幼鬼「ういっす」
男「おっす……まて、誰だおまえ」
幼鬼「おさないおにと書いて、幼鬼と申します。はじめまして」ペコリ
男「これはご丁寧に。俺は男と言います」
幼鬼「それでは、さっそくテレビを……」ポチリ
男「おう、ゆっくりくつろいでくれ……待て待て」
幼鬼「もう、なに?」
男「名前は良い。なんでおまえが家にいるんだ?」
元スレ
幼鬼「オニはそとっ♪」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1328270020/
幼鬼「それはもちろん……」
男「もちろん?」
幼鬼「居心地良さそうだったから」
男「ふむ、そう言われて悪い気持ちはしないが、基準はなんだ?」
幼鬼「このバレンタインデーの差し迫った冬の日に、ひとりさみしくテレビで時間を潰す独り者の若い男って点で……」
男「うむ、メチャクチャむかつくな。出てけ」
幼鬼「そ、それは節分だから?」キラキラ
男「うわっ! なに目を輝かせてんだよ!」
幼鬼「そ、それはもちろん、鬼にとって節分で追い出されるなんて、鬼のあこがれのイベント3巨頭ですから」
男「ほう、他のイベントは?」
幼鬼「桃太郞に斬られる役と、地獄の罰を与える鬼です」
男「なるほど……ってあぶねえ!」
幼鬼「なにがあぶないんですか?」
男「うっかり話し込んじまうところだったじゃねえか、恐ろしい子!」
幼鬼「わーい。ほめられた」
男「ほめてないからね、怖いって言ったんだからね」
幼鬼「鬼に怖いなんて、普通の女の子にかわいいって言うようなもんですよ」
男「へえ、そうなのか……って、また普通に話すなぁ……」
男「もういいや、おれもこたつに入るわ。ちょっと失礼」
幼鬼「はいどうぞ」
男「ここはおれの部屋なんだが……まあいい。おまえはおれの部屋が居心地良さそうだから来たって言ってたな?」
幼鬼「はい、その通りです」
男「そんなら、いつもはなにやってんだ?」
幼鬼「いつもですか? 地獄の底で刑の執行をしています」
男「刑の執行? つまり、地獄の鬼ってワケか?」
幼鬼「はい。そー言う意味では花形の職業です。えっへん」
男「って言うと、針の山とか血の池地獄とか?」
幼鬼「その通りです。爪はがしたり、目玉をくりぬいたりは日常茶飯事です」
男「それで、きょうはどういったご用件なんでしょうか?」ガクガクブルブル
幼鬼「おや? 急に敬語ですね」
幼鬼「簡単に言えば、休暇の旅行です」
男「休暇? 地獄にも休みはあるんですか?」
幼鬼「基本、月月火水木金金なんですが、盆暮れ正月をはじめ、大きなお祭りの時はお休みになります。今日の節分とか」
男「へぇ……それで、なんでわざわざ……えーと、なんつーか……」
幼鬼「現世に来たかですか?」
男「そう、その通り」
幼鬼「単なる暇つぶしです」
男「ひ、暇つぶし?」
幼鬼「はい。単に地獄のお家でゴロゴロしていてもつまらないんで、現世に遊びに来る鬼はけっこう多いんですよ」
男「そうなのか」
幼鬼「人気なのが、幼稚園や老人ホームに行って、鬼の役をすることですね」
男「鬼の役って……まんま鬼じゃねえか」
幼鬼「まあ、そうなんですけどね」
幼鬼「幼稚園では、大きな体格の男の鬼が人気あります。豆まきの後に一緒に遊んだり」
男「ほう」
幼鬼「老人ホームだと、大きな鬼よりも大人の女性くらいの鬼が人気ありますね」
男「へえ……それなら、あんたも幼稚園とか老人ホームに行けばいいじゃないか」
幼鬼「……この外見ですよ? 幼稚園に行けば子供たちにもみくちゃにされ、老人ホームに行けば豆ではなく、歓迎お菓子の雨あられです」
男「幼稚園はたしかにきつそうだけど、老人ホームなら良いんじゃないか? 可愛がってもらえるんだろ?」
幼鬼「可愛がられるなんて、鬼の沽券に関わります」
男「だからウチに来たと」
幼鬼「そういうことです」
男「もったいないな、かわいいのに」
