1 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:18:04.88 L/Hkg04S0 1/63

「ひーまー」

「今エピローグだから」

「そのくらい後で読めるよ」

「うんうんそうだね」

「人の話を聞きなさい」

「聞いてる、聞いてるよ」

「はあ、つまんない」

「終わった」

「どうだった?」

「もう少し登場人物に深みを持たせた方がいい」

「むう、頑張る」

「頑張れ」


元スレ
女「ねえ、暇だよー」男「後もう少しだから待って」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1309868284/

2 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:19:33.02 L/Hkg04S0 2/63


「と言うか、文芸部なのに」

「うん」

「どうして物を書かないのさ」

「書きたくないから」

「なんで?」

「自分の限界を知ってるからね」

「うわ、おっさんくさい」

「よく言われる」

「顔は幼いのにねえ」

「それも言われる」


3 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:21:14.13 L/Hkg04S0 3/63

「もう五時半だ」

「早いねえ」

「ずっと暇暇言ってたのに」

「今思えばいい思い出ということで」

「ふうん」

「帰るの?」

「君は?」

「もう少しぐだぐだしてたいかな」

「あっそ」

「帰るの?」

「もう少しぐだぐだしてよう」

「あっそー」


4 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:23:40.92 L/Hkg04S0 4/63

「どうしてもさ」

「うん」

「プロットを立てるだけで、満足する時あるよね」

「あるんだろうね」

「で、何も考えずに書き進めた方が筆が進むの」

「へえ」

「自分もこれからどう物語が進むかを楽しみたいんだろうねえ」

「そりゃまた難儀だ」

「……今度は何読んでるの」

「君の入部当時の作品」

「うへ、悪趣味」

「最新作はいつも読ませてくれるじゃないか」

「それとこれとはちーがうー」


5 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:26:31.84 L/Hkg04S0 5/63

「また暇だよ」

「なんか書いたら」

「お題頂戴よ」

「青春」

「よくそんなぽんぽんと私を痛めつけるような単語を吐けるよね」

「書けるジャンルが多いに越した事は無いと思う」

「うっさい陰険」

「はいはい」

「はーもう……原稿用紙取って」

「ん」

「ありがと」


8 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:29:30.46 L/Hkg04S0 6/63

「……」

「書き出しはそうだなー」

「……」

「こう、主人公の平凡さを表す感じがいいよね」

「……」

「で、ボーイミーツガール形式で段々と成長していくと」

「……読書の邪魔だよ」

「いっひひ」

「大体、それは王道の王道じゃないか」

「いいでしょ短編なんだから」

「なるべくスマートにたのむよ」

「読むの前提かよー」

「それは勿論」

10 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:33:19.38 L/Hkg04S0 7/63

「終わった」

「丁度読み終わったところだ」

「嘘つけ」

「それにしても流石の速筆だね」

「話を切り替えるのが好きだねえ」

「好きだからね」

「はい」

「うん、読ませてもらう」

「暇だー」


13 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:36:47.67 L/Hkg04S0 8/63

「……主人公の名前が俺と同じなんだけど」

「気のせい」

「そっか」

「フィクションだからね」

「成程」

「どんなに悲惨な目に遭ってようと、フィクションはフィクション」

「そうだね」

「で、感想は」

「たまに君は喧嘩を売ってくるよね」

「たまたまだよ」


14 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:40:31.30 L/Hkg04S0 9/63

「六時半」

「うわー真っ暗」

「帰るの?」

「まだぐだぐだしたいって言ったら?」

「俺は帰るよ」

「ケチ」

「ほら、行くよ」

「甲斐性無し!」

「変な責任を押し付けないでくれよ」

「ばーかばーか」

「はいはい」

16 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:43:53.79 L/Hkg04S0 10/63

――帰り道

「さてこの長い帰り道」

「いつもの事じゃないか」

「どう暇を潰して帰路を辿ろうか」

「うん、どうぞ」

「つまんないなあ、もっと乗ってきてよ」

「君が話を始めたらね」

「はあー……じゃ、私の好きな作家の話を」

「うん」

「昨日読んだのはねえ――」


17 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:47:18.72 L/Hkg04S0 11/63

