マミ「ぶた肉いためとライスください。あとおしんこ」
店員「はい」
マミ「あ……あとスイマセン、とん汁ひとつ」
常連「持ち帰り。ライスととん汁」
マミ(持ち帰り! そういうのもあるのね)
元スレ
マミ「おいしい!おいしい!」
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1324470476/
マミ「おいしい!おいしいわ!」
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1325247816/
マミ(ぶた肉ととん汁でぶたがダブっちゃったわね……)
マミ(とん汁も具とお肉がいっぱい)
マミ(なるほど……この店はとん汁とライスで十分なのね)
ハフハフ
マミ「おいしい」
ズズー パリポリ
マミ(このおしんこは正解だったわね)
マミ(漬かり具合もちょうど良くて……ぶたづくしの中ですごく爽やかな存在だわ)
常連「おばさん。ウィンナ炒めとライス」
店員「はーい」
マミ「……」
マミ(あったかくていいお店ね)
マミ(……でもお店で食べてるお客さんって、ほとんどご飯よりお酒のお客さんなのね)
マミ「おいしかった……」
マミ「お勘定お願いします」
店員「800円です」
マミ「ごちそうさま」チャリン
店員「ありがとうございます」
マミ(お腹がパンパンだわ……食べすぎちゃったかしら)
マミ「……」チラ
店員「……」常連「……」
マミ「……」フゥ…
マミ(やっぱり、私みたいな中学生が一人で入るには不釣り合いなお店だったかしら)
マミ「……」
「おーい、ヤスさんいるかー」
マミ「……!」
マミ(なるほど……あれがさっきのお持ち帰りね)
「おう、ヤマさん」
「いっしょにメシ食うべえよォ」
マミ「……」
マミ(……駄目よね)
マミ(持って帰ったって、どうせ一人だもの)
《第一話・了》
キュルルル
マミ(……お腹すいたわ)
マミ(もう4時半……平日の魔女退治はこれだから困るわね)
マミ「……」
マミ(ハンバーガーって気分じゃないわね……油の匂いが今はちょっと)
マミ(牛丼屋……なんだか入りづらいわ)
マミ「あ……回転寿司」
マミ「……うん、今日はここでいいわ」
店員「いらっしゃーい」
マミ(パッと食べてサッと出ちゃいましょう。面倒じゃなくていいわ)
マミ(この時間じゃ学生なんていないけど……その方が気が楽でいいし)
マミ(……)コポポ…
マミ「さて、何からいこうかしら」パキッ
マミ(とりあえず順当に、定番のマグロから)カチャ
マミ(……いかにもって色してるわね)
モグ モグモグ
マミ(これで全品……130円。案外安いかしら)
マミ(次は……ああ、きたわね。イカイカ)カチャ
モグ モグ
マミ(エビ……ネギトロ……)カチャ カタン
マミ(アナゴ……イワシ……)カチャ カタン
マミ(……?)
マミ(よく見たらこの店、女の人ばっかりね)
マミ(それもオバサンばっかり……)
おばさん「大トロ2枚くれる?」
店員「はい」
「こっちも大トロ」 「それとエンガワ」
マミ(大トロ……)
マミ(何かしら、みんな流れてないものばかり注文してる)
マミ「ん……?」
『タイムサービス(1時半から5時まで) 大トロ1皿130円』
マミ(なるほど、これね……)
おばさん「ここ、いいかしら」
マミ「えっ……ああ、どうぞ」カタン
マミ(またオバサンの一人客……)
おばさん「こっちも大トロ2枚」
店員「はい」
マミ(大胆にいくわね……)
マミ(まいったわね……)
マミ(なんだか私だけ損してるような気がしてきたわ)
マミ(気がついたらみんな回ってない大トロ中心に食べてる……)
マミ(……よし)
マミ「スイマセン、大トロと……それとアワビを」
店員「……」
マミ(……)
マミ(……?)
マミ(返事がない……聞こえなかったのかしら)
店員「はいおまち、大トロと2枚とこちらアワビ」クルッ
マミ(まずいわね……この席、店員さんに声が届きにくいんだわ)
おばさん「スイマセン、大トロ2枚とエンガワちょうだい」
「こっち大トロ2枚と赤貝!」
「エンガワと大トロ」 「こっちも大トロとイクラ」
マミ(何なのかしら、この店……みんなサービスタイム狙いなの?)
マミ(あ……もう5時10分前)
マミ(やだ、なんだかろくなもの食べてない気がしてきた……ぼやぼやしてられないわ)
マミ「スイマセン、あの大トロ2枚と……」
「こっち大トロ2枚通ってる?」
店員「はい、ただいま」
「大トロ2枚ね」
マミ「……」
マミ(いけないわね、タイミングがずれてる……)
マミ「……!」
『ご注文のお客様へ カウンターからは声の方角がわかりにくいため、少し大きい声でご注文お願い致します』
おばさん「スイマセン! さっきから注文してるんですけど!」
店員「ハーイ、注文は大きい声でよろしくっ!」
おばさん「あたくし喉が悪いんです……スイマセン、大トロ2枚とエンガワちょうだい」
おばさん「あと、こっちの方もさっきから注文してるんですよ。もう少し聞こえるようにならないかしら」
マミ(……!)
