むしゃくしゃしたので、やります。
できる限りは頑張りますが、あまりに無理なお題だった場合、却下する…かもしれないです。
あと、キャラクター系はご勘弁ください…。
知らないキャラだと話が行方不明になりそうなので。
では、お題をお願いいたします。
元スレ
>>2 と >>3 のお題で即興SS
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361617617/
では
「肉まん」
「フルフェイスヘルメット」
で、やらせていただきます。
少し、話を考えてきますので少々お待ちください。
女「はー……。バイトめんどいなー」
電車を降りた学校の帰り道、毎回のように思う。
午後5時、冬場というのもあり既に日は傾いている。
いつも通り、駅からその日に向かって制服を来た長髪の少女は歩く。
>>19
そうですよー。
携帯のせいかたまにID変わりますが、気にしないで置いてください、すいません。
女(初めたばかりの頃はワクワクしたもんだけど……)
すでにコンビニでのバイトを始めて半年。
学年もついこの間、1年から2年生へと進級した。
なんでもそうだが、始めた頃はなんだかんだ楽しめたものも、今では面倒臭さしか感じない。
そして、コンビニの前。
見慣れた緑と青の看板に『familySHOP』の文字が光る。
女(……また、あの彼女連れの肉まんの人だ)
フルフェイスのヘルメットを被り、バイクに跨っている男が店の前にいる。
四月ごろからよく店に女の人をバイクに乗せて店にくる男。
毎日のように女に肉まんを買わせに行くのでバイト仲間のうちでは、『夕方の肉まん』などと呼ばれていた。
そんな男をチラチラみながら、裏口へと向かう。
男友「また、あの人きたな」
女友「肉まんの人ねー」
案の定、中ではあの肉まん男の話題。
女「交代しにきたよ!」
話に夢中になっている2人に声をかける。
男友「あ、俺、あがりだわ!女ちゃんあと、よろしくー。お疲れー」
女の声を聞くとそういって、制服を脱ぎ始めた。
男友は20代の大学生で、割と適当な感じの男。
女「お疲れさまです」
女友「んー、お疲れさまですー」
女友は一つ違いの、高校3年。
最近、そろそろバイトをやめようと悩んでいるらしい。
女友「女ー」
女「なんですか?」
女友「こないださー、肉まん君の顔みちゃった!」
女「え?」
女は素顔を見たことがなかった。
いつきても、フルフェイスヘルメットで顔を覆って、女の子が買い物をするのをただ、店の前でまつ。
四月から毎日のように姿は見かけたが、一度も顔を見たことはなかった。
女友「いいっしょー」
それが不思議と自分以外のバイト仲間はみんな見たことがあった。
女「いや、よくはないですけど……」
と、言うものの実は内心気になっていたりする。
皆の話を総合すると……
ひとつ、眼鏡。
ふたつ、物腰柔らか。
女友「やっぱり、かっこよかった」
そして、イケメン。
知らない人とはいえ、そう言われるとなんとなく気になるものだ。
女「……」
女友「うへへー」
変な笑い声でニヤニヤ。
どうみても、からかっている。
女「……はぁ、やめてくださいね、先輩」
いつも通り。
一度だけ、先輩に好きな人の昔話をしたことがあった。
それからというもの、男の人が話題に出るたびにからかってくる。
女友「あんな肉まん君より、例のお兄さんの方が気になる?」
女「……着替えてくるんで、仕事してくださいね」
少しばかり、むっとして冷たく返答し、制服のあるロッカーへと向かった。
はーいと言う返事。
そして、続いて後ろからやる気のない
「いらっしゃいませー」
の声が聞こえた。
女(全く…もう)
ここのコンビニバイトの人は皆、適当だ。
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
女の子「ねーねー、いつまでそうするの?」
背中から耳に痛い言葉が飛んでくる。
男「……そのうちやめるよ」
情けない声で返答するしかない。
女の子「……ストーカー」
男「うっさい」
あながち間違いでもないその言葉にドキッとした。
しかし、自分に言い聞かせる。
男「俺はコンビニに言ってるだけだよ」
女の子「……はぁ」
そんな男の声に女の子は飽きれたような溜息。
昔から、優柔不断。
定食屋でメニューを迷い出すと決まらない。
友達2人に遊びに誘われると、どちらかひとつを選べない。
バレンタインでもチョコを沢山もらったが、誰にも返事をしなかった。
女の子「あーあー、毎年あんなにチョコもらう癖に相変わらずなんだから」
おっしゃる通りだ。
好きな人ができた。
昔に一度だけ恋をしたが、そのときはだめだった。
今回こそは、と思うのにどうにもうまく行かない。
あの毎回のように買う肉まんは小さな自分への抵抗なのだ。
なにも自分でできないことへの。
女の子「肉まん買う理由も意味不明だしー」
男「わかんなくていいよ」
これは正直言いたくない。
こんなことをいえば、また馬鹿にされる理由がひとつ増えてしまう。
女の子「ま、いいけどね」
どつやらそのことに関してはあまり、突っ込む気もないようだ。
……流石に可哀想にでも見えるのだろうか。
男(……肉まん、ねー)
少し懐かしんでみる。
あれは、もう三年も前のことだった。
高校1年にして、初恋。
それは急に訪れた。
ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
男「さみー…」
コンビニのバイトが終わり外に出ると、先ほどまで降っていた雪は雨に変わっていた。
外はすでに真っ暗。
手にはレジ袋に入った肉まん二つ。
もう、誰も買わないからと店長が手渡してきた。
用意していた傘をさす。
男「……ん?」
コンビニの前に少女がたっている。
制服のままどこかに遊びにでもいっていた、といった様子だった。
急に雪が雨に変わったため、雨宿りをしているのだろう。
困った顔をする少女の横を通り過ぎる。
なんだか、悪いことをする気分だった。
手には暖かい肉まんが二つ。
男(これ、あげたら喜ぶかな、寒いしなぁ……)
ふとそんなことが頭をよぎり、足が止まる。
普段なら、悪いな、と思いつつ通り過ぎていたかもしれない。
しかし、今日は足が止まった。
男(うーん……)
悩む。
目の前で男が止まって悩んでる姿はさぞかし、怪しかったのだろう。
女「ど、どうかしました?」
女の子の方から、話しかけてきた。
突然の背後からの声に驚く。
男「え、あーいや、大丈夫ですよ」
振り向きながら、そう言う。
自分の顔が苦笑いしているのがわかる。
女の子はキョトンとした顔をこちらに向けていた。
男「あ……」
女の子が今度は心配そうに聞く。
女の子「だ、大丈夫ですか?」
そんなに変な顔をしていたのだろうか。
キョトンとした顔に見とれていたなどとは言えない。
男「い、いや、その。寒そうだなーと思って」
そりゃ寒いだろ!
