【前編】の続き

251 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 07:57:50.71 ecyXlm1f0 176/373


 数日後。
 あれ以来、特にヒュアデスは襲ってくることは無く。
 杏子はお互いにたどたどしいながらも、温かく鹿目家へ迎えられる。

 そしてこの日。

 杏子は見滝原中学に通うことになった。


252 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 07:58:20.26 ecyXlm1f0 177/373


 ファーストフード店にて。
 4人は集まっていた。


まどか「流石に同じクラスにはなれなかったね」

杏子「同じ住所の奴がクラスに2人もいたら怪しまれるって、学校の配慮ってやつだよ」

仁美「杏子さんは何も注文なさいませんの?」

杏子「流石に居候してる身だからね……、貰ったお小遣いを気軽に使うのも気が引けて」

さやか「しょーがない、今日はこのさやかちゃんが奢ってあげよう!」

杏子「マジかい、サンキュ! じゃあこれとこれとこれと……」

さやか「ちょ、ちょい待ち! 2つまで2つまで!!」


253 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 07:58:51.32 ecyXlm1f0 178/373


 席に着いた4人は談笑に花を咲かせていた。


杏子「でさー、その男子がやたらしつこく聞いてきて――

仁美「まぁ! きっとその方は杏子さんに想いを寄せているのですわ!」

杏子「ちょ、ちょっと勘弁してよ! あたしまだそういうのガラじゃないし」

まどか「あはは」

さやか「うんうん、恭介もそれくらい積極的ならよかったのにねぇ。なーんで美少女2人からこんなに尽くされてるのに気付かないんだか……って」

さやか「じゃなぁーーーーーーーい!!」

まどか「うわっ!」

仁美「どうされましたのさやかさん!?」

さやか「なんであたし達はヒュアデスと一緒に登下校して、帰りにファーストフード店で仲良く恋バナやってるんだぁああああああ!!」

杏子「……もうあたしはヒュアデスをやめてこっちに付いたって言ってるじゃん」

まどか「そ、そうだよ! 杏子ちゃんはもう味方だよ!」

さやか「そんなの信じられるかぁ! まどか、ついこの間あんたはこいつに殺されかけたんだよ! 2回も!」

まどか「そ、そうだけど……」

仁美「そうですわね、私も少し警戒が足りないと思ってましたが」

さやか「どーせこいつはスパイかなにかに決まってるよ! こっちの内情を覗いて寝首掻こうとしてるに決まってる!!」

杏子「……別にあんたにそう思ってもらっても構わないよ」

さやか「なにぃ!!」

杏子「所詮、部外者だろ?」

さやか「っ!!」

仁美「さやかさん!!」


 さやかは突然駆け出して、ファーストフード店から出て行った。


254 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 07:59:29.10 ecyXlm1f0 179/373


まどか「ご、ごめんね杏子ちゃん。さやかちゃんは悪い子じゃないの。私の心配をしてるだけで……」

杏子「別に気にしちゃいないよ。それよりもあいつこんなに残していきやがって」


 杏子はさやかの食べかけのハンバーガーを頬張る。


仁美「確かに少し妙ですわね、普段はあんなに突っかかる方じゃありませんのに……」

杏子「……」

まどか「あ、あの! そういえば仁美ちゃん。そろそろ時間大丈夫?」

仁美「え? ああそうですわね。そろそろお稽古の時間ですし失礼させていただきます」

まどか「じゃあ、杏子ちゃん。私達も行こう?」

杏子「ああ、ほむらとマミはもう呼んでるのか?」

まどか「うん、今から行ってちょっと早く着くくらい」


255 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:00:13.60 ecyXlm1f0 180/373


 夕方、河川敷。
 さやかは制服のまま一人、トボトボと歩いていた。


さやか「はぁー、家に居ても落ち着かないよ……」

さやか「なんであたしツンケンしちゃってるんだろ」

さやか「……」

さやか(なんなんだろう、あの杏子って奴)

さやか(後から現れたくせに、敵のくせに……いつの間にかあたしよりもずっとまどかに近い所に居る)

さやか「ん、あれは……」


ほむら「準備OKよ、まどか」

まどか「よし、オーバーソウル!」

マミ「ここまでは安定してできるようになってきたわね」

杏子「おーし、今日は模擬戦でもやってみるかい?」

まどか「う、うん!」

杏子「ちょっと派手に暴れるから、結界も張るぞ」

マミ「それじゃあ私はお留守番かしら?」


さやか「……なんで隠れてるんだろ、あたし」

さやか「……」

さやか「帰ろう」


256 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:01:00.62 ecyXlm1f0 181/373


 夜、まどかの部屋。
 とりあえず相部屋ということで、杏子とまどかは同じ部屋に寝ていた。


杏子(あすみ……)

まどか「ねぇ杏子ちゃん、まだ起きてる?」

杏子「ん、なにさ?」

まどか「あすみちゃんっていう子について教えて欲しいなって」

杏子「……」

まどか「あの、ね。この前戦った……っても言えないんだけど。その時にすっごく私を見て怒ってたから、何かあったのかなって……」

杏子「怒ってたんじゃないよ、あれは逆恨みだ」

まどか「逆恨み?」

杏子「あすみは、あいつはあたしよりずっと酷い目に合ってるんだ」


258 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:02:08.44 ecyXlm1f0 182/373


杏子「あすみは元々普通の女の子だった、親父とお袋さんと一人娘の普通の家庭でさ」

杏子「でもある日親父の浮気が原因で離婚したんだそうだ、その時お袋さんの方に引き取られたらしい」

杏子「お袋さんと二人暮らしになったけど、それでも幸せだったんだそうだ」

まどか「……」

杏子「でも、ある時お袋さんが倒れた。過労が原因でね。子育てと仕事の二足草鞋が負担になってたらしい」

杏子「死んじまったんだって」

まどか「っ!!」

杏子「それで親戚に引き取られたらしいんだけど、この親戚がとんでもないロクデナシでね。
    毎日毎日あすみを虐待していたんだ。その内容はあたしも耳を覆いたくなるほどだった」

まどか「……っ!」

杏子「新しい学校でも上手くいかなかったらしくてね。虐められてたらしい」

杏子「どこにも逃げ場が無くなって、心も体もボロボロになったあすみは、最後の助けを求めて親父の所へ行ったんだそうだ」

杏子「でも」

杏子「その親父は、既に浮気相手と幸せな家庭を築いていた。あすみが行っても邪魔者にしか見られなかったんだそうだ」

杏子「とっくに見捨ててたんだよ、親父はあすみを」

杏子「その親父はあすみになんて言ったんだと思う? 『俺のところに来るなよ迷惑だ』『お前はもう俺とは関係ない』だってよ」

杏子「全てに絶望したあすみは、自分以外の人間の幸せというものを無差別に憎み始めた。ただひたすらに他人の不幸を求め始めた」

杏子「そんな時に、ジュゥべえが現れたんだそうだ。そしてあすみは契約した」

杏子「自分以外の人間を不幸にさせる力が欲しいってね」

260 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:02:46.11 ecyXlm1f0 183/373


杏子「そうして手に入れた魔女の力で、あすみは自分を虐待していた親戚の奴等、そして親父に復讐した。全員を病院送りにして、中には完治しない障害を負わせてやった奴もいたらしい」

杏子「そんなあいつがヒュアデスに行く理由なんて考えるまでもねー」

杏子「これが、あたしの知ってるあすみの顛末だ」

まどか「……ぅ、うう」

杏子「って、おい。あんた泣いてるの?」

まどか「酷いよ、そんなのってないよ……。あんまりだよ……」

杏子「……」

まどか「どうにかできないの? なんとかしてあげられないの……?」

杏子「さーね、だけどさ。これだけは言っておく」

杏子「今度あいつに会った時は、容赦するな。あいつは本気で人類の破滅を望んでる」

まどか「!!」

杏子「あいつを助ける助けない以前にさ、負けたら世界が終わっちまうんだよ。それだけは忘れんな」

まどか「……」

杏子「わかったらもう寝ようぜ」

まどか「うん……」

262 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:03:29.23 ecyXlm1f0 184/373


 まどかも杏子も眠れずにいた。
 暗い天井を眺めながら杏子は思う。


杏子(あたしは今まで、離れて行った妹とあすみを重ねてきた)

杏子(あたしは初めからヒュアデスを裏切る腹積もりだったのに、あいつと仲良くなって中途半端に希望を持たせた)

杏子(そして、今のあたしの状況は)

杏子(あすみの反転そのものだ)

杏子(引き取られた親戚の家ではそこそこ良くしてもらって、学校にも仲間が居て、離散はしたがまだ家族にも希望は残ってる)

杏子(今のあたしをあすみが見たらどう思うんだろうか?)

杏子「……」

杏子(駄目だな、悪い方にしか考えが浮かばないわ)

杏子(寝よう)

264 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:03:57.62 ecyXlm1f0 185/373


 美国邸にて。
 あすみは窓際であすみは物思いに更けっていた。
 欠けた月の光が幼い横顔を照らす。


あすみ「……」

織莉子「いい子は寝る時間よ?」

あすみ「あすみにそれ言いますか?」

織莉子「ふふふ、そうね。いい子にはもったいない夜ね。はい、ココアでよかったかしら?」

あすみ「どうも」

織莉子「お月様と何をお話ししていたのかしら?」

あすみ「……契約したときのことを」


267 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:04:41.86 ecyXlm1f0 186/373


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 夕焼けに染まる電柱の上。
 キュゥべえとジュゥべえが会話をしていた。


キュゥべえ「やれやれ、ジュゥべえ。君はまだ魔法少女の候補を見つけていないのかい?」

ジュゥべえ「い、いやいやキュゥべえさん! オイラだって、その……」

キュゥべえ「……」

ジュゥべえ「すいません」

キュゥべえ「仕方ないね、ほら。そこへ行ってごらん。そこに神名あすみという子がいる。彼女は現在絶望している、魔女と契約するなら今だ」

ジュゥべえ「あ、ありがとうございます! では行ってきます!」

キュゥべえ「今情報を……ってもう居ないや」

269 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:05:15.03 ecyXlm1f0 187/373


 夕方。
 学校から一人帰路につくあすみが居た。


あすみ(嫌だ帰りたくない、あの家はもう嫌だ)

あすみ(嫌だ、汚い、どいつもこいつも汚い、死ねばいいのに、死ねばいいのに)


 あすみの目の前を楽しげに会話して歩く同級生が通る。


あすみ(死ね)

あすみ(どうして私はこんなに辛いのに、あいつ等はあんなに楽しそうなんだ)

あすみ(あいつ等だけじゃない、お父さん……いや。あの男も)

あすみ(あの男は私が殴られている間も、私が汚されている間も、ずっと幸せに暮らしてたんだ)



あすみ(憎い憎い憎い憎い憎い妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい)



ジュゥべえ「よう、はじめましてあすみ! オイラの名はジュゥべえ!」

あすみ「!」

ジュゥべえ「オイラと契約して魔法少女になってくれ!」

あすみ(幻覚?)


270 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:05:43.56 ecyXlm1f0 188/373


あすみ(夢でも見ているのだろうか? とうとう頭がおかしくなったのだろうか?)

ジュゥべえ「というわけで! 魔女と契約すれば願いを叶える為の力が手に入るんだ! 悪い話じゃないと思うぜ?」

あすみ(でも)

ジュゥべえ「な、なにかないか? どんな願いでも叶うとは言わねぇけど、大抵の願いなら何とかなると思うぜ?」

あすみ(悪魔でも幻覚でもなんでもいい)

ジュゥべえ「お、おーい? あすみ?」

あすみ(その魔女の力は魅力的だ)

あすみ「他人を不幸にする力が欲しい」

ジュゥべえ「え!?」

あすみ「私の心を踏みにじって幸せを満喫している奴等全員を! 私と同じところまで引き摺り下ろす力が欲しい!!」

ジュゥべえ「……そ、それが願いなのか?」

あすみ「うん」

ジュゥべえ「え、えーっと……それじゃあこの魔女が適任かな?」


 ジュゥべえが何かを取り出した途端。
 展開された魔女の結界が、あすみを吸い込んだ。

273 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:06:55.34 ecyXlm1f0 189/373


 結界の中。
 オーロラのようなサイケデリックな景色が煌めき。無能な鳥頭の男達が踊り狂う魔の空間。
 丸テーブルのような移動する足場にあすみは立っていた。

 果ての見えぬ天上から吊り下げられた鉄の鳥籠に、女性の足だけが入っているような魔女とあすみは相対していた。


あすみ「……これが魔女?」

ジュゥべえ「ああ、あすみのパートナーがこの魔女になるかどうかはまだ決まってねぇけど……おっ!」


 あすみの前に光を放つ緋色のソウルジェムが現れ、あすみの手に収まる。


ジュゥべえ「契約は成立だぜ、あすみは選ばれた。それがあすみの新しい力だ……!」

あすみ「この力を使えば、私を苦しめていた奴等に復讐できる?」

ジュゥべえ「造作もないだろうぜ」

あすみ「誰にもバレることなく?」

ジュゥべえ「もちろん」

あすみ「そう……ふふふ」

あすみ「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」


 結界の中に、あすみの高笑いが木霊した。

275 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:07:24.22 ecyXlm1f0 190/373


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 ヴェールのように明るい空を見上げ、あすみは思う。


あすみ(私は選ばれた、魔女に、力に)

あすみ(私には汚い奴等を断罪する力がある)

あすみ(死ね、みんな死ね。私より幸せな奴は全員死ね)

織莉子「そういえば佐倉さん、いえ今は鹿目さんだったかしら?」

あすみ「!!」

織莉子「明日様子を見てみましょう? それで場合によっては私も対応を変えるわ」

あすみ「……はい」


279 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:09:13.56 ecyXlm1f0 191/373


 見滝原中学、昼休み。
 魔法少女会議として、まどか、ほむら、杏子、マミの4人が屋上に集まり、弁当を広げていた。


まどか「そういえばマミさん、杏子ちゃん。ずっと気になってたんだけど」

まどか「キュゥべえや織莉子さんの言う、予選や本戦って一体なんですか?」

マミ「うーん、実は私もよく知らないのよね。ただこの前のように、私闘や交戦が認められるのはサバトの予選期間中だけ。
    そして偉大なる魔女をパートナーにするための戦いは、本戦が本番っていうのは聞いたわ」

杏子「あー、あたしもそれぐらいしか聞いてないな。あいつ等それ以上のことはしゃべらねーんだもん」

ほむら「それさえ聞ければ十分よ」

まどか「ヒュアデスは何か知ってるのかな……」

マミ「さぁ、でもキュゥべえ達からなにかを聞いた可能性は低いわね。あくまで中立らしいし」

杏子「それなんだけどさー、あいつ等本当に中立なの? 本当はどっちかに贔屓してるんじゃない?」

まどか「きょ、杏子ちゃん……」

ほむら「それと、最近ヒュアデスは何もしてこないわね」

マミ「ええ、ここまで静かだと逆に不気味ね……」

まどか「杏子ちゃんなにか知らないの?」

杏子「悪いね、知らないわ。あたしは織莉子に信頼されてなかったからね。毎回作戦もギリギリになって知らされてたし」

ほむら「そういえば聖カンナという奴も同じようなことを言ってたわ」

杏子「カンナか……、あたしもほとんど会ったことないんだよね。あいつは織莉子とは別の意味でイカレてる」

まどか「その人も杏子ちゃんみたいに味方になってくれるかな……?」

ほむら「それはありえない」
杏子「それはありえねぇ」

ほむら「勘だけど、彼女はそういう人間じゃない」

杏子「意見が合ったなほむら、確かにあいつはそういうタマじゃねー」

杏子「あいつは、織莉子やあすみとは別の理由で人類の滅亡を望んでる」


281 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:09:40.28 ecyXlm1f0 192/373


 放課後、通学路にて。
 仁美と杏子とほむらとまどかの4人は並んで帰路についていた。


仁美「さやかさん、今日は一緒ではありませんわね」

まどか「何があったんだろう……。昨日からちょっと変だよ」

ほむら「気に掛けることは無いわ、どうせ大したことのないことよ」

仁美「そうだといいんですけど……」

杏子「……」

仁美「それでは私はこの辺にて」

まどか「うん、ばいばい」

ほむら「……嫌な胸騒ぎがする。一応今日は家まで送るわ、まどか」


283 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:10:22.82 ecyXlm1f0 193/373


 3人になり、鹿目邸の近くの道へ来たとき。
 2人は現れた。


ほむら「……やはり来たわね」

織莉子「ふふふ、御機嫌よう。暁美さん、鹿目さん」

あすみ「……」

杏子「あすみ……」


 あすみはぶつぶつと何かを呟きながら、じっとりと湿った目でギロリとまどかを睨みつける。


まどか「ひっ……!」

織莉子「ふふふ、連れないじゃありませんか佐倉さん……いえ、杏子さん? 仲間でしたのに黙って居なくなるなんて……」

杏子「白々しい。なんでもお見通しのあんたのことだから、最初から全部わかってたんだろ」

あすみ「まどか、まどかぁああああああ!!」

まどか「っ!!」

あすみ「交戦だ! 受けろ!!」

まどか「う、うん……わかった」

ほむら「怯えないで、あなたには私が付いている」

あすみ「広範囲オーバーソウル! 結界!!」


285 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:10:46.13 ecyXlm1f0 194/373


 残された杏子と織莉子。
 織莉子はにこやかに語りかける。


織莉子「さぁ、私達も始めましょうか」

杏子「……嫌だね、誰があんたみたいな奴と」

織莉子「あら、それは残念。それではあすみちゃんの方へ加勢しましょうか」

杏子「……やめろ」

織莉子「それじゃあ、やることはわかりますよね?」

杏子「広範囲オーバーソウル、結界」


286 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:11:13.86 ecyXlm1f0 195/373


 2度目になるあすみの結界。
 サイケデリックな空間に丸テーブルのような足場が点々と存在している。


あすみ「よくも、よくも……」

まどか「……」

キュゥべえ「お互いの同意を確認、交戦を許可するよ」


 まどかとあすみは同時に変身する。


あすみ「オーバーソウル! ロベルタ!!」

まどか「オーバーソウル! ホムリリィ!!」

289 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:11:45.51 ecyXlm1f0 196/373


 景色の流れる夜のハイウェイの結界。
 杏子と織莉子は変身してお互いに向き合っていた。


杏子「……」

織莉子「遅いですね、インキュベーター」

ジュゥべえ「はぁっ、はぁっ! お、お待たせ! ちょ、ちょっと用事があってな」

織莉子「それでは行きますよ、杏子さん」

杏子「ああ、きな……!」

ジュゥべえ「お互いの同意を確認! 交戦を許可するぜ!」

291 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:12:25.00 ecyXlm1f0 197/373


 結界の中。紫の炎を灯す弓を持ち、紫の光の翼を両肩から生やしたまどかがあすみがぶつかり合う。
 翼の光を放つ推進力で移動するまどかに、あすみは強化された脚力だけでぴったりと張り付いている。

 あすみは容赦なくモーニングスターを振う。
 連続して襲ってくる暴力の権化を、まどかは光の翼で防ぎ続ける。


あすみ「死ね、死ねぇ! 死んでしまえ!!」

まどか「っ!!」

あすみ「この雌豚が、ビッチが、娼婦がッ!」


 あすみの振るったモーニングスターが翼に直撃したとき。
 片翼はガラスのように砕け散った。


あすみ「あはぁ! そう、そのオーバーソウルも無敵じゃないんだね! 思いっきり殴れば砕ける、当たり前か!」


 あすみは砕けた翼側からさらに追撃を仕掛けようとする。
 まどかは片翼だけでどうにかあすみから距離を取り追撃を避けると、砕けた翼を再構成する。


あすみ「ちっ、防がれるの以上にウロチョロされるがムカつく!」

まどか「くっ、スプレットアロー!!」


 まどかはあすみへ向けて、桃色の光の矢の散弾を放つ。
 あすみは……。


あすみ「がっ!!」

まどか「!?」


 反応が間に合わず直撃した。
 しかし魔力で肉体を強化しているのか、傷は浅い。その上全く怯む様子が無い。


あすみ「死ぃねぇ!!」

まどか「……」


293 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:13:03.26 ecyXlm1f0 198/373


 ハイウェイの結界の中。
 杏子は血の混じった空気を咳き込みながら、汚れ1つない織莉子を睨みつける。
 杏子には打撲のような痣が、露出した素肌の至る所にあった。


杏子(つ、強い……!)

織莉子「そんな怖い顔をしないで。降参なら受け付けますよ」

杏子「ざ、けんな! 誰が!!」


 杏子はショートワープで織莉子の頭上に回るが。
 突き立てられた槍は突如現れた魔力球に防がれる。
 同時にまるで出待ちでもしていたかのように、杏子の左右から魔力球が放たれる。

 ゴキリ、と骨が砕ける音がした。


杏子「が、ぁ……」

織莉子「ごめんなさいね」

杏子(まただ……、こいつの固有武器はこの水晶で間違いないんだろうけど)

杏子(なんなのよ、こいつのオーバーソウルは……!!)

杏子(ほむらみたいな察知や予測じゃない、まるで初めからどうなるかを知ってるみたいな!)

杏子(そして、一番恐ろしいのは……)

織莉子「どうしました? 次はこちらから行きますよ」

杏子「ぐっ!!」


 放たれた3つの魔力球を杏子はショートワープで織莉子の背後に回って回避するが。
 またしても出待ちしていたかのような1つの魔力球が、杏子へ放たれる。

 杏子は槍を盾にして防御しようとするが。


杏子「かっ!!」


 蛇のように曲がって軌道を変えた魔力球が杏子の腹を捉える。


杏子「が、ぐぇ……げぼっ!」


 杏子はその場に吐瀉物を吐いて、咳き込む。
 その様子を見下ろした織莉子が悠々と近づいてきた。


杏子(また、まただ……!)

杏子(ただの未来予知じゃない、こいつは過程を捻じ曲げてあたしに攻撃を当ててきやがる!)

