【前編】の続き
――数日後――
ほむら「……何とか形にはなってきたけど……」
さやか「簡単な奴ってのは割とすぐに物になったから、これはイケると思ったんだけどねぇ……」
まどか「で、でもほら、プリニーさんも魔族じゃないのに習得が早いって言ってたよ!」
プリニー指導の下、秘技習得の特訓を始めて数日
簡単なものはすぐ会得することができたが、高レベルのものはなかなか上手くいかなかった
まどかが以前、高レベルの秘技を使ったことがあるらしいが、才能…魔力にも左右されるのだろうか
さやか「そう言えばさ、マミさんは秘技習得の特訓はしないの?」
ほむら「あぁ…何でも、銃と言っても私の拳銃みたいなものじゃないと駄目らしいの。巴マミのは別の区分になるとかで……」
さやか「ふーん…プリニーがそう言うのなら、仕方ないのかな」
ほむら「何にせよ、これを習得できれば色々と楽になりそうね」
さやか「あんたのその、目的とやらの達成のためにも?」
ほむら「それは……」
さやか「ま、よっぽど変なものでなけりゃ、あたしは協力するよ」
まどか「あ!さやかちゃん、またほむらちゃんと内緒話してる!」
さやか「うわっ、まどかにバレた!そんじゃ、あたしはこれで帰るよ、それじゃ!」ダッ
まどか「あ、ちょっと、さやかちゃん!」
まどか「さやかちゃん、行っちゃった…ほむらちゃん、さやかちゃんと何話してたの?」
ほむら「それは……」
まどか「ほむらちゃんまでわたしに秘密にするんだ……」
ほむら「ご、ごめんなさい、そんなつもりは……」
まどか「……なんてね、またさやかちゃんが変なこと言ってたんでしょ?さやかちゃん、すぐそういうこと言うから」
ほむら「え、えぇ……」
まどか「それよりも、今日の夕飯はどうしようかな…家に確かまだ……」ブツブツ
そう言ってまどかは私の隣で夕飯について思案し始めた
まどかが私の家に来てからは、夕飯やら何やらをまどかに頼りっきりになってしまった
申し訳ないとは思うけれど、やっぱり嬉しい
誰かの手料理を食べるなんて、もう随分久しぶりだから……
まどかが私の為に作ってくれたんだと思うと、とても幸せな気持ちになる
勿論私の目的を忘れているわけではない。……だけど、このくらいの幸せがあっても、バチは当たらないはず
とにかく、私の目的はひとつ…まどかは私が守る。例え、どんな犠牲を払おうとも
私はそう結論を出したところで、後ろからついてくる彼女に声をかけた
ほむら「何か用かしら?佐倉杏子」
杏子「……何だ、バレてたのか」
まどか「ねぇ、ほむらちゃんは何が…あれ、この人は……」
ほむら「彼女が佐倉杏子よ」
まどか「え?この人が……?」
杏子「そういうアンタは鹿目まどかだな…ふーん……」
まどか「あ、あの、何か……」
杏子「あぁ、キュゥべえから聞いただけさ。魔法少女じゃないアンタに用はないよ」
ほむら「それで、一体何かしら?」
杏子「わかってんだろ?アンタをぶっ潰しに来たのさ」
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「ひとつだけ約束して。まどかには手を出さないと」
杏子「さっきも言っただろ、魔法少女じゃない奴に用はないってさ」
ほむら「……いいわ。私が相手になる」
杏子「それじゃ、場所を変えようか。ここらじゃ人目につきそうだしねぇ」
そう言って、私は佐倉杏子の後について行く
ここで私が負けてしまうと面倒なことになるような気がする
何としても彼女と話をしなければ
――――――
杏子「……ここなら問題ないだろ。それじゃ始めようか」パァァ
ほむら「……」パァァ
佐倉杏子が魔法少女に変身するのを見て、私も変身する
もう戦うことは避けられそうもないが、駄目元で聞いてみる
ほむら「……本当に戦わなければ、話を聞いてもらえないのかしら」
杏子「そう言ったはずだろ?ま、アタシに勝てたらの話だけどな」
ほむら「どういうことかしら」
杏子「マミの奴とはお互い知ってる分やりづらい。さやかってのは弱い割には速いしタフだ」
杏子「それと比べてアンタはどうだい。武器さえ作り出せないそうじゃないか」
杏子「だからアンタを相手に選んだんだけどな」
杏子「悪いけど、弱いからって手加減はできないからな」
どうやら彼女は私を武器すら作り出せない程度の魔法少女だと思っているらしい
そう思っていてくれた方が好都合だ。魔法のことも、こちらに引き込むまではバレないに越したことはない
ほむら「……あなたは2つ、勘違いしているわ」
杏子「あん?」
ほむら「私に簡単に勝てると思ってること。そして、もうひとつ……」スッ
ほむら「私が1人だと思ってることよ……!」バッ
そう言うと同時に、盾からプリニー隊を召喚する
瞬く間に、私の周囲にプリニーたちが展開されていった
杏子「は……?」
ほむら「プリニー隊、前方の魔法少女に攻撃開始」
プリニー「了解ッス!全軍突撃ッス!」
プリニー隊「行くッスよ!」
杏子「は!?え、ちょ、なんだコイツら!?」
ほむら「話を聞く気になってくれたら教えてあげるわ」
杏子「な…クソ、かかって来いよ!」
ほむら「……さて、それじゃ後は見守るとしましょう」
まどか「えぇー……」
ほむら「プリニー隊に勝てないようじゃ、私には勝てないわよ」
まどか「うーん…まぁ、いっか……」
――――――
杏子「ハァ…ハァ…」
ほむら「……もう十分かしらね。プリニー隊、撤収」
プリニー「全軍引き上げるッス!」
佐倉杏子が疲弊しているのを確認し、プリニー隊を引き上げさせる
いくら彼女が強くても、この数が相手なら多勢に無勢というものだ
私は肩で息をしている彼女に声をかけた
ほむら「これでもまだ話を聞いてくれないのかしら?」
杏子「ハァ…何で、引き上げさせた……?」
ほむら「私はあなたと話がしたいだけ。あなたを倒そうと思っているわけじゃないわ」
杏子「ヘッ…そう、かよ…でも残念だな…アタシはまだ、やれるんだから、な……!」
ほむら「そう…それなら仕方ないわね」
そう言うと私は盾から銃を取り出し、少し魔力を込める
そしてそのまま、自分の足元に向けて一発、発砲した
地面に向けて撃たれた弾は、地面にめり込んでいった
杏子「……何のつもりだ」
ほむら「何って、私の攻撃よ。これで私の攻撃は終わり」
杏子「テメェ…舐めやがって!!」ダッ
私の挑発に乗った佐倉杏子が一直線に突っ走って来る
先ほどまでの疲弊はどこへ行ったのかという勢いだった
まどか「ほ、ほむらちゃん、大丈夫なの?」
ほむら「えぇ、大丈夫。見てなさい」
杏子「近づきさえすれば、こっちのもんだ!!」
私と佐倉杏子の間の距離はどんどん縮まる
そして、私まであと少しというところまで近づいたときだった
杏子「ここまで来れば……!覚悟しな……」
ズドォン
杏子「うぐ……!」グラ
地面から飛び出した弾丸が、彼女の脚を貫いた
バランスを崩した彼女は、前方に大きく転倒する
何が起こったのかわからず混乱している彼女に銃口を向ける
ほむら「……私の勝ちよ」
杏子「あ…クソ、アタシの負けだ……」
ほむら「怪我させてしまったわね。ごめんなさい」
杏子「……別に、こっちは最初からそのつもりだったんだ。気にすんなよ」
ほむら「まぁ、私は何もされてないのだけどね」
杏子「……ケッ」
ほむら「それで、私の話は聞いてもらえるのかしら?」
杏子「……約束だからな。とりあえず話だけは聞いてやるよ」
ほむら「それじゃ私の家に行きましょうか。まどか、帰りましょう」
まどか「あ、うん。……えっと……」
ほむら「勿論彼女も一緒よ。大丈夫、私がいるから」
杏子「ソイツには何もしないつってんだろ……」
ほむら「わかってくれてるのならいいわ。じゃ、行きましょう」
佐倉杏子と話をする為、私の家へ向かう
それにしても、彼女はインキュベーターに何を吹き込まれたのだろうか。私がシステムを破壊するなどと……
そして、これは全員に話しておかなければならない
私の、目的を……
――――――
マミ「何が……」
さやか「どうなって……」
ほむら「いらっしゃい、2人とも」
まどか「うーん、これで足りるかな…杏子ちゃん、どう思う?」
杏子「……正直多すぎるんじゃないか、この量」
プリニー「アンタ、さっきはすまなかったッス」
杏子「まぁ、気にすんな。あのときは敵同士だったんだからよ」
杏子「それよかアレはアタシも驚いたよ。まさか銃弾があんなところから飛び出して来るなんてねぇ」
ほむら「あれは確か…『土竜弾』、だったかしら。なかなか使えるわね」
マミ「えっと…美樹さん、私たち何て言われたんだったかしら……」
さやか「えー…佐倉杏子とのことで話があるから来てほしい、だったはずですけど……」
さやか「あとほむらが自分の目的についての話があるって言ってましたね」
マミ「そうよね、間違いないわよね…でも、何で……」
さやか「あいつら、あんなに打ち解けてるんですかね……」
ほむら「あなたたち、突っ立ってないでこっちに来て座って頂戴」
みんなで話をする為に美樹さやかと巴マミを私の家に呼び出した
2人は私たちと打ち解けている杏子を見て驚いているようだ
さやか「よいしょっと…うわ、何このお菓子の山……」
マミ「わたがし、たいやき、チョコレート…プリンにエクレア……」
まどか「安かったんで、つい買いすぎて……」
さやか「はぁ…で、何であんたら打ち解けてんのさ」
ほむら「色々話してるうちに…ね。でも一番決め手になったのは……」
杏子「あぁ、まどかの夕飯だな。あんなウマいもん食わせてくれるとは思わなかったよ」
さやか「まどか、何作ったの?」
まどか「え?……冷やし中華だけど」
さやか「……何で?」
まどか「……安かったから……」
ほむら「それじゃ、そろそろ話を始めましょうか」
全員がテーブルに着いたところで、話を切り出す
さっきまで楽しそうに喋っていた杏子も、それを聞いて顔つきが変わった
杏子「本題に入る前に、コイツらのことを教えてほしいんだけど?」
そう言って杏子は側にいるプリニーを指で突っついた
こちらの話の後で教えるつもりだったが、催促があったので先に教えることにした
ほむら「わかったわ。それじゃまずは……」
――――――
ほむら「……以上よ。わかってくれたかしら?」
杏子「いや、ちょっと待ってくれ…つまりだ……」
杏子「ここ以外に『魔界』と『天界』があって、コイツらはそこで働く魔物…ってことでいいんだよな……?」
プリニー「そうッス」
杏子「で、その魔界からどういう理由かわからんが、飛ばされて来た、ってことなのか」
プリニー「その通りッス」
杏子「そうか…それにしても魔物ねぇ…アタシは最初見たとき使い魔か何かかと思ったよ」
さやか「うーん…でもまぁ、使い魔よりかは愛嬌があるんじゃないかな…死んだ目してるけど」
まどか「えー?かわいいって、絶対」
さやか「だからあんたの趣味は特殊すぎるんだって……」
ほむら「さて…それじゃプリニーのことも話したし、そろそろ教えてくれないかしら?」
ほむら「私たちが魔法少女システムを破壊するって、どういうことなのかしら?」
杏子にプリニーのことを話し終え、本題に入る
そのことについて、杏子は真剣な顔で話し始めた
杏子「……詳しい話までキュゥべえに聞いたわけじゃないんだけどよ……」
杏子「見滝原の暁美ほむらって奴がワルプルギスの夜を倒そうとしてるから…それを阻止しろって……」
杏子「ワルプルギスの夜が倒されると…今ある魔法少女システムが狂ってしまうから、だとさ」
ほむら「……!」
彼女の話が上手く理解できなかった
どうして私の目的が?奴を倒すことと魔法少女システム破壊の関連性は?
