―2012年/3月/21日/香川/ @ 最終週―――――――----
男「…っ!」
男「…。」
男「…っぷ! あははは!おいおい、何の冗談だよ、女!?」
女「…冗談じゃないわ。あなたはオリジナルの表の男じゃない。この1ヶ月、私が一緒に居たのは『裏々の世界の男』よ。」
男「……。」
女「まんまとこのまま騙されるところだったわ。もう少し気付くのが遅かったら『あと4年間』、あなたと過ごさなきゃいけないところだった…。」
女「…私が鏡の世界に初めて行く2週間前にあなたは既に入れ替わりを使ったと言ったわよね。そして、私はその2週間、オリジナルの男かどうかを見抜くことが出来なくて自分を恥じてた…でも、それは見抜けなくて当然だったのよね。だって…あなたたちはあの時は『まだ入れ替わってなかった』んだから。」
男「…。」
女「あと、裏々女と裏々男はお互いに表の世界に来ていた事を気付いていないという話をお姉さんを交えてしてたけど、あれも気付けなくて当然よね。というかその考えが根本から間違っていたのよ。だってあの時、男はまだ…『オリジナルの方』だったんだから。」
男「…。」
女「…私はこの1ヶ月間、あなたのことを『オリジナルの男』だと思い込まされていた。そして先週…本当のオリジナルの男を裏々の世界に追いやってしまい、それと引き換えに裏々の男…あなたを表の世界に連れてきてしまった。…でも、これも全てあなたの計画だったのよね。…だけど、あなたのその計画もここまでよ!裏々男!!」
男「……………おいおい、いつまで冗談を言ってるんだよ、女。」
女「…。」
男「何で俺が裏々男になるんだ? そもそも、何を根拠にそんなことを言っているんだよ?」
女「…ねぇ、あなた。…裏男が私に伝えたメッセージを覚えている?」
男「メッセージ? 何を突然に?」
女「質問に答えて。」
男「…ったく。 …ああ、『線路』がなんとかのやつの事だろ。それがどうした?」
女「あれにはどういう意味が込められているか分かる?」
男「…いや、分かんないな。『線路』が何に必要かなんて」
女「…そういう意味じゃなかったのよ。『線路』なんて必要じゃないの。」
男「…? どういうことだい?」
女「あの時、裏男は私に『線路がいるかもしれない』と言ったの。そう、つまり線路が『必要』なんじゃなくて線路が『居る』って意味だったの。」
男「…ますます分かんないな。『線路』が居るなんて日本語としておかしいと思うし。」
女「ええ、確かにそうね。でも、あの時、裏男はそのメッセージを伝える前に『裏の世界の俺からのメッセージだ』と言ったの。」
男「…裏の世界。」
女「ねえ、裏の世界…というか偶数世界の特徴って何だと思う?」
男「偶数世界の特徴? …そうだなぁ…『反転』や『逆』とかか?」
女「その通り。偶数世界は私達にとって『逆』の特徴を持った世界。 つまり、裏男はこの『線路』をその『逆』の特徴を利用して、本当の意味を読み取ってもらおうとしたの。」
男「…本当の意味?」
女「ねえ、『線路』を英語に訳したらどうなると思う?」
男「……英語?」
女「『線路』って和英辞書で調べたら(>>)、 “track” だとか “line” って訳せるんだけど、実は他にもいくつか訳し方があって “rail”とも訳すことが出来るの。」
男「……っ!?」
女「気付いた? そう、”rail”のアルファベットを『逆』から読むと “liar”。 」
女「そして “liar” の日本語訳は…」
女「………『嘘つき』。」
男「…。」
女「つまり裏男は私に『線路が必要』ってことではなく、『嘘つきがいるかもしれない』ということを伝えたかったの。」
男「…。」
女「ただ、私もこれの意味に初めて気付いたときには、『嘘つきが身近にいる』っていうことが全然ピンと来なくて戸惑ったわ。」(>>398)
女「でも、よくよく考えてみたら、『裏男からメッセージを貰ったあの時点』までで、鏡の世界に私が来てから、私の周りで嘘つきの可能性があるのは…唯一会話をこなせていた男、あなた以外考えられないのよ。」
男「…なるほどね。で、女は俺が裏々の世界の男なのに、オリジナルの男だと偽っていたのではないかと考えた…ってわけか。」
女「ええ。そう考えるとあなたの今までの言動でいくつか不自然だった事がいくつか浮かんできたわ。」
男「…。」
女「男、あなた、私が裏の世界に行った時にあなたは裏男のために自分は『特権』を使わなかったと言ってたわよね。」(>>223)
男「…ああ。」
女「でも、それは裏男のためとかじゃなくて、本当は私を『追ってこれなかっただけ』なんじゃないの?」
男「…!?」
女「何故なら…あなたはオリジナルの『特権』を持っていなかったんだから。」
男「…。」
女「あの時もおかしいと思ったのよ。『何で男は私の事を追って裏の世界にまで来てくれないの?』って。いくら鏡の世界のもう一人の自分が裏々の世界に押し込まれるとしても、自分の彼女を放っておいて自分はそのまま裏々の世界にいるなんて…男らしくない。」
男「…。」
女「まあ、でもそれはあなたがオリジナルの男ではなく、裏々男だから出来なかっただけだったみたいだけど。」
男「…ちょっと待ってくれ、女。今の話を聞いている限り、どうにも府に落ちない点があるんだが聞いていいか?」
女「…いいわよ。」
男「女の言う通り、仮にも俺が『裏々男』だったとしよう。…でも、女が裏の世界にいる時点で裏男が、俺がオリジナルじゃないと分かってたのなら何でお前にそのことを言わなかったんだよ?」
女「それは裏女ちゃんを取り戻すためだったと思う。」
男「裏女?」
女「だって、もしも私が裏の世界に居る時点で、裏男に『実は今、裏々の世界にいるのはオリジナルの男ではなくて裏々の男』だよ言われたら、私はどんな行動を起こすと思う?」
男「…!」
女「おそらく私なら躊躇なくもう一度特権を使って表の世界に戻ろうとするわ。オリジナルだと思っていた男が実は裏々男だと知ることによって、鏡の世界の住人に対しての不信感が一気に高まるだろうからね。」
男「…。」
女「あの時の裏男はどうにかして裏女ちゃんを自分のもとに取り戻したい一心だったと思う。…でも、それと同時に裏々の世界に居る男がオリジナルではないかもしれないということを私に言うか言わないか相当迷っていたはず。ただ、そんな時に私から新しい情報が舞い込んできた。それが…『魔法鏡による入れ替わり』についてよ。」
男「…。」
女「魔法鏡によって私が裏々の世界に行けるかもしれないと分かり、裏男は相当安堵したはず。裏女ちゃんが自分の元に戻ってくるかもしれないと分かったんだからね。でも、このまま裏々の世界にいる男がオリジナルではないと告げないまま私を見送るのにも躊躇した。裏男、最後の方は私にかなり情を移してくれてたしね。」(>>195)
女「でも、私が裏々の世界に戻る前にそのことを告げてしまったら、私が裏々の世界ではなく『特権』によって表の世界に行ってしまうかもしれないと考え、そして悩んだあげく彼は…その情報を『変換』して私に託すことにした。21日までに私が気付いてくれることを願って…それが私が裏男から受け取ったメッセージだったのよ。」
女「この裏男がとった手段は正しかったと思う。おかげで、裏女ちゃんを裏々の世界に押し込めることも防げたし、メッセージを難しくしすぎなかったおかげで私もなんとか『ぎりぎり』、今日、この『21日』までに気付く事ができたんだから。」
女(…まあ、気付けたのはほとんどお姉さんのおかげだったんだけど…)
男「…なるほどね。確かに話の筋は通ってる。…でも、女は俺が『特権』を使わなかったことだけで、裏男が俺をオリジナルではないと疑っていたって断言出来るのか?」
女「…そうね。確かにあなたの言う通りよ。…でもね、私が裏男と会ってから間もなく一度だけ、裏男の様子がおかしかったときがあったのよ。」
男「…裏男の様子?」
女「…それは私が『今、裏々の世界にはオリジナルの男がいる』と伝えた時よ。」
男「…!?」
女「あの時の裏男は驚いていたわ。…まるで、『あの時初めてそのことを知った』ような様子だったわ。そして、その後、彼はこう言ってたの。」
女「…『…そういえば、旧校舎で合わせ鏡をしたな。やっぱりあれで入れ替わっていたのか。』ってね。」(>>155)
男「…それのどこがおかしいんだ? むしろ、はっきりと合わせ鏡をして入れ替わったって事を言ってるじゃないか?」
女「私も『その時』は裏男のその言葉を聞いても何も思わなかったわ。でも、ついさっきピンと来たの。」
男「…『ピンと来た』って一体何が?」
女「…ねえ、入れ替わりにはどんな条件が必要だったっけ?」
男「…条件? また急に何を…」
女「いいから一つずつ言っていってみてよ。あなたならすぐ答えられるでしょ?」
男「…入れ替わりを起こすためには、『場所』と『閏年』、『意志』が必要だ。」
女「…ふ~ん」
男「…これがどうしたって言うんだ?」
女「…ねえ、『それだけ?』」
男「…!? …それ…だけ?」
女「入れ替わりに必要な条件って本当にそれだけ?」
男「…何が言いたいんだ、女。」
女「他にも必要な条件があるとしたらどうする?」
男「…! …他にもあるっていうのか!?」
女「ええ、あるわよ。」
男「…何なんだよそれは?」
女「それは…『特殊な鏡が『2枚目』に位置し、その2枚目に位置する特殊な鏡に映った自分と『目を合わせる』こと。…それが合わせ鏡による入れ替わりに必要なもう一つの条件よ。』
男「……目を…合わせる…。」
女「特殊な鏡ってのはこの旧校舎の鏡みたいなやつのことね。その特殊な鏡が『2枚目』になるように位置どるためにはどうすればいいと思う? …それはこの『特殊な鏡に背を向ける』ことよ。」
男「…!」
女「特殊な鏡に背を向け、そして自分の目の前にもう一つの鏡をかざす。そして目の前の鏡(1枚目)を経由して特殊な鏡(2枚目)に映った自分の像と目を合わす。そうすれば入れ替わりを起こせるのよ。」
女「あと、私、今まで入れ替わりを4回経験してるけど、それらを全部思い出してみるといつも鏡の自分の像、つまり入れ替わる相手と目が合ってたのよ。つまり、『特権』や『魔法鏡』での入れ替わりのときでも目を会わせることは必要不可欠だったのよ。」
女「私は先週、こっちに戻ってきてからそれらについて気付けたの。まあ、私が一番最初に入れ替わった2月15日の時は偶然にもそのシチュエーションが整っていて、2回目である先週の3月14日の時はお姉さんが『そのこと』を知っていたおかげもあって成功したわ。でも、私があなたを入れ替わせた時は、それまでのお姉さんとの会話や経験から『そのルール』に気付く事ができた。」(>>369)
女「…だから、あなたも『こっち』に来れたのよ。わざわざ、あなたの手を無理矢理引っ張ったり、抱きついたのもあなたに立ち位置を調整させるのはもちろんのこと、『あの鏡』に背を向けさせるための行動だったの。」(>>369)
男「…。」
女(…そう。1回目は私が後ろ髪を見ようとするためにあの鏡に背をたまたま向けたおかげで入れ替わりが偶然にも起きてしまった(>>26)。そして、2回目はお姉さんがあの釣り竿もどきの背面に取り付けた携帯から声を出す事によって、裏々女が後ろを振り向いたことによってその条件が整った(>>339)。)
女(…あの時、お姉さんが後ろを向かせた理由を言えないと言ったのは、それを言えば入れ替わりの条件、つまり鏡の世界の秘密について教えてしまう事になるから言えなかったということ。あと、お姉さんがあの時、あらかじめ仕掛けておいた入れ替わりのトラップでは入れ替わりが起きないと言っていたのは、あのトラップでは『目線を合わせる』のはかなり厳しかったから。)
男「…。」
女「…でも、おかしいわよね。私よりも鏡の世界に熟知してるはずのあなたがこのことを知らないまま、入れ替わりが出来たなんて…」
男「…っ! …そ、それは…」
女「あなたはあの時、私があなたをあの鏡に背を向けた状態したことについて何も言って来なかったわ。つまり、あの時の時点でもあなたはそのルール似ついて知らなかったという事。」
女「それでね、裏男との会話からピンと来た話に戻るんだけど。」(>>425)
女「オリジナルの男は確かに合わせ鏡ををしたんだと思う。でもそれは…」
女「…失敗に終わった。 …違う?」
男「…っ。」
女「あの時、裏男は確かに『合わせ鏡をしていた』とは言ってたけど、『入れ替わりが起きていた』とは断言してなかった。」(>>155)
男「…。」
女「でもおかしいわよね、裏男だって鏡の世界の住人なんだから、鏡に映る事によって主の記憶が共有されるはずでしょ?なのに裏男が勘付けないっていうのはやっぱりおかしい。」
女「私はオリジナルだから『知識や経験の共有』っていうのを体験した事はないけど、もしもあの時本当に裏々男が表の世界に行けてたのなら、『やった!とうとう表の世界にやって来れたんだ!』っていうふうに考えるはず。そして、そういうふうに考えたことも反射物に映ればそれも『経験』として共有されるはずでしょ?実際に私と裏々女が入れ替わったときは裏女ちゃんはすぐに入れ替わった事に気付いたみたいだったし。」
男「…」
女「だから、裏男は驚いたのよ。私から男が入れ替わったって聞いて。『主』の心境になんら変化が無くて入れ替わった事に気付けなかったから。」
女「裏男が『主』が入れ替わった事に気付いていなかったこと、そしてあなた自身が入れ替わりに必要なもう2つの条件を知らなかったこと。以上の事から、オリジナルの男は入れ替わりを失敗していたと考えられる。」
女「…そして、それはつまり、あなたが『裏々男』だとも言えるということよ!」
男「…っ!」
男「…………たまたまだ…。」ボソッ
女「…たまたま?」
男「そうだ!実は俺が初めて入れ替わりを起こしたあの日、この旧校舎の鏡にたまたま背を向けて入れ替わりを起こしたんだった!いや~忘れてたよそのこと!」
女「…。」
男「『知識と経験の共有』についてもあの時『主』だった裏々男が頭の中で『そういったこと』を全く考えていなかっただけだって!」
女「…。」
男「それに、今女が話してきた内容全てに俺が裏々男だという確固たる『証拠』が無い。あくまでお前の考えは『推論』に過ぎない。…違うか?」
女「…ええ。確かに今まで言ってきた事には『証拠』は含まれていないかもしれない。」
男「そうだろ? だからもうこれ以j…女「でも!!」
男「…?」
女「…『証拠』ならちゃーんとあるわよ!!」
男「…!?」
女「…あの日の…」
男「…あの日?」
女「…私たちの初デートの前日。私は表の世界でお母さんとリビングでデートのことで盛り上がり、そして水族館に行く事を勧められたの。」(>>14)
男「…それがどうしたっていうんだ?」
女「…でも、その時『裏々の世界』の裏々の私とお母さんは水族館の話はしなかったらしいの。」(>>275)
男「…!?」
女「先週の放課後に裏々のお母さんが以前から自我を持っているって話はしたでしょ?…そしてもちろん、裏々の女も自我を持っていて、その二人が鏡の無いところで会話をしたらどうなるかは想像出来るわよね?」
男「…」
女「たとえ、性格が同じだとしても、ちょっとしたズレから会話は最終的に大きなズレへと発展するわ。当然、その時の二人の会話も表の世界での私とお母さんの会話とは全く違ったものになってたらしいの。」
女「そして、その後、私はすぐに男に電話した。(>>16) その電話をするまでの間、私は反射物に一度も映らなかった。もちろん私の部屋のカーテンも閉められていたわ。」
女「そう、『裏々女』はその時点では反射物に映ってないんだから、私との『知識と経験の共有』は成されていない。つまり、翌日のデートの行き先が水族館に変更された事を知り得ていなかった。そんな状態のまま裏々女はあなたと電話をした。」
女「裏々女がデートの行き先が水族館に変更されたと知ったのはその電話が終わった直後に、お母さんが私の部屋にわざわざ水族館までのアクセスについての紙を持ってきてくれた時。その時、初めて裏々女はデートの行き先が水族館に変更になったのではないかと気付いた。」
女「そして、翌日私は入れ替わりを起こしてしまい、そして裏々の世界にやってきて、そしてあなたと出会った。」
女「…でもね、あなたはあの時、確かにこう言ったの。『表の世界のおまえが行きたがっていた水族館に今から行くっていうのに』(>>33)ってね。」
男「…っ!?」
女「確かあの夜、『私が電話で話していた男』は確かに『自室にいる』ってことを言っていた。(>>16) あと、男の部屋には反射物は無いってことをあなた自身が言ってたわ。(>>122) 更に『鏡の世界』でも電話は、反射物が無い場所でなら鏡の世界の住人同士で出来ることは周知の事実よね。」
男「…。」
女「もう私が言わんとすることは分かったわよね? そう、もしもあなたが『オリジナルの男』だったのなら『知っているはずがない』のよ!!デートの行き先が水族館に変更になったことを!!」
男「…。」
女「どうしてあなたがあの時点で水族館に変更になったことを知っていたのか。何故ならそれは、あなたが『裏々の世界』の住人であり、鏡の世界の住人が持っている『反射物に映るごとに『主』の知識や経験の共有出来る』という特性によって知る事が出来たからよ!」
女「もしも、あなたがオリジナルだったのなら、あなたがあの2月14日に電話した相手は『裏々女』でその電話越しでは水族館に変更になったということを聞けているはずがない。更に電話が終わった後もオリジナルには『知識と経験の共有』の特性は持ち得ていないから当然私と出会うまでは水族館について知ることも出来るはずがない。」
女「そして、確かあの電話のときに男に『水族館について私が調べるから男は調べなくていいよ』と私が言っておいたし、わざわざ男が水族館について自分で調べたとは考えられないわ。」
男「…。」
女「これがあなたがオリジナルではなく『裏々男』だということを証明する何よりもの『証拠』よ!!!!」
男「…。」
女「…全ての答えは『最初』にあったのよ。あの日、あの時、私とあなたが鏡の世界で出会ったあの瞬間にね。」
男「…………………ふぅ…。」
男「…しくじったなぁ。…まぁ、あの時は俺もまだ『君』のことを、まだ裏々女だとおもっていたからなぁ。」
女「…!」
女「…じゃあ、認めるのね。」
男「ああ、もうここまできたら反論しても意味が無いと思うからね。」
男「…君の言う通り俺は…」
男「…『裏々男』だ。」
