276 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/26 23:53:29.11 JOtdaiZe0 112/411

――――――――――――――――――――

【北の町>城下町>外れの小屋】

<夜>

僧侶「ふう……ただいま」

僧侶「おなかすいたな。パンを食べよう」

僧侶「パンふた切れにバターを塗って……あと少し野菜も」

僧侶「いただきます」

僧侶「ん……おいしい。しあわせ」

僧侶「ごちそうさま」

僧侶「さて……寝よっかな」

僧侶(……今日もたくさん特訓したぞ。僕、結構強くなったかも)

僧侶(そろそろギルドに登録してもいいかもしれない。そしたら、勇者も驚くかな)

「――!」

僧侶「……ん? なんだろ」

僧侶(外が騒がしいな……行ってみよう)

元スレ
僧侶「ひのきのぼう……?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1353934530/
僧侶「ひのきのぼう……?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1353950321/

283 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/26 23:54:53.21 JOtdaiZe0 113/411

ガチャ

僧侶(なんの騒ぎだろう……)

盗賊「だからオレは何も盗ってねえって!」

兵士B「くそ……おかしいな、荷物には何もないぞ」

兵士A「おい、ボディチェックだ!」

盗賊「くっ……待て!」

盗賊「お前ら、そこまでオレを疑うってことは覚悟はできてるんだろうな!」

兵士B「何ぃ」

盗賊「この国は、ヨソ者の亡命にも慈悲深いと聞いてやってきたが――」

盗賊「夜中の出入りは禁止だなんて話、昨日の今日で知る機会がなかったんだ!」

兵士A「こいつ何日も隠れてた分際でよくもそんなデタラメを……」

盗賊「いいか、もしオレの身体を調べて何も出てこなかったら、お前たちを……」

盗賊「国を訴えてやる! 訴訟だ! それなりの賠償を要求してやるぞ!」

兵士B「お、おいどうする?」

兵士A「こんな露骨なその場しのぎにたじろいでお前がどうする! さぁ服を改めろ!」

285 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/26 23:56:01.78 JOtdaiZe0 114/411

僧侶「あのう……」

盗賊/兵士A/B「!?」

僧侶「もう夜中ですし、ケンカはやめませんか?」

兵士A「な、なんだお前は」

僧侶「僕は近くの小屋に住む者です。こんな時間に言い争うのは、つまらないからやめましょう」

盗賊「あっ! お、お前!」

兵士A「ま、待て! 逃げる気か!」

盗賊「違う! こいつだ、こいつがアレを盗んだんだ! そうに違いない!!」

僧侶「えっ?」

兵士B「何をでたらめを……」

盗賊「でたらめなんかじゃねえさ、見ろ、こいつのポケットの膨らみを」

盗賊「オレが証明してやる!!」


盗賊は 僧侶に かけよった! 
盗賊は 僧侶のポケットから オーブをとりだした! ▼

僧侶「えっ……?」

289 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/26 23:57:02.15 JOtdaiZe0 115/411

兵士A「そ、それは!」

兵士B「そいつを早く渡せ!!」

盗賊「も、もちろんだ」

兵士は オーブをうけとった ▼

兵士A「間違いない……この珠の美しい色合い! 紛れもなく国宝のオーブ!」

兵士B「ああ、助かった……一時はどうなることかと思った……」

盗賊「そ、そんなにスゲーもんだったのか? お、お前もよく盗る気になったなぁ」

僧侶「えっ? 僕はそんな玉なんて知らないよ」

盗賊「嘘をつけ! 現にお前のポケットから出てきたのを、このお二人も見てたんだ!」

兵士A「うむ……まぁ、確かに」

兵士B「そこの少年、お前を城へ連行する! さぁ大人しくするんだ!」

僧侶「えっ? 今のは、そこの人がもともと持ってたのを、僕のポケットに入れたんだよ」

盗賊「出まかせを! どうせオレがヨソ者だから、濡れ衣を着せやすいって魂胆なんだろ!?」

兵士B「ええ……ど、どうする?」

兵士A「とにかく、二人ともひっ捕らえるんだ!」

294 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/26 23:57:38.08 JOtdaiZe0 116/411

――

【北の城>地下牢】

衛兵「ここでしばらく大人しくしてろ!」

ガシャン

僧侶「あいたた」

僧侶(……うーん。僕はオーブなんて盗んでないんだけどな)

僧侶(でもそれより、いいことを知ったぞ)

僧侶(【東の村】の村長さんが寝言で言ってたオーブは、多分これのことだ)

僧侶(【東の村】から少し西へ進んだ位置にほこらがあって、そこにオーブを持っていくんだ)

僧侶(そうしたら、魔の城へ続く道が開ける……多分、何かが起こるんだ)

僧侶(魔王城は山と海に囲まれてるから、多分この方法で乗り込めるんだ)

僧侶(勇者に会ったらすぐに伝えないと)

僧侶(……ここを出られたら、だけど。……いつ出してもらえるのかな……)

僧侶(……)

僧侶「」 Zzz…

295 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/26 23:58:14.60 JOtdaiZe0 117/411

――

兵士B「ふい~。オーブが見つかって良かった良かった」

兵士A「なあ兄弟」

兵士A「あのとき、尋問してた男の方の服は、まだ改めてなかったよな」

兵士B「そうだったか? まぁそんなこと覚えちゃいないが」

兵士A「オーブが見つかって俺も動転していたが、よくよく考えてみると」

兵士A「あの男がガキの方に無理矢理オーブを押し付けたってのも、普通に在り得るんじゃないか」

兵士B「さぁ、俺が知るもんか。オーブは見つかったんだ、あとは野となれ山となれだ」

兵士A「とはいっても、判決が下される際に、参考人として呼び出されるかもしれんぞ」

兵士B「ええ、面倒くさいなぁ」

兵士A「……ま。その時は俺たちが見たままのことを伝えればいい」

兵士A「『あの僧侶のポケットからオーブが出てきた』ってな」

兵士B「僧侶?」

兵士A「ああ。あいつは例の『ひのきのぼう』だよ。勇者様にリストラされた奴」

兵士A「身の程知らずに魔王討伐についていきやがって、俺は前から気に食わなかったんだ――」

301 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:00:06.68 UW5dTRYB0 118/411

――

 

ガチャガチャ   ガシャン

衛兵「おい、起きろ」

僧侶「Zzz」

衛兵「……こいつ、よくこんな固い床で眠っていられるな……おい、起きろ!」

僧侶「ん……ふぁい?」

衛兵「沙汰が決まった。牢から出ろ」

僧侶「ふああ……ふぁい……」

衛兵「のんきなものだな。国宝窃取は大罪なのを分かっているのか?」

衛兵「場合によっては、明日の日の目はもう拝めないかもしれんのだぞ」

僧侶「そうは言っても、僕は盗んでないですし……」

衛兵「まぁいい。早く立て、これからお前を王の間に連れていく」

僧侶「王の間……?」

衛兵「そうだ。盗品が盗品だからな。国王みずから直々に判決を下すとのお達しだ――」

306 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:01:41.92 UW5dTRYB0 119/411

【北の城>王の間】

 ――ザッ!

衛兵「ただいま容疑の者をお連れしました!」

国王「よい。下がれ」

衛兵「はっ」

僧侶「……王様、お久しぶりです。お腰の具合はいかがですか」

大臣「し、痴れ者め! 貴様のようなみすぼらしい小僧に、王は出会ってなど――」

国王「よい。声を荒げるでない」

大臣「ぬ、ぬう……しかし……」

国王「……さて。余は確かに、その不思議な眼差しには見覚えがある。どこであったか……」

僧侶「はい。僕は以前、勇者のパーティーにいました」

僧侶「そのとき一度だけ、王様に謁見したことがあります」

国王「おおそうか、あの時の少年か。勇者の影にはあったが、余はその目をよく覚えているぞ」

僧侶「ありがとうございます」

国王「しかし……それがこの度はなにゆえ、実に憂うべき所業に走ったのか……」

311 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:02:15.40 UW5dTRYB0 120/411

僧侶「僕はオーブを盗んではいません。本当です」

国王「ふむ。だがその言葉だけを鵜呑みにしては、この場を設けた意味はなかろう」

国王「では衛兵」

衛兵「はっ。ご報告いたします」

衛兵「この僧侶は今からひと月ほど前、賢者の村にて勇者一行から離脱した模様」

衛兵「その後ここ王都に帰郷し、城下町の住まいで数日過ごしていたとのことですが」

衛兵「出自が孤児であったこともあり、生活は非常に困窮していたものと思われます」

衛兵「ちまたでは『ひのきのぼう』と称せられるほど、貧しい日々を送っていたとか」

大臣「ぷっ」

兵士「くくっ」

僧侶「……」

衛兵「以上のことから、国宝を横流しし、生活の安定を図ろうとした可能性は十分考えられます」

国王「私見は交えなくてよい」

衛兵「し、失礼致しました!」

国王「続けよ」

318 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:03:01.91 UW5dTRYB0 121/411

衛兵「はっ。オーブが戻った今、もはや内密にする必要もありませんが――」

衛兵「今から七日前、王宮に忍び込んだ何者かに、オーブを奪われる事件が発生しました」

衛兵「犯人と思しき人物は、当日中に城下町に雲隠れしたとの情報を受け」

衛兵「ただちに多数の城兵を捜索に送り、昨日までの連日、昼夜ともに網を敷いていたのですが」

衛兵「ようやく昨晩、巡回中の兵士が、夜間に町を出歩いていた怪しき二人を捕らえました」

衛兵「うち一名はこの後、この場に呼ぶ予定ですが――」

衛兵「先に『ポケットにオーブを隠し持っていた』とされる人物から引き立てた次第です」

国王「ふむ……そこまででよい。あとは余が直に問いただそう」

国王「僧侶よ。そなたは何故、夜中に城下町を出歩いていたのだ?」

僧侶「はい。夜中に、外から騒ぎ声が聞こえたからです」

僧侶「出てみると、男の人と兵士の人たちが言い争いをしていたので、止めに入りました」

僧侶「けんかはつまらないから、やめよう、と」

国王「そなたは、夜間の出入り禁止令を知らなかったのか?」

僧侶「はい。ここ数日はずっと小屋の周りで過ごしていたので、あまり町中には入らなくて――」

僧侶「だからそういうものが出ていたなんて、今はじめて知りました」

323 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:04:31.66 UW5dTRYB0 122/411

国王「懐にオーブを忍ばせていたという話は?」

僧侶「あれは、言い争いをしていた男の人が、僕のポケットに入れたんです」

僧侶「でもそのとき明かりも無かったので、兵士の人たちには勘違いされやすかったと思います」

国王「ふむ……あい分かった」

国王「実はな。余がそなたに問答をかけたのは、その眼に虚実をはかりたかったためじゃ」

国王「そなたの眼は、嘘は言っておらんように見える……この限りでは、余は無罪を言い渡すところだ」

僧侶「本当ですか?」

国王「だが、今回は極めて有力な証人がおってな。その判断にて、判決を下そうと思う」

僧侶「証人?」

国王「そうじゃ。オーブが奪われた当日、偶然にも賊の姿を目撃した者が城内にいた」

国王「我が妃じゃ。では、兵士よ」

兵士「はっ。王妃様のおなーりぃー!」

 

侍女「さ、王妃様、足元にお気をつけ下さいませ」

王妃「……」

342 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:07:31.65 UW5dTRYB0 123/411

僧侶(王妃様だ。初めて見た。きれいな人だなぁ)

国王「王妃よ。顔を上げよ」

王妃「……」

国王「ふむ。宮中の者は知ってのとおり、王妃は当日に目にした賊の姿をたいそう怖がってな」

国王「また城内を荒らされるのではないかと、余りの恐怖にすっかり塞ぎこんでしまった」

国王「だが、そんな日々に終止符を打つためにも、王妃よ。ここは協力してくれ」

王妃「……わらわは、賊の顔など見とうない」

国王「まだ賊だと決まったわけではない。決めるのはそちじゃ、頼む」

王妃「……」

僧侶「……王妃様」

王妃「!」

僧侶「怖いときは、どくけしそうを少しダシた温かいスープを、ゆっくり飲むといいですよ」

僧侶「体内から『怖い』という毒素が抜け出て、そのうえ身体も芯から温まるんです」

王妃「…………」

王妃は ゆっくりと かおを あげた! ▼

345 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:08:21.54 UW5dTRYB0 124/411

王妃「!!」

王妃「おお、この童じゃ!!」

国王「!?」

僧侶「えっ?」

王妃「間違いないわ、この童が国宝を奪ったのじゃ!」

僧侶「僕は盗んだりしません」

王妃「この薄汚い童が、あの時わらわの目の前を横切ったのじゃ! 忘れもせんわ!」

国王「王妃よ、間違いないのか?」

王妃「おお、我が夫よ、なにゆえ賊を野放しにおくのです! 早う、早う地下牢へ!」

王妃「おお恐ろしや、あの時の賊がなにゆえ王の間に……正気の沙汰では……ああ……」 ガクッ

侍女「お、王妃様!!」

国王「ど、導師を呼べ! 王妃は丁重に連れていくのだ!」

兵士「は、はっ!!」 ドタバタ

大臣「は、早くその罪人を取り押さえろ!」

僧侶「……どうして……」

353 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:09:33.83 UW5dTRYB0 125/411

国王「……どうやら余の人を見る眼も、年をとるごとに曇ってきたらしい」

国王「先の一連の証言で、事件は解決したものとする」

僧侶「王様、僕は」

大臣「控えよ、盗っ人風情が!」

国王「……国宝を盗んだことは、大罪である」

国王「だがこの罪人はまだ成人しておらず、身寄りもない貧しき暮らしをしておった」

国王「また少ない間ながら、勇者を支え、打倒魔王に貢献したことも考慮したい」

国王「従って極刑は避ける代わりに、この城下より永久追放の刑とする」

僧侶「……王様! 一つだけ申し上げたいことが」

大臣「黙れ! 王の寛容極まる判決に、不服があるというのか!」

僧侶「そうじゃありません。僕は追放で構いません、でもたった一つだけ」

衛兵「この!」 ギリリ

国王「よい。放してやれ」

国王「そこまで言うならば、最後に聞いておこう」

僧侶「いたた……はい。ありがとうございます」

360 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:10:07.89 UW5dTRYB0 126/411

僧侶「もし勇者が一度この町に戻ってきたなら、そのオーブを渡してあげて下さい」

僧侶「そしてそのまま【東の村】に行くように伝えてください」

大臣「貴様ァ言いたいことが二つになってるぞ!」

僧侶「それだけです。どうかお願いします」

国王「ほう……なるほど。【東の村】か……」

国王「しかと聞き届けた。勇者が戻った際は、考えておこう」

僧侶「ありがとうございます」

国王「……では……」

衛兵「はっ。おい、立て! 行くぞ!」

 

大臣「……よろしいのですか、あんな子供の戯れ言を真に受けて」

国王「ふむ。あの話には多少心当たりがあってな」

大臣「心当たり?」

国王「確かオーブにまつわる言い伝えがあったはずだ……早急に文献を調べよ」

大臣「ははっ」

367 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:11:15.52 UW5dTRYB0 127/411

