むしゃくしゃしたので、やります。
できる限りは頑張りますが、あまりに無理なお題だった場合、却下する…かもしれないです。
2 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/02/04 19:48:24.47 F1gqx8jDO 2/222ゾンビ
3 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2013/02/04 19:49:31.07 fczK+I9Ro 3/222姫
>>2
>>3
では、ゾンビと姫で話を練ってきます。
少々、お待ちください。
元スレ
>>2 と >>3のお題で即興SS
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1359974854/
では、書き始めますね。
正直、完全即興なのでかなり不安です。
誤字脱字等もあるかもしれませんが、生暖かい眼で見守っていただけると助かります。
ゾンビと姫で
「ゾンビに恋をしてしまった姫」
ざわざわざわ。
町人「今日で王子が死んでしまってから、三年か…。」
町人「あの人の最後は悲劇的だったよな…。姫の目の前でモンスターに…」
町は少し神妙な空気に包まれていた。
才色兼備、顔もよくなんでもこなせた、この国の跡継ぎと期待された王子が死んで3年。
あまりにも突然で悲惨な死に町人たちは未だ、納得がいっていない。
ただ、王子は死んだ。
その事実だけが、しっかりとあった。
町人「しかし最近、姫様のご容態も徐々に回復されておられるようで。」
町人「それは、なによりだな。3年もたったんだ、姫様も俺たちもいつまでも立ち止まっちゃいられないな!」
ただ、そんな陰鬱な空気でも良い知らせ、噂が流れていた。
姫様の容体が最近、良い方向に向いている…。
王子と変わらず、なんでもでき笑顔の似合うおしとやかな姫様は町人たちにも人気があった。
そんな姫様の容体がよくなったと聞いては、町人たちもいつまでも、暗いことをいってられない。
「王子を亡くした姫様が頑張っているのに、俺ら町人が頑張らなくてどうする。」
そんな声も最近はよく聞くようになった。
いつまでも、いなくなった人にしがみついてはいられない。
王子のためにも残されたこの国をしっかりさせて行かなければ…。
そんな思いが、やっと国を動かし始めたのである。
ーーーーーーーーーーーー
【王城】
姫「お父様ー!!」
王「おお、姫よ。どうした?」
姫「久しぶりに絵をかいて見たの!どうかしら…?」
そういって、姫は王にむけて一枚の絵を見せた。
絵にかいてあるのは、端正な顔をした男性。
しかし、その男の顔は欠けている。
道がない、髪がない、腕がない。
かろうじて、その絵に描かれているのが「王子」だ、とわかるレベルだ。
王「お、おお…姫よ。上手になったな…。」
王はかろうじて、言葉を取り繕う。
姫は最近、ずっとこんな調子だ。
なにか絵をかいたと思えば、いつも何かが欠けている絵をかく。
まるで、何かが欠けているのが美徳のように。
体調がよくなることは嬉しい限りだが、どうしてもこの姫の様子に不安ばかりが募った。
姫が大事そうに絵を抱えて、さるのをみて執事が口を開いた。
執事A「…王様。どうかされましたか?」
王様「…理由を分かっていながら、聞くのは野暮でないか?言いたいなら、はっきり言え。」
執事A「…失礼いたしました。」
少しの沈黙が空気を沈ませる。
ゆっくり考えたあと、執事はもう一度口を開いた。
執事A「やはり、姫に監視役をつけた方がよいかと…。」
あの様子がおかしい姫をみれば、誰でも不安になる。
不安になる…というよりは姫が心配なのだ。
なにか、変なものに取り憑かれてるんじゃないかと。
王もそれには同意見だ。
しかし、自慢の娘に監視をつけるにはどうしても、抵抗があった。
王様「考えておくさ。」
王は一言、そういった。
ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
姫「はー、今日も疲れたなー。」
王家となれば、一日に様々なことを行う。
現代政治や音楽、市民との交流も立派な仕事だ。
最近、体調がよくなったのもあり、三年前ーー王子が亡くなる前ーーの生活を取り戻し始めていた。
なぜ、体調がよくなったのか。
それは、姫本人だけはなんとなく察しがついた。
しかし、周りはさっぱりだ。
姫が体調が悪かったのは心的に問題があったから。
最近、それが解消されるような原因があったか、全く誰にもわからない。
しかし、最近の姫の妙な行動に少なくとも関連があるとは、誰もが思ったことだった。
姫「今日はきてくれるかなー。」
なにを待つのか、姫はずっと部屋にある窓から外を眺める。
待ち人はだれか、なんなのか。
誰も知らない。
??「こんばんは。」
姫「ふえっ!?」
突如窓枠の上から、フードをかぶった男が現れた。
顔は…サングラスに口を覆う布。
男性なのか、女性なのかすらわからない。
声だけがその人間を男だと、認めるだけ。
おとこは、ひょいっと体を回し足から部屋に入ってくる。
姫「ねーねー!今日はどんな話をきかせてくれるの!?」
姫は待ちきれず、部屋に入って座ってすらいない男に話しかける。
男はまてまて、といった動作をし一息ついて、ベッドの前の床に座った。
姫を喜んだようにその男の前に。
ベッドの上にちょこんと、座った。
2人にとってはいつものことなのだろう。
男はあぐらをかき、話を始める。
男「そうだね。じゃあ、今日はタムタム少年の話でもしようかな…。」
男はなんのためにここにいるのか。
それは、この口ぶりをみれば一目瞭然だった。
お父様「それでね、タムタム少年はある人と出会ったんだ!」
時折、大きく腕を広げたり、声に強弱をつけたり。
救われる、楽しい希望のある話を姫にむかって必死に話し続けていた。
姫もとても楽しそうにその話しをきいていた。
時には神妙にときには、オーバーすぎるくらいの反応を見せた。
男は楽しませようとしていた。
姫の病気を知ってか知らずか、元気付け楽しませようと必死だった。
そして、なにより…
なにより、本人も楽しそうだった。
彼がなにものか。
彼はサングラスはとらない。
マスクも取らない。
フードもとらなければ、絶対に肌を見せたりなどしない。
姫は彼のことをどれほど知っているのか。
彼は姫のことをどれほど知っているのであろうか。
そんな不思議な関係。
お互いがお互いをわからないまま、2人は楽しく語らっていた。
ーーーーーーーーー
【森の中】
老婆「全くあやつはどこにいったのじゃ…」
カランコロン。
カランコロン。
カランコロン。
老婆は手に持った杖を地面をひきづるようにもつ。
その杖がまるで、老婆に返事をするような音を立てていた。
森の中を一人、杖を持ち不気味に歩く老婆が一人。
老婆「全くあいつはどこにいったのじゃ…。」
カランコロン
カランコロン
カランコロン
ひきづる杖が不安を掻き立てるような音をならす。
まるで、老婆の言葉に返事をしているように。
老婆「せっかく助けてやったというのに、期待をあっさり裏切りおって…。」
カランコロン…。
老婆「今度という今度は、絶対服従にさせてやろう…。」
そういうと、老婆は不敵な笑みを浮かべた。
顔はしわくちゃで、足取りはただの老人そのものだったが、眼だけは蘭々と赤く、鋭く輝いていた。
カランコロン…。
老婆「お前の行くところなど、お見通しなんじゃよ…。どうせ会いに行っているのじゃろう?お前という男は…。」
老婆の足はゆっくりと…ゆっくりと王城に向かう…。
ニヤリと笑う老婆の顔に浮かぶ赤い眼、ふたつ。
何を企む。
老婆「お前らがいつまでも、勝者だなんて舞い上がるのは…舞い上がっていられるのは…。」
カラン…。
老婆「今だけじゃ!!」
鳥が鳴き、慌てふためいて逃げて行った。
カランコロン
カランコロン
カランコロン
カランコロン…
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
【王城】
執事「やはり王…今日という今日は姫様のご様子を…!」
王「……。」
王はだんまりを続ける。
監視など娘がおかしくなった、そう言っているものだ。
執事「王様…。」
王様「……。」
執事の言うことは痛いほど分かっているつもりだ。
執事「……。」
さらにその執事がただのお節介ではなく、本当に親身になって考えてくれていることもわかっていた。
王様「執事よ…。」
昔は娘の遊び相手をさせていたりもした。
王様「私は…」
そんな執事は我が娘を大切な…大切な家族同然のものと考えてもの言っている。
そう確信が持てた。
王様「…私はどっすれば良いのだ?」
そんな彼の言葉をいつまでも、無下にすることにはいかぬだろう?
娘を思っているのだったら、行動しなければ。
娘一人、思えぬ王に誰がついて行こうと思うのだ。
いつまでも、独りよがりな悩みにかじりついているわけにはいかない。
執事「…姫様に今からでも、監視員をつけましょうぞ。」
ーーーわたしはこの国の王なのだから。
ーーーーーーーーー
【姫の部屋】
フード男「!?」
突如、立ち上がった男に姫は驚く。
いつも温厚な空気を保つ、彼の空気も一変した。
姫「ど、どうしたの?」
タムタム少年の話は終わり、次なる話に進もうというところだった。
フード男「やばいかもな…。」
姫「な、なにがよ?」
初めて見る男の様子。
姫にまでその緊張が伝わる。
フード男「悪いけど、もうここには来れ…」
バタンッ!
