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924 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 14:12:40.92 pLtZgbkP

――椚の国、街道沿いの農地

奏楽子弟「……ひどいね」
メイド姉「ええ」

ぎゃぁっ! ぎゃぁっ!

奏楽子弟「鴉があんなに。あれは……」
メイド姉「荼毘です」

奏楽子弟「え?」

メイド姉「葬儀通報人が立っていませんから、
 おそらく農奴なのでしょう……。
 家族だけで葬っているんです」

奏楽子弟「農奴って?」
メイド姉「農作業を行わせるための、奴隷に似た存在ですね」

奏楽子弟「この世界は奴隷がいるのっ!?」

メイド姉「そうです。……今まで通ってきた村や畑にいた
 殆どの人間がそうですよ? 事に北のほうでは開拓民が
 少ないですから、余計に割合が多いんです」

奏楽子弟「……っ」

メイド姉「怒らないでください。詩人さん」

奏楽子弟「なんで……っ」

メイド姉「怒ってもあの人達は救われない。
 わたし達は誰も幸せにならないんですから」

元スレ
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1253540623/
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1253950332/

926 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 14:14:38.60 pLtZgbkP

奏楽子弟「でもっ」
メイド姉「怒っちゃダメですよ」

奏楽子弟「……」

メイド姉「わたしも農奴の家に生まれて、農奴でした」
奏楽子弟「え?」

メイド姉「わたしと妹は逃げ出して、運が良く……
 本当に奇跡に近いほど恵まれた幸運で、
 助けてくれる当主様に拾われました。
 当主様の家で仕事を覚え、読み書きや算術も教えて頂きました。
 わたしの生まれは、本当はとても卑しいんです。
 お父さんもお爺ちゃんも名字なんてありません。
 わたしが名乗ってるのだって、当主様がくれた名前ですもの」

奏楽子弟「……」

メイド姉「詩人さんが怒ってくれているのは
 わたしや他のみんなのため。
 代わりに怒ってくれているんですよね。
 それは嬉しいのですが、多くの人々にはそれも判らないんですよ。
 農奴って云うのはやはり奴隷だって事や
 それがどんなに悲しいことか判らないんです。
 だって生まれた時から農奴なんですから。
 それ以外のことを何にも知らないで過ごしてきたんですから」

奏楽子弟「そんなの、ないよ……」

メイド姉「でも、現実はそうなんです」

奏楽子弟「……」

927 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 14:16:23.11 pLtZgbkP


メイド姉「泣きそうな顔をしないで下さい」
奏楽子弟「うん……」

メイド姉「詩人さん」
奏楽子弟「ん……」

メイド姉「歩きながら歌える、格好良い曲を教えてくださいよ」
奏楽子弟「……どうして?」

メイド姉「せっかく旅の道連れになったんですもの。
 歌の一つや二つは覚えたいです。
 それに、この人達は本当に日々の楽しみがないんです。
 どうせなら悲しい曲じゃなくて、逞しい歌がよいです」

奏楽子弟「うん……」

メイド姉「怒る代わりに、彼らに一曲プレゼントしてください」

奏楽子弟「わかった。――これはね。
 獣……を使うのが上手な、荒野の戦士の一族の、
 お酒の歌なんだよ。
 暴れ者のくせに涙もろい連中の歌なの。
 
 ~♪
 酒をめぐりて相逢へる
 親しき友のよろこびと
 恋され恋する若人の
 互いに寄り添ふよろこびよ。
 ああ、あまつさへ時は春、
 華の王なる春なれば
 花は紅、葉は緑、
 世はいみじくも薫りたり。
 いざ奮ひたて、すこやかに、
 葡萄の酒を乾す者よ、
 今ぞこの地は天の国
 香も馨はしき水の流るる」

928 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 14:17:58.21 pLtZgbkP

メイド姉「花は紅、葉は緑――」
奏楽子弟「うん」

メイド姉「素敵な歌ですね。わたしは大好きです。
 大地は、こんなにも綺麗ですもの」

奏楽子弟「酔っぱらった良い大人がわんわん泣いたりしてね」

メイド姉「ふふふっ」
奏楽子弟「春なのにね」

メイド姉「ここはなかなかに貧しいところなんです。
 春には小麦が収穫できるはずですが、
 今年はさほど出来が悪かったわけでもないのに、
 様々な要因で一向に値段が下がりません。
 
 今はよいです。
 春ですから、最悪森に入ればキノコでも野草でもありますし、
 キャベツやにんじん、豆もあります。
 でも、食料を保存しなければ飢える秋までこのままだと
 この冬は多くの餓死者が出るかも知れませんね」

奏楽子弟「……なんだか、辛いね」
メイド姉「ええ」

奏楽子弟「何でこんなに辛いのかな」
メイド姉「……」

奏楽子弟(何でわたしはこんなに胸の内が、
 どろどろでぐつぐつとしているんだろう……)

メイド姉「市門が見えてきましたよ」

930 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 14:34:59.07 pLtZgbkP

――椚の国、街道沿いの中都市

門衛「騒ぎはおこすなよ」

奏楽子弟「はい、もちろん」にこっ
メイド姉「ありがとうございます」

とっとっと……

メイド姉 じぃっ
奏楽子弟「どうしたんだ?」

メイド姉「いえ、こう言う時は本当に
 旅慣れていらっしゃるな、と思って」

奏楽子弟「あ、それはね。
 そりゃこの地方の知識は少ないけれど、
 詩人と云えば旅だよ。旅歩いて詩想をえないと。
 だから馴れてるのよ」

メイド姉「そうですよね」にこっ
奏楽子弟「今晩はこの街で?」

メイド姉「えーっと。まだ昼前ですよね。
 少しお金を稼ぎたいと思うんですけれど……」

奏楽子弟「どうやって?」
メイド姉「代書をしようかと思います」

奏楽子弟「代書って何?」

メイド姉「代わりに書くんですよ。……文字を書ける人は
 あんまりいませんからね。それから、文字を書くついでに
 相談事にも乗ります」


931 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 14:40:14.09 pLtZgbkP

奏楽子弟「相談事って?」

メイド姉「代書屋が書くのは主に手紙や書類なんですけれど
 そういうのって、普段みんなの生活にはあまり縁が
 深くないんです。
 たとえば、領主様へのお願い事を書面で出したい時に、
 もちろんお願いしたいことは
 依頼してくる人が考えるんですけれど、
 どうやって書けばお願いを聞いてくれそうか
 相談に乗ったりするんですよ。
 
 息子さんが兵隊で、遠くからやってきた手紙を読んで欲しい
 おばあさんと、返事の内容を考えたり。
 
 時には浪漫的な恋文の代筆をしたりもします」

奏楽子弟「そういうのは、わたしも得意ね!」

メイド姉「そう言う時には一緒に書きましょう」

奏楽子弟「そうだね! でも、代書って随分いろんな
 専門的な知識がいるのではないの? 良くできるね」

メイド姉「なんとなく。あはっ。旅に出てから覚えたんです」

奏楽子弟「そっか。でも、出来るなら良いよね。
 それってどうやればいいの?」

メイド姉「どこかで教会を探して、
 その敷地内でやらせて貰うんですよ。
 ……ああ、あそこに見えますね。ほどよい大きさの教会です」

奏楽子弟「あんまり大きくないけれど、良いの?」

メイド姉「大きすぎると、この街に住んでいる代書屋の人と
 仕事がかち合ってしまいますからね。
 あれくらいが丁度良いと思います」

奏楽子弟「ふぅん」

932 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 14:41:43.33 pLtZgbkP

さくっ、さくっ

メイド姉「済みません、この教会の方ですか?」
助祭「はい、そうですが」

メイド姉「わたしは旅の学者でして。はじめまして。
 この教会で礼拝させて頂くと共に、
 心細くなった路銀を稼ぐために、
 今から夕刻までの間、しばらくここの敷地で
 代書をさせて頂きたいと考えています。
 こちらはわたしの連れで、旅の吟遊詩人」

