杏子にスポットを当てた捏造前日譚と本編IF
含む要素
かずみ☆マギカ、多少のオリジナル設定、独自解釈、風見野
含まない要素
おりこ☆マギカ、変態ほむら、ロッソファンタズマ
元スレ
杏子「手紙でも書くか……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1355882083/
見滝原市スーパーセル
死者・2名
『ビルがまるごと倒れるなどの災害の中、死者がこれだけで済んだのは奇跡でしょう』
『亡くなった二名に哀悼の意を捧げると共に、見滝原市の一早い復興を祈ります』
『亡くなったのは、東京都千代田区 暁ナ━━━━』
薄っぺらい言葉しか言わない全国放送から、音楽を大量に入れたDVD再生に切り替える。
カンナ「……フルテン。近所迷惑なんて知らない」
淹れたコーヒーも飲まないまま冷めて、かと言って二度寝するわけでもない。
カンナ「全く……どうして起きちゃったんだか。嫌なニュース見ちゃったしさ」
電子レンジにコーヒーの入ったマグカップを入れ、再加熱する。
やっぱりブラックは飲めない気がしたので冷蔵庫を覗き込み、牛乳を探す。
カンナ「……牛乳切らしてる。生クリームは使ったら怒られるだろうし、豆乳は……」
自分の胸に手を当てる。
卒業記念に豊胸する女学生が居るというが、これは『本物』だ。
カンナ「味を犠牲にしてまで飲みたくないな」
「牛乳買いに行こうかな。どうせ頼まれるだろうし」
窓の外に目をやろうとしたが、雨のせいでガラスが曇って何も見えやしない。
カンナ「ジーンズ濡れたら悲惨だし、かといって生足は寒いし……」
パジャマからジャージに着替えることにした。
ジャージなら濡れてもある程度は大丈夫なはず。
カンナ「……」
ふと、壁に掛けたデジタルフォトスタンドに出てきた写真が目に止まる。
スタンドなのに壁掛けなのはスペースの問題。
私と、金髪ツインテールの同じくらいの身長の少女のツーショット写真。
水色のマフラーを一緒に巻いている。
カンナ「『ユウリ』……いや、あいり……」
三週間程前 風見野
「ほい!いっちょ上がり!」
「いっちょ上がりじゃないよ!?縄張り荒らしだよ!もし……」
二人組の少女が崩れる結界の中、対極の態度でいる。
杏子「はぁ……またかよ」
「ひっ!?だから言ったのに!」
「ズラかるぞ!」
赤髪の少女が姿を表すと、『縄張り荒らし』の二人は逃げ帰って行く。
杏子「ったくここは出稼ぎ場じゃねえっつの」
風見野は、見滝原と同じく一人の強力な魔法少女が君臨するが、街自体が広いので縄張り荒らしが頻発する。
むしろそれらの魔法少女は風見野を縄張りとしていて、魔女狩り以外の時はホームタウンに帰って行く。
その方が、知り合いに会う確率も極端に下がるからだ。
杏子「ま、別に特別困っちゃいないけどさ」
少女「ちょいさ!」
また見たことのない魔法少女が、魔女と戦っている。
杏子「取り込み中悪いんだけどさ……ここ、あたしの縄張りなんだけど」
魔法少女は魔女にトドメをさした後、グリーフシードを拾い杏子の前に降り立つ。
少女「ごめんなさい、私先日契約したばかりで……でも、この力でこの街を出て行くのが目的なんでそんな迷惑はかけないつもりで……」
杏子「そうか、だったら構わないよ」
杏子は少女の姿を注視する。
何か既視感を覚える。
肩の破けた赤い長ランに、白い羽のアクセントがある赤いポストハット、鳥の翼。
杏子「あんたなんだ、伝書鳩になりたいとか願ったのか?」
少女「バレちゃいました?自分でもこれ、わかりやすいと思うんですよね」
杏子「それで、手紙とか運んだりするのか?」
少女「そうですね。それをしながら全国を旅したいと思ってます」
「良ければお客さん一号になりません?代金はこのグリーフシードつまてことで」
杏子「へぇ……」
杏子「手紙ねぇ……」
教会の焼け跡にはボロボロの書物卓があったっけ。
あんなんで書くくらいならスーパーの床で書いた方がいい。
喫茶店ですましている大学生からレポート用紙を二枚貰って片方を封筒にする。
杏子「抹茶ラテの……トールくれ」
物ならともかくサービス業で万引きは出来ない。
今必要なのは飲み物より物を書く場所だ。
ホテルの部屋でも良いんだけど、この大学生みたいにスカしてみたかった。
杏子「でも誰に出そうか……」
あたしの知り合いの数なんてたかが知れている。
一家心中の前から付き合いがあった人はマミ以外あたしが死んだと思っている。
マミに……いや、マミは近いうちに会うことにしよう。
何よりキュゥべえの野郎がバカにするだろう。
『君達はテレパシーが出来るだろう?』
とかな。
となると残りのあたしの知り合いは魔法少女と、商店街の連中だ。
万引きは風見野ではしないようにしている。ATMからパクった金で買うんだ。
だから商店街の連中、特に八百屋と駄菓子屋、パン屋は仲が良い。
マミの買う高そうなケーキより、実はここのパン屋の菓子パンの方が好きで……
でも商店街の連中に手紙とか、小学校みたいだな。
残ったのは魔法少女連中。
って言ってもさっきの奴程度の知り合いしか……いや、あと二人マミ程じゃないが付き合いがあった奴がいる。
杏子「ユウリと……ミチルだな」
あすなろ市の魔法少女二人。
珍しいタイプ、要するにマミと同じ匂いのする連中だった。
二人ともマミみたいに裏事情があってだったけどね。
ミチルは……帰国子女だから手紙とか案外慣れてそうだし、間違ってたら恥ずかしいな。
そういえばあの長ランの赤、ユウリの服思い出すな……
杏子「拝啓、飛鳥ユウリ」
「拝啓ってこれであってんのか……?拝敬だっけ……?まぁ良いか。ユウリだし」
ユウリに宛てることにした。
久しぶりに文字を書いた気がするけど、案外なまって無いもんだな。
『よう、ユウリ』
『風見野の後輩が手紙を運ぶのが願いだってから、ガラにも無く手紙を書いてみるよ』
『元気してるか?あたしは相変わらずジャンキーな食事で、魔法で身体を調整してるよ』
『食物は大事にしても、自分は大事にしてないのかもな』
『あんたの料理また食いたいよ。ホテルの余った食材で作ったコース最高だったな』
杏子「書いてみると案外深い付き合いだったかもな」
あたしとユウリ、ミチルの三人で行動してた時期があった。
あいつらは使い魔まで狩るから監視するって名目だった。
もうすぐグリーフシード孕む奴を殺されちゃたまったもんじゃない。
そういいつつも、本当は誰かと一緒に居たかっただけなのかもしれないな。
自分への罰とか言ってマミと別れたのに、あのザマさ。
今思えばマミには悪いことしちまったな。
でもあの時はユウリ達とそんな深い付き合いをしてたつもりはなかった。
『まだ、正義のヒーロー気取ってるのか?』
『あんたがなんでそうしてるかは知ってるけどさ、未だにあたしは反対だよ』
『まぁ頭ごなしに否定しても聞き入れちゃくれないだろうし、あの頃話さなかったあたしの過去を教えるよ』
『意外だろうから、笑い話程度に読んでくれよ』
杏子「あいつらの理屈もよくわかんないもんだったな」
『武器一本で戦ってるところしか見てないだろうから、あたしの固有魔法なんて見当もつかないよね』
『ミチルもミチルで、本当の使い方をしないからわかりにくかったけど、あたしは固有魔法をもう使えないんだ』
『あたしの固有魔法は幻覚だった。俗に云う魔女が使ってた魔法みたいだろ。魔女と呼ばれたこともあったんだ』
杏子「実体のある分身なんて失ってあたしもよくもまぁ持ち直したもんだよね」
『あたしはこう見えても教会の娘だったんだ。リボンの中にロザリオを隠してるのは知ってたっけ?』
『親父が神父?牧師?どっちだかわからないけど、とりあえず日曜のミサとかで説教する人だったんだ』
『新聞の小さい記事のことにも心を傷める正しすぎる人だった』
『正しすぎるあまりに、親父は教義に無いことまで話しはじめた。すると信者はどんどん離れて行ったよ』
『あいつらはあくまでも親父じゃなくて、キリスト教を信じてたわけだからな。別にそれも間違っちゃいない』
『終いには本部から破門された。まぁ正しかろうと、キリスト教でなくなってしまえば当然のことか』
『本部からの金も、信者からの金も無くなれば当然あたしらは食うに困ることになる』
『晩飯が妹と二人でリンゴ一個なんてこともあった。あぁ、あんたの作ったアップルパイ、パイ記事は冷凍の使うのやめた方がいい。パサパサする』
『あの時は、あたしは親父は正しいことを言ってるのにどうしてこんな仕打ちを受けるのか理解できなかった』
『そこに現れたのがキュゥべえさ。最初は不気味で逃げ出したよ。頭に直接語りかけてくる動物なんて……それこそ悪魔みたいだからな』
『間違っちゃいなかったのかもしれない。あたしは結局その悪魔と契約したよ』
『皆が親父の話を聞いてくれますようにってね』
『次のミサからはどんどん人が集まるようになった。当然金も入るようになったからリンゴからアップルパイ飛んでミートパイ、パンも耳以外も食べれるようになった』
『これからは親父が表から、あたしが裏から世界を救うんだって張り切ってたよ。そうだ、その頃のあたしは正義のヒーローを気取ってた』
杏子「はぁ……何度思い出してもこれ、心に来るよ」
「あの……」
杏子「なんだ?」
「よかったらこれ……俺も提出用にさっき緊急で買っただけで、家にあるからあげるよ」
杏子「サンキュ、助かるよ」
おすまし大学生がレポート用紙を一冊まるごとくれた。
カバンでも欲しいな。
『その時出会ったのが見滝原の魔法少女、巴マミさ』
『マミは、あんたらみたいにとにかくボコボコみたいのじゃなくて、それこそ土日の朝のヒロインアニメみたいなそんな戦い方だったよ』
『あいつは自分をそういうのと思い込むことで、自分を鼓舞してたんだ。そういや、ミチルが魔法少女になったキッカケの魔法少女ってもしかしてマミなんじゃないかな』
