※本記事は起・承・鋪・叙・結の五段構成となります
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モブ女1「…ねえ、合わせ鏡の噂って知ってる?」
モブ女2「…合わせ鏡?」
モブ女3「知ってるそれ~!都市伝説のやつでしょ!?」
モブ女1「うん!それそれ!」
モブ女2「…都市伝説?」
モブ女3「何かね~、鏡をたくさん重ねて夜中にそれに覗きこむと何かが起こるとかいうやつ!」
モブ女2「ふ~ん。…で、その合わせ鏡の噂がどうしたの?」
モブ女1「うん。…これはね、この前聞いた噂話なんだけど、その合わせ鏡の噂が…どうやらマジモノらしいの!」
モブ女3「うそ~!?」
元スレ
男「合わせ鏡の世界って知ってるか?」女「…え?」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1347457319/
モブ女1「ほんとほんと!…でも、私が聞いた話はその有名な都市伝説とはかなり内容が違ってくるんだけどね。」
モブ女2「…どういうこと?」
モブ女1「私が聞いた話によると、とある鏡の前で、もう1枚鏡を重ねて…つまり合わせ鏡の状態にして、それを覗きこむと…」
モブ女2・3「覗きこむと…?」
モブ女1「…その鏡の中に引きずりこまれるんだってー!!」
モブ女3「…ぷっ!あはははは!」
モブ女1「ちょ、ちょっとぉ!!笑わないでよ!!」
モブ女3「はははっ…っ、ご、ごめん…あまりにも…くくく…あはははは!」
モブ女2「ふふふっ」
モブ女1「ちょと!モブ女2まで~!!」
モブ女3「ははは…でも鏡の中に引きずり込まれるなんてそんな漫画みたいな!そもそも何で合わせ鏡!?…っ…ぷはははっ!」
モブ女1「…も~…モブ女3ったら~…」
モブ女3「くくく…だ、だってぇ」
モブ女2「…で、その話はそれで終わりなの?」
モブ女1「…! ううん!まだ続きがあるの!これ聞いたら二人とも絶対ビックリするよ!」
モブ女3「…へ~、そんなに自信あるのなら続きを聞こうじゃない!」
モブ女2「ふふ、そうだね。」
モブ女1「ふふん!聞いてビックリしないでよ!?」
モブ女1「…実はね、その『とある鏡』ってのはね…」
モブ女2・3「うんうん」
モブ女1「うちの学校の北校舎の…」
………………
………
…
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―2012年/2月/14日/香川――――――――――――----
男「屋上なんかに呼び出してどうしたの女?」
女「うん…ごめんね、急に。」
男「はは…まさか俺にチョコを渡すために?」
女「ま、まぁそれはですね…」
男「でも去年とかは普通に教室で渡してくれたじゃん?」
女「…も~!!空気読みなさいよ!!!」
男「な、何だよ急に…」
女「…ねぇ、男。」
男「…ん?」
女「…私たちここずっと仲良かったじゃない?」
男「うん、そうだな。」
女「それでね、このままじゃ駄目かな~っていうか、進展させたいな~って思って…」
男「…って思って?」
女「…もう!! …だから…その…」
男「…」
女「…私、男のことが好きなの!中学のときからずっと好きだった!付き合ってください!」
男「…女。」
女「…だめ…かな?」
男「…あはは。駄目なわけないだろ。…俺も好きだよ、女。付き合おう。」
女「…ほ、ほんと!?」
男「もちろん。」
女「そ、そっか~!男も私のこと好きだったんだ~!ま、まぁ分かってたけどね!」
男「あはは、さっきまでビクビクしてた奴がいえるセリフじゃなくないか?」
女「…ビ、ビクビクなんてしてないよ!…まぁ、緊張はしてたけど」ボソッ
男「ま~、とにもかくにも、これからよろしくな女。」
女「…! うん!よろしくね男!」ニコッ
男「おう!」
女「えへへ。 …あ!これ、順番が逆になっちゃったけど…」ゴソゴソ
女「…はい!…そのぉ…いわゆる本命チョコってやつ!」スッ
男「おお~!毎年義理以上の質のチョコくれてたけど今年はさらに凄そうだな~!」
女(…毎年本命だったんだけどなぁ…)アハハ
男「ありがとうな女!今食べたほうがいい!?」
女「あっ、別に今じゃなくてもいいよ。家に帰ってからゆっくり食べて。」
男「あっ、そう?それは助かる!」
女「助かる?」
男「いや、実はさ、今日、姉さんが京都の下宿先から家に引越してくるというか、帰ってくるというか、その手伝いに行かないといけなくて。」
女「…あっ、そうだったんだ。…ご、ごめんね、時間取っちゃって」
男「いや、こっちこそごめんな。でも、せっかく女がくれた本命のチョコを慌てて食べたくないというか、家でゆっくり堪能したくてさ!」
女「…/// そ、そう言ってもらえたら作った甲斐があったよ///」
男「あはは、照れてる照れてる。でもせっかく付き合えたっていうのに一緒に帰れなくてゴメンな…」
女「…! ううん。気にしないで!それにこれからはずっと一緒に帰れるじゃない!」
男「まあ、そうなんだけど… …あっ!よし!それじゃあ明日早速デートに行こう!」
女「…デート?」
男「ああ、デート!明日はうちの高校の創立記念日で休みだし!」
女「…え?引越しのお手伝いは明日はないの?」
男「ああ!手伝いって言っても、トラックから姉さんの家具とかを家に運ぶだけだし今日中には終わるからさ!だから明日遊ばない!?」
女「そ、それじゃあ… …遊んじゃう!?」ニコッ
男「おう!デートだデート!そんじゃ、明日駅前の公園に朝の10時に待ち合わせでいい?」
女「うん! でも、どこ行こっか?」
男「そうだな~…無難に遊園地とかどう?」
女「行く行く!!私、遊園地大好き!!」
男「それは良かった。…あ、俺そろそろ行かなきゃ!それじゃあ、詳しくはまたメールででも!」
女「うん。あっ、ごめんね、時間取らせちゃって。」
男「気にしない気にしない。…でも、女と付き合えることになって、俺本当に嬉しいよ」ニコッ
女「!! わ、私も!!すごく幸せだよ!!」ニコッ
男「うん!それじゃあまた今晩メールするよ。バイバイ!」
女「あ、ばいばーい!」
タッタッタッタ
女「…明日、男とデートかぁ…」ニヤニヤ
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女母「…どうしたのよ、女。今日はやけに嬉しそうな顔してるじゃない?」
女「え?そうかな~?」ニヤニヤ
女母「そうよ~」
女「あっ、お母さんおかわり!」サッ
女母「はいはい…」ガタッ
女「あ~今日の味噌汁美味しいな~」ズズッ
女母「…あんた、もしかして…男くんと付き合った?」
女「ブフォッ!? …え!?ななな何で分かったの!?」
女母「いや、誰だって分かるわよ今のあんたを見てたら…。はい、ごはん。」コトッ
女「そ、そうかな!?」
女母「それに今日はバレンタインデーだし…しかもあんた昨日夜遅くまでずっと台所でチョコ作ってたじゃない。」
女「あ、ばれてた?」
女母「ばれてるわよ。もちろんお父さんにもね。お父さん楽しみにしてたわよ~。『女、明日俺にどんなチョコくれるんだろ~』って。もちろんお父さんの分も作ってるんでしょうね?」
女「………あっ」
女母「…はぁ…だろうと思ったわ。あ~あ、お父さんかわいそ~。」
女「…も、もぉ~!昨日はいつも以上に必死になってたんだから仕方ないじゃない!」
女母「ふふ。『いつも以上に』か~。へ~そうなんだ~。まあ、お父さんのことはどうでもいいとして良かったじゃない。男くんと付き合えて。前から『男がー、男がー』って言ってたもんね。男くんって確か男姉ちゃんの弟でしょ?」
女「…あ、ありがと/// ん?お母さん、男のお姉ちゃんのこと知ってるの?」
女母「知ってるわよ。だって男姉ちゃんは女兄の同級生だったから。」
女「あ~、男姉さんはお兄ちゃんと友達だったんだもんね。…あっ、そういえば男姉さんは下宿先から今日帰ってくるらしいんだけどお兄ちゃんはいつ帰ってくるの?もう大学の授業も終わってるはずだよね?」
女母「それがあの子、『卒業式までは大学の友達と遊びつくすから帰らない』ってさ。まぁ、あの子、就職先が東京だし、神戸の下宿先から家具とかも東京にそのまま持って行くことになったからねぇ。」
女「え~、じゃあ、お兄ちゃんそのまま東京に行っちゃうんだ~、香川と神戸なんて橋渡ったらすぐなのに~」
女母「あっ、でも確か来月にこっちで高校の同窓会があるからそのときに一度帰ってくるって言ってたわ。日付は確かカレンダーに…」ガタッ
スタスタッ ペラッ
女母「…え~っと、そうそう、3月の21日、祝日の春分の日に同窓会って言ってたから、その日らへんで帰ってくるわ。」
女「そっか~、まぁそのときは色々お兄ちゃんに文句言ってやらないとね。『お兄ちゃんのせいで家計が火の車だったんだよ!』って。」
女母「ふふ、そうね。まぁ、生活費はこの3年半は自分で稼いでたみたいだし許してあげたら?」
女「え~、でもお兄ちゃんったら5年前にうちがこのマンションを買ってからローンとかで色々と大変だったのに1回生の秋に急に『神戸で一人暮らしする』って言い出して…そのおかげで私たちも色々と大変だったじゃない!」
女母「でも香川から神戸まで半年、毎日通うのは大変だったと思うわよ。女兄も頑張ったほうよ。」
女「ええ~、でも言ってバスとか乗り継いだら3時間で済むじゃない…」
女母「も~。過ぎたことをいつまでもぎゃーぎゃー言わないの。まあ、一人暮らしの甲斐があってかは分からないけど有名企業に就職できたんだしお母さんとしては女兄に下宿させて良かったって思ってるわよ。」ニコッ
女「ま~、そうなんだけどね~」
女母「そうよ。まぁ~でも、だから女兄がいっぱい稼げるようになったときにはたくさんお金をたかってやりなさい。」二ヤッ
女「おっけー!そうする~!」ニヤッ
女母「ふふ。…それで、男くんとはこれからデートとか行かないの?」
女「行くよ!明日!さっきメールでレ○マワールドに行こうって決めたの!」
女母「え、このすごく寒い時期にレ○マワールドに行くの?」
女「え?まぁ~うん。」
女母「寒い時に乗るジェットコースターは地獄よ~明日はすごく冷え込むみたいだし。」
女「た、確かに…でもな~他に行くところなんてな~」
女母「あっ、そういえば近くの水族館で最近たくさんの新しいお魚やペンギンとかが集まってて盛況らしいわよ?女、確か水族館とかも好きだったんじゃないの?」
女「え!?そうなの!?行きたい行きたい!!遊園地も好きだけど水族館も大好き!」
女母「水族館なら屋内だしね。あんた、寒いところにずっといたらすぐ風邪引いちゃう体質なんだし、男くんに迷惑掛けないためにもお母さんは水族館をお勧めするわ。」
女「うう…さすがお母さん。私のことをよく分かってらっしゃる。」
女母「当たり前よ。あと、その水族館はここんとこ土日は人がいっぱいで混雑してるみたいなのよね~。でもあんたたちは明日は創立記念日でしょ?そして世間では平日なわけだから、明日行っておいたほうがお得よ。平日だから空いてるだろうし。」
女「お~!なるほど!さすが主婦!それじゃあ、お母さんの言う通り明日は水族館に行ってみようかな!?」
