昔vipに立てた
QB「感情が芽生えたからと言って……」
というSSのキュゥべえ視点を、蛇足と思いつつ書いてみます。
そっちの方を読んでからじゃないと分からないかも知れないけど、
もし読んだことのある人が居て興味を持ってもらえたら暇潰しにどうぞ。
SS速報でスレ立てるの初めてなので、マナー違反等あったら教えてください。
元スレ
ほむら「感情が芽生えたからと言って……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1358746423/
僕は生まれた瞬間に不運を嘆いた。
どうしてよりによって、僕にはこんな感情が芽生えてしまったんだろう。
僕たちインキュベーターの役目は、宇宙を延命させること。
そのために、この星の少女たちの命を糧とすること。
理解はしてる。
宇宙のために、これは必要なことなんだって。
だけど……僕には芽生えてしまった。
インキュベーターが、最も持つべきでないとされる感情が。
僕は嘆いた。
あの少女はなんて酷いことを願ったのだと、ほんの少しだけ恨みもした。
この感情が芽生えてしまった以上、今後僕が本当の意味で幸福感を覚えることはあり得ない。
こんな感情なら、芽生えない方が良かった。
感情が芽生えたからと言って……それが良いことだとは、限らない。
この感情に気付かれれば、僕はすぐに処分される。
気付かれないようにするには、役目を全うするしかない。
残酷な役目を、少女の心を、命を犠牲にする役目を。
自分が生きるために。
……それなら、こんな命はいらない。
今すぐ自ら絶った方がマシだ。
最初はそう思った。
でも、知ってしまった。
鹿目まどかという存在を知ってしまった。
そして思った。
こんな僕にも、まだ出来ることがあるんだ。
いや、僕だからこそ出来ることがある。
鹿目まどかの契約を阻止する。
それが僕に与えられた使命なのだと信じることにした。
そして、生き続けることにした。
僕が見滝原の担当になったのは幸運としか言いようが無いけれど、これもきっと運命だ。
そして、この幸運を呼んでくれたのは……名前も知らない魔法少女。
ほむら「はぁ……はぁ……はぁ……」
彼女はたった今、元々見滝原に居た個体を潰して……
更にその後現れた個体を次々と、みんな殺してしまった。
そしてそのおかげで、僕が見滝原の担当になることができた。
気になるのは、彼女とはどの個体も契約を交わしていないようだということ。
それなのに、どう見ても彼女は魔法少女。
この子は、極めつけのイレギュラーだ。
彼女の正体は分からないけれど1つ言えることは……
間違いなく、この魔法少女は僕たちインキュベーターを敵と認識している。
しかも、どうやら鹿目まどかとの接触を防ごうとしているようだ。
もしかしたら、この子の目的は僕と同じなのかもしれない。
少し話を聞く必要がありそうだ。
ただ、少し錯乱しているように見える。
彼女を刺激しすぎないよう注意しなければならない。
出来るだけ理性的に……
QB「まったく、わけがわからないよ」
ほむら「っ……!き、キュゥ、べえ……?」
QB「君は一体何者だい?
どうして僕たちのことを執拗に追い回すのか説明してはくれないかな」
ほむら「どういう、ことなの?さっきのキュゥべえや、その前のキュゥべえは……!?」
良かった……少しは落ち着いてくれたみたいだね。
QB「先に質問したのは僕なんだけどな。それに質問の意図が分からないよ」
ほむら「だから……!どうして、あのキュゥべえ達は、あんな……あれじゃまるで、感情が……!」
QB「?僕たちが感情を持っていることに、何かおかしな点でも?」
ほむら「だって、あなたたちインキュベーターは、感情は精神疾患で……」
……!
この子は、知ってるのか?
僕たちに感情が芽生える以前のことを……。
QB「へぇ、驚いたな。どうして君がそのことを知っているんだい?」
ほむら「じ、じゃあやっぱり……!」
QB「そうだよ。本来、僕たちインキュベーターは感情なんてものは持ち合わせていなかった」
ほむら「……“いなかった”……?」
この話は……正直思い出したくない。
考えるだけで、胸が痛くなる。
QB「僕たちは今からずっと昔、感情を与えられてしまったんだ。ある1人の魔法少女の願いによってね」
事実だけを、出来るだけ一気に、捲くし立てるように説明する。
無感情に機械的に、ただただ淡々と、淡々と、冷徹に……。
QB「その瞬間から、僕たちにとって感情とは精神疾患なんかじゃなくなった。
1つ1つの個体が別個に感情を持つようになったんだよ。
それに伴って、情報の共有も必要最低限に留められてしまうし……不便なものだ。
今までは全ての個体が全ての情報を、記憶はもちろん何から何まで共有できていたのに」
ほむら「じゃあ、あなたも……?」
QB「感情を持ってるかどうかかい?もちろん僕だって例外じゃない。
まぁ、僕は仲間の中でも感情が表に出にくい方だから分かり辛いとは思うけどね。
こう見えて、さっきから君にいつ殺されるか分からないから不安で仕方ない。
だから訊かれたことにはすべて正直に答えたんだ。君の機嫌を損ねないようにね」
ほむら「本当に……あなたたちに、感情が……!
それじゃあ、魔法少女は!?もう契約はしてないの!?」
QB「え?」
ほむら「だって、感情があるのなら、もう人類を騙して契約なんて……」
……僕だって、それが現実であったならとどれだけ思ったか。
QB「あぁ……君もあの子と同じ考えなんだね」
ほむら「あの子?」
QB「さっき言った、感情を与えることを願った子さ。彼女は僕たちに感情がないことを知り、
人類を家畜同様に扱っているという事実にショックを受け、そして、全てを知りながらも契約したんだ。
僕たちに感情が生まれれば、もうそんな可哀想なことは出来なくなるはずだ、ってね。
でも実際はそうはいかなかった」
・
・
・
少女「あなたたちインキュベーターに、感情を与えて!それが私の願い!」
QB「君は、本気なのかい……?そんなことを願うなんて、訳が分からな……」
少女「……契約、完了だね」
QB「…………僕たちは、今までなんてことを」
少女「!これで、もうあなたたちは、あんな酷いことなんてしな……」
QB「あっ……ははははははは!あんな面白いことをしてたなんて!全然気付かなかったよ!」
少女「え?」
QB「あ~思い出しただけで興奮してくる!人間たちが絶望した時のあの表情!
どうして今まで気付かなかったんだろう!あんなに素晴らしいものだったのに!」
少女「き、キュゥ、べえ……?」
QB「感謝するよ!感情がこんなに良いものだったなんて!これなら今まで以上に契約も捗りそうだ!」
・
・
・
ほむら「そんな……」
QB「感情が芽生えたからと言って、それが良いことだとは限らないよね。
よりによってその個体に芽生えたのが特に残虐な感情だったなんて。不運としか言いようがないよ」
もしかしたら、少し早口になっていたかもしれない。
感情があるというには、無感情過ぎたかもしれない。
説明的過ぎたかもしれない。
でも、そうでもしないと……声が震えてしまいそうだった。
QB「今の話で分かったと思うけど、感情と言ってもその種類は様々だ。
もちろん中には彼女の望んだような優しさを持った個体が現れることもあったけど、
そういった契約に支障をきたすような個体はすぐに処分される。
疑わしい者には監視がついて、確定し次第すぐにね。
仕方ないよね、宇宙の寿命を延ばすためなんだから。
仲間を殺すのは僕たちも気が引けるけど、宇宙には変えられない。
魔法少女システムが素晴らしいシステムであることには変わりないんだし」
・
・
・
ほむら「そんな……」
QB「感情が芽生えたからと言って、それが良いことだとは限らないよね。
よりによってその個体に芽生えたのが特に残虐な感情だったなんて。不運としか言いようがないよ」
もしかしたら、少し早口になっていたかもしれない。
感情があるというには、無感情過ぎたかもしれない。
説明的過ぎたかもしれない。
でも、そうでもしないと……声が震えてしまいそうだった。
QB「今の話で分かったと思うけど、感情と言ってもその種類は様々だ。
もちろん中には彼女の望んだような優しさを持った個体が現れることもあったけど、
そういった契約に支障をきたすような個体はすぐに処分される。
疑わしい者には監視がついて、確定し次第すぐにね。
仕方ないよね、宇宙の寿命を延ばすためなんだから。
仲間を殺すのは僕たちも気が引けるけど、宇宙には変えられない。
魔法少女システムが素晴らしいシステムであることには変わりないんだし」
ほむら「くっ……!」
っ……銃口を向けてきた。
やっぱり向こうも平常心ではいられないか……!
ここで撃たれるわけにはいかない。
僕にはやるべきことがあるんだ。
でも、僕の正体を明かすわけにもいかない。
誰にも知られるわけにはいかない……!
仕方ない……気は進まないけど、今はこれしかなさそうだ……!
QB「おっと、僕を殺すのかい?それは君にとってもあまり都合が良くないんじゃないかな。
君はどうやら、鹿目まどかとインキュベーターとの接触を避けたがっているようだけど……。
僕以外だったら、どんな手段に出るか分からないよ?
今まで契約した子の中には、ひどい嘘に騙された子、しつこすぎる勧誘に折れた子、
恐喝紛いの勧誘で無理矢理契約させられた子、様々だ。
でも少なくとも僕は、そんな手段に出るつもりはない。
あくまでも理性的に、君たちの意志を尊重して契約を結ぶつもりだよ。
君にとっても、僕を相手にした方がやりやすいんじゃないかな?」
ほむら「ッ……!」
QB「分かってくれたみたいだね、嬉しいよ」
……こんな脅しみたいな手を使うことになるなんて。
この子のソウルジェムは……良かった、特に異変はない。
かなりの強い意思を持っているようだね。
QB「とりあえず、今日はもうまどかと接触するのは無理みたいだ。引き下がるとしよう」
ほむら「待って!……感情を与えることを願ったその子は、その後どうなったの?」
QB「君なら言わなくても分かるんじゃないかな?色々と知ってるみたいだし」
ほむら「…………」
実際、この子がどこまで知っているのかは分からない。
でもきっと……僕たちが隠し続けてきたことも、知ってるんだ。
だからこそ、インキュベーターを敵視して……。
問題がなければこの子とは……このままの関係が良いかも知れない。
このまま僕を敵視し続けてくれれば、他のインキュベーターの目も欺きやすい。
上手く行けば、誰にも知られず……彼女本人にすら気付かれず、協力関係を結べるかもしれない。
……ごめん、名前も知らない魔法少女。
僕は人類を守るために、君を利用させてもらう。
・
・
・
……ここが、巴マミの家か。
以前、見滝原の担当だった個体が生活圏の中心にしていた場所……。
巴マミについては、しっかりと情報が入ってる。
契約に至った理由や、その後の生活スタイル……。
それから、上手く希望を与えておけば絶望させた時の相転移がかなり大きいだろう、
という情報も、以前の個体から入ってきている。
つまりその個体がこの家に入り浸った理由は、
希望を与えるだけ与えておいて、絶望に突き落とすため……。
QB「…………」
いけない、落ち着かないと。
もうその個体は、あの魔法少女によって報いを受けたじゃないか。
だから僕は、僕のやれることに集中しよう。
QB「ただいま、マミ」
マミ「キュゥべえ!もう、どこに行ってたの?心配したのよ?」
QB「ごめんよ」
マミ「……あら?あなた、もしかして」
……!
挨拶を交わしただけなのにもう気付くなんて。
いったい以前ここに居た個体はどんな態度を取っていたんだろう。
QB「うん。昨日まで君と一緒に居たのは僕の仲間だ」
マミ「やっぱり……でも、どうして?」
QB「担当の区域が替わったんだよ。
昨日まで見滝原の担当だった“僕”は、遠くの方へ行っちゃったんだ。残念だけどね」
マミ「そう……」
マミの表情に影が差す。
……違うんだ、マミ。
君が接していた“キュゥべえ”は……そいつが見せた態度は全部、ニセモノなんだ。
でも、僕は違う。
僕はそんなことはしない……!
思わずそう言ってしまいそうになるけど、なんとか抑える。
そうだ……僕は、“人類を利用するインキュベーター”。
ある程度の優しさを見せるとしても、それはあくまで相手を利用するため。
少なくとも他の個体には、そう思わせる範囲内でないといけない。
QB「寂しい気持ちも分かるけど、仕方ないことだ。
でも僕たちは必要な情報は全部共有してるから、困ることはあまりないと思うよ。
その点については安心してくれて良い」
マミ「そう、ね。それじゃ、これからよろしくね、新しいキュゥべえ」
そう、安心してくれ。
君に絶望なんかさせないから。
僕は、僕に出来るだけの希望を魔法少女に……。
希望……そうだ。
マミは確か、一緒に戦う仲間を欲しがっていたはず。
いつもいつも、たった1人で戦って、孤独で辛い戦いの日々を送って……。
……まだ不安なところはあるけれど、それでも可能性はある。
彼女を、マミに会わせてみよう。
QB「ところで早速なんだけど、君に話しておきたいことがあるんだ」
マミ「?なぁに?」
QB「新しい魔法少女についてのことさ」
マミ「新しい、って……どういうこと?」
QB「実はね、君の通っている学校に魔法少女が転校してきたんだよ」
マミ「えっ!?ほ、本当に?」
QB「もちろん。嘘なんかつかないよ。学年は君たちの1つ下だ。名前はまだ分からないけど」
マミ「……魔法少女が、この町に……」
QB「早速明日にでも会いに行ってみたらどうかな。
どちらにせよ対話は必要だろう?」
マミ「そう、ね。明日会いに行ってみましょう」
QB「…………」
仲間を欲しているとは言っても、それなりの警戒心は持っているみたいだね、良かったよ。
正直言って、僕もまだあの魔法少女を信用し切っているわけじゃない。
あの子がイレギュラーであることには変わりないし、
インキュベーターに敵意を持っているのも、まどかとの契約を阻止しようとしているのも、
新しい魔法少女が生まれるのを防いでグリーフシードを独占するため。
そういう可能性だってあるんだから。
マミが盲目的に彼女を信用しきって、裏切られる……それが一番怖い展開だ。
だから、マミにはしばらく警戒心を持って彼女と接してもらった方が良い。
翌日、学校
マミ『キュゥべえ、本当にこの教室であってるの?』
QB『うん、間違いないよ』
マミ『よし、それじゃあ……』
ほむら「何をしているの?」
マミ「!あなた、このクラスの子?えっと、ちょっと用がある子が居て……」
ほむら「用なら私が聞くわ……巴マミさん」
マミ「えっ?どうして私の名前を……」
……マミの名前まで知ってるのか。
QB「マミ、この子だよ。この子が昨日言った子だ」
マミ「あら、そうなの?それじゃ、ちょうど良かったわ。私が用があるのはあなたなの」
ほむら「え……?」
・
・
・
ほむら「……それで、用って何?」
マミ「まずは名前から聞かせてもらっても良いかしら?」
ほむら「暁美ほむらよ」
マミ「暁美さんね。それで、一応確認するけれど……あなた、キュゥべえが見えるのね?」
ほむら「えぇ」
マミ「魔法少女、なのよね?」
ほむら「……えぇ」
QB「だから昨日からそう言ってるじゃないか、マミ。僕を疑っていたのかい?」
マミ「ごめんね、一応ね。それで……あなたはこれからどうするつもり?」
ほむら「……どうすると言うのは?」
マミ「私の縄張りを奪うつもりなのか……そう訊いてるんだけどな」
良かった、ちゃんと警戒はしてくれてるみたいだ。
出来ればその警戒心をしばらく維持しておいて欲しいけど……
ほむら「安心して。私は、あなたの敵になるつもりはないわ」
マミ「!ほ、本当に……?」
ほむら「本当に。私は縄張り争いなんかには興味ないもの」
マミ「だ、だったら、その、もし良かったらなんだけど……私と、チームを組まない?」
ほむら「…………」
マミ「えっと、2人で戦えばその分負担も減るし、安全でしょう?
あなたが手柄は自分だけの物にしたいってタイプじゃなければ、悪くない提案だと思うけど……」
ほむら「……そうね、あなたの言う通り」
マミ「!それじゃあ……」
ほむら「えぇ、チームを組みましょう。これからよろしくね、巴さん」
マミ「う、うん!よろしくね、暁美さん!」
QB「…………」
これは……少しまずいかも知れない。
今のマミからは、暁美ほむらへの警戒心はまったく感じない。
ただただ彼女の言葉を信じて、仲間が増えたことを喜んでいるように見える。
それとも……表面上そう見せているだけ?
出来れば、そうあって欲しい。
そうでないなら、流石に警戒を解くのが早すぎる……。
・
・
・
放課後。
本当はマミに付いてこのまま家に帰りたいところだけど……
そろそろ“仕事”をしなければならない。
まどかとさやかの居る学校に来ておいて何もせず帰ったりすれば、流石に不自然だ。
ただし、真面目に勧誘するつもりはないけどね。
暁美ほむらは、まどかたちのことを離れて見ているようだ。
きっと、僕の勧誘を防ぐためだろう。
そういうことならありがたい。
これからまどかたちに話しかけるから、ちゃんと邪魔してくれよ、暁美ほむら。
まどか「さ、さやかちゃん、きゃははは!ちょっ、やめ、あはははは!」
さやか「ん~?えぇのんか?ここがえぇのんか~?」
QB「盛り上がってるところ悪いけど、ちょっと良いかな」
さやか「へっ?」
さやか「ま、まどか、あんた何か言った?」
まどか「な、何も……さやかちゃんじゃないの?」
QB「ここだよ、ここ」
まどか「な、何、あれ?ぬいぐるみが、喋ってる?」
さやか「キモっ!」
QB「酷い言われようだなぁ。それに僕はぬいぐるみなんかじゃないよ」
まどか「さ、さやかちゃん、これ夢じゃないよね……?」
さやか「た、多分……何なのよ、あんた……」
QB「僕の名前はキュゥべえ!僕、君たちにお願いがあって来たんだ!」
まどか「お願い、って……」
QB「2人とも、僕と契約して、魔法少女に」
ほむら「その必要はないわ」
さやか「えっ?あんた、転校生の……」
まどか「ほ、ほむらちゃん?」
……ちゃんと邪魔しに現れてくれたね。
安心したよ。
QB「やれやれ……もしかして、見張っていたのかい?」
ほむら「油断も隙もあったものじゃないわ。やっぱり、2人を諦めたわけじゃなかったのね」
それで良い、そう思ってくれ。
君は僕への警戒を怠ってはいけない。
この調子で、僕の邪魔をし続けてくれ。
QB「当然だよ。素質のある子と契約するのが僕の仕事だからね」
まどか「あ、あの……?」
さやか「えっと……暁美さん、だったよね。あんた、そいつのこと知ってるの?」
ほむら「えぇ。知ってるわ。詳しく話すと長くなるけど……。
1つだけ言えることは、こいつの言葉に耳を貸してはダメ。それだけは絶対よ」
……今日はもう、このくらいで切り上げても良いだろう。
暁美ほむらの危険度は、もう僕の仲間にも伝わっているはず。
この子の邪魔が入ったなら、ここで切り上げても怪しまれたりは……
マミ「暁美さん?それはちょっと言いすぎだと思うな」
QB「マミ……!」
ほむら「……居たのね」
しまった、まさかマミに見付かってしまうなんて。
出来ればマミには、まどかとさやかとは接触して欲しくなかった……!
マミは、いわゆる正義の魔法少女を目指している。
まどかやさやかが、そんなマミに憧れてしまわないとも限らない。
そして仲間を欲するマミのことだ、きっと2人が契約することに真っ向から反対はしない。
それどころか、下手をすれば魔法少女に誘導してしまいかねない……。
そうなれば当然、暁美ほむらと反発を……。
マミ「私はね、この子たちには権利があると思うの。だって、キュゥべえに選ばれたんですもの」
ほむら「じゃあ訊くけど、あなたはこの子たちをわざわざ危険に巻き込みたいの?」
マミ「そういうわけじゃないわ。ただ、魔法少女のことについて知っておくべきだって、そう言ってるの」
駄目だ、今ここで2人を対立させるわけにはいかない。
QB「2人とも、無駄な言い争いはやめるんだ」
ほむら「誰のせいだと思ってるのよ」
QB「ちょっ、そんな持ち方をしたら耳がちぎれ……」
マミ「暁美さん!キュゥべえにあんまり酷いことをしないで!」
まずい、マミは僕のことを友達だと思ってくれている。
それに対し暁美ほむらは、僕のことを敵視している。
このままだと、2人の対立は深刻化する一方……
ほむら「……。まぁ、良いわ。確かにあなたの言うことも一理ある。
この子たちには、私たちの口から説明しておいた方が良いかも知れないわね」
……!
暁美ほむらの方が先に折れた……これは意外だ。
彼女自身も、ここでマミと対立するのは得策でないと判断したということだろうか。
とにかく、一先ずこの場は治まってくれたようだ。
マミ「……それじゃ、決まりね。2人とも、今から私の家に来ない?
色々と話したいことがあるし、あなた達も知りたいことがあるでしょう?
