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とある夏雲の座標殺し(ブルーブラッド) 【前編】/【中編】/【後編】
~第十五学区・織女星祭歩行者天国~
結標「はいはい坊やどうしたの~?あ~パパとママとはぐれちゃったのね~?うん!大丈夫大丈夫お姉ちゃんがいい所…ううん案内所まで連れて行ってあげるからね?ああ泣かない泣かない…よしよし杏子飴買ってあげるからね~♪」
白井「(目が濁ってますの…“案内人”でさえなければ不審者として引っ張って行きたいほどヤバ良い笑顔ですの…)」
八月七日…15時19分。第十五学区にて催された学園都市最大の花火祭り『織女星祭』の総合案内所付近に二人はいた。
片や風紀委員活動第一七七支部、JUDGMENT 177 BRANCH OFFICEの腕章をつけた白井黒子。
片や『レベル5第九位』へと昇格した『水先案内人』結標淡希である。
今二人は迷子になっていた外部の子供を臨時迷子センターへ送り届けている最中である。
美少年「お姉ちゃーん!ありがとーう!」
結標「はーい坊や元気でねー!ああ…この仕事は私の天職かも知れないわ」
白井「未成年者略取は犯罪ですの。ジャッジメントの詰め所までしょっぴかれたいんですの?」
結標「ちょっとくらいいいじゃない!役得よ役得!張りがなくっちゃ仕事にならないもの」
白井「貴女のプロ意識は歪んでいますの!」
結標好みの美少年を案内所へ預け、別れ際に振る手を下げた頃には舌戦である。
雲霞の如く並び立つ夜店と屋台、至る所に聳え立つ短冊を下げた笹、学園都市全域の学生達や外部の人間達でごった返す人波。
最終戦争後、開催が危ぶまれていた祭は例年よりひと月繰り越して行われ、近年稀に見る盛況ぶりである。
白井「それになんですのあのトルコアイスより蕩ろけたお顔は!貴女のパートナーに言いつけてしまいますのよ!?」
結標「卑怯よそれは!冗談でも止めてちょうだい!秋沙あれでものすごく嫉妬深いの!それに貴女だって御坂美琴を見てる時あんな顔してるじゃない!」
白井「わたくしを性犯罪者そのもの貴女と一緒にしないで下さいまし!」
これが一ヶ月前まで成り行きとは言え、まがりなりにも自分と共同戦線を敷いた相手かと思うと溜め息を出る。
そういう白井は常と同じ赤いリボンでまとめられたツインテールであり、結標は髪紐で束ねられた二つ結びである。
リボンを返した、あの日から
元スレ
とある夏雲の織女星祭(サマーフェスティバル)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294929937/
~織女星祭会場・コスプレ喫茶『まじかる☆みらくる』~
姫神「どうして。そんなロズウェル事件で捕まえられた宇宙人のような顔をしているの」
上条「…お、お二方?両腕組まれると上条さん食べれ(ry」
麦野「関係ねえよ!私がお口あーんしてやるからカァァンケイねェェんだよォォッ!当麻の友達だったっけ?バイト?」
姫神「こんにちは。そう。休憩中」
禁書「しずり!ここからここまでのかき氷全部食べたいんだよ!あいさお願い!」
麦野「頭キーンってなるかお腹壊すわよアンタ…じゃあこっからここまでお願い。私はストロベリーサンデーで。当麻は?」
上条「オレはクリームソーダかな…って姫神は休憩中だろ!話聞けっての!」
姫神「大丈夫。ごめん。オーダーお願いします」
15時26分。姫神秋沙は織女星祭会場にて、臨時アルバイトで雇われたコスプレ喫茶にいた。
格好はもちろん巫女服で声がかかる事は多い。ようやく休憩時間をもらい身体を休めていた所へ…
上条「すまん姫神…本当に助かる…」
姫神「いい」
歩き疲れ涼みにやって来たのがインデックス、麦野沈利に両腕を組まれた上条当麻その人である。
サーカステントの内部は涼を取りに来た客達によってそれなりに盛況で、対照的に上条の顔色だけが疲労困憊である。
姫神「身体が。いくつあっても足りなそう。俗っぽい意味で」
上条「頼むからその事には触れないでくれ姫神…もう土御門や青髪にさんざんいじられるし、垣根先輩には笑われるし」
姫神「回収して来なかったツケ(フラグ)が一気に回ってきた。反省して欲しい」
麦野「当麻ーそれちょっとちょうだい」
上条「ん?良いぞ別に。インデックスも食べるか?一口だぞ!一口!」
禁書「いただきますなんだよ!あむっ」ズゴゴゴー!
上条「お、オレのクリームソーダ!インデックス!一口って言ったろ!?」
麦野「かーみじょう…アンタもいい加減学習しなさいよ。コイツの一口は“一口で全部食べる”の間違いなんだから」
禁書「ほうはひぇなふぃんはも!ほひほふはまなんらよ!」モグモグ
麦野「だから食べながらしゃべるんじゃないわよクソガキ。服にこぼしたら洗うの私なんだからさあ」
姫神「…ご愁傷様」
上条「…不幸だ…」
女が三人寄れば姦しいと言うが、しっかり自業自得のツケは支払わされているのだなと姫神は独り言ちた。
もう墓場に入るまでこうしていれば良いのに、とさえ思う。
~織女星祭・とある鉄板焼そば屋台~
一方通行「オレが焼きそば係だァ!!?」
垣根「光栄に思え第一位(新入り)。本当なら野菜切る係から始まる所がいきなり花形スターだぜ?第一位かっこいいー!」ヒューヒュー
一方通行「ふざけンなァっ!なンでオレがンな事やらなきゃいけねェンだよォッ!」
服部「黄泉川からお前を更正させて社会復帰出来るよう言われてんだから諦めろよ下っ端(第一位)。お前がサボってたらチクっていいって言われてるし」
一方通行「黄泉川ァァァァァァ!!!」
15:31分。一方通行は全学連復興支援委員会の詰め所に放り込まれていた。
打ち止めに嘘泣きされて織女星祭まで連れ出され、言いくるめられて鉄板焼そば屋台の焼そば係に任命されてしまったのだ。
委員会の中では削板軍覇・雲川芹亜に次いでナンバー3に当たる服部半蔵が教育係に当たって。
服部「そう言うなって。お前の仲間?か?あの赤い奴なんて大したもんだぜ」
そう言って顎をしゃくる服部の視線の先…そこには真夏の中にあってさえうだるような熱気を孕む鉄板に向かって…
フィアンマ「余計な力はいらない。手首の返しを使えばひっくり返るのだから、力みは必要ない。余計なトッピングはいらない。屋台の売りはシンプルさなのだから、材料費に頭を悩ませる必要はない。俺様の手を持ってすれば容易い事だ」
一方通行「なにちゃっかり馴染ンでンだよテメエはァァァァァァ!!!」
職人技の域に達した手付きで鉄板焼そばを捌いて行くは元ローマ正教最暗部『神の右席』指導者、右方のフィアンマである。
火を司る力故か、神の子の恩恵か汗水一つかかずに黙々と仕事をこなしている。
しかし一方通行を見やると鼻で笑ったようなドヤ顔で――
フィアンマ「がなるな。唾が飛ぶ。焼そばの一つも満足に作れないようでは器が知れるぞ“最強”」
垣根「はははははは!レベル5の第一位が…ぷぷっ…タマネギ切る所から始めるか?目がますます真っ赤になって文字通りウサギちゃんだな…くくっ」
一方通行「貸せェ!テメエらに出来てこのオレに出来ねェはずがねェだろうがァ!おい第二位(スペアプラン!)テコでもヘラでも持って来い!」
垣根「序列は二位だが、飾利の一位はこのオレだ(キリッ」
一方通行「聞いてねェェェェェェ!ノロケで耳が腐りそうなンだよォォォ!」
半蔵「よしっ、これなんかちょうどいいぞ…やってみろ。出来るか?大丈夫か?」
一方通行「五月蝿ェェェェェェ!!どこの母親だテメエはァァァ!!」
ドヤ顔のフィアンマ、半笑いの垣根、子供が初めてキッチンに立ったのを見る母親のような顔の半蔵らの視線の中…
一方通行「学園都市最強を…」
焼そばの山の中に突っ込んだ右手のテコと左手のヘラで持ち上げた焼そばを――
一方通行「舐めンじゃねェェェェェェェェェェェェ!!!」
ビターン!!
思いっきり鉄板の上に――叩きつける!
全員「「「何叩きつけてんだよぉぉぉぉぉぉ!?」」」ガビーン
一方通行「えェーなンでオレ怒られてンのォ…ちゃンとひっくり返したのにィ」
フィアンマ「コイツは焼そばを舐めている。そして世間を舐めている」
垣根「つーか人生を舐めてる。常識が通用しねえのオレの未元物質だけにしろよ…こいつは後で肉焼く係は任せられねえな」
服部「…郭、教えてやれ。コイツの狂ったベクトルを矯正するのはオレには無理だ」
郭「えっ?!」
その後、焼そばからお好み焼き、お好み焼きからたこ焼きまで叩きつけてしまうため一方通行は下働きに回された。
社会復帰はまだまだ長い時間がかかりそうである…
~織女星祭・花火会場~
滝壺「屋台村から信号が来てる…」
浜面「ビールー、ドリンクー、かち割りはいかがっすかー…って滝壺大丈夫か?」
滝壺「大丈夫じゃないのは、多分はまづらの友達」
絹旗「??…超ホットドックー!超フランクフルトー!超ポテトはどうですかー?」
フレンダ「結局、サボって舐めるアイスは最高に美味しい訳よ」
浜面「働けフレンダァァァ!!!売り物に手つけてんじゃねぇぇぇ!」
花火会場のメインスポットとなる森林公園の人工湖に『アイテム』の面々はいた。
繁華街がメインの十五学区と商業区がメイン十六学区を繋ぐ大桟橋の麓で。
浜面がビールサーバーを担ぎ、滝壺と絹旗がホットスナックを持ち、フレンダがアイスクリームなどを盗み食いしながらだ。
滝壺「そう言えば、かみじょうがむぎのに告白したのも確かこの辺り。一年前のこのお祭りだった」
絹旗「滝壺さんあの男の話は超止めてください。私あの男超嫌いですから…麦野もなんで超浜面と同じくらい冴えない男なんかに…」ブツブツ
浜面「さりげなくオレの悪口言うの止めてくれ絹旗…ははーん?お前アイツに嫉妬してんだろ。お姉ちゃん嫁に取られちまった妹みたいに」
絹旗「五月蝿いです超浜面!」ガッ!
浜面「痛っ!」
フレンダ「結局、麦野離れが一番出来てないのは現リーダー(絹旗)って訳よ。嫁って言えば、結局いつ結婚する訳よ?」
絹旗「焼け出されてから超同棲生活してます。超引っ越し手伝わされました」
浜面「あのへんてこシスターも一緒になんだろ?よく許したなー麦野のヤツ。妻妾同衾って言うのか?こういうの」
フレンダ「浜面のクセに難しい四字熟語知ってても、結局キモい訳よ」
滝壺「大丈夫、私はそんなむぎのとかみじょうといんでっくすの生活を応援している」
最終戦争によりとある高校男子寮から焼け出されたのを機に、麦野は上条とインデックスと三人暮らしをしている。
独占欲と執着心の強烈な麦野がインデックスの同居を認めた経緯を四人は知らない。しかし
フレンダ「まっ、結局世は事も無しって訳よ。アイスクリームとサバ缶いかがー?えっ、アイスクリームだけでいいって訳?」
他人は他人の倖せ、自分は自分の幸せをそれぞれ勝手にやりましょ、とフレンダは独り言ちた。
~織女星祭・全学連復興支援委員会本部~
結標「パトロール終わり!交代の時間よ」
白井「皆さんお疲れ様ですの」
初春「おかえりなさい白井さん!結標さん!」
固法「二人とも暑い中ご苦労様。牛乳飲む?」
結標・白井「「 ラ ム ネ で 」」
黒妻『ピーンポーンパーン!学園都市ラジオ“レディオノイズ”が16時をお知らせするぜ!もちろんお送りするのはDJ黒妻と!メインパーソナリティは…おーいミサカさーん?オンエアですよー…非番!?マジで?!』
16:00分。パトロールを終えた風紀委員と水先案内人が本部に帰還する。
結標と白井の額にもうっすら汗が滲み、ハンカチでパタパタと扇ぐ傍ら、初春飾利がクーラーボックスからラムネを手渡す。
テントの外を行く人々は時を経る毎に増して行き、それを委員会の面々が見送る。
結標「胸暑い…汗疹になりそう」パタパタ
固法「わかるわ…汗が溜まって」バサバサ
初春・白井「イヤミですか(ですの)!?」
夕方に差し掛かり黄金色の空色となりながらも依然として気温は30度を下回らない。
そんな中、胸元をくつろげる結標と固法を見て初春と白井の眼がつり上がる。
しかし結標はミニ扇風機と下敷きを併用しながら涼みつつラムネを一息にあおり
結標「大きくったっていい事ないわよ。貴女達も大きくなればわかるわ」フフン
白井「(イラッ)」 シュンッ!
結標「ちょっと!ビー玉転送させないでよ!飲めないでしょ!」
削板「離せー!離してくれ!祭とあっては血が騒ぐのが男だろう!ぬおおお根性ォォォ!」グイッグイッ
雲川「仕事しろ馬鹿大将!下の人間に示しがつかないんだけど!!」ビーン!
