1 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/10 23:29:01 J/spIQn80

榊原「鳴って嗜虐心をそそるというか、妙に苛めたくなるよなあ」

榊原「明日学校きたらちょっとイタズラしちゃおっかな」


※管理人注記
『Another』(綾辻行人)の原作or漫画を読んでいない場合、ネタバレを含みますので、観覧注意。


元スレ
榊原「鳴を無視し続けたらどうなるか」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1328884141/

4 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/10 23:33:40 J/spIQn80

学校

榊原「……」

ガラガラガラ

スタスタ

榊原(お、来た来た。俺がいないもの扱いされるようになってから、よく来るようになったんだよな)

「おはよう」

榊原「……」(ちょっとだけ無視してみるか)

「…」

榊原「…」

自分の席へと戻って行く鳴

榊原(云っちゃった。無表情だったな。やっぱりあんまし気にしてないのかな)

8 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/10 23:37:28 J/spIQn80

二時間目終了

榊原(トイレ行くか…)

「ねぇ」

榊原(お? 珍しいな。鳴から話しかけてくるなんて)

「どこ、行くの?」

榊原(さっきはあんまり気にして無かったみたいだし、もうしばらく無視してみるか)

榊原「…」スタスタ。ガラガラッ、ピシャッ

「……」

14 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/10 23:44:17 J/spIQn80

昼休み

榊原「ふわぁ~。お腹が減ってはまろに~ちゃんi&っと」(飯食うか…)

榊原(鳴を誘って…ん?)

「…」

鳴が榊原の横に立ってる

「行くんでしょ? お昼」

榊原(いつになく積極的…。もしかして、効いてる?)

「…」

榊原(か、可愛い。 こりゃあもうしばらく無視してみるか)

榊原「…」スタスタ。ガラガラ…


「……」


18 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/10 23:53:15 J/spIQn80

「…」とぼとぼ

赤沢(自分の席に戻った。そこで食べるつもりかしら…)

赤沢(あ、食べ始めた。榊原くんとケンカでもしたのかしら。最近は仲よかったみたいなのに)

赤沢(ていうか、弁当の量……)ゴクリ

刺史河原(見崎さんって、結構大食いなんだな……)

「…」



20 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/10 23:56:25 J/spIQn80

放課後、下駄箱

榊原(流石にちょっとやり過ぎたな。帰るときに謝ろう)

榊原(あ、いたいた)

榊原「み……」(ん?)

「!」榊原に気付く

「……」プイッ

榊原(あれ…これもしかして…)

「…」てくてく

榊原(怒ってる?)