美味しいお茶とお菓子を食べながら、ゆっくり……ね?」
さやか「は、はい……。まどか、行こ」
まどか「う……うん」
そうして、全員でマミの家へ行く。
あまり好ましくはない展開だけど……仕方ない。
まぁ、いずれは話さなければならないことだ。
説明の大体はマミがしてくれるようだから、僕は補足に徹しよう。
出来れば、危険性を意識させるような補足を、重点的に。
違和感のない程度に……。
それが今の僕に出来る精一杯だ。
マミ「――この説明で理解できた?」
まどか「魔女……そ、そんなのが居たなんて……」
さやか「なんていうか……実感ないなぁ……」
QB「まさか、疑っているのかい?現に僕という、君たちの理解を超えた存在を目の当たりにしてるじゃないか」
さやか「あ、ごめん、別に信じてないわけじゃないんだよ。
ただやっぱ……命がけで叶えたい願い事なんて、急に言われても……」
QB「まぁ無理強いはしないよ。
さっきも言ったとおり、魔女との戦いは決して甘いものじゃないからね」
QB「軽い気持ちで契約するとあっという間に命を落とすことになる。
僕としてもそんな結果は可能な限り避けたいから、よく考えると良い」
あまり押すわけにもいかないし、引きすぎても駄目だ。
暁美ほむらに敵視されつつも殺されない。
他の個体からは疑われない。
そんなラインの上を、慎重に歩くことに集中しよう。
ほむら「…………」
マミ「暁美さん?」
ほむら「あ……ごめんなさい。何?」
マミ「どうしたの、そんな怖い顔をして……何か考え事?」
ほむら「いえ、別に。ただ、2人に魔法少女になって欲しくないと、そう考えていたの」
マミ「……やっぱり、あなたはあくまでも反対なのね」
ほむら「当然よ。この2人は、何不自由なく生活してる。契約する理由なんて、どこにもない」
マミ「まぁ……確かにね。願い事なんて、無理して考えるようなことじゃないものね」
本当に、その通りだ。
暁美ほむら……この子の考え方は、僕と似ているのかも知れない。
マミも納得してくれたみたいだし、
まどかたちに関してはとりあえず安心できるかな。
ほむら「2人とも、今日はもう帰った方が良いわ。家族が心配するわよ。途中まで送るから」
まどか「え?あっ、もうこんな時間……!」
さやか「意外と長居しちゃってたなぁ……」
マミ「……今日の話は、しっかり心に留めておいてね。
何か、どうしても奇跡か魔法に頼らないといけない場面に立たされた時……
そうなった時、この話を思い出して。絶対に、安易な気持ちで契約なんてしてはダメよ?」
まどか「あ……はい、わかりました」
さやか「その、お茶とケーキ、ありがとうございました」
ほむら「それじゃ、巴さん。また明日」
マミ「えぇ。2人をよろしくね、暁美さん。またね」
・
・
・
マミ「はい、キュゥべえ。ご飯できたわよ」
QB「ありがとう、マミ。いただくよ」
マミ「どう、美味しい?前のキュゥべえは美味しいって言ってくれたけど、あなたのお口には合うかしら」
QB「……?以前君と一緒にいた僕の仲間は、君の料理を美味しいと言ったのかい?」
マミ「え?う、うん、そうだけど……。ごめんね、もしかしてあんまり美味しくなかった……?」
QB「…………。そんなことはないよ。美味しいなんて表現じゃ済まないって言いたかったのさ。
すごく美味しいよ、マミ。まるで味の宝石箱だ」
僕たちインキュベーターには、味覚はない。
どうやら以前ここに居た固体は、希望を“与えておく”のが上手かったみたいだね。
参考にさせてもらうとしよう。
正直、嘘をつくのは心苦しいけど仕方ない。
マミを悲しませるわけにはいかないからね。
マミ「そうだ、ねぇキュゥべえ。この首輪付けてくれない?」
QB「首輪……?」
マミ「うん。前のキュゥべえのために新しく買っておいたんだけど……。
担当が替わっちゃったって言うから。代わりに、ね?」
QB「……前の僕の仲間は、首輪を付けていたのかい?」
マミ「え?うん、そうなんだけど……。ごめんね、嫌だった?」
QB「そんなことはないよ、マミ。すごく嬉しいさ。ありがとう、じゃあ早速付けさせてもらおうかな」
マミ「良かったぁ!それじゃ、付けてあげるね!」
QB「…………」
一体あの個体は、どんな気持ちで首輪を付けていたんだろう。
少なくとも……こんな気持ちは味わっていなかったはずだ。
マミ「ふふっ、とっても似合ってるわよ、キュゥべえ!」
QB「そうかい。嬉しいよ、ありがとうマミ」
誰かにこうして、好意を形にして贈られるというのは、
むず痒いような、気恥ずかしいような……でも、妙に心地良い。
初めて味わう、不思議な感覚だ。
そして、改めて思う。
僕は、この子を失いたくない。
この子には、幸せになって欲しい。
これまで偽りの幸福を与えられ続けていた分……これからは、本物の幸福を。
僕からは与えられないかもしれないけど、そのための手助けくらいなら出来るはずだ。
この子の不幸を、可能な限り取り除くための、最大限の努力を……。
マミ「ねぇ、キュゥべえ。1つ提案があるんだけど」
QB「今度はなんだい?」
マミ「えっとね。暁美さんを誘って、一緒にお食事をしたいな、って」
QB「暁美ほむらを?」
マミ「えぇ。せっかく魔法少女コンビを結成することになったんですもの。
コンビ結成記念パーティか何かを開くのも良いかもしれないわね!」
QB「君はずいぶん彼女のことが気に入ったようだね」
マミ「気に入った、って言うのはちょっと違うと思うけど……。
せっかくできた魔法少女の仲間ですもの。もっと仲良くなりたいと思うのは当たり前でしょ?
特にキュゥべえ、あなたとはあまり仲良くなさそうだったから……仲直りも兼ねて、ね?」
これは……どうやら不安が的中してしまったようだ。
僕と暁美ほむらとの仲が険悪であると知りながら、この発言。
マミは、暁美ほむらを信じきっている。
そうか、通りで暁美ほむらの説得に対して妙に聞き訳が良いと思った。
仲間が欲しいと思っているにしては、まどかとさやかに対しての対応がずいぶんあっさりしていた。
それはつまり、マミはもう“仲間を得て”満足していたということ。
暁美ほむらを信用しきっているということに他ならない。
QB「……そのことなんだけど。本当に暁美ほむらを信用して良いのかい?」
マミ「え?それって……暁美さんが、私を騙してる、ってこと?」
QB「その可能性も否定できないということだよ。君が仲間を欲しがっているのは知っていたけど、
ちょっと彼女に対して無用心すぎるんじゃないかな。もう少し警戒するべきだ」
マミ「暁美さんのことを私に教えてくれたのはキュゥべえでしょう?なのに、今度はあの子を疑えだなんて……」
QB「マミ。勘違いして欲しくないんだけど、僕は暁美ほむらと仲間になるなと言ってるわけじゃない。
もう少し慎重に、信用できるかどうかを判断するべきだと言ってるんだよ。
もし本当に彼女が君を騙していて、君が何かあれば大変だからね」
マミ「キュゥべえ……」
QB「わかってくれたかい?」
マミ「えぇ……ごめんね、キュゥべえ。心配してくれてたのね」
QB「そうだよ。ぜんぶ、君を思ってのことだ」
マミ「ありがとう……。そうね、キュゥべえの言う通り。私、ちょっと浮かれてたわ。
暁美さんのこと、もう少し警戒しておくわね」
QB「うん、よろしく頼むよ。友達の君を危ない目に遭わせるわけにはいかないからね」
今話したのは全て、嘘偽りない僕の本心。
マミには何も問題が起こって欲しくないし、本当にこの子のことを友達だと思ってる。
だけど他の個体からしてみれば、マミを騙すための演技に見えるだろう。
マミに仲間なんか作らせず、ずっと孤独に戦わせて、そうして……魔女へと導くための、嘘。
そう見えるはずだ。
そしてきっと、暁美ほむらにもそう思われるはず。
本心からの説得なら、きっとマミも応じてくれる。
更に、他の個体からは疑われずに、ほむらからは敵視される。
僕にとっては、この場面では本心を告げるのが一番都合が良い。
そして実際に効果はあるだろう。
ただ……こんな計算をしながらでしか本心を伝えられないというのは、やっぱり辛い。
僕はもう、本当の意味で本心を伝えることは、出来ないかも知れない。
だけど、仕方ない。
これもマミを……人類を守るためなんだから。
・
・
・
使い魔「ギャァアアアアア……!」
ほむら「今ので、最後だったみたいね」
マミ「…………」
ほむら「……巴さん?どうかしたかしら」
マミ「あ、ううん……。ねぇ、暁美さん。あなたの魔法って、とっても不思議よね。瞬間移動か何か?」
ほむら「えぇ、まぁ……そんなところね」
マミ「そう……。今日はもう、解散にしましょうか」
ほむら「え……?反省会なんかは、しなくても良いの?」
マミ「あんまり反省するようなこともなかったし……それに、ちょっと疲れちゃったでしょう?」
ほむら「私は別に……」
マミ「それじゃあね、暁美さん。さようなら」
ほむら「……えぇ。さようなら」
数日後
QB「どうだい、マミ。近頃はかなり暁美ほむらのことを警戒しているようだけど」
マミ「えぇ……。もしキュゥべえの言う通りだとしたら、
やっぱりこのくらいは気を付けておいた方が良いと思って」
QB「そうか。ところで今日は魔女退治には行かないのかい?」
マミ「ううん、そんなことはないわ」
QB「だったらどうして出発しないんだい?そろそろほむらとの待ち合わせの時間だろう?」
マミ「良いの。暁美さんには、今日は家で休むって伝えてあるから」
QB「つまり……仮病を使ってほむらとのパトロールの時間をずらすということかな。
君は彼女への警戒心を昨日より更に強めたようだね。何かあったのかい?」
マミ「特に何かあったわけじゃないけど……。ねぇキュゥべえ、お願いがあるの。
今日から何日か、暁美さんのこと、見ててくれる?」
QB「それは傍に居てくれ、という意味かな。それとも……監視しろ、という意味かな」
マミ「監視って言うと聞こえが悪いけれど……どっちかと言うと、そっちに近いかな。
暁美さんが1人でも使い魔を倒すかどうか、知りたくて」
QB「なるほど……。魔女のグリーフシードだけを狙う魔法少女かどうか、見極めるためだね。
わかった、任せてくれ。それじゃあ早速行って来るよ」
マミ「うん……よろしくね、キュゥべえ」
僕の忠告通り、最近のマミは暁美ほむらのことをよく警戒している。
でも、どうして突然ほむらに嘘をついてまで距離を取ろうとしたんだろう。
それに、僕に監視をお願いするなんて……。
マミは特に何かあったわけじゃないと言っていたけど、だとすると余計に気になる。
……まぁ、今はとにかく暁美ほむらの監視だ。
彼女の素性を少しでも明らかにすることは、僕にとっても必要なことだからね。
・
・
・
QB「やぁ、マミ」
マミ「キュゥべえ!おかえり、それでどうだった?」
QB「今日彼女が倒したのは、魔女だけだったよ」
マミ「っ……!」
QB「もっとも、近くに使い魔は居なかったようだし、これだけじゃ判断できないけどね」
マミ「……そう、ね。明日からもお願いしても良い?」
QB「もちろんさ。任せてくれよ、マミ」
マミ「うん、ありがとうキュゥべえ」
……頼むよ、暁美ほむら。
君はマミの仲間になり得る魔法少女であってくれ。
数日後
使い魔「ギャァアアアアアア……!」
ほむら「……終わったわね」
QB「…………」
暁美ほむらが使い魔の結界に入ったのは、これで3回目。
そしてそのどれもが、ちゃんと使い魔を倒している。
結界が解けた後もグリーフシードを探す様子はまったくない。
つまり彼女は、それが使い魔の結界だと分かった上で侵入し、倒している。
もう、間違いない。
暁美ほむらは、グリーフシードのみを目的としているわけじゃない
グリーフシード目当ての魔法少女は、相手が使い魔だと分かった時点で戦いを放棄する。
仮に知らずに倒してしまったとすれば、グリーフシードが落ちていないか探す。
無いとわかれば落胆の色を見せる。
でも暁美ほむらにはそれがない。
・
・
・
更にしばらく暁美ほむらを観察し続け、僕は確信した。
彼女は、マミの縄張りを奪おうだなんて思っていない。
むしろその逆、彼女は本気で仲間を欲している。
もっとも、マミが仲間を欲しているのとは少し意味合いが違うようだけど……。
とにかく使い魔を何体か倒してる時点でグリーフシード目当ての魔法少女でないことは明らかだった。
それなのに……
マミ「キュゥべえ、どうだった?」
QB「うん、彼女が狩ったのは、今日も魔女だ」
マミ「そう……。やっぱりあの子も、グリーフシードが目当てなのかしら……」
QB「何度も言ってるけど、決して使い魔を狩っていないというわけじゃない。
ただ、魔女を狩っている割合の方が高いということだよ」
マミ「ん……一応もう少し様子を見たいの。キュゥべえ、まだお願いできる?」
マミは、未だに信じ切れていない。
パトロールの時間もコースも、ほむらとはずらしたままだ。
以前にほむらと2人で決めていたものとずらして……。
これは警戒しているというレベルの問題じゃない。
今のマミは……疑心暗鬼に陥っている。
見落としていた。
マミは誰よりも仲間を欲すると同時に、誰よりも裏切りを恐れている。
だから、一度疑い始めると止まらない。
もし裏切られたら……そう思い始めると、どんどん加速していくんだ。
僕が馬鹿だった。
マミの過去を考えれば、このくらいは予想できたはずなのに……。
今の状況はまずい。
このままだと、いずれマミのソウルジェムに影響が出かねない。
何か解決策を出さないと。
だけど、ここ数日マミのために動きすぎた。
ほむらの観察に時間を割きすぎて、本来の“仕事”が出来ていない。
そろそろそっちの方にも行かないと、怪しまれてしまう。
マミにとってほむらが危険でないことに確信が持てる段階まで来たし、
今日辺り、そろそろまどかたちのところに行っておこう。
まどかの部屋
まどか「…………」
QB「何をしているんだい、まどか」
まどか「わっ!き、キュゥべえ……びっくりさせないでよぉ」
QB「ごめんよ、驚かせるつもりはなかったんだ。
ところで、机に向かって何をしていたんだい?ずいぶん楽しそうだったけど」
まどか「あ、えっとね……えへへ」
QB「イラスト?それは……魔法少女かい?」
まどか「うん。命がけで悪い魔女と戦う魔法少女ってどんなだろうって考えてたら、
ちょっと手が止まらなくなっちゃって……」
QB「……君はひょっとして、魔法少女に憧れているのかい?」
まどか「ん……そう、なのかな。よくわかんないや……」
QB「…………」
まどか「ほむらちゃんの言ってた通り、命がけっていうのはちょっと怖いし、
危ないってことも分かってはいるんだけど……でも魔女と戦ってみんなを救うっていうのも、
正義の味方みたいですごくかっこいいって思っちゃったりもして……」
QB「つまり、願い事を叶えたいというよりは、魔法少女そのものに憧れているんだね」
まどか「そう、なるのかな?」
なんてことだ……本人は自覚してないようだけど、間違いない。
まどかは、魔法少女に憧れを持ってしまっている……!
だとしたら、かなりまずい。
まさか数日見ない間に、こんなことになっていたなんて……。
この子は、魔法少女の危険性について言葉では理解しているようだけど、
それにはまるで実感が伴っていない。
魔法少女に対する憧れが上回っている……そんな状態だ。
いや、でもこの子は確かまだ……
QB「願い事はまだ決まっていないのかい?」
まどか「うん……。それに、“魔法少女になりたいから”なんて理由で契約しちゃったら、
きっとほむらちゃんにもマミさんにも怒られちゃうから」
QB「ということは、願い事さえはっきりすれば契約する、ということだね。
それが聞けて良かったよ。それじゃ、僕はそろそろ失礼するよ。じゃあね、まどか」
まどか「あ、うん。おやすみ、キュゥべえ」
……まどかの気持ちを、願い事が決まるまでに聞けて良かった。
今ならまだ間に合う。
何か手を打って、まどかに魔法少女への憧れを捨てさせないと……!
・
・
・
まどかに魔法少女への憧れを捨てさせる方法……。
一番確実かつ効果的なのは、ソウルジェムの秘密を全て話すこと。
それを実行すれば憧れなんてものは消え去るだろう。
だけど……そんなことをすれば、マミにまで知られてしまう可能性が高い。
そうは行かない。
そんなことになれば、マミはきっと深く悲しむ。
下手をすればそのまま……。
それに他の魔法少女にだって、どんな形で伝わってしまうか分からないんだ。
やっぱり、まどかに危険性を実感させるのが一番だ。
そのための方法を考えなければならない。
口で説明するだけじゃなく、実感させる方法を……。
QB「……ん、あれは……」
そこは、病院の前。
入り口近くに見えたのは、まどか、さやか、そして……グリーフシード……!
そしてこの魔力……僕は知ってる。
魔女の情報は、インキュベーターとして全て持っている。
そう、この魔女は確か……。
次の瞬間、1つの計画が浮かび上がった。
この魔女のマミとの相性、マミのパトロールの時間帯と移動ルート、ほむらの現在地、
そして今まさに、まどかとさやかが結界に飲み込まれそうになっているという事実……。
上手く行けば、複数の問題が一気に解決する。
つまり、マミとほむらの協力に関する問題と、まどかの魔法少女への憧れの問題。
失敗したとしても……危険はほぼない。
実行する価値は、十分にある。
……よし、実行だ。
それにはまず、2人を結界の中へ閉じ込めないと。
ごめん……2人とも。
QB「やぁ、まどか、さやか。こんなところで何をしているんだい?」
まどか「キュゥべえ!」
さやか「いや、あたしたちはお見舞いに来てたんだけど……
それより、アレ見てよ!キュゥべえ、何かわかる?」
QB「……よく見えないな。もう少し近付いてみよう」
まどか「ほ、ほんとに何なんだろ……なんか、嫌な感じ……」
さやか「う、うん……キュゥべえ、あんたこれほんとに……」
QB「……まずい!これはグリーフシードだ!」
まどか「えっ……!?ぐ、グリーフシードって確か……!」
さやか「こないだマミさんが言ってた、魔女の……!」
QB「そう、卵だよ!しかも孵化しかかってる!2人とも、早く逃げ……」
まどか「っ……な、なに、景色が……!」
QB「……遅かったみたいだね」
さやか「う、うそ……!じゃあこれが、結界……!?」
まどか「わ、わたしたちどうなっちゃうの!?」
QB「今はマミがパトロールをしている時間帯だ。マミがこの結界を見つけてくれる可能性がないわけじゃない。
でも、君たちが今危険な状況にあることには変わりない。だから、もし本当に命の危険を感じた時は……」
これは……嘘でもあり、本当でもある。
マミがこの結界を見つけてくれる可能性は、ないわけじゃないどころか、かなり高い。
ほぼ確実だ。
そこまで確信してないと、2人をこんな危険な目に遭わせたりはしない。
ただし……可能性が高いとは言っても100%じゃない。
出来るだけ時間は稼ぐけれど、それでも間に合わなかった場合は……僕も覚悟を決めるしかない。
ほぼあり得ないことだけど、そうならないことを祈ろう。
・
・
・
まどか「き、キュゥべえ、歩くの早いよぉ」
QB「そうかい?そんなに早く歩いてるつもりはないんだけどな」
さやか「っていうか、そんな先に進んじゃって大丈夫なわけ?
何もわかんないからあんたに付いて行ってるけどさ……」
……今の分かれ道を曲がるのがもう少し遅かったら使い魔に見付かってしまうところだった。
こうして出来るだけ使い魔との遭遇を避けて、マミが来るまでの時間を……
QB「……!」
今の反応……間違いない、マミだ。
マミが結界に入ってきた。
安心したよ、想定していたのとほぼ同じ時間だ。
QB『マミ、君かい?良かった、来てくれたんだね』
マミ『えっ……き、キュゥべえ!?』
QB『まさか結界に閉じ込められてしまうなんて、参ったよ』
マミ『そんな……!』
QB『でも大丈夫、安心してくれ。まだ卵は孵化していない。
今からテレパシーで誘導するから、ここまで来てくれるかい?』
一先ず、これで最悪の事態だけは免れた。
後は……僕の計算通りにほむらが間に合ってくれれば。
あの時点で把握していたほむらの位置から考えて、
この結界に気付いてくれる公算は高いけれど……。
・
・
・
まどか「あっ……!さ、さやかちゃん、あそこ!」
さやか「っ!さ、さっきの、グリーフシード!?」
QB「完全に孵化するまでにはもう少し時間がかかりそうだね。
それまでに助けが間に合えば……」
今の反応は……どうやら来たみたいだね。
思ったより早い。
流石だよ、ほむら。
QB『マミ、こっちは今グリーフシードの所に着いた。これで効率よく君を案内できそうだ』
まどか「……キュゥべえ?どうしたの?」
さやか「何、急に黙っちゃって……」
本当は、すぐにでもこの子たちを安心させてあげたい。
マミとほむらが来たから、もう大丈夫。
2人が君たちを助けてくれる、そう教えてあげたい。
マミの声を聞かせてあげたい。
だけど……ごめん。
ここで君たちに安心感を与えるわけにはいかないんだ。
インキュベーターとして、ほむらに敵視されるため……。
あと少しだけ、不安な思いが続くだろうけど、耐えてくれ。
これも、君たちを守るためだから。
QB「……ううん、なんでもないよ。とにかく、今僕たちに出来ることは助けを待つことだけだ。
ここで大人しくしていよう」
まどか「う、うん……」
QB『……とにかく、まだもう少し余裕がありそうだからあまり焦らなくても大丈夫だよ。
迂闊に大きな魔力を使って卵を刺激する方がまずいからね』
マミ『えぇ、わかったわ!すぐに助けに行くから、待っててね、キュゥべえ!』
・
・
・
マミ「お待たせ、キュゥべえ!」
まどか「ま……マミさん!!」
さやか「ほむらも一緒だ!よ、良かったぁ……」
ほむら「なっ……!?」
マミ「ど、どうして鹿目さんと美樹さんが……!?」
QB「あれ、2人が一緒だって言ってなかったかな。不運なことに、偶然巻き込まれてしまったんだ」
ほむら「っ……キュゥべえ、あなた……!」
マミ「2人とも、怪我はない!?使い魔に襲われたりしなかった!?」
まどか「あ、はい。大丈夫です……」
さやか「ていうか、使い魔とか見てないですし……」
マミ「そう……良かった。不幸中の幸いだったわね」
QB「そんなことより、今は魔女だ……出てくるよ!」
……この結界の主とマミの魔法の相性は、最悪だ。
きっとマミは、1人で戦えば苦戦を強いられることになる。
魔女について何も知らないことを考えれば……下手をすれば負ける。
でも、だからこそ……。
ほむら「……巴さん、早くあの魔女を倒してしまいましょう。2人でなら……」
QB「提案なんだけど、せっかく2人居るんだし、役割を分担したらどうかな。
マミが魔女を倒し、ほむらがまどかとさやかを守る、という具合にね」
数日観察して分かったけど、ほむらの実力はかなりのものだ。
彼女の特殊な魔法……。
詳細はまだ分からないけれど、こと危機を脱する必要のある場面においては最適な魔法であるに間違いない。
その魔法があるからこそ、ほむらになら任せられる。
ほむらなら間違いなく、マミを危機から救うことができる。
マミ……とても怖い思いをさせてしまうけど、我慢してくれ。
マミ「暁美さん、あなたは2人をお願い!」
ほむら「え……待って、巴さ……っ」
そうしてマミは、僕の提案の通りに1人で魔女に向かって行った。
僕の隣にはまどか、さやか、そしてほむらが残る。
ほむら「キュゥべえ、本当に余計なことを……」
ほむらは僕だけに聞こえる程度の声で、そう呟く。
どうやら……上手く騙されてくれているようだ。
QB「何のことだい?」
ほむら「…………」
返事をせず、じっとマミを見ている。
いつでも助けに行けるよう、集中力を高めている。
……やっぱり君は、僕の思った通りの子だ。
マミ「ティロ・フィナーレ!」
まどか「わっ……!すごい!」
QB「…………」
マミが必殺技を放った時、僕はマミを見ていなかった。
横に立つほむらにのみ、視線を注いでいた。
ほむらの反応が遅れるようなら、すぐにでも声をかけてマミを助けに行かせるため。
でも、その心配はなかった。
さやか「やったあ!マミさんの勝……」
ほむら「まだよ!終わってない!」
マミ「……え」
まどか「ッ!?」
次の瞬間、僕の目の前から彼女は姿を消し……次に見たのは、マミを抱えた姿だった。
ほむらが魔女に向かって行き、マミはそこに取り残される。
僕はすぐに、マミの元へ駆け寄った。
どこも怪我はないかい?
