関連記事: 【1】 【2】

288 : らんまマギカ17話1 ◆awWw... - 2012/01/17 01:06:51.12 sP2uYOMT0 123/394

~第17話~

「火中天津甘栗拳!」

目にもとまらぬスピードでらんまの拳が叩き込まれる。

良牙はそれをガードすらせずに真っ向から胸板で受ける。

やがて、らんまの拳が止まったところで良牙はおもむろに腕を振り下ろす。

らんまはとっさに腕でガードして良牙の攻撃を受け止めた。

「どうだ? 違いはあったか?」

「……いまいち分かんねーな」

良牙の問いに、らんまは首をかしげる。

「そうだな。パンチの威力も言うほど上がっているようには思えない」

良牙は火中天津甘栗拳――つまりは高速での拳の連打を食らった感想を付け足した。

いつもの空き地で、らんまは魔法少女になってどれだけ自分の身体能力が変わったか確認していた。

小競り合いから真剣勝負まで、何度も戦っている相手だからこそ、互いの技や能力は大体知り尽くしている。

らんまにとって、自分の変化を知るには良牙は格好の相手だった。

「なんか、おかしくねーか? 魔法少女になったら、ろくにスポーツもやってないような女子中学生が
魔女に勝てるぐらい強くなるんじゃねーのかよ?」

らんまは不平をこぼした。

なりたくて魔法少女になったわけではないが、せっかくなってやったのに他の人より特典が少ないというのでは
どうしても損したような気分になってしまう。

「そういや、キュゥべえの奴が言ってやがったな。身体強化は日常生活に不便がでない程度とか
普段から魔力を消費するからあんまり強化することもできないだとか」

「……つまり、もうとっくに鍛え上げてて魔法の素質の低いオレみたいな奴は
魔法少女になっても大して変わらないって事か?」

「おそらく……な」

良牙の言葉に、らんまはがっくりと肩を落とした。

あかねが助かったから良いようなものの、ほとんど契約損である。

普段なら、良牙はこんな真面目に受け答えせずに、まんまと得の無い契約を結ばされたらんまを笑うだろう。

しかし、事情を知ってしまっただけにむしろ沈痛な面持ちをしていた。

らんまとしてはそんな風に同情されるのがかえって辛い。

あくまで良牙とは減らず口を叩きあうライバルでありたいのだ。

「らんまー、良牙くーん!」

その時、空き地にいる二人を呼ぶ声がした。

二人にとって聞きなれた、しかし少し懐かしい声だ。

「あかね!?」

「あかねさん?」

らんまと良牙はいっせいに振り向いた。そこには紛れも無く元気な姿の天道あかねがいる。

「おまえ、病院はどうしたんだよ?」

病院で寝ているはずのあかねが急に空き地に現れたことに、らんまは驚きを隠せない。

「え、らんま聞いて無かったの? あたし今日退院よ。」

実にあっけらかんと、ごく当たり前のようにあかねは答える。

「あかねさんは重症だったんだ。 何も1人で歩いて帰らなくても。」

「心配してくれてありがとう。でもこんなに元気なのに迎えに来てもらうのも悪いし、
久々に歩くぐらいしないと体がなまっちゃうわよ。」

あかねはそう言って、良牙に笑顔を返した。

289 : らんまマギカ17話2 ◆awWw... - 2012/01/17 01:08:45.06 sP2uYOMT0 124/394

とても、ちょっと前まで瀕死の重傷だったとは思えない健康ぶりである。

きっと、乱馬が契約しなければこの笑顔は永遠に戻ってこなかったのだろう。

そう思うとなおさらに良牙はやるせなかった。

**************

結局、らんまと良牙がそのままあかねに付き添って天道邸に帰った。

本来なら病院の連絡を受けてからあかねを迎えに行くつもりだった早雲は、
まだ快復祝いの準備中で、椅子に登ってクス玉を取り付けているところだった。

それがあかねの声を聞いたとたん驚いて椅子から落ちて、ちょっとした騒ぎになった。

かすみは予定より早いあかねの帰宅にあわてて料理をはじめる。

八宝斎はあかねの快復祝いのプレゼントに下着を買いに行ったらしい。

「あれ? オヤジとなびきねーちゃんは?」

「ああ、早乙女くんとなびきは事故の示談交渉に行ってるよ。
なんたって、やっとトラックの運転手が話し合える状態になったらしいから」

らんまの問いに早雲が答えた。らんまは思わず苦笑する。

事故被害者のはずのあかねがとっくに全快して退院だというのに、轢いた側のトラック運転手がまだまだ重傷で
ようやく会話ができるようになった程度なのだ。

いかにあかねの快復が異常であるか、医学知識など無いらんまにもよく分かる。

しばらくして、あかねの快復祝いの準備は整った。

しかしまだ玄馬となびきが帰ってこない。

その都合で時間が空いたので丁度よい機会だと思ったのか、早雲は大事な話があるといってあかねと良牙に切り出した。

「乱馬くんが男の子に戻れなくなったことは聞いているね?」

こくりとうなずいたあかねは、まだ何を言われるのか予測すらしていない。

「もしも、このまま乱馬くんが元に戻れなかった場合はだね、あかねとの許婚を解消しなけりゃならない」

「そ……」

そんなと言いかけて、あかねは口をつぐんだ。

乱馬と許婚だなんていうのはもともと早雲が勝手に言い出したことなのだ。

自分は乱馬のことを許婚だなんて思っちゃいない、少なくとも建前上は、あかねはそういう立場を貫いてきた。

ショックを受けたと思われるような言葉は口に出来ない。

「――そりゃそうよね。私としては一安心ってとこかしら」

あかねの意地っ張りを聞き流して、早雲は言葉を続けた。

「そこでね、今度はここにいる良牙くんを許婚にしないかい?」

「えっ!?」

思ってもみなかった話に、あかねは目を丸くした。

「そんな急に無茶よ! 良牙くんだって困るじゃない、ねえ良牙くん?」

あかねは良牙が自分に好意を寄せていることには全く気付いていなかった。

好意を寄せられているとしてもそれはあくまで純粋に友人としてであり恋愛感情があるとは思っていない。

「お、俺は……」

良牙は返答につまった。

本来なら二つ返事で引き受けたいほどうれしいことだ。

しかし、乱馬の契約を知ってしまった以上、何も考えずに頭を縦に振ることはためらわれた。

「良牙くんにはちゃんと彼女も居るんだから、お父さんも無茶言わないで」

そんな良牙の心境の複雑さなど知る由も無く、あかねは容赦なく良牙と許婚になることを否定する。

290 : らんまマギカ17話3 ◆awWw... - 2012/01/17 01:09:40.32 sP2uYOMT0 125/394

確かに良牙には交際中ということになっている女性が居た。

雲竜あかりという、おしとやかで可愛い、しかも無類の豚好きの少女だ。

良牙にとってあまりにも都合が良い存在。

それも良牙が努力や誠意で手に入れた愛ではなく向こうから好いてきたのだ。

だからこそ、良牙は思いのままにいかないあかねへの思いを断ち切れないのかもしれない。

「そうは言っても、まだ将来のことを誓い合ったわけでもないんだろう?
だったらあかねとの話を考えてくれても良いんじゃないかい?」

一方の天道早雲は良牙があかねを好きなことは見て分かっている。それ故、強引に話を持ちかけることができた。

「しばらく、考えさせてください」

結局良牙はそう言うことしかできなかった。

そうしてひとまず話がついたところで、タイミングよくドアチャイムが鳴った。

「ちわーす、お好み焼き『うっちゃん』でーす!」

同時に、威勢の良い少女の声が玄関から聞こえてくる。

「あ、私出るわね」

長女のかすみはまだ調理作業中である、普段お客に応対をするのはかすみの役割だが、
かすみの手がふさがっているときはあかねの仕事だった。

あかねが玄関に出ると、らんまと見慣れない赤い髪をした少女が立っていた。

どうやららんまが先に玄関にかけつけたらしい。

赤い髪の少女は少しの間「誰?」という様子であかねを眺めていたが、やがて手をぽんと叩いた。

「ああ、あんたがあかねか」

少女はおそらくあかねよりも年下のように見えるが、敬意を払う様子は全く無い。

見た目の雰囲気からしても敬語の使い方とか態度をわきまえていないタイプなのだろう。

「らんま、この子は? 『うっちゃん』って言ってたけど?」

「こいつはあかねが寝てる間に、うっちゃんとこにバイトに入った新入りで――」

らんまが説明しようとすると、杏子はそれをさえぎって自ら前に出た。

「あたしは佐倉『きょうこ』だ。よろしく」

少女はやけに『きょうこ』という名前を強く発音する。

なんだかよく分からなかったがあかねは笑顔で応じた。

「わたしは天道あかね、よろしくね」

「そうそう、今日はコレを届けに――」

佐倉杏子は手に持っていた袋を掲げて見せた。『お好み焼き うっちゃん』のプリントのあるビニール袋だ。

「配達ね……えーと、いくらかしら?」

「あー、違う違う、コレは店長から快復祝いのサービスだからタダでもらってやってよ」

「右京から? 悪いわね、ありがとう」

杏子はあかねにお好み焼きの入った袋を手渡した。

と、そんなやり取りをしているところに丁度、玄馬となびきが帰ってきた。

「ただいまー、ごめんね遅くなっちゃって」

「おお、あかねくんすっかり元気になって……おや、『あんこ』くんも来とるのか」

「『あんこ』じゃねえ、『きょうこ』だ」

そんなやり取りにあかねは杏子が『きょうこ』を自分の強調して発音した意味を知ってくすりと笑った。

悪い子では無さそうだ。

「そんじゃ、あたしはもう用事すんだから――」

291 : らんまマギカ17話4 ◆awWw... - 2012/01/17 01:11:12.53 sP2uYOMT0 126/394

そう言って帰ろうとした杏子の腕を、なびきが掴んだ。

「ちょっと待って、せっかくだからあんこちゃんもあかねの快復祝いに付き合いなさいよ」

口ではそう言いながら、なびきは触れた腕からテレパシーを送った。

『あんたたち魔法少女に話しときたいことがあるわ』

そういう話なら、杏子としても無視するわけにはいかない。

しぶしぶ杏子も天道家へあがることになった。

***************

「で、話ってのはなんだ?」

ささやかな宴が終わったあと、らんま、良牙、杏子はひそかになびきの部屋に集まっていた。

「まあ、魔法少女になって長いあんこちゃんにとっては分かってたことかもしれないけどね……」

そう前置きしてから、なびきはややうつむき加減になって話し始めた。

「今日ね、あかねを轢いたトラックの運転手の弁護士って人から話を聞いたんだけど、
運転手の言うには運転席に白い猫かウサギが入ってきたせいで運転ミスをしたんだって」

「白い……」

「ね、猫ぉ!?」

猫という言葉にらんまが過剰反応する。杏子は変な声を出したらんまに少しびびった。

「え、えっと、もしかしてキュゥべえの奴って言いたいのかい?」

「それだけなら分からないけどね――警察に聞いたらトラックには猫とか小動物がいた痕跡は全くなかったそうよ」

普通なら、その情報はトラックに猫など乗っていなかった、運転手の妄言に過ぎないという状況証拠になるだろう。

事実、警察はそう判断していた。しかし、この部屋に集まったメンバーは知っていた。

一切証拠を残さず、姿を消して行動し、都合の良いときだけ現れることが出来る猫のような小動物的存在を。

 ――ガンッ

さっきから黙ったままだった良牙が壁を叩いた。

みしみしとなびきの部屋の壁はヒビをつくってへこんでいく。

「つまり、キュゥべえがあかねさんを重体にしたってことかよ」

良牙の瞳には抑えきれない怒りが力強く宿っていた。

「いつものことだけどちゃんと修理してきなさいよ」

そんな良牙になびきは平然とツッコミをいれる。

「いつものことなのかよ!?」

杏子のごもっともなツッコミは、天道家関係者の面々には通用しなかった。

「なびきはえらく冷静じゃねーか」

良牙と同じく、いや、それ以上にらんまも怒気をはらんだ声をしていた。

キュゥべえがあかねを重体にしたとすれば、それはおそらくらんまを魔法少女にするためだ。

自分のせいで、あかねが巻き込まれた。

自分を魔法少女にするなんていうちっぽけな目的のためにあかねを半殺しにした。

あかねが無事に戻ってきたからといって許せるものではない。

そんな自己嫌悪と怒りが入り混じったらんまに対してなびきはいかにも淡々としているように見えた。

「そう見える? ……でもね、あたしは決めたわ。 キュゥべえに吼え面かかせるってね。」

その言葉に、らんまは衝撃を受けた。

「なびき!? わかってるのか、そんなことしても1円の得にもなんねーんだぞ?」

「ええ、そうよ。今までは魔法少女だなんだといっても小遣い稼ぎに使うことしか考えてなかったけど……
やっぱり自分の妹をそんな風にあつかわれちゃ許せないわね」

292 : らんまマギカ17話5 ◆awWw... - 2012/01/17 01:12:59.32 sP2uYOMT0 127/394

なびきはきっぱりと言い切る。らんまはそれでようやくなびきも自分と同じぐらいに怒りに震えているということを理解した。

「……いや、この場合金がどうとか言い出すほうがおかしいだろ?」

「なびきさんというのはそういう奴なんだ」

杏子の常識的なツッコミに、良牙が答える。

あたりまえのことを当たり前にツッコまれるというのは、らんまや良牙にはなんだか斬新な気がした。

「それでね、ひとつ聞きたいんだけど、あんたたち魔女って何だと思う?」

「なんだいきなり? そりゃ人を食う化けもんだろ……人間のマイナス感情がどうたらとか言ってたっけ?」

ふいに質問するなびきにらんまが答えた。キュゥべえから聞いた説明のまんまである。

「その人間のマイナス感情から生まれたモンスターがどうしてグリーフシードなんてものを落とすの?」

なびきは質問を続ける。

「そういう風にできてる……って答えじゃダメなのかい?」

今度は杏子が問い返した。

彼女にとって魔女は人をおびやかす怪物というよりは、エサを落とす獲物である。

魔女はエサを落とし、彼女はそれを狩る。

それが、杏子にとっての魔法少女であって、それ以上の事は今まで考える必要もなかった。

「別にかまわないけど、そのモンスターが落とすアイテムとソウルジェムが対応してるのって変だと思わない?
たまたまやっつけた化け物から便利な回復アイテムが出てきましたーなんてどこの安っぽいテレビゲームよ」

「確かに都合が良いな」

らんまがうなずく。

「都合が良いなんてレベルじゃないわよ。
この際だから言っとくけど……多分ね、グリーフシードとソウルジェムは同じ技術で出来てるわ」

「……つまり?」

いまいち分かっていない良牙がたずねる。

「ああもう、鈍いわね。魔女は、キュゥべえかその仲間が作ってるってことよ」

「なんだって!?」

良牙は唖然とした。もし魔女を作ったのがキュゥべえだとしたら見滝原で自分やマミがしてきたことは何だったのか。

魔女と魔法少女を作って戦わせあってキュゥべえは何をしたいのか。

「わかんねえな、それじゃ何のために魔法少と魔女を戦わせてるんだ?」

今度は良牙に代わってらんまがなびきに質問した。

「そんなのあたしにも分かんないわよ。でもね、今回のことで分かったでしょ?
 キュゥべえは必要とあらば自作自演ぐらいやっちゃう奴だって」

なびきの言葉に杏子が答える。

「ああ、理由は分からないけど、あいつがクズだってことだけはよく分かった。
でさぁ……他の魔法少女もそうやって騙されて契約した可能性があるわけだよな?」

「……ひょっとして、お前もか?」

らんまはまだ杏子がどういう経緯で魔法少女になり浮浪少女になったのか聞いていない。

だが、杏子が真っ当な人生を送っていないことは明らかだった。

その背後にキュゥべえの悪巧みがあるとしたら、キュゥべえはとんでもない悪党だろう。

「いや、あたしじゃない。あたしの場合は完全にただの自業自得だからさ。
でも、交通事故で魔法少女になったって奴が知り合いにいてね。」

「まさか、マミちゃんが!?」

杏子の言っている魔法少女に良牙はぴんと来た。

以前にちらっとそんな話を聞いたような気がしたからだ。

293 : らんまマギカ17話6 ◆awWw... - 2012/01/17 01:14:08.95 sP2uYOMT0 128/394

杏子は無言でうなずいて良牙の言っていることを肯定する。

「よし、俺はいったんマミちゃんの所へ行ってこのことを話してこよう!」

マミが心配になった良牙はそう決意する。

「おめー1人が行っても迷子になるだけだろーが」

そんな良牙にらんまは冷静にツッコンだ。

「じゃあ、あたしも行くよ。見滝原ならあたしの方が詳しいしな」

杏子は良牙の方向音痴が人知を超えたレベルであることを知らない。

だから地理に詳しい人間がついていくという言い回しになった。

「うーん、あんこちゃんは良いとしてさ、良牙くんは今はウチから出てかない方が良いと思うわよ」

そこでなびきが横槍を入れる。

「……へ? なんで?」

「良牙くんがそれでいいなら構わないんだけど、あかねとの許婚の話があるのにさ
それをほったらかしてよその女に会いに行ったんじゃ完全に破談だと思われるわよ?」

「あっ……確かに」

良牙は間の抜けた声を出してうなずいた。

なびきとしてはあかねの許婚が乱馬だろうが良牙だろうがどっちでもいい。

実はなびきが許婚になってもいいのだが乱馬にしても良牙にしても互いに興味が無いし、利害も無かった。

だからこれは純粋にただのアドバイスである。

それもらんまにとっては複雑な思いだった。なびきがらんまを天道家から排除したがっているように見えなくも無い。

しかし、すでに身を引くような発言をしてしまっている以上、なびきや良牙をとがめることもできない。

今のらんまには良牙とあかねがどういう結論を出すのかを見守りつつ、男に戻る方法を探るしかなかった。

~第17話 完~

307 : らんまマギカ18話1 ◆awWw... - 2012/01/30 23:50:21.53 8dPgHRDH0 129/394

~第18話~

まるで、この世のすべてが変わってしまったようだった。

今朝の通学路は、いつもと何も変わらないのに異次元を歩いているかのような違和感を覚える。

それでも美樹さやかはいつもと変わらぬ体を装って歩く。

「おはようございます、さやかさん」

「おはよー、仁美」

やがていつものように志筑仁美と合流する。いや、少し仁美は落ち込んでいるように見える。

それは自分の心理を仁美に投影してしまったからなのか、本当に仁美が落ち込んでいるのか、さやかには判断がつかなかった。

「どうしたんですか? 今日はひどくやつれたような……」

「え、あたしが?」

さやかとしてはいつも通りの顔でいるつもりだったのに、全然隠せていなかったらしい。

「あー、いや、昨日部屋の空調が壊れててさ、ぜんぜん寝付けなかったのよ」

無理矢理に笑って、さやかはごまかそうとする。

空調が壊れていたなんていうのは嘘八百だが、寝付けなかったというのは本当だ。

むしろ寝付ける方がどうにかしているとさやかは思う。

(あたしは人を殺した――!)

