翠星石「何か面白い番組はやってないですかね~」ポチポチ
TV「私は小さい頃から、自分は女の子なんじゃないかと思ってまして~」
雛苺「えぇっ!? この人、男の人なの? 凄くキレイなの~」
TV「私がニューハーフだと知ると態度を変える人、多いですよ。悪口を言ったりとか」
TV「でも私はなりたい自分になれたので、後悔はしてませんけどね」
ジュン「…………」
真紅「ジュン、どうかしたの? ボーっとしてるようだけど」
ジュン「ん。何でもないよ」
元スレ
ローゼンメイデン 桜田ジュンの復学
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1249126330/
ジュン「…………」
のり「最近ジュン君が塞ぎこんでるのよ。皆、何か知らない?」
翠星石「確かに元気が無いですねぇ」
のり「前みたいに全てを拒絶する訳じゃないけど……」
真紅「自分の殻に閉じこもっているわね」
雛苺「心配なの」
雛苺「ねぇジュン。一緒にお絵かきしよ?」
かきかき しゃかしゃか
ジュン「もうこんな時間か。そろそろ夕飯だから下に行こう」
雛苺「あ……はいなの」
******
真紅「ジュン。紅茶を淹れて頂戴」
ジュン「どうぞ」
真紅「あなたは飲まないの?」
ジュン「のど渇いてない」
******
翠星石「や~いチビ人間~!」
ジュン「ん? どうかしたか?」
翠星石「……いえ、何でも無いです」
翠星石(いつもなら性悪人形とか言い返すはずなのに。なんでスルーするんですかぁ……)
真紅「どうしたものか。ジュンは自分の心をちっとも見せなくなったのだわ」
雛苺「遊んでくれるのは嬉しいけど、ジュンが笑ってないとヒナ楽しくないの」
のり「前は二、三日もすれば少しは元気になってくれたんだけど。心配ね」
ジュンがずっと考えていたのはTV番組に出演していたニューハーフの事だった。
ジュン(あの人は凄いな。周りから白い目で見られても、自分の道を貫き通したんだ)
ジュン(TVでは言ってなかったけど、イジメられた事もあるかも知れない)
ジュン(それに比べて、僕は……)
ジュン「このままじゃダメだ。何とかしないと」
ジュン「」カリカリ シャカシャカ
ジュン「」ジョキジョキ チクチク
雛苺「今度はずっとお勉強とお裁縫ばっかりしてるの」
真紅「声をかけられる雰囲気じゃないわね」
真紅「翠星石。あなたジュンの夢に入って様子を見てきなさい」
翠星石「分かったですぅ。今夜、蒼星石と一緒に行ってきます」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翠星石「付き合ってくれてありがとうですぅ」
蒼星石「気にしないで。それで、これがジュン君の心の木だね?」
蒼星石「可哀相に。下草が絡み付いて満足に伸びられなくなってる」
蒼星石「僕はこれを切ればいいのかな?」
翠星石「そのつもりだったんですけど、やっぱりこのままにしておきましょう」
蒼星石「えっ?」
翠星石「前は下草に縛られてしょんぼりしてた心の樹は、今とても頑張ってるです」
蒼星石「……そうだね。下草を引きちぎって伸びようとしている。今は苦しいだろうけど、この木はきっととても大きくなるよ」
蒼星石「でもその前に枯れてしまうかも知れない。本当に下草を切らなくていいの?」
翠星石「ジュンなら大丈夫ですぅ。優しいお姉さんや、こんなに可愛いドールが傍にいるんですから」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翠星石「――という訳なんですぅ」
真紅「そう。ジュンの心の樹はそんな風になっていたの」
翠星石「麦は踏まれる事によって根を深く張り、強く育ちます。これはジュンの心が大きく成長する為の試練なんですぅ!」
真紅「心の樹の状態。そして学業への打ち込み様。ジュンは復学するつもりのようね」
雛苺「巴と契約してた時を思い出すの。ジュンが学校に行ったら寂しいのよ」
翠星石「チビ人間が学校に行くと、自分で紅茶を淹れなきゃいけませんね……」
真紅「でも学校に行く方がジュンのためよ」
翠星石「そうですね……チビ苺。絶対にジュンの邪魔をすんなですよ」
雛苺「うゅ。静かにしてるから一緒にいちゃダメ?」
翠星石「別に会うなとは言ってないです。ジュンは今、戦っているんですから、応援してあげるですよ」
真紅「下僕の教育は主人の務め。導く事が出来ないなら、せめて支えてあげましょうか」
~~~~~~~~~~~~
蒼星石「翠星石はここにはあまり来てないみたいだね」
