唯「私ねぇ、最近あずにゃん見るとムラムラするんだぁ」
梓「はい?む…むらむらですか?」
唯「うん。あずにゃんが可愛いから一緒にいると手ぇ繋いだりぎゅーてしたりちゅーしたくなるの」
梓「な、何いってるんですか唯先輩!そ、そんな…ちゅーなんて…」
元スレ
唯「あずにゃん、ちゅーしよっか」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1247144718/
唯「私、あずにゃんの事が好きなのかも…」
唯「ねぇあずにゃん、ちゅーしよっか」
梓「!?」
唯「だめ?」
梓「だだだだ駄目ですよそんなの!私達女の子同士なのにっ」
唯「どーしてぇ、女の子同士だっておかしくないよぉ」
梓「だ、誰かに見られたら困りますっ!」
唯「だいじょぶだいじょぶー、まだ皆来てないから。ねっ!」
唯は笑顔のまま梓に近付いてくる
梓「えっ、ちょっ待って……んぅっ!?」
チュウ
唯「…えへへ~あずにゃんの唇奪っちゃったぁ」
梓「な、なんで……」プルプル
唯「……あずにゃん?」
梓「何でいきなりこんな事するんですか!唯先輩の馬鹿っ!」
唯「!」
―ガチャ ゾロゾロ
律「おーっす!」
紬「遅れてごめんなさい」
澪「お、二人はもう来てたんだな」
唯「みんなぁ」
梓「………」フイッ タッタッタッ
澪「あれ、梓?」
律「何だぁー?梓出ていっちまったぞ」
紬「どうかしたのかしら…」
澪「唯?何かあったのか?」
唯「…………」
律「ゆーいー?」
唯(あずにゃん……泣いてた…)
唯(泣かせちゃったよぉ…)
次の日朝
梓(唯先輩の馬鹿…本当にキスするなんて酷過ぎます…)
梓(私、初めてだったのに…あんないきなり…)
梓「……ばか…」
唯「おーい!あーずにゃーん!」
梓「!!」
唯「あずにゃん、おはよぉ!」
梓「ゆ、唯先輩……おはようじゃないですっ。私に話しかけないで下さい!」キッ
唯「あずにゃん…どしてぇ、何でそんな事言うのぉ?」
梓「だって先輩がっ!昨日ムリヤリ…冗談であんな事するからです!」
唯「あずにゃん……」
梓「……」ツーン
唯「…あのねあずにゃん。私、冗談でやったんじゃないよ?」
梓「…えっ?」
唯「今まではふわふわ~て感じの気持ちだったけど、昨日ちゅーしてみて分かったんだよ」
唯「私はあずにゃんの事が好き」
梓「唯先輩……ほ、本気なんですか?」
唯「本気だよぉ。いくら私でも冗談でこんな事いえないよ~」
頭を掻きながら唯はふにゃりと笑った
梓「でも、私は女なんですよ!?」
唯「えーっ?そんなの関係ないよ。女の子でも男の子でも、私はあずにゃんが好きなんだよぉ」
梓「だ、だけどそんな…急に言われたらビックリしちゃいます…」
そのまま梓は黙り込んで俯いてしまう
唯「…ねぇ、あずにゃん」
梓「…?」
唯「私はあずにゃんが好きだから、もっともーっとあずにゃんと仲良くなりたいんだ」
唯「だから、もし良かったら私と付き合って欲しいよ」
唯「今すぐじゃなくていいから、考えてみてほしいなぁ」
梓「唯先輩……」
梓(唯先輩が…わたしを好きだなんて…)
梓(付き合うとかそんなの、考えた事も無かったのに…)
梓(でも何だかドキドキする。唯先輩の顔、真剣だったな)
梓「………」
放課後部活
梓(部活…来てみたけど唯先輩がいるから何か緊張するなぁ…)チラッ
唯「?」ニコッ
梓(わっ、目が合っちゃった…恥ずかしい)フイッ
ジャカジャカジャカ――ジャッ
梓(うわわっ、演奏ミスしちゃった!)
律「梓どーした?今日調子悪いじゃん」
梓「ごっ、ごめんなさい!」
紬「ううん良いんだけど…具合でも悪いのかしら?大丈夫?」
梓「大丈夫です!ごめんなさいもう一度最初からお願いします」
律「ん、了解。…1,2,3,4!」
ジャーン
練習を再開したが、その後も梓は唯を気にするあまりミスを連発した
紬「まぁ…調子が悪い時は誰にでもあるものね?」
梓「ごめんなさい!ごめんなさい…」
律「そんなに気にしなくていいぞ梓!」
梓「ごめんなさい…」
澪「………」
梓(今日の演奏、全然ダメダメだった…皆に迷惑かけちゃったな…)シュン
梓(もう帰ろう…今日は早めに寝たほうが良いかなぁ)
唯と顔を合わせるのが気まずくて、梓は早足に部室を出て行く
澪「梓ー!ちょっと待ってくれ」タッタッタッ
梓「あれ…澪先輩だ」
澪「はぁ、はぁ……梓、もう帰るのか?」
梓「あ、はい。そのつもりですけど…私に何か用事でしたか?」
澪「いや、用事というかだな…その…」
梓「?」
澪「梓、今日調子悪かっただろ?浮かない顔してたし、何か悩みでもあるんじゃないかと思って」
梓(澪先輩、私の様子が変なの気付いてたんだ)
澪「だからっ…えと、梓が困ってる事があるんだったら私で良ければ相談にのるよ」
少し照れ臭いのかぶっきらぼうな調子で言う澪
だけど梓を見るその表情は本気で心配しているのが伝わってくる
梓(澪先輩、優しいんだな)
梓(澪先輩になら、話してみてもいいかも…)
悩みの内容が内容なだけに少し躊躇ったが、結局聞いて貰うことにした
誰もいない教室
梓「……という事があって、それで告白されて…」
澪「………」
梓「私、唯先輩の気持ちにどう答えればいいのか分かんなくって」
澪「………」
梓「あの、澪先輩?聞いてますか?」
澪「………」
梓(どうしたんだろ澪先輩…さっきからずっと黙ってる)
梓(もしかして引かれちゃったのかな…どうしよう、やっぱ言わなきゃ良かったかも…)
不安になっておそるおそる澪の顔を覗き込む
澪はどこか青ざめたような顔をしていた
澪「……キス…?梓と、唯が…?」ブツブツ
梓「澪先輩?」
澪「しかも告白って…告白って…」ブツブツ
梓(澪先輩の様子が変だ…)
梓(そっとしておいたほうが良いのかな…でも私の相談に乗ってくれるって言ってたし)
梓「澪先ぱ」
澪「――梓っ!!」ガシッ
梓「きゃっ!?」
急に両肩を掴まれて梓は目を白黒させる
何事かと思った瞬間、眼前に澪の顔が近付いてるのが見えた
梓(えっ…?)
チュウ
梓「んっ…んむーーー!?」バタバタ
唇に押し当てられた柔らかい感触に驚いて梓は手足を暴れさせて澪から離れる
梓「ぷはっ…み、澪先輩…いきなりどうしたんですか!?」
梓(何で…?何で澪先輩がこんな事を…)
澪「……ご、ごめん梓。つい…」アタフタ
梓「私、真剣に相談してたのに!澪先輩どうしてそんな事するんですか!」
澪「え……」
梓「ふざけるなんて酷いです…」
澪「…!!ち、違う!私はふざけてやったんじゃない!」
梓「えっ、じゃあ…ど…どういう事ですか?」
澪「ど、ど、どういうって…だからつまりだな…」
澪は途端に顔を赤くしてキョロキョロしながら唸っていたが、意を決したように言った
澪「わ、私も梓の事が好きなんだ!!」
梓「ええっ!?」
澪「だから梓が唯にキスされたって聞いて、何か悲しいっていうか悔しいっていうか、それで…」
梓「………」
澪「……ごめん、いきなりキスなんかして。怒ったか…?」
梓「怒るっていうか……驚きました…」
梓(澪先輩が、私を好きだったなんて…)
まだキスの感触が残る口元を押さえて俯く梓に澪は真剣な眼差しを向ける
澪「でも私は本気なんだ。出来れば梓と…その、友達以上の関係になりたいんだ。女同士なのにって思うかもしれないけど、よかったら考えてみてくれないか」
一気に捲くし立てるように喋った澪は顔を真っ赤にさせていた
恥ずかしがり屋の澪にしてはよほど頑張ったのだろう
澪「自分から聞いといて相談に乗れなくて悪い」
澪「でも今言った事は嘘じゃないから!」
それだけ言い残して澪は教室を去っていった。
梓「……………」
梓(澪先輩…それに、唯先輩……)
梓(私一体どうしたらいいんだろう)
翌日放課後の部室前
梓(ああ…部活行きにくいなぁ)
梓(まさか二人から告白されるなんて思わなかったもん。キスもされちゃったし…)
梓(二人とキスするなんて…こういうの淫乱っていうんだっけ…??)
