国王「うむ。 今我が国は貴金属が不足していてな」
国王「それゆえ魔界の銀を輸入し始めたのだが……」
勇者「質に問題が?」
国王「いや、逆なのだ。 こちらではありえないほど純度が高い」
勇者「……」
国王「魔族がどのようにして銀を手に入れるのか……その過程が知りたい」
国王「つまり勇者よ、そなたに銀鉱山の採掘・加工法の調査をしてもらいたいのだ」
元スレ
勇者「銀鉱の調査ですか」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1368806285/
勇者「ありがたいお話ですが……」
勇者「それなら私よりも測量や観測に長けた者を送ったほうがよいのでは?」
国王「詳細な情報でなくとも良い」
国王「それに魔界ほど別次元な場所となると、知識より経験のほうが役立つであろう」
国王「お前以上の適任は思い浮かばんよ」
勇者「……」
勇者「わかりました。 必ずやご期待に応えましょう」
国王「うむ、期待しておるぞ」
国王「……それともう一つ」
王女「おお! お前が勇者か!噂より小柄なのだな!」
国王「この子も連れて行ってほしい」
勇者「な、なんですって!?」
勇者「王族の方を魔界に連れて行くのですか!?」
王女「うむ。 苦しゅうないぞ」
国王「……平和な時代で育ったせいか少々わがままなやつでな」
国王「一度遠くに行ってみたいと言ってきかんのだ」
勇者「危険過ぎます!」
国王「お前の隣より安全な場所などなかろう」
王女「そういうことだ! よろしく頼む!」
勇者「ちょ、ちょっと待ってください!」
勇者「王様は私を買いかぶり過ぎです!」
勇者「王女様を連れて魔界を歩くなど……」
王女「測量士が必要なのだろう? わたしだって記録を付ける程度ならできる!」
国王「もちろん相応の報酬も出す」
勇者「そういう問題ではありません!」
国王「必ず期待に応えるのだろう?」
勇者「う……」
勇者「……危険だと判断したら引き返します」
国王「うむ、それで構わない」
王女「わたしは危険な旅でも構わぬが……」
国王「成果を期待……いや、確信しておるよ」
勇者「では……よろしくお願いしますね」
王女「うむ!」
―城下町―
王女「そんなに薬草が必要なのか?」
勇者「魔界の鉱山ですからね。 毒ガスが出る可能性も高い」
勇者「複数種の薬草を持っておけばそれだけリスクを減らせるのです」
王女「ううむ……そんなものなのか」
勇者「それより……」
勇者「買い物なら私一人で済ませますよ?」
勇者「王女様が街を出歩くのも不自然でしょう」
王女「それなら問題ない! ここにはよく城を抜けだして来るからな!」
勇者「……そうですか」
王女「問題なのはその言葉遣いだ!」
勇者「言葉……ですか?」
王女「勇者とは王族以上に高貴な存在だと聞いた!」
勇者「そんなことはありませんよ」
王女「とにかく! これから旅をするのにそれでは息が詰まる!」
王女「わたしには敬語禁止だ!」
勇者「……それはご命令ですか?」
王女「お願いだ!」
勇者「……」
勇者「わかったよ」
王女「うむ!」
勇者「……よし、こんなところかな」
王女「準備が終わったのか! いよいよだな!」
勇者「思ったより早く終わったから……少し時間を潰さないと」
王女「時間? なんのだ?」
勇者「駅馬車だけど?」
パカラッ パカラッ
勇者「うわっと! ……くそ、言うことを聞いてくれよ」
王女「はっはっは! 乗馬は苦手なのだな!」
勇者「普段は徒歩だからなあ……」
王女「そうら! グズグズしてると置いていくぞ!」
勇者「……それにしても」
勇者「ぽーんと2頭も貸してくれるとは……さすが王女」
王女「はっはー! 馬車など遅くて待ってられんわー!」
王女「ん? なにか飛んでいるな」
勇者「あれは……」
魔女「おや……勇者君じゃないか」
勇者「魔女さん、こんにちは」
魔女「珍しいな。 君が馬を使っているなんて」
勇者「えーと……」
王女「人だ! 人が箒で飛んでいるぞ!」
魔女「おや、これはこれは……」
魔女「誘拐事件かな?」
勇者「違います!」
魔女「へぇ~……調査にお守りとは大変だ」
王女「子供ではない!」
魔女「ふふふ、すまないね」
魔女「しかし魔界の銀鉱山なんか聞いたこともないな」
勇者「え、そうなんですか?」
勇者「でも国が輸入できるほど出回ってるし……」
魔女「たしかに……銀は用途が多い割に魔界だと供給が足りている」
魔女「不思議だねぇ」
王女「不思議だから調べるのだ!」
魔女「ふふふ、骨の折れる仕事みたいだね。頑張りなよ」
勇者「ひとごとだと思って……」
パカラッ パカラッ
勇者「お、見えてきた」
勇者「ゲートのある神殿だ」
王女「城からそれほど遠くない場所にこんなものがある……」
王女「うむ! 平和な時代になった!」
魔女「……」
勇者「魔女さん?」
魔女「そうだった」
魔女「城に用事があったんだ」
王女「うむ?」
魔女「ふふふ、逆方向に来てしまったよ」
王女「おぬし、もしかして……」
王女「馬鹿なのか?」
魔女「ふふふ」
魔女「それでは私はこの辺で」
勇者「ええと……それじゃあまた」
王女「うむ! 馬鹿は嫌いじゃないぞ!」
関所門兵「おや、王女様」
関所門兵「城を抜けだしてこんなところまで来たんですか?」
王女「今日は仕事だ!」
勇者「国の調査隊……になるのかな?」
勇者「あ、これ国王の文書です」
関所門兵「あ……あなたは……」
関所門兵「どうぞお通りください」
王女「おお! 文書も読まずに……これが顔パスか!」
関所門兵「馬はここに置いておきますか?」
勇者「あっ! そういえば考えてなかった!」
王女「うむ、よろしく頼むぞ」
勇者「数日かかるかもしれないし、置きっぱなしは可哀想じゃないか?」
王女「ふむ? 世話もこいつにさせればよかろう」
関所門兵「かしこまりました」
勇者「2頭も大丈夫ですか?」
関所門兵「お任せください」
王女「うむ! 任せた!」
勇者「それじゃあ入ろうか」
王女「よし! 初ゲート!初魔界だ!」
王女「うぇ……気分が悪いぞ……」
勇者「転移酔いだね。 俺もよくそんな風になったよ」
王女「ここが魔界……!」
王女「うぅむ、ただの暗い荒野という感じだ」
王女「これからどうするのだ?」
勇者「この先に街があるから」
勇者「まずはそこで鉱山の場所を聞こう」
ワイワイ ガヤガヤ
王女「おお……!」
勇者「ゲート付近の街だからね。いろんな人がいて賑わってる」
赤髪の男「ない……あれがない……」
王女「おお! 魔族がいるぞ!」
勇者「あ……うん」
赤髪「ない……ない……」
王女「そこの者! どうかしたのか?」
赤髪「旅のお方ですか? 実は宝石を落としてしまって」スッ
王女「宝石? 大変だな!手伝おう!」
勇者「……俺も手伝うよ」
赤髪「ありがとうございます。 1割はお礼として必ず……」
王女「見くびるでない! そんなもの必要ないぞ」
王女「ううむ……なかなか見つからないな」