確認の為にもう1度、彼女に聞いてみる
ほむら「その話…本当なのね……?」
杏子「話自体が本当かどうかはわからねぇけど、間違いなくキュゥべえに聞いた話だ」
ほむら「そう…わかったわ」
杏子の話を聞いて、ますます頭がこんがらがってしまった
私の目的がバレているのはともかくとして、どうしてワルプルギスの夜を倒すことがシステム崩壊に繋がるのか
ひとまずこの話は置いといて、私の目的について話すことにした
ほむら「それで、私の目的についてなんだけど……」
まどか「ほむらちゃんの目的って、今言ってた……」
ほむら「えぇ、今の話にも出たけど…ワルプルギスの夜を倒す事。それが、私の目的」
マミ「ワルプルギスの夜を……」
さやか「そのワルプルギスの夜って、一体何なの?」
ほむら「結界を持たない超弩級の魔女のことよ。一般人からは自然災害とされているわ」
ほむら「そして1度姿を現せば、何千人と死者が出る」
さやか「そんな……」
ほむら「美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子…あなたたちにお願いがある……」
ほむら「ワルプルギスの夜を倒す為に、私に協力してほしい……」
さやか「……」
マミ「……」
杏子「……」
3人にワルプルギスの夜を倒す為の協力を求める
だが、ただでさえ強いということに加え、もしかしたら本当にシステムが壊れるかも、ということもありすぐに返事は返ってこなかった
しばらく沈黙が続いたあと、まどかが口を開いた
まどか「……わたしは…ほむらちゃんに協力するよ」
さやか「まどか?」
杏子「協力つっても、お前は魔法少女じゃ……」
まどか「うん、わかってる…でも、ここでもしみんなが断っても、ほむらちゃんはきっと1人でも立ち向かって行くと思う……」
まどか「ほむらちゃん1人じゃ、絶対…どこかで倒れちゃうから…だからわたし、ほむらちゃんのことを支えてあげたい……」
マミ「鹿目さん……」
プリニー「もちろんオレたちはほむら様とまどか様について行くッスよ」
プリニー「ご主人の命令とあれば、相手が魔神だろうが魔王だろうがオレたちは戦うッス」
さやか「……プリニーに負けるわけには行かないからね。あたしも協力するよ」
さやか「もしかしたらホントにシステムが壊れちゃうのかもしれないけど…でも、ワルプルギスの夜を放っておいたら何千人と人が死んじゃうんでしょ?」
さやか「それをただ見過ごすことなんて…あたしはできない」
マミ「……そうね、美樹さんの言った通り、放置すれば多数の犠牲者が出てしまう」
マミ「私はこの街の魔法少女として、見滝原を守る。私も協力するわ。……佐倉さんは、どうするの?」
杏子「なんだよ、ここで断ったらアタシ、まるっきり悪人じゃないか……」
杏子「正直システムのことは…今になって落ち着いて考えてみたら、ちょっと信じられなくなってきたよ」
杏子「ワルプルギスの夜だって魔女なんだ。魔女を倒したら壊れるなんてな」
杏子「キュゥべえの話だけじゃない、ハッキリとした答えが出るまでは協力してやるよ」
まどか「ほむらちゃん、わたしたちみんな、ほむらちゃんに協力するよ」
ほむら「まどか…ありがとう」
ほむら「杏子と美樹さやか、巴マミも、ありがとう」
さやか「あたしらはいつまでフルネームなんでしょうかねぇ、マミさん」
マミ「そうねぇ…鹿目さんはともかく、後から来た佐倉さんにまで先を越されるなんて、ちょっと寂しいわ」
ほむら「わ、わかったわよ…さやかとマミもよろしくお願いするわ」
さやか「うん、よろしく、ほむら!」
マミ「よろしくね、暁美さん」
さやか「っと、それと……」
さやか「……」
杏子「……おう、何だ?」
さやか「……あんた、この間あたしのことボコボコにしてくれたよね」
杏子「あぁ…悪かったな。でもあれは先にお前が……」
さやか「そのことはまぁ…別にいいんだ。……でも、グリーフシードのために普通の人を見捨てるってのは……」
さやか「あたしは…その考えだけは、許せない」
杏子「……さっきも言ったけど、ハッキリした答えが出るまでは、協力するって言ったろ?」
杏子「協力してる間は…合わせることにするさ。……それでいいか?」
さやか「……今すぐあんたの考え方が変わるとは思ってないけど…今はそれで充分だよ」
さやか「……よろしく、杏子」
杏子「……よろしくな、さやか」
さやか「……さて、それじゃ話も終わったし、帰ろうかね」
マミ「そうね。それじゃ2人とも、今日はこれで」
杏子「アタシはこっちにいる間どうしたもんかな……」
マミ「佐倉さん、もしよかったら私のところに来ない?」
杏子「マミ…いいのか……?」
マミ「えぇ、いいわよ。ふふ、また佐倉さんとこんな風にできるなんて思わなかったわ」
杏子「それは…アタシもさ。……またよろしく頼むよ」
マミ「佐倉さん…また、よろしくね。……それじゃ、そろそろ行きましょうか」
まどか「あ、みんな!帰る前にお土産持ってって!」
さやか「お土産って…さっきのお菓子じゃん」
まどか「買いすぎてとても食べられそうにないから……」
さやか「はぁ…まぁ、くれるならもらってくよ。……それじゃ、またね」
>>268修正
さやか「……さて、それじゃ話も終わったし、帰ろうかね」
マミ「そうね。それじゃ2人とも、今日はこれで」
杏子「アタシはこっちにいる間どうしたもんか……」
マミ「佐倉さん、もしよかったら私のところに来ない?」
杏子「マミ…いいのか……?」
マミ「えぇ、いいわよ。ふふ、また佐倉さんとこんな風にできるなんて思わなかったわ」
杏子「それは…アタシもさ。……またよろしく頼むよ」
マミ「佐倉さん…また、よろしくね。……それじゃ、そろそろ行きましょうか」
まどか「あ、みんな!帰る前にお土産持ってって!」
さやか「お土産って…さっきのお菓子じゃん」
まどか「買いすぎてとても食べられそうにないから……」
さやか「はぁ…まぁ、くれるならもらってくよ。……それじゃ、またね」
バタン
ほむら「ふぅ……」
まどか「ほむらちゃん、がんばろうね」
ほむら「えぇ…でもまどか、あなた……」
まどか「勝手にあんなこと言ってごめんね。……でも、そのくらいのことはさせてほしいな……」
ほむら「それは構わないけど…どうして私を……?」
まどか「前にも言ったけど、ほむらちゃんが心配なのと…あと、ほむらちゃんが好きだからかな」
ほむら「え……?」
ほむら「ま、まどか、今、その」
まどか「え?何?」
ほむら「い、今…す、好き、って……」
まどか「へ?……あ、いや、違うの!友達として好きってことだから!」
ほむら「そ、そう、そうよね、わかってるわ……」
まどか「わ、わたしお風呂行ってくるね!」バタン
ほむら「はぁ…驚いた……」
プリニー「ほむら様も罪な人ッスねー」
ほむら「な、何のことかしら」
プリニー「蜂の巣になりたくないからこれ以上は言いたくないッス」
ほむら「何なのよ…でも、私を友達として好きって思ってくれている…それだけで十分よ……」
ほむら「そんな風に想われる資格なんて、私にはないのに……」
プリニー「ほむら様……?」
ほむら「……そんな事より、秘技を杏子にも教えてやってほしいのだけど……」
プリニー「あの人は確か槍ッスよね…了解ッス」
ほむら「えぇ、頼んだわよ」
何とかさやかたち3人に対ワルプルギスの夜の協力を取り付けることができた
もうあまり時間はない。いつもより多い武器を集め、魔法少女3人を仲間にすることはできた
だが、まだいくつか不安要素はある
この時間軸に来てからまだ1度も見かけていないインキュベーターと、魔法少女の真実のこと
それに、魔法少女システムの崩壊
特にさやかの魔女化については、一番注意しなければ。さやかの破滅していく姿をまどかに見せるわけにはいかない
万一のときは、最悪の事態になる前に私が何とかしよう。例え、まどかに嫌われることになったとしても
――翌日――
プリニー「今日はここまでにするッス」
杏子「お、そうかい?アタシはもうちょい続けてもいいんだけどな」
ほむら「根詰めてもいいことはないわ。今日のところは切り上げましょう」
さやか「あ、あんたら…何でそんな平気な顔してんのさ……」ゼェゼェ
杏子「トーシロじゃないから」
ほむら「激しく動き回ったりしないから」
さやか「うう……」
昨日プリニーに頼んでおいた通り、杏子を特訓に参加させる
最初は胡散臭そうな顔をしていた杏子も、それが本物であるとわかってからは熱心に特訓を受けていた
私たちが先に打ち解けたことが幸いしたのか、杏子とさやかも打ち解けることができたようだ
プリニー「それにしても魔力があるとはいえ…習得が早いッスね。魔族でもないッスのに……」
プリニー「その魔法少女というヤツは人間じゃないんじゃないスか?」
ほむら「……っ」
さやか「何失礼なこと言ってんのかねこのペンギンは…さやかちゃんみたいな美少女捕まえておいて人間じゃないだってぇ?」
杏子「何言ってんだお前は…ほむら、どうした?」
ほむら「……いえ、何でもないわ。それよりも早く帰りましょう」
さやか「そうだね…何だか降ってきそうな空だなぁ……」
杏子「なぁほむら、またまどかの夕飯、食わせてくれよ」
ほむら「別に構わないと思うけど…まどかに聞いてみるわ」
杏子「頼んだよ。……そういやまどかって何でほむらの家に住んでるんだ?」
さやか「それはねぇ…まどかがほむらの嫁になるって言い出してね……」
ほむら「何を言ってるのあなたは…私の目の届くところにいてくれた方が助かるのよ」
杏子「まぁあの家だからな…まどかがいてくれた方がそりゃ助かるだろうよ」
さやか「前来たときと比べて色々と物が増えてたよね。ほとんどまどかの物だけど」
ほむら「そういう意味ではないのだけど……!」
他愛もない話をしながら帰り道を歩いていると、ソウルジェムに反応があった
この反応、どうやら魔女のようだ
さやかと杏子も気づいたらしく、私たちはそのまま反応のあった方へと急いだ
――結界内――
さやか「今日はもう疲れてるから勘弁してほしいんだけどなぁ……」
杏子「出ちまったもんは仕方ねぇだろ。雨も降りそうだし、早いとこ倒して帰ろうぜ」
さやか「そういえば、マミさんに連絡は?」
杏子「さっきしてみたけど、時間かかるとさ」
さやか「そっか…あたしたちだけで頑張るとしますか」
ほむら「それじゃ、行きましょうか」
――――――
さやか「……あいつが魔女、かな。真っ黒でよくわかんないけど……」
ほむら「そうね。さやか、あなたは魔女との戦いは初めてだろうから、気をつけて」
さやか「わかってるよ。それじゃ行くよ!」ダッ
杏子「ほむら!援護、頼んだ!」
ほむら「えぇ、任せなさい」ジャキ
とはいえ、影の魔女相手に私の銃の秘技はあまり役に立ちそうもない
マミがいればだいぶ楽なのだが、いない人のことを言っても仕方ない
私は盾から機関銃を引っ張り出すと、影の魔女へ向けて引き金を引いた
ズドドドド
魔女「……!」
さやか「最近戦ってるの見てないから忘れてたけど…ほむらってあんまり魔法少女って感じじゃないよね……」
杏子「どこの世界に機関銃ブッ放つ魔法少女がいるんだよ…っと、何か出てきやがったな……!」
さやか「なんだろ、あれ…まぁいいや、杏子!突っ切るよ!」
杏子「おう!」
さやか「よし、行くよ!」ズバン
杏子「うらあっ!」ズバン
さやか「てい!」ズバン
杏子「はっ!」ズバン
さやか「ぽこーん!」ズバン
杏子「かにみそっ!」ズバン
さやか「あーもう、キリがないよ!」ズバン
杏子「マミがいてくれりゃ、もう少しは楽だった…な!」ズバン
さやか「杏子!こっち、1人で持たせられる!?」ズバン
杏子「あぁ!?何する気だ!?」
さやか「ここを突っ切って、魔女を叩く!」チャキ
杏子「はぁ!?」
さやか「行くよ……!一文字…スラッシュ!!」ズバァン
杏子「抜けた……!」
さやか「このまま魔女を……!」ダッ
魔女「!」ワサワサ
さやか「うわっ、何か生えて……!」
魔女「!」ズアア
さやか「うわ……」
ズドドドド
魔女「……!」ズガガガ
さやか「……あ、あれ?」
ほむら「さやか、今よ!」
さやか「ほむら…わかった!」ダッ
魔女「……!」ワサワサ
さやか「させるか!」バシュウ
魔女「!」ズドン
さやか「これで、トドメだっ!!」ズバン
魔女「!!」
カラン
さやか「……やった?あたし、倒したの……?」
ほむら「お疲れさま、2人とも」
杏子「初陣にしちゃ、よくやったな」