梓「うう……私は淫乱……」
タッタッタッ
唯「あずにゃーーん!!会いたかったよぅー」ギュッ
梓「わああっ!?ゆ、唯先輩っ」
唯「えへへぇ、あずにゃんぎゅうううううう」
梓「は、離してください///」
唯「えーでもでもぉ、あずにゃんあったかいんだもん」
梓「そんな事言っても駄目ですっ!」
梓(昨日の今日だからいつもの何倍も恥ずかしい…!)
唯「ふぃ~~っ。あたたかぁーいねぇー」
梓「唯先輩、いい加減に…」
ガチャ
澪「唯?部室の前で何騒いでr……」
梓「あっ……」
唯「うぅ?」
梓「澪先輩」
澪「………」
唯「お?どしたの澪ちゃーん」ヒラヒラ
澪「あ、はは……仲良いんだな、二人は…」
心なしか澪の顔は引き攣っているように見えた
そのまま澪はフラフラと歩いて部室へ戻っていった
唯「ありぃ?何か澪ちゃん元気ないみたいだぁ」
梓「……」
梓(今のは私が悪いのかなぁ…………)
唯「いや~、今日もお茶が美味しいねぇ」ズズッ
律「お前はジジババかよ…ま、でもむぎの淹れる茶は確かに美味いよなっ」
紬「うふふ有難う」
澪「さて…そろそろ一服できたし、練習始めないか?」ガタッ
梓「そうですね、始めましょう」カタン
唯「ええっちょっと待ってよぉ。まだこのマドレーヌが残ってるんだよー」
梓「もう…・それは部活が終わってからゆっくり食べればいいじゃないですか」
唯「駄目だよっ、鮮度が落ちちゃうってばぁ」
梓「鮮度って…(そんなに変わるのかなぁ?)」
澪「ほら唯、梓が困ってるだろ?早く練習始めよっ」
唯「うーでもぉ。…あ、そうだあずにゃん半分こしようよー!そしたら早く食べられるしっ」
梓「えっ?わ、私はもう十分食べたからいいですよ」
唯「まぁまぁそう言わずに。はい、アーン!」
梓「ええっ!?///」
唯「あーーーん」
梓「あ……あーん」パクッ
唯「あはは食べた食べたぁ、半分こ美味しいねーあずにゃん」
梓(う、つい食べちゃった……///)
澪「……………」
練習を始めてからも唯は梓にちょっかいを出してくる
告白した事でテンションが上がっているのか、いつもよりスキンシップの数も増えていた
唯「あずにゃん」
唯「あーずにゃー」
唯「あっずにゃんっ」
唯「あ・ず・にゃ・ん!」
律「何か今日はやけに唯がはしゃいでるなー」
紬「うふふふふふふふふふふふふふ」
律「ほんっと唯と梓は仲がいいよな」
澪「……………」
部活が終わりに近付くにつれ、澪の表情はだんだんと曇っていった
澪(梓も唯も……凄く楽しそうだな…)
澪(梓はやっぱ唯と居るほうが良いのかなぁ)
澪(…………)
落ち込んだ気持ちのまま部活時間は終了し、皆で帰り支度を始める
律「なーなー今日どっか寄ってかねぇ?」
唯「いいねぇー!何食べに行こっかぁ」
律「食べるの前提かよ…まぁいいや。おーい、梓もいくだろー?」
梓「はい、特に用事も無いので私も行きます」
澪(梓も行くのか…今日あんまり話せなかったし一緒に話しながら行こうかな)
澪「なぁあz」
唯「あーずにゃん!手ぇ繋いでこーよぉ」タタタッ
澪(えっ)
梓「や…やです。そんな子供みたいな事したら恥ずかしいですっ」
唯「いいじゃんいいじゃん、減るモンじゃないし繋ごうよ」ギュウ
梓「あっ、ちょっと……唯先輩ってば強引過ぎます」
唯「えへへっ、あずにゃんの手あったかい」
澪「……………」プチ
手を繋ぐ二人の姿を見て何かが澪の中で切れた音がした
無言のままずんずん二人に歩み寄っていくと、梓から唯の手を振り払った
唯「ひゃあ!?」
梓「……!?」
紬「澪ちゃん!?」
律「どっ、どした澪――」
澪「いっ…………」プルプル
澪「いい加減にしてーーーーっ!!!」
全員『!!??』
澪「唯はいつもいつもいつも梓に触り過ぎなんだよっ!いくらなんでもスキンシップ過多だろ!」
澪「私だって、私だって…」
唯「みみみ、澪ちゃ」
澪「私だって梓に触りたいのにぃーーーーー!!!」
うわあああんと泣き出す澪に一同は唖然となった
紬「あらあらあらあらまぁまぁまぁまぁ!」キラーン
梓「澪先輩……」
その後とりあえず全員で泣きじゃくる澪を宥め、再びテーブルに着席する
この騒ぎで隠す必要も無くなり澪と唯と梓の話はひととおりの経過を話す事にした
全てを聞き終えた紬はゆっくりと三人を見渡して目を輝かせながら言った
紬「つまり……唯ちゃんも澪ちゃんも、梓ちゃんの事が大好きなのね?」
唯「うん!大好きぃ」
澪「………」グスッ コクリ
律「ほぉー、二人が梓をねぇ」
梓(私…凄くいたたまれない気持ちだ…)
紬「それで……どうなのかしら?梓ちゃんの気持ちは?」
紬に見つめられ、梓はカタリと緊張した
唯と澪の視線も感じてどうしていいか分からず小さくなってしまう
梓(私…私のきもち…)
梓(私は唯先輩の事をどう思ってるんだろ…澪先輩の事をどう思って…)
梓(分かんないよ。昨日告白されたばっかりなのに、自分の気持ちなんて…)
梓「……わかん、ないよぉ…」
澪「梓…」
唯「あずにゃん…」
ギュッと目を瞑って俯いてしまった梓に澪も唯も悲しそうな顔になる
そんな三人を見つめながら紬は穏やかな表情で微笑んだ
紬「きぃーみはだれーとーきーすーをーすーr」
律「むぎ、歌わなくていいぞ」
紬「あら?」
三人『…………』
気まずい表情のままの三人
紬は気を取り直すようにこほんっと一つ咳払いをして、改めて切り出す
紬「二人は梓ちゃんを好きだけど、梓ちゃんはまだ分からないのよね」
紬「分かるようにするには相手の事をもっと知るべきだと思うの」
紬「だからこういうのはどうかしら?唯ちゃんと澪ちゃんはそれぞれ期間限定で梓ちゃんの恋人になってみるの」
澪「え」
唯「え」
梓「え」
律「え」
四人『…………え?』
全員の頭に疑問符が浮かんだ
紬は気にせず言葉を続ける
紬「いわゆるお試し期間、っていうのかしら。恋人期間中に梓ちゃんのハートを射止めたほうが本物の恋人になれるの」
梓「そ、そんなのって…」
律「おいおいむぎぃ、いくら何でもそりゃねーだろぉ」
梓は慌てて反論しようとし、流石の律も苦笑いだ
…が、紬の言葉に火をつけられた人物もいた
澪「…私、いいよそれでも」
律「澪ぉ!?
澪「私は梓が好きだから…。でも唯の事も大切な仲間だから、正々堂々やりたいんだ」
唯「澪ちゃん…」
澪の言葉にだんだんと唯の表情も明るくなっていく
唯「うんっ!私も澪ちゃんと同じ気持ちだよっ。受けて立つよぉ!」
律「な、なんか二人ともすっかりやる気だな…で、どうなんだ梓は?」チラ
梓「!!わ、私は……」
梓(ていうかそんなの二人に対して失礼じゃないのかな。私なんてそんな大した人間じゃないのに…)
まるでゲームのような条件は二人に悪いような気がしてしまう
悩んで黙り込んでいると、唯と澪が不安そうに梓を見つめてきた
唯「あずにゃん…嫌、かなぁ?」
澪「梓が嫌ならしないから、ハッキリ言ってくれていいぞ…?」
梓「嫌…じゃないです。でも本当にそんなの良いんですか?」
唯「いいに決まってるよぉ!」
澪「いいに決まってるだろ!」
二人は声をハモらせてきた
梓はパチクリ瞬きをしてそんな二人を交互に見つめる
梓(私もまだ二人の知らないとこがいっぱいある…)
梓(二人を知るにはむぎ先輩の提案は良いのかもしれない)
紬「梓ちゃん、どうかしら?」
最後に紬のキラキラオーラを浴びせられ、とうとう梓は頷いた
梓「分かりました…先輩達がいいなら私も頑張ります」
唯・澪『!!!』パアッ
紬「うふふふふ、決まりね」
紬はどこか満足そうに頷き、頬を薔薇色に染める
律「んでさ、まずどっちが梓の恋人になるんだよ?」
素朴な疑問を投げる律の言葉に唯と澪はハッと息を飲んで互いを見やる
二人はしばらく無言で見つめあい、どちらからともなく身構えた
唯「最初は」
澪「グー」
唯・澪『……じゃん、けん……』
―――――――ぽんっ!!!
