【前編】の続き

217 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/20 20:50:56 QQzhF/8c 171/373

~氷の洞窟近辺~

僧侶「はあぁ……合流前の旅が嘘のようですう…ここまで、すんなりと来れるなんて…魔物が出ても、皆さん強いからサクサク進行できます…」ジーン

魔法使い「そんなに大変だったんだ…」

僧侶「私が戦闘に出ると、いっぱい時間が、かかっちゃったし。賢者さんが仲間に入ってくれるまで、本当に大変だったんだよ~。一匹の魔物に対して、半日かかったりして…」

魔法使い「えー、そんなにー!?僧侶さん、可哀想。お疲れ様!でももう大丈夫だね、勇者様も盗賊のお兄さんも強いから!僕だって、僧侶さんを守ってあげるからね!」

僧侶「ううっ!ありがとう~魔法使いくんー!!」

盗賊「おいテメーら、呑気にお喋りしてんじゃねーぞ。本丸に着いたんだからよ」

勇者「地図によると、この辺りなんだが…それらしき入口が見当たらないな。洞窟の中なのか?」

218 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/20 20:51:44 QQzhF/8c 172/373

盗賊「この洞窟には入った事がある。くまなく…とは言えないが、探索した限りじゃあ、宝物庫入口なんて見当たらなかったな」

勇者「しかし、周囲を見渡しても、目につくものはない…やはり怪しいのは、この洞窟くらいだぞ」

盗賊「そうさな…前は、この中にあった落とし穴の先に、目当てのものがあったし…それみてェに、隠し通路があったのかもしれねー」

勇者「よし…中に入ろう。魔法使い、僧侶、聞こえたか?今からこの洞窟に入る……」

―― ピカッ!!

僧侶「きゃあ!?」

勇者「な、なんだ…!?」

魔法使い「勇者様が洞窟の壁に触れたら、その手が光ったよ!?」

ゴゴゴゴゴ…

盗賊「……!?なんだ、こりゃ…幻か?洞窟の入口に重なるように…扉が現れたぞ!!」

勇者「……貿易大国の姫から受け継いだ鍵…それが反応したのか」

219 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/20 20:52:30 QQzhF/8c 173/373

僧侶「わ…私でも、わかるくらい……強い魔力反応を感じます…この入口、こうやって、魔法で隠していたんですねえ…」

魔法使い「これなら、鍵を持っている人がいないと、どうやったって見つけられないもんね。すごいなあ…昔の魔法かあ……」

盗賊「…ただの引戸って感じなのに、びくともしねェ。おい、勇者。お前が鍵とやらを持ってんだろ?開けてみろよ」グッグッ

勇者「どれ。……ん、あっさり開くじゃないか。これも鍵の力か?鍵を持つ者にしか、扉は開かれないわけか…」ゴガララ…

魔法使い「だから砂漠の国は、貿易大国のお姫様……鍵を欲しがったのかあ…場所がわかっていても、現れず開かずじゃどうしようもないもんね」

盗賊「…中は…結構奥まで続いてんな。何かの気配も伝わる。テメーら、気をつけて進めよ」

僧侶「うう…薄暗いから、ちょっと怖いです……」

220 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/20 20:53:18 QQzhF/8c 174/373

~王家の遺跡・宝物庫~

幻獣「ガアアァァ!!」

勇者「せやあ!!」ザンッ

幻獣「グオオオ…!」シュウゥッ

勇者「消えた……確かに手応えはあったのに。魔物とは違うな、…宝を守る番犬、といったところか…」

僧侶「でも、でも、受けた傷はそのままです…勇者様、回復しますから、腕を出してください」

勇者「いや、これくらい。どうって事ないよ」

盗賊「……小さい傷でも、侮ると致命傷に化ける事もあんだ。回復できる時にしておけ」

勇者「…そうかな?…じゃあ、お願いするよ。僧侶」

僧侶「はい、任せてください!…回復魔法!」パアッ

魔法使い「ねえ、お兄さん。この先、道が2つに分かれているんだけど…どうしよう?」

盗賊「侵入者を迷わせる為に、わざとグチャグチャに通路を作っているって感じだな…とりあえず右に進んでみっか。壁に印をつけておいて…違ったら、ここに戻ってこよう」

221 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/20 20:54:09 QQzhF/8c 175/373

魔法使い「…なんか、先がまったく見えないんだけど……間違っていたのかな?この道…」テクテク

勇者「番犬も絶えず襲ってくる、どこかで休まないと、消耗するばかりだな」

盗賊「……仕方ねー、あの曲がり角辺りで一旦休憩を取るか…壁に印、と……」

僧侶「…!?あ、あれえ?盗賊さん、もう壁に印が、ついてますよう!?」

盗賊「な!?…確かに、こりゃあ俺がつけた印だぞ…どういうこった、真っ直ぐ歩いていたのに。封印の塔みてェに、幻惑魔法でもかかっているのか…?」

勇者「……一度引き返そう、あの分かれ道まで戻るんだ。今度は左側の通路を進んでみよう」

タタタタタ…

魔法使い「戻ってきたけど……左側も、さっきと似たような作りだよね。だ、大丈夫かなあ?」

盗賊「行ってみねーとわからんな。ちょっと偵察してくる、お前らはここで休んでいろ」

魔法使い「一人じゃ危ないよ!僕も一緒に行く!」

222 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/20 20:55:07 QQzhF/8c 176/373

盗賊「俺一人でいいっつーの。足手まといだ、いいから休んでいろよ、チビスケ」

魔法使い「また番犬が出たらどうするのさ?一人じゃ倒しきれないでしょう、魔法でサポートするから!僕も行くよ」

盗賊「チッ、仕方ねーな……怪我すんなよ?しても捨てていくぞ」

勇者「2人だけで大丈夫なのか?全員で進んだ方が…」

盗賊「偵察だ、先が見えるんなら、ここに戻ってくっからよ。勇者サマはそのクソアマのお守りでもしていろや。じゃあ行ってくるぜ」

僧侶「気をつけてくださいね、盗賊さん、魔法使いくん!危なくなったら、無理せずに、戻ってきてください…!」


勇者「……なんというか、口の悪い男だな、彼は。クソアマって…君の事だろう?」

僧侶「…はっ!呼ばれるのに、慣れちゃってました…!は、早く正さないと…あわわ…」

勇者「…クソアマにチビスケ……私は、勇者サマ、か…なんだか一線引かれている感じがするなあ…」

223 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/20 20:55:56 QQzhF/8c 177/373

盗賊「おりゃっ!」ザクッ

幻獣「ゴガアァァッ!!」

魔法使い「お兄さん、危ない!…火球魔法!!」ゴウッ!

幻獣「ギャアアア~!!」ジュオッ

盗賊「…すまねーな、助かったぜ」

魔法使い「えっへへー。やっぱり僕がついてきて良かったでしょう?……でも、そろそろヤバいけどね…魔法を使いすぎて、疲れてきちゃった……」

盗賊「そういや、いいものを持っていたな、俺。……ほら、魔力を回復させる聖水だ。飲んでおけ」ゴソゴソ

魔法使い「え、すごーい!ありがとう!…わー、本物だ、実物は初めて見たよ!どこで手に入れたの?」

盗賊「氷の洞窟の宝箱に入っていたんだ。使う機会を逃したから、いずれ売ろうと思っていたが、そうしなくて良かったぜ」

魔法使い「んぐ……、ぷはっ。…うん、力が湧いてくる感じ……これなら、また魔法が使えるよー」ゴクゴク

盗賊「そいつは良かったな。俺が楽になる。……曲がり角に来たぞ、ここで印をつけて…」

224 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/20 20:56:41 QQzhF/8c 178/373

僧侶「…あれ?おかえりなさい、2人共。早かったですね?」

盗賊「!?」

魔法使い「え?…ええっ?なんで?なんでここに戻るの?こっちも一本道だったのに!」

勇者「……やはり、幻惑魔法がかかっているのか?」

盗賊「そうなのかもしれねーな…となると、厄介だぞ。どこかに仕掛けがあるんだろうが…それを見つけない限り、先に進めねー」

僧侶「封印の塔でも、聖騎士の城に入る時も…青の宝玉が光って、幻惑を解いてくれましたが……ま、また、光らないですかねえ…?」

盗賊「……今回は反応がねェな。テメーらで片付けろって事か…あー、疲れた!!俺も休む!!」

勇者「困ったな。仕掛けといっても、それらしいものは無かったぞ?魔法の事にはあまり詳しくないから、わからない」

魔法使い「媒体がどこかにあるんだろうけどねー…部屋とかもなかったし、ずっと通路が伸びていただけだもん…」

225 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/20 20:57:30 QQzhF/8c 179/373

盗賊「くそっ、腹立つなあ。おい、クソアマ。お前のメイスを貸せ」

僧侶「え?な、何をするんですか?」

盗賊「ストレス発散だ!」ブンッ!!

僧侶「ちょっとー!!?ななな、なんで投げるんですかー!!投げるなら、その辺の小石とかでいいじゃないですかあ!!」

盗賊「がっ!?」ゴンッ!!

僧侶「きゃあ!?と、盗賊さん!?」

魔法使い「え、え、なんで?前に投げたメイスが、後ろから飛んできて、お兄さんの頭に当たったよ?」

勇者「………」ポイッ

カツン!

魔法使い「あ!勇者様の投げた小石も…!」

勇者「……もしかしたら…壁か、床に仕掛けがあるのか…?」

勇者「…注意深く調べてみると、成程確かに。他の床と色が違う床板があるな。これを避けていけば、先に進めるかもしれない」

僧侶「色の違う床板…い、いっぱいありますねえ……踏まないように、って…ジグザグに歩いていかないと…」

226 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/20 20:58:20 QQzhF/8c 180/373

盗賊「……曲がり角のところなんか、ワープ床が一列みっちり並んでやがる。気づかない中で、これを踏まずに歩くのは無理ってもんだな」

魔法使い「せー、のっ!!」ピョンッ

魔法使い「……やったあ!戻らずに先に進めたよ!?」スタッ

勇者「…っ、と。こういう仕掛けだったのか…疲れて動けなくなる前に、気づけて良かったな」スタッ

僧侶「はう!!…痛たたた…」ベチャッ!

盗賊「何やってんだ、相変わらず鈍臭ぇ女だな…ほら、寝てないでさっさと起きろ」グイ

僧侶「はうぅ……す、すみません…鼻ぶつけたあ…」

勇者「角を曲がった先、は……なんだ、随分広い部屋だな…番犬もいないし、何もないのがまた不気味な…」

盗賊「!? 危ねぇ!後ろに下がれッ!!」

ジャキン!!

勇者「ッッ!!?……次の罠は、床から飛び出す鉄針か…!」

229 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/21 00:16:23 sBLem/.c 181/373

魔法使い「あああ……危なっ!!串刺しになっちゃうじゃんか!…だから番犬がいないんだね、このフロアには…」

盗賊「針の無い床もあるな…一度飛び出したら、引っ込むまで時間がかかるようだ。慎重に進めば、どうって事ねー」

盗賊「おい、クソアマ。ちょっと突っ走って鉄針全部出して来いよ。俺達が進みやすくなる」

僧侶「慎重、どこいったんですか!盗賊さんが行ってくださいよう!」

勇者「喧嘩はやめないか、まったく。…剣先で床を叩きながら進もう、みんな、私の後に続いてくれ。横に外れないよう、気をつけて」

ジャキン! ジャキン!!

魔法使い「うわ!…もー、この飛び出す勢い、何度見ても冷や汗かいちゃうよ……」

僧侶「番犬がいなくて、本当に良かったですねえ…こ、こんな緊張する中で、攻撃されたら……考えるだけで、寿命が縮みます…」

勇者「………よし、端についた……次のフロアへ入るぞ」

230 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 00:17:15 sBLem/.c 182/373

僧侶「こ…ここにも、番犬はいません、ね……でも、また無駄に広い…絶対何かありますよ~」

魔法使い「えいっ」ポイッ

バチバチバチ!!

魔法使い「うひゃああ…投げた小石が、電撃みたいなのに弾かれていくよ…」

盗賊「ダメージ床か……痛!痛ってぇ!!…歩けなくはねーが、体力はかなり消耗しそうだ」バチィッ!!

勇者「……ダメージ床の先に、スイッチレバーのようなものが見える。あれを倒せば、電撃を切れるのでは?」

僧侶「でも、でも、か、かなり、遠いですよ…?あそこまで行くのは、ちょっと無理ですぅ…」

盗賊「何か他に手はないか考えっか…こっちにもあのレバーが無いか探してみるとか」

勇者「やああああ!!!」ダダダダ!!

盗賊「!!?!?」

僧侶「ちょっ!?勇者様あー!?」

魔法使い「勇者様ー!?ダメージ床を無理矢理走っていったー!?」

231 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 00:18:01 sBLem/.c 183/373

勇者「うぐぐ……!!ま、負けるものかああ!!」バチバチバチ!!

盗賊「何やってんだ、バカァァ!!」

勇者「はあっ!!はあ!はあ……、よ、よし……ダメージ床を、突破した…あとは、レバーを…倒す……」ガシャンッ

シュウウウゥゥ…

魔法使い「あ…床の色が変わった……!」

僧侶「勇者様!!勇者様ぁっ!!大丈夫ですか!?すぐに回復しますから!!」パアアッ

勇者「痛たたた……あ、ありがとう、僧侶。…はあ、癒される……君の回復魔法を当てにしていたから、こうやってできたんだよ。ありがとう」

盗賊「こ……こ………」ワナワナ

勇者「…ん?」

盗賊「この、バカ!!テメーはイノシシか何かか!?バカッタレ!!危ねーだろうが!何を勝手に突っ走ってやがんだ!!イノシシ女!!」ゴンッ!!

勇者「痛あっ!!?イ、イノシシ女…!?」

魔法使い「ゆ、勇者様にゲンコツ落とした人なんて、初めて見た…」

232 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 00:18:56 sBLem/.c 184/373

勇者「し、しかし!!さっき君も言っていたじゃないか、僧侶に。突っ走っていけ、って……だから私は…」

盗賊「何を真顔でほざいてやがんだ!?あんなの冗談に決まってんだろうが!!バカか!お前はバカか!!無鉄砲バカか!!」ゴン! ゴン!!

勇者「痛い!!痛あ!?」

盗賊「勇気と無謀はまったく違ぇんだよ、覚えとけ!このバカイノシシ女!!…ああっ!たくよう、俺を焦らせやがって!クソが!!」

僧侶「ゆ、勇者様の前では、冗談は言えなくなりましたね……へへ、私は助かります、けど!」

勇者「ううう……無謀じゃないのに…僧侶~、頭をぶたれた痛みも回復してくれ…」グスッ

僧侶「は、はい!…回復魔法!……あ、あれ?」

勇者「………何も起きないぞ?痛いままなんだが…」

僧侶「す、すみません!わ、私、落ちこぼれで……時々、回復魔法を失敗しちゃうんですうぅ…!」

勇者「そんなあぁ~!!」

233 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 00:20:01 sBLem/.c 185/373

盗賊「クソアマ!!そいつを甘やかすんじゃねえっ!!仕置きにならねーだろうが、バカ!」

魔法使い「僕もお兄さんと同意見ー。勇者様、今のはすっごく危なかったよ!もうあんな事はしないでよね!怒られて当然だと思うなー」

勇者「ま、魔法使い!君まで!!……ううっ、頑張ったのに…」

僧侶「よしよし、勇者様、よしよし」ナデナデ

魔法使い「…あははっ!こんな勇者様の姿も初めて見たなあ。なんだかお兄さんってより、お父さんみたい。これからお父さんって呼んでいい?」

盗賊「ふざけんな!!俺はこんなでかいガキを持った覚えはねぇッ!お前も殴るぞ、チビスケ!」

魔法使い「チビスケじゃないよ、魔法使いだってばー!!やめてくんなきゃ街中でお父さんって呼ぶよ?」

盗賊「じゃあクソガキだ、テメーは!俺を脅してんじゃねーよ!…ったく、さっさと次に行くぞ!バカ共が!!」

234 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 00:21:07 sBLem/.c 186/373

魔法使い「次は、と……うわあっ!?が、崖!?道が途切れているよ…向こうに部屋の入口が見えるのに!」

盗賊「おい、イノシs……勇者。今度は勝手に動くんじゃねーぞ。この距離、ジャンプで届くようなもんじゃないからな」

勇者「今、イノシシって言いかけたな。……もうぶたれたくないし、やらないよ」ムスッ

僧侶「よしよし、勇者様!……でも、どうしましょう…この先に進めないのは、困りますね…」

盗賊「あれだけ罠続きだったんだ、どうせここも何か仕掛けがあるんだろうよ」

魔法使い「……あ…見えないだけで、床がちゃんとあるよ?ほら!」コンコン

僧侶「ひいいぃ…!こ、今度は、見えない床ですかあ…!!こんな高さの上を歩くだなんて~!こ、怖いですう!!」

勇者「道を踏み外したりしたら大変だ…摺り足で、ゆっくり進もう。見えないのが問題なだけで、ダメージなどはないようだしな」

235 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 00:21:56 sBLem/.c 187/373

幻獣A「ギャッギャッギャ!!」

幻獣B「ギェー!ギェェー!!」

僧侶「きゃー!!きゃああー!!おっお化けみたいな、鳥があ~!やめて、つつかないでー!!落ちちゃうー!!」

盗賊「クソアマッ!!…っこの、鳥野郎!あっちに行きやがれ!!」バッ

勇者「せいっ!!」ザン!

魔法使い「閃熱魔法!!」バシュッ!!

幻獣C「ギャアー!ギャー!!」

勇者「飛ばれているのと、この不安定な足場……攻撃を当て辛いな!みんな、目を突かれないように気をつけて!!」

盗賊「痛っ!!痛ェッ!!目だけじゃねー、どこを突かれても痛ェっての!鬱陶しいんだよ、チキショー!!」

僧侶「ごめ、ごめんなさい、盗賊さん…!私を庇って怪我を…!」

魔法使い「焼き鳥になっちゃえー!!火炎魔法!!」ゴオオォッ

勇者「は、早く……早く、向こう岸に着かないと…穴だらけにされてしまう…!」

236 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 00:22:41 sBLem/.c 188/373

ダンッ!!

勇者「つ、着いた…!みんな!!早くこっちへ!扉を閉めるから、早く中に!!」

盗賊「このクソ鳥が!しつけェんだよ!!」

僧侶「きゃああああ!!いやー!もう、来ないでー!!」

魔法使い「追いかけてくんなよ~っ!もう一回!火炎魔法!!」ゴオオウッ!!

幻獣D「ギャッギャッギャアア!!」

―― ゴゴン…ン!

勇者「…はあっ、はあ、はあ……な、なんとか、間に合ったか…」

魔法使い「ふへえ~……もうクタクタだあ…焦ったあ…」

僧侶「み、皆さん、今すぐ、回復しますからね……」

盗賊「待て、クソアマ。その前にテメーの手当てが先だ。結構突かれていたろ、傷を見せてみろ」

僧侶「え、えっ?わ、私は大丈夫ですよう……後ででいいです、から…先に皆さんの回復を……」

盗賊「いいから見せてみろ!バカ!口答えすんじゃねえ!」

僧侶「ああう……」

237 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 00:23:28 sBLem/.c 189/373

勇者「むう……なんだかんだ言って、彼は僧侶には甘いよな?なんだか不公平な気がする」ムスー

魔法使い「……え、なに?勇者様…もしかして、拗ねてるの?さっきぶたれたのを気にしてるの?…へえ~?」

勇者「拗ねてなんかないっ。僧侶、手当ては私がしてあげる!よしよしもつけるから、こっちにおいで!」

僧侶「えっ?は、は、はい!?わ、わかりました!」

盗賊「…なんなんだ、このイノシシ女は」

魔法使い「あっははは!勇者様ってこんなに可愛かったんだ、知らなかった~」

盗賊「バカばっかりかよ、はあ~っ……。…ん……この壁、何か掘ってあるな……文字か?」

魔法使い「なになに?僕にも見せて!……これ、古代文字だね…本で読んだ事があるよ。えと…掠れて読みにくいな。……た、か、ら……?宝?宝物庫のことかな!?」

盗賊「マジかっ!?なら、この先がついにゴールってことか!!」

238 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/21 00:24:09 sBLem/.c 190/373

勇者「この先に、宝が……扉は?開きそうか?」

盗賊「…ダメだな…ただの扉なのにビクともしねえ。テメーの出番だぜ。イノs 勇者」

勇者「また言いかけた!…扉を開くぞ。何があるかわからないから、みんな、気を引き締めておいてくれ…」ガガガララ


僧侶「……っ、わあ…すごい、祭壇の数……」

魔法使い「変な形の物がいっぱい飾られているね。何に使うのかさっぱりわからないや。これが古代兵器なの?」

盗賊「……なんかガッカリした。宝物庫っていうから、金銀財宝の山を想像していたのによぉ…ガラクタばっかりじゃねーか」

勇者「私達が必要とするのは神秘の水瓶だけだ。それらしきものを探してくれ」

僧侶「水瓶……ありますよ、勇者様…!ほら、あの宙に浮いているの…あれ、水瓶…ですよね?」

勇者「きっと、あれだろうな。よし、持って帰ろう…と、行きたいところだが。みんな、気をつけて。何か潜んでいる……嫌な気配がする」

244 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/21 11:14:33 sBLem/.c 191/373

魔法使い「魔物…?でも、どこにも姿が見えないよ。……うわ!?」ドテッ

僧侶「だ、大丈夫?魔法使いくん!転んだりして…血とか出てない?」

魔法使い「イテテ…大丈夫だけど、なんか足が引っ掛かって……って、うわあああ!!?」

幻獣「シュルシュル……」

僧侶「きゃああああ!!?や、やだー!何っ、これぇ~!?やだやだ!魔法使いくんを離してー!」

魔法使い「わわわ……蔓?触手?うわあっ、引き摺られる!たっ助けてえー!!」ズルルル

勇者「魔法使い!私の手に掴まって!!」

盗賊「チッ、絡まってほどけやしねェ……勇者!そのままクソガキを押さえとけ!蔓を斬り落としてやる」ザクッ ザシュ

勇者「魔法使い、火の魔法で焼いてしまえ、こいつらを!!」

魔法使い「ご、ごめんなさい、勇者様…さっき転んだ時に、杖を落としちゃって…あの蔓が持って行っちゃったんだ!」

245 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 11:15:57 sBLem/.c 192/373

僧侶「わわわ…つ、次から次に蔓が伸びてきますよう…!」

盗賊「キリがねーな…大本を叩かねェと。杖がありゃあ魔法が使えるんだな?取り返してくる!」

勇者「気をつけて!この蔓、再生スピードも早いぞ!!斬ってもすぐに復活する!」ザンッ!!

盗賊「くそ、鬱陶しいな…!!邪魔すんなっつーか、杖を返せよ、こいつ!」

盗賊「ほら、クソガキ!杖だ、さっさと焼いちまえ!」ブン

魔法使い「僕の杖!ありがとう、お兄さん!ようし…火炎魔法!!」ゴアッ!!

幻獣「シュシュウウウ…シャアアアア!!」

勇者「うん、やはり火には弱いようだな…このまま追い詰めて、一気に倒すぞ!!」

僧侶「蔓の量が増えてます~!お、怒ってるんだ!うわーん!気持ち悪いぃ、服の中に入ってくる~!やだやだ!!いやー!!」シュルルル

盗賊「この!…クソアマ、俺から離れるなボケ!!クソガキ、こっちにも火ぃよこせ!斬るだけじゃ追いつかねえ!」ザクッ ブチッ

246 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 11:16:40 sBLem/.c 193/373

魔法使い「火炎魔法!!……うう、もう魔力が…なくなっちゃう…!」ゴオォォ

勇者「あの蔓の塊を斬れば倒せそうなのに……!あそこまで、届かない!」

盗賊「そうだ…魔法剣だ!クソガキ、勇者の剣に火の魔法を放て!俺は以前、賢者のクソオヤジに、魔法を剣に乗せてもらった事があるんだ。魔法剣なら勝てる!」

魔法使い「ま…魔法剣?上手くいくかな……勇者様ーいくよー!?…火炎魔法!!」ゴッ!!

勇者「っ…!なんと……私の剣に、炎の力が…こ、これなら!!せやぁ!!」ザスッ ジュウウウ!!

幻獣「ギャアアア!!シャアアア~!!」

勇者「効いたッ!勝てる、いける!!」ザクッ ザシュ バシュッ!!

勇者「蔓の芯め、喰らえ!炎の魔法剣を!!―― だあああっ!!」ドズ!!

幻獣「ギャバアアァァァ…!!」ボジュウウウ

魔法使い「や、やった…蔓が引いていく……良かったあ…もう、魔力が空っぽだもん。疲れたあ…」

247 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 11:17:46 sBLem/.c 194/373

バサァァッ!!