なんて、心の中で自分自身にツッコミをいれる。
そんな急な問いかけにも女の子は丁寧返してくれた。
女の子「寒いですね。まさか、雨に変わっちゃうなんて思わなかったですよ」
男「そうですねー」
会話が途切れる。
正直言って、人見知りの自分には厳しい状況。
しかし、このときはなぜか、必死に言葉を続けた。
男「あー、えっと俺、ここでバイトしてるんですけど、よかったらこれ……」
袋に手を突っ込み、中から一個肉まんを取り出した。
そしてここで、自分が怪しいことをしていることに気づく。
急に目の前で止まって、変な話をして肉まんを渡してくる男……。
どう考えても怪しい。
男「あ、いや、毒とか入ってないですからね。ほんとに、ここの店員なんで……決して怪しいものとかそういう……」
焦ってフォローを入れるも、尚更、怪しさが増して行く。
しかし、そんな自分の姿を笑いながら女の子は言った。
女「ふふ、大丈夫ですよ。そこからでてくるの見えてましたから」
コンビニの裏口を指差す。
店員だということは、最初からわかっていたようだ。
男「ああ、なんだ、良かった」
怪しいなどとは思われてそうにないことにホッとした。
と、同時にニコニコ笑う女の子がとても、可愛く見えた。
一度、気持ちを落ち着かせ口を開く。
男「寒そうだなーと思ってさ。店長に押し付けられたようなもんだから、良かったら食べて」
今度は説明がきちんと口についてきた。
女の子はそれを拒むことなく、受け取った。
女の子「ありがとうございます。じゃあ、頂きますね」
そう笑顔でこちらにお礼を言う。
こういうことを一目惚れというのだろう。
そんなことを内心で思った。
傘を閉じ、隣に並ぶ。
人生で一番、緊張していたかもしれない。
しかし、意外にも身体は自然に動いた。
女「……おいしいです」
こちらに顔を向ける。
男「そっか、良かった」
どうにか笑顔を作り、それに答える。
しかし、そんなお互いの顔をみているという状況に耐えかねて、目を離し袋からもう一つの肉まんを取り出した。
男「……」
それを無言で口に運ぶ。
久しぶり食べた肉まんは美味しかった。
女の子は相変わらずこちらをニコニコしながら、見ている。
そんな顔にまたも耐えられず、適当な話を口にした。
男「雨……どうする?」
どうしようもないことを聞く。
女「うーん……どうしましょう?」
さすがにこれには困り顔をしていた。
雨は止む気配を見せない。
傘をここで買って渡そうか。
対した値段でもないし、そのくらい……なんてことを頭の中で考える。
女「あ、でも、大丈夫ですよ!走って帰ればなんとかなりますから」
女の子は気を使ってか、焦ったようにそう言った。
肉まんはもう食べ終わっていた。
そんな、今にも走って帰ってしまいそうな女の子につい、声をかける。
男「あ、じゃあ、傘いれてあげようか?途中まで」
女「……え?」
女の子は驚いたような表情。
そして恐らく、それ以上に自分が驚いた。
男「……うん」
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
女「あ、すいません。面接の件でお電話した女というものなんですが……」
店長「あー女さんね、そっち行って座ってて」
胸に店長の文字をつけた人がレジの奥を指差しながらそう言った。
人生初の面接。
女(なんとしても、採用されたい……)
わざわざ、こんな家から離れたコンビニの面接を受けたのには訳があった。
そんな訳を話すと呆れたような口調で友達は言った。
「いるわけないでしょ」
ばっさり、切られてしまった。
確かに何年も前の話だし、自分でもいるわけないのは分かっている。
ただ、なんとなく。
なんとなく、もう一生会わないであろうあの人がいた場所でバイトがしたくなった。
そんなはたからみたら、くだらないようなことを考えていると、店長がレジから離れてこちらにあった椅子に座った。
そして、口を開く。
店長「あー、そんな律儀に立ってなくていいよ。面接表、見せてね」
女「はい。失礼します」
店長の言葉にしっかり答えてから座り、手に持っていたファイルを手渡した。
面接表を覗き込む。
表には見せないようにしていたが、内心はすごくドキドキしていた。
店長「え!あそこの高校いってるんだ。優秀だねー」
女「あ、いえ……。ありがとうございます」
否定するのも悪いのでそう返す。
県内ではそこそこ名のしれた進学校だった。
店長「うーん、君シフトいつ入れる?」
女「はい、月曜と水曜以外の夕方以降なら大丈夫です」
部活はやっていない。
中学までは水泳をしていたが、高校レベルになるとなんとなく気が引けて入らなかった。
店長「んー、そっかそっか。んじゃ、こういうのあんまやっちゃダメなんだけどーー……」
そう前置きをして、言う。
店長「君、真面目そうだし、人手不足だから、来れる日から来てよ」
続いて出てきたのは、採用を確約された言葉だった。
女「はい!」
元気よく返事をする。
あの人はいない、そんなことはわかっているが、それでも嬉しかった。
その後に来れる日程を決めた。
シフト表は少ししたら、来月分のから渡してくれるらしい。
店長はとても気のいい人だったため、興味本位で聞いて見た。
しかし、高校3年でバイトをしてる人はいないようだった。
1年ほど前にやめた人の中に今年、三年生になったはずの人はいたらしい。
なかなか、顔がよくてお人好しな落ち着いた人だったそうだ。
探している人にはやっぱり、会えそうにない。
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
男「……はぁ」
女の子とは途中で別れた。
小雨になり、もう家が近いからと言って、少し焦ったようにお礼をいって走り去った。
二人で傘に入っている間、話はない。
その空気に耐えられなかったのだろうか?