――

【城下町】

衛兵A「さぁ、自分の住まいまで歩け」

衛兵B「荷の整理だけは許されている。もっとも、内容は改めさせてもらうがな」

僧侶「ありがとうございます。あ、いたた」

衛兵A「きびきび歩け!」

 

町民A「あ、おい見ろ、『ひのきのぼう』だ!」

町民B「なんだ? アイツついに何かやらかしたのか?」

町民C「ねぇ、もしかして、最近ウワサになってた国宝ドロボーの犯人って」

町民A「そういえばこの間の晩、アイツが連れてかれるのを見たって奴がいたぞ」

町民B「うへえ、頭がおかしいたぁ思ってたが、またとんでもねぇコトやらかしたもんだな」

町民C「怖いわねぇ。捕まって良かったわ」

町民A「あれでも元は勇者のパーティーにいたんだろ。勇者にとっちゃとんだ恥さらしだな」

町民B「まったく、この町の恥だ!」

379 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:13:28.52 UW5dTRYB0 128/411

僧侶「――ここです」

衛兵A「こんなところに小屋があったのか。なるほど、家主に似て貧しさが滲み出ているな」

僧侶「僕は、自分が特別貧しいだなんて、思ったことはありませんよ」

衛兵A「いいから荷造りをしろ。あまり時間をかけるなよ」

僧侶「はい」 ガチャ…

 

衛兵A「……ふう。あの小僧も不憫なもんだな」ボソ

衛兵B「何がだ?」ボソ

衛兵A「例の件の判決だよ。王妃様は、あの通り怖がりだろ?」

衛兵A「誰でもいいから、とっとと犯人を決めてしまいたかったんだろうぜ」

衛兵A「あそこで違うと言ってしまえば、まだ犯人が捕まってないってことになるからな」

衛兵B「ははぁなるほど。王妃様の性格じゃ、在り得る話だな」

衛兵A「容疑をかけられた者が二人いるって話も、果たして耳に届いていたかどうか」

衛兵B「でもって普段は頼もしい国王様も、王妃様にはトコトン弱いからな」

衛兵A「ああ。あの小僧が本当は無実だったら、トコトンついてない話さ」

383 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:14:56.16 UW5dTRYB0 129/411

――

ガチャ

僧侶「支度が終わりました」

衛兵A「ん、早いな。どれ、荷を確認させろ」

衛兵A「なになに。装備品はかわのぼうしに……ふっ、代名詞のひのきのぼうか」

衛兵B「あとは少ない食糧に、全財産400ゴールド足らず……えっ? 終わりか?」

衛兵A「おい、本当にこれだけなんだろうな」

僧侶「はい」

衛兵B「まぁこんな有り様でもなきゃ、国宝を奪おうだなんて思わんだろうさ」

僧侶「僕はオーブを盗んではいません」

衛兵A「黙れ、頭を上げろ」

僧侶「はい?」

衛兵Aは 僧侶に 魔法の烙印を きざみつけた! ▼

僧侶「いたたオデコが……」

衛兵A「追放者の証だ。それがある限り、この町へは永久に門前払いというわけだ」

397 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:17:18.53 UW5dTRYB0 130/411

衛兵B「さぁ、そろそろこの町からおさらばの時間だ」

僧侶「あのう、最後に墓地に行ってもいいですか? 神父さんにお別れの挨拶がしたいです」

衛兵A「だめだ。烙印が押された以上、この町に長居することは許されん」

衛兵B「それになんのかんの口実つけて、町に雲隠れするかもしれんしな!」

僧侶「そんな。僕はそんなことしません」

 

盗賊「お。ここがオレの新しい住まいか!」

僧侶「!」

衛兵A「何だお前は。ああ、幸運な方の男か」

僧侶「新しい住まいって?」

盗賊「む、お前か。……この権利書を見ろ。今日よりこの小屋の主はオレだ」

盗賊「例の件で疑いをかけた謝罪にと、国王直々に永住権を与えてもらったのだ!」

盗賊「この国まで足を運んだ甲斐があった。ここには俺も活躍できるギルドもある」

盗賊「オレは今までのことからは足を洗って、これからはまっとうに生活していくんだ」

僧侶「ちょっと待って」

408 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:18:41.21 UW5dTRYB0 131/411

僧侶「ここは僕の家であると同時に、勇者の家でもあるんだけど」

僧侶「勇者の帰る場所はどうなっちゃうの? もし勇者がここに戻ってきたら――」

衛兵A「なんだ、お前知らないのか? 勇者様には、すでに立派な家が用意されている」

僧侶「えっ?」

衛兵A「何といっても世界を救うのだ、国がそのくらいの支援をするのは当然だろう」

衛兵B「お前、本気で勇者様をこんなボロ小屋に住まわせるつもりだったのか?」

盗賊「ボロ小屋で悪かったな!」

僧侶「……なあんだ。それなら、よかった。勇者の帰るところは、ちゃんとあるんだ」

衛兵B「ふん。納得したなら行くぞ」

僧侶「あのう。勇者の思い出が詰まった家、大事に使ってください」

盗賊「ふん、そうさせてもらうさ。俺はこれからまっとうに生きるんだ」

盗賊「……いいか。恨むなら、こんな世の中と、不運だった自分を恨むんだな」ボソボソ

僧侶「? 何を恨むというの? それより、あなたがまっとうに生きられる道が開けて、よかった」

衛兵B「おい、もう行くぞ!」

僧侶「では、さようなら。さようなら、神父さんの小屋――」

417 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:20:03.29 UW5dTRYB0 132/411

【北の城>城下町>出入り口】

衛兵A「――では、ここでお別れだ」

衛兵B「我々はお前がここを離れるのを、最後まで見届ける義務がある」

僧侶「はい。ありがとうございました」

衛兵A「さぁ、行け!」

僧侶「はい。では」

 

僧侶(……この町には、生まれた日からずっとお世話になってきたけど)

僧侶(もう帰れないんだなぁ。小屋も、他の人の家になっちゃったし)

僧侶(でも、勇者が帰る場所が別にあってよかった)

僧侶(故郷に戻ってきて、自分の帰る家がなかったら、寂しいもんね)

僧侶(僕はこれからどうしようかな。とりあえず、どこか住める場所を探さなきゃ)

僧侶(もう東側は大体歩いてきたから、西側に向かってみようかな)

僧侶(うん、勇者たちは時計回りで進んでるはずだから、もしかしたらばったり会えるかも)

僧侶(そうと決まれば、あの雪山に向かってみよう――)

432 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:23:15.48 UW5dTRYB0 133/411

――――――――――――――――――――
【雪山】

勇者のこうげき! 
魔物を たおした! ▼

勇者「ふう。終わったね」

商人「欠かさずゴールドを多めに回収……へぶしっ」

賢者「勇者様、キズの手当てを」

勇者「ありがとう!」

賢者「以前に比べて、格段に腕が上がっているようですね」

勇者「うん。なんだか、最近あった心のモヤモヤが段々晴れてきてるんだ」

勇者「今、頭の中は魔王を倒すことでいっぱい。一刻も早く世界を平和にしてみせるよ!」

商人「さ、さすがは勇者様ですな……この寒さでよくもそんなに元気で……しぶへっ!」

戦士「今度は寒さで風邪を引かなければいいがな」

勇者「ボク、風邪なんて引かないよ! もし引いたとしても――」

勇者「賢者さんが治してくれるもんね!」

賢者「信頼して頂き光栄です。万が一の際は、是非おまかせを」

438 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:24:39.36 UW5dTRYB0 134/411

商人「いやあしかし、この寒さで皆さんよく体力が続きますなぁ」

商人「ワシは寒さに弱い上に、山道も苦手でもうヘトヘトで」

戦士「戦士たるもの屈強でなければならない。環境で左右される者は二流だ」

勇者「戦士さんはすごいなぁ。ボク、実は『いのちのゆびわ』を装備してるから平気なんだ」

勇者「装備して歩くだけでキズが回復! もし良かったら、商人さんに貸そうか?」

商人「エ! いえいえ、とんでもない。だってそれは、賢者殿とおそろいではないですか」

賢者「ふっ、お見通しでしたか」

勇者「えっ、き、気付かなかった! ボクいつ渡したっけ?」

賢者「西の町での装備分配の際に、体力に劣る私にと、その手で渡してくれたではありませんか」

勇者「そうだっけ? って賢者さん、ななな、なんで左手の薬指にはめてるの!?」

賢者「どの指に装備しようとも私の勝手、では困りますか?」

勇者「こ、困るよ! 恥ずかしいからやめてよ、もう!」

賢者「いいえ。やめません」

戦士(……賢者の奴め、白々しい真似を。だが勇者が浮ついている間に、俺は伝説の剣を……)

商人(いいぞ……もし勇者様と賢者殿が結ばれれば、その挙式で多くの収益が見込める……)

443 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:25:27.89 UW5dTRYB0 135/411

――

戦士「ふうんっ!」

戦士の こうげき! 
かいしんの いちげき!
魔物に 大ダメージを あたえた!

魔物を たおした! ▼

勇者「す、すごい戦士さん。気合いが伝わってくるよ」

戦士「この程度は朝飯前だ」

賢者「戦士殿も、私が加入した頃に比べれば、格段に強くなりましたね」

戦士「……強くなったと思っていた」

賢者「?」

戦士「だが、西の町の道場で……俺は生まれて初めて、人間相手に苦戦した」

勇者「で、でも、勝ったんでしょ?」

戦士「……ああ。まあ……な……」

戦士(相手の、戦いに対する心構えが甘かったおかげでな)

戦士(あの師範を実力勝負で打ち破ることができたなら、今ごろは楽に剣も抜けているだろうに……)

448 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:26:44.94 UW5dTRYB0 136/411

――

商人「ひふみよ……いむなや……」ジャラジャラ

勇者「商人さんのおかげで、ボクたちの稼いだお金がすぐに分かるね」

商人「なんの。経済事情の把握は初歩の初歩ですぞ」

賢者「いつもゴールドとアイテムの管理、感謝いたします」

商人「なんの、商人としてパーティーに迎えられたのなら、当然の義務です」

勇者「商人さんがいなければ、この旅はきっともっと苦労していただろうね」

戦士「とはいえ、危険な長旅によくついてくる気になったな」

商人「そりゃあ、勇者様について共に魔王を倒したとなれば、その知名度は馬鹿になりませんからな」

商人「自分自身の存在だけでも、大いに宣伝になるのです。これほど商売しやすいことはない」

勇者「やっぱり、お金のために魔王を倒すんだね」

商人「そ、そうですとも! ここは薄情とも意地汚いとも言われたとて、譲りませんぞ!」

勇者「いいと思うよ。それも一つの価値観だろうし、何だかんだでお金は大事なものだし」

勇者「それに魔王を倒すっていう共通の目的があるなら、ボクはそれで十分だよ」

商人「ああ、勇者様……この商人、打倒魔王に向けて全力を尽くしますぞ!」

455 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:27:56.71 UW5dTRYB0 137/411

――

賢者「まもなく山頂ですね」

勇者「かなり登ったけど……まだ魔王城に攻め入る手がかりは見つからないね」

戦士「無駄足に終わる可能性もあるというのだな」

商人「そんなこたぁありません。ここの魔物はなかなかG稼ぎに打ってつけですぞ」

賢者「それに経験値も豊富に得ました。我々はまた一回り鍛えられたでしょうね」

勇者「うん。それにどうせ旅をするなら、色んなところを見て回りたいしね」

戦士「のん気なものだな。これでは……これでは、物見遊山ではないか。なぁ商人よ」

商人「はい? ああ、まあ、そうかもしれませんなあ」

賢者「……今ごろは僧侶殿も、城下町で安穏と過ごしていることでしょうね」

賢者「いや運が悪ければ、別れたあの日のうちにはすでに魔物に――」

戦士「それはない。愚鈍とはいえ、ああ見えて恐ろしくしぶとい奴だったからな」

勇者「ねえ何の話?」

賢者「いつかの民家にあった冒険譚の話ですよ。今度聞かせて差し上げましょう」

商人「賢者殿……ごまかし方も上達していってますな……」

468 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:32:06.86 UW5dTRYB0 138/411

――

【雪山>山頂】

勇者「うわぁ、見晴らしいいね」

賢者「前方は北の城、後方は西の町が一望できますね」

戦士「そして横には魔王城、か……」

商人「ふむ。あの海の真ん中にそびえ立つ大陸が、我々の終着点ですな」

勇者「すごく切り立った山で囲まれてるね。どうやって乗り込めばいいんだろう……」

賢者「理想は空路。次点で陸路。……大穴で海路ですか」

戦士「正直、あの山は登れないこともない。が、このパーティーと装備ではとても無理だな」

商人「魔王との戦いを控えながら、丸腰で登頂するわけにもいきませんしなあ」

勇者「とにかく情報収集しておいて損はないね。このまま予定通り北の城に向かおう」

勇者「旅をしてから結構経つし、きっと何か手がかりが生まれてるかもしれない」

賢者「ええ」

戦士「……ん……天気が悪くなってきたな」

商人「うひゃあ、こりゃ大変だ! もし吹雪いて来たら、ルーラで退散しましょう!」

473 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:33:47.15 UW5dTRYB0 139/411

勇者「……ちょっと待って」

賢者「? どうしました?」

戦士「む。あれは……」

商人「すわ、前から魔物がやってきますぞ! 迎撃準備じゃ!」

勇者「待って。あれは魔物じゃない……」


―― ―― ―― ―― ――


僧侶(もうちょっとで山頂かな。ふう、疲れた)

僧侶(ここの魔物は強いからなぁ。逃げきるのが精一杯だよ。おかげで登るのは早かったけど)

僧侶(でも天気も悪くなってきたし、そろそろ逃げきるのも難しくなってくるのかなぁ)

僧侶(ん?)

僧侶(うわぁ、言ってるそばから魔物の群れだ。また逃げ切れるかな……)

僧侶(……ん? ちょっと待てよ? 魔物じゃない……?)