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男「見事。君がさっき述べていたことは全て『正解』だ。まさか、『君』がこんなに頭が切れる奴だったとは。…いや、頭が切れるように『なった』と言った方が正しいか。」
女「…ねえ…何で?」
男「…『何で?』って?」
女「何でこんなことを…?」
男「…? 『何で』ってそれはもちろん全てはこの表の世界に行きたかったからの行動に決まってるだろ? 自分がオリジナルの男と嘘をついたのも俺自身が表の世界に行くために最も都合が良いと考えたからだ。なんせあの時の『君』は『鏡の世界』の右も左も分からない状態だったからな。出来るだけ、辻褄が合わなくなるようなことさえ言わなければ、『君』を信じ込ませることなんて簡単だと思ったんだ。」
女「…。」
男「まぁ、本当はあの日、俺のオリジナルが『2月2日』に入れ替わりを起こしてくれるはずだったんだが、『君』の言ってた通り、それは失敗に終わった。失敗した理由も『君』がさっき言ってくれた入れ替わりの条件が足りなかったからみたいだ。その時は何故失敗したのかが分からなくてイライラしたもんだよ。」
女「…いつから嘘を…演技をしようと考えたの?」
男「それは、『君』がオリジナルだと知ったあの時からだよ。俺たちは入れ替わり出来なかったのに、何も知らないはずの『君』たちは入れ替わりを成功させていた。それで、俺は、『この子からうまく情報を引き出しつつ、自分をオリジナルだと偽ることによって、もしかしたら表の世界に行けるかもしれない』と思ったんだ。」
女「…。」
男「でも、『君』が僕の忠告を聞かないまま、裏の世界に言ってしまったときはさすがに焦ったよ。」
男「もちろん初めから『君』を裏の世界に行かせるつもりなんて微塵たりとも無かった。でも、『特権』のことを教えておかないと、もしかしたら君自身がふと反射物に映ったときに念じたりして、もしかしたら偶然にも裏の世界のに行ってしまったりするかもしれない。それを防ぐためにも、裏の世界へ行くことの『危険性』をプラスで教えることによって『君』に『特権』を使わせないつもりだったんだ。」
男「でも、『君』はその『危険性』を教える前に行ってしまった。俺が演技してたのも無駄に終わったとさえも思ったよ。…でも、『君』は…戻ってきた。」
女「…。」
男「そして、その後に俺は姉さんに協力を仰ぐ事を『君』に提案したわけだが、あれはもともと決まっていたことだったんだ。俺一人が裏々の姉さんに頼んでも自力でなんとかしろとお払い箱にされるのが目に見えていた。ましてや、裏々の姉さんに俺がオリジナルだという嘘を貫き通せる自信が無かった。『あの人たち』は本当の天才だからな。だが、『君』とセットならどうだろうか、『あの人たち』もおそらく『君』には情けをかけるはず。何故なら『君』は女兄さんの妹だからな。」
男「直接ではないにしろ、自身の知り合いの妹をこんな事態に巻き込んでしまったんだから絶対に手助けをしてくれると思っていた。そして、そんな『君』が俺のことをオリジナルだと信じてくれている状況を裏々の姉さんに見せればもしかしたら…と思ってね。」
男「そしたら、『姉さん達』は俺たちに手を差し伸べてくれたじゃないか。いや~、それまで上手くいきすぎて正直自分がこわくなったくらいだよ。」
男「更にあの時、『鏡の世界に関わるな』って条件を出されたけど、それはむしろありがたかった。もし、表の世界に行った後に『君』に色々調べて俺の正体を突き止められたら一巻の終わりだからな。それに表の世界に行ければ鏡の世界になんてもう関わろうとは思わなかったし。」
男「そして俺は無事、『こっち』にやって来れた。全ては俺の想い通りに事を運べてきた。」
男「…でも、それもここまでのようだ。…まさか、『君』に今日、この21日に見破られることになるとは思ってもいなかったよ。」
女「…。」
男「…さあ、それじゃあ、一通り話が終わったところで…やりますか?」
女「…『やりますか?』って何を?」
男「『何を』って入れ替わりに決まってるじゃないか。そのためにここに『君』は俺をつれてきたんだろう。な~に、往生際の悪いようなことなんてしないし、とっとと終わらせようぜ。」
女「…ええ。」
女「…でも、その前に聞かせてくれないかしら?」
男「…ん? 何だ?」
女「…ねぇ、何で…」
女「…何で反論しなかったの?」
男「…反論? 何の?」
女「水族館のくだりことよ。私はあれが『証拠』だと言い張ったわけだけど、実はあれにも『穴』がたくさんあったわ。」
男「…。」
女「例えば、反射物の前でたまたま家族の誰かに『今日は女と水族館に行ってくる』ってシーンにたまたま遭遇したとか、実は水族館のことを携帯で調べていたとか、日記をつけていたとか。他にも言い逃れ方はいくつもあったはず。」
男「…はは、まあそうだな。そう言えばよかったかもな。」
女「…ねえ、裏々男。あなた、私が昼に電話をした時にはひょっとしたらもう気付いていたんじゃないの?」
男「…何を?」
女「私があなたを疑っているってことをよ。」
男「…。」
女「…あなたさっきから私が聞いてないことまでべらべらと喋ってくれたじゃない? それは端から見たら正体を見破られて自暴自棄になっているようにも捉えられるかもしれない。」
女「…でも、私はそんな風には思えなくて…まるでそれは『はじめから全てを話すつもりのような口ぶり』だったというか…」
男「…ははっ。そんなわけないさ。『君』の言う通り俺はさっき自暴自棄になってただけだ。」
女「…じゃあ、何で!? 何で今日旧校舎に来たのよ!?」
男「…!?」
女「あなたは表の世界でこれからもずっと生きていきたかったんでしょ!? でも、旧校舎に来るということはもしかしたら裏々の世界に戻るかもしれないというリスクも背負っている。更にお姉さんとの約束を破れば、お姉さんから何かしらのペナルティがあるかもしれない。」
男「…。」
女「しかも私は電話で『鏡の世界の秘密が分かった』と言ったけど、分かったところで何もあなたにメリットなんて無いでしょ?だってあなたさっき『表の世界に行ければ鏡の世界になんてもう関わろうとは思わなかったし』って言ってたじゃない!」
男「…。」
女「あなたにとって今日、旧校舎に来るという行為はリスクしかないはずなのに…それなのに、今日あなたはここに来た…。」
男「…。」
女「…裏々男。…あなたもしかして…」
男「…はは。俺の事を買いかぶりだよ『君』は。俺は今日ただ単に鏡の世界の秘密がやっぱり知りたくなって来ただけで、さっきの暴露も自暴自棄になっていただけだよ。」
女「…でm男「でも…」
女「…!?」
男「…でも、ハッキリしていることは、ここ最近、俺の心の中でとてつもない『罪悪感』が渦巻いているってこと、そして『裏々女』に会いたいってことだな。」
女「…!? …裏々男。」
男「…さあ、そろそろ始めようか! 『君』、手鏡持ってるんだろ? 貸してくれ。」
女「…! …う、うん。確か鞄の中に…」ガサゴソ
女「…あった。…はい。」
男「おう、サンキュー。」
女「…ねえ、最後に聞いてもいい?」
男「何?」
女「あなた、私が裏々の世界に行った初日に私のことを好きって言ってくれたじゃない?あれは…嘘だったの?」(>>91)
男「…ああ、うそだな。」
女「…じゃあ、オリジナルの男も…私の事…」
男「…!? …『君』、それは違うぜ。」
女「…え?」
男「…ごめんな、俺が好きなのは『裏々女』なんだ。…これが答えになっているはずだ。」
女「…!?」
男「それとコレだけは言っておかないといけない。…俺は今回多くの嘘をついてしまった。でも、それはあくまで自分自身が持っていた表の世界に行きたいという『憧れ』の気持ちに従ったまでの行動だった。」
女「…『憧れ』」
男「だから、オリジナルの俺は『君』にそんな深刻な嘘なんてこれまでついたりしていない。まあ、冗談での嘘はよくつくけどな。だから、俺とオリジナルの男はお互い奇数世界の人間だけど、二人とも『別人』なんだ。それを分かっておいて欲しい。」
女「…! …うん、それすごく分かるよ。私と裏々女だって『別人』だもん」
男「……そうだな。 はぁ…てか、裏々女やつカンカンだろうなぁ…」
女「…! …ふふ、でしょうね。今も鏡の向こう側で私達の会話を聞いていることだし。」
男「…だよねぁ。それじゃあもう行くよ。とっとと行かないとヤバいかもしれないし。…女もオリジナルの男と仲良くやれよ。」
女「…うん。裏々女によろしくね。」
男「ああ。…この1ヶ月間…本当に申し訳なかった。」
女「…うん。」
男「それと『君』のファーストキスを奪った事も…」
女「…! …ったく、ほんとそれよ。」
男「…じゃあな。」
フッ
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―――――――――――――――――――――――----
男「………ん? 戻って来れたのか俺…。」
女「男…?」
男「…! ああ、久しぶりだな女。」
女「……本当に男?」
男「…ん?何だよ信じられないのかよ?」
女「…一応、念のために確認しとかないと…」
男「…確認っつってもなぁ、俺が『オリジナル』だと証明できるものなんて…あ、そうだ。」
女「…?」
男「…12時起床。」
女「…はい?」
男「そしてお母さんと口論をした後に俺の姉さんから電話が来た。」
女「…!? …それって!?」
男「更に部活に行く途中にお兄さんと出会ってまたまた口論したあげくに3回腹パンを喰らわす。」
女「…も、もぉ~!!わ、分かったからそれ以上言わないで!!!」
男「あはは、さっき旧校舎前からこの踊り場に来るまでに裏々女に教えて貰ったんだ。今日のお前のここまでの行動についてな。『おそらく証明するときに役立つだろう』って。でも、お兄さんに3回も腹パン喰らわすなんてお前ひでぇな。」
女「…さ、3回じゃないわよ!2回よ2回!!」
男「え? そうなの?」
女「…ったく、裏々女のやつ、水増しして教えてくれちゃって…でも、確かにその情報は私は裏々男には教えていないし、オリジナルの男なら、ここに来るまでの反射物に映っていない時間を使えば、今日私の行動をずっと見ていてた裏々女から教えて貰えるわね。」
男「そういうこと。」
女「それじゃあ…やっぱり今目の前にいるのは…」
男「ああ。久しぶりだな女。」
女「男…。」
男「1ヶ月振りか?…いや一応先週表の世界で会ってるか?」
女「…!? …ええ、そうね。…あの時は本当にごめんなさい。」
男「いや、気にしないでくれ。俺の方が色々と謝らないといけないことがあるからな。…よし、それじゃあ、状況を整理するためにもお互いのこれまでの出来事を話そうか。」
女「…! そうね。」
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―――――――――――――――――――――――----
男「…成る程。やはり、裏々女が言っていた通り…すごいことになっていたんだな。」
女「裏々女から…?」
男「ああ、彼女には本当に世話になったよ。」
女「…?」
男「俺が先週、裏々の世界に言った時、本当にパニックになっていたんだけど、そんな時に裏々女が助けてくれたんだ。」
女「…!?」
男「ただ、そのちょっと前から裏々女もかなりパニックになっていたらしい。だってオリジナルの自分が今から『オリジナルの男』を取り戻すとか言ってるんだから。」
女「…! そっか、裏々女はあの時は表の世界にいる男がオリジナルだと思ってたから…というかそれが正しかったんだけど…。」
男「そういうこと。でもその後、俺との待ち合わせ場所に向かう途中に一瞬窓ガラスに映った事によって裏々女はその時の事態を理解したらしい。更に、お前が再び『主』に戻った事によってお前が裏々の世界や裏の世界で経験してきた事が全て裏々女にも共有され、オリジナルの女が今からやろうとしていることも分かったらしい。」
女「…なるほど。」
男「でも、その後裏々女は裏々の世界に来た俺を見て異変に気付いたんだ。『何かおかしい』と。まあ、裏々の世界に戻ってきた裏々男だと思ってたやつがまさかのオリジナルだったんだから。」
女「…。」
男「そしてお前達が旧校舎から教室に向かってる時に俺たちはお互いに色々話して、俺自身も状況をつかむ事が出来た。そして裏々女もいくつか俺に確認することによって俺をオリジナルだと分かってくれたんだ。そしてあの日の放課後にお前に起きていた出来事などを全て裏々女に教えてもらって、やっと自分が今どういう状況にいるのかってことを理解出来たんだ」
女「…そうだったんだ。でも、本当に危なかったね。こう言っちゃ悪いけど、あと1日遅ければ、裏々男のせいで…」
男「…!? それは…」
女「…あ、ごめんなさい…。」
男「…なあ、女。」
女「…? …何?」
男「ちょっと上に行かないか?」
女「…上って?」
男「音楽室だよ。」ニコッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ギィ ギィ
女「…でも、男。音楽室なんかになんの用事が…?」ギィ ギィ
男「渡したいものがあるんだ。」ギィ ギィ
女「…渡したいもの?」ギィ ギィ
男「よし、音楽室前に着いたぜ。」
女「…ねえ、男。渡したいものっていったい…」
男「…はい、女。」ヒョイ
女「…!? …男、これって…」
男「…ああ。本当は俺がお前に『1週間前』に渡すはずだったあのネックレスだ。」(>>377)
女「…!? …でも、何で男が今日これを持ってきているの!?だってついさっきまで『こっち』にいたのは…」
男「…分かってたんだよ、あいつ。」
女「…え?」
男「女が言っていた通り、昼の電話の時点であいつ、もう分かってたんだよ。女にはもう正体がバレているってことに。」
女「…!? …やっぱり…。」
男「…ああ。だから、あいつはコレを持ってきてくれたんだ。旧校舎は明日から取り壊し工事が始まるからな。(>>392) まるで『あれ(>>300)を実現するには今日しかないぜ』ってことを俺に訴えてるように感じたんだ。」
女「…。」
男「それだけじゃない。あいつ、家を出る前に鏡越しに『すまなかった』って言ってきたんだ。それは果たして裏男に宛てたメッセージなのか俺に宛てたメッセージなのか、はたまた他の鏡の世界のやつに宛てたメッセージなのかということは定かではないが…」
女「…そう…。」
男「…確かにあいつは今回沢山の嘘を付いた。…でも、そもそもの発端は俺が鏡の世界について知ってしまい、そしてあいつらに自我を持たせてしまったことからなんだ」
女「…!? …男。」
男「…しかもそういった裏々男が嘘を付きやすい性格になったのも、俺が隠し事をよくしていることに起因があったんだ。」
女「…。」
男「…だから、全ては俺のせいなんだ。…本当に…本当にゴメン!!」
女「…男。」
女「…男、顔をあげて。…確かに今回の騒動は男にも色々と悪かった点はあると思う。でも、あなたのおかげで私は裏々男や裏々女、そして裏男たちとも出会えることが出来た。」
男「…っ。」
女「…男はさっき『自我を持たせてしまった』って言ってたわよね。1ヶ月前、裏々男も『自我を持つ事は不自由になるだけだ』(>>78)とも言っていた。…でも、それってやっぱり違うと思う。」
男「…女。」
女「私はやっぱり、皆それぞれ一人一人にしかない人生を歩んでいって欲しい。こんなことを言ったら『そんな身勝手な事、表の世界にいるお前だからこそ言えるんだろ』って思われるかもしれないけど…それでも、皆には、皆の、皆にしかない人生を…!」
男「…。」
女「男はそんな皆が新しい人生のスタートのきっかけを作ってくれたの。そう考えれば、男がしたことも決して悪い事ではなかったんじゃないかな!?」
男「…女。 …はは、ほんとお前ってポジティブだよな。」
女「ふふ!私からポジティブ取ったらとんでもない人間になっちゃうわよ!」
男「はは、確かに。…でも、ほんとありがとうな。お前のおかげでちょっと救われた気がするよ。」
女「どういたしまして。」ニコッ
男「…でもケジメはつけないとな。」ボソッ
女「…え? 今何て?」
男「…女。」
男「俺と別れてくれ。」
女「…!? …ど、どうして!?」
男「…女は今、俺の事を100%信頼出来るか?」
女「…!? …そ、それは…。」
男「信頼出来ていなくて当然だ。だって、俺はあまりにも自分の事を言わなすぎていた。特に鏡の世界のことについて。」
女「…。」
男「男女が付き合っていく上で信頼関係を築くということはとても重要な要素だ。言い換えるとその信頼関係を築く事を疎かにしてしまったら付き合っていく事はより難しくということ。」
女「…。」
男「今回のことで女の俺に対する信頼度は全く無くなったとは思えないがかなり下がったはずだ。だから1度別れて欲しい。」
女「…1度?」
男「ああ。それでもやっぱり俺がお前を好きという気持ちに揺るぎは無い。だから見ていて欲しいんだ。コレからの俺を。」
女「…これからの…男。」
男「うん。そして、もしまた女が俺とまた付き合ってあげても良いと思えるようになったその時は、そのネックレスをつけて欲しい。」
女「…男。」
男「すごくあつかましいことを言ってると思われるかもしれない。でも…」
男「…それでも俺は…」
女「…男。」
女「…うん!分かった。…私、ちゃんと見てるから!」
男「…! …女、ありがとう。」
女「でも、とっとと早く私にネックレス着けさせてよね!? 他の男の子に目がいかないうちにね?」ニヤニヤッ
男「はは、分かってるよ。」
女「でも、何はともあれ…これからはお互いに隠し事は無しだよ!男!」
男「…! …ああ!そうだな!」
女「ふふ。」
男「…さてと、それじゃあそろそろ帰るか。」
女「そうだね。…って、うわぁ…もう3時じゃん!今日、部活なのに遅刻するってこと連絡するの忘れてた!部活に早く行かないと!」タッ
男「あ、女!」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「やばい!やばい!」タッタッタ
男「おい女!階段を走って降りたら危ないぞ!まだそこらへんに姉さんがバラまいたモノが散乱してるんだし!」タッタッタ
女「大丈夫よ!よっよっよっと!」シュタッ
女「ね?見てた?上手いもんでしょ?」ニコッ
男「…ったく。でも、その踊り場より下はもっと散乱してるんだから普通に歩いていけって。」
女「も~、大丈夫よ大丈b…!?」ガタッ
トトトッ
ガンッ!!