男「……ああ」
電話番号くらい……せめて、メールアドレスくらい聞いておけば良かった。
聞こう聞こう、と思っていたのに結局聞けずじまい。
妹「なに、暗い顔してんの?」
妹が顔を覗き込んで来た。
男「いや、別に」
妹「また、そうやってー……」
妹の説教が始まる。
自分と違い、負けん気が強く、なんでも物事をパッと決められる。
カラッとした性格の妹だった。
男「あーわかったよ、わかったから」
そんな妹の話を遮る。
今はとても、説教なんかを落ち着いて聞いてられる気分ではない。
妹「あーなに、どうしたの?うちに任せなさい」
そんな自分の様子をみてか、話をやめ聞いてくる。
男「なんでもないよ」
妹「いいからいいから!ほれほれ、言いなさい」
押しが強い。
そんな妹の押しの強さにはいつも負けていた。
そして、今回も結局話す羽目になっていた。
男「いや、バイトの後さ……」
話し出すと、いつも意外にも静かに黙って聞いてくれる。
こんなだから、いつも1から10まで全部話してしまう。
そして、話が終わるとあっけらかんとして言った。
妹「え、聞けば良かったじゃん」
男「……」
言われなくても分かっている。
ただ、言い返すわけにもいかない。
妹「ま、次があるさー」
などと言って話を聞き終わって離れて行く妹の背中を恨めしくみる。
兄弟なんて、こんなもんだ。
男「はぁ……」
妹が部屋をでて行くのを見送った後、深いため息をつく。
確かに今更なにを言っても仕方ない。
連絡先が分からなければ、家の場所も名前も年すらもわからないのだ。
探しようがなかった。
仕方ない、諦めるしかない。
そうつぶやき、もう会わないであろう女の子のことを記憶から消そうとした。
見つかるわけがない。
しかし、そんな予想は三年後、ものの見事に覆された。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
それは、大学にあがってまだ間もない頃。
受験後の暇を使い、バイクの免許なんかをとっていた。
そんな自分のためにとった免許を妹にいいように使われる。
妹『歩くのだるいから、駅から送ってよー』
そんな電話がかかってきた。
どうせ暇だろ、という心の声が聞こえてくるかのようだった。
男「……わかった」
渋々ながら、コンビニに買いたいものもあるし、バイクを出すと約束をする。
最近はもう暖かくなり始め、桜もとっくに咲いていた。
バイクを走らせても、手がかじかむことはない。
もし、バイクの免許をとっていなかったら。
男(だるい……)
内心、そう思いつつダラダラと少し大型の二人乗りの装備がついたバイクを車庫から出す。
もし、妹から電話がかかって来なかったら。
キーを差し、エンジンをかける。
勢い良いエンジン音が鳴り響く。
もし、バイクを出さなかったら。
通りまででて、左右を確認し車道に出る。
もし、コンビニによらなかったらきっと、本当に一生あわなかったのかもしれない。
彼はまだ、奇跡とも思える喜ばしいことが待っていることを知らない。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
既にバイトを始めて5ヶ月ほど立っていた。
コンビニのバイトは思ったより楽だった。
女「ありがとうございましたー」
大通りから外れているのもあってか、あまり忙しいという時間帯もない。
そんなこともあってか、バイト仲間の人と話す機会も多い。
女友「ねね、今の人かっこ良くなかった?」
女「うーん、そうですか?」
今、店から出て行った男の人のことを言っているのだろう。
金髪でピアスをつけた、少し厳つい男の人。
その男の人の背中に目をやる。
正直、あまりタイプではない。
そんなことを思っていると、金髪の男の横を通り過ぎるように二人乗りバイクが止まった。
なんとなく、フルフェイスヘルメットを被ったその男と目が合った気がした。
女友「うわー、二人乗りじゃん。あれ、付き合ってんのかなー」
そんなこという、女友。
後ろに乗っているのはどうやら、自分と同い年くらいの女の子だった。
女「カップルみたいですね」
そう返事をする。
しかし、その二人がなかなか店内には入って来ない。
なにやらバイクの近くで話をしている。
女友「いいなー、あたしも彼氏ほしいなー」
そんなことをいっていると、女の子が店内に入ってきた。
そして、そのままレジにくる。
女の子「肉まん二つください」
頼まれたのはなんだか、懐かしい響きをもったものだった。
女「肉まんお二つですね。210円になります」
少し昔のことを思い出しながら、言い慣れた言葉を返した。
女友が蒸し器から肉まんを二つ取り出して、袋に包みレジの横におく。
代金を受け取り、肉まんを渡す。
女・女友「ありがとうございましたー」
外の男はヘルメットもはずさず、バイクからも降りずに女の子を待っていたようだった。
そんな2人組がバイクで走り出すと女友が聞いて来る。
女友「あ、ねね、彼氏とかいないの?」
女「あー、いないですよ」
恥ずかしいことに勉強ばかりで、彼氏なんてできたことがなかった。
数秒考える様子をみせた女友から、二度目の質問が飛んでくる。
女友「じゃー好きな人とかは?」
女「……」
嘘をつけない性格上、ついつい黙る。
これでは話を肯定しているようなものだ。
そして、案の定、そう受け取られた。
女友「えーなになに!どんな人?」
こういう話はどうやら、大好物のようだ。
ただ、何年も前に会った人を未だに好きだなんてとても話す気にならない。
女「……言いませんからね」
女友「笑ったりしないからさー、大丈夫だよ」
笑いながらそう返される。
確かに恋愛ごととなると、意外とまともなことを言ってくれるかもしれない。
そんな思い違いをなぜか、このとき思った。
さっき、肉まん二つだなんて買っていかれたからだろうか。
少し、懐かしみたい気分になっていた。
女「……うーん、じゃあ、少しだけ話しますね」
悩みながらも、昔話を口にする。
コンビニ前での雨の日の話。
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
妹「まじでさっきの人がそうなの?」
家に着くと開口一番、妹が聞いて来た。
男「多分……」
少し自信なさげに返答する。
さすがに何年も前のことだ、見間違いという可能性もある。
妹「もーはっきりしてよ」
少し興奮気味にそう言う。