フード男が話してる途中に勢いよく、扉が開いた。
部屋に入ってきたのは、数人の兵士だった。
兵士A「姫様から離れろ!!」
フード男「チッ…」
男は思わずしたうちをする。
兵士が1.2.3.4人。
王室にいつでも、在中する兵士たちだ。
フード男「ああ…なつかしいな。」
男がつぶやく。
なんの意味が篭っているのか、その場にいるものには分からない。
ただ、男の言葉は本当に懐かしいものをみたような口ぶりだった。
兵士「姫様から離れろ!!」
もう一度、兵士の大きな声が響き渡る。
姫「あ、ああ、兵士この人は…」
姫が兵士に近づきながら話しかけるものの、聞く耳を持たない。
それどころか、腕を引っ張られ部屋から出されてしまった。
男は静かに両手をあげながら、つぶやく。
フード男「君たちとはできたら、戦いたくないんだけどな…」
寂しそうに呟く。
どうしてこうなるんだ、そんな感じの悲痛な呟きだった。
対する兵士は耳をかさない。
ひどく興奮している。
兵士「だまれ!お前は何者だ!」
フード男「…何者?」
興奮した兵士の言葉が男の何かに触れたらしい。
顔が見えなくとも、物凄い怒りの表情がみえる。
フード男「何者!?何者だろうな!俺は!お前らにはわかるまい!!」
姫と話していた時とはとても、同一人物とは思えない。
それほどの逆鱗に兵士は触れてしまったようだ。
怒り狂った男が一歩、兵士に近づく。
姫「あ…ああ…」
姿こそ見えないものの、それこそ城中に響く大声は部屋の扉の場所にいた姫にも全て聞こえていた。
ショックと驚きと恐怖と、悲しみと…。
様々なマイナスの感情が姫に襲いかかっていた。
フード男「はぁはぁ。お前らには感謝してるよ…」
一歩、また一歩と近づく男。
あまりの激昂に兵士たちは完全に怯んでいた。
武器すら持たぬ、この男に。
男「なあ…殺せるなら、殺してくれよ」
男はそういいながら、サングラスをはずした。
兵士は恐怖の表情でいっぱいになった。
男の顔は、耳がなく髪も全て抜け落ちている。
肌の色も…とても人間とは思えるものではなかった…。
フードの男は何者なのか?
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
城の中から、男の雄たけびが聞こえた。
老婆は何も変わらず、ニヤリと笑い赤い眼を光らせゆっくり、歩く。
カランコロン…。
ひとつ、窓に光がついている。
ひとつ、窓が開いている。
ひとつ、そこから男の叫びが聞こえた。
その窓は明らかに老婆を導いた。
老婆はゆっくりとその窓に向かう。
カランコロン…。
老婆「そこにおるんじゃろう…?」
老婆が呟く。
目線の先は考えずともわかる。
光が漏れる、その窓。
カロンコロン。
老婆「お前さんは必ず戻ってくる、死なずに…」
老婆は呟く。
男を待つ。
杖と共に。
光が漏れる窓の下。
ーーーーーーーー
【王城】
執事「化け物?」
執事が問う。
兵士「人間とはかけ離れている姿、と報告が…。」
執事「…」
沈黙が流れる。
この辺りはモンスターが多い。
一歩、王国の外に出ればあっさり食い殺されることすらある。
そのため、安全対策として近隣のモンスターを調べ上げた経緯がある。
粗方のモンスターなら、検討がつき対処法があるのだ。
執事「姫は…?」
しかしながら、今回現れたモンスターは『化け物』と兵士から報告を受けた。
モンスターではない、なにか。
兵士「安全な部屋に移動して頂きました。」
人間並みの知能を持ち、モンスター並の身体能力をもった『化け物』なのだ。
対処法など、存在する訳もない。
執事「そうか…」
執事は少し考え込み、座っていた椅子から立ち上がった。
顔には決意の顔が浮かんでいる。
執事「私も出る」
そう一言。
報告をしていた兵士は驚いた表情をみせた。
兵士「元兵士団長のあなたがですか!?」
執事「今、お主らはやられっぱなしなのだろう。数ですら圧倒できない力。」
それがあの化け物にはある。
そう言った。
執事「一泡吹かせて、退散させれば姫の身は保証される。なんとしてと、私が食い止める」
執事…元兵士団長の眼は強く輝いた。
姫様を危険な眼に合わせるわけにはいかない。
王子が亡くなった今、彼女はかならずこの国に必要な存在で、奪われてはいけないものだ。
そして、個人的に彼女の友人として、家族として…
彼女を失うわけには絶対にいかない。
しかし、それでもなお、元兵士団長は思う。
こんなときに、兵士団長であった王子がいれば…。
素早く編隊を組み、軽やかに化け物を追い払っていただろう。
…無い物ねだりは仕方が無い。
執事「今日は私が王子の代わりを勤め上げる」
確固たる決意を口にした。
化け物の元へと向かう。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
化け物の居場所に向かうと、すでにそこには兵士たちが倒れていた。
幸い、命は奪われていないようだが姫の部屋はめちゃくちゃになっている。
執事「なんてことだ…」
あまりの惨状、そして、兵士四人を相手に打ち勝った化け物におののいた。
部屋の中央にはには絶叫する化け物。
フード男「死にたくない!死にたくはないんだああああ!」
とてもこの化け物が、姫と話をしていたとは思えない。
しかし、執事は落ち着いて化け物の様子を観察する。
執事(耳…髪…腕の欠損…)
これは姫が最近描く絵にそっくりそのまま。
執事は思い出す。
姫の絵は最初は髪がなくなり始めた。
そして、髪が全てなくなると耳が腐るようになくなった。
最後には片腕すらもなくなった。
執事「なるほど…」
きっと姫は心底、この化け物を気に入ったのだろう。
王子がなくなり、大切な拠り所を亡くした姫には救いの神に見えたのだろうか。
そんなこの男をどうしても、肯定したかった。
その結果があの絵であり、姫の最大限の表情方法。
王子の穴を埋めるほど、この化け物は姫の中で大きい存在になっていたのだ。
執事は知っている。
姫の胸にぽっかり空いた穴を埋めるのは、自分でも、王でも、はたまた、町人たちでもない。
穴を埋められるのは…
『王子と変わらぬ愛を注げる人』
それは、私も王も代替できな存在。
ただ、その存在をどういったことか。
この化け物が埋めてしまったのだ。
姫は愛しているのだろう。
この化け物を。
狂おしいほど。
周りを見られなくなり、絵でその愛を表現するほど。
この化け物を愛してしまったのであろう。
フード男「あああ…。姫…姫よ…」
化け物の声が、思慮に耽っていた執事を現実に引き戻す。
化け物は相変わらず、部屋の真ん中で嘆く。
死にたい、死にたくない、姫はどこだ。
あまりにも不気味な化け物。
執事(……)
それでも、執事は動けなかった。
その化け物に剣を向ける気にはならない。
この化け物が死ねば、姫はどうなるのか。
せっかく、戻ってきた体調がまた悪くないのではないか。
様々な悪い考えが、頭に浮かぶ。
執事(…だめだ。これではいけない)
頭の考えを振り払う。
執事(私はなんのためにここに来たのだ)
姫に危険を及ぼす、この化け物をころしにきたのだ。
こんな危険な化け物を姫の近くにおいておくわけにはいかない。
治らぬ病かわからないが、どちらにせよ、この化け物の先は長くない。
これだけ、体が腐り落ちていっているのだ。
執事「それならば、私が今ここでお前を殺してやろう」
そう言い、剣先を化け物に向けた。
その執事の言葉を聞き、化け物はやっと執事が部屋にいることに気づいた。
不意打ちをしなかったのは、せめてもの姫への配慮だったのか。
化け物「は、はは。ははは…。お前か」
そう笑った化け物は少し、哀しそうにみえた。
片腕しかないその手には、兵士から奪ったであろう、剣が握られていた。
執事「ゆくぞ!」
その様子を眼に入れなかったように、鋭く言うと一気に化け物との距離を縮める。
キンッ
執事が素早く放った突き攻撃は化け物の剣に上手くそらされ、はじかれた。
体制を崩したチャンスを見逃さず、化け物は右足で腹めがけて蹴りを飛ばす。
しかし、それを執事は左腕で守り切った。
執事(少し…甘く見ていたようですね)
化け物の動きは明らかに鍛えられていない人でも、思慮のないモンスターのそれでもなかった。
十二分に鍛えられた、兵士の動き。
執事(今の蹴りも服のしたに、防具をつけていなかったら…)
気合いを入れ直し、剣先を化け物に向け直す。
フード男「今度はこっちからいかせてもらう!」
化け物と執事はほぼ互角にみえた。
ただ、それは化け物の状態。
腕も耳もない、その状態に助けられている、ただの善戦。
実際は体力的にも、技術的にもかなりの劣勢を挑まれていた。
その劣勢の中でも、執事はあることを思っていた。
執事(この動き…。どことなく、誰かに…)
戦っているときの癖、型というものは人それぞれある。
1の次は2、2の次は3をする。
勿論、毎回同じ型を出すわけではないが、ある程度はその者の癖が現れる。
この知らないはずの化け物相手に、なぜか予想がつくのだ。
戦いをしたことがある、相手。
そうでもなければ、この感覚は生まれない。
戦いの最中、化け物の左足が、少し下がる。
執事(!?)
すでに執事の体力はかなり限界に近づいていた。
普段の鍛錬は欠かさなくとも、年齢には勝てない。
執事(右から左肩へ向けてのすくい上げ…!)
それでも、なんとかここまで持ちこたえていた…
キンッ
…が、ここにきてとうとう体が追いつかなくなっていた。
予想したその攻撃は予想以上に鋭く、強く執事が身を守ろうとしたその剣を大きく弾いた。
執事(まずい…!)
