まどか「百物語、ですか?」
マミ「そうよ。たまにはそういうのも面白いでしょう?」
ほむら「その必要は」
マミ「あら、暁美さん…もしかして怖いの?」
ほむら「…いいわ、やりましょう」カチン
さやか(転校生、単純だなぁ)
元スレ
マミ「百物語をしましょう」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1314797576/
杏子「アタシも別に構わないけど、百物語ってなんだ? 食いものか?」
マミ「真夏の恒例行事みたいなものよ」
マミ「一人ずつ背筋も凍るような怖い話をして涼をとるの」
杏子「へー、面白そうだね」
マミ「鹿目さん、美樹さんももちろん参加するわよね?」
さやか「ここで逃げたら女が廃る、ってね」
まどか「ほむらちゃんが怖がる顔見たいし、参加します」
ほむら「ま、まどか!?」
マミ「じゃあ全員参加ってことで。まずは準備をしましょうか」
まどか「準備って蝋燭とかですか?」
マミ「ええ。と言ってもこんなのしかないんだけど」
さやか「おー、可愛いなぁ。人形型の蝋燭だ」
マミ「まず一つの蝋燭に火を付けて、と」
マミ「みんなは真ん中の蝋燭から手にとった蝋燭に火を付けてそれを部屋の四隅に置いてね」
杏子「用意できたぞ」
キュゥべえ「百物語か、面白いことをやっているね」トコ
ほむら「感情を理解できないお前が、百物語を『面白いこと』だなんて、それこそおかしな話だわ」
キュゥべえ「それもそうだね」
杏子「なんだ、お前もやるのか?」
キュゥべえ「いや、僕は傍観に徹するよ。恐怖を理解できない僕が怖い話なんてできないしね」
マミ「別に構わないわよ」
マミ「部屋の明かりを消して準備はお終い、さぁ始めましょうか」
さやか「よーし、誰から行く?」
まどか「わたしはみんなの話、聞いてからがいいかな」
ほむら「……」
杏子「ならアタシからいくか」
杏子「これは、アタシが見滝原にくる前の話だ…」
親父たちが死んで、アタシはいろんところを転々としていた。
飛行機に乗ったり、タクシーに乗ったり、自転車を借りパクしたり…。
さやか「おい」
そしてあの日は、移動手段に電車を使った。
時刻は昼下がり、腹も空いていたアタシは駅で弁当を買ったんだ。
車内で弁当のふたを開け、さぁ食べようとすると何やら弁当の箱からひもが出ていた。
気になったアタシはひもを握ると、すっと引っ張ったんだ。
ほむら「まさか…」
すると驚いたことに、弁当からものすごい勢いで蒸気が立ち上り始めた。
『まずい』と思ったアタシは咄嗟の判断で蓋を閉めようとしたけど、
蒸気の熱が熱くてとてもじゃないけどそんなことできなかった。
じきに蒸気は止まったけど、車内には弁当の…シュウマイの匂いが充満してしまった。
昼過ぎだったことで人は多くなかったけど、少なくもなかった。
その時の周囲の目やヒソヒソ話はなんかこう…胃にくるものがあったな。
ソウルジェムが濁っていくのを感じたね。
さやか「そりゃぁねぇ…」
まどか「というか、怖い話じゃないような…」ウェヒヒ
杏子「言っとくがまだ話は終わりじゃないぞ」
落ち込んでも仕方がないし、一つだけ溜息をついてからシュウマイを食べることにした。
が、そこで気付いたんだ。
一つ足りない…。
箱の形状からして3×4で12個のはずなのに11個しか入ってなかったんだ。
そこでアタシは一度蓋をして、箱の側面を確認した。
そこにはやっぱり『12個入り』と書かれていたよ。
入れ忘れか何か知らないが一つ少ないのは気に入らない。
気に入らないけど、腹は減っていた。
そのことはとりあえず食べてから考えることにした。
そしてもう一度蓋を開け、11個のシュウマイを食べようと箸を伸ばそうとしたがその箸がピタリと止まる。
気付けばシュウマイがさらに一つ減り、10個になっていたんだ…。
さすがに何かの見間違えだろう、そう思い一度蓋を閉めもう一度蓋を開けると…。
今度は2つ減り、シュウマイの数は8個になっていた…!