「……あっと言う間に分かれ道だよ」

「そうだね」

「相変わらず君といると時間が早く過ぎるよ」

「そりゃどうも」

「照れてる?」

「かもしれないね」

「暗くてよく見えないよ」

「そりゃ良かった」

「じゃ、また明日」

「また」


18 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:50:18.97 L/Hkg04S0 12/63

「ただいま」

「おかえり」

「母さんは仕事?」

「ん」

「そうか……」

「今日も部活?」

「そんな感じ」

「そっかー」

「もう飯は食ったの?」

「これから」

「じゃあ食べようか」

「はいほー」


20 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:53:53.24 L/Hkg04S0 13/63

「それにしても」

「うん」

「もう半年近く通ってるんだよね、部活」

「そりゃね」

「中学の頃は剣道入ってすぐ辞めちゃったのに」

「ほっといてくれ」

「お兄ちゃん別に読んだり書いたりする人間じゃないでしょ?」

「……」

「凄いねえ」

「……」

「恋の力って」

「……俺は嫌味な妹をもてて幸せだよ」

「にっひっひ」

22 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 21:58:27.16 L/Hkg04S0 14/63

「中学ではその容姿に惹かれ迫ってくる女子たちを頑なに振り続け」

「一度たりとも懐に寄せる事をしなかったお兄ちゃん」

「婚約者がいるんじゃないかと噂されたそんなお兄ちゃんが」

「高校に入ってなんと一目惚れ!」

「その日のうちに、入部届けを出したんだってね」

「雷神もかくやというその行動力の前に、妹ちゃんはただただニヤニヤするばかりでございまする」

「お前は舞台役者に向いてるかもな」

「今度の文化祭でクラス劇やるから。見にきてね」

「分かった」

「是非女先輩と一緒に!」

「……」

26 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 22:01:59.91 L/Hkg04S0 15/63

――自室

「……」

「メール着てる」

「……女からか」

『暇だよー君もどうせ暇だろー』

「……家に居ても同じなのか」

「……」

『時間はあるけど、暇では無いな』

「……よし」


28 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 22:07:36.94 L/Hkg04S0 16/63

ギシッ

「……ふー」

「今日も何事も無かった」

「明日も明後日も」

「平凡だ」

「……君は知らないよな」

「俺が平凡な人間だって事」

「君以外の小説は読まないし、一度も書いたことは無い」

「ただ、君に、知ったような口を聞いて、驚かせているだけ……」

「……知ったら、幻滅するのかな」

「……されるんだろうなあ」

「……」


32 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 22:12:04.65 L/Hkg04S0 17/63

――

『……あれ? もしかして……』

『……うん。入部希望』

『おー。良かった良かった』

『えっ!? な……何が?』

『いや、なんか今年もう部員ゼロみたいでさー。新入部員だけ、なんだよね』

『そ……それって』

『私と貴方だけだね。今のところは』

『……そうなのか』

『ま、長い付き合いになるだろうしね。自己紹介でも、しよっか』

『……二人、って……』

『……おーい?』

『え!? あ、ああ、大丈夫……』

『そんな緊張しなくてもいいよ? 部員なんだから、さ!』

『わ……分かった』


33 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 22:16:52.70 L/Hkg04S0 18/63

――

「……あー……やべ……変な夢見た」ユラリ

「半年……もっと前か……」

「……まだ他人行儀だったんだな」

「今は……」

「……」

『ほうほう、つまりは暇って事だね。じゃあ私の話を聞いてくれるって事だね?』

『返事が無いけど始めるよー。今日は私の大好きな作家さん、伊藤計劃のお話!』

『この人は稀代の天才と呼ばれた人でねー。もうとにかく凄いんだよ。才能溢れまくり。
  天才は早死にするって本当なんだね。惜しい人を亡くしたよ、全く』

『ねー、全然返信返ってこないんだけど、見てるのかな? まあ、全部私の暇つぶしなんだけどさ』

「……やれやれ」


36 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 22:21:33.08 L/Hkg04S0 19/63