男「…!? だ、大丈夫か女!?」タッタッタ
女「いった~…平気平気。ちょっと鏡にぶつかっt…………?」
男「…? どうした女? 頭でもぶつけたのか…?」
女「…。」コンコンッ
男「…? 何してんだよ女? 鏡なんか叩いて…?」
女「…。」スタスタッ
ゴンゴンッ
男(…? 今度は壁?)
スタスタッ
ゴンゴンッ
スタスタッ
ゴンゴンッ
男「…お、おい女? さっきから壁を叩いては移動してってことを繰り返してるけど一体どうしたんだよ?」
女「…。」スタスタッ
…コンコンッ
女「…!? …やっぱり…。」
男「おい女! いったい何しt…女「…ス。」
男「…!? …何て?」
女「イス!!今すぐイスを持ってきて!!」
男「…? …イスなんか何に使うんd…女「いいから早く!!」
男「…!? わ、分かったよ。」
タッタッタ
女(………まさか)
女(…………まさかっ!?)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「はいよ。近くの教室に残ってたイスを見つけて持ってきたぜ。」ヒョイ
女「…ありがと。」パシッ
男「でもイスなんかここで一体何に…」
女「…。」グイッ
男「…使うんd…っておい女お前まさk…!?」
ガッシャアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
男「~~~~っ!? …って女!!!!」
男「お前!! 一体…何……し………て…………」
男「…………………ッ!?」
男「………………何で…」
男「………………何で鏡が…」
男「………………何で鏡が『あった』ところに…」
男「………………『入り口』があるんだよ…」
女「…さっき」
男「…!?」
女「さっき私が鏡にぶつかったとき、その衝撃が明らかに『軽かった』の。」
男「…軽かった?」
女「…ええ。『まるで裏には何もないんじゃないか』ってぐらいにね。…それでもしかしたら…この鏡の裏には壁はないんじゃないかと思って。」
男「…!? じゃ、じゃあ、さっき周りの壁を叩いてたのは?」
女「ええ。鏡の裏にも壁があるのなら叩いたときの衝撃は重いはずだと思って、周りの壁の叩いてみてその衝撃を確認していたの。で、最後にもう一度この鏡を叩いてみたらやっぱり明らかに軽くて…だからこの鏡の裏には『空間』みたいなものがあるのでは…っておもってね。」
男「…そういうことだったのか。」
―【~回想~(>>195)】―――――――――――――----
裏男「その『強さ』を上手く使いこなすんだ。そして、常に先を見通して行動することを忘れるな。そうすれば『見えないモノ』も見えてくるはずだ。」
----―――――――――――――――――――――――
女(…強さを使いこなせば見えないモノも見えてくる…か。まさに裏男が言っていた通りだったわね。)
男「…女、どうかしたか?」
女「…ううん。…それじゃあ入るわよ。」
男「…? 入るってどこに…?」
女「決まってるじゃない。この『入り口』の中によ。」スタスタッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「何なんだこの部屋は…」
女「…。」
男「天井が低いな…1.8メートルくらいか? 奥行きもあまりないな。広さはだいたい3畳ってぐらいか」
女「それに…電気…というか明かりを照らすものもない…」
男「…!? 確かに…でも、何なんだよこの部屋は…何かモノが置いているってわけでもないし…」
女「男、一回ここから出て私は3階に行くから男は2階に行って、この部屋がどの位置にあるか確認しましょう」
男「…! 分かった。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「どうだった?」
男「ちょうどこの部屋の下、というか斜め下かな?とにかくこの下は2階の化学準備室の物置になっていたんだけど、そこに不自然なスペースがあった。腰から下のあたりまでは、実験器具の収納スペースっぽい感じになってたんだけど、それよりも上がこの部屋の下半分?になっているみたいだ。」
女「3階の音楽室も同じような感じだったわ。ちょうどこの部屋の上あたりが準備室になってて、腰より下から不自然なスペースがあった。おそらくそれがここの上半分になっているのね。」
男「…つまり、ここは2階と3階のちょうど間にあるということか…」
女「…みたいね。」
男「…でも、この部屋は一体何のたm…」
?「こら!!!君たち!!!」
女「…っ!?」
男「やばい!! 誰かに見つかっ……」
?「…ってあれ? 君たちって確か…」
女「…!? あなたは…」
女「…物理の…先生…!?」
物理「な~んだ。やっぱり、2年の女さんと男くんじゃないか。」
男「…物理の先生が何でこんなところに?」
物理「それはこっちの台詞だよ男くん。君たち一体ここで何をしてるんだい?」
男「あ、いや~、これはですね…」
物理「旧校舎の方から、鏡が割れる音がしたと思ってすぐ来てみたら…ったく一体どういうことだいこれは?」
女「…!?」
男「…え~っとですね、先生…コレは…何と言うか…」
女「…ねえ先生、今『旧校舎の方から、鏡が割れる音がしたと思ってすぐ来てみたら』って言いましたよね?」
物理「…!? …うん、そう言ったね。」
女「何でさっきの音が『鏡が割れる音』だって分かったんですか?鏡が割れる音なんて窓が割れる音と大差は無いと思うんですけど…?」
男「…!?」
物理「…。」
女「…どうなんですか、先生?」
物理「いや~、なかなか鋭いね女さん。…まあ、別に隠しておくほどのことでもないし、君たちには言っても良いかな。」
男「…隠しておくほどのこと?」
物理「実はね僕も今日『この部屋』に用事があったんだ。」
女「…!? 用事…?」
男「…用事って一体何なんですか?」
物理「…それはね…。」
物理「見納めのためだよ。」ニコッ
女「…みお…」
男「…さめ?」
物理「ああ。…実はね僕はこの高校の出身でね。」
女・男「え?」
物理「あれ?知らなかったのかい?まあ授業中にこのことは言った事無かったかもしれないな~。」
女「先生、ここの卒業生だったんですか…。」
物理「うん。僕は今ちょうど30歳だから12年前にここを卒業したんだけどね。」
男「へ~、知らなかった。」
物理「それで、僕がこの高校に在学してた時にこの部屋をよく使っていたんだ。」
女「…!? …一体何のために…?」
物理「…いや~…これだけはあんまり言いたくないんだけどなぁ…」
男「…!? お、教えて下さい!一体何にこの部屋を使ってたんですか!!」
物理「…う~ん。それはだな…」
女・男「…」
物理「…授業をさぼるために使ってたんだ。あっはっは。」
女・男「…へ?」
物理「実は当時の僕はかなり『素行が悪い生徒』でね。毎日のように授業をサボっていたんだ。」
女「嘘…? 先生が?」
男「すごいまじめそうなのに…?」
物理「いや~、だからこの話をしたらみんなに驚かれるから話すのは嫌なんだよ。」
女「…じゃ、じゃ、当時先生は授業をサボるために…?」
物理「ああ。この部屋は当時、周りでも知っているやつがほとんど居なくてね。僕はたまたまこの部屋を見つけることが出来て、仲のいい3人組でここをたむろの場所として使っていたんだ。」
女「そうだったんですか。」
物理「あ、そうだそうだ。ちょっとここの床を見てみて二人とも。」
女・男「?」
物理「実はここの床は一部分が一部分だけひっくり返すことが出来てね。そしてそれをひっくり返してやると…」パタッ
女「!? それって…」
男「…スイッチ?」
物理「ああ。このスイッチを押してやると…」カチッ
カチッ
男「…!? 今、入り口の方で何か音が…」
物理「そう。実はこのスイッチを入れると鏡のロックが外れるんだ。そして、まあ今はもう割れて無いけどロックが外れた鏡の下を持ち上げてあげると、この部屋に入れるってわけだ。鏡が持ち上がるのは鏡のてっぺんに蝶つがいがついているからなんだ。まあ、その蝶つがいは塗装で分からないようにしているから気付きにくくなってるけどね。」
男「…!? ほんとだ。鏡の上をよく見ると何か盛り上がってる部分が…あれが蝶つがいか。でも先生、この部屋って一体何のために作られたんですか?」
物理「う~ん。それについては僕もよく知らないんだ。」
男「…! …そうですか。」
物理「…でも」
女・男「…?」
物理「…そうだ。君たちはこの学校の創始者が誰だか知っているかい?」
男「いえ、俺は…」
女「私ちょっとだけ聞いた事があります。確かこの付近の地主さんが…」(>>309)
物理「うん。その通り、この学校は地主さんの出資によって創られたんだ。で、その地主さんがすごく遊び心あふれる人だったらしくてね。その地主さんはこの旧校舎の設計にかなり関わっていたということだったし、もしかしたらその地主さんのちょっとした遊び心から出来た部屋なんじゃないかな、ここは。」
女「なるほど…」
物理「まあ、というわけで、ここは僕に取っては高校の思い出を象徴するような場所なんだ。そして、そんな思い出の場所が明日から取り壊されるということもあって、それまでに一度ここに来ておこうと思っててね。…で、そのつもりでさっき旧校舎に行こうと思ったその時にここの鏡が割れる音がして…それで急いで駆けつけて来たってわけだ。」
女「でも何でそれが鏡が割れる音だと…?」
物理「あんな大きな音、ここの鏡以外で出せるわけないよ。この旧校舎にある窓ガラスや鏡はこれよりもずっと小さいしね。」
男「なるほど…」
物理「…で、ここに来てみると君たちが居た…というわけだ。でも、一体どうなってるんだここの踊り場は? 窓の破片はともかく他にも沢山モノが散乱してるし…」
女「…!? あ、それは…」
男「…まあ…い、色々ありまして…」
物理「…? とにかくこの散らばった鏡の破片を放置しておくと明日から工事に来る作業員の方々に迷惑になるからさすがにこれだけでも片付けるよ。」
女・男「は、はい。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「…ったく、女があんな豪快に割るから…」
女「し、仕方が無いじゃない!あれ意外他に方法を思いつかなかったんだから!…でも鏡って案外もろいのね。」ヒョイッ
男「あ、おい女。素手で割れた鏡を持つと危ないぞ!」
女「な~に、大丈夫よ大丈b……!?」
男「…? どうした女?」
女「…これってもしかして…」
女「………………魔法…鏡…?」
男「…え? 何言ってんだよ? 何でこんなところ魔法鏡なんかが…」
物理「おおー。女さんよく気付いたね。」
男「…!?」
物理「実は女さんが割ったここの鏡は魔法鏡なんだよ。でも、ほんとよく気付けたね。」
女「…はい。この破片、どっちの面から見ても透き通って見えるので、それでもしかしたらと思って…」
物理「そうだね。ここは光量が分断されていない場所で、魔法鏡は裏表がない。魔法鏡は明暗がはっきりと分かれた場所のちょうど間に置くことによってその効力が最大限に発揮されるからね。」(>>177)
男「…でも、どうしてこんなところに魔法鏡が!?」
物理「僕が高校生のときにここの部屋を使ったってことはさっき言ったよね。実は当時僕たちはこの部屋に出入りするところを先生たちに実は「1度」も見られたことがないんだ。何故ならそれは、ここの鏡を魔法鏡にすることによって部屋を出るときに人が部屋の外にいるかどうか確認できたからなんだ。」
女・男「!?」
物理「まあ、でもここの鏡を魔法鏡にしたのは僕自身なんだけどね。」
女「…!? 先生が?」
物理「ああ。ここの部屋を見つけた時、ここの鏡は普通の鏡だったんだ。でも普通の鏡だったら出るときに外に人が居るかどうか確認しにくいだろ?」
男「確かに…」
物理「あと、当時は魔法鏡が世間では流行っててね。もちろん僕もその一人だった。あの当時の僕は勉強は疎かにしてたけど魔法鏡とかのマジックには夢中だったんだ。まあ、物理の先生を目指すきっかけもその魔法鏡に没頭する事によって物理光学の魅力に気付いたからだったんだけど。」
女「へぇ…」
物理「そして、ここを魔法鏡にすることによって他の楽しみも増えたんだ。」
女「…他の楽しみ?」
物理「実はこの上にある音楽室の前の廊下は告白スポットとして有名でね。」
男「…!? それって…」
女(…お姉さんが言ってたやつだ(>>300)…12年も前からあったんだ。)
物理「だから、放課後とかには男女がその音楽室の前まで行くためにこの踊り場をよく通るんだ。で、僕たちは『誰が』音楽室に行き来したのかってことをこの部屋から調べていたんだ。」
男「点調べていたって何のために?」
物理「当時はね『そういった情報』が売れたんだ。まあ、はした金だけどね。だから、僕たちは小遣い稼ぎとしてそうやってこの部屋で張り込んでいたのさ。」
女「…先生。相当悪だったんですね。」
物理「いやぁ、ほんとそうだよな、あはは。まあでもあれはあれで良い思い出だよ。…とまあ、この話はもういいとしてここの鏡を魔法鏡にしたことによってもう一つメリットがあったんだ。」
男「…メリット?」
物理「『明かり要らず』っていうメリットがね。」
女「明かり?」
物理「二人ともこの部屋に電球の類いが全くない事に気付いたかい?」
男・女「!?」(>>455)
物理「もともとこの部屋には電気が通ってなくてね。ここの鏡を普通の鏡のまんまで中に居たら絶対に光源が必要だったんだ。でも、ここを魔法鏡にすることによって踊り場の上にある電球や、踊り場の上部にあるの窓から差し込む光によってこの部屋に光が入ってくるんだ。まあ、ちょっと薄暗いけどね。」
男「なるほど…だから『明かり要らず』…か。」
女「でも、本当に誰にもここを使っていることがバレなかったんですか?」
物理「…いや、実はね一度だけ、他の生徒に見つかりかけた事があったんだ。」
男「へえ。」
物理「僕たちは当時、3人組で行動してたんだけど、もしもここの部屋の中に誰か一人でも居るときは、外にいるやつに確認を求めるようにしてたんだ。」
女「確認?」
物理「ああ、周りに誰かいないかっていう確認をね。それをこれでやっていたんだ。」ヒョイ
男「…!? それって…」
女「…手鏡!?」
物理「ああ。これは僕が当時から使ってるものでいつも常備してるんだけどね。…で、話は戻るけど、外に居る者はこうやって手鏡を使って2階、3階の様子が部屋の仲間に見えるように角度を調節して、それで中にいるやつが周りに誰もいないということを確認したら『コンコンッ』っていう音で『入ってもよし』という合図を送っていたんだ。」
男「…へえ。」
女「…!? 待ってその話って…」
男「…ん? どうしたんだ女?」
女「…男、覚えてる?私達が入学当初に流行った旧校舎の鏡の噂。」
男「ん? 覚えてるけど…それがどうした?」
女「…あの噂って、うちの高校の北側にある旧校舎の東側の、そのまた2階と3階を結ぶ階段の踊り場にある鏡、その鏡の前で合わせ鏡をするとその鏡の中に引きずりこまれるという話だったでしょ?」(>>36)
男「ああ、そうだけど…」
女「…この噂は入れ替わりのことを指しているってずっと思ってた。でも一方で『引きずり込まれる』って部分に違和感も感じていた。…でも、この噂って『本当のこと』だったんじゃないの!?」
男「…!?」
物理「ああ、やっぱり君たちもその噂を知っているのか。」
女「…!? それじゃあ、やっぱり…」
物理「ああ。女さんの思っているようにその噂の原因は『僕たち』なんだ。さっき僕らが1度だけ見られたって話をしたよね? あの時、僕がこの踊り場で合図として手鏡を掲げて、そしてこの部屋の中に入るところを不注意もあってその生徒に見られてしまったんだ。」
物理「その生徒からしたら僕が合わせ鏡をして鏡の中に入ったように見えたもんだから、そんな内容の噂が校内に広まったんだ。まあ、そのおかげでここに近づく人も減って僕たちはここの部屋で快適に過ごす事が出来るようになったんだけどね。」
男「…じゃあ、あの噂は入れ替わりとは全く関係無かったってことか…」
物理「…ん?何だい?入れ替わりって?さっき女さんもそんなこと言ってたけど。」
男「…! あ、いや、別に何でもないです!気にしないで下さい!」
物理「…? まあ、いいけど。」
女(…男の言う通り、あの噂は入れ替わりに全く関係が無かったということなのかな…)
女(…でも確かにここでは入れ替わりは起こす事は出来た…それは何故…)
女(………っ!? )
女(………ちょっと…。)
女(………ちょっと待ってよ…。)
女「………ちょっと待ってよ!!!!」
男「…!? ど、どうしたんだ女?」
女「………ねぇ……男。」
女「もしかしたら…」
女「もしかしたら合わせ鏡での入れ替わりには…」
女「……『魔法鏡』がいるんじゃないの!?」
男「…!?」
女「旧校舎は何かそういう特殊な力が働いているって考えてたけど…でも、そうじゃなくて、ここの鏡が『魔法鏡』だったから入れ替わりが起きたんじゃ…」
男「…!? おいおいまさか…」
女「でもそう考えるのが普通じゃない!?第一、『魔法鏡』には特別な力が働くってことは私が『裏の世界』で証明したわけだし!」
男「…!? …でもなぁ、女…。」
女「もしも、合わせ鏡による入れ替わりに魔法鏡が必要だとしたら…」
男「…?」
女「もしそうだとしたら…」
女「私の…」
女「私のマンションのエレベーターの鏡も…!?」
男「…!?」
男「…はは、な~に言ってるんだよ女。そんなわけないだろ? エレベーターの鏡を魔法鏡にして何の意味があるんだよ!? エレベーターはものすごいスピードで動くんだぞ!!上下に!!」