勇者「人の多いところだし、誰かが拾ってしまったかもね」スッ
赤髪「そうですか……仕方ないですね」
赤髪「それでは私は帰ります……ありがとうございました」
王女「?? 諦めの早いやつだな」
勇者「手も早かったけどね」
勇者「はいこれ」
王女「!!」
王女「わたしの宝剣ではないか!」
王女「ど、どういうことだ?」
勇者「スリだよ」
王女「なんだとっ!?」
王女「なぜ成敗せん! すぐに追うぞ!」
勇者「騒ぎを起こしたら聴きこみがやりにくくなるよ?」
王女「なっ!」
王女「……」
王女「魔界ではよくあること、なのか?」
勇者「まあそうかな」
王女「ううむ……わたしの行動が軽率だったのか……」
勇者「そんなことはないよ」
勇者「本当に困っていたのかもしれないし」
勇者「……落し物を探しているのに靴ばかり値踏みするように見てたけど」
王女「ううむ……」
勇者「……」
勇者「王女」
王女「なんだ?」
勇者「聴きこみといえば酒場だけど」
王女「さかば! いくぞ!」
勇者「よしきた!」
バーテン「銀鉱山ですか?」
勇者「うん、それを探してるんだ」
王女「おお! ルーレットがあるぞ!」
バーテン「聞いたことありませんね……」
勇者「?? じゃあ銀はどこから来てるんだ…?」
王女「わたしもやっていいのか? さすが魔界だな!」
バーテン「輸送業をしている方に聞いてみては?」
勇者「たしかにそうだね。 どこに行けば会えるかな?」
バーテン「丁度そこでルーレットを楽しんでますよ」
王女「赤! 赤がいい!」
翼竜士「ふふん嬢ちゃん。 熱くなったら勝てないぜ?」
王女「うがーっ! 負けた!」
翼竜士「へへ、今日はついてる」
勇者「ちょっといいかな?」
翼竜士「あん? なんだお前……」
翼竜士「!! あ、あんたは!」
勇者「銀の取引ってやってる?」
翼竜士「……なるほど。 あそこの調査か」
勇者「あそこ?」
翼竜士「銀の出処を探してるんだろ?」
翼竜士「あるぜ。 毎回とんでもない量の銀を売ってくれる村が」
勇者「ほんとう!? そ、それはどこに!」
翼竜士「そうだな……タダってわけにもいかねえな」
王女「おお……! 情報で金をとるのか」
翼竜士「こいつで一勝負といこうか」
王女「おお?」
勇者「ルーレットか……あまり気が進まないけど……」
翼竜士「せっかく来たんだ。 楽しまないと損だろ?」
王女「ようし! 受けて立とう!」
翼竜士「お、なんだあんたの連れかよ」
翼竜士「まあ人数は多いほうが面白いかもな」
勇者「うーん……面倒なことになってきたぞ……」
勇者「くろ! 黒だ!!」
王女「待て! わたしは赤がいい!」
翼竜士「俺は赤だ」
王女「じゃあ黒だ!」
翼竜士「なにィ!?」
勇者「黒! 来い黒!」
ディーラー「赤の9番です」
翼竜士「っしゃあ!」
勇者「ぐぬぬ……」
王女「ぐぬぬ……」
勇者「くそっ! 次は赤だ!」
翼竜士「よし、じゃあ俺は黒で」
勇者「今度こそ!」
ディーラー「0番です。 色指定のみなので私の総取りですね」
勇者「ぐぬぬ……」
翼竜士「ぐぬう……」
王女「……見切った」
勇者「うん?」
翼竜士「次は俺からか? そうだな……黒だ」
王女「……赤の21番!」
翼竜士「お? 熱くなって1枚賭けか?」
勇者「よし、赤の21番に」
勇者「俺の有り金全部だ!」
翼竜士「!!」
王女「!!」
ディーラー「あ、赤の21番……です……」
勇者「よしっ!」
王女「や、やったぞ!」
勇者「これは……俺の勝ちでいいよね?」
翼竜士「ど、どういうことだ!! なんで出目がわかった!」
勇者「俺も驚いてるよ。 一体どうやったんだ?」
王女「うむ! ルーレットに僅かな歪みを見つけてな!」
王女「あそこに入る確率は他より1.5倍ほど高いと判断したのだ!」
勇者「1.5? それじゃあ……」
王女「うむ! 外れる確率のほうが圧倒的に高かったな!」
王女「はっはっは! ラッキーだ!」
翼竜士「まじかよ……」
サイクロプス「お客さァん、少し時間いいですかい?」
ディーラー「し、支配人……!」
「なんだ? イカサマか?」
「やつが出てきたぞ!」
「サイクロプス支配人だ!」
翼竜士「こいつが噂の……」
勇者「サイクロプス支配人、細工はしてないよ」
サイクロプス「まァ、それは向こうでゆっくり話しましょうや……」
勇者「……わかった」
王女「お、おい! わたし達はなにも……」
勇者「大丈夫。 ここで待ってて」
王女「おおう……勇者が連行されてしまった……」
ディーラー「大丈夫ですよ」
王女「えっ?」
サイクロプス「ここが従業員室だ」
勇者「……机すら無いじゃないか」
サイクロプス「動きやすいし音も漏れない。 いいところだぜェ?」
勇者「酒場の中に大きなルーレット」
勇者「トラブルを起こすことが目的なのか?」
サイクロプス「……勇者。 あんたのせいで」
サイクロプス「殴るのに理由がいる時代になっちまった」
勇者「天界も地上もそれが普通なんだ」
勇者「戦闘以外の楽しみを見つけてくれよ」
サイクロプス「あァ?」
サイクロプス「そんなもんあるわけねェだろ!」
サイクロプス「おらッ! とっとと剣を抜きなァ!」
勇者「……そっちも、その金槌は使わないんだろ?」
サイクロプス「……」
ニヤリ
サイクロプス「相変わらず口だけは達者だな」
――
勇者「あいたたたた……死ぬかと思った……」
王女「全く! あの巨体と殴りあうなんてどうかしておる!」
勇者「薬草持ってきてよかったよ……」
王女「こちらに非はないのだ。 相手にしなければいいものを」
勇者「ひどいなあ、王女の代わりに行ったのに」
王女「嘘をつけ! あのディーラーが言っていたぞ!」
王女「支配人とは知り合いだと!」
勇者「あはは……」
勇者「まあ、お互いにいいガス抜きになったよ」
勇者「あれ? あの人は?」
王女「あの翼竜士のことか? もう行ってしまったぞ」
勇者「えぇ!?」
王女「安心しろ! 村の場所は聞いておいた!」
勇者「ほんとう!? 助かるよ」
王女「ふふん、わたしに感謝しろよ」
王女「さあ! 目的地に向かうとするか!」
勇者「……」
勇者「王女はここで帰ったほうがいい」
王女「なに?」
勇者「今回はどうも不可解な点が多いんだ」
勇者「少なくともただ鉱山と村があるだけじゃないと思う」
勇者「城まで送っていく。 調査はその後俺一人で行くよ」
王女「ば、馬鹿なことを言うな! ここまで来て……」
勇者「魔界がどんなところかはだいたい分かったろう?」
勇者「これ以上危険な場所に行く必要はない」
王女「……」
王女「……教えない」
勇者「え?」
王女「わたしを連れて行かないと!」
王女「村の場所を教えないと言ったのだ!」
勇者「んなっ!?」
王女「さあ! 連れて行け!」
勇者「……」
勇者「王女、そんなのは取引じゃないよ」
勇者「それなら俺は君を城に返したあと、一から探し直すだけだ」
勇者「今のことを王様に報告してからね」
王女「うぬ……」
勇者「でも、それじゃあお互い損をすることになる」