――翌日

「やあ」

「はろ」

「何してるの」

「執筆作業」

「お題に恋愛追加」

「うぐぐぐ、それは無理」

「頑張れ」

「君が書けばいいだろーぅ」

「だから書きたくないんだって」

「むー」

38 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 22:26:04.55 L/Hkg04S0 20/63

>>37
変な兄妹物なら書いてた


「段々と」

「ん」

「寒くなってきたね」

「まあ、そうだね」

「一度でいいからさ」

「うん」

「コタツに入ってぬくぬくしながら本読みたい」

「入ればいいじゃないか」

「うちコタツ無いんだよぉー」

「あ、そう……」


40 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 22:30:23.83 L/Hkg04S0 21/63

「確か、君んちにはあるんだよね?」

「……あるにはあるけど」

「……にっこり」

「え」

「言いたい事は分かると思う」

「駄目じゃない……けど」

「まあ、考えてみれば一度も男くんの家行った事無かったからさー」

「それが普通だと思うよ……」

「そうかな?」


43 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 22:34:52.56 L/Hkg04S0 22/63

「――それじゃ、今週末行くから、よろしくね」

「分かった」

「あと書き終わったから、読んで」

「ああうん」

「ふっふー」

(……今週末、か)

(妹には悪いけど……外出してもらわないと)

(……なんだろう)

(……手は出せない、だろうな……)

44 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 22:39:14.62 L/Hkg04S0 23/63

――帰り道

「暗いねー」

「寒い寒い」

「もうこのまま君んち行っていい?」

「それは……駄目だよ」

「なにゆえ」

「本持って無いじゃないか」

「君んちの奴読めばいーじゃん」

「……妹いるし」

「居たら何か不都合でも?」

「あるような無いような」

「ふうん、変なの」


45 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 22:44:50.37 L/Hkg04S0 24/63

「じゃあ、家の前まで」

「どうして」

「だって君んちの場所分からないし」

「ああ……そっか」

「当日案内させる訳にもいかないしね」

「でも、もう暗いぞ」

「君が家まで送ってくれればいい話」

「あっそう」

「いっひひ!」

(……わざとやってるんだろうか?)


49 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 22:50:22.23 L/Hkg04S0 25/63

「ここがうち」

「へえ、おっきいねえ」

「その分分かりやすいと思うよ」

「そうだね」

「じゃあ、行こうか」

「ん、分かった」

ガチャ

「あれ?」


52 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 22:55:37.44 L/Hkg04S0 26/63

「……あー」

「あれ? おにいちゃ……って、女先輩!」

「ん……ああ、妹さん?」

「はい! 文化祭の時にお会いしました!」

「うん。覚えてるよ」

「光栄ですっ! ささ、どうぞ上がっていってください!」

「え? いいの? じゃあ上がらせてもらおうかー……な?」

「……どうして俺を見る」

「いっひひ。お邪魔しまーす」

「……まあ、いいかな」


54 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 23:00:41.41 L/Hkg04S0 27/63

「やー、お兄ちゃんも中々やるね」

「そう言うのじゃなくて……お前、何で出てきたんだ?」

「話し声が聞こえたから」

「犬かお前は」

「にっひっひ」

「コタツは何処にあるのかな?」

「居間」

「そっかー」

「……いやはや」


55 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 23:06:26.18 L/Hkg04S0 28/63

「わー。本当にコタツだー」

「あはは、どうしたんです女先輩?」

「いやねー。本当は今週末ね、コタツに潜る為にここに来る予定だったんだ」

「そうだったんですか。……そう言う事ね」

「そう言う事だ」

「ふうん……まあ、どうぞ! くつろいでいってくださいね!」

「ごめんね妹さん。急にお邪魔しちゃって」

「いえいえ、お気になさらず。この際ですし、夕ご飯もご一緒しませんか?」

「本当? だったら甘えちゃおうかー……な?」

「……いいんじゃない、別に」

「やった!」

67 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 23:36:21.54 L/Hkg04S0 29/63


