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先頭:魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 #01
前回:魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 #37
――15年前、春
勇者「おいじじー」
老賢者「なんじゃ小僧」
勇者「さかな取ってきたぞ」
老賢者「焼けばー? 食えば-?」
勇者「なんてつめたいじじーだ」
老賢者「これも修行なのじゃ」
勇者「しゅぎょーっていえば、何でも良いと思ってるだろ」
老賢者「修行なんて言い訳つけなくても、
何を言っても許される。それが賢者クオリティじゃ」
勇者「……おにじじーっ」
老賢者「むっしゃむっしゃ」
勇者「あ! 魚!?」
老賢者「美味しいのぅ。美味しいのぅ」
勇者「ううう。おれのさかな……」
老賢者「まだ残ってるじゃろうが。くかかか」
勇者「うー。“小火炎”っ!」ぼひっ
老賢者「真っ黒焦げじゃな。かーっかっかっか!」
勇者「……あう」
老賢者「どれこうやるんじゃ。貸してみろ」
勇者「うん」
老賢者「まず塩をふるじゃろ?」
勇者「うんっ」
元スレ
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」Part11
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1255018858/
老賢者「そうしたら、後で熱くなっても持てるように、
木の串にさしてじゃな……」
勇者「うん……」ぐーきゅるる
老賢者「そうしたら、こんな感じで手を離して、
最初は弱い火力で“炎熱呪”……ほーら、熱くなってきた。
“火炎”ではなく、“炎熱”で炙るのがコツじゃな」
勇者「なぁ、じじー。なんでおれ、“術”とか“術式”とか
つかっちゃだめなんだ? “呪”は詠唱無くてむずかしいぞ」
老賢者「戦闘中に詠唱しておるようなぽんぽこぴーの
一般人に媚びてどうするんじゃ。最初っから無詠唱。
これが大賢者と勇者の歩む道じゃ」
勇者「そうなのか」くんくん
老賢者「犬のように鼻を鳴らすのではないわ」
勇者「だって良い匂いしてきたぞ?」
老賢者「まだじゃ。ここで焦っては事をし損じる。
決して魔力を揺るがせず、集中力にて制御する。
そうすれば、皮の部分がぱりぱりの焼き魚に仕上がるのじゃ」
勇者「そうなのか! もう出来るか?」
老賢者「うむ、完成じゃ」
勇者「美味そうだなぁ!」
老賢者「美味いぞう! むっしゃむっしゃむっしゃ」
勇者「え?」ぽかーん
老賢者「デリィシャスじゃ!」ぐっ!
勇者「えぅ」うるうる
老賢者「泣けば済むと思ったら大間違いじゃぞ!
はーっはっはっは! この世は弱肉強食、食卓弱者差別なのじゃ」
勇者「……」きゅるるるぅ
老賢者「ふんっ。ほれ、焼いたパンとベーコンじゃ。
食っておくが良いわっ。へたれ勇者くーん。れろれろれろ」
勇者「やた!」 がつがつがつがつっ
老賢者「獣じゃのう、まったく」
勇者「……」がつがつ 「美味ぁ~い♪」
老賢者「そーか。今度また買ってきてやるわい」
勇者「俺も街に行きたい。色んなご馳走食べたいぞ」
老賢者「止めておくんじゃな」
勇者「どして?」きょとん
老賢者「勇者は、街には住めぬよ」
勇者「なんで?」
老賢者「羊の群に、狼は住めぬだろう?」
勇者「おれ悪さなんてしないよ? 悪いことすると、
じじーすごく怒るじゃん。鉄の杖で叩きやがって。
俺の頭が悪くなったら、じじーのせいだぞ」 むぅ
老賢者「それでもじゃ」
勇者「わかんないよ」
老賢者「羊を食わない狼であっても、狼が羊の巣にいれば
羊は怯えよう? 怯えた羊は狼に当たるだろう。
羊の食える狼だったら羊を黙らせれば済むが
食えない狼は、さぞや切ない思いをするだろうな……」
勇者「難しくて、よくわかんないよ」
老賢者「それでいいのだよ」
勇者「飯食ったら何するんだ、じじー」
老賢者「“飛行呪”と“遅滞呪”をつかって、
低速飛行の訓練じゃ」
勇者「苦手だ」
老賢者「出来るようになれ」
勇者「出来るようになったら、偉いか?」
老賢者「偉くはないが、桃を食っても良い」
勇者「そうか! がんばるぞ!」
老賢者「うむ」
勇者「……“遅滞呪”っ! “遅滞呪”っ!」
老賢者「……なんで2回云うのじゃ」
勇者「これおわったら、チチハハのところへ行って良いか?」
老賢者「お前も、あそこが好きなのだなぁ」
勇者「悪いか。じじー。子供は親をだいじにするものだぞ」
老賢者「あれは、中身のない石塚じゃよ」
勇者「いいか? 行っても」
老賢者「良いぞ」
勇者「やった。――“飛行呪”っ!」
老賢者「1回で成功したのぉ」
勇者「馴れた」
老賢者「そうか。もう15の基礎呪文は全て覚えたか」
勇者「おれ、てんさいだもん」
老賢者「天才とはもう少し品がある人物を指すな」
勇者「むぅ」
老賢者「ほれ。早く行かないと夕暮れが来るぞ。
7つの梢のリボンを全て別の枝に結び終えてくるのだ。
ただし、決して手を使ってはならぬぞ」
勇者「わかったよー。じゃ、いってくるぞ、じじー。いってきます」
老賢者「“いってらっしゃい”。小僧」
――遠征軍、奇岩荒野、湖畔修道会自由軍
副官「では、南部連合の援軍もこちらに向かっているとっ?」
執事「や、それは判りません」
女騎士「いや、ここは向かっているとしておこう。
伝言は残してきたから、おそらく手配してくれるだろう」
副官「伝言?」
女騎士「“食料とか援軍とか、適当に頼む”と」
副官(っ!? こ、この人はこれで南部の英雄、姫将軍なのか!?
うちの大将もいい加減だけど、もうちょっとは考えているぞ!?)