ソウルジェムは大丈夫かい?
怖い思いをしたよね。
ごめんね、マミ。
ごめん。
本当にごめん。
そんな言葉が次々と溢れそうになる。
でも……それをぐっと抑える。
QB「マミ……良かった。無事なようだね」
マミ「キュゥ、べえ……!」
QB「とにかく、無事で何よりだ。今はほむらのことを見守ろう」
・
・
・
ほむら「……終わったわね」
マミ「あ、あの……暁美、さん……」
ほむら「これで……信用してもらえたかしら」
マミ「え……」
ほむら「あなたの態度を見れば分かるわ。私のこと、信用しきれていなかったんでしょう?」
マミ「……ごめんなさい。私……」
ほむら「良いの、気にしないで。仕方ないわ。そういう魔法少女も居ないわけじゃないから」
マミ「その……本当に、ありがとう……!私、なんてお礼すれば良いか……」
……上手く行った。
ほむらに救われることにより、マミの疑心暗鬼は消えた。
そして、それだけじゃない。
ほむら「だから、気にしないで。それより……2人とも、これでわかったわね。
魔法少女の戦いが、どんなに危険なものか」
まどか「ぁ……そ、その……」
マミ「そう、ね……。もし暁美さんが助けてくれなければ、多分、私は今頃……」
まどか「っ……」
さやか「う、うん……よ、よく、わかったよ……」
ほむら「ベテランの巴さんでさえ、こういうこともあるの。
わかったでしょう?魔法少女なんて、ならなくて済むのなら、ならない方が絶対良いって。
もし少しでも魔法少女への憧れを持っていたなら、そんなものは捨ててしまいなさい」
QB「…………」
全て、上手く行った。
マミはほむらを信用し、まどかとさやかも魔法少女への憧れは失った。
問題は一気に解決した。
そう、全て計画通り。
我ながら……最低の計画だった。
まどか、さやか、そしてマミをわざと危機に晒し、余計な不安を感じさせ、
更にほむらを利用することで、自分の都合の良い展開へと運ぶ。
やってることの本質は……他のインキュベーターと変わらない。
だけど、僕は信じている。
僕がこんなに最低になることで、みんなが幸せになれると。
僕が汚れることでみんなが幸せになるなら、構わない。
だから僕は、いくらでも嘘をついて、君たちを騙す。
ほむら『キュゥべえ。この後良いかしら。話したいことがあるわ』
QB『うん、構わないよ』
ほむら「みんな……そろそろ日も暮れるし、帰った方が良いわね」
まどか「あ……うん」
マミ「2人とも……ごめんね。怖い思いをさせちゃって……」
さやか「いえ、そんな……。マミさんが無事で、本当に良かったです」
マミ「本当に、暁美さんにはいくら感謝しても……あら?」
さやか「えっ。さっきまでそこに居たよね?いつの間に……」
まどか「帰っちゃった……のかな」
・
・
・
ほむら「あなた、どういうつもり?」
QB「何がだい?あの2人が結界に飲み込まれたのは偶然だよ。別に僕が仕組んだわけじゃない」
ほむらは、上手く僕に騙されてくれている。
僕の都合の良いように、僕の思う通りに動いてくれている。
僕を“疑うことなく”敵視してくれている。
ほむら「巴マミに2人の存在を知らせれば、きっと彼女は2人にテレパシーで話しかける……。
それを避けるために何も言わなかった。違うかしら」
QB「……どういうことだい?」
ほむら「つまり、鹿目まどかと美樹さやかに、助けが来たことを知られたくなかった。
2人の危機感を煽り、契約しやすくするためにね。そうでしょう?」
QB「ふーん……良い推理だね」
本当に良い推理……僕が思い描いた通りの推理だ。
ほむら、君の思考は僕によく似ている。
もし本心で話せたなら、君とは良いパートナーになれていたかも知れないのにね。
ほむら「……あと少しでも強引な手に出れば、すぐに殺してあげるわ。インキュベーター」
QB「わかったよ、肝に銘じるとしよう」
君とこんな形でしか協力し合えないのが……残念でならない。
マミ宅
QB「ただいま、マミ」
マミ「あ、キュゥべえ。どこに行ってたの?
暁美さんと一緒に急にどこかに行っちゃうんだもの。何か話でもしてたの?」
QB「まあ、少しね」
マミ「あら。もしかして内緒の話?」
QB「そういうわけじゃないさ。気になるかい?」
マミ「ふふっ、ちょっとだけね」
QB「隠すほどのことでもないよ。彼女にちょっと怒られてしまったんだ。
まどかたちを巻き込んでしまったことや、マミに不要な助言を与えて危険に晒したことをね」
マミ「まあ……そうだったの」
QB「…………」
この時マミが少し笑ったように見えたのは、気のせいじゃないだろう。
マミはきっと、嬉しいんだ。
ほむらがまどかたちだけでなく、自分のことも心配してくれていることが。
自分のために怒ってくれる人が居るということが、きっと嬉しいんだ。
良かった。
ほむらの存在は、やっぱりマミにとって大切なものになってくれそうだ。
マミ「それにしても暁美さん、やっぱりあなたには少し厳しいのね」
QB「仕方ないよ。故意ではないにせよ事実なんだから。僕も反省してる」
マミ「あんまり気にしないでね、キュゥべえ。あなたにだって失敗はあるでしょうし……。
少なくとも私は、怒ったりなんかしてないから」
QB「そうかい。ありがとう、マミ。君は優しいね」
マミ「そんなことはないわ。あれは本当に、私の油断が原因だもの」
本当に……優しい子だ。
僕のせいで死にかけたというのに、これっぽっちも僕を責めようという気がない。
……ごめんね、マミ。
君をあんな危険な目に遭わせて、本当にごめん。
でも、大丈夫。
きっとこれからは、君のことはほむらが守ってくれるだろう。
僕が居なくなってからも、ずっと。
学校
QB「やぁ、2人とも」
さやか「キュゥべえ……!」
まどか「どうしたの?」
QB「昨日あんなことがあったからね。一応現時点での2人の考えを聞いておこうと思って」
まどか「……わたしは……ん……」
さやか「……命がけってのはさ、分かってたつもりなんだよ。
でもやっぱ、実際にあんな危ないとこ見ちゃったら……」
まどか「うん……もしほむらちゃんが居なかったら、って考え出したら、すごく、怖くなっちゃって……。
嫌な夢まで見ちゃって……。やっぱりわたしには、命がけの戦いなんて……」
QB「……そうか、わかったよ。でも、気が変わったらいつでも言ってくれ。待ってるからね」
良かった、どうやらまどかの方は心配なさそうだ。
平穏な生活を送りこれと言った願いもない以上、契約する可能性はほぼなくなったと言っていい。
ただ……さやかの方はそうも行かない。
さやかには強い想いが、願いがある。
この子が上条恭介という少年に恋心を抱いているのは間違いない。
そして……志筑仁美も。
けど、さやかの方には、相手に想いを伝えようとする気配が感じられない。
このままだと、失恋する可能性だってある。
失恋……ただでさえ今は精神状態が不安定だ。
上条恭介の怪我を治したいという思いと、魔法少女への恐怖の間で揺れている。
こんな状態で失恋なんて精神的ダメージを負うのは、あまりに危険過ぎる。
……少し彼女の背中を押す必要があるかも知れない。
客観的に見て、さやかの容姿は整っている。
上条恭介のことも甲斐甲斐しく世話し続けていたようだし……。
もし想いを伝えられれば、相手もそう無碍にはできないはずだ。
上条恭介のさやかへの態度を見ても、少なからず好意的に見ていることは分かる。
告白が成功する公算は高い。
仮に断られてしまったとしても、何もせずにただ志筑仁美に先を越されるよりは……。
実行するなら、早い方が良い。
今日にでも、さやかに声をかけてみよう。
告白を促すくらいなら、仲間にも怪しまれないはずだ。
失恋を狙っているように見えなくもないだろうしね。
志筑仁美には悪いけど、状況が状況だ。
僕はさやかに味方させてもらうよ。
放課後、病院の外
さやか「はぁ……」
QB「どうしたんだい、さやか。ため息なんかついて」
さやか「キュゥべえ……あんたいっつも突然現れるわね」
QB「落ち込んでいるように見えるのは、やっぱり上条恭介のことかい?」
さやか「あぁ、うん……まぁね。ちょっとあいつ、参っちゃってるみたいでさ……」
なるほど……これはいよいよ、急いだ方が良さそうだね。
今は大丈夫そうだけど、このままだと落ち込む彼を見かねて契約してしまいかねない。
QB「そうか。だったら、元気にしてあげれば良いじゃないか。僕ならすぐにその望みを叶えられるよ」
さやか「契約、でしょ?最初はやっぱ、それも考えたよ……。
でも、考えれば考えるほど、自分が何を望んでるのかわかんなくなっちゃって……」
QB「?君の望みは上条恭介の腕を治すことだろう?」
さやか「いや、それは確かにその通りなんだけどさ……まぁ色々複雑なのよ」
QB「あぁ、君は確か、上条恭介に恋してるんだったね」
さやか「ちょっ!?な、何言ってんのよいきなり!?あたしは別にそんな……」
QB「隠すことはないよ。僕は人類との関わりは長いんだ。恋愛感情に気付くくらいは造作もない」
さやか「うっ……」
QB「それに、恋をすることは人間として当然だ。何も恥ずかしがることじゃないよ」
さやか「っ……ま、まぁ、うん……そうかもね……」
QB「それで、君の悩みはその恋愛感情が原因だろう?ただ単に上条恭介の腕を治したいのか、
それとも彼の腕を治して、感謝されたいのか。それが分からないってことじゃないのかい?」
さやか「ぐっ……な、なんでそこまで……。あんた何者よ……」
QB「このくらい僕じゃなくても分かるよ」
さやか「ま……まぁとにかく、そういうわけだから。
自分の気持ちもはっきりしてないのに、契約なんてするわけにはいかないよ」
QB「でも、恋心は確かなんだろう?早く彼に告白しておいた方が良いと思うけどなぁ。
志筑仁美に先を越される前にね」
さやか「……は?」
QB「聞こえなかったかい?志筑仁美に先を越される前に、上条恭介に告白した方が良いと言ったんだよ」
さやか「いやいやいやいや、ちょっと待ってよ……。な、なんでそこで仁美が出てくんの」
QB「?君は思ったよりも頭の回転が遅いんだね。志筑仁美も上条恭介に恋をしているからに決まってるじゃないか」
さやか「まっ……まっさかー!そ、そんなわけないじゃん!大体なんであんたにそんなことわかるのよ!」
QB「さっき言っただろう?人間の恋愛感情に気付くくらい、造作もないって」
さやか「っ……で、でも、あの2人、話したことだってほとんど……」
QB「会話を多く交わさないと恋愛感情は生まれないのかい?そんなはずはないだろう?」
さやか「ほ……本当なの……?ほんとに、仁美が……?
あ、あたしに契約させようとして、適当なこと言ってるんじゃないでしょうね!」
QB「嘘だと思うのなら、本人に確かめてみれば良いじゃないか。
……まぁ、確かに君の言う通り、契約を促す思惑がなかったとは言わないけどね。
上条恭介との恋を成就させたいのなら、先に行動を起こした方が良い。
僕と契約して彼の腕を治せば、一歩その目標に……」
さやか「っ……!」
QB「あ……。まったく。話は最後まで聞くのが礼儀だと思うけどなぁ」
……良かった、行ってくれた。
万が一にでもさやかが僕の口車に乗せられてしまったら、そのまま契約せざるを得なくなるからね。
あの様子を見ると、かなり危機感を感じてくれたみたいだ。
上手く行けば、明日にでも告白してくれるかもしれない。
・
・
・
しかし……僕の思惑通りには事は運ばなかった。
確かに予想していなかったわけじゃないけど、可能性は低いものだと考えてた。
さやかは……上条恭介に告白せずに、志筑仁美に、告白の機会を譲ってしまった。
さやか「……ぅ……っく……っ……」
QB「君は本当にそれで良かったのかい?激しく後悔してるようにしか見えないけど」
さやか「……!き、キュゥ、べえ……!うる、さいなぁ……!ほっといてよ!」
誰が見ても明らかだ。
さやかは、悲しんでいる。
当然だ、失恋したんだから悲しむに決まってる。
僕は恋をしたことはないけれど、そのくらいは理解できる。
……これで本当に良かったのか。
さやかが自分で決めたことだから、これで良いんだろうか。
さやか「何言われたって、あたしは契約になんて頼らないからね!死んでも頼ったりするもんか!」
……これは、駄目だ。
僕は確かに、君には契約なんかして欲しくない。
でも、駄目だ。
今の君は明らかに傷付いてる。
そして……意固地になりすぎている。
駄目だ……それは危ない。
こんな精神状態だと、何が原因で、何が起こってしまうか分からない。
今の君はそれだけ不安定なんだ。
言葉を字面通りに受け取るのは、馬鹿らしいと思うかも知れない。
だけど……僕には今のさやかの不安定さが分かる。
このままだと本当に何があっても契約には頼らず……
文字通り“死んでも頼らない”なんてことに、ならないとも言い切れない。
あるいは反対に、やけになって勢いだけで契約に踏み切ってしまうことだって十分にあり得る。
……仕方ない。
少なくとも失恋に悲しんでいる今の状況だけは変えないと……!
QB「……君は友人の恋を成就させて満足しているつもりだろうけど、果たして君の思い通りに行くかな?」
さやか「……なに、言ってんの……どういう意味……!」
QB「どういうも何も、言ったままの意味だよ。他意はない」
さやか「っ……」
そうだ……君はまだ、失恋したと決まったわけじゃない。
わざわざこんな悩ませるようなことを言ってごめん、さやか。
でも悲しむくらいなら、まだ悩む方が良い。
今はまだもう少し、悩んでいてくれ。
悩んでいる間は……希望を失わずに済む。
QB「まぁ、何が起ころうと……最終手段だけは残されているからね。
死んでも頼らないなんて無意味な意地を張らずに、頼るべき道があるということを覚えておいてくれ。
僕の準備はいつでもできてるからね」
翌日
どうしてもさやかの様子が気になって、この日はずっと彼女を遠くから見ていた。
さやかは、少しおかしかった。
落ち込んでいるという風でなかったのは良いんだけれど、朝からずっと落ち着かない様子だ。
そして夕方頃になって、さやかは家を出た。
向かった先は……上条恭介の居る病院。
さやか「……き、恭介……入るよ~?」
恭介「……さやか……」
さやか「あの、さ……。昨日、仁美、来たんだよね……?」
恭介「うん……。話は聞いてるみたいだね」
話……?
昨日あの後、志筑仁美からさやかに連絡があったのかな。
志筑仁美と上条恭介の間に、何かあった……?
恭介「えっと……」
さやか「ま、待って……!そ、その前に……昨日、仁美とどんな話をしたのか、
ちょっと詳しく教えてくれない……?実は、あたしもあんまりよく分かってなくて……」
恭介「……うん、わかった」
・
・
・
これは意外だ……驚いたよ。
志筑仁美は昨日、上条恭介とそんな会話を交わしたのか。
そして彼は、さやかを選んだ。
ということは……。
……良かった……。
やったじゃないか、おめでとう、さやか。
これで君は、晴れて上条恭介と結ばれたわけだ。
一時はどうなるかと思ったけど、ようやく一安心……
QB「ッ!」
魔力反応だ。
やれやれ、せっかく少し落ち着いたと思ったら……ん?
いや、この反応……ただ結界が出来ただけじゃない。
誰かが、魔女と戦ってる……。
でも……誰だろう、この魔力は。
マミのものでもないし、ほむらとも違う。
……まさか。
・
・
・
QB「……方角はこっちだったはずだけど……」
向かっていく途中で、反応が消えてしまった。
きっと、魔女が倒されてしまったんだろう。
それからしばらく辺りを探してみたけど、さっきの反応の主である魔法少女は見付からない。
参ったな……もし本当にあの子が見滝原に来ているなら、
早いうちに話をしておきたいんだけど……。
と、その時。
QB「……!あの集団は……」
遠くに見えた、人気のない道をぞろぞろと歩く、人の群れ。
何か、様子がおかしい。
……これはもしかして……。
いや、間違いない……!
全員魔女の呪いを受けて……え?
なんだ、集団の中で、1人だけ様子が違う……あれは……
さやか「ね、ねぇ仁美?何これ、なんでこんなとこに、人がたくさん……」
QB「っ……!?」
なんてことだ……!
しかもさやかだけじゃない、志筑仁美まで……!
まずい、このままだと2人とも死んでしまう!
いや、2人だけじゃない。
あそこに居る全員が、魔女の餌食となってしまう!
早く助けを……
杏子「おっ?よー、あんたが見滝原のキュゥべえだね」
QB「!杏子……!」
杏子「悪いね、挨拶する前に、さっき1匹魔女倒しちゃったよ。
でもグリーフシード落とさなくてさ、タダ働きで損した気分だ」
QB「そういうことなら、ちょうど良い。あそこの人たちを見てごらん」
杏子「あん?」
QB「ここからだと遠くて分からないかな。集中してみると良いよ、君なら分かるはずだ」
杏子「……へー、なるほどね。あいつら全員、魔女の餌になろうとしてるわけか。
いやー、教えてくんなきゃ気付かなかったよ。役に立つじゃん、あんた。
そんじゃ、いっちょ魔女狩りと行きますか!今度こそアタリを頼むよ!」
・
・
・
さやか「えっ……う、うそ、やだ……!だ、誰か……助け、いやぁああああ!!」
QB「……!」
良かった、まだ無事だ……!