僧侶「蔓も…全部消えていきます!よ、良かった……気持ち悪かったあ…」

盗賊「くそっ、俺ももうマジで疲れた……一歩も動けねェよ…」

勇者「…もう、番をする者はいなさそうだな……?水瓶を取ったら、ここで少し休憩しよう…このままでは、帰る途中で全滅してしまう」

僧侶「なら、聖水を使って結界を作ります、ね。そこなら…例え魔物が来ても、私達の姿は見えなくなるでしょうから…」

魔法使い「ねー、お兄さん。あの魔力回復の水、もっとないの?」

盗賊「あの一本だけしか無ぇんだよ。辺りは俺達が見張っていてやっから、少し寝ていろ。そうすりゃちょっとは回復するだろ?」

勇者「……これが、永久に水を生み出す…神秘の水瓶か…」スッ

勇者「…ヒビが入っているな。水など一滴もない、ただの壊れた水瓶だ。やっぱり、尽きているのか…魔力が…こうなると、周りにある兵器も同じなんだろうな」

248 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 11:18:36 sBLem/.c 195/373

僧侶「結界を作り終えましたよう~。勇者様も休んでください、怪我の手当てもしましょう」

盗賊「今のうちに飯食っとくか…クソガキが魔法を使えないとなると、途端にめんどくせーな、火を焚くの」

勇者「……そうして、便利な魔法に頼ってばかりいたから…人間は過ちを犯してしまったのだろうな……森を砂漠にしてしまう程」

僧侶「この水瓶で、元に戻せるといいですね。…勇者様、次はエルフの村に行きましょう?そこならきっと、この水瓶の事も教えてくれると、思います」

僧侶「私達…前に、エルフ村に立ち寄った事が、あるんです。エルフさんも、妖精さんもいたから、昔の事…知っている人がいるんじゃないかな、って」

勇者「エルフの村…そんなものがあるのか。すごいな、君達は。私よりよっぽど冒険している気がするぞ?…片や私は変態に追いかけられてばかりだったのに…」

249 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 11:19:21 sBLem/.c 196/373

盗賊「ほら、テメーら飯だ。パンに炙った干し肉を挟んだぞ。クソアマはこっちな、肉の代わりに木の実ジャムだ」

僧侶「あ、ありがとうございます、盗賊さん」

勇者「…なんで僧侶だけは別なんだ?」

僧侶「あ…わ、私、お肉苦手で……食べようと思えば食べられますけど、…勇者様も、ジャムが良かったですか?」

勇者「ううん、肉でいいけど…そうか、僧侶は肉が苦手…」

勇者「…無理もない話なんだが、私は君達の事をよく知らない。それがなんだか寂しく感じられて仕方ないよ。もっと君達の事が知りたい。話を聞かせてくれないか」

盗賊「……テメーは本当に、真っ直ぐ突っ走ってくるなあ…寂しいとかそんな事、ストレートに言うなよ。恥ずかしいヤツ。だからイノシシ女なんだよ、バカ」

勇者「またイノシシって言ったな!」

僧侶「うふふっ、私は嬉しいですよう、勇者様!魔法使いくんが起きてから、みんなで色々お話しましょうね!」

250 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 11:20:18 sBLem/.c 197/373

~数時間後~

魔法使い「ううん……、…ふああぁ…」ムクッ

僧侶「あ、魔法使いくん。おはよー、目が覚めた?大丈夫?」

魔法使い「ん…おはよ、僧侶さん……あれ、お兄さんと勇者様は寝ているんだ?僧侶さんだけ起きているの?」

僧侶「うん、今は私が見張りの番だから。私はもう休んだし。魔法使いくん、ご飯食べる?盗賊さんが魔法使いくんのぶんも作ってくれたよ、温めよっか?」

魔法使い「…ううん……なんか、あんまりおなか空いてないけど…食べておこうかな」

僧侶「そう?じゃあひとつだけ温めようね。残ったら盗賊さんが食べるって言ってたし…」

魔法使い「うん。……あ…僕、ちょっとあっちの物陰に行ってくる。すぐ戻るよ」

僧侶「えっ?だ、ダメだよ、結界から出たら危ないよ……魔物が来たらどうするの?何をしにいくの?」

魔法使い「え、えっと、えっと……その…トイレだよ!トイレ!」

251 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 11:21:05 sBLem/.c 198/373

僧侶「トイレ?えー、罰当たり~。でも仕方ないか…じゃあ、私も一緒に行くよ。近くで見張りしてあげるから」

魔法使い「ええっ!?い、いいよ~!ついてこないでよ!恥ずかしいじゃんか!!」

僧侶「だって、一人じゃ危ないでしょう?トイレなんて、より無防備になるんだし…誰かと一緒の方がいいと思うな」

魔法使い「………」

魔法使い「………ねえ、僧侶さん。僧侶さんは…聖騎士の王国で、王子様が暴れた時、呪われたハンマーの解呪をやっていたよね」

僧侶「え?う、うん。あれは、成功して本当に良かったな……初めてやったから…」

魔法使い「…そしたらさ、僕にも、あの解呪魔法かけてくれないかな?」

僧侶「……魔法使いくんのは、呪われた装備品じゃないでしょ?効果があるかどうかわからないよ…?」

魔法使い「それでもいいよ。…あと、この事は内緒にしてね。特に勇者様には絶対秘密ね?僕も、聖水使用の解呪法を一緒にやるから」

252 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 11:21:52 sBLem/.c 199/373

僧侶「え?で、でも……」

魔法使い「お願い!絶対秘密にして!…勇者様、心配性だから……この事を知ったら、大騒ぎになっちゃう。今、そんな騒ぎを起こしている場合じゃないしさ」

僧侶「……で、でも、でも…勇者様は、魔法使いくんの事を本当に大切にしているみたいだし……だったら、内緒にするのは…」

魔法使い「落ち着いたらちゃんと話すからさ!約束するよ。ね?……服の上からでいいから、背中に魔法をかけて。おなかとかは、自分でやるからね」

僧侶「う、……うん…わかった。でも、早めに話してね?勇者様に。心配かけたくないって気持ちもわかるけど、そういった事は内緒にしちゃダメだよ?」

魔法使い「大丈夫ーわかってる!じゃあ、よろしくね?終わったらご飯食べるから!」


勇者「……くー…すぴー……」

盗賊「………」

253 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 11:22:39 sBLem/.c 200/373

・・・

勇者「うう…ん、っと。ふう…少し休めたら、気が楽になったな」

魔法使い「これだけ仲間がいると、安心して休めるねー」

盗賊「…おい、クソガキ。小便しに行くぞ、ついてこい」

魔法使い「…あ、そういえば…行くの忘れてたや。うん、一緒に行くよー。でもクソガキはやめてったら!」

僧侶「…私の時はあんなに嫌がったのに~、男同士だからなのかな…?」

勇者「子供と思っていても、一丁前になあ…ふん、別に寂しくなんかないからな。女は女同士仲良くしよう、僧侶」

僧侶「はい!仲良くしますよう~、勇者様っ」

盗賊「……くだらねェ。バカばっかりか」

魔法使い「ねえねえ、これからどうするの?水瓶の力はもう無いみたいだけど…これじゃ砂漠の国は納得しないよね」

盗賊「そういや、お前は寝てたっけな。…ここから出たら、エルフの村に行く。そこで相談するんだ、糸口が見つかるかもしれねーからな」

254 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/21 19:25:27 sBLem/.c 201/373

~元・魔の吹雪地帯~

僧侶「勇者様が洞窟から離れたら、宝物庫の入口も消えちゃいましたね…」

勇者「仕組みがまったくわからない。古代の魔法は本当に不思議なものばかりだな。今の私達で再現する事は不可能に近い気がするよ」

盗賊「この先にエルフの村があるはずだ…あのクソチビ2号…妖精がふらついてりゃあ、わかりやすいんだが…」キョロキョロ

僧侶「偶然を待つのも、大変…ですよねえ。……目印とか、聞いておけば良かったな」

勇者「………魔法使い?顔色が悪いぞ、大丈夫か…?」

魔法使い「……ん…大丈夫……ちょっと、疲れた…だけだよ…」

盗賊「………」

盗賊「クソガキ。こっちに来い。おぶってやる」

魔法使い「え?で、でも。邪魔になっちゃう、でしょ…いいよ、大丈夫だから…」

盗賊「うるせえ、ゴチャゴチャ抜かすな。ガキがいらねー気を使ってんじゃねえ」

255 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 19:26:07 sBLem/.c 202/373

魔法使い「ご…ごめんなさい…お兄さん……」

勇者「……魔法使い…」

僧侶「あの、勇者様……魔法使いくんの呪い、やっぱり…かなり、進行しています……私じゃ、解呪できませんが…もう一度、休憩を取りませんか…?」

僧侶「気休めにしか、ならないかもしれないけど…解呪魔法、かけてみますから……」

勇者「………ああ。そうしよう、薬草もあるだけ使って、魔法使いの体力を回復させて…」

妖精「あら、妖精の匂いがすると思ったら。ちょっと、こんなところで何をやっているのよ。旅に出たんじゃなか ぐぇっ!」ガシッ!!

盗賊「よーし、よくふらついて来やがったな。つくづく運がいいぜ俺は。飛んで火に入るなんとやら、テメーらの村に連れていけよクソチビ2号」ギリギリメキメキ

妖精「火じゃなくて貴方の手じゃないの、入ったのは。やめてちょうだい、どれだけ作りたがるのよ、妖精の搾り汁」ギュウウウウ

256 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 19:26:48 sBLem/.c 203/373

~エルフの村~

勇者「なんと美しい……!まるで夢の中にいるようだ…こんな場所があったなんて……」

魔法使い「…すごい……ここにいると、少し楽になってくる感じ…さっきまで、あんなに苦しかったのに……」

盗賊「賢者のクソオヤジが言っていたな、居るだけで魔力が回復する、って。ここならテメーの呪いも癒されるかもしれねー」

妖精「呪い…やっぱりその子、呪われているのね?邪気が凄まじく溢れているわ。ここにいても、呪いを断たない限り、意味はないわよ」

僧侶「あの、この呪いを解く、解呪魔法…どなたか、使える方はいらっしゃいませんか?わ…私の魔法じゃ、解けなくて…」

妖精「残念だけど、ここにはいないわ。古代の呪いでしょう?それ。こう見えて、私達はまだまだ若いのよ。古代の呪いには古代の解呪法しか、対応できないわ…」

257 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 19:27:28 sBLem/.c 204/373

勇者「そんな……じゃあ、やっぱり呪いをかけた奴を倒すしかないのか…?」

盗賊「情けない事ほざいてんじゃねーぞ?どっかに居ないのかよ、呪いを解ける奴が。なあ?俺達困ってんだよ、助けちゃくれねーか、コラ」メキメキ

妖精「不思議ね、私には助けてほしいって頼む態度に思えないんだけど、気のせいかしら。私の体がますますくびれていくのも気のせいかしら」ギュウウウ

妖精「…解呪法の使える、長い時を生きる者。心当たりが無くもないわ。とりあえず、その子を一旦寝かせましょう。エルフのおうちに連れていくの、回復薬とかもあるから」

盗賊「だから俺の服の中に入るな……まあいい、エルフの家ってのはどこだ?案内しろよ」

妖精「貴方、本当に妖精の匂いが強くなったわね。落ち着くわ。……エルフのおうちは向こうよ、あの花畑の中」

僧侶「魔法使いくん、もうちょっとの辛抱だからね…!頑張って…!」

258 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 19:28:12 sBLem/.c 205/373

魔法使い「うう……う…」ズズズ…

エルフ「こんなに酷い呪いは初めて見たわ…刻一刻と、この子の命を削っている。結界を張って、進行を遅らせましょう。それから回復薬を。貴方、癒し手よね。手伝ってくれる?」

僧侶「は、はい!なんでもやります、教えてください…!」

妖精「…今は、彼女達に任せましょう。村長様に許可も頂いたわ、私達はこれから滅びの里に行くわよ」

勇者「滅びの里?」

妖精「私が産まれた里よ。元々は緑豊かな大地だったけど…現在は、砂漠と化しているわ。その里にいる長老が、この世でたった一人、古代から生き続けている者。長老なら、呪いの解呪法も知っているでしょうし」

妖精「…そして、貴方が持っている魔具も。直せるのは、神族以外では、長老だけよ」

勇者「!! 気づいていたのか…魔具を持っている事を」

259 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 19:29:01 sBLem/.c 206/373

盗賊「相変わらずスゲーな、テメーの勘っつーか嗅覚っつーか……おい、何をふんぞり返ってやがる。褒めてねーぞ」

妖精「さておき。滅びの里なら、私の移動魔法ですぐに行けるわ。準備はいい?」

僧侶「ま…待ってください!勇者様…魔法使いくんが、勇者様を呼んでます…」

勇者「私を?…すまない、少し待っていてくれ。魔法使いのところへ行ってくる」

妖精「…あ、私もちょっとエルフの所に行くわ」

僧侶「……ねえ、盗賊さん」

盗賊「あん?」

僧侶「勇者様の事、お願いします…勇者様、沢山の責任を背負っているけど……勇者様だって、女の子です。すごく辛い事に直面したら…勇者様を癒すのは、私達です…」

盗賊「………」

僧侶「わ、私も、勿論癒しますが…盗賊さんも…支えてあげて、くださいね。勇者様の事……、…ふぇっ?」ナデナデ

盗賊「………バカ女」ナデナデ

僧侶「あうあう、……???」

260 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 19:29:57 sBLem/.c 207/373

勇者「魔法使い!大丈夫か?待っていてくれ、私が必ず君の呪いを解いてみせる。もう少しの辛抱だからな」

魔法使い「……勇者様…」

魔法使い「………」キュッ

勇者「……魔法使い?手を握って…どうした」

魔法使い「…僕ね、勇者様を信じてる。僕は呪いなんかに負けないよ、勇者様もみんなもいるし。…僕だって、勇者様が思っているより、ずっとずっと強いんだから」

魔法使い「今は……悔しいけど、動けない…でも、僕は…絶対負けないよ。勇者様を守るんだ、その為に沢山勉強した……」

魔法使い「勇者様…僕は大丈夫だから。勇者様もみんなもいる……」

魔法使い「だから、…迷わないでね。勇者様。みんなを助けてあげてね。それが出来るのは、勇者様だけだからね?……そして…勇者様を助けるのは、僕なんだ……僕達なんだ…」

勇者「…魔法使い……」

魔法使い「いってらっしゃい、勇者様。気をつけてね」ニコッ

261 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 19:31:00 sBLem/.c 208/373

~滅びの里~

妖精「……はい、到着したわよ」

勇者「―― っ!?…すごい…一瞬にして、砂漠についてしまうなんて。海を飛び越えて?いや、本当に一瞬だった…これが移動魔法……」

妖精「人間が使うには、まだまだ研究不足でしょうけどね。結構魔力使うのよ?これ。さあ労りなさい、崇めなさい、私を」

盗賊「時間が勿体無ェんだ、さっさと事を進めるぞ」ギュウウウ

妖精「ふ、もう慣れてきたわよ、搾られるのも。…里の入口を開くわ。蜃気楼の向こう側へ行くわよ」ギュウウウウ

・・・

勇者「ここが…滅びの里。……砂漠の中に、鬱蒼とした森が…?」

盗賊「だが、実際はただの蜃気楼らしい。俺はここでほとんど寝ていたから、よくは知らねーが……家などは本物でも、木々は偽物だ」

女妖精「ッ人間!?貴様ら!!ここで何を、いや…どうやってここに入った!?」

男妖精「里に立ち入る不届き者が!殺す!!」

262 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/21 19:31:44 sBLem/.c 209/373

勇者「ま、待って!勝手に侵入した事は謝ります、しかし訳があるのです、話を聞いて頂けませんか!!」

男妖精「人間の話など、ましてや侵入者の話など、聞く耳は持たぬ!!」

女妖精「殺す!人間は殺す!!侵入者は殺す!!」

盗賊「持ってないなら今から持て、ボケ!頼むから落ち着け、俺達の話を……」

妖精「…私が彼らを連れて来たのよ。この人達の言うとおりだわ、少し落ち着いたら?相変わらず血の気が多いのね、アンタ達。いやんなっちゃう」ヒョコ

男妖精「!!?」

女妖精「…妖精……お前、今更どの面を下げて、この地へ帰ってきた。貴様の居場所はもうここには無い。去れ。人間と馴れ合う貴様の顔など見たくもない。虫酸が走る」

妖精「残念ね、そうもいかないのよ。アンタ達に用はないわ、そこをどいてちょうだい。私達は、長老に話があって来たんだから」

263 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/21 19:32:24 sBLem/.c 210/373

男妖精「婆様に?許可しない。するわけがない。去れ。この里から去れ!」

妖精「だから言っているでしょう、アンタ達に構っている暇はないわ。そこをどきなさい!」

妖精「明日を信じない、八つ当たりしかできない、殻に閉じこもるしかできないアンタ達なんて大っ嫌いよ!」

妖精「…この人達はね、魔具を持ってきてくれたのよ?わかる?長老の力が必要なのよ。もうこれ以上同じ事を言わせないでちょうだい。…そこをどいて!」

女妖精「…魔具だと…!?」

勇者「…これです。王家の遺跡、宝物庫より持ってきました。ですが、魔力が尽きており、水は枯れております。これを直して欲しいのです」スッ

男妖精「それは……!人間に奪われた、神秘の水瓶!!?…そんな…本物……?嘘だ、そんな事が…人間が…?」

妖精「はいはい、さっさとどく!アンタ達はずっとそこで呆けてなさい!あっかんべー、だ!!」

267 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/22 00:42:57 uu/4tIXY 211/373

妖精長「………」

盗賊「こいつが、長老……?随分若く別嬪じゃねーか。本当に一番の長生きなのか、信じられねえ」

妖精「…お久し振りです、長老」

妖精長「……その声は、妖精ですか。…それに、人間の男……まさか、二度会う事があるとは、ね…」

妖精長「…そして……この魂は、………そう。そうなのですか……」

妖精長「………」

勇者「…長老様。貴方の力をお借りしたく参りました。勝手に里へと立ち入った無礼は、心からお詫びします。私達は……」

妖精長「いえ。言葉で語らずともわかります。…私は遥か悠久の時を生きてきた者。この目は二度と光を映さぬ、しかし長く生きてきた故に、少しだけですが、人の心が読めます」

妖精長「貴方達が、何故この里へ訪れたか……約束…私達は約束を何よりも大切にする……貴方との約束も、今…果たしましょう……」

勇者「……約束…?」

268 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 00:43:44 uu/4tIXY 212/373

妖精長「………」

妖精長「……水瓶の修復…解呪……どちらも、為し遂げたい…危機に瀕した時、助けると………私は、約束…した……」

盗賊「…おい。大丈夫か?お前……なんか弱々しくなっていってねえか?」

妖精長「……私達は…何よりも、約束を………大事にする…けれど、ごめんなさい……私の寿命は、もう…尽きる………」

妖精長「約束を…守れない……ごめんなさい…」

妖精長「…ひとつ……ひとつだけ、なら………どちらかひとつだけなら、できます…選びなさい…水瓶か…解呪か……どちらか、ひとつ…叶えて、あげます……それが…約束だから………」

勇者「………!!?」

盗賊「な…!どっちかって、両方はダメなのかよ!?」

妖精長「…無理……どちらか…ひとつ………選んで…早く……」

盗賊「そんな…、そんなの、解呪に決まってんだろ!?クソガキの命がかかってんだ!当たり前だろ、なあ!?」

269 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 00:44:26 uu/4tIXY 213/373

勇者「………」

盗賊「天秤にかけるもんじゃねえ!わかりきってる!そうだろ、勇者!おい、しっかりしろ、聞こえたか!?解呪だ!解呪の方法を……」

勇者「―― 待てッ!!!」

盗賊「ッ!?…勇者……?」

勇者「………」

勇者「………そうだな。天秤にかけるものじゃない。答えはわかりきっている」

勇者「長老様。……水瓶を直してください」

盗賊「っはあ!!?何を言ってんだ、テメー!!クソガキがあんなに苦しんでんだぞ!?水瓶がどうこうじゃねえだろ!!」

盗賊「水瓶なんざ無くとも、指名手配をどうにかする方法なんざ、いくらでもある!!無視したって構わない、だったら解呪を…」

勇者「………水瓶の力を使えば、戦争を防げる。救える命が沢山ある」

勇者「水瓶の力を使えば……砂漠が、甦るんだ………だったら、…水瓶を、直してもらう」

270 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 00:45:15 uu/4tIXY 214/373

勇者「長老様。水瓶をお渡しします。人間が犯した過ちを、心からお詫び致します…どうか、水瓶を直して頂けませんか」

盗賊「ばっ……バカ野郎…!!」

妖精長「………」

妖精長「………確かに…受け取りました……。この、形………私達の、水瓶…」

妖精長「…ああ………記憶の中でしか、見る事の無くなった森……生きているうちに、再び…会える、なんて……」

妖精長「ありがとう……貴方達、人間が犯した罪は、忘れない…けれど………謝罪の気持ちも…私は、忘れないわ……」ピカッ!!

勇者「う……?」

盗賊「水瓶が…長老が、輝いて……?」

―― ゴボゴボッ

妖精長「…甦れ、私達の森よ………その美しい姿を、また見せておくれ。踊りましょう、歌いましょう。私達は貴方を愛している。美しい木々よ、……愛しているわ………」

―― パアアアアァァッ…!!

271 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 00:46:01 uu/4tIXY 215/373

男妖精「………!!?こ…これは……!!」

女妖精「あ…あああ……!!幻じゃない…樹が…川が……甦る…!あああ、これは、…これは…!!」

男妖精「…私達が愛した里が……甦る…!渇いた大地が、潤っていく……!!」

妖精「……綺麗ね…懐かしいわ、…赤ん坊の頃に見た姿そのまま……おはよう、貴方達。起こすのが遅くなってごめんなさい」

妖精「もう悪夢は見ない。これからは、毎日見られるのよ、安らかな夢を。ね?明日を信じて良かったでしょう。夜は必ず明けるのよ、明日は必ずやってくるのよ」

妖精「おはよう、…おかえり。愛しているわ、今日も明日も明後日も。これからもずっと、ずっと、愛してる」

妖精「……ありがとう…人間達……森を甦らせてくれて、ありがとう」

女妖精「うっ…うっ……うわあああん……!」

男妖精「………み…認めない…人間を、認めるわけには……く、…くそぉッ…!」

272 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 00:46:47 uu/4tIXY 216/373

妖精長「―――」

勇者「……ありがとうございました、長老様…本当に、ごめんなさい。長く苦しめてしまって、ごめんなさい………どうか、安らかに…お眠りください」

盗賊「………」

勇者「…行こう、盗賊。妖精達に長老様の事を伝えねば。それから砂漠の国へ向かうぞ」

盗賊「………」ギリッ

盗賊「……テメー…良かったのかよ、これで」

勇者「………」

盗賊「迷いはなかったんだな?」

勇者「………」

勇者「………あの子は、…私達を…私を、信じてくれている」

盗賊「………」

勇者「あの子は強い。大丈夫だと言っていた、信じてくれている、迷うなとも言っていた…そう、迷うな、って。私は…私は、……迷っていられない。一人の人間に拘ってはいけない。みんなを守らなきゃいけないんだ」

勇者「魔法使いは私が救う。なに…呪った奴を倒せばいいんだ、ただそれだけの事だ…」

273 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 00:47:41 uu/4tIXY 217/373

盗賊「………」

勇者「さあ行くぞ。時間は無いんだ、テキパキ行動しなければ」

盗賊「……おい、勇者。こっちを向け」

勇者「…うん?」

―― ゴンッ!!

勇者「!!?」

ゴン! ゴンッ!! ゴツッ!!

