関連記事
黒子「わ、わたくしとあなたの三年後に」上条「か、乾杯」【前編】
黒子「わ、わたくしとあなたの三年後に」上条「か、乾杯」【後編】
――図書館
――ザアアアアア
佐天「雨、止みそうにないですねー」
美琴「佐天さん、上から二番目の証明問題、当てはめる公式間違ってない?」
佐天「えっ、あぁ、ほんとだ。さっすが御坂さん」ゴシゴシ
初春「うーん……」
美琴「ん、どうしたの初春さん? 難しい顔して、解けない問題でもあった?」
初春「ああいえ、ちょっと気になることがありまして」
佐天「なになに? 恋の悩み?」
初春「違います! ただ、最近白井さんが妙に可愛いので――――何で二人して後ずさるんですかー?」
美琴「い、いや、その、ねぇ?」チラ
佐天「し、白井さんの性癖がいよいよ周りにまで猛威を振るい始めたんじゃないかって」コクコク
初春「ウ、ウイルスみたく言わないでください! あくまで客観的に見ての話ですって」
佐天「そっかそっか。でも、気にしてるからにはなんかしら根拠があるんだよね?」
初春「そう、ですね。わかりやすい一例をあげますと――」
初春「たとえば一昨日ですけど、低気圧の影響ですごい風だったじゃないですか」
美琴「あぁ、そういえば」
初春「あの日、白井さんと並んで支部に向かっていたんですが」
初春「細い路地を出た途端突風に襲われて、スカートが思いきり捲れてしまったんです」
佐天「あー、あるある。でも、初春はわたしのおかげで慣れてるから問題ないっしょ?」
初春「そ、そんなわけないでしょう! 何が誰のおかげですか!」
佐天「あはは、冗談冗談。本気にしない」
美琴「でもさ、それと黒子といったい何の関係があるの?」
初春「ああ、つまりですね。その時の白井さんの様子が、なんというか」
美琴「いつもと違ったってことかしら?」
初春「はい、以前は鬱陶しそうに眉をひそめながらスカートを抑えるくらいだったんですけれど」
初春「頬を染めながら慌てて両足をすり寄せて、みたいな感じで」
佐天「……それって、単に人並みの羞恥心に目覚めたってだけのことなんじゃ」
美琴「あんなエグイ水着着ても平然としてたくらいだしねぇ。まぁ、らしくないとは思うけど」
初春「でもでも、こんなのは序の口なんです」
――回想
初春「うわぁ、すごい量の銀杏ですね」
黒子「そろそろ秋も終わりですわね。にしても、この鼻につく臭いはどうにかならないものかしら」
初春「乾煎りして茶碗蒸しに入れると美味しいですよ? お父さんがよく食べて――」
男A「あのぅ、白井黒子さん、ですよね?」
黒子「はい? ええと、どちら様ですの?」
男A「ああ、申し遅れました。長点上機学園一年のAっていいます。校名くらいはご存知ですよね」
黒子「え、ええ。名門高校の一角と認識しておりますけども」
男A「そうです! 何を隠そう僕も白井さんと同じレベル4でして」
黒子「はぁ。……あの、ご用件はなんですの?」
男A「ああ、す、すみません。その、つまり、ですね」
男A「もしよろしければ、僕と付き合っていただけませんか?」
黒子「付き合うって、どちらまでですの?」
男A「いえ、そういう意味ではなくて。あなたに、僕の彼女になっていただけたらと」
初春(こ、これって、交際のお申込みじゃないですか!)
男A「以前から腕章をつけて活躍している姿をお見かけしたことがありまして」
男A「それからというもの、すっかりあなたのファンになってしまったんです」
黒子「それはまぁ、光栄に思うべきなのでしょうけども」
男A「僕もこれで結構モテるんですよ? 何度かラブレターを頂いたこともありますし」
男A「でも、できれば自分により相応しい女性に、傍にいて欲しいと思いまして」
初春(うわっ、結構本気っぽい。白井さん、どうするんだろう)
男A「こう言ってはなんですが、同じ高み(レベル5)を目指す者同士、釣り合いは取れてるんじゃないかと」
黒子「」ピク
男A「何分急な話ですし、すぐ返事をいただこうとは思っていませんので、じっくり考えていただいて」
黒子「いーえ、その必要はありませんの」
男A「え、それじゃあ」パァ
黒子「申し訳ありませんが、お引き取りください」ニコ
男A「な、え……」パクパク
黒子「それでは、失礼いたします。さ、固法さんをお待たせしないうちに」グイ
初春「あ、は、はい……」チラ
男A「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」バッ
黒子「……まだなにか?」
男A「……納得できません!」
黒子「納得もなにも、ご縁がなかったと諦めていただくしか」
男A「で、ですからっ、付き合えないって言うならせめて理由(わけ)を教えてください!」
黒子「理由、ねぇ」
男A「……も、もしかして、もう好きな男性がいらっしゃるんですか?」
黒子「……っ」
初春(あ、そ、そうだった。白井さんにはすでに彼氏疑惑が)チラ
黒子「ま、まぁ、確かにわたくしも年頃ですし、気になっている方のひとりくらいはいますけれども」
黒子「そうしたこととは関係なく、よい返事は致しかねますわね」
男A「ど、どうしてっ!」
黒子「記憶違いでなければ、わたくしたちが面と向かって話すのは、これが初めてですわよね」
男A「そ、それがなんだっていうんですか」
黒子「ろくすっぽ会話もしていないのに、相手が自分に相応しいだなんてどうして見極められるんですの?」
男A「そ、それは……だ、だからこそ、付き合って親睦を深めるんじゃ」
黒子「残念ですけど、あなたの物言いからするとそれ以前の問題ですわね」
黒子「釣り合いなどとしょうもないことを気にする殿方とは、うまくやっていける自信がございません」
男A「な……なっ!」
黒子「もし何かの拍子でわたくしの能力レベルがガタ落ちしたら、その瞬間に二人の関係は終わる」
黒子「詰まるところ、あなたが仰っているのはそういうことですわよね?」
男A「そ、それのどこがいけないっていうんですか」
黒子「……その顔。どうやら本気でそう考えていらっしゃるようですわね」
黒子「自分がどれだけ自惚れているのか、一度省みた方がよろしいんではなくて?」
男A「と、常盤台では礼儀作法を教わっていないのかな? それが目上に対しての口の利き方ですか」プルプル
黒子「そういうご自分は礼節を弁えてるとでも思っていらっしゃるのかしら」
黒子「わたくしは一人の人間です。まかり間違ってもあなたのステータスを上げるオプションパーツではございません」
黒子「憚りながら申しますが、あなた、礼節と体裁とをはき違えているんじゃありませんの?」
男A「……て、てめぇ! ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって!」ギリ
黒子「あらあら、そのように声を荒らげるということは図星だったんですの?」
男A「……ぐっ」
黒子「残念ですが、少々欠点を指摘されたくらいで逆上するような方に向ける敬意はございません」
黒子「お話はこれで終わりですわね。さ、初春、行きますわよ」ツカツカ
初春「あ、し、白井さん! 待ってください!」
初春「とまぁ、そんな顛末だったんですが」
美琴「んー、黒子の気持ちもわからないではないわね」
佐天「ですね。レベルだの名門校だのって肩書きから切り出すのは、さすがに」
美琴「そうそう、なーんか鼻持ちならないのよね。男ってのはさ、やっぱこう、頼りがいがないと――」
初春「ああいえ、ここでわたしが主張したかったのは、白井さんが告白されたという事実なんです」
佐天「ん、どういうこと?」
初春「実は、ここ一か月ほどでそうしたことが立て続けに起きてるんですよ」
美琴「えええ? それ、本当なの?」
初春「はい。お相手はやはり先輩だったり同級生だったりするんですが」
初春「こっ酷く振らないまでも、全然脈がなさそうなんです。中には格好いい人もいたんですけど」
佐天「うわぁ、本格的にモテ期到来?」ゴク
美琴「まぁ、あり得ない話でもないのか。あの子も黙って慎ましくしている分には可愛いし」
初春「あはは、御坂さんが言うと含蓄がありますね」
美琴「ともあれ、初春さんが気にしてのは、何が黒子を変えたのかってことね」
初春「そうですそうです」
佐天「それはやっぱり、意中の人の存在じゃないんですか?」
初春「でも、人を好きになるだけでそんなに変わるものなんですか?」
美琴「え、う、うーん、どうなんだろ///」
佐天(やっぱり御坂さんも好きな人いるんだ。本当、わかりやすいなぁ)ニマニマ
美琴「そういえば、黒子とお相手との仲って、どこまで進んでいるんだろ」
佐天「……もう、女の喜びを教え込まれちゃってたりなんかして///」
美琴「じょっ、冗談! 確かにあの子ませてるところあるけど、まだ中一よ!?」
初春「あの、女の喜びって、なんなんですか? ちょっと背徳的な響きですね」
