【前編】 の続きです。
~大体一年前のこと。~
トコトコ
後輩「…はあ…」
後輩「(やっと授業終わった…)」
後輩「…」
後輩「…学校は…一人だと、つまらないところですね…」
後輩「…」
後輩「早く帰りましょう」ウン
後輩「…しかし」
後輩「帰って、一体何をすればよいのでしょうか…」ハア
ドドドドドドドド!!
後輩「?」クル
ガシッ!
後輩「!? ひぃっ」
先輩「おう奇遇だな。一年生か?」ゼーッゼーッ
後輩「?? は、あ、その…」
先輩「こ、んな時間にここにいるってことは…あれだ。部活には、入っていないんだよな、お前」ハア、ハア…
後輩「…」コ、コクコク
先輩「よし。じゃあ決まりだ」
後輩「…」ポカン
後輩「へ? な、なにが…」
会長「見つけたぞおらあ!」ドカッ
先輩「がっ」
後輩「!?」
先輩「 」チーン
会長「あ、しまった。別に仕留めるつもりはなかったのに」
先輩「 」シュゥゥゥ…
後輩「…」ヒィィ
会長「まあいいや」ニパッ
後輩「(なにがでしょうか?)」
会長「あなた大丈夫? 絡まれていたようだけど、何もされてない?」クルッ
後輩「…」コクコク
会長「そ。よかった。…ん?」ジッ
後輩「?」
会長「あなた後輩さんよね」
後輩「!」ビクッ
後輩「…」コクコク
会長「どうして名前を知っているのかって顔ね。当然知ってるわ、だって――」
先輩「こいつは部活に入っていない」ヌゥ
後輩「ひっ」
会長「ゾンビかお前は」ビシ
先輩「うげっ」バタッ
先輩「やったのはお前だろうが…」ゴロ
会長「普通に立ち上がればいいのよ」
先輩「あ、もう無理。床がくっついちまった」ゴロゴロ
会長「その割には縦横無尽に寝転がってるわね…」
会長「…」
会長「まさか…あんた、それでこの子に?」
先輩「おう」ゴロゴロ
後輩「…?」
会長「…ふむ」
先輩「合理的だろ。誰も損はしない」
会長「そうね。うん決めた」
後輩「??」
会長「後輩さん」
後輩「っ…ぁ、は、い」
ピッ
会長「決めました。今日からあなたは探し物部の部員です。おめでとう」
・・・翌日、部室前
後輩「…」
後輩「…」ソワソワ
後輩「…むぅ…」
後輩「(ここに来いと言われているのですが…こう、ノックをするにも勇気がいるわけで…)」
後輩「……か、帰っちゃいましょうか」
先輩「おい」
後輩「にゃっ!?」ビクッ
先輩「…猫みたいな反応だな」
後輩「…あ、ど…ど、どうも」//ペコ
先輩「どもり過ぎだろ」
後輩「…す、すいません…その、人と話すのは、苦手で」シュン
先輩「聞いてねえ」
後輩「…はい」スイマセン…
先輩「まあ何でもいいけど。で、なにか用か? 部室の前をうろうろと」
後輩「え? い、いや、用というか…」ゴニョ
先輩「あ、別に興味ないから。話さなくていいよ」
先輩「それと用があっても頼むから放っておいてくれ。面倒臭いのは嫌いなんだ」
ガチャ
バタン
後輩「…」
後輩「えっ」
後輩「…」
後輩「…」
後輩「…とりあえず…会長様が来るのを待ちましょうか…」
ポスン
後輩「…」パカ
後輩「……やはり、ここへ来いとたしかにメールは来ています…。
…いや、そもそも先ほどの方には、顔さえ忘れられていたような…」
後輩「……。ぐぅ…」ジワ
後輩「(…帰りたいです…)」
・・・前日
後輩「…え? …部活、ですか?」
会長「うん。入ってないでしょ」
後輩「は、はい」
会長「部活動への所属義務が校則にあるのは…知ってるよね。説明は受けたはず」
会長「どうしてこれまで、何部にも入ろうとしなかったのかを、ここで問い質すつもりはないけど…」
後輩「…」
会長「む」チラ
後輩「?」
会長「…あの野郎、逃げやがったな…」チッ
会長「はー…ったく、もう! …ねえ」ガリガリ
後輩「はっはい」
会長「とりあえず、ケータイ。貸して」
後輩「…え、ど、どう…」
会長「ええいまどろっこしい。早く渡す」パシッ
会長「うりゃ」ピッ
会長「はい返す」ポイッ
後輩「わ、わ」パシ
会長「アドレスをもらったので、あとでメールする。詳しくはまた明日説明するから」パッ
後輩「はぁ」
会長「じゃあね。…もう、どこに逃げたのよ…」タタッ
後輩「…」ポツン
後輩「…」
後輩「……帰りましょうか…」
・・・戻って、部室前
後輩「ぐす」
会長「…ん? どしたの、部室の前に座り込んで」
後輩「? …あ、か、会長様…」ウルウル
会長「(ずいぶん大仰な呼び方をするもんだ)」
後輩「こ、ここで合ってますよね…?」フルフル
会長「う、うん。なにかあったの」
後輩「…いえ、なにかというわけでは…」ゴシ
会長「はあ。ま、中に入って話しましょう」ガッ
会長「…」ガンッ
後輩「?」
ガチャガチャッ
会長「…」
会長「…んのやろ鍵締めてやがる…」ゴゴゴ
後輩「あ、あはは…」
会長「…はあ」
会長「まあ、うん。しょうがないわ。場所を変えましょう… こんなことで時間を食っても面白くないし」
後輩「そ、そうですね」
会長「そこのカフェ、行ったことある? 学生がやってるのよ」
会長「せっかくだから、そこでのんびりコーヒーでも飲みながら、相談にしましょう」スタスタ
後輩「は、はい」トコトコ
マスター「…」
会長「お疲れ。今日も暇そうね」
マスター「ん? ああ、会長さん。こんにちは」
会長「コーヒーいいかしら。二人分」ピッ
マスター「いつもどうも。これから豆挽きますから、ちょっと待っててください」ガチャ
会長「うん」
会長「ほら。そっちで座ってましょ」
後輩「は、はい」トテトテ
後輩「…」
会長「んー…ふう。いい天気ねー…」
後輩「…」コク
会長「私は生徒会長だから、積極的に部活動に参加することはできないんだけど…」
会長「こんな風に天気がいいと、スポーツしたくなったりはしない?」
後輩「……いえ…体を動かすのは、あまり」フルフル
会長「そう。残念」
会長「けれどそれなら、案外あいつとは気が合うかもね」
後輩「?」
会長「先輩。あいつは、極端な面倒臭がり屋というか…あまり人と話したがらないって感じだから」
後輩「……」
マスター「お待たせしました」
後輩「(? カップが三つ…)」
カチャ
マスター「それで、今日は一体どんな人助けですか?」ガタ
後輩「(あ、ご自分の…ですか)」
会長「そんなんじゃないわ。部活の紹介」ズズ…
マスター「紹介?」
会長「この子、部活に入ってないのよ」
マスター「ほう」チラ
後輩「っ」ビクッ
マスター「ん」
会長「人見知りみたいだから、あんまりじろじろ見ないであげて」
マスター「あ、ああ。ごめんよ。悪気はなかったんだ」
後輩「…い、いえ…こちらこそ、ごめんなさぃ…」ペコ
マスター「ふむ」ズズ…
マスター「ひょっとして、昨日の追いかけっこはこの話ですか」
会長「あら鋭い」
マスター「校舎中に響いてましたからね。気にならない方が可笑しいですよ」
会長「失態だな。まあ、そう言うことね」
マスター「…なるほど」チラ
後輩「…」チビチビ
後輩「…ぅ」ニガイ
マスター「…砂糖とミルク、いる?」
後輩「あっ…// は、はい…すみません…」
会長「コーヒーは苦手だった?」
後輩「っ…す、すいません…苦いのは、ちょっと…」
会長「いや、なにも謝ることはないけれど…」
会長「む?」ピク
後輩「?」
会長「……部室の戸が開いた音がしたわね…ちょっと行って来るわっ」バッ
タタタッ…
後輩「…」
後輩「(どこに突っ込んだらいいのやら…)」
マスター「取って来たよ…って、あれ? 会長さんは?」
後輩「…さ、さあ?」
パキ
トロー…
後輩「…」クルクル
マスター「部活に入っていないというのも珍しいけれど」
後輩「…」コク
マスター「なにか事情があるのかな」
後輩「…」カチャ…
マスター「あはは…いや、その、余計な詮索をするつもりは、ないんけど。ごめん」
後輩「…」
マスター「会長さんはいい人だよ」
後輩「……。はぁ」
マスター「だから、その」
マスター「まあ怖がらずに、あの人に任せると、いいようにしてくれるんじゃないかな」ハハ
後輩「…」
後輩「別に、怖がってるわけじゃ…」ボソ
マスター「ん?」
後輩「…」プイ
マスター「…」ハハ…
ズルズル…
会長「お待たせー」
先輩「…」ズルズル
先輩「…背中が痛ぇ」
会長「だったら自分の足で立ちなさいよ」
先輩「無理ぃー」
会長「じゃあ我慢しなさい」
先輩「……」ハア
マスター「はは。いつも通りだな」
後輩「……」ポカン
後輩「…変わった人ばかり…。…はぁ」
後輩「(面倒臭いですねー…)」ボソ
後輩「…探し物部……ですか」
会長「うん」
後輩「探し物をするんですか?」
会長「うん」
会長「まあ、主にこいつがね」
先輩「呼んだ?」ゴロゴロ
マスター「落ち着きがないなお前は…」
先輩「芝生は悪くない」ゴロゴロ
後輩「…………」
後輩「わ、分かりました。入ります」
会長「あら素直ね」
後輩「楽そうですし」
会長「…ほんとに素直ね」ハハ…
後輩「(それにまあ、――)」
先輩「俺にもコーヒーくれよ」
マスター「いいけど、きちんと座って飲むんだぞ」
先輩「それは無理な相談だな」モゾモゾ
マスター「芝生をうねりながらキメてもなにも締まらんぞ…」
後輩「(……部員がこの人だけなら、まあ、気楽そうだし…)」
会長「ちなみに私も一応部員ね。名前を貸しているだけだけれど」
会長「部にするのに、最低三人は人がいるからね」
後輩「…」コク
会長「これまでは、生徒会の活動の一部で探し物の依頼を受けていたんだけど、その業務をそっちに回す感じで」
後輩「うえ!?」
会長「? どうかした?」
後輩「……い、いえ」
後輩「(そ、それだと…けっこう人と話す機会が増えるのでは……むぅ、墓穴を掘ったかも…)」
後輩「……まあ、…い、いいです。大丈夫です」
会長「そう?」
後輩「…ど、どうせ、何かしら部に入らないと…いけないんで、すよね?」
会長「そうね。あなたにとっても、私にとっても、今この部に収まっておくことが無難だと思うわ?」ニッコリ