勇者「い…痛い!痛いっ!!やめてくれ!!何をする、いきなり頭を叩いて…!!」

盗賊「痛ェか?そりゃそうだろうな。力一杯やったからよ」

盗賊「痛いんなら、泣け。…今なら、その理由で泣けるだろ。今なら、……今のうちなら、泣けるぜ。俺のせいでな」

勇者「………!!?」

勇者「な…何を……私は、これくらいの痛みで、なんか……、……あれ…?」ポロッ

勇者「……どうして…なんで……?もっと、もっと痛くても…泣いた事なんか、なかったのに……どうして…」ポロポロ

勇者「…どうして……君に叩かれると、……涙が出るの…?」

274 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 00:48:47 uu/4tIXY 218/373

盗賊「………」

盗賊「慰めたり励ましたり、抱き締めるのも、俺の全部は予約済だ。この先永久に続く予約だ」

盗賊「でも、予約した奴は、とんでもねェお人好しのバカだからよ。席を譲ってくれるらしいぜ?」

盗賊「今日だけ特別だ。…背中くらいなら貸してやる。背中だけな。……耳は塞ぐ、目も閉じる。何も聞かないし、何も見ねーよ」

盗賊「今のうち、だけだ。……泣けよ。俺は聞かないし見ない。俺に殴られたせいで、泣けよ」クルッ

勇者「………」

勇者「……う…うっ……ううう…っ!!」ギュッ

勇者「うわああああ……!!ごめん…魔法使い……ごめん…っ!!わ、私のせいだ…君を苦しませて、すぐに救えなくて、ごめんね……!!」

勇者「必ず……必ず、私が助けてみせるから…!君を守るから……!うわあああん!うあああああーっ…!!」

盗賊「………クソが……呪いをかけた奴、絶対許さねえぞ……」

275 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 00:49:35 uu/4tIXY 219/373

・・・

男妖精「………そうか…婆様が……」

女妖精「だが、亡くなる前に…里を復活させられて、良かった。……私達は、忘れない。人間達を恨む。…だが…私達を救ってくれたのも、人間だ……」

勇者「…申し訳ない……」

妖精「…過ぎた事は、どうやっても取り返せないわ。けれど、償う事はできるの」

妖精「………お兄ちゃん、お姉ちゃん。私、アンタ達の事は嫌いよ。…体が大きくなる程、性が別れる程、長く生きたからこそ、その目に映ったものは、心についた傷は、想像以上なんでしょうね」

妖精「でも、それでも。大っ嫌い。後ろ向きのアンタ達なんか、大嫌いよ」

男妖精「………」

女妖精「…お前は、まだ若いから……明日を信じられるんだ」

男妖精「……俺達は……人間を憎む…認めるものか……」

妖精「…ふん。私の居場所はここじゃないわ。じゃあね、お兄ちゃん、お姉ちゃん。……そのウジウジが治ったら、また会いましょう」

276 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/22 00:50:21 uu/4tIXY 220/373

盗賊「じゃあねっつって、さも当たり前のように俺の服の中に入るな。…つーかあいつらとお前、親族だったのか。あんなに冷たくしていいのかよ?」

妖精「あら、貴方がそんな事を気にしてくれるの?意外ね。いいのよ、…この森と、時間が、彼らを癒してくれるわ。その時が来たら…仲直りしてあげてもいいかもね」

妖精「さ、行きましょう。砂漠の国だっけ?ふふ、もう砂漠は無くなったけれどね。本当に、貴方達には感謝してもしきれないわ。ありがとう。……そして、ごめんなさいね…」

勇者「ううん。礼を言われる事も、謝られる事もない。あるべき姿を消してしまったのは、私達人間なんだから。…あるべき姿に戻しただけ、それだけだ」

勇者「そして、これから先、二度とこの姿を失わない為にも……行こう、砂漠の国へ」

盗賊「………ああ」

妖精「私は隠れているわね。大勢の人間に姿を見られたくないの。必要な時は顔を出すわ」モゾモゾ

281 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/22 11:53:47 uu/4tIXY 221/373

~砂漠の国・王宮~

盗賊「流石に国中大騒ぎだな。無理もねーか、いきなり水が湧いて、砂漠が森になっちゃあなァ」

勇者「混乱の中で、王との謁見は不可能かな…しかし、日を改める時間も……」

側近「…勇者殿。謁見の許可が下りました、こちらへどうぞ」

勇者「…本当ですか!良かった……ありがとうございます」

盗賊「無駄足にならなくて良かったぜ…」

・・・

女王「アタシがこの国を統べる者、女王だ。話は聞いたよ。勇者、此度の働き、見事だった。ありがとう、全ての民を代表して、礼を言わせとくれ…」

盗賊「(砂漠の国の王って、女だったのかよ。はーん…この姉ちゃんが、あれだけの暴君っぷりを、ねぇ…)」ヒソヒソ

勇者「(こら、聞こえるぞ、盗賊。黙っていなさい)」ヒソヒソ

女王「…いいんだ。アタシが間違っていたのは事実なんだからさ」

勇者「……ほら、聞こえた…申し訳ありません、女王様。大変な無礼を働きました…」

282 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 11:54:32 uu/4tIXY 222/373

女王「いんや。アタシは責められて当然の事をした。なのに…この国を救ってくれた事、心から感謝するよ……」

女王「言い訳にしかならないけど……アタシは、夢を見ていた。長く長く続く、とても酷い悪夢をね…」

女王「悪夢の外のアタシは…冷静な判断が出来ず、傍若無人に振る舞い…愛すべき民達に不安を抱かせちまった……まるで、見えない糸に操られていたかのように。自分自身が止められなかった…」

盗賊「……おい、もしかして、それって…」

勇者「…女王も……聖王のように、魅了魔法を……?」

女王「どんな理由であれ、原因であれ、民を傷つけた事に変わりはない。貿易大国もそう、…あんた達も、そうさ」

女王「本当に、すまなかったね…あんた達の指名手配は、すでに解除しといたよ。戦争も起こさない。アタシはこれから償っていく。民達に…各国に。本当にごめんな…」

283 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 11:55:23 uu/4tIXY 223/373

勇者「女王様、ありがとうございます!…しかし、どうかご安心を。女王様は、魔物に操られていた可能性があります。私は、女王様のように乱心された方を幾度か見てきました」

勇者「各国の王達も、その理由を聞けば、納得してくれましょう。必要とあらば、私も証言致します。……ですから、女王様は民達の事を第一にお考えください」

勇者「魔具の力により、復活した大地は、民達に混乱を生んでいます。統治は、女王様にしかできない仕事です。早く民達を安心させてやってください」

勇者「そして…どうか二度と、この地が砂漠とならぬよう……お守りください。お願い致します」

女王「……ありがとうよ、勇者。アンタの優しさに甘えさせてもらう。迷惑をかけて本当にすまなかったね…」

女王「せめてもの旅の手助けにと、謝礼を用意した。こんなものしか渡せなくてすまないが、どうか受け取っとくれ」

284 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 11:56:04 uu/4tIXY 224/373

盗賊「うおおっ…!すっげぇ大金!!ま、マジかよ……!」

勇者「こ、こんなに!?宜しいのですか、女王様」

女王「いいんだ。すぐに用意できるのが、金しかなくてね……金で解決だなんて、いやらしいけどさ…でも、旅の役には立つだろ?詫びの気持ちも込めて、ね」

女王「本当にありがとうな、勇者。アタシ達を救ってくれたように、魔王を倒して全てのものを救えるよう、祈っているよ。ありがとうな…これから先、気をつけて行くんだよ」

勇者「ありがとうございました、女王様。では、失礼致します。……ほら、盗賊!もう行くぞ、何をやっているんだ!!」

盗賊「ひーふーみー……ああっ、何度数えても堪らねーな…!金最高、お宝最高……!!こんな大金、初めて見たぜ!!」

勇者「盗賊!!行くぞったら!!」グイグイ

285 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 11:56:48 uu/4tIXY 225/373

~エルフの村~

妖精「はーい、到着したわよ…ううん……むにゃむにゃ…」

盗賊「随分静かだと思ったら、人の服の中で眠りこけてやがって。ヨダレとか垂らしてねーだろうな」

勇者「………」

盗賊「おい、どうしたよ。さっきは俺をあれだけ引っ張ったくせに、何を立ち止まってやがる」

勇者「…うん……ごめん、今行くよ」

盗賊「しっかりしろや。テメーは突っ走るのが取り柄のイノシシ女だろ。突っ走って正解をもぎ取るのがテメーなんだから」

勇者「……そう、だな………でも、イノシシ女はやめてくれないか?名前で呼んでくれ」

盗賊「ケッ。さっさと行けよ、行かないうちはずっとイノシシ女だ、バカ」

妖精「ぐー……すぴー……」

盗賊「そして熟睡してんじゃねーよ、クソチビ2号め」ベシッ

妖精「ぎゃふ!!……うう………ぐぅ…ぐー……むにゃむにゃ…」

286 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 11:57:31 uu/4tIXY 226/373

僧侶「おかえりなさい、勇者様!盗賊さん!…どう、でした……?」

勇者「…指名手配は解除できた。戦争も防げたよ……だが…解呪法は……」

僧侶「……そう、ですか…」

勇者「…あとでゆっくり話す。今は…魔法使いのところへ、行かせてくれ」

僧侶「あ……ゆ、勇者様…」

盗賊「…少しくらいなら大丈夫だろ?2人きりにしてやれ」

僧侶「盗賊さん……勇者様は、やっぱり…辛い目に、会われたんですね…」

盗賊「…それでも、進まなきゃならねーのが、アイツの使命なんだろうよ。俺達はそれを横から支えるのが使命だ」

盗賊「……だから、今はほっといてやれ。何があったかは俺が話す。こっちに来い、クソアマ」

僧侶「は……はい…盗賊さん。……勇者様、………」

287 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 11:58:22 uu/4tIXY 227/373

勇者「………」

魔法使い「……はぁ…はぁ……」ズキン ズキン

魔法使い「………?…あ…勇者様、おかえりなさい……どこも、怪我してない?大丈夫だった?」

勇者「ただいま。……ああ、大丈夫だよ」

勇者「…だけど…ごめんな、魔法使い…解呪法は……手に入れられなかった…」

魔法使い「………そっか…」

勇者「で、でも!私は必ず君を守るよ!安心してくれ、解呪法がなくても、呪いをかけた者を探して倒せばいいんだ!!絶対に倒すから!君を助けるから……だから…!」

魔法使い「もう、何を一人で焦ってんの?だからお兄さんに、イノシシって言われるんだよー」

魔法使い「言ったでしょ、勇者様。僕は呪いなんかに負けないよ。勇者様を信じてる。大丈夫だよ」

魔法使い「勇者様は正しい事をしたんだよ。僕、すごく誇らしいや。そんな勇者様が大好き、みんなを守ってくれる勇者様が、ずっとずっと好きだった」

288 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 11:59:07 uu/4tIXY 228/373

勇者「魔法使い……」

魔法使い「それでね、これからもずっとずっと、ずうーっと、勇者様が大好きだよ」

魔法使い「みんなを守ってくれる勇者様は、僕が守ってあげる。その為にいっぱい勉強したんだから。仲間に選ばれてすごく嬉しかった」

魔法使い「僕は負けないよ、大丈夫だよ。ずっと勇者様と一緒にいるよ。だから勇者様……迷わないで。僕は勇者様についていくから、勇者様は前を向いていてね」

勇者「……ごめ…ごめんな……魔法使い……もう、何が正しいとか…正しくないとか、わからないよ……」

勇者「けれど…私は、君を守る……それだけはわかる…君の為に頑張るから、君を…全てを守るから……だから、ごめん…」

魔法使い「…勇者様、泣き虫だったんだね。知らなかったよ。ふふ、僕ね、この旅がすごく楽しい。知らない事をたくさん知れるから、楽しいよ。もっともっと知りたいから…僕、頑張るからね」

289 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 11:59:54 uu/4tIXY 229/373

勇者「………」フラリ

僧侶「勇者様……」タタッ

勇者「…大丈夫。大丈夫だよ。……呪いをかけた奴を倒す。そうすれば、解決するんだ。世界中駆け回ってでも、見つけてやる」

僧侶「そ、その事なのですが、勇者様。この村の、村長様が…力を貸してくださる、そうです…。村長様の家に行きましょう?」

勇者「…村長?」

盗賊「小人族のクソチビ初号機だ。ふざけた感じの奴だが、占いの腕前はピカイチでな。俺達も、奴の占いがあってこそ、お前らと合流を果たせたってくらいなんだぜ」

盗賊「だから、しらみ潰しになんかしなくとも、占いをしてもらえりゃあ…呪った奴を見つけられるかもしれねェ。行こうぜ、クソチビの家に」

勇者「そうなのか…。……わかった、行こう。村長様の家に」

妖精「……ふあぁぁよく寝た…あ、あら?どこに行くの?あら?あらあら?」

盗賊「お前どんだけ熟睡してやがんだ、空気ぶち壊してんじゃねーよ、クソチビ2号が」

290 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/22 12:00:43 uu/4tIXY 230/373

勇者「こ…これが村長様の家、か?随分と小さいんだな」

僧侶「小人族ですからね…2人も入ったら、いっぱいいっぱいに、なってしまうんですよ。私達は…外で待っていますから、勇者様、中へどうぞ」

妖精「私が仲介をしてあげるわ。さ、いらっしゃい」

勇者「う、うん。じゃあ…いってきます」


村長「やあやあ、いらっしゃい~。こんにちは、はじめまして~。僕がこの村の村長で~す、よろしくね~?」

妖精「村長、勇者です。話は通っていると思いますが、村長に占いを頼みたいという事で、連れてきました」

勇者「よろしくお願いします」

村長「…え?君が勇者なの?」

勇者「……?はい、そうですが…何か…?」

村長「へえ~?……や、ごめんごめ~ん、気のせいだったかな~?うん、ちゃんとキラキラ輝いているしね~。あははっごめ~ん。改めて、よろしくね~勇者~」

294 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/22 20:02:51 uu/4tIXY 231/373

村長「えーっと。お願いの内容は、あの男の子を苦しめる呪い…それをかけた奴を見つけるんだよね~」ゴソゴソ

村長「は~い、占いの水晶玉で~す。じゃあ、早速占いま~す。……ん~むむむ…」

勇者「………」

村長「……あれえ~?よく見えないなあ…あはは、こんな事、初めてだよ~……」ピシ! ピキッ

妖精「ちょっと!?村長、水晶玉にヒビが…」

村長「………静かに!!今、集中を解くわけにはいかないんだ!……むむむむ…」バキ! ビキ!!

妖精「村長!!」

―― バキャアァン!!

村長「うわああ!?…あ~あ……僕の水晶玉がぁ~」

勇者「真っ二つに割れた…!?大丈夫でしたか、村長!お怪我はありませんか!?」

村長「あははっ、平気平気~!…でも、ごめんね~…この呪いをかけた奴は、物凄い力を持っているんだね~。正体を探ろうとしたら、弾かれちゃったよ~。見つける事はできないみたい~」

295 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 20:03:45 uu/4tIXY 232/373

勇者「……そんな」

村長「でもね、一瞬…ちらっとだけ、見えたものがあったよ~」

村長「物凄~く、たくさんの本の中に……ほら、前にここへ来たオジサン…賢者だっけ?彼がいたのが見えたなあ。あはは、ヒントなのかもしれないね~?よくわからないけど~」

勇者「…賢者……?合流する前に、盗賊達と共に行動していたという人物か…?」

村長「手がかりが無い今、彼に会いにいくのもいいかもね~」

村長「…呪いは、もうとっくに最終段階に到達しているよ。今は、この村の癒しと…妖精の回復薬で、無理矢理動いている状態だ。これから一時的に元気になるだろうけど、次に倒れたら、もうそれでおしまい」

勇者「!!!」

村長「回復薬をたくさん持たせてあげる。僧侶ちゃんにも、作り方を教えておいたからね。…時間は、もうとっくに切れているよ。急ぎな?」

勇者「……は…はい…!!ありがとうございました、村長…」

296 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 20:04:30 uu/4tIXY 233/373

・・・

盗賊「……そうか…もう時間が……」

僧侶「勇者様…どうしますか…?魔法使いくんは、ここへ置いていくとか…わ、私達だけで、解呪法を探しにいきますか…?」

勇者「いや……魔法使いは連れていく。無理をさせたくないのもあるが…もし解呪法が見つかった時に、すぐに施してやりたい」

勇者「…それに、これは我儘だし、冷静な判断でないとわかっているが…あの子の傍にいたいから……」

盗賊「それにしても、賢者のクソオヤジか。沢山の本ってなんだ?あいつの家は本の山だったが…家に帰ってんのか?」

僧侶「で、でも…私達、賢者さんが船に乗るのを、しっかり見送りましたよね…?確か、あの船は……隣の大陸行き、だったような…」

勇者「隣の……、…沢山の本…?……もしかして、貿易大国にあった、王立図書館か?そこに彼がいるのだろうか」

盗賊「……行ってみる価値はあるかもしれねえな。すぐに船を手配しようぜ」

297 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 20:05:16 uu/4tIXY 234/373

妖精「砂漠の国までなら、私が移動魔法で送ってあげられるわよ?移動魔法は、一度でも行った事のある場所へしか行けないの。直接送れなくてごめんなさい」

勇者「いや、充分だ!ありがとう、助かるよ」

僧侶「で、では、私はエルフさんから薬と、その材料を、もらってきますね…!」

盗賊「済んだらここに戻ってこい。クソチビの魔法ですぐに移動だ。…勇者、俺達はクソガキを迎えに行くぞ」

勇者「ああ…」

・・・

魔法使い「…あ、勇者様!お兄さんも、おかえりなさい!」

勇者「魔法使い……具合はどうだ?」

魔法使い「それがね、聞いて聞いて!薬のおかげで、すごーく元気になったんだよー!」

勇者「(…元気になっても、次に倒れたら、もう終わり…)」

盗賊「クソガキ。これから俺達は隣の大陸に移動する。テメーも一緒に行くんだ」

魔法使い「え?うん、わかった!すぐ支度するね!」

298 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 20:06:06 uu/4tIXY 235/373

~王立図書館~

魔法使い「妖精さんの移動魔法、すごかったなー。貴重な体験をしたよー!」

勇者「魔法使い。あまり跳び跳ねるな、…その、君は病み上がりなんだから…おとなしくしていなさい」

魔法使い「だって、なんか力が溢れちゃってさー。でも、図書館に入るんだもんね。静かにする」

盗賊「ここにクソオヤジがいるのか…?つーか、…ああ~…苦手だ、この空気……本ばっかりで目がチカチカすらぁ、頭も痛くなってくるぜ」

僧侶「あ、あ、あの……スミマセン…ここに、賢者という男性が、来ていませんか…?私達、彼に会いに来たんですが…」

司書「…賢者さんですか?……ああ、その方なら…当館の一番奥、貸出禁止の書物を収めている、書庫にいらっしゃいますね。鍵を貸した記録がありますから、間違いありません」

司書「書庫に入るのでしたら、そこの本は持ち出さないよう、お願いします。原本ばかりなので、無くされたら困りますから」

299 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 20:06:53 uu/4tIXY 236/373

勇者「ここが司書の言っていた書庫か…。う、これはまた……凄まじい本の数だな…あんなに背の高い本棚なんて、初めて見たぞ」

盗賊「おーい!!クソオヤジー!!いたら返事しやがれー!!!」

魔法使い「ちょ、ちょっと、お兄さん!図書館では静かにしなきゃ!」

僧侶「賢者さーん!賢者さあーん!!いますかー!?賢者さーん!!」

魔法使い「僧侶さんまでー!静かにしなきゃ、怒られちゃうよ!?」

賢者「………んー?なんだいなんだい、うるさいなあ~。館内で騒いじゃいけないよ、………っとおおお!!?」ドカドカドサ!!!

勇者「わっ!?人が、本と一緒に落ちてきたぞ!」

賢者「う…う~ん……た、助けてー……」

僧侶「わああ、賢者さんー!賢者さんが、本の下敷きに~!!い、今、掘り起こしますからあ~!!」バサバサ

盗賊「…ったく、相変わらずだな、このクソオヤジは……」

300 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 20:07:38 uu/4tIXY 237/373

賢者「はあー…死ぬかと思った。…というか、兄ちゃんとお嬢ちゃんじゃないの。どうしたの、こんなところで」

僧侶「賢者さん!賢者さんがヒントなんですよね!?早く!早く教えてください!!」

盗賊「解呪法か、術者だ!!早く教えろ!時間がねーんだよ!!勿体振ってんじゃねーよ、このクソオヤジが!ぶっ飛ばすぞ!?」

賢者「はあああ!?ちょ、ちょっと、オッサンには何がなんだかわからないんだけど!?何、なんの話!?こら、ローブを引っ張らない!伸びちゃうでしょうが!」

勇者「す、すみません!一から説明しますから……こら、落ち着け2人共!彼が困っているだろう!?」

魔法使い「お兄さん、オジサンの首を絞めちゃダメだよー!オジサンの顔が変な色になってるよ、落ち着いてー!!」

司書「館内では静かにしてください!次に騒いだら、追い出しますよ!!」

301 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 20:08:18 uu/4tIXY 238/373

賢者「…成程ね、古代の呪いか……や、申し訳無い。俺も古代魔法には興味あるが、流石にそれを使うとか、解くとかは…できないし、知らないな…」

勇者「そ…そうですか…」

盗賊「だったらなんで占いに出て来やがったんだよ。紛らわしいな、このクソオヤジが」

賢者「それはオッサン自身が聞きたいんだけど?……うーん、それにしても…何か引っ掛かるな。君達の旅の話…どこかで聞いたような……」

賢者「…あ、思い出した。遥か昔にあったという、冒険話だ」ポン

僧侶「冒険話…ですか?」

賢者「うん、実際あった英雄達の話を、物語として面白く描いた小説…みたいなものかな。今困っているのは、古代魔法…呪いなんでしょ?なら、先人の軌跡を辿ってみたらいいんじゃないかなあ」

賢者「ええっと…確かここに……ほら、あった。これがその小説の元となった旅の記録…冒険の書だよ」

盗賊「……難しくて読めねえ。説明しろ、クソオヤジ」

302 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/22 20:09:33 uu/4tIXY 239/373

賢者「うーん、さくっと言えば…先人達は、妖精を助けたあと、人間を苦しめていた悪い竜を退治しにいったんだよ」

賢者「神や魔族、妖精の他に長生きといったら、あとは竜くらいだしねえ。竜が住む山、なんてのもこの近くに現存しているんだ、そこに行ってみたらどうかな」

盗賊「そんな、お伽噺に頼っている場合じゃ…」

魔法使い「でも、今までそのお伽噺に出てくるものに、散々会ったじゃない?長生きした竜は人語も話すっていうし……この助言が、ヒントなんじゃないの?」

僧侶「ど、ど…どうしましょう?勇者様…」

勇者「……魔法使いの言う通りだと私も思う。何より、行き先がまったく見当つかない中での、現れた選択肢だ…行こう。竜の住む山へ」

賢者「…本当に竜がいるとしたら、そのブレスは凶悪だ。皮膚も硬く、剣が通らないなんて話もある。気をつけていきなさいね。竜の住む山の地図があるから、書き写してあげるよ。ちょっと待ってて」

303 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/22 20:10:48 uu/4tIXY 240/373

盗賊「どれどれ……うわ、やたら標高ある山だな…これは今の装備じゃ登れねー、買い出しが必要になるぞ」

僧侶「山の上は寒いでしょうし…防寒具もいりますね……と、盗賊さん、私達はお買い物に、行きましょう?この街なら、必要なものがすぐ、全部揃いますよ、お店、沢山ありましたから……」

魔法使い「僕は竜について調べたいな。予め知っておけば、もし戦う事になっても対策を取りやすいもん」

勇者「なら私は魔法使いを手伝おう。盗賊、僧侶、すまないが買い物は頼んだよ」

賢者「書き写すには少し時間がかかるから、ゆっくりでいいよ~。いってらっしゃい」

盗賊「ゆっくりしていられねーんだっての、クソオヤジが!速攻で書き写せ!!」

賢者「んもー、人使いの荒い兄ちゃんなんだからなあ。…わかった、丁寧に、且つ迅速に書き写すから」

勇者「…すみません…よろしくお願い致します、賢者さん」

306 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/23 01:48:03 MWOLpnJc 241/373

~竜の住処~

僧侶「はあ…はあぁ……け、険しい…岩山ですねえ…はあ……」

盗賊「空気が薄くて、すぐ息切れするな……休み休み行かねェと、体力無くなっちまうぞ…」

勇者「地図によると…もう少し進んだ先に、休憩場がある。そこまで頑張ろう…魔法使い、大丈夫か?疲れていないか?」

魔法使い「うん、大丈夫!みんなも妖精さんがくれた回復薬、飲んだら?それのおかげで、こんなに元気なんだもん、僕」

僧侶「……ううん。薬は、魔法使いくんが飲んで?大丈夫だよ、私達なら…どうしてもっていう時には、もらうから。ね?」

魔法使い「そ、そう?いい薬なのになあ」

盗賊「俺も飲んだ事があるからわかるぜ。…そういやクソアマは、作り方を習ったんだよな?なら、今度作れよ。俺のぶん…」ニヤリ

僧侶「ひいいぃ……ぜぜぜ絶対いやですぅ!!あれを飲んだら、盗賊さんが鬼になっちゃう…」ガタブル

勇者「みんな、休憩場が見えたぞ!」

307 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 01:48:48 MWOLpnJc 242/373

盗賊「はー!はーッ…あー、疲れた……!!やっと休める…!」ドサ

勇者「ふう…この辺りは、…中腹くらい、といったところか…?魔物の数も多いし…厳しい場所だな…」

僧侶「汗をかいても、体が冷えますね…この山、すごく寒い、です……スープを温めましょう、えと……火種、火種」ゴソゴソ

魔法使い「もー、それくらい僕に任せて?……はい、薪木に火をつけたよ!」ボッ

僧侶「あっ。……あ、ありがと、ね?魔法使いくん…」

盗賊「……クソガキ、そいつを甘やかすなよ。火ぃくらい自分でつけさせねーと、すぐグータラすっからな、こいつ」

僧侶「そ!そんなこと、ないですよう!!意地悪なんだから……」

勇者「ははは…。僧侶、私も手伝うよ。腹も満たせるスープにしよう、保存食だけでも上手くやれば、いい味が出せるからな」

僧侶「…勇者様、手際いいんですねえ。お料理得意なんですか?」

308 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 01:49:32 MWOLpnJc 243/373

魔法使い「勇者様は、料理作るの大好きなんだよ~。作るものなんでも美味しいもん、僕、勇者様のご飯大好きなんだー」

盗賊「へえ。宝物庫じゃ俺が飯を作っちまったし、それ以外は店で食うか出されるか、だったもんな。得意ってんなら早く言えよ、サボれたのに」

勇者「サボると聞いたら、言わない方が良かったと思ってしまうんだが?」

魔法使い「僕も料理できるようになった方がいいかなあ」

僧侶「わ、わ、私も、もっと上手に、なりたいです!勇者様、私にお料理、教えてくれませんか?」

盗賊「おうおう、テメーら全員習っとけ。俺は出来た料理を食べる係な」

魔法使い「お兄さんのおなかをいっぱいにするだけの料理……どれくらい作ったらいいんだろうね?」

勇者「牛一頭平気で食べてしまいそうな勢いだもんな。…さあみんな、スープが温まったよ。火傷しないよう、ゆっくり飲んで」

309 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 01:50:18 MWOLpnJc 244/373

僧侶「……ふう…暖まりますねえ……ホッとしますぅ~」

魔法使い「あちち、あち……」フーフー

盗賊「つーか、この調子じゃあ今日はここで一泊した方がいいかもしれねえな。思っていた以上に体力を削られる、無理しても余計なもんを招く感じだぜ」

勇者「…そうだな…怪我をしたり、山から落ちても事だ…もしも竜がいたとして、好戦的であったらと考えると…、…ここで休むのが得策か」

僧侶「なら、もう少ししたら、ちゃんとしたご飯を作りましょうか……」

勇者「よし。ならば此処にテントを張ろう」

魔法使い「勇者様!僕も手伝うよー!」

勇者「いや、魔法使い、君は休んでいなさい」

盗賊「……手伝わせてやれ。やりてェって事は、どんどんやらせるべきだ。悔いのないようにな」

勇者「………」

勇者「……わかった…じゃあ、手伝ってくれるか?魔法使い」

魔法使い「うんっ!任せて!」

310 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 01:51:05 MWOLpnJc 245/373

~翌日~

魔法使い「はあ、はあ…ふう……、…うわ…これ、もう山道じゃないよ、壁みたい~…」

盗賊「だが登れなくもないようだ、形跡が残っている。杭を打ってロープを垂らそう。俺が先に行く、テメーらはそこで待っていろ」

僧侶「足を滑らせないよう、気をつけてくださいね…!」

盗賊「……よーし、一人ずつ来い、俺に掴まれ。まず先に、クソガキ。お前からだ」

勇者「私は一番最後でいい、僧侶、君は魔法使いの後に続きなさい」

僧侶「は、はい、勇者様!……こここ怖いけど…頑張らなきゃ…」ブルブル

魔法使い「お、お兄さん!離さないでね!!絶対手を離さないでね!?」

盗賊「そう念を押されると、逆に離したくなってくるわ。……っと。よし、クソガキは登れた。次!クソアマ、来い」

僧侶「ひいい……も、も、もう…どっからでも、かかってこいですうぅ!!」

勇者「落ちても私が受け止めてあげるから、頑張って!」

311 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 01:51:50 MWOLpnJc 246/373

僧侶「あああぁ…の、登れたぁ…こ、怖かった~…」

魔法使い「頑張ったね、僧侶さん!偉い偉い」ナデナデ

盗賊「よし、最後はテメーだ、勇者。慎重に来いよ」

勇者「…大丈夫、足場がしっかりしているから、登りやす………うわ!!?」ガラッ!!