その衝撃が、あの織莉子という魔法少女の声が、彼女を捻り上げていたときの感触が、昨日一晩中さやかを責め続けていた。

そして、今もそれは止まない。

「そういや仁美もちょっと落ち込んでない、何かあった?」

とても隠せ通せない、そう思ったさやかはすばやく話題を仁美の方に切り替えた。

「ええ、それが……」

すこし間をおいてから仁美は口を開いた。

「私の知り合いが亡くなってしまったのです」

「えっ!?」

驚きの声をあげるさやかに構わず仁美は言葉を続ける。

「それが、昨日学校に来た美国織莉子という方で――」

(その子を殺したのはあたしだ!)

自分が、仁美の知り合いを殺した。受け入れたくない事実が何も知らない仁美の口から容赦なく告げられる。

「あの人は、とても由緒正しい家柄でしたのですが、とある事件をきっかけに世間から後ろ指を指されるようになって……
ご家族が自殺をされてしまい、美国さん自身もショックで学校に通えなくなってたんです」

魔法少女になるような少女にはたいてい何らかの事情があるだろう、しかしそんな重い過去を背負っていたなんて
さやかは知らなかったし、知りたくなかった。

自分が死に追い詰めた人間の話など聞いても、より心が苦しくなるだけだ。

「そんな折、美国さんからわたくしに電話がありまして、学校に復帰したいとおっしゃられたので
昨日は見滝原中学にお連れしたのです。 美国さんほどの方がわたくしを頼ってくれたのがうれしくて、
ぜひとも美国さんを学校に復帰させてあげて……わたくしやさやかさんやまどかさんの友だちの輪の中に
入れてあげたいと思っていたんです。 それが――」

(そんな……)

一歩間違えなければ、あの美国織莉子という魔法少女と仲良くやっていたのかもしれない。

それがなぜ、このような血染めの裏切りになってしまったのか。

落ち込む仁美の表情に、さやかは猛烈な後悔と自己嫌悪とを募らせる。

「そ、その死因はなんなの?」

やっとの思いで、さやかは質問を返した。

「……強盗殺人だそうです。遺体のまわりに多数の銃痕や争った後がみられるとか。
お金持ちなのに中学生の少女が1人で暮らしていたのですから、犯人にとってはねらい目だったのでしょう」

308 : らんまマギカ18話2 ◆awWw... - 2012/01/30 23:51:17.82 8dPgHRDH0 130/394

十分すぎるぐらい、さやかとほむらが暴れた跡は残っている。

仁美の言葉はそれを意味していた。

(あたし、もしかして警察に捕まるの? そうじゃなくても……仁美にあたしがやったとバレたら……)

魔法少女が本気を出して警察に抵抗をすれば逮捕はされないかもしれない。

しかしさやかにはそこまでして社会を完全に敵にまわして生きていく勇気も自信もなかった。

それならば、さやかは罪を白日の下に暴かれることをおびえ続けて生きていかなければならない。

さやかは自分の未来がすでに絶望的に暗いものに変わってしまったことを知った。

しばらくしてまどかが合流すると、まどかもやはりさやかの表情を見て、何があったのか聞いてきた。

そしてまたさやかは「エアコンが壊れて」と言ってごまかす。

『もしかして、魔法少女のことで何かあったの?』

まどかは気を使ってテレパシーであらためて語りかけてくる。

『……ごめん、今は言えない』

誤魔化しきれない、そう判断したさやかはまどかの質問をぶっきらぼうに受け流す。

案外、まどかの直感は鋭い。とくに勘ぐりもせずに平然と人の内面を見透かしてしまうようなところがあるのだ。

普段ならばさやかにとって、まどかのそういう所はありがたいのだが今回ばかりはうっとおしかった。

自分の内面を暴かれるのが怖い、さやかははじめてまどかに対してそう思った。

*****************

教室に着くと、いつもと変わらない朝の時間が流れていた。

男子も女子もいつものように他愛も無い話をして過ごしている。

暁美ほむらもいつもと変わらない様子だった。

さやかがこれだけ重荷を感じているというのに、ほむらは泰然自若としている。

彼女は自らが人殺しの主犯だというのになんとも思っていないのだ。

(きっとこいつは根っからの人非人なんだ)

さやかはそう思っておくしかできなかった。

そして、そろそろ授業が始まるという時間に、ちょっとした……しかしさやかにとってはとても大きい異変がおこった。

上条恭介が学校に来たのだ。

痛々しい松葉杖をつきながらも、恭介は男子の友人たちに笑顔で対応している。

「あれ? 上条くんが退院って聞いてた?」

まどかがつぶやく。

聞いていない、さやかは恭介が退院しただなんて、今日から学校へ来るだなんて全く聞いていなかった。

なぜ、足しげく見舞いに通った自分に連絡のひとつも無いのか。

ただでさえ精神的に参っているのに、こんなおかしな事態が起こり、さやかはどうしたらいいのか全く分からない。

結局、授業が始まる前には、さやかは上条恭介に声をかけられることすらなかった。

そして、授業終わりにさやかは作り笑顔で「退院したんだ」と、恭介に声をかけた。

恭介はぎこちなく「あ、ああ」と答える。二人の会話はそれだけだった。

さやかは恭介に何かを言いたくても昨日の出来事が重過ぎて、何も言うべき言葉が出てこなかった。

一方の恭介が何を思って自分に対してこんなに素っ気無いのかは分からない。

しかし、その理由が何であれ、さやかは自分が抱えたものが大きすぎてそれどころではないのだ。

まどかにも仁美にも、恭介にも言えない。さやかに今までそんな秘密があっただろうか。

授業など、もはや全く耳に入らなかった。先生にしかられても何とも思えない。

まさに心ここにあらずといった状態だった。

309 : らんまマギカ18話3 ◆awWw... - 2012/01/30 23:52:42.44 8dPgHRDH0 131/394

そんな状態で昼休み、さやかが校内を歩いていると偶然、仁美と恭介がなぜか一緒にいるところに出くわした。

「あっ」

驚いたような声を出して、仁美と恭介はなぜか慌てて離れる。

「えっ? どうしたの?」

「い、いえ、なんでもありませんわ」

言葉とは裏腹にどこかそわそわした、気まずそうな仁美の態度が「なんでもない」ことはないと物語っていた。

「志筑さんの知り合いが亡くなったって話を今してて――」

恭介は、朴念仁ゆえにさやかと仁美の間の微妙な空気に気が付かないのか、それとも気が付いたからフォローのつもりなのか、
クソ真面目に状況を説明しだした。

(それで、仁美は恭介になぐさめてもらってたっていうの……?)

それの意味するところはさやかにはよく分かった。

そして、なぜ仁美が気まずそうな態度を取るのかも。

「……そうなんだ、それじゃ!」

さやかはわざと平然とした態度を装って、走って二人のよこを通り過ぎた。

いつものさやかなら「あんたにゃ負けないわよ」と正々堂々と明るく競い合えたのかもしれない。しかし――

(人殺しのあたしに……そんな権利なんてない!)

織莉子を殺した自分に、そのことで悲しみにくれる仁美を、彼女をなぐさめる恭介を非難することなどできるはずもない。

ましてや、恭介に自分の胸のうちを分かってもらうことなど、許されるわけがない。

さやかは二人に見せないように涙をこぼして走り去った。

*****************

早乙女和子の担任のクラスは二年生だが、授業は三年生の分も受け持っている。

今日も、三年生のクラスで授業開始前の出席をとっていた。

「……さん」

「はい」

「……さん」

「はーい」

「……さん」

「ちょっと待ってよ!」

その最中に、誰かが割り込んだ。

「どうしました?」

早乙女和子は、出席簿に向けていた顔をあげて生徒の方を見た。

するといまいち見慣れない女子生徒が手を上げている。

「先生、ひどいや。私を飛ばしてます」

黒い短めの髪をしたその生徒が誰なのか、早乙女和子は分からなかったので再び名簿に目をやった。

(……あっ!)

そこには確かに飛ばしていた生徒の名前があった。

不登校の生徒なので、いつも出席確認のときは飛ばしていたのだ。

「呉キリカさん、あなたは何ヶ月ぶりの出席ですか?」

「そのせっかくの何ヶ月かぶりの出席を無視しないでよ」

生意気にも屁理屈を言って反発するその姿に、早乙女和子はあきれてため息を漏らした。

*****************

310 : らんまマギカ18話4 ◆awWw... - 2012/01/30 23:53:32.43 8dPgHRDH0 132/394

呉キリカは、授業が終わると巴マミをつけた。

いきなり襲うことはしない。

この見滝原には他にも何名かの魔法少女がいるらしい。

だとすれば闇雲にしかけて2対1あるいは3対1などの状況に陥る愚は避けなければならない。

同じ理由で、使用済みグリーフシードを使って結界に誘い込むことも避けるべきだろう。

以前の風林館ではその辺のリスクを軽視して失敗したのだ。今回は同じ轍を踏むわけにはいかない。

仇討ちだからといって、何もすぐに始末する必要は無いのだ。

むしろ、時間をかけてでも確実にしとめなければならない。

そのために、まずは巴マミの生活を監視し、1人になってなおかつ油断しているタイミングで仕掛ける。

それが、キリカの作戦だった。

下校するマミがぎりぎり自分の視界に入るぐらいの距離で、キリカはその後ろを歩く。

これならたまたま同じ方向に下校する中学生がいるぐらいにしか見えないだろう。

そんなことを思いながつけていると、マミはどんどん町外れへと歩いていった。

(巴マミはこんなところに住んでいるのか?)

いつの間にやら工場や資材置き場がならぶ工業地区に来てしまっている。

一般民家はあたりにほとんど見られなかった。

さすがにこのあたりで同じ中学の生徒が一定の距離をたもって歩いているのは怪しいので、キリカは身を隠しながらつけた。

(家にも帰らずそのまま魔女退治に行く気なのかな?)

キリカがそんなことを思っていると、マミはついには堤防にのぼり人気の無い河川敷に出た。

さすがに河川敷ではほとんど身を隠す場所など無い。

キリカは距離をとって、おなじく河川敷にその姿をさらす。

すると、マミははっきりとキリカの方を振り向いた。

『なにか、用かしら?』

それと同時にテレパシーを飛ばしてくる。

『まいったね、つけられてるか確かめるためにこんな所まで誘い出したのかい?』

『ええ。あなたに魔法少女の素質があることは見ただけでわかったから』

敵ながらたいした奴だ、キリカはそう思った。

ここなら魔法少女のことについて話し合っても他人に聞かれないし、戦っても一般人を巻き込まない。

彼女なりに魔法少女と人間としての生活を両立させる術が身についているのだろう。

世の中からつまはじきにされていた自分や織莉子とは違う。

その点にキリカは感心を抱くと同時に、いらだたしさを覚えるのだった。

(でも、ここに誘い出したのは結果的にはおろかだね)

巴マミは刺客である自分と一対一で対峙する状況を自ら作り出してしまったのだ。

キリカはにやりと口元をゆがめると、無言でソウルジェムを掲げ変身をした。

もう魔法少女とばれてしまっているからには、隙をうかがっても無意味だ。

町外れで一対一で向かい合っている今のこの状況以上に暗殺に良い状況など訪れないだろう。

(今この場でケリをつける)

キリカはその決意を固めた。

「どうやら、話し合いをしに来たわけじゃないみたいね」

マミとしては結界の外で変身するのはためらわれるが、そういう状況でもないらしい。

マミはしぶしぶ変身をした。

311 : らんまマギカ18話5 ◆awWw... - 2012/01/30 23:55:26.65 8dPgHRDH0 133/394

すると、マミが気持ちを切り替える間もなく、キリカは襲い掛かった。

「えっ!?」

さっきまで十分な間合いを保っていたはずの相手がいきなり目前にまで近づいてきたので、マミは思わず驚きの声を漏らす。

とっさに召喚した銃でかろうじて敵の鉤爪を受け止めるものの、何度でも持ちこたえられるようなスピードではない。

「ワケぐらい言ってから戦いなさいよ!」

マミがそう叫びながら銃を放つと、その弾丸はリボンとなって広がった。

キリカはリボンにつつまれ、マミはいったん後ろにおおきく飛び退いた。

だがすぐにキリカはリボンを切り破り、向かってくる。

マミは銃を構えるが狙いをつける暇も無い。発射した銃弾はあっさりとかわされた。

(ダメね、リボンも銃弾も効かない――)

「それじゃ、これならどう!?」

そのセリフと同時に、マミの銃から円錐状に黄色い光が広がる。いわゆる散弾銃だ。

しかしキリカは猛スピードで、散弾が広がる前まで近づいて回避する。

「しまっ……」

マミとしては予想外にまたも距離を縮められたかっこうだ。

「あぶないあぶない、あんな攻撃もあったなんてね」

急に近づかれ、マミはとっさに銃で頭から上半身をガードする。

一方のキリカは冷静に、がら空きになった太ももを切り刻んだ。

「うっ」

マミは痛みに耐えながらも、今度は発煙弾を放った。

濃い煙がまき起こり、視界をうばう。

(こんな弾もあるのか…)

キリカはマミの戦術の幅の広さに舌を巻くものの、またもニヤリと口元をゆがませた。

「隠れたって無駄だよ、これならどうだい!」

そう言ってキリカは闇雲に四方八方に鉤爪を投げまくる。

どうせ脚にダメージを負った巴マミはすばやく動けないので避けられない。

だとすれば防御するしかないだろう。その、鉤爪がぶつかる時に音がする方に巴マミはいるはずだ。

やがて金属同士のぶつかる高い音が煙の中から響いた。

キリカは迷わずその音の方向に飛び込む。

が、晴れてきた煙の隙間から、何かとてつもなく巨大なものが見え、慌ててキリカは飛び退いた。

「……大きいね」

キリカの眼前には途方も無く巨大な拳銃がそびえ立っていた。

「あなたの一撃は軽いわ。私はこの一撃で決めてみせる」

マミは毅然と、その大きな胸を張って言い切った。

「へえ、そうかい、じゃあこれならどうかな!?」

キリカは手に握っている鉤爪の本数をさらに増やす。

(それでも、決めなければならない)

敵はおそらく圧倒的なスピードに任せてまたまっすぐ前に向かってくる。

それでも小さく避けて弾が当たらないのがこの敵の恐ろしいところだ。

だが、炸裂弾を使えば小さい避け方では無意味になる。

もちろん普通に炸裂弾を撃っても、さっきの散弾がかわされたように懐にもぐりこまれておしまいだろう。

312 : らんまマギカ18話6 ◆awWw... - 2012/01/30 23:57:14.99 8dPgHRDH0 134/394

そこで、今度はマミは自分自身の眼前まで爆風の範囲になるように弾丸を炸裂させるつもりだった。

そうすれば敵がマミを標的とし、前から襲ってくる以上、回避は不可能になるはずだ。

やがて、キリカが動き出すと同時に、マミは砲を放つ。

キリカは圧倒的なスピードで弾丸の横を通り過ぎた。これは予定通りだ。

そして、瞬く間も無くマミに近づいてくる。

このタイミングで炸裂弾が爆発し、キリカの背後を襲うはずだった。

しかし、爆発は起こらない。

やむなくマミはとっさにマスケット銃を召喚して目前までせまったキリカに殴りかかった。

キリカは難なくそれをかわし、マミの太ももに深々と鉤爪を突き刺した。

そして、反撃を加える間もなく、マミの後ろへと駆け抜ける。

ヒット&アウェイを基本戦術にしているらしい。

やがて、炸裂弾が爆発したのはキリカが十分にマミから離れたそのタイミングだった。

マミが想定していたタイミングよりかなり遅い。

「うん、こうすれば、すぐには回復しないね」

大きな独り言をつぶやきながら、キリカはマミの方を振り返った。

マミはすでに地面にひざをついている。

鉤爪がささった脚ではもはや体を支えられないのだ。

「さて、これでもう避けられないな。あとは仕留めるだけだ」

満足げにうなずき、キリカはまたもマミに向かっていく。

マミは動かない脚をひきずって無理矢理キリカの方を振り返った。

まだ抵抗の意思は失っていないが、もはや策は無い。

あったとしても仕掛ける暇が無いだろう。

(当てるしかない!)

マミは銃を両手で抱え、狙撃手のように目線と銃口の向きを合わせた。

 パァン

マスケット銃は大きな音だけをならして、あっさりとキリカに避けられた。

この状況で最後の狙撃も外れ、もはや状況は絶望的だった。

(まるで、私が撃って弾を見てから避けているみたい……)

マミは自分の死が迫る中、ぼんやりとそんなことを思った。

最後まで敵の能力を分析して勝機を探っているというわけではない。

自分の死を考えたくないから半分諦めの気持ちで思考を別のことに回しているに過ぎなかった。

だが、そんな思考がふいにヒントをもたらした。

(ちょっと待って、本当に見てから避けているとしたら!?)

猛スピードで動きながら細かく弾丸を避けられる異常な反射神経、爆発のタイミングが大きく遅れた炸裂弾。

もし、キリカの周りだけ時間がゆっくり進んでいるとしたら、それですべての説明がつく。

(もっと早くに気付いていれば……)

キリカの能力は恐ろしい能力ではあるが、全く対処のしようが無いわけではない。

しかし、脚に鉤爪をめり込まされ、こちらの手の内も多く見せてしまった今となっては立て直しようもなかった。。

マミは迫ってくる黒い魔法少女に、彼女によってもたらされる確実な死を前にして瞳を閉じた。

魔法少女として生きてきた以上、いつか魔女や魔法少女に殺されて死んでしまうことは想定済みだった。

相手の魔法少女は特徴から見ておそらく杏子やらんまが言っていた魔法少女狩りの犯人だろう。

313 : らんまマギカ18話7 ◆awWw... - 2012/01/31 00:01:16.66 fK9Obdfa0 135/394

(せめて、杏子や美樹さんに彼女の能力の内容だけでも教えてから死にたかったわね)

そんなことを思い、最後の瞬間を待つ。

……が、その瞬間はなかなか訪れなかった。

不思議に思い、マミはそっと目を開ける。

そのすぐ目の前には見慣れた赤い魔法少女の姿があった。

「おいおい、戦闘中にオネンネとはずいぶん余裕じゃねーか」

聞きなれた声がマミを叱咤する。

黒い魔法少女は飛び退いて間合いを取ったらしく、やや遠くに見えた。

「……え、き、杏子!?」

なぜ今ここに杏子がいるのか、驚きとうれしさでマミは気持ちがいっぱいになった。

「ったく、昔みたいにこの河原で修行してるのかと思ったらこのザマかよ」

杏子の言葉に、マミは昔よくここの河原で一緒に魔法少女の修行をしていたのを思い出した。

(その感傷に浸って……まさかね?)

