もう一人の私、もう一つの私。
例えば私が桜高に行ってないとする。
そしたら、みんなどうなってたのかな
そんな世界が存在するのかなあ
律「なあにブツブツ言ってるんだよ、唯」
どうなってるんだろ、その世界
律「唯?」
行こうかな
律「唯………?」
元スレ
唯「別の世界」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1361509482/
………
……
…
朝
憂「お姉ちゃん~遅刻するよ…?」
唯「ん……ん…」
瞼をこじ開ける
朝日と鳥の囀りが、私を夢から覚めさせる。
私は急いだ。パンを齧りながら走って家を出た。
いつもの道。
並木道に沿って踏切を渡り、いつも書店前の自販機で一服。
荒れるに荒れた髪型を整えながら私は学校に行く。
普遍的な共学高校だ。とくに目立ったところもない。
私は今年で高校二年になる。妹は違う学校に進学した。
私もその学校が希望だったが、学力が足りなかったみたいだ。
2-Bと書かれた教室に入っていく。
疎らな人数が輪っかを成して彼方此方で会話をしている。
男「唯~遅いじゃないか?」
唯「男君~おはよう!」
幼馴染の男君。私が幼稚園の頃からの付き合いだ。
昔から遊んでたっけ。親友と呼べる存在なんだと思う。
男「二年生そうそうの二日目で寝癖だらけかよ」
唯「直してる時間無かったんだ~」
にっこり此方がはにかむと、彼もわらってくれる。
男「そういや、妹の憂ちゃんも高校生だよな」
唯「うん、憂は桜高行ったけどね~」
橘「あの進学校!?生まれる順番間違えたんじゃ」
唯「酷いよ~」ガーン
橘「そんな出来た妹だったとはな…」
こんなたわいもない話をしてれば時間は過ぎた。
私はこれが"私"と思っていたんだろう
このころから、私は憂に劣等感を抱いていた
私は部活にも入っていない。
憂は入ったみたいだけど。
帰宅部の部長みたいなものだ。
わたしの日課といえば、下校時にスタバによることだと思う。
彼処のコーヒーは中々美味しい。
お洒落だし、私も大人な気分になれる。
私の生命線というべき存在か。
学校がようやく終わり、私は日課に勤しむ。
今日もコーヒー片手に勉強をしようか
そんな時、隣の席から声が聞こえてきた
澪「似合ってるじゃないか!」
律「中々だな~ムギ!」
梓「ムギ先輩はなんでも似合いますね!」
ムギ「みんなありがと~」
典型的な女子グループか。
私も中学生の頃の切実な夢
こうやって輪っかになってふざけあうこと。
でも今は…
そんな事には目もくれず、私はひたすら勉強に明け暮れる
あの高校に落ちてからかもしれない。
私は夢とかは無く、ふわふわ生きてきた人間だからだろう。
私は良い大学に入り、立派なOLになるんだ。
唯「ふぅ……」
私はやれば出来る子なんだろう。
確実に成績は右肩上がりだ。
其れを楽しめてはいないのかもしれないが、
勉強が私の頼みの綱であり、生き甲斐になっていっている
この生活がベストだと私は思っていた。
唯(あの女子グループはまだ居るのか…)
彼女らはイヤホンを耳にかけながら、ノートにいろいろかいているようだ。
とはいっても覗き込むのは無理なようだ。
私は彼女たちの笑顔を観ていた。
彼女達は、幸せなんだろう。幸せなんだろうな
私はそろそろ、と夕飯の準備にあたらなければいけないから、
スタバを出る事にした。
???「ごめーん!遅れた……」
澪「遅いぞ!」
律「全くなにしてたんだよ~」
私が料理するのも日課だった。
憂は最近帰りが遅い。
私とは違くて、人生に満足しているんだろう。
いつも彼女の話題は部活だ。
唯「お肉…高いよ…」
両親は共働きだ。
中々裕福だった。父がリストラされるまでは。
それから、両親の教育方針は私を除外する形になった。
そのせいとは言わないが。