獣牙双剣兵「なんにせよ、有り難い。助かった」
女騎士「副官殿はどうしてここに?」
副官「はっ。最初からお話しします。
先日、と云ってももはや一週間前になりますが
紋様族および鬼呼族を中心とした魔族連合軍は、
開門都市を直前とした平野にて、聖鍵遠征軍と激突しました。
聖鍵遠征軍15万にたいして、魔族軍6万をもってあたり
……壊滅を」
女騎士「壊滅……」
副官「魔族軍は遠征軍のマスケット射撃によって、
その半数3万を失いました。
撤退戦は熾烈を極めたのですが、
その戦いのさなか我が主、魔王殿、銀虎公が帰還し
からくも全滅を免れることが出来ました。
しかし、銀虎公は魔王殿をかばって戦死され。
残された軍にも大きな被害が出ました」
執事「銀虎公……」
湖畔騎士団「あの勇猛と聞こえた将軍が」
女騎士「状況は理解した」
副官「わたしがここにいるのは、砦将の命令です。
魔族軍が撤退し、都市に引き上げた次の瞬間に下された命令が、
故銀虎公の残された精鋭部隊5000を率いて
開門都市から出撃せよ、とのものでした。
敵の数は膨大で、今や開門都市は
完全に包囲されているかと思います。
少人数で抜け出すならともかく
軍を出撃させることは不可能になる。
そのことを察した将軍はわたしを臨時の前線指揮官として、
この部隊を率い、まだ包囲されていなかった
西の城門から逃しました。
聖鍵遠征軍がおそらく作り上げている補給路を断つためにです」
獣牙双剣兵「うむ」
女騎士「そうだったのか。
……その判断が出来る司令官。名将だな」
執事「“草原の鷹”と云えば、
傭兵時代から有名な隊長でしたからね」
副官「しかし、やはり多勢に無勢。
飛び道具もなく、消耗戦は避けられないところでした。
ご助勢に感謝します」
女騎士「いや、こちらも状況が
まだつかみ切れていないところだった。ありがたい」
副官「あの武器はなんだったのですか?」
女騎士「ライフル。と云うらしい。
マスケットの高性能なモノだと思えば良い。
グリスを塗ったドングリ状の弾丸を飛ばすんだ。
射程だけで云えば、マスケットよりも3倍はある」
副官「3倍!?」
女騎士「連射性能はそこまで良くないし、
扱いも手入れもデリケートだ。
おまけに50丁しかないと来ている。
だが、相手は戦に不慣れな足跡の兵士達だからな。
指揮官を落としてゆけば、判断能力が下がって
パニックになったり動けなくなったりする。
そういう意味では、有用な武器だな」
執事「そしてこちらは、湖畔騎士団」
湖畔騎士団「湖畔修道会の聖騎士です。
隊長である女騎士様に従って、
地の果てまでお供する所存であります」
副官「こちらは、獣牙軍。故銀虎公の残された精鋭部隊だ」
獣牙双剣兵「よろしく頼むぞ、女戦士どの」
女騎士「しかし、われらが合流しても、良いところ七千少しか」
執事「この数で、開門都市奪還というのはさすがに
少々厳しいですな」
湖畔騎士団「そうですね」
女騎士「聖鍵遠征軍の様子はどうなのだ?
被害状況や軍様は。そして指揮や運用はどうなっている?」
副官「指揮は無慈悲なほど的確なものでした。
先ほども云いましたが、その数は15万」
女騎士「ん? 少なくないか?」
副官「もちろん後方陣地として、
先ほど我らが襲ったような宿営地を
何個も残しているというのもありますが、
どうやら別働隊を動かしたようなのです」
女騎士「別働隊? 規模と司令官は?」
副官「司令官はおそらく王弟元帥、規模はおおよそ三万。
しかし、その行方となりますと、こちらでも会戦が
始まってしまったためにつかみ切れていません」
獣牙双剣兵「だが、斥候の報せだと、その出発の様子から
精鋭兵の部隊だったのではないかと察せられる」
執事「……ふむ。じつは、この魔界には、我らより先んじて
潜入した軍があります」
副官「それは?」
女騎士「ああ、そうだったな」
執事「氷の国の貴族子弟殿とメイド姉が率いる傭兵部隊100名です」
副官「100、ですか」
女騎士「少ないが、彼らは我らにはない大きな武器を持っている」
獣牙双剣兵「それはなんだ?」
女騎士「時間だよ。我らよりも二ヶ月。
聖鍵遠征軍がこの魔界へと入るよりもそのさらに前から、
彼らは活動を開始しているはずだ。
あるいは情報だけで云うのならば、
聖鍵遠征軍よりも持っているだろう」
執事「諜報部に接触できれば、その行方も判るかも知れませんが」
湖畔騎士団「開門都市に入り込むのは、当面難しいでしょうね」
副官「ええ、我らもそこまで確認している暇はありませんでしたが、
おそらく開門都市は、
現在、聖鍵遠征軍の激しい砲撃に晒されているかと思います。
開門都市は防壁の建築を急いでいましたが、
どこまで持ちこたえることが出来るかはわかりません」
獣牙双剣兵「……一刻も早く戻らねば」
女騎士「保つさ」
副官「え?」
女騎士「魔王が都市に入ることに成功したのならば
おめおめと落ちるなんてありえない。
今は開門都市の無事を祈って、我らは我らの勤めを
果たすべきだな」
副官 こくり
女騎士「よし、副官殿。軍を合流させ、補給基地を
壊滅させてゆこう。援軍が送られぬうちに電撃作戦で
最低後4つの陣地を落としたい」
――湖の国、首都、『同盟』本部執務室、深夜
ザー
青年商人「ひどい雨だな……」
ザーーザーーザザザ
青年商人「嵐でも来てるのか。……さて」
青年商人(聖王国への湖畔修道院の進出は認めさせた。
できれば主要都市全てに同時に建築を開始したいな。
大主教が戻る前に、既成事実とする。
……と、同時に、湖畔修道院の敷地内には『同盟』の
小取引所、および銀行を併設してゆく。
これは修道院の建築費と引き替え取引で達成できるだろう。
湖畔修道院の修道院長とも、面識が無いわけでもないしな)
ザーーザーーザザザ
青年商人(と、なると当面は戦争の結果待ち。
……それから資金面の手当てか。儲けの皮算用はその後に。
しかし、な。戦争――か)
青年商人「ふむ」
ザーーザーーザザザ
青年商人(勝敗。……勝敗ね。
そもそも何を持って勝敗とするかだ。
魔界の全面的な征服など、現実的な意味でもって
想像が出来る人間などいるのかな……。
いくら地底にあるとは云っても、
世界丸ごと1つを戦って所有権を得るなどと。
――“征服”。
なんだかまるで夢物語みたいだな。
そもそも魔界の全土征服など、誰が望んでいるんだ。
まったく愚かしい)
青年商人(今回の遠征に参加した王族や領主は合わせて40あまり。
彼らに1つずつの新しい領地を与えるために
40の都市を占領してそれぞれに防御部隊を
置いたとしたらどうなる?
遠征軍参加者が30万。その全てが戦闘員だとしたところで
……1つの都市に7500人でしかない。
ばかげた話だ! 1つの都市を7500人で征服し続ける?