女「…それはそうだけど……っ!?」
女「…でも、そう、1ヶ月前、マンションの管理人さんが言ってたの。」
―【~回想~(>>104)】―――――――――――――----
管理人「そういえば、他の人も今の女ちゃんみたいなこと言ってたな~。誰かに見られてるような気がするとか何とか…。
----―――――――――――――――――――――――
女「…って。」
男「!?」
女「最初は霊か何かの類いがあのエレベーターにいるのかなって思っていたけど、でもそれは間違いで…本当に『誰かに見られていた』としたら…!?」
男「…でもやっぱりエレベーターに魔法鏡なんて現実的じゃねえよ。」
女「…確かに、男の言う通り、もしかしたら私の考えすぎかもしれないし、この考え方は現実的ではないかもしれない。…でも、この1ヶ月間は私達にとって非現実的なことばかり起きてきたじゃない!? だから…確認してみる価値は絶対にあるわ!!」
男「…!? …女。」
男「…ああ、そうだな。もしかしたら女の言う通り本当に入れ替わりには魔法鏡が必要かもしれない。そして、本当に女のマンションのエレベーターの鏡が魔法鏡だと考えると…」
女「…うん。誰だかは分からない。でも、あそこの鏡を『魔法鏡』にした『人物』を…そしてその『目的』を追求するためにも…」
男「…ああ、行こう!!」
女・男「あのマンションへ!!!!」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「そうと決まれば急ぐわよ、男!」
男「ああ!」
物理「き、君たち!!」
女「…あ。」
男「…やっべ、先生のこと忘れてた。」
物理「今の話はどういうことなんだい?? 入れ替わりって一体?」
男「え~っと…それはですね…。」
物理「それは?」
女「…!?」バッ
男「…? どうした女?」
女「…。」
男「…女?」
女「………今…」
女「………2階の陰から誰かに見られていたような…」
男「…2階?」
女「…っ。」タッタッタ
男「あ、女!」タッタッタ
タッタッタ…
女「…誰も…いない…?」
男「ただの気のせいだったんじゃないか?」
女「…そうかな…」
男「ってかお前いつも『いきなり』だよな。今といい、さっきの鏡を割ったときといい…」
物理「こら!!君たち!!」タッタッタ
男「…! ヤバい、さすがに先生もさっきから蚊帳の外にされっぱなしで怒ってr…女「男。」
男「…?」
女「先生に説明している暇は無いわ。だから…」
男「だから…?」
女「…逃げるわよ!!!」ダッ
男「…ちょ!? 女!? だからお前いつも『いきなり』すぎるんだって!!」ダッ
物理「…!? こら!待ちなさい!」タッタッタ
タッタッタ…
?「………。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
シュタッ
女「…よし、旧校舎から出れたし、このまま先生から逃げ切るわよ。」
男「オッケー。じゃあ、とりあえず校門に向お…」
校長「おい!!君たち!!」
男「…げっ!?」
女「校長先生!?」
校長「君たち今、旧校舎から出てこなかったか!? 旧校舎は今、立ち入り禁止なんだぞ!一体何していたんだ!?」
女「…男。」
男「…ああ、『もう』分かってるよ。」
女「ここは…」
男「逃げるが…」
女・男「勝ち!!!!」ダッ
校長「…あ!こら!待ちなさい!!」
ガチャ
校長「…ん?」
物理「…はぁはぁ。…も~二人とも何で逃げるんだよ…。」
校長「…!? ぶ、物理君!? 何で君まで旧校舎から!?」
物理「…ん?」
物理「…!? こここここ校長先生!? な、何でここに!?」
校長「それはこっちの台詞だ!! 立ち入り禁止の旧校舎で君はあの生徒2人と一体何をしていたんだ!!!」
物理「あ…い、いや…そ、それはですね…」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ギィ ギィ
ギィ ギィ
ギィ ギィ
ギィ ギィ
ギィ ピタッ
?「…まさか、ここの鏡が魔法鏡ってことに気付かれるとはね…」
?「しかも、それを女ちゃん『が』気付くことになるとは思ってもいな…いや、でも『もしや』…とは心のどこかで思っていたかもね…」
?「ふふ…ただ、さすがに『このまま』だとやばいわね。」
?「…とりあえず連絡しないとね、『あの2人』に。」ピッ
prrrrrr prrrrrr
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「はあはあ…ラッキーだったな。あそこで校長先生が来てくれたおかげで物理の先生に追われなくて済んだし。」タッタッタ
女「はあはあ…でも、物理の先生、校長先生に色々言っちゃわないかしら…。」タッタッタ
男「ま、大丈夫だろ。物理の先生ってなんだかんだ口は達者な方だし、俺たちの事もちゃんと考えた上で言い訳してくれるだろ。」タッタッタ
女「だといいんだけどね~」タッタッタ
男「…でも、女…何で俺たちまだ走ってるんだよ?もう歩いてもいいんじゃないか?」タッタッタ
女「…いえ、まだこのまま走りましょう。」タッタッタ
男「…何で?」タッタッタ
女「…何だか嫌な予感がするの。」タッタッタ
男「…嫌な予感?」タッタッタ
女「…うん。口ではうまく言い表せないんだけど…とにかく早く行かないといけない気がして…」タッタッタ
男「…そっか。…分かったよ、女。俺はお前のその直感を信じるよ。」タッタッタ
女「…ありがと。」タッタッタ
プップー
男「…おっと車のクラクションか?」タッタッタ
女「…私達に対して?」タッタッタ
男「…俺たちは歩道を走ってるのか?」タッタッタ
女「…でも他に車とか周りにもないし…」タッタッタ
ブーン キキッ
男「…おい、俺らの横で止まったぞ。」ピタッ
女「…まさか、校長先生たちが追ってきたとか?」
男「…!? おいおいもしそうだとしたら洒落になんないぞ。」
ガチャッ
男「…! 出てきた。」
女(…あれ? 校長先生でも物理の先生でもない…)
男「…!? あなたは…」
女「…? 男、知り合いなの?」
男「ああ。一応な。」
男「…お久しぶりです。」
男「姉友さん。」
姉友「なっはっは!いや~久しぶりだね~男く~ん!」
女「…男、誰なのこの人?」ボソッ
男「この人は…姉さんの友達だ。」ボソッ
女「お姉さんの?」ボソッ
女(…何だ。お姉さんの友達か…でもお姉さんと同様ですごく美人…ちょっと日焼けしてるけど…背が高くて…ロングの奇麗な茶髪で………)
姉友「男くん、そこのかわいらしい女の子は…もしかして彼女~?」ニヤニヤ
男「…!? い、いや~、彼女というかなんというか…なあ、女?」
女「…付き合ってはないんですけど…まあ、それに近い感じですかね?」
姉友「プッ…何それ~!?意味分かんな~い!」
男「ま、まあ、ちょっと複雑な事情があるんです。」
姉友「…ふ~ん。まあ、いいや。それじゃあ、あなたは女ちゃんっていうのね?」
女「あ、はい。はじめまして、女っていいます。男姉さんと友達ってことは…私の兄の女兄ってご存知ですか?」
姉友「…え~!?あなた女兄くんの妹だったの!?…ど、どうりで可愛いわけだわ。…ってか、私の自己紹介が遅れたわね。私は姉友って名前で、関東のW大の2回生。男くんのお姉ちゃんとは小さい頃からの友達で、高校はあなたのお兄ちゃんや男姉とも一緒だったの。」
女「W大ですか!? お姉さんといい、姉友さんといい皆さん頭がいいんですね。」
姉友「いやいや、あなたのお兄ちゃんだってKB大なんだし、十分頭いいわよ。」
女「…ん? でも待って下さい。姉友さん、さっき『2回生』っておっしゃいましたよね? でもお兄ちゃんもお姉さんも確かつい最近まで4回生だったはずじゃ…」
姉友「いや~、実は私はね2回生が修了してから2年間休学しててね、それでこの春から復学することになってるんだ。だから、今は一応2回生ってことになってるの。」
男「へ~、姉友さん休学してらしたんですか? でも何のために?」
姉友「私、海外にすごく興味があってね。だからこの2年間はずっと南半球を中心に世界中を旅してたの。で、日本に帰ってきたのもつい最近でね。」
女「あ、だからこの時期でも姉友さんは日焼けしているんですね。」
姉友「あ~、やっぱり私黒い~? まあ、日焼けするのは仕方の無い事だっただけど早く白い肌に戻したいな~」
女「…な、なんかすごい『軽いノリ』の人ね。」ボソッ
男「…ああ。だから、俺も結構苦手なんだよこの人。」ボソッ
姉友「…おっと。立ち話もなんだし2人ともさあ乗った乗った!」
女「…? 乗った乗ったって車にですか?」
姉友「もちろん!早くしないと終わっちゃうわよ!」
男「終わるって何がですか?」
姉友「決まってるじゃない!お祭りよ!」
女「…お祭り?」
男「…あ、そうか。今日3月21日は大窪寺の春分祭の日だ。」(>>185)
女「…! …あ、そういえば…すっかり忘れてた。」
姉友「な~に?2人とも地元民なのにお祭りのこと忘れてたの!?」
男「いやあ…ちょっと最近色々とごたごたしてまして…ってか何で俺たちが姉友さんとお祭りに行くことになってるんですか!?」
姉友「あっはっは。本当は男姉でも誘って行く予定だったんだけど、あいつ今日全然連絡が取れなくてね。…で、車を走らせてたらたまたま暇そうな男くんを見つけたもんだから。」
男「いやいや、さっきの俺のどこが『暇そう』だったんですか!? あんなに必死に走ってたじゃないですか!?」
姉友「う~ん…あ、そういえば。」ニコッ
男「…おいおい。」
姉友「てか、2人ともそんなに急いでどこに行くつもりだったの?」
男「…! …えっと、それは…」
女「…。」
女「…実は私のマンションに行く予定だったんです。」
男(…! …女)
姉友「女ちゃんのマンションに? 2人で? 何をしに? マンションに『帰る』わけではなくて?」
女「…! そ、それは…」
姉友「…ふふ!まあ、せっかくなんだしお祭りに行きましょうよ!春分祭は1年に1度だけなんだから!さあさあ乗った乗った!」グイグイッ
男「ちょ!?姉友さん!?そんな押さないで!」
女「私達本当にいそいd…って、きゃ!?」バタンッ
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―――――――――――――――――――――――----
ガヤガヤガヤガヤ
姉友「いや~楽しかったわね~お祭り~♪」
女「…結局」
男「…姉友さんのごり押しに負けたな」
姉友「ん~?何か言った?2人とも?」
女・男「い、いえ!何も!」
姉友「そう? それにしてもこのたこ焼き美味しいわね~♪ 女ちゃんもいる?」もぐもぐ
女「いえ、私はいいです。」
姉友「そう? …ねえ、女ちゃんってどんな食べ物が好きなの?」
女「好きな食べ物ですか?そうですね~」
姉友「ふふ!当ててみようか!?」
女「…え?」
姉友「女ちゃんの好きな食べ物は…」
姉友「…! ひ、閃いた!!ズバリ女ちゃんの好きな食べ物はミートp…」
prrrrrr prrrrrr
姉友「…あら? 電話来たからちょっとゴメンね。」タタタッ
女「あ、はい。」
姉友「もしも~し? …あ、うん。…もういいの?」
姉友「…うん。…うんうん。…オッケー。…それじゃねー。」ピッ
女「…!」
男「…何の電話だったんですか?」
姉友「…いや~!ごめんね2人とも!実はちょっと用事が出来ちゃったから私はおさらばしなきゃならないみたい!」
男「…は!?」
姉友「それじゃ2人ともば~いば~い♪ 楽しかったよ~♪」タッタッタ
男「ちょ、ちょっと姉友さん!!! …いやいや、本当に行っちゃったよ。」
女「台風のような人だったわね…。…あ、てかあの人俺たちに徒歩で帰らせるつもり!?」
男「…あ!!本当だ!! うわぁ…ここの大窪寺って女のマンションの反対側にあるからまた戻るのにすごく時間がかかるぞ。」
女「そうね…まあ、あの人からこれで自由になれたわけだし…。 とにかく向かいましょう。日が暮れる前までに。」
男「…! ああ、そうだな。あやうく本来の目的を忘れるところだった。」タッタッタ
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―――――――――――――――――――――――----
男「はあはあ…よし、着いたぜ、マンションに。」
女「はあはあ…ええ。」
男「…でも、これからどうするんだ?」
女「そうね…とにかくまずはエレベーターの中の鏡が魔法鏡かどうかを確認するためにも…」
男「…! なあ、女。」
女「…? 何?」
男「ここのマンションの管理人はいつも何時まで管理人室にいるんだ? あと、ここのマンションには裏口はあるのか?」
女「…何時? 確かいつも18時前まではいたような…裏口はあるよ。」
男「そうか。…よし。ついてるな。」
女「…何が?」
男「女、とりあえずあと20分ここで待機しておくぞ。そして20分後にこの玄関ホールではなく裏口から入るぞ。」
女「…? 何で20分待つの?」
男「今の時刻は17時50分だからあと、10分すれば管理人さんは管理人室からいなくなるからな。そして念のために10分余分に待った上で入れば気付かれる可能性は減るはずだ。」
女「…!? それってつまり管理人さんがいない時間を盗んで調べるってこと?」
男「ああ、そういうこと。ここのマンションは5年前に出来た比較的新しいマンション(>>12)だし、エレベーターホールはもちろんのこと、エレベーターの中にも監視カメラがついてるんだろ? もし俺達が調べている間に管理人さんに見つかったら摘まみ出されるかもしれないしね。」
女「…でも、男。今回の場合は管理人さんに協力してもらった方がいいんじゃないの? 管理人さんだったらエレベーターを止められるかもしれないし、その方が調べやすいと思うんだが。」
男「…確かに。…でも…その管理人さん本人が鏡を魔法鏡にした『張本人』だったとしたらどうする?」
女「…! はは、そんなまさか。…管理人さんが? ないない。」
男「…そんな『まさか』といった非現実的な出来事がここ最近起きているじゃない…って言ったのはお前だったろ?」(>>471)
女「!?」
男「だから今はとにかく目の前の全てのものに対して『疑い』の姿勢でいどまないと、もしかしたらとんでもないことになるかもしれないんだ。…そうだろ?」
女「…ええ、そうね。男の言う通りだわ。」
男「よし、それじゃあマンションに入るのは20分後だが先に裏口に回っておこう。」
女「了解。…そういえば裏口から入るのは何でなの?」
男「ここや玄関にいたら業務を終えた管理人さんとばったり会ってしまうかもしれないだろ?」
女「あ、そうか。」
男「それじゃあ裏口に回るぞ。」
女「うん。」スタスタッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「…男、20分たったよ。」
男「そうか。…よし、それじゃあ入るぞ。出来るだけ他の人に見られないように慎重に行くぞ。」
女「うん。」
ガチャ
スタスタ
スタスタ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「…よし、エレベーターホールに着いた。周りには誰もいないね。」
男「おし、順調だな。で、女。」
女「ん?」
男「お前が入れ替わったエレベーターは『どっち』なんだ?」
女「…!? あ、そうか。うちはエレベーターが二基あったんだっけ。(>>23)…え~っと、あの時どっちに乗ったっけなぁ…」
男「女、どっちのエレベーターにも鏡はついてたのか?」
女「…! そういえば『片方』にしかついてなかった気がする!!」
男「そうか。それなら鏡がついているエレベーターは…『左』だな。」ポチッ
女「え? 何で『左』って分かるの?」
男「エレベーターが2基ある場合の鏡ってどっちにもついている、もしくは『左』につけるっていう決まりみたいなものがあるらしいんだ。」
女「へぇ。 …でもそもそも何でエレベーターに鏡があるの?」
男「鏡をつけることによって奥行きが広く見えるだろ? あと、車いすを利用する人が乗り込んだ状態で、かごの中で回転ができない際、後ろ向きで出るときに後方を確認するためらしい。まあ、ちょっとした豆知識だな。」
女「へぇ~。」
男「よし、エレベーターが来た。早速入るぞ!」
―――――――――――――――――――――――----
ガタンッ
男「この鏡が…」
女「…うん。この鏡で私は入れ替わりを起こしたの。」
男「見た感じ至って普通の鏡なんだけどな…。」
女「そうなのよね…。てか、男、エレベーターはどうする?このまま1階に居たまんまじゃ誰か来るかもしれない…」
男「そうだな。とりあえず適当にどっかの階に行ってエレベーターの開放維持ボタンを押しておけばエレベーターは動かなくなるだろう。まあ、一応保険としてドアの間にモノでも挟んでおけば大丈夫なはず。」
女「なるほど、じゃあ1番人が少なそうな4階にでも行きましょうか。」ポチッ
ゴォォォ…
男「さてと。…なあ、女。普通の鏡か魔法鏡かを見分ける方法とかはないのか?」
女「見分ける方法? …ん~、見分ける方法かぁ…あっ!そういえば!」
----―――――――――――――――――――――――
―【回想~(>>178)の続き~】――――――――――----
物理『それでは今からこの魔法鏡を使って実験を行っていきたいと思います。』
物理『でもその前に、まずは魔法鏡を『魔法鏡』であるかどうかをいかに見分けるか…についてを説明しておきたいと思います。』
女(…見分ける?)
