――転校前の病室
ほむら(いつもと同じ病室。同じ日付。そして同じ苦い記憶)
ほむら(だけど魔法が使えない。ソウルジェムも見当たらない)
ほむら(体。体はどうなっているのかしら?)
ほむら「……」ツネリッ
ほむら「…………痛い」
ほむら(痛覚を遮断出来ない。つまり今の私は生身の体)
ほむら(あれ? でも視力や運動能力は魔法少女になったときと同じくらいね)
ほむら「いったい、どういうこと?」
元スレ
ほむら「QBが消えた。どういうこと?」まどか「幸せな日々、だよ」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1303298360/
――教室
ほむら「暁美ほむらです。よろしくお願いします」
早乙女先生「えっ?」
ほむら「なんでしょうか?」
早乙女先生「だって、名簿には西藤朱実さんって……」
ほむら(なっ!? ど、どういうこと?)
ほむら「……書類のミスです。訂正しておいてください」
早乙女先生「訂正って言われてもねえ」
ほむら「気分が悪いので保健室に行ってもよろしいでしょうか?」
早乙女「えっ? ええ。保険係は……」
ほむら「鹿目まどか。あなたがこのクラスの保健係よね?」
まどか?「あの、その、私、確かにカナメだけど、…………結城、カナメだよ?」
――廊下
まどか?「私たちって前に会ったことあったっけ?」
ほむら「…………」
まどか?「私が保健係って、どうして?」
ほむら「……早乙女先生から聞いたの」
まどか?「じゃあどうして名前を間違え……?」
ほむら「…………(そんなこと、こっちが知りたいくらいだわ)」
まどか?「もしかして、おこらせちゃったー……かな?」
ほむら「結城カナメ。あなたは自分の人生が貴いと思う? 家族や友達を大切にしてる?」
まどか?「えっ、えっと。大切、だよ。家族も友達の皆も、大好きで、とっても大切な人達だよ」
ほむら「そう。もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうなんて、絶対に思わないことね」
――教室
早乙女(名簿を訂正と言われても、そう簡単に名前を変えることなんて)
早乙女(はっ! 名前を変える。すなわち結婚!)
早乙女(誰がなんと言おうと私だけは簡単に名前は変わらないなんて言っちゃいけなけないのよ!)
早乙女(安心して、西藤さん。じゃなくて暁美さん。私が責任を持って名簿を変え……)
さやか?「せんせー、早く授業初めてください」
早乙女「えっ? ええ、そうね。それじゃあ北村さん、この英文を訳してもらえるかしら」
さやか?「やぶへびだー! しかも、教科書忘れたー!」
上条「相変わらずおっちょこちょいだな、ミキは。ほらが、僕のを一緒に見ようよ」
さやか?「ありがとー、恭介~」テレッ
仁美「あらあら。相変わらず仲がよろしくて妬けますわ」ニコニコ
――放課後、ショッピング街
ほむら(いつものループならここにQBと魔女が現れるはず)
ほむら(だけどいつまで待っても魔力の痕跡を感知できない)
ほむら(私にそれを感じる力が無いの? それとも魔法自体が存在しないの?)
ほむら(………………)
ほむら(少し捜索の範囲を広げようかしら?)
まどか?「あれ? 暁美さん?」
ほむら「まどか。それに美樹さやか」
さやか?「はあ? 私の名前は北村ミキだけど」
ほむら(なんですって?)
まどか?「暁美さんはどうしてここに?」
ほむら「ほむらでいいわ」
まどか?「うん。ほむらちゃんはどうして?」
ほむら「…………散歩よ」
まどか?「あ、ほむらちゃんこの町に来たばかりだもんね。色々と見て回りたいよね」
さやか?「だったら誰かに案内を頼めばいいのに。あんた、どうせ前の町でも友達いなかっただろ」
まどか?「ミキちゃん!」
ほむら「気を使ってもらう必要はないわ。だいたい事実だから」
まどか?「えっ? そうなの?」
まどか?「だったら一緒にどうかな? ほむらちゃんさえ良かったらお友達になろうよ」
ほむら「あなたに迷惑をかけるつもりはないわ」
さやか?「うわっ。根暗ー」
まどか?「迷惑だなんて思わないよ。私がほむらちゃんとお友達になりたいの? ダメ……かな?」
ほむら(うっ。可愛い……)
ほむら(どうしよう? このままここで待っていてもQBが現れる気配はないし)
ほむら(魔法が使えないんじゃまどかの尾行も出来ない。なら、いっそ友達として近くにいたほうが監視しやすいのかしら)
ほむら「それじゃあ、お願いしてもいいかしら。まど……じゃなくて、カナメさん」
まどか?「うん♪」
さやか?「ちぇっ」
――夜、ほむら寝室
ほむら(結局QBは現れなかった)
ほむら(それにしても面倒くさかったわね、美樹さやかのノロケ話)
ほむら(上条恭介と美樹さやかがくっつくなんて、これまでのどのループでもなかったことだわ)
ほむら(そして腕の怪我もなかったことになっている)
ほむら(QBも魔女も現れず、私はまどかと友達になれて、美樹さやかは彼氏持ち)
ほむら(何よ、このご都合主義的な世界。これもQBの悪趣味な営業なのかしら?)
ほむら(名前。名前の問題もあるわね。今のところ名前が変わっていたのは私、まどか、美樹さやかの3人。共通点は魔法少女)
ほむら(巴マミはどうなっているのかしら? うん、明日は3年の教室に行ってみよう)
ほむら「おやすみなさい、まどか。あなたは、必ず私が守る」チュッ
ほむら(写真にこんなことしてるなんて、知られたらドン引きよね……)
――翌日放課後、3年の教室前
ほむら(ど、どういうこと!?)
ほむら(巴マミが、同級生に囲まれて楽しそうに談笑している!)
ほむら(こっそり仲間だと思っていたのに。ぼっちじゃない巴マミなんて認めない)
ほむら(もしこれがQBの罠なのだとしたら、こんな人の心をもてあそぶやり方、絶対に許さない!)
まどか?「あれ、ほむらちゃんどうしたの? ここは3年生の教室の階だよ」
ほむら「まど……カナメさんたちこそ、どうして?」
さやか?「私たちはちょっと先輩に会いにね」
ほむら(今までのループでは、この2人に仲のいい3年生なんていなかった)
ほむら「ひょっとして、あの縦ロールの人?」
まどか?「うん、そうだよ。トモエさん。水端トモエ先輩」
マミ?「ごめんなさいね、待たせちゃったかしら?」
さやか?「いえ、大丈夫です。それよりトモエさん、相変わらず人気者ですよね」
まどか?「良かったんですか? 話、途中だったみたいですけど」
マミ?「いいのよ。あなたたちのほうが大切だから」
まどか?「えへへー」
ほむら(まどかのニヤケ顔可愛い……魔法さえ使えれば時間を止めて撮影するのに!)