店員「はいスイマセン、混んじゃうとどうしてもそっちの声が通らなくて……えっと、お客さん何でしたっけ?」
マミ「あ、えっと……大トロとウニ、それと……アワビください」
マミ「なんだかどうも……すみません」
おばさん「いいえ、困ったときはお互い様ですよ」
マミ(……なんで注文するくらいでこんな思いしなくちゃならないのかしら)
店員「ハイ、おまち」
マミ(あ……やっと大トロにありつけるわ)
マミ「これが大トロなのね……」ヒョイ パク
マミ「うん、おいし……」モグモグ
店員「ハイ終わり! タイムサービス終わりです!」
マミ「……」モグモグ
「お勘定」 「こっちもお勘定してください」
マミ「……」モグ コクン
おばさん「じゃ、お先に」
マミ「あ……どうも」
マミ「……」ポリポリ
マミ「……」ズズー
マミ「ふう……お勘定お願いします」
店員「11枚……1472円になりまーす」
店員「毎度ありがとうございまーす」
マミ(お寿司にしては安いわよね……)
マミ(ちょっと食べすぎたかしら)
マミ(ラストの2枚……あれがきいたわね)
マミ「……」
ガヤガヤ…
マミ(不釣合いよね、こんな時間に……回転寿司のお店から出てくる中学生なんて)
マミ(だけど……)
マミ(あのオバサンたち……帰ってから普通にお夕飯の準備して、「いいの、お母さんは少しで」とか言うのかしら)
マミ(家族はそんなオカアサンの顔、知らないんでしょうね……)
マミ(だったら、私もオバサンたちもお互い様かしら)
≪第二話・了≫
まどか「マミさん知ってます? 近くにすっごい美味しい甘味屋さんがあるんですよ!」
マミ「そうなの? でも私は……」
まどか「絶対に気に入りますから! 行ってみてください!」
マミ「え、ええ……」
マミ(困ったわね、確かに甘いものは好きだけど……)
マミ(どちらかというと洋菓子系の方が好みなのよね)
マミ(それに、今は甘いものよりお腹が空いてるし)
マミ(……でも甘味処ならお雑煮とか煮込みうどんとか、お腹にたまるものもあるかしら)
マミ「あ……ここかしら」
マミ(「高級甘味」ってわりには小さなお店ね)
マミ(……いえ、かえってこういうお店の方がいいのかしら)
マミ(でも甘味ってお店はやっぱり入りづらいわ……なんだか敷居が高くて)ガラッ
店主「いらっしゃい」
マミ(あら……内装は純和風ってわけでもないのね。庶民的で)
マミ(これなら変に緊張しなくてすみそうね)
マミ(何にしようかしら)
マミ(鹿目さんのおススメは「豆かん」だったわね)
マミ(……それよりも空腹を満たすのが先ね)キュルル…
マミ「ん……?」
マミ(煮込み雑炊……うん、お腹いっぱいになりすぎるのも嫌だし、雑炊って気がきいてるわね)
マミ「スイマセン、この煮込み雑炊をひとつください」
店主「あ……ごめんなさい、それ来月からなんですよ」
マミ「……」
マミ(がーんだわ……出鼻をくじかれた……)
マミ「じゃあ、この煮込み雑煮を」
店主「ですからごめんなさい、雑煮も来月からなんですよ。冬場だけのメニューでしてどうも」
マミ「……」
マミ「じゃあ……豆かんください」
店主「ハイ、豆かん一丁」
マミ(それにしても……お腹すいたわ)キュルルルー
店主「ハイどうも、お待ちどうさま」コトッ
マミ(……シンプルね)
マミ(本当に豆と寒天だけ……かかってるのは黒蜜かしら)
マミ(……)
パク
マミ「!」
マミ(これ……これ、おいしいわ!)
マミ(豆が違うのかしら……身がぎっしりしてて、皮も邪魔にならない)モグモグ
マミ(黒蜜もべったりした甘さじゃない……香ばしいくらいだわ)パク
マミ(豆と寒天だけなのに、全然飽きない……)モグモグ
ガラ…
「いらっしゃい」
「豆かんひとつね」
「ハイ、豆かん一丁」
マミ「……」モグモグ
「昨日の火事さあ、知ってる?」
「ああ、CD屋の? ボヤだっていうじゃない。野次馬行ったの?」
「うん……いやそれがさ、あそこのオヤジおかしくてさ、笑っちゃうんだよ」
「なにさ、どうしたのよ」
「消火器使ったららしくてさ、モクモクしてんのにぼんやりしてさ」
「凄いキラキラした格好の女の子が走ってったっていうんだよ」
マミ「」ブフォッ!!
「アハハハハ」
「それがホーントなんだって。まだ子供……つっても中高生だからいい年だけどさ」
「なんか天使様を見たとか、てろふいなれ? とかブツブツ言っちゃってさあ」
マミ「……」フキフキ
「んで、ボヤはたいしたことなかったんだろ?」
「そりゃな。ほとんど火は出てなかったっていうし」
「おおかた消防車呼んどいてほとんど火も出てないんじゃ話になんないからさ、盛ってんじゃないの?」
マミ「……」
マミ(なんていうか……違うわね)
マミ(ここの人たちは魔女と魔法少女の起こす現象なんて、想像することすらない)
マミ(私みたいな魔法少女とは、違った時間を生きてるのね)
マミ(私、もうこんなふうには生きられないんだわ)
マミ(……)
「すいません、お土産にあんみつ3つ。あと勘定ね」
「ハーイ」
マミ「あ、こっちもお勘定お願いします」
ガララ…
マミ「……」フゥ…
マミ(でも本当においしかった)
マミ(できれば腹ごしらえしてから食べたかったわね)
「あれ、マミさん?」
マミ「あ……」
さやか「やっぱりマミさんだ! 偶然ですね」
まどか「あっちから来たってことは……マミさん、あの甘味のお店行ってきたんですか?」
マミ「え、ええ。鹿目さんたちはこれから?」
さやか「あ、はい。まどかのおススメってことで」
マミ「そう……」
マミ「じゃあ、楽しんでくるといいわ」
マミ「あ、鹿目さん。豆かんはおいしかったわよ」スッ…
まどか「……」
まどか「マミさん、待ってください!」グイ
マミ「……どうしたの?」
まどか「さやかちゃん、甘味はまた今度にしてご飯にしない?」
さやか「……あー、うん。そうだなー、さやかちゃん本格的にお腹空いちゃったかなー」
まどか「ね。マミさんも一緒にどうです?」
マミ「……」
『おおかた消防車呼んどいてほとんど火も出てないんじゃ話になんないからさ、盛ってんじゃないの?』
マミ「……」
まどか『ね。マミさんも一緒にどうです?』
マミ「……」
マミ「……ええ、ご一緒させていただこうかしら」
まどか「やった、じゃあおススメの洋食屋さんに案内しますね!」
さやか「っと、待ってよまどか! 走らないのー!」
≪第三話・了≫
マミ「……っ」クシュン
マミ「もうすっかり冬ね……」
「ほら、もっとくっついていいよ?」 「や、ちょっと……恥ずかしいよ」
マミ「……」イラッ
マミ(ああいうのが手編みのマフラーとか、セーターとか作って見せびらかすのね……使い魔に食べられちゃいなさい)
マミ(ああ、いけない。いけないわ……)
マミ(……)
マミ「手編みのマフラー、か……」
マミ「寒いでしょ、ほらちゃんと上着着て」