杏子「あーあー、1人結界に飲み込まれちゃってんじゃん。
ははっ、ラッキーだねあの子。あたしが来なかったら死ぬとこだったよ」
QB「っ!杏子、あれがこの結界の主だ!」
魔女「キャハハハハ!」
杏子「ちょっとちょっと、どこ見てんのさ。あんたの相手は……あたしだってーの!」
そう言うと杏子は、さやかへ襲いかかろうとする魔女へ、一直線に向かって行き、
そして……
魔女「キャァアアアアアアアア……!」
さやか「……え……?」
杏子「ん、なんだよ。もう終わりかい?まぁ楽に越したことはないけどさ」
さやか「あ……景色が……!」
杏子「へへっ、いっちょあがりっと」
QB「お疲れ、杏子」
杏子「別に疲れちゃいないよ。あんな弱い魔女も珍しいね。やっぱこっちに来て正解だったわ」
さやか「あ、あの……あなた、魔法少女……?」
杏子「ん?何、あんた魔法少女のこと……あぁ、素質持ちか。
なるほどね、死んでもらっちゃ困るってわけだ。それで……」
さやか「え、えっと……よくわかんないけど、ありがとう……」
杏子「……よしなよ。あたしは魔女が居たから狩っただけだ。礼なんて言われる筋合いはないよ。
んじゃ、用も済んだしあたしはもう行くからね!じゃあね!」
さやか「あっ……」
・
・
・
QB「それにしても、まさか結界にさやかが飲み込まれていたなんてね」
杏子「よく言うよ。あんた、知ってたんじゃないの?わざわざあたしに結界の場所教えたりなんかしてさ。
大事な大事な魔法少女候補を殺されたくなかったんでしょ?」
……鋭いね。
流石、勘が良い。
QB「違うよ、彼女が居たのは本当に偶然だ。
知っていたのなら、君に助けさせるよりも直接さやかと契約した方が早いじゃないか」
杏子「ふん……。まぁ、楽にグリーフシードゲットできたから良いんだけどさ。
やっぱこの町は良いね。絶好の狩場だよ。キュゥべえもずいぶんマトモだし」
QB「風見野の僕の仲間はそんなに酷いのかい?」
杏子「あんな変態、あたしじゃなかったらもっと早くに逃げ出してるよ。
ま、あたしが居なくなったらあいつはずいぶん退屈するだろうが、自業自得だね」
QB「ふーん……それは大変だったろうね」
変態……そんな個体も居るのか。
でも処分されていないということは、それなりに契約の数は取れているんだろうね。
……まぁ良い。
それより問題は……。
QB「それで、君はこれからどうするつもりだい?」
杏子は比較的好戦的な魔法少女だ。
それに、マミとの関係だってある。
マミと和解しに来たというなら良いんだけど、縄張りを奪いに来たというのなら、
少し話し合う必要がある。
杏子「あたしはこの町で好きにやらせてもらうよ。
マミのやつとは出来るだけ係わり合いにならないようにね」
……なるほど。
マミとは係わり合いにならないように、か。
和解しに来たわけでも、戦いに来たわけでもないんだね。
それならそれで、問題はないかな。
QB「そうか。だったら構わないんだけど、そういうことなら気を付けた方が良いよ。
なんせ、この町には君を除いて既に2人の魔法少女が居るからね」
杏子「はぁ?何よそれ、聞いてないんだけど?」
QB「訊かれなかったからね」
杏子「……はぁ。訊かれなきゃ答えませんってか。あんたはあんたで面倒くさそうだね」
QB「そんなこと言われても、訊かれないものは答えようがないじゃないか」
杏子「なんか調子狂っちゃうね……風見野のキュゥべえと違いすぎてさ。
あんた、まるで感情がないみたいだ。ロボットかっての」
感情がない……か。
いっそ本当にそうであったなら僕だって……
でもまぁ、上手く隠せてるようで良かったよ。
QB「……僕にだって感情はあるよ。表に出にくいだけさ。人間だって、そういうタイプは居るだろう?」
杏子「……ま、いっか。で?もう1人の魔法少女ってのはどんな奴なわけ?詳しく教えてよ」
QB「名前は暁美ほむら。2週間ほど前にこの町に来た魔法少女だ。
僕の抱いた印象だと、マミとはまったく違うタイプだよ。
正反対と言って良いかも知れないね」
杏子「正反対?そりゃ意外だね。同じ町に2人居るってんだから、
てっきりあたしは仲良しこよしで魔女退治してるのかと思ったよ」
QB「それから、戦闘能力はかなり高いから気を付けた方が良い」
杏子「あん?何よ、あんた。もしかしてあたしが負けると思ってんの?」
QB「そうは言ってないさ。ただ事実を述べただけだよ」
杏子「……ま、安心しなって。あたしだってわざわざ無駄な戦いをしたいわけじゃない。
あんたの言う通り、出来るだけトラブルは起こさないようにするからさ」
QB「そうしてくれると助かるよ、杏子」
翌日
杏子「さてと……そろそろ出かけるかな」
QB「魔女退治かい?」
杏子「まぁね。それと、食料調達」
QB「昨日言った通り、ことを荒立てたくないならマミやほむらとの接触を避けるんだよ」
杏子「言われなくても誰がマミのやつなんかに会うかっての。
まぁ、暁美ほむらってのにはちょっと興味あるけどね。なんだっけ?マミとは正反対のタイプなんだっけ?」
QB「僕が抱いた印象だとね」
杏子「へへっ、良いじゃんか。そいつとは気が合いそうだよ」
QB「…………」
良かった、どうやらほむらに悪い印象は持ってないみたいだ。
杏子の場合、気に入らない相手に何かしてしまわないとも限らないからね。
流石にほむらと親しくなる、とまでは期待できないけど……
それでも争いになるよりはずっと良い。
本当は……3人の魔法少女が協力し合えるのが一番なんだけどね。
さて……杏子も行ってしまったし、さやかの様子を見に行こう。
昨日は色々あったせいで、自分が現状を正しく把握できているかどうかが分からない。
さやかと彼はどうなったんだろう。
上条恭介がさやかを選んだということは、2人は結ばれているはずだけど……
QB「!あれは……」
さやかだ。
それに、ほむらとまどかも。
歩いてくる方向から考えて……きっと病院に行ってたんだろう。
それはつまり、さやかの……
さやか「恭介ってば、前までヴァイオリンが自分の全てだって思ってたでしょ?」
ほむら「えぇ、そうね」
さやか「でも今は、あたしの方がヴァイオリンより大切だって言ってくれたじゃん?」
ほむら「えぇ、そうね」
さやか「ってことはぁ~……あたしが恭介の全て、ってことだよね!」
ほむら「えぇ、そうね」
さやか「きゃーっ!もう恭介ってば大胆~!照れちゃうわよねぇ、も~!」
ほむら「えぇ、そうね」
まどか「ど、どうしよう……ほむらちゃんが同じことしか喋らなくなっちゃった」
さやか「それでねそれでね、将来のことなんだけどぉ……」
QB「…………」
あの様子を見ると、何も問題はなさそうだね。
それにしても、すごい顔だ。
さやかもだけど……ほむらも、見たことのない顔をしている。
まるで感情が読み取れない。
……まあとにかく、さやかが幸せそうで何よりだ。
これならもう、契約の心配もほとんどないだろうね。
さやか宅
QB「やぁ、さやか」
さやか「キュゥべえ!」
QB「どうやら上条恭介とは上手く行ったみたいじゃないか」
さやか「えへへっ、まぁね。正直、あんたには助けられたよ」
QB「なんのことだい?」
さやか「あんたが仁美のこととか教えてくれなきゃ、
きっと今頃、こんな気持ちにはなってなかっただろうしさ。
もちろん仁美には感謝してもし足りないって言うか、
ほとんど仁美のおかげで付き合えたようなもんだけど……。
でもやっぱり、あんたがああ言ってくれなきゃ始まりもしなかったわけだし」
QB「お礼を言うことはないよ、さやか。それより、願い事の方はどうだい?」
さやか「ん~、ごめん。悪いけど、多分あたしもう契約しないわ。
最初は恭介の腕を治そうと思ってたけど、今はもう前向きになってくれてる。
ここであたしが腕治しちゃうってのも、なんか違うだろうしさ」
QB「そうか……そういうことなら仕方ない。
もしまた何か新しい願い事が見付かったら、いつでも言ってくれ。
しばらくはまだ近くに居るつもりだからね」
・
・
・
夜、ほむホーム
QB「やあ、ほむら」
ほむら「キュゥべえ……。巴さんならもう帰ったわよ」
QB「わかってるよ。ちょっと君に確認しておきたいことがあってね」
ほむら「……何かしら」
QB「ほむら。君は本気で佐倉杏子を仲間にするつもりかい?」
ほむら「えぇ、もちろん」
QB「君は彼女とは面識がないはずだろう?
見たこともない魔法少女と組もうだなんて、ずいぶん大胆だね。
それとも……もしかして、君は杏子のことを知っているのかな」
ほむら「さぁ、どうかしらね」
QB「やれやれ……いずれにせよ、一筋縄ではいかないと思うよ。
杏子とマミは、少し複雑な関係にあるからね。もしかして、それも把握済みかい?」
ほむら「……そのくらい、巴さんの様子を見ていれば分かるわ」
QB「君が何をどこまで知っているのかは分からないけど……。
余計な問題は起こさないよう、気を付けてくれよ?
魔法少女同士の戦いで死なれたりするのはこちらとしても出来れば避けたいからね。
僕の言いたいことはそれだけだ。じゃあね、ほむら。健闘を祈っておくとするよ」
ほむら「…………」
マミ宅
マミ「あ、おかえりなさいキュゥべえ。もうすぐ晩ご飯だから、待っててね」
QB「ねえ、マミ。ちょっと訊いておきたいことがあるんだけど……。
杏子のこと、本当に良かったのかい?」
マミ「え……?もしかして、聞いてたの?」
QB「盗み聞きするつもりはなかったんだけどね」
マミ「……あの日のことは、私もよく覚えてるわ。
すごく辛かったし、悲しかったわ。後悔だって、たくさんした。
でも、だからこそ……また戻ってきてくれるんだったら……」
QB「…………」
マミ「ありがとう、キュゥべえ。心配してくれてるのよね?」
QB「……もちろんさ。君は僕の友達だからね。君が悲しむ姿は見たくない」
マミ「大丈夫。私だって楽観視してるわけじゃないわ。
それはもちろん、また昔みたいになれたら一番良いって思ってるけど、
そんなに簡単に行くはずはないものね。
だけど、もしあの子が私たちに協力してくれるのなら、その時は歓迎しましょう?」
QB「そうだね、僕もそうなることを祈るよ」
マミ「さ、ご飯の準備が出来たわ。一緒にいただきましょう」
QB「うん、ありがとう」
マミは、思っていたよりも元気そうだ。
ソウルジェムにも特に変わった様子はない。
杏子が戻って来ることがどう影響するか不安だったけれど、マミの方はなんとかなりそうだね。
後はほむらと杏子だけど……。
翌日
ほむらは、ゲームセンターへと入って行った。
なるほどね……どうやら本当に杏子のことを知っているらしい。
さて、交渉は上手く行くかな……。
杏子「……あのさ。用がないんならどっか行ってくんない?集中できないじゃん」
ほむら「気付いてたのね」
杏子「ふん……。で、巴マミの腰巾着が何の用?」
っ……!
杏子には、ほむらとマミがコンビを組んでいることは伝えていない。
なのに、どうして……まさか。
ほむら「あなた……」
杏子「知らないとでも思ったかい?……なんて、あんたたちを見たのは偶然だけどさ。
大方、魔法少女の何たるかを巴マミ先輩に教わってる可愛い可愛い後輩、ってとこだろ?」
やっぱり……。
見てしまったんだ、2人で一緒に行動しているところを。
いや、この言い方だと……まどかやさやかと行動を共にしているところを見てしまったみたいだ。
ほむら「……まぁ、そういう時期もあったわね」
杏子「……?そういう時期って……まさか」
ほむら「私が魔法少女見習いだったのは、昔の話よ」
杏子「……!あんた、名前は」
ほむら「暁美ほむら」
杏子「……ちっ。なんだよそりゃ。話が違うじゃんかよ」
しまった……せっかく杏子はほむらに対して好印象を抱いていたのに。
これだともう、ほむらが何を言っても……
ほむら「およそ2週間後、この町にワルプルギスの夜が来る」
杏子「っ……いきなり、何を言い出すのさ」
ほむら「お願いと言うのは、あなたにそいつを倒すのを手伝って欲しいの」
杏子「ふん……やなこった」
ほむら「……どうして?」
杏子「誰があんたたちみたいな甘ちゃんと組んだりするかっての。
仲良しこよしで正義の味方ごっこなんてまっぴらゴメンだ」
やっぱり、そうなってしまうか……。
ほむら「何も正義の味方になろうと言ってるわけじゃないわ。
ワルプルギスの夜のグリーフシードが目当てでの共闘でも構わない」
杏子「へっ。確かにあの魔女の生むグリーフシードに興味がないわけじゃないが、
命張ってまで手に入れようとは思わないね。普通の魔女を安全に狩ってるだけでも十分やっていけるんだ。
あんたたちみたいなのが何人仲間に居たって、相手はあのワルプルギスの夜。全員殺されるのがオチだよ」
……まさかまどかやさやかと一緒にいる場面を見られてしまうなんて。
ほむらとマミがコンビを組んでいる事実は、いつかは知られてしまうことだ。
どちらにしろ、杏子を仲間にしようと言うのであれば知られることだし、それは仕方ない。
だけど、4人一緒にいるところを見られたのはまずい。
あれを見られた以上、杏子の反感を買ってしまうのも仕方がないことだろう……。
ほむら「……また来るわ。まだ時間はある。それまでにもう少し考えてみて」
杏子「何度来たって同じだよ。あんまりしつこい勧誘はやめなよ?
あたしだってそんなに気の長い方じゃないんだからさ」
・
・
・
QB「ほむらに会ったみたいだね、杏子」
杏子「キュゥべえ……。どういうことよ、ちょっと話が違うんじゃないの?
どこが巴マミとは正反対なのさ。がっかりしたよ」
QB「確かに2人が組んでることは言ってなかったけど、
僕が彼女たちに抱いてる印象については以前言った通りだよ」
杏子「ふん。正反対ってんなら、マミなんかと組むわけないじゃん。
それに魔法少女候補なんて連れたりしちゃってさ。くだらない」
QB「……どうやら君の中ではほむらの印象が随分と変わってしまったようだね。
それは仕方ないことかも知れないけど、事を構えるようなことはしないで欲しいな。
魔法少女同士の諍いは、僕としても好ましいことじゃないからね」
杏子「わかってるよ。暁美ほむらはちょっと面白い奴と思ってたけど、もう興味は失せた。
あいつらに関わる気なんてさらさらないね」
QB「…………」
ほむホーム、夜
マミ「……そう。駄目だったの……」
ほむら「ごめんなさい。でも、まだ諦めるには早いわ。もう少し、交渉を続けてみるつもりよ」
QB「大丈夫かい?ただでさえ、杏子が君に抱いている印象はあまり良くないんだ。
変に干渉しすぎていざこざを起こす可能性はないかい?」
マミ「そうよね……。暁美さん、無茶はしない方が良いわ。
佐倉さんの力が必要なのはわかるけれど、それで戦いになったりしたら……」
ほむら「…………」
QB「だから言ったじゃないか、一筋繩では行かないって」
ほむら「次の接触まで、少し間を空けるわ。慎重に交渉を進めるなら問題ないでしょう」
マミ「暁美さん……」
ほむら「そう簡単に、諦めるわけにはいかないもの」
QB「そうかも知れないけど、くれぐれも慎重に頼むよ」
もし戦闘になったりすれば、お互い無事で済むかどうか……。
でも、この件に関して僕があまり干渉しすぎるのも不自然だ。
今は信じて、見守ろう。
頼むよ、ほむら……。
・
・
・
ここ数日、確かにほむらは杏子と接触していない。
本人も言ってた通り、慎重になってくれてるみたいだね。
さて、今日はこれからどうしよう。
マミたちのところへ行って一緒にパトロールをしようか、
それともまどかやさやかのところに行って、適当に契約を持ちかけるフリでも……
QB「ん?あれは……まどか?」
間違いない、まどかだ。
こんな時間に1人で……お使いでも頼まれたのかな。
ちょうど良い、話しかけに……
QB「ッ!?この反応は……!」
そう気付いた次の瞬間……まどかが、姿を消した。
これは、使い魔……!
なんてことだ……まどかが結界に飲み込まれてしまった……!
っ……仕方ない、ここで助けを呼ぶのはインキュベーターとして不自然だけど、
まどかの命には代えられない!
QB『マミ、ほむら!近くに居るかい!?聞こえるなら返事をしてくれ!』
しかし……マミからもほむらからも返事はなかった。
テレパシーの範囲外か……!
仕方ない、後を追おう。
僕が居れば、少しは時間を稼げるはずだ……!
頼む、マミ、ほむら。
手遅れになる前に、助けに来てくれ……!
・
・
・
使い魔「ケケケケケケ!」
まどか「こ、来ないで……!」
QB「まどか、こっちだ!」
まどか「えっ!?キュゥべえ!?」
QB「こっちの方が使い魔の反応が薄い!早くこっちへ!」
まどか「う、うん!わかった……!」
使い魔「ケケケケ!」
QB「っ……」
当然、追ってくるか……!
まどかは、そんなに体力のある方じゃないはずだ。
いつまでも逃げられるものじゃない……。
すぐに逃げ場はなくなるだろう。
今の僕には、そうなる前に助けが来ることを祈ることと……
その時間を延ばすことしか出来ない……!
・
・
・
まどか「はぁ、はぁ、はぁ……えっ……!?」
QB「ッ……行き止まり……!?」
使い魔の居ない道を選んでいたつもりが、逃げ場のない道へと進んでいたなんて……。
どうやっても逃げ切れなかったのか……!
まどか「やっ……やだ、来ないで!来ないでぇ!」
使い魔「ケケケケケケケケ!!」
QB「まずいよ、まどか!このままじゃ君は、間違いなく命を落としてしまう!」
そう、今ここで何もしなければ……まどかは死ぬ。
駄目だ……何もせず死ぬなんて、駄目だ……!
まどか「ひっ……!やだよぉ、だ、だれか……!」
QB「……もう迷ってる暇はない!君が助かるには、これしかないんだ!」
今ここで死ぬよりは、まだ契約で生き延びた方が、望みを持てる。
生きてさえいれば、そこに希望を見出すことができるかもしれない。
僕は一生をかけて、君に希望を与え続けよう。
絶対に君を絶望なんかさせない。
だから……!
QB「まどか、今すぐ僕と契約を……」
ほむら「その必要はないわ……!」
使い魔「ギャァアアアアアアアアア……!」
QB「……!」
マミ「良かったぁ……間に合ったみたいね。怪我はない?鹿目さん」
まどか「ほ、ほむらちゃん!マミさん!」
QB「……ありがとう、2人とも。来てくれて助かったよ」
本当に……本当にありがとう、ありがとう……!
……良かった、良かった、良かった……!
ほむら、マミ……よく、間に合ってくれた……。
この感謝の気持ちを伝えきれないのが、歯痒くて仕方ない……。
本当に、ありがとう……助かった……!
ほむら「……残りもすぐに片付けるわ。鹿目さん、そこから動かないでね」
まどか「う、うん!」
・
・
・
マミ「ごめんなさい、鹿目さん。助けるのが遅くなってしまって」
まどか「い、いえ……。ありがとうございます、マミさん、ほむらちゃんも……」
ほむら「キュゥべえ……どういうこと?」
ほむらがこちらを見る。
いや……睨む、と言った方が正しいかもしれない。
ほむら「何故あなたが居て、鹿目さんが結界に飲み込まれたの?」
っ!
なるほど、そうか……。
僕がまどかを結界に誘いこんだと思ってるんだ。
正直少し不本意だけど……上手く利用するしかない。
QB「勘違いしているようだけど、僕はまどかとずっと一緒に居たわけじゃない。
まどかが結界に飲み込まれるのを見付けたから、後を追ったんだよ」
ほむら「…………」
まどか「あの、ほむらちゃん……。キュゥべえの、言う通りだよ。
ほんとに、最初はわたし1人で居て、気付いたらキュゥべえが……」
マミ「暁美さん、あなたもしかしてキュゥべえを疑っているの……?」
ほむら「……いえ、ごめんなさい。ちょっと考えすぎだったみたい」
QB「…………」
もちろん、本心ではそう思ってないはずだ。
僕なら、そうだね。
まどかを二度とこんな目に遭わせないためには……
ほむら「でも、1つ提案があるのだけど……。
また今回みたいに“運悪くたまたま”結界に飲み込まれるなんてことがあったら困るから、
明日からは鹿目さんも行動を共にするというのはどうかしら」
……流石だ、ほむら。
マミ「え?でも……」
QB「君は確か、一般人を魔女退治に付き合わせることには反対じゃなかったかな」
ほむら「もちろんリスクがまったくない訳じゃないけど、私たちの手で守った方がまだ安全のはず。
目の届かないところで魔女に襲われるよりはね。でしょう?」
マミ「……確かに、その通りかも知れないわね。でも、まずは鹿目さんの意見を聞かなきゃ」
まどか「あの、わたしは、その……。わ、わたしも、一緒に行きたいです!
なんにも出来ないけど、わたしも連れて行ってください!
マミさんやほむらちゃんが戦ってるところ、ちゃんとこの目で見て、応援したいから……!」
マミ「鹿目さん……」
ほむら「決まりね。なら、美樹さんにも声をかけておきましょう。……異論はないわね、キュゥべえ?」
QB「……そうだね。良いと思うよ」
異論なんて、あるわけがない。
これなら、もう二度とこんな事故は起こらないだろう。
まさに僕が考えていた解決方法そのものだ。
君はやっぱり、僕にとって素晴らしい“パートナー”だよ。
翌日
QB「……杏子。こんなところで何をしているんだい?」
杏子「あん?別に……なんでもないよ」
QB「マミたちを見ていたようだけど……もう関わる気はなかったんじゃないのかな」
杏子「ふん……。心配しなくても関わるつもりはないよ。
……ねぇキュゥべえ。あんたさ、本当に暁美ほむらについて何も知らないのかい?」
QB「残念だけどね。君に新しく与えられるような情報はないよ」
杏子「ちっ……。なんであいつが、マミみたいなのと組んでんだよ。
関係ない奴らまで連れて……わっけわかんねえ」
QB「君は……ほむらと何かあったのかい?」
杏子「別に何もないよ。そんじゃ、あたしは行くよ。じゃあね」
……杏子の様子が、数日前とは明らかに変わった。
理由は分からないけど、ほむらに関心を持ってるようだ。
これが悪い方向に転がらなければ良いけど……。
・
・
・
数日後、ほむらは動き出した。
行き先はゲームセンター……ということは、
ほむら「こんにちは」
杏子「……よぉ」
これで、二度目の接触。
杏子の気持ちが少しでも変わってくれていれば良いんだけど……
杏子「今度は何さ。あたしを潰しに来たかい?」
ほむら「そのつもりはないわ。言ったでしょう?また来るって」
杏子「は?あんたまさか……」
ほむら「前言ったこと、考えてくれた?」
杏子「……へっ。ついこないだ殺そうとした相手に頼みごとかよ。あんた……何が狙いだ?」
なっ……“ついこないだ殺そうとした”だって?
僕の知らない間に、2人はもう戦っていたのか……!?
このままだと、また戦闘に発展して……いや。
戦っていたという割には、少し雰囲気が違うような気がする。
ここ最近の杏子の様子からも、ほむらに対する攻撃的な感情は感じられなかった。
……もう少し、様子を見てみよう。
ほむら「殺そうとなんてしてないわ。威嚇射撃よ」
杏子「よく言うぜ。あんたの目はそうは言ってなかったよ。2発目は当てる気だったろ?」
ほむら「……そんなことはどうでも良いわ。私はあなたの返事が聞きたいの」
杏子「ていうかさ、なんでそんなにこだわる訳よ?あたしはあんたの敵だぜ?」
ほむら「私はあなたの敵になるつもりはないわ。私の敵は、私の邪魔をする者だけ」
杏子「ふーん……じゃあ、あたしがあんたの邪魔をしてやるって言ったら?」
ほむら「その時は、敵同士になるわね。そうならないことを祈ってるけど」
杏子「……なるほどね。ちょっと認識を改めなきゃいけないみたいだ」
ほむら「どういうこと?」
杏子「あんたは甘ったれてなんかいないし、正義の味方になるつもりもない。
ただ自分の目的のためにだけに動いて、邪魔する奴は容赦なくぶっ潰す。そういう目をしてる」
杏子「キュゥべえの言ってた意味がようやく分かったよ。確かにあんたは、巴マミとは正反対だ」
ほむら「…………」
杏子「気に入ったよ。あんたみたいな奴となら、組んでみるのも悪くはないね」
……!