「誰かと思ったら佐倉杏子、大丈夫だ。巴マミはもう動けない、佐倉杏子と一対一なら勝てる」

再会をよろこんだり互いの無事を確認する暇も無く、キリカが間に入ってくる。

せっかくのとどめを邪魔されたキリカだったが、相手に味方が来たところで引くつもりは無かった。

ここで巴マミを殺せなければ、学校からキリカの名前や個人情報にアシがつく。状況が悪くなるだけだ。

「言ってくれるね。でもさ、あんたみたいな単純な戦い方がいつまでも通じると思うんじゃないぜ?」

キリカの言葉を挑発と取った杏子は、負けじと言い返した。

「じゃあ、やってみるかい!?」

言い切るのが早いか動き出すのが早いか、キリカはすばやく杏子に襲い掛かる。

杏子はマミを巻き込まないように、いったん大きく横に跳んだ後、長大な槍を召喚した。

槍はすぐにバラバラにわかれ、鞭のようにしなう多節棍へと変化する。

杏子はそれを振り回しながらぐるりと自分の身の回りに張り巡らした。

キリカは棍に当たりそうになって思わずあとずさる。

多節棍により全方向が防御され、どんなにすばやくてもかいくぐる術は無かった。

「かかってこないのかい? それじゃ、あたしからいくぜ!」

そう言って杏子が腕の振り方を変えると、多節棍の槍になっている先端がキリカに襲い掛かった。

それを避けることぐらいはキリカにとってわけはない。

敢えてギリギリで槍を避けると、キリカは鉤爪を槍の向かってきた方へ投げた。

鉤爪は途中ではじかれることなく杏子に向かって飛んでいった。

いかに全方向を防御しているとは言え、自分から攻撃する場所は空けておかねばならない。

キリカはそれを狙ったのだ。

しかし投げた鉤爪は簡単にかわされる。

「へぇー、あんた動き回るのは速いくせに投げた武器はそれほどでもねーな」

杏子がそんなことを言って、マミはようやく自分の言うべきことを思い出した。

「杏子、その子の能力は時間遅延よ! 自分以外のものすべてを一定範囲内でゆっくりさせるの!」

マミのその台詞にキリカは思わず舌打ちをした。

能力がばれてしまうと言うのは魔法少女の戦いにおいては明らかに不利である。

「わかったところでどうしようないさ!」

それでも、キリカは飛び上がって再び杏子に襲い掛かる。

314 : らんまマギカ18話8 ◆awWw... - 2012/01/31 00:02:53.32 fK9Obdfa0 136/394

今度は高く飛び、杏子のほぼ真上にあがった。

「なるほど、いくら振り回しても上からだったらガードが甘いってか……でもさ、」

杏子はそうつぶやくと、キリカに合わせて飛び上がった。

「こうしたら、意味無くないかい!?」

飛び上がった杏子の棍が前から、そして地に置いていた刃のついた槍の部分が下から、同時にキリカに襲い掛かった。

いくら時間遅延ができても空中では動きは大きく制約される。

キリカはついに避けきれず、杏子の棍に直撃された。

それでもなんとか受身を取って着地し、即座に反撃に移ろうとする。

が、すでにその反撃の芽は摘まれていた。

キリカの着地したところはすでに杏子の多節棍によってぐるりと囲まれていた。

「へへ、あたしの勝ちだな」

キリカよりやや遅れて着地した杏子がニヤリと微笑んで見せた。

それと同時に、キリカを取り巻いていた多節棍は蛇が獲物を締め上げるように縮まっていき、全方向からキリカに襲い掛かった。

頭上からも蛇の頭のような大型の刃がキリカに向かって落ちてくる。

どんなに素早かろうが、時間を遅延させようが、全方向から襲ってくる攻撃を避ける術など無い。

キリカは見事に締め上げられた。

やがて杏子が魔法を解いて多節棍を消すと、キリカはそのままバッタリと倒れた。

全身の骨がボキボキと折られて、いかに魔法少女と言えもはや動けないのだ。

「さて、お前が魔法少女狩りの犯人だな?」

杏子はキリカの様子をうかがいながらゆっくりと近づく。

ようやく鉤爪を抜いたマミも、脚を引きずりながらキリカに近づいた。

そして、念のためにキリカの脚を銃で撃ち抜く。

マミとしては逃げたり反撃されないようにするための措置だが、キリカには自分がやったことの仕返しをされたように思えた。

「まずはなんで私を襲ったか聞かせてもらえるかしら?」

「おまえは……織莉子を殺した」

もはや動かすこともできない体で無理矢理首だけマミに向け、キリカは言った。

「オリコ?」

聞き覚えの無い名前にマミは首をかしげる。

そして、杏子の方を向いてみるが杏子も肩をすくめて「知らないよ」とジェスチャーをした。

「キュゥべえが言っていた、織莉子は見滝原の魔法少女に殺されたとね」

そう言われても覚えの無いマミとしてはどうしようもなかった。

自分に何も言わずそんなことをする見滝原の魔法少女が居るとすれば、それはあの暁美ほむらという転校生だろう。

ここでキリカが自分を襲ってきた以外は善良な魔法少女であるなら、マミは彼女を回復させた上で
その辺りの事情を説明しただろう。

だが――

「この子、魔法少女狩りの犯人よね?」

マミは杏子を振り返る。

「ああ、あたしも襲われたんだ、間違いない。こいつの身の上話なんてどうでもいいから
とっとと始末しようぜ?」

杏子は平然と殺害をうながした。

「確かに、私は魔法少女狩りの犯人だ。でも、キミたちは間違っている!」

この期に及んで、キリカはまだ上から目線の言い方をする。冷めた目をするマミと杏子に対して、キリカは言葉を続けた。

315 : らんまマギカ18話9 ◆awWw... - 2012/01/31 00:03:48.40 fK9Obdfa0 137/394

「魔法少女狩りの目的は世界を守ることだ」

「は? せ、世界?」

マミはよく分からない言い訳に素で混乱した。

「もうひとつ、キミたちは私に勝ったつもりでいるらしいけど、これで終わりじゃない。キミたちが絶望するのは……これからだ!」

そう言ってキリカは自らのソウルジェムを掲げた。

真っ黒なソウルジェムには、大きな亀裂が走っている。

「うわっ、黒!」

杏子は思わずつぶやいた。そのぐらい、ソウルジェムは黒く染まっているのだ。

しかしソウルジェムからあふれ出した黒い濁りがそんな悠長な事態ではないと告げていた。

いつの間にやらあたりは結界に包まれ、真っ黒いソウルジェムはその形を崩していく。

やがてそのソウルジェムは、ぐんぐん大きくなり女性の上半身をいくつも連結したような奇妙な化け物へと姿を変えた。

「……え、これって?」

「まさか……」

ソウルジェムとグリーフシードは同じ技術で出来ている、その言葉が杏子の脳内に無限再生された。

(つまり、ソウルジェムとグリーフシードは同じもの……だって!?)

「う、嘘……なんで魔女が、どうして魔法少女のソウルジェムから魔女が……」

マミは戦いの準備もせず、うわ言の様にただぶつぶつと繰り返した。

~第18話 完~

322 : 19話1 ◆awWwWwwWGE... - 2012/02/13 22:38:44.43 hdC736YI0 138/394

~第19話~

「わからぬのぅ」

八宝斎は苦悩していた。

天道あかねに対しては孫娘に対するような優しさで接してきたつもりだった。

それなのにどうしてあかねがあんなに怒ったのか。

「ちょっと、あかねちゃんには早すぎたかのぉ」

独り言をつぶやきながら八宝斎は胸元から女性ものの下着を取り出した。

その下着は、その役割を忘れたかのごとく、女性の大事な部分を隠さずにむしろ露出してアピールするように
本来隠すべきところに穴が開いていた。

(高かったのに……)

彼にとって、まだ誰も着ていない下着などというものはよく使われた下着に比べて大きく価値の劣るものだ。

(仕方が無い、他の子にあげるかのう)

そんなことを思いつつ、八宝斎が商店街を歩いているとお好み焼き屋「うっちゃん」の看板が見えてきた。

(おお、そうじゃ、右京ちゃんならばこれを着こなせるじゃろう! あんこちゃんにはまだ何年か早いがの)

八宝斎は本人たちに見られれば半殺しにされるであろう妄想を抱きながらお好み焼き屋の前に立つ。

だが、「うっちゃん」の扉は固く閉ざされ、『支度中』の札が下げられていた。

「なんじゃ、昼時じゃから右京ちゃんがおらぬのは分かるが、今日はあんこちゃんも休みか……つまらん。」

それならば誰にこの下着を着せるべきか。

天道家のなびきは怖いのでできない、かすみはなびき以上に、怒らせたら一番怖いので手を出せるはずもない。

ひな子という一応弟子にあたるかもしれない女教師は、大人バージョンでは背が高すぎてサイズが合わず
子供バージョンでは背も胸も小さすぎて論外だ。

やはり、あかねと大差の無い身長でそこそこスタイルの良い女の子でなければならない。

「むっ、そうじゃ!」

八宝斎はひらめいた。

「あのシャンプーという中国娘なら、スタイルは抜群じゃし、このような下着も嫌がらずに着てくれるじゃろう!」

シャンプーは恥ずかしがり屋なあかねとも、中身が男のらんまとも違い、積極的に自らの体の魅力をアピールするタイプだ。

彼女ならば、きっとこの下着を完璧に着こなしてくれるに違いない。

(猿の干物が邪魔してくるかも知れんが、この際おかまいなしじゃ!)

八宝斎は夢追う少年のように瞳を輝かせてシャンプーの住む猫飯店へと向かった。

……が、『臨時休業』

またも予想外の休業に阻まれた。

「なんじゃなんじゃ、今日は何かお祭りでもやっとるのか!?」

そのときだった。

「アイヤー!」

紛れもないシャンプーの声が店の奥から聞こえてきた。

(むむっ、居るではないか……居るのに臨時休業とはコレいかに?)

八宝斎はからっきし能天気なので、都合の良いように考えた。

(たとえウェイトレスが元気でもコックが居なくては料理屋はできん。
きっとこれは、コロンめの奴が居らぬか風邪などでくたばっとるかじゃろう)

そうとなれば、八宝斎にとってこれはまさにチャンスである。

「シャンプーちゃーん!」

八宝斎は鍵がかかっているはずの扉をいとも簡単に開け、ジャンプして文字通り店内に飛び込む。

「……ぐぇっ!」

323 : 19話2 ◆awWwWwwWGE... - 2012/02/13 22:41:00.11 hdC736YI0 139/394

が、そのいかがわしい飛行物体はあえなく木の棒によって撃墜された。

店内に居た老婆・コロンの杖が見事に八宝斎の脳天をとらえたのだ。

「まったく、人騒がせな。邪悪な気配が近づいて居ると思ったらハッピーじゃったか」

そう言いつつコロンは冷や汗をぬぐった。

「ぐぬぬ……この猿の干物が……」

八宝斎はダメージに身悶えながらゆっくりと顔を上げた。

すぐ目の前にいるのは猿の干物こと、コロン。店の奥には青い髪の少女と黒いおかっぱ髪の男が1人。男はムースである。

(……はて?)

そこに、青い髪の少女が二人居ることに八宝斎は気がついた。

1人は民族衣装に身を包んだシャンプーだが、もう1人は見慣れない制服を着て髪型はショートカットだ。

「え、人間なの? ソウルジェムが魔女の時みたいな反応してるんだけど……」

その見慣れない少女がしゃべった。

「あの老頭子とっても邪悪ね、たぶん、魔女より邪悪あるよ」

シャンプーが説明すると、ムースとコロンもそうだそうだとうなずいた。

「ワシが邪悪じゃと! ひどいではないか、ワシはシャンプーちゃんにプレゼントを持ってきたというのに!」

「プレゼント……?」

八宝斎の言葉にシャンプーは露骨にけげんな顔をする。

「はっ!? シャンプーちゃんまでワシをそんな目で……ええい、それならそこの女子でかまわん!
ワシのプレゼントをもらってくれんかの?」

「え、ええ? プレゼントって何を?」

八宝斎のノリとテンションについていけない青い髪の少女はついつい気圧されてしまう。

「なあに、お主ならサイズも合うじゃろう、胸はちょっと足らんがのぉ」

そう言って八宝斎が胸元から取り出したものは、黒色のハードコアな雰囲気を放つ下着だった。

それを手にして八宝斎は青い髪の少女の元へ飛び込む。

「ひっ!?」

思わぬセクハラに青い髪の少女はドン引きする。

しかし、

「クソジジイ、それ以上女子に近づくでねぇだ!」

「やめんか、ハッピー」

「女の敵、くたばるね!」

見事に三方からの一斉攻撃を食らい八宝斎は撃沈された。

「え、ちょっと、人間なんでしょ? こんなにして大丈夫なの?」

過激なツッコミに青い髪の少女は少々驚いた。

ギャグのノリでやっているが、猫飯店の三人からの一斉攻撃など食らったら不通の人間はただではすまない。

いや、魔法少女でも深刻なダメージになるだろう。

「かまわねえ、このジジイはもっと懲らしめねばならぬだ」

「そうね、この程度でくたばるよなジジイなら苦労しないアル」

ムースとシャンプーは口々に言う。

「でも、いくらなんでも可哀そうじゃ……」

青い髪の少女はそう言って、地に落ちた八宝斎を拾い上げようと近づいた。

「わー、なんて優しい子なんじゃ!」

324 : 19話3 ◆awWwWwwWGE... - 2012/02/13 22:43:38.95 hdC736YI0 140/394

その少女に対し、八宝斎はあろうことか飛び込んで胸にしがみついた。

「え?」

青い髪の少女の表情が露骨に曇る。

「さやか、ハッピー相手に遠慮も手加減も必要ないぞい」

コロンはそんな青い髪の少女を煽る。

「あたしさぁ、今ちょうどむしゃくしゃしててさ、そういう時にこういう冗談はちょっと我慢できないんだわ」

さやかと呼ばれた少女はうつむき加減で八宝斎をひとまず引き剥がす。

その顔はどこと無く影が差している。そして、いつの間にやら手に剣を握っていた。

「かまわないね、存分にやるよろし」

「まー、刃は抜いてるから悪く思わないでよ……」

本能的に危険を察知した八宝斎は素早く飛び去ろうとするが、思いも寄らず、青い髪の少女に先回りされていた。

「なっ、お主ただものでは……っ!」

言っている間に一閃、鋭い太刀筋が袈裟斬りに振り下ろされた。

「ぐえっ!」

八宝斎の予想通り、その威力もただの少女のものではない。

そのただものの威力ではない斬撃が息をつく暇も無く幾重にも繰り出される。

さしもの八宝斎も滅多打ちにされるしかなかった。

*********************

さやかは放課後、猫飯店に来ていた。

理由は昨日、「殺人現場」を猫飯店のムースという男に見られたからだ。

さやかとしては昨日のことをまどかやマミに打ち明ける勇気はない。

しかし、ほぼ知らない相手なら人格を疑われたってかまわないし、吐き出す場所が欲しかった。

だから「事情を聞きたい」というムースの求めに応じ、全部ぶっちゃけるつもりで猫飯店に来たのだ。

「しかし魔法少女とは信じにくいものじゃな」

やがてコロンが言った。

八宝斎はいつの間にやら椅子で変わり身の術をつかって逃げ延びている。

「でも、信じるしかないね。あんなに早く怪我が治るわけないあるよ」

シャンプーの言葉にムースがうなずく。

「うむ、刃物で腕を貫いてもあっというまに元通りとは、驚いただ」

ムースの言うように、さやかは魔法少女というものがどういうものか知ってもらうために、
魔法で剣を出し、その剣で自分の腕を貫いて見せた。

剣を抜くとすぐに傷口がふさがり、腕を貫いたというのにほんの数滴の血がこぼれた以外はなんの痕跡も残らなかった。

そういって驚きの声をあげる猫飯店の面々に対して、さやかは寂しげな表情をした。

(普通の人からみれば、あたしはバケモノなんだ……)

猫飯店の面々はその戦闘能力の高さや非常識さにおいて決して普通の人ではない。

しかし、さやかにとっては魔法少女でなく、人殺しにも関わっていない人間など、もはや全く異次元の存在に思えた。

いや、彼らが異次元なわけではない、自らが一般人の常識の通じない世界へと行ってしまったのだ。

「ところで、早乙女乱馬や佐倉杏子の知り合いのようじゃがどういう関係じゃ?」

「ああ、マミさん……あたしの先輩の巴マミって人が佐倉杏子と魔法少女仲間で――」

さやかが言い終わらないうちにコロンは質問を上乗せした。

「つまり、早乙女乱馬と佐倉杏子は魔法少女なのじゃな!?」

325 : 19話3 ◆awWwWwwWGE... - 2012/02/13 22:44:42.46 hdC736YI0 141/394

「う、うん、そうだけど」

顔を近づけ迫るりながら聞いてくる老婆にさやかは気おされる。

「では、響良牙はどうなのじゃ?」

「良牙さんは違うよ、男は魔法少女になれないし。良牙さんはむしろ――」

「変身体質あるか?」

今度はシャンプーがさやかの言葉をさえぎった。

「ひとの秘密を聞いて、こっちは隠してるのじゃ不公平ね」

きょとんとするさやかの目の前で、シャンプーは水の入ったコップを手に取った。

そして思いっきり……ムースにぶっかけた。

「え? おら――ガーッ、ガーッ」

しゃべる暇もなく、ムースはあひるに変身してしまっていた。

「良牙さん以外にもいるんだ!? しかも違う動物だし!」

「ちなみに、私は猫になるね」

シャンプーはそう言ってにっこり微笑んだ。

それなら何でシャンプー自身が変身しないのかと、さやかは思わないでもなかったが。

「ふむ、それで魔法少女ではない良牙がどうしておぬしらと関わっておる?」

「えーと、あたしにもよく分かんないんだけど、良牙さんがそのマミさんっていう先輩のところで
ペットみたいになって暮らしてたよ……マミさんと良牙さんがどうして知り合ったのかはしらない」

さやかのその答えでコロンは良牙の事情について大体の察しが付いた。

おそらくどこぞで迷子になってたところを助けられて情が湧いたとか、そんなところだろう。

つまりはあかねの時と同じである。

「では、魔女は魔法少女にならずとも倒せるということじゃな?」

「良牙さんぐらい強ければね、普通の人間には無理だと思う」

「そうか、こやつでは少々荷が重いかも知れぬのぅ」

コロンはガーガーとわめくあひるを眺めて言った。

それは「おらは良牙より弱くねえだ」と必死に訴えかけているように見える。

シャンプーはそんなムースのくちばしをつまんで強引に黙らせた。

「でも大事なことわかたね、乱馬のこと、たぶん魔法少女になったせいアルよ」

「うむ、おそらくの」

コロンとシャンプーは互いにうなずく。

「え? 乱馬さんがどうかしたの?」

「乱馬も変身体質ね。でも最近変身しなくなたアル」

それを聞いたさやかは早とちりをした。

乱馬がどんな小動物に変身するのかは知らないけれど、きっと変身体質を治すことに願いを使ったのだと。

そして、猫飯店一同は変身体質から元に戻る方法を聞きだすために自分を連れ込んで話を聞いているのだと。

「あんまりさ、お勧めできないね……変身体質が治ってもさ
その代わり魔女退治とか魔法少女同士の争いの毎日じゃ意味ないよ」

その言葉は乱馬やシャンプー・ムースに言ったのか、それとも自分自身に言ったのかさやかは自分でよく分からなかった。

「うん、乱馬の場合完全に裏目ね」

シャンプーはさもあらんとうなずいた。

「それで、魔法少女というのはどうやってなるものなのじゃ?」

327 : 19話5 ◆awWwWwwWGE... - 2012/02/13 22:46:38.73 hdC736YI0 142/394

「えっと、キュゥべえってしゃべる猫みたいなのが居て、そいつと契約して魔法少女になる。
その契約のときに魔法少女になる代わりにどんな願いでもひとつだけ叶えてもらえるんだ」