蒼星石「ずっとジュン君の傍にいるんだろうな」
蒼星石「それならジュン君の心の樹は僕が見守る事にしよう」
~~~~~~~~~~~~
二週間後。
ジュン「どうですか?」
みつ「相変わらず良い腕してるわ。まさに神業職人! よっ、マエストロっ!」
みつ「このドレスを前みたいにオークションに出すわけね。知り合いのドール愛好家達にも声をかけてみるよ。高く売れると良いね!」
ジュン「ありがとうございます」
みつ「お安い御用よ! 売る前にカナに着せてもいい? 着せてもいい?」
ジュン「どうぞ」
みつ「うーむ素晴らしい。JUMJUMってブランド立ち上げない? あはは」
ジュン「……やってみたいです」
みつ「おおっ!? 乗り気なのっ!?」
みつ「それなら私と組もうよ! ドール愛好家のコネあるし、色々と有利だよ!」
ジュン「よろしくお願いします。草笛さん」
みつ「やだなぁ! みっちゃんで良いってば。うふふふふ、これから忙しくなるわよ~~!」
数日後。
ジュン「はい。姉ちゃん」ポン
のり「ど、どうしたの。このお金。こんなに沢山……」
ジュン「僕が作ったドレスが売れた。家計の足しにして」
のり「そんな! これはジュン君のよ。ジュン君が好きな事に使った方が――」
ジュン「材料費さえあればいい。それ以上持ってても使い道が無い」ガチャ バタン
ジュン「」ジョキジョキ チクチク
ジュン「」カリカリ シャカシャカ
のり「……前みたいに洗濯のりって呼ばれてもいいから、もうちょっとお話がしたいなぁ」
真紅「ジュンはやるべき事とやりたい事に全力を尽くしているのだわ」
のり「それは分かってるんだけど、やっぱり寂しいよぅ」
雛苺「ジュン登りしたいの~」
翠星石「我慢です。静かにお絵かきでもして待つですよ」
しばらく経ったある日。ジュンは草笛宅を訪れていた。
みつ「JUMJUMは軌道に乗って来たね。固定客もついたし」
みつ「購入者からのメールとか凄いよ。『マエストロの作るドール服は芸術品です!』だって」
ジュン「そこらの服に負ける気はしないけど、芸術品は褒めすぎですよ」
金糸雀「嬉しいなら素直に喜ぶかしら。顔がニヤケてるわよ」
ジュン「ほっとけ。あ、みっちゃんさん。これ新作です」
みつ「……うひゃ~、よくこんな複雑なレース編めるわね。こりゃ買い手数多だわ」
ジュン「お邪魔しました」
みつ「もー、パートナーなのに他人行儀ね。今度合鍵を渡すからいつでも来てよ」
金糸雀「真紅達によろしくかしら~」
ジュン「ん、ばいばい」
帰り道。
ジュン(僕が作ったドレスを「お金を出してでも買いたい」と思ってくれる人がいた)
ジュン(ドレスが売れる度に自信がつくよ)
ジュン(白い目で見られても、ドレスが売れるなら、誰かが僕を求めてくれるなら、僕は平気でいられるかも知れない)
ジュン(勉強の遅れもほとんど取り戻したし、今度のドレスが売れたら学校に行こうかな)
ジュン(何だろう。不安もあるけど、不思議と楽しくなってきた)ドキドキ
ジュン(ドレス、早く売れないかな)
桜田家。
ガチャ
ジュン「ただいま…………!!」
梅岡「やぁ桜田。元気にしてるか?」
のり「あ、おかえり。ジュン君……」
ダッ
のり「あっ! ジュン君っ!」
ダダダダダダ ガチャ バタン
ジュン「…………」ハーハー
雛苺「あ、ジュンなの。お帰りなさい」
ジュン「……うるさい」
雛苺「えっ?」
ジュン「うるさぁいっ!! 出て行けぇぇええ!!」
雛苺「ひぐっ!? ……う、うぇぇ」
真紅「突然どうしたの?」
ジュン「うるさいうるさいうるさい!! 出て行けって言ってるだろ!」
翠星石「……ジュンの言う通りにするです。行きますよ」ガチャ
玄関。
「――出て行けぇぇぇえ!」
梅岡「……どうすれば桜田は心を開いてくれるのかな。今日はもう帰るよ」
のり「あ、はい。さようなら梅岡先生」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
蒼星石「こ、これはっ!?」
蒼星石「急に下草が沢山生えてきて心の樹を締め付けてる!」
蒼星石「数が多くて一々切ってられないっ!」
バサッ バサバサッ
蒼星石「くっ、払っても次から次に生えてくる!」
蒼星石「レンピカ! 急いでジュン君を眠らせてきて!」
レ「」ピカピカ
蒼星石「意識を失えば少しは落ち着くはず。それまで保てば何とかなる!」
バサバサッ
下草を払う蒼星石の手がジュンの心の樹に触れた。
その瞬間、ジュンが抱える痛みが蒼星石の中に流れ込んでくる。
ドレスの絵、掲示板、周囲の視線。忘れられない苦痛の記憶。
