友「おっす男!」
男「おはよう友」
友「……今女子いないよな」
男「どうしたのさ」
友「ふっふっふ、実はな……じゃーん!」
男「わっ……そ、それ」
友「エロ本! 拾ってやったぜ!」
男「い、いやだってばれたらまずいんじゃ……」
友「なんだよビビってんのか? 今どき中学生にもなってそういうの知らないの、大変だぜ?」
男「いや、だけどさ……」
友「特にお前なんてそういうの知らなそうだし、ほらほら見ようぜ」
男「い、いいって俺は……」
友「なんだよ、いいこぶってさ。じゃ、お前女に興味ないんだな!」
男「いや、そういうわけじゃないんだけど」
友「じゃ、ほらこれ。持って帰れ」
元スレ
男「性欲ポイントカード?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1354890139/
男「え、なんで俺が……」
友「いいからいいから、ほら女子きたぞ! 早く隠せ!」
男「え、え?」
女「それでさー……あ、おはよ……ってきゃっ!」
男「お、おはよ……あっ、いやこれは違くて」
女「……男君もそういうの読むんだ」
男「あ、いやその……」
女「……」
男「あっ……」
友「気にするなって、女子なんてみんなああだし俺たちは別にこれが当たり前なんだからさ」
男「……うん」
男「友ったらホント、強引なんだよね……」
男「どうしようかな、これ」
男「母さんに見つかったら嫌だし……」
男「捨てよ……」
男「……でも」
男「ちょっとだけ、見るだけ」
男「うわぁ……なんかヤバイ」
男「な、なんでこんなになってるんだ」
男「すごい……や、やばい俺のちんこも……」
男「はぁ、はぁ……こうして、擦ってると気持ちよくなって……」
男「ダメ、な、なんか……出る……」
ピカッ
男「えっ? うわぁ!!」
男「……な、何?」
男「……そっか、今俺はエロ本読んでて、それで」
老人「ほっほっほ」
男「……」
男「わあああああああ!!!」
老人「おやおや、そんなにおどろかれなくても」
男「だ、だ、誰ですかおじいさん!?」
老人「私か? そうだねぇ、笑わないなら教えてあげよう」
男「わ、笑うって何を……」
老人「私は神じゃ」
男「か、神って……神様?」
老人「まあ、そうじゃろうな。笑うかい?」
男「神様ってそんな……でもそれならどうしてここに」
老人「ちょっと今の人間界はいろいろ問題があっての。調整するために各地にわしらが出向いとるんじゃ」
老人「君は、自慰をしたことがないね?」
男「じ、じい……?」
老人「その手に持っている本じゃ」
男「え? こ、これは!」
老人「ほっほっほ、心配せんでもとったりせん。それを見て、ムラムラッと来たんじゃろう?」
男「……」
老人「それも安心してよい、何の変哲もない健康な男子じゃ。その興奮がピークに達すると、その絵のように」
男「……何か、出てる」
老人「射精、というやつじゃ。これが子供の種になる」
男「……」
老人「君はどこまで性知識がある?」
男「せ、性って……エロい、ってこと? その、今この本を読んだだけでも結構知らないことが合って……」
老人「ほっほ、調べたとおり純粋な少年じゃな」
老人「わしがここに来た理由をちと長いが説明させてもらうとしよう」
男「う、うん」
老人「年上には、はいじゃ。こればっかりはエロ本でも教えてくれん」
男「……はい」
老人「それではの、わしらは精通前。つまり君のようなほとんど性知識がない子のところへ来てるんじゃ」
老人「そして、わしらはこれを渡しておる」
男「……これは」
老人「そうじゃな、性欲のポイントカードとでもいえばわかりやすいか」
男「ポイントカード……」
老人「それを股間にあててみるんじゃ」
男「……わっ! き、消えた……」