女母「あ、ちゃんと男くんに了承を取りなさいよ。」
女「も~分かってるよ~!今から男にメールを…」ピッ
女母「こ~ら。そういう急な予定変更の時は電話にしなさい。まだ20時ぐらいだし、そんな迷惑な時間帯じゃないでしょ?」
女「え~…でも恥ずかしいよ~…今まで男との連絡はずっとメールだったんだし。」
女母「付き合ったんならもっと積極的にコミュニケーション取っていきなさい。それに、男くんも女から電話をもらったら絶対に嬉しいと思うわよ。男女の付き合いは最初が肝心。最初からそんな遠慮のし合いをしてたら上手くいかないわよ。」
女「…うっ…お母さんのその一言一言が胸にズキズキと…。でも確かにそうだね。…よし、それじゃあ男に電話してくる!」
女母「そうよ。電話なんて告白に比べたら簡単なものじゃない。」
女「あはは、確かに!それじゃ自分の部屋で電話してくるね!」タッタッ
女母「いってらしゃい」ニコッ
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prrrrrr prrrrr
男『はい、もしもし』
女「もしもし?男?」
男『お~、どうしたの女?』
女「えっとね…あ、あの~」
男『…ん?あ~、もしかして、初電話で緊張してるの?』
女「も、も~う!からかわないでよ~!!」
男『あはは、ごめんごめん』
女「…それでね、…あっ、今時間大丈夫?忙しくない?」
男「大丈夫だよ。今は自分の部屋でのんびりしてたところだったし。」
女「そ、そっか!…ねえ、明日のデートなんだけど…水族館に行かない!?」
男『水族館?」
女「うん!水族館!最近近くの水族館が最近すごく盛況らしくてね!土日じゃ混んでるみたいなんだけど明日は平日だから快適だと思うの。それで、やっぱり遊園地よりも水族館に行きたいな~って… …だめ…かな?」
男『あ~!あそこの水族館ね!いいじゃんいいじゃん!行こうよ!明日は今日のお詫びのためのデートでもあるんだし女が行きたいところに行こう!』
女「ほ、ほんと!?良かった~!!それじゃあ、私が水族館までの行き方とか調べておくね!」
男『あ、ほんとに?気が利くな~女。それじゃあお言葉に甘えてお願いしようかな。』
女「うん!任せて!それじゃあ、明日、公園に朝10時待ち合わせね。」
男『了解。それじゃあおやすみ、女。』
女「うん、おやすみ、男。」
ピッ
女「ふ~…」
女母「ふふ、もっと喋らなくて良かったの~お姉さん?」ニヤニヤッ
女「きゃ!? お、お母さん!?いつからこの部屋に!?」
女母「ん~、あんたが『ほ、ほんと!?良かった~!!』って言いながらニヤニヤしてたところから。」ニヤニヤッ
女「も、も~///、盗み聞きなんて趣味悪いよおかあさん!」
女母「だって、水族館までの行き方をPCで調べて印刷してきたから、電話が終わる前に渡してあげようとここに来たのよ。まー電話もう切っちゃってるけど、はいこれ。良かったわね、調べる手間が省けて。」パサッ
女「…あ、そうだったんだ、ありがと。…で、でも、部屋に入るときはノックしてよね!」
女母「はいはい。それじゃあ明日のためにも早くお風呂に入ってとっとと寝なさいよ~」
女「は~い」
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もぞもぞ
女(…ん~…緊張して寝れないよぉ…)
女(…明日、楽しみだな…)
女(…中学の時に男と出会ってから色々あったなぁ…)
女(…中1の時に私が男に一目惚れしたんだよね…)
女(…男ってちょっとインテリぶってるところがたまに鼻に付くけど、根は優しいし、何より本音で色々話してくれるし…)
女(…それにしても男と付き合えるまで長かったな~)
女(…他にも男のことを好きな子何人かいたもんな~)
女(…それを考えるとちょっと申し訳ない気持ちに…)
女(…ま~、何はともあれ男と付き合えたんだし、これから高校卒業まであと1年とちょっと、男とたくさん思い出作らなきゃ!)
女(…そして明日はその最初の思い出となるであろう初デート♪)
女(…遅刻しないためにも早く寝ないと!そして早起きして準備準備!)
女(…あ、そういえば…)
ゴソゴソッ
女(…危な~い、目覚ましのセットが朝の7時のまんまだった…)
女(…いや、7時でもいいかな?早く起きて準備万端にしておきたいし。)
女(…うん!明日は7時起き!よし!寝る!)
…
………
………………
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―2012年/2月/15日/香川――――――――――――----
………………
………
…
ジリリリリリリリリ
もぞもぞ
カチッ
女「…う~ん。まだ7時~?…待ち合わせは10時だからぁ…もう少しだけ寝よっかなぁ…」ふぁ~
女「…zzZ。」
…
………
………………
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トントン
ガチャッ
女母「女~、もう9時だけど起きなくていいの~?待ち合わせは何時なの~?」
女「…ん~…まだ大丈夫~…」むにゃむにゃ
女母「…遅刻しても知らないわよ~…」
バタンッ
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………………
………
…
女「もおおおお!何でお母さん起こしてくれないのよおおお!!!」
女母「起こしたわよ~。それでも起きなかったあなたが悪いんでしょー。」
ガチャッ
女「行ってきまああああす!!」
女母「は~い、行ってらっしゃい。」
女「やばいやばい!!男との初デートなのに遅刻なんて!!しかもろくにお化粧も出来無かったよ~!!」タッタッ
タッタッ…ポチッ
女「…あああ~!何でこんな時に限ってエレベーターが二つとも1階にいるのよ!早くエレベーター上がってきて~!!」
ゴオオオオオ…
女「…も~!相変わらずこのマンションのエレベーター遅いのよ!!」
…オオオン
ウィーン
女「よし!!」タッ
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ゴオオオオオ…
女(ふう…あっ、髪の毛ぐちゃぐちゃのまんまだった…)
女(エレベーターに鏡が無かったら気付かないままだった、危ない危ない。)
女(とりあえず、櫛で整えないと…持ってきたかなぁ…)ガサゴソ
女(…あった!これで髪を梳いてっと。)サッサッ
サッサッサ…グッ
女(…あれ、後ろ髪で櫛が引っ掛かるなぁ…)グイグイッ
女(…もしかして変な寝癖でもついてるのかな…もしそうだったら最悪…)
女(…これだからショートって嫌なんだよなぁ…これからはセミロングぐらいまで伸ばそうかな…)
女(…とりあえず、どうなってるか確認しないと…ん~…見えない…)
女(…あ。手鏡も持ってきてるから、それとエレベーターの鏡を重ねて後ろ髪を見れるかな?)ガサゴソ
女(…あったあった!これを…開いて…)パカッ
女(…そして、エレベーターの鏡に背を向けて…手鏡を前に掲げて…2枚をこう重ねて、合わせ鏡の状態にしt…
?『この時を待ってたよ。』
女「え?」
フッ
…
………
………………
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―2012年/2月/15日/香川/ @ 1週目―――――――――――----
【-裏々の世界-】
………………
………
…
女(…あれ?何今の?)
女(…どこからか声が聞こえて…それで意識が一瞬…)
女(…ん?エレベーターの中ってこんなに暗かったっけ?)
女(…気のせいかな…?)
ゴオオオオン…
ウィーン
女(…! とりあえず寝癖を直しながら急がないt……っ!?)
スタスタッ
女(…ん? 気のせいかな?体が…)スタスタッ
女(…!? 気のせいじゃない!?…体が…体が…勝手に動いてる!?)スタスタッ
スタスタッ ウィーン
女(…!?)
女(…どうしてまだ朝なのに…今日は晴れなのに…)
女(…どうしてこんなに暗いの!?)
女『…うわーやっぱりこっちは明るいね!』
女(…え!? 『明るい』? 私、今、勝手にしゃべった!?)
女『…ふふ。でも、まさかこんな偶然があるとはね。…それじゃあ、裏々の世界で色々楽しんでね。…“表の世界の私”。』ニコッ
女(表の世界?裏々の世界?どういうこと?それに何で私、そんなことを勝手に…)
女(………っ!?)
女(…私、今、喋れろうとしてるのに…)
女(…『喋れ』と脳から口に命令してるはずなのに…)
女(…どうして…)
女(…どうして、私は今、自分の意志で喋ることが出来ないの!?)
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タッタッタッタ
女(本当にどういうことなんだろう…)タッタッタ
女(私は今、男との待ち合わせの場所に向かって走ってる。)タッタッタ
女(走りながら、寝癖も丁寧に直した。)タッタッタ
女(待ち合わせ場所まで走ることと、寝癖を直すことは、私がエレベーターから降りてやるつもりだったことで、実際にそその2つを行っている。)タッタッタ
女(…でも、そこに私の意志は無かった。『勝手』にそれらが行われた…。)タッタッタ
女(そして、マンションから出る直前、私は喋ることが出来なかった。)タッタッタ
女(…私であるようで、私ではない…そんな感じ…)タッタッタ
女(…ただ、今、走っていることによる疲れや、寝癖を直すときの感覚…というか痛覚はいつもと同じ…。)タッタッタ
女(走っててすごくしんどいし、寝癖を直そうとして髪の毛を引っ張った時に痛みを感じたし…)タッタッタ
女(…あと、おかしいことと言えば…やっぱり周りが暗い。この暗さは、晴れた日の朝の明るさのそれじゃない…その半分ぐらいの…)タッタッタ
女(…私、どうなっちゃったんだろ…)タッタッタ
女(…それに、さっき私の口から突然出た言葉の『表の世界』や『裏々の世界』ってのはいったい…)タッタッタ
女(…! もうそろそろ男との待ち合わせ場所の公園だ。)タッタッタ
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男「…お!来た来た!ぎりぎりだな女!」
女(…男。)
男「…ん?どうしたんだよ女?表の世界のお前が行きたがってた水族館に今から行くって言うのに。」
女「…え?表の世界ってどういうk…」
女「……っ!?」
女「…あれ!?私今喋れてる!?」
男「…はい?」
女「私は今喋れてるかってことを聞いてるの!」
男「おいおい、そんなの当たり前だろ?ここの公園には鏡もガラスもないんだし。」
女「…鏡とガラス?」
男「…? はは、どうしたんだよ女。もしかして初デートだから気が動転してるのか?」
女「…っ!? …そんなの…そんなの動転するに決まってるじゃない!!!!!」
男「…お、女?」
女「…さっきから急に体が動くし、勝手に変なことを口にするし…でもさっきまで喋れなかったし…それに周りはすごく暗いし…男もこの暗さに疑問を感じないの!?」
男「…!? …お前、もしかして…」
男「…『表の世界』の女か?