唯「ついた……」
唯「重かったなあ」
冷蔵庫に食べ物を入れていく。
静寂がつつむ家は息苦しかった。
憂「ただいまー!」
そう、私はこの声に癒される。
唯「おかえりー、憂!」
寒いねーと話しながらリビングに向かう。
憂「今日も美味しそう!ありがとうお姉ちゃん!」
唯「良いんだよ~うい~」
私は彼女に癒しを貰ってるんだろう
そんな大切な彼女を、私は僻んだ目で見つめるようになり始めた
憂「お姉ちゃん!今日はね~…」
憂は桜高に入ってから本当にイキイキしてる。
彼女は本当に楽しそうで、私はそこに嫉妬してしまう
私は彼女が大好きなのになあ…。
彼女は食べ終わると、急いで部屋に帰る。
部活の練習の予習をしているらしい。
最近はどんどん彼女との時間も減った。
昔は一緒に料理したり。
買い物したりしてたのに
憂「お姉ちゃん~」
部屋に入った彼女がドアを開ける
唯「ん~?」
憂「明日のクリスマス、部活の先輩方が来るんだけど、良いかな?」
私は心底嫌だった。
一瞬眉間に皺が寄り、凍りついた表情を憂に晒してしまう。
だが、私はすぐに表情を戻す。
ニコッと「良いよ」と一言
それは突如の話だった
唯「言うの遅いよ~」
憂「ごめん~ついさっき先輩が勝手にきめちゃってさ」
唯「もう~」
唯「良いよ、私が料理とかしとくから。」
憂「本当!?ありがとう!お姉ちゃん」
本当は嫌だったかもしれない。
しかし彼女のお願いだ。私は考えもせず、決めてしまったのだろう
ピーッピーッピーッ
人工物の動作音と呼吸の音がする。
各種の人工物は其れの至る所に刺さっておおり
ケーブルがそれを仲介する。
二人の人間が騒々しく怒鳴り合っている。
雫を垂らして、這いつくばって、人間が悶絶したような表情で私を覗く
機械音に掻き消されたその言葉。
ある人は叱責し、ある人は冷静で
ある人は人格が崩壊したように阿鼻叫喚している。
私は見えてはいない。
見えない眼で"見ている"のだ。
人々はやがて去っていく---------
律「おじゃましまーす!」
澪ムギ梓「失礼します、」
唯「どうぞどうぞ!」
笑顔で彼女らと対応する。
みたところ、私とおない年くらいみたいだ。
律「似てるなー、憂とお姉さん」
澪「瓜二つだな」
憂「ありがと~律先輩、澪先輩!」
梓「しかし、出来たお姉さんですね。」
出来てるもんか、と私は小ちゃな女の子が言った言葉を腹で否定した
彼女らは和気藹々と、家族のような距離で接している
律「凄いね~唯さん!料理の才能あるよ!」
澪「律はないからな」
律「なにを~!」
楽しい人達だ。皆がお互いを信頼してるような、そんな関係を感じた。
だからこそ、その中心に憂が居る事に、私は憤りを覚えた。
八つ当たりの類だろう。それでも私はなにかをゆるせなかった。
律「澪はおっぱい無いくせに」
澪「それは……//」
律「梓に負けているもんね~」
元々彼女は人に好かれていたんだろう。
私はお姉ちゃんながら、憂に憧れていた。
それは何より両親からも愛されていたんだ。憂はね。
私は寂しかったよ。でも憂がそばにいたから、
でも遠くなっちゃったね。
私は寂しくないよ。
憂「…お姉ちゃん?」
唯「ん?どうしたの~憂~」
憂「お姉ちゃんにもきてほしいなって」
憂「文化祭」
律「ぜひ来てくださいよ!お姉さん!」
梓「お願いしますです!」
私は彼女らの熱気にも怖気つかされた。
部活ごとき…とは冗談でも言えないような、
唯「もちろんだよ憂~」
憂「本当?やったあ!」
唯「でもなにするの?」
憂「ライブだよ、ライブ」
唯「ライブ?」
律「私たち、HTTってバンドを--------…
またそれか。団結アピールだよね。
私、そういうの嫌いなんだよ。
お姉さん相手に挑発しているのかな?
私は憂のお姉さんなんだよ?
血が繋がってるんだよ?
