杏子「ちくしょう! あいつ横になって地面に張り付きやがった!」
さやか「ああ、町が!」
ワルプルギスの夜はその身体を九十度回転し、その巨大な『歯車』は轟音を響かせながら、
まるで玩具の箱庭を壊すように住宅地を数キロも削っていた。
恭介(少女)「勢いが削がれてる! 押し切れないか!」
魔法少女H『今やってる! S!』
魔法少女S『手一杯です! 今から魔力足してももう……』
魔法少女M『アカン、止まってまう!』
<<別ルート ~終わらねえ戯曲~>>
全てを戯曲に変える魔女。
『ワルプルギスの夜』は、この時のために集合した多数の魔法少女達の努力をあざ笑うかのように
いとも簡単に『鉄槌の神』に抗って見せた。
彼女のしたことは非常に単純である。ただ『横』になって『歯車』を地面にめり込ませたのだ。
あとは装置のバネに抗うように『回転』するだけ。
もちろん、魔女の抵抗を予測していなかったわけではない。
だが、空中に浮いているのが基本と思われたこの魔女が、
このようなある意味『なりふり構わぬ抵抗』をするとは予想だにしていなかった。
強大な射出装置が二十キロメートルに渡って加速し、
郊外の山間部まで彼女を投げ飛ばすはずだった加速度のベクトルを、
『夜』と呼ばれた魔女は、双子の巨大建造物、
西の塔と東の塔の丁度中間を過ぎたあたりで完全に殺し切った。
あまりに予想外の事態に唖然と魔法少女達が見守る中、『夜』は活動を開始した。
それは、与えられた打撃に呼応した猛攻だった。
魔法少女達の攻撃部隊が既に倒した数を更に上回る使い魔達が現われて、
空からは大きな建物の残骸のような物が降り注ぎ、
更に狂喜したように激しく高笑いを響かせて『夜』自身が、西の塔に体当たりした。
既に魔力をかなり消耗した塔の守備隊はなす術もなく逃げ回るのが精一杯だった。
使い魔達の攻撃を受けながらも、装置はなんとか異空間に退避することに成功した。
だが、『夜』に体当たりされた西の塔をはじめ、損傷が激しかった。
恭(ゆき)は装置の再起動の為に奔走していた。
恭介(少女)「稼動できる所まで修復、いけるかい?」
魔法少女M「『西』だけ手加えれば何とか!」
恭介(少女)「鹿目さんが行った方がいいかな?」
魔法少女M「いや、まどかちゃんはバンドの魔力の再充填や。HがSと行ってる筈やから!」
恭介(少女)「わかった。そっちに行かせるよ」
装置の修復を急ぐ一方で、作戦も大急ぎで見直された。
まず、魔女を、ポイントまで誘導する。
方法の案として挙がっているのは全員で魔女を拘束する網を形成して引きずっていくというものである。
というのは、攻撃を加えて弱らせようとしても、加えた攻撃の強さに応じて反撃をして来て、
全然弱まる気配が無くむしろ逆効果だったからだ。
そして、魔女を拘束したまま装置を稼動し、今度は魔女と一緒に魔法少女達も飛ばされながら、
あらゆる手を尽くして魔女が地面にしがみ付くのを防ぐ。
だいたいこんな作戦である。
これらを今現在動ける魔法少女全員で行うのだ。
準備期間に攻撃隊メンバーで遠征までして出来る限りのグリフシード集めは行ってきたが、
攻撃隊のかなりの数の魔法少女が戦闘不能に陥り、手駒はかなり減らされていた。
だが幸いなことに、誘導補助隊の美樹さやかを初めとするパワータイプの魔法少女達は
まだ十分魔力を温存していた。
まだまだ諦める段階ではない。
西の塔にて
魔法少女M「さて、修復するよ」
魔法少女Y「Mっち、魔力源がないじょ」
魔法少女M「あるで。それも新開発や」
魔法少女Y「見当たらないんだじょ?」
魔法少女M「ここや」
魔法少女Y「Mっち?」
魔法少女M「ウチな、まどかちゃん見てて判ったんや。
ほらQBがエネルギー持っててまういうてたやん」
魔法少女Y「感情エネルギーの回収?」
ヤ
魔法少女M「そうそれ。その普通は魔法少女を止めるまで使われへんエネルギーを、
ソウルジェムから引き出すんや」
魔法少女Y「よく判らないけど、これ直すに足りる魔力なら何でもいいんだじょ」
魔法少女M「じゃ、しっかり準備したってな。
ウチが魔法少女になってからずっと蓄えてきた魔力なんだから無駄にしたら怒るで」
魔法少女Y「了解なんだじょ。余すとこなく使い切るから安心するんだじょ」
魔法少女M「よしよし」
バンドの魔力充填をしてたH、Sとまどか
魔法少女H「……」
まどか「Hさん、どうかしたんですか?」
魔法少女H「いえ、ちょっと」
魔法少女S「今のところ再充填は問題ありませんよ。
今度は稼動直前まで待機して稼動と同時にオーバーロードさせますから、
ずっと張り付いていなければなりませんが」
魔法少女H「S、ここ任せていいかな?」
魔法少女S「はい。先輩は何処かへ行かれるんですか?」
魔法少女H「ちょっとMのとこ見てくるわ」
魔法少女S「?」
魔法少女H「まさかと思うけど、ちょっと気になることがあるから」
魔法少女Hの移動中に恭(ゆき)が遭遇。
恭介(少女)「なにかあったのかい?」
魔法少女H「ああ、丁度良かった。聞きたいんだけど、西の塔の修理に誰か魔力補充に行ってる?」
恭介(少女)「いや、Mさんの話では予備の建材と自分の魔力で十分って話だったから」
魔法少女H「やっぱり」(走る去ろうとする
恭介(少女)「あ、ちょっと。なにがあったのか?」
魔法少女H「予備の建材があってもMの魔力で修復なんて出来るわけないわ。あの子何を考えてるの」
恭介(少女)「それで様子を見に?」
魔法少女H「でもMが出来ないことを出来るなんて言う筈がない。そういう子なのよ。
なにか方法があるからそう言ったんだと思うんだけど、嫌な予感がするの」
恭(ゆき)は魔法少女Hに同行した。
再び西の塔
魔法少女H「どういうこと!? Mの魔力がこんなに強いはずが……。
まるで、まどかちゃんみたいじゃない!?」
恭(ゆき)「相転移?……こんなことが……」
魔法少女Mは、彼女らの作った魔力伝動装置に魔力を注いでいる最中だった。
変身は解けている。
本人に聞かない事には詳細は不明だが、まどかが行ったことを真似ているようだった。
つまるところ、ソウルジェムに蓄えられていたエネルギーを開放しているのだ。
だが、こんな事をすれば、当然……。