僧侶「んん?」

僧侶「あっ!」

475 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:34:35.30 UW5dTRYB0 140/411

僧侶「勇者!」

勇者「? えっ?」

戦士「僧侶!」

商人「な、なんと僧侶か!」

賢者「……!!」

僧侶「うわあ、久しぶりだね。僕だよ、僧侶だよ」

勇者「えっ? えっ??」

戦士「……僧侶。こんなところで何をしている」

僧侶「えっと。実は北の城で――」

商人「ああっ、お前のその額の紋章は!?」

賢者「……追放者の烙印。自力では決して消えない傷痕……」

戦士「お前、追放されたのか。何をやらかしたのだ」

僧侶「それが、ちょっとオーブを盗んだ犯人に間違えられて」

商人「国宝を!? また大それたマネを!」

僧侶「僕は盗んだりしてないけど、もう判決が出ちゃったから、仕方ないんです」

478 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:35:45.90 UW5dTRYB0 141/411

僧侶「そうそう勇者、それでね。色々あって、もう小屋には住めなくなっちゃったんだ」

勇者「え……小屋に……?」

僧侶「でも安心して。国が、勇者に新しい家を用意してくれたんだって」

賢者「まぁそのくらいの支援は当然でしょう」

商人「ふむ。その家の規模によって、王の信頼の度合いが図れますな」

戦士「ふん、どんな家だろうが住めば都だろう。あるだけマシだ」

僧侶「神父さんの小屋も、家主が代わっただけで、なくなった訳じゃないから――」

勇者「神父さん?」

勇者「ねえ、君、なんで神父さんのこと知ってるの?」

僧侶「えっ? やだなぁ、僕と勇者が、一番お世話になった人じゃないか」

勇者「ボクと……君が?」

賢者(まずい! 過去の記憶が倒錯しては、勇者様に悪影響を及ぼす可能性も――)

賢者「勇者様!」

勇者「?」

賢者「お下がりください。これ以上この者に関わってはいけません」

482 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:36:39.45 UW5dTRYB0 142/411

賢者「商人殿、勇者様を離れた場所へ!」

商人「えっ、ワ、ワシ? はぁ、賢者殿がおっしゃるなら」

勇者「え、ちょっと何? この人は誰? ちょっと――」

商人「まぁまぁほらほらさぁさぁ」

 

僧侶「……えっ? 『誰?』ってどういうこと?」

戦士「俺は立ち合わせてもらうぞ」

賢者「構いませんよ」

僧侶「戦士さん、賢者さん。勇者はどうしちゃったの?」

賢者「僧侶殿。いや、僧侶よ。残念ながら」

賢者「勇者様は、二度とお前のことを思い出すことはない」

僧侶「えっ? どうして?」

賢者「私が勇者様の、お前に関する一切の記憶を消したからだ。もう、戻らない」

戦士「……」

僧侶「……。どうして、そんなことをしたんですか?」

486 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:37:22.70 UW5dTRYB0 143/411

賢者「……勇者は、お前の事をいつも気にかけていた」

賢者「魔王討伐に支障が出るほどに、だ」

賢者「だから記憶を消した。おかげで旅は順調になった」

賢者「これで納得できるか?」

戦士「……」

僧侶「……」

僧侶「そっかぁ」

僧侶「勇者は僕のことを、そんなに気にかけてくれてたんだ」

賢者「! ……だが、もう二度と思い起こすことはない」

僧侶「良かった」

賢者「!?」

僧侶「僕なんかのために魔王退治が難航してちゃ、申し訳が立たないし」

僧侶「勇者が無事に魔王を倒せるなら、僕が持つものなら何でも差し出すよ」

賢者「……別に、お前からなにか受け取った訳ではない。一方的に消したのだ」

賢者「私は、お前が恨むべき存在になったのだぞ」

493 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:38:35.46 UW5dTRYB0 144/411

僧侶「恨む? 何を恨むというの?」

僧侶「逆に感謝したいくらいだよ。勇者が旅に専念できるようになったのなら」

賢者「……『二度と』思い出さないのだぞ。旅が終わっても、平和な世界になっても」

僧侶「だったら、なおさら安いものだよ。世界が平和になったのなら」

賢者「……そうか。そういうことか。つまり」

賢者「所詮、お前の勇者様に対する思い入れなど、その程度のものなのだな」

賢者「勇者様にとぼけられても、特に何とも思わない、思えないというわけだ」

僧侶「……ううん……。よく分からない」

賢者「ふっ、安心した。お前がそういう了見ならば、こちらもやりやすい」

賢者「多少なりとも抱いていた罪悪感が溶けていくようだ。いや実に馬鹿らしかった」

僧侶「……よく分からないけど」

僧侶「きっと勇者は、僕のことを忘れてくれたほうが、幸せになると思う。そんな気がする」

賢者「……遠回しに気取った自惚れかな? ふっ、心配には及ばない」

賢者「勇者様は必ず、必ず幸せになる。この賢者の名にかけてな」

僧侶「そう。よかった」 ニコッ

498 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:39:42.46 UW5dTRYB0 145/411

賢者「では、僧侶よ。できるなら、もう二度と勇者様に関わらないで欲しい」

賢者「何かの拍子に勇者様の記憶が戻ってしまっては、旅が遅延する恐れもある」

僧侶「うん。……。分かった」

戦士「……」

賢者「それでは戦士殿、先を急ぎましょう。いよいよ天気も悪くなってきましたし」

戦士「ああ。先に行っててくれ。俺は少しだけこいつと話がある」

賢者「どうぞ。しかし、あまり長くならないように――」

 

僧侶「戦士さん」

戦士「……それは『ひのきのぼう』か。なぜ持ち歩いている」

僧侶「これは、僕です。前、戦士さんが僕にそう言ってくれたから、翌日に買ったんです」

戦士「……まさかそれだけで、一人で、この雪山の頂まで登ってきたというのか」

僧侶「そうですよ。いつも逃げてばっかだけど、でも、いざ戦うとなったら」

僧侶「『突き』が強いんです。今じゃあ『ひのきのぼう』は、結構使いこなせるようになったんですよ」

戦士「……突きが強い……か……」

502 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:40:46.23 UW5dTRYB0 146/411

戦士「……まさかとは思うが……」

戦士「おい僧侶。これを抜いてみろ」


戦士は 伝説の剣を わたした! ▼


僧侶「この剣は?」

戦士「ものは試しだ、いいから抜いてみろ。抜けるかどうか、その一点だ」

僧侶「はあ」


僧侶は 伝説の剣を 装備した!

しかし ひきぬけなかった! ▼


僧侶「あれ。これ固くて抜けない」

戦士「……ふっ。返せ。まぁそうだな、万が一にもありえない話だったか」

僧侶「どういう話なんですか?」

戦士「お前はまだ『これの域』には達してないという話だ。つまり決して勇者たりえぬ、と」

僧侶「はあ。はい。僕は、弱いですよ」

513 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:42:35.21 UW5dTRYB0 147/411

戦士「自分で認めるからには、パーティーを外されたことにも異存はないな」

僧侶「もちろんです」

戦士「それが、勇者の判断によるものではなかったとしてもか?」

僧侶「えっ、そうなんですか」

戦士「今だからこそ明かすが、あれは勇者を除く三人で勝手に決めたことだ」

戦士「勇者にはウソで言いくるめた。勇者は俺たちの言葉を信じ、納得した」

僧侶「……」

戦士「どうだ、これが真相だ。まだ俺たちを恨む気は起きないか」

僧侶「はい。恨むだなんてとんでもない」

戦士「なぜだ。なぜお前は、何の怒りも感じずにいられる」

僧侶「ええっと……よく分かりませんけど」

僧侶「僕がパーティーを外れたのは、勇者が一人で決めたことじゃないって、いま知って」

僧侶「僕はちょっぴり嬉しかったです。それでとても満足しています」

戦士「……ふん。俺は正直、お前を外したことは今でも後悔してない……が……」

戦士「……すまなかったな……」ボソ

519 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:43:26.17 UW5dTRYB0 148/411

僧侶「えっ? よく聞こえませんでした」

戦士「いい。さぁ、俺の話は済んだ。もう行くぞ」

僧侶「はい。ありがとうございました」

戦士「礼を言われる筋合いはない。……最後に言っておく」

戦士「お前は仮にも、『魔王を打ち果たす者』がいるパーティーの一員だった」

戦士「そのことは大いに誇っていい。また、この先々を生き抜く力ともなろう」

戦士「忘れるな」

僧侶「うん。わかった」 ニコッ

僧侶「じゃあ、僕の方からも一つだけ」

戦士「なんだ?」

僧侶「ここから北の城に行けば、王様がオーブを渡してくれるはずです」

僧侶「それを持って、【東の村】に向かってください。魔の城へ続く道が開けるらしいです」

戦士「! それは本当か?」

僧侶「違うかもしれないけど、一応、それだけを勇者に伝えてください」

戦士「……分かった。その伝言、確かに請け負った」

522 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:44:09.33 UW5dTRYB0 149/411

戦士「では……」

戦士「さらばだ」

僧侶「さようなら、戦士さん。さようなら――」

 

―― ―― ―― ―― ――

僧侶「さようなら。勇者」

僧侶(勇者はもう僕のことは分からないだろうけど)

僧侶(僕はいつでも勇者のことを応援してるよ。頑張って。頑張って、勇者)

僧侶「……あ」

僧侶「雪」

僧侶「きれいだなぁ」

 

僧侶「さて」

僧侶「行こっかな。ここから折り返しだ。よいしょ」

 ザッ    ザッ    ザッ    ――

523 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:45:10.08 UW5dTRYB0 150/411

――――――――――――――――――――

戦士「待たせたな。先を急ごう」

勇者「あ、戦士さん。あの人と何を話してたの?」

戦士「なに、一人旅の無事を確認していたまでだ。問題はないらしい」

勇者「すごいねぇ。あの人、ボクとそんなに歳が変わらないように見えたけど」

賢者「……はは。私だって勇者様とそれほど変わりませんよ」

商人「あんな大罪人、気にするだけ無駄ですぞ!」

勇者「そうかなぁ……」

賢者「それより勇者様、雪が降ってきました。この様子だと吹雪きそうですね」

商人「こりゃあ手がかりもないことですし、ルーラで城まで飛ぶことも考えるべきですな!」

戦士「手がかりは、ある」

商人「なぬ?」

戦士「このまま、北の城の国王に会いに行くぞ。そこに恐らく、我々の求める情報がある」

勇者「えっ、ほんと!?」

賢者「ちょっと待ってください」

525 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:45:51.92 UW5dTRYB0 151/411

賢者「まさかそれは、あの……少年から得た情報ですか?」

戦士「そうだ。何か問題があるか?」

賢者「追放者ですよ。なぜ我々が、彼の言葉に踊らされなくてはならないのですか」

商人「ううむ確かに」

勇者「でも、ボクたちが向かう先はどうせ一緒でしょ?」

戦士「その通り。賢者よ、何が言いたいのだ」

賢者「ルーラの話ですよ。我々は、あくまでパーティーの意志で行動しています」

賢者「少年の言葉など鵜呑みにせず、きちんと雪山を探索しきった上で北の城に向かいましょう」

商人「ええっ、そんな……へぶしゅんん」

戦士「お前らしからぬ意地張りだな。もうここには何もなさそうに見えるが」

賢者「私の意見を述べたまでです。最終決定権は勇者様にあります。いかがされますか?」

勇者「えっ、ボク? ……そうだね。じゃあ賢者さんの言うとおり、このまま山を降りよう」

賢者「ありがとうございます」

勇者「それより、吹雪いてきたね。さっきの人、大丈夫かなぁ」

賢者「……」

526 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:46:24.54 UW5dTRYB0 152/411

――――――――――――――――――――

 ビュオオオオオオオオオオ――

 

 ザッ…      ザッ…

僧侶(あっという間に天気が悪くなっちゃった……)

僧侶(うう……寒い……)

僧侶(ただでさえ冷たいのに、またいっそう冷え込んできた……身体が凍えそう……)

僧侶(でも、負けないぞ)

僧侶(勇者は、魔王の本拠地に乗り込んで戦うんだ)

僧侶(それに比べたら、きっとこんなの全然たいしたことないぞ)

僧侶「……!」


魔物Aが あらわれた!

魔物Bが あらわれた! ▼


僧侶(吹雪の中を狙ってきたんだ……ダメだ、逃げられない。戦おう)

527 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:46:57.16 UW5dTRYB0 153/411

――

僧侶「はぁ……はぁ……」

魔物のむれを たおした!

経験値と 400Gを てにいれた! ▼

僧侶(……)

僧侶(この二匹の魂が、無事に山に還りますように……)


ビュオオオオオオ――


僧侶「はぁ……はぁ……」

 ザッ       ザッ
 
僧侶「はぁ……はぁ……」

   ザッ         ザッ

僧侶「……あっ!」 ズリッ

 バシャッ

僧侶(てて……。しっかりするんだ。負けないぞ)

530 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:47:29.84 UW5dTRYB0 154/411

 ビュオオオオオオ――

僧侶(……)

僧侶(いま夏なのに……)

僧侶(なんでこんなに寒いんだろう……)

    ビュオオオオオオ――

僧侶(歩いても歩いても、おんなじような景色ばかり)

僧侶(まるでさっき勇者と出会ったのが、マボロシだったみたい)

僧侶(そうなのかもしれない。あまりの寒さに、頭がヘンになったんだ)

       ビュオオオオオオ――

僧侶(全身が凍えちゃって……)

僧侶(すごく眠たいな……)

僧侶(……)

          ビュオオオオオオ――

僧侶(いや)

僧侶(もうちょっと歩こう。頑張ろう。頑張ろう)

532 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:48:13.26 UW5dTRYB0 155/411

――

僧侶(……あ……)

僧侶(気付いたら吹雪が止んでた……)

僧侶「あっ」

僧侶「町だ!」

僧侶「町が見えてきた! あれがきっと西の町なんだ!」

僧侶(よーし、元気がわいてきた)

僧侶(なんだか空気もほんのり暖かくなってきたし)

僧侶(もう少しだ、頑張ろう――)

僧侶「!」


魔物のむれが あらわれた! ▼


僧侶(後ろからだ! まだ走れるかな)

僧侶は ピオリムを となえた!
僧侶の すばやさが あがった!
僧侶は にげだした! ▼

535 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:48:44.77 UW5dTRYB0 156/411

――

【西の町】

僧侶「はぁ……はぁ……」

僧侶「あれ? もう着いてた」

僧侶「ここが西の町かぁ」

僧侶(オレンジ色の風景。もう夕方になってたんだ)

僧侶(この辺は雪山と全然環境が違うんだな。暑いくらいだよ)

僧侶(それにしてももうクタクタだ……宿屋を探そう)

幼児「あっ」

僧侶「ん? やあ、こんにちは」

幼児「たびびとさん?」

僧侶「そうだよ」

幼児「……」

幼児「来て!」

僧侶「あっ、ちょっと」

538 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:49:20.80 UW5dTRYB0 157/411

【西の町>宿屋】

幼児「ママ、ママー! おきゃくさん!」

僧侶(宿屋の子だったんだ。ついてるぞ)

幼児「……あれ? ママ?」

僧侶「もしかして、あそこで麦の束を背負ってる人?」

幼児「あっ、ママ!」

僧侶(……あの女の人、足元がフラついてる)

僧侶(顔色に血の気がない……なんだかすごく疲れてるみたいだ)

 

宿の女「は……は……」

宿の女「あ……」 フラ…

幼児「ママ!」

僧侶「よいしょ」

宿の女「!?」

僧侶「運ぶんですよね。僕、手伝います」

541 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:50:04.89 UW5dTRYB0 158/411

僧侶「ははあ、貯蔵庫への補充ですね」

僧侶「いいですよ。後はやっておくので、休んでてください」

宿の女「そんな……見知らぬ方にそのような……」

幼児「こっち! 早く!」

宿の女「まあ……あの子ったら……」

僧侶「僕は構いませんよ。あなたはベッドで休んでてください」

幼児「早く!」

僧侶「はいはい」

宿の女「本当に……申し訳ありません……」

宿の女「山の方から来られて……あなたも疲れてらっしゃるでしょうに……」

僧侶「よいしょ。僕、全然へっちゃらですよ。あれ? 山から来たって言いましたっけ?」

僧侶「よいしょ。でも大丈夫です。こう見えて、元は勇者のパーティーにいたんです。っしょ」

宿の女「……勇者様の……」

僧侶「だから人一倍は、丈夫なんですよ。よいしょ」

宿の女「……ありがとうございます……申し訳ありません……」

544 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:51:20.11 UW5dTRYB0 159/411