幼鬼「うぐ……それは人間の女の子にブスって言うのと同じくらい、ストレートな悪口ですよ?」
男「わ、ごめんごめん……で? おれはなにすりゃいいんだ?」
幼鬼「おかまいなく……あ、ミカン一個いいですか?」
男「おう……食え食え。しかしなあ……」
幼鬼「なんですか? みかんおいしー」
男「せっかく鬼がいるんだし、追い出すわけじゃないけど、豆まきのまねごとくらいはしたいよな」
幼鬼「ほう……豆まきをしていただけると?」
男「嬉しそうじゃねえか」
幼鬼「べっ……べつに嬉しいわけじゃ……」
男「そうと決まれば、ちょっくら買い出しに行ってくる」
幼鬼「あ、わたしも……」
男「虎縞ビキニの女の子なんて連れて歩けるかよ……待ってろ」
ガチャ……バタン
幼鬼「行っちゃった……くふふ、豆まき! やったぁ!」ジタバタ
しばらくして
男「ただいまー。豆と太巻き買ってきたぞ」
幼鬼「お、お帰りなさい! 豆まきにする? 太巻きにする? それとも、わ・た・し?」
男「とりあえず豆まきに……って、テンション高くねえか?」
幼鬼「そっ、そんなこと、ありますん……くふふっ!」
男「うわぁ……顔まっ赤だぞ……とりあえず……」
幼鬼「ぬ……来るかっ!?」
男「おにはーそと!」ぽいぽいっ
幼鬼「きゃああああ!」
男「ふくはーうち!」ぽいぽいっ
幼鬼「ひいいぃぃ!」
男「おにはーそと! ふくはーうち」ぽいぽいぽいっ!
幼鬼「きゃひいいい! ……ってなんじゃこりゃあああ!」
男「え? ピーナッツだけど?」
幼鬼「WHY? なぜに? どうして? 落花生!?」
男「いや、落ちても食えるし」
幼鬼「いやいや、豆まきの豆は、そとにまいて放置が基本でしょ?」
男「いやいやいや、北海道じゃ投げた後回収して食うんだよ」
幼鬼「なにそれいやしい」
男「い、いやしいだと!? 開拓者精神! 道産子舐めんなあああ!」びしびしびしっ!
幼鬼「いたた、投げないで、ピーナッツ、ジミに痛いから」
男「どうだこの攻撃力! 大豆よりも良いじゃないか」
幼鬼「呪術的な威力じゃ無くて、物理的ダメージじゃない……こんなので追い払われたくないぃ……」
男「ふふふ、豆まきの次は……コイツだっ!」
幼鬼「……」
男「今年の恵方は北北西! さあ、だまったままがぶっとどうぞ!」
幼鬼「……いや、これって」
男「ロールケーキだが?」
幼鬼「コレを? コレを鬼のわたしに食えってか!?」
男「ああ、女の子だし、甘い方がいいかと思って」
幼鬼「くうぅ……好きなだけに腹の底から怒れない……むしろ嬉しいと思う自分が許せません」
男「さあ、がぶっと!」
幼鬼「ええい! ままよ!」かぷっ
男「……」もぐもぐ
幼鬼「……」もぐもぐ
男(けっこう量があるなぁ……)もぐもぐ
幼鬼(甘ったるくなってきた……お茶が欲しい)もぐもぐ
男(しかし、なぜに無言で食わなくちゃいけないんだ?)もぐもぐ
幼鬼(こんな関西のバカ行事……儲かるからってコンビニが広めやがって……)もぐもぐ
………………
…………
……
……
…………
………………
男「ううふ。たいらげた!」
幼鬼「自分をほめてやりたい……でも、けっこうおいしかった」
男「だろ? ちょっと離れてるけど、ちゃんとしたケーキ屋さんのロールケーキなんだ」
幼鬼「へぇ……」
男「おととしあたりから、節分にロールケーキを丸かじりって宣伝しててさ、思い切って買ってみました」
幼鬼「そのバカなケーキ屋のせいか! ……うっぷ」
男「まあ、おちついて……お茶をどーぞ」
幼鬼「かたじけない……ずずず」
男「はあ、冬の寒い日にはしぶーいお茶に限りますな」
幼鬼「いやいや、まったくですな。甘味もほどよくひいて……ずずず」
男「とりあえず、節分のことは全部やったかな?」
幼鬼「うーん、贅沢言うなら、まだあるんですが……」
男「ほう、他にも?」