なぜだか、この状況を妹は楽しんでいるようだった。
そんな態度が気になり、聞いてみる。
男「何喜んでんの?」
すると、男とは無縁のかけ離れたことを口にした。
妹「だって、ほんとにその人だったら、まじで奇跡じゃん。運命の出会いってやつ」
確かにかなりの奇跡だとは思う。
普段よらないコンビニ。
今日は大通りのコンビニが混んでいるから、フラフラと寄ったのだ。
男「っていっても、同じ町に住んでるし、そりゃ……」
そう考えると、そんなに珍しいことでもない気がしてくる。
しかし、そんな考えを妹は真っ向から否定して来た。
妹「でも、兄貴もあそこでバイトしてたし、絶対運命だって!」
相変わらずの興奮気味の態度でそう言ってくる。
この年頃の女の子は皆、こんななのだろうか。
ただ、確かに同じバイト先ってのはすごいかもしれない。
そんな風に考え直していると、妹がニヤニヤしながら言った。
妹「話しかけてみようよ!」
ここでやっと、なぜこんなにニヤニヤしながら話しかけてくるのかが分かった気がした。
男「それやらせたいだけだろ……」
どうやら図星のようで、目を逸らしてくる。
確かにはたからみたら、面白いのかもしれない。
特に女子高生ともなれば。
数秒目を逸らした後にこちらを向いた。
しかし、今度は妹の顔はニヤニヤしていない、考えるような表情。
そんな様子に少し身構えながら、聞く。
男「ん……なに?」
妹「一目惚れしたんでしょ?」
そんなことをさらりといってきた。
どう反応していいかわからず、今度はこっちが目を逸らす。
妹「だったら、話しかけてみようよ」
意外にも妹は真剣にそう言っているようだった。
自分自身も内心は話しかけてみたいと思っていた。
男「……じゃあ、もっかいみて、本人か確認してからな」
たがしかし、まだ話しかけるような勇気は出ない。
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
妹「ねえ、聞いてる?」
男「……え?」
どうやら、少し思い出にふけり過ぎていたようだ。
妹「肉まんの理由とかはどうでもいいけど、いい加減もう、兄貴とコンビニいくのやめるからね」
そんなことを言っている。
さすがにあれからすでに2、3週間もたって嫌気がさしてきているようだった。
妹「さっきは冗談で言ったけど、ほんとストーカーみたいになっちゃうし」
言うことはどこまでも正論だった。
毎回毎回、確認確認と言って話しかけるのを先延ばしにしていた。
男「……悪かったな」
ただ、その妹の言葉に腹が立った。
ぶっきらぼうに言葉を返す。
妹「あーもう、いい。つまんない」
諦めたようにそう言い、部屋をでて行く。
男「……」
心の中では妹に悪い、と思いつつもなにも言わない自分に腹が立った。
この結果は恋愛の経験不足のせいなのか、はたまた優柔不断のせいなのか。
ただ間違いなく、自分が悪い。
男「……はぁ」
男は深いため息をつく。
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
女友「最近こないねー」
バイト中に女友が突然口を開いた。
外は雨で、全くと言っていいほどお客さんはこない。
女「こないってなにがですか?」
なんのことかわからない、その話を聞く。
女友「肉まんの人」
端的に答える。
そういえば、最近ぱったりとこなくなっていた。
イケメンだったから、顔をみれなくなって少し、残念なのだろう。
女「いいじゃないですか、顔がみれただけでも」
結局、自分だけが顔を見れずじまいだった。
女友「まーね。ていうか、あいつこないね」
女「もう上がりたいんですけどねー」
次のシフトのはずの人がなかなか来ない。
本来上がる時間からすでに30分は過ぎていた。
そんな様子をみて、女友が気を使ったのか、口を開く。
女友「あーじゃあ、女ちゃんあがっていいよ。どうせ、今日は一人で大丈夫だし」
女「え、そんな悪いですよ」
そう答えるも、いいからいいからとレジから追い出される。
口は悪いが、中身は案外優しい先輩だった。
少しの間、そんなやり取りを繰り返したが、結局、その言葉に甘えることになる。
女「あーつかれたー」
制服を脱ぎ、一息ついた。
忙しいのは嫌だが、暇過ぎても疲れる。
そんなことを思っていると、女友が現れてレジ袋を渡してきた。
女友「これもう、お客さんに出せないからさー捨てんのも持ったいないから」
受け取って中身をみると、肉まんが二つ。
女友「あ、ちょっと懐かしんでる?」
じーっと中身を見る様子をみて思ったのか、そう言ってきた。
女「そんなことないです!」
つい、少し大きめの声で顔をあげながら反論する。
しかし、既に横にいたはずの姿はなく、後ろ姿で手をひらひらと降っていた。
女友「まあ、どうせ捨てちゃうもんだから遠慮せず食べなね、店長も怒らないだろうしー」
そして、あまりに適当なことを言う。
女「え、ええ……」
ここのバイト仲間の人たちは本当に適当だ。
……ただ、それがちょっぴり好きだったりする。
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
雨が降っている。
あれから、なんだか落ち着かない日々を送っていた。
男「暇だなー……」
ほとんど日課にすらなっていたコンビニ通い。
それがなくなってみると、意外にも寂しいものだった。
時計をみると、すでにコンビニには彼女がいないはずの時間帯に差し掛かろうとしている。
男「……ほんとにストーカーだなあ」
そんなことを呟く。
何時の間にか、彼女のバイトの時間帯が頭の中に入っていた。
男「ちょっと言ってみようかな……」
雨の中、ようも無いのにわざわざバイク出してコンビニに行こうかと悩む。
男「……はぁ」
ため息をつきながら立ち上がる。
どうやら、未だに彼女への恋心は全く冷めていないようだ。
防水性のある上着をきて、フルフェイスのヘルメットの手にとる。
これのおかげ……いや、これのせいで結局、彼女と話すことはなかった。
男「……」
無言で鍵と財布を持ち、家のドアを開け、バイクをだす。
雨はまだ、強いままだった。
キーを指してエンジンをかけると、いつも通り勢い良い音が鳴り響く。
車道に出て走り出すと、雨が手に当たり体温がどんどん下がるのがわかった。
雨の中走るのは初めての経験。
前がみづらく、目を離すとすぐ事故でも起こしそうだ。
5分、10分と走りコンビニが近づく。