過去にジュンが見た光景とその時の感情が蒼星石の脳裏をよぎる。
蒼星石「この記憶は……ジュン君の……」
蒼星石「どうにか、樹は絞め殺されずに済んだね」
レ「」ピカピカ
蒼星石「おかえりレンピカ。お陰で助かったよ。ありがとう」
蒼星石(でも……僕はジュン君の心を覗いてしまった)
蒼星石(ジュン君の一番弱い部分。誰にも知られたくない心の領域を、見たんだ)
蒼星石(これからどうしよう)
蒼星石(会って許しを乞いたいけど、きっとジュン君を苦しめてしまう)
蒼星石「僕が出来るのは、こうして心の樹を守る事だけか。もどかしいよ」
蒼星石「……梅岡先生。下草が生える原因を作った人か」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
桜田家、リビング。
紅翠苺の「……」
真紅「ジュンはまた塞ぎ込んでしまったわね」
のり「……うん」
翠星石「部屋に入れてくれないんじゃ話も出来ないですぅ」
雛苺「大丈夫かな? 心配なの」
ジュンの部屋。
ジュン「…………」
登校拒否してから時間が経ち、ジュンの心の傷も多少は癒えていた。
だからこそ、こうして復学する為に努力していたのだ。
だが全ての元凶である梅岡との対面。それも完全な不意打ちだった。
治りかけていた心の傷が、再び開いてしまった。
数日後。
プルルルル プルルルル カチャ
のり「はい桜田で……あ、みっちゃんさん」
tel「」
のり「ええっ!? それ本当ですかっ!?」
雛苺「どうしたの?」
のり「えっとね、テレビ局がジュン君に取材したいって言ってるらしいのよ」
翠星石「はぁ? 何言ってるんですか。四月一日はとっくに過ぎてますよ」
tel「」
のり「あ、ちょっと待って下さい。ジュン君は――」
ツーツーツー
のり「……今から家に来るって」
翠星石「デカ人間の事です。テンション上がってて、言いたい事だけ言って切ったんでしょうね」
真紅「来てもジュンが会うかしら?」
ピンポーン
のり「ちょっと話してくるね」
真紅「えぇ」
ガチャ パタン
翠星石「しかしチビ人間に取材って、テレビ局は何を考えてるんでしょうね」
真紅「まぁすぐに分かるでしょう」
みつ「お邪魔しまーす」ボソボソ
金糸雀「お邪魔するかしら~」ボソボソ
雛苺「こんにちはなの~」ボソボソ
真紅「別に声を潜めなくて良いわよ。詳しい話を聞かせて頂戴」
みつ「三行で説明すると、ジュンジュン作のドレスがオークションで高額で落札。2chでスレが立つ。テレビ局が目に留めた。以上よ」
翠星石「高額って、どれだけ高額なんですか?」
金糸雀「なんと五十万円かしら。給料三か月分をはたいたそうよ」
のり「ごっ……ジュン君、そんな凄いの作ってたんだ」
みつ「狭い市場で職人技を披露しちゃったからね。競ってたのは数人だけど、皆絶対に欲しいって思ってたみたい」
真紅「で、テレビの話はどうなの。もう返事はしたの?」
みつ「まだよ。取材されるのはジュンジュンだしね」
雛苺「でもジュンは部屋に閉じこもってるの」
みつ「ふむ。まだ詳しい事情は聞いてないけど――」
のり「…………」
みつ「あまり人に喋れる話でもなさそうだし。やっぱり断っておいた方が良いかな?」
金糸雀「一応、聞くだけ聞いといた方が良いと思うかしら」
雛苺「大丈夫? いま話しかけたら怒られるのよ?」
みつ「うぅ、ジュンジュンの言葉は鋭いから怖いなぁ。でも無断で返事する訳にはいかないし」
ジュン部屋の外。
みつ「こんにちは~。ジュンジュン起きてる?」
みつ「寝てるって言われたけど、もう私、興奮しちゃって!」
みつ「聞いて。こないだのドレスが話題を呼んで、なんとテレビ局からオファーが来たのよ!」
みつ「地方ローカルで、無名の職人を発掘するって感じの番組でさ」
みつ「ジュンジュンの才能を世に知らしめるチャンスよ~。これを逃す手は無いむぐっ――」
のり(駄目っ!)
みつ「ど、どうしたの? いきなりリビングまで引っ張ってきて。何かまずかった?」
のり「…………」
のり「さっきのが登校拒否の原因なんです。ジュン君が書いた絵を先生が――――」
みつ「……私、傷口に塩すり込むような事を言っちゃったんだ」
のり「でもジュン君の為にっていう、気持ちも分かるんです。みっちゃんさんは励まそうとしてくれたんだし」
真紅(だからと言って、大切なものを傷つけられたのに大人しくしてるのは臆病なだけよ)
翠星石(ったく、のりは優しすぎるです。ジュンを傷つけた奴は敵。それで良いじゃないですか)
みつ「いま謝るのは逆効果だよね……」
ジュン(ドレスが、売れた?)