美琴「そ、そこは聞き流してくれると助かるわ///」
美琴「恋する女は綺麗って昔から言うけど、やっぱりそういう気持ちの変化って外に滲み出てくるものなのかしら」
佐天「実際、不特定多数の男性が白井さんに魅力を感じ始めているのは間違いないわけで――」
黒子「あら、なんだか三人とも盛り上がっていますわね」
初春「」
佐天「こ、ここ、こんにちわ、白井さん」
美琴「はっ、早かったわね。寮監の手伝いは終わったの?」
黒子「ええ、友達との勉強会があることを仄めかしたら、少しお目こぼししていただけたんですの」
黒子「それより、いったい何の話をしていたんですの?」チョコン
初春「え、ええと、それはですね」
佐天「白井さんが、最近よく男の人に声をかけられるって初春から聞いて」
黒子「むっ」ジロ
初春「さ、佐天さん!」ガタ
黒子「……少し口が軽いんじゃなくて? 初春」ジトー
初春「す、すみません」
美琴「ま、まぁまぁ。たまたまそういう話の流れになっただけだから、許したげて、ね?」
黒子「ま、まぁ、お姉様がそこまで仰るのでしたら」パサッ
初春(さ、佐天さん! ひどいじゃないですか)パクパク
佐天(こういうときは変に口裏を合わせるとボロが出るって)パクパク
美琴「ところでさ、ジャッジメントの方は最近どうなのよ?」
黒子「平常運行ですの。忙しくなったのはアンチスキルの方ですわね」カリカリ
佐天「アンチスキル? なにか問題でもあったんですか?」
黒子「初春、説明」チラ
初春「は、はい。二人とも、テレスティーナ木原を覚えていらっしゃいますか?」
美琴「そりゃまぁ、忘れたくてもそうそう忘れられないわね。あのイカれ女」
佐天「はっはー、もう二度とあの顔芸は見たくないですけどね」
初春「実は先だっての暴動の件で、その木原の一族が運営している施設から資金供与があったみたいで」
初春「そこで、いくつかの研究所に警備員が立ち入り調査を行っているそうなんですよ」
美琴「ふぅん。未だにそんなことがまかり通っているってことは、あの狂乱女も枝葉の一つに過ぎなかったってわけか」
黒子「そのようです。ポルターガイストの件も含めまして、学園の求めているものを見直すよい契機になりましたの」
初春「学園の求めるもの、ですか?」
佐天「お偉方が掲げている目標って、確か人類の夢、レベル6への到達、という話でしたよね」
黒子「考えようによっては、その目標のためにわたくしたちひとりひとりが能力開発という実験に加担している」
黒子「ともすれば、誰もがいつでも、被害者にも加害者にもなりえるということですわね」
美琴「…………加害者、か」ポツリ
――学生寮
――ヴィーン
黒子(さっきのお姉様、どうもご様子が変でしたわね。めっきり口数が減っていましたし)
黒子(やはり、学園と何か深刻なトラブルがあったのかしら)
黒子(さて、どうしますやら。真正面から問いただしてもいつものようにとぼけられるだけでしょうし)
黒子(いっそのこと、初春と協力して調べれば……こそこそ嗅ぎ回るのは気が進みませんけれど)
寮監「白井、ちょっといいか」
黒子「うひっ」ビクッ
寮監「少し話がある――おい、いきなり逃げ腰なのは何故だ」
黒子「りょ、寮監様? あの、本日はまだ寮則を破った覚えはありませんけれども」ブルブル
寮監「やましいことがないなら堂々としていろ、まったく」
黒子(そう言われましても、これはもはや条件反射ですの)
黒子「あの、それで話というのは……」
寮監「別に構えんでいいと言っている。明後日の予定を聞きたかっただけだ」
黒子「明後日ですの? いえ、特にこれといった用事は」
寮監「そうか。では、ひとつ代理を頼まれてくれないか?」
黒子「代理? どういったご用件ですの?」
寮監「実は明後日あすなろ園に行くことになっていたんだが、ついさっき父が倒れたと連絡を受けてな」
黒子「い、一大事じゃありませんの! その、容体の方は――」
寮監「症状自体は大したことない。軽度の気胸だそうだ」
黒子「それは、何よりですの」
寮監「ただまぁ、一週間ほど入院が必要らしくてな。ここの所忙しくて帰郷も出来なかったから世話を焼きたいんだが」
寮監「こちらの都合で子供たちとの約束を反故にするのも、なんだか申し訳なくてな」
黒子「そういうご事情でしたら喜んで。わたくしでよろしければお引き受けいたしますの」
寮監「そうか、助かるよ。おまえなら子供たちとも顔見知りだし特に問題はないだろう」スッ
黒子「……あら、これは? 何かのチケットですの?」
寮監「友人が切り盛りしているレストランのディナー券だ。二枚あるから、友達を誘って行ってくるといい」
――prrrrr
黒子(あら、もしかして)ゴソゴソ
黒子(やっぱり、上条さんですのっ)
黒子(……引き受けて、いただけるかしら)ピッ
黒子「はい、もしもし」
上条『ああ、黒子か? さっき電話もらったみたいだけど』
黒子「ええ。明後日なんですけれど、何かご予定はおありですの?」
上条『明後日は、いや、空いてるけど』
黒子「それでしたら、ちょっとわたくしに付き合っていただけません?」
上条『うん? どこか行きたいところでもあるのか?』
黒子「行きたいと申しますか、ボランティアなんですけれども」
上条『ボランティア? おまえ、風紀委員に加えてそんなことまでやってたのか。優等生の鑑だな』
黒子「と、とんでもない。たまにちょこちょこっとお手伝いをさせていただいているくらいで」
上条『謙遜することないだろ。んで、具体的にはどこで何をやるんだ?』
黒子「行き先は第13学区。あすなろ園という孤児院ですの」
上条『コジイン? ――あ、孤児院か』
黒子「ええ。そちらでは主に置き去り(チャイルドエラー)の子を引き取っていまして」
上条『それってあれだよな、入学金だけ納めて親がばっくれちまったってやつ』
黒子「そうですの。もちろん院にも園長先生や非常勤の先生が来てくださるんですけれど」
黒子「人数が少なければできることも限られますし、負担も大きいでしょうから」
上条『要は、子供たちの遊び相手になってやりゃあいいんだな?』
黒子「はい、基本的にそう思っていただいて差し支えないですの」
黒子「大勢の子供たちを相手にするのは物理的にも体力的もきついですし」
黒子「もし、上条さんがご一緒してくださるなら、大助かりなんですけれども」
上条『ま、他ならぬ黒子さんに頼られたとあっちゃあ、一肌脱がないわけにはいかねえな』
黒子「よ、よろしいんですの!?」パァ
上条『もちろん。つっても、何分初めての経験だから、どんだけ役に立てるかは怪しいけどな』
黒子「ふふ、そんなにご心配なさらなくとも、上条さんなら絶対大丈夫ですわ」
上条『はは、黒子に太鼓判を押されるなんて、何か妙な感じだな』
黒子「それ、どういう意味ですの?」
上条『いやさ、つい数か月前までは、どっちかっていうと敵視されてると思ってたしさ』
黒子「か、過去は過去、今は今ですの!」
上条『あ、ああ、そうだよな、ごめん。んじゃあ念のため聞いとくけど、今は嫌ってないんだな?』
黒子「当たり前ですの。嫌っている方に対してマメに連絡を取るわけないでしょう?」
上条『それもそうだな。良かった、おまえにだけは嫌われたくないと思ってたから』
黒子(おまえにだけは、って――)
上条『ん、どうかしたのか?』
黒子「え? あ、いえ、そ、あ、ま、また改めてご連絡しますの!///」
上条『へ? ちょっ、黒――』ピッ
黒子「……え、ええと、あと何を伝えたらよろしかったんでしたっけ」コツン
上条「よし、時間通りだな。黒子はどの辺りに」キョロキョロ
黒子「おはようございます」パッ
上条「うおっ! お、おはよう」
黒子「またそんなに驚かれて。いい加減テレポートにも慣れてくださらないと」ジト
上条「いや、でも、慣れたら慣れたで反応が鈍りそうだしな」ポリポリ
黒子「ま、それくらいは大目に見ますけども。……ふむ、ちゃんと動きやすい服装で来てくれたようですわね」
上条「おぅ、準備万端ですよ。おまえも言っていたように、ガキ相手だと体力勝負だしな」
黒子「期待していますわ。では、あすなろ園までご案内しますの」
上条「ああ、その前に」スッ
黒子「……?」
上条「荷物持つよ。重い方寄越してくれ」
黒子「あ、は、はい。ありがとうございます」スッ
上条「このでかい風呂敷包みってなにが入ってるんだ?」
黒子「お弁当の重箱ですの。寮住まいの方々が進んで手伝ってくださって」
上条「へぇ、みんな優しいんだな」
黒子「学生はみんな親元から離れて暮らしていますし、やはり思うところがあるのでしょうね」
上条「黒子は、両親と会えなくて寂しくなったりはしないのか?」
黒子「来た当初は少し寂しいというか、心細かったですわね」
黒子「でも、今はお姉様がいますし、仲のいい友達もできましたし、それに――」チラ