次の日朝
唯「あずにゃんおはよぉ!」タタタッ
梓「唯先輩。おは、おはようございます」
唯「今日から私達、恋人同士だねあずにゃんっ」
そう、じゃんけんの結果先攻は唯となっていた
梓「ちょっ、ちょっと唯先輩ってば声大きいです!」
唯「ふぇ?」
梓「誰かに聞こえちゃったらどうするんですか…」キョロキョロ
唯「…あずにゃんは嫌?私と恋人同士なの…」
梓「い、嫌じゃないって昨日言いました。何ていうか、その…」
唯「??」
梓「こ…こういうの初めてで……恥ずかしいです…」カァァ
唯「あはっ、あずにゃん照れてる~かぁわいいぃ」
梓「かっ可愛くないです!!」
唯「あはは。ねぇ、手ぇ繋いでいこっか」
梓「あ………」
返事もしないうちに唯は梓の手を取って歩き出した
唯の気持ちをしった後ではその行為に今までとは違う感覚が梓の中に生まれる
梓(唯先輩の手、あったかい)
梓(……ドキドキ)
教室
梓(期間限定だけど、恋人かぁ…)
梓(付き合うってどんな事するんだろ。遊びに行ったり、手を繋いだりとか?)
梓(あれ?でもそれだと今までとあんまり変わらないような…)
考え込んでるうちにふと昨日のキスを思い出してしまう
梓「はっ……そっか、恋人同士だとそういう…!」
梓(また、キスしたりするのかな)
梓(先輩と………)モヤモヤ
梓「は、恥ずかしい…///」
憂「おはよう梓ちゃん」タタッ
梓「わっ!?あ…憂、おはよう」
憂「どうかしたの?何だか独り言言ってたみたいだったけど」
梓「う、うんちょっと昨日色々あって」
憂「色々…ってもしかしてお姉ちゃんと恋人同士になった事?」ヒソッ
梓「!!憂知ってたの!?」ガタタッ
憂「うん、昨日お姉ちゃんが嬉しそうに話してくれたから。澪さんの事も」
梓「そうなんだ……唯先輩のおしゃべり」ポソ
梓「でも憂……私、恋人って何をすればいいのか全然分からないんだ」
憂「わからない?」
梓「誰かと付き合った事なんてないし…私がこんなんじゃ、唯先輩も澪先輩もがっかりさせちゃいそうだよ」
憂「梓ちゃん……」
憂(梓ちゃん、悩んでるんだ……)
憂「…大丈夫だよ、梓ちゃん!」
梓「え?」
憂「お姉ちゃんも澪さんも、そのままの梓ちゃんが大好きなんだよ」
憂「だから心配しなくてもきっと大丈夫。梓ちゃんは梓ちゃんのペースで頑張ればいいんだよ」
梓「憂……」
憂の言葉で少し気持ちが落ち着いたのか、梓はほっと微笑んだ
梓「そうだね、私は私なりにやってみる。有難う憂」
憂「ううん良いんだよ、私達友達だもん!ねっ」
梓「うんっ」
キーンコーンカーンコーン
憂「あ、授業始まっちゃうね。それじゃまたあとでね」
梓「うん、ありがと憂。また後で」
タタッ
憂(良かった、梓ちゃんちょっと元気出たみたい)
憂(でも……お姉ちゃんと澪さんが恋人…かぁ)
憂「………」
憂(私もほんとうは……ううん、)
憂(私は梓ちゃんを応援してるよ。頑張ってね、梓ちゃん…)
唯と梓の恋人期間が始まってから数日が過ぎた
この頃ではなんとなく、部活時間中のいちゃつきは禁止というのが暗黙の了解になっていた
唯「あずにゃん一緒に帰ろ!」
梓「はい、帰りましょう」
唯「ほぃ」ギュッ
梓「はい」キュ
梓(いつの間にか、唯先輩と自然に手を繋げるようになっちゃった)
梓(最近毎日だから流石に慣れてきたかも?)
唯「ぽぴぽぴぽっぴ♪」ルンルン
梓(へんな歌…唯先輩ご機嫌さんだな)
唯「そだ、あずにゃんさぁ今日うちにお泊りしてってよぉ」
梓「お泊りですか?」キョトン
唯「うん!おいでよっ」
梓「でもそんなの家の人にご迷惑なんじゃ…」
唯「お母さん達は旅行に行ってるし、私と憂だけだから大丈夫だよ~」
梓「そうなんですか?」
平沢家
唯「いらっしゃいあずにゃん!ようこそ我が家へっ」
梓「おじゃまします」ペコ
憂「梓ちゃんいらっしゃい。何にもないけどゆっくりしてってね」
梓「うん、有難う」
梓(ここに来るの久し振りかも。しかも今日はお泊りだ…)
唯「ほらほら上がって上がってぇ。もうご飯も出来てるんだよ」クイクイ
梓「は、はいっ」タタッ
案内されて居間にいくと香ばしい良い匂いが漂っていた
唯「じゃ~ん、ハンバーグぅ」
梓「わぁ…凄く美味しそう!」
唯「憂のご飯は美味しんだよぉ。あずにゃんもきっとホッぺがとろけるよ~」
梓(憂の手作りなんだ。凄いなぁ)
憂「じゃ、皆で食べよっか」
梓「うん、いただきま」
唯「んむんまい!!!」モグモグモグモグ
梓「早っ!!」
憂「あはははっ」
三人で食卓を囲む賑やかな団欒の時間はあっと言う間に過ぎていき、
食事のあとは憂は二人に気を使ったのか勉強をすると言って自室に戻っていった
梓は唯の部屋に行きしばらくお喋りをしながら寛いだ
唯の部屋
ガチャ
唯「あずにゃん、お風呂用意できたから入っていいよぉ」
梓「え?でも一番風呂だなんて悪いですよ」
唯「いいんだよぉ、あずにゃんお客さんだもん。どぞどぞ」
梓「いえ、先輩なんですからどうぞ先にいってきて下さい」
唯「ん~~ぅ」
唯「………………はっ!」ピコン
唯「あずにゃん、一緒にh」
梓「却下ですっ!!///」
唯「おぉそくとうだ……やふぅー」ガックシ
梓(絶対無理…///)
結局先に唯が入浴を済ませ、その後に梓も風呂へ向かった
チャポン
梓(人の家のお風呂って何か緊張するなぁ)
梓(髪洗おっと…あ、これ先輩が使ってるシャンプーかな?)シャカシャカ
梓(…………)シャカ・・・
梓(先輩の匂いだ)
梓「…///」
ガチャ
梓「お風呂ありがとうございました」
唯「おかえりあずにゃーん。えへっお風呂上りの良い匂い~」ムギュ
梓「先輩…今抱き付かれると暑いです…」
唯「でもあったかいよっ」
梓(ほんとに暑いのにな…ちょっとのぼせ気味かも)
唯「んー……」
梓(顔がポカポカしてる…唯先輩は暑くないのかな?)
梓「はぁ……(暑い…)」
唯「………」
梓(あれ?先輩大人しくなってる)
梓「先輩どうかしましたか?」
唯「あずにゃん……」ジッ
梓「はい?」
梓(どうしたんだろ、いつもと様子が…)
唯「む………」
梓「む?」キョトン
唯「ムラムラ……!」
梓「はい?―――えっ」
意味を理解する間もなく、唯は梓にキスをしてきた
チュッ
梓「ちょちょ、唯先輩…んむっ!?」
梓(えええ!?)
一回で終わると思ったキスは止まらずに何度も繰り返される
梓「……ん、んぅ……っは…」
抱き締められてるせいというより驚きで身動きが取れない
する度に時間も深さも増していくキスの嵐に梓は息苦しさを感じ始めてきた
やっと力が緩んで開放された頃にはすっかり息があがってしまっていた
梓「…はぁ、はぁ……」
唯「はぁ……あずにゃん大好き…」
梓(唯先輩……?)