――

「いただきまーす」

「いただきます」

「召し上がれー」

「もぐ……うん、うん……凄く、美味しい」

「えへへ、ありがとうございます」

「うちの妹は料理に関して言えば、そんじょそこいらのお嫁さんより上手いからね」

「おー。お兄ちゃんが褒めてくれるなんて珍しい」

「たまには身内自慢も必要かと」

「仲良いんだねえ、羨ましいよ」

「女さんは、兄妹とかは……?」

「いないのよ。ずっと本が友達」

「陰険」

「ふん、君もだね!」


69 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 23:44:01.47 L/Hkg04S0 30/63

「はあー美味しかった。ご馳走様!」

「ごちそうさま」

「お粗末様ー」

「食器、洗うべきだよね?」

「えっ、いいですよそんな! お兄ちゃんにやらせますんで!」

「うん、食器洗いは俺の仕事だ」

「あ、そう? じゃあよろしくね」

「切り替え早いね」

「慣れてるからね!」


70 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 23:47:38.38 L/Hkg04S0 31/63

「じゃ、私は上にいるから、後よろしくね」

「え、ああ、うん」

「妹さんもコタツはいらない?」

「あー、いえ。私、学校の課題残ってますんで……」

「偉いなあ。ね、お兄ちゃん?」

「早くコタツ入ってなよ……」

「はいはーい」スタスタ

「ふふ……中々かなか、仲いいじゃない」

「おかげさまでね」

「ん。じゃ、仲良くねー」

「はいはい」


71 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 23:51:52.16 L/Hkg04S0 32/63

ジャー

(……早く食器を片付けたい)

(……でも綺麗にしたい)

(……ジレンマか)

(相変わらず、語彙の無さに泣かされる)

(……別に急ぐ必要も無い、けど)

(……やっぱり、早くしよう)


72 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/05 23:56:12.02 L/Hkg04S0 33/63

――

「どうですか、コタツの温度は」スタスタ

「おつかれー良い感じだよー」

「そりゃ良かった」

「やっぱ来てよかった、うん」

「そう」

「これで本があれば最高なんだけど……」

「……」

「はい」ヒョイ

「お、流石」

「父さんの読みかけだけど」

「ばっちこい」


74 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:00:55.97 LpFylAoa0 34/63

「と言うか、君」

「んー?」

「家の人心配してるんじゃないの」

「ああ、もうメールしてある」

「なんて?」

「知り合いのうちに泊まります、てね」

「……へえ?」

「お、君に呆れた目で見られるのは何度目だろうね」

「十回は越えるだろうね」

「お互い様だけどね」

「まあね」


75 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:04:34.67 LpFylAoa0 35/63

「と言うか。泊まるって」

「まあ、成り行き?」

「物書きとしてそれは情けないと思わないのかね」

「物語を書いててプロットどおりにキャラクターが動かないなんてザラだよ」

「それっていいの」

「キャラクターの一人歩きって奴だね」

「字の感じからして振り回されてる感が」

「まあ、否定はしない」


77 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:08:47.50 LpFylAoa0 36/63

「妹さんは結構簡単に認めてくれそうだし」

「あいつは……うん」

「後は君なんだよ」

「泊りか」

「そう」

「構わないけど、どこで寝るつもり?」

「うーん。要相談、だねえ」

「君ね……」

「いっそここでもいいよ」

「風邪ひくよ」

「ん。そっか……」

「……」


79 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:12:40.28 LpFylAoa0 37/63

「……ん、……」コク

「……」

「……」コクン

「……」

「……すぅ」

「……おーい」

「ん……だいじょぶ」

「何処が……?」

80 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:16:59.85 LpFylAoa0 38/63

