668 : VIPに... - 2011/02/08 17:18:17.69 r9k3rzPAO 1/15今夜21時に、8月7日の短編を投下させていただきます。
タイトルは『とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)』です。
雲川芹亜→削板軍覇のお蔵入りした短編です。それでは失礼いたします。
元スレ
とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294929937/
~織女星祭・噴水広場~
雲川「足が痛いんだけど」
削板「ん?」
22:31分。空中庭園でのグリルパーティーを終え、家路へと向かう途中に雲川芹亜は出し抜けにそう言い放った。
削板「なんだ藪から棒に」
雲川「むしろ私の足が棒なんだけど。もう歩けないんだけど」
至る所で夜店や屋台が手仕舞いを始め、昇り下りに帰路に就く見物客の山と波の中…雲川は噴水に腰掛け、足を組んだ。
着慣れない鬼百合の浴衣であろうとやや裾長のそれを上手く捌いて。
削板「どこか捻ったのか?」
雲川「ううん。単に履き慣れない草履で足が靴擦れなんだけど」
削板「根性で(ry」
雲川「どうにかなるか!」
玉座に身を委ねる女王然とした物言いでヒョイと足を投げ出す。
しかし削板は気づかない。草履なのに靴擦れなどと日本語としておかしい表現を雲川がしている事に。
削板「むう…これは難儀だ。仕方が無い。持ち合わせが少ないがタクシー呼んでやるから―…」
雲川「まっ!待って欲しいんだけど!」
人混みの中、見上げる雲川が見下ろす削板を制止した。
削板「うん?金の事なら心配するな!女に払わせるだなんて男を下げる事はしねえ!無い袖を振るのが男の根性――」
雲川「違うんだけど!ちゃんと私の話を…私の話を聞いて欲しいんだけど!」
それはもう常日頃の雄弁な語り口も何もない、どこかつっかえつっかえの言葉だった。
まるで、本当に声に出して伝えたい言葉を無理矢理別の言葉に置き換えているような…
雲川「…少し飲み過ぎたから、苦手な車に揺られて帰るのは危ない気がするんだけど…」
削板「お前車酔いなんかするのか?初耳だぞ。ならモノレールやサブウェイが――」
雲川「今から乗ったって混み混みで一時間は並ばなきゃいけないんだけど。乗れても座って帰れないのは辛いんだけど」
削板「八方塞がりだ!」
むう…と削板は闇夜にも悪目立ちする白ラン姿で腕組みしつつ思案する。
雲川が腰掛けている噴水広場は水中より七色に変化し虹色に光り輝くライトアップがなされている。
ザーっと言う滴り落ちる水音を聞きながら雲川は思案顔の削板を見やる。
雲川「それに…いくらお祭りだからって女の夜道の一人歩きは危ないと思うんだけど」
やや俯き加減に、痛む足に目を落とす。それより痛む胸を押さえて。
削板「それもそうだな…祭の夜は乱痴気騒ぎのドンチャン騒ぎだ!女の身一つでは如何なお前の根性にも限界があるからな!」
雲川「!」
よしっ、と削板はそこで右握り拳を左掌に叩きつけ鷹揚に頷いた。
何やら策でも閃いたか方法でも浮かんだのか。
削板「ちょうど今朝板金屋から仕上がったばかりのオレの愛車がある!ここに来るまでにそれに乗って来たからそれで家まで送ってやろう!」
雲川「そ、そうか?悪いな」
削板「オレは一向に構わん!戦争前に預けたきりで、お前達にもまだ見せていなかったからな!待ってろ!今取って来る!」ピャー
雲川「ちょっ、ちょっと!」
そう言い切るや否や、削板は雲川を置いて走り出して行ってしまった。
周囲ではテントの足組を解体したり、電球を外したりと祭の墓引きの火のようだった。
そんな中、引き止めようとした手だけが虚しく空をすり抜け…雲川は手を膝に下ろした。
雲川「…あの馬鹿大将、車なんて持ってたのか?確か私と同い年か一個上のハズなんだけど…バイク?バイクか?」
確か板金屋と言っていたから車かバイクなのだろう。
