【1】 【2】 の続きです。

473 : VIPに... - 2010/09/14 22:21:14.80 knIQn4.0 333/739



パシン!


綾子「きゃぁっ!!」

頬を平手打ちされ、綾子は冷たい床に転がった。

仁科「ったく……間抜けにもあんなクソガキに人質に取られてんじゃねぇよ!!」

綾子「だ、だって……」

仁科「うっせぇ!!」

綾子「ひっ」

上条と美琴が店を去ってから約15分後。一通り騒ぎも静まり、店内は何事もなかったように再び活動を始めていた。つい先程、上条が拳銃をぶっ放したと言うのに、客たちはそんなことも既に忘れているのか、ホールで踊っている。

仁科「恥かかせやがって……」

そんな中、仁科は綾子を叱責していた。理由は、不覚にも上条に人質として取られたことだった。

綾子「あ、あた……あたし……」

頬を抑えながら綾子はびくびくと仁科を見上げる。

仁科「次はねぇからな?」

綾子「………………」

もう罰は終わり、と言いたげに仁科は顔を背けた。

仁科「分かったら上の部屋で休んで来い」

綾子「…………あ、うん………」

ヨロヨロと立ち上がり、仁科の顔を一瞥すると綾子はその場から離れていった。

若い男「宜しかったのですか?」

仁科「あん?」

と、そこへタイミングを見計らったように1人の男が近付いてきた。上条が店へ来た時に話しかけたボーイ姿の店員だった。

仁科「あれでも俺の女なんだ。そうきついことは言えねぇ」

若い男「いえ、そうではなく……」

475 : VIPに... - 2010/09/14 22:26:40.72 knIQn4.0 334/739

ニコニコと、若い男は不気味な営業スマイルを仁科に向ける。

仁科「ああ。別にあいつらのことなら問題ねぇ。服は渡せなかったが、契約は成立してんだ。別に殺す必要はねぇよ。まあ……金を貰ってなかったり契約書にサインしてなかったら話は別だったがな?」

若い男「面倒になるのが分かっているのなら、あんなことしなくても良かったのでは?」

仁科「ふん。あのガキが一緒に逃げてる女を連れてこないで楽に交渉を済ませようとするから、現実を見せてやっただけだ。それに、あのガキがあの女のためにどこまで命張れるのか……個人的に興味があったからな」

若い男「しかし……とんだ大物でしたね。あの少年の連れの少女……」

仁科「御坂美琴か。そこまではさすがに予想が出来なかった」

若い男「道理で店の外で待たせてたわけです。表の世界であれだけ憎まれ話題になっている人間ですから、不法者が集うここでも連れて来るのに抵抗があったのでしょう。少女と共に逃げると決意したあの少年の覚悟は相当のものであるはず……」

仁科「ふん」

鼻で笑ってみせる仁科。

仁科「昔を思い出して嫌になるな」

言って仁科は店内の奥にあった階段を見つめる。先程仁科に休むよう言われた綾子が急いで階段を登っていくのが見えた。

若い男「ですが……本気で彼らは学園都市から逃げ出すつもりでしょうか?」

本当に疑問に感じるように若い男は仁科に訊ねる。

仁科「それは奴らの運次第だ」

ただ一言、仁科は答えた。

若い男「彼らに渡した逃走ルートの地図は、1番価値の低いものと聞きましたが……」

仁科「それだけの金しかなかったんだ。仕方ねぇだろ。それに価値が低かろうが、学園都市からの逃走ルートが描かれてるのは本当なんだ。あいつら南の方に逃げたがってたら一応おあつらえ向きのを渡してやったが……どうなるかな。まあ、確かにまともな道じゃねぇし、道中にはいくつかの危険要素も考えられるが……それは大した金も持ってなかったあいつらの運が悪かっただけ。2人して生きて学園都市を脱出出来るかどうかは俺の知ったことじゃねぇ……」

若い男「………………」

仁科「結局、俺は綾子を学園都市から逃がすことが出来ず2人して今ここでスキルアウトの幹部なんかやってるわけだが……あいつらも脱出に失敗すれば同じような道しか残されていない」

若い男「彼ら、成功すると思いますか?」

仁科「さぁな。そっから先は俺が気にするようなことじゃねぇし。上手くいけば2人して学園都市から脱出出来る。ミスをすればどちらか片方が死ぬだろうし、諦めればそこで終了。もしくは俺たちのような道を辿るだけ………」

と、そこで仁科は踵を返しつまらなさそうに吐いた。

仁科「ま、十中八九失敗するだろうがな……神様の奇跡でも無い限り……」

若い男「………………」

それだけ残すと、仁科はマネージャールームに戻っていった。

476 : VIPに... - 2010/09/14 22:31:25.37 knIQn4.0 335/739

その頃。『デーモンズ・ネスト』から逃げることに成功した上条と美琴は、どこかの幼稚園に隣接された小さな公園のベンチに向かい合うようにして座っていた。

上条「もうここまで来れば大丈夫だろう」

美琴「はぁ…怖かった……」

上条「………………」

胸を撫で下ろす美琴を見て上条は思う。彼女のその言葉は嘘でもなんでもないと。
今の美琴は能力を使うことも出来ないただの女子中学生でしかない。そんな彼女があんな目に遭えば真剣に恐怖を覚えるのもおかしくない話だった。

上条「(だからこそ……)」ジーッ

美琴「何? 私の顔に何かついてる?」

上条「いや……(だからこそこいつに早く気楽になってもらいたい)」

美琴「変なの」

上条「……」フッ

美琴「あ、そう言えばさ」

と、そこで美琴が何かを思い出したのか顔を向けてきた。

上条「何だ?」

美琴「あんたさっき拳銃持ってなかった?」

上条「ああ、これ?」

言って上条はズボンに挟んだ拳銃を取り出す。

美琴「わっ! 本物!?」

上条「当たり前だろ。グロック17とかいうやつだ」

美琴「さっき使ったのってそれだったんだ」

まじまじと美琴は上条の手の中にある拳銃を見てくる。

上条「ああ」

美琴「すごーい」

上条「仁科要から貰ったやつだ。これがなきゃ2人して『デーモンズ・ネスト』から無事に逃げれなかったかもしれない」

言って上条は手元の拳銃を見つめる。

477 : VIPに... - 2010/09/14 22:34:48.05 knIQn4.0 336/739

美琴「ねぇ、見せて見せて」

上条「ダーメ。これは子供の玩具じゃないの。それに重いぞ?」

美琴に注意し、上条は拳銃を再びズボンに挟む。

美琴「ケチー」

上条「お前な……冗談言ってる場合じゃないんだぞ? よくそんなポジティブでいられるな」

美琴「だって……ポジティブでいたら電撃能力取り戻せるかもしれないじゃん」

上条「!」

素の表情で美琴は言う。

美琴「私が電撃さえ使えたら、さっきあんたにあんな危険なことさせなかったのに……」

彼女は少し思いつめたような顔になった。

上条「御坂……」

美琴「ホントごめんね? 一刻でも早くまた能力使えるようになったらいいんだけど」

自分の右手をどこか悲しげに見つめる美琴。

上条「…………、」




美琴「それにさ!」ガシッ




上条「!!!!!!」

と、そこで急に美琴は上条の両手を包み込むように優しく握ってきた。

478 : VIPに... - 2010/09/14 22:38:32.14 knIQn4.0 337/739

上条「え……あ……」

美琴「私……嬉しかったよ? 当麻が私のために危険冒してまであそこまでしてくれて……」

美琴は笑みを浮かべ、上条に感謝を述べてくる。
その天使のような笑顔は、上条にとっては見たことのないほど美しかったためか、少しどぎまぎしてしまった。

上条「………そ、そうか……」ドキドキドキ

美琴「うん!」

逆に言えば、それほど美琴は上条に感謝しているということだった。

上条「………………」ドキドキ

視線を泳がす上条。

上条「あ、そ、そうだ……ち、地図確認しねぇと……」

と、恥ずかしさに耐えられなかったのか、上条は美琴の手を解き、焦るようにポケットをまさぐり出した。

上条「ち、地図地図……」

美琴「………………」

そんな上条を、真顔で見つめる美琴。もちろん上条はその視線には気付いていなかった。

上条「えーっと……どんなルートなのかな?」

美琴「…………」

上条から僅かに視線を外す美琴。

上条「ん? これは?」

美琴「?」

上条「何だこりゃ」

と、地図を眺めていた上条が頓狂な声を上げた。

美琴「どうしたの?」

不審がり、美琴は地図で顔を隠している上条に訊ねる。

480 : VIPに... - 2010/09/14 22:42:26.85 knIQn4.0 338/739

上条「これを見てみろ」

美琴「え?」

そう言って上条は地図を広げ見せてきた。

上条「地下鉄だよ」

美琴「地下鉄?」

眉をひそめる美琴。

上条「ここから数km歩いたぐらいに入口があるようだけど……つまりこの地図は今はもう使われていない地下鉄の線路を利用した逃走ルートってことだよ」

美琴「!」

確かに、地図に顔を近付けじっくり見てみるとその大半が地下鉄の路線を基にして描かれたと思われる逃走経路だった。

美琴「そうみたいだね。でも何か問題でもあるの?」

上条「仁科はこの地図は1番価値の低い逃走経路の情報だって言ってた」

美琴「でも今は使われてない地下鉄なら、姿も見られないし大丈夫じゃないの?」

上条「まあそれはそうなんだが……そういう地下鉄ってのは大抵……」

美琴「?」

そこで言葉を切る上条。

美琴「何よ?」

上条「いや、何でもない。とにかく、だ」

ズアッ、と上条が立ち上がる。

上条「時間も惜しい。まずはこの地下鉄の入口を目指すぞ」

美琴「………分かった」

上条が今さっき何を言おうとしたのかは予想がつかなかったが、取り敢えず美琴は上条に同意して立ち上がっていた。

481 : VIPに... - 2010/09/14 22:47:34.14 knIQn4.0 339/739

その頃――。

夜も11時を過ぎ、新たなる客層たちが足を運び始めるここ『デーモンズ・ネスト』。上条が起こした騒動も既に忘却の彼方なのか、客たちは再び、店が提供する歓楽に酔いしれていた。
そんな中、クラブのダンスホールの端に開かれた小さなファーストフード店の座席に、溜息を吐く豚……もとい人間が1人いた。

ゴリラブタ「あ~~……仁科さんに怒られちゃったよ~ん……ハァハァ。お陰でハンバーガーは自腹……嫌になるなぁもうあのツンツン頭の男と御坂美琴には……ハァハァ」

仁科に『ゴリラブタ』と呼ばれている全身脂ぎったメタボの代名詞みたいなこの男。彼の目の前には、Sサイズのハンバーガーが1つ侘しげに置かれていた。

ゴリラブタ「あいつら……次来たら許さないぞもう……ハァハァ」

ドサッ…

ゴリラブタ「!」

と、愚痴を呟いているゴリラブタの眼前に唐突にLLサイズのハンバーガーが姿を現した。

ゴリラブタ「!! えっ!? 何これ!? もしかして僕を可哀想に思ったハンバーガーの神様からの贈り物!? ハァハァ」

驚愕と感動を混ぜたような表情でハンバーガーを見つめるゴリラブタ。
と、そこへ………





「それは私からのプレゼントですの」





ゴリラブタ「!!!!」

突然、背後から女の子の声が聞こえ、ゴリラブタは振り返った。


「どうぞお召し上がりになって」


そこに立っていたのは、小柄な身体に童顔の顔、髪の毛をツインテールに纏めた1人の少女だった。
彼女を見て咄嗟にゴリラブタは胸中に思う。

ゴリラブタ「(可愛い……////)」ポッ

483 : VIPに... - 2010/09/14 22:51:13.76 knIQn4.0 340/739

「横、宜しいですか?」

ゴリラブタ「えっ!? あっ…そ…その…ああう……どどど、どうじょ」

キョドリながらゴリラブタは隣の椅子を引く。

「では遠慮なく」

少女は礼儀正しく腰掛ける。

ゴリラブタ「(か…可愛い……しかもこの子、見たところあの常盤台の制服着てるじゃん……どうしてそんな子がこんな店……しかも僕の所に?)」

もちろんゴリラブタは知る由もなかったが、このツインテールの少女、言うまでもなく常盤台中学の生徒にしてジャッジメントの白井黒子だった。

黒子「私からのプレゼントですの。さあ、是非お食べになって」ニコッ

ゴリラブタ「あ、ありがとー(ハァハァ…可愛い…ハァハァ)……ハァハァ」

ゴリラブタは早速LLサイズのハンバーガーを口に頬張る。

黒子「………………」

ゴリラブタ「で、でも……ハァハァ……君みたいな小さな女の子がどうしてこんな場所に……? ハァハァ」

グイッ

ゴリラブタ「!!!!!!」

と、急に黒子がゴリラブタの身体を引っ張ったかと思うと、その耳元に顔を近付けてきた。

黒子「私……貴方に用があったんですの……」ヒソヒソ

ゴリラブタ「ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼくによよよ用?(お…女の子の…い…息が……息が耳に……ハァハァ)」

黒子「そう……貴方と2人だけでナイショの話をしたくて……」ヒソヒソ

485 : VIPに... - 2010/09/14 22:55:08.96 knIQn4.0 341/739

ゴリラブタ「ふっふふふふ2人だけで?」ドキドキドキ

黒子「ええ……何なら……今から2人だけになれる場所……行きません?」ヒソヒソ

艶かしく光る黒子の小さな唇が色っぽく動く。ゴリラブタの耳に、彼女の吐息が微妙に掛かるか掛からないかぐらいかの勢いで触れる。

ゴリラブタ「ほ、ほほほんとうにふふふふ2人だけ……? ハァハァ」ドキドキ





黒子「そ……ふ・た・り・だ・け」





ゴリラブタ「!!!!!!!!!!」ポーッ

黒子「……………」クスッ

それだけ言って黒子はゴリラブタの耳元から顔を離し、最後に中学生とは思えないような色香を纏った笑みを見せてきた。

ゴリラブタ「(こ……これは来た? 来たんじゃないのん? ハァハァ……今までの人生で1度も彼女が出来なかった僕にも……遂に……遂に……ああお母さん……今夜僕は大人になります……ハァハァ)」

黒子「向かいのビジネスホテルに一部屋とってありますの」

ゴリラブタ「え?」

黒子「早速向かいましょう」ギュッ

と言って黒子はゴリラブタの手を握る。

ゴリラブタ「あ……」ドキッ

黒子「行きますわよ」

次の瞬間、2人はその場から消えていた。

518 : VIPに... - 2010/09/16 23:29:20.92 zAicBW20 342/739

『デーモンズ・ネスト』の向かいにあるビジネスホテル――。

ブンッ

と音を立て、ホテルの一室に1人の少女と1人の男が現れた。

ゴリラブタ「わっ! どこだここ!?」

黒子「ホテルですわ」

黒子とゴリラブタだった。能力を行使する都合上、黒子はゴリラブタと手を繋いでいたが、その光景はまさに美女と野獣だった。

ゴリラブタ「一体全体何が起こったの!? ハァハァ」

黒子「私はレベル4の『空間移動(テレポート)』能力者。向かいのお店からここまで一瞬でテレポートしましたの」

ゴリラブタ「へーすごいね君……えっと……」

黒子「ああ。私は黒子ですわ」

ゴリラブタ「黒子ちゃん! 黒子ちゃんはすごいね~……中学生でレベル4だなんて……さすが常盤台のお嬢さまは違うんだなあ。僕なんてレベル0の無能力者なのに。ハァハァ」

黒子「そうですの」

至って興味が無いというように答える黒子。

ゴリラブタ「あ、でも店を抜け出してきたのがバレたらまた仁科さんに怒られるかも……ハァハァ」

黒子「………………」

不安げに語るゴリラブタ。そんな彼を見て黒子は行動に出る。

黒子「ね~ぇ」ピト

ゴリラブタ「はうっ!」

突然、黒子に横から寄り添われ、ゴリラブタは驚きの声を上げる。

黒子「私のお願い、聞いてくださるぅ~?」

甘ったるい声を出し、ゴリラブタを上目遣いで見上げる黒子。

519 : VIPに... - 2010/09/16 23:33:10.77 zAicBW20 343/739

ゴリラブタ「ななななななな何かな?(あー遂にこの瞬間が来たのか~ハァハァ)」

黒子「貴方のお店って~……裏で犯罪者さんたちのお手伝いやっているんでしょ~?」

ゴリラブタ「よよよよよく知ってるね(顔が近いよ~ハァハァ)」

黒子「で~……そこでお願いなんですけれどぉ~今日1日で貴方たちの組織を頼って来た犯罪者の方々の名前を教えてほしいんですの~」

ゴリラブタ「えっ!?」

と、そこでゴリラブタが驚いたような顔を見せてきた。若干、その表情には警戒が混じっている。
しかしそんな彼の反応も想定内だったのか、黒子は気にせず話を続ける。

黒子「もし……教えて頂ければ……黒子、何でもしますの……」

恥ずかしそうに目を逸らし、黒子は襟元を右手で僅かに広げる。彼女の白い肌がそこから窺えた。

ゴリラブタ「………」ゴクリ




黒子「ダ・メ・?」




目に涙を溜め、黒子は改めて懇願する。

ゴリラブタ「(あ~~~とても良い匂いが……とても良い匂いがするよ~ん……ハァハァ)」

520 : VIPに... - 2010/09/16 23:36:14.84 zAicBW20 344/739

しかし忠誠心は無駄に高いのか、ゴリラブタはこれでは折れなかった。

ゴリラブタ「でもバレたら仁科さんに殺されるし………」

黒子「………………」

ブンッ!

ゴリラブタ「おわ!?」

黒子がゴリラブタの身体に触れたかと思うと、次の瞬間にはゴリラブタは部屋の中にあったベッドの端に座っていた。

ゴリラブタ「な、何々!?」

ヒタッ……

ゴリラブタ「きょぇっ!?」

気付くと、ゴリラブタの横に黒子が同じようにベッドに腰掛け、その白くて細い手で彼の左頬を撫でていた。

黒子「……教えて……頂けませんの?」

ジッと黒子はゴリラブタを至近距離で見つめる。

ゴリラブタ「あ……あ……ハァハァ」

黒子「…………」ジーッ

ゴリラブタ「分かったよ~ん……ハァハァ」

簡単に折れるゴリラブタ。

黒子「ありがとうですの!」

ゴリラブタ「いや、黒子ちゃんの為だもん……ハァハァ……で、何が知りたいんだっけ?」

黒子「貴方がたを頼って今日お店に来た犯罪者の方々の名前ですの」

ゴリラブタ「そう言われてもな~……ハァハァ……実は僕下っ端であまり深く関われないし……それにさすがに1日にどれだけの犯罪者が来たかなんて覚えてないよ……ハァハァ」

黒子「1人ぐらい犯罪者の方を見てませんの?」

ゴリラブタ「いや、何人かは見たけどね……ハァハァ」

黒子「ならっ!」

ゴリラブタ「でも仁科さんが……」

顔を俯かせ、ゴリラブタは躊躇を見せる。

521 : VIPに... - 2010/09/16 23:39:40.68 zAicBW20 345/739

黒子「………………」

ゴリラブタ「ん?」

黒子「実は……もしかしたら……今日貴方がたを頼ってお店を訪れた犯罪者の中に……私のお友達がいるかもしれませんの」

ゴリラブタ「えっ!? そうなの!?」

黒子「ええ……急にこの間失踪してしまって……それで自分なりに集めた僅かな情報から……今日、貴方がたのお店に訪れた可能性が高いことが分かって……」

悲しそうに黒子は語る。

黒子「ですから……教えてほしいんですの……彼女は……私の無二の親友で……グスングスン」

両手で目を拭う黒子。

ゴリラブタ「あ~……」

同情するような声を上げるゴリラブタ。

黒子「お教え頂けたら、本当に黒子は何でも……しますから……」

ゴリラブタ「!!!」

言って黒子は頬を紅潮させ顔を背けながら、スカートを少しめくる。彼女の白くて弾力性のありそうな細い太ももが露になる。

ゴリラブタ「ハァハァハァハァハァ……」

息を荒くし、ゴリラブタは黒子の足に目を奪われる。

黒子「お願い……しますの」

ゴリラブタ「あ……う……うん…ハァハァハァ」

黒子「………………」

またしても簡単に折れるゴリラブタ。

522 : VIPに... - 2010/09/16 23:42:14.80 zAicBW20 346/739

ゴリラブタ「ぼ、僕が今日……直接……仁科さんと……契約してた人間を見たのは……3人かな? ハァハァ」

黒子「3人?」

ゴリラブタ「ただ……みんな男だったけどね……ハァハァ」

黒子「その殿方の中に、ツンツン頭の高校生ぐらいの方はいらっしゃいませんでしたか?」

僅かに黒子の目が鋭くなる。

ゴリラブタ「あ! うん、いたよいた! ハァハァ……でも何でそんなこと知ってるの?」

黒子「いえ、もしかしたらですが……私のお友達はその殿方と逃げてるかもしれませんの……」

ゴリラブタ「そうなんだ! いやねその男が今日ちょっと騒動起こして……」

黒子「?」

と、そこで突然ゴリラブタは言葉を切った。

ゴリラブタ「………でも店であったことあんまり他人にペラペラ喋るのもなあ……」

ゴリラブタはまたも躊躇を見せる。

黒子「…………」チッ

ゴリラブタ「え?」

黒子の方から聞こえた舌打ちらしき音に気付き、ゴリラブタは思わず黒子に振り返る。
すると………

黒子「………ハァ……リボンが少しきついですわね」

何故か黒子が自分の髪を縛っていたリボンを取っていた。

黒子「フゥ……」

ファサッ…

と黒子は頭を1回だけ振る。降ろした髪が優雅になびいた。
彼女の髪から漏れた女特有の甘い香りがゴリラブタの鼻腔をくすぐる。

ゴリラブタ「(あ~~~~~何て良い匂い……ハァハァ…僕もうそろそろ限界だよ~)」

黒子「で、続きは?」

色っぽく髪を乱した状態で、黒子は煽るような目でゴリラブタを見る。

524 : VIPに... - 2010/09/16 23:46:35.51 zAicBW20 347/739

ゴリラブタ「うん!! その騒動を起こした男の連れが、何とあの御坂美琴だったんだよ!!! ハァハァ……」

黒子「……」

その瞬間、黒子の表情が僅かに変化した。

ゴリラブタ「あ、もしかして君のお友達って……」

黒子「ええ。その御坂美琴ですの」

ゴリラブタ「だけどあんな最悪の犯罪者が友達だなんて……君も大変だね」

黒子「犯罪者でもありお友達ですの。私自身としてはとても複雑な気持ちなのですが、彼女を連れ出して更正させたいと思っていますの」

ゴリラブタ「そうなんだ……」

黒子の話を真に受け、ゴリラブタは再び同情するような言葉を寄越してくる。
対して黒子は胸中に思う――あと1歩だと。

ゴリラブタ「あ……」

黒子「?」

ゴリラブタ「そう言えばあの御坂美琴ってレベル5の超能力者なんだよね?」

唐突にゴリラブタが訊ねてきた。

黒子「そうですが……それが何か?」

訝しげな表情になる黒子。

ゴリラブタ「いや、何か違和感あると思ってたんだけど……あいつ、ツンツン頭の男が騒動を起こした時に僕たち店側に人質に取られてたんだけどね。その間1回も能力を使わなかったんだよ」

黒子「………………?」

ゴリラブタ「だっておかしいと思わない? 人質に取られてても、レベル5の超能力者なんだからちょっと能力使えば僕たち全員倒せたのに……。男が拳銃で仁科さんを脅したから結局解放されたけど、何か回りくどいと思わない?」

黒子「!!!!!!!!!!」

ゴリラブタ「……あ、いや、人質ってのは別にその……君のお友達に恨みがあったわけじゃなくて……それに怪我もさせてないし……。……? どうしたの?」

ゴリラブタが見ると、黒子は顎に手を添えて考え事をしているようだった。

ゴリラブタ「黒子ちゃん?」

525 : VIPに... - 2010/09/16 23:50:12.12 zAicBW20 348/739

黒子「…………なるほど」クスッ

ゴリラブタ「え?」

黒子「………これは面白い状況になってきましたわね」

黒子の口元が不気味に歪む。

ゴリラブタ「ど、どうしたって言うの? ハァハァ」

黒子の様子がおかしいと思い、彼女の顔を覗き込もうとするゴリラブタ。

黒子「それで!!」

ゴリラブタ「ん?」

と、その前に黒子は再び元の色っぽい顔をゴリラブタに見せてきた。

黒子「2人がどこへ行ったか分かりませんの?」

新たな情報を掴もうとする黒子。

ゴリラブタ「いや、さすがにそれは……」

が、ゴリラブタは教えられないようだった。当然といえば当然である。寧ろここまで上手くいったのが奇跡なぐらいだった。

黒子「お願いしますの! この通りですの! 誰にも口外はしないので!」

祈るように両手を握り、黒子はゴリラブタに懇願する。

ゴリラブタ「う、うーん……」

ゴリラブタもこれには躊躇っていた。何しろ黒子が知ろうとしているのは仁科が契約を交わした犯罪者たちの逃亡先だ。もしここでその情報を一般人に教えてしまえば、お店の沽券…果ては組織の存続に関わる問題にもなりかねなかった。
しかし、そんな彼の葛藤を嘲笑うかのように黒子の猛攻はクライマックスを見せる。

黒子「にしても……ここ……暑いですわね?」

ゴリラブタ「!」

言って手で顔を仰ぎ、黒子は右手で自分の服に触れる。
次の瞬間には、消えた彼女のブレザーが床に落ちていた。

ゴリラブタ「ハァハァハァハァハァ」

ゴリラブタは鼻息を荒くし目を充血させる。

黒子「はぁ……ん。暑い。暑いですわ……」

ワイシャツ姿になった黒子は襟元のボタンを1つ開け、肌を大きく露出させる。

526 : VIPに... - 2010/09/16 23:55:04.55 zAicBW20 349/739

黒子「何でも…しますから……」

その状態で彼女は更にゴリラブタに身体を近付け、彼の頬に左手を添えた。

ゴリラブタ「…」ゴクリ

だが、これだけでは終わらなかった。
黒子は、自分の足をゴリラブタの左足に乗せる。スカートがはだけているため、彼女の白い足がそこから窺えた。

ゴリラブタ「ハァハァハァハァ」

降ろした髪からは止め処なく甘い香りが漂う。襟元からは見せそうで見えない胸の谷間が覗き、おまけに上気させた顔を至近距離まで接近させ、上目遣いで覗いてくる。

黒子「おねがぁい……」

トドメは甘えるような猫撫で声だった。

ゴリラブタ「こっから南の方に!! 30分ほど前2人して走っていったよ!!! 今なら隣町にいるんじゃないかな!!?? ハァハァハァ」

我慢しきれなかったのか、ゴリラブタは全ての情報を吐いていた。

黒子「ありがとうございますの……。じゃ~あ……」

ゴリラブタ「黒子ちゃああああああああああああああああん!!!!!!!!!」

限界に達したゴリラブタが両手を大きく広げ、黒子に襲い掛かってきた。




ドゴオッ!!!!!!