初春「スゴいなあ…未元物質製のリード…犬みたい」
ラムネの中のビー玉を転送させあう結標と白井の側を、首に『未元物質(ダークマター)』で出来た絶対に千切れない縄でつなぎ止められるは削板軍覇。
その手綱を握るは雲川芹亜である。しかし雲川だけは鬼百合の意匠をあしらった浴衣姿である。
織女星祭が始まってからずっとウズウズしていた削板が何度も脱走しようとし、その都度に犬のようにリードを引っ張り戻されている。
削板「焼そばが!かき氷が!金魚すくいが!輪投げが神輿が射的が祭り囃子がオレを呼んでるんだ!止めてくれるな雲川!オレの根性を持ってしても我慢の限界だ!」
雲川「暴れるな馬鹿大将!打ち上げまで我慢して欲しいんだけど!」
初春「(もうなんか二人とも違った意味で必死ですよう…削板さんも雲川さんの浴衣ちゃんと見てあげたらいいのに…)」
結標「あー暑い暑い」
白井「熱くて熱くてたまりませんの」
固法「(視える…削板さんの頭が“祭り祭り祭り”でいっぱいなのが)」
その数分後、削板はリードごと雲川を引っ張り回して脱走した。
そして最初から最後まで型抜き遊びや水風船すくいに夢中になり、雲川にブチ切れられるのは数時間後の話である。
~織女星祭・屋台村~
番外個体「ひゃっひゃっひゃっひゃっ!似合わないったらないね!ひゃっひゃっひゃっひゃっ!ミサカの腹筋割れちゃいそうだよ!あっひゃっひゃっひゃっ!」
打ち止め「ぷっ…ぷくくっ…ガテン系にクラスチェンジだね!ってミサカはミサカは袖まくりに手拭い姿の田吾作スタイルなあなたの色の白さに笑いをこらえてみる!」
御坂妹「まさに下働きの追い回しですね、とミサカはお姉様に買ってもらったベビーカステラを噴き出しそうになります…わっしゃっしゃっしゃ!」
一方通行「笑い方移ってンぞォォォ!見せ物じゃねェぞ!どう考えたって場違いだろうがァ!なンで俺がこンな事しなくちゃならねェンだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
16:14分。焼そば屋台の裏手で手拭い、腕捲り、長靴姿でゴミを出したり材料を出したり皿洗いに精を出す一方通行の血を吐くような叫びと裏腹に姦しい笑い声が響き渡る。
それを遠巻きに屋台村のフリーテーブルで見やるは――
御坂「笑ってやんなさーい。いい気味だわ」
佐天「御坂さーん!初春からメール来ましたよー…交代時間ズレちゃったから白井さんと一緒に行きます、ですって」
御坂「忙しいわねージャッジメント…ところで佐天さん銀だこって食べた事ある?」
佐天「ありませんねー…銀だこってタレじゃなくておつゆつけるたこ焼きでしたっけ?」
御坂「確かそんなんだったかも…よし!二人が来るまで食べ歩きしましょう!御坂センセーおごるわよ!」
佐天「(オゴリ!?)やったー!御坂さん太っ腹!さすがレベル5!いよっ!常盤台のエース!」
一方通行「コイツらなンとかしろォォォ!!営業妨害だぞォォォ!!」
フンッと鼻を鳴らして大中小の姉妹達を見やり、一方通行の悲鳴に溜飲を下げながら御坂美琴は席を立ち上がる。
次なる屋台を制覇すべく、オゴリと聞いて太鼓持ちにクラスチェンジした佐天涙子を伴って。
御坂「よし!まず銀だことネギだこから行ってみましょうか!」
一方通行「無視すンなゴルアアアアアアァァァァァァ!!!」
番外個体「あー笑った笑った。じゃーねー一方通行。ついでにくたばれ」
打ち止め「バイバイあなた!お仕事頑張って!また後で一緒に花火見ようね!ってミサカはミサカはみんなの後ろに猛ダッシュ!」
御坂妹「救われないあなたにベビーカステラを一つあげましょう、とミサカは聖母の慈悲を発揮します」
一方通行「一つかよ!しかも食べかけのベビーカステラ置いてくンじゃねェよォォォォォォ!!」
佐天「でも初春の彼氏さん、よくついて来るっていいませんでしたねー超猫っ可愛がりじゃないですか」
御坂「垣根さんの事?あれ初春さん以外の普通の女の子なら勘違いしてダメになっちゃうわよ。あんな甘やかされたら…あっ、垣根さんからメール来てる」
佐天「メール?」
冷やかすだけ冷やかして女子軍団は去って行く。
突っ込み疲れて屋台村の洗い場で力尽きそうな一方通行を残して――
海原「残念です。御坂さんではなく妹さんの食べ残しとは…でも仕方ありません。買ったのが御坂さんならこれで我慢(ry」
一方通行「いつ帰ってきやがった海原ァァァ!!?」
…と思った矢先、洗い場の裏から姿を現すは…『グループ』解散後より本国に帰っていたはずのアステカの魔術師こと海原光貴(エツァリ)である。
そのあまりの神出鬼没ぶりに思わず一方通行も目を見開く。
しかし海原はお構い無しといった様子で肩をすくめるジェスチャーをし
海原「いつもなにも、御坂さんのいる世界なら僕はいつでもどこでもぐもぐ」
一方通行「食べ残しを喰うンじゃねェェェ!もっぺん国に帰れよ!二度と帰ってくンな!!」
海原「冷たいですね貴方も。僕達グループが解散した直後じゃないですかグノーシズム(異端宗派)が襲来して来たのは。結標さんが大活躍して彼(土御門)もキッチリ仕事をこなしたって聞きましたよ。久しぶりに旧交を暖めたいと思って来てみれば帰国早々この人混みで参っちゃいましたよ。はははっ」ペロペロ
一方通行「ははっじゃねェよ!しゃべるかしゃぶるかどっちかにしろォォォォォォ!!」
一方通行は思う。いつから学園都市はこんなに平和ボケしてしまったのかと。
結標は女友達?と行動を共にし、土御門はイギリスと学園都市を行ったり来たりする合間に義妹の自慢話ばかりを。
今の海原などグループ時代の面影すら見当たらない。同じ人間の皮をかぶった別人ではないのかと。
一方通行「(この街はもうダメだァ…)」
突っ込み過ぎて自分のバッテリーが上がりそうだ、と一方通行は茜色に染まり始めた空を仰いだ。
~織女星祭・コスプレ喫茶『まじかる☆みらくる』~
神裂「(この街はもうダメです…いえ、この国はもうダメです…)」
禁書「見て見てとうまとうま!カナミンのコスプレもあるんだよ!これ着てみたいかも!」
姫神「店長が。似合いそうだから。汚さなければ。いいって」
上条「インデックス!絶対こぼすなよ!?上条さんの仕送りじゃ絶対弁償出来ないからな?!」
土御門「おおー!あそこのメイドさんの格好わかってるんだぜい…ねーちんも一着どうかにゃー?」
神裂「着ません!馬鹿も休み休み言って下さい土御門!はあ…仕事帰りに近くまで寄ってみれば…」
吹寄「上条当麻!姫神さんの仕事の邪魔をするな!」
上条「上条さんの責任でせうか!?」
青髪「そうやそうやー!悪いんはカミやんやー!で、姫神さんの別コスあれへんの?僕ひぐ○しの羽入みたいな脇見せざっくりのエグい巫女服…」
姫神「手が。すべった」ばっしゃーん!
青髪「冷たいぃぃぃ!」
オルソラ「あらあら。これがジャパンに伝わる“打ち水”のわびさびなのですね」
ステイル「…必要悪の教会(ネセサリウス)はいつからこんなに角が取れてしまったんだ…」
麦野「フレンダ達に送信…と」
16:46分。姫神秋沙のバイト上がりを待って吹寄制理が、青髪ピアスが、そして土御門元春がやってきた。
そこにグノーシズム(異端宗派)の本拠地を制圧した神裂火織、ステイル=マグヌス、そして…
上条「いや、オルソラ…あれは打ち水じゃなくってだな…なんつーか」
オルソラ「ここのジェラードはとても美味しゅうございますよ」
上条「オルソラ…頼むから話を聞いてくれ。あれは打ち水じゃなくて」
オルソラ「シェリーさんもいらっしゃれば良かったのですが、どうしてもこの学園都市(まち)は嫌だとおっしゃるのでございます」
上条「会話が噛み合わないー!」
禁書「とうまとうま!とうまー!?また他の女の子にデレデレしてるんだよ!」ガブッ
上条「痛たたた!インデックスー!!」
姫神「店内は。お静かに」
上条「不幸だー!!」
オルソラ=アクィナスである。グノーシズムが秘匿し隠避していた数々の書簡や古文書、研究論文から暗号化されたそれらを解読するために来日したのである。
学園都市でオルソラが解読作業にいそしみ、英国でシェリー=クロムウェルがその補助と補強にあたるという遠近分業制を以て臨んでいるのである。
吹寄「土御門。本当にこの人達お前の親戚…なの?」ボソボソ
土御門「いいんだぜい。オレの髪も金髪だろい?うちの親類はイギリス人が多いんだにゃー!なっ、ねーちん?」
神裂「嘘は止めて下さい土御門!その流れでは私が貴方の姉のようではありませんか!」
ステイル「ふう…」スパー
麦野「私の前で煙草吸うなっつってんだろうが赤毛ェェェ!」ガシャーン!
青髪「土御門ーそれメッチャ無理ある嘘やわー…でも白シスターに黒シスターにウエスタンサムライガールにプッツンお姉さんとかカミやんも僕に負けず劣らず広い心と器の持ち主やんなあー?」
オルソラ「大丈夫でございますか?」
上条「しっちゃかめっちゃかで上条さんはダウンしそうです…」
禁書「とうま!お祭りと焼き肉終わるまでダウンされたら困るんだよ!ここで食べて帰れなかったから悔やんでも悔やみ切れないかも!」
麦野「かーみじょう。疲れたんなら膝貸すけどー?」ポンポン
姫神「キッチンの人。あそこの席のサマージャンボパフェが。まだ」
絶対等速「あそこの席だけで店潰れるくらい食ってるよ!どうなってんの!?」
~織女星祭・吹寄制理~
8月7日。戦争から二ヶ月、姫神さんが大事件に巻き込まれたらしい一件から既にひと月が過ぎ去った。
姫神「上がり。後は淡希が来るまで私も待つ。いい?」
吹寄「姫神さんお疲れ様!ええ、確か貴女のルームメイト…よね?」
姫神「そう。ちゃんと話した事は。確かなかったね」
吹寄「そう…ね。今までないわ。声をかける機会もなかったし」
あの大規模な戦闘から…私達のいた高校の避難所は放棄された。
流石に建築物としての限界に達していた事と、第六学区にある学園都市最大の総合アミューズメントパーク『アルカディア』が新たな避難所として開放されたからだ。
このお祭りだって、戦後の沈みがちな今の学園都市だからこそと開催に踏み切られた。
正直言って驚いている。全てが目まぐるしく変化し、毎日が大覇星祭の時以上に目が回るほどの忙しさだ。
姫神「そう。なら紹介する。淡希にも。吹寄さんの事を話したら。一度会って話してみたいって。言っていたから」
吹寄「そっ、そうかしら?」
そしてそれ以上に驚かされたのは…姫神さんの変化に他ならない。
避難所のボランティアに来てくれたのもそうだし、いつの頃からか霧ヶ丘女学院の三年生と同居し始めたらしい。
以前通っていた頃の知り合いなのかと聞いてみたら違うと言われた。結局どう言う事なんだろう。
姫神「吹寄さんは。私の。一番最初に出来た友達で。一番の大親友だって」
吹寄「あ、ありがとう」
その結標淡希さんという人も、数週間前に九人目のレベル5になったらしい。
話した事がないのは、なんとなく近寄り難い雰囲気があったのと…
どこか姫神さんとの間に立ち入れない空気を感じたから。
吹寄「(気に…しすぎよね?)」
それは、私の事を上の名字で呼ぶのにその人の事を下の名前で呼んでいるからかも知れない。
礼儀正しい姫神さんが、いくらルームメイトでも年上で目上の人を呼び捨てにするだなんて、と思うと。
禁書「しずり!私にもお膝貸してほしいかも!」
麦野「当麻が乗ってるから肩なら空いてるわよん。似合ってるのはわかったらシワにならないうちに返してきな」
上条「し、沈利…これやっぱ恥ずかしいって…」
土御門「おーおーデキた彼女なんだぜい。でもカミやん?避妊には気をつけるんだぜい?高校卒業前にデキ婚は流石にマズいんだにゃー」
吹寄「土御門!!お前にデリカシーってものはないの!?」スパーン!