削板の格好や年齢からすればバイク辺りが妥当な線なのだが――この時の雲川は自分の言葉の明らかな矛盾点を取り繕う事を忘れていた。
『乗り物酔いする体質』と言いながら『削板の愛車で送ってもらう』という絶対矛盾に――
上条「雲川先輩?」
雲川「…上条、当麻…」
頭上からかかる声音に思い出す。この少年との再会はかつて一人スプリンクラー雨祭りをしている時だったと。
上条「どうしたんですかこんな所で、一人で」
雲川「…別に?迎えの足が来るのを待ってるだけなんだけど」
幻想殺し(イマジンブレイカー)上条当麻。自身が原石のリストから外すように助言したパッケージ。その少年が、削板と入れ違いに姿を現したのはただの偶然なのか。
上条「なら良かった…流石に女性の一人歩きは上条さんも心配になりますよ」
雲川「ふふっ。そうか。変わらないな。そういう所が気に入ってるんだけど」
見た所一人だが、手には大量の屋台の食べ物が詰まった紙袋があった。
店仕舞いに際して持てるだけかき集めたのだろうか。
あれだけ肉という肉のオンパレードの後によく入るなと雲川は思う。
上条「浴衣――似合ってますね」
雲川「ほう?おべっかを使えるようになるまで成長したか。これは評価を改めるべきなんだろうけど」
上条「違います!違いますって!」
雲川は知らない。上条が抱えている紙袋は彼自身ではなくその同居人の修道女が喰らう物だと。
雲川は知っている。こういったリアクションは昔のままだが、朴念仁過ぎる鈍感さは多少現在の『恋人』に教育されているのだと。
プッープー!
「かーみじょう!買いに行けっつったけど油売れって言ってないでしょー!」
「とうまとうま!チョコバナナあった?チョコバナナあった?もう待ちきれないんだよ!」
上条「わかったー!今行くっつの!」
噴水広場の外から鳴るクラクションと、女性とおぼしき声音と少女の声色が上条に呼び掛ける。
どうやら車の主達にパシらされていたらしいとそこで気づく。
少し離れていて見えにくいが、たしかヴェンチュリーのアトランティックモデルに雲川には思えた。
上条「じゃっ、すいません雲川先輩。気をつけて!」
雲川「ああ。わざわざありがとう」
少し見なかった間に、背が伸びている。たったそれだけの変化で、随時大人びて見えた。
しかし、今雲川が追っている背中は――上条当麻ではない。だから
雲川「おやすみ」
見送る背中に、聞こえないほど小さく小さく――雲川は呟いた
~織女星祭・噴水広場2~
ざわ…ざわ…
見物客A「おい…なんだよアレ…」
ざわ…ざわ…
見物客B「実物初めて見たわ…写メ取って大丈夫かな?」
ざわ…ざわ…
見物客C「出し物…じゃないよな…」
ざわ…ざわ…
雲川「出し物って言うか見世物なんだけど!!!」
削板「どうした雲川!足が痛むのか!?」
雲川「痛いのは足じゃなくて周りの目なんだけど!!!」
上条達が車で去って行った後…入れ替わりに今度は削板が『愛車』を引っさげてやって来たのだ。そこまでは良い。だが
雲川「どうして…どうしてっ!」
車なら車でも良い。バイクならバイクでも構わない。ぶっちゃけた話のロケットカウルに三段シート付きの族車仕様でも構わない。
雲川「なんで…なんでっ!」
もちろん良くなどないがこれに比べればまだマシだ。
自転車でもママチャリでもマウンテンバイクだって構わない…
しかし今、噴水広場を『ざわ…ざわ…』で埋め尽くしているそれは――
雲川「――なんでデコチャリなのかを聞きたいんだけど!!!!!!」
削板「チャリで来た!当たり前だろう!それに――」
雲川の前に置かれ、削板が跨っているそれは…立派なロケット仕様のFバンパーに、後部には六連テール、その上ナイトで光り輝くライトアップで『根性』をデコレーションされた…
デコトラのオーナーが裸足で逃げ出す仕様をデコチャリにあるまじきマウンテンバイクに取り付けた掟破りのセッティングであった。
削板「雲川!オレをいくら馬鹿にしても構わない…だがコイツ(愛車)を馬鹿にするのはいくらお前でも許さねえ!」