『ドレスが売れたら学校に行こうかな』
ジュン(あいつがいる場所になんて……)
『ドレス、早く売れないかな』
ジュン(行くべきなのは分かってる。仲の良いやつもいたし、行きたいと思ってる。けど――)
『誰かが僕を求めてくれるなら、僕は平気でいられるかも知れない』
ジュン(…………)
リビング。
ガチャ
ジュン「……」
のり「じゅ、ジュン君っ!?」
ジュン「テレビのオファーだっけ。出るよ。いつ?」
みつ「え、ええっと、昼ならいつでも良いみたいよ。フットワーク軽い地元ローカルだから」
ジュン「じゃあ好きな時に来て、って言っといて下さい」
みつ「お、おっけー」
バタン
全「…………」
みつ「よく分からないけど、良い感じ?」
翠星石「どういう心境の変化なんでしょうか」
雛苺「ジュンは戦ってるんでしょ? それだけじゃないの?」
真紅「戦っている、か。そうね。ジュンは今、自ら戦いの地に赴いたのかも知れないわ」
翠星石「いっそ開き直って全部見せるって事ですか?」
金糸雀「まぁ、何にせよ良かったかしら」
その後テレビ局との相談により、取材は草笛宅で行われる事になった。
まずドール趣味を紹介した方が良いだろう。というみつの判断である。
レポ「近所に住む職人を探せ! 今回はドール服の職人をお訪ねしにきました」
レポ「凄いですね~。小さくて可愛いお洋服が一杯です。これがドール服ですね?」
みつ「はい。そうです」
レポ「うわ~! それ、すごく良く出来た人形ですね!」
金糸雀「」
みつ「ありがとうございます。うちの自慢の子なんですよ~」
レポ「リカちゃん人形やバービー人形で遊んだ女の子も多いと思います。草笛さんもそうだったんでしょうか?」
みつ「そうですね。子供の頃から可愛いものが好きで、大人になってお金を持つと趣味がエスカレートして、って感じです」
レポ「中々お金を掛けた趣味ですね。この精巧さなんて、もう玩具というよりは芸術品のようですよ」
みつ「自分の化粧よりも、ドールに化粧する時の方が気合入っちゃいますね」
レポ「あははは。では今回の職人、ドール服作りの若きマエストロ、桜田ジュン君に会いに行きましょう!」
ジュン「」ジョキジョキ チクチク
レポ「おぉ~、空気が変わりました。職人が働く職場の空気です」ボソボソ
みつ「えぇ。参考になるドール服やドールがあるので、桜田君はよく家に来て作業するんですよ」ボソボソ
カメラがジュンの手元を写せば、緻密な刺繍がまるで魔法のように生み出されていく。
糸を噛み切ってジュンは顔を上げた。
レポ「こんにちは! あなたが桜田ジュン君ですね」
ジュン「はい。こんにちは。初めまして」
その後も取材は続く。
ジュンがテレビに出るという話はのりを通じて学校に伝わった。
そして番組が放映された。
――――
真紅「で、学校での評判はどうだったの?」
のり「好意的だったわ。会ってみたいって言う子も何人かいたくらい」
のり「梅岡先生が録画して見せまわってたそうだけど、みんな驚いてたって言ってたわ」
雛苺「ジュンは戦いに勝ったの?」
翠星石「おバカ苺には分からないでしょうが、ジュンがテレビ出演を決めた時点で勝ってたですぅ」
真紅「そうね。内向的な性格を変える切っ掛けになった。もし今後何かあっても、ジュンは素直に周りに助けを求める事が出来るでしょう」
翠星石「『男が裁縫なんて気持ち悪い』と思ってた奴も、『テレビに出た』ってだけで手の平返して賞賛するでしょうしね」
真紅「そしてそれも一過性。二、三日祭り上げて騒いだ後はすぐに忘れてしまうわ」
雛苺「もうジュン登りしてもいいの?」
真紅「ええ。最後になるかも知れないし、好きなだけ登っておきなさい」
翠星石「えっ? それはどういう事ですか?」
真紅「ジュンは自分という存在を周りに認めさせたわ。すぐに復学するでしょう」
真紅「それなら――」
ジュン「契約を解く? な、何でだよ」
真紅「何でって、それを付けたまま学校に行くつもり?」
ジュン「……指輪か」
真紅「そう。契約を重ねて大きくなった指輪。教師には見咎められるし、学友からは女々しいと見られるでしょうね」
翠星石「復学の障害を少なくしてやろうってんですぅ。感謝するですよ!」
ジュン「で、でも、そんな、お前らはそれで良いのか?」
翠星石「へんっ。選定もせず慌てて結んだ契約ですし、翠星石はチビ人間と縁が切れて清々するですぅ」
雛苺「巴と再契約したいけど、ヒナ一人じゃまた巴を困らせちゃう。だから我慢するの」
真紅「分かったでしょう? ほら、手を出しなさい」