さやか「特訓してた時間なら、杏子より長いしね。よし、魔女も倒したことだし帰ろうよ」
ほむら「待って…何か変よ」
おかしい。魔女は倒したはずなのに、いつまでたっても結界が消滅しないなんて……
それどころか、結界の風景が変化していき、何やら開けた広場のようなところに変わっていった
何か嫌な予感がする。私は盾からプリニー隊を召喚し、辺りに展開させる
杏子「一体どうなってんだ…こりゃ」
さやか「それに何だろう…何だか寒気がするよ」
プリニー「この感じ…まるで魔界ッス……」
ほむら「……何かいるわ。注意して」
私の視線の先には、1匹の魔物と思しき生き物がいた
狼のような体躯のそれは、頭にブレードを生やし、およそ人間界には存在し得ない生き物だった
その生物はこちらを睨みつけ、唸り声を上げていた
さやか「……何、あれ」
ほむら「プリニー、あれは……」
プリニー「間違いなく魔物ッス。幻獣族…この間の妖魔族とは比べものにならないほど強いッス」
杏子「アレがその魔物って奴か…なるほど、使い魔なんかよりよっぽど強そうだな……」
さやか「とにかく、あいつを倒さないと……!」ダッ
プリニー「あ、さやか、待つッス!そいつは……」
幻獣族「グルルルル……」
さやか「大人しく成敗されろー!ワン公!」
幻獣族「グオオ……!」ヒュン
さやか「え!?ちょ、ちょっと……!」
幻獣族「ガアアアア!」ブオン
さやか「な、何こいつ、速い……!」ギィン
幻獣族「グガアアアア!」
さやか「しまっ……」
ギィン
さやか「あ…あれ?」
杏子「1人で突っ走るなっての、半人前のくせしてさ」
ほむら「あなたに死なれると困るのよ。色々と」
さやか「ほむら、杏子…よし、それじゃ協力してあいつを……!」
幻獣族「グルルル……」
私と杏子が加勢するも、魔物の目はさやかを睨んで離さなかった
どうやら魔物の狙いはさやかのようだ
ほむら「さやか、奴の狙いはあなたよ。気をつけて」
さやか「わかった…さっきは不意を突かれたけど、ワン公になんか負けるもんか……!」
プリニー「来るッスよ!」
幻獣族「グオオオ!」ブオン
さやか「そう何度も同じことを……!」ギィン
幻獣族「……!」
さやか「そこだっ!」ズバン
幻獣族「ガアッ!」
さやか「へっ、どんなもんよ!」
幻獣族「グルル……」
杏子「気ぃ抜くな!また来るぞ!」
幻獣族「ガアアア!」
プリニー隊「オレたちは加勢しなくていいんスかね……?」
プリニー隊「オレたちでは幻獣族にはとても敵わないッス…ほむら様たちとリーダーに任せるッス」
プリニー隊「自分にできることを全力で頑張るッス。とりあえず戦いを見守りつつ、周囲の警戒をするッスよ」
『グルル……』
プリニー隊「……あれ、今何か聞こえなかったッスか?」
プリニー隊「オレには何も聞こえなかったッスけど…気のせいだと思うッス」
プリニー隊「それならいいんスけど……」
幻獣族「グルルル……」
さやか「くそ…速い……!」
杏子「攻撃が…当たらねぇ……」
ほむら「……どうしたものかしらね」
幻獣族へ攻撃を続けるが、そのスピードに翻弄され続ける
速さだけで考えれば、さやかなら追いつけるとは思う。だが、さやかはまだ戦い慣れていない
何にせよ、まずはアイツの動きを封じなければ。そう思っていたときだった
幻獣族「……」バッ
さやか「……?距離を……?」
プリニー「……!さやか!気をつけるッス!」
さやか「え?プリニー、急に何……」
幻獣族「ガアアアアア!!」ドッ
さやか「ちょっ!?な、何こいつ、急に攻撃が……!」ギリギリ
杏子「さやか!テメェ……!」ブン
幻獣族「ガァッ」バッ
さやか「ありがと、杏子…どうなってんの?攻撃の威力が……」
プリニー「オレたちが投げられると爆発するように…魔物は種族ごとに色んな特殊能力を持っているッス」
プリニー「幻獣族は…遠距離であればあるほど、その攻撃が鋭く、重くなるッス」
杏子「おっかねぇな…そんなんに貫かれちまったらお陀仏だな……」
ほむら「それなら、なおさら奴の足を止めないと危ないわね。……私に任せて」ジャキ
ほむら「行くわよ……!ディビジョンバレット!!」バシュウ
パァン
幻獣族「……!」
さやか「ほむら!?弾けてどっか飛んでっちゃったよ!?」
ほむら「あれでいいの。……あとは弾が戻って来るまで……!」
ほむら「三連星射!!」バァンバァン
幻獣族「グオオ……!」ダッ
ほむら「……そこ!」バァン
幻獣族「グガッ……!」
杏子「さっきの弾が戻って……!」
ほむら「逃がしはしないわ。食らいなさい……!」
ズドォン
幻獣族「グガァッ!」
プリニー「足に当たったッス!これでもう走れないッスよ!」
杏子「アタシが捕らえる!行くよ!」ジャラジャラ
幻獣族「グ……」バッ
杏子「遅いよ!そこだっ!」グルグル
杏子「さやか!やっちまえ!」
さやか「わかった!行くよ……!」
さやか「でりゃあっ!!」ズバァン
幻獣族「グガアアアアアア!!」
さやかの一撃を受けた魔物は断末魔の悲鳴を上げてその場に倒れ伏した
随分と苦戦したが、どうにか倒したようだ
さやか「ふぅ…なんとか倒したね……」
杏子「みたいだな……」
ほむら「お疲れさま。魔女に魔物と立て続けに倒すなんて凄いじゃない」
さやか「そう…かな?少しは自信ついたかも」
プリニー「でもちょっとおかしいッス……」
ほむら「おかしい?魔物が現れたことが?」
プリニー「それもそうッスが、人間界でも魔界と変わらない強さなのがおかしいッス」
プリニー「きっとこの魔界に似た結界が関係してると思うッス…何だか嫌な予感がするッス……」
さやか「大丈夫だって、魔神だろうが魔王だろうがこのさやかちゃんがバッサバッサと……」
杏子「調子に乗るなっての」
ほむら「それにしても、同じ魔物でもこうも違うものなのね……」
杏子「そうなのか?アタシは今回初めて戦ったけどよ…確かにプリニーより強かったな」
プリニー「幻獣族は結構強い部類ッス。……まぁ、オレたちから見たら大抵のは強いってことになるんスけど」
さやか「あたしらが秘技覚えるみたいにプリニーも特訓して強くなった方がいいんじゃないかな。ほら、周りでいっぱいやられてるよ」
ほむら「え……?」
さやかのその言葉を聞いて、私は辺りを見回す
展開させていたプリニー隊のほとんどが、いつの間にかやられてしまっていた
あの魔物は常に視界に捉えていた。となると、答えは……
ほむら「さやか!杏子!まだ何かいるわ!」
さやか「え?そのプリニーたち、魔物にやられたんじゃないの?」
杏子「今の魔物は違うだろうな。ずっとこっち攻撃してきてたし、アタシも見てたからな」
まだこの結界に何かがいる。今と同じ魔物か、また別のものか……
私は周囲を警戒しつつ、やられたプリニーたちを回収していった
そして全てのプリニーを回収し終え、ふと上を見上げると月のようなものが映し出されていた
さやか「ねぇ…あの月って、最初からあったっけ……?」
杏子「いや、なかったと思うが……」
プリニー「あの月…まさか幻獣族の……!」
ほむら「それにしても、いつまでも隠れてるなんてどういうつもり……」
ズドン
ほむら「ぐ…ッ……」
さやか「え……」
杏子「ほむら……?」
背後に何かの気配を感じ、振り返ろうとした次の瞬間、背中に何かが当たったような気がした
それと同時に、胸と背中に激しい痛みを感じた
何が起こったのかわからず、胸を見てみると
魔物の頭のブレードに、胸を貫かれていた
幻獣族「グルルル……」
ほむら「か…は……」
私に一撃を食らわせた魔物がブレードを引き抜いて距離を取る
私の胸からは夥しい量の血が噴水のように噴き出した
杏子「おい、ほむら…ほむら!クソ、あの犬ッコロ!!」
さやか「ほむら!今治療を……!」
プリニー「ほむら様、しっかりするッス!ご主人がやられたら、オレたちは……!」
ほむら「ごふ…っ……」
逆流した血が口から溢れ出す
痛覚は遮断したが、胸…それも心臓をやられたせいで上手く息が出来ない
さやかたちが何かを言っているが、よく聞き取れない
魔力で修復を行うも、どうにも間に合いそうもなかった。そして
朦朧としていた私の意識は、次第に暗転していった
――――――
あれからどれだけの時間が経ったのだろうか
どうやら気を失っていたらしく、布団のような柔らかい物の上に寝かされていた
貫かれたはずの胸に痛みはなく、誰かが治療してくれたのだろう
いつまでも寝ているわけにもいかない。起き上がろうとしたところで、彼女たちの会話が聞こえてきた
私はそのまま、気を失っているふりをして、彼女たちの話を聞くことにした
『あたしが…あたしがもっと、周りに注意してればこんなこと……』
『それはオレたちがやっていたことッス…オレたちが簡単にやられたことが原因ッス……』
『きっと…プリニーたちがいれば、何かあればすぐに教えてくれるって…そう思って、気が緩んでたんだよ……』
『それがこんなことになるなんて…あたし、自分が……』
『ほむら様…ほむら様がいなくなったら、オレたちはどうしたらいいんスか……』
どんよりと沈んださやかとプリニーの会話が聞こえてくる。どうやら私が死んだと思っているようだ
心臓を貫かれて生きているはずがない。きっとそう思っているのだろう
『どうにも…どうにもならねぇのか、マミ!』
『傷の治療はしたわ…でも……』
『クソ…クソッ!!』
『暁美さん…ごめんなさい、私が遅れてしまったせいで、あなたを……!』
怒気を孕んだ杏子と、それに返答するマミの声が聞こえてくる
こちらの2人も似たような考えなのだろう
修復が終わったあたりで心臓は動きだしていたと思うが、気が付かなかったのだろう
『ほむらちゃん…起きてよ、ほむらちゃん……』
私のすぐ側からまどかの声が聞こえる
まどかのことだ。恐らく、ずっと側にいてくれたのだろう
『ほむらちゃん…わたし、ほむらちゃんのこと、まだ何も聞いてないよ……』
『どうしてわたしのことを信頼してくれてるか、まだ答えを聞いてないよ…それなのに……』
『魔法少女は…死と隣り合わせだって…そう、言ってたよね……。でも……!』
『こんな…こんなのってないよ…あんまりだよ……!』
そう言うとまどかは、私の手を握る。そしてそのまま、声を上げて泣き崩れた
これ以上、まどかを悲しませるわけにはいかない。そろそろ起きなければ
しかし、起きたらこの身体のことできっと厄介なことになるだろう
だからと言ってずっと死んだふりをしているわけにもいかない。覚悟を決め、私は体を動かした
ほむら「まどか……」
私は泣いているまどかの手を握り返す
それに気づいたまどかがこちらへ顔を向ける
まどか「え…ほむら…ちゃん……?」
ほむら「えぇ。心配させたみたいで……」
まどか「ほむらちゃんっ!!」ギュウ
言葉を言い切る前に私はまどかに思いきり抱きしめられてしまった
泣きじゃくっているまどかを、私は優しく抱きしめた
ほむら「まどか…心配させてしまってごめんなさい」
まどか「ほむらちゃん…ほむらちゃん、わたし……!」
さやか「あわわわわ…ほほほほむ、ほむほむ……」
プリニー「ささささやか落ち着くッス……」
杏子「ど、どうなってんだ…コイツ、確かにあの時……」
マミ「えぇ、治療のときにはもう…目的への執念で蘇った、とか……?」
ほむら「勝手に殺さないで頂戴。それよりも、あの魔物は?」
杏子「あ、あぁ…ほむらがやられたあと、アタシとさやか、プリニーで倒したよ」
プリニー「2体目を倒したらちゃんと結界は消滅したッス」
マミ「ちょうどそこに私が到着して、急いであなたの家まで運んで治療したのよ」
ほむら「そう…あなたたちにも迷惑かけたわね。ごめんなさい」
私が気を失っている間に起こったことは把握した
気になるのはどうして結界に魔物が現れるのかということと、プリニーの言う魔界のような結界のことだ
魔界絡みのことについて考えていると、杏子が聞いてほしくないことについて聞いてきた
杏子「なぁ…何でほむらはあれだけの怪我でも生きてるんだ……?」
マミ「佐倉さん?」
杏子「いや、だってそうだろ?いくら魔法で怪我を治せるって言ってもな……」
杏子「普通、心臓貫かれりゃ、その時点でお陀仏だろ?」
さやか「それは…まぁ……」
プリニー「そう言われるとそうッスよね……」
杏子「それをコイツは傷を治してやったらまた起き上がりやがったんだ…一体どういうことなんだ?」
ほむら「……できることなら話したくはないわ。話したくない理由もある。それでも…聞きたいのかしら」