女「!? …その『表の世界』って言葉!私が勝手に口にした…」
男「…やっぱりそうか…。 …あいつ、やりやがったな…」
女「…『あいつ』?…あいつって…」
女「……っ!?」スタスタッ
女「ま、また体が勝手に!?」スタスタッ
男「安心して女。おそらく電車に乗るまでは、まだ『喋ること』は出来るから。」スタスタッ
女「で、電車に乗るまでってどういうこと?」スタスタッ
男「電車には窓ガラスがあるからな。そこでは喋れなくなるんだ。」スタスタッ
女「…言ってる意味が分からないんですけど…」スタスタッ
男「…はは。そうだな。…それじゃ今から駅に着いて電車に乗るまでの…15分ぐらいかな?その15分ぐらいで今、お前に起きていることとこの世界についてを簡単に説明するよ。」スタスタッ
女「…この…世界?」スタスタッ
男「…ああ。」スタスタッ
男「…女、合わせ鏡の世界って知ってるか?」スタスタッ
女「…え?…合わせ鏡の世界?何それ?」スタスタッ
男「…じゃあ入学当初に旧校舎の噂は聞いたことないか?」スタスタッ
女「旧校舎…あっ!知ってるそれ!確か旧校舎の鏡に近づいたらその中に引きずりこまr…!! …まさか!?」スタスタッ
男「…ああ。詳しくは、うちの高校の北側にある旧校舎の東側の、そのまた2階と3階を結ぶ階段の踊り場にある鏡、その鏡の前で合わせ鏡をするとその鏡の中に引きずりこまれるという話だ。」スタスタッ
女「…!? それじゃあ私は…」スタスタッ
男「…ああ。お前は…」スタスタッ
男「……合わせ鏡の世界に引きずり込まれたんだよ。」
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女「…そんな…。そんなことがありえるの!?」
男「ありえるんだから仕方ない。今はとにかく合わせ鏡の世界に引きずり込まれたってことを受け入れろ。…まあ、正しくは『入れ替わった』んだけどな。」
女「…『入れ替わった』?」
男「…ああ。まあ、それも後でちゃんと説明する。…とりあえず、ここが普通の場所ではないということを受け入れてくれ。」
女「…もし私を驚かそうとしてこんな冗談を言ってるのなら本気で怒るよ?」
男「冗談なんて言うかよ。しかもおまえ自身今の状況がおかしいってことに気付いてるだろ?だから、とりあえずは俺の話を聞いてみてそれから、冗談かどうかを判断しろ。いいな?」
女「……うん、分かったわよ。…でも何なの合わせ鏡の世界って?鏡の世界とは違うの?」
男「鏡の世界の一種であることは間違いないんだけど、ちょっと違うんだよな。その違いの証拠は目の前にたくさんあるだろ?」
女「…目の前?」
男「もし鏡の世界なら全てのモノが『反転』しているはずだろ?」
女「…あっ!」
男「…そう、この世界では『反転』してないんだ。何故なら合わせ鏡だからな。」
女「…合わせ鏡だから『反転』していない?」
男「ああ。…そうだなー。それじゃ、ここでちょっとした理科のクイズを出そう。」
女「クイズ?」
男「ああ。中1レベルの問題だ。まず、自分自身の目の前に全身が映るくらい大きな鏡があるとしよう。この鏡に映っている自分の『像』は反転しているか、してないか、どっち?」
女「それは…反転して…る?」
男「正解。それじゃあ、さらに自分の隣に同じぐらいの大きさの鏡をもう一つ置いたとしよう。そして『自分』『目の前の鏡』『隣の鏡』をV字に配置させて合わせ鏡の状態にするんだ。イメージできる?」
女「…え~っと、例えば自分が左にいて、鏡が目の前と右隣りにあるって感じ?」
―【イメージ図】―――――――――――――――----
鏡A
______
↗ ↘
● __
女 鏡B
----―――――――――――――――――――――――
男「ああ、そのイメージでオッケー。V字に配置することで、その隣の鏡にも目の前の鏡を経由して自分の姿が映るよな。」
女「うん。…てか、昔トリビアの実験でやってたような感じ?」
男「そう!トリビアでも昔合わせ鏡の実験をしてたな。とりあえずイメージ出来たな?」
女「出来たよ。V字になってるのよね。」
男「ああ。そして、ここで問題だ。自分の隣にある鏡には今、どんな『自分の像』が映っている?」
女「…ええ~、目の前の鏡には反転した像が映っていて、その像が反射して隣の鏡に映るんだから……あっ!そういうことか!」
男「うん。反転した像が更に反転するんだから…『反転していない像』が映っているんだ。」
女「なるほど! …ん~、でも『反転していない像』ってのがいまいちイメージ出来ない…」
男「あはは。そのまんまだよ。例えば、女が何か文字が書かれたものを持ったままその実験をしたら、隣の鏡に映っているその文字は反転してないからちゃんと読めるわけ。まあ、言うなれば、隣の鏡には女と『向きが全く同じ女の像』が映っているってこと。」
女「あー、なるほど。」
男「そう。『合わせ鏡』…つまり『2枚目の鏡の世界』では目の回りのモノは反転しないんだ。」
女「そっか。それで…」
男「…そして、この合わせ鏡の状態を作り、あと『3つ』の条件を満たすことで、『合わせ鏡の世界の住人との入れ替わり』が発生する。」
女「…3つの条件?入れ替わり?」
男「ああ。お前は入れ替わったんだ。もともとこの合わせ鏡の世界に居た『お前』と。」
女「…! 待って!それってこの合わせ鏡の世界にいた『もう一人の私』と入れ替わったってこと?」
男「ああ。」
女「そんなことってあるの!?もう一人の私が存在してたって言うの!?」
男「そうだよ。彼女はこの世界で存在し、生きていた『お前』なんだ。」
女「そんな…じゃあ、その『もう一人の私』が私と…」
男「…そう、入れ替わったんだ。まあ、入れ替わったとは言っても、入れ替わったのは『意識』だけで肉体ごと入れ替わったんじゃないんだけどな。」
女「…『意識』だけ?」
男「ああ。肉体はそのままで意識だけ鏡を経由して入れ替わったんだ。」
女「噂で聞いた話では体ごと引きずりこまれるってことになってたのにそれとは違うんだ。」
男「ああ。あの学校での噂とこれとは異なる点がかなり多いんだ。」
女「…それで、入れ替わりのための『3つ』の条件って何?」
男「一つ目は『場所』、二つ目は『閏年』、三つ目は『意志』だ。」
女「『場所』と『閏年』と…『意志』?」
男「ああ。まず『場所』について。合わせ鏡による入れ替わりはどこでも出来るというわけではない。いわゆる『パワースポット』『心霊スポット』と呼ばれる場所にある鏡であることが条件だと考えられる。旧校舎の鏡がそれに属するみたいだ。」
女「…え、でも私旧校舎なんかに行っt…」
男「気になることもあると思うが説明を続けるぞ。次は『閏年』についてだ。女、今年は西暦何年だ?」
女「…え?…2012年でしょ?」
男「そう。そして今年2012年は4年に1度の閏年。この閏年の年にのみ、入れ替わりを起こすことが出来る『時期』がある。何故、閏年なのかは話が長くなるから今はやめておく。」
女「…『時期』?」
男「ああ。そして閏年だとしても1年中入れ替わりが出来るとは限らないんだ。閏年の『1月1日』から『3月21日』までの期間にのみ入れ替わりが行える。」
女「…何で3月21日?」
男「そこらへんの説明はまた今度だ。それよりも伝えるべきことが沢山ある。」
女「…うん。分かった。」
男「次は『意志』についてだ。今まで話した条件が揃っていたとしても、当の『本人たち』に『意志』が無ければ入れ替わりは起きない。つまり、入れ替わりの対象になる2人のどちらかに『入れ替わりたい』という『意志』があった場合に入れ替わりが発生するってことだ。」
女「…じゃあ、私の場合は、元々この世界にいた『この世界の私』が入れ替わりたいと思ったから……」
男「…そう…なるな。」
女「…。」
男「…話を続けるぞ。次はこの世界についてだ。お前がもともといた世界を『表の世界』と呼び、今、俺たちがいるこの合わせ鏡の世界を『裏々の世界』と呼んでいる。」
女「表と…裏々?」
男「ああ。詳しく説明すると、お前がもともと居た世界を『表の世界』とし、それを基準に1枚目の鏡の世界を『裏の世界』、2枚目の鏡の世界を『裏々の世界』と区別して呼んでいるんだ。」
女「…1枚目が裏で、2枚目が裏々。 …っ!! ちょっと待って!!それじゃあ『裏の世界』も存在するってこと!?」
男「ああ、存在するよ。小説や漫画とかでよくある、俗に言う『ミラーワールド』ってやつだ。『裏の世界』ではもちろん全てが反転した世界になっている。」
女「…そうなんだ。」
男「それだけじゃない。3枚目の鏡の『裏々々の世界』、4枚目の鏡の世界の『裏々々々の世界』といったように合わせ鏡の世界は半永久的に続き、そして存在しているんだ。ちなみに『合わせ鏡の世界』っていうのは『裏々の世界』、『裏々々の世界』などそれ以降の合わせ鏡によって出来る鏡の世界のことの総称だからごっちゃにしないようにな。」
女「…待って。それじゃあ、もしかしてそのたくさん存在するっていうそれぞれの鏡の世界ごとに…私も…」
男「ああ。鏡の世界の数だけ、『鏡の世界のお前』も存在し、生きているんだ。」
女「そんな…」
男「まあ、驚くわな、こんな話をいきなりされたら。…さて、話は変わるんだが、女。お前、さっき『何でここはこんなに暗いの?』って言ったよな。」
女「…! …うん。」
男「この世界が暗い理由は、反射物の特性ゆえなんだ。」
女「…反射物の…特性…?」
男「ああ。鏡やガラスといった反射物は光を反射するが、全ての光を反射しきれるわけじゃないんだ。」
女「…あ。確か鏡って光を反射するたびに暗くなっていくんだっけ?それのことを言ってるの?」
男「そう。反射物が反射できる率のことを『反射率』というんだが、その反射率が100%ではない限り、光は鏡に反射されていく度に光量が減り、その明度が小さくなっていく。つまり暗くなっていくってわけだ。」
女「なるほど。じゃあ、この裏々の世界が暗いのは…」
男「ああ。鏡を2枚経由しているわけだから、光量が表の世界よりも減っている。だから暗いんだ。」
女「なるほどね…」
キィーーーーーン
女「!? えっ!?なn…!?」
女(…急に耳鳴りがしたと思ったら…また喋れなく…!?)