「どんな願いでも……」

その言葉に猫飯店の三人は考え込んだ。

「じゃとすれば、間違いあるまいな」

コロンが独り言のようにつぶやくと、あひるのままのムースもガーガーと鳴いてうなずいた。

そんな中、シャンプーだけが唖然としていた。

この猫飯店の三人には分かってしまった。乱馬が何を願って魔法少女になったのか。

状況証拠としてはそれしか考えられないのだ。

「おそらく、ムコ殿……いや乱馬は重症のあかねを治すために魔法少女に――」

コロンはゆっくりと、まるで諭すような口調で言う。

「そんなハズないね!」

それに対して、シャンプーは反発するように激しい剣幕で否定した。

「乱馬が、あかねのために人生投げ出すなんて! そんなこと、あるわけ……」

なぜシャンプーが激しい剣幕になるのか、コロンがなぜ乱馬のことを「ムコ殿」などと言いかけたのか、
その辺の事情はさやかには全く分からない。

ただ、乱馬が友だちを救うために契約した、つまりさやかに近い状況で魔法少女になったらしいというのは理解できた。

そして、シャンプーがその行為を「人生投げ出す」と表現したこともまた理解できてしまった。

「人生投げ出すって、どういうこと?」

うつむき加減で、腹の底からひねり出したような低い声をさやかは響かせる。

「あ……」

さすがにシャンプーはきまずそうに口をつぐんだ。

言っていることは確かにシャンプーが正しいのかもしれない。

ただの女子学生が終わらない戦いの日々に放り込まれるなんて人生を投げ出したのと同じことだ。

そして、人を殺めてしまった自分にはもはや普通の人生、人並みの幸せなど許されないだろう。

分かっている、なのにさやかの感情はその現実を目の当たりにされることに耐えられなかった。

「ひとまず、この辺でお開きにしようかの」

険悪なムードを見て、コロンが間に入った。

ムースもガーガーと鳴いてコロンの意見への賛同を表明する。

「長々と引き止めてすまなかったの、お主の情報は非常にためになったぞい」

「え? ちょっ……」

急にお開きということになってさやかは戸惑った。

「あたしが、あたしが人殺しになっちゃったってことはほっとくの!?」

「なぁに、魔法少女のことなどどうせ警察は信じてくれまい、誰もお主を捕まえたりはせんじゃろう」

違う、あたしがここに来たのはそんな言葉をもらいに来たんじゃない。

さやかは生気のない目でゆっくりと首を横に振った。

(人を殺しても捕まらないって、それじゃ魔女と一緒じゃない!)

そう思ったところで、さやかはようやく自分で気がついた。

なぜ自分がムースの求めに応じてほいほい猫飯店に来て、いろいろ情報を暴露したのか。

(あたし……裁いて欲しかったの?)

このまま一生罪の重さにおびえて生きていたくなどない、それでは恭介にも顔向けできない。

だから第三者に自分の罪を晒し、裁いて欲しかったのだ。

328 : 19話6 ◆awWwWwwWGE... - 2012/02/13 22:48:21.48 hdC736YI0 143/394

その望みが果たせないと知り、さやかはうなだれた。

「すまぬ、こちらのシャンプーもちと余裕がない状態での、ひとまず下がってもらいたい」

コロンはさやかの耳元でシャンプーに聞こえないように小声で言った。

さやかにはその言葉に従い出て行くしか仕方がなかった。

~第19話 完~

334 : 20話1 ◆awWwWwwWGE... - 2012/02/22 00:48:48.93 iTgb6EbE0 144/394

~第20話~

暁美ほむらはまっすぐ帰宅すると、見滝原市の地図を広げた。

そこには真っ赤な字で『ワルプルギスの夜想定ルート』という文字とその下方から赤い線がデカデカと引かれている。

ほむらはその地図の上に、チェスの白い駒を置いていく。

悪い状況ではない。

今回はまだビショップもナイトもルークも死んでいない。

今から『ワルプルギスの夜』が来るまでの間に全滅ということは無いだろう。

たとえ彼女らの何人かが抜けたとしても、あの響良牙という男や早乙女乱馬という魔法少女がいる。

ほむらはその二人をたとえる駒が思いつかず、さしあたってポーンで代用した。

そして、クイーンの駒を見つめる。

(まどかが出る必要は……ない!)

ほむらはクイーンを地図の外に置いて、キングを赤い線の真ん中に置いた。

今までほむらは何度もこの『ワルプルギスの夜』と戦ってきた。

しかし魔法ではなく本物の兵器を使う彼女の攻撃はまともに効いたためしがない。

おそらく、物理攻撃に対して極めて高い耐性があるのだろう。

ならば、攻撃に回る人員が十分な今回は自分は別の役割を果たすべきだ。

ほむらはそんな自分の無力さをキングに例えた。

駒の大半が広い範囲に動けるチェスにおいて、1マスしか動けないキングは決して強い駒ではない。

だが、タテ・ヨコ・ナナメすべてに動けるのはクイーン以外ではキングのみである。

それは敵を引きつけ、際どく避け続けるには十分な性能だ。

オトリになって敵をひきつける。それが、今回の作戦でほむらが考える自分の役割だった。

「今度こそ……勝てる!」

「なかなかにご機嫌だね、暁美ほむら」

そこへ、白い小動物が入ってきた。

その小動物は猫のような耳から触手のようなもうひとつの耳が垂れ下がり、普通の動物ではありえない姿をしている。

「私の部屋に入ってくるとは良い度胸ね。何用かしら、インキュベーター」

ほむらは振り向いたときにはすでに拳銃を手に握り、その小動物――キュゥべえに向けていた。

しかしキュゥべえはほむらの言葉を無視して地図の置かれた机の上に飛び乗る。

「へえ、『ワルプルギスの夜』対策かい。キミも意外と魔法少女の仕事に熱心なんだね」

「何用かと聞いているのよ」

ほむらはキュゥべえの頬に拳銃を押し当てる。

「やれやれ、人間のやることは分からないなあ。ボクがインキュベーターだと知っているのなら、
そんな脅しが無意味だということも知っているんじゃないのかい?」

その言葉にほむらは自らの唇をかみ締めた。

本人の言うとおりインキュベーター相手にこんな脅しは無意味なのだ。

殺したって意味がないし、敵意を表現したところでそれが通じる相手ではない。

「それに、これは楽観的すぎるシミュレーションだよ」

キュゥべえはそう言うと、するりとほむらの拳銃の脇を抜けた。

そして前足で器用に黒いルークを握って白のビショップの前に置く。

「どういうことかしら?」

「呉キリカが、巴マミを狙っているみたいだ。この分だと今にも戦闘が始まっているかもしれない」

そのキュゥべえの言葉の背景がほむらには理解できなかった。

335 : 20話2 ◆awWwWwwWGE... - 2012/02/22 00:50:02.41 iTgb6EbE0 145/394

「織莉子がいないのに、まだキリカが魔法少女狩りを続けているというの!?」

「どうやら巴マミを美国織莉子の仇だと思っているらしいんだ」

ありえない。ほむらはそう思った。

織莉子殺しの犯人を断定できるほどの証拠は残っていなかったはずだ。

ましてや何の関係もない巴マミを犯人と思い込むなど普通ならありえることではない。

「よく理解できないわ。インキュベーター、あなたは見ていたはずよ、私と美樹さやかが美国織莉子を倒すところを」

「へえ、気付いていたのかい」

感嘆詞などつけながらも、インキュベーターには全く動揺した様子はない。

「ええ。あなたに集中しすぎて、あの暗器使いとかいうワケの分からない男は見逃したけどね」

話しながらもほむらは考えをまとめる。

呉キリカはなぜ巴マミを仇だと勘違いしたのか。

誤解に基づく敵討ちだと知りながら、なぜインキュベーターは自ら呉キリカを説得しないのか。

「……そう、あなたがわざと呉キリカに誤解させたのね」

インキュベーターの目的までは分からない。

しかし、状況から判断してそれしか考えようが無かった。最低でも未必の故意はあるはずだ。

「暁美ほむら、それは憶測だよ」

インキュベーターのその赤い瞳からはほむらは何の感情も読み取れなかった。

こちらの憶測に本気で抗議をしているのか、それともこちらに証拠がないから余裕をかましているのか、それすら分からない。

「そんなことよりも、このシミュレーション通りに『ワルプルギスの夜』を迎え撃とうと思ったら
巴マミに死なれたら困るんじゃないのかい?」

そこだけはインキュベーターの言うとおりだった。

ほむらは舌打ちをして、部屋を飛び出した。

******************

「こんにゃろう!」

勢い良く杏子は、背の高い魔女に飛び掛る。

 ヒュッ

しかし、風が通り過ぎたような音と共に彼女の槍はいつの間にか後ろに弾き飛ばされていた。

「なっ!?」

杏子には何をされたのかもよくわからない。

だが攻撃の一種だとすれば相当に速いことは間違いない。

杏子は巴マミの方を見た。

マミは未だに事態を理解できずに呆然としている。

この状態で狙われたら簡単にやられてしまうだろう。

(どうする? 守りながら戦うか!?)

杏子の魔法のレパートリーには防御魔法もある。

マミを守りながら戦うことも技術的には十分可能である。

しかし、先ほどまで魔法少女だった呉キリカとの戦いですでにかなりの魔力を消耗していた。

(その上、能力もよくわかんねぇんじゃ戦いようもねえ)

魔法少女として時間遅延の能力を持っていたのならば、魔女となっても同じ能力だという推測はなりたつ。

が、憶測で戦うのは危険だ。

「チッ、お前、おぼえときな!」

336 : 20話3 ◆awWwWwwWGE... - 2012/02/22 00:51:26.56 iTgb6EbE0 146/394

杏子は魔女に向かって中指を立てた。

そして素早くマミを小脇に抱えて魔女から遠ざかる。

魔女は矢印の矢の部分だけのような黒い影を飛ばして攻撃してくるが追ってまでは来ない。

杏子はひょいひょい器用にかわしながら、まだ未完成な結界の迷宮を逃げていった。

やがて、十分結界の端に行っただろうというところで、結界にきれいな一直線の切れ込みが現れた。

外に出るために杏子が結界を開いたわけではない。外部から何者かが進入してきたのだ。

杏子が身構えている間にも、その切れ込みはお菓子の紙袋の口のようにぐにゃりと曲がって外界への入り口を広げた。

そして、そこから杏子にはあまり見慣れない黒髪の少女が現れる。

彼女は魔法少女にしてはやや地味な、学校の制服に似ているようでどこかおかしな服装をしていた。

「巴マミは無事のようね」

黒髪の少女はそう言って杏子とマミを一瞥するとすぐに前を向いた。

すでに使い魔が迫ってきていたのだ。

「お前、マミの仲間だったよな……悪い、後は任せた」

たしか暁美ほむらとか言ったか。だが今は名前などどうでも良かった。

言い終わるとすぐに、杏子はマミを抱えたまま黒髪の少女の作った穴から結界の外に逃げ出した。

******************

「!?」

魔女の攻撃がきわどくほむらの髪を掠めた。

数本の長い髪が緩やかに宙を舞い、地に落ちる。

(いつ攻撃されたのかも分からなかった……)

暁美ほむらは呉キリカの能力を知っている。

もともと素早い上に時間遅延の魔法を組み合わせることで敵から見ればありえないほどの素早さを発揮する。

単純なスピードで言えばさやかの方が上になるのだろうが、時間遅延を使っている分、小回りも効き反応も早くなる
キリカの能力の方がより実戦向きと言えるだろう。

そして、それは魔女になっても変わらない――いや、その程度ではなかった。

いつ攻撃されたかもわからないのでは、いくら時間を停止させても避けきれない。

しかたなく、ほむらは時間停止を連発してはそのたびにランダムに動いた。

見てから避けるのが不可能ならば、せめて相手に狙いを絞らせないのが定石だろう。

時間を止めると良く分かる、魔女となったキリカは矢印型の黒い何かを、腕から飛ばして攻撃してきている。

その黒い何かはすさまじい速度のわりに音もなく影もほとんど見えない。

逆に言えば軽いだろうから、直撃しても魔法少女には致命傷にならないのかもしれない。

とにかく、そうやって断続的に時間を止めながら、ほむらは魔女の足元までたどり着いた。

魔女は女性の上半身がいくつも連なった細長い塔のような形をして、最上部にはシルクハットをかぶった頭と、
イカリのような武器をもった腕が見える。

ほむらは時間を止めて手榴弾を魔女の根元に放り投げた。

そして大きく横に移動してから再び時を動かした。

時間が動き出すのと同時に、すぐさっきまでほむらが居たところに巨大なイカリが振り下ろされる。

一方、魔力のこもっていないほむらの手榴弾での攻撃は、魔女に対して決定的ダメージにはなっていないようだった。

イカリの一撃を避けられた魔女はその長い体をくねらせてほむらに向かってくる。

(いちいち時間を止めてちゃ魔力がもたないわね)

そう判断したほむらは、魔女の次の一撃をワザとすれすれで避けて、魔女のそのイカリに手で触れた。

そして、魔女のその部分に魔力を送り込む。

337 : 20話4 ◆awWwWwwWGE... - 2012/02/22 00:53:36.41 iTgb6EbE0 147/394

すると、イカリのついた魔女の腕はまるでプラモ細工か何かのように固まって動かなくなった。

(ふぅ……これで反撃は封じられたわね)

ほむらは小さく一息をつく。

これは、ほむらの時間停止の応用である。

普段使っている時間停止が『自分以外全て』の時間を止めているのに対して、今魔女の腕に仕掛けた時間停止は
対象のみの時間を止めている。

時間を止めた相手には、何のダメージも伝わらず一切の攻撃が効かなくなるが、代わりに相手も動けない。

そのため直接敵を倒すための技としては使えないが、一時的に行動を止めるには役に立つ能力だ。

この対象個別の時間停止と全体の時間停止を併用すれば、周りの人間はおろか本人にも気付かれないうちに
人間1人を瞬間移動させることも可能である。

もっとも、併用となれば魔力の消費も魔法使用にともなう集中力も半端なく必要なのでそんなことは滅多にしないが。

「これで終わりよ」

反撃の恐れが無くなったほむらは、マシンガンの弾と手榴弾をありったけ魔女にぶち込んだ。

盛大に爆風が巻き起こり、魔女の体は木っ端微塵に砕け散る。

勝利を確信したほむらは爆風に背を向けて、その場を立ち去ろうとした。

だが、その背後にちょうど魔女の腕のイカリの部分が勢い良く飛んできた。

(えっ!?)

反応が間に合わなかったほむらはまともにそれを背中で受ける。

血反吐を吐いて、ほむらは魔女のイカリの下敷きになった。

時間を止めていたために、イカリの部分だけは爆風でも砕け散らなかったのだ。

そして、それが丁度爆風でほむらの方へと飛ばされてきた。

(たまたま……それともわざと!?)

魔女になっても完全に知能が消え去るわけではない。

しかし自分の死すら利用して攻撃をしかけるなど生半可な執念ではないだろう。

もしかしたら、魔女となったキリカは織莉子殺しの犯人が自分だと気がついたのかもしれない。

そんなことを思いながら、ほむらは力づくでなんとか魔女の腕を払いのけた。

そのままフラフラと立ち上がってグリーフシードを探す。

そのほむらの目の前に、どこに隠れていたのかキュゥべえが姿を現した。

「思ったより苦戦したようだね、暁美ほむら」

「グリーフシードは?」

憎々しいインキュベーターの台詞には答えず、ほむらは今必要なものを探した。

「グリーフシードならそっちだよ」

キュゥべえはしっぽでその方角を指し示す。

ほむらはそこへ行ってグリーフシードを掴むとすぐさま自分のソウルジェムに押し当てた。

「さて、暁美ほむら。キミは呉キリカの能力を始めから知っていたね? 戦い方を見るとそうとしか思えない」

「……何を、言いたいの?」

少しずつ体を修復しながら、ほむらはキュゥべえをにらみつける。

「だけど、間の悪さから言って織莉子のような予知能力者ではない。相手の心理を読めるサイコメトラーでもないだろう。
とすれば、他に考えられるのは……ほむら、キミは時間遡行者じゃないのかい?」

「なっ……」

ほむらは言葉につまった。

「その表情は人間の言葉で言うところの『図星』という感情だね」

338 : 20話5 ◆awWwWwwWGE... - 2012/02/22 00:54:49.94 iTgb6EbE0 148/394

キュゥべえは「そうなんだろう」とでも言いたげにほむらに近寄る。

「でも、ひとつどうしても分からないことがある。……暁美ほむら、キミの目的は一体なんだい?
何のためにわざわざワルプルギスの夜が来る前の時期を選んで時間遡行しているんだい?
もっと楽に暮らせる時間が後にも先にもいっぱいあるはずじゃないか」

「……あなたには、分からないことよ」

こうも核心に触れてこられると何を言っても理詰めで見抜かれそうな気がしてくる。

キュゥべえの物言いに流されないよう、ほむらははぐらかすしかなかった。

「そうか。てっきり、鹿目まどかを魔法少女にしたがらないことに関係があるのかと思ったよ」

その言葉に、ほむらは表情を変えた。このままではまずい。

「インキュベーター、それ以上言うなら――」

ほむらは盾の中から銃を取り出してキュゥべえに向けた。

だが、キュゥべえは身じろぎもせずこう言うのだった。

「暁美ほむら、キミが協力してくれるなら鹿目まどかを魔法少女にしないと約束しよう」

*****************

「分からない……一体どうして?」

自宅に着いてもまだ巴マミは何も手につかない状態だった。

ほむらからは先ほどテレパシーがあり、魔女はすでに倒したという。

「しっかりしろ! そんなことは後でキュゥべえの奴を問い詰めればいいんだ」

杏子は必死でマミの肩をつかむ。

「……問い詰めて、どうするの?」

マミは感情のこもっていない空っぽの瞳で、杏子に振り向いた。

その生気を感じない表情に、杏子は背筋が凍るような気がした。

何かが違う、マミを支えていた根本的な何かが崩れ去ったような、そんな違和感を杏子は感じたのだ。

「ど、どうするって、返答しだいじゃとっちめてやるに決まってる……だろ」

「いや、知りたくない!」

突然、マミはおおきく頭を振った。

どことなく仕草や言葉遣いがいつもよりも子供っぽい。

「だって、魔法少女が魔女になるなら……魔女になるために生かされてるなら……死んだ方がまだ……」

「ふざけたこと言うな!」

思わず杏子は激しく怒鳴った。

魔女になるために生かされている、この短い間に杏子はそこまで考えてはいなかった。

たとえそうだとしても杏子は死んだ方がマシだとは思わない。

彼女にとっては生きるということはあくまで自分のために生きることであって、誰が何の目的で生かしていようが
自分が生きていることでどこかで知らない他人を不幸にしていても関係ない。

