男「ステマって要するにサクラみたいなもんだろ?」
女「んー…んー…」
男「畜生…すっかり騙されたわ」
女「んー…んー…」
男「あっ、ごめん。猿ぐつわ付いたまんまだったな」
女「ぷはっ………」
男「ねぇ、君ってクーリングオフとかきくの?」
女「ききません」
男「いや、だってステマだよ」
女「そもそも人身売買が犯罪です。
ステマステマさっきから言ってますが、そっちのことには一切触れないんですね」
元スレ
男「ステマでうっかり女の子を買ってしまった」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1326521491/
男「いや、知ってるし」
女「そうですか……で、私はどうなるんですか?何となく想像はつきますが」
男「帰っていいよ」
女「………はい?」
男「クーリングオフきかないんでしょ?なら家に帰りなよ」
女「じゃ…じゃあ何で私を買ったんですか?」
男「ステマのせいだって言ってるだろ」
女「………」
男「どうしたの?ステマなの?」
女「いえ、売られるときに私の人生は終わったと思っていたので」
男「じゃあ再開だな。帰れ」
女「………帰りたいんですけど」
男「けど?ステマ?」
女「ステマステマしつこいんですけど……」
男「ごめん」
女「帰る家がないんです」
男「帰る家がない?家に帰る服がないの間違いじゃないの?」
女「確かに服は今着てるのしかありませんけどないのは家のほうです」
男「つまり住所不定…」
女「無職……って何言わせるんですか!」
男「いや、君が勝手に言ったんだろ」
女「それに私は無職じゃありません。学生です」
男「中学生?」
女「はい…この春卒業でした……」
男「ふーん、で、何で家ないの?焼けたの?」
女「わかりませんか?私売られたんですよ?」
男「わからん」
女「父の……借金のせいです」
男「それでステマで売られたわけか」
女「……ステルスマーケティングは別に人身売買市場のことじゃありませんよ?」
男「知ってるし」
男「借金か、いくらくらいだったの?」
女「一億です」
男「家とか色々売ったら足りそうな額じゃない?」
女「足りませんよ!家だって築20年ですし」
男「ふーん」
女「あの…」
男「なに?」
女「ちなみに私いくらで売られてました」
男「三億」
女「……………は?」
男「税込みでね」
女「…あの、聞き間違えだみたいなのでもう一度聞きます。私何円でした?」
男「三億円」
女「…………」
男「ちなみに税抜きだと」
女「人身売買に税が絡むとかその辺は置いといて……
三億って何なんですか!?色々おかしいですよね!?」
男「……え?そうなの?」
女「何で買ったんですか?私何のへんてつもない、ただの中学年ですよ?」
男「それはステマのせいだっつってんだろうが!いい加減キレるぞ!」
女「すいません…… …じゃなくて!父の借金一億なんですよ!何で三億なんですか!?」
男「俺に聞くなステマ業者に聞けよ!」
女「連絡先なんて知りませんよ!」
男「じゃあ電話番号教えるよ」
女「あ……ありがとうございます」
プルルルル
ガチャ
業者「はい、もしもし。男さんですね。どうかされました?」
女「私、そこに売られた中学年ですけど」
業者「……えっと、どうかされました?」
女「私にも敬語なんですね」
業者「そうですね。もううちの商品じゃありませんしね」
女「ひとつ聞きたいんですが」
業者「なんでしょうか?」
女「私、三億で売られたらしいですね」
業者「そうですね。税込み三億です」
女「税込み………は、今はいいとして、父の借金は一億だったはずですけど」
業者「別にうちは金貸し屋ではないんでそんなこと聞かれても困るんですけど。
一億で仕入れた商品も三億で売れる商品だと思ったから売ったんですから」
女「だいたい一億で仕入れたってのもおかしいんじゃないですか?
私普通の中学年ですよ?」
業者「あなたは、なかなかのべっぴんですし、処女でしょ?