奏楽子弟 ぺこり

助祭「これはお美しい二人連れですね。
 わかりました、精霊の庭はいつも開かれています」

メイド姉「ありがとうございます。これは少ないですが
 心ばかりの喜捨、感謝の印です」

チャリンチャリン……

助祭「ほほう。感心ですね!
 あちらに古いですが頑丈な木挽きテーブルがあります。
 そちらでなさられると良いでしょう」

メイド姉「ありがとうございます」ぺこり

助祭「そちらの方は……」
奏楽子弟「はい?」

助祭「見かけない髪の色ですね。それにどことなく……」

934 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 14:51:56.63 pLtZgbkP

メイド姉「彼女は遠く東南から旅をしてきたんですよ。
 深い森の中で歌と踊りをこよなく愛する民の出身なんです。
 えっと……森ガ族でしたよね?」

奏楽子弟 こくこく
助祭「そうですか。……ふむ」

メイド姉「旅の途中で彷徨う我らは、信仰に迷った子羊と同じ。
 精霊様の慈悲は、遠方の者であるほどに暖かく
 照らしてくださると信じます」ぺこり

助祭「……まぁ、良いでしょう。しっかり励んでくださいね」
メイド姉「重ねてお礼を申し上げます」

さくっ、さくっ

奏楽子弟「えっと、その……さ」

メイド姉「はい?」

奏楽子弟「よくまぁ、あれだけと都合良い言葉がつるつると。
 役者に向いてるかも知れないよ? メイド姉は」

メイド姉「あはっ。……わたしの兄弟子の一人が
 ものすごい洒落者でして。彼に教えて貰ったんですよ」

奏楽子弟「ふぅん。弟子?」

メイド姉「ああ。当主様は、教師をしていたんです。
 拾って頂いたお屋敷ではたらきながら、ほんのちょっぴり
 色んな事を教わったんですよ」

奏楽子弟「そっか……。どこかで聞いたような話」

メイド姉「そうなんですか?」

933 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 14:45:47.85 pLtZgbkP

奏楽子弟「さっきの、森ガ族って……」

メイド姉「ああ。ちょっぴり嘘をついてしまいました。
 後で精霊様にお詫びしなければなりませんね。
 でも、ひとを出身地で判断したり、
 見かけで決めつけたりするのは良くないことですよ。
 精霊様だって判ってくれます。
 
 詩人さんは、髪の毛の色が素敵な金枯れ葉色だし
 お耳がちょっぴり長くて異国風ですからね。
 きっとビックリしてしまっただけですよ。
 
 気にすることはありません」

奏楽子弟「あのさ。もしかして、メイド姉は……
 わたしが……その」

ザクっ

老婆の市民「代書を頼んでもよいかね?」

メイド姉「あ。早速お客さんです」

奏楽子弟「わたしは何をすればいい?」

メイド姉「お客さんの呼び込みです。静かで、落ち着いて
 リラックスできるような楽曲を
 そちらで休みながら奏でてくれれば」

奏楽子弟「わかったよ」
メイド姉「頑張りましょう!」

938 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 15:08:25.00 pLtZgbkP

――大空洞建築現場、作業所

土木子弟「現場はどうだ?」

人魔族作業員「6番までは無事です!」
人夫「7番の橋は、手すりが一部破損」
巨人の作業員「石橋は……予備石が……くずされた」

土木子弟「けが人とかは?」

人魔族作業員「今、宿舎で手当をしているけれど、
 転んで頭を打ったり、手を切ったり程度で問題はなさそうです」

人夫「ありがたかったな」
巨人の作業員「おう……」

土木子弟「うん、報せに飛んできてくれた妖精族のお陰だ」

人魔族作業員「でも、橋は無事ですけれど、
 現場はめちゃくちゃですね」

人夫「これだけの軍団が通る想定の道じゃないから」
巨人の作業員「まだ……完成もして……なかった」

土木子弟「よーし! 全員撤収だ!!」
人魔族作業員「え?」

人夫「まだまだ陽は高いですよ!?」

939 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 15:11:31.67 pLtZgbkP

土木子弟「作業は明日からだ!
 どっちにしろ、多分この報せは街にも届いている。
 中年商人さんは飛んでくる。
 飯も持ってきてくれるさ。
 こう言う時には、腐った気分が敵だ!」

人魔族作業員「は、はいっ」

土木子弟「宿舎に戻るぞ。今日の夜飯は外で食おう。
 大鍋一杯に、馬鈴薯汁を作ろう。肉も野菜もたっぷり入れてな。
 今日は一人三杯までの酒を支給するぞー」

人夫「おおー! 太っ腹だ、大将!」

巨人の作業員「わかった……おら、うれしぃな!」

土木子弟「よーし。手分けをして、そこらの手荷物だけ
 持って帰ろう。怪我した連中へ見舞いもするぞ」

人魔族作業員「わかりました!」
人夫「がってんだ!」

巨人の作業員「おらぁ、荷車……もってくる」

タッタッタ、ダッダッダ、ドスドス

土木子弟(ふぅ……。気持ちが落ち込まなきゃ、
 身体はまだまだ動く。明日は一日片付けにあてて、
 それから作業再開だ。一気に石橋をかけ終えるぞ)

土木子弟(それにしても。宴会か……。
 なぁ、奏楽子弟。お前、今何をしてるんだ?)

941 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 15:34:04.60 pLtZgbkP

――冬の王宮、執務室

冬寂王「なんだとっ!? まさか、一夜にして……っ」
将官「そんなっ……」

伝令「白夜城、陥落との報せですっ」

どさっ

冬寂王「判った、下がれ」

伝令「はっ!」

だっだっだっ

冬寂王「……」
将官「冬寂王、至急鉄の国、冬の国へ連絡を。
 三ヶ国通商の守りを固めなければっ」

冬寂王「それでは遅い」
将官「え?」

冬寂王「軍使っ! 早馬を引けっ!」

軍使「はっ!」

冬寂王「冬越し村へ使者を派遣! 当主にお伝えしてくれ。
 白夜の国、その城が魔族の攻撃により陥落、と。
 それだけであの方は理解し、動いてくれる」

冬寂王「将官っ!」

942 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 15:35:59.30 pLtZgbkP

将官「はっ!」

冬寂王「わたしは騎兵150を率いて出るっ。
 行き先は鉄の王国、王宮っ。
 以降、三ヶ国通商会議の本部は鉄の国に移す。
 この状況下で、戦場と本部の距離を開けすぎるのは致命的だ。
 時間のロスがそのまま敗北につながりかねん。
 その方は至急軍をとりまとめよ、領内の巡回衛視を再編成し、
 監視と巡回をなるべく減らさずに、歩兵1500を抽出せよ」

将官「はっ!」

冬寂王「抽出、集合が終わり次第、鉄の国へと向けて出発。
 どれくらい掛かるっ?」

将官「三日後には出発できるかと」

冬寂王「急げよ。季節は春だ。装備は軽くなるだろう。
 輜重部隊の編制を商人子弟に一任せよ。
 歩兵部隊は最低限の糧食を携帯し速度重視で鉄の国へと入れ。
 伝令を目的として少数の騎馬部隊を編制するのも忘れるな」