マミ?「後ろの人は、お友達?」
まどか?「そうです。転校生の暁美ほむらちゃん」
マミ?「はじめまして、暁美さん。3年の水端トモエよ」
ほむら「………………はじめ、まして」
ほむら「先輩は、カナメさんたちとはどういった関係なんですか?」
マミ?「命の恩人よ」
ほむら「えっ?」
マミ?「昔ね、交通事故に巻き込まれたとき、通りかかったカナメさんが救急車を呼んでくれたの」
ほむら(QBではなく、まどかが巴マミを助けた!?)
マミ?「もうちょっと発見が遅れていたら助からなかったそうよ。だからカナメさんは私の恩人なの」
ほむら「そうだったんですか」
マミ?「今日は2人を私の家にご招待する予定だったんだけど、よかったらあなたもいかがかしら?」
ほむら「いいんですか?」
マミ?「ええ。結城さんのお友達なら私にとってもお友達だもの」
マミ?「あなたたちもそれでいいかしら?」
まどか?「はい! 良かったね、ほむらちゃん♪」
さやか?「ちぇっ」
まどか?「ミキちゃん……」
マミ?「それじゃあ、行きましょう」
――マミの部屋
さやか?「おっじゃまっしまーす」
まどか?「おじゃまします」
マミ?「さあ、あなたもあがって」
ほむら「……おじゃまします」
マミ?「遠慮しないでいいのよ。ひとり暮らしでロクにおもてなしの準備もないから」
さやか?「マミさん、私たちが初めて来たときもそれ言ってましたよね」
まどか?「気を使わなくていいように言ってくれてるんですよね? でも、相変わらず素敵なお部屋です」
ほむら(優しいのね、巴マミ)
ほむら(今までのループのあなたは、他人を巻き込むことを恐れて自分から周囲との関係を絶っているところがあった)
ほむら(だから魔法少女にならなけらば、ぼっちではなくなるのも当たり前だったのかも)
ほむら(あなたは、私とは……違う。私には友達を作る能力なんてない。それを救ってくれるのはまどかだけ……)
ほむら(だからこの世界が誰かの策略だったとしても、絶対にまどかを守り抜かなきゃならない)
ほむら(あれ? あの棚の上)
QB「………………」
ほむら(……っ!!!!!!!!!?!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
~CM~
杏子「食うかい?」
マミ「あら、今日はポッキーじゃないのね?」ポリッ
シャルロッテ「チョコが中まで詰まってる」ニョルロローン
マミ「っ!?」
シャルロッテ「やっぱこれだねー♪ ロッ○のトーッ○」パクン
まどか「マミさんっ!?」
ほむら「覚えておきなさい。魔法少女になるって、そういうことよ」
杏子「チョコレーェトは○ッテ♪」
ほむら(悪即斬、サーチアンドデストロイ、QBを駆逐する!)スカッ、スカッ
ほむら(しまった! 銃が無い)
まどか?「どうしたの、ほむらちゃん? 腰の横で手をふらふらさせて」
ほむら「何故QBがここにいるの!?」
マミ?「ふふっ、いいでしょ? 私のお気に入りなの」
ほむら「見た目に騙されちゃダメ。それは白い悪魔なのよ」
さやか?「何言ってんのさ転校生。ひょっとして電波? 電波なのか?」
まどか?「可愛いよねー、QB。私の家にもあるよ」
ほむら「そ、そんな……」
ほむら(わたしがグズグズしているうちに、まどかの家に入り込むなんて!)
ほむら(くっ! こうなったら素手ででも!)ガシッ
QB「僕と契約して飼い主になってよ。僕と契約して飼い主になってよ。僕とけいや……」
ほむら「……飼い主?」
さやか?「やっぱ可愛いなあ、しゃべるQBちゃん人形。私も買おうかな」
ほむら「しゃべるQBちゃん……人形?」
マミ?「ええ、頭を撫でると声が出るんだけど……知らなかったの?」
ほむら「…………」グリグリグリグリ
QB「僕と契約して飼い主になってよ。僕と契約して飼い主になっ……」
まどか?「ほむらちゃん、それは撫でるって言わないよ」
ほむら「ごめんなさい、つい力が」
さやか?「まどかの家にあるのはしゃべらないやつだっけ?」
まどか?「うん、そうだよ。中身が空っぽの、ただのQBちゃん人形」
ほむら「それ、普通に売ってるの?」
まどか?「そうだけど、あれ? QBのこと知ってたんじゃなかったの?」
ほむら「名前だけよ」
まどか?「そっか」
マミ?「紅茶の準備が出来たわよ。それとケーキも」
さやか?「あ、運ぶの手伝います」
マミ?「ええ、じゃあそっちを……あっ!」
さやか?「うわぅ!」ガッシャーン
ほむら(!!!)
まどか?「ほむらちゃんっ!?」
ほむら「痛、熱っ!?」
さやか?「あちゃー、ごめん転校生。つい手が滑って」
ほむら(ついって何よ、ついって! ついで手が滑るか!)
マミ?「北村さんは悪くないわ。私がちゃんと確認しないで手を放したから」
まどか?「そんなことより、早く服を脱がしてあげないと火傷しちゃうよ」
ほむら「それには及ばないわ。自分で脱げるから」
まどか?「でも、濡れた制服って脱ぎづらいよ?」
ほむら「だいじょう……あ、あれ? 肩のところが引っかかって」
まどか?「ほら、遠慮しないで。脱がせてあげる」
まどか?「うわー。ほむらちゃんの肌、すべすべ」
さやか?「肌、白っ!」
マミ?「腰が細くてモデルみたいね」
ほむら(な、何よこの羞恥プレイ!)
まどか?「火傷って水で冷やすんだっけ?」
マミ?「バスルームは廊下の左よ」
まどか?「よし、ほむらちゃん、行こう!」
ほむら(ほ、ほむっ? まどかとお風呂!?)
ほむら(考えてみれば当たり前の話でした)
まどか?「シャワー、ちゃんと出てる?」
ほむら「ええ、大丈夫よ」
ほむら(まどかは服を着て脱衣所、私は裸で洗い場)
ほむら(……閃いた!)