老人「これで君の情報がこちらに伝わるようになった。でも安心してよいぞ、悪いことは起こらんからな」
老人「そのムラムラッとするもの、すなわち性欲じゃ。生物であるから生殖行為、つまり子供を造り子孫を残したいと思うことは仕方ないこと」
老人「だがな、それは人間のみならず動物にもある。それは知っているじゃろう?」
男「う……はい」
老人「よろしい。だが例えば君が今一人で性器をしごいていた、これで子供ができると思うか?」
男「できない……と思います」
老人「それはそうじゃろう、種だけではどうしようもならん。卵が必要になる」
老人「だがよく考えてみるんじゃ、基本的にその行為、性交は気持ちの良いものとされている」
老人「君は、例えばゲームをしているだけなのにお金をもらえるのと、勉強したらもらえるの、どちらがいい?」
男「それはゲームの方が……」
老人「それはそうじゃろうな。楽しいことをして、お金がもらえたらなんてラッキー。まあ勉強が好きな子もおるじゃろうが」
老人「性交はまさにそれなんじゃ。リスクなしで快楽を得られる」
老人「さらにすごいことは、一人でする自慰に関しても快楽を得られるという点じゃ」
男「……そ、そうなんですか」
老人「さっき君が達しそうになったじゃろう? 所謂おしっこを出した時の気持ちよさ、あの感覚がさらに強いものになった、というのが簡単か」
男「……」
老人「話が長くてすまないね、これでも短くまとめたつもりなんじゃが。さてさてこの自慰や性交、どうも不思議で」
老人「特に性交なんてものは子供ができた上、気持ちよくなれる。……少々難しい話をすると」
老人「何かを得るためには、何か我慢しなきゃならん。それはみな平等に生きるためじゃ」
老人「おいしいものを食べるには、働いてお金を手に入れなければいけないようにな」
老人「でも、どんなに頑張っても子供というのは性交するしか方法はない。それなのに」
老人「これはな……わしらの先祖が作り間違えたという話で、なんともみっともないんじゃが」
男「……」
老人「おっと失礼。つまり、わしが言いたいことは」
老人「君が性欲を抑え、自慰や性交をしなかった場合、それに見合った報酬を上げるというものだ」
男「報酬……?」
老人「先の認識から何日我慢ができるか、ということじゃな」
老人「自慰をすることは誰にでもできる権利じゃ。だがその分この世界全体を見ると失うものがない」
老人「そのためわしらは考えた、自慰や性交をしない人間には褒美を与えようと」
男「何がもらえるんですか? お金とか?」
老人「わしは神だぞ少年。だが疑うのも無理はない。もし少しでも気になるようであれば」
老人「その本は手放し、ためしに1週間。性欲を抑えてみるがよい」
男「は、はぁ……」
老人「それじゃ、失礼したの。ほっほっほ!」
ピカッ
男「わっ! ……い、いない」
男「一体……」
友「おっす! 昨日はどうだったよ!」
男「え? な、何が?」
友「とぼけんなよ! 本、どうだった? やったんだろ?」
男「あ、いや……」
友「マジかよ! うわ、そこまで腰抜けだとは思わなかったわ……」
男「いや、その友」
友「まあいいや、お前にそこまで求める俺が馬鹿だったんだよな」
男「……」
友「あ、いや別にお前を馬鹿にしてるわけじゃない。ただほら、憧れってあるだろ?」
男「憧れ?」
友「なんていうか、好きな女とヤリテー!みたいな」
男「ふーん……」
男「はぁ、疲れた」
男「俺はまだ恋とかしたことないし、よくわかんないな」
男「……あれは夢だったのかな」
男「まあいいや、別にしたいとも思わないし」
男「明日で1週間……寝よ……」
先生「えー、抜き打ちのテストを行う!!」
マジ!?ナイワー!!