勇者「意地を張らないで、大人になっておくれよ」
王女「……自分も子供のくせに、わたしを子供扱いするのはやめろ!」
勇者「えっ?」
王女「仕事中に賭け事に熱くなり、友人と殴りあうとはなんてざまだ!」
勇者「そ、それは今関係ないだろ!」
王女「関係あるわ馬鹿者! 全財産など賭けおって!」
勇者「あくまで"俺の"全財産だよ! 王様から頂いた旅費には手を付けていない!」
勇者「それに俺は王女を信じて!」
王女「ならなぜ今も信じない!」
勇者「ほとんど当てずっぽうだったくせに!」
王女「誰が確信があるなどと言った!」
勇者「とにかく! 本当に危ないかもしれないんだ!連れて行くわけにはいかない!」
王女「……危険じゃない冒険などあるものか!!」
勇者「!!」
勇者「冒険……」
王女「わたしはずっと冒険がしたかった」
王女「人間も三界を出歩けるというのに……皆平和になったことばかりを喜んでおる」
王女「勇者もそうなのではないか?」
王女「仕事としてだけではなく……純粋に、未知のものが気になる」
王女「もはや好奇心が上回っているのではないか?」
勇者「それは……」
王女「もし勇者がわたしと同じ気持ちなら……」
王女「わたしの心を満たしてほしい!」
王女「冒険に連れて行ってほしいんだ!」
勇者「王女……」
勇者「…でもやっぱり」
サイクロプス「連れて行ってやれよ」
勇者「サイクロプス!」
王女「サイクロプス支配人……」
サイクロプス「いいじゃねェか。 こんなに行きたがってるんだ」
勇者「もしものことがあったらどうするんだ」
サイクロプス「勇者、お前は自分に責任を感じすぎだ」
サイクロプス「もっと素直に生きろよ。 そのほうが楽しいぜ?」
勇者「……そんな理屈は魔界でしか通らないよ」
サイクロプス「お前だってお譲ちゃんの立場だったら付いて行きたいだろ?」
勇者「でも……この子は王女だ」
サイクロプス「はァ? お前も似たようなもんだろ」
勇者「う……」
王女「勇者、お願いだ」
サイクロプス「オウ! お願いだ!」
勇者「お、おい……」
「なんだなんだ?」
「サイクロプス支配人が頭をさげてるぞ!」
勇者「やめてくれよ……」
「相手はどんなやつだ?」
「あ、俺あいつ見たことある!」
ガヤガヤ…
勇者「あー!!!」
勇者「分かったよ! 俺の負けだ!」
王女「ほんとうか!?」
勇者「本当だ! 満足するまで連れて行くよ!」
王女「やったあ!!」
サイクロプス「お譲ちゃんよかったなァ」
王女「うむ! お前のおかげだ!ありがとう!」
勇者「よし! それじゃあ村の場所を教えてくれ!」
王女「ここから南西に半日ほど歩けば着くらしいぞ!」
勇者「……」
勇者「近いな!」
――
ゴポ… ゴポ…
王女「おおう……紫色の沼……」
勇者「なるほど……この先に村があるとは普通思わないな」
王女「それで値段の張る翼竜便で取引していたんだな」
勇者「あの人、翼竜士だったんだね」
王女「翼竜は初めて見たが鳥の何倍も大きかったぞ」
王女「……今更だが、わたし達も竜で運んでもらえばよかったのではないか?」
勇者「それはできないよ」
勇者「種類に関係なく竜はプライドが高い」
勇者「自分が認めた人物しか乗せてくれないんだよ」
勇者「その上で訓練も必要になるしね」
王女「ふーむ……そういうものなのか……」
王女「勇者の魔法で何とかこの沼を超えられないか?」
勇者「それは無理だ。魔法は苦手なんだよ」
勇者「攻撃魔法……それも一種類しか使えないんだ」
王女「ふむ……ほとんど体術専門ということか」
王女「よし勇者、わたしを肩車して進むのだ!」
勇者「何言ってるんだよ」
勇者「それで何かに足を取られたら一度に王女の全身が沼に浸かるんだよ?」
勇者「最悪ショックで心臓が止まってしまう」
王女「じょ、冗談だ! 真に受けるな!」
勇者「……仕方ない」
勇者「一度街に戻って小舟を買おうか」
王女「うむ! 金ならあるしな!」
勇者「サイクロプスに預けといた勝ち分を貰いに行こう」
王女「綺麗に別れたからまたすぐ会うのは少々恥ずかしいな!」
勇者「うーん、確かにちょっと恥ずかしい……」
王女「……おや? 向こう岸から何か来るぞ?」
鎧竜「……」
勇者「あれは鎧竜だね。 鉱石を食べて表皮に鉄分を取り込むやつだ」
王女「お、襲いかかってくるのか?」
勇者「……いや、首輪が付いている」
勇者「もしかしたら村の住人かも知れない」
鎧竜「ガウガウ」
少女「よしよし」
王女「おお! わたしと同じぐらいの少女が竜を乗りこなしているぞ!」
少女「旅の方ですか? 街ならここから北東に……」
勇者「ああいや、その街から来たんだ」
勇者「この先に村があるって聞いたんだけど」
少女「……ありますよ」
勇者「本当? じゃあこの沼を越える橋か何かがあるのかな」
少女「あ、よかったらこの子に乗ってください」
勇者「えっ?」
バシャ バシャ
王女「うむ! 素晴らしい乗り心地だ!」
勇者「……そうだね」
少女「えへへ。 この子は人を乗せるのが大好きなんです」
鎧竜「ガウ!」
王女「聞いたか勇者よ! プライドの賜物だな!」
勇者「えっと……この子は、とくべつ人懐っこいんだよね?」
少女「村の鎧竜はみんなこんな感じですよ?」
勇者「そ、そうなの……?」
王女「はっはっは!! なあに!誰にでも間違いはある!!」
勇者「ぐぬぬ……」
王女「しかしこの沼は浅い割に広いな」
勇者「肩車しないでよかった……」
少女「もう少しです。しっかり掴まっててくださいね」
王女「言われなくても……おお!?」
王女「触ったところが銀色に輝いておる!」
勇者「ほ、ほんとだ! 汚れてて気づかなかったけど全身銀色なんだ!」
少女「?? 鎧竜ってみんなそうなんじゃないんですか?」
少女「見えてきましたよ。 あれが私たちの村です」
王女「おお? 妙に四角い家がたくさん……」
王女「魔界ではみんなこうなのか?」
勇者「いや、あの村特有のものだろう」
少女「……」
勇者「おや?」
少女「な、なんでしょう?」
勇者「いや、村の入口に人が……」
村の少年「な、なんだよあんたら……」
赤髪「だからさ、ちょーっと銀を分けてほしいわけ」
赤髪「もちろんタダで」
少年「か、帰れよ!」
赤髪「アニキ、どうします?」
盗賊「……」
盗賊「人質にしろ。船に入るだけの銀を要求するぞ」
王女「あ、あいつは街のスリ! 盗賊団だったのか!」
少女「ど、どうしよう……」
ドボーンッ
勇者「二人はここで待ってて!」
王女「と、飛び込みおった!」
少年「くそ! 放せよ!」
盗賊「よし、こいつを連れて村に……」
赤髪「ア、アニキ! 何か来ます!」
ヌチョ… ヌチョ…
??「……」
盗賊「クラゲの…化け物…?」
赤髪「おいてめぇ! この人質が目に入らねえのか!」
盗賊「馬鹿野郎! 魔物相手に意味あるか!」
盗賊「やっちまうぞ!」
??「……勇者パンチ!」
盗賊「ぐぁ……」
赤髪「て、てめえは!」
??「勇者キック!!」
ボガッ!