物理『魔法鏡は端から見たら普通の鏡と何ら変わりません。…ですが、あることをすることによってそれが『魔法鏡』であるかどうかを簡単に見分けることが出来るんです。』
ドーヤルンデスカー?
物理『それはですね…『ギリギリまで近づく』ことです。』
女(近づく?)
物理『自分自身が魔法鏡だと思われる鏡に近づき、そして覗き込む事によってですね、実はうっすらと奥が見えるんです。なのでもしそのように鏡が透けて奥が見えればそれが魔法鏡であるということが分かるんです。』
ナンデスケテミエルンデスカー?
物理『それはギリギリまで近づくことによって自分の体によって、『こちら側』の光が遮られるからです。光を体で遮る事によって魔法鏡に反射する光量が減り、そして魔法鏡の向こう側の空間の光量に近くなります。それによってうっすらとですが魔法鏡の向こう側が見える…というわけなんです。』
----――――――――――――――――【回想終了】―
―――――――――――――――――――――――----
女「…っていうふうに物理の先生が言ってたの!だから…」
男「成る程。近づいてみればいいんだな。」
女「うん。」
男「よし、それじゃあ俺が見てみるよ。」
女「…! うん、お願い。」
男「…。」スタスタッ
ピコーン
女(…あ、4階についたみたい。開放維持ボタンを押して入り口に何か挟んでおかないと…)ガサゴソ
女「…よし、鞄でも挟んでおけば大丈夫かな? …あ!男、どうだった?」
男「………。」
男「………見えない。」
女「…え!?」
男「…透けて見えない。…これは…」
男「……普通の鏡だ。」
女「…嘘!?」
男「嘘じゃないさ。女もこっちに来て見てみるといい。」
女「……。」スタスタッ
女「…本当だ。透けて見えない…ただ目の前に自分の顔が映ってるだけ…。」
男「…。」
女「…でも何で!? ここも魔法鏡のはずじゃ…」
男「…やっぱり、俺たちの考え方が間違ってたんだよ。」
女「…!? そんな!?」
男「よく考えてみたら、エレベーターに魔法鏡をつけるということはその魔法鏡の裏に『何も無い』状態をしないといけない。でも、これはエレベーターだぜ? もしもエレベーターにそんな『大穴』を開けた状態で鏡なんかつけたら上下移動の際に隙間風やそれに伴って音が発生するはずだろ?」
女「…!? …確かに。」
男「でも、今乗ってる限りじゃ隙間風は感じられなかった。それにエレベーターに『大穴』を開けるということ自体、並大抵のことじゃできないしな。だってエレベーターの壁って10センチくらいの厚さはあるだろうし…。」
女「…。」
男「…まあ、でも俺たちの思い過ごしで良かったじゃないか。エレベーターの鏡が魔法鏡じゃないってことも分かったんだし安心したろ? …ただ、入れ替わりについてはまた一から考えてみないといけないけどな…。」
女「…まだ。」
男「…?」
女「…確かめるための『方法』はまだある!!」ズザッ
男「…ちょ!?女!!!!」
ガンッ!!!!!
女「………っ!」
男「~~~~っ!? お前何鏡を蹴ってんだよ!!もし割れてたらヤバかったぞ!!旧校舎の鏡はもう取り壊されるだろうからまあなんとかなるだろうけど、ここの鏡は他の人の『所有物』なんだぞ!!…でも良かった、割れてなくて。」
女「……。」
男「…女?」
女「……『軽い』。」
男「…!? …おいおい『軽い』ってまさか!?」
女「…ええ!やっぱりこの鏡の裏には『空間』があるわ!!旧校舎の鏡の時と同様に!!」
男「…!? …ちょっと待て。」スタスタッ
男「…。」ガンガンッ
男「…!! 確かに『軽い』な。かなり分厚めの鏡みたいだけど、手で思いっきり叩けば裏に『空間』があるってことは分かる。…ってことはつまり…」
女「…ええ。…ここには確かに魔法鏡が『あった』かもしれない。」
男「…そういうことになるかもな。まあ、今は普通の鏡みたいだけど。」
女「…男。」
男「ああ、分かってるよ。『これ』をはずすつもりなんだろ?」
女「うん。でもどうする…?」
男「う~ん、見た感じ鏡のふちに強力な接着剤をつけてるみたいだ。だから外すのにはかなり苦労しそうだが…」
女「…じゃあ、『やる』しかないわね。」
男「…!? おいおい!本気で言ってるのか!?もしもこの鏡を割ったら器物損壊罪で通報されてしまうぞ!?」
女「そんなの理由をちゃんと言えば警察だって分かってくれるわよ。」
男「…!? だとしてもだな…」
女「…男!!」
男「…ああ~~~っ!!もう分かったよ!! でも『やる』のは俺だ!!」
女「…え?何で!?私がやるよ!?」
男「お前を犯罪者にするわけにはいけないからな。…あ、でも一緒に居たらそれでもうアウトか? まあ、いい!とにかく俺がやる!女にケガさせるわけにはいかないし!!」
女「…男。」
男「よし、そうと決まったら一度エレベーターを1階に下ろすぞ。」
女「1階?」
男「エレベーターをこんな中途半端な階で浮かした状態で鏡を割ったらその破片がエレベーターの外側にパラパラと落ちるだろ? それがエレベーターのワイヤーを傷つけることになるかもしれないからな。だから出来るだけ、エレベーターが1番下にある状態でやったほうが安全だ。」
女「…成る程。」
男「よし、それじゃあ1階に降りるぞ。」
女「分かった。」
ポチッ
ゴォォォ…
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
チーン
男「よし、1階についたぞ。」
ウイーンッ
女「…1階には誰も居ないみたい。」
男「よし、それじゃあドアを閉めてくれ女。」
女「了解。」ポチッ
ウイーンッ
男「よし、それじゃあ、女は下がってろ。」
女「…あ、てか何か丈夫なモノを持ってきてそれで割った方がよくない!?」
男「大丈夫だ!」
女「!?」
男「中・高とサッカー部で鍛えてきた脚力を…」
男「なめんなよ!!!!」ブンッ
ガッシャアアアアン
女「~~~~っ!? だ、大丈夫、男!?」
男「な~に、へっちゃらへっちゃら。…それよりも…見てみろよ、あれを。」クイッ
女「…?」クルッ
女「……………………っ!!!!」
女「…………………や、やっぱり…。」
男「…ああ。お前が思っていた通り、鏡の裏には…」
男「…『穴』があったみたいだ。それも70センチ四方もある大きな『穴』が。」
女「本当に穴があったなんて…」
男「…!! …成る程、そういうことか。」
女「…? どうしたの?」
男「…女、この穴の奥に腕を伸ばしてみろよ。」
女「…腕?」グイッ
ピタッ
女「…!? こ、これって!?」
男「ああ、それは『透明な窓ガラス』だ。これが隙間風が入らなかった理由だな。」
女「…!?」
男「このエレベーターは外壁の厚さが10センチ近くある。外側に窓ガラスをつけ二重構造にすることによって隙間風を出来るだけ入らないようにしていたんだ。でも、その鏡と窓ガラスの間の10センチの空間があったことによってさっき俺たちは叩いたら『軽い』と感じることができたんだ。」
女「なるほど。…じゃあやっぱりここには…」
男「…ああ。ここに『魔法鏡』が『あった』ことは間違いないな。少なくともお前が入れ替わった『あの日』までは。」
女「…で、でも何のために。」
男「…『魔法鏡』は」
女「…?」
男「…俺たちにとって『魔法鏡』は入れ替わりに必要なアイテムっていうふうな認識だが…」
女「…だが?」
男「他の人…というか一般の人にとっての『魔法鏡』の認識はやはり『気付かれないように覗く』ことだ。」
女「…!? それじゃあやっぱり…」
男「…ああ。おそらくこのエレベーターの中を覗き込むためにここに魔法鏡があったんだ。」
女「…うそ。…でも一体誰が!?」
男「…それを確認するためにも…さあ行こう。」
女「…? 行くってどこへ?」
男「『上』に決まってるだろ?」
女「…『上』?」
男「だって、エレベーターの中を覗き込むためには、エレベーターの『向こう側』から見ないと無理だろ?つまり、このままエレベーターで上に…」
女「…!! そうか、上に行けばどこかに…」
男「ああ。上に上っていけば必ずこの『穴』の向こう側にもう一つの『穴』があるはずだ!!」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「よし、それじゃあ1階ずつ上がっていくぞ。」
女「うん。」
ポチッ
ゴォォォ…
チーン
男「2階には…何もないな」
女「ええ。」
男「次は3階だ。」ポチッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
チーン
男「…3階にも何もないな。」
女「…。」
男「…よし、次は4階だな。」ポチッ
ゴォォォ…
チーン
男「5階も…」
女「何も無いね。」
男「…」ポチッ
ゴォォォ…
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
チーン
男「6階もはずれか…」
女「…みたいね」
男「…」ポチッ
ゴォォォ
女「…本当にあるのかな、『穴』なんて…」
男「…さあな。…でも、可能性は高いと思うよ。」
チーン
男「…7階もはずれだな。」
女「…」
男「…」ポチッ
ゴォォォ…
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
チーン
男「…8階も何も無しか…」
女「…ねぇ…もしかしたら、見逃したんじゃないの?」
男「え?」ポチッ
ゴォォォ…
女「私達、さっきからエレベーターが止まるごとに確認してるけど、もしかしたらエレベーターが動いている間に『穴』があったんじゃ…」
男「いや、俺もその可能性があるから動いている間も『穴』をこうやってちゃんと覗いてきたけどそれらしきものは無かったぜ。」
チーンッ
男「…9階まで何もなしか…」
女「…ぜ、絶対見逃したのよ!」
男「…? どうしたんだよ女?見逃したも何もまだ10階が残ってるじゃないか。」ポチッ
女「………だからよ。」ボソッ
男「え?」ポチッ
女(…だって10階は…)
ゴォォォ…
女(…10階は………)
チーン
女(!? 10階に着いt………っ!?)
女「…う…そ……。」
男「…あったな、『10階』に。」
女「…。」
男「…どす黒い…『大穴』が。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「…女、大丈夫か?」
女「…うん、もう平気。」
男「…まあ、10階はお前の家がある階だからな。ショックなのは当然か…」
女「…。」
男「…でも、これからどうする…?」
女「…どうするって?」
男「あの『穴』の向こうに何があるか確かめるか?」
女「…! …ええ、そうね。」
男「…よし、じゃあその前に…一度整理しよう。」
女「…整理?」
男「女、この階の…というかこのマンションの各階の見取り図は見たことあるか?」
女「…見取り図? いいえ、見た事はないけど…」
男「…そっか。じゃあ、ちょっと図を書いてみよう。」ガサゴソ
女「…図?」
男「ああ。そのために紙とペンを…っと。」ガサゴソ
男「…! あったあった。それじゃあ、見ておいてくれ。」
女「う、うん。」
男「このマンションの玄関は北側にあって裏口は南側にあった。そしてエレベーターはマンションの南西の端っこにあるってことであってるよな?」スラスラッ
女「うん。」
男「そしてこのマンションの部屋は太陽の光を効率的に浴びるためにも全て南側にある。そして通路は北側だ。」スラスラッ
女「そうね。」
男「そして、このマンションは10階建てで、各フロアの部屋は『西側』から1号室、2号室と続いていき、全部で…え~っと…」スラスラッ
女「15室よ。」
男「オッケー、15室だな。そして今俺たちの乗っている『左側』のエレベーターはもう一つのエレベーターよりも『東側』にあって、隣の『右側』のエレベーターは西側の端に位置している。」スラスラッ
女「うん。」
男「…で、ここでお前に聞きたいことがある。」
女「…?」
男「…1号室から15室までは全て同じ間取りか?」
女「間取り? …う~ん、どうだろう…他の人の家には入った事無いし…あっ!でも!」
男「…でも?」
女「確か私が住んでる部屋の隣はかなり大きめになってるってここに引っ越してくる前に不動産屋さんが言ってたのを聞いたような…」
男「…! その隣ってのは…ここか?」トンッ
女「…! う、うん。たぶ…っ!? も、もしかして!?」
男「…ああ。おそらくそこの『穴』はこの部屋に繋がっているんだ。」
男「…この1001号室にな。」
男「おそらく、このマンションのほとんどの部屋が縦長の長方形のカタチになっているはずだ。でも、このエレベーターの隣にある各階の1号室は『逆L字型』のになっているんだろう。」
女「…『逆L字型』?」
男「ああ。エレベーターは一応南側にあるけどそれに必要なスペースって最大5メートル四方ってとこだろう。でも各部屋は南北に12メートルくらいはある。つまり、エレベーターの南側には縦に7メートル、横に10メートルの余分なスペースがあるってこと。だから、1001号室の部屋がエレベーターの南側まで伸びている可能性が高い。」
女「…『逆L字型』ってそういうことね…。」
男「ああ。…まあ、その余ったスペースは配管だとか柱などが入ってるだろうから伸びていたとしても今、俺たちが乗っているエレベーターの南側までだろうな。」
女「…。」
男「まあ、とにかくこの『穴』が1001号室に繋がっている可能性が高い。…っ
てことは、もう犯人探しは簡単だろ。」
女「…!? 簡単って何が??」
男「…? だってそりゃこの『穴』の犯人が1001号室の人ってことはお前も知ってるんじゃないのか?だってお前の家の『隣』なんだし。お前の家は1002号室なんだろ?」(>>104)
女「…!?」
女「…私…」
女「…私、知らない。」
男「…え?」
女「私、というかウチのみんなは知らないのよ。1001号室に誰が住んでるのかってことを。というか誰も住んでないと思う…。」
男「…いやいや、冗談だろ。隣なのに? てか、ここのマンションってかなり人気あるだろ?だから、空き家があったらすぐに埋まるはずなんじゃ?」
女「本当よ!!1001号室には誰にも住んでない!!………気がする。」ボソッ
男「…『気がする』?」
女「…うん。実はここに引っ越してきた当初は誰か住んでたらしいのよ。」
男「…それっていつ頃だ?」
女「このマンションに越してきたのが5年前だったから多分その時ぐらい…」
男「5年前か…で、それからは?」
女「私達も最初、何度か挨拶にいこうとしたんだけどいつも留守で…で、管理人さんに1001号室に誰が住んでるんですかって聞いたら『お金持ちの人がセカンドハウスとして購入したマンションだからまんまりこっちのマンションには帰って来ないみたいだよ』って言ってて。」
男「…金持ちねぇ…」
女「で、その後もお母さんが何度か挨拶として訪ねてみたらしいんだけど1度も出た事がないらしくて…」
男「…成る程。で、そのまま今に至る…と。」
女「…うん。」
男「…よし、とりあえずインターホンを鳴らしにいってみよう。」
女「…! そ、そうね。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ピンポーン
女・男「…………。」
ピンポーン
女・男「…………。」
シーンッ…
女「出ないね…」
男「…みたいだな。これ以上鳴らしても無駄だな。」
女「…どうする?」
男「とりあえず一度エレベーターに戻ろう。あのまま放置しておくのはまずい。」
女「そうね…」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「…さて、どうしたものか…」ボソッ
女「…男。」
男「インターホンを鳴らしても出ないし…そもそも家にはもう既に誰もいないか…」ボソボソ
女「…ねえ、男!」
男「これはもう警察に…いや、警察に通報したら鏡を割った事についての追求が…」
女「男!!!!」
男「…!? な、何だよ大声だして?」
女「…もう」
女「…もう『やる』しかないよ!!」
男「…!? おいおい『やる』ってまさか…」
女「もうそこの『ガラス』を割ってあっちの『大穴』に渡って入るしかないよ!!」
男「…!? お前、あの中に入るつもりか!? ……てか、お前は何でそういつもいつも『割り』たがるんだよ…。」