上条「……ん?」
黒子「その、か、上条さんもいますし」
上条「お、おう、そうだな///」カァ
黒子「で、ですの///」プシュー
園長「休日だというのにわざわざお越しいただいて、感謝の言葉もありません」
黒子「お気遣いは無用ですの。わたくしたちも童心に返って遊ばせていただきますわ」
黒子「ですわよね、上条さん?」
上条「ええっと、どれだけお力になれるかは正直心許ないんですが」カリカリ
大吾「いえいえ、男子ってあまりこういうボランティアやりたがらないからとても助かります」
上条「そ、そうすか。だったらいいんですけど」
大吾「では早速ですが、僕について来てください。子供たちに紹介します」
上条「わかりました。あの、今日一日、よろしくお願いします」ペコ
大吾「こちらこそ」ニコ
園長「よろしくね、上条さん」ニコ
黒子(まさか初春たちの担任と鉢合わせするなんて、ついているのかいないのか)
黒子(一応、後で口止めした方が無難ですわね)
大吾「みんな、今日は新しいお兄さんが来てくれたよ」
上条「上条当麻だ。長いからとうまって呼んでくれ、よろしくな」
子供たち『よろしくお願いしまーす!』
上条「はは、元気いっぱいだな。んじゃあ最初は、何して遊ぶ?」
男の子A「僕鬼ごっこがいい!」
女の子A「えー、たまにはおままごとにしようよー」
男の子A「おままごとじゃ大勢で遊べないじゃんかー」
女の子A「あんただって、自分が足早いからっていつも――」
上条「ま、まぁまぁ、順番にひとつずつやろうか。時間はたっぷりあるからさ」
男の子A&女の子A「はぁーい」
上条「んじゃあ、まずは俺が鬼をやるな。10数える間に逃げるんだぞ。1――2――」
子供たち『うわぁ! 逃げろー!』
――調理室
園長「ここまで歓声が聞こえるわ。あの子たちもおおはしゃぎね」トントントン
園長「彼氏さんを連れてきてくれて助かったわ。白井さん」ニコ
黒子「い、いえっ! 上条さんとは別に交際しているわけじゃ」
園長「照れることないでしょう。いいんじゃない? 意志が強そうだし、懐も深そうで」
黒子「も、もぅ、あまりからかわないでくださいまし。そもそも、あの方とは歳の差が」
園長「歳の差っていうなら、わたしも大吾先生と一緒になるとは思っていなかったわ」
黒子(……まぁ、それはこちらも同じですけれど)ヒク
黒子「でも、わたくしはまだ中学に上がったばかりで」
園長「まぁ、確かに大人の恋愛をするにはまだ少し早いかも知れないけれど」
園長「上条さんは高校一年でしょう? あと三年経てば、白井さんも今の彼と同い年じゃない」
黒子「そ、それは……まぁ」
園長「あなただって彼のこと、心から信頼しているんでしょう?」
黒子「…………ぅ///」
園長「その沈黙は肯定よね。大丈夫、あなたたちならきっとうまくいくわ」
黒子「し、信頼と好意は別物ですの」
園長「あら? じゃあ、彼のこと好きじゃないの?」
黒子「そ、それは、……その」ゴニョゴニョ
園長「そうね、心にもないことを口にするのは躊躇われるわよね。逆説的に考えれば自ずと答えも」
黒子「え、園長先生っ!///」
園長「うふふふ、ごめんなさいね。お二人があんまり初々しいものだから」
黒子「んもぅ、勘弁してくださいな」
園長「でも、お互いに意識し合っているみたいだし、結ばれるのは秒読みの段階じゃないかしら」
黒子「ど、どうしてそんなことがわかるんですの?」
園長「視線。好きな人が視界に入ると、どうしても目で追ってしまうものだから」
黒子「……あの、上条さんも、わたくしを?」
園長「ええ、その点はお二人とも抜かりないわ。安心した?」
黒子「…………ぅ///」
園長「あらあら」コロコロ
――バタン
女の子A「とうまお兄ちゃん、早く早くぅ!」グイグイ
上条「おいおい、そんなに引っ張るなって。袖が延びちまうだろ」
男の子B「おいこら、とうま! ままごとが終わったら俺とジャッジメントごっこだからな!」
上条「わぁったわぁった。んでもその前に、外から戻ったらまず手洗いうがいをしなきゃな」
子供たち『はぁーい♪』ゾロゾロ
園長「あらあら、すっかり懐かれてしまったみたいね」
大吾「いやぁ、驚きました。彼、本当に今回がボランティア初めてなんですか?」
黒子「いえ、あの方は……、普段の行いをボランティアだと自覚していないだけですの」
黒子「そこに困った人がいれば手を差し伸べずにはいられない。そんな人ですから」クス
園長「そう、正義感が人一倍強いのね。それも、白井さんが惹かれた理由のひとつかしら」
黒子(ちょ、大吾先生も聞いていますのに!///)
大吾「あれ、もしかしてお二人って」
園長「友達以上恋人未満、ってところかしら」
黒子「か、勝手なことを吹き込まれては困ります! 妙な噂が流れれば上条さんのご迷惑に」
上条「うん? 俺がどうしたって?」
黒子「」ドキーン
黒子「あ、かか、上条さん///」
上条「あれ、おまえ少し顔赤いぞ? 熱でもあるんじゃないか?」スッ
黒子「え、あの、近っ……ひゃっ!」ピト
上条「どれどれ? ――――うーん、若干熱い気もするけど」
黒子(あ、あぅあぅ///)カチンコチン
園長「……あらあら、これじゃあ白井さんも大変ね」クス
大吾「いやいや、意外と丸く収まるんじゃないですか」クス
上条「……? 何の話っすか?」
男の子B「じゃあ、とうまお兄ちゃんがパパ役で」
女の子B「くろこお姉ちゃんがママ役だよ」
上条「ほ、本当にそれでやるのか?」チラ
黒子「ま、まぁ、しょうがないですわね。お遊戯と割り切って」
女の子B「お遊戯じゃないよ! 二人とも真剣にやんなきゃだめなんだよ!」
上条「あ、ああ、悪かった。ごめんごめん」
黒子(真剣にって言われましても)チラ
上条「でさ、いつもはどういう段取りでやってるんだ?」
黒子(ど、どうしても意識してしまいますの。園長先生が変なこと仰るから)
女の子C「黒子お姉ちゃん、ちゃんと聞いてる?」
黒子「あ、も、もちろんですの!」アタフタ
男の子C「じゃあ、とうまパパがお仕事を終えて帰ってくるところからね」
女の子C「そんでねそんでね、ママとあたしたちが、パパをお疲れ様ってお迎えするの」ニパァ
黒子「わ、わかりました。では上条さん、スタンバってくださ――」
女の子A「ちょっとー、駄目だよママ」
黒子「は、はい?」
女の子A「名字で呼び合う夫婦なんてどこの世の中にいるの?」
黒子「そ、そう言われましても、なんとお呼びすればよろしいやら」
女の子B「それはやっぱりー、とうまさん、とか、あなた、とか」
上条「……あ、あなたって///」ポリ
黒子(ど、どんな羞恥プレイですの///)ググ
――TAKE1
上条「た、ただいまー」
黒子「お、おかえりなさい。あ、あなた」
上条「お、おう///」カァ
黒子(て、照れないでくださいまし! こっちだって恥ずかしいんですの!///)
上条(わ、わかってっけどさ///)
子供たち『パパー、おかえりなさーい!』
上条「ただいま。今日もママの言うこと聞いて、ちゃんといい子にしてたか?」
女の子A「うん、窓のお掃除一緒にやったんだよ!」
黒子「今日もお勤めご苦労様でした。お鞄お持ちしますの」スッ
上条「ああ、さんきゅ」スッ
上条「ええと、もう風呂は沸いてるのかな?」
黒子「はい、少し熱めにしておきましたの」
男の子B「僕、頑張ってお風呂掃除したんだよ!」
女の子B「あたしもー!」
上条「そうか。みんなお手伝いできて偉いなー」
女の子A「ねぇパパ、早くお風呂入ろう!」
上条「よし、みんな一緒に入るか!」
子供たち『わーい!』
女の子C「あ、そうだ。ママも一緒に入るよね?」
黒子「無理ですの! 早すぎますの!///」
園長&大吾「」プハッ
――ダメだし中
女の子C『夫婦ならお風呂だって普通に入るでしょー?』プンスカ
黒子『ごめんなさいごめんなさい! つい条件反射で!』
――TAKE2
上条「ただいまー」
黒子「おかえりなさい。ご飯の支度、整っていますわよ」
上条「そっか。今日のおかずはなんだ?」
黒子「秋刀魚の蒲焼と、銀杏と鶏肉の茶碗蒸し、それから空豆とトマトの冷製スープですの」
上条「おお、旬の食材がてんこ盛りだな」
女の子A「パパー、ママー。わたしお腹空いたー」
黒子「はいはい、じゃあ早いとこ食事にしましょう」
男の子B「僕、お皿とお箸並べるの手伝うよ!」
黒子「あら本当? Bは本当に良い子ですわね」ナデナデ
男の子B「えへへへー」
女の子A「あれー、パパ。襟元に口紅がついてるよ?」
黒子「――――なんですって?」ギラッ
上条「ちょっ、流れおかしくね!?」
女の子A『さっきのは不倫ルートだったの! 黒子も乗ってくれたんだからアドリブしなきゃ』クドクド
上条(か、仮にも孤児たちの前でそういう生々しい展開はどうかと思うのでありますが!?)