7500の兵士、しかも勝手のわからない異境で
分散された防備軍など、都市から逃れた魔族の兵や民によって
あっという間に分断され、小部隊ずつ殲滅されてしまうだろう。
それが判らぬ聖光教会でも王弟元帥でもない。
彼らには別の目的がある。
それはおそらく、中央大陸の意思の統一。
第一次聖鍵遠征軍から始まった物語だ。
魔族という敵を得た中央中枢国家群は
中央大陸の権力の掌握に大きな一歩を踏み出した。
しかしその流れは途中で大きく変更を受けてしまう。
忠実な前線兵だったはずの南部諸国の“反乱”によってだ。
あの“反乱”は彼らのストーリーには存在しなかった。
南部は己の意識など持たない木偶人形として、
永遠に中央の指揮の下に戦場で踊り続ける哀れな奴隷だったはず。
しかしその筋書きは“なぜか”失敗してしまう。
自分たちの意志を持った南部は三ヶ国通商同盟を結成。
着実に経済力や防衛力をつけて、中央の制御から外れ始めた。
このままでは流れが止まり、中央諸国家には南部に同情的な
国家や領主も増えるだろう。
……事実その傾向は見え始めていた)
ザーーザーーザザザ
青年商人「お茶を誰……。誰もいる時間じゃないか」
ザーーザーーザザザ
青年商人(中央諸国家にとっては、大陸の意思を統一する上で
“共通の敵”だけではもはや足りなくなっていた。
その“敵”でさえも、南部諸国家では情報統制が崩れ、
真実の姿が見えかけていたからだ。
そんな中枢が考えた戦略は2つあっただろう。
1つは大兵力もしくは権謀術数を持って南部連合、
特にその主要国である旧三ヶ国通商を瓦解させること。
しかし、おそらくはその戦略は凍結された。
――種痘のせいだ。三ヶ国は滅ぼしたいが、あの技術は欲しい。
大方そのようなところだろうな。
本当であれば、湖畔修道会への調略工作は熾烈を極めたはずだ。
しかし、調略して裏切らせるには、湖畔修道会は素朴すぎ
その頂点は清廉でありすぎた)
青年商人「そこが“らしい”。あの勇者のお仲間ですから」
ザーーザーーザザザ
青年商人(もちろん武力制圧も検討しただろう。
しかし、そのするには、湖畔修道会および南部連合は
平和的な態度を徹底してしまった。
異端指定をしてきた聖光教会すら否定しなかったのだ。
聖光教会は自分たちの影響下にある国から、湖畔修道会の
建物全てを撤去させ、追放した。
焼き討ちを許し略奪を行なった土地さえある。
しかし、一方南部連合の三ヶ国は、領内の聖光教会の活動を
禁止さえしていない。
この状態で南部連合に戦争を一方的に仕掛けるというのは
あまりにも“大義名分”がなさ過ぎた。
そもそもの発端、あの“異端指定”の時からがそうだったのだ。
中央は南部諸王国を挑発し、武力で歯向かうように仕向けていた。
そうすれば大義名分を持って南部諸王国を討てたからだ。
しかし、中央中枢の思惑を大きく越えるほどに、
南部の盟主、冬寂王の政治的バランス感覚とカリスマ性は
ずば抜けていたわけだ)
青年商人(こうして、中央諸国家は南部連合を
直接的に攻撃するという戦略を放棄せざるを得なかった。
南部連合は降りかかる災厄、白夜王の侵攻や魔族の介入を
全て振り切り、その上で内政を疲弊させることも
最小限にして着実に発言力を伸ばしてきていた。
そこで中央中枢はもう一つの選択肢、
魔界への侵攻を検討し始める。
ここまで考えれば、彼らの狙いは明白だ。
彼らにとって大陸の意思統一のためのテコはすでに
“共通の敵”だけでは不十分なのだ。
時代は転換してしまった。
中央が中央の意志を固く1つにまとめるためには、
新しいテコ、つまり、強力な報酬が必要なのだ。
魔界への侵攻は、その餌。“新しい領土と無限の富”。
しかしそれも実際には与える必要のない餌だ。
農業技術の進化や極光島に代表される魔族撃退を受けて
今や大陸の生産力は確実に上がっている。
諸侯や諸王国も富と資源、そして兵士を蓄えて、
外へ向かって進出する力を水面下ではつけ始めている。
その野心を刺激された諸王国はこれからも
甘言に乗せられるだろう。
何度失敗しても、いや、失敗すればするほどに
新しい領土や富への欲求は身を焦がして彼らを飢えにも似た
欲望へと追いやるだろうに……)
ザーーザーーザザザ
青年商人「戦争、ですか……」
青年商人(聖鍵遠征軍が30万、そしてマスケットが如何に
優れた兵器だとしてもとうてい魔界の全土征服など
可能だとは思えない。
もし、可能だとすれば、それは30万をそのまま運用して
補給などは現地略奪に頼り、出会う魔族は一人残らず抹殺。
そして都市を征服しても占領もせずに焼き討ちにして、
次の都市へと向かう。
つまり虐殺的な手法だ。
しかし、そんな風にして荒廃させた領土の価値を回復させるには
どれほどの時間と資金が必要なことか)
青年商人(かといって、都市を占領し、魔族を支配して防備軍を
置くとすれば、その上限数は、自ずと5つやそこらになるだろう。
それを越えればその後は拡散してゆくだけとなる。
あの広い魔界の中で、20万だろうが30万だろうが
まるで水に入れた湯のように、
その熱を放散させて、やがて溶けて消える……。
だとすれば、やはり中央中枢の目的は
幾つかの都市を陥落させて、いわば“美味しい餌”であることを
諸侯や諸王国に印象づけることか。
それで次回、その次の遠征軍へと望みをつなげ
南部連合をも既成事実と“餌の魅力”で切り崩しをはかってゆく。
……だとすれば、魔界の全土は当面無事といえるし、
現在の我ら『同盟』の戦略方針は間違えていない。
でも、なんだろう。この違和感は……)
青年商人「……」
ゴゴンッ
青年商人「?」
ザーーザーーザザザ
青年商人「誰か来たのですかー?」
ズル、ズルッ、ズルッ
青年商人「今日はもう会議も打ち合わせもありませんよ。
こんな夜は宿舎で酒でも飲んで寝た方が」
ガチャリ。ぽたっ。ぽたっ。ぽたっ。
火竜公女「……」
青年商人「公女……?」
火竜公女「……」
青年商人「転移符ですか!?
どこから歩いたんですか、まったく。
……ぐしょ濡れじゃないですか。
雨とは云っても冬なんですよ? 死にますからね、まったく」
火竜公女「……」
青年商人「公女はこういう事をしない人だと思ってたんですが」
ザーーザーーザザザ
火竜公女「……助けてください」
青年商人「え?」
火竜公女「商人殿に頭を下げるのはいやでありまする。
この胸が玻璃の様に粉々に砕ける思いさえしまする。
しかし、妾にはもう他に頼るべき人もおりませぬ……。
開門都市が陥落しようとしております。
なにとぞお力添えを。
なにとぞ……」
青年商人「……」
火竜公女「開門都市は遠征軍二十万に包囲され、
その火砲の脅威は昼と夜の別なく、
市民を責めさいなんでおりまする。
聖鍵遠征軍は狂気のごとく都市防壁に押し寄せては、
命も省みずに突撃さえ繰り返す有様。
開門都市は魔王殿の指示の下良く耐えていますが」
青年商人「魔王? 魔王殿が開門都市に?」
火竜公女「そうでありまする。
この都市は失うわけにはいかない、と」
青年商人(なにゆえに? 一度奪わせて奪い返す方が、
遙かに容易なはず。戦争のことは詳しくはないが
補給線を伸びきらせるだけ伸びきらせ、
魔界の奥深くへ誘い込み戦うのが定石なのではないか?
あるいはマスケットの力を見誤ったのか?)
火竜公女「聖鍵遠征軍も、執拗なほどの執着を見せて
開門都市の一帯は、今は魔界最大の戦場となってしまいました。
すでにして死者は三万を遙かに超え、
大地は血の供物を飲み干すばかり……」
青年商人「王弟元帥……」
火竜公女「王弟元帥なる敵の総司令官は、会戦が始まる前に
なにやら別働隊三万を率いて軍から離れた模様であります。
未だその動きは知れませぬが……」
青年商人(本軍15万に、王弟元帥がいない……?)