雲川「名前で呼ばないで欲しいんだけど!他人のふりしたいんだけど!!」
削板「何を言う!これは板金屋の鉄さん(仮名)と、垣根が未元物質でコーティングしてくれた完全防水製!錆の一つもつかん根性の結晶だぞ!」
雲川「垣根ェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」
避難所でのあの獅子奮迅の戦いを除いてロクな事をしない垣根の抹殺を雲川が本気で考えたのはまさにこの夜である。
しかし当の垣根は『面白そうだったから』の一言でケロッとしていたそうな。
削板「さあ帰るぞ!乗った乗った!」ヒョイッ
雲川「離せ馬鹿!離せ馬鹿!私の話を聞けこの馬鹿ー!!」
そして雲川は削板の愛車の荷台に乗せられ、半ば拉致されるようにして連行された。
途中、麦野が運転し上条・インデックスが乗り込んだヴェンチュリーを追い抜き、ブチ切れた麦野が
禁書『しずり!しずり!赤いところ!赤いところまで踏んでるんだよ!?』
麦野『法定速度ォ?関係ねぇよ!そんなのカァァンけいねぇぇんだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!』
上条『不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
とデコチャリVSスポーツカーという異種格闘カーチェイスを繰り広げるのはまた別の話である。
~とあるコンビニ~
雲川「死ぬかと思ったんだけど…」
削板「?。女を乗せてるから気を使ったつもりなんだがな!」
雲川「スピードの向こう側が見えたんだけど…」
ヴェンチュリーVSデコチャリの激戦を制した削板は雲川の要望によりコンビニに立ち寄った。
雲川としても一息つかねば息の根が止まってしまいそうだったからだ。
もうカチューシャでまとめた髪はグチャグチャに掻き回され、浴衣など胸元が肌蹴そうだ。
草履も片一方どこかに吹き飛んで行ってしまった。
雲川「とりあえず…なんか飲み物が欲しいんだけど…あれ?」
渇き切った喉を潤すべく歩を進めたドリンクコーナー…しかしそこでは何故かブラックコーヒーが根刮ぎ姿を消していた。
雲川「…商品入れ替え?」
削板「買い占めじゃないのか?しかしコーヒーの大人買いとは根性があるヤツだな!眠れなくなるぞ!」
雲川「そんな訳あるはずないんだけど。そんなヤツいたら馬鹿なんだけど」
二人は知らない。そこはかつては麦野沈利が、結標淡希が、来る度にコーヒーが買い占められている魔のコンビニだと。
そして犯人はもちろん――言うまでもない。
雲川「とりあえず…ヘルシアウォーター」
削板「三ツ矢サイダー!ガリガリ君食うか?」
雲川「別に構わないんだけど」
焼肉の後にヘルシアはある意味仕方無いとして、そこでアイスを食べてしまってはチャラになってしまう事に雲川は気づかない。
削板を馬鹿だ馬鹿だと言いつつも、次第に感化されつつある自分にも。
絶対等速「(どんな組み合わせだよコイツら…って避難所のヤツらか)」
かたやデコチャリで乗り付けた特攻服のような男、かたや鬼百合の浴衣からこぼれ落ちそうなバストの女。
絶対等速「(くそったれぇ…早いとこ金貯めて家探して…こんな風に彼女欲しいよなあ…なんで祭りの日まで働いてんだ俺ぁ…)」
衣食住は避難所として開放された学園都市最高最大の総合アミューズメントスパリゾート『アルカディア』にいる限り安泰だが…
そろそろ身の振り方を考え始めねばならない。
かといってケチなATM強盗でクサい飯を食わされるのはコリゴリだ。
だから地道にコツコツと、地に足をつけてやっていくのだと誓いながら掛け持ちでアルバイトに精を出すのだ。が
絶対等速「ありあとあしたー!!」
今夜くらい従業員カードで値引いた発泡酒で乾杯しよう。
そう思いながら絶対等速は二人を見送った。
~とあるコンビニ・駐車場~
削板「んまいっ!やっぱりガリガリ君は最高だな!一本芯の通った、根性のある味わいだ!」
雲川「レディーボーデンが良かったんだけど」