友「うわ、マジ最悪! 全然できなかったわ。お前は?」
男「……」
友「ってそうだよな、お前俺より成績悪かったし。仕方ないって、こんなのできるやついねーよ!」
男「……」
先生「えー、それじゃ返すぞ。男」
男「……はい」
先生「お前、いつの間にそんな頭よくなったんだ? ほら、クラストップの満点だ」
男「ま……」
友「ま、マジか!? い、いや男、お前……え? ど、どうしたんだよ急に!」
男「わ、わからない……も、もしかして」
友「な、なんだよ、俺にも教えてくれよ!!」
男「……」
友「はぁ!? オナ禁1週間とか無理無理! てかそんなの迷信だって!」
男「……そうはいっても、何も勉強してないのに答えがすらすら」
老人「ほっほ、どうかね?」
男「あ、貴方は……」
老人「1週間。よく耐えたね」
男「あ、い、いえ」
老人「これが報酬だ、信じてもらえたかね?」
男「で、でもこれっていつまでとか……」
老人「今の学力に合った能力強化だからね、勉強しなければ今の学年ではトップ、というところかな」
男「……それと、その、何かリスクとか」
老人「リスク? だから言っただろう、何もしないことがわしらにとってはメリットなんじゃよ。安心していいぞ」
男「……」
老人「ほっほ、次はもう2週間後じゃ。もしできるなら、挑戦してみるがいいぞ」
男「……2週間」
友「……お前、どうしちまったんだ?」
男「……」
友「1週間前の体育じゃ今まで通りだったよな? それがどうして……」
女子「ねぇねぇ男君、すごいじゃん短距離記録、校内1位だよ!?」
女子「どんな練習したの?」
女子「そういえばこの前のテストも満点だったよね! 何かあった?」
男「あ、いや……」
友「おーおー、急にモテ始めたな。でも、そんなずっとうまくはいかないだろ?」
老人「2週間もできるとは、なかなかじゃの」
男「俺は別に、そういう気持ちなかったので」
老人「それじゃあ今から1か月だ。できるかな?」
男「余裕だと思いますよ」
老人「ほっほっほ、頼もしいね。それじゃ」
男「……次はなんだろうな」
友「……お前さ」
男「何?」
友「背、伸びた? いや、てか伸びすぎじゃね?」
男「そうかな」
友「うん、だいたい……2か月くらい前とくらべて15cmくらいは」
男「そんなに?」
友「それに……話し方も変わったよな」
男「そうかなぁ」
友「特に……」
女「あ、男君!」
男「あ、女さん。どうしたの?」
女「ごめんね、ここがどうしてもわからなくて」
男「あぁ、そこはこうして……」
女「あ、そっか! ありがと流石男君だね! 今度何かおごるよ!」
友「女子と話すことが増えたよな……」
男(そう、もともと女子とはあまり話す機会がなかった俺だけど)
男(あのおじいさんに合ってから、いろんなことがうまく行くようになって)
男(最初はどぎまぎしてたけど、今じゃ女の子と話すのも普通になった)
友「もう彼女とかできちゃうんじゃねーの?」
男「いやいや、俺は別に」
老人「半年、やってみるかね」
男「言われなくても、もちろんですよ」
老人「君はなかなか優秀な若者だね」
男「いやいや、こんな楽なことで人生が明るくなってるんです。楽しくって」
老人「ほっほ、そう言ってもらえるとわしらも甲斐があるってものじゃな」
男(次は何がくるんだろうと楽しみ、それだけが楽しみで)
男(たまにその、そういうシーンを見たりしてムラッとくることはあるけれど)
男(今までも耐えてきたし、興味がないと思えば問題じゃない)
友「なんていうかホント、お前変わったよな」
男「そうかな」
友「スポーツ万能、頭もよくて、高身長で顔もよくなってないか?」
男「どうだろ」
友「気が利くし隣のクラスでも相当評判だぞ」
男「でも俺興味ないし」
友「それも持てる要員なんだろうな、くそうらやましい」
男(頭から始まって顔や身長、トーク力とかも身についた)
男(女子はみんな話しかけてくるし、男子の中じゃリーダーみたいな感じ)
男(もう怖いことはないけど、まだ先があるなら見てみたい)
先生「今日は転校生を紹介する」
転校生「……よろしく」
先生「そうだな、男の隣に座ってくれ」
エー!イイナー!テカ ケッコウ カワイクネ?