赤髪「ごはぁ!」
??「ふぃ~……」
ベシャベシャ
勇者「沼クラゲに刺されまくった……」
勇者「いてて……よし、縛り上げてしまおう」
少年「た、助かった……」
王女「勇者!」
少女「だ、だいじょうぶですか?」
勇者「うん、沼の毒性はそんなに強くなかったんだけど……」
勇者「その分こんな生物が住んでいたよ」
ベシャ
王女「沼にクラゲがいるのか……」
少女「わ、私の家で一度手当てしましょう」
勇者「これぐらい大丈夫だよ」
勇者「それより俺たちは王様……えっと、人間界の中央国から調査に来たんだ」
王女「わたしは王女だ!」
少年「!!」
少女「!!」
勇者「大人の人と話がしたいんだけど……」
少年「……おい」
少女「うん」
勇者「?」
少女「じゃあ、私が案内しますね」
テクテク…
少女「こっちです」
王女「ふむ……小さな村だが家はたくさんあるな」
勇者「そのせいで妙に密集している……」
勇者「やっぱり銀を採るために村を作ったのかい?」
少女「そうらしいです」
勇者「えっと……それじゃあ大人の人は……」
少女「着きましたよ」
王女「少し開けた場所だな。ここが村の中央部か?」
少女「……ここを下れば銀の取れる場所です」
勇者「広場の中心に地下への階段……?」
勇者「えと、勝手に入って大丈夫なのかな」
少女「……」
勇者「責任者の人は?」
少女「たぶん……中です」
勇者「……」
王女「よし! とにかく入ってみるか!」
少女「あ! ちょっと待って!」
王女「なんだ?」
少女「あ、あなたは入らないほうがいいよ」
王女「なに!? なぜだ!」
少女「危ないから……」
王女「そんなもの承知のうえだ!」
勇者「ねえ、もう一つ聞くけど」
少女「はい」
勇者「俺が一人でここに入ったとして」
勇者「調査をしている間、王女はどこに連れて行くのかな?」
少女「えっと……分かりません」
勇者「……後にするよ」
少女「えっ?」
勇者「ここの調査はまた明日にするよ」
王女「どうしたのだ勇者?」
勇者「そろそろいい時間だしね」
勇者「今日は他の建物を見せて欲しいな」
少女「……そうですか」
少女「あなたもそれでいいの?」
王女「ふむ……わたしは早く採掘するところが見たかったが」
王女「勇者がそういうなら仕方あるまい」
王女「先に製鉄所……いや、製銀所を見せてくれ」
少女「……」
勇者「ある? 銀鉱石を加工する場所」
少女「ない、です……」
王女「ふむぅ? 加工は別の場所でするということか?」
勇者「いや、この村から直接銀が輸出されているはずだ」
王女「この村はわからんことばかりだな」
勇者「そうだね。 だからゆっくり調べよう」
勇者「宿はどこかな?」
少女「……それもない、です」
王女「なんと!」
勇者「それじゃあ、どこか泊まれる場所はあるかな?」
少女「……」
少女「じゃあ、私の家にどうぞ」
テクテク
「……」「……」
王女「ふむ、先程よりも視線を感じるな」
勇者「というか子供ばかりだね」
王女「この村に大人はおらんのか?」
少女「……」
王女「それにお前、鎧竜に乗っていたときに比べて元気が無いな」
王女「どこか悪いのか?」
少女「ううん……大丈夫だよ」
少女「ここが私の家です」
王女「ここも四角いな」
ガチャ ガチャ
少女「どうぞ」
王女「おお? ドアが2つ……」
勇者「二重のドア……」
王女「これはわかったぞ! ガスが入り込まないようにするためだろう!」
少女「うん。 そうだよ」
少女「今なにか作りますね」
勇者「あ、お構いなく」
王女「ふう……今日は色々あったな」
勇者「……高い本棚、大きい暖炉」
勇者「大人が住んでいた形跡はある」
王女「……勇者?」
勇者「いや、なんでもないよ」
少女「スープです。 どうぞ」
王女「おお! そういえば腹が減っておったわ!」
勇者「いただきます」
勇者「おいしいよ」
王女「どれどれ……」
王女「うむ! 美味であるぞ!」
少女「えへへ、ありがとう」
王女「しかしスープの材料があるとは思えないんだが……」
勇者「これは魔王城の王宮料理だね」
少女「……そうなんですか?」
王女「ふむ、村の外から買ってきたというわけか」
王女「王宮料理というからには、材料もそれなりに高価なのだろう?」
王女「やはり銀を売ったお金で買っているのか?」
少女「うん、そうだよ。 同じ物しか買ってないからよく分からないけど」
勇者「王女は意外と値段を気にするんだね」
王女「わたしの国は豊かだが安心できるほどではない」
王女「わたしの代で途切れてしまわぬよう、知らねばならんことが山ほどあるのだ」
王女「その為の旅でもある!」
少女「へぇー、大変なんだね」
王女「なあに! その歳で商売や家事をするのも大変であろう!」
勇者「……」
少女「……」
少女「ごめんなさい、集会の時間なので一度席を外しますね」
勇者「こんな夜に? 子供一人で?」
王女「うむ! わたしたちも行くぞ!」
少女「ごめんね、村のお話だからまだ連れていけないの」
王女「……うむ?」
ガチャガチャ バタンバタン
王女「行ってしまったな」
勇者「王女、これを」
王女「なんだ? 薬草か?」
勇者「噛むと空気が出てくる特殊な草だ」
勇者「毒ガスが出てくることがあったら使って……」
王女「勇者」
王女「疑っているのか?」
勇者「……そうだよ」
勇者「2重の扉はガスを入れ込まないためではなく出さないため」
勇者「俺たちを閉じ込めて……っていう可能性も一応ある」
勇者「食料ごと潰すとは考えにくいけどね」
王女「なぜそこまで慎重になる」
勇者「……おそらく」
勇者「全滅してるんだ」
王女「何がだ?」
勇者「この村の大人だよ」
王女「!!」
勇者「門番は子供一人」
勇者「竜付きとはいえ見回りも子供」
勇者「村の中を大人が一人も歩いてない」
勇者「ここは子供の村なんだよ」
王女「そ、そんな馬鹿な! それで暮らしていけるわけがない!」
勇者「銀がある」
勇者「おそらく無限に手に入れる手段があるんだ」
王女「む、無限に銀が出てくる装置?」
王女「それがあの地下にあるのか?」
勇者「いや……それはちょっと考えにくい」
勇者「あの少女は俺を地下に案内しようとしていたし」
勇者「あそこは侵入者を潰すなにかがあるんじゃないかな」
王女「!!」
勇者「あの時はむしろ王女が危ないと思ってやめたんだけど」
勇者「おそらく毒ガスを出す装置があそこに……」
王女「ま、待て!」
王女「わたしはこの村を信じたい!」
王女「大人を見かけないのは確かに怪しい」
王女「それにわたしは魔界に来たばかりだ」
王女「経験のある勇者の言い分が信憑性もあるだろう」
王女「しかし! あの少女に悪意があると思えないのだ!」
勇者「……もちろん、まだ決まったわけじゃない」
勇者「だから明日、確かめに行ってみよう」
王女「そうか……そうだな」
王女「調べてみればわかることだ」
王女「案外あの地下が特殊な採掘場になっていて」
王女「なかに大人たちが住んでいたり……」
勇者「待って。 静かに」
王女「?」
ズズ…… ズズ……
王女「なんだ? なんの音だ?」
勇者「なにかを引きずっている……?」
王女「様子を見に行ってみるか?」
勇者「うーん……怪しまれる行動はやめておきたいけど……」
王女「しかしこのまま何も知らないのは……」
勇者「っと、来たみたいだ」
ガチャガチャ バタンバタン
少女「ただいま帰りました」
王女「お……おお、早かったな!」
少女「いつもの集会だからね。やることもだいたい同じなの」
王女「……」
王女「き、聞きたいことがある!」
勇者「王女」
王女「む? うむ……」
少女「なに?」
王女「い、いや……その……なんでもない」
王女「自分で調べることにする」
少女「えっ? どういうこと?」
王女「わたしも明日あの地下へ行く!」
勇者「えっ!?」
少女「そんな! 危ないよ!」
王女「いや、もう決めた! 自分の目で確かめるのが一番だ!」
少女「でも――」
ジリリリリリリ!!