END

32 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 00:01:09 tOzetY5M0

ネタバレありでいいなら考える

38 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 00:08:30 52rgFISQO

恒一「だからごめんてば」

「……」プイッ

恒一「ほんの出来心で悪気はなかったんだよ」

「……もうしないって約束してくれる?」

恒一「するする!もう二度と見崎さんを悲しませたりしない」

「……鳴…」

恒一「えっ?」

「見崎じゃなくて鳴って呼んでくれたら許してあげる」

恒一「わかったよ。鳴」

「……わかったわ。今回だけは特別に許します」

46 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 00:20:37 52rgFISQO

恒一「よかったー。鳴に嫌われちゃったら僕は生きていけないよ」

「大袈裟じゃない?」クスッ

恒一「大袈裟じゃないよ!僕にとって鳴はかけがえのない存在だから」

「さ、榊原くん。な、なにを言っているのよ///」

恒一「恒一」

「えっ?」

恒一「僕のことも榊原じゃなくて恒一って呼んで欲しいな」

「……は、はずかしいよぉ…わたし男の子を名前で呼び捨てにしたことないから…」

恒一「だったら僕を鳴の初めての人にして欲しいな」

「///」

恒一「ほら恥ずかしがらないで」

「……イチ…///」ボソッ

恒一「聞こえないよ」

52 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 00:27:49 52rgFISQO

「……恒一……くん?」

恒一「くんはいらないよ」

「……恒一///」

恒一「///」

「恒一まで顔真っ赤になってるよ?」クスッ

恒一「僕も恥ずかしくなっちゃって…」

「変な恒一」クスッ




勅使河原「オイナンダアレハ」

風間「童貞のお前には刺激が強すぎたな」

62 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 00:49:42 tOzetY5M0

九月 1




榊原「……」

「……」

榊原「……」

「……」

63 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 00:54:50 tOzetY5M0

千曳「ではこれでHRを終わる。気をつけて帰るように」

ガヤガヤ

勅使河原「サカキー、帰ろうぜー」

榊原「うん」

「……」

「…?」


65 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 00:58:11 tOzetY5M0

九月 2



望月「人形?」

「そう、人形」

望月「それがお家の中にたくさん展示してあるの?」

「家の中全部じゃないけど。
一階が展示館になっていて、人形はそこに展示してあるの。住居は三階」

勅使河原「そりゃそうだよな。一日中人形に見つめられてたんじゃ落ち着かないって」

風見「人形館。なんてね」

「いい名前ね。でも首吊自殺や火事はなかったから、ちょっと違うかも」


67 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:01:03 tOzetY5M0

望月「あはっ、よかったぁ。じゃあ今度いってみようかな。榊原くんも一緒にどう?」

「そうね。榊原くんは何度か来たことがあるから、道に迷うことはないと思う。ね?」

榊原「……」

「……?」

望月「さ、榊原くん。どうかな? 一緒に」

榊原「――そうだね。考えておくよ」

「……」


――――――

68 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:04:01 tOzetY5M0

榊原「……」

「……」

千曳「ではこれでHRを終わる。気をつけて帰るように」

ガヤガヤ

「榊原くん、ちょっと」

榊原「……」

「…榊原くん?」

榊原「……」ガタッ

「っ!」

榊原「……」スタスタ

「さか――」

望月「榊原くん。いっしょに帰ろ」

榊原「うん」

「……」


89 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:32:53 tOzetY5M0

九月 3



榊原「あっ」

勅使河原「どうした?」

榊原「いや、弁当忘れちゃったみたいでさ」

勅使河原「あーあ、やっちまったな」

風見「早く購買へ行った方がいいね。遅くなると碌なものがないよ」

榊原「そうだね――って」

風見「どうしたの?」

榊原「財布も…忘れた…」

「……」

勅使河原「悪いことは重なるもんだねえ」

榊原「うぅ…」


72 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:09:29 tOzetY5M0

風見「仕方ない、ぼくが――」

「榊原くん」

榊原「……」

「私、今日はお弁当じゃないの」

榊原「……」

「お金なら出してあげるから、一緒に購買まで――」

榊原「どうしようかな」

「遠慮しなくていいよ。だから、一緒に購買に」

榊原「取りに戻るわけにもいかないしなあ」

「……聞こえてる…よね?」

榊原「うーん…」

「……」

73 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:12:20 tOzetY5M0

望月「榊原くん、どうかしたの?」

榊原「うん、弁当忘れちゃったんだよ。更に財布まで」

「!」

望月「ええっ、じゃあお昼どうするの?」

「私が――」

榊原「そうなんだよ、どうしようかな」

「榊原くんっ」

望月「あ、そ、それじゃあぼくが何か奢ろうかな?」

榊原「お、それは助かる」

「……」

榊原「けど、いいの?」

望月「うん、ちょうど購買に行くところだったし。行こ?」

榊原「優しいねえ、少年。でもお金はちゃんと返すよ」スタスタ

「あっ…」


77 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:16:09 tOzetY5M0

風見「……」

勅使河原「……」モグモグ

「……」

風見「み、見崎さん。食べよう」

「……うん」ゴゾゴソ

勅使河原「ん、そうだな。って、今日は弁当じゃな――」

「……」ゴトッ

風見&勅使((弁当だ……))