だが、マミにとっては違う。杏子はそれを知っている。

巴マミは自分が魔女を倒し、人々を守るために生かされていると信じて生きてきたのだ。

そんな巴マミだからこそかつての杏子を快く受け入れ、そして
他人のために生きることに限界を感じた杏子は袂を分かつことになった。

それはさておき、交通事故でとっくに死んでいたはずのマミが生きているのは
本人にとっては町の平和を守るためということになる。

それが、町の平和を守るどころか実は魔女そのものだとしたら、そして自分の同類の魔法少女を殺し続けてきていたとしたら――

しかも、マミは幼いころから魔法少女として戦い続けてきた。

杏子は魔法少女になったことで大きく人生を変えてしまったが、マミにとっては魔法少女であることが人生そのものなのだ。

339 : 20話6 ◆awWwWwwWGE... - 2012/02/22 00:56:05.63 iTgb6EbE0 149/394

それが真正面から否定されようとしている。それはマミの存在自体が否定されるのと同じことだった。

「ふざけたこと言うんじゃねぇ……」

杏子は同じことを二度言った。今度は怒鳴るわけではない、苦虫を噛み潰したような何かをこらえるような言い方だ。

「何のためにあたしが助け出したと思ってんだ」

「……あのままあそこで死なせてくれたら良かったのに」

「っ! てめえ!!」

思わず杏子はマミの胸倉を掴みあげた。

掴み上げられたというのに、抵抗は全く無く、マミの瞳には動揺も焦燥も見えない。

その無反応に、杏子はまたしてもゾッとした。

もはやマミは自分自身の痛みにすら興味が無いというのか。

「……もういい」

杏子は小さくそうつぶやいて、マミをそっと下ろした。

「いいか、勝手に死んだりだけはすんなよ! 絶対にな!」

それだけ言うと、杏子はマミの部屋から出た。

外に出るとすでにあたりは暗い。

杏子は人気の無い夕暮れの住宅地をしばらく歩き、やがて、薄明かりの灯る電柱にもたれかかって泣いた。

魔法少女が魔女になるという事実が恐ろしくて涙を流しているわけではない。

マミに、思いが通じなかったのが悔しかったのだ。

昔、あくまで正義の魔法少女として生きていくマミに、思いが伝わらず自分から離れていった。

それからはマミは杏子の生き方を否定することはなかった。

杏子としては自分なりの生き方で生き抜いて、昔の借りも返し、師弟を超えて対等な人間になったつもりだった。

だがそれは積極的な肯定ではなくマミにとっては自分の考えを押し付けることをやめただけに過ぎない。

それを裏付けるかのように、杏子はマミの生き方を少しも揺るがしていないのだ。

杏子がいてもいなくてもマミは正義の魔法少女として戦って死んでいく。

どうしようもなく歯がゆい。そんな思いが杏子をマミに執着させていた。

そんな時に、マミ自身がその生き方を根本から揺るがされた。

今度こそ、杏子は自分の生き方をマミに認めさせることが出来ると思った。

しかし、実際にははるかそれ以前の段階で、もっと根本的な違いを思い知らされてしまった。

巴マミは正義の魔法少女でない自分に、存在価値を認めていない。

はじめから、他人がどうなろうと構わない杏子とは結びつかないものがあったのだ。

「ちくしょう……あたしじゃ足りねぇっつーのかよ……」

杏子は暗がりをとぼとぼと歩いていった。

~第20話 完~

347 : 21話1 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/11 01:36:44.10 wioBtADt0 150/394

~第21話~

朝の通学路はさしていつもと変わりなかった。

「おはよう、仁美ちゃん」

まどかもいつものように通学路の途中で仁美と合流し、出来る限りいつものように挨拶をした。

いつもと違うのは、そこに美樹さやかがいないことだ。

「あら、まどかさん、おはようございます」

仁美も出来るだけいつものように装うが、どこかぎこちない。

「さやかちゃんは今日お休み?」

「私は何も聞いていませんわ……まどかさんは?」

「ううん、私も聞いてないよ」

そんな簡単な会話をかわすと、仁美は小さくため息をついた。

それに対してまどかはうつむいて仁美から視線をそらす。

二人とも精一杯いつものふりをしても、いつものような気持ちになりきれない。

目に見えない緊張感がこの二人の間の空気だけを張り詰めたものにしていた。

まどかは知っている。このごろ仁美と上条恭介の仲が良くなっていることを。

その一方でさやかと仁美・恭介との間にスキマ風がふいていることも。

そして、仁美も分かっていた。まどかとさやかが自分に対して何か大きな隠し事をしていることに。

そうでありながら、お互いこうやっていつものふりを演じて見せたのは、
どちらも関係が壊れることを恐れているからだろう。

互いに相手を尊重してはいるのだ。それゆえかえって踏み込めない。

このままではらちが明かない。そう判断して切り出したのは仁美の方からだった。

「誤解しないで欲しいのですが、私はこんな形でこそこそと進めたくはなかったのです。
もっと、正々堂々とさやかさんに切り出そうと思っていました」

何をこそこそと進めたのか、それは言わなくてもまどかには分かっている。恭介との仲を進展させたことだ。

「でも、さやかさんがこのところお忙しそうでしたり、ひどく落ち込んだようすでしたり
良いタイミングが見つからず……」

さやかが恭介のことが好きなことは、まどかも仁美も前々から知っている。

知った上でこっそりと恭介を奪ってしまうような、仁美がそんな卑怯者ではないとはまどかも思っていた。

むしろ、そう信じたかった。

だからまどかにとって、仁美のこの弁明は少しうれしかった。

仁美がさやかを裏切るつもりは無かったのなら、そして弁明する気があるのなら、このひび割れは修復できるはずだ。

「あのね、私、うまく言えないんだけど……今日さやかちゃんが休んでいるのは多分、仁美ちゃんのせいじゃないよ」

まどかは仁美が感じている重荷を軽くしたいと思った。

本音では、仁美や恭介の影響がゼロだとは言い切れない。

だが、主要因はおそらく魔法少女としての悩みなのだ。

仁美のせいではない。

「そうだったら良いのですが……まどかさんの心当たりは言っていただけないのですか?」

そう返されて、まどかは答えるべき言葉が見当たらなかった。

もっともな問いである。

考えてみれば、手の内を明かした仁美に対して、まどかは具体的なことは何一つ言っていない。

これで信用してもらおうなどとはあまりにも虫の良い話だろう。

何も言えず、まどかはうつむいた。

仁美への申し訳なさと同時に、さやかの役に立てないことにまどかは自信をなくす。

348 : 21話2 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/11 01:37:59.08 wioBtADt0 151/394

魔法少女になれない自分はこんな事でこそさやかを支えなければならないのに、交友関係ひとつすら解決できない。

なんて無力なのだろう。

「まあ、いいですわ」

まどかまで落ち込んだ様子を見て、仁美が一歩引いた。

「まどかさんが嘘をつくとは思えませんし、
さやかさんがもっと大変なことで悩んでおられるなら話せるときが来るまで待ちましょう」

(やっぱり仁美ちゃんは私より大人だ……)

まどかは安心した。

仁美の余裕のある発言に少し劣等感を抱かないわけでもなかったが、ひとまずは丸く収まった。

*************

クラスの中で、欠席しているのは美樹さやかだけだった。

暁美ほむらも普通に出席している。

まどかはもしかして魔法少女全体に関わる大きなこと――たとえば前に巴マミが言っていた『ワルプルギスの夜』など
が起こっているのかとも勘ぐっていたが、それはなさそうだ。

それならばほむらも欠席するはずだった。

おそらくさやかの個人的に抱えた問題なのだろう。

まどかはひとつ安心するのと共に、別のところで不安を増大させた。

さやかは個人的な問題を小学校からの付き合いの自分にすら打ち明けてくれないのだ。

まどかはさやかの態度に少しの寂しさと、力になれないことへの歯がゆさを感じた。

(そうだ、マミさんに会って来よう!)

まどかは思い立った。マミならば、さやかの事情を知っているかもしれない。

また、こちらは逆にマミは知らないであろうさやかと恭介や仁美とのいきさつを知っている。

マミが情報交換すれば、もっとうまくさやかの気持ちを分かってあげて上手く支えてあげられるかもしれない。

まどかは昼休みになると昼食もとらずにそそくさと三年生の教室を訪れた。

ところが――

「えっ!? 今日はマミさんお休みなんですか?」

「ああ、しかも無断欠席だ」

三年生の男子はあきれたように言った。

マミがただのサボりで無断欠席をするとはまどかには思えない。

サボりでないとすれば――

いやな予感がまどかの脳裏をよぎる。

さやかとマミが急に二人して無断欠席……つまり連絡がつかなくなったということは、
二人とも魔女に殺されてしまったのではないだろうか。

(そんなこと……)

絶対にない、とは言えない。

それはまどかにも分かっていた。

しかし、まどかの感情は激しくさやかとマミの死という可能性を拒絶する。

真相を知るのが怖い。

(それでも、聞かないと)

まどかは自分のクラスの教室に戻ると、暁美ほむらに向かっていった。

「安心しなさい。美樹さやかも巴マミも生きているわ」

おそるおそる二人の安否をたずねたまどかに、ほむらはにべもなくそう答えた。

350 : 21話3 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/11 01:42:13.69 wioBtADt0 152/394

「え、でも……そのっ」

それならどうして休んでいるのとか、何かあったのとかいろいろ聞きたいはずなのに、
ほむらのツンとした表情にまどかはうまく言葉がでない。

そうしてまどかがもごもごしている間にも、ほむらはきびすを返して自分の席にもどろうとする。

関わるな、ほむらの無言のプレッシャーがまどかにそう告げていた。

「どうして、二人とも休んでるのかな?」

やっとのことでまどかは声を絞り出した。

「さあ、魔女と戦って疲れたんじゃないかしら」

ほむらは振り返りもせず素っ気無く答えるだけだった。

「それじゃ私、放課後さやかちゃんやマミさんにお見舞いに行くね」

「ダメよ!」

まどかの提案に、すさまじい勢いでほむらは反対した。

その勢いに気おされるまどかを見て、ほむらは自分が過剰な反応をしてしまったことに気付く。

「美樹さやかは分からないけど、巴マミは今危険な状態なの。
魔法少女でないあなたが行ってはならないわ。」

少し気を落ち着けて、ほむらは理由を言った。

「危険だったらなおさら!」

「危険な状態なのよ! あなたが危険に身を晒すことで悲しむ人がいることが分からないの!?」

何がどう危険かと言えない、だからこそなおさら、自分の中の何かを打ち消すようにほむらは激しくまどかを責めた。

「……わからないよ」

まどかは首を小さく横に振った。

「私に何かあったら悲しんでくれる人は居るかもしれないけど、それは、マミさんでも同じだよ?
私もさやかちゃんも良牙さんも……えと、杏子ちゃんも悲しむよ。ほむらちゃんは違うの?」

そう言い返されて、ほむらは戸惑った。

まどかが言い返してくるということ自体があまりないことだったし、
そのまどかの表情はまるで得体の知れないものを見ているかのようにおびえていたからだ。

まどかが自分を疑っている。それはまるで、『かつて』キュゥべえの正体に気付いたときの顔と同じだった。

「魔法少女になった以上は、いずれは哀れな最期を迎えるしかないわ。
いちいちそれに同情してたら命がいくつあっても足りないのよ」

ほむらは自分に言い聞かせるようにそううそぶいた。

「それって――」

まどかはほむらの言い回しに不吉なものを感じ取った。

(しまった)

ほむらは悔やんだが遅かった。まどかに余計な情報を与えてしまったことはもう取り返しがつかない。

「もしあなたが無理にでも巴マミの元へ行くというのなら私も強硬手段に出るわよ」

やむをえずほむらは開き直って脅しをかけた。

「なんで……」

まどかはただ唖然とし、悲しむだけだった。

******************

刷り上ったばかりのポスターを、らんまと良牙は電柱に貼っていった。

「こんなんで本当に効果があるのか?」

「さあな」

二人が貼っているポスターには『不審者に注意』という大きな黄色い文字が浮かんでいる。

351 : 21話4 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/11 01:43:16.33 wioBtADt0 153/394

その下には耳から何か生えている変な猫の絵が描かれていて、
『最近、このようなヌイグルミを使って女子児童らに声をかける変質者が出没しています。
見かけた際にはすぐに110番を――』などと説明文がうってある。

「たしかに俺も最初は変質者だと思ったな」

「そーゆー問題かよ」

ぐちぐち言いながらも、二人は壁に貼り終えると次の場所へと移動した。

彼らは風林館高校の校内にポスターを貼っていっている。

天道早雲が町内会では格闘家として何かと頼られる存在であり、そのおかげでらんまが防犯ポスターを貼っていても
あまり怪しまれなかったし、聞かれても『町内会の仕事で』と言えば納得してもらえた。

教師の二ノ宮先生に見つかっても『このヌイグルミ欲しい』とゴネられただけで、お咎めは無かった。

「……なにやってんだ、あんたら?」

また後ろから声をかけられた、今日何度目かの質問だ。

面倒くさいのでらんまは振り返りもせず答えた。

「あー、町内会の仕事で――」

「んなわけねーだろ」

容赦なく突っ込まれ、らんまはムッとして相手を振り返った。

「なんだ、あんこちゃんか」

良牙がつぶやくように言う。

「あんこじゃねぇ、杏子だ」

そこには一晩置いて見滝原から帰ってきた佐倉杏子の姿があった。

*************

「……魔法少女が魔女に?」

さすがになびきもキョトンとしていた。

昼休みの校庭に、風林館高校の生徒であるらんまとなびき、そして不登校児の杏子と中卒の良牙。

その四人が揃っている。

「ああ。ソウルジェムが魔女になった」

杏子は何度目かの同じ説明を繰り返す。

「敵の魔法少女の技の一種ってことはねーのか?」

らんまが角度を変えた質問をした。

「絶対無いとはいえない……けど、あたしたちの魔力の源のソウルジェムが魔女になったんだ。
ワザとかそんなちゃちなもんじゃねーよ、アレは」

杏子はそのときの状況を思い出し、おそろしげな顔をした。

「ってことはだ。魔女はもともと全部魔法少女だったていうのか? 魔女を作るために魔法少女を作ってたのか?」

良牙は怒りに拳を握り締めた。

もし言うとおりだとすれば、キュゥべえはとんでもない大悪党だろう。

「それは……」

杏子は言葉に詰まった。そこまで言うには情報が足りなさ過ぎる。

「ところでさ」

そこに、なびきが割り込む。

「ソウルジェムが魔女に化けたってことは……その魔法少女自身はどうなったわけ?」

「ああ、気が抜けたっていうか死んだみたいに動かなくなった。多分、死んだんだろ」

杏子はそれにはこともなげに答える。


352 : 21話5 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/11 01:44:17.62 wioBtADt0 154/394

「……ソウルジェムが魔女になったら死ぬってことはさ、あんたたちソウルジェムぶっ壊したら死ぬんじゃない?」

「え?」

「は?」

なびきの言葉に、らんまと杏子は思わず顔を見合わせた。

考えても居なかったという表情だ。

「ものは試しにさ、ソウルジェムにデコピンでもしてみたら?」

そう言われても、もしかしたら自分が死ぬかもしれないと思うとらんまも杏子も手を出せなかった。

「それじゃためしに」

すると良牙がらんまのソウルジェムにデコピンをしようとする。

「う、うわ、やめろ! お前の馬鹿力でデコピンされたら一発で粉々になっちまう」

「安心しろ、爆砕点穴はつかわん」

良牙はそういうものの、らんまにとってやはり良牙のパワーは脅威である。

らんまは自分のソウルジェムを握り締めて逃げだした。

「おい、こら、待て!」

それを良牙が追いかける。

「ちょっとあんまり暴れないでよ?」

なびきの突っ込みもむなしくらんまは木や壁に飛んで縦横無尽に逃げ、良牙は走ってそれを追い掛け回した。

その追いかけっこの巻き添えで、踏まれる者や壊される物が続出する。

もっとも、らんまと良牙が暴れているのは風林館高校では特に珍しいことではなく、誰も不審に思うことは無かった。

「甘い!」

良牙から逃げるのに必死のらんまを、杏子が先回りして待ち伏せる。

そして鞭状にした槍でグルグル巻きにして捕まえた。

「て、てめーら、これで死んだら化けて出るからな!」

簀巻き状態になったらんまはジタバタあばれた。

おかげで良牙も杏子もうまくらんまに近づけない。

これではソウルジェムにデコピンなどできなかった。

 ペチン

が、デコピンの音が小さく響いた。

無論、らんまのソウルジェムは体ごとグルグル巻きにされているのでそんなことできない。

三人が暴れている隙に、置きっぱなしにしていた杏子のソウルジェムになびきがデコピンしたのだ。

「う、うわっ!」

杏子はもだえ苦しむようなポーズをとる……が

「……って、え? 痛くない」

「なーんだ、効かないんだ。残念」

なびきはつまらなそうにソウルジェムを杏子に手渡した。

「なーんだビビリやがって。なさけねーな、あんこ」

らんまは手のひらを返したように落ち着いた態度をとった。

「こんなの平気だろ」

そして、いかにも余裕ですと言いたげにソウルジェムでお手玉を始める。

「……なんかこいつすげームカつく」

杏子がふくれたそのときだった。

353 : 21話6 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/11 01:45:31.38 wioBtADt0 155/394

「ぎゃあ、いてえ!」

急にらんまが身悶えて倒れる。

「おいおい、何ふざけてんだ」

良牙があきれて言った。

が、当のらんまは大真面目に苦しんでいる。

「ハァ……ハァ……ソウルジェムに闘気か魔力を込めてみろ」

「どれ?」

らんまに言われ、良牙はらんまのソウルジェムに闘気を込めて触れてみた。

「ぎゃあああ、ちょ、今のはあんこに、ぎえ、言った……」

息も絶え絶えにらんまが訴える。

「あ、そっかすまねー」

そう言って杏子は魔力を込めて、らんまのソウルジェムを握り締めた。

「うぎゃ、じ、ぎゃ、自分のでやりやがれぇ!」

「乱馬くん、迷惑だからもっと静かに」

なびきのお叱りもむなしく、らんまの絶叫が校庭にこだました。

*************

ポスターを貼り終えると風林館高校の生徒ではない良牙と杏子は帰宅の徒についた。

「マミちゃんがそんなに落ち込んでいたのか?」

「ああ。あたしが何を言っても通じねえぐらいだった」

らんまやなびきは巴マミのことをあまり知らない。

だから杏子は良牙に話をもちかけた。

「心配だな……一度会いに行くか」

「そうしてくれ。ただ落ち込んでるだけだったら良いんだけどさ、なんかすげー悪い予感がすんだ」

そんな会話をして杏子と別れた後、良牙はすぐにでもマミに会いに行くつもりだった。

しかし、天道邸についてみると事情が変わった。

「へ? 映画の鑑賞券?」

良牙が早雲から受け取ったものは二枚のチケットだった。

「いやぁ、新聞の契約期間を延長したらもらっちゃってね」

笑顔で事情を説明した後、早雲は急に真顔になって言った。

「行ってきたまえ。ちょうど二人分だ」

早雲の意味するところを理解するのに、良牙はしばらく時間を要した。

(それは、つまり……)

「あ、あかねさんと?」

良牙の問いに早雲はこくりとうなずく。

(あかねさんと……あかねさんとデートだとおぉ!?)