織莉子「まだ、やりますか?」

杏子「……とーぜんだよ、この程度なんでもないね!」

織莉子「……憐れな子」


294 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:13:31.30 ecyXlm1f0 199/373


 まどかとあすみは相変わらず膠着していた。
 いや、状況は徐々にまどかに有利になっていった。
 まどかが逃げ回り、時々矢を放ち、怒り狂ったあすみは反応が間に合わず矢が直撃する。

 桁外れた魔女の魔力で肉体を強化しているので決定打にはならないものの、
 少しずつ、体力が削られていく。


あすみ「はぁー、はぁー!!」

まどか「……わからないよ」

まどか「あすみちゃんは一体何にそんなに怒っているの?」

あすみ「ふっざっけんな……、お前がそれを聞くか……!」

あすみ「杏子お姉ちゃんを返せ! まどかぁあああああああああああああ!!」

まどか「っ!!」

297 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:14:27.73 ecyXlm1f0 200/373


 杏子は倒れた。
 骨折数ヶ所、粉砕骨折1ヶ所、打撲は数えきれないほど。

 むしろここまで立っていたのが不思議なくらいだ。

 肩で息をする織莉子が、憐憫と罪悪感の篭った目で杏子を見下ろす。


織莉子「はぁ、はぁ……。やっと、倒れてくれましたか……」

織莉子「よく頑張りましたよ貴女は。絶望を目の前にしながらここまで戦い抜いたことは素直に賞賛させてもらいます」

杏子(ち、チクショウ……)

杏子(身体が動けない、足が立てない……)

織莉子「……最後に聞いておきます」


 織莉子はしゃがんで、杏子の顔を覗き込んだ。


織莉子「ヒュアデスに戻る気はありませんか? 貴女の家族も含めて、人々全てを救済しましょう」


 杏子はゆっくりと顔を上げると。
 血の混じった唾を織莉子の顔に吐きつける。


杏子「誰、が……戻るかよ」

織莉子「……残念ですね」


 織莉子は杏子の胸元のソウルジェムを取った。


織莉子「ここまで痛めつけてごめんなさい、今この戦いの運命から解放して差し上げます」


299 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:14:58.60 ecyXlm1f0 201/373


杏子(チクショウ、こんなところで終わりかよ)

杏子(こいつの気まぐれであたしの夢は終わるのかよ)

杏子「ちく、しょう。助けてくれ、誰か」



「だりゃあああああああああああああああああああああああああ!!」



織莉子「!?」


 突如現れた青い閃光が横薙ぎに織莉子の手を掠め、杏子のソウルジェムが宙を舞った。


「ゲットぉ!!」


 片手でソウルジェムを取ると、青い影はスタリと着地する。


杏子「テメーは……」

織莉子「くっ……! 何者ですか!!」

さやか「通りすがりのさやかちゃんだぁあああああああああ!!」

ジュゥべえ「杏子は直前で救援要請をしていた、さやかの乱入を許可するぜ!」

301 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:15:34.42 ecyXlm1f0 202/373


 杏子とまどかが交戦する少し前。
 さやかは一人学校から帰っていた。


さやか「……」


 『所詮、部外者』。
 杏子の言ったその言葉がずっと胸に引っかかっていた。


さやか「……」

さやか「あれは、恭介……?」


 自分の想い人が一人下校していた。
 恋敵の仁美はまどか達と一緒に帰っている。


さやか「抜け駆け、しちゃおっかな」

さやか「ははは、抜け駆けも何も一緒に下校とかいつもやってたことじゃん」

さやか(そういえば、サバトとかいうのに関わってから恭介とは一言も喋ってなかったな……)

さやか「戻ろう、あたしは日常に」


――どうせ自分がいくら心配しようと、彼女達とは同じ立場に立つことすらできないんだから

――だったら自分は全てを忘れて日常に戻ってしまえばいい

――全てを、忘れて……


さやか「できるわけ、ないでしょ……!」

さやか「友達が命懸けで戦ってるっていうのに!!」

さやか「どうしてあたしには、あたしには……」

さやか「……」

さやか「!!」


303 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:16:08.61 ecyXlm1f0 203/373


さやか「ジュゥべえ! ジュゥべえ!!」

ジュゥべえ「なんだよ、ってなんださやかか……」

さやか「居るんでしょ! 聞こえてるんでしょ!!」

ジュゥべえ「魔法少女以外にはオイラ達インキュベーターは存在を認識できないっての」

さやか「魔法少女の素質の無い人には姿が見えないんだってね、あんた達……!」

ジュゥべえ「……」

さやか「でも、あたしは一度あんたの姿を見ている! あんたの声を聞いている!!」

ジュゥべえ「!?」

ジュゥべえ「そんな……、いや、そういえば……あの時か!!」


 それはマミと一緒に初めて呉キリカに襲撃されたあの後。
 さやかは確かにマミやまどかと一緒に説明を聞いていた。


さやか「正直に答えて! あたしには本当は素質があるんでしょ! 魔法少女になれるんでしょ!?」

ジュゥべえ「しまった、どうしよう。キュゥべえさんに怒られる……!」


 ジュゥべえは渋々さやかに姿を見せる。


さやか「!!」

ジュゥべえ「確かにさやかには素質はあるぜ」

さやか「そ、そうなの! だったら!!」

ジュゥべえ「だ、駄目だ駄目だ! 魔女と契約する資格があるのは絶望に飲まれた者だけなんだい!! さやかは絶望に……飲まれて、るな……一応」

さやか「!!」

ジュゥべえ「だ、駄目だ! 今更魔法少女を増やしちゃルール違反になる!」

さやか「そんなルール捻じ曲げてみせる!!」

ジュゥべえ「そ、それにもうほとんどの魔女はグレートスピリッツに戻った! もうロクな魔女は残ってないぞ! 今更契約したってまともに戦えるわけないぞ!!」

さやか「それでもいい、あたしにまどかの隣で戦う資格をちょうだい!!」

ジュゥべえ「……っ」

ジュゥべえ「あああーーーもうっ!! 選ばれるわけないからなっ、そんな浅い絶望じゃ!!」


 ジュゥべえは何かを取り出すと、結界が展開した。


305 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:16:37.00 ecyXlm1f0 204/373


 そこは西洋の神殿のような魔女の結界。
 円柱がそびえ、足元には霞の様な白い霧が立ち込めている。

 そこにいたのは巨大な甲冑のような魔女。
 両腕は鋭い刃と化し、古代ギリシャのように女性用のキトンを纏っている。


さやか「……強そうじゃん」

ジュゥべえ「見た目はな、魔力値はほむら以下の550だ」


 魔女はさやかとジュゥべえが現れても微動だにしない。


さやか「ねえ、お願い。一緒に戦って」

さやか「あたしは、馬鹿だからすぐ死んじゃうかもしれない。無茶に走って逆に皆の足を引っ張っちゃうかもしれない」

さやか「それでも、あたしは友達を助けたいの! 事情を知ってるのに見てるだけなんて嫌なの!!」


 魔女がギョロリと目を開く。
 そして光り輝く宝石がさやかの前に出現した。


さやか「これって……」

ジュゥべえ「契約は成立だ、さやかは選ばれた」

ジュゥべえ「受け取るといい、それがさやかと運命を共にする力だぜ」

さやか「あ、ありがとう!」


 光り輝く水色のソウルジェムがさやかの手に収まった。
 結界が晴れていく。


307 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:17:01.65 ecyXlm1f0 205/373


 さやかとジュゥべえは校庭に佇んでいた。


ジュゥべえ「むっ、交戦だ! オイラも行かないと!」

さやか「!!」

さやか「ま、待って! この子の名前は!?」

ジュゥべえ「バージニア! 性質は高潔だ!!」


 それだけ言ってジュゥべえは消える。


さやか「よし! それじゃああたし達も行こう、バージニア!!」


308 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:17:46.96 ecyXlm1f0 206/373


 織莉子の攻撃によって幾つものクレーターのできたハイウェイの結界の中。
 織莉子と剣を構えたさやかは向かい合っていた。


杏子「おい、さやか……。あんた」

さやか「勘違いしないでよね! あんたの方に助けに入ったのは、あんたの方が弱そうだったからだよ!!」

さやか「まどかはね! あたしなんかが助けに入らなくても大丈夫なくらい強いんだから!!」

杏子「く、くくく……そうだな」

織莉子(くっ、未知の戦力だなんて。見落としていた? いえ、そんなはずは無い。それにあの様子まさか……)

織莉子「えーと、さやかさん? 貴女もしかして契約したばかりですか?」

さやか「そーだよ、文句あっか!! こんな格好に変身したのも初めてだよ!!」

織莉子「……参考までにお聞きしますが、何を願って契約したのですか?」

さやか「友達を助ける力が欲しい、だよ」

織莉子「……ふっ」

さやか「?」

織莉子「ふふふ、はははははははははははっ」

織莉子「本当に面白いですね、貴女達は!」

織莉子「いいでしょう、杏子さんのソウルジェムは貴女に預けます。続きは是非本戦にて」

さやか「あ、ちょ、ちょっと!?」

織莉子「いじめっ子は大人しく退散させていただきますよ」

杏子「……」

ジュゥべえ「異論は無いようだし交戦を終了するぜ」

310 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:18:29.93 ecyXlm1f0 207/373


 魔法少女同士の戦いの勝敗は魔女の魔力や、魔法少女の巫力だけでは決まらない。
 段階の高い戦いになればなるほど、精神的要素が重要になってくる。

 それをありありと体現するように。
 まどかはあすみの激情に飲まれていた。


あすみ「こ、のぉおおおおお!!」

まどか「!!」


 あすみが魔力を注いで巨大化させたモーニングスターを思いきり振るうと。
 ガードしたまどかの両翼は粉々に破壊される。


あすみ「ああ!!」

まどか「っ!!」


 あすみは武器を投げ捨て、まどかの胸倉を掴んで押し倒す。
 あすみはまどかに馬乗りになり、まどかの両腕を足で押さえつけ。
 まどかの顔面を拳で殴りつけた。


まどか「ぁっ!」

あすみ「この! この! お前さえ、お前さえいなければ!!」


 あすみは小さな拳でまどかを何度も何度も殴りつける。
 その表情は怒りと嫉妬に歪んでいた。


あすみ「はぁー、はぁー!」

まどか「……っ」

あすみ「ふ、ふふふふ……終わりだ、まどかぁ……」


 あすみはモーニングスターを作り出すと。
 振り上げる。


あすみ「死、ね……!」


313 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:19:22.35 ecyXlm1f0 208/373


杏子「やめろ、あすみ!!」

さやか「ちょっと、あんた!!」

あすみ「!!」


 今まさに振り降ろそうとした瞬間。
 結界の中に杏子とさやかが入ってきた。

 あすみとまどかの様子を見ると、杏子は顔を顰める。


あすみ「杏子、お姉ちゃん……?」

杏子「あすみ、またお前は殺す気でやってんのか……」

あすみ「あははは、ちょっと待っててね杏子お姉ちゃん。今こいつ殺すから」

杏子「やめろ……」

あすみ「杏子お姉ちゃんは騙されてるんだよね、もしくはきっと無理やりやらされてるんだよね。だってこんな幸せな奴に靡くわけないもん」

あすみ「今、解放してあげるから……」

杏子「やめろって言ってるだろ!!」

あすみ「!?」

杏子「そいつ殺してみろ、あたしはお前を斬るぜ」

あすみ「あ、あはっ……。杏子お姉ちゃん、冗談だよね……?」


 あすみはふらふらと立ち上がり。
 涙をいっぱい溜めた目で杏子を見つめる。


あすみ「杏子お姉ちゃんは、あすみの味方だよね?」

杏子「……っ」

杏子「違う」


314 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/19 08:21:11.84 ecyXlm1f0 209/373


あすみ「!?」

杏子「ヒュアデスには端から裏切るつもりで入った、マミみたいなライバルを減らしたら、すぐ抜けるつもりでね」

杏子「あたしは人間を滅ぼすつもりも、世界を終わらせるつもりも無い」

杏子「あたしは初めからあすみの敵だったんだよ」

あすみ「!?」

あすみ「……」

あすみ「あはっ、あはははは」



あすみ「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」



 あすみは頭を抱え。
 歪んだ表情で、泣きながら高笑いをした。


あすみ「馬鹿みたい、馬鹿みたい、馬鹿みたい、馬鹿みたい!!」

あすみ「これが、これが世界か! これが人間か!!」

あすみ「やっぱりあすみの、私の味方なんてどこにも存在しなかった!!」

あすみ「決めた。やっぱり私は世界を終わらせる、偉大なる魔女を使って!!」

さやか「……っ!」

杏子「……」

あすみ「キュゥべえー。終了の宣言を」

キュゥべえ「まどかもそれでいいね?」


 まどかはコクリと頷いた。


キュゥべえ「それじゃあ交戦を終了するよ、お互いに変身を解いてくれ」


321 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:11:33.47 OIng82Vt0 212/373


 夜。ほむらの自宅。
 シャワーを浴びたほむらが身体を拭きながら浴室から出る。


ほむら(まどかは確実に強くなっている)

ほむら(オーバーソウルとか言う魔法も、武器も使いこなし始めている)

ほむら(でも)

ほむら(まどかはヒュアデス相手には一度も勝利できていない)

ほむら(このままで大丈夫なのかしら)

カンナ「お悩みかい、Msほむら」

ほむら「……不法侵入の上に出歯亀なんて感心しないわね」


 そこにはいつの間にかカンナが佇んでいた。
 カンナは目を細め、ニタリと粘着質に笑いかける。

 ほむらは意にも介さず、パジャマを着始めた。


カンナ「お悩みを当ててあげようか? ズバリまどかはなぜ勝てないのか」

ほむら「……」

カンナ「マギカファイトでは魔法少女の巫力、すなわち素質と、魔女の魔力だけで決まるわけじゃない。それを使いこなすには魔法少女のSpiritが重要になってくる」

カンナ「まどかの心はあすみの心に負けたというわけさ」

ほむら「そう、わざわざ教えてくれてありがとう。それで、用件はそれだけかしら?」

カンナ「まさか。これから世にも残酷で目も覆いたくなるような真実を君に伝えておこうと思ってね」

カンナ「まどかのことなんかどうでもよくなるくらい、ね」


322 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:12:42.86 OIng82Vt0 213/373


カンナ「さて、その前にもう一度自己紹介をしておこうか。私の名は聖カンナ、そして」

カンナ「もう1つの名は、ズライカ」

ほむら「……」


 カンナは恍惚とした表情で、ほむらに向けて手を広げた。


カンナ「ほむら、私は君と同じ魔女人間なんだ」


323 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:14:20.75 OIng82Vt0 214/373


ほむら「……あなたも別の世界線から召喚されたのかしら?」

カンナ「いやいや、違うね。私が生み出されたのはもっと身勝手な理由さ」


 カンナは持っていたスマートフォンをほむらへ投げつける。
 ほむらが受け取って画面を見ると。
 そこにはアメリカで起きたとある事件のニュース記事が表示されていた。


カンナ「カリフォルニア、カウボーイごっこ中の子供たち、銃の暴発事故」

カンナ「死者2名、負傷者1名。生き残った少女の名は聖カンナ、そしてトリガーを引いた少女の名も聖カンナなのさ」

カンナ「カンナは幼いながらに罪を背負い、笑顔を捨てた」

カンナ「後悔しない日は無かった、贖罪の祈りを捧げ続けた」

カンナ「もしも、と考えた」

カンナ「もしもあの事件が無かったら、自分はどれだけ幸せで、楽しい人生であったのか」

カンナ「そんな空想と夢の世界を彷徨っていたとき、キュゥべえが現れた」

カンナ「カンナは望んだよ。自分の『if』の存在が欲しいと」

カンナ「カンナはもしも事件が起こらなかったらの架空の自分を作り上げ、自分の身体に入れた。それが私の性質、妄想のオーバーソウル。空想の現実化」

カンナ「何も知らない私は大層幸せに暮らしたよ。友達もいた、家族もいた」

カンナ「でもある日、気づいてしまった。自分がオーバーソウルによって作り上げられた架空の人格であることに。そして」


 カンナの表情が憎悪に染まる。


カンナ「あいつが夜な夜なオーバーソウルを解いて、私を観察して楽しんでいることにね!!」


324 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:15:45.91 OIng82Vt0 215/373


ほむら「……」

カンナ「笑えるよ! 自分の正体が他でもないただの妄想であることに、
     自分の親は物も考えられぬただの化け物だったと気付いた時の感動は一塩だった!!」

カンナ「だから私はジュゥべえに願った。私が私になる力が欲しいってね」

ほむら「カンナを殺したの?」

カンナ「そうしたいところだったけどね、残念ながら私はオーバーソウル。カンナの魂から巫力が与えられないと消えてしまう」

カンナ「だからあいつの自我を雁字搦めに封印して、魂の奥底に沈めてやった」

カンナ「この身体は、聖カンナの名前は私の物だ……!」

カンナ「けれどね、それじゃあまだ足りない。身体と名前を乗っ取った所で、私はしょせんニセモノ」

カンナ「だから」


 カンナの表情が歪んだ笑顔に染まる。


カンナ「普通の人間全てを消す、そうすれば魔女人間がホンモノだ」


325 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:16:30.72 OIng82Vt0 216/373


ほむら「そう、あなたの事情は分かったわ。でも」

ほむら「私には何一つ関係の無い話ね」

カンナ「あるんだよほむら、私達にはね」

ほむら「あなたと一緒にしないでくれるかしら?」

カンナ「Woo、連れないこと言うなよ。この世でたった二人の魔女人間だろう?」


 カンナは目を見開き、ほむらの顔に近づけ囁きかける。


カンナ「君は知らないだろう? 私以外にも魔女人間は居ると知った時、私がどれだけ喜んだのか。サバトが開催されてからはずっと君について調べていたよ」

ほむら「光栄ね」

カンナ「くくくく、そしてわかった。君は」

カンナ「私と同じ、ツクリモノだ」

ほむら「……」


326 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:19:52.69 OIng82Vt0 217/373


カンナ「インキュベーターから情報を聞くのには苦労したよ、あいつ等やたら口が堅いからね。でもある時、ジュゥべえが口を滑らせた」

カンナ「ほむら、君は狂った因果律の原因を調べるために、異世界から写し撮られたコピー人格であるとね」

ほむら「……」

カンナ「君が前に居たと錯覚している世界では、魔女はアンコントローラブルな物なんだろう?
     そんな存在に魔法少女のパートナーなんて勤まる訳が無い。君の記憶も、人格も、感情も!
     全ては異世界の暁美ほむらのコピーに過ぎないんだ!! 君の正体はグレートスピリッツから吐き出されたただの怪物なんだよ!!」

ほむら「そう……」

カンナ「……」

ほむら「……」

カンナ「へ?」

カンナ「そ、それだけ!?」

ほむら「なんとなく、そんな気はしてたわ。
     私は一度死んだのに、もう一度生を与えられるなんて都合が良すぎる。そんなに清く生きた覚えも無いのに」

カンナ「……っ!!」

カンナ「悔しくは無いのか!? 身勝手に作り出されたことに!! 絶望はしなかったのか!? 自分がツクリモノだと気付いたことに!!」

ほむら「カンナ、私はあなたと違って1つだけホンモノを持っている」

ほむら「まどかを助ける、まどかを救う。この約束だけは、私がツクリモノだろうと化け物だろうと果たしてみせる」

ほむら「それが私の答え、私の道標」

カンナ「……っ」

カンナ「まどかだな……」

カンナ「まどかさえ居なくなれば、ほむらは私の物なんだな!?」

ほむら「かもしれないわね、でもそれはありえない」

ほむら「私が居る限り、まどかは死なないもの」

カンナ「……本戦、楽しみにしてるよ」


 そう言うと、カンナはひったくる様にほむらからスマートフォンを奪い取り。
 その場から消えるように居なくなった。


327 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:21:04.27 OIng82Vt0 218/373


 深夜。見滝原ビル、屋上にて。
 キュゥべえとジュゥべえは隣り合わせに座っていた。


キュゥべえ「さやかの件はやってくれたねジュゥべえ」

ジュゥべえ「ご、ごめんなさい!」

キュゥべえ「まぁ、予選前だったからよかった。さやかが加入してもさして大きな問題は無い」

キュゥべえ「そして、そろそろいい塩梅だ」

ジュゥべえ「と、いうことは……」

キュゥべえ「うん」

キュゥべえ「サバトの予選を開始する」


328 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:21:51.55 OIng82Vt0 219/373


 その日。見滝原に居る全ての魔法少女の夢の中に。
 インキュベーター達の報告が駆け回った。


 曰く。
 予選の内容とは。
 インキュベーターと交戦し、一定時間内に一撃当てること。

 この予選の失格者は、則脱落とする。

 

329 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:22:55.51 OIng82Vt0 220/373


 次の日の放課後。
 河川敷にて3人の魔法少女と1人の魔女と元魔法少女が集まっていた。

 5人は思い思いの表情だが、さやかの表情が暗い。


マミ「そう……、まさか予選の内容がキュゥべえ達と戦うことだったなんて……」

さやか「どーしよー。あたし予選落ちしちゃうかも……」

マミ「そうならないように今日はみっちり鍛えてあげなきゃね」

まどか「えへへ、なんだかさやかちゃんテスト前みたい」

さやか「そうそう、前日に一夜漬けってね……っておい!」

マミ「まず私が美樹さんに魔法少女の基礎から教えるから、先に鹿目さんと佐倉さんは2人で模擬戦をしていてちょうだい」

まどか「はい!」

杏子「ん、おう……結界」


 銀色の閃光が奔ると、まどかと杏子がその場から消失した。


330 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:23:56.14 OIng82Vt0 221/373


 残された2人。
 さやかに対してマミはこほんと1つ咳払いをして指導する。


マミ「さて、美樹さん。昨日はいきなり魔法少女には変身できたのよね、筋がいいわ」

さやか「ありがとうございます!」

マミ「それじゃあ次はオーバーソウルなんだけど、これって魔女との信頼関係が無いと成立しないのよね。
    まず魔女と対話することから始めましょう。急がば回れってね」

さやか「はい! えーと……」

さやか「……」

マミ「……」

さやか「あたしみたいな下賎者と会話する口は持たないそうです」

マミ「……重症ね」


331 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:24:38.61 OIng82Vt0 222/373


 結界の中にて。
 まどかと杏子の戦いはすでに決着がついていた。
 膝をつく杏子に、まどかは弓を引き絞る。


杏子「ははは、やっぱり強いね。まどか」

まどか「今日の杏子ちゃんなんだかおかしいよ、全然気持ちがこっちに向いてない」

杏子「……バレてたか」

まどか「あすみちゃんのこと?」

杏子「それもあるけどさ、いざサバトの本番が始まるとちょっと迷っちゃってね」


 杏子はポンポンと服に付いたほこりを払うと、立ち上がる。


杏子「あたしはさ、中途半端なんだよ。マミやあんたみたいな正義の味方でもない、織莉子みたいな悪党でもない。どっちつかずの立ち位置」

杏子「こんなあたしに本当に願いを叶える権利なんかあるのかって思ってね」

まどか「……」

まどか「願いはね、叶えたいと思ってる人が叶えるんだよ」

まどか「杏子ちゃんが家族を戻したいと願っているなら、きっとちゃんと叶える権利はあるよ」

杏子「そう、だな」

杏子(あすみ……)


 杏子は結界の中の、星の見えない夜空を見上げる。


杏子(あたしがお前の味方になっていれば、お前は世界の破滅なんて望まなかったのか……?)