――――――

80 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:18:46 tOzetY5M0

千曳「ではこれでHRを終わる。気をつけて帰るように」

ガヤガヤ

「榊原くん。一緒に帰らない?」

榊原「……」ガタッ

「……」

榊原「……」スタスタ

「……」

スタスタ

――――――

82 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:20:55 tOzetY5M0


トコトコ

「どうしてこんなことしてるの」

榊原「……」

「何か、あったの?」

榊原「……」

「大丈夫だよ。誰も見てないし、聴いてないから」

榊原「……」

「…クラスの決めごと――じゃないか」

榊原「……」

「そうだね。榊原くん以外は誰もこんなことしてないみたいだし」

榊原「……」

「じゃあ何かな……」


83 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:23:35 tOzetY5M0


榊原「……」

「――ねえ、本当に何があったの?」

榊原「……」

「私にも言えないこと?」

榊原「……」

「私くらいには、相談してくれていいと思うけど」

榊原「っ…」

「ねえ、榊原くん」

榊原「」ダッ

「あ――」

タッタッタッタッ…

「……」ポツン



90 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:36:47 tOzetY5M0

九月 4



「……」ジー

榊原「……え?」

赤沢「だから、宿題を教えてくれないかって訊いてるの」

榊原「いや、赤沢さん。……え?」

赤沢「……何回言わせるつもりなのかしら」

榊原「いやいやそうじゃなくて、どうして!?」

92 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:40:47 tOzetY5M0

赤沢「どうして――ってどういうことよ」

榊原「だって、げんさ――」

赤沢「ああはいはい、そのことか。
まだアニメではどうなるか分からないでしょ」

榊原「それはそうだけど……」

赤沢「漫画では違ったんだから可能性は十分あるわ」

榊原「……どうかな」


閑話休題

93 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:44:25 tOzetY5M0

「……」ジー

赤沢「それで、教えてくれるのかしら?」

榊原「でも宿題は自分でやるものだと」

赤沢「自分でやるわよ。先生役を頼みたいの」

榊原「先生って……ぼくが間違ってたらどうするの」

赤沢「そんなことまであなたのせいにしないわよ。だから、ね?」

榊原「うーん……まあ、いいか。
わかったよ、あまり自信はないけど」


95 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:47:22 tOzetY5M0

赤沢「そう、よかった。じゃあ土曜日にお邪魔していいかしら」

「……」ジー

榊原「えっ、今日じゃないの? しかもぼくの家?」

赤沢「提出日は来週だし、せっかくだからしっかり教えてもらいたいの。お願いね」

榊原「はあ…。一度いいって言っちゃったし、仕方ないのかな」

赤沢「ふふっ、いいって言っちゃったもんね」

「……」

――――――

97 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:51:05 tOzetY5M0

勅使河原「サカキ?」

「うん。彼、何かあったの?」

勅使河原「何かって…」

「私だけ…無視されてるみたいだから」

勅使河原「ああ…」

「どうしてかな、って」

勅使河原「うーん…」

「……」

勅使河原「ゴメン。俺にもわからない」

「――そう」

勅使河原「ゴメン」

――――――

99 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:54:18 tOzetY5M0

風見「わからないな」

「そっか…」

風見「いや、ぼくも気づいてはいたんだけどね。
それで彼に訊ねてみたんだけど教えてくれなくて」

「そうだったんだ」

風見「力になれなくて、ごめん」

「ううん。ありがとう」

風見「ごめん…」

――――――

100 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 01:57:34 tOzetY5M0

望月「ごめんなさい、知らないの」

「望月くんも、か」

望月「え?」

「勅使河原くんと風見くんにも訊いてみたんだけど」

望月「あ、そうなんだ。……そっか」

「……望月くんは、さいきん榊原くんと仲良いよね」

望月「――えっ」ゾクッ

「ううん、なんでもない。ありがとう」

望月「う、うん……ごめんなさい」

