ!」
五和「明日の朝には教皇代理達が到着しますからっ」
上条「ここまで来て他人任せかよっ!?」
五和「……じゃ、じゃあ二人で特攻かけます?多分、見た瞬間にがっつり正気度が減ると思いますが」
上条「うん、待ってようかな。無理をするのは良くないと思うしっ」
五和「分かって頂けたようで何よりです。でも、取り敢えずは心配ないみたいですし」
上条「そ、そうなの?」
五和「昨日の時点で結界を破れるようでしたら、中へ入って来ていますしねー……あぁそうそう」
五和「絶対にやってはいけない事が二つあります。ネタではなく冗談じゃない事態になりかねないので、必ず守って下さいね?」
上条「お、おう」
五和「現時点ではワンアウト。スリーアウトで上条さんの人生ゲームがゲームセットとなります」
上条「嫌な例えだけど分かり易いよチクショウっ!」
五和「一つ目。『呼ばれても返事をしない』事です」
上条「え、でも昨日の時点でしちゃったけど」
五和「これ以上は、と言う事です。あ、私からの呼びかけに応えるのもNGですからね?」
五和「私の真似をしてとか、割とある話ですから」
上条「分かった。でも緊急事態で呼ばれるかもだから……五和の姿が確認出来ない状態では返事をしない」
五和「はい、それでお願いします。では二つ目、『招き入れない』事」
上条「家の中に、って事か?」
五和「とか、ですね。こっちへ来い、おいで、かもん等々。呼んだらいけません」
上条「分かった、けど。どうしてその二つがダメなんだ?」
五和「詳しくは省きますが、『縁(えにし)』みたいものでしょうか」
上条「袖すり合うも多生の縁、とかの?」
五和「他にも宿命とかパスって呼び方をするようですけどね」
五和「バンパイアが家へ招かれないと入れなかったり、名前を知られていると呪いをかけられたりする、みたいな感じで」
上条「ふーん?」
五和「彼らには彼らなりの『ルール』があって、私達はそれを遵守する事で接触を避けています」
五和「例えば洋の東西を問わず『黄泉還り』の話は伝えられています」
五和「その中の『ルール』として『朝になるまで後ろを振り返ってはいけない』と」
上条「……ソレを守っていれば安全、って事?」
五和「取り敢えずは、ですけどね。少なくとも一つだけ言える事があります」
五和「『カンカンダラ』の都市伝説は兎も角として、また昨日の『アレ』が何であったのかも置いておきましょう」
五和「少なくともこの村は、過去数百年だか、もしかするとずっとずっと昔から――」
五和「『アレ』と共存していた、って事になりますよね?」
――科学
上条「なんつーかなぁ。外に見える所には居ないけど、今の内に下山した方がいいんじゃないかって思うんだが」
円周「お兄ちゃんの気持ちは分かるんだけど、国道へ抜けるまでは凄く狭い山道を通るよね?」
円周「あそこで、わあっ、って来られたらどうしようもないかも」
上条「いやでもGPS付きの携帯すら通じないんだろ?」
上条(只、助けを待つにしたって、厳しい気がする。流石に口には出せないけど)
円周「それは大丈夫だよっ。リンクが切れて36時間経てば、『お迎え』が来る事になってるから」
上条「『お迎え』?」
円周「『猟犬部隊』って言えば分かるかなぁ?学園都市謹製の武装ヘリで、もしかしたら数多おじさんも来てくれるかも知れないし」
上条「へー、料理教えてくれた人かー。レスキュー部隊みたいなもんか」
円周「レスキューって言うよりもリサイクルかなぁ?だから、明日の朝まで持ちこたえれば確実に助かるんだって」
上条「昨日、家の周りに撒いていた薬品はどれだけ持つんだ?残りは?」
円周「大体2、3日かな。後、100mlぐらいはあるけど」
上条「……そっか。なら、待っていた方が良いのか」
円周「って思うけど――あ、そうだ。この獣除けはお兄ちゃんが持ってて?」
上条「円周が持ってた方が良いと思うけど。つーか、体にかければ安心なんじゃ?」
円周「お兄ちゃんはお腹ペコペコでも、目の前にウミガメのスープが出て来ても食べない人?」
上条「本当にウミガメだったら食べるけどなっ!……抑止力も絶対じゃないのか」
円周「危なくなったら頭から被ってねっ」
上条「気持ちは有り難いけど、そんな羽目になるぐらいだったら、俺が円周にかけさせて貰うからな?」
円周「やだ……お兄ちゃん、円周にかけちゃうの?汚したいの?」
上条「そう言う意味じゃねぇっ!?ってかお前邪気の塊だよね?どっからその知識仕入れやがったの?」
円周「数多おじさんが『木原に相応しいクソッたれを堕とす時に必要だ』って」
上条「えっと、そのスマートフォン動いてない設定なんだよね?色々と無茶し過ぎてないかな?」
円周「まぁそんな訳だから、村から出るのは良くないと思う――けど、おかしいよね?」
上条「どれが?色々とありすぎて感覚が麻痺してる感じだ」
円周「えっとね。誤解されがちなんだけど、蛇って言うのは本来弱い動物なんだよ」
上条「……はぁ?だって毒持ってんだぞ?」
円周「うん。『そもそも強い動物だったら毒を持つ必要はない』よね?ライオンさんやトラさんは持ってないでしょ?」
上条「言われてみれば確かに」
円周「毒自体精製したり、維持するにのは多大なカロリーを消費するし、一部の昆虫は毒を使うと死んじゃったりするから」
上条「言いたい事は分かったけど、何で今更生物の話?」
円周「そんな毒を持っている蛇であっても、食物連鎖では下位に居るって事だよ」
円周「鳥は天敵だし、野犬や狼や猪、時にはネズミ辺りに食べられる事も珍しくない」
円周「だったらさ、何であんなに増えてるかな、って」
上条「あー……数百匹、しかも大きいのだと人よりでっかかったよな」
円周「『大量の蛇が大きくなるだけの要因』って何かな?」
上条「……成程。不自然か」
上条「実際に、『帰らず村』周辺から小動物やら虫達が居なくなってる、つっても限度はある」
円周「カンカン何とか――神様やオバケはこの世には居ないんだよ、お兄ちゃん?」
円周「だからこの異常な現象も、きっと何かの『要因』がある筈なんだよ」
上条「要因なぁ」
円周「だっよねー?うん、うんっ、『木原』だったらアクティブに出かけないとね!」
上条「自殺行為じゃねぇか!?理性さん帰ってきて!」
円周「大丈夫だって。蛇さん達はアルビノだから日光には弱いだろうし!……タダの白変種かもしれないけど」
上条「だったらさっさと山降りた方がいいんじゃねぇか!」
円周「森の中は適度に日差しが遮られて危険だってば。ね?」
上条「いやいやっ不用意に出歩くのも良く――って待て待て一人で行くな話を聞きなさいよおぉっ!?」
円周「あははーっ、つかまえてごらーん?」
上条「だから今使う台詞じゃねぇつってんだろ!」
――二日目 午前中 石神井神社
上条(……とまぁ昨日に引き続き二回目だ)
上条(まぁ『カンカンダラ』が分かった後だとなんて言うか、不気味だ)
――魔術
五和「はい、ちょっと失礼しますねー」 ギギィッ
上条「待って五和さんっ!?何いきなり中へ入ろうとしてんのっ!?」
五和「ですから手がかりを調べようとしているだけで――って、何にもないですね」
上条(お堂?本殿?だかの中は空っぽだ)
上条(床にへこみがあって、きっとそこには祭壇やらご神体が置かれてたんだろうけど、今はもう無い)
五和「あ、見て下さい。天井の所に何か挟まってます」
上条「どれ、届くかな、っと!……って無理か」
五和「あ、これ使って下さい」 パシッ
上条「あ、すいません――って槍っ!?」
五和「念のためにっ!」
上条「心強いけど、うん……」 ガシガシ
上条(流石に抜き身じゃなく、穂先には布が巻いてある。御札らしいものをツンツンすると、ハラリと床に落ちる)
五和「って失礼しますね」
上条(五和の横から覗き込む。御札は昨日見た物とよく似ている)
上条(しかし昨日見た物は中央に『閇美(なんて読むのか未だに分からない)』と書かれていたが、今度は別の言葉があった)
『神柄足』
五和「……かむからたり」
上条(五和の口から零れた言葉は、『カンカンダラ』と言う言葉に似ていた)
――二日目 午前中 石神井神社
上条(……とまぁ昨日に引き続き二回目だ)
上条(まぁ『カンカンダラ』が分かった後だとなんて言うか、不気味だ)
――科学
円周「おっじゃましまーすっ!」 ギギィッ
上条「待って円周さんっ!?何いきなり中へ入ろうとしてんのっ!?」
円周「んー?手がかりがないかなーって――って、なんにもないかぁ。ちぇーっ」
上条(お堂?本殿?だかの中は空っぽだ)
上条(床にへこみがあって、きっとそこには祭壇やらご神体が置かれてたんだろうけど、今はもう無い)
円周「あ、見て見て。天井の所に何か挟まってるね」
上条「どれ、届くかな、っと!……って無理か」
円周「あ、お兄ちゃん。受け止めてね?」 タタンッ
上条(言うが早いか円周は、俺の腰、肩を蹴り上がって天井まで跳躍した……運動神経良いな)