杏子「……ここまで話さなかったってことは、その理由がよっぽどのことなんだと思うけどよ……」
杏子「でも、聞いておかなきゃいけない…そんな気がするんだよ」
ほむら「さやかとマミも同じ意見かしら……?」
さやか「……うん」
マミ「怖いけど、でも…聞かせてほしいわね」
ほむら「そう…まどか、もう十分抱きついたでしょう?そろそろ離してくれると助かるのだけど」
まどか「あ…うん、ごめんねほむらちゃん、わたし……」
私に抱きついていたまどかが手を離す
それにしてもどうしたものか。それらしい話をもっともらしく話した方がいいのだろうか
正直に全部話してしまえば、恐らくあの惨劇を繰り返すことになってしまう。何か…何かいい考えは……
『それについては僕から説明するよ』
どこからか、忌々しい声が聞こえてくる。声のした方へ視線を向けると、部屋のドアの前にそいつは座っていた
真っ白な体。長い耳。大きい尻尾。そして…悪魔のような、真紅の瞳
どこからか現れたインキュベーターが、ゆらゆらと尻尾を揺らしながらこちらを見ていた
ほむら「キュゥべえ……!」
QB「はじめまして、暁美ほむら。もっとも、君は僕を知っているようだけどね」
プリニー「そのキュゥべえってのがいるッスか?……オレには見えないみたいッスね……」
QB「見えない者がいると不便だね…仕方ない、この場にいる全員に見えるようにしよう」パァァ
プリニー「……あの、ドアの前にいる奴がそのキュゥべえって奴ッスか…正直オレたちプリニーの方が愛嬌があるッスよ」
さやか「いや、五十歩百歩だと思うけど……」
マミ「それにしても、最近キュゥべえは何をしているの?全然帰ってきてくれないから、少し寂しいわ」
QB「ちょっとやることがあってね。それが終わるまでは待っていてくれないかい?」
マミ「そう…わかったわ。今はもう1人じゃないし、大丈夫よ」
この時間軸に来てからインキュベーターに会うのは初めてだった
以前杏子が言っていた、魔法少女システム崩壊のことについて問い質したいが、今はこの場を切り抜けるのが先だ
ほむら「それで…一体何の用かしら」
QB「君たちが抱いている魔法少女についての疑問を僕が教えてあげようと思ってね」
QB「暁美ほむら、君は全てを知っているようだけど、他のみんなに隠しておく必要はないんじゃないかな」
ほむら「彼女たちには隠していたわけじゃない。教える必要がなかっただけ」
QB「確かに、訊かれなければ教える必要はないね。でも今はどうだい?杏子はそのことについて疑問に思っているようだけど?」
ほむら「それは……」
QB「杏子の疑問に答えようか。何故ほむらが心臓を貫かれても生きていられるか」
インキュベーターが魔法少女の核心部分へと話を進めようとしている
他のみんなはその話に聞き入ってしまっていた
QB「どうして心臓を貫かれて生きているか。それは……」
ほむら「黙りなさい……」
QB「魔法少女というのはそもそも、魔法少女となった時点で、普通の人間とは違う構造になるんだ」
ほむら「黙りなさい……!」
QB「生身の肉体で戦えば、いつか傷ついて死んでしまう。そんなことが起こらないように、君たちの魂を……」
ほむら「黙れ!!」
そう叫ぶと同時に私は魔法少女に変身し、盾から銃を抜く
そしてインキュベーターに向けて、銃弾を撃ち込んだ
ほむら「ハァ…ハァ…」
まどか「ほ、ほむらちゃん……?」
プリニー「ほむら様、落ち着くッス!」
さやか「ちょっとほむら、何も殺すこと……」
マミ「暁美さん、どういうつもり?キュゥべえを殺すなんて」
杏子「全部言い切る前に死んじまったぞ…魂が、何だって?」
アイツを殺したところで何の解決にもならない
次のインキュベーターが来る前に、ここから離れなければ
ほむら「みんな、私の……」
QB「逃げたって無駄だよ」
ほむら「く……!」
QB「逃げたところで、その逃げた先でまた同じ話をするまでだよ」
マミ「え?キュゥべえ?え、でも、あそこに……」
QB「何も僕は1体しかいないわけじゃないよ。ちょっと待っててね、あれを処分するから……」
そう言って新しいインキュベーターは死体となっているインキュベーターに貪りつく
しばらくして、死体を食べ終えたインキュベーターがこちらに振り返った
QB「きゅっぷい。さて、話の続きなんだけど…えっと、どこまで話したっけ……」
プリニー「まさか食べるとは思わなかったッス…魔物のオレもちょっと引くッス……」
杏子「魂がどうとか、って言ってたぞ」
QB「あぁ、そこまでだったね。つまり、簡単には死なないように構造を作り変えるんだ」
さやか「作り変える……?どういうこと?」
ほむら「駄目よ……!そいつの話に耳を貸さないで!」
そう叫んでみるも、インキュベーターは私を無視して話を続ける
ついに、私を除いた全員を絶望のどん底に突き落とす話を始めてしまった
QB「ソウルジェムがどうしてソウルジェムと言うのか?それは言葉通り、それが君たちの魂で作られた宝石だからだよ」
QB「君たちの肉体から魂を抜き取って、ソウルジェムに作り変える。それが魔法少女の契約さ」
QB「魂の抜けた肉体は言わば操り人形のようなものだ。傷つき壊れても、魔法で修復してやればまたすぐ動けるようになる」
QB「例え、心臓を貫かれようが、ありったけの血を流そうともね」
杏子「オイ…それじゃ、アタシたちは……!」
QB「うん。君たち魔法少女の身体は今までの肉体じゃない。そのソウルジェムだ」
QB「ソウルジェムが本体で、その本体が肉体を操って動かしている…と言えば分かりやすいかな」
マミ「ちょっと待って…それじゃ私たちは……」
杏子「ゾンビにされちまったようなモンじゃねぇか……!」
さやか「キュゥべえ…あんた、あたしたちを騙して魔法少女に……!」
QB「騙したわけじゃないよ。魔法少女の真の姿がどういったものか、説明は省略したけれど」
QB「魔法少女になることを決めたのは君たちの意思だ。現に願いも叶っているじゃないか」
さやか「だからって…こんな姿にされるなんて聞いてない!」
QB「ともかく、そういう理由でほむらは心臓をやられても生きていられるわけだよ。その身体の有用性はそれを見ればわかってくれるんじゃないかな」
杏子「ふざけんじゃねぇぞ!人の魂に勝手な真似しやがって!」
QB「ソウルジェムとしなければ見えもしない魂の在処にどうしてそこまでこだわるんだい?わけがわからないよ」
杏子「テメェ……!」
プリニー「……アンタ、悪魔よりも悪魔らしいッス……!」
マミ「キュゥべえ…あなた、私を騙していたの……?」
QB「さっきも言ったけど、説明はしなかったけれど魔法少女になると決めたのは君だよ、マミ」
QB「それに魔法少女にならなければ、君はあのとき死んでいたんじゃないかな?」
マミ「その方がよかったのかもしれないわね…人として死ねたのなら……」
QB「やれやれ…まどか、君にも叶えたい願いがあるのなら、魔法少女に……」
まどか「ふざけないで…何で、何でこんなこと……!」
QB「それは、僕たちの目的のためさ」
まどか「その目的のために…さやかちゃんやマミさん、杏子ちゃん…それに、ほむらちゃんを利用してるの……?」
QB「利用じゃなく協力と言ってほしいな。ちゃんと願いをひとつ叶えるという見返りの上で契約してもらってるんだよ」
まどか「そんなの……!」
ほむら「そこまでにしなさい、インキュベーター」
ほむら「それ以上何か喋るというのなら、お前たちにとって一番都合の悪い話、ここでぶちまけるわよ?」
インキュベーターの話を遮る形で私が口を開く。言った後で思ったがこの発言、一種の賭けだ
今ここでその話をしてしまえば、杏子はともかく、さやかとマミが魔女化してしまうような気がした
インキュベーターは少し考えるような仕草のあと、こう言った
QB「どういう理由で僕の正体とその話を知ったのかはわからないけど、今日のところは帰らせてもらうよ」
QB「今ここでその話をされても、お互いに利益にならなさそうだしね」
ほむら「そう。なら今すぐ消えなさい」
QB「わかったよ。それより、君も僕に訊きたいことがあるんじゃないのかい?」
ほむら「彼女たちを放っておいてまで聞くべきことじゃないわ」
QB「そうかい…そうだ、ひとついいことを教えてあげるよ」
ほむら「……?」
QB「魔界を知っているのが自分たちだけだと思わないほうがいいよ。僕たちだってその存在は知っているんだ」
ほむら「なっ……」
QB「魂を抜き取ってソウルジェムへ変える技術。その一部に、魔界の技術を使わせてもらったよ」
QB「元々魂を抜き出すだけなら僕たちの技術だけでも可能だったけど、魔界の技術のおかげでずっと効率が良くなったよ」
ほむら「何ですって……?」
QB「それじゃあこの辺で僕は帰るよ。それじゃあまた。ほむら、プリニー」
そう言ってインキュベーターは闇に消えていった
聞きたいことは聞けなかったが、わかったことがある
奴は…インキュベーターは魔界を知っている
プリニー「……あのキュゥべえって奴は、どうして魔界を知っているッスか……?」
ほむら「わからないわ……」
プリニーたちに出会ったときにも思ったが、やはりこの時間軸…いつもと違う。魔界というものが大きく関わっている
いつもと違う時間軸だろうが、私のやることは変わらない。まどかとの約束を果たす…それだけだ
それよりも、今はあの3人を何とかしなければ
ほむら「みんな、私の話を聞いて頂戴」
まどか「あ…ほむらちゃん……」
ほむら「まどか…大丈夫?」
まどか「うん、わたしは…でもみんなが……」
ほむら「話をしたいけど…まずは落ち着かせないと。まどか、プリニー、手伝って」
まどか「うん……」
プリニー「了解ッス」
私たちは3人を宥め、何とか落ち着かせることができた
3人は平静を装ってはいたが、憔悴した顔をしていた
杏子「……ほむらが隠してたのはあのこと…だったのか……」
ほむら「えぇ。あんな内容だから、話したくなかったの」
杏子「アタシがあんなこと聞かなければな…本当にごめん……」
ほむら「……いつかは明るみに出たことよ。気にしないで」
まどか「さやかちゃん、マミさん…大丈夫……?」
マミ「えぇ…まだちょっと整理がつかないけど……」
さやか「あたしも…まだ色々と混乱してるよ……」
プリニー「でもまさか…ここで魔界が出てくるとは思わなかったッス……」
ほむら「それも気になるけど…まず魔法少女のことについて話しましょう」
私は魔法少女の秘密についての一部を話した
魔女化のことは今この場で話すのは得策ではない。全員が落ち着きを取り戻してから、後日話すことにした
ほむら「……以上よ」
さやか「あたし…ほんとに、もう……」
マミ「これが砕けたとき、私は……」
まどか「さやかちゃん…マミさん……」
杏子「今まで散々好き放題できたのはこの身体のおかげとはいえ…あー、クソ…次会ったら風穴開けてやる……」
プリニー「杏子は割と平気みたいッスね」
杏子「そうでもねぇよ…こう見えてもハラワタ煮えくり返ってるさ……!」
さやか「ねぇほむら…あたし…あたしたちはもう…人間には戻れないの……?」
杏子「さやか?」
マミ「そう…ね…戻る手段があるのなら……」
ほむら「そんな手段…無いわね」
さやか「……そっか、そうだよね…そんなうまい話、ないよね……」
さやか「……いや、あるじゃん…ひとつだけ方法が、さ……」
まどか「……?」
そう言ってさやかはまどかを見やる
さやかの言う方法とは、まさか……
さやか「まどかがさ、あたしたちを人間に戻して、って願いで契約したら、きっと……」
まどか「さ、さやか…ちゃん……?」
プリニー「さやか、アンタ何を言って……」
さやか「ねぇ、いいでしょ?あんた、自慢できることがないって言ってたじゃない」
さやか「あたしたちを人間に戻して、それで魔法少女になれば、それはもう立派に自慢できること……」
ふらふらとした足取りでまどかに詰め寄る。錯乱しているのか、その目はどこかおかしかった
私はその間に割って入り、さやかと向き合う
ほむら「さやか…あなた、一体どういうつもりかしら」
さやか「別に何も…ただ、まどかに助けてってお願いしてるだけだよ……」
ほむら「まどかを巻き込まないでと、そう言ってるのよ」
さやか「あんたさ…随分まどかを気にかけてるみたいだけど、一体何なのさ……」
本当はこんな形で私の戦う理由を明かすつもりはなかった。だけど……
私の…立場を明確にしないと話が進まない。そう思い、私は自分の戦う理由を話した
