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前回:魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 #34

349 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 20:18:16.53 bGZgmCoP

――火焔山脈、その麓

ヒヒィーン、ブルブルブル

生き残り傭兵「どう、どう」
ちび助傭兵「どうだった」

傭兵弓士「うん、この先がどうやら火焔山脈だな。
 山門には“焔璃天”と書かれていた。
 この山道の先が火竜一族の城と云うことで間違いないらしい」

メイド姉「助かりましたね。比較的あっさり見つかって」

傭兵弓士「いいや、問題はここからだろう。
 山門には衛兵が詰めていたが、どれも一騎当千といった印象で、
 微塵の油断もなかったぞ。数十の手勢で突破できるような
 場所じゃない」

ちび助傭兵「まさか! そんなあほな!
 突破なんてしていたら命がいくつあっても足りない」

傭兵弓士「どうするんだ?」

メイド姉「ここに限ってはどうにかなる策があるんですが」

生き残り傭兵「ふむ。いけそうなのか?」

メイド姉「おそらく」
生き残り傭兵「聞こうじゃないか」

メイド姉「いえ、聞かせるような策でもないんですけれど……」

生き残り傭兵「?」

元スレ
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」Part10
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1254659054/
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」Part11
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1255018858/

351 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 20:20:47.94 bGZgmCoP

――火焔山脈、山門

竜族衛士「止まれっ!」
竜族衛士「汝ら、何者だ! 名を名乗れっ」

メイド姉「あー。こほん。わたしだ」

竜族衛士「まっ!? 魔王様っ!!」
竜族衛士「なんだって!?」
竜族衛士「間違いない。魔王様だ。
 俺は忽鄰塔でお目にかかっているんだっ」

  傭兵弓士「魔王って云ってるよ。本当に魔王に化けられるのか」
  生き残り傭兵「ちょ……。あの姿、なんだってんだ」
  ちび助傭兵「魔法使いだったのか!? 代行はよっ」
  若造傭兵「驚かない。俺は何が起きても驚かない」

メイド姉「火竜大公に取り次いでくれないか。
 内密、かつ急ぎの用件だと云って貰えば良い」

竜族衛士「しかし、この人間達は……?」

メイド姉「彼らは人間界から一緒に旅をしてきたわたしの護衛だ。
 出来れば別館で馬の世話を見てもらえぬか。
 長旅で蹄鉄などがすり減っているやも知れぬからな。
 我らの旅は、これからも長い。
 ねぎらってやってくれると助かる」

竜族衛士「はっ。判りましたっ。
 おい、至急大公に取り次ぐんだ。
 それから、おつきの方々は衛士宮にお望みの施設がありますゆえ」

メイド姉「頼む」

生き残り傭兵「良いんですかい、お嬢……魔王どの」
メイド姉「“心配ない”」

竜族衛士「では、おつきの方々はこちらへ」
メイド姉「話し合いで片がつく。で、無ければあがいても意味はない」

357 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 20:31:46.34 bGZgmCoP

――火焔山脈、紅玉神殿、応接室

竜族衛士「こちらでございます」

メイド姉「ありがとう」

竜族衛士「大公様! 火竜大公様! 魔王様をお連れしました」

  火竜大公「入って下され」
メイド姉「ここからは内密の話だ。下がっていてくれ」

竜族衛士「はっ。承知しました」

がちゃり

メイド姉「……ふぅ」
火竜大公「ぬ」ぼうっ

メイド姉「お初にお目にかかります」ぺこり

火竜大公「お前は何者だ? その姿は確かに魔王殿だが
 人間の匂いがするな……」

メイド姉「はい。人間です。わたしはメイド姉と申します」

 きらきらきら……

火竜大公「幻術の指輪か……」
メイド姉「はい」ひゅるんっ

火竜大公「ここに忍び込んだのは、どのような用件だ」
メイド姉「まずは、このように訪れたことをお詫びいたします」ぺこり

火竜大公「ふんっ」

メイド姉「……あまり驚かれないし、お怒りになられないのですね」

火竜大公「この数年で無礼な闖入者には馴れたわ。
 勇者を皮切りにどいつもこいつも人間と来ておる」ぼうっ

359 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 20:34:56.01 bGZgmCoP

メイド姉「申し訳ありません」
火竜大公「その礼の尽くしかたは、メイド長に学んだか」

メイド姉「はい。わたしの先生です」
火竜大公「そうか」

メイド姉「わたしはメイド長さまと魔王様に学びました。
 生徒、と云うか師弟……のようなものですね。
 もっともわたしは正規のそれではなくて、
 魔王様のお世話をさせて頂きながら、
 聞きかじりをしたに過ぎないのですが……」

火竜大公「ふむ」

メイド姉「と、言っておいて申し訳ないのですが、
 今回伺わせて頂いたのは魔王様の命令や伝言、あるいは
 書状を携えて参ったわけではありません。
 現在わたしは魔王様のもとを離れて活動しています」

火竜大公「誰か、もしくは何らかの組織の指示を受けているのか?」

メイド姉「いえ。わたしの意志です」

火竜大公「ならばよかろう。ふはは」ぼうっ

メイド姉「?」

火竜大公「腐ってもこの火竜大公。魔界の大氏族、四竜が長。
 使いごときと問答する口は持ち合わせぬ」

メイド姉「ありがとうございます」

火竜大公「礼には及ばぬ。気に入らぬ事をさえずるならば
 そのそっ首を食いちぎれば済むだけゆえ
 話をさせているに過ぎぬ。
 魔王の姿まで借りてここに来た用件を言うが良い」

メイド姉「竜族に伝わる宝をお借りしに参りました。
 いえ、返せない可能性もあるので、
 お譲り頂けると嬉しいのですが……」

火竜大公「何が望みだ? “ふぶきのつるぎ”か?
 それとも“女神の指輪”か?」

メイド姉「“ひかりのたま”です」
火竜大公「っ!?」

362 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 20:58:36.65 bGZgmCoP

火竜大公「何故その名を人間であるお前が口にするっ」

メイド姉「……」

火竜大公「答えよ。それは我が竜族の秘事に関することぞっ。
 なんとなれば、それこそは我らが竜族永遠の宝。
 魔王との最初の契約にまで遡る、伝承の礎。
 
 我ら竜族が何故魔族の中でもっとも古く、
 もっとも偉大でもあり、最も高く重要な位置を占めているのか。
 それは、“ひかりのたま”が伝えられているからなのだ。
 
 伝説は伝える。
 “ひかりのたま”を失った我らが一族の王が
 如何にして狂い、歪んだかを。
 如何にして死んだかを。
 その宝を貸す事さえ慮外であるのに、
 与えて欲しいとは何を言うっ」 ごぉぉっ