杏子「平気だっつってんだろ……あんたが着てなよ、寒がりなんだからさ」
マミ「私は大丈夫だから……さあ」
杏子「いいってば。それよりさ、風見野に残れよ……こっちの方が魔女も多いだろ?」
杏子「たくさん狩れば魔法も使い放題だ! そしたらあんたも、自分のために魔法使うななんて言わないだろ?」
マミ「……」
杏子「そしたら広くてあったかい部屋に引っ越して、二人で美味いもの食ってさ……」
マミ「……ほら、着てちょうだい。風邪引くわよ」
杏子「……意気地なし!」
マミ「……」
>>142
たぶんそれだ。ありがとう。
マミ「そんなこというけど……わかるでしょう、他の人にも暮らしがあるの」
マミ「私たちに力があるからって好き放題したら、そういう人たちにしわ寄せがいくのよ」
杏子「……やめろよ」
杏子「あたしたちは散々報いを受けたはずだろ……今さら他の奴のことなんて」
杏子「そうやって……こんな目にあってんのにまだ窮屈に生きてくのかよ……!」グスッ
マミ「……」
杏子「気がついたらもう魔法少女になって何ヶ月だ? 何年だ? 冗談じゃねー……」
杏子「明日死ぬかもしれねーってのに遠慮なんかすんなよ、寂しい人生じゃねーか……!」
マミ「落ち着いてよ……ほら、日も暮れてきたわ」
マミ「何かあったかいものでも食べながらゆっくり話しましょう」
杏子「もういいよ!」バッ
杏子「あたしは今まで……落ち着いて食い物食ったことなんてないんだ!」ダッ
マミ「待ってよ……」
マミ「待ってよ、佐倉さん……!」
マミ(……)
マミ(マフラー、編んでた途中だったのにね)
マミ(……)
マミ(……? 甘い匂い)クンクン
『やきそばチトセ 風見野名物焼きまんじゅう』
マミ(……)
マミ(……今の私にお似合いなのって、こういう寂しい店よね)
マミ(でも変な店……焼きまんじゅうと焼きそば、どっちがメインなのかしら)
マミ(不思議な組み合わせ……試してみましょうか)ガララ…
店主「いらっしゃい」
マミ「焼きそばと焼きまんじゅう、ひとつずつお願いします」
店主「あ、ごめんなさい。焼きそばやってないんですよ」
マミ「え……」
店主「前やってたんだけどね。ウチのが具合悪くなっちゃって、一人だと手が足りなくて……」
マミ「そうですか……じゃあ、焼きまんじゅうを」
マミ「えーと、焼きまんじゅうとアン入り一本ずつください」
マミ(本当は食べたいのは焼きそばの方だったんだけどね……)
ジジジ… パタパタ
「おじさん、焼きまんじゅう3本とアン入り3本」
「ハイ、まいど」
「駅前でも買ってみたんだけどね、やっぱりここのが美味しいから」
「ああ、ミソが違うんだね。うちのミソ、焼き鳥みたいで美味しいでしょ」
マミ(……ミソ?)
マミ(タレのことかしら……でも焼き鳥みたいで美味しいって、どういうこと?)
マミ(それにアンコが入ってて……ミソとアンコってでたらめな組み合わせすぎて)
マミ(頭がティロティロしてきたわ)
店主「はい、おまちどうさま」コトッ
マミ「どうも」
マミ(へえ……おいしそうじゃない)ホカホカ
マミ(まずはアンの入ってないほうから……)フーッフーッ ムニ
モグモグ
マミ(思ったより軽くて、淡白な味ね)
マミ(焼き鳥とは違って、香ばしいけど甘い。素朴な味……)ムグムグ
マミ(なんだか、時間が止まってるような味ね……)
マミ(さて、アン入りは……)
マミ「ん」
マミ(これは)
マミ(複雑な甘さね……いえ、凄い甘さとも言えるわね……)ムグ ゴクン
マミ(……)ズズー
マミ「ごちそうさま」
店主「はい、290円になります」
ガララ…
マミ「……っ」クシュン
マミ「寒っ……風見野は風が乾いてて嫌ね、骨身にしみるわ……」
マミ「……」
マミ「確かに、誰かにくっつきたくなるのもわかるわね……」
マミ「……」
杏子『明日死ぬかもしれねーってのに遠慮なんかすんなよ、寂しい人生じゃねーか……!』
マミ(……)
マミ(そうね、寂しいかもしれないわね)
マミ(でも、あの焼きまんじゅう屋さん……店主のおじいさんも)
マミ(この先どうなるのかしら……おばあさんが悪いって言ってたけど)
マミ(これから5年、10年経って、一人で……この街で……)
マミ(一緒よ……私たちも、他の人も)
≪第四話・了≫
「で、あるからして……例題3の意味するところは……」
マミ「……」
ムシャ… ムシャ…
マミ「……」チラ
男子生徒「……」モグモグ
マミ(早弁ね……)
マミ(どうしてああせっかちなのかしら。昼休みにゆっくり食べればいいのに)
マミ(私は昼休みまでは我慢だわ……今日はお弁当じゃないから早弁のしようもないけど)
マミ(少しでもゆっくり、味わって食べたいじゃない)
キーンコーンカーンコーン…
マミ(さて、どこで調達しようかしら)
マミ(学食は……人でごった返してるもの、行きたくないわね)
マミ(購買も同じ)
マミ(学校の外に買いに行こうかしら……少しならいいわよね)
ほむら『お弁当を売ってる場所……?』
マミ『ええ、今朝は用意してる暇もなくて』
ほむら『そうね。同じ一人暮らしとして、理解できるわ』
ほむら『……どうせなら、学校の外がいいわね。二丁目の角に「お弁当公園」ってお店ができたの』
ほむら『そこの「猿老手軒シウマイ弁当」をおススメするわ』
マミ「ここね」
マミ「さすが暁美さん、いいお店知ってるわ」
マミ「……これかしら。コンパクトでおいしそうね」カサ
「今日ジェットある?」
「ありますよ、いくつ?」
「じゃあふたつ」
マミ(ジェット……?)
「いやあ、ラッキーだなあ。いつ来てもないから」
「こいつがウマいんだよ、あったかくて。水割りセットでも買って晩酌にもいい」
「へえ、さすが常連だなあ」
マミ(……)
マミ「あの……これ、ごはんはついてないんですか?」
店員「ジェットですか? これはついてません」
店員「もしあれでしたら、隣でごはんだけっていうのも売ってますよ」
マミ「そうですか……じゃあ、これひとつ」
店員「はい、600円ね」
マミ(ごはんが230円……お茶も買って、千円でお釣りがくるわね)
マミ(思ったより早く教室に戻れたわ……時間にも余裕はあるわね)ガサガサ
マミ(なになに……ビニールテープを引き抜く)ズズ…
ズルズルズル…
マミ「……」シュウ…
マミ「……」シュウウウ
マミ「わ……」シュウウウウウウ
マミ(これは……まいったわね)
「うわ……」 「シュウマイくっせぇ~……」
「あ……ホント」 「教室でやるか? 食堂行けよ……」
マミ「……」
マミ(移動したほうがいいかしら)ソー
マミ「……あつっ!」
マミ(ああ……もう駄目ね。取り返しがつかない……)
ザワザワ… ガヤガヤ…
マミ(やっとおさまったわ)
パカ モワッ
マミ(う……フタを開けるとよりいっそう)
「……」 「……」 「……」
マミ(クサイかしら。不快かしら……?)