――TAKE3
上条「ただいまー」
黒子「おかえりなさい」
上条「これ、俺からおまえにプレゼントだ」スッ
黒子「あら、なにかしら? まぁ、素敵なリボンですわね!」
上条「あ、ああ。気に入ってくれたなら何よりだ」
黒子「ありがとですの。か、……と、とうまさん」
黒子(セ、セーフですの)
女の子B「ねぇパパぁ。わたしたちにはお土産ないの?」
上条「え、ええと? そうそう、たこ焼きがあるぞー」
男の子C「ええー、やっすー」
女の子B「そこはせめてケーキって言って欲しかったなー」
上条「も、持ち合わせが少なかったから、またの機会にな」
黒子(まったくこの子たち、たくましく育ちそうですわね)クス
黒子「ジャッジメントですの!」ビッ
男の子C「です!」ビッ
女の子D「ですのー!」ビッ
上条「なんだぁ、おまえら。俺の邪魔をする気なら容赦しないぞ」チャラチャラ
上条(薄々わかってはいた……わかってはいたんだが)
上条(やっぱり俺がスキルアウト役か)トホホ
黒子「さぁみなさん、協力して悪いやつをやっつけますわよ!」ビッ
男の子B「よぉし、いっくぞー!」
子供たち『うわあああああ!』ドドド
上条「ちょっ、多勢に無勢すぎるんですが!?」
黒子「子供たちに規範を示すためにも、ここは大人しくやられていただかないと」キラーン
上条「黒子さん冷たい! くそぅっ、絶対に逃げきってやる!」ダッ
上条「ふぅ、走った走った」トントン
男の子A「と、とうま兄ちゃんって、足べらぼうに速いんだね」ゼエゼエ
上条「いやぁ、おまえも子供にしちゃあ大したモンだったぜ?」
男の子A「いつか絶対に追い抜いてやっからな」ビッ
上条「おぅ、受けて立つぜ」クイ
黒子「お疲れ様。さ、こちらへ、汗を拭って差し上げますわ」
上条「あ、あぁ、悪ぃな」
黒子「それにしても、いつにもまして見事な逃げっぷりでしたわねぇ」フキフキ
上条「8人に追われちゃあ、こっちも必死になるさ」
黒子(あら……あれだけ走り回ったにしては発汗が少ないですの)
黒子(息もほとんど切れていない。やはり殿方なんですのねぇ)
上条「うん? どうかしたか?」
黒子「いーえ、なんでもありませんの。少し屈んでくださるかしら」
――食堂
男の子C「うわーっ、すっごいご馳走!」
園長「お姉さんたちが作ってきてくれたお弁当ですよ。さぁ、みんな一緒にお礼を言いましょう」
子供たち『お兄さん、お姉さん、ありがとうございます!』
黒子「どういたしまして。あなたたちの言葉、寮のみんなにも伝えさせていただきますわ」ニコ
上条「お、俺は何もしてねえんだけどなぁ」
黒子「細かいことはいいっこなしですの」チッチ
上条「それもそうだ。にしても、これだけあると目移りしちまうな」
黒子「その、あとでわたくしの作ったおかずの感想、聞かせていただきたいんですけど」ボソ
上条「ああもちろん、おまえの作ったもんなら何だって食わせてもらうよ」
黒子(……えへへ、もぅ、嬉しいこと言ってくれますわ……ハっ)
黒子(こ、子供たちの面前ですの!)ピシ
大吾「それじゃあ、みんな手を合わせてー。せーのっ」パシ
全員『いただきまーす!』
男の子B「ふぇ、ふろほとほうまっへ」モグモグ
園長「B君? 口に物を入れながら喋るのはお行儀がよくないわよ?」
男の子B「ほ、ほめんなふぁい。ごくっ、くろこととうまってさ、どういう関係なの?」
上条「え、ええと、どういう関係って言われてもなぁ」
黒子「仲のよいお友達ですの」
黒子(もうこの手の質問にも大分慣れてきましたの)
女の子B「恋人じゃないの?」
上条&黒子「ングッ」
男の子C「あはっ、二人ともおもしろーい」
黒子「げほっ、げほっ、と、年上をからかうものではありませんわよ」
上条「…………」ドンドンドンドン
大吾「上条君、はいお水」ニコ
上条「――ぷはっ、す、すんません」
男の子B「もう無理、入らねー」ポンポン
女の子C「わ、わたしもお腹いっぱい」
大吾「あれだけあったのに、ほぼ完食だね」
上条「みんな好き嫌いせずに食べられるんだな。残ってるおかずに偏りがない」
男の子C「だって、どれもすごく美味しかったから!」
女の子D「うん! くろこお姉ちゃんって凄いんだね!」ソンケー
黒子「お口に合ったようでなによりですわ」ニコ
園長「それじゃ、みなさんでご馳走様をしましょう」
大吾「はーい、じゃあみんな一緒にいくよー。せーの」
『ご馳走様でしたッ!』
園長「はい、大変よくできました。じゃあ、食べ終わったお皿は台所へ持っていきましょうね」
男の子D「…………」ガタッ
黒子(……あら?)チラ
黒子(あの子のお皿、ほとんど汚れてないですの。食欲なかったのかしら?)
大吾「本当にすみません、洗い物までやっていただいて」
黒子「いえいえ、これくらい何でもありませんの」ジャー
上条「黒子の家事スキルは半端じゃないっすからね」キュッキュッ
院長「ほんと、いいお嫁さんになれそうね」
黒子「は、はぁ///」
上条「ははは、本当のことなんだし照れることないだろ」
黒子「べ、別に照れてなど」カチャ
院長「じゃあ、私はちょっと洗濯機を回してくるから、ここはお願いね」
大吾「僕も子供たちを遊ばせてきます」
黒子「ええ、お願いしますの」
上条「子供たち相当喜んでたな。いっそのこと俺も黒子に料理習おうかなぁ」キュッキュ
黒子「教えるのは一向に構いませんけども、わたくしはスパルタですわよ?」パチ
上条「厳しくっても、お前と一緒に作業するのは楽しそうだから」
黒子「ふふ、まぁ、一度そういった機会を作るのも面白そうですわね」
上条「あ、流し場に重なってるやつは全部終わってるから」
黒子「了解ですの」パッパッ
――カシャン――カシャン
上条「洗い物にホント便利だよな、それ。……ん?」
黒子「どうかしまして?」ピタ
上条「ああいや、そのまま続けてくれ」
黒子「……? はいですの」シュンシュン
――カシャン――カシャン――カシャン
上条「やっぱ気のせいじゃなさそうだな。発動の間隔、気持ち短縮されてねえか?」
黒子「あらまあ、よくおわかりになりましたわね。ここ一か月ほどで0.2秒ほどタイムラグが縮まりましたの」
上条「能力開発相当頑張ってんだなぁ。この分だとレベル5も間近か」
黒子「いえ、さすがにそこまでは。このまま順調に伸び続けたとして、高等部に上がるくらいまではかかるかと」
上条「黒子が高校生、か」
黒子「ん、何を想像してますの?」
上条「い、いや、別に」
黒子「まさか、いやらしいことを考えていませんでしょうね?」ジト
上条「そ、そういうんじゃなくてさ、単純にその」
黒子「……はっきり仰ったらどうですの?」
上条「すごい美人になってるだろうなーって思ったわけです、はい」ポリ
黒子「…………///」プイ
上条「なんでさっきから顔逸らしてんだよ。怒ったのか?」
黒子「お、怒ってなどいませんの」
上条「……? ならいいけどさ」
黒子(もう、この方は)
黒子(自分の言葉がどういう風に相手に伝わるか、少しは配慮して発言して欲しいですの)
黒子(高校生。やはりそれくらいの年頃が上条さんの理想なのでしょうか)
黒子(それまでお付き合いが続くかもわからないのに。……いえ、始まってもいませんけど)
上条「そういやさ、学園全部見渡してもレベル5の空間移動能力者はいないんだっけ」
黒子「……それなら、条件次第であるいは、という方もいないことはないですけど」
上条「え、まじで? お前より強力な空間移動能力者がいるのか?」
黒子「結標淡希。座標移動(ムーブポイント)と呼ばれる能力者ですの」
上条「座標移動。って、お前の瞬間移動とどう違うんだ?」
黒子「一番大きな違いは、離れた場所にある物をも転移させることができる点ですわね」
上条「それってつまり、手に触れなくても移動できるってことか? ほとんど万能じゃねえか」
黒子「人間性はともかくとして、空間移動能力の到達点の一つではあるでしょうね。わたくしも完敗しましたし」
上条「お前が、負けたってのか?」
黒子「能力の差異もそうですが、演算能力の差を痛感しましたの。何しろ相手はトン単位で物を飛ばしてきますから」
黒子「あの女と張り合うにはまだまだ力不足。それこそレベル5になるくらいでないと」
上条「超能力者か。もしなったら、今度は黒子が「お姉様ーっ!」て叫ばれる日が来るのかな」
黒子「あまり実感が湧きませんわね。頼りがいという点では、お姉様の足元にも及びませんもの」
上条「謙遜するなって。真面目だし面倒見もいいから下級生には慕われるぜ、きっと」
黒子「どうも、話半分に受け取っておきますわ」