マニアな金持ちなら数億は出すって……」
女「………」
業者「そういうステマで仕入れてしまいました」
女「またステマかよ!」
業者「ついうっかり」
女「あなた達、そういう業者なんですよね?プロなんですよね?」
業者「いやぁ、お恥ずかしい」
女「………で、あなた達もステマで私を売ったんですね」
業者「……はい。だって仕方ないじゃないですか。売れなかったら大赤字ですよ」
女「……もういいです。あなた達は犯罪者ですけど、元をたどると悪いのは私の父ですから」
業者「………」
女「失礼しました」
ガチャン
女「……はぁ、疲れた」
男「どうだった?」
女「あ、はい。あの業者もステマで私を仕入れたみたいです」
男「やはり、ステマは憎むべき悪だな」
女「ところで…私はこれからどうすればいいんですか?」
男「児童養護施設にでもいけば?」
女「ごもっともな意見ですけど……」
男「何か不満なの?」
女「買ったものに責任は持たれないんですか?
生き物ですよ私」
男「君、お母さんみたいなこと言うんだな」
女「不安なんですよ……帰る家もない、何もない。そんな状況想像できますか?」
男「できないな」
女「そうですね。裕福な家庭で育ったみたいですし、できませんよね」
男「君、かわいくないな」
女「ステマでは可愛いって売りこみでした?」
男「いや別に。床上手とは書いてあったけど」
女「私……そういうことしたことないんですけど…」
男「だよね。処女なのに床上手っておかしいよね普通。畜生!あのステマ業者」
男「いやさ、でも君を金で買った男のところにいるとか嫌だろ?」
女「私を売った家族や、人身売買業者の所に比べたら天国ですよ。
それにあなたお金持ちなんですよね?」
男「意地汚いな」
女「…悪いですか?借金で身売りまでされた人間が意地汚くてちゃいけないんですか?」
男「………」
女「……すいませんでした。三億で買った女がこんなんじゃがっかりですよね」
男「あ、いや、別に……」
女「いいんです。ステマのせいで私を買ってしまったんでしたよね」
男「あ、だから…」
女「私が自立できるまでの最低限だけお願いします。
厚かましいですけど助けて下さい」
男「中学生の教科書参考書各種、ノートその他諸々文具類。
これだけで大丈夫か?家庭教師とかもつけようか?」
女「十分すぎます。もう大丈夫です」
男「そうか、じゃあその代わり……」
女「………覚悟はしてます」
男「落ちたら駄目だぞ」
女「あ……はい?」
男「とりあえず今日はゆっくり休めよ。
明日からしっかり勉強するんだぞ」
女「………」
男「どうかしたか?」
女「…ありがとうございます」
男「なんだ、素直になったら可愛いじゃん」
女「…………」
女「…いい人なのかな?あの人?」
女「頭は悪そうだったけど」
女「………疲れた」
女「言われた通り、今日は寝よう」
女「………何このベッド。すごいふかふかなんだけど。暖かいんだけど。寝心地いいんだけど………ぐすっ」
ヒック……グスッ…ヒック……
コンコン
男「おーい。朝だぞ」
カリカリカリカリ
女「おはようございます」
男「もう勉強してたのか……おはよう」
女「あなたが落ちるなって言ったんですよね?」
男「勉強もいいけど朝飯できたぞ」
女「何でそれを早く言ってくれなかったんですか。私昨日から何も食べてないんですよ」
男「いただきます」
女「てっきりあなたみたいな人は毎日コース料理を食べてるものだと思いました」
男「朝っぱらからそんなもん食う奴いないよ」
女「いただきます」
パクパク モグモグ
女「……おいしいです」
男「いいもの使ってるからな」
女「そういうこと言ってるわけじゃありません。真心がこもってます」
男「料理長の真心か……なんか嫌だな。あのおっさんの真心っていうのは」
女「ごちそうさまでした」
男「ごちそうさまでした」
女「ところで、私のかえの服はあるんですか?」
男「ん?ああ、いや、まだ買ってないな。今日みにいくか?」
女「どうせ試験まで、この屋敷から出たりしませんので、着れるものなら何でもいいです。
とりあえず今欲しいんです」
男「今?なんで?」
女「私、昨日お風呂入ってないんです」
男「あ、悪かったな。急いで用意させるよ」
女「……お風呂の湯を沸かしっぱなしにするとかどれだけ贅沢なんですか」