男「男だよ、よろしくね転校生さん」
転校生「……」
男「わからないことがあったら何でも聞いてよ」
転校生「……なんか、むかつく」
男「え……?」
転校生「……話かけないで」
エ、ナニアレ カンジワルッ
友「おっと、流石の男でも転校生には勝てないか?」
男「……」
男(大丈夫、まだ俺のすごさを見てないからだ)
男(テストと体育の時間で見せてあげるよ)
友「……転校生、すごいな」
男「……」
友「勉強もできて、スポーツ……ありゃ化けもんだな」
男「……大丈夫だ、もうすぐ半年がくる」
転校生「ちょっと」
男「え、俺?」
転校生「そう」
男「どうしたの」
転校生「……」
男「何か用があるんじゃ」
転校生「キミ、自分のことすごいって思ってるでしょ」
男「なっ!」
転校生「大したことないよ、キミ。それだけ言いたかった」
男「お、おい」
転校生「……」
男「お、おいちょっと待てって!」
転校生「何?」
男「……なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだよ」
転校生「……なんか、見てて面白かったから」
男「……」
転校生「それじゃ……」
男「……このっ!!」
ガッ
転校生「……え?」
チュッ
男「……」
転校生「……何するのよ」
男「あっ……いや、これは、だな」
転校生「……」バッ
男「あっ、ちょっと……! ……・何やってるんだ俺」
老人「ほっほ、久しぶりだね。おや、何か浮かない顔をしているが」
男「……別になんでもないです。それで半年目の褒美は」
老人「今までは性格はそのままだったが。明日から君の第一印象は素晴らしいものになる」
男「……それ」
老人「ん?」
男「それ、ちょっと保留ってことできますか?」
老人「可能だが、受け取ってもらわないことには均衡がとれないんじゃ」
男「わかりました、1週間待ってください」
老人「ほっほ、わかった」
男「おい、転校生!」
転校生「……何」
男「これ、よかったら食べないか?」
転校生「いらない」
男「な、なんだよノリ悪いな」
転校生「無理やりキスしたことの口止め料?」
男「ち、違うそんなんじゃ!」
転校生「安心して、私だってあんな噂流されたら嫌だわ」
男「……この」
女「最近男君みないよね」
女「なんか噂じゃ転校生のこと追っかけまわしてるとか」
女「え、マジ? でもあの転校生なんでもできるけどすっごく感じ悪いの」
女「男君もなんでもできるし、いいカップルなのかもねー」
男(……くそ、なんなんだよあいつ)
男(あいつのこと、見返してやるんだ……)
男(……でもなんだ、この気持ち)
男(気が付いたらあいつのことばっかり考えて……)
男(……能力が手に入ればあいつだって、いやダメだ!)
男(今の俺の実力で勝ってやる!!)
男(……でも)
男「……どうしてあんな、き、キスなんていきなり」
男「あぁもう、とりあえず行動だ!」
老人「さて、明日で能力を渡すがよいか?」
男「……」
老人「その様子じゃと、何かあったのかな?」
男「いや……」
老人「ほっほ、気にすることはない。能力が増えれば増えるほど生きやすくなるようになっておる」
老人「もしその能力でもうまくいかないなら、それは無視してもなんとかなるんじゃ」
男「……そうだけど」
男(あいつの目。あの目だ)
男(あの顔を、どうにかして……顔だって悪くない癖に)
男(もう少し愛想よくしたら、いくらでも男がよってくるだろう)
男(どうしてあんな無愛想に生きてるんだよ)
男「……明日の18時まで待ってくれませんか」
老人「ふむ……まあいいじゃろ」
男「ありがとうございます」
転校生「……」
男「おい、転校生」
転校生「……何」
男「ちょっといいか」
転校生「……早くして」
男「その……今まで悪かったよ」
転校生「……」
男「俺、確かに調子のってた。なんか、今までと比べてすっごく楽しくてさ」
男「でもお前に言われてちょっと、違うなって思った。うん、なのにあんなことして悪かった」
転校生「……」
男「だからさ、改めて仲間になろうぜ? そうやって過ごしてたら楽しくないだろ?」
転校生「別に……」