僧侶「きゃあ!勇者様ぁっ!!」

勇者「………!! ……あ、あれ、…落ちていない……?」

盗賊「…だから言ったろ、慎重に来いって。油断すんじゃねーよ、バカ」

勇者「!!!?」

魔法使い「よ、良かったー!お兄さんが勇者様を掴んでくれたから、落ちなくて済んだ…」ホッ

僧侶「岩で擦りむいたりしてませんか!?勇者様!」

勇者「あ、ああ。大丈夫だ……」

盗賊「このまま登っちまうからよ、テメーはそっちの杭に足を掛けて体を支えていろ。まずロープを巻きつけて……」グイッ

勇者「(み…密着しすぎて…いや、こんな状況だ、仕方ないんだ、…くそ、油断した私は本当にバカだ!)」

312 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 01:52:35 MWOLpnJc 247/373

盗賊「……この吊り橋を渡った先が、頂上のようだな」

僧侶「つつつ吊り橋!?べ、べ、別に、こわ怖くなんかないですけどね!!宝物庫の、見えない床のが、もっとずっと怖かっ………ひいいぃぃ~っ!!た、高いよー!怖いよー!!」

魔法使い「か、風が強いなあ…吊り橋が揺れる……うわあ!?」バキャァ!!

盗賊「危ねっ!!……板が腐っている部分があるぞ、気をつけろよテメーら!」ガシッ

魔法使い「うわああ、こ、怖かった~…!あっありがとう、お兄さん!もう、無理無理ー!!こ、こんな高いところから落ちるとか、絶対嫌だあ……早く渡りきりたいよー!」

勇者「だが、吊り橋があるという事は、誰かがここまで来たという証拠だな…先人達、か……ここに来る目的…。今度こそ…!!」

僧侶「…わ、わ、…渡れたー!!あああ、私、私…もう、むしろ怖すぎて、高いところ、へっちゃらになれた気がしますよう~っ!!」

313 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 01:53:28 MWOLpnJc 248/373

「………なんだ、喧しいのう…。目が覚めてしまったではないか……」

魔法使い「はあ、はあ、は……、……え?誰?今の声、―― !!?!?うわああああっ!!」

盗賊「な、な、なっ」

勇者「で…でかい……!!まるで、もうひとつ山があるような…」

僧侶「あ……あ、貴方が……竜、なんですか…?」


魔竜「…ワシを訪ねて来たのではないのか?だとしたら、酔狂なものだの。こんな、何もない岩山に、わざわざ登りに来るとは…」

魔竜「如何にも。ワシの名は、竜……魔竜だ。人間がここまで来るとは、どれくらいぶりかの。ふむ……昨日から漂ってきた、旨そうな匂いは、お前達だったのか」

勇者「う…旨そう、って。食べる気か?私達を」

盗賊「……体の至るところに剣を打たれて、岩に縫い付けられている奴が、随分大きく出やがる。実際でかいんだけどよ。…つーか…剣、で?」

314 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 01:54:17 MWOLpnJc 249/373

魔竜「バカも休み休み言え。魔獣ではあるまいし…ワシは人間など、不味い匂いのものは食わん。お前達、この山で食事を取ったろう?その匂いが、ここまで漂ってきたわ」

魔竜「とくに……そこの坊主。お前からいい匂いがするのう…その法衣のポケットに入れているものは、なんだ?」

魔法使い「えっ!?ぼ、僕!?……あ、おやつに買ってもらった、チョコレートの残り、だけど」

魔竜「チョコレート……甘いものか!!…すまん、ワシは甘いものに目が無くての……良ければ、食わせてくれんか?そのチョコレートを」

魔法使い「ええええ!!?……ち、ち、近づいて、大丈夫…かな……?たたた食べられたりしないかな!?」

僧侶「竜って、甘いものが、好きなんですか?…し、知らなかった、です」

魔竜「怖ければ、そこから投げてくれていい。口で受け止める、……さあ、早く食わせてくれ、チョコレートを!!」

315 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/23 01:55:06 MWOLpnJc 250/373

盗賊「テメーの図体からして、チョコの残りとか…砂粒サイズじゃねーか。いいのか、それで」

魔法使い「ぼ…僕達を食べないなら、いいよ。あげる。……えいやっ」ポイ!

魔竜「ふむ」パク

魔竜「………う~む……まったりと口に広がる、この甘さ…ハアーッ、たまらんのォォ~」

ゴオオォォ!!

僧侶「きゃああああ!!?ぶっブレス!?ブレス攻撃ですか!?」

魔竜「あ、すまん。ついうっとりと溜息を吐いてしもうた」

勇者「溜息!?今のが溜息!?凄まじい風のようだったぞ!」

盗賊「テメー、溜息禁止にしろ!こんな切り立った場所で、洒落にならねーよ、吹っ飛ばされる!!」

魔竜「しかし、物足りんの。坊主、他には持っておらんのか。甘いもの」

魔法使い「え、えっと、鞄の中に、クッキーもあるけど……」

盗賊「ダメだダメだダメだ!!また溜息吐かれたら今度こそヤバいっつうの、甘味も禁止だ!!」

318 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/23 12:57:28 MWOLpnJc 251/373

魔竜「ぬう……そうか、禁止か…」ションボリ

僧侶「あああ…ガッカリ項垂れちゃいましたよ、……な、なんか…可愛い方なんですね…?」

勇者「イメージが音を立てて崩れていくな…。……こほん。…すみません、魔竜殿。貴方は神族や妖精達と同じく、長寿であるとお聞きしました。私達は今、古代の呪いによって、苦しめられております。解呪法をご存知ありませんか?」

魔竜「…古代の呪い?」

魔法使い「あの…僕が、そうなんです。誰かに呪いをかけられたみたいで…体にも、こんな呪傷が出てきて…解呪法か、この呪いをかけた人を、知りたいんです」

魔竜「それは…!!……そうか、…お前達が……。…やれやれ、ワシも耄碌したものだ…この場に長く縫い付けられておったからの……」

魔竜「…ワシは…その呪いをかけた者を知っておる。…完全な解呪は無理だが、呪いの力を消す物の存在を知っておる」

319 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 12:58:21 MWOLpnJc 252/373

勇者「ほ…本当ですか!?是非、是非、教えて頂けませんか!?」

盗賊「教えてくれたら甘いものをやるぞ!足りないなら、山を降りて買いに行ってやってもいいぜ!?だから教えてくれ!!」

魔竜「甘いもの!!!」ダパー

僧侶「わあ、涎がまるで滝のようです…」

魔法使い「いちいちスケールがでかいね、魔竜さん…」

魔竜「う~む……だが、しかし…いや、………もう、良いか。ワシはもう、充分に生きた…甘いものも食べられたしの…」

魔竜「…良かろう。話してやるぞ、人間達よ」

魔竜「その前に、改めて自己紹介をしよう。…ワシの名は魔竜。―― 魔王に仕えし四天王が一人……いや、ワシの場合は一竜、一頭…かの」

勇者「………!?」

僧侶「ま……魔王…!?四天王!?あ…貴方が……」

魔法使い「………こんな、強大な……それを操る魔王って、どれだけ凄いんだろう…」

盗賊「………」

320 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 12:59:17 MWOLpnJc 253/373

魔竜「…そう身構えなくて良い。ワシはもう敵対する気も、戦う気もない。見ろ、ワシの情けない姿を。びくとも動けぬわ」

魔竜「そもそも、ワシは元から戦う気などなかった……魔王に大事なものを奪われてしまったからの、仕方無く仕えていただけよ」フー…

勇者「大事なもの…?あの、溜息は控えて頂けると、有り難いのですが…」

魔竜「まあ、そのような理由と、昔、人間に勝ちを譲った事もバレての。魔王の怒りを買い、ここに縫い付けられてしまったのよ」

僧侶「……魔竜さん…一体、どのくらいの、時間を…ここで過ごしたのですか……ずっと、一人で…?」

魔竜「さてのう。ワシは数を数える趣味はないのでな、わからん。寂しくはなかったよ、ワシの趣味は眠る事だからの」

魔竜「…坊主。お前に呪いをかけた者、その呪法を使える者……それは、魔王だ」

魔法使い「えっ!!?魔王が!?なんで、僕に……!?」

321 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 13:00:06 MWOLpnJc 254/373

魔竜「何故かはワシの口から言えん。今の魔王は昔より寛大になったとはいえ…ある事に触れては、途端に始末されるからの…すまん」

魔竜「その呪いを解くには魔王を倒すか……もしくは、白の宝玉を手に入れれば、呪いの力を消せる」

盗賊「…宝玉?青や赤の宝玉と、同じものか……?」

僧侶「………」

魔竜「…遥か昔、魔王と対決した英雄達。彼らの魂が封印されている、4つの宝玉…そのうちのひとつ、白の宝玉は邪気を中和し癒す力を持つ」

魔竜「そう、白の宝玉ならば、例え魔王の呪いでも、癒す事ができるのだ。呪いの根っ子は残ってしまうだろうが…削られた生命も体力も、全て補い回復してくれるだろう」

勇者「その、白の宝玉とは!どこにあるのですか!?」

魔竜「……ワシが持っておったよ。魔王から守りたくての。しかし、すまん。奪われてしまったのだ、……あの、キツネめ…」

僧侶「キツネ……?」

322 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 13:00:52 MWOLpnJc 255/373

魔竜「キツネ……四天王が一人、魔精。妖精でありながら、仲間を捨てて自ら魔王に魂を売った、愚か者よ。あいつの考える事はさっぱりわからん」

魔竜「奴は青の宝玉を守るよう、魔王から命じられていた筈なのに、それを放置して…ワシから白の宝玉を奪っていった。思うに、その呪いの対抗策であったから…だろうのう」

魔竜「…ワシはどうしても、白の宝玉を守りたい。だが、お前達が必要とするならば、……お前達ならば、宝玉を譲ろう。ワシの代わりに、魔精を倒してくれ。白の宝玉を取り返してくれんか」

魔竜「魔精の奴は、幻惑や魅了魔法をもっとも得意とする。…ワシの尻尾から、一枚、鱗を剥がしていけ。魔精の使う魔法を弾けるからの」

魔法使い「鱗を……い、痛くないの?剥がしても…」

魔竜「人間のお前達で表すなら、髪を一本抜く程度の事よ、ワシにとってはな」

魔竜「…ワシは、早く白の宝玉を休ませてやりたいのだ…宜しく頼む、人間達よ」

323 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 13:01:41 MWOLpnJc 256/373

盗賊「鱗もやたらデケーな……ちょっとした盾だぜ、こりゃあ。なるべく小さめの、持ち運びやすいの……よし、剥がすぞ?」ベリッ

魔竜「うむ。その鱗に念じれば、直ちにこの場所へ戻って来られる。良かったら、宝玉を取り返した時…ワシにも見せてくれぬか」

魔竜「魔精の奴は今、貿易大国……カジノ街の大劇場に居る。奴の匂いはここまでプンプンと漂ってくるでの。人の姿に化けておるが、ワシの鱗を持っていれば、その術も破れる」

盗賊「便利な鱗だな。青の宝玉も時たま幻惑魔法とか消してくれるが、働かねー時があるしよー」

魔竜「ワシの鱗はレアだぞ、本当ならば大量の菓子と引き換えだ、と言いたいわ」

勇者「ふふ……いいですよ、良くして頂いた礼に、事が済んだらお菓子を持って、ここに来ますから」

勇者「魔王に仕えていたと聞いても……何故か、貴方は純粋で…綺麗なものが見える気がしてならないですし…信じて良さそうだ」

324 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 13:02:21 MWOLpnJc 257/373

魔竜「…時が来れば、その理由もわかるだろうて。だが、今は魔精の事だけを考えろ」

勇者「…はい。ありがとうございます、魔竜殿」

魔竜「麓まで戻るのは大変だろう、ワシのブレスで送ってやる。皆、ひとつに固まっておれ」スウウゥー

盗賊「!? ちょっ、待て!!ブレスでって……吹き飛ばす気か!?やめろ!死ぬ!この高さからとか死ぬわ!!」

僧侶「えっ、えっえっ、ちょっと待って!待ってください、心の準備が!!」

魔法使い「いいよ、大丈夫だよ!僕達、歩いて降りていけるから!!ブレスはやめてーっ!!」

勇者「溜息であれだけの突風だったのに、ブレスとなったら、どれだけの……!」

魔竜「オオオオオ!!!」カッ!!

ゴオウウゥゥッッ!!!

魔竜「……ぷふーっ………頼んだぞ、人間達よ。……転生したお前達ならば、やり遂げられる…」

325 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 13:03:07 MWOLpnJc 258/373

ブワアァァッッ

僧侶「ぎゃああああああ!!あああもう駄目!もう駄目~!!かっ神様ぁぁー!!!今そちらに参りますうぅ!!」

盗賊「クソアマ!!……あっのクソトカゲ、やめろっつったのに!ふざけんなああー!!」ギュッ

魔法使い「うわあああ!!!……あ、あ、………あれ?ちょっと待って…僕達、空を飛んでない…?落ちていくって感じじゃないんだけど…」

勇者「…勢いがどんどん失せて……まるで綿毛に包まれているような柔らかさを感じるな。これなら、地上に無事降りられそうだ…」

フワアッ…

魔法使い「わ……、…生きてる…い、生きてるよー僕達!!山のてっぺんから吹き飛ばされたのに!竜のブレスってすごーい!!」

僧侶「ひっ、ひ、ひっ」ガクガクギュウ

盗賊「寿命はマッハで縮んだがな……こういう事なら先に説明しろ、クソトカゲが!!菓子に辛子混ぜてやろうか、バッキャロー!!!」

326 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 13:03:52 MWOLpnJc 259/373

魔法使い「……でも、ちょっと楽しかったかも!気球も使わず空を飛べたんだもん、鳥になったみたいだったよー!」

盗賊「はあ!?正気かお前!?……ったく、ガキは無邪気でいいよな…俺は金輪際ごめんだ、死ぬかと思った」

僧侶「あうあう、あああ……、…はっ!?あ、あれ、死んでない…生きている……。……ぎゃああっごごごごめんなさい、盗賊さん!!しっしがみついてたとか……あわわわわ!!」バッ

盗賊「…ふん。ビビって漏らしてなきゃいいけどよ?おい、クソガキ。俺の服、汚れてねーか?」

僧侶「漏らすとか!すごい怖かったけど、そんな事するわけないじゃないですか!バカ!!バカー!!」

勇者「………」

勇者「…とにかく。魔精を倒しに行こう、白の宝玉を取り返すんだ。それがあれば…魔法使いは助かる!行くぞ、みんな。貿易大国へ戻ろう!」

魔法使い「……魔王の配下…四天王か、……魔竜さんみたいに大きいのかな…」

327 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 13:04:39 MWOLpnJc 260/373

~貿易大国・カジノ街~

盗賊「………どういう事だ、こりゃあ…前に来たときは、スゲー騒がしかったのに。ネオンも全て消えている…」

勇者「……街中全ての人間を昏睡魔法で眠らせたな。この手口、知っているぞ。……やはり、貴様なんだな…魔精というのは…」ギリッ

僧侶「…魔法使いくん。戦いの前に、お薬の時間だよ。回復薬飲んでおこう?ね?」

魔法使い「え、大丈夫だよ。まだまだ元気だもん、今はそんな場合じゃ……」

僧侶「ダメだよ、これからいっぱい大変な事になるだろうから、力をつけなきゃ。お薬はちゃんと飲まなきゃダメ。……はい、飲んで」

盗賊「…勇者。クソアマがさっき言っていたぜ、……あの薬で、最後だ。もう材料も尽きた」

勇者「…ああ……しかし、終わるのは薬だけじゃない。魔法使いの苦しみも、今日、ここで終わる。彼は助かる、私が助ける!!魔精……奴を倒すッ!!」

334 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/23 19:47:48 MWOLpnJc 261/373

~大劇場・中央ホール~

勇者「本当に大きな劇場だな、椅子もどれ程の数があるのか…三階まであるなんて」

魔法使い「ここでお芝居を見たら、すごく楽しそう。戦いじゃなくて、そっちの目的で来たかったな」

僧侶「……勇者様、魔竜さんから頂いた鱗が…なんだか、光っています…」

勇者「…近くにいるんだ、奴が。―― 出てこい!!姿を現せ、魔精!!」

―― ピカッ!!

「ハーッハッハッハー!!スポットライト、オンンッッ!!」

僧侶「!?!!?!??」

魔法使い「あ……貴方は!!」

盗賊「…知り合いか?なんだ、あの変態野郎。一人舞台で飛び跳ねてんぞ」

スーパースター「ハッハッハ!!ハーッハッハッハー!!美しい私を美しく照らすスポットライト!!美しく目立つ大舞台!!テンションが上がるねえぇ、さあ!美しい私を見るんだ!!美しい私を見てくれええっっ!ハーッハッハッハー!!」

335 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 19:48:42 MWOLpnJc 262/373

魔法使い「あの人は…僕達に付きまとってきた、変な人だよ。暫く姿を見なかったけど、ここにいたんだ…」

魔法使い「貴方が…貴方が、魔精なの?スターさん!!」

スーパースター「ハッハッハ、美しい私はスキャンダルを避けたくてね。巻き込まれない為にも、色んな姿を持っているのだよ。私のメイクテクは、君達もよく知っているだろう?」

スーパースター「そう……ある時は、大聖堂の街、酒場の男B!!ある時は、美しいこの私、スーパースター!!そしてェ!!またある時は!」

スーパースター「ふふ……この仮面に見覚えはあるだろう?」スッ

勇者「!!!……貴方が…!」

魔法使い「その、仮面……僕達や、みんなを襲った、仮面男の……」

スーパースター「美しい私は様々な美しい姿を持つ!!その中のひとつが、魔王が配下、四天王の一人!魔精!ただそれだけの事だ、ハッハッハ!ハーッハッハッハー!!」

336 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 19:49:29 MWOLpnJc 263/373

スーパースター「美しい私の美しい舞台演出は如何だったかな?ハッハッハ、楽しんで頂けたかい?…さあ!ラストダンスを始めようじゃないかー!」

勇者「!! 来るか!?」

スーパースター「若者達!私に続け!!踊りたまえ、両手を挙げて!足を踏み鳴らして!!」

僧侶「…え?えっ、えっ?」

スーパースター「さあ!ご一緒に!!ワーイ!」

魔法使い「わ、ワーイ?」

スーパースター「エムッ!!」

僧侶「え…エム?」

スーパースター「シーッッ!!」

魔法使い・僧侶「シー!!」

スーパースター「エ  盗賊「何やってんだテメーらは!!」ゴスッ!!

勇者「………よし!」グッ

盗賊「よし!じゃねーよ!!なんなんだこいつは、クソガキにクソアマもだ、つられて踊ってんじゃねーよ!バカ共が!!」

スーパースター「ふふふ……見たかね、私のダンスの威力を…」ドクドク

盗賊「鼻血スゲーぞテメー」

337 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 19:50:47 MWOLpnJc 264/373

スーパースター「ハッハッハ!私は戦いが苦手でねェ。できる事といったら、この美しい肉体を披露するだけなのさ!」

勇者「…ふざけるのも、もう終わりだ。魔法使いにかけた呪いの効果を断つため…貴方が持っているという、白の宝玉を渡してもらおう」

スーパースター「ハッハッハ、白の宝玉、ねえ……これの事かい?」スッ

僧侶「…やっぱり……私達が持っている、赤と青の宝玉と、同じ……」

スーパースター「ハッハッハ!これには、かつて私達や魔王を追い詰めた英雄の一人……シスターの魂が封じられているのさ」

スーパースター「シスターは、まるで女神が地上に降りてきたと言われる程……美しく、優しく、清らかで。全てのものを癒していったさあ」

スーパースター「そう、あの魔竜すらも、ね…元々、不本意ながら魔王に従っていた魔竜は、シスターに癒される事で、反旗を翻す意思を持ったのだよ」

338 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 19:51:36 MWOLpnJc 265/373

スーパースター「シスターの意識は消滅している。宝玉はただひたすらに周囲のものを癒すだけ…半永久的にね。その癒しの力は凄まじい、どんな傷も、呪いすらも、たちまち癒してしまう」

スーパースター「欲しいかね?この白の宝玉が」

勇者「その為に、ここまで来たんだ!それがあれば魔法使いの呪いを癒せる、彼を救える!!だから、その宝玉を……」

スーパースター「じゃ、あげよう」ポイッ

僧侶「……えっ?」

盗賊「な…、はあ?おい、こういう流れは普通、欲しかったら私を倒せー、とか、そういうもんじゃねーの?肩透かしがすぎるぞ!?」

スーパースター「ハッハッハ!美しい私の話を聞いていなかったのかい、凛々しい青年くん!美しい私は戦いが苦手なのだよ、美しくね!弱っちいんだ、スライム以下なのさあ!うん、チビりそうなくらいビビってる」

勇者「……相変わらず、何を考えているのかわからない、疲れる…不気味な男だな、貴方は」

339 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 19:52:28 MWOLpnJc 266/373

魔法使い「……本当だ…この宝玉を持っているだけで、呪傷が消えていく……重くのし掛かっていたものが、なくなっていく」シュウウウ…

勇者「良かった……本当に、良かった!魔法使い…!!」ギュウッ

盗賊「マジで戦う意思はないんだな?四天王とやらなのに、これも罠とかじゃねーんだな?」

スーパースター「ハッハッハ!勿論だよ!だからその、私の喉元に短剣をあてがうのをやめてくれたまえ、美しくも縮み上がって中に引っ込んでいくよ、もう一人の美しい私が」

スーパースター「私は、もう目的を達成したからねえ。美しい私よりも美しい、あの森を…美しい彼女にもう一度、見せてやれたのだから。もう何もする気はない。少し…疲れた」

スーパースター「だから、その宝玉は君達へのご褒美といったところかな。ハッハッハ!言ったろう?私は救世主!みんなのアイドル!スーパースターさ!」

勇者「いえ、貴方は変態です。…普通に頼んでくれたら良かったのに」

340 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 19:53:12 MWOLpnJc 267/373

スーパースター「ハッハッハ、常識で考えたまえよ!できるわけないじゃないか、私は魔王の配下だぞ?」

スーパースター「それに、人間は嫌いなんだ。君達は私の手駒にすぎない。本当によく働いてくれたものだ。神託の共鳴を封じても合流を果たし、滅びの運命を覆して」

勇者「貴方が常識を語るか、…いや、共鳴を封じていただと?」

僧侶「…あの…、赤の宝玉…魔導師さんが、言っていました。私達は抜け殻が転生した、って。私の過去は、魔導師さん…盗賊さんは、聖騎士さん…なら、…シスターさんも…?」

スーパースター「勿論さ、可愛らしいお嬢さん!力を奪われても英雄達は転生したよ。だがシスターだけは、」ヒュッ

勇者「…え?」

ズドッ!! ドスドスドス!!

魔法使い「うわああっ!?」

盗賊「なっ、……剣…!?どこから飛んできた!?一瞬で串刺しに…」

僧侶「あああっ…!!だ、大丈夫ですか、スーパースターさん!!い、今、回復をっ…!」

341 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 19:53:59 MWOLpnJc 268/373

スーパースター「回復は必要ない。…お喋りが過ぎたというところだね。魔王がお怒りだ。魔竜を縫い付けたものじゃない、本気で殺しに来た程……怒らせてしまったねえ、逆鱗に触れたというやつか」

魔法使い「スターさん!スターさんっ!!」

スーパースター「しかしこの姿も美しいだろう?…なあ、君達。どうだったね?私の脚本、演出は。楽しんでくれたかな?」

勇者「何を…あ、貴方が、いらない事をしなければ…ただ、頼んでくれれば、こんな事には……まだ聞きたい事が沢山あるのに…!」

スーパースター「ふうむ。楽しくなかったかね、私もまだまだだな」

魔法使い「………」

魔法使い「…スターさんは…すごく変だったし、困る事ばかりして……みんな、嫌な思いをたくさんした。呪いも、辛かったな」

魔法使い「……でも、僕は………ちょっとだけ。ちょっとだけ、楽しかった。スターさんが好きだったよ。ジャグリング、教えてほしかった」

342 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/23 19:54:52 MWOLpnJc 269/373

勇者「…魔法使い…!」

スーパースター「フフ…ハーッハッハッハー!!!」

スーパースター「いいだろう、健気な少年くん!受け取ったよ、君のアンコールを!見たまえ、この美しい私の姿を!!」

僧侶「だっ、ダメです!立ち上がっては、剣を抜いては……、っ!……盗賊さん…?」

盗賊「…いいから、やらせてやれ」

スーパースター「ハッハッハ!今宵は特別だ!ジャグリングに加えて、これぞ剣の舞といったところかな?ハーッハッハッハー!!」

魔法使い「……すごい…すごいよ、スターさん。血を吹き出しながら踊ってる……あはは、…出会った時も、そうだったよね…」

勇者「………」

スーパースター「ハーッハッハッハー!!!」ゴウゥッ

僧侶「……スーパースターさんから炎が…!!これが…魔王の、力なの……?」

盗賊「……この踊り、知っているぞ…エルフの村で見た、妖精のダンスだ…」

343 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/23 19:55:44 MWOLpnJc 270/373

―― バサアアァッ!!