後輩「……そうですよね…」ハア
後輩「(面倒だな…)」
マスター「会長さんはしつこいからな。人助けの鬼だよ」ハハ
会長「それは褒めてるのかしら貶してるのかしら」
会長「まあ、詳しいことは、追々詰めて行くとして…」
会長「…」チラ
先輩「……」ゴロゴロ
会長「」スポ
先輩「いて」
会長「おい。なに音楽聞きながら気持ちよさそうに寝てんのあんたは」
先輩「そう思うなら邪魔しないでくれ」
会長「蹴り飛ばすわよ」
先輩「勘弁してくださぃー」ゴロゴロ
会長「せめて申し訳なさそうに言いなさいよ…」ハア
会長「何のためにあんたを連れて来たと思ってんの」
先輩「おかげさまで気持ちいい午後が過ごせた」
会長「昼寝のために連れて来たんじゃないから」ゲシ
先輩「いたい」
会長「部長のあんたがしっかりしないでどうするの」
先輩「つってもなー。俺はなにもしたくないしぃ」ゴロゴロ
会長「その代わりにいつも私が働いてるんでしょうが」
先輩「いつもお世話になってますぅ」
会長「死ね」
先輩「直球だなあ」ゴロゴロ
後輩「(なんでしょうこの歯に衣着せぬ軽妙な会話は…)」
会長「とりあえず、自己紹介でもしたら」
先輩「俺に紹介するような自己はねえよ」
マスター「かっけえ」
先輩「まあなぁ」ゴロー
会長「…」ハア
会長「えっと、この埃塗れの薄汚れたくずが、探し物部の部長ね」
先輩「酷い言い様だな」ケラケラ
マスター「笑ってる場合か?」
会長「昨日も会ったから、顔はよく覚えていると思うけど」
後輩「は、はい」
先輩「まあ、あれだ。なんでもいいや。部活頑張って」
マスター「他人事だな」
先輩「まあな。…はあ、転がるのも、疲れた…」グッタリ
マスター「知らねえよ」
会長「気が重いわ…」ハア
後輩「(こちらこそ)」
・
・
・
コンコン
後輩「……!」
後輩「…っ…」ガタタ
後輩「? ……??」ワタワタ
ガチャ
会長「ん、なんだ。いるんだったら返事くらいしてよ」
後輩「……あ、す、すいません…」シュン
会長「どうしたらいいか分からなかった?」
後輩「…」コク
会長「そっか」
会長「あまり難しく考えないでいいわ」
会長「誰か来たら、なにを探しているのか聞けばいいだけよ。で、それをこいつに伝えればいいだけ」パン
先輩「いて」
会長「おい。なにモブ化してんのあんた」
先輩「……?」
会長「人が話しかけてるんだからまずはイヤホンを外しなさい」スポ
先輩「耳がいたい」ヒリヒリ
会長「……頼むわよ、ほんと。先輩がしっかりして頂戴?」ハア
先輩「いやだ」
会長「断言すんな」ゲシ
先輩「いてぇ」
後輩「……」
会長「…どうかした?」
後輩「い、いえ」
後輩「(この…ぐうたらした人が、探し物なんて…本当にしてくれるんでしょうか?)」
会長「ふふ」ニヤ
会長「きっとその心配は無用よ。こんなんでも、この部の部長はこいつなんだから」ペチ
先輩「こんなんとは失敬な」ダラーン
後輩「…………はあ」
先輩「それで、…お前は何か用かよ」
会長「あら。用がないと来たらいけない?」
先輩「うん」
会長「死ね」
先輩「会長様がそんなこと言っていいんですかー」
会長「うん」
先輩「そっすかー」ゴロゴロ
会長「…くっそこの…」ギリギリ
後輩「」ハラハラ
会長「……」ハア
会長「用はある。いろいろ、使えるかなと思って、持って来たのよ」ガラガラ…
会長「ポット、お茶っぱ、湯呑」カチャ
後輩「……お茶飲み用品…」
会長「接客用ね。まあ、あんたたちが使っても当然構わない」
後輩「ど、どうも」
会長「どういたしまして。他にもいろいろ――」
コンコン
会長「お」
後輩「ひぅ」
先輩「……」ゴロゴロ
会長「お客様かな」ニヤ
会長「はーい、どうぞー」
ガチャ
客A「失礼します。あの、いいすか?」
後輩「(チャラい)」ビクビク
会長「どうぞ。探し物の依頼かしら」
客A「うす。ジャージがどっかいっちまって、このあと部活があるんすけど、それで困ってて」
後輩「(喋り方もチャラい!)」ビクビクー
先輩「偏見だろそれ」
会長「なるほど、それは大変よね」ウンウン
会長「よし。先輩、出番よ」
先輩「俺は手持ちのポケモンか何かか」
会長「指示通りに動けばいいなら楽じゃないかしら?」
先輩「……まったく動かずに済むのが一番なんだがな…」ハア
会長「じゃあもう死ねばいいわ?」ニッコリ
先輩「……ちっ」
先輩「…ちょっと待ってろ。立ち上がるのに時間がいる」プルプル
会長「古いパソコンかお前は」
ザッ
先輩「……うっ」クラ
後輩「?」
先輩「……立ち眩みが…」
会長「虚弱すぎよ」
客A「あのー、早くしてくれません?」
先輩「ああ? てめぇ客の分際で、俺の部屋で偉そうにしてんじゃねえぞ」ギロ
客A「っ、す、すんません」
会長「客を脅してどうする」バシ
先輩「だって俺には何の得もないんだもの」イタイ
会長「得がなくても、あんたは探し物を続けるんでしょう?」
先輩「……。仕方なく、な」ハア
後輩「…?」
会長「応援してるわ」
先輩「…へいへい」
先輩「……ふーっ…」
後輩「?」
客A「…探しに行かないんすか?」
会長「しっ」
客A「」ア、ハイ…
先輩「……」
シーン…
先輩「……」
――ザワザワザワザワザワ
ザワ…
先輩「っ…」
先輩「…」ピク
先輩「……お前」
客A「? 俺っすか」
先輩「…ジャージ、洗ってやれよ…」
客A「は?」
会長「聞こえた?」
先輩「……ああ…普通に教室のロッカーにあるみたいだが…人に貸したりでもしたか」
客A「あ」
会長「思い当たるみたいね」
会長「本当は、貸し借りもよくないけどね。こんな風にどこへ行ったか分からなくなってしまうし」
客A「は、はい。次からは、気をつけます。すんません」ペコ
会長「ええ」
客A「あの、ありがとうございました」
先輩「お大事にぃ」ゴロゴロ
会長「…なんかいいわねその台詞」
先輩「そうかぁ?…はー疲れた…耳が痛いぇ…」ゴロゴロ
会長「お疲れ」
後輩「…」ポカン
後輩「(…な、…今のは一体、何だったのでしょうか…?)」
後輩「……物の声、ですか?」
会長「そう」
先輩「そーそー」ダラン…
後輩「(…軟体の生物かのようですね)」
会長「他人事かあんた」
先輩「ええ、まあ」
会長「…」ビシ
先輩「無言で叩くなよ」イテェ
会長「まあ、その力は見ての通りなので――実際にあなたが探し物をする心配は、しなくていいから」
後輩「は、はい」
会長「…」
後輩「…」モジモジ
会長「…まあ…だからこそ、前途多難なのかもしれないけれど」ハア
後輩「…うぅ」
会長「頑張って。人見知りを治す、いい機会だと思って」ポン
後輩「…」
先輩「頑張ってー」
会長「だから他人事じゃねえんだよ」ゲシ
先輩「ちょっ足は洒落にならんて」ガフォォ
後輩「……別に、私、人見知りなんかじゃ…」ボソ
会長「?」
会長「…なにか、言った?」
後輩「……」フルフル
会長「…ねえ」
後輩「は、はい?」
ムニュ
後輩「あう」
会長「いい? 人と話すときは、相手の目を見て話す」
後輩「…」アウー
会長「それから、あんたたまに面倒だからか知らないけど返事をしないわね。論外」ムニムニ
後輩「…っ、やめ…」
会長「い・い?」
後輩「…っ」バッ
会長「っと」
後輩「…はぁーっ…はぁ、わ、分かりました、分かりましたから…」ハァ…
会長「……そう。なら、いいわ」
先輩「あんまいじめてやんなよー」ゴロゴロ
会長「…そんなつもりじゃないわ」
会長「というかあんた、そんな気遣うような台詞が言えたんだ。へえ」
先輩「ああいや、俺は穏やかに寝ていたいだけですぅ。ただでさえ騒がしいのに」
会長「働け」
後輩「……」
会長「じゃ、ちゃんと働くのよ」
先輩「気が向けばぁ」ダラダラ
会長「向けろ」
先輩「…それにそもそも、依頼がそんなにあるとも限らないしな…あふ」
先輩「落し物失くし物なんて、少ないに越したことはないだろ?」
会長「……まあ、ね」
会長「後輩さん」
後輩「…は、はい」
会長「こいつのこと、よろしくね。二人で頑張って」
後輩「…ぁ…っ…その」
会長「?」
後輩「が、頑張りません」
会長「頑張れよ」ガスッ
シュゥゥゥゥ…
会長「じゃあお疲れ」ガチャ
先輩「おう」
後輩「……ぉぉ…」イタイ…
パタン
先輩「…さて」
後輩「?」
先輩「……寝よ」キュ
後輩「(…イヤホン…)」
先輩「……」ゴロ
後輩「…」
後輩「(……本でも、読んでいましょうか)」
・
・
・
先輩「あっ」
後輩「?」
先輩「…」ガバッ
先輩「…お腹空いた…帰ろ」
後輩「(動物ですか)」
先輩「……あー」
後輩「?」
先輩「お前も帰るぞ。鍵閉めるし。出ろ出ろ」
後輩「あ、は、はい」
バタンッ
ガチャ
先輩「じゃ」ズルズル
後輩「…」ペコ
先輩「…」ズルズル
後輩「(…逆に歩き辛そうですね…)」
ポツン…
後輩「ふう」
後輩「…それにしても、今日は…疲れました…」ハァ
後輩「…帰りましょうか」
パタン
後輩「……さて」
後輩「帰りましょう、そうしましょう」
会長「待ちなさいよ」ガシ
後輩「! ひっ」
会長「(ガチ怯えかい)」
後輩「あっ……え、ええと。どうも」ペコ
会長「お、挨拶くらいはまともにできるようになったのね…」
会長「で? これから部活って時間に、どこに行くつもりなのかな?」
後輩「…、い、家に?」
会長「阿呆」ガスッ
後輩「っ…」イタイ…
会長「はい。部活に行きましょうねー」ズルズル…
後輩「……」ズルズル…
会長「(消極的な方向に、積極的な子ね……これは本当にあいつとそっくりだわ…)」
後輩「……カエリタイ…」
バンッ
会長「お、ちゃんといるわね」
先輩「……」zz…
会長「…寝てるけど。まあ、いいや」
後輩「?」
後輩「…なんだか、物が増えてますね…」
会長「うん。今日は工作をしようと思って」
後輩「工作?」