あの行き慣れたコンビニ。
緑と青の看板が見える。
スピードを落とした。
寒さで手がかじかみ始めていた
裏口からでてくる女の人が出てきた。
バイクのブレーキランプが光る。
彼女の横を通り過ぎて、バイクは止まった。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
女「あ……」
見慣れたバイクが横を通り過ぎて、コンビニの前に止まるのがわかった。
未だ、顔を見たことの無いあの人。
なんだか、昔を思い出すかのよう。
この状況、この場面。
立ち止まらずにはいられなかった。
振り返ったら、あの人が立っている気がしてならなかった。
女「……あり得ない……よね」
そう呟く。
ただ、そんな気がしてならない。
あり得ないはずなのに。
もう会えなかったはずなのに。
すごく近くにいる気がした。
時間だけがすぎる。
バイクのエンジン音が消え、雨が傘を打つ音だけが鳴り響いた。
十秒、二十秒。
すでに時間の感覚が無い。
振り返る勇気もなくなりつつあった。
ただ、立ち尽くす。
背後からの何かを待つように。
「肉まん……一個くれない?」
懐かしいあの声が。
会えないはずのあの人。
聞けないはずのもの。
背後から聞こえた。
傘を放り投げて、振り向いた彼女の顔の水滴は雨なのか。
それとも、涙なのか。
おしまい。
106 : そっきょー ◆4jzar1HOt... - 2013/02/25 14:18:41.76 z4AVdGWp0 70/141
ちょっと、戻ってまいりました。
16時半より、スピンオフ作品を投稿していきたいと思います。
一応、珍しくある程度書き溜めはあるものの恐らく途中から即興になると思いますので、そこはご勘弁下さい。
ちなみに内容に関しては少しだけ本編と絡んで来る話で、後日談ではなくスピンオフ的なものです。
用はせっかく何人かキャラ作ったのに勿体無いと思った次第です。
では、よろしくお願いいたします。
107 : そっきょー ◆4jzar1HOt... - 2013/02/25 17:07:28.36 gvqwZJCS0 71/141
遅くなってしまって、申し訳ない。
始めさせていただきます。
ちなみに主人公は先ほどの作品のバイト仲間であった女友と本当にチョイ役だった男友です。
よろしくお願いいたします。
女(今日もこないかー……)
時刻は九時を回った。
雨の日だし、今日は久しぶりに冷え込んだからと、少し期待を寄せたものの結局こないまま。
腰抜けだなーと小さく呟く。
そして、少し声量をあげて言う。
女「最近こないねー」
後輩「こないってなにがですか?」
隣に立つ女の子が不思議そうな顔で聞き返してきた。
バイト仲間で一個下の後輩。
とてもいい子で、くだらない冗談なんかにもいつでも反応を見せてくれる。
女「肉まんの人」
そんな彼女へ、少しため息混じりに言葉を返した。
それがどう彼女の目に映ったのか、フォローするかのようなことを言う。
後輩「いいじゃないですか、顔みれただけでも」
女(そうじゃないんだよなー……)
そんなことを思うものの、言うわけにもいかない。
女「まーね。ていうか、あいつも来ないね」
話題をすり替える。
言っても仕方ないことを話しても意味はない。
それに本来、後輩が上がる時間はすでに過ぎていた。
後輩「もうあがりたいんですけどねー」
そんなことを言う後輩は嫌な顔一つ見せない。
今時こんなにいい子で、純真な一途な子も珍しい。
女(はー……)
自分と比べて、ついつい心の中でため息をする。
しかし、だからこそあの肉まん野郎には腹が立った。
あんないい子から思われているというのに、いつになったら話の一つでもしてくるのか、と。
女「あーじゃあ、女ちゃんあがっていいよ。どうせ、今日は一人で大丈夫だし」?
気を使うふりをして、レジから追い出そうとする。
しかし、対する後輩は申し訳なさそうな顔。
後輩「え、そんな悪いですよ」
誰のせいでここまで残る羽目になったのかなんて、知る由も無いだろう。
いいからいいから、と強引にレジの裏へと追い出す。
そんなやり取りを何度か繰り返すと、諦めたようにレジ裏へと後輩は消えた。
それを見て、制服のポケットから携帯を取り出し電話帳を開く。
見慣れた電話番号を押すと、コール音が何度かなった。
女「あーもしもし」
男『よー、もう行っていい?』
電話の向こうからは、男の声が聞こえる。
女「いいっすよ。今どこですか?」
肉まん野郎が来そうだと考えて、わざわざバイトに来る時間を遅らせてもらっていた。
20代で大学に行ってるらしい、適当な先輩。
男『んー、近くでタバコ吸って……ん……?』
そんな男の話が途中で途切れた。
女「ん、なに?」
男「いや、あれ肉まんさんかもしれんな」
女「え?」
もう諦め切っていたのに今頃来たというのか。
なんとタイミングの悪いやつ、と心の中で舌打ち。
もう一度、男の場所を聞く。
女「先輩、今どこすか?」
そんな焦った声を感じ取ったのか、不思議そうに男の声が返って来た。
男『すぐ近く』
その言葉をきくと、返事もしないままぶつっと電話を切った。
急いでレジ袋を取り出し、蒸し器から肉まんを二つ取り出す。
女(……はぁ)
我ながら、何がしたいのだろうと思う。
ただ、あの2人にはなんとなくくっついて欲しいな、と思っていた。
少し妬みつつも、自分もあんな風になりたい、そう思っての行動だったのかもしれない。
レジ袋に入った肉まんを二つ持って、レジ裏へ向かう。
女「手伝うの、これで最後だからな……」
小さく呟く。
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電話が切られた。
男「……?」
なんだか、よく分からないが焦っているのだけは伝わった。
また彼女はなんの利益も無いのに、人におせっかいをやいているのだろうか。
タバコの火を消し灰皿に入れると、傘を開く。
タバコのコーナーを出てすぐ近くのコンビニ、その方角を見た。
コーナーをでると、ポツポツと雨が傘を叩く音が響いた。
本来ならばもっと早く、30分は早くついているはずの予定。
しかし、まだくるな、とのお達しがきたため、タバコをゆっくり吸いながら、携帯を覗き込んでいた。
今日は久しぶりに冷え込んで、雨のせいもあって手がかじかむ。
信号を渡り、小道にはいると暗い通りの中にポツリとコンビニが建っていた。
緑と青の看板。
男(ん……?)