メイド姉「それでもお願いします」

火竜大公「答えよ、何故その名を知るっ!? 人間」

メイド姉「……夢で見ました」
火竜大公「夢で?」

メイド姉「おそらく」
火竜大公「雲を掴むような話ではないか」

メイド姉「遙か時の彼方、古の昔……」
火竜大公「――」

メイド姉「精霊に五つの氏族有り。後の世に云う五大家。
 全ての魔族は祖先を辿れば、精霊に行き着くと云いますね。
 精霊は争いのない理想郷に住む祝福された存在でした。
 何故それが魔族としてこの地へおりることになったか。
 それは五大家の一つ、土の家に汚れしものが生まれ、
 炎のカリクティス家との激しい争いを行なったから。
 その憎しみは精霊の世界を汚染して、
 世界は叩きつけられた水晶球のように無数の破片に砕けた」

363 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 20:59:28.93 bGZgmCoP

メイド姉「炎の宗家に生まれた一人の娘は、
 その命を、哀れな民を救うことに捧げ、天に召されます。
 彼女は光の精霊になることによって精霊の民の生き残りを救い、
 世界には人々という種子がまかれた。
 
 “ひかりのたま”は彼女の残した贈り物の一つ。
 でも、なぜ?
 
 なぜ彼女は人間の世界で信仰を集め、
 この魔界では知られていないのでしょう?
 
 それなのに何故、地上の教会にも魔界と同じ物語の
 痕跡が残っているのでしょう?
 
 あの人はあの青い海の中でそれを教えてくれた。
 わたしは人間として最初からそれを知っていた。
 
 わたしたち人間は、理想郷を滅ぼした土の氏族の末裔だから。
 そして魔族は光の精霊が救おうとした、理想郷の末裔だから。
 
 あなたたちの先祖は彼女が神ではない事を知っていた。
 彼女は勇気はあったけれど全能とはほど遠い存在だと
 知っていた……。
 ただ人々の救済を願った一人のか弱い精霊だと知っていたから。
 だから魔族は彼女を崇めなかった。
 ただ尽きせぬ感謝を込めて伝説へと……物語へと残した
 
 わたし達の先祖は耐えられなかった。
 自分たちがあんなにも胸焦がすほど愛していた理想郷を
 打ち砕く切っ掛けになってしまったことにも耐えられなかった。
 そしてそれを全能でも全知でもない一人の少女が
 命を捨てることによって救ったことにも耐えられなかったから。
 だから彼女を神としてまつることしかできなかった。
 
 しかし時は流れ、わたし達は長い旅路の果てに起源を忘れる。
 雪にふりこめられ自分の足跡を見失うように。
 後悔と贖罪の気持ちは同じだったはずなのに、
 耐えられなかった痛みを忘れ、永久の感謝を忘れる。
 
 誰も悪いわけではないけれど
 何を間違えたわけでもないけれど
 それでも道を違えた地上と地下は、遠く遠くすれ違う」

365 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 21:01:05.33 bGZgmCoP

火竜大公「そのような話聞いたこともないっ」
メイド姉「はい」

火竜大公「お前は詩人の絵空事を信じよと云うのか」

メイド姉「出来れば。でも、信じて頂きたいのは
 “ひかりのたま”を貸して頂きたいからではありません」

火竜大公「ではなぜだ?」
メイド姉「一人の胸に納めるには悲しいお話ですから」

火竜大公「お前は怖くはないのか、命が惜しくはないのかっ」

メイド姉「怖いです。恐ろしいです。
 ……わたしは貧しい生まれです。死が首筋を撫でるのを
 感じたことが何回もあります。雪の夜に膝を抱え、
 夜が明けるまでわたしは生きられるだろうかと
 何万回も問う夜を過ごしたこともあります。
 ……でも、それでも、死よりも恐ろしいものがある」

火竜大公「それはなんだ」

メイド姉「死よりももっとひどいこと。です。
 何もしなければ、わたしの大事な人も大事な場所も
 大事な思い出さえも砕かれ、踏みにじられ、虚無に沈む。
 その確信があるから。いまは怯えている暇は、ありません」

火竜大公「それゆえ、竜の宝を欲すると?」

メイド姉「……“ひかりのたま”は
 彼女の残した思い出だとわたしは思います。
 竜の氏族に託された宝物ではあるけれど、
 同時にそれは、ありてあるものの一つに過ぎません。
 永遠ではないものです。
 
 本当はご存じのはずです。
 永遠でないものは、永遠ではないんです。
 それを用いて何を為すかを試されるために
 あらかじめ与えられた物。
 
 ですから、それをお与え下さい。わたしが使うために。
 地上のみんなに思い出して貰うためには
 “ひかりのたま”が必要だと思うんです。
 みんなが“自分の分”の血を流すために」

366 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 21:02:41.45 bGZgmCoP

火竜大公「……汝の言葉は、あるいは正しいやもしれぬ」

メイド姉「……」

火竜大公「しかし、汝が汝の言葉の正しさを
 貫くだけの力があるかどうかどうして我に判ろうっ。
 ここは竜の領域、われは竜族の束ね、火竜大公。
 歴史ある氏族を司る者として
 汝を信用するわけには行かぬ。
 魔族として汝は何ら証を立ててはいないのだ」

メイド姉「……ですがっ」

火竜大公「今や魔界へと人間の軍が侵略の手を伸ばしてきた
 汝もそれは知るであろう?」

メイド姉「はい」

火竜大公「その細腕で、平和を望むのか?」
メイド姉「はい」

火竜大公「どいつもこいつも、途方もない夢を語る」
メイド姉「この胸に芽生えた声なき声のせいです」

火竜大公「では、証明して見せろ」

メイド姉「証明……?」

火竜大公「あの軍勢のどれだけでもよい。
 汝が退かせて見せよ。
 
 我ら魔族は、行動を持ってそのものの勇を見定め
 信おけるかどうかを判断する。
 
 その一事を持って、汝が宝玉を持つ資格ある者と認めよう。
 欲に駆られて血走り濁った瞳を持つ餓狼の群。
 その前に一人立ちはだかり、何が出来る?
 