会長「当たり前の話だけれど、うちは部活動への参加が必須だから、放課後暇な人は、まあ基本的にはいない」チラ
先輩「……むにゃ」ゴロン
会長「…基本的には」
後輩「……」ハハ…
会長「だから、探し物があっても依頼に来れないのがむしろ当たり前でしょ? それだと意味がないから――」ゴソ
会長「依頼投書用のボックスでも作ろうと思って。段ボールとか、工具とか、いろいろ持って来たのよ」
後輩「! つまり、それがあれば私はなにもしなくても!」
会長「いやいるときはちゃんと応対しなさいよ」
後輩「……」エー
会長「えーじゃないが」
トンテンカン
会長「できた」
後輩「はい」
会長「設置もできた」
後輩「はい」
会長「じゃ私はこれで」
後輩「うぇい」ガシッ
会長「うぇい?」ナンダソレ…
後輩「せ、殺生です。む、無理です、私に応対とか…」
会長「慣れよ慣れ」
後輩「……」プルプル
会長「……」
会長「…そんなに、人と接するのがいやなの」
後輩「……」
会長「でも、私とは少しずつ話せるようになって来たじゃない」
後輩「……それは…か、会長様が、嫌がる隙も与えてくれないからで…」
会長「あ、じゃあもっとぐいぐい行けばいいのかな私は」
後輩「やめてください死んでしまいます」
会長「死ぬの?」
後輩「死にます」
会長「…まあ、いいわよ。私も、仮にもここの部員だしねぇ」
後輩「た、助かります」
会長「その代わり、だったらここで生徒会の仕事をするわ。ちょっと書類取って来る」
後輩「は、早く戻って来てくださいね」
会長「はいはい」クス
パタン
後輩「……」
後輩「…」ソワソワ
ガチャ
後輩「?」ハヤイ…
??「……お? 君、は…?」
後輩「(違った!)」ヒィィィィ…
先輩「……」zz…
??「あ、こいつがいるってことは…よかった。部室を間違えたわけじゃ、ないんだな」
後輩「」ガクブル
??「……」
??「ええっと、あの…」
後輩「…な、なんでしょう…」
??「いやそんな身構えんでも…取って食おうってわけじゃないし」
後輩「いえ、別に食べられるとは思っていませんが」
??「あ、そう」
後輩「非常に気分が悪いのは事実です」
??「素直だね」
後輩「できれば帰って頂きたく…」
会長「客を帰らせてどうする」スパーン
後輩「あう!?」
??「あ、会長」
会長「ん?」
先友「お疲れさまです」
会長「…ああ、あんただったの」
後輩「…ぉぉ…」ジンジン
後輩「…ど、どっから出て来たんですかこのヤロウ…」ボソ
会長「なんか言ったぁ?」グニ
後輩「にゃにも言ってましぇぬ」モガー
先友「…その子は?」
会長「ここの新入部員よ」
先友「……へえ? 探し物部に? それはまた…」
後輩「?」アウー
先友「変わった趣味をしていると言うか…」ハハ…
会長「変人には違いないわ」
後輩「(失敬な)」
会長「自覚、持った方がいいわよ」ムニムニ
後輩「(あなたに言われたくありません)」
会長「否定はできないわ」ムニムニ
先友「(どうやって会話しているんだこの二人…)」
会長「まあ…でも、たしかにこいつは客じゃないから、接客はしなくても、いいわね」
後輩「?」
会長「元部員。今はバスケ部」
先友「よろしくね」スッ
後輩「…」サッ
先友「……え、どうして手を避けるの?」
会長「奥手なのよ。どっかの誰かさんによく似てるわ…いや、あいつは奥手とは違うか」
後輩「……」フイ
会長「ほら。顔を背けたりすると相手に失礼でしょ」ガシ
後輩「やめてくらはい」ウナー
先友「…な、なるほど…」ハハ…
先友「ですがすみません。今日は一応、探し物を頼もうと思って来たんです」
会長「あ、なんだ客なのか。いいよ、私が聞いておく」
先友「どもです」
会長「後輩さん」
後輩「…は、はい」
会長「ちゃんと見ておいてね。応対の仕方、覚えるのよ」
後輩「…………。……頑張ります」
会長「よし」
先友「(すげぇ間があったな)」
会長「それで、なにを失くしたのかしら」カリカリ
先友「えっと、自転車の鍵を…」
会長「それは大変。家に帰れなくなるわね」カリカリ
先友「ですね。あの、部活が終わったら、また取りに来るんで」
会長「承ったわ。何とか言ってあいつは、探し物をする才能にだけは秀でているからね。大船に乗ったつもりでよろしくどうぞ」
先友「お手数かけます。それじゃまたあとで」
会長「ええ」
後輩「…」ペコ
パタン
会長「……どう? 何となく、流れは掴めたかしら」
後輩「は、はい。…えっと、“それは大変”、“承った”、“大船に乗ったつもりで”…」
会長「丸暗記する気!? 不器用かあんた!」ゴスッ
後輩「ふぎゃっ」
ポン
会長「まあ…あれよ。焦らず、のんびり、慣れて行けばいいから」
後輩「……は、はい」
会長「よし」ニコ
会長「さてと」
先輩「……」zz…
スポッ
先輩「…ん」
会長「起きろ。仕事の時間よ」
先輩「気のせいだ」
会長「はいはい。ほら、あんたの唯一の友達からの依頼よ」
先輩「…………」
会長「…そんな財布落としたみたいな顔せんでも…」
先輩「例えが妙にリアルで嫌だ」
ムクリ
先輩「…あいつは、友達なんかじゃない」
会長「? じゃあなに」
先輩「……何でもない。ただ、同じ部活に、一時期いた時期が重なっただけだ」
会長「…そう。まあ、なんでもいいわ」
会長「いいからこれ。探して来なさい」ピラ
先輩「面倒くせぇ」
会長「この問答を続ける方が面倒だと思わない?」
先輩「…………思う…くそ」ハア
パシ
先輩「覚えてろ」
会長「行ってらっしゃい」
先輩「ちっ」
パタン…
・
・
・
会長「それじゃ…私はそろそろ生徒会室に戻るから」
後輩「!?」
会長「…そんな財布をすられたのに気づいたみたいな顔せんでも…」
後輩「(……リアル感ある…)」
会長「依頼の対応もだけど、あいつともちゃんと喋れるようにならないとね」
後輩「……あ、…はあ…」
会長「…なによその気の抜けた返事」
後輩「……ま、まともに意志疎通が、できる気が、しないのですが」
会長「…そうね」
会長「でも、案外気が合うかも、とは思ってるわ」
後輩「……そ、うですか?」
会長「ええ」
後輩「……はぁ」
会長「頑張って」
後輩「…………は、はい」
会長「うん。それじゃね」ニコ
パタン
後輩「…………」ハァ
・
・
・
ガチャ
後輩「」ビクッ
先輩「……」
ポイ
カシャンッ
後輩「(…あ、鍵……本当に、探し物がお上手なのですね…)」
先輩「あふ」ゴロン
先輩「…っと、イヤホンイヤホン…」ゴソ
先輩「……はあ、…疲れた…」zz…
後輩「(寝るの早っ)」
先輩「……ぐぅ」
後輩「…」
後輩「…まあ、余計な会話をしないで済むなら――気楽でよいですね…」
先輩「…」zz…
後輩「本でも読んでいましょう」ペラ
・
・
・
カチ コチ カチ コチ …
ペラ
後輩「…」
先輩「…」zz…
後輩「…」ペラ
先輩「…」
後輩「…そうだ。せっかくだし、…お茶でも淹れましょうか」ガタ
カパッ
サラサラ…
後輩「……こんな…ものですか」
後輩「…えい」グイ
コポポポ…
先輩「…ぐぅ…」
後輩「…えっと、湯呑は…」ガタガタ
先輩「…」
後輩「ありました。…」チラ
先輩「…」zz…
後輩「…あまり気にせず物音を立てたつもりでしたが…ぴくりともされませんね」
先輩「…」
後輩「……鼻でもつまんでみようかな…」
先輩「……」zz…
後輩「…」
後輩「…や、やめときましょうか」ウン
トトトト… コト
ズズ…
後輩「…ん、おいしいですね…はふ」
後輩「…」
先輩「…」
後輩「…」ズズ…
後輩「…不思議な…方ですね。私のことなんて、毛ほども気にしていないようですし」
後輩「……友達もいないようですし」フフ、ナカマ…
先輩「…ん」
後輩「?」ズズ…
先輩「……ぐぅ」ウーン
後輩「……。なにやら、うなされているようです」
先輩「…くっ」
後輩「見る間に険しい表情に……え、と、どうしましょうか」ワタ
後輩「さ、寒いとか? なにか羽織るものなどあれば…」バタバタ
先輩「……」パチ
後輩「ええと、ええと」
先輩「……」ボーッ
後輩「あ、ひとまず湯呑を置きましょう」コト
先輩「なあ」
後輩「ひぅ!?」ビクッ
先輩「……あ、いや…悪い、面倒臭いし、いいやなにも答えなくて」
後輩「あ、はあ」ドキドキ
先輩「ふあー…あー…」ノビー
先輩「あふ。そろそろ帰るか」
後輩「あ、はい。……わ、分かりました」ボソ
先輩「早くしろ」
後輩「(準備早くないですか) す、すいません」
後輩「あ、お茶を飲んでしまわないと…」グイ
後輩「!? あっつ…!」ケホッ
先輩「……」アホカ…
先輩「…貸せ」
後輩「けほっ…は、え?」
パシ
先輩「…ん」グイ
後輩「…」ポカン
先輩「…ふー。…なにぼーっとしてんだ、早く準備しろよ。閉じ込めるぞ」コト
後輩「そ、それは困ります」ワタワタ
・・・・・・・
ガチャ
会長「お疲れー」
後輩「…あ…」ペコ
先輩「…」zz…
会長「こいつはいつも通りね」マッタク
後輩「…そ、ですね…」ハハ…
会長「…」チラ
後輩「? …ど、どうかしましたか…?」
会長「んーん。なにも」
会長「そのお茶、けっこういいやつなのよ。おいしいでしょ」
後輩「…あ…ですね。はい。…あ、」パクパク
会長「?」
後輩「…………いえ…その、なんでも…」フルフル
会長「…そう」
ガサ
会長「依頼、箱に入ってたわよ」
後輩「…」コクン
会長「直接来る人はいなかったの?」
後輩「あ、鍵をかけていたので…」エヘヘ
会長「おい」
会長「えへへじゃないが」
後輩「…だ、って……ま、まだ…む、無理ですよぅ」シュン
会長「…」ハア
会長「……まあ、いいわ。本当に必要な人は、こうして依頼をくれるわけだしね」ガサ
後輩「…」コクコク
会長「でもいつかはきちんと応対できるようになるのよ?」ニコ
後輩「…」フイ
会長「目を逸らすな、こら」
・
・
・
後輩「…」ペラ
会長「…」カリカリ…
先輩「…」zzz
後輩「…」ズズ…