私は彼女らを蔑んだ目で傍観した。
格が違うのを理解していないのかな
何を勘違いしたのだろうか
私は私でなくなってた。
生き甲斐を寝取られた気分だった。
同病相憐れむといったところか
私と憂は傷を舐め合う関係で、痛み分けしてると思った。
でも彼女は違った。彼女は人に好かれる性質だった。
両親も私と彼女とは態度が違った。
それだけ彼女が特質で、才能を有する人間だったのだろう。
最早活きている世界が違ったのかな。
彼女は明るくて人気者だった。
中学の頃は一緒の学校だったから、私は彼女の姉という。
所謂大義名分をいただいていた。
しかし高校では違った。
彼女は両親に桜高を半ば強引に推し勧められ、
彼女は受け入れた。
もう私は要らない、用済みの存在だったのかもしれない
両親は落ちた私をこっぴどく叱責した。
当然だったのかもしれない
なぜなら
---ある日の事
父「話があるんだ」
何時もと同じ、低く冷たい声で私は父の書斎に呼ばれた。
父は半ば私を気遣いせずに言い放った。
私は腹違いの子であり、今のお母さんは義母だと。
父は自分の失態を正当化するような言い回しで
私に来れまでの経歴を述べている。
父は反省も謝罪も失態も落ち目の欠片も、彼の言動、挙動には感じなかった
父は私を育てた恩人だと言い切った。
最早最下層の人間に成り下がった父のくせに。
ギャンブルに没頭し家計も知らず、酔狂している父
男をはべらかせ、一日中パートではなくホテルの一室で乱れてる母
平沢家の大黒柱は常時揺らぎ、軋む音が響いている
私は冷静だった。
資産、財産を全て妹につかって貰った。
そのお蔭で彼女は進学校に合格し、悠々自適な日々を送っている。
かたや私は、限られたお金で家計を成立させ、スタバかバイトの日々
昨今の高校生の時給など高が知れている。
それでも、私は労働するしかなかった
三大義務も果たせない両親だから。
文化祭の日
私は夢にまでみた校舎を見上げた。
本当なら、私はこの校舎に居たと思うと、
胸が痛い話だった。
憂達は14時からライブみたいだ。
それまで時間でも費やすか。
さわこ「猫耳が似合いそうな子発見!!」
なんだあの先生は。
生徒を追いかけ回してる
生徒も満更でもない笑顔で逃走している。
何か感慨深い、あの子が私かもしれなかったから
おしとやか且つ明るい学校。空想上の学校が実在したようだった
女「そろそろライブだよ~」
女「いこいこ!」
校内放送が流れ、人々は講堂に流れていく
私もその流れに乗り、講堂に行く。
大にぎわいのようだった。
HTTと書かれた服を手渡され、それを着る
HTT一色の講堂は彼女たちを待ちわびているようだった。
そして、そのライブが始まるほんの前。
一件の電話がかかってきた。
憂「ごはんはおかず!」
~むしろごはんがおかずだよ~
ナンデヤネン!
憂「え~…次で最後の曲です」
ザワザワ
憂「聞いてください」
憂「Y&I!」
…………
……
…
唯「はい、わかりましたお義母さん」
義母「じゃあ、お願いね。」
唯「はい、荷物は纏めときます。」
唯「…はい、…はい…」
憂「ただいまー!」
返答はない。
憂「お姉ちゃん?」
静寂
憂「これは……」
置き手紙と食事。
豪華な食事は一人分しかなかった。
憂(私は違和感を覚えた)
嫌な嫌な想像に発展した直後、私は階段を駆け上がる。
最悪を想像した。
わからない、最近のお姉ちゃんが
唯「憂……?」
彼女は段ボールに包まれた部屋で横になりながらそう問いかける。
憂「お姉ちゃん……」
安堵感と共に、段ボールに目が映る
唯「憂の足音はわかりやすいね…」
唯「憂しかこの部屋に来ないからかもしれないけどね」
彼女は虚ろな笑みを溢す
憂「お姉ちゃん…どうしたの?」
ピンクの壁紙は無くなり、段ボールとベッドしかない
いきなりの変貌した部屋に、私は状況がのみこめていない
………
……
…
女「ーーー低下!ーー投与を」
女2「先生を呼んで!早くー!」
言葉の断片が耳から脳に伝わる。
男「親御さんとご親族の方ははやく!」
「ーーーっ!」
「ーーーー!!」
叫び声が私の耳に届く。
異常を示す音が、霞んで行く
憂「なんで…私がお母さんに言って」
唯「憂……?無駄だよ、私のお母さんじゃないもん」
憂「………?」
唯「私と憂とは」
唯「血、繋がってないんだ。」
唯「腹違いの子なんだ。」
憂「……?」
私は、よくわからなかった。
いや、理解したくなかったのかもしれない。
唯「ごめんね、それで、本当のお母さんにの所にーー」
なにを言ってるんだろう、お姉ちゃん
唯「私、今の生活じゃなくなるの嫌なんだ。」
お姉ちゃんは窓縁に腰をかける。
唯「私は、楽しかったんだよ」
唯「リストラになってなかったお父さん」
唯「夫婦の仲が睦まじかった頃の母さん」
唯「あの頃は楽しかったな……」
[心拍数低下ー!AEDを!]