女「だってあの『大穴』の中に入れば、ここの鏡を魔法鏡にした秘密が分かるかもしれないんだよ!!」
男「…それはそうなんだが…」
女「…。」
男「…はぁ。…だがな、女。あの中に入るってことは不法侵入、つまり『住居侵入罪』も犯すことになるんだぞ。」
女「…!? そ、それは…」
男「更に俺たちは既にマンションの鏡も割ってしまっているからそこに『器物損壊罪』もセットでついてくる。俺たちはまだ18歳未満で成人ではないけど、警察に連れて行かれれば…学校を退学はどころか…」
女「…。」
男「それでもいいなら俺は何も言わない。でも、その覚悟が無いのならもうこれ以上はやめておけ!お前自身、ここが魔法鏡だったからって何の被害も受けてないんだろ?さっき、お前は警察なんてうまく言い訳すれば大丈夫よと言ってたがそんなあまいもんじゃないからな!」
女「…。」
女「…確かに、私はここの鏡が魔法鏡だったからと言って別に何かの被害があったわけではないわ。」
男「だろ? じゃあ…女「でも!!」
男「…!?」
女「…最初はね、ここの鏡を魔法鏡だって分かって、覗かれていたことに対して『怒り』だとか『恐怖』を感じてたの。」
男「…。」
女「…でも、今はそんなのじゃなくて…何故だろう…今、ワクワクしている自分がここにいるの。」
男「…!? …ワクワク?」
女「ええ。…私、この1ヶ月間、他の人が体験出来ないようなすごいことばかり体験してきたわる。そして、今、更なる『謎』が今、目の前に、ほんの1メートル先に迫ってきているの!」
男「…! …女。」
女「確かに私が今からしようとしていることは犯罪になるかもしれない。でも、私はこの先に迫っている『謎』にもっと近づきたい!そして自分の手によってその『謎』を知りたい!!」
男「…。」
女「男はどうなのよ!?」
男「…!? …俺?」
女「私でさえこんなにワクワクしてるのよ!!それなら男もワクワクしてるはずじゃないの!?だって男も半年前に鏡の世界について知り、それに対してワクワクしたからその『秘密』に迫ろうと夢中になってたんじゃないの!?」
男「…! …そ、それは…」
女「…男!!」
男「………。」
男「………はぁ。負けた負けた!…お前の言う通りだよ!俺も正直ずっとワクワクしてた!!今目の前の『これ』に対してな!!」
女「…! …男。」
男「ただ、俺はどうしてもお前にこれ以上危険なことをしてほしくなくて…まあ、それも無駄みたいだな。」
女「…ふふ。ええ、無駄よ!」
男「…ったく、お前ってやつは…ああ、いいだろう!やってやるよ!!」
女「…よし!それじゃあ早速!!」
男「いや、待て女!」
女「…?」
男「あの『大穴』に入るためにはおそらく準備がいる。」
女「…準備?」
男「ああ。女、申し訳ないがお前の家から『バット』と『懐中電灯』、『新聞紙』、それと『ガムテープ』を持ってきてくれ。」
女「…バットと懐中電灯は何となく用途は分かるけど、何で新聞紙とガムテープが?」
男「いいから俺の言った通りのモノを持ってきてくれ。」
女「…? 分かった。」タッタッタ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ガチャ ただいま~
女母「ん? 女、帰ってきたの?」スタスタッ
女「あ、お母さんただいま。でも、ちょっと今は必要なモノを取りに戻ってきただけなの。」ガサゴソ
女母「必要なモノ?」
女「よし、懐中電灯と新聞紙とガムテープはあった。ねぇ!お母さ~ん!確かうちにバットってあったよね~??」
女母「バット?? 多分女兄が少年野球で使ってたバットが女兄の部屋の押し入れに残ってたと思うわよ。でもバットなんて何に使うのよ?」
女「ん~、ちょっとね~」タッタッタ
ガサゴソ
女「おお~!あったあった!…あれ、てかお兄ちゃんは~??」
女母「女兄ならもう同窓会に行ったわよ」
女「あ、そうか今日は同窓会だったっけ。」タッタッタ
女母「女、すぐに帰ってくるの?」
女「う~ん、もうちょっとかかるかもしれないから先にご飯食べておいて。」
女母「わかったわ。」
女「そんじゃ行ってきま…そうだ、お母さん。」
女母「ん?」
女「ここ最近、1001号室の人を見たりしてないよね?」
女母「1001号室? ああ、おとなりの? いいえ、一度も無いわよ。」
女「だよね~…じゃあ、となりの部屋で物音がしたり、エレベーターで何か変なこととか無かった?」
女母「エレベーター? ううん、別に。」
女「…そっか。」
女母「…あ、でも。今日のお昼過ぎ位からエレベーターが点検工事してたわね。」
女「点検工事?」
女母「ええ。いやね、いつもなら点検工事がある際はマンションの掲示板と回覧板でお知らせが事前にあるんだけど、今日のは無くてね。それでいつもと違うな~と思って不思議に思ってたのよ。」
女「…!? …教えてくれてありがとう、お母さん!行ってきます!」タタタッ
ガチャ バタン
女母「…? どうかしたのかしらあの子?」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
タッタッタ
女「男!持ってきたよ!」
男「お!サンキュー!」
女「でも、よく知ってたわね、私の家にバットがあるってことに。」
男「ああ、お前のお兄さん少年野球してたろ?それで、もしかしたら持ってるかもって思ってな。」
女「あ、そうか。男も小学生の時は野球してたのか。」(>>402)
男「ああ。まあ、俺もお前の兄さんと同様で中高ではサッカー部だけど。よし、とりあえず1階に戻ろう。」ポチッ
女「1階?」
男「うん。1階に戻るのはさっきの鏡を割ったときと同じ理由だよ。」
女「あ、そうか。今度は間違いなく割った破片が外に飛び散るもんね。さっきは『窓ガラス』のおかげで外に出なかったけど。」
男「そういうことだな。」
女「でも新聞紙やガムテープは何に使うの?」
男「…よし、それじゃあとりあえず新聞紙を1枚くれ。」
女「…? はい。」ガサガサ
男「サンキュー。とりあえずこれに、さっき割った鏡の破片を包んでおこう。散乱したまんまだと危ないからな。」ガサガサ
女「あ、なるほど。私も手伝うね。」ガサガサ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「よし、1階についたし、鏡の破片も掃除出来たな。1階の外には誰も居なかったよな。」
女「ええ。運良く、みんな隣りのエレベーターに乗り込んでってくれてるみたい。」
男「よし。それじゃあまずはこの窓ガラスを割るぞ。バットを貸してくれ。さすがに足蹴りはもう危ないからな。」
女「はい。」
男「サンキュー。ドアはちゃんと閉まってるよな?」
女「ええ。」
男「オッケー。それじゃあ行くぞ!!!!」ブンッ
ガッシャアアアアアア!!!!
女「~~~~~っ!? 割れた??」
男「おう。木っ端みじんだ。ただ、さっきよりも音がなり響いてしまったし、誰かに聞かれたかもしれないな。」
女「…かもね。」
男「…とにかく、第1段階は完了だ。よし、それじゃあ10階にあがるぞ。」ポチッ
ゴォォォ…
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
チーン
男「着いたな。」
女「でも、男。本当に新聞紙とガムテープって何に使うのよ?」
男「今から使うよ。でもそのために…」グイッ
男「…! …やっぱりな。」
女「…やっぱりって?」
男「女も見てみろよ。向こうの穴を。」クイッ
女「…?」グイッ
女「…あ!? もしかして向こう側の『穴』にも!?」
男「ああ。あっちにも『窓ガラス』がついているみたいだ。さっきはガラス越しでしかも向こう側が暗かったから分からなかったけどな。でも、こっちの穴のガラスを無くして、近づいて『生』で見てみれば窓ガラスが向こうに着いていることも分かる。」
女「なるほど…」
男「…でだ!今からお待ちかねの『新聞紙』と『ガムテープ』を使うぞ。」
女「…え、今?」
男「ああ。その二つを貸してくれ。」
女「あ、うん」ヒョイ
男「まずガムテープを4枚くらい適当な長さに切ったやつそれを半分の長さまで新聞紙に貼っておく。」ペタペタ
男「そしてガムテープの余った部分を向こうの窓ガラスのちょっと下ぐらい貼ってっと…そして新聞紙の反対側にも同様にガムテープを貼ってエレベーターの『穴』のふちに貼付ける…」ペタペタ
女「あ、もしかして割った破片を落とさないため!?」
男「そういうこと。まあ、繰り返しになるが、もし割れた破片がワイヤーを傷つけたりしたら大惨事に繋がりかねんからな。だからこういうことはちゃんとしておかないと。」
女「男って本当に細かいよね。」
男「お前が『適当』すぎるんだよ、女。」
女「え~、そうかな?」
男「そうだよ。…よし!これで、準備完了だ。それじゃあ割るぜ。女、エレベーターの入り口を今だけ閉めてくれ。」
女「了解。」ポチッ
男「バットを持った状態で上半身をエレベーターの穴に突っ込んでっと…」もぞもぞ
女「大丈夫?」
男「ああ。…よし!それじゃあ、いくぜ!女は下がってろ!」
女「う、うん。」
男「…ふぅ。…せ~の!!」
ガッシャアアアアアアアン!!!!
男「…ふい~、相変わらずすっげ~音だな。」
女「大丈夫、男!?破片で怪我とかしてない!?」
男「ああ、平気だ。破片の大部分も『あっちの穴』の向こう側にいってくれたみたいだし、新聞紙の上に載った細かい破片を新聞紙で包めば…よし、オッケー。」
女「ご苦労様、男。」
男「おう。」
女「それじゃあ、これで…」
男「ああ、やっと行けるぜ。『穴』の向こう側に。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「…よし、それじゃあ行こうか!」
女「ええ!」
男「とりあえず、俺が先に行ってちゃんと渡れるかどうかってことと、向こうの様子を見てくるよ。」
女「分かった。」
男「ただ、『こっち穴』と『あっちの穴』の間には50センチくらいの幅が在るからな慎重に渡らないと…急降下の末、お陀仏になってしまうからな。」
女「…! うん、分かった。」
男「…女、大丈夫か?」
女「…? 大丈夫って何が?」
男「…恐くないのか?」
女「…ううん。 男は…?」
男「…! …ああ、俺も何故か恐くないな。…むしろ、よりいっそうワクワクしてきたぜ。」
女「…ふふ。私も一緒よ、男!」
男「だと思ったよ。…よし、それじゃあ俺から行くぞ!」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「…うわ~ やっぱ高いな…」
男「…っと、早く渡ってしまわないと…」モゾモゾ
男「…よし、もうちょっと…」モゾモゾ
シュタッ
男「…ふぅ。何とか渡れたな…。」
女「男~、大丈夫~?」
男「ああ、大丈夫だ! …!?」
女「…?」
男「な、何だ…」
女「…男?」
男「何なんだこの部屋は…」
女「…どうかしたの男!?」
男「…!? あ、いやすまん。女もとりあえずこっちまで渡ってきてくれ。説明するよりもそっちの方が早い。」
女「わ、分かった!」
男「あ、ちょい待ち!一応、こっち側のガラスの破片をよけるからちょっと待ってて!」
女「も~、そんなのいいわよ~。本当に細かいわね~。」
男「…よし、オッケーだ!それじゃあ俺の手をしっかり掴んで。それで慎重にそっちの穴をくぐって渡るんだぞ!あと、下は絶対に見るな!」
女「…何か絶対に見るなって言われたら逆に見たくなるわね。」
男「いやいや、そんなのいいから、今はちゃんと渡ることだけを考えろ!」
女「も~、分かってるわよ。」モゾモゾ
男「…よし、その調子だ。あと、ちょっと!」
女「…よっと。」ドサッ
男「よし、何とか無事渡って来れたな。」
女「ええ。…でも、この部屋真っ暗で何も見えないわね。」
男「そうだな。 女、さっき持ってきてもらった懐中電灯を出してくれ。」
女「あ、うん。確かポケットに…」ガサゴソ
女「はい、これ。一応二本持ってきたよ。」ヒョイ
男「お、気が利くな。よし、それじゃあつけるぞ。」カチッ
女「うん」カチッ
女「…う~ん、何も無いわね。ここは一体どこなんだろ?リビングとかじゃないよね?」
男「ああ。おそらく、普通部屋だろうな。でも女、やっぱりここ、『おかしい』ぞ。」
女「…? 『おかしい』って何が? 何も無いのに?」
男「懐中電灯で周りをよく見てみろ。」
女「周り…?」キョロキョロ
女「……………っ!?」
女「……か、壁が……………!?」
男「…ああ。さっきまで真っ暗で分からなかったけど…この部屋の壁紙は…」
男「…全て『黒色』で埋め尽くされているみたいだ。」
女「…あ、悪趣味にもほどがあるわよ…。」
男「…いや、これはおそらく『趣味』とは関係ないぞ。」
女「…?」
男「壁紙を黒色で埋め尽くしているのはおそらくこの部屋をできるだけ暗くするためだ。」
女「…!?」
男「こっちのカーテンも見てみろよ。」
女「…カーテン?」クルッ
女「…!? カーテンも真っ黒だ。」
男「それだけじゃない。」
女「…!?」
男「このカーテンは『2重』になっていて、しかもどっちのカーテンも黒色だ。」ピラッ
女「!?」
男「だから、この部屋はたとえ昼間だろうと真っ暗闇を維持出来るんだろうな。つまり、この部屋は『魔法鏡』の向こう側を覗くための最高の環境が整っているってわけだ。」
女「じゃ、じゃあやっぱり…!?」
男「…ああ。ここの住人は間違いなくここから『魔法鏡』の向こう側を覗き込んでいたはずだ。」
女「…でも、なんのために…?」
男「…それを探るためにもここの部屋から移動しよう。もしかしたらその『答え』がどこかにあるかもしれない。」
女「…! ええ、そうね。」
スタスタッ
ガチャッ
バタン…
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「…どういうことよ、リビングや和室、そしてトイレ、浴室の全ての壁紙が…」
男「…ああ。まさか、全部『黒』で統一しているとはな…さっきの部屋はともかく、他の場所まで…」
女「…でも、おかしいのはその『壁紙』だけで、他には本当に何もモノがないわね。」
男「そうだな。それに電球も全て取り外されているから電気をつけれないな…やはり、ここには誰にも住んでいないっていうことなのか。」
女「…でも、ここのマンションの家賃って相当高いのに…それにこの1001号室は他の部屋よりも広いわけだし…明らかに何かおかしいわよ。」
男「…確かに。まあ、でもおそらく『ここの住人』は最近は戻って来てないのだろうな。」
女「…! …いや、男。それは多分違うわよ。」
男「…!? 何でだ?」
女「まず、間違いなく『誰か』がここ最近この家に来てるわ。」
男「…!? 何でそんなことが言えるんだ?」
女「だって…」
女「さっきから床にホコリが一つたりとも落ちてないんですもの。」
男「!?」
女「おそらく、『ごく最近』に誰かがここに来て掃除をしたはずよ。じゃなきゃおかしいわ。あまりにも床が奇麗すぎるもの。」
男「確かに…」
女「もうちょっと、この家を探ってみましょう。もしかしたら何か見落としているかもしれない。」
男「ああ、そうだな。」
女「そうと決まれば………ん?」
男「…? どうした女?」
女「ここの壁紙…だけ何か違…」
ガチャガチャッ!!
女・男「…!?」
男「お、おい女!? い、今!?」
女「…ええ。玄関の方でドアノブを回す音が…」
カチャンッ…
男「…!? か…!?」
女「…鍵が!?」
男「おいおいヤバいぞ!! 鍵が開けられたってことはここの『住人』が帰ってきたってことか!?」ボソボソッ
女「と、とにかくこのままだとマズいわ!!どこかに隠れましょ!!」ボソボソ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「…なんとか押し入れに隠れはしたが…どうする?」ボソボソ
女「シッ!!今は喋ったら見つかるわよ!!」ボソボソ
男「す、すまん」ボソボソ
ギィ ギィ
ギィ ギィ
ガチャッ…
バタンッ!
ギィ ギィ
ガチャッ…
バタンッ!
女(…まずい…あきらかに『何か』を捜している。)
女(…!? もしかして『エレベーター』を見られたんじゃ!?)
女(…やっぱりあのまま放置しておくんじゃなかった…)
女(…このままじゃ見つかるのも時間の問題…)
ギィ ギィ
ギィ ギィ
ガチャ…
バタンッ!
