坂道
露天商「社長さん、お目が高いですねえ」
男「はあ、まあ」
露天商「この剣はですね……フフフ、何を隠そう勇者の剣です」
男「……柄、だよね」
露天商「そう見えるでしょう、刃がない、そう見えるでしょう!」
露天商「しかし!この勇者の柄!を握るとたちまち!」
ギュッ
露天商「うおー!えい!やー!」
男「……」
露天商「あ、行かないで!行かないで社長さん!」
元スレ
男「勇者の剣?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1360127688/
露天商「ほんっと凄いんですから!」
男「ごめんなさい、忙しいので……」
露天商「……あなた、子どもの頃に勇者に憧れていませんでしたか?」
男「……」
露天商「先程勇者の剣を見初めたあなたの眼、確かに輝いていました」
男「はは、分かるんですか」
露天商「いえ、適当です」
男「……」
露天商「ああっ、いやいやでもほら、えーと……」
男「いいですよ、買います」
露天商「お、おお……流石社長さん太っ腹!毎度ありい!」
職場
男「戻りました」
上司「……」
後輩「……」
男「……」
上司「遅かったな」
男「はあ、すみません」
上司「書類は出来たのか」
男「今からやります」
キーンコーンカコーンカーンコーカコーン
上司「お、終業だ。俺、帰るからな」
男「……お疲れ様です」
男の家
男「ただいま……」
嫁「おかえり。すぐご飯温めるね」
男「うん」
男「……ふうー」
嫁「大丈夫?」
男「ああ、うん。ただちょっと疲れてね」
嫁「無理しないでね」
男「ありがとう」
男「ごちそうさま」
嫁「はあい」
男「ちょっとまた、仕事するからさ」
嫁「……うん」
男「心配しないでね。大丈夫だから」
嫁「男は大丈夫って言ってる時が一番心配だから……」
男「あはは……」
嫁「……」
書斎
男「ふう」
男「やんなきゃな……」
ガサゴソ
男「……ああ、買ったの忘れてた」
男「はは、勇者の柄だな」
男「……勇者か」
男「なんでこんな駄目な男になっちまったかなあ」
ギュッ
『スライムが現れた!』
勇者「えっ?」
スライム「にょーん」
勇者「う、うわ!なんだこいつ!」
スライム「!」
ズイッ
勇者「お、おい!来るな!来るな!!」
ブンッ バシィ
『会心の一撃!』
スライム「にょいーん……」
勇者「あれ……倒した?」
勇者「それに、勇者の剣……刃がある」
テレテレテッテッテー!
『勇者のレベルが上がった!』
『レベル5 力+2 知能+2 素早さ+2 HP+8』
勇者「はは……」
男「ハッ」
男「……なんだ今のは」
男「刃、無くなってる」
男「……夢?」
男「いやいや、それより仕事やらないと」
男「はあ。やっぱり疲れてるのかな」
男「……」
男「よし、と」
男「思ったよりは早く仕上がったな」
男「……んー、肩が重い」
男「……風呂入って寝るか」
男「しかし、さっきのは一体……」
翌朝
男「おはよう」
嫁「おはよー」
男「……あれ、そのおでこのコブどうしたの?」
嫁「あ、ちょっと躓いちゃって」
男「はは。気を付けなよ」
嫁「ほんとにね、そそっかしいから」
職場
男「おはようございます」
上司「……」
後輩「……」
上司「おい、書類見せてみろ」
男「……はい」
ペラペラ
上司「……ふーん」
男「……」
上司「ま、いいんじゃないの。ハンコ押しとくわ」
男「ありがとうございます」
男の家
男「ただいま」
嫁「おかえりー」
嫁「すぐご飯温めるね」
男「うん、ありがと」
嫁「……ね、疲れてるなら休んでね」
男「うん、大丈夫。簡単に休めないしね」
嫁「またそうやって……無理しないでね」
男「あはは……」
書斎
男「……」
ギュッ
勇者「……!」
勇者「や、やっぱり」
『スライムが現れた!』
スライム「にょーん」
勇者「やっぱり気のせいじゃなかった……」
スライム「!」
勇者「!」
ブンッ バシィ
スライム「にょいーん……」
勇者「ははは……」
『スライムが現れた!』
勇者「おりゃ!」
ブンッ バシィ
スライム「にょいーん……」
テレテレテッテッテー!