心なしかいつもと違う唯の眼差しに梓は困惑した
かと思うと、抱き締められたそのままで唯に押し倒されてしまっていた
梓「うわわわわ///」
唯「えへへ、あずにゃん可愛い」プチプチ
梓「あ、あのあの唯先輩っ!?」
唯「なぁにぃ?」プチ
梓「ななななななんで私のパジャマのボタン外してるんですか!?」
唯「もちろん脱がせるためだよぉ」
梓「はい!?だっ駄目です駄目ですそんなの…」
唯「私、もっとあずにゃんに触りたい」
梓「え……」
梓(あっ……)
ボタンを開けて大きく開いてしまった胸元に唯の手が触れた
それだけでは足りないというように更に唯の手は梓の肌の上をもぞもぞ動いていく
梓(どうしよう…何だか先輩怖いよぉ…)
梓「ま、待って唯先輩………やっ」
ブラジャーをずらして小さな膨らみを触ろうと探る手付きに梓は小さく声をあげた
恥ずかしさと緊張のあまりパニックになった梓は思いっきり唯の体を跳ね除けた
梓「やだっ!!」
ドンッ!
唯「わぁ!?」
ドタッ
唯「あ、あずにゃん…」
梓はぎゅっと両腕を抱いて胸元を押さえたまま肩をふるふると震わせる
梓「やです…こんなのやですっ」
梓「こんな事するなんておかしいです!先輩怖いです……嫌いです!」
唯(!!)
梓「うっ…うっ…ひっく…」
唯「ご、ごめんねごめんねあずにゃん…あずにゃんが嫌ならもうしないからっ」
唯「絶対しないから……だ、だから泣き止ん…・・・…なき…」ジワ
唯「う……うぇぇ…」ポロポロ
梓(え………・)
梓「ぐすっ………」
梓「…な、何で先輩が泣いてるんですか…ひっく」
唯「だってぇだってぇあずにゃんが泣くから~~」
唯「私っ、あずにゃんが好きだよぉ…あずにゃんにいっぱい触りたいし、私のこと好きになって欲しいんだよぉ」
梓「………」
梓(もしかして先輩も色々不安だったりしたのかな…だから急にあんな事?)
唯「嫌いになっちゃやだよぅ…」グシグシ
梓(………)
梓「唯先輩」
唯「あずにゃ……」
チュ
唯「…ほへ?」
パチパチと瞬きしながらほっぺに手を当てる唯
唯「あずにゃん今…」
梓「せ、先輩なんだから泣いたりしないで下さい。こっちが困ります」プイッ
唯「う…」
梓「さっきは私も言い過ぎちゃいました…だからその、おっお詫びです///」
唯「………」
梓「………先輩のこと嫌いにはなりませんから、安心して下さい」
唯「あ…あずにゃぁん!!」ガバッ
梓「だっ…だから抱き着かないで下さいってば!唯先輩さっきのは明らかにやり過ぎなんですからね!!」
梓「ああいうのはもう絶対無しですよ!絶対にです!!」
唯「おおおぉぉんごめんねぇぇあずにゃんん」
梓「………まったくもう…」
おんおんと泣きじゃくる唯に少し呆れながらも、梓はほっと微笑んだ
そして唯の部屋の前では泣き声に驚いて踏み込みかけた憂もほっと胸を撫で下ろしていた
憂「……」
憂(何かあったかと思ったけど…大丈夫みたい)
憂(お姉ちゃんも梓ちゃんも、仲良くね…おやすみ)
カチャ
――パタン
お泊り事件があってから一週間ほどが経った
一時は絶交宣言されかけたものの二人の距離は前より縮まっていた
梓「先輩、一緒に帰りましょう」キュッ
唯「うんっ、一緒にかえろー」ギュ
唯(最近あずにゃんから誘ってくれて嬉しいなぁ…手も繋いでくれるし)
梓「そういえば唯先輩」
唯「んー?」
梓「もうすぐ私達の恋人期間も終わりですね」
唯「ええっそんなぁ!!」ガーン
梓「ていうか今日までなんですけど」
唯「うそぉ!聞いてないよぉぉぉ」ガガーン
唯「短すぎるよぅぅ」
梓(最初からそういう決まりだったような)
唯「あずにゃん…あずにゃんは寂しくない?」
梓「ん…そうですね、何ていうか…」
唯「………」ジーッ
梓「………」チラッ
唯「つ…つづきは?」
梓「…今はノーコメントです」
唯「なななんとぉぉ…」フルフル
梓「………」クスッ
梓(一緒に帰ったりするの楽しいし、スキンシップも前より慣れちゃった)
梓(前より唯先輩が身近になった気がするな…)
分かれ道まで来て二人は少し見つめあったあとそっと手を離す
唯「じゃ、また明日ね」
梓「あ、はい!」
唯「……」
梓「……」
梓「あの、行かないんですか」
唯「あずにゃんこそ」
梓(なんか行き辛いな…)
唯「あのさあずにゃん」
梓「?」
唯「私、待ってるね」
――タッタッタッ
梓(あ……)
一言だけ言って唯は走って帰っていった
梓は声をかける暇もなく遠ざかっていくその背中を見つめる
梓「唯先輩…」
梓(…私、今ちょっと寂しいと思った…)
ちょっと俯いて、梓も反対方向へ歩き出す
すると不意に鞄の中で携帯の着信音が鳴った
梓「あ、メールだ」
梓(………澪先輩から?)
中を開くと「来週からよろしくな」と短くメッセージが入っていた
梓「・・・来週からは……澪先輩と…」
突然に紬の家
紬「ふふ…唯ちゃんと梓ちゃんはなかなか良い雰囲気になったみたいね」ニコニコ
紬(梓ちゃんもまんざらじゃないみたいだったし、良い傾向だわ)
紬(次は澪ちゃんの番だけど……どうなるかしらぁ)テカテカ
紬「さぁ、この期間で集まった秘蔵写真を整理する作業に戻りましょう」
紬「うふふふふ……」
休日明けの朝
今日からは澪が梓との恋人期間に入る
澪(つ、つ、ついにこの日がきたな…)ゴクリ…
澪(今日から梓とここっ、こいこいこいこ、恋人同士になるんだよな)
澪(きっ緊張してきたぞ……)
澪(でも今日は気合いれていつも以上に身だしなみチェックしたし、バッチリだ)
澪「よし、行ってきます!」
登校中
澪「………」テクテク
キョロキョロ
澪(会えるかもって思ってたけどいないみたいだな…梓)
澪「まぁ仕方ない、か」テクテク…
澪(はぁ……)
梓「澪せんぱーい!」
澪「ハッ(この声は梓!)」クルッ
梓「せんぱーい、おはようございますぅ」
澪「………」
梓「………」
澪「………」
澪「……りつ」
律「てへっ」キラリン
澪「声真似してんなっ」バシーン
律「おぶ!」
澪「一瞬ほんとに梓かと思っちゃったじゃないか、馬鹿律っ」
律「あひゃー」
律「悪い悪い、深刻な顔して歩いてたからちょっとからかってやろーと思ってさぁ」
澪「ったく……こっちは真剣だってのに…」ブツブツ
梓「おはよう御座います先輩っ」
澪「だから、もう声真似はいいってば!ばか」ツーン
梓「こ、声真似…ですか…?」キョトン
澪(えっ)クル
梓「あ、あの何かごめんなさい…」
澪(うわあああ本物だったよぉー!)
澪「いやっ、違うんだ!今のは律に…」
梓「えっ律先輩って…えと…どこに?」キョロ
澪「あ、あれ?いない!!」ガーンッ
梓「?」
澪(逃げられたぁ…いやそれより)
澪「ごめんな梓やっぱ何でもない。おはよう」
梓「おはよう御座います」
澪「うん……」
梓「…」
澪「…」
澪・梓『あのっ』
澪「えっ」
梓「えっ」
澪「な、何だ梓」
梓「あ、いえ先輩からどうぞ!」
澪「そっそうか…いや、あのさ…」
梓「はい」
澪「その…今日からよろしく頼むな///」
梓「は、はい。こちらこそよろしくお願いしますっ」ペコ
澪「あ、いやいやこちらこそだっ」ペコ
梓(私もそう言おうと思ってたけど…少し照れるなぁ)
澪(恥ずかしい)
澪(これからどういう感じでいけばいいんだろ…)
物陰から
二人の様子をこっそり眺めている律
律「ははっ。なーにやってんだかあの二人…」
律(がんばれよーみおー)ポソ
律(………)
律(心に隙間風が…)
紬「あらら…まだあの二人はギクシャクしちゃうみたいねぇ」
律「だな。澪のやつ舞い上がっちまってるみてーだし」
律「…ん?」
紬「え?」
律「ってオイ!いつの間に隣にいるんだよむぎっ!」ズササ
紬「まぁりっちゃん、騒ぐと気付かれちゃうわ」コソッ
律「いやいやいや」
紬「でも…初日だし緊張しちゃうのは仕方無いわよね」
律「……ま、そーかもな」
紬「………寂しい?」
律(!!)