勇者「!!」
王女「な、なんだなんだ!?」
少女「これは警報です。 ドアをあけないでくださいね」
王女「ど、毒ガスが出ているのか!?」
少女「そうだよ」
勇者「……もう外は暗いし、窓も2重になってるから外の様子はわからないね」
王女「毒ガスが出ているということは」
王女「誰かが掘り出してしまったのか?」
王女「いや、元々吹き出てくる場所なのか?」
王女「それとも……」
少女「知りたいの?」
勇者「……」
王女「う、うむ」
少女「ほんとうに?」
王女「ど、どういう意味だ?」
少女「えっと……勇者さん、でしたよね」
勇者「うん」
少女「調査を中止して帰る気はありませんか?」
勇者「えっ?」
少女「あなた達の国には村なんてなかったと伝えて欲しいんです」
王女「お、おい! 答えになってないぞ!」
少女「ごめんね。 でも大事な話なの」
勇者「……」
勇者「広場では俺を案内しようとしてたじゃないか」
少女「あの時とは変わったんです」
少女「少し余裕ができたので」
勇者「……余裕?」
勇者「まさか……!」
少女「どうですか? 勇者さん」
勇者「……調査を中止する気はないよ」
少女「そうですか」
少女「じゃあ……明日、全てお見せします」
少女「あなたにもね」
王女「……うむ」
少女「この部屋を使ってください」
勇者「助かるよ」
王女「ううむ……埃っぽい」
勇者「窓を開けちゃダメだよ」
王女「本棚と……ベッドがあるな。 ここは?」
少女「お父さんの使ってた部屋なんです」
王女「ふむ……? その父はどこに?」
少女「……もういないの」
王女「そ、そうか。 すまないな」
少女「それじゃあ、また明日」
バタン
王女「さて、このホコリまみれのベッドでどう寝るか……」
勇者「古龍生物学……こっちは錬金術の歴史……」
王女「勇者、なにか寝具はもってないか?」
勇者「駄目だ……俺にはちょっと難しい内容だな……」
王女「勇者?」
勇者「え? ああうん」
勇者「毛布があるからそれをベッドの上に掛けるといいよ」
王女「……ベッドが硬い……眠れん」
勇者「すぅ……すぅ……」
王女「こいつ……座ったまま寝ておるのか。器用なやつだな」
王女「しかし部屋の様子がよく分かるな」
王女「魔界は日が弱い代わりに月の明かりは強いということか?」
王女「……本でも読んでみるか」
パラパラ
王女「……」
王女「言語が違う……全然わからん……」
王女「これも……これも……」
王女「図から見るに学術本だとは思うのだが……」
王女「これも……おっ?」
王女「日記のようだ。これは読めるぞ?」
○月×日
今日から日記も共通言語を使うことにする
これで人間共とも意思疎通ができるらしい
こうやって平和になってしまったことを実感していくのだろう
王宮にいながら天王子を消せなかったことが今でも悔やまれる
△日
やはりと言うべきか
錬金術の研究は禁止となった
命を消費する類の研究はもうできないのだろう
私はもう受け入れていたが、若い連中はそうもいかないようだ
実験を中止するかどうかで口論になった
□日
結局実験は続けることになった
対象を銀へ変更するので別の鉱石が必要になる
理論自体は流用できるので準備が出来ればすぐに再開できるだろう
それでも納得しない奴らが今朝勇者を殺しに出かけていった
今更な話である
●日
出かけた奴らが妙に清々しい顔で帰ってきた
どうも勇者相手に殴り合ったらそれで満足したらしい
今度武闘大会が開かれるらしくその話題で持ちきりだ
全く単純な連中だと思う
必要なくなった黄金の鎧竜は魔王城に返却しておいた
首を落とし無駄になってしまう前で助かった
□月×日
実験施設を移した
これで見つかることもないだろう
明日実験を行う
もう援助は受けられないので一度で成功させたいところだ
○日
実験は成功。理論の実証も済んだ
これで全員満足しただろう
すべてがうまくいきほっとしている
◎日
実験施設の解体は順調に進んでいる
あとは実験動物を処分するだけだが……
アレが懐いているだけに急いだほうがよさそうだ
~日
バカが実験動物 逃し った
ー~ままでは あ
アレを
王女「……書きなぐってあってここからは読めんな」
――
勇者「やあ、おはよう」
少女「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
勇者「俺はね。 王女はなかなか寝付けなかったらしくてまだ寝てるよ」
少女「朝食を作ったら起こしに行きますね」
勇者「あ、それまで散歩してきていいかな?」
勇者「もうガスは収まったんだろう?」
少女「!」
少女「……駄目です」
勇者「大丈夫。勝手に広場に行ったりしないよ」
王女「む……うぅん……」
少女「えっと……王女ちゃん、起きて」
王女「うむぅ……朝か……」
王女「む……ここは……?」
王女「そうか、わたしは勇者と旅に出て……」
王女「そ、そうだ! 勇者に伝えねば!」
少女「大丈夫? 朝ごはんできてるけど」
王女「う、うむ。 勇者はどこか分かるか?」
少女「散歩するんだって」
王女「……危機感のないやつめ」
少女「あはは、ほんとだよね」
王女「?? 今日はやけに明るいな」
少女「そうかな? 普段はこんな感じだよ?」
勇者「おーい、王女起きた?」
王女「勇者か、わたしを置いてなにをしていたんだ?」
勇者「準備……かな」
王女「それより聞いてくれ! ここは何かの実験……」
少女「!」
勇者「大丈夫。 分かってるよ」
勇者「さて! それじゃあ広場に行こうか!」
少年「おう。今から行くのか?」
王女「お前は入り口にいた……」
勇者「なんか散歩に付いてきたんだ」
少年「あんたも変なやつだな」
少年「沼地なんて歩いて何が楽しいんだか」
少女「!!」
少女「……席を外します」
少年「は? じゃあ誰が連れていくんだよ」
少女「お願い」
少年「……ち、仕方ねーな」
王女「ふむ?」
少年「付いてきな」
王女「教えてくれ。 ここはなぜ子供しかいない」
少年「後でな」
勇者「……」
勇者「……ん? 広場に人影が……」
王女「なんだ、やっぱり大人もいるではないか」
人影に近づくにつれその顔に見覚えがあることに気づく
昨日の盗賊団だ
しかしその様子は昨日と大きく変わっていた
盗賊団は立ち尽くしたまま微動だにしない
その髪に特徴的だった赤色はなく
暗い朝日に照らされて全身が鈍く銀色に光っていた
王女「こ、これは……!」
勇者「決まりだね」
勇者「銀の材料は人なんだ」
王女「ど、どういうことだ……」
王女「なんだこの銀の像は……」
勇者「侵入者を消す毒ガス」
勇者「銀を無限に生み出す装置」
勇者「二つは同じものだったんだ」
王女「盗賊団が……銀に変えられた……?」
勇者「そしてこれを見せたってことは……」
少年「そう」
少年「今日からあんたも仲間入りさ」
少年「出てこい!」
ジリリリリリリリ!!!
ズル…… ズル……
王女「そ、そうか……」
王女「この村の研究は……」
ズル…… ズル……
勇者「……自分の首を引きずりながら歩いてる」
勇者「鎧竜の体に……石化ブレスを吐く別の竜の首を無理やりつなげたのか」
勇者「こいつは……」
ズル…… ズル……
王女「人の体を銀に変える」
王女「特殊なガスを吐く……」
合成獣「ゴガァアアアアアアッ!!!」
王女「生物を作り出すこと!」
勇者「合成獣(キメラ)だ!」
合成獣「オォォ……!」
少年「……それじゃあ任せたぜ」
王女「そ、そうだ!」
王女「こいつを捕まえてしまえばあの生物も……」
ガシッ
少年「何言ってんだ」
少年「あんたが人質なんだよ」
王女「っ! は、はなせ!」
勇者「……」
少年「さあ、逃げるなよ」
少年「王女さまがどうなっても知らないぜ?」
勇者「逆なんだろ?」
少年「なに?」
勇者「昨日俺を一人で地下に行かせようとしたのも」
勇者「銀を広場の真ん中に置いて俺たちに気づかせたのも」
勇者「王女をこいつから遠ざけるためだ」
少年「!」
勇者「君たちは王女に……子供にやさしい」
少年「ふぅん……なんでもお見通しってわけか」
少年「おらいくぞ!」
王女「ゆ、勇者!」
勇者「大丈夫、俺は死なないよ」
合成獣「……」
勇者「……二人が避難するまで待ってるのか」
勇者「能力だけでなく知能もあって……それに」
勇者「優しいんだね」
合成獣「ガッ!」
バシッ
勇者「っと。 俺は子供扱いしてくれないのか」
バタン バタン
少年「しばらくおとなしくしてろ」
王女「こうやって旅人を銀に変えてきたのか」
少年「そうだ」
王女「この村にいたは大人どうした!」
少年「砕いて売った」
王女「……見下げ果てたやつめ!」
少年「おいおい、もう少し仲良くしようぜ」
少年「お前もここで暮らすんだからな」
勇者「さて、それじゃあ始めようか」
合成獣「……」
勇者「とは言っても一瞬で決めに来るんだろうね」
勇者「広範囲の即死ガスなんて初見じゃどうにもならない……」
勇者「この村が世間に知れ渡らないわけだ」
合成獣「ゴォォオオオオ……!」
勇者(……きた!)