土御門「うおっ!オレのサングラス!?」
麦野「私は別に構わないんだけどね。一時期本気でそれも考えてたし」
上条「麦野さん!!?」
姫神「爆。弾。発。言」
それから上条当麻。あの戦争の最中から一ヶ月前まで行方を眩ませていた。
それが何故なのかは私にもわからない。何度聞いてもはぐらかされて逃げられてしまう。
ただ姫神さんと、一応去年から見てはいたけど、この麦野沈利さんというレベル5の四人目も知っていそうだ。
吹寄「(なんでかしら…すごく、冷たい感じがする)」
けれどこの人は結標さんに輪をかけて話し掛けにくい。
相槌を打ってくれたりはするけど、さりげなく姫神さんや私に神裂さんと言う人には話し掛けてはくれない。嫌われるような事したかしら…
麦野「ただしグラサン…アンタはブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」
姫神「出来れば。店の外で」
土御門「ねーちん!やっつけてくれい!目がマジなんだぜい!昔勝ったんだろう!?」
神裂「貴方がからかうからです土御門。私は知りませんよ。それにあの勝負は水入りです」
ステイル「僕を見ないでくれないか土御門。墓標に刻む銘文なら聞くがね」
オルソラ「サングラスはGAULTIERですか?この国の陽射しは強うございますからね」
土御門「カミやーん!」
そして土御門。ふらっと姿を現したり消したりする。
何か知っているようで知らないふりをしているような、それが何かを掴ませないような。
そしてこの場にいる…とてもスゴい格好をしたお姉さん。それと同じくらいスゴい見た目の神父さん。
前に月詠小萌先生と一緒に歩いているのを見た事がある。
そしてシスターさん。もうどんな人脈なのか見当もつかない。
上条「はあ…土御門。そんな訳ないだろ?オレだって学校出て、仕事に就いて、キチンと一人前になってからだっつの。むしろそれが当たり前だろ?」
青髪「意外にしっかりした考えやけど、なんせカミやんやもんな~なっかなか上手く行かん気するわ」
上条「裏切り者ばっかじゃねえかデルタフォース(三馬鹿)!俺達の誓いを忘れたのか?」
土御門「何を言うカミやん!我等生まれた日は違えど!」
青髪「死する日は一緒や!」
姫神「それは。桃園の誓いの。パクリ」
土御門「やっぱりバレたんだぜい!」
禁書「それにそれは後世の創作なんだよ。これ常識かも」
青髪「ホンマそれ!?」
吹寄「三国志ね」
麦野「あの一騎当千がどうとか無双がなんとかかんとか?」
オルソラ「映画にもなったのでございますよ」
ステイル「ああ…あの燃えるシーンだけは印象に残っている」
神裂「赤壁のクライマックスですね」
そして青髪。どこの噂か知らないけれど、奴が行方不明の第六位(ロストナンバー)だなんて噂まで聞いた。
けれどレベル5がうちの高校にいるだなんてちょっとありえないと思う。
そして以前打ち上げに来ていた真っ白な服のシスターさん。
吹寄「(この娘が、一番わからない)」
悪口を言うつもりじゃないけど、あの気が強そうでおっかなそうな上条の恋人と上条と三人で暮らしているらしい。
どんなマジックを使ったのかとても気になる。ごく自然に溶け込んでいる。
平時なら常識で考えて認められないし許されない話だけれど、この危急の時は仕方ないのかも知れないだなんて思ったりもする。すると――
結標「お待たせ秋沙!迎えに――…どうなってるのこれ?」
そこに…姫神さんのルームメイト…そして新たなレベル5『第九位』
姫神「友達。いい機会だから。淡希を紹介したい」
土御門「いよーう!結標!」
結標「げっ…秋沙、こいつはいいわ。知り合いだから」
土御門「つれないんだぜい」
青髪「(ややこしなるから黙っとこ)」
姫神「吹寄さん。いい?」
そこで私に声がかかる。爽やかだけど甘い香りがする。
たまに姫神さんからもするのと、同じ匂い――
吹寄「えっ、ええ。はっ、初めてじゃないかも知れませんが、吹寄制理です。姫神さんの――」
結標「初めまして。聞いてるかも知れないけど、結標淡希。よろしくね」
初めて交わす、顔と言葉と握手。そうか。この人が――結標、淡希
姫神「嘘臭い。営業スマイル」
結標「話の腰折らないでってば!」
姫神さんを…変えた人――
~織女星祭・ビアガーデン~
黄泉川「ぷはー!この一杯目がたまらないじゃん!」
芳川「愛穂。ヒゲになってるわ」
月詠「この時間からと言うのが最高なのですよー」
木山「せ…先生方、人の目が気にならないと言えば嘘になるんだが」
手塩「たまには、休息も、必要、だ」
寮監「こうして親睦を深める事も」
浜面「えらい奴らに捕まっちまった…」
17:07分。浜面仕上と滝壺理后は第十五学区のデパート屋上ビアガーデンにいた。
常ならば学生が大半を占めるこの学園都市にあっては教職員が軒を連ねる第八学区を除けばほぼ存在しないのだが、外部からの人間も訪れ集客が望めるとあって臨時開店しているのだ。しかし
滝壺「はまづら。ふれんだときぬはたがいない。追跡する?」
浜面「いや、いいだろ。どっか回ってんだろうし(サンキュー2人とも!)」
黄泉川「おお浜面ー?あの時の彼女さんじゃん?可愛いじゃーん!」
芳川「なんだか私の若い頃を思い出すわ…ふふっ、甘い記憶…」
月詠「2人とも若いのですよー!先生も…」
木山「うん?そう言えば月詠先生も確かあの赤い髪の神父らしき人と」
手塩「うっ、うっー、うま、うま」
寮監「ここはビアガーデンだぞ。学生は…」
浜面「出来上がるの早過ぎるだろ!?これでいいのか教職員!!」
一杯目から一気飲みの黄泉川、枝豆の皮むきと焼き鳥の肉を箸で一個一個取る芳川、すでにピッチャーで飲んでいる小萌、あまり飲めないのかグラスの木山、次々と飲み干して行く手塩と寮監。
せっかく花火が良く見える絶景スポットを…と滝壺と訪れた屋上ビアガーデンなのに…そう浜面は思わざるを得ない。
浜面「(せっかく絹旗とフレンダが気使ってくれたっつうのによぉー!滝壺と二人っきりで夏の思い出があああ!)」
滝壺「(はまづらがジタバタしてる。ビール飲みたかったのかな)」
浜面「きーみがー!いたなーつは!遠い夢のな~か~ぁ!そ~らーに消えてっーた!打ち上げ花火ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
手塩「懐かしい」
芳川「まさに夏メロね」
木山「うん?最近流行ってるのかこの歌は…ふむ、回って来たら暑くなってきたな」
小萌「脱いじゃダメなのですー!」
寮監「確かにこの時間からは回りも早いですね」
黄泉川「浜面!今日は私も非番じゃん!たっぷり彼女さんとの馴れ初めからなにから聞かせるじゃん!」
浜面「気を使え大人共ぉぉぉぉ!!!」
終わった。今日の日はさようなら状態である。そう浜面が号泣と共に空を見上げる。
この世界に神はいないのかと。するとビアガーデン上空を――
麦野「はーまづらぁ…アンタなにやってんの?こんな時間から頭のネジ外れてる?」
光輝く六対十二枚の『光の翼』で羽ばたく麦野沈利と
上条「うおっ!先生達だ!」
その麦野と左腕で肩を組むようにして空中散歩している上条当麻の姿があった。
浜面「なにやってんのあんたらぁぁぁ!?」
麦野「見てわからない?当麻とデート。頭と目ん玉のネジ締め直してほしい?はーまづら」にっこにこ
浜面「まずお前がネジを締めろぉぉぉぉ!!なんだそのニコニコ顔!軽くハプニング映像だよ!」
上条「悪い麦野、俺がテレポート出来ないばっかりに…」
麦野「いいのよんアンタなら。滝壺元気ー?」
滝壺「げんき」
浜面「普通に会話しないで!人が空を飛んでるんだよ!?うっかぶ!くーもを突き抜けフライアウェーイ!フライアウェーイ!」
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』のせいで座標移動出来ない上、すでに路上は学園都市中の人間が埋め尽くしているため二人は空路を選んだのだ。
それにつけても非常識極まりないデートに浜面は口あんぐりである。
しかし当の麦野本人はいたって気にした様子はない。
こんなもん1、2、3、4位はみんな形は違えど出来ると。
黄泉川「むやみやたらな能力使用はやめるじゃーん!不純異性交遊で取り調べちゃうじゃーん!」
麦野「ちっ…じゃあね滝壺。浜面、滝壺泣かすんじゃないわよ」
上条「悪い悪い。邪魔したな!それじゃ!」
浜面「このお~おぞらーに~つばさーをひろ~げ~飛んで~行きたいよぉぉぉぉ!!!」
麦野「あっ、すっかり忘れてた…はーまづらぁ!後で滝壺連れて空中庭園集合!ってチャラ男(垣根)から伝言!」
浜面「?なんかあんのか?」
麦野「焼き肉!」
そう言って二人は文字通り飛んでいった。しかし、教職員一同が『光の翼』に身を奪われている――チャンスは今!
浜面「いくぞ滝壺っ!」
滝壺「あっ、なんこつ」
浜面「焼き肉だってよ!お呼ばれに行くっきゃないだろ!なんこつなんてまた食える!」
黄泉川「ああー!浜面逃げたじゃーん!」
滝壺の手を引いて駆け出す浜面。鶏のなんこつ唐揚げを食べながら一緒に走り抜ける二人。
あの二人みたいに飛べなくたっていいさ一緒に歩けるなら、と。
~織女星祭・空中庭園~
一方通行「グリルパーティーだァ!?」
垣根「さっき言ったろクソッタレ。人の話聞けよ」
17:50分…学園都市最大の花火大会『織女星祭』にて、もっとも人気と倍率の高いスポットに一同は集結しつつあった。
ここ数ヶ月の激務をねぎらうべく、垣根帝督がポケットマネーでグリルパーティーを企画したのである。
垣根「たまにはガス抜きぐらいしねえとパンクすんだろ?プラスお前らの凱旋祝いだ。1ヶ月遅れだがな」
続々と肉と酒と炊飯器が貸し切りにしたホテルの空中庭園に運び込まれて行くのも全て垣根の指図である。
夕闇の中大きく流れる大河を跨ぐ大桟橋を見下ろしながら手摺りに持たれかかった垣根が言い、椅子に腰掛け前衛的な杖を投げ出した一方通行が唸りを上げた。
一方通行「ふざけンな!いつからレベル5は仲良しこよしの寄り合いになったンだァ?オレは帰ンぞ!」
垣根「おーいチビちゃん。君らの保護者がお帰りだとよー」
打ち止め「ええー?これから花火始まるのに帰っちゃうの?ってミサカはミサカはあなたと作る一夏の思い出作りを楽しみにしてみる!」
番外個体「ただ飯食えるのにもったいないねー?ミサカ達の指まで喰ったクセに」
御坂妹「既に牛肉・豚肉・鶏肉・馬肉・合鴨・羊肉・鹿肉が運び込まれています、とミサカは生唾を押さえ切れない自分を押し留めます」
御坂「ご飯くらい付き合っていけば良いじゃない。この子達泣かせたら許さないからね」
そこに抗議の声を上げるのは御坂姉妹である。打ち止めは一方通行の膝に突撃し、番外個体は一方通行のテーブルに腰を下ろし、御坂妹は背後から呟き、御坂美琴はそれを離れたテーブルから足を組みつつ見やる。
白井「お姉様に妹様に小さいお姉様から大きいお姉様ですのぉぉぉ!!黒子の3分の1の純情な感情が振り切れて花火になりそうですのぉぉぉ!!」
初春「(汚い花火だなあー)」
佐天「垣根さんってやっぱり初春以外の前じゃキャラ違うよねー(なんかヤクザ予備軍みたい)」
フィアンマ「光栄に思え。肉塊。貴様等の人生の価値は、無事刈り取れたぞ(焼肉的な意味で)」
一方通行「…煮るなり焼くなり好きにしろォ…」
加えてその卓につくは白井黒子、佐天涙子、初春飾利などの『超電磁砲組』である。
多数決だ、民主主義だとブーイングを起こされ最終的に一方通行は折れた。
ここで我を通せば悪党ではなく悪者になってしまう。
そして何故か一方通行の席には右方のフィアンマまでいる。海原は一方通行にポリバケツの中に突っ込まれ欠席となった。
禁書「お肉♪お肉♪お肉なんだよ嬉しいな~♪」
上条「本当にいいのかなあ…俺達までご馳走になっちまって」
麦野「五十人前で予約入れちゃったらしいわよ垣根の馬鹿。それにインデックスがいれば平気でしょ?」
トップ3とくれば第四位麦野沈利の登場である。他人との馴れ合いは大嫌いだが、インデックスは食べさせてさえおけば大人しいと知っているからだ。
同時に上条当麻も特に反対しなかったため、参加と相成った。
心理掌握「………………」
青髪「お互い面割れると面倒臭いからよろしゅうな?」ヒソヒソ
土御門「グリルパーティーって言うか野外焼肉パーティーみたいなんだぜい。ねーちんらの女子寮ではやらないのかにゃー?」
神裂「普段は食堂ですし、仮にもシスターの女子寮ですからそういう事はあまり…」
オルソラ「神に仕える身でございますから…」
ステイル「(結局インデックスに引っ張られて来てしまった…早くイギリスに帰りたい)」
第五位心理掌握(メンタルアウト)、そして第六位(ロストナンバー)青髪ピアス、さらに必要悪の教会(ネセサリウス)の神裂火織、オルソラ=アクィナス、ステイル=マグヌスは土御門元春に強引に引っ張って来られた。
仕事漬けでワーカーホリック気味な自分達も羽を伸ばすべきだとの提案で
削板「なんとか根性で間に合わせたぞ!わはははは!」
雲川「どっかの馬鹿の首に縄付け直す事にならなければこんなバタつかずに済んだんだけど」
服部「垣根もいい企画上げてくれたぜ。久しぶりに肉が食える」
そして第七位こと『ナンバーセブン』削板軍覇と全学連復興支援委員会の頭脳、雲川芹亜と右腕、服部半蔵である。
織女星祭最終日という事もあり、避難所の残りのメンバーに送り出されて来たのだ。
滝壺「はまづら、このお肉全部食べていいの?」
浜面「らしいぞ。払いは第二位が持つってよ。ゴチになろうぜ」
絹旗「なんですかこの超大盛り…相撲部屋のちゃんこパーティーですか?」
フレンダ「結局、なんだかんだでこうなるって訳よ(気使った意味なかった)」
そして八人目のレベル5こと滝壺理后、浜面仕上、絹旗最愛、フレンダの『アイテム』勢である。
学園都市上層部が完全崩壊し、暗部も総解散となった今や、彼等も宙ぶらりんの根無し草集団である。
クリーンな何でも屋か、荒事専門の便利屋になるか、今話し合いの最中である。
結標「なんて言うか…壮観よね」
姫神「小萌先生も呼んだけど。今日くらいは。先生達は先生達で。生徒達は生徒達で。自由にって」
吹寄「(もしかして私って、今とんでもない場所にいるんじゃないかしら)」
そしてレベル5第九位に昇格した結標淡希、そのパートナー姫神秋沙、友人である吹寄制理である。
見れば見るほどアクとクセの強い愚連隊も同然の面子に落ち着かないのは無理からぬ話だろう。
一方通行「馬鹿だろォ…サークルのパーティーかよォ…ありえねェだろこの面子」
垣根「男10女20か…えらい偏ったな。五十人前頼んじまったが大丈夫かコレ?も少し呼んでみるわ」
御坂「なんとかなるでしょ。確かアンタとアイツの所のシスター、スッゴい食べるし」
麦野「あの娘一人で百人前食べたって驚かないわ今更」
心理掌握「………………」チラッ
青髪「(知らん顔しとこ。能力の関係上五位と八人目しか僕の事知らんし)」
削板「なに!根性さえあればどうにかなる!」
滝壺「残ったら、持って帰っていいかな…」
結標「止めた方がいいと思うわ…夏だし」
集まりながらグリルパーティーの人数を今更ながら話し合うレベル5達。
打ち止め「まだー?まだー?ってミサカはミサカはお行儀悪くお箸でお茶碗を叩いてみる!」
初春「そろそろ花火上がりますよー!」
上条「ビールがケースでじゃんじゃん来てる!??これ大丈夫なのか大丈夫かよ大丈夫ですかの三段活用!!」
雲川「(浴衣にするんじゃなかった…汚れそうなんだけど)」
浜面「あっ、すいませんそこの赤毛の人火貸してもらえないか?ライター無くしちまって…」
姫神「(肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉)」
そして――18:00分。花火が上がった。
全員「かんぱーい!!!」
宴が、始まる
~織女星祭・グリルパーティー~
浜面「うめー!うめー!なんだこれ美味ぇぇぇ!!」
服部「生き返る!!いや生きてて良かったぁぁぁ!!」
青髪「我が人生に一片の悔い無しや!!ええ匂いプンプンさせおって!僕を誘ってるんか!」
土御門「来て良かったんだぜい!!舞夏悪い!」
上条「上条さん家の100グラム98円の肉と全然違うの事ですよ!」
削板「がぶっがぶっがぶっがぶっ!がぶっがぶっがぶっがぶ!」
ハイエナのようにサーロイン、リブロース、特上カルビ、骨付きカルビにくらいつく者達。
男達の頬を伝う涙は煙に目が染みた訳ではないはずだ。断じて。
白井「あら。美味しいですの」
結標「ほんと。これいいわね…秋沙、これなんて言うの?」
姫神「とも三角。わさびで食べるのが。通の証」
フレンダ「結局、スペアリブが最高って訳よ!」
禁書「羽子板十本食いなんだよ!ん~ほいひいはも~」
番外個体「なんかコリコリ固い…これ骨?」
滝壺「薬研なんこつ。噛めば噛むほど味が出る」
慎ましやかに量より質を選ぶ女性陣。カロリーが気になるのか鶏肉や合鴨を選ぶ者が多い。
中でもインデックスは次から次へと他テーブルへ飛び込んでは平らげて行く。
御坂「私の酒が飲めないってんのかゴルァァァァァァァ!!!」
麦野「ちょっ、誰よ御坂に酒飲ませたの!コイツだけはダメだって言ったでしょうがァァァー!」
オルソラ「シャトーブリアンを焼く時にかけたマルサラワインでこうなってしまったのでございましょうか…?」
佐天「(うわあ御坂さん酒乱だったんだあ…退散退散)」コソコソ
一方通行「ブホォッ!?おい第四位ィ!70度とか舐めてンですかァ!?」
雲川「ジョージ・T・スタッグス。バーボン72度。規格外なんだけど」
御坂妹「(やったのがバレたらノーバウンドでブッ飛ばされますね、とミサカは青林檎サワーを舐めながら素知らぬ顔をします)」チビチビ
打ち止め「(私にはバレバレだけどね!ってミサカはミサカは慌てふためくあの人が可愛く思えたり!)」
思い思いに杯を傾ける者達もいる。悪戯を仕掛けた佐天と御坂妹はそれぞれこっそりと頭を低くし――
一方通行は口から火を噴く思いで、麦野は御坂に絡まれホトホト手を焼いていた。
垣根「ビール腐るほどあるからボイラーメーカーにするか。ターキー取ってくれ。12年じゃなくて8年がいい。飾利はまだ中学生だからヴァージン・ブリーズな」
初春「あっ…このお花が可愛いのですね?皆さんはどうします?」
心理定規「未成年だからシャトリューズトニック(ノンアルコール)で」
ステイル「15歳だからサラトガクーラー(ノンアルコール)にしてもらおうか」
神裂「18歳なのでシャーリーテンプル(ノンアルコール)でお願いします」
絹旗「中学生なんで超ウーロン茶で」
心理掌握「………………」【水】
吹寄「高校生なので青汁でお願いします」
フィアンマ「ワインは嫌なヤツを思い出すから俺様は山ブドウジュースだ」
垣根「オレの常識が通用しねえ…!」
気がつけば年齢詐称組、未成年組に囲まれ呆然とする垣根。
飲める相手が見当たらず、彼はウロウロとよそのテーブルをさまよい歩く羽目になるのである…
~アイテム・復興支援委員会~
服部「美味いなあ…駒場のリーダーにも味合わせてやりたかった…」ジーン
浜面「言うな半蔵…せっかくの肉がしょっぱくなるじゃねえか」ジワッ
雲川「たかが焼肉でえらい男の下げようなんだけど」
浜面・半蔵「「負け犬上等ォォォ!その日暮らしの野良犬(スキルアウト)を舐めんじゃねェェェ!」」
豚ガツを炙りながらしみじみと肩を寄せ合う男二人を雲川は夜空に咲く大輪の花を見やりつつごちた。
矢も盾も止まらずかぶりつく様を見て、まあ十代の男なんてみんなこんなもんだと思いつつ…
フレンダ「それが日本の“キモノ”?結局、実物を拝むのは初めてな訳よ!」
雲川「え?ああ…これは着物じゃなくて浴衣なんだけど」
フレンダ「違いがわからない訳よ…リリウムの柄って事くらいしか」
絹旗「リリウムって超なんの事ですか?この花柄の名前ですか滝壺さん?」
滝壺「百合。この人の浴衣は鬼百合の柄だよ。いいな」
雲川「そんなに見られると穴が空くんだけど…」
金髪碧眼の少女が食いつき、今にも下着が見えそうで見えないけれど見えてしまうギリギリアウトの少女が見つめてくる。
ピンク色のジャージを羽織った少女が羨ましそうに顔を近づけて来てやや居心地が悪い。しかし――
削板「吻ッ!破ァ!」パキーン!
