【前編】の続き
~氷の洞窟近辺~
僧侶「はあぁ……合流前の旅が嘘のようですう…ここまで、すんなりと来れるなんて…魔物が出ても、皆さん強いからサクサク進行できます…」ジーン
魔法使い「そんなに大変だったんだ…」
僧侶「私が戦闘に出ると、いっぱい時間が、かかっちゃったし。賢者さんが仲間に入ってくれるまで、本当に大変だったんだよ~。一匹の魔物に対して、半日かかったりして…」
魔法使い「えー、そんなにー!?僧侶さん、可哀想。お疲れ様!でももう大丈夫だね、勇者様も盗賊のお兄さんも強いから!僕だって、僧侶さんを守ってあげるからね!」
僧侶「ううっ!ありがとう~魔法使いくんー!!」
盗賊「おいテメーら、呑気にお喋りしてんじゃねーぞ。本丸に着いたんだからよ」
勇者「地図によると、この辺りなんだが…それらしき入口が見当たらないな。洞窟の中なのか?」
盗賊「この洞窟には入った事がある。くまなく…とは言えないが、探索した限りじゃあ、宝物庫入口なんて見当たらなかったな」
勇者「しかし、周囲を見渡しても、目につくものはない…やはり怪しいのは、この洞窟くらいだぞ」
盗賊「そうさな…前は、この中にあった落とし穴の先に、目当てのものがあったし…それみてェに、隠し通路があったのかもしれねー」
勇者「よし…中に入ろう。魔法使い、僧侶、聞こえたか?今からこの洞窟に入る……」
―― ピカッ!!
僧侶「きゃあ!?」
勇者「な、なんだ…!?」
魔法使い「勇者様が洞窟の壁に触れたら、その手が光ったよ!?」
ゴゴゴゴゴ…
盗賊「……!?なんだ、こりゃ…幻か?洞窟の入口に重なるように…扉が現れたぞ!!」
勇者「……貿易大国の姫から受け継いだ鍵…それが反応したのか」
僧侶「わ…私でも、わかるくらい……強い魔力反応を感じます…この入口、こうやって、魔法で隠していたんですねえ…」
魔法使い「これなら、鍵を持っている人がいないと、どうやったって見つけられないもんね。すごいなあ…昔の魔法かあ……」
盗賊「…ただの引戸って感じなのに、びくともしねェ。おい、勇者。お前が鍵とやらを持ってんだろ?開けてみろよ」グッグッ
勇者「どれ。……ん、あっさり開くじゃないか。これも鍵の力か?鍵を持つ者にしか、扉は開かれないわけか…」ゴガララ…
魔法使い「だから砂漠の国は、貿易大国のお姫様……鍵を欲しがったのかあ…場所がわかっていても、現れず開かずじゃどうしようもないもんね」
盗賊「…中は…結構奥まで続いてんな。何かの気配も伝わる。テメーら、気をつけて進めよ」
僧侶「うう…薄暗いから、ちょっと怖いです……」
~王家の遺跡・宝物庫~
幻獣「ガアアァァ!!」
勇者「せやあ!!」ザンッ
幻獣「グオオオ…!」シュウゥッ
勇者「消えた……確かに手応えはあったのに。魔物とは違うな、…宝を守る番犬、といったところか…」
僧侶「でも、でも、受けた傷はそのままです…勇者様、回復しますから、腕を出してください」
勇者「いや、これくらい。どうって事ないよ」
盗賊「……小さい傷でも、侮ると致命傷に化ける事もあんだ。回復できる時にしておけ」
勇者「…そうかな?…じゃあ、お願いするよ。僧侶」
僧侶「はい、任せてください!…回復魔法!」パアッ
魔法使い「ねえ、お兄さん。この先、道が2つに分かれているんだけど…どうしよう?」
盗賊「侵入者を迷わせる為に、わざとグチャグチャに通路を作っているって感じだな…とりあえず右に進んでみっか。壁に印をつけておいて…違ったら、ここに戻ってこよう」
魔法使い「…なんか、先がまったく見えないんだけど……間違っていたのかな?この道…」テクテク
勇者「番犬も絶えず襲ってくる、どこかで休まないと、消耗するばかりだな」
盗賊「……仕方ねー、あの曲がり角辺りで一旦休憩を取るか…壁に印、と……」
僧侶「…!?あ、あれえ?盗賊さん、もう壁に印が、ついてますよう!?」
盗賊「な!?…確かに、こりゃあ俺がつけた印だぞ…どういうこった、真っ直ぐ歩いていたのに。封印の塔みてェに、幻惑魔法でもかかっているのか…?」
勇者「……一度引き返そう、あの分かれ道まで戻るんだ。今度は左側の通路を進んでみよう」
タタタタタ…
魔法使い「戻ってきたけど……左側も、さっきと似たような作りだよね。だ、大丈夫かなあ?」
盗賊「行ってみねーとわからんな。ちょっと偵察してくる、お前らはここで休んでいろ」
魔法使い「一人じゃ危ないよ!僕も一緒に行く!」
盗賊「俺一人でいいっつーの。足手まといだ、いいから休んでいろよ、チビスケ」
魔法使い「また番犬が出たらどうするのさ?一人じゃ倒しきれないでしょう、魔法でサポートするから!僕も行くよ」
盗賊「チッ、仕方ねーな……怪我すんなよ?しても捨てていくぞ」
勇者「2人だけで大丈夫なのか?全員で進んだ方が…」
盗賊「偵察だ、先が見えるんなら、ここに戻ってくっからよ。勇者サマはそのクソアマのお守りでもしていろや。じゃあ行ってくるぜ」
僧侶「気をつけてくださいね、盗賊さん、魔法使いくん!危なくなったら、無理せずに、戻ってきてください…!」
勇者「……なんというか、口の悪い男だな、彼は。クソアマって…君の事だろう?」
僧侶「…はっ!呼ばれるのに、慣れちゃってました…!は、早く正さないと…あわわ…」
勇者「…クソアマにチビスケ……私は、勇者サマ、か…なんだか一線引かれている感じがするなあ…」
盗賊「おりゃっ!」ザクッ
幻獣「ゴガアァァッ!!」
魔法使い「お兄さん、危ない!…火球魔法!!」ゴウッ!
幻獣「ギャアアア~!!」ジュオッ
盗賊「…すまねーな、助かったぜ」
魔法使い「えっへへー。やっぱり僕がついてきて良かったでしょう?……でも、そろそろヤバいけどね…魔法を使いすぎて、疲れてきちゃった……」
盗賊「そういや、いいものを持っていたな、俺。……ほら、魔力を回復させる聖水だ。飲んでおけ」ゴソゴソ
魔法使い「え、すごーい!ありがとう!…わー、本物だ、実物は初めて見たよ!どこで手に入れたの?」
盗賊「氷の洞窟の宝箱に入っていたんだ。使う機会を逃したから、いずれ売ろうと思っていたが、そうしなくて良かったぜ」
魔法使い「んぐ……、ぷはっ。…うん、力が湧いてくる感じ……これなら、また魔法が使えるよー」ゴクゴク
盗賊「そいつは良かったな。俺が楽になる。……曲がり角に来たぞ、ここで印をつけて…」
僧侶「…あれ?おかえりなさい、2人共。早かったですね?」
盗賊「!?」
魔法使い「え?…ええっ?なんで?なんでここに戻るの?こっちも一本道だったのに!」
勇者「……やはり、幻惑魔法がかかっているのか?」
盗賊「そうなのかもしれねーな…となると、厄介だぞ。どこかに仕掛けがあるんだろうが…それを見つけない限り、先に進めねー」
僧侶「封印の塔でも、聖騎士の城に入る時も…青の宝玉が光って、幻惑を解いてくれましたが……ま、また、光らないですかねえ…?」
盗賊「……今回は反応がねェな。テメーらで片付けろって事か…あー、疲れた!!俺も休む!!」
勇者「困ったな。仕掛けといっても、それらしいものは無かったぞ?魔法の事にはあまり詳しくないから、わからない」
魔法使い「媒体がどこかにあるんだろうけどねー…部屋とかもなかったし、ずっと通路が伸びていただけだもん…」
盗賊「くそっ、腹立つなあ。おい、クソアマ。お前のメイスを貸せ」
僧侶「え?な、何をするんですか?」
盗賊「ストレス発散だ!」ブンッ!!
僧侶「ちょっとー!!?ななな、なんで投げるんですかー!!投げるなら、その辺の小石とかでいいじゃないですかあ!!」
盗賊「がっ!?」ゴンッ!!
僧侶「きゃあ!?と、盗賊さん!?」
魔法使い「え、え、なんで?前に投げたメイスが、後ろから飛んできて、お兄さんの頭に当たったよ?」
勇者「………」ポイッ
カツン!
魔法使い「あ!勇者様の投げた小石も…!」
勇者「……もしかしたら…壁か、床に仕掛けがあるのか…?」
勇者「…注意深く調べてみると、成程確かに。他の床と色が違う床板があるな。これを避けていけば、先に進めるかもしれない」
僧侶「色の違う床板…い、いっぱいありますねえ……踏まないように、って…ジグザグに歩いていかないと…」
盗賊「……曲がり角のところなんか、ワープ床が一列みっちり並んでやがる。気づかない中で、これを踏まずに歩くのは無理ってもんだな」
魔法使い「せー、のっ!!」ピョンッ
魔法使い「……やったあ!戻らずに先に進めたよ!?」スタッ
勇者「…っ、と。こういう仕掛けだったのか…疲れて動けなくなる前に、気づけて良かったな」スタッ
僧侶「はう!!…痛たたた…」ベチャッ!
盗賊「何やってんだ、相変わらず鈍臭ぇ女だな…ほら、寝てないでさっさと起きろ」グイ
僧侶「はうぅ……す、すみません…鼻ぶつけたあ…」
勇者「角を曲がった先、は……なんだ、随分広い部屋だな…番犬もいないし、何もないのがまた不気味な…」
盗賊「!? 危ねぇ!後ろに下がれッ!!」
ジャキン!!
勇者「ッッ!!?……次の罠は、床から飛び出す鉄針か…!」
魔法使い「あああ……危なっ!!串刺しになっちゃうじゃんか!…だから番犬がいないんだね、このフロアには…」
盗賊「針の無い床もあるな…一度飛び出したら、引っ込むまで時間がかかるようだ。慎重に進めば、どうって事ねー」
盗賊「おい、クソアマ。ちょっと突っ走って鉄針全部出して来いよ。俺達が進みやすくなる」
僧侶「慎重、どこいったんですか!盗賊さんが行ってくださいよう!」
勇者「喧嘩はやめないか、まったく。…剣先で床を叩きながら進もう、みんな、私の後に続いてくれ。横に外れないよう、気をつけて」
ジャキン! ジャキン!!
魔法使い「うわ!…もー、この飛び出す勢い、何度見ても冷や汗かいちゃうよ……」
僧侶「番犬がいなくて、本当に良かったですねえ…こ、こんな緊張する中で、攻撃されたら……考えるだけで、寿命が縮みます…」
勇者「………よし、端についた……次のフロアへ入るぞ」
僧侶「こ…ここにも、番犬はいません、ね……でも、また無駄に広い…絶対何かありますよ~」
魔法使い「えいっ」ポイッ
バチバチバチ!!
魔法使い「うひゃああ…投げた小石が、電撃みたいなのに弾かれていくよ…」
盗賊「ダメージ床か……痛!痛ってぇ!!…歩けなくはねーが、体力はかなり消耗しそうだ」バチィッ!!
勇者「……ダメージ床の先に、スイッチレバーのようなものが見える。あれを倒せば、電撃を切れるのでは?」
僧侶「でも、でも、か、かなり、遠いですよ…?あそこまで行くのは、ちょっと無理ですぅ…」
盗賊「何か他に手はないか考えっか…こっちにもあのレバーが無いか探してみるとか」
勇者「やああああ!!!」ダダダダ!!
盗賊「!!?!?」
僧侶「ちょっ!?勇者様あー!?」
魔法使い「勇者様ー!?ダメージ床を無理矢理走っていったー!?」
勇者「うぐぐ……!!ま、負けるものかああ!!」バチバチバチ!!
盗賊「何やってんだ、バカァァ!!」
勇者「はあっ!!はあ!はあ……、よ、よし……ダメージ床を、突破した…あとは、レバーを…倒す……」ガシャンッ
シュウウウゥゥ…
魔法使い「あ…床の色が変わった……!」
僧侶「勇者様!!勇者様ぁっ!!大丈夫ですか!?すぐに回復しますから!!」パアアッ
勇者「痛たたた……あ、ありがとう、僧侶。…はあ、癒される……君の回復魔法を当てにしていたから、こうやってできたんだよ。ありがとう」
盗賊「こ……こ………」ワナワナ
勇者「…ん?」
盗賊「この、バカ!!テメーはイノシシか何かか!?バカッタレ!!危ねーだろうが!何を勝手に突っ走ってやがんだ!!イノシシ女!!」ゴンッ!!
勇者「痛あっ!!?イ、イノシシ女…!?」
魔法使い「ゆ、勇者様にゲンコツ落とした人なんて、初めて見た…」
勇者「し、しかし!!さっき君も言っていたじゃないか、僧侶に。突っ走っていけ、って……だから私は…」
盗賊「何を真顔でほざいてやがんだ!?あんなの冗談に決まってんだろうが!!バカか!お前はバカか!!無鉄砲バカか!!」ゴン! ゴン!!
勇者「痛い!!痛あ!?」
盗賊「勇気と無謀はまったく違ぇんだよ、覚えとけ!このバカイノシシ女!!…ああっ!たくよう、俺を焦らせやがって!クソが!!」
僧侶「ゆ、勇者様の前では、冗談は言えなくなりましたね……へへ、私は助かります、けど!」
勇者「ううう……無謀じゃないのに…僧侶~、頭をぶたれた痛みも回復してくれ…」グスッ
僧侶「は、はい!…回復魔法!……あ、あれ?」
勇者「………何も起きないぞ?痛いままなんだが…」
僧侶「す、すみません!わ、私、落ちこぼれで……時々、回復魔法を失敗しちゃうんですうぅ…!」
勇者「そんなあぁ~!!」
盗賊「クソアマ!!そいつを甘やかすんじゃねえっ!!仕置きにならねーだろうが、バカ!」
魔法使い「僕もお兄さんと同意見ー。勇者様、今のはすっごく危なかったよ!もうあんな事はしないでよね!怒られて当然だと思うなー」
勇者「ま、魔法使い!君まで!!……ううっ、頑張ったのに…」
僧侶「よしよし、勇者様、よしよし」ナデナデ
魔法使い「…あははっ!こんな勇者様の姿も初めて見たなあ。なんだかお兄さんってより、お父さんみたい。これからお父さんって呼んでいい?」
盗賊「ふざけんな!!俺はこんなでかいガキを持った覚えはねぇッ!お前も殴るぞ、チビスケ!」
魔法使い「チビスケじゃないよ、魔法使いだってばー!!やめてくんなきゃ街中でお父さんって呼ぶよ?」
盗賊「じゃあクソガキだ、テメーは!俺を脅してんじゃねーよ!…ったく、さっさと次に行くぞ!バカ共が!!」
魔法使い「次は、と……うわあっ!?が、崖!?道が途切れているよ…向こうに部屋の入口が見えるのに!」
盗賊「おい、イノシs……勇者。今度は勝手に動くんじゃねーぞ。この距離、ジャンプで届くようなもんじゃないからな」
勇者「今、イノシシって言いかけたな。……もうぶたれたくないし、やらないよ」ムスッ
僧侶「よしよし、勇者様!……でも、どうしましょう…この先に進めないのは、困りますね…」
盗賊「あれだけ罠続きだったんだ、どうせここも何か仕掛けがあるんだろうよ」
魔法使い「……あ…見えないだけで、床がちゃんとあるよ?ほら!」コンコン
僧侶「ひいいぃ…!こ、今度は、見えない床ですかあ…!!こんな高さの上を歩くだなんて~!こ、怖いですう!!」
勇者「道を踏み外したりしたら大変だ…摺り足で、ゆっくり進もう。見えないのが問題なだけで、ダメージなどはないようだしな」
幻獣A「ギャッギャッギャ!!」
幻獣B「ギェー!ギェェー!!」
僧侶「きゃー!!きゃああー!!おっお化けみたいな、鳥があ~!やめて、つつかないでー!!落ちちゃうー!!」
盗賊「クソアマッ!!…っこの、鳥野郎!あっちに行きやがれ!!」バッ
勇者「せいっ!!」ザン!
魔法使い「閃熱魔法!!」バシュッ!!
幻獣C「ギャアー!ギャー!!」
勇者「飛ばれているのと、この不安定な足場……攻撃を当て辛いな!みんな、目を突かれないように気をつけて!!」
盗賊「痛っ!!痛ェッ!!目だけじゃねー、どこを突かれても痛ェっての!鬱陶しいんだよ、チキショー!!」
僧侶「ごめ、ごめんなさい、盗賊さん…!私を庇って怪我を…!」
魔法使い「焼き鳥になっちゃえー!!火炎魔法!!」ゴオオォッ
勇者「は、早く……早く、向こう岸に着かないと…穴だらけにされてしまう…!」
ダンッ!!
勇者「つ、着いた…!みんな!!早くこっちへ!扉を閉めるから、早く中に!!」
盗賊「このクソ鳥が!しつけェんだよ!!」
僧侶「きゃああああ!!いやー!もう、来ないでー!!」
魔法使い「追いかけてくんなよ~っ!もう一回!火炎魔法!!」ゴオオウッ!!
幻獣D「ギャッギャッギャアア!!」
―― ゴゴン…ン!
勇者「…はあっ、はあ、はあ……な、なんとか、間に合ったか…」
魔法使い「ふへえ~……もうクタクタだあ…焦ったあ…」
僧侶「み、皆さん、今すぐ、回復しますからね……」
盗賊「待て、クソアマ。その前にテメーの手当てが先だ。結構突かれていたろ、傷を見せてみろ」
僧侶「え、えっ?わ、私は大丈夫ですよう……後ででいいです、から…先に皆さんの回復を……」
盗賊「いいから見せてみろ!バカ!口答えすんじゃねえ!」
僧侶「ああう……」
勇者「むう……なんだかんだ言って、彼は僧侶には甘いよな?なんだか不公平な気がする」ムスー
魔法使い「……え、なに?勇者様…もしかして、拗ねてるの?さっきぶたれたのを気にしてるの?…へえ~?」
勇者「拗ねてなんかないっ。僧侶、手当ては私がしてあげる!よしよしもつけるから、こっちにおいで!」
僧侶「えっ?は、は、はい!?わ、わかりました!」
盗賊「…なんなんだ、このイノシシ女は」
魔法使い「あっははは!勇者様ってこんなに可愛かったんだ、知らなかった~」
盗賊「バカばっかりかよ、はあ~っ……。…ん……この壁、何か掘ってあるな……文字か?」
魔法使い「なになに?僕にも見せて!……これ、古代文字だね…本で読んだ事があるよ。えと…掠れて読みにくいな。……た、か、ら……?宝?宝物庫のことかな!?」
盗賊「マジかっ!?なら、この先がついにゴールってことか!!」
勇者「この先に、宝が……扉は?開きそうか?」
盗賊「…ダメだな…ただの扉なのにビクともしねえ。テメーの出番だぜ。イノs 勇者」
勇者「また言いかけた!…扉を開くぞ。何があるかわからないから、みんな、気を引き締めておいてくれ…」ガガガララ
僧侶「……っ、わあ…すごい、祭壇の数……」
魔法使い「変な形の物がいっぱい飾られているね。何に使うのかさっぱりわからないや。これが古代兵器なの?」
盗賊「……なんかガッカリした。宝物庫っていうから、金銀財宝の山を想像していたのによぉ…ガラクタばっかりじゃねーか」
勇者「私達が必要とするのは神秘の水瓶だけだ。それらしきものを探してくれ」
僧侶「水瓶……ありますよ、勇者様…!ほら、あの宙に浮いているの…あれ、水瓶…ですよね?」
勇者「きっと、あれだろうな。よし、持って帰ろう…と、行きたいところだが。みんな、気をつけて。何か潜んでいる……嫌な気配がする」
魔法使い「魔物…?でも、どこにも姿が見えないよ。……うわ!?」ドテッ
僧侶「だ、大丈夫?魔法使いくん!転んだりして…血とか出てない?」
魔法使い「イテテ…大丈夫だけど、なんか足が引っ掛かって……って、うわあああ!!?」
幻獣「シュルシュル……」
僧侶「きゃああああ!!?や、やだー!何っ、これぇ~!?やだやだ!魔法使いくんを離してー!」
魔法使い「わわわ……蔓?触手?うわあっ、引き摺られる!たっ助けてえー!!」ズルルル
勇者「魔法使い!私の手に掴まって!!」
盗賊「チッ、絡まってほどけやしねェ……勇者!そのままクソガキを押さえとけ!蔓を斬り落としてやる」ザクッ ザシュ
勇者「魔法使い、火の魔法で焼いてしまえ、こいつらを!!」
魔法使い「ご、ごめんなさい、勇者様…さっき転んだ時に、杖を落としちゃって…あの蔓が持って行っちゃったんだ!」
僧侶「わわわ…つ、次から次に蔓が伸びてきますよう…!」
盗賊「キリがねーな…大本を叩かねェと。杖がありゃあ魔法が使えるんだな?取り返してくる!」
勇者「気をつけて!この蔓、再生スピードも早いぞ!!斬ってもすぐに復活する!」ザンッ!!
盗賊「くそ、鬱陶しいな…!!邪魔すんなっつーか、杖を返せよ、こいつ!」
盗賊「ほら、クソガキ!杖だ、さっさと焼いちまえ!」ブン
魔法使い「僕の杖!ありがとう、お兄さん!ようし…火炎魔法!!」ゴアッ!!
幻獣「シュシュウウウ…シャアアアア!!」
勇者「うん、やはり火には弱いようだな…このまま追い詰めて、一気に倒すぞ!!」
僧侶「蔓の量が増えてます~!お、怒ってるんだ!うわーん!気持ち悪いぃ、服の中に入ってくる~!やだやだ!!いやー!!」シュルルル
盗賊「この!…クソアマ、俺から離れるなボケ!!クソガキ、こっちにも火ぃよこせ!斬るだけじゃ追いつかねえ!」ザクッ ブチッ
魔法使い「火炎魔法!!……うう、もう魔力が…なくなっちゃう…!」ゴオォォ
勇者「あの蔓の塊を斬れば倒せそうなのに……!あそこまで、届かない!」
盗賊「そうだ…魔法剣だ!クソガキ、勇者の剣に火の魔法を放て!俺は以前、賢者のクソオヤジに、魔法を剣に乗せてもらった事があるんだ。魔法剣なら勝てる!」
魔法使い「ま…魔法剣?上手くいくかな……勇者様ーいくよー!?…火炎魔法!!」ゴッ!!
勇者「っ…!なんと……私の剣に、炎の力が…こ、これなら!!せやぁ!!」ザスッ ジュウウウ!!
幻獣「ギャアアア!!シャアアア~!!」
勇者「効いたッ!勝てる、いける!!」ザクッ ザシュ バシュッ!!
勇者「蔓の芯め、喰らえ!炎の魔法剣を!!―― だあああっ!!」ドズ!!
幻獣「ギャバアアァァァ…!!」ボジュウウウ
魔法使い「や、やった…蔓が引いていく……良かったあ…もう、魔力が空っぽだもん。疲れたあ…」
バサァァッ!!