律「別にぃぜんぜんっ」プゥ
紬「うふふ」
紬「一緒に学校行こっか」
律「……うん」
再び澪と梓
隣同士並んで歩きながら学校へ向かっている
澪「それで、くさかったんだよなー」
梓「あははっ面白いです」
テクテク
テクテクテクテクテク
澪(あれ、話題が途切れちゃったぞ)
澪(ていうか、普通に喋ってるだけじゃ意味ないよね)
澪(はっ……そうだ手だ。手を繋ごうここは)
澪「なぁ梓」
梓「はい」
澪(こういうのはさらっと言っちゃえば平気なんだ)
澪「あのさ、てっ」
梓(て?)
澪「て……てー、てー、……」
澪「てやっ」ピシッ
梓「いたっ」
澪「あれっ?」
梓「澪先輩…何故いきなりチョップを…」サスサス
澪(うわあああ馬鹿かああ私はぁぁぁ)
澪「ご、ごめんごめん。冗談だ」ナデナデ
梓「ん……」
梓(撫でられるのは…好きかも)
澪「はっはっはっ」
ナデナデ
澪(……)
澪(これはこれで…いいな)
教室
憂「梓ちゃん、今日からは澪さんと恋人同士になるんだねー」
梓「うん。っていうか私未だに不思議なんだけど…」
憂「ん?なにが?」
梓「その、澪先輩が私を好きってことが」
憂「ふしぎ?」
梓「不思議だよー、すっごく謎。澪先輩てもっと年上で大人ぽい人が好きだろうなって思ってたから」
憂「そっか…そうだねぇ…」
梓「私なんてそんな取り柄とかもないしなぁ…」
憂(…!)
憂「そんな事ないよ、梓ちゃんは凄く可愛いもん」
梓「えっ」
憂「とっても素敵な女の子だよ」
梓「そ…そっかな」
憂「うん。だから自信持って?」
梓「…う、うんっ」
憂「ふふ」
梓「へへ」
澪(もう何日か経っちゃったけど…なんかあんまり進展してないような気が)
澪(一緒に帰ったりしても恋人っぽい雰囲気にできてないもんな、私…)
澪(恋人……恋人といえば)ハッ
澪「そうだっ、デートだ!!」ガターン
シーーーーーン
澪「はっ」
教師「秋山さん授業中よ」
澪「すみません」ストン
ザワザワ クスクス
クラス中の視線が突き刺さる
澪「うう…」
澪(……し、死にたいよぅ///)
夜
梓「ふぅ、寝る前に宿題やっちゃわないと」
チカチカ
梓「あれ?携帯光ってる」
梓(澪先輩からのメールだ)
『今度の休み、一緒に映画でも見にいかないか?』
梓「映画…そういえば最近見てなかったなぁ」
梓(返事しないと…えと、良いですね行きましょう…っと)ムニ
送信
梓「よし」パタン
梓(じゃあ宿題を…)
ピロリン
梓「早!」ガンッ
梓(んーと、『ありがとう。時間は~~』と…まだ続きがある)
『楽しみにしてる』
梓「………」
梓(あ、そっかこれってデート…)
梓(…デートかぁ///)
デート当日の朝澪の家
澪「トゥートゥートゥマシェリー、フンフンフン♪」
澪(今日のために新しい服買っちゃった…ん、まぁまぁだな)クルックルッ
梓(梓はどんな格好してくるのかな。きっと可愛いぞー)
澪「おーきーにーいりーのうさーちゃー」フンフン
律「えらくご機嫌だなぁーみおー」
澪「!!!」ビクゥ
律「やほー」
澪「いややほーじゃないだろ!どっから入ってきた!」
律「そりゃー普通に玄関からだよ」
澪「ノックくらいしろっ」
律「いやぁ一応したんだけどねぇ?可愛い澪ちゃんは鏡の中の自分に夢中だったようで」
澪「みっ見てたのか!?///」アワワ
律「なぁんにも見てございませんわよー」ニヤニヤ
澪「くう」
律「あっははは!ところでどうしたんだよ、そんなおめかししちゃってさぁ」
律「もしかしてデートでも行くのか?ははっ、なーんt」
澪「そ…そうだよ」
律「へ?」
澪「これから梓と一緒に映画館に行くんだ」
律「ほ…」
澪「だから今日は悪いけど帰ってくれ。折角来てくれたのにごめんな?」
律「はぁ…」
澪「あ、そろそろ行かないと遅刻しちゃう。じゃ律、行って行って」グイグイ
澪「じゃあな、行ってくる!」タタッ
律「う、うん…」
律「分かった…」
律「いってらっさーい…」ヒラヒラ
律「……」
律(太陽が、目に染みるぜ…)
チャララ~チャララララ~ラ~
律「ん?電話だ」
映画館前
梓(そういえば初デートだ…ドキドキ)
梓(……いい天気だなぁ)ボー
タッタッタッ
梓「あ、澪先輩こんにちは」
澪「おっす。ごめん梓…待たせちゃったか?」
梓「全然です!澪先輩時間ぴったり」
澪「そ、そうかなら良かった」ホッ
梓「あ…澪先輩、その服可愛いですねっ」
澪「ん?ああこれか…はは、有難う」
澪(これ着てきてよかった)
梓「澪先輩センス良いですよね。私なんていつも似たようなのばっかで」
澪「そんな事無い。梓はいつも可愛いよ」
梓「……あ、有難うございます」
梓(褒められた///)
澪「じゃあ中はいろっか」
梓「はい!」
澪(さて…今日は何か良い映画やってるかな?)
梓(んーっと)キョロキョロ
澪「あ、『どきゅせん』やってるんだ…あれにするか?」
梓「いいですね。私見たかったんですそれ」
澪「じゃ決まりだな。チケット売り場は向こうか…」
梓「行きましょう」
テクテクテク…
『………』ジー
澪と梓の後方に怪しく潜む影が二つあった
紬「りっちゃん隊長、二人を発見しましたどうぞ」
律「オーケー、追跡を開始するどうぞ」
紬「うふふ。こうしてると秘密組織のスパイみたいね」
律「むぎ、あんまり身を乗り出すとバレちゃうぞ」
紬「あら」
律「まぁただのデバガメだけどな…」
紬「うふふふ…でも驚いちゃったぁ。ちょっとお喋りしたくて電話しただけだったけど」
律「あーごめん。いきなりこんなのに呼び出しちゃってさ」
紬「ううんいいのよ、私は楽しんじゃってるもの」
律「サンキュなむぎぃ」
紬(りっちゃん、やっぱり澪ちゃん取られたみたいで寂しいのね…)
律「よし、後ついてくぞ!」
上映中
梓(この映画面白い)ジーー
澪「……」
澪(そういえばこの間見た少女漫画ではこういう映画館の中で…)
澪(手が触れ合ったりしてキュン、みたいなのがあったな)
澪(ちょっと試してみようか)チラッ
澪(あ……)
梓「……」チュルル
澪(両手でジュース持ってる…)
梓「面白かったですね!映画」
澪「うん、そうだな」
澪(あんまりちゃんと見れなかったけど…)
梓「…あの、この後どうします?私はまだ時間ありますけど」
澪「それならちょっとカフェでも寄らないか?」
梓「あっ、行きたいです」
澪「良かった。今日はもうちょっと梓と一緒にいたかったから…」
梓「え」
澪「え?あ…いや何でもないよ///行こっ」
梓「は、はい///」
澪「確か向こうにケーキセットが凄く美味しいとこがあったはず」
梓「ケーキ…それは楽しみですっ」パァ
澪「あそこのは生クリームが美味しいんだ」
澪「紅茶もオススメだぞ。特に…」
梓を楽しませようとお喋りに夢中になるあまりに澪は前方不注意になっていた
梓「あ!澪先輩あぶな――」
澪「え」
ドンッ
突然何かにぶつかってしまい、澪は後ろによろめいた
澪「い、いたひ……何?」
DQN「ちょちょちょちょちょちょ、痛いんですけど何ぶつかってくれちゃってんの」ピキピキ
澪「えっえっ、すすすすみません!」オロオロ
DQN「っつかよく見たら可愛くね?運命的な出会い果たしちゃった事だしお茶でも行っちゃう?」
澪(うわあああぁぁぁぁ何この人ぉぉ!?)