絹旗「超スゴいです!」
フレンダ「空手マンって訳よ!」
浜面「おービール瓶切りか。昔漫画の真似して手切ったわ」
並べられたギネスの黒ビールを手刀で叩き切った削板がゴクゴクと一気にラッパ飲みする。
雲川の方へ悪意なく一瞥も向けない。もしかして顔のパーツでしか人間を認識出来ていないのかとすら思う。
削板「プハー!んまいっ!が!冷え冷えじゃないな」
フレンダ「これだから日本人はわかってない訳よ!結局、黒ビールは常温なのが一番な訳よ!」
浜面「結局何人なんだよお前は…おいナンバーセブン!箸握れ!飲み比べで男を見せようじゃねえか!」
削板「ハシケンを知っているとは嬉しいぜ…!いい根性だ!勝負!3!」
絹旗「浜面!アイテムの名に懸けて超負けられませんよ!絶対勝って下さい!」
その上男同士の飲み比べ対決に突入してしまった。
それを見て雲川は怒りを通り越して呆れすら覚える。
まさか馬鹿だ馬鹿と思いながらここまで馬鹿だとは…
滝壺「…浴衣、見てもらえなかったの?」
雲川「別に。ただ暑かったしタンスの肥やしにするのも勿体無いかなって思っただけなんだけど」
滝壺「…ちょっと言ってくるっ」ダッシュ
雲川「いいって!本当にいいんだけど!」
抗議しに行く滝壺、追い掛ける雲川、そしてその側では
服部「駒場のリーダー…乾杯。いや、こういう時は献杯っつうのか」チンッ
二人分のグラスに黒ビールを注ぎ、悼む半蔵。
郭が連れて行けとうるさがっていたが、こうして『男二人』で飲みたい時もあるのだ。
~結標淡希&姫神秋沙+吹寄制理・一方通行&シスターズ+フィアンマ~
結標「………………」
一方通行「なに見てンだよ」
結標「別に」
打ち止め「お馬さんも食べられるんだね!ってミサカはミサカは生まれて初めて極上カルビを食べてみる!」
番外個体「へえ。この国にはこんなのがあるんだね。ミサカも初めてみたよ。これ何て言うの?」
姫神「これは厚帯。私は。焼くより刺身が好きだけど。初めてなら。焼いて食べるのがオススメ」
御坂妹「これはユッケなるものにも出来るのですか?とミサカはグルメ番組で見たあの丼が忘れられません」
フィアンマ「白米を炊き出せ」
吹寄「(同じ顔がたくさん…姉妹??)」
結標組は一方通行組と共にいた。初めての焼肉大会に瞳を輝かせるシスターズに、姫神や吹寄が食べ方を教える。
皆、馬肉を口にする事も初体験なのか恐る恐る箸を伸ばしながらも舌鼓を打っている。
それを保護者のように見やるのは一方通行と結標である。
結標「…なんだか不思議で、複雑な気分ね…」
一方通行「…言うな。俺が言えた義理でもねェが」
二人の初遭遇、その因縁、その遺恨、その彼等が焼肉を楽しんでいる風景。
口数が自然と少なくなる。それぞれに抱えた物と背負った罪が重過ぎて。
一方通行「…なンだって好きこのンでレベル5なンぞになりやがった」
結標「なりたかった訳でもなろうともしなかったわ。ならざるを得なかったのよ」
一方通行「言ってる意味がわからねえンだよ。わかってンだろうが。俺達(レベル5)を見りゃあ…化け物の仲間入りだぞ」
結標「丸くなったわね一方通行。貴方が他人の心配?」
一方通行「アァ!?」
一方通行が不機嫌そうな顔つきと剣呑な眼差しを向けて来る。出会った時のように。
しかし結標もまたその視線を射抜き返す。挑むように。
結標「レベル5“くらい”にならなければ、私は私の大切なものを守れないって気づいたからよ」
飛行船で吶喊した。超音速旅客機を投げ飛ばした。
そこまでしてやっと守れた。それだって自分一人の力じゃない。
それでも欲したのだ。ただ一人を守る力を。それは一方通行が打ち止めを守るベクトルにやや重なる部分でもあった。
一方通行「…啖呵だきゃあ一人前になったって認めてやンよ。オラ、肉寄越せ肉」
結標「えらそうに!サラダもちゃんと食べなさいよね!」
一方通行「五月蝿ェ。焼きそばぶつけンぞ」
前より扱いにくくなったが、面構えは随分マシになったなと一方通行は中落ちカルビを貪り食いながら思った。
~必要悪の教会・超電磁組・+α~
土御門「どんどん焼くんだにゃー!」
ステイル「何故僕がこんな事をしなくちゃいけないんだ!」
白井「わたくし、レアがよろしいですの」
佐天「わー…スゴい。大きいお兄さんは発火系能力者なんですか?」
ステイル「違う!」
一方、ステイル=マグヌスはステーキハウスのマスターよろしく焼き係をやらされていた。
その上、こんがりウェルダンがお好みな土御門元春、レアが好きな白井黒子とそれぞれ火加減を調整しながらだ。
当初は猛反対し猛反発したステイルではあったが――
禁書「すている!焼き加減はブルーにしてほしいんだよ!」
ステイル「わかったよ…」
インデックスの真の恐ろしさは自分しかり、アウレオルス=イザードしかり、上条当麻しかり…
相手に命を懸けたって惜しくはないと思わせるに足るこの『人たらしの笑顔』に他ならないのではないかとさえ思える。
10万3000冊の魔導書にだってここまで強力な魔術はないであろうと。
御坂「それでね!それでね!私勇気出して言ってやったのよ!なのにアイツったらね、アイツったら…うわあああぁぁぁん!」
オルソラ「それが貴女様のストラップに秘められたエピソードなのでございますね…なんと胸打ち心暖まるお話なのでございましょう」
神裂「(怨みますよ上条当麻…そしてオルソラ、その話は三度ほど前の上五回も聞かされていますよ…)」
久保田の万寿を片手にくだをまく女子中学生というシュールすぎる光景にオルソラ=アクィナスはまるで懺悔でも聞くように何度も頷き、神裂火織はイチボを箸でひっくり返しながら意気消沈していた。
佐天「白井さん…良いんですか?ジャッジメントですよね?」
白井「何度も止めようといたしましたの…」
ひそひそと耳打ちする佐天涙子に、白井黒子は上品にTボーンステーキを切り分け口に運びながら溜め息をついた。
この様子では連れて帰るのは難しそうだと頭を悩ませながら。
佐天「初春もいないしぃ…最近初春垣根さんとばーっかりで付き合い悪いですよぉー」
白井「あれは初春に第二位の殿方がべったりですの。佐天さんこそそう言ったお話はございませんの?」
佐天「ええっ!?白井さんからそんな話振ってくるなんて…珍しー」
白井「こんな時くらいよろしいのではなくて?」
そして佐天もじわりじわりと同年代の友人がステップを駆け上がって行くのにどこかうら寂しいのだろう。
そんな女子二人の会話が弾む中――
土御門「で…どうなんだ?オルソラの進捗状況は」
ステイル「まだ四割と言った所らしい。それからアウレオルス=イザードの私的な日誌が出て来たらしいよ」
土御門「それが仕事となにか関係があるのか?」
ステイル「…それこそ私的な部類の問題さ。シェリー=クロムウェルが言う通り、彼女は優しすぎる。それは甘さでもあり、また弱さだと僕も思うがね」
土御門「わかった…ところでステイル」
ステイル「なんだい?」
そこで土御門がサングラスをクイッと人差し指で押し上げて直す。
オルソラ曰わく今夏のGAULTIERに切り換えたゴツいデザインのそれを
土御門「なんで小萌先生を呼ばなかったのかにゃー?きっと寂しがって女同士で飲み歩いてるに違いないにゃー!」
ステイル「…それこそ私的な話だろう!君には関係ない!そしてあの人も僕とは関係ないだろう!」
土御門「ちっちっち…このつっちー、かけてるのは色眼鏡だが真実を見抜く眼に曇りはないんだぜい!特に!この間はオリアナとも」
ステイル「…残念ながら度があっていないようだね。焼き直してあげよう。今夜の火力はちょっとスゴいぞ…?」
土御門「まっ、待てステ…に゛ゃー!」
まさにウェルダンになるまで焼かれて土御門はダウンした。
眼力云々以前に口が災いの元となったのは誠に皮肉な話である。そして――
心理掌握「――――――」
青髪「そっかーみんな疎開して一人ぼっちなんかあ…そら寂しいなあ」
心理掌握「………………」
青髪「え?寂しくなんてないて?アイツらは派閥の人間であって友達やないって?あかんあかんそんなん言うたら!」
その頃、第六位(ロストナンバー)青髪ピアスと第五位(メンタルアウト)はグリルパーティーから少し離れて空中庭園を散策しながら話し込んでいた。
心理掌握「‥‥‥‥‥‥」
青髪「わかってるんやろ?心の通わん人間ばっか周りに集めたかて、そんなん小さい子が一人で寝るの寂しいからお人形さんいっぱい並べるんとおんなじや。全然楽しないよ?」
心理掌握「・・・・・・」
青髪「うん。わかるよ。僕かてカミやんや土御門に会うまでそうやった。コイツらなんも見えてへんアホやって。ほんで僕も――今も、言えてへん事いっぱいあるし」
草木と水の香りを運んでくる真夏特有の夜風が青髪と心理掌握の前髪を揺らす。
それぞれの事情があって表向き素顔を出せない者同士の、奇妙な交流。
青髪「どないや。僕ら、友達になれへん?」
心理掌握「!?」
青髪「変な下心ないよ。何なら心読んでみ?君やったらわかるやろ」
心理掌握「‐‐‐‐‐‐」コクッ
青髪「よっしゃ!ちょうどお祭りやってるし!夜店の回り方から教えたるわ!」
そして青髪は心理掌握の手を引っ張り駆け出して行った。
お腹が空いたら食べにここに戻ればいい。それまで遊び倒そうと。
まるで、幼い少年少女のように
~上条&麦野・垣根&初春・浜面&滝壺~
滝壺「(ムスッ)」
麦野「あれー?あれー?滝壺の機嫌がさっきと違うけど…あれー?」
浜面「それがわかんねえんだよ…なんか削板と飲み比べしてたら怒られちまった」
垣根「彼女ほったらかして男とばっか遊んでたからヘソ曲げたんじゃねえのか?クックック」
滝壺「違う。はまづらのせいじゃない」
麦野「はーまづら。こうなったらテコでも動かないよ。意外と頑固だからね。ってな訳でジョニーウォーカーとって。ブルーラベルね」
浜面「どんな訳だよ!でもってまたドリンクバー職人かよ!」
また、とある一角では所帯持ちが三組顔を突き合わせていた。
上条当麻と麦野沈利、垣根帝督と初春飾利、浜面仕上と滝壺理后である。
そしてそこにさりげなく――アイスペールとミネラルウォーターを運んでくるは
上条「ふいー。ったく。アンチスキルに通報されないか上条さんはヒヤヒヤものですよ」
垣根「貸し切りにしてっから安心しろ。そんくらいの常識はある」
初春「本当に常識あったら未成年に飲ませちゃダメなんですよ?」メッ
垣根「うっ…たまに羽伸ばすくらいいいじゃねえかかーざーりー」ギュッ
初春「ひゃっ!」
上条当麻である。水と氷が上条、酒とつまみは浜面が運んでくる。
かく言う垣根はと言うと…初春を膝にちょこんと乗せていた。
それを見て麦野は呆れ顔になる。トング片手に肉をひっくり返しながら。
麦野「伸びてんのは羽じゃなくて鼻の下だろクソメルヘン。デレデレしやがって。見てらんないわ。当麻ー鞍下食べるー?」ジュージュー
初春「(この人が…麦野沈利)」
以前、一度だけ会った事があると初春は想起する。
同時に垣根からも聞かされていた。この麦野絡みで上条は二度生死の境をさまよっている。
御坂達と共に上条を見舞いに行った時など、あのカエル顔の医者でなければ間違いなく命を落としていたほどの大怪我。
それも――他ならぬ麦野自らがその上条の身体に一生消えない傷をいくつも刻んだと。
垣根「実際大したもんだと思うぜ。ブッ壊す事しか知らないイカレたライオンみたいな女を飼い慣らしてるアイツはよ。今はもう…ライオンっつうかネコだなありゃ」
初春「そんなに…すごかったんですか?」
垣根「すげえなんてレベルの話じゃねえな。アイツの前に敵として立ちはだかって、アイツの横で味方として寄り添うって言うのはそういう事だ。血を見ずにライオンと生きてくのが不可能なようにな」
そう語る垣根の目は遠い。他ならぬ二人を知らず知らずの内に、結果として結ばれるよう後押ししたのは垣根である。
むしろ、垣根なくして上条と麦野はぶつかり合う事も、上条が告白する事も有り得なかっただろう。
滝壺「でも、かみじょうとケンカしてむぎの家出した事ある」
浜面「なんだそりゃ。可愛いもんじゃん。しまちょう食べるか?(おっ、反応した)」
滝壺「うん、食べる。それで第十九学区のブリッジが落ちた」ガジガジ
浜面「いや何やってんの?ねえ今橋が落ちたって聞こえたけどオレ酔ってるか?」
垣根「ちなみにだ飾利。コイツらは超音速旅客機パクッてロシアまで逃げたらしいぞ。でもって第三次世界大戦だ」
初春「ええー!?」
思わずスカジャンとジャージ姿の二人を見る。自分と垣根の出会いも一般的に考えれば最悪の部類に入る。
しかしなんなのだこの二人は。まるでハリウッドのヒーローとヒロインのようだと。
しかし当の浜面と滝壺はと言うと――
浜面「ジャックダニエルのシルバーか…品揃えいいなあ…何本か持って帰りてえ。俺の稼ぎじゃビールが精一杯だ」
滝壺「はまづら。焼いたらお肉持って帰っても大丈夫かな…?」
浜面「どうだろうなあ…とりあえず食おうぜ!もっぺんいただきまーす!」