 女に身である汝には無理だ。諦めるが良い」

367 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 21:04:25.31 bGZgmCoP

メイド姉「やりましょう」

火竜大公「ふんっ!! 汝が死んでも
 我のあずかり知るところではないっ。
 強がりを言うたとて意味はないぞ」

メイド姉「証明を終えて、もう一度お伺いします」

火竜大公「我は一切の兵は貸さぬ。汝が汝の持つ力と仲間とやら
 その力だけを持って、一軍を退かせるのだ」

メイド姉「お心遣いに感謝します」

火竜大公「……」ぎろりっ

メイド姉「“退かせろ”とおっしゃってくれたことに。
 “殺せ”であったならば、わたしはもし仮にそれに成功しても
 その後みんなに語るべき言葉を失ってしまうところでした」

火竜大公「そのような寝言は、条件を果たしてから云うが良い」

メイド姉「はい」にこり

火竜大公「なぜ笑える」

メイド姉「それが先生の教えですから」

火竜大公「お前のような娘と話すと目がくらむ。
 魔王殿も、良く飽きもせずこのような知己や仲間を
 次々と作りなさるか。この老骨、もはや目の回る思いよ」

メイド姉「もう一人の師匠は云っていました。
 “弱気が兆してきたらそれ以上考えるのはやめることだ。
 確かに頭は弱くなるかも知れないが、
 大抵はそれで上手く行く”と。
 わたしのこの胸には宝物が溢れています。
 その輝きを曇らせないために、この足を止めるわけには参りません」

379 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 21:43:19.16 bGZgmCoP

――開門都市、南門近く、臨時兵舎大会議室

副官「現在聖鍵遠征軍はこの開門都市から12里の地点におり
 早ければ明後日にでも襲いかかってくるかと思われます。
 あまりにも膨大な量の軍なのでしかとした把握は出来ませんが
 20万に迫る軍を抱えております」

鬼呼の姫巫女「20万……」
鬼呼執政「改めて聞くと気が遠くなりますな」

獣人軍人「しかし、幾つかの斥候の報告では、
 隊を二分する動きもあるなどとありますが、
 あまりにも膨大、その宿営地の大きさもともすれば
 この都市に匹敵するほどのサイズになり把握しがたいようです」

紋様の長「しかし、手をこまねくわけにも行かないだろう」
鬼呼の姫巫女「そうだの」

副官「……申し訳ありません。長がた」

鬼呼の姫巫女「この開門都市は魔界の至宝。礼を言うに及ばぬ」

紋様の長「この都市が攻略されれば、後は川沿いの
 交易都市をいくつか落とすだけで、人魔の領土は蹂躙されよう。
 これは我らが我らを護るための戦いでもある」

文官「ただいま、竜族の重装甲部隊到着いたしましたっ」

副官「判った。休んでいただけっ」

鬼呼の姫巫女「しかし、かき集めたとは言え……」

紋様の長「我らは総数6万に過ぎぬな」

副官「族長不在の今、これだけの獣人の一族が参戦してくれるとは
 思ってもいませんでしたが、それでも数の上ではまだ圧倒的に
 及びません」

381 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 21:44:23.21 bGZgmCoP

鬼呼の姫巫女「もはや云っても仕方ないだろう。
 少なくとも我らには豊富な糧食と地の利がある」

鬼呼執政「そうですな」

紋様の長「やはり、討って出るべきだろうな」
副官「ふむ……」

鬼呼の姫巫女「で、あろう。
 この都市に新しい防壁が完成しかけておるとは聞いておるが、
 一度も実戦に用いたことがない防壁を
 どこまで信じて良いかは判らぬ。
 それに報告によれば、人間の遠征軍の大半は正規の軍人ではない。
 特に緒戦においては士気に乱れがあるだろう。
 そこをつき、野戦にて出来るだけの数をそぐ」

紋様の長「紋様一族から魔術に秀でた者を集め、
 魔術部隊を編制しました。
 人間界の者は魔術に対する防御がお粗末なのは
 前回の戦役で証明済みです。
 その弱点を突き、混乱させて、数を減らす」

副官「それしかありませんか……」

鬼呼の姫巫女「副官殿の気持ちも判らないではないが
 これだけの数ともなると、手加減することは出来ぬ」

鬼呼執政「いえ、これだけの手段を講じてさえ、
 結果どうなるかは請け合えぬのです。
 我らはマスケットなる新武器の威力を知っているわけでは
 無いのですから……」

獣人軍人 こくり

紋様の長「布陣については如何様に考える?」
副官「そうですね……」

383 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 21:46:35.39 bGZgmCoP

副官「ここに、私たちが以前使っていた東の砦があります。
 砦の内側に隠れるというわけには行きませんが
 この周辺の地形は護るに易く、幾つかの塹壕も掘ってあります。
 砦を中核として伏兵を配します。
 人魔族およびその魔術部隊にお願いをしたいと考えます」

紋様の長「ふむ」

副官「一方、この南大門から出陣した本隊は、
 中央部を鬼呼の軍にまかせ、右翼を獣人の一族、
 左翼を竜族、人間、巨人族などの混成軍とします。
 都市から1里半ほどの地点に布陣を行ない、
 敵の突進を柔らかく受け止める」

鬼呼の姫巫女「柔らかく?」

副官「中央部を後退させるようにです。
 今回の敵の弱点は、部隊としてはあまりにも多数過ぎることです。
 指揮も行き届きませんし、
 必ずやその兵の質にはばらつきがあります。
 そのように受け止めれば、敵の軍は中央部が突出し
 長く伸びるでしょう。
 
 そこを魔術部隊で最前線の後部に仕掛け、混乱を誘います。
 敵の伸びきった最前部を“噛みちぎる”。
 この方法で敵の数を減らしましょう。
 もし何らかのトラブルが発生した場合や、
 敵の勢力が大きかった場合は後退して城門の中に入る。
 
 獣人軍人さん」

獣人軍人「はっ」

副官「市の防衛部隊を中心に民間人からも義勇兵を募り、
 義勇軍を組織して下さい。もし撤退する場合は防壁からの
 援護射撃も必要になる。
 義勇兵を前線に出すのは馬鹿げていますしね」