――――――

106 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 02:11:04 tOzetY5M0

千曳「どうしたのかな」

「千曳さん…」

千曳「ずいぶん思い詰めた顔をしているじゃないか」

「えっ」

千曳「相談には乗るよ。今の私は先生だからね」

「……」

千曳「もちろん、無理に話してくれなくてもいい」

「……」

千曳「……」

「……もし」

千曳「うん?」

「もし、自分と親しかった人が、いきなり冷たく接してきたらどうしますか」

千曳「ふん、親しかった人がいきなり――ね」

「はい」

108 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 02:13:37 tOzetY5M0

千曳「そんなことになった原因は分かっているのかな」

「いえ、心当たりは……」

千曳「なし、か。しかし理由がないということはないだろう」

「……」

千曳「君の言うとおり親しい間柄だったのならば、それなりのものがあるはずだ」

「でも、本当にわからないんです」

千曳「本人には訊いてみたのかい?」

「訊いてみました、彼に。――けど」

千曳「ん?」

「答え……て、くれなくて……」

109 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 02:15:52 tOzetY5M0

千曳「……そうか」

「……はい」

千曳「その人――彼――の友人には訊いてみたのかい?」

「みんな……わからない、って」

千曳「はあん。そうだね、だったらこんなことにはなってないね」

「どうしたら、いいんでしょうか」

千曳「見崎くんは彼と仲直りしたんだね」

「」コクリ

千曳「それなら、やはり彼と話をするしかないだろう」

「でも――」

千曳「君も、彼の友人も原因に心当たりがないとなれば、それは彼だけが知っているのかもしれない」

「彼、だけ?」

111 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 02:18:21 tOzetY5M0

千曳「そう。まあ理由についてはいくつか考えられるが――とりあえず二つ」


千曳「一つは誤解」


「――誤解」


千曳「そう、誤解だ。君の知らないところで誰かに何かを吹きこまれた、ということ
も考えられるだろう。
誤解は誤解だと知るまでその者にとっては真実だ。本当は違うのだとしても。
それを解いてしまえば一気に片が付くだろう。なにしろ誤解なんだからね」


「……」

113 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 02:21:48 tOzetY5M0

千曳「もう一つは、君が何の悪意もなくとった言動だ」

千曳「それが何かなんて私にはわからないが、彼はそれを不快に思ったのかもしれない」

「――私の言動」

千曳「何れにしても、やはり彼から直接聞くのが手っ取り早いのだが」

キーンコーンカーン

千曳「――っと、以上がとりあえずの私の考えだ。けっきょく碌なアドバイスができなかったな。
また相談にきてくれ」

「はい……。ありがとうございました」

115 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 02:25:13 tOzetY5M0

――――――

「……」

榊原(もう、いいかな…)

榊原(みんなにもああ言われちゃったしなあ)

「……」

榊原(でも…)

千曳「ではこれでHRを終わる。気をつけて帰るように」

ガヤガヤ

「榊原くん」

榊原「」ガタッ

「一緒に行くから」

榊原「……」スタスタ

スタスタ

――――――

117 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 02:27:20 tOzetY5M0

トコトコ

榊原(自分の家から遠くなるっていうのに…)

「私、榊原くんに何をしたの?」

榊原「……」

「それとも誰かに何か言われた?」

榊原「……」

「もし、私が榊原くんに何か嫌な思いをさせてしまったのなら、謝りたいの」

榊原「……」

「だから、おしえて」

119 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 02:29:53 tOzetY5M0

榊原「……」

「……」

榊原「……」

「ねえ、榊原くん」

榊原「……」

「榊原くん」

榊原「……」

「榊原くん、榊原くん、榊原くん」

榊原「……(な、なんだ?)」

「ねえ」キュッ

榊原(あ、服…)ピタッ


121 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 02:34:29 tOzetY5M0

「無視……しないで」

榊原(……くっ!)ダッ

「待って!」ギュウ

榊原(う、腕が!)