いたって普通である。実に美味しそうにカルビばかりをご飯に乗せて食べている浜面と、手羽先をかじっている滝壺。
よほどご飯とお肉が嬉しそうなのか、甘いのとは違った意味で雰囲気がフワフワしている。
ワカメスープねえかななどとウロウロしたりしている。
上条「艦長さんのもなんか取りませうか?」
垣根「その呼び方やめろよなー。んじゃー鴨むねととうがらし取ってくれ」
上条「一味?七味か?」
垣根「いや、とうがらしってのはその串に刺さってる鶏肉のだ」
上条「これとうがらしってのか…えーっと初春さんは?」
初春「あっ…私は馬肉のたてがみを――」
垣根「食え食え。食わねえと大きくなれねえからな。飾利はいつまでもちっちゃいし。背の代わりに伸びたのは髪くらいか」
初春「ひどいです垣根さん!」
上条「(オレが沈利に言ったら怒られんだろうなあ…)」
ほとんど親戚の子供を膝に乗せているおじさん状態で垣根は箸を進める。
さりげなく初春の好きそうなものから優先して取り分ける辺りを見て上条は思う。
やっぱり女の子慣れしてる男は違うなと。そして麦野は――
麦野「一番変わったのはアイツだと思わない?かーみじょう」
上条「かも知れねえなあ。オレが会った時はもっとこう…ゴニョゴニョ」
麦野「とっかえひっかえだったでしょ?女をチューインガムと勘違いしてんじゃないっての!」
上条「ちょっ!声デカいって!」
滝壺「むぎの。伊勢エビ食べたい」
浜面「麦野ー!山賊焼き食いたい!」
垣根「第四位ー!自然薯頼むわー」
初春「あっ、あの…豚ハラミお願い出来ますか?」
麦野「私はテメエらのママじゃねえんだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
鮭がないのを不満そうにしながら焼きはらすを炙る麦野。獅子唐や銀杏や唐黍を串に刺して行く上条。
味がなくなったら吐き捨てるとまで評する麦野に、上条はそんなに悪い人じゃないんだけどなと微苦笑を浮かべた。
そしてジョニーウォーカーを一気にあおりながら肉を捌いて行く。
麦野「あーもう水で割るのも面倒臭え。ま、あの花飾りの子も大したタマね」
垣根の素性を知ってか知らずか、はたまた全て知った上で傍らにいるのか。それは麦野にもわからない事だが――
いずれにせよ見た目より腹が座っているのだろう。自分が上条当麻に寄り添うと腹を括ったように。
麦野「かーみじょう。アンタも食べなさいよ」
上条「ああ、オレいいよ。麦野こそ食えよ。代わるぞ」
麦野「麦野って呼ばない!いい加減慣れなさいよねー」
上条と出会い、共にインデックスの記憶を助けるべく奔走した去年の夏。
あの辺りからかななどと回顧する。そして今年の夏はこんな調子だ。
来年はどうなっているか見当もつかない。ただ、再来年の事だけはわかる。それは――
麦野「再来年には私も“上条”なんだからさ―――」
~織女星祭・夜店巡り~
至る所から祭り囃子と風鈴の音、ソースの焼ける匂い。
空にはいくつもの花火が浮かんでは消え口を描く。
ごった返す人波と学生達の中でも、その少年の髪色は際立って目立った。
そう、それはまるで群青色に近い髪に、チャラチャラとなるピアス――
青髪「あーアカンアカン。デメキンを真ん中ですくったらあかんねん」
そこには金魚すくいの水槽の前にしゃがみこんでいる青髪ピアスと、
心理掌握「・・・・・・」ヒョイ
金魚がすくえずにつまらなそうにしている、常盤台中学の制服に身を包んだ女学生『心理掌握(メンタルアウト)』がいた。
青髪「ん?こんなんするん生まれて初めてやって?そらそうかー常盤台のお嬢様やもんなあ」
心理掌握「......」クイックイッ
青髪「ん?僕はやれへんのかって?悪い悪い。おっちゃーん!この娘とおんなじポイちょうだい!」
店主「(げっ…コイツ知ってやがる)」
思わず店主の顔が引きつる。女性客に渡すポイの方が若干厚めなのを見抜かれていると。
仕方無しに手渡すと、青髪は心理掌握を振り返りながらニヤリと笑った。
青髪「狙うは姉金や。よー見とき?」
すると青髪は…水槽の中でも一際大きく、赤々とした金魚をその笑い目で追う。
手にしたお椀もさりげなく近づけながら。それを心理掌握も見やる。
青髪「こー言うんはな、隅っこに来るまで待つねん。そいでポイを斜めつけるとか半分つけるとか破れやすうなるだけや…」
朗々と講釈を歌い上げつつ…青髪は姉金を隅まで追い詰めた後、ポイを一気に水に浸し――
青髪「こういう時は思い切って…そいやっ!」
パシャッ!
心理掌握「!」
近づけていたお椀に水ごと金魚達をすくうようにしてゲットした。しかも
青髪「奥義、一発二匹捕りや!」
心理掌握「‐‐‐‐‐‐」キラキラ
なんと、一回のトライでまさかの二匹同時にすくい上げるという離れ技に心理掌握も目をキラキラさせる。
青髪「せやけど、これやると一回でポイが破れる諸刃の剣や。素人にはおすすめせえへん」
心理掌握「・・・・・・」コクコク
セオリーと邪道な技を組み合わせた、一回限りのテクニックだ。
あまりやると金魚すくいの店主に荒らしと見做され嫌われてしまうからだ。
青髪「ふふん。まさにどや顔や。はい!」
心理掌握「?」
青髪「君のんや。大事にしたり」
心理掌握「!?」
そこで青髪は袋に入れられた金魚のペアを心理掌握に手渡す。
それに困惑する心理掌握。しかし青髪は他者にわからぬよう、『心を読まれている』のを前提に心の中で話し掛ける。
青髪『これ(金魚)やったら、君かて心を読まれへん。声も聞こえへん。金魚もひとりぼっちにならんよう二匹やで。これで向かい合えるやろ?一個の命に』
心理掌握『――――――』
青髪『もう、周りの人間を風避けにせんでええねん。出といで』
心理掌握にとって、人間とは口から出す声と心の声を二重音声で喚き立てるつまみのイカレたスピーカーでしかなかった。
無差別に、無軌道に、無分別に心の声を垂れ流す『人間』に倦んでいた。
いつしか、心の声を垂れ流される前に周囲の人間の精神を操作し、自分の周りを無風状態にしていた。
心理掌握『………………』
自分の周りでくらい静かでいたかった。ずっと人間の心の声を聞かされ続けるのは苦痛を通り越して地獄そのものだったから。
精神を一時的な白紙にした人間をバリケード代わりに使っていると、それは派閥となり、いつしか女王様と呼ばれるようになった。
あの世に地獄なんてない。地獄は人間の心の中に存在すると悟ってから
心理掌握「…貴様、名前は?…」
今、金魚という小さな命から始めてはどうかと勧めて来た男の心が読めない。
まるで外国の絵本のようだった。絵ではストーリーを理解出来るが、文字が異国の文字を見るような訳のわからなさ。
だから話し掛けてしまった。肉声で、今金魚を手渡してきた青い髪の男に――
青髪「おおーロリな見た目よりずっとハスキーな声や。しかも尊大口調!自分、女王様キャラやろ?けどかまへんで!僕はありとあらゆるタイプを受け入れられる心の持ち主やねん!ええやろ!そんかわし、次は君が名乗るんやで!」
能力不明。本名不明。初めて自分と対等(レベル5)の中で出会ったその男の名は――
青髪「僕の名前はな――」
~禁書目録と超電磁砲~
禁書「短髪、いくら何でも飲み過ぎなんだよ。流石にもう止めた方がいいかも」
御坂「ひっくっ…ひっくっ…」
その頃、御坂美琴は開けた酒瓶や缶ビールでボウリングが出来るほど飲み尽くしていた。
涙の嗚咽なのか回った酔いなのかは机に突っ伏したままではわからなかったが、その震わせる肩を見やりながらインデックスは焼きトウモロコシにバター醤油で味つけしていたものをかじっていた。
禁書「わかるんだよ短髪。でも今日は明るいお酒にするんだよ。涙が混じったらみんな心配しちゃうかも」
御坂「どうして…かなあ」
そこで組んだ腕を枕にしていた御坂のシャンパンゴールドの髪が揺らめく。
俯き加減にまで顔を上げる事は出来ても、被さった前髪が目元を隠す。
インデックスはそれらを敢えて見ないようつとめながら夜空の花火を仰ぐ。
一年前、学園都市に駆け込んで来たのも御坂と出会ったのもこんな季節だったかと想起しながら。
御坂「思うのっ…考えるのっ…どうして私じゃなかったんだろうって…」
禁書「それはしずりじゃなくて自分だったら、って事でいいのかな?」
御坂「違う」
そして手元にあるお冷やに手を伸ばす。それを一息に飲み干す。
御坂「もっと早く出会えてたらって」
泣いても泣いても楽にならない。
御坂「もっと早く知り合えてたらって」
ただの塩水の一滴一滴が
御坂「気がついた時には第四位がいて、アンタがいて」
重くて仕方無いと言わんばかりに。
御坂「もう――私が入れる場所なんてどこにもなかった!」
タンッ!とグラスを音高くテーブルに置き、御坂の常盤台中学の制服のスカートにポタポタと涙の雫が落ちる。
禁書「短髪…」
こらえても押さえても、溢れて来る涙が涙腺を焦がし、嗚咽が喉を焼く。
禁書「それは私もおんなじなんだよ。私だって、出会った時にはもうしずりが側にいたんだよ」
インデックスはそれを空いた手でポムポムと御坂の頭を撫でながら語る。
御坂「それでも…近くに、側に、居られるアンタが…私はうらやましい…こんな風に思う自分なんて…大っ嫌いなのにっ!」
禁書「…見た目ほど良くないかも?気だって色々使うんだよ。辛くて、イギリスに帰りたくなった事もあるんだよ」
御坂「…インデックス…」
禁書「今の短髪みたいに、こっそり泣いた事もあるんだよ。しずりと一緒に泣きながらケンカした事だって何度もあったかも!」
御坂「なら…どうして」
インデックスは思う。自分だって聖女ではないし麦野だって良妻賢母などではない。
一人の一個の独立した人間であり確立された人格を持っている以上、人並みに喧嘩だってする。ぶつかったりする。
御坂が“女友達”で居ると決めたように、自分は“家族”になると決めたのだから。
禁書「――短髪と同じ理由なんだよ。離れた方が楽かもって何回思っても――」
喧嘩して、仲直りして、くだらないテレビで笑って、陳腐なドラマに泣いて――
特別な事なんて何もない日常が、何より特別だと知っているから
禁書「――出逢わなければ良かった、なんて一回も思わなかったんだよ?」
微苦笑を浮かべながらインデックスは語る。
自分達はなんて馬鹿で
鈍感で
他人の痛みを放っておけないのに
女心のわからない男を好きになってしまったんだろうと。
禁書「変だね短髪。私達は、おんなじ男の子に助けられて、おんなじ男の子を好きになったんだよ」
御坂「…ね。第四位も言ってた。私達三人、どうしてあんなバカの事…いつから好きになっちゃったんだろうね。ホント、馬っ鹿みたいね」クスッ
禁書「――いつからだったかなんて、もう忘れちゃったかも!」
御坂「…完全記憶能力はどこ行っちゃったのよ?」クスクス
禁書「短髪こそ、えんざんのうりょくはどこにいったのかな?」クスクス
御坂「残念ね!お酒回って訳わかんなくなってる」クスッ
かつて麦野沈利は語った。上条がいなければ自分は取り返しのつかない場所で、破滅的な最期を迎えていただろうと。
御坂は絶対能力進化計画で、インデックスは奪われ続ける記憶の中で、一人の力では浮かび上がれない血だまりの闇の底に沈んでいただろうと。
御坂「…馬鹿ついでに、馬鹿騒ぎするわよインデックス!あの馬鹿に飲ませまくってやる!第四位ー!ソイツ借りるわよー!」
麦野「ちゃんと後で返しなー!ほらほら行った行った!!」ドンッ
上条「うえっ!?酒臭いぞビリビリ!こっちまで匂ってるっての!やめろっ、なにすんだ!」
禁書「今夜はぶれいこーなんだよ!とうま!」
その背中を麦野は静かに見送り――それから杯を傾けた。
自分達を救った罪作りな男の背中を叩く、自分と同じ女達の笑顔を
麦野「…苦労、かけるわねー…」
~一方通行と番外個体~
一方通行「あァン?何言ってンだ呂律が回ってねェぞ」
黄泉川『今夜は桔梗や他の先生達と朝までコースだから帰らないじゃーん!だから打ち止め達にも伝えて欲しいじゃん?あっ』
芳川『一方通行?電話代わったわ。なんだか今日の愛穂、飲みたい飲みたいって聞かないのよ。構わないかしら?』
一方通行「構わねェもなにもこちとらガキじゃねえンだ。クソガキ共はきっちり寝かしつけといてやっから行き遅れのババァ同士死ぬまで飲ンでろ。ぎゃはっ」
芳川『そう。じゃあお言葉に甘えて。ほら愛穂。立って』プツッ…ツー…ツー…
あちらこちらでどんちゃん騒ぎの馬鹿騒ぎの中、一方通行は乱痴気騒ぎから少し離れた場所から打ち止めと番外個体の保護者両名からの連絡を切った。
結標達は気付いた時にはいなくなっていたが、別段気には止めなかった。が
番外個体「なんだってー?」
一方通行「黄泉川と芳川は今夜帰らねェ。男日照りを酒で潤すンだと」
番外個体「ハッ。あなたと一つ屋根の下とかゾッとしないね。どうする?あの二人がいない中でミサカが大声出したら一発で立派な性犯罪者(あくとう)の出来上がりだねえ?一方通行」