ほむら「私は…まどかを守る為にここにいる。まどかの害になるのなら、あなたでも容赦しない」
杏子「まどかを……」
マミ「守る……?」
まどか「ほむらちゃん…わたしを……?」
さやか「まどかは守るのにさ…同じ魔法少女のあたしは……?守ってくれないの……?」
ほむら「……仲間というのなら協力はするわ」
さやか「仲間…ね…その言葉、今のあたしはちょっと信じられないんだよね……」
まどか「さやかちゃん…何でそんな……」
さやか「ただなんとなくそう思ったんだよ…ごめん、あたしこれで帰る……」
さやか「それとさ、明日からはあたし1人でやらせてもらうから…それじゃ……」バタン
まどか「さやかちゃ……」
杏子「さやかの奴、大丈夫か……?」
プリニー「かなりショックを受けてたみたいッスから…心配ッス……」
ほむら「……」
杏子「ほむらのせいじゃねぇよ、全部騙してたアイツのせいさ。……アタシも今日のところは帰らせてもらうよ」
ほむら「えぇ…マミのこと、お願いするわ」
杏子「あぁ。……おいマミ、大丈夫か?帰るぞ」
マミ「佐倉さん…私……」
杏子「話ならマミの家帰ったら聞いてやる…だから帰ろうぜ」
マミ「そうね…暁美さん、お邪魔したわね……」
ほむら「玄関まで送るわ」
杏子「……今日は悪かったな…それじゃ、またな」
マミ「また…明日ね……」
ほむら「えぇ、また」
バタン
ほむら「……」
杏子は真っ青な顔をしたマミを連れて帰って行った
1人玄関に残った私はしばらくそこに立ち尽くした
自分の不甲斐なさが許せなかった。インキュベーターに付け入る隙を与えてしまった自分が……
ほむら「……ッ!」
情けない自分が許せない。腹立たしい。憎らしい。何とか堪えようと歯を食いしばる。そして
私は自分の側の壁を、思い切り殴りつけた
――数日後――
まどか「ねぇ…さやかちゃん……」
さやか「……何?」
まどか「あ…えっと…さやかちゃん、戻ってきてくれないかな、って……」
さやか「……言ったはずでしょ、あたしは1人でやるって。話はそれだけなら、もう行くよ」
まどか「あ……」
ほむら「待ちなさい」
さやか「何……?まどかを守るのが目的なら、あたしに用なんかないはずでしょ……」
ほむら「あなた、ソウルジェムがもう相当濁ってるはずでしょう?これ、使いなさい」スッ
さやか「そうやって恩を売って、何が目的……?」
ほむら「敵対するというのなら、せめて利用してやろうとは思わないのかしら?」
さやか「……どっちにしろ、あんたの助けなんかいらない。……それじゃ」
さやかが私たちと決別してから数日。一応は学校にも来ているようだが、私たちとは必要以上に関わろうとしなかった
それよりも、さやかのソウルジェムの状態が心配だ
1人で戦っているということに加え、精神状態が不安定なこともある。いつも以上の速さで濁っているはずだ
彼女が魔女となる前に説得するのが最善だが、それが不可能なら、私は……
まどか「さやかちゃん……」
ほむら「……まどか、今日のところは私たちも帰りましょう」
まどか「わたし…さやかちゃんのところ行ってくるよ。……やっぱり心配だもん」
ほむら「……わかったわ。私は先に帰るわね」
まどか「うん。それじゃほむらちゃん、また後で」
まどか「えっと、さやかちゃんは…いた、さやかちゃ……」
まどか「……?誰かと話してる…仁美ちゃん……?」
まどか「何だろう…よく聞こえないけど、あんまりいい話じゃないみたい……」
まどか「あ…一緒に帰るのかな……?わたしは…どうしよう……」
まどか「……グズグズしてても仕方ないよね。2人には悪いけど…後ろからこっそりついて行こう」
まどか「さっきの話、何だか嫌な予感がするし…大丈夫、だよね……」
――――――
ほむら「……」
銃の手入れをしながら、まどかの帰りを待つ
さやかを説得したいところだが、どうにも私の話は聞いてもらえそうもない
でも、まどかなら今のさやかでも話を聞いてくれる。私はそう信じてる
プリニー「みんなは…大丈夫ッスかね……」
ほむら「杏子は問題ないわ。マミももう立ち直ったみたいだから、大丈夫だと思う」
ほむら「心配なのは…まどかとさやかよ」
プリニー「さやかはわかるッスが、まどか様もッスか?」
ほむら「えぇ。あの子は魔法少女じゃないけど…だからこその心配もあるわ」
あの日以来、まどかはずっと何かに怯えているような感じがしていた。本人に聞いても教えてはくれなかったが
まどかはきっと、私たちの誰かがいなくなるのが怖いのだと思う
本来なら死んでいるような大怪我をした私に、単独行動を始めたさやか。あの日の出来事がよほど堪えたのだろう
そこに付け込まれて契約を迫られないかが心配だ
さやかについては…まどか1人でどうにもならないのなら、マミと杏子にも協力してもらおう
ほむら「……それにしても…まどか、帰ってこないわね」
プリニー「そう言われると…いつもならもう家にいる時間ッスね」
Prrrrrrrr
ほむら「あら、電話…まどかから?」ピッ
ほむら「まどか?どうしたのかしら?」
まどか『あ、ほむらちゃん…さやかちゃんが……』
ほむら「さやか?さやかがどうかしたの?」
まどか『うん、あのね…さやかちゃん、学校の玄関で仁美ちゃんと何か話してて……』
まどか『何話してたか聞こえなかったけど、気になって…こっそりついて行ったの』
まどか『それで喫茶店に入って、2人の話を聞いたんだけど…仁美ちゃん、上条君のことが…好きなんだって』
ほむら「……」
まどか『仁美ちゃん、自分より先にさやかちゃんが告白するべきだって…それを聞かされたさやかちゃん、お店を飛び出して行って……』
まどか『上条君の家の前に着いたところで杏子ちゃんと会って、そこで言い争いを始めちゃったの……』
まどか『それが原因で上条君に怒られちゃって…さやかちゃん、よっぽど堪えたみたいで…走ってどこか行っちゃったんだ……』
ほむら「そう……」
まどか『ねぇほむらちゃん…わたし、嫌な予感がするの。……さやかちゃんに、もう会えなくなっちゃうような気がして……』
まどか『ほむらちゃん、さやかちゃんを探すの、手伝ってほしいんだけど…ダメかな……?』
ほむら「……わかった、私も今からそっちに行くわ」
まどか『う、うん、わかった。ありがとう、ほむらちゃん』
ほむら「それじゃ、また後でね」ピッ
ほむら「さて…行くわよ、プリニー」
プリニー「了解ッス」
志筑仁美の宣戦布告に杏子との言い争い、そして上条恭介からの叱責
彼女のソウルジェムはもう限界に近いはずだ。一刻も早く彼女を見つけなれば
彼女が彼女でなくなってしまう前に……
――――――
さやか「……」
さやか「……はは、何してんだろ、あたし……」
さやか「家の前であれだけ派手に言い争ってりゃ、怒られて当たり前なのにね……」
さやか「人ん家の前で言い争って、怒られたからって逃げ出して…ほんと、何してんだろうね、あたしは……」
さやか「ソウルジェム…もう、真っ黒になっちゃったな……」
さやか「……これがあたしの本体ってなら、濁り切ったらきっとよくないんだろうけど…何かもう、どうでもよくなってきた……」
さやか「マミさん…杏子…ほむら…まどか…ごめん、あたしもう、ダメだよ……」
さやか「恭介…伝えられなくてごめん…勇気がなくて本当にごめん…今までありがとう……」
さやか「あたしって、ほんと……」
まどか「さやかちゃん!!」
さやか「まどか……?あんた、何でここに……」
まどか「さやかちゃんが心配で探しに来たの。……みんなも一緒だよ」
杏子「さやか……」
マミ「美樹さん…よかった、心配したのよ……?」
プリニー「そろそろ、戻ってきてほしいッス……」
駅のベンチで項垂れているさやかを見つけ、声をかける。その顔はあのときと同じく、錯乱したような顔をしていた
私は1歩前に出ると、彼女へ向けてグリーフシードを放り投げた
さやか「……だから、何のつもり?」
ほむら「もうソウルジェム、限界なんでしょう?話をする前に、それで浄化しなさい」
さやか「……いい加減しつこいから、貰っとくよ」
そう言ってさやかはグリーフシードをソウルジェムに押し当てる
どす黒く濁っていた彼女のソウルジェムは本来の水色の宝石へと戻っていった
さやか「……これでいいんでしょ?」
ほむら「えぇ。それじゃ、話をしましょうか」
さやか「あんたと話すことなんて…ないね」
ほむら「そっちには無くともこっちにはあるのよ。単独行動なんて始めて、どういうつもりなの?」
さやか「最初から全部知ってたあんたにわかるわけないでしょ…あたしの気持ちなんて……!」
さやか「あんな話…人間じゃないなんて聞かされて、はいそうですかと納得できるわけない……」
さやか「自分だけじゃなくて、魔法少女のみんなも人間じゃないって考えたら…一緒にいられなくなって……」
まどか「それでさやかちゃん、1人で……」
さやか「そうして1人で行動してたらさ…仁美に呼び出されて、恭介のことが好きだって……」
さやか「ゾンビのあたしに…恭介に好きだなんて言う権利…ないよ……!」ポロポロ
さやか「それでさっき、恭介に怒られたときに…もう何もかもどうでもよくなったんだよ……」
まどか「そんな悲しいこと言わないでよ…さやかちゃん、人間……」
さやか「だったら…あんたが魔法少女やりなさいよ……!ほむらに守られてばっかじゃなくてさぁ……!」
まどか「え……」
杏子「オイ…何言ってんだ」
さやか「人間のあんたが…わかったようなこと言わないでよ……!同じ立場に…ゾンビになってみなさいよ!!」
マミ「美樹さん…あなた……」
ほむら「……言ったはずよ。まどかは魔法少女にはさせないと」
さやか「誰も…誰もあたしの気持ちなんてわからないんだよ!ゾンビのあたしが、人間を…好きになるなんて……!」
さやか「身分違いも、いいとこだよ……!」
胸の内をぶちまけたさやかは、その場に泣き崩れた。魔法少女の自分と、人間との恋。その狭間で彼女は苦しんでいる
こればかりは、私は何も言えなかった。私が何かを言ったところで、その恋をどうするかはさやか自身が決めなければならない
誰もが何も言えず押し黙っていると、プリニーがさやかに語りかけた
プリニー「……その気持ち、少しだけわかる気がするッス」
ほむら「……?」
さやか「プリニー……?あんた、何……」
プリニー「魔界にも、そういう身分違いの恋ってのがあるッス。それも、もっと厳しいものが……」
プリニー「……ある魔界を統べていた魔王は…人間の女性と結婚したッス」
マミ「人間と……?」
プリニー「そうッス。そんじょそこらの魔族じゃない、魔王ッス。許されないどころの話じゃないッスよ」
プリニー「その上子供まで授かってるッス。……だから、身分が違うなんて理由で想いを諦める必要なんて、ないッスよ」
さやか「でも…あたしの本体はコレ…なんだよ……?」
プリニー「……オレたちも似たようなものッス」
ほむら「……どういうこと?」
プリニー「オレたちプリニーは、このペンギンみたいな皮の中に魂が込められているッス」
プリニー「その魂がこの身体を操っている…だからある意味、魔法少女と似たような理屈で動いてるッス」
まどか「そうだったんだ……」
プリニー「むしろまともな肉体がある分、魔法少女が羨ましいッス。こっちなんて投げたら爆発ッスよ?」
杏子「何だ、じゃあここにいるのはまどか以外全員中身すっからかんなのか」
マミ「佐倉さん、笑えないわよ……」
さやか「……はぁ…何かバカバカしくなってきたよ、あんたたち見てたら」
まどか「さやかちゃん……」
さやか「まぁ…身分が違うってことで諦めるなんて…あたしらしくない…よね」
さやか「とんでもない身分差でも結婚した人…うん、人たちもいるんだ。あたし、頑張ってみる」
プリニー「そうッス、頑張るッスよ!」
さやか「うん。……みんな、迷惑かけてごめん。……もう、大丈夫だから」
プリニーに説得されたさやかが立ち上がる
先ほどの錯乱した顔は消え、どこか吹っ切れたような顔をしていた
さやか「まどか…ごめん。あたし、酷いこと言っちゃってた…よね」
まどか「ううん…さやかちゃん、ちょっとだけ疲れてただけなんだよ」
さやか「まどか…ほむらもごめん。邪険な態度しちゃってさ……」
ほむら「……別に私は……」
さやか「それでも、ね。……あーもう!あたしって、ほんとバカ……」
ズズズ…
まどか「え…えっ、結界!?」
さやかの話が終わるのを待っていたかのように結界が現れ、私たちを飲み込んだ
さやかが魔女化したわけでもない。ならこの結界は一体……?