ゴリラブタ「!!!!!!??????」

だが、ゴリラブタが待ち望んでいた展開とは違い、彼の股間を襲ったのは信じられないほどの痛みだった。

528 : VIPに... - 2010/09/16 23:58:14.43 zAicBW20 350/739

ゴリラブタ「亜qwせdrftgyふじこlp」

ゴリラブタの頭の中が真っ白になった。

ゴリラブタ「ど……どうして?」





黒子「このゲス豚があああああああああああ!!!!!!!!!」





ドゴオッ!!!!

ゴリラブタ「ぐえあがああああああ」

今度は鋭い痛みがゴリラブタの腹を貫いた。
黒子が思いっきり蹴り飛ばしたのだ。

ゴリラブタ「な…何で……」

黒子「この!!! 汚い手で私に触れやがってええええええええ!!!!!!」


ガスッ!!!


もう1度、黒子がゴリラブタを蹴り飛ばす。

ゴリラブタ「うあああ……」

ゴリラブタは腹を抑えながら床に転がった。
だが、黒子はそれでも容赦なく蹴り続ける。

529 : VIPに... - 2010/09/17 00:01:15.25 dXhClJY0 351/739

黒子「どうして!!!!」

ゴスッ!!

黒子「この!!!!」

ズガッ!!

黒子「私が!!!!」

バキッ!!

黒子「あんな女のために!!!!」

ズカッ!!!

黒子「こんな!!!!」

ドゴッ!!!

黒子「脂ぎった!!!!」

バキャッ!!!

黒子「息の臭い!!!!」

ドコッ!!!!

黒子「豚と!!!!」

ガッ!!!!

黒子「このような!!!!」

ドガッ!!!!

黒子「気持ちの悪いことを!!!!」

ゴッ!!!!

黒子「しなければ!!!!」

ドスッ!!!!

黒子「なりませんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

ドカ!ゴス!ズカ!バキ!ドカ!!ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス!!!!!!!!!!

531 : VIPに... - 2010/09/17 00:04:16.03 dXhClJY0 352/739

怒りに溢れ、黒子はゴリラブタの背中をひたすら蹴り続ける。その様子は、先程まで甘ったるい声を出してゴリラブタを誘惑していた彼女とはまるで正反対だった。

黒子「ハァ…ハァ……」

肩で息をし、黒子はうずくまったゴリラブタを侮蔑の視線で見下ろす。

ゴリラブタ「うああ……」

黒子「………っ」

ゴリラブタにまだ意識があると分かると、黒子は最後にもう1発蹴りを彼の腹に入れようと足を大きく振り上げた。

ガシッ!!!

黒子「!!??」

しかし、それは叶わなかった。誰かが、寸前で黒子の肩を後ろから掴み止めさせたのだ。
振り返る黒子。

黒子「あ………」

そこに立っていたのは、1人の男だった。

「………………」

黒子を止めた男は静かに首を横に振る。
それを見て黒子は落ち着きを取り戻したのか、顔を俯かせて言った。

黒子「も、申し訳ありませんの………」

「………………」

黒子「で、でもいくつか有力な情報は手に入れましたわ! そ、それだけは確かですの!」

次に黒子は喜びの表情を見せ報告する。

黒子「この方はアンチスキルに引き渡します。『デーモンズ・ネスト』は学園都市の上層部とも繋がりがあると噂されているので、すぐに釈放されるかもしれませんが……」

言って黒子は床にうずくまったゴリラブタを一瞥すると、男に顔を戻した。

黒子「では、そろそろ参りましょうか?」 

「………………」ニコッ

男は満足するように大きく頷いた。

532 : VIPに... - 2010/09/17 00:08:09.89 dXhClJY0 353/739

その頃。

美琴「静かだね……」

上条「ここらは過疎化が進んで住民もほとんど別の学区に移っちまってるらしいからな……」

『デーモンズ・ネスト』から無事逃げることに成功した上条と美琴は、仁科から貰った地図を頼りに、寂れた街の一角を歩いていた。

上条「住み心地が悪く、近年はここよりももっと発展した学区に人を取られてるとか。スキルアウトですら住み着くのを嫌がるほど環境が劣悪らしいけど……」

地図に書き込まれた情報を読み上げる上条。

美琴「ふーん」

暗い夜道を歩く2人。朝まで降っていた雨の影響か、地面の所々が濡れていた。
美琴は水溜りを避けながら、前を行く上条に訊ねる。

美琴「でも本当に大丈夫なの?」

上条「この辺りは監視カメラの数も少ないし、今の時間帯は電気節約のために稼動してないらしいから大丈夫だろ。それにこんな寂れた場所、誰も好き好んで来ねーよ」

美琴「そう。ならいいんだけど」

美琴は辺りを見回す。確かに猫の子1匹いないような空気がそこにあった。

上条「それに……」

美琴「?」

上条「ほら!」

左手に地図を持ちながら上条が道の先を指差す。

上条「あの道が交差する場所。噴水みたいなのがあるだろ?」

美琴「ああ、うん」

確かに、見てみると20mほど先に小さな噴水があった。

533 : VIPに... - 2010/09/17 00:11:14.28 dXhClJY0 354/739

上条「あの噴水を越えてしばらく行った所に地下鉄の入口がある」

美琴「そうなんだ」

と、その時だった。

美琴「待って」グイッ

上条「え?」

美琴が後ろから上条の服を掴んだ。

美琴「誰かいる……」

上条「何?」

美琴の視線を辿り前方を見る上条。
確かに、人影のようなシルエットが暗闇の中1つだけ浮かんでいる。

上条「誰だあれは……?」

警戒を見せる上条。その人影はまるで上条と美琴を待ち伏せてるかのようにそこに立っている。

美琴「ど、どうしよう? 何か変だよ。引き返そうよ」

美琴がそう言った瞬間だった。





「引き返す必要は無いよ」





上条美琴「!!!!!!!!!!」

534 : VIPに... - 2010/09/17 00:14:16.60 dXhClJY0 355/739

突如、その人影が声を上げた。

上条「…………っ」

咄嗟に上条は美琴を庇うように前へ出る。美琴も不安な表情を浮かべながら上条の肩越しにその人影を窺った。



「無論、ここから先に行く必要もないけどね」



再び声を上げる人影。

上条「………俺たちに何の用だ?」

訊ねる上条。
それに応えるかのように、やがて人影は1歩前へ出た。点滅して今にも消えかかりそうな街灯の光によってその顔が浮かび上がる。




「御坂美琴と上条当麻。君らの旅もここまでだ。僕と一緒にアンチスキルの支部まで来てもらおう」




男の全容が明らかになる。
見たところ、若い。歳も上条と大して変わらないように思われる。背は上条より少し高いぐらいで、中肉中背の体つきをしている。
その顔からは優男のような穏やかな風貌を感じさせたが、表情は鋭く1つの隙もなかった。雰囲気としてはエツァリが化けた海原に近い。

535 : VIPに... - 2010/09/17 00:16:42.88 dXhClJY0 356/739

上条「(こいつ……強い)」

今までの経験から上条は一瞬で相手が強敵であると悟る。

上条「断ると言ったら?」

顔に1つ汗を流しながら上条は人影に話しかける。

「それは無理な話だね。もし抵抗すると言うのなら、僕は正義に誓ってでも全力で君たちを捕縛させてもらう」

上条「………………」

その言葉に嘘は無い。男の真剣な声を聞けば明らかだった。

「それに………」




「それに私たち相手を2人にして逃げ出すなど、普通なら不可能ですから」




上条美琴「!!!!!!!!!!」

後ろから声がした。上条と美琴は同時に振り返る。



黒子「御機嫌ようお姉さま。決着を着けに参りました。今日で貴女の逃亡生活もお終いです」



常盤台の制服を着、腕にジャッジメントの腕章を巻いたツインテールの少女がそこに1人。

美琴「あんたっ!!??」

白井黒子がそこにいた。

536 : VIPに... - 2010/09/17 00:20:37.65 dXhClJY0 357/739

黒子「はい何でしょうかお姉さま」

ニヤリ、と黒子は笑みを浮かべる。

美琴「どうしてここに……っ!」

黒子「はて……どうしても言われましても……」

首を傾げる黒子。

「とにかく、だ」

上条美琴「!!!」

と、今度は前方から男が声を発し、上条と美琴は慌てたように振り向き直った。

「僕らと一緒に大人しく来るか、それとも抵抗して捕縛されて連行されるか、どっちか選ぶことだね」

上条「…………冗談じゃねぇよ。どっちもお断りだ」

男の言葉を上条は真っ正面から突っぱねる。

黒子「何を息巻いているのか存じていませんが、不思議な右手を持つ貴方でも彼に勝てるとは思えませんわよ?」

上条「何だと?」

目だけ横に動かし、黒子の声を背中越しに聞く上条。




黒子「何故なら彼は、私を負かした経験があるのですから」




上条美琴「!!!???」

そう、黒子は断言した。まるで、もうお前たちはここで終わり、と言いたげに。

上条美琴「………っ」

2人は男の顔を信じられない、というように見る。

「………………」

黒子「彼は、あの『座標移動(ムーブポイント)』の使い手、結標淡希に引けを取らないとも言われていますわ」

美琴「何ですって!!??」

538 : VIPに... - 2010/09/17 00:24:26.85 dXhClJY0 358/739

その名前の人間の実力を知る美琴が驚きの声を上げる。

黒子「並のレベル4なら2人がかりでも彼を倒すことは難しいでしょうね」

「………………」

黒子は自慢げに語るが、当の男は表情を動かさない。ふと、上条はその男の腕に巻かれてあるものを見た。

上条「ジャッジメントの……腕章……」

「………………」

上条「てめぇ一体何者だ?」

上条は睨みながら訊ねる。その言葉に先に反応したのは黒子だった。

黒子「ああ……彼はあれでも全てのジャッジメントを束ねる立場のお方で……」

「いいよ白井さん。僕から直接言おう」

が、男は黒子が説明し終える前にその言葉を遮った。

黒子「あら、これは失礼致しましたの」

「僕が誰かって? なら教えてあげるよ」

男は更に1歩前へ出、上条と美琴を見据える。

上条美琴「………………」





「『風紀委員(ジャッジメント)』本部長にして最強のレベル4(大能力者)。人呼んで『瞬間氷結(フリージング・ポイント)』」





上条美琴「!!!!!!!!!!」



瞬間氷結「それが僕だ……」



凍てつくような目を見せ『瞬間氷結(フリージング・ポイント)』は静かにそう言った。

566 : VIPに... - 2010/09/18 23:51:46.05 6XaFL/20 359/739





上条「『瞬間氷結(フリージングポイント)』……だと?」




上条は確かめるように口中にその名を反芻する。

瞬間氷結「そうだ。この学園都市の全てのジャッジメントを統括する立場にある」

目の前に現れた男は静かに答えた。

黒子「本部長はそれだけではありませんわよ? 長点上機学園3年生にして生徒会長。成績もトップ5にランクインするほどですの。しかも本部長は『今レベル4の大能力者の中でレベル5に最も近い位置にいる』と言われていますわ」

瞬間氷結に代わって、黒子が自慢するように説明する。

美琴「長点上機!?」

と、言えば美琴が所属する常盤台中学よりも上位の、学園都市最高峰の学校だ。噂ではレベル5の超能力者が数人在籍しているとも言われる程である。
学園都市の中でも優秀な者しか入学することが出来ない正真正銘の超エリート校。しかもそこで生徒会長を務めているとなれば、その頭脳・人格ともにどんな人間であるかは予想がついた。

美琴「それで……レベル5に最も近い位置にいるって……」

その上彼はレベル4の大能力者の中でも最強の実力を持ち、更にはレベル5に最も近い位置にいると言う。

黒子「ええ。いずれはレベル5の8人目に……」

瞬間氷結「肩書きなんてどうでもいいよ」

黒子「!」

と、そこで瞬間氷結は話の腰を折ってきた。

567 : VIPに... - 2010/09/18 23:54:24.82 6XaFL/20 360/739

瞬間氷結「今一番大事なのは、彼女たちを連行することだ」

言って彼は上条と美琴を見据える。

瞬間氷結「この学園都市の治安組織の長として警告する。御坂美琴、上条当麻。大人しく僕と一緒に来い。抵抗するなら、容赦はしない」

上条美琴「………………」

上条「何も理由を訊かず連行するってのかよ?」

瞬間氷結「理由? そんなこと訊かなくても分かるよ。彼女は法の下によって裁かなければならない人間。御坂美琴……君が存在するだけでこの街の平和は脅かされる」

淡々と、瞬間氷結は罪状を述べるように言う。

美琴「…………っ」

瞬間氷結「もう問答も飽きたよ。さあ『幻想殺し(イマジンブレイカー)』……」

そこで動きがあった。

上条「!」



瞬間氷結「そんなに彼女が大事なら……守ってみろ!!!」



叫んだと同時、瞬間氷結の足元の水溜りが一瞬で凍結した。

美琴「来る!!」

上条「え!?」

568 : VIPに... - 2010/09/18 23:57:56.06 6XaFL/20 361/739

上条がその言葉に振り返ろうとした途端、彼は美琴に身体を掴まれ地面に転倒していた。
直後、今まで2人が立っていた、いまだ乾いていない濡れた地面がビキビキと凍結し始めた。

瞬間氷結「そんなもので僕の攻撃から逃れたつもりか?」

上条美琴「!!!!!!」

正面に顔を戻す2人。見ると、氷で作られた1mぐらいの細長い槍のようなものが高速でこっちに向かってくるのが見えた。

上条「くっ!!」

咄嗟に体勢を立て直し、上条は右手を突き出す。

バギィィン!!!!!

上条の右手に触れた氷は一瞬で粉々になった。

瞬間氷結「それが幻想殺しか。だが、攻撃はまだ終わらないぞ」

瞬間氷結が背後の噴水に手を突っ込む。1秒後、彼は自分の手を水の中から引き抜くと、左から右へ薙ぐように掴んでいた水をばら撒いた。
大小様々な形になった氷の鋭角の大群が正面から上条たちに迫り来る。

上条美琴「……………っ」

2人はそれぞれ回避運動を取ると、次の1手に備えるための姿勢を取った。が、そのせいで彼らは引き離されてしまうことになる。

美琴「!!??」

何かの気配に気付き振り返る美琴。

黒子「………」ニィッ

そこに立っていた黒子が、回し蹴りを繰り出し美琴の顔を狙ってきた。

ブンッ!!!

寸前、美琴は僅かに身体を後ろに引いた。黒子のつま先が彼女の髪に触れる。

美琴「黒子!!!」

黒子「気付いてますわよ!!! お姉さま、能力が使えなくなっているでしょう!!!!」

美琴「!!!!!!」

569 : VIPに... - 2010/09/19 00:00:19.97 qwV4SlE0 362/739

黒子「隙あり」



ドッ!!!



美琴「ぐっ……ぁ……!!」

黒子の強烈な蹴りが美琴の横っ腹に決まった。

美琴「くっ……」

地面に倒れ込む美琴。

黒子「チェックメイト」

太腿に巻いた革ベルトの金属矢に触れる黒子。

ドドドドドド!!!

同時、美琴の服の裾が地面と繋ぎ止められていた。

美琴「あっ……うっ……」

黒子「レベル5と言えど能力が使えないとこんなものですの」

美琴を見下すように黒子は言う。

571 : VIPに... - 2010/09/19 00:03:14.55 qwV4SlE0 363/739

上条「御坂!!!」

美琴の危機に気付いた上条が振り返る。

瞬間氷結「余所見してていいのかい?」

上条「!!!!!!」

正面に顔を戻す上条。すぐ眼前まで、氷で作られた剣を手にした瞬間氷結が迫っていた。

瞬間氷結「死ぬぞ?」

上条「やろう!!!」

右手を突き出す上条。

バギィィン!!!!

氷の剣が砕かれる。

上条「もらった!!」

そのまま瞬間氷結の顔を殴ろうと上条は拳を握る。

上条「!!!???」

が、そこで彼は足元の違和感に気付いた。

上条「何っ!?」

左足が氷で固まっていた。

瞬間氷結「どうした? 手を止めたりして。僕の手は君の顔を一瞬で凍らせるぐらい出来るぞ?」

上条の視界に、手の平の表面一杯が氷に覆われた瞬間氷結の右手が迫りくるのが映った。

上条「………っ」ゾクッ

バシッ!!!

背中に悪寒が走るのを感じ、上条は右手で瞬間氷結の掌を打つ。
しかし………

ドゴオッ!!!

上条「………ぐっ!?」

攻撃を回避したと思った瞬間、上条の腹に重い衝撃が響いた。

575 : >>570うわーーー間違えた。チェックアウト→チェックメイトで! - 2010/09/19 00:06:08.42 qwV4SlE0 364/739

瞬間氷結「………………」

瞬間氷結の左拳が上条の鳩尾に入っていた。

上条「が……あ…」

ドサッ…

耐え切れず上条はその場に転倒する。

上条「クソッ……!」

逃げようと思うものの、右足が氷漬けされているためそれも叶わない。
そこへ、瞬間氷結が上条の側にまで歩み寄り見下ろしてきた。

瞬間氷結「白井さんほど機敏に動けないけど……徒手格闘で彼女に負けるとは思ってないよ。じゃないと、本気の訓練で彼女に勝つことなんて出来なかったはずだからね」

上条「御坂を……どうするつもりだ!?」

地面から睨むように上条は瞬間氷結を見上げる。

瞬間氷結「決まってるさ。法の下で裁きを受けてもらう。どんな犯罪者でもそれに例外は無い」

上条「させると……思うか?」

瞬間氷結「君が何の信念を持って彼女……御坂美琴を助けようとしているのかは知らないけど、こっちだって遊びでやってるわけじゃないんだ。だからこそ僕はいつも本気でやってきたし、数多くのスキルアウトの組織だって容赦なく潰してきた……」

上条「自慢のつもりか?」

瞬間氷結「自慢じゃないよ。僕はこの学園都市のためにやれることをやってるだけだ」

本当に瞬間氷結は自慢する素振りも謙遜する素振りも見せず、事実のみを述べる。

上条「そこまでして、この学園都市が守る価値があるとでも?」

瞬間氷結「……確かにこの学園都市には一般人には縁の無いような『暗部』も存在する。君はその実態を知らないだろうけど、生半可な気持ちで介入出来るような世界じゃない」

上条「………………」

瞬間氷結「僕は『暗部』の世界で暮らしてる高位能力者の中にも何人か顔見知りがいるけど……彼らの普段の様子を見ていて『暗部』というものがどれほど洒落にならないのか、それは十分分かってるつもりだ。同時に、その『暗部』が、知らず知らずのうちにみんなが暮らす表の世界をジワジワと蝕んでいるのもまたこの街の現状……」

隙を一つも見せず、瞬間氷結は凍てついたような目で上条を見ながら話を続ける。

瞬間氷結「だからそんな『暗部』に好き勝手させないために、今も僕は、表の世界から日々『暗部』と戦っているんだ」

上条「………………」

瞬間氷結「分かるだろ上条当麻? 君も君なりの信念があって今まで数々の修羅場を潜り抜けてきたんだろうが、僕だって同じぐらい修羅場を潜り抜けているんだ。……そう、この学園都市を本当の意味で平和にするという信念と共にね」

578 : VIPに... - 2010/09/19 00:09:57.25 qwV4SlE0 365/739


ガッ!!

と、そこで瞬間氷結は上条の右腕を踏みつけてきた。

上条「ぐあっ!?」

瞬間氷結「気付いてるよ。僕の隙を見て右足の氷を右手で溶かして攻撃の機会を窺ってたんだろうけど……それを僕が見逃すと思うかい?」

足に力を込めつつ、瞬間氷結は上条に顔を近付ける。

瞬間氷結「ただ君のほうは気付いてたかな? 今自分がどんな場所に寝てるのかを?」

上条「!!!」

上条の表情に焦りの色が浮かぶ。同時、今まで意識していなかった感触が背中越しに伝わってきた。

上条「(しまった……!)」

上条が焦るのも無理はなかった。何故なら彼は今、濡れた地面の上に背中を預けるようにして倒れていたのだから。

上条「クソッ!!」

瞬間氷結「遅い」


ビキビキビキビキッ!!!!!!


上条「!!!!!!」

それは一瞬の出来事だった。上条は声を上げる間も無く、その身体を背中から氷で固められていった。

美琴「当麻!!!!!!」

それを見ていた美琴が叫ぶ。

瞬間氷結「ここまでだ」

瞬間氷結が背筋を伸ばす。彼の足元には右手以外を残して氷漬けにされていた上条の姿があった。

瞬間氷結「ここは雨が乾いてなかったり噴水があったりと、まさに僕にとっておあつらえ向きの場所だった。いくら百戦錬磨の君でも、この状況で僕には勝てないよ」

上条「――――――」

しかし、氷漬けにされた上条は何も答えない。

580 : VIPに... - 2010/09/19 00:13:34.87 qwV4SlE0 366/739

瞬間氷結「おっと、卑怯だのと言わないでくれよ? 戦いを有利に進めるために予め都合の良い条件を揃えておくのは兵法と言って戦略の1つだ。まあ拳1つの我流で生きてきた君にとったら理不尽に聞こえるかもしれないけどさ?」

黒子「本部長!!」

戦い終えた瞬間氷結の姿を見て黒子が歓喜の声を上げる。

黒子「さすが本部長ですわ!! 御坂美琴と上条当麻をこんな簡単に戦闘不能に出来るだなんて!!」

瞬間氷結「幻想殺しはともかく、御坂美琴は君の手柄だ。今は能力を使えないとは言え、レベル5の超能力者を捕まえられただけでも勲章ものだよ」

黒子「いえいえそんな! 黒子は恐縮ですわ!」

美琴「………………」

喜ぶ黒子の顔を、美琴は地面から見上げる。今、黒子は瞬間氷結との会話に気を取られている。

美琴「………」ググッ

その隙をつき、美琴はほんの少し両腕に力を込めてみた。

美琴「(右腕!)」

黒子の金属矢で服の裾を地面と繋ぎ止められていた美琴の身体。だが、右腕だけはその力が少しだけ緩んでいると感じた。

瞬間氷結「それよりも白井さん、黄泉川先生に電話してくれ」

黒子「え?」

瞬間氷結「御坂美琴と上条当麻を捕まえた、ってね」

黒子「あ、はい! 分かりましたの!」

指示され、嬉しそうに黒子は携帯電話を取り出す。

黒子『もしもし、黄泉川先生でしょうか? こちら黒子ですの!』

美琴「………………」

美琴の側に立って電話をし始める黒子。美琴は瞬間氷結の方をチラッと見る。
まだ警戒しているのか、彼は地面で氷漬けにされた上条の姿をジッと眺めていた。

黒子『ええ! 本部長と一緒に彼奴らを! 捕まえましたの!』

美琴「………………」

黒子は美琴に背中を向けながら、興奮して受話器に向かって話している。
美琴は胸中に思う。

美琴「(今だ)」

582 : VIPに... - 2010/09/19 00:17:26.12 qwV4SlE0 367/739

グググッと美琴は右腕に力を込める。

美琴「(もっと……)」

ほんの少し宙に浮いた右腕を、計6本の金属矢がそうはさせまいと裾を地面に繋ぎ止め続けている。

黒子『御坂美琴は私が責任をもって倒しましたの! え? 上条当麻? ああ、奴なら本部長が……』

美琴「(まだ……)」ググッ

思ったより金属矢の力が強いのか、右腕はろくに上がらない。
だが、なんとなく手応えがあるのを美琴は感じ始めていた。

美琴「(もっと……)」グググッ

瞬間氷結「幻想殺し……残念だよ。以前から君の話を聞いていて、君とならいつか友人になれるかもと思ったのに……」

瞬間氷結は何やら氷漬けにされた上条に話しかけている。

瞬間氷結「だが、君の持つ正義と僕の持つ正義は質が違ってたようだね……」

黒子『それがすごいんですのよ! 本部長ったら! ……え? 今どこにいるかって!?』

美琴「(もっと………)ググググッ

数cmほど右腕が上がり、地面に繋ぎ止められていた裾が限界まで延びる。
そして………



ビリッ……



美琴「!!!」


ビリビリッ……!!