獣人軍人「了解」

385 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 21:47:27.63 bGZgmCoP

副官「このような形でどうでしょう?」

鬼呼執政「何とかなりそうですな」

紋様の長「ええ、一万ほども噛みちぎれば、
 人間の遠征軍も頭が冷えるでしょう」

鬼呼の姫巫女「事はそこまで簡単に行くか、どうか」

獣人軍人「……」

紋様の長「だが、退く道はない」
副官「はい」

鬼呼の姫巫女「うむ」

副官「決戦はおそらく、明後日になるでしょう。
 今このときも魔界の各地に伝令が走り回っているはずです。
 人間界へと渡っている魔王殿も、銀虎公も
 それにあの生き汚いうちの大将も、
 手をこまねいているわけがない」

鬼呼の姫巫女「そうだの」

紋様の長 こくり

副官「今は目の前の戦いを生き延びることを考えましょう」

鬼呼の姫巫女「任せるが良い」

紋様の長「開門都市は、鬼呼と人魔の氏族が護ろう」

395 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 22:22:27.36 bGZgmCoP

――湖の国、首都、『同盟』作戦本部

がやがや

同盟職員「調査はほぼ終了しました」

青年商人「どうですか?」

同盟職員「やはり、全域をカバーするのは到底不可能ですね。
 こっちに図を作ってみたんですが……。
 主要な隊商道や航路の3割くらいをなんとか、と云うところです」

同盟職員娘「やはり聖光教会の寺院の数は桁外れですね」

本部部長「我らの商館の全てに銀行を作ったとしても、
 その数の開きは十倍では効かないな」

青年商人「数の違いはこの際度外視しましょう。
 こちらの銀行同士で、仮に為替取引を行ない始めた場合
 構成できるラインはどれくらいになりますか?」

同盟職員「えー。38ルートですね」

青年商人「やはり主要な交易路に集中していますね」

同盟職員「もともと『同盟』の商館は主要な交易都市や
 物資の資源国に集中しているわけですから、
 その商館同士をラインでつなげば、主要な交易路と
 重なるのは当たり前なんですけれどね」

青年商人「問題は、このルートのシェア、
 つまり為替取引の全てをこちら側に奪えたならば、
 教会にどれだけのダメージを与えられるか、です」

同盟職員「……うーむ」

青年商人「どうですか? 本部長」

397 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 22:24:48.44 bGZgmCoP

本部部長「本当に概算にしかなりませんが、
 我ら『同盟』の年間の利益のうち、
 これらの主要な交易路からあがるものは15%ほどでしょうね。
 しかし、それ以外の交易ルートも、これら主要な交易ルートに
 ぶら下がっていると云う可能性は大いにあり得る」

同盟職員娘「ぶら下がっているとは?」

同盟職員「たとえば麦で云えば、
 交易都市から、海辺の領地を通って村に至るルート。
 ……こんな感じだな。
 この地方ルートは主要交易路とは関係がない。
 今回の為替網を作るという企画とも無関係だけれど
 そもそもこの関係ないルートの起点にある交易都市は
 主要なルートに含まれているだろう?
 で、あれば、この小麦は、主要交易ルートを通って
 どこか別の場所から運ばれてきた小麦である可能性も
 あるって事だ。
 主要じゃない末端の交易ルートも、こういった形で
 主要ルートの恩恵を受けている可能性は十二分にある」

同盟職員娘「なるほど……」

本部部長「そう言ったことを考え合わせると、
 教会が得ている為替による利益全体のなかで、
 これら38ルートの利益はおおよそ20~30%に
 なるのではないかと推測されますな」

青年商人「30%か……それでは、この38ルート全てを
 得たとしても勝ったとは言いきれませんね」
本部部長「どれほど必要ですか?」

青年商人「泥仕合を避けたいのならば、60%」

本部部長「ふむ……」

同盟職員「うーん」
青年商人「どうしました?」

398 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 22:27:55.83 bGZgmCoP

同盟職員「いえ。30じゃダメ、なんですよね?」

青年商人「もう少し欲しいですね。
 これではシェアを奪ったとしても“勝った”という印象には
 なりがたい。今はその印象が欲しい」

本部部長「その印象で何を商うのです?」

青年商人「それは、勝った後の話です」

同盟職員「んー」 ばりばり
同盟職員娘「どうしたの、頭かきむしって」

同盟職員「何か思いつきそうなんだ。
 何かが出かかっている感じがする。
 泥仕合を避ける……。うー。どっかで似たようなシチュエーションを
 やった気がするんだけど」

同盟職員娘「なんの取引?」

同盟職員「判らない」
同盟職員娘「それじゃ手伝えないわよ」

青年商人「ふむ」

同盟職員「30……。多分、切り口は、まだ試合前って事なんだよ」
青年商人「試合、前」

同盟職員「……うん、そうです。それが鍵です」
同盟職員娘「……」

本部部長「何を悠長な。可否判断にそこまでの手間を」
青年商人「いや、待ちましょう」

同盟職員「……圧縮? いや……買い付け、か。
 つまり、敵に無くて、僕たちにあるものだっ!」

青年商人「時間っ。そうですね?」
同盟職員「そうです。それをなんとか利用して……」

青年商人「買い付けた為替証と、反転させた攻勢の
 組み合わせで、全体を溢れさせる……。
 その瞬間を勝利宣言。……それで二倍。30%の二倍」

同盟職員娘「は? はぁ!?」

青年商人「判りました。まずは勝利する。
 得点はその後。……そういう流れになりますね?」

同盟職員「そうです。いけますよ。きっと!」

424 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 23:13:17.22 bGZgmCoP

――開門都市、南門から2里、奇岩荒野、遠征軍

ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!

百合騎士団隊長「見えたぞ! 進め! 進め! 光の子らよっ!」
従軍司祭長「あれぞ! 目指す開門都市はあれぞっ!」

灰青王「中央銃兵!! 列を崩すなっ!」

光の銃兵 ザッザッザ

「光は求め給う!」 「光は求め給う!」 「光は求め給う!」

光の槍兵「我らが猊下のために!」
光の中隊長「光の精霊、万歳っ!!」
光の軽装歩兵「光の精霊、万歳っ!!」

ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!

百合騎士団隊長「敵は正面、方陣を引いているっ」

灰青王「ふんっ。中央に歩兵、右翼に軽装散兵。
 左翼には……あれは巨人か」

百合騎士団隊長「巨人とは……。ふふふ、どうするの?」

灰青王「山よりも大きな訳でも無し。
たかが身長が倍ほどあるだけではないか。
 あれはカノーネの良い的になってくれるだろうさ」

ザッザッザッ

光の中隊長「進め! 進め! 敵は目の前だ」

百合騎士団隊長「お手並みを拝見といこうかしら」

灰青王「勝利はあなたの唇に捧げるとしよう。
 マスケット準備! このまま前進するぞっ!!」

425 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 23:15:14.48 bGZgmCoP

――開門都市、南門から2里、奇岩荒野、魔族軍

  うわぁぁぁ!!!