会長「…」カリカリ
会長「ねえ」
後輩「?」ペラ
会長「…退屈…じゃないの?」
後輩「……そ…ですね」
後輩「…べつに…どうせ」
後輩「うちに帰っても、なにをするというわけでも、ないですから」
会長「……そう」
後輩「…はい」ニヘラ
会長「…」
後輩「…? ど、どうかしましたか?」
会長「……ううん、なんでもない」
後輩「?」
会長「さ。そろそろこいつを起こしましょうか。探し物をさせないとだしね」
後輩「は、はい」コクン
スポンッ
先輩「…」ウゴ
会長「ぐっもーにん」
先輩「昼だぞ」
会長「夕方よ」
先輩「…」
会長「仕事よ」
先輩「……。イヤホンを無理に引き抜いて起こすんじゃねえよ」
会長「いつもイヤホンをしている方が悪いんじゃないかしら?」
先輩「…………」ハァ
先輩「探し物か?」
会長「おや。なんだか話が早いわね、いつもより多少」
先輩「……目、覚めちゃったしな…」ハァ
会長「そう。じゃあよろしく」
先輩「へいへい…」ハア
パタン
後輩「……」
後輩「…ぉ…」
会長「? ん?」
後輩「……お、お一人で……大丈夫、でしょうか」
会長「……」
会長「大丈夫よ。探し物部なんて言って、どうせ探すのはあいつだから。“探し物部はあいつの部だから”」
後輩「…………そ…ですね」
会長「うん」
後輩「……」
会長「…」
ポン
後輩「?」
会長「まあ、あれよ」
会長「戻って来たら、お茶でも淹れてあげるといいわ」
後輩「……」
後輩「はい」
・
・
・
ガチャ
後輩「!」ビクッ
先輩「……」ポイ
先輩「……はあ。疲れた…」ゴロン
後輩「……」ギュ
後輩「…あ」
後輩「、あのっ」
先輩「……」zz…
後輩「……もう寝てる…」ズーン…
後輩「……また…今度、頑張りましょう…」ハア
―――休日
後輩「暇です」
後輩「……家にいてもやることがないので…」
後輩「……」チラ
後輩「(むしろ家にはいたくないくらいだし…)」ハア
後輩「…お散歩でも…しましょうか」
トントン
後輩「そうだ、ついでに」
後輩「部室で読む本でも買いましょう。……探し物部での主な活動が読書だと言うのも何とも言えませんが…」ハハ…
後輩「……」
後輩「行って来ます」
パタン…
後輩「……」トコトコ
後輩「……」ポテポテ
後輩「?」
「…」キョロキョロ
後輩「……なにやら、…見覚えのある…気だるげに丸まった後姿ですね」
「……」キョロキョロ
後輩「(ものすごく挙動不審ですが!)」
後輩「あれは…犬を、抱えているんでしょうか」
「……」スッ
「…」フイ
後輩「なにやらインターホンを押しかねているようです」
後輩「…………こ、…声をかけてみましょう、か?」
「……」キョロキョロ
後輩「(放っておいたら捕まりそうですし…)」
ザザザ…
後輩「あ、あの」
「?」
後輩「……どうも。…えっと…お、…お困り、でしょうか」
「…」
「……」ギュ
ピンポーン
後輩「(あ、押すんですね)」
「はい」パス
後輩「え?」
犬「ヨロシクニキー」ワフッ
後輩「え?」
「あー……疲れた…もうむりだわ……」トコトコ…
後輩「は?」
ガチャ
男性「はい。どちら様で…?」
後輩「(私に押しつけてどっか行きやがりました!)」ヒドイ!
男性「…えっと…?」
後輩「(突然の訪問に驚かれているようです。当然です。見も知らぬ犬を抱えた人間が唐突にやって来たのですから。私も驚いています…)」ブツブツ…
男性「? あ。あの」
後輩「ひゃいっ」
男性「ひょっとしてその犬――拾って来てくれた……うちの犬ですか?」
後輩「え?」
犬「セヤ」ワンッ
男性「おおよかった。どこに行ったかと心配してたんだぞ」ヨシヨシ
犬「スマンナ」
後輩「(なるほど…迷い犬を探して、届けるところだった…ということですね)」
後輩「(……探すのはともかく……届ける? あの人が? そんな手間なことを?)」ハテ
男性「どうもありがとうございます。今朝もちょうど探しに出て、見つからなかったところで…助かりました」
後輩「い、いえ」ワタシハナニモ…
男性「よかったらなにかお礼を」
後輩「い、いえ、その…」フル
後輩「し、失礼しますっ」ペコ バッ
男性「あ、…」
男性「ふむ。今時珍しい、親切な子だなぁ…なあ?」ナデナデ
犬「セヤナ」ワンッ
後輩「……」
スポッ
「いてっ」
後輩「……あの」
後輩「わ、私に押しつけて……なにをのんきに河原で寝ているんです、……せ、先輩さん」
先輩「…………?」
後輩「?」
先輩「…ああ、そうか。お前、俺と同じ部なんだっけ……忘れてた」
後輩「(顔も覚えてもらえてなかったんですか!)」ヒドイ
先輩「なんか変なやつに声をかけられたなぁと思ってたんだ」
後輩「(あなたに言われたくはありません)」
後輩「(……いやむしろ…顔すら覚えられていないというのは……それはそれで気楽ではありますが)」
先輩「?」
先輩「ところで…なんか用か?」
後輩「へ?」
後輩「…あ、いや、べつに…何用ということでも…」
先輩「そうか。じゃ」ギュ
後輩「…」
先輩「…」ゴロン
後輩「…」ムッ
スポッ
先輩「いて、……なんだよぉ」ムスッ
後輩「こっちの台詞です」
後輩「ひ、人にあれこれ押しつけといて、あ、挙句、無視するということないでしょう」
先輩「はあ」
後輩「大体半ば無理やり部に入れた人間の顔を忘れるのもどうなんです」
先輩「はあ」
後輩「はあじゃないです」
先輩「はあはあ」
後輩「なにに興奮したんです?」
先輩「してねえよ」
先輩「んだよ…めんどくさい奴……」ゴロゴロ
後輩「こっちの台詞です」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「寝ていいか?」
後輩「……。ご自由に」
後輩「私は本でも読んでいます」ガサ
先輩「どっか行けよ」
後輩「暇なのです」
先輩「だから?」
後輩「本でも読もうと思います」
先輩「わざわざここで読む必要はないだろう」
後輩「どこかへ行く必要もまたありません」
先輩「……。もういいやめんどくせぇ」
後輩「はい」
後輩「…」ペラ
先輩「……」ボーッ…
先輩「…」ウト…
後輩「……」ペラ
先輩「…」コク…z…
後輩「……そう言えば」スポ
先輩「っ」
先輩「…」イテェ…
後輩「動物も探せるのですね」
先輩「…………せっかく寝かけたところだったのに…」
後輩「申し訳ありません」クスクス
先輩「……謝る気、ないだろ」ハア
後輩「そんなことはありませぬ」
先輩「ぬ?」
先輩「……べつに…動物の声なんて聞こえねぇよ」
先輩「あいつに付いていた首輪の声を聞いたんだ」
後輩「なるほど。そうでしたか」
先輩「……」
後輩「…? なにか?」
先輩「……いや」
先輩「…お前って、多分、馬鹿なんだろうなぁって」
後輩「そ、そんなことはありませぬぞ」
先輩「ぞ?」
先輩「物の声が聞こえるなんて話は……そんなに簡単に信じることじゃないだろう」
後輩「……はあ」
後輩「…べつに…信じてはいませんが… 信じない理由も、ないですから」
先輩「……」
先輩「…よく、分からん」
後輩「そうですか?」
先輩「変なやつ」
後輩「あなたに言われたくはありません」
先輩「ふん」
後輩「ふふ」
先輩「……」
後輩「…」
先輩「……」
後輩「……」
先輩「…喋り疲れたから、寝る」
後輩「はい。お休みなさい」
―――翌日
ガチャ
会長「やほー」
後輩「…、あ…」ペコ
会長「うん。またしばらくここにいるからよろしく」
後輩「はい」
会長「?」
先輩「…」zz…
会長「(……湯気の立った湯呑が二つ…)」フム
後輩「? どうか…しましたか?」
会長「……」
会長「なんでもないわ」ニコ
後輩「…あ、あの」
会長「うん?」
後輩「会長様も…お茶…飲まれますか?」
会長「……」
会長「ありがとう。頂くわ」
後輩「…」コクン
パタパタ…
会長「…ふむ」
会長「いい感じに…変わりつつあるのかな…」フフ
・
・
・
先輩「…ん…」パチ
後輩「あ……お、おはようございます」
先輩「……おう…」
先輩「…ふあ――…」グシグシ
先輩「あふ。よく寝た…」
後輩「依頼が来ております」
先輩「……、だから?」
後輩「探しに行かれるとよいかと」
先輩「……」
後輩「…そう嫌そうな顔をされても困ります」
先輩「嫌なんだもん…」
後輩「お察しします」
先輩「……。ありがとう」
後輩「いえ」
カサ…
先輩「はあ…めんどうだぁ…」
後輩「……」
後輩「一つ、聞いてもよいですか?」
先輩「なに?」
後輩「…本当に…面倒ならば、探さなければよいのでは?」
先輩「…………」
先輩「…そうだな」
後輩「はい」
先輩「でも、“面倒だから”、探すんだ」
後輩「?? それは…?」
先輩「……。べつに…意味は、分からなくていい。じゃあな」
パタン…
後輩「ふむ」
・
・
・
ガチャ
後輩「…お疲れさまです」
先輩「おう」
後輩「早いですね」
先輩「そうか?」
後輩「はい」
先輩「そうか」
ポイ
ガタタ
先輩「…はあ、っと…」グッタリ
先輩「これでやっと、のんびり寝れる…」ハア
後輩「…ほどなく下校時間になりますが」
先輩「……。いいんだよ。気にするな」
後輩「そうですか?」
先輩「そうです」
後輩「そうですか」
先輩「……うん」
先輩「……」ゴロゴロ
後輩「…」ペラ
先輩「…」ゴロ
後輩「…」ペラ
先輩「…………。なあ――」
後輩「そうだ。…お茶でも淹れましょうか?」
先輩「……。どうも」
後輩「いえ」
後輩「…」カチャ
コポポポ…
後輩「どうぞ」コト
先輩「うん」
後輩「……」ズズ…
後輩「はふ」
先輩「…」ズズ…
先輩「なあ」
後輩「? なんでしょう」
先輩「お前まで残る必要はないと思うんだが」
後輩「…」ズズ…
後輩「そうですね」
先輩「うん」
後輩「ですがこの会話は昨日したそれのくり返しになってしまうように思います」
先輩「?」
後輩「私が先に帰る必要もまたありません」