ほむら「ねえ、カナメさん? ちょっと背中が痛むんだけど」
まどか?「ええっ!?」
ほむら「火傷になっていないか、入ってきて見てもらえないかしら」
まどか?「う、うん。今、見てあげ……うひゃあっ!? シャワーが!」シャーーー
ほむら「あら、ごめんなさい。つい手が滑って」
まどか?「ついで手は滑らないよ。わざとだよ~」
ほむら「あらあら、早く脱がないと風邪をひいてしまうわよ?」
まどか?「あぅぅ……ほむらちゃん手伝って」
ほむら(計算通り)
まどか?「あ、あんまり見ないで。恥ずかしいよぉ」
ほむら「我慢しなさい。私なんか他の2人にも見られたのよ」
まどか?「ほむらちゃんはいいよ。スタイルいいし美人だし。私、こんなだから」
ほむら「自信を持つといいわ、かなめさん。あなたはとても可愛いわよ」
まどか?「ほんと!? うれしいなぁー。あ、ほむらちゃんはとっても綺麗だよ」
ほむら「ま……カナメさん…………」ポッ
まどか?「ほむらちゃん…………」ポッ
さやか?「まどかー、てんこーせー、まだかかるのー?」
まどか?「ひゃっ!」
ほむら(おのれー!)
さやか?「トモエさんがー、紅茶淹れなおしてくれたからー、早く出てきなよー」
まどか?「うんー、今戻るねー」
ほむら「じゃあ、あがりましょうか」
まどか?「待って、ほむらちゃん」
ほむら「ん?」
まどか?「ここに風呂桶があるよね」
ほむら「…………脱衣所にはバケツもあったわね」
まどか?「ただいまー」
さやか?「おかえ……ってカナメ!? なんで裸? それとそのバケツは?」
ほむら「さっきのおかえしよ」バシャーン
さやか?「うわぁっ!?」
まどか?「トモエさんも仲間になりましょう?」
マミ?「ちょ、待っ……」バシャーン
さやか?「ああ……せっかく床に雑巾かけたのに」
トモエ?「2人とも、ちょっとこれはやり過ぎなんじゃないかしら?」
まどか?「う……ごめんなさい」
トモエ?「罰として……ちょっとそのバケツ貸してもらえる?」
まどか?「えっ? はい、どうぞ」
さやか?「トモエさん、台所へ何しに?」
マミ?「暁美さん、結城さん、ちょっとそこに並んでもらえるかしら」
まどか?「そ、その水が入ったバケツは……」
ほむら「いいの? 部屋がさらに水浸しになるわよ?」
マミ?「問題ないわ。ティロ・フィナーレ!」バシャー
まどか?「わきゃあっ!」
ほむら(そのネーミングセンス、魔法少女関係なかった!?)
さやか?「トモエさん、私にもバケツ貸してください」
まどか?「それよりミキちゃん、早く脱がないと風邪ひいちゃうよ」
マミ?「確かにね。それじゃあ北村さんの服は私が脱がせてあげる」
さやか?「え? トモエさん待っ……転校生! いつのまに水をくんできた!?」バシャーン
さやか?「こうなりゃヤケだ。トモエさんの服は私が脱がす!」
マミ?「きゃあっ」
まどか?「トモエさんの胸……すごい」
マミ?「そう、そっちがそうくるのなら、こっちはこうよ」カチャ
ほむら「待ちなさい、水端トモエ! ケーキはもったいないわ!」
マミ?「ティロ・フィナーレ・パティシエール!」
まどか?「うにゃっ」ベチョッ
ほむら(技名が進化した!?)
さやか?「トモエさん、さすがにやり過ぎじゃないですか?」
マミ?「そ、そうね。もったいなかったかしらね」
ほむら「大丈夫よ。スタッフが美味しくいただくから」
まどか?「え? ほむらちゃん何言って……くふぅん」
ほむら「んっ……まどか……まどかぁ……」ペロペロ
まどか?「んあっ……こんなのおかしいよ……私、まどかじゃなくて、くふぅ……カナメだよぉ……」
マミ?「そういう問題なのかしら?」
さやか?「これはさすがにひくわあ……」
ほむら(あれ? 私、何してるんだろう)
ほむら(こんなことをしている場合じゃない。こんな、気の抜けた状態になっていい私じゃない)
ほむら(QBはどこかからまどかを狙っているはず。魔女の事件にだっていつ巻き込まれるか分からない)
ほむら(ワルプルギスの夜がやってきたらこの町全体が被害を受ける。当然まどかも無事じゃすまない)
ほむら(守らないと。私がまどかを守らないと……!)
ほむら(でも、私は魔法少女じゃなかった。QBは人形だった)
ほむら(ここは、そういう世界なの? もう頑張って戦わなくてもいいの? このままこの幸せにおぼれてもいいの?)ペロペロ
まどか?「ほむらちゃん……」
ほむら「何かしら? もうやめてという願い事なら叶わないわよ」
まどか?「お願いじゃなくて、質問なんだけど」
ほむら「…………」ペロペ、スッ
まどか?「最初に会った時に、私を鹿目まどかって人と間違えたよね」
ほむら「ええ」
まどか?「それって、どんな人? 私と似てる人?」
ほむら「……良く、似ているわ。双子なんかより、よっぽど」
まどか?「声とか、性格とかも?」
ほむら「ええ、声も、性格も。私の、ひとりぼっちの私の、友達になってくれたところまで含めて」
まどか?「その人のこと、好きだったの?」
ほむら「好きなんてもんじゃなく、愛していたわ。私にとってのまどかは、親友で、仲間で、たった一つの希望だった」
さやか?「うわー、こいつ本物のアレだよ」
マミ?「北村さん、ちょっと黙ってようか?」
まどか?「私は、ほむらちゃんにとってのそういう存在にはなれないのかな?」
ほむら「えっ?」
まどか?「私、もっともっとほむらちゃんのことを知りたい。仲良くなりたい。不安を取り除いてあげたい」
ほむら「私は、別に不安なんて……」
まどか?「そんなの嘘。だってほむらちゃん、昨日会った時からずっとビクビクして、周りを気にしてばかりだった」
ほむら「転校したてで珍しくて……」
まどか?「助けてって言ってた。言葉には出してなくても心の中で叫んでた。だから、私は、ほむらちゃんの力になりたい。ほむらちゃんを守ってあげたい」
ほむら「……何が、狙いなの?」
まどか?「えっ? 別に狙いなんて」
ほむら「そうやって油断させようとしても無駄よ。インキュベーダー! 見てるんでしょう! こんな罠に私は騙されない! 私はひとりで大丈夫なの!」
さやか?「げっ、レズだけじゃなくて厨二病まで。笑っちゃいますよね、トモエさ……」パンッ
マミ?「大丈夫よ。あなたは大丈夫。私も、昔はそうだったから」ギュッ
ほむら「水端……トモエ?」