コンビニの前で何やら2人組が会話をしていた。
両方見慣れた人物。
男(あー……なるほど)
その様子を見て、納得する。
そして、相変わらずだなと心の中で思う。
男「人のおせっかいばっかしやがってなー」
そんな独り言を言いながら、2人の死角になるところからこそこそと裏口へと向かった。
傘をたたみ、ドアを開けると暖かい風が体をなでてる。
男「うぃーっす」
中に入ると、いつも通りの適当な挨拶。
返事は無い。
そそくさと制服に着替えレジに向かうと、暇そうに壁に寄りかかる女の姿。
どうやら今日は雨と寒さのせいか、暇な一日のようだ。
男「なに、また世話焼き?」
こちらを見向きもしない女へ声をかけた。
だるそうな顔をしながら、だるそうな声でそれに答えが返ってくる。
女「別にそんなんじゃないっすよ」
ただ、そんな話し方や態度が照れ隠しなのは明らかに見えた。
ついつい、そんな子供のような行動に笑いがこぼれてしまう。
男「くくっ、今回はうまくいったみたいだったよ」
女「……そーですか」
このとてつもなく、素っ気ないこの女の態度が嫌いではない。
ただ、前はもっとラフに話しかけて来てくれていた。
もっと自分勝手に好きなように話しかけて来てくれていた。
きっと、彼女なりに罪悪感を感じているのだろう。
ただ、あれは彼女の責任なんかではなく、間違いなく本人達のせい。
それどころ、自分が謝るべきことだとすら思えた。
男(こいつが罪悪感なんて、感じること無いんだけどなー)
そんなことを思う。
女「……」
ただ、見た目に似合わずお節介で、世話焼きで、それでいて弱い彼女は罪悪感を感じてしまったのだろう。
そして、そんな彼女に自分は何もしてあげられなかった。
男「……はぁ」
小さくため息をつく。
2人の間には沈黙が流れる。
この時ばかりは忙しくなって欲しい、そんな考えが珍しく浮かんだ。
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後輩と恋人は付き合い始めた頃には既に、友達同士だった。
とても仲がよく、長い付き合いの。
自分と同い年の恋人がなぜ、後輩である彼女と知り合いなのか。
それは2人は昔からよく遊んだ仲だったそうで。
家の向かい同士で、親同士も仲良し。
所謂、近所づきあいというやつだった。
女「まじで偶然だなー。あんたの彼氏がバイト仲間とか」
恋人「そうだねー。いやー偶然偶然!」
そして、自分と後輩との関係はバイト仲間として会い、その後お互いの関係に気づいた。
男「ほんと偶然だな、バイト仲間が恋人の親友とか」
女「いやー、彼女なんていたんすね、先輩」
男「……」
そんなからかってくる目線を無視し、無言という返答を返す。
いちいち、こいつの冗談に付き合っていては日がくれてしまう。
女「あ、でも、見る目はあるってー」
無視されたことすらも気にせずそんなことを言っていた。
ただ、照れている恋人が、こういうのもたまにはいいか、という気分にさせてくれる。
それに加え、後輩は嫌味なやつなどではなく、気配りの聞く根はいい女だった。
それもあり、腹だしさなんてことは全く感じることはなかった。
恋人「そんなことないって!あんたも早く恋人作りなさいよー」
2人でそんな会話をしているのを聞いてるのも嫌いではなかった。
こんな楽しい関係が新しく始まる。
この時は素直に、そう思っていた。
ただ、恋人というものはなかなか上手くいくものではない。
亀裂が入るのは簡単なことだった。
そして、壊れ去るのも。
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男「なに?怒ってんの?」
学校やバイトが忙しく、久しぶりに会った恋人は明らかに怒っていた。
理由は明白だが、自分はなにも悪くも無い、この状況に腹が立ったのもありつい口にする。
恋人「別にー……」
それに対し、恋人は目も合わせずに返してくる。
明るく楽しい普段の様子は全く見せない。
不機嫌そのもの。
男「忙しかったから、仕方ないだろ。そんな怒るなよ」
恋人「だからって、連絡もできないの?」
嫌味っぽく返ってくるその言葉に、一層頭に血が上る。
会いたくなくて会わなかったわけでもないのに、久しぶりに会ったらこれだ。
男「は?別にいいだろ、連絡くらい」
恋人「あっそ、どうでもいいんだ」
そして、この言葉を聞きとうとうプツンと堪忍袋の緒が切れる。
外で周りに人がいるというのにも関わらず、少し大きな声で言う。
男「どうでもいいとかじゃねえだろ!」
視線が集まるのがわかる。
ただ、そんなことを気にできる精神状態でもなかった。
そんな声に恋人も腹が立ったのか、向こうも少し大きな声で言う。
女「連絡もよこさないのが、悪いんでしょ!」
もうそこからは会話にすらならなかった。
ただ、言い合って結局そのまま分かれて家路についた。
家に返っても、お互いに何も連絡は来ない。
こうなってしまった以上、自分から連絡などしたくはなかったのだろう。
小さなプライド。
男「はぁ……」
ただ、お互いに後悔はしたのだろう。
なんで、久しぶりに会って喧嘩して帰らなくてはならないのか。
男(今度、謝るか……)
しかし、甘く考えていた。
喧嘩などいつものことだ。
また会ったときに謝ろう、そう考えていた。
しかし、小さな亀裂は広がる。
いつでも、ふさがるというものではない。
財布の中には2人で行く予定だった水族館のチケットが入っている。
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男「いやーだりーわ」
女「ん?どうしたんすか?」
だるそうな声でこう言うのが、彼の癖だった。
そして、これがいつもの話し始めの合図。
バイトで暇なときはよく話しかけてきてくれる。
男「いやさー……」
どうでもいい話を毎回、ダラダラと話す。
私は案外、この時間が好きだった。
暇なのは好きではないが、この話のおかけで退屈することはない。
連絡先を交換したりもした。
気づくと最初は面倒臭かった、バイトの時間は楽しみなものへと変わっていた。
男「でさ……って雨降ってんじゃん」
女「え、まじで?」
ガラス張りの壁の外をみるとポツポツと雨が降り始めたのが見える。
女「うわーまじ傘持ってきてないし、どうしよ」
雨が降るのをすっかり忘れていた。
「おはようございますー」
そんなときに次のシフトの人の声が聞こえる。