僧侶「蔓も…全部消えていきます!よ、良かった……気持ち悪かったあ…」
盗賊「くそっ、俺ももうマジで疲れた……一歩も動けねェよ…」
勇者「…もう、番をする者はいなさそうだな……?水瓶を取ったら、ここで少し休憩しよう…このままでは、帰る途中で全滅してしまう」
僧侶「なら、聖水を使って結界を作ります、ね。そこなら…例え魔物が来ても、私達の姿は見えなくなるでしょうから…」
魔法使い「ねー、お兄さん。あの魔力回復の水、もっとないの?」
盗賊「あの一本だけしか無ぇんだよ。辺りは俺達が見張っていてやっから、少し寝ていろ。そうすりゃちょっとは回復するだろ?」
勇者「……これが、永久に水を生み出す…神秘の水瓶か…」スッ
勇者「…ヒビが入っているな。水など一滴もない、ただの壊れた水瓶だ。やっぱり、尽きているのか…魔力が…こうなると、周りにある兵器も同じなんだろうな」
僧侶「結界を作り終えましたよう~。勇者様も休んでください、怪我の手当てもしましょう」
盗賊「今のうちに飯食っとくか…クソガキが魔法を使えないとなると、途端にめんどくせーな、火を焚くの」
勇者「……そうして、便利な魔法に頼ってばかりいたから…人間は過ちを犯してしまったのだろうな……森を砂漠にしてしまう程」
僧侶「この水瓶で、元に戻せるといいですね。…勇者様、次はエルフの村に行きましょう?そこならきっと、この水瓶の事も教えてくれると、思います」
僧侶「私達…前に、エルフ村に立ち寄った事が、あるんです。エルフさんも、妖精さんもいたから、昔の事…知っている人がいるんじゃないかな、って」
勇者「エルフの村…そんなものがあるのか。すごいな、君達は。私よりよっぽど冒険している気がするぞ?…片や私は変態に追いかけられてばかりだったのに…」
盗賊「ほら、テメーら飯だ。パンに炙った干し肉を挟んだぞ。クソアマはこっちな、肉の代わりに木の実ジャムだ」
僧侶「あ、ありがとうございます、盗賊さん」
勇者「…なんで僧侶だけは別なんだ?」
僧侶「あ…わ、私、お肉苦手で……食べようと思えば食べられますけど、…勇者様も、ジャムが良かったですか?」
勇者「ううん、肉でいいけど…そうか、僧侶は肉が苦手…」
勇者「…無理もない話なんだが、私は君達の事をよく知らない。それがなんだか寂しく感じられて仕方ないよ。もっと君達の事が知りたい。話を聞かせてくれないか」
盗賊「……テメーは本当に、真っ直ぐ突っ走ってくるなあ…寂しいとかそんな事、ストレートに言うなよ。恥ずかしいヤツ。だからイノシシ女なんだよ、バカ」
勇者「またイノシシって言ったな!」
僧侶「うふふっ、私は嬉しいですよう、勇者様!魔法使いくんが起きてから、みんなで色々お話しましょうね!」
~数時間後~
魔法使い「ううん……、…ふああぁ…」ムクッ
僧侶「あ、魔法使いくん。おはよー、目が覚めた?大丈夫?」
魔法使い「ん…おはよ、僧侶さん……あれ、お兄さんと勇者様は寝ているんだ?僧侶さんだけ起きているの?」
僧侶「うん、今は私が見張りの番だから。私はもう休んだし。魔法使いくん、ご飯食べる?盗賊さんが魔法使いくんのぶんも作ってくれたよ、温めよっか?」
魔法使い「…ううん……なんか、あんまりおなか空いてないけど…食べておこうかな」
僧侶「そう?じゃあひとつだけ温めようね。残ったら盗賊さんが食べるって言ってたし…」
魔法使い「うん。……あ…僕、ちょっとあっちの物陰に行ってくる。すぐ戻るよ」
僧侶「えっ?だ、ダメだよ、結界から出たら危ないよ……魔物が来たらどうするの?何をしにいくの?」
魔法使い「え、えっと、えっと……その…トイレだよ!トイレ!」
僧侶「トイレ?えー、罰当たり~。でも仕方ないか…じゃあ、私も一緒に行くよ。近くで見張りしてあげるから」
魔法使い「ええっ!?い、いいよ~!ついてこないでよ!恥ずかしいじゃんか!!」
僧侶「だって、一人じゃ危ないでしょう?トイレなんて、より無防備になるんだし…誰かと一緒の方がいいと思うな」
魔法使い「………」
魔法使い「………ねえ、僧侶さん。僧侶さんは…聖騎士の王国で、王子様が暴れた時、呪われたハンマーの解呪をやっていたよね」
僧侶「え?う、うん。あれは、成功して本当に良かったな……初めてやったから…」
魔法使い「…そしたらさ、僕にも、あの解呪魔法かけてくれないかな?」
僧侶「……魔法使いくんのは、呪われた装備品じゃないでしょ?効果があるかどうかわからないよ…?」
魔法使い「それでもいいよ。…あと、この事は内緒にしてね。特に勇者様には絶対秘密ね?僕も、聖水使用の解呪法を一緒にやるから」
僧侶「え?で、でも……」
魔法使い「お願い!絶対秘密にして!…勇者様、心配性だから……この事を知ったら、大騒ぎになっちゃう。今、そんな騒ぎを起こしている場合じゃないしさ」
僧侶「……で、でも、でも…勇者様は、魔法使いくんの事を本当に大切にしているみたいだし……だったら、内緒にするのは…」
魔法使い「落ち着いたらちゃんと話すからさ!約束するよ。ね?……服の上からでいいから、背中に魔法をかけて。おなかとかは、自分でやるからね」
僧侶「う、……うん…わかった。でも、早めに話してね?勇者様に。心配かけたくないって気持ちもわかるけど、そういった事は内緒にしちゃダメだよ?」
魔法使い「大丈夫ーわかってる!じゃあ、よろしくね?終わったらご飯食べるから!」
勇者「……くー…すぴー……」
盗賊「………」
・・・
勇者「うう…ん、っと。ふう…少し休めたら、気が楽になったな」
魔法使い「これだけ仲間がいると、安心して休めるねー」
盗賊「…おい、クソガキ。小便しに行くぞ、ついてこい」
魔法使い「…あ、そういえば…行くの忘れてたや。うん、一緒に行くよー。でもクソガキはやめてったら!」
僧侶「…私の時はあんなに嫌がったのに~、男同士だからなのかな…?」
勇者「子供と思っていても、一丁前になあ…ふん、別に寂しくなんかないからな。女は女同士仲良くしよう、僧侶」
僧侶「はい!仲良くしますよう~、勇者様っ」
盗賊「……くだらねェ。バカばっかりか」
魔法使い「ねえねえ、これからどうするの?水瓶の力はもう無いみたいだけど…これじゃ砂漠の国は納得しないよね」
盗賊「そういや、お前は寝てたっけな。…ここから出たら、エルフの村に行く。そこで相談するんだ、糸口が見つかるかもしれねーからな」
~元・魔の吹雪地帯~
僧侶「勇者様が洞窟から離れたら、宝物庫の入口も消えちゃいましたね…」
勇者「仕組みがまったくわからない。古代の魔法は本当に不思議なものばかりだな。今の私達で再現する事は不可能に近い気がするよ」
盗賊「この先にエルフの村があるはずだ…あのクソチビ2号…妖精がふらついてりゃあ、わかりやすいんだが…」キョロキョロ
僧侶「偶然を待つのも、大変…ですよねえ。……目印とか、聞いておけば良かったな」
勇者「………魔法使い?顔色が悪いぞ、大丈夫か…?」
魔法使い「……ん…大丈夫……ちょっと、疲れた…だけだよ…」
盗賊「………」
盗賊「クソガキ。こっちに来い。おぶってやる」
魔法使い「え?で、でも。邪魔になっちゃう、でしょ…いいよ、大丈夫だから…」
盗賊「うるせえ、ゴチャゴチャ抜かすな。ガキがいらねー気を使ってんじゃねえ」
魔法使い「ご…ごめんなさい…お兄さん……」
勇者「……魔法使い…」
僧侶「あの、勇者様……魔法使いくんの呪い、やっぱり…かなり、進行しています……私じゃ、解呪できませんが…もう一度、休憩を取りませんか…?」
僧侶「気休めにしか、ならないかもしれないけど…解呪魔法、かけてみますから……」
勇者「………ああ。そうしよう、薬草もあるだけ使って、魔法使いの体力を回復させて…」
妖精「あら、妖精の匂いがすると思ったら。ちょっと、こんなところで何をやっているのよ。旅に出たんじゃなか ぐぇっ!」ガシッ!!
盗賊「よーし、よくふらついて来やがったな。つくづく運がいいぜ俺は。飛んで火に入るなんとやら、テメーらの村に連れていけよクソチビ2号」ギリギリメキメキ
妖精「火じゃなくて貴方の手じゃないの、入ったのは。やめてちょうだい、どれだけ作りたがるのよ、妖精の搾り汁」ギュウウウウ
~エルフの村~
勇者「なんと美しい……!まるで夢の中にいるようだ…こんな場所があったなんて……」
魔法使い「…すごい……ここにいると、少し楽になってくる感じ…さっきまで、あんなに苦しかったのに……」
盗賊「賢者のクソオヤジが言っていたな、居るだけで魔力が回復する、って。ここならテメーの呪いも癒されるかもしれねー」
妖精「呪い…やっぱりその子、呪われているのね?邪気が凄まじく溢れているわ。ここにいても、呪いを断たない限り、意味はないわよ」
僧侶「あの、この呪いを解く、解呪魔法…どなたか、使える方はいらっしゃいませんか?わ…私の魔法じゃ、解けなくて…」
妖精「残念だけど、ここにはいないわ。古代の呪いでしょう?それ。こう見えて、私達はまだまだ若いのよ。古代の呪いには古代の解呪法しか、対応できないわ…」
勇者「そんな……じゃあ、やっぱり呪いをかけた奴を倒すしかないのか…?」
盗賊「情けない事ほざいてんじゃねーぞ?どっかに居ないのかよ、呪いを解ける奴が。なあ?俺達困ってんだよ、助けちゃくれねーか、コラ」メキメキ
妖精「不思議ね、私には助けてほしいって頼む態度に思えないんだけど、気のせいかしら。私の体がますますくびれていくのも気のせいかしら」ギュウウウ
妖精「…解呪法の使える、長い時を生きる者。心当たりが無くもないわ。とりあえず、その子を一旦寝かせましょう。エルフのおうちに連れていくの、回復薬とかもあるから」
盗賊「だから俺の服の中に入るな……まあいい、エルフの家ってのはどこだ?案内しろよ」
妖精「貴方、本当に妖精の匂いが強くなったわね。落ち着くわ。……エルフのおうちは向こうよ、あの花畑の中」
僧侶「魔法使いくん、もうちょっとの辛抱だからね…!頑張って…!」
魔法使い「うう……う…」ズズズ…
エルフ「こんなに酷い呪いは初めて見たわ…刻一刻と、この子の命を削っている。結界を張って、進行を遅らせましょう。それから回復薬を。貴方、癒し手よね。手伝ってくれる?」
僧侶「は、はい!なんでもやります、教えてください…!」
妖精「…今は、彼女達に任せましょう。村長様に許可も頂いたわ、私達はこれから滅びの里に行くわよ」
勇者「滅びの里?」
妖精「私が産まれた里よ。元々は緑豊かな大地だったけど…現在は、砂漠と化しているわ。その里にいる長老が、この世でたった一人、古代から生き続けている者。長老なら、呪いの解呪法も知っているでしょうし」
妖精「…そして、貴方が持っている魔具も。直せるのは、神族以外では、長老だけよ」
勇者「!! 気づいていたのか…魔具を持っている事を」
盗賊「相変わらずスゲーな、テメーの勘っつーか嗅覚っつーか……おい、何をふんぞり返ってやがる。褒めてねーぞ」
妖精「さておき。滅びの里なら、私の移動魔法ですぐに行けるわ。準備はいい?」
僧侶「ま…待ってください!勇者様…魔法使いくんが、勇者様を呼んでます…」
勇者「私を?…すまない、少し待っていてくれ。魔法使いのところへ行ってくる」
妖精「…あ、私もちょっとエルフの所に行くわ」
僧侶「……ねえ、盗賊さん」
盗賊「あん?」
僧侶「勇者様の事、お願いします…勇者様、沢山の責任を背負っているけど……勇者様だって、女の子です。すごく辛い事に直面したら…勇者様を癒すのは、私達です…」
盗賊「………」
僧侶「わ、私も、勿論癒しますが…盗賊さんも…支えてあげて、くださいね。勇者様の事……、…ふぇっ?」ナデナデ
盗賊「………バカ女」ナデナデ
僧侶「あうあう、……???」
勇者「魔法使い!大丈夫か?待っていてくれ、私が必ず君の呪いを解いてみせる。もう少しの辛抱だからな」
魔法使い「……勇者様…」
魔法使い「………」キュッ
勇者「……魔法使い?手を握って…どうした」
魔法使い「…僕ね、勇者様を信じてる。僕は呪いなんかに負けないよ、勇者様もみんなもいるし。…僕だって、勇者様が思っているより、ずっとずっと強いんだから」
魔法使い「今は……悔しいけど、動けない…でも、僕は…絶対負けないよ。勇者様を守るんだ、その為に沢山勉強した……」
魔法使い「勇者様…僕は大丈夫だから。勇者様もみんなもいる……」
魔法使い「だから、…迷わないでね。勇者様。みんなを助けてあげてね。それが出来るのは、勇者様だけだからね?……そして…勇者様を助けるのは、僕なんだ……僕達なんだ…」
勇者「…魔法使い……」
魔法使い「いってらっしゃい、勇者様。気をつけてね」ニコッ
~滅びの里~
妖精「……はい、到着したわよ」
勇者「―― っ!?…すごい…一瞬にして、砂漠についてしまうなんて。海を飛び越えて?いや、本当に一瞬だった…これが移動魔法……」
妖精「人間が使うには、まだまだ研究不足でしょうけどね。結構魔力使うのよ?これ。さあ労りなさい、崇めなさい、私を」
盗賊「時間が勿体無ェんだ、さっさと事を進めるぞ」ギュウウウ
妖精「ふ、もう慣れてきたわよ、搾られるのも。…里の入口を開くわ。蜃気楼の向こう側へ行くわよ」ギュウウウウ
・・・
勇者「ここが…滅びの里。……砂漠の中に、鬱蒼とした森が…?」
盗賊「だが、実際はただの蜃気楼らしい。俺はここでほとんど寝ていたから、よくは知らねーが……家などは本物でも、木々は偽物だ」
女妖精「ッ人間!?貴様ら!!ここで何を、いや…どうやってここに入った!?」
男妖精「里に立ち入る不届き者が!殺す!!」
勇者「ま、待って!勝手に侵入した事は謝ります、しかし訳があるのです、話を聞いて頂けませんか!!」
男妖精「人間の話など、ましてや侵入者の話など、聞く耳は持たぬ!!」
女妖精「殺す!人間は殺す!!侵入者は殺す!!」
盗賊「持ってないなら今から持て、ボケ!頼むから落ち着け、俺達の話を……」
妖精「…私が彼らを連れて来たのよ。この人達の言うとおりだわ、少し落ち着いたら?相変わらず血の気が多いのね、アンタ達。いやんなっちゃう」ヒョコ
男妖精「!!?」
女妖精「…妖精……お前、今更どの面を下げて、この地へ帰ってきた。貴様の居場所はもうここには無い。去れ。人間と馴れ合う貴様の顔など見たくもない。虫酸が走る」
妖精「残念ね、そうもいかないのよ。アンタ達に用はないわ、そこをどいてちょうだい。私達は、長老に話があって来たんだから」
男妖精「婆様に?許可しない。するわけがない。去れ。この里から去れ!」
妖精「だから言っているでしょう、アンタ達に構っている暇はないわ。そこをどきなさい!」
妖精「明日を信じない、八つ当たりしかできない、殻に閉じこもるしかできないアンタ達なんて大っ嫌いよ!」
妖精「…この人達はね、魔具を持ってきてくれたのよ?わかる?長老の力が必要なのよ。もうこれ以上同じ事を言わせないでちょうだい。…そこをどいて!」
女妖精「…魔具だと…!?」
勇者「…これです。王家の遺跡、宝物庫より持ってきました。ですが、魔力が尽きており、水は枯れております。これを直して欲しいのです」スッ
男妖精「それは……!人間に奪われた、神秘の水瓶!!?…そんな…本物……?嘘だ、そんな事が…人間が…?」
妖精「はいはい、さっさとどく!アンタ達はずっとそこで呆けてなさい!あっかんべー、だ!!」
妖精長「………」
盗賊「こいつが、長老……?随分若く別嬪じゃねーか。本当に一番の長生きなのか、信じられねえ」
妖精「…お久し振りです、長老」
妖精長「……その声は、妖精ですか。…それに、人間の男……まさか、二度会う事があるとは、ね…」
妖精長「…そして……この魂は、………そう。そうなのですか……」
妖精長「………」
勇者「…長老様。貴方の力をお借りしたく参りました。勝手に里へと立ち入った無礼は、心からお詫びします。私達は……」
妖精長「いえ。言葉で語らずともわかります。…私は遥か悠久の時を生きてきた者。この目は二度と光を映さぬ、しかし長く生きてきた故に、少しだけですが、人の心が読めます」
妖精長「貴方達が、何故この里へ訪れたか……約束…私達は約束を何よりも大切にする……貴方との約束も、今…果たしましょう……」
勇者「……約束…?」
妖精長「………」
妖精長「……水瓶の修復…解呪……どちらも、為し遂げたい…危機に瀕した時、助けると………私は、約束…した……」
盗賊「…おい。大丈夫か?お前……なんか弱々しくなっていってねえか?」
妖精長「……私達は…何よりも、約束を………大事にする…けれど、ごめんなさい……私の寿命は、もう…尽きる………」
妖精長「約束を…守れない……ごめんなさい…」
妖精長「…ひとつ……ひとつだけ、なら………どちらかひとつだけなら、できます…選びなさい…水瓶か…解呪か……どちらか、ひとつ…叶えて、あげます……それが…約束だから………」
勇者「………!!?」
盗賊「な…!どっちかって、両方はダメなのかよ!?」
妖精長「…無理……どちらか…ひとつ………選んで…早く……」
盗賊「そんな…、そんなの、解呪に決まってんだろ!?クソガキの命がかかってんだ!当たり前だろ、なあ!?」
勇者「………」
盗賊「天秤にかけるもんじゃねえ!わかりきってる!そうだろ、勇者!おい、しっかりしろ、聞こえたか!?解呪だ!解呪の方法を……」
勇者「―― 待てッ!!!」
盗賊「ッ!?…勇者……?」
勇者「………」
勇者「………そうだな。天秤にかけるものじゃない。答えはわかりきっている」
勇者「長老様。……水瓶を直してください」
盗賊「っはあ!!?何を言ってんだ、テメー!!クソガキがあんなに苦しんでんだぞ!?水瓶がどうこうじゃねえだろ!!」
盗賊「水瓶なんざ無くとも、指名手配をどうにかする方法なんざ、いくらでもある!!無視したって構わない、だったら解呪を…」
勇者「………水瓶の力を使えば、戦争を防げる。救える命が沢山ある」
勇者「水瓶の力を使えば……砂漠が、甦るんだ………だったら、…水瓶を、直してもらう」
勇者「長老様。水瓶をお渡しします。人間が犯した過ちを、心からお詫び致します…どうか、水瓶を直して頂けませんか」
盗賊「ばっ……バカ野郎…!!」
妖精長「………」
妖精長「………確かに…受け取りました……。この、形………私達の、水瓶…」
妖精長「…ああ………記憶の中でしか、見る事の無くなった森……生きているうちに、再び…会える、なんて……」
妖精長「ありがとう……貴方達、人間が犯した罪は、忘れない…けれど………謝罪の気持ちも…私は、忘れないわ……」ピカッ!!
勇者「う……?」
盗賊「水瓶が…長老が、輝いて……?」
―― ゴボゴボッ
妖精長「…甦れ、私達の森よ………その美しい姿を、また見せておくれ。踊りましょう、歌いましょう。私達は貴方を愛している。美しい木々よ、……愛しているわ………」
―― パアアアアァァッ…!!
男妖精「………!!?こ…これは……!!」
女妖精「あ…あああ……!!幻じゃない…樹が…川が……甦る…!あああ、これは、…これは…!!」
男妖精「…私達が愛した里が……甦る…!渇いた大地が、潤っていく……!!」
妖精「……綺麗ね…懐かしいわ、…赤ん坊の頃に見た姿そのまま……おはよう、貴方達。起こすのが遅くなってごめんなさい」
妖精「もう悪夢は見ない。これからは、毎日見られるのよ、安らかな夢を。ね?明日を信じて良かったでしょう。夜は必ず明けるのよ、明日は必ずやってくるのよ」
妖精「おはよう、…おかえり。愛しているわ、今日も明日も明後日も。これからもずっと、ずっと、愛してる」
妖精「……ありがとう…人間達……森を甦らせてくれて、ありがとう」
女妖精「うっ…うっ……うわあああん……!」
男妖精「………み…認めない…人間を、認めるわけには……く、…くそぉッ…!」
妖精長「―――」
勇者「……ありがとうございました、長老様…本当に、ごめんなさい。長く苦しめてしまって、ごめんなさい………どうか、安らかに…お眠りください」
盗賊「………」
勇者「…行こう、盗賊。妖精達に長老様の事を伝えねば。それから砂漠の国へ向かうぞ」
盗賊「………」ギリッ
盗賊「……テメー…良かったのかよ、これで」
勇者「………」
盗賊「迷いはなかったんだな?」
勇者「………」
勇者「………あの子は、…私達を…私を、信じてくれている」
盗賊「………」
勇者「あの子は強い。大丈夫だと言っていた、信じてくれている、迷うなとも言っていた…そう、迷うな、って。私は…私は、……迷っていられない。一人の人間に拘ってはいけない。みんなを守らなきゃいけないんだ」
勇者「魔法使いは私が救う。なに…呪った奴を倒せばいいんだ、ただそれだけの事だ…」
盗賊「………」
勇者「さあ行くぞ。時間は無いんだ、テキパキ行動しなければ」
盗賊「……おい、勇者。こっちを向け」
勇者「…うん?」
―― ゴンッ!!
勇者「!!?」
ゴン! ゴンッ!! ゴツッ!!