火竜公女「……」
青年商人「辣腕会計は?」
火竜公女「待避しました」ぽつり
青年商人「そうです。『同盟』の商館は待避するように
司令の手紙を出したはずです。公女はなぜ残ったんです?」
火竜公女「妾は竜の公女ゆえ」きっ
青年商人「……」
火竜公女「同胞を見捨てることなど出来ませぬ」
青年商人「そう……でした。すみません。
公女のことをよく考えもせず、わたしは退避命令を出した」
火竜公女「……辣腕会計どのも、中年商人殿も、
それ以外の職員達も我が父の居城へと、
会戦が始まる前に移動しております」
青年商人「……」
火竜公女「何とぞ、お力添えを」ぎゅっ
青年商人「わたしは商人です。なんの兵力もない」
火竜公女「それでも、商人様ならば」
青年商人「出来ません」
火竜公女「報酬ですか? 報酬ならば何でも。
妾に払えるのならば、どのようなものでもっ」
青年商人「商いの道を歩むのならば、
“何でも”なんて手形を出してはいけませんよ」
火竜公女「やはり、わたしには商いの道は無理です」
青年商人「……」
火竜公女「商人殿と世界を渡るのは楽しかった。
あちらでは鉄を買い、こちらでは塩を売る。
まだ見ぬ場所に乗り込み、初めて顔を合わせる人と渡り合い、
交渉し、妥協点を探り合う。
互いの利を手渡して、まだ見ぬ商いを考える。
それは、とても、とても楽しかった。
狭い世界で生きてきた妾にはまぶしかったのでありまする。
しかし、妾は竜の公女。
やはりともがらは裏切れませぬ。
それに妾は――あの都市が愛おしい。
壊滅の中から産声を上げて、人と魔族がすれ違うあの都市が。
楽園ではなくて、そこではだましや裏切りや
詐欺などがあったとしても、
それが出来るだけの多様性と自由を持つ
あの都市の行く末を見届けたい。
商人殿にこれを云うのは、切ない。
胸の奥が帰するように悲鳴をあげまする。
商人殿は、取引相手としての妾を買っていてくれて
気を許してくれてはいぬにせよ
……すこしは、意味を感じていてくれたと思うゆえ。
このように情にすがり、取り乱し、弱い妾はきっと軽蔑される。
そう思うと膝が砕けて立ってもいられぬ心持ちがします。
一度膝を屈した妾を、商人殿は決して、決して対等の相手とは
もはや見てくれなくなるでしょう。それが妾には切ない。
でも、妾に支払えるモノは多くなく、
商人殿に軽蔑される事くらいしか」
青年商人「聞きたくありません」
火竜公女「そうで、ありましょう……な……」
青年商人「魔界は聖鍵遠征軍に全土征服はされない。
たとえ魔界が都市の5つや10失ったところで、
その市場性と価値は揺るぐことはない。
これからは聖王国を中心とした聖光教会文化圏と
南部連合と、そして魔界。
3つの経済圏が複雑に絡み合った新しい世界が開かれる」
火竜公女「……」
青年商人「それがわたしと『同盟』の予測にして野望。
その世界でなら、3つの文化圏の間を自由に商取引をする事が
出来る商人は、今の何十倍も飛躍的に力を広げることが出来る」
青年商人「なぜ魔王は、開門都市を手放さなかったのですか?」
火竜公女「わかりませぬ。……ただ、未来のため、と。
魔族自身の誇りと、人間族のためでもある。と」
青年商人「それを、魔王が?」
火竜公女 こくり
青年商人(我らのあの都市に対する価値判断が間違っていたのか?
あの都市には我らが考えていた以上の軍事的、経済的な
価値があると? ……それは考えづらいだろう。
だとすれば、文化的、宗教的……。あるいは象徴的な意味での
価値がある、のか?
――その可能性はどうなのだ?
なぜあの都市を失うことが出来ないのだ……。
あの都市を失って、何が失われる。
なぜ魔王はこのタイミングで、あの都市に戻り、死守をしようと)
火竜公女「……」
青年商人(“人間族のためでもある――”とは?)
青年商人「っ!」 がたりっ
火竜公女「商人殿?」
青年商人「魔王はっ! 魔王殿の瞳は紅いのですかっ!?
磨き抜いた葡萄の酒のようにっ!?」
――遠征軍、奇岩荒野、湖畔修道会自由軍
ズギューン!!
「だ、だめだっ!?」 「どこから撃たれているんだっ」
「前線が持ちませんっ!」 「このままじゃお終いだぁ」
女騎士「副官殿? 後事を託して良いか?」
副官「拝命いたしました」
女騎士「獣牙の精鋭兵諸君っ! 突撃だ! 騎士団続けっ!」
獣牙双剣兵「おおおーっ!!」
湖畔騎士団「姫将軍に続けっ!」
ダカダッ ダカダッ ダカダッ ダカダッ
ギィィン!! うわぁぁぁ! うわぁぁぁ!!
副官「すさまじい速度ですね」
執事「にょっほっほ。性格ですな、あれは」
副官「良し、我々も移動しましょう」
執事「御意」
副官「狙撃部隊! 場所を移動しますよ、右前方の丘へ。
護衛騎士は周辺を索敵。夜露に警戒をしてください。
火薬の補給は後方部隊管理っ!」
執事「副官殿は細かい用兵が得意ですな」
副官「大将がずぼらですからね。雑用ばかり身について」
執事「にょほほ。良いことです」
副官「位置についたら各自狙撃位置を確保!
後方の司令部が立ち直る気配を見せたらこれを狙撃」
ライフル兵「了解ッ!」
執事「これで、この陣地も落ちましたな」
副官「はい……」
執事「気になることでも?」
ダカダッ ダカダッ ダカダッ ダカダッ
「我につづけぇ! 降伏したものは敵に非ず!