女「これだから金持ちは……」
女「ああ、でも足をのばせるお風呂なんて銭湯以外で初めてだったな……」
男「もうあがったのか?ゆっくり入ってればよかったのに」
女「癖なんです。貧乏性なんです。次入る人のために早くすませてしまうたちなんです」
男「それよりさ、君がいましてる下着間に合わせの奴だからさ。
ちゃんとサイズとかはかったほうがいいんじゃないかと思ってとメイドが」
女「スーパーで安物をまとめ買いしてる私にそんなこと言われても」
男「いいからメイドつけてやるから買ってこい。生活必需品系もまとめてな」
女「あの、運転手さん」
運転手「どうされました?」
女「何でさっきから高そうなお店ばっかりに行くんですか?勿体無いですよ」
運転手「……そういわれましても」
メイド「お嬢様…運転手が困っています」
女「私、お嬢様じゃないんですけど。あと、メイドさんのほうが年上なんで敬語はやめてください」
メイド「はぁ…」
女「あ、運転手さん!この先のスーパーよって下さい。今日特売のはずなんです」
女「ただいま」
男「お、帰ってきたか。おかえり」
メイド「…お嬢様、荷物はうちの者が持ちますので」
女「このくらいもてます。伊達にセールの日に大荷物抱えて家まで歩いていませんから」
男「随分楽しそうだな」
女「買い物の嫌いな女なんていませんから」
女「さてと、じゃあ勉強しよっと」
カリカリカリカリ
女「大丈夫、この辺りまでは勉強してたし」
カリカリカリ……
女「あ、ここの授業途中までしか受けてない」
男(やっぱり家庭教師つけたほうがよかったか…)
女「参考書参考書っと…あ、のってた……なんだ、こんな簡単だったんだ」
男(頭がいいってのは本当だったみたいだな)
女「あー、勉強はかどるなぁ、家じゃ家事の手伝いとかでこんなに時間とれなかったし」
女「んー、一休み」
女「三年間、こんなに勉強できるんだったら、もっと上の高校狙えたかも」
女「この時間は、あの人仕事だっけ?」
女「何をしたらあんなに稼げるんだろ……わけわかんない……」
女「気晴らしにこの無駄に広い屋敷でも散策してみよっと」
女「あ、メイドさん」
メイド「どうされました。お嬢様」
女「だからお嬢様じゃ……もういいです。
メイドさんはどういう経緯でメイドさんになったんですか?」
メイド「メイドになった経緯ですか?そうですね……就職活動中に偶然見つけましてお給金もよかったので」
女「リアルですね………」
メイド「ここは良いところですよ。各種手当ても充実してます」
女「そうなんですか。高校を卒業したら、私もここで働きたいです」
メイド「それは……」
女「大学出ないと駄目なんですか?」
メイド「そういう意味では……」
女「新規雇用枠が無いんですね……それなら仕方ないですね」
メイド「あの…私の話を聞いて下さいますか?」
メイド「ご主人様はお嬢様のことをとても大切に想っているのです」
女「………」
メイド「出会いは少し特殊な形でしたが、私としましては運命的なものを感じます」
女「………」
メイド「あと、ご主人様はこう言ってました。自分は今までに間違った買い物をしかとこがないと……」
女「メイドさん…」
メイド「なんでしょうか?」
女「メイドさんって本当にご主人様とか言うんですね。やっぱりメイドになるのは諦めます」
メイド「………そうですか」
執事「お嬢様、どうされました?」
女「ひつ…しつじさん」
執事「はい」
女「執事さんの年収っていくらくらいなんですか?」
執事「年収ですか?はぁ…あまりそう言った話は…」
女「誰にも言いませんから。この中学生に社会勉強だと思って教えてください」
執事「仕方ありませんね……では、耳を拝借いたします」
女「はいどうぞ」
ゴニョゴニョゴニョゴニョ
女「んーいい感じにもらっているんですね」
執事「全ては男様のご手腕のおかげです」
女「あ、いた。料理長」
料理長「おや、お嬢様。このような所に」
女「私の呼び方…お嬢様で統一されてるんですね…」
料理長「それよりどうされました?厨房なんかに来られて」
女「あ、いつも美味しい料理をありがとうございます」
料理長「ありがとうございます。そう言ってもらえるのが作る側としましては一番嬉しいんです」
女「ひとつお願いがあるんですけど」