愕然としたアタシはわけもわからず蓋を開けたり閉めたり繰り返し続けた。
そしてシュウマイは繰り返すたびに数が減り、気付けばシュウマイは全てなくなっていたんだ…。
杏子「どうだ、怖かっただろ?」
まどか「えー…」
さやか「全然怖くないし」
杏子「飯がなくなってんだぞ!? めちゃくちゃ怖いじゃねえか!」ドン
さやか「どうせ蓋の裏にくっついてたんでしょ、それ?」
杏子「お、よくわかったな。あの時はほんとビビったんだぜ~?」
ほむら「しかも体験談ですって!?」
マミ「と、とにかく。話が終わったら佐倉さんは自分が置いた蝋燭の火を吹き消してきて」
杏子「あいよ。ふぅー…」
さやか「なんか初っ端から変な空気なんだけど…」
杏子「アタシなんか間違えたか?」
まどか「うーん、普通はもっと幽霊の話とか都市伝説的なのかな?」
ほむら「ジャンルで言うとホラーやサスペンス系よ」
ほむら「そして杏子、あなたのは落語の小話よ」
杏子「アタシの中じゃ怖かったんだけどなぁ、百物語って難しいな」
マミ「まぁまぁ。それで…、次の話は誰がする?」
ほむら「杏子から右回りでいいんじゃないかしら」
まどか「じゃあ次はわたしだね」
さやか「その後は転校生、あたし、マミさんの順か」
杏子「アタシにダメ出ししたんだ、めちゃくちゃ怖い話を頼むよ」
まどか「うん、わかったよ」
まどか「これは、友だちの友だちの話なんだけど…」
その子はね特に何のとりえもない普通の女の子で、
きれいだとか可愛いとかそういうのもない、本当に普通の女の子。
その子はある日、学校からの帰宅途中で誰かの視線を感じたんだって。
ふと、辺りを見回してみたけど誰もいない。
ただの気のせいだと思ったその子は気にせずそのまま家に帰ったんだって。
けど、それはやっぱり気のせいなんかじゃなかったの。
ほむら「何があったの…?」
その日から毎日、ことあるごとに誰かの視線を感じるようになったんだって。
学校の行き帰り、友だちの家に遊びに行く時、果ては家にいても誰かに見られている気がした。
その子はほとんどノイローゼになりかけてたと思う。
また別のある日、視線を感じて振り返った時、電柱の陰に誰かいるのが見えたことがあったの。
電柱からはみ出して見えた靴のつま先と風にたなびく黒い長い髪は絶対見間違いなんかじゃなかった。
その子は『誰なの!? いつもわたしのこと見てるのはあなたなの?』って呼びかけてみたけど返事はなかった。
恐る恐るだけど、その電柱に近付いて電柱の裏を覗いてみたけど誰もいなくて…。
ほむら「……」ゴクリ
そしてまた別のある日、学校から帰って自分の部屋に入るとどことない違和感を感じたらしいの。
出しっぱなしだった漫画の位置とか上布団のめくれ具合とか
朝、家を出た時とは違っているような気がしたんだって。
気のせいかどうかわからないけど、とりあえず家にいたお父さんに
自分の部屋に入らなかったかって確認したけど答えは『入ってない』。
いっそ入って掃除でもしていてくれた方が安心できたのに…。
ついにそんな状況に耐えきれなくなったその子は、
お父さんにビデオカメラを借りて罠を仕掛けることにしたんだって。
次の日、学校に行く前にビデオカメラを部屋の隅に設置して
周りに持っていたぬいぐるみのいくつかを置いてカモフラージュして家を出たんだって。
一日の授業を終えたその子は、友だちの誘いも断って一目散に家に帰ったの。
そして、帰宅して真っ先にビデオカメラに飛びついたの。
録画モードを止めてビデオを頭出し、早送りで見ていたけどずっと何も映っていなくて…。
もしこのまま最後まで何も映ってなかったら親と相談して精神科のある病院で診てもらおうなんて、
そんなことを考えながらカメラのモニターを眺めていると部屋に誰かが入ってきたんだって。
カメラの配置が悪かったせいで残念ながら顔は映ってなかったけど、
その人は黒い長い髪の女の子で、服装は驚くことにその子と同じ学校の制服だったの。
しばらく、部屋の中をうろうろしていたんだけど、