伏せたものにはそれ以上の攻撃は無用だっ」
副官「卓越した手腕です。我らだけで襲撃を企てていた時よりも、
被害も小さく、遙かに早い攻略です。ですけれど……」
執事「焦っているのですね」
副官「はい」
執事「もう少しです。あと2つ」
副官「しかし、落としたとしてもこの軍だけの兵力では」
執事「そうでしょうかね」
副官「?」
執事「聖鍵遠征軍の中にも、きしみが出ているのではないですかな。
にょっほっほっほ。総司令が本軍から出るとは、異例ですぞ。
あのつるつる将軍もおそらくそれを考えているはず」
副官「王弟元帥が?」
執事「彼がいれば、包囲戦はもっと絶望的だったでしょうからね」
副官「そうでしょうか?」
執事「今指揮を執っている指揮官もきわめて優秀かつ、
合理的なのでしょうが、その上を行くでしょう。
格、というものは時に冷酷です。自覚でしょうが」
副官「自覚、ですか?」
執事「ええ。手を汚す、もしくは手を汚さない。
何が出来て何が出来ない。全て自覚のたまものですよ。
わたしは少々年が行ってからそれに気が付きましたが」
副官「それが、英雄の資質なのでしょうか」
執事「あるいは、勇者の。かもしれませんな」
――魔界、大空洞近辺、赤い荒野
鉄国少尉「報告しますっ。最後方部隊、大空洞を抜けるためには
あと一日半はかかる模様」
軍人子弟「よし、先遣隊を先行させるよう指示をだすでござるっ」
鉄国少尉「了解っ」
鉄腕王「どうだい?」
軍人子弟「あと一両日で全ての部隊が大空洞を抜けるでござる」
鉄腕王「たいしたもんだ。行くって決めてから一週間で
ここまで来ちまうとはな」
軍人子弟「それもこれも、多数の協力があってのことでござる」
鉄国少尉「まったくです」こくり
冬寂王「なかなか暖かいな、この装備は」
羽妖精侍女「温イノデス」
将官「商人子弟殿が、これだけの予備の防寒具を備蓄しているとは」
冬寂王「小癪な真似をする男だ。ふははは」
軍人子弟「……感謝でござる」
鉄腕王「しかし、準備が良い割には糧食が少ないな」
将官「ええ、一週間分しかないのでは?」
冬寂王「強引に出てきたからか……」
軍人子弟「これで良いでござるよ。計画通りでござる」
冬寂王「そうなのか?」
軍人子弟「糧食を持てば安心感は増すでござるが、
行軍速度は著しく落ちるでござる。
全ての行動を輜重隊の速度を基準に考える必要があるで
ござるからね。
今回の遠征では、補給線は軍とは独立して動かすでござるよ」
鉄腕王「こいつが強情で、そこは譲らないんだ」
軍人子弟「出来れば補給は持ちたくないのが本音でござる。
それに関しては、当てになるかどうだか判らない
気障ったらしい男がいるのでまぁ、なんとなく」
鉄腕王「いいのか? 当てにならない男を当てにして」
冬寂王「ここには3万の連合軍がいるんだぞ!?」
軍人子弟「何とかするでござろう。あれでも同期でござる。
それに拙者、全面戦争で勝てるとは思っていないでござる」
鉄腕王「うむ……」
将官「やはりマスケットには」
軍人子弟「マスケットの一斉射撃に、
歩兵や騎兵を突入させるには無理がござるよ。
もちろん幾つか使える策がないわけではござらんが
相応の犠牲を払う覚悟で行なう、いわばいかさまでござる。
拙者も前線司令をする限りどのような手でも使うつもりでござるが
大局的に見て、いかさまだけで勝てる相手でもござらん。
いかさまはやはり時間稼ぎや、
局所での戦術的な勝利を得るに留まるでござるよ。
戦争に勝つとは、大局で勝つと云うこと。
おそらく、師匠なら……」
鉄国少尉「?」
軍人子弟「いや、何でもござらん。
肝心の“荷物”は十分に用意が出来たでござるしね。
負けるぐらいならば、逃げ出すでござるよ」
鉄腕王「わしは負けるなんて考えていないぞ」
羽妖精侍女「急ギマショウ。皆サン」パタパタ
軍人子弟「侍女どの、ではこれから先の地勢を
教えて欲しいでござるよ」
羽妖精侍女「ハイデス」
――14年前、夏、ある領主の館、広間
裕福な貴族「ほほう、これは賢そうな!」
貴族婦人「ええ、まさに英雄の相ですわ」
貴婦人「可愛らしい黒髪ね、小さな勇者さん」
勇者「えへへ~」
老賢者「何をでれでれしておるのじゃ。きもいわ」
勇者「う、うるさいっ」げしっ
老賢者 ひょい 「甘いわ」 ぼこんっ
勇者「あうっ!」
裕福な貴族「賢者様、そんなにしからないでやってください」
貴族婦人「そうですよ。勇者さまは平和と繁栄の象徴。
この世界の守護者なんですからね」
裕福な貴族「この年でもうすでに二十四音呪全てを使いこなすとか」
勇者 えへん
貴族婦人「素晴らしいことですわ。そのうえ、剣技においては、
もはや大国の騎士団長クラスにも達するのでしょう?」
貴婦人「強いのですね、勇者様は」にこり
老賢者「強いか弱いかとは、
何も技のみにて決まるわけではないですからな。
この勇者は、いってみればまだ見習いでして。
人を救う意味がわからない限り
ケツはブルーのまんまでありつづけて青いあざが取れませんなぁ」
勇者「むー」
貴婦人「そんなことないわよね?」
勇者「うん! おれがんばるもん!」
裕福な貴族「ふふふっ。そうだ、勇者どの?」
勇者「はいっ?」
裕福な貴族「武器庫でも見に行ってくるかね?
これでも我が領地は歴史があるのだ。
勇者ではないが、伝説の剣士が使っていたという
名剣もあるのだよ」
貴族婦人「あら、そういえばそうですね」
勇者「行って良いか、じじ……賢者ー」
老賢者「まぁ、良かろう」
勇者「行きたいですっ!」
裕福な貴族「では、侍従に案内させよう」
侍従「ははっ。こちらでございます、勇者様」
勇者「ありがとうね、お爺さん」
ガチャ。カッカッカッ
裕福な貴族「ふむ。あの少年が……」
老賢者「そうですな」
裕福な貴族「どうなのですか、素質は?」
老賢者「まさに勇者です。歴代の中でもことに優れた、
心根の正しく、優れた若者になるでしょう。
しかし、それには時間が必要ですな」
裕福な貴族「時間はない。賢者殿もお聞きになられたでしょう?
教会付きの法術官も高名な占術士も、こぞって告げるのを。
新たなる魔王が現われたのです。一刻も早く勇者を旅立たせねば」
老賢者「あの子はまだ幼いのです」
裕福な貴族「幼いとは言え、二十四音呪と無類の剣技。
勇者としての力は十分だ。一刻も早く戦場へ出さねば我ら人間は
魔族の脅威にいつさらされるのか判らないのですぞ? 賢者殿」
老賢者「そんなことで滅びるぽんぽこぴーなど
滅びてもちっとも構わないとわたしは思うのですがね」
――14年前、夏、ある領主の館、武器庫
じゃきーん! がちゃー!
勇者「うっわ、すっげぇ! 格好良いー!」
勇者「いいなっ。いいなっ。これ格好良いなぁ」
がちゃがちゃ
勇者「これなんかすごい良いなぁ。鎧は、結構大きいけど。
剣なら持てるよな。この剣、魔力あるんだな」
ペカー! キラキラ! シュォンシュオン! ライドゥ!
勇者「すっげー! 回るよ! 音が出るよ! 光るよ!」 きらきら
貴族の娘「ねぇねぇ、あれ?」
貴族の息子「そうだろう」
勇者「ん?」
貴族の息子 じー
勇者「こんにちは?」 ぺこっ
貴族の息子「お前、勇者なのか?」
貴族の娘「勇者なの?」
勇者「うん、そうだけど。この家の子?」
貴族の息子「そうだ。領主の跡取りだ、偉いんだぞ」
貴族の娘「わたちは姫なのよ」
勇者「そうなんだー。おれ勇者。よろしくねっ」
貴族の息子「ふぅん」じろじろ
貴族の娘「勇者は無敵って、本当?」
勇者「えーっと、強いよ。うんっ」にこぉ
貴族の息子「本当かよ?」
貴族の娘 くすくす
勇者「え?」
貴族の息子「ちょっと向こう見てみな、お前」
勇者「うん」くるっ
ゲシッ! ボカッ!!