『最後の大砲だけ印象に残った結果あの戦い方なんだろうけどな、ミチルは』
『銃や大砲主体のあいつのスタイルは近距離のトリッキー、撹乱スタイルと相性抜群だったよ。それこそワルプルギスの夜も倒せるんじゃないかってくらいにね』
『でもある日、教会に魔女が出たせいで親父にカラクリがバレた』
『皮肉にも随分魔女っぽい魔女だったよ。この教会で異端審問でも受けに来たってくらいにね』
『親父はあたしを魔女とさえ罵った。幻覚で無理矢理親父の話を聞かせてたんだから当たり前だよな』
『そっから親父は酒に溺れて暴力を振るい、最後はあたしを残して教会燃やして無理心中さ』
『あたしの祈りが家族をぶっ壊しちまったんだ』
『マミの奴は事故で瀕死になってるところに現れたキュゥべえに助けてって願ったんだ』
『後で思えば家族全員を助けてと言えば良かった、助けられたのに死なせてしまったって言ってたよ』
『だから助けられなかった親への贖罪の為に人を助け続けるって誓ってるらしい』
『あたしと似てると思うかもしれないけど違う。それにあたしは逆方向に考えたんだ』
杏子「『二度と他人の為に魔法は使わない。この力は自分の為に使う。そうすれば壊れるのは自分だけで済む』……」
『マミと別れて、それからだよ。風見野に戻ったのは』
『祈りを否定したから、あたしは幻覚の魔法を使えなくなった』
『それをカバーするためにあたしは武器の腕を磨いたよ。図書館で調べたらあたしの槍はパルチザンって云うらしいな。どっかの突撃隊が使ってたらしい』
『あんたらと出会ったのはその後のことだな。それは今度でいいか。返事待ってるよ』
杏子「『P.S. 手紙を運ぶ伝書鳩になんか美味いもん食わせてやってくれ』っと……これでいいか」
あとは伝書鳩を探すだけだ。
……
魔女の結界でも探せば会えるかな。
……
今までなかったところに巫山戯たデザインのポストが立ってる。
羽が生えたポストなんて怪しすぎる。これはあいつのだな。
杏子「投函。返事楽しみにしてるよ」
けたたましくアラームが鳴る。
「目覚まし時計間違えてかけちゃった……」
「携帯電話のアラーム機能なら曜日設定ができるじゃないか」
叩き起こされたところに、私の『友達』があっけらかんと正論を言う。
まったく……無神経ね。
マミ「……とりあえず朝ごはん」
紅茶を用意しながらトースターに食パンをセットし、冷蔵庫からイチジクのジャムを取り出す。
マミ「……やっぱり怠い」
ふかふかのカーペット、これを掃除するにはサイクロン掃除機の方が良い。
ベッドよりは硬いが、今はそんなことが気にならない程眠い。
マミ「んん……」
胸が圧迫されるのも無視してうつ伏せで寝そべる。
マミ「おやすみー……」
QB「朝食は……」
マミ「あ……紅茶冷めちゃった……」
QB「パンも萎んで外側の固いのだけが残って悲惨なことになってるね」
全部耳のようだ。
マミ「もう!どうして起こしてくれなかったの?」
QB「あんな二度寝の仕方だったら起こすという判断は出来ないよ」
マミ「もったいないから紅茶は再加熱して飲む。風味は飛んじゃうかもしれないけど」
朝日が眩し過ぎて、窓が真っ白になっている。
窓の外なんて見えやしない。
マミ「本当に風味が飛んでる……」
この紅茶のように、私の学校生活も風味が飛んでいて、ただ過ぎ去るだけ。
マミ「でもね……」
机に置かれている紙ナプキンを見る。
そこには鹿目さんと美樹さんと描いた落書き。
マミ「これから仲間が出来ると思うと、この生活も悪くはないと思うの。悪くはないわ」
「返せよ……それはマミさんの物だ!」
「これは魔法少女の物、貴方達には触る資格も無い」
伝書鳩「返事なら来てないよ」
杏子「……そうか」
伝書鳩「もっと送る?」
杏子「お代は?」
伝書鳩「お墓……大事な人が死んだんでしょ?サービスするよ」
杏子「首回らなくなるとか辞めてよね」
伝書鳩「その辺の管理はできるから」
教会の庭の一角に簡単な十字架を一つ立てた。
マミの墓だ。
マミと組んでた頃、ゲーセンで取ったぬいぐるみをその傍に置く。
杏子「……なんであんたが死ぬかな」
「あたしと二人ならワルプルギス倒せるとか云うくらいだったじゃんか……」
教会を後にして、手紙を書ける場所を探す。
二通目、追撃を送るんだ。
街のはずれまで来たみたいで、少し行けばまた見滝原。
……魔法少女の気配。
また縄張り荒らしか。
いや、ギリギリ見滝原か。
先輩としてちょっと教えておくべきかな。
見滝原ってことは、マミの後継者だったか?それともイレギュラーの方か。
マミの後継者って言ってもどうせ……な。
マミやユウリは特殊なタイプなんだ。
杏子「へぇ……カットラスをマミみたいに大量に出すのか」
ちょっかいかけてやるか。
あいつが追いかけてるのは使い魔だしな。
杏子「ちょっとちょっと、そいつ使い魔だよ?」
風見野とあすなろの境辺りにやってきた。
始めてユウリ達と会ったのはこの辺りだったかな……
あの青い奴みたいに、あたしに食い下がってさ……いや、さっきのまで強情じゃなかったけど、相手もあたしも。
杏子「使い魔に食われる程の奴は、ほっといても死ぬ……」
イレギュラーのほむらとかいう奴にロッキーを三本くらいあげちまったし、コンビニに次のを買いに行くかな。
杏子「酒屋でいいか……菓子は置いてたはずだし」
ここはあすなろ臭い品揃えだ。
風見野はジジババが多いけど、あすなろは見滝原とは違うタイプの若者が多い。
見滝原は都会、あすなろは田舎のオアシス街って感じだ。
だからあすなろは流行りに敏感だ。
そんでもって、それを知ってて変な物を流行らせようとする店もある。
杏子「あーあー、知らないよこんな売れなさそうなもんいっぱい仕入れてさ」
変なフレーバーのチョコを注射器みたいな物に詰めた物だ。
注射器という形状に引っかかり一個買ってみる。
ニヤニヤしている店長を軽く鼻で笑い、酒屋を出る。
まずは舌を出し、その上に垂らしてみる。
……
杏子「何味だよこれ……チョコならチョコでいいじゃんか」
パッケージを見るとミックスフルーツと書かれている。
原材料名に果物の名前は無い。全部香料か。
その後はピストンを使わず無理に吸い出す。
魔法で身体を強化することに慣れているせいか、こうやって肺活量を上げることくらいは殆ど魔力を使わなくてもできるようになった。
杏子「ちょっとあすなろを見に行くか」
ポスターが落ちている。
『水色のマフラー 飛鳥ユウリvs.愛と情熱 スライス秋山』
『あすなろ市開催 キッチンファイト 後援 テレビ旭』
杏子「決勝戦じゃんかこれ。いつだったんだ……あ、過ぎてるか」
落胆。ユウリの料理の腕は十分に知っている。なんであいつホテルの厨房に顔パスで入れるんだとも思ったな。
魔女狩りの時に弁当持ってきてて、それも美味かった。ミチルもミチルで上手かったけど、ユウリはそこいらのレストランに押し入って厨房ジャックできるんじゃないかってくらい上手い。
杏子「手紙の返事来ないし会いに行ってみるか」
あたしはミチルの家は知っていてもユウリの家は知らない。
伝書鳩の野郎みたいに片っ端から探してみても良いけど、タウンページやらを見る限り飛鳥さんは結構多い。
……ユウリの行きそうな場所でも行ってみようかな。
ドームとか公民館に行ってみたもののユウリの姿は無い。
赤い制服の学生を何人も見たが、やはり見当たらない。
そういえば白女も赤い制服だったな。
ユウリもミチルも推薦で高等部から入れるんじゃないかな。
ユウリは見つからないし、ミチルに会いに行こう。
あいつの行動パターンはユウリより単純だ。
マミ以上の派手好きで、破壊光線だけじゃ飽き足らず雷のように落とすともあった。
つまり現れるのはビルの屋上や一本入った路地とかそういう『それっぽいところ』
さて……ミチルはいるかな。
ミチルはもう魔法少女の活動をしている頃だろうか。
それとも案外課題とかに追われてたり……あたしも中学行ってみたかったな。
とりあえずさっき言ったような場所を探してみよう。
杏子「……居ないな」
様々な場所を探してみたが、疲れるだけ。
あとはノーマークだったとこか。
杏子「テディベア美術館……こんなのあったか?」
アンジェリカ・ベアーズという名前の建物。
中から雑多な魔力の臭いがする。
テディベアと言ったら、先日マミの墓に、あたしがUFOキャッチャーで取ったテディベアを供えてやったな。
それがあってか少し気になった。
杏子「入館料は無いみたい……だね。お邪魔しまーす……」
建物内にはナンバリングされた七百匹程のテディベアがある。
こいつらからは魔力の臭いはしない。ただ、少し涙の臭いや、特別な想いは伝わって来た。
……。
奥から魔力の臭いがする。
……あと僅かにオゾンの臭いも。
杏子「奥は……」
「ちょっと待った」
人当たりの良さそうな声が聞こえたと思うと、肩を掴まれる。
カオル「悪いけどそっちはスタッフオンリーなんだよね」
杏子「わ、悪いな……」
爽やかな奴が出て来たな。マミのと似たような色のソウルジェムの指輪をしてる。
魔法少女か。
杏子「……あんた、魔法少女か」
カオル「……あぁ」
杏子「この奥からさ、雑多な魔力がプンプン臭うんだよね」
カオル「ここはあすなろの魔法少女の徒党、プレイアデス聖団の拠点だからな」
プレイアデス聖団……どっかで聞いたような……
鳴呼、ミチルだ。あたしとユウリと一緒に居た時にそんなこと言ってたな。断ったけど。
杏子「……ミチルを知ってるか?」
それを聞いた相手の顔は……苦虫を噛み潰した後に青虫を実際に噛み潰したのを無理やり我慢した顔だ。
カオル「……知ってるよ」
杏子「今、あいつがどこにいるんだ?聖団とか名乗ってるってことはあいつの知り合いだろ?」
少しあたしは必死になって聞いてたんだろう。
マミを失って、少しでも知り合いが生きてるのを確かめたい。
結局は甘っちょろいんだ。
カオル「あいつはもう……」
……ウソだろ。
……ウソだよな?
