先輩「このダンボールの山、どうしよう」
元スレ
先輩「引越し業者がまだ来ない…」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1354369524/
コンコン
先輩「お、やっと来たか。はいはい」
ガチャ
後輩「こんにちは」
先輩「あれ、後輩じゃない。どうしたの?」
後輩「どうしたの、じゃないです。引っ越し前に会いたいって言ったの先輩でしょ」
先輩「ああ、そっか」
後輩「もう、しっかりして下さい。こっちは部活終わった足で飛んできたんですから」
先輩「申し訳ない」
後輩「それにしても、よくもまあ、こんなにも荷物があったもんですね」
先輩「捨てられない物ばっかりで」
後輩「使えないものは捨てるべきですよ。もったいなもったいないって、どうせ使わないんですから。そっちの方がもったいないです」
先輩「それぞれに思い出があるのよ」
後輩「ま、先輩らしいですけどね。まだ引っ越し屋さんこないんですか?」
先輩「うん。遅いねえ」
後輩「間に合ってよかったです」
後輩「かずのこ、げんきないですね」
先輩「暑いからね」
後輩「えさ、ちゃんとあげてるんでしょうね」
先輩「このまるまる太ったお腹を見たら分かるでしょ」
後輩「ま、野良猫ですからね。先輩が面倒見なくてもどこかの家でたらふく食べてることでしょう」
後輩「最初、かずのこって名前どうかと思いましたけど、今ではこれ以外ないですね」
先輩「しっくりきてるよね」
後輩「でもやっぱり、どらやきって名前がよかったな」
先輩「まだ言ってる」
後輩「だって好きなんですもん」
先輩「後輩の好みは名前に反映しなくていいよ」
後輩「かずのこって何の子供ですっけ」
先輩「え?そりゃあ、猫だろう」
後輩「違いますよ、食べ物の方のかずのこです」
先輩「ああ。えーと、魚だね」
後輩「それはさすがに分かります。何の魚か聞いてるんです」
先輩「確かニシンだよ」
後輩「へえ」
先輩「知ってる?ニシンってもうあんまり捕れないんだって」
後輩「昔はそんなに捕れたんですか?」
先輩「かつての北海道にはニシン御殿が建ったらしいよ」
後輩「ニシンって北海道なんですか」
先輩「ほら、北海道の歌にもあるじゃない。ニシン来たかとカモメに問えば、私しゃ立つ鳥、波に聞けって」
後輩「ああその歌好きです!ヨサコイですね!男のロマンですよねー!」
先輩「ソーランだよ」
後輩「とにかく男のロマンなんです」
先輩「乱獲のせいでぎょきゃくりょう激減ってやつらしいよ」
後輩「言えてないです。ぎょかきゅりょうです。あれ?」
先輩「とにかく、今ではニシンといえば輸入モノになっちゃったのよね」
後輩「イワシとかサバとかも輸入モノばっかりですよね」
先輩「京都名物『にしんそば』に入ってるニシンも輸入モノなのかなあ」
後輩「多分そうでしょうね」
先輩「なんか寂しいなあ、それ」
先輩「エビなんかも輸入モノ多いよね」
後輩「そう言えば先輩、日本はエビの輸入世界一なんですって」
先輩「へえ」
後輩「それでですね、日本があんまり大量のエビを買い付けるもんだから、インドなんかでは暴動が起きてるんですって」
先輩「え?なんで?」
後輩「インド人がエビカレーを食べられなくなったからです」
先輩「なにそれ。本当?」
後輩「本当です」
先輩「エビカレー暴動?」
後輩「はい」
先輩「じゃあ私の知らない世界のどこかで、『かずのこ暴動』も起こっているかもしれないわけだ」
後輩「あ、でも外国ではかずのこは食料品じゃないんですって。肥料にされてたんですって」
先輩「へえ、日本では高級料理なのにねえ」
ニャアニャア!
後輩「あれ、かずのこが怒ってますよ」
先輩「仲間意識が生まれてるのね。かずのこが肥料にされてるなんて知ったから」
ニャアニャア!