上条「やっぱりすげえな。あれだけの量を洗ったってのに十分しか経ってねえ」テクテク
黒子「上条さん、お料理の話ですけれどどうします?」シズシズ
上条「そうだな。俺んちでって言いたいところだけど、二人で料理するには少し狭いよな」
黒子「女子寮にお連れするわけにもいきませんし。いっそボランティアにかこつけてここを借ります?」
上条「ああ、悪くないかも。子供たちが食べてくれるなら色々試せるし――ん?」トテテテ
男の子A「隙ありぃっ!」バッ
――ブワ
黒子「――ほぇ?」キョトン
上条「イ゛イ゛ッ!?///」バッ
男の子B「おおー、白かぁ。意外、くろこって清楚系だったのな」
男の子A「変なの、足にバンド巻いてら。何に使うんだろ、これ」チョンチョン
黒子「な、ななななッッ///」フルフル
黒子「何をやってますのッ!///」バシッ
上条「俺ェーッ!?」
園長「いくら子供でも、やっていいことと悪いことがあるのよ?」
大吾「そうだよ。もう誰もボランティア来てくれなくなっちゃうよ?」
男の子B「ご、ごめんなさい」シュン
男の子A「……反省してます」ショボン
園長「本当に、申し訳ありませんでした。ちゃんと言って聞かせますので」フカブカ
黒子「そ、そこまで大袈裟にされることではないかと」ブンブン
上条「そうっすよ。実質的な被害者は何も悪くないのに殴られた俺くらい――」
黒子「黙っててくださいな」ドス
上条「お、おぅふ」ゲホ
男の子B「く、くろこたち、もう来てくれないの?」グス
男の子A「あ、謝るから、もうしないから……嫌いにならないで」スン
黒子「こらこら、男の子が簡単に泣くものではありませんわよ」ナデナデ
黒子「大丈夫、嫌ってなどいませんから。さ、顔をお上げなさい」ニコ
上条「…………」フッ
――お手洗い
黒子「このファンデーション、ノリがいまいちですわね」パタパタ
黒子「午後から日差しも強くなるみたいですし、リップはUVに変えておこうかしら」キュ
黒子(……さ、さすがにさっきのは、見られてしまいましたわね///)カァ
黒子(変な下着ではなかったはずですけど……新品ですし)
黒子(見られてしまうなら黒とか赤を穿いてきた方が、大人っぽいと思われたかしら)ハァ
黒子(でも、淫乱だと思われてしまうのも嫌ですし)
黒子(はぁ、わたくし本当、どうかしてますわね)コツン
黒子(他人からどう思われようと一向に構わない、そう思ってたはずなのに)パタン
黒子(あの方に関してだけは……どうにも臆病になりがちで)コツコツ
――ドンッ!
黒子「とっ! こーら、室内を走ったら危ない――」
男の子D「……ッ」クル
黒子「あら? あなた確か」
――タンタン
黒子「ちょ、ちょっと! 待ちなさい!」ダッ
――バタン!
黒子(……寝室のプレート)トン
黒子(……やはり鍵をかけられてますわね)ガチャガチャ
黒子「ですけど、こちらには瞬間移動が」
上条「ちょいタンマ」ポン
黒子「っひゃ――か、上条さん」クル
黒子(びっくりした、気配が全く感じられなかったですの)
上条「今押し入っても、多分逆効果だ。少し落ち着くまで待った方がいい」
黒子「何かあったんですの?」
上条「些細な言葉のすれ違いってとこかな。どっちも悪気はなかったと思う」
黒子「……喧嘩、ですのね?」
大吾「D君は、先月の中頃にあすなろ園にやって来たばかりでね」
大吾「元々ご両親の仲がうまくいっていなくて、話し合いの末にお父さん側が引き取ったみたいなんだけど」
大吾「学園の寮にD君を入れて、一年分の入学費だけ振り込んで、その後全く連絡がつかなくなったらしい」
黒子「……ひどいことをする親もいたものですわね」
上条「あの、お母さんの方に預けるわけにはいかないんすか?」
大吾「失踪が発覚した当初は、そういう話も出ていたみたいだけど」
大吾「養育費のことも含めて諸々ご家庭の事情があるから、不用意に立ち入ることも出来なくてね」
大吾「少しずつ施設に馴染んでいければと思っていたけど、今まで我慢していた物が噴き出てしまった結果だろう」
大吾「何度も顔を合わせていたのに、癇癪の兆候を見過ごしてしまうなんて、教師失格だな」ハァ
黒子「そんなことありませんわ。園長先生も大吾先生も十分やってくださってますの」
上条「俺も黒子と同意見っす。個別での対応にはどうしたって限界あるじゃないすか」
大吾「そう言ってもらえると少しは救われるけど、やっぱ口惜しいな」
黒子「そもそも、喧嘩の原因はなんだったんですの?」
上条「砂遊びの輪に交じってこようとしないDをAちゃんが誘ったんだ」
黒子「……それで喧嘩に? 無理強いしたんですの?」
上条「それだったら、俺たちも止められたんだよ」
大吾「Aちゃんは優しい子だけどちょっと気が強いところがあるから」
大吾「その誘い文句が、施設に来て日も浅いD君には、刺激が強かったんだろうね」
女の子A『一人で遊んでてもつまんないでしょ。か、可哀そうだからわたしが仲良くしてあげる、感謝しなさい』
上条「って感じでさ」
黒子「……ツンデレですの」
上条「言葉通りに受け取っちまったんだろうなぁ。子供に機微を察しろってのも酷な話だけど」ポリポリ
上条「振り返ってみると、午前中、Dはほとんど絡んでこなかったな」
黒子「確かにあまり目立たなかったですわね。わたくしも、昼食をあまり食べていなかったのが気になってましたの」
上条「へえ、よく見てるんだな」
黒子「そういえば、園長先生はどうされたんですの? あの方ならそういったケアもお手の物では」
上条「それが、洗濯を終えた後すぐ車で出かけちまって。買い出しだっていうから、当分戻らないかもしれない」
黒子「あらまあ、タイミングが悪かったですわね」
上条「Dも、まだ捨てられたって事実が頭から離れないんだろうな。処理しようのない感情を持て余してるんだと思う」
黒子「あり得ますわね。ともかく、わたくしが中に入って一度説得してみますの」
上条「黒子。悪いんだけどその役回り、俺に譲ってくれないか?」
黒子「え、上条さんに?」
黒子「それはつまり……わたくしには任せられないと?」
上条「違う違う。そういうんじゃなくて、相性の問題かな」
黒子「相性、ですの?」
上条「男が意固地になってる時に女の子に慰められるってのは、なおさら惨めに感じちまうんじゃないかな」
黒子「んー、いまいち仰っていることがわかりませんの」
上条(まぁ、同じ男じゃないとわかんねえかもな)
上条「……正直言えば私情もちっと交じってるんだけど」
上条「もし無理そうだったらすぐお前にバトンタッチするからさ。な、この通り」パン
黒子「……まあ、そこまでおっしゃるなら」
――カチ
男の子D「……っ!?」ガバッ
上条「よぉ、ちっと邪魔するぜ」ガラガラ
男の子D「な、なんで! ちゃんと鍵をかけておいたはず」
上条「外から開けた。黒子お姉さんに窓ガラスを一枚抜いてもらってな」
男の子D「ぬ、抜いたって、いったいどうやって」
上条「そりゃ、後で本人に直接聞くこったな」
男の子D「……な、何しに来たんだよ」ジリ
上条「そう構えるなって。少し話をしたかっただけだ」
男の子D「あ、あんたと話すことなんかこっちにはない!」
上条「なんだ、でけえ声出せるんじゃねえか。午前中はてんで大人しかったのに」ドサッ
男の子D「か、勝手に人のベッドに腰掛けるなよ!」
上条「Aちゃん、お前に突き飛ばされた後ずっと泣いてたんだぞ?」
男の子D「……ッ」
上条「…………」ジ
男の子D「そ、そんなことをわざわざ伝えに来たのかよ。んな暇があるならみんなの相手してやれよ」
上条「理由がどうあれ、あんま女の子に暴力を振るうのは感心しないな」
男の子D「あ、あんたに説教される筋合いなんてないだろ」
上条「あのなぁ、女を殴るなんてのは男として最低の」
アニェーゼ『はぁっ!? あんたがそれを言いやがるんですか』
上条「」ギク
男の子D「ど、どうしたんだよ。いきなり黙りこくって」
上条「い、いや……別に」
シェリー『私を盛大に殴り飛ばしましたよね、糞痛かったぞゲロ野郎』
上条「……」ダラダラ
オリアナ『あんな強く叩きつけて意識まで飛ばされちゃって、もうお姉さんお嫁にいけないわぁ」
ヴェント『スン(↓)マセーン(↑)! 年頃の娘が野郎にグーパン食らっちまってスン(↓)マセーン(↑)!』
上条「……それはともかく、なんでAを突き飛ばしたりしたんだ?」フッ
男の子D「……あいつは、俺を可哀そうだって言いやがった」
上条「やっぱり、それが許せなかったのか」
男の子D「……同情されればされるだけ惨めになるのに」