『勇者のレベルが上がった!』
『レベル7 力+2 知能+2 素早さ+2 HP+8』
勇者「はは、ははは」
男「ハッ」
男「……」
男「勇者、か」
職場
男「おはようございます」
上司「……」
後輩「……」
上司「男、今何か仕事入ってるか?」
男「はあ、一応」
上司「どちらにしても頼むわ」
男「はい」
上司「明日の朝までにレジュメ作っといてくれ」
上司「あ、それと当然プレゼンもお前な」
男「……はい」
男(なんで俺ばっか……)
男(はあ。またお持ち帰りか……)
男(嫌だなあ)
男(……)
男(……あれ)
男(妙に捗るな)
男(……よーし)
男(もう少し、もう少し……)
キーンコーンカコーンカーンコーカコーン
上司「よし、しゅうぎょ」
男「出来ました!!」
上司「えっ」
後輩「……静かにして下さいよ」
男「あ……すみません」
上司「お、おう。じゃあ見ておくか」
ペラペラ
男「……」
上司「ふー、ん。良いな。いけそうだ」
男「ありがとうございます」
上司「だけどなあ、ベルなったら終業だぞ。分かってんな?」
男「はは、すみません……」
坂道
露天商「……毎度ありい!」
露天商「いやー、実に数日振りに売れたなあ」
露天商「毎度のことながら餓死するかと思ったわ」
男「こんにちは」
露天商「お、こないだの社長さん!」
男「どうですか、商売は」
露天商「あはは、てんで駄目ですよ」
露天商「あなた以来、一つしか売れてないんです。それも、ついさっきです」
男「それは……中々大変ですね」
露天商「どうですか、勇者の剣ッ!は」
男「……あれ、なんなんですか?」
露天商「フフフ。不思議アイテムですよ」
男「仕組みは?何か危ない薬でも塗ってあるとか……」
露天商「フフフ……」
男「……」
露天商「不思議アイテムですよ」
男「秘密って訳ですか」
露天商「そんなとこです!」
露天商「でも、あれは私の商品の中でもか・な・り!安全な方ですよ!」
露天商「単体ではただの、ちょっとリアル志向なオモチャですからねえ」
露天商「ただ……」
男「ただ……?」
露天商「ハマりすぎには注意!節度をもって遊んで下さいねえ」
男「はは、気をつけます」
男「……あの、さっきの言い方だと、もしかして他の商品には危ないものも……?」
露天商「フフフ……気になりますか。気になりますよねえ」
男「気になりますね……」
露天商「例えばさっき売れたのなんかは……あ、いやいや秘密です、秘密」
男「……はあ」
露天商「一応、個人情報って奴ですかねえ」
男の家
男「ただいまー」
嫁「おかえりー」
嫁「……」
男「ん?どうかした?」
嫁「ううん。何か良いことあった?」
男「ああ。仕事が珍しく上手くいったんだよ」
嫁「やっぱり。久しぶりに晴れやかーな顔してたからね」
男「そ、そう?」
嫁「なんだか、子どもの頃を思い出したよ」
嫁「一緒に遊んでた時と、同じ顔」
嫁「よく、勇者ごっこしてたよね」
男「うん。俺が勇者で、嫁が……」
嫁「ふふ、私は戦士と魔法使いと僧侶」
男「ああ、そうだったね」
嫁「木とか空き缶を魔物に見立てて……」
男「うんうん、良い感じの枝があったら勇者の剣!」
男「思い出したよ、確か魔王は近所に住んでた……」
嫁「ええっと……なんとかお兄さん」
男「そう、なんだったっけ……喉の辺りまで出てるんだけど」
嫁「いつもノリノリで遊んでくれたんだよね」
男「懐かしいなあ」
嫁「私たちすっかり、ただの大人になっちゃったね」
男「……」
嫁「ねえ、私はいつも勇者の仲間たちばっかりだったけど」
嫁「本当は、やってみたかったんだよね」
男「勇者は俺だよ」
嫁「えっ」
男「あっ、いやいや、あはは」
嫁「ふふ、そう、勇者は男だよね」
書斎
男「……そう、俺は」
ギュッ
勇者「勇者だ!」
『スライムが現れた!』
勇者「おりゃ!」
ブンッ バシッ
勇者「どんどん来い!」
『スライムが現れた!』
勇者「おりゃあ!!」
勇者「ガンガン倒せて気分はいいけど」
勇者「……こうスライムばっかりだとな」
勇者「レベルも上がりにくくなってるような」
勇者「うーん……」
キョロキョロ
勇者「この部屋にはスライムしかいないのかな……」
勇者「例えば外には……」
勇者「……お!窓の外に……あれはゴブリンか?」
男「ハッ」