332 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:25:07.54 OIng82Vt0 223/373


 夜。まどかは自宅で布団に入ろうとした時。
 声に呼び出された。


キュゥべえ『まどか』

まどか「キュゥべえ……?」

キュゥべえ『時間だ、始めよう』

まどか「……」


 窓際に猫の様なシルエットが映る。


キュゥべえ『ついてきてくれ』


333 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:25:46.58 OIng82Vt0 224/373


 人気のない公園。
 そこにはまどかを含めて3人と2匹が集まっていた。


まどか「ほむらちゃん、さやかちゃん!」

さやか「ん、まどか! まどかとほむらも一緒なの?」

ほむら「夜も遅いわ、眠る時間が無くなる前に始めましょう」

ジュゥべえ「ひひひ、余裕だな」

キュゥべえ「そうだね、じゃあ会場へ行こうか」

キュゥべえ「広範囲オーバーソウル! 結界!!」
ジュゥべえ「広範囲オーバーソウル! 結界!!」


334 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:26:37.22 OIng82Vt0 225/373


 まどかとほむらは青い空の下の草原に居た。
 草の匂いを持った風が吹き抜ける。


まどか「すごく爽やかな結界だね」

ほむら「……」

キュゥべえ「さて、ルールを説明しよう。
        制限時間は10分、僕に一撃当てればその瞬間に合格とする。時間切れはすなわち失格だ、ソウルジェムを没収させてもらう」

まどか「一撃当てるって言っても……キュゥべえは大丈夫なの?」

キュゥべえ「大丈夫だよ、たとえば」


 キュゥべえは自分の足に噛り付くと。
 肉を毟り取る。


まどか「ひっ!!」


 しかしその傷ついた部分は見る見る再生していった。


335 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:27:38.23 OIng82Vt0 226/373


 キュゥべえの結界とは対照的に、暗く、絵の具を垂らしたようなマーブル光が蠢く結界の中。
 ジュゥべえの傷が見る見る再生していく。


ジュゥべえ「と、こんな風にオイラ達はグレートスピリッツと常に繋がってるから、死なないし傷つかない」

さやか「……サバトとかってあんた達が出れば優勝できるんじゃない?」

ジュゥべえ「それじゃあ意味が無いんだよ、オイラ達じゃなくてあくまでさやか達魔法少女の戦いなんだから」



キュゥべえ「さあ、準備は良いね。まどか、ほむら」

まどか「うん!」

ほむら「いつでも問題ない」



ジュゥべえ「言っとくけど嘗めない方がいいぜ、サバトを取り仕切るインキュベーターの力をよ」

さやか「初めからあたしにそんな余裕ないよ!」

ジュゥべえ「じゃあ行くぜ!!」



キュゥべえ「予選開始! オーバーソウル! キトリー!!」
ジュゥべえ「予選開始! オーバーソウル! ウァマン!!」


336 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:28:35.56 OIng82Vt0 227/373


 ・
 ・
 ・

 夜の無人の公園に。
 まどかとほむらとキュゥべえが現れる。


まどか「ふぅー、よかった。合格できた……」

キュゥべえ「おめでとう、まどか。これで君は本戦へ行く資格を手に入れた」

まどか「……キュゥべえってすごく強かったんだね」

ほむら「さやかはまだ来ていないようね」


 しばし後、さやかとジュゥべえが現れる。


さやか「はぁー、はぁー。よかった、ギリギリ間に合った……!」

ジュゥべえ「あんだけ派手に啖呵切って、結局予選で落ちましたじゃ話にならねぇもんな。とにかくおめでとう、さやか」

まどか「さやかちゃん!」

さやか「まどか!」

まどか「よかった合格したんだね!」

さやか「うん、大変だったよ。こいつのオーバーソウル、卑怯くさいのなんのって」

ジュゥべえ「おいおい卑怯とは心外だぜ。それに」

ジュゥべえ「あの程度の力に負けるようじゃ、本戦に出ても仕方ないもんな」

さやか「……うん、そうだね」

キュゥべえ「さて、予選はこれで終了だ。3人ともお疲れ様」

キュゥべえ「4日後の午後6時、またこの公園に来てくれ」

キュゥべえ「本戦を始める」

ほむら「……それまでに強くならないとね」

まどか「うん」


337 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:29:27.33 OIng82Vt0 228/373


 夜、自宅にて。マミは一人思う。


マミ「今頃鹿目さん達はキュゥべえやジュゥべえと戦っているのかしら……?」


――戦いから解放されたと安堵する一方で

――少しだけ羨ましいなぁ、と思う


マミ「……」


338 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:30:11.00 OIng82Vt0 229/373


 マミが魔法少女になったのは2年前だった。
 事故で両親を失い、親戚に引き取られた。

 虐待などはされなかったものの、当時人見知りだったマミは新しい家族に心が開けずにいた。
 そうしてマミと親戚はお互いに距離を保ったまま、よそよそしい生活が続いた。

 そんな所にキュゥべえが現れる。
 叶えたい願いは無いかと、魔法少女にはならないかと。

 叶えたい願いなどなかったが、魔女という秘密の友達には強く憧れた。
 そうして手に入れた秘密の友達は、花とお茶会を愛し、マミと同様に他人には心許さぬ人見知りだった。


339 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:30:38.05 OIng82Vt0 230/373


 マミは魔女とキュゥべえと共に長い時間を共にした。
 親戚は目に見えぬ友達と会話するマミを酷く気味悪がった。

 ただメキメキと上達する紅茶とケーキの味は、認めざるを得なかった。



 そしてある時、マミは世界を救う正義のヒーローになる時が訪れた。



 それを与えたのは他ならぬ美国織莉子の契約と、ヒュアデスの発足である。


 

340 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:31:32.06 OIng82Vt0 231/373


 マミのたった1人の戦いが始まった。
 まず1人の時間を増やすために、高校までの練習だと、親戚に無理を言って一人暮らしを始めた。

 当時はなぜそんな相手と契約したのかとキュゥべえを責めたが、
 自分は絶望に飲まれた者と契約を結ぶだけだ、魔女の力をどうするかは本人の自由だと言われると反論できなかった。

 ヒュアデスとの陰の戦いを続けた。
 お互いに情報を調べ合い、ただひたすらに自分の力とオーバーソウルを鍛え上げた。

 ある日、仲間ができた。


 佐倉杏子との出会いだった。

 

341 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:32:36.99 OIng82Vt0 232/373


 事故に合って以来、マミに初めてキュゥべえや魔女以外の仲間ができた。
 佐倉杏子はヒュアデスの話を聞くと義憤に駆られ使命感に燃えた。

 曰く。
 「父さんが迷える人を救って、私が世界を滅ぼす奴等を止めて世界を救うんだ」と意気込んでいた。

 そんな純粋な正義感と情熱を。
 漠然と正義の味方をしていたマミは羨ましく思っていた。

 2人で研鑽を続けた。
 何度も戦って、己を磨き合っていた。

 しかし、そんな日々に終わりが来る。


 佐倉家の崩壊である。


 杏子はサバトの優勝に貪欲になった。
 マミを見捨て、ヒュアデスに入った。

 他の正義の味方を蹴落とすために、ヒュアデスの手の内を探るために。


342 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:33:04.30 OIng82Vt0 233/373


 マミは再び孤独になった。
 残ったのは漠然とした使命感だけ。

 マミはそれにすがった。

 他人に心を許すことなく、ただひたすらにヒュアデスの打倒だけを目標に掲げた。


 そしてまどかと出会う。


 最初はその巫力の大きさに驚き、恐れた。
 彼女が敵に回ったらと思うと戦々恐々とした。

 また裏切られたら、と思うとなかなか心を許せなかった。


 そうして仲間に頼れぬうちに、マミは敗北し、脱落した。

 

343 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:34:23.91 OIng82Vt0 234/373


 脱落して、心を許せる友を二人同時に失った時。
 マミの手に残ったのは……他ならぬ鹿目まどかだった。

 まどかはまどかを信じていなかったマミを信じてくれた、師と慕ってくれた。

 マミは杏子以来、ようやく心を許せる仲間を手に入れた。

 脱落して、冷静になった時。まどかを疑っていた自分が馬鹿らしくなった。
 あるいは自棄になった、残された希望はまどかだけだったので賭けに出たのかもしれない。

 半ば投げやりだったのだが、まどかが杏子をヒュアデスから取りかえした時は手を叩いて喜んだ。

 だが頼れる友人2人は、いつの間にか手の届かない存在になっていた。
 気が付いた時には2人ともかつての自分の力を超えていた。
 2人には少し後ろめたい気もしたが、それでも師であり続けた。

 そして、今に至る。


マミ「……今までずっと1人で戦ってきたのだもの」

マミ「これくらいのわがまま、言ってもいいじゃない」

マミ「ごめんなさいね、鹿目さん、佐倉さん」

マミ「もう少し、一緒に居させてね」


344 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/21 01:34:59.62 OIng82Vt0 235/373


 4日後。
 公園には7人の魔法少女が居た。


織莉子「……」

キリカ「……」

カンナ「……」

あすみ「……」

まどか「大丈夫? さやかちゃん」

さやか「うぅ、キンチョーしてきた……」

杏子「……」

ほむら(ヒュアデスも1人くらい予選で脱落してくれれば、と思ったけど。甘い考えだったわね)

ジュゥべえ「よく集まってくれた、みんな」

キュゥべえ「さて」



キュゥべえ「本戦を開始しよう」


 

347 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:47:24.36 t558N/aY0 236/373


まどか「……っ」

杏子「おいおい、まさかこんな公園でおっぱじめようってんじゃないだろうな」

キュゥべえ「安心してくれ、ここは入口だ。会場はここじゃない」

キュゥべえ「さて、それじゃあ門を開くよ」


 キュゥべえがそう言うと。
 公園に空間の亀裂が現れる。
 青い光を放つそれは、異次元への扉そのものだった。

 促されるままに中に入ると。
 そこに居る誰もが息を飲んだ。


キュゥべえ「ようこそ」


 そこは宇宙だった。
 青い水の惑星がすぐ足元に広がっている。


キュゥべえ「グレートスピリッツの縁の地、ムー大陸へ」


348 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:49:23.73 t558N/aY0 237/373


さやか「な、なんなの! ここどこなの!? 大陸って……ここ宇宙じゃん!!」

キュゥべえ「ここは神の社、天国と言えばわかりやすいかな。本来は別の目的で使う場所なんだけど、サバトの間だけ間借りさせてもらってるよ」

杏子「はっ、地球の上だから天国だってか……!」

ジュゥべえ「まぁここも実際宇宙なわけじゃないんだけどな。重力も見えないけど床もあるし。
        あの地球もグレートスピリッツの記憶だし。キュゥべえさん、ここは神様の夢の中って言った方がわかりやすいんじゃねーか?」

キュゥべえ「どちらでもいいよ」

まどか「それで、あなた達はここ何をさせたいの?」

キュゥべえ「戦ってもらう」

さやか「!!」

まどか「!!」

ほむら「やはりね……」

キュゥべえ「と言っても、今ここでじゃない。今日やることはルール説明とトーナメント表の開示だけだ」


349 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:50:37.98 t558N/aY0 238/373


まどか「トーナメント……?」

キュゥべえ「まずルールを説明しよう」

キュゥべえ「試合形式は勝ち抜きのトーナメントだ。残念ながら君達は7人だからこちらでシードを1人決めさせてもらったよ」

キュゥべえ「君達は半径1kmの各ステージで戦ってもらう」

キュゥべえ「ルールは相手が降参するか、相手のソウルジェムを破壊すれば勝利」

キュゥべえ「降参の場合でも、こちらでソウルジェムを破壊させてもらうよ」

まどか「……必ず片方が脱落しちゃうんだね」

キュゥべえ「交戦は一日一試合、本戦期間中はいかなる場合も、本戦以外のソウルジェムや命を賭ける交戦と交渉は禁止」

キュゥべえ「試合に出ない魔法少女も交戦の様子はこちらから映像で見ることができるよ、そしてその日の交戦の無い魔法少女はここへ来る義務はない」

キュゥべえ「さて、ルール説明は以上だけど質問は?」

まどか「……」

さやか「はい、ステージって具体的にどういうの?」

キュゥべえ「プラントという地球の地形を模したフィールドだ。試合によって毎回プラントは変わるから注意してね」

キリカ「はいー、反則ってないの?」

キュゥべえ「一度試合開始の合図をしたら、乱入と降参した相手への攻撃以外は何をやっても構わない」

キュゥべえ「他に質問は?」

キュゥべえ「……無いようだね、それじゃあトーナメント表を開示するよ」

ジュゥべえ「本日のメインイベントだな、さぁ祈れ!」


 宇宙に光り輝くスクリーンが開示された。


350 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:51:08.46 t558N/aY0 239/373



          ┌─ 杏子
      ┌─┤
      │  └─ あすみ
  ┌─┤
  │  │  ┌─ カンナ
  │  └─┤
  │      └─ まどか
─┤
  │      ┌─ さやか
  │  ┌─┤
  │  │  └─ キリカ
  └─┤
      └─ 織莉子



351 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:52:12.02 t558N/aY0 240/373


カンナ「! ついてるね」

杏子(あすみ……)

あすみ「……」

織莉子「シードは嬉しいけど、初戦がキリカだなんて……」

キリカ「やれやれ、織莉子とは決勝で当たりたかったけど……上手くいかないものだね」

さやか(あたしが負ける前提かよ……!)

まどか「ほむらちゃん」

ほむら「大丈夫よ、まどか。誰が相手だろうと必ず勝って見せる」

キュゥべえ「さて、本日の予定は以上だ。明日の試合は午後の8時から、場所はまたここに集まってね。今帰りの門を開くよ」


 そう言うと青く輝く空間の亀裂が現れた。


352 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:52:47.70 t558N/aY0 241/373


 夜、杏子は布団に入ると。
 1人考え事をしていた。


まどか「杏子ちゃん?」

杏子「悪い、今夜は一人で考えさせてくれ」

まどか「……うん、おやすみ杏子ちゃん」

杏子(今までずっと目を逸らしてきたけど、あたしは本当に願いを叶えたいのだろうか)

杏子(あたしは父さんがまだ好きだ、それは間違いない。けど)

杏子(やり直したところで、あたしを魔女と言った父さんともう一度笑い合えるのだろうか)

杏子「……」

杏子(それはわからない、けど)

杏子(家族がバラバラになったままなんて、やっぱり嫌だ)

杏子「……」

杏子(あすみはどうして、家族を元通りにすることじゃなくて、人間の破滅を願うんだ?)

杏子「……馬鹿だな、あたしは。そんなのわかりきってることじゃねえか」


353 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:53:23.20 t558N/aY0 242/373


 次の日、土曜日の昼、美国邸。
 織莉子は薔薇の咲く庭園で、紅茶を飲んでいた。


織莉子「美国さん、ね……」


――美国さんはなんでも良くお出来になられるわね
――良家の方なんですもの、あれくらい普通なんでしょ
――すごいわ、美国先輩
――さすが美国先生の娘さんですな、品のある美しい子だ

――美国さん

――美国議員の娘
――何不自由ないお嬢様
――なんでもこなす完璧な人間
――優秀なのは当然
――美国だもの


織莉子「……」


――クスクス、よく学校に来られますわね
――ずぶとい人ね、我が校の質が落ちてしまうわ
――盗人猛々しいってこのことを言うのね

――先生はお会いにならないといっています、あなた自分の立場をわかっておられないんですか?
――選挙も近いというのに不正議員の娘なんかに纏わりつかれたら堪らないでしょう


織莉子「……」


354 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:53:50.60 t558N/aY0 243/373


――お父様が死んだとき、私は全ての人から見放された

――救世でも破滅でもなんでもよかった

――私は私の生きる意味を知りたかった、生きる為の使命が欲しかった


織莉子「ねぇ、私の魔女。私の片割れ」

織莉子「貴女はまだ全ての人々を救済することが正しいと思ってるの?」

織莉子「……ふふふ、聞くまでもなかったわね」

キリカ「織ー莉子っ!」

織莉子「キリカ?」

キリカ「また1人で考え事かい? 悩みくらい私でよければいつでも聞くのに! 織莉子の声なら年中無休24時間受け付けてるよっ!」

織莉子「ふふふ、ありがとうキリカ」

織莉子「でも大丈夫、少し感慨に浸っていただけよ」

キリカ「そうかい、ならいいんだけど」

織莉子「キリカ」

キリカ「?」

織莉子「今まで、私についてきてくれてありがとう」


 振り返ったキリカはニッコリと笑い返した。


355 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:54:22.76 t558N/aY0 244/373


 河川敷、5人は集まる。


杏子「すっかりここもお馴染みになったね」

マミ「さて、佐倉さん。明日本戦のあなたはみっちり鍛えてあげましょう……と、言いたいところだけど」


 マミは寂しそうに笑う。


マミ「残念ながら私からあなたに教えられることってもう無いのよね」

杏子「まーいーよ、じゃあまどか、いつも通り模擬戦やるか」

まどか「うん!」

ほむら「問題ないわ」


 そう言うと杏子は結界を発動させ、まどかとほむらと共に消える。


マミ「……」

さやか「ま、マミさん! あたしは……」

マミ「そうね、じゃあ美樹さんは私とオーバーソウルの練習をしましょうか」


356 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:55:19.08 t558N/aY0 245/373


 しばし後。
 5人は座って昼食をとる。


さやか「うへー、あたしお弁当忘れてきちゃったよ」

マミ「ふふふ、そう思って。はい、美樹さん」


 マミはバスケットからランチボックスを取り出す。


マミ「サンドイッチ、多めに作ってきたの」

さやか「うはー、ありがとうございます!」

杏子「さて、まどか。これ食い終わったらもう一勝負やるか?」

マミ「ストップよ、佐倉さん」

杏子「なんでだよ」

マミ「あなた今日が本戦なんでしょう? 練習で巫力使い切ってどうするの」

杏子「あー、そういえばそうだったな……」

さやか「それじゃあまどか! あたしと勝負しよう!」

まどか「い、いいけど……。私、結界張れないよ?」

マミ「いえ、張らなくていいわ。いい機会かもね」

マミ「佐倉さんに見てもらったら? 同じ近接武器だから学ぶところも多いでしょうし」

さやか「えっ!? うぅ……」

杏子「なんだよ」

さやか「よ、よろしくお願いします」


357 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:56:07.81 t558N/aY0 246/373


 夜、公園。
 そこには6人の魔法少女と1人の魔女が集まっていた。


キュゥべえ「さて、集まったみたいだね」

キリカ「織莉子ー、カンナは?」

織莉子「他人の試合には興味ないんですって」

まどか「さやかちゃん、機嫌直して」

さやか「うっさい! なんで翼を封印したまどかにも勝てないんだよ!」

ほむら「戦闘経験と巫力の差よ、諦めなさい」

さやか「うー、巫力5万なんて不公平だぁーー!!」

杏子「……」

あすみ「……」

まどか「杏子ちゃん」

杏子「ん、なんだよまどか?」

まどか「大丈夫? お昼からずっと思いつめた顔してるよ」

杏子「……」

杏子「心配ないよ、ちょっと緊張してるだけだ」

まどか「うん、ならいいけど……」

キュゥべえ「それじゃあ門を開くよ」


 7人と2匹はムー大陸へと移動した。


358 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:56:35.68 t558N/aY0 247/373


 地球を足元に眺める宇宙空間。
 あすみと杏子以外の魔法少女達はそこに居た。


まどか「あれ? 杏子ちゃんは……?」

ジュゥべえ「あすみと杏子とキュゥべえさんは既にプラントの方へ移動してもらってるぜ」

ほむら「……」

ジュゥべえ「それじゃあモニタードン!」


 ジュゥべえはそう言うと、皆の目の前に巨大なスクリーンが現れた。

 あすみと杏子が石造りの建物の上で向かい合っている。


359 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:57:05.26 t558N/aY0 248/373



               第一試合
              杏子 対 あすみ

              プラント・廃都



360 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:58:10.48 t558N/aY0 249/373


 鉛色の空の下、砂埃が舞う石造りの建物の屋上。
 杏子とあすみは変身を済ませて向かい合う。


杏子「オーバーソウル、ギーゼラ」

あすみ「オーバーソウル、ロベルタ」


 それぞれの魔女がソウルジェムに収束する。


キュゥべえ「それじゃあ、試合開始!」

あすみ「はぁああああああああああ!!」


 試合開始と同時に、あすみはモーニングスターを振い、杏子に振り降ろす。


杏子「くっ!」


 杏子が後ろへ飛び退くと、鉄球は杏子の服を掠める。
 鉄球が廃都の屋根を砕いた。


杏子「そんな大振りでいいのか? 隙だらけだよ!」

あすみ「そっちがね」

杏子「!?」


 屋根を砕いた鉄球は、下を通り杏子の背後の屋根から飛び出した。
 杏子の後頭部へ向けて鉄球が迫る。


361 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 02:59:56.82 t558N/aY0 250/373


杏子「ちっ!」

あすみ「避けたか、でも」

あすみ「勝負は始まったばかりだよ」


 飛んできた鉄球は今度は建物を鎖でグルグル巻きにすると。
 一気に建物全体を絞め砕く。


杏子「なっ!?」


 床が崩落し、瓦礫と共に杏子が落下する。
 砂埃が舞い、杏子の目を塞いだ。


杏子「ゲホッ、ゴホッ!」

あすみ「あはっ!」

杏子「くっ!」


 砂塵を槍で吹き飛ばし、慌てて目を凝らす。


杏子「いない……?」


362 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 03:00:51.04 t558N/aY0 251/373


 杏子はあすみを探してキョロキョロと辺りを見回すが。
 直後、建物の壁を突き破り鉄球が飛んでくる。


杏子「!?」


 慌てて身体を逸らすと、鉄球が後ろの壁を砕く。


杏子「なるほど、そうやって建物に隠れて戦うってわけか」


 どこからともなくあすみの声が響いてくる。


あすみ「そう、この廃都全体に罠を仕掛けた。お前を感知して作動する罠をね」

あすみ「ショートワープで私の視界から逃れようとしても無駄だよ、この罠はオートで作動する。そして」


 三方向から杏子に鉄球が迫る。
 杏子は1つ舌打ちして、上へショートワープをすると。
 鉄球はグルリと向きを変えて、杏子へ向けて飛ぶ。


杏子「!!」

あすみ「この罠は追尾性がある」


 杏子は連続したショートワープでそれを避けるが、その度に次々と罠が作動する。
 まるで爆導索のように、連続してあちこちの建物から破壊音と共に砂埃が上がった。


363 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 03:02:12.01 t558N/aY0 252/373


 杏子はショートワープで空間跳躍を続けながら思考を巡らせる。


杏子(どうする!? このままあすみの巫力が尽きるまで、ショートワープで逃げ続けるか!?)