23:04分。二人は店外へ出ると駐車場に座り込んでアイスを食べていた。
そこではたと夏特有の生温い夜の空気に気付く。どこか青臭くて、虫の声がいやに耳につく真夏の夜。
削板はデコチャリに、雲川は車止めに腰を下ろして。
雲川「まさかお前とこんな中学生みたいな事すると思ってなかったんだけど」
削板「青春は一度しかねえ!雲川、お前こういうのあんまりした事ないだろ?」
雲川「デコチャリに2ケツだなんて普通の人間は一生経験しないはずなんだけど。まあ、そんな刺激があるから人生は愉しいんだけど」
不意に夜空を見上げる。星が瞬き月が輝く。こんなに良い夜なのに、まるで夜中にフラフラ出歩く中学生のような自分達。
いや、自分はあくまでも高校生でありたいと雲川は思った。何故なら
削板「刺激はまだまだあるぞ…見ろ!当たり棒だ!もう一本もらえるぞ!根性で引き当てた」
男衆の大半が『中学生の悪ふざけ』ならば削板はさながら『小学生の夏休み』だ。
特に今、ガリガリ君の『あたり』を自慢気に雲川に見せて来る所など。
雲川「私もあたりだ。でも二本も食べられないんだけど」
削板「安心しろ!お前はリッチの方だから、アイスと交換は出来んがプレゼントに応募出来るぞ」
雲川「庶民的なレベル5もいたもんだ。詳し過ぎるんだけど」
削板「その通りだ。コンビニというのはだな、三週間単位で商品が入れ替わったり消えたりする。一度逃すともうお目にかかれないものもあるんだぞ。一期一会だ。気がついたら詳しくなっていた」
一期一会…よく聞く言葉だが、そんな四字熟語がこの男から出るとは予想外だった。
そんな事をぼんやり考えていると削板は当たり棒片手に再び店内に入り、新たなガリガリ君と何か袋を片手に戻って来た。
削板「さあ行くぞ!」
雲川「頼むからデコチャリのライトは落として欲しいんだけど」
こんな悪目立ちするデコチャリでナイトを照らせば余計に人目を引く。
そう文句をつけながら雲川は荷台に腰を下ろす。浴衣の裾を直しながら
雲川「――もう半分まで来たから、後はゆっくりで構わないんだけど」
削板「いいのか?半分まで来たなら根性で飛ばせばすぐ――」
雲川「い い か ら」ぼこん
その言葉に込められた想いにかすりもしない、削板の鉢巻き頭にヘルシアウォーターのボトルで叩いて。
~川縁の土手~
雲川「………………」
チリンチリン♪
雲川芹亜は取り付けられた荷台に腰を下ろしながら普通の速度で進む自転車に揺られていた。
流れる夜の雲に見え隠れする満月と、流れる川のせせらぎと、遠くて近い夏の虫達の混声合唱に耳を側立てながら。
削板「が~りが~りくんが~りが~りくん」チリンチリン♪
雲川「(…何か話し掛けて欲しいんだけど)」
なんだ、自分がいるのに、まるで自分の部屋でくつろいでいるようなマイペースさだと雲川は思った。
もちろん削板に悪気も悪意もない。デコチャリのセンスは悪趣味だが。
雲川「なあ馬鹿大将」
削板「ん?」
雲川「さっき、男衆が誰を口説くだの落とすだのやってたはずなんだけど」
仕方無しに話を振る。流れて行き頬に触れ髪に流れる夜風が爽やかで穏やかだ。
しかし静か過ぎるのだ。風流に楽しもうにもつい気が散って。
削板「服部だな!根性入れて行ったようだが半ベソで帰ってきた。まったく、女心はわからんな」
雲川「(特にお前がな)お前はやらなかったのか?」
削板「よくわからん世界だからな!」
その事にやや安堵すると共に訳もなく雲川は落胆する。
確かにこの脳味噌が筋肉で根性一本頼みのこの男が色恋沙汰にかまけている姿など想像すら出来ない。
女の自分の前で全裸のままレモン石鹸とたわしで水浴びするような男なのだから。
雲川「――気になるような、めぼしい誰かはいないのか?単に話のタネなんだけど」
そうだ、コイツは馬鹿ではないが利口ではない。
愚鈍ではないが鈍感だ。ナイフや銃弾だって『ちょっと痛い』で済ませるような男だ。
多少突っ込んだ話題を振ったところで何が変わる訳でも――
削板「――お前、かな」