男「……また明日にするか」
職場
上司「おい」
男「はい」
上司「さっきのプレゼン、良かったぞ」
男「……来てたんですか」
上司「おいおい!これでも結構心配してるんだぞ!」
男「はは、すみません」
上司「ま、いいや」
上司「お前、最近ちょっと良いぞ」
男「ありがとうございます」
上司「何かストレス解消法でも見つけたのか?」
男「あはは、そうですね。そうかもしれません」
男の家
男「ただいまー」
嫁「おかえり」
男「あれ?その絆創膏どうしたの?」
嫁「ああ、えっとこれは、洗濯物ほしてる時にひっかけちゃって」
男「大丈夫?」
嫁「うん、ほんっとにそそっかしいから」
男「あはは。気をつけてね」
嫁「うん、ありがと」
男「ごちそうさまっ」
嫁「ごちそうさま」
男「よし、ちょっと俺、ランニングしに行ってくるから」
嫁「え……?どうしたの急に」
男「いやあ、もう若くないしね」
男「そろそろ健康に気を使おうかなって」
嫁「同い年なんですけど……」
男「あー、いや。嫁は若いよ!若い若い!」
嫁「はいはい。気を付けてね」
男「うん。行ってきます」
嫁「……」
外
タッタッタッタ
男「ふうー。よし、この辺でいいかな」
ゴソゴソ
男「……俺は」
ギュッ
勇者「勇者だ!」
『ハイゴブリンが現れた!』
ハイゴブリン「ぎぎょええええええ」
勇者「ハ、ハイ!?」
『ハイゴブリンの攻撃!』
バキィ
勇者「ぐっ!」
勇者「こいつ今までのとは明らかに違う……!」
勇者「この辺りはまだ早かったのか……?」
『ハイゴブリンの攻撃!』
勇者「に、逃げよう!」
『勇者は逃げ出した!』
勇者「ハァ、ハァ……フー」
勇者「これじゃ本当にランニングじゃないか……」
勇者「……よかった、どこも怪我してないみたいだ」
勇者「この辺の敵は大丈夫かな……」
『ゴブリンが現れた!』
勇者「お、出たな」
『ゴブリンの攻撃!』
勇者「見える!」
ガキィン
勇者「フッ、甘い!食らえ、カウンター!!」
ズバッ
ゴブリン「ぎぃいいい」
勇者「まだ倒れないか……!」
勇者「これでどうだ!」
ズバッ バシィ
『会心の一撃!』
ゴブリン「ぎ……」
勇者「よし!」
テレテレテッテッテー!
『勇者のレベルが上がった!』
『レベル13 力+2 知能+2 素早さ+2 HP+8』
勇者「これが勇者の戦い……」
勇者「なんて、良い気分なんだ……」
男「ハッ」
翌朝
男「おはよー」
嫁「おはよう」
男「おっ、今日は朝からシチューか!」
男「いただきまーす」
嫁「最近元気だね?」
男「ん?あはは、そうかもなあ」
嫁「ふふ。実は、私もちょっといいことがあってね」
男「へえ。どうしたの?」
嫁「新しい服を買ったの。昔から欲しかった服」
男「ああ、服か。……おっと、もう時間だ」
嫁「……うん」
男「それじゃ、行ってきます」
嫁「行ってらっしゃい」
バタンッ
お隣さん「ちょっと旦那さん」
男「あ、おはようございます」
お隣さん「ねえ……聞いた?」
男「……いえ?」
お隣さん「この近くで猫が死んでたんですって」
男「はあ。可哀想だけど特に珍しいことでもないような」
お隣さん「それが、何かで殴られたような跡があったみたいで……」
男「……そうなんですか。気味が悪いですね」
お隣さん「ねえ。ほんと、やーねえ……」
男(……いや、まさかな)
その日の夜
タッタッタッタッタ
男「……俺は」
ギュッ
男「勇者だ!」
ズバッ
『勇者のレベルが上がった!』
バキッ
『勇者のレベルが上がった!』
グシャッ
『勇者のレベルが上がった!』
メギョ
『勇者のレベルが上がった!』
ある日の職場
男「おはようございます!」
後輩「おはようございます」
上司「おはよう」
男「~♪」
上司「なあ、男」
男「はい」
上司「なんだか、職場が良い雰囲気になったと思わないか」
男「はは、そうでしょうか」
上司「お前のお陰だよ」
男「いやいや、そんな……」
男(……ははは)
男(本当にどうしたんだろう)
男(こんなに調子が良いのは初めてかもしれない)
男(……あの剣を買ってからだ)
男(勇者のレベルが上がると共にまるで俺自身のレベルが上がっているように……)
男(はは、ははは。きっと俺は、勇者の素質があったんだ)
男(そうさ、俺は勇者だ。勇者なんだ!)