杏子(いや、あたしの巫力は決して多い方じゃない。このままだと先に力尽きるのは、あたし……!)

杏子(あすみはどこだ……!? くそっ、感知できない!!)

杏子(どうする……、どうすれば……!)

杏子「自動で作動する罠……。なるほどね」


364 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 03:03:24.75 t558N/aY0 253/373


 あすみはとある廃屋に隠れていた。


あすみ「音が止んだ……?」

あすみ「……探知もできない、くそっ仕掛けに気付かれたか!!」

あすみ(どうする……、魔力を消したまま探し続けるか?)

あすみ(いや、万が一先手を打たれて、罠が作動する間もなくオーバーソウルされたらこっちが負ける!)

あすみ「ちっ」


 あすみは廃屋を出て指を鳴らす。


あすみ「オーバーソウル、ロベルタ!」

杏子「みーつけた」

杏子「オーバーソウル、ギーゼラ!」

あすみ「そこかっ!!」


 あすみの鉄球は杏子の居た場所を打ち砕くが。
 杏子はショートワープであすみの眼前に現れる


365 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 03:09:14.50 t558N/aY0 254/373


杏子「やっぱり変身解いて魔力消してたのか、危うく騙されるところだったよ」

杏子「あんたの罠、魔力を感知して無差別に作動するね。変身を解いてたのは見つからないためだけじゃなく、
    自分も罠に巻き込まれないため。でもあたしまで変身を解いたらどうしようもない」

杏子「だからわざわざ仕掛けた罠を撤去して、先手を打たれる前にオーバーソウルせざるをえなかった」

あすみ「それがどうした?」


 あすみが杏子の隣に鉄球を叩きつける。


あすみ「今、私の魔女の魔力がどれだけ高いかわかる?
     私の巫力も知ってるでしょ? 8000、このフィールド全体を叩き潰すのだって簡単なんだよ?」

杏子「そんなことしたらあんただって無事じゃあ済まないだろ……」

あすみ「それでも倒れるのはお前だけだ、私の身体はお前とは比べ物にはならない魔力で強化されてる」

杏子「あすみのオーバーソウルって感情の分だけ魔力が増加するんだよな……」

あすみ「……」

杏子「そんなにあたしが憎いか」

あすみ「当たり、前だろっ……!!」


 あすみは飛び出して杏子に鉄球を振う。
 杏子は槍で防ぐが、勢いに負けて吹き飛ばされて壁に激突する。


あすみ「私はね! 幸せな奴全てが憎いの! 特に私と似たような境遇のくせに幸せを満喫してるお前とかねっ!!」


 杏子の居た場所へ鉄球が振るわれる。
 壁はまるで爆弾でも落ちたかのように吹き飛ばされ砂埃が舞う。


杏子「それだけじゃねーだろ」


 杏子はショートワープであすみの目の前に現れる。


杏子「あたしが裏切ったから」

あすみ「っ!!」

あすみ「だったら、なんだって言うんだ!!」

杏子「……」

杏子(駄目だな、あたし)

杏子(あっちこっちにブレ続けて、今度はあすみにか)


 杏子は変身を解く。


あすみ「!? なんの真似だ……!」

杏子「ただ、謝りたかっただけだよ」

杏子「悪かったな、あすみ。気が済むまで殴れ、それで気が済まなかったら殺せ」


366 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 03:10:11.54 t558N/aY0 255/373


あすみ「どこまで……っ!」


 あすみは杏子の胸倉を掴み、押し倒す。


あすみ「どこまで私を馬鹿にすれば気が済むんだ、テメーはよ!!」

杏子「……」

あすみ「散々上辺だけの優しさを与えといて最初から敵だった? かと思えば今度は同情して殺せだと? ふざけてんのか!?」

杏子「……」

あすみ「お前に、お前にわかるか! 殴られる痛みが、汚される辛さが! 家族の居ない寂しさが、この世で一人きりになった不安が!!」

あすみ「信じてた人に裏切られる絶望が!!」

杏子「……わかるよ、痛いくらいにな」

杏子「キツいよね、あれは。あたしには耐え切れなかった」

あすみ「自業自得だろうが、テメーのはよ!!」

杏子「そうだね、自業自得だ。家族が壊れたのも、仲間を捨てて一人ぼっちになるのも、あすみを裏切って勝手に悩むのも全部自業自得さ」

杏子「だから、どうすれば赦してもらえる? どうすればこの罪を贖える?」

あすみ「……ゆるさない」

あすみ「ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない! 死んでも、殺されてもゆるさない!!」

杏子「だよねぇ……」

杏子(なにが父さんと一緒に世界を救うだよ、目の前で誰よりも助けを求めてる奴を見捨てておいて)

杏子(人の心を惑わす魔女、父さんの言ってた通りじゃねーか)

あすみ「でも、何でもするっていうのなら考えないでもない」


 あすみは杏子から降りると、冷たい目で杏子を見下ろす。


あすみ「今この場で死ね」


367 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 03:11:05.05 t558N/aY0 256/373


杏子「それでいいのか?」

あすみ「……」

杏子「わかった」


 杏子は立ち上がると、ソウルジェムを小型の槍へと変える。 
 それを逆に持つと、自分の喉に穂先を突きつけた。


杏子「ああ、そうだ。最後に聞きたいんだけどさ」

杏子「あたしがあすみと仲のいいままだったら、あすみは救われてたか?」

あすみ「はぁ? 自惚れんな」

あすみ「お前がいようがいまいが私は人間の根絶を願ってたよ! 私はとっくに人間に絶望してたんだ!!」

杏子「……そっか」


 杏子は寂しそうに笑った。


杏子「じゃーな、あすみ」

杏子「助けられなくて、ゴメン」


 杏子は喉に槍を突き刺した。


368 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 03:15:24.11 t558N/aY0 257/373


 突き刺された槍は気道を貫き、動脈を断ち切り、脊柱に当ると止まった。
 杏子は槍を引き抜くと。
 突き刺した喉からドクドクと血が溢れ始める。


――あーあ、何がしたかったんだろうな、あたしは

――勝手に暴走して、勝手に自爆して、みっともないったらありゃしない

――父さんにこれ知られたら怒られるかな? 怒られるだろうなー

――でも、きっとこれで正しかったのかもしれない

――やっぱり誰かのために戦うのは、まどかやマミみたいな正義の味方がやるべきなんだ


 杏子は力が抜けたように座り込む。
 目だけを動かして、あすみを見上げるとニヤッと笑った。


――あすみ、お前は多分まどかに負けるぜ

――あたしみたいに自分だけのために戦う奴は、最後まで戦えないからな

――さて、心残りだらけだけど

――裏切り者は大人しく死んどくか


369 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 03:16:52.97 t558N/aY0 258/373


あすみ「……」


 あすみは目を閉じてしばし沈黙した後。
 倒れる杏子の前にひざまづき、杏子の上に魔法陣を描いた。


杏子「……?」

あすみ「動かないで、私の大量の魔力でも急所の治療は難しいから」

杏子「……」

杏子「ど、うし、て?」

あすみ「それは私のセリフだよ」

あすみ「どうして今更私に同情なんかしたの?」

杏子「さぁ、どうして、だろうね……?」

あすみ「……私がお前の妹に似てたから?」


 杏子は苦しそうに笑う。


杏子「それも、あるかもね」

あすみ「……」

杏子「そうだね、強いて言うなら」

杏子「ただ単に後ろめたかったから」


370 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 03:18:33.06 t558N/aY0 259/373


あすみ「……」

杏子「あたしを信じてくれた奴を2人も裏切って、あたしだけが幸せになるなんてそんなの父さんに顔向けできない。そんなことしたらあたしは本物の魔女になっちまう」

杏子「だからせめてあんたには赦して欲しかった。あたしは悪くないって、あたしは人の心を惑わす魔女じゃないって、そう思いたかった」

あすみ「自分勝手だね」

杏子「お互い様だろ?」


 杏子はククク、と笑うと。
 身体を起こして壁に背を預けて座った。


杏子「はじめから敵な奴に勝手に懐いて、自分と境遇が似てるからって勝手に信じて、謝ったら罪滅ぼしに死ねってなんだよそれ」

あすみ「……っ」

あすみ「殺すぞ」

杏子「やれるならやってみろよ、こっちは最初からそのつもりだ」


 あすみは立ち上がり、モーニングスターを構えるが。
 それを振り上げた所で静止し、1つため息をつくとその場にへたり込む。


あすみ「……なんか萎えちゃった」

杏子「そうかい」


371 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 03:20:14.73 t558N/aY0 260/373


あすみ「さて、これからどうしてやろうかな」

杏子「まだあるのかよ……?」

あすみ「なんでも言うこと聞くんでしょ?」

杏子「あたしにもできることとできないことがあるぞ……」

あすみ「死んでも殺されてもゆるさないって言ったでしょ」

杏子「厳しいね」

あすみ「そうだね、うん。それじゃあこういうのはどうかな」


 あすみがニタリと陰険に笑う。


あすみ「私が今から死ぬってのは」


372 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/24 03:21:25.37 t558N/aY0 261/373


杏子「へ?」

あすみ「……えいっ」

杏子「!?」


 あすみがニタリと笑うと、突如鎖と鉄杭の障壁が現れあすみを取り囲む。
 あすみは頭上に巨大な鉄球を作り出した。


杏子「お、おいあすみ! こらちょっと待てふざけんな!!」

あすみ「あはっ、ご愁傷様。杏子お姉ちゃんはあすみの死を背負って生きなければいけなくなったよ」

杏子「やめろ! なんでお前が死ぬ必要があるんだよ!?」

あすみ「あすみの呪いを完成させるため」

杏子「やめろ、やめてくれ……、お願いだ」

あすみ「んー、こういうのなんて言うんだっけ。勝ち逃げ、とは少し違うかな」

杏子「頼む、あたしの話を聞いてくれ……!」

あすみ「そーだ」

あすみ「サヨナラ勝ちだ」


 あすみの頭上から鉄球が落下し。
 あすみを叩き潰して赤い肉塊へと変えた。


378 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 01:06:10.08 29aVC60A0 262/373


杏子「……」


 あすみの魔法によって作られた物質が消えていく。
 鎖と鉄杭の障壁も巨大な鉄球も霞のように消え失せた。
 あすみの魔法少女の衣装も、普段の時に着ていたTシャツとズボンに戻る。


杏子「っ!」


 杏子は血だまりに駆け寄り、肉塊に魔力を注いで治癒を試みる。


キュゥべえ「あすみの蘇生を試みてるなら無駄だよ杏子」

杏子「なんだと?」

キュゥべえ「即死だ、魂は既にあすみの肉体を離れている。魔女の力では肉体を戻すことはできても魂まで戻すことはできない」

杏子「……やってみなきゃわかんないだろ」

キュゥべえ「魂まで呼び戻すなんてその力は魔法少女を超えている、神の領域だ。巫力の無駄だよ、諦めた方がいい」

杏子「……黙れ」

キュゥべえ「死亡は降参とみなすよ、初戦突破おめでとう杏子」

杏子「黙れ」

キュゥべえ「あすみのソウルジェムは破壊させてもらうよ。それじゃあ杏子、エントランスに転送するから――

杏子「黙れって言ってるだろっ!!」



379 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 01:08:25.80 29aVC60A0 263/373


 地球を足元に見る宇宙空間。
 キュゥべえがエントランスと呼んだ場所。
 4人の魔法少女と1人の魔女はそれぞれ沈んだ表情をしていた。


織莉子「……」

キリカ「……」

まどか「ひどいよ、こんなのあんまりだよ……」

ほむら「……」

さやか「――っ!」


 まどかは泣き崩れ、さやかは行き場の無い怒りを込めて床に剣を突き立てた。


ジュゥべえ「試合は以上だ、ゲートは開いとくから各自自由に帰ってもいいぜ」

織莉子「……残念な結果に終わりましたね」

キリカ「織莉子、帰るの?」

織莉子「ええ、杏子さんの対策も練らないとね」

さやか「……なんとも思わないのかよ」

織莉子「……」

さやか「あんた達の仲間なんでしょ! 死んじゃったんだよ、なんとも思わないのかよ!?」

織莉子「さやかさん、1つ忘れていませんか?」

織莉子「これは命を賭けた戦い、いえ殺し合いなのですよ。私達は始めから殺す覚悟も死ぬ覚悟もできています」

織莉子「一人が勝って、一人が負けて死んだ。ただそれだけのこと」

さやか「……っ!」


 さやかに見向きもせず、2人は青い空間の亀裂から出て行った。


380 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 01:09:10.23 29aVC60A0 264/373


 次の日、土曜日の朝。
 まどかは自宅で目を覚ました。


まどか「杏子ちゃん、結局帰ってこなかったんだ……」


 まどかの携帯が鳴る。


まどか「ほむらちゃん……?」

まどか「もしもし」

杏子『ああ、まどかか』

まどか「杏子ちゃん! 今どこに居るの!?」

杏子『ほむらの家だ、1人暮らしらしいからちょっと場所借りてる』

まどか「うん、よかった……。杏子ちゃん元気そうで……」

杏子『悪いけどさ、今からほむらの家まで来てほしいんだ』

杏子『グレートスピリッツについて教えてくれ』


381 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 01:10:02.85 29aVC60A0 265/373


 ほむらの家。
 生活感の無いその空間には、ほむらと杏子とさやかとマミとまどかが居た。
 杏子は横たえられたあすみの死体へ向けて、ソウルジェムを翳している。


まどか「――っていうのが私がキュゥべえから聞いたグレートスピリッツのことだよ……」

杏子「なるほどね、そこへはまどかが毎回行ってるのか」

まどか「あの、あすみちゃんって……」

ほむら「死体を修復して鮮度を保ってるだけよ、死者が蘇ることは無いわ」

杏子「……」

まどか「そっか……」

マミ「話は聞いたわ、過酷な状況なのに力になれなくてごめんなさい」

まどか「ううん、いいんです」

さやか「あたし達が自分で選んだ道ですから!」

杏子「……」

ほむら「杏子、あなた」

ほむら「まさかグレートスピリッツまで魂を取りに行こうとしてるんじゃないでしょうね」

マミ「!?」

さやか「はぁ!?」


382 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 01:11:15.32 29aVC60A0 266/373


杏子「……だったらなんなのさ」

まどか「駄目だよ、杏子ちゃん死んじゃうよ……」

杏子「まどかは夢でいつも行ってるんだろ、だったらあたしだって大丈夫なはずだ」

ほむら「杏子、あなたはどうして……。どうしていつもそうなの」

杏子「……あんたが前に居た世界のあたしもそうだったのか?」

ほむら「そうよ。気にかけている相手が死んだら、あなたはいつも淡い希望を持って無茶をして、そして死んでいった」

ほむら「はっきり言うわ、経験上あなたが今からやろうとしていることは自殺よ」

杏子「……」


383 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 01:12:29.68 29aVC60A0 267/373


さやか「……ほむらには悪いけどさ。あたしは杏子に賛成かなー」

ほむら「!?」

さやか「だってさ、ほら。ほむらの前に居た世界とこの世界は違うんでしょ。ほむら言ってたじゃん。
     前の世界は、魔法少女は希望に始まって絶望に終わることが約束されているどうしようもない世界だって」

さやか「でも、この世界の魔法少女は違うじゃない? 誰も死なずに、みんな笑顔でハッピーエンドになることだってできるんじゃないかな」

マミ「そうね」

マミ「この世界の魔法少女と魔女は絶望から始まっている。それが希望に終わるかはわからないけど、わからないからこそ試してみる価値があるんじゃないかしら」

さやか「それにさ。どうせ駄目って言ってもやるでしょ、杏子は」

杏子「……」

ほむら「……勝手にしなさい」

杏子「ああ、そうさせてもらうよ。それじゃあさやか、あすみの死体を頼む」

さやか「おう!」

まどか「気を付けてね……、絶対に帰って来てね」

384 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 01:14:13.95 29aVC60A0 268/373


 河川敷、橋の下。


杏子「でてこい、キュゥべえ!」

キュゥべえ「なんだい、杏子?」

杏子「あたしをグレートスピリッツへ連れて行け」

キュゥべえ「君はどんなに恐ろしいことを言ってるのかわかっているのかい?」

杏子「でもあんたならできるんでしょ? 何度もまどかをそこへ連れて行ってたもんね」

キュゥべえ「彼女は特別だ。それにあすみの元へ行きたいなら諦めてくれ、この世に一体どれだけの魂がひしめき合っているのか君は知ってるのかい?
        特定の魂の元へ行くなんてそれこそとても壮大なことだ、夢物語と言っていい」

杏子「じゃあ魔女はどうやって連れてきた? 言ってたよね、魔女は元々霊のような存在だって。そいつらってグレートスピリッツに居たんじゃないの?」

キュゥべえ「……」

杏子「あんた達ってさ、ウソつけないよね。さっきからはぐらかしはするけど、できないとは一回も言ってない」

キュゥべえ「ふぅ……。中立の立場としては特定の魔法少女が有利になることは避けたいんだけどね」

杏子「じゃあ――

キュゥべえ「駄目だよ杏子、さっきも言ったように僕等はあくまで中立だ。僕には君を連れていく理由が無い」

杏子「理由ならあるさ、ここにね!」


 杏子は自分のソウルジェムを外して投げ捨て。それに作り出した槍を突きつける。


385 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 01:16:22.94 29aVC60A0 269/373


杏子「連れて行かないならあたしは今ここで自分のソウルジェムを砕く!」

キュゥべえ「僕を脅しているのかい?」

杏子「そうだよ」

キュゥべえ「本戦期間中はいかなる場合もソウルジェムを掛けることは禁止だよ?」

杏子「それは相手のソウルジェムだろ? あたしが勝手に自爆するのは禁止されてないよね」

キュゥべえ「……」

杏子「あんた達もさぁ、こんな形で勝手に脱落されるのは困るんじゃない?」

キュゥべえ「……やれやれ、君は本当に厄介な魔法少女だね。契約するんじゃなかったよ」

キュゥべえ「その通りだよ、杏子。君をあすみの元へ連れていくことはできる。
        ただし何度も言ってるように、僕からあすみの魂をこちらへ連れてくることは不可能だ。魔女と死者の魂はわけが違う」

杏子「それでいいよ、あたしが迎えに行く」

キュゥべえ「覚悟は固いんだね?」

杏子「ああ」

キュゥべえ「……これってどちらにしても同じことなんだよね」


 杏子が頷くと、キュゥべえは1つため息をついて魔女を顕現させる。


キュゥべえ「オーバーソウル、キトリー。それじゃあ杏子」

キュゥべえ「いっぺん死んでみようか」

杏子「!?」


 杏子が身構える間もなく。
 キュゥべえのオーバーソウルの巨大な針が、ライフル弾のように杏子の頭を撃ち抜いた。


389 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 19:13:14.09 4IxL49n50 270/373


杏子「……」


 杏子は気が付くと草原に立っていた。
 空は青く、澄んでいて、地平はどこまでも草原が続いている。

 そこには1つだけ草の生えてない道がどこかへ続いていた。

 草の匂いをはらんだ風が吹き抜ける。


キュゥべえ「やあ、杏子。ようこそ、ここが彼岸だ。なにか感想は無いかい?」

杏子「あんたの魔女の結界と似てるね」

キュゥべえ「まぁ、そうだろうね。僕の魔女はこのコミューンの出身だから」

杏子「ふぅん、このコミューンはさ。どういう場所なの?」

キュゥべえ「地獄」


390 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 19:13:50.17 4IxL49n50 271/373


杏子「……は?」

キュゥべえ「ここは縛られた魂が留まる場所。魂を縛っているのは無念、後悔、未練そして罪悪感などの感情だ」

キュゥべえ「そしてあすみはここから動けないでいる、これがどういうことかわかるね」

杏子「つまりその縛っている物をなんとかすれば、あすみは連れ戻せるんだな?」

キュゥべえ「この場所から解放することはできるだろうね、連れ戻せるかまでは保証できない」

杏子「……わかった、行こう」


 杏子とキュゥベえは草の生えていない道を歩き出した。


391 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 19:15:37.65 4IxL49n50 272/373


 大草原の中、たった一つ続いていく道を歩いていく。
 ここには疲れも無い、太陽も無い。時間を知らせる物はなにも無い。
 どれだけ歩いただろうか。数日か、数週間か、はたまた数ヵ月か数年か。もしかしたらほんの数分なのかもしれない。

 杏子はなんとはなしに口を開いた。


杏子「そういえばさ、向こうのあたしはどうなってんの?」

キュゥべえ「僕の麻酔針で脳の一部を麻痺させた。現実の杏子は仮死状態にある、いわばこれは臨死体験というものだね」

杏子「……ここにいるあすみが、まるで幻みたいな言い方だな」

キュゥべえ「似たような物じゃないか。魂なんて存在すると思うのかい?」

杏子「そりゃあ……あるでしょ」

キュゥべえ「有史以前から現代まで、魂の存在を確認し実証できた人間は一人も存在しない。
        にもかかわらず君達は魂の存在を信じて疑わない。わけがわからないよ」

杏子「それじゃあ、あんたの言うグレートスピリッツってなんなのさ」

キュゥべえ「さぁ? なんなんだろうね」

杏子「……」

キュゥべえ「ほら、見えてきたよ」

キュゥべえ「あすみはあそこに居る」


392 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 19:16:35.29 4IxL49n50 273/373