円周「よっと」
上条「無茶すんなよっ」 トスッ
円周「わーいっ!お姫様抱っこだ――もう、当麻お兄ちゃんってばわたしの初めてをどんどん奪っちゃうね?」
上条「さーて何が書かれているかなっ!気ーにーなーるーなっ!」
円周「あ、あれ?スルースキルが発動してる……って、昨日のヤツと似てるかな」
上条(円周の横から覗き込む。御札は昨日見た物とよく似ている)
上条(しかし昨日見た物は中央に『閇美(なんて読むのか未だに分からない)』と書かれていたが、今度は別の言葉があった)
『神柄足』
円周「……かむから、たり」
上条(円周の口から零れた言葉は、『カンカンダラ』と言う言葉に似ていた)
――二日目 午後 寝泊まりしている屋敷にて
上条(あれから幾つか廃屋を探してみた)
上条(めぼしい物は見つからなかったが、新しい発見が一つだけあった)
上条(廃屋の埃。床に上に積もっていたが、天井近くの梁や柱には筋状の跡――つまり蛇が這ったであろう跡が残されていた)
上条(同じ目線じゃないから気づかなかった。まぁ気づいたとしても、大して気にはしてなかったんだろうけど)
上条(彼女に引っ張られるまま『帰らず村』を見て回り、保存食でお昼を済ませた後)
上条(この村で何が起こっていたのかを話し合う事になった)
――魔術
五和「結論から言えば、この村では蛇神信仰、つまり蛇の神様が奉られていました」
上条「……マジで?」
五和「でも逆に考えればチャンスだと思います。もしかしたら対話出来るかも知れませんし」
上条「どうやってだよっ!?相手は蛇なんだぜ?」
五和「ええっと、ですね。多分勘違いされていると思うので、出来る限り丁寧に話しますが――『別に人間以外の神様って珍しくない』んですよ?」
上条「そう、なのか?」
五和「はい。例えばアッカド、シュメールのティアマット神は全てを生み出した大地母神にして蛇ですし」
五和「他にもエジプトのアペプ神、インドのガンガー女神、日本でも諏訪神やミシャグジ神もわりかし有名ですかね」
五和「他にもヘルメスの杖、ほら一本の杖に蛇が巻き付いたシンボルって見た事ありませんか?」
上条「あー、どっかの大学のシンボルで見た気が?」
五和「蛇自体は弱い動物です。捕食するよりもされる方が多い」
五和「けど脱皮や長期間を食べなくても死なない生態から、信仰の対象となっていました」
上条「意外、つっちゃ失礼か」
五和「でもって恐らく、この村では『水神』並びに『農耕神』だったんでしょうね」
上条「水、は何となく分かるけど、農耕ってのはどうしてだ?」
五和「元々蛇は水と関係無かったんですけど、水田ってホラ、他の生物からすれば水はあるは食べ物はあるわ、って入れ食い状態じゃないですか?」
上条「たまーに五和のボキャブラリーがおっさんに変わるよね?建宮の悪い影響なの?」
五和「ですから、稲を狙いに来る動物を補食するため、待っている蛇の姿が『水の守部』に見えたのではないかと」
五和「同様にネズミなどの害獣――特に、農耕文化を営む人類にとっては有り難い存在だった、と言えます」
五和「サイズも違いますので、向こうから人間を襲ったりはしなかったでしょうし」
五和「この『帰らず村』でもまた、ごくごく普通に信仰しているようです」
上条「さらっと言うよなぁ」
五和「例えば昨日の御札には」 カキカキ
『閇美』
五和「これは『へみ』って読みます」
上条「へみ、へみへみへみ……へび?」
五和「昔の仏足跡に残された文なので、当て字かもですが。あの御札は『蛇の力を借りてネズミなどの害獣を退ける』って意味だそうで」
上条「へー、すっごいなー。分かったんだ?」
五和「……って今朝教皇代理が仰ってました……」
上条「流石だよねっ天草式さん達はっ!一人がみんな、みんなが一人の精神で助け合おうってことだものっ!」
五和「……そしてこっちがお社の天井に貼られていた御札です」
『神柄足』
上条「かみ、つか、あし?」
五和「『かむから、たり』ですね。『偉大なる足』という意味でしょう」
上条「『カンカンダラ』に似てる?」
五和「と、いうよりもそちらが訛った言い方であって、本来はこちらの方が正しい呼び名なのでしょう」
上条「いやでもっ!無いだろ、足はっ!」
五和「お社の裏手に岩ありましたよね?縄目の跡がついた感じの?」
五和「あれは仏足跡(ぶっそくせき)って言いまして、元々は古代に仏の足跡や座部を掘る事で、信仰の対象としたようです」
上条「それじゃ、この、村が」
五和「はい、都市伝説『カンカンダラ』の発祥の地に間違いないかと」
上条「……参ったな……」
五和「あー、でも良かったと思いますよ」
上条「どうしてだよ?」
五和「あ、上条さん、もしかしてなんですけど――『カンカンダラ』が正しく伝わっているって思ってるんですか?」
上条「……へ?」
五和「都市伝説の方は恐ろしい祟り神、的な側面を不必要に煽っていますけど、私達は見てきましたよね?」
五和「少なくともこの村、この農村ではしっかりと神様として信仰されて来ている、って事を」
五和「そして『カンカンダラ』もまた農民を全滅させたりする事無く、集落を十数年ぐらい前までは存続させています」
五和「その証拠に村人達の家の荷物は、きちんと余所へ移していましたし、夜逃げしたとか、噂にあるような悲劇は起きていません」
上条「確かに」
五和「しかもお社が空っぽになっている、って事はご神体やそれに類する物が、きちんと持っていったんですよね」
五和「これって『人と神が共存している証拠』になりませんか?」
上条「五和の言っている事は正しいと思う、素人考えだけどな」
上条「でも、だったらどうして『カンカンダラ』――じゃない、『神柄足』は今もこの村に居るんだ?」
上条「村人が移住したんだったら、当然ついていくべきじゃないのか?」
五和「いわゆる土地神だと思います、はい」
五和「日本の神様には幾つか種類がありまして。特定の氏族を守る氏神、祟りを成す存在を奉った祟り神」
五和「そして『自然や自然の一部が神格を得た土地神』もあります」
五和「『神柄足』はこの村の自然、ここへ住む蛇の神格化したモノなので、村から離れられない、と」
上条「……だったら『神柄足』は村人が離れた後も、ずっと一人で……?」
五和「はい。帰って来ない村人を待ち続けている間に、恐らく色々と狂ってしまったんだと」
上条「独りは嫌だもんなぁ……」
五和「ですね。だからこそ私達は」
五和「一緒に、帰りましょう。ね?」
上条「……あぁ!」
――科学
円周「んー、この村で蛇さんを神様として崇めていた、ってのは確定したよ」
上条「……マジで?」
円周「えっとね。でも勘違いしちゃいけないんだけど、人間は大昔から蛇さんを崇めていたんだよね」
上条「そうなのか?」
円周「古代バビロニアの大地母神ティアマト、オリンポスのガイア、北欧のヨルムンガンド」
円周「日本でも八岐大蛇が有名だよねっ」
上条「神様として、か?むしろ退治される方だと思うんだけど」
円周「あー、逆逆。それはあべこべなんだよ」
円周「例えばティアマトは子孫の一人であるマルドゥークに殺されるよね。ガイアや八岐大蛇も同じ」
円周「これは『神授政治の正当性』を表しているんだ」
上条「しんじゅ?」
円周「昔は王様が政治をしていたよね?その政治の正当性を神話に求めてたんだ」
上条「つまり?」
円周「『俺様は神からの権利を貰ってんだから従うんだぜ』」
上条「うん、なんかラノベのタイトルにありそうだよね?すっごくわかりやすいけど」
円周「当時は弱肉強食、負けた方が勝った方に支配されるのは当たり前……まぁ当時って言うか、70年代までは世界各国でもやらかしていたんだけど」
円周「まぁ、ここら辺は戦後ナチスが糾弾されるけど、戦前から欧米じゃ反シオニズム運動はあったわけだし?」
上条「面倒臭くなるから止めよう?スイスもオランダもフランスも、人権国家で通っているんだからねっ!」
円周「あっるぇ?ユダヤ人の難民をドイツへ送り返したり、一緒にゲシュタポ作ってたのはどこの国だっけ?」
上条「そんな事よりも神授説の方が聞きたいなっ!世界史は大切だけども!」
円周「んー、『支配』は割に合わなかったんだよね。虐殺も起きてはいるけど、それよりも労働力を確保した方が有意義でしょ?」
上条「奴隷とかにした方が良いんじゃないのか?……あぁいや人道的には良くないけど」
円周「やっだなぁお兄ちゃん、『もしも奴隷が経済的に有意義であったとしたら、欧米で廃れる訳が無い』じゃない?」
上条「さっきから問題発言が続くけど、そろそろ毒吐くの止めような?」
円周「治安維持とのコストを天秤にかけて、ダメだったから諦めただけの話」
円周「だから『同化』って方向へ進んだんだよ」
円周「でもって蛇の神様ってのは征服された方の神様であった、とされているね」