化け物が少し、顎を引き右足を下げた。
執事は次なる攻撃をすぐに予想できた。
これは何度も見たことのあるはずの型だった。
予想できないはずがなかったのだ。
執事「王子…?」
一言、執事の口から言葉が漏れる。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
【12年前-兵士訓練所】
兵士団長「…ん。君はなかなか筋がいいですね。」
多くの兵士が訓練している中、団長が目を付けたのはまだ、12、13才ほどの少年。
端正な顔つきな少年は明らかに年上の兵士相手に良い動きをみせていた。
少年「あ、そうすか。ありがとうございます。」
年上の訓練士を当たり前のように、手で静止させ彼は笑いながら、そう答える。
兵士団長「ただ、自分の癖をもう少し研究した方がいいかもしれないですね」
技術自体はなかなかですからね、と兵士団長は言葉を続けた。
少年「はい!兵士団長様に話しかけられるなんて、運がいいなー。」
そんなことを言って、少年は笑う。
どこかふてぶてしい態度も、相手をイライラさせない、そんな雰囲気があった。
兵士団長「ふふ、そうかもしれませんね。」
王国に数が多すぎるくらいいる兵士。
しかも、訓練を毎日見に来れるわけでもない。
そんななか、兵士団長に話しかけられるなど、そうそうあることではないのだ。
兵士団長「では、頑張ってくださいね。」
兵士団長は背を向け立ち去る。
このときはまだ、ただなんとなく目についた。
それだけだった。
少年の嬉しそうな大きな返事が、兵士団長の背中に響いた。
【9年前-兵士訓練所】
兵士団長は訓練所を歩く。
最近は毎日のようにここに訪れていた。
兵士団長(なかなかいないものですね…)
兵士団長は次なる、この兵隊を率いることができる者を探していた。
本来ならば副団長がなるべきなのだが、生憎、団長と同じく既に高齢。
団長には戦闘以外にも様々な能力が求められるため、なかなか適任者が見つかっていなかった。
そんなときに見覚えのある少年が目に入った。
その少年は集団の中心で、楽しそうに話していた。
周りを囲む兵士も楽しそうに笑う。
兵士団長「君は…。あのときの少年ですかな?」
適任者探しに行き詰まっていたのもあり、フラフラっと近づき少年に話しかけた。
彼には人を引き寄せる何かがあるのかもしれない。
集団の笑いがピタリと止まる。
急に兵士団長がきたとなれば、当たり前だ。
少年「あ、お久しぶりです!」
そんななか、当の本人だけはどこ吹く風。
先程と何も変わらぬ、満面の笑みを兵士団長に向けた。
兵士団長「ふふ…お久しぶりですね。」
思わずつられて、笑う。
兵士団長「あのときの癖はきちんと直しましたか?」
あのときの話を兵士団長は覚えていた。
団長自身もあの年齢の少年が目についたのは初めてだった、そのせいなのか。
はたまた、別の理由か。
なぜか、記憶によく残っていた。
少年「もちろんですよー。」
自信ありげにそう答えた。
そして、少年は次に思いがけない言葉を口にする。
少年「試して見ませんか?」
場の空気が凍りつく。
なんと、図々しいお願いなのだろうか。
まだ、なにもないただの平兵士が団長にむけて、手合わせをしろ。
そう言っているのだ。
兵士「お、おい…」
周囲にいた見兼ねた兵士が口を開く。
兵士「お、お前流石にそれは…」
そう言っている途中。
兵士団長「はっはっはっは!」
兵士団長の笑い声がそれを遮った。
周囲はにいる兵士達のんどん、顔色が悪くなっていく。
怒りを超えて、笑いだしたとでも思ったのだろうか。
兵士団長「いいですよ。お相手して差し上げましょう。」
そんな予想を裏切り、微笑みながらそう答えた。
兵士団長(この少年、もしかしたら…)
そんな団長の頭の中には、ある考えが浮かんでいた。
少年「やった!ありがとうございます!」
少年は無邪気にそう、答えた。
団長の考えなどには、全く気づかない。
兵士団長「では、皆さん少しだけ場所をあけてくれますかな?」
団長がそういうと、周囲は一気にひく。
周囲の兵士達が円形に取り囲み、瞬く間に手合わせの土俵が出来上がる。
兵士団長「では、まいりましょうか。剣をぬいて、どうぞ?」
団長はニッコリ笑いながら、少年にいう。
少年は元気に笑いながら、団長と対峙する。
しかし、手が剣に触れた瞬間。
少年の雰囲気が一変した。
少年「いきます。」
瞳から炎が見えるかというくらいの勢いで、鋭く、睨む。
次の瞬間、剣を抜き団長に近づき一閃、振り下ろす。
団長はそれを身を引き、あっさりと避けた。
しかし、少年はその一撃で止まらない。
手を返し、次なる攻撃を繋げる。
少年「おりゃ!」
手を返しながらの斬撃。
団長が剣を使い、力の方向をずらす。
それでも、少年はバランスを崩さず踏みとどまり、一歩引いたあとに回し蹴りを飛ばす。
兵士団長(ふふふ…本気できてくれる相手は久しぶりですね。)
この時点で団長は心底、驚いていた。
あの時見た、明らかな癖は改善され綺麗な攻撃を繰り出す少年に。
一歩ひき、回し蹴りを軽くかわす。
少年は攻撃の勢いを止めない。
回し蹴りを終えると、次なる手を繰り出す。
それをはずしたら、次の手を…。
団長が驚いたのは、癖を直した、ということひとつだけではない。
少年にはすでに、次の手、次の手を考えるということができていた。
そのため、隙のない連続した攻撃ができる。
団長がよけてばかりいるのは、少年に明確な隙がないということを示していた。
少年「くっそ!」
少年は相手が誰かということも忘れて、全力で団長に立ち向かう。
右から左肩へのすくい上げながらの、切り上げ…。
団長「ん…。」
団長がそれを避けながらも、少年の小さな癖を見逃さなかった。
そして、少年の次なる攻撃、腹部へ向けて突きを向けた瞬間。
カキィィィィン……
少年の手にしていた剣が高く跳ね上がり、カランと金属独特の音を響かせ地面に落ちていた。
少年「あ、ああ…」
ほの金属の音が鳴り止むと、少年が悔しそうに言葉にならない言葉をはいた。
兵士団長「ふふ、楽しかったですよ。数年後が楽しみでならないです。」
団長は楽しそうにそういった。
労いやお世辞の類ではなく、心底期待しての発言なのだろう。
少年「あ、はい!ありがとうございます。」
少年は少しだけ悔しそうにしながらも、そう笑って答えて見せた。
兵士団長「頑張ってくださいね」
団長もニコリと笑いながらいう。
三年前とは違い、背を向けずに言う。
少年「はい!」
嵐が去った…。
周りにいた誰もがそう思っただろう。
団長は背を向け、また他の兵士の様子をみるのだろうと。
しかし、その後団長が他の兵士を見回ることはなかった。
これまで、以上に予想外なことが。
もはや、ありえない、そう言えるくらいのことが団長の口から発せられていた。
団長「それとも、私の元で頑張って見ますか…?」
この言葉には流石の少年も、笑わずに驚いていた。
それがどこか可笑しくて、団長は気づくと口から笑いが漏れていた。
【王城】
姫「離してよ!」
兵士「姫様!今行くのは危険すぎます、おやめになってください。」
部屋の中、姫と兵士が言い合っていた。
わけもわからず、危険だからと強引にここに連れて来られたのだ。
姫「あの人は悪い人じゃないわ!いい加減にして!」
止める兵士の言葉には耳も貸さない。
ただ、兵士もこればかりは一歩も譲らない。
兵士「なんと仰られても、こればかりはいけません!」
姫に何か怪我でもあれば、一大事なのだ。
そんな姫に化け物に襲われて、大怪我をさせたなどとなれば申し訳が立たない。
しかし、兵士が思っていた以上に姫は必死だった。
部屋からだしてくれないと判断した姫は予想外の行動にでた。
姫「怪我をしたくなかったら、この部屋からだしなさい!」
護身用にいつでも持たされていたナイフを兵士達に向けていた。
姫の眼は明らかに本気で言っている。
姫「早くそこの扉の前から、どきなさい!」
こればかりは、どうしようもない。
おとなしく、姫に刺されるわけにもいかない。
しかし、だからといってナイフを奪おうと怪我でもさせれば…。
それでは、あの化け物から逃げてきた意味がない。
じりじりと、近づいてくる姫に対して兵士は身動きも取れなかった。
どくわけにはいかない。
しかし、手を出すわけにもいかない。
兵士「ひ、姫様。おやめください。危険すぎます!」
姫「うるさい!あんたたち、ここからでるんじゃないわよ。鍵を渡しなさい。」
どうしようもないと判断した兵士は、団長が化け物を倒したことを祈りながら鍵を渡す。
姫「じゃあ、おとなしくしてなさいよ!」
奪うように鍵を取りそう言うと、扉を閉める。
鍵をしっかりかけたあと、姫は自分の部屋へと駆け出していた。
部屋の前につくと、扉は閉まっていた。
まだ、周りは荒れた様子もない
中から、特に物音も聞こえなかった。
姫は少し安心していた。
この様子なら大丈夫だろうと。
もし、暴れ回っていたとすればもっと荒れているだろうし、物音しているだろう。
姫「あ、あけるわよ!」
少し緊張しながら、扉の取っ手に手をかけた。
そこには、ありとあらゆる絶望がつまっいた。
姫「え…?」
現実を受け入れられず、思わず口から言葉が漏れる。
扉を開けた目の前になにが広がっていたのか。
荒れ果てた元の姿すらわからない、自分の部屋。
倒れている幾人かの兵士たち。
そして、部屋の中央にいる優しく、楽しいはずのフードの男…。
その先には剣が握られている。
そして、その先は…。
その先には、腹を貫かれた人間が立っていた。
見知った男。
すっかり年をとったその男。
子供の頃から遊び、話し、優しくしてくれた。
