「佐倉さん、早くしないと遅れるわよ」
浴衣姿でマミは杏子を促す。
しっかりと着付けられたその姿は深い紺に百合が美しい。
「待ってくれよ、歩きなれないんだからさ」
ヒョコヒョコとぎこちない歩きで杏子の長い影が追う。
元スレ
マミ「夏の終わりの恋の光」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1346157041/
辺りは次第に紫に変わり、二つの影が川沿いの土手をゆらゆら歩く。
「やっぱり私の見立ては間違いないわね」
後ろを歩く杏子を眺めてにこやかにロールが揺れる。
「ちょっと子供っぽく過ぎやしないか?」
薄い水色にポップな金魚をまとってヒョコヒョコとサンダルを揺らす姿に
思わずマミは笑いを漏らす。
「佐倉さん見て、もう舞いはじめてるわ」
淡い光がポツリポツリと飛ぶ中マミが声をあげた。
「綺麗だな」
ゆらゆらと飛び交う紫の光に杏子も目を奪われた。
「ほっほっほーむらこい」
笑いながらマミが歌う。
「こっちのまどかはあーまいぞ、あっちのさやかはにーがいぞ」
「ほっほっほーむらこい」
そろった声に二人は笑った。
「本当に綺麗だな」
杏子の感嘆にマミが付け足す。
「だって、夏の終わりの恋の光ですもの」
ほむらの一生はほとんどが戦いの中である。
その最後の輝きが彼女たちを魅了するのには理由なんていらないのであろう。
「そろそろ用意したものを出そうかしら?」
そう言うとマミは手提げから小さな筒を取り出した。
「はい、佐倉さん」
そう言って杏子の手にちょこんとまどかを乗せた。
光が大きく揺れる。
「凄いな、一気に光が増したみたいだ」
まどかを乗せた手をあげて杏子がつぶやいた。
「ありのままを楽しむのもいいけど、こういうのもいいでしょ?」
マミも同じくまどかを手に乗せぼんやりと川原を眺めた。
ゆらゆら揺れる光の群れは次第に夜に馴染み、それを見つめる物を不思議の空間絵といざなう。
「そろそろ本格的に飛び出すわね」
筒のふたを弄りながら、酔ったように言葉を漏らす。
「あまり人は来ないんだな」
光に埋もれる空間に少しの不安を感じ振り切るように杏子が尋ねた。
「最近は町の方でも売ったりしてるみたいだからねぇ」
寂しげにつぶやいたその言葉はすぐに光の空間に飲まれていった。
「あっ、まどかが…」
杏子のてからまどかが飛び立ち一匹のほむらと交互に光を放ちはじめた。
よく見ると紫の光の中にところどころ違う光が混じり始めている。
「カップルが成立し始めてるこの時が一番綺麗…」
マミが自分の手から飛び立つまどかを見ながら呟いた。
「佐倉さんはほむらの幼体ってしってる?」
不意の問いに杏子は首をかしげる。
「ほむらの幼体はね、キュウベエを狩りながら育つの」
ほむら一生の殆どはの幼体である。
その幼体は常に戦場の中におり、けっして日常には出てこない。
キュウベエを狩り時にオクタビアを仕留め強く育ったほむらがワルプルギスの夜を抜け出て成体のほむらとなるのだ。
「それもひとえにこの時のため、まどかとの逢瀬を迎えるためなのよ」
筒から飛び立つまどか達を見送るマミはどこか悲しげだった。
「おっ、こいつさやかと一緒に居るぞ」
紫と青の光がひっそりと佇んでいた。
「まれにそういうほむらもいるのよ、でも殆どがまどかとカップルになるわ」
「さやかとカップルになるには試練が多すぎるかららしいわ」
ほむらとさやかは似たような幼体期をすごす。
しかし、さやかはほむらと出会うとかなりの確率でオクタビアなってしまう。
オクタビアはまどかを果てはほむらをも殺す、キュウベエよりも厄介な存在なのだ。
「難しいもんなんだな…」
佇む光に杏子は呟くしかなかった。
「佐倉さん、こっちも御覧なさい」
その指先には光のカップルを見上げる小さな姿があった。
「なんだ?これは?」
「志筑仁美よ」
志筑仁美は2つの光を眺めながらせっせと何かをしている。
「何かモゾモゾ動いてるけど、何してるんだ?」
「近づいてよーく観察してみて」
よく見ると志筑仁美は口から何かを出しながら土を集めて上へ上へと建物を作っていた。
「これね、彼女の巣の一部で木間市タワーって言うの」
志筑仁美は非常に希少な生物である。
それはほむらやまどかといった百合カップルが彼女の生きる糧になっているからに他ならない。
「さらに志筑仁美はね、必ずさやかと共生するの」
「しかしほむらが居ると彼女がさやかをオクタビアにするのよ」
だったらそんな奴と言いかけた杏子をマミが遮る。
「彼女は悪くないわ、キュウベエにまみれたほむらが近くに居るとさやかが駄目になってしまうのが悪いの」
「そして彼女の建てる木間市タワーがないとほむらはうまくキュウベエを狩れない」
「本当に繊細な関係でお互いが成り立っているのよ」
様々な悲劇があり、様々な葛藤がある。
その中でほむらはこの日を迎えるのだ。
「なんでこんな風にしか生きられなかったんだろうな…」
「ほむら自身が選んだ道だもの…しかたないのよ」
彼女たちの思いは深い闇と瞬く色とりどりの光に溶かされていった。
「あっ…」
ふいに杏子の近くでひときわ大きい光が起こる。
「それがほむらの最高の瞬間」
まばゆい光の中ほむらとまどかが裸で交じり合いまどかがほむらにリボンを渡す。
「これで終わりなのか…」
「ええ、そうでないものはまた時間を巻き戻し幼体からやりなおすの」
周りが光がぽつぽつと消えて、夏の風物詩も終わりを告げだす。
「…すっかり遅くなっちゃたわね」
時計に目をやりぼんやりと呟く。
「これほどの事があったんだ、時間も忘れるよ」
笑って杏子は腰を上げる。
「そろそろ帰るか」
その声にマミも黙って頷くのだった。
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マミ「って言う話を書いたんだけど、どうかしら?」
ほむら「あなったってどうしようもないわね」
おわり