上条「お前らの神様は俺達がやっつけてやったから、俺達の王様は偉いんだぞ、って?」
円周「大体そんな感じかなー。んでね、王権神授を素でやってるクレージーどもだから、アラブの春も――」
上条「この村の話が聞きたいよねっ!脱線しまくるんじゃなくって!」
円周「昨日と今日の御札に書かれていた単語、覚えてるかな」 カキカキ
『閇美』
円周「これは『へみ』って読むの」
上条「へみ、へみへみへみ……へび?」
円周「昨日、村を探している時にも言ったけど、あの御札は『蛇の力を借りてネズミなどの害獣を退ける』って意味なんだよね」
円周「こっちがお社の天井に貼られていたのだね」
『神柄足』
上条「かみ、つか、あし?」
円周「『かむから、たり』ね。『偉大なる足』という意味だと思う」
上条「『カンカンダラ』に似てる?」
円周「ってかそっち訛った言い方で、本来は『神柄足』なんじゃないかなぁ」
上条「いやでもっ!無いだろ、足はっ!」
円周「お社の裏手に岩あったよね?縄目の跡がついた感じで」
円周「あれは仏足跡だよ。元々は古代に仏の足跡や座部を掘る事で、信仰の対象としたんだけど」
円周「蛇の足跡ってそのままみたいだし」
上条「それじゃ、この、村が」
円周「うん、都市伝説『カンカンダラ』の発祥の地に間違いないかもっ」
上条「……参ったな……」
円周「ただし、ね?幾つか『カンカンダラ』には矛盾があるんだよ」
上条「矛盾?どんな?」
円周「だってこの世にオバケなんて居ないじゃん」
円周「だから巫女さんや、巫女さんと同一体になった神様なんて実在しないんだよ」
上条「――え?」
円周「そもそも『蛇が人間を襲う事は有り得ない』んだよね。何と言ってもサイズが違いすぎるんだから」
上条「待て待て待てっ!そうすると表の白蛇達は何なんだよっ!?」
円周「大きさもそうなんだけど、『あの数が存在出来る説明がつかない』んだよ、当麻お兄ちゃん」
円周「この村にはエサとなる小動物や虫の姿が極端に少ないけど、それだけで足りる量じゃない」
上条「でも、そこにいるって事は現実じゃないのかよっ!?」
円周「……うーんとねぇ。お兄ちゃんは勘違いしているかも知れないけど、この世界には科学で解明出来ない事もあるよ。そりゃね?」
円周「でもそれは『まだ解明出来ていない』だけの話」
円周「『現時点で解明出来ない存在をオカルトだ魔術だ、とかいって蓋をしちゃだめ』だって、わたしは思うよ」
上条「それはまぁ……正しいかも、しれないが」
円周「蛇の巨大化自体は科学的に説明出来るけどね……聞きたい?」
上条「あぁ」
円周「上から69、47、65――」
上条「所々トラップしかけるの止めて貰えないかな?あと、出来れば帰ってからお前の保護者さんに会わせろ」
円周「『姪っ子さんを僕に下さい』?」
上条「何ひとっっっつしてないよね?むしろセクハラで訴えたら俺が勝つよね?」
円周「歳を取った獣が死ぬのは食べ物なんだよね。捕食しにくくなったり、されるようになったり」
円周「でも定期的にエサを与えられていれば、そんな心配はなくなるし?」
上条「エサ?誰が飼育するんだよ、ンなモン」
円周「生け贄、とかだよっ」
円周「蛇神の、しかも大地母神系は多くの場合生け贄やら、人身御供を要求するんだ」
円周「日本でも八岐大蛇がそうだったようにね?」
上条「……オカシイだろ。だって円周の――いや、科学サイドの考え方なら、そういう神や悪魔はいないって事になるだろうが」
円周「え、いるんだサンタさんっ!?」
上条「……ごめんよ。その発言には答えづらい……」
円周「うん、だから人類が勝手に捧げてたみたいだけどねっ。御利益なんてないのにねー?」
上条「軽いなっ!」
円周「前に言ったかもだけど、蛇は河川や水源の神格化でもあるから、水難で亡くなった人を『生け贄』ってカウントする場合もあったみたいだけど」
上条「あー……『捧げるために殺すんじゃなく、事故で死んだ人を捧げられたとする』のか。それならまぁ、分からなくはないけど」
円周「でもまぁこの村では『定期的に人身御供を捧げていた』みたいだけどね」
上条「だからかっ!?だから『帰らず村』になったって話――」
円周「ぶっぶーーーーっ!はっずれーっ!違う違う、そうじゃないよ」
円周「お兄ちゃんは『手に負えなくなった蛇が村人をごっくんしちゃった』って考えてるんだよね?でもそれはハズレ」
円周「もしそうだったら家の中が片付けされていたり、生活雑貨やお社が空っぽなのは説明出来ないよねっ」
上条「……訳が分からねぇ」
円周「そういう時にはね、『事実を時系列順に並べてみる』と良いよ」
上条「あー、うん。手帳にでも書くわ」
円周「まず『帰らず村では蛇神信仰があった』と」
円周「村人は『定期的に人を蛇に捧げていた』って」
上条「その根拠は?」
円周「白蛇の大きさかな。確かに長く大事に飼っていれば、大きくなる傾向がある種だけど、一代二代であぁなるのはオカシイし」
円周「最低でも何十世代って環境がないと無理だよねー」
上条「いやでもなぁ」
円周「そこは多分『病気の人を蛇穴か何かに捨てていた』んだと思うよ」
上条「病気?」
円周「『巫女さんが蛇に喰われ、蛇になった』って、あったよね?」
円周「けど、現実にはそんな事は起こらないし――その後、『村人達も腕を無くして死んだ者が続いた』っけ」
円周「それは『特定の遺伝病、または伝染病』を意味していたとすれば、どうかな?」
上条「……死んだ人を捧げていた、か?」
円周「まだ足りない。まだ『木原』が足りないよっ、当麻お兄ちゃん」
円周「梅毒って病気――あぁ今は完治するんだけど――の症状の一つには、『軟骨が溶けたり、関節が曲がらなくなる』んだ」
円周「――顔面の鼻や耳、瞼が無くなくなり、四肢がピンってなった人間――」
円周「――『蛇』に見えないかな?」
上条「――っ!」
円周「つまり、つまりねお兄ちゃん」
円周「『この村では特定の病気に罹患し、末期症状になった人間を“蛇”と呼び』」
円周「『遺体か生きたまま蛇穴へ捨てて、口減らしをしていた』って推論か成り立つんだよ」
上条「待ってくれ。でも都市伝説の方で、悪ガキどもが聞いた話と違うぞ」
上条「もしその説が正しいとすれば、そういう風に伝える筈だろ?」
円周「『人は必ずしも本当の事を言わないし、伝えない』よね?」
円周「『ましてや自分達の禁忌を破ったおバカな連中へ、懇切丁寧に教える訳が無い』し」
円周「『実際に禁忌とされるカンカンダラの話を、ネットで面白可笑しく吹聴している』んだから」
円周「都市伝説じゃ何人かの家で持ち回って管理して、つまり神官を交代でやっていた訳だし?」
円周「それって『個人が負うには重すぎる罪悪感を、複数人が関わる事で軽減していた』んじゃないかな?」
上条「……酷い、話だ」
円周「あ、ごめんね当麻お兄ちゃん?でもそれは、絶対に言っちゃいけないんだよ」
上条「酷いだろうがっ!」
円周「それは『現在の価値観からすれば』だよね?現代の価値観で、当時の善悪を推し量っちゃいけない」
円周「間引きなんて現代の日本じゃ非道徳とされているけど、当時は違うよね?」
円周「保険や生活保護もない時代で、貧しい農村で働けなくなった人間の面倒を見続けるのは限界がある」
円周「それが、現実」
上条「だからっつってなぁ!」
円周「でも、価値観は変わらなくても、家族へ対する親愛の情はそんなには変化しないよね」
円周「当時の人達は『蛇』になった身内を、喜んで捨てていたかな?」
上条「……悪い。少し混乱してるみたいだ」
上条「納得は出来そうにはないけど、理解はした」
円周「……うん。それで良いと思うよ。当麻お兄ちゃんは、みんなを助けたいんだよね」
円周「それはとてもいい事だよ。わたしもそんなお兄ちゃんが大好きなんだけど」
上条「……円周?」
円周「……でも、何も捨てずに、誰も犠牲にならずに生きよう、ってのは無理だと思うよ?」
――二日目 夜
上条(生活をしていれば当然、“音”は出る)
上条(自分の体から出る音だけじゃなく、俺が住んでいるような安普請のアパートなら、土御門兄妹がドタバタするのも聞こえてくる)
上条(表を走る車の音、通りで騒ぐ酔っぱらいや浮かれた学生の音)
上条(夜遅く帰ってくるサラリーマンが立てる革靴の音)
上条(冷蔵庫のうなり声や扇風機のモーター音)
上条(苦手かどうかはさておき、暮らしていく上では付き合って行かなきゃならない)
上条「……」
上条(俺もまぁ正直言えば田舎の生活に憧れた事もある。学園都市と違って静かな夜なんだろうなー、とか)
上条(そんな事を土御門に言ったら、『田舎は田舎で虫や獣の声がうるさい』んだと)
上条(上手くは行かないもんだな、って思っていたけど)
上条「……」
上条(――が、だ。聞き慣れた生活音や、珍しい虫の声の方がどれだけ気が楽だった事か)
上条(昨夜に引き続いて『アレ』が表を這い回る音は、ちょっと勘弁だよな?)