男「…女、もうすぐ『奴』が俺たちのいる部屋に…」ボソボソッ
女「…男。」ボソボソッ
男「…!」
女「…覚悟を…決めるわよ。」ボソボソッ
男「…! …ああ、そうだな。もう逃げられそうにないしな。」ボソボソッ
女「…よし、それじゃあ『奴』がこの押し入れの戸を開けた瞬間に飛びかかって、あっちがひるんだところを見計らって逃げるわよ。」ボソボソッ
男「了解だ。」ボソボソッ
ガチャッ
女「…入ってきた!それじゃあカウントをとるわよ。」ボソボソッ
男「頼んだ。」ボソボソッ
ギィ
女「3…」
ギィ
女「2…」
ギィ…
女「1…」
ガタッ
女「今よ!!!!」
女・男「うわああああああ!!」ダダッ
?「…!?」ヒョイ
ドターンッ
女・男「…!?」
女「よ、避けられた!?」
男「女!!そいつにもう構うな!!逃げr…ぐわ!?」グイッ
女「男!!!!」
男「は、離せ!!」
?「こらこら、逃げなさんな。」
女「…!? あ、あなたは!?」
?「やれやれ、やっぱり女ちゃんたちだったか。」
男「女! だ、誰なんだよこいつは!?」
女「男、その人は…」
女「このマンションの管理人さんよ。」
男「…へ?」
管理人「まったくもう、一体こんなところで何をしておったんだ、女ちゃん。というかこの男の子は誰だい?もしかしてコヤツに襲われてたのかい!?」
女「あ、その子は私の高校の友達で…別に襲われたりはしてないので大丈夫です。」
男「い、いい加減、はなして下さい!」
管理人「なんだ、女ちゃんの友達だったのか。すまないことをしたね。」ヒョイ
男「うわっ!」ドテンッ
女「…でも、何で管理人さんがここに?」
管理人「いやね、私の今日の仕事は終わったから自分の家に帰ってきたんだけど、10階の○○さんから緊急の電話がついさっき来たのさ。『エレベーターがとんでもないことになっているから来てくれ』ってね。」
女・男「あ…」
管理人「それで、このマンションに戻ってきてもう一つのエレベーターで10階まで上がってみたら、なんとエレベーターとその奥に『穴』が空いてるじゃないか。」
女(あちゃ~…)
男(やっぱり他の人に見られたか…)
女「…ん?でもさっき管理人さん、私を見つけて『やっぱり女ちゃんだったか』って言ってましたけど、何で私だと分かったんですか?」
管理人「いやね、ちょうどそのエレベーターの中に女兄くんの名前が書かれたバットがあったからね。最初は女兄くんの仕業かな?ともおもったんだけど、女兄くんは私が16時頃に久しぶりに戻ってきたという事で挨拶に来てくれてね。その後1時間ぐらい喋った後にそのまま女兄くんは同窓会のために出かけて行ったから、女兄くんではなくもしかしたら女ちゃんじゃないのかと思ったのさ。」
女「あ、なるほど…」
管理人「…で、やっぱり、あのエレベーターの惨状は君たちの仕業なんだな??」
女・男「…!? …は、はい。」
管理人「はあ…全く…。とにかく!話は管理人室でするから2人とも着いてきなさい!」
女・男「…はい。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
管理人「…なるほどね。それで、鏡とその奥にある窓ガラスを割って、1001号室に入ろうとした…というわけだね?」
女・男「…はい。」
管理人「…でも、本当にあそこには魔法鏡があったのかい?ワシがエレベーターに落ちていた鏡をさっき見た限りは『普通』の鏡だったが…」
男「だから、以前まで『あった』って言ってるじゃないですか!」
管理人「…う~ん。でもそれを証明出来るものは何も無いだろ?」
男「…! それはそうなんですけど…」
女「…でも、管理人さんもあの『穴』を見ておかしいと思ったでしょ?」
男「…!」
管理人「それは…まあ確かにな。」
女「それに管理人さんもさっきのあの1001号室を見たでしょ!!辺り一面真っ黒なあの壁を!!あきらかに『異常』ですよあの部屋は!!」
管理人「…。」
女「そもそも管理人さんはエレベーターやあの部屋があんな状態になっていることを知らなかったんですか!?」
管理人「…ああ。ワシも今日初めて知って正直ビックリしてるんだよ。あくまで管理人っていうのはマンションの『管理』と『維持』がその役割だからね。だからエレベーターのこととか部屋の内装のことなどにはほとんど関わることがないのさ。」
女「…!? …じゃあ、あそこには一体誰が住んでいるんですか!?それぐらいは分かるでしょ、管理人さんなら!!教えて下さい!!」
男「お、女。ちょっと落ち着けって…」
管理人「…ごめんね、女ちゃん。それは教えられないんだ。」
女・男「…!?」
女「な、何でですか!?」
管理人「一応そういった情報も『個人情報』に含まれるからね。プライバシーの面からもそう簡単に教えられるもんじゃないんだよ。それにその『住人』本人からおういうことを絶対に口外しないで欲しいと頼まれているんだ。」
男「…!? …本人から…?」
女「…。」ガタッ
男「…女!?」
女「…プ、プライバシーって!? 私や他の10階の人達はもしかしたらあの『穴』から覗かれてたかもしれないんですよ!?あそこの『住人』に! それこそプライバシーの侵害じゃないんですか!?」
管理人「…そうだね。もし、覗かれていたのが『個人の部屋』だったら犯罪になるかもしれない。でも今回覗かれていたのはその『個人の部屋』ではない。『エレベーター』なんだよ、女ちゃん。」
女「…!?」
管理人「エレベーターのその扱いは一応『公共の場』とされているからね。それにこれまでで誰かが、あの穴から覗かれて何かしらの被害を受けたとは考えにくい。まあ、もしあの『穴』がもうちょっと下にあれば女性のスカートの中を覗き見ることとか出来たかもしれないけどあの『穴』の位置だとそれは無理じゃろ?」
女「…!? でも!!」
管理人「…なあ、女ちゃん。」
女「…!?」
管理人「今回君たちがやったことは目をつむってあげるつもりだよ、ワシは。」
女・男「!?」
管理人「だから、これ以上騒ぎを広げるようなことはやめてくれないかい?他の住人の皆さんを不安にさせるようなことはしないで欲しいんだよ。」
女「!? そ、そんな!!私は別に騒ぎを広げようとしているわけじゃ…」
管理人「今回、君たちが壊した鏡や、元々あった『穴』はワシがマンションのオーナーにお願いしてちゃんと修復してもらうようにしてあげるからね?だから君たちは弁償しないで大丈夫。もちろん君たちを警察に連れて行くつもりもこれっぽちもないんだ。鏡はエレベーターの中ではしゃいでいたらわれてしまったことにすればいいし、1001号室に侵入したのも悪戯心が働いてしまって…ってことにすれば1001号室の『住人』も警察に通報はしないだろうし…だから…ね?」
女「…!?」
女(…これじゃあ…)
女(…これじゃあまるで…『今回は許してやるからこれ以上踏み込んでくるな』っていう『取引き』じゃない…。)
男「…。」
管理人「どうかな?ワシのお願いを聞いてくれるかい?」
女「…!? …それでも私h…」
男「女!!!!」
女「…!? な、何よ男!?止めないでよ!!」
男「…お前の気持ちはすごく分かる。…でもな、ここは管理人さんの話に乗っておけ!お前、本当に犯罪者になりたいつもりか!?」
女「…!? …いいわよ!!別に!!犯罪者だろうがなんだろうが!!それよりも私は『謎』を優先するわ!!」ガさっそくですが
ピッピッピ
prrrrrr prrrrrr
男「…!? お前どこに電話してるんだよ!?」
女「…警察に決まってるじゃない。」
男「…!? お、おいよせって!!」
女「…あ、もしもし警察ですか?」
管理人「…。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
警察官「…なるほど。つまり、その1001号室の『穴』から覗かれていた可能性がある。というわけだね?」
女「…はい。」
警察官「今、女さんの言ってたところに相違点などはありませんでしたか、お二方?」
男「はい。」
管理人「ええ。」
警察官「そうですか。…ん~、でもつまりは今のところ『これといった被害』はまだ報告されていないんですよね~。これはちょっとね~…」
女「…!? でも、これも立派な『覗き』という犯罪じゃないんですか!?」
警察官「う~ん…そこのところが結構曖昧なんだよね~今回は。」
女「…曖昧?」
警察官「『覗き』っていうのは『軽犯罪法第1条:正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所、その他、人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者』に該当する者にその罪を問うことが出来るんだ。でも、今回はエレベーターという『公共』の空間で、しかもほとんどの人が『衣服』を装着していたはずだろ?だから、これを立件するのはなかなか難しそうなんだよ。」
女「…!? そ、そんな…じゃあ…あれは『犯罪』ではないということですか!?」
警察官「まあ、そうなるかなぁ…でも、女さんが言っていることも確かに分かるんだよ。だから、今回で『覗かれていた』ということが分かってショックで『鬱』になるような人が現れれば、立件できる可能性はある。ただし、その場合はかなりの時間を要することになるだろうね。」
女「そんな…じゃ、じゃあ、エレベーターと部屋の壁に『穴』を開けた事についてはどうなんですか!?あれこそ『器物損壊罪』なんじゃないですか!?」
警察官「う~ん。それなんだけどね~…管理人さん。その1001号室に住んでらっしゃる方はその部屋を賃貸としてかりてるんですか?それとも分譲購入されてるんですか?」
管理人「購入されています。」
警察官「なるほど…つまり、部屋の所有権はその方に…。う~んでも壁を突き破ってしまっていたら、それはもう器物損壊になるのかな? う~ん…」
女「…!? で、でもエレベーターの『穴』は間違いなく器物損壊なんじゃ!?」
警察官「でもその人がエレベーターの『穴』をあけたとは断定出来ないだろう?」
女「!? いやいや、絶対にその人ですよ!!」
警察官「それはどうだろう? その人はもしかしたら、ひょんなことでエレベーターに『穴』があいてることを知り、その後に自分の部屋に『穴』をあけた、という可能性も考えられるだろ?」
女「…!? そ、それは…でも、そうだとしても…!!」
警察官「…う~ん、とりあえず管理人さん。エレベーター関連の資料と1001号室に住んでる方の資料を見してもらえませんか?」
管理人「…!? そ、それは…」
警察官「あ、もしプライバシーがどうとかのことであれば『しかるべき場所』にちゃんと書類を申請した上で要求させていただきます。…まあ、でもそれはめんどくさいので出来たらここで見せてもらいたいのが正直なところなのですが…」
管理人「…分かりました。…ですが…。」チラッ
警察官「…ああ、大丈夫ですよ。拝見させてもらうのははもちろん私だけですので。この2人には外で待機してもらいます。…ってなわけだから、2人ともごめんだけど外にちょっと待っててくれないかい?」
女・男「…はい。」ガタッ
ガチャッ
バタン
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「…なんだか頼りない警察官ね、あの人。」
男「…だな。 …でも、どうするんだ、女?」
女「…どうするって?」
男「もしもこの後、管理人さんが俺たちが鏡を割った事や1001号室に不法侵入した事を『被害』として報告されたら一巻の終わりだぞ?今はまだ管理人さんも黙っていてくれているが…」
女「…その時は…その時よ。」
男「…! …おいおい。」
女「…でも」
男「…?」
女「…やっぱり怪しいわ、あの管理人さん。」
男「…! …ああ、確かに。」
ガチャッ
女・男「…!!」
警察官「いや~、2人とも待たせて悪かったね。…で、早速なんだが。」
女・男「…?」
警察官「本件に『事件性』はないと判断させてもらった。だから、君たちももう帰ってくれていいよ。」
女・男「!?」
女「ど、どういうことですか!?」
警察官「ん? どうもこうも、言っただろ?『事件性はない』って。」
男「…。」
女「だから何で『事件性はない』と判断出来たんですか!?」
警察官「さっき管理人さんに見せてもらった資料を見て私がそう判断したんだ。」
女「だから!!その資料のどういった情報から判断を!?」
警察官「…ったく。五月蝿いなぁ…」
女・男「!?」
警察官「警察が『事件性がない』って言ったら本当に事件性はないんだよ。それとも何か?君たちは『犯罪者』になりたいのか?」ギロッ
女「…!?」
男「…。」
警察官「…さて、それじゃあ私は帰らせてもらうよ。こう見えても忙しいんでね。まあ、2人とも管理人さんに感謝するんだな。」
女「!? そ、それって…」
男「…。」
警察官「…いや、管理人さん『ではない』か。…はは、まあいいや。それじゃあね。」スタスタッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ガチャッ!!
管理人「!?」
女「管理人さん!あの人に一体なにを吹き込んだんですか!?」
管理人「!? い、いや、ワシは別に何も…。」
女「嘘だ!!何か『取引き』をしたんじゃないんですか!?じゃないとおかしいですよ、あの人があんな急に帰るなんて!!」
管理人「わ、ワシは本当にただ資料をみせただけで…」
女「じゃあ私にも見せて下さいよ!!その資料を!!」
男「…女!!!!」
女「…!? 何よ男!!また止めるk…」
バシーーーンッ!!
女「~~~~~~っ!?」ジーンッ
管理人「!?」
女「…男、何で…」
男「…いい加減にしろ!!女!!みっともないぞ!!」
女「…!? …で、でも」
男「でももクソもない!!ほら、もう用事は済んだんだ!!行くぞ!!」グイッ
女「…あっ。」
ガチャッ
バタン
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ガコガコンッ
男「…はい、これ。ジュースでほっぺを冷やしておけ。」ヒョイ
女「…あり…がと…」パシッ
プシュッ
ゴクッゴクッ
男「…っふぅ…。」
女「…。」
男「…さっきはごめんな、女。殴ったりして…。『男』のくせに女の子に手を挙げるなんてほんと最低な野郎だ俺は。」
女「…。」
男「…でもな、さっきのあの場面ではああでもしないとお前を止められなかった…。あれ以上女を放っておいたらおそらくお前、管理人さんに飛びかかっていたぞ。そんなことになったら今度はお前に『暴力罪』を背負わせることになってしまう。だから…。本当にゴメン……」
女「…ううん。男の言うとおり、さっきの私はすごくみっともなかったし、あのままだと何をするか分からなかった。だから…すごく感謝してる。」
男「いや…だとしてもだ……。よし!!女!!俺を殴れ!!思いっきりな!!」
女「…え? わ、私が??」
男「そうに決まってるだろ!? さあ、さっきの仕返しだと思っておもいっきり殴ってこい!!」
女「…で、でも…」
男「さあ、早く!!あの旧校舎の鏡を割ったときのように!!」
女「~~~っ!? …うう~、えい!!」ペチ
男「…っておいおい何だよこのへなちょこパンチは!? な~に可愛子ぶってんだよ!?お前の本気をみせてみろよ!!お兄さんに3発喰らわしたという腹パンをよ!!」
女「…か、可愛こぶってなんかないわよ!!てか3発じゃなくて2発よ!!」ドコォ!
男「かはっ!?」ガクッ
女「…って、男!? だ、大丈夫!?」
男「や、やればできるじゃんか…」ピクピク
女「…ぷっ。あはははははは!」
男「…くくっ…あははははは!」
男「ははははっ…さあ、落ち着けたか、女?」
女「…!? うん、大分ね。ありがとう、男。」
男「いえいえ、どういたしまして。」
女「…でも。」
男「…?」
女「いったいどういうことなんだろう…」
男「…! …そうだな。」
女「…やっぱりおかしいわよ『あの2人』。エレベーターや壁に穴が空いている事はもちろんの事、1001号室の壁紙が真っ黒だっていうことを普通の人が知ったらもっと驚くか怖がるもんじゃない!? でも、『あの2人』は終始冷静だったわ。」
男「…確かにな。正直あれは『異常』だったもんな。」
女「ええ。本当にあれは異じょ……」
男「…ん? どうした女?」
女(………『異常』………?)