何を思ったのかその人はベッドの下に潜り込んだんだって。
その後何をするのかとじっと見続けていたんだけど、
その人が何かをする前に別の人が部屋に入ってきたの。
その別の人って言うのはね…、自分だったの。
杏子「あん? どういうことだよ…」
部屋に入ってきたその女の子はビデオカメラに近付いて、
そこでビデオは終わっていたの。
その女の子はベッドを背にして床に座ってビデオを確認してたんだけど、
女の子の真後ろの、ベッドの下に黒い髪の女の子がいることになるの。
さやか「そ、それで…。その女の子はどうしたのよ?」
覗いたらどうなるとかそういうことを考える余裕もなくて、
振り返った女の子はベッドの下を覗いたよ。
けど…、誰もいなかったの。
マミ「えっ…」
確かにその女の子はビデオに集中してたけど、
気付かれずにベッドの下から這い出て部屋から出ていくなんて不可能。
なのに、ベッドの下には誰もいなかったの。
さやか「けど、ビデオに撮った証拠があるんだから警察に駆けこむなり…」
ビデオはね、消されていたの。
さやか「は?」
その子がベッドの下に誰もいないのを確認した後、もう一度ビデオを見ようとしたんだけどね…。
いつの間にかビデオカメラの横に『ごめんなさい』って一言だけ書かれた紙切れが置いてあって、
ビデオカメラを操作したけどビデオのデータは削除されていたんだって…。
まどか「ティヒヒ、これでわたしの話は終わりだよ。蝋燭の火消すね、ふぅー…」
マミ「とっても怖い話だったわ、鹿目さん」
杏子「で、その女の子はその後どうしたんだ?」
まどか「どうもしなかったらしいよ。証拠も消されちゃってたし」
まどか「それに次の日から視線も感じなくなったんだって」
ほむら「……」ダラダラ
さやか「あれれ? 転校生、顔青くない? 冷や汗までかいて」
ほむら「そ、そんなことないわ。ただ、その…」
まどか「わたしの話、そんなに怖かったかな、ほむらちゃん?」
ほむら「え、ええ、怖かったわ。そう、ただ怖かっただけだから、気にしなくていいわ」
マミ「大丈夫…?」
ほむら「ええ、平気よ…。それより、次は私の番よね」
ほむら「私の話も友だちの友だちの話なんだけど…」
主人公は平々凡々で地味で体力もない頭もそんなに良くない少女。
誰の力にもなれなくて、自分の非力さを嘆いていた少女は
ある日どうにもならない絶望的な現実を前に、強く強く願ったわ。
『もう一度やり直したい』と…。
そして、その少女は気付くとベッドの上で、
さっきまでの絶望的な光景はどこにも存在しなかったの。
わけがわからない少女は部屋を見回してみるとカレンダーが目に入ったらしいわ。
そのカレンダーの日付は2週間前のものだったの。
状況がいまいち理解できていなかった少女だったけれど、
それとなく周りの人に話をしてみると間違いなく2週間前に時間が巻き戻っていたらしいわ。
ただ、そのことに気付いているのはその少女だけ。
その日から、少女の日々は一転したわ。
流行りに敏感で、勉強もできる、ある時は怪我をしそうな人を助けたりと、
これでクラスの人気者になれない方がおかしいわね。
そうして、幸せな毎日を過ごしていた少女は2週間後、再び絶望を突きつけられる。
こうなることは知っていたのに止められなかった自分を悔いて、再び願った。
『もう一度やり直したい』と…。
気付けば、少女はまたしてもベッドの上で、2週間前に戻っていたの。
今度こそはと意気込んだ少女は何もかもをかなぐり捨てて絶望に立ち向かったらしいわ。
そして2週間後、努力の甲斐もあって、見事絶望を討ち果たすことができたの。
杏子「ハッピーエンドか」
そうね…。けれど、そのために見捨てたモノも多くあったわ。
少女はそれでは満足できなかった。
だから、またしても願ってしまった。
『もう一度やり直したい』と…。
その少女は何度も何度も繰り返したらしいわ。
最高の未来を目指して些細な失敗も許さず、何度も何度も。