――

僧侶「ふう、終わった」

幼児「つぎはおそうじ! それがおわったらおりょうり!」

宿の女「こらっ……いい加減にしなさい……」

幼児「だってママ、すっごくつかれてるんだもん!」

僧侶「そうですね。なんだか本当に体調を崩されてるようにみえますが」

宿の女「いいえ平気です……お店もあけてますし……」

僧侶「僕、実は僧侶なんですが、よければ具合をみましょうか?」

幼児「そうりょさん!? はやく! はやくママをなおして!」

宿の女「いえ……そんな……」

 

バタン

師範「おい、しばらく店は休むって話だったじゃないか!」

宿の女「あ……あなた……」

幼児「パパ! おかえりなさい!」

551 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:52:09.10 UW5dTRYB0 160/411

師範「!? 誰だお前は!」

僧侶「こんにちは。僕は僧侶です」

師範「旅人か? 悪いが今日は店じまいだ、宿なら他を当たってくれ」

宿の女「そんな……この方は……」

幼児「パパ、このひとはね、そうりょなの!」

幼児「だからね、いまからママをみてもらうの!」

師範「僧侶だと……?」

僧侶「はい。よかったら、お力になれればと」

師範「必要ない」

師範「私の妻の疲労は、呪文や薬で治るものではないのだ」

宿の女「……」

僧侶「えっ? それはどういう」

師範「知る必要もない。さぁ、帰ってくれ」

幼児「パパ……?」

僧侶「はい。……そういうことなら、おじゃましました」

555 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:52:58.96 UW5dTRYB0 161/411

バタン

僧侶「ふう」

僧侶(なにやら訳ありだったみたいだなぁ)

僧侶(しかたない、他の宿を探そう)

僧侶(いやその前に、装備から整えたほうがいいかな)

ドンッ

僧侶「いたた!」

大男「んん? 坊主、道の真ん中でぼーっとしくさってんじゃねえ」

僧侶「ごめんなさい。あ、『かわのぼうし』が」

大男「これか。ほらよ……んん?」

大男「てめえ、そのデコのマーク見せてみろ!」

僧侶「はい?」

大男「こりゃ追放者の証じゃねえか! 王都で何かやらかしたな!?」

僧侶「ええっと」

大男「おおいみんな! ここに追放者が流れ込んできてるぜ!」

558 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:53:32.86 UW5dTRYB0 162/411

「追放者だって?」

「マジか? 俺が知ってる追放者は、魔王軍と繋がってたって話だぜ!」

「ふざけんな、とっちめろ! 町からつまみ出せ!」

僧侶「あのう」

大男「とはいえ、こいつはまだガキ。この町で何かしでかした訳でもねえ」

大男「だが、みんな用心しとけよ! もしこいつが妙な気起こしたら――」

「おう、すまきにしてやんぜ!」

「雪山に放り出してやる!」

大男「というわけだ。分かったな、小僧!!」

僧侶「あのう」

僧侶「はい。分かりました」

 

僧侶(はあ)

僧侶(この額のマークが、そんなに大それたものだったなんて)

僧侶(この町には来たばっかりだけど、一気に過ごしにくくなったなぁ――)

565 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:54:30.75 UW5dTRYB0 163/411

――――――――――――――――――――

【北の城>城下町】

勇者「――結局、雪山には何もなかったね」

賢者「はい。しかしこれで勇者様は、大陸一周を踏破したことになりましたね」

戦士「無駄足を誤魔化すために、そんな言い訳を考えていたとはな」

勇者「まったくの無駄足というわけじゃないでしょ。戦闘も含めていい経験になったし」

商人「なかなかのゴールドも稼げましたしなぁ!」

賢者「そういうことです。戦士殿も、またレベルを上げたではありませんか」

戦士「ふん……」

戦士(だが、まだ剣は抜けん……)

 

町民A「あっ、勇者様だ!」

町民B「勇者様が帰ってきた!」

勇者「えっ、なになに?」

町民C「お帰りなさい、勇者様! みんな、勇者様が帰ってきたぞ!」

568 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:55:12.96 UW5dTRYB0 164/411

「勇者様! 勇者様!」

「戦士様もいるぞ! 戦士様!」

「勇者様ばんざい!」

商人「おっほほ、すごい歓迎っぷりですなぁ」

賢者「ええ。これだけの人望を持つということは、それだけの器の持ち主という訳です」

「勇者様かっこいい!」

「勇者かわいい!」

勇者「わっ、ちょっと、参ったなぁ」

「戦士様かっこいい!」

「戦士様かわいい」

戦士「ええい触るな! 我々はまだ魔王を討ち取っていないのだぞ!」

「ささ、皆様、新しく建てられた家があります! ご案内いたしましょう」

商人「おお、頼みますぞ」

「勇者一行にばんざい!」

「勇者一行に祝福あれ!」――

573 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:55:55.76 UW5dTRYB0 165/411

【勇者の家】

勇者「案内されるままに来たけど……」

勇者「本当にこれがボクの新しい家? すごい……まるでお屋敷みたい……」

商人「この立地で三階建てとは、並ならぬ待遇ですなぁ!」

賢者「いいえ、世界を救うことを思えば、足りないぐらいではありませんか?」

戦士「まだ救ったわけではない。もし魔王との戦いに敗れようものなら――」

戦士「あっという間に昔の小屋に逆戻りだ。覚悟はしているのだろうな、勇者よ」

勇者「ボクは小屋の方が居心地がよかったかも。だって小屋には……」

勇者「……あれ? えっと小屋には……」

商人「まあこれだけ広すぎるのも、一人で住むには考えようかもしれませんな!」

勇者「う、うん、そうだよ、こんなのボク一人じゃとても生活できないよ」

賢者「……一人では、そうかもしれませんね。しかし」

賢者「勇者様が望めば、一人……あるいはその上にまた一人、二人と増えることもありましょう」

勇者「? うん、そうだね!」

戦士「ふん、品のない奴め……」

583 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:57:53.50 UW5dTRYB0 166/411

商人「さて、先ほど町民に歓迎を受けていた際、有力な情報を得ましたぞ!」

勇者「ほんと!?」

賢者「さすがは商人殿、抜け目がない」

商人「なんでも王様が、我々に直々に渡したいものがあるそうですぞ!」

商人「しかもウワサによると、それで魔王城への道が開けるとか!」

勇者「えっ!」

戦士「! 魔王城への……」

賢者「……やはりここに戻ってきて正解でしたね。手がかりは、国王が見つけ出していた」

勇者「それじゃ、雪山で会ったあの人の言う通りだったね!」

商人「いえ勇者様、これは始めから北の城に戻る案を出していた、賢者殿の功ですぞ」

戦士「どちらでもいい。とにかく、道は開かれた。明日の朝にはさっそく城へ向かおう」

勇者「うん、そうだね。そうしよう!」

商人「今日の所はこの家に泊まりましょう。慣れない山越えでワシはもうへとへとで……」

賢者「では、夕餉の準備をいたしましょう。食材を買い出して参ります」

戦士「意外な一面を」

585 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:58:51.67 UW5dTRYB0 167/411

<夜>

勇者「ごちそうさま! すごく美味しかった!」

戦士「……本当に美味い……」

賢者「ありがとうございます」

商人「いやぁ素晴らしい。賢者ともなれば、手料理もこなせるのですなぁ!」

賢者「恐縮ながら、レシピさえあれば大したことはありませんよ」

勇者「賢者さんすごいっ! きっと女の子にもモテモテだよ!」

賢者「え。ええ、ありがとうございます……」

戦士「だが、浮ついていられるのも今のうちだ」

戦士「もう、魔王との決戦が近付いてきている。これが最後の晩餐になるやもしれん」

勇者「最後にはさせないよ」

戦士「む」

勇者「ボクは、魔王を倒す。この平和が、いつまでも続けられるように……!!」

商人「ほ、ほう……最初の頃に比べると、ずいぶん貫禄がつきましたな……」

戦士「当然だ。そうでなくてはな」

587 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 00:59:31.29 UW5dTRYB0 168/411

勇者「それじゃ、明日に備えて今日は解散! みんな寝坊しちゃだめだからね!」

――

勇者(……今日この町に帰ってきて、多くの人たちに迎えられた)

勇者(ボクの使命――必ず魔王を倒して、あの人々、一人ひとりの平和を約束すること)

勇者(もう何の迷いもない。見てて神父さん、ボクは必ずやり遂げて見せます――)

――

戦士(……やはり伝説の剣は抜けない。もう何十回と試して尚、抜けない)

戦士(俺には、分相応の役割が強いられているというのか……ならば)

戦士(その枠を塗りつぶした上で、限界まで腕を伸ばしてやる。俺の望む結末まで……!)

――

賢者(決戦の時は近い。だが同時に、はじまりの時も遠くはない)

賢者(魔王を倒し、世に平穏をもたらした時……万を持して、勇者様を迎え入れる)

賢者(勇者様だけは何があろうと、その後の幸せもろとも私が守り抜いてみせる……)

――

商人「ぐがー。ぐがー」

588 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:00:26.37 UW5dTRYB0 169/411

――

町民A「おい、勇者様を見たか? ずいぶん頼もしくなってたじゃないか」

町民B「相変わらず可愛いかったしなぁ。ありゃ色気づいたら絶対べっぴんさんになるぜ」

町民C「あら、もうお相手は決まってたわよ」

町民B「えっ、誰!?」

町民C「一緒にいた賢者さんよ。すごく素敵な方だけど、左手の薬指に指輪があったの」

町民C「それでよくみると、勇者様も同じものをつけてるじゃないの! ホント驚いたわ」

町民D「でも勇者様のは別の指についてただろ。まだそうと決まったわけじゃ……」

町民A「いやしかし、あの二人が結ばれれば、さぞお似合いだろうよ」

町民B「うう……俺の勇者様が……」

町民C「勇者様たちには、無事に魔王を倒して帰ってきて欲しいわね」

町民D「そうそ、もう近々、魔王城に乗り込むんだろ? オーブがどうたらとかで」

町民A「ふっ、オーブか。そういやそんなもん盗み出した『ひのきのぼう』がいたな」

町民C「ちょっとよしてよ! もう勇者様御一行には関係ないんだから」

町民D「今ごろどうしてんだかねぇ。ま、追放された以上、まともに世渡りはできんだろうさ――」

591 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:01:19.22 UW5dTRYB0 170/411

――――――――――――――――――――

【西の町】

道具屋「はっ、お前みたいな大罪人に売るものなんかねえよ。他を当たれ!」

――

武具屋「ははは、装備なんてその『ひのきのぼう』で十分だろ。帰れ帰れ」

――

宿屋「冗談じゃない、お前みたいなのを泊めたら、俺がこれから何と言われるか……!」

――

――

僧侶(はぁ。他の宿屋までダメだったな。人のウワサって広がるもんだなぁ)

僧侶(僕がほんとは、何も盗んでないってウワサも広まらないかな。広まらないか)

僧侶(はぁ……今夜泊まるところどうしようかな。お金はあるのに、やっぱり野宿かな)

僧侶(……ん? あの子は?)

 

幼児「……」 タッタッタッ

596 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:02:57.93 UW5dTRYB0 171/411

幼児「そうりょさん、やっとみつけた」

僧侶「どうしたの。もうこんなに暗くなってるのに」

幼児「今日、パパがどーじょーにこもる日なの」

幼児「だから、こっそりうちにきて」

幼児「うちにきて、ママをなおしてあげて」

僧侶「それはダメだよ。僕も君も、パパに怒られちゃうよ」

幼児「でも、ママ、ぜんぜんなおらないの」

幼児「ずっとつかれてるの。だからおねがい」

僧侶「……」

僧侶(まぁどんな病状だろうと、回復呪文で楽にさせるぐらいはできるかな)

僧侶(あの旦那さんが言ってたことがちょっと気になるけど……)

幼児「ね、はやく! はやく!」

僧侶「わ。声が大きいよ」

幼児「はやく!!」

僧侶「わかったわかった、行くから行くから」

599 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:03:37.64 UW5dTRYB0 172/411

【西の町>宿屋】

幼児「ママ、そうりょさんつれてきた!」

僧侶「こんばんわ」

宿の女「まぁ……あなたは夕方の……」

幼児「ね! えらいでしょ!」

宿の女「なんということを……この方も疲れてらっしゃるだろうに……」

僧侶「いいえ、僕のことなら大丈夫です」

幼児「ね、ちゃんとママをなおしてね! おそと、みはってるから!」 ドタバタ

宿の女「もう……あの子ったら……」

宿の女「夕方の節も含めて……本当に申し訳ありませんでした……」

僧侶「いいえ。僕は平気です」

僧侶「では早速ですが、身体の具合をお尋ねしてもよろしいですか?」

僧侶「僕、お薬作るのは得意なんですよ」

宿の女「はい……ありがとうございます……ですが……」

宿の女「夫が言ったように……私の疲れは、薬では癒えないのです……」

601 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:04:16.98 UW5dTRYB0 173/411

僧侶「それなら、回復呪文を。治るとまではいかずとも、多少は楽になりましょう」

僧侶「あなたは特にホイミに抵抗はありませんね? アレルギーとか、アンデッドだったりとか」

宿の女「あの……申し訳ありませんが……」

宿の女「私には……一切の回復呪文も、効果がないのです……」

僧侶「えっ、どういうことですか?」

宿の女「……本当は、私がここにいるだけでも大変なことなのに……」

宿の女「行かなければならないのに……いつかこうなることは分かっていたのに……」

宿の女「ああ……でも、もっと留まりたいのです……一日でも長く、この町に……」

僧侶「あのう」

僧侶「良かったら、詳しく話していただけませんか?」

僧侶「誰かに話すことで、楽になることもありますよ」

宿の女「……そうですね……あなたにはご恩がありますし……」

宿の女「私の決断を後押ししてくれるかもしれません……お話しします……」

宿の女「……私は、人間ではありません……実はあの子も、私の実の子ではありません……」

僧侶「はい、そんな気がしてました。絶対に誰にも話しません。続きをどうぞ」

605 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:06:16.77 UW5dTRYB0 174/411

宿の女「私は……私の正体は……」

宿の女「『伝説の剣』の『刃』です……」

僧侶「『伝説の剣』? あの、魔王を討ち果たせるという剣ですか?」

宿の女「はい……」

宿の女「今の私は、本来霊体であるはずの存在に、無理に肉体をこしらえたものです……」

宿の女「元は……『伝説の剣』が悪用されないように、天が備えた仕掛けなのですが……」

僧侶「信じますよ。それで、あなたの疲れの原因は?」

宿の女「はい……私の依り代は『伝説の剣』……」

宿の女「それが今、この町にはありません……」

宿の女「そのことにより、私自身の自我が保てなくなっているのです……」

僧侶「この町には、『伝説の剣』があったんですか?」

宿の女「はい……しかし先日、勇者様がこの町を訪れた際に……」

宿の女「所有者である夫が……勇者様に譲り渡しました……」

僧侶(よかった。ちゃんと勇者には行き渡っていたんだ)

僧侶「ん? でも、『刃』の精霊さんがここにいるってことは……?」

608 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:07:27.45 UW5dTRYB0 175/411