勇者「い…痛い!痛いっ!!やめてくれ!!何をする、いきなり頭を叩いて…!!」
盗賊「痛ェか?そりゃそうだろうな。力一杯やったからよ」
盗賊「痛いんなら、泣け。…今なら、その理由で泣けるだろ。今なら、……今のうちなら、泣けるぜ。俺のせいでな」
勇者「………!!?」
勇者「な…何を……私は、これくらいの痛みで、なんか……、……あれ…?」ポロッ
勇者「……どうして…なんで……?もっと、もっと痛くても…泣いた事なんか、なかったのに……どうして…」ポロポロ
勇者「…どうして……君に叩かれると、……涙が出るの…?」
盗賊「………」
盗賊「慰めたり励ましたり、抱き締めるのも、俺の全部は予約済だ。この先永久に続く予約だ」
盗賊「でも、予約した奴は、とんでもねェお人好しのバカだからよ。席を譲ってくれるらしいぜ?」
盗賊「今日だけ特別だ。…背中くらいなら貸してやる。背中だけな。……耳は塞ぐ、目も閉じる。何も聞かないし、何も見ねーよ」
盗賊「今のうち、だけだ。……泣けよ。俺は聞かないし見ない。俺に殴られたせいで、泣けよ」クルッ
勇者「………」
勇者「……う…うっ……ううう…っ!!」ギュッ
勇者「うわああああ……!!ごめん…魔法使い……ごめん…っ!!わ、私のせいだ…君を苦しませて、すぐに救えなくて、ごめんね……!!」
勇者「必ず……必ず、私が助けてみせるから…!君を守るから……!うわあああん!うあああああーっ…!!」
盗賊「………クソが……呪いをかけた奴、絶対許さねえぞ……」
・・・
男妖精「………そうか…婆様が……」
女妖精「だが、亡くなる前に…里を復活させられて、良かった。……私達は、忘れない。人間達を恨む。…だが…私達を救ってくれたのも、人間だ……」
勇者「…申し訳ない……」
妖精「…過ぎた事は、どうやっても取り返せないわ。けれど、償う事はできるの」
妖精「………お兄ちゃん、お姉ちゃん。私、アンタ達の事は嫌いよ。…体が大きくなる程、性が別れる程、長く生きたからこそ、その目に映ったものは、心についた傷は、想像以上なんでしょうね」
妖精「でも、それでも。大っ嫌い。後ろ向きのアンタ達なんか、大嫌いよ」
男妖精「………」
女妖精「…お前は、まだ若いから……明日を信じられるんだ」
男妖精「……俺達は……人間を憎む…認めるものか……」
妖精「…ふん。私の居場所はここじゃないわ。じゃあね、お兄ちゃん、お姉ちゃん。……そのウジウジが治ったら、また会いましょう」
盗賊「じゃあねっつって、さも当たり前のように俺の服の中に入るな。…つーかあいつらとお前、親族だったのか。あんなに冷たくしていいのかよ?」
妖精「あら、貴方がそんな事を気にしてくれるの?意外ね。いいのよ、…この森と、時間が、彼らを癒してくれるわ。その時が来たら…仲直りしてあげてもいいかもね」
妖精「さ、行きましょう。砂漠の国だっけ?ふふ、もう砂漠は無くなったけれどね。本当に、貴方達には感謝してもしきれないわ。ありがとう。……そして、ごめんなさいね…」
勇者「ううん。礼を言われる事も、謝られる事もない。あるべき姿を消してしまったのは、私達人間なんだから。…あるべき姿に戻しただけ、それだけだ」
勇者「そして、これから先、二度とこの姿を失わない為にも……行こう、砂漠の国へ」
盗賊「………ああ」
妖精「私は隠れているわね。大勢の人間に姿を見られたくないの。必要な時は顔を出すわ」モゾモゾ
~砂漠の国・王宮~
盗賊「流石に国中大騒ぎだな。無理もねーか、いきなり水が湧いて、砂漠が森になっちゃあなァ」
勇者「混乱の中で、王との謁見は不可能かな…しかし、日を改める時間も……」
側近「…勇者殿。謁見の許可が下りました、こちらへどうぞ」
勇者「…本当ですか!良かった……ありがとうございます」
盗賊「無駄足にならなくて良かったぜ…」
・・・
女王「アタシがこの国を統べる者、女王だ。話は聞いたよ。勇者、此度の働き、見事だった。ありがとう、全ての民を代表して、礼を言わせとくれ…」
盗賊「(砂漠の国の王って、女だったのかよ。はーん…この姉ちゃんが、あれだけの暴君っぷりを、ねぇ…)」ヒソヒソ
勇者「(こら、聞こえるぞ、盗賊。黙っていなさい)」ヒソヒソ
女王「…いいんだ。アタシが間違っていたのは事実なんだからさ」
勇者「……ほら、聞こえた…申し訳ありません、女王様。大変な無礼を働きました…」
女王「いんや。アタシは責められて当然の事をした。なのに…この国を救ってくれた事、心から感謝するよ……」
女王「言い訳にしかならないけど……アタシは、夢を見ていた。長く長く続く、とても酷い悪夢をね…」
女王「悪夢の外のアタシは…冷静な判断が出来ず、傍若無人に振る舞い…愛すべき民達に不安を抱かせちまった……まるで、見えない糸に操られていたかのように。自分自身が止められなかった…」
盗賊「……おい、もしかして、それって…」
勇者「…女王も……聖王のように、魅了魔法を……?」
女王「どんな理由であれ、原因であれ、民を傷つけた事に変わりはない。貿易大国もそう、…あんた達も、そうさ」
女王「本当に、すまなかったね…あんた達の指名手配は、すでに解除しといたよ。戦争も起こさない。アタシはこれから償っていく。民達に…各国に。本当にごめんな…」
勇者「女王様、ありがとうございます!…しかし、どうかご安心を。女王様は、魔物に操られていた可能性があります。私は、女王様のように乱心された方を幾度か見てきました」
勇者「各国の王達も、その理由を聞けば、納得してくれましょう。必要とあらば、私も証言致します。……ですから、女王様は民達の事を第一にお考えください」
勇者「魔具の力により、復活した大地は、民達に混乱を生んでいます。統治は、女王様にしかできない仕事です。早く民達を安心させてやってください」
勇者「そして…どうか二度と、この地が砂漠とならぬよう……お守りください。お願い致します」
女王「……ありがとうよ、勇者。アンタの優しさに甘えさせてもらう。迷惑をかけて本当にすまなかったね…」
女王「せめてもの旅の手助けにと、謝礼を用意した。こんなものしか渡せなくてすまないが、どうか受け取っとくれ」
盗賊「うおおっ…!すっげぇ大金!!ま、マジかよ……!」
勇者「こ、こんなに!?宜しいのですか、女王様」
女王「いいんだ。すぐに用意できるのが、金しかなくてね……金で解決だなんて、いやらしいけどさ…でも、旅の役には立つだろ?詫びの気持ちも込めて、ね」
女王「本当にありがとうな、勇者。アタシ達を救ってくれたように、魔王を倒して全てのものを救えるよう、祈っているよ。ありがとうな…これから先、気をつけて行くんだよ」
勇者「ありがとうございました、女王様。では、失礼致します。……ほら、盗賊!もう行くぞ、何をやっているんだ!!」
盗賊「ひーふーみー……ああっ、何度数えても堪らねーな…!金最高、お宝最高……!!こんな大金、初めて見たぜ!!」
勇者「盗賊!!行くぞったら!!」グイグイ
~エルフの村~
妖精「はーい、到着したわよ…ううん……むにゃむにゃ…」
盗賊「随分静かだと思ったら、人の服の中で眠りこけてやがって。ヨダレとか垂らしてねーだろうな」
勇者「………」
盗賊「おい、どうしたよ。さっきは俺をあれだけ引っ張ったくせに、何を立ち止まってやがる」
勇者「…うん……ごめん、今行くよ」
盗賊「しっかりしろや。テメーは突っ走るのが取り柄のイノシシ女だろ。突っ走って正解をもぎ取るのがテメーなんだから」
勇者「……そう、だな………でも、イノシシ女はやめてくれないか?名前で呼んでくれ」
盗賊「ケッ。さっさと行けよ、行かないうちはずっとイノシシ女だ、バカ」
妖精「ぐー……すぴー……」
盗賊「そして熟睡してんじゃねーよ、クソチビ2号め」ベシッ
妖精「ぎゃふ!!……うう………ぐぅ…ぐー……むにゃむにゃ…」
僧侶「おかえりなさい、勇者様!盗賊さん!…どう、でした……?」
勇者「…指名手配は解除できた。戦争も防げたよ……だが…解呪法は……」
僧侶「……そう、ですか…」
勇者「…あとでゆっくり話す。今は…魔法使いのところへ、行かせてくれ」
僧侶「あ……ゆ、勇者様…」
盗賊「…少しくらいなら大丈夫だろ?2人きりにしてやれ」
僧侶「盗賊さん……勇者様は、やっぱり…辛い目に、会われたんですね…」
盗賊「…それでも、進まなきゃならねーのが、アイツの使命なんだろうよ。俺達はそれを横から支えるのが使命だ」
盗賊「……だから、今はほっといてやれ。何があったかは俺が話す。こっちに来い、クソアマ」
僧侶「は……はい…盗賊さん。……勇者様、………」
勇者「………」
魔法使い「……はぁ…はぁ……」ズキン ズキン
魔法使い「………?…あ…勇者様、おかえりなさい……どこも、怪我してない?大丈夫だった?」
勇者「ただいま。……ああ、大丈夫だよ」
勇者「…だけど…ごめんな、魔法使い…解呪法は……手に入れられなかった…」
魔法使い「………そっか…」
勇者「で、でも!私は必ず君を守るよ!安心してくれ、解呪法がなくても、呪いをかけた者を探して倒せばいいんだ!!絶対に倒すから!君を助けるから……だから…!」
魔法使い「もう、何を一人で焦ってんの?だからお兄さんに、イノシシって言われるんだよー」
魔法使い「言ったでしょ、勇者様。僕は呪いなんかに負けないよ。勇者様を信じてる。大丈夫だよ」
魔法使い「勇者様は正しい事をしたんだよ。僕、すごく誇らしいや。そんな勇者様が大好き、みんなを守ってくれる勇者様が、ずっとずっと好きだった」
勇者「魔法使い……」
魔法使い「それでね、これからもずっとずっと、ずうーっと、勇者様が大好きだよ」
魔法使い「みんなを守ってくれる勇者様は、僕が守ってあげる。その為にいっぱい勉強したんだから。仲間に選ばれてすごく嬉しかった」
魔法使い「僕は負けないよ、大丈夫だよ。ずっと勇者様と一緒にいるよ。だから勇者様……迷わないで。僕は勇者様についていくから、勇者様は前を向いていてね」
勇者「……ごめ…ごめんな……魔法使い……もう、何が正しいとか…正しくないとか、わからないよ……」
勇者「けれど…私は、君を守る……それだけはわかる…君の為に頑張るから、君を…全てを守るから……だから、ごめん…」
魔法使い「…勇者様、泣き虫だったんだね。知らなかったよ。ふふ、僕ね、この旅がすごく楽しい。知らない事をたくさん知れるから、楽しいよ。もっともっと知りたいから…僕、頑張るからね」
勇者「………」フラリ
僧侶「勇者様……」タタッ
勇者「…大丈夫。大丈夫だよ。……呪いをかけた奴を倒す。そうすれば、解決するんだ。世界中駆け回ってでも、見つけてやる」
僧侶「そ、その事なのですが、勇者様。この村の、村長様が…力を貸してくださる、そうです…。村長様の家に行きましょう?」
勇者「…村長?」
盗賊「小人族のクソチビ初号機だ。ふざけた感じの奴だが、占いの腕前はピカイチでな。俺達も、奴の占いがあってこそ、お前らと合流を果たせたってくらいなんだぜ」
盗賊「だから、しらみ潰しになんかしなくとも、占いをしてもらえりゃあ…呪った奴を見つけられるかもしれねェ。行こうぜ、クソチビの家に」
勇者「そうなのか…。……わかった、行こう。村長様の家に」
妖精「……ふあぁぁよく寝た…あ、あら?どこに行くの?あら?あらあら?」
盗賊「お前どんだけ熟睡してやがんだ、空気ぶち壊してんじゃねーよ、クソチビ2号が」
勇者「こ…これが村長様の家、か?随分と小さいんだな」
僧侶「小人族ですからね…2人も入ったら、いっぱいいっぱいに、なってしまうんですよ。私達は…外で待っていますから、勇者様、中へどうぞ」
妖精「私が仲介をしてあげるわ。さ、いらっしゃい」
勇者「う、うん。じゃあ…いってきます」
村長「やあやあ、いらっしゃい~。こんにちは、はじめまして~。僕がこの村の村長で~す、よろしくね~?」
妖精「村長、勇者です。話は通っていると思いますが、村長に占いを頼みたいという事で、連れてきました」
勇者「よろしくお願いします」
村長「…え?君が勇者なの?」
勇者「……?はい、そうですが…何か…?」
村長「へえ~?……や、ごめんごめ~ん、気のせいだったかな~?うん、ちゃんとキラキラ輝いているしね~。あははっごめ~ん。改めて、よろしくね~勇者~」
村長「えーっと。お願いの内容は、あの男の子を苦しめる呪い…それをかけた奴を見つけるんだよね~」ゴソゴソ
村長「は~い、占いの水晶玉で~す。じゃあ、早速占いま~す。……ん~むむむ…」
勇者「………」
村長「……あれえ~?よく見えないなあ…あはは、こんな事、初めてだよ~……」ピシ! ピキッ
妖精「ちょっと!?村長、水晶玉にヒビが…」
村長「………静かに!!今、集中を解くわけにはいかないんだ!……むむむむ…」バキ! ビキ!!
妖精「村長!!」
―― バキャアァン!!
村長「うわああ!?…あ~あ……僕の水晶玉がぁ~」
勇者「真っ二つに割れた…!?大丈夫でしたか、村長!お怪我はありませんか!?」
村長「あははっ、平気平気~!…でも、ごめんね~…この呪いをかけた奴は、物凄い力を持っているんだね~。正体を探ろうとしたら、弾かれちゃったよ~。見つける事はできないみたい~」
勇者「……そんな」
村長「でもね、一瞬…ちらっとだけ、見えたものがあったよ~」
村長「物凄~く、たくさんの本の中に……ほら、前にここへ来たオジサン…賢者だっけ?彼がいたのが見えたなあ。あはは、ヒントなのかもしれないね~?よくわからないけど~」
勇者「…賢者……?合流する前に、盗賊達と共に行動していたという人物か…?」
村長「手がかりが無い今、彼に会いにいくのもいいかもね~」
村長「…呪いは、もうとっくに最終段階に到達しているよ。今は、この村の癒しと…妖精の回復薬で、無理矢理動いている状態だ。これから一時的に元気になるだろうけど、次に倒れたら、もうそれでおしまい」
勇者「!!!」
村長「回復薬をたくさん持たせてあげる。僧侶ちゃんにも、作り方を教えておいたからね。…時間は、もうとっくに切れているよ。急ぎな?」
勇者「……は…はい…!!ありがとうございました、村長…」
・・・
盗賊「……そうか…もう時間が……」
僧侶「勇者様…どうしますか…?魔法使いくんは、ここへ置いていくとか…わ、私達だけで、解呪法を探しにいきますか…?」
勇者「いや……魔法使いは連れていく。無理をさせたくないのもあるが…もし解呪法が見つかった時に、すぐに施してやりたい」
勇者「…それに、これは我儘だし、冷静な判断でないとわかっているが…あの子の傍にいたいから……」
盗賊「それにしても、賢者のクソオヤジか。沢山の本ってなんだ?あいつの家は本の山だったが…家に帰ってんのか?」
僧侶「で、でも…私達、賢者さんが船に乗るのを、しっかり見送りましたよね…?確か、あの船は……隣の大陸行き、だったような…」
勇者「隣の……、…沢山の本…?……もしかして、貿易大国にあった、王立図書館か?そこに彼がいるのだろうか」
盗賊「……行ってみる価値はあるかもしれねえな。すぐに船を手配しようぜ」
妖精「砂漠の国までなら、私が移動魔法で送ってあげられるわよ?移動魔法は、一度でも行った事のある場所へしか行けないの。直接送れなくてごめんなさい」
勇者「いや、充分だ!ありがとう、助かるよ」
僧侶「で、では、私はエルフさんから薬と、その材料を、もらってきますね…!」
盗賊「済んだらここに戻ってこい。クソチビの魔法ですぐに移動だ。…勇者、俺達はクソガキを迎えに行くぞ」
勇者「ああ…」
・・・
魔法使い「…あ、勇者様!お兄さんも、おかえりなさい!」
勇者「魔法使い……具合はどうだ?」
魔法使い「それがね、聞いて聞いて!薬のおかげで、すごーく元気になったんだよー!」
勇者「(…元気になっても、次に倒れたら、もう終わり…)」
盗賊「クソガキ。これから俺達は隣の大陸に移動する。テメーも一緒に行くんだ」
魔法使い「え?うん、わかった!すぐ支度するね!」
~王立図書館~
魔法使い「妖精さんの移動魔法、すごかったなー。貴重な体験をしたよー!」
勇者「魔法使い。あまり跳び跳ねるな、…その、君は病み上がりなんだから…おとなしくしていなさい」
魔法使い「だって、なんか力が溢れちゃってさー。でも、図書館に入るんだもんね。静かにする」
盗賊「ここにクソオヤジがいるのか…?つーか、…ああ~…苦手だ、この空気……本ばっかりで目がチカチカすらぁ、頭も痛くなってくるぜ」
僧侶「あ、あ、あの……スミマセン…ここに、賢者という男性が、来ていませんか…?私達、彼に会いに来たんですが…」
司書「…賢者さんですか?……ああ、その方なら…当館の一番奥、貸出禁止の書物を収めている、書庫にいらっしゃいますね。鍵を貸した記録がありますから、間違いありません」
司書「書庫に入るのでしたら、そこの本は持ち出さないよう、お願いします。原本ばかりなので、無くされたら困りますから」
勇者「ここが司書の言っていた書庫か…。う、これはまた……凄まじい本の数だな…あんなに背の高い本棚なんて、初めて見たぞ」
盗賊「おーい!!クソオヤジー!!いたら返事しやがれー!!!」
魔法使い「ちょ、ちょっと、お兄さん!図書館では静かにしなきゃ!」
僧侶「賢者さーん!賢者さあーん!!いますかー!?賢者さーん!!」
魔法使い「僧侶さんまでー!静かにしなきゃ、怒られちゃうよ!?」
賢者「………んー?なんだいなんだい、うるさいなあ~。館内で騒いじゃいけないよ、………っとおおお!!?」ドカドカドサ!!!
勇者「わっ!?人が、本と一緒に落ちてきたぞ!」
賢者「う…う~ん……た、助けてー……」
僧侶「わああ、賢者さんー!賢者さんが、本の下敷きに~!!い、今、掘り起こしますからあ~!!」バサバサ
盗賊「…ったく、相変わらずだな、このクソオヤジは……」
賢者「はあー…死ぬかと思った。…というか、兄ちゃんとお嬢ちゃんじゃないの。どうしたの、こんなところで」
僧侶「賢者さん!賢者さんがヒントなんですよね!?早く!早く教えてください!!」
盗賊「解呪法か、術者だ!!早く教えろ!時間がねーんだよ!!勿体振ってんじゃねーよ、このクソオヤジが!ぶっ飛ばすぞ!?」
賢者「はあああ!?ちょ、ちょっと、オッサンには何がなんだかわからないんだけど!?何、なんの話!?こら、ローブを引っ張らない!伸びちゃうでしょうが!」
勇者「す、すみません!一から説明しますから……こら、落ち着け2人共!彼が困っているだろう!?」
魔法使い「お兄さん、オジサンの首を絞めちゃダメだよー!オジサンの顔が変な色になってるよ、落ち着いてー!!」
司書「館内では静かにしてください!次に騒いだら、追い出しますよ!!」
賢者「…成程ね、古代の呪いか……や、申し訳無い。俺も古代魔法には興味あるが、流石にそれを使うとか、解くとかは…できないし、知らないな…」
勇者「そ…そうですか…」
盗賊「だったらなんで占いに出て来やがったんだよ。紛らわしいな、このクソオヤジが」
賢者「それはオッサン自身が聞きたいんだけど?……うーん、それにしても…何か引っ掛かるな。君達の旅の話…どこかで聞いたような……」
賢者「…あ、思い出した。遥か昔にあったという、冒険話だ」ポン
僧侶「冒険話…ですか?」
賢者「うん、実際あった英雄達の話を、物語として面白く描いた小説…みたいなものかな。今困っているのは、古代魔法…呪いなんでしょ?なら、先人の軌跡を辿ってみたらいいんじゃないかなあ」
賢者「ええっと…確かここに……ほら、あった。これがその小説の元となった旅の記録…冒険の書だよ」
盗賊「……難しくて読めねえ。説明しろ、クソオヤジ」
賢者「うーん、さくっと言えば…先人達は、妖精を助けたあと、人間を苦しめていた悪い竜を退治しにいったんだよ」
賢者「神や魔族、妖精の他に長生きといったら、あとは竜くらいだしねえ。竜が住む山、なんてのもこの近くに現存しているんだ、そこに行ってみたらどうかな」
盗賊「そんな、お伽噺に頼っている場合じゃ…」
魔法使い「でも、今までそのお伽噺に出てくるものに、散々会ったじゃない?長生きした竜は人語も話すっていうし……この助言が、ヒントなんじゃないの?」
僧侶「ど、ど…どうしましょう?勇者様…」
勇者「……魔法使いの言う通りだと私も思う。何より、行き先がまったく見当つかない中での、現れた選択肢だ…行こう。竜の住む山へ」
賢者「…本当に竜がいるとしたら、そのブレスは凶悪だ。皮膚も硬く、剣が通らないなんて話もある。気をつけていきなさいね。竜の住む山の地図があるから、書き写してあげるよ。ちょっと待ってて」
盗賊「どれどれ……うわ、やたら標高ある山だな…これは今の装備じゃ登れねー、買い出しが必要になるぞ」
僧侶「山の上は寒いでしょうし…防寒具もいりますね……と、盗賊さん、私達はお買い物に、行きましょう?この街なら、必要なものがすぐ、全部揃いますよ、お店、沢山ありましたから……」
魔法使い「僕は竜について調べたいな。予め知っておけば、もし戦う事になっても対策を取りやすいもん」
勇者「なら私は魔法使いを手伝おう。盗賊、僧侶、すまないが買い物は頼んだよ」
賢者「書き写すには少し時間がかかるから、ゆっくりでいいよ~。いってらっしゃい」
盗賊「ゆっくりしていられねーんだっての、クソオヤジが!速攻で書き写せ!!」
賢者「んもー、人使いの荒い兄ちゃんなんだからなあ。…わかった、丁寧に、且つ迅速に書き写すから」
勇者「…すみません…よろしくお願い致します、賢者さん」
~竜の住処~
僧侶「はあ…はあぁ……け、険しい…岩山ですねえ…はあ……」
盗賊「空気が薄くて、すぐ息切れするな……休み休み行かねェと、体力無くなっちまうぞ…」
勇者「地図によると…もう少し進んだ先に、休憩場がある。そこまで頑張ろう…魔法使い、大丈夫か?疲れていないか?」
魔法使い「うん、大丈夫!みんなも妖精さんがくれた回復薬、飲んだら?それのおかげで、こんなに元気なんだもん、僕」
僧侶「……ううん。薬は、魔法使いくんが飲んで?大丈夫だよ、私達なら…どうしてもっていう時には、もらうから。ね?」
魔法使い「そ、そう?いい薬なのになあ」
盗賊「俺も飲んだ事があるからわかるぜ。…そういやクソアマは、作り方を習ったんだよな?なら、今度作れよ。俺のぶん…」ニヤリ
僧侶「ひいいぃ……ぜぜぜ絶対いやですぅ!!あれを飲んだら、盗賊さんが鬼になっちゃう…」ガタブル
勇者「みんな、休憩場が見えたぞ!」
盗賊「はー!はーッ…あー、疲れた……!!やっと休める…!」ドサ
勇者「ふう…この辺りは、…中腹くらい、といったところか…?魔物の数も多いし…厳しい場所だな…」
僧侶「汗をかいても、体が冷えますね…この山、すごく寒い、です……スープを温めましょう、えと……火種、火種」ゴソゴソ
魔法使い「もー、それくらい僕に任せて?……はい、薪木に火をつけたよ!」ボッ
僧侶「あっ。……あ、ありがと、ね?魔法使いくん…」
盗賊「……クソガキ、そいつを甘やかすなよ。火ぃくらい自分でつけさせねーと、すぐグータラすっからな、こいつ」
僧侶「そ!そんなこと、ないですよう!!意地悪なんだから……」
勇者「ははは…。僧侶、私も手伝うよ。腹も満たせるスープにしよう、保存食だけでも上手くやれば、いい味が出せるからな」
僧侶「…勇者様、手際いいんですねえ。お料理得意なんですか?」
魔法使い「勇者様は、料理作るの大好きなんだよ~。作るものなんでも美味しいもん、僕、勇者様のご飯大好きなんだー」
盗賊「へえ。宝物庫じゃ俺が飯を作っちまったし、それ以外は店で食うか出されるか、だったもんな。得意ってんなら早く言えよ、サボれたのに」
勇者「サボると聞いたら、言わない方が良かったと思ってしまうんだが?」
魔法使い「僕も料理できるようになった方がいいかなあ」
僧侶「わ、わ、私も、もっと上手に、なりたいです!勇者様、私にお料理、教えてくれませんか?」
盗賊「おうおう、テメーら全員習っとけ。俺は出来た料理を食べる係な」
魔法使い「お兄さんのおなかをいっぱいにするだけの料理……どれくらい作ったらいいんだろうね?」
勇者「牛一頭平気で食べてしまいそうな勢いだもんな。…さあみんな、スープが温まったよ。火傷しないよう、ゆっくり飲んで」
僧侶「……ふう…暖まりますねえ……ホッとしますぅ~」
魔法使い「あちち、あち……」フーフー
盗賊「つーか、この調子じゃあ今日はここで一泊した方がいいかもしれねえな。思っていた以上に体力を削られる、無理しても余計なもんを招く感じだぜ」
勇者「…そうだな…怪我をしたり、山から落ちても事だ…もしも竜がいたとして、好戦的であったらと考えると…、…ここで休むのが得策か」
僧侶「なら、もう少ししたら、ちゃんとしたご飯を作りましょうか……」
勇者「よし。ならば此処にテントを張ろう」
魔法使い「勇者様!僕も手伝うよー!」
勇者「いや、魔法使い、君は休んでいなさい」
盗賊「……手伝わせてやれ。やりてェって事は、どんどんやらせるべきだ。悔いのないようにな」
勇者「………」
勇者「……わかった…じゃあ、手伝ってくれるか?魔法使い」
魔法使い「うんっ!任せて!」
~翌日~
魔法使い「はあ、はあ…ふう……、…うわ…これ、もう山道じゃないよ、壁みたい~…」
盗賊「だが登れなくもないようだ、形跡が残っている。杭を打ってロープを垂らそう。俺が先に行く、テメーらはそこで待っていろ」
僧侶「足を滑らせないよう、気をつけてくださいね…!」
盗賊「……よーし、一人ずつ来い、俺に掴まれ。まず先に、クソガキ。お前からだ」
勇者「私は一番最後でいい、僧侶、君は魔法使いの後に続きなさい」
僧侶「は、はい、勇者様!……こここ怖いけど…頑張らなきゃ…」ブルブル
魔法使い「お、お兄さん!離さないでね!!絶対手を離さないでね!?」
盗賊「そう念を押されると、逆に離したくなってくるわ。……っと。よし、クソガキは登れた。次!クソアマ、来い」
僧侶「ひいい……も、も、もう…どっからでも、かかってこいですうぅ!!」
勇者「落ちても私が受け止めてあげるから、頑張って!」
僧侶「あああぁ…の、登れたぁ…こ、怖かった~…」
魔法使い「頑張ったね、僧侶さん!偉い偉い」ナデナデ
盗賊「よし、最後はテメーだ、勇者。慎重に来いよ」
勇者「…大丈夫、足場がしっかりしているから、登りやす………うわ!!?」ガラッ!!