将官「承りましたっ」

冬寂王「我は鉄の国へと向かう。
 連絡、編制、万事抜かるなっ!」

将官「はっ!」
軍使「了解いたしましたっ!」

冬寂王「魔族……。どのような符合なのだ、これは」

961 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 17:29:03.70 pLtZgbkP

――湖の国、首都、『同盟』作戦本部

同盟職員「作戦開始、ですか?」
同盟職員娘「本部職員揃っています」

留守部長「ああ」

同盟職員「次なる目標は」
留守部長「今度は静粛さが必要だ」

同盟職員娘「鉄、ですか」

同盟職員「最近相場が上がっていますね」

留守部長「おそらく中央、聖王国が戦争準備として
 武器の買い付けを始めている。その動脈を押さえる」

同盟職員娘「そうなると、資金が……」

留守部長「委員会から予算が出ているよ。
 ……おおよそ4500万を予算とする」

同盟職員娘「麦に比べれば小規模ですね」
同盟職員「そもそも鉄自体が高価で流通量が少ないからな」

留守部長「それと同時に石炭を押さえる」
同盟職員娘「あんな代替え燃料ですか? 木炭じゃないんですか?」


963 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 17:30:18.37 pLtZgbkP

留守部長「いや、これも委員会からの指示だ」
同盟職員娘「どうやら何か嗅ぎつけてるみたいですね」
同盟職員「情報、取ってみます」

留守部長「早馬を使えよ」
同盟職員「はいっ」

留守部長「石炭につけては採鉱権を勅書の形で押さえ
 足止めをかけてゆけ。交渉担当を北方に回せ」

同盟職員娘「了解」

ガチャッ。タッタッタッ

同盟職員「戦争、起きますかね」ポツリ
留守部長「だろうな」

同盟職員「俺たちには止めることは出来ないすか」

留守部長「戦争ってのは、同意が必要ない。
 つまり、片方が、自分以外を殴りつければ戦争だ。
 参加者の中に一人でも戦争をしたいやつが存在すれば
 戦争は起きる。元から非対称な行為なんだよ」

同盟職員「はい」

留守部長「俺としちゃあ、あの若い委員様は結構気に入ってる。
 無理なのは判った上で、それでも諦めないで進むからな。
 戦争を止めることそのものよりも
 止めようとしてみる、って事はあるいは重要かも知れないぜ」

967 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 17:55:41.17 pLtZgbkP

――楡の国、地方都市、貴族領

弱小貴族「今年の分の税を速やかに納めよっ」
中年騎士「……」

有力地主「それはこちらも云いたいっ。
 このような収穫税をとられては、
 全ての農奴が飢えて死んでしまうっ」

弱小貴族「不当な税を取り立てたわけではない」
有力地主「しかし、今年のような不作では温情を……」

弱小貴族「だまれっ! 何が不作だ! どの所領でも
 多くの小麦、大麦が稲穂をたれていたではないかっ」

有力地主「我が領地にはおいては井戸が涸れ……」

弱小貴族「誰がそのような言葉を信じるっ。」
中年騎士「ははっ」

有力地主「……事実でございますっ」

弱小貴族「何を戯れ言を。
 貴様は去年の冬にはすでにこの春の小麦を売り払い、
 多額の金貨を得ていたのであろう」

有力地主「それは……」
弱小貴族「それを不作であるとはごまかしをするなっ」

有力地主「それでは、先ほどから申し上げるとおり……」

968 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 17:56:38.04 pLtZgbkP

弱小貴族「なんだ? ん」
有力地主「今年分の納税は、作物ではなく金貨で……」

弱小貴族「まぁ、よかろう」
有力地主「そうであるならお支払いできます。
 早速金貨1500枚を手配しまして」

弱小貴族「何を言っているのだ? 租税は金貨4700枚であろう?」
有力地主「は?」

弱小貴族「4700枚だろう? この書状にあるとおり」

有力地主「しかし、それは旧金貨ではありませんか。
 新金貨はご存じの通り、旧金貨3枚分の価値があり……」

弱小貴族「そのようなことは話しておらぬ。
 新旧など、どこの証書に書いてある。
 布告どおりお前の持つ土地の面積における租税は
 “金貨にして4700枚”だ」

有力地主「領主殿は我らが農民に死ねと仰るかっ!」

弱小貴族「都合の良い時だけ弱者面するでないわっ!」ダムンッ

有力地主「そのようなことを仰られても、
 税が足りなければ中央に送るまいないにも事欠きますぞ?
 我らは結局一蓮托生。払う意志はあるのです、
 ただその額を再考願いたいと……」

弱小貴族「くどいっ」 ジャキッ!!

有力地主「ヒィッ!」

969 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 17:59:10.84 pLtZgbkP

中年騎士「領主どの、お待ちあれ」
弱小貴族「ちっ」

中年騎士「このような輩、斬り殺したところで何にもなりませぬ」
有力地主「ひぃっ。騎士殿、お助けをっ!」

弱小貴族「ならばなんとするっ」

中年騎士「このような状況は、友領でも聞くところ。
 解決する方法は、もはや一つしかないと存じます」

弱小貴族「……それは?」

中年騎士「侵攻です。海岸線沿いに冬の国へと入り略奪を行う」

弱小貴族「それでは野盗ではないかっ!」

中年騎士「野盗にやらせれば宜しい。
 我々はそれを黙認して、上がりを得る。
 これは盗みではない。私掠です。
 野盗ではなく、私掠団と名付けるべきかと考えます」

有力地主「それならば……」

弱小貴族「ふむ」

有力地主「わたし達の土地にも、多くはありませんが野盗が
 出没します。彼らを手懐け、その騎馬が背教者の国へ向き
 その上なお儲かるということであれば……。
 彼らの武装などに関しては援助しても良いかと」

弱小貴族「ふむ。一考の価値がありそうだな。
 話をつけられそうか?」

中年騎士「早速、無法者の一団に渡りをつけましょう」

979 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 18:44:17.34 pLtZgbkP

――聖王都、辺境の村、村はずれの小屋、深夜

メイド姉「……」

奏楽子弟「ん……ぅ……」

奏楽子弟(ううっ。うにゅ……。まだ……深夜?)

メイド姉「……」

奏楽子弟(メイド姉さんってば起きてるのかな……)

メイド姉「……くっ」ぽろり

奏楽子弟(泣いてるの……?

メイド姉「……。っく……。……ううっ」ぽろぽろ

奏楽子弟(なんで……?)

メイド姉「……ごめん……なさ。……わたしも……おなじなのに」
奏楽子弟(……)

メイド姉「……っく。……むしは、だめ。足で、手で……。
 這ってでも……。だって、止まっちゃだめだから……」

奏楽子弟(……メイド姉さん)

980 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 18:46:10.20 pLtZgbkP

――聖王国辺境、秘密の場所、光の子の村

光の軍兵少尉「行軍はじめっ!」

 ザッザッザッ!!

光の軍兵少尉「構えっ!」

 ジャギッ!

壮年農奴兵士「……ん」
少年農奴兵士「よしっ」

光の軍兵少尉「撃てぇ!」

スダン! ダン! ズダダーン!!

光の軍兵少尉「下がれっ! 清掃と、装填急げっ!」

聖王国将官「どうだ?」

光の軍兵少尉「はっ。順調に訓練は進めておりますっ」

聖王国将官「結果は出ているか?」

光の軍兵少尉「行軍訓練では、一日4里を目標にしております」
聖王国将官「ふむ」

光の軍兵少尉「いかがでしょう」

聖王国将官「もう少し鍛えてみよう。
 通常速度としては問題ないが、
 戦場では速度が死命を決することもある。
 重装備をさせて8里を二日連続で課してみよ」

981 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 18:49:22.69 pLtZgbkP

光の軍兵少尉「はっ。達成できない場合は死罰を?」

聖王国将官「いいや、これは訓練だ。
 しかし、中隊編制において目標を達成できた隊には
 2日の休暇を与えよ。
 一度最大距離記録を作らせておけば、
 いざという時のよりどころにもなるだろうさ」

光の軍兵少尉「拝命いたしましたっ」

聖王国将官「射撃訓練のほうはどうだ」
光の軍兵少尉「はっ。こちらはそのぅ」

聖王国将官「問題でもあるのか」

光の軍兵少尉「支給されるブラックパウダーの量がきびしく」
聖王国将官「予想はされていたが……」

光の軍兵少尉「整備訓練などの時間は取れるのですが、
 実際の整備もやはり発砲直後に行われるわけですし、
 今少しのパウダー支給を上申したく思います」

聖王国将官「わかった。約束は出来ぬが、諮ってみよう」

光の軍兵少尉「ご厚情に感謝いたしますっ」

聖王国将官「おい」

光の軍兵少尉「はっ?」

聖王国将官「この村はこの近郊では、一番の成績を上げている。
 そう言って、夕食に少し色をつけてやれ。実際成績は良い。
 農奴達に光の使徒としてのプライドを持たせないとな」