「……」ギュウゥゥ

榊原(……)ドキドキ

「お願い……無視しないでっ」

122 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 02:38:11 tOzetY5M0

榊原「……」

「榊原くん」

榊原「」バッ!

「あっ」

ダッ

「榊原くんっ!」

タッタッタッタッ…

「…………」ポツン

「……榊原くん」

130 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:12:59 tOzetY5M0

榊原「はあ、はあ…」

榊原「あ、危なかった…いろいろ…」

榊原(さっきの見崎、ちょっと怖かったな)

榊原「……意外と柔らかかった」

ヴーヴー

榊原「ん…見崎?」

榊原(……切っておこう)ピッ

132 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:17:23 tOzetY5M0


――――――

「…………」

榊原「…………」

無言でぼくの手を引く鳴。
それに従うぼく。

――下校途中、人気のない場所でいきなり鳴に手を掴まれ、問答無用で連行された。

引かれる手を見る。
驚くほど白く細い鳴の指がぼくの手首に食い込んでいる。
痛くはない。――ただ、固い。

強く腕を振ればこれは外れる。昨日はそうだった。
だけどそれができない。
腕が、動かない。

ふと顔を上げると目前には鳴の家――うつろなる蒼き瞳の。

133 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:19:06 tOzetY5M0

榊原(いつのまに……)

鳴はぼくの手を引いたままやはり無言で階段を上る。
互いに土足のまま家にあがり、相変わらず生活感の希薄なリビングを横切る。
そしてようやく鳴が足を止めたのは木製の白いドアの前だった。

「…………」

把手に手をかける。
――と、そこで、

「榊原くん」

こちらを振り返らずに鳴は言う。

「ちょっと、ごめんね」

榊原「――っ!」


134 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:21:17 tOzetY5M0

――――――

榊原「くっ、ああっ…」

白い壁。白い天井。板張りの床。
清潔で、ただ白い、四角い檻のような部屋。
そこに裸にされ、椅子に座らされたぼくがいた。


榊原「はあ……はあ……」


「――三回目、だね」

両手は背凭れをはさんで一つに纏められている。拘束しているのは手錠だろうか。
すっかり熱を交換し、硬さだけを感じさせるそれは時折ぼくの手首を傷つける。
両足首にもそれと同じ感触があった。もっとも、こちらの方は左右それぞれを椅子
の脚に繋がれている格好なのだけれど。