メイド「ご主人様、晩御飯のご用意ができました」
男「あ、もうそんな時間か…」
メイド「お嬢様はもうお席についております」
男「育ち盛りだし、お腹空いてたのかねぇ」
メイド「本日の料理は、少し趣向を凝らしたものだと料理長が言っておりました」
男「趣向?」
男「ん?あの子がいないぞ、先にいるんじゃないのか?」
執事「料理長が一言申したいと」
男「あのおっさんが?急になんなんだ?」
女「はい、料理長です」
男「……えっと、そのエプロンは?」
女「私が今晩の料理長なんです」
男「…は……はぁ…」
女「確かに、ここの料理は美味しいです。良いものを使い、良い料理人が調理しています。味に関して文句なんてあるはずがないんです」
男「……そうか」
女「ただ、高いんです。お肉お野菜はもちろん。調味料のひとつにいたるまで高いんです。」
男「…う、うん」
女「だから今日は安い材料でも美味しい料理ができるのをわかってほしかったので、私が晩御飯をつくりました」
女「まずハンバーグです」
男「ハンバーグだな」
女「はっきり言ってご馳走です」
男「そうなのか」
女「安いお肉でも柔らかくなるので挽き肉は素晴らしいんです」
男「でもさ、高い肉のほうが美味しいよ」
女「………黙ってください」
女「野菜炒めです」
男「野菜炒めだな」
女「意外と野菜は高いんです。そこで出てくる救世主がもやしです」
男「もやし(裏声)」
女「ぶっちゃけてしまうと、もやしを入れると大抵の料理はなんとかなります」
男「知らなかった」
料理長(……し…知らなかった)
女「味噌汁です」
男「……味噌汁?」
女「何か問題でもありますか?」
男「ハンバーグに野菜炒めに味噌汁ってのは洋食なのか?中華?和食?」
女「日本の家庭料理です。家庭の味というやつです」
男「そうなのか」
女「場合によってはもやしと味噌汁のみの場合もありますが、今日はご馳走です」
男「……ご馳走でよかった」
男「じゃあ…いただきます」
女「どうぞ」
男 モグモグ
女「………」
男 ズズズ
女「………」
男 モグモグ
女「………」
男「…いや、ずっと見られてると食べづらいんだけど」
女「気にせず食べてください」
男「ごちそうさま」
女「おそまつさまでした。で、感想のほうは?」
男「美味しかったよ」
女「ですよね!?安物でも美味しい料理は作れるんです!」
男「料理長のおっさんの料理のほうが美味しかったけど」
女「そ、それは仕方ないじゃないですか!料理長はプロだし……材料だって高いものばっかりだし……」
料理長(…なんて言ってますけど)
料理長(残さず完食なさってますね)
女「もういいです……私も食べますから」
男「そうか」
女「いただきます」モグモグ
男「………」
女 モグモグ
男「………」
女「あの…」
男「なんだ?」
女「ご飯食べ終わったのに、何でここにいるんですか?」
男「さっきのしかえしのために」
女「……女の子が食べてるところを凝視するとか悪趣味でしよ」
女「…ごちそうさまでした。勉強してきます」
男「もしかして:怒ってる?」
女「別に怒ってません」
男「…んー、あ、この前言ってた真心のこもった料理」
女「はい?」
男「わかった気がする。今日はありがとう」
女「………そうですか」
料理長「私の料理には真心を感じましたか?」
男「いや、全然」
男「さてと、市場調査でもするか」
カタカタカタカタ
男「これは酷いステマ」
ピッ
男「このステマは見るからに臭すぎるな」
男「ステマに頼る商品なんて、その商品の品質で勝負できないものじゃないか。買う気にならん」
男「…………」
男「あれはいい買い物だったな」
コンコン
男「どうだ?勉強はかどってるか?」
女「んん」カリカリカリカリ
男「んー、俺は勉強あまり好きじゃなかったから、見てもよくわからないな。
おっ、いいところにいた」
メイド「はい?私ですか?」
男「確か去年まで高校に通ってたんだよな?これ、どんな感じ」
メイド「私も勉強苦手だったので就職したんですけど……」
男「中学校の問題だし大丈夫だろ?」
メイド「じゃ…数学だけ…」
5分後
メイド「問1はあってますね」
男「……一問だけ?」
メイド「公式とか思い出しながらなんで時間かかるんですよ……お嬢様は暗算でやっちゃってますけど…」