勇者(ドラゴンはブレスの前に大きく息を吸う)
勇者(大体の種がその時無防備になる頭を高く持ち上げて守る)
勇者「それができないお前には……こうだ!」
ポイッ
合成獣「ガッ…!?」
合成獣「ガフ……」
勇者「沼クラゲ」
勇者「鋳造と同じ要領でぴったりハマるんだ」
合成獣「ガフ……ガフ……!」
勇者「いくら頑張っても鼻から空気が抜けるだけだよ」
勇者「こうするのが石化能力に対するセオリーの一つ……」
合成獣「ガフガフ……ッ!!」
勇者「お、おい待て! その状態で無理に吐こうとするな!」
勇者「その胴体は石化能力に耐性がない!」
勇者「逆流したガスで固まっ……」
パキパキパキ……
勇者「……」
勇者「死んだか……」
「やっぱりガスが出ていない……」
勇者「!!」
王女「わたしがここで暮らす……?」
王女「誰が貴様らの仲間になどなるものか!」
少年「あのなあ、真実を知ったのに帰すわけないだろ」
少年「俺だって外から来たんだ」
王女「……なに?」
少年「気づかなかったのか?」
少年「この村のボスは……」
少女「ということは……勝っちゃたんですね」
勇者「君は……」
少女「様子を見に来て正解でした」
合成獣「」
少女「大丈夫? 助けに来たよ」
少女「!! 胴体が完全に銀化してる……」
少女「死んじゃっ……たの?」
少女「勇者さんが……殺したの?」
勇者「……」
勇者「そうだよ」
少女「そ……」
少女「そんな……」
少女「許さない……絶対に……!」
バッ
鎧竜A~E「「グルル……」」
少女「ぐちゃぐちゃにしてあげます」
勇者「鎧竜が一、二……ご、五匹か……」
勇者(こんな数を使役できるなんて……!)
少年「もともと学者には子供が少ない」
少年「大人が全滅した時残っていたのは少女だけらしい」
少年「竜の使い方がうまいやつでな、あれを含めてみんないうことを聞かせていた」
少年「あいつは一人でこの村を守ってきたんだ」
王女「……なぜ子供は殺さん」
少年「さあな」
少年「寂しかったんじゃないか?」
カッ ゴロゴロ……!
少年「!?」
王女「か、雷?」
少年「妙だな、雷雲なんてなかったはずなのに」
少年「……それに時間がかかりすぎている」
少年「なんでまだガスが出ていない……」
少年「そういやあの野郎……妙に自信があったな……」
少年「万が一ってこともあるか」
チャキッ
王女「!!」
少年「悪いがもう一度人質になってもらうぜ」
ブスブス……
鎧竜B「オオォ……」
バターンッ
少女「鎧竜が……一発で……」
勇者「落雷魔法」
勇者「その名の通り指定した位置に雷を落とすんだ」
勇者「表皮に金属が含まれている鎧竜にはよく効くみたいだね」
勇者(鎧竜はあと3匹……)
勇者(狙いを定める時間を稼がないと……)
鎧竜C「ガシッガシッ……」
勇者(ん? 竜の口になにか……草……?)
勇者「!!」
ゴォォオオオッ!
勇者「あちちちっ!」
勇者(肺活量の弱い鎧竜が火を!?)
少女「!! かわされた……」
勇者(これは王女に預けたのと同じもの!)
勇者(ガスの心配がないから本来の用途で使ってきたのか!)
勇者(この草の魔界での呼び名は……)
勇者(火炎草!)
ガキッ ガキッ
鎧竜D「グォオッ!」
勇者「くそっ!」
勇者(やっぱり剣じゃダメージにならない!)
勇者(かと言って遠距離攻撃は向こうのほうが出が早い!)
勇者(どうする!? どうすればいい……!?)
鎧竜E「グワァア!!」
少年「な、なんだそれは……」
王女「わたしは王女だ。 常にその証を持ち歩いておる」
王女「商売をするなら金貨は知っておるだろう」
王女「銀貨と金貨の関係もな」
ギラッ……
王女「その銀の包丁とわたしの金の宝剣」
王女「どちらが強いか試してみるか?」
少年「ぐ……強そうだ……!」
鎧竜C「ガァッ!」
勇者「こうなったら!」
バッ
少女「!! 上に……?」
勇者(竜の上をとる!)
勇者(ここの鎧竜は人を乗せることに慣れすぎている)
勇者(背の上に乗られることの危機感が足りない)
鎧竜「ガ……?」
勇者(だから、振り落とすのが一瞬遅れる!)
勇者「そして……!」
ドガァアアアアンッ!!
鎧竜C「ガァァアアアアッ!」
勇者「ぐあぁあっ!」
ズズーンッ
勇者「はぁ……はぁ……」
勇者(そして、自分ごと落雷を浴びせる……!)
少女「あ……」
少女「あなたは……なんなの……?」
勇者「さあ……あと2匹……!」
少年「ぐ……」
少年「黄金の宝剣だと……?」
少年「銀より強く光ってやがる……!」
王女「さあ、どうする?」
少年「くそっ……」
少年「……」
少年「やめておく」
王女「ほう?」
少年「ここでボスを信じるさ」
王女「それなら、わたしも勇者を信じることにしよう」
少年「けっ。あんなやつ今頃竜の胃袋のなかに決まってる」
王女「勇者は大丈夫と言っていた」
少年「……部下を信頼するのが王女さまの仕事ってか?」
王女「うむ? 勇者は部下ではないぞ?」
王女「わたしと知り合ったのもつい昨日の話だ」
少年「それでよく信じられるな……」
コンコン
少年「!」
王女「!」
勇者「俺だよー」
勇者「全部終わったんだ、開けてくれないかなー?」
勇者「……あれ? この家で合ってるよな?」
ガチャ ガチャ
勇者「お、開いた」
少年「な……なんで生きてるんだよ!」
勇者「勝ったから」
王女「勇者!」
勇者「王女、おまたせ」
王女「ふぅ~……」
王女「助かったぞ勇者」
勇者「なにかあった? 宝剣なんか取り出して……」
勇者「刃も入ってないのに」
少年「!!」
王女「……引っかかってくれたようだな」
王女「そう、ハッタリだ! わたしは剣など使えん!」
少年「くそっ! なんてこった……」
王女「勇者、その格好はどうした? 黒焦げではないか」
勇者「ちょっと無茶をしただけだよ」
少年「そ、そうだ! アレにどうやって勝った!」
勇者「似たようなのを相手にしたことがある」
少年「それにしたって! 鎧竜だっていたはずだ!」
勇者「……広場に来るかい?」
少年「そ、そんな馬鹿な……!」
少年「竜がほとんどやられちまってる……あいつも……」
勇者「正直かなり危なかったけど」
勇者「4匹倒したところで降参してくれたよ」
少年「な……」
少年「なにもんだよアンタ……」
勇者「みんなは勇者って呼んでくれてる」
少年「ゆう……しゃ……」
勇者「結構気に入ってる呼び名なんだ」
少女「……」
少女「うぅ……」
王女「……」
王女「お前は……わたしを騙していたのか?」
王女「最初から勇者を殺すつもりで……」
少女「……そうだよ」
少女「最初からあなた達を返すつもりはなかった」
少女「私はそうやって村を守ってきたの」
少年「違うだろ。 迷ってたじゃねえか」
少年「集会ではうまく返してあげたいって……」
少女「結局実行したんだから同じ事だよ」
王女「……そうか」
少女「……王女ちゃん」
少女「私にこんなこと言う資格はないけど……」
少女「その……ごめんなさい……」
王女「……いや、もういい」
王女「わたしが世間知らずだっただけなのだろう」
王女「怒ってはおらん。 ただ……」
王女「悲しい……」
勇者「王女……」
王女「……」
王女「ありがとうな、勇者」
王女「もし勇者がいなかったら……」
王女「ここで化け物と一緒に暮らすことになるところだった」
勇者「王女、そんなこと言わないでくれよ……まだ」
少女「違う」
王女「む?」
少女「あの子は化け物なんかじゃない!」
王女「……どういうことだ?」
王女「お前の家族もこの化け物に殺されたのではないのか?」
少女「違う!」
少女「この子が私の家族なの!」
王女「!!」
少女「ひどいのは私達を作るだけ作って捨てようとした大人なの!」
