まどか「……ほむらちゃん?」
元スレ
ほむら「まどか……ちょっといいかしら」
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放課後、一人で帰路についていた時のこと。
急に後ろから呼び止められ振り返ると、そこには真剣な面持ちで
こちらを見つめているほむらちゃんがいた。
「あの……その、よ、よかったらでいいのだけれど……。
まどかにね、一つお願いごとがあるの」
すると、さきほどの真顔から一変して、
言いづらそうに目を泳がせている。
それもそのはず、ただでさえ、普段の生活の中で彼女が人にお願い事をするなんてのは、
かなり珍しい部類に入る行動なのである。
これはきっと、よほど大事なことを頼まれるのではないかと覚悟し、
わたしは身構え、そして息を呑んだ。
「う、うん。わたしにできることなら……」
少々、消極的な受け答えになってしまったかもしれない。
しかし、これからほむらちゃんから発せられるであろう難題を、
安請負するだけの自信は、わたしにはなかった。
(でも、わたしには無理なことだったとしても、力にはなれるよね……)
そう、だからといって無下に断る気もさらさらない。
自分の中で意を決すると同時に、ほむらちゃんの方も心の準備ができたみたいだった。
「その……私のことを……、一度だけで良いから、
"ほむら"って呼んでみて欲しいの」
「へっ?」
その言葉に、思わず、気の抜けた声を出てしまう。
ほむらちゃんのお願いは、緊張して身構えてしまった自分が馬鹿らしくなるような、
可愛らしいものだった。
「あ、えと、やっぱり……ダメよね……。まどかが誰かを呼び捨てにするの、
聞いたことないし……」
わたしがそのギャップに驚き、黙っていた様子が、
ほむらちゃんには渋っているように見えたのかもしれない。
そんな、目に見えて落ち込んでいくほむらちゃんに、慌てて声をかける。
「ち、違うの! ほむらちゃん。……ごめんね、ほむらちゃんがわたしに
お願いするなんて珍しいことだったから、ちょっと驚いちゃって……。
だから、そのお願い自体は、全然なにも問題ないよ。
これからずっとっていうのは、ちょっと無理そうだけど……」
(かなり端折っちゃったけど、嘘はついていないよね……?)
そう自分に言い聞かせ、ほむらちゃんを元気付けるよう、そっと微笑んであげる。
「う、うん……今だけでいいの。ありがとう、まどか……」
わたしに感謝を述べるほむらちゃんは、本当に嬉しそうで……。
ほむらちゃんの意図はわからないけど、こんなことで喜んでもらえるなら、
わたしも嬉しい。
「じゃあ……いくよ?」
「……え、ええ」
しかし、いざ言おうとしても、それがなかなか難しい。
ほむらちゃんの言うとおり、わたしは普段、
人を呼び捨てにする事なんて滅多にない。
ちらりとほむらちゃんの顔を覗く。
そこには、緊張した面持ちの中、期待に満ちたような瞳で
こちらを見ているほむらちゃんがいた。
(うぅ……)
こんな表情をされてしまっては、言わないという選択肢を
選ぶことなんて絶対にできない。
わたしは観念し、できるだけ丁寧に、言葉を発した。
「……ほ、ほ……むらっ」
だが、そんなわたしの第一声は、裏返り、なんとも情けないものとなった。
(緊張してるの、ばればれだよね……)
いくらなんでもこれでは、と思い、おほんと咳払いして仕切り直す。
そして、すぅ、と深呼吸をし、しっかりとほむらちゃんを見つめなおして、
もう一度その名を呼んだ。
「……ほむら」
今度はちゃんと言えただろうか。
心配になって、おそるおそる、ほむらちゃんの様子をうかがう。
すると、今度のほむらちゃんは、頬を少し赤く染め、じっとわたしを見つめていた。
(やっぱり……変だったかな……)
呼び捨てた事にちょっとした後悔を感じていると、その視線に気づいたのか、
ほむらちゃんが両の手を胸元に当て、そっと瞳を閉じる。
そして、今までに見たことないような、とびきりの笑顔をわたしに向け、こう答えた。
「はいっ……まどか」
その一点の曇りもない笑顔に思わず、どきっとしてしまう。
世間的に見て、ほむらちゃんはたぶん、
いや、かなりの美少女と言われる類の子であることは間違いない。
そんな子の満面の笑みが、自分に向けられるのが嬉しくもあり、
同時にそれは、胸が高鳴るものだった。
「……まどか?」
そんな惚けていたわたしを心配してか、ほむらちゃんが怪訝な顔つきでのぞきこんでくる。
「えっ、あ、あはは……やっぱり、ちょっと恥ずかしかったかな」
「ごめんなさい……まどか、無理をさせてしまって……」
「うぅん、そんなことないよ。それに、ほむらちゃんに喜んでもらえたなら、わたしも嬉しいし」
「まどか……」
「だから、こんなことで良かったら、遠慮せずにいつでも言ってね」
「うん……ありがとう、まどか」
そしてまた、ほむらちゃんがわたしに向けて微笑んでくれた。
(そうだ……そうなんだ)
初めて出会った頃は、感情をあまり出さなくて……、
けれど、とても綺麗な瞳をしている少女だった。
だからこそ、わたしは、その少女の満面の笑顔がずっと見たかったんだと思う。
「ほむらちゃん。やっぱり、ほむらちゃんは、笑顔が一番、似合うと思うな」
「……えっ」
「だから……ね、これからはずっと、笑っていてほしいの」
「まどか……。ええ……私、笑うわ。それに……まどかが隣にいてくれたら、
私ずっと笑っていられると思うの」
「ほむらちゃん……」
その笑顔と言葉に思わず、わたしはほむらちゃんの手を握ってしまう。
掌を通じて伝わってくるのは、ほむらちゃんのあたたかなぬくもり。
「ま、まどか……その……手……」
「繋いで帰ろう、ほむらちゃん。……ダメかな?」
「う、ううん! だ、ダメじゃ……ないわ」
そして、二人で手を繋いで歩き出す。
ほむらちゃんは少し頬を赤く染めていて、わたしもちょっぴり恥ずかしくて。
でも、嫌じゃなくて、とても幸せで、心があたたかくなる、そんなひととき。
ずっとずっと、共に歩んでいきたいと思った。
「……まどか」
「なぁに? ほむらちゃん」
「よ、……呼んでみただけ」
「えへへ、……"ほむら"」
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