男「数学以外は?」
メイド「すいません…わかりません…」
男「いや、中学校の問題だぞ」
メイド「そんなこと言うんだったらご主人様が見てあげたらいいじゃないですか」
男「英語だけなら」
メイド「ズルい!ご主人様英語喋れるじゃないですか」
男「ズルいって!?海外との取引のために必死に勉強したんだぞ!」
女「…あの」
メイド「すいませんお嬢様!お勉強中に騒がしくしてしまって」
女「…メイドさんって19歳だったんですか」
メイド「……はい、そうですけど。何でこのタイミングなんですか?」
女「えーっと、これの意味は何だったかな?」
ステマ ステルス・マーケティング
女「えっと…企業が自社の商品を第三者のふりをして売り込むことか」
女「クチコミなどの宣伝を意図的に金銭を使ってやることであってるかな」
女「ブログとかで、何かの商品を誉めていたりしたりするのも、もしかしたら企業からお金をもらってやってることかもしれないってことだね」
女「ふーん、素人のブログでもちゃんとした目で見ないとだめってことか」
女「……私はどんな感じのステマだったんだろ」
女「で、結局、どんな感じのステマでした」
男「床上手は前に言ったな」
女「…はい」
男「淫乱、どすけべ、アヘ顔ダブルピース」
女「最後のは何なんですか?ダブルピースはわかるんですけど」
男「わからなくていいよ」
女「とりあえず、ステマ業者を殴りたくなりました」
女「変な目的で私を買ったんですね」
男「ん、ああ、でもな、ステマなんてやっぱり信じられないよ」
女「そうなんですか?」
男「だって君は床上手なわけないし、とても清純そうだし、アヘ顔ダブルピースはするかはわからないけど、とってもいい子じゃないか」
女「買いかぶりすぎです私なんてただの貧乏中学生ですから。家だって無いホームレスですよ」
男「家ならあるだろ」
女「ありません。ホームレス中学生です」
男「ここが現住所だ。もう君は住所不定無職じゃないんだ」
女「………」
男「ああ、無職ではなかったな。ごめん」
女「…ありがとうございます。とっても嬉しいです」
男「さてと、今日はもう寝たらいい。いっぱい勉強したんだろ?体を壊したら困るしな」
女「はい、おやすみなさい」
男「おやすみ。試験まであと少しだ。無理しすぎないようにな」
女「わかりました。無理しない程度に頑張ります」
執事「明日のスケジュールですが……」
男「あのさ」
執事「なんでしょうか」
男「お前のとこの子供って何歳くらいだっけ?」
執事「今年で二十歳ですね。親としましてはもう一踏ん張りといったところでしょうか?」
男「子供が受験するときって、親も緊張したり不安になったりするのか?」
執事「しますね。私なんかはとうの本人より神経質になってましたね」
男「ふーん…つまり今の俺と同じ感じか」
ガチャン
メイド「す、すいません!カップを落と……えっとあれしてしまいました」
料理長「今日の御夕飯は豚カツです」
女「……気を使ってくれてるのは嬉しいんですけど、別にそういうの気にしないので普通にしててください」
男「でもな、縁起を担ぐってのも大事だと思うんだ」
女「だからって豚カツばかり食べてたら太ってしまいます」
女「気晴らしに散歩してきます」
男「大丈夫か?交通事故には気をつけろよ。この時期はすべ……アレしやすいから利き手を怪我したりしたら大変だぞ」
女「滑りやすいけど気をつけますね」
男「あ…うん…」
女「いってきます」
男「夕飯までには帰ってくるんだぞ」
メイド「お父さんみたいですね」
執事「まったくです」
女「さすがに寒いなぁ……」
友「…あれ?女?」
女「あ、友ちゃん」
友「どうしたの!?急に学校やめて?」
女「色々あったんだ…色々ね…」
友「そっか……じゃあその辺のことは聞かない」
女「ありがと」
女「あ、でもね」
友「ん?」
女「私高校受験受けれるの」
友「本当に!?じゃあ4月からまた一緒だね」
女「受かったらの話だけどね」
友「嫌なこと言わないでよ……」
ズルッ
メイド「キャー滑るー!」
友「わー!わー!何も聞いてない!」
女「やっぱりあの人に言われて付いてきてたんですね」
メイド「ご主人様はお嬢様のことが心配なんですよ……別に悪気があったわけじゃ」
女「そのくらいわかってます」