女『…あははっ、ねえ、私たち学校とかじゃあんまり会わないようにしようよ~。』
男『え?何で?』
女(…!? 私も男も急に脈路もないことを…!?)
女『だって、皆に付き合ってるってばれたらめんどくさいじゃない。』
男『ん~別に良くない? まあ、女がどうしてもって言うなら…てか、お互い部活が忙しいからどうせあんまり会えないかもな。』
フッ
女「…あっ、また喋れるようになった。」
男「…! …ああ、あれか。あの道端のカーブミラーに一瞬、俺たちが映ってたから喋れなくなって、『表の世界』にいる俺とお前の話した内容が俺たちにも反映されたんだ。」
女「…? カーブミラー? 反映?」
男「カーブミラー自体に深い意味は無いよ。『映ってた』ことに意味がある。…よし、それじゃ、次はこの世界での『体について』説明するよ。」
女「…『体』?」
男「ああ、体だ。まず、もう分かっているだろうけど、この世界では『体の自由がほとんど効かない』。」
女「っ! …うん、そうみたいだね。」
男「何故なら体の『行動権』は『表の世界』の『主』にあるからな。」
女「…?」
男「『裏』であろうと『裏々』であろうと鏡の中の世界にいる俺たちはこの世界では自分の思い通りに体を動かすことは出来ない。表の世界にいる『主』が絶対的な存在であって、その『主』の行動が鏡の世界の人間にも反映されるんだ。」
女「…主…の行動。」
男「…だけど、俺たちにも唯一体の自由を許された『部分』が2つある。」
女「……部分?」
男「ああ。それは『脳』と『口』だ。」
女「…脳…と…口………あっ!」
男「気付いたか?体は動かなくても、今は考えることが出来て、話すことも出来ているだろ?つまりこの『考えること』と『話すこと』が鏡の世界の住人に許された数少ない自由なんだ。」
女「…数少ない自由…かぁ。 …っ! で、でもさっきみたいに急に喋れなくなって、勝手に自分の考えたこととは全く違うことを喋りだしたのは何で!?」
男「それは『表の世界』にいる『主』が反射物に映ったからだ。」
女「…どういうこと?」
男「考えてみろ。もし、お前が『表の世界』にいるときにふと鏡を見て、鏡の中の自分の像が急に動き出したらどうだ?」
女「どうだ?って…そりゃビックリするわよ。」
男「だろ?そして鏡の中の自分の像が勝手に動き出したところを見たことなんてないだろ?つまりそういうことだ。表の世界の主が反射物に映っている時、鏡の中の住人の動きは表の世界の主と全く同じになる。」
女「…」
男「それは『口』も同じだ。鏡の中の自分が口だけ勝手に動いてるなんてことも絶対に起こらない。つまり、表の世界の自分が反射物に映っている時は鏡の世界の住人は『口』も自分の意志では動かせなくなる。また、表の世界の主が反射物に映っている時は『表の世界の主の口の動き』と『喋っている内容』が鏡の世界の人間にも反映されるんだ。」
女「…なるほど。だからさっき道端のカーブミラーに映ってたときに私たちは喋られなくなって、そして表の世界の自分が喋った内容が私たちにも反映されたってことね。…じゃあ、あの耳鳴りは何なの?」
男「あれは合図だ。」
女「合図?」
男「ああ。あの耳鳴りは表の世界の主が反射物に映ることを知らせてくれる合図みたいなもんだ。だいたい5秒くらい前に鳴り響く。」
女「…へえ…でも何のために?」
男「さあ…それは分からん。…まあ、鏡の世界からのせめてもの優しさの表れなんじゃないかな?耳鳴りのおかげで喋れなくなることが事前に分かるし。はは。」
女「…いらないわよそんな優しさ。」
男「はは、違いない。」
女「…でも、さっきの耳鳴りが今後も続くって思うと鬱になりそう…」
男「…ん? もしかして耳鳴りは今のが初めてだったのか?」
女「…え?そうだけど…?」
男「旧校舎前にたくさん窓ガラスあるんだし、さすがに1度は耳鳴りがしただろ?…ん?そもそも、お前何でデートの前にわざわざ旧校舎に行ったんだ?」
女「…え? い、行ってないわよ旧校舎なんか!」
男「…はい?じゃあ、お前どこで入れ替わったんだよ?」
女「私が異変を感じたのはさっきうちのマンションのエレベーターの中で合わせ鏡をしちゃってからだよ!」
男「…!? エレベーターの中?でもお前ん家のマンションって5年ぐらい前に出来たばっかりだよな…いわくつきのエレベーターか何かなのか?」
女「…さあ…変な噂は聞いたことないけど…。」
男「…そうか。でもまさか旧校舎以外にも入れ替わりが出来る場所があるとは…てか何でエレベーターの中で合わせ鏡をしたんだ?」
女「…うっ。…そ、それは…。」
男「…それは?」
女「…後ろ髪の寝癖を…見ようと…」ボソッ
男「…? …! …ああ~…なるほど…それで…」
女「…うん。」
男「…でも何で家で寝癖を直さなかったの?」
女「…そ、それは…」
男「…ん?」
女「…今日のデートが楽しみで昨日寝つけなくて…それで…ね、寝坊…しちゃって///」
男「…あははは!やっぱりお前は表の世界の女だな!」
女「ちょっと!バカにしないd…ん?『やっぱり』ってどういうこと?」
男「あははっ…なあ、女、俺って『誰』だと思う?」
女「…? …誰って…あなたは男でしょ?」
男「そうじゃなくて…俺はどの世界の『男』だと思う?」
女「…! …それはもちろん…この『裏々の世界』の男でしょ?」
男「あはは、普通そう思うよな。」
女「……どういうこと?」
男「…俺は…この『裏々の世界の男』じゃないんだ。」
女「…? …っ! …ま、まさか!?」
男「…ああ。 …俺もお前と同じ…」
男「『表の世界』の男だ。」
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66 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/14 01:11:50 FJu.LgQY 57/584つまり『表の世界』に存在する主が反射物に映ると合わせ鏡の世界にいる同一個体は主とリンクするってことでおk?
67 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/14 01:40:29 Kp.WketQ 58/584乙
>>66
その解釈で合ってるんじゃね?
反射物に映ってない時→体の動きは表の主とほとんどリンクしている。でも口と思考はある程度自由。
反射物に映っている時→体の動きは口も含めて完全にリンク。でも思考はある程度自由。
ってことだろ。
71 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/15 22:19:56 KboOGec2 59/584
>>66
それで、OKです。ただ、>>67さんの言ってる通り『思考』だけはリンクしません。
あと、この『反射物によるリンク』については他にもまだ出てきていないルールもあります。
それについては今後このSSの中で分かっていきますので。
―――――――――――――――――――――――----
女「…ど、どういうこと!?じゃあ…じゃあ男も合わせ鏡で…!?」
男「…まあ…『色々』とあってな。」
女「…『色々』…って?」
男「それに関してもまた追々話す。…っと、もう駅に着いたみたいだぞ。これからは電車に乗るからほとんど喋れなくなるからな。」
女「あっ、ずっと話に夢中だったから気付かなかった…。電車で喋れなくなるのは窓ガラスに私たちが映るからってことだったよね。」
男「ああ。その通り。だから、電車を降りるまではまたしばらく我慢タイムだ。」
女「分かった。また電車から降りたら色々教えてよ!」
男「了解。」
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―――――――――――――――――――――――----
○○エキ~ ○○エキ~
オオリノサイハ ゴチュウイクダサイ
スタスタスタッ
男「…よし、『口』に自由が戻った。予定通り、表の世界の俺たちはここの駅から歩いて水族館に行くみたいだな。…ん?どうした女?」
女「…楽しそうだったね…電車の中での表の世界の私たち。会話もすごく盛り上がってたし。」
男「…! …まあな。初デートなんだしお互い楽しいだろうな…」
女「…でもあの2人はどっちも裏々の世界にいた私たちなんだよね。」
男「…ああ。」
女「…て、ことは私が昨日告白した男は…」
男「…裏々の俺だな…」
女「…だよね…。 …なんか複雑。 …男はいつこっちに入れ替わってきたの?」
男「…2週間前だ。」
女「…そっか…。結構最近なんだね…」
男「…まあな。」
女「…ねえ、男?」
男「…ん?」
女「…私たち、どうなっちゃうの?このままこんな不自由な世界でずっと生きていかないといけないの?」
男「…それは…」
女「…どうして…どうしてこんなことになっちゃったんだろ…」
男「…女。」
女「…悲しいのに涙出ないんだね…これも鏡の世界だからなのかな…」
男「…女、そんな落ち込むな。ちゃんと表の世界に戻る方法はある。」
女「…! ほんと!?」
男「…ああ。だけど、その戻る方法を教える前に、お前にはまずこの鏡の世界についてしっかりと理解してもらう必要がある。」
女「…! うん、分かった。…確かに今はまず、この世界について理解することが先だよね。…あっ、ねえ男、ふと不思議に思ったことがあるんだけど聞いていい?」
男「何だ?」
女「この裏々の世界には私たち以外にも、今周りにたくさん人がいるじゃない?電車の乗客や駅員さん、あとほら、そこの私たちと同じように水族館に向かって歩いてる他のカップルや家族連れとか。」
男「ああ。」
女「その人たちの会話を聞いてたらさ、ごく普通の会話と言うか…表の世界の人たちとなんら変わらなさそうな会話をしてるみたいなんだけど…ほら!そこの親子、今赤ちゃんに高い高いしてあげてるでしょ?それで、あのお父さんは高い高いの動きをしながら『たかいたかい~い』って言ってて、私たちと違って口と体の動きが一致してるというかなんというか…」
男「ああ、そういうことね。あの親子は『自我』を持っていないだろうからな。だから、反射物に映っていないところでも、表の世界の自分と全く同じ行動になっているんだ。」
女「…『自我』?」
男「ああ、『自我』だ。鏡の世界では『脳』と『口』が唯一許された自由だってことはさっき話したよな?」
女「うん。」
男「でも、それは『自分が鏡の世界の住人だということを自覚した上』での自由なんだ。だから、それを自覚できない限り、脳と口が使えることに気付けない。」
女「鏡の世界の住人だという自覚?」