マミ(さっさと食べてしまいましょう……)パク
マミ(うん……おいしい)モグモグ
マミ(でも本当、これでもかってくらいのシュウマイね)ゴクン
マミ(暁美さんの言う通り、シウマイ弁当にしておいたらよかったかしら……あれには色々おかずも入ってたし)
マミ(デザートにアンズまで入ってたわよね……)
マミ(まあ、今さら言っても始まらないわね)パク
キーンコーンカーンコーン…
マミ(ふう……)
マミ(完食したはいいけど、口の中が完全にシュウマイね)
マミ(お茶、もう一本買っておくんだったわ……)
ガララ…
「きりーつ、れい」 「お願いしまーす」
教師「よーし、今日の授業は……何だ、この匂い? シュウマイ?」
マミ「……!」
教師「あー、ダメだ。こりゃたまらん。窓開けろ、換気だ換気」
ガヤガヤ… カララ…
マミ「……」ブルルッ
マミ(……入ってくる風とみんなの視線、どっちが冷たいかしら)
マミ(私のあだ名、明日からドリルジェットとか金シュウマイとかかしらね……)
マミ(ジェットで歯車がズレたか……)
≪第五話・了≫
ジュジュジュジュ…
マミ「……」
マミ「うん、やっぱりこれはいい肉ね」
マミ「……」ジュジュ… ヒョイ
マミ「……」モグモグ
マミ「うん、おいしい肉……いかにもお肉って感じの肉だわ」
マミ「こっちは……カルビかしら。うん、おいしい」ハフハフ
マミ「すいませーん、ご飯もう持ってきちゃってくださーい!」
マミ『瘴気が濃いわね……強力な魔女が出る前触れじゃなきゃいいけど』
ゴオオオオオオ…
マミ『飛行機……』
マミ『この辺りだとずいぶん低いところを飛ぶのね』
マミ『あんなのが魔女の影響でちょっと失敗でもしたら……』
マミ『……』
マミ『いけないわね、こんな想像で気を落としてちゃ』
マミ『元気出さなきゃ。こんな時は何か豪勢なものでも……』
マミ「うん、焼き肉は間違ってなかったわ」モグモグ
マミ(真っ昼間から一人で焼き肉なんて初めてね)ジュジュ-…
マミ「……」ハフハフ
マミ「ふう、暑い」
マミ「上着は脱いじゃいましょう」パサッ
マミ「このミノもおいしそうね」
マミ「まずいミノはゴムみたいだものね」モグモグ
マミ「はやくご飯こないかしら」
マミ「焼き肉といったら白いご飯でしょうが……!」
マミ「……」
マミ「キムチはどうかしら」
マミ「うん、いい味出てる。いい感じだわ」シャリシャリ
マミ「……あらら、またネギ焦がしちゃった」
マミ「どうも野菜を焼くのは苦手ね」ムシャムシャ
店員「お待ちどうさま」カタッ
マミ(あ……きたきた、きましたよ)
マミ(白いご飯……!)ホカホカ
マミ「……」ハフハフハフ
マミ「……ん~~っ! まさにこれよ」
マミ(まるで私の体は魔力精製所)
マミ(ソウルジェムの穢れを吸い取るグリーフシードのようね!)ハフハフ
マミ「すいませーん」
マミ「あと上ロースと上カルビを一人前ずつ。それからサン……えと、サン、サンチュ」
店員「サニーレタスですね」
マミ「……ええ、そう、それそれ」
マミ「あと……この、チャプチュっていうのをひとつお願いします」
店員「ハイ、チャプチュですね」
マミ「……」ジュー ムシャムシャ
マミ(なんだか一人で黙って焼き肉食べてると、次から次で休む間もないわ。忙しいわね)
マミ「これがチャプチュ……」
マミ「炒めてあるけど……スキヤキみたいなものかしら? 具も似てるし、甘辛い匂いがするわね」
マミ「……」モグモグ
マミ(ちょっと味付けが濃いかしら。ハルサメも太めで味が染みてて、食べごたえがあるわね)
マミ(これは否が応にもご飯が進むわ……)
マミ「……」
マミ「すいませーん、ライスもうひとつください。あとウーロン茶も」
マミ「……」ハフハフ モグモグ ムシャムシャ
マミ(うおォン、私はまるで人間ティロ・フィナーレだわ!)
マミ「うー……」
マミ「いくらなんでも食べすぎたわ」
マミ「んんー……苦しい」
マミ「こうしてはいられないわ、パトロールしないと」
マミ「……」ケプ…
マミ「ダメね、今は頭は回らないわ……公園で一休みしていきましょう……」
≪第6話・了≫
マミ(うう……今日の魔女は手こずったわね)
マミ(長期戦だったからどっと疲れが……)
マミ(何より、お昼をだいぶ過ぎてるからお腹が)キュルルル…
マミ(ん……?)
マミ「自然食……」
マミ(こういうの、あんまり好きじゃないんだけど……)
マミ(この先にお店もなさそうだし、最近は魔女退治続きで不健康だし……たまにはいいかしら)
店員「いらっしゃいませ」
マミ「……」キョロキョロ
マミ(片付いてるけど、飾り気のないお店ね……)
マミ「あ、一人なんですけど」
店員「ハイ、あちらへどうぞ」
マミ「……」
マミ「……」ズズー
マミ「あら……これ、ほうじ茶じゃない」
マミ(なんだか懐かしい感じがするわね)
店員「お決まりですか?」
マミ「あ……」
マミ「えっと、おまかせ定食ください」
店員「ハイ」
マミ「……」
マミ「あ、ワリバシじゃないのね」
マミ「ワリバシは環境破壊ってことかしら」
マミ「調味料もなんだか小さく分けられてる……こういうのも全部無添加なのかしら」
マミ「でも、結局こういうのって高くつくのよね」
マミ(……)
マミ(やっぱりこの手のお店って苦手だわ)
マミ(店員さんもなんだかこっちを見下ろしてるみたい……もっと勉強しろって言ってるような……)
店員「お待たせしました」コト
客「ありがと」
マミ(……あれ、メニューにあったイワシと野菜のカレーね)
マミ(ご飯が玄米かあ……玄米でカレー、しかもイワシ)
マミ(ちょっと無理があるんじゃないかしら)
マミ(そういえば鹿目さんの友達の……志筑さんだったかしら? あの子が言ってたわね)
仁美『ああいう年季の浅い自然食のお店って苦手ですわ』
仁美『なんだかテーブルがペトペトしてる感じがしますの』
マミ(……)キュッキュッ
マミ(……してるかもしれないわね)
店員「お待たせしました」
マミ(……)
マミ(まさに思った通りのメニューってところかしら。少なめで品数は多めだけど地味で)
マミ(玄米ねえ……別にいいんだけれど)
マミ(じゃあ、まずはお味噌汁から……)ズズ
マミ(!)
マミ(おいしい……何これ、味噌が違うのかしら?)
マミ(具の大根の葉っぱもシャキシャキして……)
マミ(油揚げも嫌な油っぽさが全然……)モグ
マミ(!!)