副官「来ましたね」
鬼呼の姫巫女「うむ。頼むぞ」

鬼呼軍団長「遠征軍が来た! 鬼呼の勇士達よっ!」

鬼呼の刀兵 かちゃ
鬼呼の槍兵 ちゃきっ

鬼呼軍団長「諸君らの勇猛はわたしのもっとも知るところだ。
 敵の突進は熾烈を極めるだろうが、それを受け止める必要がある。
 諸君らの武勇は、敵の猪口才な火筒などに
 左右されるものではない!
 鬼呼の誇りをかけて切り刻めっ!」

鬼呼の刀兵「はっ!」
鬼呼の槍兵「承知っ」

副官「ここはお任せしてよろしそうですね。
 わたしは混成軍の指揮に行ってきます」ひらりっ

鬼呼の姫巫女「頼んだぞ」
鬼呼軍団長「お任せあれ!」

  うわぁぁぁ!!!

だかだっだかだっ
副官「近づいてきたな」

竜族の重装歩兵「人間めらが来たなっ」
巨人投擲兵「うん……きた……」

副官「そろそろ始まりますよ。準備を!!
 巨人の皆さんの手元へ投げ槍を運んで下さい。
 この場所から、敵軍へ向かって連続投擲を行ないます」

426 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 23:17:34.58 bGZgmCoP

――開門都市、南門から2里、奇岩荒野、遠征軍

ザッザッザッ

灰青王「ここ、だな」
霧の国騎士「はじめますか」

灰青王「うむ。――中央第1部隊! 突撃!
 敵軍に接触時点で射撃っ! ゆっけーい!!」

光の銃兵「うわぁぁぁぁ!!」
光の槍兵「突撃ぃ! 突撃だぁ!!」
光の中隊長「光は求めたもうっ!!」

灰青王「続いて、中央第2部隊! マスケット準備!
 第1部隊が敵軍と接触、銃撃をしたならば次は諸君達だ!!」

光の中隊長「急げ、遅れるなっ!!」
光の軽装歩兵「魔族を打ち倒せ!」

百合騎士団隊長「そうだ、あの開門都市を我らが手にっ!」
従軍司祭長「光の精霊のお求めですぞっ!」

灰青王「精霊? 戦場で事を決するのは、常に鋼と炎よっ」

ズダーン! ドーン! ドンッ! ズダーン!!

霧の国騎士「第1部隊、発射確認っ!」

灰青王「中央第2部隊! 突撃開始っ! 必ず、第1部隊の
 位置より敵陣に食い込んでから発射するのだっ!
 発射までは槍兵を中心にマスケット兵を護れっ!
 突撃っ! ゆけーいい!!」

光の銃兵「うぉおおおおおお!!」

「光は求め給う!」 「光は求め給う!」 「光は求め給う!」

光の中隊長「戦場の功は我ら第2部隊のものだぁっ!」

427 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 23:18:51.62 bGZgmCoP

――開門都市、南門から2里、奇岩荒野、魔族軍

鬼呼の姫巫女「来たな」ザシャ

鬼呼軍団長「刀を取れ! 勇者よ。行くぞ、突撃っ!」

鬼呼の刀兵「おおー!!」
鬼呼の槍兵「突撃っーーっ!!」

副官「こちらも行きます。マスケットの狙いを
 少しでも甘くさせてやるんです。
 接触よりも奥の地点を狙って下さい。それっ!!」

巨人投擲兵「ま、かせろ……」

 びゅんびゅんっ! びゅぅぅん!!

獣牙の散兵「我らも行くぞ、右翼より食らいつけっ!」
獣牙の突撃兵「突撃ぃ! 突撃っ!!」

ズダーン! ドーン! ドンッ! ズダーン!!
  ドーン! ドンッ! ズダーン!!

鬼呼軍団長「っ!?」

「うわぁぁあああ!!」 「な、なんだ……と……」

鬼呼の刀兵「ひるむなっ! 切り込めっ! 切り込めっ!」
鬼呼の槍兵「鬼呼の武勇を見せろ! 全軍突撃っ!」

巨人投擲兵「せいっ……」びゅんっ! びゅっ!

副官「なんてことだ。これがマスケットの突撃なのか……っ」

「ゆけぇ!」 「光は求めたもう!」 「光は求めたもう!!」
ドンッ! ズダーン!! ズダーン! ドーン! 

副官「なっ、第二射っ!? 早すぎるっ!!」

428 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 23:19:55.18 bGZgmCoP

――開門都市、奇岩荒野、東の砦、人魔軍

紋章の長「……我ら人魔軍も行きますよ」

魔術部隊隊長「了解。ゆくぞ」
魔術兵「はっ!」

ダカダッダカダッダカダッ

人魔騎兵「全体をそろえよ、遠征軍の先頭部分を横から切断するぞ」

人魔槍兵「了解っ」

         ズダーン! ドーン! 

紋章の長「始まっていますね。魔術部隊、術式展開!」
魔術部隊隊長「はっ! “多重幻影術式”開始っ!」

魔術兵「“多重幻影術式”っ!」
魔術兵「“夢幻幻影術式”っ!」

紋章の長「騎兵諸君! 諸君らの身体には幻影の術式が
 かけられている。この術式のお陰で、諸君らの身体は
 敵からは薄れ、ぼやけ、あるいは鏡に映ったように
 何人もに分裂して見えるはずだ。
 敵の新型兵器マスケットは射撃武器だ。
 射撃武器である以上、この幻影にて命中率は大幅に下がる。
 
 騎兵を中心に横合いから突撃っ!
 敵部隊の前方突出部隊を噛みちぎり、そのまま乱戦に突入。
 開門都市のほうへと駆け抜ける」

人魔騎兵「了解いたしましたっ!」
人魔槍兵「我らが大儀のためにっ!」

429 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 23:20:56.79 bGZgmCoP

――開門都市、南門から2里、奇岩荒野、遠征軍

霧の国騎士「左翼から敵の伏兵。分断を目的とした突撃」

灰青王「ふぅむ。それくらいはやるだろうな」にやり

霧の国騎士「敵は幻影魔法による隠蔽の上、
 騎兵をぶつけてくる模様」

百合騎士団隊長「灰青王さま。分が悪いのかしら?」

灰青王「まさか。想定の範囲内ですよ。
 マスケットの意味と、兵の人員差を実感させてさしあげよう。
 左翼防御師団っ! マスケット準備っ!!」

光の銃兵 がちゃ
 がちゃ、がきん! がたっ! がちゃ、がちゃっ!!