 そこは無人駅のような場所だった。
 どこから続いていて、どこへ続いているのかわからない線路が引かれており。
 8畳ほどの空間は白いコンクリートで固められ、草原より一段高くなっている。
 そこにはAsumi Kannaと書かれた看板と、木のベンチが一つあった。

 あすみはそのベンチに座っていた。
 姿はいつものTシャツと藍色のズボン。
 片足には足枷が繋がれていた。足枷の鎖は駅の中心から生えている。
 あすみは足をブラブラさせ、鎖をジャラジャラと鳴らしていた。


杏子「あすみ」

あすみ「!」


 あすみは杏子の方を見て目を丸くする。


あすみ「杏子……お姉ちゃん?」

あすみ「あ、あはっ! すっごい。馬鹿みたい馬鹿みたい。こんなところまで追いかけてきたの?」

杏子「……」

キュゥべえ「さて、積もる話もあるだろうし僕は消えるよ。帰りは元来た道を戻ればいいからね」

杏子「ああ」


 それだけ言うと、キュゥべえは消えた。


393 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 19:18:02.04 4IxL49n50 274/373


杏子「その、また会ったな」

あすみ「そうだね、一日ぶりかな?」

杏子「あすみ、ごめんな」


 杏子は魔法少女の姿へ変身する。


杏子「帰ろう、あたしにはあんたの死を背負って生きるなんて無理だよ」

あすみ「……」


 杏子はあすみの足から伸びる鎖に、赤と銀の炎を纏った槍を叩きつける。


あすみ「そこはあすみのために来たって言って欲しかったな」

杏子「はは! そうっ! だねっ! あたしはっ! どこまで行っても自分のためだっ!」


 何度も何度も、杏子は鎖を槍で斬りつける。
 しかし鎖には傷一つつかない。


杏子「父さんの話を聞いて欲しかったのも、本当は自分のため。
    家族を元通りにしたかったのも、あたしがもう一度みんなで笑いたかったから。どこまでも身勝手な奴だよあたしは」

杏子「なのになんでだ」

杏子「なんで今までずっと酷い目に合ってきたあすみが死んで、あたしが生きてるんだよ!?」


 杏子は感情に任せて何度も何度も鎖を斬りつけるが、鎖は相変わらず傷一つつかない。


あすみ「……」

杏子「本当に幸せになるべきなのはあすみだった! 負けて死ぬべきなのはあたしだった!」

杏子「なのにどうしてだ、どうしてッ!?」

杏子「チクショウ、壊れろ! 壊れろよッ!!」


 しばしの後、杏子が槍をついて肩で息をする。


394 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 19:19:01.26 4IxL49n50 275/373


あすみ「もういいよ、杏子お姉ちゃん」

あすみ「あすみは、ゆるすよ。杏子お姉ちゃんのこと」

杏子「!?」

あすみ「流石にこんなところにまで謝りに来られちゃね。
     死んでも殺されてもゆるさないつもりだったけど、実際に殺されて死んでまで来ちゃうんだもん」

あすみ「だからさ――

杏子「駄目だ」


 杏子は胸元のソウルジェムを外すと、槍にはめ込む。
 銀と紅の炎が槍に螺旋状に巻き付いた。


杏子「あすみは絶対に連れて帰る、そして生きるんだよ」


 杏子は槍を地面に突き立てると。
 巨大な多節槍を召喚し、その穂先に乗る。


――頼むよ神様

――あたしの命と引き換えでもいいからさ

――あすみを、返してくれ


あすみ「……それじゃあさ、杏子お姉ちゃん」

あすみ「あすみと友達になろうよ」


395 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 19:19:38.83 4IxL49n50 276/373


杏子「……へ?」

あすみ「お互いにゆるし合うのも、助け合うのも友達でしょう」

杏子「……ははっ、そうだね! いいよ、なろう!」

あすみ「……」


 あすみは小さく笑って目を閉じた。


――お母さん


――あすみに、友達ができたよ


――ちょっと自分勝手だけど、とっても優しい人


杏子「いっけぇえええええええええええええ!!」


 槍は二色の炎を吹いて突撃すると。
 鈍い鉄色を放っていた鎖は、粉々に砕け散った。


396 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 19:21:05.28 4IxL49n50 277/373


 砕けた鎖はボロボロと風化していき。
 やがてあすみの足につながれていた足枷は砂の様に崩れ、風に飛ばされていった。


杏子「は、ははっ。やった、やった!」

あすみ「うん、やったね!」


 あすみと杏子は手を繋いで跳び回った。


杏子「これであすみは自由だな!」

あすみ「うん!」

杏子「それじゃあ帰るぞ。もうこんなところに用は無いからさ」

あすみ「……それなんだけどさ、杏子お姉ちゃん」

あすみ「帰る時は絶対に振り向かないでくれるかな?」

杏子「!?」

あすみ「きっと振り返っちゃいけない場所なんだよ、ここは」

あすみ「あすみはちゃんと杏子お姉ちゃんの後ろに付いてくるから、ね?」

杏子「……っ!」


 杏子はなにか言いたげに口を開いたが。
 なにも言い出せずに口を閉じた。


杏子「……わかった、ちゃんとついてこいよ」

あすみ「うん!」


397 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/26 19:22:33.93 4IxL49n50 278/373


 元来た道を歩いていく杏子の背中が見えなくなったとき。
 あすみは口を開いた。


あすみ「ジュゥーべえー」

ジュゥべえ「……あすみ、残念だが」

ジュゥべえ「あすみに繋がっていた鎖はあすみをここに縛る鎖じゃない、あすみを此岸に縛っていた鎖だったんだ。
        鎖が無くなったってことは、あすみは……」

あすみ「ん、わかってる」

あすみ「あすみはここから出られないし、ここから出ちゃいけないんだよね」

ジュゥべえ「その通りだ」

あすみ「それで、あすみはどうしたらいいのかな?」

ジュゥべえ「丁度迎えが来たようだぜ」


 それは沢山の客室を引く機関車だった。
 煙を吐かない機関車が線路を走り、あすみの駅に停車する。


あすみ「……じゃあね、ジュゥべえ。契約してくれてありがとう」

ジュゥべえ「ああ、じゃあなあすみ。お疲れさま」


 あすみは駅よりも少し高い客室の段差を上って、客室へ入る。


――もしも『次』があるのなら


――今度は杏子お姉ちゃんの妹に生まれたいな


 機関車は汽笛を1つ鳴らすと。
 あすみを乗せて走り出していった。


404 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:14:54.49 NugdedKH0 279/373


 ほむらの家。
 ふらりと杏子が現れる。


杏子「……」

まどか「杏子ちゃん!」

さやか「ほら見ろほむら! 杏子はちゃんと帰ってきたじゃないか!」

ほむら「……意外ね」

マミ「その様子だと……」

杏子「ああ」


 杏子は力なく笑った。


杏子「駄目だったよ」


405 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:15:34.07 NugdedKH0 280/373


さやか「……そっか」

マミ「仕方ないわね、元々死者蘇生なんて私達の踏み込んでいい領域ではなかった」

杏子「……」

さやか「あの、さ。あすみちゃんの身体なんだけど……どうする?」

杏子「あたしの結界の中で火葬しよう。悪かったな、さやか。巫力無駄使いさせちまって」

さやか「う、うん。それはいいけど……」

杏子「広範囲オーバーソウル、結界」


 杏子のソウルジェムから銀色の光が溢れると。
 杏子とまどかとほむらとさやかの4人が結界へと消えて行った。


406 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:16:23.78 NugdedKH0 281/373


 ハイウェイの結界。
 そこは海岸線と夕日が一望できる結界の最奥。
 杏子はあすみの死体を夕陽が見えるように横たえると、あすみを囲むように4本の槍を突き刺す。


杏子「……」


 杏子が最後の槍から手を放すと、槍に囲まれた空間に紅蓮の火が燈る。
 炎があすみの身体を焼き、黒い煙が立ち昇っていった。


杏子「本当は母親と同じ墓に入れてやりたいけど……」

ほむら「無理ね、神名あすみは今行方不明のはずよ。神名あすみの遺骨だと証明する方法は無いし、仮に証明できたら私達は犯罪者よ」

杏子「……だよな」


 一時間経ったか経たないかの後。
 骨すらも燃やし尽くして白い灰が風に吹かれて散った。


407 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:17:00.58 NugdedKH0 282/373


 4人は結界から出る。
 マミは紅茶の準備をして待っていた。


マミ「ごめんなさい、暁美さん。勝手にキッチンに入らせてもらったわ」

ほむら「構わないわ」

杏子「マミ、まどか、ほむら、さやか」


 杏子は4人に向き直る。


杏子「あたしはあんた達からしばらく離れさせてもらう」


408 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:18:12.14 NugdedKH0 283/373


マミ「!?」

さやか「あんたまた裏切る気!?」

杏子「まどか、あんたにならわかるだろ?」

まどか「……」

杏子「あたしとあんたはどうしても叶えたい願いがお互いにある、次にあたしが戦うのはまどかなんだ。
    そうでなくても遠かれ近かれあんた達の誰かが勝ち抜けばそいつと当たる。
    あたしとまどかは味方である以前にライバルなんだ。いくらあんた達でもこれ以上手の内は見せられねー」

まどか「うん、わかってるよ。杏子ちゃん」

杏子「ま、と言ってもあんた達と敵になるわけじゃない。
    あたしのところに来ればさやかの指導くらいはしてやるよ。さやかなら当たるとしても決勝だし、勝ち抜けるとも思えないし」

さやか「ぐぬぬぬぬ……!」

杏子「そういうわけで、悪いなマミ。戻ってきたばっかりだってのに」

マミ「ええ、仕方ないわね。でもね、佐倉さん」

マミ「全部終わったら、ちゃんと戻ってきてね」

杏子「おう」


409 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:19:46.28 NugdedKH0 284/373


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 河原、橋の下。杏子がグレートスピリッツから帰った直後。
 杏子はキュゥべえの耳を掴んで吊り上げ、怒鳴り込んでいた。



杏子「あたしが破壊した鎖は、あすみをこの世に繋ぎとめていた物だっただと……?」

キュゥべえ「そうだよ」

杏子「っざけんな! それじゃああたしがあすみにトドメを刺したってことじゃねぇか!」

キュゥべえ「訂正するほど間違えてはいないね」

杏子「なんで言わなかった、なんで教えなかった!?」

キュゥべえ「聞かれなったからね」

杏子「ふざけんなよテメェ!」


 杏子はキュゥべえを投げつけて壁に激突させる。
 しかしキュゥべえは何食わぬ顔でのっそりと起き上る。


キュゥべえ「僕らインキュベーターはグレートスピリッツに繋がっているから不死身だって知っているだろう? 僕に暴力は無意味だ」

杏子「……」


 杏子は肩で息をするが。
 やがて力なくその場に座り込む。


410 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:21:21.02 NugdedKH0 285/373


杏子「……キュゥべえ、あたしには本当にあすみを救える見込みはあったのか? あすみを連れてくることはできたのか?」

キュゥべえ「まさか、そんなの不可能に決まってるじゃないか」

杏子「ならどうして止めてくれなかった……?」

キュゥべえ「君の行動にはちゃんと意味があったからね」


 キュゥべえは杏子の隣へ歩み寄ると、ちょこんと座る。


キュゥべえ「あすみを繋ぎとめていた鎖の名は『怨念』。この世の全てを恨む心が、彼女を素直に昇天させなかった。
        あのまま放っておけばあすみは良くて地縛霊、悪くて悪霊になりこの世に呪いを撒き散らしていただろう。
        自我や記憶の消失はもちろん、怨念以外の全ての心を忘れ、異形と化してね。
        怨念の鎖が消えたということは、あすみはちゃんと救われたんだよ」

キュゥべえ「よかったね、杏子。君の行動は無駄ではなかったよ」

杏子「……」

杏子「認めない」

杏子「あたしはこんな終わり方、絶対に認めない」

キュゥべえ「杏子?」

杏子「うるせぇ、黙れ」


 杏子は立ち上がり、キュゥべえに背を向けると。
 歩き出していった。


411 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:21:48.58 NugdedKH0 286/373


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ビルの屋上。
 キュゥべえとジュゥべえは並んで座っていた。


キュゥべえ「いよいよ始まるね、サバトのダークホース同士の戦い」

ジュゥべえ「なんてったって巫力5万だもんなー。しかもこの前みたいな未完成じゃない。完成されたオーバーソウルで実践だ」

キュゥべえ「……本当に注目しているのはまどかじゃないんだろう?」

ジュゥべえ「ああ、キュゥべえさんの予想する優勝候補は織莉子だったよな」

キュゥべえ「そうだね」

ジュゥべえ「そしてオイラの予想する優勝候補が……カンナだ」

キュゥべえ「確かに彼女は脅威だろうね、なにせ」



キュゥべえ「出場者の中では、最強の魔女をパートナーにしているのだから」


 

412 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:22:23.58 NugdedKH0 287/373


 河川敷、橋の下。
 そこにはまどかとマミとほむらの三人が集まっていた。。
 さやかは杏子に近接武器の指導をしてもらいに行っている。


マミ「さて、佐倉さんも居ないことだしどうしようかしら?」

まどか「あの、マミさん! 結界の作り方教えてください」

マミ「え? いいけれど、どうして今更……?」

まどか「知っておきたいんです、ほむらちゃんの心の風景を」

ほむら「……」

マミ「……そうね、他にやることもないし。それに佐倉さんが居ない以上、鹿目さんが思いっきり練習するには必要ね」

マミ「でも、発動するとしたら一回だけよ。鹿目さんは今日試合なんだから」

まどか「はい!」

ほむら「その前に教えておきましょう」

まどか「?」

ほむら「その対戦相手の聖カンナと、私について」


413 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:23:07.14 NugdedKH0 288/373


 午後6時、公園には5人の魔法少女と1人の魔女が集まっていた。


まどか「杏子ちゃん、来てないんだね」

さやか「うん、なんか修行に打ち込んでるみたいでさ。あと2日でどれだけ伸ばせるかわからないけど、やれるだけはやってみたいって」

さやか「それよりもさ。まどか、大丈夫? 今から実戦だけど緊張してない?」

まどか「うん、大丈夫。自分でも不思議なくらい落ち着いてる」

カンナ「ふふふ、ほむら。待ちに待ったよ、さあ共にヒュアデスの世界へ行こう!」

ほむら「お断りするわ、まどかが居る限りね」

織莉子「……キリカわかっているわね?」

キリカ「ああ、今日まで知ることすらできなかったカンナの魔女とオーバーソウル。なんとしても解き明かす」

織莉子(聖カンナは同志ではあっても仲間ではない、必ず敵になる。なにせカンナは)



織莉子(予選開始と同時にヒュアデスを2人、消している……!)



キュゥべえ「さあ、門を開くよ」


414 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:23:37.89 NugdedKH0 289/373




               第二試合
             まどか 対 カンナ

              プラント・山野


 

415 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:24:52.28 NugdedKH0 290/373


 まどかとカンナが降り立った場所はのどかな平野だった。
 遠景に山がそびえ、足元には春の息吹を感じさせる草木と、清らかな小川が流れている。


まどか「きれいな場所……」

カンナ「ふむ、ほむらの身体はエントランスに置いてきたようだね」

ジュゥべえ「それじゃあ2人共! 変身を済ませてくれ!」

まどか「……」

カンナ「……」

ジュゥべえ「それじゃあ試合開始!」

カンナ「さて、聞こえているんだろう、ほむら。私は今日までどうやってお前を手に入れるか。そればかり考えていたよ」

まどか「……」

カンナ「そして、その方法を見つけた! テストは成功、結果は上々。見るがいい」


 カンナは上下に棘の生えた黒い球体のような物を2つ取り出すと。
 上へ放り投げる。

 2体の魔女が顕現した。
 魔女はカンナに従属するように傅く。


カンナ「魔女の種、その名もグリーフシード。私は魔女をソウルジェムに封印し、魔法少女から引き剥がすことに成功した」

カンナ「実験台のお二方を脱落させても、この魔女達は失うことは無かったし、魔女を沢山持つことも反則にもならなかった」

カンナ「お分かり? 私は魔法少女の呪縛からほむらを救うことができるんだよ!」

まどか「……」

カンナ「お前の望みはほむらと一緒に居る事なんだろう!?
     ならよかったな、ソウルジェムが破壊されてもほむらはちゃんとこの世に生き続けるよ!!」


 まどかは1つ深呼吸すると、カンナの方を向き直る。


まどか「ねぇ、聖さん。あのね」

まどか「ふざけないで」

カンナ「!?」


416 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:26:05.49 NugdedKH0 291/373


まどか「聖さんはほむらちゃんをなんだと思ってるの? 聖さんはほむらちゃんと一緒にいたいんじゃなくて、ほむらちゃんが欲しいだけじゃない」

カンナ「……っ」

まどか「ほむらちゃんは言ったよ、『この世界の暁美ほむらを殺してまで自分は生きるつもりはない』って」

まどか「ほむらちゃんは物じゃないんだよ、勝手に決めないで」

カンナ「黙れ……、黙れ黙れっ! お前に私達の何がわかる!?
     自分が作り物だと気付いた時の絶望が、自分が身勝手に生み出された命だと知った時の怒りがどれほどのものか!!」

まどか「それでも、ほむらちゃんを作り物なんかじゃない!」

カンナ「偉そうなこと言うな、お前こそほむらのなんなんだ!」

まどか「ほむらちゃんは私の友達だよ」

カンナ「Goddam! なに言ってんだ、ほむらが救いたかったのは異世界のお前だろうが!! お前なんかどうこう言われる筋合いはない!!」

まどか「それでも! ほむらちゃんは今日まで私を守ってくれた、私と一緒に戦ってくれた、私と一緒に居てくれた!!」

まどか「その気持ちまで作り物だって言うのなら、あなたにほむらちゃんは渡さない!!」

カンナ「……なら奪い取るまでだ!」

まどかカンナ「「オーバーソウル!!」」


417 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:27:47.99 NugdedKH0 292/373


まどか「ホムリリィ!」


 まどかの背後に黒い魔女が顕現し、胸元のソウルジェムへ収束し、吸い込まれる。


カンナ「くくく、見て驚け。これが私の魔女」

カンナ「ヒュアデスの暁!!」

まどか「!?」


 カンナの背後に山のように巨大な魔女が顕現する。
 それは三角帽を被り、ローブを羽織った紅蓮のテルテル坊主のような魔女だった。
 その身体には輝くラインでヒュアデスの星座が描かれている。
 その魔女はその場に蹲っていた2体の魔女を吸収すると、よりいっそうその巨大さを増す。


カンナ「数多の魔女を吸収し、変質させた変異融合体の魔女。その魔力1万5000! あ、今吸収したのを合わせると1万7700か」

カンナ「そして今回は大サービスだ、私の本気を見せてやろう」


 巨大な魔女はカンナのソウルジェムにではなく、身体を覆うように収束すると。
 カンナはどす黒い赤色をしたローブと三角帽子のような魔力の装甲を纏う。



                       ―甲縛式O.S.『緋蜂姫』―



カンナ「これがオーバーソウルの奥義にして到達点、甲縛式オーバーソウル!!
     オーバーソウルの密度を極限まで高め、魔力の鎧として身に纏うことであらゆる攻撃を防ぐ」

カンナ「そして、魔女・媒介・魔法少女を完全に重ねあわせているので、魔力の運用効率も桁違い!」

まどか「……」


 まどかは紫の光を収束させると、弓を引き絞る。


カンナ「HAッ、終わりだまどか。お前を倒して、ほむらは私がもら――


 まどかは矢を放つ。
 その直後、目も眩むほどの巨大な紫の閃光と共に。
 地形を抉るほど強大な魔力の衝撃波がカンナのオーバーソウルを吹き飛ばした。


418 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:28:49.14 NugdedKH0 293/373


 カンナは半球状に削り取られた大地の上に倒れ伏す。


カンナ「か、はっ……!?」

カンナ(何が起こった、何をされた!? 私のオーバーソウルが一瞬で……!)