宿の女「お察しの通りです……私がここに居る以上、『伝説の剣』は不完全のまま……」

宿の女「たとえ真の勇者であろうと、何者にも、抜くことはできないのです……」

僧侶「ええっ。それじゃあ、魔王が倒せないのでは」

宿の女「ああ……その通りです……」

宿の女「私が剣に宿らなければ……きっと世界が救われることはないでしょう……」

宿の女「でも、夫が……ほんのひと月だけ、ここにいて欲しいと……」

宿の女「あとひと月だけ……私と共に、あの子と共に過ごして欲しいと……」

僧侶「……でも、勇者はもう魔王城へ乗り込みます。たぶん、ひと月も経たないうちに」

僧侶「魔王との戦いのとき、剣が抜けなかったら大変ですよ」

宿の女「はい……でも……」

宿の女「私の存在の主体は、剣の方にあるのです……私が戻ってしまえば……」

宿の女「私の意識は消えてしまい……こうして誰かと対話することもできなくなるでしょう……」

僧侶「もう二度と、人の姿に戻れなくなるんですか?」

宿の女「……試したことがないので、分かりません……ただ……」

宿の女「遠方での戦いに赴くことになるので……もし勇者様が敗北してしまったら、私も……」

610 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:08:11.63 UW5dTRYB0 176/411

僧侶「それなら大丈夫です」

宿の女「えっ……?」

僧侶「僕は、元は勇者のパーティーにいましたから分かります」

僧侶「大丈夫です。勇者はとても芯の強い女の子です。必ず勝ちます」

僧侶「それに王都で最強の戦士さんもいるし、アイテム管理の天才の商人さんもいます」

僧侶「僕とあんまり歳も変わらないのに、呪文を極めたっていう賢者さんも加わりました」

僧侶「負けるはずがないですよ。必ず勝ちます。だから、勇者を信じてください」

宿の女「……」

僧侶「それに勇者は、神父さんの教えを守ってきた、とても優しい心の持ち主です」

僧侶「魔王を倒した後、誰かが事情を話せば、きっとこの町に剣を返してくれます」

僧侶「そうしたら賢者さんもいるし、きっと元の生活に戻してくれます」

僧侶「だから、安心してください」

宿の女「……」

宿の女「……」

宿の女「そうですね……分かりました」

612 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:09:21.91 UW5dTRYB0 177/411

宿の女「どの道……魔王が世を支配するようになれば」

宿の女「夫もあの子も……いずれ危険な目に遭うでしょう」

宿の女「宿命を受け入れられず……目先の幸せに焦がれていた私を、お許しください」

宿の女「私の迷いに……心強い言葉をかけてくださって、ありがとうございました」

僧侶「いいえ。迷いが消えたようで何よりです」


宿の女は ゆっくりと起き上がり ベッドを降りた ▼


宿の女「私は、もう行きます。勇者様のもとへ……」

宿の女「勇者様の位置は分かります……北の城の、城下の一軒家……」

僧侶「もう、行くのですか?」

宿の女「はい。一刻も早く戻らなければ……勇者様を誤解させてしまいます」

僧侶「ああ、そうか。それはいけないですね」

宿の女「あの子は……何も知りません。夫も……私が行くことは強く反対していました」

宿の女「ひと月だけ残って欲しいというのも……散々妥協した末の言葉なのです」

宿の女「なので二人のいないうちに……私はあるべき場所へ向かおうと思います」

616 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:09:55.22 UW5dTRYB0 178/411

僧侶「またきっと、元の生活ができます」

僧侶「こう言うのも変ですけど、どうか、ご無事で」

宿の女「はい……色々とありがとうございました」

宿の女「では……」


宿の女は 白い光に つつまれた!

宿の女は またたく間に 窓から飛び去っていった――! ▼


僧侶「すごい。ルーラみたい」

僧侶(……どうかあの人が無事に、またここで生活できますように……)

 

 

バタン!

師範「今の光はなんだ!?」

僧侶「!」

師範「! お前はっ! なぜお前がここにいる!?」

619 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:10:44.71 UW5dTRYB0 179/411

幼児「ぐすん……ひっく……」

僧侶(あの子……外を見張ってたら、見つかっちゃったんだ)

師範「……!」

師範「そんな……まさか……妻は……」

僧侶「はい」

僧侶「話はすべて伺いました。あの人は、あるべきところに帰って行きました」

師範「なんだと……」

僧侶「もし勇者が帰ってきたら、勇者にこのことを打ち明けてくださいね」

僧侶「伝説の剣なら、必ず返してもらえます」

師範「ふざけるな……」

僧侶「!」

師範「あと一ヶ月……たったの一ヶ月だと約束していたのに……」

幼児「ぐすん……ねえパパ」

幼児「ママはどこ? ママは? ねえ」

僧侶「……ええっと……」

623 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:11:33.48 UW5dTRYB0 180/411

師範「貴様は……妻から事情を聞くや」

師範「魔王に世を支配されることを恐れ、己の命惜しさに、妻を急かしたのだ!」

僧侶「違います。あの人は自分の意思で――」

師範「命が惜しいなら、なぜ己を鍛えようとしない!」

師範「なぜ勇者なる偶像にすべてを押し付け、自ら魔王と戦おうとしない!!」

師範「少なくとも私は強くなった! 妻を、我が子を守れる程度にはな!」

師範「誰しもが真に己を高めようとすれば、魔王軍の襲来など恐れる必要はないのだ!」

師範「……『伝説の剣』など、必要はないのだ……」

僧侶「……」

幼児「ねえパパ、ママは? ねえ」

師範「……もう戻ってはこない。帰ってはこない」

僧侶「戻ってきます。勇者は必ず帰ってきて、剣を返してくれます」

幼児「もうかえってこないの? このひとのせいで?」

幼児「なおしてくれるっていったのに……? なおしてくれるっていたのに!」

幼児「うええええええん!!」

628 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:12:25.62 UW5dTRYB0 181/411

師範「泣くなッ!!」

幼児「!」ビクッ

師範「泣いても叫んでも……もうどうにもならん」

師範「そうだ、どうにもならん……俺も狼狽が過ぎていたやもしれぬ……」

師範「伝説の剣を手放すことで、あそこまで妻が衰弱するなど思いもよらなかったし――」

師範「妻は常々、確かに自らの宿命を重んじていた……」

僧侶「……」

師範「だが、余りにも早すぎた」

師範「私は一道場を預かる身でありながら、未熟にも心の整理がついていなかった」

師範「私がここまで至れたのは、妻と、我が子のためをおいて他になかったからだ」

僧侶「……」

師範「結ばれぬはずの伴侶と、玉のような養子を持って……」

師範「……日々幸せだったのに……」

僧侶「……」

僧侶「ごめんなさい」

631 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:13:07.28 UW5dTRYB0 182/411

師範「……謝る必要はない。お前は人として正しいことを為したのだ」

師範「だが、もうここに用はないはずだ。私は宿の動かし方を知らぬ」

師範「今日をもってこの店は廃業だ。すまないが、出て行ってもらおう」

僧侶「あの……。……」

師範「……出て行け……早く」

僧侶「……はい」

僧侶「最後に、勇者にはちゃんとこの事を伝えてくださいね」

僧侶「僕はもう会えないかもしれな――」

師範「出て行け!!」

僧侶「ご。ごめんなさい」

バタン

 

師範「……何故……何故今日なのだ……」

師範「あと……あとひと月だと言ったのに……うっ……ううっ……」

幼児「パパ……」

637 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:13:47.68 UW5dTRYB0 183/411

――

僧侶(……本当に、あの女の人を帰して良かったのかな)

僧侶(でも、そうしないと勇者が魔王を倒せなくなっちゃう)

僧侶(……他の方法があったら、良かったのにな)

 

大男(こんな夜更けに、師範の家が騒がしいな……)

大男「! てめえは……!」

僧侶「あっ。夕方の……」

大男「てめえ、師範の家で何してやがった!!」

「なんだなんだ? あっ、この小僧は!」

「さっき師範のお子さんの声も聞いたぞ! やっぱり何かやりやがったんだ!」

僧侶「違います。僕は何もしてな……あ、やったんだった」

大男「おい。夕方言ってたこと、忘れてねぇだろうな?」

「自分でも認めるたぁ、ふてぇ野郎だ! もう許せねぇっ!」

「どうせ追放者だ、やっちまえ!」

644 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:15:01.95 UW5dTRYB0 184/411

僧侶は にげだした! ▼

「あ! 待て!」

大男「とっ捕まえろ!」

 

僧侶(ここは逃げよう!)

僧侶(とても弁解できる空気じゃないよ)

僧侶(それに僕が何かやらかした、っていう事実には違いないし)

僧侶(かといって、スマキにされて雪山に放り出されるのは勘弁だし)

僧侶(ここは次の町まで逃げよう、逃げよう――)

 

「く、くそっ、逃げ足だけは速い奴……」

「はぁっ、はぁっ、だめだ、町の外まで行きやがった……」

大男「く、くそっ……」

大男「おい小僧! 二度とこの町に入ってくるんじゃねえぞォーッ!!」

大男「くそっ。これからお前らも、『ひのきのぼう』持った妙な小僧を見たら気をつけろよ!」

647 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:15:54.71 UW5dTRYB0 185/411

――

―― ジャッ ジャッ ジャッ  ザザザッ

僧侶「はぁ……はぁ……。……ふうう」

僧侶(ここまで離れれば大丈夫かな。よし、追って来てないね)

僧侶(……それにしても)

 ヒュオオオオオオ――――  パサパサパサパサ…

僧侶(西の町を越えた先に、こんな砂漠地帯が広がっていたなんて……)

僧侶(雪山から一つ町を隔てた先が、まさか砂漠だとは思わないよね)

僧侶(今は夜中だから寒いくらいだけど、日が昇っている間は暑そうだなぁ)

僧侶(って。空が結構明るくなってる。もう明け方だ)

僧侶(ううーん。雪山を越えてあんまり休んでないから、疲れてるんだけどな)

僧侶(仕方ない。そこの岩陰で、少しだけでも仮眠を取ろう)

僧侶「……よっしょ。……ふああ……おやすみ」

僧侶(……明日はいい一日になりますように……)

僧侶「……Zzz……――」

650 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:16:35.44 UW5dTRYB0 186/411

――――――――――――――――――――

【北の城】 <朝>

兵士A「勇者様! 勇者様に敬礼!」

兵士B「勇者様! 魔王討伐、お疲れの出ませんように!」

勇者「もう。イチイチかしこまらなくていいのにな」

賢者「そういう訳にもいかないでしょう。勇者様はこの世で唯一無二の存在なのですから」

商人「いやぁこの空気、久々ですなぁ」

戦士「……」

戦士(一夜明けたら、『伝説の剣』が微かな光を放っていた)

戦士(なんとなく抜くのは憚られたが……何か変化があったのだろうか……)

商人「戦士殿?」

戦士「ん。ああいや。賢者よ、王の間はこちらだ」

賢者「ありがとうございます」

勇者「案内ならボク一人でもできるのにっ」

商人「ガハハ。勇者様はときどき方向音痴なところがありますからなあ」

653 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:17:12.31 UW5dTRYB0 187/411

【北の城>王の間】

 

国王「勇者よ! よくぞ戻ってきた」

国王「これまでの長旅、ごくろうであった」

勇者「はい。ありがとうございます」

国王「戦士よ。そなたも一段とたくましくなっておる」

国王「我が王都の雄として、誇りに思うぞ」

戦士「はっ。もったいなきお言葉、光栄至極に」

国王「商人よ。そなたが城下に撒いた商いの種、見事に実っておる」

国王「この国の活況は、そなたの功労によるものも大きい。感謝するぞ」

商人「ははーっ! ありがたき幸せ!」

国王「そして……そなたが、新たに一行に加わったと聞く賢者か」

賢者「はっ、お初にお目にかかります。私は賢者と申します」

賢者「打倒魔王に向け、全霊をかけて勇者様をお守りする所存です」

国王「ふむ……怜悧ながら、この上なく意志の強い眼をしておる。今後ともに頼んだぞ」

655 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:18:19.29 UW5dTRYB0 188/411

国王「さて、早速だがそなた達に渡すものがある。では大臣」

大臣「はっ。……勇者様、これを」


大臣は 勇者に オーブを手渡した! ▼


勇者「これは? ……きれい……」

戦士「おお! 内に秘められたその極彩の輝きこそ、我が国に代々伝わる宝玉『オーブ』!」

商人「す、素晴らしい……実物は初めて目にしましたが、とても値段など付けられませんな……」

賢者「王様、このアイテムこそが、魔王城へ攻め入るためのカギとなるのですね」

国王「その通りじゃ」

大臣「王家の文献を調べてみたところ、そのオーブは遠い地に橋をかけるという伝説があった」

大臣「恐らく、その橋を渡ることで、魔王城へ乗り込むことができると思われる」

勇者「橋……」

大臣「橋をかける方法とは、とある地点にそのオーブを捧げることらしい」

大臣「我々の文献調査では、ついにその場所を特定することができなかったが……」

国王「うむ。ついぞ……知る機会を得てな。その場所は、【東の村】だという結論に至った」

661 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:18:57.66 UW5dTRYB0 189/411

賢者「【東の村】……私がいた村の一つ隣ですか。そのとき私は未加入でしたが」

戦士「村長と軽い挨拶をしただけで、あそこには特に何もなかったはず」

国王「正確には、東の村から少し西へ進んだ先にある『ほこら』じゃ」

勇者「西に? 東の村から西というと……ううん、あまり記憶にないね」

商人「ふーむ。そこまでは探索が不十分でしたなあ」

大臣「それで、至急その地点へ調査隊を向かわせたところ」

大臣「どうもそのほこらの内部に、我が王国の紋章が見られたということだ」

国王「ほぼ違いないであろう。そのほこらこそ、魔王城へ渡るための扉」

国王「オーブという鍵をもって初めて、道は開かれるのだ」

戦士「おお……そんな手段が……」

賢者「どうやら、例の陸路を使わずに済みそうですね」

商人「やあ、助かりますわい。もう山越えはこりごりですからな」

勇者「王様、ありがとうございます!」

勇者「早速、これからでも東の村に向かおうと思います!」

国王「うむ。……だがその前に、一つだけ頼みがある」

662 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:19:58.45 UW5dTRYB0 190/411

勇者「頼み? はい、ボクにできることなら是非!」

国王「うむ。これはその、余の好奇心も含まれておるのだが」

国王「ときに余は、そなたが『伝説の剣』を手に入れたと聞き及んでおる」

戦士「!」

国王「勇者のみ装備できるといわれる退魔の聖剣……」

国王「今この場で、抜き放ってみせてはもらえないだろうか」

商人「エエッ」

国王「魔を討ち果たす輝き、そして雄々しい勇者の姿を、この目に焼き付けておきたいのだ」

勇者「はいっ! お任せください!」

賢者「! ゆ、勇者様」

勇者「戦士さん、剣を」

戦士「あ、ああ……」


勇者は 伝説の剣を 手に取った ▼


勇者「……」

663 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:20:31.09 UW5dTRYB0 191/411

商人(だ、大丈夫ですかな)