「まだ、出るよね」

ぼくのモノを握りながら背後にいる鳴が耳元で囁く。
吐息と共に耳をくすぐるその声に、懸命に頭を振った。


「出るよ」


榊原「うあっ!」

136 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:23:21 tOzetY5M0

剥き出しにされた先端を掌で激しく撫で回される。

「出して」

榊原「ああっ、あああっ……やめっ――」

「早く」

榊原「くぁっ……」

ぼくの拒絶を冷たく切り捨て、
容赦なく鳴の手はぼくを攻め立てる。


138 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:25:35 tOzetY5M0

「――榊原くんはいつもなにでシてるのかな」

唐突に――。
質問なのか独り言なのか、何の色も持たない声が
ぼくの注意を引いた。

榊原「なっ……に」

「それとも、誰、かな」

ああ、そういうことか。

「桜木さん」

榊原「はっ、あぁ」

「水野さん」

榊原「ああっ、あっ、あっ」

鳴は手を休めることなく、淡々と知人の名を呟いていく。
その度に彼女たちの顔が頭をよぎった。

139 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:27:37 tOzetY5M0

「赤沢さん」

榊原「あうっ、くぅ……」

「怜子さん」

――心のどこかが、揺れた。

「あ、ぴくってなったよ」

榊原「なっ――」

「怜子さん」

榊原「っ!」

「ほら、また」

榊原「違う!」

「違わないでしょ」

榊原「うぐっ、ああっ……」

違う。本当にそうじゃない。
ぼくが怜子さんに見ていたのは『それ』じゃない。

140 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:29:31 tOzetY5M0

「でも、だめだよ」

榊原「ぐっ!」

さっきまでの無感情な声とは違う、
怒気を孕んだ声。

「私以外はだめなの」

榊原「うわっ?! あああああ!」

拘束具が手足に食い込み、ぼくを押さえつける。
より激しくなった鳴の手に足腰ががくがくと震えた。

榊原「うあぁっ、ぁああ――」

「見崎……」

にちゃにちゃと音をたたせ、上下左右に乱暴に動く手。
それは弄ぶというよりも、――壊そうとしているように見えた。

「――見崎、鳴」

榊原「っく……あああぁっ!」

142 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:32:11 tOzetY5M0

「――四回目」

榊原「はっ、はあっ、げほっげほっ……」

「うそつき」

榊原「はぁっ、はっ……」

「出たよ」

榊原「はあ……はあ……」

「私の手に、びゅうって」

榊原「うぅっ……」

ふ、と両腕に押し付けられていた柔らかな感触が消えた。
正面に回り込んだ鳴と視線がぶつかる。

冷たい眼差し。冷やかにつり上がった口角。
その冷艶な表情に、全身が粟立つのを覚えた。

143 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:35:13 tOzetY5M0

榊原「っ……」

ぼくの脚の間に膝を折り、至近距離で顔を覗きこんでくる鳴。
逸らすことも、瞑ることもできずにいた両目が彼女の隻眼を捉える。

「榊原くんはずっとここにいるの」

「大丈夫だよ、ここには私しか来ないから」

榊原「っあ……ああ……」

見つけてしまった。
瞳の奥――引きずり込まれそうな暗い影を。

「ずうぅっと……」

――もう、駄目だ。もう、遅い……。
ああ、せめてもっと気をつけて帰るんだった。

「じゃあ、五回目。がんばろうね」

あんなこと、しなければよかった。

榊原「――ごめん、見崎」

144 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:38:57 tOzetY5M0

――――――
――――
――

榊原「………………え」

榊原(――夢?)

榊原「……はあぁぁぁ」

榊原(こんなオチは許されるのか?――危うく何かに目覚めてしまうところだったけど…)

榊原「はぁ…」

榊原(それにしても、怖かった)ゾクッ

榊原「…うん、謝ろう。
もうあんなことは……」

榊原(許して…くれるかな…)

榊原「――はっ!?」ガバッ

ベトベト

榊原「」



レーちゃん「ゲンキ…ゲンキ、だしてネ」

148 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:41:42 tOzetY5M0

九月 6



榊原(くっ、グズグズしているうちにもう帰りのHRに…)

榊原(そういえば、今日は見崎の方から話しかけてこなかったな…)

千曳「ではこれでHRを終わる。
提出日が来週の宿題が出ているそうだね。忘れないように」

榊原(よしっ)クルッ

榊原「――あれ?」

和久井「どうした榊原?」

榊原「ああ、いや、見崎どこ行ったのかなって」

和久井「ん? あれ、いないな。HR中はいたと思ったんだけど、いつの間に…」

榊原「そう…だね。あ、それじゃあ和久井くん、さようなら」ガタッ

和久井「お、おう」

――――――

152 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:45:28 tOzetY5M0

榊原(靴はあった。まだ校内にいるはず…)

榊原「――切ってるか」ピッ

榊原(散々ぼくがやってきたことなんだよな)