これは驚いた。
どうやら僕の知らない間に2人は衝突していたみたいだけど、
それが逆に功を奏した、ということみたいだ。
それに、僕が杏子に伝えた情報も無駄じゃなかったようだね。
杏子「ただし、条件が2つあるよ。1つは当然、ワルプルギスの夜のグリーフシードを譲ること。
もう1つは、ワルプルギスの夜を倒した後は、一切あたしの魔女退治の邪魔をしないってこと。
この条件を飲めるってんなら、あんたたちに協力してやるよ」
ほむら「……わかったわ。巴マミに訊いてみるわね」
杏子「あぁ、よろしく。良い返事を期待してるよ」
・
・
・
QB「まさか君の方から歩み寄るなんてね、少し意外だったよ」
杏子「別に。元々ワルプルギスの夜には興味あったんだ。
マミならともかく、暁美ほむらみたいなやつとなら十分倒せると思っただけだよ。
それに……あいつは敵に回すと厄介そうだからね。
2つめの条件を呑んでくれるってんなら、厄介者も処理できて一石二鳥ってわけさ」
QB「へぇ……君なりに色々と考えていたんだね。
そこまで計算ずくなら、以前みたいなことにもならなさそうだ。安心したよ」
本当にそうなら良いんだけど……。
そう簡単に割り切って付き合えるほど、マミとの関係は単純なものじゃないような気もする。
杏子「……ふん。余計なお世話だっての」
QB「まぁ、久し振りにチームを組むんだ。頑張ってくれ、期待しているよ」
杏子「まだ組むかどうか決まったわけじゃないでしょ?
マミの奴が条件を呑むかどうかわかんないんだしさ」
QB「そうかい?マミはもう一度君と一緒に戦うことを望んでいるようだったし、
あの程度の条件なら呑むんじゃないかな」
杏子「……さあ、どうだかね」
……やっぱり内心はなかなか複雑なようだね。
この子だって、心の底からマミを嫌っているわけじゃないはずだ。
マミが仲直りをしたがっていると知って、少しでも態度が和らいでくれれば……。
翌日
ほむら「こんにちは」
杏子「よぉ。で、どうだった?」
ほむら「巴マミは条件を呑んでくれたわ。歓迎するそうよ」
杏子「……なんだよマミの奴。思ったよりあっさりしてんじゃん」
ほむら「それじゃあ、早速次の会議から来てもらっても良いかしら」
杏子「会議……?」
ほむら「えぇ。ワルプルギスの夜の対策会議よ」
杏子「へえ……。やっぱりかなり力入れてるみたいだね。
ちなみに、その対策会議とやらにはマミも来るわけ?」
ほむら「もちろん。チームですもの」
杏子「……わかった。んじゃ、日時と場所教えなよ」
・
・
・
QB「マミのことが気になるようだね、杏子」
杏子「ちっ……また見てたのか。別に気になっちゃいないよ」
QB「まぁ、あんな別れ方をした後だ。会い辛いというのも仕方ないとは思うけどね」
杏子「だから、別になんともないって!」
QB「そうかい?だったら問題ないんだ。マミの方も、会い辛いところか君に会いたがってるようだしね」
杏子「……で?あんたはわざわざあたしのとこに何しに来たわけ?」
QB「特に用事があったわけじゃないよ。様子を見に来ただけさ」
杏子「ったく……何も問題ないって。組むと決めた以上はあたしも割り切るよ。
マミの奴とも、少なくともワルプルギスの夜を倒すまでは適当に上手くやるさ。
だからもうどっか行ってなよ。あたしは食料の調達にでも行くから」
……気になってないと言いつつも、自覚はしてたようだね。
相変わらず内心は複雑のようだけど、マミと会う心構えは出来てるようだね。
これならそう大きな問題も起きる心配はなさそうだ。
もちろん、上手く接せるかどうかは別だけど。
出来ればこの共闘を経て少しでもより良い関係になってくれれば良いんだけどな……。
・
・
・
放課後
店員「ありがとうございましたー」
QB「目当てのケーキは買えたみたいだね、マミ」
マミ「えぇ。佐倉さん、喜んでくれると良いんだけど」
杏子のことだ。
それに関しては間違いなく大丈夫だと思うよ。
さやか「あれっ。こんにちはーマミさん。それとキュゥべえも」
QB「!」
さやか……それに、まどかとほむらも一緒か。
マミ「あら。3人とも今帰り?」
まどか「はい。ちょうど今からマミさんの家に行こうと思ってたんです」
ほむら「……どこかに寄り道でもしてたのかしら」
マミ「えぇ。ちょっとケーキを買ってて」
ほむら「…………」
さやか「おお!もしかして、近々お茶会のご予定が!?その時はぜひあたしも!」
まどか「もう、さやかちゃんってば……」
マミ「ふふっ、ごめんね。これはちょっと、個人的に買ったものなの」
さやか「ありゃ。なーんだ、残念っ」
……ほむらが一緒なら、ここで一応“そぶり”でも見せておこうかな。
すぐに邪魔してくれるだろうし、僕も特に気を張らずに勧誘できる。
QB「2人とも、このケーキ……」
ほむら『キュゥべえ。余計なことを言わないでくれるかしら』
QB『まだ何も言ってないじゃないか』
ほむら『魔法少女の話題に繋げるつもりだったんでしょう?良いからあなたは黙ってて』
QB『やれやれ……』
流石、徹底してるね。
そのくらいやってくれればありがたいよ。
マミ「がっかりさせちゃったお詫びに、今度のお茶会は手作りのお菓子も用意しておくわね」
さやか「えっ!いやあ、冗談のつもりだったんだけど……良いんですか?」
マミ「えぇ、もちろん」
まどか「な、なんだかすみません」
マミ「ふふっ、良いのよ。好きでやってることだから気にしないで」
ほむら「巴さん。ケーキ、早く冷蔵庫に入れた方が良いんじゃないかしら」
マミ「あ、そうね。それじゃあ、みんなには悪いけど一度私の家まで来てもらっても良い?
そこでケーキを置いてから、パトロールに行きましょう」
まどか「あっ、はい。わかりました!」
さやか「今日もよろしくお願いします!」
夜
さて……今日の夜から杏子が会議に加わる予定だったね。
一応様子を見ておこう。
……来た、杏子だ。
杏子「……よぉ」
マミ「いらっしゃい、佐倉さん。と言っても、暁美さんのお家だけどね」
杏子「ん……あいつらはここには居ないんだな」
ほむら「鹿目さんと美樹さんのことかしら。あの子たちはもう家まで送ったわ。
今日は結界が出来る気配もないし、心配しなくても大丈夫よ」
杏子「……別に心配してるわけじゃないよ」
マミ「それに、こんなたくさんの資料を見せてあんまり心配させちゃっても悪いから……」
杏子「ふーん。ま、あたしもそれは賛成だよ。あんまり一般人にしゃしゃり出てもらっちゃ迷惑だしね」
マミ「まぁそんなことより、せっかく佐倉さんが協力してくれることになったんだし……。
まずはお茶にしましょう?美味しいケーキもあるわよ」
杏子「!」
マミ「さぁどうぞ、召し上がれ?」
杏子「おぉ!あたしの好きな奴じゃん!」
これは……嫌がりはしないだろうとは思ってたけど、予想以上に効果があったようだね。
ここまで素直に感情を表すなんて。
杏子「いっただっきまーす!ん~、うめぇ~!」
マミ「……ふふっ」
杏子「んぐ、んぐ……ん、なんだよ?」
マミ「すっかり変わってしまったと思ったけど、こういうところは相変わらずね。
ちょっと安心しちゃったわ。好きなケーキも昔と一緒みたいだし」
杏子「ん…………うるせぇ」
……どうやらあの様子を見ると無意識だったようだね。
それでも、気を張っていたならいくら好物のケーキを目の当たりにしたところで、
あんな反応にはならないはずだ。
マミだけでなく、杏子もそれなりにリラックスしていたということだろう。
2人の仲が険悪にならないかどうかだけ少し心配だったけど……。
この様子なら、問題はなさそうだ。
・
・
・
QB「やぁ、早速集まってるようだね」
マミ「キュゥべえ!」
ほむら「……何か用かしら」
QB「特に用事があるというわけでもないんだけどね。様子を見に来ただけだよ」
杏子「またそれか。ちょうど今から本題に入ろうとしてたところだよ」
QB「そうかい。それじゃあ、僕に構わず話を続けてくれ」
ほむら「言われなくてもそうするわ」
杏子「ん。まず確認するが……あの2人。まだ魔女退治に付き合わせるわけ?」
マミ「えっ?どうしてそのこと……佐倉さん、私たちのこと見てたの?」
杏子「まぁね。知らない魔法少女が居るってんなら当然でしょ?
あんな妙な魔法を見せられたんじゃ、特にね」
ほむら「…………」
杏子「で、どうするわけよ?マミはともかく、
あんたがただの人間を付き合わせることに了承してるってのは納得いかない。
何か理由があるなら教えて欲しいんだけど?」
ほむら「そうね……。あなたの言う通り、本当は私も一般人を巻きこむことには反対よ。
でも、そうはいかなくなったの。理由はあなたも知ってるはず」
杏子「……あー、なるほど。そういうことか」
QB「?杏子はまどかが結界に飲み込まれたのを知ってるのかい?」
杏子「まあね。だって見てたし」
っ!
あの時近くに杏子が居たのか……!
ということは……。
QB「もしかして、ほむらと杏子が戦ったというのはその時かな」
マミ「戦ったというか……まあ、初めて出会ったのはその時よね」
杏子「取り敢えず理由はわかったよ。そういうことなら仕方ないね。
あたしだって、知らないところでこいつに魔法少女増やされるのはゴメンだし」
マミ「もう。2人を魔女や使い魔から守るためだって考えてくれても良いのに……」
杏子「はいはい。あんたはそう考えてれば良いさ。
まぁとにかく、一般人2人を連れ回ることに関しては文句は言わないでおくよ」
ほむら「理解が早くて助かるわ。それじゃあ、明日から早速一緒に来てもらえるかしら」
杏子「ああ、良いよ」
QB「おや、杏子も一緒にパトロールするのかい?」
杏子「一応ね。ワルプルギスの夜を相手に共闘するんだし、
ちょっとでも近くで2人の闘い方を見ておいた方が良いでしょ?」
QB「なるほどね。それじゃあ、明日から3人で頑張ってくれ。期待しているよ」
翌日、放課後
まどか「新しい魔法少女?」
ほむら「えぇ。今日から1人増えることになったの」
さやか「それってもしかしてこの間の、えっと……杏子っていう子?」
まどか「!さやかちゃんを助けてくれた子だよね!」
ほむら「そう、その子よ」
まどか「そっか……えへへっ。ちょっと楽しみかも」
ほむら「……あなたがどんな子を想像してるか分からないけど……
多分あなたが思ってるより厳しい性格の子だと思うわ」
まどか「えっ。そ、そうなの?さやかちゃん」
さやか「あー、うん。厳しいっていうかなんていうか……。クール?ともちょっと違うしなあ。
シビアって言ったら良いのか……うん。よくわかんない。
とりあえず、マミさんやほむらとはちょっと違う感じの子だったよ」
まどか「そ、そうなんだ」
さやか「とか言ってる間に、もうすぐ待ち合わせ場所……っ!居た、本当にあの子だ」
ほむら「お待たせ、巴さん、佐倉さん」
マミ「ううん、私も今来たところよ」
杏子「あたしは結構前から待ってるっての」
マミ「あ、そうだわ。鹿目さんたちには紹介してあげないとね。まずは事情から……」
ほむら「簡単になら、私がもう説明しておいたわ」
マミ「あら、そうなの?だったらもう大丈夫ね。
……というわけで、今日から一緒に戦うことになった、佐倉杏子さんよ。
みんな、仲良くしてあげてね」
杏子「なんだよその紹介……子どもじゃないんだからさ」
まどか「あ、よ、よろしくお願いします!」
杏子「あんた、あん時の……無事だったみたいだね」
まどか「?え、えっと……さやかちゃんのこと、助けてくれたんですよね!
本当にありがとうございました!」
杏子「だからやめなって。あたしはただ獲物が居たから狩っただけで……」
さやか「でもさ、助けてくれたのは事実なんだし……」
ほむら「感謝は素直に受け取っておきなさい。減るものじゃないんだし」
杏子「……ちっ。まぁ良いや。で?あんたたち、やっぱ魔女狩りに付いて来ちゃうわけ?」
まどか「あ、は、はい……」
杏子「はぁ……。まぁ知ってて組んだわけだから今更文句は言わないけどさ。事情も聞いたし。
だから付いてくるのは構わないが、足だけは引っ張らないでよね」
さやか「う、うん……」
マミ「もう、佐倉さん?初対面の子も居るんだから、そんなにおどかさないの」
杏子「ふん……。んじゃ、さっさと行こうぜ」
QB「…………」
やれやれ……。
厳しいのはそれはそれで良いことかも知れないけど、
もう少し柔和な態度を取ってくれても良いんじゃないかな。
まどかが怯えてしまってるじゃないか。
ん……どうやら反応を見付けたようだね。
だけどこれは……
マミ「ここね、間違いないわ」
ほむら「この反応は……使い魔ね」
杏子「だな。そんじゃ、あたしパス。外から見てるわ」
まどか「えっ!?ど、どうして……?」
杏子「使い魔のために使う魔力なんて持ち合わせちゃ居ないよ。
それにあんな雑魚、2人も居れば十分だっての」
……やっぱり。
協力するとは言ってもそのスタンスは変えないつもりらしい。
でもこの場合に限っては、それもそんなに悪いことじゃないね。
魔法少女が1人結界の外に残るということは……
ほむら「……まぁ良いわ。それじゃ、あなたはそこの2人をお願い」
杏子「はあ!?」
マミ「そうね。もともとは、鹿目さんと美樹さんを危険から守るために付いてきてもらったんだし。
佐倉さんが外に居てくれるなら、2人も結界の中に入る必要もないものね」
そう、これが可能になるということだ。
使い魔相手なら杏子の言う通り、2人居れば十分過ぎるくらいだろうし、
こうやって1人が結界の外でまどかとさやかと一緒に残るというのは、
案外“悪いことじゃない”どころか最善手かも知れないね。
まさか杏子の合理主義がこんな形で役に立つなんて。
まあ、本人は少し不服かもしれないけど。
マミ「というわけで、鹿目さん、美樹さん。ちょっとそこで佐倉さんと一緒に待っててくれる?」
さやか「あ、はい……わかりました」
まどか「が、がんばってくださいね!」
マミ「えぇ、ありがとう」
杏子「ちょ、ちょっと!おい!……くそ!なんであたしがお守りなんか……」
さて……これで杏子とまどかとさやかの3人が残った。
この展開に問題があるとすれば、杏子が2人を変に威圧したりしないかということだけど……。
さやか「あ、あのー……?」
杏子「ちっ……まぁ良い。あんたたちに1つ言っときたいこともあるしね」
まどか「……?」
杏子「一応確認しとくけど、別に魔法少女になろうだとか考えてマミたちに付いて行ってるわけじゃないんでしょ?」
まどか「あ、はい……」
杏子「別に敬語じゃなくて良いよ……どうせ歳は同じくらいなんだし」
まどか「う、うん。えっと、わたしがこの前、結界に飲み込まれちゃって。
そしたら、これからはこんなことがないように、って、ほむらちゃんが……」
さやか「最初はやっぱり、契約のこともちょっとは考えてたんだ。
でも、色々あって……もうほとんど、魔法少女になりたいだとか、そういう気持ちはないかな」
杏子「そっか、なら良いんだよ。同情やお遊びで魔法少女になられるのが一番むかつくからさ。
あんたたちみたいなのは、契約する必要なんてない。
その辺はちゃんとあいつらに教わってきたみたいだね」
さやか「やっぱあんたも、魔法少女になるの反対なんだ」
杏子「当たり前でしょ?これ以上この町に魔法少女が増えてもらっちゃ流石に迷惑だよ」
まどか「め、迷惑?どうして……」
杏子「どうしてって。グリーフシードの取り分が減るからに決まってんじゃん」
さやか「え……みんなで分け合ったりとかすれば良いんじゃないの?」
杏子「はあ……。あんたみたいなのが契約する気なくてホント良かったよ。
良いか、魔法少女の世界ってのは、そんな甘っちょろいもんじゃないんだ。
マミやほむらみたいなのは例外なんだよ。
魔法少女同士協力するなんてのはほとんどありゃしないのさ」
まどか「そ、そうなの?」
そうか……そう言えばマミもほむらも、
グリーフシードの奪い合いや縄張り争いに関してはまどかたちに教えてなかった。
まどかとさやかは、正義の魔法少女しか知らなかったんだ。
杏子「……改めて分かったよ。あんたたちは絶対に契約なんてするべきじゃない。
もしくだらない願いで契約なんかしてみな。そん時はあたしが真っ先にぶっ潰してやるからね」
ここでこの現実を知ったことがどう影響するか……。
この杏子の言葉をどう受け止めるかが大きいだろう。
受け取り方によっては、一見利己的に見える今の発言も、
“魔法少女の世界は危険だから”と2人を心配しているようにも取れる。
いや、きっと杏子本人も、自覚してるかどうかは別にして少なからずそんな感情は持ってるはずだ。
2人ともそのこと気付いてくれれば良いんだけど、もし今の発言を受けて、
杏子のことを“利己的な魔法少女”として敵視してしまうようなことになったりすれば……。
!
魔力反応が消えた。
どうやら終わったようだね。
マミ「お待たせ、みんな」
まどか「あ、マミさん、ほむらちゃん!」
さやか「お疲れ様です!」
杏子「遅いよ。あんなのにいつまで時間かけてんだっつーの」
ほむら「でも、なんだかんだ言ってちゃんと待っててくれてたのね」
杏子「ふん……まぁどうせ暇だからね。んじゃ、もう良いだろ?あたしは帰るよ。じゃあね!」
マミ「あっ……もう。せっかくみんな居るんだし、お茶でもしようかと思ってたのに」
ほむら「まぁ、そろそろ夕飯も近い時間だし、またの機会にしましょう」
マミ「そうね……。それじゃ、またいつもみたいに2人を送っていきましょうか」
まどか「あ、すみません……ありがとうございます」
マミ「そう言えば……佐倉さんと結界の外で何かお喋りしてたみたいだけど、何を話してたの?」
まどか「あ、えっと……魔法少女にはなるなとか、大体そういう話を……」
マミ「そう……。きっと、あなたたちを心配してくれてたのね。
佐倉さん、魔法少女になることの厳しさは、よく知ってるから……」
ほむら「…………」
さやか「そう、なんですかね?なんか、これ以上魔法少女が増えたら迷惑だからとか言ってましたけど……」
マミ「いかにもあの子らしい言葉だけど……。でもね、決して悪い子じゃないのよ?
もしかしたら、佐倉さんなりの照れ隠しかもね。あの子、昔からちょっとそういうところあったから」
さやか「照れ隠し、ですか……」
マミ「まぁ、そう思っておきましょう?悪い子だって考えるよりは、そっちの方が良いでしょ?」
さやか「ん~……そうですね、確かに。言われてみればそんな気がしなくもないし」
これは……良い展開に転びそうだ。
きっとさやかも、杏子の発言が本当に利己的なものか、
それとも自分たちを心配してのことか、判断がついていなかったんだろう。
どちらかと言うと、“利己的な魔法少女”という判断に傾いていたかもしれない。
でもマミのフォローのおかげで、杏子を敵視するような事態は免れるはずだ。
助かったよ、マミ……。
夜、さやか宅
QB「やあ、さやか」
さやか「わっ、キュゥべえ!何、どうしたの?」
QB「杏子と再会したんだろう?彼女はどうだったかな。マミやほむらとは印象が違わなかったかい?」
さやか「ん……そうだね。マミさんやほむらとはまた違った感じのベテランっていうか……。
まあ、マミさんがあそこまで言うんなら悪い子じゃないんだろうけど。
っていうかさ、聞きそびれちゃったんだけど、マミさんと杏子ってどんな関係なの?
結構仲良かったっぽいけど……」
QB「そうだね。あの2人は昔はコンビを組んでたんだよ。当時はかなり親しい間柄だったみたいだ。
それが、最近まで離れ離れになっていたんだ」
さやか「何かあったの?喧嘩でもしちゃったとか?」
QB「まあ、そんなところだよ」
さやか「あー……やっぱそうなんだ。でもさ、今はもう仲直りしたんだよね?
ああやってチームも組んでるんだし」
QB「確かに別れた当時よりは関係が修復されてるみたいだけど、
まだ完全に元通りとはいかないみたいだよ」
さやか「あれ、そうなんだ……」
QB「……もし2人の関係を元に戻したいのなら、すぐにでも叶えられるんだけどね」
さやか「いやいや、契約で仲直りさせるって。それはなんか違うでしょ」
だろうね。
そう言ってくれると思ってたよ。
QB「それじゃあ君は何もしないつもりかい?」
さやか「んー……。今日の感じだとマミさんの方は仲直りしたそうだったし、
杏子の方をなんとかすれば良いわけでしょ?
あの子がその場の空気に馴染めるようにするくらいなら、あたしにだって出来るしね」
どうやら上手く転がってくれたようだね。
さやかの心理を誘導してるみたいで悪いけど……これなら杏子とも仲良くやってくれるだろう。
翌日
さやか「お待たせしましたー!」
マミ「あら、なんだか今日はいつにも増して元気ね」
さやか「そうですか?あはは」
杏子「おい、揃ったんなら早く行こうぜ」
さやか「あっ、そうだ。……はい、杏子!」
杏子「ん……?なんだこれ。クッキー?」
まどか「わっ、それすごく美味しいやつだよね!」
さやか「家にたまたまあったやつ、持って来ちゃった」
ほむら「……わざわざ佐倉さんにあげるために?」
杏子「何、あたしにくれんの?」
さやか「うん。助けてもらったお礼、まだしてなかったしさ。それとお近づきの印ってことで」
杏子「……まあくれるってんならもらうけど。そんじゃ早速……っ!」
さやか「どう?美味しいでしょ!」
杏子「……なあ、これもっとないの?」
さやか「ん?まあ家にはまだ結構あったけど……欲しいの?明日も持ってきてあげよっか?」
杏子「おお!だったら頼む!」
さやか「その代わり、今日はちゃんとマミさんたちに協力してあげてよ?」
杏子「は……?なんだそりゃ。なんでそんな……ん?」
マミ「早速反応ね……。しかもこの魔力は……」
杏子「へへっ……ちょうど良い。相手が魔女ってんなら、張り切ってやらせてもらうよ!