奥から声がする。
……ミチルか!?
杏子「ミチル……!」
あたしは奥へ駆け込もうとする。
カオル「やめろ!見ちゃいけない!」
杏子「なんで止めんだ!」
カオル「お前のタメだ!」
杏子「わっけわかんねぇ!」
あたしがこのスポーティ女を振り払って覗いた部屋の中には、無数のカプセルの中に少女が入っている光景。
杏子「なんだこれ……」
カオル「……お前今すぐ逃げろ。里美やみらいに見つかる前に……」
あたしは言葉を失ったまま、部屋を見渡す。
ミチルは居ないか……。
居た。部屋の一角に、魔女の体液を浴びたままぐったりしたミチルが。
カオル「早く逃げろ!」
杏子「……え」
半ば放心状態だったあたしは気付いたら建物と少し離れた雑貨屋の裏に居た。
カオル「もしかしてミチルの日記の赤髪か?」
杏子「……あたしだね」
カオル「残念ながらミチルは死んだよ。あとさっきのはミチルじゃない」
杏子「じゃあ……」
カオル「……あんまり深入りしない方が良い。里美に見つかったら面倒だから」
……
その言葉の途中であたしの影が大きくなったと思ったら、少し頭に痛みを感じた気がした。
杏子「ミチルまで死んじまったのかよ……」
「ユウリ、お前は生きてるよな……?返事くれよ……そもそも届いてるんだよな?」
あたしは風見野に引き返して、二通目の手紙を書くことにした。
海香「あの子はミチルの日記の……」
カオル「……多分ね」
海香「……私が居なかったら間違いなくあの子もレイトウコ入りだったわね」
カオル「助かったよ海香」
海香「でも……」
カオル「風見野の魔法少女だから大丈夫。だと信じたいね」
海香「……」
この間と同じカフェで、カプチーノとチョコクッキーをオーダーし、席につく。
この間とは別のおすまし大学生が居ると思ったが、こいつはニセモノだ。
周りの目線を気にしているのがバレバレ。
レポート用紙を取り出し、封筒を作り始めたあたしを睨みつけてきやがる。
この場所にプライドを持っちゃってるタイプだ。だったらチェーン店なんか来るな。
チョコクッキーのボリュームが半端ない。流石一枚で売るだけはある。
マシュマロが入ってるのもあるが、あたしはマシュマロは素のパサパサした方が好きだから、普通のチョコクッキーで。
杏子「さて……食べこぼしたらチョコが付くから気をつけないとね」
例の大学生があまりにも鬱陶しい目線を向け、口を三角にしてやがるから、ガン飛ばしてやったらコーヒー噴き出して慌て出しやがった。ガキ相手に何ビビってんだか。
杏子「あー……出だしは皮肉っぽく……」
ペンを握る。
見滝原からパクってきた加圧式のスグレモノ、コーヒー零しても書けるとか。
零さないけどね。
『親愛なるユウリ様へ』
『もうすぐ夏になるのにも拘らず、寒がりで頸がビンカンなあんたは相変わらずマフラーを巻いていることでしょう』
『下手したら夏でも発汗用にマフラー巻いてるんじゃないかって思ってるよ』
『あたしは相変わらず靴下が嫌いでね、不倫は文化だと思ってるよ。ミチルの魔法の性質の破戒は文化遺産だね』
杏子「ちょっとブラックか……?まぁいいや」
『この間書いた見滝原の魔法少女、マミが……くたばりやがりました。聞いた話だと一般人連れ回して調子に乗ったところを魔女に食い殺されたらしい』
『他の魔法少女がその一般人を助けて、魔女を倒したみたいだけど、その一般人が一人契約しやがった』
『あんたと同じ、ダチの治らないものを治すために契約したらしい。そんでもってあんたと同じく正義の味方やるって張り切ってたよ』
『でも魔法少女の真実を知ってどんどん意気消沈してってるんだ』
杏子「ユウリもヘコんだりしないかな……いや、そんなタマでもないか」
『なぁ、知ってたか?魔法少女ってのはソウルジェムのことで、死体をそれで動かしてるだけなんだってさ。ゾンビみたいなもんさ』
『嘘だと思うかもしれないけど、ソウルジェムだけは大事に扱えよ。壊れたら死ぬらしいからさ』
『死ぬと言えばもう一人死んだんだよな……あんたはもう知ってるかもしれないけど、ミチル、死んだんだってな』
『プレイアデス聖団とか言うのにあんたも入ってたのか?あいつも仲間が出来て油断したのかな』
『だからあたし達みたいに付かず離れずくらいが良いと思ったんだけどな……』
数ヶ月、あるいは一年と数ヶ月前
杏子「いいか?使い魔に食われるような奴ってのはほっといても自殺しちまうんだ」
「だったらさ、せめてあたしらの糧になってもらった方が良いじゃん?」
ミチル「……成る程」
ユウリ「ちょっとミチル?」
あたしらはあの酒屋の近くに出来た使い魔の結界で出会った。
杏子「タダでさえ縄張り荒らしだらけでグリーフシード取られて困ってるのに、使い魔まで狩られちゃあ、この街が枯れちゃうじゃんか」
ミチル「……だったらこの街、私たち三人で独占しない?」
ユウリ「寡占……じゃない?」
杏子「……は?」
杏子「だぁぁ!!それは使い魔の結界だ!」
ミチル「そうなの?」
杏子「全然安定してないし、すぐわかるだろ!」
ユウリ「……見境無く片っ端から狩ってたから知らなかった」
杏子「ったく……」
実力の割には無知すぎたよな。
キュゥべえはあんまり教えてくれないから無理も無いか。
杏子「魔女の結界……だな」
ミチル「魔女の周りに使い魔が居て邪魔だね」
ユウリ「……任せて」
ガトリング注射器なんて変な武器使うのは有史以来多分あんただけだっただろうね。
ミチルとあたしの武器は似てた気もする。
杏子「映画かよ……!」
ミチル「おぉ!」
掃射で使い魔を片付けるまではまだわかる。
でもな……
これは驚いた。
ユウリ「ちくっと……するよ!」
急に接近したと思ったら六本の針を魔女に突き立てて、内側から破裂させやがった。
杏子「ほぁ……」
ユウリ「ミチルみたいに遠くからデカいのは出来ないんだよね……」
ミチル「だから一緒に居るんじゃん!カバーねカバー!」
ミチル「リーミティ・エステールニ!!」
破壊光線が魔女を消しとばす。
映画や漫画で食らったらゴミの様に死ぬアレだ。
杏子「……ちょっと自信無くすよ」
ヒーローっぽいのは全員必殺技を持ってるのかね。
ユウリ「杏子は派手さは無いけど、武器の扱いなら杏子以上は見たことないよ」
ミチル「杏子も少し派手な動きしない?舞でも踊ってるみたいな」
……あたしもマミのことが頭に染み付いてたんだな。
杏子「何食ってんだ?」
ユウリ「これ?がっつり晩御飯用のクレープ」
「杏子がいつも何か食べてるからあたしも食べようかなってね」
杏子「へぇ……一口くれない?」
ユウリ「いいよ、召し上がれ」