美琴「(外れた!!!!)」

破れた裾の部分だけを地面に残し美琴の右腕が自由になった。

黒子『えっと、今私たちがいる場所は……』

美琴「………」ググググッ

584 : VIPに... - 2010/09/19 00:20:12.89 qwV4SlE0 368/739

美琴は止まるところを知らず、右腕が解放された勢いで上半身に力を込める。



ビリビリビリッ……!



そしてついに、彼女の上半身も地面から解放された。ただし、左腕だけはまだ地面に繋ぎ止められていたが。

美琴「………」ギロリ

間髪入れず美琴は地面に刺さっていた金属矢の1本を引き抜き黒子の背中を睨む。

瞬間氷結「ん?」

と、そこで何かの気配でも感じたのか瞬間氷結が振り返った。

瞬間氷結「!!!!!!」

彼が見たもの……それは、上半身と右腕が自由になった状態の美琴が、手にした金属矢で黒子を後ろから狙ってる姿で………。
だが、気付いた時には遅かった。




ドスゥゥゥッ!!!!!!!!




黒子「!!!!!!!!!!」

美琴は右手に握った金属矢を黒子の右太ももに突き刺した。



黒子「あああああああああああっ!!!!!!」




586 : VIPに... - 2010/09/19 00:23:33.23 qwV4SlE0 369/739

美琴「………………」

叫び声を上げ、電話を地面に落とす黒子。

黒子「くっ……」

ドサッ…

何とか彼女は反撃を試みようとしたが、それも叶わず地面に倒れてしまった。

瞬間氷結「白井さん!!!!」

一部始終を見ていた瞬間氷結が黒子の元へ駆け寄ろうとする。
だが………



ビキビキビキッ……



と、背後で何かヒビが割れるような音がした。

瞬間氷結「!!!???」

振り返る瞬間氷結。

瞬間氷結「なっ………」

見ると、氷漬けにされたはずの上条の右腕部分。その肘から手首に向かってヒビが何本か入っていた。



バリィィィン!!!!



やがて、氷が割れ上条の右腕の肘から手首までの部分が姿を現した。

587 : VIPに... - 2010/09/19 00:26:43.46 qwV4SlE0 370/739

瞬間氷結「バ、バカな……っ!!」

そして上条の右腕が起き上がるように動いたかと思うと、そのまま彼の右手は自分の身体を覆っている氷に思いっきり拳を叩き込んだ。



バギィィィン!!!!!!



と、音がして上条の全身を覆っていた氷が崩れていく。

瞬間氷結「………そ……そんな……」

上条「フー………」

驚愕の表情を浮かべる瞬間氷結の前で、上条は起き上がり、肩をコキコキと鳴らす。

上条「やってくれたな」ギロリ

瞬間氷結を睨む上条。

瞬間氷結「………っ」

顔や服に僅かに氷の跡を付着させながら、上条はズアッと立ち上がる。

上条「俺を甘くみるなよ。今度こそ、てめぇをぶっ飛ばす」

瞬間氷結「…………往生際の悪い男だ……っ!」

苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、瞬間氷結は上条を睨み返す。

589 : VIPに... - 2010/09/19 00:29:57.90 qwV4SlE0 371/739

黒子「くっ……ハァハァ」

一方、美琴によって足を負傷させられてしまった黒子。

美琴「………………」

黒子「よくも……よくも……くあっ」

彼女は何とか起き上がろうと地面の上でモゾモゾと動いていた。だが、金属矢が刺さった右太ももの痛みがあまりにも強烈なのか、それも叶わなずにいた。

黒子「うっ……うあっ」ドサッ

さっきから黒子は、生まれたばかりの小鹿のように、立ち上がろうとしては倒れるという動作を何回も繰り返していた。

美琴「黒子……もう、終わりよ」

美琴が側で黒子に話しかけてくる。

黒子「……」ギロリッ

美琴を睨む黒子。今の彼女はろくに瞬間移動も出来ない状態にあった。

黒子「……まだ……終わってないですの……」

美琴「お願いだからやめてよ……」

黒子「自分で傷つけておいて何をそんな悲しそうな顔を浮かべてますの? これだから犯罪者は……」

美琴「……………、」

言って黒子は自分の右足に刺さった金属矢を見る。

黒子「こんなもの……!」

美琴「何をするつもりなの!?」

グッと金属矢を掴む黒子。

美琴「あ……やめなさい!!!!」

が、美琴の制止も空しく、黒子は金属矢を引き抜いていた。当然、物凄い勢いで血が噴き出した。

黒子「うあああああああああっ!!!!!!」

想像以上の痛みだったのか、黒子は金属矢を手放し叫び始めた。

黒子「い…痛い……痛いですの……あああああああああああああああ」

美琴「黒子!!!!!!」

590 : VIPに... - 2010/09/19 00:33:27.12 qwV4SlE0 372/739

瞬間氷結「いいだろう幻想殺し……いや、上条当麻」

復活した上条を前にして、瞬間氷結の表情が再び鋭くなる。

瞬間氷結「君を正真正銘、1人の敵として認めてやる!!!」


ビキビキビキッ!!!


そう叫ぶと、瞬間氷結の足元の濡れた地面が凍り始めた。

上条「!!!!」

咄嗟に、乾いた部分の地面の上に飛び移る上条。

瞬間氷結「………………」



ビキビキビキビキビキッ!!!!!!



瞬間氷結の足元から始まった凍結は、そこから濡れた地面を介して道路一面を凍らせていく。

上条「これは……」

591 : VIPに... - 2010/09/19 00:35:38.72 qwV4SlE0 373/739

気付くと、元々乾いていた部分の地面以外のほぼ全てが氷漬けにされていた。ただし、例外として黒子と美琴がいた場所は何の変化もなかったが。

瞬間氷結「少しでも氷の部分に足を踏み入れてみろ。1秒で足元から凍っていくぞ」

上条「!!!!!!」

瞬間氷結「これが僕の奥の手『全面氷結(ホワイトアウト)』だ。……こんな水で濡れた部分が多い場所でしか出せない奥儀だけど、レベル5になったら常時どこでも発動可能になれる代物だ」

言って瞬間氷結は腰にぶら下げた細長い物体を取り出す。

上条「それは………」

瞬間氷結「水筒だよ。だが、僕を前にしてただの水筒だと思わないことだな」

説明しながら瞬間氷結は手にした水筒の蓋を全て外す。

上条「?」

そしてその注ぎ口を左手で覆い、水筒を逆さまにしたかと思うと、次の瞬間、注ぎ口から離した左手についてくるように、水筒の中身の水が細長い氷となって伸び始めた。

瞬間氷結「御坂美琴は砂鉄を集めて砂鉄剣なるものを作るみたいだけど……これもそれと似たようなもんだ。水筒の中の水を外に出したと同時、剣状に生成する。氷結剣でも凍結剣でも好きな名前で呼ぶといい」

完成された氷の剣は、刀身部分は円柱状だったが切っ先は鋭く尖っていた。それを右手にして瞬間氷結は上条を見据える。

瞬間氷結「死にそうな怪我を負っても後で医者に頼んで無理矢理復活させてやる。……だから、気を抜くなよ。下手したら……本気で死ぬぞ?」


グアッ!!!


上条「!!!!!!」

瞬間氷結の最後の猛攻が始まる。

592 : VIPに... - 2010/09/19 00:39:06.40 qwV4SlE0 374/739

黒子「な……何をするんですの!!?? 触らないで下さいまし!!!!」

美琴「黙ってなさい!!!!」

止め処なく黒子の右太ももから流れる血。それを止めるために美琴は行動に出た。
先程起き上がる時に地面に突き刺さった金属矢で破れた服の一部。その中で1番大きい物を手に取ると彼女はそれを黒子の足に巻いてきたのだ。

黒子「触らないで!!! 敵の慈悲など受けたくありません!!!!」

美琴「こうしないと血が止まらないでしょうが!!!!」

黒子「嫌だ!!! 離して!!!!」

美琴「………………」

黒子「離せえええええええ!!!!!!」

美琴「…………っ」

ジタバタと黒子が動くため、美琴はなかなか上手く縛り付けることが出来ない。 

黒子「敵に看護を受けるぐらいなら死んだほうがマシですの!!!」

美琴「敵じゃない!!!」

黒子「!!!!」ビクッ

美琴が黒子の顔を見据え怒鳴る。

美琴「あんたは……敵じゃない」

黒子「?」

美琴「私の……大事な……後輩なの」

言って、美琴は再び黒子の足に顔を向ける。そんな彼女の顔は、まるでもう元には戻らない何かの現実を恨み、悲しんでいるようなそんな複雑な表情をしていた。

黒子「………………」

呆然と、黒子は美琴を見つめる。

ギュッ!

黒子「あっ……くっ」

美琴「はい、後は病院で。取り敢えず応急処置はお終い」

と、美琴が安心したような顔で言う。
黒子が足に顔を向けると、確かに右ふとももに布がきつく縛られてあった。

593 : VIPに... - 2010/09/19 00:42:41.99 qwV4SlE0 375/739

美琴「早く怪我を治して元気になってね、黒子」

美琴は笑顔を浮かべる。

黒子「…………………」

瞬間、黒子の脳裏に美琴と過ごした日々が蘇ってきた。過去にも美琴は、黒子が車椅子に乗って生活していた時に今と同じように笑顔を浮かべて励ましてくれたことがあったのだ。

美琴「ま、まあ怪我させちゃったのは私だけど? あはは」

黒子「………………」

そこで黒子はふと思った。今、目の前にいる美琴に対してどうして自分は敵意を持っているのか、と。そう考えると更に疑問のようなものが浮かび、この敵意は何というか、まるで誰かに作られたようなものの気がしてならなかった。

黒子「………」

だが、それはあくまで黒子がふと思ったことであって、実際に美琴への敵意を掻き消すほどの効果はもたらさなかった。

黒子「ふん」

美琴「?」

しかし………

黒子「まあ手当てしてくれたことだけは感謝しておきますわ」

顔を背けながら黒子はそう言っていた。

美琴「………………そっか」

黒子「?」

美琴「どういたしまして!」

一瞬、呆然とした美琴だったが、彼女はすぐに笑顔で答えていた。

黒子「………………」

594 : VIPに... - 2010/09/19 00:45:23.23 qwV4SlE0 376/739

一方、上条と瞬間氷結の戦闘は激化していた。

瞬間氷結「さあ、決着を着けよう!!」

ゴアッ!!!!!

瞬間氷結の手が僅かに動いたと思った瞬間、氷の剣が上条の視界の端にチラッと映った。

上条「くっ!!」

咄嗟に頭を屈み、避ける上条。そのままの姿勢で彼は右手を突き出す。
が………


ドゴオオオッ!!!!


上条「ぐおっ!!」

その前に瞬間氷結が繰り出した蹴りが上条の横っ腹に突き刺さった。

瞬間氷結「僕は徒手格闘も使えると言ったはずだ」

強い勢いで蹴られ、上条は横に吹っ飛ぶ。

上条「!!!!」

着地しようとした瞬間、彼の目に映ったのは氷漬けにされた地面だった。



   ――「少しでも氷の部分に足を踏み入れてみろ。一秒で足元から凍っていくぞ」――



瞬間氷結の言葉が頭に蘇る。

上条「くっ!!」

瞬時に上条は空中で身を翻す。直後、彼は幸運にも凍結されていない地面の上で受身を取ることが出来た。

瞬間氷結「甘い!!」

そんな上条に、瞬間氷結の容赦ない剣が迫る。

上条「………っ」

右手は間に合わない。そう判断し、身体を捻らせ剣を避けると上条はその隙をついて素早く立ち上がろうとする。

595 : VIPに... - 2010/09/19 00:49:19.78 qwV4SlE0 377/739

瞬間氷結「………………」

が、その背中を瞬間氷結が狙う。

瞬間氷結「もらった!!」

上条「…………」

瞬間氷結「何っ!?」

氷の剣が上条の背中に突き刺さる瞬間。それよりも素早く身を翻し身体を一回転させながら立ち上がった上条が、瞬間氷結に向かって右手を伸ばしてきた。



バギィィン!!!!



瞬間氷結「なっ………」

上条の右手に触れられた氷の剣が粉々になる。

上条「これで終わりだ!!」

瞬間氷結「クソッ!!」

一度引き、再び迫る上条の右手。瞬間氷結は水筒を捨て、何とか構えを取るが………

ズッ……

その行為も空しく上条の右拳が瞬間氷結の左頬に突き刺さった。

瞬間氷結「ぶ……おっ!!」



ドカァァン!!!



殴られた衝撃で吹っ飛ばされた瞬間氷結は、やがて噴水のコンクリート部分に背中を打ち付けて止まった。

596 : VIPに... - 2010/09/19 00:53:17.54 qwV4SlE0 378/739

上条「ハァ……ハァ……ハァ……」

息を継ぎ、上条は警戒しながらゆっくりと、うなだれた瞬間氷結に近付く。

瞬間氷結「………クソッ…不覚をとってしまった……」

上条「………………」

瞬間氷結「………何故だ……何故……そこまでして……御坂美琴を守る?」

睨むように上条を見上げながら、途切れ途切れに瞬間氷結は訊ねる。

上条「そうすると決めた。それが俺の信念だからだ。それだけは決して曲げない」

瞬間氷結「……ハッ! 信念か……僕だって君に負けないぐらいの信念を持ってるってのに……」

上条「………………」

瞬間氷結「……この街を守りたい……って信念のために……ジャッジメントに入隊して……能力値のレベルも徒手格闘の実力も努力して……上げて……ようやくここまで登りつめたってのに……。君はその信念を軽々と……砕いてくれたな……」

上条「信念は砕かねぇよ」

瞬間氷結「何?」

その言葉を聞き、瞬間氷結は訝しげな目を上条に向ける。

上条「俺はお前を倒しただけで、信念までは砕いてねぇ。死なない限り、信念は壊れないもんなんだよ」

上条はそう告げる。

瞬間氷結「言ってくれるね……僕は君とは背負ってるものの重みが違うんだよ……。……日々……どれだけの無能力者や低能力者の学生たちが……悪漢の能力者やスキルアウトたちの影に怯えて暮らしてると思う?」

上条「………………」

瞬間氷結「彼らにとって……僕らジャッジメントは頼りになる存在……いや、頼りにされる存在でなければならないんだ……っ! 分かるか、上条当麻? そのジャッジメントのトップに立つ僕が……そう簡単に負けるわけにはいかないんだよ……」

瞬間氷結の左目は髪で隠れて影になっていたが、逆に右目はギラギラといまだ鋭く光っていた。

瞬間氷結「彼らが……安心してこの学園都市で……暮らせるために……彼らの……笑顔を守るために……」

上条「………………」

瞬間氷結「……僕は……ジャッジメントと言う……治安組織の長として……この街の平和を……守らなければならないんだ!!!!!!」

上条「!!!!!!」

叫んだと同時、瞬間氷結は背後にあった噴水の池に手を入れた。

597 : VIPに... - 2010/09/19 00:57:07.12 qwV4SlE0 379/739




ゴッ!!!!!!



噴水の水が数m高く舞い上がり、徐々に凍結して竜の姿へと変貌する。それはまるで伝説の海の化け物『リヴァイアサン』のような姿をしていた。

瞬間氷結「君は何としてでも僕がここで止める!!!!」

上条「………………」

氷のリヴァイアサンが口を開けて上条に襲いくる。
だが………



バギィィィン!!!!!!



瞬間氷結「!!!!!!」

上条はそれさえも右手で打ち砕いてしまった。

上条「………………」

瞬間氷結「……………はっ…!」

目の前で粉々になり地面に落ちていく氷塊を見て、瞬間氷結は僅かに笑みを浮かべる。

瞬間氷結「僕が………」

静かに言葉を紡ぐ瞬間氷結。

瞬間氷結「君のような右手を持ってたら……な……」

やがて、力尽きたのか瞬間氷結は頭を垂れ動かなくなった。

上条「…………………」

ずっと黙っていた上条は、彼の姿を見て口を開く。

上条「お前は立派な信念を持ってんだ……。俺の代わりに、この学園都市を頼む……」

瞬間氷結「―――――――」

598 : VIPに... - 2010/09/19 01:00:32.50 qwV4SlE0 380/739

美琴「当麻!!!」

と、その時だった。

上条「御坂!?」

振り返る上条。すると美琴が凍結した部分を避けるように飛んで、こっちへ向かってくるのが見えた。

美琴「大丈夫!?」

上条「俺は大丈夫だ。お前は無事か?」

美琴「私は……大丈夫」チラッ

言って美琴は意識を失った瞬間氷結を見る。

美琴「………強かったね」

上条「ああ、強敵だった……」

上条美琴「………………」

2人して上条と美琴は瞬間氷結の姿を眺めていた。

上条「白井は?」

と言って上条は後ろを振り返る。

599 : VIPに... - 2010/09/19 01:02:45.01 qwV4SlE0 381/739

美琴「あの子は大丈夫……応急手当してあげたから……」

同じく美琴も振り返った。少し先でうなだれて地面に座っている黒子の姿が見えた。

上条「もう……いいのか?」

美琴「……うん……。残念だけど……」

上条「そうか」

美琴「…………………」

上条「……じゃあ、行くか」

美琴「……うん」

歩き始める上条。頷き、美琴も後に続く。

美琴「……………」チラッ

そこでもう1度立ち止まり、美琴は振り返った。視線の先に黒子の姿を捉え、彼女は最後に1つだけ呟いた。





美琴「バイバイ、黒子………」





どこか悲しげな笑顔を浮かべると、美琴は顔を正面に戻し再び歩き始めた。
御坂美琴と白井黒子。これが、彼女たちが互いの姿を肉眼で視認した最後の瞬間となった――。

636 : VIPに... - 2010/09/20 17:14:28.31 4zZy0gc0 382/739

黒子「………………」

上条と美琴が去ってからまだ間もない頃。
黒子は、人気の無い道の真ん中で呆然として座っていた。

黒子「………」チラッ

自分の足を見る黒子。その右ふとともには出血を止めるための布が巻かれている。美琴が応急処置のために巻いてくれたものだった。

黒子「…………」

本当は今すぐにでも布を取っ払ってしまいたかった。憎き敵による慈悲を受けたのだ。本来なら、人前に出るのも嫌になるほど恥ずべきことだ。
だが、応急処置を終えた時の美琴の笑顔を思い出すと、何故かそれも出来なかったのだ。

黒子「………………」

憎み、今すぐにでも美琴を追って殺したいと思っている自分と、敵とは言えその厚意を無駄には出来ないという自分。その2人の自分が心の中で衝突していた。
それが、黒子にとって辛かった。本来なら前者としてもう1度、御坂美琴討伐作戦を考えているはずなのに、それも出来ず優柔不断に迷っている。そんな今の自分を思うと、これまでの苦労は何だったのか、と言いようの無い空しさに囚われるのだった。

黒子「(……もう……どうでも良くなりましたわ……)」

黒子はボーッと、氷が解けていく地面を見つめる。

不良1「よーお嬢ちゃん」

不良2「さっきの見てたぜー! かっこよかったなー!」

と、そんな黒子の頭の上から2つ分の若い男の声が聞こえた。

黒子「…………」

生気の無い目で見上げると、そこには2人の不良らしき男が立っていた。どうやら先の戦闘をどこからか盗み見ていたらしい。

黒子「………………」

興味の無いように黒子は顔を下げる。

637 : VIPに... - 2010/09/20 17:19:11.73 4zZy0gc0 383/739

不良1「なー、お兄さんたちここら辺を住処にしてるんだけどさー、娯楽が少ないんだよねーマジで」

不良2「そうそう。だからさ、君お兄さんたちと一緒に遊ばない? 気分変えるにはいいと思うよ」

言って1人の不良が無理矢理黒子を立たせようとその左腕を掴む。

黒子「………………」

傷にひびくはずなのに、抵抗する気も残ってなかったのか黒子はされるがままだった。

不良1「俺たちと一緒に楽しいことしたら、負けたことで悲しくなってる気分も一気にぶっ飛ぶぜ!!! ぎゃはははは!!!!」
不良1「なあ?」

そう言って不良1は左にいた仲間に顔を向けた。

不良1「…………あれ?」

だが、仲間は何も答えなかった。無理も無かった。

不良1「………何だこれ」

全身を氷漬けにされ、オブジェのように笑顔のまま固まっていたのだから。




「白井さんに……手を出すな……悪漢ども……っ!」




不良1「ひっ!!??」

後ろから響く凍てつくような声。不良1が背中に悪寒を感じた時には既に遅かった。

638 : VIPに... - 2010/09/20 17:22:40.39 4zZy0gc0 384/739

瞬間氷結「しばらく眠ってろ」

次の瞬間には不良は氷漬けにされていた。2体の間抜けな顔をした雪像がそこに出来上がっていた。

瞬間氷結「白井さん!」

地面でうなだれていた黒子に近付く瞬間氷結。

瞬間氷結「どうしたんだ。君らしくもない」

黒子「………………」

瞬間氷結は声を掛けてみるが、黒子は何も答えない。

瞬間氷結「………行こう。黄泉川先生たちが待ってる」

言って、瞬間氷結は黒子の肩を支えながら立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。

黒子「…………離して……下さいですの……本部長……」

瞬間氷結「!」

ボソッと、突然黒子が声を発した。

黒子「…………黄泉川先生たちに合わす顔がありません………」

顔を俯かせながら黒子は今にも掻き消えそうな声で言う。

黒子「…………敵に負けて……あまつさえ……慈悲を受けた私に……戻る資格はありません……」

瞬間氷結「……バカ言っちゃいけない。何を気落ちしているのか知らないが、こんなことジャッジメントを長年やってたらよくあることだ」

黒子「………………」

瞬間氷結「君の今回の働きは表彰ものだよ。僕が保障してやる。だから……いつもの君に戻ってくれ」

正面を向いて歩きながら瞬間氷結は黒子を励ます。

黒子「……………………」

黒子はただ、黙って俯いていた。

639 : VIPに... - 2010/09/20 17:26:47.74 4zZy0gc0 385/739

一方その頃。

上条「暗いから足元に気を付けろ」

美琴「うん」

黒子と瞬間氷結の手から逃れた上条と美琴は、予定通り仁科から貰った地図を頼りに地下鉄の線路上を歩いていた。

上条「………………」

美琴「………………」

古くなった線路の上を、2人は慎重に歩く。

上条「………良かったのか?」

美琴「え?」

と、そこで前を行く上条が美琴に話しかけてきた。

美琴「何のこと?」

上条「白井のことだよ……」

美琴「ああ……」

美琴の声が僅かに小さくなる。

美琴「仕方がないよ、こればっかりは……」

641 : VIPに... - 2010/09/20 17:30:54.90 4zZy0gc0 386/739

上条「………もう会えないかもしれないんだぞ?」

美琴「………………」

上条「あ、ごめん……」

美琴「……ううん。前から覚悟してたことだから………」

上条「俺がもっとしっかりしていれば……」

美琴「何言ってるの? あんたのせいじゃないよ」

上条「………そうかもしれないけどさ……」

美琴「………………」

美琴は後ろから上条の横顔を見る。どこか、辛そうな顔をしていた。
美琴は胸中に思う。何故、いつもこの少年は他人の悲劇を自分のように感じることが出来、自らの身も省みず誰かを助けようするのだろうか、と。

上条「だが安心しろ御坂。お前だけは絶対守り抜いてみせるからな」

このように普通の人間なら簡単に言えないことを臆面もなく言ってのける。しかもそれは嘘偽り無い本心なのだから、言われた方は恥ずかしいなんてものじゃない。
だが………

美琴「(……嬉しい)」

口元を綻ばせる美琴。
実際、上条は過去にも美琴が困ってた時に颯爽と現れその危機を救ってくれたのだ。

642 : VIPに... - 2010/09/20 17:34:49.88 4zZy0gc0 387/739

上条「だから遠慮なくお前も俺を頼ってくれ」

最初はこの腐った学園都市で彼のような少年に出会うとは思っていなかったほどだ。だが、何の因果か美琴は上条当麻に出会った。そして戦友のようにお互いの仲を、絆を深め合い、今も再び訪れた美琴の危機に駆けつけ、行動を共にしてくれている。
本当は彼にとっても学園都市での生活を捨てるのはかなりの覚悟が必要だったろうに。

美琴「……………………」

嬉しかった。本当に嬉しかった。そして、もうこの先も彼のような人間と会えるとも思っていなかった。
だからこそ………

上条「って言ってもさ? 実際お前の力になってるかどうかは分からないけど。お前だって一緒にいるのが俺みたいな不幸で頼りない男は嫌だったりしないか?」

歩きながら上条は訊ねる。

上条「なんてな。そんなこと聞く状況でもねぇな。今のは聞き逃してくれ」

美琴「好きだよ」

上条「!」







美琴「私は……当麻のことが好きだよ………」







上条「…………っ!?」

643 : VIPに... - 2010/09/20 17:40:15.74 4zZy0gc0 388/739

振り返る上条。
笑顔で立つ美琴の姿がそこにあった。



美琴「今までずっと助けてくれたんだもん……。好きにならないほうが……おかしいよ……」



上条「………………」

呆然と、上条は美琴を見据える。

美琴「……………………」

上条「……………………」

見つめ合う2人。




美琴「――――――――――――――」


上条「――――――――――――――」




時が止まったような気がした――。

644 : VIPに... - 2010/09/20 17:43:14.41 4zZy0gc0 389/739





ガーーーーーーン!!!!!!!!