そうやって皮肉たっぷりの外連見ある笑顔を投げかけて来るのは番外個体だ。
避難所にも寄り付かず、一方通行の帰国後にフラリと姿を現したのだ。
今もニヤニヤと一方通行を見やりながらわざとらしく手羽先を食い千切って。
一方通行「ふざけンなクソが。余計な真似しやがったらお望み通り素っ裸に剥いて叩き出すぞ」
番外個体「いいねいいね一方通行。さっきの女の人じゃないけど、柄にもなく日和ったリアクションだったらミサカがっかりだよ。こんな島国くんだり殺しに追っかけて来た甲斐があったってもんだ」
かつて打ち止めと出歩いた大覇星祭のナイトパレードのように輝く夜空を見上げながら、一方通行はテーブルに足を投げ出す。
一方通行「ご苦労様ァ。テメエにいつ寝首かかれるか今から楽しみだァ」
行儀悪く椅子に身を沈め、頭の後ろに組んだ両腕を枕代わりにして。
端から見れば救いようのない裏路地のギャングの組み合わせだ。
さしずめ愛も恋も絡まないボニー&クライドのように。
番外個体「寝顔だけは可愛いもんだよ。締め殺してやろうか縊り殺してやろうか、そればっかり考えてたらいつも朝になるんだ。ミサカが大嫌いな朝に」
そう独り言のように語りながら、番外個体は御坂美琴を見やる。
白服の修道女と共に、未だ網焼きに乗せられていないウニのような頭の少年と肩を組んで一升瓶片手に笑っている。
それをやや眩しそうに見つめるのは、夜空に上がる花火の度を越した光量ゆえか。
一方通行「…コーヒー飲みてェ。取って来い」
番外個体「酒はやらないの?新発見だね。飲めないんだ。悪党気取ってたクセに」
一方通行「どんちゃン騒ぎン中で飲む気になンざならねェよ。早くしろ」
番外個体「あはっ。毒入りでも知らないよ」
そして、ドリンクとアルコールがわんさと詰まれたテーブルへと歩を進める。
熱いのがいいか冷たいのがいいか、それを聞いておけば良かったと思いながら――
いいや、2つ持っていけば
~女子会~
雲川「大将(リーダー)が馬鹿過ぎて生きるのが辛いんだけど」グビッ
白井「目が座ってますの…」
結標「いつもの事じゃない」
絹旗「超好き過ぎて生きるのがツラいの間違いじゃないんですか?」
雲川「意味がわからないんだけど」
その頃、照葉樹林(グリーンティーのカクテル)を飲みながら味噌漬けホルモンを口に運ぶ雲川は文句タラタラだった。
それにこんがり焼いた香ばしいソーセージを頬張りながら合いの手を入れたのは絹旗だった。
雲川「私の話は聞かない。すぐいなくなる。一人で勝手に決めちゃう。もうやってらんないんだけど。うんざりなんだけど。ああ足が痛いんだけど」
心理定規「明日多分むくんでるわよ。特に暴飲暴食が重なると一発よ一発。なんで慣れない浴衣なんて着てきたの面倒臭い」
神裂「慣れると普通の服よりも楽ですよ。私も昔着ていましたしね」
姫神「すごくわかる。ゆったりする」
佐天「いや、焼肉大会にドレスっておかしいですよね?お姉さん達の格好も普通じゃないですよ?」
神裂「(ぷいっ)」
心理定規「(プイッ)」
姫神「グビッ」
佐天「こっち向いて下さい」
御坂妹「着た切り雀のミサカには羨ましい限りです、といいつつミサカは残りの青林檎サワーを一気します」
打ち止め「あの人のシャツはとってもいい匂いがするの!ってミサカはミサカは自慢してみる!」
佐天「(初春に先を越されこんな小さい子にまで…)」
骨付きの牛肉に岩塩をまぶしながら佐天は独り言ちた。
もう夏だと言うのに浮いた話一つないまま終わってしまうのかと。
そしてそんな佐天の横で、子豚の丸焼きの皮をパリパリと食すは――
フレンダ「彼シャツねえ…結局、最近の子は進んでるって訳よ」ムシャムシャ
姫神「あの白い人の?淡希。割って」
結標「白州12年…秋沙、貴女強くないんだからもう少しライトなのにした方が良いんじゃない?吹寄さんからも言ってあげて」
吹寄「そ、そうよ姫神さん…というか私達女子高(ry」
姫神「お清め。淡希。早く」
オルソラ「ラム肉が運ばれて来たのでございますよ」
フレンダ「(結局、巫女服の方がタチで二つ結びがネコな訳よ)」ヒソヒソ
白井「(強気ドSに見えてヘタレ受けはセオリーですの)」モシャモシャ
フレンダと白井である。あの中庭の一件で姫神と結標の関係を知る数少ない人間でもある。
黒ビール片手にはたと二人のやりとりを見やる。ああ、この大人しそうで年下らしい方が力関係は上なのかと。
心理定規「彼もまた大量に頼んだわ…このままだと鹿肉やジビエ(野兎)まで並びそうだわ」
御坂妹「ほとんどお肉屋さんの見本市ですね、とミサカは今更ながら制服に染み付いた焼肉臭に思い当たります」クンクン
神裂「私ももう手遅れでしょうね…ずいぶん酒臭いのも移ってしまいましたし」
オルソラ「それでは焼いてしまいましょう。ジンギスカンでございます」ジュージュー
雲川「言ってる矢先でそれはないと思うんだけど…もういい。やけ食いなんだけど」
白井「そして翌日の体重計を見る度後悔いたしますの…それでも止まらないのが乙女の悲しい性ですの」
佐天「大丈夫ですよ皆さん!赤信号、みんなで渡れば――」
姫神「全滅」
佐天「」
結標「やめなさい秋沙。私はもういいわ。なんか甘いのでしめる」
絹旗「甘いのは超別腹ですからね!」
姫神「太るのは。同じ腹」
絹旗「orz」
結標「だからやめなさい秋沙。貴女酔ってるでしょう?」
御坂妹「ジンギスカンの歌は歌えますか?とミサカは上位個体に無茶振りをします」
打ち止め「…?ジーン、ジーン、ジーンギスカーン?ってミサカはミサカ隣のお姉さんにバトンタッチ!」
神裂「ジーンギスカーン…ふーふふーふーふふーふーふふふふふ…あ、あら?続きはどうでしたっけ?」
そして、色とりどりの花が咲き乱れる向こうでは――
~花より男子組~
服部「この中に裏切り者が3人いる」
ドン!とビッグマンの4リットルボトルを前に芝生に座り込みながら服部半蔵は厳かに、そしてキッパリと言い放った。
垣根「何の話だよ。あと焼酎を牛乳で割るんじゃねえ気色悪い。せめてコーラにしろよ」
訳がわからないと言った風体で神戸スタイルのハイボールをあおるは垣根帝督。
キンキンに冷やしたグラスとウイスキーとソーダで自作した氷無しである。
浜面「おい、大丈夫か?しこたま飲まされたな」パシャッ
上条「ま、まだ大丈夫だ…沈利と付き合ってなかったら完全にアウトだったけどな…ビリビリ強過ぎる…」
そしてテーブルに突っ伏したまま緑茶で酒気を追い払おうと務めるは上条当麻。
その隣で物珍しいイケムのワインボトルを携帯電話のカメラで写メるは浜面仕上。
一方通行「リアル電氣ブランだなァ!かかききくけここpwpwujmwmduj死d.dkqwgmg」
番外個体の罠により、無味無臭のウォッカをコーヒーにぶち込まれ壊れているのは一方通行。
演算補助も切られていないのに呂律が回らず、ベクトル操作でアルコールを飛ばす事すらままならない。
土御門「裏切り者って俺の事かにゃー?」
ステイル「まだ生きていたのか」
土御門「夏だからこんがり小麦色ってレベルじゃなかったにゃー」
そしてようやく女子供から離れられ、思う存分タバコを飲んでいるステイル=マグヌス。
そして危うく焼け死にかけながらも生還した土御門元春が豚の生レバーをつまんでいた。
フィアンマ「裏切り者とはなんだ。俺様はお前達の仲間になった覚えはないぞ。そして貴様。その手形はなんだ」
削板「雲川にひっぱたかれた!根性で耐えねば奥歯を持っていかれた!」
フィアンマ「そうか。ところでそのドラゴンはなんだ」
削板「よくぞ聞いてくれた!これは型抜きだ!俺の根性の一作、昇り龍!!」
削板が遊んでいた型抜きの昇竜をしげしげと見やるは右方のフィアンマ。
さらにほっぺたに夜空に浮かぶ花火より真っ赤なビンタを食らったのは削板軍覇だ。しかもとうの半蔵は
服部「俺の!俺の!俺の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
上条「古っ!上条さんだってわかるっつうの!」
垣根「五分も聞いてやれねえぞ。なんだってムサい男ばっかで飲まなきゃならねえんだ。酔いが冷めちまう」
フィアンマ「おいそこの忍者。二分に縮めろ」
白けた様子で垣根が首を傾げる。垣根は醒めるほど酔ってはいないが半蔵の目は座っている。
焼酎の牛乳割りなどと悪酔いしそうなゲテモノを飲みながら、半蔵は叫ぶ。
服部「裏切り者ってのは他でもない…垣根浜面ウニ頭!お前らだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」デデーン!
一方通行「チンピラ・三下、アウトォーあはっぎゃはっforilubmgzl-」
三人「「「オレ!?」」」
削板「避難所の仲間を裏切るとは根性の腐ったヤツらめ!ブッ飛ばしてやる!」ファッ!
垣根「落ち着けナンバーセブン!おら!ポッペン咥えろポッペン!」
土御門「オレじゃなかったんだぜい。でも…ぷぷっ…なんでその三人が裏切り者なのか…くくっ…教えてくれないかにゃー?」
いきなりの告発にギョッとする三人。そこに土御門がビールケースに腰掛けながらニヤニヤと豚タンを味噌で味付けしながらかじっていた。
すでにわかりきってはいたが、敢えて言わせたいのだろう。そこに
フィアンマ「なるほど。女か」
フィアンマの合いの手が入り
服部「そうだ赤いヤツ!お前達三人の罪…それは彼女持ちだって事だ!!」
ドーン!と効果音のつきそうな人差し指を突きつける半蔵の告発に
垣根「はあー?」
耳に手を当てもう一回言ってみろのジェスチャーを送る垣根
上条「ちょっ、ちょっと待てって!上条さんは寝耳に水ですよ!?」
突き出した両手を振って無罪を訴える上条
浜面「そんなこったろうって思ったよ…長い付き合いだしなあ…あっ、赤毛のお兄さんもう一回火貸してもらっていいスか?」
ステイル「ふむ」シュボッ
垣根「オレも吸う。浜面一本くれ」シュボッ
浜面「お前吸うのか」プハー
垣根「飾利と付き合ってから止めてたんだが、酒入るとたまーに吸いたくなる」
ステイル「何を吸っていたんだい?」
垣根「ダビドフ。マグナムな」
ステイル「ああ。そのブランドなら香水は買った事があるよ」
服部「話はまだ終わってねえぞ!」
呆れ顔でマイルドセブンを咥える浜面、火を貸しつつ自分も二本目に火をつけるステイル、そこに垣根も加わる。
もちろん上条も一方通行もフィアンマも削板も吸わないためなんの話かわからないが――
浜面「なんでだよ。郭がいるだろ」
服部「アイツは違う!そういう対象じゃねえ!」
垣根「わかった。あの警備員か」
一方通行「黄泉川かァ?黄泉川なら今頃飲み歩いてンぞォ?三十路間近で女子(笑)飲みだとよォ」
フィアンマ「男の嫉妬は見苦しいぞ」
上条「(完璧に酔ってるもんなあ…弱ったなあ)」
口々に好き放題に言う面々。半蔵曰く、不思議系天然美少女だの、年上の綺麗なお姉さんだの、年下も年下の妹系中学生など持っての他だと。
それを聞いて土御門はニヤニヤし、削板は夜店が買ったガラス風船のポッペンで遊んでいた。だが
削板「なら、ここで根性出して誰かに話しかけてみたらどうだ?」ポッペンポッペン
服部「お前ら分けろ!むしろもげろ!そうだ声かけ―――えええ!!?」
そこで、削板の言葉に半蔵の弾劾が一時止む。そこに削板がさらにかぶせる。
削板「?オレは硬派だからよくわからんが、こういうのは男から声をかけるものなんだろう?」
キョトンとしながらポッペンを膨らませたり吸ったりして遊んでいる。
次はヨーヨーで遊ぼうと思案している合間の何気ない一言だったのだろう。
しかしこんな展開を待っていたのか――
土御門「ここから先は俺に仕切らせてもらうんだぜい!」
全員「!?」
土御門が立ち上がった。
~男闘呼組(欠席:青髪ピアス)~
土御門「という訳で仕切りはオレがやる。異論、異存はないな?」
一方通行「ウォッカに火点けンじゃねえ」←やっと抜けてきた
何故か囲んだ卓の中心になみなみと注がれたバルカンウォッカに火を点け会議を開く土御門元春。
他のメンバーはめいめい好き勝手やりながらその席についている。議題はもちろん…
土御門「服部半蔵を男にする。が、既に収まってしまった麦野沈利、初春飾利、滝壺理后は除かせてもらう」
上条「上条さんは沈利一筋ですよ」
垣根「飾利はオレの花だ。何人たりとも触れさせねえ」
浜面「(言えねえ…まだキスしかしてねえだなんて言える空気じゃねえ)」
頭をポリポリとかく上条。そう、内容は至って単純…半蔵が女の子一人一人を見定め、それを他の男がジャッジし、GOサインを出すか否かである。
そう、一言で言うなれば――『お前ら中学生か』という話である。
服部「じゃあ…あそこのグラマラスでポニーテールのお姉さんだ!!見た感じ年上!やっぱり女は二十代半ばからだろ!」
そこで半蔵が焼酎の牛乳割り片手に指名したのは――『聖人』神裂火織であった。が
土御門「デテーン!半蔵、アウトー」
フィアンマ「ふんっ」ドゴオオオ!