なに考えてるんだかよくわからないっていうか、楽観的っていうかさ……
まぁあたしみたいに変な過去も無いし……
杏子「うまっ…!」
「どこで買ったんだ…?あすなろのクレープ屋ってどこも……ショッピングモールなんて食べる度にお腹壊すくらい酷いし……」
ミチル「ノンノン、これは……」
その時のユウリの得意気な顔って言ったら……
ミチル「ユウリが作ったの」
杏子「嘘だろ?こんな美味いもん毎日食えたらそりゃ幸せだろうな……」
今思い出したら凄いはずかしいセリフだな。
杏子「思い出したら案外楽しかったな……」
「別れは……ああ、ああ……」
「……続き書くか」
……
杏子「あのイレギュラー……何考えてるんだろうな。大物ハンターには見えないし」
「……腹減ったな」
『今でもあたし自身は正しいと思ってるけどさ』
『あのことはホントにすまないと思ってる』
『あたしの思い込みであんたらの……』
『愛想尽かして別れるのも仕方ないよな』
杏子「……」
『でも、返事待ってるよ。ミチルも死んじまったんだ、線香の一本くれてやりたいんだ』
杏子「頼んだ」
伝書鳩「届けるけど、反応が無いんだよね」
杏子「まぁあいつは学生だからね」
伝書鳩「でも……とりあえず届けるよ」
伝書鳩はあたしにカセットテープレコーダーを渡す。
ダークなグレーのプラスチックが自己主張している。
一応ラジオ機能がついているみたいだけど、聞く機会は無いだろう。
電池がもったいない。
伝書鳩「新しいサービスのテストなんだけど、次はこれでどうかな?」
杏子「お代は?」
伝書鳩「テストって言ってるじゃん?」
杏子「……成る程ね」
地下鉄の駅を剣を引きずり歩く。
ご自慢の超回復で傷は無いけど、乳酸のたまりきった脚。
目にはもう光は無く、肩は不規則に震えている。
さやか「……なんでもん買ったんだっけ」
力の抜けた左手からスチール缶に入ったコーンポタージュが落ちる。
コーンが缶に残らない新設計らしいが、開けないまま冷めてしまった。
落とした缶を拾わず、地下鉄の駅の深奥に向かう。
小さい頃は、下水道と繋がったりしてて冒険出来るダンジョンにでもなってるのかと思って、恭介とまどかを連れてひたすら歩いたこともあったっけ。
まさか隣の駅と繋がってるとは思わなかったよ。知らない街に出てまどかは半泣きになるし、恭介は泣いちゃうし……
さやか「……使い魔だけか」
カエル人間……?のような使い魔を稲妻を纏ったカットラスで叩き切る。
さやか「……次」
なんとなく今なら転校生があたしにグリーフシードを渡そうとし、それを拒んだら殺そうとした理由がわかる気がする。
多分濁り切ったソウルジェムは魔女を産む。
グリーフシードとソウルジェムもよく見れば似ている。
思い出せば、殺そうとした時、マミさんが殺された時と同じ目をしていた気もする。
あたしは多分もうすぐ魔女になる、もうグリーフシードで浄化なんて出来ない。
さやか「でも……それも悪くない気がする」
この世界なんて守る価値は無い。
どうせあたしが魔女になったところで、そんなに強くないだろうし、すぐ倒されちゃうよね。
少しくらいこの世界を呪っても……
杏子「こんなところに居たのか」
……
さやか「あたしってホント……バカ」
波打つ線路の上を蒸気機関車が走り、バイオリンだけの歪の楽団が産まれる。
杏子「おい……なんだよコレ……」
さやかの身体は、この間と同じくピクリとも動かない。
ソウルジェムは見当たらない代わりに、ひしゃげて穴が空き中身が飛び出たグリーフシードと、汚いガラスか何かの破片がある。
杏子「……テメェ……さやかに何しやがった!?」
……イレギュラーに連れられ、結界を抜けた。
時間停止……面白い魔法じゃん。
何を願ったらそんな魔法になるんだか。
……
さやかの身体を保たないと……ソウルジェムを取り戻せた時に本当にゾンビゾンビした身体になってたら、きっとあいつはソウルジェムを砕いちまう。
伝書鳩「……返事は来ないよ」
杏子「……明日、録音する」
伝書鳩「ねぇ、ユウリって人もその子みたいに……」
杏子「あいつはそんなタマじゃねー……」
「あいつはあたしより強い……強いんだ……」
腹を決めろ、佐倉杏子。
いや、杏子。
カセットテープレコーダーをポケットにねじ込み、端子を差し込みマイクを襟に取り付ける。
杏子「……良いんだな、あんたの安全も保証できない」
まどか「もう……慣れっこだから」
杏子「いいか、魔法少女になるべきなのは他に選択肢の無い奴だけだ」
ユウリ、お前はそうだったのか?
その、余命三ヶ月のあいりとやらのために……
そのあいりはあんたの気持ちに応えてくれたのか?
ミチル……願いは知らないけど、あんたも……魔女になっちまったのか?
杏子「同情やらそんな気持ちでなろうってなら、そんなのあたしが許さない」
「いの一番にぶっ潰してやる」
まどか「……うん」
さやかみたいになる。
そんなもん目に見えてる。
赤い通路。
奥には扉、壁にはモニター。
さやかの記憶が映し出されてる。
まどか「わたしの声……届くかな」
杏子「ダメだったら諦めるのか?」
こいつが多分あのイレギュラーが守りたいもの。
だけど、さやかを助ける為には多分こいつの力が居る……さやかを助けることがあたしの希望……
ユウリも既に……多分そうだ
わかっちゃいる。あいつが手紙貰って返さないような性格とは思えない。
……
あのイレギュラーを裏切ることになるけど、許してくれ。さやかを助けられなかったら多分あたしは……
杏子「……来るぞ!」
扉が勝手に開き、足場ごと吸い込まれる。
杏子「……打ち合わせ通り頼む」
まどか「うん……!」
鎧人魚が指揮をする様に剣を振りかざしている。
趣味の悪い程にゴツい鎧だ。
誰も居ないお屋敷に現れた鎧の魔女のはもっとシャープだったのにさ。
まどか「さやかちゃん!聞こえる!?」
恐らくあたしの声は届かない。
届くのはまどかと……あの坊やか。
いや、まどかの声すら認識していないのか。
バイオリンだけの歪な楽団の奏でる悲しげな音楽に夢中な魔女は、まどかの声をうるさいと思ったらしく、車輪を降らせる。
無言で車輪を槍で弾き飛ばす。
あたしじゃさやかは助けられない。
いくら喚いても雑音だ。
まどかなら届くかもしれない……
少しブラックだけど、続ければ気付いてくれるかもしれない。
まどか「気付いてさやかちゃん!」
「さやかちゃんもこんなの嫌だったはずだよ!」
それでも魔女は聞かない。
魔女なりの意志でもあるのか。
鳴呼、マミと別れた時のあたしだ。
頑なになって結局マミを一人にして、自分はユウリ達と……
それでどうなった?