男「ああ、自分が鏡の世界という異端な世界の住人で、表の世界の自分とはまた別の存在だということに気付けば、脳と口が使えることに気付ける。そしてそれに気付いた人間は反射物に映る直前に耳鳴りがなるようになる。っていうわけだ。」
女「…ここが鏡の世界の中だということに気付けば表の世界の自分とは別の思考が出来るようになって、それによって『自我』が生まれるっていうことね…するとあの親子は?」
男「…あの親子は自分たちが鏡の世界の住人だということに気付いていないから自我も持っていないのだろう。だから、表の世界の自分と同じ言動になっているんだ。」
女「…そっか。…そうなんだ。」
男「…女、お前もしかして今あの親子のことを哀れんだか?」
女「…え!? …それは…まあ…。…だって鏡の世界だとしても自我を持てば、少しだけ自由がもらえるんだし…」
男「…気持ちは分からんでもないが、真実に気付かないほうが幸せなこともあるんだぞ、女。」
女「…どういうこと?」
男「もし、今からあの親子にこの世界の真実や表の世界の存在について教え、自我を持ったらあの親子はどうなると思う?」
女「…え?どうなるって…?」
男「『私たちも表の世界に行きたい』って思うようになるだろ?そしてあわよくば入れ替わりを試みようとするだろうな。」
女「…あっ」
男「そして、『表の世界』のあの親子が『俺たちと同じ状況』に巻き込まれるんだ。」
女「…。」
男「しかもそれだけじゃない。その小さな『自由』を得ることが大きな『不自由』を抱えることにも繋がる。」
女「『不自由』?」
男「ああ。もしも自我を持ってしまったら、体が自分の意志で動かすことが出来ないことにも気付くだろ?」
女「…!」
男「それまでは自分の意志で動かしていたと思っていたものが本当は『表の世界の自分』のコピーでしかなかったなんて夢にも思わないだろう。その『意志』と『体』の不一致によって以前よりも不自由に感じてしまう。」
女「…それが『小さな自由が大きな不自由』ってこと…」
男「そう。だから、この世界の人々は真実を知らないほうがいいんだ。『表の世界の自分自身』のためにも、そして『自分自身』のためにも。」
女「…でも……だけど…」
男「…。」
女「…ううん、ごめん。何でもない。…でも、この世界に自我を持っている人はどれぐらいいるの?」
男「…さあな、俺も詳しくはまだ分かってないが…『ほとんどいない』と言っていい。」
女「…え?ほとんど?」
男「ああ。俺の知る限り、この裏々の世界で自我を持つことに成功したのは『俺とお前』、そして元々この世界にいた『裏々の俺とお前』だけだ。」
女「…そんな。…それは本当なの?」
男「…ああ。 …あと…。」
女「…ん?」
男「…あっ、いや、やっぱり何でもない。」
女「…? …ん?待って。元々この裏々の世界にいた裏々の私と男は自我を持っていたから入れ替われたんだよね?」
男「ああ。そうなるな。自分たちが裏々の世界の住人だと気付き、自我が生まれ、さっき話した入れ替わりの条件が揃ったから入れ替わりが出来たんだ。」
女「じゃあ、裏々の私と男はどうやって、自分たちが鏡の世界の住人と気付き、自我を持つことが出来たの?」
男「…おそらく、2人とも『自力』で自我をもったんじゃない。」
女「…自力じゃなかったらどうやって?」
男「…鏡の世界の住人が、自分自身が鏡の住人だと気付き、そして自我を持てるようになるための方法が2つある。」
女「2つ?」
男「ああ、一つ目が『自我を持っている人間に教えてもらう』という方法。例えば今の俺やお前が、あの親子にこの世界のことを教えてあげることによって、あの親子は自我を持つことが出来る…みたいにな。」
女「それがさっき言ってたやつだよね。」
男「ああ。そして2つ目は…『表の世界のオリジナルが鏡の世界のことの存在を知る』という方法だ。」
女「…オリジナル?オリジナルって何?」
男「『オリジナル』ってのは俺やお前みたいに、表の世界で生まれ育った者のことを指す。」
女「『主』とは違うの?」
男「ああ。『主』は『今現在、表の世界に居る者のこと』を指すんだ。」
女「…じゃあ、私と男は『オリジナル』で、今表の世界に居る裏々の私と裏々の男が『主』ってこと?」
男「そうだ。『主=オリジナル』という状態が普通なんだが、俺たちみたいに入れ替わった場合、その『主』の立場も入れ替わる。」
女「…そうなんだ。」
男「話を戻すぞ。表の世界のオリジナルが、鏡の世界の存在や今まで俺が話したような鏡の世界のルールを知ることによって、その知識は裏、裏々、裏々々といったそれぞれの鏡の世界に存在する自分自身に連動的に共有される。それによって得た知識から、彼らは『自分は鏡の世界の住人だ』と気付き、そして自我を持てるようになるんだ。」
女「…なるほど。…でも、私は表の世界にいた時に鏡の世界のことなんて全く知らなかったから、『裏々の私』は誰かから教えてもらって自我を持ったんだよね?」
男「…そうなるな。」
女「…でも、誰n…男「裏々の俺だよ。」
女「…!?」
男「『裏々の俺』が『裏々のお前』に鏡の世界のことを教え、自我を持たせたんだ。」
女「…! …裏々の男…が?でも、その裏々の男はどうやって自我を…」
男「…それは…。」
男「…俺が表の世界にいた時に…正確には半年前に鏡の世界のことを知ったからだ。」
女「…!? …半年前に男が?」
男「ああ。俺は『とある出来事』によって鏡の世界の存在やその世界の住人との入れ替わりの方法を半年前に知った。その情報を知ったことによって、この裏々の世界、いやそれだけじゃなくて『全ての鏡の世界の俺』に自我を持たせることに繋がってしまったんだ。」
女「…そう…なんだ…。 …私ね、ずっと疑問に思ってたことがあったの。『どうして男はこんなに鏡の世界の仕組みとかについて詳しいのだろう』って。」
男「…。」
女「つまり男はその『とある出来事』によって鏡の世界についての知識を得たからこんなに詳しいってことなの?」
男「ああ。」
女「でもその『とある出来事』って一体なんなの!?」
男「…それもまたまた追々話すよ。」
女「…!? …また『追々』…かあ。」
男「…すまん。話すべき時期が来たら必ず話すから。」
女「…うん、分かった。 …とにかく、『裏々男』がその出来事によって『自我』を持つことになって、2週間前に入れ替わりのための『意志』や他の条件が『裏々男』に揃ったから男との入れ替わりが起きてしまった…ってこと?」
男「…いや、入れ替わったのは…」
男「…俺自身の意志だ。」
女「…!? 男自身の!?」
男「…俺自身がその『とある出来事』によって鏡の世界に興味を持ち、鏡の世界に行ってみたいと考え、そして俺は2週間前に学校の旧校舎の鏡で入れ替わりを自分の意志でしてしまったんだ。」
女「…。」
男「…今思えば、俺のその行為はあまりにも愚かだった。そして、その行為は更に最悪なことに女も巻き込む結果になってしまった。…女に入れ替わりが起きたのも俺のせいだ。本当にすまない。」
女「…男。」
男「…でも…いや、だからこそ…俺にお前を何が何でも表の世界に戻す責任がある…女、お前だけでも絶対に表の世界に戻す、だから安心してくれ。」
女「…男。 …ううん!戻る時は2人一緒だよ!絶対に2人で戻ろうね!」
男「…女…。 …ああ、そうだな、二人で戻ろう!」
男「…っと、もう水族館に着いたみたいだな。これからしばらくはあまりしゃべれないと考えた方がいいな。水槽のガラスが反射体になっているから。」
女「ほんとだ。…ねえ、そういえば、その反射体ってのは鏡や窓ガラスだけなの?」
男「いや、俺が言っている反射体ってのはあくまで『反射率』が高いものを言っているんだ。反射率ってのはその文字通り、光を反射する率のこと。つまりこの反射率が高ければ高いものほど、光を多く反射する。つまり、より一層像がくっきりする。分かるか?」
女「うん。」
男「でも、地球上の多くの物質は光を反射する性質を持っているんだ。そこらへんの石ころも木もアスファルトも。一応反射率が何%かあるんだ。でも、俺たちは今それらに囲まれていてもしゃべれているだろ?」
女「うん、確かに。」
男「つまり、反射率が低いものに映ったとしても喋っていられるんだ。じゃあ、その喋れるか、喋られないかの境い目はどこかといったら、アバウトになるがおそらく反射物に映った自分の像が自分の顔などがくっきり映っているかどうかというところがポイントになるだろうな。」
女「…本当にアバウトなんだね。」
男「あはは。まあ、たとえば光沢のある黒いタイルとかの前に立ったらそのタイルに自分の像がぼやぁっと映るけど、ぼやぁっとしてるだけで自分の姿はくっきりと見えないよな。つまり、この場合だと喋れる。」
女「なるほどね。まー、とにかくよく光を反射するものじゃなかったら喋っていられるってことね。」
男「ああ。そんな認識でオッケーだ。…っと、チケットを買い終えて今から水槽のほうへと行くみたいだな。」
女「…みたいね」
男「今からしばらくはまた我慢タイムだ。それじゃあ、また後でな、女。」
女「うん」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女『ねえ!男見て!あの魚、かわいいよ!』
男『そうか~?不細工じゃないか?』
女『え~、ブサかわいいじゃな~い!』
男『あははあ、なんだそれ』
女『ふふ!』
女(…二人とも楽しそうだなぁ…)
女(…私はこうやって見てることしかできないのかな…)
女『…あっ!ねえ見て見て男!あの魚まるで…』
女(…あっ、あの魚、まるで…物理の…)
女『物理の先生みたいな顔してない!?』
女(…!? …私と全く同じ感想を…)
男『…いやいや、似てないだろ…』
女『え~、嘘~!似てるよ~!』
男『…似てるところって体が細いところだけじゃん。』
女『えへへ、まあそうなんだけどね~。』
男『あはは、適当だな~女。』
女(…そっか、『裏々の私』も『私』であることには変わらないんだ…。だから、さっきみたいな感性だったり、言動もいつもの私とほとんど変わらないんだね…)
女(…しかも、私は男が2週間前から『裏々の男』に変わっていることに気付くことが出来なかった。)
女(…そう。今、表の世界にいる『裏々の私と男』は私たちとは『別の存在』だけど、紛れもなく『私』と『男』なんだ。)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
スタスタスタッ
男「楽しかったな~、水族館」
女「…いやいや、表の世界の2人が盛り上がってただけじゃない。」
男「まあ、女。時には『割り切る』ことも大切だぞ。」
女「『割り切る』って…私、こっちの世界に来てまだ1日も経ってないんですけど…」
男「あはは、確かに。」