そしていつしか、少女の描いた理想の未来が実現する。
友人とも理想の関係を築き、周囲に不幸な人間なんて誰もいない、
そして最後に絶望を打ち破る理想の未来。
少女はついにやったと歓喜したわ。
友人たちも喜んでくれた、褒めてくれた。
それなのに…。
気付けば、その少女は2週間前のベッドの上に戻っていたの。
まどか「どういうことなの…?」
さぁ? その少女もわけがわからなかったらしいわ。
ただ、一度成功させているからもう一度同じことを繰り返すのは容易、
2週間後に再び理想の未来を実現したのだけれど…。
またしても、その少女は2週間前のベッドの上に戻っていたのよ。
狂いそうな自分を抑え、少女は何度も何度もその2週間を繰り返したけれど
何度やっても2週間後には2週間前のベッドの上に戻されてしまう。
そして、ついに耐えきれなくなったその少女は自ら命を絶つことを選んだそうよ。
さやか「そんな…」
ほむら「美樹さやか、話はまだ終わりではないわ」
さやか「え…?」
自分の意思に関係なく繰り返される2週間に耐えきれなくなった少女は自ら命を絶った。
けれど、少女は今度もベッドの上で目覚めることになる。
それで少女は完全に狂ってしまったわ。
あらゆる方法で自身を殺し続けた。
しかし、何度繰り返してもベッドの上で目を覚ます。
永遠の迷路に閉じ込められてしまっていた少女は死ぬことさえ許されない。
繰り返される時間を観測できない私たちには彼女がどうなったか知る術はないわ…。
ほむら「これで終わりよ。蝋燭の火、消すわね。ふぅー…」
杏子「なんか無茶苦茶後味悪いな…」
ほむら「気にすることはないわ、フィクションよ」
ほむら(半分くらいはね)ボソリ
まどか「ほむらちゃん、今なにか言った?」
ほむら「いいえ、何も言ってないわ」
マミ「じゃあ、次は美樹さんの番ね」
さやか「よーし、それじゃあさやかちゃんがとっておきの話を…」パキリ
さやか「ん? 今なんか変な音しなかった?」
ほむら「小細工は無用よ、美樹さやか。早く始めなさい」
さやか「いや、そういうんじゃなくて…ま、いっか。じゃあ始めるよ」
あるところに一人の男性に想いを寄せる二人の女性がいたの。
どちらも男性のことを強く想っていたのだけれど、
男性はどちらか一人を、あるいは両方をふらなければならない。
結果から先に言えば、男性は二人の女性のうちの一人と付き合うことを選んだわ。
そして、選ばれなかった女性は悲しみに暮れた。
どうしてあたしではなかったのかと、何が劣っていたのかと。
こんなにも男性のことを想っていたのにって…。
気を病んだその女性はある日何の前触れもなく失踪し、
女性の使っていた部屋から遺書が見つかったらしいわ。
『今のあたしじゃ愛されない。生きていても仕方ない』って。
そのことはすぐに件の男女の耳にも届くことになる。
けれど二人がそれで別れるようなこともなく、
むしろより一層に絆を深めたそうよ。
それからしばらく経って、その男女は結婚し夫婦になり、
ほどなくして最愛の娘も生まれ幸せな日々を送っていたわ。
しかし、さらに数年が経ち、成長した娘の姿に女性は小さな違和感を覚えていたらしいの。
違和感と言っても、自分にあまり似ていないなと、それだけのこと。
別に親子だから似ていなければおかしいなんてことはないと思う。
ただ、自分にも夫にも似ていないだけでなく、
数年前に亡くなった男性をとりあった仲のあの女性に似ていなければ…。
さらに数年の年月が経ち、その娘が高校生になる頃、
女性は事故で亡くなってしまったの。
男性は悲しかっただろうね。
けれど一度も涙をこぼさず、喪主を務め粛々と葬儀を終えたらしいわ。
そんな父親の姿を目にした娘は、そっと父親を抱きしめてこう言ったの。
『あたしのこと、今度は愛してね』って。
その頃の娘は男性がフッた女性に瓜二つだったそうよ。
さやか「これで終わり。蝋燭消すね、ふぅー…」
ほむら「iPS細胞ね!」キリッ
さやか「えっ!? あいぴー、なんだって?」