「……起きろ、陰鬱少女」ユサユサ

「ん……寝てた?」

「舟こいでた」

「う、うぐ……ごめんね、やっぱり時代物はまだ早かったみたい」

「気をつけてくれよ」

「はい。……ところで私の事なんて呼んだ?」

「文学少女」

「……ならいいけど」

「うん」

81 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:21:29.37 LpFylAoa0 39/63

「目覚ましに蜜柑でも食べようか」

「目覚ましになるかな」

「まあまあ」ヒョイ

「ひょい。ありがと」

「ん」

「……あー。これは言い訳じゃないけど」

「うん?」ムキムキ

「私、不器用なんだよね」

「……へえ」

「だから、どうしても蜜柑はサル剥きになっちゃうんだよね」

「それ、言い訳?」

「くらえ蜜柑汁」プシャッ

「うわっ!」


82 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:25:05.99 LpFylAoa0 40/63

「あいてて……頼んでくれれば剥いてあげたのに」

「変な所で優しいんだねえ、陰険君はー」

「まあ、これでもホストだからね」

「よく言うよ」

「全くだ」

「……」

「……」

「美味しいね」

「うん」


83 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:28:09.37 LpFylAoa0 41/63

「なんていうかな」

「ん」

「本当は本読む為に来るつもりだったんだけどね」

「そうですね」

「計画通りいかないもんだね」

「そんなもんだよ」

「……でも、まあ」

「……」

「こうして、君とコタツで温まりながら蜜柑を食べて」

「変な話で笑いあうって言うのも……」

「私、好きかもしれないな」

「……」


85 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:30:50.40 LpFylAoa0 42/63

「……君は?」

「え?」

「君は……こういうの……好き?」

「……どうした、突然?」

「えっ!? や、えっと……なんとなく、知りたかったから……」

「……そりゃ、好きだよ」

「……」

「そ……そっか」

「うん……」

「……」

「……」

87 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:34:29.41 LpFylAoa0 43/63

「……あ、あの――」

「ふいー、終わった終わったー」スタスタスタ

男・女「」ビクッ!!

「んん! ……お二人さん、仲睦まじく団欒中ですか」

「あ、ああ……お疲れ」

「隅に置けないなーお兄ちゃん!」ニヤニヤ

「な、何言ってんだ……」

「え、えっと妹さん、相談があるんだけど……」

「はい、なんでしょう?」

「今日、私ね――」


88 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:37:47.09 LpFylAoa0 44/63

「お安い御用です!」ドンッ

「そっか。ありがとう」

「いえいえ、女先輩の為なら! 地の果て! 空の果て!」

「……やたら好かれてるね」

「あ、はは……」

「そりゃお兄ちゃんの彼女なんですからそりゃもう――」

「うぇ、ちょ、ちょっと待て妹」

「うん? なあに」

「別に彼氏彼女の関係じゃないから」

「えー?」

「そ、そうだよ妹さん。男くんの言うとおり……」

(……男くんとか呼ばれるの、何ヶ月ぶりだろう)


89 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:41:16.79 LpFylAoa0 45/63

「……あんまり納得行きませんが、女先輩の言う事なら信じましょう」

「ありがと……」

「……そろそろ、お風呂の時間だね」

「本当だ」

「では、誰から入ります?」

「流石に男の俺が一番先は駄目だろう」

「でも最後だと私たちの出汁が……」

「……お前、テンション高いな」

「にっひっひ」


90 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:45:40.36 LpFylAoa0 46/63

「じゃ、行ってくるね」

「覗きにきちゃ駄目だよー」

「分かってるよ」

スタスタ

「……ふう」

「結局二人で行ってしまった」

「ここからじゃ流石に……声は、聞こえないよな」

「……聞こえても困るけど」


92 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:49:00.84 LpFylAoa0 47/63