光の中隊長「照準っ!」
光の軽装歩兵「構えーぃ、筒ぅ!!」

百合騎士団隊長「これは……」

灰青王「左右からの奇襲は織り込み済み。
 防御師団にはすでに射撃準備を命じてあると云うことですよ。
 どれほどかと思えば、騎兵5千に、突撃装備の槍兵2万と
 いうところですかね。
 マスケット兵1万の射撃にどこまで抗しうることか」

霧の国騎士「いけます」
灰青王「目標は騎馬! 幻影のことで思い悩むな!
 水平射撃を心がければよい! 斉射っ!!」

 ズダーン! ガガーン!
 ドーン! ズダオーン!

灰青王「射撃終わり次第装填! 第二射に備えよっ!!」

431 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 23:22:43.19 bGZgmCoP

――開門都市、奇岩荒野、人魔軍

 ズダーン! ガガーン!
 ドーン! ズダオーン!

紋章の長「なっ!」

人魔騎兵「うわぁぁぁ!!」
  「手がぁっ!」 「馬がっ! 馬が暴れてっ!!」
  「何だ、何が起きたんだっ!!」 「うわぁぁっ!」

人魔槍兵「なんで突然っ!? う、うわぁぁぁ!!」

ゴウゥゥン!! ゴォォン!
   ゴウゥゥン!! ゴォォン!

魔術部隊隊長「援護を! 何をしている! 騎馬の援護をするのだ!」」
魔術兵「くっ! “中級火弾術式”っ!」
魔術兵「こ、これでもくらえぇ! “中級氷弾術式”っ!」

 ドーン! ズダオーン!

人魔槍兵「せ。せめて一撃くらいはっ! うぉぉぉ!」

ゴウゥゥン!! ゴォォン!

紋章の長「っ!!」
魔術部隊隊長「ダメです! 数が違いすぎますっ!」
魔術兵「隊長っ! 敵の攻撃が途切れませんっ」

紋章の長「魔方陣を組みなさい、広域呪文をっ!」

魔術部隊隊長「了解っ! 中級以上の術者は集まれっ!」

ひぅるるるるる!! ごぉぉん!!

魔術部隊隊長「うわぁぁぁ!!!」

432 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/06 23:23:45.98 bGZgmCoP

――開門都市、南門から2里、奇岩荒野、魔族軍

ひぅるるるるる!! ごぉぉん!!

副官「本陣に直接打撃っ!?」

どぉぉんっ!!

巨人投擲兵「うわぁぁっ!!」

副官「これはっ。まさか、大砲!?
 だがこんな大型で高性能な砲が開発されたなんて話は
 聞いたことがないぞ、いったい何がっ」

どどどーんっ!!

巨人投擲兵「ぐぅぅっ……、ぅ、腕がっ」

副官「下がれっ! 竜族! 重装歩兵、前へっ!!
 撤退だ、撤退支援に入るっ! 傭兵隊はわたしに続けっ!
 鬼呼族の乱戦に突撃するっ!!」

人間騎士「くっそぉ」
人間剣士「きやがれ、こっちゃ生まれた時から戦場暮らしなんだ。
 ぽっと出の農民なんかに負けてたまるかよぉ!!」」

竜族重装歩兵隊「委細承知っ。部隊前進っ!!」

 ざっざっざっざっ!!

  獣牙の散兵「ひるむなぁぁ!!」
  獣牙の突撃兵「つっこめぇぇ!!!」

副官(なんてことだ。こんなにも、こんなにも戦力差があるなんて!)

438 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/07 00:08:54.80 UGv5Hk.P

――開門都市、南門から2里、奇岩荒野、魔族軍

鬼呼軍団長「っ! これほどとはっ」

 ズダーン! ガガーン!
 ドーン! ズダオーン!

鬼呼の刀兵「進めぇ! 切り伏せろぉ」
鬼呼の槍兵「なっ! うわぁぁぁっ」ばたーんっ

   人魔騎兵「止めろぉ! 撃たせてたまるかぁ!!」
   光の銃兵「ぎゃぁぁっ!!」
  光の槍兵「死ね! 魔族めっ!」
  人魔騎兵「うわぁぁっ!!」

ダカダッ! ダカダッ!!

「光は求め給う!」 「光は求め給う!」 「光は求め給う!」

光の槍兵「我らが猊下のために!」
光の中隊長「光の精霊のために! 進めぇ! 撃て! 撃てぇ!」

ダカダッ! ダカダッ!!

副官(だめだ。この乱戦では……。くっ。やつらは
 最初からこちらが数を減らそうとすることを読んでいたんだ。
 これは……飽和攻撃だ。
 そのことは最初から理解していたはずなのに。
 兵力差があることは判っていたけれどそれでは甘かった……っ。
 こいつらは。
 こいつらは“最初から飽和攻撃を目的にした軍”なんだっ)

ダカダッ! ダカダッ!!

副官「だめだっ!! 姫巫女っ! 退いてください!
 都市に入ってくださいっ!!」

439 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/07 00:10:10.98 UGv5Hk.P

――開門都市、南門から2里、奇岩荒野、遠征軍

観測兵「敵右翼、巨人の一団は沈黙。撤退の動き有り」

灰青王「中央部はどうだ?」

観測兵「すさまじい土煙で確認できません。
 しかし、奇襲を仕掛けてきた伏兵騎馬部隊はほぼ壊滅。
 残存部隊は、逆に乱戦区域に切り込んだ模様」

灰青王「させておけばよい」

霧の国騎士「いかがしましょう?」

灰青王「第1および第3部隊を下げさせろ。ほら貝を吹き鳴らせ。
 おまえは第4部隊を率いて前線をより深く打ち立てろ」

霧の国騎士「はっ!」

  ゴウゥゥン!! ゴォォン!
     ゴウゥゥン!! ゴォォン!