勇者「…剣ごと、灰になって…散ったか……」

魔法使い「………」パチパチパチ

勇者「…魔法使い?拍手を……」

盗賊「………」パチパチパチ

僧侶「…とても、す、…素敵な……ダンスでしたよ…」パチパチパチ

勇者「………」

勇者「…こんな道を、貴方に歩かせてしまったのは、……私達人間なんだろうな…」

勇者「………」

勇者「………」パチパチパチ

魔法使い「…僕、貴方と友達になりたかったかもしれない。そしたら、きっと、もっとずっと、楽しかったと思うな」

魔法使い「さようなら、スターさん。……次は仲直りして、…また遊ぼうね。約束」


盗賊「…何はともあれ、クソガキの呪いも一段落ついたんだ……休もうぜ。ドッと疲れが出てきちまったよ」

勇者「……そうだな。ここまでずっと走り通しだった…少し、ゆっくり休もう…」

350 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/24 01:14:39 DPoCAeZA 271/373

~貿易大国・宿屋~

賢者「それでは、魔法使いくんの回復を祝って!カンパーイ!!」

盗賊「乾杯ー……って、何をしれっと混ざってんだ、クソオヤジ。お前今回何もしてねーだろ」

賢者「したじゃん!?助言したし地図書いたし!いいだろ、タダ酒ほど旨いものはないよーオッサンも仲間に入ーれーてー」

魔法使い「ふふっ、でも、賢者さんに助けられたのは本当だもんね。ありがとうございました、賢者さん!」

僧侶「皆さん、台所をお借りして、勇者様と私で、ご飯作ってきましたよう~。たくさん食べてくださいね!」

魔法使い「やったー!おなかぺこぺこだったんだ、いただきまーす!」

勇者「良かった、食欲も出てきたようで…白の宝玉の力は本物だったんだな、安心したよ」

僧侶「勇者様に聞いて、魔法使いくんの好きなものばかり作ったからね!いっぱい食べて?」

盗賊「旨い旨い旨い飯旨い」ガツガツムシャムシャ

351 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 01:15:35 DPoCAeZA 272/373

賢者「…うん、旨いっ!店出せるんじゃないの?2人共。やー、いいお嫁さんになれるねえ」

勇者「はは、それは褒めすぎではありませんか?ですが、ありがとうございます。嬉しいです」

僧侶「本当においしいですよう、勇者様のお料理!なんというか…すごくホッとするんですよね、料理のあたたかさだけじゃない……真心こもった愛情料理って感じです!癒されます~」

勇者「僧侶まで…やめてくれ、恥ずかしいよ…でも、喜んでもらえて良かった。僧侶の料理もとても美味しいよ、作り方をもっと詳しく教えてほしいな、メモしたい」

魔法使い「ね、勇者様の料理、美味しいでしょ?お兄さん!僧侶さんの料理も僕大好きー、僧侶さん、おかわりちょうだい!」

盗賊「ああ。なかなかイケるんじゃねー?クソオヤジの言う事は合ってると思うぜ」モグモグ

勇者「!!! …そ、そ、そうか……あ、ありがとう……」

352 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 01:16:20 DPoCAeZA 273/373

・・・

勇者「ふう…いい湯だった」

賢者「おー、湯上がり美人は最高だねぇ、まったく!色っぽいよ、勇者ちゃん」

勇者「またそんな事を言って。…2人とも、何をしているんだ?」

魔法使い「今ね、賢者さんに魔法学を教えてもらってたんだー。賢者さん、すごいんだよ!?物識りで頭良くて、難しい問題全部解いちゃうの。わかりやすく教えてくれるから、すっごい楽しい!」

賢者「ははは、魔法使いくんの飲み込み早さはビックリだけどなー。よし、勉強はここまでだ!風呂に入って、疲れた頭をリフレッシュしよう」

魔法使い「僕、賢者さんと一緒に入る!大浴場まで競争しようよ!」

勇者「ふふ、すっかり賢者さんに懐いてしまったな、魔法使いったら」

賢者「やー、オッサンも可愛い息子が出来たみたいでとても嬉しいよ。よーし、競争しような!オッサンはまだまだ若い子に負けないぞ~?」

353 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 01:17:04 DPoCAeZA 274/373

勇者「そんなに走って、転ぶなよ?魔法使い!」

勇者「……魔法使いは両親の事を知らないからな…賢者さんに会えて良かったかも。父親のぬくもりを教えてくれるのは有り難い」

勇者「…テラスにでも出て、涼むとするか……」スタスタ

ガチャッ

勇者「はぁ…涼し、………っ」

勇者「(…あれは、僧侶と盗賊……!)」サッ

勇者「(………あれ?なんで隠れてしまうんだ?私……)」

勇者「(………)」


盗賊「…あー……酒が旨ェ。暫く飲む機会無かったからなあ…しみるわー」

僧侶「もう…飲みすぎですよ、盗賊さん…。明日に響きますよ?また二日酔いになったら、どうするんですか~…」

盗賊「その時ゃテメーが薬もらって来い。いいだろ、今日は祝いの日なんだしよ?これくらい……ヒック」

僧侶「ダメです、あとで苦しむのは、盗賊さんですからね?その一杯で最後です。大体、ここにも酔い醒ましで来たのに…」

354 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 01:17:48 DPoCAeZA 275/373

勇者「(………)」

盗賊「ふー……しかし、何度見てもスゲーな、カジノ街のネオンはよ。眠らされていた奴らが目覚めて良かったぜ、消しとくもんじゃねーわ、この輝き」

僧侶「夜空は星の輝きがいっぱい、街はネオンの輝きがいっぱい…キラキラして、眩しいくらいですね…すごく綺麗…」

盗賊「またカジノ行きてーなー、砂漠の国からもらった金をコインに代えてさ。あー、豪遊してえー」

僧侶「…折角雰囲気に浸っているのに、そういう事を言う~」

盗賊「ケッ。この俺が雰囲気だなんだ、守ると思うか?」

僧侶「…全然思いませんっ」

盗賊「よーしよし、よくわかってんじゃねーか。褒美に酒をもう一杯作っていいぞ」ナデナデ

勇者「(………!)」ズキン

僧侶「どんなご褒美ですか、それ~…盗賊さんへのご褒美ですよね…?頭撫でてくれても、お酒はもうダメです!」

盗賊「チッ。もう少し飲みてーのによォ…」

355 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 01:18:32 DPoCAeZA 276/373

勇者「(……なんだろう……すごく、胸が痛い…モヤモヤする。なんだ、これ)」

勇者「(…あんな風に、笑ったりも……するんだな…)」


僧侶「大体盗賊さんは……、…あれ?…勇者様!どうしたんですか?そんなところで」

勇者「………!」ビクッ

盗賊「なんだ、いるなら声くらいかけろよ。テメーもこっちに来い、飲み比べしようぜ」

僧侶「だから、お酒はもうおしまいです!勇者様もなんとか言ってやってください~、全然言うこと聞かないんだからー…」

勇者「あ……ああ…」

盗賊「お前、勇者の飲みっぷり見てなかったのか?ありゃ凄かったわ、顔色ひとつ変えず水みてーにガブガブ飲んでよ。男勝りっつーか顔負けっつーか…女と思えないレベルだった」

勇者「!!!」

僧侶「デリカシーないんだから……気にしなくていいですよ、勇者様。こんな酔っ払いの言うこと!」

勇者「…う…うん……」

356 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 01:19:43 DPoCAeZA 277/373

~深夜~

僧侶「……すー…すー……」

勇者「(…眠れない)」

勇者「(…魔法使いは、賢者さんや盗賊と一緒に、男部屋で寝ているし……僧侶とはベッドが別)」

勇者「(……なんだか、寂しいな)」

勇者「……水でも飲むか………」ムクッ

僧侶「……ううん…」モゾモゾ

勇者「(っ、と……ここじゃ、物音を立てたら起こしてしまいそうだ…ラウンジに降りよう…)」

勇者「(…起こさないように、……そーっと、そーっと……)」

僧侶「……むにゃむにゃ…」

・・・

勇者「…誰もいない…当たり前か、深夜だもんな」

盗賊「……あ?なんだ、テメーかよ。お前もよくフラフラしてんなー、イノシシから転職か?」

勇者「!? 盗賊…君こそ、こんな時間に…何をやっているんだ」

盗賊「どうしても飲み足りねーから、酒追加。クソアマには黙ってろよ?うるせーからよ、あいつ」

357 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 01:20:30 DPoCAeZA 278/373

勇者「そ、そうか…しかし、彼女は君の事を心配して……」

盗賊「はいはい、テメーもうるせーな。説教なんざいいから、お前も飲めよ。どうせ眠れないから降りて来たんだろ?なら、付き合え」

勇者「そうやって共犯に仕立てるつもりか。…まあいい、眠れないのは確かだ。頂こう」

盗賊「よっしゃ。お堅いだけじゃねーんだな、お前。ま、一杯飲めば眠気も来る……かどうかはわからねーか、お前の場合。酒豪だもんなあ」ニッ

勇者「(…笑った!)」ドキッ

勇者「(…魔法使いは、両親のぬくもりを知らない……なら、私は………)」

勇者「(……私が…知らないことは…)」

勇者「(……いやいや。いやいやいや!何を不真面目な事を。両親がいないのは私もそうだろう!馬鹿馬鹿しい!!)」ブンブンッ

盗賊「…?何、首振ってんだ。飲まないのか?酒」

勇者「い、いや!頂く!飲むから!!大丈夫!!なんでもない!!!」

盗賊「お、おう…。……変な奴」

358 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 01:21:17 DPoCAeZA 279/373

~宿屋ラウンジ・朝~

勇者「(結局一睡もできなかった)」

盗賊「あー……だっる。なんでこんなに朝早ぇんだよ、もっと寝ていてもいいじゃねーか…」

僧侶「今日は、魔竜さんにあげるお菓子を買いに行くって、みんなで決めたじゃないですか。…だから飲みすぎだって、言ったのに」

勇者「………」

魔法使い「…勇者様?どうしたの、ぼんやりして。勇者様も、二日酔い?」

勇者「あ、…いや、すまない。大丈夫だ、ただボーッとしていただけだよ」

勇者「………」

勇者「(…孤児院では同い年の子がいなかったし、院長様は、お優しい方だったけど、ご高齢で…)」

勇者「(スーパースターは…そもそも変態だし。貿易大国の執事は、気が合ったけど…それだけだ。聖騎士の王国の王子は快男子で好感が持てたが…どちらかといえば、尊敬での好意だしな…)」

勇者「(賢者さんの軽口は流せるのに……何が違うんだろう?)」

359 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/24 01:21:59 DPoCAeZA 280/373

賢者「………」

盗賊「…あー…ダメだ、これ。クソアマ、水と薬……」

僧侶「もー…これに懲りたら、自制を覚えてくださいね?すぐ、もらって来ますから」

賢者「………」

盗賊「だりぃー、マジかったりー、気持ち悪ぃー、……頭痛ぇー…」

賢者「…ふっふふふ……いやはや、いやいや…兄ちゃん、兄ちゃん」ポンポン

盗賊「あぁ?」

賢者「……わっ!!!」

盗賊「!!!?? な…な、何しやがる!耳元で大声出しやがって、あ…頭痛ぇぇ…っ!!」キーン

魔法使い「だ、大丈夫?お兄さん!賢者さん、どうしたの、いきなり!こっちもびっくりしたじゃんか~!」

賢者「いや~、オッサンレーダーがね、こう…反応したっていうか。鉄槌を下せって聞こえた気がしたというか」

盗賊「な…何をわけのわからねー事を……!あだだだだ…!!」ズキズキ

勇者「(…考えすぎなのかな、私は。気が緩んでいる…まったく、自分が情けない)」

368 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/24 13:39:38 DPoCAeZA 281/373

~貿易大国・商店街~

僧侶「あ、これ可愛いー。これなら魔竜さん、喜んでくれるかなあ」

盗賊「あのクソトカゲのサイズ忘れたのかよ、見た目より量じゃねーか?」

僧侶「お菓子は、味も重要だけど、見た目も、大切なんですよう?折角のお土産なんだし…ひとつくらい、こういうのがあってもいいと思います~」

盗賊「さっぱりわかんねー世界だ。たらふく食えるだけで有り難ぇだろうに」

勇者「(…改めて見ると、いつも自然と傍にいるんだよな……なんか、…いいなぁ…)」

魔法使い「ねえねえ勇者様!僕のおやつにこれ買って……勇者様?」

勇者「………」

魔法使い「勇者様、またぼんやりして。なんなの、最近変だよ。何を見て………」

僧侶「じゃあ、これと、これと……」

盗賊「結構金かかるな、菓子って。そんなに旨いんなら、俺にもひとつ……」

勇者「………」ポーッ

魔法使い「…お兄さん……?……。………!ま、まさか!!?」

369 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 13:40:52 DPoCAeZA 282/373

賢者「……現実とは…青い春とは、時に残酷で非情なもの…気づいてしまったか、少年」ザッ

魔法使い「賢者さん!…いや、あれで気づかないのは勇者様くらいじゃ……わかりやすいな、勇者様…」

賢者「兄ちゃんとお嬢ちゃんもねー。兄ちゃんは、勇者ちゃんの事をからかえないくらい猪突猛進のところがあるし…お嬢ちゃんは常日頃からボーッとしているしなあ。荒れるぜ、この海…」

魔法使い「な、な、なんでなんで!勇者様、今まで誰かが好きとかそんな事、一切なかったのに!王子様の求婚にだって…」

賢者「それについては名探偵・オッサンが推理しよう…の前に、裁判長!此度の判決をお願いします!」

魔法使い「お兄さんは有罪だー!!有罪ー!!」

賢者「よーし、判決に基づき、刑を執行する!」


賢者「有罪キック!!」ビシッ

盗賊「痛った!!?…さっきからなんなんだ、クソオヤジィィ!!」

370 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 13:41:31 DPoCAeZA 283/373

魔法使い「ぜー、はー…ぜー……お、お兄さん…めちゃくちゃ怒って追いかけてきたね…」

賢者「ひー、はー、…ひぃー……しかし、見たかオッサンの逃げ足の早さ…あ、もうダメ死ぬこれ…あれ、買おう……」

賢者「…はい、魔法使いくん。喉渇いたろ、ジュースだよ」

魔法使い「あ、ありがとう、賢者さん!…はー、美味しい…」

魔法使い「…それにしても、ズルいよ、お兄さん。僕だって、ずっと勇者様が好きなのにさ…そういう事、興味ないと思ってたのに…この前だってさ……」

賢者「ふむふむ…」

・・・

賢者「……ふうむ。聞いた話から察するに、アレだな。勇者ちゃんの春は確定なんだねえ……女の子は早熟だと思っていたんだが、いや~生真面目でウブな子だ…」

賢者「や、むしろ、過程すっ飛ばして親心というか…母性が開花したせいなのかなー?剣の道しか知らなかったところの春かあ、…若いっていいねぇ」

371 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 13:42:17 DPoCAeZA 284/373

魔法使い「…王子様の時も、すごい焦ったのに……王子様、強いし優しいし、背も高くてカッコいいから…勇者様だって、王子様と一緒にいると楽しそうで…」

魔法使い「王子様が退いてくれてホッとしたと思ったら、なんでよりによって、お兄さんなのー!?どう見たってお兄さんは僧侶さんが好きなんじゃ…なんでわかんないのかな、勇者様はー!」

賢者「わからないのが、恋ってもんなんだよー、若者よ!」ドヤァ

賢者「そう……、勇者ちゃんは今、兄ちゃんが好きというより…恋に恋しているって状態が近いと思うなあ」

魔法使い「恋に……?」

賢者「そうそう。…今までまったく考えのなかったところに現れた異性だからねぇ」

賢者「王子の場合は、恋愛感情より先に、強さへの憧れとか身分の差とか使命とか…色々邪魔があったようだけど、兄ちゃんの場合はなー。仲間としての距離の近さ、年齢の近さ、諸々込みでフルスロットル」

372 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 13:43:08 DPoCAeZA 285/373

賢者「魔法使いくんの場合は、異性として意識するより、家族としての意識が強すぎているんだろうね」

魔法使い「……でも、このままいったら勇者様、傷ついちゃうんじゃ…」

賢者「いやいや~。これはいい機会だと、オッサンは思うなあ」

賢者「心が成長する事も大事だからね。遅蒔きながら芽が出たんだ、ここは育てるべきと思うよ。まったく傷つかない成長なんて、紛い物にすぎない」

賢者「それにさ?恋愛感情が芽生えたって事は、魔法使いくんにもチャンスが来たって事じゃないか。魔法使いくんが頑張ったら、家族じゃなく異性として見てもらう機会ができたって事だろう?」

魔法使い「…そ……そうかな…?」

賢者「そうだよ。恋心ないままで来たら、王子だろうが兄ちゃんだろうが、みんなひっくるめて私の家族!兄弟!以上!終了!!……となっただろうしね。勇者ちゃんなら…」

373 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 13:44:00 DPoCAeZA 286/373

賢者「だから、いっぱい勉強して、いっぱいご飯食べて寝て遊んで、たくさん成長しなさい」

賢者「そうすりゃー勇者ちゃんも、必ず君の事を見てくれるよ」

魔法使い「…本当?」

賢者「ああ、本当さ。それと、この先、勇者ちゃんが傷つく事があったら…その時は傍にいてあげるといい。傷ついた勇者ちゃんを癒せるのは、薬草でも回復魔法でもない、君なんだからね」

魔法使い「……うん…わかった。ありがとう、賢者さん」

賢者「焦らずゆっくり頑張りなさいよー、若いうちは長いようで短いからねえ」


勇者「……あ、こんなところにいた!2人共、そろそろ宿屋に帰るよ。買い物も済んだし。…なんだ、魔法使いったらジュースなんか飲んで。賢者さんに買ってもらったのか?お礼は言った?」

魔法使い「勇者様!」

勇者「すみません、賢者さん。あとで代金お返ししますから」

賢者「いや、いいよー、ジュースくらい」

374 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 13:44:45 DPoCAeZA 287/373

~宿屋ラウンジ・夜~

勇者「…では、明朝に魔竜のいる岩山へ向かうという事で…」

盗賊「クソトカゲからもらった竜の鱗がちゃんと働くかね、働かなかった場合はまた山登りだろ、一応準備は整えとかねーと…」

僧侶「今日の買い物の時に、見つけたんですけど…魔力回復の聖水が…出発前にいくつか買っておいた方が…」

ワイワイ ガヤガヤ

魔法使い「………」

盗賊「下山途中、もう少し探索していってもいい気がするんだよ。資金源になりそうなもの、鉱石がいくつかあったしよ。地図を見てくれ、例えばここには……」

勇者「(……ち、近っ…いや、ダメだ、魔王討伐に向けて集中せねば…!でも…)」

盗賊「……それと…、……おい、勇者?俺の話をちゃんと聞いているか?」

勇者「あ、ああっ!?す、すまない!聞いている!大丈夫!!」

魔法使い「………」ムスー

賢者「焦らない焦らない、じっと見守る正念場だよー、ここは」

375 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 13:45:30 DPoCAeZA 288/373

僧侶「あのブレスで帰るのは、できれば避けたいですもんねえ…すぐに降りられるけど、こ、こ…怖かったし……」

盗賊「俺もあれは勘弁願いてーわ。……んじゃ、出発前に足りない薬草の補充と、魔力回復の聖水を買って、と。食糧の方は大丈夫なんだな?」

僧侶「はい、今日お菓子を買う時に、一緒にまとめて買いました、から。盗賊さんが荷物を持ってくれて、助かりました。ありがとう、ございます!」

盗賊「…荷物運びの為に連れてきたクソオヤジが途中で逃げたからな~、ったく。肩凝ったっつーの」

勇者「だから私も手伝うと言ったのに…妙なところで、気を使うんだな」

盗賊「気ぃ使っているわけじゃねーよ。買い物で荷物持ちといったら男の仕事だろ。女は気にせず好き勝手あれこれ買ってろ」

僧侶「またー…そういう、捻くれた事ばかり言っていたら、口が曲がりますよう!?」

勇者「(…こんなに口が悪い男なのにな…)」

376 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 13:46:09 DPoCAeZA 289/373

盗賊「…よし、まとまったな。そんじゃ、とっとと風呂入って飯食って寝ようぜ。明日に備えねーと」

勇者「なんだ?昨日とは違って真面目な事を。今日は飲まないのか?酒」

僧侶「盗賊さん、一応区切りはつけますもんねえ。つけない時の方が、圧倒的に多いんだけど……」

盗賊「そんなテメーは、いちいち一言多いんだよ。このクソアマが。別に、飲んでいいなら飲むが?」

勇者「いや、禁酒だ、禁酒。また二日酔いになられても困る」

僧侶「お酒って、そんなに美味しいですかねえ…?私は、よくわからなかったなあ…」

勇者「私は味のついた水としか思えないな」

盗賊「この女共は……。…つーか、クソオヤジはこれからどうするんだ。俺達と一緒に行くか?」

賢者「いや、オッサンはこの街に残るよ。悟りの書を探す為に、文献を調べている途中だからね。……さーて、風呂に入ろう、風呂に」

377 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 13:46:57 DPoCAeZA 290/373

~大浴場・男湯~

盗賊「中途半端な時間だからか、利用者少ねーな。貸し切りみてェで気分いいわ」

魔法使い「………」ジロジロ

盗賊「……な、なんだよ。人の事をジロジロ見やがって…」

魔法使い「…別にー、なんでもない」

賢者「…身長も負け、肉体でも負け、アソコでも負け……スタートからして、デキレースなんだよねー」

魔法使い「ううう……」

賢者「しかし!そんな魔法使いくんでも、勝てる事があるっ!!兄ちゃん…勝負だ!」

盗賊「………はあ?一体なんの話だ…」

賢者「これは男を賭けた戦いなんだぜ…逃げる事は許されない!っていうか、面白そうだから逃がさないよ~。ふっふっふ」

魔法使い「…僕がお兄さんにどうやって勝てるのさ……あ、攻撃魔法使えばいいのか」

賢者「いやいや、兄ちゃん死ぬからね、それ。…風呂ときて男の勝負といったらコレしかないでしょ~、我慢比べだよ!!」

378 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/24 19:42:01 DPoCAeZA 291/373

魔法使い「我慢比べ?」

賢者「湯船の中へ息が続くまで潜って、先に上がった方が負けだ。根性無しが負けともいう。これならいい勝負ができそうだろ?」

盗賊「なにがなんだかわからねーが、冗談だろ。クソガキに負けるわけねーじゃん、そんなもん。勝負にもならねェよ」

賢者「おやおや?誰かをお忘れでないかね、兄ちゃんさあ……知将たるオッサンが味方につくんだ、兄ちゃんの負けは確定だね」

盗賊「ほざけよ、このクソオヤジ。…いいぜ、テメーらが負けたら、飯を奢れよ?フルコースな」

魔法使い「じゃあ、お兄さんが負けたら、僕達が奢ってもらう!」

盗賊「ふん、だから俺が負けるわけねーっての、クソガキが」

賢者「よーし、ならオッサンが審判をやるからね。2人とも、頑張りなさい」

賢者「………」ヒソヒソ

魔法使い「…え?うん、……わかった!」

379 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 19:42:41 DPoCAeZA 292/373

賢者「はい、それじゃあ…勝負、開始!」

ドボン! ドボン!

盗賊「(何をムキになってんだか、…馬鹿馬鹿しい。適当に付き合って、負けてやりゃあ…気も済むかね)」

魔法使い「………」トントン

盗賊「………?」

盗賊「!!??!?」ガボッ!!

ザバァッ!!

盗賊「げほっ!!げほ、ごほ!」

魔法使い「……っぷあ!はー、…はー……」

賢者「はーい、魔法使いくんの勝ち!根性無しの兄ちゃんは、俺達に晩飯奢るの決定~」

盗賊「ちょっと待て!!今のは流石にナシだろうが!このクソガキ、変な顔して見せて……あんなの、誰だって吹き出すに決まってんだろ!!」

魔法使い「へへーん、作戦勝ちだよー、だ!お兄さんに勝てるところ、ひとつ見つけた!僕達の方が頭いいもんねっ」

盗賊「頭いい奴が、あんな変顔するか!!待てコラ、泳いで逃げるな!クソガキ!!」

賢者「はっははは!!だから言ったろ、知将がついているって」

380 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 19:43:21 DPoCAeZA 293/373

~大浴場・女湯~

勇者「……なんだか男湯の方が騒がしいな。他の客に迷惑にならないといいが…」

僧侶「………」ジーッ

勇者「……な、なんだ?僧侶…人の体をジッと見て……」

僧侶「…勇者様もおっぱい大きいんだなーと思って…普段、鎧で隠れているからわかりにくいけど……ううう、改めて見ると…反則だ~!!」

勇者「は、はあっ!?いきなり何を……恥ずかしい事を言わないでくれ!」

勇者「…そういえば、合流した時も、魔物の胸について騒いでいたか……そんなに気になるものだろうか。私は邪魔くさいとしか思わないが…」

僧侶「じゃあ、ください!くださいよう、そのおっぱい!!不公平だ~!あんまりですぅ、神様ー!」ムニィッ

勇者「!!? ちょっと!僧侶!やめろ、何をする!つ…掴むな!!」バシャ

僧侶「カジノの破廉恥お姉さんよりは小ぶりだけど……それでも手から溢れる…!うぬぬ~」ムニムニ

381 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 19:44:02 DPoCAeZA 294/373

勇者「や……ちょっと、やめて…、んっ」

僧侶「くうっ、形も整ってますぅ…!究極か至高か、いやこれは究極にして至高…!鎧で潰れたりしないんですか?いいな、いいなっ!」ムニムニ

勇者「いや…、やっ、…やだぁ、本当に…やめてったら、くすぐったい…」

僧侶「……あれ?そういえば、こんなに長く揉むのは初めて…ご、御利益!御利益、あるかな…!これで私も究極に!?」ムニュムニ

勇者「んぁっ…!……も、もう!やめなさい!バカっ!!」ポカッ

僧侶「はう!?……はっ!わ、私は一体、何を……」

勇者「…はー…、はー……そ、僧侶…我を失う癖があるの……な、治してくれ…頼むから」

僧侶「あわわ……す、すみません、勇者様!…見ていたら、つい…」

勇者「もう見るなっ!あっち向いてなさい!…も、もう!困った子だ…!」

勇者「…そんなに気にしなくとも、綺麗な肌だし、柔らかそうで、女の子らしい体型だと思うんだがな……わからん…」

382 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 19:44:53 DPoCAeZA 295/373

・・・

盗賊「………」グッタリ

勇者「………」グッタリ

僧侶「ど、どうしちゃったんですか?盗賊さん、すごい疲れきってますけど……」

魔法使い「ふふん、男の戦いをしたの!!結果は圧勝だったけどね、お兄さん弱かっ……あ痛っ!」ポカッ

盗賊「あんな勝負、無効に決まってんだろ!!そういう勇者はどうしたんだよ、顔が真っ赤じゃねーか。逆上せたのか?」

僧侶「いえ、私が勇者様の、究極にして至高のおっぱいを堪能し……あ痛っ!」ポカッ

勇者「だから!恥ずかしいから言わないでって言ったじゃないか!そういうものじゃない!!」

賢者「……いやいや~オッサンってば凄い勢いでお察ししちゃうんだけど…!若い女の子がキャッキャと戯れて…まさに花園…百合の花咲く園…!?」

勇者・僧侶「賢者さんって、気持ち悪いですね」

賢者「ハモった!!?」

383 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 19:45:41 DPoCAeZA 296/373

~翌朝~

勇者「…さて!必要なものも買い足した、出発するぞ、みんな」

魔法使い「賢者さん、また勉強教えてね!いってきます」

賢者「ん、みんな、気をつけていってらっしゃい。…魔王の事に関しても、近づき始めているんだ。気を引き締めて行くんだよ。帰りを待っているからね」

僧侶「はいっ!が、頑張ります!!」

盗賊「つーかよ、このクソトカゲの鱗って…どうやって使うんだ?あいつのところまで行けるっていうけどよ…」

魔法使い「確か…魔竜さんは、念じればいいって言ってたよね…魔竜さんのところへ連れてって、って思えばいいのかなあ?」

勇者「どれ……やってみようか。………」

―― ピカッ

僧侶「あ…鱗が、光って……きゃっ!?」

バシュウッ…

賢者「…おー、……みんなが消えた。うーん、興味深いなあ…しかし、この場に研究者の奴がいなくて良かった。あいつが見たら、鱗をズタズタにしちゃうだろうし…」

384 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 19:46:34 DPoCAeZA 297/373

~竜の住処・頂上~

シュン!!