男の子D「親に厄介者扱いされて、こんなところに預けられて」
男の子D「……その上、同じ境遇のやつにまで、あんなこと」プルプル
上条「あのさ、Aは悪気があってあんなこと言ったわけじゃないと思うぞ?」
男の子D「だとしても、傷を舐め合ってることには変わりないじゃないか」
上条「へえ、まだ子供なのにそんな言い回しよく知ってるな」
男の子D「ちゃ、茶化すなよ!」
上条「ああ、悪い。でもさ、傷を舐め合うのってそんなに悪いことなのかな」
男の子D「……え」
上条「だって、それって一人じゃ絶対にできないんだぜ?」
男の子D「……、」
上条「たとえわずかでも誰かが自分の支えになってくれて、自分が誰かの支えになれるってのは」
上条「結構幸せなことなんじゃないか?」
男の子D「ひ、一人の方が気が楽なやつだっているだろ!」
上条「……Dは、話し相手がろくにいないとどうなるか知ってるか?」
男の子D「し、知るかよそんなの」
上条「まず、言語中枢と声帯、聴覚の神経の働きが鈍って、咄嗟に言葉を返せなくなる」
上条「のみにとどまらず、いずれは腹筋や喉の筋肉まで衰えてきて声が細く小さくなっていく」
男の子D「……ッ」ゾッ
男の子D「そ、そうやってガキ脅して面白いのかよ。だいたい、あんたみたいなやつに俺の気持ちなんて」
上条「――そんな様子を見るに見かねて、両親は俺を学園都市に入れようと決意したんだ」
男の子D「え……あんたの、話?」
上条「ああ、ここだけの話だ」
上条「俺がおまえと同じか少し下くらいの年齢のときは、周りの連中から滅茶苦茶嫌われてた」
男の子D「……そ」
男の子D「そんな見え見えの作り話、しなくていいよ」プィ
上条「作り話?」
男の子D「そうに決まってる。あんたはどう見てもそういうタイプじゃ」
上条「だったらよかったけど、本当なんだな、これが」フッ
上条「友達は誰ひとりとしていないし、周りの大人には疫病神呼ばわりされてる有様でさ」
男の子D「や、疫病神? 大人まで? どうしてそんな」
上条「……だよな、普通疑問に思うはずだよな。どうしてみんなは俺を嫌うんだろうって」
上条「で、そのうちに原因は何となく理解できた。……けれど」
上条「問題を解決する方法なんてのは、どうしたって見つからなかった」
上条「文字通り腫物のように扱われてるうちに、疲れちまったんだろうな」
上条「俺は、全てを諦めちまった。誰かに近づかなければ、余計に傷つかずに済むから」
男の子D(……俺と、一緒だ)
上条「幼稚園じゃあ飯はいつもひとりで食べてた」
上条「担任の先生ですら俺を恐れてろくに声をかけてきやしなかった」
上条「お遊戯の時間なんて苦痛以外の何物でもない」
上条「自分がひとりぼっちだってこと、嫌でも突きつけられるから」
上条「楽しんでいる声を聞くのが苦痛で、ひそひそ話されるのがもっと苦痛で」
上条「ただ部屋の隅の方で縮こまって、じっと息を殺して、ひたすら時間が過ぎるのを待って」
上条「窓の外に意識を飛ばす。そんな毎日を繰り返してた」
上条「気が休まったのは、昼寝の時間くらいなもんさ」
男の子D「……な、何で」
上条「うん?」
男の子D「今のあんたは何で、そんなに明るいんだよ」
上条「……そうだなぁ。正直あまり実感はねえんだけど」
上条「おそらく周りの連中のおかげだったんだろう、とは思ってる」
男の子D「……なにそれ、ずいぶん適当なんだね」
上条「はは、返す言葉がねえな」
上条「でも、学園都市に預けた両親については、当時は恨んでいたと思う」
上条「まだ甘えたい盛りに親と離れて暮らすのは、やっぱし寂しいもんだからな」
上条「だから、ここにいる子たちの気持ちも、ちっとはわかるつもりだ」
男の子D「…………」
上条「俺は――なんていうか、これまで人間の汚い面、醜い面もいっぱい見る機会があったからさ」
上条「いつかおまえの親が迎えにきてくれるかも、なんて無責任なことを言うつもりはさらさらねえ」
上条「けどさ、俺から見てもここの園長さんや大吾先生は信頼できそうな人だし」
上条「ここにいる子たちだって、みんないい子たちだと思うぜ。もちろん、Aちゃんも」
男の子D「…………」
上条「あすなろ園には、今は元気そうに見えても、昔はそうじゃなかった子だって一杯いるはずだ」
上条「いや、きっと今だって実の親のことを忘れられない子がほとんどだろうな」
上条「だから誰よりお前の気持ちがわかるし、だから放っておけない」
上条「たとえ不器用で、思いをきちんと伝えきれてなくたって」
上条「お前の力になってやりたい気持ちに偽りはないと思う」
上条「そんな好意を無碍にしちまうのは、誰よりお前自身が、一番堪えてるんじゃないか?」
上条「俺はいったい何をやってるんだろう。そんなふうに思ってる自分が、どこかにいやしないか?」
男の子D「……お、俺は」グ
上条「……まっ、いきなりあれこれ言われてたって簡単には踏ん切りつかないよな」
上条「だから、ここから先は俺の独り言だ」
男の子D「……?」
上条「いつかまた、新しい子があすなろ園にやって来たとき」
上条「きっとその子も苦しんでる。今のお前みたいに」
上条「……たとえばDなら、その子になんて声をかけるんだろうな?」
男の子D「――――ッ!」
園長「今日は本当にありがとうございました」ペコ
黒子「いえいえ、こちらこそお世話になりました」ペコ
大吾「子供たちもお二人とたくさん遊べて大満足だったんでしょうね。みんなぐっすり眠ってしまって」
大吾「本当なら、お別れの挨拶もしたかったと思うんだけど」
黒子「また近い内に伺いますわ。次回は子供たちも交えて料理教室を、と上条さんと相談してまして」
園長「あら、素敵ね。私たちも交ざっていいのかしら?」
上条「もちろん、大歓迎っす。打ち合わせについては後日にこちらからメールで送ります」
上条「……」チラ
園長「そんなに気にしないでも大丈夫ですよ、上条さん」
上条「え……」
園長「D君には、後で私からもお話してみますので」
上条「……す、すみません。もしかしたら俺、余計なことしちまっただけかも」ポリ
園長「そんなことはありませんよ。真摯な心は年齢にかかわらず、ちゃんと伝わるものですから」フフ
上条「……どっと疲れたな」
黒子「……そうですわねぇ」
上条「保育って、やっぱり一筋縄じゃいかねえんだなぁ。それに、体力的にも精神的にもタフじゃないと」
黒子「これをほぼ毎日だなんて、園長先生は本当、尊敬に値するお方ですわね」
上条「今までにもDみたいなケースがあったんだろうな。全然動じてなかったし」
黒子「孤児全員の教師にしてお母様ですもの。肝っ玉が据わってなければやっていけませんわ」
上条「はは、そりゃそうだ」
黒子「……あの」
上条「ん、どした?」
黒子「本当の話なんですの?」
上条「何の話だ?」
黒子「……あなたの、幼少期のこと」
上条「……聞いてたのか。道理で、あの後よそよそしかったわけだ」
黒子「ごめんなさい。あなたがどんなふうに説得するのか、気になってしまって」
上条「いや、別に構わねえよ」
黒子「それで、どうなんですの?」
上条「んー、まー、本当らしい」
黒子「まるで、他人事みたいな仰りようですわね」
上条「当たらずとも遠からずだな」
黒子「……どうして、今まで話してくださらなかったんですの?」
上条「いやそりゃ、お前にだって触れられたくない過去の一つや二つあるだろ? おねしょしたとか、誰かに怪我させちまったとか」
黒子「そんなこととは比較にならないでしょう」
上条「そ、そうかな」
黒子「気を遣われるのが嫌でしたの? それとも、わたくしがその程度のことで上条さんを遠ざけると?」
上条「いやさ、実際園児の俺は遠ざけられていたわけで、あまり話す気には」
黒子「……信用していただけなかったんですのね」
上条「おいおい、むくれるなって」
黒子「むくれていませんの。上条さんに頼られない自分に不甲斐なさを感じているだけですの」
上条「い、いやだから。そもそもが、さっきの話自体虚言みたいなもんなんだよ」
黒子「……虚言? 先ほどの話が方便だと仰るんですの?」
上条「少なくとも、今の俺にとってはな。ちょいと話がややこしいんだよ」
黒子「今のご時世、本当かどうかなんて調べればすぐにわかりますのよ?」
上条「……はぁ、放って置いたら本当に調べかねないな」
黒子「さすが、わたくしのことをよくご存知ですわね」
上条「……わかった、認めるよ。確かにそういう事実はあった」
黒子「ほらごらんなさい! 適当なこと言って誤魔化したところでわたくしは全部」