ほむら「iPS細胞…、平たく言えば女性同士で子どもを産むことができる技術のことよ」
ほむら「失踪したと見せかけた女性が自分の遺伝子でもう一人の女性を妊娠させたのよ」
まどか「ほむらちゃん…」
さやか「えー…、なんかもうそれでいいわ…」メンドイ
杏子「さてと、これで四隅の蝋燭が消えて、残るはマミだけだな」
まどか「外も暗くなってきちゃったね…」
キュゥべえ「暗くなると魔女や使い魔も活発になるからね」
キュゥべえ「そろそろ自分の家に帰った方がいいと思うよ」
さやか「んー、でもあとマミさんの話だけだし」
ほむら「ええ、主催者の話を聞かずには終われないわ」
マミ「なら、さっさと私の話も済ませてしまいましょう」
マミ「儀式を途中でやめるわけにはいかないし」ミシリ
ほむら(儀式って…、またこの人は…)
マミ「あれはつい先日のことだったわ」
学校の帰り道、とあるゴミ捨て場の横を通りかかったの。
ふとゴミ捨て場の方を見ると、積み上がったゴミ袋の上に一体の人形があったの。
普段なら絶対にゴミ捨て場にある人形なんて持ち帰ったりしないんだけど、
どうしてかわからないけど、どうしてもそのままにしておけない、そんな衝動に駆られたの。
近付いてよく観察してみたけど目立った汚れもなかったわね。
それで周りに誰もいないのを確認して私はその子を持って帰っちゃったの。
家に着くと、お風呂場に持っていって綺麗にしてあげて、
せっかくだから服も新しいものを作ってあげて、名前を付けてあげたわ。
名前は「シャルロッテ」、可愛い名前でしょう?
今思うとね、一人暮らしだから寂しかったんだと思う。
それから家にいる時は毎日その子に話しかけていたわね。
朝起きたらおはよう、出かけるときに行ってきます、
ご飯を食べる時も食卓に一緒に並べていただきます、ってね。
そして、寂しかったのは彼女も同じだったのね。
ある日、学校に行こうと家を出ようとすると
シャルロッテの髪が制服の袖のボタンに絡みついていたの。
絡みついていた髪をどうにかほどいて今度こそ家を出ようとした時、声が聞こえてきたわ。
『行かないで』って。
一瞬空耳かと思ったけど、それは空耳じゃなかった。
三度家を出ようとすると、玄関に置いたシャルロッテが飛びついてきて
はっきりと『行かないで』って言ったのよ。
思わず私は腰を抜かしてしまったわ。
漫画やアニメじゃないんだから人形が喋るなんて考えもしないでしょう?
怖くなった私だったけど、その場はシャルロッテににっこりとほほ笑んで
『じゃあ、一緒に行きましょう』
そう言って鞄に入れて登校したわ。
その日、私は一日中気が気じゃなかったわ。
鞄の中に喋る人形が入ってるなんて気味が悪いもの。
結局、学校では何事もなく下校時刻が訪れる。
友人の誘いも断って真っすぐ帰路に着いたわ。
そして、その途中、『ある場所』で私は立ち止った。
周りに誰もいないことを確認して、鞄に手を差し入れる。
シャルロッテを取り出すと元あったゴミ捨て場に置くと走って家に帰ったわ。
『置いてかないで』
ってずっと聞こえていたけど、聞こえないふりをして全力疾走。
家に着いた時、足はがくがくと震えていて喉もカラカラだった。
けど、助かった、あんな変な人形はもうこりごり。
二度と人形を拾ったりしない、私はそう誓ったわ。
そして、その晩――。
滅多に鳴ることがない電話から呼び出し音が聞こえてきたわ。
こんな夜遅くに一体誰からだろうと僅かに苛立ちを覚えつつも受話器をとったわ。
すると、受話器から聞こえてきた声には聞きおぼえがあったの。
『わたしシャルロッテ、今ゴミ捨て場にいるの』
思わず受話器を取り落とし、自分でも自分の血の気が引いていくのがわかったわ。
恐る恐る、もう一度受話器を耳に当てると電話は切れていたから受話器を元の場所に戻したの。
今のはきっと誰かのいたずら、そうに違いないって必死に思いこもうとしてた。
けど……、
プルルル、プルルルって電話が鳴ったの。