私はお姉ちゃんの変化に気付いていなかったのかもしれない。
唯「二人で昔は料理してたよね…」
お姉ちゃんは私の身代わりをしていたのか。
唯「お父さん、蒸発しちゃったんだよ…」
唯「憂だけは引き取るってさ」
[危険です!早くご親族を!]
ICUの中に何人かの人が入っていく。
声が遠い。よく聞こえないよ
……
………
唯「私ね、嫌なんだ。憂と離れるの」
憂「お姉ちゃん!ダメ!」
唯「ごめんね、さよなら」
彼女は窓縁から腰を上げ手を離そうとした。
咄嗟に私が掴む。
衿に触れた指はするっと滑り、彼女の行動も虚しく
「お姉ちゃん!!起きて!お姉ちゃん!」
さっきの憂とは違う、もう一人の憂
でも遅かったのかもしれない、
私は宙に……
ふわりと風に流された身体は、道路際に流されていく
晴れのち曇り、
太陽は光を遮り出す
風に浮遊する身体はコンクリート……
ではなく、人に思いっきり衝突した…
???「痛っ!ハッ…空から人が!?」
???「やばい!やばい!どうしよ律ちゃん!」
律「こりゃあビックリって…憂ちゃんのお姉さん!?」
???「え、そなの?知り合い?」
澪「ああ、料理が上手い子で…」
???「そうなんだ~私とは正反対だね!」
???「じゃなくてどうしよ~」
律「落ち着けよ…唯」
[戻って!お姉ちゃん!、戻って来て!お姉ちゃん!]
誰かに抱きしめられながら、私は空をぼんやり見つめてる。
私は気が付いたみたいだ。ここはまた別の世界なんじゃ…と。
私を抱きしめてたのは、"私"だったから。
気が遠くなりながらも、"私"は私に話しかけている。
かなり彼女は心配しているようだ。
ごめんね"私"
私が奪ってたね、役目
……
…
…
憂「戻って来て!!」
梓「先輩……!死なないで!」
律「許さないぞ…唯!死ぬな!死ぬな!」
ムギ「さいとう!どうにかして!」
澪「死ぬな………!死ぬな……!」
両親「唯!死んだらダメだ!唯!」
医者「心拍数が……まずい…」
必死の呼びかけ
最善を尽くすと言い残した医者
私は理解した。この世界を。
私の脳がつくった別の世界。
そこに私が来てしまったのだろう。
平行世界に同じ人間が二人居る事により
バランスが取れなくなっていた。
[戻って!お姉ちゃん!!]
微かに動く唇で"私"にいう
こっちの憂に謝らないと
唯「妹、平沢…憂に謝っておいて……」
"私"「……わかってるよ。だから、貴女は帰らないと」
唯「………うん、ありがとう、唯」
……
…
医者「凄い……心拍数安定、全てが安定だ!」
異常音は収まり、いくらか鎮静した頃、私は目を開けた。
帰ってきたんだ。
憂「お姉ちゃん!」
私に抱きつく妹。私はそっと彼女を抱きしめ「ありがとう、ごめん」
と呟く。
あっちの平沢唯は大丈夫かなあ?
私は妹の大切さを身に沁みて感じながら
そっと眠りについた
……
…
憂「なんで!あんな事したの!!」
唯「いやあ……」
もう一つの世界
憂「もぅ……っ!」
唯(私は何をしたのか知らないけど)
唯「ごめんね……」
あの後、いきなり私は自室に居た。
救急車に乗っていたはずなのに
みんなに聞いても知らないらしい
でも私と憂は知っている
憂「あれ……?」
自室の段ボール箱が消え去っていく
おそらく来た記憶、事実が消えていくのだろう
私は一人しかいない。
おそらくもう一人の私は間違って来てしまったのかもしれない、
ともあれ、
憂「ごはん作るよ~」
唯「お!アイス~アイス~」
パラレルワールド
私たちは私たちだ。
世界は平行に存在している。
人はそのうちの一世界しか行けないのだ。
唯「私のU&I聞いた?」
憂「良かったよ~私も部活入ろうかな~」
唯「是非是非!」
完
憂ちゃん、お誕生日おめでとう