――魔術
神柄足『……おぉぉ……かみ、じょう……』
上条(……ってこれだもの。幾ら五和に安心って言われても、安眠なんて出来る訳が無い)
上条(家の周囲をグルグル這いずっているらしく、10分ごとに近づいてくる)
上条(って事は明日の朝まで、一時間に六回、かける十……60回ぐらい接近されるのか)
上条(……まぁ家の中にいる分には大丈夫なんだそうだが)
上条「……」
上条(軽めの夕食を採った後、五和と俺は話し合った)
五和(回想)『では呼ばれても返事をしないため、糸で繋いでおきませんか?』
上条(回想)『糸?いや別に同じ部屋にいれば良いんじゃ?』
五和(回想)『年若い男女が同じ屋根の下っ、同じ部屋ではマズイですっ!』
上条(回想)『お前ら、同じマンションで暮らしてなかったっけ?』
五和(回想)『家族はノーカンかと』
上条(回想)『家族、つーか同僚?』
五和(回想)『で、取り出しました赤い糸っ!これで結べばオッケーですっ!』
上条(回想)『……そこまで俺と一緒の部屋だと身の危険を感じるのか』
五和(回想)『い、いえいえいえっ!とんでもないですっ!むしろウェルカムですが!』
五和(回想)『魅入られたってバステは基本一人で解決する必要があるんです』
上条(回想)『バステ言うな』
五和(回想)『耳なし芳一でもそうだったように、この手の縁は一人で解決しなければいけないんです、ね?』
上条(回想)『まぁ確かに聞くけどさ。あの話って「最初からお坊さんが出張れば良くね?」って子供心に思ってたけども』
五和(回想)『とは言え心配でしょうから、このお裁縫セットから取り出した赤い糸を、こうって』 グルグル
上条(回想)『俺の左手の小指に?』
五和(回想)『お互いの薬指に繋げればほらっ、隣の部屋にいても引っ張るだけで分かりますっ!』
上条(回想)『あぁ声を出したりしなきゃ問題ないのか』
五和(回想)『ですね』
上条(回想)『でもこれ、手首に巻いた方がいいんじゃ?何で小指?』
五和(回想)『……』
上条(回想)『……』
五和(回想)『――はいっ、と言う訳でお疲れ様でしたっ!おやすみなさいっ』
上条(回想)『逃げんなよっ!?』
五和(回想)『あ、こっちの部屋は絶対に開けないでくださいね?』
上条(回想)『なんだその鶴の恩返し』
上条「……」
上条(と言う流れになったんだが。隣の部屋では試したい事があるんだとか)
上条(んー……昨日からきちんと寝てないしなぁ)
クイ、クイッ
上条(小指の紐が引っ張られて……あぁ、大丈夫だよっと) クイッ
上条(よく運命の相手とかの表現で小指と小指が赤い糸で繋がれている、って)
上条(意外と愛は痛い、ってのが分かった。つーか鬱血しねぇだろうな、これ)
上条 カチッ(LEDライトを点け、手帳を取り出す)
上条(これじゃ外に光が漏れる……リュックの陰で書けば、まぁ大丈夫か)
上条(――昨日から散々な出来事が俺、いや俺達に降りかかってきた)
上条(勿論二人で帰るつもりではあるが、万が一のためにこの学生手帳にあった事を記しておく)
上条(願わくば第三者に手に渡る事を――って、それだと俺達はマズイのか。まぁいいや)
上条(冗談は兎も角、そろそろ俺は覚悟を決めようと思う)
上条(俺は――五和と一緒にカンカンダラを祓う)
上条(そもそもの始まり――『帰らず村』では『神柄足(かむからたり)』という蛇神が信仰されていた)
上条(それ次第は珍しくもない……んだ、そうだ。少なくともこの村に於いては村人と共存関係にあった)
上条(もしも『神柄足』が『カンカンダラ』の都市伝説にあるような、所謂祟り神としての側面があった場合、とっくの昔に村は滅びていたと)
上条(その証拠にこの村の中には不自然な血痕やら、荒らされた形跡はない)
上条(朽ちた家々は歳を経た大木がそのまま土へ還るかのような、自然の姿を晒している)
上条(嘗て自然を切り開いて作られた村が、今度は自然へと融ける、か)
上条(住んでいた村人はどこへ行ったのか。昨日会ったおじさんに聞かないと分からないけど、移り住んだのだろう)
上条(……でも、だ。人は移住出来ても、崇めていた神様までは無理だった)
上条(この自然が、そしてここに住まう『蛇』が神格化した存在だから)
上条(社の中が綺麗にされている以上、住人からの信仰も相当深かったんだろう)
上条「……」
上条(……けど、『神柄足』は独り、残った)
上条(誰も居ない村に。嘗て暮らしていた村人の温もりを求めて)
神柄足『じょぉおおおぉぉ……っ』
上条「……」
上条(……俺達の基準で判断してはいけない。理解したつもりではあるけど)
上条(もしくは五和の言っている事が間違いで)
上条(表に居るのが、実は人を好んで喰う蛇のバケモノだったとしても、だ)
神柄足『……る、ぉぉぉぉぉぉぉうううぅぅ……』
上条(聞こえる声は、響く音は、そう酷く――物悲しい)
上条(子を亡くした母親の慟哭。長年ずっと寄り添っていれば、『帰らず村』の村人は彼女にとって子や孫みたいなもんだろう)
上条(それを失い。またその子孫達が生きていく様を見れず、ずっと独りで誰かが来るのを待っていた、か)
上条(……果たして、俺に出来る事は無いのだろうか?)
上条(明日の朝まで建宮達が来るのを待つ?本当にそれだけか?)
上条「……」
上条(俺が助かる、って選択肢ならばそれが最善。けど)
上条(『神柄足』はどうなる?天草式に殺されるのか?封じられるのか?)
上条(それともこのまま、誰も居ない夜を彷徨い続けるのか……?)
上条「……」
上条(……考えるな。それはきっと俺がどうにか出来る問題じゃねぇ)
上条(幾ら『右手』があったって、殺せる幻想なんて)
クイクイッ
上条(……良いタイミングで引っ張ってくるなぁ)
上条(うん。明日、だな。建宮達と合流したら、どうにか出来る案を探ってみよう)
上条(独りでうじうじ考えるより、五和達と一緒なら――)
……
上条「……ん?」
上条(朽ちかけた柱を背に暫く……10分ぐらいウトウトしていたらしい)
上条(この状況下で眠れる根性の図太さに感謝すべきか呆れるべきか)
上条(……まだまだ夜は明けない。『神柄足』との付き合いは続く)
上条「……?」
上条(おかしい、よな?そろそろ回ってくる時間だし、大体反対側に回ったって微かな音は聞こえる)
上条「……」
上条(……やっぱり、音が途絶えている。いつの間に?)
上条(暫く様子を見るべきか、それともこれ自体がトラップで、そっと外を覗いたらガーって来そうな……?)
上条(どうしたもんか……やっぱ専門家かな?)
上条「(なぁ五和、ちょっといいかな?)」 クイッ
上条「……」
上条「(五和?)」 クイッ
上条(引っ張った手応えはある。けど返事はない)
上条(寝ちまってる?……人の事は言えないけど、昼間に少し仮眠取っただけだからな)
上条(女の子には辛かったのかも……)
上条「……」
上条(とか、考えてる間も特に音はしない)
上条(俺の呼吸音ぐらい。別に荒い息って訳じゃないけど、他が静かだから対照的に大きく聞こえるだけだ)
上条「……?」
上条(おかしい、よな?)