貴族の息子「うわー! 本当だ!」
貴族の娘「すっごーい!!」
勇者「い、痛いな。何するのさっ!!」
貴族の息子「剣が刃こぼれしてるよ!」
貴族の娘「ほんとだ、ほんとー!」
勇者「なにするんだよっ」
貴族の息子「怒るなよ。良いじゃないか、怪我しないんだから」
貴族の娘「身体が鉄なんでしょ?」
勇者「違うよ。ちゃんと痛いよっ」
貴族の息子「血も出て無いじゃないか」 蹴りっ
勇者「あぅっ」
貴族の息子「わ、すげー! “がちん!”だって」
貴族の娘「ほんと? ほんと?」
勇者「なんで痛くするんだよっ」
貴族の息子「訓練だよ。兵士はみんなやってるだろう?」
勇者「俺は兵士なんかじゃないよっ」
貴族の息子「兵士だろ? 父様が言ってたぞ」
勇者「違う。おれは勇者だもんっ」
貴族の息子「給料が要らないから便利、なんだよな」
貴族の娘「ねー?」
勇者「……ちがうもんっ」
貴族の息子「ふーん。つまんないのっ」
貴族の娘「田舎者ね-。言葉が通じないわ」
勇者「通じてるよ」ぶんぶんっ
貴族の息子「何かぶひぶひ聞こえるねー」
貴族の娘「豚さんじゃないわよ。豚さんはもっと可愛いもの」
勇者「っ!」
貴族の息子「しーらない。おい、勇者、ここ、片付けておけよ。
あと、いくら金に困ってるからと云って盗むなよ」
貴族の娘「着てる服も、ぼろぼろだもんねぇ」
勇者「~~っ!」
がちゃっ
貴族の息子「全然言い返せないの。弱虫だ」
貴族の娘「勇者なんて、ただの田舎者ねー」
勇者「……」
かちゃ、かちゃ
勇者「……」
かちゃ、かちゃ
勇者「馬鹿は相手にしなーい。じいちゃんも云ってたもんね。
そんなの予想済みだもんねーだ。ばーやばーや。うんこたれー」
かちゃ、かちゃ
勇者「お掃除、片付け。おけー」 ぐいっ
――14年前、夏、ある領主の館、廊下
がちゃ。かつーん、かつーん。
勇者「じじーの話は終わったかな。おなかへっちゃったよ」
かつーん、かつーん。
勇者「でも、も、いいや。……早く帰ろう。
森で修行してたほうが楽しいや。
貴族の子供って、うるさいし、偉そうだし。馬鹿ばっかりじゃん」
貴婦人「ええ、先ほどお目にかかりましたわ」
若い貴族「ほほう」
貴族の女性「どうでした? 勇者とやらは」
勇者「あ! さっきの綺麗なお姉さんだ♪」
貴婦人「気持ち悪い。見られただけでぞっとするわ。
あの黒く磨いたような髪の色。あんなに幼いのに
二十四音呪を全て使うそうですよ?
湖の国の魔法学院であれば八の呪をこなすだけで
教授として迎えられるほどの難関詠唱魔法を」
若い貴族「それはそれは」
勇者「え……」
貴婦人「見た目は子供ですけれど、とんでもない。
こちらの頭の中も服の中までも見通されているのかと
思うと怖気がとまりませんわ」
若い貴族「ははは、気にしすぎですよ。
あれは、王の使う強大な軍事力の1つに
過ぎないんですから」
貴族の女性「でも、気持ちは判りますわ」
貴婦人「ええ。考えてもご覧なさい。
一緒の部屋に自分を一瞬にして
氷付けにもで消し炭にでも出来るような怪物がいるのよ。
自分の命も尊厳もそいつの言いなり、指先1つ。
幼い姿をしていてもそんな存在は、怪物よ」
若い貴族「確かにそうかもしれないな」
貴族の女性「わたし達は遠慮して正解でしたね」
勇者「――」
貴婦人「にこにこと人間のように喋って……
わたしはダメ。一緒の部屋にいただけで気が狂いそう」
若い貴族「ははは。これは嫌ったものだ。
憂さ晴らしに葡萄酒でもどうです? 梢の荘園を
もつ叔父から素晴らしい一品が……」
かつん、かつん、かつん
勇者「――」
勇者「……ぽんぽこぴーの。……ぽんぽこぴー。
一般人なんてぽんぽこぴー……♪」
がちゃん。ざっ
老賢者「おろ?」
勇者「あ! じじー。もう話し終わったのかっ? 帰るか?」
老賢者「うむ、そうじゃの。疲れたわい」
勇者「おれもだよー。やっぱ森がいいね」
かつん、かつん、かつん
勇者「……」
老賢者「……」
勇者「あのさ。じじー」
老賢者「なんじゃ?」
勇者「期待なんてするもんじゃないね」
老賢者「それに気が付くとは、成長したではないか。勇者よ」
――開門都市、城壁を囲む聖鍵遠征軍、陣地後方
光の銃兵「王弟元帥だっ! 王弟元帥の軍が戻られたぞっ!」
光の槍兵「聖王国の王弟元帥、総司令官だっ!」
カノーネ部隊長「王弟元帥の軍が戻られた!
これで食料が手に入る!」
カノーネ兵「なんと、王弟元帥の軍は、
一戦もせずに無傷で食料を手に入れて戻られたらしいぞ。
指すが希代の名将だ。敵さえもその意の前にはひれ伏すという!」
「王弟元帥っ!」 「王弟元帥っ!」 「元帥万歳っ!」
王弟元帥「現金なものだ」
参謀軍師「それが民草というものです」
聖王国将官「いかがしましょう」
光の銃兵「王弟元帥万歳!」
光の槍兵「ばんざーい!!」
王弟元帥「食料馬車50台分を振る舞え。
医薬品は全て我が軍の天幕へ。
残りの食料は2/3を灰青王へと届けさせろ。
1/3は我が軍で押さえておけ」
参謀軍師「そんなにも灰青王へと送って平気なのですか?」
王弟元帥「やつは無能な男ではない。
上手く配分して長持ちさせるだろうさ。それより問題は後方だ」
参謀軍師「はっ」
聖王国将官「謎の軍によって、我が軍の後方陣地および
食料集積地点が強襲されている問題ですね」
王弟元帥「残りはいくつだ?」
参謀軍師「現在はすでに残り3かと」
王弟元帥「もはや無いな」
聖王国将官「え?」
王弟元帥「この時点ですでに落ちているだろう」
参謀軍師「敵の軍とは……?」
王弟元帥「それは判らぬな。しかし、ここは魔界だ。
あの都市で打ち破ったという敵の軍勢六万が
魔界の軍の全てなどと云うことはあるまい。
未だに十万、二十万の軍を保持しているはずだ。
今までその軍が出てきていないのは、
ただ単純に氏族間の力関係の問題であるか、
集合に時間が掛かっていると云うことに過ぎないのだ。
また、如何に宗教的な聖地であるとはいえ、
1つの都市を守るために割ける防衛力には、
自ずと価値的な限界があるという事実を示唆するともいえよう」
参謀軍師「はっ」
王弟元帥「あるいは……」
聖王国将官「あるいは?」
王弟元帥「可能性は濃いとはいえないが、人間か」
聖王国将官「人間と云いますと」
王弟元帥「南部連合だ。
南部連合が、魔族の援軍に立つと決めた場合、
その侵攻ルートからしても聖鍵遠征軍の後衛地は
全て撃破されるだろうな」
参謀軍師「……ふむ」
伝令兵「伝令です! 王弟元帥閣下!!」
王弟元帥「なにごとだ?」
伝令兵「はっ。本陣後方、つまり南方から接近中の軍有り。
距離はまだ10里ほどあるはずですが、その数おおよそ4万弱。
王弟元帥閣下におかれましては、食料調達の遠征より戻られ
お疲れかとは存じますが、麾下三万を率いて、この軍勢4万に
当たって頂くようにとの、大主教猊下からの仰せです」
参謀軍師「統帥権は王弟閣下にあるのだぞっ」
聖王国将官「4万……」
王弟元帥「しかし防がぬ訳にも行かぬだろうさ。
都市攻略にかかり切りの灰青王の軍では再編成が間に合わぬ。
となれば仕方があるまい。
行くぞっ! 至急前線の決定と周辺索敵、
そして軍議の準備をせよっ!」
――開門都市、城壁を囲む聖鍵遠征軍、豪奢な天幕
……ォォン!