メイド「それよりよかったんですか?せっかくお友達にあえたのに」
女「どっちみち二人とも受験生ですから。この大事な時期に遊びに行ったりしませんよ」
メイド「そうですか……」
女「高校に合格できたら嫌でも毎日あうことになりますしね」
メイド「嫌でもはないでしょ」
女「わかりませんよー」
男「やばいやばい、もう数日しかないじゃないか」
女「料理長さん甘いおやつ下さい」
メイド「何でお嬢様よりご主人様のほうが焦っているんですか……」
執事「そういうものなんです。親は直接的には何もできませんからね」
男「よし、全国の合格成就の御守りを買ってこよう」
メイド「………」
男「もうステマでも何でもいい。よく効くやつを買ってこよう」
女「最近あの人見ませんけど……お仕事ですか?」
メイド「ああ……どうやら本当に全国の御守り買いにまわってるみたいですね」
女「そんなことしなくてもいいのに………」
メイド「そうですよね。こういう大切なときこそそばに居てあげるべきですよね」
女「その通りです。執事さんもそう思いませんか?」
執事「精一杯の空回りなんです。明日には帰ってくると思いますし、大目にみてあげましょう」
女「……わかりました」
男「やった!全47都道府県の御守りコンプリートした!」
女「………」
男「なんか不満そうな顔してるが……御守り足りなかったか?」
女「知りません」
男「……なんで怒ってるんだ?」ゴニョゴニョ
メイド「……寂しかったみたいです」ゴニョゴニョ
女「寂しくなんてなかったです」
男「えっと…よくわからないけどごめん…」
女「怒ってないので謝られても困ります」
男「……ねぇ、怒ってるよね?子供心がわからないよ」ゴニョゴニョ
執事「父親最大の試験問題ってやつですからね」ゴニョゴニョ
女「料理長」パチンッ
料理長「はい」
女「おやつを二人分」
男「ねぇ、いつの間にかこの家乗っ取られてない?」
メイド「数日も家をあけるからですよ」
料理長「ハッピバースデートゥユー♪」
メイド「バースデートゥユー♪」
執事「コホンッ、ハッピーバースデートゥ…ユー♪(美声)」
男「………ん?」
女「誕生日おめでとうございます!」
男「あ…誕生日?あ、ああ、そっか…昨日誕生日だったな…すっかり忘れてた。
取引先から何か菓子折りくる日程度にしか認識してなかったからな……」
女「料理長さんが腕によりをかけて作ってくれたケーキです」
男「お前、何でも作れるな…」
料理長「和洋中、和菓子から満干全席までなんでもござれです」
女「はやく蝋燭消して下さい」
男「あ、ああ…ケーキの蝋燭を吹き消すのなんて何年ぶりだろ…」
フッ
パチパチパチパチ
男「えっと……本当に嬉しいんだけど、それより君には試験が……」
女「それよりってなんですか?一年で一回の大切な日なのに」
男「……あの、怒ってたのってもしかして」ゴニョゴニョ
メイド「はい、ご主人様の誕生日当日にご主人様がいらっしゃらなかったからです」ゴニョゴニョ
男「ああ、ごめん…せっかく祝ってくれたのにな」
女「もういいです」
男「悪かった。本当に悪かった」
女「もう本当に怒ってませんから」
男「…そうか、よかった」
女「おめでと……パパ……」
男「………」
女「あのね…誕生日プレゼントは高校の合格通知にしようと思うんだけどね……
勿論私としては確実に受かる自信もあるし……」
男「………」
メイド「白目むいてますけど、どうしましょう?」
執事「ダブルピースでもさせておきましょうか」
男「…昨日の記憶が途中からないんだが」
執事「長旅の後でしたからね、疲れて寝てしまったのでしょう」
男「なんだかとても幸せな夢はみた気もするんだが」
執事「正夢かもしれませんね」
男「あの子の部屋に白目をむいたまま両手でピースをしてる俺とあの子のツーショット写真が飾られてるんだが」
執事「……プッ…ククッ」
男「受験票は持ったか?他に忘れものは?」
女「大丈夫だって言ってるでしょ。心配しすぎなの」
男「そ、そうか?」
女「ただでさえ、こんな大量の御守り持っていかなきゃいけないのに……」
メイド「とか言ってキッチリ全部持っていくんですね」
執事「あれはあれで嬉しかったんでしょうね」
男「おい。遅れたり事故ったりしたらわかってるな」