ただ、交代するのは自分ではない。
チラッと横目でみると、男は何かを考えている様子だった。
そんな男に声をかける。
女「交代だってさ」
男「ん?あぁ、んじゃ、お疲れー」
なにを考えていたかはわからない。
ただ、いつも通りの言葉を発してレジ裏に去って行った。
少し不思議に思いながら、それに答える。
女「ん、おつかれー」
バイトの終了までの1時間。
小雨だった雨は嫌がらせのように量をましていた。
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男「……っていうわけ」
喧嘩の理由を聞かされる。
急に水族館になど誘うものだから、なにかと思えば喧嘩の愚痴だった。
女「ふーん、あいつ意外とヒステリックなんすね」
適当に言葉を返す。
正直、どっちが悪いとも言えない。
ただ、この2人が喧嘩をしていると、どうにもやり辛い。
仲直りはして欲しいとは思った。
目の前を大きなサメが通り過ぎる。
それが通り過ぎるのをみてから、男がまた、口を開く。
男「やっぱ、俺が謝った方がいい?」
そんなの当たり前だ、心の中でそう呟く。
ただ、謝ったところで意外にも、プライドの高い彼女が許してくれるとは思えなかった。
女「謝るのはもちろんですけど、なんか作戦考えましょーよ」
男「作戦?」
男が不思議そうな顔でこちらをみてくる。
そんな男の顔を見て、にやりと笑いながら言葉を返す。
女「仲直りの作戦」
それを聞いてもなお、不思議な顔。
意外と鈍感……いや、予想通り鈍感な性格のようだった。
女「あーもう、そんなんだから先輩は喧嘩するんすよ」
その様子をみて、ため息混じりで言う。
ただ、そういうところは先輩の好きなところでもあった。
男「つったって、あいつずっとあんなだろうしな」
そんなことを面倒臭そうに言う。
女「だから、作戦たてるんじゃないすか。何でもいいからさっさと考える」
男のやる気のない声に、これではいつまでたっても仲直りできないと思い、強引に作戦を考える方に話を持って行く。
サメがまた、目の前を通り過ぎる。
男はそれに目をやりながら、口を開いた。
男「んなこと言われてもなー」
流石にここまで適当だと、呆れてくる。
ただ、ここまで駄目だと逆に何がなんでもフォローしたくなった。
女「先輩がサメ好きなように、あいつの好きなとこ連れてったり、好きもんでも食べさせりゃいいじゃないすか?」
男「あーそれな。んじゃ、そうするわ」
相変わらず、サメを目で追っている。
悩んでいる割に、考えなしの様子についつい突っ込む。
女「もう、ちょっとは考えろ!」
そんな言葉を華麗にスルーし、返ってきた言葉はなんとも、脱力するものだった。
男「……え、なんでサメ好きだってわかった?」
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恋人「はぁ……」
この愚痴を聞くのは二回目だった。
呼び出されて、ダラダラと愚痴を聞く羽目になっていた
喫茶店の窓際、端の席。
女「そんな落ち込むなって」
板挟みとはこうも辛いものか、と初めて知るものとなる。
まさか、作戦を立てているから仲直りしな、とは言えるわけもないを
恋人「だってさー……」
うなだれる友人に何と声をかけようか、迷う。
しかし、いくら考えても自分に解決できる問題でもない。
女「ただの喧嘩っしょ、すぐ仲直りできるって」
結局、そんな無責任なことを言う。
実際そう思っていた。
しかし、ここまでうな垂れていることを少し不思議に思った。
普段の彼女なら愚痴をいうにせよ、落ち込んだりというよりは、色々吐き出してすっきりするタイプのはずだった。
恋人「いや、それだけじゃないんだって!」
そして、どうやらそれには理由があるようだ。
少し声量をあげ、理由を口にする。
恋人「あいつ浮気してる気がする」
女「ねーよ」
しかし、その言葉はあまりにあり得ないことで、被せるようにそれを否定してやる。
実際、彼女のことで悩んでいたのを目の前でみた。
しかし、そんなことを思っていると、次の言葉に不意をつかれることとなる。
恋人「でも、あいつと女の子が水族館入ってくの見た友達がいるんだって!」
女「え……」
それがすぐに自分のことをさしているのだとわかった。
あれはただ、相談するためだけに行っていたようなものだ。
浮気なんてものでは全くない。
女「それは……」
しかし、そう言いかけて黙る。
恋人「だーからー、浮気だって!」
それをどう受け取ったのか、彼女は間違いないといった口調で言った。
それに対して、どういうわけか自分は苦笑いをする。
言えば済む問題。
女「……うーん、見間違いだって」
曖昧にそんなことを言った。
その隣にいたのは自分だ、といえばそれで済む話。
恋人「あーもう、最悪……」
彼女はすっかり、落ち込み切っている。
しかし、幸せそうだった2人が頭に浮かぶと、なぜだか口にする気にならなかった。
女「だから、見間違いだってー」
そんな、曖昧なことだけを言った。
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制服を脱ぐ。
帰りの道が憂鬱でならなかった。
女「なんで、雨とか降るかなー……」
雨はますばかりで、止む気配など全く見せることはなかった。
荷物を手に持って外に出る。
止んでるはずもない雨。
しかし、諦めて歩き出そうとしたそのとき、携帯の着信音が鳴り響いた。
電話に出る。
男『あ、バイト終わった?』
すると、聞き慣れた男の声が耳にはいってきた。
女「終わりましけど。なんすか?」
わけが分からず、そう返す。
しかし、それには答えず、いいから、そこで待ってろよ、と言うと電話はあっさりと切られてしまった。
仕方ないので、その場で数分まつ。
すると、遠くから傘をさして歩いてくる男の姿が見えた。
こちらに近づき、声をかけてくる。
男「よし、入れ入れ」
そう言って、腕を引っ張られた。
女「え……え?な、なに?」
あまりに急な出来事に抵抗もできずにそのまま、傘の中に引き寄せられる。
相合傘。
女「え、ちょ、なにしてるんすか」
いきなりの行動に驚き、そう口にすると、男はあっけらかんとした様子でそれに答えた。
男「いや、雨降ってるからな。家同じ方向だし、途中まで」
そして、言い終わったあと、ニコリと笑う。
女「え……あ、うん……」
もはや、そう返すしかなかった。