服部「ごっ、があああああああああァァァァァァァァ!!?」
いきなりのチョイスミスにフィアンマの『聖なる右』が尻に突き刺さる。
黄泉川と似たようなスタイル、落ち着いた物腰に惹かれたにも関わらず、だ。
服部「いきなりクライマックスかよ!理由を言ってくれ!」
『聖なる右』で尻をブッ飛ばされて尚立ち上がる時点でもう色々おかしいが、ともかく半蔵は起き上がった。
土御門「理由は二つだにゃー。まずねーちんはまだ18、本人に聞こえたらキレる。でもってカミやん寄りだから脈は薄いんだぜい」
服部「くっ…じゃあ隣に座ってる、あのムチムチした修道女さんだ!顔しか肌が出てないけどそこがまた禁欲的でいい!」
土御門「それもまた外れなんだぜい…オルソラは本物のシスターだ。男性との接触は本来好ましくない上にカミやん寄りなんだにゃー」
服部「…念の為聞く、あの白いシスターは?」
土御門「――カミやんと麦野と暮らしてる。後はわかるな?」
服部「ウニ頭!お前って奴は!お前って奴は!!」ガクンガクン!
上条「上条さんのせいでせうか?!濡れ衣だー!」
いきなりの三枚落ちに上条の肩がガックンガックンと揺すられる。
この場に青髪ピアスがいれば言っただろう。美少女独占禁止法違反で死刑だと。
上条「」
服部「ちくしょう…持って行かれた!」
フィアンマ「不様だな」
一方通行「まさかねェとは思うが、うちのガキ連中名指しにしたら愉快なオブジェでスクラップだかンな。あと超電磁砲も三下寄りだァ」
浜面「女子20人だから…もう半数は声かけらんねえ計算になるか」
垣根「心理掌握も見当たらねえ。残り9人だな」
ステイル「女性を品評するような真似は好ましくないと僕は思うがね…」フー
残すは姫神・結標・吹寄・佐天・黒子・フレンダ・絹旗・心理定規・雲川である。
だいぶ絞り込めたな、と土御門は悪い笑みを浮かべる。本番はここからだと。
服部「悪いんだが…流石に中学生は勘弁してくれ。垣根ほど開き直れない」
垣根「法律もアグネスもクソッ喰らえだ。オレが好きだと言っている。あとあのドレス着た女も確か中学生だぞ」
服部「本当かよ!?ホステスかと思ったぞ!」
浜面「なら絹旗も抜いて…フレンダは微妙だな。グレーか」
土御門「最終的には姫神秋沙、結標淡希、吹寄制理、フレンダ、雲川芹亜だぜい」
土御門がまとめに入る。中学生はアンチスキルのお縄になりたくとの理由から女子高生ばかりがリストアップされた。が
服部「雲川副委員長は外してくれ」
上条「雲川先輩が?」
そこで半蔵が挙手する。まだ1ヶ月半程度の付き合いだが、見えてくるものも確かにあるのだ。それは
服部「(雲川は多分…)」チラッ
削板「なんだ?まだ紅葉が残ってるか?」
服部「いや…ところで削板…お前は雲川をどう思う?」
削板「ん!根性のある女だ!仕事はタフだし、踵落としも大した威力だ!」
服部「…なんでもねー。聞いたオレが馬鹿だった…(雲川が不憫過ぎて泣けてくる…)」
ムシャムシャと焼き鳥のちょうちんを貪る削板を見やりハーと溜め息が出る。
こんな脳内メーカーが『根性』で埋め尽くされているような男が相手では到底無理だ、と雲川に心底同情せざるを得ない。
人を見る目は確かなのに、毒を持つ人間を受け入れるだけの器の広さを持っているのに、何故女心だけわからないのか問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。その上
垣根「オラオラ行け行け。骨は拾ってやるからよ」
服部「フラれるの前提かよ!」
さらに垣根が尻を叩き
削板「当たって砕けろの根性だ!涙の数だけ強くなれる」
服部「アスファルトの花じゃねえ!砕けたら意味ねえだろ!」
削板が肩を叩き
フィアンマ「安心しろ。酒だけはある」
服部「優しいけど!優しいけど優しさの捉え方がねじ曲がってんだよ!」
フィアンマが無責任に背中を押し
ステイル「行け。無能力者」プカプカ
服部「そこで使うセリフじゃないだろ!しかも輪っかつくりやがってちくしょう」
ステイルがおざなりなエールを送った。
上条「いいぜ…お前が(ry」
服部「その幻想は殺さないでくれ頼むから!!」
土御門「男は度胸!なんでも試してみるもんなんだぜい!」グイグイ
服部「押すな押すな!押すなー!」
そう――ここから始めるのだ。服部半蔵を
~空中庭園・温室~
結標「秋沙、お酒臭い」
姫神「そう?自分では。わからない」
結標「鼻が馬鹿になるまで飲むからよ…これはもう没収ね」
姫神「あっ」
宴もたけなわの最中、姫神秋沙と結標淡希は硝子張りの温室の中に居た。
天空に咲き誇る花火、温室に咲き乱れる蘭の花に取り囲まれながら。
姫神「ひどい。こんな高いお酒。こういう時でもなければ。飲めないのに」
結標「お酒臭い秋沙は嫌い。キスしてても、あんまり嬉しくないわ」
二人の足元には四分の一ほど減った十二年物の白州が転がっており、照明も空調も落とされ暗室と化した視界の中でも――
姫神「じゃあ。もう今日は。キスしない。してあげない」
目元に朱が差し、頬が赤く染まり、首筋から胸元までほんのり上気している。
三角座りの足の間に腰を下ろし、背中から姫神に抱かれる結標。
艶々した黒髪が降りてきて、それが結標の素肌を心地良くくすぐる。
結標「馬鹿ね…私、嫌いとは言ったけれど、しないでなんて言ってないわ」
姫神「淡希はひねくれ者。吹寄さんをおいて。こんな所に私を連れ込んで」
結標「だって」
背後からかかる手に頬を擦り寄せる。滑らかな肌触り。
こうして付き合い始めてから、手先や指先のケアをお互い気を使うようになった。
シャンプーやボディーソープや、石鹸や香水を使うのが一緒になった。
部屋は別々だけれど、寝る時は同じ布団。寝間着を着ている時も、そうでない時もある。
結標「吹寄さんって人と、仲良過ぎて妬けちゃったんだもん…」
姫神「そういう淡希は。吹寄さんとあまり話さなかった。どうして?」
結標「どうして…って言われても」
姫神「吹寄さんの事。好きじゃない?」
姫神の手が結標のシャープな輪郭を滑る。まるで自分が一匹の猫になったような気さえする。
その心地良さに細めていた目を、薄く開ける。答えなくちゃいけないかなと。
結標「そんな事ないわ。秋沙の友達でしょう。いい娘だと思うわ」
握手を交わしただけでわかった。自分とは合わないタイプだと。
好悪の情を抱く以前に、噛み合わないと感じられた。
それは姫神と肌を重ねてからわかった、握手を通した手触り一つで合わないとまで感じられた皮膚感覚の鋭敏化。
姫神「嘘吐き」
スッ…と姫神の人差し指が唇に添えられる。それはいつもの、結標をたしなめる時のそれ。
結標「…やっぱりわかっちゃう?」
姫神「淡希の事は。なんだってわかる。淡希は今。拗ねてる」
スッ…スッ…と唇の上を滑る細い指先。その指を口に含みたい衝動に駆られる。
ふやけるまで舌を絡めて、抗議の意味を兼ねて歯を立ててやりたい。そして
結標「なんだかズルいわ。私は今だって…貴女の事でわからない事だってたくさんあるのに」
姫神「淡希は。私のものだから」
姫神の指先が唇から離れ…代わって手の平が目に覆い被さられる。
心地良い暗闇。伸びをしたくなるほど、気持ち良い暗黒。
姫神「嫉妬。した?」
結標「…したわよ。わざとやってるんじゃないかって思うくらい。友達だって知らなかったら、私なんてもういらないんじゃないかって…考えてしまうくらいに」
結標は以前避難所での映画鑑賞会の時に見たキスシーンのダイアローグを思い出す。
キスの時、目を閉じてする目蓋の裏に広がる暗闇が好きだと。
性格と人格の破綻したヒロインだったが、その部分だけは共感出来た。暗闇でも、優しい暗闇もあるんだと。
姫神「冗談でも。そんな事言わないで」
結標「…っ」
この夏、開けたばかりのピアスごと耳朶を食まれる。
どちらから言い出したかわからない。しかし二人は望んでこれをつけた。
猫(結標)は鎖で繋げない。だからこのピアスは鈴なのだと。
姫神「淡希は。私のもの。違う?」
結標「…違わ…ない…」
姫神「そうじゃない。でしょう」
カリッと歯を立てられる。いっそこのまま奪われたい。しかし今はダメだ。
目出度い席でこのような睦事に耽っているだけで十分背徳的なのに、これ以上を今望んではいけない。
結標「ふっ…ぅんっ!」
姫神「私が。気に入るように答えて」
あの異能者集団の中にあってさえ、結標は強い。
少なくとも並みの魔術師に引けを、並みの戦士に遅れは取らない。
しかしそんな自分が、戦う力一つ持てない少女に指先一本すら自由にさせてもらえないという現実。
姫神「また。こんな格好をしてる」
結標「だって…暑…」
姫神「誰が。口答えをして良いと。許したの」
結標「やっ…ぁ!」
丈の短いスカートから伸びる太股に指先が滑る。調律される楽器も同然だ。
姫神という奏者を得て、結標は歌う。時に高い声で、低い呻きで、甘い囁きで。
姫神「腰を冷やしたら駄目なのに。何度注意しても止めない。私は。私以外に。淡希を見て欲しくないのに」
結標「そんなの…私の…自由じゃない」
耳朶の輪郭を、耳朶の溝を、耳朶の穴を濡れた舌がくねり、這い、押し当て、滑る。
吐息をどこに漏らして良いかわからない。空気を吐き出しているような喘ぎ。
姫神「それでも。淡希を自由にしていいのは。私だけ」
姫神もやはり酔いが回っているのか常より饒舌であった。
それは結標の持つある種の嗜好と、姫神の持つある種の志向が合致している事に由来する。
姫神「淡希は。私に逆らえない」
結標「…噛みつくわよっ」
姫神「させない」
結標「…!」
フレンダが評したように、両者の力関係の天秤は常に姫神にその比重が置かれる。
年下であろうと、戦闘力がなかろうと、そんな価値観が意味を為さない観念。
上条と麦野が完全に同等の立ち位置ならば、姫神と結標は完璧な上下関係。
姫神「淡希はいつもそう。気を引きたくて。悪さをする猫と同じ」
結標「ダ…メ…耳に…息…かけないで」
姫神「今だって。こんな話は外でも出来たのに。わざわざこんな所まで。来たのだって」
先程まで一方通行と焼き肉をつついたり、女同士の輪の中で笑っていた結標淡希はもういない。
ここにいるのは、半ば望んで、半ば期待して、甘い痛みと痺れに苛まれる事を選んだ、姫神秋沙の半身。
姫神「私に。こうして。構ってほしいから。そうでしょう?淡希」
結標「…貴女が!貴女が吹寄さんとばっかりいて…私の事、全然見てくれなかったからじゃない!」
姫神「そう。私が悪かった。だから。吹寄さんを。悪く言わないで」
それを姫神は正しく理解している。それはこのひと月で深い所まで進んだ。
例えるなら、たまの休みを二人が揃って取った時――
結標『どこか行かないの?』
結標は決して『どこに行きたい?』『どこか連れて行って』とは口にしない。
遠回しで、回りくどくて、素直に思った事を口にするのが負けとでも思っているようで。だから――
結標「…また、吹寄さんを庇って…」
姫神「…安心。して?淡希」
望む形で、そのプライドを崩す。プリンの山にスプーンを入れるように。
吹寄に対するそれすら、実のところは姫神が自分に向ける注意や視線を逸らして欲しくないから。
しかし間違っても自分の口からはそれを言いたくないから。言えば認めた事になるから。
姫神「もう。淡希を置いて。どこにも行ったりしないから」
結標「…絶対よ?絶対だからね?秋沙」
姫神「うん」
そう慰めながら、正面を向かせて抱き締める。吹寄には後で謝っておこうと姫神は思った。
まさか拗ねた恋人をなだめていました、などとは流石にまだ言えないから。
姫神「本当に。淡希は猫」
一ヶ月前の事件から、結標は子猫が親猫を探すような目で見る事が時折ある。軽いトラウマなのかも知れない。
結標「猫だって…構わない。私は秋沙の…猫でいいから」
いじり過ぎると怒るくせに、ほったらかしにされ続けると拗ねる。
ご飯も気まぐれに食べたり食べなかったり、気が付くと布団に潜り込んで来たり――
結標「秋沙の…飼い猫でいいから――」
本当に、可愛いなと思った。
~酒と泪と男と女~
服部「うおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」
上条「…なんてこった…」
一方その頃…相も変わらず焼酎の牛乳割りを片手にテーブルに男泣きに泣くのは服部半蔵であった。
それを見やるのは同じ卓についた上条当麻と男子一同である。
視線の集中する先は号泣する服部…その原因は――
フレンダ『結局、ごめんなさいって訳よ!私、麦野好きだし』
まず、真っ先に声をかけた脚線美も眩しい金髪碧眼の美少女に一刀両断され――
吹寄『上条当麻!姫神さん達どこ行ったか知らない!?あっ、ごめんなさい話の途中で…ところで何の話ですか?』
次いで、オルソラ・神裂についで豊満なバストの女子高生はそれどころですらなく…残る姫神と結標は見当たらない上に――
白井『姫神さんですの?姫神さんなら恋人がいらっしゃいますの(嘘は言っておりませんの!)』
麦野『あー…案内人?もう好きな人いるんじゃなかたっけ…たしか(中庭と図書館で見ちゃったけどフレンダの借りの件があるから本当の事言えないしねー)』
つまり…半蔵は勝負の前から決着が着いてしまっていたのだ。
せめてもの救いは、皆それぞれの事情で優しい嘘をついてくれた事くらいか。
服部「おーいおいおい…おーいおいおい!!!ちくしょお…ちくしょおおおお!」
フィアンマ「光栄に思え忍者。付き合ってやろう」
垣根「女に泣かされんのも男を磨く事になるんだ。飲めよハットリくん」
削板「こん…とは言えんな!流石に!!」
浜面「半蔵、注いでやるよ」
ステイル「………………」つ【タバコ】
土御門「し、鹿肉が運ばれて来たから焼いてやるんだぜい!ほーらディアステーキだにゃー、香ばしいんだにゃー?」
服部「お、お前ら…!」
垣根「いいって事よ。オレが本当の愛を見せてやる」バサッ
服部「!?なに羽出してんだ?!」
一方通行「くっだらねェ…」
上条「そげぶ!」ガッ!