男「いや、強がるなって! 絶対こっちの方が楽しい! な?」
転校生「私は……1人が好きだから」
男「一人って……」
転校生「なんでもできるからって苛められてきたの。だからもう、誰にも頼らない」
男「だから俺のことも……」
転校生「私はもう、自慢したりしないし、だからと言って他の人と過ごしたりもしない」
男「なんで……」
転校生「……そうすれば傷つかなくて済むでしょ」
男「そんなことないって……な、転校生!」
転校生「それだけなら、私帰るわ」
男「おい、待ってって……」
転校生「……」
男「おい……」
男「好きなんだよ!!」
転校生「……」
男「……もう、お前のことばっかり考えちゃうんだよ」
転校生「……」
男「……あんなことしておいてさ、いきなり付き合ってとか言わないから」
男「友達からでもいいから、な?」
転校生「……私は」
ゴーン
男「え? ……18時」
転校生「私……あ、あれ男君……」
男「てん、こうせい……」
転校生「……私」
男「いや、その」
転校生「……私のこと、そういう風に思ってくれてたの」
男「あ、えっと」
転校生「私のこと、守ってくれる?」
男「う、うん……もちろん」
転校生「……だったら、付き合う」
男「……」
転校生「……」
男「転校生? ……震えてる?」
転校生「ごめんなさい……その、こうやって話をするの、なかなかなくて」
男「……」
転校生「……」
ギュッ
転校生「あっ……」
男「ま、守るって言ったから……」
転校生「……ありがと」
男(……あれは能力のせいだったのか。それともギリギリ思いが伝わったのか……わからない)
男(でも、あの髪の匂いと、華奢な体……あれが女の子……)
ドクン
男「うっ……どうしてだ」
男(転校生のこと考えると……ダメだろ、それはダメだ)
男「……でも」
男(これから先は、どうやっても俺の力じゃない……)
男(もっともっと深い関係になったとしても、それは俺に対しての気持ちじゃない……)
男(転校生と、これからもっと仲良くなって……それで)
男(キスとかも、したい……それに)
男「ぐっ……」
男(ダメだ、想像するな……なんでこんな時に、さっきの顔を思い出しちゃうんだよ……)
ムクッ
男「……こんなに辛いのは初めてかもしれない」
男(そうだよ……もうどうせ、こんな能力いらないんだから)
男(……転校生)
スッ…
男「転校生……はぁ、はぁ……」
男「あっ、く、くる……てんこう、せい……うっ!!」
男「はぁ、はぁ……」
男「これが……射精、か……」
老人「ほっほ」
男「……おじいさん」
老人「どうですかな、始めては」
男「こんなに気持ちいいとは思いませんでした。むしろ、ここまでどうして我慢してたのか、って思うくらい」
老人「ほっほ、それはそれは」
男「それで、俺はもう戻っちゃうんですよね。半年前の俺に」
老人「ほっほっほ」
男「いいんですよ、もう。なんていうか、能力なんかに頼らなくてももっと楽しいことはあるかなって」
老人「そうかいそうかい」
男「今までお世話になりました」
老人「でも、このままリセットするわけにはいかないのじゃよ」
男「……え?」
老人「それじゃ、頑張りたまえ若者。ほっほっほ!」
男「おじいさん……?」
男「……身長も、顔も代わってない」
男「俺は……このままなのか?」
男「……でも、損はしない」
男「そういうことなのか。ここまで溜めてきたポイントで得たものはなくならない、と」
男「……それならそれで、このまま生きていこうじゃないか」
転校生「……男君」
男「何?」
転校生「一緒の高校に行くって言ったでしょ?」
男「そうだね」
転校生「それ無理みたい」
男「え?」
転校生「……私のパパよく転勤するから」
男「そ、そんな……」
転校生「……それじゃ、ね」
男「……」
男「……これが代償なのか?」
男「くそっ……それならもう、知らねぇよ」
男「ぐっ……転校生……うっ」
男「最低な男だ……俺は……」
男(高校に入って、身長も伸びた)
男(前ほどずば抜けて優秀ではなかったが要領を得たおかげか成績もよく、スポーツもそこそこで)