その後、何を話して帰ったかなんてサッパリ覚えていない。
のちに、なぜあんなことをしたか聞いてみた。
答えた理由は
『なんとなく』
だそうだ。
男にとっては、気分次第の行動の一つだったらしい。
なんとなく本屋で立ち読みをして、なんとなく相合傘をして帰ったのだ。
男にとっては、なんのことでもない。
しかし、女にとっては何のことでもない、とはいかない。
相合傘の中、赤くなる顔を必死で隠そうとしたことだけは覚えている。
彼女にとって、それは経験のないことだった。
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というわけで、書きためはここまでとなります。
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女「……ん」
嫌なことを思い出した。
昨日、あんなことをしたからなのだろうか。
女(あの2人はあの後、上手くいったかな)
そんなことを思う。
自分たちみたいに色々なものが、崩れることにならない結果になるといい、そう思った。
女「はぁ……」
今更、男のことをあんな風に好きになれる資格は自分にはない。
あの2人が別れたのは自分のせいだ。
もし、あの喫茶店でいい淀まずにに話をしていれば、あんな結果にならなかったのだろう。
2人は別れて、彼女は男とも仲の良い私とも疎遠になって行った。そして、私は男と距離をおくようになった。
今日もバイトに向かう。
シフトは6時間、ずっと男と一緒だった。
前だったら、素直に喜べたであろうこのシフトも今ではため息しかでない。
バイト先につくと、そこには既に男の姿があった。
時間より前に来るなんて、珍しい。
男「おはよ」
女「おはようございます……」
いつもの調子が出ない。
今日は雨も降らず、過ごしやすい気温。
お客さんが沢山きたのが、救いだった。
結果的に会話をしなくて済む。
しかし、バイトが終われば帰り道は同じ。
レジ裏で制服を脱いでいると、男の方から声をかけられた。
男「久しぶりに一緒に帰らない?」
女「……わかった」
断る理由も見つからず、そう答える。
男が何を考えているのか分からない。
なぜだか、涙が出そうになった。
先に裏口から出て行った男は外でタバコをふかしていた。
女「久しぶりっすね」
一緒に帰るの、とは言葉が続けられない。
言ってしまうと、罪悪感がまた自分を襲う。
男「ん、そうかもな」
そう答えつつ、タバコの火を消しゴミ箱に放る。
女「……火事になりますよ」
男「大丈夫大丈夫、ちゃんと消したから」
相変わらずの適当さ。
久しぶりのその雰囲気にまた、泣きそうになる。
それをどうにか堪えてから、歩き出した男に近寄りながら聞く。
女「なにか、用でもあるんすか?」
男「なに、用がないと声かけちゃだめだったか?」
珍しくそんなことを、いたずらっぽく言った。
しかし、すぐにその表情は消え、言葉を続ける。
男「ま、話すことはあるんだけどな」
分かっていたことだが、その言葉にドキッとする。
女「……なんとなく、先輩の言いたいことはわかりますよ」
きっと、もういい加減嫌になったのかもしれない。
連絡もとりたくもないのかもしれない。
別れたのはお前のせいだ、と罵倒されるかもしれない。
そんな悪い予想ばかりが頭をよぎる。
男「わかってねーよ」
しかし、そんな予想を覆すように。
心を読んだかのように男は否定した。
男「……お前のせいじゃないからな」
そして、呟くようにそう言った。
女「え?」
男「むしろ、俺が謝りたいくらいだから」
男の口から出たのは予想外の言葉だった。
それは、怒りでも、罵倒でもない。
それは、謝罪の言葉だった。
女「え、なんで……?」
どう返せばいいかも分からず、疑問の言葉が口をついて出る。
それを聞かなかったように、男の話は続く。
男「罪悪感とか感じなくていい。きっと、何があっても別れてた」
女「でも、そんな……私が言わなかったから……」
そんな途切れ途切れの言葉。
男「知ってるから、全部。お前がなんで、言わなかったかは知らないけどさ」
しかし、男はすべてを知っていたようだった。
今までの重くのしかかってきていた、あの罪の重さは何だったのか。
もう、既に涙は堪えきれないところにまできていた。
女「ふざけんな!」
足が止まり、大声をあげる。
堪えていたはずの涙が溢れ出す。
男は足を止めたものの振り向かない。
女「私が……私がそれで、どんだけ苦しんだと思ってんだ……」
その背中に向かって、今まで溜まってきたものが涙ともに溢れ出した。
女「なんで、なんで……最初からそう言ってくれなかったんだよ……」
もう立っているのすら、限界だった。
言い終わると、座り込んでただただ泣きじゃくる。
背中を向けたままの男。
男「ごめんな」
ぽつりとそう呟く。
そして、振り向きこちらに近づいて来る。
男の顔を見上げると、その顔もまた、泣きそうなものだった。
男「……なかなか、言い出せなかった」
ゆっくりと、一文字一文字、ゆっくりとそう言った。
男「……お前は悪くないよ」
涙は止まらない。
男「俺が悪かった、ごめん」
男の話は続く。
男「……許しくれないか?」
そして、最後にそう言った。
今まで散々苦しめといて許して?
お前は悪くない、俺らが悪いだなんて、そんな今更受け入れられる訳がない。
嗚咽混じりの声でどうにか、それに答えた。
女「……絶対に許さない」
男が悲しそうな顔をするのがわかる。
しかし、それだけで話を終わらせるつもりはなかった。
男「……そっか」
寂しさのこもった声。
男が手を差し伸べてきた。
その手を掴む。
立ち上がると、泣きそうな顔で無理に笑う男が立っていた。
無言の時間が流れる。
涙はどうにか、止まってきた。
嗚咽を堪えながら話す。
女「ほんとに悪いと思ってるなら……」
ここで言わないとだめだと思った。
きっと、自分なら大丈夫だと言い聞かせる。
女「私と」
『付き合ってよ』
おしまい。
これでスピンオフも完結とさせていただきます。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
含みに本編の方を既に修正しつつ、投稿していたりするので良かったら、サイトにも起こしください。
http://nanos.jp/4jzar1hoti/
ではでは、ご質問、感想等あれば受けていただきます。