マミ?「私もね、昔はひとりぼっちだったの。怖がりで、自分が臆病だと認める勇気もないくらいに怖がりで、それを隠すためにかっこつけて」
ほむら「あ……」
マミ?「空想の世界に敵と味方を作って、ひとりぼっちの寂しさを誤魔化していたの。世界を破壊する魔物、それを倒す私。そんな物語の中に浸った」
ほむら「ティロ・フィナーレ?」
マミ?「そう、ティロ・フィナーレ。今思い出すと顔から火が出るわ。あの頃の私は、本気で魔法の存在を信じていた。幻覚すら見ていたの」
ほむら「幻……覚?」
マミ?「それをカナメさんが救ってくれた。ひとりぼっちの私に手を差し延べてくれた。命だけじゃなく、私の心まで助けてくれた」
ほむら「でも、あなたは元々が優しくて明るいじゃない! まどかに出会わなくても友達だってできたはずよ! 私は暗くて、話すのも苦手で、あなたとは違うの!」
マミ?「なら、これから自分を変えていけばいいじゃない。私は結城さんに会って今の私を手に入れたわ。だからあなたも」
まどか?「ほむらちゃん、臆病でいいんだよ。ほむらちゃんはほむらちゃんのままでいいの。だから、私を信じて? 本当の友達になろう?」
ほむら「カナメさん……! そう、そうなのね。全部、悪い夢だった。あなたは結城カナメ。鹿目まどかではなく、結城カナメ」
カナメ「うん、そうだよ。ほむらちゃん」
トモエ「そうよ、暁美さん。奇跡も魔法も存在しないの。だけど私たちはその世界で生きていかなきゃいけないの。それはひとりじゃ辛いから、皆で手をつなぐのよ」
ほむら「いいんだ。もうひとりぼっちじゃなくていいんだ。私はカナメとひとつになって、幸せになってもいいんだ!」
カナメ「ふえっ!? え、えっと……エッチなのはだめだよ?」
ほむら「こ、言葉のあやよ。そういう意味じゃないわ」
ミキ「こいつら、裸でなにやってるんだか」
トモエ「それじゃ、服に着替えましょうか。私のを貸してあげる。このままじゃ本当に風邪をひいてしまうわ」
カナメ「もうちょっと見てたかったなー、トモエさんのおっぱい」
トモエ「えっ、ええっ!?」
ほむら「私だってあと何年かすれば……」
カナメ「じょ、冗談だからね? 本気じゃないし、それにほむらちゃんだってスレンダーで素敵だよ」
トモエ「はい、結城さん。昔使ってたのだから、たぶんサイズも合うと思うわ」
カナメ「わー! 可愛いピンクのパジャマ。ありがとうございます!」
トモエ「暁美さんはこっちの紫のパジャマね」
ほむら「ありがとう。感謝するわ」
トモエ「暁美さんはまず先輩に対する敬語の使い方を覚えた方がいいわね」
ほむら「善処するわ」
トモエ「そして私はこの黄色いパジャマ。三色並ぶと可愛いでしょ?」
ミキ「……あれ?」
カナメ「ト、トモエさん。ミキちゃんだけ裸は可愛そうだよ」
トモエ「そうかしら? でも結城さんがそう言うなら仕方がないわね。はい、スクール水着」
ミキ「ちょっとぉ!? 私だけ酷くないですか!」
トモエ「でも、だいたい青よ」
ミキ「色はどうでもいいですから、袖と裾のある服をくださいよ」
トモエ「うーん。じゃあ、これでいいわね。文化祭の時にドンキで買った大人用の園児服」
ミキ「カナメ~。トモエさんがいじめるよー」
ほむら「ふふっ。ふふふふふ」
カナメ「ほむらちゃん、やっと笑ってくれたね」
ほむら「え? ええ、そうね。そして明日も明後日もずっと笑顔でいたいから、だから、これからよろしくね、カナメ」ニコッ
カナメ「こちらこそよろしくね。……あ、ところで、ほむらちゃんってコンタクト?」
ほむら「違うけれど、どうして?」
カナメ「うん、さっき鞄の中に眼鏡ケースが入ってるのが見えたから」
トモエ「あら、じゃあファッションでかける伊達眼鏡なのね」
ほむら「そういうわけじゃないけど……」
ほむら(眼鏡。私が病弱で、独りぼっちで、だけど魔法なんて信じていなかった頃にかけていた眼鏡)
ほむら「かけてみようかな、眼鏡」カチャ
まどか「わあ、ほむらちゃん素敵」
トモエ「眼鏡美人ね。羨ましいわ」
ミキ「根暗度30パーセントアップ!」
ほむら(さよなら、魔法少女だったころの私。もう私には魔法なんて必要ない。だってカナメが側にいるから)
カナメ「ところで、さっきの続きは、本当にもうしないの?」
ほむら「えっ?」
ほむら(こうして、私とカナメの幸せな日常が始まった)
ほむら(最初のうちはまだQBや魔女の影に怯えて、夜や物陰を恐れた私だったけど、今ではもうだいぶ平気だ)
ほむら(何一つ悩みも苦しみも無く、大好きなカナメと過ごす、笑顔の日々)
ほむら(この時の私は想像もしていなかった)
ほむら(まさか、私がナイフを片手にカナ……まどかの寝室に押し入ることになるなんて)
ほむら(奇跡も、魔法も、あったのだ)
~CM~
上条「どうしてこんなものばかり聴かせるんだよ!」
さやか「私はただ……」
上条「どうせ持ってくるなら、まどマギのブルーレイにきまってるだろ?」
さやか「え? じゃ、じゃあ今度はそれを」
上条「今さら遅いよ! 完全限定生産だから手に入らないよ」
仁美「大丈夫ですわ。私が注文しておきましたから」
上条「ありがとう仁美さん。お礼に僕と契約して恋人になってよ」
さやか「どうして予約しておかなかったんだろう。私ってほんとバカ」
杏子「魔法少女ま○か☆マギカ、ブルーレイ&DVD。予約するかい?」
――3ヵ月後、駅前
カナメ「ごめーん! 待った……よね?」
ミキ「カナメおっそーい! 30分も遅刻だよ」
トモエ「25分遅れで来た人が偉そうに言っていいせりふじゃないわね」
ミキ「あははー」
カナメ「ごめんね。待っててくれてありがとう」
ほむら「気にしていないわ。でも、北村さんはともかく、カナメが遅刻なんて珍しいわね」
トモエ「何かあったの?」
カナメ「え、うん。ちょっと……ね」
ほむら「……?」
トモエ「私たちには言えないこと?」
カナメ「遅れたことは謝るから、聞かないで。ほんとにゴメンなさい」
ミキ「おおっ? ついにカナメも私に隠し事するような歳になったか。このっ、このっ!」
カナメ「あう~。ほっぺたプニプニしないでー」
ほむら(羨ましい……)
ミキ「このっ。このこのっ!」プニプニ
赤髪の少女「あのー、ちょっといいかい?」
トモエ「はい?」
赤髪の少女「あんたは、神を信じるかい?」
ミキ「うわー。宗教の人だ」