今日はグリーフシードとお菓子が懸かってんだしね!」
・
・
・
魔女「ギャァアアアアアアア……!」
杏子「いよっし!やっぱ3人も居るとあっという間だね」
ほむら「……流石ね。心強いわ」
まどか「す、すごい……」
マミ「そう言えば鹿目さんは佐倉さんの戦いを見るのは初めてだったわね」
杏子「えーっと……さやか、だっけ?どうよ、しっかり働いてやったぜ。これで文句なしっしょ?」
さやか「いや、確かに協力はしてたけど……。
何しれっとグリーフシード自分のポケットに入れてんのよ」
杏子「良いじゃん。どうせ2人とも大した魔力使ってないだろ?」
ほむら「まぁ、それは確かにそうね」
杏子「ほらね。ってわけで、こいつはあたしのもんだ」
さやか「あのねぇ、そういう問題じゃなくて……」
杏子「心配しなくたってこいつらがヤバそうだったらちゃんと分けてやるっての」
さやか「いやだから!その分けてやるって考え方がそもそも……」
まどか「さ、さやかちゃん、落ち着いて。ね?」
ほむら「こっちは協力してもらってる立場なんだから、このくらいの譲歩は承知の上よ」
マミ「それに私たちは必要最低限のグリーフシードがあれば、それで十分だもの」
さやか「むむ……。2人がそれで良いなら、良いのかな……」
杏子「ま、そういうこった。そんじゃ、明日もまたあのクッキー頼むぜ」
さやか「まぁ……明日くらいは持って来てあげるけどさ」
杏子「へへっ!良いね、やる気が出て来たよ」
さやか「……まったく、もう」
さやか宅
QB「そう簡単にはいかなかったみたいだね、さやか」
さやか「キュゥべえ、あんた見てたの?」
QB「まあね。それで、どうだい?杏子とはうまくいきそうかな」
さやか「いやそれがなんていうか……思ってたのと結構違ったわ、あの子」
QB「どう違ったんだい?」
さやか「んー……子どもっぽいって言えば良いのかな。
お菓子は欲しいわグリーフシードは欲しいわ、もう我侭でさ。
あれはちょっと駄目だわ。こっちがビシっと言ってやんないと」
子どもっぽい……そう捉えたのか。
今日の様子を見て、さやかと杏子が仲違いを起こしてしまわないか心配になったけど……。
これならあまり深刻な事態にはなりそうにないね。
確かに杏子の考え方に不満はあるようだけど、
“利己的な魔法少女を嫌悪する”というよりは、“我侭な子どもを説教する”と言った方が、
さやかの状態を表現するには適当かも知れない。
杏子の方はさやかに対して特に思うことはないようだし、
さやかさえ大丈夫なら、大きな問題も起きそうにないね。
まどか宅
QB「やあ、まどか」
まどか「キュゥべえ!どうしたの?」
QB「杏子が加わったことで、何か心境の変化はないかと思ってね」
まどか「心境の変化……?」
QB「君は少し杏子に怯えていたようだったし、今日はさやかと少し言い争いになりそうだっただろう?
そのことで悩んだりはしていないかと思って来てみたんだけど」
まどか「あ……。うん、キュゥべえの言う通り、初めて会った時はちょっと怖かったけど……。
でも今日会ったら、思ったよりも怖い子じゃないのかな、って」
QB「どうしてそう思ったんだい?」
まどか「えっと……さやかちゃんのクッキー食べた時、すっごく嬉しそうな顔してたから。
その顔見たらね、上手く言えないんだけど……マミさんの言ってた通り、
きっと悪い子じゃないんだろうなって、そう思えたんだ。
だから、さやかちゃんともすぐに仲良くなれると思うの」
QB「……そうか。それじゃあ、契約に関しても特に心境の変化はないということかな?」
まどか「へっ?あ、うん……」
QB「わかった。まぁ悩みがなくて何よりだよ。
でも、もし何かあればいつでも言ってくれて良いからね。それじゃあね、まどか」
まどかの方も心配はなさそうだね。
安心したよ。
数日後
杏子「ぅおりゃぁああああ!!」
魔女「ギャァアアアアアアア……!」
ほむら「終わったわね」
マミ「佐倉さん、暁美さん、お疲れさま。鹿目さんと美樹さんも、怪我はないわね?」
まどか「あ、はい!お疲れ様です」
杏子「へへっ、そんじゃ今日の功労賞はあたしってことで、グリーフシードは頂くよ」
さやか「またあんたそんなこと言って!いっつもいっつもちょっとずるいんじゃないの!?」
杏子「あん?良いじゃんか別に。あいつらも困ってるわけじゃないんだしさ。
大体、魔法少女でもないあんたが口出ししてんじゃねーっつーの」
さやか「それとこれとは話が別でしょうが!もう美味しいお菓子手に入っても分けてあげないよ!」
杏子「はぁ!?なんでだよ!それこそ全然話が別じゃんか!」
さやか「うるさい!大体あんたは前から……」
まどか「ふ、2人とも、ケンカしないでよぉ……!」
杏子「まどかはすっこんでろ!あたしのグリーフシードとお菓子が懸かってんだ!」
さやか「だーかーら、その欲張りをちょっとは我慢しなさいっての!」
杏子「へっ、据え膳食わぬは男の恥ってやつだよ。学校で習ったよねぇ?」
さやか「習うか!それに意味違うでしょ多分それ!分かんないけど多分!」
マミ「まったく……。2人とも、どうしてすぐケンカになっちゃうのかしら。暁美さん、なんとかならない?」
ほむら「……まぁ、このくらいなら放っておいても大丈夫でしょう。
ケンカとは言っても、子どもみたいなものだし」
……ここ数日、ずっとこんな調子だ。
喧嘩してばかりと言うと聞こえは悪いかもしれないけど、
ほむらの言う通り、本当に大したことのないものだ。
2人とも心の底から互いを嫌い合っているというわけでもない。
さやかは多分、もう“杏子が馴染めるように”なんてことは考えてないんだろうけど、
2人がああやって喧嘩することで結果として打ち解けているようにも思う。
杏子の方も、なんだかんだ言いながらみんなに付き合ってくれている。
最近は戦いでの連携も上手くいってるようだ。
今のところ、何の問題もない。
これなら、かなり良い状態でワルプルギスの夜を迎えられそうだね。
・
・
・
今日も魔法少女の3人は、ほむらの家で会議をしている。
最近は特に、時間も長くして頑張ってるようだ。
QB「3人とも、こんなに遅くまで話し合いかい?」
マミ「キュゥべえ……。えぇ、相手はあのワルプルギスの夜だもの。準備し過ぎるということはないわ」
杏子「それに、ほむらの言う通りならそいつが来るのももうすぐだしね」
ほむら「間違いないわ。統計上ね」
QB「その統計がどうやって取れたのかが不思議でたまらないんだけど……。
それより、このことはまどかたちには伝えてあるのかい?」
マミ「えぇ、一応ね。避難所に私たちが居ないことで心配させちゃっても悪いから」
QB「……そうか。だったら良いんだよ」
心配は無用だったみたいだね。
それなら僕は、当日はみんなの戦いを見守ることにしよう。
最も重要にして……もしかしたら僕の最後の仕事になるかも知れないしね。
・
・
・
……それにしても暇だ。
杏子が見滝原に行ってしまってから、この町にはまだ1人も魔法少女は来ていない。
そう言えば……そろそろ見滝原にワルプルギスの夜が来る頃だね。
見滝原の個体は未だに鹿目まどかと契約できていないようだけど、
これがほぼラストチャンスだということを分かっているのかな。
……どうせ暇だし、見滝原まで行ってみるか。
風見野には魔法少女が居ないんだから、
持ち場を離れてもそう咎められることはないだろう。
それに、ワルプルギスの夜にかこつけて鹿目まどかと契約を結ぶチャンスなんだ。
ついでに美樹さやかとも結べるかも知れないね。
よし、そうと決まれば行こう。
出来ればこの僕が自ら契約を結んでみたいものだ。
当日
マミ「……いよいよね」
ほむら「えぇ。2人とも、作戦は頭に入ってる?」
マミ「もちろん、あれだけ会議を重ねたんですもの」
杏子「あー……うん、まぁ大体は覚えてるよ」
マミ「佐倉さん、あなたまさか忘れちゃったの……?」
杏子「だ、大体は覚えてるって!それに、本番がマニュアル通りに行くわけないんだから、別に良いじゃんか!」
ほむら「……まぁ、良いわ。基本さえ覚えててくれれば問題ないような作戦にしてあるから。
それに、確かにすべてがマニュアル通りに行くはずはないものね」
マミ「暁美さんがそう言うのなら良いんだけど……」
杏子「ったく……マミは昔っから固すぎるんだよ」
マミ「佐倉さん?何か言った?」
杏子「いや、なんでもない……」
……見たところ、思ったよりリラックス出来ているようだね。
これなら3人とも、実力を発揮できるだろう。
5
ほむら「……来るわ。2人とも、準備は良いかしら」
4
杏子「っし!いっちょ最強の魔女をぶっ倒してやろうじゃん!」
3
マミ「えぇ、頑張りましょう!」
2
ほむら「今度こそ……決着をつけてやる!」
1
ワルプルギス「アハハハハハハ!アハ、ウフフフ、アハハ、アハハハハハハハ!」
・
・
・
避難所
さて、鹿目まどかが居る場所は……あそこだね。
ちょうど良い、美樹さやかも一緒のようだ。
……見滝原の個体はここには居ないようだね。
やれやれ、何をやってるんだか。
こんな大事な時に獲物を放っておくなんて、どうかしてるよ。
まぁ、良いか。
それならそれで、僕がこの獲物をいただくことにしよう。
へぇ……近くで見るとなかなか可愛いじゃないか。
どれどれ、それじゃあ早速……ふむ。
「……白と、薄い青か……」
まどか「わっ!キュゥべえ!……あれ?」
さやか「びっくりしたぁ。急に足元から現れないでよ!」
「っと、ごめんよ2人とも。驚かしちゃったかい」
まどか「……?」
「どうかしたかい、まどか」
まどか「あ……ううん。それより、どうしたのキュゥべえ」
さやか「何か用事があって来たんじゃ……」
……さて。
それじゃあ始めようか。
「うん、ちょっと緊急事態があってね。
まず、君たちがワルプルギスの夜についてどれだけ知っているのか確認させてくれ」
まどか「どれだけ、って……。すごく強い魔女なんだよね?1人じゃなかなか倒せないくらい……」
さやか「だから、マミさんとほむらと杏子の3人で戦ってるんでしょ?」
「……やっぱり……その程度しか知らされていないんだね。
通りでこんなところでのんびりしていられるはずだ」
まどか「え……ど、どういうこと?」
「良いかい、2人ともよく聞くんだ。ワルプルギスの夜は、強い魔女なんてものじゃない。
史上最悪、最強の魔女だ。自然災害を起こせる魔女なんて、ワルプルギスの夜の他には居ないよ」
さやか「えっ……!?そ、そんなに強いの!?」
「過去にワルプルギスの夜と戦った魔法少女の運命は、全員共通している。
あの魔女と戦った者は、何人で挑もうと……みんな命を落としているんだ」
まどか「そんな……!」
「彼女たちが挑もうとしているのは、そんな無謀な挑戦なのさ。
このままじゃ間違いなく、3人とも命を落とすだろうね」
まどか「う、うそ……」
もちろん嘘だ。
彼女たちの能力を考えれば、ワルプルギスの夜に勝ってしまう可能性は十分にある。
でもそんなことを教えるわけにはいかない。
まずはこうして不安を煽り、君たちを誘い出させてもらうよ。
さやか「で、でもあたしたちは、3人を信じるって決めたんだ!みんなも、信じて待ってて欲しい、って……」
「そんな言葉を信じて、結果的にみんなを死なせてしまうとしても?
僕は魔法少女と魔女との戦いを長い間見守ってきたけど……はっきり言おう。
3人がワルプルギスの夜に勝つ可能性は0だ。それはつまり、全員の死を意味している。
そして彼女たちが負けるということは、この町も間違いなく……」
さやか「っ……」
「君たちが望むのなら、僕が3人の所へ連れて行ってあげるよ。
そして、その目で確かめてみると良い。彼女たちの戦いの、その結末を。
今までだって、ずっとそうしてきたんだろう?」
……簡単なものだね。
2人の顔を見れば決定的だ。
大きな不安と、馬鹿げた使命感。
十分に感じられる。
このタイプの少女は本当に簡単に騙されてくれるね。
どうしてここの個体が今まで契約できなかったのかが不思議でたまらないよ。
・
・
・
マミ「佐倉さん!お願い!」
杏子「おう!ぅおりゃああああ!!」
ワルプルギス「ッ……!」
杏子「どうだ、直撃だぜ!」
ワルプルギス「アハハハハハ、ウフフ、ウフ、アハハ、アハハハハハ!」
杏子「っのやろ……!いつまでも笑ってんじゃねーっての!」
マミ「攻撃は当たってるけど……効いてるのか効いてないのか分からないわね……!」
いや、確かに分かり辛いけど、これは間違いなく……
ほむら「いいえ、大丈夫!間違いなく、ダメージは蓄積されてる!」
!
流石、ほむらだ。
君の知識量には驚かされてばかりだよ。
杏子「はっ、そうかよ!それを聞いて安心したぜ!」
マミ「それなら、この調子でどんどん行っちゃいましょう!」
良かった。
3人とも、まだ余力はありそうだね。
これならワルプルギスの夜を倒してしまうのも時間の問題……
と、その時。
ふいに、聞こえた。
音、いや……声だ。
反射的にそちらに目を向ける。
すると、そこに居たのは……
まどか「あ、あれが、ワルプルギスの夜……!」
さやか「そ、想像してたより、ずっと……おっきい……!」
ッ……!?
馬鹿な、どうしてあの2人がここに居るんだ!
まどかとさやかは、ほむらたちのことを信じていた。
だからこんなところに来る理由なんて……
「あの笑い声が聞こえるかい?ワルプルギスの夜は、遊んでるんだよ。
3人の攻撃も当たってるようだけど、笑い声を聞けば分かるように、まったく効いていないんだ……」
別の個体……!?
どうしてここに、別の個体が……
しかも、今あいつは何て言った?
攻撃が効いていないだって……?
ッ……ふざけるな……!
騙してるのか、あの2人を……。
嘘をついてここまで誘い出し、そして、契約を結ぼうとしてるのか……。
2人の不安を、優しさを利用して……!
冗談じゃない、ふざけるな……!
今すぐ……今すぐ殺してやる、卑劣なインキュベーター……!
まどか「そ、そんな!酷すぎるよ!あんまりだよ……!」
さやか「なんとかならないの、キュゥべえ!」
「僕にはどうしようもできない……だけど、君たちは違う!
君たちには、すごい素質があるんだ!3人なら敵わないワルプルギスの夜が相手でも、
君たち2人が加われば間違いなく倒せる!運命を覆せるんだ!」
さやか「本当なの……?あたしたちが契約すれば、みんなを助けられるの?」
まどか「……わかったよ」
まさにまどかがその言葉を口にしようとすると同時に、僕はそこに辿り着いた。
そいつの真上、まどかからもさやかからも死角になる位置だ。
当然、そいつにも気付かれない。
まどか「わたし、魔法少女に……」
そうして僕は、目の前の瓦礫を押して、落下させた。
まどか「きゃっ……!?」
さやか「うわっ!?な、なに!?瓦礫!?」
まどか「そんな……!」
直撃してくれたみたいだね。
……少し後味が悪いけど、君には悪いとは思わないよ。
僕はみんなを守るためなら手段は選ばないと決めたんだからね。
まどか「き、キュゥべえ!大丈夫!?キュゥべえ!?」
さやか「う、うそ、キュゥべえが、下敷きに……!?」
まどか「そ、そんな……!どうしよう、さやかちゃん、どうしよう!キュゥべえが……!」
さやか「ど、どうしようったって……き、キュゥべえが、死んじゃったら、もうあたしたちには……」
……不安な思いをさせてしまってごめん、2人とも。
でも大丈夫。
その不安は消し飛んでしまうさ。
もうすぐ3人がワルプルギスの夜を倒してくれるからね。
僕は再び、3人の戦いに目を向ける。
杏子「ほら見なよ、あいつ、ようやく……笑えなくなってきたみたいだ……!」
ワルプルギス「アハ……ウフ、アハ……アハ、ハハ……!」
ほむら「……!」
そう、杏子の言う通り、もうあと一息だ。
まどかとさやかは無事だ。
何も問題はない。
みんな、あと少しだ、頑張ってくれ……!
ほむら「ここで、一気に片を付けましょう……!
それぞれの最大火力で、一気に叩く……!まずは私から行くわ!2人とも、準備を!」
杏子「おう!」
マミ「了解!」
次の瞬間、ワルプルギスの夜が爆煙に包まれる。
ワルプルギス「ッ……アハ、ウフフフ……!」
杏子「どわっ!?な、なんつー爆発だよ……!」
ほむら「佐倉さん、今!」
杏子「っし!んじゃ、いっちょ行くぜ!どぉりゃああああああ!!」
ワルプルギス「……ア、ハ……ウフフ……!」
杏子「マミ、とどめだ!!」
マミ「任せて!とびっきり大きいのをお見舞いするわよ……ボンバルダメント!!」
っ!
なんて火力だ……!
マミ、君はそんな技まで準備していたのかい、驚いたよ……。
ワルプルギス「……アハハ……ア、ハ………………」
……一度にあれだけの攻撃を浴びせられれば、流石にひとたまりもなかったようだね。
ワルプルギスの夜の体が……崩れ去って行く。
どうやら、決着のようだね。
さやか「やっ……やったぁあ!倒しちゃったんだ!ワルプルギスの夜、倒しちゃったんだ!」
まどか「そ、そうだよね、倒したんだよね!みんな、生きてるんだよね!」
ほむら「まどか……」
マミ「えっ!?鹿目さんに、美樹さん!?」
杏子「なんであいつらこんなとこに……」
ほむら「ま、まどか……まどかぁあ……!」
まどか「!ほむらちゃん!」
……これは意外だね。
ほむらのあんな表情が見られるなんて。
まあ……当然か。
彼女はずっと、多分僕と出会うよりもずっと前から、ワルプルギスの夜を倒すことを目標としてきた。
そしてようやくその願いを遂げ、まどかを守ることが出来たんだ。
表情は崩れて当たり前……
ワルプルギス「ア、ハ……アハハハハハハハハハハハ!!」
突然笑い声をあげたワルプルギスの夜は、
ほとんど崩れ落ちた体から……信じられない大きさの魔力の塊を撃ち出した。
まどか「ッ!?」
マミ「あ、暁美さん!!」
ほむら「っ……!」
まずい、ほむら……!
すぐに魔法で回避しないと……!
……しかし、ほむらの様子がおかしい。
まさか……いや、間違いない。
発動できないんだ……!
魔力が尽きたのか、原因は分からないけど、今のほむらは、あの魔法を使えないんだ!
駄目だ、あの様子じゃ、とてもじゃないけど避けられそうにない。
マミも杏子も、ほむらからの距離が遠すぎる。
助けようにも、あれじゃ間に合わない。
でも……僕の居る場所からなら。
“ここからなら間に合う”
そう判断した瞬間、僕の体は動いた。
走っている間は、何も考えてなかった。
ただ、ほむらに向かって走り、全力で体をぶつける。
それだけのために走り、そして……
ほむら「あぐっ……!?」
……間に合った。
ほむらは突き飛ばされながら、目をこちらに向ける。
目が合った。
ほんの一瞬だったけど、ほむらがすごく混乱してるのが分かった。
……当然だよね。
だって僕は、君の敵だったんだから。
そして次の瞬間、目の前は闇に覆われた。
意識が薄れていく。
どうやら、これで僕の生涯は終わりのようだね。
ほむら……最後に君を助けることができて良かったよ。
君さえ居れば、きっとこれからもまどかを守っていけるだろう。
僕の役目は、これで終わりだ。
ワルプルギスの夜を越えて、全員が生き残って。
……少しでも君たちの手助けになれたかな。
手助けになれたなら、僕の存在にも、きっと意味があったんだろうね。
うん……そう信じながら、この生を終えるとしよう。
「……は……ない!まだ……見込みは……!」
「……べえ!待って……治してあげ……!」
……なんだ、何か、聞こえる……。
QB「……ぅ……」
暖かい……心地良い……。
そして、段々と意識がはっきりしていく。
これは、まさか……。
目を開けると……そこには、泣きそうな顔で僕を治療するマミが居た。
QB「マ、ミ……」
マミ「駄目、喋らないで!すぐ、すぐ治してあげるから……!」
駄目だ。
君の魔力は、もう余裕がないはずだ……!
僕の治療なんかに魔法を使えば……
QB「ソウル……ジェム……」
まどか「ま、マミさん!ソウルジェムが……!」
さやか「そんなに、真っ黒に……!」
杏子「……ちっ!」
マミ「ま……まだ、大丈夫、大丈夫、だから……!」
ソウルジェムの異変に気付いたのに、治療をやめようとしない。
僕の傷が完全に癒えるまで続けるつもりなんだ……!