マミ(こ、このほうれん草のおひたし何!?)クキクキ
マミ(固くてクセが強くて、道端の草でも食べてるみたいなんだけど)
マミ(でも嫌じゃない! ううん、おいしい! なんだか懐かしい味だわ!)モグモグ
マミ(ひじきの煮物……これがひじきなの? この歯応え、口いっぱいに香りが広がって)コリコリ
マミ(ポテトサラダもふわふわして、マヨネーズのべたつきが少しもない……)
マミ(……)
マミ(ああ……これって、小さい頃に嫌いだった味なんだわ)
マミ(お母さんが生きてた頃よりもっと昔……おばあちゃんに食べさせてもらったような)モグモグ
マミ(くやしい……けどおいしい! これだけじゃ全然物足りないわ)ムシャムシャ
マミ「スイマセーンッ!」
店員「ハイ」
マミ「追加でイワシと野菜のカレーライスください! 大盛りでね!」
≪第7話・了≫
マミ(ふう……せっかくの休日だけど、魔法少女に休みはないわね)
マミ(ご飯の時間も遅れちゃって困るわ)
マミ(ランチタイム、ギリギリ滑り込みセーフってところかしら)ギイ
店主「……っしゃい」
マミ(カウンター席でいいわね)ストン
店主「おい!」
店員「あ……イラッシャイマセー」コトッ
マミ(ああ、お水……ちょうど喉が渇いてたのよね)
店主「……」サッ
マミ「……?」
店主「ホラ! こんな石鹸の泡のついたコップで水を出しちゃダメだろ!?」ビシャッ!
店員「ハイ、スイマセン……」
マミ「……」
店主「それとお前、50分になったら表の看板引っ込めろって言っただろ?」
店員「あ……スイマセン」チラ
店主「ったく、いちいちそこで時計見なくたっていいだろ」
店員「ハイ、スイマセン」
マミ「あの……いいですよ、また来ますから」
店主「あ、いえ。いいんですよ、まだ。ハイ、お水」コト
ギイ
店主「ああ、もう……いらっしゃい」
店員「あ、あの……看板入れてきます」
店主「待てよ、客の対応が先だろうが」
店員「あ……ハイ、スイマセン」
店主「二人しかいねえんだから考えろよ、ちょっとは」
店員「ハイ」コト
杏子「あ」
マミ「……!」
店主「ハイハイ、お二人とも注文は?」
店主「風見野ハンバーグランチが当店のオススメですが」
マミ「あ……じゃあそれで」
杏子「ん、あたしもそれでいいや」
店主「ハイ、ランチツー入ります」
マミ「……」
杏子「……」
マミ「……久しぶりね。調子はどう?」
杏子「……あたしはいつも通りだよ」
マミ「……」
杏子「……」
マミ(こんなところで会うなんて……間がもたないわ)キョロキョロ
マミ(それにしてもここの壁、雑誌の切り抜きとかばっかりね)
マミ(あそこの胴着姿の写真は……店長さんかしら。お店と関係ないじゃない)
店員「看板、入れてきます……」ギイ
店主「……ったく」
トウルルルル カチャ
店主「ハイ。あ……美国さん」
店主「いいっすよ、ジャンボ三つね。ハイまいど」
店員「……」ギイ
店主「出前入ったぞ、ジャンボスリー」
店員「ハイ、しかし……時間……」
店主「お前がモタモタしてるからだよ。ランチ出るぞ」
店員「……ハイ」
マミ「……でも元気そうで安心したわ」
杏子「……うん、そっちもな」
店員「お待たせしました」コト コト
マミ「どうも」
杏子「おお……!」
マミ(あら……いいじゃない。器の中にハンバーグとスパゲティ、目玉焼きまで)
マミ(ん……あちち。うん、ジューシーだわ)ハフ ムグムグ
杏子「ん、あつ……んんー!」ハフッ モグモグ
店主「おい、洗い物はいいから弁当箱。あとサラダと豆腐」
店員「しかし豆腐……あとひとつの半分しかなくって」
店主「なにィ」
店主「じゃあジャンボなんてできないだろ、お前なんで言わないんだよそういうことを! 注文とれないだろ!?」
店員「スイマセン、スイマセン」
店主「お前が美国さんに電話しろよ、できないって!」
店員「スイマセン……」
マミ「……」ムグムグ
杏子「……」モグ…
店主「呉さんよォ、向こうじゃどうやってたか知らないけどさ。うちじゃそんなテンポじゃやっていけねえんだよ」
店員「ハイ、スイマセン」
店主「こっち来て勉強しながらで、そりゃあ大変だろうがこっちはな!」
店員「ハイ……」
「ごちそうさま」「お勘定」
店員「あ……ハイ、どうもありがとうございました。650円、650円……1300円になります」
店主「人の話をきけ!」ビシッ
店員「うっ」
マミ「……」ムグ…
杏子「……」
店主「ハイ、毎度ありがとうございまーす」
店員「……」
「ごちそうさま」
店主「毎度どうもー」
マミ「……」
杏子「……」カチャ ハア…
ガタン バンッ!