僧侶「………!わ…す、すごい…一瞬にして、ここまで…!」

魔法使い「妖精さんの移動魔法みたいなものかな?場所限定の……」

魔竜「旨そうな匂いがああああ!!!」ギャオオス!!

盗賊「うおあああ!!?」

勇者「な…なんて大きな声だ、衝撃波まで生じるとは…!」

魔竜「あ。すまん、あまりにも旨そうな匂いがしたでの、興奮してしもうた」

盗賊「テメー!!ビビらせんな!興奮禁止にしろ、血圧上がるぞ!?」

魔法使い「魔竜さんっ!色々教えてくれて、本当にありがとう!宝玉のおかげで、僕、助かったんだよー!」

魔法使い「お礼にたくさんお菓子を買ってきたから、食べて?ほらっ」ドサドサ

魔竜「うおおおお甘いものおおお!!!」ギャオオオオス!!!

盗賊「だから!興奮させんな、クソガキ!!」

僧侶「ああう……み、耳が、耳が!破けちゃいそう、です~…!!」

385 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 19:47:26 DPoCAeZA 298/373

魔竜「うむ……うむ……ワシは幸せ者だの…こんなにもたくさんの甘いものを食べられるのも、はて、どれくらいぶりか…見た目も綺麗に作られるようになったのだな…」モグモグ

僧侶「うふふ、喜んで頂けて良かった、です…でも、投げて渡さなきゃいけないのも、なんだか…寂しいですね…」

盗賊「…その、お前の体に刺さっている剣は……魔王がやったんだよな?」

魔竜「うむ。普通の剣ならばワシには効かぬが、この剣は魔王の力が形となって現れているもの。魔王が死なぬ限り、抜ける事のない封印よ」

魔竜「そしてそれは、坊主、お前の呪いも同じ事。いいか、その白の宝玉をけっして手放すでないぞ。宝玉が無くなれば、再び呪いの力が甦るぞ」

魔法使い「…白の宝玉は、魔竜さんの剣を消すことは、できないの…?」

魔竜「フフ。出来るのであれば、ワシは今ここにはおらぬよ。宝玉はただ傷を癒すだけ…生命を補うだけだからの」

386 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/24 19:48:12 DPoCAeZA 299/373

勇者「そ、…それでは、宝玉を失った貴方の命は…」

魔竜「それ以上口にするな、娘。…構わんよ、これはワシへの罰でもあるでの。ワシは白の宝玉が救われれば、それで良いのだ…」

盗賊「………」

僧侶「…なら……それなら、魔王を倒せば…魔法使いくんも、魔竜さんも、助かるんですよね!」

勇者「…そして、世界も救われる。…魔竜殿、今一度助言を頂けませんか。私達は魔王を倒したい…魔王の事について、どうか教えてください!」

魔竜「………」

魔竜「…魔王は……この世界にはおらぬ。善悪の境目という場所にいるのだ」

魔竜「魔王の住む場所へは、普通の行き方では辿りつけぬ。英雄の一人が使っていた剣で、境目を斬り開かねばならん」

勇者「英雄の剣……ですか?」

僧侶「…魔導師さん達と一緒に戦った、過去の勇者様…でしょうか……」

387 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/24 19:48:55 DPoCAeZA 300/373

魔竜「うむ。彼の使う剣は、技は、次元すらも斬り裂く…最強の英雄であった」

魔竜「その力を恐れたワシら四天王は、魔王が英雄達の魂を宝玉へ閉じ込める際に、剣を奪い、封印を施したのだ」

魔竜「…ワシはこの通り力を失った。赤の宝玉をお前達が持っているという事は、魔将も倒したのだろう?そして、魔精も死んだ…残る四天王は魔獣のみ。ならば封印の力も弱まっておろう」

魔竜「剣はこの世界の中心…海に沈む神殿にある。赤の宝玉を使え。赤の宝玉は、破壊の力。強大な魔力を持った魔導師の魂…奴なら弱った封印を破壊できよう」

勇者「…ちょっと待ってください、海に沈む神殿?そんな場所、どうやって行けば……」

魔竜「ワシのブレスでお前達を包んでやろう。暫くの間なら、水の中でも地上と同じく活動できようて。そうだの…半日程度は。……素早く行動すれば良い」

391 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/25 00:47:27 3UPg0Rcw 301/373

盗賊「半日…か。神殿がどれ程の規模かわからねーが…まあ、やるしかねーか……」

魔竜「案ずる事はない、行けばすぐに見つかるだろうて」

魔法使い「…でもさ、剣を取れたとして…善悪の境目って、何?どこを斬ったらいいのかな」

僧侶「善と……悪………あれ?なんか…引っ掛かる。なんか…どこかで聞いた事があるような…」

盗賊「……神様の住む街に、悪党がぞろぞろ集う…善と悪、両方の揃う…」

勇者「……!!大聖堂の街か!?」

魔竜「………ご名答。そう、運命とは、1つの輪よ。ぐるりと廻り、原点に還るもの」

魔竜「剣を手に入れたなら、大聖堂の街へ行け。そこから先は、剣が導いてくれる」

魔法使い「…魔王……魔王と、対決……」ゾクッ

盗賊「…ここまで来たか…」

僧侶「……魔王を倒せば、世界は平和になる、……」

勇者「…倒してみせる。必ずや!」

392 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 00:48:13 3UPg0Rcw 302/373

魔竜「では、ワシのブレスでお前達を海底神殿へ送ってやろう」スウウゥー

盗賊「待て!ちょっと待て!!心の準備をさせろ!!クソガキ、菓子をクソトカゲに投げやがれ、あいつを止めろっ!」

魔法使い「魔竜さーん!甘いものだよっ、はい!!」ポイッ

魔竜「甘いもの!!!」パクッ

勇者「はは…コツが掴めてきたな……」

僧侶「ブレスで飛ばされて、海へ入って……剣を取ってきて。帰りは…魔竜さんの、鱗を使って、ここに戻って、……ああう…心臓によくなさそうな事が、目白押しですねえ……」

勇者「戻ったあとは、大聖堂の街へ行き…そして、魔王を倒す」

魔法使い「し…深呼吸、しとこ……」

魔竜「…心の準備とやらは、整ったかの?」

盗賊「……くそっ、金輪際ごめんだと思ったのによ…わかったよ!ブレスでもなんでも来やがれ!!」

勇者「海底神殿……どんなところだろうか…」

393 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 00:48:57 3UPg0Rcw 303/373

~海中~

ザバァァン!!

僧侶「ひいいぃ……な、何度やろうとも、やっぱり…慣れないです!ブレスで、飛ばされるのは…!!」

魔法使い「わー…海に深く潜っても、全然苦しくない。目も開けられるし、喋れるし」

勇者「体も濡れないな。泳ぎはあまり経験が無かったが…歩くように泳げる。竜のブレスの力…凄いものだ」

盗賊「あのクソトカゲ、本当に万能だな。味方で良かったわ、マジで……」

勇者「しかし、美しいな、海の中とは。こんな体験ができるなんて…」

僧侶「はい、とっても綺麗です…お日様の光がゆらゆらして、お魚さん達も楽しそう。…深く潜っていくごとに、暗くなるのも…なんだか、神秘的」

魔法使い「海の主さんは、どこでお昼寝しているのかなー。また会いたいな」

勇者「…ん。あれか?魔竜殿の言っていた、神殿とは」

盗賊「どうやらそうらしいな。ぼんやりと光っているわ、すぐに見つかって良かったぜ」

394 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 00:49:43 3UPg0Rcw 304/373

勇者「っと、………これか。英雄の剣とは」

魔法使い「わー…大きい水晶の塊。中に見えるね、剣があるの」

盗賊「…この水晶を割って、剣を取り出しゃいいんだな。砕いた欠片は売れるかねェ、…いや、四天王共が封じたんだったか、呪われそうだな。やめとくか…」コンコン

勇者「僧侶。君の持っている、赤の宝玉を出してくれ」

僧侶「は、はい。勇者様…。……大丈夫かな、魔導師さん…ずっと声が聞こえなかったし、他の宝玉みたいに、力を…出す事も、今までなかったから……」ゴソゴソ

盗賊「…もう、力が無くなっちまったとかじゃあねーよな…?」

僧侶「わ、わかりません…でも、これじゃないと……剣は手に入らないんです、よね…呼び掛けて、みます」

僧侶「……魔導師さん…お願いします。貴方の力が必要なんです。この水晶を割ってください…私達は、魔王を倒したい…救いたいものが、たくさんあるの……」

395 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 00:50:23 3UPg0Rcw 305/373

僧侶「……お願い…、…お願いします。力を、貸してください…」

―― ピカッ!!

魔法使い「うわ!…宝玉から、真っ赤な光が…!!」

勇者「…水晶に伸びていく……、ああ、亀裂が!」

盗賊「―― !!! クソアマ!やめろ、もういい!やめろ!!」

勇者「何故止める!?もう少しで水晶が割れそうなんだ、今止めたら…」

盗賊「バカ野郎ッ!!水晶じゃねえ、クソアマを見ろ!あの光、暴れてんじゃねーか!!クソアマが傷だらけになっている!!」

勇者「な…っ!!?」

僧侶「…ごめんなさい、苦しめてごめんなさい…でも、お願い!もう少しなの、お願い……私達を助けて、私達に力を貸して!!魔王を倒したいの!!」ビシ! バキ!

盗賊「やめろ!もういい!クソアマ!!身体中ズタズタに……やめろ!!やめてくれ、……僧侶ッッ!!お前が傷つく事ねーんだよ!やめろーッ!!」バツッ! バシ!

勇者「僧侶!!…止めに入った盗賊まで、傷が…!!」

396 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 00:51:09 3UPg0Rcw 306/373

僧侶「大丈夫……大丈夫!私なら、やれる!私なら、できる!!……私達なら、できるの!!」

僧侶「お願い!!貴方達を助けたい、もう悲しい事を終わらせたい!!……砕いて!あの水晶を!!私達なら、できるんだから!!」

―― バキャアアン!!

魔法使い「水晶が砕けた…!!勇者様!剣を!!剣を取って!落ちてくる!」

勇者「あ…ああ!」パシッ

勇者「これが、英雄の剣…!……僧侶!?」

僧侶「………」フラッ

盗賊「僧侶!!…っバカ女……!手も体も…顔まで…!!」ガシッ

魔法使い「お兄さん!白の宝玉を使って!僕、手に持ったままでいるから…僧侶さんにも、宝玉をかざそう!」

盗賊「俺より先に、クソアマに向けろ!頼む、白の宝玉…こいつを治してくれ…!」

勇者「僧侶!盗賊!大丈夫か、2人共!!」

僧侶「う……うう、……」シュウウウゥ

勇者「…よ、良かった……傷が、消えていく…治っていく」

397 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 00:52:01 3UPg0Rcw 307/373

魔法使い「暴走するなんて、知らなかったよ…赤の宝玉って、こんなに危ないものだったの…?」

盗賊「…赤の宝玉を見つけた時は、ここまでじゃあなかったんだ。俺達が魔物……魔将か?そいつに襲われた時、助けてくれたしよ。その時は、力を制御できていたんだがな」

盗賊「…青も、赤も、白も。封じられているっつう奴らが、消えてんのかもしれねえな…自我が無くなって、ただひたすらに力を使うだけ」

勇者「……白の宝玉も…考え方によっては、危ないかもしれないな。魔法使いや僧侶のように、瀕死の状態ならば頼もしいが…敵に、魔王に奪われたら……勝ち目が無くなってしまう」

盗賊「…クソガキ。白の宝玉はもう表に出さないように、肌身離さず持っていろ。クソトカゲも言っていたろ、それを手放せばテメーの呪いは再発しちまう。…守り通してくれ」

魔法使い「……う、うん…わかったよ、お兄さん…でも、お兄さんも傷を…」

398 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 00:52:50 3UPg0Rcw 308/373

盗賊「俺の傷は、どうって事ねーよ。宝玉を使うまでもない、いいからしまっておけ」

勇者「(…魔竜殿も、守りたいと言っていた。…魔王に奪われれば、勝ち目がない)」

勇者「(…魔竜殿から……それを奪ったのは……。…呪いの対抗策、以外に…?いや、考えすぎか。そんな事…まさか)」

盗賊「…おい、勇者。剣は取ったろう、ここにはもう用は無い。クソトカゲのところへ戻ろうぜ。…クソアマを休ませたいんだよ」

勇者「……あ。…ああ、そうだな。すまない、考え事をしてしまっていた…すぐに戻ろう」

勇者「………」

勇者「(私は……私は、何をやっているんだ?僧侶が傷ついていたのに、気づけなかった。2人が傷ついたのに、他の事を考えていただと!?)」

勇者「(…吐き気がする。なんて……最低な。私は、最低だ!!!)」

魔法使い「………」

盗賊「クソトカゲの鱗を使うぞ。テメーら、ひとつに固まれ」

399 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 00:53:32 3UPg0Rcw 309/373

~竜の住処・頂上~

魔竜「うむ。それは確かに、英雄が使いし剣。我らが封じたものに間違いない」

盗賊「こいつを使えば魔王のところへ行ける、か。…だが、悪ぃ。クソアマが負傷しちまったんだ、目覚めるまで動かしたくねェ、ここで休んでもいいか?」

魔竜「構わぬ。風が強かろう、ワシの傍で休むといい。岩に縫われようと、風避けくらいにはなれるでの」

魔法使い「ありがとう、魔竜さん!じゃあ、この辺りにテントを組み立てて、僧侶さんを休ませようね」

勇者「……ああ」

魔法使い「………勇者様?大丈夫?顔が真っ青だよ…?」

勇者「…いや、大丈夫だよ。すまない。緊張しているのかもしれないな。…すぐに準備しよう」

勇者「………」

勇者「(近頃、嘘を吐いてばかりだ…)」

勇者「(……私は…私は…何を、やっているんだ…)」

盗賊「おい、クソガキ。そっちを押さえていてくれねーか」

魔法使い「…あっ、うん。わかった」

400 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/25 00:54:12 3UPg0Rcw 310/373

~夜~

僧侶「…すー……すー…」

勇者「…良かった…安定したようだな、…寝息が穏やかになっている」

勇者「…ごめんな、僧侶。どうして、こう…周りを見ないのか、私は。…君達と共に戦いたいのに……気が乱れてばかりだ…」キュッ

勇者「…僧侶の手も、顔も……綺麗に治っている。良かった…本当に、良かった。……ごめんな…」

勇者「………」スッ

・・・

勇者「(…外に出たが…魔竜殿も眠っているな)」

勇者「……私は…私は、何を守りたいんだ…?」

勇者「…自分の事ばかりじゃないか。……魔法使いも、僧侶も、…大事なものを傷つけてばかりじゃないか。……もっとも守りたいものを、守れていない……」

盗賊「………何を一人でブツブツ呟いてんだ、怖ェぞ」

勇者「……盗賊!…なんだ…その、……君とは、よく夜中に出くわすな…」

405 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/25 14:42:55 3UPg0Rcw 311/373

盗賊「そうか?ま、互いに夜行性なんじゃねーの。……ところでよ、クソアマの調子はどうだ」

勇者「大丈夫、落ち着いたよ。すやすやと眠っていた。傷も残っていない。……魔法使いは、もう寝たのか?」

盗賊「……そっか。…あー、傷の手当てさせろってうるさかったぜ、なんとか寝かしつけたわ」

勇者「…君の顔についた傷は…残ってしまったな。すまない、英雄の剣に気を取られていて、君達に気づけなかった…本当に、すまない」

盗賊「もういいっつーの。…どうしてこう、うちの女共はグズグズしつけーんだか。テメーは考えすぎなんだよ、真面目なのも大概にしろよな、ウザってェ」

盗賊「なんでもかんでも、ぐるぐる考え込んでちゃあ、そりゃ周りも見えなくなるわ。そうじゃなく、突っ走りすぎて見えないって方が、テメーらしいと思うぜ?イノシシ女」

勇者「…相変わらず口が悪いな……だが、以前…魔法使いにも似たような事を言われたよ…ふふ」

406 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 14:43:34 3UPg0Rcw 312/373

盗賊「ふん。……ま、いいんだよ、この傷は。残しておいた方が…戒めっつーか、さ」

勇者「…戒め?」

盗賊「なんでもねー。……まー、傷のひとつふたつ、ついていた方がハクがつくだろうし?けど、クソアマに見つかったら騒ぎそうだから、誤魔化す理由考えねーとな…」

勇者「………僧侶を……守れなかったから、…その…戒め?」グッ

盗賊「…さぁな、どうだか」

盗賊「つーかよ、丁度良かったわ。お前が起きていて。……ちょっくら、剣の稽古っつーの?それ、やらせてくれや」

勇者「………え?」

盗賊「お前、スゲー強いじゃねーか。手解きを受けたいんだよ、…これから魔王を倒しに行くんだろ?少しでも経験値積んどくかと思ってな」

勇者「……君らしくない言葉だな。そんな真面目な事を言うなんて」

盗賊「うるせーんだよバカ。…これから死地に向かうんだぜ?嫌々ながら。…死なない為にもってやつだ」

407 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 14:44:13 3UPg0Rcw 313/373

勇者「………」

勇者「……いいだろう。だが、聖騎士の王国とは違い、真剣しかないぞ。それでいいのか」スラッ

盗賊「構わねー。…魔王は剣を使ってくるようだからな、模擬戦としちゃ丁度いいだろ」ジャキッ

勇者「………いくぞ!!」ダッ

キィン! キンッ!! ガキッ!!

盗賊「おりゃぁッ!!」

勇者「(足払い!?…よし、避けた)」

勇者「(盗賊の武器は短剣……素早い彼なら、懐に潜り込まれたら終いだ…急所を突かれる)」キン! ガキン!!

勇者「(剣を絡め取られても終い、転ばされても終い。リーチの狭さを、早さと体術でよく補っている)」バッ

勇者「(……強くなっているじゃないか)」

勇者「(…対して、私は………雑念ばかり)」

盗賊「――― !」ズアッ

ガキィィン!!

盗賊「ぐ……ッ」ギリギリ

盗賊「(剣同士が噛み合って……力比べじゃ、こっちの体力が削られるだけだ。流すっきゃねェ…体勢が崩れたところを狙わねーと…)」

408 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 14:44:59 3UPg0Rcw 314/373

勇者「………」ギリギリ

勇者「…盗賊……君は、…僧侶の事が好きなのか?」

盗賊「………っ、はあぁ!?」

勇者「隙ありッ!!」ガキィッ

盗賊「!!!」バッ!

勇者「…ふふ。後ろに飛んで逃げたか。相変わらず、すごい反射神経だな」

盗賊「てめっ……いきなり何を!それでも勇者サマかよ!?」

勇者「動揺は命取りじゃないか?とくに君のスタイルでは。素早く仕留める、そう、暗殺術…というのか。自らを殺し、気配を殺し、そして標的を殺し、…盗む。命を狩り盗る。それが君の特性。…なのに、動揺してはいけないよ」

盗賊「………」

勇者「…私は、…気づかされた。迷ってばかりで、雑念に捕らわれて、周りを見ていなかった…」

勇者「迷いを捨てたい。雑念を捨てたい。勇気を持って、道を切り開き、みんなを希望の明日へ連れていく。…それが、私の使命!」グッ

盗賊「!! ちょっ…その構えは!」

409 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 14:45:44 3UPg0Rcw 315/373

勇者「たああああぁぁぁッッッ!!!」ドガガガガッッ!!

―― …… …

勇者「…ふー……、…おや。聖騎士の王国と違って、本気の本気で放ったのに…避けられてしまったな」

盗賊「……ッ、危ねぇ…!!」

勇者「私の奥義が避けられるくらい素早いなら…きっと、君は大丈夫だよ」

勇者「………」

勇者「…盗賊………」

勇者「私は、君が好きだよ」

盗賊「………は?」

勇者「………」ニコッ

勇者「粗野で乱暴な君だが、私は君が好きだ。大好きだ。初めてだ、こんな気持ちになったのは…」

勇者「滅びの里から…いや、きっと、出会った頃から惹かれていたのかな?もしも、すんなりと合流できていたら……そんな事すら、考えてしまうくらい。私は、…醜い。汚い」

盗賊「………」

勇者「…そして、盗賊と同じくらい、僧侶が好きだ。魔法使いが好きだ!」

410 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 14:46:28 3UPg0Rcw 316/373

盗賊「…勇者」

勇者「今まで出会った人達も、これから出会う人達も、みんなみんな、大好きだ!みんな、同じくらい大好きだ!」

勇者「私はみんなを守りたい。もう迷いは捨てる。みんなを守るために、魔王を倒す!!その為に、私は旅に出たんだ。魔法使いを守りたい、僧侶を守りたい、盗賊を守りたい…みんなを守りたい!」

勇者「………盗賊…君は?君は……私の事が、好き…か?」

盗賊「………」

勇者「………」

盗賊「………」

盗賊「………テメーは…どうして、そう真っ直ぐぶつかってくんだか…恥ずかしい奴。俺に言わせる気か?そんな事」

勇者「ああ」

盗賊「ふざけんな」

盗賊「………」

盗賊「………俺も、まあ、その…テメーの事は気に入ってるよ。じゃなきゃ、こんな面倒臭ぇ旅。とっとと逃げてるわ」

411 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 14:47:14 3UPg0Rcw 317/373

勇者「………」

盗賊「テメーも、クソガキも。出会った奴全員気に入ってる。……あー…ったく、恥ずかしいな……」

盗賊「………」

盗賊「だが、俺ぁテメーみたいにゃ出来ない。博愛なんざ馬鹿馬鹿しい、反吐が出るぜ。俺は俺がやりたいと思う事をやるんだ、自由によ。やりたい事をやる、欲しいもんを取る、自由に」

盗賊「俺がやりたい事は……クソアマ、…僧侶を守る事だ。生涯かけて」

勇者「………」

盗賊「後ろ向きのウジウジ女のくせに、ビビりながらも頑張って前を向こうとするアイツを、見ていてやりたい」

盗賊「ふらふらして、すぐ転ぶアイツを助けてやりたい。どっか行っちまわねーよう、走って追いかけられるよう、力をつけたい。傷つかないよう、守ってやりたい」

盗賊「神託とか過去とか関係なく、…俺が守りたいのはアイツだけだ。アイツが笑って過ごせる未来を作りたいだけだ」

勇者「………うん」

412 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 14:47:53 3UPg0Rcw 318/373

勇者「…耳まで真っ赤だな」

盗賊「うるせえな!!そういう事を言うなよ、バカ!!ここは普通、気づかないフリするだろ!?」

勇者「そうだったのか?それは知らなかったな」

盗賊「こっの……クソイノシシ女!!」

勇者「ああー、すっきりしたなあ。思い切り体を動かしたら、モヤモヤを吐き出したら、なんだか気分が良くなった。ありがとう、盗賊」

盗賊「俺はサンドバッグか何かかよ……」

勇者「さあ。もう寝よう?気合いを入れ直さねば。全ての決着をつけるためにも」

盗賊「……おい。テメーの寝るテントはそっちじゃねーだろ。そっちにゃクソガキが…」

勇者「私のテントはこっちだよ?私は魔法使いと寝るんだ。君は僧侶といなさい」

盗賊「なに、いらねェ気を回してんだ!?ふざけんな!!テメーがクソアマと寝ろよ!!」

勇者「気など回していない。…なんだ?何を意識しているんだ?」ニヤニヤ

盗賊「ぶっ飛ばすぞテメー!!」

413 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 14:50:30 3UPg0Rcw 319/373

盗賊「くそ………アイツの顔、見辛いんだっつーの…ちくしょう……」パサ

僧侶「…盗賊さん」

盗賊「!!! おまっ…寝てたんじゃねーのかよ!?」

僧侶「………んふふ~」ニッコリ

バシィッ!!

僧侶「殴って欲しそうでしたから」

盗賊「………おう」ヒリヒリ

バチィン!!