光の軍兵少尉「はっ! ますます一層励むでありましょう」ビシッ

986 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 19:24:18.51 pLtZgbkP

――鉄の国国境付近峠

斥候「接近中! 騎兵約2000!」

軍人子弟「2000……」
鉄国少尉「少ないですね」

軍人子弟「情報に寄れば、白夜城を攻略した魔族は総数約3万弱。
 目撃に寄れば十分な騎兵を備えていたとも聞くでござる。
 2000とはいかにも少ないでござるが……」

鉄国少尉「しかし、我らにとっては好都合ではないですか」

軍人子弟「……」
鉄国少尉「どうされました?」

軍人子弟「距離は? どれくらいで会敵するでござる?」

斥候「峠二つをはさんでいます。およそ5時間後には!」

軍人子弟「他の防衛戦にも変事、襲撃の確認をっ!」
鉄国伝令「はっ!」

斥候「斥候に戻りますっ」

軍人子弟「頼んだでござるよ」
鉄国少尉「……」

軍人子弟「これは、おそらく威力偵察でござるね」
鉄国少尉「威力偵察?」

軍人子弟「意図的に小規模な交戦を行い、
 敵の能力や装備、戦術の情報を収集する手法でござるよ。
 一晩で白夜城を陥落させたとの情報でござったが、
 どうやら油断や思い上がりはしてくれていないようでござるね」

987 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 19:25:57.84 pLtZgbkP

鉄国少尉「と、なるとあの部隊は被害を押さえて?」

軍人子弟「退くでござろうね。
 もっとも魔族の云うところの“被害を押さえる”が
 我らで云うところの殲滅戦に匹敵する可能性も、
 ないではないでござるが」

鉄国少尉「5時間ですか……」

軍人子弟「そこまでの時はないでござろう」
鉄国少尉「……」

軍人子弟「投石機は?」
鉄国少尉「そりゃ、一個二個は持ってきてあるはずですが」

軍人子弟「投石機準備っ!」
鉄国少尉「こんな峠でつかったら崖崩れの恐れもありますよ!?」

軍人子弟「かまわんでござるよ。我が国の軍は
 世界一道路を作り馴れているでござろう?」

鉄国少尉「そんなところばっかり優れていてもなぁ」

鉄国兵士「準備できましたっ。どちらへ運びますか?」

軍人子弟「前へ押し出すでござる。目標は右の崖!
 崩しても構わんでござる。林ごと埋め立ててしまうつもりで
 準備でき次第投石開始!」

鉄国兵士「はっ!」

鉄国少尉「荒っぽい守りですね」
軍人子弟「こちらの覚悟をみせるでござる。
 今回の戦、白夜国の全土が魔族の手に落ちた以上、
 このような国境では決着がつく事はあり得ないでござる。
 小競り合いで兵力を消耗するは愚策でござるよ」

35 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 21:56:21.35 pLtZgbkP

――聖王都、場末の宿屋

奏楽子弟「やぁ、当たって砕けたねぇ」
メイド姉「そうですねぇ」

奏楽子弟「でも、教会ってこういうものなの?」
メイド姉「え?」

奏楽子弟「いや、この大陸も今まであちこち旅してきたけれど
 教会ってどこにもある割には、結構いろいろだよね」

メイド姉「ああ、それはそうですね」

奏楽子弟「光の精霊だっけ? 神だっけ?
 同じ者を信じているのに、結構バラエティがあるなって」

メイド姉「同じ教えを根にしていても、
 その解釈や実践方法において差があって、
 だんだんと色んな流れに分かれていったんですよ。
 それらは修道院、修道会と云った形で表面化しています。
 大まかなところでは一緒ですけれど、細かい部分では
 かなり違いがありますね。

 たとえば聖日ごとのミサを重要視する修道会もあれば、
 地域での助け合いを重視する修道会もあります。
 教会って云うと信仰の場のようですけれど、
 実際には、学問や医療や人々の生活の難問を
 解決する、公共の場所のような意味合いもありますからね」

奏楽子弟「それでみんな教会を大事にしてるんだ」
メイド姉「そうですね」

奏楽子弟「でも、なんか。……ここの教会は、大きい割にはね」

36 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 21:58:41.52 pLtZgbkP

メイド姉「それは、まぁ。ある意味仕方ないかも知れませんね」

奏楽子弟「そうなの?」

メイド姉「聖光教会。中央教会ともいいますが、
 これはもう非常に強力なのです。
 普通、ただ単純に“教会”といえば、
 この宗派を指すぐらいに最大派閥なんですよ。
 
 この大陸にいる光の精霊信者の半分以上は、
 この中央教会の影響下にあると思います。
 実際の人々は、色んな国や貴族の領地に暮らしていますけれど
 その殆どが教会にも所属しているわけですから
 彼らの生活の全てを補佐していたり、影響力を持っています。
 
 ここまで大きくなると、国であっても無視できないし、
 むしろ気にしながらでないと、民を治めることなんて出来ません。
 教会が一言“背教者”と名指しにしただけで、
 自分の領地の領民がその日のうちに貴族を血祭りに上げたり
 しかねませんからね」

奏楽子弟「結構物騒なんだね」

メイド姉「ええ、そんなわけで、教会。
 とくに聖光教会は強大な権力を持っています。
 その権力が正しく働けば、横暴な貴族や王族から
 民を護る盾のようにもなるでしょうけれど
 現実には、貴族や王族と癒着して、農奴や開拓者を
 苦しめてしまうこともありますね。

 また、そうやって大きな力をもっていますし、
 知識や技術などの集積もしていますから、
 ……んー。自分たちを優れたものだと考える
 聖職者の方もいらっしゃるようなのです」

奏楽子弟「それでああいう横柄な態度になるわけだ」

メイド姉「そうですね……」

37 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 21:59:49.46 pLtZgbkP

奏楽子弟「どうしよっか。
 あの態度は、ちょっとやそっと粘ったくらいで
 どうにかなる感じじゃなかったね」

メイド姉「そうですね。わたしもちょっと甘く見ていました」

奏楽子弟「うん、びびった」
メイド姉「すごいですね」

奏楽子弟「すンごいね」
メイド姉「ええ」こくり

奏楽子弟「金ぴかじゃない」
メイド姉「お城よりも豪華でしたよ」
奏楽子弟「お城なんて行ったことあるの?」
メイド姉「あ、いや。見た目だけ」

奏楽子弟「彫刻のない柱なんて無かったね」
メイド姉「目がくらくらしますよ。どれだけ広いんですか」

奏楽子弟「ざっと見た感じ、短い辺が千歩ってとこだったね。
 本体は石造、漆喰、伽藍はフレスコ、彫刻した柱は総大理石。
 金箔に象眼。絵画に植樹、人工庭園。
 あれは当代一の建築家に芸術家に技術者動員しても20年がかりの
 仕事だね!」
メイド姉「詳しいんですね! 詩人さん」

奏楽子弟「ま。腐れ縁に土木野郎がいるからねっ」

メイド姉「わたしはもっと、広いだけで質素な、煉瓦造りの
 大きな集会場みたいなものを想像しちゃっていましたよ」

奏楽子弟「わたしも。そういう教会、多かったしね」
メイド姉「ええ」

38 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 22:02:48.68 pLtZgbkP

奏楽子弟「どうしよっか」
メイド姉「仕方ありませんね」

奏楽子弟「やっぱり諦めるしかないよねぇ。ここまで来たのになぁ」
メイド姉「潜入しましょう」
奏楽子弟「え?」

メイド姉「こっそり入りましょう。黒っぽい服あったかな」
奏楽子弟「ええっ!?」

メイド姉「はい?」

奏楽子弟「ほんとにっ!?」
メイド姉「はい」

奏楽子弟「何でそう思い切りが良いの、メイド姉さんはっ」
メイド姉「なんででしょう……。勇者様の悪影響なのかな」
奏楽子弟「?」
メイド姉「いえ、身近に行動力が突出した人が多くて」