ほむら(えっ? この子……)
赤髪「いや、確かに宗教だけどさ。ウチはそこらの怪しいのとは違って、神の教えを大切にしつつも現実の救いを求めてい……ぁ…………」
ミキ「ん? 私の顔に何か付いてる?」
赤髪「………………さやか?」
ほむら「っ!?」
ミキ「人違いじゃない? 私はそんな名前じゃないけど」
赤髪「あ、ああ。そうか、そうなってるんだよな。ごめん、アタシの勘違いだ」
ミキ「何、こいつ?」
ほむら「…………」
ほむら「みんな、悪いけど映画には3人で行ってもらってもいいかしら?」
カナメ「え? ほむらちゃん来ないの?」
ほむら「ええ。ちょっとこの子と話があるの」
赤髪「えっ? でも……」
ほむら「私も、たぶんあなたと同じ状況よ。佐倉杏子」
赤髪「いや、そんな名前じゃねえし」
杏子「いい加減に覚えろ! アタシはアンコじゃない、キョウコだ!」
ほむら「それには及ばないわ。佐倉アンコ」
杏子「キョウコだ、杏子! つーか、絶対わざとやってるだろ!」
カナメ「えっと、ほむらちゃんのお友達?」
杏子「アタシはこいつを友達だと認めたことはないね。ただの知り合いさ」
ほむら「私の友達は、カナメ。あなたと水端さんの2人だけよ」
ミキ「…………あれ?」
カナメ「そういえば、ほむらちゃんも最初にミキちゃんと会ったとき、さやかって呼ぼうとしてたよね」
ミキ「ってことは、あんたらの知り合いに私に似たさやかって名前の子がいるってこと?」
杏子「あ、ああ。まあな……」
カナメ「え? 何で泣いて……?」
杏子「ご、ゴミさ。ちょっと目にゴミが入って、ゴミのせいで涙が」
ほむら(ゴミのせいで涙? それってある意味……)
ミキ「まあいいや。カナメ、トモエさん。ほむらはほっといて早く行きましょう。もうすぐ上映始まっちゃいますよ」
カナメ「ねえ、だったら今日は3人で違うところに行こうよ。映画は、また今度4人でね」
ミキ「えー? ほむらは後で1人で見に行けばいいじゃん」
トモエ「結城さん、2人で服でも探し行きましょうか? 北村さんは今日1人で映画を見るらしいわ」
ミキ「ええっ!? 嘘、嘘。やっぱり今度4人で見に行きましょう!」
カナメ「うん。でもね、楽しみだったのは映画の内容だけじゃなくて、ほむらちゃんと一緒に見るってことだったんだよ?」
ほむら「カナメ……」
カナメ「えへへー」ニコッ
ミキ「あーあ。早く見たかったのにな。『劇場版アンブロークン・アロー 戦闘妖精ナガトユキカゼ』」
トモエ「TV版がいいところで終わっちゃったからね」
ミキ「統合思念体ジェム軍の前に壊滅する国連軍。たった1機で侵略者に立ち向かう、ついに感情を覚えた機械・ユキカゼ」
トモエ「燃える基地をバックに、『続きは劇場で』」
ミキ「バッドエンドの先のハッピーエンドが見たけりゃ金を出せ? 劇場版商法なんて嫌いだー!」
カナメ「じゃあほむらちゃん、また明日、学校で」
ほむら「ええ、また明日」
杏子「…………」
ほむら「…………」
杏子「…………なんか言えよ」
ほむら「………………」
杏子「………………食うかい?」
ほむら「好きなの? ポッキー」
杏子「じゃあ、情報交換といこうか」
ほむら「そうね。あなたはどこまで覚えているの?」
杏子「全部さ。さやかの笑顔も、涙も、魔女になったさやかに攻撃された痛みも、……そして、攻撃した痛みも」
ほむら「そう。それで、その後は?」
杏子「さやかと相討ちになって、アタシは死んだ。……はずだった。でも目が覚めると豪華なベッドの中にいた」
ほむら「今から3ヶ月前、よね?」
杏子「そうだ。前の記憶でアタシが見滝原に来た日より、ちょっと前の朝さ」
杏子「驚いたよ。魔法が使えなくなていて、体は生身に戻っていて、おまけに名前が乃中サクラに変わってた」
ほむら「私もそうだったわ。だけど視力や身体能力は魔法少女のときと同じくらいになっていた」
杏子「ふーん? アタシはそんなことなかったけどな。あれ? じゃあその眼鏡は?」
ほむら「伊達よ」
杏子「そうかい」
ほむら「体以外のことはどうだったの? 特に、魔法少女になるときの願い関連」
杏子「さっき豪華なベッドでって言ったろ? 親父は新興宗教の教祖様。広い家、たくさんの信者、そして円満な家庭」
ほむら「今、幸せ?」
杏子「だいたい幸せだよ。ただ……」
ほむら「ただ?」
杏子「さやかがいない」
ほむら「…………そう」
杏子「この3ヶ月間、見滝原に様子を見に行こうかと何度も思った。だけど、できなかった」
ほむら「怖くて?」
杏子「そうさ、怖くて。見滝原を訪れて、さやかに会ってしまったら、この幸せが全部夢になって消えてしまう気がして」
ほむら「だから、魔法少女だった頃の記憶のほうを夢だと思い込むことにした?」
杏子「……あんたも?」
ほむら「そうよ、私も。怖かったし、今も怖いの」
杏子「うん」
ほむら「このままこの話を続けていたら、次の瞬間には目が覚めて、また魔女との戦いが始まるんじゃないかって」
杏子「……どうする?」
ほむら「何が?」
杏子「アタシは、さやかのこともQBのことも全部夢だと思うことにしていた。だけど、夢じゃなかった」
ほむら「私とあなたが同じ記憶を持っているということは、そういうことになるわね。フロイトでも信じない限りは」
杏子「フロ……何? 体ならちゃんとあらってるよ」
ほむら「あなた、本当に宗教家の娘なの?」
杏子「親父には叱られてばっかりさ。この間も失敗して、今日ここに街灯布教に来たのはその罰なんだ」
ほむら「あなたも苦労してるのね」
杏子「でも、幸せだよ。壊したくない」
ほむら「なら、もう終わりにする? 私たちは今日合わなかった。魔法なんて夢だった。そういうことにして生きていく?」
杏子「さやかの顔を見るまでは、それでもいいって思ってたさ」
ほむら「そうね。私も、もしまどかと会わないのがまどかの幸せだったとして、我慢するのは、辛いもの」
杏子「もし、ね。でも今のアンタはまどかと仲良くやってるんだろ?」
ほむら「……あなたも、仲間になる?」
杏子「え?」
ほむら「私でよければ取り成すわよ。平日は無理でも、休みの日になら見滝原に来て一緒に遊べるでしょう?」
杏子「…………さやかは今、幸せなのかい?」
ほむら「ええ、幸せなはずよ。彼氏ともうまくやっているみたいだし」