先輩「……」ズズ…
先輩「そうだな」
後輩「はい」
先輩「…」
先輩「……お前ってさ」
後輩「はい」
先輩「友達いないだろ」
後輩「!? ど、どうして分かるのです?」アワワワ…
先輩「なんとなく」
先輩「そろそろ帰る」
後輩「分かりました」
ガタ
先輩「…今日も疲れたなあ…」ハア
後輩「…ほとんど寝ておられただけに見えましたが」
先輩「……。そんなことないぞ」
後輩「そうですか?」
先輩「うん」
先輩「…」
後輩「…」
先輩「動くのだるい」
後輩「はあ」
先輩「おんぶしてくれてもいいんだぞ」
後輩「嫌です」
先輩「けち」
後輩「私は悪くありません」
先輩「友達いないくせにー」
後輩「先輩さんはいらっしゃるのですか?」
先輩「……」
後輩「…」
先輩「…帰るか」
後輩「そうしましょう」
ガチャ
後輩「先輩さんはどうやって通学されているのですか?」
先輩「自転車」
後輩「…」
先輩「なんだよその目」
後輩「…いえ…あなたが自転車を漕いでいる姿は、なかなか、想像し辛く思いまして」
先輩「失敬な」ズルズル…
後輩「そもそも歩くのすらままならぬように見えますが」
先輩「余計なお世話だ」ズルズル…
後輩「失礼しました」クスクス
先輩「心配なら二人乗りで送って行ってくれてもいいんだぞ」
後輩「同じことを何度も言わせないでください」
先輩「……冷たいなあ…」
後輩「ふふ」
先輩「なんで嬉しそうなんだよ…」
後輩「…………、いえ、べつに、嬉しくなんてありません…」
先輩「ツンデレか」
後輩「違います」
会長「あ」
先輩「ん?」
後輩「」ビクッ
後輩「…」ペコ
会長「お疲れさま。これから帰るところ?」
先輩「まあな」
会長「そう。…」チラ
後輩「?」
会長「こいつはちゃんと仕事をしたかしら?」
後輩「…」コクコク
会長「そう」ニコ
先輩「…言われなくたってちゃんと働くよ…」
会長「どの口が言うか」
先輩「……。俺の周りは厳しいやつしかいないのか…」
会長「それだけあんたがぐうたらなのよ」
後輩「…」クスクス
会長「ま、その調子で頑張って。じゃあね」
先輩「へいへい」
後輩「?」
後輩「あ、あの」
会長「ん?」
後輩「…会長様は…まだ、帰られないのですか?」
会長「? うん」
後輩「……お、…お疲れさま、です」ペコ
会長「……」
会長「うん。ありがとう」ニコ
後輩「い、いえ」
会長「それじゃ」
後輩「…」ペコ
先輩「お疲れさまですぅ」
・・・・・ある日
コンコン
後輩「」ビクッ
先輩「…」zz…
後輩「…」
後輩「…」ドキドキ
グッ
後輩「…。は、はい。どうぞ」
・・・ガチャ
客B「失礼しまーす」
後輩「…」ペコ
客B「どうも。えっと、探し物の依頼に来たんですけど…」
後輩「は、はい。ではそちらに…」
客B「ども」
先輩「……」zz…
後輩「…えっと。「なにを失くされたのでしょう」」
客B「財布を落としちゃって」
後輩「「それは大変です」。…えっと…お買い物が、できなくなってしまいますから」
客B「ですね」ハハ
後輩「わ、分かりました。えっと、部活が…ありますよね?」
客B「はい」
後輩「では「承りました」。また…部活が終わったら、取りに来てください。それまでにはきっと見つけておきますので」
客B「素早い対応ですね」
後輩「はい。えっと…「先輩さんは、探し物をする才能にだけは秀でてらっしゃいます。どうか、大船に乗ったつもりで」」
客B「分かりました。よろしくお願いします」ニコ
先輩「……」zz…
パタン…
後輩「はふ」
先輩「おい」
後輩「ふえ?」
先輩「お前、なにか俺が寝てる間に失礼なこと、言わなかったか?」
後輩「……」
後輩「気のせいです」
先輩「……。あ、そ」
後輩「はい」
後輩「そんなわけで、依頼が入って来ました」
先輩「そうだな」
後輩「よろしくお願いします」
先輩「へいへい」
・・・・・
ガチャ
先輩「…はー。疲れた…」
客C「…」
後輩「あ、…お帰りなさい」
先輩「……」マタカ…
先輩「はぁ」
パタン
後輩「…」
客C「…」
客C「……で、出て行っちゃいましたね」
後輩「は、はい」
客C「お、お邪魔だったですか」
後輩「……どうでしょう…」
ガチャ
先輩「…」
後輩「おや」
後輩「お早いお帰りですね」
先輩「……」チッ
ポイ
客C「わ」パシッ
客C「…これ、私の筆箱…」
先輩「……」ハァ
ガタタ
先輩「うるさくて寝れやしねぇんだ。さっさと帰れ」ゴロン
客C「…あ…えと」
客C「す、すいません。ありがとうございました」
先輩「お大事にぃ」
後輩「またのご利用お待ちしております」ペコ
先輩「いや探し物部がまたのご利用お待ちしちゃダメだろ」
後輩「? そうですか?」
先輩「うん」
客C「…」クスクス
客C「あの、失礼します。また来ますね」
後輩「…はい」ニコ
コト
後輩「…お疲れさまです。よかったら、どうぞ」
先輩「ん…。ああ、悪い」ゴロン パシッ
バシャ
先輩「…」
後輩「…」
先輩「熱い」
後輩「でしょうね」
後輩「なぜ寝ころんだまま飲める口にできると思ったのです?」
先輩「いや、無理かなーとは思ったんだけど…ほらめんどくさいし…」
ボタボタ…
後輩「この状況の方が圧倒的に面倒臭いと思われます」
先輩「違いない」
後輩「どこかに雑巾はあるでしょうか」
先輩「…雑巾? ああ、――」
後輩「?」
先輩「……、外に出て、すぐロッカーがあるだろう。そこに入ってるんじゃないか?」
後輩「……そう記憶されているのですか?」
先輩「いや今声を聞いたからそう思ったんだ」
後輩「…………。そうですか」
先輩「うん」
後輩「…では、取りに行かれるとよいかと思います」
先輩「俺が?」
後輩「だれがこぼしたとお思いですか」
先輩「…………行きたくない!」
後輩「素直ですね」
先輩「うん」
後輩「では…私が取りに行きます」ハア
先輩「いい人」
後輩「光栄です」ガチャ
パタン
後輩「ありました」
先輩「よかったね」
後輩「はい」
フキフキ
後輩「…」
後輩「一つ、聞いてもいいでしょうか」
先輩「…」zz…
後輩「…」
スポッ
先輩「いたい」
後輩「人に床を拭かせておいてなにを寝むり呆けております」
先輩「だって眠いんだもの」
後輩「…先輩さんは自由極まりないですね…」
先輩「ありがとう」
後輩「褒めたつもりはありませぬ」
先輩「じゃあ、俺から先に一つ聞いてもいいだろうか…あふ」
後輩「? はあ」フキフキ
先輩「お前、最初会ったときと、俺に対する態度がずいぶん違うような気がするんだけど」
後輩「……。そうでしょうか」
先輩「うん」
先輩「なんというか、もっと人見知りなんだと思った」
後輩「……そう…ですね」
後輩「私自身は決して自分を人見知りとは自覚していません」
先輩「……」
後輩「そんな目で見ないでください…」
先輩「お前を知ってる人間はすべからく「お前が言うな」と思ったに違いない」
後輩「で、では、私は知り合いが数えるほどもおりませんので平気ですね」エヘヘ
先輩「切ない…」
後輩「……なんというか…」フキフキ
後輩「なんでしょうね」
先輩「はあ」
後輩「……あなたは…べつに、私のことなど、どうでもよいと思っておられるのでしょう?」
先輩「うん」
後輩「(即答ですか)」
後輩「……、えへへ…だからかもしれません」
先輩「?」
後輩「そんな感じです。…一応、ご質問には答えたつもりです」
先輩「ふむ」
先輩「…まあよく分からんけど…いいや。めんどくさいし、なんとなく…気になっただけだから」
後輩「そうですか」
先輩「うん」
後輩「では」
先輩「?」
後輩「今度は、私の質問に答えて頂いても?」
先輩「……。俺に答えられる質問ならな」
後輩「……それは、面倒臭くない質問を、という含意があるのでしょうか」
先輩「うん。お前俺のことよく分かってるなぁ」
後輩「えへへ」
後輩「じゃ、なくてですね」コホン
先輩「ごまかせなかったか」
後輩「ふふ…。まあ、面倒と言わずお答えください」
先輩「はあ」ゴロン
後輩「えっと…」
後輩「あなたはどうして探し物をされるのでしょうか」
先輩「……。ん」
後輩「?」
後輩「どうかしましたか?」
先輩「ああいや…何でもない」
後輩「…はあ」
先輩「ちょっと……予想していた質問と、違ったってだけだ」
後輩「?」
先輩「(のっけから“こういう”質問をされたのは――…だれ以来だろうか)」
先輩「質問に答えよう」
後輩「はい」
先輩「それは当然。探し物があるからだ」
後輩「…」
後輩「……、そうですね」
先輩「これでいいか?」ダラーン
後輩「……、……」
後輩「…その答え方は…ずるいです」
先輩「でも嘘はついちゃいない」ゴロゴロ
後輩「……そうですが…むぅ…」プクー
後輩「納得行きませぬ」
先輩「あそ…」ゴロゴロ
先輩「どうでもいいけど、お前のその面白い喋り方はなんなの?」
後輩「!? し、喋り方が面白いと言われたのは初めてです…」
先輩「あ、そう?」ゴロゴロ
後輩「はい… ?? 面白い…」ハテ
先輩「自覚なしか」
後輩「そうですか…私の喋り方は、面白いですか…」フフ…
先輩「(なぜ嬉しそうになる?)」
先輩「……さて…そろそろ帰るか」
後輩「はい」ニコ
先輩「……」
後輩「…?」
後輩「帰りの支度はされないのですか?」
先輩「…」
後輩「?」
先輩「えっと…せっかくだし…この機会に」
先輩「ついでに一つ、聞いてもいいだろうか」
後輩「? なんでしょう。私に答えられることであるならばなんなりと」ニコ
先輩「……うん」
先輩「お前はどうして探し物部に入ったんだ?」
後輩「…………」ジト
先輩「あ、いや、うん。言いたいことは分かるんだけど」
後輩「(…分かっているのなら普通あなたの口から…その質問が出るはずは、ないと思うのですけれど…)」ハア
先輩「その」
先輩「……お前の態度を見てると、なんだか…」