ジュン「…………」
真紅「どうしたの? 何を躊躇っているのよ」
ジュン「……いやだ」
真紅「何を言っているの?」
ジュン「契約を解くって事はお前らと別れるって事だろ? 嫌だよ」
真紅「……我侭を言わないの。あなたが学校に通うには必要な事なのよ」
ジュン「じ、じゃあ毎朝契約を解いて、学校から帰ってきてから契約をしなおせば――」
翠星石「名案だ、みたいな顔すんなですぅ。そう簡単に契約しまくったら大変な事になりますよ!」
ジュン「そうなのか?」
翠星石「魂を繋げる事によって人からドールへと力を流すんですよ? 何度もやってたら心も体もガタガタになるですぅ!」
ジュン「それならたくさん螺子を巻いて――」
真紅「それはドールが鞄で寝ないのと同じ。しばらくは平気でも、契約をしなければやがて限界が来るわ」
ジュン「でも、僕は……」
真紅「もしあなたにその気があるなら、学業を修めた後に、再び螺子を巻いて頂戴」
ジュン「…………」
真紅「良い子ね。さぁ手を出して」
ジュン「で、でも今すぐじゃなくて良いだろ? 明日から学校に行くとしても、今日一日は契約したままでも問題無いじゃないか」
真紅「それもそうね。じゃあそうしましょう」
雛苺「ねーねー。ジュン登りしてもいい?」
ジュン「あぁ。好きなだけ登れよ」
雛苺「わーい!」ヨジヨジ
ジュン「なんなら高い高いもしてやるぞ。それっ!」
雛苺「きゃはははははは!」
翠星石「チビ人間! 雛苺をかまうのは良いですけど、翠星石を無視するなですぅ!」
最後の一日はいつもと変わらない一日だった。ただドール達が作る輪の全てにジュンが加わっている。
似顔絵を描いたり、追いかけっこをしたり。
疲れたらジュンが淹れた紅茶を飲んで、翠星石が焼いたスコーンを食べた。
真紅がくんくんDVDが見たいと言い、満場一致で可決された。
真紅はジュンの膝の上に座り、雛苺は肩車、翠星石は横からそっと寄りかかる。
あっと言う間に時が過ぎ、夕食。メニューは花丸ハンバーグだった。
食事を終え、ジュンが風呂に入っている間。
真紅「のり。ありがとうね」
のり「うふふ。今日のハンバーグは自信作だったのよ。美味しかったでしょ?」
真紅「えぇそうね。あの味はずっと忘れないわ」
ガチャ
ジュン「はー、良い湯だった。上に行くぞ~」
呼ばれたドール達はリビングを出て行く。三人はのりを振り返って頭を軽く下げた。
紅翠苺「おやすみなさい」
のり「はい。おやすみなさ~い」
ジュン「もしかして、姉ちゃんには何も言ってないのか?」
真紅「ええ。変な言い方だけど、私たちは別れ慣れてるから――」
翠星石「これで良いんですぅ。ボロ泣きのクシャクシャ顔なんて見たくないです」
翠星石「……それに、見せたくないですし」ボソッ
真紅「後であなたから言っておいて頂戴」
雛苺「ヒナ、ちょっと巴の所に行ってくるね」
翠星石「蒼星石の所に行ってきます」
真紅「二人ともなるべく早く帰ってくるのよ」
ベッドに腰掛けるジュン。その膝の上には真紅が座っている。
しばらくの間、二人は口を開かず、部屋には時計が時を刻む音だけが響いていた。
ジュン「あと少しでこの指輪ともお別れか」
真紅「そうね」
ジュン「最初は邪魔だと思ってたけど、今はこれが絆の証のような気がする。……外したくないよ」
真紅「ジュン、今日はとても素直なのね」クスッ
ジュン「何だよ。笑うなよ」
真紅「共に過ごす内に、私達の間には目に見えない絆が生まれたと思っているわ。例え指輪が消えても、その絆は消えない。そう思わない?」
ジュン「相変わらず恥ずかしいセリフを平気で口にする奴だな」
真紅「答えになってないわよ」
ジュン「目に見えるものが全てじゃない。それは分かるよ。でも見慣れたものが無くなるんだぞ。やっぱり――」
真紅「やっぱり寂しい? 馬鹿ね。絆が消えないなら、いつでも私達は繋がっている。いつも傍にいるわ」
ジュン「……真紅」
真紅「何?」
ジュン「ありがとう」
ジュン「僕の所に来てくれて。僕と一緒にいてくれて。僕に関わってくれて。ありがとう」
真紅は返事をせずそっと背中を預け、ジュンは包み込むようにして真紅を抱きしめた。
やがて翠星石と雛苺が帰ってくる。
その頃にはジュンの覚悟も固まっていたので、契約の解消はすぐに済んだ。
指輪が消えた薬指を名残惜しそうに撫でながらジュンは言った。
ジュン「なぁ、今日はみんなで寝ないか? 前に昼寝した時みたいにさ」
後は鞄に入り、閉めればもうお別れという時に出た、そんな提案。