男(性格の良さやコミニュケーション能力は衰えていないようで、すぐに中学と同じ状況になった)
男(またやがて一人の人を好きになって、付き合うことになった)
男「……俺さ」
彼女「うん?」
男「初恋の人、中学の時に居たんだけど半分無理やり付き合わせちゃったみたいなカンジでさ」
彼女「そうだったんだ」
男「その後、彼女とはいい感じだったんだけど親が転勤とかで」
男「……そういうのって、罰があたったっていうのかな」
男「それともやっぱり、彼女は俺のこと嫌いだったとか……」
彼女「気のせいだよ、考え過ぎだって」
男「そうか……そうなのかな……」
彼女「そうやって元カノの話ばっかり、私はいらないの?」
男「そんなことない。もちろん今は君だけ」
彼女「……またそうやって」
男(でも、どうしても彼女とそれ以上の関係になることはなく)
男(徐々に合わなくなり、大学進学で完全消滅。でも悔いはなかったというより、やっぱり残っていた)
男(大学のサークルでは中高の経験を活かし、インターハイまで行った)
男(勉強も相変わらずそこそこだったが、大学になると規模が違う)
男(コンテストとかに選ばれるほど注目され、中学時代を思い出した)
男(……ふと、ポイントカードのことを思い出す)
男「あれは、本当なんだったんだろうな」
男「あれか、いわゆる思い込みってやつで。全部俺が思ってた妄想」
男「あのことは病んでたに等しいしなぁ、引っ込み思案であのままだったらどうなってたか」
男「……よし、踏ん切りを付けちまうか!」
男(そう言ってサークルでできた彼女、また先輩たちと宅飲み)
男(その勢いで、彼女とシてしまった)
男(童貞喪失、21)
男(……だが)
タタタッ
男「いつつ……飲み過ぎた」フラッ
女「きゃっ!!」
男「おっと、大丈夫ですか? ごめんなさい」
女「す、すみません……」
男「……っと、落としましたよ! すみません! ……行っちゃったよ」
男「同じ大学っぽいけど……ん、なんか見たことのある名前……」
男「……転校生?」
男(必死に探した。一瞬見た雰囲気は確かにあの転校生で)
男(知り合いにも少ない情報を元に探してもらって、ようやくたどりついた)
男「すみません……これ」
女「あっ、どうも……」
男「……転校生?」
女「……覚えててくれたんだ」
男「忘れるわけないじゃん」
女「……私もね、何回も男君のこと見てぐらついた。でも、私の勝手な理由で離れちゃったから」
男「……」
女「……ごめんね、それじゃ」
男「待って」
女「……」
男「もう一度、やり直さない?」
女「えっ……」
男「今でも俺、まだ君のこと好きだ」
女「……いいの?」
男「……こちらこそ」
女「嬉しい……」
男(鞍替えとは相変わらずひどいな、とも思いつつ)
男(彼女に対する気持ちは中学のままだった。それ故、単純に嬉しかった)
男(その後同棲し、大学卒業後結婚)
男(暖かい家庭を築いていこう……そう思って何気なく本を読んでいたら)
ピカッ
男「なっ!? うわあああ!!」
老人「ほっほっほ」
男「……貴方は」
老人「お久しぶりだね、若者。いや、もう立派な男になって」
男「何をしに来たんですか……まさか今までの分をとか」
老人「いやいや、そういう詐欺まがいの行為はしない。だが一つ言っておきたいことが」
男「なんですか……」
老人「君はこれから自慰をするたびに一つ失う」
男「……え?」
老人「得た物、後ろから。しかし、どれだけ失うかはわからない」
男「ちょ、ちょっと! そんな話なかったじゃないですか!」
老人「君には話してある、それに半年も耐えた子は始めてだったから心配ないと思っていたのじゃが」
老人「あくまでも自慰をした時点でストップじゃ。だが、そこから先は良い」
老人「問題は、性交。この行為に関しての報酬は高いわけじゃ」
老人「普通の人間がする分にはとやかく言うことはないが、君は別じゃ」
老人「わしらの報酬を受けておる。すなわち、童貞喪失は契約解除と同義」
男「そ、そんなことが……」
老人「その契約解除からは、性欲を溜めるカードがなくなったわけじゃから、その代わりに……得たものが消えていく」