奏楽子弟「もうちょっと、慎重にさ」
メイド姉「ええ、慎重に潜入計画を立てないといけないですよね」

奏楽子弟「そう。こういう事には準備がね。
 できれば簡単な内部見取り図とか、巡回の把握とか、
 目標地点の確認とかもしないと」

メイド姉「しばらく路銀を稼ぎながら情報収集ですね。
 ありがとうございます。詩人さんはやはり頼りになりますね」

奏楽子弟「……あれ? いつの間にか潜入することになってる?」

メイド姉「なんだか胸騒ぎがするんです」
奏楽子弟「そう?」

メイド姉「空気がざわざわしているような……」

42 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 22:20:54.42 pLtZgbkP

――白夜国首都、白亜の凍結宮

蒼魔の刻印王「ふむ。それで引き上げてきたか」
蒼魔上級将軍「どのような罰をお与えになりますか?」

蒼魔の刻印王「いいやかまわん。
 どちらにしろ騎馬隊の任務は偵察だったのだ。
 鉄の国が峠道を一本つぶしてでも交戦を避けた。
 その情報にも意味がある。
 多少遠回りにはなるが、より太い街道が何本かあっただろう?」

蒼魔上級将軍「おいっ。ここいらの地図を持ってこい」

蒼魔軍兵士「はっ!」

ばさぁっ!

蒼魔の刻印王「これは、山か。そして森林だな。
 この地方の森林は深いのか?」

捕虜の文官「……ぐっ。深い……。原生林だ」

蒼魔上級将軍「軍の動きは著しく制限を受けますな」

蒼魔軍兵士「恐れながら、刻印王様のお力で、敵軍ごと
 焼き払うわけには行かぬのでしょうか?」

蒼魔の刻印王「もちろん出来るとも。
 お前が勇者の相手をしてくれるのならば
 喜んでそうしよう」

蒼魔軍兵士「しっ、失礼を申し上げましたっ!」

蒼魔上級将軍「――と、なりますと」

44 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 22:25:10.55 pLtZgbkP

蒼魔の刻印王「この街道を通り、蒼魔騎兵部隊および
 歩兵部隊を進める。
 重装蒼魔兵部隊を中核に据えるとしてどの程度かかる?」

蒼魔上級将軍「10日から12日、と云うところでしょうか。
 こちらの世界は地下と比べて山脈が険しいようですが、
 街路の状況は悪くありませんな」

蒼魔の刻印王「騎行部隊を編制せよ。
 周辺の地形を探索させるのだ。
 人間の民間人に出会った場合は殺せ。
 足跡を残すのも面倒ごとになる」

蒼魔上級将軍「決戦は、この平野ですな」

蒼魔の刻印王「蔓穂ヶ原か。――おい、蔓穂とは何なのだ」
蒼魔上級将軍「お答えせんか」

ビシィッ!

捕虜の文官「……蔓穂は、草花だ。白から濃い紫の。
 花が咲く……その平野は……開発の手が着いていない……」

蒼魔の刻印王「紫か」
蒼魔上級将軍「吉兆ですな。我らが蒼魔の色」

蒼魔の刻印王「我は勇者との戦いに備えて瞑想に入らねばならぬ」
蒼魔上級将軍「はっ!」

蒼魔の刻印王「後は判っておろうな。この国の掌握に
 兵は2000も残せば十分であろう。督戦隊を組織せよ。
 例の策を使うのだ」

蒼魔上級将軍「はっ。仰せのままにっ!」

50 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 23:01:16.04 pLtZgbkP

――――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、仮設会議場

銀虎公「これはっ」がたっ
碧鋼大将「ご回復ですかっ」

鬼呼の姫巫女「ご回復おめでとうございますな」にやっ
紋様の長「ご本復誠に喜ばしい限り」

魔王「え、あ。いや……。その、世話をかけた」
メイド長「さ、まおー様。座ってください」

銀虎公「よっし、魔王殿もこれで回復だ」
碧鋼大将「うむ」

火竜大公「これで肩の荷が下りますかな」ぼうっ

魔王「まず最初にこの場にいる知恵深き長がたに
 われ三十四代魔王“紅玉の瞳”は深くお礼申し上げる。
 我が不徳から長き間そのつとめを離れたことを
 申し訳なく思うと共に、その間のつとめを我に代わって
 果たしてくれた長がたの深い知恵と行動を嬉しく思う。
 
 我のいない間の長がたの問題認識とその決断に
 至るまでの経緯、重ねた議論については、
 これなる黒騎士にして勇者から聞いている。
 
 長がたの下した決断で、
 我のほうから不服や不足がある点は一つもない。
 どれも熟慮と配慮ある決断であったと考える。
 
 銀虎公、碧鋼大将、妖精女王、衛門の長、
 鬼呼の姫巫女、紋様の長、巨人伯。
 深くお礼申し上げる。
 特に火竜大公には意見のとりまとめをして頂いた。
 見事であったというほかない」

51 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 23:02:15.25 pLtZgbkP

銀虎公「いや、そんな頭を下げられるような」
鬼呼の姫巫女「我らは、為すべき所を為したまで」
巨人伯「そうだ……まおう……治って良かった」

火竜大公「はははっ。魔王殿にそう言われて、
 我ら一同、胸のわだかまりも労苦も解けて
 流れていくようですな」

妖精女王「はいっ」

東の砦将「怪我の具合を聞いても良いかい?」

メイド長「代わってお答えします。
 包帯のほうも取れまして、食事の制限も通常に戻っています。
 予後治療としてあと一ヶ月程度の治癒術を予定していますが、
 戦闘などはともかく、ごく普通の政務であれば問題ないと
 考えております」

魔王「と、いうことだ」
メイド長 ぺこり

銀虎公「で、あるならばもはや何の問題もないな」
碧鋼大将「うむ」

火竜大公「魔王殿、ではこの会議はその役目を終え
 魔王殿に全権をお返しする、と云うことで宜しいか?」

魔王「いや、それは保留としよう。
 現在は問題の規模が大きくなり、
 事件と事件の間の距離が開きすぎている」

妖精女王「蒼魔族、ですか」

52 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 23:05:20.71 pLtZgbkP

魔王「今回の事件に対応するためには、
 この会議の力がまだ必要だと思えるのだ」

火竜大公「……ふむ」

紋様の長「魔王殿は今回の蒼魔族の人間界侵攻、
 どのような対応をすべきとお考えか?」

魔王「そうだな。ふむ……。
 衛門の長よ。あなたは人間界、魔界の事情の両方に
 明るかろう。またその経験から軍事にも秀でておる。
 現在の状況について思うところを聞かせてくれ」

東の砦将「ふぅむ」 ぽりぽり
副官「しっかりしてくださいね」

東の砦将「まず、最近色々聞きかじったところに寄れば、
 蒼魔族の領地には約16万人の蒼魔族が取り残されたようだな。
 キツイ言い方になりますが、こいつらは捨てられた。
 ……そういう事になるんだろう」

碧鋼大将「哀れな。捨てられたる哀しみも知らず」

鬼呼の姫巫女「そうであろうな」
紋様の長「ふぅむ」

妖精女王「あくまで隠密裏にですが偵察した結果、
 多くの食料は軍が糧食として徴収していったようですね。
 また砂金や軍需物資の持ち出しも確認されています」

鬼呼の姫巫女「蒼魔族の領土内には鉱山も多く、
 中には魔界最大の金山もあったはず」

妖精女王「どれくらいの持ち出しが為されたかは、
 偵察のみではとても把握できませんが」

53 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 23:06:58.65 pLtZgbkP

東の砦将「次に蒼魔族の軍部の行動についてだ。
 これは明白だろうな。
 手詰まりになる前に討って出たということだろう。
 現状魔界の全軍を相手に押し切るのは難しい。
 ……まぁ、おそらく勇者の存在も効いたんでしょうな。
 