雛苺「うんっ! 一緒に寝よっ!」
沈み込んでいた雛苺は顔を輝かせて賛成した。しかし、
真紅「止めておいた方が良いわ。動かなくなった私達を鞄に収める事が出来るの?」
翠星石「チビ人間は泣くにきまってますから、翠星石達が自分で入った方が良いんですぅ」
ジュン「大丈夫だよ。泣かないから。それよりも、その、一緒にいたいんだ。駄目か?」
翠星石「ふんっ。ど、どうしてもって言うなら、寝てやらない事もないですけど///」
真紅「まったく。最後まで仕方の無い子ね」
ジュン「違う。これが最後なんかじゃない。ちょっとの間、お別れするだけだ」
真紅「……そうね」
四人でベッドに入る。
雛苺「ヒナはここー!」
翠星石「胸の上で寝るなんてっ……ジュン! 何で文句を言わないんですか!?」
ジュン「僕は別に構わないけど」
翠星石「くっ……し、真紅も何か言ってやれですぅ!」
真紅「私はいいわ。さっき抱っこしてもらったから」
翠星石「っ!? う、うぅ~~~」
ジュン「」ナデナデ
翠星石「こ、こらっ! 気安く頭を撫でるなですぅ!///」
真紅「しばらくは大変だろうけど、頑張るのよ」
ジュン「あぁ。分かったよ真紅」
雛苺「あのね、あのね。今までありがとうなの! もっと言いたい事があるけど、今はありがとうしか出てこないの」
ジュン「僕もそうだ。ありがとうな、雛苺。それと……こないだは怒鳴ったりしてごめんな」
雛苺「くすっ。いいのよ。ヒナは気にしてないから」
翠星石「……」ギュッ
ジュン「……」ナデナデ
翠星石「」グスッ
ジュン「おやすみ」
紅翠苺「おやすみなさい」
翌朝。
ジュンは動かなくなったドール達を鞄の中に入れた。
ずいぶん長い間、ジュンは三体のドールを見詰めていた。
目が潤むが涙を流すのは堪えた。もし泣いたら、勝ち誇った顔をした翠星石に何を言われるか分からないから。
ジュンは鞄を閉めると部屋の隅に寄せた。
傍にいて欲しかった。物置にしまうなんて、物のように扱う事はしたくはなかった。
袖を通すのも久しぶりな学ランを着て、時間割を揃える。
「――ごはんよ~」
ジュン「今行くー!」
のり「あれ? 真紅ちゃん達は?」
ジュン「眠ったよ。姉ちゃん。ご飯はもう僕達の分だけでいいから」
のりは何かを言いたそうにしていたが、ジュンの顔を見て口を噤んだ。
いつもよりも静かな食卓を囲む。
戸締りを済ませ、二人で家を出る。
ジュン「行ってきます」
ジュンは自分の部屋を見上げ、そう呟いた。
『ローゼンメイデン 桜田ジュンの復学』 終。
このままサブストーリーとエピローグを続けますが、本編は一応ここで終わりです。
サイドストーリー 『とある日の桜田家にて』
その日、ドール服ブランドJUMJUMの話をしに、草笛みつは桜田家を訪れていた。
ジュンは遅くまで学校に残って体育祭の準備をしているらしく、今はリビングでのりにもてなされている。
二人でお茶を飲んでいると、のりが言った。
のり「みっちゃんさん。ジュン君のこと、ありがとうございました」
みつ「なーになに。カナに綺麗な服を着せてあげれるんだから、出品や購入者への対応くらいお安い御用よ」
のり「その事もですけど、復学の事です」
みつ「あ~……」
のり「私はジュン君をそっとしておくことしか出来なかったんです。何度も話しかけたけど、怒らせてしまうばかりで」
のり「でも、みっちゃんさんのお陰でジュン君は復学してくれました。本当にありがとうございます」
みつ「…………」
みつ「それは違うわ。話題を呼んだドレスはジュンジュンが作ったのよ。私は何もしてない」
みつ「自分の殻から出てきた時だって、事情を知らない私が好き勝手な事を言って、それが偶然きっかけになっただけ」
みつ「私は不安定なお年頃の男の子を支え続けたのりちゃんが凄いと思うわ」
のり「そんな、私は――」
みつ「そうだ! ジュンジュンがお礼を言えるようになるには時間が必要だろうし、今私が褒めてあげる!」
みつ「わ~! パチパチパチパチ! のりちゃん偉い! よく頑張ったわ!」
のり「…………」
のり「」グスッ
のり「ひっく……うぅぅ……」ポロポロ
みつ「本当に、お疲れ様。私が胸を貸してあげるから、思いっきり泣いていいよ」ギュッ
のり「えぐっ……ありが、とう、ございま、ひっく……」
みつ「よしよし。お礼なんていいから、今は自分の事だけ考えてなさい」
数年後。ジュンが謝罪と感謝の言葉を述べたとき、やっぱりのりは泣くのだった。
『とある日の桜田家にて』 終。
エピローグ その1