魔法少女H「M! やめっ……」
恭(ゆき)「駄目だ! 今止めるのはまずい!」
やがて魔力の放出が終わり、彼女が掲げていたソウルジェムに異変が起きた。
補助リングが相転移を検出したのだ。
まず、ソウルジェムが砕け、破片が塵となって消えていく。
その砕けると同時進行でリングが小爆発を起こして結構な量の爆煙を上げ、
その煙の中から小さな四角い破片のようなものが落ちる。
この小爆発は呪いが化け物と化するまえに物理的にそれを破壊・拡散する効果を持つ。
そして残った呪いの成分がリングが変形したもの、つまり四角い破片に吸収されるのだ。
この破片はグリフシードのような性質をもつのだが……。
魔法少女Mは小爆発とともに崩れ落ち、床に倒れこんだ。
魔法少女H「M!」
魔法少女Y「Mっち! 聞いてないじょっ!」
恭(ゆき)「君は塔の修復を! 彼女の魔力を無駄にしてはいけない!」
魔法少女Y「ううっ……判ったじょ」
HがMを抱き起こす。
魔法少女H「Mっ! あんたなんでこんな馬鹿なこと……」
魔法少女M「ああ、Hか。ちょっと検証したくてな」
恭(ゆき)「!! 話が出来るのか!?」
魔法少女M「っ、ちょいきついな」
魔法少女H「Mっ、M! 嫌よ! 死なないで!」
魔法少女M「あー……。しんどいけど簡単には死なへんで。
ウチの願い事はウチの全部やないからな」
恭(ゆき)「それって……!?」
魔法少女M「ちょっい恭ちゃん、QB呼んでくれへん? なんや魂が落ち着きないみたいでな。
逝ってまいそうなんや」
QB「なかなか興味深いケースだね。君の絶望は君の全てを飲み込まなかったようだ」
魔法少女M「おお、QBおったんか。これ何とかできへん?」
QB「ちょっと待ってくれるかい……」
何をしたのか判らないが、QBが魔法少女Mに近づくと、彼女は眠るように意識を失った。
魔法少女H「Mーーーっ!」
恭介(少女)「……」
恭はMの脈を確認した。
恭介(少女)「……生きてるよ。脈も安定している」
魔法少女H「え? 本当?」
QB「心配要らないよ。彼女は安定した。面白いデータが取れたね」
恭介(少女)「うん、……そうだね」
魔法少女Mは魔法少女でなくなった。恭の知る限り初めてのケースだ。
QB「ただ、エネルギーは回収できなかったし、あまりこんなことはして欲しくないんだけど」
恭介(少女)「彼女がしたことと、彼女が生き残ったことは関係があるのかい?」
QB「確かなことはいえないよ。
彼女は生きているから、何をしたのか君があとで詳しく聞いてみると良い。
感情に関することは君が聞いた方がよく分析できるだろうしね。
ただ、今回のことは彼女の願い事と彼女の精神的特質が大きく関係していることは確かだと思うよ」
だが、彼女は何も覚えてなかった。
これはもう少し後にあった会話であるが、収まりが悪いのでここに紹介しておく。
M「ちょっと待って。えーっとなんや、なんか覚えがあるんやけど」
M「そや! ウチ魔法少女になってん!」
M「その後が……駄目や。覚えてへん」
M「しっかし、なんでウチあんな願い事したんやろね?」
願い事は覚えているが、その願いへの情熱のようなものは綺麗さっぱり忘れていた。
とりあえず、仲間達が経緯を色々説明した。
M「H達がおもろいことしてるんは判った」
M「で、ウチは魔法少女になって、色々活躍して、力使い果たして全部忘れてもたって訳やね?」
恭介「記憶の障害は、彼女の魂を安定させるためにQBが何かしたせいだろうか?」
QB「ボクがしたのは最も安定する精神的位置に魂を微調整したことだけど、その影響かもしれないね」
恭介「生き残った理由は、先程の推測通り、
魔法少女の願い事以外に強力な『生きたい理由』があったからで良さそうだ」
QB「そうだろうね。ボクは見落としていた、というより必要ないから関心を向けていなかったんだけど、
魔法少女の願いや力と関係の無い所に、そういう物があったという事だろうね。
益々もって人類の精神的活動というものは興味深いよ」
恭介「今回、君が行ったその調整を補助リングに組み込む事は可能かい?
記憶の障害は問題だけど、まずは生き残る可能性を高くして欲しいんだ」
QB「やってみよう。とはいっても、人間の魂のあり方というものは個人差が大きいから、
伝授するときにボクが個別に調整する必要があるだろうね」
コトワリ エンカン
マミ「このリング……『理の円環』!」
さて話は巻き戻って決戦の真っ最中である
さやか「歌が聞こえたわ」
杏子「歌ぁ?」
さやか「そう。あの上側の歯車の真ん中あたりで」
恭介(少女)「なんだろう?」
さやか「いや、判らないけど、なんかあの魔女から受ける印象と全然違ってたから」
恭介(少女)「違ってたって?」
さやか「『魔女』って感じじゃなかったのよ。子守唄? じゃないか、なんだろう? 優しい感じ」
恭介(少女)「旋律は覚えているかい?」
さやか「え? えーと……んんんーーんんー……♪ って感じ?」
恭介(少女)「……試してみる価値はあるかな?」
さやか「え? なあに?」
恭介(少女)「これで」
恭は魔法でバイオリンを出した。
さやか「おー」
魔女退治には全く役に立たないのだが、恭は『曲を聞かせる』という魔法を使えた。
この魔法は拡声装置なしに結構広範囲に力強く聞かせることが出来る。
恭介(少女)「これで、ワルプルギスの夜が少しでも静まってくれれば」
今、『夜』は手が付けられない状態だった。
まだ逆さまのままだが、狂ったように踊り、跳ね回っている。
あの巨体が跳ね回るのだから周りは大変なことになっている。
さやか「どうするのよ?」
恭介(少女)「近づいて聞かせるしかないだろ。出来ればその『歌』を直接聞きたいんだけど」
さやか「いいよ。なら、あたしが連れて行くわ」
恭介(少女)「出来るかい?」
さやか「もちろんよ。出来なきゃあたしが魔法少女になった意味が無いわ」
この後、何人かの魔法少女が護衛を申し出てくれたが、
逆に魔女を刺激しかねないので、二人だけで行くことにした。
さやか「じゃ、行って来るね」
マミ「気をつけて」
恭介(少女)「僕はしばらく指示を出せないけど後は頼んだよ」
杏子「おう、指揮は任せろ!」