梓「せ、先輩…」
澪(どどどどうしようどうしよう)
DQN「ほらほらー早く行こうぜぇー」
澪「い…いや……そういうのはちょっと…」
澪(はっ早く逃げないと)
DQN「いや?あ、お茶で満足できないってんならホテルでも全然オッケーよ俺!」
澪「!?」
澪(何なのこの人…怖いよぉぉ…お家に帰りたいよぉ…!)
澪(だ、だれか助けは)
青ざめた澪が縋る思いで周りを見ても、そこは元々人通りが少ない場所
ちらほらいる通行人達は関わりたくないのか知らん顔で過ぎていく
DQN「あれ!?後ろにも可愛い子発見!!」
澪(!!)
今度は梓に目をつけたのかDQN男はヘラヘラと梓に近付いていく
DQN「いいねぇこっちも超可愛いじゃん、ハイ合格!俺と一緒に遊ぶ権利をあげちゃいま~す」ヘラヘラ
梓「え…ちょっと…」
澪(こ、こいつ梓にまで……!)
DQN「ほら、早く行こうぜ!!」ガシッ
梓「いたっ…や、やめて下さい」
梓(こ、こわい……っ)
澪「…!ちょっと待て!!!」バッ
ドン!!
DQN「うおっ!?」
梓の怯える表情を目にした澪は咄嗟に体が動いていた
梓の手からDQNの手を引き離し、力任せに突き飛ばしたのだ
澪「いい加減にしろ!!梓にまで手を出すなら許さないから!」
梓「澪先輩!」
澪(梓は…梓は私が守らないと…!)
梓を庇うように両手を広げてDQNの前に立ちはだかる澪は普段では考えられないほどの強気な顔だ
梓(み、澪先輩キレちゃった!?)オロオロ
梓「……あっ…」
澪「…………っ」
梓(ちがう…澪先輩、震えてる…やっぱり怖いんだ…なのに…)
DQN「おいおいおいおいおい、今のすげ痛かったんですけど?」ピキピキ
澪(う…)
澪「梓、早く逃げろ!」
梓「そんな…嫌ですっ、先輩も一緒に行きましょう」
DQN「いやいやいやいやいや逃がさないからね?俺今すごく痛かったからね?もうお仕置きしちゃうからね?」
突き飛ばされて簡単に逆上したDQNは興奮した様子で澪に詰め寄っていく
澪「や…やめろ!早くどっかへ…」
ガシッ
澪「いたっ!?」
今度は澪の腕を掴んだDQNはそのまま引きずるようにして澪を連れていこうとする
力では敵うはずも無く、必死で抵抗はするものの無理やり引っ張られてしまう
澪「やっ、やだ、やめ……痛いってば…!」
梓「澪先輩!」
澪「だめっ梓は来るなっ!」
梓「!!」ビクッ
追いかけようとする梓に対して澪は大声で怒鳴る
思わず身を竦めた梓は思わず涙目になったがそれでも止まらずに追いかけた
梓「澪先輩!!」グイッ
DQN「何だァ~君も俺と一緒に来たかったの?いいよいいよ大歓迎しちゃうよぉ」
DQNは梓のほうへも汚い手を伸ばしてきた
梓「!!」
澪「!!あず…っ」
ガシッ
梓「………!!」
梓(…あれ……何ともない…?)
身構えて一瞬目をぎゅっと閉じた梓だったが、何も起こらないのを怪訝に思い顔をあげた
すると、そこには突然現れた第三者によって腕を掴まれているDQNの姿があった
梓「え……!?」
澪「あっ!?」
突然現れた人物は、よく見るとふわふわブロンドの少女…紬だった
紬はDQNの腕を掴んだまま無言で立ち尽くしている
俯いているせいで表情がよく見えないが、何故か彼女のまわりの空気がひんやり凍っているような気がした
梓(む、むぎ先輩……?)
澪(何でむぎがここに……)
明らかにいつもと違う雰囲気を纏った紬に澪達はわけも分からず息を飲んだ
DQN「え、ちょ何?また可愛い子なんですけど!俺ハーレムなんですけど!!」
空気の読めないDQNは一人でテンションを上げている
DQN「いいぜ、皆まとめて来ちゃいなよ!たっぷりねっちり可愛がってやっからさぁ」
そんな事を言いつつDQNはそのまま先程のように今度は二人を引きずって行こうとする
―――が、その場からそれ以上進むことは出来なかった
紬に掴まれてるほうの手がピクリとも動かせないのだった
DQN(なん…だと…!?)
紬「許さない……」ポツ
DQN「えっ」
紬「女の子に対する数々の狼藉…たとえ地獄の閻魔が許そうともこの琴吹紬が許さない」
DQN「えっえっ」
紬「絶対に許さない…!絶対によ……!!」
カッ
ギリリリリリッ
DQN「ふんずるばぬらqあwせdrftgyふじこlp;@:」
澪「ひ、ひいいぃぃぃぃ!!?」
梓「むむむむ、むぎ先輩がむぎ先輩が…!!」
キレたせいでいつもの面影なく怒りの形相になった紬は雑巾をしぼるようにDQNの腕を捻り上げていく
律「でりゃああとどめの律キーーーーック!!!!アンドチョップ」
ゴシャアアアア ゴスン
紬に続いて流星のごとく現れた律の攻撃によってDQNは完全に地に沈んだ
律「むぎ、やり過ぎだぞ!もうちょっとでとどめをさしちゃうとこだったじゃないか!」
紬「あら」
澪「いやお前がとどめさしてただろ!しかも自分でとどめって言ってたぞ!?」
律「てへ」
梓「――ていうか二人とも何でここに」
紬「そんな事より早くここから立ち去りましょう。留まると面倒だわ」
紬の提案で皆はハッとして慌ててその場から走り去った
バタバタバタ
梓「はぁ、はぁ…」
澪「こ、ここまで逃げてくれば大丈夫だろう」
絡まれた場所から離れた位置にある小さな公園までやって来た
梓(た…助かったぁ…良かった…)
澪「……それにしても、二人ともどうしてあそこにいたんだ?」
律「え?あーえっと」
律(尾行してたからなんて言えねーよなぁ…)
紬「たまたま通りかかったの」
律(!むぎ…)
紬「そしたら澪ちゃんと梓ちゃんが大変な目にあってるでしょ?私もうどうしていいか分からなくってつい…」
律(ついでアレなのか)
紬「とにかく、二人が無事で良かったわ」
梓(…さっきのむぎ先輩怖かったな…でも、)
梓「本当に有難う御座います。むぎ先輩、律先輩」
澪「うん……助かったよ。有難う律、むぎ」
澪(…………)
澪「……ハァッ…」
カクン
梓「み、澪先輩!?」
急にペタンとその場にへたり込んだ澪を見て梓は慌てて駆け寄る
梓「どうしたんですか!?もしかしてさっきの奴に何か…っ」
澪「違うよ…な、何か分かんないけど今更腰抜けちゃったみたいだ…」
梓(澪先輩…)
梓「やっぱり無理して私を庇ってくれてたんですね…先輩…」
澪「そ、そんな事っ」
梓「だって震えてたじゃないですか!」
澪「…っ」
梓「澪先輩怖がりなのにあんな事して無茶過ぎますよ…私……」
澪「あ…梓…?」
梓「私、本当に先輩が連れてかれちゃうと思って怖かったんですから…」
梓「それなのに逃げろなんて言うし、何で………もう二度と、あんな無茶しないで下さい」
澪(梓……)
澪「……ごめん梓、だけどもうしない…なんて言い切れないよ」
梓「どっ…どうしてですか!?」
澪「だって私は梓を守りたかったんだ。……はは、全然守れてなかったけどさ…」
梓「そんな事……」フルフル
澪「確かに私は怖がりかもしれない、けど」
澪「でも私は梓が傷付いちゃう事のほうが怖かったんだよ」
梓「先輩……でも…でもっ…」
言いながらだんだんと梓は涙声になっていく
それに気付いた紬は律の袖をツンツンと引っ張り、こっそりとその場を離れた
律も一度振り返り二人の姿を見つめていたが、踵を返して無言のまま歩き出した
澪「梓……何事もなく助かったんだからそんな顔するなよ…」
梓「…………」
澪「私は先輩なんだから梓を助けなくちゃいけないんだ…それに…」
澪「好きな子を守ろうとするのは当然だろ」
梓「澪せんぱい…!」
きっぱり言い切った澪の言葉と優しい笑顔に梓の目からじわりと涙が滲んだ
顔を隠すように俯いて肩を震わせる梓の頭を優しく胸元に引き寄せ、ぽんぽんと頭を撫でる澪
梓が落ち着くまでの間、二人はずっとそうして一緒に居た
律「なぁむぎ…あいつら放っておいてきちゃって良かったのか?」
紬「今、斉藤に電話してこの辺りの警備を強化して貰うように頼んでおいたから多分もう大丈夫よ」
律「ふーん、そっか…」
律「………」
紬(………)
紬「気になる?二人の…ううん、澪ちゃんの事が」
律「な、何でだよ。あはは、むぎはいっつも変な事ばっか言うなー…」
紬「寂しい?」
律「…!!」