上条(『どうして俺の呼吸音だけがする』んだ?『隣に居る筈の五和の音が全然しない』のは何故だ?)
上条(これじゃ、まるで――)
上条「……五和?俺だ、上条当麻だ。学園都市の」 クイッ
上条(小指に結ばれ赤い糸の感触はある。あるが――堅い)
上条(もしも糸が五和に結ばれているんだったら、多少は弾力性もある筈なのに)
上条(糸から伝わってくる重みは、只々無機物めいている)
上条「五和っ、開けるからなっ!いいよなっ!」 ギシィッ
上条(急ごしらえの襖を開いた先、五和がいる――筈の、隣の部屋には)
上条(誰の物音も、何の物音もしない。それは当然だ)
上条(俺の左手から伸びている赤い糸は――)
上条(本来繋がれるべき女の子とは似ても似つかない、ささくれ立った柱に繋がれ――)
上条(そこに居るであろう五和の姿はどこにも、なかった)
――『帰らず村』 石神井神社 月下
五和「――では、あなたが何を求めているのか、教えて下さいませんか?」
神柄足『……』
五和(私がそう『彼女』――嘗て神であったモノへ問うと、彼女は手を伸ばしてきた)
五和(左右六本ある内の一つ――恐らく、ガンガー女神やナーガの系譜なのだろう)
五和(『彼女』は上半身が人、下半身が大蛇という出で立ちであった)
五和(人、と呼ぶには少々人から外れすぎてはいるものの、その顔は酷く疲れている事だけが理解出来る)
五和(……無理もない。どれだけ独りだったのどれだけ苦しい思いをして来たのだろう。想像もつかない)
五和(何かの術式でも発動させるのか、『彼女』の手が私に触れる――)
五和(それが致命的なものなのか、只の意思疎通であるのか。どちらにせよ、私に選択肢は無い)
五和(何故なら私は――)
上条「止めろっ五和っ!!!」
五和(……やっぱりだ。この人は、私の決心なんかお構いなしに踏み込んでくる)
五和(……そんなあなたの事が、だいすき、です)
――『帰らず村』 石神井神社 月下二人
上条「五和っ!?どうしてだよっ!一緒に帰ろうって約束しただろっ!?」
五和「……ごめんなさい、上条さん。その約束、守れそうにありません」
上条「そんな訳ねぇだろうが!だったらっ俺がその幻想を――」
五和「……覚えていますか?駅のホームでのスパムメール、狼の家族の誰を助けるか、って話」
五和「私は、全員、助けます。助けを求めているのであれば、救いの手を」
五和「自ら救いを求めているのであれば、余計に!」
五和「それが私の――信念です!」 チャキッ
上条(そう言って五和は手にした武器を『俺へ』向けた)
上条「違うだろっ!?お前が何をしてるのかっ、しようとしてるのか分かってんのかよっ!?」
五和「……上条さん、もう気づいてますよね?私が何をしようとしているのか」
上条「分からねぇよ!分かりたくもねぇっ!」
五和「ははー、いやぁ謙遜は良くないですってば。そうじゃなかったら、そんなに必死になって駆けつけてくれる訳がないですから」
五和「私が『成り代わろう』としてるって、もう気づいちゃいましたよね?」
上条「……お前、お前はそれでいいのかよっ!?つーかそんな事が出来る訳が――」
五和「多分、イケると思います。『カンカンダラ』の方で伝承にもあったように、『巫女が蛇と合身した』ってのは、元々そういう意味だったのではないかと」
五和「幾つかの家々が持ち回りで管理をしていた――それは『代々、人が神に転じて村を守っていた』んじゃないでしょうか」
上条「そんなのお前がする必要ねぇじゃねぇか!だって!どうして五和が助ける必要が、犠牲にならなくちゃいけないんだっ!?」
五和「今も言いましたが、『彼女』は解放されたがっています。つまり」
五和「目の前で苦しんでいる人が居る。救いを求める人が居る」
五和「だから、助ける。それだけの話です」
五和「……上条さん、今までありがとうございました」
上条「五和!」
五和「あなたと過ごせた時間は短いですが……でも、とても楽しかったです」
上条「――ふざけんな」
五和「ふざけてなんかいません。大真面目です」
上条「俺は、お前のそのふざけた幻想を――ぶっ殺す!!!」
五和「……懐かしいですね。上条さんと敵対するのは、オルソラさんの時以来ですか」
上条「ぶん殴ってでも止め――」
神柄足『……かみ、じょう』
上条「……えっ?」
神柄足『ジュララララララララララァァァァァァッ!!!』
五和「離れてっ!?」
ズゥンッ!!!
上条「な、なんだっ!?どうして『神柄足』が今更暴れるんだよ!」
五和「分かりませんよ!とにかく、逃げて下さ――」
神柄足『シュギィィィィィィィィアァッ!!!』
上条(マズイっ!?押し潰されるっ!)
五和「ダメええぇぇぇぇぇぇっ!!!」
ブスッ、ズズゥンッ……
五和「……え?」
上条「……な、なんだ……?」
上条(土煙を上げて『神柄足』の巨体が横たわる)
上条(俺が目を開けるとまず目に入ってくるのは五和の背中。庇ってくれたんだろう)
上条(そして、次に見えたのは――五和の槍で深々と胸を貫かれている『神柄足』の姿だった)
五和「あ、あぁっ!?」
上条「落ち着けっ!まずは止血しないと――」
上条(彼女から流れる血は青錆の色と臭いによく似ていて。それが神社の境内一杯に広がっていく)
上条(呆然とする五和へ一喝しようと、俺は)
神柄足『……ゥ』
上条「えっ?」
上条(人の上半身――瞼は無く、鼻もそげ落ち、耳は無く、頭髪もまばらになっている『彼女』)
上条(守るべき民を失い、気が狂わんばかりの時を孤独に過ごし、来訪者に一縷の望みを見た『彼女』)
上条(俺は最後の言葉をきちんと聞き取るために、右手で抱き寄せた)
上条(助からない傷を負った『彼女』へ触れると、触れた部分から徐々に消失していく)
上条(それでも俺は構わずに、『彼女』の口元へ耳を寄せる)
神柄足『……ごぼっ……』
上条(血を吐きながら、それでも必死に『彼女』が紡いだ最後の言葉は――)
神柄足『……ありがと、ウ……』
上条(……とても、シンプルなものだった)
――科学
ズズッ、ズズズッ
上条(昨日に引き続いて蛇達の輪は俺達を取り囲んでいる)
上条(心なしか若干距離が近い気がするが……気のせいではないんだろう)
上条(俺達は中央にある屋敷にまで戻り、簡単に食事を取った)
上条(日が暮れる頃、夏の長い太陽が落ち、夜の時間になる)
上条(どこかに隠れていた蛇達がざわり、と姿を現し始めた)
上条(最初は聞き間違えかもしれない、風が地面を擦る音のように)
上条(暫くすると金属を削り合わせるような、酷く耳障りな音が)
上条(……まぁ予想はついたんだけど。つーか昼間はどこにいたんだよ)
円周「……お兄ちゃん?」
上条「ん、あぁちょっと考え事だ」
上条(表情を読み取ったのか、腕の中にすっぽり嵌っている円周が声を上げた)
上条(昼間とは打って変わって、円周は弱気になってしまっている。無理もないけど)
上条(そう言えば昨日も夕方ぐらいからおどおどしたよなぁ。暗い所が怖いんだろうか)
上条 カチッ(LEDライトを点け、手帳を取り出す)
上条(これじゃ外に光が漏れる……リュックの陰で書けば、まぁ大丈夫か)
上条(――昨日から散々な出来事が俺、いや俺達に降りかかってきた)
上条(勿論二人で帰るつもりではあるが、万が一のためにこの学生手帳にあった事を記しておく)
上条(願わくば第三者に手に渡る事を――って、それだと俺達はマズイのか。まぁいいや)
上条(冗談は兎も角、そろそろ俺は覚悟を決めようと思う)
上条(俺は――円周と一緒にこの村から脱出する)
上条(そもそもの始まり――『帰らず村』では『神柄足(かむからたり)』という蛇神が信仰されていた)
上条(それ次第は珍しくもない……んだ、そうだ。少なくともこの村に於いては村人とある種の共存関係にあった)
上条(それは『口減らしを生け贄として差し出していた』んだ)
上条(また『特定の病気を持つ家の人間は蛇になる』として)
上条(それは現代であれば絶対に許されない事だ。少なくともこの日本であっていい事じゃない)
上条(でも、当時は。山奥の寂れた農村では、病に伏した人間を長く養う事が出来ず――)
上条(仕方が、無かったんだ)
上条「……」
上条(そうして、不必要な人間を捨てるか殺すかとしている内に、それを糧としてきた蛇達は巨大化する)
上条(一代では到底無理だが、それを何年も続けてきた結果)
上条(人よりもでっかい蛇さんの出来上がり――)
上条「……?」
上条(……あれ?ちょっと待ておかしくないか、これ)
上条(長い長い間をかけて蛇が変異したって、ってのは良いだろう。そういう事もあるかも知れない)
上条(遺伝病やら伝染病があって、感染し末期になった人間を……ってのも、まぁ理解は出来る)
上条(その人達や家族の事を考えると、やるせない気持ちで一杯だけど)
上条(でも、なら『どうして今、大量の蛇が居る』んだ?)