榊原「見崎…」

榊原「……あっ」


153 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:47:24 tOzetY5M0


――屋上――


見崎「……」

バン

「っ!」ビクッ

榊原「はあ、はあ…」

「榊原…くん?」

榊原「はあ…はあ…」ツカツカ

榊原「ん…。見崎」

「えっ」

154 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:49:33 tOzetY5M0

榊原「――ごめん!」

「あ…」

榊原「ごめんなさい」

「……」

「……理由」

榊原「……」

「理由…、訊いていい?」

榊原「…うん」

155 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:51:54 tOzetY5M0


――1週間前――


勅使河原「は?」

榊原「うん」

風見「うんって…どうしてそんなことを?」

榊原「ぼくも三年三組の一員としておまじないをやりたいなって」

望月「えぇ! 今年の〈災厄〉はもう止まったって」

勅使河原「お前と鳴ちゃんがそう言ったんじゃないか。
それに今更そんなことしたって…」

榊原「ああ、そのことは心配しなくていいよ。ちゃんと止まったはず。
ぼくが言っているのは、その、――そう、記念みないなもので」

勅使河原「記念ってお前…」

風見「やめておきなよ」

風見「ぼくたちは、何も好きで彼女を〈いないもの〉にしたわけじゃないんだ。
それを今度はそんなくだらない理由で」

榊原「それは…」

156 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:53:24 tOzetY5M0

風見「……」

榊原「……」

勅使河原「まあまあ、いいじゃないか風見」

風見「勅使河原…」

勅使河原「なあサカキ、俺たちはどうすればいいんだ?」

榊原「普段通りにしててくれていいよ。見崎に何か訊かれた時には、なにも知らないってことで」

勅使河原「ほら、いいじゃないか。別に俺たちに被害が及ぶわけじゃないんだし、面白そうだし」

風見「…お前、楽しそうだな」

勅使河原「サカキ、俺が許可する。やってみろ」

榊原「うん」

風見「はあ。被害が及ばない、ね」

望月「あの、榊原くん、早めにやめてあげてね?」

榊原「優しいねえ、少年。でもあの見崎だよ?
自分から言い出しておいてなんだけど、たぶん白けた結果になるだけだよ」

――――――

158 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:56:14 tOzetY5M0

榊原「――と、いうわけなんだ」

「……」

榊原「その…、ごめん」

「……」

榊原「聞いての通り、あの三人にはぼくから口止めをしておいたんだ。
だからあいつらのことは責めないでほしい」

「……」

榊原「ぼくがひとりで勝手に始めたんだ。本当にごめん!」

159 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 03:58:21 tOzetY5M0

「……」

榊原「…見崎?」

「……」

榊原「みさ――」

「」ゲシッ!

榊原「いっ!」

「……」

榊原「み、見崎?」

「……」ゲシゲシッ

榊原「いたっ。ちょ、ちょっと、蹴らないでっ」

「」ゲシゲシゲシ

榊原「ま、待って、気持ちいっ、一旦脚止めて!」

161 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:04:23 tOzetY5M0

「」ゴツン!

榊原「ぐはっ!(胸に頭突きを…。手術しておいてよかった)」

榊原「げほっ、みさ、き」

「なに…それ…」

榊原「うっ――」

163 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:07:37 tOzetY5M0

「……嫌だった」

榊原「っ…」

「クラス全員から〈いないもの〉にされていたときより――ずっと嫌だった」

榊原「……」

「すごく……嫌だった」

榊原「…ごめん」

「……」

榊原「……」


164 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:09:43 tOzetY5M0

「…ねえ」

「本当に、それだけなの」

榊原「えっ」

「理由…それだけ?」

榊原「っ…」

「話して」

榊原「うっ…」

「話してくれないと、許さない」


169 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:17:10 tOzetY5M0

榊原「……」

「……」

榊原「……あの時」

榊原「――今年の〈災厄〉を止めた時…」

「うん…」

榊原「見崎は、ぼくに〈もう一人〉が誰かを教えてくれなかった。
全部ひとりで終わらせようと――全部ひとりで背負おうとしていた」

「……」

榊原「わかってるよ、散々悩んだんだって。ぼくが傷付かないようにしてくれてたんだって。
でもぼくは、ぼくにだからこそ教えてほしかったし、相談してほしかった」

「――ぁ」

榊原「たぶん、ぼくは拗ねていたんだと思う。
今まで一緒に頑張ってきたのに――あんなに大切なことを、って」

「……」


170 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:19:06 tOzetY5M0

榊原「それで…」

榊原(ああ、そうだ、確かにそうだった。言葉にして、今になってようやくわかった。
――なんてくだらない理由だったんだろう。まるで子供だ……)