結局あたしはマミのところには戻れなかったじゃないか。
考えるな、杏子。
やるのはあたしじゃない、まどかだ。
あたしは車輪を撃ち落とすだけで良い……
まどか「さやかちゃ……きゃっ!?」
まどかの前に車輪が連続で落とされやがった。
杏子「てめぇ……相変わらずよっぽどのわからず屋みたいだな」
楽団員を切り刻む。
ざまぁみろ、てめえが聞くのは坊やのコピーの音楽じゃなくて、親友の声だろうが。
魔女は叫び声をあげる。
それはそれは悲しい声……
早く目ぇ覚ませよ……
まどか「やっ……嫌ぁぁっ!!」
魔女はまどかをつかみ上げる。
その手付きは今にも握り潰さんとしている物だった。
杏子「ヤロォォォッ!!!」
防戦一方だったが、我慢ならなくなった。
奴の腕を落としてやった……へへっ……
杏子「そういや、あたしら、最初は殺し合う仲だったっけ」
ポケットの中のレコーダーの録音ボタンを押し、マイクのケーブルに魔力を注ぎ、切れないようにする。
杏子「……年貢の納め時かな」
かなり濁ったソウルジェムを見る。
そういや、グリーフシードはさやかの身体に使っちまったんだったな。
『信愛なるヒーロー気取りのユウリ様へ、これがてめぇに出す最期のメッセージだ』
『あたしが望んでたのはただ一度の返事なのに、それを返さねえたぁいい度胸じゃねえか』
まどか「杏子ちゃん!?」
杏子「……下がってろ」
『ユウリさんよぉ……あんたがくたばるようなタマじゃないことは知ってるよ?』
『まだにそんなに怒ってるのか?あのことを』
『確かにショックだったけどさ……そこまで無視することないじゃんかよ』
『あたしとてあそこまで強い口づけの使い魔が居ると思ってなかったよ』
『確かにあたしが殺したようなものだよ……あんたらに嫌われるのも仕方なかった』
『……でもよ…!この!』
杏子「てめぇ邪魔すんじゃねえ!」
魔女の剣を弾き飛ばす。
勢いは少なくとも、杏子は確実に動きを止める方法を知っている。
杏子「……」
『……マミとミチルが死んで……さやかは魔女になって、イレギュラーは心を開いてくれない』
『あんただけが……あんたが……』
『……そのルーキーが魔女になっちゃってさ。魔法少女が魔女になるんだってさ、ケッサクだこりゃ』
『で、今そいつを元に戻せないか頑張ってるところ』
『いや、今さっきそれを諦めたところ……かな』
『魔女になっても戻すことはできないんだ、あんたがなったとしてもあたしは相変わらず力になってやれない』
あー……今ならあのイレギュラーが何考えてるか判る気がする。
『力になれないと言えば……もうすぐこの街にワルプルギスの夜が来るらしいんだ。それと戦うことになってたんだけど……』
『無理っぽいな。あたしは多分ここで死ぬ』
『気がかりはそのことくらいだ、他はあたしには何も無いからな』
『別に大物を狩ることが目的じゃない、ほっとけないのがもう一人居るんだ』
『自分のこと考えて突っ走っちゃった結果、そいつを裏切ることになっちまったんだけどさ……』
『あいつにはワルプルギスを倒す戦力が必要なんだ、もし良かったら力を貸してやってくれ』
……何言ってるんだろうな、多分ユウリだってとっくにくたばってるのにさ……性懲りも無くメッセージなんて……
『ああ……そろそろお別れだ』
『キリスト教的にはそんなものは無いけど、生まれ変わったら……今度は真っ当な友達になりたいな』
『その時はさ、また美味いもの食わせてくれよ』
『じゃあな』
……
杏子「……」
コンサートホールの床に穴が空き、あたしは階下の床に叩きつけられていた。
魔女は黙々と、あの坊やそっくりの使い魔を見つめている。
あたしのソウルジェムは……真っ黒だ。
まどかは……
ほむら「……」
杏子「……悪い、あたしのワガママに付き合わせちまった」
カセットテープに夢中で気にしていなかったけど、血だらけだこりゃ。
多分内臓も一個くらい持ってかれてる。
……そういや、カセットテープ誰が伝書鳩に渡すんだよ。畜生……
杏子「あんたはそいつを連れて帰れ。こいつはあたしがカタつける」
「守りたいもの、あるんだろ?」
「たったひとつ……守り抜けばいい」
杏子「……あたしにはそれすらできなかった!」
ほむら「!?」
杏子「マミも…ミチルもユウリも……さやかまでこのザマだ!」
「てめぇだけは間違えるな!たったひとつでいい……それだけでいいから……!!」
「頼む……もう他に……」
ほむら「……」
「早く行け……」
ほむら「……でも」
杏子「行け!!」
イレギュラー……いや、ほむらに黒のリボンとカセットテープを投げつけ、結界を張る。
杏子「……行ったみたいだな」
ソウルジェムをロザリオに込め、巨大な槍を召喚する。
杏子「わからずやのさやかさんよ、そんな坊やの影なんか見てないでさ」
「こっち見ろよ、一緒に居てやるからさ」
マミ、今そっち行くよ。
ユウリ、ミチル、あんたらは居るのかな?
ほむら「……ぎょうごぉ……」
カンナ「……ユウリ、私の話を聞いてるのか?」
ユウリ「……ユウリの家のポストに手紙があってな」
「それを読んでるんだ。だから聞いてない」
カンナ「……後に出来ないの?」
ユウリ「別にあんたもいつもスマホいじってるじゃないか」
カンナ「まぁそりゃそうだけど……」
カンナ「誰からなんだ?」
ユウリ「ユウリの知り合いの魔法少女」
「風見野の亡霊……だっけ」
カンナ「鳴呼……知らないことは無いね。ミチルと三人でよろしくやってたみたいだし」
ユウリ「……あたしも返事書こうかな」
カンナ「好きにすれば……もう」
『よう、杏子』
『忙しくて返事を書けなかったんだ、何よりポストが正月以外に機能するとは思ってなかった』
『返事遅れてごめんな』
カンナ「白々しいこと書くね、本物のユウリは死んだのに」
ユウリ「だってあたしが今はユウリだし……」
『あんたにそんな過去があったなんて予想もしなかったよ。あたしはてっきり……いや、なんでもない』
カンナ「なんでもないなら口頭じゃないんだから書かなきゃ良いのに……」
ユウリ「皮肉ってやつだよ」
『マフラーは今は巻かないようにしてるよ。少しは慣れた方が良いとおもってね』
カンナ「露出狂が何を言う、慣れたら湘南でも行くのか」
『あたしも冷凍のパイは嫌いだ、唇に付く。別にキスの予定は無いけどね』
『もしあんたにそのケがあるなら頬っぺたくらいならしてやってもいいよ?』
『あたしも最近はジャンクフードばっかなんだ。大会を欠場してからは罪悪感とかでキッチンに立てなくなっちゃって……』
『憧れの秋山さんとの対決だったのにさ……正義のヒーロー気取ってたら自分のことが疎かになり過ぎた』
カンナ「……どれどれ……こいつも中々悲惨だね。本物と偽物で言ったら異物って感じかな」
ユウリ「……その異物のこいつもユウリのことが好きだったんだろうな」
カンナ「以前の私がユウリに会ってたらアメリカンに絡んでただろうね」
ユウリ「ポテトこの量あると味に飽きるな」
カンナ「塩分過多になるからナゲットのソースかけるかも迷うね」
『あたしは宗教に関してはイフユーヘルプミーアイビリーブユーのスタンスだからよくわからないけど、食い物粗末にしたらバチが当たるのは信じてるよ』
カンナ「私は一応プロテスタントだね」
ユウリ「白女の提携してる男子校は仏教系で、昼休みに半裸で体操だってさ」
カンナ「進学校の男の体なんて[ピザ]かアバラ浮きだろう?」
ユウリ「……否定はしない」
『ヒーローは派手好き、否定はしないよ。魔力の無駄遣いにならないラインを弁えるべきだとは思うけどね』
『あすなろの小児科はもう重病人しか残ってないよ。少しやり過ぎたかな?』
『ワルプルギスのことはあんまりわからないけど、あたしもパートナーに恵まれればチャンスあるかな』
ユウリ「……カンナじゃ無理だな」
カンナ「まず私にはそれと戦う理由もないし」
ユウリ「硬化魔法パクってなかったら身体能力最弱クラスだし」
カンナ「……うるさい」
『パルチザンってなんだかパルメザンみたいだな。粉チーズは臭いから臭くないチーズを大根おろしの奴で代用品を作ってたよ』
カンナ「今はもっぱらチーズバーガーのスライスチーズと、ナゲットのチーズソースだね。後者は臭いし」
『あたしらワケあって武器を替えて今は2丁拳銃使ってるんだ。ダーティハリーも真っ青さ』
カンナ「この子ダーティハリーわからないと思う」
ユウリ「ショットガン2丁拳銃は出来ないことは無いけど、ショットガンが無いからターミネーターは不適切だと思って」
『靴下履かないと靴が臭くなるから気をつけなよ。足も連鎖的に臭くなるらしいし。花も香る乙女が臭いなんて嫌でしょ?』
『魔法少女の真実についてはあたしもミチルが死んだりで知ったよ。ソウルジェムが無い身体の死因は一体なんてことになるんだろうね』
『真実そのものより隠されてることに腹が立つよ』
ユウリ「ユウリならきっとそう言う」
カンナ「私は全部聞いてから契約したけどね」
『……あたしはプレイアデスには入ってないよ。あの後』
カンナ「ミチルとユウリの二人で喧嘩したらしいね」
『ミチルと喧嘩別れしたんだ』