上条(村人が村を放棄したのは短く見積もっても精々十数年ってトコだ。もしかしたらもっと昔かも知れない)
上条(円周の話だと、『帰らず村』周辺の獣や昆虫を食べていたとしても、到底賄える数じゃない。だから、なんだそうだが)
上条(だってのに、表にいる蛇の大群は一体何を食べていたんだよ!?)
円周「……ねぇ、ねえってば」 グイグイ
上条「どした?」
ザァァァァァッ……
円周「雨、降ってきちゃった、よ……」
上条「……あぁ、そうだな」
上条(夏特有の夜の雷か。昼間暑かったから、少し遅れて夕立が来た感じかも)
ピシャアァンッ…………ゴロゴロゴロ……
円周「……!?」 ギュッ
上条(雷の音に怯える円周は年相応の姿で、それなりに微笑ましい。不謹慎かも知れないけど)
上条(……今、俺達が使える武器は……拾った木の棒、LEDライトにライターとキャンプ用の固形燃料と油)
上条(後は学園都市製の獣除けの液体だけ……笑うぐらいに少ない)
上条(だからといってライフル銃があったとしても、難しいだろう)
上条(数で殺到してくる相手、しかも一噛みが文字通り致命傷になりかねない毒持ちへ対して、戦車や装甲車ぐらいはないと安心は出来ない)
上条(爆弾があったとしても、一箇所に蛇を集めない限りは無理だろうし)
上条(知り合いの能力者なら……あぁきっと、御坂やステイルならば楽勝だろう)
上条(飛び道具を駆使すれば、立て籠もるだけじゃなく昨日の内に殲滅していた筈だ)
上条(神裂だったら十分ぐらいで……そう考えると無力な自分が嫌になる――が)
上条(俺一人なら自棄になったっていいかもしれない。けどこの子がいる限りは無茶出来ない)
上条(……まぁ無茶をするにしたって、そもそも選択肢自体が無い訳なんだが)
上条(クローズド・サークル?である以上、どうにかして生き続けな――)
円周「お兄ちゃんっ!」
上条「ん?」
円周「音、音が!」
上条「……?」
……ズスゥ……ズズズッ……
上条(激しい雷雨に混じって蛇達の這いずる音がする)
上条(でもそれだけでは動揺はしない。慣れてしまったのか、恐怖で感覚が麻痺しているのか、分からない所ではあるけど)
上条「……あれ?」
上条(『どうして豪雨の中にも関わらず、そんな小さな音が聞こえる』んだ?)
上条(確かに耳障りな音だけど、雷雨の中で聞こえるような音量じゃない!)
……ズズ、ズズズッ……
円周「……上から、聞こえるよね」
上条「どうしてだよっ!?あれが効いてるんじゃなかったのかっ!」
円周「雨で流れちゃったか、家の近くにある高野槙(こうやまき)から飛び移ったのかも」
上条「クッソ!どうしろってんだよ!?」
円周「……大丈夫。お兄ちゃん」
上条「……円周?」
円周「お兄ちゃんは……お兄ちゃんだけは、わたしが絶対守るから、ね?」
上条(暗闇の中でも、無理に微笑んでいる円周の姿は痛々しい)
上条(肩を振わせ、今にも爆笑しそうな……いや、そんな事は有り得ないが)
上条「……ごめん。ちょっとパニクってた」
円周「いいって。それよりも――」
ズズ……パキパキパキ
上条「何の音だよ?」
円周「屋根は茅葺きだから、潜り込みながら隙間を探しているんだよ」
上条「参ったな……」
円周「そう、でもないよ?意外とラッキーなのかも」
上条「いやいや、無理に盛り上げなくてもいいから」
円周「違う違う。蛇には口の中に嗅覚を感じるヤコブソン器官、あと多分この村の蛇達はクサリヘビ科だから、ピット器官もあると思うけど」
上条「後のは聞いた事がある。赤外線を感じ取れるんだっけ?」
円周「たがら雨ってのは逃げるチャンス、かも」
上条「臭いは雨で流れるし、濡れて体温も低くなるか」
円周「虫の生息状況からすると、蛇達の縄張りは向こうの山までは無いみたいだし」
円周「逃げ切れない距離じゃないと思うよ?」
上条「そう――」
ピキッ、ミシミシミシッ
上条「考えてる暇も無いか」
上条(そこら辺に落ちていた戸板をひっくり返し、固形燃料と油を塗りたくる)
上条(棒切れをタイマツ代わりに使った方がいいのか?)
円周「そっちは必要ないよ。逆に『ここにいるよ』って教えるようなもんだから」
上条「……お前は何でも知ってるんだなぁ」 カチッ
ボボボゥッ
上条(戸板の片面が激しく燃え上がる!俺はそれを)
上条「だあぁらっしゃあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
バキバキバキバキッ!!!
上条(表へ向かってぶん投げた!)
上条「行くぞっ!」
円周「うんっ!」
上条(白蛇達も燃え上がった戸板が飛んでくるのは思わなかったらしく、戸板の周辺と軌道からは退いていた)
上条(急遽出来た『道』を、俺は円周の手を引いて渡る!)
上条「抜け、られるかっ!?」
円周「ちょっとムリかも……あ、お兄ちゃん、それ貰うね?」
バシャアァッ
上条(予め渡してあった学園都市製獣除けをぶちまける!見る見るうちに蛇の群れが退いていく)
上条「臭っ!?――ってお前、それとっとくんじゃっ!」
円周「雨降ってるし、体にかけちゃっても落ちちゃうと思うよ?」
上条「つってもなぁっ!」
円周「あ、ごめんねっ?ネタは今ちょっと余裕無いからっ」
上条「それは永遠にノーサンキューでっ!」
上条(全力疾走しながらもバカ会話――俺もおかしくなってるっぽい)
上条(後ろを振り返る暇も無く、廃屋の脇を過ぎ、雑草の茂る田畑を抜ける)
上条(豪雨と雷鳴で周囲の感覚すら掴めない中、よく走ったと思う)
上条(……だが、俺は大切な事を見落としていた)
円周「んきゅっ!?」
上条「円周っ?大丈夫……な、訳はないよな」
上条(後、数メートルで山に入れるというのに円周が倒れた。正直、高校生の走りについて来ただけでも、凄いんだが)
円周「あ、うんっごめん、ね?――つっ!?」
上条(ストッキングが破れる程に派手に転んだ――足を挫いた円周を抱え上げ、俺はまた走る)
上条「……なんだよ、あれ」
円周「……お兄ちゃん……?」
上条「んっ?あぁいやいや何でもないっ!」
上条(円周を持ち上げる時、俺は後を振り返った。が、その時にタイミング悪く雷が光る)
上条(稲光に照らし出されたのは、何百という白蛇の群れ)
上条(下手をすれば人など絞め殺せそうな程の大きさのものも居れば、バール程のものもいる)
上条(まるで白い絨毯のように、俺達を追い掛けてくる!)
上条「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
円周「あ、お兄ちゃん!そこを右に入って!」
円周「わたしが誘導するから――信じて、ね?」
上条「ああっ!任せろっ!」
――山中
上条(どこをどう走っているのか、覚えてはいない)
上条(只、木々の間を最短距離で抜けジグザクに走る)
上条(昼間でも迷い込んだら遭難するであろう山の中を、俺は円周の言葉通りに走っていた)
上条(冷たい雨が体を打ち体温を奪い、木々の皮や丈の高い草に手足は幾度となく切りつけられている)
上条(視界は零に等しい。時折鳴る雷だけを頼りに)
上条(……しかしどれだけ走っただろうか)
上条(同じ所を堂々巡りしていたかのように――いや、そもそも野生相手に出来る事など無かったのか?)
上条「……クソ……」
円周「囲まれて、いるね?」
上条(いつの間にか周囲を蛇に取り囲まれていた)
上条(木々の間、草葉の隙間に隠しようもなく――隠す必要がないのだろうが――白蛇が鎌首をもたげている)
上条「なんでだよっ!?どうして先回り出来たんだっ?」
円周「……ねぇ、お兄ちゃん。ちょっと走るの疲れちゃったよ」
上条「大丈夫だ、俺が、俺がっおんぶするからなっ」
円周「そうじゃなくって……昨日のね、狼さんの家族の話覚えているかな?」
上条「何を急に――」
円周「お母さんはね、『生きる力の強い兄を助けるべき』なんだよ。科学的見地からすれば、少しでも助かる可能性がある方を、ね?」
円周「だから、お兄ちゃんもね――わたしを置いて、逃げ、よ?」
円周「わたしは大丈夫だからっ!だから、だからっ――」
円周「――当麻お兄ちゃんだけでも、生き、て?」
上条(そう言って円周はとても無邪気に笑う。そんな事をすれば命など無くなるのが分かっているのに)
上条(確かにそれはそうかも知れない。俺が抱えて走らなければ、そして目の前に美味しそうな『エサ』があれば、蛇はそちらを優先するだろう)
上条(それが『科学的』には正しいのかもしれない。けどっ!)