自分の体の中に稲妻が駆け巡るのを、良牙は確かに感じた。

あかねとデート、そんなことがこの世で起こって良いのだろうか。

まさに夢の世界への入り口が、そこに広がっていた。

うれしすぎて他のことは何もかも吹っ飛んでしまいそうだ。

そんな夢見心地の気分の中で良牙は小さく思った。

(マミちゃんを見舞うのは明日でもいいな、うん)

~第21話 完~

361 : 22話1 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/22 23:58:02.66 RGyRfc3y0 156/394

~第22話~

巴マミは気付いていた。

つらいとき、落ち込んでいるとき、ソウルジェムが濁りやすいことに。

それが何を意味するのかまでは深く考えなかった。

前向きな精神状態を保てばソウルジェムは綺麗なままで保たれる。それだけで十分だった。

ソウルジェムが濁りきったらどうなるのか、そのことも気にはなっていた。

きっと魔法が使えなくなるだけに違いない、基本的にはそう考えていた。

精神状態とソウルジェムに関係性があることに気付いていながらそれ以上考えなかった。

心が濁った少女に魔法という特別な力を与えては危険だからとか、
魔法に頼りすぎるのはよくないからとか、そんな理由で制限が加えられているのだろう。

マミはそういうことにして、胸の奥にある漠然とした不安から逃げ続けていた。

(でも……)

あの黒い魔法少女のソウルジェムは真っ黒に濁りきっていた。

真っ黒に濁りきったソウルジェムは魔女になった。

それの意味することはマミにははっきりと分かってしまった。

(魔法少女は――魔女になる!)

もはや真実を知ることから逃げられない。

自分は、かつて自分と同じ魔法少女であった魔女をいっぱい殺してきた。

そして自分も人々に害をなす魔女となる。

そのことを思うと、マミは生きた心地がしなかった。

こんな運命になるのであれば、あの時、幼き日の交通事故でそのまま死んでいた方が良かったのではないか。

そのようにすら思えてくる。

暗澹たる気持ちで、マミは自分のソウルジェムを眺めた。

黒い。

さっきグリーフシードを使ったばかりなのになまじな魔女戦の後よりもよほど黒く濁っている。

この状態ではいつ魔女になってしまってもおかしくないだろう。

 ピンポーン

マミの気持ちからすれば場違いな、明るい音程でドアチャイムがなった。

「どなた?」

日頃の習性か、とてもそんな気分でないにも関わらず考えるより先にマミは受話器に出ていた。

「……マミさん! わたしです、まどかです」

モニターには見慣れた小柄な女の子が立っていた。

受話器越しの声や、マイクに話しかけるその様がなにやら必死に見える。

「鹿目……さん?」

「あの、マミさんが今日学校お休みだって聞いて、それで、その、えと……大丈夫かなって?」

言葉が見つからないのかその必死さは空回りするように徐々に勢いをうしない、やがてもじもじと煮え切らない話し方に変わる。

それでも鹿目まどかが自分を心配してやってきたことだけは、マミには分かった。

うれしい、泣いてしまいそうなほどにうれしい。

しかし、うれしさがこみ上げてくるのと同時に、恐怖感が沸き起こった。

(わたしが今ここで魔女になってしまったら、鹿目さんは……!)

マミは自分のソウルジェムに目をやった。

もともと黄金色に輝いていたはずのその宝石は、いまやべったりと塗りつぶしたような黒に見える。

362 : 22話2 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/22 23:59:49.95 RGyRfc3y0 157/394

やるべきことを忘れていた。マミはそう思った。

ベテラン魔法少女として、あってはならないミスだった。

たとえ鹿目まどかを巻き込まなくても、ここで魔女になってしまえば同じマンションに住む人たちを
犠牲にしてしまうではないか。

自分の心理的負荷に気をとられて周りの人たちの被害を考えないなんて、視野狭窄にもほどがある。

「マミさん……その……上がっていいですか?」

何も答えないマミが心配になったのか、受話器の向こうのまどかがたずねる。

「……ダメよ!」

マミはきっぱりとそう言った。

「え、でも……」

「ごめんなさい、でもね……今はちょっとダメなの」

きっぱり否定しても、事情をきちんと説明することは出来なかった。

もし事情を説明してしまえば、まどかは飛び込んできてしまうかもしれない。

まどかは臆病なようでいて、本当はさやかなんかよりもよっぽど危なっかしいのだ。

自分以外の人が何か怖い目にあっていたりすると何も考えずに飛び込んでしまう。

そんなまどかの性質を巴マミは見抜いていた。

(だけど、いえ、だからこそ、鹿目さんを死なせるわけにはいかない)

まどかはこれから孤独に戦うことになるであろう美樹さやかを支えなければならない。

「実は、ほむらちゃんにも今は危ないからマミさんに近づかないでって言われて――
その、そんなに大変なんですか?」

(なるほど……あの子は知っていたのね)

マミはひとりうなずいた。

暁美ほむらが魔法少女と魔女の関係について正しく理解していたのなら、あの不可解な言動も少しは分かる気がする。

「ええ、そうよ。近づかないで。それと――」

まどかが来たおかげで本来やるべきことを思い出せた。

マミは本当ならその感謝を述べたかった。

しかし、言うべき事は他にある。

「――美樹さんや杏子に伝えて。希望を棄てない限り、あなたはあなたでいられる」

「え? マミさん、それってどういう?」

意味が分からず、まどかは戸惑う。

それでもマミは確信を持っていた。

魔法少女が魔女になるところを見ている杏子がいれば、これだけで十分伝わるはずだと。

「話はここまでよ。早く、ここから去って!」

「マミさん……」

「出てって!」

マミはあくまで冷たく突き放した。

そうしなければ、ついつい弱音をもらしてしまいそうだった。

まどかがしぶしぶ去っていくのを確認すると、マミは魔法でマスケット銃を召喚した。

言うべき事はもう言った。

あとは今まさに生まれようとしている魔女を、生まれる前に始末するだけだ。

マミは自分のあごの下にマスケット銃の銃口を押し当てた。

363 : 22話3 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/23 00:00:52.04 XsMR3kIl0 158/394


……

しばし、沈黙が続いた。

やがて静かに、液体が銃身を伝ってカーペットに染みを作る。

マミははじめ、それが何なのか分からなかった。

その液体が自らの頬からあごを伝って流れていることを感じて、ようやく気付いた。

自分の目からとめどなく涙があふれ出していることに。

 グスッ

静寂の中で、鼻をすする音が小さく響く。

「わたし……死にたくない……」

震えるか細い声で、マミはつぶやいた。

死ななければいけないのに、そうしなければ魔女になってたくさんの人を殺してしまうのに。

そう思っていても、引き金にかけた指をどうしてもマミは引くことが出来なかった。

やがて、銃を持っていた両腕を力なく垂れ下げる。

涙に濡れたマスケット銃は、床に落ちて跳ねた後、霧のように消え去った。

マミは今まで、いざとなったら自分は死ねるつもりだった。

実際に、危険性の高い魔女が相手でも臆することなく戦ってきたのだ。

それも名前も知らない他人を守るために。

だが、死のうと思うと勝手にまどかや、杏子やさやか、そして良牙の顔が浮かんできた。

そして、彼らとの楽しい思い出が頭から離れなくなった。

杏子以外はみんな、わずか一ヶ月たらずの関係だというのに、その思い出は強固に脳内を占拠して決して消えはしない。

死ねば父母に会えるとか、生きていてももっとつらくなるとか考えても無駄だった。

もっと彼らと笑っていたい、もっと思い出を作りたい、もっと生きていたい。

そんな思いがとめどなくあふれてくる。

「じ、じねない……」

マミはがっくりとうなだれた。

涙も鼻水も止まらず、顔はぐしゃぐしゃになっている。嗚咽も止まらない。

死ねないのは、臆病者の弱さなのか、それとも生きる強さなのか。

そうしてマミはしばらく泣き崩れていた。

「よかった、まだ死んでいないようだね。マミ」

その時、マミにとってよく聞き慣れた声が聞こえてきた。

「キュゥべえ!」

マミは一瞬、うれしそうな顔をして声のした方を振り返る。

だがすぐに複雑な表情に変わった。

ちょっと考えてみればキュゥべえは魔法少女と魔女の両方を作り上げ戦い合わせている張本人なのだ。

(いいえ、きっと何か理由があるのよ)

それでもマミはキュゥべえを信じたかった。しかし考えれば考えるほどキュゥべえの言動は不誠実で疑わしく思える。

どう接して良いか分からない、そんなためらいを見せるマミにキュゥべえはゆっくりと歩み寄った。

*************

364 : 22話4 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/23 00:01:49.17 XsMR3kIl0 159/394

(きっと、何か理由があるんだ)

まどかは思った。

巴マミは意味も無く人を突き放したり、厳しい態度をとったりはしない。

あくまで強く優しく、それがまどかの知っているマミの姿だった。

ならば何故、マミは自分を冷たく突き放したのか。

まどかはマミが厳しい態度をとったシーンを思い出す。

確か、敵か味方か分からないときのほむらに対する態度は毅然として厳しかった。

何故そんな態度をとったのか。

それは、下手をすればまどかやまだ魔法少女になっていなかったさやかに危険が及ぶ可能性があったからだ。

つまり、優しさゆえの厳しさだった。

今回もまた、そのような優しさからくる厳しさだとしたら――

(何か大変なことがあるんだ!)

まどかは確信に近い思いを抱いた。

それに、美樹さやかが今どこに居るのか分からない。

自宅を訪ねても帰っていないという話だった。

こちらもやはり何かよほどのことがあるに違いない。

こんなときに頼りに出来る人物は誰か。

まどかの脳裏にはくっきりと1人の人物が思い浮かんだ。

(良牙さんならきっと……)

なんとかしてくれる。特に根拠は無い。

だが、そんな確信がどこかにあった。

まどかはその足で風林館に向かった。

きっと、あまり時間がない。マミの態度からしてそう思える。

暁美ほむらの警告をとことん無視しているが、今はあまり怖くなかった。

(ほむらちゃんは、私を特別扱いしてる)

ほむらが転校してきた当日からずっと、なんとなく感じていることだった。

自分の思い込みとも、単に戦いや魔法少女に向いていないから邪魔者扱いされてるだけとも、
いろいろ考えたが結論は出なかった。

しかし、今日のやりとりで確信に変わった。

理由は分からないが、ほむらはまどかだけを守ろうとしている。

あのよく分からない、自分を寄せ付けない態度はきっとマミと同じ優しさゆえの厳しさなのだろう。

ほむらのそれをまどかがうれしいと思うかといえば微妙だった。

まどかは自分だけ守って欲しいなんて思っていないし、そうしなければならない弱者と思われるのも嫌だった。

それでも、ほむらは自分には無茶なことはしてこないだろうということは分かる。

それが分かれば十分だった。

多少心苦しい気もしないではなかったが、有利な状況は利用してやる。

(絶対に、どんな手を使ってでも、さやかちゃんとマミさんを支えてみせる)

そんな日頃のまどかには似つかわしくない強気が、この時はどこからか湧いてきていた。

……しかし、風林館に着いたとき、その強気は早くもくじけそうになった。

「わたし、良牙さんが風林館のどこにいるのか知らない」

まどかはがっくりとうなだれた。

365 : 22話5 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/23 00:02:57.62 XsMR3kIl0 160/394

*****************

虚無に近かった。

何も考えない。何も考えたくない。

美樹さやかは見滝原に戻ってきていた。

だが、家に帰る気にはなれなかった。

さいわい魔法少女の体は、疲労も空腹も消してしまえる。

ひとりでいるには好都合だった。

(あとどのぐらいもつんだろう?)

さやかはただの家出少女が財布の中身を確認するような気持ちで自分のソウルジェムを眺めた。

「え、うそ?」

思わず声が出る。

そのぐらい、ソウルジェムはかなり黒く濁っていた。

魔女と戦ったわけでもないのにこんなに濁るなんて、明らかにペースが早い。

(これが真っ黒になったら……魔法が使えなくなるのかな?)

それでも構わない。さやかはそう思った。

魔法なんて使えなければ、人殺しの片棒をかつぐことも人を守るために戦い続けなければならないこともない。

魔法が無くなればもう自分に残っているものは過ちだけだ。

(あれ? そしたら生きてる意味ないじゃん)

自嘲的に、さやかは微笑む。

いまさら恭介や仁美やまどかに、自分を受け入れてもらおうとは思わないし、受け入れてもらえるとも思えなかった。

それでも最低限、何があったのかマミにだけは伝えておこう。

彼女の慈悲や思いやりにすがるためではなく、魔法少女の義務として、さやかはそう考えていた。

見滝原に戻ってきたのはそれだけの理由だ。

もう家に帰るつもりも学校へ行くつもりもどこにも無い。

(でも、その前に――)

『見滝原までついてくるなんて物好きだね』

さやかは気配を感じる方向にテレパシーを飛ばした。

「あちゃー、バレてたあるか」

そう言って民家の屋根の上から姿を現したのは、さやかと同じ青い髪をした、中華料理屋の店員・シャンプーだった。

「まったく、ついて行くのに苦労したね。魔法少女はみんなそんなに足が速いあるか?」

「で、まだ何か用?」

さやかはシャンプーのどうでもいい質問は無視して、用件を問う。

「わたしキューベーに会いたいある。さやかと一緒にいればきっとキューベーに会えるね」

ああそれで、と納得がいったようにさやかはうなずいた。

「好きにすれば良いけどさ、あいつは神出鬼没だからいつ現れるか分かんないよ?」

「アテも無く探すよりマシね」

ずいぶんと前向きなシャンプーを見て、さやかはため息をついた。

自分の顛末を聞いていながら魔法少女がそんなに希望にあふれたものとでも勘違いしているのだろうか。

「そんなにまでしてキュゥべえを探してさ、一体何の願いを叶えたいわけ?」

甘いことを考えているのなら一言いっておこう。さやかはそう思って問いかけた。

366 : 22話6 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/23 00:03:59.19 XsMR3kIl0 161/394

そして自分が初対面のときのほむらと似た対応をしていることに気付き、ひそかに苦笑する。

さやかは、きっとほむらも願いが裏目に出てああなったんだろうなどと勝手な想像をめぐらせる。

「決まっているね。乱馬を男に戻すある」

「乱馬さんを……え!? ええ?」

あまりにワケの分からない願いに、さやかは絶句した。

魔法少女であり紛れもなく女であるはずの乱馬を「男に戻す」というのはどういうことか。

「……もしかして、知らなかったあるか?」

さやかの様子に気付いてシャンプーが問い返す。

「何を?」

「乱馬は、わたしや良牙と同じ、変身体質ね」

「……乱馬さんが、子犬かウサギにでもなるっていうの?」

さやかは、変身体質の人間を良牙やムースでしか見ていない。

だから呪泉郷の変身体質は小動物になるものだと勝手に勘違いしていた。

(いや、ネコ嫌いってことはネズミにでもなるのかも)

そんな妙に納得のいく変身まで思い浮かぶ。

「違うね。乱馬は元々男で、水をかぶると女になるある」

「はい!?」

そんな変身体質もあるのかという驚き以上に、男が魔法少女になってその衣装を着ているという事実の方が
さやかには衝撃的だった。

「きも――」

「だから、わたしの願いで乱馬を男に戻せば、乱馬はわたしのものになるあるね」

さやかが何か言いかけたのを無視して、シャンプーが自分の願望を語りだす。

どう考えても変態にしか思えない乱馬をどうしてそこまでものにしたいのか分からないが、
シャンプーが好きな男のために願いをかなえるという、自分に近い状況であるのをさやかは知った。

「前にも言ったけど、あんまりお勧めできないよ。
あんたさぁ、乱馬さんに『わたしの契約で男に戻れたから結婚してください』って言えるわけ?」

さやかの質問にシャンプーはきょとんとした。

「乱馬さんはそのことで一生負い目感じなきゃならないよね?
それであんたは満足なの? 義理で仕方なく一生添い遂げてもらってうれしいの?」

「言えるし、うれしいあるよ」

シャンプーは迷い無く即答した。

そのあまりのあっけなさに今度はさやかがきょとんとした。

「乱馬のために契約したと言わなければ損するだけね。契約する意味ないある」

「いや、でも、それじゃきっと乱馬さんは楽しくないし、あんたも魔女と戦ってばっかになるんだよ?」

質問の意味が通じていないのではないかと、さやかは必死で説明する。

「楽しくないとか勝手に決めるのはおかしいある。そんなの努力しだいね。
魔女との戦いは……わたし、リンリン・ランランという妹分いるね。
面倒になったらその子たちに魔法少女になってもらって引退するある」

さやかは唖然とした。

シャンプーのその、どこまでも前向きで自己中心的な考え方が信じられなかった。

これがお国柄という奴なのかと感銘すら覚えた。

「そんな都合よくキュゥべえが契約むすんでくれるかどうか分かんないけど……」

「どっちにしても本人に会わないと話進まないね。さやか、はやくキューベー呼ぶよろし」

「いや、あたしは自分の用事で見滝原に来ただけでキュゥべえに会いに来たわけじゃないんだけど」

367 : 22話7 ◆awWwWwwWGE... - 2012/03/23 00:04:53.11 XsMR3kIl0 162/394

「それなら用事がすんだらキューベー呼ぶね」

さやかの都合などおかまいなしと言わんばかりに、シャンプーはぐいぐいと話を強引に自分の方にひっぱる。

「あー、はいはい。先にこっちの用事すましてからね」

さすがに面倒くさくなってきたさやかは、シャンプーを適当にあしらってマミにテレパシーを飛ばそうとした。

自分とほむらが織莉子という魔法少女を殺害したことの他に、乱馬が実は男だったという新情報も伝えなければならないだろう。

前者が魔法少女としての義務なら、後者は女性としての義務だ。

(……あれ?)