男「女?」
女「…。」スタスタッ
男「…!? おいおいどこに行くんだよ女!? …っておいまさか!?」
女「…大丈夫よ、男。」クルッ
男「…!?」
女「今回は冷静だよ、私。ただ、あの管理人さんに一つ確認するだけ。」
男「…確認?」
女「…ええ。大事な大事な『確認』をね。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ガチャッ
管理人「!? 女ちゃん?」
女「良かった、管理人さんまだ帰ってなくて。」
管理人「こ、今度は何の用事だい?」
女「さっきは取り乱してしまって本当にすみませんでした。ただ、どうしても聞きたい事がありまして。」
管理人「…聞きたい事?」
女「今日、お母さんから聞いたんですけど、今日の昼過ぎにエレベーターの点検工事をしていたって本当ですか!?」(>>)
管理人「…!? …あ、ああ。そういえばしてたね。」
女「でも、点検工事っていつも事前に住人に連絡があるんですよね?でも、お母さんが言うにはその連絡が無かったらしいじゃないですか。何で今日の点検工事ではその連絡が無かったんですか?」
管理人「…そ、それは急にエレベーターの調子が悪くなって…それで点検してもらう事になったんだ。」
女「…ふ~ん。エレベーターの調子がねぇ…でも、そんな急に調子が悪くなるものなんですか?5年前に出来たばっかりのエレベーターなのに?いったいどんな『異常』があったんですか?」
管理人「あ、ああ。ちょっとエレベーターの電子機器にトラブルがあったみたいでね。それで部品交換してもらったんだ。」
女「そうだったんですか。…で、その工事って何時から何時までだったんですか?」
管理人「う~ん…どうだったかな…ワシ、今日は夕方から管理人室に居ないことが多かったからな~。」
女「え?でもさっき管理人さん、私のお兄ちゃんと16時頃から1時間話していたって言ってたじゃないですか?16時から17時って『夕方』じゃないんですか?」(>>545)
管理人「…! …あ、ああ~!そ、そうだったな!いや~すっかり忘れてたよ。うん。夕方も管理人室に居たな~そういえば。いや~、もう歳だから忘れっぽくてね。」
女「ふ~ん…で?」
管理人「…『で』って?」
女「だから、点検工事は何時から何時までだったんですか?」
管理人「…! あ、こ、工事ね。え~っと確か15時から17時すぎまで掛かってたと思うよ!」
女「…! 15時から17時過ぎ…」
管理人「…女…ちゃん?」
女「…ふふ、教えてくれてありがとうございます、管理人さん。それじゃ♪」ニコッ
管理人「…! …あ、ああ。また…ね。」
スタスタッ
ガチャッ
バタンッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「…! 女!どうだったんだ!?」
女「ビンゴよ、ビンゴ。やっぱり私の思ってた通りだったわ。」
男「ほっ…。でも何がビンゴだったんだ?」
女「おそらく、あのエレベーターの鏡は今日の昼過ぎまでは『魔法鏡』だったのよ。」
男「な!?」
女「今日、何故かうちのマンションでは15時からマンションの点検工事が『告知無し』で行われたらしいの。」
男「…告知無し?」
女「そして、その点検工事の間にあそこの魔法鏡を普通の鏡に変えたのよ。」
男「…!? おいおい、マジかよ!?でも、何で今日の工事で鏡が変えられたって断言出来るんだよ?いくら今日の工事が『急』なことだったとしてもそうと決めつけるのは…」
女「…ええ。確かに判断材料がそれだけなら、そうと決めつける事は出来ないと思うわ。でも、もう一つの私達の身の回りで起きた出来事がそれを『正しい』を証明するための鍵になるわ。」
男「もう一つの出来事?」
女「それは…姉友さんとのあの出来事よ。」
男「…!? 姉友さんだと?」
女「…ええ。私達と姉友さんが今日出会ったのはちょうど15時過ぎ、そして姉友さんが私達の前から急に去ったのは17時過ぎ。」
男「…!? その時間帯って…」
女「…ええ。エレベーターの工事の時間と私達が姉友さんと居た時間帯がぴったり合致するの。」
男「…でも、それがどうだっていうんだ?」
女「…決まってるじゃない。姉友さんは私達をこのマンションに行かせないように『時間稼ぎ』をしていたのよ。」
男「!?」
女「姉友さんとの出会い方や別れ方、そしてお祭りへの連れて行き方のあの強引さ。全てがあまりにも不自然だったわ。だから、おそらく姉友さんはあのエレベーターの工事が終わるまで、私達の足止めをするように急に『指示』されたのよ。」
男「!? し、指示って誰に…!?」
女「………。」
男「…!? …お、おいまさか…」
女「…ええ。あの人以外考えられないわ…」
女「…あなたのお姉さん以外には…ね。」
男「…い、いや。でも姉友さんに指示していたのが姉さんだとは限らないだろ!?」
女「…でも、私や男、物理の先生以外で周りに、鏡について精通している人なんて他にいる!?」
男「…!? そ、それは…」
女「それに、男言ってたわよね。『今はとにかく目の前の全てのものに対して『疑い』の姿勢でいどまないと、もしかしたらとんでもないことになるかもしれないんだ』ってね。」(>>494)
男「…!?」
女「…確かに、今回のマンションの件の黒幕がお姉さんだと決めつけるのは早いかもしれない。けど、ちょっとでも怪しいと思った時点で『疑い』の姿勢でいどまいといけない。違う?」
男「…。」
男「…ああ、そうだな。女の言う通りだ。たとえ、自分の姉だとしても、怪しいと思ったら疑わないとな。」
女「…。」
男「…よし、そうと分かったらどうする、女!?」
女「…!? そうね…とりあえずお姉さんに電話しましょう。」
男「…電話…か。はあ…てか、姉さんとの約束を破った事、何て言い訳しよう…」
女「…!! ちょっとそんなのもうどうでもいいじゃない!!守らなかったらこういうペナルティがあるとは別に言われてないんだし大丈夫よ!!」
男「だと、いいんだけど…よし、とりあえず掛けるか。」ゴソゴソ
女「お願い。」
男「…よし。」ピッピッピッピッ
ブーッ
男「あれ?」
女「…?どうしたの?」
男「い、いや。ちょっと待って。」ピッピッピッピッ
ブーッ
女「…どうしたのよ??」
男「いや…携帯のパスワードが…」
女「パスワード?」
男「…! あ、そうか!!」
女「…何なのよさっきから?」
男「いやさ、確か俺先週姉さんに携帯を盗まれただろ?」(>>293)
女「ああ、そういえば。」
男「で、その前に裏々男が裏々の姉さんにパスワードを教えたんだろ?それで表の姉さんもそのパスワードを教えてもらってお前の入れ替わりに使ったんだよな?」(>>349)
女「そうだけど、それがどうしたの?」
男「それでその後、俺は裏々の世界に行ってしまい、裏々男が表の世界に来たわけだけど、あいつ入れ替わった直後に姉さんから携帯を返してもらうの忘れやがってさ。」
女「…あ、そういえば返してもらってなかったかも…」
男「だろ?で、返してもらったのは家に帰ってからだったんだけど、実は返してもらったら携帯のパスワードが変わっててさ。」
女「パスワードが?」
男「ああ。で、その新しいパスワードはすぐに姉さんに教えてもらったんだけど、裏々男のやつパスワードをめんどくさがって元に戻さずそのままにしてたんだ。…で、今日俺がこっちに帰ってきたわけだけど、表の世界に戻ってから携帯を触るが今が初めてなんだ。」
女「…あ! だから…」
男「そう!俺は携帯を自分自身で使うのは1週間ぶりで、さっき入力してたのも1週間前までの使い慣れたパスワードだったんだ。でも、今のパスワードは新しい方のだから、さっきからエラーが続いていたんだ。」
女「なるほど。…で、もしかしてその新しいパスワードを忘れたってオチじゃないでしょうね?何ならもう私が掛けましょうか?お姉さんの番号は一応知ってるし。」
男「覚えてるってそれぐらい!ええ~っとたしか…あ!そうだそうだ!」
男「確か…」ピッピッピッ
男「…ん?」ピッ
男「~~~~~っ!?」
男「………。」
女「…どうしたのよ、男?またエラー?」
男「…そんな…でもこれって……」
女「…?」グイッ
女「…何だ、ちゃんとロック解除出来てるじゃない。何をそんな驚いてるんだよ。」
男「……女。」
女「…ん?」
男「……姉さんは多分黒幕なんかじゃない…」
女「…え?」
男「…黒幕じゃない…むしろその『逆』かもしれない…」
女「…どういうことよ?」
男「…何故ならさっき俺が入力したパスワードの番号は…」
女「…番号が?」
男「…『1』」
男「…『0』」
男「…『0』」
男「…『1』」
女「ふ~ん。『1001』ねぇ。 ……えっ!?そ、それって!?」
男「…ああ。あの『1001号室』の部屋番号と同じだ…」
女「嘘…でも、『1001』なんて結構ありきたりな数列だと思うし…偶然なんじゃ…」
男「でも、パスワードは10000通りあるんだぞ!? そんな偶然があるもんか!」
女「…! そ、それか…もしかしたらうっかり…」
男「姉さんがそんなポカするわけない。あの人は正真正銘の『天才』だ。それに…」
女「…?」
男「もしも姉さんがマンションの件の黒幕ならこんな重要な『ヒント』を俺の携帯に残しておくようなことをするか!?もしも姉さんが姉友さんに時間稼ぎを本当にさせたのなら、それとこれはあきらかに矛盾した行為だろ!?」
女「…! そ、それは…」
男「むしろ、姉さんは俺たちの味方じゃないのか!?だって今朝、女が裏々男
を見破ったのはそもそも姉さんが電話してくれたおかげなんだろ!?」
女「…! うん。」
男「…だろ? やっぱり姉さんはやはり黒幕じゃないと思うぜ。」
女「…でも、じゃあ姉友さんのあれは…一体…?」
男「…! 確かに姉友さんが時間稼ぎをしていたのは本当かもしれない。でも、それと姉さんは関係はないはずだ。」
女「そうなのかな…」
男「絶対そうだって!」
女「…。」
女(…男はこう言ってるけど、やっぱり私はお姉さんが…)
女(…だって…)
女(…だってあの時…姉友さんが大窪寺での電話を切るときに…見えてしまったんだから…)(>>492)
女(…携帯の画面の通話相手が…)
女(…『男姉』ってなってるのを…)
男「…女?」
女「…あ、ご、ごめん。どうかした?」
男「とにかく一応姉さんに電話してみるな。敵であれ味方であれそれを確認するためにも。」
女「…!! え、ええ、そうね。」
女(…そうだ。敵であれ、味方であれ、まずはお姉さんと話してみないと何も進まないんだし。)
男「よし…」ピッ
prrrrrrr prrrrrrr
男「…駄目だ。出ないな。ちょっと家に電話してみるよ。」
女「…あ、うん。」
男「…あ、もしもし母さん? 姉さんいる? え、いない? え、どこに? 同窓会?」
女(…! あ、そうか。今日はお兄ちゃん達の高校での同窓会だったんだ。)
男「いつ帰ってくるとか聞いてる? え?帰って…来ない?」
女「!?」
男「え、それってどういうことだよ…!? 明日から友達と海外旅行!?え、それでそのままこっちに帰って来ずに東京に!?」
女(…!? ってことはお姉さんとはもうしばらくは会えないということじゃ!?)
男「ちょっと待ってよ!俺、その話全然聞いてないぞ!? え、『言ってないもん』って!? な、何で言ってくれなかったんだよ!? え…『姉さんが男には言うなって言ってた』って!?」
女(…なんだろうこの感覚…『謎』が…『謎』がどんどん私から遠ざかっていく。)
女(…すぐそこにまで近づいたと思っていたのに…どうして? どうして私の元から…)
女(…そもそも私…)
女(…いったい『何』と戦ってるの??)
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―2012年/3月/21日/香川/ ―――――――----
【香川市内、居酒屋】
ガヤガヤガヤガヤ
カンパ~イ!!!!!
ガヤガヤガヤガヤ
女兄「…」ゴクゴクッ
兄友「よ~女兄!!久しぶりじゃねえか!!」
女兄「…! あ、ああ。久しぶり。」
兄友「…? どうしたんだよ元気ねーなー。ちゃんと飲んでるのか!?」
女兄「はは、飲んでるよ。」
兄友「そっか?ならいいんだけど。…ってか、おめえ何でこの4年間香川に帰ってこなかったんだよ!!神戸と香川なんてすぐそこじゃねえか!!寂しかったんだぞ!!」
女兄「あははは、悪い悪い。まあ、色々と忙しくてな。」
兄友「マジか~…まあ、お前KB大で色々頑張ってたらしいもんな。就職もいいとこに決まったんだろ?」
女兄「ああ。おかげさまでな。」
兄友「くぅ~~!!いいな~!!東京だろ!?俺なんかこれからもずっと香川だぜ!?いい加減、とっととこの町から出たいぜ!!」
女兄「…はは、いい町じゃないかここは。」
兄友「ええ~??そうか~??もう俺は飽きちまったよ…」
女兄「あはは!まあ、兄友は飽き症だもんな!趣味も女の子も!」
兄友「あ!?てめ!?一言よけいなんだよ!!」グリグリッ
女兄「ちょ!痛い痛いって!!」バタバタ
兄友「この4年間戻って来なかった罰だよ!!おらおら~!!」グリグリッ
女兄(…! …罰…。)
兄友「…ん? どうした女兄?」
女兄「…! あ、いや。別に何も…無いよ。」
兄友「…そうか? ならいいんだけど…ん??何か入り口の方が騒がしいな。」
ワー! ワー!
女兄「…ほんとだ。」
兄友「…お!!どうやらあの『美女3人組』が来たみたいだぜ!!女兄もあっち行ってあいつらと絡もうぜ!!」
女兄「…ああ。先行っててくれ兄友。俺はもうちょいここで飲んでおくよ。」
兄友「そうか? なら、先に行っておくぜ~! 早くこいよ~!」タッ
女兄「…ああ。」
タッタッタ
女兄「…」ゴクゴクッ
コトンッ
女兄(…『良い町じゃないか』…か。どうして思っても無い事を…)
女兄(…ただ、女には今日、思わず本音を漏らしてしまったな…)(>>402)
女兄(…いつからだっけな…この町を嫌い…そして怖がるようになったのは…)
女兄(…! …そうだ…あの時からだな…)
女兄(…ちょうど4年前のあの日…)
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―2008年/3月/21日/香川/ ―――――――----
女兄「ただいま~!!」
女母「おかえりなさ~い」
女「おかえり~、お兄ちゃん。…ん。お兄ちゃん汗臭い!!」
女兄「あははは!友達と汗だくになるまでサッカーしてたからな。いや~、でもさすがにあったかいなあ。」
女母「ふふ、桜ももう咲いてるしね。さあ、女兄。夕飯の前にお風呂に入ってきなさい。」
女兄「ああ、そうするよ。」
女「お兄ちゃん!今日はお母さんとミートパイ焼くんだよ!」
女兄「おお~ミートパイか!?俺、女の作るミートパイ好きなんだよな~、楽しみにしてるぜ。」ニコッ
女「ふふ、任せておいて♪」ニコッ
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ガラガラッ
女兄「ぷは~!!良い湯だった~」ホカホカ
女兄「ドライヤー♪ドライヤー♪っと。」カチッ
ブォォォォォォン
女兄「ふんふんふん♪」ブォォォォォォン
バチンッ
女兄「…あれ?」
女「きゃー! お母さん停電だよー!!ミートパイがー!!」
女母「女兄ー! もしかして今ドライヤー使ってたー!?」
女兄「おーう! 使ってたよー!」
女母「あちゃー、やっぱり。オーブンとかハロゲンヒーターとか電気を大量に使う物を一緒に使ったからブレーカーが落ちたんだわ。」
女兄「みたいだねー。」
女母「女兄ー!ちょっと悪いけどあんたがブレーカー戻してくれない!?」
女兄「…え!?何で俺が!?」
女母「そっちの洗面所の方がブレーカーに近いでしょー!?うちのブレーカーは洗面所出たすぐの場所にあるんだし。」
女兄「あ、そういうことね。オッケー!任せろー!」
女母「お願いねー!」
女「お母さーん!!私のミートパイがぁぁ…」
女兄「はは、女のやつパニックってるな。あとでおちょくってやるか!あっはっは!」
女兄「…でもその前に、やんと電気をつけてあいつを助けてやらないとな。」
女兄「…とは言ったものの…暗くて全く何も見えん。何か明かりは…」
女兄「…お! そうだ、確かさっき脱ぎ捨てたズボンのポケットに…」ゴソゴソ
女兄「おお~!あったあった!携帯発見!これのライトをつけてっと…」ピッ
女兄「よし、これで前が見えるぜ。」
女兄「とりあえず廊k……………」クルッ
女兄「…………ん?」
女兄「~~~~~~~っ!!!????」
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―2012年/3月/21日/香川/ ―――――――----
女兄「…」ゴクッゴクッ
コトンッ
女兄(…あの時からだ。俺がこの町に居心地の悪さを感じるようになったのは…)
女兄(…最初は気のせいだと思っていたけど…)
女兄(…でも、やっぱりあれは…)
女兄(…神戸に行ってからも正直ろくなことがなかったな。)
女兄(…俺が好きになった人や付き合った人とは必ずと言っていいほど、すぐに関係がわるくなるし…)
女兄(…良かった事と言えば、成績と就活ぐらいか…)
女兄(…ただ、就活も正直何で俺が採用されたか分からないんだよな…)
女兄(…面接じゃろくに喋れなかったし…)
女兄(…今、振り返ってみると本当につまらない学生生活だった…)
女兄(…まあ、でもそれも俺が負うべき『罪』なのかな…)
女兄(…あの日、俺が『見たもの』を家族に言わず、そしてあの家から逃げ出した俺の『罪』はそんなに安くないってことか…)
女兄(…でも、言ったところで信じてもらえるわけないよな…)
女兄(…………あの日…)
女兄(…………『洗面所』の鏡の向こう側に…)
女兄(…………『6つ』の光る目が見えたことなんて…)
オーイ!! オンナアニー!!
女兄「…! …ああ、今行くよ。」
女兄(…まあ、あれはもう忘れよう。)スタスタッ
女兄(…鏡の向こう側に…)スタスタッ
女兄(…人なんているわけないじゃないか。)スタスタッ
スタスタッ
----―――――――――――――――――――【叙】―
―【鏡の世界でのルール(No.1)】―――――――――----
● 体について
① 体の自由はほとんど効かない。表の世界にいる『主』が絶対的な存在であり、その『主』の行動が鏡の世界の住人にも反映される。(>>57)
② 表の世界で『行動権』を持つ者を『主』、表の世界で生まれ育った者を『オリジナル』という。(>>81)
③ 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの五感は働く。(>>93)
④ 鏡の世界では『考えること』と『喋ること』が出来る。(>>58)
⑤ 鏡やガラスといった光を反射させるもの(反射物)に表の世界の『主』が映っている場合は鏡の世界の住人は『喋ること』が出来なくなる。『考えること』は可。(>>59)
⑥ 『主』が反射物に映っている時は『主』の『喋る』内容が鏡の住人にも反映される。(>>59)
⑦ 飲食時は反射物に映っていない時でも、表の世界の『主』の口の動きと同化する。(>>93)
⑧ 反射物に、自分の像が映し出されるその5秒前に、脳に合図が走り、『喋ること』ができなくなる。ただし、これは自我を持った人間のみに起きる現象である。(>>60)
● 自我について
① 鏡の世界の人間が自我を持つためには、鏡の世界の人間自身が『鏡の世界の人間』だと自覚する必要がある。(>>76)
② 自我を持つことによって鏡の世界の住人は『考えること』と『喋ること』が出来るようになる。(>>76)
③ 自我を持った鏡の住人は、反射物に自身の姿が映る度に表の世界の『主』の記憶が共有されるようになる。ただし、オリジナルには共有されない。(>>161)
④ 鏡の世界の住人が自我を持つためには『他に自我を持った人間から鏡の世界についてを教えてもらう』もしくは『表の世界のオリジナルが鏡の世界のことの存在を知る』必要がある。(>>80)
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―【鏡の世界でのルール(No.2)】――――――――----
● 鏡の世界の特徴について
① 鏡の世界は半永久的に存在する。(>>53)
② 鏡の世界は、裏の世界、裏々の世界、裏々々の世界と、表の世界から遠ざかっていくにつれて、明度が小さくなっていく。(>>54)
③ 表の世界を『1』として、裏々、裏々々々といった奇数番目の世界は、『奇数世界』と定義される。(>>159)
④ 裏の世界を『2』として、裏々々、裏々々々々といった偶数番目の世界は、『偶数世界』と定義され、これらの世界では、全てのモノが反転している。(>>159)
⑤ 偶数世界では、ほとんどの者が自我を持っており、その『性格』はオリジナルのものとは反転したものになっている。(>>159)
⑥ 偶数世界の鏡の住人が『主』になることは出来ない。(>>227)
● 入れ替わりについて
① オリジナルが表の世界以外にいる場合、反射物に対して念じれば、表の世界に近い層へと移動できる。(『特権』による入れ替わり)(>>124)
② 2枚での合わせ鏡の状態を創り出した時、表の世界と裏々の世界の人間が入れ替わりを起こすことが出来る。(合わせ鏡による入れ替わり)(>>48)
③ 入れ替わるのは、あくまで『意識』のみであり、肉体はそのままである。(>>49)
④ 入れ替わる時に、一瞬だがお互いにコミュニケーションが取れる。(>>218)
⑤ 入れ替わりは連続して行うことが出来ず、1週間のブランクを必要とする。(>>96)
⑥ 入れ替わりにはどちらかにその『意志』があることが必要となる。(>>51)
⑦ 入れ替わりは閏年の一時期に行える。(2012年は3月21日まで)(>>50)
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―【鏡の世界でのルール(No.3)】―――――――――――----
⑧
⑨
⑩
⑪
● ○○○○○○○○○○○○○○
①
②
③
④
○○ ○○○○○ ○○ ○○○○○○○ ○○○ ○○○…
----―――――――――――――――――――――――
【結】に続く