家族同然の…。
家族同然のその男、執事の腹をフード男が貫いていた。
姫「あ、あああ…」
様々な感情が入り乱れ、言葉にならない。
一言で言う、絶望を味わっていた。
三年前、起きた王子のことを癒してくれたはずのフード男。
そのフード男が再び、姫を絶望へとおとしめていた。
フード男「ひ、姫…!」
フード男…否、化け物が姫に近づこうとする。
姫「こないで!!!」
それは絶叫に近いものだった。
眼は恐ろしいほどに、鋭く憎しみに満ちている。
フード男「こ、これは…」
姫「うるさい!!!」
全てを拒むかのような姫の声に化け物は恐れをなして、近づこうとした足を引いた。
姫は絶叫するかのように、つづける。
姫「もう近寄らないで!!出ていきなさい!!!」
有無を言わさないその言葉が響いた。
さらに姫は言葉を続ける。
姫「この城にもう近づかないで!!この…」
姫「この…化け物!!!」
姫の最大音量の絶叫が城内に響き渡った。
ーーーーーーーーーーー
【7年前-王城の庭】
カキィィィン…
剣が弾かれる音が王城に響いた。
兵士団長「はぁ…ほんとうに君はその癖だけは治りませんね」
団長が呆れたようにそう言う。
相手をする青年は苦笑いでそれに答える。
兵士団長「全く、そういうのが命取りとなるんですよ?」
青年「わかってますよー」
青年の返事は抜けたような声で耳に届く。
兵士団長「わかりましたよ、休憩にしましょう」
兵士団長はすっかり呆れた声でそういった。
2年前から兵士団長のもと様々な訓練を受けた少年はすっかり、大きくなっていた。
技術もさらにつき、体も大きく。
しかし、隙にもなってしまうその癖だけは、一向に直らなかった。
青年「あーあ、なんでだろうなー」
別に青年はなおす気が無い訳でもない。
大きな隙になり得ることもわかっていたし、危険になりうることもわかっている。
ただ、こればかりはなぜか才能溢れる彼もお手上げだった。
青年「はぁ…」
ため息をつきながら、庭にあるベンチに座った。
気分転換にと、王城の庭で訓練を受けさせてもらったが、結局直らずじまい。
しまいには、団長に呆れられてしまった。
そんなとき、柄にもなく落ち込む背後から声がかかった。
姫「あら、どちらさま?」
振り返るとそこには、綺麗な顔立ちの少女がたっていた。
青年「ひ、姫様?」
驚いた青年は、座っていたベンチから立ち上がり、そちらの方向へ向いた。
さすがに、何年か前の頃のような無邪気さはない。
姫「ふふ、そんな驚かなくてもいいじゃない。ここは王城よ?いても不思議じゃないでしょう」
青年「…そうですね」
普段は護衛に兵士がついているはずだ。
それがいないということは、お転婆だと聞く姫様のことだろう。
きっと、勝手に出回っているんじゃないのだろうか。
姫「ふーん、あなた顔はかっこいいわね。いいわ、何か話をして頂戴?」
そんなことを思っていると、姫が突然そんなことを言い出した。
若い兵士、というのが珍しかったのだろうか。
それとも、顔が気に入られたからだろうか。
ただ、話となれば青年の得意分野。
なにかとっておきの面白い話を頭の引き出しから取り出す。
青年「…では、黄金の都の話なんてどうでしょう?」
姫「いいわよ、続けなさい」
きっと、護衛の兵士が王城内を必死で探し回っているのだろう。
ここは話のひとつでもして、足止めささておくのは悪い手ではない。
そんなのとを思いつつ、青年は話し始めた。
姫「うんうん!それで!?」
最初はただの足止めのつもりで、話し始めた青年も姫がとても楽しそうに聞くので、一緒に楽しくなっていた。
青年「……おしまーい」
最後にそう話をしめ、姫の方へニコリと笑った。
姫「あ……。な、なかなか面白い話だったわ!」
なぜか、少し慌てたように答える。
男性経験のない姫にはこのとても楽しい話をしてくれる美形の青年は刺激が強すぎたようだ。
姫「あ…やばい。見つかった…」
それもつかの間、顔色を変えた姫から言葉が漏れた。
青年が振り返ることそこには、こちらに走って向かってくる兵士団長の姿が見えた。
兵士団長「ひ、姫様ー!」
兵士団長「はぁはぁ…。ひ、姫様…どこにいかれたかと思いましたよ…」
姫「ちぇー、せっかく逃げれたのになー」
ふくれっ面でそう言う。
先ほどまでの上品な姫はどこに行ってしまったのか。
兵士団長「ふー…。なんで、姫様がここに?」
ふくれっ面をしている姫に変わって、青年が答えた。
青年「ああ、いや、たまたまここに姫様がいらっしゃって…。ちょっとばかり、話を」
兵士団長「話?」
青年「僕のとっておきの話ですよ」
ああ、といって兵士団長は頷いた。
団長も一度はきいたことがあるようだ。
青年「まあ、見つかってよかったですね」
そんなことを言う、青年。
団長「そうですね。では姫、お部屋に…」
そこにいたはずの姫が、いない。
たしかに青年の後ろのベンチに座っていたはずだ。
座っていたはずなのに…。
兵士団長「ひ、姫様…」
どうやら、また逃げられてしまったようだ。
団長はあんぐりと口を開けたまま、疲れきった表情を見せる。
青年「クックック…」
そんな団長の疲れきった顔に青年は笑いを堪えることができない。
青年「だ、団長、庭での訓練、定期的にやりません?」
青年は笑いながら、そう提案した。
兵士団長「…はぁ」
……団長の苦労は絶えない。
ーーーーーーーーー
【王城】
執事「ひ、姫…様」
執事が口から血を流しながら、姫を呼ぶ。
どう見ても、助かりそうにない。
姫「や、やめて。話さなくていいわ!すぐに兵士たちを…」
泣きながら必死にそう言う姫を、手で静止させ執事が話す。
執事「…私はもう、長くないですよ。ゴフッ…ひ、姫様にも分かるでしょう?」
ゆっくり、ゆっくりと言葉を続ける。
執事「最後くらい、私のそばにいてください…」
姫「いやよ、嫌!あなたはまだ、やることがいっぱい…」
姫は現実を受け入れきれない。
大粒の涙を流しながら、執事の横に座り込む。
執事「姫…私から最後に大事な話があります、お願いです。聞いてください…」
執事は言葉を振り絞る。
姫「……」
姫は返事もできず、黙り込む。
最後というのを受け入れきれないが、話を聞かないわけにもいかなかった。
そんな姿を見て、執事は笑った。
執事「ふふ…姫…。い、いつまでも…子供ではいけませんよ」
言葉を続ける。
執事「私たちは…前に…前に進まなければなりませぬ。自分の力で…。それを、どうか分かってください」
執事の話は続く。
姫「……」
涙でかおをぐちゃぐちゃにしながらも、姫はどうにか頷く。
執事「ふふ…。お願いしますね」
そんな姫を見て、執事はまた笑った。
執事「そ、それと、もう一つだけ…グッ…。お願いがあります」
しかし、執事の様子は明らかにしに近づいていた。
姫「な、なに…よ…」
執事「王子を…王子をどうか怒らないでやってください…」
姫「ど、どういう意味…?」
姫には意味がわからない。
もういない人間、怒りたくても怒れないのだ。
しかし、そんな姫を無視して執事は続ける。
執事「か、彼は…無鉄砲で馬鹿で、学習しないやつでしたが…。それでも、私の大事な教え子です…」
姫「し、執事…?」
執事「そして、あ、あなたの…大事な、大切な人です。どうか…やつを怒らないで、迎え入れてやってください…」
姫にはさっぱりなんの話だかわからない。
執事はそれでも良いと思っているのか、話続けた。
執事「わ、私は彼に申し訳のないことを…してしまったようですから…。グッ…監視なんてするべきじゃなかった、そうですね…」
姫「な、なによ!どういう意味よ!」
泣きながら叫ぶ。
その言葉に執事はやっと反応をみせる。
いつも鋭かったはずの眼は虚ろに。
唇も動かなくなり、急に何歳も老けたような顔だった。
執事「そのうち、わかり…ゴボッ…」
話している途中に大量の血が口から飛びだした。
それでも、なお、話すのをやめない。
執事「や、やつを頼みましたよ…姫」
執事は微笑んだ。
そして、二度とその口から言葉が発せられることはなかった。
姫「し、執事…?」
姫は呼びかける。
姫「執事…!やめて!いかないで!!」
何度も、何度も。
しかし、その男は微笑んだ顔のまま動くことはない。
化け物が、フードの男が何者なのか。
わかっていながら、伝えなかったのは執事の優しさなのか。
それともただの、エゴなのか。
ただ、彼が最後まで思い続けたのは若い2人の未来。
それだけだった。
ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
カチッカチッカチッ
時計の音だけが、部屋に静かに響き渡る。
執事の死を自分の父親である、王に伝えた。
その後、どうなったか自分でもあまり覚えていない。
泣きじゃくる自分を気遣ってくれた父が、この時計と机、椅子だけが置かれた部屋に移動させてくれた。
きっと、あの人も辛いはずなのに。
王だからゆえ、気然とした態度で振舞った。
姫は自分を責めた。
あの化け物をこの城に誘い込んだのは、自分自身なのだ。
そうでもなければ、きっと誰も傷つかずに。
執事も死なずに死んだ、だろうと。
時計の振り子の音だけが部屋に響く。
執事が死んでから何時間立ったのだろうか。
時計の針はすでに午前5時をさしている。
時間はゆっくりと進む。
外がほのかに明るくなっていく。
王子が死のうが、時はたった。
執事が死んだ今も、それは変わらない。
執事のためにできるのはなんなのか。
王子が死んだ時のように、何もせずただ、時間を潰すべきなのだろうか。
自分を責め。
自分を庇いながら死んだ王子のときのように。
今回もまた、それを繰り返し助けを待つだけ?