マミ「人の食べてる前で……あんなに怒鳴らなくたっていいでしょう」
店主「え?」
マミ「この子はすごく食べるのが大好きなはずなのに……見てください!」
マミ「これしか喉を通ってない!」
杏子「え……おい、マミ……」
店主「なんだァ? お嬢ちゃん、文句あんのか」
マミ「あるわ」
店主「あんたらがどう残そうが食おうがこっちには余計なお世話だ! 金なんかいらねえから帰れ!」
マミ「……あなたは客の気持ちを全然、まるでわかってない」
マミ「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由で……なんというか、救われてなきゃダメなのよ」
マミ「独りで、静かで、豊かで……」
店主「なにわけのわからないことを言ってやがる。出ていけ、ここは俺の店だ」ズイ
店主「出ていけ!」ドンッ
マミ「!」クワッ
ガシッ バッ ガキイッ
マミ「ティロ・フィナーレ!(関節)」ギリッ
店主「があああああああ!」
店主「痛っ、イイ……」
店主「お……折れるう~~~~」
杏子「マミ! もういいよ、やめてよ!」
マミ「……」ギリリリ
店員「あ……恩人、やめて」
店員「それ以上いけない」
マミ「……」ギリ…
マミ「……」スッ
マミ「……」ハア
杏子「……」
杏子「……なんであんなことやったんだよ」
マミ「……佐倉さん、私は」
杏子「あたしは! マミさんにあんなことされたって、嬉しくない……」
杏子「……っ」ダッ
マミ「佐倉さん……!」
マミ「……」
マミ(あの子、あの目……店員さんも……)
マミ「ああ、いけない……いけないわ……」
≪第8話・了≫
ワー パチパチパチ…
≪ただいまより30分間の休憩となります。後半の演奏は11時30分から……≫
マミ「……」
さやか「……マミさん、付き合ってもらってごめんなさい。退屈でしょ?」
マミ「あ、いえ……そんなことないわよ」
マミ「ただ、空調の調子が悪いのかしらね? なんだか暑くって」
さやか「あ、やっぱり暑いですよね? あたしだけじゃなかったんだ……いやー、あたしったらただでさえ緊張で汗びっしょりで」
マミ「……一度出て、飲み物でも買いましょうか」
さやか「賛成です!」
さやか「ふあー、廊下すずしー……」
マミ「明るいところで見ると本当にひどい汗ね……はい、ハンカチ」
さやか「あはは……スイマセン」フキフキ
さやか「変ですよね、あたしが演奏するんじゃないっていうのに」
さやか「恭介が退院して初めての大事なオーディションですから……気が気じゃなくって」
マミ「……」
マミ「行きましょう、美樹さん。そこに食堂があるわ」
さやか「え? 飲み物買うんじゃなかったですか?」
マミ「この暑さにその汗じゃ、飲み物だけじゃダメよ」
マミ「何かお腹に入れておかないと倒れちゃうわ」
さやか「はあ……」
マミ「時間もないんだからほら、急いで」
さやか「わわっ、ハイ!」
さやか「何にしようかな……」
マミ「ん?」
マミ「ウインナーカレー……初耳ね」
さやか「はあ、まあスタミナはつきそうですよね」
マミ「そうね。じゃあこれを二つ……お願いします」チャリン
さやか「えっ、そんなんで決めちゃうんですか!?」
マミ「うーん……この組み合わせは珍しいわね。初めてかもしれないわ、意外にも」
さやか「このウインナー、魚肉ですよ? 皮柔らかいなー」プニプニ
マミ「コラ、食べ物で遊ばないの。時間もそんなにないし、早く食べちゃいましょう」
さやか「はーい」パク
マミ「……」モグモグ
さやか「……なんていうか、普通ですね」ムグ
マミ「……そうね」
マミ「なんとか間に合ったわね」
さやか「そうですね……カレーのおかげで体も中からポカポカして……」
マミ「……」
さやか「……」
さやか「暑い! 余計に暑いですよマミさん!」ダラダラ
マミ「ええ、そうね……」
さやか「うう……これじゃサウナですよ……」
マミ「……」
さやか「……」
マミ「……」
さやか「あ、そうか。脱げばいいんだ」
マミ「ちょ……美樹さん!?」
さやか「大丈夫ですよ、上着だけですって」
マミ「当たり前でしょ」
さやか「マミさんも無理しないで脱いだらどうです? 暗いし、別に目立たないですよ」
マミ「……」
マミ「……」ヌギヌギ
さやか「わ……やっぱマミさん、いい体してますねえ」
マミ「やっ、美樹さん……!」
さやか「シャツが肌に張り付いて、なんとも……」
マミ「やめなさいってば……演奏に集中しなさい」
≪8番、上条恭介くん。曲は『亜麻色の髪の乙女』≫
さやか「あ……」
マミ「上条くんの出番ね……」
さやか「恭介……」
上条「……」スッ
上条「……」
マミ「……構えたのに、なかなか始まらないわね」
さやか「恭介……?」
上条「……っ」グ…
マミ「いくらなんでも構えてから長すぎるわ……どうしたのかしら」
さやか「恭介……もしかして、まだ……」
ザワザワ ヒソヒソ
「やっぱりまだ万全じゃないのよ」「本当は二度と演奏できない怪我だったって?」
「ブランクが長すぎたんだろ」「もう弾き方も忘れちゃってんじゃないの?」
ボソボソ ガヤガヤ
ガタンッ
さやか「……」
マミ「ちょっ……美樹さん、立ち上がっちゃダメよ! 座って」
さやか「……」スゥ…
さやか「頑張れーっ! きょーすけーっ!」
マミ「……!?」
上条「さやか……!?」
さやか「がんばれ! がんばれ恭介っ! ファイトーッ!」
ザワザワ ヒソヒソ
「え……何これ、ドッキリ?」「なんか賑やかしでも仕込んでたのかな」
「それにしちゃ寒くね? 頭おかしいんじゃねーの?」「ねえ、あれって美樹さんじゃ……」
ボソボソ ガヤガヤ
さやか「恭介ーっ! がんばれーっ!」
マミ「……」
カタン
マミ「恭介くん! がんばってー!」
さやか「……!」
マミ「がんばれー! 頑張って、恭介くん!」
さやか「マミさん……」
さやか「そうだよ、恭介。あんたの腕は治ったんだ」
さやか「がんばれ! がんばれ恭介! あんたは弾けるんだ!」
「何あれ、一人増えたんだけど……」「ファンか? 外面はいいもんなー、あいつ」
「でもそれにしちゃ必死じゃない?」「すごい汗……それにあの格好……」
さやマミ「「がんばれーっ!!」」
さやマミ「「がんばれーっ!!」」
ザワザワ ガンヒソ ボソボソ ガヤバレ…
さやマミ「「がんばれっ! 恭介っ!」」
ザワザワ ガンバレ… ボソボソ ガンバレ!
さやマミ「「がんばれがんばれ! 恭介ーっ!」」
ガンバレ ガンバレ! ガンバレ ガンバレ…!
上条「……」フフッ
上条「……」コクン
上条「……」スゥ…
――――――――――――♪――――――――――――
マミ「……すごいわね。あれだけの応援が、少し弾いただけでこんなに静まり返って」
さやか「ハイ……これが、これが恭介の演奏なんです……」
さやか「がんばれ、恭介……もうあんたの演奏を邪魔する奴はどこにもいないよ……!」
ポンポン
さやか「はい?」
警備員「二人とも、ホールから出てもらえる?」
≪第9話・了≫
マミ「……」サラサラ
QB「マミ、もう日付けが変わったよ。まだ寝ないのかい?」
マミ「今日は苦戦しちゃったから、まだ課題がね」
マミ「学生と魔法少女、二足のわらじも楽じゃないわ」
QB「マミは真面目だね」
マミ「普通よ」
マミ「はあ……でも、まだ終わりそうにないわね」
マミ「お腹もペコちゃんだし、夜食でも食べて一息つこうかしら」
店員「いらっしゃいませー」
マミ(深夜のコンビニってなんだかワクワクするわね)
マミ「さてと……何にしようかしら」
マミ「カップヌードルっていう気分じゃないし」
マミ「オニギリだけっていうのも……」
マミ「……うずら卵と牛肉の中華風」
マミ「うん……これ、ちょっといいわね」
マミ「こういう小さなおかずをいくつか買っていって……」
マミ「おしんことか、卵焼きとか」ヒョイ
マミ「となると、このキンピラゴボウも嬉しいわね」ヒョイ
マミ「あら、冷ややっこなんていうのもあるんだわ」ヒョイ
「おいお前、さりげなく俺のカゴに入れるんじゃねえ」「えー、いいじゃないケチー」
マミ「……」イラッ
マミ「ううん……そう、カゴね」バサッ
マミ「……こうしてカゴに入れてみると、なんだか寂しいわよね」
マミ「そうだわ、缶詰めなんてどうかしら」
マミ「あら、これがコンビーフ……」
マミ「馬肉入り? へえ、馬肉って食べたことないわ。いいわね」ガサ
マミ「なかなかバランスがとれてきたわね、あとは何が足りないかしら……」
マミ「あら、野菜の煮物!」
マミ「こうなったら汁ものも欲しいわね」
マミ「うーん、豚汁もいいけど……」
マミ「ここはナメコ汁できめましょう!」ガサ
マミ「ふふ、これはちょっとした夜食の定食コースだわ」
マミ「ん? 秋田こまち新米……なるほど、これをレジで温めてもらえばいいのね」
マミ「ここまできたら……当然デザートね!」
マミ「ケーキも、プリンも、あるんだよ」バサバサ
店員「こちら温めますか?」
マミ「ハイ」
店員「お会計先にお願いします、1892円になります」
マミ(ずいぶんいっちゃったわね……)
マミ(……!)