杏子「なっ!? さ、さやかに彼氏だあ!?????」
ほむら「声が大きい」
杏子「ってことはあれか? キスしたり手をつないだり一緒にプリクラ撮ったり、そういうことをしてるってことか?」
ほむら「ええ、そうみたいね」
杏子「うぁ……」ズーン
杏子「じゃあ、あれだ。やっぱりアタシはもうさやかに会わないほうがいいな」
ほむら「友情と愛情は別物でしょう?」
杏子「違うよ。そっちじゃない。今のこの世界が夢なのか、幻なのか、作り変えられた現実なのかは分からないだけど……」
ほむら「自分がここにいたら、それを壊してしまう?」
杏子「たぶんな」
ほむら「そう、美樹さんの幸せのために自分の幸せを我慢するのね、あなたは」
杏子「アタシは親父の娘だからな。これでも教団では『聖女様』って呼ばれてるんだ」
ほむら「くすっ」
杏子「笑うなよ」
ほむら「ううん。合ってるなって思って」
杏子「…………///」
ほむら「それじゃあ、もうこの町には来ないの?」
杏子「ああ、そうする。次から布教は別の人に来てもらう。そして…………………………さやかにはもう会わない」
ほむら「そう」
杏子「じゃあ、さよなら……かな?」
ほむら「ええ、さようなら。願わくば、2度と再会しないことを祈ってるわ」
杏子「お互いの大切な人のために?」
ほむら「お互いの大切な人のために」
杏子「OK。祈らせてくれよ、鹿目まどかが、幸せになりますように」
ほむら「こちらこそ、美樹さやかが幸せになりますように」
杏子「…………あんたも、決めておきなよ?」
ほむら「え?」
杏子「自分の幸せと、まどかの幸せと、どちらかを選ばなくちゃいけなくなったとき、どっちを諦めるのかさ」
ほむら「………………」
~CM~
QB「僕と契約してオール電化になってよ」
さやか「わあ、オール電化にしたら光熱費がぐっと安く!」
杏子「でもさ、停電したら使えなくね?」
QB「人は認識の相違から生じた判断ミスをなぜか騙されたと言うよね」
さやか「私ってほんとバカ」
QB「と○きょう○○りょ○for you♪」
――数日後、見滝原学園食堂
ミキ「カナメにラブレター!?」
ほむら「ほ、ほむぅ!??」
トモエ「ええ、そうなのよ」
ミキ「どうしてトモエさんがそれを知ってるんですか?」
トモエ「結城さん本人に相談されたのよ。どうしようって」
ほむら「え…………?」
トモエ「暁美さん、どうして自分には相談してくれなかったのかって思ってる?」
ほむら「…………」コクン
トモエ「暁美さんのことを信用できなかったからとか、そういうことじゃなくて、恥ずかしかったからみたいよ」
ミキ「恥ずかしい?」
トモエ「クラスメイトからだったそうだから」
ミキ「ああ、ついに中沢が勇気をだしたかー」
ほむら「…………」スカッ、スカッ
トモエ「どうしたの? 腰の横で手を振って」
ほむら(む、昔の癖が……)
ミキ「でも、私たちにばらしちゃって良かったんですか?」
トモエ「本人に了承はとってあるわ。私じゃ力になれなかったから、2人に話してみてもいいかって」
ミキ「だったら直接聞いてくれればいいのに」
トモエ「2回説明するのは恥ずかしかったんじゃないかしら?」
ほむら(銃は手に入らない。じゃあ爆弾の材料は? 時間を止めなくても入手できる?)
トモエ「それで、北村さんの意見はどうかしら? 私たちの中でただ1人恋愛経験のある人として」
ミキ「こういうのは本人の気持ちが大事だから。でも、断るつもりなんですよね?」
ほむら(金属バット片手に夜道で襲い掛かる? いえ、毒物という手も……)
トモエ「ええ、そう言っていたけど、どうして分かったの?」
ミキ「だってカナメ、他に好きな人がいますから」
ほむら「そう、それで私は誰に毒を盛ればいいのかしら?」
ミキ「ちょっ……」
トモエ「あらあら。暁美さんは本当に結城さんのことが好きなのね」
ほむら「そういうわけじゃ……。で、誰なの?」
ミキ「私も詳しくは知らないんだけど。えっとさ、カナメの部屋にQB人形があるのは知ってる?」
ほむら「ええ」
ミキ「あれ、中が空になってるんだけど、なんかそこにその相手との思い出のアイテムを隠してるらしいよ」
トモエ「思い出のアイテムって?」
ミキ「さあ、そこまでは」
ほむら「作戦を練りましょう」
ミキ「作戦? 何の?」
ほむら「そのQB人形から中身をくりぬく作戦よ」
ミキ「いやー。そっとしといてやりなよ。あ、彼氏いない暦=年齢のほむらにはこの辺の機微はわかんないか」
トモエ「じゃあ、まずは放課後に結城さんの家におしかけて……」
ミキ「トモエさん!?」
ほむら(カナメは誰にも渡さない!)
トモエ(結城さんにまで先を越されるわけにはいかないわ!)
――カナメの部屋
ミキ「おっじゃまっしまーす!」
カナメ「うん。あがってあがって」
QB「………………」
ほむら(相変わらず殴りたくなる顔ね)
カナメ「それで、今日は突然どうしたの?」
ほむら「……」
ミキ「……」
トモエ「……」
カナメ「な、何? みんな顔が怖いよ」
ほむら「カナメ、あなたがいけないのよ」スチャ
カナメ「え? それって……銃!?」
ミキ「悪いのはカナメの方だから仕方ないよね」スチャ
トモエ「これは復讐なのよ」スチャ
カナメ「や、やめてよ。こんなの絶対おかしいよ」
ミキ「くらえっ、カナメ!」シャー
カナメ「キャァーーーーーーー!」
トモエ「このあいだ人の部屋を水浸しにしてくれたお返しよ」ティロー
カナメ「つ、冷た……やめてー!」
ほむら(カナメの服が肌に張り付いて透けてホムホムゥ)シャー
カナメ「にゃぁぁーーー」
ミキ「けっこう高かったんだぞ? この本物みたいな水鉄砲」
カナメ「うう……ビショビショだよぉ」
トモエ「じゃあ、私とお風呂に行きましょうか?」
カナメ「えっ? でも、着替えるだけならここで……」
トモエ「そ、それはそのー」
ほむら「いいの? ここで着替えると全員に裸を見られることになるわよ」
カナメ「今さらそんなこと気にしないよ」
ほむら(しまった。計算がずれた)
トモエ(どうするの、暁美さん? 結城さんを部屋から追い出せないじゃない)
ミキ「でもさ、カナメってこの3ヶ月で太ったよね?」
カナメ「そ、そんなことないよ」
ミキ「嘘だっ! 『カナメの体をもみ隊』の体調である私にはわかる!」
ほむら(入隊申請書はどこに出せばいいのかしら?)