上条美琴「!!!!!!!!!!」

と、その時だった。



ガーーーーーーン!!!!!!



上条「何だ……?」

遠くの方から大きな音が聞こえてきた。


ガーーーーン!!!!


上条「まただ」

音は進行方向から聞こえてくる。

ガーーーーン!!!

上条「行ってみよう!」

美琴に叫ぶ上条。

美琴「…………うん」

2人は音の正体を探るため走り出した。

上条「見ろ! プラットホームがあるぞ! 音はあそこからだ!」

美琴「……………………」

ガーーーーーーン!!!!!!

プラットホームに着き、上条は慎重に物陰からホームの方を覗いてみた。

645 : VIPに... - 2010/09/20 17:47:25.22 4zZy0gc0 390/739

ガーーーーン!!!!

上条「あれは……」

美琴「どうしたの?」

上条「何だ。これが音の正体だったのか」

と言ってスタスタと上条は階段を使ってホームに上がっていく。

美琴「ちょっと!」

上条「大丈夫だ。ほら見てみなよ」

美琴「え?」

促され、恐る恐る美琴もホームに上がる。

上条「これだよ」

美琴が近付いてみると、上条がホームの端に設置されたゴミ箱を顎でしゃくった。

ガーーーーン!!!!

見てみると、ゴミ箱の下部の取り出し口の扉が風によって開いたり閉まったりしていた。

上条「キチンと閉まってないから音が出てたんだ」

言って上条は扉を閉める。さっきまでのうるささが嘘のようにホームが静まり返った。

美琴「………………」

上条「こっちは改札か」

後ろを向き、階段を見上げる上条。

上条「上へ行こう」

美琴「え?」

上条「改札窓口があるはずだ。そこで数時間ほど眠ろう」

美琴「……別にいいけど」

上条の提案に美琴は小さな声で答える。2人はそのまま階段を登っていった。

646 : VIPに... - 2010/09/20 17:51:13.18 4zZy0gc0 391/739

ホームから1階分上がった場所――地下1階に改札口はあった。
そのすぐ側にある、駅員が利用する窓口の中。

上条「お、毛布あったぞ。取り敢えずこれ2人でくるまって寝よう」

美琴「は? な、何考えてんのよあんた!?」

上条と美琴は数時間ほど休眠を取るためにそこにいた。

上条「別に何も考えてねーよ! ただ寒いし1枚だけしかないから一緒にくるまって寝ようって言ってるだけで……」

毛布を手にし、上条は説明する。

美琴「な、何であんたと一緒に毛布にくるまらなきゃならないのよ……」

上条「今更かよ!? 山の中でも一緒にくっついてたじゃねぇか!」

美琴「う、うるさい!! …わ、分かったわよ! 一緒にくるまればいいんでしょ!!」

上条「………………」ハァ

2人は一緒に毛布の中でくるまり身を寄せ合う。

美琴「ちょ、ちょっとくっつき過ぎじゃない?」

上条「………………」

美琴「な、何黙ってるのよ!? や、やっぱり変なこと考えてるんでしょ」

上条「お前さー……」

美琴「何よ?」

上条「さっき言ってたことなんだけど……」

美琴「え? さっきって一体…………!!!!」

さっき、のことと言えばもちろんあれしかない。美琴は思わぬ形で上条からその話を再開されてうろたえてしまう。

647 : VIPに... - 2010/09/20 17:54:19.12 4zZy0gc0 392/739

美琴「さ、さっき言ってたこと? さ、さあサッパリ分からないわね!!」
美琴「(何よ……。別にこんな私でさえ忘れてた時に思い出したりしなくても……)」

上条「何言ってんだ。お前さっき俺に……」

と、そこまで言いかけた時だった。

美琴「あーーーーっと!! 確か今日はバラエティ番組の『行って戻ってクイズでゴー!』があった日だわ! 毎週見てるのに今日は見れないのよねー残念だわー」

上条「………」

美琴がそれ以上はダメ、と言いたげに話を切り替えてきた。

美琴「ってうちの寮の部屋テレビなかったわ。あれー私何言ってるんだろーあははー」

1人コントをする美琴。

上条「………………」

美琴「私もついにボケが始まった? って私はまだピチピチの中学生だっつーの!!」

上条「………………」フッ

そんな彼女を見て上条は笑みを零す。

美琴「まったくもうこの歳で若年s……」

上条「いつまでもバカやってないで早く寝ろよ」

美琴「!」

それだけ言うと上条は毛布の先を口元まで引き寄せ目を瞑った。

美琴「あ……う……」

点目になる美琴。

美琴「………………」

何やら恥ずかしそうな顔をする美琴。やがて彼女も毛布を引き寄せると、上条の肩に頭を預けて目を瞑った。

666 : VIPに... - 2010/09/21 01:21:18.95 6OAlKLQ0 393/739

数時間後――。

上条「おい、御坂」ユサユサ

美琴「う……うーん……」

隣で眠る美琴を揺らす上条。

上条「いい加減起きろ」

美琴「……後5分……」

上条「ダメだ。急がないと」

美琴「……むー……」

促され、美琴は不服そうに目を開ける。

上条「この地下鉄のルートもあと半分も無いんだ。ここさえ抜ければ、学園都市の『外』と『中』の境界もすぐそこだ」

美琴「分かってる分かってるわよ」

気だるそうに答えてガバッと毛布をめくる美琴。

上条「学園都市から逃げるんだろ?」

美琴「それも分かってる」

言って美琴は立ち上がる。

美琴「その代わり……」

上条「?」

美琴「ちゃんと最後まで守ってよね」

上条「…………もちろんだ」

立ち上がり、上条は笑顔を見せる。

667 : VIPに... - 2010/09/21 01:23:31.27 6OAlKLQ0 394/739

美琴「よろしい」

美琴も笑顔を返した。

上条「…………」フッ

美琴「…………」クスッ

2人は改札窓口から出、階段を下ると再び地下鉄の線路に降り立つ。

上条「じゃ、残り半分。頑張ろうぜ」

美琴「おー!」

子供のように腕を上げる美琴。

上条「ったく。自分が置かれてる状況分かってるんですかねー」

美琴「ポジティブじゃないと能力は取り戻せないでしょ?」

いつもの調子で会話をし、2人は線路の上を再び歩き始める。

「「「………………」」」

が、この時彼らは気付いていなかった。彼らを密かに尾行する3人の邪悪な影があることに。

668 : VIPに... - 2010/09/21 01:27:12.98 6OAlKLQ0 395/739

上条と美琴が再び地下鉄の線路上を歩き始めてから1時間後。
2人は想像だにしなかった悲劇に見舞われることになる。

美琴「でね、その時黒子がね、転んじゃって! それがおかしくてさ……フフフ」

上条「へえ。あいつらしいな」

少しでも気分を盛り上げるためにと会話をしていた上条と美琴。そんな純粋な1人の少年と1人の少女の楽しげな一時を潰さんと、3匹の悪魔たちが近付いていた。

上条「と、待て……」

美琴「え?」

上条は美琴の腕を掴み、彼女を止める。

美琴「どうしたの?」

訝しげな表情で上条を見る美琴。

上条「誰かいる……」

美琴「え?」

上条の視線を辿り、美琴が前方に顔を向ける。




「ありゃー気付かれちゃったよ!」

「でへへへ。なかなか鋭いガキじゃねぇか」




上条「………………」

美琴「………」ギュッ

暗闇から発する2つの下品な声。それに怯えるように、美琴が上条の服をギュッと掴む。

669 : VIPに... - 2010/09/21 01:31:09.14 6OAlKLQ0 396/739

「やーこんばんはー僕ちゃんにお嬢ちゃーん」

「こんな所で迷子になっちゃったのかなー?」

現れたのは2人の男だった。と言っても、どっちも明らかにまともな格好をしていない。
服はボロボロで白髪混じりの髪はクシャクシャ。おまけに数m離れていても異臭が漂ってくるほどだった。
恐らく彼らは、この地下鉄を根城に暮らすホームレスの浮浪者たちだった。

浮浪者1「ここが俺たちの家だって知ってて来たのー?」

浮浪者2「もしかして金持ってたりするかぁ?」

上条は彼らを見て思う。

上条「(目がイってやがる……)」

美琴「と、当麻」

隣で美琴が怯えたような声を出す。そんな彼女を見て面白がるように浮浪者たちは言う。

浮浪者1「何恐がってるのお嬢ちゃん?」

浮浪者2「大丈夫だよ。おじさんたち何も恐くないよー?」

上条「………そこを通してくれないか?」

舐められないよう真剣な表情を浮かべ、上条は浮浪者たちに訊ねる。

浮浪者1「通行料1万円」

上条「なっ!?」

浮浪者2「またはそれに準ずるもの」

浮浪者たちはニヤニヤと、何本か歯が抜けた口を大きく見せて無理難題を言要求してくる。

上条「ふ、ふざけないでくれ!」

浮浪者2「ああ?」

上条「うっ……な、なあ…た、頼むよ。俺たちはあんたらに何か危害を加えようとかそんなつもりはない。ただ、この先に行きたいだけなんだ」

浮浪者1「だーめ。通行料払いな!」

上条「………っ」

あくまで浮浪者たちは引き下がる気はないようだった。

670 : VIPに... - 2010/09/21 01:35:42.04 6OAlKLQ0 397/739

浮浪者2「僕ちゃんたち、大人を舐めちゃいけないよ? これでも俺、人を殺したことがあるんだから!」

上条「なっ……」

浮浪者2「こう見えても5年ぐらい前までは研究員してたんだよ。で、とある研究所で色々と表には出せないような実験の担当しててさー……毎日のように実験体になった子供や女の子たちを良いように扱ってたんだなこれが! だけど安心して。殺したって言っても実験の一環だったから。法的には何も悪く無いよ」

浮浪者1「俺も似たような状況で殺しまくったっけなあ」

まるで過去の栄光を自慢するように浮浪者たちはどや顔で語る。

上条「こいつら……」

美琴「酷い。そんな昔から学園都市は裏で酷いことを……」

浮浪者1「さあ。ここを通りたかったら通行料よこしな」

浮浪者2「出来ないならどんな目に遭っても知らないぜ?」

言って浮浪者たちは美琴の身体をジロジロと見てきた。

美琴「……!」ゾクッ

上条「何度も言うがお前らに渡すものなんて何も持ってない。頼むからそこを通してくれ」

美琴を守るように上条が1歩前へ歩み出る。

美琴「当麻!」

浮浪者1「あちゃー。結局ガキはガキだったってわけかぁ」

上条「何?」

浮浪者2「じゃあもう大人の現実を思い知らせてやるしかねぇなぁ」

上条「何を言ってる?」

浮浪者たちは上条の言など知ったことではないと言うように、何やら勝手に喋っている。

上条「下らない。御坂、強引にここを通っていこう」

美琴「え? でも……」

上条「大丈夫だ。何かしてきたら俺があいつらボコボコにしてやるから」

上条は美琴を安心させるように言う。が、そんな彼の思いを嘲笑うように浮浪者たちはニヤニヤと不気味な笑顔を向けてきた。

浮浪者1「もしかしてお前ら、俺たちが2人だけだと思ってるのかぁ?」

上条「え?」

671 : VIPに... - 2010/09/21 01:39:18.82 6OAlKLQ0 398/739




ドゴォォォッ!!!!!!



上条「!!!!!!!!!!」

瞬間、上条の頭に深い衝撃が走った。

美琴「きゃあああああああああ!!!!!!」

上条「ぐっ……」

ドサッ…と上条がその場に崩れ落ちる。



浮浪者3「ふへへへへへ。真打登場ってな!」



美琴「!!!!!!」

その声に振り返る美琴。そこに、保線員が使うような誘導棒を手にした新たな浮浪者が1人立っていた。

ガシッ!!

美琴「え?」

腕を掴まれた感覚を覚え、美琴は正面に向き直る。

浮浪者1「へへへへへ」

浮浪者2「でへへへへ」

美琴「!!!!!!」

浮浪者たちが、美琴の両腕をそれぞれ掴んでいた。

美琴「や……」

浮浪者1「大人しくしろやああああああ!!!!!!」

美琴「いやあああああああああああ!!!!!!!!」

物凄い力で美琴の腕を掴む2人の浮浪者。彼らは上条から数m離れた場所まで美琴を引っ張っていき、ゴミを捨てるように彼女を地面の上に仰向けに叩きつけた。

672 : VIPに... - 2010/09/21 01:42:16.71 6OAlKLQ0 399/739

浮浪者2「久しぶりの獲物だぜぇぇぇぇ!!!」

浮浪者1「大人しくしろよ!!」

逃げ出そうとする美琴を、浮浪者1が後ろから両腕を掴んで動けなくする。

美琴「いやああああああああ!!!!!! 離してえええええええ!!!!!!」

叫ぶ美琴に、正面から近付く浮浪者2。

浮浪者2「大丈夫だよ? おじさん、優しくしてあげるから!!」

美琴「来ないで!!! 触らないで!!!!」

浮浪者1「動くなよ!!!」

暴れる美琴を浮浪者1が無理矢理押さえつける。

浮浪者2「じゃあ……でへへへ。まずは俺からいかせてもらいますか」

狂った目を浮かべて、両手をワキワキとさせながら浮浪者2が美琴に近付く。

美琴「いやああああああああああ!!!!!! 当麻ああああああああああ!!!!!!」

上条「うっ……御坂……」

朦朧とした意識の中、上条が目を開く。

浮浪者3「おっと! 手出しは無用だぜ?」

そんな上条の背中を浮浪者3が後ろから膝で押さえつけ動けなくする。

上条「は、放せ……。あいつに何をするつもりだ……!?」

浮浪者3「いいからお前は目の前で自分の女がヤられるところを見とけよ」

言って浮浪者3は上条の頭を、前が見えるように固定させる。

上条「み、御坂ああああああああ!!!!!!」

美琴「当麻ああああああああ!!!!!!」

浮浪者2「じゃ、用意はいいでちゅかお嬢ちゃん?」

美琴「来るなあああああ!!!!」

ドゴッ!!!

浮浪者2「ぐぇあっ!!」

673 : VIPに... - 2010/09/21 01:46:00.40 6OAlKLQ0 400/739

美琴の蹴りが浮浪者2の股間に入る。

浮浪者1「あっ!」

浮浪者2「こいつぅ……人が下手に出てたら調子に乗りやがってええええ!!!!」

バキッ!!!

美琴「きゃぁっ!!」

美琴の頬を殴る浮浪者2。

上条「御坂!!!!」

美琴「い、痛い……うううう」

殴られたためか、大人しくなる美琴。それを好機と見た浮浪者2が彼女の服に手を掛ける。

美琴「いやっ……! やああああああ!!!!」

上条「御坂ああああああああああ!!!!!!」

涙を浮かべて首を振りながら抵抗する美琴。そんな彼女を嘲笑うように服をめくろうとする浮浪者2。そしてそれを見ていることしか出来ない上条。

浮浪者2「暴れてんじゃねぇよ!!!」

浮浪者1「思いっきりやっちまえ!!」

浮浪者2「こうしてやる!!!」ズルッ

怒った浮浪者2が美琴のスカートをずらす。

美琴「やああああああああ!!!!!!!」

浮浪者2「あれ? 何だこれ?」

浮浪者1「ああ? どうした?」

不思議そうな顔を浮かべる浮浪者たち。

浮浪者2「何だこいつガード固ぇな!! 短パンなんか履いてやがるぜ!!!」

浮浪者1「どうでもいいけどそっちは後にとってけよ。まずは上から行こうぜ」

浮浪者2「おうそうだな!!!」

言って浮浪者2は美琴の服をめくる。彼女の肌と下着が露になった。

美琴「!!!!!!!!!!」

674 : VIPに... - 2010/09/21 01:50:11.74 6OAlKLQ0 401/739

美琴「いやああああああ!!!! 助けてええええええええええ!!!!!!」

上条「御坂あああああああああああ!!!!!」

美琴「当麻あああああああああああ!!!!!」

泣きながら上条に顔を向ける美琴。浮浪者たちはその手を止めることをせず、今度は彼女の短パンに意識を戻す。

浮浪者2「おら!!!!」

美琴「い、いやぁ!!!!」

短パンを脱がされ、下半身も下着が露になった。

美琴「当麻あああああああああああああ!!!!!!!」

上条「御坂……御坂っ!! ああああっ……御坂!!!!」

浮浪者3「だから俺たち大人を舐めなきゃよかったのによ」

上条「頼む!!! やめてくれ!!! あいつを今すぐ解放してくれ!!! その代わり俺には何をしてもいいから!!! お願いだ!!!!!!」

上条は必死の形相で、美琴を弄ぼうとする浮浪者たちに主張する。

上条「頼む!!!! 本当にやめてくれ!!!! お願いだ……そいつは……俺の大事な人なんだ……やめてくれよ………」

浮浪者3「うっせぇ!! これは罰だ!!! お前は目の前で自分の女が良いようにやられていく様を見てろ!!!!」

上条「………………美琴……」

呆然と、前を見る上条。彼は自分が置かれている状況と、今から目の前で見ることになる地獄の光景を思い浮かべ意識を止める。

上条「………………」

676 : VIPに... - 2010/09/21 01:53:59.43 6OAlKLQ0 402/739

美琴「当麻あああああああああああああ!!!!!!」

浮浪者2「いただきまーす!!!」

美琴「いや……やめて……! あっ……ううあっ!!!」

浮浪者2「おおおお!!!!」

美琴「がっ……ああああああっ……いや……いやあああああ………」

浮浪者1「おいどんな感じだ!?」

浮浪者2「こりゃいいぜ~!」

美琴「痛い……痛いよう……当麻ぁぁぁ……」

浮浪者2「でへへへへへ!!!! 最高だな!!!!」

美琴「うっ……あっ……あっ……うっ……はっ……あっ……はぁぅ……と、とうまぁ……」

浮浪者2「俺たちをバカにするからこうなんだよ!!!」

浮浪者1「ぎゃははははははははははは!!!」

美琴「とう……と……とうま………とうま………」



上条「…………………」

上条は意識を戻し、前を見据える。

浮浪者2「よし、じゃそろそろ始めようか」

埃がついた自分のズボンに手をかける浮浪者2。

上条「………………」

上条は今頭に思い浮かべた最悪の光景を意識の中から放り出す。

美琴「いやああああああああああああ!!!!! 当麻ああああああああああ!!!!!!」

浮浪者2「覚悟しろよ?」

美琴の下着に手をつける浮浪者2。

678 : VIPに... - 2010/09/21 01:56:25.15 6OAlKLQ0 403/739

上条「(………何故だ)」

上条は胸中に思う。

美琴「助けてええええええええええええ!!!!!!」

上条「(………何で……)」

浮浪者2「静かにしろや!!!」バキッ!!

美琴「きゃっ!!」

上条「(どうして……)」



   ――「…………私を……1人にしないで……」――



上条「(あいつが一体……)」



   ――「似合ってる……かな?//////」――



上条「(あいつが一体………)」



   ――「私の裸なんて見ても、やっぱり何とも思わないの?」――



上条「(何をしたって言うんだ……)」

679 : VIPに... - 2010/09/21 01:59:12.16 6OAlKLQ0 404/739




   ――「………助けにきてくれた時……嬉しかったよ……」――



上条「(あいつはただ……)」



   ――「私……嬉しかったよ? 当麻が私のために危険冒してまであそこまでしてくれて……」――



上条「(友達と楽しく暮らしたかっただけなのに……)」



   ――「私は……当麻のことが好きだよ……」――



上条「(………………………)」

地面に顔をつける上条。

浮浪者3「あん? 何してやがる。これからが良いところだってのに」

美琴「当麻ああああああああああああ!!!!!!!!」

浮浪者2「いただきまーす!!!」





上条「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」






680 : VIPに... - 2010/09/21 02:03:19.48 6OAlKLQ0 405/739

美琴「!!!???」

浮浪者3「!!!!!!」

浮浪者1・2「!!!!!!」




上条「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」




美琴「とう……ま?」

浮浪者3「何だこいついきなり大声上げて!! ってうおっ!?」

ドサッ!!

上条「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

唐突に叫び出した上条。彼は背中に乗っていた浮浪者3を払いのけるように立ち上がる。

浮浪者3「こ、こいつぅ!!」

浮浪者1「何やってんだよ!!! しっかり押さえとけ!!!」

上条「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
上条「……………………」ピタ

浮浪者3「死ね!!!!!」

浮浪者3が後ろから誘導棒を持って上条に襲い掛かろうとする。
が、しかし………



パァン!!! パンパンパンパンパァァァン!!!!!!



浮浪者3「ひ、ひいいいいいいいいいい!!!!!!」

681 : VIPに... - 2010/09/21 02:06:20.53 6OAlKLQ0 406/739

浮浪者3「ひ、ひいいいいいいいいいい!!!!!!!」

美琴「当麻!!!!!!」

浮浪者1「なっ!!??」

浮浪者2「あ、あれは……!!」


パンパンパァン!!! パンパァン!!!!!!!!


驚き、上条を見る浮浪者たち。彼は拳銃を手にし天井に向かって何発も発砲していた。

上条「………………」

そのまま無言で上条は歩き出すと、美琴を押さえている浮浪者たちに近付いてきた。

浮浪者1「あ、ひ、ひ……お、お助け……」

浮浪者2「あああ……」

ドカッ!!!

浮浪者2「ぎゃっ!!!」

浮浪者2を蹴り、美琴から離す上条。

上条「………………」

浮浪者2「あ、な、何をす、する……」

上条は黙って拳銃を浮浪者2に向ける。


パァン!!


浮浪者2「!!!!!!!!!!」
浮浪者2「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

美琴「!!!!!!!!」

撃たれた浮浪者2の足から血が噴き出した。

686 : VIPに... - 2010/09/21 02:10:50.37 6OAlKLQ0 407/739

浮浪者2「い、いてええええええええ!!!!! てめぇチキショーよくもやりやがったなあああああ!!!!! いてええええええええ!!!!!」

足を押さえながら浮浪者2が泣き叫ぶ。

上条「………………」

美琴「と、当麻……?」

呆然と美琴は上条の顔を見上げる。

浮浪者3「あひいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

浮浪者1「あ、てめぇ!!!!」

仲間が撃たれた姿を見、怖気づいた浮浪者3が逃げていく。

上条「…………殺す」ボソッ

美琴「!!!」

上条「……どいつもこいつもムカつく………だから殺す」ギロッ

浮浪者1「なっ!?」

上条に睨まれた浮浪者1が腰を抜かしたように後ずさる。

浮浪者2「いてええええええ……いてええええよ………」

687 : VIPに... - 2010/09/21 02:13:21.27 6OAlKLQ0 408/739

上条「………何が『実験』だよ。何が『レベル6』だよ。何が『世界大戦』だよ。何が『弧絶術式』だよ」

ブツブツと独り言を呟く上条。

上条「……何が魔術だよ。何が超能力だよ。どいつもこいつも……人を勝手に巻き込んどいてよおおおおおおおお!!!!!!!!」

美琴「当麻……? ど、どうしたの?」

明らかにいつもと様子が違う上条を見て美琴が驚いた目で彼を見る。

上条「みんな自分勝手な都合で人を不幸にする奴ばかり……ムカつくなぁ……ムカつくぜ……だからムカつく奴は全員殺す。容赦なく殺す」

美琴「何を言ってるの当麻? 変だよ?」

上条「何が拳一つで生きてきただ」

浮浪者1「あひゃあああああああああああ!!!!!!!」

怯えた浮浪者1が堪らず逃げ出していた。

上条「拳銃一丁ありゃ簡単に敵を殺せるんじゃねぇか」

トンネルの奥に消えていく浮浪者1の背中に拳銃を向ける上条。

上条「死ねクズ」

言って上条は引き金に指を掛ける。

美琴「やめて!!!!」

689 : VIPに... - 2010/09/21 02:15:44.44 6OAlKLQ0 409/739



パァン!!!!!!