光の銃兵「精霊は欲したもうっ!」
光の槍兵「つっこめぇ!」

百合騎士団隊長「すさまじい銃火。どうなっていますの?」

灰青王「正気の司令官ならば、そろそろ撤退判断を
 下すでしょうね。確認は出来ないが、
 損耗率はもはや許容限界を遙かに超えている」

百合騎士団隊長「では、もちこしに?」
従軍司祭長「そのようなこと、許されませんぞ」

灰青王「ええ。前線は乱戦となって膠着しかけている。
 そんな中で撤退の報せが走れば動揺が走り、
 反転時に大きな隙が生まれる。
 こちらは魔族のそんな動揺にに、
 完全な予備兵力として温存しておいた精鋭マスケット兵団と
 フリントロック隊、合計6000を投入する。
 ……連中が背中を見せた瞬間が、最後だ」

440 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/07 00:11:37.75 UGv5Hk.P

――開門都市、南門から2里、奇岩荒野、魔族軍

獣牙の散兵「獣牙の勇姿を今こそ見せよっ!」
獣牙の突撃兵「仲間の撤退を護れ! つっこめっ!!」

鬼呼の姫巫女「撤退だっ」
鬼呼軍団長「歩兵部隊、傷病者より、後退っ!!」

副官 ぞくっ

獣牙の散兵「うぉぉっ!!」
獣牙の突撃兵「当たるかぁ!!」

鬼呼軍団長「くっ」
鬼呼の姫巫女「どうした、何故早く撤退をせぬっ」

鬼呼軍団長「急激に背中を見せれば、その隙を突かれますっ。
 こうして後退を行なうしかありませんっ。
 それすらも人魔族を見捨ててやっとなのです」

副官(なんだ、首筋が……。ぞわぞわするぞ……)

 ズダーン! ガガーン!
 ドーン! ズダオーン!

獣牙の散兵「うわぁぁっ!!」
獣牙の突撃兵「な、なにっ!? 新手だっ!」

鬼呼軍団長「新手っ!?」

副官(なっ!? この上、予備兵力だとっ!?)

鬼呼の刀兵「うわぁぁぁ!! な、なんであんなとこっ」
鬼呼の槍兵「ぐぎゃぁぁっっ!!」

 ズダーン! ガガーン!
 ドーン! ズダオーン!

副官「くっ。くそぅっ!! くそうっ!!
 助けるんだ、撤退を助けろっ! 弱いところを探して
 突撃を集中させるんだっ!」

うぉぉぉ。うわぁぁぁぁぁあ!!

副官「っ!?」

441 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/07 00:12:43.46 UGv5Hk.P

――開門都市、奇岩荒野、人魔軍

うおおおぉぉぉおお!!

銀虎公「突っ込んでゆさぶれぇ!! 接近戦だっ」
獣牙双剣兵「おおおおっ!!」

獣牙斧兵「我ら獣牙精兵、友軍を見捨てはしないっ」

ドドオーン! ドーン!

魔王「敵にこだわるなっ! 混乱させればそれでいい!
 いまは撤退を助けて開門都市を目指せっ!!」

東の砦将「しっかりしろっ!」
紋様の長「ぐっ。うううっ……」

獣牙双剣兵「うりゃぁぁ!!」
獣牙斧兵「どっせぇーぇいっ!!」

魔王「魔法部隊っ! 歩兵に不可視呪文を投射せよっ!
 同士討ちを警戒させるのだっ。騎馬部隊は魔法部隊を保護っ!
 場合によっては同乗して東側より戦場を待避! 急げっ!!

銀虎公「気合いをいれろぉぉ! 合戦だぁぁぁ!!」

獣牙の散兵「銀虎公だっ!!」
獣牙の突撃兵「銀虎公のご帰還だぁ!」

銀虎公「俺が戻ったぞぉ!! 必ず生きて街へと戻るんだ!
 傷ついたやつがいれば肩を貸してやれ!
 どんなことになっても良い、戻るんだっ!!」

「魔王様だっ!」 「魔王様の援軍が現われたぞっ!!」
「撤退だ、魔王様の援軍が護ってくださるっ!」

「魔王のためにっ!」 「我らが護り手、紅玉の瞳のためにっ!!」

443 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/07 00:14:11.36 UGv5Hk.P

――開門都市、南門から2里、奇岩荒野、遠征軍、天蓋馬車

「魔王のためにっ!」 「魔王のためにっ!」

大主教「……来たか」
従軍司祭長「は?」

 ズダーン! ガガーン!
 ドーン! ズダオーン!

大主教「魔王が来たぞ」
従軍司祭長「なんですとっ」きょろきょろっ

大主教「戦場の中央部、乱戦部を抜けようとしているな」」
従軍司祭長「何故そのようなことを居ながらにしてっ?」

大主教「くくく。これも精霊の啓示」
 ころん、ころんっ

百合騎士 ぞくっ

大主教「百合騎士隊よ」
百合騎士「ははぁっ」 がばっ

大主教「騎馬マスケット部隊にて、魔王を包囲するのだ。
 魔王の守りは薄い。
 持てる兵の全てを撤退戦に投入していると見える。
 王の守りを薄くするとは……。
 魔王とは云えぬ愚かさ。その割り切りも持てぬとは」

従軍司祭長「騎乗、攻撃準備っ!」

百合騎士「ははぁっ!!」

大主教「汝らの優先に、光の祝福を」

百合騎士「百合騎士隊よっ! 猊下のお導きだ。行くぞっ!!」

457 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/07 00:57:02.82 UGv5Hk.P

――開門都市、奇岩荒野、合戦のさなか

  ゴウゥゥン!! ゴォォン!
     ゴウゥゥン!! ゴォォン!

霧の国騎士「死ねぇ! 異端めぇぇ!!」
東の砦将「うらっ! そうはいくかっ!」

 ギィインッ!

霧の国騎士「なぜ人間が魔族につくっ!」
東の砦将「なぜ殴りかかっても来ない相手に殴りかかるっ!!」

 ギィンッ! キン! キキンッ!

霧の国騎士「それが戦場の常だっ」
東の砦将「ああ、まったくだ。同意見だよっ!」

 ギィインッ! ヒュバッ!
 
霧の国騎士「っ!?」

東の砦将「同意見だから、人間だ魔族だ、やれ精霊だ。
 そういう面倒くせぇご託抜かしてるんじゃねぇよっ。
 どうせお前も俺も、野盗に毛が生えた程度の
 浅ましい畜生根性なんだからっ!
 よぉっ!!」

 ギィインッ!