僧侶「きゃあ!勇者様ぁっ!!」
勇者「………!! ……あ、あれ、…落ちていない……?」
盗賊「…だから言ったろ、慎重に来いって。油断すんじゃねーよ、バカ」
勇者「!!!?」
魔法使い「よ、良かったー!お兄さんが勇者様を掴んでくれたから、落ちなくて済んだ…」ホッ
僧侶「岩で擦りむいたりしてませんか!?勇者様!」
勇者「あ、ああ。大丈夫だ……」
盗賊「このまま登っちまうからよ、テメーはそっちの杭に足を掛けて体を支えていろ。まずロープを巻きつけて……」グイッ
勇者「(み…密着しすぎて…いや、こんな状況だ、仕方ないんだ、…くそ、油断した私は本当にバカだ!)」
盗賊「……この吊り橋を渡った先が、頂上のようだな」
僧侶「つつつ吊り橋!?べ、べ、別に、こわ怖くなんかないですけどね!!宝物庫の、見えない床のが、もっとずっと怖かっ………ひいいぃぃ~っ!!た、高いよー!怖いよー!!」
魔法使い「か、風が強いなあ…吊り橋が揺れる……うわあ!?」バキャァ!!
盗賊「危ねっ!!……板が腐っている部分があるぞ、気をつけろよテメーら!」ガシッ
魔法使い「うわああ、こ、怖かった~…!あっありがとう、お兄さん!もう、無理無理ー!!こ、こんな高いところから落ちるとか、絶対嫌だあ……早く渡りきりたいよー!」
勇者「だが、吊り橋があるという事は、誰かがここまで来たという証拠だな…先人達、か……ここに来る目的…。今度こそ…!!」
僧侶「…わ、わ、…渡れたー!!あああ、私、私…もう、むしろ怖すぎて、高いところ、へっちゃらになれた気がしますよう~っ!!」
?「………なんだ、喧しいのう…。目が覚めてしまったではないか……」
魔法使い「はあ、はあ、は……、……え?誰?今の声、―― !!?!?うわああああっ!!」
盗賊「な、な、なっ」
勇者「で…でかい……!!まるで、もうひとつ山があるような…」
僧侶「あ……あ、貴方が……竜、なんですか…?」
魔竜「…ワシを訪ねて来たのではないのか?だとしたら、酔狂なものだの。こんな、何もない岩山に、わざわざ登りに来るとは…」
魔竜「如何にも。ワシの名は、竜……魔竜だ。人間がここまで来るとは、どれくらいぶりかの。ふむ……昨日から漂ってきた、旨そうな匂いは、お前達だったのか」
勇者「う…旨そう、って。食べる気か?私達を」
盗賊「……体の至るところに剣を打たれて、岩に縫い付けられている奴が、随分大きく出やがる。実際でかいんだけどよ。…つーか…剣、で?」
魔竜「バカも休み休み言え。魔獣ではあるまいし…ワシは人間など、不味い匂いのものは食わん。お前達、この山で食事を取ったろう?その匂いが、ここまで漂ってきたわ」
魔竜「とくに……そこの坊主。お前からいい匂いがするのう…その法衣のポケットに入れているものは、なんだ?」
魔法使い「えっ!?ぼ、僕!?……あ、おやつに買ってもらった、チョコレートの残り、だけど」
魔竜「チョコレート……甘いものか!!…すまん、ワシは甘いものに目が無くての……良ければ、食わせてくれんか?そのチョコレートを」
魔法使い「ええええ!!?……ち、ち、近づいて、大丈夫…かな……?たたた食べられたりしないかな!?」
僧侶「竜って、甘いものが、好きなんですか?…し、知らなかった、です」
魔竜「怖ければ、そこから投げてくれていい。口で受け止める、……さあ、早く食わせてくれ、チョコレートを!!」
盗賊「テメーの図体からして、チョコの残りとか…砂粒サイズじゃねーか。いいのか、それで」
魔法使い「ぼ…僕達を食べないなら、いいよ。あげる。……えいやっ」ポイ!
魔竜「ふむ」パク
魔竜「………う~む……まったりと口に広がる、この甘さ…ハアーッ、たまらんのォォ~」
ゴオオォォ!!
僧侶「きゃああああ!!?ぶっブレス!?ブレス攻撃ですか!?」
魔竜「あ、すまん。ついうっとりと溜息を吐いてしもうた」
勇者「溜息!?今のが溜息!?凄まじい風のようだったぞ!」
盗賊「テメー、溜息禁止にしろ!こんな切り立った場所で、洒落にならねーよ、吹っ飛ばされる!!」
魔竜「しかし、物足りんの。坊主、他には持っておらんのか。甘いもの」
魔法使い「え、えっと、鞄の中に、クッキーもあるけど……」
盗賊「ダメだダメだダメだ!!また溜息吐かれたら今度こそヤバいっつうの、甘味も禁止だ!!」
魔竜「ぬう……そうか、禁止か…」ションボリ
僧侶「あああ…ガッカリ項垂れちゃいましたよ、……な、なんか…可愛い方なんですね…?」
勇者「イメージが音を立てて崩れていくな…。……こほん。…すみません、魔竜殿。貴方は神族や妖精達と同じく、長寿であるとお聞きしました。私達は今、古代の呪いによって、苦しめられております。解呪法をご存知ありませんか?」
魔竜「…古代の呪い?」
魔法使い「あの…僕が、そうなんです。誰かに呪いをかけられたみたいで…体にも、こんな呪傷が出てきて…解呪法か、この呪いをかけた人を、知りたいんです」
魔竜「それは…!!……そうか、…お前達が……。…やれやれ、ワシも耄碌したものだ…この場に長く縫い付けられておったからの……」
魔竜「…ワシは…その呪いをかけた者を知っておる。…完全な解呪は無理だが、呪いの力を消す物の存在を知っておる」
勇者「ほ…本当ですか!?是非、是非、教えて頂けませんか!?」
盗賊「教えてくれたら甘いものをやるぞ!足りないなら、山を降りて買いに行ってやってもいいぜ!?だから教えてくれ!!」
魔竜「甘いもの!!!」ダパー
僧侶「わあ、涎がまるで滝のようです…」
魔法使い「いちいちスケールがでかいね、魔竜さん…」
魔竜「う~む……だが、しかし…いや、………もう、良いか。ワシはもう、充分に生きた…甘いものも食べられたしの…」
魔竜「…良かろう。話してやるぞ、人間達よ」
魔竜「その前に、改めて自己紹介をしよう。…ワシの名は魔竜。―― 魔王に仕えし四天王が一人……いや、ワシの場合は一竜、一頭…かの」
勇者「………!?」
僧侶「ま……魔王…!?四天王!?あ…貴方が……」
魔法使い「………こんな、強大な……それを操る魔王って、どれだけ凄いんだろう…」
盗賊「………」
魔竜「…そう身構えなくて良い。ワシはもう敵対する気も、戦う気もない。見ろ、ワシの情けない姿を。びくとも動けぬわ」
魔竜「そもそも、ワシは元から戦う気などなかった……魔王に大事なものを奪われてしまったからの、仕方無く仕えていただけよ」フー…
勇者「大事なもの…?あの、溜息は控えて頂けると、有り難いのですが…」
魔竜「まあ、そのような理由と、昔、人間に勝ちを譲った事もバレての。魔王の怒りを買い、ここに縫い付けられてしまったのよ」
僧侶「……魔竜さん…一体、どのくらいの、時間を…ここで過ごしたのですか……ずっと、一人で…?」
魔竜「さてのう。ワシは数を数える趣味はないのでな、わからん。寂しくはなかったよ、ワシの趣味は眠る事だからの」
魔竜「…坊主。お前に呪いをかけた者、その呪法を使える者……それは、魔王だ」
魔法使い「えっ!!?魔王が!?なんで、僕に……!?」
魔竜「何故かはワシの口から言えん。今の魔王は昔より寛大になったとはいえ…ある事に触れては、途端に始末されるからの…すまん」
魔竜「その呪いを解くには魔王を倒すか……もしくは、白の宝玉を手に入れれば、呪いの力を消せる」
盗賊「…宝玉?青や赤の宝玉と、同じものか……?」
僧侶「………」
魔竜「…遥か昔、魔王と対決した英雄達。彼らの魂が封印されている、4つの宝玉…そのうちのひとつ、白の宝玉は邪気を中和し癒す力を持つ」
魔竜「そう、白の宝玉ならば、例え魔王の呪いでも、癒す事ができるのだ。呪いの根っ子は残ってしまうだろうが…削られた生命も体力も、全て補い回復してくれるだろう」
勇者「その、白の宝玉とは!どこにあるのですか!?」
魔竜「……ワシが持っておったよ。魔王から守りたくての。しかし、すまん。奪われてしまったのだ、……あの、キツネめ…」
僧侶「キツネ……?」
魔竜「キツネ……四天王が一人、魔精。妖精でありながら、仲間を捨てて自ら魔王に魂を売った、愚か者よ。あいつの考える事はさっぱりわからん」
魔竜「奴は青の宝玉を守るよう、魔王から命じられていた筈なのに、それを放置して…ワシから白の宝玉を奪っていった。思うに、その呪いの対抗策であったから…だろうのう」
魔竜「…ワシはどうしても、白の宝玉を守りたい。だが、お前達が必要とするならば、……お前達ならば、宝玉を譲ろう。ワシの代わりに、魔精を倒してくれ。白の宝玉を取り返してくれんか」
魔竜「魔精の奴は、幻惑や魅了魔法をもっとも得意とする。…ワシの尻尾から、一枚、鱗を剥がしていけ。魔精の使う魔法を弾けるからの」
魔法使い「鱗を……い、痛くないの?剥がしても…」
魔竜「人間のお前達で表すなら、髪を一本抜く程度の事よ、ワシにとってはな」
魔竜「…ワシは、早く白の宝玉を休ませてやりたいのだ…宜しく頼む、人間達よ」
盗賊「鱗もやたらデケーな……ちょっとした盾だぜ、こりゃあ。なるべく小さめの、持ち運びやすいの……よし、剥がすぞ?」ベリッ
魔竜「うむ。その鱗に念じれば、直ちにこの場所へ戻って来られる。良かったら、宝玉を取り返した時…ワシにも見せてくれぬか」
魔竜「魔精の奴は今、貿易大国……カジノ街の大劇場に居る。奴の匂いはここまでプンプンと漂ってくるでの。人の姿に化けておるが、ワシの鱗を持っていれば、その術も破れる」
盗賊「便利な鱗だな。青の宝玉も時たま幻惑魔法とか消してくれるが、働かねー時があるしよー」
魔竜「ワシの鱗はレアだぞ、本当ならば大量の菓子と引き換えだ、と言いたいわ」
勇者「ふふ……いいですよ、良くして頂いた礼に、事が済んだらお菓子を持って、ここに来ますから」
勇者「魔王に仕えていたと聞いても……何故か、貴方は純粋で…綺麗なものが見える気がしてならないですし…信じて良さそうだ」
魔竜「…時が来れば、その理由もわかるだろうて。だが、今は魔精の事だけを考えろ」
勇者「…はい。ありがとうございます、魔竜殿」
魔竜「麓まで戻るのは大変だろう、ワシのブレスで送ってやる。皆、ひとつに固まっておれ」スウウゥー
盗賊「!? ちょっ、待て!!ブレスでって……吹き飛ばす気か!?やめろ!死ぬ!この高さからとか死ぬわ!!」
僧侶「えっ、えっえっ、ちょっと待って!待ってください、心の準備が!!」
魔法使い「いいよ、大丈夫だよ!僕達、歩いて降りていけるから!!ブレスはやめてーっ!!」
勇者「溜息であれだけの突風だったのに、ブレスとなったら、どれだけの……!」
魔竜「オオオオオ!!!」カッ!!
ゴオウウゥゥッッ!!!
魔竜「……ぷふーっ………頼んだぞ、人間達よ。……転生したお前達ならば、やり遂げられる…」
ブワアァァッッ
僧侶「ぎゃああああああ!!あああもう駄目!もう駄目~!!かっ神様ぁぁー!!!今そちらに参りますうぅ!!」
盗賊「クソアマ!!……あっのクソトカゲ、やめろっつったのに!ふざけんなああー!!」ギュッ
魔法使い「うわあああ!!!……あ、あ、………あれ?ちょっと待って…僕達、空を飛んでない…?落ちていくって感じじゃないんだけど…」
勇者「…勢いがどんどん失せて……まるで綿毛に包まれているような柔らかさを感じるな。これなら、地上に無事降りられそうだ…」
フワアッ…
魔法使い「わ……、…生きてる…い、生きてるよー僕達!!山のてっぺんから吹き飛ばされたのに!竜のブレスってすごーい!!」
僧侶「ひっ、ひ、ひっ」ガクガクギュウ
盗賊「寿命はマッハで縮んだがな……こういう事なら先に説明しろ、クソトカゲが!!菓子に辛子混ぜてやろうか、バッキャロー!!!」
魔法使い「……でも、ちょっと楽しかったかも!気球も使わず空を飛べたんだもん、鳥になったみたいだったよー!」
盗賊「はあ!?正気かお前!?……ったく、ガキは無邪気でいいよな…俺は金輪際ごめんだ、死ぬかと思った」
僧侶「あうあう、あああ……、…はっ!?あ、あれ、死んでない…生きている……。……ぎゃああっごごごごめんなさい、盗賊さん!!しっしがみついてたとか……あわわわわ!!」バッ
盗賊「…ふん。ビビって漏らしてなきゃいいけどよ?おい、クソガキ。俺の服、汚れてねーか?」
僧侶「漏らすとか!すごい怖かったけど、そんな事するわけないじゃないですか!バカ!!バカー!!」
勇者「………」
勇者「…とにかく。魔精を倒しに行こう、白の宝玉を取り返すんだ。それがあれば…魔法使いは助かる!行くぞ、みんな。貿易大国へ戻ろう!」
魔法使い「……魔王の配下…四天王か、……魔竜さんみたいに大きいのかな…」
~貿易大国・カジノ街~
盗賊「………どういう事だ、こりゃあ…前に来たときは、スゲー騒がしかったのに。ネオンも全て消えている…」
勇者「……街中全ての人間を昏睡魔法で眠らせたな。この手口、知っているぞ。……やはり、貴様なんだな…魔精というのは…」ギリッ
僧侶「…魔法使いくん。戦いの前に、お薬の時間だよ。回復薬飲んでおこう?ね?」
魔法使い「え、大丈夫だよ。まだまだ元気だもん、今はそんな場合じゃ……」
僧侶「ダメだよ、これからいっぱい大変な事になるだろうから、力をつけなきゃ。お薬はちゃんと飲まなきゃダメ。……はい、飲んで」
盗賊「…勇者。クソアマがさっき言っていたぜ、……あの薬で、最後だ。もう材料も尽きた」
勇者「…ああ……しかし、終わるのは薬だけじゃない。魔法使いの苦しみも、今日、ここで終わる。彼は助かる、私が助ける!!魔精……奴を倒すッ!!」
~大劇場・中央ホール~
勇者「本当に大きな劇場だな、椅子もどれ程の数があるのか…三階まであるなんて」
魔法使い「ここでお芝居を見たら、すごく楽しそう。戦いじゃなくて、そっちの目的で来たかったな」
僧侶「……勇者様、魔竜さんから頂いた鱗が…なんだか、光っています…」
勇者「…近くにいるんだ、奴が。―― 出てこい!!姿を現せ、魔精!!」
―― ピカッ!!
?「ハーッハッハッハー!!スポットライト、オンンッッ!!」
僧侶「!?!!?!??」
魔法使い「あ……貴方は!!」
盗賊「…知り合いか?なんだ、あの変態野郎。一人舞台で飛び跳ねてんぞ」
スーパースター「ハッハッハ!!ハーッハッハッハー!!美しい私を美しく照らすスポットライト!!美しく目立つ大舞台!!テンションが上がるねえぇ、さあ!美しい私を見るんだ!!美しい私を見てくれええっっ!ハーッハッハッハー!!」
魔法使い「あの人は…僕達に付きまとってきた、変な人だよ。暫く姿を見なかったけど、ここにいたんだ…」
魔法使い「貴方が…貴方が、魔精なの?スターさん!!」
スーパースター「ハッハッハ、美しい私はスキャンダルを避けたくてね。巻き込まれない為にも、色んな姿を持っているのだよ。私のメイクテクは、君達もよく知っているだろう?」
スーパースター「そう……ある時は、大聖堂の街、酒場の男B!!ある時は、美しいこの私、スーパースター!!そしてェ!!またある時は!」
スーパースター「ふふ……この仮面に見覚えはあるだろう?」スッ
勇者「!!!……貴方が…!」
魔法使い「その、仮面……僕達や、みんなを襲った、仮面男の……」
スーパースター「美しい私は様々な美しい姿を持つ!!その中のひとつが、魔王が配下、四天王の一人!魔精!ただそれだけの事だ、ハッハッハ!ハーッハッハッハー!!」
スーパースター「美しい私の美しい舞台演出は如何だったかな?ハッハッハ、楽しんで頂けたかい?…さあ!ラストダンスを始めようじゃないかー!」
勇者「!! 来るか!?」
スーパースター「若者達!私に続け!!踊りたまえ、両手を挙げて!足を踏み鳴らして!!」
僧侶「…え?えっ、えっ?」
スーパースター「さあ!ご一緒に!!ワーイ!」
魔法使い「わ、ワーイ?」
スーパースター「エムッ!!」
僧侶「え…エム?」
スーパースター「シーッッ!!」
魔法使い・僧侶「シー!!」
スーパースター「エ 盗賊「何やってんだテメーらは!!」ゴスッ!!
勇者「………よし!」グッ
盗賊「よし!じゃねーよ!!なんなんだこいつは、クソガキにクソアマもだ、つられて踊ってんじゃねーよ!バカ共が!!」
スーパースター「ふふふ……見たかね、私のダンスの威力を…」ドクドク
盗賊「鼻血スゲーぞテメー」
スーパースター「ハッハッハ!私は戦いが苦手でねェ。できる事といったら、この美しい肉体を披露するだけなのさ!」
勇者「…ふざけるのも、もう終わりだ。魔法使いにかけた呪いの効果を断つため…貴方が持っているという、白の宝玉を渡してもらおう」
スーパースター「ハッハッハ、白の宝玉、ねえ……これの事かい?」スッ
僧侶「…やっぱり……私達が持っている、赤と青の宝玉と、同じ……」
スーパースター「ハッハッハ!これには、かつて私達や魔王を追い詰めた英雄の一人……シスターの魂が封じられているのさ」
スーパースター「シスターは、まるで女神が地上に降りてきたと言われる程……美しく、優しく、清らかで。全てのものを癒していったさあ」
スーパースター「そう、あの魔竜すらも、ね…元々、不本意ながら魔王に従っていた魔竜は、シスターに癒される事で、反旗を翻す意思を持ったのだよ」
スーパースター「シスターの意識は消滅している。宝玉はただひたすらに周囲のものを癒すだけ…半永久的にね。その癒しの力は凄まじい、どんな傷も、呪いすらも、たちまち癒してしまう」
スーパースター「欲しいかね?この白の宝玉が」
勇者「その為に、ここまで来たんだ!それがあれば魔法使いの呪いを癒せる、彼を救える!!だから、その宝玉を……」
スーパースター「じゃ、あげよう」ポイッ
僧侶「……えっ?」
盗賊「な…、はあ?おい、こういう流れは普通、欲しかったら私を倒せー、とか、そういうもんじゃねーの?肩透かしがすぎるぞ!?」
スーパースター「ハッハッハ!美しい私の話を聞いていなかったのかい、凛々しい青年くん!美しい私は戦いが苦手なのだよ、美しくね!弱っちいんだ、スライム以下なのさあ!うん、チビりそうなくらいビビってる」
勇者「……相変わらず、何を考えているのかわからない、疲れる…不気味な男だな、貴方は」
魔法使い「……本当だ…この宝玉を持っているだけで、呪傷が消えていく……重くのし掛かっていたものが、なくなっていく」シュウウウ…
勇者「良かった……本当に、良かった!魔法使い…!!」ギュウッ
盗賊「マジで戦う意思はないんだな?四天王とやらなのに、これも罠とかじゃねーんだな?」
スーパースター「ハッハッハ!勿論だよ!だからその、私の喉元に短剣をあてがうのをやめてくれたまえ、美しくも縮み上がって中に引っ込んでいくよ、もう一人の美しい私が」
スーパースター「私は、もう目的を達成したからねえ。美しい私よりも美しい、あの森を…美しい彼女にもう一度、見せてやれたのだから。もう何もする気はない。少し…疲れた」
スーパースター「だから、その宝玉は君達へのご褒美といったところかな。ハッハッハ!言ったろう?私は救世主!みんなのアイドル!スーパースターさ!」
勇者「いえ、貴方は変態です。…普通に頼んでくれたら良かったのに」
スーパースター「ハッハッハ、常識で考えたまえよ!できるわけないじゃないか、私は魔王の配下だぞ?」
スーパースター「それに、人間は嫌いなんだ。君達は私の手駒にすぎない。本当によく働いてくれたものだ。神託の共鳴を封じても合流を果たし、滅びの運命を覆して」
勇者「貴方が常識を語るか、…いや、共鳴を封じていただと?」
僧侶「…あの…、赤の宝玉…魔導師さんが、言っていました。私達は抜け殻が転生した、って。私の過去は、魔導師さん…盗賊さんは、聖騎士さん…なら、…シスターさんも…?」
スーパースター「勿論さ、可愛らしいお嬢さん!力を奪われても英雄達は転生したよ。だがシスターだけは、」ヒュッ
勇者「…え?」
ズドッ!! ドスドスドス!!
魔法使い「うわああっ!?」
盗賊「なっ、……剣…!?どこから飛んできた!?一瞬で串刺しに…」
僧侶「あああっ…!!だ、大丈夫ですか、スーパースターさん!!い、今、回復をっ…!」
スーパースター「回復は必要ない。…お喋りが過ぎたというところだね。魔王がお怒りだ。魔竜を縫い付けたものじゃない、本気で殺しに来た程……怒らせてしまったねえ、逆鱗に触れたというやつか」
魔法使い「スターさん!スターさんっ!!」
スーパースター「しかしこの姿も美しいだろう?…なあ、君達。どうだったね?私の脚本、演出は。楽しんでくれたかな?」
勇者「何を…あ、貴方が、いらない事をしなければ…ただ、頼んでくれれば、こんな事には……まだ聞きたい事が沢山あるのに…!」
スーパースター「ふうむ。楽しくなかったかね、私もまだまだだな」
魔法使い「………」
魔法使い「…スターさんは…すごく変だったし、困る事ばかりして……みんな、嫌な思いをたくさんした。呪いも、辛かったな」
魔法使い「……でも、僕は………ちょっとだけ。ちょっとだけ、楽しかった。スターさんが好きだったよ。ジャグリング、教えてほしかった」
勇者「…魔法使い…!」
スーパースター「フフ…ハーッハッハッハー!!!」
スーパースター「いいだろう、健気な少年くん!受け取ったよ、君のアンコールを!見たまえ、この美しい私の姿を!!」
僧侶「だっ、ダメです!立ち上がっては、剣を抜いては……、っ!……盗賊さん…?」
盗賊「…いいから、やらせてやれ」
スーパースター「ハッハッハ!今宵は特別だ!ジャグリングに加えて、これぞ剣の舞といったところかな?ハーッハッハッハー!!」
魔法使い「……すごい…すごいよ、スターさん。血を吹き出しながら踊ってる……あはは、…出会った時も、そうだったよね…」
勇者「………」
スーパースター「ハーッハッハッハー!!!」ゴウゥッ
僧侶「……スーパースターさんから炎が…!!これが…魔王の、力なの……?」
盗賊「……この踊り、知っているぞ…エルフの村で見た、妖精のダンスだ…」
―― バサアアァッ!!