まどか「……」

カンナ「……っ!」


 まどかがカンナの元へ歩み寄る。
 カンナの首元のソウルジェムに手を伸ばすが、その手を止めてしまう。


カンナ「どうしたんだ、やれよ」

まどか「っ!」

カンナ「知ってるんだろう? 私はしょせんオーバーソウルで作られた人格、魔女の力を失えば私の人格はただの妄想に逆戻りだ」

カンナ「やれよ、やってみろ。お前に私が殺せるならな……!」

まどか「……」


 まどかは震える手でソウルジェムを取るが。
 それを眺めながら動けなくなってしまう。


カンナ「くくく、そんなお前に代替案だ」

カンナ「私と組まないか?」

まどか「!?」


419 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:29:47.89 NugdedKH0 294/373


 変身が解けたカンナは起き上ると。
 まどかへ向けて笑みを浮かべる。


カンナ「私は人類を滅ぼすのを諦めるから私に勝たせてくれないか?」

まどか「そんな……!」

カンナ「私の力でほむらもここに固定する、お前はほむらと別れなくて済む。どうだ、いい案だろ?」

まどか「……っ、でも!」

カンナ「おいおい、私の言うことが信じられないのかい? 私は織莉子なんかに負けないよ」


 カンナはジリジリとまどかににじり寄る。
 まどかは怯えたように後ずさった。


まどか「……っ!」

カンナ「HAHAHA、何を怯えている。ソウルジェムを奪われた私は変身もオーバーソウルもできないっていうのに」

カンナ「ねぇ?」

まどか「っ!」


 カンナはまどかの肩を掴むと。
 ニタリと口元を吊り上げる。

               デコイラン
カンナ「馬鹿が! それは おとり だッ!!」


 カンナの魔力の篭った左腕が、まどかの胸元のソウルジェムに迫る。


420 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:30:23.94 NugdedKH0 295/373


 山里のプラントに雨が降り注いだ。
 まどかは倒れ伏すカンナの前に呆然と立ち尽くしていた。


ジュゥべえ「カンナのソウルジェムの破壊を確認。まどかとカンナは公園の方に送るぜ」

まどか「……うん」


 ジュゥべえの魔法陣がまどかとカンナを覆い、プラントから公園の方へ転送した。


421 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:31:12.32 NugdedKH0 296/373


 公園。
 まどかにさやかが駆け寄る。


さやか「まどかっ!!」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「気にすることないよ、あんな奴!!」

まどか「でも……!」

さやか「まどか、あいつは人類を滅ぼそうとしてたんだよ。まどかはそいつに勝った、まどかはなにも悪くない!!」

ほむら「そうね、まどか。あなたが気にすることないわ」

まどか「でも、ほむらちゃんが!」

ほむら「汚れ役は慣れてるわ、気にしないで。あなたの手は汚させない」

まどか「とっさに憑依合体して、私の代わりに聖さんを……!」


422 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/01 20:31:49.53 NugdedKH0 297/373


 織莉子は気を失ったカンナを抱き上げる。


織莉子「これで二敗、ですか」

さやか「……どうするの? そいつ」

織莉子「もちろん聖カンナさんの両親の元へ返しますよ。心配されてますから」

さやか「そう」

織莉子「さて、予想外でしたがこれは少し嬉しい知らせですね。私にとって、聖カンナよりも鹿目まどかの方が戦いやすい」

さやか「おい、キリカ!」

キリカ「気安く呼ぶな、あおいろ!!」

さやか「あんた、負けても絶対死ぬなよ!」

キリカ「……なんていうんだっけ、こういうの」

キリカ「そうだ、杞憂だ」


 織莉子とキリカはそのまま夜の闇へ消えて行った。


425 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/15 21:50:07.60 ycF4WWed0 298/373


 ファーストフード店。
 さやかは仁美と向き合っていた。


仁美「こうしてお話しするのも久しぶりですね」

さやか「うん、まぁ最近色々あったからね」

仁美「……」

さやか「……」

仁美「結局、さやかさんも巻き込まれてしまいましたのね」

さやか「うん」

仁美「……また、私だけ蚊帳の外になってしまいましたわ」

さやか「あのさ、仁美」

仁美「?」

さやか「あたしにもしものことがあったらさ、恭介のことお願いできるかな?
     仁美がそばに居てあげて、なるべく心配かけないでほしいんだ。あたしのことはちょっとふらっと行方不明になった感じでさ、すぐ忘れちゃうぐらい幸せにしてあげて」

仁美「……そんなに危険な戦いなのですか?」

さやか「うん、かなりヤバい相手」

仁美「わかりました」

さやか「よかった、これで思い残すことないわ」


426 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/15 21:50:50.13 ycF4WWed0 299/373


仁美「そうですね、恋の正面対決から逃げ出した臆病者のことなんて、上条君の中からすぐ忘れさせてあげましょう」

さやか「なっ!?」

仁美「ふふふ」

さやか「わ、わかってんの!? 私がやろうとしてるのは世界の命運をかけた戦いで――

仁美「それとこれとは話が別ですわ」

さやか「ぐぬぬぬぬ……」

仁美「せいぜい頑張ってくださいませ、私は何も知らずぬくぬくと幸せになります」

さやか「チクショー! 待ってろ! 恋もサバトも絶対勝って泣きを見させてやる!!」


 さやかは半泣きでファーストフード店から飛び出す。
 その背中を見送って、仁美はポツリと呟いた。


仁美「本当に嘘みたい、さやかさん達のような方々に世界の命運がかかっているなんて」

仁美「願わくば、どんな結果に終わろうと。私たちの仲は末永く続きますように」


427 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/15 21:51:15.39 ycF4WWed0 300/373




               第三試合
             さやか 対 キリカ

              プラント・海原



 

428 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/15 21:52:12.49 ycF4WWed0 301/373


さやか「うわぁああ!!」


 ザブン、と。
 転移させられたさやかが着水し、あっぷあっぷと足掻く。


さやか「なっ、なんであたし達はこんな場所なの!?」


 その場所は蒼い洋上のど真ん中。
 どこまで見ても水平線は果て無く、陸は見えない。


キリカ「魔法陣もできないのか?」


 キリカが展開した魔法陣の上に乗ると、呆れたようにさやかを見下ろす。


さやか「う、うるさい! できるよそれぐらい!!」


 音符や五線譜のような魔法陣を指輪から展開すると、ずぶ濡れのさやかが息を切らして這い上がる。


キュゥべえ「さて、2人共変身を済ませてくれ」

キリカ「……」

さやか「……」


 変身を済ませた2人の手に武器が握られる。
 さやかは一振りの長剣、キリカは両手に3本ずつ、計6本の黒い鉤爪。


キュゥべえ「それじゃあ試合開始!」

さやか「オーバーソウル!」
キリカ「オーバーソウル!」


 キリカの背後にはぬいぐるみのような魔女が、さやかの背後には西洋甲冑のような魔女がそれぞれ顕現し、ソウルジェムに収束する。


429 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/15 21:53:20.92 ycF4WWed0 302/373


キリカ「速度低下!!」

さやか「!?」

キリカ「あはぁ!」

 
 魔法陣を蹴ったキリカがさやかへ急接近し、鉤爪を振う。
 さやかは反応は間に合ったものの、速度低下によって身体の動きが追い付かない。


キリカ「さぁ、紅い花を咲かせろ!」


 鉤爪がさやかの腕を捉えた。


キリカ「!?」


 まるで金属同士が衝突したような音が響く。
 キリカの鉤爪はさやかの身体を傷つけることなく、受け止められていた。


さやか「へへっ」

キリカ「……魔力の強化、じゃないな。防壁か」

さやか「さっそくバレましたか!」


 さやかが振るった剣を、キリカは魔法陣を蹴って後ろに飛び退き回避する。


さやか(バージニア、その性質は高潔。能力は何者も寄せ付けない鉄壁の防御!)

キリカ「じゃ、次はこれだ。ヴァンパイアファング……!」


 キリカの右腕の鉤爪は一本に束ねられ、三日月刃が連なった様な長い一本のノコギリのような鉤爪を作り出す。
 撓る刃を鞭のように振るい、さやかへと突進する。


さやか「うわっ!」


 さやかは速度低下に対応してきたのか今度は剣でその黒い刃を受け止めた。
 しかし。

 キリカはその刃を一気に巻き取って鋸引きのように動かすと。
 剣を切断し、首元にまでその刃が及ぶ。


キリカ「うんっ! 手応えあり!」

さやか「ぐっ、ちっくしょう。わかってたけど殺すのに躊躇いなしかよ!」


 さやかの首筋から一滴の血が垂れていた。



430 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/15 21:54:17.18 ycF4WWed0 303/373


さやか(そうだ、こいつは何度も何度もまどかを殺す気で襲ってきた!)

さやか(これは正真正銘の殺し合い!)

キリカ「じゃ、次はこれだ。ヘルズファング」

さやか「いいっ!?」


 キリカの両手にチェーンソーが装備される。
 チェーンソーが唸りを上げて黒い刃を回転させた。


キリカ「あはぁ!」

さやか「っ!」


 さやかは防壁を掛けた剣でキリカの斬撃を受け止める。
 刃と刃の応酬は、火花を雪のように大洋に落とす。


キリカ「ほらほらどうした!?」

さやか「っ、嘗めるな!」

キリカ「!」


 さやかは剣のトリガーを引くと。
 スペツナヅ・ナイフのように剣の刃が射出され、キリカの頬を掠める。
 直後、さやかは逆の手に剣を出現させ、キリカを横一文字に斬りつけるが。


キリカ「おおっと」

さやか「!?」


 完全に不意を突いたはずなのに。キリカは悠々と後ろへ飛び退き刃を躱す。


キリカ「はっはっはっ。遅い遅い」

さやか「くそっ! 身体が思うように動かない!!」

キリカ「さて、オーバーソウルのタネも割れたし奥の手も通用しないし、そろそろ終わりだね。最後に言い残すことはないかい?」

さやか「……」

さやか「アンタさぁ、なんでヒュアデスになんかいるの……?」


431 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/15 21:54:56.88 ycF4WWed0 304/373


キリカ「……」

さやか「あすみちゃんとかカンナとか、織莉子もそうだけどさ。
     そいつらが人間の破滅を望むのはなんとなくわかるよ。でもさ、アンタはどうしてそんなことを望んでるの?」

キリカ「織莉子の意思だからだよ」


 あっけらかんと、さも当然のように。
 キリカは言い放った。


キリカ「私はね、織莉子と共に生きるんだ。どんなことがあっても織莉子と共に歩むんだ。たとえ破滅する時でも織莉子と一緒がいい」

キリカ「ゆえに私はここで負けるわけにはいかない、ここで脱落するわけにはいかない。一秒でも長く織莉子と対等で共犯の『魔法少女』であるために」

キリカ「なぜなら愛は無限に有限だからね!」

さやか「……なーんだ」

さやか「根っこはあたしと一緒か」

キリカ「……!」



432 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/15 21:56:55.44 ycF4WWed0 305/373


さやか「あたしもね、まどかと対等な友達になるために魔法少女になったんだ」

さやか「まどかばっかり戦わせて、まどかばっかり守らせて、あたしはただ見てるだけなんて耐えられなかったからね」

キリカ「……」

さやか「ま、当のまどかはほむらにお熱であたしなんか入る隙間は無かったけどね」

さやか「まどかも、ほむらも、マミさんも、杏子もみんな誰かを守るために戦った。だからあたしだけなにもせずに退場するわけにはいかないよねー!」

キリカ「それが遺言でいいか?」

さやか「……ずっと考えてた、アンタに対抗する方法を」

キリカ「ふぅん、答えは見つかったか?」

さやか「うん! それがこれだぁ!!」

キリカ「!?」


 さやかは足元の魔法陣を解除すると勢いよく海へ飛び込む。


キリカ「なるほど。水の中なら斬撃の速度が遅くなって斬れなくなると思ったか」

キリカ「ならさらに切れ味を増すだけだ! 3倍速!!」


 キリカの両腕のチェーンソーが轟音を上げて回転速度を増す。


キリカ「これなら叩き斬る必要なんて無い、触れれば切断されるんだからね!」


 キリカは勢いよく海に潜る。


キリカ『……!?』

キリカ『こ、これは!?』

さやか『速度低下、自分以外の全ての動きを鈍くする』


 魚のように自在に泳ぐさやかがキリカの背後に回る。
 キリカも動こうとするが、思うように身動きが取れない。


さやか『動きが鈍くなって抵抗の増した水の中で普段通りの速度じゃあ、あたしよりもずっと動きにくいだろ!』

キリカ『ぐっ……あおいろぉ!!』

さやか『あたしはさやかちゃんだぁああああああああああああああああ!!』


 すれ違いざまに逆手に持たれた小剣がキリカの腰のソウルジェムを捉えた。


433 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/15 21:57:22.92 ycF4WWed0 306/373


キュゥべえ「ソウルジェムの破壊を確認。試合を終了するよ」


 ずぶ濡れのさやかとキリカが公園へ転移させられた。



434 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/15 21:58:05.60 ycF4WWed0 307/373


まどか「さやかちゃん!」

さやか「よっしゃあ! 勝ってきたよ! まどかぁ!」

ほむら「まどかに抱き着くのは乾かしてからにしてもらえるかしら……?」

さやか「なんだと、このこのー!」

ほむら「ちょっと! 私に抱き着かないでちょうだい!!」

まどか「さ、さやかちゃん……」

織莉子「……これで私以外のヒュアデスは全滅ですか」

キリカ「ぅ、ぅぁ……。お、織莉子……ご、ごめんなさい……」

織莉子「キリカ」

キリカ「……っ」

織莉子「ふふふ、そういえば魔法少女になる前の貴女はそんな性格だったわね」

キリカ「!!」

織莉子「帰りましょう」

キリカ「う、うん!」


 2人のやり取りをさやかは遠巻きに眺めていた。


さやか「……よかった、負けても始末されるとかそういうのは無いみたい」

ほむら「敵の心配なんて余裕ね、あなたの次の相手はあの織莉子なのよ」

さやか「ずぶ濡れのまま言ったって説得力無いぞ」

ほむら「あなたのせいでしょ!?」



435 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/15 21:58:31.62 ycF4WWed0 308/373


 深夜の歩道橋の上。
 肩で息する杏子が、結界の中から現れた。

 杏子は通れるように座り込むと、ギラギラと光る眼で遠くを見据えた。


杏子「勝つ、勝ち抜く……。必ず!」


440 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 05:55:21.18 j84OQz2n0 309/373


 河川敷の橋の下にて。
 杏子を除く4人は集まっていた。


さやか「というわけで! さやかちゃんが勝ち残りましたよー!」


 得意げに胸を張るさやかをほむらが諌める。


ほむら「油断しないで、一勝しただけよ。相手にはまだ……」

さやか「ん、わかってる」

さやか「それよりもさ、あんた達こそ大丈夫? 杏子なんでしょ、今日の相手」

まどか「うん……」

さやか「マミさん! なにかないですかね! 杏子の弱点とか!!」

マミ「そうね、私の知ってる限りでは話すけど……」

マミ「あすみちゃんを迎えにグレートスピリッツまで行ったという話が本当だとしたら、今までの佐倉さんとは別物だと考えていいわ」

さやか「えっ……?」


441 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 05:55:52.63 j84OQz2n0 310/373


 すっかりインキュベーターの根城となった見滝原ビルの屋上。
 キュゥべえとジュゥべえは隣り合って座る。


キュゥべえ「やれやれ、杏子はすっかり成長になってしまったね。だから干渉は避けたかったのに」

ジュゥべえ「まぁ今回は仕方ねぇよ」

キュゥべえ「臨死体験、もしくは死からの蘇生を経験した魔法少女は爆発的に巫力が増加する」

キュゥべえ「まどかが膨大な巫力を持っている理由もここに起因する」

ジュゥべえ「まどかのアドバンテージは無くなってしまったというわけだ」

キュゥべえ「まぁ、それでもまどかの方が巫力は多い。でも実戦経験は杏子に分がある」

ジュゥべえ「今日の試合、荒れるぜ……!」


442 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 05:56:21.97 j84OQz2n0 311/373




               第四試合
             杏子 対 まどか

              プラント・土漠


 

443 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 05:57:45.98 j84OQz2n0 312/373


 日差しが降り注ぐ灼熱の大地。
 黒く焼けただれた土が一面に広がるプラント。
 ゴロゴロと転がる石から陽炎が上がっていた。


キュゥべえ「それじゃあ2人共、変身を済ませてくれ」


 まどかは変身を済ませ、手には花の咲き炎を吹く弓を持つ。
 そして杏子の手には――


まどか「なに、あれ……」


 狼牙戟、そう呼ぶべき武器が杏子の手には握られていた。
 その武器は片方は十字槍になっており、もう片方は狼牙棒のような棘付き棍棒になっていた。

 杏子はまどかを見据えると、ニヤリと口元を吊り上げる。


キュゥべえ「それじゃあ試合開始!」

杏子「オーバーソウル!」
まどか「オーバーソウル!」


 まどかの背後にはほむらの魔女が、杏子の背後には銀色のバイクのような魔女が顕現し。
 ソウルジェムへと収束する。


444 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 05:58:45.01 j84OQz2n0 313/373


まどか「!?」


 開始の合図と同時に。
 杏子は前方への連続したショートワープを発動し。まどかへと突進する。
 明らかにショートワープのタイムラグが短くなっている。

 まどかは振るわれた狼牙棒を弓で受けるが、一瞬で力負けして後ろへと吹き飛ばされる。


まどか「がっ!」

杏子「まだまだ!」


 杏子はまどかの背後へショートワープで回り込むと。
 狼牙戟の柄でまどかを殴りつける。


まどか「げ、ぼっ!?」

杏子「まだ、まだっ!」


 再びまどかは吹き飛ばされる。
 しかし。


まどか「くっ!」

杏子「おっ!」


 まどかは紫光の両腕を出現させ、右腕で地面を捉え。
 左手で再びショートワープで出現した杏子の狼牙棒を受け止めた。


杏子「ただじゃやられないってか……!」

まどか「ううん、わたしが勝つ!」

杏子「はっ!」


 まどかは紫光の両腕を翼へコンバートし。
 大きく羽ばたいて空を舞う。


445 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 05:59:27.63 j84OQz2n0 314/373


杏子「逃がすか!」


 杏子はショートワープで宙に出現する。
 すかさずまどかは光の翼で防ぎ、桃色の矢を番えるが。


まどか「!?」


 振り降ろされた狼牙棒は、光の翼をあっさり打ち砕いた。
 片翼を失い、バランスを崩したまどかは矢の狙いを外して明後日の方向へ放ってしまう。

 まどかは残された片翼を大きく羽ばたかせて杏子から離脱しようとするが。


杏子「逃がさねぇぞ」


 突如、杏子の狼牙戟が多節棍のように分離した。
 鎖で繋がれた節は蛇のように舞い、十字の穂先が残された片翼を切り裂く。


杏子「終わりだよ」


 杏子はショートワープでまどかの真上に出現すると、左手でまどかの首を掴んだ。


まどか「か、はっ」

杏子「取った!」


 杏子の右手がまどかの首元のソウルジェムに伸びる。


446 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 06:00:07.19 j84OQz2n0 315/373


まどか「てぃ、んく、るばーす、と……!」

杏子「!?」


 まどかと杏子の間で、紫光が炸裂した。


杏子「かっ……!」

まどか「っ!!」


 まどかと杏子の両者を吹き飛ばし。
 フラッシュバンのように杏子の視力を奪う。


杏子(不味い、不味い! その場にとどまったら危ない!)


 杏子は連続したショートワープで縦横無尽に飛び回るが。


杏子「がっ!?」

まどか「……」


 まどかの早撃ちが一瞬のラグに停止した杏子を捉えた。
 巫力の麻痺した杏子が地面に落下する。


447 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 06:00:44.63 j84OQz2n0 316/373


 地に墜ちた杏子へ、まどかが歩み寄った。


杏子「げほっ、がはっ……! ははは、やっぱり敵わないね……」

まどか「手加減、したよね。杏子ちゃん」

杏子「……バレてたか」

まどか「どの攻撃もわたしを傷付けない、もしくは絶対に死なないように狙いを外したのばっかり」

杏子「そりゃそうでしょ、あたしはヒュアデスみたいにあんた達が死んでも構わないみたいなこと言うつもりはないし」

まどか「でも……!」

杏子「いーよ、別に。あたしの覚悟が足りなかっただけだ。やれよ」

まどか「……っ!」


 まどかの矢が、杏子の胸のソウルジェムを撃ち抜いた。


448 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 06:01:13.91 j84OQz2n0 317/373


キュゥべえ「ソウルジェムの破壊を確認、試合を終了するよ」


 まどかと杏子が公園へと転移させられた。


449 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 06:01:46.07 j84OQz2n0 318/373


 杏子は夜空を見上げ、呆然と立ち尽くす。


杏子「……」

まどか「杏子ちゃん……」

杏子「ははは、これであたしの夢もお釈迦だ。残念だよ」

まどか「杏子ちゃんの武器……もしかして叶えたかった願いって……」

杏子「……もう誰の死も背負いたくなかっただけだよ、だからまどか」


 杏子は涙をいっぱい湛えた瞳でまどかの方へ向き直り、拳を突き出す。


杏子「次の戦いでも絶対に死ぬな、あたしが負けたせいで死ぬなんてことは絶対にゆるさない」

まどか「うん……!」


 まどかは自分の拳を杏子の拳の拳に合わせた。



450 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 06:02:32.98 j84OQz2n0 319/373


 河川敷、橋の下。
 そこには杏子も含む5人が集まっていた。

 さやかへマミと杏子の視線が注がれている。


杏子「腑抜け、全然なっちゃいねぇぞ」

マミ「そうね、美樹さん……。なんだか心ここに在らずって感じね」

さやか「んー、まぁそうなんだよねー」


 さやかは頭をポリポリと掻く。


さやか「なんか、あたしじゃどう足掻いても織莉子には勝てないような気がして……。まぁ後ろにまどかが控えてるから甘えてるっちゃあ甘えてるんだけど……」

杏子「テメェ……!」

マミ(美樹さんの『叶えたい願いが無い』という弱点がここになって現れてきた……。これじゃあ本当に手も足も出ずに負けてしまう可能性がある……!)