直前、美琴が横から上条に飛び掛かった。そのせいで銃口の向きが逸れたためか、弾丸は浮浪者1ではなく、トンネルの天井に当たり兆弾しただけだった。

上条「チッ……逃がしたか」

美琴「何やってるの!!!??? いつもの当麻じゃないよ!!!!」

上条「どけ。寧ろ今まで殺意を向けてくる敵を殺そうとしなかった俺がバカだったんだよ」

言って上条は優しく美琴をどかす。

美琴「やっぱり変だよ!! いつものあんたはそんなこと言わないのに!!!!」

上条「で、仲間は逃げて残るはお前だけだよな?」

上条は美琴の言を無視し、足を押さえて痛がる浮浪者2に近付く。

美琴「当麻!!!!」

浮浪者2「……お、俺を……殺すのかよ?」

上条「………」

チャキッ

浮浪者2「ひっ!!」

浮浪者2の額に銃口をつける上条。

浮浪者2「や、やめろよ……人を殺して良いと思ってんのか?」

必死に浮浪者2は命乞いをする。

上条「はぁ? 実験でたくさんの子供や女を殺したお前が何言ってんの?」

浮浪者2「あ、あれは実験だから……べ、別に法に反してるわけじゃ……」

上条「学園都市のクズってどいつもこいつもそうだよなあ? 自分で人殺しといて飄々としてやがんの。マジで下らないわ、お前らみたいな『暗部』に住む人の命を何とも思ってない研究者とか」

浮浪者2「た、頼む……お、俺が悪かった。見逃してくれ……!」

上条「知るか。死ね」

引き金に掛けた指に力を込める上条。

692 : VIPに... - 2010/09/21 02:18:29.79 6OAlKLQ0 410/739

美琴「当麻!!! ダメだよ!!!!」

上条「………………」

しかし、そんな上条を美琴が制止する。

上条「ハァ……じゃ、仕切り直しだ。今度こそ死ねよ」チャキッ

浮浪者2「や、やめ……!」

美琴「当麻!!!!!!」

上条「…………御坂。こいつはお前に酷いことをしようとしたんだぞ? 死んで当たり前の人間だ」

美琴「違う!! もしここでそいつを殺しちゃったら、当麻もそいつと同じになっちゃうよ!!!」

上条「………………」

浮浪者2「あっ……ひっ……ううう……」

美琴「だからやめて!! 私、当麻が人を殺すとこなんて見たくない!!!」

上条「……今までの俺が間違ってたんだ。この世界じゃ不条理なことがたくさん起こる。そんな状況で悪意を持った人間から身を守るには、手っ取り早く殺す方法が1番だったんだよ」

言ってグググッと上条は銃口を浮浪者2の頭に押さえつける。

浮浪者2「や、やめっ……!」

美琴「方法とかの問題じゃない!!」

上条「………」ピタ

美琴「当麻はそういう人間じゃないって言ってるの!!!」

上条「………お前も今まで学園都市に住んでてたくさん酷い目に遭わされたろ? 不条理だと思ったろ? 今回の『弧絶術式』についても同じだ。結局は殺しちまった方が1番早い。だから死ね」チャキッ

浮浪者2「ううああああ」

美琴「お願いやめて!!!」

上条「………御坂……俺はお前を助けると誓ったんだ……。頼むから、止めないでくれ」

693 : VIPに... - 2010/09/21 02:21:31.23 6OAlKLQ0 411/739

僅かに、辛そうな表情を浮かべて上条は言う。

美琴「もしここでその人を殺しちゃったら、当麻はもう後戻り出来ないよ!?」

上条「…………っ」

美琴「これからも襲ってくる敵をみんな手当たり次第殺しちゃう人間になっちゃうよ!?」

上条「………それでもいいんだ。お前を守るためなら、人を殺すことになろうが俺は変わったほうがいい。寧ろ今まで拳一つで魔術師や超能力者たちをぶっ飛ばしてきたのが間違いだったんだ」

美琴「違う。間違いなんかじゃない。私は人を簡単に殺す当麻より、今までみたいに言葉と拳だけで生き抜いてきた当麻の方が好きだよ。妹達の時だってそうやって助けてくれたじゃない? 言葉と拳だけで学園都市最強の超能力者を倒したじゃない!!??」

上条「………………」

美琴「今ここで撃ったら絶対に戻れなくなる。ただ何も感じずに敵を殺すだけのつまらない人間になっちゃう。……当麻は、そんな人じゃない。……そんな人になっちゃダメ。そんな人になっちゃ嫌………」

上条「……構わない。どうせいつかは今みたいに決断を迫られる日が来るんだ……」チャキッ

浮浪者2「ああああ助けて……」

美琴「当麻!!!!」

上条「俺はここで変わる必要がある。いや、変わってみせる」

浮浪者2「うわああああああああああ!!!」

美琴「やめて!!!!!!」

上条「…………」

叫ぶ美琴。が、彼女の声も空しく上条は引き金を引いた。

696 : VIPに... - 2010/09/21 02:25:46.74 6OAlKLQ0 412/739





カチッ……




上条「!!!???」

浮浪者2「…………?」

上条「あ、あれ……?」

美琴「???」

顔を覆っていた美琴だが、発砲音がしないことに不審を覚え目を開けてみた。

上条「クソ!」

カチッ……

浮浪者2「ひっ!!」

上条はもう1度試してみるが、やはり拳銃は火を噴かなかった。

上条「な、何で……」

カチッカチッ!

更に何度も引き金を引く上条。だが、それも徒労に終わった。

美琴「た、弾切れ……?」

上条「そ、そんなバカな……」

先程浮浪者たちを脅すための分と『デーモンズ・ネスト』で美琴を助けるために撃った時の分で、既に弾丸は全て尽きていたのだ。

上条「じゃあ……さっきのが最後の……」

逃げた浮浪者1を撃ち殺すため発砲したものの、美琴の制止によって外れた1発。あれが最後の弾だったのだ。

698 : VIPに... - 2010/09/21 02:30:06.28 6OAlKLQ0 413/739

浮浪者2「……た、助かった……?」

上条「そ、そんな……」

美琴「当麻!!!!」

上条「!!」

振り返る上条。




パシィィィィン!!!!




上条「あ………」

彼は思いっきり美琴に平手を食らわされた。

上条「御坂……」

呆然と上条は美琴の顔を見返す。

美琴「目ぇ覚めたか、バカ!」

上条を平手打ちした右手を空中に浮かせて、目に涙を溜めている美琴がそこにいた。

699 : VIPに... - 2010/09/21 02:33:15.67 6OAlKLQ0 414/739

上条「お、俺は……」ズッ…

そのままゆっくりと上条は地面に膝をつく。

上条「ただ……お前を守りたかっただけなのに……」

美琴「そんな進んで人を殺しちゃうただの殺人狂みたいな当麻に守られたって嬉しくない!!!」

浮浪者2「あ……う……」

怯えたまま2人のやり取りを見る浮浪者2のことなど気にすることなく、美琴は上条を叱咤する。

上条「御坂……」

美琴「当麻……」スッ…

そして美琴は、上条に近付くと、優しく彼を抱き締めてあげた。

美琴「当麻にはもう、こんなもの必要ないから……」

言って上条の手から拳銃をゆっくりと取り上げる美琴。

美琴「私を助けてくれたことは嬉しかったよ……。でも、私は……いつもみたいに長ったらしい説教で他人を説得させて、右手だけで敵を倒す当麻の方が良いから……」

抱き締めながら美琴は上条の耳元でそう呟いた。

上条「御坂……っ!」

表情を崩し、上条もまたその優しさに甘えるように美琴を抱き締め返した。

767 : VIPに... - 2010/09/22 23:19:59.32 KbN0G8E0 415/739

アンチスキル・黄泉川部隊本部――。

黄泉川「………………」

トレーラー型の装甲車に設けられた司令部。その中に黄泉川の姿があった。

黄泉川「……どこだ」

彼女は今、ホワイトボードに貼られた学園都市全域の地図を前にして立っている。

黄泉川「………奴らはどこにいるじゃん」

腕を組み、地図を睨みながら黄泉川は呟く。

黄泉川「(今までの御坂美琴と上条当麻の逃走経路を振り返ってみたが、分かったのはやはり奴らは南に逃げているということ)」

背後で部下の警備員たちが忙しく動いているが、彼女はそれすらも意識の外にして考え事に集中している。

黄泉川「(白井たちを回収した時に、その場所の付近も捜索させた……)」

現在時刻午後4時過ぎ――。
今から約16時間前。黄泉川たちアンチスキルの部隊は黒子から連絡を受け現場に急行し、黒子と瞬間氷結を回収した。その時、黄泉川は隷下の部隊に付近の家や建物を徹底的に捜索させたが、終ぞ上条と美琴は見つけられなかった。

黄泉川「(『デーモンズ・ネスト』にも探りを入れてみた……)」

次いで『デーモンズ・ネスト』にも足を運んだ黄泉川だったが、店の責任者である仁科要に会うことは叶わず、黒服に「逮捕状を持ってきてから」と言われた上、半ば脅されるような形で店と繋がりのある上層部の存在を出されたため、渋々その場を後にするしかなかった。

黄泉川「(瞬間氷結は気絶していたと言う話だが、白井は奴らが逃げた時には意識があったはずじゃん。なら、白井が奴らの大体の行き先ぐらい知ってそうなものだが……)」

……黒子は今、右足に怪我を負っているため、瞬間氷結に見守られながら病院で治療を受けている。なので今病院に行って彼女に話を聞くのは無理だ。
しかし………

黄泉川「(まさかあいつ……御坂美琴たちがどの方面に行ったのか知ってて黙ってるんじゃ………)」

顎に手を添えながら黄泉川は1つの推論を組み立ててみる。

黄泉川「(……いや、白井に限ってそれはないか……)」

今思い浮かんだ疑念をすぐに払う黄泉川。

黄泉川「(しかし、半日以上奴らの足取りを見失ってるのはまずいじゃん……)」

黄泉川の表情に焦りの色が浮かぶ。

768 : VIPに... - 2010/09/22 23:23:19.86 KbN0G8E0 416/739

黄泉川「(何か手掛かりは……)」

と、その時だった。

警備員A「そういや、あれどうなったんだっけ?」

警備員B「あれって?」

背後から部下の警備員たちの会話が聞こえてきた。

警備員A「何でも学園都市の全域を囲む壁の数箇所に、対能力者用のキャパシティダウンを設置するとかなんとか……」

黄泉川「………………」

警備員B「ああ、能力者の脱走を塞ぐために東西南北8ヶ所に分けて配備されるってやつだろ? 確かこの間、キャパシティダウンを搭載した7台目のトラックが配備し終えたところって話だ」

警備員A「ん? じゃあ8台目は?」

黄泉川「………………」

背中越しに警備員たちの会話を耳に入れる黄泉川。

警備員B「もうそろそろなんじゃないかな?」

警備員A「どこに配備されるんだ?」

警備員B「南ゲート、って聞いたけど」




黄泉川「!!!!!!!!!!」




その瞬間、黄泉川の表情が変わった。

769 : VIPに... - 2010/09/22 23:27:14.73 KbN0G8E0 417/739

警備員A「でもそのキャパシティダウン、最新式らしいからレベル0から果てはレベル5まで効くらしいぜ?」

黄泉川「…………っ」

警備員B「何か学生たちが可哀想な気もするけど、上層部が決めたもんはしょうがねぇよなぁ…………え?」

警備員A「どうした?」

警備員Bの視線を辿る警備員A。その先に黄泉川の後ろ姿があった。何故か、肩を小刻みに震わせていたが。

黄泉川「くくくく……」

警備員AB「???」

黄泉川「なるほど、そういうことか……。だから奴らはわざわざ南に逃げていたのか……っ!」

1人、笑いを零す黄泉川。

警備員A「……隊長?」

心配した警備員Aが後ろから声を掛ける。

黄泉川「命令を達す!!!」

警備員AB「!!!!!!」

突如、黄泉川が大声を出して振り返った。

黄泉川「全部隊を召集!! 直ちに作戦行動に移る!!! 同時に、件の研究所に協力を申請!!! 今すぐキャパシティダウンを搭載したトラックを配備させるよう伝えるじゃん!!!!」

警備員AとBがポカーンと口を開ける。

黄泉川「何してる!? さっさと動くじゃん!!!」

警備員AB「りょ、了解!!!」

不適な笑みを浮かべて黄泉川は叫ぶ。

黄泉川「我々も南に向かうぞ!!!!」

770 : VIPに... - 2010/09/22 23:31:39.65 KbN0G8E0 418/739

その頃。某学区・某病院では。

黒子「…………」ボーッ

とある病室。そのベッドの上に、窓から外の景色を眺める黒子の姿があった。
彼女は昨晩、美琴との戦闘後、黄泉川たちに回収されると右足の治療を受けるためこの病院に搬送されたのだった。

瞬間氷結「今頃黄泉川先生たちが頑張ってるところだよ」

黒子「…………そうですの」

瞬間氷結「………………」

側に座っていた瞬間氷結が話しかけるが、黒子は窓の外を見たまま心ここにあらずと言った口調で答える。

瞬間氷結「明日、君の友達が見舞いに来てくれるそうだよ」

黒子「…………そうですの」

彼女は病院に着いてからずっとこの調子だった。

瞬間氷結「…………」ハァ
瞬間氷結「…………飲み物を買ってくるよ。君はここで待っててくれ」

黒子「…………そうですの」

まるで壊れたロボットのように答える黒子。そんな彼女を見て瞬間氷結は一瞬やり切れない顔をすると、静かに病室を出て行った。

黒子「……………………」

再び病室が静かになる。
その瞬間だった。




「だからああああああ!!!! 金なんて持ってねぇええええんだって!!!!!!」




黒子「……………?」

病室の外から、静寂をぶち壊すような1つの下品でやかましい声が聞こえてきた。

771 : VIPに... - 2010/09/22 23:34:37.22 KbN0G8E0 419/739

「いえ、我々としても治療費を頂かないことには……」

「知るかよ!!! ここまで来た俺を勝手に治療したのはそっちだろうが!!!!」

何やら病院の医師と、態度が悪い患者が口論しているらしい。若干、後者の方が勢いで勝ってるようだが。

「では、その応急処置を施してくれた人の名前を……」

「施してくれただぁ? あっちが勝手に傷つけて勝手に応急手当しただけだよ!!! あのクソガキども……!!」

「ですから、その子供たちの名前は覚えてないんですか?」

「あああ? 確か『とうま』だの『みさか』だの言ってたなあ」


黒子「!!!!!!!!!!」


患者の言葉に目を丸くする黒子。病室の外もざわめついたようだった。

「そ、それは本当に『みさか』と名乗っていたのですか!!??」

医師が慌てるように訊ねている。

「もしかして下の名前は『みこと』ではありませんでしたか!?」

「ああ、そういやそんな名前も聞いた気が……」

772 : VIPに... - 2010/09/22 23:36:52.96 KbN0G8E0 420/739

「そ、その『みさかみこと』は今アンチスキルが全力で追ってる犯罪者ですよ!!!!」

「ああああ? 誰だよそりゃぁ。こっちは数年世俗とは離れてるんだっつーの」

「た、大変だ……まさか『みさかみこと』に会っていただなんて……!」

黒子「……………………」

ベッドから降り、黒子は僅かにドアを開けるとそこから外を窺った。
松葉杖をついた浮浪者らしき男と、慌てた様子の医師や看護士の姿が見えた。

浮浪者2「金はもういいのかよ?」

医師「そんなことよりアンチスキルに連絡せねば……!!」

黒子「(……御坂美琴。また怪我した他人を治療でもしたんですの……)」

外の様子を眺めながら黒子は胸中に思う。

黒子「(……ま、もう私には関係の無いことですわ……)」

ドアを閉め、ベッドに戻ると、黒子は再び窓の景色を眺め始めた。

黒子「(……それに……どうせ……私はもう………)」

彼女の生気のない目が、夕焼けに染まり始めた空を見つめていた。

794 : VIPに... - 2010/09/23 06:16:11.15 W6iBUog0 421/739

学園都市・南ゲート――。

キキッと音を立て、大所帯でやって来た黒塗りの自動車や装甲車が慌てたように一斉にストップする。

バンッ!!!

その中のうち、数台の装甲車の後部扉が同時に開き、中からザザザと規則正しい動きで黒ずくめ姿の武装兵たちが次々と飛び出してきた。胸にアサルトライフルを構え機敏な動きで部隊を展開する彼らの正体はアンチスキルだ。

黄泉川「行け行け行け行け行け行け行け!!!」

装甲車の側に立ち、車内から飛び出してくる警備員たちを促すのは指揮官の黄泉川だ。

黄泉川「事態は一刻を争うじゃん!!!」

彼女の指示により南ゲート付近はあっという間にアンチスキルの部隊によって埋められた。

黄泉川「……よし」

その様子を見て小さく頷くと黄泉川はスピーカーを取り出して叫び始めた。

黄泉川『アンチスキルじゃん!! 今からこの南ゲートは我々が封鎖することになった!! ここに並ぶ全ての自動車は今から我々の検分を受けてもらうじゃん!! その後異常が無ければUターンして、別ゲートから『外』に出て行ってもらって構わない!!』

それを聞いた途端、自動車を運転していたドライバーたちから不満の声が沸き上がった。何台かはクラクションを鳴らしている。

黄泉川『黙れ!!!!』

キーンとスピーカーがハウリングする。一斉にドライバーたちは静かになった。

黄泉川『御坂美琴を逃すわけにはいかない。協力してもらうじゃん』

言って黄泉川は側にいた部下にスピーカーを預けると、隷下部隊指揮官の下へ歩いていった。

黄泉川「5班と6班は自動車の検分、7班と8班はその護衛及び周囲の警戒。1班と2班はいつでも車をスムーズに動かせるよう配備しとくじゃん」

班長「はっ!!!!」

横に並んだ班長たちが一斉に返事をする。

796 : VIPに... - 2010/09/23 06:20:17.18 W6iBUog0 422/739

警備員「隊長!!」

黄泉川「ん?」

と、そこへ1人の警備員が叫びながら走ってきた。

警備員「来ました!! 例のトラックが!!!」

言って警備員は指を指す。

黄泉川「来たか」

黄泉川が視線を向けた先……そこに、ごつい形をしたトラックが警備員の誘導によって近付いて来るのが見えた。

班長「おおお」

班長たちが感嘆の声を上げる。

警備員「あれが……」

黄泉川「最新型のキャパシティダウンを搭載した車両――『キャパシティダウンキャリアー』だ。無理を言った甲斐があったじゃん」

トラックを見て満足そうな笑みを浮かべる黄泉川。
そんな彼女に警備員は訊ねる。

警備員「しかし、話に聞くと御坂美琴は能力を失ってるようですが……わざわざ配備を早める必要があったんでしょうか」

黄泉川「『不安定な自分だけの現実(UPR)』は別に演算能力を失うわけではないじゃん。能力を実現化出来ないだけ。だからどの道効果はある。レベル0の無能力者なら話は別だが、奴は何だかんだ言ってレベル5の超能力者。能力を一時的に使えなくなってても特に問題は無いじゃん」

警備員「なるほど。これなら鉄壁ですね。今、アンチスキル最強の男もこちらに向かっていると聞きますし」

黄泉川「ふん。これで御坂美琴も終わり……忌々しい雷も、雨雲さえ消えてしまえば恐れる必要は無いってわけじゃん」

言って黄泉川は不適な笑みを浮かべた。

797 : VIPに... - 2010/09/23 06:23:21.45 W6iBUog0 423/739

その頃・某学区にて――。

通りの端に設置された1台の公衆電話ボックスの中。

上条「ああ、そうか……分かった」

そこに、上条の姿があった。

上条「よし、じゃあそうしよう。こっちもそのつもりで動く」

受話器を耳に当て話しながら、上条は外を見る。

上条「ああ、頼む」

目を鋭くさせ、上条は答えた。

799 : VIPに... - 2010/09/23 06:28:06.84 W6iBUog0 424/739

学園都市・南ゲート前――。

黄泉川「来ないな……」

組んだ腕の上で指を規則的に叩きながら黄泉川は呟いた。

黄泉川「一応この付近にも捜索部隊を出してるんだが……」

美琴と上条を待ち伏せるため、黄泉川の部隊が南ゲート手前で部隊を展開してから既に1時間と30分が経過していた。

警備員「例の医師から通報があった地下鉄ですが……結局ホームレス2人以外に何も見つからなかったようですね……。あ、拳銃は一丁見つかったようですが」

黄泉川「うむ……」

部隊を展開してから30分後のことだった。最寄りの支部経由で、美琴の目撃情報が入った。何でもその情報提供者によると、病院に足の治療を受けにきた浮浪者が、美琴と一緒にいた少年に拳銃で撃たれたとの話だった。

黄泉川「奴らめ……どこにいるじゃん」

それを聞いた最寄りの支部は直ちに隷下部隊を件の地下鉄に派遣、美琴と上条を捜索させたが、結局発見出来たのは怯えたホームレス2人と拳銃一丁のみ。美琴と上条の姿は既にどこにもなかったとのことだ。

黄泉川「今までの逃走経路に合わせて地下鉄のルート。それらの要素を合わせて考えれば、奴らは今すぐにでもこの南ゲートに現れる可能性が高いと思ったが……どこかで読み違えたか……」

夕焼けに染まっていた空には、群青色が混ざり始めている。なるべく早く美琴を捕まえたいと思っていた黄泉川は、これまでのことも相まって苛立ちが募りに募っていた。

黄泉川「早く来るじゃん」イライライラ

が、目の前の道路には検問のことも知らずやって来た自動車が数台並んでいるだけで、それ以外には猫の子1匹すら見当たらなかった。

警備員「隊長、少し休憩を入れてみては?」

見かねた部下の警備員が提案する。

黄泉川「休憩してる間に、もし奴らが現れたらどうするじゃん」

警備員「………………」

何も言い返せなくなる警備員。

800 : VIPに... - 2010/09/23 06:32:20.50 W6iBUog0 425/739

黄泉川「……………………」
黄泉川「………ま、休息あってこそ有事に動けるもんだな」

警備員「え、ええ」

表情を緩め、警備員にそう答えると黄泉川は踵を返した。

黄泉川「分かった。10分ほど休むじゃん。異常があったらすぐに呼べ」

警備員「了解」

言って黄泉川がトレーラー型の装甲車に向かおうとした時だった。

ィィィィィィィィィィ………

黄泉川「ん?」ピタ

ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン……

黄泉川「待て」

警備員「は?」

ィィィィィィィィン………

黄泉川「バイク?」

警備員「え?」

どこからともなく、バイクの走行音が聞こえてきた。

801 : VIPに... - 2010/09/23 06:34:50.30 W6iBUog0 426/739


ィィィィィィィィィン………

黄泉川「近付いてくるな……」

音は徐々に大きくなっている。


ィィィィィィィィィィィィン……


と、次の瞬間だった。




イイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!!




黄泉川「!!!!!!!!」

背後から聞こえたバイクの音に驚き、振り返る黄泉川。

黄泉川「………………」

その一瞬、検問に並んだ自動車の横を通り抜けて、警備員の制止も無視してそのままU字路を駆け抜けていくオートバイが………そして、どこか見覚えのある姿格好でそれを運転する少年と後部座席に座る少女の姿が………





黄泉川「…………っ!!」





――目に入った。

802 : VIPに... - 2010/09/23 06:37:40.75 W6iBUog0 427/739





黄泉川「いたぞおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」




警備員「えっ?」

黄泉川「御坂美琴と上条当麻じゃん!!!!!」

警備員「ええっ!!!???」

咄嗟に走り出す黄泉川。

黄泉川「1班2班、出動準備!!! 今逃げたバイクを追うじゃん!!!!」

走りながら黄泉川は無線に指示を入れる。

黄泉川「7班と8班も準備が整い次第、直ちに我々の後に続け!!! 5班6班は引き続きこの場に残って検問作業!!! 以上だ!!!!」

『了解!!!!』

ノイズに混じって、8人の班長たちが一斉に返答する。

黄泉川「来い!!! 奴らを追うじゃん!!!!」

そこら辺に立っていた警備員たちを走りながら叩き、促す黄泉川。

黄泉川「せっかく巡ってきたチャンス!! 逃すわけにはいかないじゃん!!!」

言って黄泉川は1台のアンチスキルの自動車の助手席に乗り込む。

黄泉川「他の連中は!?」

運転手「既に出発してますよ!!!」

黄泉川「さすが優秀な連中だ。我々も負けてられない。逃げたネズミを捕まえるじゃん!!!!」

運転手「了解!!!」

黄泉川を乗せた自動車が出発する。

803 : VIPに... - 2010/09/23 06:41:24.14 W6iBUog0 428/739

『止まりなさい!!! 止まりなさい!!!!』

『そこのバイク!!! 今すぐ道の端に寄せて止まりなさい!!!!』

『止まりなさい!!! これは警告である!!!!』

けたたましいサイレンとスピーカーの声が鳴り響き、3台のアンチスキルの車が道路を驀進する。

上条美琴「………………」

イイイイイイイイイイン!!!

彼らが追うは、美琴と上条が乗る1台のオートバイ。

『止まれ!!! 止まれ!!! これは警告だ!!!!』

もちろんバイクは止まることなく寧ろスピードを上げつつあった。

警備員「こちら1班。現在、御坂美琴と上条当麻が乗車するオートバイを追跡中。発砲許可求む」

無線に吹き込む警備員。

黄泉川『周囲の安全を確認し、警告をした上でのみ認めるじゃん』

すぐに黄泉川から返事が返ってきた。

警備員「了解」

無線を切り、警備員は隣の運転手に話しかける。

警備員「なるべく市街から離れるよう奴らを追い詰めるぞ」

逃げる美琴と上条を確実に捕まえるため、3台の車は更にスピードを上げる。

イイイイイイイイイイイイン!!!!!!

美琴と上条が乗ったオートバイは十字路に差し掛かる。
と、そこでオートバイはまっすぐ進むかと思われたが、その直前………


キキィィィィーーーッ!!!!