賢者(さすがは勇者様……勇者であることの自覚に、何の揺らぎもない)

戦士(この自信は、すでに一度確かめている? いや、決してそんな時間はなかった……)

 

勇者「……」

勇者(これを抜くのは初めてだけど、ボクは勇者だ。その名を負ってここまできた)

勇者(絶対に抜ける。抜いてみせる)

勇者(……鞘が温かい……まるで昨日今日、魂が宿ったみたい……)

勇者「……」


勇者は 伝説の剣を


ぬきはなった! ▼


戦士「!!」

国王「おおっ……!」

666 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:21:07.28 UW5dTRYB0 192/411

勇者(抜けた……)

勇者(……なんて綺麗な色をしてるんだろう……)

 

大臣「おぉ……」

商人「す、すごい……」

戦士「ぬぅ……」

戦士(真の勇者が……今この衆目の中で、明らかになってしまった……)

賢者「勇者様……」

賢者(美しい……ここまで映えた取り合わせが、生涯の記憶にあっただろうか……)

国王「ううむ。素晴らしい」

国王「余は、魔王を打ち破る姿というものは、とかく勇猛剛毅であると夢想しておったが」

国王「今のそなたには線は細いながらも、ゆえに透くように清冽とした凛々しさを覚える」

国王「なるほど、これが勇者か……魔王を破るに、憂いなしよ」

勇者「……はい」

勇者「ありがとうございます」

673 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:22:21.80 UW5dTRYB0 193/411

国王「では勇者よ。もはやこの城に足を留める必要はない」

国王「今こそ、そのオーブと『伝説の剣』を備え――」

国王「魔の根源を討ち、この世に安寧を導くのだ!」

勇者「はいっ」

国王「そして……必ず無事に戻って参れ」

国王「余はこの玉座にて、そなたの朗報を末永く待とう……」

勇者「はいっ。ボクは絶対に魔王打倒を成し遂げ、再びこの場に帰ってきます――!」

 

――

賢者「素晴らしい宣誓でした。先の出来事は国史に刻まれることでしょう」

勇者「ええ、いいよそんなの。本当は結構緊張してたし」

戦士「もう後には退けんぞ。もはや一直線に魔王城に向かうまでだ」

商人「その前に! 最終決戦に備えて、城下町で身支度をさせてもらえませんかね?」

商人「ここで買い物するのも、この旅で最後になるかもしれんのですし」

勇者「そうだね。そうしよう――」

677 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:23:29.82 UW5dTRYB0 194/411

【北の城>城下町】

 ガヤガヤ  ガヤガヤ  ガヤガヤ

衛兵A「勇者様! これから魔王の城へ攻め入るそうですね!」

衛兵B「城兵一同、勇者様が世に平和をもたらしてくれることを信じております!」

衛兵C「戦士殿、城の一兵卒として心から尊敬しています! どうかご無事で!」

町民A「勇者様、必ずこの町に帰ってきてくださいね!」

町民B「これはうちの店で一番貴重なアイテムです。是非使ってください!」

町民C「あの、賢者様……必ず帰ってきてくださいね……」

町民D「おい勇者! ぜってぇ帰って来いよ!」

子供A「きた! ゆうしゃさまだ! せんしさまもかっこいい!」

子供B「ゆうしゃさま、これ、みんなでおまもり作ったの。がんばって」

子供C「ゆうしゃさま、がんばれ!」

 

勇者「みんな……ありがとう!」

勇者「必ず魔王を倒して、ここに帰ってくるよ!」

679 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:24:47.39 UW5dTRYB0 195/411

【勇者の家】

勇者「――すごい人だかりだったね」

賢者「窓の外にも、まだ人が集まっていますね」

戦士「ふん。奴ら、分かっているのか? 我々はまだ何の戦果も上げてないのだぞ」

勇者「上げてみせるよ。最高の戦果を」

勇者「この剣を抜いた瞬間から、どうしてか負ける気がしないんだ。絶対勝つよ」

賢者「頼もしい限りですね」

戦士「……」

勇者「ところで、商人さんは?」

賢者「あの群集にもまれる最中、最後のアイテム調整に出向いたようですね」

戦士「ふん。誰も自分のところへ寄ってこないから、いじけていたようだぞ」

勇者「そんな。商人さんは、アイテム管理も道具の鑑定・売買も、全部一人でこなしてたし」

勇者「腕っぷしもあるから戦闘もこなせるし、もう絶対このパーティーには欠かせない人だよ」

勇者「商人さんがいなければ、とてもここまで来れなかったよ」

戦士「……」

683 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:25:36.77 UW5dTRYB0 196/411

ガチャ

商人「た、ただいま戻りましたぞ!」

勇者「商人さん!」

商人「ううん……っしょ!」

ドサドサドサ

戦士「なんだこれは。明らかに旅に必要でないものも混じっているぞ」

賢者「なるほど。先の人々に押し付けられたのですね」

商人「そ、そうです! これは勇者様にと、これは賢者殿、これは勇者様――」

勇者「うわぁ。嬉しいけど、さすがにこれ全部はもっていけそうにないなぁ……」

戦士「全部持っていく気だったのか? 我々はこれから決戦の地に向かうのだぞ」

賢者「残念ですが、使えそうなアイテムだけ選別しましょう」

商人「ふうむ……売っても二束三文にしかならないものばかりですが……」

勇者「売るだなんてとんでもないよ! ボクにとっては、どれも宝物だよ」

勇者「持っていけないものは、この家に置いておこう」

戦士「……俺宛にバラを送ってる奴はどういうつもりなんだ」

688 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:26:11.42 UW5dTRYB0 197/411

――

商人「準備ができましたぞ! これでいつでも魔王城へ乗り込めます!」

勇者「!」

戦士「よし。いよいよだな……」

賢者「魔王城では何があるか分かりません。何か心残りはありませんか?」

商人「アイテムに関しては何も!」

戦士「ない」

勇者「ボクは……」

勇者「……」

勇者「うん、ないよ。ないと思う」

戦士「……」

商人「よーしっ! では、勇者様!」

勇者「うんっ! まずは【東の村】に!」

 
勇者は ルーラをとなえた! ▼

690 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:26:55.72 UW5dTRYB0 198/411

――――――――――――――――――――

【砂漠(西の町~南の港町)】

――

 ジリ   ジリ

僧侶「ふう……ふう……」 ポタ ポタ

僧侶(暑いなあ。汗が止まらないよ)

僧侶(昨日の夜は冷え込んでたのに) ポタ ポタ

僧侶(昼間の日照りがこんなに厳しかったなんて)

僧侶(どっち向いても地面が揺らいでる。落ちた汗も一瞬で蒸発しちゃうし) ポタ ポタ

  ジリ    ジリ

僧侶(でも大丈夫)

僧侶(どんなところに来たって、負けないぞ) ポタ ポタ

僧侶(僕はこれでも、元は勇者のパーティーの一員だったんだから)

   ジリ     ジリ

僧侶(パーティーの一員だった、かぁ……)

694 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:27:38.71 UW5dTRYB0 199/411

僧侶(僕はこれからもう、勇者と一緒にはいられないんだろうな)

僧侶(賢者さんに、二度と関わらないで欲しい、って言われちゃったしなぁ) ポタ ポタ

 ジリ   ジリ  

僧侶(北の城下町から、住める場所もなくなって――)

僧侶(それどころか追放されちゃったから、もう戻れなくなったし) ポタ ポタ

  ジリ    ジリ  

僧侶(西の町でも、追放者のマークを見られてしまって――)

僧侶(また町に入ろうものなら、きっと本当に乱暴されるかもしれない) ポタ ポタ

   ジリ     ジリ

僧侶(このまま先に進むたびに、追い出され続けたら) ポタ ポタ

僧侶(僕はどこに行けばいいんだろう)

僧侶「……」

僧侶「あれ?」 ポタ ポタ ポタ

僧侶(僕の)

僧侶(僕の居場所はどこだろう……)  ポタポタ ポタ ポタポタ

703 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:29:52.41 UW5dTRYB0 200/411

僧侶(そういえば僕) ポタ

僧侶(いま、何の目的があるんだろう) ポタポタ ポタ

僧侶(やらなければならないことって、何だろう)

僧侶(城を出る頃は、勇者にオーブのことを伝える目的があったけど)

僧侶(それが済んでしまった今は……) ポタポタ ポタポタ

 ジリジリ   ジリジリ

僧侶(まずは)

僧侶(まずは、住める場所を探して、お金を稼いで)

僧侶(……でも、額のマークがある以上、住める場所なんて)

僧侶(それどころか今日の寝床だって、確保できないかもしれない) ポタ ポタ

  ジリジリジリ    ジリジリジリ

僧侶(……僕は)

僧侶(僕はどうすればいいんだろう。今の手荷物で、これから何ができるだろう)

僧侶(僕に残されたのは、少しのお金と、少しの食糧と、ぬののふくと、かわのぼうしと――)

僧侶(ひのきのぼう……)

706 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:30:40.54 UW5dTRYB0 201/411

僧侶(そうだ、もう一人の僕自身……『ひのきのぼう』に聞いてみよう)

僧侶(今この向かっている先に、次の町がある)

僧侶(この『ひのきのぼう』を立てて、倒れた方向がその町なら、安心して向かおう)

僧侶(てんで違う方向だったら――その方向に行ってみよう)

僧侶(僕自身に問いかけて得た答えが、僕の答えのはずだ)

僧侶(たとえ西の町に引き返すことになっても、何かきっかけが掴めるかもしれない)

僧侶(この他愛のない棒倒しが、今のどうしようもない僕の、道しるべになるかもしれない)

 ジリジリ   ジリジリ


僧侶は しずかに 目をつぶった

僧侶は   ひのきのぼうを

地面に つきたてた   ▼


僧侶(手を放すぞ)

僧侶(……放した)

僧侶(目を……開けるぞ!)

725 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:34:04.59 UW5dTRYB0 202/411

  ジリジリ   ジリジリ  

 

僧侶「あはは」

僧侶「地面に突き刺さったままだ」

僧侶(僕は、どこまでも間が抜けてるなあ)

僧侶(軽く立てるだけでいいのに、どうして突き立てちゃったのかな)

僧侶(これだけじゃあ、どこに進めばいいのか分かんないよ)

僧侶(……でも、答えは手に入れた)


僧侶は ひのきのぼうを ひきぬいた! ▼


僧侶(僕の『ひのきのぼう』は、いつだってまっすぐなんだ)

僧侶(きっと迷うことなんか、何もないんだよ)

僧侶(これまで通り、まっすぐ進もう。思った通りのことを、まっすぐ遂げよう)

僧侶「よし!」 ポタッ

僧侶(この先に【南の港町】がある。まずはそこまで、頑張って歩こう――!)

729 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:34:51.52 UW5dTRYB0 203/411

――――――――――――――――――――

【東の村】

――

勇者「……この地域は、天気が悪いね」

戦士「構うものか。さっそく西のほこらとやらに向かおう」

賢者「いえ、まずはこの町の村長に会ってみましょう。何か情報が得られるかもしれない」

商人「ふーむ。以前挨拶をしに行ったときは、特に何も知らなかったようですがね」

勇者「ううん、ここは賢者さんの言うとおりにしよう。あの時とは状況も違うし」

賢者「ありがとうございます」

戦士「……ふっ。まさか臆している訳ではなかろうから、これは慎重と呼ぶべきなのだろうな」

勇者「慎重だよ。ボクは魔王は倒したいけど、ここにいる誰一人死なせたくない」

勇者「パーティーの命を預かる以上は、石橋だって叩いて回らないと」

商人「ほう……前にここを訪れた時とは、まるで見違えるようですな」

勇者「そうかな? ありがと」

賢者「……! 誰かこちらに来ます」

732 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:35:28.00 UW5dTRYB0 204/411

下女「……あ、あの……勇者様ご一行ですね?」

勇者「はい。あなたは……」

下女「わ、わたくしはこの村を治める村長の、使いの者でございます」

下女「どうぞこちらへ。村長がお待ちです」

戦士「村長が? すでに話が行き届いているようだな」

賢者「ええ。大臣の話では、すでに調査隊がこの村を訪れているはずですからね」

下女「はい。勇者様がこの村に帰ってこられたら、案内するよう仰せつかっております」

商人「いよいよですな……」

 

――

【東の村>村長の家】

村長「お待ちしておりました勇者様、そしてそのお連れの方々も」

勇者「お久しぶりです、村長さん。早速ですけど」

村長「はい。話は聞き及んでおります」

村長「ですが……今すぐ、ほこらにご案内することはできません」

739 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:36:44.41 UW5dTRYB0 205/411

勇者「どういうこと?」

村長「はい、一つずつお話します。まずはおかけ下さい」

戦士「失礼だが、我々にそんな暇はない。ここへは、すでに決心を固めてきたのだ」

村長「とは仰いましても」

村長「いまオーブをほこらに持ち込んでも、恐らく何も起きないかと思われます」

賢者「何故ですか? 北の国王によれば、魔王城への扉が開かれるという話では」

村長「ええ、開かれます。ただし正確には扉ではなく、『橋』です」

商人「橋? バカな、あんな遠くの孤島までどうやって橋が架かる」

村長「伝説では架かるのです。『虹の橋』が」

勇者「虹の?」

村長「はい。どうぞ、おかけ下さい」

奥さん「ホ、ホットティーが入りました、どうぞ」

賢者「ありがとうございます」

奥さん「は、はいぃ」ポッ

戦士「それで虹の橋というのは?」

743 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:37:26.09 UW5dTRYB0 206/411

村長「実際に私も見たことはありませんが」

村長「伝説を解釈する限り、どうも実体を持った長い橋が架かるようです」

勇者「へえ、それはすごいなぁ」

賢者「ふむ……完全にそこらの呪文や魔術の枠を超えていますね」

商人「とてつもない魔力を持ったアイテムなら、在り得る話かもしれませんな!」

戦士「橋の正体などどうでもいい。問題はなぜその橋が架けられないのかだ」

村長「それは――」

賢者「雨上がりしか架からないため、では?」

村長「おお、その通り。『虹』の橋です。雨上がりでなくては、橋が架からないのです」

村長「この辺りで雨が多いのも、この伝説にまつわっている為かもしれませぬ」

戦士「では結論は、雨が降るまでこの村で待っていろということか?」

村長「そうなります。申し訳ありませぬ」

戦士「ふん。俺は今から魔王を倒す気でいたのだが、まるで出足をくじかれた気分だ」

勇者「……でも、あまり待たなくていいと思うよ」

勇者「雨が降ってきた」

749 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:38:15.93 UW5dTRYB0 207/411

 ザー―――――― ……

【東の村>宿屋】

勇者「……村長さんは、雨が止み次第案内するって言ってたけど……」

賢者「……雨の勢いが一定ですね。当分止みそうにありません」

戦士「忌々しい。橋の件がなければ、雨の中でも突き進んできるものを」

勇者「この調子じゃ最悪、また一晩持ち越すことになるかも」

戦士「くそっ、どうしてくれる。完全に緊張が途切れてしまうぞ」

賢者「ではその緊張、伸ばし直してみましょうか」

勇者「えっ?」

賢者「魔王戦での策を決めておくのです。作戦や、戦況に応じた戦い方を」

戦士「ふん。そんなもの、これまで通りのやり方でよかろう」

賢者「では、例えば大竜だった場合はどうしますか?」

戦士「竜? まずはセオリー通り突っ込み、腹から捌く。あわよくば首を狙う」

賢者「その際の呪文の支援は、バイキルト・スクルトと手段が分かれますが――」

勇者(賢者さんすごい。もう戦士さんを飲み込んじゃってる……)