 あの場で魔王を殺し自分が即位してしまえば
 逆らう族長は粛正して恐怖政治にて魔界を支配できる
 可能性もあったと云える。
 
 その目論見が外れて、しかも蒼魔族以外が団結してしまった。
 これがたとえば獣人族や機怪族を巻き込んで、
 魔界を二分する大戦にでも出来ていれば、
 まだいろいろやりようもあったんだろうが、
 この状況になってしまった以上、戦ったところで、
 早い遅いの差はあれじり貧だ。
 
 現にこの会議だって、どのような決着にするかについては
 考えていたが、負けた場合の事なんて考えてはいない。
 蒼魔族の命運は尽きた、その前提での話だったわけだ」

銀虎公 こくり
碧鋼大将「人間界に討って出るとは……」

東の砦将「そのとおり。
 蒼魔族そこで人間界に討って出た。
 結果から考えると、これはなかなか悪い手ではない。
 もちろん蒼魔族にとっては、と云う意味だがな。
 小耳にはさんだ話じゃ、蒼魔族は地上に侵攻早々、
 白夜国という国の都を落として掌握したって聞く」

火竜大公「一国を?」

妖精女王「そこまでの力を備えていたのですか」

54 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 23:08:32.87 pLtZgbkP

東の砦将「ああ、南部諸王国と呼ばれた4国のうち一つ。
 様々な理由で立ち後れ、周囲に戦争を仕掛けては
 返り討ちに遭い、国力も兵力も衰えていた国がある。
 それが白夜国だ。
 そんな国に運悪く蒼魔族が現われた。
 
 城は一日も持たなかったそうだ。
 
 結果として、蒼魔は地上に足がかりを作ったことになる。
 地上では、魔界とは違った形だが、戦争の気配があってな。
 南部の王国と中央が争っている。
 正直に言えば、今は魔族の相手などはしていたくはないはず。
 
 その隙を狙って、一番落としやすそうな所を落とした。
 その上そう言う案配の地上だもんだから、
 全員が一致協力して、この蒼魔族を撃つかどうかは判らない。
 何せ蒼魔と戦い始めた瞬間、背後から同じ人間に
 攻められるかも知れないわけだからな」

勇者「……」
魔王「……」

東の砦将「現状の把握はこんな所だろう。
 またこのさきについて多少考えるならば、
 おそらく蒼魔族は地上で版図を広げるつもりなのだろう。
 魔界の領土を捨てた以上それ以外に残された道はない。
 いずれ魔界へと帰るにしろ、その時は、
 何らかの事態の変遷を経て、
 魔界と自分たちの戦力差が縮まった時となる」

59 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 23:38:47.39 pLtZgbkP

勇者「正確な分析だろうな」

魔王「考えなければならないのは、内通だな」

紋様の長「内通?」
銀虎公「どういう事だ?」

東の砦将「あまりにも地上の情報に通じている、ってことだ。
 白夜国は、度重なる失策で疲弊もしていたし、
 何と言えばいいかな。
 国家、こちらで云うところの氏族か。
 その組織としての輪郭が、あまりにもぼやけていた。
 隅々まで統制は行き渡っていなかったし
 なんというか、負け犬のような根性になっていたんだろうな。
 そこを鮮やかにつかれた。奇襲としては完璧だ。
 
 だが、魔界の氏族に、そのような地上の知識や機微が
 どこまであるのか? また狙いをさだめたとしても、
 2万からの軍を動かすとなれば地理や気候などを
 無視して上手く行くものではない」

火竜大公「人間の中に、蒼魔族に手を貸したものがいる、と?」

東の砦将「そうだ」

魔王「まぁ、そのような内通者などどこにでもいる。
 ここにいる族長の方々も程度の差こそあれ、
 人間界の事情は何くれとなく気にかけているであろう?
 
 今回の内通とはその規模ではなく、
 もし、地上界のどこかの国家が、蒼魔族を援軍として
 呼び込んだのだとしたら……。
 そこが懸念だ」

60 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 23:41:01.01 pLtZgbkP

銀虎公「地上の争いか……」
火竜大公「ふぅむ」

魔王「わたしの把握している情報だと、その可能性が
 もっとも高そうなのが、白夜国自身だ」

妖精女王「どういうことですか?」

魔王「つまりその場合は、人間界での自分たちの領土や
 権益の回復を目指し魔界と手を結ぼうとしたが
 逆に蒼魔に隙を突かれて自滅した。という形だな」

銀虎公「ふぅむ。なんていうか、そこまで落ちぶれた
 氏族だったのか? 白夜族というのは?」

東の砦将「あー。そうかもなぁ」

魔王「このパターンは哀れな話ではあるが
 ある意味自業自得ではあるし、
 この先の問題点は少ないと云えよう。
 つまり、蒼魔族は白夜国を滅ぼしたことで、
 人間界での案内人を失ったわけだからな」

鬼呼の姫巫女「ふむ」

魔王「わたしが恐れているのは、もう一つの想定だ。
 人間界での戦は、単純化すれば『南部』と『中央』との
 戦いだと云える。その片方が蒼魔族を招いた場合だな」

銀虎公「そいつらはどんな理由で争っているんだ?」

勇者「はじめはそこまで争っていなかったんだ。
 だが『南部』の国は魔界との戦いの最前線だった。
 それにたいして、『中央』の国々は後方の安全な場所から
 戦争に賛成していたんだな。この辺の意識の違いから
 だんだんと溝が深まっていった」

61 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 23:42:25.97 pLtZgbkP

魔王「だが今となってはそう言った始まりの原因よりも、
 様々な点で国としての方針が合わなくなって
 しまったことが大きいな。
 
 『中央』の国々は、魔界との全面戦争を望んでいる。
 しかし、それには大空洞に近い『南部』の国を従えるか
 制圧しなければならない。そもそも『中央』の国々は
 プライドが高く、『南部』が従うのを望んでいる。
 
 しかし、経済や交易などで力をつけた『南部』の発言力は
 だんだんと『中央』の制御から離れていった。
 
 現在決定的な意見の相違は二点だ。
 『南部』は奴隷を解放したが、『中央』は奴隷を認めている。
 『南部』は魔界との停戦を模索しているが
 『中央』は魔界との全面戦争、少なくとも遠征を意図している」

銀虎公「面倒だな」
火竜大公「蓋を開けてみれば、より複雑なのであろう」

魔王「それはどこの世界でも一緒だ。多くの人が生きていれば
 意見の違いもある。一筋縄では行かぬ」

鬼呼の姫巫女「しかし、そうなると、
 蒼魔は人間界にとっても大きな転機になりうるな」

魔王「その通りだ」

銀虎公「人間が最初に魔界に攻め込んだんだ。
 人間全部が魔界の富に釣られているって事じゃないのか?」

東の砦将「富の部分は否定しないがね。
 まぁ、この件は教会の影響力も大きかった」

62 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 23:43:40.44 pLtZgbkP

鬼呼の姫巫女「教会とは、神殿の仲間であろう?」

東の砦将「そうだな。魔界の神殿組織よりも、
 地上世界の教会のほうがずっと組織として整備されているし、
 発言力も強大だが、根底は似ている。
 教会は国家、つまり氏族の枠に縛られない。
 実際問題、人間界ではただ一人の神が信じられているんだ」

巨人伯「一人!?」

勇者「ああ、そうだ。光の精霊という」
魔王「――炎の娘だ」

東の砦将「それで、まぁ、その教会が宣言しちまったのさ。
 “魔界は悪だ、殺すべきだ!”ってな。
 一応、誤解の無いように言っておくが
 
 魔界に住む魔物の多くは、地上世界の動物よりもずっと
 戦闘力が高くて危険なんだ。
 その性質は地上に出ると余計に強化される。
 つまり凶暴化するんだな」

鬼呼の姫巫女「魔物と魔族を一緒にするでない」

東の砦将「その意見は判るが、
 そこは頭の悪い野蛮人だと思って我慢してくれ。
 ゲートが開放された時に出た被害者や拡散した魔物、
 それから教会の伝えた報告により、地上の大部分の人間は
 魔界の実態も知らないままに恐怖した。それも事実なんだ」