先輩「不思議に思ったんだ。お前みたいなやつが。こんなところにいることが」
後輩「(……みたいなやつ…)」ズーン…
先輩「べつに貶したわけじゃない落ち込むな面倒臭い」
後輩「は、はい」
先輩「本当に嫌ならお前はきっとここに入りすらしていない……と、思った」
先輩「お前は俺とどこか似ているからな」
後輩「……気のせいですよ」
先輩「そうか?」
後輩「そうです」
後輩「…ふふ」
後輩「では、その…」コホン
後輩「質問に答えます」
先輩「うん」
後輩「……私がなぜ探し物部に入ったか――ここにいるか」
後輩「それは当然、探し物があるからです」
先輩「へえ」
後輩「はい」
先輩「そっか」
後輩「はい」
先輩「帰るか」
後輩「はい」
後輩「……」
後輩「なにかとは」
パタン
先輩「ん?」
後輩「なにを探しているのかとは――聞かないのですね」
先輩「…まあ…」ガチャ
先輩「べつに、興味ないし。めんどくさいしどうでもいい」
後輩「…ではそもそもなぜ聞いたのです…」
先輩「さあ…」
後輩「さあって」
先輩「分からん。あまり人とは喋らないしなぁ」
後輩「……はあ」
先輩「どうでもいいよ。帰ろうぜ」
後輩「…はい」
・
・
・
ガチャ
後輩「こんにちは」
先輩「…」スポ
先輩「おう。お疲れ」
後輩「はい」
先輩「…ふあ…」
後輩「…」ガタッ
ポスン
後輩「…」
後輩「お茶でも淹れましょうか」
先輩「ん…悪いな」
後輩「いえ」
コト
後輩「どうぞ」
先輩「おう」
後輩「いえ」
ズズ…
後輩「はふ」
先輩「ん…」ゴク
後輩「…なんだか」
後輩「今日は、静かですね」
先輩「…そうか?」
後輩「そうです」
先輩「…ふうん」
先輩「…」
後輩「(本でも読もうかな)」ゴソ
先輩「…」ズズ
先輩「…なあ――」
ガチャ
会長「お疲れ」
後輩「あ、…お疲れ、さまです」ペコ
先輩「…」
会長「? なによその顔」
先輩「……ノックくらいしろ」
会長「…うんごめん。? お前って、そんな細かいこと気にするんだ?」
先輩「……うるせぇな」チッ
会長「?? なんかあったの?」ボソ
後輩「…さあ」
先輩「…はぁー…」ゴロゴロ
会長「今日は退屈そうね」
後輩「はい。いまのところは…とくに、依頼もありませんし」
会長「そこでちょっと嬉しそうな顔をしないの」ポコ
後輩「あう」
後輩「…ですが、ここが暇ということは、失くし物がないということで…」
先輩「いいことだな」ウン
会長「あんたらが言うとニュアンスが変わるのよ」
後輩「はて」
先輩「なんのことですかね」ゴロゴロ
会長「(妙に息が合って来たわねこいつら…)」
会長「…なんでもいいけど」ハア
会長「存在意義を問われることがないくらいには働いてもらいたいわね」
先輩「そうは言ってもな。失くし物をするのは俺の仕事じゃないしぃ」ゴロゴロ
後輩「…なんだか深いお言葉ですね」
先輩「まあな」
会長「……。そうね」
会長「暇ならいいわ。二人でのんびりしてなさい」
後輩「あ…い、行ってしまわれるのですか?」
会長「ふふ。もう一人でもなんとかなるでしょ?」
後輩「あ、ぅ…」フイ
後輩「…が、頑張り……は、しませんが」
会長「…」
後輩「……な、なんとかします」
会長「そう」
コンコン
会長「お」
後輩「あう」
会長「ふふ。ちょうど依頼が来たみたいだし…。頑張って」
後輩「…」コクン
先輩「俺も応援してるぞー」ゴロゴロ
後輩「あ、あなたも頑張ってください」
会長「それじゃね」クスクス
ガチャ
会長「どうぞ。ごゆっくり」
客D「へ? あ、ど、どうも…?」
後輩「…」
後輩「」ペコ
後輩「よ、…ようこそ探し物部へ」
後輩「なにか…お探しですか?」
・
・
・
後輩「……こうして――」
後輩「私は先輩の後輩になりました」
級友「…」
後友「ふーん」
後輩「これが私と先輩の馴れ初めです」フフ…
先輩「気に食わない言い方をするな」スパーン
後輩「ふぎゃっ」
後輩「……せ、先輩…いつの間に…」ジンジン
先輩「呼びに来たんだよ。ったくなにをのんびりしてるのかと思ったら…」
後輩「叩かなくともよいではありませんか」
後輩「だ、だいたいですね。馴れ初めという言葉に妙な意味合いはありませぬ。…ふふ、先輩が深読みしすぎなのでは――」ニヤニヤ
先輩「なんか言ったか」グリグリ
後輩「あう……ぐりぐりは…ぐりぐりはだめです……」アウアー
後友「(…仲が良いことで)」ケッ
先輩「じゃこいつはもらってくから」ガシ
後輩「? なにかあるのですか?」
先輩「ミーティングだミーティング」
後輩「……はて。先輩が部活にやる気? これは明日は季節外れの雪が――」
先輩「行くぞおら」ガシ
後輩「あー」ズルズル…
級友「あの」
先輩「ん?」
級友「無事、私の探し物は見つかりました」
級友「どうもありがとうございました」ペコ
先輩「…はっ」
先輩「堅苦しいやつだな。いいよ、べつにお前のために探したわけじゃない」
級友「…そうですか。分かりました」
先輩「おう」
後輩「……たまには先輩に引き摺られるのも悪くないですね」ズルズル
先輩「なに言ってんだお前」
後輩「先輩は攻めも行けるのですね! さすがです!」ハアハア
先輩「死ね」ポイ
後輩「あう」ベチャ
後輩「お、置いて行かないでください!」パタパタ…
後友「ばいばーい」
級友「…」
後友「さて。私はお風呂にでも行こうかなー」
後友「ね。友は練習頑張ってね」
級友「ん? ああ、うん。ありがとう」
後友「? …どうかした?」
級友「…、いや…」
級友「(…まあたしかに、私は「どうして探し物部に?」と聞いただけで――「なぜそれほど先輩さんを慕っているのか」と…聞いたわけではない、か)」
級友「……まあ、いろいろあるんだろうね」
後友「え?」
級友「ううん。なんでもないよ。…それじゃあ、また明日」ニコ
後友「うん」
タタッ
後輩「先輩先輩」
先輩「なんだ」
後輩「ミーティングとは一体なにをするのでしょう」
先輩「話し合い」
後輩「…? なんのですか?」
先輩「…」
後輩「……? こ、答えてください」グイグイ
先輩「腕を掴むな。歩き難い」
後輩「ふふ。照れているのですか?」グイグイ
先輩「気のせいだ」
後輩「……、えへへ…」グイグイ
先輩「……。」
先輩「…」ハア…
ガチャ
先輩「…そこ、座れよ」
後輩「はい」
ポスン
先輩「…よっと」
後輩「…………」
先輩「ん? どうかしたか?」
後輩「あ、いえ…なんでも、ありません」
先輩「? 変なやつだな…」
後輩「…」
後輩「(…せっかく和室なのに……寝転がらないのですね)」
後輩「(……我ながら妙なことを気にかけるものです)」クス
先輩「??」
後輩「…なんでもありませんよ」ニコ
先輩「……あ、そ」
先輩「お前に渡すものがある」
後輩「? はぁ」
先輩「…」
パサ
後輩「…………。これ……」
先輩「まあ…言わなくても――分かるよな」
先輩「…中にお前の――」
後輩「先輩」
先輩「…なんだ」
ゴクン
後輩「…私は」
後輩「……わ、私は、…これを受け取ることは…」
先輩「後輩」
後輩「っ……。は、はい」
先輩「お前、探し物部やめろ」
後輩「……! …!?」
後輩「…………え?」
先輩「ほら」スッ
後輩「…………」
先輩「これを受け取れば、お前がここにいる意味はなくなるはずだ」
後輩「……」
後輩「そんなことはありませぬ」
先輩「そうか?」
後輩「そうです」
先輩「どうして?」
後輩「どうしても」
ギュ
後輩「…だって」
後輩「わ、私は、先輩のことが――」
先輩「気のせいだ」
後輩「大好きで…」
先輩「気のせいだって」
後輩「……気のせいなんかじゃ……」
後輩「……」
先輩「…」
後輩「…先輩は…」
先輩「ああ」
後輩「……今でも…探し物は、お好きではありませんか?」
先輩「…ああ。…“うるさいし”。嫌いだ」
後輩「…………それでも、私は…」
先輩「……」
後輩「…」ギュウ
ガサ
後輩「…少し…。外に、出て来ますね」
先輩「いや、部屋は別々に取ってあるんだから自分の部屋に戻れば」
後輩「寝る前には先輩へおやすみをしないと安眠できませんので」
先輩「普段どうしてんだお前」
後輩「ベッド脇にある写真立てにお休みなさいと、いつもは」
先輩「聞かなきゃよかった」
後輩「ふふ」クスクス
先輩「はは」
後輩「…」
先輩「…」
後輩「……じゃあ…またあとで」ニコ
先輩「…おう」
パタン
先輩「…………はあ」
先輩「胃が痛ぇ」
タタッ…
後輩「…」
カサ…
後輩「……」
後輩「……一応、でも…受け取ってしまいましたね」
後輩「…はあ……」
後友「あれ?」
級友「おや」
後輩「あ…。どうも、こんばんは」ペコ
後友「うん。さっきぶりー。もしかして女もお風呂?」
後輩「あ、いえ私は……」
級友「?」
級友「(…頬に……少し、跡が)」
級友「……ねえ」
後輩「は、はい」
級友「…あ、いや……えっと、その封筒は?」
後輩「……これ……ですか」カサ
後輩「……」
級友「…?」
後友「? なんだかよく分かんないけど」
後友「ちょうどお風呂に行こうと思ってたんだよ。女も行こう」
後輩「…は、はあ。けれど私はなんの準備もありませんが――」
後友「一緒に取りに行けばいいでしょ? ほらほらー」グイグイ
後輩「お、押さないでください……わわ」
級友「…ふふ」
・
・
・
カラカラ…
後友「とう!」
ザバー
級友「……まったく行儀の悪い…」ハア
後輩「…」キラキラ
級友「……」
後友「ぷはっ」ザバッ
後友「ほらほら。二人とも早くー」
級友「…ここは浴場であって、プールじゃないんだけれど」
後輩「とう!」
ザバー
級友「……」
級友「(でっかい子どもが二人…)」ハアー…
ザブ
級友「ふー…」
後友「もー。ノリが悪いなぁ」
級友「……常識の持ち合わせがあるだけだよ」
後友「えいっ」ピュー
級友「わぷ」
級友「…あーもう。怒るよ?」
後友「わー。逃げろー」キャッキャッ
ザバザバ