勇者「…剣ごと、灰になって…散ったか……」
魔法使い「………」パチパチパチ
勇者「…魔法使い?拍手を……」
盗賊「………」パチパチパチ
僧侶「…とても、す、…素敵な……ダンスでしたよ…」パチパチパチ
勇者「………」
勇者「…こんな道を、貴方に歩かせてしまったのは、……私達人間なんだろうな…」
勇者「………」
勇者「………」パチパチパチ
魔法使い「…僕、貴方と友達になりたかったかもしれない。そしたら、きっと、もっとずっと、楽しかったと思うな」
魔法使い「さようなら、スターさん。……次は仲直りして、…また遊ぼうね。約束」
盗賊「…何はともあれ、クソガキの呪いも一段落ついたんだ……休もうぜ。ドッと疲れが出てきちまったよ」
勇者「……そうだな。ここまでずっと走り通しだった…少し、ゆっくり休もう…」
~貿易大国・宿屋~
賢者「それでは、魔法使いくんの回復を祝って!カンパーイ!!」
盗賊「乾杯ー……って、何をしれっと混ざってんだ、クソオヤジ。お前今回何もしてねーだろ」
賢者「したじゃん!?助言したし地図書いたし!いいだろ、タダ酒ほど旨いものはないよーオッサンも仲間に入ーれーてー」
魔法使い「ふふっ、でも、賢者さんに助けられたのは本当だもんね。ありがとうございました、賢者さん!」
僧侶「皆さん、台所をお借りして、勇者様と私で、ご飯作ってきましたよう~。たくさん食べてくださいね!」
魔法使い「やったー!おなかぺこぺこだったんだ、いただきまーす!」
勇者「良かった、食欲も出てきたようで…白の宝玉の力は本物だったんだな、安心したよ」
僧侶「勇者様に聞いて、魔法使いくんの好きなものばかり作ったからね!いっぱい食べて?」
盗賊「旨い旨い旨い飯旨い」ガツガツムシャムシャ
賢者「…うん、旨いっ!店出せるんじゃないの?2人共。やー、いいお嫁さんになれるねえ」
勇者「はは、それは褒めすぎではありませんか?ですが、ありがとうございます。嬉しいです」
僧侶「本当においしいですよう、勇者様のお料理!なんというか…すごくホッとするんですよね、料理のあたたかさだけじゃない……真心こもった愛情料理って感じです!癒されます~」
勇者「僧侶まで…やめてくれ、恥ずかしいよ…でも、喜んでもらえて良かった。僧侶の料理もとても美味しいよ、作り方をもっと詳しく教えてほしいな、メモしたい」
魔法使い「ね、勇者様の料理、美味しいでしょ?お兄さん!僧侶さんの料理も僕大好きー、僧侶さん、おかわりちょうだい!」
盗賊「ああ。なかなかイケるんじゃねー?クソオヤジの言う事は合ってると思うぜ」モグモグ
勇者「!!! …そ、そ、そうか……あ、ありがとう……」
・・・
勇者「ふう…いい湯だった」
賢者「おー、湯上がり美人は最高だねぇ、まったく!色っぽいよ、勇者ちゃん」
勇者「またそんな事を言って。…2人とも、何をしているんだ?」
魔法使い「今ね、賢者さんに魔法学を教えてもらってたんだー。賢者さん、すごいんだよ!?物識りで頭良くて、難しい問題全部解いちゃうの。わかりやすく教えてくれるから、すっごい楽しい!」
賢者「ははは、魔法使いくんの飲み込み早さはビックリだけどなー。よし、勉強はここまでだ!風呂に入って、疲れた頭をリフレッシュしよう」
魔法使い「僕、賢者さんと一緒に入る!大浴場まで競争しようよ!」
勇者「ふふ、すっかり賢者さんに懐いてしまったな、魔法使いったら」
賢者「やー、オッサンも可愛い息子が出来たみたいでとても嬉しいよ。よーし、競争しような!オッサンはまだまだ若い子に負けないぞ~?」
勇者「そんなに走って、転ぶなよ?魔法使い!」
勇者「……魔法使いは両親の事を知らないからな…賢者さんに会えて良かったかも。父親のぬくもりを教えてくれるのは有り難い」
勇者「…テラスにでも出て、涼むとするか……」スタスタ
ガチャッ
勇者「はぁ…涼し、………っ」
勇者「(…あれは、僧侶と盗賊……!)」サッ
勇者「(………あれ?なんで隠れてしまうんだ?私……)」
勇者「(………)」
盗賊「…あー……酒が旨ェ。暫く飲む機会無かったからなあ…しみるわー」
僧侶「もう…飲みすぎですよ、盗賊さん…。明日に響きますよ?また二日酔いになったら、どうするんですか~…」
盗賊「その時ゃテメーが薬もらって来い。いいだろ、今日は祝いの日なんだしよ?これくらい……ヒック」
僧侶「ダメです、あとで苦しむのは、盗賊さんですからね?その一杯で最後です。大体、ここにも酔い醒ましで来たのに…」
勇者「(………)」
盗賊「ふー……しかし、何度見てもスゲーな、カジノ街のネオンはよ。眠らされていた奴らが目覚めて良かったぜ、消しとくもんじゃねーわ、この輝き」
僧侶「夜空は星の輝きがいっぱい、街はネオンの輝きがいっぱい…キラキラして、眩しいくらいですね…すごく綺麗…」
盗賊「またカジノ行きてーなー、砂漠の国からもらった金をコインに代えてさ。あー、豪遊してえー」
僧侶「…折角雰囲気に浸っているのに、そういう事を言う~」
盗賊「ケッ。この俺が雰囲気だなんだ、守ると思うか?」
僧侶「…全然思いませんっ」
盗賊「よーしよし、よくわかってんじゃねーか。褒美に酒をもう一杯作っていいぞ」ナデナデ
勇者「(………!)」ズキン
僧侶「どんなご褒美ですか、それ~…盗賊さんへのご褒美ですよね…?頭撫でてくれても、お酒はもうダメです!」
盗賊「チッ。もう少し飲みてーのによォ…」
勇者「(……なんだろう……すごく、胸が痛い…モヤモヤする。なんだ、これ)」
勇者「(…あんな風に、笑ったりも……するんだな…)」
僧侶「大体盗賊さんは……、…あれ?…勇者様!どうしたんですか?そんなところで」
勇者「………!」ビクッ
盗賊「なんだ、いるなら声くらいかけろよ。テメーもこっちに来い、飲み比べしようぜ」
僧侶「だから、お酒はもうおしまいです!勇者様もなんとか言ってやってください~、全然言うこと聞かないんだからー…」
勇者「あ……ああ…」
盗賊「お前、勇者の飲みっぷり見てなかったのか?ありゃ凄かったわ、顔色ひとつ変えず水みてーにガブガブ飲んでよ。男勝りっつーか顔負けっつーか…女と思えないレベルだった」
勇者「!!!」
僧侶「デリカシーないんだから……気にしなくていいですよ、勇者様。こんな酔っ払いの言うこと!」
勇者「…う…うん……」
~深夜~
僧侶「……すー…すー……」
勇者「(…眠れない)」
勇者「(…魔法使いは、賢者さんや盗賊と一緒に、男部屋で寝ているし……僧侶とはベッドが別)」
勇者「(……なんだか、寂しいな)」
勇者「……水でも飲むか………」ムクッ
僧侶「……ううん…」モゾモゾ
勇者「(っ、と……ここじゃ、物音を立てたら起こしてしまいそうだ…ラウンジに降りよう…)」
勇者「(…起こさないように、……そーっと、そーっと……)」
僧侶「……むにゃむにゃ…」
・・・
勇者「…誰もいない…当たり前か、深夜だもんな」
盗賊「……あ?なんだ、テメーかよ。お前もよくフラフラしてんなー、イノシシから転職か?」
勇者「!? 盗賊…君こそ、こんな時間に…何をやっているんだ」
盗賊「どうしても飲み足りねーから、酒追加。クソアマには黙ってろよ?うるせーからよ、あいつ」
勇者「そ、そうか…しかし、彼女は君の事を心配して……」
盗賊「はいはい、テメーもうるせーな。説教なんざいいから、お前も飲めよ。どうせ眠れないから降りて来たんだろ?なら、付き合え」
勇者「そうやって共犯に仕立てるつもりか。…まあいい、眠れないのは確かだ。頂こう」
盗賊「よっしゃ。お堅いだけじゃねーんだな、お前。ま、一杯飲めば眠気も来る……かどうかはわからねーか、お前の場合。酒豪だもんなあ」ニッ
勇者「(…笑った!)」ドキッ
勇者「(…魔法使いは、両親のぬくもりを知らない……なら、私は………)」
勇者「(……私が…知らないことは…)」
勇者「(……いやいや。いやいやいや!何を不真面目な事を。両親がいないのは私もそうだろう!馬鹿馬鹿しい!!)」ブンブンッ
盗賊「…?何、首振ってんだ。飲まないのか?酒」
勇者「い、いや!頂く!飲むから!!大丈夫!!なんでもない!!!」
盗賊「お、おう…。……変な奴」
~宿屋ラウンジ・朝~
勇者「(結局一睡もできなかった)」
盗賊「あー……だっる。なんでこんなに朝早ぇんだよ、もっと寝ていてもいいじゃねーか…」
僧侶「今日は、魔竜さんにあげるお菓子を買いに行くって、みんなで決めたじゃないですか。…だから飲みすぎだって、言ったのに」
勇者「………」
魔法使い「…勇者様?どうしたの、ぼんやりして。勇者様も、二日酔い?」
勇者「あ、…いや、すまない。大丈夫だ、ただボーッとしていただけだよ」
勇者「………」
勇者「(…孤児院では同い年の子がいなかったし、院長様は、お優しい方だったけど、ご高齢で…)」
勇者「(スーパースターは…そもそも変態だし。貿易大国の執事は、気が合ったけど…それだけだ。聖騎士の王国の王子は快男子で好感が持てたが…どちらかといえば、尊敬での好意だしな…)」
勇者「(賢者さんの軽口は流せるのに……何が違うんだろう?)」
賢者「………」
盗賊「…あー…ダメだ、これ。クソアマ、水と薬……」
僧侶「もー…これに懲りたら、自制を覚えてくださいね?すぐ、もらって来ますから」
賢者「………」
盗賊「だりぃー、マジかったりー、気持ち悪ぃー、……頭痛ぇー…」
賢者「…ふっふふふ……いやはや、いやいや…兄ちゃん、兄ちゃん」ポンポン
盗賊「あぁ?」
賢者「……わっ!!!」
盗賊「!!!?? な…な、何しやがる!耳元で大声出しやがって、あ…頭痛ぇぇ…っ!!」キーン
魔法使い「だ、大丈夫?お兄さん!賢者さん、どうしたの、いきなり!こっちもびっくりしたじゃんか~!」
賢者「いや~、オッサンレーダーがね、こう…反応したっていうか。鉄槌を下せって聞こえた気がしたというか」
盗賊「な…何をわけのわからねー事を……!あだだだだ…!!」ズキズキ
勇者「(…考えすぎなのかな、私は。気が緩んでいる…まったく、自分が情けない)」
~貿易大国・商店街~
僧侶「あ、これ可愛いー。これなら魔竜さん、喜んでくれるかなあ」
盗賊「あのクソトカゲのサイズ忘れたのかよ、見た目より量じゃねーか?」
僧侶「お菓子は、味も重要だけど、見た目も、大切なんですよう?折角のお土産なんだし…ひとつくらい、こういうのがあってもいいと思います~」
盗賊「さっぱりわかんねー世界だ。たらふく食えるだけで有り難ぇだろうに」
勇者「(…改めて見ると、いつも自然と傍にいるんだよな……なんか、…いいなぁ…)」
魔法使い「ねえねえ勇者様!僕のおやつにこれ買って……勇者様?」
勇者「………」
魔法使い「勇者様、またぼんやりして。なんなの、最近変だよ。何を見て………」
僧侶「じゃあ、これと、これと……」
盗賊「結構金かかるな、菓子って。そんなに旨いんなら、俺にもひとつ……」
勇者「………」ポーッ
魔法使い「…お兄さん……?……。………!ま、まさか!!?」
賢者「……現実とは…青い春とは、時に残酷で非情なもの…気づいてしまったか、少年」ザッ
魔法使い「賢者さん!…いや、あれで気づかないのは勇者様くらいじゃ……わかりやすいな、勇者様…」
賢者「兄ちゃんとお嬢ちゃんもねー。兄ちゃんは、勇者ちゃんの事をからかえないくらい猪突猛進のところがあるし…お嬢ちゃんは常日頃からボーッとしているしなあ。荒れるぜ、この海…」
魔法使い「な、な、なんでなんで!勇者様、今まで誰かが好きとかそんな事、一切なかったのに!王子様の求婚にだって…」
賢者「それについては名探偵・オッサンが推理しよう…の前に、裁判長!此度の判決をお願いします!」
魔法使い「お兄さんは有罪だー!!有罪ー!!」
賢者「よーし、判決に基づき、刑を執行する!」
賢者「有罪キック!!」ビシッ
盗賊「痛った!!?…さっきからなんなんだ、クソオヤジィィ!!」
魔法使い「ぜー、はー…ぜー……お、お兄さん…めちゃくちゃ怒って追いかけてきたね…」
賢者「ひー、はー、…ひぃー……しかし、見たかオッサンの逃げ足の早さ…あ、もうダメ死ぬこれ…あれ、買おう……」
賢者「…はい、魔法使いくん。喉渇いたろ、ジュースだよ」
魔法使い「あ、ありがとう、賢者さん!…はー、美味しい…」
魔法使い「…それにしても、ズルいよ、お兄さん。僕だって、ずっと勇者様が好きなのにさ…そういう事、興味ないと思ってたのに…この前だってさ……」
賢者「ふむふむ…」
・・・
賢者「……ふうむ。聞いた話から察するに、アレだな。勇者ちゃんの春は確定なんだねえ……女の子は早熟だと思っていたんだが、いや~生真面目でウブな子だ…」
賢者「や、むしろ、過程すっ飛ばして親心というか…母性が開花したせいなのかなー?剣の道しか知らなかったところの春かあ、…若いっていいねぇ」
魔法使い「…王子様の時も、すごい焦ったのに……王子様、強いし優しいし、背も高くてカッコいいから…勇者様だって、王子様と一緒にいると楽しそうで…」
魔法使い「王子様が退いてくれてホッとしたと思ったら、なんでよりによって、お兄さんなのー!?どう見たってお兄さんは僧侶さんが好きなんじゃ…なんでわかんないのかな、勇者様はー!」
賢者「わからないのが、恋ってもんなんだよー、若者よ!」ドヤァ
賢者「そう……、勇者ちゃんは今、兄ちゃんが好きというより…恋に恋しているって状態が近いと思うなあ」
魔法使い「恋に……?」
賢者「そうそう。…今までまったく考えのなかったところに現れた異性だからねぇ」
賢者「王子の場合は、恋愛感情より先に、強さへの憧れとか身分の差とか使命とか…色々邪魔があったようだけど、兄ちゃんの場合はなー。仲間としての距離の近さ、年齢の近さ、諸々込みでフルスロットル」
賢者「魔法使いくんの場合は、異性として意識するより、家族としての意識が強すぎているんだろうね」
魔法使い「……でも、このままいったら勇者様、傷ついちゃうんじゃ…」
賢者「いやいや~。これはいい機会だと、オッサンは思うなあ」
賢者「心が成長する事も大事だからね。遅蒔きながら芽が出たんだ、ここは育てるべきと思うよ。まったく傷つかない成長なんて、紛い物にすぎない」
賢者「それにさ?恋愛感情が芽生えたって事は、魔法使いくんにもチャンスが来たって事じゃないか。魔法使いくんが頑張ったら、家族じゃなく異性として見てもらう機会ができたって事だろう?」
魔法使い「…そ……そうかな…?」
賢者「そうだよ。恋心ないままで来たら、王子だろうが兄ちゃんだろうが、みんなひっくるめて私の家族!兄弟!以上!終了!!……となっただろうしね。勇者ちゃんなら…」
賢者「だから、いっぱい勉強して、いっぱいご飯食べて寝て遊んで、たくさん成長しなさい」
賢者「そうすりゃー勇者ちゃんも、必ず君の事を見てくれるよ」
魔法使い「…本当?」
賢者「ああ、本当さ。それと、この先、勇者ちゃんが傷つく事があったら…その時は傍にいてあげるといい。傷ついた勇者ちゃんを癒せるのは、薬草でも回復魔法でもない、君なんだからね」
魔法使い「……うん…わかった。ありがとう、賢者さん」
賢者「焦らずゆっくり頑張りなさいよー、若いうちは長いようで短いからねえ」
勇者「……あ、こんなところにいた!2人共、そろそろ宿屋に帰るよ。買い物も済んだし。…なんだ、魔法使いったらジュースなんか飲んで。賢者さんに買ってもらったのか?お礼は言った?」
魔法使い「勇者様!」
勇者「すみません、賢者さん。あとで代金お返ししますから」
賢者「いや、いいよー、ジュースくらい」
~宿屋ラウンジ・夜~
勇者「…では、明朝に魔竜のいる岩山へ向かうという事で…」
盗賊「クソトカゲからもらった竜の鱗がちゃんと働くかね、働かなかった場合はまた山登りだろ、一応準備は整えとかねーと…」
僧侶「今日の買い物の時に、見つけたんですけど…魔力回復の聖水が…出発前にいくつか買っておいた方が…」
ワイワイ ガヤガヤ
魔法使い「………」
盗賊「下山途中、もう少し探索していってもいい気がするんだよ。資金源になりそうなもの、鉱石がいくつかあったしよ。地図を見てくれ、例えばここには……」
勇者「(……ち、近っ…いや、ダメだ、魔王討伐に向けて集中せねば…!でも…)」
盗賊「……それと…、……おい、勇者?俺の話をちゃんと聞いているか?」
勇者「あ、ああっ!?す、すまない!聞いている!大丈夫!!」
魔法使い「………」ムスー
賢者「焦らない焦らない、じっと見守る正念場だよー、ここは」
僧侶「あのブレスで帰るのは、できれば避けたいですもんねえ…すぐに降りられるけど、こ、こ…怖かったし……」
盗賊「俺もあれは勘弁願いてーわ。……んじゃ、出発前に足りない薬草の補充と、魔力回復の聖水を買って、と。食糧の方は大丈夫なんだな?」
僧侶「はい、今日お菓子を買う時に、一緒にまとめて買いました、から。盗賊さんが荷物を持ってくれて、助かりました。ありがとう、ございます!」
盗賊「…荷物運びの為に連れてきたクソオヤジが途中で逃げたからな~、ったく。肩凝ったっつーの」
勇者「だから私も手伝うと言ったのに…妙なところで、気を使うんだな」
盗賊「気ぃ使っているわけじゃねーよ。買い物で荷物持ちといったら男の仕事だろ。女は気にせず好き勝手あれこれ買ってろ」
僧侶「またー…そういう、捻くれた事ばかり言っていたら、口が曲がりますよう!?」
勇者「(…こんなに口が悪い男なのにな…)」
盗賊「…よし、まとまったな。そんじゃ、とっとと風呂入って飯食って寝ようぜ。明日に備えねーと」
勇者「なんだ?昨日とは違って真面目な事を。今日は飲まないのか?酒」
僧侶「盗賊さん、一応区切りはつけますもんねえ。つけない時の方が、圧倒的に多いんだけど……」
盗賊「そんなテメーは、いちいち一言多いんだよ。このクソアマが。別に、飲んでいいなら飲むが?」
勇者「いや、禁酒だ、禁酒。また二日酔いになられても困る」
僧侶「お酒って、そんなに美味しいですかねえ…?私は、よくわからなかったなあ…」
勇者「私は味のついた水としか思えないな」
盗賊「この女共は……。…つーか、クソオヤジはこれからどうするんだ。俺達と一緒に行くか?」
賢者「いや、オッサンはこの街に残るよ。悟りの書を探す為に、文献を調べている途中だからね。……さーて、風呂に入ろう、風呂に」
~大浴場・男湯~
盗賊「中途半端な時間だからか、利用者少ねーな。貸し切りみてェで気分いいわ」
魔法使い「………」ジロジロ
盗賊「……な、なんだよ。人の事をジロジロ見やがって…」
魔法使い「…別にー、なんでもない」
賢者「…身長も負け、肉体でも負け、アソコでも負け……スタートからして、デキレースなんだよねー」
魔法使い「ううう……」
賢者「しかし!そんな魔法使いくんでも、勝てる事があるっ!!兄ちゃん…勝負だ!」
盗賊「………はあ?一体なんの話だ…」
賢者「これは男を賭けた戦いなんだぜ…逃げる事は許されない!っていうか、面白そうだから逃がさないよ~。ふっふっふ」
魔法使い「…僕がお兄さんにどうやって勝てるのさ……あ、攻撃魔法使えばいいのか」
賢者「いやいや、兄ちゃん死ぬからね、それ。…風呂ときて男の勝負といったらコレしかないでしょ~、我慢比べだよ!!」
魔法使い「我慢比べ?」
賢者「湯船の中へ息が続くまで潜って、先に上がった方が負けだ。根性無しが負けともいう。これならいい勝負ができそうだろ?」
盗賊「なにがなんだかわからねーが、冗談だろ。クソガキに負けるわけねーじゃん、そんなもん。勝負にもならねェよ」
賢者「おやおや?誰かをお忘れでないかね、兄ちゃんさあ……知将たるオッサンが味方につくんだ、兄ちゃんの負けは確定だね」
盗賊「ほざけよ、このクソオヤジ。…いいぜ、テメーらが負けたら、飯を奢れよ?フルコースな」
魔法使い「じゃあ、お兄さんが負けたら、僕達が奢ってもらう!」
盗賊「ふん、だから俺が負けるわけねーっての、クソガキが」
賢者「よーし、ならオッサンが審判をやるからね。2人とも、頑張りなさい」
賢者「………」ヒソヒソ
魔法使い「…え?うん、……わかった!」
賢者「はい、それじゃあ…勝負、開始!」
ドボン! ドボン!
盗賊「(何をムキになってんだか、…馬鹿馬鹿しい。適当に付き合って、負けてやりゃあ…気も済むかね)」
魔法使い「………」トントン
盗賊「………?」
盗賊「!!??!?」ガボッ!!
ザバァッ!!
盗賊「げほっ!!げほ、ごほ!」
魔法使い「……っぷあ!はー、…はー……」
賢者「はーい、魔法使いくんの勝ち!根性無しの兄ちゃんは、俺達に晩飯奢るの決定~」
盗賊「ちょっと待て!!今のは流石にナシだろうが!このクソガキ、変な顔して見せて……あんなの、誰だって吹き出すに決まってんだろ!!」
魔法使い「へへーん、作戦勝ちだよー、だ!お兄さんに勝てるところ、ひとつ見つけた!僕達の方が頭いいもんねっ」
盗賊「頭いい奴が、あんな変顔するか!!待てコラ、泳いで逃げるな!クソガキ!!」
賢者「はっははは!!だから言ったろ、知将がついているって」
~大浴場・女湯~
勇者「……なんだか男湯の方が騒がしいな。他の客に迷惑にならないといいが…」
僧侶「………」ジーッ
勇者「……な、なんだ?僧侶…人の体をジッと見て……」
僧侶「…勇者様もおっぱい大きいんだなーと思って…普段、鎧で隠れているからわかりにくいけど……ううう、改めて見ると…反則だ~!!」
勇者「は、はあっ!?いきなり何を……恥ずかしい事を言わないでくれ!」
勇者「…そういえば、合流した時も、魔物の胸について騒いでいたか……そんなに気になるものだろうか。私は邪魔くさいとしか思わないが…」
僧侶「じゃあ、ください!くださいよう、そのおっぱい!!不公平だ~!あんまりですぅ、神様ー!」ムニィッ
勇者「!!? ちょっと!僧侶!やめろ、何をする!つ…掴むな!!」バシャ
僧侶「カジノの破廉恥お姉さんよりは小ぶりだけど……それでも手から溢れる…!うぬぬ~」ムニムニ
勇者「や……ちょっと、やめて…、んっ」
僧侶「くうっ、形も整ってますぅ…!究極か至高か、いやこれは究極にして至高…!鎧で潰れたりしないんですか?いいな、いいなっ!」ムニムニ
勇者「いや…、やっ、…やだぁ、本当に…やめてったら、くすぐったい…」
僧侶「……あれ?そういえば、こんなに長く揉むのは初めて…ご、御利益!御利益、あるかな…!これで私も究極に!?」ムニュムニ
勇者「んぁっ…!……も、もう!やめなさい!バカっ!!」ポカッ
僧侶「はう!?……はっ!わ、私は一体、何を……」
勇者「…はー…、はー……そ、僧侶…我を失う癖があるの……な、治してくれ…頼むから」
僧侶「あわわ……す、すみません、勇者様!…見ていたら、つい…」
勇者「もう見るなっ!あっち向いてなさい!…も、もう!困った子だ…!」
勇者「…そんなに気にしなくとも、綺麗な肌だし、柔らかそうで、女の子らしい体型だと思うんだがな……わからん…」
・・・
盗賊「………」グッタリ
勇者「………」グッタリ
僧侶「ど、どうしちゃったんですか?盗賊さん、すごい疲れきってますけど……」
魔法使い「ふふん、男の戦いをしたの!!結果は圧勝だったけどね、お兄さん弱かっ……あ痛っ!」ポカッ
盗賊「あんな勝負、無効に決まってんだろ!!そういう勇者はどうしたんだよ、顔が真っ赤じゃねーか。逆上せたのか?」
僧侶「いえ、私が勇者様の、究極にして至高のおっぱいを堪能し……あ痛っ!」ポカッ
勇者「だから!恥ずかしいから言わないでって言ったじゃないか!そういうものじゃない!!」
賢者「……いやいや~オッサンってば凄い勢いでお察ししちゃうんだけど…!若い女の子がキャッキャと戯れて…まさに花園…百合の花咲く園…!?」
勇者・僧侶「賢者さんって、気持ち悪いですね」
賢者「ハモった!!?」
~翌朝~
勇者「…さて!必要なものも買い足した、出発するぞ、みんな」
魔法使い「賢者さん、また勉強教えてね!いってきます」
賢者「ん、みんな、気をつけていってらっしゃい。…魔王の事に関しても、近づき始めているんだ。気を引き締めて行くんだよ。帰りを待っているからね」
僧侶「はいっ!が、頑張ります!!」
盗賊「つーかよ、このクソトカゲの鱗って…どうやって使うんだ?あいつのところまで行けるっていうけどよ…」
魔法使い「確か…魔竜さんは、念じればいいって言ってたよね…魔竜さんのところへ連れてって、って思えばいいのかなあ?」
勇者「どれ……やってみようか。………」
―― ピカッ
僧侶「あ…鱗が、光って……きゃっ!?」
バシュウッ…
賢者「…おー、……みんなが消えた。うーん、興味深いなあ…しかし、この場に研究者の奴がいなくて良かった。あいつが見たら、鱗をズタズタにしちゃうだろうし…」
~竜の住処・頂上~
シュン!!