老人「君の能力に魅せられた人は正気を取り戻すかもしれない、もしかしたら発狂したり、逆上して襲ってくるかもしれない」
男「どうして……」
老人「仕方がなかろう、これも先人たちのしりぬぐいなんじゃ。均衡を保つためには病むをえん」
男「……一つ聞くが、性交はどうなんだ。あの時点で俺は何か失ったのか」
老人「性交は自慰とは違うと言ったな。だから失うものはないぞ」
男「……それだけなのか」
老人「ほっほっほ、流石は鋭いの。性交は好きなだけするがよい。だが」
老人「子どもができないがの」
男「そんな……」
老人「その結果一人になり、自らを慰め地の底まで落ちた人間も知っておる」
老人「だがよく考えてみるのじゃ、わしらは破格の報酬を用意した」
老人「にもかかわらず、契約を破棄したならば本来取り立ても辞さないのだが」
老人「流石に酷であろうと、自慰をするたびにという制約を設けてあるのじゃ。ありがたく思うんじゃな」
男「そ、それじゃあなんだ……俺はこれからオナニーするたびに身長が小さくなったり、顔が変になったりする恐れが……?」
老人「逆に言えばしなければずーっとそのままじゃよ?」
老人「この契約によって受け入れた、その人当たりの良さ」
老人「さらには頭脳明晰運動神経抜群とひのうちどころがないが……子供ができない」
老人「離婚をしたとしても、女はすぐに寄ってくるじゃろうな。だが……」
老人「さぁ、君はどのようにして生きていくのかな。しかしどのような人生を歩んだところでわしらには関係のない話じゃ」
老人「子どもができることを心配しなくていいのじゃから、あとは好きにするとよいぞ!」
男「そういうことだったのかよ……」
男「なんで……どうしてだよ!!」
神と自称する老人は子供をつくる権利を含めた性欲を一つの権限とした
性欲を消費しなければその報酬として素晴らしい人生が約束される
だが、ひとたびその約束を破り自慰をしてしまうとそこで報酬はストップされる
それまでの報酬はそのまま。自慰をしてもなんら問題はない
そしてこの契約は、性交をしてしまうことで、完全に解除されるのだ
子どもを作ることは禁止され、今までの報酬を担保に性欲すら制限される
どうしてこのようなことを神は望んだのか
性欲とはいわば無限の泉
そのはかり知れぬ魔力を、神は恐れたのだ
無から有を生み出す神秘を、神はねじふせようとしたのだ
あくまで生殖行為、子孫を残すためだけの行為が
人間にとって、それは行動の理由にもなり、愛の証やその重さの比較にもなる
世界の測りでは読み取れなかった性欲を、なんとかして制限しようと
神は試みた。しかし、それはもちろんうまく行かず
万が一この男が50を過ぎた当たり前自慰を続けなければ不老不死が与えられたであろう
そうしてこの世界の均衡を取ろうとした、しかしそれ以上に人間は奥深く
この男がその後どう人生を歩んだか……?
女「……」
男「……」
女「幸せですか、貴方」
男「あぁ、幸せだ。お前はどうだ」
女「……この年になると、もうよくなりますが。言うならやっぱり、子供は欲しかったですねぇ」
男「……それは本当に、すまないと思っているよ」
女「やめてくださいよ、十分楽しい人生だったじゃないですか」
男「養子を取るという方法もあったが、やっぱり何か違うだろう」
女「いいんです、今が幸せですから」
男「……なぁ」
女「なんですか」
男「愛してるよ」
女「私もですよ」
男「……ありがとう」
男と女は死ぬまで一緒に暮らした
しかし、二人の間には不思議な魔力が働いていた
それは最後の報酬
……でもそれは、自慰をすることで解かれる
解かれたとして、彼女はどう行動するか
それを彼は知りたくてたまらなかったであろう
だが、それを知る術はない
それでも神はこうなることを予想できなかっただろう
例え子供をつくらなくとも
そこに愛さえあれば……
振り返ってみれば、非生産的である
当然のようにこの神は非難され、この神の影響を受けた人間は今生きているかどうか定かではない
だが、またふと思いついたように目の前が輝いて
ニコニコしながら老人が話しかけてくるかもしれない
その時貴方は性欲を捨てられますか?
了