一方通行「なにしやがンだ三下ァ!」
フラれた経験はおろか恋愛経験すらあるのかないのかわからない一方通行を除いて皆が服部に同情した。
この結末は流石の上条当麻ですら救えない。土御門など思いもよらない惨劇にステーキまで焼きはじめる始末だ。
垣根にいたっては何をするつもりなのか白翼をはためかせている
上条「(ホント…帰って来たんだよなあ学園都市)」
思わず、頭上の花火と、眼下の祭り囃子と、周囲の面々とを見渡す。
しみじみと、実感する。帰ってきたのだと。学園都市に
一方通行「なに黄昏てやがンだ三下ァ…似合わねェぞ」
上条「悪い悪い」
それを一方通行が突っ込む。間もなく上がる最後の花火に、思わず『去年の記憶』が蘇る。
『子供の頃に家族と見た』どんな花火の記憶より、鮮やかなそれを――
~ですぺらーどのつまたち~
麦野「…………………」
初春「どうかしましたか?」
滝壺「むぎのが、アンニュイ」
麦野「別にー?」
その様子を見やるは女三人。麦野沈利、初春飾利、滝壺理后の三人である。
麦野の手には強めのウォッカで作られたブラッディシーザーがあり、初春は二杯目のヴァージンブリーズ(ノンアルコール)、滝壺はメロンアイスのシャーベットだった。
麦野「ただ、男なんていくつになっても馬鹿でガキだな、って」
初春「あははは。そうかも知れませんね」
滝壺「私達、ほったらかし」
三人揃って妙な貫禄とゆとりがあるのは、海千山千の死線を超えてきた故か。
問題だらけの危なっかしい男ばかりの側にいるせいか、奇妙な共感がそこにはあった。
滝壺「籍を入れるって、本当?」
麦野「そうね。年上に生まれてちょっと後悔」
初春「上条さんの方が、年下…だからですか?」
麦野「それもある。アイツが高校出るまでがすごく長く感じられる」
滝壺「でも、ちょっと驚いてる。むぎのは、そういうタイプじゃない気がしてた」
麦野「言うようになったじゃない。滝壺」
らしくもないと自分でも思う。だが、麦野にとってそれは恋や愛という甘い成分は少ない。
今口にしているアルコールのように、やや辛い舌触りですらある。それは
麦野「…私達は、いつ死ぬかわからないから」
初春「………………」
麦野「…アイツの生き方は、命がいくつあっても足りないから。ここまで生き延びてこれたのがもう奇跡みたいなもんね」
滝壺「………………」
麦野「最初はね、思ったの。もし子供でも出来たら危ない事止めてくれるんじゃないかって。でも、無理よね。人殺しの私に子供なんて産めない。産める気がしない。私のエゴのためにそんな事出来ない」
酒には強い方だが、やや酔っているのかも知れないと思った。
しかし『人殺し』というキーワードを聞いてなお、初春は動じない。
もしかすると、本当に全てを知っていて素知らぬ顔をしているのかも知れない。
逆にそれくらい強かで腹が黒くないと垣根の側になどいられないかも知れないと麦野は思った。
麦野「だから――籍だけは入れたい。私達のどちらが先に欠けても、同じお墓に入れるように」
滝壺「…もっと、甘い生活してると思ってた」
麦野「あら?私は今でも十分幸せにしてもらってる。暇さえありゃイチャイチャしてるし、いつかゆっくり旅行だってしてみたい。やりたい事、まだまだたくさんあるよ。クソガキもいるし」
滝壺は知っている。上条と麦野の出会いは殺し合いから始まった。
心の闇全てをぶつけるような殺し合いを三度も繰り返した果てに、麦野は上条の生き方を認めた。そして結ばれた事を
滝壺「旅行って言えば、はまづらが海行きたいって誘われた」
麦野「うわー絶対アンタの水着目当てだよ。下心にもパンツ履かせろってんだ」
初春「ぱ、パンツって…!」
麦野「男なんてみんなスケベよん」
麦野は思う。こんなネガティブ思考に陥っているのを知られたらまた説教されるんだろうなと。
もちろん上条は麦野の悲愴なまでの決意を知らない。麦野もそれを語る事はない。
ただ、その程度の覚悟すらなければ寄り添い続ける事など自分は出来ないと知っているから。
麦野「(あーあ…ホント)」
心中で微苦笑を浮かべる。あの男は何度だって自分を救う、守る、助ける。
お姫様(初春)の傍らにいる王子が垣根なら、女王(自分)の側にいる騎士は上条だと誰よりも信じているから。
麦野「(馬鹿な男に…惚れちゃったなー)」
~空中庭園・天蓋~
白井「先程はお楽しみでしたの」
結標「ブッ」
白井「吹かないでいただけません事?淑女の範にもとりまーすのー♪」
温室から戻って来た結標淡希は、姫神秋沙と共にいた事を勘ぐられないよう時間をずらすべく庭園内をぶらついていた。
その直後である。カルピスを片手に空中庭園内を散策していた白井黒子と遭遇したのは。
結標「いっ、いつから見てたのよ!?」
白井「あら?わたくしほんの戯れに口にしただけですのに…まさか本当にそうでしたの?」
結標「うっ…」
白井「(軽いかまかけのつもりが大当たりですの)」
二人はガーデン内の天蓋のアーチ部分に並んで腰掛けていた。
結標の手には姫神から没収した酒瓶が、白井はコップにペーパーを添えて指先を濡らさぬようにして上品に飲んでいた。
こういう振る舞いの一つ一つが、確かにお嬢様学校の生徒であると今更ながら思い返させる。
白井「はあはあいけないお人ですのはあはあわたくしもお姉様と是非とも薔薇の園で同衾したいと言うのにはあはあお姉様はちっとも靡いて下さいませんのはあはあ」
結標「ちょっと!息が荒いわよ!本当になんでもないったら!」
白井の理想としては薔薇の園らしいが、結標の現実としては百合の城だ。
しかし現実には蘭の温室という。そして硝子張りの暗室から見上げた夜空は奇しくも満月。二人が共闘したあの日の夜そのままに。
白井「そうですの?わたくしてっきり、耽美で退廃的な、愛欲にまみれ爛れた逢瀬を想像しておりましたのに」
結標「残念ね。私はこれでも健全な関係を築いているつもり。手遅れの貴女とは違うのよ!」
白井「その割に、先程よりご機嫌斜めでないようで何よりですの」
結標「下世話な娘ねっ」
白井「お互い様ですの」
空中庭園内を走る水路と、数々の草花と木々の香りが夜風に舞い上がって二人の鼻腔をくすぐる。
この二人の救いようのない所は、これでまだ自分だけは健全で健康でいるつもりでいる感性だろう。
白井「はあー…お姉様は相変わらずあの殿方にお熱ですの。全く、どこが良いのやらわたくしにはさっぱりですの」
結標「第四位の男でしょう?一見平凡に見えるけど、あの連中の中で普通にいられるんだからもうまともじゃないわよね」
白井「おかげさまで…お姉様との熱い夏がもう半分を消化してしまいましたの。短冊にあんなにお願いを書きましたのに…“お姉様と結ばれますように”とほんの15枚ほど」
結標「…織姫と彦星も苦笑いね。欲張り過ぎるのは淑女の範からもとるんじゃないの?」
白井「途中でお姉様に止められなければあと倍は書けましたの!」
結標「よくやったわ超電磁砲(レールガン)」b
そう話しながら無意識の手がピアスを開けた耳朶に触れ行く。
そうする事でいつも姫神が感じられるような気がするから。
最初は揃い指輪も考えて…止めた。何故だか指輪では緩く軽く感じられたからだ。
結標「(やっぱり私達って歪んでる?)」
自分の身体の一部に穴を開け、そこに相手の贈り物を身につける。
その事に覚えた奇妙な安堵と充足感。それを姫神に伝えた時、意地悪く浮かべられた笑みを思い出す。
姫神『淡希は。マゾだから』
端から見れば、確かに爛れているのかも知れない。
自分達には砂糖水のような恋も、純水のような愛も似合いそうになかった。
世間一般のカップルがどうであるか、自分達のような同性のペアがどうであるかもよくわからない。いつだって自己流だ。
姫神『大丈夫…そんな淡希が。私は好き』
そう囁かれて愛でられると、不思議な優越感と二人しか知らない秘密を共有している気分になる。
それは支配という名の庇護を受けているからだとも自己分析している。
一時、結標淡希である事から解放されて相手の所有物になれる事。
結標「あー…不健全で不健康で不道徳な関係だわ」
白井「お酒と同じですの。飲み過ぎは身体に悪いとわかっていても、酔いを求めて人はそれを口にいたしますの」
結標「…貴女、本当に中学生?」
白井「ですの」
それでも真っ直ぐ歩けているのは、あの時から自分の中に生まれた真っ直ぐな芯があるから。
折れず、曲がらず、捻れない直向きな想い。今ならわかる気がした。白井黒子のごく一部が、自分の中のごく一部が、重なる。自分達にif(もし)はないとわかっていても
白井「――結標さん?」
風が吹く。天蓋の下に咲く花々を乗せて
結標「――何かしら?」
二人の髪を揺らす、あの夜のように
白井「――一度で、よろしいので」
戻らぬ刻の針が、逆回しされるように
白井「わたくしの事を――」
朧を描く蒼月が、夜風に流された雲に隠れる
白井「“黒子”…とお呼びいただけませんこと?」
そう、もう地上からは誰にも見えず、そして空からは神様すら覗けない。
結標「――いいわ」
木々がざわめき、草花が煽られ、一陣の風が吹く
結標「―――“黒子”―――」
そう、自分達にif(もし)はない。
白井「…ありがとう、ございます…」
しかし――こんな夜風の中に、ありえたかも知れないif(もし)を見てしまうから――
白井「――すっきりいたしましたの!」
だから、白井黒子は微笑む。小悪魔めいたウインクと、天使のようなスマイルで
結標「――私もね」
そして――その時
ヒュウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…
結標「あら」
白井「大玉ですの」
地上から天空へと昇り行く流星雨が見えた。かなりの大玉の予感がした。
その赤い大玉は高く高く高く…限界点まで打ち上げられて行き――
ドオーン!ドオーン!ドオーン!ドオーン!
――『I L O V E K A Z A R I』――
ドオーン!ドオーン!ドオーン!ドオーン!
結標・白井「「!!?」」
夜空に、ナイアガラの滝と一緒に大文字で真紅の閃花が咲き乱れた。
~宴の終わりに~
全員「「「なにやってんだ第二位ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!」」」
夜空に浮かぶ『I LOVE KAZARI』の未元物質で生成された超特大大玉で放たれた花火に一同からツッコミが入る。
ただ一名、Christian Diorのモード系スーツに身を包んだどや顔の男を除いて。
垣根「言ったろう?俺の愛に常識は通用しねえ。花束より気が利いてんだろ?」
一方通行「気が利いてンじゃなくて気が違ってンだろォがァ!?むしろテメエの頭がお花畑(メルヘン)なンだよ!!!」
こんな事になるなら復活出来なくなるまで擦り潰せば良かったと後悔するは第一位(アクセラレータ)
御坂「ごめん垣根さん…これはないわ」
垣根「安心しろ。自覚はある」
こんな奴が自分より序列が上かと思うと酔いすら醒めるのが第三位(レールガン)
麦野「キモい!キモいィィィィィィ!夏なのに鳥肌止まんねぇぇぇぇぇぇ!」
垣根「舐めてやがるなテメエ。ムカついた」
こんな男は絶滅すべきだと止まらない鳥肌をかきむしるは第四位(メルトダウナー)
心理掌握「 」
青髪「アリかナシで言うたら…アウトや」
口をポカーンとさせるは第五位(メンタルアウト)と第六位(ロストナンバー)
削板「いいぞ第二位!オレは今猛烈に感動しているぞ!」
垣根「ありがとうありがとう」
ズレた感性で涙を噛み締めるは第七位(ナンバーセブン)
滝壺「ダメ。これ以上いけない」
クワッと目を見開いて夜空を見上げるは第八位(AIMストーカー)
結標「…抜けようかな、レベル5…」
こめかみを押さえて目眩に耐えるは第九位。そして――
垣根「どうだ飾利!序列は二位だがお前の一位はこのオレだ!」
初春「垣根さんっ…!」
全員「「「うるせえェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」」」
これ以上ないどや顔の第二位(ダークマター)
上条「………………」
そして一斉に始まるレベル5によるリンチで垣根は笑いながらボコボコにされた。
全てをやり遂げたような、一片の悔いも残さぬイイ笑顔のまま。
上条「父さん…母さん――」
吹寄「な、なんなのアレ」
同じ物などない繰り返しの日々の中で
神裂「に、日本の夏が…」
白紙の行き先へ駆け出すように
服部「見せつけやがってちくしょおおおおおお!」
二本の足で大地を蹴って
御坂妹「悪趣味極まりないですね、ミサカは思い出の付箋をつける事を止めにします」
時に雑踏の中孤独を感じても
絹旗「超キモいです超台無しです」
人は自分以外の何者にもなれない。
心理定規「私、“スクール”辞めるわ…」
暗い夜を飛び越えて
黄泉川「はっはっは!誰かが馬鹿やってるじゃん!」
空に手を伸ばして
ステイル「ふん…馬鹿馬鹿しい」
小さく儚い願いを抱いて
雲川「風流もへったくれもないんだけど」
悲しみに負けずに
フレンダ「ファンタスティック!な訳よ!」
明日を求めて
打ち止め「あれいいな!ってミサカはミサカはあなたのお膝に飛び乗ってみる!」
新たなページに今日を刻んで
オルソラ「あらあら…まあまあ」
何度も道に迷って
佐天「初春逃げてぇぇぇぇぇぇ!」
広がる景色に戸惑って
小萌「お熱いのですよー!」
手にした答えに何度も問い掛けて
土御門「オレもアホだがここまで出来ないんだにゃー」
そして案外簡単な場所にそれを見つける
絶対等速「なんで祭りの日まで働かないないと行けねえんだよぉぉぉ!」
迷った時は思うがまま進め
寮監「来年こそ嫁げますように…と」
焦がれるように手を伸ばせ
姫神「これは。やりすぎ」
かけがえのない幸せの瞬間へ
禁書「すごいおっきい花火なんだよ!」
同じものなどない――希望(マスターピース)へと――
上条「学園都市は、今日も平和ですよ…っと!」
とある夏雲の織女星祭(サマーフェスティバル)・終
>>1です。二時間に渡る投下にお付き合いいただきましてありがとうございます。
投下終了という事で、少し蛇足を…
今回のテーマは『お疲れ様会』でした。もう無責任なくらいはしゃぐシーンというのが書いて見たかったので…
前作では書けなかった心理描写や、登場自分の視点がコロコロ変わるものが書いて見たかったため、とても楽しかったです。
気がついて振り返ってみれば、
姫神×結標(恋人)
上条×麦野(婚約済み)
垣根×初春(兄貴分と妹分)
雲川→削板(お利口さんとお馬鹿さん)
青髪→心理(友達)
白井→←結標(???)
とどマイナーな組み合わせばかりですね…次はセーブしないドロドロしたものが書いてみたいです。それでは今度こそ失礼いたします…



様々な感慨に襲われる。
地獄の釜の底のような第七学区に生き抜いている彼等彼女達に幸いあれ。
そして再び立ち上がる力を得られたことに感謝。
こんな日が有っても良い。
こんな日が無いのがおかしい。
今後を読むのが少し怖くなってしまうような幸せな一日だった。