「はー……」ドデ

「……好き、か」

「あれは……俺限定、だったのかな……?」

「……だったら、そりゃ、嬉しい」

「……嬉しい」

「……でも」

「俺は嘘つきだ」

「……幻滅されて、愛想つかされたら……それで」

「……往々にして上手くいかない、もんな」

「一人歩き、かあ……」


94 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:53:52.55 LpFylAoa0 48/63

――

妹・女「ただいまー」

「……おかえり」

「ふー。いい湯だった」

「楽しい湯だったね」

「ですねっ!」

「ん。じゃあ、入ってくる」

「いってらっさー」

「蜜柑残しておこうか?」

「頼む」

「はいほー」


95 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:55:00.94 LpFylAoa0 49/63

――脱衣場

「……」ヌギ

「着た物かごは……あった」

「……う」

「この脱ぎ方は……二人とも警戒心無さすぎじゃないか……?」

「妹のは白……か……ふむ」

「女、のは……み、水た」

「……」

「ぬおおおおおお」ガラララ


97 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 00:58:23.73 LpFylAoa0 50/63

――風呂場

「……久しぶりに自分が童貞であることを認識させられる光景だった」

「……精進しよう」

「……」ブクブク

「そういや、昔……似たような事、あったなあ」

「あれは妹だったけど」

「まさか着替え中に鉢合わせるなんて現実であるとは思わなかった」

「……女の方は、どうかな」

「……部室行ったら寝てた事あったな……」

「油性ペンで悪戯したっけ……」


98 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 01:01:29.62 LpFylAoa0 51/63

「……はあ」

「思い返してみれば……今も昔も、思い通りに行かない事だらけだ」

「そういう風に出来てるのかな」

「それにしたって……ちょっと理不尽だ」

「……たまには、計画通り進んで欲しい」

「……だから」

「俺が本を読んで小説を書いて」

「女に負けないくらい文学に詳しくなって」

「女をびっくりさせなおす事くらいなら」

「……計画通り、進んでもいいはずだ」

「……そうしないと、困るんだ」


100 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 01:05:00.69 LpFylAoa0 52/63

「今からでも遅くない、よな……?」

「そうだよな……うん。頑張ろう」

「まずは女に、お勧めの本でも教えてもらったりして……」

「そうして……ずっと詳しくなったら……」

「その時は……」

「……」カー

「……うあ、暑くなってきた」

「早く出よう……」ザバァ


101 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 01:06:15.21 LpFylAoa0 53/63

――

「ただいま」

「おかえりー」ムシャムシャ

「あれ……女は?」

「本人いない時は居ない呼び捨てなんだ?」ニヤニヤ

「うるさい。……で、何処だ?」

「んー。もう寝ちゃったよ」

「ん。そうか」

「残念?」

「まあね」

「ほー」


102 : どのくらいで投下したらさるさん食... - 2011/07/06 01:08:09.65 LpFylAoa0 54/63

「うちに人が泊まりに来るなんて、いつぶりだろうねえ」

「初めてじゃないか?」ムキムキ

「かもね。しかも……おにいちゃんの彼女!」

「だから彼女じゃないって」

「……好きなくせに」

「……それとこれとは違う」

「さっき、女先輩の話、聞いたよ」

「……」

「先輩もね」

「お兄ちゃんのこと、好きだってさ」


103 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 01:10:30.62 LpFylAoa0 55/63

「……冗談は、やめろよ」

「私ね、自慢じゃないけど今まで嘘だけは吐いたこと無いんだよ」

「……知ってる」

「だから今のも、お兄ちゃんをからかう為の言葉じゃないし、慰めでもない」

「そういう事実だから」

「……」

「お兄ちゃん。別に急かすつもりは無いけどさ」

「両思いのまま、告白しないまま、この関係を維持したい訳?」

「……それ、は」

「好きなんだよね。付き合いたいんだよね」

「じゃあ、素直になろうよ」

104 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 01:12:17.59 LpFylAoa0 56/63