ほむら「そうね、極論から言うとあなたには負けてもらって構わない」

マミ「暁美さん!!」

さやか「……」

ほむら「ただ、それじゃああなたの参戦は何の意味も無いお遊びだったってことになるわね」

さやか「なっ!?」


451 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 06:03:12.87 j84OQz2n0 320/373


まどか「ほむらちゃん! さやかちゃんは……」

ほむら「だってそうでしょう? さやかは何も成してはいない、誰のためにも戦っていない。ただ自分の負い目を隠すために魔法少女になったに過ぎない」

さやか「ほむら……っ!」

ほむら「そんなあなたに負けた呉キリカも敵ながら浮かばれないわね」

さやか「なんだと!?」

マミ「やめて、暁美さん! どうして今更仲間割れするのよ!?」

杏子「……」

ほむら「たとえ負けてでも為すべきこと、あなたには見えないの?」

さやか「! あたしのやるべきこと……」

さやか「織莉子の、オーバーソウルの正体を探ること……?」


 ほむらはコクリと頷いた。


452 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/16 06:03:45.62 j84OQz2n0 321/373


 ムー大陸、エントランス。
 星の瞬く天球の中に飛び込んだような宇宙空間。
 スクリーンに映った、向かい合う織莉子とさやかを、まどかとほむらが固唾をのんで見守っていた。


ほむら(第一目標、織莉子のオーバーソウルの正体の解明。第二目標、織莉子の戦闘スタイルの情報収集。第三目標、勝利)

ほむら(絶対条件、死なないこと)

まどか「……」

キュゥべえ「そろそろ始まるね」

ほむら(マミや杏子の話からすると織莉子のオーバーソウルの能力は)

ほむら「時間や因果に関係する能力である可能性が高い、か」



455 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:12:45.21 2FrIHa/t0 322/373




               第五試合
             さやか 対 織莉子

              プラント・ツンドラ


 

456 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:14:11.01 2FrIHa/t0 323/373


 寒冷地植物が生い茂り。
 遠景には浅い大河が望め、周囲には霧のかかった平原。
 薄い水色の空にあらゆる熱が吸い取られているような風が吹き抜ける。


ジュゥべえ「それじゃあ2人共、変身を済ませてくれ」


 織莉子とさやかが魔法少女の姿に変身する。
 厚着の織莉子はそうでもないが、露出の多いさやかは震えあがる。


さやか「さ、寒い……!」

織莉子「……ヒュアデスも残りは私一人になってしまいました」


 織莉子は広げた手のひらの上に水晶玉を浮かばせる。


織莉子「本気を出させていただきますよ」

さやか「の、望むところだっ!」

ジュゥべえ「それじゃあ試合開始!!」

さやか「オーバーソウル! バージニア!!」

織莉子「オーバーソウル――


 織莉子の背後に、塗りつぶされた影のような魔女が顕現する。
 魔女はただひたすら祈りを捧げていた。


織莉子「エルザマリア……!!」
 

457 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:14:36.66 2FrIHa/t0 324/373


さやか「へっ……?」


 2人がオーバーソウルした次の瞬間だった。


ジュゥべえ「さやかのソウルジェムの破壊を確認、試合を終了するぜ」
 

458 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:15:26.46 2FrIHa/t0 325/373


 呆然としたさやかと、変身を解いた織莉子が公園へと現れた。


織莉子「落ち込むことはありませんよ、美樹さやかさん。今までの私はオーバーソウルの正体を隠していた。今宵はもう隠す必要が無かった。ただそれだけのこと」

さやか「ま、待てよ……。待てよ! 私はまだ!!」


 織莉子に追い縋ろうとするさやかの肩を、ほむらが掴んだ。


さやか「ほ、ほむら……」

ほむら「ファインプレーよ、さやか」

さやか「!?」

ほむら「織莉子、あなたのオーバーソウルの正体は」

ほむら「事象を書き換える能力ね」

織莉子「……」


 織莉子は肩を揺らして笑った。
 

459 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:16:05.13 2FrIHa/t0 326/373


織莉子「その通りです、ほむらさん。やはり今の一瞬でわかってしまうのですね」

ほむら「似たような力は覚えがあるからね。しかし、あなたのやって見せたことは明らかにソレとは違った」

織莉子「……エルザマリア、性質は独善」

織莉子「能力は『自分の都合のいい未来に書き換える』こと」

織莉子「どうです、世界を導く者に相応しい力でしょう?」

ほむら「……まさに独善的ね」

織莉子「ふふふ。明日の決勝戦、楽しみにしていますよ」


 織莉子は悠々と、夜の公園を後にした。

460 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:17:01.02 2FrIHa/t0 327/373


 学校昼休み。五人は集まって昼食を囲んでいたが表情は暗い。


さやか「……」

マミ「……」

杏子「なぁ、織莉子のことだけどさ」

杏子「未来を書き換えるなんて、いったいどうすりゃいいのさ」

さやか「そうだよ、そんなの無敵じゃん……」

ほむら「無敵の力なんて存在しないわ」

ほむら「本当に自由に未来を書き換えることができるなら、そもそも勝負が成立しない。それ以前にサバトの予選期間中に私たち全員を消すことができたはず」

まどか「無敵なら隠す意味なんてないもんね。きっとどこかに弱点があるから知られたくなかったんだと思う」

さやか「弱点って?」

まどか「うん、あのね。たぶんだけど……」

まどか「織莉子さんの能力って、防いだり失敗させたりできるんだと思う」

ほむら「そこまで辿り着いていたのね、まどか」

マミ「失敗、不発……。そういえばあの時……!」

ほむら「そう、おそらく織莉子の能力は」

ほむら「対象を視認していないと、発動しない」

461 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:17:38.26 2FrIHa/t0 328/373


さやか「ていうかさ」


 さやかがから揚げを箸でつまみながら口を開く。


さやか「あたし達って学校なんか来てる場合?」

まどか「なんで?」

マミ「どうして?」

さやか「いや、逆になんで疑問を持たないのよ……」

杏子「サボったらダメだよな」

マミ「そうよね」

さやか「……」

ほむら「いいのよ、下手に気張るよりもこれくらいの方が」

さやか「えー……。ゆる過ぎると思うけどなぁ……」

ほむら「ゆる過ぎるくらいが調度いいのよ、世界の命運なんて私たちに背負えるわけないんだから」

さやか「……そういうもんかなぁ」

ほむら「そういうもんよ」

462 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:18:11.82 2FrIHa/t0 329/373


まどか「ぷっ、あははは……」

杏子「どうした、まどか?」

まどか「ううん、ごめんね。本当はわたしがこんなこと言っちゃダメなんだろうけど」

まどか「信じられなくて。明日には世界が終わるかもしれないなんて」

さやか「あー、わかるわー」

ほむら「そうね。でも案外こういうモノよ。終末の前日なんて」

杏子「なんであんたはそんなに達観してるんだよ……?」

ほむら「何回も世界を滅ぼしてきた女の言うことは違うでしょ?」

杏子「笑うべきなのか、不謹慎だと諌めるべきなのか……」

ほむら「好きな方を選びなさい」



463 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:18:55.40 2FrIHa/t0 330/373


 同じく昼休み。
 まどか達とは違う学校にて。


織莉子「……」

小巻「あら、美国さん。お昼休みもお勉強? 熱心ですこと!」

小巻「そうよねー、美国さんは政治家になるんですものねー。きっとなれるわよ」

小巻「あなたのお父様みたいな立派な方に! あっははははははははは!」

織莉子「小巻さん」

小巻「!?」


 織莉子は優しげな笑みを湛えて語りかける。


織莉子「貴女は、自分の人生が尊いと思う? 家族や友達を大切にしてる?」

小巻「!?」

織莉子「答えて」

小巻「と、尊いわよ! 大切に決まってるじゃない!」

織莉子「そう、なら謝っておかないとね。ごめんなさい」

小巻「っ!?」


 目を細めて笑う織莉子に、小巻は後ずさりするように離れて行った。


織莉子「……今宵、全てが決まる」


464 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:19:21.95 2FrIHa/t0 331/373




                 決勝戦
             まどか 対 織莉子

                プラント・月


 


465 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:20:26.11 2FrIHa/t0 332/373


 月面。
 青い水の星を望む、虚空に浮かぶ灰色の岩肌。
 その月面にまどかと織莉子が、ふわりと羽毛のように降り立った。


まどか「息はできるんだね……」

キュゥべえ「まぁ僕達も魔法少女を窒息させる気はないからね。ただし重力は地球の0.165倍だよ」

織莉子「……人類は誕生以前より月と共に歩んできた。
     月の満ち欠けを月経の周期と関連させ母性の象徴として神聖視し、そして魔女の夜宴も満月の日に行われると考えられていた」

織莉子「鹿目まどかさん、知っていますか? 生物の誕生のきっかけは月の誕生によるものという説があるということを」

織莉子「人類の未来を決める決戦の地に、相応しいと思いませんか?」

まどか「……」

キュゥべえ「それじゃあ2人共、変身を済ませてくれ」


 まどかと織莉子は魔法少女の姿へと変身する。


織莉子「さぁ、一瞬で終わりますかね?」

まどか「負けない、絶対に……!」

キュゥべえ「試合開始!!」

まどか「オーバーソウル!」
織莉子「オーバーソウル!」


466 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:21:31.45 2FrIHa/t0 333/373


まどか「……っ」


 まどかは桃色の光の矢を番え、弓を引き縛る。
 織莉子はニタリと微笑んだ。


織莉子「無駄ですよ」


 光の矢が放たれる。
 矢は途中で散り、散弾の如く数多の矢となって織莉子に襲い掛かる。

 矢が織莉子に到達しようとした瞬間だった。


まどか「ティンクルバースト!」

織莉子「!!」


 桃色の光の衝撃波が織莉子を襲う。
 織莉子は目を押さえて、身を捩るが。


織莉子「ふ、ふふ……!」

まどか「!?」


 紫光の矢は、全て滑るような軌道で織莉子から逸れた。



467 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:22:29.02 2FrIHa/t0 334/373


織莉子「勘違いですよ、鹿目まどかさん」


 織莉子はニタリと微笑んでまどかを見据える。


織莉子「私の力の発動条件は『視認』することではなく、『認識』すること」

まどか「!?」

織莉子「『来る』とわかっていれば、見る必要も全てを確認する必要も無い。
     ただ『避けたい』と思うだけで、全ての暴力はわたしから逸れていくのです」

まどか「……強いですね」

織莉子「そうでしょう?」


 織莉子はクスクスと肩を揺らすと。
 手のひらを開き、その上に水晶玉を浮かべた。


織莉子「では次はこちらから」

織莉子「ブロー・フロム・ザ・パスト……!」


 水晶玉が震え、事象を超える。


468 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:27:34.12 2FrIHa/t0 335/373


 まどかのソウルジェムを水晶玉が捉えようとしたその時だった。


織莉子「!?」

まどか「……わたしってそんなに頭のいい方じゃないから、いくら考えても織莉子さんの力をどうにかする方法は思いつきませんでした」

まどか「でも、気付いたんです」


 水晶玉は紫光の翼に受け止められ、粉々に砕け散った。


まどか「ほむらちゃんの力は条理を、不可能を、絶望を破壊する光」

まどか「来るべき未来を乗り越えるための力!!」


 まどかは紫光の矢を番え、織莉子に放つ。


織莉子(事象改変!!)

織莉子「!?」


 矢は逸れることなく、織莉子の頬を掠めた。


まどか「ほむらちゃんの光なら未来を超えられる!!」

織莉子「……ふふふ」


 織莉子は肩を揺らして笑った。


469 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:28:15.99 2FrIHa/t0 336/373


織莉子「面白いですね……いや、面白いわね。まどかさん」

まどか「……」

織莉子「『未来を書き換える力』などに甘んじて、ずっと手を抜いていた私が恥ずかしいわ」

まどか「!」

織莉子「ここからは全力で相手をしてあげましょう」

織莉子「ヒュアデスではなく一人の魔法少女としてね!!」


 織莉子の周囲に数多の水晶玉が浮かび上がった。


470 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:29:30.58 2FrIHa/t0 337/373


 まどかと織莉子の壮絶な応酬が始まった。
 紫光の翼で空を舞うまどかに、織莉子は数多の水晶玉を生成しては放ち、まどかがそれを撃ち落す。
 そしてまどかの放った矢を、織莉子は反応だけで避けていた。


織莉子「ふふふ、いくらあなた自身にこの力が通用しなくても……こういう使い方もあるのよ!」

まどか「!!」


 突如、まどかの周囲を取り囲むように7つの水晶玉が現れる。


まどか「くぅ!!」


 まどかはとっさに翼でその水晶玉から身を守る。

 その一瞬の隙。
 織莉子は屈むと、一気に空中のまどかと同じ高さまで跳躍する。


織莉子「さぁ終わりね!」

まどか「!?」


 織莉子は限界まで圧縮した魔力を両手に纏い、手刀でまどかの紫光の翼を切り裂く。
 もはや魔法もオーバーソウルもあったものではない、ただの体術だ。


織莉子「人類は私が導く! 終わらない夢に全ての人間を誘い、永遠の安息を与える!!」

まどか「っ!!」


471 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:30:25.19 2FrIHa/t0 338/373


 ゆっくりと落下していく2人の応酬が続く。
 織莉子の素手の攻撃をまどかは弓で受け止め、受け流す。

 しかし高速の織莉子の手刀がまどかの腕を切り裂く。


まどか「ぁっ!!」

織莉子「これにてお仕舞い」


 織莉子の手刀が、まどかのソウルジェムごと胸を貫こうとする。


まどか「……」

織莉子「!?」


 織莉子の手刀をまどかは受け止めた。
 圧縮された魔力に、まどかの手がジリジリと焼かれていく。


まどか「終わらない夢なんて必要ない」

まどか「わたしはほむらちゃんと一緒の明日を迎えたいから!!」

織莉子「!!」


 まどかの拳が、織莉子の胸のソウルジェムを打ち砕いた。


472 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:30:53.41 2FrIHa/t0 339/373


キュゥべえ「ソウルジェムの破壊を確認、試合を終了するよ」


 まどかと織莉子は公園へ転移された。



473 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:31:37.83 2FrIHa/t0 340/373


キュゥべえ「これでサバトの全プログラムが終了したよ」

ジュゥべえ「そういうわけで……」

キュゥべえ「サバトの優勝者はまどか、君だよ。おめでとう」

ジュゥべえ「おめでとぉおおおおおおおおう!!」

まどか「ありがとう。キュゥべえ、ジュゥべえ!」

織莉子「……」

まどか「……織莉子さん」

織莉子「敗因はわかってるわ。あの一瞬、私は迷った」


 織莉子はまどかの方を見て、ニッコリと笑った。


織莉子「まどかさん。貴女と暁美さんを見て、私もキリカと共にこの世界で過ごすのも悪くないと思ってしまったの」

まどか「織莉子さん!」

織莉子「優勝おめでとう。手に入れた暁美さんとの日常、大切に過ごしなさい」

まどか「はい!!」


 織莉子はそれ以上は何も語らず、けれども足取りは軽く。
 インキュベーターと2人を取り残して去っていった。


474 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 00:32:25.47 2FrIHa/t0 341/373


ほむら「まどか」

まどか「ほむらちゃん! やったよ!!」

ほむら「ええ。頑張ったわね、まどか」

まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「えっ!?」


 まどかはほむらに勢いよく抱き着いた。
 ほむらは突然のことに驚きながらも、くすぐったそうに顔をほころばせた。


キュゥべえ「偉大なる魔女の継承は明日だ」

ジュゥべえ「偉大なる魔女は一度オーバーソウルすれば消えてしまうが、その際1つだけ願いを叶えることができる。まどかは何を願うんだ? 教えてくれよ」

まどか「うん」

まどか「ほむらちゃんと一緒に生きたい、ほむらちゃんの悲しい旅を終わらせたい。だから」

まどか「ほむらちゃんを一人の人間にして欲しい!」


478 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 17:44:52.25 bY06yCP50 342/373


 公園の入り口。
 そこにはさやかとマミ、杏子が待っていた。


さやか「まどか! ほむら!」

まどか「さやかちゃん」


 まどかはニッコリと微笑んだ。


まどか「勝ってきたよ」

さやか「!! や、やったぁあああああああ!!」

まどか「うん!」

杏子「ま、おめでとう。まどか」

マミ「ええ、おめでとう鹿目さん」

さやか「はー、なんだか気が抜けちゃったよ……」

まどか「えへへ……」

マミ(世界を救ったなんて大袈裟ね)

マミ(鹿目さんは友達を一人救った、ただそれだけでいい)

ほむら「夜も遅いわ、明日も学校はあるし帰りましょう」

さやか「ドライだなぁー、ほむらは」


479 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 17:45:45.76 bY06yCP50 343/373


 次の日の夜。
 公園にてほむらとまどかはインキュベーター達と相対していた。


キュゥべえ「さて、これより本格的に継承するよ」

ジュゥべえ「ここに来るのも最後になるかなー」

まどか「うん……!」

キュゥべえ「継承が終わった時、僕達は全ての魔女を連れてグレートスピリッツへ還ることになっているからね」

ほむら「……」

キュゥべえ「それじゃあゲートを開くよ」


 青い空間の亀裂が現れた。


480 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 17:47:27.88 bY06yCP50 344/373


 そこは広い高原のような場所だった。
 その高原の真ん中に古代の祭壇のような建造物がある。
 石造りの柱は風化も破損もしておらず、この時代錯誤な祭壇がつい最近建てられたことを物語っていた。

 インキュベーター達とまどかとほむらはその祭壇へ歩み寄る。


キュゥべえ「束ねられた運命に引き寄せられ、グレートスピリッツから生み出された偉大なる魔女。君はこの魔女の継承者になるんだ。
        この魔女をオーバーソウルしたその時、君には神にも等しい権限が与えられるだろう。受け入れるといい。これが君の運命だ」

まどか「うん!」


 祭壇に数多の魂の奔流が吸い込まれていく。
 そして誕生したのは、桃色のソウルジェム。


まどか「これが……、偉大なる魔女のソウルジェム……!」

ほむら「……」

キュゥべえ「さぁ、まどか。願うんだ。君には祈りを遂げる権利が――

「Congratulationsだね、まどかー」


 パチパチパチと。
 どこか小馬鹿にしたような拍手の音が響く。


まどか「!?」

「すごかったよ、あれが偉大なる魔女か」

ほむら「聖カンナ……!」

カンナ「……」


 カンナはニッコリと笑った。


481 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 17:48:06.98 bY06yCP50 345/373


キュゥべえ「どういうことだい? ここは魔法少女以外は入れないはずだけど」

カンナ「私はまだ魔法少女だよ」

まどか「そんな! あの時確かに!!」


 カンナはくつくつくつと笑うと、自慢げにソウルジェムを見せる。


まどか「!?」

カンナ「忘れたかい、インキュベーター。聖カンナは多重契約者だ」

ジュゥべえ「あっ、そうか!!」

ジュゥべえ「ヒュアデスの暁と契約したのは裏の聖カンナ! 表の聖カンナはズライカと契約したままだ!!」

ほむら「それで、今更何の用かしら?」

カンナ「おいおい、そう警戒するなよ。なにも私は横取りしに来たわけじゃない」


 カンナの周囲に魔力の波動が波打つ。


カンナ「ちょっと、コピーするだけさ……!」


482 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 17:48:41.29 bY06yCP50 346/373


まどか「な……!!」

キュゥべえ「まさか偉大なる魔女を君のオーバーソウルでコピーする気かい?」

カンナ「その通り」

ジュゥべえ「そんな馬鹿な!! いくらなんでもできるはずがない!!」

カンナ「いいや、できる。なぜなら」


 カンナはニィと口元を吊り上げる。


カンナ「私もグレートスピリッツに選ばれたのだから……!!」

キュゥべえ「!?」


483 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 17:52:08.24 bY06yCP50 347/373


まどか「どういう、こと……?」

「言った通りの意味だよ。魔女・ズライカはこちらの切り札だったんだ」

まどか「!?」


 そこにはキュゥべえやジュゥべえと似た姿の白いウサギのような動物が居た。


キュゥべえ「君は……インキュベーターだね」

インキュベーター「その通り」

ジュゥべえ「オイラ達以外にもいたのか!?」

まどか「どういうこと……、何が起こってるの……?」

インキュベーター「見ての通りさ。世界は終わる。サバトの結果なんて初めから関係なかったんだよ」

まどか「そんな!!」

カンナ「と、いっても私がこいつのことを知ったのはサバトで敗退した後だったけどね」


 キュゥべえは淡々と3匹目のインキュベーターに語りかける。


キュゥべえ「グレートスピリッツは初めからそのつもりだったのかい?」

インキュベーター「その通りだ。本当は試合形式で決めたかったんだがヒュアデスが全員敗退した今、強硬策に出たというわけだよ」

まどか「どうして! どうしてそんなに人間を滅ぼしたがるの!?」

インキュベーター「君達も知っているだろう。この世界のズレは本来滅んだ世界の因果律に引き寄せられたものだ。
           ならばそのズレを修正するには世界を滅ぼして然るべきだろう?」

キュゥべえ「……」

まどか「そんな、そんな……!!」

ほむら「……」

インキュベーター「さぁカンナ、始めるんだ」

カンナ「わかっているさ」


 カンナは空に手を掲げる。


484 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 17:53:50.34 bY06yCP50 348/373


カンナ「ズライカ、その性質は妄想。実物さえ見れば、イメージさえできれば、万能の神にだってなれる」


 カンナの周囲に魂の奔流が吸い込まれていく。
 そうして作られたのが、まどかと同じ桃色のソウルジェム。


カンナ「くく、はははっ」

カンナ「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!」

ジュゥべえ「こんなことがあり得るのか……!?」

キュゥべえ「……なるほどね」

キュゥべえ「束ねられた運命は、あくまでまどかの生存を認めないつもりか」


 キュゥべえはチラリとまどかの方を見据えた。


キュゥべえ「ヒュアデスの結成も、カンナの破滅願望も。全ては予定調和ということか」

まどか「……っ!?」

カンナ「オーバーソウル。さぁ叫べ怖れろ、世界を滅ぼすその魔女の名は」


 桃色のソウルジェムから、どす黒い波動が溢れだす。
 それは周囲に広がり、あっという間に天蓋を覆い尽くす。


カンナ「クリームヒルト・グレートヒェン……!!」


485 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 17:54:51.23 bY06yCP50 349/373


 黒い大樹が時空の壁を突き破り、この星を侵食する。
 あらゆる時のあらゆる場所から。
 この星の巫力を吸い上げ、そのオーバーソウルは煌々と輝きはじめる。


『願い事を言いなさい』

『叶えて差し上げましょう』

カンナ「全ての人間を滅ぼす力を!!」


 カンナはそういうと、魔女の吸い寄せた巫力がカンナへ飛び込んでいく。
 カンナは目を見開き、咽こんだ後。

 顔を上げて高笑いをした。


カンナ「あーーーーーーはははははははははははははっ!!」

カンナ「ハッピーエンドなんてクソ食らえ。今より幕を開けるのは、幼稚で陳腐なカタストロフ。
     私こそが機械仕掛けの神の意思。この世の全て戯曲に変えろ、回れ巡れを嘘にしてしまえ」

カンナ「明けない夜の始まりだッ!!」


 巨大な魔力の波動がカンナへ収束する。

 カンナが宙高く跳び上がると、その周囲を数多の天球の様な歯車が回転する。
 それは雄大で壮大で、悍ましい光景。

                                                キャラクター
カンナ「ははははは、あーーーーはははははははははははっ! 全ての人間を道化役者に変えてしまえば」

カンナ「私が、魔女人間が本物だ……!!」


486 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 17:56:05.32 bY06yCP50 350/373


 まどかとほむらが空を見上げる。
 広大なプラントの天蓋全てを暗雲が覆いつくし。
 暗雲は渦を巻いて雷鳴を轟かせる。


まどか「こんな、こんなことって……」

ほむら「最後まで……、最後まで私の前に立ち塞がるのね……」

キュゥべえ「もはや手は無いね、カンナは最強の魔法少女になった」

ジュゥべえ「どうにかできねぇのかよ!?」

キュゥべえ「行こう、僕達はここにいるべきじゃない」

ジュゥべえ「!?」


 遥か高みにて、カンナはせせら笑いながら2人を見下ろす。


カンナ「おっとオーディエンス、驚くのはまだ早い。この星の巫力こそ私の巫力」

カンナ「そしてこれらが魔女の上の存在、精霊!!」


 黒い大樹から、吸い上げられたこの星の巫力が放たれる。


487 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/19 17:56:52.93 bY06yCP50 351/373