少女「この子は私を守るために……!」
勇者「じ、人工生命体……ホムンクルスじゃないか!」
勇者「そんな技術……まさか……」
王女「そうか……お前も実験動物だったのか」
少女「……私は竜を制御するために作られたの」
勇者「5匹もの鎧竜を同時に動かせるわけだ……」
少女「実際は竜の言葉がわかるだけ」
少女「いうことを聞いてくれたのはこの子たちが優しいからだよ」
王女「そうか……日記に書かれていた"アレ"とはお前の事だったのか」
勇者「日記? なにそれ?」
王女「うむ? 見てなかったのか?」
王女「ではなぜあの時大丈夫と言ったんだ?」
勇者「人が銀に変えられると王女も推測したと思ったんだよ」
王女「そうか……」
少女「……」
王女「……わたしからはもういい」
王女「勇者、あとは頼む」
勇者「……王女」
勇者「その日記には王宮とか城とか書かれていたかい?」
王女「……? たしかあったと思うぞ」
勇者「そうか……」
勇者「それで記憶に残ってるのが王宮料理……」
勇者「やっぱり行くしかないかなあ」
王女「どこにだ?」
勇者「魔王城」
ザバザバ
勇者「盗賊の使ってた小舟があってよかった」
王女「うぅ……乗り心地は悪いな」
少年「おい、なんで俺なんだ」
王女「魔王城というのは簡単に入れるものなのか?」
勇者「まあ追い返されることはないと思うよ」
王女「村はあのままでよかったのか?」
勇者「というかこうするしかないんだよ」
少年「おい!」
勇者「なにかな?」
少年「なんでボスを置いてきたんだよ!」
勇者「君も主犯格じゃないか」
少年「そうじゃなくて! なんで俺一人なんだ!」
勇者「あの子がいないと竜が言うことを聞かないんだろ?」
少年「はあ? お前がほとんど殺したんじゃないのかよ」
勇者「竜は雷なんかじゃ死なないよ」
勇者「重症を負ったところを見たことがないんだろう」
少年「加減して撃ったってことか?」
勇者「いや、あの魔法は指定した位置に雷を落とすだけなんだ」
勇者「威力も中級程度だしそんなに便利なものじゃないよ」
少年「じゃあ鎧竜は5体とも生きてるのか?」
勇者「たぶんね」
少年「そうか……よかった」
勇者「……今のうちに聞いておくけど」
勇者「あの子はどれくらい恨まれているんだい?」
王女「恨み?」
勇者「例えば俺があのまま殺されたとして」
勇者「王女は普通にあの村で暮らせる?」
王女「……絶対無理だな」
王女「そうかなるほど。 盗賊ならともかく真っ当な調査員の子供は……」
少年「真っ当なやつがこんな沼に子供を連れてくるかよ」
勇者「うっ……」
少年「……大半のやつが奴隷商人一歩手前の子売りだったよ」
勇者「じゃあ村の子供達は別にあの子を恨んでるわけじゃないのかい?」
少年「少なくとも俺にはそう見える」
勇者「うーん……」
勇者「じゃあ報告してもあのまま放置かもしれないな」
王女「な、なんだと?」
王女「人を銀にし続けて……和平からすぐならもう5年だぞ?」
王女「それだけの間、法を犯し続けているのに……」
勇者「この辺りは魔王城の管轄内かどうか微妙なんだ」
勇者「それに……」
勇者「……と、岸が見えてきたね」
ガヤガヤ
少年「人がいっぱい……」
王女「む? 街に来るのは初めてなのか?」
少年「こんな大きな街、昔はなかったんだよ」
勇者「道を聞いてきた。こっちだよ」
王女「この街のどこに行くのだ?」
勇者「郵便局」
翼竜士「お? 昨日の嬢ちゃん」
王女「うむ!」
少年「……」
翼竜士「あの村には行けたみたいだな」
勇者「うん、ありがとう」
翼竜士「わざわざ礼を言いに来たのか?」
勇者「いや、今日は……」
翼竜士「魔王城へ行く?」
勇者「うん、報告があるから連絡を入れておいてほしいんだ」
勇者「できればバイ車を出してほしい」
翼竜士「ちょっと俺の権限では無理だなあ」
王女「バイ車とはなんだ?」
勇者「バイコーンが引っ張る馬車のことだよ」
翼竜士「ちょうど局長が来てるし直接話してきたらどうだ?」
勇者「え!?」
勇者「魔導骸骨郵便局長が来てるの!?」
王女「まどうがいこつ? なんだそれは?」
翼竜士「はあ? 魔闘会第四シードの魔導骸骨郵便局長を知らねぇのかよ」
少年「魔導骸骨といえば三魔将軍の一人じゃないか」
少年「そんなヤツと面識があるのかよ」
勇者「まあちょっとね」
王女「……」
王女「知ってる単語が一つも出てこないぞ!?」
コンコン
魔導骸骨「誰ダ?」
翼竜士「私です。バイコーン車を出してほしいという者が」
魔導骸骨「あれは今日運搬に使うのダ。出せるハズがなかろう」
翼竜士「ああいや、勇者が来ているのです」
ギィイ……
魔導骸骨「バカモノ、それを先に言わぬか」
勇者「お久しぶりです」
王女「ここが局長室か」
少年「……」
魔導骸骨「ホウ……珍しい連れダな」
魔導骸骨「用はなんダ?」
勇者「魔導骸骨局長は魔界の銀がどのように供給されているかご存知ですか?」
魔導骸骨「銀?」
魔導骸骨「そういえばこの辺りに……」
パラパラ……
王女「おお、紙が独りでに……」
魔導骸骨「……辺境の村からこの量の銀が!?」
魔導骸骨「なんダこりゃ!?」
勇者「実は――――」
魔導骸骨「ナルホド……」
魔導骸骨「銀となるガスを吐く合成獣……」
魔導骸骨「それを利用して生き長らえる村か……」
少年「……」
魔導骸骨「"人体金化"の研究。確かにそんなものもあっタ」
魔導骸骨「その頃は我輩も城勤めダっタからな」
勇者「そうでしたね」
魔導骸骨「禁止となった研究が破棄されておらず」
魔導骸骨「できた銀を売りさばいたのは我々なのダから」
魔導骸骨「このままほおっておくワケにもいかんか」
魔導骸骨「全く、面倒な時代になっタ」
魔導骸骨「サテ、我輩も暇ではない」
魔導骸骨「すぐにでも出かけることにしよう」
勇者「村に行くんですか?」
魔導骸骨「そうダ。 ホレ、早く我輩につかまれ」
王女「な、なんだ?」
ガシッ
勇者「大丈夫。 危なくないよ」
少年「?」
ポゥ……
王女「な、なんだこれは? 体が薄く……」
少年「お、おい! 浮いてるぞ俺!」
魔導骸骨「では飛ぶとしよう」
王女「な、なにが起きてるのだ!?」
勇者「これは亜空間高速移動魔法だよ」
王女「こ、こうそくいどう?」
勇者「うん」
――
鎧竜A「ガゥ……」
少女「良かった……生きてた……」
村の子供A「ねえ、これからどうするの?」
少女「えっ?」
子供B「そうだよ! もう銀は作れないじゃん!」
少女「だ、大丈夫だよ」
少女「竜が生きてるから村は守れる」
少女「お金をどうするかはみんなで考えよ?」
子供C「でも! 一人連れて行かれた!」
少女「あの子なら無事だよ」
少女「きっとすぐに帰って」
「うぉぉおおおおおお!!??」
「ばかものぉぉおおおおおお!!!とめろぉぉおおおおお!!」
「きょ、局長! 通り過ぎました! ブレーキ!ブレーキ!」
少女「えっ?」
少年「ううーん……」
勇者「大丈夫?」
王女「く……くらくらするぞ……」
少女「あ、あなた達……どうしたの?」
魔導骸骨「ホウ、こんなところに村があるとはな」
少女「!! あ、あなたは?」
魔導骸骨「我輩は魔導骸骨郵便局長」
魔導骸骨「この村の研究資料の破棄と残った銀の買取に来タ」
王女「……?」
少女「郵便……あの翼竜士さんの?」
魔導骸骨「ああ、あやつの上官ダ」
魔導骸骨「お主が竜を操るホムンクルスだな?」
少女「……私はお願いしていただけです」
魔導骸骨「まずは合成獣の亡骸を見せてもらおう」
魔導骸骨「ホウ……体が銀化しておる」
魔導骸骨「うまく戦っタな」
勇者「運もありました」
魔導骸骨「邪龍のやつに遊ばれタのも無駄ではなかっタということか」