「……」

榊原(そんな理由でぼくは見崎に…)

榊原「ごめんね見崎、こんな八つ当たりみたいなことしちゃって…」

榊原「本当に、ごめん」

「……」

榊原「……」

171 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:21:05 tOzetY5M0

「……うん。許します」

榊原「えっ」

「許すって言ったの。もう、いいよ」

榊原「でも、ぼくは」

「私の方こそ、勝手なことしてごめん」

榊原「ち、違う! 見崎は――」

「だから、これで終わり」

榊原「っ…」

「――ね?」

172 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:23:16 tOzetY5M0

榊原「…でも」

「ふふっ…じゃあ、仕返しする」

榊原「え?」

「いつか、仕返しするから」

「――覚悟しててね」スタスタ

榊原「……うん。――ありがとう」

榊原(いつか、か…)

――榊原くんはずっとここにいるの

榊原(まさかあんなことにはならないよね?)ゾクリ


174 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:25:54 tOzetY5M0

「榊原くん」クルリ

榊原「はいっ」ビクッ

「一緒に、帰ろう?」

榊原「――うん」

榊原(ああ、仲直りできてよかった)

「「そうだ、榊原くん」

榊原「うん?」

「明日、私にも宿題おしえて」

榊原「……え」

――――――

175 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:30:29 tOzetY5M0

あうとろだくしょん



勅使河原『そうか。いやぁ、よかったよかった』

榊原「ごめん、迷惑掛けたね」

勅使河原『いや、ちゃんと元に戻れたんなら問題ねえよ。俺も背中押しちゃったしな』

榊原「…ありがとう。まだちょっと脛が痛いけど」

勅使河原『ははっ、自業自得だな。――それにしても』

榊原「ん?」

勅使河原『ここ2~3日は鳴ちゃんの落ち込んだ顔を見るのが辛くて辛くて…』

榊原「うっ、それ、二人にも言われたよ」

榊原(ぼくは無視してたから分からなかったんだよな)


177 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:32:47 tOzetY5M0

勅使河原『なんだ、あいつらにはもう知らせたのか』

榊原「うん、心配してくれてたみたいでさ。さっき電話が」

勅使河原『そっか考えることは一緒か。
それで、いま鳴ちゃんも一緒って言ってたっけ?』

榊原「う、うん…」

勅使河原『どうした?』

榊原「いや、なんでもないよ。なんでも…」

180 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:36:27 tOzetY5M0


――恒一の部屋――


赤沢「見崎さん門限大丈夫? そろそろ帰った方がいいんじゃない」カキカキ

「大丈夫、そんなのないから。赤沢さんこそ帰らなくていいの?」カキカキ

赤沢「…まだお昼なんだけど」

「うん、まだお昼だね」

赤沢「……」キッ

「……」ジロッ

――――――

182 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:37:53 tOzetY5M0

榊原(望月、風見、そして勅使河原――もう援助は見込めないだろう)

勅使河原『ふっ、上手くやれよ』

榊原「うん、まあ(こいつは何も分かってないんだろうな)」

勅使河原『じゃあ、また学校でな』

榊原「ああ、また」

ピッ

榊原「はあ…」

レーちゃん「どーして? どーして?」

榊原「そうだなあ、どうしてこうなったんだろう」

榊原(これも仕返しなのかな…)

榊原「――行くか」


183 : 以下、名無しにかわりまし... - 2012/02/11 04:39:26 tOzetY5M0

――――――


ガラッ


赤沢「謝罪を」ゴゴゴ…

「不毛ね」ゴゴゴ…


ピシャッ


榊原「…き、救援をっ」ピッピッ

…………。

榊原「あ、望月? ぼくだけど――」






おわり

記事をツイートする 記事をはてブする