と甲高い音を発生させ、左に急カーブした。

804 : VIPに... - 2010/09/23 06:45:22.59 W6iBUog0 429/739

警備員「何っ!?」
警備員「クソッ! 左だ!! 左に行けっ!!!!」

キキィィィッーーーー!!!!

タイヤが悲鳴を上げるようにスリップし、車が無理矢理な姿勢で方向転換する。

ドォォォォン!!!!

と、その1台目の車の後部左側部分に、続いて追ってきた2台目の車のバンパーが軽く衝突した。

警備員「チッ!!! 構わん行け!!!」

衝突したことを気にもせず、1台目の車はオートバイを追うため再び発進する。やがて2台目の車も同じく方向転換して後に続こうとしたが、それも叶わなかった

ドォォォン!!!

道の真ん中で止まっていた2台目の車を避けようと、右ハンドルを切った3台目の車の横っ腹が、その後部に衝突したのだ。
そこからは芋ずる式だった。

ドォォォォォン!!!

対向車線に、垂直に車体を乗り上げるように停車していた3台目の車のバンパーの左側部分に、反対側からやって来た一般車両が衝突した。

キキィィッ!!!!! 

そして急停車したその一般車両を避けようと後からやって来たまた別の一般車両が右にカーブを切り………

ドォォォン!!!!!

動けずに止まっていた2台目のアンチスキルの車のバンパーに衝突した。

プププッーーー!!!!

プアッ!!! プアッ!!!! プププーーーーーッ!!!!

四方面からやってきた何台もの自動車が、道を遮られたことでクラクションを鳴らし始めた。瞬く間にその場に渋滞が巻き起こり、取り残された2台のアンチスキルの車は身動きが取れなくなってしまった。

805 : VIPに... - 2010/09/23 06:49:35.15 W6iBUog0 430/739

一方、無事渋滞に巻き込まれる前に一足早く十字路を脱出していた1台目のアンチスキルの車は、黄泉川を乗せた車と合流していた。

イイイイイイイイイイン!!!!!!!!

2台が追うのは、これだけの迷惑を起こしておきながらいまだ飄々と逃げ続ける上条と美琴が乗ったオートバイ。

黄泉川『これは警告である。これは警告である。そこのバイク、今すぐ止まるじゃん!!! 止まらなければ撃つ!!!!』

上条美琴「「………………」」

もちろん美琴と上条は聞いていない。寧ろわざと無視しているようにも見える。

黄泉川「チッ…舐めやがって……っ!」
黄泉川『これは警告だ!!!! そこのバイク止まれ!!!! 止まらないと撃つ!!!!』

上条美琴「「……………………」」

黄泉川「やれ」

警備員『了解』

無線を通して黄泉川から命令を受けた、1台目の車の助手席に座っていた警備員が、窓から身を乗り出しその両手に拳銃を構えた。

パァン!!! パァァン!!! パァァン!!!!

容赦なく警備員は、オートバイのタイヤを狙って発砲した。

イイイイイイン……

と、ほんの少しバイクの速度が緩んだ。

黄泉川「やったか!?」

イイイイイイイイイイイイン!!!!!!!

が、追跡車両を嘲笑うかのようにバイクはまたもスピードを上げた。

黄泉川「クソッ!!!」

警備員「……しぶとい奴め」

パァン!!! パァァン!!! パァァン!!!!

再び警備員はタイヤを狙って撃つ。

イイイイイイイイイイン!!!!!!

だが、バイクは僅かに蛇行するだけでスピードを落とす気配は無い。

806 : VIPに... - 2010/09/23 06:53:20.54 W6iBUog0 431/739


イイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

黄泉川「あっ!!」

と、そこでオートバイは歩道に乗り上げた。

黄泉川「クソッ……歩道は人が通るから撃てないじゃん!!」

黄泉川は苦虫を噛み潰したような顔になる。

イイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

一方、オートバイは歩道を驀進する。最終下校時刻を過ぎていたため、人が少ないのは幸いだったが、歩道を歩く人々にしてみれば只事ではなかった。

「うわ!」

「ちょっ」

「きゃあ」

「ひょえっ」

「わああ!」

避ける通行人たちの間をバイクは華麗にすり抜けていく。
そのバイクに拳銃を向ける黄泉川だったが………

黄泉川「チッ…ダメじゃん。これでは撃てん」

イイイイイイイン………

と、そこで歩道も途切れのか再びオートバイが道路に戻ってきた。

黄泉川「よし!!」

警備員「バカめ。わざわざ撃たれに戻ったか!!!!」

窓から身を乗り出し、警備員が発砲しようとする。

イイイイイン……

と、その時バイクのスピードが急激に落ち、追跡車両との距離が縮まった。

警備員「?」

黄泉川「何だ?」

その様子を後ろの車から訝しげな目で窺う黄泉川。

807 : VIPに... - 2010/09/23 06:57:16.43 W6iBUog0 432/739

上条美琴「「………………」」

警備員「?」

やがてバイクは1台目の車と並走するぐらいに、スピードを落としてきた。

警備員「!」

そこで警備員はバイクの後部座席に乗っていた少女と目が合った。

美琴「………」ニコッ

笑っていた。ヘルメットのバイザー越しだが、確かに彼女は笑っていた。

警備員「………っ」
警備員「……バカにしやがってえええええええええ!!!!!!!!!!」

パァン!!! パァァァン!!!! パァァァン!!!!!

窓から腕を出し、警備員は苛立ち紛れに発砲する。
が、バイクはスススとスピードを上げ、また車の前に躍り出てきた。

警備員「あのやろおおおおおおお!!!!!! 絶対捕まえてやる!!!! スピード上げろ!!!!」

怒り心頭した警備員は隣の運転手に怒鳴る。

黄泉川『1号車!!! 挑発に乗るな!!!! 今すぐ速度を落とせ!!!!』

黄泉川の声が無線からこだまする。

警備員「あいつを捕まえろ!!!! 追え!!!! 追え!!!! 追ええええええええ!!!!!! スピード上げろ!!!!!」

が、警備員は聞いていなかった。

808 : VIPに... - 2010/09/23 07:00:29.13 W6iBUog0 433/739

と、その時だった。

黄泉川「!!!!!!!!」
黄泉川「危ない!!!!!」

警備員「!!!???」

プアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!

再び十字路に差し掛かった時、バイクを追う1台目の車の右手から、トラックが飛び出してきた。

警備員「よけろおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」

運転手「…………っ」

慌てて右ハンドルを切る運転手。車が右に曲がり車体の右半分が僅かに浮かび上がる。
運転手は一か八か、トラックの右手に滑り込もうとハンドルを限界まで回す。

ガァン!!!

バンパーの右側部分がトラックの右ヘッドライト付近と衝突し、そのまま砕け散る。

キキキイイイイイイイッ!!!!!!

と嫌な音が鳴り響き、その衝撃で横転状態となった車は道路を滑っていった。

ドォォォン!!!!!!

やがてスピードを減らしていった車は電灯のポールにぶつかるとそこで停止した。

シュウウウウウウ………

運転手「………ハァ…ハァ…ハァ…」

警備員「………クソッ!!!」ガンッ!!

警備員は悔しそうに、助手席のグローブボックスを叩いた。

809 : VIPに... - 2010/09/23 07:03:18.47 W6iBUog0 434/739


ィィィィイイイイイイイイイン!!!!!!!!

一方、オートバイを追う黄泉川は。

黄泉川「4号車と5号車、現在位置を報告せよ」

『こちら4号車、現在123番通りを西に向かって走行中』

『こちら5号車、同じく123番通りを西に向かって走行中』

黄泉川「了解。なるべく早くこちらと合流せよ」カチッ

そこまで言って無線を切る黄泉川。

黄泉川「さあ、ここまでやった分、落とし前つけてもらうじゃん!!! 御坂美琴!!! 上条当麻!!!」

彼女は前方を行くバイクを見据える。

イイイイイイイイン……バンッ!!!!

………ィィィイイイイイン!!!!!!

坂道を駆け上ったところでジャンプし、一瞬空中で停止すると再びバイクは地面にタイヤをつけ走り始める。

ブオオオオオオオン……バンッ!!!!

………ブォオオオオオオン!!!!!!

同様に黄泉川を乗せた車も坂道を駆け上ったところでジャンプし、一瞬空中で停止すると再び地面にタイヤをつけ走り始める。

パァァン!!!! パァァァン!!! パァァン!!!!

箱乗りし、バイクに向かって発砲する黄泉川。

イイイイイイイイイイイイン!!!!!!

だが、バイクは一向に止まる気配は無い。

黄泉川「何故……当たらないんじゃん!!!!」

言って黄泉川は後部座席からアサルトライフルを取り出すと、今度はそれをバイクに向けて発砲し始めた。

ダカカカカカカカカカカカカ!!!!!! ダカカカカカカカカカカカカカン!!!!!!

容赦なく、黄泉川はライフルを掃射する。

810 : VIPに... - 2010/09/23 07:07:16.48 W6iBUog0 435/739

黄泉川「チッ……もっとスピード上げろ!!!!」

車は更にバイクに近付く。

ダカカカカカカカカカ!!!!! ダカカカカカカカカカン!!!!!!

黄泉川「何であいつらには弾が当たらないんだ!!!!」

苛立ちを露にしながら身体を引っ込める黄泉川。

黄泉川「にしてもあいつら……南ゲートからどんどん離れていってるじゃん。いよいよ自棄になったか? ……ふん、まあどの道私の手から逃れられはしないけどな!!!!」

ィィィイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

逃走するオートバイ。

ブオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!

それを追跡するアンチスキルの車両。

黄泉川「地獄の底まで追いかけてってやるじゃん!!!」

上条美琴「「……………………」」

両者は決して譲らない。

811 : VIPに... - 2010/09/23 07:10:16.92 W6iBUog0 436/739

と、その時だった。



カンカンカンカンカンカン………



黄泉川「ん?」



カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン………



黄泉川「何だ?」

遠くから聞こえてくる機械的な音に気付き、怪訝な表情を浮かべる黄泉川。

黄泉川「あれは………」

逃げるオートバイの先――目をこらしてみると、そこに点滅する赤い光が見て取れた。

黄泉川「!!!!!!!!!!」




カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!!!




黄泉川「踏み切り……っ!!」

812 : VIPに... - 2010/09/23 07:14:57.41 W6iBUog0 437/739

彼女が叫んだ通り、進行方向に1つ、大きな踏切がその姿を現した。そして前を走るバイクは一直線にそこを目指していて………

黄泉川「我々を振り切るつもりか……っ」

現状、電車はまだ遠くを走っているし、警報音が鳴ってるだけで遮断機は降りていない。タイミングが合えば黄泉川の車両を振り切ることが出来るが、失敗すれば恐らくは逆の結果が待っている。
どちらにしろ、黄泉川はここで諦めるつもりはなかった。

黄泉川「スピード上げろっ!!」

ブオオオオオオオオオオオオン!!!!!!

イイイイイイイイイイイン!!!!!!!!

車とオートバイが同時に速度を上げた。前者は、オートバイを捕らえるため。後者は、踏切を利用して追っ手を振り切るために。



カンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!!!



遮断機がゆっくりと下りてくる。

イイイイイイイイイン!!!!!!

バイクの速度が更に上がる。
そして………

ガタンゴトンガタン……

遂に、電車が踏み切りに近付いてきた。

ゴトンガタンゴトン……ゴトンガタンゴトン……

電車がレール上を走る音が徐々に大きくなっていく。

813 : VIPに... - 2010/09/23 07:17:59.96 W6iBUog0 438/739

上条「…………っ」

イイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!!

それと共にバイクも更にまだ速度を上げていく。

黄泉川「止まるな!!! 行けえええええええええ!!!!!!!!」

ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!

それと共に黄泉川を乗せた車も更にまだ速度を上げていく。

ガタンゴトンガタン!! ガタンゴトンガタン!!! ガタンゴトンガタン!!!! ガタンゴトンガタンゴトン!!!!!!

けたたましい音を鳴り響かせながら、電車がその姿を露にした。踏み切りの赤いライトがそのボディに映える。

ゴンッ!!

黄泉川「!!!???」

と、その時、バイクに追いついた車のバンパーがその後部に衝突した。

イイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!


バキッ!!!!


まるでそれを発射台にするかのようにバイクは遮断機を真っ二つに割り、踏切に突っ込んでいった。





黄泉川「―――――――――」





上条美琴「「―――――――――」」





電車の前を、飛ぶように横切る1台のオートバイ。そのシルエットが電車のライトによって暗闇に浮かび上がる――。

814 : VIPに... - 2010/09/23 07:21:39.29 W6iBUog0 439/739





プアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!




耳をつんざくような警告音が鳴ったかと思うと、オートバイは既に踏み切りの向こうへ着地していた。

黄泉川「止まれえええええええええええええ!!!!!!!!」

運転手「…………くっ!」

キキキキキキキイイイイイイッ!!!!!!!!

摩擦音を響かせながら、黄泉川を乗せた車が横滑りする。このまま突っ込めば、猛スピードで走る電車にまともに衝突するのは必至。

キキキキィィィィィィッ!!!!!!

黄泉川「……………っ」

キキキキィィィィィィ………

車内が揺れに揺れ、窓の外の景色が遊園地のコーヒーカップに乗っているかのように巡る。

815 : VIPに... - 2010/09/23 07:23:20.75 W6iBUog0 440/739


ィィィィィッ………

黄泉川「…………っ!?」



ピタッ………



ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタン………




黄泉川「………っ……ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……ゼェ……」




顔から大量の冷や汗を流しながら、黄泉川は大きく肩で息をする。

運転手「ハァ……ゼェ……」

隣に座る運転手も同様だった。
黄泉川が乗る車は、線路に対して平行に並ぶように、踏み切りに立ち入るか否かの僅かな位置で停車していた。

カタンコトンカタンコトン………

電車が走る音が小さくなっていく。

黄泉川「ハァ………ゼェ……」

生きている感触を確かめるように、黄泉川はただ、息を吐き続けた。
電車が過ぎ去った踏み切りは、今までの喧騒が嘘かのように静まり返っていた。

816 : VIPに... - 2010/09/23 07:28:01.69 W6iBUog0 441/739

一方、追っ手を撒きに撒き、逃走を続けていた上条と美琴を乗せたバイク。

『止まりなさい!!! 今すぐ止まりなさい!!』

『これは警告である。 今すぐ止まりなさい!!』

遂に彼らも潮時を迎えたのか、新たに現れた2台のアンチスキルの車両に追い詰められていた。

イイイイイイイイイン!!!!!

横道を入っていくオートバイ。

ブオオオオオオオオオオオン!!!!!

それを追いかける2台の車両。

イイイイイイン………

と、急にバイクが速度を緩めていった。

イイイイイン………

キキッ……

軽く横滑りして唐突に停車するバイク。

上条「……………………」

美琴「……………………」

彼らが止まったのも無理も無かった。その先は行き止まりだったのだから。

817 : VIPに... - 2010/09/23 07:30:48.14 W6iBUog0 442/739

キキッ……!

警備員「手を挙げろ!!!!!!」

と、追いついた2台の車から、完全武装したアンチスキルがざっと10人ほど降り立ってきた。

警備員1「手を挙げろ!!!! 挙げろ!!!!」

警備員2「挙げろ!!!! 手を挙げろ!!!!!」

警備員3「妙な真似をすると撃つ!!!」

停車したオートバイに一斉にライフルを向け、警備員たちは叫びまくる。

上条「…………………」

美琴「…………………」

バイクに乗っていた上条と美琴は互いの顔をチラッと見る。

上条「……………」コクッ

美琴「……………」コクッ

頷き合う2人。彼らはゆっくりと両手を挙げる。どうやら観念したようだった。

警備員「いいぞ! そのまま!! 手を挙げて…………おい! 何をしている!?」

カチャカチャカチャ……チャキッ!!!

班長らしき警備員の声に反応するように、10人の警備員たちがライフルを構え直す。

818 : VIPに... - 2010/09/23 07:33:37.66 W6iBUog0 443/739

上条「……………………」

美琴「……………………」

と言うのも、一瞬、両手を挙げ観念するかと思われた上条と美琴はヘルメットに手を添えていたのだ。

警備員「みょ、妙な真似をすると撃つぞ!!!」

焦って怒鳴る警備員。
と、そんな警備員を嘲笑うように、ヘルメットを取りながら上条が久しぶりに口を開いた。





上条「いやー……まさかここまで上手くいくとはにゃー」





警備員「!!!???」



上条「わざわざアンチスキルの前に姿を見せた甲斐があったってもんぜよ」



警備員「…………は?」

警備員は咄嗟に思う。何かがおかしい。何か違和感があると。
と、後部座席に座っていた美琴が、上条の言葉に答えるようにヘルメットを取りながら言った。





美琴「ふふふ、私も褒めてほしいかも。これでもバイクに乗ってる時はドキドキしてたんだよ!」





警備員「……………え」

819 : VIPに... - 2010/09/23 07:39:00.49 W6iBUog0 444/739

違う。明らかに違う。何が違うかと言われればすぐに説明は出来ないが、確かに何かが違った。

警備員「…………お前ら……何者だ……」

呆然と、警備員は率直に思ったことを訊ねる。

上条「………………」フッ

美琴「………………」クスッ

やがて、上条と“思われた”少年と美琴と“思われた”少女はヘルメットを取りその素顔を露にした。



上条「どう見たって上条当麻ぜよ。それともちっとばかり変装が下手だったかにゃー?」


美琴「髪を切って染色までして変装した私の方が、上手だったってことなんだよ!」



警備員「…………な………」

確かに、そこには上条当麻と御坂美琴がいた。
服は捜査本部で渡された資料の写真と同じもので、髪にしても、上条当麻と思われる少年の方はツンツン頭の黒髪。御坂美琴と思われる少女の方はシャンパンゴールドの肩までかかるショートヘアと、両方とも本人のものだった。
しかし………




警備員「顔が違う………」




上条「つまりはそういうことぜよ。ここまで追跡ご苦労さん」

警備員「じゃあ、本物は一体どこに………?」

美琴「さあ? でも2人ともここにいないのは確かなんだよ」

言って、上条と“思われる”少年と美琴と“思われる”少女はニヤリと笑みを浮かべた。

820 : VIPに... - 2010/09/23 07:43:28.27 W6iBUog0 445/739

その頃・南ゲート付近――。

「……大分警備員の数も減ったわね」

「……ああ、インデックスと土御門が囮になってくれたお陰だ」

物陰から、ゲート近辺に展開するアンチスキルの部隊を窺いながら、1人の少年と1人の少女は顔を見合わせる。





上条「さあ、いよいよ脱出だ」


美琴「ええ」





本物の上条当麻と本物の御坂美琴――彼らは互いの顔を見て頷き合う。遂に訪れたその瞬間を目前にして――。

881 : VIPに... - 2010/09/25 00:55:14.41 YvXLnLQ0 446/739



警備員「本物は……ここにはいない……だと……?」


上条「だから何度もそう言ってるぜよー」

正面に布陣する10人の警備員たちにライフルを向けられていても、上条と“思われる”少年――もとい上条の変装をしていた土御門は平然と答えた。

土御門「あんたらはまんまと変装した俺たちに騙されてここまでついてきたってわけ」

美琴「レースやってるみたいで楽しかったんだよ!」

土御門の隣に立つ、美琴と“思われる”少女――もとい美琴の変装をしていたインデックスが純粋な笑顔を浮かべて言った。

インデックス「後でレースに勝ったご褒美にステーキ屋さんの食べ放題券欲しいかも!」

警備員「なっ……」

余裕綽々の表情を浮かべ目の前に立つ2人を見て、班長らしき警備員のこめかみに青筋が浮かぶ。

警備員「ふざけるな!! 変装はともかく、お前らみたいな子供が我々アンチスキルの追跡車両をことごとく振り切ったと言うのか!?」

土御門「そういうことになるな」

警備員「バカな……! ……いや、待てそうか。お前らさては能力者だな? だから被弾することもせずここまで逃げ切れたのか……っ!」

その言葉を聞いたインデックスが必死に否定する。

インデックス「それは違うんだよ! 今来日してた知り合いの魔術師に頼んで『弾除け術式』をバイクに掛けてもらったんだよ! あと、もしバイクが事故を起こした時のためにって、身体の傷の度合いを極力減らす『抑傷術式』も私たちの身体に掛けてもらったんだよ! 本当は絶対に事故らない魔術が良かったんだけど、さすがにそこまで都合が良いものはなかったから……」

警備員「は?」

警備員たちが何を言ってるんだ、と言いたげな表情を作る。

インデックス「だから学園都市の能力とは一緒にしないでほしいかも!」

少々機嫌が悪そうな顔でインデックスは抗議する。

土御門「無理無理。こいつらにそんなのが理解出来るわけがないぜよ」

言って土御門はインデックスの頭を軽く叩く。

インデックス「それは心外かも」ムー

そこで土御門は、警備員たちに顔を向け、どや顔で語る。

土御門「とにかく、お前らが探してるお2人さんはここにはいないぜ? 今頃既に学園都市の『外』に逃げてるはずぜよ」

882 : VIPに... - 2010/09/25 00:59:12.83 YvXLnLQ0 447/739

警備員「!!!!!!」

土御門「……まあ、その場合は仲間の魔術師から連絡があるはずなんだが……にしても遅いな」ボソボソ

ほんの数秒ほど、土御門は小声で独り言を唱えながら険しい顔を浮かべた。

警備員「そうか……ならもういい……」

土御門インデックス「?」

プルプルと、班長が身体を震わせながら呟く。

警備員「こいつらは御坂美琴の仲間だ……。……発砲を許可する!!!」

遂に班長は怒りが頂点に達したようだった。

土御門「ありゃりゃー」

警備員「見たところこいつらは丸腰………俺が許可する……」
警備員「撃てええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」

遂に、発砲命令が下された。

土御門「おたくら本当に俺たちが追い詰められたと思ってた? 全くもって逆ぜよ」

ダカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!!!!!!

が、土御門の言葉を掻き消すように警備員たちのアサルトライフルが一斉に火を吹いた。

土御門インデックス「……………………」

幾数もの弾丸が生身の土御門とインデックスに向かい飛んでいく。





「イノケンティウス!!!!!!!!」





ゴオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!

警備員「!!!???」

突如、警備員たちの視界を覆うように、正面に炎の壁が現れた。

883 : VIPに... - 2010/09/25 01:02:36.69 YvXLnLQ0 448/739

警備員「何だあれは!!??」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

そして炎の中に出現する人型のようなシルエットをした怪物。

警備員「クソッ! 撃て! 撃て!! 撃てえええええええええええ!!!!!!!!」

一瞬、怯んだ警備員たちだったが、班長の命令を受けて再び引き金を引いた。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

しかし、炎の怪物は音速で飛ぶライフル弾も全て一瞬で溶かしていく。



「残念だが君たちの攻撃は『魔女狩りの王(イノケンティウス)』には効かない。諦めることだね」



やがて、炎の勢いが静まると、その向こうに1人の長身の男が姿を現した。

警備員「誰だ貴様は!!??」


「うん? 僕かい?」


赤い髪に、耳元にピアスをいくつもつけ、右目の下にバーコードのような刺青を入れたその男は、口元に煙草を咥えながら余裕の笑みを作る。





ステイル「ただのしがない魔術師だよ?」





突如その場に現れた魔術師ステイル=マグヌスは、その顔にユラユラと炎の灯りを映えながら答えた。

884 : VIPに... - 2010/09/25 01:06:59.29 YvXLnLQ0 449/739

その頃、学園都市・南ゲート付近では――。

美琴「ねぇ……」

上条「何だよ?」

ゲート近くにある建物の陰で、美琴は側にいる上条に訊ねた。

美琴「あんたの知り合いの魔術師ってまだなの?」

上条「うーん、おかしいな……そろそろ来てもいいんだけど」

焦りの色を見せながら、上条は建物の物陰からそっとゲート付近を窺う。

美琴「アンチスキルたちの動きが何か慌しくなってるよ」

上条「多分、インデックスと土御門の囮が上手くいった証拠だろう。今頃はステイルと合流してるはず……」

上条たちは今、インデックスや土御門との共同作戦の真っ最中で、その一環としてこの場に留まっていた。
インデックスと土御門が、囮になるためにそれまで上条たちが着ていた服に着替えたため、上条と美琴は土御門たちが『外』で買ってきた新しい服を身に纏うことになった。そのお陰からか、彼らの以前の姿格好を知っていた警備員たちの目はある程度誤魔化すことが出来、ここまで来れたのだった。

美琴「でも早くしないとアンチスキルに対策取られちゃうよ! 知り合いの魔術師がゲートに展開してる警備員たちを倒してくれるんじゃなかったの!?」

上条「………………」

上条は美琴の顔を見る。

美琴「………」ジッ

不安で一杯の表情をしていた。
実は、当初の予定では上条と美琴に変装したインデックスと土御門が、アンチスキルの主力部隊を引き付けている内に、上条たちが知り合いの魔術師と合流、そしてその魔術師の力を借りて南ゲートを突破する予定だったのだが………

美琴「まさか道に迷ってるんじゃ……」

一向にその魔術師は姿を現さなかった。

上条「いや、あいつならすぐにでも俺たちの姿を発見出来てるはず。……信用出来る相手だし、もしかしたら何か異常事態が起こって来れなくなってるのかも……」

美琴「そんなっ…!」

上条「取り合えずもう少し待とうぜ」

焦る美琴に上条は冷静に言う。

美琴「だ、だって! 失敗したらもう……」

上条「大丈夫だから。あいつは必ず来るから」

安心させるように上条は美琴の肩を優しく叩くが、彼女の不安そうな表情は消えなかった。ただ、脱出を前にして作戦に陰りが出てこれば無理も無かった。何しろ彼女はこの数日間、ここ学園都市に存在しているだけで酷い目に遭ってきたのだから。

885 : VIPに... - 2010/09/25 01:11:12.09 YvXLnLQ0 450/739

上条「………………」

上条は南ゲート付近を再び窺う。確かに、先程より警備員たちの行動に慌しさが目立つ。もしかしたら、囮になって上条と美琴に化けていたインデックスと土御門が本人ではないことに気が付いた追跡部隊の警備員が、報告を入れたのかもしれない。

上条「………………」

そう考えると上条も少し不安になったが、合流予定の魔術師は今ぐらいの彼我の戦力なら簡単に覆せる実力を持つ。故に、上条は美琴ほど不安ではなかったのだが、彼女の浮かべる暗い顔は見てられなかった。

上条「とにかくあいつはすごい奴だからさ。心配すんなって」

ゲート付近を見つめながら、上条は背後にいる美琴に語りかける。

上条「お前だってレベル5の超能力者なんだから分かるだろ? その実力の程が。つまりはあいつもそれと同等、もしくはそれ以上の実力を持ってんだ」

しかし、美琴は何も答えない。

上条「だからここは安心することだ」

しかし、美琴は何も答えない。

上条「お前、聞いてるのか?」

ゲートから視線を外し、上条が顔を戻した時だった。

上条「みさ…………」

その瞬間、彼の表情が固まった。まるで、突然出没した怪物を見るように。

上条「……………か」

886 : VIPに... - 2010/09/25 01:14:26.47 YvXLnLQ0 451/739

上条のその反応も当然だった。ケロイド状と化した右目に白く光る眼球を浮かべ、左腕から光線のようなアームを伸ばした若い女が、人質をとるように右手で美琴の身体を掴んでいたら。

美琴「とう……ま……」ガクガクブルブル





「久しぶりだなぁ超電磁砲!!! 会いたかったぜぇ!!!!!!」





上条「……………………」

呆然と口を開ける上条。





麦野「ああ、あんたが超電磁砲の男ってわけ? ふーん? で、どうする? あんたの目の前で彼女焼いちゃっていい?」





上条「…………っ!?」

突如その場に現れた闖入者――学園都市第4位の実力を持つレベル5の超能力者・麦野沈利は、片目が潰れた顔に不気味な笑みを浮かべた。

891 : VIPに... - 2010/09/25 01:19:36.65 YvXLnLQ0 452/739



バンッ!!!