円周「……とうま、お兄ちゃん?」
上条「……大丈夫だよ、円周」
上条(俺は抱えてたいた円周を降ろす。熱い体が離れたにも関わらず、心臓はドクドクと高鳴っていた)
上条「多分、それが正しいんだと思う。もしかしたら誰も俺を責めないかも知れない。けどなっ!」
上条「ここでお前を見捨てちまったら、誰よりも何よりもっ、俺が俺を許せそうにないんだよっ!」
円周「ダメだよっ!そんな事したらっ!」
上条「マニア向けボディのお前より、俺の方が食い出はあるからな。いいか?俺が突っ込んでる間に、走れ!」
円周「お兄ちゃん……!」
上条「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
上条(俺の背丈程まで伸び上がった蛇へ、俺は右手を――)
バスッ!
上条(――ぶん殴ろうとした瞬間、蛇の首が跡形もなく弾け散った!)
円周「あーぁ、折角用意したのに台無しだよぉ」
上条「――えっ?」
円周「うん、うんっ!そうだよねっ、『木原』なら、こんな時こうするんだよねっ!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!
上条(地響きっ!?俺達の周りにいる蛇達が次々とミンチになっていく)
上条(いや、そうじゃない!木の幹にも細かい針のような穴が一瞬で刻まれる!)
上条(これは何かの能力かっ!?)
上条(振り返った先で俺が見たモノは、断線している筈の首から下げたスマートフォンを手にしている円周の姿だった)
上条(彼女の手が液晶の上を滑る度に破裂音が一つ、また一つと轟く)
円周「うんっ、うんっ!『木原』なら『自分自身をエサにして、標的を一網打尽にするなんて朝飯前』なんだよねっ!」
上条「お、おい円周……?」
円周「あははははっ!どうしたの当麻お兄ちゃん、そんなオバケでも見るような顔して?」
上条「これ、一体どういう事なんだ……?」
円周「対人地雷っていう、ベアリング弾を飛ばす機械なんだよ?昨日、いーーっぱい仕掛けておいたんだっ」
上条「昨日っ、て……まさかっ村の中を探索した時にかっ!?」
円周「うんっそーだよ?最初から蛇の変位種がいそうだから、仕込んでおいたんだよー。ね、ね?偉い偉い?」
上条「あぁ、いや、そうじゃなくって」
円周「あ、これ?スマートフォンの事?ごめんねーお兄ちゃん。実は最初っから学園都市と断線なんかしてなかったんだよっ」
上条「えぇっ!?だったらどうしてっ!」
円周「だって『蛇って弱い存在だから、格下の相手にしか襲って来ない』じゃない?」
円周「だからあぁやって演技しないと、蛇さんは襲ってくれないし?」
上条「ちょっと待って!お前だったら全部演技だったのかよっ!?」
円周「うんっ」
上条「また良い笑顔で返事しやがったな!?」
円周「でも手持ちの武器だと一網打尽に出来なかったんだよねー。だから、『一芝居打ってベストポジションまで蛇の群れを引きつけた』んだよ」
上条「俺の心配を返せっ!つーか別に演技しなくても、襲ってくるじゃねぇか!」
円周「あ、なんだお兄ちゃんに言ってなかったっけ?そっかー、それじゃしょうがないよねー」
円周「『木原』っていうのは、『食物連鎖の最上位にいる』んだよっ」
――夜が明ける
上条(結局、俺達が埋葬するまでもなく、『彼女』の遺体は消えた)
上条(泣きじゃくる五和を宥めていたら、いつの間にか朝になってしまっている)
上条「……なぁ、五和。怒ってる?」
五和「……いえいえっとんでもないです!上条さんの方こそ、怒っていませんかっ?」
上条「俺は別に、つーか五和に気を遣わせちゃったなー、ぐらい」
五和「私なんて全然ですっ!むしろ独断専行した方が悪いんですし!」
上条「まぁ……気持ちも分かるけどな。でも結局、『彼女』は何がしたかったんだろ」
五和「多分、ですけど。『楽になりたかった』んじゃないでしょうか」
上条「……死んで、って?」
五和「どうでしょうかね?それだったら自殺するとか、色々方法はあるような気がしますけど」
五和「もしかしたら『死ねなかった』のかも」
上条「不死身的な話か?」
五和「蛇は死と再生のシンボルですから、少しの事ぐらいでは中々、じゃないかと」
上条「……そっか」
五和「……ごめんなさい、色々と」
上条「いやまぁ俺も一人で突っ込む方だし、偉そうな事は言えねえけどな」
五和「ですよねっ!」
上条「立ち直り早っ!?……反省しろよ?」
五和「しませんよ?」
上条「なんでだよっ!?」
五和「救いを求める方がいれば、助けるだけです」
上条「いや、それはスゲーって思うけどな?でも、個人的な意見を言わして貰うとさ」
五和「はい?」
上条「あのままお前が『彼女』になっちまったら、俺はどうしたら良いんだよ?つーか多分一生後悔しながら生きると思う」
五和「それは……ごめんなさい」
上条「他人を救済するって生き方は……まぁ、なんつーか圧倒される時もある」
上条「でもそれって本当に正しいのか?他人を助けるために、身近な知り合いを悲しませてまでする必要はあるのか、って」
五和「どうでしょうねー?それはやはり魔術師としての生き方ですから、そう簡単には変えられません」
上条「……面倒臭いなー」
五和「はいっ、私面倒な女ですからっ!」
上条「そう言う意味じゃねぇよっ!あ、コラ笑ったまま崖の方へ向かうんじゃないっ!」
プップー
五和「車のクラクション音、ですね」
上条「ってか、見覚えのある軽トラ。あ、一昨日のおじさんか」
男「おー、まだ居たんだ。どうだい?研究の方は」
上条(おじさんは神社の下へトラックを横付けすると、荷台に積んであった花束と一升瓶を手にし、境内へと上がってくる)
上条「えぇまぁぼちぼち、かな?」
五和「こちらに神様は、もう居ないんですよね」
男「あー、ウチの村に引っ越したからなぁ。社ん中、空っぽだったろ?」
五和「はい――っておじさんこちらのご出身なんですかっ?」
男「子供ん頃、つっても何十年前も昔の話だわな」
男「あ、にーちゃん達ちょっと退いてくれ」
上条(そう言っておじさんは花束と一升瓶を社の前に置き、懐からライターと線香の束を取り出した)
男「……今日がな。石神井さまの祭りの日だったんだよ」
五和「でしたら、その、移した先の神社でお祭りがあるんじゃ?」
男「んー、そうなんだけどな。俺はまだこっちに居るような気がしてなぁ。あぁ良かったらにーちゃん達も拝んでやってくれ」
上条(線香へ火を付け先端に赤い玉が点ると、おじさんは三分の一ずつ俺にと五和に渡し、残りを本殿の前に置いた)
上条(線香の煙が目に入ったのか、俺はなんだか泣きそうになった)
男「こんな事ぁ言ったら笑われるかもしんねぇが、俺はここの神様と会った事があんだよ」
五和「本当ですかっ!?」
男「おうさっ。ガキの時分、山ん中で迷子になっちまってよ」
男「そん時、泣きながら歩いていたら、正面のガサ藪の中に巫女さんが立ってんだ」
男「それがすっげぇ美人でな?……あぁそれは関係無ぇか。まぁ俺をおいでおいでするから行くわな?」
男「そうして近寄るとガサって藪の中に入る。アレどこ行ったんだ?ってまた遠くの方でおいでおいでしてるんだわ」
男「何回かおっかけるウチに麓まで降りてきたんだが、あの巫女さんはどこにもいねぇ。親父には蛇に担がれた、って言われたけどな」
上条「……変わった、話ですね」
男「だよなぁ?――って、あんたら、研究は終わったのか?なんだったら駅まで載せてくけど」
五和「はい、終わりました。もう多分、来る事はないでしょうけど」
男「……そうかぁ。田舎だしなぁ、ここも」
上条「……」
五和「上条、さん?」
上条「あぁいえ、その――来ます。やっぱり」
五和「……はい?」
上条「来年の今頃、石神井さんのお祭りに合わせて――」
上条(昔から蛇は再生と豊穣の象徴だと言われてきた。だったら)
上条「――また、『彼女』に逢いに」
男「彼女……?待ち合わせでもしてんのかい?」
上条「約束はしていませんが、きっとここで逢えるような気がするんです」
男「そうかい。だったら石神井さまにもついでに挨拶してってくれや。元々は子供の大好きな神様だっつー話だから」