穏やかに問い掛けてくる紬に律はパッと顔を向ける
にこにこと微笑む紬の前では何だか隠し事ができないような気がして、かりかりと頭を掻いた
律「んー、どうなんだろ…自分でもよく分かんねー…」
律「…私と澪って小さい頃からいつも一緒だったからさ。それが当たり前みたいになってたとこもあるし」
紬「うん」
律「だから梓を好きって言い出した時はびっくりしたよ。私以外に私以上に大切な奴ができたのかー!って」
紬「うん」
律「正直言ってさぁ、私最初は梓と恋人になるとか言ってもどうせ何にもできねーだろーって思っちゃってたんだよ」
紬「うん」
律「でもさっきの澪、一生懸命梓を守ろうとしてんだもんなぁ……あんな必死な澪の顔、初めて見たよ」
紬「…うん」
律「…だからま、寂しいっていうよりはあいつの成長が嬉しいかもな!あんなの昔の澪からは想像もできないぜぇ」
紬「そうね…うん、澪ちゃんには良かったね」
律「だろ?うん、いやぁー良かった良かった!!」
あははと笑ってみせる律に紬は穏やかに頷く
が、ゆっくりと顔を上げた紬は気遣うような表情で律をまっすぐ見つめた
紬「りっちゃん、無理しなくてもいいのよ?」
律「…は?べ、別に私は何も無理なんかしてないぞーははっ」
紬「…………」
紬(…でもりっちゃん……)
紬「りっちゃん、さっきからずっと辛そうな顔してるんだもの…」
律「!!」
律「は、ははは……何言ってんだよむぎ…誰もンな顔してないって…」
律「………は……」
律「………」
律「………う、うぇ……」
紬「りっちゃん」
律「うっ……うおぉぉぉん、やっぱりざみぢぃよぉぉ……うぇぇぇ」グズグズ
律「みぃおぉぉぉうう……うえーーーーーん!!」
律「…なんでっ、ほかのやづすきになっじゃうんだよぉぉぉぉ」
律「さびじぃよぅぅぅぅぅみおぉぉぉぅ………」
紬「うん、うん。そうだね、そうだね…」
紬の優しい声は余計に涙腺を刺激する
涙と鼻水を流し真っ赤な顔で泣きじゃくる律を励ますように紬は一緒に寄り添っていた
しばらくして
律「いやーーあっはっはっは!泣いた泣いたぁー」ズビビ
紬「落ち着いた?りっちゃん」
律「おうよ!律様をなめんなってぇ、一回泣いたらスッキリしちゃったよっ」
律「…まー、顔はひでぇ事になってるけどな…ははは」
紬(……)クス
紬「そんな事ないわ。りっちゃんはいつでも素敵よ」
律「いや流石にこれはねーだろぉ」ケラケラ
紬「あら、本当にそう思ってるのに」
律「そ……そっか、まぁそう言ってくれると気が楽だな」
紬「ふふふ」
律「っていうか、悪かったなむぎ。こんなのに誘っちゃってさ」
紬「どうして?」
律「いや…何かマジで色々あったし…私も泣いちゃったしさぁ…」
紬「………」
律「ぶっちゃけ今日は迷惑しかかけてねーもんなー、貴重な休みなのにホントごめんな!」
紬「謝らなくていいのよ。私、今日は本当に楽しかったし、嬉しかったんだから」
律「は…?…い、一体何をどーしたら楽しいと仰る……」
紬「だって、りっちゃんと一緒だったんですもの」
律「え…」
紬「じゃあ、また学校でねりっちゃん」
ぽかんとする律に紬はにこりと笑ってみせ、軽く挨拶を済ませると帰っていった
取り残された律はしばらくぽつんとその場に佇んだままでいた
律「…………………ん?」
と澪のほうもそろそろ落ち着いていた
というかいつの間にか二人を取り囲むように近所の子供達がじーっと見ていたので慌てて逃げ出したのだったが
タッタッタッ
梓「あわわわ……何かえらいとこ見られちゃいましたね」
澪「うん…子供の純真な目って結構刺さるんだな…」
梓「………」
澪「………」
梓「………」
澪「………」
梓「………」クス
澪「………」プッ
澪・梓『―――あはははっ!』
澪「なっ、何笑ってるんだよ梓……ははっ」
梓「ふふ、先輩こそ笑ってるじゃ…フッ、ないですかっ」
澪「だって今日は何かもう色々あり過ぎて」
梓「ですよね。もうテンションがおかしくなっちゃってます」
二人は顔を見合わせて笑い合う
澪「ふふっ……なぁ梓」
梓「はい?」
澪「キスしていいか?」
梓「はい!?」
澪「テンションに任せてるみたいで悪いけど、今どうしても梓にキスしたいんだ」
梓「で、で、でもそんなの、うんなんて言えませ……///」
梓(――…って…)
梓の返事を聞くまでもなく、澪はゆっくり顔を近付けてきた
びっくりして目をぎゅっと閉じた梓の瞼の上に柔らかい感触がそっと触れた
チュ
梓(あ……)
梓「……///」
澪「……今日は手を繋いで帰ろう?」
梓「…はい」
澪「私の手、大きくてちょっと恥ずかしいんだけどさ」
梓「え。でも、私は澪先輩の手好きですっ」
澪「そっ、そうか…///」
澪「それじゃ……繋ぐからな」キュ
梓「はいっ」ギュッ
澪(幸せだぁ……)
波乱があったものの二人のデートは無事に終わった
寧ろ波乱があった事で澪と梓の関係は良い方向へ向かったといっていいかもしれない
唯ほどではないにしろ澪もスキンシップを取るようになり、先輩後輩という垣根も小さくなったようだ
そして澪と梓の恋人期間最終日
今日も二人は手を繋いで一緒に下校していた
澪(ふぅ、今日で最後なんだなぁ……)
梓「……」
テクテク
澪(このまま帰ったらすぐに家ついちゃう…そうだ)
澪「なっ梓、今からちょっと公園でも寄らないか?」
公園
ベンチに座った二人はぼんやりと夕焼け空を見上げている
澪「今日で終わり…だな…」
梓「そうですね…」
何となく言葉数が少なくなる二人
澪はしばらく梓の横顔を見つめていたがゆっくり口を開いた
澪「梓、ありがとな」
梓「えっ?」
澪「こんな恋人期間とかってのに付き合ってくれたこと」
梓「いえ……それは…」
澪「梓と一緒にいれてさ、何かちょっと変われた気がするよ」
澪「だから、有難う」
梓「澪先輩……」
そのまま二人はまた同じように空を見上げた
ベンチの上、二人の指先が重なっている
梓「先輩」
澪「ん?」
梓「綺麗ですね、空」
澪「そうだな」
澪(凄く綺麗だ)
澪(この景色、私絶対忘れない…)
夕陽が完全に沈む前に梓と澪は別々の帰路へとわかれた
家までの距離を歩きながら、梓は暗くなりかけの空を一人で見上げる
梓(あ、一番星)
梓「………」
そうして唯と澪、二人との恋人期間が終わった
数日後
昼休みの屋上
紬「それで、どうだったかしら恋人期間は」キラッ
梓「!!」グッ
梓「いきなり核心ついてきますね、むぎ先輩…」
紬「うふふふふふ」
梓「んと…最初はどうなんだろって思ってたんですけど。でもやっぱり…」
梓「やってみて良かったです。唯先輩とも澪先輩とも前より仲良くなれたし」
紬「うん、それは良かったわぁ」ニコ
梓「………」
紬「………」
梓「………」
紬「………気持ちは、固まった?」
梓「……!」ドキ
紬「その顔は……もう梓ちゃんの中で答えが出てるって事だよね」
梓「……」コクン
紬「そっか」
梓「でも…でも、むぎ先輩…」
紬「…?」
梓「私やっぱり…どっちかを選ぶなんて出来ないです。そんなの怖いです」
紬「…怖い……かしら?」
梓「だって…だってどちらかを選んだらどちらかを振る事になるんですよ…そんなの、私……」
紬「そっかぁ…どっちかを傷つけるのが嫌なのね、梓ちゃんは」
梓「嫌に決まってます!私にはできないですっ」
紬(梓ちゃん……)
梓「私…どうしたらいいのか…分かんなくって…」
紬「……ううん違うよ、梓ちゃん」
梓「………えっ?」
紬「梓ちゃんのそれは優しさじゃない。二人にとって一番酷いことなんだよ」
紬「どちらかしか選べないのは最初から分かってるもの…唯ちゃんも澪ちゃんも、それを覚悟で今までやってきたんだから」
梓「……でも…」
紬「ね、梓ちゃん思い出してみて。唯ちゃんも、澪ちゃんも、きっと梓ちゃんに対して全力でぶつかってきてくれたはずだよ」
梓「……あっ…」
紬「だから今度は梓ちゃんの番。二人に全力で気持ちを伝えてあげなきゃ、ね?」
梓「私の…全力の気持ち…」
梓(わたしのきもち……私の一番大切な気持ちは…)
紬「ほら、行ってきて?お昼休みはまだまだ時間があるもの」
梓(伝えなくちゃ……私の気持ちを…!)