登校中にクラスメイトと会うことを避けて時間を遅らせた為、教室にはもう、ほぼ全員が揃っていた。
ジュンが中に入ると、それまで騒々しかった教室は水を打ったように静かになった。
席に着く。皆の視線を感じる。話しかけるのを躊躇って遠巻きに見ている。だがその沈黙はすぐに破られた。
生徒A「テレビ見たぞ。お前ってあんな特技があったんだな」
ジュン「……うん」
生徒A「なぁ旗を作るの手伝ってくれないか?」
ジュン「旗?」
生徒B「体育祭の旗だよ。他の学年の人もみんな「赤組の旗はマエストロに頼みたい」って言ってんだぜ」
その二人を皮切りに、他のクラスメイトもジュンの周りに集まってきた。そして口々に「こんな旗がいい」「こんなデザインはどうか」等と提案する。
ジュン(まだやるなんて言ってないのに。でも旗一枚作るだけで受け入れてもらえるなら、悪くない仕事だな)
ガラガラ
梅岡「ホームルームするぞ~。みんな席につけ~」
ジュン「!!」
梅岡「…………」
梅岡は数秒だけジュンを見詰めていたが、何も言わずにホームルームを始めた。
ジュンにとっては拍子抜けだったが、「よく登校してくれた」などと言われずに済んでほっとしていた。
生徒は登校するのが普通。それに対して教師は何も言わないのが普通。休んでも寄せ書きなんて持ってこないのが普通。
その普通こそが、望んでいたものだったから。
頼まれた旗作りはすぐに取り掛かった。赤組全体からデザインを募集したが、結局ジュンが書いたデザインが選ばれた。
生徒C「一面に咲く赤とピンクの薔薇か~。緑の蔓が良く映えるね」
巴「」クスクス
ジュン「……これしか思いつかなかったんだよ」
体育祭。
ジュンが刺繍を施した旗は、他の組の旗を押しのけて断トツの1位に輝き、赤組に50点をもたらした。
体育祭が終わる頃、ジュンは完全にクラスに溶け込んでいた。
サイドストーリー 『助長教師ダメ岡』
蒼星石「やぁ。こんばんは」
梅岡「ん? ここはどこだ? 君は?」
蒼星石「ここはあなたの夢の中だよ。僕の事は……まぁどうでもいい」
蒼星石「ここ数日間。僕はあなたを見ていた。あなたの心の樹もね」
梅岡「心の樹?」
蒼星石「そう。その人の心を、その人の生き様をそのまま映し出す鏡のようなものさ。見てごらん」
蒼星石「この心の樹はとても元気に育っているね。周囲に草が生えないくらいたくさん養分を吸ってるんだから、それも当然か」
蒼星石「独善的で、他人の迷惑を考えず、それでいて自分だけは明るく楽しく生きている。まさに梅岡さんそのものだね」
梅岡「……変な夢を見るもんだ。疲れてるのかな」
蒼星石「ふふっ。確かにこれは夢さ。だけど同時に現実でもあるんだよ」
蒼星石「ところで、助長という言葉を知っているかい?」
梅岡「……成長の手助けをするって意味だ」
蒼星石「さすがは教師だね。正解だよ。でもそれだけじゃない。もう一つ、『急いで成長させようとした所為で悪い結果を招く』って意味があるんだ」
蒼星石「苗を伸ばそうとして引っ張り、抜いてしまうように。草木に水をあげ過ぎて、腐らせてしまうように」
蒼星石「本人は善意でやっているだけに始末が悪いんだ」
梅岡「何を言ってるんだ?」
蒼星石「あなたの事を言ってるんだよ梅岡さん」
蒼星石「桜田ジュンという少年を知っているね? あなたは彼を助長しているんだよ」
そして蒼星石は、梅岡がした事を、ジュンの視点から語り始めた。
蒼星石が口を開く度に、梅岡の心の樹に、大きな裂け目が出来る。
梅岡は梅岡なりにジュンの事を考え、そして行動していた。それらが全て間違いだった。
それどころか、徒にジュンを傷つけていただけと知った。その衝撃はどれ程のものだっただろうか。
蒼星石「あなたがやっていたのはただの独りよがりだ」
蒼星石「良い教師であろうとしていたのかも知れないけど、完全に空回りしているね」
蒼星石「熱意を持って接すればどうにかなる問題じゃないんだよ」
時折、痛烈な言葉が浴びせられる。
梅岡は顔を覆い、うな垂れたままその言葉を聞いていた。
梅岡「……どうすれば良いんだ。どうすれば許してもらえるんだ?」
蒼星石「何も出来ないよ。そして、何もしない方が良い。どうせあなたはまた余計な事をするだろうから」
梅岡「違うんだ。ただ、桜田の凄さを皆に知ってもらいたくて――」
蒼星石「それが余計なんだよ。知って欲しいなら自分で広めるはず。黙ってるのは知られたくないから。僕は間違った事を言っているかい?」
梅岡「すまない……すまない……」