そうこうしているうちに、結界はいつかの魔物が現れたときと同じような、開けた広場のような形に変わっていった
ほむら「さやか、杏子、プリニー…この結界……」
杏子「あぁ…あの犬ッコロのときと同じだな……」
マミ「何かしら、この結界…嫌な感じがする……」
プリニー「……やっぱりこの結界、魔界に似ているッス…どうしてッスか……?」
さやか「またあのワン公が出てくるのかな……?」
ほむら「どうかしら…まどか、あなたはもっと下がって。何が出るかわからないわ」
まどか「……わたしも……」
ほむら「まどか……?」
まどか「……わたしも、戦う。プリニーさん、力を貸して」
ほむら「まどか…あなた、アレで戦うつもりなの……?」
まどか「うん。さっきさやかちゃんも言ってたよね、ほむらちゃんに守られてばかりじゃなく、自分でも戦えって」
さやか「あれは…本心じゃないよ、頭に血が上ってて……」
まどか「それでも、だよ。わたし、みんなの…ほむらちゃんの力になりたい」
ほむら「まどか……」
杏子「ウダウダやってる暇ねぇぞ…魔物のお出ましだ……!」
ほむら「……絶対、絶対に無茶だけはしないで。いいわね?」
まどか「……!うん、わかった!」
プリニー「行くッスよ、まどか様!」
まどか「うん!魔チェンジ!!」
カッ
まどか「これで……!」
まどかとプリニーが魔チェンジするのと同時に、どこからか魔物の大群が現れた
どうやって現れているのかわからないが、今はそれを考えている場合ではない
現れたのは多数の妖魔族に幻獣族が1体…それに、初めて見る樹の巨人のような魔物が1体
プリニー『あれは…樹巨人族ッス。自己治癒能力があって、中途半端な攻撃をしてもすぐに回復されるッス』
杏子「要するにごっついさやかってことか?」
さやか「ちょっと、あたしとあんなの一緒にしないでよ」
プリニー『動きはのろいのが弱点ッスが…幻獣族が一緒にいられると……』
マミ「それよりも、あのカボチャ頭はどうするの?」
ほむら「数には数…プリニー隊で相手するわ」バッ
ほむら「プリニー隊、妖魔族の相手をお願い」
プリニー隊「了解ッス!」
プリニー隊と妖魔族の集団戦が始まるのを確認してから、残る2体の魔物へ目を向ける
先日はあの幻獣族に不覚を取ったが、次はそうは行かない
ほむら「さやかとマミは幻獣族をお願い。私とまどか、杏子は樹巨人族の相手をするわ」
さやか「マミさん、あのワン公すばしっこいんで気をつけてください!」
マミ「えぇ、聞いてるわ。美樹さんも注意して!」
プリニー『杏子、あいつは見た通り高い攻撃力と防御力を持ってるッス!気をつけるッス!』
杏子「あぁ、わかった!援護頼んだぞ、まどか!ほむら!」
ほむら「まどかは私が守る。だから安心して」
まどか「うん…ありがとう、ほむらちゃん」
まどか「わたしから行くよ……!」キリキリ
まどか「スプラインアロー!!」パシュウ
樹巨人族「!!」ガガガガ
杏子「次はアタシだ!食らいやがれ!」ガッ
樹巨人族「……」
杏子「っ……!何だコイツ…硬ぇ……!」
ほむら「杏子!離れて!」ジャキ
ほむら「樹だと言うのなら…これはどうかしら!?」バシュウ
樹巨人族「ゴ……!」
ズドォォォォン
樹巨人族「ゴゴ……」
杏子「表面は燃えてはいるが…イマイチっぽいな。やっぱアタシがどうにか……!」ダッ
杏子「うおりゃっ!!」
樹巨人族「ゴオッ!」ガッ
杏子「ウソだろ…刃ぁ掴んでやがる……」
ほむら「杏子!逃げて!」
樹巨人族「ゴゴ……!」
杏子「な……」
ドゴォン
杏子「が……ッ!」
ドガァァァァン
まどか「杏子ちゃん!!」
ほむら「まどか!攻撃は任せるわ、あいつを倒せるだけの攻撃をお願い!」
まどか「え…ほ、ほむらちゃんは!?」
ほむら「私が囮になる…その間に……!」
まどか「わたし…うん、わかった……!」
ほむら「それじゃ、頼んだわよ!」ダッ
まどか「あの巨人を、倒せるだけの秘技……」
プリニー『樹巨人族を倒すには生半可な威力じゃダメッス!』
まどか「……うん」
まどか「……」キリキリ
まどか(今まで…ほむらちゃんに守られてばかりだったけど……)
まどか(魔法少女とは違う形だけど…わたしだって、戦える!)
まどか(少しでも…ほむらちゃんの力になるんだ……!)
まどか「ほむらちゃん!下がって!」
ほむら「……!わかったわ!」バッ
まどか「行くよ……!オメガコメット!!」パシュウ
樹巨人族「ゴ……!」
ズガァァァァン
まどか「やった!?」
プリニー『まだッス、まだ生きてるッス!』
樹巨人族「ゴォォォ……!」
プリニー『早く倒さないと自己治癒されてしまうッス!』
まどか「そ、そんなこと言っても……」
ほむら「あとは私に任せなさい」
まどか「え…ほむらちゃん?」
樹巨人族「ゴゴ……」
ほむら「遅いわ…これで止めよ……!」キィィン
ほむら「零距離…バスター!!」
ズドォォォォン
樹巨人族「グゴオオオオオ……!」ボロボロ
ほむら「崩れていく…倒したみたいね」
まどか「うん…あ、そうだ、杏子ちゃんは……!」
私の攻撃の直撃を受けた樹巨人族はボロボロと崩壊していった
樹巨人族の攻撃を受けた杏子の下へ急ごうと、そう思っていたところで
背後から杏子の声が聞こえた
杏子「すまねぇ、油断した」
ほむら「杏子、大丈夫なの?」
杏子「あぁ、何とかな。……っと、他の奴らもケリがついたみたいだな」
さやか「これでトドメだっ!」ズバン
幻獣族「グガアアアアア!!」
プリニー隊「これが最後ッス!」ズバン
妖魔族「グゲッ……!」
向こうで戦っているさやかたちの方へ目をやると、さやかが幻獣族を倒したところだった
妖魔族と集団戦をしていたプリニー隊の方も、最後の妖魔族を倒していた
現れた魔物は全て撃破したが…以前のこともある。私たちはさやかたちと合流し、辺りを警戒する
さやか「……何も来ないね」
杏子「あぁ…結界は消えてねぇけどな……」
マミ「前回みたいなことは…もう起こしたくないわね」
プリニー『オレだって…もうあんな光景は見たくないッス』
ほむら「結界が消えてない以上、まだ何か来るはずよ。気を抜かないで」
『そう。まだ終わりじゃないよ』
どこかで聞いたことのある声がした。その声の方へ目を向けると
いるはずのないインキュベーターが、こちらを見つめていた
QB「まさか樹巨人族がこうも簡単にやられるなんてね…君たちを少し甘く見ていたのかもね」
ほむら「その口ぶり…この結界と魔物はお前の仕業ね?」
QB「うん、その通り。最初は魔物を魔女の結界に転送するしかできなかったけど……」
QB「今となっては結界を発生させ、そこに魔物を転送することもできるようになったんだ」
プリニー『この魔界に近い結界も、アンタがしたことッスか?』
QB「あぁ、これも僕たちがしたことさ。消滅するはずの結界に魔力を与え、魔界そっくりの環境の結界を造り出す」
QB「おかげで転送した魔物も全力で戦える。便利なものだよ」
ほむら「それで、お前の目的は何?」
QB「杏子から訊いてないのかい?君たちがワルプルギスの夜を倒すことの阻止さ」
QB「暁美ほむら、君がどういう経緯で魔法少女になり、ワルプルギスの夜の秘密を知ったのかは知らないけど……」
QB「アレが倒されると僕たちとしても非常に都合が悪いんだ。アレがそう簡単に倒されるとも思えないけど、念の為にね」
ほむら「……お前が何と言おうが、私の目的はワルプルギスの夜を倒すこと。邪魔はさせないわ」
QB「ふーん…まぁ、それもここから無事に出られたらの話だけどね」
インキュベーターの背後で何か影のようなものが揺らめいている
あれがその転送されている魔物なのだろうか
QB「次の魔物はなかなか強いから、注意した方がいいよ。特にまどかはね」
まどか「え……?」
QB「プリニーとの魔チェンジで戦う力はあるみたいだけど、所詮生身の人間だ。1発でも当たれば致命傷になるだろう」
QB「だから僕としては、ここで契約して魔法少女になることを勧めるけど…どうだい?」
ほむら「まどか…あなたは……」
まどか「うん、わかってる…わたしは、契約するつもりはないよ」
ほむら「まどかは私が守る。相手が何であろうと」
QB「そうかい…それじゃ、僕は帰らせてもらうよ。あとは頑張ってね」
そう言ってインキュベーターは闇に消えていった。それと同時に転送が完了した魔物が姿を現す
今までの妖魔族や幻獣族、樹巨人族と比べると、見るからに悪魔といった禍々しい姿をしていた
さやか「何…あいつ……」
杏子「チッ…またヤバそうなのが出てきやがって……」
プリニー『あ…ああ……』
まどか「プリニーさん?どうしたの?」
プリニー『ほむら様!プリニー隊を回収するッス!急ぐッス!』
ほむら「え?急に何を……」
プリニー『早くするッス!オレたちプリニーじゃアイツには…銃魔神族には勝てないッス!』
銃魔神族「グガガ……」キィィン
銃魔神族と呼ばれた魔物はこちらの存在を確認すると、右腕の巨大な銃を構える
もうプリニー隊を回収している余裕はない。とにかく、相手の射線から退避しなければ
杏子「おいおい…何かヤベーぞ……」
ほむら「とにかく全員退避よ!各自散開して!」
プリニー『散開じゃダメッス!防御するッス!アイツの攻撃は……!』
銃魔神族「ガアアアア!!」
銃魔神族からの攻撃を見たとき、プリニーの防御しろという言葉の意味が理解できた
逃げる場所が無ければ、散開したところで何の意味もない。そして……
目の前を覆い尽くさんばかりの光線が、私たちに降り注いだ
ズドォォォォォン
銃魔神族「グガッ……!」
杏子「……止んだか、なんつー攻撃だよ……」
さやか「ふぅ…ありがと杏子、助かったよ」
杏子「気にすんな。……それより、他の奴らは……?」
さやか「わかんない、煙が…あ、マミさん!」
マミ「2人とも、大丈夫!?」
杏子「あぁ、アタシたちは無事だ」
マミ「私もなんとか…暁美さんと鹿目さんは!?」
さやか「あ……!ほむら!まどか!どこ!?」
杏子「攻撃の前に見たときは向こうだったな…行くぞ!」
まどか「……止んだ…かな……?」
プリニー『そうみたいッスね…爆煙でよくわからないッスが……』
ほむら「まどか…無事、かしら……?」
まどか「う、うん…ほむらちゃんのおかげで何とも…プリニーさんも大丈夫だよ」
ほむら「そう…それはよかっ…た……」
まどか「ほむら…ちゃん……?」
ほむら「やっぱり、私の魔力では…持ちこたえられなかった…みたいね……」
まどか「ほむらちゃん…そのケガ……!」
ほむら「大丈夫…死にはしないから…ぐっ……」
銃魔神族からの攻撃を見て、私は時間を止めようと盾に手をかけた。だが……
あの光線攻撃の範囲がこの結界のほぼ全域だと分かり、すぐに防御魔法を展開して攻撃を防御した
しかし、私の魔力程度では攻撃を防ぎきることなどできるはずもなかった
まどか「ほむらちゃん!……どうしよう、わたし……」
さやか「ほむら!まどか!大丈夫!?」
まどか「さやかちゃん!ほむらちゃんが……!」
杏子「ほむら!オイ、大丈夫か!?」
ほむら「さやか…マミ…杏子…無事みたいね……」
さやか「あたしたちは無事だよ!でも、ほむらが……!」
まどか「ほむらちゃん…わたしを庇って……」
ほむら「まどかが無事なら、それでいいの……」
マミ「とにかく治療を……」
ほむら「私のことはいいわ……!それよりも、あいつを倒すことに集中して……」
杏子「ほむら……」
プリニー『今の攻撃、超消滅レーザーと言って…広範囲をレーザーと爆発で攻撃する技ッス』
さやか「物騒な名前だね……」
プリニー『アイツの攻撃はとにかく広範囲、高威力ッス。気をつけるッス』
杏子「あぁ、わかった。アタシとマミ、さやかで行くぞ。まどかはほむらのことを頼む」
まどか「うん、わかった」
マミ「それじゃ、行きましょう。まずはこの煙を……!」スッ
ズアッ
銃魔神族「グガ?」
さやか「行くぞ!どりゃあっ!!」
銃魔神族「ガアッ!」ブオン
さやか「うわあっ!?何こいつ、ビームサーベルっぽいものまで……!」ガギン