僧侶「………!わ…す、すごい…一瞬にして、ここまで…!」
魔法使い「妖精さんの移動魔法みたいなものかな?場所限定の……」
魔竜「旨そうな匂いがああああ!!!」ギャオオス!!
盗賊「うおあああ!!?」
勇者「な…なんて大きな声だ、衝撃波まで生じるとは…!」
魔竜「あ。すまん、あまりにも旨そうな匂いがしたでの、興奮してしもうた」
盗賊「テメー!!ビビらせんな!興奮禁止にしろ、血圧上がるぞ!?」
魔法使い「魔竜さんっ!色々教えてくれて、本当にありがとう!宝玉のおかげで、僕、助かったんだよー!」
魔法使い「お礼にたくさんお菓子を買ってきたから、食べて?ほらっ」ドサドサ
魔竜「うおおおお甘いものおおお!!!」ギャオオオオス!!!
盗賊「だから!興奮させんな、クソガキ!!」
僧侶「ああう……み、耳が、耳が!破けちゃいそう、です~…!!」
魔竜「うむ……うむ……ワシは幸せ者だの…こんなにもたくさんの甘いものを食べられるのも、はて、どれくらいぶりか…見た目も綺麗に作られるようになったのだな…」モグモグ
僧侶「うふふ、喜んで頂けて良かった、です…でも、投げて渡さなきゃいけないのも、なんだか…寂しいですね…」
盗賊「…その、お前の体に刺さっている剣は……魔王がやったんだよな?」
魔竜「うむ。普通の剣ならばワシには効かぬが、この剣は魔王の力が形となって現れているもの。魔王が死なぬ限り、抜ける事のない封印よ」
魔竜「そしてそれは、坊主、お前の呪いも同じ事。いいか、その白の宝玉をけっして手放すでないぞ。宝玉が無くなれば、再び呪いの力が甦るぞ」
魔法使い「…白の宝玉は、魔竜さんの剣を消すことは、できないの…?」
魔竜「フフ。出来るのであれば、ワシは今ここにはおらぬよ。宝玉はただ傷を癒すだけ…生命を補うだけだからの」
勇者「そ、…それでは、宝玉を失った貴方の命は…」
魔竜「それ以上口にするな、娘。…構わんよ、これはワシへの罰でもあるでの。ワシは白の宝玉が救われれば、それで良いのだ…」
盗賊「………」
僧侶「…なら……それなら、魔王を倒せば…魔法使いくんも、魔竜さんも、助かるんですよね!」
勇者「…そして、世界も救われる。…魔竜殿、今一度助言を頂けませんか。私達は魔王を倒したい…魔王の事について、どうか教えてください!」
魔竜「………」
魔竜「…魔王は……この世界にはおらぬ。善悪の境目という場所にいるのだ」
魔竜「魔王の住む場所へは、普通の行き方では辿りつけぬ。英雄の一人が使っていた剣で、境目を斬り開かねばならん」
勇者「英雄の剣……ですか?」
僧侶「…魔導師さん達と一緒に戦った、過去の勇者様…でしょうか……」
魔竜「うむ。彼の使う剣は、技は、次元すらも斬り裂く…最強の英雄であった」
魔竜「その力を恐れたワシら四天王は、魔王が英雄達の魂を宝玉へ閉じ込める際に、剣を奪い、封印を施したのだ」
魔竜「…ワシはこの通り力を失った。赤の宝玉をお前達が持っているという事は、魔将も倒したのだろう?そして、魔精も死んだ…残る四天王は魔獣のみ。ならば封印の力も弱まっておろう」
魔竜「剣はこの世界の中心…海に沈む神殿にある。赤の宝玉を使え。赤の宝玉は、破壊の力。強大な魔力を持った魔導師の魂…奴なら弱った封印を破壊できよう」
勇者「…ちょっと待ってください、海に沈む神殿?そんな場所、どうやって行けば……」
魔竜「ワシのブレスでお前達を包んでやろう。暫くの間なら、水の中でも地上と同じく活動できようて。そうだの…半日程度は。……素早く行動すれば良い」
盗賊「半日…か。神殿がどれ程の規模かわからねーが…まあ、やるしかねーか……」
魔竜「案ずる事はない、行けばすぐに見つかるだろうて」
魔法使い「…でもさ、剣を取れたとして…善悪の境目って、何?どこを斬ったらいいのかな」
僧侶「善と……悪………あれ?なんか…引っ掛かる。なんか…どこかで聞いた事があるような…」
盗賊「……神様の住む街に、悪党がぞろぞろ集う…善と悪、両方の揃う…」
勇者「……!!大聖堂の街か!?」
魔竜「………ご名答。そう、運命とは、1つの輪よ。ぐるりと廻り、原点に還るもの」
魔竜「剣を手に入れたなら、大聖堂の街へ行け。そこから先は、剣が導いてくれる」
魔法使い「…魔王……魔王と、対決……」ゾクッ
盗賊「…ここまで来たか…」
僧侶「……魔王を倒せば、世界は平和になる、……」
勇者「…倒してみせる。必ずや!」
魔竜「では、ワシのブレスでお前達を海底神殿へ送ってやろう」スウウゥー
盗賊「待て!ちょっと待て!!心の準備をさせろ!!クソガキ、菓子をクソトカゲに投げやがれ、あいつを止めろっ!」
魔法使い「魔竜さーん!甘いものだよっ、はい!!」ポイッ
魔竜「甘いもの!!!」パクッ
勇者「はは…コツが掴めてきたな……」
僧侶「ブレスで飛ばされて、海へ入って……剣を取ってきて。帰りは…魔竜さんの、鱗を使って、ここに戻って、……ああう…心臓によくなさそうな事が、目白押しですねえ……」
勇者「戻ったあとは、大聖堂の街へ行き…そして、魔王を倒す」
魔法使い「し…深呼吸、しとこ……」
魔竜「…心の準備とやらは、整ったかの?」
盗賊「……くそっ、金輪際ごめんだと思ったのによ…わかったよ!ブレスでもなんでも来やがれ!!」
勇者「海底神殿……どんなところだろうか…」
~海中~
ザバァァン!!
僧侶「ひいいぃ……な、何度やろうとも、やっぱり…慣れないです!ブレスで、飛ばされるのは…!!」
魔法使い「わー…海に深く潜っても、全然苦しくない。目も開けられるし、喋れるし」
勇者「体も濡れないな。泳ぎはあまり経験が無かったが…歩くように泳げる。竜のブレスの力…凄いものだ」
盗賊「あのクソトカゲ、本当に万能だな。味方で良かったわ、マジで……」
勇者「しかし、美しいな、海の中とは。こんな体験ができるなんて…」
僧侶「はい、とっても綺麗です…お日様の光がゆらゆらして、お魚さん達も楽しそう。…深く潜っていくごとに、暗くなるのも…なんだか、神秘的」
魔法使い「海の主さんは、どこでお昼寝しているのかなー。また会いたいな」
勇者「…ん。あれか?魔竜殿の言っていた、神殿とは」
盗賊「どうやらそうらしいな。ぼんやりと光っているわ、すぐに見つかって良かったぜ」
勇者「っと、………これか。英雄の剣とは」
魔法使い「わー…大きい水晶の塊。中に見えるね、剣があるの」
盗賊「…この水晶を割って、剣を取り出しゃいいんだな。砕いた欠片は売れるかねェ、…いや、四天王共が封じたんだったか、呪われそうだな。やめとくか…」コンコン
勇者「僧侶。君の持っている、赤の宝玉を出してくれ」
僧侶「は、はい。勇者様…。……大丈夫かな、魔導師さん…ずっと声が聞こえなかったし、他の宝玉みたいに、力を…出す事も、今までなかったから……」ゴソゴソ
盗賊「…もう、力が無くなっちまったとかじゃあねーよな…?」
僧侶「わ、わかりません…でも、これじゃないと……剣は手に入らないんです、よね…呼び掛けて、みます」
僧侶「……魔導師さん…お願いします。貴方の力が必要なんです。この水晶を割ってください…私達は、魔王を倒したい…救いたいものが、たくさんあるの……」
僧侶「……お願い…、…お願いします。力を、貸してください…」
―― ピカッ!!
魔法使い「うわ!…宝玉から、真っ赤な光が…!!」
勇者「…水晶に伸びていく……、ああ、亀裂が!」
盗賊「―― !!! クソアマ!やめろ、もういい!やめろ!!」
勇者「何故止める!?もう少しで水晶が割れそうなんだ、今止めたら…」
盗賊「バカ野郎ッ!!水晶じゃねえ、クソアマを見ろ!あの光、暴れてんじゃねーか!!クソアマが傷だらけになっている!!」
勇者「な…っ!!?」
僧侶「…ごめんなさい、苦しめてごめんなさい…でも、お願い!もう少しなの、お願い……私達を助けて、私達に力を貸して!!魔王を倒したいの!!」ビシ! バキ!
盗賊「やめろ!もういい!クソアマ!!身体中ズタズタに……やめろ!!やめてくれ、……僧侶ッッ!!お前が傷つく事ねーんだよ!やめろーッ!!」バツッ! バシ!
勇者「僧侶!!…止めに入った盗賊まで、傷が…!!」
僧侶「大丈夫……大丈夫!私なら、やれる!私なら、できる!!……私達なら、できるの!!」
僧侶「お願い!!貴方達を助けたい、もう悲しい事を終わらせたい!!……砕いて!あの水晶を!!私達なら、できるんだから!!」
―― バキャアアン!!
魔法使い「水晶が砕けた…!!勇者様!剣を!!剣を取って!落ちてくる!」
勇者「あ…ああ!」パシッ
勇者「これが、英雄の剣…!……僧侶!?」
僧侶「………」フラッ
盗賊「僧侶!!…っバカ女……!手も体も…顔まで…!!」ガシッ
魔法使い「お兄さん!白の宝玉を使って!僕、手に持ったままでいるから…僧侶さんにも、宝玉をかざそう!」
盗賊「俺より先に、クソアマに向けろ!頼む、白の宝玉…こいつを治してくれ…!」
勇者「僧侶!盗賊!大丈夫か、2人共!!」
僧侶「う……うう、……」シュウウウゥ
勇者「…よ、良かった……傷が、消えていく…治っていく」
魔法使い「暴走するなんて、知らなかったよ…赤の宝玉って、こんなに危ないものだったの…?」
盗賊「…赤の宝玉を見つけた時は、ここまでじゃあなかったんだ。俺達が魔物……魔将か?そいつに襲われた時、助けてくれたしよ。その時は、力を制御できていたんだがな」
盗賊「…青も、赤も、白も。封じられているっつう奴らが、消えてんのかもしれねえな…自我が無くなって、ただひたすらに力を使うだけ」
勇者「……白の宝玉も…考え方によっては、危ないかもしれないな。魔法使いや僧侶のように、瀕死の状態ならば頼もしいが…敵に、魔王に奪われたら……勝ち目が無くなってしまう」
盗賊「…クソガキ。白の宝玉はもう表に出さないように、肌身離さず持っていろ。クソトカゲも言っていたろ、それを手放せばテメーの呪いは再発しちまう。…守り通してくれ」
魔法使い「……う、うん…わかったよ、お兄さん…でも、お兄さんも傷を…」
盗賊「俺の傷は、どうって事ねーよ。宝玉を使うまでもない、いいからしまっておけ」
勇者「(…魔竜殿も、守りたいと言っていた。…魔王に奪われれば、勝ち目がない)」
勇者「(…魔竜殿から……それを奪ったのは……。…呪いの対抗策、以外に…?いや、考えすぎか。そんな事…まさか)」
盗賊「…おい、勇者。剣は取ったろう、ここにはもう用は無い。クソトカゲのところへ戻ろうぜ。…クソアマを休ませたいんだよ」
勇者「……あ。…ああ、そうだな。すまない、考え事をしてしまっていた…すぐに戻ろう」
勇者「………」
勇者「(私は……私は、何をやっているんだ?僧侶が傷ついていたのに、気づけなかった。2人が傷ついたのに、他の事を考えていただと!?)」
勇者「(…吐き気がする。なんて……最低な。私は、最低だ!!!)」
魔法使い「………」
盗賊「クソトカゲの鱗を使うぞ。テメーら、ひとつに固まれ」
~竜の住処・頂上~
魔竜「うむ。それは確かに、英雄が使いし剣。我らが封じたものに間違いない」
盗賊「こいつを使えば魔王のところへ行ける、か。…だが、悪ぃ。クソアマが負傷しちまったんだ、目覚めるまで動かしたくねェ、ここで休んでもいいか?」
魔竜「構わぬ。風が強かろう、ワシの傍で休むといい。岩に縫われようと、風避けくらいにはなれるでの」
魔法使い「ありがとう、魔竜さん!じゃあ、この辺りにテントを組み立てて、僧侶さんを休ませようね」
勇者「……ああ」
魔法使い「………勇者様?大丈夫?顔が真っ青だよ…?」
勇者「…いや、大丈夫だよ。すまない。緊張しているのかもしれないな。…すぐに準備しよう」
勇者「………」
勇者「(近頃、嘘を吐いてばかりだ…)」
勇者「(……私は…私は…何を、やっているんだ…)」
盗賊「おい、クソガキ。そっちを押さえていてくれねーか」
魔法使い「…あっ、うん。わかった」
~夜~
僧侶「…すー……すー…」
勇者「…良かった…安定したようだな、…寝息が穏やかになっている」
勇者「…ごめんな、僧侶。どうして、こう…周りを見ないのか、私は。…君達と共に戦いたいのに……気が乱れてばかりだ…」キュッ
勇者「…僧侶の手も、顔も……綺麗に治っている。良かった…本当に、良かった。……ごめんな…」
勇者「………」スッ
・・・
勇者「(…外に出たが…魔竜殿も眠っているな)」
勇者「……私は…私は、何を守りたいんだ…?」
勇者「…自分の事ばかりじゃないか。……魔法使いも、僧侶も、…大事なものを傷つけてばかりじゃないか。……もっとも守りたいものを、守れていない……」
盗賊「………何を一人でブツブツ呟いてんだ、怖ェぞ」
勇者「……盗賊!…なんだ…その、……君とは、よく夜中に出くわすな…」
盗賊「そうか?ま、互いに夜行性なんじゃねーの。……ところでよ、クソアマの調子はどうだ」
勇者「大丈夫、落ち着いたよ。すやすやと眠っていた。傷も残っていない。……魔法使いは、もう寝たのか?」
盗賊「……そっか。…あー、傷の手当てさせろってうるさかったぜ、なんとか寝かしつけたわ」
勇者「…君の顔についた傷は…残ってしまったな。すまない、英雄の剣に気を取られていて、君達に気づけなかった…本当に、すまない」
盗賊「もういいっつーの。…どうしてこう、うちの女共はグズグズしつけーんだか。テメーは考えすぎなんだよ、真面目なのも大概にしろよな、ウザってェ」
盗賊「なんでもかんでも、ぐるぐる考え込んでちゃあ、そりゃ周りも見えなくなるわ。そうじゃなく、突っ走りすぎて見えないって方が、テメーらしいと思うぜ?イノシシ女」
勇者「…相変わらず口が悪いな……だが、以前…魔法使いにも似たような事を言われたよ…ふふ」
盗賊「ふん。……ま、いいんだよ、この傷は。残しておいた方が…戒めっつーか、さ」
勇者「…戒め?」
盗賊「なんでもねー。……まー、傷のひとつふたつ、ついていた方がハクがつくだろうし?けど、クソアマに見つかったら騒ぎそうだから、誤魔化す理由考えねーとな…」
勇者「………僧侶を……守れなかったから、…その…戒め?」グッ
盗賊「…さぁな、どうだか」
盗賊「つーかよ、丁度良かったわ。お前が起きていて。……ちょっくら、剣の稽古っつーの?それ、やらせてくれや」
勇者「………え?」
盗賊「お前、スゲー強いじゃねーか。手解きを受けたいんだよ、…これから魔王を倒しに行くんだろ?少しでも経験値積んどくかと思ってな」
勇者「……君らしくない言葉だな。そんな真面目な事を言うなんて」
盗賊「うるせーんだよバカ。…これから死地に向かうんだぜ?嫌々ながら。…死なない為にもってやつだ」
勇者「………」
勇者「……いいだろう。だが、聖騎士の王国とは違い、真剣しかないぞ。それでいいのか」スラッ
盗賊「構わねー。…魔王は剣を使ってくるようだからな、模擬戦としちゃ丁度いいだろ」ジャキッ
勇者「………いくぞ!!」ダッ
キィン! キンッ!! ガキッ!!
盗賊「おりゃぁッ!!」
勇者「(足払い!?…よし、避けた)」
勇者「(盗賊の武器は短剣……素早い彼なら、懐に潜り込まれたら終いだ…急所を突かれる)」キン! ガキン!!
勇者「(剣を絡め取られても終い、転ばされても終い。リーチの狭さを、早さと体術でよく補っている)」バッ
勇者「(……強くなっているじゃないか)」
勇者「(…対して、私は………雑念ばかり)」
盗賊「――― !」ズアッ
ガキィィン!!
盗賊「ぐ……ッ」ギリギリ
盗賊「(剣同士が噛み合って……力比べじゃ、こっちの体力が削られるだけだ。流すっきゃねェ…体勢が崩れたところを狙わねーと…)」
勇者「………」ギリギリ
勇者「…盗賊……君は、…僧侶の事が好きなのか?」
盗賊「………っ、はあぁ!?」
勇者「隙ありッ!!」ガキィッ
盗賊「!!!」バッ!
勇者「…ふふ。後ろに飛んで逃げたか。相変わらず、すごい反射神経だな」
盗賊「てめっ……いきなり何を!それでも勇者サマかよ!?」
勇者「動揺は命取りじゃないか?とくに君のスタイルでは。素早く仕留める、そう、暗殺術…というのか。自らを殺し、気配を殺し、そして標的を殺し、…盗む。命を狩り盗る。それが君の特性。…なのに、動揺してはいけないよ」
盗賊「………」
勇者「…私は、…気づかされた。迷ってばかりで、雑念に捕らわれて、周りを見ていなかった…」
勇者「迷いを捨てたい。雑念を捨てたい。勇気を持って、道を切り開き、みんなを希望の明日へ連れていく。…それが、私の使命!」グッ
盗賊「!! ちょっ…その構えは!」
勇者「たああああぁぁぁッッッ!!!」ドガガガガッッ!!
―― …… …
勇者「…ふー……、…おや。聖騎士の王国と違って、本気の本気で放ったのに…避けられてしまったな」
盗賊「……ッ、危ねぇ…!!」
勇者「私の奥義が避けられるくらい素早いなら…きっと、君は大丈夫だよ」
勇者「………」
勇者「…盗賊………」
勇者「私は、君が好きだよ」
盗賊「………は?」
勇者「………」ニコッ
勇者「粗野で乱暴な君だが、私は君が好きだ。大好きだ。初めてだ、こんな気持ちになったのは…」
勇者「滅びの里から…いや、きっと、出会った頃から惹かれていたのかな?もしも、すんなりと合流できていたら……そんな事すら、考えてしまうくらい。私は、…醜い。汚い」
盗賊「………」
勇者「…そして、盗賊と同じくらい、僧侶が好きだ。魔法使いが好きだ!」
盗賊「…勇者」
勇者「今まで出会った人達も、これから出会う人達も、みんなみんな、大好きだ!みんな、同じくらい大好きだ!」
勇者「私はみんなを守りたい。もう迷いは捨てる。みんなを守るために、魔王を倒す!!その為に、私は旅に出たんだ。魔法使いを守りたい、僧侶を守りたい、盗賊を守りたい…みんなを守りたい!」
勇者「………盗賊…君は?君は……私の事が、好き…か?」
盗賊「………」
勇者「………」
盗賊「………」
盗賊「………テメーは…どうして、そう真っ直ぐぶつかってくんだか…恥ずかしい奴。俺に言わせる気か?そんな事」
勇者「ああ」
盗賊「ふざけんな」
盗賊「………」
盗賊「………俺も、まあ、その…テメーの事は気に入ってるよ。じゃなきゃ、こんな面倒臭ぇ旅。とっとと逃げてるわ」
勇者「………」
盗賊「テメーも、クソガキも。出会った奴全員気に入ってる。……あー…ったく、恥ずかしいな……」
盗賊「………」
盗賊「だが、俺ぁテメーみたいにゃ出来ない。博愛なんざ馬鹿馬鹿しい、反吐が出るぜ。俺は俺がやりたいと思う事をやるんだ、自由によ。やりたい事をやる、欲しいもんを取る、自由に」
盗賊「俺がやりたい事は……クソアマ、…僧侶を守る事だ。生涯かけて」
勇者「………」
盗賊「後ろ向きのウジウジ女のくせに、ビビりながらも頑張って前を向こうとするアイツを、見ていてやりたい」
盗賊「ふらふらして、すぐ転ぶアイツを助けてやりたい。どっか行っちまわねーよう、走って追いかけられるよう、力をつけたい。傷つかないよう、守ってやりたい」
盗賊「神託とか過去とか関係なく、…俺が守りたいのはアイツだけだ。アイツが笑って過ごせる未来を作りたいだけだ」
勇者「………うん」
勇者「…耳まで真っ赤だな」
盗賊「うるせえな!!そういう事を言うなよ、バカ!!ここは普通、気づかないフリするだろ!?」
勇者「そうだったのか?それは知らなかったな」
盗賊「こっの……クソイノシシ女!!」
勇者「ああー、すっきりしたなあ。思い切り体を動かしたら、モヤモヤを吐き出したら、なんだか気分が良くなった。ありがとう、盗賊」
盗賊「俺はサンドバッグか何かかよ……」
勇者「さあ。もう寝よう?気合いを入れ直さねば。全ての決着をつけるためにも」
盗賊「……おい。テメーの寝るテントはそっちじゃねーだろ。そっちにゃクソガキが…」
勇者「私のテントはこっちだよ?私は魔法使いと寝るんだ。君は僧侶といなさい」
盗賊「なに、いらねェ気を回してんだ!?ふざけんな!!テメーがクソアマと寝ろよ!!」
勇者「気など回していない。…なんだ?何を意識しているんだ?」ニヤニヤ
盗賊「ぶっ飛ばすぞテメー!!」
盗賊「くそ………アイツの顔、見辛いんだっつーの…ちくしょう……」パサ
僧侶「…盗賊さん」
盗賊「!!! おまっ…寝てたんじゃねーのかよ!?」
僧侶「………んふふ~」ニッコリ
バシィッ!!
僧侶「殴って欲しそうでしたから」
盗賊「………おう」ヒリヒリ
バチィン!!