幼鬼「ええ。焼いたイワシの頭をヒイラギの枝に刺して、家の入り口に飾るんです」
男「え、なにそれ。モズの早贄ですか?」
幼鬼「見た目はそうかもしれませんね。一種の魔除けですし」
男「イワシの頭ねえ……あ」
幼鬼「どうしました?」
男「そういやきのう、サンマを食ったわ……ちょっと待ってろ」
幼鬼「はぁ、サンマですか」
男「ええと……ゴミ箱の中に……あったあった」
幼鬼「……」
男「これを、ベランダから手が伸びる、なんだかよくわからん木の枝に刺して……っと」
幼鬼「……」
男「ほら、できたぞ」
幼鬼「そ、それ、近づけないでください!」
男「ええ、なんでだよ?」
サンマの頭「……」ぷ~ん
幼鬼「とにかく! こっちに来ないでくださいっ!」
男「ほう、魔除けってのは本当なんだな」
幼鬼「ちょ、近づけないでください!」
男「すごい効き目だ。ほれほれ」
幼鬼「効き目じゃ無くて! そんな生ゴミ持ってこないでください!」
男「な、生ゴミ?」
幼鬼「生ゴミでしょう?」
男「……」
幼鬼「……」
男「たしかに」
幼鬼「とにかく、それは玄関にでもおいてきてくださいよ」
男「わかったよ……ぐっすし」
男「おいてきたぜ」
幼鬼「ご苦労様です」
男「ま、これで節分のやることは終わったわけだ」
幼鬼「そうですね……と言いたいところですが」
男「まだなんかあんのかよ?」
幼鬼「これくらいしっかり”節分”しているお宅なんて最近珍しいですから」
男「珍しいから?」
幼鬼「そろそろ来ると思います」
トントントン
男「ドアが3度ノックされたな」
幼鬼「来たな……」
男「はいはい、いま出ますよ~」
幼鬼「……」
ガチャ……
男「はい、どちらさんで」
???「あなたに幸せを届けに参りました」
男「あ、そういうの結構ですんで」
バタン
???「ちょ、ちょっと待ってください! 幸せですよ、幸福ですよ~」
ドンドン
男「ただいま。あーこたつあったけえ」
幼鬼「誰でしたか?」
男「なんかわかんねえけど、メチャクチャ縁起のいいカッコした女の子だった」
幼鬼「入れてあげればいいのに」
男「やだよ、宗教はカンベン」
幼鬼「でも、福の神ですよ?」
男「そうか……えええ? 福の神!?」
幼鬼「まだ玄関にいるんじゃありませんか?」
男「ちょっと行ってくる」
ガチャ……
男「あれ? いない」
福の神「寒いよ、おなか減ったよ……」プルプル
男「おお、居た居た。さあ、中にどうぞ」
福の神「え、いいんですか?」
男「もちろんだ」
男「と、いうわけで、福の神を連れ込んだんだが……」
福の神「……」むっすし
男「おい幼鬼。なんでコイツ、こんなに機嫌が悪いんだよ?」
幼鬼「さーてね」
福の神「しらじらしい! 薄汚い鬼め!」
男「こら」ポカッ
福の神「うぐっ!?」
男「そんなこと言うなよ」
福の神「あ、あんたも、わたしを誰だと思って!」
男「福の神だろ?」
福の神「それなら、相応の扱いってもんがあるでしょ!? さもないと!」
男「さもないと……か。まあいいや」
幼鬼「ねー」
福の神「く、くくっ! 幼鬼! どーしてあんたがここに居るのっ!」
幼鬼「べつにいいじゃん」
福の神「良くない! 福の神たるわたしが来たのに、鬼が居るなんて沽券に関わる!」
男「おまえらって、本当に沽券にこだわるのな」
福の神「当たり前です! 招かれたからにはちゃんとその人を幸せにしなければ……」
幼鬼「一応わたしも、取り憑いた人を不幸にしないとね」
男「ふーん、そうか。ロールケーキで腹ふくれちゃったけど、晩飯は焼き魚でいい?」
幼鬼「おう! むしろ大歓迎!」
福の神「ちょっと、男さん、わたしの話を!」
台所。
男「はじめちょろちょろなかぱっぱ♪」
幼鬼「ちょっと、やめろって!」
福の神「いいえやめません! 今年こそはどっちが上か思い知らせて」
ガチャン……ドタバタ
男「居間から騒がしい声が聞こえるなあ……魚焼いてと」