級友「……はあー。まったく…」
後輩「……」プカプカ
級友「……」
級友「それ、楽しい?」
後輩「はい!」キラキラ
級友「……そう」
級友「ええと、公衆浴場でタオルは浸けるのはマナー違反だからね?」
後輩「えっ」
後輩「…はふ」
級友「少しは落ち着いたかな」
後輩「へ?」
級友「…お節介だとは思うのだけれど――…なんだか、悲しそうな顔をしていたから」
後輩「…………」
後輩「…そうでしょうか」
級友「…うん」
級友「きっと女友も、女さんに気を遣ったんだと思うよ」
後輩「……」
ザバ
後友「……ぐへー…泳いでたらのぼせた…」
級友「……たぶんね」
後輩「…はい」クス
後輩「……どうも、ありがとうございます」ペコ
級友「ああ、いや。…友達だからね。心配するのは当たり前だよ」
後輩「……。そう…ですか…」
級友「? うん」
後輩「……友達…」ボソ
級友「?」
後輩「あ、いえ…なんでも…」
後輩「……。その…」
後輩「本当に――大した話では、ないのですが……」
後輩「失敗したんです」
級友「……失敗?」
後輩「ええ。まあずいぶん昔の話ですし…気に病むのも笑ってしまうような、ごく些細なことなのですが」
後輩「いずれにしても、……えと、その、…その女の子はですね」
級友「うん」
後輩「…嫌になってしまいました。いろいろと」
後輩「……人と関わることとか、……ピアノを続けることとか」
級友「…その女の子は、ピアノをしていたんだ」
後輩「ご明察です」ニコ
後輩「――もう、ずいぶん前にやめてしまいましたが」
級友「…ある失敗がきっかけで?」
後輩「ある失敗がきっかけで」コクン
後輩「楽譜を失くしてしまったことが、その失敗の原因でした」
級友「…そうか。じゃあ、私と一緒だ」
後輩「はい。一緒ですね」
級友「ひょっとしてさっきの封筒は」
後輩「……」ニコ
後輩「…つまり私は、それを受け取ってしまうと――もう探し物部にはいられないのです」
後友「そうなの?」ムク
級友「お。復活したね」
後友「えへへ」
後輩「そうなのです」
後友「…よ、よく分かんないけど」
級友「…つまり、探し物が見つかったから……もう探す物はないから。そこにはいられないということ?」
後輩「はい」
後友「…で、でも、女は…探し物部に、いたいんじゃないの…?」
後輩「はい」
後友「即答だ」ハハ
後輩「…もちろんです。私は」
後輩「先輩のことが……大好きですから」
後友「…」
級友「…」
後友「…そうだね」
後輩「……はい」
ガラ
会長「…ん。こんな時間にまだ入ってるの」
後友「会長さん」
級友「こんばんは」
会長「うん。練習お疲れさま」
ザバ
後輩「……では…私はお先に、失礼します」
後友「あ、…うん」
級友「また明日」
後輩「はい」
会長「お疲れさま」
後輩「はい」
カラカラ…
パタン
後輩「……」
後輩「…もう」
後輩「…………」ハア
後輩「…部屋に、戻りましょう」
級友「会長さん」
ザバ
会長「うん?」
級友「……彼女、探し物部をやめると言っていました」
級友「探し物は、もう見つかったからと」
会長「……。そう」ワシワシ
後友「あ、あの」
会長「ん?」
後友「…なんとかならないんですか? 女は、べつにやめたがってなんて――」
会長「…」ゴシゴシ
会長「……そうね」
ザバー
会長「…」フルフル
会長「でもそれは元に戻るだけよ」
後友「?」
級友「…元に?」
会長「そう」
会長「探し物が見つかったなら、もう探し物を続ける必要なんてないでしょう? 探し物がないのだから」
後友「??」
級友「……それは、でも…」
級友「聞いてもいいですか?」
会長「なに?」
級友「……では、そもそも――先輩さんは、どうして探し物をするんですか?」
会長「……」
会長「探し物があるから」
級友「…だから、それはつまり、――」
ザバ
会長「のぼせる前に上がりましょう」
級友「……」
後友「ふへー」
会長「大丈夫?」
後友「…あ、ありがとう…ございます」ハフ
級友「……はい」
ガチャ
後輩「あ」
先輩「……おう」
後輩「…これからお風呂ですか?」
先輩「うん」
後輩「一緒に入りましょうか」
先輩「アホ言え」
後輩「冗談です」フフ
先輩「お前が言うと冗談にならないよ…」
後輩「ふふふ。先輩がお望みであれば、いつでも言ってください」
先輩「そんなことを言うときは来ない」
後輩「待っていて来ないのであれば、こちらからそこへ向かえばよいのです」
先輩「無駄に格好いい」
後輩「ふふ?♪」
後輩「…」ニコ
後輩「ねえ先輩」
先輩「…なんだ、後輩」
後輩「私は、こうして先輩とお話するのが好きです。先輩のことも大好きです」
先輩「うん。ありがとう」
後輩「…」
ギュゥ…
後輩「…それでは……私がここにいる理由には、なりませんか?」
先輩「うん」
後輩「……っ…」
モフッ
先輩「うげ」
後輩「せ、先輩は、分からず屋です!」
先輩「……気のせいだ」
後輩「いえ! 絶対にそうです!」ポフッ
先輩「だ、だからタオルを投げて来んなって…」モフ
後輩「えい」バサ
先輩「うぷ」
先輩「……あー、もう。めんどくせぇやつ…」ハア
後輩「…」バシバシ
先輩「いたい」
後輩「…」バシバシ
先輩「…」ハア…
後輩「……どうして……」
先輩「?」
ガサ…
後輩「――どうして、こんなもの……今さら…」
先輩「…」
後輩「先輩の都合など知りませぬ!」
先輩「…」
後輩「せ、先輩ことなんて大好きです!」
先輩「ありがとう」
後輩「はい!」
先輩「お前は混乱すると本音が漏れるんだな。阿呆だ」
後輩「あ、あほはひどくないですか?」
先輩「あほー」
後輩「むぅー」
先輩「はは」
先輩「…」クス
ポン
先輩「…どうもありがとう」ナデナデ
後輩「……え…先輩?」
先輩「…でも、もういいだ。だって、俺はもう……――」
後輩「……、?」
タタッ…
会長「ああ、いたいた」
後輩「? おや…会長様」
先輩「……」
会長「あんたは察しが良すぎるわ」
先輩「……まあな…」ハア
後輩「??」
会長「ちょっと失くし物をね」
先友「…」
先輩「…」
先輩「…失くし物したのってお前かよ…」
先友「おう!」
先輩「なあ」
先友「おう?」
先輩「俺がお前の依頼を受けると思うか?」
先友「おう!」
先輩「死ね」
先友「なんで!?」
先輩「暑苦しいから…」ハア
後輩「先輩。頑張りましょう」オー
先輩「頑張らねぇ」
ゴロン
先輩「俺は探さねぇぞ」
先友「そ、そう言わずにさ」
会長「……」
後輩「…先輩?」
先輩「……」ハア
先輩「…俺が探すのもお前が探すのも一緒だよ」
先友「…ん?」
先輩「……だってもう、俺には探し物の声が聞こえないんだもん」ゴロ
後輩「…………。え?」
会長「……」
後輩「せ、…先輩」
先輩「ん」
後輩「…先輩はいつか、自分が探し物をするのは、探し物があるからだと。そう仰っていました」
先輩「ああ」
後輩「……物の声が聞こえず、探し物をせず、ということは――」
後輩「先輩の探し物は見つかったのですか?」
先輩「……」
先輩「…」
先輩「ああ」
後輩「…本当、ですか?」
先輩「うん。…こんなことで嘘ついてどうする」
後輩「…………」
先輩「…? 後輩?」
後輩「おっ」
先輩「お?」
ガシッ
後輩「おめでとうございます!」
先輩「……、ああ?」
後輩「だって探し物が見つかったことは――先輩にとって、喜ばしいことなのでしょう?」
先輩「……そりゃ、まあ」
先輩「…正確に言うと、探して、相手に届けることだが――」
後輩「そんなことはどうでもよいのです!」
先輩「よくねぇよ聞け」
ブンブン
先輩「…痛いよ」
後輩「先輩は嬉しいですか?」
先輩「……まあ」
後輩「そうですか。では私も嬉しいです!」
後輩「先輩の幸せが、私の、幸せです」ニコ
先輩「……」
先輩「…あー、そう」
後輩「はいっ」ニパッ
先輩「……でもいいのか?」
後輩「? なにがです?」
先輩「…俺、もう探し物できないけど。そうすると、お前がやめる云々以前に――」
ギュウ
後輩「いいのです」
先輩「…」
後輩「先輩がよいのなら、それで」
先輩「…」
先輩「さっきまでと言ってることが違う気がするが」
後輩「違いませぬ♪」ニコ
先輩「…さいですか」
ワイワイ
会長「……ふふ」
会長「(上手く行った――のかな。これで丸く収まったのならいいけど)」
先友「……あの…俺の失くし物は……?」
会長「自分で探しなさい」
先友「……はい」
後輩「先輩先輩」
先輩「どうした後輩」
後輩「私は、先輩のことが大好きです」
先輩「うん。ありがとう」
昔話。
・・・・・・・
ポーン ――ドカッ
「あう」
「あっ」
タタッ
「わ、悪い。えっと……、大丈夫か? オマエ」
「……」グス
「へ、平気……」
「どこが? 泣いてんじゃん」
「(…どうしてボールをぶつけて来た側がえらそうなんだろう…)」ジンジン
「?」
「えっと……ご、ごめんな。俺のせいで泣かしちゃって」
「な、泣いてないもん」
「…泣いてんじゃん」
「泣いてないって」
「泣いてるよ」
「う、うるさいなあ!」
「なんだよー」
「す、少なくとも」
「ぼ、ボールのおにいちゃんのせいで、泣いたわけじゃないもん。……もお、どっか行って!」ドン
「いて」
「……なんだよー」
「…………」
「ふん」ポンポン
「…」
「…」ハア
「……ぐす」
「やっぱ泣いてんじゃん」ポンポン
「!? なっ……」
「なんかあったんだろ」ポンポン
「……。なんでもないもん…」シュン
「(だからどこが)」
「なあ」
「……」
「おれに任せてみろって。これでもひとだすけが得意なんだぞ、おれ」
「……」ジト
「ん?」
「……なんでもない」フイ
「(私と同じくらいなのに……よく言う)」プクー
「??」
「な、な? とりあえず、なにがあったかくらいおしえてみろって」グイグイ
「……」ユラユラ
「……べつに……なにもないってば…」