ミキ「つまり、ここで服を脱ぐと、前に見られたときよりも丸くなったお腹を見られることになるのだっ!」
カナメ「っ!?」
ほむら「き、気にすることはないわ、カナメ。あなたは充分……」
カナメ「ほ、ほむらちゃんが」
ほむら「え?」
カナメ「ほむらちゃんが作ってきてくれるお弁当が美味しすぎるのがいけないんだ。ほむらちゃのバカー!」
ほむら「な、なんで私ー?」
ミキ「あーらら。濡れた服のままどっかに走ってっちゃった」
トモエ「でも、これはチャンスじゃないかしら?」
ミキ「そうですね。さっそく人形の中身を」
ほむら「なんで……私?」
ミキ「あれ? これ、袋の入り口が糸で縫いつぶされてる」
トモエ「ほんとだわ。しまっているというより、隠しているという感じね」
ミキ「結構硬くて、丸くて、なんだろ?」
トモエ「縫い目の隙間からなんとか覗けないかしら?」
ほむら「何でわた……えっ!?」キラーン
ほむら(あの光は、まさか、でも……!)
ほむら「だ、ダメ!」
ミキ「わっ?」
トモエ「暁美さん!?」
ほむら「ダメ。ダメなの。それは、ダメ。今日はもう帰りましょう」
ミキ「なんだよー。せっかくカナメの秘密を覗けそ……」
ほむら「いいから!」
トモエ「……北村さん、暁美さんの言うとおりにしましょうか」
ミキ「ちぇっ」
――夜、ほむホーム
ほむら(見間違えるはずがない。あの光は、ソウルジェム。ピンクのソウルジェム。まどかが魔法少女になったときの……)
ほむら(学校とカナメの家との距離は100メートル以上離れている。つまり、カナメは魔法少女ではない)
ほむら(じゃあ、なんでソウルジェムが?)
ほむら(……)
ほむら(…………)
ほむら(…………………………)
ほむら(知っていたわ。認めたくなかっただけで、本当は最初から気づいていた)
ほむら(私は、まどかが魔女になったときの能力を見たことがあるから)
魔女、クリームヒルト・グレートヒェン
救済の魔女。その性質は慈悲。
この星の全ての生命を強制的に吸い上げ 彼女の作った新しい天国(結界)へと導いていく。
この魔女を倒したくば 世界中の不幸を取り除く以外に方法は無い。
もし世界中から悲しみがなくなれば 魔女はここが天国であると錯覚するだろう。
ほむら(まさか、私がナイフを片手にまどかの寝室に押し入ることになるなんて)
カナメ?「どうしたの、ほむらちゃん? こんな時間に」
ほむら「全てを確かめに来たのよ、まどか」
カナメ?「またそれ? 私はまどかじゃなくてカナメだよ」
ほむら「いいえ、あなたはまどかよ。鹿目まどか。優しくて、優しくて、誰よりも優しくて、そして私の一番大切な人」
カナメ?「ほむらちゃん……」
ほむら「その皮を剥がせてもらうわ」ギラッ
QB「………………」
カナメ?「もったいない。糸だけを切ればまた使えたのに」
ほむら「ソウルジェム。やっぱり」
カナメ?「3ヶ月……か。今回は早かったね、ほむらちゃん」
ほむら「今回は?」
カナメ?「そうだよ。もう何回もやり直してるの。私とほむらちゃんが初めて会う前の晩から、幸せな夢をね」
ほむら「夢は、しょせん夢よ。いつかは覚める。現実じゃないわ」
カナメ?「覚めない夢があってもいいんじゃないかな? それは現実とだいたい一緒だよ」
ほむら「何が、目的なの?」
カナメ?「ほむらちゃんが幸せになること。それが前回のループでの、鹿目まどかの願い事だったんだよ」
ほむら「あなたは、魔女なの?」
カナメ?「ううん、違うよ。私はグレートヒェンじゃない。まどかの人格をコピーした、この夢の世界の管理人ってとこかな」
ほむら「まどかは? 本物のまどかは? どこで何をしているの?」
カナメ?「えっとね、ほむらちゃんが夢を見ている間、外の時間は止まっているんだよ。今はほむらちゃんが転校する前の晩」
カナメ?「私の役目はほむらちゃんが幸せな一生を送ること。そういう夢を見させること」
カナメ?「不幸にさせずに、そしてこれが夢だということにも気付かせずに、幸せな寿命を迎えさせたら仕事は終わり」
ほむら「そうしたら、外の世界の時間は流れ出すの?」
カナメ?「うん。鹿目まどかはほむらちゃんなしでワルプルギスに挑み、負ける。ほむらちゃんがいないからループは起こらない」
ほむら「だめよ、そんなの!」
カナメ?「どうして? ほむらちゃんは幸せなまま終われるんだよ。安心して、次の夢はきっと上手くいくから」
ほむら「違う! 違う! そんなの違う! 意味が無い! まどかが救われないとダメなの!」
カナメ?「おかしな話だよね。ほむらちゃんは鹿目まどかの幸せを願い、鹿目まどかはほむらちゃんを幸せを願った」
カナメ?「その2つは同時に叶うことはない。ほむらちゃんが苦しみ続けるか、鹿目まどかが死ぬか、そのどちらかだけ」
カナメ?「2つの願いごとが対立したらね、勝つのは、より強い魔法少女のほうなんだよ。つまり、ほむらちゃんは幸せになるしかないの」
カナメ?「さあ、ほむらちゃん。この夢はもう終わりにしよう。全部忘れてまた新しい夢を見るの」
ほむら「………………ざけないで」
カナメ?「え?」
ほむら「ふざけないでって言ったのよ! どちらが幸せに、どちらかが不幸になるしかない? バカにしないで!」
カナメ?「でも事実だよ」
ほむら「見つけてやる。2人とも一緒に幸せになる道を見つけてやる。それは絶対どこかにあるの! 見つかるの!」
カナメ?「ワルプルギスには勝てない。勝てたとしてもいつか魔女になる。ほむらちゃんがいうような答えなんてどこにも」
ほむら「あなた、何様のつもりよ。あなたは何も分かっていない。私とまどかの絆の強さも、自分自身のことですら」
カナメ?「……え? 私、自身のこと?」
ほむら「もしあなたが自由にこの夢の世界を操れるなら、どうして私や佐倉あんこの記憶を残したの? どうしてソウルジェムがそこにあるの?」
カナメ?「それは……」
ほむら「あなた、本当は気付いて欲しかったんでしょう? 助けて欲しかったんでしょう? 覚めない夢から覚めたかったんでしょう?」
カナメ?「……かなわないな。ほむらちゃんには。うん、その通りだよ。そのソウルジェムは私の甘えなの」