752 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:39:31.31 UW5dTRYB0 208/411

――

バタン

商人「ふうう、ただいま戻りましたぞ」

勇者「あ、商人さんお帰り。お店はどうだった?」

商人「いやーやはりろくなもん扱ってませんな! 濡れ損です濡れ損!」

商人「店員もやたら媚びてきましたが、ありゃー腹の内じゃ相手を見下すタイプ!」

商人「ワシも人のことは言えませんが、ああまで浅ましいと……ん?」

 

戦士「だから、回復は二の次でいいと言っている! そこは補助だ!」

賢者「いいえ、攻撃の要であるあなたに倒れてもらっては困ります。回復です」

戦士「そう簡単に倒れはせん! 俺に任せろ!」

賢者「全員の帰還も、果たすべき副目的です。その場面では命を大事にいきます」

 

商人「な、何やら険悪な雰囲気ですな」

勇者「そう? ボクには意気投合してるように見えるけどなぁ」

754 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:40:05.72 UW5dTRYB0 209/411

――

勇者「――それじゃあ、もし魔王が呪文を主体として攻撃してきたら?」

戦士「マホカンタで弾き返せばいい。習得済みなのだろう?」

賢者「長期戦でマホカンタはあまり有用ではありません。回復呪文がかけられないので」

商人「ワシが回復アイテムを連発するのはいかがですかな――」

――

勇者「――この『伝説の剣』。実は攻撃力が高そうじゃないんだよね……」

商人「しかし退魔の力は最高級とのことですぞ、伝承通りであれば」

戦士「ふん、いまさら何を。心せよ、その剣こそ勇者の証なのだ」

賢者「とはいえ、依存が過ぎては逆に動きづらくなる可能性もありますね」

勇者「攻撃は、戦士さんとの連携プレイが大事になりそうだね――」

――

賢者「――ところで、帰り道は大丈夫なのでしょうか。魔王を倒した後の帰路は……」

戦士「魔王を倒すことで城が崩れ落ちようものなら、その瓦礫に埋もれるのも本望だ」

勇者「だ、だめだめ! もしルーラがダメだったとしても、みんな最後まで生き抜こう――!」

755 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:40:41.09 UW5dTRYB0 210/411

――

<夜>

勇者「もう夜になっちゃったけど、まだ雨が止まないね」

賢者「さっき宿を訪れた農家の人に尋ねましたが、明日はまず晴れるそうです」

商人「明日こそは本当に決戦というわけですな」

戦士「意気込んで城を出たものの、結局は一回休みになったか」

勇者「でも、ボクはかえって良かったと思うよ」

勇者「決戦前に細かい作戦が立てられたし、みんな幾分リラックスできたし」

戦士「リラックス?」

勇者「うん。特に戦士さんは、気を張りすぎているように見えたよ」

戦士「ぬっ」

勇者「冷静な賢者さんも、何だか魔王じゃなくて他のものを見てる気がするし」

賢者「えっ」

勇者「商人さんは逆にちょっと、緊張感に欠けてたんじゃないかなぁ」

商人「そそそそんなことはっ!」

756 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:41:21.70 UW5dTRYB0 211/411

勇者「とにかく、ボクはこの『一回休み』は良かったと思う」

勇者「今思えば、城下町を出たばかりの時、ちょっと気負い過ぎてたかもしれないし」

勇者「この場の機会で、目的を達成させるっていう漠然とした認識から、」

勇者「具体的に魔王をどう倒すっていう、細かい部分にまではっきり目を向けられたし」

勇者「今日は有意義どころか、ボクたちに必要な時間を過ごせたと思うよ」

勇者「……た、たぶんね」

戦/賢/商「……」

勇者「えと……そういうことで……」

勇者「まだ他に、話し合いたいこと、ある?」

戦士「……いや」

賢者「あらかたは大丈夫かと」

商人「お。同じく」

勇者「そう」

勇者「じゃあ、明日は頑張ろう!」

勇者「今日は解散! おやすみっ!」

758 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:42:01.83 UW5dTRYB0 212/411

――

戦士(ふっ。勇者の奴め、いつの間にかあんな考え方ができるようになっていたとは)

戦士(長旅の賜物か。僧侶のことを引きずっていれば、ここまで成長していただろうか)

戦士(逆にそばに僧侶がいたなら、この旅はどうなっていただろうか……)

戦士(……まぁいい。俺の目的はあくまで魔王打倒。これまで、それだけに徹してきた)

戦士(伝説の剣は抜けなくとも、俺にも魔王を倒す機会は与えられているのだ)

戦士(明日は……明日こそ、長年の本懐を遂げてやる……――)

――

商人(ううむ。まさかワシが、緊張感がないなどと指摘されるとは……)

商人(これまで魔物との戦いなんぞ、ノリと勢いだけで殴ってたもんだが……)

商人(やはり相手が魔王ともなれば、本格的に気を引き締めねばならんのだろう)

商人(どれ、ちょいとアイテムの確認でもし直すとするか)

商人(……しかし、明日は楽しみだ! 魔王を倒し、町に帰ってきた後が!)

商人(旅のアイテムの売却……保留しておいた商戦の展開……勇者様と賢者殿の挙式!!)

商人(いくらの収入が見込めやら。ワシの本当の旅路は、明日から始まる――!)

759 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:42:35.56 UW5dTRYB0 213/411

――

賢者(正真正銘、決戦前夜か……)

賢者(願わくば万一のために、勇者様に想いのたけを伝えたかったが)

賢者(あそこまで威容を誇られては、そんなことはかえって野暮というもの)

賢者(よそ見を指摘された自分が恥ずかしい。今は目の前の魔王に集中すべきなのだ)

賢者(魔王を討ち果たし、城へ戻り、ついの機会を得たときに)

賢者(初めて勇者様にこの想いを伝えよう。全てはその時、そしてその後の為に――)

――

勇者(……)

勇者(今日、最後にみんなにああ言ったけど……)

勇者(まるでボクの台詞じゃなかったみたい……というより……)

勇者(誰かの影響……みたいなのを受けたから、ボクはあんなこと言ったのかも……)

勇者(……あれ? ところでなんでボク)

勇者(自分のこと『ボク』って呼ぶようになったんだろ。あれ? 思い出せない)

勇者(変なの……今更そんなこと気にしてる自分も変なの! もう寝ちゃおっと!!)

768 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:44:36.07 UW5dTRYB0 214/411

――――――――――――――――――――

【南の港町】

<夜>

僧侶「ふう」

僧侶(やっと着いた。南の港町。ああ、潮のいい香り)

僧侶(疲れたな。すっかり足が棒になっちゃったよ)

僧侶(結局、砂漠じゃ一度も休まなかったからね)

僧侶(もっとも、休めそうな場所は、ほとんど魔物が潜んでいたからだけど)

僧侶(その代わり一度も戦いをせずに済んだからいっか)

僧侶(それにしてももう夜中だ。早く宿屋に行こう)

僧侶(全財産は790ゴールド……さすがにこれだけあれば、一泊はできるよね)

僧侶(……!)

 

町民A「ふい~夜酒は最高だな!」

町民B「てめ~ヒトの分まで飲んでんじゃねえよ!」

771 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:45:09.55 UW5dTRYB0 215/411

僧侶(……)

僧侶(行ったかな)

僧侶(この間は、額のマークを見られて失敗したから)

僧侶(『かわのぼうし』は深く被っておかないとね)

僧侶(これから、あんまり人に顔を見られないようにしなきゃ)

僧侶(宿屋でも気をつけないと)

 

――

【南の港町>宿屋】

主人「はい、いらっしゃい。夜分遅くお疲れ様だ」

僧侶「こんばんは。部屋は空いてますか?」

主人「一晩50ゴールドだよ」

僧侶「ああ良かった。お金はあります。一晩泊めてください」

主人「金があるならいいぜ。が、その前にそのツラ見せてもらわねーとな」

僧侶「えっ?」

775 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:46:13.07 UW5dTRYB0 216/411

主人「宿をやる以上、顔を確認すんのは当たり前だろ」

主人「特に夜中とあっちゃあ、何が紛れ込むか分かんねえからな」

僧侶「でも僕」

主人「心配すんなって。ここは港町、ワケありの野郎も結構流れ着くんだ」

主人「魔物でもない限り、金さえ払えばこっちゃ文句はねーよ」

僧侶「それじゃあ……」


僧侶は ぼうしを はずした ▼


主人「おう? そのデコのマーク知ってるぜ、王都を追っ払われた奴が付けられるんだろ」

僧侶「あの、僕、魔物なんかじゃありません。悪いこともしません」

主人「なあに泊めるって言った以上、ちゃんと泊めてやるよ」

僧侶「本当に?」

主人「ただし……そんな奴を泊めるとあっちゃあ、ウチにもリスクがあるんでね」

主人「割増料金は頂くぜ。一泊500ゴールド払ってもらおうか!!」

僧侶「えっ、500……分かりました。泊めていただけるのなら」

778 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:47:01.70 UW5dTRYB0 217/411

【宿屋>小部屋】

僧侶「よいしょ。ふふ。久々のベッドだ」

僧侶(おかげで今夜はぐっすり眠れそうだ。何とか払える金額で良かったな)

僧侶(んーと……これで全財産は)

僧侶(……家を出たとき390ゴールド。雪山で手に入れたのが400ゴールド)

僧侶(後は戦闘がなかったから、ここに来た時点で790ゴールドだったんだ)

僧侶(そこから500ゴールドを引いて、今は290ゴールド)

僧侶(290ゴールドか……この町で仕事が見つからなかったら、長居できそうにないな)

僧侶「……」

僧侶(これからどうしようかな)

僧侶(明日目が覚めたら……どうすればいいのかな)

僧侶(とにかく漁港へ行って、何でもいいから仕事ができないか探して……)

僧侶(待てよ。ここは港町だから、外国に行くって手も……)

僧侶「……ん?」

僧侶「壁に何か貼ってある……」

780 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:48:02.03 UW5dTRYB0 218/411

 

―――――――――【北の城】―――――――――

―――【雪山】―――――――――【渓谷】―――

【西の町】――――【魔王城】――――――【東の村】

―――【砂漠】―――――――――【賢者の村】―

―――――――――【南の港町】――――――――

 

僧侶「地図だ。この大陸の」

僧侶(……)

僧侶(思えば僕も、次に【賢者の村】に入ったら、大陸を一周したことになるんだなぁ)

僧侶(それぞれの場所で、いろんなことがあったなぁ……)

僧侶(最後に雪山で会った勇者も、【北の城】に向かってたから、一周してるはずだね)

僧侶(もう今日にでも、魔王城に乗り込んでるかもしれないな)

僧侶(僕はこの【南の港町】から応援するくらいしか……)

僧侶(……ん? 地図でよくみると、この地点って……)

783 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:48:56.62 UW5dTRYB0 219/411

 

【魔王城】
  □
  □
  □
【南の港町】

 

僧侶(やっぱりそうだ。話には聞いたことあるけど、魔王城まで細い陸続きになってる)

僧侶(地図にまで描かれるんだから、きっと本当なんだろうね)

僧侶(でも伝説だと、【東の村】のほこらから、オーブを使って魔王城に行くんだよね)

僧侶(となると、これは正規のルートじゃないんだ。きっと危ない道のりなんだ)

僧侶(……)

僧侶(一瞬、僕でも行けるかな、なんて思ったけど……)

僧侶(よく見ると、魔王城の前に険しい山がある。これを登るのは大変だろうな)

僧侶(うん。やっぱり、魔王を倒すのは、勇者に任せよう)

僧侶(いまさら僕なんかが行ったところで、足を引っ張るだけだ)

僧侶(もう今日は寝よう。寝よう――)

792 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:51:02.64 UW5dTRYB0 220/411

――

<翌朝>

 ブオオオオオオ…     ニャア   ニャア

僧侶「……ん……」

僧侶「ふあああ……はぁぁ」

僧侶「朝か」

僧侶「うう~ん……」ポキ ポキ

僧侶「しょっと」

僧侶(ああ、よく寝た。やっぱりふかふかベッドは気持ちいいな)

僧侶(久々にぐっすり眠れた気がする。体力魔力ともに全快!)

僧侶(――波が打ち寄せてる。ウミネコの声。船が出る音。港町っていいところだなぁ)

 

僧侶「……あ。いい匂い」

僧侶(そうだ、ご飯もついてるんだった!)

僧侶(ここに泊まってよかったな)

798 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:52:08.28 UW5dTRYB0 221/411

【宿屋>食堂カウンター】

僧侶「いただきます」

僧侶「……おいしい!」

僧侶(取れたての魚のフライ! 貝のスープ!)

僧侶(デザートに異国のフルーツまで!)

僧侶「おいしい、おいしい」

僧侶「こんな食事久しぶりだ。しあわせ」

シェフ「な、なんだ大げさな奴だな。こんな献立、誰でも毎日食ってるぞ」

僧侶「料理人さん、こんな美味しいものを作ってくれてありがとうございます」

シェフ「はあ」

シェフ(こいつちゃんと宿代払ってんだろうな……)

 

「た、大変だーっ!!」

主人「どうした!?」

僧侶「ん?」

799 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:52:51.90 UW5dTRYB0 222/411

【宿屋>一室】

副長「ヒュー……ヒュー……」

団長「副長! しっかりしてくれ!!」

傭兵A「兄貴!!」

傭兵B「兄貴ィ!!」

 

「――あの傭兵団。北部を調査してたら、えらく強い魔物の群れに襲われたんだと」

「ああ、魔王んとこに繋がる道か。やっぱあそこヤバイんだな」

「ああ。仕事たぁいえ、あんな危ねぇ場所まで行かねえと食い扶持もないってのは気の毒だ」

「ずいぶん深手を負ってるようだが、ありゃ助からんだろうぜ」

主人「適当なこと言ってんじゃねえ!!」

「!?」

主人(ウチは教会じゃねえが、あの連中とはガキの頃からつるんでたからな……)

主人「おいっ! 神父はまだか!!」

僧侶「あのう……」

803 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:53:35.01 UW5dTRYB0 223/411

主人「何だ坊主、いま忙しいんだ! 早く水を!」

僧侶「僕、一応僧侶をやっています」

僧侶「もし良ければ、怪我をした人を診させてください」

主人「お前が? お前が僧侶?」

「おい、神父は別件で忙しくて遅れるってよ!」

主人「……だったらテメエ、やれるだけやってみろってんだ!」

僧侶「はい」

 

団長「副長、死ぬな! おい、もう少しで神父が来るからな!」

副長「ヒュー……ヒュー……」

傭兵A「兄貴ぃ!!」

傭兵B「団長、僧侶が来やしたぜ!」

団長「そ、そうか、早く――って、こんな薄汚ねぇガキが?」

僧侶「すみません、すぐに見せてください」

団長「あ、ちょ、ちょっと何だこいつ!!」

805 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:54:59.68 UW5dTRYB0 224/411

僧侶「こ、これは……」

副長「……ヒュー……ヒュー……」

僧侶(ひどい損傷だ……もう薬なんかじゃ間に合わない……)


僧侶は ベホマを となえた!