マミ「あ、あとおでん! タマゴとダイコンとシラタキください」
QB「お帰りマミ……スーパーにでも行ったのかい?」
マミ「コンビニよ」ガサガサ
QB「うわあ、なんだか凄いことになっちゃったぞ」
マミ「ああ、お腹すいたわ。いただきま……」
マミ「ん、何か音楽でもかけようかしら」カチャ
サールティー ロイヤーリー タマリーエ パースティアラヤー レースティングァー
マミ「いただきます」
マミ「……」ズズ
マミ「あら、おいしい」
マミ「このおでんの汁があったらお味噌汁はいらなかったわね、失敗したわ」
マミ「……」モグモグ
マミ「ん……これがコンビーフなのね。ちょっと油っぽいけど歯応えもあって、不思議な味だわ」
マミ「……」ハフハフ ムシャムシャ
マミ「……」モグモグ
QB「おでんにうずら、卵焼き……どうして卵がこんなに重なってるんだい? わけがわからないよ」
マミ「……」モグ…
マミ「やっぱり少し買いすぎたかしらね……」
QB「……少し?」
マミ「……」ポリ
マミ「このキュウリ、おいしくないわ」
(ホァ) グーリーーターリーィヤ ピーラーリーフー サーファリーハー
マミ「私って、ほんとバカ……」
≪第10話・了≫
マミ「ん……」
マミ(白い天井……)
マミ「あら……? ここ、どこかしら」
杏子「おはよう」
マミ「……佐倉さん? どうしてここに」
杏子「オイオイ、ボケてんのか? ワルプルギスの夜で魔力使い果たしちまって、あたしたち入院中なんじゃねーか」
マミ「そう……だったわね」
杏子「情けねー話だよな。怪我の回復にあてる魔力も残ってなかったんだからさ」
杏子「おかげでせっかく治したのに、検査だなんだですぐには退院できねーんだから」
マミ「……そう言わないの、心配してくれてるのよ」
杏子「……まあ、わかってるけどさ」
マミ(……夢じゃないのね)
マミ(ワルプルギスの夜を越えて……また、佐倉さんと仲間になれたんだわ)
看護師「巴さん佐倉さん、お食事でーす」
杏子「おおっ、待ってました!」
杏子「入院中だともうこれくらいしか楽しみないもんなー」
看護師「慌てないで……ハイ、どうぞ」
看護師「巴さんも、ハイ。お加減はいかかがですか?」
マミ「あ……ええ、ずいぶんいいですよ」
杏子「すぐにだって退院できるぞ」
看護師「また……佐倉さんは3箇所骨折してたのよ? せめて検査がすむまで待ってね」
杏子「ちぇー」
マミ(わあ……)
マミ(まずはカレイの煮付けから)アム
マミ「うん、おいしい」モグモグ
マミ(なんだろう、食べ始めてるのになおさらお腹が減っていくみたいだわ)
マミ「こっちはおでんね」シャク
マミ「うん……染みてるわ」
マミ(こういう場所で食べると全然別物に感じるわね……)
マミ(魚にご飯、ジャガイモのお味噌汁……素晴らしい組み合わせだわ)ズズ
マミ(この野沢菜も、マジメな味)シャクシャク
マミ(ああ、ダメよダメよ。焦っちゃダメ……丁寧に丁寧に大切に、よく噛んで味わいましょう)
杏子「ごちそうさまっ!」
マミ「早っ!?」
「じゃあ、味噌汁にもとろみをつけますからね」「……ハイ」
マミ(ん……?)
シャカシャカシャカ…
マミ(何かをかき混ぜる音……?)