ユウリ「誰があいつらの仲間になるものか……!」
カンナ「杏子は何も知らないんだ、責めてやるない」
『ただ、あんたのことはもうあたしは何も怒ってないよ。そうだあたしがまたキッチンに立てるようになったらまた会わないか?』
『ハンバーガーを自分でも作ってみたくなったんだ。机上でならレシピ考えたりくらいはできるし、頑張るよ』
『だからあんまり辛気臭くならないでくれよ』
ユウリ「……先が思いつかないな」
カンナ「じゃあ少し話しながら休憩でも……」
「ニセモノ同士仲良くしようじゃないか」
ユウリ「そういえばプレイアデスが壊滅したらその後、どうするんだ?」
カンナ「旧人類を滅ぼして私達ヒュアデスが真の人類となる」
危うくコーヒーを手紙にぶちまけそうになる。
真顔でふざけたことを言う女だ。
ユウリ「ツッコミどころが多すぎるんだけど……まず、あたしもその…釣鐘座に入ってるのか?」
カンナ「劇団名みたいに言うなよ」
「君だって偽物だろう?」
ユウリ「そりゃそうだけど……」
「それに滅ぼすなんて大そうなこと考えるな。滅ぼした後に何が残るとか考えてるのか?」
カンナ「……」
ユウリ「あんた頭良さそうでバカだよね」
ユウリ「絶対あんた最後自滅するタイプだよ」
「デカい野望の時点で」
カンナ「うるさいな……」
「君はどうするつもりなんだ?」
ユウリ「……七人相手にハナから勝つつもりなんてない」
「刺し違えてでも、一人でも多く殺してやるつもりだ」
カンナ「……捨て駒にでもなるつもり?」
ユウリ「……ああ」
カンナ「杏子が知ったら悲しむだろうね」
ユウリ「あんたがの間違いだろ」
カンナ「HAHA」
ユウリ「なんだその笑い方」
カンナ「大きな野望の上に高笑いだと小物臭がするから、アメリカンに」
ユウリ「……万が一にも生き残ったら、風見野や見滝原に行こうかな」
カンナ「見滝原ね……手紙にもあった通り大ベテランが一人死んだ他に、二人魔法少女が死んだらしいね」
ユウリ「……どこで知った?」
カンナ「ベテランが死んだらしいからちょっと顔出した時に……あれ、何から聞いたんだ、ジュゥべえ?」
ユウリ「……冗談でも言っていいことと、悪いことが……」
ガタッ
……
ファストフード店のイートイン入口に赤い長ランの女が倒れてる。
誰も寄ろうとしないで、ザワザワするだけ。
離れる人さえ居る。
カンナ「……魔法少女だね」
ユウリ「聖団か双樹にでも襲われたか」
「ちょっと行ってくる」
ユウリ「おい、あんた大丈夫か?」
伝書鳩「……飛鳥……ユウリさんですか?」
ユウリ「?……あたしに用か?」
伝書鳩「……佐倉杏子さんから……」
そいつはカセットテープレコーダーを一つ取り出してあたしの手に握らせた。
伝書鳩「…ぃ…ん……」
ユウリ「……おい!」
カンナ「限界が近い。こんなところで魔女を孵すわけにも行かない」
「場所を替えよう」
人の居ない公園のグラウンドのベンチに、長ラン女を寝かせてカセットテープに録音されたものを聞く。
カンナ「返事貰えないからやっぱり嫌われたと思ってやり口変えたんじゃない?」
ユウリ「なんか悪い気がするな……」
……
……
カンナ「……」
ユウリ「……おい、あんた。これはあいつの冗談だよな?」
女は力無く首を横に振る。
カンナ「死んだ二人って……辻褄が……」
ユウリ「嘘……だよな……?」
伝書鳩「……亡くなられ……」
……
ユウリ「現在未来を奪われたユウリから……」
「過去まで奪うというのか……!!」
ユウリ「何故ユウリばかりがこんな目に合わなきゃいけない?」
「それになんだ!?魔女は不可逆だって!?」
「じゃああたしは……私は!!」
カンナ「……」
ユウリ「……あんたも今までなんで黙ってた」
カンナ「いや、知ってて尚恨んでるのかと」
ユウリ「……だよな」
ユウリ「悪い、やることが出来た」
カンナ「おい……!」
ユウリ「あんたの言うとおり、知っても尚聖団への憎しみは消えない」
「でもそれ以上に私は……あたしは飛鳥ユウリなんだ」
「自分で望んでユウリの偽物になったくせに、料理もロクにできないし、あんないやらしい衣裳着て……」
「ユウリらしいことなんて少しもしなかった。漸く見つけたんだ、止めないでくれ」
カンナ「……望まずに偽物になった私には理解しがたいね」
ユウリ「あんたのことは良い友達だとおもってるよ、でもあたしは所詮人間だったみたいだ」
カンナ「……」
ユウリ「そいつ、どうにかしといてやってくれ」
カンナ「生きて……帰ってこいよ」
ユウリ「ははっ、保証しかねる」
コルノ・フォルテ
牛を具現化し、見滝原へ向かう。
ニュースになろうが知ったことではない。
カンナ「……ニセモノの享受か」
「唯一の友達が正義に殉ずるなら、ジェノサイドなんて企むのは辞めた方が良いのかな。ユウリの顔に泥を塗りたくは無いしね」
まどかに未来から来たなどと言ってしまった。
まどかはわけがわからないなどと言った顔をしていた。
当然のことだ。
わかってなんてもらえない。
わかってくれたのは、約束の一ヶ月のまどかと……わかってくれても、その度に死んで行った杏子。
だから誰にもわかってもらう必要などない。
まどかのお父さん直伝のココアを淹れたけれど、ボケッとしている間に冷めてしまっている。
味が落ちるのはわかりきっているが、捨てるわけにも行かないので再加熱はする。
インキュベーターの言うとおり、私一人では敵うとも思えない。
あの長ランの少女は、美樹さんの魔女化でソウルジェムを真っ黒にしていて、戦力になってくれることは期待できないし、何よりこの街の魔法少女ではないから逃げるだろう。
しかし私は戦わなければならない。
諦めてしまえば、私は魔女になるだろう。
戦わなければ、まどかが契約し地球が滅ぶだろう。
遡行すれば、まどかにより大きな因果を背負わせることになるだろう。
インキュベーターの支援機関などがやってきてまどかを連れ去り無理矢理契約させるかもしれない、可能性はゼロではない。
……
ほむら「でもどうしろって言うのよ……」
ワルプルギスの夜までにベテランが二人とも生きて見滝原に居たことはない。
そして毎回、まどかは屋外に出てきて契約する、もしくは瓦礫に潰されて死んでしまう。
……
加熱しすぎたココアをちびちび飲みながら、精一杯勝てるビジョンを思い浮かべようとする。
……ダメだ。一人では全く勝てる気がしない。
ほむら「……」
ホログラム映像の一つを見る。
あれは……三周目のことか。
ほむら「その……爆弾以外の武器って何か無いかな……って」
杏子「へぇ……自分で武器が出せないから、武器が欲しいけど、身体も強くならない……」
「ついてこい」
ほむら「は、はい……」
杏子「でもなんであたしなんだ?マミとかは教えてくれなかったのか?」
ほむら「巴さんに言われたっていうか……」
杏子「あー……あいつも後輩他に二人抱えてて大変なのか。特にあの青いのとか手を焼きそうだな」
「なんだったらあたしと組まないか?」
ほむら「……」
杏子「いや、無神経だった……忘れてくれ」
杏子「ここだな」
ほむら「そんな……ここってヤのつく……」
杏子「そうだな」
ほむら「盗むなんて……」
杏子「守りたいもののためなら少しくらい手を汚せ、潔癖すぎるとあの青いのみたいになるぞ」
ほむら「でもバレたら……」
杏子「その時はあたしがチンピラ共を返り討ちにしてやる」
ほむら「じゃあ……いってきます」
ほむら「とってきました!」
杏子「よし、見せてみろ」
畳の部屋に銃をはじめとする戦利品を広げる。
杏子「なんだあそこの事務所は武器オタクでも居るのかな」
ほむら「拳銃ってこんな大きかったんですね……」
杏子「それが特別大きいだけだからね……ショットガンにスナイパーライフル……そんな抗争酷かったかここ?」
ほむら「あとこれ!かっこいいから取ってきちゃいました!」
日本刀。
さやかの大量生産カットラスと違い、一振りに職人の魂が篭っていて、ほむらの盾の様に侍はそれ一振りを一生使うのだろう。
杏子「あんたの力じゃ使えないだろうけどね」
ほむら「ですよね……」
……
マミ「ソウルジェムが魔女を産むなら死ぬしかないじゃない!」
「貴方も……私も……!!」
ほむら「……そうね、ヤクザの事務所なんて言われなきゃ……」
「あの武器の数は趣味なのか、魔女の口付けのせいなのか。巴さんなら、知ってるかもね」
……
ほむら「こっちは……」
杏子「行け、避難所が潰れた今、あんたに戦う理由は無いよ」
ほむら「杏子……貴方は」
杏子「あたしは引っ込みつかないだろ?折角あいつが命を投げ打って大打撃与えてくれたのにさ」
「あんたにはやるべきことがある、あんたはそっち優先」
ほむら「……最初に助けてくれたのがもし、杏子、あな……」
杏子「早く行け」
「……次のあたしによろしくな」
ほむら「……」
もし、私に未来があるなら……
杏子、あなたが生きていなかったら、たとえ約束を果たしても、また盾を回してしまうかもしれないわ。
まどかとの関係は深くならない様にしなければならないし、終わった後に私に残るのは……長らく会っていない家族だけ。