使い魔たちをやり過ごし、降り注ぐ廃墟のような塊を避けながら、
美樹さやかと恭(ゆき)の二人は激しく動き回る『夜』に近づいていった。
ある程度まで近づいて、恭(ゆき)が、
さやかが先ほど口ずさんだ『魔女のメロディー』を織り交ぜて
即興で『穏やかな曲』を聞かせたところ、『夜』の活動が変化した。
まだまだ、使い魔が暴れまわり魔女本体もあたりかまず攻撃をしてくるのだが、
飛び跳ねなくなり先ほどの狂乱状態よりは幾分マシになった。
さやか「じゃあ、近づくわよ」
恭介(少女)「ああ、護衛は頼んだ」
移動だけなら恭の魔法でもさやかに付いて行ける。
だが、攻撃や防御にかけては無いに等しいのだった。
恭とさやかが接近している間、下手に魔女を刺激無いように
最後の作戦にあたる魔法少女達には魔女に近づかず、
作戦発動予定時刻まで待機しているように言ってあった。
さやかの先導で恭は逆さの魔女の上側、大きな歯車に見える部分に接近した。
逆さの魔女の一番上。
幾つかの大小の歯車があるが外から見えるものの一番の上の歯車の上に、
二人は降り立った。
恭介(少女)「ここは何なんだ?」
さやか「戦闘中にここに来たときもこうだったわ」
そこは台風の目のように穏やかで、
どういうわけか,使い魔も魔女自身の攻撃もやってこない場所だった。
恭介(少女)「歌は?」
さやか「こっちよ」
歯車の円の中心軸付近。
それは恐らく今の地上の誰もが知らない言語で唄われていた。
恭はそこに立ち、魔法で作り出したバイオリンでその歌のメロディーに答えるように演奏を始めた。
鳴り響く、古代の異国の旋律。
それは魂の響きとして、恭の心に、さやかの心にも伝わってきた――。
――かつて、魔法少女の王国が在った。
『楽園』を願いとした魔法少女は契約によって王になった。
彼女の国を支える『魔法戦士』と呼ばれた魔法少女達。
そして戦士たちの世代交代を行う為の秘密の掟。
魔法少女の真実を知りつつも、その法でもって『楽園』を百年維持し続けた。
女王は魔力を供給する一つの装置のようでありつづけた。
そうやって『楽園』を運営し、そこで暮らす人々を楽しませるのが、
彼女の願いであり希望だったのだ。
QBは王国で神として崇められていた。
契約は女王の側近である魔法戦士たちがその願い事を厳選し、
更に女王の許可なくして契約することは出来なかった。
契約して魔法少女になった少女には女王への忠誠が誓わされ、
『魔法戦士』という地位が与えられた。
そして魔法戦士となった少女は秘密の掟に縛られることになる。
これは魔女化の兆候が見られた戦士を隔離し、魔女化を確認後、
秘密裏に討伐、という流れを確実にするための掟だった。
そのための『楽園の暗部』を担う魔法少女=魔法戦士も当然存在していた。
だが、やがて楽園にも綻びが生じる。
女王にも世代交代は訪れる。
魔法少女の全てを知る女王は、自らの魔女化の兆候が現われる前に
王位を継がせるべく、後継者を育てていた。
それは楽園では神と崇められていたQBの謀略があったのかもしれない。
女王が魔女化したらそれを倒せる魔法戦士は存在しない。
だからその前にソウルジェムを破壊し、死を迎えなければならないのだが、
後継者の少女が王位を継承後元女王が暗部に殺害されることを知って、
絶望に落ちつつある女王を匿ってしまった。
女王が魔女化した際に、唯一それを倒せる可能性を持っているのは新女王である。
だか彼女はそれもしなかった。
彼女は優しすぎたのだ。
結局王国は最悪の形で滅んだ。
側近である魔法戦士たちは、生きたまま元女王の魔女に取り込まれて、
使い魔として生まれ変わった。
そして、新女王は元女王の魔女と共にあることを望み、
その部品の一部となって
魔女が生き続ける限り、こうして彼女への想いを歌いつづけるのだ。
イニシエ
もはや歴史にも残っていない遥か古の物語――。
恭が演奏を始めてから、魔女とその使い魔たちの活動は目に見えて沈静化していった。
杏子「恭のやつ、やったな」
マミ「今度こそ上手く行くわね」
杏子「上手く行くんじゃねえ。行かすんだよ!」
マミ「そうね。その通りだわ」
作戦開始時刻になり、魔法少女達が魔女を『神の鉄槌』の元に誘導するために飛び出して行った。
再び暴れられたら終わりである。
なので、直接の打撃は与えないように、力をあわせて拘束して引っ張っていくのだ。
全員の魔力で巨大な魔女を囲む網が形成される。
恭の演奏はその間も続けられ、作戦は今度こそ上手く行くかのように見えた。
いつのまにか歌が止まっていた。
さやか「なんか、ヤバそう。離脱するわよ」
恭介(少女)「そうだね。急ごう」
魔法少女達が作った巨大な網の目をくぐって二人は『夜』の『頂上』から離脱した。
魔女は所定の位置に向かって移動しつつあり、作戦はこの時点で順調のように見えた。
(ソールハンマー)
トリガー部分は装置の中でも最も魔力が集中する部位であり、
これは十分予想できたことなのではあるが。
網に捕らわれたまま『ワルプルギスの夜』は再び射出ポイントに誘導することが出来た。
これはなんとか上手くいった。
そして、装置が動作を始めようとした瞬間、再び『夜』が活動を始めたのだ。
だか、とにかく『夜』は所定の位置に来た。拘束もまだ生きている。
魔法少女H「動かすわよ!」
魔法少女Y「了解だじぇ」
装置のトリガを引くのはタイミング的に恭が指示することは出来ないので、
建設・運用チームが任されていた。
魔法少女S「まどかさん!」
まどか「了解だよ!」(オーバーロード分の魔力放出)
それは、恭とさやかが離脱している最中、
沈静化していた『夜』の使い魔たちが再び蠢き始めた時であり、『鉄槌』が再稼動を始めた時でもあった。
つい先程まで、恭とさやかが居た場所、魔女のてっぺんにある歯車の一つが大爆発を起こした。
杏子「なんだ!? 自爆か?」
マミ「いいえ、違うわ……」
そして、『それ』が現われた。
杏子「あいつ、まだ隠し玉もってやがったのか!」
そいつは飛び切り強力な人型の使い魔であった。
目に見える衝撃波のような攻撃で魔法少女達を蹴散らしながら、
そいつは魔法で編みこんだ網を破壊していった。
マミ「みんな逃げて! 防御できないわ!」