後輩「でも最近は肥料にはしてないと思います。食べてもいないでしょうけど」
先輩「よかったね、かずのこ」
ニャア
後輩「ね、京都のどこに引っ越すんですか?」
先輩「車折」
後輩「くるまざき?……ね、住所教えてください。手紙書きます」
先輩「うん。紙とかなんか書くもの持ってる?」
後輩「あー、何も持ってないです。いいや、手に書いて下さい。はい、ペン」
先輩「洗ったら消えるじゃない」
後輩「その前に書き写します」
先輩「じゃあ、じっとしてて」
後輩「うへへ」
先輩「こら、じっとしててよ」
後輩「だってくすぐったいんですもん。うへへへ。えーと、きょうとし、みぎぎょうく」
先輩「うきょうく」
後輩「あー、えーと、うきょうく、くるまおれ……じゃなくてくるまざきですっけ」
先輩「京都の地名って難しいのが多いのよね」
後輩「かずのこは京都に連れて行くんですか?」
先輩「ううん、実家にはジャンガくんがいるから」
後輩「ジャンガくん?」
先輩「そ、ジャンガリアンのジャンガくん」
後輩「なんですかそれ」
先輩「ハムスターの仲間」
後輩「あー。猫とねずみは一緒に飼えませんね」
先輩「飼えないねえ」
後輩「ところでかずのこってホントに猫なんですか?」
先輩「え、どうしてよ」
後輩「こんな大きな猫見たことないです」
先輩「猫だって。ちゃんとお手するし」
後輩「お手は犬です」
先輩「あれ?でもするよ。お手」
ニャン
先輩「ほら」
後輩「変な猫だなあ」
先輩「とにかく、かずのこは連れて行かないよ。この寮だって、かずのこの居場所の一つなだけなんだから」
後輩「野良猫ですもんね。かずのこが、どこかのおばちゃんに、にゃーくんって呼ばれてるの見たことあります」
先輩「この子メスなんだけどなあ」
後輩「猫は家につくって言いますから。知らない新しい家は可哀想ですね」
先輩「……うん」
後輩「ね、先輩。新しい学校はどんなところなんですか?」
先輩「えーと、普通の共学」
後輩「ソフト部はあるんですか?」
先輩「分かんない」
後輩「もう。しっかりしてください。こっちは先輩が抜けたら代わりのピッチャーどうしようかと必死です」
先輩「それどころか人数足りないよね」
後輩「うちの部活9人ですもんね」
先輩「まあがんばってくれい」
後輩「うわー、無責任な発言ですこと」
先輩「だって仕方ないじゃない。私だって一度は勝ちたかったんだぞ」
後輩「……そうですよね」
先輩「あーあ」
後輩「どうしたんですか?」
先輩「お腹すいた」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「引っ越し屋さん、遅いですね」
先輩「遅いね」
先輩「ね。今日の晩ご飯、一緒に食べよ。ほら、練習試合の後に行ったことがあるじゃん。ちょっとおしゃれな喫茶店」
後輩「そんなところありましたっけ」
先輩「あったじゃない。ほら、あんたが『牛丼ありませんか』って聞いて恥かいたところ」
後輩「ああ、『たんぽぽ』か」
先輩「そうそう、たんぽぽ」
後輩「忘れてくださいよ、あんな恥ずかしいこと」
先輩「あはは、高校時代の思い出として、一生覚えているよ」
後輩「でもごめんなさい。今日の夜、家族と食べるんです」
先輩「うーん、そっか」
後輩「ごめんなさい」
先輩「気にしない、気にしない。あーあ、結局私はたんぽぽもかずのこもあきらめなきゃいけないのか」
後輩「なにいってんですか、元気だせ先輩。こんど京都に遊びに行きますから」
先輩「うん。今度あったら居酒屋で」
後輩「ばか」
先輩「あはは」
後輩「ホント、ばかです」
先輩「やっぱ学校ではまずかったよなあ」
後輩「後悔先に立たずとはよく言ってもんです」
先輩「お酒ってそんなに美味しくないのよ」
後輩「ならどうして飲んだんですか」
先輩「なんとなく」
後輩「……そっか」
先輩「うん」
後輩「厳しいですね」
先輩「人生いろいろある」
後輩「達観してますね」
先輩「そんなんじゃないよ」
後輩「開き直りですか?」
先輩「そんなんじゃないって。まあそんなんだけど」
後輩「どっちですか、いったい」
先輩「人間は何かを失って成長するのさ」
後輩「たんぽぽとかずのこと……」
先輩「友だちと、ソフトボール部と、そしてふるさとと……」
コンコン
先輩「あ、今度こそ引っ越し屋さんかな」
後輩「ま、がんばって下さい」
先輩「うん、ま、がんばるよ」
後輩「じゃあ、帰りますね」
先輩「後輩」
後輩「はい?」
先輩「左手見せてよ」
後輩「え?はいはい。書いてもらった住所間違ってました?」
先輩「忘れちゃだめだよ」
後輩「すぐに紙に書き写しますから大丈夫ですよ」
先輩「ちがうよ」
後輩「え?」
先輩「私のこと、忘れちゃだめだよ」
後輩「……はい」
先輩「だめなんだよね、こう見えても結構」
後輩「はい。分かってます」
先輩「辛いよね。厳しいよね」
後輩「……はい。分かってます」
先輩「でも、いつの日かきっと。それまではこの耳鳴りに耐えればいい」
後輩「……」
先輩「……」
後輩「あの、先輩」
後輩「人生って、」
先輩「うん」
後輩「はい、人生ってのは、こう……、いろいろあります」
先輩「なにそれ、達観してんの?」
後輩「そんなんじゃないです」
先輩「開き直りなの?」
後輩「全然です。人生なりゆきです」
先輩・後輩『あはは!』
コンコン
後輩「ほらほら、もう出なきゃ。引っ越し屋さん帰っちゃいますよ」
先輩「ん」
後輩「もう、そんなんじゃ夕方になっちゃいますよ」
先輩「分かってるって」
後輩「私がドア開けてきますよ」
先輩「あ…」
先輩「……ばーか」
34 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/12/01 23:34:29.69 mBC8Ivbz0 27/27これで終わりです
生温かく見守ってくださって感謝感謝