……ドォォーン!
伝令兵「王弟元帥閣下、軍を返し最後尾警戒に入られました。
元帥閣下は早くも前線司令部として天幕を設営、
周辺に灌木を用いて防御柵を作られております」
従軍司祭長「わかった。何か変事があれば、即座に知らせるが良い」
伝令兵「はっ! 承りました」
……ォォン!
従軍司祭長「王弟元帥閣下であれば
後方の守りは盤石でありましょう」
大主教「丁度良い時に帰ってきた。有能な男よ」
従軍司祭長「はい」
大主教「これもやはり精霊の導き。天意は我にあり」
ころり。ころり
従軍司祭長「そ、その……。大主教、猊下?」
大主教「どうした?」
従軍司祭長「目の……瞳の治療をされねば……」
大主教「よいのだ。ふふふ。
我らが光の子の同胞、前線の兵士達が
その命を掛けて戦っている……。
われも相応の痛みをともにせねばな。ふっふっふっ」
百合騎士団隊長「そのお心、感じ入ります」
大主教「ふふふ。それに、われにはもはや俗世の視力など
必要はない。常に精霊の導きを見ることが出来るゆえ」
従軍司祭長「で、では、せめて包帯を」
大主教「好きにいたせ」
百合騎士団隊長「私がやりましょう」にこり
従軍司祭長「あ、ああ……」
大主教「ふふふ。さて、隊長よ、あちらの準備はどうだ?」
百合騎士団隊長「ええ、大主教猊下。機は熟しました」
従軍司祭長「……?」
大主教「防壁は、崩れそうか?」
百合騎士団隊長「灰青王様の言葉によれば、
もはやひびの入った欠陥品とのこと。
巨大な鉄槌の一撃あれば卵の殻のように砕け散りましょう」
大主教「任せる。好きなようにせよ」
百合騎士団隊長「有り難き幸せです」とろん
従軍司祭長「……」
……ォォン!
……ドォォーン!
大主教「後方を王弟元帥が固めている間に」
百合騎士団隊長「承りました」
従軍司祭長「何を……?」
百合騎士団隊長「精霊の子らの献身を届けるのです。光の根源に」
――地下城塞基底部、地底湖
ピィピィピィ! ピィピィピィ!
女魔法使い「うるさい……」
明星雲雀「起きて、起きてご主人。寝ている間に終わっちゃう」
女魔法使い「……」
明星雲雀「ご主人ぼろぼろ」
女魔法使い「……すぅ」
明星雲雀「起きて! 起きてご主人!」
女魔法使い「……揚げちゃうぞ」
明星雲雀「ピィピィピィ! 虐待反対動物愛護!」
女魔法使い「……」
ふわり
メイド長「魔力回路のチェックはただいま急がせています」
明星雲雀「ピィピィピィ!」
女魔法使い「……助かる」
メイド長「あらあら、まぁまぁ」
明星雲雀「揚げられちゃうよ! 食べられちゃうよ!」
女魔法使い「……“捕縛式”」
明星雲雀「ピギャン!」
メイド長「女魔法使い様」
女魔法使い「……?」
メイド長「僭越ながら、お手当を」
女魔法使い こくり
メイド長「では、包帯を巻きますので」
女魔法使い「聞かないの?」
メイド長「……」
女魔法使い「この両手の平の刻印を」
メイド長「聞いて宜しいのですか?」
女魔法使い「……」
メイド長「……」
女魔法使い「……」
メイド長「仰る必要はありませんよ」
女魔法使い「……必要だから」
メイド長「はい」
明星雲雀「ピィピィ!」 バタバタ
女魔法使い「騒がしい」
メイド長「18小隊のメイドゴーストを配置しております。
まもなく、回路の断線部分は全てリスト化されるでしょう。」
明星雲雀「わたしが修理しますよ。するんだったら!」ばたばた
女魔法使い「させる。鳥に」
メイド長「はい」
明星雲雀「わたしは専用なんですからねっ」
女魔法使い「……態度が大きい」
明星雲雀「ピィピィ! 主人、仕事をとってはダメですよ」
女魔法使い「……判ってる」
――火焔山脈、紅玉神殿、あてがわれた官舎
カツーン、カツーン
辣腕会計「15番から42番までは小麦」
中年商人「小麦確認。よーっし」
同盟職員「こちらも合致ー」
辣腕会計「ふぅ。欠品は無いようですね」
中年商人「ああ。それにしても。だが」
同盟職員「お茶でも持ってきましょうか?」
辣腕会計「ああ、頼む」
中年商人「街では今頃激しい戦闘だろうな」
辣腕会計「そうですね」
中年商人「俺たちはこうして倉庫の資材管理かー」
辣腕会計「これも大事な仕事ですよ」
中年商人「それにしても、この量はなんだ?
『同盟』はこれほどの物資を開門都市に集めていたのか?
どうやって運び出したんだ?」
辣腕会計「これは火竜大公の個人財産ですよ」
中年商人「個人財産!? 馬鹿いえ、べらぼうな量の小麦だぞ。
俺は魔界でこんな量の小麦を見たのは初めて。
いや、魔界ってそもそもこんな量の小麦がとれ」
ガチャ
青年商人「ご無沙汰してますね」
中年商人「おい、なんでこんなとこにっ!」
辣腕会計「委員! いつこちらにっ!?」
青年商人「たった今ですよ。
転移符のおかげで、身体中痛くてかないません。
こんなに衝撃があるとは……。
勇者のはもうちょっと乗り心地が良かったのですが」
火竜公女「お二人の力が必要です」
中年商人「これは姫君」
辣腕会計「やっとこちらへ避難されたのですか?」
青年商人「いや要らないでしょう」
火竜公女「必要です」
青年商人「ここは穏便に三人で話を詰めてですね」
火竜公女「そのような時間的猶予はありませぬっ」
中年商人「どういう事なんだ?」
辣腕会計「さぁ」
ガチャン!! ざっざっざっざっ
火竜公女「お二人もついてきてくださりますよう!」
青年商人「……」じー
中年商人「あの視線はついてくるなって云う意味じゃねぇか?」
辣腕会計「そうですね」けろり
中年商人「結構趣味悪いな、お前さん」
辣腕会計「口に出して再度要請しないと云うことは、
“ついてきて欲しくはないが、止めるほどの強い権限はない”
というところでしょう。で、あれば事態を把握しておく方が
後々委員のためにもなるかと考えます」
中年商人「ものは言いようだな」
辣腕会計「内勤が長いとは言え、わたしも商人ですから」
中年商人「違いない」
――火焔山脈、紅玉神殿、大公の部屋
バターンッ!!