そいつは一撃で数十人がかりで作った魔法の帯をいとも簡単に薙ぎ払った。
それでも、その使い魔が超強力とはいえ、人間サイズであったことが幸いしてか、
あるいはそれが強力すぎて魔女の本体を巻き込む攻撃を避けていたからなのか、
魔法少女達がかけた『夜』を覆う巨大な網は一撃で全部が破壊されることはなかった。
『神の鉄槌』は『夜』の加速を始めていた。
その周りでは使い魔たちと魔法少女達の攻防戦が繰り広げられていた。
とにかく、加速し切って『終幕』前に郊外まで投げ飛ばせば我々の勝ちである。
暁美ほむらのデータから魔女が現界できる時間がもうそれほど残っていないことは判っていた。
杏子「ねばれよ! あの馬鹿強いやつは直接相手にしなくていいから、網を維持し続けるんだ!」
使い魔に網が破壊されたら、魔法少女達が死角に回ってそれを修復する。
魔法少女達が修復する速度より、使い魔が『網』を破壊する速度の方が速いのだが、
投げ飛ばしが成功するまで持てば良いのだ。
攻撃に晒されつつも、なんとか持たせていたが、
『鉄槌』が最高速度を出したあたりでとうとう『網』は完全破壊された。
マミ「離脱よ!」
杏子「今度こそぶっ飛んでくれよな!」
魔女は――。
射出後、軌道を大きく右に旋回して大きな円軌道を辿り、また帰ってきた。
下手をすると『夜』にも匹敵する程の強力な使い魔もそのまま伴って。
再充填のための魔力を放出した後、
鹿目まどかは暁美ほむらと一緒に居た。
ほむら「もう、私は何も出来ないわ。時を止める魔法ももう使えない」
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「でも、あなたを守るくらいなら出来る。だからここに居させて」
まどか「うん。嬉しいよ」
ほむら「////」
そんなほのぼの空間は長く続かなかった。
恭介(少女)「魔女が来る! 急いで退避しろ!」
『鉄槌』が与えた最高速度のまま、『魔女』はその場に突っ込んできた。
異空間への退避はもはや叶わない。
二回目の射出で空間維持の魔力も使ってしまったからだ。
退避はぎりぎりだった。
目の前でトリガー部の建造物がほぼ全壊し、魔女はそのまま通過していった。
ほむら「そんな……」
まどか「みんなは?」
恭介(少女)「一応無事だ。いま一箇所に集結しているよ」
まどか「恭ちゃんは行かなくていいの?」
恭介(少女)「いや、さやかや佐倉さんに任せてきたよ」
恭介は憔悴していた。
あの『夜』の“隠し玉”に全部持っていかれた、と。
魔法少女達が集結している場所で
さやか「じゃあ、ここいにいる魔法少女はみんな同じ意思ってことでいいのね?」
魔法少女K「オッケーだよ」
魔法少女L「ここまで来て『帰ってもいい』なんて、そりゃないよな」
魔法少女O「そうそう。人命救助とかそういうことじゃないの。これは魔法少女としてのプライドの問題よ」
それぞれの思いの差はあれど、協力して魔女を撃退したいという意思は、皆一緒だった。
ここにはそんな数十人の魔法少女達が集結していた。
殲滅しなくても良いのだ。
誘き寄せるのでも、引きずっていくのでも良いからとにかく、『終幕』の大暴れから町を守ればこちらの勝ち。
これはそういうゲームなのだ。
杏子「判ってると思うけど、個人プレイじゃ死ぬぜ? なるべくまとまった人数で効果的にやらないと」
最悪、数ある避難所だけでも守り通せばぎりぎりで勝ちだ。
だから皆、最後まで諦めるつもりは無かった。
崩壊したトリガーの建物にいた運用チームはまどかとほむらを残して皆、
魔法少女達が集っているところへ行ってしまった。
まどか「ねえ、みんな何をする気なの?」
恭介(少女)「……僕からはもう何も言えなかったよ」
魔法少女の力だけで状況を打開しようとベテランの魔法少女達が中心になって話をしていて、
もはや恭介の出る幕はなかった。
まどか「……特攻する気?」
恭介(少女)「死ぬつもりは無いと言っていた。最後の決戦に臨むと。だけど無理だ。
行動が機械的といっていたが、やはり魔女だ。
力が大きいだけでなく、巧妙に対応してくる。それにあの使い魔が強すぎる……」
この土壇場に来て手詰まりなのである。
恭介は理論派の人間だ。
だから実はこういう論理的に考えてどうしようもない状況には弱かった。
まどか「恭ちゃん。大丈夫だよ」
恭介(少女)「え?」
まどか「まだわたしがいるよ」
ほむら「だめよ!」
まどか「だって、何もしないなんて出来ないよ。わたしにはその力があるんだから」
ほむら「まさか契約? それは絶対駄目!」
まどか「契約はしないよ。私にはこれがある」
EGである。
ほむら「でもそれは、あまり大きな力を使うと記憶が!」
まどか「わたしの想いと記憶でみんなを救えるなら怖くないよ」
まどはは変身した。
まどか「ほむらちゃん。ごめんね。すこしここに居て」
ほむら「くっ、……まどか」
ほむらはまどかの魔力からくる圧力のために、まどかに近づけなかった。
いつものエネルギー提供の比じゃない。
強い決心を持って変身したのだ。
まどか「恭ちゃんはパチンコの準備しておいて。こっちの建物は無くても大丈夫だから」
恭介(少女)「トリガー役をやるつもりなのか?」
まどか「うん。はじく前の形にしておいてくれれば、あとはわたしがやるから」
恭介(少女)「出来るのかい?」
まどか「わたしなら出来るよ。ううん。今わたしにしか出来ないことだから」
ほむら「まっ……」
まどか「じゃ、行って来るね!」
ほむら「待って! まどかぁぁっ!」
魔法少女達の攻防は既に始まっていた。
だが、例の強力な使い魔のために魔女に近づくことさえ出来ずにいた。
さやか「あいつの強さ反則だよ」
杏子「くそう」
マミ「攻撃の強さが違いすぎるわ。撃ち合いにすらならないなんて」
魔法少女S「……私が動きを止めます」
杏子「おい、無茶すんな。確かにお前、さやか並にパワーあるけど、それでもアイツは桁違いなんだぞ」
魔法少女S「いえ、ソウルジェムに蓄えた魔力を開放すれば一時的に押さえ込めると思います」
さやか「なっ! ちょっとそれって」
杏子「そんなこと出来るのか?」
さやか「駄目よ。あんた死ぬつもり?」
魔法少女S「もう、そんなこと言ってる段階じゃないです!