と、音を立て扉が開けられた。

運転手「隊長!!!」

黄泉川「お前はここにいるじゃん。アンチスキルのレッカー車が来た時に応対するんだ」

上条と美琴に変装し、囮になっていたインデックスと土御門が乗ったバイクを追っていた黄泉川。彼女が乗車していた自動車は踏み切りで横滑りをし、線路までには侵入しなかったものの、踏み切りの構造物に挟まれるような形で停車していたため自力で脱出出来ない状態にあった。

運転手「どこへ行くんですか!?」

黄泉川「決まってるじゃん。御坂美琴を捕まえに行く」

言って黄泉川は後部座席のアサルトライフルを手に取る。

黄泉川「囮だと? ふざけたことしやがって。絶対に私がこの手で捕まえてやるじゃん」

運転手「で、ですが奴らはどこに?」

黄泉川「灯台下暗し。恐らくは南ゲート付近にいるはずじゃん」

運転手「間に合わないかもしれませんよ?」

黄泉川「途中で仲間の車両か、無理ならタクシーにでも拾ってもらうじゃん。それに、間に合うか間に合わないかは関係ない。やるかやらないかだ。じゃ、頼んだぞ」

運転手「隊長!」

バンッ!!

言うだけ言って扉を閉める黄泉川。

黄泉川「勝負はまだ終わってないじゃん」

ライフルを抱え、黄泉川は1人、暗闇にその姿を没していった。

893 : VIPに... - 2010/09/25 01:24:12.56 YvXLnLQ0 453/739



警備員「撃てええええええええええええ!!!!!!!!!!」


ダカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!

ステイル「イノケンティウス!!!!!!」

ゴオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!

その頃。インデックスと土御門を守るステイルと警備員たちの戦闘も激化しつつあった。

ダカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!

ステイル「チッ…無駄だというのが分からないのか!?」

掃射されるライフル弾の雨を、ステイルが操るイノケンティウスが燃やし尽くしていく。

ステイル「まどろっこしいな!!」

インデックス「絶対に殺しちゃダメなんだよ!!!」

後ろからインデックスがステイルに声を掛ける。

ステイル「……分かってるよ! だが、そろそろ僕もこの応酬に飽きてきたところなんだがね」

土御門「一応、アンチスキルの戦力を分断して引きつけておくという目的もあったが、そろそろ潮時か」

ステイルの背中を見ながら、土御門が呟く。

土御門「だが、カミやんと超電磁砲が脱出に成功したという報せがまだ無い」

インデックス「で、でも! このままじゃ埒があかないかも!」

土御門「……そうだな。更に逃げて奴らをカミやんたちから引き離した方が得策か」

と、その時だった。

ステイル「?」

急に、警備員たちの発砲が止んだ。

ステイル「何だ?」

インデックス「あれ? 銃撃が止まったかも」

土御門「ん? 諦めたのか?」

896 : VIPに... - 2010/09/25 01:27:30.17 YvXLnLQ0 454/739

インデックスと土御門が訝しげな目を浮かべて正面に顔を戻す。
と、よく目を凝らしてみると、警備員たちが乗ってきた自動車の後方、そこに新たな自動車が近付いてくるのが見えた。

土御門「新手か」

ステイル「しかし、人数が増えたところで僕のイノケンティウスには敵わないよ」

自動車が止まり、その後部扉が開く。同時、警備員たちの間に小さな歓声が上がった。

警備員たち「おおおおおっ!!!!!」

ステイル「…………何だ?」



ザッ!!!



と、足を地面につけ、1人の男が車が下りてきた。

「………………」ギンッ

ステイル「…………?」

男とステイルの目が会う。

ステイル「(何だこいつは……?)」

ステイルがそう思ったのも当然だった。男は歴戦の戦士のような、相手を睨んだだけで威圧してしまうような目と精悍な顔を持ちながら、何故かダイバーが着るようなスーツを身に纏っていたのだから。しかし、男が着るスーツは筋肉によってその形がはっきり見えるほど盛り上がっていた。

インデックス「なんかすごい筋肉の人が出てきたんだよ! しかも変な格好してるし」

インデックスが見たままの感想を述べる。

土御門「(あの男……何者だ)」

「………………」

男はズカズカと警備員たちの間を通り抜け、やがてステイルの正面で立ち止まった。

ステイル「…………ふむ。そんな格好で何の用かな?」

「………………」

男は睨むだけで何も答えない。

ステイル「無愛想な奴だ。何か言ったらどうなんだ」

899 : VIPに... - 2010/09/25 01:32:10.81 YvXLnLQ0 455/739




「…………レベル4相当の発火能力(パイロキネシス)と見た」



ステイル「………は?」

ボソッと男は呟いた。

「…………貴様の運命もここまだ」

そう言ったと同時、男が腕を引き拳を握った。ただでさえスーツの下から盛り上がっていた筋肉が更に盛り上がる。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

野太い声を発しながら、男はステイルに向かってきた。

ステイル「面倒くさい……イノケンティウス!!!!」

ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

一瞬で、男は炎に呑み込まれた。

インデックス「ステイル!」

ステイル「ああ? 仕方がないだろ? バカにも奴は丸腰で突っ込んできたんだから」

インデックスの方に振り向きながら、つまらなさそうにステイルは吐く。

インデックス「ステイル!!!」

ステイル「いや、だから…………え?」

何かの気配に気付き、ステイルが振り向き直る。

ステイル「!!!!!!!!!!」

彼がそこで見たもの。それは、顔を両腕で覆いながら炎の中から飛び出してくる男の姿だった。

ステイル「なっ………!!??」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

特に火傷を負っているようにも見えず、何故かステイルのイノケンティウスを突破してきた男はもう1度拳を握る。

902 : VIPに... - 2010/09/25 01:36:33.77 YvXLnLQ0 456/739




ドゴオオッ!!!!!!



ステイル「ぶはっ!!??」

男の拳がステイルの頬にヒットし、その巨体が宙に舞った。

インデックス土御門「「ステイル!!!!」」

ドサッ……

インデックスと土御門が叫んだと同じくして、ステイルは仰向けに地面に倒れ込んだ。

「……………………」

そこへ、男が近付いてくる。やはり男は火傷どころか傷一つ負っていない。

ステイル「バ、バカなっ……! ぼ、僕のイノケンティウスが効かないだと!? 貴様、学園都市の能力者か!!??」

「知る必要のないことだ」

男は表情も変えず、ステイルを見下す。

警備員「さっすが武藤さんだ!!」

警備員「いいぞ! やっちまえ!!」

警備員「やっぱり元自衛隊の特殊部隊で史上最強と男と呼ばれた男は違う!!」

警備員「ああ、強靭な肉体と精神力。それに学園都市の技術が合わさればレベル4の能力者だって敵わない!!」

男の後ろで状況を見守っていた警備員たちが口々に何やら叫び始めた。どうも、彼のことを言っているらしい。

905 : VIPに... - 2010/09/25 01:39:16.71 YvXLnLQ0 457/739

武藤「ふん」

武藤と呼ばれた男はつまらなさそうに鼻で息をする。

ステイル「…………なるほど。大体分かったよ。君は学生ではなく教師の身分。しかも、アンチスキルと呼ばれる治安組織の中でも奥の手扱いされてる人間なのかな?」

ヨロヨロと、身体を起こしながらステイルは話しかける。

武藤「確かに『アンチスキル最強の男』などと呼ばれているが、今はどうでもいいことだ」

ステイル「どうでも……いいことね。謙遜するじゃないか」

武藤「目下、重要なのは貴様を倒すこと。だろ?」

僅かに武藤が笑った。

ステイル「右に同じだ!!! イノケンティウス!!!!!!」

再び、ステイルの前にイノケンティウスが出現する。

武藤「………………」

それを前にしても、やはり武藤は怯んだ様子は見せなかった。

ステイル「行け!!!!!!!!」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

武藤は再び拳を握る。

906 : VIPに... - 2010/09/25 01:41:32.63 YvXLnLQ0 458/739




美琴「とう……ま……」



麦野「おうおうおうおう超電磁砲よ!! 『とう……ま……』なんて可愛らしい声出しちゃって!!! てめぇも男の前じゃ所詮は恋する女の子ってかぁ!!?? ぎゃははははははははははは!!!!!!」

上条「てめぇ……っ!!」

上条は美琴を人質にとる女――麦野沈利を睨む。
脱出のため、仲間の魔術師との合流を待っていた上条と美琴。しかし、彼らの希望を打ち砕くように現れたのは、かつて美琴が戦った相手、レベル5の第4位『原子崩し(メルトダウナー)』こと麦野沈利だった。

上条「御坂を離せっ!!」

上条は麦野を睨む。

麦野「キャーこわーい。お姉さんこわくておしっこ漏れちゃうううううう。だからやっぱりこの子返してあげるー……なーんて言うとでも思ったかウニ頭さんよぉ!!??」

美琴「な、何であんたがここに……」

横目で麦野を睨むながら美琴が訊ねる。

麦野「あああ? てめぇにゃ関係ねーだろうが。ただこの私がお前のピンチを見逃すとでも思ったぁ!?」

美琴「………っ」

麦野「能力が使えなくなった超電磁砲なんてなーんにも恐くねーんだよボケカス!!」

まるで以前の仕返しだ、とでも言いたげに麦野は口汚く罵る。

麦野「で……上条くんだっけぇ?」

上条「!!!」

そこで麦野は上条に目を向けてきた。

麦野「この子殺しちゃっていい? 消し炭にしちゃっていい?」

上条「や、やめろっ!!」

上条が一歩前に躍り出ようとする。

麦野「おっとぉ……」

ジジッ

と音を立て、麦野は左手のアームを美琴の顔に近づける。

907 : VIPに... - 2010/09/25 01:45:33.92 YvXLnLQ0 459/739

上条「くっ……!」

反射的に立ち止まる上条。

麦野「そんなに超電磁砲が大事なんだぁ? それともこの子との夜が忘れられないのかにゃー?」

上条「ふざけるなっ!」

麦野「で、超電磁砲はどんな風に啼くの? 『貴方の右手で私の超電磁砲を犯してー』ってか? きゃははははははは」

まるでバカにするように麦野は笑う。

麦野「でもそんなに大事ならやっぱり死んどいた方がいいわよね。ってわけで死ね」

言って麦野は容赦なくアームを美琴の顔に振り下ろす。

美琴「………っ」



バギィィィン!!!



麦野「……………あ?」

しかし、その直前………

麦野「…………私のアームが……消えた?」

美琴の顔を貫いたと思った瞬間、彼女のアームは掻き消されていた。上条が右手を突き出してきたことによって。

908 : VIPに... - 2010/09/25 01:48:02.74 YvXLnLQ0 460/739




ズッ……



麦野「ぶぎっ……」

唐突に、麦野の顔が歪む。その状態で彼女が咄嗟に視線を正面に戻すと、そこに丸く握った右手を彼女の頬に添える上条の姿があった。



ドゴオオオオッ!!!!!!!



麦野「!!!!!!」

上条の右ストレートを食らい、盛大に倒れる麦野。

美琴「当麻!!!!」

解放された美琴が上条に駆け寄る。

上条「こっちだ!!!」

上条は美琴の手を取りその場から逃げ出す。

麦野「……………………」

大の字で倒れたまま、麦野はその場に残される。

麦野「…………………ふふ」

口元を歪め、不気味な笑みを見せながら麦野は叫んだ。

麦野「死刑けってええええええええええ!!!!!!」

909 : VIPに... - 2010/09/25 01:51:23.21 YvXLnLQ0 461/739

上条「ハァ…ハァ……」

美琴「ハァ…ゼェ……」

人気の無い通りを疾走する上条と美琴。

美琴「ねぇ! どこ行くのよ!!」

上条「あの化け物女から逃げてんだよ!!」

美琴「………」チラッ

美琴は一瞬だけ振り返る。南ゲートが遠くなっていくのが見えた。

美琴「ちょっと! ゲートから離れてるじゃない!! 魔術師との合流はどうするの!?」

手を引かれながら、美琴は前を走る上条に叫ぶ。

上条「あそこに留まっててもあの女に焼かれるだけだぞ!!」

美琴「でも! これじゃ外に逃げられないよ!!」

上条「だから今別の策を……」チラッ

と、そこで上条が振り返った瞬間だった。

上条「!!!!!!」

美琴「?」

ドンッ!!!

美琴「きゃっ!!」

不意に、美琴を左手で押しのける上条。いきなりのことで反応出来なかった美琴はその場に倒れてしまう。
直後、彼女が今まで立っていた場所に白い光線が空を切った。


バギィィィン!!!!


上条「………………」

それを右手で打ち消す上条。

美琴「原子崩しっ……!」

美琴は光線が飛んできた方を見る。やがて、暗闇の中から、青白い光を左腕から発光させながら麦野がその姿を現した。

910 : VIPに... - 2010/09/25 01:55:20.16 YvXLnLQ0 462/739

麦野「それが例の『幻想殺し』ってやつぅ? なーんかうざってー右手だなー」

上条「それは残念だったな」サッ

美琴「!」

咄嗟に上条は、地面に座っていた美琴の前に立った。まるで彼女を守るように。

麦野「……」イラッ
麦野「あーーーーーーーームカつくわね。あんたら見てるとどっかのバカップル思い出して嫌になるわぁ」

苛立ちを露にしながら、麦野はゆっくりと近付いてくる。

麦野「特に幻想殺し! あんた、私がこの世で一番大っ嫌いな男とそっくり!! うざったいたらありゃしねぇ」

上条「………………」

麦野「だからそろそろ死んでくれない?」

上条「御坂、お前あいつのこと知ってるのか?」

麦野を正面に見据えながら、上条は背後にいる美琴に訊ねる。

麦野「っておいナチュラルに無視かよ」

美琴「う……うん。妹達の時にちょっと……」

上条「……そうだったのか。能力値は?」

麦野「聞いてんのかそこのバカップル。何で私の周りにはこんなムカつくバカップルしかいねぇんだよ」

美琴「学園都市第4位のレベル5」

上条「レベル5……か」

麦野の言葉を無視して、2人は上条の背中越しに会話する。

美琴「私でさえ苦戦したんだから……倒すのは難しいかも……」

不安な表情になる美琴。が、上条は彼女の言葉に疑問を呈した。

上条「それはどうかな?」

麦野「おめぇ超電磁砲よぉ……男の前じゃしおらしくなりやがって……以前私と戦った時の面影は完璧ねぇなぁ」

上条「まさかこんな大事な時にレベル5の超能力者の手厚い歓迎受けるとはな……。ったく、戦ってる暇なんて無いってのに……っ!」

麦野「決めた。まずは幻想殺しの右腕をちょん切る。で、その後瀕死の状態になった幻想殺しの前で超電磁砲の×××が真っ黒に焦げてくとこ見せ付ける」

912 : VIPに... - 2010/09/25 01:59:29.28 YvXLnLQ0 463/739

平然とした様子で麦野は何やら独り言を呟いている。

上条「どうにかしてこいつから逃げ切らないと……」

逃げ道は辺りにないか、上条が僅かに視線を右に向けた時だった。

美琴「当麻!!!!」

上条「!!!!!」

視界の端に映る白い光。

上条「チッ!」ガシッ

上条は美琴の服を掴み咄嗟に後方へ飛んだ。

ドゴッ!!!!

直後、白い光線が地面に突き刺さった。

上条「くっ!!!」

その衝撃で、地面が抉れコンクリート片が舞い上がる。

麦野「オラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!!」

ゴッ!! ズガッ!! ドッ!!!

麦野は、手当たり次第に周囲にあったものを破壊していく。そのせいで道路は耕されたように粘土が剥き出しになってしまった。

麦野「これで……終わり!!!」

913 : VIPに... - 2010/09/25 02:02:25.55 YvXLnLQ0 464/739

上条「!!!!!!」

飛んでくる破片を防ぐだけで精一杯だった上条の目に、薙ぎ払われた麦野の左腕のアームが接近するのが見えた。

上条「っ!!!」


バギィィィン!!!!!!


アームを打ち消す上条。



ガシッ!!!



上条「!!!???」

麦野「つーかまーえたー」ニィィ

が、上条の予想を裏切るように、麦野は突き出された彼の右腕を右手で掴んできた。

上条「なっ……!? 離せ!!」

焦りながら、上条は麦野の手を振り払おうとする。

麦野「右手にサヨナラは言ったぁ!!??」

だが、その抵抗も空しく再び出現した麦野のアームが上条の右手に向かって振り下ろされた。

914 : VIPに... - 2010/09/25 02:05:12.93 YvXLnLQ0 465/739




ドッ!!!



麦野「!!!???」

と、直前、麦野が目をカッと見開き身体を止めた。

上条「?」

何が起こったのか分からなかったが、上条は警戒の視線を絶やさなかった。

ズズッ……

やがて上条の右腕を掴んでいた麦野の右手がスルリと抜け落ち、彼女はその場に崩れ落ちていった。
そして代わりにそこに現れたのは、小さな木の板を持った美琴の姿だった。

美琴「ムカつくから……殴ってやったわ」

機嫌悪そうに美琴は言う。

上条「御坂。助かったぜ」ホッ

麦野「……」ピク

上条美琴「!!!」

麦野の指が僅かに動く。

上条「こっちだ!!!」

瞬時に美琴の手を取り、上条は麦野から逃げるべく再び走り出した。

麦野「……………………」

2人が逃げ去ると、麦野は頭から血をダラダラと流しながら不気味な笑顔を浮かべて言った。

麦野「逃がしはしねぇよ」ニヤァ

960 : VIPに... - 2010/09/25 22:29:16.78 SoO.RSw0 466/739

その頃………



ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!



ステイル「ぐぶっ!? げぶっ!? ぶおっ!?」

インデックス「ステイル!!」

激化するステイルと武藤の戦闘は、魔術師でも能力者でもない武藤の優勢にあった。

警備員「やれやれー!」

警備員「悪漢をやっつけろー!」

武藤「……………………」

警備員たちの声援を後ろに聞きながら、武藤はステイルの顔や身体に重い拳を容赦なく叩き込んでいく。

ステイル「イ、イノケ……」

武藤「無駄だ」

ドゴッ!!!!

ステイル「ぐへぁっ!?」

ドサッ……

盛大にぶっ倒れるステイル。

武藤「見たところ貴様は能力以外の肉弾戦は、からっきしのど素人。自衛隊の特殊部隊とアンチスキルで長年独自の鍛錬に身を捧げてきた私に勝ち目はない。そして………」

武藤が足音を響かせてステイルの下へ歩み寄る。

961 : VIPに... - 2010/09/25 22:32:39.13 SoO.RSw0 467/739

武藤「この学園都市で開発された最新の耐火ジェルと耐火スーツを前にしては、何千度の炎などマッチの火と同義……いやそれ以下だ」

ステイル「なるほど、それが君の戦い方ってわけか……ペッ」

口から血を吐き、ステイルは武藤を見上げる。

武藤「先遣部隊の情報から敵の能力者の特徴を把握。その上で、専用のスーツを着用し戦場へ馳せる。それが“アンチスキル最強”の男と呼ばれる者の戦い方だ」

ステイル「ふん、言うね……。結局君は学園都市の技術に頼ってるだけじゃないか」

武藤「何を勘違いしている?」

バキッ!!!

ステイル「ぐぶっ!?」

武藤の蹴りがステイルの頬を打つ。

武藤「言ったはずだ。自衛隊とアンチスキルで独自の鍛錬に身を捧げてきた、と。……私は徒手格闘の分野において、この日本に自分に勝てる人間はいないと自負している」

ステイル「ふん……」

武藤「最新の技術と最強の肉体。この2つさえあれば、レベル4クラスの能力者など私の前では子猫同然だ」

武藤は表情も変えず淡々と告げる。まるでお前の負けは既に決まっている、と言いたげに。

武藤「分かるか? 故に貴様に勝ち目はないのだ」

ステイル「……………………」

武藤「お喋りも飽きたな。……そろそろトドメといこう」

言って武藤は拳を握った。同時、スーツの下から筋肉が山のように盛り上がる。

ステイル「………………ふ」

武藤「…………?」

と、その時、ステイルが口元に僅かな笑みを浮かべた。

962 : VIPに... - 2010/09/25 22:36:57.48 SoO.RSw0 468/739

武藤「……何かおかしかったか?」

ステイル「おかしいね……。君たちの能力のレベル分けなんて知ったこっちゃないが、この状況で勝利を確信した君がおかしいって言ってるんだよ」

顔中にいくつも痣が出来上がっているが、ステイルは気にすることなく笑みを浮かべる。

武藤「下らん。敗者の負け惜しみか」

ステイル「なら見せてやるよ……。真の魔術師の“奥の手”ってやつをさ……っ!」

武藤「“奥の手”?」

ステイル「ビビるなよ。そして今更泣こうとするなよ。僕に“奥の手”を出させたのは君なんだからな!」

武藤「………なら出し惜しみしていないで早く見せてみろ。“奥の手”と言うからには絶対の自信があるんだろう?」

ステイル「当たり前さ………」

ステイルの目に炎のような光が宿る。

ステイル「とくと見ろ。これが僕の“奥の手”だ……っ!」





ステイル「トリプルイノケンティウス!!!!!!」





ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!



武藤「!!!???」

ステイルが叫んだと同時、辺り一面が今までとは比較出来ないほどの量の炎に包まれた。

963 : VIPに... - 2010/09/25 22:40:31.04 SoO.RSw0 469/739



ズババババババッ!!!!!!


上条美琴「!!!!????」

一方、麦野の追っ手から逃げていた上条と美琴。彼らは後ろで響いた大音量に気付き、咄嗟に振り返った。

麦野「オラオラオラオラオラオラ!!!!!!!! せいぜい逃げ回れぇ!!!! 後でてめぇらじっくりいたぶってやっからよぉ!!!!」

見ると、麦野が左手のアームを振り回し地面や周囲にあるものをことごとく破壊しながら全速力で追っかけてきていた。しかも、頭から血をダラダラと流しながら。

上条「何てしつこいんだあのケバイ女!!!」

麦野「んだとぉぉ!!?? もう一遍言ってみやがれ!!!! こんのクソガキャァァァ!!!!」

ドゴオオオン!!!!!!