勇者「局長が教えてくれた魔法も役に立ちました」
魔導骸骨「よし、今日はこの銀だけを持ち帰るとしよう」
魔導骸骨「二人はもう帰って良いぞ。 なんなら飛ばしてやろう」
王女「……」
王女「な、なんだと?」
魔導骸骨「中央国ノ王女、何か不満があるのか?」
王女「ま、まだ来たばかりではないか!」
魔導骸骨「この件数の家を捜索するのは骨が折れる」
王女「村の処置は後回しということか!?」
魔導骸骨「処置?」
魔導骸骨「後は好きにすれば良かろう」
王女「な……」
王女「なぁ……!?」
王女「お咎め無しということなのか!?」
魔導骸骨「……なんの罪になるというのダ?」
王女「なにを言っておる!」
王女「何人も死んでおるのだぞ!」
勇者「それを証明できないんだ」
王女「なに?」
勇者「ここは隔離された村だから被害の目撃者がいない」
勇者「盗賊や人売り以外の人も来たことを実証できないんだよ」
王女「だからなんだというのだ!」
王女「盗賊なら殺していいのか!?」
魔導骸骨「当たり前ダ」
魔導骸骨「私闘を全て罰していタのでは」
魔導骸骨「魔界の住人の半分以上を牢に入れることになる」
王女「な……!」
少女「ちょ、ちょっと待って下さい」
少女「私たちはほぼ無差別に殺しをしてきました」
少女「今更言い逃れをする気は……」
少年「まあ待てよボス」
少年「多分勇者に考えがあるはずだ」
勇者「この村に国をあげて調査に来たのはおそらく俺達が初めてだ」
勇者「だから行方不明者も話題になっていない」
勇者「魔界の未開拓の地に行って消えるなんてのは昔よくあった話だしね」
王女「……」
勇者「つまり、明確に理不尽な被害にあった人がいないんだよ」
勇者「……王女、君を除いてね」
勇者「王女には今、権利と権力がある」
王女「……?」
勇者「納得いってないんだろう?」
王女「う、うむ……」
勇者「だからさ」
勇者「君がこの村を裁くんだ」
王女「わ、わたしが……?」
魔導骸骨「勇者、なんのつもりダ?」
魔導骸骨「お前が裁けばいい話ダろう」
王女「そ、そうだ! 勇者も被害者ではないか!」
勇者「俺はやり返しちゃったからね」
少女「……」
勇者「王女、君しかいないんだよ」
王女「しかし……わたしはまだ子供だ」
勇者「子供扱いするなといったじゃないか」
王女「そ、それにわたしは魔界の法を知らん」
勇者「中央国にだって人を銀に変える子供用の刑罰はないと思うよ」
勇者「王女の尺度で構わない」
王女「しかし……」
王女「やはりわたしでは……」
少年「いいじゃん。 やってくれよ」
少女「私も。 王女ちゃんが決めてくれるならどうなってもいいよ」
王女「……」
王女「も……」
王女「もしも……」
勇者「うん」
王女「魔界にそんなところがあるとは思えないが……」
王女「も、もしもこの村の全員が生活できて」
王女「今までの行いを反省できる場所があるなら」
王女「そこに行くべきだと思う……」
勇者「なるほど、孤児院だね」
魔導骸骨「コジイン?」
勇者「身寄りのない子供を育てる施設です」
魔導骸骨「ホウ……」
王女「やはり魔界には無いのか」
王女「ではわたしにはどうすることも……」
魔導骸骨「その孤児院を造ればよいのダな?」
王女「なっ?」
魔導骸骨「ヨシ、城に戻っタらすぐに配備しよう」
王女「そ、そんな簡単に決めてしまっていいのか?」
魔導骸骨「人選だけ手伝えばあとは我輩の管轄外ダ。手間ではない」
少年「ど、どういうことだよ」
少女「私達、まだみんなで暮らせるの?」
王女「そ、そうなるかもしれん……」
少女「やったぁ!」
勇者「では局長」
勇者「子どもたちの面倒を見れる人と指導の出来る人」
勇者「今までの罪を反省させることが出来る人の手配をお願いします」
魔導骸骨「最後のは心あたりがないが、承っタ」
勇者「王女、これでいいかな」
王女「う、うむ……」
勇者「それじゃあ帰ろうか」
王女「ま、待て! もう一つ言っておきたい」
王女「まだお前は勇者に謝っておらんだろう」
少女「えっ?」
少女「私が勇者……さん……に?」
王女「そうだ」
王女「やはりわたしは、お前たちが悪いことをしていたと思うのだ」
王女「いままでの行いをすべて振り返って欲しいのだ」
王女「だから、まずは勇者に」
少女「……わかったよ。 王女ちゃんがそう言うなら」
少女「勇者さん、殺そうとしてごめんなさい」
勇者「うん、こっちも友達を殺しちゃってごめんね」
少女「っ!」
王女「お、おい! 勇者!」
勇者「事実だからね」
勇者「今更俺のことは許せないだろう」
勇者「だから……少女ちゃん、拳を出して」
少女「えっ? こ、こう……ですか?」
トンッ
勇者「いつでも相手になるよ。 ケンカならね」
少女「勇者さん……」
少女「分かりました。 必ず……やっつけてあげます!」
少年「お、俺も! 格闘術を覚えてぶっ飛ばしてやる!」
勇者「ああ、楽しみにしてるよ」
――
関所門兵「王女さま! お帰りなさい!」
王女「う、うむ……」
関所門兵「馬の状態は万全ですよ!」
勇者「ありがとうございます」
関所門兵「さあ、早く王様に元気なお顔を……」
関所門兵「……なにかありましたか?」
王女「ああ……いろいろあった」
パッカ パッカ
王女「……これでよかったのだろうか」
勇者「?」
王女「結局最後は他のものに任せることになった」
王女「この馬だってそうだ。 わたしは人を使うばかりで何もしておらん」
勇者「王族として間違ってないじゃないか」
勇者「それに大変なのはこれからさ」
勇者「誰があの子たちの面倒を見るのか。孤児院をどこに立てるのか」
勇者「まだ何も決まっていないからね」
王女「……」
勇者「孤児院を始める準備ができたら様子を見に行ってくるよ」
王女「わ、わたしも行くぞ」
勇者「ああ、そうだね」
――
国王「大儀であった、勇者よ」
勇者「ありがとうございます」
国王「しかし銀にそのような秘密があったとは……」
国王「元が人であったと伝われば国民も混乱しよう」
国王「銀の輸入は中止で仕方あるまい」
国王「王女にもいい経験になった。 重ねて礼を言うぞ」
勇者「ははー!」
勇者「……そういえば王女は何処に?」
国王「部屋に戻っておる」
国王「あやつは外の世界に幻想をいだいておったからな」
国王「少し落ち込むぐらいがちょうど良かろう」
勇者「……王様、一つお願いがあります」
国王「うむ? 話してみよ」
王女「……」
コンコン
王女「なんだ? わたしは今誰とも……」
勇者「俺だよ。 入っていいかな?」
王女「!!」
勇者「やあ、元気?」
王女「……」
勇者「村の解体も人材確保も時間がかかる。しばらくの間はのんびりしとけばいいさ」
勇者「今思いつめてもしょうがないよ」
王女「そうだな……」
勇者「……」
勇者「今回は、ちょっと後味の悪い冒険になってしまったね」
王女「うむ……これが冒険ということか……」
王女「それを思い知ることができた。 ありがとう勇者」
勇者「……礼なんてやめてくれよ。だって……」
王女「うむ?」
勇者「ああ、そうだ。 今日は王女にいい話があるよ」
勇者「行き掛けに会った魔女さんを覚えているかい?」
勇者「あの人は国に調査依頼を持ってきていたんだ」
王女「……?」
勇者「天に浮かぶ魔法都市の調査」
王女「天に……?」
勇者「そう、今度は天界だ!」
勇者「もともとあそこには城と街がひとつづつしかないはずなんだけど……」
勇者「腕の立つ魔導師が隠れ都市を作ってるって噂があるんだ」
勇者「行ってみたくないかい?」
王女「……」
王女「そうか……そうだな!」
王女「わたしの冒険は、まだ始まったばかりだ!!」
おわり