ここで抑えられなければどの道みんな死ぬんですよ!」
魔法少女H「だめよ。それが出来るとしても許可できないわ」
魔法少女S「大丈夫です。M先輩は生きてたじゃないですか」
魔法少女H「Mのあれは特殊なケースでしょ? もう嫌よあんな……」
そこに、あの使い魔の攻撃が襲った。
杏子「退避だぁ!」
防御は不可能なので逃げるしかない。
さやか達の居たグループは今の攻撃で散り散りになってしまった。
魔法少女S「やっぱり私が出ます!」
さやか「あっ! だめよ!」
その時、
まどか『その必要はないよ!』
戦場に鹿目まどかの声が響いた。
ふわりと広がったスカート。白とピンクのドレスの魔法少女。
鹿目まどかは彼女の武器である弓を持って、廃墟と化した装置の僅かに残った骨格の上に立っていた。
強力な魔力が彼女の周りの景色を陽炎だたせている。
さやか「まどか……なの!?」
まどかの魔力は、十キロ近く離れたさやか達にもはっきりと感じられる程だった。
作戦の内容はまどかも繰り返し聞いていた。
そして装置の建造に関わることで装置の構造も動作も理解していた。
さらに繰り返し魔力を放出することで、大きな魔法の使い方も学習してきたのだ。
『必ず出来る』という確信が、まどかの魔法を更に強固なものにしていた。
まどかは自分の魔力を弓に向けた。
コンパクトなサイズだった弓は大きく変形して、まどかの身長を超える程になった。、
そして、魔力の矢を作り出し、一杯に弓を引く。
『魔女』までの距離は十キロ余り。
まどかがその強力な矢を放った時、使い魔もまた攻撃を放った。
二つの光跡はその中間地点で激しくぶつかり合っていた。
マミ「凄いわ。あの攻撃に拮抗しているなんて」
ナニモン
杏子「何者だよ……」
さやか「うひゃー、ここまでとはね」
杏子「……なあ、あの使い魔、本当に使い魔なのか?」
マミ「え? 魔女ってこと? でも複数の魔女が協調しているのなんて見たことないわ」
杏子「いや、桁違いすぎるだろ? そこら辺の魔女なんて目じゃねえくらい強い使い魔ってなんなんだよ?」
マミ「それだけワルプルギスの夜が特殊な魔女だって事じゃないかしら?」
さやか「あたしもアレはあの魔女の手下の使い魔って感じがしないよ。
もっとこう違った存在というか……」
マミ「え? なんなの?」
杏子「さやかもそう思うか」
さやか「うん。少なくとも普通に魔女が生み出した使い魔じゃないと思う」
まどか「……あの子は」
一発目の矢を放った後、まどかは魔女とあの使い魔の様子を伺っていた。
使い魔の方もこちらを伺っているようで、まだ動きは無かった。
大魔女『ワルプルギスの夜』はその笑い声を響かせながらゆっくりと町の上空を飛行していた。
その他の使い魔たち戯れるようにただその周辺を飛び回っている。
一見すると小康状態のようでもあるが、これは『一触即発の睨みあい』と変わらないであろう。
ほむら「まどかぁぁぁっ!」
ほむらが、魔力の圧力に根性で逆らって、廃墟を登り、まどかに近づいていた。
まどか「ほむらちゃん!? 無茶しないで」
ほむら「それは私の台詞よ! お願いだから一人で何とかしようなんて思わないで!」
まどか「判ってるよ。大丈夫。ここからみんな見えてるよ」
ほむら「どうする気なの?」
まどか「わたしがあの子を何とかするから」
確かに、先程の一撃を放ったまどかなら、
あの使い魔を引き剥がして『夜』から遠ざけることも可能であろう。
ほむら「でも『ワルプルギスの夜』はどうするの? もう、こちらにどうにか出来る力は……」
恭のバイオリンで沈静化してたから何とか誘導できたのであって、
かなり魔力も消耗してしまった魔法少女達にもう一度同じことが出来るのかといったら
それは難しいといわざるを得ないであろう。
だが、まどかは明るく言った。
まどか「大丈夫だよ。大きい魔女さんも大人しくさせられると思うから」
ほむら「何を根拠にそんな……」
まどか「もう、行かなきゃ。じゃあ、ほむらちゃん、またね!」
ほむら「まどかっ……!」
ほむらを巻き込まないように一旦飛び上がって、そこから加速。
もの凄い圧力を残して、まどかは魔女に向かって飛び出していった。
さやか「まどかが出て来たわ」
マミ「鹿目さん……」
杏子「あいつ、どんだけ魔力余ってんだよ? ここまで感じるぞ?」
魔法少女達は彼女が魔法少女とは別次元の存在と感じていた。
きゃーきゃーと、一部の魔法少女達が歓声を上げている。
彼女らにとって鹿目まどかは正に絶望的状況に現われた救世主だった。
マミ「新しい魔法少女時代の幕開けなのね……」キラキラ
まどか『みんな聞いて!』
全員に聞こえるテレパシーでまどかが声を上げた。
まどか『わたしがあの子を何とかして説得するから、
みんなはさっきみたいにあの大きな魔女を運んで!』
マミ「説得!? どういうこと? 使い魔を説得なんて」
杏子「やっぱりか」
さやか「今のまどかなら出来るわ。きっと」
マミ「ねえ、何が、やっぱりな……っ」
ドーンと魔力の衝撃波が来た。
あの使い魔とまどかの交戦が始まったのだ。
杏子「始まりやがった。こっちも準備すんぞ!」
さやか「おう!」
マミ「ああもう。後で説明してもらいますからね!」
杏子「そうそう。勝利してからゆっくりとな!」
まどかは、その使い魔に突っ込んだ。
とにかく接近しないことには『話』が出来ないから。
使い魔は攻撃してくるが、力でねじ伏せて、まどかはその人型の身体に強引に近づいた。
それは幾つもの色が交じり合った光り輝く塊で、
シルエットから人型と判るが顔や服装が判別できるようなものではなかった。
まどか『ねえ、話を聞いて』
まどかはテレパシーで話しかけた。
言語ではなく、もっと深く意味だけを伝える言葉で。
――!?
『彼女』の言葉が理解できた。これなら話ができる。
まどか『わたしはあの魔女を止めたいの』
――――?
まどか『ううん。違うよ。わたしはあなた達に何もしないで帰ってほしいだけ』
――――、――――……。
まどか『どうして? あなたも止めたいんでしょう?』
――。――――――――――……。
まどか『それなら大丈夫。わたしはあなたの願いをかなえてあげられるよ」
――――――――――――?