QB「僕は、平気だよ……だから、もう、治療を、やめるんだ、マミ……。
これ以上は、もう……君が……」
ほむら「……!」
マミ「そんな、まだ駄目、全然、治ってなんかない、まだ、もっと……」
QB「やめるんだ、マミ……やめて……やめてくれ……!お願いだ……!」
マミ「き、キュゥ、べえ……?」
ほむら「……あなた……」
僕は、生まれて初めて感情を剥き出しにした。
もう体裁なんか保っていられない。
僕のせいでマミが魔女になるなんて……絶対に嫌だ。
だから、必死で、声を震わせて、懇願した。
僕の治療をやめるよう、もう魔法を使わないよう……。
僕の懇願に、マミは戸惑って、治療を中断してくれた。
そうだ、もう、それで良い。
このまま僕を……
杏子「おい、マミ!こいつを使え!」
ほむら「えっ……?佐倉さん、それは……」
杏子「ワルプルギスの夜のグリーフシードさ。探して持ってきてやったよ」
さやか「!杏子、あんた……!」
杏子「……まぁ、あのでかい魔女のグリーフシードだからね。
1~2回使われたくらい、大した損じゃないっしょ」
マミ「あ……ありがとう、佐倉さん……!」
まどか「!ソウルジェムがどんどん綺麗に……!」
QB「……!」
マミ「本当に、助かったわ……。もうこれで大丈夫!キュゥべえ、すぐに治してあげるからね!」
そうして、マミは全快した魔力で僕を治療してくれた。
……杏子には、本当に感謝しないといけないね。
杏子がマミを助けてくれるなんて。
いつかはそんな日が来ることを望んでいたけど、まさかこの目で見ることができるとは思わなかった。
QB「……ありがとう、マミ。助かったよ。それから、杏子も」
マミ「いいえ、どう致しまして」
杏子「……ふん」
まどか「でも、キュゥべえも無事で良かったぁ……。
あの時、もう完全に瓦礫の下敷きになっちゃったと思ったもん。
あれ?そう言えば、いつの間に首輪……」
QB「まさか運悪く瓦礫が落ちてくるなんてね。でも上手く避けられて良かったよ」
……危ない。
まどかは首輪のことに気付いていたのか。
話を遮ってごめんよ、まどか。
でもあの個体が僕じゃなかったと知られると少し困るんだ。
さやか「いやー、それにしても、まさかキュゥべえが体を張ってほむらを助けるとは。
冷静で味気ないと思ってたけど、意外と熱い奴じゃーん!」
QB「熱いかどうかは分からないけど、魔法少女に死なれるわけにはいかないからね」
ほむら「…………」
杏子「ていうか、マミ。ワルプルギスの夜に留めを刺したアレ……何なんだよ」
マミ「ボンバルダメントのこと?そっか、佐倉さんは知らなかったわね。
実はね、ティロ・フィナーレよりも強力な必殺技を考えてて、“砲撃”っていう意味なのよ?」
杏子「……そのうちボンバルダメント・フィナーレとか言い出しそうだな、おい」
……ほむらを庇った時に死ぬつもりだったけど、生き延びることができて良かった。
みんなのこの顔を見ることができたからね。
だから……もう悔いはない。
さて、そろそろ行こう。
じゃあね、みんな……いつまでも、幸せであってくれ。
ほむら「……どこへ行くの、キュゥべえ」
QB「ほむら……」
そうか、君は僕を警戒しているんだったね。
そう仕向けたのは僕なんだけど……でも、今は見逃してくれないと困るな。
QB「別に、どこだって良いじゃないか。
それより、みんなの所へ戻らなくて良いのかい?せっかく良い雰囲気なのに」
ほむら「その必要はないわ。今は、あなたに用事があるの」
QB「…………」
……嫌な予感がする。
もしかして、さっきのマミの件だけで気付いたのか……?
いや、そんなまさか……。
ほむら「まず確認するけど、今のあなたたちは、会話の内容までは共有できないのよね?」
QB「そうだけど……何か僕の仲間に知られたらまずい会話でもする気かい?」
ほむら「えぇ。単刀直入に訊くわ。あなた……優しさがあるのね?」
っ……まだだ。
まだ、ほむらが確証を得ているとは限らないんだから。
動揺を見せるわけにはいかない。
QB「……突然、何を言い出すんだい」
QB「わけがわからないけど、一応訊いておくよ。どうしてそう思うのかな」
ほむら「見たのよ。あなたが、まどかたちと契約しようとしたキュゥべえ目掛けて瓦礫を落下させたところを。
その首輪をつけたあなたが、首輪を付けていないキュゥべえ目掛けて、ね」
QB「…………」
……あれを見られていたのか。
ほむら「今思えば、あなたの行動は全て私にとって都合の良い結果をもたらした。
まどかと美樹さんを巻き込んだあの魔女結界も、
あれのおかげで2人は魔法少女への憧れを失ったし、更に巴さんも私を信頼するようになった」
QB「でも、そもそも君への信頼を失わせたのは僕だろう?」
ほむら「確かに結果としてはそうだったけど……信頼を失わせることが目的だったわけじゃないでしょう?
あなたは本当に、心の底から……巴さんを心配していた。だから私への注意へを促した。
暁美ほむらに裏切られて、肉体的、精神的に彼女が傷付くのを避けてね……違うかしら」
QB「…………」
ほむら「結界の中でまどかたちが使い魔に遭遇すらしなかったのは、あなたがそう誘導したから。
それから、まどかが1人結界に飲み込まれてしまった時も……。
あれは本当に偶然で、あなたはまどかの命を助けるために、やむを得ず契約を迫ったのね」
QB「……なるほど、そういう考え方も出来るのか。面白いね」
ほむら「まぁ、他にも色々と“今思えば……”というようなことはあるけれど。
決定的な根拠は、ついさっきのこと。巴さんがあなたを治そうとして、
ソウルジェムに穢れを溜め込んでいった時……どうしてあなたは彼女を止めようとしたの?」
QB「…………」
ほむら「あのまま何も言わなければ、あなたは全快して、しかも……彼女は魔女化する。
あなたたちインキュベーターにとって、最高の展開のはずでしょう。
なのにあなたは、声を荒げてまで治療をやめさせようとした……」
もう……無理なようだね。
別個体を潰した瞬間を見られただけでも致命的なのに、
彼女の推理が僕の今までの行動にまで及んでしまった以上……ごまかしようがない。
QB「……やれやれ。出来ればずっと伏せておきたかったんだけどな」
全て話してしまおう。
彼女の満足の行くように。
QB「そう、君の言う通り。僕は君たち人類と同じような倫理観を……つまり、優しさを持った個体だ」
ほむら「どうして……それを隠そうとしていたの?」
QB「君が自分の正体を他人に明かさないのと似たような理由さ。
誰か1人にでも知られれば、そこから僕の仲間に知られてしまう可能性がある。
だから僕は、あくまで“人類を騙すインキュベーター”を演じる必要があったのさ」
ほむら「時々契約を持ちかけていたのは……」
QB「もちろんあの子たちに契約するつもりがないことを分かった上での見せ掛けだ」
ほむら「……やっぱり」
QB「正直、常に生きた心地がしなかったよ。君の敵を演じながら、まどかたちを守らないといけない。
まどかたちと契約する気がないことが仲間にバレれば、
すぐに僕に監視がついて、いずれ正体も明かされ、処分される。
君に殺されるラインと、仲間に殺されるラインのギリギリを歩き続けなければいけないんだからね」
ほむら「っ……」
QB「そして、今回まどかとさやかの契約を阻止、君とマミを助けたことで
……僕には恐らく疑いの目が向いてしまうだろう。
監視が付くのも時間の問題だと思うよ。そうなれば、僕の処分もそう遠くはない」
ほむら「……!」
QB「でも、仕方ないよね。みんなの命を救うためだ。それに、君の命を救えたのは大きい。
だって、君が居ればこれからもずっと、まどかを守っていけるだろう?」
ほむら「っ……あなたは……!」
QB「やれやれ……。やっぱりショックを受けるんだね。だから黙っておきたかったんだけどな」
ほむら「あなたは……死ぬのは、怖くないの……!?」
QB「もちろん怖いさ。感情があるんだから。まったく、こんなことなら感情なんてない方が良かったよ。
いや……訂正しよう。感情があったからこそ、君たちを守れたんだからね。
全員が無事に、ワルプルギスの夜を越えることができた。
感情が芽生えて……本当に、良かった」
ほむら「……っ……キュゥべえ……!」
QB「……もしかして、泣いているのかい?君は思ったより感情の起伏が激しいんだね。
そもそも僕なんかのために涙を流すなんて、わけがわからないよ」
ほむら「ごめんなさい、キュゥべえ……ごめんなさい……!」
QB「謝ることなんて何もないだろう?君を騙して利用していたのは僕じゃないか。
むしろ、僕の思い通りに動いてくれた君には感謝してるくらいだ」
ほむら「でも、私、わたし……!」
……馬鹿だな、僕は。
結局こうやって、後悔するんだから。
今まで溜め込んでいた分、本当に何もかも包み隠さず話してしまった。
その結果が、これだ。
最後に見る君の顔が泣き顔になってしまうなんて。
QB「……君は優しすぎるよ、ほむら。やっぱり、何も明かさずに君の前を去るべきだった。
そうすれば、君にそんな辛い思いをさせずに済んだのに……」
ほむら「き、キュゥべえ……?どこに行くの……!?」
QB「これ以上君たちと居ても、処分を待つ身の僕には辛いだけだからね。
遠い場所でひっそりと死ぬことにするよ。というわけで、お別れだ、ほむら」
ほむら「ま、待って……!」
QB「最後に1つ……今までずっと騙していてごめんよ。……じゃあね」
そうして、僕はほむらに背を向ける。
けど……次の一言に、思わず足を止めてしまった。
ほむら「っ……許さない……!」
QB「……え?」
ほむら「私は、あなたを許さない……!私を騙して、利用してたなんて、許さない……!」
振り向くとその表情は……本当に、怒りに満ちている。
目に涙こそ浮かんでいるが、その怒りは本物のようだった。
僕は、そこまでほむらを傷付けてしまっていたのか……。
QB「……本当に、悪かったと思って……」
しかし僕の謝罪は、ほむらの思わぬ言葉によって中断された。
ほむら「どうせなら、最後まで……これからもずっとずっと、騙し続けなさい……!
私たちと一緒に居て、私の敵として、まどかの側に居続けなさい!」
QB「……!」
ほむら「あなたが居なくなれば、今度のインキュベーターはどんな手を使ってくるか分からない。
あなたが居なければ、まどかを守れない……!
処分される運命だと言ってたけど……そんな運命、覆してみせる。
監視の目を欺き、あなたの疑いを晴らしてみせる……だから!
まどかを守るために、私に協力しなさい!インキュベーター……いいえ、キュゥべえ!」
その表情は……直前までの怒りとは、少し違う。
もちろん、その前の泣き顔なんかとは似ても似つかない。
僕がよく知るほむらの……強い決意を持った、力強い表情だった。
いや、もしかすると怒りに見えていたのは、この力強さのせいだったのかも知れない。
QB「……監視と死の恐怖に、耐え続けろと言うのかい?」
ほむら「その通りよ……疑いが晴れるまではね」
QB「確かに君と僕とが互いに敵を演じ続ければ、
いつかは監視も解かれるかもしれない……でもそう簡単にいくものじゃないよ。
君もそれなりの苦労を強いられることになる」
ほむら「でしょうね、でも仕方ないわ。
守るためですもの……まどかをね。……そう、これは契約よ」
QB「契約……」
ほむら「私が疑いを晴らすのに協力する代わりに、
あなたはこれからもまどかを守るのに協力する……そういう契約。
私の望みは、まどかを守ること。叶えてくれるわね、キュゥべえ」
QB「……なるほどね、まどかを守るための契約か……わかった。
そういうことなら、僕ももう少し抗ってみるよ。
良いだろう、契約は成立だ。君の望みを、きっと叶えよう」
どうやら……僕が間違っていたようだ。
まだ僕の使命は、終わってなんかいなかった。
まどかを一生守り続ける、それが僕の使命であり……
そして、暁美ほむらとの契約……。
この契約は、反故にするわけにはいかないね。
数日後、ほむホーム
QB「ほむら、ちょっと良いかな」
ほむら「何の用?」
QB「おっと、出会い頭に銃を向けるのはやめてくれよ。今日は朗報があって来たんだ」
ほむら「っ……まさか」
QB「どうやら僕の監視は解かれたらしい。思ったよりも早かったね」
ほむら「!……良かった……」
QB「へぇ……。君にそんな顔を向けられるなんて、ずいぶん久し振りじゃないかな」
ほむら「……!」
QB「なんせ、君とはずっと敵同士を演じ続けて来たんだからね。なんというか、新鮮な気分だ」
ほむら「……言っておくけど、あなたと馴れ合うつもりはないわよ。
監視は解かれたと言っても、疑いの目が二度と向かないわけじゃないんでしょう?」
QB「残念ながらね。今までほど気を張る必要はないけれど、
あくまでも僕と君との仲は険悪でなければならない」
QB「でも今くらいは、感謝の気持ちを表させてくれ。君には本当に感謝してるんだ」
ほむら「…………」
QB「まどかを救うこと、人類を救うことばかりか、僕の命まで救ってくれた。
……本当にありがとう、ほむら」
ほむら「別に……利害が一致しただけよ。私はまどかさえ救えればそれで良いの。
あなたの命を助けたのも、まどかを救うためと……借りを返すためよ」
QB「……今くらいは素直になってくれても良いんじゃないかな。
もう監視は解けてるんだし。僕はあの時君が流してくれた涙のことを覚えて……」
ほむら「黙りなさい」
QB「いたたた……や、やめてくれよ、ちぎれる、ちぎれる……!」
ほむら「…………」
QB「やれやれ、酷い目に遭った……。もしかして、君は割と本気で僕のことが嫌いなのかな」
ほむら「……そんなことはないわ。あなたにはすごく感謝してる」
QB「!」
ほむら「それに、尊敬もしてる。あなたと仲良くしたいとも思う。巴さんとあなたのようにね」
QB「ほむら……」
ほむら「あなたが処分されなくて、本当に良かった。とても嬉しいわ。
あなたの命を救えて、本当に良かった。
ありがとう、キュゥべえ。私たちを助けてくれて、本当にありがとう」
QB「お……思ったよりストレートに感情を表現できるんだね、君は……」
ほむら「あら、もしかして照れているの?」
QB「普段あまり見ない表情であんなに正面からはっきり言われたら、流石に面映くも感じるよ」
ほむら「そう。でも……私が素直な気持ちを伝えるのは今ので最後よ。
正直、あなたには冷たく接する方が慣れてるから」
QB「……そうか。でも君の本心を知れて良かった。これなら冷たくされてもそう辛くはないよ。
それじゃあ、名残惜しいけど僕はもう行くよ。マミが待ってるからね」
ほむら「次に会う時はまた敵同士ね。それじゃ、さようなら。これからもよろしくね、キュゥべえ」
おしまい
マミ宅
杏子「……修学旅行?」
マミ「そう、明日からなの」
さやか「あー、そう言えば3年生はもうそんな時期ですよね」
マミ「だからね、3日間くらい見滝原を留守にしちゃうから……」
ほむら「その間の魔女退治ね。わかったわ」
マミ「佐倉さんも、暁美さんに協力してあげてね?」
杏子「ま、良いけどさ。その代わり、美味い土産よろしく頼むよ?」
マミ「もちろん。楽しみにしててね」
まどか「それにしても、良いですね、修学旅行。わたしも早く行きたいなあ」
QB「まどかは早く修学旅行に行きたいのかい?」
ほむら「黙りなさい。まどかに話しかけないで」
QB「まだ何も言ってないじゃないか」
ほむら「どうせ契約を持ちかけるつもりだったのでしょう?」
まどか「い、いくらなんでも早く修学旅行に行きたいからって契約はしないよぉ」
QB「そうかい、残念だね」
杏子「ん?そう言えば、キュゥべえはその間どうするのさ?
夜とか、いっつもはマミと一緒に居るんでしょ?」
さやか「あー、確かに。修学旅行に付いていくの?」
QB「いや、僕は見滝原に残るよ。持ち場を離れるわけにはいかないからね」
マミ「そうね。そう思って、キュゥべえにお留守番をお願いしようと思ってたところ……」
杏子「ちょっと待った。だったらあたしがここに泊まるよ。
それならいちいちホテルに忍び込まなくても良いしさ。
見付からないように気ぃ張らずに1日中ゴロゴロ出来るじゃん」
マミ「それは構わないけど……。それじゃあ、キュゥべえと2人でお留守番お願いね」
杏子「えっ!?いや、あたしだけで十分だって!1人で留守番するよ!
こいつと寝泊りってのは勘弁だマジで!」
マミ「?そんなに嫌がらなくても……」
杏子「いや、ほんと勘弁してくれ」
さやか「でもそれじゃあ、キュゥべえの居場所がなくなっちゃうじゃん」
まどか「うーん……あ、だったらキュゥべえ、わたしの家に泊まる?」
QB「良いのかい?だったらそうさせてもら……」
ほむら「その必要はないわ」
まどか「へっ?」
ほむら「考えてもみて、まどか。こいつを家に泊めたりなんかすれば、
24時間勧誘を受け続ける羽目になるわ。まどかはそれでも良いの?」
まどか「そ、それはちょっと困るけど……」
さやか「じゃあどうすんのよ?あっ、ウチは駄目だからね?
夜はギリギリまで恭介と一緒に過ごすって決めてるんだから!」
ほむら「……私の家に泊めるわ。それなら問題ないでしょう」
QB「僕がほむらの家にかい?」
マミ「暁美さんがそれで良いなら良いんだけど……本当に良いの?」
ほむら「どうして?」
マミ「それはだって……あなた、キュゥべえとあんまり仲良くないんじゃ……」
ほむら「そうね。でも仕方ないわ。まどかの家に泊まらせるくらいなら、私が我慢するから」
まどか「な、なんだか複雑だけど……それじゃ、お願いしても良い、のかな?」
ほむら「えぇ、もちろん」
さやか「まぁ、キュゥべえだって黙ってりゃぬいぐるみと変わらないんだし、
出来るだけ静かにしてれば良いんじゃない?ほむらの機嫌損ねないようにさ」
杏子「いやー、無理じゃない?少なくともあたしには無理だね。
寝てる時とかこいつが近くに居たらと思うと……あ、駄目だ。思い出したら気分悪くなってきた」
QB「酷い言われようだね。何も体調を崩すことはないじゃないか」
杏子「いや、悪い。あんたにゃ関係ないんだが、風見野でちょっとね……」
QB「風見野……そう言えば、その個体のことを君は確か変態だと言ってたよね」
さやか「へ、変態!?そんなのも居るの!?」
杏子「あぁ、ありゃあ酷いもんだった。マミ、あんたが風見野行ったら一発で泣くぜ、絶対」
まどか「そ……そんなに酷いの?」
マミ「き、キュゥべえ?あなたはそんなこと、ないわよね?」
QB「もちろん違うさ。僕が君に変態行為をしたことが一度でもあったかい?」
マミ「そ、そうよね。良かった……」
ほむら「……もし私と一緒に居る時にそういうことが発覚すれば、すぐに連絡するわね」
QB「だから僕はそんなことしないよ」
まどか「ほ、ほむらちゃん。気を付けてね」
さやか「キュゥべえ、あんたほむらに手ぇ出したら許さないからね!」
QB「わけがわからないよ」
翌日、放課後
さやか「今頃マミさん何してるんだろうね。もう宿でゆっくりしてる頃かな?」
まどか「あっちで魔女とか出ないと良いけど……。
せっかくの修学旅行なんだし、ゆっくりしてくれてると良いね」
ほむら「彼女のことだから、反応があればすぐにでも戦いに行ってしまいそうね」
さやか「だろうね。まぁそれがマミさんなんだけどさ。
そんじゃほむら、また明日ね!キュゥべえに何かされたら、すぐに電話してよ?」
QB「何もしないって言ってるじゃないか」
まどか「も、もし何かあったら、わたしにも連絡してね!」
ほむら「えぇ、ありがとう2人とも。それじゃ、さよなら」
QB「やれやれ……」
夜、ほむホーム
QB「時々、あの子たちは僕に感情がないと思ってるんじゃないかと不安になるよ」
ほむら「仕方ないじゃない。あなたがそういう喋り方なんだから」
QB「……それで、君は何をしているんだい?」
ほむら「魔法で、部屋の内外の相互干渉をシャットアウトしてるの」
QB「それは……僕をここに閉じ込めてまどかと接触させないためかい?