紋様の長「ふむ……」

63 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 23:45:06.72 pLtZgbkP

魔王「そんな状況下で、蒼魔族が地上で暴れた場合
 魔界と人間界の間の関係に決定的な影響を
 及ぼしてしまう可能性が高い」

碧鋼大将「人間界が、再び魔界侵攻をすると?」

東の砦将「……」

魔王「魔界侵攻そのものは問題ではない。
 いや、それはそれで憂慮すべき事だが、一つの結果だ。
 むしろ問題は、人間界に住む人々に大規模に魔界の
 恐怖がきざまれてしまい、もはや共存の可能性が
 無くなってしまうことだ」

銀虎公「……ぐるるるる」
碧鋼大将「……」

妖精女王「それは困ります」

東の砦将「そうだなぁ」

魔王「ここにいる長の方々
 全てが共存に賛成な訳ではないのも判っている。
 しかし、考えてみて欲しい。
 地上と地下、二つの領域があったのだ。
 人間界の戦力が我らよりも小さい可能性はもちろんある。
 だが同様に我らと等しい可能性も、我らよりも大きい
 可能性もあるのだ。
 そうだろう? 相手が我らよりも劣っているなどと
 判断できる理由はどこにもないのだ。
 
 魔王としてこれだけは断言する。
 勝てたとしても、負けたとしてもその戦争は
 最低でも100年は続くだろう」


65 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 23:47:34.94 pLtZgbkP

紋様の長「逆に聞きますが、
 その全面戦争を回避できる策はありますか?」

魔王「確実な策はない」

妖精女王「ないんですか……」

東の砦将「……」

魔王「実際問題、我らは違いすぎる。
 肌の色も、姿形も。生活習慣や信じる神、食べている物。
 服装や、社会規範から、尊い思う礼節まで。
 戦争にならないほうが不思議だ。
 自然のままであるのならば、いずれ争いになるだろう」

碧鋼大将「……」
銀虎公「……」ぎりっ

魔王「だがしかし、わたしはやはり回避できるのならば
 戦争は回避すべきだと考える。
 別に人間族を恐れているからではない。
 戦えば、勝つ。勝つための努力をする。
 それが魔王だからな。
 ――しかし、それでいいのか? 長老方。
 わたしには他にも出来る何かがあるような気がする」

勇者「銀虎公」

メイド長「?」

勇者「何か言いたいことがあるんじゃないのか?
 云っちまった方がいいと思うぜ。会議なんだから」

66 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/26 23:49:41.54 pLtZgbkP

銀虎公「我が一族は、戦闘の一族だ。
 だから……人間と戦うのならば、ためらいはない。
 100年続くと云ったが、別に悪くないではないか?
 100年が1000年でも同じ事。
 栄誉と酒の中、雄々しく戦えばよい。
 
 だが、しかし。
 その角笛を蒼魔族が吹くのは、釈然とせぬ。
 今の話を聞いていると、我らはどうも……。
 
 蒼魔族に騙されて人間と戦うようではないか」

火竜大公「ふぅむ、そうとも云えるな」

東の砦将「……ふむ」

銀虎公「我が獣牙の一族は、
 戦う順番としては蒼魔が先だ。そう言いたい」

妖精女王「だがそうなると人間界に攻め込むことに」
碧鋼大将「余計に事態を悪化させるではないか」

東の砦将「いーや、その意見は漢の意見だ!
 俺たち衛門一族は、虎の大将に乗っかるぜっ。
 叩くのなら、蒼魔族が先だろうよ。
 そいつが筋ってもんだ。なぁ! 大将!」
副官「将軍っ!?」

銀虎公「おおっ! 衛門の長もそう言ってくれるかっ!!」

紋様の長「人間世界と100年の全面戦争を始めるおつもりかっ!?」
巨人伯「人間……こわい……」

銀虎公「だが、これは義の問題だっ。
 逆に云えば、我らが魔界の裏切り者が人間世界で暴れているのだ。
 それを叩くに何の遠慮を必要とするっ」

73 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/27 00:05:56.75 34eUyEEP

魔王「鬼呼の姫、竜の長。お二人の意見は如何に?」

火竜大公 ちらっ
鬼呼の姫巫女 こくり

火竜大公「我ら二人は、魔王殿に賛意を投じます」

鬼呼の姫巫女「無法を討つ。この理は人界でも通用すると考える。
 もしそれさえ通じぬとあらば、もはや人間と
 我ら魔族は判り合うことはないのだ。戦争も致し方あるまい」

紋様の長「巫女殿っ! ご老公っ!」

魔王「長がたよ。何事もせずに手をこまねいていても、
 自体は刻一刻と悪化を続けているのだ。
 で、あれば銀虎公に賭けてみるのも一つの方策であろう?」

碧鋼大将「……仕方あるまい」

銀虎公「魔王殿っ! それではっ!?」

魔王「長がたに異存なくば、魔王軍初の遠征とする」

火竜大公「そして初の親征となりますな」

魔王「だがしかし、遠征としてはあまりにも遠い地ゆえ
 大軍を率いて行くわけにも行かぬ。銀虎公っ」

銀虎公「はっ!」がばっ

魔王「精鋭八千を率いて我が傍らで右軍将軍として
 我が意に従い指揮を行え」

銀虎公「ははぁっ!!」

76 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/27 00:08:03.60 34eUyEEP

魔王「碧鋼大将」

碧鋼大将「はっ」

魔王「難しいことを頼むが、長ならば必ずや
 やり遂げるものと思う。
 
 旧蒼魔族領地に入り、その金山、鉱山、工房を封鎖し凍結せよ。
 また、その領民を掌握し、安堵せしめよ。
 これより旧蒼魔族領地の鉱物資源の管理は
 機怪一族に任せる。

 機怪一族がその異形ゆえ迫害されてきた歴史は知っている。
 その一族の悲しみを他者に味合わせてはならぬ。
 長と軍に見捨てられた蒼魔族を救えるのは
 同じ悲しみを知る長の一族だけだ。頼む」

碧鋼大将「承りましたっ。必ずや」

魔王「巨人伯、鬼呼の姫巫女、紋様の長」

巨人伯・鬼呼の姫巫女・紋様の長「はっ」

魔王「長がたの下した決断をわたしは重んじたい。
 この魔界を栄えさせるためには、三氏族の力がどうしても必要だ。
 世界が戦になろうと平和になろうと、街道と開墾は
 必ずやその力になる。建設に総力を挙げてくれ」

鬼呼の姫巫女「はい、必ずや」

紋様の長「承りましてございます」

巨人伯「……まかせろ」

79 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/27 00:09:28.26 34eUyEEP

魔王「火竜大公」

火竜大公「判っております」

魔王「うむ。この会議が魔界の束ねとなろう。
 わたしが人間界に行っても、代わらず皆を導いてくれ」

火竜大公「この老骨が砕けぬ限りはお約束いたしましょう」

魔王「砦将殿。人間の世界が舞台となる。
 開門都市に兵の蓄えが少ないことは承知だ。
 好きなだけの手勢を率いてわが左軍将軍となり
 その知謀を貸してくれ」

東の砦将「判った。まかしとけや」

妖精女王「あ、あの……わが一族は?」

魔王「妖精の女王よ」にこっ
妖精女王「はいっ!」

魔王「あなたが今回の遠征の要だ」
妖精女王「とは?」

魔王「わたし達は蒼魔族を討ちに行く。
 そのためには人間世界、つまりは人間の国々を
 通り抜けなければならないだろう。魔界でも同じだが
 武装した集団が氏族の領土に侵入してきたら戦争と
 取られても仕方ない」