まどか『うん。そうだよ。わたしを信じて』
――――。
まどか『ありがとう。じゃあ、ここに来て』
――。
シルエットのような彼女に身体が形を変えて、まどかの手のひらの上に集約され、その本体を現した。
まどか「あなたはいままでずっと、あの子と一緒に居たんだね……」
手の上にあるのは、輝く卵形の宝石。
ソウルジェム。
杏子「あいつ、なにをやったんだ?」
さやか「敵が、消えた?」
激しくぶつかり合って戦っていた筈なのに、いつしかそれは収まり、
そこには、まどかしかいなかった。
まどか「QB、ここに来て!」
QB「なんだい。凄いもったいないエネルギーの使い方をしてるね」
QBは、魔力で空中に浮いているまどかの肩に現われた。
まどか「それは慣れてないからだよ。後で余りは持っていて良いから今は協力して」
QB「僕は何をすればいいのかな?」
まどか「恭ちゃんと研究して作ったあれをこの子に付けてあげて」
そう言ってまどかがQBに見せたものは、手に収まるほどの大きさをした宝石。
QB「驚いたな。それはソウルジェムじゃないか。しかも、もの凄く昔に契約した魔法少女だ」
そう。あの『超強い使い魔』は、魔女でも使い魔でもなく、魔法少女だったのだ。
魔女である『夜』と共にあることを望んだ魔法少女。
彼女の身体はとうの昔に朽ち果ててしまったのだろう。
だが願いが故に魔女がある限り彼女は魔法少女でありつづけたのだ。
まどか「QBがこの子たちにしたことは今さら聞かないし責めるつもりも無いよ。
でも今この子がしたいことをさせてあげたいの」
QB「とうの昔に砕けてしまったと思っていたが、こんな形で存在していたとはね。
強力な魔女の魔力に邪魔されていて判らなかったよ。
もちろん協力するよ。彼女はとても強力な魔法少女だからね」(エネルギー回収的な意味で
QBによって、その古代の魔法少女のソウルジェムに補助リングが授けられた。
まどかは『彼女』に言った。
まどか「行っていいよ。あとはわたしに任せて!」
その『使い魔』改め、『古代の魔法少女』は、魔力の身体を生成してまどかから離れ、
ワルプルギスの夜へと飛んで行った。
アハハハハハハハハハ――……
巨大な魔女の高笑いが響いていた。
マミ「大丈夫なの?」
杏子「わからんが、やるっきゃない」
さやか「まどかが言ってるんだ。きっと大丈夫だよ」
魔法少女達の一団は、再びワルプルギスの夜を網で拘束する作戦を開始した。
あの『使い魔』と思われていた“古代の魔法少女”はワルプルギスの夜の歯車側に張り付いて動きを止めていた。
――――――♪
魔女の笑い声の合間に歌が聞こえていた。おそらく『彼女』が歌っているのであろう。
愉快で、勇壮で、悲しくて、愚かだった王国を歌った歌。
今は理解するものが皆無の古代の言語で歌われる歌だ。
ワルプルギスの夜もまた活動を沈静化し、他の使い魔たちはその姿を消していた。
~~
三度目の正直。
まどかは『神の鉄槌』のゴムバンドを引く役を全て受け持った。
トリガー部があった場所の残骸の上に、まどかは居た。
例によって彼女の周りには魔力の陽炎が揺らめいている。
ワルプルギスの夜は魔法少女総出で射出位置に『連れてこられた』。
まどか「じゃあ、いくよ?」
再び魔力を弓に込める。
まどかの身長を超える程になっていた弓は更に変形し、
枝分かれしてその先に赤い花が咲いた。
まどかは彼女の魔力の色であるピンク色に輝く魔力の矢を出した。
そして思い切り弓を引いた。
込められた余剰の魔力が桜色の煙となって弓の先から立ちのぼっていった。
まどか(さよなら。昔の魔法少女さんと大きな魔女さん……)
まどかが矢を放つ。
それと呼応して、バンド部分が『魔女』を強力に加速した。
もはや、ぶれる事も軌道を変えることも叶わない。三度目の加速は前の二回を遥かに上回っていた。
まどかがしたことは、
二十キロメートルに及ぶ加速のための軌道を魔力で満たし、それを巨大な砲身と化したことだった。
その気になれば『夜』を破壊してしまうことも出来たのかもしれない。
だがまどかはそれを望まない。
まどかがしたいのは、あくまで町から離れた場所に『彼女達』を送り届けることなのだ。
閉鎖されていない空間に『砲身』を作り出した膨大な魔法は、
これまた膨大な余剰の魔力も生み出していた。
その余った魔力はQBがホクホク顔で回収していったことを追記しておく。
追跡・監視担当の魔法少女から報告が入った。
魔女の軌道はもともと予定していた山間部に至る前に向きを変えて海上に出たとのこと。
まどかがやったのか、あるいはあの古代の魔法少女がしたことなのか、最後まで判らなかったが、
飛距離が倍以上になっていたので、この方が好都合だった。
直線で行くと山間部を超えてその向こうの町村に届いてしまうからだ。
魔法少女R『海上で魔女は「終幕」らしき行動には入らず、爆発を繰り返しながら海へ崩れ落ちていきました』
この報告を受けた瞬間、結果を待って集っていた魔法少女達から歓声が上がった。
中には感極まって涙を流して抱き合う者も見られた。
そして……。
恭介(少女)「それで、説明はしてくれないのかい?」
まどか「ごめん。覚えてなくって」
ほむら「まどか……」
案の定、鹿目まどかは『あの使い魔』とどんなやり取りがあったのかはおろか、
作戦中の行動さえも綺麗さっぱり忘れてしまっていた。
まどか「でも後悔してないよ。それだけは判る」
あの超強力な使い魔が実は魔法少女だったことだけはQBの証言から判ったが、
それ以上は推測の域を出ない諸説を生み出すに留まった。
その中で、そこそこ説得力があり一番支持されてたのが、
どういう経緯か、魔女と共にあることを願い事として魔法少女になった彼女が、
いつか魔女を止めたいと思っていたが、
倒した瞬間自らが魔女になって同じ事を続けてしまうことが判っていたため出来ずにいた。
だが今回まどかと会うことで、魔女にならない道を知り、
それを実行できたのだ。
……という説である。
諸説の信憑性はともかく、
魔女が『終幕』の行動に出ず、崩れ落ちたその後に、
あの『古代の魔法少女』の気配すらなかった事を考えると、
彼女が魔女を巻き込んで心中したのは確かのようであった。
<<古代の魔法少女エンド>>
じゃなくてここまで
えぴろーぐ的な
まどかは自らが最後に弓を引いた廃墟のそばに、ほむらを呼び出していた。
そこは魔女が魔法の建物を破壊して通過した後で、
現実世界では竜巻が通過した後のようであった。
まどか「わたしね、ほむらちゃんに話があるの」
ほむら「話ならこんな所まで来なくても……」
まどか「ううん。ここがよかったの。あの時もこんな場所だったから」
ほむら「あの時?」
まどかはそれには答えなかった。
まどか「わたし、馬鹿だったでしょ?」
ほむら「え」
まどか「ほむらちゃんに何回も何回も何回も何回も迷惑ばっかりかけて。ほんと酷いよね」
ほむら「何を言ってるの?」
まどか「『過去のわたしをお願い』なんて、無責任なこと言って、ほむらちゃんに全部押し付けて、
最期はわたしの命まで背負わせて……」
ほむら「ま……まどか? どうしてそれを!?」
まどか「許してなんていえないよね。わたし、ほむらちゃんに世界で一番酷いことしちゃった」
それはいつかの約束をした『まどか』だった。
『こんな場所』とは、あの約束を交わした場所のこと。
何故?