上条「ただ、俺はそのことを歯牙にもかけちゃいねえ。これも事実だ」
黒子「お見通し――――なんですって?」
上条「より正確に言うと、そうやって扱われていたことにどういった思いを抱いていたかを、思い出せない」
黒子「ご、ご冗談を! それほどのことがあって記憶に残らないなんてことあるはずが」
上条「だから――肝心なその記憶が、なくなっちまったんだよ」ポリポリ
黒子「……な」
上条「むしろ、隠しておきたかったのはそっちの方でさ」
黒子「何を、仰ってますの?」
上条「だから、さっきDに言ってやったことは全て伝聞なの。なんだよ、なんです三段活用」
黒子「で、伝聞って……」
上条「たとえば、幼少期の境遇を両親から聞いたり、当時の事件を自分で調べたりして」
黒子「事件?」
上条「以前、俺の不幸体質のことについて少し説明したろ?」
黒子「え、ええ……。確か生まれつきという話でしたわね」
上条「ああ。幼稚園に通い始めてから間もなく、見知らぬ男に背中を刺されたことがあったらしいんだ。今もその傷跡が残ってる」
黒子「……ッ」
上条「成長した今でこそある程度の不幸は跳ね返せるようになったけど、さすがに幼稚園児じゃ大人から逃げるのは無理だよな」
上条「そうやって怪我やトラブルが絶えなかった俺に巻き込まれるのを恐れて、みんながみんな離れてったってわけ」
上条「大人だって刃物で刺されちまったら普通に死ねるからな。無理ねえよ」
上条「とはいえ、そう考えるのは高校生で、記憶の消えている俺だからで」
上条「幼い上条当麻なら、むしろこう思ったんじゃないか、ってのを想像してDに伝えたわけ」
上条「だから、嘘とまでは言いきれない。俺の本心に違いはないから」
上条「でも、実体験の記憶が失われてる以上は虚言とも取れる。ややこしいけどそんな感じだ」
黒子「……に、にわかには信じがたいですが、仰ることは理解できましたの」
黒子「ですけど、記憶喪失? いったいいつ、何が原因で?」
上条「今年の梅雨くらいだったかな。ちっと厄介事に関わって、何とか事は収まったんだけど、記憶を司る脳細胞を破壊されちまった」
黒子「脳細胞って、それこそ質の悪い冗談じゃ」
上条「なーいーんーでーすーの」
黒子「で、ですけど、今もこうして普通に話せているじゃありませんの」
上条「黒子も脳医学関係は領域外か。俺が失ったのは主に思い出記憶ってやつみたいなんだ」
上条「知識や会話の仕方、体の動かし方なんかは特に問題ない。ただ――」
上条「自分が誰なのか、とか、学園にいた理由とかは、全く思い出せなかった。目が覚めたら外国にいたって感じだ」
上条(……本当は病院のベッドの上だけどな)
黒子「……そ、そのようなことが」フルフル
上条「困ったことにマジなんだよ、これが」
上条「何しろ、自分を生んでくれた両親の顔すら思い出せねえってんだから」ハハ
黒子「か、上条、さん」ブワ
上条「って、ちょお! なんでお前が泣きそうになってんだよ!」
黒子「だ、だって。そんなこと、思ってもみなくて」グシュ
上条「ま、待てまてまて! まじでそれは勘弁――」
――ムギュ
上条「え、お、く、くく、黒子さん!?」
黒子「……ごめん、なさい、興味本位でこんな、こんなこと」ポロポロ
上条「お、おいおい、大袈裟すぎるだろ! 泣くなんて勝気なお前らしくもねえ」
上条「そ、そうだ、少し前に両親と会う機会があったんだ」
黒子「……お父様と、お母様に?」スン
上条「ああ、実際に会ってみても戸惑うばかりで、まぁそれでも、思い出せないことに悲しくなったりはしなかったな」
上条「でさ、父さんも母さんもすげえいい人そうだったんだ。それに、親父が『俺の息子だっ』て認めてくれてさ」
上条「うん、まぁ、あんときは自分のルーツがちゃんとあるんだってわかって、正直ほっとしたかな」
黒子「……上条さん」
上条「当事者以外にこのことを話したのは、今回が初めてだ。親にさえ伝えてない」
黒子「……ッ」
上条「なのにそんな辛気臭い顔されたら、もう誰にも話そうなんて思えなくなっちまうぞ?」
黒子「…………わ」
黒子「わかり、ましたの」ゴシゴシ
上条「ま、世の中何がどう転ぶかなんてわからないさ。もし仮に」
上条「上条当麻が記憶を失っていなければ、白井黒子とは出会えなかったのかもしれない。そうだろ?」
黒子「――――」
上条「もし、廃ビルでの一件でお前を助けられなかったら。そう思うと、今の状況は満更でもねえよ」
黒子「……ほ、本当、ですの?」オズ
上条「もちろん。ここんところ、お前のおかげで毎日が充実してるよ」
上条「昔の不幸を笑って話せるのも、今が幸せだからだと思うし」
上条「そんなわけでさ、黒子にはすごく感謝してるんだ。いや、感謝だけじゃなくて――」
――俺は白井黒子って女の子が、好きなんだと思う。
黒子「……ッ!?///」
上条「……って」
黒子(い、今のは、聞き違いでは……)
上条「……はぁ、やっと出てきやがりましたよ///」ポリ
上条「今まで何度言おうとしても、どうしても喉に引っかかっちまうんだよな」アーアーホンジツワセイテンナリ
上条「ったく、どんな魚の骨よりたちが悪いっての」チラ
黒子「……///」ポー
上条「あ、まぁ、迷惑だと思ったらいつでもフってくれ。俺の盛大な勘違いってことも」
黒子「……あ、あの、その///」パクパク
黒子(……ダ、ダメですの! 落ち着くんですの!)スーハースーハー
上条「く、黒子さん?」
黒子「はほっ、ほ、本当によろしいんですの? わ、わたくしで?」
上条「そ、それを訊くってことは……OKってことか?」
黒子「…………わ」
上条「……お?」
黒子「わ、わたくしはまだ中1ですし、胸の大きさも微々たるものですし!」
黒子「こういう性格ですからきついことも平気で口にしてしまいますし友人たちと喧嘩もしょっちゅうですし!」
黒子「ジャッジメントで以前のように急な呼び出しがかかったりとかしてものすごいご不便やご苦労をお掛けしてしまうやも――」
上条「やめやめ。つか、わざわざ短所ばかり並べなくても」ハハ
上条「俺の知ってる黒子は、自分に厳しくて、後輩とは思えないくらい頭の回転が早くて」
上条「曲がったことが許せなくて、大の男をあっという間にのしちまうくらい強くて」
上条「そのくせ分け隔てない優しさも持っていて、料理上手で」
上条「とってもお洒落で、少し意地っ張りなところもあるけど、そこがまた可愛らしくて」
上条「まぁ、なんつうか、何気ない仕草一つ取っても、俺の視線を丸ごとかっ攫っていくような女の子なわけですよ」
黒子「か、かかか、上条、さん///」
上条「だから、お前が俺の彼女になってくれたら、すげえ嬉しいなーとか言ってみたりして」
黒子「……ぁ///」ボシュッ
黒子(……ダ、ダメですの、抑えてないと顔が崩れてしまいますの///)バッ
上条「って、やべえな、急に恥ずかしくなってきた。か、体がむずむずしちまう///」クル
黒子「ちょっ、ちょっと! どちらへ!」
上条「も、もし俺と交際してくれるんなら、今度会った時下の名前で呼んでくれ。それがOKのサインってことで――――じゃな!///」タッタッタッ
黒子「――まッ!」
――ヒュン
上条「……へ? ――どっわっ!」ムギュ
――ドサッ
上条「てて、あ、危ねえだろ! いきなり進行方向に転移するなんて」
黒子「……ご、ごめんなさい。……当麻、さん」
上条「……ッ」
黒子「こ、こここれで、契約成立ですわね///」ピト
上条「ちょ、く、黒子、くっつきすぎっつうか///」ググ
黒子「今引き剥がすのは禁止ですの! 見れた顔じゃないですの!///」シッカリ
上条「ほ、本当に、いいのか? よく考えないで」
黒子「……なんですの? 中途半端な気持ちで口にしたんですの?」
上条「そ、そんなわけねえだろ。これでも一か月近く悩んでたっつうの」
上条「だけど、俺はやっぱり不幸体質な男で、そこはどうしたって変えられないわけで――ッ」ピト
黒子「今さら見当違いのことを言うのは、この口ですの?」ツツ-
上条「……く、黒子」
黒子「あなたは知るべきですの。今の告白が、わたくしをどれほど浮かれさせているかを」
――トクントクン
黒子「心臓は嘘をつきませんわ。こうしてあなたに抱き締められているだけで、十二分に幸せなんですの」ピト
上条「……ッ」
黒子「……黒子は、黒子は」
黒子「当麻さんのことを、心からお慕いしておりますの」
上条「……へ」
上条「へへ、そっか」
上条「……今日は人生最良の日ってやつだな」ギュ
上条「……当麻さん、か。いい響きだなぁ」
黒子「も、もう、あなたってばほんと大袈裟ですのっ」