 雷鳴が鳴る。紫電が爆ぜる。


カンナ「『地磁気』を媒介に顕現させるのは、この世で最も激しい精霊、『スピリット・オブ・サンダー』」


 大気が赤熱する。赤熱線がバーストする。


カンナ「『酸素』を媒介に顕現させるのは、この世で最も破壊的な精霊、『スピリット・オブ・ファイア』」


 大地が鳴る。歪んだ重力場が形成される。


カンナ「『鉄分』を媒介に顕現させるのは、この世で最も堅牢な精霊、『スピリット・オブ・アース』」


 大気の水分が凝結する。フェーン現象が気温を著しく変化させる。


カンナ「『水蒸気』を媒介に顕現させるのは、この世で最も壮大な精霊、『スピリット・オブ・レイン』」


 風が唸る。空気が軋る。


カンナ「『気圧』を媒介に顕現させるのは、この世で最も速い精霊、『スピリット・オブ・ウインド』」


 五体の巨人がカンナの前に現れた。
 紫、赤、茶、青、緑の色とりどりの巨人。それらは皆が皆、『異形』と形容すべき姿をしていた。


カンナ「これが終わりの始まり告げるブザーだ。覚悟しろ。この星の森羅万象がお前等の相手だ」




               スピリッツ・オブ・エレメント
             『 五  大  精  霊  の  同  時  オ  ー  バ  ー  ソ  ウ  ル  !! 』




 

490 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/21 00:18:39.71 7KqV6vX80 352/373


カンナ「さぁ、どうするまどか! 偉大なる魔女を使って私と張り合うか!?」

まどか「……っ!」

カンナ「できないだろうな! それをオーバーソウルしたらお前の望みは潰れるのだから!」


 カンナは手を前に出すと、何かを握りつぶすような動作をする。


カンナ「じゃ、仲良く滅べ」


 カンナの動きに呼応するように、スピリット・オブ・ファイアが動き出す。

 その威圧感、その存在感に。
 ほむらがいち早く口を開く。


ほむら「まどか! 一刻の猶予も無い! 今すぐ偉大なる魔女をオーバーソウルして奴と戦うのよ!!」

まどか「だ、駄目だよほむらちゃん! それじゃあほむらちゃんは、私は何のために……!!」

ほむら「そんなことを言ってる場合じゃない! 早く!!」

カンナ「もう遅い」


 スピリット・オブ・ファイアがほむらとまどかに手を伸ばしていた。
 2人を包み込むほど巨大な掌が、ほむらとまどかを焼き払わんとする。


ほむら「っ!」

カンナ「お前が悪いんだほむら、お前が払ったこの手で私は世界を滅ぼす」

カンナ「死ね!! みんな死ね!!」


491 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/21 00:19:35.82 7KqV6vX80 353/373


まどか(わたしがわがままを言ったばっかりに、わたしが迷ったばっかりに)


 スピリット・オブ・ファイアの掌が迫る。
 紅蓮の炎を上げ、まどかとほむらを掴もうとする。


まどか(どうして、わたしはこうなんだろう。わたしはなんてダメなんだろう)


 その炎が頬を焼きそうになったときだった。


まどか(ごめんなさい、ほむらちゃん。ごめんなさい)


492 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/21 00:20:03.26 7KqV6vX80 354/373


「ティロ・ボレー!!」


 一回の銃声に6発の魔法弾。
 その全ての魔法弾が、スピリット・オブ・ファイアの頭部の全く同じ個所に同時に着弾した。

 突然のことに後ろに仰け反るスピリット・オブ・ファイア。

 それとほぼ同時に。

 マスケット銃に組み込まれてれていたリボルバーごと排莢すると。
 超大口径の魔法弾を流れるような動作で装填する。銃口の大輪の薔薇がにわかに艶めく。


「ティロ・フィナーレ!!」


 6発の着弾箇所と全く同じ場所へ撃ち込まれる特大の魔法弾。
 耳を劈く炸裂音と共に、爆轟波がスピリット・オブ・ファイアへ直撃する。
 赤い巨体が後ろへと倒れた。


「間一髪ってところかしらね」

まどか「マ……」


 その魔法少女はマスケット銃をおろし、安堵したように1つ息をついた。


まどか「マミさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

マミ「ふふっ」


 涙を零して絶叫するまどかへ、マミは悪戯っぽくウインクした。


493 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/21 00:20:36.50 7KqV6vX80 355/373


カンナ「どういうことだ……! なぜ脱落したお前が! 魔女を持ってここにいる!?」

マミ「あら、私だけじゃないわよ」


 突如現れたゲートから。
 次々と魔女を携えた魔法少女達が現れる。


さやか「さやかちゃん参上!」

杏子「ルーキーがしゃしゃり出るなよ」

さやか「なにぉう! もうルーキーじゃないやい!」

織莉子「まさかこんなことになるなんて……。聖カンナ、やはり貴女は私たちの敵だった」

キリカ「なんでもいいよ、また織莉子と一緒に戦えるのが嬉しい」

ゆま「ゆまも戦うよ!」

ユウリ「その節はどーも、開始早々ずいぶん嘗めたマネしてくれたな」


 7人の魔法少女を見て、カンナがワナワナと震える。


カンナ「さやか、杏子、織莉子、キリカ……序盤に脱落させたゆまやユウリまで……! どういうことだ、何が起こっている!?」

キュゥべえ「彼女たちは再契約したのさ」


 ゲートから最後にキュゥべえとジュゥべえが現れる。


カンナ「キュゥべえ、ジュゥべえ……!」

キュゥべえ「僕たちはあくまで中立だけど、違反者が相手なら手段は選ばないよ」

ジュゥべえ「全員ここの近くに集まってくれてて助かったぜ。まさかズルいなんて言わねぇよな?」

カンナ「……それがどうした? 今さらそんな奴等が来てなにになる?」


 五大精霊達が起動した。
 破滅的な魔力を放ち、一斉に目が光る。


カンナ「止められるものなら止めてみろ!!」


494 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/21 00:22:03.29 7KqV6vX80 356/373


 さやかとマミが、まどかとほむらの隣に歩み出た。


まどか「マミさん、さやかちゃん……?」

さやか「よいしょっと、あたしとマミさんの合わせ技だっ!」


 マミとさやかが手を翳すと。
 荊の結界と、防壁の魔法がまどかとほむらの周りを囲み、視界を完全に遮る。


マミ「名付けて絶対領域。鹿目さん、暁美さんと心行くまで話し合って。どんな結論に至ろうと私たちはあなたを責めないわ」

さやか「なーに心配いらないって。偉大なる魔女の力なんか借りなくたって、あんな奴等あたし達がちょちょいっとやっつけちゃうから!」

まどか「マミさん……、さやかちゃん……!」

さやか「じゃ、行きますか!」

マミ「ええ!」


 ムックリと起き上るスピリット・オブ・ファイアに、さやかとマミが立ち塞がる


マミ「さて、よくも私のかわいい後輩を虐めてくれたわね」

さやか「高くつくよっ!」


495 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/21 00:23:21.94 7KqV6vX80 357/373


 重力波を放つスピリット・オブ・アース。
 それをひらりと躱し、挑発的に語りかける杏子。


杏子「あー、アンタついてないな」


 杏子は食べかけのたい焼きを全部頬張ると。
 ニヤリと口元を吊り上げる。


杏子「あすみやまどかと比べると俄然戦いやすいわ」



 スピリット・オブ・サンダーが放電する。
 稲光が轟き、紫電が奔るが。

 前に立つ2人には、あっさり逸れて地面に着弾してしまう。


織莉子「事象改変。空気の通電率を書き換えて、狙いを逸らしました」

織莉子「はぁ、どうしてこんなことになったのやら。当初の目的とは全く逆の理由で戦っているなんて」

キリカ「そう言わないでよ織莉子、一緒に踊ろう。ラストダンスだ!」



 スピリット・オブ・ウインドが駆け回る。
 ユウリのハンドガンが火を噴く。

 威力は低いが、狙いは外さない。
 全ての魔法弾がスピリット・オブ・ウインドの関節へ着弾した。


ユウリ「きゃははははははは! 最も速い霊が聞いて呆れる!」

ゆま「てーい!」


 ユウリのハンドガンに一瞬動きの鈍くなったスピリット・オブ・ウインドへ、ゆまのハンマーが振り降ろされる。
 傷付くまでには至らないが、その動きを怯ませた。


ユウリ「さて、こっちは散々ぞんざいに扱われた上に、本戦に参加できなくてムラムラしてるんだ。少しは楽しませろよ!」



 スピリット・オブ・レインの絶対零度の攻撃を。
 二匹は躱し、翻弄する。


キュゥべえ「ここまで好き勝手やられたら僕たちも黙っていられないね」

ジュゥべえ「サバトの運営委員の力を思い知れ!」


496 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/21 00:25:46.97 7KqV6vX80 358/373


 結界の中で、まどかはほむらに語りかける。


まどか「ほむらちゃん、わたしもっとほむらちゃんといっぱい話したかったよ……。
     いっぱい教えて欲しいことあったよ……、二人でおいしい物いっぱい食べたかったよ……!」

ほむら「ええ、そうね」

まどか「もっと、ずっと一緒に居たかったよ……!」

ほむら「……」

まどか「ほむらちゃんはこんな終わり方でいいの!?
     何度も泣いて、傷だらけになりながら! ずっと独りで戦ってきたのに! 楽しいことも嬉しいこともなにも無いまま終わるなんて……!!」

ほむら「まどか」


 ほむらはまどかの手を握りしめる。


ほむら「私は十分救われた」

まどか「……っ!」

ほむら「友達との約束をようやく果たすことができた」

ほむら「何度もあなたを見捨てて来て、何度もみんなを見殺しにしてきて。
     そんな現実に目を逸らしながら出口の無い迷路に逃げ込み続けた。そんな卑怯者にはあまりに幸せ過ぎた結末よ」

まどか「違う、違うよ……!」

ほむら「それにね、楽しいことも嬉しいこともなにも無いなんて嘘よ。
     あなたと過ごした毎日、避けようも無い滅びも嘆きも無いこの世界で仲間と過ごした日々、私は本当に楽しかった。消えるのが名残惜しいくらい」

まどか「ほむら、ちゃん……」

ほむら「こんな私のために泣いてくれてありがとう。私の手を取ってくれてありがとう。私を信じてくれてありがとう。私のために戦ってくれてありがとう」

ほむら「まどか、私の最高の友達」

まどか「――っ!!」


497 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/21 00:26:38.60 7KqV6vX80 359/373


 しばしの沈黙の後。
 ほむらは思いついたように口を開く。


ほむら「そうね、それでも1つだけわがままを言わせてもらえるなら」

ほむら「私が居なくなった後も、『暁美ほむら』と仲良くしてくれるかしら?
     病弱で気弱な彼女は、これからもきっと心細い思いをするだろうから」

まどか「うん! うんっ! 絶対に!」

ほむら「そう、よかった」


 ほむらはまどかの方を向き、にっこりと微笑んだ。

 2人は結界を解除する。


498 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/21 00:27:16.86 7KqV6vX80 360/373


 スピリット・オブ・ファイアの業炎がさやかの周囲を焼き払う。


さやか「ぎゃああああ! だ、駄目だよマミさん! こいつどんどん強くなってる!!」

マミ「寝起きの上に思いっきり手加減されてたみたいね……」


 マミは周囲をちらりと見渡す。
 どの場所での戦いも、明らかに五大精霊が優勢だった。


マミ「でもね、美樹さん。泣き言を言ってる暇はないわよ。私たちが頑張らないと鹿目さんと暁美さんの仲を引き裂くことになるんだから」

さやか「わかってますよ!」


 マミが銃を、さやかが剣を構え直したその時だった。


マミ「あれは……」

さやか「まどかとほむら……!」


499 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/21 00:28:08.47 7KqV6vX80 361/373


まどか「ダブルオーバーソウル、ホムリリィ、グレートウィッチ」

カンナ「とうとう出てきたか、ほむら! まどか!」


 まどかは偉大なる魔女と、ほむらを顕現させる。
 どこか満足そうなほむらの魔女と、山吹色の巨大な魂の奔流がまどかの背後に現れ。
 ソウルジェムへ収束していった。


まどか「お別れだねほむらちゃん」


 まどかが弓に虹色の矢を番える。
 まどかの頭上に、セフィロトの樹のような巨大な空中絵が描かれた。


まどか「わたしもほむらちゃんと一緒に過ごした毎日、楽しかったよ」

カンナ「死ぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 カンナが巨大な歯車をまどかへ向けて飛ばす。


まどか「ばいばい」


 虹色に輝く矢が歯車を貫き、カンナへ猛進する。


500 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/21 00:29:42.15 7KqV6vX80 362/373


カンナ「っ!?」

ほむら『カンナ』

カンナ「ほむらっ!?」

ほむら『あなたと2人きりで生きることはできないけれど、代わりに一緒に死んであげるわ』

カンナ「なんだと……!」

ほむら『さぁ』

カンナ「っ!? よ、よせ! 離せ! 離せ離せ離せ離せっ!!」

ほむら『いいえ離さない』

カンナ「ふ、ふざけるな! こんな、こんな終わり方っ!! やめろ、死ぬならお前一人で死ね!!」

ほむら『そうつれないこと言わないでよ』

ほむら『この世にたった二人の魔女人間でしょ?』

カンナ「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 ほむらに抱かれるように捕えられたカンナの自我は、巨大な魂の奔流・グレートスピリッツへと落下していった。


504 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/22 01:45:12.40 NHbxt+9s0 363/373


エピローグ


 自室のカーテンを開けるわたし。杏子ちゃんはまだ寝ています。
 朝日のよく入る2階の東側。
 窓から見下ろす庭ではパパがガーデニングをしていました。

 今日のサラダはプチトマトかな。

「起きて、杏子ちゃん」

「ん、うぅー……」


「おはよう、パパ」

「おはよう。まどか、杏子ちゃん」

「ふぁー、おはようございます」

「ママは?」

「タツヤが行っているよ、手伝ってやって」

「はーい」


 パパとママの部屋。
 ママはベッドの中で布団にくるまり亀になっていた。

「まーまっ! あーさっ! あーさっ!」

 タツヤの懸命な攻撃にもママは全く動じない。
 わたしは一気にカーテンを開き、ママの布団を引っぺがした。

「起ーきろー!」

「ひゃああああああああああッ!?」

 朝日の眩しさに七転八倒するママ。


505 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/22 01:46:12.49 NHbxt+9s0 364/373


 あの戦いの後、わたしはパパとママに全部話しました。
 パパとママは黙って聞いてくれた後、「そうかい。よく頑張ったね、まどか」「流石あたしの娘だ」って言ってくれました。
 それ以降も、わたしと家族の関係は変わりません。

 そういえばパパとママからは明るくなった、自分のことをよく話すようになったって言われます。


506 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/22 01:47:32.60 NHbxt+9s0 365/373


「いってきまーす!」

「いってきます」

「いってらっしゃい、二人とも」


 杏子ちゃんと話しながら歩く通学路。
 登校途中の人たちが沢山居ました。
 その中に楽しそうに話す仁美ちゃんとさやかちゃんを見つけました。

「おっはよー!」

「おっす」

「おはようございます」

「おっ、おはよー! まどか、杏子!」

 仁美ちゃんは杏子ちゃんと友達になれて喜んでました。
 性格は真逆なのに意外と仲が良かったりします。

「お、噂をすればあのボーヤじゃないの?」

「恭介!?」

「上条くん!?」

「あー、人違いだった」

「なんだよもー」

「杏子さん……」

 仁美ちゃんとさやかちゃんの恋の勝負はまた始まったようです。
 ただしどっちかが告白するんじゃなくて、上条君から告白されるようにアプローチ勝負になりました。

 どっちが勝っても喧嘩にならないといいな。


507 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/22 01:48:25.62 NHbxt+9s0 366/373


 学校の昇降口。
 そこには靴を履きかえてるほむらちゃんが居ました。

 わたしは走って抱き着きます。

「おっはよー! ほむらちゃん!!」

「わっ! 鹿目さ……じゃなくてまどかさん!」

「あー、相変わらず妬けるねー」

「私たちに入り込む隙なんて無いんですね……」

「ほどほどにしろよ」

 前のほむらちゃんが居なくなっても、ほむらちゃんにはサバトやあの戦いの記憶が残っていました。
 ほむらちゃんはあの日以来、メガネをかけてちょっと大人しくなりました。
 クラスの人たちもいきなり変わったほむらちゃんに驚いていましたが、実は隠れたファンクラブがあるって聞きます。


508 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/22 01:49:19.00 NHbxt+9s0 367/373


 数学の時間。
 ほむらちゃんに当てられました。

(ほむらちゃん、がんばって! この前勉強会でやったところだよ!!)

「えっと……、えっと。あっ、そうだ」

 ほむらちゃんはちょっとクセのある解き方で正解を書きました。
 でも足が震えてた。がんばったんだね。
 わたしは一安心して窓の外を眺めます。

「……」

 キュゥべえとジュゥべえ、そして3匹目のインキュベーターは、魔女を連れてグレートスピリッツへ帰って行きました。
 キュゥべえが言うには、「この世界のズレは修正できた。もう魔女も魔法少女もこの世界には必要ない」そうです。

 魔法少女だったみんなは寂しそうでした。
 わたしも最後にもう一回だけ前のほむらちゃんとお話したかったな……。

 もうサバトの戦いの証拠は何もありません。
 まるで今までのことはわたしの見ていた夢だったような気さえしてきます……。


509 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/22 01:50:18.15 NHbxt+9s0 368/373


 昼休み、屋上。


杏子「隣いいかい、マミさん」

マミ「あら、呼び方戻したの? マミでいいのに」

杏子「いやそうもいかないでしょ、一応先輩なんだしさ」

マミ「ふふふ、そうね」



 わたしたちもマミさんと友達だけど、杏子ちゃんは特にマミさんと仲が良いです。
 マミさんの部屋には勉強会やお茶会でよくお邪魔させてもらっています。
 マミさんは優しく教えてくれるけど、迷惑じゃないかな?
 あと時々わたし一人だけでお茶の淹れ方とお菓子の作り方を習いに行きます。
 パパをびっくりさせるほどおいしく作れるようになるのが目標です。


510 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/22 01:50:49.19 NHbxt+9s0 369/373


 放課後、家に着いて着替えてるとき。
 杏子ちゃんが、ふと口を開きました。

「あたしさ、今から父さんに会いに行ってくる」

「!」

「だからさ、悪いけど途中までついてきてくれるかな……? 怖いんだ」

「うん!」


511 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/22 01:52:03.29 NHbxt+9s0 370/373


 教会。
 杏子の父親は年配の拝聴者を送り、笑顔で手を振っていた。


杏子「父さん」

「!! きょう、こ……!?」

杏子「ただいま」

「……っ!」


 杏子の父親は、駆け寄って杏子を抱き寄せようとしたが、何かが咎めたように思いとどまり。
 代わりに手をついて、地面に頭をこすり付けた。


「すまない、すまなかった……! お前を傷つけ、私が家族を台無しにしてしまった……!!」

杏子「……」

「あの後も、お前がいなくなった後も教会に人が訪れてくれたんだ。私の話を聞きたいと人が集まってくれたんだ。そのときようやく気付いた。
 お前は魔女などではないと、集まっていたの人々は惑わされていたわけではないと、お前はただ私の声を人々に届けてくれていただけなのだと」

「すまない、すまない。私はどうしようもない馬鹿だ、救いようのない愚か者だ。ゆるしてくれ……!」

杏子「……」

杏子「ゆるさない、死んでも殺されてもゆるさない」

「……そうか」

杏子「ってのは冗談。でも今はゆるせないのは本当だよ。だからさ、父さん」

杏子「もっと教会を立派にして、母さんもモモも、みんな取り戻そう。そしてもう一度家族をやり直そう」

杏子「あたしも協力するからさ」

「杏子……っ!」


 杏子の父親杏子の手を取ると、涙を流した。


512 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/22 02:02:25.99 NHbxt+9s0 371/373


 美国邸。
 かつてヒュアデスの拠点だった場所。
 4人はテーブルに掛けてお茶会をしていた。


織莉子「さて、やることが無くなってしまったわね」

キリカ「わ、私は何があっても織莉子について行くよ……」

織莉子「ふふふ、ありがとうキリカ」

あいり「今後の方針の相談なんだよね」

織莉子「ええ、っていうか貴女の本当の名前はあいりって言うのね」

あいり「い、言わないでよ!!」

ニコ「ちなみに私は名前はカンナだけどニコと呼んでくれ」

織莉子「紛らわしいわね」

ニコ「ところでゆまは?」

織莉子「ああ、祖父方の家に引き取られたそうよ。祖父の方も、祖母の方もいい人みたいね」

織莉子「さて、人類の救済には失敗したけど私はまだ救世を諦めてはいないわ。とりあえず当面の目標は政治家になる事ね」

ニコ「わぉ、大きい夢だね」



 織莉子さんはヒュアデスのみんなを集めてまたなにか企んでいるみたい。
 いろんな人たちが集まってるけど、織莉子さんならきっと大丈夫だと思います。

513 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/22 02:03:04.25 NHbxt+9s0 372/373


 サバトが終わっても、偉大なる魔女が居なくなっても。
 わたしたちの日常は続いていきます。

 これからもきっと、サバトなんかとは比べ物にならないほど苦しいことや辛いこともあると思います。
 それでも、私たちはきっと大丈夫。
 だってみんな一人じゃないから。

 そうでしょ、ほむらちゃん。わたしの最高の友達。


――While you remember her, you are not alone.


514 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/07/22 02:04:40.32 NHbxt+9s0 373/373


エピローグのエピローグ


「ん、う……」

 私は目をこすりながら夢心地の頭を起こした。
 車窓の風景は、水の上に浮かぶ一軒家が後ろへ流れていく。

 この列車は海の上を走っていた。

「いい夢見れた? ほむらお姉ちゃん」

 向かいの席に座ったあすみがにやにやとこちらを見ている。

「ええ、とても幸せな夢を」

「へー、いいなー」

「ふん」

 あすみの隣に座ったカンナが不機嫌そうに頬杖をついていた。

「それにしても驚きだな。ただのオーバーソウルやコピー人格に過ぎない私たちに魂があるなんて」

「まぁ特に驚くべきことじゃないわ。残留思念の私はともかく、本物の魔法少女になれたあなたには心も魂もあって然るべきでしょう?」

「……」

「そのことにもっと早く気づいていればあなたは――

「言うな、ほむら。もう過ぎたことだ」

「それもそうね」

 私は車窓を開けると、外へ顔を出す。
 黒髪が風に靡いて、舞った。

「ねー、カンナお姉ちゃん。ひょっとして無駄死に?」

「こいつ……!」

 あすみに掴みかかるカンナを見て、私は小さく笑う。


 私たち3人を乗せた列車は、グレートスピリッツの深部へと走っていった。




                                            ――Fin


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