「……それは、出来ない」

「……どうして?」

「俺はまだ……女と付き合う資格は無いよ」

「……資格って」

「今、あいつに包み隠さず自分の事を話してしまったら」

「きっと、幻滅される」

「なんで今まで嘘ついてきたんだって」

「文学の事、何も知らないじゃないかって」

「……」

「だから俺は……いっぱい本を読んだり、書いたりするって決めたんだ」

「追いつくって訳じゃないけど……それでも、あいつと出来る限り近い位置で話が出来る程度には」


106 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 01:14:12.20 LpFylAoa0 57/63

「……ふふ。そっか」

「……変、だったか?」

「んーん。お兄ちゃんらしいよ……本当にね……」

「……要領が悪いとは、思うよ」

「まあね。……でもお兄ちゃん、一つだけ、勘違いしてるよ……?」

「え?」

「……さ! 明日も早いし! もう寝よ?」

「え、おい――」

「私、トイレ行ってくるから。おやすみ、お兄ちゃん」スタスタ

「あ……ああ」


107 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 01:15:56.79 LpFylAoa0 58/63

――階段

「……よく分からんな……」

「勘違い、か……まあ俺だしなあ……」

「……」

「……ああ、そうだよ。好きだよ」

「でも……それでも」

「俺は、一から学ばないと」

「……はー。今日はさっさと寝よう――」

ガチャ

「……あ」

「――……え」

108 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 01:17:47.73 LpFylAoa0 59/63

「……やっほ」

「な……なんで、君」

「んー。寝る場所といったら、ここくらいしか思いつかなくて」

「い、妹の部屋でよかったじゃないか……」

「そうなんだけど……さ」

「……」

「……すっきり、してるんだね」

「本も……何も、無い、けど」

「……っ」

「本当は……小説も、書いたこと無いんでしょ?」


110 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 01:19:54.99 LpFylAoa0 60/63

バンッ!!

「わっ!?」

「すまなかった」

「え、え……」

「ずっと嘘ついてたんだ。君に凄いって言ってもらいたくて、ずっと詳しい振りをしてきたんだ」

「男、くん……」

「本当は何も知らなかったんだ。ちゃんと小説を読んだ事も、小説を書いたことなんて一度も無かった!」

「……」

「だから、これじゃまずいと思って――これから、色々本とか読もうとしてたんだ。
  君と話を出来るようになりたかったんだ」

「なのに……さ。すぐばれちゃったよ。
  やっぱりこんな、プロットにも無かった後付けの計画は……上手くいかないんだ」

「……幻滅するよな。ごめん。俺はもう、何も言えない……」

「……」


112 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 01:22:22.52 LpFylAoa0 61/63

「……ねえ、男くん」

「……」

「君の言い分は分かった。納得した。とっても、驚いたよ」

「……でもね」

「君は一つ、勘違い、してるよ」

「……?」

「私がさ――」

「そんな事を知ったくらいで、君の事を嫌いになる訳無いでしょ?」

「……え」

「……大丈夫だよ、男くん」ギュウ

「え……え?」


114 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 01:24:25.63 LpFylAoa0 62/63

「たとえ何も知らなくてもさ」

「……」

「君は、私の作品を読んでくれる唯一の読者なんだよ」

「……っ」

「感想がどんなに的外れだったとしても」

「私は君がいる事が、一番嬉しい事だから」

「……なんていうか、さ」

「……うん」

「……ごめん」

「……」

「でも……」

「……ありがとう」

「……うん。いいから」


115 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2011/07/06 01:25:43.64 LpFylAoa0 63/63

「……この計画は簡単に崩れちゃったけど」

「ん……?」

「でも、いい機会だ。本を読んだり……してみようかと思う」

「うん。……ふふ、私のお勧めをいっぱい教えてあげようじゃないか」

「ああ、頼んだよ。……後、さ」

「うん?」

「えーと。……その、ね」

「……なにさ」

「今なら……多分、失敗しないんじゃないかって、計画があるんだ。
  ……言っていいかな?」

「え……うん……なんだろ」

「……じゃあ、言うよ――」



「――俺は、君の事が好きだ」



終わり

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