姫は自分に問いかける。
執事はなんといった?
最後のお願いはなんだった?
ただ、自分の過ちを悔やむことを望んでいたのだろうか。
彼は「前に進め」そういった。
なにかにすがるのではなく、自分で前に。
前に進まなくてはならない。
2人もの優しい、愛する大切な人の思いを無下にしてはならない。
王子のためにも、執事のためにも。
そして、自分のため、父親のために。
姫「頑張るしか…ないのかな」
呟く。
姫「…いや、頑張ろう。頑張るんだ」
小さく強く呟く。
姫は心に決める。
「前に進む」と。
大切な、大切な2人のためにも。
外では鳥がないていた。
なにが起きても、時間は変わりなく進むのだ。
日が登り、鳥は鳴く。
無駄にはできない。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
【5年前-訓練決闘場】
姫「副団長がんばれー!」
決闘場の外から、姫が大声をあげる。
兵士団長「全く…まさか、姫に応援されない日がくるとは思いませんでしたよ」
団長がため息混じりにいった。
副団長「そうっすか?」
兵士団長「はぁ…わからぬものですね、本当に。私の立つ瀬がなくなってしまうじゃないですか」
そんな団長をフォローする。
副団長「大丈夫ですよ、彼女から言わせれば…おじいちゃんらしいですから」
兵士団長「お、おじいちゃん…」
副団長「そうですよ、そろそろ若者の世代と交代しないと…」
なーんて、冗談ですよ、と青年は続ける。
フォローなどではなくただの皮肉を言っているだけのようだった。
兵士団長「…あなたはすっかり、生意気になりましたね」
男性は呆れ声でそういった。
副団長「クックックッ、今日はあなたを倒しますからね」
その呆れ声に副団長は笑いながら答えた。
兵士団長「ふふ…そうですね。約束はちゃんと果たしますよ、かかってきなさい」
団長の目が真剣なものにかわる。
二年前、彼を相手にしていたときには見せたこともないような目だった。
それだけ、彼が成長したということなのだろう。
副団長は剣に手をかけ一言。
副団長「いきますよ」
鞘から引き抜いた剣、次の瞬間には団長の前で振り下ろされていた。
素人目にはとてもじゃないが、目が追いつかない。
それほどのスピード。
キィン!
剣と剣がぶつかり合う。
激しい攻防の始まりだった。
一方が攻撃すればそれを避け、はじき反撃をする。
それを繰り返す。
実力は明らかに拮抗していた。
動きだけなら、副団長が上かもしれないが、培われてきた経験。
その差で団長も上手く戦う。
しかし、いつまでもそれは、続かなかった。
兵士団長(…あなたの癖は相変わらずですね)
団長はつぎなる攻撃を完全に予想して、踏み込む。
まだまだ実力不足、そう思った。
兵士団長(!?)
しかし、予想に反した動きを副団長はみせる。
踏み込んだその先、喉元に剣が向けられていた。
副団長が静かに言った。
副団長「ぼくの勝ちですね」
兵士団長「…わざとですか?」
副団長「…ふふ、なんのことですか?」
その質問に対して、副団長は笑ってごまかす。
兵士団長「……。はぁ、あなたには負けましたよ、一本取られました」
団長は、諦めたようにそういった。
癖がなおらないなら、いっそそれを不意打ちに使ってしまうというなんとも単純な発想だった。
いつもの癖の動作をわざと真似し、別の攻撃を…。
兵士団長(いつでも通用するようなことではないんですけどね…)
そう思ったのと同時に、自分の年を思い知った。
あの程度の不意打ち、引っかかるものではないはずだった。
それすらも、もう見破れない。
兵士団長「約束…ですね」
こちらをみる若者へ向けていう。
その眼はしっかりとしていた。
自分が育てた、次なる兵士団長。
兵士団長「これをもって、私は団長を辞任」
この瞬間を待ち望んでいた。
ただ、少しだけ悔しい。
弟子に越えられる、ということ。
兵士団長「あなたを団長に任命する!」
威厳をもち、団長として最後の仕事を果たす。
姫「やった!やったあ!」
遠くで姫が飛び跳ね喜ぶ。
それに微笑みながら、手を振り返す副団長…いや、団長。
元団長となった男は青年のいったように世代交代を感じた。
しかし、悔しい気持ちや、悲しいものは意外にもなかった。
心から彼らにこの国を任せられる。
そう思った。
もう、自分が出るまでもなく、2人でどんな苦難も乗り越えてくれるだろうと。
駆け寄ってきた、姫と話す青年にむけて。
そして、楽しそうに青年を祝う姫。
2人に向けて小さく呟く。
元団長「…応援してますよ、いつまでも」
元団長の顔は穏やかな笑顔だった。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
カラン…
カラン…
森の中、何かが引きずられる音が聞こえた。
老婆「どうじゃ?通い詰めた成果はあったかの?」
1人ぽつりと大木によりかかり座る者に話しかけた。
ただ、返事は返ってこない。
老婆は気にせず、話を続ける。
老婆「あそこはそういうところじゃ。罪なき者が無意味に傷つけられる」
フード男「……」
老婆「自分を責める必要はない。お前はやるべきことをやっただけじゃよ」
静かに男の行動を肯定する。
その言葉をきき、男がぽつりと呟く。
フード男「あんたが…正しかったよ」
その言葉は悲しさと怒りとが混ざり合うもの。
嗚咽もなく、涙が頬へと流れ伝う。
老婆「お前は悲しむ必要など無いんじゃよ。むしろ、喜ばしいこと。あやつらの本性に気づけてのう…」
老婆が目を細め、昔のことを思い出すように話す。
老婆「姿形だけで、人を判断し町から追い出す…」
怒りがこもった声だった。
老婆「わしなら、お前の姿など怖くも無い。『それ』の進行も遅らせられる。共に戦おうじゃないか、若者よ」
その言葉に化け物の姿となった男はすぐには返事はしなかった。
数十秒、考え込む。
そして、答えが出た。
フード男「……何をすればいい?」
男は下を向き、虚ろな声で……
しかし、しっかりとした意思が伝わる声で言った。
老婆「ようやく、お前もその気になってくれたか」
何をすべきかははっきりしている、と老婆は言う。
老婆「ただ、お前さんが本当にあそこを捨てるという約束さえすれば、協力してやってもいいんじゃがのう…」
この言葉に先程とは全く違う。
すぐに男が返事をした。
男「勿論だ、手を貸そう」
上を向き、虚ろな眼で老婆を見上げながら言った。
男「ただ、教えてくれ」
その質問に老婆はすぐに返答しなかった。
老婆「何者…何者じゃろうなぁ……」
暗い森の木の葉の天井を見上げる。
老婆「もう忘れてしまった」
老婆が悲しそうに言った。
ほとんどの言葉に憎しみだらけだった、言葉に。
悲しみがこもっていた。
老婆「ただ、あえていうなら」
老婆は続ける。
静かに、今まで最も感情の詰まった言葉で。
老婆「お前と同じ、『化け物』じゃよ…」
悲しみと怒りが混じる声で。
そう言った。
老婆の杖は腰にくくりつけられている。
腕があるべき場所には、なにも生えていない。
老婆は両腕が腐り落ちてなお生きる、化け物そのものだった。
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
執事が突然の死が訪れてから、すでに一週間が立っていた。
活気が戻りつつあった町はまた、暗く沈んだ空気。
王「…執事よ、私はどうすれば良いのだ」
問いかけても、答える人はいない。
良き友人でもあった。
自分より年上の執事は実に頼りがいのある人物。
いなくなって、なお思う。
兵士たちは執事がいなくなると、急に統率が取れなくなった。
娘である姫も、気丈には振る舞うが明らかに落ち込んでいる。
活気を取り戻しかけた町も、団長であった執事の死は町民にも大きなショックを与えた。
今まで、何もかも執事に任せすぎていたのが浮き彫りになってしまった。
王子の亡き後、兵士を統率させていたのは?
姫を最も思いやっていたのは?