雲川「!!!???」
――そう思った矢先の、正体不明の衝撃、説明不能な感情が雲川を揺さぶる。
ガタンゴトンと土手のデコボコに合わせて揺れるデコチャリ以上に。
雲川「ほ、ほーう?こ、この私を意識しているのか。予想外なんだけど」
この男はいつも前ばかり見ている。前しか見ていない。
後ろを振り返る事も自分を省み見る事もしない男の性質がこの時ばかりはありがたい。
振り返られたら、今自分がどんな顔をしているか知られてしまうからだ。
削板「――根性があるからな!」
雲川「…は?」
…が。その言葉に雲川の表情がみるみるうちに凍りつく。
それは先程食べていたガリガリ君リッチのように。
削板「仕事はタフだし、スピーディーだし、誰に対しても上から目線だ!なかなかどうして腹と肝と根性の座った女だと俺は思ってるぞ」
雲川「………………」ベコォッ
ヘルシアウォーターのボトルを握り潰す。決めた。首締めだ。
ペットボトルより頑丈だが頸動脈を締め上げてやる。
幸い近くは川だ。朝になれば下流にでも引っ掛かっているだろう、そう伸ばした手を――
削板「そうだ。これを使え」
雲川「!」
ヒョイと、自転車の取っ手にぶら下げていたコンビニ袋…
先程のガリガリ君を交換しに行った際に買った『それ』をノールックで雲川に手渡す。
それこそ背中に目でもついてるんじゃないかと思うほどに。
雲川「バンドエイド…?」
削板「靴擦れが痛むんだろう?男ならツバつけとけば根性で直るが、女のお前は違うだろう?」
雲川「――あっ、ありが――……っ…」
締めかけた手をどこに持っていけばよいかわからなくなり、絆創膏を受け取る。
こんな時に、こんな所で、こんな風に言われたって困る。
だから…削板の首根っこに伸ばしかけた手を――
ギュッ…
削板「うん?」
雲川「…勘違いするな。落っこちないようにしてるだけなんだけど」
車輪に浴衣の裾を巻き込まないように横座りになりながら、削板の腰回りに腕を回す。
僅かに頭を背中に持たせかけて。それだけだそれだけだと自分に言い聞かせながら。
手には受け取ったバンドエイドの小さな箱を持って。
削板「で、お前の寮はどこだ?」
雲川「…この橋を渡って十字路を右なんだけど」
頬に感じる、硬くない岩のような、鋼のような広い背中に耳を立てる。
少し苦しい体勢だが、自分の重みなど羽ほども感じないこの男ならと。
削板「うん?見当たらないぞ!」
雲川「…間違った。左だったかも知れないんだけど」
削板「よし来た!イナズマターン!」キキィー!
雲川「普通に漕いで欲しいんだけど!」
右に曲がった先はマンション群。それも教職員らが住まうタイプのそれ。
まあこんな事もあるかと削板はデコチャリでイナズマターンなどと言う離れ業で進路を逆方向に変え――
削板「おお?!元の道に戻っちまったぞ雲川!!」
雲川「…また間違えた。やっぱり真っ直ぐだったんだけど」
今度はまた川縁近くまで戻ってしまった。しかし削板は気づかない。
削板「お前が何度も記憶違いをするとはよほど飲んだな!酒は飲んでも呑まれ――」
雲川「わかったから漕げ」
頭脳明晰な雲川が、二度も三度も道を間違え、わざわざ遠回りするルートばかり選んでいるという意味を――
~雲川芹亜の女子寮(再建後)~
削板「ついたぞ!」
雲川「…お疲れ」
その後…10分ほど辺りをグルグル回らされ、削板軍覇のデコチャリに乗せられた雲川芹亜はようやく再建された女子寮へと帰還した。
やっと見つけられたと目をキラキラさせる削板とは対照的に、トーンダウンした雲川が印象的だ。
削板「まったくキツネに化かされた気分だ。こんな街中でリングワンダリングさせられるとは思わなかったな」
雲川「そう?暗くて道を間違えただけだと思うんだけど」
女子寮の入り口でバンドエイドの箱を持ったまま佇む雲川、デコチャリのハンドルを握る削板。
時刻はすでに23:42分。予定よりずっと早くついてしまった。あのカーチェイスさえなければ。
雲川「…馬鹿大将」
削板「なんだ?」