女「それに、暗くてよく見えなかったし…魚。こんなことになるんだったら遊園地にしとけば良かった。」
男「はは、違いない。遊園地だったら周りに反射物が少ないだろうから俺たちも喋れたのにな。」
女「…ねえ、男。」
男「ん?」
女「男は2週間前に入れ替わったんだよね?」
男「…ああ。」
女「…じゃあ、今、表の世界にいる『裏々の私』とも2週間はある程度喋ったことがあるんじゃないの?」
男「……ああ、あいつとも何回か喋ったよ。」
女「やっぱり…。どんな子だった?」
男「どんな子って…お前であることには変わらないよ。」
女「そう…だよね。 じゃあ、その子と鏡の世界のこととかについてとかの話をしなかったの?」
男「ほとんど話さなかったな。あいつも俺が表の世界から来た男ってことに気付いてなかったみたいだし。」
女「…え?『気付かなかった』? じゃあ、男からも『俺は表の世界から来た』ってことを言わなかったの。」
男「ああ、言ってない。もし言ったら、裏々の女が『じゃあ私も』ってことで入れ替わりに躍起になってしまうかもしれないし、もしそうなったらお前に迷惑がかかると思ってな。」
女「そう…。」
男「だから、俺はあいつに入れ替わりを勧めるようなことはしてないんだ。あいつはおそらく半年前に裏々の俺から鏡の世界のことを教えてもらい、自我が生まれた。その時に入れ替わりの方法についても知ったはずだ。でも入れ替わりについては半信半疑だったんだろう。けど、今朝、たまたま入れ替わりのチャンスがめぐってきて、そしてやってみたら偶然にも成功した…って流れだろうな。」
女「…そういえば、あの子、『まさかこんな偶然があるとはね』って入れ替わった直後に…」
男「…あいつもそう言ってたのか。とにかく俺はあいつは鏡の世界についてなどは一切話さなかったよ。あいつとは『表の女がね~』とか他愛もない話とかばっかりしてたわ、あはは。」
女「…そう…。 …でも…。」
男「…ん?」
女「…でも、不安じゃなかったの男は!?こんな世界に一人で迷い込んで、自由もほとんど効かないこの世界に戸惑わなかったの!?」
男「…それは勿論最初は戸惑ったさ。でも俺には元々予備知識があったし…それに裏々の女もいたしな…」
女「…裏々の私…。 …ねえ、男。」
男「ん?」
女「もしかして『裏々の私』のほうが…好きだったり…するの?」
男「…! …あはは、そうだな。まあ確かにお前もあいつも『女』であることには違いないし、最近一緒に過ごしてたのはあいつだ。」
女「…。」
男「…でも、俺が好きなのは中学からずっと『表の世界』で一緒に過ごしてきたお前だよ。」
女「…お、男。」ホッ
男「じゃあ、逆にお前はどうなんだよ?」
女「…へ?私?」
男「うん。お前、昨日、『表の世界』で『裏々の俺』に告白してたけど、どっちが好きなんだよ?」
女「…! …そ、それは///」
男「ん?」
女「…た、確かに私が告白したのは裏々の男だったけど、私も男と同じで、好きなのはずっと『表の世界』で一緒だった男よ!///」
男「…そっか、それ聞いて安心したよ。」ニコッ
女「…男。 …あっ、もう電車に乗るみたいだよ。」
男「おっと、ほんとだ。このままあいつら帰るのかな?」
女「だとしたら…今日はもう…」
男「昼飯も水族館で食ったし、時刻ももう15時ぐらいだしな…まあ向こうの駅に着いてからも家に帰るまではある程度一緒だろうから安心しな。」
女「…だといいんだけど…。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
スタスタスタッ
女「どうやらこの道順は今から公園に行くみたいだね。」
男「みたいだな。」
女「あ、お昼の話に戻るんだけど、お昼ご飯の時は違和感が凄かった…ご飯食べる時は『自分で』噛まなくてもいいんだね。というか、反射物に映ってないのに勝手に口が動くなんて…」
男「あはは、まあな。あくまで『口』の自由ってのは『話す』ことにのみ自由が効くみたいで、ご飯だとか飲み物を口に入れるときは自由が効かなくなるな。でも視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの五感はちゃんと働くから味は分かっただろ?」
女「うん。…でも、何で『口』と『脳』だけ自由なんだろ…どうせなら手足も自由にしてくれたらいいのに…」
男「あはは、そんなことしたら鏡の世界の住人が動き放題になってしまうじゃんか。」
女「いいじゃない、動き放題になっても。」
男「そんなことになったら、表の世界のやつが驚くだろ?鏡、もしくは合わせ鏡に『自分の姿が映ってない!!』って。」
女「まあ…そうだけどさ。」
男「もし、『足』や『手』が動かせることになってしまったら鏡の世界の住人が『鏡に映らずにどかに行ってしまう』ということになってしまう。でも人は『口』と『脳』だけでは体をその場から動かすことが出来ない。だから『口』と『脳』だけがある程度自由なんだろうな。」
女「ふ~ん…なるほどね。 …あっ、公園に着いたみたい。」
男「…お、ベンチに座るのかな?…よっこらしょっと。ってあっちの俺も言ってるかな?」ストンッ
女「…ふふ、今の男、おじさんみた~い」
男「え?そうか?」
女「そうよ~」
男「…でも良かった。」
女「え?何が?」
男「…女、今日初めて笑ったな。」
女「…え? …嘘、今私、笑ってるの?表情もほとんど自由が効かないんでしょ?」
男「…まあ、表の世界にいる『裏々女』の笑っている表情が反映されてるってのもあるけど、今の女の口調は楽しそうだったよ。まるで笑ってるみたいだった。」
女「…そう…。でも、今男も笑ってるよ。まあ正確には表の世界にいる『裏々男』が笑ってるんだろうけど…。」
男「あはは、だろうな。くそー、あいつら楽しそうに会話してるんだろーなー。」
女「…だろうね…。 …ねえ、男。」
男「ん?」
女「…私も今すぐに笑いたい。」
男「…!」
女「今すぐにでも男と一緒に自由に笑いたい!笑い合いたい!」
男「…。」
女「…だから…だからそろそろ教えて!表の世界に戻る方法を!!」
男「…女。」
男「…ああ、分かった。教えるよ。…実は『表の世界』に戻る方法は『2つ』ある。」
女「…2つ!?」
男「ああ。その2つはどちらも『入れ替わり』による方法なんだ…でも、今すぐには出来ない。」
女「え?どういうこと?」
男「実は一度入れ替わりをしたら、『1週間』入れ替わりが出来なくなるんだ。」
女「…1週間?」
男「ああ。入れ替わりは連続して出来ない。おそらく入れ替わりの乱発を防ぐためのブランク的なものだろう。」
女「…1週間のブランク…じゃあ私が次に入れ替わりが出来るのは?」
男「…来週の『2月22日の午前10時』頃になるな。」
女「…そんな。」
男「…そう、だから今焦っても入れ替わりが出来るのは来週になるんだ。それまではこの裏々の世界で過ごさないといけない。それを覚悟してくれ。」
女「…1週間も。」
男「…それじゃあ、本題の『表の世界』に戻る方法についてだが…」
女「…うん。」
男「まず、一つ目は『合わせ鏡による入れ替わり』だ。これは分かるな?」
女「…! …私が『やられた方法』だよね?」
男「ああ。朝にも話したが、合わせ鏡の状態で『場所』『閏年』『意志』などの条件が揃った場合にのみ起きる現象だ。」
女「…」
男「…でもこの『合わせ鏡による入れ替わり』の方法の成功率は限りなくゼロに近いな。」
女「…え!?どうして!?」
男「やっとの思いで、『裏々の世界』から『表の世界』にやってこれた奴がそんなシチュエーションを創り出すと思うか?」
女「…! …そっか。」
男「おそらく今の表の世界にいる裏々女、あと勿論裏々の俺もこの『合わせ鏡の入れ替わり』の状態を創り出さないように細心の注意を払っているはずだ。」
女「…普通考えればそうだよね…。じゃあ、その方法は厳しいか。」
男「ああ。」
女「…じゃあ、もう一つの方法は何なの!?」
男「…2つ目の方法は実は『合わせ鏡による入れ替わり』よりもかなり簡単なんだが…」
女「…え?簡単なの!?」
男「…でも、問題もあるんだ…」
女「…問題?…とにかくその方法っていったい何なの!?」
男「…それは…」
女「…………待って男。」
男「…ん?どうした女?」
女「私たちの顔、さっきからどんどん近づいてない?」
男「…! …言われてみれば…話に夢中だったから…」
女「…! …ちょっと!?急に真っ暗になったんですけど!?」
男「おい!お前目瞑っちゃってるよ!!」
女「ねえ!もしかしてこの雰囲気って!?」
男「…あれしかねーだろ…」
女「ちょっと本気なの『あの子たち』!!」
男「あっ!やばい!女!覚悟を決めろ!」
女「へ!?…んっ/////」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「…大丈夫か?女?」
女「…体の自由は効かないくせにストレスは溜まるのね…」
男「…は、ははは……。」
女「…私の…私のファーストキスが…」
男「…でも、まあ相手は俺だったんだしいいじゃんか、な?」
女「そういう問題じゃないの!!!!!」
男「…ご、ごめん…。」
女「…ったく…ムードもへったくれもないわよ…」
男「…まあ…確かに…。」
女「…! …やばい!そろそろうちのマンションだから別れるみたい!」
男「…あっ…ぐだぐだと話してたら…」
女「ちょっと!『ぐだぐだ』ってキスのこと!?」
男「…あっ、いや、別にそういう意味では… …とにかく、表の世界に戻る方法についてはまた次に会ったときに話すよ。」
女「…分かってるわよ。」
男「あと、むやみやたらに家族に話しかけるなよ!ちょっとした会話でも『自我』を生み出すきっかけになるかもしれない!『表の世界』の『裏々の女』に会話を合わせろよ!」
女「…分かった。 …ん?ちょっと!『あの子』と会話を合わせるってどうやるのよ!?」
男「なあに、『裏々女』もお前なんだから、いつもどおりお前で話したらいいんだよ!まあ、多少会話がずれても大丈夫だ!」
女「でも…」
クルッ
男「…おっと、表の世界では話が終わったみたいだ!それじゃあな女!!」タッタッタ
女「ちょっと男!!」
タッタッタッタ
女「…行っちゃった…。」
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スタスタッ
女(あっ…マンションに着いたみたい。)
キィーーーーーン
女(…耳鳴り!? …! …そっか、うちのマンション玄関がガラス張りだから今朝、エレベーターから降りた後も少しの間、喋ることが出来なかったのか、そして今も…)
女(…でもこのままエレベーターに行ってくれればもしかしたらチャンスが…)
女(…! 駄目だ!やっぱり『この子』階段に向かってる…っ!)