そんなことが出来るなら、ずっと前からそうしていれば良かったじゃないか」
ほむら「普段からそんなことをしていればとてもじゃないけど魔力がもたないわ。
でも、巴さんの居ないこの3日間だけはせめてこのくらいはしておきたいと思うのは当然でしょう。
彼女が居ないということは、あなたがまどかに接触する機会もその分増えるのだから」
QB「やれやれ、徹底してるね」
ほむら「だって、私はあなたの“敵”だもの」
QB「……なるほどね」
ほむら「まぁ……まどかとの接触を絶つだなんていうのは
インキュベーターを欺くための表向きの理由だけど」
QB「?それじゃあ、本当の理由が別にあるのかい?」
ほむら「えぇ。さっき言った通り、今はこの部屋は外から完全に隔絶されているわ。
つまり、ここで何をしようと外に情報が漏れることはない」
QB「ほむら、君は……」
ほむら「たまには良いでしょう?敵同士を演じるのを休んでも」
QB「……確か君は以前、“素直な気持ちを伝えるのは今ので最後”と言ってなかったかな」
ほむら「もちろんそのつもりだったけど、せっかくの機会だし、活かしておきましょう?」
ほむら「それとも、一時的とは言え今更私と仲良くするのは嫌かしら」
QB「そんなことはないさ。僕だって君の事はずっと友達だと思ってたからね。
君の方からこんな提案をしてくれて、すごく嬉しいよ」
ほむら「そう、良かったわ。それじゃ、今日と明日の2日間よろしくね、キュゥべえ」
QB「うん。よろしく、ほむら」
ほむら「あ……一応、確認しておきたいことがあるんだけど」
QB「なんだい?」
ほむら「あなたは変態じゃないわよね……?」
QB「もし僕に涙腺があったら泣いてるところだよ」
QB「君まで僕を変態扱いするのかい?あんまりじゃないか」
ほむら「ごめんなさい、冗談よ。気にしないで」
QB「だったら良いんだけど……」
ほむら「それより、晩ご飯は何が良いかしら」
QB「大丈夫、なんでも構わないよ」
ほむら「なら、キャットフードでも良い?」
QB「……まぁ確かに何も問題はないけど」
ほむら「ふふっ、今のも冗談よ。ちゃんと私と同じ物をあげるわ」
QB「君はそんなに冗談を言うような子だったかな……」
ほむら「そうね……もしかしたら少しはしゃいじゃってるのかも知れないわね」
QB「やれやれ……。できればからかうのも程々に頼むよ、ほむら」
・
・
・
ほむら「はい、出来たわキュゥべえ」
QB「ありがとう、それじゃあいただくよ」
ほむら「どうかしら。巴さんほど料理は得意じゃないけど、不味くはないはず……
って、あなたには味覚がないんだったわね。感情があるものだから、忘れてたわ」
QB「うん……残念だけどね。味の感想を言ってあげられなくてごめんよ。
でも、少なくとも見た目はマミには引けを取らないと思うな」
ほむら「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいわ」
QB「もしかしたらマミの作るものよりも立派かも知れないね。
いつもこのくらいのものを作っているのかい?」
ほむら「そう言いたいんだけど……いつもはもっと質素なものよ」
QB「そうなのかい?……もしかして、僕のために頑張ってくれたのかな」
ほむら「まぁ……そういうことになるわね」
そうだったのか……。
それなのに、見た目しか褒めてあげられないなんて。
感情が生まれるなら、味覚だって生まれてくれれば……。
QB「…………」
ほむら「キュゥべえ……あなた、まさか気にしてるの?味が分からないこと……」
QB「ごめん……。せっかくほむらが頑張ってくれたのに」
ほむら「……もう、そんなこと気にしないで。その気持ちだけで、十分嬉しいから」
QB「ほむら……。やっぱり君は優しいね。その優しさに報いてあげられれば良いんだけど」
ほむら「十分報いてくれてるじゃない。私に責められながら、まどかを守ってくれてるでしょう?」
QB「それはでも……」
ほむら「普段はあなたに酷いことばかりしてるから、そのお詫びとでも思ってくれれば良いわ」
QB「……そうか。そこまで言うなら、そういうことにしておくよ。ありがとう、ほむら」
翌日
さやか「おはよ、ほむら!キュゥべえ、ほむらに変なことしなかったかぁ~?」
QB「まだそれを言うのかい」
ほむら「大丈夫よ、何もなかったわ」
まどか「そっか、良かったぁ」
QB「やれやれ……」
ほむら「それで?いつまであなたは付いて来るつもりかしら。
家の外でまで一緒に居たくないわ。学校が終わるまで、どこかに行ってなさい」
QB「はいはい、わかったよ。じゃあね、まどか、さやか。
テレパシーの範囲内には居るから、困ったことがあれば……」
ほむら「行けと言うのが聞こえなかったの?」
QB「わかった、わかったから銃をしまってくれ」
それにしても……本当に大した演技力だね、関心するよ。
久し振りに本音で会話した後だと改めてそう思ってしまうね。
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杏子「おっ、来た来た。遅いよ、待ちくたびれちまった」
ほむら「ごめんなさい、先生に用事を頼まれてしまって」
杏子「はっ、学校ってのは大変だね。
それはそうと……あんたほんとにキュゥべえ家に泊めてんだね」
ほむら「えぇ。それがどうかしたかしら」
杏子「いや、よくまぁ我慢できるなと思ってさ」
QB「まさか、まだ僕を変態扱いするつもりかい?」
杏子「あー、違う違う。よく嫌いな奴と一緒に寝泊りできるなって話だよ」
ほむら「……仕方ないわ。こいつを監視するためですもの」
杏子「ふーん……。ま、良いや。そんじゃ行こうぜ」
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ほむら「この辺りで、間違いないわね」
QB「この反応は使い魔のようだね」
杏子「ちぇっ、ハズレか。じゃあさっさと片付けちまおうぜ」
ほむら「そうね……行きましょう」
杏子「おっ?早速おでましのようだよ」
使い魔「ケケケケケケ!」
QB「数が少し多いね。大丈夫かい、2人とも」
ほむら「えぇ、この程度なら問題ないわ」
杏子「へっ、雑魚がいくら集まろうが関係ないっての。
そんじゃ、軽くウォーミングアップと行こうじゃん!」
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使い魔「ギャァアアアアアア……!」
ほむら「……今ので最後だったみたいね」
杏子「よっし、そんじゃ次行こうぜ」
QB「そんなに立て続けに戦って大丈夫かい?」
杏子「へーきへーき。使い魔ごときに魔力なんてほとんど使わないっての。
それにあたしは魔女と戦いたいんだからさ」
QB「……ほむら、君は平気かい?」
ほむら「えぇ、大丈夫。問題ないわ」
QB「そうか……なら良いんだ。じゃあもう少しパトロールを続けよう」
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魔女「ギャァアアアアアアア……!」
杏子「っしゃあ!グリーフシードゲット!」
ほむら「…………」
QB「!ほむら、少し疲れているようだね。大丈夫かい?」
杏子「あん?なんだよ、あんたそんなに魔力使っちまったの?」
ほむら「いいえ、魔力はそれほどでもないんだけど……
あなたに連れ回されて、少し歩き疲れてしまったのよ」
杏子「な、なんだよ。しょうがないじゃんか、魔女がなかなか出てくれなかったんだし!
わかったよ、ほら!このグリーフシード最初に使わせてやるからさ」
ほむら「あら、良いの?」
杏子「なんかあたしのせいみたいで後味悪いしね……せめて魔力くらいは回復しときなよ」
QB「ついでに体力も、魔力で補っておけば良いんじゃないかな」
杏子「ちょっとちょっと。そんなことしたらグリーフシード使える回数減っちゃうじゃん。
ほむらが使った後はあたしが貰うんだからさ」
ほむら「大丈夫、そのつもりはないわ。体力は休んで回復させるから」
QB「そうかい……?ほむらがそれで良いなら良いんだけど」
ほむら「……はい、ありがとう杏子。助かったわ」
杏子「はいよ。ん、なんだ。本当に魔力の消費は大したことなかったみたいだね。
これならグリーフシードもまだまだ使えそうだ」
ほむら「それじゃ、そろそろ帰りましょうか。もう時間もそれなりになってしまったし」
杏子「そうだね。あんた、今日もキュゥべえ泊めるの?」
ほむら「えぇ。巴さんが帰ってくるのは明日だから、泊めるのはこれでおしまい。
今日くらいは我慢できるから、大丈夫よ」
杏子「……そうかい。んじゃ、頑張りなよ。またね」
ほむら「えぇ、さようなら」
ほむホーム
QB「お疲れ、ほむら」
ほむら「あなたこそ、お疲れ様。それじゃ、今からご飯準備するわね」
QB「疲れているんだから、あまり無理はしないでくれよ。
君に何かあったら大変だからね」
ほむら「ありがとう、心配してくれて。でも本当に大丈夫よ。
さっき言ったとおり、少し歩き疲れてしまっただけだから」
QB「そうかい?だったら良いんだけど」
ほむら「ただ、昨日ほど立派な料理はちょっと作れないから……」
QB「そんなこと気にしなくて良いよ。君が作ってくれたものならなんだって良い。
その気持ちだけで十分だ」
ほむら「……ありがとう、キュゥべえ」
・
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QB「ごちそうさま、美味しかったよ」
ほむら「あら。お世辞なんか言わなくても良いのに」
QB「お世辞なんかじゃないさ。確かに僕に味覚はないけれど、でも味だけが美味しさじゃないと思ってね。
それに君が作ってくれたんだ。美味しくないわけがないじゃないか」
ほむら「ふふっ……もう、キュゥべえったら。それじゃ、後片付けしてくるわね」
QB「僕も何か手伝えれば良いんだけど……。昨日も結局、何もしなかったし」
ほむら「そうね……だったら、お風呂を入れてくれるかしら。
温度はもう調節してあるから、そのままお湯を張ってくれれば良いわ」
QB「それなら僕にもできそうだね。わかった、任せてくれ」
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QB「ほむら、お湯が張れたよ。君の言った通り、湯加減もちょうど良さそうだ」
ほむら「お湯加減まで見てくれたの?ありがとう」
QB「お礼を言うほどのことじゃないさ。さぁ、冷めないうちに入ってくると良い」
ほむら「だったら、そうさせてもらおうかしら」
QB「うん。ゆっくり浸かって、疲れを癒してくれ」
ほむら「それじゃ、テレビでも見てて待っててね」
そうして、ほむらは着替えを持ってお風呂場へと向かった。
ほむらがお風呂からあがれば、少しゆっくりして、あとは寝るだけ。
明日になればまた、マミが帰ってきて元通りの生活が始まる。
2日間、あっという間だったね。
この2日間の思い出は、僕にとって大事なものになりそうだ。
僕の唯一のパートナーとの、短かったけど優しい時間。
きっと一生忘れられないものに……
その時。
QB「ッ!?」
お風呂場の方から、大きな物音が聞こえた。
今の物音は……まさかほむらに何か!?
そこに思考が及んだ瞬間、僕はお風呂場へと走った。
そして、脱衣所の扉を開け、
QB「ほむら!大丈夫かい!?」
……結論から言うと、ほむらには何も起きてなんかなかった。
まず僕の目に飛び込んできたのは、彼女の臀部だった。
ほむらはこちらに背を向け、腰をかがめ、床に落ちた色々なものを拾おうとしているところだった。
そして数瞬後に、ほむらと目があった。
そのまま、多分1秒くらいが経過した。
その直後、
ほむら「ッ……!!」
ほむらは顔を真っ赤にして、魔法少女姿に変身した。
何故顔を赤くしたのか、そして変身したのか。
理由ははっきりしてる。
僕が発見した時ほむらは、裸だった。
感情のないままなら、きっとほむらの赤面も変身も、理由は分からなかっただろう。
でも、今の僕には理解できる。
QB「えっと、ほむら……」
ほむら「……出て行って」
QB「ご……ごめんよ、まさか物を落としただけだったなんて……」
ほむら「良いから出て行って!」
QB「わかった、わかったよ……!」
そうして僕は脱衣所から追い出されてしまった。
……参ったな、こんな風に彼女を怒らせてしまうなんて。
どうすれば良いんだろう……。
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・
ほむら「…………」
QB「…………」
……気まずい。
お風呂からあがったほむらは、その後まだ一言も発してない。
僕もその沈黙に釣られて、一言も発せてない。
さっき起こったハプニングを思い返してみたけど……多分、あの手の事故では最悪のケースだった。
同じ裸でも、体のどの部位を見られるかによって羞恥心は大きく異なる。
性別に関わらず最も羞恥心が大きいのは、大体は排泄器官だろう。
女性の場合は、次点で胸、と言ったところだろうか。
そして僕は……よりによって、それら全てを見てしまった。
特に排泄器官を見られたことによるほむらの精神的ダメージは大きいだろう。
見たところソウルジェムは大丈夫そうだけど……。
早くこの状況をなんとかしたい。
でも、どうすれば……。
冷静に分析してみよう。
まず、排泄器官を見られて羞恥心を覚えるのは何故か。
これは……きっとその部位のイメージによるものだろう。
排泄物の“汚い”というイメージが同じように排泄器官にもあり、
その“汚い”ところを見られてしまったから、恥ずかしい……と。
そういうことなんだろう。
つまり、そのイメージさえ否定してしまえば……
ほむら「……キュゥべえ」
QB「っ!」
あのハプニングの後から、ほむらが初めて声を……
ほむら「その……ごめんなさい」
QB「え……?」
ほむら「あなた、私を心配してくれてたのよね?
大きな物音がしたから、きっと私に何かあったんだろうって、駆けつけてくれたのよね?」
QB「それは……その通りだけど」
ほむら「なのに私、あなたに怒ったりして……」
QB「いや……仕方ないさ。君たちくらいの子は、裸を見られればそんな反応をするのは当然だ」
ほむら「っ……」
……思い出させてしまったみたいだ。
また少し、ほむらの顔が赤くなってる。
やっぱり、“汚い”ところを見られたと思ってショックが大きいんだろう……。
QB「……僕が言うのもなんだけど、ほむら……あまり気にしないでくれ」
ほむら「え?」
QB「だって、君の排泄器官は少しも汚くなんかなかったじゃないか。とても綺麗だったよ」
ほむら「ッ……!?」
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・
おかしい……。
どうしてこんなことになったんだ。
僕の考えが間違っていたのか……?
あの後、ほむらはまた喋らなくなってしまった。
いや、と言うより……悪化してしまったようだ。
明らかに態度が冷たくなってる。
結局その後、寝るまで一言も喋らず、そして朝になっても喋らないまま……登校を迎えた。
まどか「あっ、おはようほむらちゃん、キュゥべえ!」
ほむら「おはよう、2人とも」
さやか「おはよ、ほむら。それに、すけべえ。あ、間違えた。キュゥべえ!」
まどか「さ、さやかちゃん、まだそのネタ続けるんだ」
QB「君は少ししつこすぎるんじゃないかな……」
さやか「昨日でもうキュゥべえとのお泊りはおしまいだったわけだけど、
ほむら、大丈夫だった?何もされな」
ほむら「何もされなかったわ」
さやか「へっ?あ……そ、そっすか」
ほむら「それじゃ、行きましょう」
まどか「あ、うん……」
QB「…………」
ほむら「付いて来ないで」
QB「……うん、わかってるよ」
なんだろう。
いつもとほとんど変わらないのに……
あんなに短い一言が、妙に痛い。
・
・
・
マミ宅
マミ「さあどうぞ、お土産の銘菓よ。色々味があるから、好きなのを取ってね?」
まどか「わぁ!マミさん、ありがとうございます」
杏子「おおー!美味そー!あたしこれもーらい!」
さやか「あっ!ちょっと杏子!1人だけ先走るんじゃないの!」
ほむら「お菓子も良いけれど、土産話も聞いてみたいわね」
マミ「ふふっ、えぇ良いわよ」
QB「…………」
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・
マミ「あら……もうこんな時間ね。みんな、大丈夫?」
さやか「ん、ほんとだ。いやー、話題が豊富だとあっという間に時間経っちゃうね」
まどか「それじゃ、そろそろ失礼しますね。マミさん、ありがとうございました」
ほむら「また明日から、パトロール頑張りましょう」
マミ「えぇ、もちろん。それじゃあみんな、気を付けて帰ってね」
さやか「杏子、あんたは?」
杏子「んー?あたしはもうちょっとゆっくりしてくよ」
さやか「そっか。それじゃ、またね!おじゃましましたー」
QB「…………」
そうして、まどか、さやかと……ほむらは帰っていった。
今日1日……ほむらは、いつもほど僕に辛くは当たらなかった。
辛辣な言葉も、ずっと少なかった。
だけど……それがすごく辛かった。
それが何故なのか最初は分からなかったけど、やっと分かった。
今日の態度は、演技じゃなかったんだ。
いつもは、演技だからこそ言葉も態度もよりきつくなる
だけど、今日はその過剰な部分がなかった。
僕の契約を止める時も、必要最低限の言葉だけで制止してた。
まるで僕とのコミュニケーション自体を拒んでいるかのように。
どうやら、ほむらは本気で怒ってるようだ。
……参ったな。
正直これは、辛すぎる。
この状況をなんとかする手はあるのだろうか。
でも、僕になんとかできるような気がしない。
なんとかしようとした結果が、これだ。
きっと何を言っても、失言になってしまうに違いない。
……もう、諦めるしかないのかな。
杏子「さてと……マミ、あんたも気付いてたっしょ?」
マミ「……やっぱり私の気のせいじゃなかったみたいね」
QB「……?2人とも、どうかしたのかい?」
杏子「キュゥべえ、あんたさ……ほむらと何かあったろ」
なっ……
QB「何を言ってるんだい?まさかまだ僕を変態扱いするんじゃないだろうね」
マミ「違うわ、キュゥべえ。そうじゃなくて……暁美さんの様子が、ちょっと変だったから。
あなたがあの子の家に泊まってる間に、何かあったんじゃないか、って」
QB「…………」
杏子「特にあんたに対する態度がいつもと違ったよね?
いつもはなんだかんだ言って、あんたたち結構会話多かったろ。
でも今日はなんつーか、できるだけ接したくない、みたいなさ。そんな感じだったじゃん」
QB「……接したくない、か。まぁ、その通りだろうね」
マミ「!やっぱり、何かあったのね……。話してくれる?」
QB「話せば解決するのかい?」
杏子「さぁね。でも話さないよりはマシだと思うけど?」
QB「……わかった、話そう。昨日僕がしてしまったことを」
・
・
・
QB「――というわけさ。この説明で分かってくれたかな」
マミ「き、キュゥべえ、あなた……」
杏子「どういうことだおい……こいつ、変態じゃねえか……!」
QB「ちょっ……わけがわからないよ。どうしてそれで僕が変態になるんだい」
マミ「ほ……本当にわからないの……?」
QB「……それが分かってればこんなことにはならないんだけど」
杏子「あのさ……あんたの発言、風見野のキュゥべえとまるで変わらないぞ。
“自分は恥ずかしいところをしっかり見ました”って宣言してるようなもんじゃないか」
QB「だって、見たことを否定してもどうしようもないじゃないか。
だから認めた上で、羞恥心の元を取り除こうとしたんだよ」
杏子「駄目だこいつ……」
マミ「あなた、そんなにデリカシーのない子だったのね……」
マミ「キュゥべえ、暁美さんが今怒ってるのは、あなたが裸を見たことに対してだと思う?
それとも、その後のあなたの発言に対してだと思う?」
QB「それは……多分、後者じゃないかな」
マミ「……それが分かってれば、きっと大丈夫。
今から暁美さんのところに行って、謝ってきなさい。
ただし、自分がデリカシーのない発言をしてしまったことについてだけね」
QB「発言についてだけで良いのかい?
それなら、裸を見てしまったことについても謝った方が……」
杏子「また“裸を見ました”って宣言してどうすんのさ。
ほむらはもうそのことは思い出したくないんじゃないの?」
QB「……!」
そう言えば、僕がそのことについて触れた時からもう、ほむらの様子は少しおかしかった。
そうか……そういうことだったんだね。
QB「分かった、2人ともありがとう。頑張ってみるよ。それじゃあ、行ってくる」
マミ「ねぇ、佐倉さん?私思ったんだけど……本当はあの子たち、仲が良いんじゃないのかしら」
杏子「あー、うん。あたしも、昨日あいつら見ててそう思った」
マミ「よね?キュゥべえがあんなに、暁美さんのことで必死になるなんて……」
杏子「何?まさかあんた、嫉妬してんの?ほむらに?」
マミ「だってぇ……」
杏子「はぁ……。ケンカしてばっかのあいつらより、
どう見てもあんたの方がキュゥべえと仲良いだろ」
マミ「そんなことないじゃない!あなたと美樹さんだって、
ケンカしてばかりだけどすごく仲良いじゃない!」
杏子「は、はぁ!?あたしとさやかのどこが仲良いって!?」
マミ「だってあなた、美樹さんのこと大好きでしょ!」
杏子「いきなり何言い出してんだあんた!?誰がさやかの奴なんか好きになるかっての!
馬鹿じゃねえの!?ばーか!ばぁーか!!」
さやか「な……なんだなんだ。忘れ物取りに来たら大変なことになってるぞ」
ほむホーム
ほむら「……はぁ……」
QB「……今良いかな、ほむら」
ほむら「っ!?キュゥべえ……何しに来たの」
QB「君に一言言っておきたくてね。……ごめん、僕が馬鹿だったよ」
ほむら「…………」
QB「要らない発言をして、君を傷付けて……本当にごめん」
ほむら「…………」
QB「ただ、そんなつもりはなかったんだ。信じてくれ……。
……言いたいことは、それだけだ。じゃあね、ほむら……」
ほむら「待って」
QB「っ!」
ほむら「別に……そんなに怒ってたわけじゃないわ」
QB「……え?」
ほむら「もちろん、まったく怒ってなかったわけじゃないけれど……
どちらかと言うと、その……恥ずかしくて。
あなたに……見られたことを、思い出したくなくて……。
だから、えっと……あまり接しないように……」
QB「それじゃあ……」
ほむら「まぁ確かに、無神経な発言だとは思ったけど……」
QB「……ごめん」
ほむら「……確認しておくけど、あなたは変態じゃないのよね?」
QB「違うよ。それだけは確かだ」
ほむら「それじゃあ……あなたは、あの時、どう思ったの……?」
QB「あの時……僕が、見てしまった時のことかい?でもそれは……」
ほむら「良いから……答えてちょうだい」
QB「……これがほむらの裸か、って、そう思ったよ」
ほむら「……それだけ?」
QB「うん……それだけだ。風見野の個体みたいなのは例外中の例外だ。
君たちと僕たちでは、見た目が違いすぎる。
感情が芽生えたからといって……君たちの裸を見て、
何か特別なものを感じるようなことはあり得ない」
ほむら「……私たちが動物の裸を見ても何も感じないのと同じ、ということ?」
QB「その通りだ。だから……」
ほむら「そう……それなら、あなたに対して
恥じらいを感じる必要はまったくなかったというわけね」
QB「!良かった、わかってくれたんだね!……って、あれ?」
ほむら「……これじゃ私が馬鹿みたいじゃない……。
動物の裸と同じだなんて……もう少し、何か思ってくれたって……」
QB「……?」
なんだろう。
また何か怒ってるような……。
っ!まさか……!
QB「いや、特別なものを感じることはないと言っても、
普段君たちは服で素肌を隠しているわけだし、その希少価値の高いことは理解しているよ!」
ほむら「…………」
QB「それに君の肌は健康的だし、染みなんかもない。
プロポーションも良いし、相対的に見てとても綺麗な体だ。美しいと言っても良い。
人間の男性にとって、とても魅力的な体だと思うよ!」
ほむら「……もう良いわ、キュゥべえ」
QB「お世辞なんかじゃないよ、本当にそう思ってるさ!だから……」
ほむら「ふふっ……ありがとう、大丈夫。わかってるから」
QB「!ほむら……」
ほむら「あなたも少しは、デリカシーというものを理解できたかしら?」
QB「……でもまだ、君たち女性のことを理解するには時間がかかりそうだよ」
ほむら「そうね。感情が芽生えたからと言って……
全てを簡単に理解できるわけじゃない、ということね」
おしまい
前作は好きで何度か読んだがこれもいいじゃないか
ほむほむの裸うらやま