妖精女王「はい……」

魔王「女王には特使として、
 人間の国々からの許可を取って頂きたい」

92 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/27 00:26:29.16 34eUyEEP

――聖王国、深夜の大教会、聖堂地下

コツン、コツン、コツン

奏楽子弟「ん。……いいよ」
メイド姉「はい」

コツン、コツン

奏楽子弟「この匂いは……」
メイド姉「古くなった羊皮紙ですね」

奏楽子弟「ここはどうやら、あまり人の出入りがないみたい」
メイド姉「今は有り難いです」

コツン、コツン

奏楽子弟「……しっ」
メイド姉「っ」

しーん

奏楽子弟「大丈夫。あけるよ?」
メイド姉 こくり

ぎぃいいぃ……

奏楽子弟「あ……油くらい差そうよ。心臓止まるかとおもったよ」
メイド姉「まったく」

奏楽子弟「どっちかな」
メイド姉「多分、下です」

94 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/27 00:27:53.40 34eUyEEP

コツン、コツン、コツン

奏楽子弟「ここが書庫だね」
メイド姉「はい」
奏楽子弟「どうする?」
メイド姉「え?」

奏楽子弟「ここまで来たんだ。『聖骸』は後回しでもいいや。
 何か探したいものがあるんでしょう? 付き合うよ」

メイド姉「では、この間の物語を」
奏楽子弟「あれ?」

メイド姉「ここになら、もっと詳細な物があると思うんです」
奏楽子弟「ふむ。わかった」

メイド姉「ここに明かりを置きますね」

コトっ

奏楽子弟「朝までは……」
メイド姉「あと6時間ほど」

ペラッ。しゅるん……

奏楽子弟「時間はないね」
メイド姉「はい」

しゅるるん……ぺら……

奏楽子弟(この娘……。たぶん、特別なんだ。
 意志を持って歩いている。わたしもそうだけど……。
 わたしが音楽を選んだように、何かを選んだ娘なんだ)

98 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/27 00:32:05.68 34eUyEEP

――宝珠の伝説

 見よ炎に生まれし娘有り。
 かつて無きその聡き額に見えない王冠はかがやき
 幼き頃からその慈愛遍く万物を照らす。

 見よ大地に生まれし少年有り。
 異境より訪れし女と精霊の間に生まれた忌み子。
 大地の魔峰を黒く汚し災いをもたらさん。

 幼き恋は精錬の炎により鍛え上げられ、誓いは胸を焦がす。
 願うは翼。風に乗り大空を舞う。
 大いなる神鳥に愛されし少年は、人間の血ゆえ
 精霊にとっては罪となる宝をその胸に秘める。
 罪の名は――。
 魂の翼にして希望の言葉。時に自らを縛る鎖。

 砕けたるは黒き大地のオーブ。
 贖罪の子にして黒き羊の少年は、その禁じられし恋ゆえに
 その従兄弟にして大地の精霊王と
 呪われし魔峰にて互いを滅ぼし合う。

 落ちるはその身体。
 死せるはその命。

 しかしその悲哀、砕けし宝珠の威力もて、大地は引き裂かれる。
 精霊は相争い、五家の結束は永遠に失われ、和合すること無し。
 互いに争い激しい戦火を交え滅びの闇に沈む。

 救世を願うは少女。
 炎に生まれし、いと聡き娘なり。
 少女の選びし答えは世界。
 愛しき少年の指先を離し、全ての命の守り手となることを願い
 残る全てのオーブをかき抱き、その身を光に変える。

 生きとし生けるものの守り手、我らが恩寵の主なり。

99 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/27 00:33:42.59 34eUyEEP

――聖王国、聖堂地下、古代の文書保存庫

奏楽子弟「これ……かな?」
メイド姉「ええ」

奏楽子弟「なんだか、悲しい話だね。
 恋をしたのが禁じられた掟のために選べない相手で、
 それでも結ばれたいと願ったら世界が壊れちゃうなんて」

メイド姉「……」

奏楽子弟「こんな伝説があるのなら、あんな乱世でも
 仕方がないのかな……。
 世界を滅ぼした少年の子孫はいつまでもいつまでも
 迫害を受けるのかも知れないね……」

メイド姉「本当にそうなんでしょうか?」

奏楽子弟「え?」

メイド姉「少年と少女が掟破りをしたくらいで、
 精霊様の五つの家が仲違いなんて始めて
 戦争になんかなるんでしょうか?
 この話って本当なんでしょうか?」

奏楽子弟「それは判らないけれど……。伝説だし」

メイド姉「そもそも、精霊様は一人です。
 少なくともわたしが教わってきた精霊様は光の精霊様一人で」

奏楽子弟「それは、この炎の精霊が最後に光になって……」

カツン、コロコロ

メイド姉「あ」
奏楽子弟「同じ筒に巻いてあったみたいだね。それは?」

101 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/27 00:36:39.42 34eUyEEP

メイド姉「いえ、何でしょう。
 古い受領書? 契約、でしょうか」

奏楽子弟「神殿かな」

メイド姉「建築みたいですね。四代目“琥珀の焔”と
 大主教の……転移門?」

さぁぁぁぁあ!!

奏楽子弟「なっ」
メイド姉「青い……水っ!?」

奏楽子弟「うううん、濡れてない。これ、何っ!?」
メイド姉「わたしにも何が何だか」

さぁぁぁぁあ!!

奏楽子弟(やだっ。真っ青で……。溺れそうっ)
メイド姉「こんなっ……」

さぁぁぁぁあ!!

奏楽子弟「金色の砂……海鳴りの降る……」
メイド姉(……なんだろう、この光っ)

奏楽子弟「メイド姉さん、手をっ」
メイド姉「え? はっ、はいっ」

チリン……

103 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/27 00:47:59.25 34eUyEEP

――光に満たされた夢

光の精霊「……よ」
女魔法使い「……ん」

光の精霊「……ゆ……よ」
女魔法使い「……やっと呼ばれた」

光の精霊「……ゃよ」

女魔法使い「……手、ある。足、ある。……身体は揃ってる。
 勇者から聞いていたとおり。これが精霊の夢」

光の精霊「……しゃよ」
女魔法使い「……なに?」

光の精霊「……勇者よ」
女魔法使い「違う」

光の精霊「……勇者よ。……救ってください」

女魔法使い「……」

光の精霊「……勇者よ。……この世界を……」

女魔法使い「……」

光の精霊「……勇者よ。……この」

女魔法使い「いいかげんにせぇよっ」

光の精霊「……勇者よ」

女魔法使い「じゃかしいわぁっ!!」

ドグワッシャァーーン!!!

106 : 以下、VIPにかわりましてパー速... - 2009/09/27 00:50:35.91 34eUyEEP


光の精霊「……ゆ……ゆ……ゆ」

女魔法使い「哀れを誘う声でぴぃぴぃ泣きくさって
 勇者の優しさにつけ込んだかぁ、このへたれっ!
 お前のその執着がっ。
 勇者を苦しめていると何故思わんっ!」

光の精霊「……この世界……を
 か弱き……罪なき……人々……を……」」

女魔法使い「万巻の伝承をひもとき、
 ようやくたどり着いたこの光の夢で
 よもやこんな泣き言を聞かされようとは思わなかったっ。
 
 精霊――っ!!
 確かに世界はあんたに救われたけど、
 それって本当に救うべきだったんかっ!?
 救うべきでないものを救ったん違うかっ!?
 あんたの愛は正しいと保証できるんかっ。
 
 あたしは……。
 多分勇者の隣に立つことはないけれど
 勇者を想う気持ちで、――っ。
 あんたに負けるなんて夢にも思いつかんっ。
 
 来るだけ無駄だったけれど、一個だけ云っておく。
 この天地が砕け散ろうと、絶対にっ。
 絶対にあんたの思い通りにはさせんからなっ」

光の精霊「……救って……この……昏い世界を……」

女魔法使い「……それが」ふぅ

女魔法使い「……お節介だというのです」




次回:魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 #26


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