杏子「だったらアタシが!」ダッ
杏子「食らいやがれっ!」ズバン
銃魔神族「ガッ!?」
さやか「杏子、助かったよ!……次はあたしだ!!」ズバン
銃魔神族「グガアッ!」
マミ「2人とも、下がって!これでトドメよ……!」
マミ「ティロ・フィナーレ!!」
ズドォォォォォン
マミ「これで倒……」
銃魔神族「……」
さやか「そんな…ティロ・フィナーレの直撃を受けたのに……」
銃魔神族「グオオ……」ブオン
杏子「またビームサーベル…させるか!」ダッ
銃魔神族「ガアア……!」ズズ
さやか「……ウソでしょ……?さっきのよりデカいなんて……」
銃魔神族「グルァァァァァ!!」
杏子「ぐっ…食らって、たまる…か……!」ギリギリ
さやか「杏子!今助けるよ!」ダッ
マミ「佐倉さん!」ダッ
杏子「バカ!来るんじゃ……」
銃魔神族「グ…ガアアアアア!!」ブオン
ズガァァァァン
さやか「うぐ…っ」
杏子「何なんだコイツ…今までのと強さが……」
マミ「暁美さん、鹿目さん…逃げ、て……」
ほむら「く……」
銃魔神族が3人をなぎ倒し、こちらに向かってくる。何か、何か策は……
プリニー隊はリーダーを除いて全滅、私を含めた魔法少女は満身創痍、逃げるにも逃げ道は無い
私が…やるしかない。まどかを守る為に。そう思い、立ち上がろうとする私の目の前に
まどかが、立ち塞がった
ほむら「まど…か……?」
まどか「ほむらちゃん…わたしに、任せて」
ほむら「まどか…あなた、何を……」
まどか「わたしが…あの魔物を、倒す……!」
銃魔神族「ガア……」
まどか「よくもほむらちゃんやみんなを……!」
まどか「許さない…絶対に、許さない!!」
ほむら「……っ!」
まどかはそう叫ぶと、銃魔神族を睨みつける。その顔は今まで見たことがないほど、激しいものだった
まどかには途方もない魔力が眠っている。でもそれは、契約して魔法少女となった時の話。契約しなければ、使われることはない
だが、このまどかは契約せずに戦うことが…魔力を使う術がある。本来なら有り得ない形で魔力を使っている
そんな形で使われていた魔力が感情の爆発…恐怖への反動と呼応し、人が変わってしまったように感じさせているのだろうか
ほむら「まどか、下がって……!」
プリニー『まどか様、落ち着くッス!』
まどか「……ドッペルゲンガー!!」
ズララララ
さやか「まどかが、あんなに……?」
杏子「まるでアタシの魔法じゃねぇか…でも、アタシのよりもずっと多い……」
まどか「……」キリキリ
銃魔神族「ガアッ!?」
まどか「……っ!」パシュウ
銃魔神族「グガア!!」ズドドド
まどか「これで……!」バッ
ズドォォォン
銃魔神族「グ……!」
まどか「まだまだ……!ジールレーゲン!!」パシュウ
ズドドドドド
銃魔神族「グオ……!」
まどか「……まだ、倒せてない……!」
ほむら「まどか…無茶しないで……!」
銃魔神族を倒そうと、まどかは大技を連発する
だが、あんな無茶な戦い方では、先にまどかの方が潰れてしまう
私はまどかを止めようと、必死でまどかを呼び続けた
銃魔神族「グルォォォォォ!!」
妖魔族「ケケッ!」
ほむら「妖魔族…まだ生き残りが……」
プリニー『……!まどか様!あの妖魔族、早く倒すッス!』
まどか「……え、プリニーさん、何……」
プリニー『早く倒すッス!!早く……』
妖魔族「クケケッ!」
銃魔神族「グオオ……!」パァァ
妖魔族と銃魔神族が重なった瞬間、銃魔神族が光に包まれた
そして次の瞬間には、巨大な銃魔神族が目の前に姿を現した
銃魔神族「グゴォォォ……」
さやか「ねぇ…ウソでしょ……?」
杏子「オイ…何だコリャ……」
マミ「これって…あのときの……」
ほむら「怒ッキング…向こうもしてくるなんて……!」
プリニー『遅かったッス…こうなったら、早く倒すしかないッス!時間かけるとまた……』
銃魔神族「ガ……!」キィィン
さやか「またあの物騒なレーザーが……!」
まどか「……させない!」キリキリ
銃魔神族「グガアアアアア!!」ズドドドド
まどか「サイコミラージュ!!」パシュウ
ズドドドドド
マミ「凄い…全部相殺した……!」
まどか「ハァ…ハァ…」
ほむら「まどか!もう下がって!」
まどか「これで……!オメガコメット!!」パシュウ
ズガァァァァン
マミ「やった……?」
銃魔神族「ガ……!」
さやか「まだ生きてる…けど、だいぶ弱ってるみたい……」
まどか「なら……!」パシュウ
銃魔神族「ガアッ!」ズドン
ガギィン
まどか「弾かれた……!ならもう1発……」
銃魔神族「グオオ!」ズドン
まどか「う…あっ……!」
ほむら「まどか!!」
まどか「……まだ戦える……!これで、終わりだよ……!」キリキリ
まどか「瞬雷!!」パシュウ
銃魔神族「……!」ジャキ
ヒュオン
銃魔神族「!?」
ヒュンヒュン
銃魔神族「ガ!?ガア!?」キョロキョロ
杏子「すげぇ…全然見えねぇぞ」
マミ「……見て、上!」
銃魔神族「グ……」
まどか「遅いよ!!」
ズドォン
銃魔神族「グ…オオオオオオオ!!」ズゥン
さやか「倒した…の……?」
杏子「みたいだな……」
ほむら「まどか!まどか!!」
まどか「……ほむら、ちゃん……」
ほむら「言ったはずでしょ…無茶はしないでって……!」
まどか「ごめんね…あのとき…許さないって叫んだところで、頭が真っ白になって……」
まどか「でも…目の前にいるあの魔物を…絶対に倒さないとって、それだけははっきりしてたんだ……」
ほむら「だからって……!」
まどか「心配かけて、ごめん…ね……」
ほむら「まどか……?まどか!しっかりして!!」
ほむら「私……!私はもう、あなたを失いたくない!!」
マミ「暁美さん、落ち着いて。気を失っただけよ」
ほむら「え……?」
マミ「だから安心して。ね?」
ほむら「……治療をお願いするわ。私はプリニー隊を回収してくる」
――――――
さやか「さて、回収も終わったし、治療も済んだ。そろそろ帰ろうよ」
杏子「元はと言えばお前のウダウダが原因だろうが」
さやか「うっ……」
ほむら「そうね。それじゃ、帰りましょう……」
マミ「待って、暁美さん」
ほむら「……何かしら」
マミ「あなた、さっき鹿目さんにこう言ったでしょ?『もう、あなたを失いたくない』って」
ほむら「……そうだったかしら」
マミ「暁美さん、あなたは何を知っているの?何を隠しているの?……そろそろ、教えてはくれないかしら?」
ほむら「……以前も隠していたことを聞いて後悔したでしょう?聞かない方がいいと思うわ」
マミ「えぇ。確かに驚いた。絶望しかけたわ。でも……」
マミ「それでも、聞かせて欲しいの。あなたがそこまで鹿目さんに拘る理由を」
結構な声で叫んだわけだし、聞かれていても不思議ではなかったが…まさか問い詰められるとは思っていなかった
私がまだみんなに話していないこと…インキュベーターのこと。私とまどかとのこと。魔法少女の最期のこと
それらを話してしまってもいいのだろうか?
ほむら「……相当キツい内容になると思う。正直、ショックを受けて逃げられても、もう助けている余裕は無い」
ほむら「それでも…聞きたいのかしら?」
マミ「……えぇ。私も…美樹さん、佐倉さんももう大丈夫だから」
さやか「もう、覚悟は決まってるよ」
杏子「洗いざらい、喋っちまえよ」
ほむら「……わかった。私の家で話しましょうか。まどかは私が背負ってくわ」
――ほむらの家――
さやか「まどかは……?」
ほむら「ベッドに寝かせてきた。あとはプリニーに任せてあるわ。それより…何から話しましょうか……」
さやか「どういうこと?」
ほむら「私が隠しているのは3つ。魔法少女の最期のこと。キュゥべえの正体のこと。それと…私とまどかとのこと」
ほむら「これが最後の確認よ。本当に話してもいいのね?」
マミ「えぇ」
さやか「怖いけど…お願い」
杏子「頼む」
ほむら「そう…わかったわ。さて、どこから話したものかしら……」
私は3人に全てを打ち明けた。昔話を聞かせるように、ゆっくりと、丁寧に
魔法少女の最期を話したとき、誰1人として絶望することなく、私の話を聞いてくれた
キュゥべえ…インキュベーターについて話すと、まさか宇宙人だったなんて…と驚いていた
そして…私とまどかとのことを話し始めた
最初のうちこそ、何でもないような顔をしていたけど…話が進むにつれて顔が曇る
全てを話し終えたとき、3人はぼろぼろと涙を流していた
ほむら「……これで全部よ」
マミ「暁美さん…ごめんなさい、私……!」
ほむら「謝ることじゃないわ。あなたの知らないことだから」
杏子「その…あんまりアタシは話に出てきてないから、うまく言えないけどよ……」
杏子「大事な人を失うって辛さは…痛いほどわかる。……アタシもそうだったから……」
ほむら「そう…そうね、あなたも…そうだったわね」
さやか「ほむらぁ……!ごめん…ごめん、ほむらの邪魔ばっかりして……!」
さやか「あたし…その自分が許せないよ……!」
ほむら「マミにも言ったけど…謝る必要はないわ」
ほむら「それに…謝らなければいけないのは私の方」
さやか「……?それって、どういう……」
ほむら「私がこの話を隠してたのは…元々あなたたちに話すつもりなんてなかったから」
ほむら「あなたたちを仲間だとは思わない。対ワルプルギスの夜の為に利用した方が好都合。……そう、考えていたから」
杏子「まぁ…あんだけのことがあれば、無理もないか……」
ほむら「揃いも揃って私の邪魔をするのなら、最初から何も期待しない。私が信じるのは自分とまどかだけ」
ほむら「もう誰にも頼らない。そう思っていたのに……」
ほむら「この時間でまどかと一緒にいて…思ったの。私はまどかだけを守りたいわけじゃない。まどかの全てを守りたいんだ、と」
ほむら「だからもう1度…もう1度だけ、信じてみようって……」
さやか「ほむら……」
ほむら「さやか、マミ、杏子。お願いがある」
ほむら「あと数日でワルプルギスの夜が現れる。私はどうしてもあの悪魔を倒したい」
ほむら「虫のいい話だとは自分でも思ってる。だけど…どうか、私に力を貸してほしい……!」
マミ「えぇ、わかってる。みんなで協力して、ワルプルギスの夜を倒しましょう」
さやか「ほむら、話してくれてありがと。……あたしもほむらに力を貸すよ」
杏子「ワルプルギスの夜を倒して、キュゥべえ…インキュベーターつったか?あの野郎に一泡吹かせてやるか」
ほむら「みんな…ありがとう……」
マミ「以前はすれ違いばかりだったみたいだけど…少なくとも、今この時間の私たちは…みんな暁美さんの仲間よ」
杏子「さて…もういい時間になっちまったし、アタシらは帰るとしようか」
さやか「そうだね。あと数日か…よーし、明日からまた特訓だ!」
杏子「その前にお前は自分の問題を解決しろよ……」
さやか「う…そうでした…あー、どうしたら……」
杏子「あー、その、何だ、絶望する前にアタシかマミにでも相談をだな……」
さやか「フられる前提で話さないでよ……」
マミ「そう言えば…さっきの話、鹿目さんにはしたの?」
ほむら「いえ、まだよ。彼女が目を覚ましたら…話そうと思ってるわ」
マミ「そう…わかったわ。それじゃ、また明日ね」バタン
ほむら「……」
彼女たちに全てを打ち明けた上で、彼女たちは協力すると約束してくれた
私とプリニー、それにみんながいれば、今度こそワルプルギスの夜を……
それに、まだ時間はある。万全を尽くせば必ず倒せるはずだ
そう自分に言い聞かせたところで、私は後ろに隠れている彼女に声をかけた
ほむら「もうみんな帰ったわ。そこで聞いてたんでしょう、まどか?」
ガチャ
まどか「……」
プリニー「ほむら様、申し訳ないッス…本当なら連れ戻すはずだったんスけど……」
ほむら「構わないわ。ほら、こっちに来て座りなさい」
まどか「うん……」
ほむら「それで、どこから聞いていたの?」
プリニー「ほむら様がベッドに寝かせたすぐ後に目を覚ましたから…ほぼ全部ッス……」
まどか「ごめんね、ほむらちゃん……」