ほむら「まぁ未来なんて無いから言うのだけれどね」
「二重の意……あら?」
ユウリ「志願兵、あすなろの魔法少女、飛鳥ユウリ……いや、杏里あいりだ」
ほむら「……志願兵?」
ユウリ「ワルプルギスの夜と戦うらしいな」
ほむら「ええ……だけど何故……」
ユウリ「杏子から手紙が来て……ね」
ほむら「だとしても貴方に戦う義理なんて……みすみす死にに来るようなマネなんて」
ユウリ「……戦わなきゃいけない理由があるんだ」
「そっちもそうなんだろう?」
QB「あすなろの魔法少女が来たか」
「佐倉杏子の穴埋めが来るとは、予想外だったね。しかもあのあすなろからとは……」
「……しかし、二人で倒せる程度なら暁美ほむらは何度も繰り返すことはしないだろう」
「まどかが契約するのも、少し確率が下がった程度かな」
見滝原市スーパーセル警戒区域中心部
避難指示により、市内の人間は全て体育館又は病院に居る。
ほむら「……」
ユウリ「……」
拳銃を構えた少女二人を除いて。
ほむら「フレンドリーファイアには大いに気を付けて。時を止めて飛び道具を連発するから」
ユウリ「……ああ」
天が裂け、サーカスのような装飾が現れると同時に、歯車に逆立ちの人形がついた巨大な魔女が現れる。
ほむら「……ロケットランチャーとバズーカ砲から行くわよ」
ユウリ「……行くぞ」
ほむらの持つ武器を全て街に向ければ、焦土にするのは容易いだろう。
そんなほむらが他の魔法少女を戦闘に要する理由は至極簡単である。
ワルプルギスの夜には魔力が通った攻撃の方が効く。
しかし、ほむらは武器の強化すら苦手で、効果的な強化をできるのは精々銃の類のみ。
だから見かけ程ほむらの攻撃はダメージソースにはなっていない。
大量の榴弾などがワルプルギスの夜に降り注ぐ中、中距離から歯車を狙い2丁拳銃リベンジャーで確実なダメージを与えて行く。
見かけ程ユウリの拳銃は反動が強いものでは無かったが、此度の戦闘に向け、反動と引き換えに更なる威力を求めた。
しかし、反動があるといってもユウリの肩はその程度でへたることはない。
ユウリ「手応えはあるけど……流石伝説級だな!」
ほむら「ここからは……ノンストップで行かせてもらうわよ!」
ほむらの使える特殊な魔法は「時間遡行」、「時間停止」の他、盾の中に元を収納する「隠託」、杏子に殺されそうになったさやかを回避させた「運搬」、そして時間操作系の派生「機械操作」
時計を弄るところから派生したのだろうか。
そして今使っているのは運搬。
直接触れなくとも物を動かせるので、時間停止との相性は抜群だ。
タンクローリーを引き、魔女に向かう。
ユウリ「……アレが一番すごいんじゃないか?」
魔女の顔面にタンクローリーを直撃させ、ほむらは落下する。
落下点には対艦ミサイル。
これは機械操作魔法で動かす。
ユウリ「……タンクローリーより弱いんだな」
ユウリが地道に拳銃でダメージを与える中、ほむらは派手な攻撃で魔女を移動させる。
ダメージは然程ではないようだ。
タンクローリーの威力ですら、マミの実用範囲の最強魔法「ボンバルダメント」に劣る。
しかし、問題は無かった。
ダメージではなく移動が本命であったから。
ワルプルギスの夜を取り囲んだ壁が赤く光る。
ほむら「……」
大規模な地雷トラップ。
爆発の威力は、杏子の自爆技、「浄罪の大炎」に匹敵する、そうほむらは思っている。
爆炎が魔女を包み込む。
巨大な魔女を全て隠す程の爆炎。
ユウリ「勝った……か?」
ほむら「……」
爆炎が止むまで、中からは何の反応も無い。
煙の向こうにワルプルギスの夜の影が見え始めた瞬間、二人は落胆する。
魔女の高笑いが二人を嘲る。
ユウリ「ダメか……ッ!!」
ほむら「くっ……」
すぐには動けない魔女は使い魔を大量に産み出す。
魔法少女の影だ。見覚えのあるもの、見覚えのあるディテールがあるもの様々。
ほむら「……」
使い魔一体一体が魔女、いや、魔法少女一人に相当する程の強さ。
素質に限れば、元々病弱な少女であるユウリとほむらは強くない部類に入る。
更に、使い魔は通常の魔法少女と違い一撃で倒せる急所などない。
ユウリ「本番はこっからみたいだな……!」
ほむら「……やってやろうじゃないの」
対策はある。
この魔法少女の影は、人体に構造が似ている為に倒せなくとも動きを封じてしまえばいい。
ほむら「これを使って!」
漆塗りの鞘に包まれた日本刀がユウリに渡される。
ユウリ「……面白い」
腰に鞘を付け、右手に日本刀、左手には拳銃を構える。
ユウリ「行くぞ……逃げるなよ!!」
身体を分断してしまえば動かすことはできない。
ユウリは日本刀で使い魔を切り捨てて行く。
ユウリ「……結構居るな」
カバーしきれない分をもう片手の拳銃で補う。
舞台装置が動き始めるまでにどうにかしなくてはならないが……
対するほむらは機関銃で使い魔を掃討する。
質量のある実弾なので、 痛覚の無い相手に対しても仰け反らせるなどのアドバンテージを取れる。
ほむら「鳴呼……ッ!!」
舞台装置が再起動する。
歯車の回転速度が上がり、熱線をこちらに三本程放つ。
ほむら「盾らしい役割を果たすのは……ここくらいね!」
ほむらの盾は小さい分、防具としても優秀で、魔力の塊ならばまるごと弾き飛ばすことさえ可能。
ほむらにとって熱線はむしろ絶好のチャンスであった。
ほむらにとっては。
ほむら「ユウリッ!?」
熱線が当たったビルが倒れユウリを押しつぶそうとする。
ユウリ「ッ!?」
ユウリは一目散に逃げ出すも、気が動転していて、向かったのはビルが倒れる方向と同じ方向だった。
ほむら「あ……」
倒れたビルの瓦礫から長い金髪が覗いている。とても美しい金髪であったが、流れる血がそれを汚す。
ほむら「そんな……鳴呼……」
瓦礫に潰されて消えて行った味方は何度も見てきた。
死体の損傷が激しい時もあった。
ほむら「また……ひとりぼっち……」
魔女は瓦礫に埋れたユウリの上空をせせら笑うかの様に飛び回っていた。
『わたしは、赤い獣にまたがっている一人の女を見た』
ヨハネの黙示録 17章3節
瓦礫から覗く髪が赤く染まる。
それは血の色ではなく……
杏子の髪の色。
これはあいりの固有魔法、変身。
肉体を別人の物に変えることができる。
もちろん部分的にも可能。
そして、ユウリが最も主力とする魔法……
━━━━肉体強化
通常の魔法少女の肉体強化より遥かに強く、素手で魔女を引き裂くことが出来る。
これに並ぶ者はカオル程度だろう。
……
更に、リミッターを外すというのだろうか。
魔力を使えば使う程、際限無く強化を行うことができる。
これは周辺一帯の魔法少女では唯一。
ユウリ「錏痾蛙遭嗟有合或吾会在唖逢娃婀堊ッ!!」
瓦礫の山を掻き分け、赤髪のツインテールの少女が姿を表す。
赤いナースキャップに、赤い肩出しドレス。
そして本来の飛鳥ユウリと違い、腕は武器と一体化している。
ユウリ「ほむら、心配かけたな」
ほむら「……取り乱したわ」
体勢を立て直した二人は舞台装置の元へ向かう。
ほむら「……行ける……はずよ!」
『あなたがたが見た十本の角とあの獣は、この淫婦を憎み』
ユウリ「っぁぁあああああ!!!」
両の腕を直接魔女の身体に刺し込む。
バターに熱い鉄の棒を差し込む様に入って行くものだ。
『身に着けた物をはぎ取って裸にし、その肉を食い、火で焼き尽くすであろう』
ユウリ「……イル・トリアンゴロ」
魔女の人形部分が業火に包まれた。
魔女は悲鳴を上げ、ユウリも同じく雄叫びを上げる。
『わたしの民よ、彼女がしたとおりに、彼女に仕返しせよ、彼女の仕業に応じ、倍にして返せ。彼女が注いだ杯にその倍も注いでやれ。』
ユウリ「……」
差し込んだ腕の武器を始動させる。
通常、この変身魔法は魔法や魔法武器までコピーすることはできない。
しかし、心の中の物を呼び覚ますならば話は別である。
強力な肉体強化と、腕と同じ大きさの銃。
そして、それに杏子の手数が加われば……
ユウリ「弾けろ」
生前、本物のユウリが得意としていた内部破壊をワルプルギスの夜相手にも使うことができるだろう。
内側から弾けた人形は力無く歯車からぶら下がるのみとなる。
ユウリ「……」
ユウリは落ちながら、着地の準備をする。
余力はあとどの程度あるだろうか。
ほむら「……あと少しで行けるけど、ユウリは限界のようね」
「覚悟を決める……!」
ロクな攻撃魔法を持たないほむらだが、ユウリ同様リミッターを外してしまえば予測では三つばかりは自爆に近い技を使える。
一つ、盾を時限爆弾に変える。
威力の保証が無いのでこれは却下。
一つ、機械操作魔法を暴走させ、人工衛星を落とす。
これは命中の保証がないので却下。
最後の一つは……
━━━━
QB「君のような魔法少女と契約した覚えはな…ぎゅぶっ!?」
━━━━
魔力を注ぎ込むこと。
もちろん普段は実用性など無く、弱めの使い魔すら倒せない程であるが、暴走させていてかつ、ロスがない状態ならばその限りではない。
舞台装置の歯車の上に飛び乗り、それに手をつく。
ほむら「トドメになるかしら?」
歯車が紫色に輝き、自ら爆発しはじめる。