それをQBは後に『彼女は“因果を消費”して莫大な魔力を作り出した』と言っていた。
消費することで重なった因果が引き剥がされて
過去にほむらが経験した時間軸の因果が浮かび上がってきたのだと。
ほむら「そんなことないわ! 私がしたくてしてきたことなのよ!」
まどか「ううん。あるよ。
でもわたしは謝らない。
謝ったら今までほむらちゃんがしてきたことを否定することになっちゃうから」
ほむら「まどか……」
まどか「だから、その代わりもう一回だけ我侭を言わせて」
ほむら「な、何を言っているの?」
まどか「そんな不安な顔しないで。大丈夫だから」
じりっ、と、まどかはほむらとの距離を詰めた。
ほむら「……なにをする気なの?」
まどか「こんなほむらちゃんになっちゃったのは、わたしのせいだから……」
ほむらは、ふわっとピンク色に抱きしめられた。
まどかが変身している。
ほむら「まどか?」
まどか「もういいんだよ? わたしのために戦わなくていいからね?」
ほむら「そんなっ、私はあなたのために戦い続けてきたのよ。あなたを守るために、ただそれだけのために」
まどか「もう良いの。これがわたしの我侭。ほむらちゃんはもうわたしの為に戦わないで!」
まどかの強い言葉にほむらの心が揺らぐ。
ほむら「うっ……くっ……」
胸が締め付けつけられるような感覚。
ほむら「だめっ、私が戦いを放棄したら……私は……」
まどか「もういいの。いいんだよ」
ほむらの指輪のソウルジェムが宝石形態に還元する。
すでにその色はどす黒く濁っていた。
ほむら「まどか、駄目っ、……離してっ!」
ほむらは逃れようともがくが、しっかりと抱きしめられて逃れることは出来なかった。
まどか「大丈夫。怖くないよ。わたしはそばに居るから。これからもずっと一緒に居るから」
ほむら「……まどかぁ」
まどか「ほむらちゃんはどうなの? わたしと一緒にいたくないの?」
そんな資格があるのだろうか、という思いがほむらを躊躇させる。
抱きしめ返すことは出来なかった。
ほむらはただ震える手で密着したまどかの身体に手で触れた。
ほむら「そんなことは……ない……私……は……」
ピシッと音がしてほむらのソウルジェムが砕け散った。
 ̄| / ̄
(゚Д゚)/ ……
_(ノ_)つ
(__ノ /
UU
職員室。
早乙女先生「暁美さん、なんか雰囲気変わりましたね」
ほむら「そうですか?」
早乙女先生「なんだか、柔らかくなったというか、可愛らしくなっちゃって」
ほむら「え? え?///」
まどか「だめだよ。先生。ほむらちゃんをからかわないで」
早乙女先生「まあ、それはともかく、災害前の長期欠席の分はこの課題をやってもらうという事でいいですね?」
ほむら「はい」
まどか「はい」
さやか「はーい」
まどか「先生、上条君は?」
早乙女先生「上条恭介君はリハビリに集中するために再入院してましたけど、
ちゃんと事前に出した課題を提出してますよ。
何故か休んだ期間があなたたちとぴったり一致するんですけどね」
まどか「不思議ですね」
さやか「偶然って怖いですね」
ほむら「……」
早乙女先生「……もう良いです。親御さんが良いって言ってますからそこは追求しません。はい解散!」
まどか「はーい」
さやか「失礼しましたー」
ほむら「失礼しました」
あの災害の前一週間ほど、彼女のクラスの4人、いや5人の生徒が学校を休んでいたわけだが、
その理由は風邪だったり親の都合で海外に行っていたり、入院だったりとばらばらであった。
共通していたのはそれらが全部嘘っぱちであったという事だろう。
親とは最終的にそれぞれがそれぞれに紆余曲折あったものの
早乙女先生の話にある通り、なんとか収まるところに収まっていた。
あのとき、ほむらのソウルジェムが砕けて、
ほむらは『まどかを守るために戦い続ける』という『希望』を失った。
まどかが起こした奇跡は小さなものだった。
ほむら「……鹿目……さん?」
まどか「もう、今まで通り『まどか』って呼んでくれないと」
ほむら「で、でも……えっ? なんで……?」
まどかの表情が曇る。
まどか「……もしかして、全部忘れちゃったの?」
ほむら「あ……」
まどか「ほむらちゃん……?」
ほむら「ううん。覚えてる。……私、覚えてるよ」
まどか「よかった」ホッ
ほむら「まどか……さん?」
まどか「これからはずっと一緒だよ」
まどかはそう言ってまたほむらを抱きしめた。
今度はほむらもしっかりと抱きしめ返した。
まどか「でも『さん』はいらなと思う」
ほむら「えっ? えーっと、……まどか?」
まどか「うん。その方が格好いいよ?」
ほむら「////」
二人で共にあること。
それを『希望』として、まどかは親友が再生することを祈った。
もしかしたら、そこには魔法の力すら働いてなかったのかもしれない。
なぜなら、まどかは親友の心を後押ししただけだったから。
“ただ一緒に居たい”
それは『守る』とか『守られる』以前に互いに望んでいたことなのだ。
QBは『目減りしてしまったが、かなりのエネルギーを回収できた』として、まどかから手を引いた。
あの作戦で『因果を消費した』まどかの魔法係数は、
まだ序列で言えば大きい方ではあるものの、「とてつもない」程ではなくなってしまったそうだ。
そのQBは、まだ上条恭介と関わっていて、時々美樹さやかの話す話題に登場していた。
一方、ほむらの方は、作戦のことも、あのとてつもない繰り返しの戦いの経験も、記憶が薄れていた。
ほむら「まどか……は、どう? 覚えてる?」
まどか「うん。思い出せるけど、なんか夢で見たみたいで実感がないの」
あの作戦後まどかは、
ほむらが経験した沢山の別の時間軸のまどかとしての記憶も有するようになっていた。
ほむら「私もそうなの。覚えているけど、別世界の出来事みたいに感じてる……」
まどか「でも、これでいいんだと思うよ」
ほむら「うん。そうね……」
まどか「それになんかね、眼鏡をかけてる今のほむらちゃんが一番しっくり来るんだ」
ほむら「////」
~~
さやか「魔獣?」
QB「そうさ。例の補助リングで魔女は発生しなくなるけど、
相転移の時かなりの量の『呪いの元』とも言うべき物質、まあこれを『瘴気』と呼ぼうか。
それを放出するんだよ。
これが蓄積すると魔女みたいに現実世界に悪影響を与えるようになるんだ」
さやか「それってやばいんじゃないの?」
QB「そうなんだ。だけどこれは霧みたいなもので実体が無いから魔女みたいに倒すことが出来ない」
さやか「それって、どうすんのよ?」
QB「そこで魔法少女の登場さ。
淀んで瘴気の溜まった空間に凝集する核を用意して
強力な魔法を打ち込むと瘴気が実体化する」
さやか「それが魔獣なの?」