蒼星石「それは独り言だよね? もし彼に面と向かってその言葉を吐いたら本当の馬鹿だよ。あなたにはもう謝る事すら許されないんだから」
梅岡「…………」
蒼星石「ようやく自分の罪に気付いたようだね。彼はあなたを憎み、そして怯えている。近寄ればそれ以上に離れていく。もう取り返しはつかない」
蒼星石「彼みたいな人を増やしたくないなら、あなたは教師を辞めるべきだよ。梅岡先生」
梅岡「あ、あぁぁ……うぅぅ……」
梅岡はその場に突っ伏すと、泣き始めた。
しばらくして静かになった梅岡に、蒼星石が言葉を投げかける。
蒼星石「彼は立ち直ろうとしている。今度テレビで自分の腕を披露する事になった」
蒼星石「分かるかい? 彼は自分を認めてもらう為に、自分を知ってもらう努力をしたんだよ」
蒼星石「彼の為にその情報を広めるんだ」
梅岡「…………」
蒼星石「彼があなたを許すまで、あなたからは話しかけないでね」
蒼星石「もっとも、それが一年後か十年後か、それとも一生許されないのかは分からないけど」
梅岡を現実へと戻す。この分だと寝覚めは最悪だろう。
また夢の世界に戻ってきた蒼星石は、梅岡の心の樹に向かって話しかける。
蒼星石「この樹は傷だらけになってしまった。放っておいたら枯れてしまうね」
蒼星石「梅岡さん。これまでの生き様が試されるよ」
蒼星石「周囲に気を配り、良好な人間関係を築けていたなら、支えてくれる人がいるはずだ」
蒼星石「そうでなければ、あなたの樹は枯れる。残る道は自殺くらいだろう」
蒼星石「のりさんが、そしてドールがいなければ、ジュン君はきっと自殺していた。あなたはそれだけの事をしたんだ」
蒼星石「ジュン君より長く生きてきたあなたは、支えてくれる人を一人でもつくることができたのかな?」
蒼星石「あなたは自分の間違いを知り、苦しむ事が出来た。性根が腐ってないなら、まだやり直せるかも知れないよ」
幹が裂け、枝が折れて皮だけで繋がっているような状態の心の樹に蒼星石は鋏を入れて、少しだけ整えてあげた。
蒼星石「罪を犯したのに、それに気付きもせず、罰も受けていない。僕はそんなあなたの存在が許せなかったんだ」
蒼星石「罪には罰を。……僕自身も例外じゃない。心を覗いた事と、それを梅岡さんに話した事。いつかジュン君に話さないといけないな」
数日後、のりからジュンがテレビに出ると聞かされた梅岡は、あの夢は本当の事なのだと知った。
梅岡はテレビ番組を録画し、学校で見せて回った。
そしてジュンが登校してきても、自分からは話しかけなかった。
ジュンがどこかほっとしたような顔を見せたのが、堪らなく辛かった。
ジュンが中学校を卒業するのを見届けてから、梅岡は辞職した。
一般企業に再就職し、営業として働く傍ら、ボランティアとして身寄りの無い子供達と接している。
梅岡には熱意があったし、人を思いやる心もあった。ただ少し他人の心の機微に鈍感だった。
ジュンの一件はその鈍感さが招いた事故と言っても良い。
人と人が接するのだから摩擦は必ず起こる。
それを少しでも軽くするために、そして決して致命的なものにしないように、梅岡は人と接する事を学んでいた。
いつかまた教壇に立つその日を想いながら。
『助長教師ダメ岡』 終。
エピローグ その2
ジュン「ただいまっ!」
のり「おかえりなさ~い。ジュン君、高校卒業おめでとう。今夜はお赤飯ね」
ジュン「柏葉が来たら部屋に通して!」
それだけ言い残すと、ジュンは自室へと駆け上がった。
学生カバンと卒業証書を入れた筒をベッドに放り投げ、部屋の隅に置いてある鞄へと手を伸ばす。
鞄を開ければ、あの日からちっとも変わっていないドールがそこにいた。
ジュンは螺子を巻いた。
ゆっくりと目を開けた三体のドールは驚いたような顔をした。
それも当然だろう。五年近くも経っているのだ。背も大分伸びている。
ジュンの目が潤む。
再会を喜ぶ涙が、あの日堪えた別れの涙の分まで溢れ出して来るようだった。
ジュンはこの上無く嬉しそうな笑みを浮かべた。
「おはよう」
「えぇ。おはよう」
「おはようなの~」
「チビ人間ったらやっぱり泣いてるですぅ」
『ローゼンメイデン 桜田ジュンの復学』 完。
88 : バラバラの人[] - 2009/08/02 01:42:16.98 AanLCF7q0 55/55これでお終いです。
本当に書きたかったのは本編よりサイドストーリーだったり。
のりの救済と梅岡へのペナルティが書けて満足。
では機会があれば別のSSでお会いしましょ~ ノシ