上条「今日くらいはいいのっ。好きな娘と名前を呼び合えるなんて、最高じゃねえか」
黒子(……好きな娘///)キュン
黒子「……あ、あの」オズオズ
上条「うん?」
黒子「も、もう一度、お願いしてもよろしいですの?」
上条「もう一度って……」
黒子「その、告白を」ドキドキ
上条「ええ? ああいうのは一回こっきりが普通なんじゃ」
黒子「だ、ダメですの?」モジモジ
上条(……か、可愛い///)
上条「ま、まぁ、黒子の頼みなら仕方ねえな」
上条「……す、好きだ、黒子」
エコー(――好きだ――好きだ――好きだ)
黒子「……ッ///」プルプルプルプル
上条「……こ、こらこら! 自分で頼んでおきながらなぁに照れてんですかっ!///」
黒子「……あ、あら、当麻さんの胸元に変な虫がついてますの」
上条「へ、胸元? ど、どこだ?」バッ
黒子「――――んっ」クン
――チュ
上条「」
黒子「……ッ///」バッ
上条「……お、お前」
黒子「……い、一応ファーストキスなんですからね」
上条(ほ、ほとんど不意打ちだったじゃねえか)ドギマギ
黒子「……だ、黙ってないで、なにか気の利いた感想はないんですの?」
上条(か、感想って言われてもな)
上条「……キスした相手の顔をまともに見れない黒子さん可愛――いでででッ!」ギュウウ
黒子「んもうっ、少しは真面目に答えてくださいなッ!///」バッ
上条「わ、悪い。でも、あれだな」
黒子「な、なんですの?」
上条「背伸びしながらのキスって、うまく説明できないけどなんかいいよな///」
黒子「……聞いたこちらがバカでしたの」
――後日
黒子「とぅんたららん、とぅとぅとぅ~♪」クルクルクル
寮監「ご機嫌だな、白井」
黒子「あっ、寮監様。お戻りでしたのね」
寮監「ああ、頼みは引き受けてくれたようだな。あすなろ園から礼状が届いたぞ」
寮監「お陰様でD君もすっかり馴染みましたとのことだ。わたしにはなんのことかさっぱりわからんが」
黒子「ええ、心当たりはありますの」
黒子(後で当麻さんにメール送っておかなきゃ。きっと喜んでくれますわね)
寮監「ところで、何かわたしに言い忘れていることはないか?」
黒子「え? ええと、門限はきちんと守ったつもりですけれど」
寮監「……ほう?」
黒子「も、もちろん寮監様が帰省なされている時もですわよ?」
寮監「なるほど、なるほど」ウンウン
黒子(……な、なんでかしら? 嫌な予感が止まらないですの)
寮監「……あのチケットを渡すとき、ちゃんと伝えたはずだな?」
寮監「あそこはわたしの知り合いがやっているレストランだと」
黒子「……え」ゾ
寮監「よりによってわたしが紹介したレストランで男とデートとは、いい度胸だ」
黒子「……あ……いえ、でも、それは」ダクダク
黒子「あ、そうですの! 用事を思い出しました――」ガシ
寮監「規則は、守るためにあるんだ。破るためのものではない」
寮監「よもや、言い訳はあるまいな」グググ
黒子「ま、待ってぇ――」
――ゴキッ!
――レストラン
従業員『いらっしゃいませ』スッ
黒子『一週間前に電話で予約しました白井黒子と申しますの』
従業員『白井様……はい、承っております。どうぞこちらへ』
上条『……オイオイ、ずいぶんと本格的なレストランだな』
黒子『最近お会いできる時間が少ないですし、たまにはこういうのも悪くないでしょう』
従業員『お二人は未成年でございますね。お飲物は他のジュースに変更することもできますが』
黒子『いえ、コースのままでお願いしますの』
従業員『かしこまりました』
上条『つうか、中学生がシャンパンなんて飲んでいいのか?』
黒子『高校生だってダメですの。心配しなくともアルコールは1%未満と書いてありますわ』
上条『ああそうだ。食事の前に見せたいものがあるんだけど』
黒子『あら、もしかして何かプレゼントですの?』パァ
上条『プレゼントっていうか、事後報告だな』スッ
黒子(……え)
黒子『……な、なんで当麻さんが、風紀委員の腕章を?』
黒子(わたくしのは……、カバンにありますわね)
上条『このたび第四十九支部で新人研修することになりました、上条当麻っす』ビッ
黒子『な、なんですって!?』
上条『まだ経験不足で何かとご迷惑をかけることもあると思いますが、ご指導のほどよろしくな、先輩』ニッ
上条『っとまぁ、まだ研修の段階だし、希望を出しても黒子の一七七支部に配属されるかはわかんねえけど』
黒子『さ、サプライズですの』
上条『ほら、お前最近ずっと会える時間が少ないってこぼしてたし』
黒子『そ、それはっ……その……こ、ここまで望んでいたわけでは』モジモジ
上条『あれ、もしかしてありがた迷惑だったか?』
黒子『と、とんでもない! すごく、嬉しいですの///』
上条『んなら良かった。じゃあ――』
従業員『大変お待たせいたしました。差支えなければ料理の方、初めてもよろしいですか?』
黒子『は、はい』
従業員『それでは、前を失礼いたします』
――キュポンッ――――シュワワワワア
従業員『では、ごゆるりとお楽しみください』ペコ
上条『さてと、何に乾杯しようか』
黒子『んん、そうですわね』
黒子『――二人の三年後に乾杯といったところでどうですの?』
上条『三年っていうと、お前は高等部、俺は社会人か大学生か。新たな転機にってわけだな』
黒子『そ、それもあるんですけれど』
黒子『お、大人の恋愛ができるまで、ちゃんとお付き合いできますようにって///』ポッ
上条『あ、な、なるほどな///』
黒子『も、もう始めますわよっ』
黒子『し、白井黒子と上条当麻の三年後に――』
上条&黒子『乾杯っ』tin
――後日談
黄泉川『ふうん、あの坊やがそんなことをねぇ。それで白井がそれを信じたと』ニヤ
黒子『なんだか、含んだような言い方ですわね』チラ
黄泉川『スキルアウトの暴動直後にふらっと職員室に来てさ、風紀委員のことについて聞かれたジャン』
黒子『……え』
黄泉川『忘れたのか? 本来ジャッジメントの研修は修了するまでに数か月かかるじゃん』
黒子『……あっ』
黒子(そ、そうでしたわ。誰かの推薦があったからって、すぐに入れるわけじゃ)
黄泉川『きっと会うたびに怪我してるお前を見て、心配になったんジャン?』
黒子『で、ですけど、そんなこと一言も』
黄泉川『ま、そこでジャッジメントを辞めろって言わないあたりが大人っていうか、あの坊やらしいけどね』ニヤ
黄泉川『白井の意志は尊重したいから、せめて危ない時には傍で守ってあげられるようにって考えたんジャン?』
黒子『……もぅ、当麻さんったら』
黄泉川『無能力者っていうから通せるかは微妙なとこだったけど、あの体術なら問題なさそうだ』
黒子『体術……』
黄泉川『ここんとこ、知り合いの道場に通い詰めていたらしいよ。確か、天草式とかなんとか』
黄泉川『今ならわたしとも結構いい勝負するジャン』
黒子『そ、そこまで強くなってたんですの?』
黄泉川『ありゃ今どきの男子にしちゃ、感心なくらいにストイックだね』
黄泉川『教育者の立場でこういうのもなんだけど、あんたたちみたいなのは見てると応援したくなるジャン』
黄泉川『ま、ああいう男の彼女ってのは、別の意味で大変そうだけどね』
黒子『……それは確かに、否定できませんわね』クス
黄泉川『ほぉ、それは両方とも、かい?』
黒子『――――ええ。両方とも、ですの』ニコ
――the end
469 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/29 09:02:07.45 UyHAEZFc0 343/344これにてanother完結です
上条さんが黒子と付き合ったら十中八九ジャッジメントに入っちゃうだろうなと思ったのがそもそもの始まり
まさかこんなに長く続くとは思わなんだ
VIPから引き続いて多くの乙、支援のほどありがとうございました
また機会がありましたらノ
478 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/29 11:04:10.93 UyHAEZFc0 344/344これ以上の上黒はエロパロになりそうなので自粛しますた
やるとしたら上条当麻(学園教師)上条黒子(高三)がぎりぎりか
佐天サーンもオルソラも色々と書けそうですね
言葉遣いさえ難しくなかったらローラも書いてみたかったっ


その上で、黒子の事そんなに好きじゃ無いって思ってたのに、
このSSのおかげで「可愛い」と思えるようになるとは、思いも見なかったわ。