ほむら「……元々あなたには話すつもりではいたわ。だから…まどか?目が赤いけど…あなた、泣いて……」
まどか「だって…だってわたし、ほむらちゃんのこと…ほむらちゃんを忘れちゃってたなんて……!」
ほむら「……気にしないで。覚えてなくて当然なんだもの」
まどか「それでも……」ギュウ
ほむら「まどか……?」
まどか「それでも……!ごめん…ごめんね、ほむらちゃん……!」ポロポロ
ほむら「まどか…ありがとう……」
まどか「……ねぇ、ほむらちゃん」
ほむら「……何?」
まどか「わたしも…わたしも、ワルプルギスの夜と戦うよ」
ほむら「それは……」
まどか「わたし…もうほむらちゃんが傷ついていくのを見てるだけなんて嫌なの」
まどか「ほむらちゃんがわたしを守ってくれてるのと同じように…わたしもほむらちゃんを守ってあげたい」
ほむら「まどか……」
まどか「それに…こんなこと言っても仕方ないとは思うんだけど……」
まどか「わたしとほむらちゃんが力を合わせれば、何だってできる。そう思うの」
まどかが泣きはらした目で私を見る。もう、覚悟は決まっているようだ
魔法少女ではないとはいえ、プリニーとの魔チェンジでの攻撃力は私たちの中では一番だろう
その分防御能力は一般人と同程度だが、私がサポートしてやればいい
ほむら「やっぱり、あなたには敵わないわね……」
まどか「え?」
ほむら「……まどか、私と一緒に戦ってほしい」
まどか「……!うん、わかった!」
プリニー「ほむら様、いいんスか……?」
ほむら「防御に関しては私がサポートする。それにまどかのことだから、変に断るより最初から側にいてもらった方がいいわ」
まどか「えぇー…そんな信用ないの……?」
ほむら「信用はしてるわよ、まどかだもの。そういうことじゃなくて……」
ほむら「……ずっとあなたを見てきたもの。そのくらいなら、わかるわ」
まどか「それだけ…ほむらちゃんはわたしを見ててくれたんだね。……だとしたら…嬉しいな」
まどか「ほむらちゃんは、わたしの……」
まどか「……わたしの、最高の友達…だよ」
ほむら「友達……」
まどか「ほむらちゃん……?」
ほむら「……何でもないわ。随分と遅くなったし、もう休みましょう」
まどか「え、あ、うん」
最後の難関、さやかの魔女化も乗り越えることができた。……彼女の告白の結果次第では多少のフォローが必要になるかも知れないけど
これでもう、障害は何もない。あとはワルプルギスの夜を倒すだけだ
ワルプルギスの夜出現の日までは私とまどか、さやかの特訓に充てることにしよう。今のままではまだ不十分だ
私とさやかは秘技の習得、まどかは私との連携の確認。マミと杏子については何も心配はしていない
それと、気になるのはインキュベーターのことだ
ワルプルギスの夜が倒されることが奴らにとって不都合とはどういうことだろうか
何にせよ、きっとまた何か妨害してくるはずだ。注意した方がいいだろう
思えば、私を含めて魔法少女4人に加え、未契約ながら戦えるまどか、プリニーというイレギュラーの協力もある。今までで最高の条件だ
これなら勝てるはずだ。今度…今度こそ、ワルプルギスの夜を倒して、まどかを…まどかの全てを守ってみせる
――数日後――
ほむら「……さて、ついに明日ワルプルギスの夜が現れるわけだけど…みんな大丈夫かしら?」
マミ「えぇ、私は大丈夫」
まどか「わたしも大丈夫だよ、ほむらちゃん」
杏子「アタシも万全だ」
さやか「あたしも大丈夫ー。……はぁ」
杏子「ホントか?どう見ても引きずってるようにしか見えねぇぞ」
さやか「んー…大丈夫ってのはホント。どうしてこの天使のようなさやかちゃんをフるかなー、しかし」
杏子「自分でそういうこと言っちゃうからじゃねぇか?」
さやか「やめて…普通に突っ込まないで、今になって恥ずかしくなってきたから」カァ
ほむら「さやかみたいな天使がいたらそれこそ世も末ね」
杏子「案外いるんじゃねぇか?世の中3人は似てる奴がいるって言うだろ。天界もその範疇かは知らんけどよ」
さやか「何この仕打ち…傷心のあたしに何てこと言いやがるんだこいつらは……」
あれから数日…ワルプルギスの夜出現の前日の今日、全員集まっての作戦会議をする為に私の家に集まってもらった
心配していたさやかは、告白が上手く行ったわけではないようだが、酷く落ち込んでるわけでもないようだ
さやか「それにしても驚いたよ。まさかまどかを戦わせるなんてねぇ」
ほむら「私だってまどかには安全なところで待っていてもらいたいわ。だけど……」
まどか「みんなが…ほむらちゃんが傷ついて行くのをただ見てるだけなんてできない。だから…わたしも戦う」
杏子「でもお前、攻撃以外は生身じゃ……」
プリニー「大丈夫ッス。魔力を使ってある程度の肉体強化はできるようになってるッス」
マミ「それならいいんだけど……」
さやか「まぁ何にせよ、そう言った以上は力を借りるよ?まどか」
まどか「うん!」
さやか「しかしあれだ、ほむらだけ別枠かー。まぁこんだけ同棲してりゃあ…ねぇ」
まどか「べ、別にそんなつもりじゃ……」カァ
ほむら「ほら、作戦会議始めるわよ」
作戦会議とは言ったが、正直そんな大層なことでもない
私たちの役割の確認とワルプルギスの夜の情報を伝える程度だ
あれだけ強大な相手に小手先の策を弄したところで意味が無いのは目に見えている。私たちが全力で戦うしかない
私は長いループの中で蓄積したワルプルギスの夜に関する情報を全て伝えた
出現予想地点、攻撃の種類と対策、使い魔の能力……
想像以上の量だったのか、さやかと杏子は途中でわけがわからない、って顔をしていた
仕方ないので要点を書いたメモを2人に渡しておいた
その全てを話し終えたときには、辺りはすっかり暗くなってしまっていた
ほむら「……それじゃみんな、明日はよろしく頼むわ」
マミ「えぇ。今日はゆっくり休んで、明日に備えましょう」
杏子「あぁ、そうするか。……最後に聞いておくが、さやか。本当に大丈夫なんだな?」
さやか「……うん。あたしだって、恭介を…この街を守りたい。だからもう、迷わない」
杏子「……その顔なら、もう大丈夫そうだな。強欲の天使がどうのこうの言ってたから心配だったんだ」
さやか「そ、そんなこと言ってたっけ?あたし……」
マミ「……さて、それじゃ今日はこれで解散にしましょう。みんな、明日は頑張りましょう」
そう言って挨拶を交わして、3人は私の家を後にした
明日に備えて今日は早く休もうと、いつもより早めに夕飯を食べることにした
しかし…どうもまどかの顔が冴えないような気がした
気のせいだと思っていたが、何か言いたげに私を見て、少しするとふっと視線を逸らす
何なのか検討がつかなったので、まどかが話してくれるまで待つことにした
それからしばらくして、私がお風呂から出たところで、まどかが話しかけてきた
まどか「ほむらちゃん…ちょっといいかな……?」
ほむら「何かしら?今日は早めに休んだ方がいいと思うけど……」
まどか「うん…すぐ終わらせるよ」
ほむら「今日はどうしたの?ずっと何か言いたそうにしていたけど」
まどか「……ワルプルギスの夜の前に…ほむらちゃんに、聞いておきたいことがあるんだ」
ほむら「私に……?」
まどか「ほむらちゃんは…どうしてそこまでわたしを守ろうとしてくれてるの?」
ほむら「どうしてって…この間の話、聞いてたんでしょう?」
まどか「聞いてたけど…でも、今のわたしはほむらちゃんには何もしてあげてないんだよ?それなのにどうして……」
ほむら「確かに…私に良くしてくれたまどかはとうの昔に死んでしまった。でも……」
ほむら「別の時間軸だろうが、私のことを覚えてなかろうが、それでも…私のたった1人の友達。だから、よ」
まどか「たった1人の……」
ほむら「今でこそさやかにマミ、杏子がいるけど…ひとりぼっちの私に、いつだって優しくしてくれたのは…まどか、あなただけ……」
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「それに、あなただって何もしてないわけじゃないわ。断ることだってできたのに、こうして私と暮らしてくれているし、夕飯も作ってくれる。何より……」
ほむら「私のことを支えてくれる…あなたがそう言ってくれたことが、私は…何よりも嬉しいの」
ほむら「本当は…あなたにも頼るつもりなんてなかった。全て私1人でどうにかするつもりだった」
ほむら「でも、結局…あなたを戦いに巻き込んでしまった。あなたに頼ってしまった。……ごめんなさい、私が情けないばかりに……」
まどか「そんなこと言わないで。わたしだからそういうことを頼っちゃダメだなんて、そんなことないんだから」
ほむら「まどか…私と一緒に戦うって言ってくれて、ありがとう。私に力を貸してくれる……?」
まどか「もちろんだよ。わたしとほむらちゃん、それにさやかちゃんとマミさん、杏子ちゃん。みんなでワルプルギスの夜を倒そう!」
ほむら「まどか……」
まどか「話、聞いてくれてありがとう。それじゃわたし、お風呂行ってくるね」バタン
ほむら「さて…いるんでしょう?インキュベーター。出て来なさい」
QB「……こんばんは、暁美ほむら」
ほむら「今更何の用?」
QB「ついに明日に迫ったわけだけど…本当にワルプルギスの夜を倒すつもりかい?」
ほむら「愚問ね。当然よ」
QB「そうかい…残念だ。以前も話したけど、ワルプルギスの夜を倒されると僕たちにとって都合が悪い」
QB「だからその交渉をしに来たんだけど…どうやら無駄のようだね」
ほむら「そうね。話をする余地なんてないわ」
QB「……きっと君たちは後悔することになる。精々絶望しないように頑張ることだね」スゥ
プリニー「ほむら様……」
ほむら「プリニー?何かしら。あなたたちも私に話?」
プリニー「そうッス。……オレたちは中の魂が皮を動かしてるって言ったッスよね?」
ほむら「えぇ、そう聞いたわ」
プリニー「その魂…元は罪を犯した人間の魂ッス」
ほむら「……!人間の……?」
プリニー「全部が全部そうというわけじゃないッスが…ほとんどは生前に罪を犯した人間の魂が詰められているッス」
プリニー「もっとも、ほとんどのプリニーはプリニーになった時点で生前の記憶はほぼ失っているッスけど……」
ほむら「そう……。それならきっと、私も死んだらプリニーになるのかしらね……」
ほむら「仕方がなかったとはいえ、まどかを殺し、銃器を盗んで…地獄に堕ちるだろうとは思ってたけど、まさかプリニーになるなんてね……」
プリニー「……魔界のプリニーはオレたちの比じゃないレベルでツラいッスよ」
ほむら「忠告ありがとう。……私はもう休むわ。まどかがあがったらそう伝えて頂戴」
プリニー「了解ッス」
ガチャ
まどか「ほむらちゃん…もう寝ちゃったかな……?」
ほむら「……」Zzz
まどか「寝てる…みたいだね。それじゃほむらちゃん、ちょっと失礼するね」ゴソゴソ
まどか「ほんとはちゃんと言った方がよかったんだろうけど…ごめんね」ギュウ
まどか「面と向かって言うと、きっとわたし泣いちゃうだろうから…ここで言わせてもらうね」
まどか「ほむらちゃん。今日までずっと、わたしのことを守ってくれて…ありがとう」
まどか「自惚れじゃなければ…ほむらちゃんはわたしのために、全てを捨ててでも救おうとしてくれてるんだよね……」
まどか「でも、そのせいでほむらちゃんがボロボロに傷ついて…最悪どこかで死んじゃってたと思うと…わたし、胸が苦しいの」
まどか「ほむらちゃんはどう思ってるかわからないけど…わたしはほむらちゃんのこと、心から大事な人だって…そう思ってる」
まどか「きっと…友達よりももっと大事な人だって…そんな気がするんだ。だから……」
まどか「ほむらちゃんにはもう、辛い思いはしてほしくない。今まで辛かった分…ほむらちゃんに笑っていてほしい」
まどか「だから…ここでワルプルギスの夜を倒して…全て、終わらせる……」
まどか「ほむらちゃんは…わたしが守ってみせる…よ……」