町を必死に活気付けようとしたのは、誰だったのか。
王「私は何もできていなかったのだな…。お前に何もかもを任せすぎていたようだ」
王はこの状況にどう対処すればいいかもわからない。
執事の代わりなど現れることなど無いのだ。
王「どうすればいいのだ…」
悲痛な声が漏れる。
王座に1人座る、それはとてつもない不安が募るばかり。
時間ばかりがすぎて、早一週間。
何もできぬ王に、沈みゆく町。
そんな状況をさらに陥れることが襲おうとしていた。
兵士「王!」
扉が突然、勢いよく開き焦った様子の兵士が中に入ってきた。
悩む王にさらなる悩みを募らせる。
兵士「か、かなりの数の町人が急に苦しみ出していまして、早急な対処を…!」
王「な、なんと…!?」
急な出来事に王は焦る。
兵士への指示は団長である執事や王子に今まで任せっきりだった。
兵士「王!早くせねば、人々が…!」
兵士の言葉がさらに王を焦らせる。
王「あ、ああ…。な、ならば、兵士各自で編隊を組み、近くの診療所に運び込め」
なんとか口について出た言葉を吐く。
兵士「はい!では、編隊を組ませすぐに行動に移します!」
そう言うと兵士は扉を開け、急いで部屋から出て行った。
そんな様子を見ながら一息つき、呟く。
王「……お前なら、素早く明確な言葉が出ていたのだろうな」
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
町中はパニックにおちいっていた。
かなりの大人数の町人たちが、急に苦しみ出し倒れ出したのだ。
フードの男「とうとうか…」
町の中、物陰から密かにその様子を伺う。
老婆が作った毒薬が町の水道管中に巡っていたのだ。
執事がいない今、原因の調査などできる余裕はない。
パニックは収まらないはずだ。
フードの男「……弱いものだな」
ここの水は全て同じ水源から組み上げられている。
そこに強力な毒薬を垂らせば…それは町中に毒が回る。
王城に目をやると、焦りながら次々と兵士が外に出て行く。
化け物のために警戒されていたはずの王城が手薄になって行く。
フードの男「さて、と…」
呟くと男は動き出す。
行く先は王城内部。
狙うは…
フードの男「姫様、待っていてくださいね。今、そちらに向かいますから」
虚ろな声で言う。
憎しみのこもった、怒りの篭った。
ありとあらゆる憎悪のこもった声で。
フードの男「……」
数分後、あっさりと男は内部に潜入していた。
構造を完璧に理解し、兵士の位置まで把握していた。
フードの男「……彼がいないとこのザマか」
呟く。
当たり前のように通路を歩くことができていた。
長い廊下を歩いた先。
兵士がいるとわかっていながら、扉を開ける。
兵士「!?」
兵士が驚いた声を上げる。
フードの男「……久しぶりだな」
男は呟く。
相手に返答を求めていない挨拶。
兵士「き、貴様!何者だ!」
案の定、その言葉は兵士の耳には届いていないようだった。
兵士は腰につく剣に手を置く。
フードの男「ふふ、誰だと思う?あててみろよ」
兵士「ふざけおって!きりふせてやる!」
城内に入ってきた明らかに怪しい人物。
捕まえようとしないはずが無い。
兵士は手を置いていた剣を抜く。
フードの男(右肩から下に流れる振り下ろし…次の手は左足を軸とした蹴り…はフェイントかな?)
襲い掛かる兵士に対し、男は全て動きを読んでいるかのような動きを見せていた。
武器を何も持たない相手に、全くと言っていいほど歯が立たない。
兵士「くそっ…」
兵士が振り下ろす剣ををよけながら、男は兵士に話しかけた。
フードの男「その動き…懐かしいな」
兵士はその言葉を無視し、攻撃を続ける。
しかし、軽くよけながら男は話し続ける。
男「……お前はいつも、俺に食ってかかったよな。毎回毎回、負けるって言うのに」
兵士の攻撃は当たる気配も無い。
男「その割に俺の話はとても楽しそうに聞いてくれたな…。お前はいい奴だったよ」
兵士はその話になぜか、覚えがあった。
フードの男「暑苦しくて、いつも全力で…」
自分が唯一、負けを認めたはずの男。
フードの男「いつになったら、こいつは、諦めるんだと毎回悩んだよ」
攻撃の手は緩めない。
男のただのうわ言。
…そう思いたかった。
話は続く。
フードの男「けど、お前はいつの日かの戦いの後、急に負けを認めたんだったな」
あり得るわけが無い。
そんなことは絶対にあり得ない。
兵士は必死に心の中で否定する。
男を黙らせたくて、攻撃が一層激しくなっていく。
フード男「なにかと、思えばその後言った言葉には驚いたよ」
その口を黙らせたい、これ以上聞きたくない。
フードの男「……勿論覚えてるよな。もう一回、言ってくれよ」
兵士の攻撃がだんだんと遅くなり、やがて止まった。
そんなはずはない。
あり得ない。
ただ、これがあっていたらこいつは…。
頭の中が嫌な予感で一杯になる。
フードの男「俺の負けだ。だから、約束してくれ…」
フードの男がそこで言葉を止めた。
果てしなく長く感じる間があく。
その空気の中、戦意を完全に喪失した兵士が呟いた。
兵士「約束してくれ、お前は団長になれ…。俺がお前の…補佐を、する」
フードの男「そうそう、懐かしいだろう?」
男その呟きに笑いながら、答えた。
兵士「お、お前…」
兵士の言葉は言葉にならない。
男「……俺の補佐、ちゃんと務めてくれたっけ?」
そんな兵士を無視して男は問う。
兵士「……」
兵士は黙り込んだ。
あれは、あれは自分のせいだった。
補佐どころか足を引っ張った。
フードの男「ふふ、気に病むことはない。もう許してるからな…」
男はそういいながら、兵士に近づく。
兵士はその言葉になんと答えていいかわからない。
振り絞るように一言。
兵士「……すまない」
……次の瞬間、自分の腹に剣が深々と刺さっていた。
フードの男「いいっていってんだよ。糞野郎」
静かにそう言った男の目は憎悪。
男の手には兵士が持っていた剣が握られ、深々と腹の奥へと貫いていた。
兵士「あ…ぐ……」
言葉もなく、倒れこんだ。
フードの男「……俺は仲直りしにきたわけじゃないんだよ」
静かにそう言った。
お前が悪いんだと言わんばかりに。
フードの男「……」
呻いている兵士を見下す。
兵士が最後に見た男の表情は限りなく、悲しげなものだった。
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
涼しげな風が吹く。
慌ただしく人が交差する町中を城のベランダから見ていた。
姫「……」
こんなにも悪いことが続く。
なにか、とても嫌な予感がした。
未だ、あの執事を殺した化け物は捕まっていない。
執事がいなくなった。
それから、何をすべきかを考えていた。
明るく振る舞い、弱い心を見せようとはしなかった。
姫「……なにも、できないのかな」
しかし、いく探しても町のためにやれるは見つからない。
今こうして、町はパニックだというのに自分はただ、城から町を見下ろすだけ。
自然と眼から涙が零れ落ちる。
最近、ずっとこんな状態だった。
誰もいないところにきては、1人涙をながす。
自分の無力さが悔しかった。
王子や執事はあんなにも、国をために尽くして様々なことをやり遂げていたのに。
姫である自分はただ、見てるだけ。
姫「う……うう…」
涙はとめどなく流れ出る。
ぽた、ぽた、と足元へ涙が落ちた。
そして、広がる。
とまる事のない嗚咽だけが、涼しい風とともに流される。
足元の涙は広がる。
そんな1人涙をながす、姫に背後から声がかかった。
「お迎えに参りましたよ」
声に驚きながらも、弱味を見せ前と涙をぬぐい振り返る。
フードの男「お姫様」
そこにはあの化け物が立っていた。
手には血にまみれた剣が握られている。
そして、全身には血が飛び散っていた。
姫「…あ……ああ」
あまりの恐怖に姫は声も出せない。
フードの男「ふふ、そんな怖がるなよ。わざわざ探していたんだから」
崩れかけの顔で笑う。
地にまみれその男は狂気そのものだった。
フードの男「それにしても、やっぱり君は変わってないんだなー」
表情を変えずに思い出話のように話す。
フードの男「落ち込んだり、1人涙を流す時はいつもここに来てたよなあ…」
姫はなんとか声を絞り上げる。
姫「……ふざけないで、あなた…何者なの?」
その言葉を聞くと、今まで保っていた男の笑顔が消えた。
男「……何者、ね」
姫「……」
不穏な沈黙が流れる。
姫の中は逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
ただ、足が動き出さない
そんな空気を断ち切るように男がにこりと笑う。
男「それは、もうちょっと思い出話に付き合ってくれたら分かるよ」
顔は笑っているものの、話す口ぶりは冷たいものだった。
男「……ここに来た時は、いつも泣いてたよな」
男は思い出話を話し出す。
これは、誰の思い出話なのか。
男「習い事のピアノがうまく行かなくて怒られた時……」
呟くように、頭の引き出しを開けて行く。
男「王が忙しくて、全く話を聞いてくれなった時……」
姫は黙って男の思い出話を聞く。
しかし、姫はすでに答えに行き着いていた。
男「部屋を抜け出して、皆からすごい剣幕で怒られた時とかさ」
男の声が段々と大きく、楽しげなものになっていっていた。
対して姫は、小さな声で呟く。
姫「……やめて」
男「全てが懐かしいよ、何もかも!」
そんな声を無視しわ男は声を張り上げた。
姫「やめて!!」
そんな男の声と同じく、姫も声を張り上げた。
男「ふふ……」
男は悲しげに笑う。
何もかもを悟ったように、虚ろに笑う。
姫「やめてよ……」
男「きっと……」
姫の声に反応すら示さない。