盗賊「往復!!?」

僧侶「勇者様の分です」

盗賊「……おぉ…」ズキズキ

僧侶「私へのものは、勇者様から頂きますね」

盗賊「はい」

僧侶「………あれ?盗賊さん、そういえば…顔の傷、どうしたんですか?私のビンタのじゃないですよね、これ!?まさか、赤の宝玉の時の…!?あわわわ…!」

盗賊「…気づくの遅ェー、このバカ…」

414 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/25 14:51:30 3UPg0Rcw 320/373

勇者「………」パサ

魔法使い「………」

勇者「あ。すまない、騒がしくして、起こしてしまったかな。さあ、寝よう。体力が回復しないよ」

魔法使い「…勇者様」

勇者「………」

勇者「………はは…」ポロポロ

魔法使い「………!」

勇者「私って、バカだな。突っ走りすぎて、周りを見てなくて」

勇者「君の前だと、泣けてしまうのにね。なんで忘れていたんだろ」

魔法使い「………」

魔法使い「勇者様は、汚くなんかないよ。とっても綺麗だと思う。真っ白で、純粋で、透明で。どんな色にも染まれるの。それが、僕はとても綺麗だなって思うよ」

勇者「……うっ…う……」

魔法使い「………」

魔法使い「(…苦しい。でも、勇者様は……もっと、苦しい)」

魔法使い「(賢者さん、僕、逃げちゃいたいよ……辛いよ。…でも……頑張らなきゃ…ダメだよね。逃げずに、傍にいなきゃ…)」

419 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/25 22:02:52 3UPg0Rcw 321/373

~翌朝~

勇者「………」ザッ

魔法使い「ゆ、勇者様…」ハラハラ

魔竜「………」ハラハラ

勇者「おはよう、2人共!」

盗賊「お…おう。…はよーさん」

僧侶「おはようございます、勇者様!」

魔法使い「………」ホッ

魔竜「………」ホッ

魔法使い「……なんで魔竜さんが溜息吐くの。…起きてたんだ?…ちょっと。口笛吹いて誤魔化そうとしても、魔竜さんがやると超音波にしかならないからね?」

僧侶「では、勇者様っ」

勇者「ああ!」バシィッ!!

勇者「僧侶も!!」

僧侶「はいっ!勇者様!!」バチィン!!

420 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 22:03:52 3UPg0Rcw 322/373

魔法使い・盗賊・魔竜「!!!??」

僧侶「…痛ったぁ~……勇者様、力強すぎです…」

勇者「何を…僧侶だって、勢いよくて、首を捻るかと思ったぞ」

僧侶「……ふふふっ」

勇者「あはははっ!」

魔法使い「…た、楽しそうだけど……大丈夫なんだよね?変な仲直り…なのかな」

盗賊「……女って、怖ェよな…」

魔竜「ワシらにはわからぬ世界よの…」


勇者「よし!気合いも入った、行くぞ!!大聖堂の街へ!!」

魔竜「では、またワシのブレスで送ってやろう」

盗賊「寿命縮むからいいっつーの、歩いて下山すっから…」

僧侶「何を言ってるんですか~、送ってもらいましょうよ。もう何も怖くなんかないです、ねっ勇者様!」

勇者「ああ。時間短縮にもなるしな。まったく、情けない男だ」

魔法使い「さっぱり吹っ切れすぎでしょ、2人共…!逞しいなあ…」

盗賊「……もう、好きにしてくれ」

421 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 22:04:38 3UPg0Rcw 323/373

~大聖堂の街~

魔法使い「…帰ってきたね」

僧侶「ここに、魔王の居場所が……ど、どこにあるんでしょうかねえ…?」

勇者「英雄の剣が導くと聞いたな……鞘から抜いてみよう」スラッ

―― ズバッ!!

魔法使い「わ!?街の入口に……宙に、亀裂が!?」

盗賊「どんどん裂けていくぞ。…これが、次元を斬ったってやつか…?」

僧侶「中は…真っ暗ですね…星みたいなのが光っているけど、夜空って感じでもない……深くて、暗くて…果てしない……」

盗賊「……中に、入るか」

魔法使い「…うん!!」

勇者「行こう……魔王の元へ」

・・・

僧侶「…私達が入ったら、次元の口が閉じていく…」

魔法使い「これって、歩いているのかな?落ちているのかな?よくわかんない…上下左右ちゃんと正しいのかな?」

422 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 22:05:21 3UPg0Rcw 324/373

盗賊「おい、向こうに何かあるぞ」

勇者「……?なんだ?あれは…遠くて、よく見えないな。魔王なのか……」

僧侶「い、行ってみましょう…」ゴクリ

魔法使い「地面じゃないよ、空なのかもわからない、…ちゃんと近づけているのかなあ…?」

・・・

勇者「………!!?」

僧侶「ひっ……!」

盗賊「な…んだ、こりゃあ……バカでかい獣が…剣で串刺しに…!?」

魔法使い「う…うっ、……うわあああ…!!」

僧侶「酷い…酷い……!!こんな、酷いよっ…!おなかも、口も、顔も……体中裂かれて…なんで、こんな……」

魔獣「………ガ……グ………」

勇者「こ…こんな状態で……生きている…!!?」


「ね。しぶといよね。ふふっ、まあ生きていてもらわなきゃ、困るんだけどさ」

423 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 22:06:06 3UPg0Rcw 325/373

盗賊「…?今、何か言ったか?クソガキ」

魔法使い「え……?ううん、なんにも言ってないよ…?」

勇者「しぶとい、と言ったじゃないか。なんて事を言うんだ、魔法使い…」

魔法使い「だから!そんな事も言ってないったら!!」

「うん。僕が言ったんだよ?…善悪の境目は、初めて来たばかりだと動きにくいよねー。こっちだよ、こっち!」

僧侶「………!!?」

盗賊「な……、はあ…っ?だ……誰だ、テメー…」

僧侶「ま……魔法使いくんが………もう一人…?」

「いらっしゃい、みんな。会いたかったよー!君達の冒険はずっと見てたからね、なんだか僕も一緒に旅をしていたみたいで、楽しかったなー」

勇者「魔法使い…魔法使いの姿だ…どうして!?幻術か!?」

魔法使い「じ、自分の姿が目の前にいるって…なんか、嫌だ…!」

424 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 22:06:56 3UPg0Rcw 326/373

「同じ姿なのは、仕方ないんだよ。だって、君の力を奪っていったのは、僕なんだから」

「少しずつ奪っていくのも面倒になってきて、魔精に呪いの加速を頼んだりもしたなー。そのお陰で、ここまで成長できたの!すごいでしょう?」

勇者「…呪いを……、…なら、お、お前…が…」

盗賊「……魔王…!?」

魔王「そうだよー。初めまして、そして、久しぶり。ふふ、よく来てくれたね!いらっしゃい!」

僧侶「…久しぶり……?」

魔王「…ここにいて、ちょっと退屈していたからなー。いいよ、みんなでお喋りしよっか!」

魔王「うん。僕と君達は、初めましてで、久しぶりなんだ。今現在は初めましてなんだけど……ずっとずっと、ずうっと昔、僕達は対決した事があったんだ。だから久しぶり、なんだよ」

僧侶「………私達の……過去……」

盗賊「………」

425 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 22:07:43 3UPg0Rcw 327/373

魔王「えっと。名前はなんだったっけ?…そうそう。僧侶さんは、魔導師の生まれ変わり」

僧侶「…や、やめて。魔法使いくんの姿で、声で……呼ばないで」

魔王「それからお兄さんは、聖騎士の生まれ変わり」

盗賊「………!」

魔王「そして、…魔法使いは、元勇者……彼の生まれ変わりだ」

魔法使い「!!?」

魔王「元勇者は、みんなと旅をしていた…僕を倒す為に、魔導師と聖騎士とシスターと、みんなで旅をしていた」

魔王「そして、僕のところまでやってきたけど…僕はね、元勇者を飲み込む事が出来ていたんだよ。僕の気持ちの方が、元勇者よりも強かったみたい。汚くて醜いこの世界を消してしまおう?って気持ちがさ」

魔王「…こんな世界、もういらない。消しちゃっていい、って。リセットして、世界の全てを消しちゃおう!!って気持ちがさあ!?」

僧侶「…こんな世界……、それ、その言葉、って…!?」

426 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 22:08:53 3UPg0Rcw 328/373

―――

魔導師『何故、勇者がそんな事を願ったかわからない。でも、取り引きの時に、勇者はこう言ったよ』

魔導師『こんな世界、いらない』

―――

魔王「こんな世界、いらない」

魔王「…こんな汚い世界、捨てちゃえばいいんだよ」

魔王「…そう。かつて、英雄だなんて持て囃された元勇者は、僕に負けた。僕の方が強かったんだ、僕の意識に飲まれちゃってさ。ふふふっ、元勇者に破滅を選択させてやった!」

魔王「僕自身、驚いたよー。僕をここまで追い詰めた元勇者に勝てたなんてね」

魔王「……元勇者の力はすごかったなあ。あいつの力を得て、僕はギリギリだったけど、生還できた」

魔王「その後、なんとか英雄達の魂を宝玉へ閉じ込める事はできたけど……元勇者はしぶとかった。自分の弱さに気づいて、挫折から立ち上がってさ」

魔王「僕から無理矢理逃げたから、ズレが生じて、他の仲間より遅く転生したみたいだけどね」

427 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/25 22:10:23 3UPg0Rcw 329/373

勇者「な……」

魔王「どういう事だろうね?一度僕に負けたくせに。まだ諦めてなかったなんて」

魔王「起きたらびっくりしたよー。飲み込んだ筈の元勇者がいないんだもん。仕方ないから、僕の力の結晶、黒の宝玉を媒体にして呪いをかけ、生命力を奪わせてもらったよ」

魔王「魔法使いが死んだら、その体に入って完全回復、準備完了。さあ世界を消そう、なんて考えてたんだけどなー」

魔王「魔精がいらない事ばかりするから。滅びの里を復活させたいとか、妖精長に見せてあげたいとか…そんな事を言ってたから、同情してやったのに。すっかり騙されちゃったよ」

魔王「……思えばアイツも僕の事を倒したかったのかな?人間も、僕も倒したかったのかな」

魔王「…ふふっ。でも、どうでもいいや。見ていて面白かったし!」

魔法使い「……なんで…なんで、スターさんを…魔精さんを、殺したの!?なんで!どうして!!」

428 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/25 22:11:36 3UPg0Rcw 330/373

魔王「なんでって。言ったじゃん、アイツはいらない事ばかりするからだよ。面白いなら構わないけど、ムカつく事を喋ろうとしたから」

盗賊「……シスターの事か?…俺が聖騎士、クソアマが魔導師、クソガキは元勇者……なら、…シスターって奴は」

魔王「それ以上言ったら怒るよ?」

勇者「………」

魔王「お前がシスターなわけないじゃん」

魔王「シスターは、こいつに殺されたんだ。…食べられちゃったんだよ。捕まえるだけで良かったのに、頭悪いんだからなー」ドズッ

魔獣「グガアァァ…!!」

僧侶「ひッ!!開いたままの、おなかを…剣で、刺した…!」

魔王「見たんだ。シスターが食べられちゃうところ。肉がぐちゃぐちゃいって、骨がバキバキ鳴って、零れた目玉もペロリって掬われて!」

魔王「僕、起きてからずっと探してたんだ。でも、どこにもないんだ。シスターがいないんだ。こいつの腹にいる筈なのに、いないんだよ」

431 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/26 02:07:05 4M2i0P.s 331/373

魔王「シスターは、美しく清らかで…何よりも、癒しと再生の力に特化していた。それがさ、ひとつでも欠けたら、汚れたらダメなんだよ」

魔王「蘇生魔法で生き返してもダメなんだ。供物にならない。……あんなにぐちゃぐちゃになっちゃなー。ひとつも欠けちゃいけないのに。本当にもう、魔獣のバカめ」

魔王「力は白の宝玉に閉じ込めた…でも、それだけじゃ足りない。魔竜が持ち出したから、仕置きで串刺しにしたけど」

魔王「あいつもいらない事沢山するんだよなあ、元勇者達に味方したりさー。あいつの大事なもの…力の源を奪ったのは僕だって、忘れてんのかな?ふふっ」

魔王「シスターはもうどこにもいない。お前みたいな醜い奴が、シスターの生まれ変わりなわけないんだ」スラッ

ズバッ!!  ―― ドサ

勇者「―― !!?? …うあああ… あ、あ  あーッッ!!!」

魔法使い「うわああああああっ!?ゆ…勇者様ーっ!!」

432 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 02:09:04 4M2i0P.s 332/373

盗賊「剣で、勇者の片腕を落としやがった…!!」

勇者「ああああ……あ…、……うああああーっ!!」

僧侶「勇者様!勇者様ぁっ!!………!?ど…、どういう、事…っ!?」

魔法使い「斬られた腕から…血がほとんど出ていない!?」

魔王「だから言ったでしょ。お前はシスターなんかじゃないって。魔獣が食べちゃったんだから」

魔王「……僕を倒す力を持った英雄達…君達を導く為に、足りない部分を補う為に、どうしたらいいんだろう?」

魔王「神様は考えました。そして、神様は創ったのです。…人形を」

勇者「――― !!」

魔王「やーい、偽者!人形!!お前は不完全な偽者だ、シスターじゃない、人間でもない!神の力が詰まる、僕を苛立たせる醜い人形なんだよ!」

魔王「ねえねえ、楽しかった?ただの人形のくせに、人間みたいに生きられてさ。楽しかった?…あはははは!!」

魔法使い「…やめろ……やめろよ…勇者様をいじめるな!!」

433 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 02:09:59 4M2i0P.s 333/373

勇者「……っ、………っ」ガクガク

僧侶「勇者様…勇者様っ、しっかりしてください…勇者様…!!」

盗賊「胸糞悪ィ奴め…人間だ、人形だ、過去がどうのこうの関係ねーよ……コイツはコイツなんだからよ!!」

魔王「…っていうかさー、僕、そろそろ飽きてきちゃった。イライラする、気分転換しない?」

魔王「違う遊びをしようよ。そうだなあ…こういうのは、どう?」サラサラ…

魔法使い「な……何…?どこから?あいつの手元に、灰が集まっていく…」

魔精「………」ズズズ…

魔法使い「…ス……スターさん!!」

魔将「…聖騎士ィィ……!」ズズズ…

盗賊「な…!!あ、あいつは……封印の塔で襲ってきた、全身鎧野郎!!?」

僧侶「そんな!倒したのに……なんで!?どうして!?」

魔王「こんな事なら魔竜も殺しておけば良かったなー、ここに呼べたのに。まあ、いっか!」

434 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 02:11:37 4M2i0P.s 334/373

魔王「…おい、魔獣。お前が行け。傷を回復してやるからさ、僧侶さんを食べちゃえ。好物なんでしょ?見境なくなるくらい。聖女の、生娘の肉が」パアアァッ

魔獣「…グゥルルル……!」

僧侶「ひ……、や、いや、……こ、来ないで!!いやああっ!…ううう、あ……」ドカッ!! ガチン!!

魔獣「ガウウウゥ!!」ギリギリ

魔王「あっははは!メイスを咬ませて防いだみたいだけど、いつまで耐えられるかなあ?」

盗賊「クソアマぁっ!!」

魔将「聖騎士ィィィ!!貴様の相手は、この我よ!あの女に邪魔はさせぬ、三度貴様を殺そうぞ!!フハハハハハ!!」ズドウッ

盗賊「!! こっの…どけよ!鎧野郎が!!クソアマが…クソアマが食われる…!!」

魔法使い「僧侶さん!お兄さん!!…あうっ!」ガシッ

魔王「邪魔しないでよ、いいところなんだからさー」

魔法使い「あ……ぁ、…う……ち…力が……吸い取られる…」シュウウウウ

435 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 02:12:18 4M2i0P.s 335/373

魔精「………」スッ

勇者「………っ……、……」ガクガク

魔法使い「スター…さん、……勇者様に、何するの…!」

魔王「期待はしない方がいいよ?もう余計な事をしないように、ちょっと弄ったんだからさ。あいつはスーパースターじゃない、…僕の配下、魔精だよ」

魔精「……私は………」

魔精「戦いが苦手でね」ヒタリ

勇者「………」

魔精「代わりに、幻惑や魅了魔法が得意なんだ。そう、精神に影響を及ぼす魔法が、ね。……肉体は傷つけない、だが………心は破壊できるんだよ」フワアァァ

勇者「……っ、………あ…?」

勇者「……ああああああ!!!いやああああ、ああああああ!!!やめて!やめて!!いやああああー!!」

魔法使い「勇者様!!」

魔精「心を、精神を、記憶を…鷲掴みにされるのは気分が悪いだろう?退けたいだろう?でも、掴めないねえ……払い除けられないねえ、フフ…こんなに苦しいのに」

436 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 02:13:09 4M2i0P.s 336/373

魔精「どんな悪夢を見ているのかね?フフ、子供の頃の優しい記憶?魔法使いと過ごした日々?僧侶との友情?それとも……大切に、大切にしたい、初恋の思い出かな?」

魔精「崩れていくだろう?砕けていくだろう?汚れていくだろう?目を逸らしても、振り払っても、奥へ奥へと入り込んでいく……逃げられないよ、精神とは、心とは、君の中にあるのだからねえ……フフフフ、ハーッハッハッハー!!!」

魔王「あはははは!!いい気味だ!壊しちゃえ、全部!全部だよ、いらないんだよ、こんな汚い世界なんかいらないんだからさあ!あはははは!あっはははははは!!」

僧侶「うう……っ、う…」ギリギリ

魔法使い「僧侶さん…」

盗賊「ぐああッ!…畜生……畜生ぉぉっ!!」ドズッ! ザシュッ

魔法使い「お兄さん…」

勇者「いやあああ…やめて、やめて……やめてえぇ……いやだあああ…!!」ガクガク

魔法使い「……勇者様…っ!!」

437 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 02:14:07 4M2i0P.s 337/373

魔法使い「…やめろ……」

魔王「あっははは……、…ん?」

魔法使い「やめろよ!みんなをいじめるな!!」

魔法使い「勝手な事を言って、なんでみんなを巻き込むんだよ!!汚いとかなんとか、お前がそう思っているだけだろ!?」

魔法使い「お前は!お前だけは、絶対に倒す!!諦めるもんか、何度負けたって諦めない、倒してやる!」

魔王「…あのさあ。僕だって、最初は世界を作り変えようと思ってたんだよ。消すんじゃなく、破壊からの再生。その為にも供物としてシスターが必要だったけど…食べられちゃったしね?」

魔王「でも、起きてから一度は考え直したんだよー?やっぱり再生にしようかなって。だから今までシスターを探してたけど、結局見つからないし」

魔王「もう疲れた。面倒臭くなっちゃって。再生なんかもういいや、やっぱり消しちゃえば済む事だ。ね、そうだろ?その方が断然楽じゃん!」ググッ

魔法使い「うああ…あっ…!!」

438 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 02:15:32 4M2i0P.s 338/373

魔法使い「ぼ……僕は…」

魔法使い「僕は……お前なんかに、負けない…もう、絶対に、負けない!!!」ボッ!!

魔王「!! 熱っ……火球魔法か…」

魔法使い「はあっ、はあ……、………僕は、お前とは違う…」

魔法使い「眠くっても、遊びたくても、我慢して…たくさん勉強した…勇者様を守りたかったから!勇者様が大好きだから、傍にいたくて、たくさん頑張った!嫌な事があっても、逃げなかった!!」

魔法使い「僕は弱っちいお前なんかとは違うんだ!!今度こそ、負けない!僕は強くなった、もう、負けない!勇者様を、みんなを守るんだ!」

魔王「…僕が弱い?笑わせるなよ。元勇者は剣の使い手だったけど、その力はもう僕のもの。一度僕が元勇者を飲み込んだから、その影響か、お前は魔法の才能を持って生まれたみたいだけど…」

魔法使い「違う!!…僕は、お父さんとお母さんの子供だ!!お前の影響なんかない!!」

439 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 02:16:12 4M2i0P.s 339/373

魔法使い「お父さんがくれた魔法の才能なんだ!お母さんがくれた体と心なんだあっ!!」ゴオオオッッ

魔王「……極炎魔法!?」

ドゴゴゴォッ!!

魔法使い「僕達は、お前なんかに負けない!」

魔法使い「……ねえっ、そうでしょう!?僧侶さん!」

僧侶「………っ」

魔法使い「僧侶さんならできるよ!いつも頑張っていたじゃない、ずっと見てた!僕、見てたよ!?怖くても一生懸命、挑戦して、乗り越えたじゃんか!!僧侶さんなら、できるよ!」

僧侶「……そう…そうだ……、…そうだった。……できる…私なら、できる…私なら、できるんだ!!」

僧侶「…神様……どうか、私に力を!この試練を乗り越える事のできる、力をお与えください!!」

僧侶「―― 聖風魔法!!」ゴアッ!!

魔獣「ガッ!?グオオアアア!!」ブオワァッ

僧侶「はあッ、はあ、はあ……!わ…私に近づかないで!!風が貴方を吹き飛ばしちゃうんだから!」

440 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/26 02:16:53 4M2i0P.s 340/373

魔法使い「…お兄さんを対象に、攻撃倍加魔法!!」パアアアッ

盗賊「クソガキ…!?」

魔法使い「お兄さん!早く、そんな奴倒しちゃって!お兄さんは強いんだから!!お兄さんは僕のライバルなんだ、そんな奴に負けない、そうでしょう!?」

魔将「聖騎士ィィィィィ!!」ズバババ

盗賊「…っらあ!!」ガキィン

魔将「―― 我の槍を弾いた…!?短剣で!?」

ヒュオッ

魔将「な…ッ!速……!!!いつのまに、背後に!」

盗賊「何度も訂正すんのは、もううんざりだからよ。その枯れて萎んだスカスカ脳味噌に刻んでやるぜ」

盗賊「……俺は聖騎士じゃねーよ、盗賊だ!!いい加減覚えやがれ!!」ドスッッ!!!

魔獣「ゴアアアアッ」ドウン!!

僧侶「火の玉なんか吐いたって、効きません!近づかないで!!…聖壁魔法!!」バキィン

盗賊「クソアマ!退いていろ!!―― だああぁっ!!」ザシュ!!

魔獣「ギャイィィンンン!!!」

444 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/26 14:49:09 4M2i0P.s 341/373

魔将「ぬぐっ!!ぬうぅっ……き、貴様らぁぁぁぁ!!!」

魔獣「グアアアオオオオ!!!」

魔法使い「僕達は今を生きているんだ!!明日に向かって歩いているんだ!!何度転んだって、負けたって、立ち上がって、やり直す!!」

魔法使い「明日を信じて生きているんだ!怖くっても、絶望しても、僕達ならできるって信じている!!」

魔法使い「すぐに諦めちゃって、周りに八つ当たりしかできない、お前なんかに、僕達が負けるかぁーっ!!!」

魔王「…うるさい……うるさい!うるさい!!うるさい!!!」

魔王「もう、面倒臭いなあ!!消えろよ!!僕の前から消えろ!!」

魔王「みんなみんな、大嫌いだ!!こんな世界なんか大嫌いだ!!汚い!ずるい!!卑怯だ!!消せばいい!汚いものしか残らない…こんな世界なんか、消えてしまえーっ!!」ゴッ!!

魔法使い「…絶望の力で、仲間の回復を…!?」

445 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 14:50:02 4M2i0P.s 342/373

盗賊「来るぞ!……僧侶!!」

僧侶「はい!防御倍加魔法!!」パアアアッ

魔将「おおおおおおッッ!!」ズドドドド

盗賊「…っ…!!…スゲー槍の突きだな?まるで豪雨のようだわ、……だが、悪ィな。全部避けちまった。俺の反射神経をナメんなよ」

魔将「速い!かすったとて、あの小娘の魔法が壁となっておるのか…小癪なぁっ!!」

盗賊「テメーの弱点は口の中だろ?いいのかよ、負け惜しみ吐いてちゃ丸見えになるぜ!!」ガシィッ

魔将「ぐっ!!我と体術で張り合う気か!?」グググ

盗賊「…テメーには言っておきたい事がもうひとつあったなー…そうなると、テメーに会えて良かったと思うわ」パアッ…

魔将「……?青い光…き、貴様は!貴様は!!」


盗賊「…テメーは、俺の女を泣かしやがった!!」

聖騎士『彼女を傷つける奴は、誰であろうと許さん!!』

魔将「…盗賊…貴様……!おおおお聖騎士ィィィィ!!」ドガアアアッッ!! ドズ!!

446 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 14:50:48 4M2i0P.s 343/373

魔獣「グオオアアア!!」

魔法使い「こっちに来る!僧侶さん、下がってて!僕の魔法で……」

僧侶「…ううん。私は大丈夫だよ。魔法使いくんは、早く勇者様を助けにいってあげて!」

魔法使い「で、でも……」

僧侶「大丈夫!私ならできる、あいつを倒せるから!!」パア…

魔法使い「……赤い光が…?わ、わかった」タタッ


魔導師『…集中しな、破壊は創造主の意思に背く力。生命を産み出す祈りの力と反発しあい、膨れ上がっていく』

僧侶「魔導師さんの破壊の力、私の祈りの力、相反するものを無理矢理混ぜ込めば……」

魔導師『耐えきれなくなったそれは、爆発する!!』

僧侶「―― 極大爆発魔法!!!」カッ!!

魔獣「グオッ……ゴガアアアアァァァ!!」

ドグアアァァァンン!!!

僧侶「……ふう、…こ、こ、怖かったあぁっ……魔獣も、この魔法も…!」

447 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 14:51:34 4M2i0P.s 344/373

魔精「………」フワアァァ

勇者「ひっ、ひ、ひっ」ガクガク

魔精「…最後の一欠片は、なかなか強固だな。それは何だ?私に見せてみろ。ほら……」

勇者「…いや……いやだ、いやだ、…もう、いやだ……あああぁっ…」

魔法使い「―― 勇者様!!」ダッ

魔精「!!!」

魔法使い「勇者様!負けないで!!勇者様は強いんだ、僕、知っているよ!だって、ずっと見てた…貴方とずっと一緒にいたんだから!」

勇者「………」

魔法使い「勇者様!僕の事を見て!僕、頑張るから!勇者様と一緒にいたいから、頑張る!だから勇者様も頑張ってよ、一緒に行こうよ!!」

魔法使い「背中を追いかけるんじゃない……勇者様の隣に立って、歩きたい!勇者様の手を引いて、先に進みたい!」

魔法使い「勇者様を守りたい…僕がいるよ、みんなもいる、勇者様、大丈夫だよ。貴方は一人じゃない!!そうでしょう!?ねえ、見てみてよ!!」

448 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 14:52:20 4M2i0P.s 345/373

勇者「………」

勇者「…魔法……使い………?」

魔精「なんだと…!?砕いた筈の心が…甦った……!?」

魔法使い「勇者様!立ち止まっちゃダメだ!!突っ走るのが勇者様なんだから、あとの事は僕達に任せてよ!勇者様は道を切り開いて!立ち止まっちゃダメ!!走って!勇者様!!」

勇者「………みんな…。……みんなが…いる」

勇者「…わたし……私は………私は、負けない!!」バキィン!!