盗賊「往復!!?」
僧侶「勇者様の分です」
盗賊「……おぉ…」ズキズキ
僧侶「私へのものは、勇者様から頂きますね」
盗賊「はい」
僧侶「………あれ?盗賊さん、そういえば…顔の傷、どうしたんですか?私のビンタのじゃないですよね、これ!?まさか、赤の宝玉の時の…!?あわわわ…!」
盗賊「…気づくの遅ェー、このバカ…」
勇者「………」パサ
魔法使い「………」
勇者「あ。すまない、騒がしくして、起こしてしまったかな。さあ、寝よう。体力が回復しないよ」
魔法使い「…勇者様」
勇者「………」
勇者「………はは…」ポロポロ
魔法使い「………!」
勇者「私って、バカだな。突っ走りすぎて、周りを見てなくて」
勇者「君の前だと、泣けてしまうのにね。なんで忘れていたんだろ」
魔法使い「………」
魔法使い「勇者様は、汚くなんかないよ。とっても綺麗だと思う。真っ白で、純粋で、透明で。どんな色にも染まれるの。それが、僕はとても綺麗だなって思うよ」
勇者「……うっ…う……」
魔法使い「………」
魔法使い「(…苦しい。でも、勇者様は……もっと、苦しい)」
魔法使い「(賢者さん、僕、逃げちゃいたいよ……辛いよ。…でも……頑張らなきゃ…ダメだよね。逃げずに、傍にいなきゃ…)」
~翌朝~
勇者「………」ザッ
魔法使い「ゆ、勇者様…」ハラハラ
魔竜「………」ハラハラ
勇者「おはよう、2人共!」
盗賊「お…おう。…はよーさん」
僧侶「おはようございます、勇者様!」
魔法使い「………」ホッ
魔竜「………」ホッ
魔法使い「……なんで魔竜さんが溜息吐くの。…起きてたんだ?…ちょっと。口笛吹いて誤魔化そうとしても、魔竜さんがやると超音波にしかならないからね?」
僧侶「では、勇者様っ」
勇者「ああ!」バシィッ!!
勇者「僧侶も!!」
僧侶「はいっ!勇者様!!」バチィン!!
魔法使い・盗賊・魔竜「!!!??」
僧侶「…痛ったぁ~……勇者様、力強すぎです…」
勇者「何を…僧侶だって、勢いよくて、首を捻るかと思ったぞ」
僧侶「……ふふふっ」
勇者「あはははっ!」
魔法使い「…た、楽しそうだけど……大丈夫なんだよね?変な仲直り…なのかな」
盗賊「……女って、怖ェよな…」
魔竜「ワシらにはわからぬ世界よの…」
勇者「よし!気合いも入った、行くぞ!!大聖堂の街へ!!」
魔竜「では、またワシのブレスで送ってやろう」
盗賊「寿命縮むからいいっつーの、歩いて下山すっから…」
僧侶「何を言ってるんですか~、送ってもらいましょうよ。もう何も怖くなんかないです、ねっ勇者様!」
勇者「ああ。時間短縮にもなるしな。まったく、情けない男だ」
魔法使い「さっぱり吹っ切れすぎでしょ、2人共…!逞しいなあ…」
盗賊「……もう、好きにしてくれ」
~大聖堂の街~
魔法使い「…帰ってきたね」
僧侶「ここに、魔王の居場所が……ど、どこにあるんでしょうかねえ…?」
勇者「英雄の剣が導くと聞いたな……鞘から抜いてみよう」スラッ
―― ズバッ!!
魔法使い「わ!?街の入口に……宙に、亀裂が!?」
盗賊「どんどん裂けていくぞ。…これが、次元を斬ったってやつか…?」
僧侶「中は…真っ暗ですね…星みたいなのが光っているけど、夜空って感じでもない……深くて、暗くて…果てしない……」
盗賊「……中に、入るか」
魔法使い「…うん!!」
勇者「行こう……魔王の元へ」
・・・
僧侶「…私達が入ったら、次元の口が閉じていく…」
魔法使い「これって、歩いているのかな?落ちているのかな?よくわかんない…上下左右ちゃんと正しいのかな?」
盗賊「おい、向こうに何かあるぞ」
勇者「……?なんだ?あれは…遠くて、よく見えないな。魔王なのか……」
僧侶「い、行ってみましょう…」ゴクリ
魔法使い「地面じゃないよ、空なのかもわからない、…ちゃんと近づけているのかなあ…?」
・・・
勇者「………!!?」
僧侶「ひっ……!」
盗賊「な…んだ、こりゃあ……バカでかい獣が…剣で串刺しに…!?」
魔法使い「う…うっ、……うわあああ…!!」
僧侶「酷い…酷い……!!こんな、酷いよっ…!おなかも、口も、顔も……体中裂かれて…なんで、こんな……」
魔獣「………ガ……グ………」
勇者「こ…こんな状態で……生きている…!!?」
?「ね。しぶといよね。ふふっ、まあ生きていてもらわなきゃ、困るんだけどさ」
盗賊「…?今、何か言ったか?クソガキ」
魔法使い「え……?ううん、なんにも言ってないよ…?」
勇者「しぶとい、と言ったじゃないか。なんて事を言うんだ、魔法使い…」
魔法使い「だから!そんな事も言ってないったら!!」
?「うん。僕が言ったんだよ?…善悪の境目は、初めて来たばかりだと動きにくいよねー。こっちだよ、こっち!」
僧侶「………!!?」
盗賊「な……、はあ…っ?だ……誰だ、テメー…」
僧侶「ま……魔法使いくんが………もう一人…?」
?「いらっしゃい、みんな。会いたかったよー!君達の冒険はずっと見てたからね、なんだか僕も一緒に旅をしていたみたいで、楽しかったなー」
勇者「魔法使い…魔法使いの姿だ…どうして!?幻術か!?」
魔法使い「じ、自分の姿が目の前にいるって…なんか、嫌だ…!」
?「同じ姿なのは、仕方ないんだよ。だって、君の力を奪っていったのは、僕なんだから」
?「少しずつ奪っていくのも面倒になってきて、魔精に呪いの加速を頼んだりもしたなー。そのお陰で、ここまで成長できたの!すごいでしょう?」
勇者「…呪いを……、…なら、お、お前…が…」
盗賊「……魔王…!?」
魔王「そうだよー。初めまして、そして、久しぶり。ふふ、よく来てくれたね!いらっしゃい!」
僧侶「…久しぶり……?」
魔王「…ここにいて、ちょっと退屈していたからなー。いいよ、みんなでお喋りしよっか!」
魔王「うん。僕と君達は、初めましてで、久しぶりなんだ。今現在は初めましてなんだけど……ずっとずっと、ずうっと昔、僕達は対決した事があったんだ。だから久しぶり、なんだよ」
僧侶「………私達の……過去……」
盗賊「………」
魔王「えっと。名前はなんだったっけ?…そうそう。僧侶さんは、魔導師の生まれ変わり」
僧侶「…や、やめて。魔法使いくんの姿で、声で……呼ばないで」
魔王「それからお兄さんは、聖騎士の生まれ変わり」
盗賊「………!」
魔王「そして、…魔法使いは、元勇者……彼の生まれ変わりだ」
魔法使い「!!?」
魔王「元勇者は、みんなと旅をしていた…僕を倒す為に、魔導師と聖騎士とシスターと、みんなで旅をしていた」
魔王「そして、僕のところまでやってきたけど…僕はね、元勇者を飲み込む事が出来ていたんだよ。僕の気持ちの方が、元勇者よりも強かったみたい。汚くて醜いこの世界を消してしまおう?って気持ちがさ」
魔王「…こんな世界、もういらない。消しちゃっていい、って。リセットして、世界の全てを消しちゃおう!!って気持ちがさあ!?」
僧侶「…こんな世界……、それ、その言葉、って…!?」
―――
魔導師『何故、勇者がそんな事を願ったかわからない。でも、取り引きの時に、勇者はこう言ったよ』
魔導師『こんな世界、いらない』
―――
魔王「こんな世界、いらない」
魔王「…こんな汚い世界、捨てちゃえばいいんだよ」
魔王「…そう。かつて、英雄だなんて持て囃された元勇者は、僕に負けた。僕の方が強かったんだ、僕の意識に飲まれちゃってさ。ふふふっ、元勇者に破滅を選択させてやった!」
魔王「僕自身、驚いたよー。僕をここまで追い詰めた元勇者に勝てたなんてね」
魔王「……元勇者の力はすごかったなあ。あいつの力を得て、僕はギリギリだったけど、生還できた」
魔王「その後、なんとか英雄達の魂を宝玉へ閉じ込める事はできたけど……元勇者はしぶとかった。自分の弱さに気づいて、挫折から立ち上がってさ」
魔王「僕から無理矢理逃げたから、ズレが生じて、他の仲間より遅く転生したみたいだけどね」
勇者「な……」
魔王「どういう事だろうね?一度僕に負けたくせに。まだ諦めてなかったなんて」
魔王「起きたらびっくりしたよー。飲み込んだ筈の元勇者がいないんだもん。仕方ないから、僕の力の結晶、黒の宝玉を媒体にして呪いをかけ、生命力を奪わせてもらったよ」
魔王「魔法使いが死んだら、その体に入って完全回復、準備完了。さあ世界を消そう、なんて考えてたんだけどなー」
魔王「魔精がいらない事ばかりするから。滅びの里を復活させたいとか、妖精長に見せてあげたいとか…そんな事を言ってたから、同情してやったのに。すっかり騙されちゃったよ」
魔王「……思えばアイツも僕の事を倒したかったのかな?人間も、僕も倒したかったのかな」
魔王「…ふふっ。でも、どうでもいいや。見ていて面白かったし!」
魔法使い「……なんで…なんで、スターさんを…魔精さんを、殺したの!?なんで!どうして!!」
魔王「なんでって。言ったじゃん、アイツはいらない事ばかりするからだよ。面白いなら構わないけど、ムカつく事を喋ろうとしたから」
盗賊「……シスターの事か?…俺が聖騎士、クソアマが魔導師、クソガキは元勇者……なら、…シスターって奴は」
魔王「それ以上言ったら怒るよ?」
勇者「………」
魔王「お前がシスターなわけないじゃん」
魔王「シスターは、こいつに殺されたんだ。…食べられちゃったんだよ。捕まえるだけで良かったのに、頭悪いんだからなー」ドズッ
魔獣「グガアァァ…!!」
僧侶「ひッ!!開いたままの、おなかを…剣で、刺した…!」
魔王「見たんだ。シスターが食べられちゃうところ。肉がぐちゃぐちゃいって、骨がバキバキ鳴って、零れた目玉もペロリって掬われて!」
魔王「僕、起きてからずっと探してたんだ。でも、どこにもないんだ。シスターがいないんだ。こいつの腹にいる筈なのに、いないんだよ」
魔王「シスターは、美しく清らかで…何よりも、癒しと再生の力に特化していた。それがさ、ひとつでも欠けたら、汚れたらダメなんだよ」
魔王「蘇生魔法で生き返してもダメなんだ。供物にならない。……あんなにぐちゃぐちゃになっちゃなー。ひとつも欠けちゃいけないのに。本当にもう、魔獣のバカめ」
魔王「力は白の宝玉に閉じ込めた…でも、それだけじゃ足りない。魔竜が持ち出したから、仕置きで串刺しにしたけど」
魔王「あいつもいらない事沢山するんだよなあ、元勇者達に味方したりさー。あいつの大事なもの…力の源を奪ったのは僕だって、忘れてんのかな?ふふっ」
魔王「シスターはもうどこにもいない。お前みたいな醜い奴が、シスターの生まれ変わりなわけないんだ」スラッ
ズバッ!! ―― ドサ
勇者「―― !!?? …うあああ… あ、あ あーッッ!!!」
魔法使い「うわああああああっ!?ゆ…勇者様ーっ!!」
盗賊「剣で、勇者の片腕を落としやがった…!!」
勇者「ああああ……あ…、……うああああーっ!!」
僧侶「勇者様!勇者様ぁっ!!………!?ど…、どういう、事…っ!?」
魔法使い「斬られた腕から…血がほとんど出ていない!?」
魔王「だから言ったでしょ。お前はシスターなんかじゃないって。魔獣が食べちゃったんだから」
魔王「……僕を倒す力を持った英雄達…君達を導く為に、足りない部分を補う為に、どうしたらいいんだろう?」
魔王「神様は考えました。そして、神様は創ったのです。…人形を」
勇者「――― !!」
魔王「やーい、偽者!人形!!お前は不完全な偽者だ、シスターじゃない、人間でもない!神の力が詰まる、僕を苛立たせる醜い人形なんだよ!」
魔王「ねえねえ、楽しかった?ただの人形のくせに、人間みたいに生きられてさ。楽しかった?…あはははは!!」
魔法使い「…やめろ……やめろよ…勇者様をいじめるな!!」
勇者「……っ、………っ」ガクガク
僧侶「勇者様…勇者様っ、しっかりしてください…勇者様…!!」
盗賊「胸糞悪ィ奴め…人間だ、人形だ、過去がどうのこうの関係ねーよ……コイツはコイツなんだからよ!!」
魔王「…っていうかさー、僕、そろそろ飽きてきちゃった。イライラする、気分転換しない?」
魔王「違う遊びをしようよ。そうだなあ…こういうのは、どう?」サラサラ…
魔法使い「な……何…?どこから?あいつの手元に、灰が集まっていく…」
魔精「………」ズズズ…
魔法使い「…ス……スターさん!!」
魔将「…聖騎士ィィ……!」ズズズ…
盗賊「な…!!あ、あいつは……封印の塔で襲ってきた、全身鎧野郎!!?」
僧侶「そんな!倒したのに……なんで!?どうして!?」
魔王「こんな事なら魔竜も殺しておけば良かったなー、ここに呼べたのに。まあ、いっか!」
魔王「…おい、魔獣。お前が行け。傷を回復してやるからさ、僧侶さんを食べちゃえ。好物なんでしょ?見境なくなるくらい。聖女の、生娘の肉が」パアアァッ
魔獣「…グゥルルル……!」
僧侶「ひ……、や、いや、……こ、来ないで!!いやああっ!…ううう、あ……」ドカッ!! ガチン!!
魔獣「ガウウウゥ!!」ギリギリ
魔王「あっははは!メイスを咬ませて防いだみたいだけど、いつまで耐えられるかなあ?」
盗賊「クソアマぁっ!!」
魔将「聖騎士ィィィ!!貴様の相手は、この我よ!あの女に邪魔はさせぬ、三度貴様を殺そうぞ!!フハハハハハ!!」ズドウッ
盗賊「!! こっの…どけよ!鎧野郎が!!クソアマが…クソアマが食われる…!!」
魔法使い「僧侶さん!お兄さん!!…あうっ!」ガシッ
魔王「邪魔しないでよ、いいところなんだからさー」
魔法使い「あ……ぁ、…う……ち…力が……吸い取られる…」シュウウウウ
魔精「………」スッ
勇者「………っ……、……」ガクガク
魔法使い「スター…さん、……勇者様に、何するの…!」
魔王「期待はしない方がいいよ?もう余計な事をしないように、ちょっと弄ったんだからさ。あいつはスーパースターじゃない、…僕の配下、魔精だよ」
魔精「……私は………」
魔精「戦いが苦手でね」ヒタリ
勇者「………」
魔精「代わりに、幻惑や魅了魔法が得意なんだ。そう、精神に影響を及ぼす魔法が、ね。……肉体は傷つけない、だが………心は破壊できるんだよ」フワアァァ
勇者「……っ、………あ…?」
勇者「……ああああああ!!!いやああああ、ああああああ!!!やめて!やめて!!いやああああー!!」
魔法使い「勇者様!!」
魔精「心を、精神を、記憶を…鷲掴みにされるのは気分が悪いだろう?退けたいだろう?でも、掴めないねえ……払い除けられないねえ、フフ…こんなに苦しいのに」
魔精「どんな悪夢を見ているのかね?フフ、子供の頃の優しい記憶?魔法使いと過ごした日々?僧侶との友情?それとも……大切に、大切にしたい、初恋の思い出かな?」
魔精「崩れていくだろう?砕けていくだろう?汚れていくだろう?目を逸らしても、振り払っても、奥へ奥へと入り込んでいく……逃げられないよ、精神とは、心とは、君の中にあるのだからねえ……フフフフ、ハーッハッハッハー!!!」
魔王「あはははは!!いい気味だ!壊しちゃえ、全部!全部だよ、いらないんだよ、こんな汚い世界なんかいらないんだからさあ!あはははは!あっはははははは!!」
僧侶「うう……っ、う…」ギリギリ
魔法使い「僧侶さん…」
盗賊「ぐああッ!…畜生……畜生ぉぉっ!!」ドズッ! ザシュッ
魔法使い「お兄さん…」
勇者「いやあああ…やめて、やめて……やめてえぇ……いやだあああ…!!」ガクガク
魔法使い「……勇者様…っ!!」
魔法使い「…やめろ……」
魔王「あっははは……、…ん?」
魔法使い「やめろよ!みんなをいじめるな!!」
魔法使い「勝手な事を言って、なんでみんなを巻き込むんだよ!!汚いとかなんとか、お前がそう思っているだけだろ!?」
魔法使い「お前は!お前だけは、絶対に倒す!!諦めるもんか、何度負けたって諦めない、倒してやる!」
魔王「…あのさあ。僕だって、最初は世界を作り変えようと思ってたんだよ。消すんじゃなく、破壊からの再生。その為にも供物としてシスターが必要だったけど…食べられちゃったしね?」
魔王「でも、起きてから一度は考え直したんだよー?やっぱり再生にしようかなって。だから今までシスターを探してたけど、結局見つからないし」
魔王「もう疲れた。面倒臭くなっちゃって。再生なんかもういいや、やっぱり消しちゃえば済む事だ。ね、そうだろ?その方が断然楽じゃん!」ググッ
魔法使い「うああ…あっ…!!」
魔法使い「ぼ……僕は…」
魔法使い「僕は……お前なんかに、負けない…もう、絶対に、負けない!!!」ボッ!!
魔王「!! 熱っ……火球魔法か…」
魔法使い「はあっ、はあ……、………僕は、お前とは違う…」
魔法使い「眠くっても、遊びたくても、我慢して…たくさん勉強した…勇者様を守りたかったから!勇者様が大好きだから、傍にいたくて、たくさん頑張った!嫌な事があっても、逃げなかった!!」
魔法使い「僕は弱っちいお前なんかとは違うんだ!!今度こそ、負けない!僕は強くなった、もう、負けない!勇者様を、みんなを守るんだ!」
魔王「…僕が弱い?笑わせるなよ。元勇者は剣の使い手だったけど、その力はもう僕のもの。一度僕が元勇者を飲み込んだから、その影響か、お前は魔法の才能を持って生まれたみたいだけど…」
魔法使い「違う!!…僕は、お父さんとお母さんの子供だ!!お前の影響なんかない!!」
魔法使い「お父さんがくれた魔法の才能なんだ!お母さんがくれた体と心なんだあっ!!」ゴオオオッッ
魔王「……極炎魔法!?」
ドゴゴゴォッ!!
魔法使い「僕達は、お前なんかに負けない!」
魔法使い「……ねえっ、そうでしょう!?僧侶さん!」
僧侶「………っ」
魔法使い「僧侶さんならできるよ!いつも頑張っていたじゃない、ずっと見てた!僕、見てたよ!?怖くても一生懸命、挑戦して、乗り越えたじゃんか!!僧侶さんなら、できるよ!」
僧侶「……そう…そうだ……、…そうだった。……できる…私なら、できる…私なら、できるんだ!!」
僧侶「…神様……どうか、私に力を!この試練を乗り越える事のできる、力をお与えください!!」
僧侶「―― 聖風魔法!!」ゴアッ!!
魔獣「ガッ!?グオオアアア!!」ブオワァッ
僧侶「はあッ、はあ、はあ……!わ…私に近づかないで!!風が貴方を吹き飛ばしちゃうんだから!」
魔法使い「…お兄さんを対象に、攻撃倍加魔法!!」パアアアッ
盗賊「クソガキ…!?」
魔法使い「お兄さん!早く、そんな奴倒しちゃって!お兄さんは強いんだから!!お兄さんは僕のライバルなんだ、そんな奴に負けない、そうでしょう!?」
魔将「聖騎士ィィィィィ!!」ズバババ
盗賊「…っらあ!!」ガキィン
魔将「―― 我の槍を弾いた…!?短剣で!?」
ヒュオッ
魔将「な…ッ!速……!!!いつのまに、背後に!」
盗賊「何度も訂正すんのは、もううんざりだからよ。その枯れて萎んだスカスカ脳味噌に刻んでやるぜ」
盗賊「……俺は聖騎士じゃねーよ、盗賊だ!!いい加減覚えやがれ!!」ドスッッ!!!
魔獣「ゴアアアアッ」ドウン!!
僧侶「火の玉なんか吐いたって、効きません!近づかないで!!…聖壁魔法!!」バキィン
盗賊「クソアマ!退いていろ!!―― だああぁっ!!」ザシュ!!
魔獣「ギャイィィンンン!!!」
魔将「ぬぐっ!!ぬうぅっ……き、貴様らぁぁぁぁ!!!」
魔獣「グアアアオオオオ!!!」
魔法使い「僕達は今を生きているんだ!!明日に向かって歩いているんだ!!何度転んだって、負けたって、立ち上がって、やり直す!!」
魔法使い「明日を信じて生きているんだ!怖くっても、絶望しても、僕達ならできるって信じている!!」
魔法使い「すぐに諦めちゃって、周りに八つ当たりしかできない、お前なんかに、僕達が負けるかぁーっ!!!」
魔王「…うるさい……うるさい!うるさい!!うるさい!!!」
魔王「もう、面倒臭いなあ!!消えろよ!!僕の前から消えろ!!」
魔王「みんなみんな、大嫌いだ!!こんな世界なんか大嫌いだ!!汚い!ずるい!!卑怯だ!!消せばいい!汚いものしか残らない…こんな世界なんか、消えてしまえーっ!!」ゴッ!!
魔法使い「…絶望の力で、仲間の回復を…!?」
盗賊「来るぞ!……僧侶!!」
僧侶「はい!防御倍加魔法!!」パアアアッ
魔将「おおおおおおッッ!!」ズドドドド
盗賊「…っ…!!…スゲー槍の突きだな?まるで豪雨のようだわ、……だが、悪ィな。全部避けちまった。俺の反射神経をナメんなよ」
魔将「速い!かすったとて、あの小娘の魔法が壁となっておるのか…小癪なぁっ!!」
盗賊「テメーの弱点は口の中だろ?いいのかよ、負け惜しみ吐いてちゃ丸見えになるぜ!!」ガシィッ
魔将「ぐっ!!我と体術で張り合う気か!?」グググ
盗賊「…テメーには言っておきたい事がもうひとつあったなー…そうなると、テメーに会えて良かったと思うわ」パアッ…
魔将「……?青い光…き、貴様は!貴様は!!」
盗賊「…テメーは、俺の女を泣かしやがった!!」
聖騎士『彼女を傷つける奴は、誰であろうと許さん!!』
魔将「…盗賊…貴様……!おおおお聖騎士ィィィィ!!」ドガアアアッッ!! ドズ!!
魔獣「グオオアアア!!」
魔法使い「こっちに来る!僧侶さん、下がってて!僕の魔法で……」
僧侶「…ううん。私は大丈夫だよ。魔法使いくんは、早く勇者様を助けにいってあげて!」
魔法使い「で、でも……」
僧侶「大丈夫!私ならできる、あいつを倒せるから!!」パア…
魔法使い「……赤い光が…?わ、わかった」タタッ
魔導師『…集中しな、破壊は創造主の意思に背く力。生命を産み出す祈りの力と反発しあい、膨れ上がっていく』
僧侶「魔導師さんの破壊の力、私の祈りの力、相反するものを無理矢理混ぜ込めば……」
魔導師『耐えきれなくなったそれは、爆発する!!』
僧侶「―― 極大爆発魔法!!!」カッ!!
魔獣「グオッ……ゴガアアアアァァァ!!」
ドグアアァァァンン!!!
僧侶「……ふう、…こ、こ、怖かったあぁっ……魔獣も、この魔法も…!」
魔精「………」フワアァァ
勇者「ひっ、ひ、ひっ」ガクガク
魔精「…最後の一欠片は、なかなか強固だな。それは何だ?私に見せてみろ。ほら……」
勇者「…いや……いやだ、いやだ、…もう、いやだ……あああぁっ…」
魔法使い「―― 勇者様!!」ダッ
魔精「!!!」
魔法使い「勇者様!負けないで!!勇者様は強いんだ、僕、知っているよ!だって、ずっと見てた…貴方とずっと一緒にいたんだから!」
勇者「………」
魔法使い「勇者様!僕の事を見て!僕、頑張るから!勇者様と一緒にいたいから、頑張る!だから勇者様も頑張ってよ、一緒に行こうよ!!」
魔法使い「背中を追いかけるんじゃない……勇者様の隣に立って、歩きたい!勇者様の手を引いて、先に進みたい!」
魔法使い「勇者様を守りたい…僕がいるよ、みんなもいる、勇者様、大丈夫だよ。貴方は一人じゃない!!そうでしょう!?ねえ、見てみてよ!!」
勇者「………」
勇者「…魔法……使い………?」
魔精「なんだと…!?砕いた筈の心が…甦った……!?」
魔法使い「勇者様!立ち止まっちゃダメだ!!突っ走るのが勇者様なんだから、あとの事は僕達に任せてよ!勇者様は道を切り開いて!立ち止まっちゃダメ!!走って!勇者様!!」
勇者「………みんな…。……みんなが…いる」
勇者「…わたし……私は………私は、負けない!!」バキィン!!