霧の国騎士「黙れっ! 黙らないか、痩せ犬がっ!」
東の砦将「剣で黙らせてみろっ」

 キンッ! ヒュバッ! シュバッ!!

霧の国騎士「裏切り者の分際でぇっ!」

458 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/07 00:58:23.53 UGv5Hk.P

――開門都市、奇岩荒野、合戦のさなか

 ゴウゥゥン!! ゴォォン!
    ゴウゥゥン!! ゴォォン!

魔王「急げ! 右翼に隙を見せるなっ! げほっげほっ」
人間の騎兵「魔王様、ここは危ない。早く移動をっ」

魔王「しかし、魔法部隊がっ」

銀虎公「行くぞ、魔王殿。……これはただの戦闘なんだ。
 魔王殿の出番は他にあるはずだ」

魔王「……っ」

ひゅるる……ドォォン!!

獣牙双剣兵「っ!」

ゴウゥゥン!! ゴォォン!

獣牙斧兵「なっ!」 ゴロンッ!

「魔王だ!」 「この近くに魔王がいるはず、魔王を捜せっ!」
「魔王を見つけ出し、マスケットを喰らわせるのだ!」
「魔界の背教者、暗黒の権化に死の鉄槌をっ!!」

銀虎公「くっ。どうやらばれたらしいな。早く行こう」

魔王「判った。都市へと退却するぞっ!」

人間の騎兵「「「はっ!!」」」

魔王(マスケットの威力がこれほどとは……。
 これも運用か。火器の配置と集中。
 そして乱戦を意にも介しない悪意に満ちた集中力と無慈悲さ。
 このような容赦のない用兵を行なう者が、
 聖鍵遠征軍に存在するとは……。
 これも、わたしの罪なのか……)

459 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/07 00:59:46.01 UGv5Hk.P

    ゴウゥゥン!! ゴォォン!

ダカダッ! ダカダッ!!
 ダカダッ! ダカダッ!!

魔王(それにしてもなんという数だ。20万? 30万?
 そんな数字を聞いても判りはしない。
 この軍勢を見るまではわたしにも判らなかった。
 まずい。
 まずいぞ……。
 これだけの数のマスケットと大軍勢は、上手く運用さえすれば
 魔族を一人残らず殺すことも可能かも知れない)

ゾ クッ

魔王(なっ。何を馬鹿なっ。
 そのような非効率的、非現実的な妄想などあるものかっ。
 ……だが。
 この悪魔的な破壊力、殲滅力。おびただしい血の量はどうだ。
 戦が始まってからまだ半日もたっていないはずなのに
 大地はおびただしい血を吸って黒くぬめったような
 異様な光景になりはてている……。
 これが火薬の作り出す地獄なのだとすれば……。
 わたしは……。わたしはっ)

ダカダッ! ダカダッ!!

東の砦将「魔王っ! 伏せろっ!」

ゴウゥゥン!

百合騎士「死ねぇっ!」
魔王「っ!!」

ズドンっ! ぽたっ、ぽたっ

銀虎公「くふっ。ふはっ」
魔王「銀虎公っ!!」

463 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/07 01:02:28.14 UGv5Hk.P

銀虎公「ふふっ。ふははははっ!
 遠からん者は音にも聞けっ、近くは寄って目にも見よっ。
 魔界に氏族数多あれど、武勇の誉れ叩きは
 我が獣牙っ。白虎の眷属にして、導きの長。
 戦場に誉れ高き七つ矛の主っ。
 
 我こそは、魔界に轟き右府将軍っ!
 名は隗、字は草雲、黒眼雪髪、銀虎公と称す。
 
 その方らのような雑兵に、やられる俺ではないわぁっ!」

獣牙双剣兵「っ!」

魔王「ぎ、銀虎公?」

百合騎士「死ねぇっ!」 ズギュゥゥン!!
百合騎士「化け物めっ! 倒れろっ! 倒れろぉっ!!」

ゴウゥゥン!! ゴォォン!
ドゥゥン!! ズドォォン!

魔王「ぎっ、銀虎公ーっ」
東の砦将「ダメだっ! 魔王っ! 行くんだっ!」

 獣牙双剣兵「うわぁっ!!」
 獣牙短槍兵「突撃ぃぃぃ!!」

銀虎公「ふははははっ! ははははははっ!!
 愉快、痛快っ!! それ、木っ端騎士めっ!
 我が大薙刀を受けきるかっ! せいやぁぁっ!!」

ドゴォォーン!!!

魔王「銀虎公っー! 銀虎公っー!!」

東の砦将「行かせないっ。魔王っ!!」

ダカダッ! ダカダッ!!

468 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/10/07 01:05:51.95 UGv5Hk.P

銀虎公「ははははっ!!
 戦場こそ我ら獣牙の故郷っ!
 楽しい戦だったぞ、魔王殿っ!!
 そして、夢のような日々であった。
 心が軽くなり、何を話しても、何をしても楽しかった。
 そーっれっ! せいやっ!!
 
 ――約束は少しは守れただろうかっ。
 我ら獣牙は戦の民。
 しかし、粗にして野でも、卑にはあらず。
 魔王殿っ。魔王殿に誓った忠誠は、その報恩は
 未だ尽きてはいないぞっ!
 はははははっ!」

魔王「銀虎公ーっ」
東の砦将「……っ」

ダカダッ! ダカダッ!!

銀虎公「はははっ! 人間の勇士よ! 砦将よっ。
 礼を言うぞ。そして出来れば頼みたいっ。
 我は三度の約束のうち、二度は果たしたが、
 最後の一度をお返しする前に果てるようだ。はははははっ」

百合騎士「化け物めっ!」 ゴォォン!

銀虎公「五月蠅いわぁっーっ!!」

ズザーン!! ザパァッ!!

銀虎公「魔王殿はか弱いっ。か弱くて、
 弱く、頼りなく、転んだだけで死にそうなほど情けない方だっ。
 だが、その細い肩にはこの魔界がのっておるっ。
 砦将よっ。我を認めてくれた人間よっ!
 気の良い男よっ。酒を酌み交わした戦友よっ。
 頼んで良いだろうか」

ダカダッ! ダカダッ!!
東の砦将「――っ」ぎゅぅっ

銀虎公「我亡き後、できれば最後まで……
 魔王殿を……支えて……」

魔王「銀虎公ーっ!!」

    ゴウゥゥン!! ゴォォン!




次回:魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 #36


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