純粋な魔力の攻撃には滅法弱いのだろうか。
ほむら「やった……わね」
爆ぜ、歪み、塵になりゆく舞台装置を目に映しながら落ちて行くほむら。
ユウリ「……幸いまだ少しだけ余力が……」
「……あった」
降ってきたほむらをキャッチしたユウリは、そっと倒れこむ。
ユウリ「勝った……な」
ほむら「ええ……」
QB「空が晴れていくね」
まどか「ほむらちゃん……」
QB「ワルプルギスの夜を葬るなんて、彼女達は特別強力な魔法少女では無かったと思うんだけどね」
それを聞いて、血相を変えたまどかは外へ駆け出して行った。
詢子「おい!まどか、どこ行くんだ!?」
ユウリ「凱旋でもするか……?」
ほむら「……」
盾を漁るも、グリーフシードは見当たらない。
ほむら「やめておくわ。貴方、グリーフシードは?」
ユウリ「……っと」
懐から一つ取り出すも、それは歪んでいて、ツカが無個性なものであった。
ユウリ「こりゃニセモノだ、使えたもんじゃない」
ほむら「明日同じ時間にここにくれば本物手に入るかしら?」
ユウリ「バカこけ」
二人は笑い話をしながら、真っ黒に染まったソウルジェムを見つめる。
ほむら「最後の追い込みとして多分魔女化した私達にまどかを襲わせて契約させようと……するでしょうね」
ユウリ「真っ黒でもあたしはまだ変身を三回残してます」
ほむら「燃費良いのね」
ユウリ「二人分のソウルジェムを砕くには十分な魔力はあるよ」
ほむら「……私はどちらにせよもう戦えないから、遅かれ早かれそうしなければならないけど……貴方は」
ユウリは溜息をつき、首を横に振った後、天を仰ぐ。
ユウリ「変身魔法で察しが付くと思うし、最初に名乗ったからわかると思うけどさ」
「あたしはユウリじゃなくて、ユウリになったあいりなんだ」
「でもあたしは料理もできないし、治癒魔法も使えない。どの道ユウリらしいことなんて殆どできないんだ」
「だから……ユウリの顔に泥を塗り続けることなんてしないで、この街を護った魔法少女として、伝説の魔女を仕留めた魔法少女として死ぬ」
ほむら「……」
ユウリ「さ、杏子達が待ってる」
ほむら「そうね」
銃を互いのソウルジェムに突き付ける。
二人の顔はどこまでも爽やかで……
ほむら「一緒に戦ってくれてありがとう」
ユウリ「こちらこそ」
銃声が響き渡り、宝石が砕ける音がする。
薬莢は還元される場所を失い、霧散する。
まどか「あ、ああ……」
QB「魔女になる前にソウルジェムを砕いたか」
瓦礫の山の頂上で、満足気な顔で息絶えた二人の少女を見てまどかは泣き崩れる。
QB「普通の子はわかってても怖くてくだけないんだけどね」
まどか「……みんな死んじゃった」
QB「君が契約すればこの二人くらいなら簡単に……」
まどか「どっか行って……」
QB「……契約したくなったらいつでも呼んでね」
まどか「……」
『先日の見滝原市スーパーセルでは避難が首尾よく行われたおかげで、死者は屋外に出ていた中学生二名だけに収まりました』
『ビルがまるごと倒れるなどの災害の中、死者がこれだけで済んだのは奇跡でしょう』
『亡くなった二名に哀悼の意を捧げると共に、見滝原市の一早い復興を祈ります』
『亡くなったのは東京都千代田区、暁美ほむらさんと、県内あすなろ市、飛鳥ユウリさんで……』
『秋山さん……?』
まどか「……」
チャンネルを回す、でもどこもスーパーセルの話ばかり。
マイペースを貫くチャンネルもあったけど、それもそれで好きではない番組だから、結局嫌でもニュース番組に行きつく。
『若者や子供の危険意識が……』
ほむらちゃん達のこと何も知らないのに無責任なこと言わないでよ……
知久「まどか、ココア吹きこぼすよ!?」
まどか「うわぁぁっ!!?」
タツヤ「ねーちゃ、あほー」
知久「ちゃんと火は見ておかないと……気を付けるんだよ、まどか」
「友達が立て続けに死んで辛いのはあるんだろうけど、まどかまで死んだような生活してたら友達も浮かばれないと思うよ」
まどか「そう……だね、ごめんパパ」
みんなが死んじゃって、全部灰色にも感じるけど、杏子ちゃん、ほむらちゃん、それとあのユウリさん……?が命懸けで護ってくれたと思うと、悪くはないかな……悪くなんて……
まどか「美味しくない」
タツヤ「ねーちゃ、へたー」
……味がしない
廃教会の庭の一角に立つ木の十字架に、淡い金髪の少女が黙祷を捧げる。
少年「カンナ、待ってよ。流石に男でもこれは重いんだからさ」
背の高い少年がリアカーを引き、やってくる。
カンナ「む、ご苦労様」
少女はオレンジ色のキャップのペットボトルを少年に手渡す。
少年「ありがと……墓石にでも使うの?」
カンナ「……そうだね。分骨すら無いけど」
カンナは工具を取り出す。墓石に名前などを刻む為に。
少年「あ、チャイナタウンで見たアレだね」
カンナ「アレよりはもうちょっと高いものだよ」
少年「……この間スーパーセルで死んだ人、友達だったの?」
カンナ「……まぁね」
杏子とあいりだけでなく、隣に簡単な墓が立てられたマミや、本物の墓があるほむら、さやか、ユウリの名前まで刻まれる。
少年「飛鳥ユウリさんね……スライス秋山が生放送中に泣き出して大変なことになってたっけ」
カンナ「なんだそれ見たかったな」
彫り終わった墓石を立て、十字架の横に固定する。
カンナ「墓参りも終わったことだし……和菓子でも食べに行こうか」
少年「餡蜜?」
カンナ「求肥は譲ってね」
空席となった風見野は今まで通り各地の魔法少女が出入りし、見滝原も次第に同じようになっていった。
あやせ「この街は入れ食い~」
二つの街から魔女が消えたのはもう少し、先のお話。
本編終了。
トゥルーエンド
余計なことすんなって人は読み飛ばし推奨
━━━━救済する白き光
鹿目まどかの契約により、全ての平行世界の魔女の誕生が否定される。
自分自身の魔女でさえも。
この世界の存在枠を失った鹿目まどかは、ただソウルジェムが濁りきった魔法少女を迎えに来る、その時のみ姿を現す。
新たな宇宙では彼女は円環の理と呼ばれることとなる。
輪廻もしないのに、鹿目まどかを知らない者が何故円環などというネーミングに至ったのかは知る由もなく……
病室で一人の少女が目を覚ます。
その手には大きな宝石など無く、苦しそうに胸を抑え咳をする。
看護師「暁美さん、お母様からお電話です」
ほむら「……はい」
メガネをかけ、スリッパを履いてナースステーションに向かう。
その足取りは重く……
ほむら「うん……えっ?」
「転院?なんでまた……」
あすなろ市の病院の小児科で立て続けに、病気の子供が元気になったからだそうだ。
確かにこの病院での手術は終わったから、それ以外の治療はもっと小さな病院でも大丈夫だけど……
ほむら「じゃあ学校は……」
「うん、わかった。ありがと」
済生会 檜病院
「切りましょう」
「先生、ここは内科です」
ほむら「ここが……?」
小児科にいくと、男の名前でプレートが殆ど埋まって居る。
「ヒィッ!?今……廊下に巨大なサソリが居たぞ!」
「センパイそんなのいるわけないじゃないですか……」
どうやらチンピラの抗争でもあったみたいだ。
ほむら「ここが……今度は個室じゃないんだ」
ネームプレートには私の名前ともう二人の名前があった。
『杏里あいり』
『佐倉杏子』
看護師「荷物は運び込んであるよ」
ほむら「あの……この二人ってどんな」
それを聞いて看護師は苦笑いする。
何か問題のある人なのかな……
看護師「あいりちゃんは良い子よ。杏子ちゃんも……悪い子じゃないのよ。ただ……」
「入院してるチンピラいるじゃない?あの抗争止めたの杏子ちゃんなのよ……」
ほむら「止めた……だけですよね?」
看護師「うん。別に不良ではないわよ。でも……病院暮らしの貴方には刺激が強いかも…ね」
ほむら「えっ……そんな」
意を決して、病室に入ると馨しい匂いに包まれた。
看護師「はぁ……また勝手に……別にいいけど」
ユウリ「看護師さんも食べる?」
マミ「お茶の準備もありますよ?」
杏子「……でも食べたらまた太るんじゃないの?」
ミチル「また引っ叩かれるよ?」
あいり「んむ、おいし」
女の子が五人、フルーツタルトを頬張っていた。
パジャマを着てるのが二人、それぞれ違う制服を着てるのが三人。
脚にギプスを巻いているのが多分佐倉さんで、頭のてっぺんがりんごの葉っぱみたいに跳ねてるのが杏里さん。
看護師「……私じゃなくてこの子にあげて頂戴」
杏子「ん?新入り?」
ユウリ「荷物さっき運ばれて来たの見たでしょ……」
マミ「いえ、その時は佐倉さんは寝てたわ」
ミチル「でも普通荷物見て気付くよね」
ほむら「あ、暁美ほむらです……今日からよろしくお願いします……」
杏子「ああ、よろしく」
そう相槌を返した後に、皿にタルトを乗せて私に差し出す。
杏子「食うかい?」
一応終わりです。
こっちはミチル、マミ、ユウリ、杏子でマギカカルテット的な。
さやかに関してはご想像にお任せします。
カンナは……杏子が入院できてる時点でお察しください。キュゥべえはちゃんとサポートしてくれます。
Thanks for reading.