QB「まあ、瘴気を実体化させた存在を『魔獣』って呼ぶことにしたから名前は後付けなんだけどね」
さやか「あー、なんか判った。魔女を生み出さなくなった代わりに、
そうやって魔法少女に瘴気の掃除をしてもらおうってことね?」
QB「その通りだよ。まだ魔女が使い魔を生み出してそこから増える魔女もいるけど、
新たに生まれなくなればいずれ魔女は居なくなる。
そうなった時のための新しい魔法少女システムなんだ」
さやか「魔法少女が魔女になって、別の魔法少女に倒されるのよりマシ……なのかな?」
QB「恭介はまだ不満みたいだけどね。でもこれでもかなり譲歩したんだよ?」
さやか「まあこれなら変に隠さなくても『願いを叶えてもらった代償』って言えば、
納得する人はいるかもしれないわね」
QB「そうあってほしいね」
QB「あ、あと、今回ワルプルギスの夜と共に逝ったあの魔法少女が大量に瘴気を放出してるから、
これから忙しくなるよ」
さやか「げっ。早速なの?」
QB「キミなら負けることは無いよ。それにこの前の作戦に参加した魔法少女にも声をかけてあるからね」
相転移のときリングが変化したあの『四角いグリフシード』が瘴気を魔獣化する核なんだそうだ。
汚れを吸収できなくなったそれが魔獣の核となる。
それは再利用可能で、魔獣を倒すと再び汚れを吸収可能な状態になって戻ってくるとのこと。
ところで、
後に魔法少女が干渉しなくても瘴気が人間を取り込んで魔獣になるという現象が確認されるのだが、
それはまた別の物語である。
エピローグ
さやか「今日こそは遊んで帰ろうよ」
まどか「そうだね。何処へ行く?」
ほむら「私はまどかが行くなら何処でも」
さやか「またこの子は、まどかラヴなんだから」
ほむら「そうよ。悪い?」
まどか「ほむらちゃん////」
さやか「あー、はいはい。そう開き直られるとからかい甲斐がないわ」
仁美「私も同行させていただいてよろしいかしら?」
さやか「当然じゃない。でもお稽古事は無いの?」
仁美「災害の影響でしばらくはありませんの」
さやか「そっか。じゃあいきますか」
まどか「ほむらちゃん。行こっ」
そう言ってまどかは手を差し出した。
ほむら「うん」
そう答えて差し出された手を握る。
さやか「あーこら、あたしの前でいちゃつくんじゃないっ!」
仁美「まあ、さやかさんたら。今度はまどかさんとほむらさんのどちらを狙ってますの?」
さやか「ちょっと待って。なんでそうなるわけ」
仁美「だって、さやかさんは今、上条君と、佐倉さんでしたっけ、
校外の女の子を両天秤にかけているってもっぱらの噂ですわよ?」
まどか「えー? そうだったんだ。知らなかったよ」
ほむら「他にも、二つ年上のSさんとの噂もあるよね」
仁美「まあ、高校生の方まで? プレイガールなのですわ。私も気をつけなければ」
さやか「そういうんじゃないって」
まどか「でも学校休んでる間に女の子の知り合い沢山増やしたんだよね?」ウソジャナイヨ
仁美「まあまあ!」キラキラ
ほむら「無節操ね」ボソ
さやか「こっ……」フルフル
まどか「あ……」
ほむら「……」
さやか「こーらー!」
まどか「逃げるよっ!」
ほむら「うん!」
笑いあって二人で駆け出した。
<<まどほむエンド>>
 ̄| / ̄
(゚Д゚)/ <<おーわりだよ!
_(ノ_)つ
(__ノ /
UU
<<没った断片や小ネタ>>
[さやかの契約シーン]
さやか「恭介、ごめんね。あたし約束破るよ……」
QB「さあキミの願いを言ってごらん。美樹さやか」
さやか「あたしは、恭介が背負っているものを私も背負いたい。
恭介の力になれるあたしになりたい!」
QB「ちょっとまってくれよ。その願いは、成立しないんじゃないか?
キミは恭介が背負っているものを今知らないじゃないか」
さやか「えー……」
QB「いや、まってくれ」
さやか「!」
QB「そうか。キミの願いはエントロピーを超越し、時空も超えた。
君が魂をかけて願った対象、上条恭介がこれから背負うであろう因果にまで、
君の願いは作用したようだ」
QB「これは君の想いの強さよりも対象の因果の特殊性が深く関わっているようだね。
君は『強い魔法少女』になるよ」
さやか「くぅっ……」
QB「契約は成立した。さあ受け取って。これがキミの運命だ」
[さやかと恭介(時期不明)]
さやか「ねえ、恭介」
恭介「なんだい」
さやか「あたしに話すことあると思うんだけど」
恭介「な、何のことかな?」
さやか「まあ恭介がそうしたいなら、あたしは協力するだけだけどね」
恭介「何の話かなー」
さやか(まあ、あれでバレてないつもりなのが可愛いんだけど)
【EGとか】
ほむら「それ、まだ持ってたの?」
まどか「うん。なんかもうわたしの物だから、一生持ってていいって」
ほむら「……ちょっと貸して」
まどか「あっ!」
ほむら「まどかは人の不幸を見ると見境無く助けようとするから」
まどか「もうあの時みたいに使えないし、使おうとも思わないよ」
ほむら「これは私が預かるわ」
まどか「うーん。まあいいけど」
まどか「そうだ。ほむらちゃん使ってみようよ」
ほむら「え?」
まどか「仁美ちゃんだって使えたんだから。でもあんなことになっちゃったら嫌だから軽くだよ?」
ほむら「多分無理」
まどか「なんで?」
ほむら「私の魔法のイメージは私が魔法少女として生きていた時のものしかないけど、
あの頃の想いはどうやっても、もう出てこないの」
まどか「それは逆に出てきちゃったら困るよ。
そうじゃなくって、えーとね、わたしも変身だけなら出来るんだよ?」
ほむら「そうなの?」
まどか「うん。QBに持っていってもらうような魔力はもう出てこないんだけど。
やり方教えるから」
ほむら「じゃあ、一応、教えて」
まどか「あのね。『変身できたら嬉しいな』って思いながら、それをEGに向けて、
変身後の自分を思い浮かべるの」
ほむら「やっぱり無理。だって変身しても嬉しくないし」
まどか「もう。ほむらちゃんたら。でも感情が魔力になるんだから何でもいいんだよ?」
ほむら「なんでも?……それなら」
EGを手の平に乗せて目をつぶる。
ほむら(まどかが可愛い、まどかが可愛い、まどかが可愛い……)パァッ
まどか「あっ、変身できたよ!」
ほむら「……これでいいんだ」
ほむら(これなら、まどかが居れば何でも出来そう)
そう。
新生・暁美ほむらは『まどかパワー』で魔法少女に変身するのだ!



男の子のカッコいいも詰められている作品じゃん
2章終わりごろまではその醍醐味っていうのかな
気持ちよかったのよ
破綻していない中二臭さが最高…だった…
(破綻していたら単なる中二)
何か戦闘に入ったら失速しちゃったんだよな…
上条君が主役だと思ってたんだけどな…