「うそつきー」
「うざい」
「ひどい」ケラケラ
「(…話、聞いてくれないかな…)」ハア
「話してくんないと、お前の周りでずーっとドリブルするぞー」ダムダム
「(うるさい)」
「あ」ツル
「ふぎゃ」ズム
・・・バタン
「……」ヒリヒリ
「わ、悪かったって」
「……」グス
「…だ、だから、ほら。いまのお礼も兼ねて」
「……人にボールをぶつけるのがしゅみ…?」オレイッテ…
「な!」
「……」ウザイ
「……」ハア
「失くし物?」
「…」コクン
「なるほど。じゃあ俺がそれを探せばいいんだな!」
「…………べつに探さなくても、お母さんが届けてくれることになってて…」
「お母さんがどこかで足を挫いたのかもしれない!」
「(……まあたしかにおそいんだけど…)」
「俺、探し物とか得意だから! 任せとけ!」ニカッ
「…………」
「うん」コクン
「よし」フンス
「じゃあ――そこにいろよ!」
「――絶対見つけて、お前に、届けるからな!」
タタッ…
「……」
「……」コク
・
・
・
「……分っかんねー…探し物ちょーむずい」
「……いや、諦める気はないけど……やくそく、したし」
ポツポツ…
「げ」
「…雨かよ」
ザアアアア…
「…はぁ、はぁ」
「(楽譜って、言ってた……たぶん、雨で濡れたら…よくないし…)」ハア
「…くしゅ」ブルッ
――ヒラ…
「?」
「……」パシ
「……これって……楽譜?」ピラ
「…紙一枚だけ飛んで来た。むう。こ、これか?」
ヒラヒラ
「…………めっちゃ飛んでる」
「…」
「う、うおおお! あ、集めなきゃぼろぼろになっちまうじゃねえか!」バサバサ
「…………」
ボロ…
「…あ、集めてるうちにぼろぼろになったのと……も、元から雨で…」
「……げ、原型をとどめていない…」
「…………」
ザアアア…
「……」
「…やくそく…したんだ。探すって。絶対、届けるって」
「…………」
ザワザワ… ザワザワザワ――
「……っ…?」
「…っ」
「…ぐぅ…んだこれ……耳が…」
『――痛い』
「……!?」
『痛いで兄ちゃん。…いやまあ、君のせいではないんやけど』
「……は?」
『? なにをぼけーっとしとんねん。君がわいを集めてくれたんやろ。サンキュー兄ちゃんww』
「…………」
「…ああん?」
『こわww』
「……うっとおしい」ハア
「な、なんなんだよ、お前」
『難儀な性格やね』
「あ?」
『わいの声が聞こえるのは君がそう望んだからや』
『そんなに約束、大事なん?』
「……」
「うん」
『ほーん』
「ほーんじゃねえよ」
『どっww』
「なに笑ってんだ」
『すまんな』
―――ザワザワザワザワ
「…っ…」
『物の声が聞こえる世界は大変やで』
『……それでも、ええんか?』
「……」ハア
「いいよ。…やくそく…だから」
『……そうかい』
『応援しとるでにーちゃんww』
「だからなんで笑ってんだよ」
『そんなことより四散したわい、はよ集めてやーww』
「お前ってどうなってんの?」
『さあ? 基本全部にーちゃんの妄想やしww』
「…………妄想が妄想だって名乗るなよ」ハア
・
・
・
後輩「おや。先友様ではありませんか」
先友「?」
先友「…おお。だれかと思ったら…後輩さんか」
先友「…」ジッ
後輩「? どうかされましたか?」
先友「…ああ、いや」
先友「……なんでメイド服?」
後輩「ふふ。それはもうメイドだからです♪」キャハッ
先友「…!」
マスター「うちのウェイトレスに許可なくときめくなよ」
先友「お、おう。失礼…」
後輩「♪」ニコニコ
先友「コーヒーもらえるかい」
後輩「畏まり頂戴仕ります!」ハイッ
マスター「敬語は盛ればいいってもんでもないと思うが」ザラザラ
後輩「マスター! コーヒーのご注文です!」
マスター「聞こえてるよー」ガガガガ
会長「いい天気ね」
先友「会長さん」
後輩「おや。いらっしゃいませ」ニコ
後輩「会長様もいっぱい引っ掛けられますか?」
会長「酒か。頂くわ」
後輩「畏まりです!」
マスター「うん。そのくらいがちょうどな」コポコポ…
後輩「マスター様! コーヒーのご注文で御座いますります!」
マスター「こっちで帳尻合わせて来たか…」コポコポ…
給仕「…」カチャカチャ
後輩「手伝います」
給仕「あ、…。ありがとう」ニコ
後輩「いえ」フンス カチャカチャ…
会長「後輩ちゃんは元気そうね」ズズ…
マスター「ええ。おかげさまで」
マスター「…まあ、まだちょっと空元気にも見えますけどね」
会長「……そうね」
先友「先輩のやつは、まだ引き籠ってるんですか?」
会長「…あんた友達なんじゃなかったっけ」
先友「親しき仲にもってやつです」キリ
会長「あ、そ」
マスター「はは」
会長「まだ、物の声の聞こえない世界に慣れないんだって」
会長「…後輩ちゃんとは連絡取ってるみたいだから…まあ、心配はないでしょ」
先友「……物の声の聞こえない世界、…ね」
会長「…うん」
会長「ま、つまり…単純に探し物ができる便利な力――ってわけじゃなかったってことよね」
マスター「…ええ」
マスター「ふふ。なんだか会長さんらしくない台詞ですね」
会長「……まあね」
会長「反省、してるのよ。一応」
マスター「…そうですか」
カチャカチャ
後輩「ふふ。洗い物が多いと、たくさんの方が来てくださったのだと感じて嬉しいですね」
給仕「うん」
後輩「……」カチャカチャ
給仕「…」カチャカチャ
後友「おーい」
後輩「? あ、お二人とも。どうもこんにちは」
級友「お疲れさま。ここのお仕事には、もう慣れたかな」
後輩「おかげさまで。楽しく働いております」ニコ
級友「それはよかった」ウン
後友「探し物部がなくなったときは――しばらく元気がなかったけど。もう平気みたいだね」
後輩「……」カチャ…
後輩「…そう、ですね」
後輩「でもやはり、私の先輩は、先輩だけですから」
後友「…」
級友「…そうだね」
後輩「…はい」ニコ
後友「先輩さんとは連絡取ってるの?」
後輩「はい。毎晩のようにお話しております」フフ…
級友「それはよかった」
後輩「はい」
後輩「…ですが、そのおかげで電話代がかさみ……お姉様にはひどく怒られてしまいました…」シュン
級友「そ、それは…。ほ、ほどほどにね」
後友「はは。すっかり恋する乙女だねぇ」
後輩「はい。私は先輩が大好きですので」ニコ
給仕「(…かっこいい…)」カチャカチャ
フキフキ
後輩「コーヒーを飲まれますか?」
級友「うん」
後友「あ、それと…さっき友と話してたんだけど」ゴソ
後輩「?」
後友「クラシックのコンサート。一緒にどうかなって…。これチラシなんだけど」ピラ
後輩「わ…。それは嬉しいお誘いです。ぜひ」ニコ
後輩「…あ、それでは」チラ
給仕「?」
後輩「四人で一緒に、…どうですか?」
給仕「…。うん。ありがとう。その…お二人が、よかったら…」
級友「もちろん」
後友「ぜひぜひ」
給仕「……ありがとう」ニコ
後輩「ふふ」ニコニコ
後輩「マスター殿」
マスター「君はそのたびごとに呼び方が変わるね。なに?」
後輩「コーヒー、お二つ追加です」
マスター「はいはいっと」ガタ
級友「すいません」
マスター「いやいや。お客様だから気にしないで。働かないと」ハハ
後輩「はい。きりきり働いてください」
マスター「……意外と辛辣だなおい」
給仕「…」クスクス
会長「…」ズズ…
会長「(うちは部活動の入部が必須だから…とりあえずと思って、ここを勧めたけれど)」
会長「(うん。まあ――上手く行っているみたいで……よかったかな)」
――ザァァ…
後友「! きゃっ」パッ
後輩「…風が強いですね」
後友「…あう、コンサートのチラシ…」
ヒラヒラ…
後輩「私が取りに行きます」タタッ
後友「あう。ご、ごめんねー」
後輩「いえ」
ヒラヒラ…
後輩「(風に乗って――ふふ。ひらひらと、まるで意志を持っているかのようですね)」フフ
……カサ…
後輩「……おや」
後輩「追っているうちに、いつの間にか部室棟を周り込んで……」
後輩「(……見上げると、ちょうど探し物部――…が、あった場所……が、見えますね)」
後輩「……ふふ。…もうあそこから足が遠のいて一月ですか…時が経つのは早いものです」
ガラ
後輩「?」
「…けほっ…あー。埃溜まりまくりじゃねえか…掃除くらいしとけよ…」
後輩「おや」
「ん?」
「…ああ」
―――ザアアア…
後輩「…」ニコ
後輩「お久し振りです」
先輩「うん」
後輩「お帰りなさい」
先輩「うん」
後輩「先輩。大好きです」
先輩「……うん」
後輩「……ふふ。えへへ」
後輩「先輩」
先輩「うん?」
ニコ
後輩「大好きです」
・・・おしまい
639 : ◆VjCnOYG8L2[sag... - 2013/06/14 23:19:57.16 ARLRVRNNo 471/473以上で完結です。
あー後輩可愛いな、と少しでも思ってもらえれば、>>1としてこれ以上のことはありませぬ。てへ。
途中の乙、感想レスは大変励みになりました。
二ヶ月という長い期間、お付き合い頂きありがとうございました。
641 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/06/14 23:23:04.97 oCFBqgF4o 472/473まだもう一つのスレがあるから……!
644 : ◆VjCnOYG8L2[sag... - 2013/06/15 00:00:08.29 JkK+sAXMo 473/473レス感謝です。
>>641
そうですね、では、宣伝がてら…↓このスレは続きます。
後輩「先輩のことが大好きです!」 先輩「うん知ってる」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1366641329/
しばらく休憩したら(日単位ですが)、こちらもぼちぼち再開しますので、よかったらまたおつきあいください。