火竜公女「父上っ!!」
火竜大公「むぅ、なんじゃ小桜角。騒々しい。
いったい何時ついたのだ。探させておったのだぞ」ぼふぅっ
辣腕会計「“小桜角”ってなんです?」
青年商人「幼名ですよ」
中年商人「詳しいんだな」
青年商人「ありがたくないことにね」
火竜公女「結納とはどういう事ですっ!?」
中年商人「はぁぁぁ!?」
辣腕会計「結納っ!?」
青年商人「……」ふいっ
火竜大公「いや、結納とは、結婚を望む殿方の家から
花嫁の家に送られる支度金の一種じゃな」
火竜公女「そのような蘊蓄を聞いているわけではありませんっ!」
火竜大公 ちらっ
青年商人「ふぅ……」
火竜大公「そこなる男から、送られてきてな」
火竜公女「それは聞きました。わたしがお聞きしたいのは、
なぜわたしの意志も確かめずにそのような
仕儀となったかと云うことですっ」
火竜大公「それこそ、二人で話合えば済む問題ではないか」
青年商人「あー」ちらっ
中年商人「こんどこそ“出て行ってくれ”のサインじゃないか?」
辣腕会計「そのようですね」しらっ
火竜公女「どのような意図なのですか。商人殿」ぎらり
青年商人「説明しましょう。
これは高度に政治的判断に基づく先行投資とでも呼べる行動で、
将来のあり得る行動オプションの幅を確保するための
自衛的な防御策です」
火竜公女「妾の家に贈り物をするのが?」
青年商人「あー。そうですね、結果的にそうなります」
火竜公女「妾との婚姻をお望みでしょうか?」
中年商人「ド直球だな」
辣腕会計「姫ですから」
青年商人「いや、決してそう言うわけではありません」
火竜公女「では結婚するつもりは全くないと」
青年商人「そのように取られても困ります。
未来は、全周囲的に広がっているわけですからね。
特定の契約において将来的な契約の幅を狭めるのは
感心できない取引手法です」
火竜公女「どうあってもしらを切るつもりでありまするか」
青年商人「それは心外です。わたしは誠実な取引相手です」
火竜公女「曖昧な態度は商人殿の器量の底を浅く見せまする」
青年商人「機に臨んで応変なんです」
火竜公女「……」
辣腕会計「……」
火竜公女「判りました」
青年商人「判って頂けましたか、感謝いたします」
火竜公女「この二人と父上では、証人が足りないと仰せなのですね」
青年商人「そのようなことは云っていませんっ。
だいたいのところ、開門都市を助ける算段の中で、
商人ゆえ兵力がないという話だったではありませんか。
兵力はないが兵力になりそうな物資の話に及んだから
その存在をお教えしただけで、
どうして話がそこまでこじれるのですか」
火竜公女「こじれるもなにも、商人殿が逃げ回っているのです」
青年商人「逃げていません」
火竜公女「では、開門都市を救ってください」
青年商人「わたしはただの商人ですっ」
火竜公女「違います。勇者、もしくは魔王です」
辣腕会計「は?」
火竜公女「妾は黒騎士殿と約束しました。幸せになると。
はっきり言います。黒騎士殿を振りました。
振られたのかも知れませぬ。
あれは魔王殿のものですから」
青年商人「知っています。いまさらですが
……気が付きましたからね」
火竜公女「ですから、妾は幸せになる必要がありまする。
黒騎士殿が悔し涙を流すほどに。
ですから、妾と添い遂げる殿御は勇者もしくは魔王に
準じるほどのお方でないと約束を違えます」
中年商人「むちゃくちゃな話だ」
辣腕会計「剛速球も良いところですね。
言いがかりじゃないですか」
火竜大公「はーっはっはっはっ。
わしもどうせ嫁にくれてやるなら相手は
その程度の大器であって欲しいものと思うておった」
青年商人「二人で何を無茶なことを言っているんですか!?」
火竜公女「商人殿が魔王になってくださるのならば、
この件での追求は取りやめましょう」
中年商人「おいおい」
辣腕会計「委員がこんなに追い詰められているのは始めてみましたよ」
火竜公女「いかがかや?」
青年商人「いったいなんですか。論理が捻れているではないですか。
なぜわたしが魔王にならなければならないのですか!?」
火竜公女「魔王であれば、妾も幸せになれますし
あの都市を救ってくれるはずでありまする」
青年商人「それは間尺に合いませんよ。
魔王になれば、仮に、ですよ。
仮に魔王になればあの都市を救えるかも知れない。
でも、実際救うかどうかは別でしょう?
取引をするのであれば“魔王になる”か
“あの都市を救う努力をしてみる”かのどっちかですよ!
それが等価交換というものです。
1つの弱みで無限に譲歩を引き出すとはどんな悪辣なやり口ですか。
商人としての仁義にもとりますよっ」
火竜公女「では、商人殿はどちらなら引き受けるのです?」
青年商人「どちらかと云えば……」
中年商人「二重拘束だ」
辣腕会計「は?」
中年商人「無茶な選択肢を2つ突きつけて選ばされてる。
選んでいるようで、追い詰められてるだけだ」
辣腕会計「ずいぶん交渉術を覚えましたね」
青年商人「選びませんからね。そもそも魔王は一人でしょう?
こんな茶番には意味なんて無い。
名乗ったからって実力がつくわけもない」
火竜公女「いえ、選んでくれまする」
青年商人「……」
火竜公女「妾は確信しておりまする」じぃ
青年商人「はぁぁぁ……。失着手でした」
火竜公女「お選びください」
青年商人「判りました。魔王の方で。しかし良いですね、
こんなのはお遊びに過ぎませんからね。
わたしが魔王を名乗ったところで、現実には何一つ変わらない。
なんの実力がついたわけでもないし、それと開門都市を救う
とか云うのは全くの別問題なんですからね?」
火竜大公「くくくっ。はーっはっはっはっは!
未だかつてこのような場所で、これほど安易に
魔王を名乗った男などいなかったであろうになっ。
はっはっはっはっは!!」
火竜公女「承知しておりまする。では妾が勇者ですね」
青年商人「は?」
火竜公女「残り物ですが、それも縁起がよいと申しまする」
中年商人「何を言ってるんだ、姫は」
辣腕会計「わたしに判るわけが無いじゃないですか」
火竜公女「確認いたしまするが、魔王になられたからには
あの都市を救う力があるのですよね?」
青年商人「それは判りませんが、もしその必要があれば
微力を尽くしましょう。
おそらくは、あの都市はわたしが考えていたよりも、
大きな意味合いを持っているのでしょうから。
しかし、わたしはあの都市のために何かをすると
決めたわけではありません。
貴女の詭弁に乗って見ただけに過ぎませんからね」
火竜公女「ええ、商人殿。この件では永久に感謝しましょう。
さて、父上。しなければならぬお願いがありまする」
火竜大公「申すが良い」
火竜公女「忽鄰塔開催を。その権利は魔王のものなれど
父上は魔王の権威を議長として預かったはず。
で、あれば魔王殿に変わり忽鄰塔を招集することも可能でしょう」
火竜大公「忽鄰塔を?」
火竜公女「そうです。魔界の全部族をあの地に。
忽鄰塔であれば、魔王殿の力を存分に発揮できるはず。
ましてや二人もいるのであれば。
――妾とて望みを叶えるためにならばどのような
あがきもして見せまする」


誤字です
>>534火竜大公
×その程度の待機で~
〇その程度の大器で~
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指摘ありがとうございます。修正いたしました。