女(…ってことはあのエレベーターでの入れ替わりは無理と考えたほうがいいか…)
女(…でもこれからしばらく毎日ずっと階段になるのかぁ…うちの部屋は10階だから相当ヘビーだよぉ…しんどさも反映されるんだからこっちのことも考えてよね…)
女(…まあ、ダイエットになるからいっか…って何のん気なこと考えてるのよ私…)
管理人『あっ、1002号室の女ちゃんじゃないか。お帰り~。』
女(…あっ!管理人のおじいさん!?あいさつしないと…って、今はガラス張りの玄関の前だから私は喋れないのか…)
女『こんにちは、管理人さん。』
管理人『あれ、今日は階段で上がるのかい?しんどくないかい?』
女『えへへ…実は最近そっちの左側のエレベーターが気味悪くて…。』
女(…気味が悪い…かぁ…)
管理人『ん?気味が悪い?おばけでも出たのかい?』
女『出てはないんですけど…なんかこう…薄気味悪いというか…』
管理人『へ~、そうなのかい。…あ、そういえば、他の人も今の女ちゃんみたいなこと言ってたな~。誰かに見られてるような気がするとか何とか…。』
女(…! …じゃあやっぱりあのエレベーターには何か霊的な…)
女『それ!それなんです私も!あのエレベーター絶対に何かおかしいですよ~!』
管理人『はっはっは。私はまあこのマンションはまだ建ってから5年ぐらいしか経ってないし幽霊がいるなんてことはあんまり信じられないけどね。』
女『こういうのは理屈じゃないんですよ!管理人さん!』
管理人『はいはい。まあ、階段での上り下りは女ちゃんにとってはダイエットにもなるだろうし調度いいんじゃないかい?』
女『ちょっと管理人さん!女の子にそういうこと言うのは失礼ですよ!』
管理人『あはは、すまないすまない。まあ、無理はしないようにね。』
女『は~い。それじゃあ管理人さん、さよ~なら~!』
管理人『はい、さようなら。』
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ガチャ
女(うちの玄関には反射物はないから自分で言わないと…)
女「…ただいまー」
スタスタッ
母「おかえりなさ~い。どうだったのデート?」
女(…お母さんに自我を持たせるわけにはいかない。いつもどおりの『私』で話さないと…)
女(…思い出せ、今日のデートを。水族館や電車の中での『あの2人』の会話を…)
女(それをいつもの『自分の口調』で話すんだ。『私』ならおそらく…)
女「…すごく楽しかったよ~!水族館も空いてて快適だった!」
母「ふふ、良かったわね。それじゃあ、もう夕飯用意出来てるから部屋に荷物置いてらっしゃい。」
女「は~い」
スタスタッ
女(よし!自分の部屋に向かってる!今の会話で問題なし!)
ガチャッ
女(…でも、これからもこれが続くと思うと…)
ガサゴソ
女(…ん? バッグから何探してるんだろ『この子』?)
キィーーーーーン
女(…耳鳴り!? もしかして…手鏡!?)
ヒョイッ
女(…やっぱりそうだ!でも手鏡なんてもってどうするの『この子』…)
女『…安心してね。』
女(…安心? どういうことだろう…)
スタスタッ
ガチャッ
女(リビングに入った…)
コトッ
女(…!? リビングの角に鏡を!?)
女(これじゃあ、リビングにいる限り私は…)
女『ね~、お母さん、ここに鏡置いてい~い?』
母『ん?別にいいけど何で?』
女『最近朝弱いからさ~、もしもの時のために朝、ここでご飯食べながら髪の準備とかするため!』
女(…本当にそれが理由なの…?)
母『あんたが早く起きればそんなもん置く必要ないじゃない。』
女『ま~、そうなんだけどさ~、でもいいでしょ?』
母『別にいいわよ~。…あ、朝と言えば、今日間に合ったの?』
女『うん!ギリギリ!』ニヤッ
母『も~、あんまり男くんに迷惑掛けるんじゃないわよ~』
女『分かってるよ~。あっ、あとお母さん、玄関にも姿見様の鏡置いてよ~!』
女(…玄関にも!? …っ! もしかして…)
母『え~?姿見の鏡は確か押入れにあったと思うけど…でも何で?』
女『え~、玄関にも鏡があったほうが便利じゃない?』
母『ま~、昔は玄関に置いてたしね~…まあ女の好きにしなさい。』
女『やった~!ありがとうお母さん!』
母『はい、それじゃあ夕飯冷めちゃうから食べましょ。女もいつまでも立ってないで座りなさい。』
女『は~い』ガタッ
女・母『いただきま~す』
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女『ごちそうさま~』
スタスタッ
ガチャ バタンッ
スタスタッ
ガチャ バタンッ
女(…私の部屋に戻ってきた。)
女(私の部屋には鏡とかないからちょっとは自由に…)
スタスタッ
女(…! どうしたんだろ『この子』、窓辺に近づいt…まさか!?)
キィーーーーーン
女(…耳鳴りってことは!?)
シャーッ
女(…!? …やっぱり『この子』、カーテンを…)
女『ふふ、夜の窓は光をよく反射するからね。てか、今朝、寝坊したからってカーテンを閉めっぱなしにしておくのはどうかと思うよ。』
女(…!?)
女『ふふ。リビング、玄関、洗面所、自室、これで、この家の中であなたが喋れる場所はほとんど無くなった。どう?『喋る自由』もない苦しみは?』
女(…っ。)
女『…な~んてねっ! ふふっ!ビックリした?』ニコッ
女(…! …やっぱり『この子』…)
女『まあ、オリジナルの『あなた』なら気付いてるか~。リビングや玄関に鏡を設置させたのは『私』と『あなた』の『喋り』を合わせるためってことに。』
女(…。)
女「さすがに元『主』でかつオリジナルの『あなた』でも、私と一字一句『喋り』を合わせることは出来ない。その『ずれ』によってお母さんたちが自我を持つことになってしまうかもしれないしね。だから、鏡を各所においてこっちから強制的に同じことを話させるために、そして『裏々の世界』のお母さんやお父さんに自我を持たせないためにリビングと玄関に鏡を置かせてもらったの。』
女(…確かに私が両親と会話をする場所はリビングと玄関ぐらいだもんね。)
女『…まあ、『裏の世界』や他の鏡の世界の人たちからしたら凄く迷惑かもしれない、それは本当にゴメン…』
女(…他の鏡の世界の人たち? もしかして他にも自我を持った私がいるっていうの!?というか、こんなに鏡の世界のことについて連発して言ったら、たとえ自我を持っていない『他の私』でもこれをきっかけに自我を持ってしまうんじゃ…!?)
女『…でも。』
女(…?)
女『…それでも、やっぱり私の本当のお母さんとお父さんは『裏々世界の2人』だから…。』
女(…! …やっぱり『この子』も『私』なんだ… …お母さんとお父さんが大好きなんだよね。 …でも、じゃあ何で…)
女『…じゃあ何で両親を放って、自分だけ抜け駆けしたの?…って思ってるでしょ?』
女(…!)
女『まあ、それだけはオリジナルのあなたには分からないだろうな~。いや、ちょっとは分かるかもしれないけど、根本からは理解できないと思うよ。今の時点じゃ。』
女(…今の時点?)
女『まあ、お話はここまで!…あ!さすがにこの部屋でも自由が無いのは鏡の世界のみんなに申し訳ないからカーテンはこれからはずっと閉めておきま~す!だから安心してね!』
女(…! でもそれじゃあ…)
女『…あっ!それと、もしこの部屋にお母さんが来ても、すぐに予備の鏡を出せるように準備しておくから安心してねオリジナルの私!それで会話がずれることは多分ないから!』
女(…お見通しかぁ…)
女『それじゃあね~!』
シャァーーッ
女「…! 口に自由が… でも口が自由になっても…」
女「…『話し相手』がいないんじゃなぁ…。」
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―2012年/2月/16日/香川/ @ 1週目―――――――――――----
スタスタッ
女(…昨日はなんとか切り抜けられたけど今日からどうしよう…)
女「はぁ…」
オ~イ!!
女「ん?男の声?」
タタタッ
男「よ~、女。昨日はよく眠れたか?」
女「不安で眠れなかったわよ!!…って言いたいところだけど、ぐっすり眠れたわ。」
男「あはは、やっぱりそうか。」
女「こっちが頭の中で色々考え事してるのに、強制的に眠らされるのね…」
男「まあな。表の主が眠くなればそれが鏡の世界の住人にも連動するからな。」
女「やっぱりそうなんだ。」
男「…で、昨日家に帰ってからはどうだった?」
女「それが…」
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男「…なるほど。『裏々女』も気がきくじゃんか。」
女「まあ、そうなんだけどさ…」
男「まあ。そこまでしなくても大丈夫だと思うんだけどな。まあ、念には念をってことなんだろう。」
女「…?」
男「まあ、とは言っても、とりあえずいつも通りの自分でいけよ。」
女「でも、表の世界の自分と話を合わせるなんて難しいよ…。」
男「まあ、コツとしては『何も考えない』ことだな。考えすぎると逆に喋りづらくなる。それに、ちょっと、会話がずれたぐらいで自我は生まれないから安心しろ。」
女「…でも、例えば、『主』が『そこにあるペンを取って』って友達に言うとするじゃない?それに私が会話を合わせられなかったとしたら、その『裏々の友達』は私に何も言われてないのに『ペンを取る』という行動をとっちゃうんじゃないの?その『裏々の友達』は絶対にキョトンってなるよ。」
男「ああ。それは十分にあり得る。そうなった場合は、その後に『ごめん、ペンを取ってって言ったんだ~』とか言ってアフターフォローで頑張るしかない。」
女「アフターフォローって…」
男「だーかーら、あんまり考え過ぎんな。お前と裏々の女は『99%』同じなんだ。こう言うのも何だか変だが『自分』を信じろ、な?」
女「はあ…」
男「おっと、俺の教室は1階だし、そろそろお別れだな。そんじゃあな!」
女「あっ!男! …はあ、やっていけるのかな私…。あっ、そういえば、入れ替わりのもう一つの方法を男に聞くの忘れてた…。」
女「…もう嫌…。」
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―2012年/2月/21日/香川/ @ 1週目―――――――----
【-女の自室-】
女(…この1週間、『主』と会話を合わせるってのは何とかやって来れた…)
女(…『裏々の私』も他人と喋るのを控えてくれてるみたいだし…)
女(…でも、結局あれからはろくに男と喋れてない…)
女(…学校の中でもあんまり会えないし、会えたとしてもうかつに鏡の世界のこととか学校の中で喋れないだろうし…
女(土日もお互い部活で会えなかったし…)
女(…そういえば、15日に『裏々の私と男』が『あんまり会わないでおこう』って言ってたなぁ…)(>>55)
女(携帯での連絡もメールだけだし…電話をしてさえくれれば…)
女(とにかく、明日で『あの入れ替わり』から1週間が経つのに…明日から入れ替わりが可能だっていうのに……どうしたら…)
女(…早く…)
女(…早く戻りたいのに…)
女(…早く表の世界に戻りたいのにっ!!)
prrrrrr prrrrrr
女(…!? 男から電話だ!!)