ほむら「だったら」
カナメ?「でも、ダメだよ。夢から覚めたら、ほむらちゃんは不幸になる」
ほむら「今、不幸よ」
カナメ?「記憶を消したら不幸じゃなくなるよね?」
ほむら「まどかと暮らした日々を、一緒に戦った記憶を、つないだ手の感触を忘れろ? それこそ最大の不幸よ!」
カナメ?「………………」
ほむら「………………」
カナメ?「夢から覚めないと、不幸なの?」
ほむら「そうよ」
カナメ?「起きたら幸せになれる?」
ほむら「なってみせるわ」
カナメ?「鹿目まどかが不幸だと、ほむちゃんは自分がいくら幸せでもそれは本当は不幸なの?」
ほむら「そうよ。その通りよ。まどかの幸せが私の幸せなの。まどかさえ笑顔なら私はどれだけ苦しくても幸せなの。何か文句があるのかしら?」
カナメ?「…………うん。ありがとう、ほむらちゃん?」ニコッ
ほむら「え?」
カナメ?「その言葉が鍵だったんだよ。やっと言ってもらえた。これで私は、鹿目まどかの魔力を打ち消して夢を終わらせることができる」
ほむら「あ……」
カナメ?「鹿目まどかはね、ちょっと優しすぎるんだよ。それが他人を不幸にすることがあるって気付かないくらいに」
ほむら「あなたも同じ人格のコピーなんでしょう?」
カナメ?「何十回もほむらちゃんを幸せにすることに失敗したら、根本的な間違いに気付くよ」
ほむら「そう、あなたもやり直してきたのね。何回も、何十回も」
カナメ?「最初のうちはね、全部記憶を消していたの。でもそれだと絶対にほむらちゃんは幸せにならなかった」
ほむら「当たり前よ。忘れた時点のマイナスが大きすぎるもの」
カナメ?「この夢の中では絶対にほむらちゃんは幸せにならない。それが分かった。だから私はほむらちゃんを目覚めさせることにしたの」
ほむら「うん」
カナメ?「すぐに目覚めさせるのは鹿目まどかの願い事に反する。だから、ほむらちゃん自身の不幸宣言が必要だったんだよ」
ほむら「それで記憶やソウルジェムを残したのね」
カナメ?「どうすれば鹿目まどかが決めたルールを破らずにそこにたどり着けるか、いろいろと試して、やっと答えがみつかったんだよ」
ほむら「私にも」
カナメ?「ん?」
ほむら「私の戦いにも、答えはあるのかしら」
カナメ?「ヒントをあげようか?」
ほむら「ヒント?」
カナメ?「これ、自慢なんだけどね、私の魔力は結構すごいんだよ」
ほむら「史上最強の魔法少女ですものね」
カナメ?「うん。だから、もしその願いが叶わないなら、真実の世界でほむらちゃんが絶対幸
せになれないとしたら」
ほむら「私がこの世界を出て行くことも出来ない?」
カナメ?「そう。つまりね、方法はあるんだよ。どんな方法なのかは分からないけど、答えは
あるの」
ほむら「あ、景色がゆがんでいく……?」
カナメ?「うん、そろそろ目が覚めるみたいだね」
ほむら「あなたはどうなるの?」
カナメ?「夢の中の住人は、夢が終わったら消えちゃうんだよ」
ほむら「そう」
カナメ?「さよならだね」
ほむら「ねえ、結城カナメさん?」
カナメ?「何?」
ほむら「あなたと過ごした3ヶ月。あなたにとってはもっと長い時間だったのかも知れないけれど、私にとっては3ヶ月。……幸せだったわ」
カナメ?「えへへ~。ありがとう♪」
ほむら「だから……」
カナメ?「え? ほむらちゃ……んっ、くちゅっ……んっ、んあ」
ほむら「んっ……ふぅ」
カナメ?「あ、ほむらちゃんのファーストキス、もらちゃった///」
ほむら「少しの間、戦いの間の休憩をくれた。そのお礼よ」
カナメ?「ふふっ。ちょっとだけ、本物の鹿目まどかに勝っちゃった」
ほむら「それじゃあ、お別れね。結城カナメ」
カナメ?「うん。バイバイほむらちゃん。あ、それと、最後にひとつだけお願い」
ほむら「何?」
カナメ?「ちゃんと、守ってあげて……ね…………」
ほむら「カナメ。カナメ!?」
ほむら(カナメの姿が消えていく。世界が闇のトンネルになって、遠くのほうに光が見える)
ほむら(分かる、あそこが出口。いつものあの病室につながっている)
ほむら(カナメ。最後に、守ってあげてと言っていた)
ほむら「大丈夫だよ。守るから。絶対に救ってみせるから。QBからも魔女からも、どんな運命からでも守り抜く。だって、それがあの子との……」
♪交わした約束 忘れないよ目を閉じ確かめる 押し寄せた闇 振り払って進むよ
ほむら(私は忘れない。だんだんと冷たくなっていく、繋いだ手の感触を)
♪いつになったら なくした未来を 私ここでまた 見ることできるの?
ほむら(ひとりぼっちの私にあなたが明るい日を与えてくれた)
♪溢れ出した不安の影を 何度でも裂いて この世界 歩んでこう
ほむら(うまくいかないはずなんてない)
♪とめどなく刻まれた 時は今 始まり告げ
ほむら(何度でもやり直してみせる)
♪変わらない 想いを乗せ 閉ざされた扉 開けよう
ほむら(まどか。まどか。まどか。まどか……!)
♪目覚めた心は 走り出した 未来を描くため 難しい道で 立ち止まっても空は
ほむら(さあ、つぎの戦場へ。次のあなたが待つ場所へ)
♪綺麗な青さで いつも待っててくれる だから怖くない
ほむら「この眼鏡は、もういらない」スチャ、ヒュッ……
♪もう何があっても 挫けない ずっと明日待って
次のループへとつづく
……あるいは、第十一話へと
~CM~
杏子「なんだこれ、マンガ見放題じゃないか」
マミ「オリジナルの小説もたくさんあるわよ」
さやか「えー? 小説ぅ? いまどきネット小説とか古くないですか?」
マミ「…………ティロ・フィナーレ」
さやか「ごふっ!?」
まどか「VIPから生まれた投稿サイト、Web漫画とWeb小説の新都社」
マミ「閲覧は全て無料です→http://neetsha.com/」
まどか「>>1の作品もひっそりこっそり連載中?」
さやか「いくらコメントが伸びないからってVIPで宣伝はせこくな……」ゴスッ
杏子「さ、さやか!?」
このSSは お口の○人、○ッテと
ご覧のスポンサーの提供でお送りしたわけでは別にありません
アニ○レッ○ス 東○電力 新都社