カッ カッ カッ
杏子「隣のじーさん、スプーンで砕いたりしてもらわねーと食えねーんだな……」
シュコ… ジュル… ズズ…
マミ「……なんだか弱々しい音ね」
杏子「……」
杏子「……それでもじーさん、一人で食ってるんだな」
マミ「……」
杏子「……なあ、マミ」スッ
マミ「どうしたのよ、ソウルジェムなんて出して」
杏子「あたしたちの本体ってこっちでさ、体は作り物みたいなモンなんだよな」
杏子「だったらさ、あたしたちって本当は食わなくていいんだよな」
マミ「……そうなるわね」
杏子「ソウルジェムの穢れってのはさ、グリーフシードじゃねーと取れない」
杏子「でもさ……最近ちょっと、本当にちょっとだけ」
杏子「ものを食うとさ、ソウルジェムも綺麗になる気がするんだ」
杏子「なんていうか、救われてるっていうのかな……」
杏子「生きてるってのはさ、体にものを入れてくってことなんだな」
マミ「……」
杏子「あんたが前に言ってたのはさ、こういうことなのかな……?」
マミ「……」
マミ「ええ、きっとそう……そうだと思うわ」
マミ「……」
マミ「ん……ふわ」
マミ「病院だと夜は長いわね……お腹すいちゃうわ」
マミ「あら……佐倉さん?」
マミ「……トイレかしら」
杏子「……」
杏子「ソウルジェム」
「グリーフシード」
杏子「デミ」
「マブ」
杏子「よしよし、例のものは持ってきたんだろうな?」
QB「大丈夫だけど……今のやり取りには何の意味があるんだい? わけがわからないよ」
杏子「バカお前、こういう時は合言葉って決まってんだろーが!」
マミ「へえ……その合言葉の意味するところを説明してもらえないかしら? 詳しく」
杏子「」
マミ「……カレーパンに牛乳?」
杏子「ご、後生だマミ……それはあたしが苦労して手に入れたとっておきの」
QB「持ってきたのは僕じゃないか。それに買ってきたのはまどかだよ」
マミ「病院にこんな油ものを持ち込むなんていい度胸ね……」
杏子「だってさ、病院のメシって少ないじゃねーか! あたしが生きてるのを実感するには少ないんだよ!」
マミ「そうやって生を求めて人は退院するのよ」
杏子「そんなの絶対おかしいよ!」
マミ「そういうわけだからキュゥべえ。それは退院後に受け取ることにするから、鹿目さんの家に戻りなさい」
QB「それは構わないけど、僕の報酬のチーかまは誰がくれるんだい?」
マミ「聞こえなかったの? 戻 り な さ い ?」
QB「きゅっぷい」
杏子「……」
マミ「佐倉さん、おはよう」
杏子「……」
マミ「佐倉さん?」
杏子「……ハラヘッタ」
マミ「……ちゃんとゆっくり味わって食べないからよ。これに懲りたら朝ごはんは大事に」
看護師「巴さん佐倉さん、お食事でーす」
杏子「待ってました!」ガバッ
杏子「おおお! 今朝はパンか……あたしの気分わかってるな!」
マミ「もう……まるで犬ね」
マミ「……」キュルルル
マミ「人のことは言えないかしら」
マミ「……」モグモグ
マミ(ん……バナナと牛乳を口の中でよく噛んだらバナナジュースになるかしら)
マミ(デザートにやってみましょう)
≪第11話・了≫
マミ「……寒っ」ブルルッ
マミ「年も暮れると見滝原も冷えるわね……」
マミ「大晦日の夜って嫌ね、どのお店も閉まっちゃって」
マミ「開いてるのはお酒を飲む店ばっかりだわ」
マミ「立ち食いそばのお店でも開いてれば、そこで年越しそばが食べられるのに」
マミ「……早く帰りましょう」
マミ「えーと……確かこの辺りに」ゴソゴソ
マミ「あったわ……そば!」
マミ「ソーメンみたいな乾麺だけど、ゆで麺よりずっといいわよね」
マミ「お湯もそろそろ沸いたかしら」
マミ「おつゆも温めておかないと……」
マミ「いけない、具の準備がまだだったわ」
マミ「ネギだけは切って冷凍しておいたわ! 暁美さんに自炊のコツを聞いておいてよかったわね」
マミ「エビ天もスーパーで半額になったのを死守できたし」
マミ「そばに入れるのはカマボコ? ナルトはラーメンだったかしら……まあ、どっちでも大丈夫よね」
マミ「できたわ。我ながらおいしそうじゃない」
マミ「いただきます」ズズ…
マミ「うん、出来合いだけどいい味のつゆだわ」
マミ「麺も歯応えがちゃんとあって……ゆで麺とは違うのよ、ゆで麺とは」ズルズー
マミ「……」シャクッ
マミ「天ぷら、少し温めた方がよかったわね」
マミ「衣はふやけてるのに、エビが冷たくて固いわ……」
マミ「ネギも、すぐに溶けるって聞いてたのに」
マミ「これじゃシャーベットじゃない」シャリシャリ
マミ「……」ズズ
マミ「ナルトってあんまり分厚いと邪魔なのね」
マミ「……」ズ…
ピンポーン
マミ「あら……?」
マミ「何かしら、人がせっかく年越しそばを満喫してる時に」
ピンポーン ピンポーン
マミ「私が食事を邪魔されるのが一番嫌いって、わかってないのね」トン
ピンポンピンポンピンピピピピピピ
マミ「はいはい、今でまーす!」
ガチャ
杏子「やっと出てきやがった」
さやか「マミさーん、こんばんは!」
まどか「えへへ……突然押しかけちゃってごめんなさい」
ほむら「……もしかして、食事中だったかしら」クンクン
マミ「あなたたち、どうしたの……?」
さやか「まどかの家で年越しパーティーをやることに決まったんで、お誘いにきたんですよー!」
ほむら「佐倉杏子も運よく掴まったことだし……巴マミ、あなたもどうかしら?」
まどか「マミさん受験生で忙しいとは思ったんですけど……」
杏子「んなことねーって。どうせ暇だろ? なあマミ」
マミ「……」
マミ「……そうね」
マミ「年越しそばは出るのかしら?」
ほむら「意外と図々しいわね巴マミ……佐倉杏子のがうつったのかしら」
杏子「ちょっとほむら、どういう意味だよ?」
まどか「もちろん出ますよ! パパ特製で、毎年麺は手打ちなんです!」
さやか「しかもしかも! 新年と同時にお餅も食べれるんですよ!」
マミ「……」
マミ「……」フフッ
マミ「それは参加せざるをえないわね!」
知久「みんな行き渡ったかな? それじゃあ」
「「「「「「「「「いただきまーす!」」」」」」」」」
杏子「う……うまっ!? 何だこれ、これそばじゃねーだろ!? 何か知らねーけど、そばより美味い何かだ!」
ほむら「同意せざるをえないわ……この世にどんべえ以上のそばが存在したなんて……」
知久「はは……褒められてるのはわかるんだけど、ねえ」
さやか「スイマセンおじさん、一人暮らし組なんで勘弁してやってください」
詢子「それにしても、まどかがこんなに友達連れてくるなんて成長したもんだ……来年は賑やかになりそうだね」
タツヤ「おそばー!」
まどか「もう、ママったら……ほらたっくん、ふーふーして食べようねー?」
マミ「……」ズズ… ズルズー
マミ「……うん、おいしい。おいしいわ」
QB「ずいぶん楽しそうだね、マミ」
マミ「……ええ、そうね」
QB「なんだか変わったね。前までの君なら、こんな賑やかな場所で食事を摂っているのも考えられないくらいだよ」
マミ「そうね……ワルプルギスで歯車が狂ったかしら」
マミ(モノを食べる時は、誰にも邪魔されず自由で……救われてなきゃダメだわ)
マミ(今の私は、ここにいる人を誰一人として邪魔だと思ってないの)
マミ(みんなで、賑やかで、豊かで……)
マミ(私もう、一人ぼっちじゃないのね)
≪最終話・了≫
第1話「夢の中でも食べてた、ような……」
第2話「それはとっても、もどかしいなって」
第3話「もう人間じゃない」
第4話「不幸も、老後も、あるんだよ」
第5話「後悔しかない」
第6話「こんなの絶対おいしいよ」
第7話「本当の味と向き合えますか?」
第8話「わたしって、ほんとバカ」
第9話「そんなの、あたしが許さない」
第10話「もう誰とも食べれない」
第11話「最後の一滴まで残さない」
第12話「わたしの、最高の友たち」
≪孤独のマミさん・劇終≫
何がしたいんだ