運転手「私にまでプレッシャーかけないで下さいよ…」
女「じゃあ行ってきます」
男「おお…」
男「なんだか急にあの子、俺にフレンドリーになった気がしないか?するよな!」
メイド「何言ってるんですかパパ」
執事「そうですよパパさん」
友「おはよー」
女「おはよっ」
友「うわっなにそれ」
女「御守り」
友「多いって!あんたそういうの気にしないってたじゃん」
女「私はそうだけどパパがね」
友「あれ?あんた父親のことお父さんってよんでなかった?」
女「お父さんじゃぬくてパパね」
友「なにそれ、ファザコンになったってこと?」
女「そうかも」
男「ステマ…ステマ…」
メイド「パパご主人様何に焦ってるんですかね」
執事「親にはよくある現象ですね」
男「アフィリエイトが嫌いなわけじゃない。俺は気にしない。でも嫌いな人がいることは理解しろ」
女「ただいま」
男「おかえり!どうだった」
女「個人的にはバッチリ」
男「そうか、なら問題ないな」
女「私なりの全ては出し尽くせたと思う」
男「結果発表はいつだ」
女「来月」
男「来月!?それまで安眠できそうにないんだけど」
女「もう試験は終わっちゃったし何をしても変わらないと思うんだけど…」
男「さてと、試験までの間疲れただろ。発表までゆっくり休んでくれ」
女「じゃあパパと一緒にゆっくりしたい」
男「今月の仕事ぜんぶキャンセルな」
執事「……いや、いくらなんでもそれは」
女「ちゃんと仕事はしないと駄目だよパパ」
男「よーし、パパ収益二倍にしちゃうぞ」
メイド「ご主人様ってこんな人でしたっけ?」
執事「親になると人は変わるものです」
女「この書類はなに?」
男「養子縁組みの書類なんだけど…」
女「………」
男「あ、いや…色々と思うこともあるだろうし、よく考えてほしいんだ」
女「パパ大好き」
ギュッ
女「私はパパの子になりたいよ。でも…」
男「でも、なんだ?」
女「パパ、今独身でしょ?私がいたら邪魔になったりしないかな?」
男「パパは金持ちなんだぞ。その気になれば娘が1人2人いようが問題になんてならんさ」
女「じゃあ、悪い女には騙されないでね」
友「はぁ…緊張する…」
女「緊張したって結果は変わらないって」
男「緊張はするだろ……」
友「……そちらはどちら様で?」
女「パパです」
男「父です。裁判所から正式な書類がくれば完全な父親になれます」
友「…なんだか知らない間に随分苦労してたんだね」
女「んー、パパのとこに来てからは苦労はしてないかな。
その前は売られたり買われたりで大変だったけど」
友「ちょっと…あんたに何があったの?」
男「これからも娘をよろしくお願いします」
友「あ、はい」
女「あ、結果が張り出されるよ」
男「今日はお祝いだ!料理長にどんどん料理を作るように言ってくれ」
女「パパ!そんなにいっぱいあっても食べきれないでしょ!
余ったらもったいないんだから」
男「は…はい…ごめんなさい…」
友「あ…あの……」
男「どうかしたかい?」
友「私、こんな立派なお屋敷にお呼ばれしたの初めてで……その……」
女「今は私のお家でもあるんだから緊張しなくてもいいよ」
友「じゃあ今度あんたに何があったから聞かせてよ」
女「今度ね」
拝啓 お父さん お母さん
今現在、私は、売られた先で幸せにやってます。
正直な話、売られたことに関しては恨んだこともありました。
でも、今の幸せはそれがあったからこそ成り立ってるんだと思います。
私はとある親切な人に引き取られ、その人の娘になりました。
その人が言うには実の親である、お父さんとお母さんに会いたくなったら会いにいくといいといってくれます。
私としてもたまには顔をだそうと思います。
そのときは謝らないでください。
さっきもいいましたが、私は幸せなんです。
男「手紙出したのか?」
女「うん」
男「しかし、せっかくの入学式なんだし実の親である2人も呼んだほうがよかったんじゃ…」
女「……パパ」
男「はい」
女「今日はパパだけに見てもらいたかったの!」
男「……そうか」
女「あれ?パパ泣いてるの?」
男「…普通泣くだろ」
女「じゃあ私がお嫁にいったらどうなるのかな?」
男「ききたくないききたくない」
女「ふふっ、じゃあ例えば私が………」
男「あーあーあー!何も聞こえない!」
終わり
素晴らしい