魔精「ぐぅっ!?……魔法が弾かれた…!」

勇者「私の色は、お前になど染められぬもの!!私の色はみんなの色だ!!お前に汚されて堪るか!!」グッ!!

魔精「その構えは…貴様の奥義!!」

勇者「片腕だからとて侮るな!足りぬものはみんなが補ってくれる!!私が走れるのは、みんながいるからなんだーッ!!」ドガガガガガァァッッ!!

魔精「ぎゃあああああああああーっっ!!」バシュウウ

449 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 14:53:04 4M2i0P.s 346/373

魔王「………」

魔法使い「…あとは、君だけだよ」

盗賊「いつまで高見の見物気取りだ?かかってくんなら、さっさと来やがれ」

僧侶「もう、これ以上酷い事をしないで…お願い……!!」

勇者「貴様の蛮行、終わらせてみせる…!」

魔王「………」

魔王「バッカじゃないの。熱くなっちゃってさあ、くだらない」

魔王「どいつもこいつも弱いんだからなー、僕にやらせんなよ…めんどくさーい」スッ

勇者「……黒の宝玉…!!」

魔王「この黒の宝玉は、全てを飲み込むよ。元勇者だって、これに飲み込んでやったんだ。僕の力が詰まった結晶だ。…これでお前達も、世界も!全部を飲み込んでやる!」

魔王「みんなみんな!!消えちゃえ!!こんな汚い世界なんかいらない!!僕の前から消えろー!!」カッ!!

僧侶「きゃあああっ!?」

盗賊「ぐ…くっ、な、なんだ…これっ……」

勇者「引き摺り込まれる…飲み込まれる!!絶望の力か……!」

450 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 14:53:53 4M2i0P.s 347/373

ゴゴゴゴゴ

魔王「みんなみんな、大嫌いだ!!」

魔王「汚いんだよ!うるさいんだよ!!ごちゃごちゃとさあ!!」

魔王「なんで僕ばっかり!なんで!どうして!!なんで僕が責められなきゃいけないんだ!!」

魔王「戦争を起こして、殺し合いをさせて、奪って汚して潰して、憎み合う!!そんななのに、僕を倒すだって!?僕が悪者だって!?なんでだよ!!何が正しいんだ、何が間違っているんだ、何が、何が!!」

魔王「わからない!わからない!!……何が正しいのか…何が間違っているのか……そんなの、誰にも決められないだろ!?」

魔王「逃げ出して楽になりたい、もう汚いものを見たくない、考えるのは疲れた……」

魔王「……もう面倒臭いんだよ!だから消してしまえばいい!人間も、神も妖精も魔族も!みんな消えろよ、何も無くなればいいんだ、消えろ!消えちゃえ!!消えてしまええぇー!!」

―― ドガァァン!!

451 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 14:54:37 4M2i0P.s 348/373

魔法使い「…あ…諦めるもんか…!」ガガガガガッ!!

魔王「!!? 飲み込めない…?僕の力を攻撃魔法で押さえた!?お前が!?僕より弱い、お前が!?」ガガガガガ!!!

魔法使い「弱いのはお前の方だ!!…もう、二度と…飲まれはしない…諦めるもんか、お前なんかに、もう二度と負けるもんか!!!」カッ!!

元勇者『…何が正しいか正しくないか、それは誰にもわからない。魂の数だけ、正否は存在するんだ』

元勇者『だが、その中でも、はっきりした事はひとつある』

魔王「…元勇者…!お前!!」

元勇者『挫折しようと、絶望を味わおうと……諦め、投げ出し、先に進まぬ事、それが俺にとっての悪だ!!』

元勇者『一度は飲まれこそすれ、俺は諦めん!再び立ち上がり、犯した過ちを償う!!魔王、俺達は、お前を倒す!!』

魔法使い「勇者様!お兄さん!僧侶さん!みんな、負けないで!!僕達の力で、魔王を倒すんだ!!」バキィィン!!

452 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 14:55:24 4M2i0P.s 349/373

盗賊「―― ッ!!?……クソガキ…」

僧侶「魔王の力を、弾いたの…?」

勇者「私達は…私達は、負けない!明日に希望を託す為にも、ここで立ち止まるわけには、いかない!!」

魔王「…うざったいなああ!!しつこいんだよ!!早く消えろよ、僕の前から消えろおおお!!!」ゴウッ!!

元勇者『……勇者!俺の剣を手に取れ!!』

魔導師『あたし達が、魔王を押さえつけている隙に!!』

聖騎士『君達全員の力で、奴を倒すんだ!!』

―― カッ!!

魔王「………ッッ!!?う…動けない…?なんで、お前らなんかに…シスターの欠けたお前らが、何故…!!」ギシッ ギシ

シスター『…いいえ。私はここにいる。みんなと共にいるわ!!』

魔王「!!! な…なんで……なんで?どうして!あんなに探したのに!あんなに呼びかけても、いなかったのに…どうして、お前がここに!!」

シスター『貴方は私達が止める…私達は、もう負けない!!』

453 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/26 14:56:05 4M2i0P.s 350/373

盗賊「もがいて足掻いて、それでも俺達は、明日に希望を託す、未来を作る!!」

僧侶「転んだって立ち止まったって、どんなに怖くたって、勇気を出して前に進む!!」

魔法使い「失敗したら、やり直す!償う!!そうやって探していくんだ、正しいと思える事を!!」

勇者「諦め、投げ出す貴様などに、私達は負けない!!」

魔王「ちくしょう……お前らなんかに…お前らなんかに、この僕があああ!!!」

魔法使い「みんなの力を合わせて…勇者様!!魔王を斬り倒して!! ―― 聖雷光魔法!!!」カッ!!

盗賊「行けぇっ!!勇者!俺達がお前を支える!!」

僧侶「終わらせてください!この戦いを…貴方の剣で!!」

勇者「みんなの力を剣に乗せた、魔法剣を喰らえ!魔王!!覚悟ーッ!!!」

魔王「うわああああああああーーーッッッ!!!」

―― ズガガアアアアァァァッッ!!!

454 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/26 19:48:40 4M2i0P.s 351/373

魔王「うあああああ!!…体が…体が、消える……力が消える、…僕が消える…!?そんな!そんなああ!!」

魔王「僕が消したいのは、この世界なんだ…こんな世界、いらないのに……汚い、醜い、嫌な世界なんか……消してしまえばいいんだああああ…!!」

元勇者『今だ!魔王を封じ込める好機!!みんな、もう一度力を、呼吸を合わせろ!!俺に続けーッッ!!!』

魔導師・聖騎士・シスター『おおおおおおッ!!!』


―― ビカァァァッッ!!


勇者「……ッ…、…あ…?」

盗賊「魔王も…元勇者達も、消えた…?」

―― カツンッ

僧侶「あ…か、代わりに…不思議な色の宝玉が、落ちていますよ…?」

魔法使い「これ…何色だろう?でも、きらきら光ってて、すごく綺麗だ…」

455 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 19:49:32 4M2i0P.s 352/373

「…その宝玉は英雄達、そして魔王…全員が救われた証。光の宝玉だ」バサァッ

勇者「……!あ、貴方は!?」

魔法使い「魔竜さん…?でも、すごく綺麗…光の宝玉と同じ、きらきら光ってる……」

聖竜(魔竜)「魔王が倒された事で、封印が解け、奪われていた力の源もワシに返ったでの……魔竜から、本来の姿に戻る事ができたよ。礼を言うぞ…ワシの名は、聖竜。神の遣い、聖竜だ…」

僧侶「か…神様の遣い、ですか!!?」

盗賊「だからあんなに万能だったってわけか。…勇者が言っていた、純粋で綺麗っつーのも……」

聖竜「…うむ。さあ、戦いは終わった。ワシはお前達を迎えに来たのだ。帰ろうぞ、元の世界へ。ワシの背中に乗るといい」

勇者「あ…、……英雄の剣が、砕けてしまったから…」

聖竜「そう。お前達の力に耐えられなかったようだの。フフ、本当によくやった。過去を乗り越え、魔王を倒し…強くなったのう、お前達」

456 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 19:50:20 4M2i0P.s 353/373

バキィン!! ―― バサアアッ!!

盗賊「うおおっ!?すげぇ……次元を突き破って、あっという間に空へ…!」

勇者「ああ……空だ!真っ青な空が、眩しい太陽が…帰って来れたんだな!私達!!」

聖竜「光の宝玉は、神界に持っていこう。そこで魔王を休ませ、癒す……奴も苦しみ抜いた結果、ああも歪んでしまったのだ…癒してやらねば」

聖竜「…勇者よ。お前も本当によくやった。神はお前に褒美を与えると仰っておったぞ」

聖竜「お前が望めば、神の人形から、普通の人間になれる。魔王に落とされた腕も治してな。…または、神界に帰るという選択もあるが……」

勇者「……ありがとうございます、神様、そして聖竜殿。そのお言葉、有り難く頂戴すると共に……甘えさせてもらいます」

勇者「………」

勇者「私は……人形じゃなく、人間でありたい。大好きな人達と共に生きたい。どうか私を、人間にしてください」

魔法使い「……勇者様!!」

457 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 19:51:09 4M2i0P.s 354/373

勇者「なんだ?そんな顔をして。私が神界に帰るとでも思ったか?」

勇者「…ありがとう、魔法使い。私達を助けてくれて。君がいなかったら、どうなっていたか…」

勇者「君はいつも私に力をくれるね。私を励まして、奮い起たせてくれる。君が傍にいてくれて、本当に…良かった。…ありがとう」ニコッ

魔法使い「………!!」

盗賊「…頑張った甲斐あって、良かったなあ?クソガキ」

僧侶「本当に!魔法使いくんのおかげだね、一生懸命頑張っている魔法使いくんからは、いつも勇気をもらえるもの」

魔法使い「う……うん!うんっ!!僕…僕、頑張った!みんなを守りたいから…たくさん、たくさん…頑張ったよ…!!」

魔法使い「ありがとう……ありがとう、みんな!……やったあー!!魔王を倒したんだ、僕達は世界を救ったんだー!!」バッ

勇者「あっ、コラ!急に立ち上がるな、危ないぞ!?…まったく、もう…」クスクス

458 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 19:51:56 4M2i0P.s 355/373

聖竜「勇者よ、お前の願いを叶えよう。…人間になれば、今まで持っていた力は失われるぞ。まさに神がかり的な強さの全てをな」

勇者「構いません。また修行をすればいい事ですから!」

盗賊「…相変わらず、クソ真面目なイノシシ女だなー。もう平和になったっつーに、修行かよ…」

僧侶「ふふ。でも、それが勇者様ですからっ」

魔法使い「僕も!僕も一緒に修行するからね!勇者様!」

聖竜「では、一度みんなを神界に連れて行く!そこで勇者を人間へと治すでの。それからの行き先は決まっておるか?」

盗賊「んなの、全部の国に決まってんだろ!各国から魔王討伐の褒賞金を貰うんだよ!」

僧侶「もお~…盗賊さんったら…」

魔法使い「でも、みんなに会いたいのは僕も同じ!お願い、聖竜さん。各国へ連れてって!」

勇者「…ああ、楽しみだなあ。明日はどんな事があるんだろう!私達なら、なんだってできる!希望に溢れた明日に行けるんだ!!」

459 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 19:52:41 4M2i0P.s 356/373

~神界~

僧侶「………!!す、す……すごい…すごいなんて言葉じゃ表せないくらい、すごい……」

魔法使い「ここが…神様の住んでいる世界なんだ。エルフの村よりも、もっとずっと、美しいものに溢れている…ああ、いるだけで、救われる気持ちになるよ……」

盗賊「…天国ってのも、こんな感じなのかね。神様かー……俺が神様とやらの近くに来れるたぁな…」

勇者「聖竜殿…神様は、どちらに…いらっしゃるのでしょうか」

聖竜「神はここだけでなく、いつもお前達の傍におるよ。…お前達の目で、その御姿を見る事はできん。姿形にとらわれぬ、唯一無二。それが神」

聖竜「故に、ワシや神職者という代行が存在するのだ。勇者よ……神はお前の功績を称え、お前の体を癒してくださる。神の代行人形から、人へと生まれ変わるのだ」

聖竜「そして、お前なりの正義を、幸福を模索し、歩むがいい。人生という短く長い旅に出るがいい」フワアアァァ

460 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 19:53:27 4M2i0P.s 357/373

魔法使い「…聖竜さんのブレスが…勇者様の体を包んでいく」

勇者「…ああ……魔王に落とされた腕も、戻って…」フワアアア

盗賊「それ以外、特別変わった感じはねーよな…?」

勇者「いいや、わかる。人間になったのだと……上手く言えないが、何かが足りなくなった感じがする。…しかし、ブレスを受ける前よりも、とてもとても、満ち足りたものを感じる!」

僧侶「勇者様は勇者様です!それだけは変わりませんよ、勇者様は……私達の勇者様ですっ」

聖竜「勇者よ、そして仲間達よ。此度の働き、見事であった。皆を救ってくれた事に、感謝を捧げよう」

聖竜「お前達の過去…英雄達も、挫折から立ち直れた。お前達のおかげで救われたのだ。彼らもまた、この神界にて休ませよう…彼らの戦いは終わったのだ」

聖竜「過去を乗り越え、己を守り抜いたお前達の力、神は称えるであろう」

461 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 19:54:15 4M2i0P.s 358/373

魔導師『本当にありがとう。…あんたがこんなに強かったなんて、びっくりしたよ。あんたなら、もう大丈夫だね』

僧侶「いいえ…魔導師さんが沢山の事を教えてくれたからです。お疲れさまでした…ゆっくり休んでくださいね」

聖騎士『自由を得た君なら、安心してこの先も任せられる。よろしく頼んだぞ』

盗賊「へいへい。ま、適当にやらせて頂きますよ。気の向くままにな」

元勇者『君は俺よりも強い。皆を導く事のできるその力と勇気。挫けぬ心を、これからも忘れないで。頑張れよ』ナデナデ

魔法使い「…もー、子供扱いしないでよ……近いうち、その身長だって追い越しちゃうからね!!」

パアアッ…

勇者「………!」

シスター『…本当にありがとう、みんなを助けてくれて。私も、呪縛を解く事ができた。神の下へと行く事ができるのは、全て貴方達のおかげだわ』

シスター『ありがとう、勇者達。本当に……ありがとう…』

462 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/26 19:55:02 4M2i0P.s 359/373

元勇者『俺達は神の下へと帰る。…光の宝玉と共に』

元勇者『そして、再び魔王が目覚めるのを待つよ。大丈夫…次に目覚めた時は、彼と友人になれるだろう。必ずね』

元勇者『穢れを清め、癒された魔王は救われる。彼が償いを終えて来るのを、俺達はここで待っているよ』

元勇者『ありがとう。もう一人の俺達。本当に、ありがとう…』

―― パアアアァァ…

勇者「…消えた……」

僧侶「…皆様、本当に…お疲れさまでした…」

聖竜「……さあ、地上へ。お前達の帰る場所へと送ってやろう」

勇者「……あ。いえ、その前に。どうかもうひとつ、叶えて頂きたい願いがあるのです」

盗賊「………それって、もしかして」

僧侶「…勇者様っ!」

魔法使い「僕も…僕達も、是非!お願いしたいよ、……我儘かも、エゴかもしれないけど…」

聖竜「エゴかどうかは…確かめればわかる事だしの。その願い、言ってみろ、勇者よ…」

463 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/26 19:55:55 4M2i0P.s 360/373



戦いは、終わった。

魔王討伐を果たした勇者達は、各国を回り、世界に平穏が訪れた事を伝えていった。

人々は喜び、また、反省し、明日に希望を託していく。


―― そして、魔王討伐から、数年の月日が流れた…


・・・

・・



469 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/27 00:31:05 au//fyRk 361/373

~大聖堂の街~

盗賊「……はいよ。注文の品、巫女の冠だ」

衛兵「ありがとう。これで山間の村の祭りが盛り上がるよ。たまには君達も遊びに来てくれ、いつでも歓迎するからな?」

スライム「ピキー!」ヒョコ

盗賊「よお、お前もいたのか、温泉スライム。元気そうじゃねーか」

衛兵「この子も君達に会いたがっていたしな。…この子も、私も安心して村の外に出られるのは、全て君達のおかげだ。本当にありがとう」

盗賊「もういいっつーの、その話は。ま、近いうち遊びに行くから。飯を沢山用意しておけよ。あの山の幸料理は最高だ」

衛兵「はは、わかったよ。必ずな。では、私はこれで。行くぞ、スライム」

スライム「ピッキピー!」


賢者「…商売繁盛で何よりだねー。魔王討伐の褒賞金を元手に、その手先器用さを生かして、装飾品の店を出すとは。天職ってやつじゃない?」バサッ

470 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/27 00:31:46 au//fyRk 362/373

盗賊「なんだ、起きていたのかよ。新聞被って静かにしてっから、寝ていたのかと思ったぜ。起きてんなら銀磨きを手伝え、注文はまだまだ山のようにあんだからな」

賢者「やーだよー。自分の事は自分でやりなさいね。オッサンは疲れてんだからさー」

盗賊「だからって俺の店を休憩所に使うな。このクソオヤジは……悟りの書が見つからないからって、ならテメーで作ってやるとか奮起していたと思えば、こうダラダラと…」

賢者「だっから休憩だってば、休憩~。休んだらまた頑張るしー?」

聖竜「か、か、匿ってくれええっ!!」バサバサッ

盗賊「うおっ!?聖竜じゃねーか!どうした…またそんな肩乗りサイズに変化しやがって。お前もちょくちょくこっちに降りてくんなァ、それでも神の遣いか?有り難みの無い」

賢者「匿って、って何事よ。……まさか…」

ドカアアァァン!!

471 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/27 00:32:29 au//fyRk 363/373

聖竜「ひいいい!!き、来たああっ!!」

研究者「ごほっ!ごほ……移動魔法は、まだまだ研究の余地があるな…移動する度に爆発しては敵わん」ガラガラ

研究者「逃げるな、聖竜。俺が張った罠の菓子を食っただろう。代わりに、お前を調べさせろよ。ちょっと鱗を貰うだけだ、数枚でいいんだ!!」

聖竜「嫌だ嫌だ!!解剖される~っ!!菓子を食ったのは謝る!!だからこっちに来るなあー!!」バサバサ

賢者「あっはは、聖竜も何度だって騙されるんだからなー。いい加減学習しなさいよ」

盗賊「どうでもいいけどよ、店先を破壊すんのだけは止めてくれ」

聖竜「どうでもいいとは何事か!わああ、やめろ!!虫取網を振り回すな、ワシは神の遣い、聖竜ぞ!!?この罰当たり者がーっ!」

研究者「だからこそ調べたいんだ!おとなしくしろ!!逃げるな!痛くはしない、多分!」ブンブン

472 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/27 00:33:14 au//fyRk 364/373

盗賊「ったく騒がしいな…あー、やめやめ。今日はもう店仕舞いだ」

賢者「そうだねぇ、ここまでみんな揃ってんだしさ。いっちょパアッとやりますか」

盗賊「酒は無しだからな?アイツに無理させるわけにゃいかねーしよ」

賢者「わかってるって。…やー、しかしお嬢ちゃんのおなかも随分大きくなったよねえ」

賢者「……悟りに一番近いのは兄ちゃんだと思ってたが、やる時はやるんだからなあ」ボソッ

盗賊「なんか言ったか?」ギロリ

賢者「いいえー、何も」


魔法使い「―― お兄さーん!貿易大国への配達、終わったよ!次はどこ?」タタッ

盗賊「おう、お疲れ。次は……あー、いいや。帰ってからにしよう、今日はもう店仕舞いだからな。飯食って休むぜ」

魔法使い「そっかー。どこだって行くからね、僕達に任せて……あ、賢者さんだ!来てたんだ、久し振りーっ!」パシン

賢者「よう、魔法使いくん。久し振りーのハイタッチ!」パシン

473 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/27 00:34:00 au//fyRk 365/373

賢者「しっかし相変わらず人使いの荒い兄ちゃんなんだからなー、魔法使いくんと勇者ちゃんにお使いさせるなんて」

盗賊「人聞き悪い事言うんじゃねー、こいつらがやりたいって言うから俺はだな…」

魔法使い「うん!各国を回って、いい修行にもなるしね。お兄さんの品物配達は、その序でに?」

盗賊「序でにって。生意気言いやがって、このクソガキが」

魔法使い「あははっ。さ、帰ろう帰ろう!勇者はもう先に行っているんだ、僧侶さんの顔が見たいからってさ。片付け、僕も手伝うから」

賢者「おー。働け働け、若者達よ!早くオッサンに飯を食わせておくれ~」

盗賊「テメーもやるんだよ!タカり魔が!!」

盗賊「(……にしても…"勇者"か。いつからだったか、呼び捨てになったの)」

盗賊「……、一丁前になりやがってなあ」グシャグシャナデ

魔法使い「わ…何?何?いきなり人の頭撫でて…子供扱いはやめてよー!」

474 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/27 00:34:48 au//fyRk 366/373

~盗賊達の家~

勇者「本当に大きくなったなあ。この中にひとつの生命がいるとは…なんとも神秘的だ」ナデナデ

僧侶「うふふ。勇者様ったら、私達よりもべったりなんだから。…もうすぐ産まれるんですよ」

勇者「とても楽しみだよ!早く会いたいなあ、すごく可愛いだろうなあ……名前はもう決まったのか?」

僧侶「いいえ、まだなんです。盗賊さんが考え込んじゃってて。私達がこの子に贈る事のできる、初めてのものだからー、って」

勇者「そうかぁ…どんな名前かも楽しみだな。すくすくと大きく育つんだぞ!君の両親はとても強い人達だ、負けないようにな!」ナデナデ

僧侶「……このおなかだけじゃなく…大きくなったものは、ありますよね?」

勇者「…うん。本当に、早いものだ。前は私の肩よりも下だったのに…今は軽く見上げる程身長が伸びて」

勇者「いつか置いていかれそうで、なんとなく怖くなる時もあるよ」

475 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/27 00:35:29 au//fyRk 367/373

僧侶「大丈夫ですよ、勇者様。私達は、みんな貴方の傍にいます。私達は…仲間なんですから」

僧侶「でも、貴方の隣に立てるのは、」

バタンッ

魔法使い「ただいまあー!あー、おなかぺこぺこ!!お兄さん、早くご飯作ってよ!」

盗賊「誰だ、俺の事を人使い荒いなんつったのは。こいつの方がよっぽどじゃねーか」

賢者「はいはい、さっさと作る!オッサンの飯は、あっさりめで頼むねー。そろそろ油ものがキツいからさー」

勇者「…なんだなんだ、急に騒がしくなったな。まったく。僧侶のおなかに響いたらどうするんだ」

僧侶「いいんですよ、勇者様!賑やかな方が楽しいですもん」

魔法使い「勇者、こっちにおいでよ。次の配達先の行き方を調べよう、まだ行ったことのない場所なんだから」

勇者「ああ」タタッ

勇者「………」

勇者「………ふふっ」

476 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/27 00:36:21 au//fyRk 368/373

魔法使い「? どうかした?勇者」

勇者「いいや。なんでもないよ、魔法使い。…ちょっと嬉しくなっただけだ」

勇者「(そう、私にはみんながいる。みんな、傍にいる)」

勇者「(でも、私の"隣"にいつも居てくれたのは……)」

勇者「…魔法使い。君だったんだよね」

魔法使い「うん??何?何の話?」

勇者「そのうち教えてあげるよ。……ゆっくりと、育てていきたいから」

勇者「だから…これからも傍にいて。私の手を離さないで、魔法使い」

魔法使い「よくわからないけど……大丈夫だよ、勇者。僕は君の傍にいる。ずっとだよ?」

魔法使い「小さな頃からそうだったでしょう。そして、これからも。小さな頃から、君が好きだった」

魔法使い「そしてこれからもずうっと、君の事が好きだよ!勇者!」

勇者「…ありがとう、魔法使い。君となら、私はどこだって行ける。君が私に勇気をくれるのだから!」

477 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/27 00:37:05 au//fyRk 369/373

・・・

妖精「…ね?信じていて良かったでしょう。見てちょうだい。世界はこんなにも、美しい」

妖精「これから先も、ずっと、ずっと……守っていきましょう、私達ならできるわ」

スーパースター「…ああ!この美しい私がいるのだからな、美しく照らす私がいれば、世界はこんなにも輝けるのだ!ハーッハッハッハー!!」

妖精「調子がいいんだから、まったく。ちょっと、踊ってばかりいないで、貴方も手伝ってよね」

妖精「彼らの未来が明るいものであるように。妖精の加護を贈るんだから」

スーパースター「任せたまえ!美しい私が美しく華麗に手伝おうじゃないか!!」

妖精「はいはい。よろしく頼むわね、…救世主さん」プークスクス

スーパースター「救世主の部分で笑わないでくれたまえよ!美しい私の美しい硝子ハートに傷が!!ほら見て、涙目だろう!?なあ、待って!私を見てくれえぇー!!」


【おわり】

478 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/27 00:37:46 au//fyRk 370/373


ベタベタでコテコテものを書こうと思いました。おかしな点があったらすみません。

読んでくださった方、本当にありがとうございました。

484 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2013/05/27 02:39:39 wfCgb4c6 371/373

たしかにベタベタでコテコテだな
だがそれがいい

滅びの里連中はどうなった?

488 : ◆uf0K1dqu8A[sag... - 2013/05/27 10:09:58 au//fyRk 372/373

皆様ありがとうございます!
フォーチュンクエストのような雰囲気に憧れるけど、難しいものですね。


>>484
大魔王や次世代勇者が出る頃には、わだかまりも解けて力になってくれるとか、そんなベタベタ。

494 : ◆uf0K1dqu8A[] - 2013/05/31 01:07:13 gCWkbhKE 373/373


読んで頂きありがとうございました!

前作共々、まとめても頂いたようで、それもありがとうございました。
思いついたのもあり、スレもあまってますし、外伝()を書いてみましたので、投下します。短いものです。

生意気な事を言って申し訳なくもありますが、この外伝()部分はまとめへの転載不可でお願いします。

外伝につきましては、上記の通り転載不可となっておりますので、
元スレにてお楽しみ下さい。

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1368286581/494-

記事をツイートする 記事をはてブする