幼鬼「くそ……そっちがその気なら……」
福の神「ひあっ!? ど、どこさわってますの?」
男「こーいうエロい声が聞こえたときは、思い過ごしってパターン多いよな。味噌汁、おひたし、OK!」
幼鬼「ほらほら、もっといい声で鳴いてよ」
福の神「ひあああっ!? らめえええ……」
男「ごはんできたぞ……って、なにやってんの!」
幼鬼「やあ、ちょっとしつけをね」
福の神「ふぇ……えふぅ……」ピクピク
男「う……わぁ……部屋中にぶちまけやがって……とにかく風呂入ってこい」
幼鬼「はーい……ほら福の神、行くよ」
福の神「は……はい、お姉さま」///
男「ったく……まずは掃除だな」
ごしごし……
男「うわぁカーペットがビシャビシャだ……」
福の神「お、お姉さま、もうお許しになって」
幼鬼「くふふ、強がっちゃって、毎年わたしに会いたくて探し回ってるくせに」
男「風呂場からも声が聞こえるな……ったく、なんて鬼と福の神だ」
福の神「ふああ……だめです」
幼鬼「どこがダメなの? 言ってごらん……ほれほれ」
男「はぁ……厄日だ」
男「さて、だいたい片付いたな」
幼鬼「おとこー」
福の神「お風呂、いただきました」
男「おう、さっそく飯に……って、服を着ろ!」
幼鬼「くふ、迷惑かけたおわびにさぁ……」ぴとっ
福の神「おわびをしようとお姉さまが……」しなり
男「へ……ええええっ!?」
幼鬼「禍福はあざなえる縄のごとし、わたしたち、食べてみない?」
福の神「すこしくらいなら、いたくしてもいいですよ?」
男「……」ぽかっ
幼鬼「きゃうっ!?」
男「……」ぱこっ
福の神「ひうっ!?」
男「魚焼いたって言っただろ! 冷めちまうから早く食え!」
幼鬼「く……われらの誘惑を退けるとは……」
福の神「やりますね。男さん」
男「貧乳はひとにあらず」
幼鬼「えーそんなー」
福の神「好きでこんな身体なんじゃありません!」
男「だまれ幼児体型」
幼鬼「体型だけじゃないよー」
福の神「中身もです。肉体的にも精神的にも」
男「なお悪いわ」
幼鬼「いただきまーす」
福の神「いただきます」
男「ああ、召し上がれ」
幼鬼「お?」
福の神「あら?」
男「どうだ?」
幼鬼「これは意外に……」
福の神「おいしい……です」
男「そっかそうか! それなら、とっておき……」
どんっ!
幼鬼「おおお! 越乃寒梅!」
福の神「神への供え物として、清酒とは……やりますね」
男「燗してあるからな……まずは一献」
幼鬼「おっとっと、わ、いい香り」
福の神「わたしも、わたしもっ!」
男「はいはい……どうぞ」
幼鬼「ん……んむ……んまい!」
福の神「ほんと、美味しい……良いお酒♡」
男「ツマミもまだまだあるからな」
幼鬼「うーん……こんなに良くしてもらうと、悪いなあ」
福の神「そうですね、せっかくです。何か願いはありませんか?」
男「願い? そうだなあ……」
幼鬼「どきどき」
福の神「わくわく」
男「口で言うなよ。願いは、特にないなあ」
幼鬼「えー、ないのー」
福の神「なんでも良いんですよ?」
男「そうだなあ、こんなかわいい子たちと晩飯食えて、これ以上頼んだら罰が当たりそうだけど……」
幼鬼「むっ! カワイイだってぇ……」
福の神「お姉さま、悪口じゃありませんから」
男「ま、無病息災、家内安全ってトコロかな」
幼鬼「……」
福の神「……」
男「あ、あれ? なんかヤっちゃったか?」
幼鬼「うむ! ますます気に入った!」
福の神「その願い、きちんと叶えましょう」
男「お? おう、よろしく頼みます。はい、もう一献」
幼鬼「おっとと……はぁ、おいしい」
福の神「おつまみもお酒も……しあわせです」
そんなこんなで、男と少女の神たちはひと晩楽しく酒を酌み交わした。
翌朝男が目覚めるとすでに2柱の姿は無かったが、それからというもの、男とその家族は風邪ひとつひかなかったという。
おしまい