マミとテレパシーがつながらない。

さやかは頑張って、見滝原中どこにいてもつながるぐらいにまでテレパシーの出力をあげるが
暁美ほむらの気配が感じられるだけで、マミとはつながらなかった。

「どうしたあるか?」

急にだまって何やら念じ始めたさやかにシャンプーが問いかける。

「えーと、テレパシーがうまく伝わらなくて」

別にシャンプーに事情を説明したところで何が解決するわけではないのだが、さやかはなんとなく律儀に答えた。

それを聞いて、シャンプーは何かを思いついたようにポンっと手を叩いた。

「振ったら通じやすくなるね」

「あたしはケータイか!」

そんな場合ではないのに、さやかはいきおいツッコミをいれた。

~第22話 完~

375 : 23話1 ◆awWwWwwWGE... - 2012/04/17 04:15:07.64 pWVfyT+S0 163/394

~第23話~

鹿目まどかは走った。

風林館の地理にうといまどかには、行くあては一つしかなかった。

この間、みんなで一緒にゴハンを食べた猫飯店だ。

もしあそこに、杏子やらんまが居れば、なんとかなるはずだ。

良牙はあの中華料理屋に行きなれているようだったから、店員さんからでも良牙が今どこに居るのか聞き出せるかもしれない。

それらがどのぐらいの確率かは分からなかった。

それでも今は、他にあてがない。

息が切れ、こけそうになりながら走って、ようやくまどかは猫飯店の前にたどり着いた。

そして勢いよく扉を開ける。

食事中のお客さんたちが「何が起こったのか」という目でまどかの方を振り向く。

知っている顔は居ない、そう判断するとまどかは迷い無く厨房の入り口までズカズカと上がりこんだ。

「おお、お客さん困るだ」

男の店員が出てきてまどかを止めようとする。

しかしまどかの目には彼は見えていなかった。

厨房の奥に、何やら調理をしている老婆が居る。

「お婆さん! 良牙さんが今どこにいるか知りませんか!?」

まわりも気にせず、まどかは大きな声でその老婆に話しかけた。

「む? おぬしはいつぞやの……?」

老婆は調理を終えた料理を男の店員に渡すと、つかつかとまどかに近づいてきた。

「えっと、あのっ」

このときようやく、まどかにいつもの臆病さが戻り、老婆に物怖じした。

(このお婆さん、なんだか……)

いや、引き戻されたといった方が近いのかもしれない。

まどかはこの老婆にそうならざるを得ない何かを感じ取った。

老婆は落ち着いていて、ごく当たり前の自然体のはずなのに、とんでもない緊迫感がある。

ただ者ではない、武闘家や魔法少女ならそんな表現を使ったかもしれない。

まどかはその強烈なプレッシャーに押しつぶされそうになり、つい口をつぐんだのだ。

「良牙に会いたいのか?」

「え、あ、はい!」

そう答えたまどかの瞳を、老婆は値踏みするように覗き込む。

しばらく沈黙が続いた後、老婆はやおらに言った。

「魔法少女のことじゃな?」

「はい! って、え、あれ!?」

まどかはつい勢いよく答えた。

しかし考えてみればおかしい、なぜこの老婆から『魔法少女』という言葉が出たのか。

「急を要するのじゃな?」

「え、えーと……多分」

まどかは控えめに答えた。

緊急事態と言える根拠が無いから自信が無いというのもある。

しかしそれ以上にこの老婆の得体の知れなさに戸惑った。

「安心せい、ワシは味方じゃ」

376 : 23話2 ◆awWwWwwWGE... - 2012/04/17 04:16:34.98 pWVfyT+S0 164/394

一体どういう経緯で誰の味方なのか、この言葉だけでは何も分からない。

まどかはいぶかしげに首をかしげた。

「良牙は天道道場におるはずじゃ……行き方はじゃな、商店街を出て角を――」

そんなまどかに老婆は構うことなく、まどかの行くべき場所を教えはじめた。

「え、あの、ありがとうございます!」

まどかは思いっきり頭を下げる。

「そんなに頭を下げずともよい。それより、天道道場に行ったらムコ殿、いや乱馬殿を連れてきてくれんかの?」

「え……?」

ますますまどかは困惑する。

一体どうして早乙女乱馬を連れてこなければならないのか分からないという事がひとつ。

それになぜ魔法少女である早乙女乱馬を『ムコ殿』と呼んだのか、響良牙は呼び捨てなのになぜらんまは殿付けなのか。

どうツッコンでいいのか分からない。

「それと、良牙を呼んだら一旦ここに戻ってきてくれぬか」

「でも――」

そんなことをしている余裕があるだろうか。

こうしている間にも巴マミがどうにかなってしまう、そんな予感がまどかにはしていた。

「魔法少女が居なければ事態を把握できんじゃろう? 一度落ち着いて話をせねばなるまい」

まどかの戸惑いを見越して、老婆は言った。

「……あ」

確かに言われてみたらその通りだ。

魔法少女ではないまどかと良牙が集まったところで、事態の把握すらできない。

言われるまでそれに気がつかなかった自分をまどかは恥じた。

「どうせならあんことやらも呼んできてもらおうかの……お好み焼き『うっちゃん』に行ってじゃな――」

そう言って老婆は杏子の居場所も説明した。

「はい、そうします。ありがとうございました!」

まどかは再び頭を下げた。

それにしてもらんまや杏子が魔法少女だと知っていて、的確に指示も出せるこの老婆は何者だろうか。

きっと魔法少女に深く関わっているに違いない。

(もしかしたら、元魔法少女……とか?)

そうだとすれば、あの不思議な緊迫感も分かる気がする。

まどうかはそう思うことにして、天道道場へ急いだ。

「おばば、貝柱炒めまだできてねぇだか!?」

老婆は店員の声で仕事に呼び戻された。

「おお、すまんすまん」

言われて老婆は急いで厨房に戻る。

(それにしても、あの小娘……わしの気を感じおったか)

格闘技や武道をやっているようにはまるで見えず、魔法少女でもないはずのど素人の少女。

それに気を読まれたということに老婆は違和感を抱いた。

(何かとんでもないものを持っておるのかもしれんの)

老婆は考えながらも、素早く貝を剥いていった。

****************

377 : 23話3 ◆awWwWwwWGE... - 2012/04/17 04:18:12.36 pWVfyT+S0 165/394

『この貝は……あのラッコが帰ってくるまで、ナポリの海に沈めておこう』

二枚目の俳優がささやくと、美しい女優が潤んだ瞳でうなづいた。

アクションあり恋愛あり、そして涙ありの大人気スパイ映画『008』シリーズを放映中の映画館はほぼ満席だった。

仲間の犠牲を悼む静かなラストシーンに、ときおり客席から鼻をすする音が響いてくる。

「あのラッコさん……かっこよかったね」

天道あかねもまた、やや潤んだ目で右側に呼びかけた。

「……ああ」

あかねの隣に座っている良牙は、淡白に相槌を打つだけだった。

単純な良牙のことだから、感動して熱く語ってくるのかと思っていたあかねは少し拍子抜けした。

(やっぱり、あかりちゃんとの方が楽しいわよね)

今回映画に誘われたのが父親の天道早雲の差し金だということはあかねにも分かっている。

しかし、良牙の自分への思いを知らないあかねは、むしろ良牙に申し訳ないと感じていた。

(良牙くん、あんまり楽しめてないよね?)

それを確認するために、あかねは良牙のほうをそっと振り向く。

すると、感動のあまり号泣して言葉も出ない良牙がいた。

「……十分に楽しめてるみたいね」

(ま、友達なんだし遠慮することは無いわよね)

心配が完全に徒労だったことを知り、あかねはまたも拍子抜けした。

「え? あかねさん、今なんて」

「あ、ううん、なんでもない。こっちの話」

あかねは慌ててごまかした。

映画を見終えると二人は映画館の隣の喫茶店に入った。

「あのワカメの中に隠れるシーンがさぁ――」

気まずい話題に触れたくないので、あかねはさっき見た映画の話題を振る。

「ラッコの勇気が――」

いまだ興奮冷めやらぬ良牙も熱く語った。

相変らずの良牙の単純さにあかねはホッとした。

もちろん、良牙がやや興奮気味なのは単に映画が面白かっただけではないのだが、あかねはそれに気付きもしない。

ただ、雲竜あかりという良牙のガールフレンドへの申し訳ばかりを考えていた。

許婚云々の話に触れなければ友達同士で映画を見に行っただけと言い張れる。

他の友達に頼んで複数人で行ったことにすれば、何の問題もないはずだ。

あとは、あかり本人がこの場に出くわさないことを祈るばかりだった。

雲竜あかりと言う少女は思い込んだら一直線という性格である。

例えば、もしこの喫茶店の前の通りを歩いていてお店の中に良牙の姿を見つけたら、きっと飛び込んでくるだろう。

「良牙さん!」

そうそう、こんな感じで――

(えっ!?)

あかねは自分の想像通りに喫茶店に飛び込んできた少女の方を振り返った。

が、そこに居たのはあかりとは似ても似つかぬ短めの髪をツインテールにまとめた女の子だった。

(えーと……誰?)

少女は背がかなり低く容姿も子供っぽい。

378 : 23話4 ◆awWwWwwWGE... - 2012/04/17 04:20:05.66 pWVfyT+S0 166/394

見滝原の制服など知るはずもらないあかねは、その少女を小学生だと思った。

「やっと、見つけた……良牙さん、大変なんです!」

少女は走ってきたのか肩で息をしながら必死で叫ぶ。

よほど急いで来たのだろう、来る途中でこけたのかタイツの膝やブレザーの肘が汚れている。

「ま、まどかちゃん!? どうしてここに?」

呼び止める店員も他の客の奇異の目線も無視して、まどかと呼ばれた少女は一直線に良牙に歩み寄る。

良牙も少々戸惑っている様子だった。

「その、マミさんが大変で、良牙さん来れば多分、その、なんとか……!」

勢いよく乗り込んできた割に、まどかの言葉はしどろもどろで要領を得ない。

良牙にも何がなんだか分からないのだ、当然あかねには何の話をしているのか全く検討もつかなかった。

ただ、このまどかという少女がよほど良牙を頼りにしているらしいことと、
この不自然なデートを切り上げる格好の口実が出来たことはあかねにも分かった。

迷っている様子の良牙の肩に、あかねはポンと手を乗せた。

「良牙くん、行ってあげて」

あかねの優しげな表情には、デートを中断された不快感も、良牙が何か大変なことに巻き込まれていることへの不安感も無い。

それがどれだけ残酷なことかも知らず、あかねは力強く良牙を送り出すのだった。

*************

猫飯店のテーブルを囲んで、彼らは集まった。

いぶかしげな顔をしたらんまと杏子、ついでになびきも付いてきている、それに不適な表情のコロン、
そして彼らに囲まれておどおどしているまどか。

ムースは1人で店を回さなければならなくなったので、あわただしく厨房と客席を駆け回っている。

良牙はずっとうわ言のように「あかねさん……」と繰り返していた。

「ババァ、いつから魔法少女のこと知ってやがった?」

らんまが最初に口を開いた。

「あたしも気にくわねーな、部外者がコソコソかぎ回って、挙句にトーシロつかって呼び出しやがって」

杏子もらんまに同調する。

「ムコ殿が今のままでは我らも困るのでの……さやかという小娘から聞き出した」

「えっ!? さやかちゃんがここに来たんですか!?」

まどかは驚いた。

まさか、連絡がつかなかった美樹さやかの足取りがこんなところでつかめるとは思っていなかったのだ。

「うむ、今頃はどこをさまよっておるか知らぬが、心配せんでもあの体では死ぬにも死ねまいて」

安心させるために、コロンはわざと茶化してみせた。

「そうでもないわよ」

それを、なびきが否定する。

「まだ推測の段階だけどさ、この子達魔法少女って、ソウルジェムが壊れただけで死ぬみたい」

「うそ? そんなの……キュゥべえは何も言ってなかった……」

魔法少女の実態が自分の思っていたものとずいぶん違う、まどかもようやくそれを分かり始めた。

「あいつは……キュゥべえは食わせもんだ。信用しない方がいいぜ」

「それと、これも推測だけどさ、ソウルジェムが濁りきったら……あたしたちは魔女になる」

らんまと、それに続けて杏子が言った。

「!? そんな!?」

「それはまずいの……」

379 : 23話5 ◆awWwWwwWGE... - 2012/04/17 04:22:24.19 pWVfyT+S0 167/394

まどかはショックの連続で表情が固まる。

一方のコロンも目を見開いた。

「あの、さやかという娘のソウルジェムはかなり黒くなっておったぞい」

「まじかよ、早いとこ見つけてやらねぇと」

杏子は手持ちのグリーフシードを確認した。

手持ちはサラがひとつと、使いかけがひとつ。

他人に使ってやるのはせいぜいひとつが限度だろう。

「さやかちゃんが……魔女に?」

まどかはうつむいて考え込んだ。

そんなことがあって良いはずは無い。

しかしどこに居るかも分からない状態で、どうやってそれを防ぐことが出来るのか。

「そういやさ、まどかちゃんは何でこっちに来たわけ?」

会話が途切れそうになったところでなびきが口をはさんだ。

「あ、それは! マミさんがその、凄く危険な状態らしくて――」

まどかは今日、マミのマンションに言って話したことをざっと伝えた。

その内容に一同は顔をしかめる。

「え……と、分かりにくかったかな」

周りの反応が怖くて、まどかはついそう聞いた。

そのまどかをさらに怯えあがらせるように、杏子が机を叩いた。

「マミの奴、自分が魔女になると思ってやがるな……」

「まー、実際そうなっちゃうかもしれないしね」

いら立ちを隠せない杏子を前に、なびきはさらりと言ってのける。

そうしてキッとにらみつけてくる杏子に、手持ちのグリーフシードを一個見せびらかした。

「今なら特別にスペシャルミックス焼きおごってくれるだけで良いわよ?」

「ちょ、あんた儲けには走らないんじゃなかったのかよ!?」

「だって、今回のことはキュゥべえに吠え面かかすのと関係無さそうだもの」

「てめー……」

そんなやり取りがはじまった所で、良牙が口を挟んだ。

「分かった。俺が払おう。それならいいだろ?」

「お前、いつ立ち直った!? ってか金持ってんのかよ?」

「金はたまに実家に帰ってもらってる。 それにマミちゃんが危ないんだろ、落ち込んでる場合かよ!」

杏子のツッコミが空回りするほど、良牙は凛々しく言った。

「私が今説得したら立ち直ってくれたよ」

まどかがにっこり微笑んで説明をした。

自分のやったことが効を奏したのがうれしかったのか、心なしか何かをやり遂げたような顔をしている。

「なあ、もしかして良牙って……」

「ああ、アイツは根っからの単細胞だ。しかも女に弱い」

あきれ果てる杏子の言わんとすることを、らんまが代弁する。

「とりあえず、話は決まったわね。それじゃ行ってらっしゃい」

なびきは良牙にグリーフシードを投げ渡した。

「魔法少女が持っといた方が良いだろ」

380 : 23話6 ◆awWwWwwWGE... - 2012/04/17 04:24:48.69 pWVfyT+S0 168/394

良牙はそれをらんまにパスする。

「おう、行ってくるぜ」

立ち上がってグリーフシードを受け取ると、らんまは勇ましく答えた。

それにつられて、まどかも立ち上がる。

「あ、私も!」

「やめといた方が良いわよ」

それを、なびきが制止した。

「そうじゃの、事態がはっきりせんうちはここに居た方がよかろう」

コロンもそれに同意する。

「でも……」

「キュゥべえの目的は分からないけどさ、あたしがキュゥべえで契約とりたいなら『キミが契約すれば友達を助けられる』
とか言ってアンタを契約させるわよ。……だから、アンタをあたしたちの目の届かないところにはおけないわけ」

戸惑うまどかになびきは冷たく言った。

まどかがキュゥべえに騙されて契約しないようにここで監視するというのだ。

魔法少女は魔女になると知った今でも、それでさやかやマミが助かるならば契約してしまいそうな自分が居る。

なびきの懸念を否定しきれないまどかは自信なさげにうつむいた。

「ワシももうちょっと魔法少女のことをいろいろ聞きたいからのぉ、少しここで話に付き合ってくれんか?」

一方、コロンは下手に出てまどかを説得する。

「はい、わかりました」

まどかは元気なくうなずいた。

その様子を見て、良牙と杏子も立ち上がる。

「話は決まったな、それじゃ行くぜ!」

「おう!」

らんま、良牙、杏子の三人は勢いよく猫飯店を出て行った。

~第23話 完~

387 : 24話1 ◆awWwWwwWGE... - 2012/05/02 01:43:14.69 XQfjLdnG0 169/394

~第24話~

巴マミと連絡がつかない。

美樹さやかは不安に襲われていた。

(そんなハズは……)

可能性は否定は出来ないが信じたくなかった。

まさかあのマミが魔女にやられただなどと。

もし、マミが魔女にやられたとすればこの見滝原はどうなるのか。

そのことを考えたとき、さやかは自分がマミに甘えていたことに気がついた。

マミがいなくなれば、自分の他に町を守る魔法少女はいなくなるのだ。

暁美ほむらは信用できないし、響良牙では魔女を探すことが出来ない。

自分の肩に町の平和がかかっていると思えば、自暴自棄になってよその町をうろついたり、
『死んでも良い』なんて考えたりすることなど許されない。

戦うしかない。

1人でも魔女と戦い続けなければならない。

そんな現実を突きつけられて、さやかはなおさらマミに生きていて欲しいと願った。

重責から逃れるためではない。

長い間その重責を背負って生きてきたマミの気高さを知ったからだ。

どれほど辛かっただろうか、どれほど苦しかっただろうか。

マミが魔女退治をしていなければ、とうの昔に死んでいたかもしれないのに、マミの苦しみなど何も知らずに
さやかはのほほんと生きてきた。

そうしている間もマミは孤独に戦い続けてきたのだ。

(お願い……生きてて)

あんな人が死んでしまって良いはずなど無い。

祈るような気持ちで、さやかはマミのマンションまで急いだ。

「さやか、ちょっと待つよろし!」

後ろからシャンプーがぴょんぴょん飛んで付いてくるがいちいち待ったりはしない。

そうして1人でマミのマンションに着き、マミの部屋番号のインターホンを押したが誰も出ない。

やむをえずさやかは力づくでマンションの玄関の扉を開けた。

たぶん鍵が故障しただろうが、この際そんなことは言っていられない。

さやかは迷わずマミの部屋に向かった。

(この感じは……!)

マミの部屋の前まで来ると、さやかのソウルジェムははっきりと反応を示していた。

ここに、魔女が居る。

(やっぱりマミさんは――)

魔女がわざわざマミの居るところを狙ってきたのか、それともマミが間違ってグリーフシードを孵化させてしまったのか。

事情は分からないが、マミの部屋に魔女が居る以上、やられてしまったと考えるしかないだろう。

(絶対に、仇は討つ!)