梓「有難う御座いますむぎ先輩っ。私…いってきます!」ペコッ
タッタッタッタッ
紬「………」
紬(頑張れ、梓ちゃん…)
ザッ…
紬「あら?」
律「よ…よぉむぎ!ここにいたのかー探したぞー」
紬「りっちゃん……どうしたの?こんなところまで…」
律「え、えーっとだな…別に用ってほどじゃないんだけどなっ」
紬「ふふふ、変なりっちゃん」
律「あははははぁー」
律「………」
紬「………」
律「あのさ、むぎ」
紬「うん?」
律「………弁当食べるか。一緒に」
紬(……!)
紬「………うんっ!」パァァ
―――-タッタッタッ
梓(教室にはいなかった……音楽室にいるって言ってたけど…)
教室を訪ねたがそこに姿は無く、教えられた行き先へ駆け足で向かっていく
梓はぁ、はぁ………ついた、音楽室」
何度も何度も深呼吸して気持ちを落ち着ける
そして心の準備を済ませると音楽室の扉に手をかけた
梓「………先輩っ」
思いきって声をかけると机に向かっていた先客はゆっくり振り向いた
開け放した窓から吹く風が長い黒髪を揺らしている
澪「…梓……どうしたんだ?昼休みにくるなんて珍しいじゃないか」
梓「み、澪先輩こそ…何してたんですか?」
澪「私はここで歌詞を書いてたんだ」
梓「そうだったんですか……」
澪「梓は?」
梓「えっ」
澪「私に用事があったんだろ?」
梓「あ、は、は…はいっ!」
澪「うん、聞くよ」
ガタ
澪は席から立ち上がりじっと梓を見た
梓もまっすぐに澪を見つめ返す
澪「………」
梓「………」
しばらくそうしていたが、やがて梓は深く頭を下げたのだった
梓「―――ごめんなさいっ!」
澪「――――……」
一瞬の沈黙が降りる
それは一秒にも満たない時間だったがとても長く感じられた
梓「わたし、私は……澪先輩の気持ちには答えられません」
澪「………」
梓「澪先輩は優しくて、かっこよくて…お姉ちゃんみたいで憧れてて……」
梓「街で絡まれた時もに守ってくれて凄く嬉しかった、先輩に頭撫でられるのも全部全部、大好きだけど…っ!」
澪「もういいよ梓。顔上げて」
梓「でもっ……でも…」
澪「私は梓がそう言ってくれただけで充分だから」
梓「でも……!」
澪「梓…」
深く俯いたままの梓の肩に澪はそっと手を乗せた
そして梓と同じ目線の高さまで合わせて屈み、優しい目で梓を見つめる
澪「そんなに泣くなよ。目が腫れちゃうぞ」
梓「……!」
澪は困ったように眉を下げたが親指でそっと梓の涙を拭った
澪「梓が気に病むことなんてひとつもないんだ。梓には私よりも大好きなやつがいた、それだけなんだから」
梓「澪せんぱい…」グスッ
澪「…それに梓のことだ、どうせまだ肝心の相手には伝えてないんだろ?」
梓「……」コク
澪「なら早く行ってこないと。きっと待ってるぞ」
梓「はい……」
澪「ほら、昼休み終わっちゃう。言うなら早いほうが良いんだから急がなきゃ」クイクイ
梓「ちょ……ちょちょ、澪先輩」トテトテ
澪「それじゃ梓、頑張れよ!」
澪「梓が幸せなら私も嬉しいんだからな!」
澪「ちゃんと伝えてくるんだぞーーっ!」
澪に音楽室から送り出され梓はもう一度深く頭を下げた
ごめんなさいじゃなく、今度はありがとうの気持ちを込めて
ひとり音楽室に残った澪は梓が行ったのを確認するとその場にズルズルと座り込んだ
澪「……」
澪(フラれちゃった…)
澪(でも梓は精一杯伝えてくれた…)
澪(私も……精一杯伝えてたから)
澪「―――-ありがとう…」
―――タッタッタッ
梓(澪先輩ありがとう……私頑張って伝えるよ)
タッタッタッ
梓(伝えなくちゃ…)
タッタッタッ
梓(伝えたいのに…)
タッタッ…
梓(………のに…)
タ…
梓「~~~~~っ」
梓「もーーっ、一体どこにいるんですかーーっ!!」
梓「………」ハァハァ
梓(何で見つからないんだろう)ガックシ
梓(って、諦めてちゃ駄目だよね!言うって決めたし、今すぐ伝えるんだもん!)
梓「でもホント一体どこに…」
梓(………)キョロキョロ
梓(……あ)
梓「いた…」
中庭の向こうに見える木の下に、ギターを抱えて座っている人物が見える
足は考えるより先に駆け出していた
梓「先輩…」
タタタタッ
梓「唯先輩っ!!」
唯「あれっ、あずにゃ……ののおぉぉっ」ドサーー
飛びつくように唯の首に抱き着いた梓の勢いに押され二人共々倒れこんだ
唯「い、い、いたた……あずにゃんが急に大胆にぃ…」
梓(勢いつきすぎちゃった…)
唯「あずにゃーん?どしたのぉ」
梓「………」ギュウゥ
唯「…あずにゃん??」
唯(なんか様子がっ)
唯(ど、どしたんだろぉ)
唯「あずにゃ……」
声をかけようとして気付いた
抱き着いたまま離れない梓の体が小さく震えている
唯「あずにゃん?」
ゆっくり体を起こして梓と一緒に起き上がる唯
唯「あずにゃん…どして泣いてるのぉ」
梓「なっ泣いてないですよっ。…泣くわけないもんっ」
唯「でも…」
梓「…唯先輩のせいです!」
唯「ななんとおっっ!!」ガーン
梓「どうしてどうでも良い時はいるのに会いたい時いないんですか!」
唯「え…えと…それは私喜んでいいやら悪いのやらぁ?」
きょとんと不思議そうに首を傾げる唯
どう答えるべきか一瞬悩んだ梓は心の中で意を決した
梓「よ……喜んでください。喜んでくれないと……困ります…」
唯「えっ……?」
チュッ
軽い音がして唇が触れ合った
すぐに顔を離した梓は真っ赤な顔で唯をじっと見つめて言った
梓「わたし唯先輩が好きです」
唯「………」
梓「………」
唯「………」
梓「・……・」
梓「あ、あの、何か言ってくださ」
ドサァーーッ
梓「…って、ゆゆ唯先輩!?」
唯「ほっ…ほんとに?ほんとのほんとっほんとにっ」
梓「ほ、本当ですってば!こんな嘘言えませんっ」
唯「ほ、ほ、ほほほほんとうなんだぁぁ…!」ギュウウウ
梓「ちょっ…唯せんぱい重いし苦しいですよ…」
唯「やぁだぁ離したくないぃぃ」ギューッ
唯「私もあずにゃんが大好きだよぉぉ」
梓「………ほんとにもう…///」
…ギュウ
梓は恥ずかしそうにしながらも、しっかりと唯の体を抱き締め返した
ずっと与えられ続けてきた気持ちをようやく返していく事ができる
それだけで嬉しい
暫く二人で抱き合ったままいたが、不意に唯が思いついたように言った
唯「ねぇあずにゃん、ちゅーしよっか」
梓「……///」
梓「……はいっ」
おわり