姫「わ、わかったから…」
止めたはずの涙がまた、瞼から零れ落ちた。
男「きっと、君は」
男はより一層、悲しげに悲痛なまでの声で。
男「君は俺が死んだときも、ここでないていたんだろうね」
姫「う……く……」
姫はただ、なくことしかできなかった。
答えを返せない。
男「……」
男は顔をゆっくりあげる。
その顔に悲しみなどは消えていた。
ただ、憎悪のこもる眼でみる。
こぼれ落ちる、涙を見る。
しばらく、静かにそんな時間が進んだ。
涙は止まることがない。
男も静かにそれをみる。
しかし、昔のように手助けはしなかった。
たた一言、言う。
男「俺は……お前らが憎いよ」
涙は止まらない。
男は歩き出した。
姫へと近づく。
血まみれの王子が姫へと近づく。
ーーーーーーーーーー
老婆「……これでとうとう、我が望みが叶う」
いつも以上にフードを目深に身につけ、町中を歩く。
周りでは兵士が慌ただしく走り回っていた。
老婆「復讐できる時がくるとわのう…」
行き交う兵士を見ながら、呟く。
何をするもなく、老婆は思い出していた。
昔の話を。
誰にも語ったことのない、自分の昔話を。
あのときと比べて、町は様変わりしていた。
それをみて、老婆はいう。
老婆「……変わったのは、外見だけじゃのう……」
怒りと悲しみが入り混じったものだった。
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
男「少しでも変な行動を起こせば、お前の娘の命はないからな」
突然部屋に入って来た男はそういった。
血まみれの体に、血まみれの剣。
そして、首を捕まえ剣先を向けられているのはこの国の姫様。
王「お、お前は…!」
王はすぐに察しがついた。
執事を殺した、化け物。
人間の形をしていながら、体が腐り落ちなお生きる化け物。
つかまれた姫は力なく、立っている。
首を捕まれながら、立っているのがやっと、という様子。
王「お、お前、我が娘になにを…!」
王が怒りをあらわに話す。
男「何もしてないさ。ただ、少し昔話をしただけだ」
男のあまりに軽い話し方が王の怒りを大きくさせた。
王「き、貴様…」
男「おっと、動くなよ」
そういった、男はにこりと笑いながら王をみる。
王はその言葉にも、とてつもない怒りを覚えるが、それをぐっも堪えた。
王「……なにが望みだ」
男「そうだな…あるけど、俺一人じゃ意味が……」
コンコン
男の話の途中で扉がノックされた。
男「……丁度いい、今きてる兵士に町中にいるフードの不審な老婆を探させろ」
男の意味のわからない望みに王は聞き返した。
王「……どういうつもりだ?」
そんな王を無視し、男は続けた。
男「そうだな……町中のパニックの原因を作った奴だ、とでも言って探させろ」
そう、早口で言うとぴくりとも動かない姫を引っ張り、物陰に隠れた。
王「……入れ」
そう王がつげると、扉が勢いよく開かれた。
飛び込むように入ってきた兵士が早口で話す。
兵士「お、王!町での被害が拡大し続けております。なにか、ご指示を……!」
娘が人質に取られていては、王もなにも抗うことはできない。
男の言われた通りの指示をする。
王「……町中のフードを被った、不審な老婆を探せ、そやつがこのパニックの原因を握っている」
兵士「……は?」
王の突拍子のない指示に兵士はつい、聞き返す。
しかし、有無の言わさない王の大きな声が次の瞬間、兵士の耳に飛んだ。
王「早くしろ!町中の不審な老婆を探すのだ!!」
兵士「は、はっ!皆に伝え、不審な老婆を探し出します!」
兵士は驚いたように返事をし、部屋を出て行った。
扉が閉まると、王は向きも変えずに言った。
王「……これでよいのか?」
「もちろん」
まだやることはあるけどな、と男の声が物陰から聞こえた。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
兵士「……どういうことだ?」
隣にいる兵士にきいても、首を振るだけだった。
どういうことか、探し出した老婆は王城に連れて行かれることを嫌がるどころか、喜んだような反応を示したのだ。
老婆「やっとじゃ…やっと……」
そして、歩くあいだ何かをずっとつぶやき続ける。
扉の前につき、軽く手で叩く。
中から、王の声が聞こえる。
王「老婆だけを中に入れろ!」
先程といい、王の指示は明らかにおかしい。
兵士2人は渋々その指示に従う。
老婆を掴んでいた手を離す。
兵士「入れ」
扉を開けると、老婆は1人部屋に入って行く。
扉が閉まり切ると、物陰から男と姫が姿を表した。
男「部屋から離れろと、部屋の前の兵士に言え」
王「……扉の前の兵士よ、この部屋から少し離れていろ」
部屋はしんと静まり返った。
怒りを露わにする王。
不適に笑う老婆。
だらんと力なく、剣先を向けられる姫。
無表情、冷たい目をした男。
王「……お主ら、何者だ」
王が沈黙をやぶり、声を発する。
老婆「ふぉっふぉっ…せっかくの最後じゃ。教えてもよかろう……」
老婆が笑いながら嬉しそうに話す。
時間はおよそ、50年ほども前に戻る。
その町はまだ、町と言えるほどの規模を持っておらず、村といった雰囲気だった。
そんなとき、村にある人型の化け物が現れた。
その化け物は身体が腐るような外見をしたモンスター。
しかし、それは化け物などではなく、不治の病を抱えた、人間だった。
体が徐々に腐る。
髪が抜け、耳が落ち、腕が取れ、足がもげる。
最後には目がこぼれ落ち、死に至る。
誰も眼にしたことのない不治の病。
本来ならば、様々な人から最大限の哀れみを受け、病床で死んで行く運命なのだろう。
しかし、あろうことかその村の人々はその行動とはかけ離れた行動を起こした。
村をあらす化け物だと、罵った。
行方不明になった女を連れ去った化け物だと罵った。
罪もないその不治の病の女は必死で叫び、抗議した。
その行方不明になった女こそ、自分だと。
モンスターに襲われたあと、訳のわからない病に陥った。
そして、全身が腐り始めてこんな姿になってしまった、と。
女は必死だった。
しかし、村人にも信頼された自分なら、きっと大丈夫だろうと思っていた。
せめても、静かに病床で死んでいけると。
だが、女の予想は裏切られる。
村人は誰一人信じない。
なかの良かった友達。
その村の長。
近くに住んでいた叔母さん。
そして、家族すらも。
最後まで、化け物だと罵り町から追いやった。
村を追い出された化け物は思った。
必ず、復讐すると。
あの村に絶望を味合わせると。
その心の奥底に、誓う。
老婆「……もう、分かったじゃろう?」
老婆の長い昔話が終わりを告げた。
王はその話に対して、なちも答えられない。
老婆はそんな王の様子を気にも止めず、男にいう。
老婆「時間じゃ、今日の分の進行抑制剤を飲みのじゃ」
その指示に従い、男は剣を下ろしポケットからだした薬を一錠のみこむ。
王「……お前たちはその薬で生きながらえていたのか?」
王は問う。
老婆「そうじゃよ。三年前にとうとう両腕が腐り落ちたときにはどうしようかと思ったわい」
その言葉に王がぴくりと反応する。
王「三年前…?」
老婆は素直に質問に答え続ける。
老婆「そうじゃよ。まさか、自分と同じ姿をしたものに助けられるとは思わなかったわい」
ちらっと、横目で男を見ながら話す。
男はこれに対し、口を開く。
男「助けてもらったのは俺の方だ。お前がいなければ、今頃とっくに死んでいた」
2人の会話を聞く王はとうとつ気づく。
驚いた声を男に向けた。
王「……お主…まさか……」
男「お久しぶりですね、王」
男は冷たく素っ気なく言葉を返した。
王の顔は絶望にみちた。
三年前にいなくなったはずの王子。
元団長である実力者の執事を殺した化け物。
そして、いま昔話を聞いたという力なく立つ自分の娘。
王は全てを悟った。
王「なぜ…なぜ執事を……」
察した王の一言目。
その言葉に男は少し反応を見せた。
男「……ッ」
苦々しい顔をする男に向け言葉を続ける。
王「お前と執事は……実に仲の良い師弟だっただろう?」
王「なぜ……なぜなのだ?」
王の本当に困惑し、嘆く姿に男は我慢ならず叫ぶ。
男「うるさい!黙れ!!」
男は怒り狂う。
男「お前らは……お前らは俺を化け物だと決めつけて、何をした!?あの執事も同じだ!」
そんな男を静止させようと、老婆が男へ言葉を向ける。
老婆「落ち着くのじゃ!」
しかし、男は止まらない。
男「俺だって、執事を信じていた!」
男が叫ぶ最中、聞こえない声で誰かが呟く。
誰にも届かない、その呟き。
「……しつ…じ?」
ーーーーーーーーー
ーーーーーーー
「あなた様はなにをしてらっしゃるのですか……?」
「……」
「前に進むのでは無かったのですか?」
「……」
「あなた様は何もできないわけではないのですよ?」
「……」
「あなたが勇気をだせば、何もかもが変わりますよ」
「……うるさい」
「うるさいとはなんですか!私はあなた様のためを思って…ブツブツ……」
「うるさいわよ……」
「おっと、話がそれましたね」
「……やめてよ」
「ふふ、あなた様は本当に変わらないですね」
「……」
「ですが、そろそろ変わらなければならない、そう思いませんか?」
「……そうね」
「ふふ、聞き分けがよろしい。ならば、何か行動をおこしませんか?」
「……」
「……どうしました?」
「これで、お別れなの?」
「本当に……あなた様は優しくて、弱すぎますよ……」
「……」
「あなた様の優しさは好きですが、そろそろ強くなってください。いつまで私がお守りをすればよろしいのですか?」
「ごめん」
「謝るなら、少し休ませてくださいよ、少しだけ……」
「……うん」
「そんな寂しそうなお顔はおやめください」