女(…でも鏡の世界で電話って繋がるのかな?)
女「…はい、もしもし」
男『あ、女か。』
女「…表にいる『裏々男』じゃないよね?」
男『はは。違うよ、こっちに今いる『オリジナルの男』だよ。』
女「…そっか、なら良かった。でも鏡の世界でも電話って繋がるんだね。」
男『まあな。いやあ、それにしても『裏々の俺』がお前に電話かけてくれて助かった。』
女「そうだね。…そういえば男の部屋には反射物はないの?」
男『ああ。反射物はないからこうやって喋れてるんだ。』
女「そっか。ラッキーだね。」
男『ははは、ラッキーだな確かに。…ところで、お前がこっちに来てから明日で1週間経つよな。』
女「…! …うん。」
男『この前言いそびれたもう一つの『入れ替わりの方法』を『あいつら』が電話を終えるまでに伝えておく。次、いつこうやって電話できたり、会えたりできるか分からないからな』
女「…そうだね。」
男『それじゃあ、言うぞ、もう一つの入れ替わりの方法は…』
女「…うん。」
男『…っと、その前に、女、お前、こっちに来てから反射物を見たことはあるよな?』
女「…はい? それがどうしたのよ、そんなことより早く入れ替わりの方法を教えてよ。時間ないでしょ?」
男『それを教えるために確認しないといけないんだよ。…で、見たことはあるよな』
女「…そりゃあるわよ、当たり前じゃない。毎日、洗面台の鏡の前で『あの子』が髪とかセットするんだし」
男『あはは、だろうな。それで、お前が反射物を見ていたその時、その目の前の反射物には『誰』が映っていたと思う?』
女「…誰がってそりゃあ今、『表の世界』にいる『裏々の私』じゃないの?」
男『…目の前の反射物の像は反転してるのにか?』
女「…! 確かに…反射物には反転した私の姿がいつも映ってる…じゃ、じゃあ誰なのあれは?」
男『それは『裏の世界』のお前だ』
女「え、裏の?」
男『ああ。実は、こっちの『裏々の世界』の反射物には裏の世界の像が映し出されていているんだ。』
女「そうなんだ…反射物には裏の世界の私が映っているってことは分かったけど、それが入れ替わりと何の関係が?」
男『…実は元々表の世界にいた、つまりオリジナルの人間には『特権』というものがある。』
女「特権?」
男『ああ、『オリジナルが表の世界以外にいる場合、反射物に対して念じれば、表の世界に近い世界へと移動できる』という『特権』がな。』
女「…それって!?」
男『ああ。つまり、鏡の前で念じるだけで俺たちは今より表の世界に近い世界、つまり『裏の世界』に行ける。』
女「でもそれも旧校舎とかの特別な鏡じゃないと出来ないんじゃないの?」
男「いや。これの場合はどんな反射物でも出来る。」
女「え!? それじゃあ、そこらへんにある鏡とかでも出来るってこと!?」
男「ああ。」
女「…そうなんだ。でも、裏の世界になんか行っても…」
男『…じゃあ、『裏の世界』の反射物にはどの世界が映り、どの世界に繋がっていると思う?』
女「…!? …もしかして!?」
男『ああ。『裏の世界』の反射物には『表の世界』が映り、そして繋がってもいるんだ。』
女「…じゃあ、裏の世界に行って、1週間待ってから鏡に念じたら…」
男『ああ。表の世界に帰れる。つまり裏々→裏→表と、一方通行ではあるが反射物を通して移動できる『特権』を俺たちオリジナルは持っているってわけだ。』
女「…でも何でオリジナルにはそんな『特権』が?」
男『おそらく、『世界を元に戻そうとする外的な力』が働いているからだな。』
女「…がい…てき?」
男『俺たちオリジナルはこの『鏡の世界』にとってはイレギュラーな存在だ。だからこそ、そのイレギュラーな存在を出来るだけ迅速に表の世界に戻そうと外的な力が働いてるのかもしれない。そして、そのイレギュラーな存在を表の世界に戻すための一つの手段としてこの『特権』が生まれたんだろう。まあ、これはあくまで俺の推論だ。』
女「…なるほどね…でも、この方法なら合わせ鏡とかのややこしい条件を揃えなくても簡単に表の世界に戻れるってことだよね?」
男『ああ。だから言ったろ?簡単だって。』
女「ほんと!すごい簡単!じゃあ、早速明日しないとね!!」
男『待って女、でも実はこれには問題もあr…』
ピッ
女「…あっ、切れた…タイミング悪すぎ…。男、最期に何を言いかけたんだろ。聞き取れなかったな…まあ明日聞けばいっか!」
女「でもこの方法なら早くて来週の29日には表の世界に帰れるってことだよね!」
女「な~んだ、そんなに悲観する必要もなかったじゃない、ふふ。」
----―――――――――――――――――――――――
―2012年/2月/21日/香川/ @ 1週目―――――――----
【-教室-】
女(今日も登校中に男に会えなかったなぁ…)
女(昨日の話の続きを聞きたかったんだけど…)
女(…え~っと、確か1週間前はエレベーターの中で9時50分ぐらいに入れ替わったんだよね…)
女(その時間は授業中か~、今は9時。10時30分からの2時間目後の休み時間にトイレに行ってくれればすぐにでも出来るのに…)
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―2012年/2月/22日/香川/ @ 2週目――――――――----
ジャー
女(ふ~…)
女(よし、私が望んだ通り2時間目後の休み時間にトイレに来てくれた。)
女(あとは、洗面台の鏡の前に立ったときに…)
女(…男には結局言って無いけどいいよね。)
女(…男も多分後から来るだろうし。)
女(…ん?でも何で男はこの3週間『特権』を使わなかったんだろ…それに、男、昨日の電話の最後に何か言いかけてたな…)
スタスタッ
キィーーーーーン
女(…!? そろそろ鏡に映るみたい!)
女(…よし!鏡の前に立った!あとはこの鏡に向かって念じるだけ!)
女(…でも、ちょっと不安になってきた。やっぱり、男ともう一度話してから…でも出来るだけ早く戻りたいし…)
女『…ふふ。ちょうどあれから1週間経つね。『特権』を使うのかな?オリジナルの私は?』ニヤッ
女(…!? 完全に見透かされてる!? …でも、この自信は何? 『自分』はもしかしたらあと1週間後には『主』じゃなくなるかもしれないっていうのに!?)
女『でも、やっぱり、ビビってるんだろうな~、何せ『私』なんだから。ふふ。』
女(…っ! …ビビってなんかないわよ!!)
女(…いいわ…やってやるわよ!!私は『あなた』と違うんだってところを見せてやるんだからっ!!)
女(鏡よ…)
女(私を…)
女(私を『裏の世界』へ……!!)
フッ
…
………
………………
----――――――――――――――――――【起】――
―【鏡の世界でのルール(No.1)】―――――――――----
● 体について
① 体の自由はほとんど効かない。表の世界にいる『主』が絶対的な存在であり、その『主』の行動が鏡の世界の住人にも反映される。(>>57)
② 表の世界で『行動権』を持つ者を『主』、表の世界で生まれ育った者を『オリジナル』という。(>>81)
③ 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの五感は働く。(>>93)
④ 鏡の世界では『考えること』と『喋ること』が出来る。(>>58)
⑤ 鏡やガラスといった光を反射させるもの(反射物)に表の世界の『主』が映っている場合は鏡の世界の住人は『喋ること』が出来なくなる。『考えること』は可。(>>59)
⑥ 『主』が反射物に映っている時は『主』の『喋る』内容が鏡の住人にも反映される。(>>59)
⑦ 飲食時は反射物に映っていない時でも、表の世界の『主』の口の動きと同化する。(>>93)
⑧ 反射物に、自分の像が映し出されるその5秒前に、脳に合図が走り、『喋ること』ができなくなる。ただし、これは自我を持った人間のみに起きる現象である。(>>60)
● 自我について
① 鏡の世界の人間が自我を持つためには、鏡の世界の人間自身が『鏡の世界の人間』だと自覚する必要がある。(>>76)
② 自我を持つことによって鏡の世界の住人は『考えること』と『喋ること』が出来るようになる。(>>76)
③
④ 鏡の世界の住人が自我を持つためには『他に自我を持った人間から鏡の世界についてを教えてもらう』もしくは『表の世界のオリジナルが鏡の世界のことの存在を知る』必要がある。(>>80)
----―――――――――――――――――――――――
―【鏡の世界でのルール(No.2)】――――――――----
● 鏡の世界の特徴について
① 鏡の世界は半永久的に存在する。(>>53)
② 鏡の世界は、裏の世界、裏々の世界、裏々々の世界と、表の世界から遠ざかっていくにつれて、明度が小さくなっていく。(>>54)
③
④
⑤
⑥
● 入れ替わりについて
① オリジナルが表の世界以外にいる場合、反射物に対して念じれば、表の世界に近い層へと移動できる。(『特権』による入れ替わり)(>>124)
② 2枚での合わせ鏡の状態を創り出した時、表の世界と裏々の世界の人間が入れ替わりを起こすことが出来る。(合わせ鏡による入れ替わり)(>>48)
③ 入れ替わるのは、あくまで『意識』のみであり、肉体はそのままである。(>>49)
④
⑤ 入れ替わりは連続して行うことが出来ず、1週間のブランクを必要とする。(>>96)
⑥ 入れ替わりにはどちらかにその『意志』があることが必要となる。(>>51)
⑦ 入れ替わりは閏年の一時期に行える。(2012年は3月21日まで)(>>50)
----―――――――――――――――――――――――
―【鏡の世界でのルール(No.3)】―――――――――――----
⑧
⑨
⑩
⑪
● ○○○○○○○○○○○○○○
①
②
③
④
○○ ○○○○○ ○○ ○○○○○○○ ○○○ ○○○…
----―――――――――――――――――――――――
134 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/15 23:19:00 KboOGec2 121/584
起編、終了です。
編が終わるごとに上のようにそれまでに出てきたルールなどをまとめたものを載せます。どうぞ、参考程度に。
では、また、来ます。
【承】へ続く。