五和「わ、私も来ます!」
男「おっ修羅場じゃねえかにーちゃん?」
上条「違いますよっ」
男「いやいやっ若いウチには浮気の一つや二つはすべきだと俺は思うぜ?」
五和「奥様にチクりますよ?」
男「一途なのが一番だよなぁっ!」
上条「あ、あれ?何かリアクションが俺と似ているような?」
男「(いいか?お前の『彼女』は思い詰めるタイプと見た。だから適当に話合わせときゃ問題ねぇ)」
上条「(そんなアドバイス要らねぇよっ!?)」
男「(あ、でもケンカしたらブッすり刺されるな)」
上条「(うん、昨日そうなりそうだった)」
五和「もしもーしっ。荷物まとめますから手伝って下さいよー」
男「そしてにーちゃんの方は尻に敷かれるタイプ、と」
上条「ウルセェっ!何一つ間違ってない所がウルセェっ!」
上条(俺達は手早く荷物をまとめ、軽トラの荷台に載せて貰った)
上条(行きとは違って、ガランとしていて快適そうだが、それはそれで何故か寂しい)
上条(幾つかの廃屋や祠を通り過ぎ、蝉が泣き喚く緑のアーチ……まぁ、村の入り口までさしかかった頃)
五和「……ぁっ」
上条(五和が指さす先、石神井神社がある丘の上に白い人影を見た)
上条(この距離では分かる訳なんて無い。だからそれは幻想の筈なのに、俺にもくっきりと見えているらしい)
上条(おじさんの見た姿そのままに、『ずっげぇ美人』な巫女さんが『二本しかない両手』をぶんぶん振っていた)
上条(だから、俺はこう叫んだ。負けじと右手を振りながら)
上条「また、来年なあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
とある魔術の禁書目録SS 幻想魔笛 『“帰らず村”後編 ~カンカンダラ~(魔術ルート)』 -終-
とある魔術の禁書目録SS 幻想魔笛 『帰らず村』 -完-
――翌日 無人駅の待合室
上条「だからさ、幾ら何でも酷いと思うんだよ」
円周「え?でもお兄ちゃんが心配しないように『わたしは大丈夫』とかって、何度も言ったよねぇ?」
上条「普通は真に受けねぇよ!つーか『あ、この子健気に笑ってるな!』って思う所だろ!」
円周「あぁあれ。あれはねー、『どうしてお兄ちゃん必死なの?死ぬの?』って爆笑を堪えてんだよ」
円周「狼さんの家族の話もしたのになー」
上条「したけど。アレ俺に一人で逃げろって意味なんだろ?」
円周「『わたしはお兄ちゃんよりも強いんだから、一人で逃げればいいんじゃない?』って言う意味だし」
上条「……怒るよ?子供にだってそげぶする派だからね、俺は」
円周「だってエサはエサ、じゃなくちゃいけないんでしょ?」
円周「『木原』が『木原』だったら、エサにならないんだもん」
上条「その理屈もどうかと思うんだよ」
円周「だってわたしが『木原』していた昼間の間は、蛇達も怯えてたよね?」
上条「……偶然じゃね?」
円周「うんまぁ、お兄ちゃんがそう思うんだったらいいんじゃないかな?昨日のアレで殆どの蛇は殺しちゃったし」
円周「お兄ちゃんが前に出ちゃったから、少し撃ち漏らしたけど」
円周「……もしかして学園都市まで着いて来ちゃうかも?」
上条「怖い事言うなよっ!……あぁでも、一つ疑問があんだけどさ」
円周「謎は謎のままにしておいた方が、良い事だってあるんだよねぇ」
上条「……そうか?これ以上心理的なダメージ受けたくないけど、キツい話なの?」
円周「わたしにはお兄ちゃんの心は読めな――うん、うんっ、なんだ言ってくれれば良かったのに」
上条「あ、伝わった?」
円周「伝染したストッキングよりもニーソの方が好きなんだね?」
上条「何一つ伝わってねぇ!?最初から最後まで何一つお前が理解出来ないよっ!」
円周「まぁまぁ、びっくり箱みたいで楽しいじゃん?新しい発見があるって素敵な事だと思うよ?」
上条「限度があるよね?少なくとも俺はこの二日、心身共に疲労しまくったからな?」
円周「――あ、軽トラのおじさんだぁ。わたし挨拶してくるっ」
上条「おー」
円周「おっじさーんっ!」
男「あー、一昨日の」
円周「えっとねー、円周キーホルダー落としちゃったみたいなの。車の中に落ちてないかなぁ?」
男「落とす、って荷台だろ?俺が見た時には何もなかったけど」
円周「えー、うっそだぁ。探してみてよー」
男「はいはい、分かったよ。よいしょっと」
円周「あ、そうだ。ねぇねぇおじさんっ!」
男「なんだ?」 ゴソゴソ
円周「蛇さんに『エサ』やってたの、おじさんなんでしょ?」
プスッ
男「……ぐっ!?」
円周「あー、大丈夫だよっ。即効性だけど、数時間で動けるようになるから」
男「……っ!」
円周「ってかおじさん、右手に握ってるのっての鉈だよねぇ?円周の落としたキーホルダーじゃないよねぇ?」
円周「って言うか『帰らず村』と『カンカンダラ』の噂を流したのもおじさんなんでしょ?違うかなーっ?」
円周「『エサ』を呼ぶために、ねっ」
男「……」
円周「そんなに心配しなくたって良いよぉ。わたしはなんにもする気はないし?」
円周「どうせ物的証拠なんて蛇のお腹の中なんだしー、噂を流したぐらいじゃ罪に問われないもんねっ」
円周「『たまたま蛇が居る所へ誘導した』だけだからねー?」
男「……」
円周「おじさんがわざわざタイミング良く、この時間に現われたのも偶然なんかじゃないんでしょ?」
円周「まるで待ち伏せしてたみたいだもん、ねー?」
円周「けど心配しなくっていいんだよ。わたし達はもう帰るし、別にどうこうするつもりは全然無い、っていうか興味ないから」
円周「だからまぁ、後は勝手に続ければいい――ん、だけどぉ」
ガサガサガサッ
円周「あ、でもでも『ついて来ちゃった蛇』が何をするのかまでは、責任持てないよね?」
男「!?」
円周「おじさんがやったように『不可抗力』だもんね。うんうん仕方がないないっ」
円周「クサリヘビは消化毒だから、噛まれた所がズタズタになっていくんだろうなー。怖いなー」
円周「動けないまま、助けを呼べないままで自分の育てた蛇に食べられる、ってのもある意味飼い主冥利に尽きるんじゃないかなぁ?」
男「……っ」
上条「おーーいっ!電車が来るぞーーーっ」
円周「あ、ごめんね?もう行くよ、ばいばーいっ」
男「――!――っ!」
ジジジッ
円周「うん、うんっ!こんな時、『失踪した学園生』なら、きっとこう言うんだよねっ!」
男「……っ!?」
円周「――『苦しんで、死ね』」
とある魔術の禁書目録SS 幻想魔笛 『“帰らず村”後編 ~カンカンダラ~(科学ルート)』 -完-
※すいません。内容がインテリビレッジ三巻と被りまくってました。書いた週の週末に読んで愕然としました
蛇+杉沢村ってコンセプトが丸被り……いやもう本当にごめんなさい
意図した訳じゃないんですが、まぁ超々劣化コピーぐらいに思って読んで頂ければ
話分けて書くの面倒だし、アンカーで選択させるのも大して意味がないしで散々でした
ちなみに前後編両ルート合計・文字数大体4万ぐらい。『学園探訪』でゴールドが調子に乗って主人公になった話トータルとほぼ同じ分量です
あんまり怖くないですし……反省ですね、えぇ。最初から一人称一ヒロインで書いた方が良かったかも知れません
このSSは何ら事実には即していませんし、日本国内にS村など存在した事も無いですから。100%フィクションであり、嘘八百をそれっぽく書いているだけです
後……驚いたのは『五和vs円周』が59-43(大体)になった事。五和さん人気あるんですね
上司(添削頼む人)は「みんなペ×だから円周勝つお!」とファミレスの食事一回分賭けましたが、お陰様で勝つ事が出来ました
ちなみに敗者の言い訳は「次回予告で円周をペロペ×させなかったから負けたんだ!」そうです
エロSSじゃねぇんですがね。いや必要があれば書きますけど、あの流れで触手プレイする必然性は無い……無いですよね?
ともあれ最後までお付き合い頂き有り難う御座いました
では、またいつか
ぶっちゃけワケ分からん方も多いと思うので、SS(両ルート全文)をPDF形式で配布します。宜しければご覧下さい
再配布禁止、リンク切れたらそれ以上はご縁がなかったと言う事で
http://kie.nu/1aA1