変ないたずら電話の後だから受話器を取るにも取れずその場で右往左往してた。
すると今度は電話が勝手に留守番電話に切り替わったの。
家にいる時は留守番電話の設定は解除してあるからそんなことあるはずないのに。
『わたしシャルロッテ、今×丁目の十字路にいるの』
怖くなった私はすぐに電話のコードを引き抜いたわ。
でもそんなの無駄、すぐに次の電話がかかってきたの。
『わたしシャルロッテ、今マンションの前にいるの』
その時の私は完全にパニックに陥っていたわね。
どうしていいかわからず電話のコードが抜けていることを何度も確認したり、
武器になりそうなものはないかと家の中を探しまわったり。
『わたしシャルロッテ、今マンションの3階にいるの』
3階、それは私の部屋がある階と同じ。
咄嗟に近くにあった傘を掴むと玄関の鍵を閉めてベッドの上に逃げ込んだわ。
布団に包まり、がたがたと震えて……。
『わたしシャルロッテ、今あなたの家の前にいるの』
その電話の直後、ガチャガチャという大きな音。
それは玄関の扉を開けようと繰り返す音だったの。
『お願いもうヤメテ、帰って! お願いだから帰って!』
玄関から音が聞こえていた間、ずっと叫んでいたわ、『帰って』って。
しばらくすると、ようやく音が聞こえなくなって
帰ってくれた、私は助かったんだと安堵したわ。
ほっと胸をなでおろし、ベッドの上から降りようとした時、もう一度電話が鳴ったの。
数回聞こえてくるコール音、そして留守番電話に切り替わり……。
『わたしシャルロッテ、今あなたの真上にいるの』
まどか「きゃー!!」
ほむら「ほむほむほむ!!(まどかが!まどかが抱きついてきた!)」
ぎしっ…
マミ「どうだったかしら、私の話は?」
杏子「けっ、よくあるメリーさんの話のオマージュじゃんか、ちっとも怖くねーよ」
さやか「杏子は意地っ張りだなぁ、ほんとは怖かったくせに」
まどか「こういう迫ってくる感じの、わたしだめなのー」
ほむら「大丈夫よまどか、こんなの作り話だから。怯えなくても平気よ」
マミ「あら? 作り話じゃないわよ」
全員「「えっ?」」
マミ「その証拠に、その日、私は大事なものを失ってしまったの」
ね ぇ 、 み ん な ・ ・ ・
『 私 の 首 、 知 ら な い か し ら ? 』
さやか「は…、え…?」
杏子「お、おい…マミ、お前首が…」
フッ…
まどか「最後の蝋燭の火が勝手に…」
マミ『ねぇ…、知らない? 私の首…』ザザッ
マミ『どうしても見つからないなら…あなたたちの首でも…』ザザザー
ほむら「これは、テレパシー!?」
キュゥべえ「忠告はしたはずだよ…、帰った方がいいんじゃないかって」
ほむら「インキュベーター!」
キュゥべえ「思い出してみなよ、巴マミはとっくの昔に魔女に殺されたじゃないか」
さやか「そ、そうだよ…、マミさんは魔女に頭から食べられて…」
マミ『ねぇ、首…、首を頂戴…、お願いだから…』ザ、ザ…
杏子「く、来るんじゃねぇ! お前なんか魔法少女に変身して…!?」
杏子「どういうことだ! 魔法少女に変身できねえ!」
ほむら「一体何をしたの、インキュベーター!」
キュゥべえ「僕は何もしていないよ。むしろ何かしたのは僕じゃなくて君たちの方さ」
まどか「どういうことなの、キュゥべえ?」
キュゥべえ「君たちが百物語という儀式を行ったことで、この部屋はあの世と繋がってしまったんだ」
キュゥべえ「あの世には魂しか逝けないからね、君たちの魂があの世に引っ張られた結果だよ」
杏子「クソ、窓が開かないどころかどんなに殴っても割れもしねえ!」
さやか「玄関も開かないよ! 鍵もかかってないのに…なんで!?」
『誰の首がいいかしら…』
そう言ってマミさんはわたしに近付いてきて…。
『四つもあればどれか一つくらい私に合う首があるわよね…』
恐ろしさのあまり悲鳴をあげるどころか身動き一つできなくて…。
『一番初めはあなたの首にしましょう…』
マミさんはそっとわたしの首に触れて…。
それがわたしの最後の記憶…。