そうだ。今日はひと月遅れの七夕祭りなのだ。日付はまだ変わっていない。
まだ今日という日はあと18分もある。そう、言い聞かせながら――
雲川「…良かったら、ここまで送ってくれたお礼に、お茶の一杯でも――」
削板「?。いや、まだサイダー残ってるし」
雲川「ぬっ、ぬるいサイダーなんて飲んだらお腹を壊すんだけど」
削板「そんな話は聞いた事がないぞ!それに根性で――」
吹寄「雲川さん?」
雲川「!!!!!!」
すると…女子寮の入り口に、先に帰っていたのか吹寄制理が下りて来た。
傍らに姫神秋沙と結標淡希の姿はない。二人は今同居してるからだ。
吹寄「削板さん。ここは女子寮ですよ」
削板「おおそうだった!いけねえいけねえ。雲川!また明日な!」
雲川「あっ…」
吹寄からかかる注意の声、頭をかいて気付かされる削板、引き止めようとして言葉が出ない雲川。
確かに日付も変わる時間帯に、女子寮の入り口で男と話し込んでいればそうなるだろう。そして
削板「ぜんかい!ぜんかい!ごーごーかんななかんななか・ん・な・な・フィーバー!!!」シャー!
雲川「………………」
そして削板はデコチャリをライトアップさせて元来た道を疾走して行く。
ギターウルフの『環七フィーバー』を大声で歌いあげながら…
吹寄「先輩も、今帰りだったんですか?」
雲川「…余計なお節介、ありがとう」スッ
吹寄「?」
悪気なく話し掛けて来る吹寄から目を切り、肩をぶつけようか足を踏んづけようか一瞬考えて…
雲川はどちらもせずに階段を昇る。削板からもらったバンドエイドと、ガリガリ君の当たり棒を持って。
雲川「…バンドエイドとか、コンビニの時に渡してくれれば良かったんだけど」
酔ってなどいない足取りは真っ直ぐだ。片一方しかない草履。サイズは23.5。
痛むは痛むが歩けないほどではない。今足より痛むのは胸と心だから。
雲川「…お茶の一杯でも出さないで帰すとか、なんだか私が悪いみたいなんだけど」
記憶力だって抜群だ。目をつぶってだって帰ってこれた。
結局、浴衣は一度も見てもらえなかった。上手く話す事も出来なかった。
そう思いながら自分の部屋の鍵を開ける、中に入る。電気をつける
雲川「…はあー…バッカみたいなんだけど」
もらったバンドエイドを、あけずに枕元に置く。
そしてアイスの当たり棒を見やる…『あたり』とでかでかと書かれたそれを。
雲川「…ハズレなんだけど」
そうつぶやきながら雲川は携帯電話の待ち受け画面を見やる。
時刻は23:53分。日付変更まであと七分…そう、まだあと七分もある
雲川「………………」
アドレス帳を開く、そこから電話番号をクリックし、発信ボタンを押す。
呼び出しコールがいやに長く感じられて、繋がるかどうか一瞬不安になる。しかし
雲川「私なんだけど。うん。さっきは追い返すみたいで悪かったんだけど」
別れたばかりなのに、もう久しぶりに聞いたようなその声の主。
周囲の雑音の入り具合からすればまだ外だろう。当然だが。
雲川「…そう。やっぱり足が痛くてたまらないんだけど。だから」
電話越しだから言える事。電話越しだから伝えられる事。
面と向かって言えないから、真っ直ぐ目を見て話せないから。
振り返ってくれないお前が悪い。だからこうするんだ。
雲川「――明日の朝、迎えに来てくれたら助かるんだけど」
だって、雲川芹亜(わたし)はひねくれ者だから
とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)・終
684 : VIPに... - 2011/02/08 21:16:12.55 r9k3rzPAO 15/15>>1です。垣根×初春のピュアコンビの次は雲川→削板の不器用&鈍感コンビになりました。原石絡みのコンビです。
ショチトル期待された方申し訳ございません。私の力量では難しかったので…では失礼いたします。


ところでヴェンチュリていったら昔GT2だか3に収録されてた、アトランティークて車かしら・・・
まさかね・・・