気にしていたことを指摘されたのか、麦野の攻撃がより一層激しくなった。

美琴「ちょっと! 何挑発してんのよ!!」

上条「事実言ったまでじゃねぇか!!」

麦野「殺す!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!!!!!!」

顔面を血だらけにし鬼の形相で追ってくる麦野は、もはや化け物と言っても過言ではなかった。

美琴「あっ!!!」

上条「!!??」

ドサッ……

上条「御坂!!!!」

振り返る上条。

美琴「当麻!!!!」

躓き転倒したのか、美琴が地面の上でうつ伏せになっていた。

上条「御坂!!!!」

美琴の元に駆け寄る上条。だが、それよりも早く、麦野は想像以上の速さで美琴に接近してきていた。

麦野「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!!」

964 : VIPに... - 2010/09/25 22:44:16.46 SoO.RSw0 470/739

上条「(この距離じゃ……間に合わないっ……!)」

美琴「当麻……!」

右手を伸ばす上条の目に、絶望を浮かべた美琴の顔が映る。

麦野「死に晒せ売女ああああああああああ!!!!!!!!」

地面に倒れた美琴の無防備な背中を狙って、麦野がアームを振り下ろす。

上条「………っ!!」

美琴「――――――!!!」




ドッ!!!!!!!!




麦野「!!!!????」

麦野のアームが美琴の背中を切り裂く刹那だった。

上条美琴「!!!!!!!」



ゴッ!!!!



突如、上から降ってきた何かによって、アスファルトが蜘蛛の巣状に割れ、衝撃波が巻き起こった。

965 : VIPに... - 2010/09/25 22:47:29.19 SoO.RSw0 471/739

麦野「ぐぅぅっ!!??」

それを何者かの奇襲と即座に判断した麦野は飛ぶように1歩後退した。



コオオオ………



数秒後、辺りが静かになると、再び態勢を整えた麦野は親の仇を見るような目で正面に視線を据えた。

麦野「………何者だよてめぇ……?」

彼女は興を削がれたといった感じに、上条と美琴を守るようにして立つその女にドスの利いた声で訊ねる。

美琴「だ、誰………?」

上条「や、やっと来てくれたか……」

突如現れた救世主――その女の背中を見、上条と美琴はそれぞれ思ったことを述べる。

「……………………」

地面に突き刺すように立つ日本刀。その柄の頂上部分に両手を置いていた彼女は、やがてうなだれていた頭をゆっくりと上げると、目をカッと見開いた。





神裂「遅くなりました上条当麻。ここからは私に任せて下さい」






968 : VIPに... - 2010/09/25 22:51:20.38 SoO.RSw0 472/739

上条「神裂!!!!」

上条の顔に笑顔が浮かぶ。

美琴「だ、誰………?」

上条「例の合流する予定だった魔術師だよ!!」

説明しながら、上条は倒れていた美琴を起こす。

美琴「じゃ、じゃあこの人が……」

神裂「今は自己紹介をしている場合ではありません」

美琴「!」

美琴の言葉を遮るように、魔術師であり聖人の1人でもある神裂火織は静かにそう答えた。

上条「神裂、お前……」

神裂「申し訳ありません。ちょっとした用事があって遅くなってしまいました」

背中を見せつつ神裂は上条に謝罪する。

上条「いや、こっちは危機一髪助かったところだ。本当にありが……」

神裂「逃げなさい」

上条「え?」

神裂「学園都市の『外』と『中』の境界地点……壁がある場所まで逃げるのです」

今はお喋りをしている暇はない。彼女はそう言いたげだった。

969 : VIPに... - 2010/09/25 22:54:31.35 SoO.RSw0 473/739

神裂「大丈夫です。対策はとってあります。とにかく境界地点まで行けば何とかなります。……さあ、行って! 彼女は私が相手しておきますから!」

言って神裂は数m先にいる麦野を見据える。

上条「で、でも……!」

神裂「行くのです!!」

躊躇いを見せる上条だったが、神裂は有無を言わさず叫んでいた。

上条「………っ」
上条「仕方がない、行くぞ御坂!!!」

美琴「だけど、大丈夫なの!? 相手はレベル5の超能力者よ!?」

神裂のことをよく知らない美琴は、不安げに訊ねる。

神裂「私のことは心配無用。寧ろ貴方がたを守りながら戦うのは少し厄介なのです」

美琴「……………、」

上条「さあ、今は急ぐんだ!!!」ガシッ

美琴「あっ!」

美琴の手を取り、上条は再び走り出す。

美琴「……………」

手を引かれながら走りつつも、美琴は後ろを振り返った。小さくなっていく神裂の背中と、こちらを睨む麦野の姿がそこに見えた。

970 : VIPに... - 2010/09/25 22:57:26.51 SoO.RSw0 474/739

神裂「……………………」

麦野「で、何の真似だよオバさん? 突然空から降ってきたかと思ったら超電磁砲どもを逃がしてよぉ……」

遠くなりつつある上条と美琴の姿を神裂の背後に捉えつつ、麦野は不機嫌そうな口調で言う。

麦野「見たところあいつらの予定は狂いに狂ってるようだけど、そんな状態で逃げれると思ってんの? あ?」

神裂「………………」

しかし、神裂は何も答えない。

麦野「なんか言えやババァ!!!」ドッ!!!

苛立ち紛れに麦野がアームで地面を抉る。

神裂「…………その点については対策を施してあります。今回のように私が足止めを食らった時のためにと保険策を用意していたのですが、どうやらその判断は間違っていなかったようですね。ただ、お陰で学園都市に来るのが遅れてしまいましたが……」

麦野「何言ってんだババァ!!??」

神裂「あと私はババァではありません。恐らく貴方とそう歳は変わらないはずですよ」

麦野「……」ピキッ

麦野の額に青筋が浮かぶ。

麦野「いいよいいよあんた最高よ…………」
麦野「最高にムカつくんだよ!!!!!!」

鬼のような形相を浮かべて麦野は怒鳴り声を上げた。

麦野「覚悟しなクソババア!!! 私の機嫌損なった分、痛ぇ目に遭ってもらうからなぁ!!!!」

神裂「……………………」



チャキ……



激昂する麦野を前にして、神裂は静かに愛刀『七天七刀』の柄を握った。

973 : VIPに... - 2010/09/25 23:01:24.09 SoO.RSw0 475/739

武藤「ハァ……ハァ……ハァ……」

深く息をし、辺りを見回す武藤。

武藤「全滅か………」

彼は黒く燃え尽きたアンチスキルの車体に背中を預け、その状況を皮肉るように口元を緩めた。
周囲には呻き声を上げ倒れている警備員たち。その中心には炎によって燃え尽きたアンチスキルの車が2台あった。

武藤「私もまだまだか……」

結局、武藤は敗れた。ステイルが出してきた奥の手『トリプルイノケンティウス』の莫大な炎とその熱量は学園都市の最新技術で作られた耐火スーツでさえも歯が立たず、その表面を焼き切った。スーツの防火能力が高かったためか、幸い武藤は軽い火傷で済んだが、スーツを破られてしまった以上、彼に為す術はなく、隙を見せてしまったところでステイルと共にいた土御門に殴られ昏倒したのだった。

武藤「…………奴らは逃げたか」

武藤が敗れた姿を見た警備員たちは恐れをなし、逃げ惑った。そこへ無人となった車にトリプルイノケンティウスが襲い掛かり爆発。その衝撃で警備員たちは吹き飛ばされ今に至るというわけである。その後、件の魔術師ステイルはトリプルイノケンティウスで残り2台の車を燃やし尽くすと、インデックスと土御門と共に逃げ去っていった。

武藤「死人や重傷者はいなさそうだな……。ふん、そこだけは紳士然としていやがる……」

それだけ言うと、武藤は空を見上げるように溜息を吐いた。

武藤「もし機会があれば……再戦を願うぞ。赤髪の能力者………」

それだけ最後に呟くと、武藤の意識は落ちた。

975 : VIPに... - 2010/09/25 23:04:43.90 SoO.RSw0 476/739

一方、そのステイルたちは……。

ステイル「さあ急ぐんだ土御門!!」

土御門「分かってる!!」

……武藤や警備員たちの包囲網から逃れ、夜の街を駆け抜けていた。

土御門「ねーちん……何で連絡を寄越さない!?」

ステイル「まさか脱出に失敗したんじゃないだろうね!?」

ステイルと土御門は全速力で走る。

インデックス「とうまも短髪もかおりもみんな心配なんだよ!」

そう叫ぶのは、ステイルにおぶられているインデックスだ。全速力で走ると彼女を置いてけぼりにしそうだったので、苦肉の策としてこうやってステイルがおぶっていたのだった。

ステイル「バスや電車が使えないのがもどかしいな!!」

土御門「最終下校時刻を過ぎてるからな。後はタクシーを見つけるぐらいしかない」

彼らは今、南ゲートに向かっていた。と言うのも、当初の予定では、もう少し早くに上条と美琴が脱出に成功し、そ報せを神裂から受けるはずだったのだ。だが、いつまで経っても神裂から連絡は来そうになかったので、仕方なく3人は自らの足でゲートまで戻ることにしたのだった。

ステイル「何故バイクを捨ててきたんだ!?」

走りながらステイルが隣を並走する土御門に訊ねる。

土御門「どうせあのバイクはもうアンチスキルにその特徴もナンバープレートも抑えられてるからなー。乗って帰ってる途中にアンチスキルの車両に見つかったらまた面倒くさいことになるだろ」

ステイル「ええい、じれったい!!」

インデックス「早くしないと、とうまと短髪が危ないんだよ!」

ステイルの背中でインデックスが不安げな声で叫ぶ。

ステイル「分かってるさ! ここまで来た以上、奴が死んでも目覚めが悪いからな!!!」

3人は上条と美琴の下へ向かうため、夜の街を疾走する。

977 : VIPに... - 2010/09/25 23:08:36.54 SoO.RSw0 477/739

上条「クソッ……! ここからどうすればいいんだ!!」

美琴「この壁を越えない限り『外』には出られないよ!!」

上条と美琴は、眼前に聳え立つ全高約5mの壁を前にして、立ち止まる。

上条「壁の所まで来れば何とかなるって神裂言ってたのに……。あれは一体どういう意味なんだ!?」

美琴「ど、どうしよう。いつまでもこんな所で突っ立ってるわけにはいかないよ……」

彼らは、今麦野の相手をしている神裂に言われた通り学園都市の『外』と『中』の境界部分までやって来ていた。神裂によれば、ここに来れば大丈夫と言う話だったが………

美琴「どっかに抜け穴でも作ったんじゃないの!?」

上条「そんなバカな。目立つだろそれは」

美琴「だけどこのままじゃいずれ見つか………」

と、美琴がそこまで言いかけた時だった。



美琴「うあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」



上条「御坂!!!!!?????」

突然、美琴が頭を抱えて苦しみ始めた。

美琴「ああああああああああああああああ!!!!!!」

上条「御坂!!?? 一体どうした!!?? おい!!!!」

頭を抱え地面に膝をつく美琴を見て、上条は叫ぶように訊ねる。




「いたぞ!!!! 御坂美琴と上条当麻じゃん!!!!」




上条「!!!!????」

不意に、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

980 : VIPに... - 2010/09/25 23:12:07.24 SoO.RSw0 478/739




黄泉川「ようやく見つけたぞ!!! 今度こそ本物じゃん……っ!!!」



即座に声がした方に顔を向けると、50mほど先に、アサルトライフルを抱えた黄泉川と数人の警備員がこちらに近付いてくるのが分かった。

上条「アンチスキル……!!」

美琴「うあああああああああああああああああ!!!!!!!!」

上条「御坂!!!!」

叫ぶ美琴。彼女は苦しそうに主張する。

美琴「頭が……痛いっ!!」

上条「……頭? ……まさかっ!!??」

顔を上げ、上条は再び黄泉川たちに視線を向ける。と、そこで警備員たちの背後に1台のトラックらしきものがあるのが見て取れた。しかもその姿形には見覚えがあった。

上条「『キャパシティダウン』かっ!!」

そのトラックは、かつて北ゲートで目にした、対能力者用の最新式キャパシティダウンを搭載した車両――『キャパシティダウンキャリアー』だった。

上条「あいつら、最後の1台をここまで運んできたのか!?」

美琴「うああああああああああああああああああああ」

上条「御坂!!!!!!」

トラックが近付くにつれ、美琴の悲痛な叫び声が大きくなる。

黄泉川「手を挙げろ2人とも!!! 大人しく拘束されるじゃん!!!」

トラックと共に、黄泉川たち警備員がライフルを向けながらこちらに近付いてくる。

黄泉川「ここで終わりじゃん!!!」

上条「………っ!!」

美琴「ああああああああああああああああああああああ」

苦しむ美琴を、次いで近付いてくる黄泉川を順に見、上条は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

上条「クソッ!! 最後の最後で……っ!!」

981 : VIPに... - 2010/09/25 23:16:26.25 SoO.RSw0 479/739

麦野「ハァ……ハァ……」ズルズル

そんな上条と黄泉川たちのやり取りを見ている者が1人、近くにいた。

麦野「みぃーつぅけたぁー」ズルズル

満身創痍の状態にあった麦野だった。

麦野「わ……ハァ……私から……ハァ……逃れられるとでも……思ってんのか……」ズルズル

彼女の右手には、細長く太い筒のようなものが握られている。若干大きすぎるため筒の先を地面にこすり、引き摺るような形になっていたが。

麦野「あ……あんのクソババア……ハァ……あれで……真の実力を見せて……ハァ……ないだと?」

筒を引き摺る麦野のその姿はボロボロだった。服は所々破れており、生傷もあちこちに出来ていた。

麦野「あんな……化け物が……世の中に……ハァ……存在してるって……のかよ……ハァ」

一目で見て分かるように、彼女は神裂に完敗していた。しかも、トドメを刺されないという彼女にとって最大限とも言える屈辱を受けてまで。

麦野「だが……ハァ……隙をついて……まんまと……ハァ……逃げ出してやった……ぜ」

しかし、彼女は神裂の目を盗んで逃走。途中、出くわした1人の警備員から筒を強奪し、ここまでやって来ていたのだ。
身近にあった茂みに隠れ、麦野は上条の位置を把握する。

麦野「………」チラッ

顔を少し横に向けると、黄泉川たち警備員の背後に1台のトラックが見えた。

麦野「『キャパシティダウンキャリアー』……対能力者用の超音波装置……。……知ってるわよ……」

ニヤリと、麦野は血で染まった顔に不気味な笑みを浮かべる。

麦野「最新式の……レベル5でさえ効果をもたらす装置らしいけど……所詮は試作版。その効果がもたらす範囲は半径50mにも満たない……つまりは……ハァ……その範囲内にいなければ……何の心配もない……」

麦野が自分で指摘したように、実際彼女はその影響から逃れるためキャパシティダウンキャリアーの半径50mの範囲外にいた。

麦野「………いっつ……」

それでも麦野の頭を僅かな痛みが走った。

麦野「……ふん。だが、どうせやることをやれば……すぐに退散すればいい……」

気を取り直し、彼女は手にした筒を右手だけで自分の肩に持ち上げる。左手を使えないため多少筒が揺れたがそれは気にするほどではなかった。

麦野「お前らは死ぬんだ……超電磁砲!!!」

そう叫び、麦野は肩に掲げた筒――無反動砲の照準を、うずくまる美琴とその側に立つ上条に合わせた。

982 : VIPに... - 2010/09/25 23:20:25.83 SoO.RSw0 480/739

黄泉川「手を挙げろ!!!! そこから動くんじゃないぞ!!!!」

アサルトライフルを向け、ゆっくりと近付いてくる黄泉川と警備員たち。

美琴「あああああああああああああああ!!!!!!!!」

キャパシティダウンの影響を直に受けて苦しむ美琴。
その両者に挟まれ、上条は呆然と呟く。

上条「終わり……なのか?」

もはや、上条と美琴に為す術はない。

黄泉川「いよいよ終わりの時じゃん。……さあ観念しろ。言いたいことがあるなら、アンチスキルの支部で聞いてやる……っ!」

勝利を確信したような嬉しそうな声を上げる黄泉川。

美琴「あ……ぐ……ああああああああああああ」

キャパシティダウンの影響を受けて苦しみまくる美琴。

上条「………………」

もはや状況は詰んでいた。

上条「(こんなのって……ねぇよ……)」

上条の顔に絶望の色が浮かぶ。

983 : VIPに... - 2010/09/25 23:22:39.10 SoO.RSw0 481/739



ビュン!!!!


と、音を立て、夜のビルの間を1つの影が飛び回る。

神裂「私としたことが……不覚!!」

先程まで、上条と美琴を逃がすために麦野の相手をしていた神裂だった。

神裂「もう戦意はないと思ったのが間違いでした。あの能力者を取り逃がしてしまった……っ!」

ビルの屋上から屋上を飛び、眼下を見回しながら、神裂は悔しそうに口中に吐く。

神裂「既に彼らが『外』に逃げてればいいのですが………ん?」

とそこで神裂は地上の一点を見つめた。

神裂「あれは……まさか!!??」

何かを見つけ、驚きの声を上げる神裂。

ザッ!!

そのまま彼女は地上に降り立った。

神裂「やはり……っ!」

彼女が見つめる先――100m以上向こうに、上条と美琴の姿が見えた。しかも、彼らの元にゆっくりとだが武装した兵士たちが近付いている。

神裂「か……」

急いで上条たちに声を掛けようとしたその時だった。

神裂「?」

ふと、神裂の視界の端に何かが映った。

神裂「あれは………」

目を凝らす神裂。彼女が見つめる数十ほどm先に、筒のようなものを肩に担いでいる麦野の姿が………

神裂「!!!!!!」

………見えた。

984 : VIPに... - 2010/09/25 23:25:38.78 SoO.RSw0 482/739

上条「御坂………」

美琴「あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

呆然と立ち尽くしながら、上条は足元で苦しむ美琴に呟く。

上条「ごめん………」

美琴「あああああああああああああああああ!!!!」

だが、今の彼女は上条の謝罪を聞くことさえ出来なかった。

黄泉川「さぁ、大人しく手を挙げるじゃん……!!」

ライフルを向けながら、黄泉川たち警備員が上条たちに迫る。その距離は既に30mを切っている。

上条「だけど………」

ザッ!!!

黄泉川「!!!」

上条「絶対に俺は最後まで諦めない!!!!」

美琴を守るように上条が前に躍り出て両手を広げた。

上条「絶対に俺は!!! 最後までお前を守り抜いてやるぞ!!! だから安心しろ、御坂!!!!」

美琴「と……とうま……くっ……うう」

上条の言葉が届いたのか、美琴は目に涙を溜めながら、彼の背中を見上げた。

黄泉川「………………はっ」

その姿を見て黄泉川は口元を緩める。

黄泉川「言うじゃん上条当麻。……だがな……世の中、何でも思い通りに行くと思ったら大間違いじゃん」

上条「…………っ」

黄泉川「さあ、降参しろおおおおおおおおお!!!!!!」

上条「させるかあああああああああああああ!!!!!!」

腹の底から上条は魂を込めて叫ぶ。これだけは、引き下がれないと。こいつだけは守る、と。それは、上条にとって絶対に譲ることの出来ない信念だった。

上条「………………」

と、その刹那だった。

985 : VIPに... - 2010/09/25 23:29:32.25 SoO.RSw0 483/739




神裂「危ない!!!!!!」



上条「!!!???」

不意に、神裂の叫び声が聞こえた。

上条「…………?」

咄嗟に上条は声がした方向に視線を向ける。

上条「………………」

と、その途中で何か見覚えのある女の姿が視界の端に映った。

上条「!!!!!!!!!!」

麦野「………」ニィィ

筒らしき物体の先端をこちらに向けて、悪魔のように口元を歪める麦野の顔だった。


麦野「死ねえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」



ボッ……



麦野が叫んだと同時、彼女が肩に担いでいた無反動砲が火を吹いた。

上条「…………っ」



シュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!



無反動砲から発射された榴弾は、この世の終わりを知らせるような音を轟かせながら、上条と美琴の元へ向かった。

上条「くっ!!!」

反射的に上条は、美琴を守るように対面する形で彼女に覆い被さった。

986 : VIPに... - 2010/09/25 23:33:53.16 SoO.RSw0 484/739

そして、その瞬間を合図に、まるで学園都市は時が止まったかのような空気に包まれた――。


麦野「――――――――」


邪悪な笑みを浮かべる麦野。


インデックス「――――――!!!!」

ステイル「――――――!!!!」

土御門「―――――――!!!!」

上条と美琴の安否を確かめるため、街を疾走するインデックス、ステイル、土御門。


黄泉川「――――――!!!!」


上条と美琴を捕らえんと、ライフルを向けながら彼らに近付く黄泉川と警備員たち。


神裂「――――――――!!!!」


上条の名を叫ぶ神裂。



――――――――――!!!!!!



上条と美琴の元へ向かう音速の榴弾。
そして………





上条美琴「「――――――――――」」





死を目前に感じ、互いの身体を強く抱き締める上条と美琴――。

987 : VIPに... - 2010/09/25 23:38:19.09 SoO.RSw0 485/739

上条「(神様……っ!!)」



シュウウウウウウウウウウウウ!!!!!!



ズッ………



やがて榴弾は上条と美琴に着弾するように直撃する………はずだった。






「掴まるのである」






上条「!!!!!!!!」

爆発の炎に包まれる直前、上条が耳にしたのはその一言だった。





ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!






995 : VIPに... - 2010/09/25 23:42:28.14 SoO.RSw0 486/739

着弾し、爆発する榴弾。

黄泉川「!!!!????」

突然の衝撃に、黄泉川たち警備員は思わず地面に伏せる。

神裂「!!!!!!!!」

顔を真っ青にし、今すぐ着弾箇所へ向かおうとする神裂。

インデックスステイル土御門「!!!!!!!!!!」

たった今辿り着いたインデックスとステイルと土御門も、突然目の前で起こった爆発に、驚愕の表情を浮かべた。

麦野「………………」ニィィ

そして目の前で巻き起こったオレンジ色の炎を顔に映えさせ不気味に笑みを作る麦野。
誰もが、上条と美琴は死んだと思われた。
しかし………



ドン!!!!



と、突然、衝撃波が巻き起こり、爆発の炎の中から何かが飛び出してきた。

麦野「何っ!!??」

神裂「あ、あれは………」

そのシルエットはまるで人間のような形をしていて、そしてその両肩部分にはそれぞれ1人の少年と1人の少女が担がれていた。

997 : VIPに... - 2010/09/25 23:45:22.05 SoO.RSw0 487/739




インデックス「あ! とうまと短髪だ!!!」



ロケットのように垂直に飛んでいくその人間の両肩を見て、インデックスが指差しながら叫ぶ。

ステイル「あ、あいつは……」

土御門「まさか……」

神裂「間に合いましたか………“後方のアックア”」





アックア「………………」フッ





両肩に上条と美琴をそれぞれ抱えた、元『神の右』の1人――“後方のアックア”ことウィリアム・オルウェルは小さな笑みを浮かべて学園都市の壁を軽々と越えていった。

黄泉川「な……何が起こった……?」

麦野「あ……あ……バカな……」

その様子を呆然と見つめる麦野や黄泉川たち。



インデックス「ありがとう!!! アックア~~~!!!!」



インデックスの感謝の言葉を背に、やがてアックアは学園都市から高速の速さで去っていった。

999 : VIPに... - 2010/09/25 23:48:16.49 SoO.RSw0 488/739

ネオンの光が映える街の空を、アックアは飛ぶように駆け抜けていく。

上条「う………」

美琴「ん………」

その両肩にそれぞれ抱えられていた上条と美琴は同時に目を見開いた。

アックア「ふん。起きたようであるな」

上条「………え?」

耳元に聞こえる声に驚き、上条はそちらに顔を向ける。

上条「なっ……お前、アックア!!??」

そこに見えたのは、あの、かつて上条が対峙した元ローマ正教『神の右席』の1人、後方のアックアの精悍な横顔だった。

美琴「だ、誰……? この人?」

美琴は不思議そうにアックアの顔を見つめる。

上条「何でお前ここに!?」

アックア「貴様の知り合いの魔術師に頼まれた」

上条「頼まれたって……あ!」

と、そこで何かを思い出す上条。

上条「まさか神裂が言ってた『対策』って、お前のこと……?」

アックア「ふん」

上条「な、何でお前が俺たちを……?」

本当に事情が飲み込めない、と言うように上条は訊ねる。

アックア「私は元傭兵である。貴様の知り合いの魔術師に頼まれたから仕事をこなしただけのこと。それだけである」

つまらなさそうにアックアは答えた。

上条「………………」

美琴「な、何だか分からないけど、ありがとうございます」

肩に担がれた状態で美琴はペコと頭を下げる。

アックア「そんなことより、お別れは済んだのであるか?」

1000 : VIPに... - 2010/09/25 23:49:09.87 SoO.RSw0 489/739

上条美琴「え?」

アックア「あの退屈な街ともこれで今生の別れであるはずだが?」

上条美琴「!!!」

アックアに指摘され、はっとした上条と美琴は後ろを振り返えった。

美琴「学園都市が………」

そこに、街の光を受けて、妖艶に暗闇に浮かび上がる学園都市の姿があった。

美琴「そっか……。脱出出来たんだ私たち……」

上条「そうみたいだな……」

流れる風に髪を揺らしながら、2人は遠くなっていく学園都市を見つめる。

上条「………………」

しばらくの間眺めていると、やがて上条は顔を戻した。

美琴「………………」

学園都市をその瞳に焼き付けて、美琴は静かに呟く。





美琴「さよなら、黒子、佐天さん、初春さん、みんな……。そして、学園都市………」





その言葉を最後に、正面に顔を戻した彼女の目元から溢れ出た涙が風になって後ろへ流れていた。
上条と美琴を担ぎながら、夜の街に消えていくアックアの背中。
こうして、美琴と上条は遂に学園都市と別れを告げた――。



続き
上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」【4】


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