ギュッ
『勇者のレベルが上がった!』
お隣さん「またあったんですって。今度は犬が……」
『勇者のレベルが上がった!』
嫁「最近物騒だから、気を付けてね」
『勇者のレベルが上がった!』
上司「頼りになる男になったよ!お前は!」
『勇者のレベルが上がった!』
お隣さん「また……」
『勇者のレベルが上がった!』
嫁「――」
『勇者のレベルが上がった!』
上司「――」
ある日の朝
TV『犬や猫、鳥などの連続惨殺事件が……』
男「……」
嫁「ねえ」
男「!……ど、どうしたの」
嫁「もう、夜のランニングやめにしたら?」
男「……どうして?」
嫁「今テレビでやってるの、この近所でしょ?」
嫁「一人で、しかも夜に出歩くなんて危ないよ」
男「あ、ああ」
男「そうだね、ちょっと考えてみるよ……」
書斎
男「……」
男「俺は、俺は勇者だ」
男「強くなって、成功して、良い人生を送るんだ……」
男「レベルだってもうすぐ99なんだ……」
男「こんな書斎なんかで戦っていられるか……」
『犬や猫、鳥などの連続惨殺事件が……』
男「うう……」
男「まさか……違う……」
男「そんなはず……」
深夜
嫁「スー、スー……」
男(よし、寝てるな……)
男(起きるなよ……)
スッ
キイ カチャン
嫁「……」
外
タッタッタッタッタ
男「俺は」
ギュッ
勇者「俺は、勇者だ!」
『勇者のレベルが上がった!』
『勇者のレベルが上がった!』
『勇者のレベルが上がった!』
『勇者のレベルが上がった!』
職場
上司「おい、男」
男「はい」
上司「今日、一杯いかないか?」
男「ええっと……」
男(今日も勇者やりたいんだけどな……)
上司「なあ、良い話があるんだよ」
男「ああ、はい……行きましょう」
上司「もちろん俺のおごりだぞ」
男「あはは、ありがとうございます」
男(帰ってから……でいいか)
帰路
男「うー、気持ち悪り……」
男「どんだけ飲ませるんだ、よ……」
男「……でも、昇進かあ……はは」
男「やっ……た」
男「ウエエ、ゲエエエ」
男「……」
男「酔い覚ましに、家までちょっとやってくか……」
ギュッ
勇者「ウエエッウッ……」
男の家
ガチャッ
男「……ただいま~」
嫁「おかえりー」
男「いや、久しぶりに飲んだよ……」
男「だいぶ弱くなっちゃってたみたいでさあ……」
嫁「ふふ。そういえば私も、随分飲んでないなあ」
男「そうだっけ?そうだったかもな~」
嫁「そうよ」
翌朝
男「……あれ、俺いつ寝たっけ」
嫁「おはよう」
男「おはよ……うわ、頭いてえ」
嫁「二日酔いね」
男「休みで良かった……」
TV『動物たちの連続惨殺事件の現場付近で……』
嫁「まだ続いてるのね……」
TV『昨夜、殺人事件が起きました』
男「……え?」
男(さつ……じん?)
男(……俺、昨日どうしたっけ)
TV『……は、一連………関係………見て……』
男(上司と飲んで、ぐでんぐでんのまま帰って)
男(帰って……?)