魔精「ぐぅっ!?……魔法が弾かれた…!」
勇者「私の色は、お前になど染められぬもの!!私の色はみんなの色だ!!お前に汚されて堪るか!!」グッ!!
魔精「その構えは…貴様の奥義!!」
勇者「片腕だからとて侮るな!足りぬものはみんなが補ってくれる!!私が走れるのは、みんながいるからなんだーッ!!」ドガガガガガァァッッ!!
魔精「ぎゃあああああああああーっっ!!」バシュウウ
魔王「………」
魔法使い「…あとは、君だけだよ」
盗賊「いつまで高見の見物気取りだ?かかってくんなら、さっさと来やがれ」
僧侶「もう、これ以上酷い事をしないで…お願い……!!」
勇者「貴様の蛮行、終わらせてみせる…!」
魔王「………」
魔王「バッカじゃないの。熱くなっちゃってさあ、くだらない」
魔王「どいつもこいつも弱いんだからなー、僕にやらせんなよ…めんどくさーい」スッ
勇者「……黒の宝玉…!!」
魔王「この黒の宝玉は、全てを飲み込むよ。元勇者だって、これに飲み込んでやったんだ。僕の力が詰まった結晶だ。…これでお前達も、世界も!全部を飲み込んでやる!」
魔王「みんなみんな!!消えちゃえ!!こんな汚い世界なんかいらない!!僕の前から消えろー!!」カッ!!
僧侶「きゃあああっ!?」
盗賊「ぐ…くっ、な、なんだ…これっ……」
勇者「引き摺り込まれる…飲み込まれる!!絶望の力か……!」
ゴゴゴゴゴ
魔王「みんなみんな、大嫌いだ!!」
魔王「汚いんだよ!うるさいんだよ!!ごちゃごちゃとさあ!!」
魔王「なんで僕ばっかり!なんで!どうして!!なんで僕が責められなきゃいけないんだ!!」
魔王「戦争を起こして、殺し合いをさせて、奪って汚して潰して、憎み合う!!そんななのに、僕を倒すだって!?僕が悪者だって!?なんでだよ!!何が正しいんだ、何が間違っているんだ、何が、何が!!」
魔王「わからない!わからない!!……何が正しいのか…何が間違っているのか……そんなの、誰にも決められないだろ!?」
魔王「逃げ出して楽になりたい、もう汚いものを見たくない、考えるのは疲れた……」
魔王「……もう面倒臭いんだよ!だから消してしまえばいい!人間も、神も妖精も魔族も!みんな消えろよ、何も無くなればいいんだ、消えろ!消えちゃえ!!消えてしまええぇー!!」
―― ドガァァン!!
魔法使い「…あ…諦めるもんか…!」ガガガガガッ!!
魔王「!!? 飲み込めない…?僕の力を攻撃魔法で押さえた!?お前が!?僕より弱い、お前が!?」ガガガガガ!!!
魔法使い「弱いのはお前の方だ!!…もう、二度と…飲まれはしない…諦めるもんか、お前なんかに、もう二度と負けるもんか!!!」カッ!!
元勇者『…何が正しいか正しくないか、それは誰にもわからない。魂の数だけ、正否は存在するんだ』
元勇者『だが、その中でも、はっきりした事はひとつある』
魔王「…元勇者…!お前!!」
元勇者『挫折しようと、絶望を味わおうと……諦め、投げ出し、先に進まぬ事、それが俺にとっての悪だ!!』
元勇者『一度は飲まれこそすれ、俺は諦めん!再び立ち上がり、犯した過ちを償う!!魔王、俺達は、お前を倒す!!』
魔法使い「勇者様!お兄さん!僧侶さん!みんな、負けないで!!僕達の力で、魔王を倒すんだ!!」バキィィン!!
盗賊「―― ッ!!?……クソガキ…」
僧侶「魔王の力を、弾いたの…?」
勇者「私達は…私達は、負けない!明日に希望を託す為にも、ここで立ち止まるわけには、いかない!!」
魔王「…うざったいなああ!!しつこいんだよ!!早く消えろよ、僕の前から消えろおおお!!!」ゴウッ!!
元勇者『……勇者!俺の剣を手に取れ!!』
魔導師『あたし達が、魔王を押さえつけている隙に!!』
聖騎士『君達全員の力で、奴を倒すんだ!!』
―― カッ!!
魔王「………ッッ!!?う…動けない…?なんで、お前らなんかに…シスターの欠けたお前らが、何故…!!」ギシッ ギシ
シスター『…いいえ。私はここにいる。みんなと共にいるわ!!』
魔王「!!! な…なんで……なんで?どうして!あんなに探したのに!あんなに呼びかけても、いなかったのに…どうして、お前がここに!!」
シスター『貴方は私達が止める…私達は、もう負けない!!』
盗賊「もがいて足掻いて、それでも俺達は、明日に希望を託す、未来を作る!!」
僧侶「転んだって立ち止まったって、どんなに怖くたって、勇気を出して前に進む!!」
魔法使い「失敗したら、やり直す!償う!!そうやって探していくんだ、正しいと思える事を!!」
勇者「諦め、投げ出す貴様などに、私達は負けない!!」
魔王「ちくしょう……お前らなんかに…お前らなんかに、この僕があああ!!!」
魔法使い「みんなの力を合わせて…勇者様!!魔王を斬り倒して!! ―― 聖雷光魔法!!!」カッ!!
盗賊「行けぇっ!!勇者!俺達がお前を支える!!」
僧侶「終わらせてください!この戦いを…貴方の剣で!!」
勇者「みんなの力を剣に乗せた、魔法剣を喰らえ!魔王!!覚悟ーッ!!!」
魔王「うわああああああああーーーッッッ!!!」
―― ズガガアアアアァァァッッ!!!
魔王「うあああああ!!…体が…体が、消える……力が消える、…僕が消える…!?そんな!そんなああ!!」
魔王「僕が消したいのは、この世界なんだ…こんな世界、いらないのに……汚い、醜い、嫌な世界なんか……消してしまえばいいんだああああ…!!」
元勇者『今だ!魔王を封じ込める好機!!みんな、もう一度力を、呼吸を合わせろ!!俺に続けーッッ!!!』
魔導師・聖騎士・シスター『おおおおおおッ!!!』
―― ビカァァァッッ!!
勇者「……ッ…、…あ…?」
盗賊「魔王も…元勇者達も、消えた…?」
―― カツンッ
僧侶「あ…か、代わりに…不思議な色の宝玉が、落ちていますよ…?」
魔法使い「これ…何色だろう?でも、きらきら光ってて、すごく綺麗だ…」
?「…その宝玉は英雄達、そして魔王…全員が救われた証。光の宝玉だ」バサァッ
勇者「……!あ、貴方は!?」
魔法使い「魔竜さん…?でも、すごく綺麗…光の宝玉と同じ、きらきら光ってる……」
聖竜(魔竜)「魔王が倒された事で、封印が解け、奪われていた力の源もワシに返ったでの……魔竜から、本来の姿に戻る事ができたよ。礼を言うぞ…ワシの名は、聖竜。神の遣い、聖竜だ…」
僧侶「か…神様の遣い、ですか!!?」
盗賊「だからあんなに万能だったってわけか。…勇者が言っていた、純粋で綺麗っつーのも……」
聖竜「…うむ。さあ、戦いは終わった。ワシはお前達を迎えに来たのだ。帰ろうぞ、元の世界へ。ワシの背中に乗るといい」
勇者「あ…、……英雄の剣が、砕けてしまったから…」
聖竜「そう。お前達の力に耐えられなかったようだの。フフ、本当によくやった。過去を乗り越え、魔王を倒し…強くなったのう、お前達」
バキィン!! ―― バサアアッ!!
盗賊「うおおっ!?すげぇ……次元を突き破って、あっという間に空へ…!」
勇者「ああ……空だ!真っ青な空が、眩しい太陽が…帰って来れたんだな!私達!!」
聖竜「光の宝玉は、神界に持っていこう。そこで魔王を休ませ、癒す……奴も苦しみ抜いた結果、ああも歪んでしまったのだ…癒してやらねば」
聖竜「…勇者よ。お前も本当によくやった。神はお前に褒美を与えると仰っておったぞ」
聖竜「お前が望めば、神の人形から、普通の人間になれる。魔王に落とされた腕も治してな。…または、神界に帰るという選択もあるが……」
勇者「……ありがとうございます、神様、そして聖竜殿。そのお言葉、有り難く頂戴すると共に……甘えさせてもらいます」
勇者「………」
勇者「私は……人形じゃなく、人間でありたい。大好きな人達と共に生きたい。どうか私を、人間にしてください」
魔法使い「……勇者様!!」
勇者「なんだ?そんな顔をして。私が神界に帰るとでも思ったか?」
勇者「…ありがとう、魔法使い。私達を助けてくれて。君がいなかったら、どうなっていたか…」
勇者「君はいつも私に力をくれるね。私を励まして、奮い起たせてくれる。君が傍にいてくれて、本当に…良かった。…ありがとう」ニコッ
魔法使い「………!!」
盗賊「…頑張った甲斐あって、良かったなあ?クソガキ」
僧侶「本当に!魔法使いくんのおかげだね、一生懸命頑張っている魔法使いくんからは、いつも勇気をもらえるもの」
魔法使い「う……うん!うんっ!!僕…僕、頑張った!みんなを守りたいから…たくさん、たくさん…頑張ったよ…!!」
魔法使い「ありがとう……ありがとう、みんな!……やったあー!!魔王を倒したんだ、僕達は世界を救ったんだー!!」バッ
勇者「あっ、コラ!急に立ち上がるな、危ないぞ!?…まったく、もう…」クスクス
聖竜「勇者よ、お前の願いを叶えよう。…人間になれば、今まで持っていた力は失われるぞ。まさに神がかり的な強さの全てをな」
勇者「構いません。また修行をすればいい事ですから!」
盗賊「…相変わらず、クソ真面目なイノシシ女だなー。もう平和になったっつーに、修行かよ…」
僧侶「ふふ。でも、それが勇者様ですからっ」
魔法使い「僕も!僕も一緒に修行するからね!勇者様!」
聖竜「では、一度みんなを神界に連れて行く!そこで勇者を人間へと治すでの。それからの行き先は決まっておるか?」
盗賊「んなの、全部の国に決まってんだろ!各国から魔王討伐の褒賞金を貰うんだよ!」
僧侶「もお~…盗賊さんったら…」
魔法使い「でも、みんなに会いたいのは僕も同じ!お願い、聖竜さん。各国へ連れてって!」
勇者「…ああ、楽しみだなあ。明日はどんな事があるんだろう!私達なら、なんだってできる!希望に溢れた明日に行けるんだ!!」
~神界~
僧侶「………!!す、す……すごい…すごいなんて言葉じゃ表せないくらい、すごい……」
魔法使い「ここが…神様の住んでいる世界なんだ。エルフの村よりも、もっとずっと、美しいものに溢れている…ああ、いるだけで、救われる気持ちになるよ……」
盗賊「…天国ってのも、こんな感じなのかね。神様かー……俺が神様とやらの近くに来れるたぁな…」
勇者「聖竜殿…神様は、どちらに…いらっしゃるのでしょうか」
聖竜「神はここだけでなく、いつもお前達の傍におるよ。…お前達の目で、その御姿を見る事はできん。姿形にとらわれぬ、唯一無二。それが神」
聖竜「故に、ワシや神職者という代行が存在するのだ。勇者よ……神はお前の功績を称え、お前の体を癒してくださる。神の代行人形から、人へと生まれ変わるのだ」
聖竜「そして、お前なりの正義を、幸福を模索し、歩むがいい。人生という短く長い旅に出るがいい」フワアアァァ
魔法使い「…聖竜さんのブレスが…勇者様の体を包んでいく」
勇者「…ああ……魔王に落とされた腕も、戻って…」フワアアア
盗賊「それ以外、特別変わった感じはねーよな…?」
勇者「いいや、わかる。人間になったのだと……上手く言えないが、何かが足りなくなった感じがする。…しかし、ブレスを受ける前よりも、とてもとても、満ち足りたものを感じる!」
僧侶「勇者様は勇者様です!それだけは変わりませんよ、勇者様は……私達の勇者様ですっ」
聖竜「勇者よ、そして仲間達よ。此度の働き、見事であった。皆を救ってくれた事に、感謝を捧げよう」
聖竜「お前達の過去…英雄達も、挫折から立ち直れた。お前達のおかげで救われたのだ。彼らもまた、この神界にて休ませよう…彼らの戦いは終わったのだ」
聖竜「過去を乗り越え、己を守り抜いたお前達の力、神は称えるであろう」
魔導師『本当にありがとう。…あんたがこんなに強かったなんて、びっくりしたよ。あんたなら、もう大丈夫だね』
僧侶「いいえ…魔導師さんが沢山の事を教えてくれたからです。お疲れさまでした…ゆっくり休んでくださいね」
聖騎士『自由を得た君なら、安心してこの先も任せられる。よろしく頼んだぞ』
盗賊「へいへい。ま、適当にやらせて頂きますよ。気の向くままにな」
元勇者『君は俺よりも強い。皆を導く事のできるその力と勇気。挫けぬ心を、これからも忘れないで。頑張れよ』ナデナデ
魔法使い「…もー、子供扱いしないでよ……近いうち、その身長だって追い越しちゃうからね!!」
パアアッ…
勇者「………!」
シスター『…本当にありがとう、みんなを助けてくれて。私も、呪縛を解く事ができた。神の下へと行く事ができるのは、全て貴方達のおかげだわ』
シスター『ありがとう、勇者達。本当に……ありがとう…』
元勇者『俺達は神の下へと帰る。…光の宝玉と共に』
元勇者『そして、再び魔王が目覚めるのを待つよ。大丈夫…次に目覚めた時は、彼と友人になれるだろう。必ずね』
元勇者『穢れを清め、癒された魔王は救われる。彼が償いを終えて来るのを、俺達はここで待っているよ』
元勇者『ありがとう。もう一人の俺達。本当に、ありがとう…』
―― パアアアァァ…
勇者「…消えた……」
僧侶「…皆様、本当に…お疲れさまでした…」
聖竜「……さあ、地上へ。お前達の帰る場所へと送ってやろう」
勇者「……あ。いえ、その前に。どうかもうひとつ、叶えて頂きたい願いがあるのです」
盗賊「………それって、もしかして」
僧侶「…勇者様っ!」
魔法使い「僕も…僕達も、是非!お願いしたいよ、……我儘かも、エゴかもしれないけど…」
聖竜「エゴかどうかは…確かめればわかる事だしの。その願い、言ってみろ、勇者よ…」
戦いは、終わった。
魔王討伐を果たした勇者達は、各国を回り、世界に平穏が訪れた事を伝えていった。
人々は喜び、また、反省し、明日に希望を託していく。
―― そして、魔王討伐から、数年の月日が流れた…
・・・
・・
・
~大聖堂の街~
盗賊「……はいよ。注文の品、巫女の冠だ」
衛兵「ありがとう。これで山間の村の祭りが盛り上がるよ。たまには君達も遊びに来てくれ、いつでも歓迎するからな?」
スライム「ピキー!」ヒョコ
盗賊「よお、お前もいたのか、温泉スライム。元気そうじゃねーか」
衛兵「この子も君達に会いたがっていたしな。…この子も、私も安心して村の外に出られるのは、全て君達のおかげだ。本当にありがとう」
盗賊「もういいっつーの、その話は。ま、近いうち遊びに行くから。飯を沢山用意しておけよ。あの山の幸料理は最高だ」
衛兵「はは、わかったよ。必ずな。では、私はこれで。行くぞ、スライム」
スライム「ピッキピー!」
賢者「…商売繁盛で何よりだねー。魔王討伐の褒賞金を元手に、その手先器用さを生かして、装飾品の店を出すとは。天職ってやつじゃない?」バサッ
盗賊「なんだ、起きていたのかよ。新聞被って静かにしてっから、寝ていたのかと思ったぜ。起きてんなら銀磨きを手伝え、注文はまだまだ山のようにあんだからな」
賢者「やーだよー。自分の事は自分でやりなさいね。オッサンは疲れてんだからさー」
盗賊「だからって俺の店を休憩所に使うな。このクソオヤジは……悟りの書が見つからないからって、ならテメーで作ってやるとか奮起していたと思えば、こうダラダラと…」
賢者「だっから休憩だってば、休憩~。休んだらまた頑張るしー?」
聖竜「か、か、匿ってくれええっ!!」バサバサッ
盗賊「うおっ!?聖竜じゃねーか!どうした…またそんな肩乗りサイズに変化しやがって。お前もちょくちょくこっちに降りてくんなァ、それでも神の遣いか?有り難みの無い」
賢者「匿って、って何事よ。……まさか…」
ドカアアァァン!!
聖竜「ひいいい!!き、来たああっ!!」
研究者「ごほっ!ごほ……移動魔法は、まだまだ研究の余地があるな…移動する度に爆発しては敵わん」ガラガラ
研究者「逃げるな、聖竜。俺が張った罠の菓子を食っただろう。代わりに、お前を調べさせろよ。ちょっと鱗を貰うだけだ、数枚でいいんだ!!」
聖竜「嫌だ嫌だ!!解剖される~っ!!菓子を食ったのは謝る!!だからこっちに来るなあー!!」バサバサ
賢者「あっはは、聖竜も何度だって騙されるんだからなー。いい加減学習しなさいよ」
盗賊「どうでもいいけどよ、店先を破壊すんのだけは止めてくれ」
聖竜「どうでもいいとは何事か!わああ、やめろ!!虫取網を振り回すな、ワシは神の遣い、聖竜ぞ!!?この罰当たり者がーっ!」
研究者「だからこそ調べたいんだ!おとなしくしろ!!逃げるな!痛くはしない、多分!」ブンブン
盗賊「ったく騒がしいな…あー、やめやめ。今日はもう店仕舞いだ」
賢者「そうだねぇ、ここまでみんな揃ってんだしさ。いっちょパアッとやりますか」
盗賊「酒は無しだからな?アイツに無理させるわけにゃいかねーしよ」
賢者「わかってるって。…やー、しかしお嬢ちゃんのおなかも随分大きくなったよねえ」
賢者「……悟りに一番近いのは兄ちゃんだと思ってたが、やる時はやるんだからなあ」ボソッ
盗賊「なんか言ったか?」ギロリ
賢者「いいえー、何も」
魔法使い「―― お兄さーん!貿易大国への配達、終わったよ!次はどこ?」タタッ
盗賊「おう、お疲れ。次は……あー、いいや。帰ってからにしよう、今日はもう店仕舞いだからな。飯食って休むぜ」
魔法使い「そっかー。どこだって行くからね、僕達に任せて……あ、賢者さんだ!来てたんだ、久し振りーっ!」パシン
賢者「よう、魔法使いくん。久し振りーのハイタッチ!」パシン
賢者「しっかし相変わらず人使いの荒い兄ちゃんなんだからなー、魔法使いくんと勇者ちゃんにお使いさせるなんて」
盗賊「人聞き悪い事言うんじゃねー、こいつらがやりたいって言うから俺はだな…」
魔法使い「うん!各国を回って、いい修行にもなるしね。お兄さんの品物配達は、その序でに?」
盗賊「序でにって。生意気言いやがって、このクソガキが」
魔法使い「あははっ。さ、帰ろう帰ろう!勇者はもう先に行っているんだ、僧侶さんの顔が見たいからってさ。片付け、僕も手伝うから」
賢者「おー。働け働け、若者達よ!早くオッサンに飯を食わせておくれ~」
盗賊「テメーもやるんだよ!タカり魔が!!」
盗賊「(……にしても…"勇者"か。いつからだったか、呼び捨てになったの)」
盗賊「……、一丁前になりやがってなあ」グシャグシャナデ
魔法使い「わ…何?何?いきなり人の頭撫でて…子供扱いはやめてよー!」
~盗賊達の家~
勇者「本当に大きくなったなあ。この中にひとつの生命がいるとは…なんとも神秘的だ」ナデナデ
僧侶「うふふ。勇者様ったら、私達よりもべったりなんだから。…もうすぐ産まれるんですよ」
勇者「とても楽しみだよ!早く会いたいなあ、すごく可愛いだろうなあ……名前はもう決まったのか?」
僧侶「いいえ、まだなんです。盗賊さんが考え込んじゃってて。私達がこの子に贈る事のできる、初めてのものだからー、って」
勇者「そうかぁ…どんな名前かも楽しみだな。すくすくと大きく育つんだぞ!君の両親はとても強い人達だ、負けないようにな!」ナデナデ
僧侶「……このおなかだけじゃなく…大きくなったものは、ありますよね?」
勇者「…うん。本当に、早いものだ。前は私の肩よりも下だったのに…今は軽く見上げる程身長が伸びて」
勇者「いつか置いていかれそうで、なんとなく怖くなる時もあるよ」
僧侶「大丈夫ですよ、勇者様。私達は、みんな貴方の傍にいます。私達は…仲間なんですから」
僧侶「でも、貴方の隣に立てるのは、」
バタンッ
魔法使い「ただいまあー!あー、おなかぺこぺこ!!お兄さん、早くご飯作ってよ!」
盗賊「誰だ、俺の事を人使い荒いなんつったのは。こいつの方がよっぽどじゃねーか」
賢者「はいはい、さっさと作る!オッサンの飯は、あっさりめで頼むねー。そろそろ油ものがキツいからさー」
勇者「…なんだなんだ、急に騒がしくなったな。まったく。僧侶のおなかに響いたらどうするんだ」
僧侶「いいんですよ、勇者様!賑やかな方が楽しいですもん」
魔法使い「勇者、こっちにおいでよ。次の配達先の行き方を調べよう、まだ行ったことのない場所なんだから」
勇者「ああ」タタッ
勇者「………」
勇者「………ふふっ」
魔法使い「? どうかした?勇者」
勇者「いいや。なんでもないよ、魔法使い。…ちょっと嬉しくなっただけだ」
勇者「(そう、私にはみんながいる。みんな、傍にいる)」
勇者「(でも、私の"隣"にいつも居てくれたのは……)」
勇者「…魔法使い。君だったんだよね」
魔法使い「うん??何?何の話?」
勇者「そのうち教えてあげるよ。……ゆっくりと、育てていきたいから」
勇者「だから…これからも傍にいて。私の手を離さないで、魔法使い」
魔法使い「よくわからないけど……大丈夫だよ、勇者。僕は君の傍にいる。ずっとだよ?」
魔法使い「小さな頃からそうだったでしょう。そして、これからも。小さな頃から、君が好きだった」
魔法使い「そしてこれからもずうっと、君の事が好きだよ!勇者!」
勇者「…ありがとう、魔法使い。君となら、私はどこだって行ける。君が私に勇気をくれるのだから!」
・・・
妖精「…ね?信じていて良かったでしょう。見てちょうだい。世界はこんなにも、美しい」
妖精「これから先も、ずっと、ずっと……守っていきましょう、私達ならできるわ」
スーパースター「…ああ!この美しい私がいるのだからな、美しく照らす私がいれば、世界はこんなにも輝けるのだ!ハーッハッハッハー!!」
妖精「調子がいいんだから、まったく。ちょっと、踊ってばかりいないで、貴方も手伝ってよね」
妖精「彼らの未来が明るいものであるように。妖精の加護を贈るんだから」
スーパースター「任せたまえ!美しい私が美しく華麗に手伝おうじゃないか!!」
妖精「はいはい。よろしく頼むわね、…救世主さん」プークスクス
スーパースター「救世主の部分で笑わないでくれたまえよ!美しい私の美しい硝子ハートに傷が!!ほら見て、涙目だろう!?なあ、待って!私を見てくれえぇー!!」
【おわり】
ベタベタでコテコテものを書こうと思いました。おかしな点があったらすみません。
読んでくださった方、本当にありがとうございました。
484 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2013/05/27 02:39:39 wfCgb4c6 371/373たしかにベタベタでコテコテだな
だがそれがいい
滅びの里連中はどうなった?
皆様ありがとうございます!
フォーチュンクエストのような雰囲気に憧れるけど、難しいものですね。
>>484
大魔王や次世代勇者が出る頃には、わだかまりも解けて力になってくれるとか、そんなベタベタ。
読んで頂きありがとうございました!
前作共々、まとめても頂いたようで、それもありがとうございました。
思いついたのもあり、スレもあまってますし、外伝()を書いてみましたので、投下します。短いものです。
生意気な事を言って申し訳なくもありますが、この外伝()部分はまとめへの転載不可でお願いします。
外伝につきましては、上記の通り転載不可となっておりますので、
元スレにてお楽しみ下さい。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1368286581/494-