「……うん」
「そんな顔をせずとも、私はずっとあなたの味方で、家族で、友人…応援していますよ」
「……わかったわよ」
「では、少し休ませてください。ご武運をお祈りしていますよ?」
「わかったわよ!」
「ふふ…おやすみなさい……」
ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
男「化け物呼ばわりしやがって!」
男の怒りは未だに収まらない。
今にも、王に斬りかかりそうな勢いだった。
そんな男の叫び声を止めたのは意外な声だった。
姫「……王子」
だらんと下を向いていたはずの姫が顔をあげていた。
姫「王子、あなたはそんな人に責任を押し付ける人だったかしら?」
剣先を喉に向けられてるというのに、それをも厭わず姫は話す。
男「どういう意味だ?」
男は威圧的にその声に反応を示す。
老婆「…やめるのじゃ」
老婆の声は誰の耳にも入らない。
王は黙って、下を向いていた。
姫「確かにあなたのその姿は皆が化け物だと言ったわ」
姫が話し出す。
姫「けど、あなたは聞かれたことに対して、ちゃんと答えたかしら?」
姫の言葉は的確なことを言っていた。
男は自分の姿を受け入れられず、何者かを聞かれれば怒り狂うのみ。
しかし、男は反論する。
男「ふざけるな。こんな姿でなにを言っても、誰もなにも受け入れないだろう!」
姫「私は化け物だと言ったあなたを否定したかしら?」
しかし、姫はすかさずそういった。
男「……」
姫「結局あなたは、自分で自分を受け入れられてないだけだわ。違うかしら?」
姫にそう聞かれ、男は逆上する。
男「違う!!」
姫「なにが違うのよ!!」
それに対し、姫も同じくらいの大声で返した。
老婆と王はどうすれば良いかわからず、ただ2人の会話を某然と聞く。
姫「いつまで甘えてんのよ!人まで殺しといて、ふざけるんじゃないわ!!」
男以上の迫力で姫は叫ぶ。
もはや、どちらが剣先を向けられているかわかったものではない。
男「うるさい!」
男はそれに対し、子供のように反論する他なかった。
姫「あんた、執事が死ぬ寸前なんて言ったか想像つく!?」
姫は目を潤ませながら、叫ぶ。
姫「執事は……執事は最後まであんたのことを気遣っていたのよ!」
涙がこぼれる。
それでも、男は未だ子供のように言葉を返す。
男「黙れ!」
剣先を喉元に強く食い込ませる。
姫のがその圧に耐えきれずプチンときれ血が少しだけ流れ出す。
姫「……ッ!」
王「ひ、姫…!」
王が近寄ろうとする。
しかし、それは叶わない。
老婆「くぅ…近づくんじゃないわい!」
そんな中、姫は言葉を男に続ける。
痛みを堪えながら声をあげる。
姫「執事は、ね。死ぬ直前…」
男「やめろ!!」
男の声が一層大きくなる。
しかし、話は止まらない。
姫「あんたみたいな男を、王子を、怒らないでといったのよ!!」
男「うるさい!黙れ!」
男の剣にまた力が加わって行く。
王と老婆は焦る。
大切な娘、大切な人質なのだ。
王「や、やめるのだ!」
老婆「やめるのじゃ!」
そんな心配をよそに姫はいう。
姫「少しは執事の気持ちを汲み取りなさい!!」
男「う、うるさい!!」
この期に及んで、男は子供のようにいう。
そして、手に力を込める。
今までにない大声で叫ぶ。
男「殺してやる……!!」
その言葉に対し、間をおかず姫は叫んだ。
姫「やってみなさいよ!!」
老婆と王が何かを大声で訴えるが、男の耳には入らない。
腕をぐっと引き、喉元へと剣先を向ける。
王「や、やめろ!!」
王が叫ぶ。
老婆「ひ、人質じゃぞ!!」
老婆が止める。
姫は死を覚悟した。
やれることはやった。
勇気を振り絞った。
ぎゅっと目を瞑る。
10秒…20秒…時がすぎる。
カランカラン…
金属の落ちる音がした。
姫「……」
姫がゆっくりと瞼を開ける。
振り返る。
崩れこんでいる、男。
地面に落ちる剣。
嗚咽が聞こえた。
男は独り言のようにいう。
男「俺が…間違っていたのか?」
姫「そうよ」
男「執事はこんな俺を思っていたのか?」
姫「そうよ」
男「……こんな姿の俺を受け入れてくれたのか?」
姫「……当たり前じゃない」
男は言う。
男「……すまなかった」
姫「……謝って済む状況じゃないわよ」
男「……」
姫「けど、あなたの負けよ」
姫は老婆を見据えた。
王「……お主は辛い思いをしたのだろうが、これは間違っておる…」
王も静かに口を開く。
老婆はなにも言わない。
姫「負けを認めなさい!」
姫は老婆を睨みつける。
老婆は答えない。
老婆「……」
男は立ち上がり、老婆に語りかけた。
男「……感謝はしている。だが、お前はこの町に償わせたかっただけなんじゃないのか……?」
老婆「わしの負け……じゃと?」
男の質問には答えず、質問を質問で返した。
そんな老婆の質問。
男「そうだ。2人で罪を……」
答えようとする男。
しかし話す途中で男の顔色が明らかに悪くなる。
次の瞬間。
男「ゴホッ!」
男は口から大量の血を吐血した。
姫「お、王子!?」
姫が驚き名前を呼ぶ。
王「き、貴様、何をした!!」
王が老婆に問い詰める。
老婆が突然、不気味に笑い出した。
老婆「ふぁっふぁっふぁっふぁっ!お前など信じておるものか!!」
倒れこむ男へ言葉を吐き捨てる。
姫「ふ、ふざけないで!」
王子を床に寝かせた姫が鋭い目つきを老婆に向ける。
老婆「おお……怖いのう」
老婆はそれにも動じない。
姫「あんたいい加減に…!」
鋭い目つきをむけたまま、立ち上がり老婆のもとへと向かおうとする。
しかし、そんな姫を老婆は静止させる。
老婆「おっと、近づくんじゃない!忘れたのかのう…今、この町がパニックになっているということを!」
王「お主…まさか!」
王の怒りのこもった声がひびく。
老婆「あれの解毒剤はわししか持っておらぬ。それでも、良いのかのう…」
卑劣な言葉が響き渡る。
姫「あんた、どこまでも最低ね……」
老婆「どうとでもいえばいいわい。わしの勝ちじゃ!」
その老婆の宣言を誰も覆すことはできなかった。
威勢よく今まで話していた姫も黙り込む。
もうどうしようもない。
2人はそう思った。
背後から、声が聞こえるまでは。
男「信じてなかったのは……お、お互い様のようだな……」
男がフラフラと立ち上がり、そういった。
視線が男へと集まる。
老婆が静かに問う。
老婆「……どういう意味じゃ?」
男「……こ、こういう意味だよ」
男はそういうと、ポケットから小さなカプセルを取り出す。
男「……なんだか、グッ…わかるかい?」
老婆の顔面が蒼白になって行くのが見えた。
老婆「お、お前どこでそれを!!」
男「ふ、ふふ…ちょこっと、信じきれなくてな……悪いな」
それは町中に出回った毒の解毒剤。
男「……お前の負けだよ、諦めろ……」
男は最後の力を振り絞り言うと、フラフラと倒れこむ。
姫「お、王子!」
姫が倒れた王子に駆け寄った。
背後では老婆が呟き続ける。
老婆「な、なぜじゃ…なぜ……」
なぜ、なぜ、と何度もうわ言のように呟く。
王「……貴様の負けのようだな」
王が静かに言うと近づき腕を掴んだ。
老婆は無抵抗に捕まっていた。
何十年も夢見た瞬間が目の前で崩れ落ちた。
老婆にとっては、何もかもが真っ暗になったのと変わりなかった。
王「王子は任せる……」
王はそんな老婆を引っ張り、扉をあけ外に出て行った。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
姫「は、早く解毒剤を!」
姫が言う。
しかし、王子はそれをあっさりと否定した。
王子「……これ一つしかない。俺が飲んでしまえば町人たちが助からない」
姫「……どういう意味よ」
王子はどうみても死が近い。
王子「こ、この解毒剤を中身を調べ、増やしたら、町人たちに使ってやれ……」
そんなことをしていたら、王子は確実に死ぬ。
姫「だ、だめよ!そんなことしたらあなたが……」
王子「ふふ…姫、どこまでも優しいな。だが……俺はどちらにせよもう長くはない」
老婆がああなった今、この不治の病の進行を遅らせられる者はいない、そういった。
姫はまた、涙を流す。
姫「う、うう……」
王子「……すまない、お、俺はどう考えてももうだめだ」
王子は小さな声で、途切れ途切れに話す。
王子「姫…君はもう、立派に1人で大丈夫だよ…。俺は一回しんだ人間、もう一度、1人で……前に進んでくれ」
姫「う、うん……」
姫はどうにか返事をする。
それに対して、王子はニッコリと笑った。
あの人懐っこい、笑顔。
王子「だから……応援してるよ」
王子の本当の最後の言葉。
王子「……君なら大丈夫だよ」
姫はそれに泣きながら、力強く、確信をもって返事をする。
姫「……うん、頑張るから」
王子の死顔は、綺麗なものだった。
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
「あの子なら頑張れますよね」
「当たり前だろ、あいつはそんな脆くないよ」
「……ふふ、本当に強くなりましたね、姫」
ーおしまいー
ということで、完結です!
長い間お付き合い頂き、本当にありがとうございました。
レスしてくださった方、アドバイスや応援など非常に励みになりました。
後日談等も一応、考えがあるのでその辺は下記のサイトで公開していこうと思います。
スレ立てるには短すぎることになると思うので…。
よかったら、お立ち寄りください!
http://nanos.jp/4jzar1hoti/
また、質問や他色々、なにかあれば答えさせて頂きます。
もしあれば、よろしくお願いいたします。
では、本当にありがとうございました!
4と5がブロリーと盆踊りだったけどそれにならなくて良かったw