男(……勇者になって……)
TV『…お、目撃……から………は…性……みられ……』
男(そのあとは……)
嫁「怖いね」
男「ひっ!」
嫁「……大丈夫?」
男「う、うん……おっかないニュースだね」
嫁「本当にね」
深夜、外
男「……」
男「……」
男「……」
男「違う、俺じゃない。俺は」
ギュッ
勇者「俺は勇者だ……」
勇者「俺は……」
グシャッブシュ
『勇者のレベルが上がった!』
ザクッバキッ
『勇者のレベルが上がった!』
勇者「世界の平和を守る」
『勇者のレベルが上がった!』
『勇者のレベルが上がった!』
『勇者のレベルが上がった!』
勇者「勇者だ!俺は勇者なんだ!俺は!!」
『魔王が現れた!』
勇者「!!!」
勇者「ようやく会えたな……魔王」
魔王「ほう……貴様が勇者か」
勇者「そうだ」
魔王「何ゆえに我を滅ぼさんとする」
勇者「……世界の平和のためだ」
魔王「ほう、世界の……」
勇者「ああ」
魔王「貴様の言う世界とは、何だ」
勇者「……俺の世界は……」
勇者「そんなことを聞いて何になる」
魔王「……答えられぬか」
魔王「貴様は実の所、己だけを守るために戦っているのだな」
勇者「……そうかもな」
魔王「ふふ。面白い。ならば、我がその世界を滅ぼしてくれようぞ!」
勇者「くるか……!」
『魔王の攻撃!』
ゴオオオオ
勇者「ぐうっ!なんて威力だ……」
魔王「ふふ。どうした。もう終わりか」
勇者「まだだ!」
ブンッ…
勇者「くっ、攻撃が当たらない……?」
魔王「悪いが、我は貴様の攻撃を見切っている」
『魔王の攻撃!』
バキッ
勇者「うっ……」
魔王「……とどめを刺させて貰うぞ」
勇者「魔王よ……俺は、さっきから考えていたんだ」
魔王「……」
勇者「確かに俺は自分のために戦っていた」
勇者「弱い自分を守るために勇者になっていた」
勇者「だけどな、人はきっとそれだけじゃ強くなれないんだ」
勇者「思い出したよ。俺が勇者に憧れたのは……誰かを、大切な人を守れるからだ」
魔王「……ほう」
勇者「俺は、俺の世界を……家族を!」
勇者「守るんだ!」
魔王「!」
ビュンッ ザシュ
魔王「くっ!?」
勇者「そこだ!」
ギイイイン
『会心の一撃!』
魔王「ガッハッ……」
勇者「やったか!」
魔王「どうやら、我の負けのようだ、な……」
勇者「せめて安らかに滅びろ、魔王よ」
魔王「……ふふ。貴様、決め台詞まで、昔から変わらぬ……な」
勇者「……え?」
魔王「ああ……久しぶりに遊べて 楽し か っ」
『勇者のレベルが上がった!』
『レベル99 THANK YOU FOR PLAYING!』
男「ハッ」
男「……剣が消えた」
死体「……」
男「……はは」
男「やっぱり……やっぱり俺だったか……」
ピーポーピーポーピーポー
死体「……ゴロン」
男「……!あ、あ」
男「ああ、あああ、あああああ……」
刑事「おい!そこで何をしている!」
男「あっあ……俺、俺……」
刑事「取り押さえろ!」
男「ううっ」
刑事「おい、大丈夫か……」
刑事「……脈はないか」
男「……俺が……殺した……」
刑事「しかし、この大仰なローブ」
刑事「そしてこの人相。数々の目撃証言と一致する」
男「……」
刑事「この死体を、一連の事件の犯人と見て調べを進めろ」
男「……え?」
取調室
刑事「確かにあなたは人を殺めてしまった」
男「……」
刑事「だが奴はこの街を恐怖に陥れた殺人鬼だ」
刑事「あなたの行為が所謂正当防衛に当たるか……」
刑事「罪があるかどうかは法に委ねるとして」
刑事「私は、それほど落ち込むことはないと思う」
刑事「いわば、あなたはこの街にとっての……」
男「俺が、俺が殺したんだ」
刑事「……」
男「あの死体……」
男「あれは……俺の……」
少し前、ある日の坂道
露天商「何ッッ度も念を押しますよ!」
露天商「私、商品についての嘘は申しませんからね!」
露天商「この商品は本当に危険なんです」
露天商「例えば……条件さえ揃えば命だって取られかねない」
露天商「あなただけじゃありません。周囲の安全だって保証できない」
露天商「売り文句やハッタリじゃなく、これは警告ですよ」
「危険な方がいいの。……退屈なのよ。もう、ずっと」
露天商「ムムム。ご使用に際しては自己責任でお願いしますねえ」
露天商「特に、くれぐれも!『勇者』にはお気を付けて!」
「分かってる」
露天商「では、魔王の杖一点……毎度ありい!」
「ふふ」
「昔から、やってみたかったんだよね」
「魔王」
おわり
103 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2013/02/06 16:09:07.73 sxI3S4hlP 59/62魔王の杖を使うと現実の見た目まで変化するのか・・・
108 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2013/02/06 16:17:20.39 xz4T/L2YO 60/62>>103
>>43の昔から欲しかった服がローブじゃね
それを着て(勇者の剣と同じように幻覚を見ながら?)魔王の杖で近所の動物を殺してたと……
ともあれ>>1おつ
106 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2013/02/06 16:15:59.24 8tReodUu0 61/62嫁は最初の方なんで怪我してたの
109 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2013/02/06 16:22:37.04 NOhRxtqL0 62/62>>106 それはちょっと言い訳の必要がでるだろうなと思ってた
>>13は本当にそそっかしくて躓いただけで>>37は猫とかに反撃されたんじゃないかな
猫と戦ってるとか夫に言えないから>>37で嫁はちょっとわざとらしい感じになった
見てくれてありがとう おつかれさん