そんな覚悟を決めたさやかのところに、ようやくシャンプーが追いついてきた。

「まったく、足が速いね、逃げるのよくないアルよ」

「いや、あんたは逃げた方が良いよ」

さやかは素っ気無くシャンプーに言った。

「今から魔女退治だから、下がってて」

しかしそう言われて引き下がるようなシャンプーではなかった。

388 : 24話2 ◆awWwWwwWGE... - 2012/05/02 01:44:20.21 XQfjLdnG0 170/394

「魔女退治……どうせ魔法少女になるなら先に体験してみるネ! さやか私も連れて行くよろし」

「悪いけど帰って。あたしはあんたを守りきれる自信はないし、今回は魔女を倒せるかどうかも分からない」

それはさやかの本音だった。

敵はおそらくマミを倒すほどの魔女なのだ。

今の、魔力残り少ない状態で一般人を守りながら勝てる自信などどこにもなかった。

「だったら、私も加勢するネ。私、良牙ほどでなくても戦えるアル」

「うーん」

さやかは首をひねった。

確かに、魔法少女の足についてこれる時点でただ者ではない。

猫飯店で老人を攻撃したときに見せたパワーからも使い魔程度は十分に倒せそうではある。

「でもダメ、あたしが死んだらあんた結界から出られなくなるから」

「魔女を倒せば問題ないネ」

「悪いけど今回はちょっと自信ないんだ。
それよりも、マミさんちに魔女が出たって良牙さんや風林館の魔法少女たちに報告してくれない?」

たんたんとさやかは指示を出した。

(なんだろう、変に落ち着いちゃったな)

さやかは思った。

さっきまで世界が終わったかのような不幸のどん底の気分だったのに、マミの危機を知った今そんなことはどうでもよくなった。

その一方で、自分の命なんてどうでも良いという投げやりさは消えていない。

この戦いで自分は死ぬかもしれない、そんな予感を特に深い感慨も無く受け入れている。

別に無為に死にに行くつもりはないが、死に向かう自分を自身で驚くほど冷静に見られるさやかがそこにはいた。

(もしかしたら、マミさんの見ていた風景もこれに近かったのかな……)

そんなことを考えながら、さやかはソウルジェムで魔女の結界をこじ開けた。

その瞬間、シャンプーは確かに見た、さやかのソウルジェムが少しだけ、輝きを取り戻していることを。

「あ」

シャンプーがソウルジェムに目を奪われている隙に、さやかは結界の中からその穴をふさいでいく。

「ずるいネ、勝手に行くの卑怯ネ!」

みるみるうちに、現実世界と魔女の世界をつなぐ隙間は埋まり、やがて何の変哲も無いマンションの廊下に変わる。

シャンプーの声は人気の無い冷たい廊下にこだまするだけだった。

******************

結界に進入したさやかに、使い魔が襲い掛かってきた。

それは青いシルエットでマントと剣を装備した、まるでさやかそっくりな使い魔だった。

(え? これって――)

使い魔の突撃をよけると同時に一閃し、さやかはあっさりとその使い魔を倒す。

すると結界の奥からさらに何匹かの使い魔がやってきた。

赤いシルエットで槍を装備したどこかで見た魔法少女のような使い魔や、黒い小動物のような使い魔。

さらにはピンク色の使い魔もいる。こいつは他の使い魔の後ろからこそこそ様子をうかがっているだけだ。

(なんなのこの魔女!?)

今までの魔女とは何かが違う。

何か底知れないものをさやかは感じ、使い魔たちと距離をとって身構えた。

そんな時、爆発音が鳴ったかと思うと、結界の奥から暁美ほむらがあらわれた。

389 : 24話3 ◆awWwWwwWGE... - 2012/05/02 01:45:06.56 XQfjLdnG0 171/394

「あら? あなたがここに来てるなんてね……」

「ほむら! マミさんは?」

さやかは内心、助かっている見込みが薄いことを知りながらもマミの安否を確認した。

「……さぁ?」

ほむらはそう言って首を傾げた。その魔法少女衣装には血痕も破れたところもひとつもない。

「それよりも、あなたはここを引き上げなさい。 この魔女はあなたじゃ手に負えないわ」

「なんか、おかしくない?」

ほむらの言動に、さやかは違和感をいだいた。

「あんた、なんで結界の奥から出てきたの? そのわりに魔女と戦ったようにも見えないのは何で?
それに安否が気になるわけでもないのになんでマミさんちまで来てんの?」

「グリーフシード目当てにここに来て、魔女と一戦して形勢不利だから戻ってきただけよ」

むすっとした表情で、ほむらは答える。

「いいや、違う。それならあたしと一緒に戦うか逃げるかしようとするはずだもの。
……あんたは、何かを隠してる!」

さやかの顔はいつになく引き締まっていた。

決意、決心など、逃亡からはもっとも遠い表情だ。

ほむらは小さく舌打をすると、右手を盾にかざそうとした。

「させるかっ!」

が、それより早く、ほむらの反応できないスピードでさやかはほむらの目の前に迫り、剣の柄でほむらの右肩を叩いた。

スピードに乗った、魔法少女の全力の打撃だ。ほむらの肩は破壊され、右腕はだらしなく垂れ下がった。

とても盾に手をかざすどころではない。

「その盾で瞬間移動だかなんだかするんでしょ、いつまでも気付かないと思った?」

「くっ」

それでもほむらは、盾の方を右手に近づけてなんとか時間を止める。

そしてさやかとの距離を開けると、動かない右腕の手だけを使って盾から発炎筒を取り出し、ピンを抜いた。

発炎筒からは煙があふれ出る。

それを見計らって、ほむらは時間を再び動かした。

「――っえ!?」

さやかは一瞬目を疑った。

ほむらを追い詰めたと思ったら、次の瞬間には発炎筒からもくもくと煙があふれ、視界がふさがれていた。

だが、既にほむらの手の内をつかみ始めたさやかは、何をされたかも分からないというような混乱はしない。

『そっか、あんたの能力は時間を止めるってわけね。次はもうひっかからないよ。
コソコソ逃げずに隠してること吐いちゃってくんないかな?』

さやかは結界内に広くテレパシーをばらまく。

『あなたが悪いのよ……私の言うことを聞かないから……』

ほむらの返事はそれだけだった。

だが、さやかはその返事でほむらのおおよその位置をつかんだ。

煙など気に留めず、さやかはその方向へ飛ぶ。

そのとき、予想外の攻撃がさやかを襲った。

黄色いリボンのようなものがシュルシュルと飛んできてさやかの体に巻きつきはじめたのだ。

(えっ!? 何コレ?)

間違っても、ほむらの攻撃ではない。

390 : 24話4 ◆awWwWwwWGE... - 2012/05/02 01:46:36.17 XQfjLdnG0 172/394

その黄色いリボンは、いやがおうにもさやかにマミのことを連想させた。

やがて煙が晴れると、そのリボンが使い魔からではなく、この魔女迷宮の壁から直に出ていることがわかった。

当然ながら、ほむらの姿はない。

(テレパシーでここにおびき寄せられた……)

罠にはめられたことに悔しがる以上に、さやかは不思議に思った。

なぜほむらはここまで魔女の性質を熟知していながらなぜさっさと倒しに行くことも、逃げ出すこともしないのか。

そして、そもそも何のために織莉子を殺したり、今さやかを追い出そうとしたりしているのか。

(まー、ここで考えてたって仕方ないか)

さやかはリボンから逃れようとした。しかしすでに手足に絡まれ思うように抜け出せない。

そうしているうちに、暴れるさやかを取り押さえようというのか更に多くのリボンが襲い掛かり、
やがてさやかは繭にくるまれた蛾の幼虫のように、リボンの中に閉じ込められた。

*************

「これは……?」

「どうした、良牙?」

らんま、良牙、杏子の三人は、マミのマンションの前まで来ていた。

「マンションのドアが壊れてやがる」

そう言って良牙はドアの下を指差した。

そこには無残に引きちぎられた鍵止めの金具が散らばっている。

「あんたがバカ力でぶっ壊したんじゃないのかい?」

杏子が茶化す。

「あのなぁ……俺だって、そのぐらいの力加減はできるぞ」

そんなやり取りに、らんまが横槍を入れた。

「武闘家や魔法少女ならできるだろうが、一般人にゃできねー」

もちろん、一般人にできないというのは力加減のことではなく、ドアを壊してマンションに侵入することだ。

「だったら誰か魔法少女か――」

杏子が言いかけた時、マンションの奥から青い髪の少女が現れた。

「シャンプー!? なんでここに?」

らんまが驚いていった。

目の前の少女はまぎれも無く猫飯店のシャンプーである。

「さやかの後ついてきたアル」

「さやかちゃんを知ってるのか? 今どこに居る!?」

「結界というアルか? なんか変なトコ入って魔女と戦いに行ったね」

良牙の質問にシャンプーはたんたんと答えた。

今がそれなりの緊急事態だと思っている三人には、どうにもそれがもどかしく感じる。

「おい、どこで結界に入ったんだ? さっきからソウルジェムが反応してやがるんだ、この近くだよな!?」

杏子はまくし立てるように話す。

シャンプーはさすがに度胸が座っているらしく、それにも気圧される様子はなかった。

「『巴』ってプレートの部屋ね」

その言葉に杏子と良牙が固まった。

「ま、まだそうだと決まったわけじゃねぇ、いくぞオメーら!」

らんまの呼びかけに杏子と良牙は苦虫を噛み潰したような顔でうなずいた。

391 : 24話5 ◆awWwWwwWGE... - 2012/05/02 01:47:19.17 XQfjLdnG0 173/394

「乱馬も魔女と戦いにいくあるか? それなら私もつれてくよろし」

そんな真剣な空気をぶち壊すようにシャンプーは無邪気にせがむ。

一同はしばし顔を見合わせる、がやがてらんまが口を開いた。

「いや、悪ぃけど婆さんのところへ帰って伝えてくれ――『マミって子が魔女になったかもしれない』ってな」

「は?」

何を言われたのか分からず、シャンプーは思わず聞き返した。

「何を伝えれば良いあるか?」

「あー、そっか知らないんだな。……魔法少女は魔女になるんだ」

横から杏子が口を出す。

「今、猫飯店にまどかって子がいるからその子のためにも伝えといてくれ」

「『マミが魔女になった』ってな」

良牙とらんまが口々に追加説明を加えた。

(それじゃ魔法少女になってらんまを男に戻すどころか……)

さすがのシャンプーも自分の認識が甘かったことを理解した。

(替え玉を用意するのも一苦労ね。オババと一緒に別の方法を考えるよろし)

それだけ考えるとシャンプーは顔を上げて言った。

「わかたね、オババとまどかに知らせるアル」

「おう、まかせた」

らんまたちは小さく手を振ってマンションの中へと向かい、シャンプーは外へと飛び出して行った。

**********

「そんな……さやかちゃんが……」

まどかは信じられなかった。

美樹さやかが、人を殺しただなんて。

「その暁美ほむらという者の言い分によれば、魔法少女狩りの犯人じゃったそうじゃ」

コロンは落ち着いた様子で猫飯店特製プーアール茶をすする。

「グリーフシード持ってるかどうかで生き死にに関わるんだったら
そうまでして魔法少女同士でケンカするのも分かるかもねぇ」

なびきもおいしそうにお茶を飲んだ。

「さやかちゃんは、それを気に病んで家出したってことですか?」

「うむ、そういうことじゃな」

そう言ってコロンはずずっとお茶を飲み干した。

「しかし分からんのはそのほむらという魔法少女じゃな。
さやかの言うにはグリーフシードを奪いに行ったわけではないらしい」

「えっ? だって魔法少女狩りの犯人を倒しに行ったんじゃ……?」

まどかはコロンの発言に驚いた。

さきほど自分でほむらの言い分を説明しておきながら、全く信じていないのだ。

「それが理由ならどうして犯人を知っているかも説明できるじゃろう」

「何かいえない理由がある……って可能性もあるけど、単純に縄張り争いかしらねぇ?」

なびきも首をひねった。

彼女もまた、さやかとほむらが本当に魔法少女狩りの犯人を倒したとはあまり思っていないらしい。

「そこで聞きたいんだけどさ、ほむらって子はどんな子なの?
それがちょっとは真相も分かってくるかもしんないじゃない。真実はいつもひとつ!ってさ」

392 : 24話6 ◆awWwWwwWGE... - 2012/05/02 01:48:32.45 XQfjLdnG0 174/394

そう言ってなびきはまどかに問いかける。

「えーと……」

ほむらがどんな子かと聞かれて、まどかはすぐに答える言葉が思いつかなかった。

捉えどころが無さ過ぎる。

「よく、分かんないです」

仕方なくそう答えたまどかに、コロンもなびきも目を丸くした。

「その、クラスメートでもあるんですけど、なんだか良くわかんない言葉が多くて……
分かってるのは成績優秀で、運動神経もよくって、魔法少女としても強いらしいってことぐらいで……」

「ふぅーん、万能だけど意味不明ってわけね……九能ちゃんみたいなのかしら?」

「はぁ……」

なびきが例を挙げるが、まどかが九能という人物を知っているはずも無い。

「ムースの言うにはもっとツンとした感じらしいぞい。九能のようなマヌケな雰囲気ではなさそうじゃ」

そこにコロンが情報を付け足す。

「万能なのにマヌケな雰囲気なんですか?」

まどかとしてはむしろ、その妙に濃いキャラ付けの九能という人が気になってくる。

(いや、まあ、ほむらちゃんも結構濃いキャラだけど)

そんな若干失礼なことを考えて、まどかは慌てて首をふった。

「そうじゃの、それなら聞き方を変えて……
見滝原の魔法少女たちの中ではどういう存在じゃ? おぬしとの関係はどうじゃ?」

コロンはぐいっとまどかに顔を近づけて問いかけた。

その皺だらけの妙に威圧感のある顔に、まどかはとっさに何かを連想した。

「さ……」

「さ?」

『猿の干物』と、連想したものを言いかけてまどかは口をつむぐ。

なんでさっきから失礼なことばかり考え付くのだろう、あんまりにも多くのことがありすぎて疲れているのだろうか。

今日の自分はどうにかしている、まどかは心の中できつく反省した。

「ええ、えーと、さ、最初は敵じゃないかみたいな雰囲気だったんですけど、
その、『ワルプルギスの夜』っていうすっごい魔女と戦うために協力するってマミさんと約束して――」

そして、まどかは失礼なことを言おうとしたのを誤魔化すためにべらべらと話し始める。

(ああ、そうか、お母さんが言ってたな『嘘吐きの営業マンほどべらべらしゃべる』って)

まどかはここで図らずも、人間は何か誤魔化したいものがある時に多弁になることを知った。

「かくかくしかじか――で、ほむらちゃんは私が魔法少女になるなって言ったり、心配するようなことを言ったりして、
なんだか分かんないけど私を特別視してるみたいなんです」

まどかが一通りしゃべり終えると、なびきが少しきょとんとした顔をしていた。

「あんた思ったよりしゃべるのね」

「あ……あはは」

まどかは笑って誤魔化す。

「自意識過剰じゃないの?」

なびきにそう詰め寄られるとまどかは少し自信をなくす。

「……かも」

そんな素直なまどかを見てなびきは小さく笑う。

その様子を、コロンだけが真剣な眼差しで見つめていた。

(やはり、この小娘自身にも何かありそうじゃの)

393 : 24話7 ◆awWwWwwWGE... - 2012/05/02 01:49:20.93 XQfjLdnG0 175/394

「ん? お婆ちゃん?」

なびきは鋭く、コロンの表情に気付いた。

「いや、ふむ、暁美ほむらは見滝原においても少々浮いた存在なワケじゃな」

コロンはとっさに話題をほむらのことに変える。

まどかが恐らくとんでもない力を秘めていることを、いきなり本人に気付かせるのはためらわれたからだ。

「それに、魔法少女が魔女になるってことも始めっから知ってた臭いわね」

「じゃとすれば、どうしてそれを言わなかったかが問題じゃな
グリーフシードを独り占めしようとしていたようにも思えんしノォ」

コロンとなびきが話を進める間、まどかは一気にしゃべった疲れと緊張をいやすため胸をなでおろしていた。

「どう思うまどかちゃん? なんか心当たり無い?」

が、休まる間もなくなびきが質問を振る。

「こ、心当たり……ですか?」

まどかは胸をなでおろした手を、そのまま胸に当てて考えた。

ほむらのことでまどかが知っていることなど、ほとんど何も無い。

ほむらが転校してくる前の日の夢に、まるで予知夢のように彼女が出てきた。

強いて言えばそのぐらいのことだ。

もちろん、そんなこと情報として何の価値も無いだろうし、笑われそうだから言わない。

そうするとまどかは、とりあえずほむらに関して思うことを言ってみるしかなかった。

「あの……思い当たることは無いんですけど、その……
もっとみんなと仲良くして欲しいって思います」

「……」

「……」

まったく的外れな回答に、コロンもなびきも唖然とした。

「え、え? あの?」

「……プッ」

そして、慌てふためくまどかが面白くて、おもわずなびきは吹き出した。

「ま、まあ、そういうのは本人に言ってやるべきじゃろうな、うむ」

コロンも笑いをこらえている様子だ。

「そーそー、そういう馴染みにくい子ってさ、妙にプライドが高いから
本人が嫌がるぐらいに強引にこじ開けてやんないと心開かないわよ
優しくしすぎたら勘違いして付け上がるしねぇ」

なびきはそう言いながら、妹のあかねに付きまとう五寸釘という男子を思い出した。

あるいは、風林館に来た当初の良牙もそんなところがあっただろう。

あかねは言い寄ってきたりつっかかってくる人間以外にはかなり優しい。

そのせいで人付き合いの少ないタイプの男子によく勘違いされるのだ。

たぶん、このまどかという少女も優しすぎるタイプだ。

だからなびきは言った。

「もしその子にとってあんたがちょっとでも特別ならさ
『言うこと聞かないと絶交してやる』ってぐらいの勢いで言ってやれば良いのよ」

「でも、そんな……」

まどかは他人に対して一度たりともそんな態度に出た事は無い。

当然、そんなことを言う勇気も無かった。

「何にせよ、自分の思いをはっきりと伝えてやることが大事じゃぞ……見てみよ、あそこにいるムースを!」

394 : 24話8 ◆awWwWwwWGE... - 2012/05/02 01:50:22.45 XQfjLdnG0 176/394

そう言って、コロンは1人でせっせと働く長身の店員を指差した。

「あやつはずっとシャンプーに振られ続けてもまっすぐ思いを伝え続けておる
じゃが、シャンプーはムースを振ってはおるが今は嫌っておらん。だから今もこうして同じ店で働いておれるのじゃ
もし、あやつが何も言えずにおったら、今頃中国の山奥で寂しく1人シャンプーを思っておったじゃろう」

「え? そうなんですか!?」

告白をして振った相手と振られた人が同じ店で仲良く働いている。

その現象はまどかには理解し辛かった。

あのいつも勝気なさやかですら、関係を壊すのが怖くて恭介に告白できないというのに。

「もちろん、下手をすれば嫌われて、二度と会えなくなるかもしれん……
じゃがの、思いを伝えなければ永遠に前には進まんぞ
その勇気を出せるかどうかで人の人生は大きく変わってくる」

コロンのその言葉に、まどかは真剣になって自分の心に問いかけた。

今まで自分はどれほど他人に本当の思いを伝えてきただろうか。

「相手が心を閉ざしているならこじ開けろ、特に、若いうちはそれで許されることが多いんじゃから遠慮してはならん」

まどかは思う。

むかし、自分の心はさやかがこじ開けた。同じくさやかがこじ開けた仁美ともすぐ友達になれた。

そして、お菓子の魔女との戦いの前、ちょっと興奮してマミに思いを伝えたとき確かにマミは心を開いてくれた。

(ほむらちゃんにみんなと仲良くして欲しいなら、私が開かなくちゃダメなんだ)

まどかの心の中に小さな決意が生まれた。

「おー、おばあちゃんまるで学校の先生みたいね、ってかうちの学校の教師どもよりはマトモだわ」

なびきが感心したようにつぶやく。

まどかも内心、自分の担任の早乙女先生と比較してうなずいた。

「ホッホ、村では面倒な年頃の少女達に教えておったからのぉ」

若干照れているのかコロンはにやけていた。

~第24話 完~

記事をツイートする 記事をはてブする