しかし 副長の キズは 治らなかった…… ▼


僧侶(だめだ)

僧侶(瀕死状態が長過ぎてる。もう回復呪文も受け付けてくれない)

団長「おい! どうなんだよ!?」

副長「ヒュー……ヒュー……」

僧侶(……)

僧侶(……人間の使う復活呪文は、天の加護を受けている人にしか効果がない)

僧侶(『世界樹の葉』なんて高価なものも無い。第一使い方はおろか、見たことも……)

僧侶(じゃあこの人は。この人は……)

僧侶(もう……助からない……)

806 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:55:31.64 UW5dTRYB0 225/411

副長「……うう……だ、団長……」

僧侶「!」

団長「!? お前!」

傭兵A/B「兄貴!!」

僧侶(……ベホマで少しだけ身体が楽になったんだ)

僧侶(でももう、この人に残された時間は……)

団長「テメエ何ぼさっとしてやがる!」グイッ

僧侶「あう」

団長「とっととこいつを治せよ! 僧侶なんだろ! 早くやれってんだ!!」

僧侶「む、無理です。もう呪文ではどうにも」

団長「このガキがふざけんなァ!!」

副長「ハァ……ハァ……」

副長「団長……」

団長「!!」

副長「……オレ……」

808 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:56:07.71 UW5dTRYB0 226/411

団長「だ、大丈夫だぞ!」

副長「ハァ……ハァ……オレは……」

団長「お、お前の」

団長「お前のカタキは、絶対取ってやるからな!」

団長「魔王だか何だか知らねえが、必ずぶちのめして」

団長「お前の墓の隣に、その首飾ってやるからな! なぁおめえら!!」

傭兵A/B「おおう!!」

副長「ハァ……ハァ……」

副長「団長……オレは……」

副長「『オレ』は……」

僧侶「……!」

僧侶(この人は……)


僧侶は その手を両手でにぎった ▼


団長「! テ、テメェ何を――」

811 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:56:41.34 UW5dTRYB0 227/411

僧侶「大丈夫ですよ」

副長「……!」

僧侶「怖がらなくても、いいんですよ」

副長「……」

副長「ああ……」

副長「……あたたかい……」

副長「…………」

 

副長は

しずかに いきをひきとった ▼

 

団長「……おい」

団長「おい! しっかりしろ!! おい!!」

傭兵A/B「兄貴!!」

僧侶「あ……」

815 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:57:27.05 UW5dTRYB0 228/411

団長「起きろ! おい!」

僧侶「……」


僧侶は ザオリクを となえた! 

しかし 副長は いきかえらなかった…… ▼


僧侶は ザオリクを となえた!
僧侶は ザオリクを となえた!


団長「もうやめろ!!」 ドンッ

僧侶「うわっ」

団長「何が『怖がらなくていい』だ! ウチでこいつほど勇敢な奴はいなかったんだぞ!」

団長「こいつほど、必死に頑張ってた奴ぁいなかったのに、最期にドロ塗りやがって!」

僧侶「違います。僕はただ」

傭兵A/B「兄貴……ううっ……」

団長「くそっ、こんなガキじゃなくてちゃんとした神父が間に合っていれば……」

僧侶「……ごめんなさい……」

820 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:58:18.89 UW5dTRYB0 229/411

主人「こ、このガキの魂胆が分かったぜ!!」

僧侶「!?」

団長「な、なんだ?」

主人「僧侶を装って、適当なまじないで助けるフリして」

主人「アンタらから小銭せびろうってハラだぜ! そうに違いねえ!」

僧侶「えっ。違います。僕はそんな」

主人「だってこいつぁ追放者なんだぜ! 人を騙すくらい平気でやるに決まってる!」

団長「何だとテメエ……その帽子どかしてみやがれ!」

バッ

僧侶「あっ」

傭兵A「こ、こりゃ王都の紋章」

傭兵B「間違いねえ! これと同じのを見たことあるぜ!」

僧侶「あの。でも僕、本当に僧侶で」

団長「死んだ仲間をダシに、乞食まがいのことをやりやがって……許せねえっ!!」

僧侶「違います、違います――」

829 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 01:59:48.63 UW5dTRYB0 230/411

――――――――――――――――――――

【東の村>宿屋】

勇者「みんな、おはよう」

賢者「おはようございます」

戦士「雨は止んでいるな」

勇者「うん。明け方で薄暗いけど、晴れてるみたい」

商人「……いよいよですな」

勇者「みんな、荷物の準備はできてる?」

勇者「……そう。じゃあ、また雨にならないうちに急ごう」

 

【村長の家】

村長「――皆様、準備はできているようですな」

勇者「村長さん、おはようございます。一人で家の前で待っててくれたの?」

村長「なに、この程度は村の長として当然のこと」

村長「着いて来なされ。すぐにほこらまでご案内しましょう――」

841 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:01:07.88 UW5dTRYB0 231/411

【東の村>ほこら】

村長「――着きましたぞ」

勇者「ここが例のほこら……」

戦士「ふむ。確かに、王都の紋章が刻まれているな」

賢者「……しかし妙ですね。通常この手のほこらは、信奉、慰霊などの目的で設けられますが」

賢者「ここには、そのいずれの方向性も見当たらない。空の台座があるだけです」

商人「見てくだされ、良く見ると天上が吹き抜けになっておりますぞ! とんだ不良物件ですな!」

勇者「村長さん、ここは一体」

村長「はい。魔王城へ向かう橋の端でございます」

勇者「はしのはし?」

村長「はい。そこに、そう、台座がございます」

村長「言うまでもなく、その窪みにオーブを捧げれば、魔王城への橋が架かるはずです」

賢者「架かる『はず』、ですか」

戦士「試したことはないということか。そもそも、本当に橋など架かるのか?」

村長「伝説では架かります。海をまたぎ、天空を駆け抜ける、七色の架け橋が……」

851 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:02:23.08 UW5dTRYB0 232/411

勇者「魔王の城まではかなり離れてるけど……本当にそうならすごいね」

賢者「これだけの距離を繋ぐのでしたら、完全に呪文の枠を超えていますね」

商人「ふうむ、虹の橋……確かに、古い書物にもあったような……」

戦士「ふん、魔王の元へ辿り行けるなら何でもいい。先を急ぐぞ」

村長「では、オーブを」

勇者「うん」


勇者は オーブを 台座にささげた!


オーブから まばゆいひかりが はなたれた! ▼

 

勇者「うわっ!」

村長「……時は満ちた。まもなく朝日が上る。さぁ、オーブよ」

村長「今こそ魔の城へのしるべを示せ――!」

 
オーブは 七色に かがやいた――! ▼
 

856 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:03:19.27 UW5dTRYB0 233/411

勇/戦/商/賢「!!」

 

商人「は、橋だ! 橋がかかった! 上に伸びておりますぞ!」

戦士「こ、これが……魔王の城へ続く道……」

勇者「! 村長!」

村長『大丈夫です。オーブに魔力を注いでいるだけです』

賢者「魔力? やはりオーブだけでは作動しない仕掛けだったのですね」

村長『その通り。ここで魔力を供給するものがいなければ、橋は架けられませぬ』

勇者「村長さんって一体……」

村長『……この虹を通して、しばらく会話ができます。後ほどお話し致しましょう』

村長『さぁ、橋をお渡りくだされ』

戦士「うむ」

商人「おっほ、すごい。不思議な感触ですな!」

賢者「さ、参りましょう勇者様」

勇者「う、うん」

861 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:04:06.84 UW5dTRYB0 234/411

【虹の橋】

――

商人「うひょーどこまで登っていくのやら! もう眼下に海が広がっておりますぞ!」

戦士「【渓谷】のときのように柵はないのだ、あまりはしゃぐな」

賢者「いま私の足元にある橋が、伝説……今まさに、伝説を踏みしめているというのか……」

勇者「村長さん、村長さん聞こえる?」

村長『はい。聞こえております』

商人「おお! 何やら声が響きましたぞ!」

戦士「ふむ。魔力を持たない我々でも聞こえるな」

賢者「……オーブやほこらの力があるとはいえ、これだけの魔力を扱えるとは……」

勇者「ねえ村長さん。村長さんの正体って、結局何者なの?」

戦士「おい勇者よ、仮にも魔王との決戦前だぞ。下らない雑談をするのは――」

勇者「ごめん、ちょっと気になっちゃって」

勇者「だってこんなに凄いこと、どうして一番最初に会ったとき隠してたの?」

村長『……それは……』

862 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:04:51.90 UW5dTRYB0 235/411

村長『しがない身の上話になりますが……順を追ってお話ししましょう』

村長『私は元「追放者」です。その昔、王都で近衛級の魔法使いを務めておりました』

勇者「えっ?」

戦士「な、なんだと? しかし、額にその印が付いてなかったではないか」

村長『はい。北の国王により酌量が認められ、のちに印を取り除いて頂いたのです』

商人「い、一体何をやらかしたのですかな?」

村長『魔王軍と内通していたという罪に問われたのです』

村長『私は若気の至りで、国の機密を外部に漏らしてしまったことがあります』

村長『それが原因の一つとなり、魔王軍に狙い撃ちをされ、ある中隊を全滅させてしまいました』

戦士「ふむ……確かにそんな話は聞いたことがある」

村長『私はすぐに国王の元へ――当時は先代でしたが――自らの過ちを申し出ました』

賢者「それで追放罪になったと」

村長『はい。【東の村】に追放されて間もなく、先刻の事件が私だけの非ではなかったことが判明し』

村長『罪は軽減され、王都に戻る許可を得たのですが……』

村長『私は負い目が拭いきれず、帰郷を拒みました』

866 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:05:38.77 UW5dTRYB0 236/411

村長『そこで先代の国王が、極秘裏に別の命を与えてくださったのです』

村長『「ならば彼の村にて、オーブのほこらを守護せよ。来るその時、橋を架けよ」と』

村長『先の事件で、過失を名乗り出たのは私一人だけでした』

村長『きっと先代国王はその律儀な形を汲んで、私に大命を託したのでしょう』

勇者「そうだったんだ……」

戦士「待て。何が律儀だ。ならばなぜ最初に出会ったとき、その大命を果たさなかった」

戦士「最初からオーブが必要だと話していれば、この旅の目的の半分は、早い段階で消化できた」

商人「そうですぞ! まったく非効率な!」

村長『申し訳ございません……私は最初に勇者様にお目通りした際、全てを話すつもりでした』

村長『が……』

賢者「……恐れていたのですね。村が魔王軍に襲われることを」

勇者「えっ?」

村長『はい……。むかし王都で起きた出来事は、私の軽はずみな情報漏洩が発端でした』

村長『いざ勇者様方にお伝えしようとした段で、そのことが頭を過ぎり……』

勇者「……なるほど。それで、村を守る方を選んだんですね」

872 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:07:08.54 UW5dTRYB0 237/411

村長『元より私は病床に伏せておりましたが、勇者様が去った直後、容態は悪化しました』

村長『一気に高熱が出、呼吸は苦しくなり、布団から起き上がれないほどに』

村長『今から思えば笑い話ですが、私はあのとき「死」を覚悟したものです』

勇者「い、今は? 何ともないの?」

村長『はい。妻を始めとした、村の多くの者たちが介抱してくれたおかげです』

村長『私は死よりも、「使命」を果たしそびれることを恐れておりました』

村長『しかし今……私の身体は快方を極め、こうして無事に来るべき日に使命を果たせている』

村長『勇者様たちがこの瞬間に橋を渡れるのも、すべて村の者達の功でもあるのです』

村長『異郷の生まれである私の命を救ってくれた、村人たちの……』

勇者「優しい人たちに恵まれたんですね」

村長『勇者様……私はあの村を守るためならば、この老いた魔力尽きようとも構いませぬ』

村長『どうか魔王を倒し、村を……この世の人々を救ってくだされ……』

村長『なにとぞ、なにとぞお願い申し上げまする……』

戦士「ふん、聞くに値せん懇願よ。このいよいよという段階で何をいまさら」

勇者「もう、戦士さんは素直じゃないなぁ。大丈夫だよ村長さん、ボクたちに任せて!」

873 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:07:52.13 UW5dTRYB0 238/411

――

商人「……だいぶ城に近付いてきましたな。なんという禍々しい空気」

賢者「空模様も怪しくなってきましたが……この薄暗さは天候によるものではありませんね」

戦士「魔の地へと踏み入るときは近いな」

勇者「村長さん、『虹の橋』が薄くなってきたけど、大丈夫?」

村長『距離が遠く――さすがに、限界が――何とか城までは――』

戦士「おい、さっぱり聞き取れんぞ!」

賢者「限界が近付いていますが、何とか城までは届かせるそうです」

商人「そ、そんな! ちゃんと送り届けてもらわねば困りますぞ!!」

勇者「もう城は目の前だけど……この橋の行き着く先は……」

賢者「ええ、魔王城の中腹あたり……あのテラスになりそうですね」

勇者「この橋、さっきより薄くなってる……万が一のことがあっちゃあ大変だね」

勇者「よし、みんな急ごう!」

勇者たちは かけだした! ▼  

村長『――ご武運を――――』――

876 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:08:23.87 UW5dTRYB0 239/411

――――――――――――――――――――

【南の港町】

僧侶「ハァ……ハァ……」

僧侶(何とか逃げられた)

僧侶(……)

僧侶(あの副長さんの御霊に、安らかな冥福あらんことを……)

僧侶(……)

 

「あの棒持った小僧はどこ行った?」

僧侶「!」

「くそ。今度見つけたらタダじゃおかねえ」

僧侶「……」

僧侶(……行ったかな)ホッ

僧侶(ああ)

僧侶(この町にも居づらくなっちゃったな)

879 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:09:12.12 UW5dTRYB0 240/411

「ハイハイ、異国行きの船、まもなく出港するよぉ!」

僧侶「ん?」

「チケットは200ゴールド! 無くなったら終わりの早いもん勝ちだよ!」

「異国行きの船、片道200ゴールド! さぁさぁ、もうすぐ碇が上がるよぉ!」

僧侶「異国……」

僧侶(僕の全財産は290ゴールド。あのチケット、買えちゃうな)

僧侶(そっか。他の国なら、もう帽子を深く被らなくても済むかもしれない)

僧侶(僕の居場所も、探しやすいかもしれない)

「はい売ったァ! あと2枚、2枚っきりだよぉ!!」

僧侶(これはきっと、チャンスなんだ)

僧侶(あのチケットを買って、船に乗れば……)

「はい200ゴールド確かに! あと1枚だよぉ!」

僧侶(船に乗れば……)

 

僧侶(でもそれじゃ、『ひのきのぼう』らしくないかな)

882 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:09:49.48 UW5dTRYB0 241/411

僧侶(僕はさっき、人が死ぬのを見て、悲しかった)

僧侶(あのとき、何かできることがあれば、何でもやりたかった)

僧侶(でも、何もできなかった)

僧侶(あの人だけじゃなく、この大陸には魔物に襲われて命を落とした人がたくさんいる)

僧侶(そんな人たちを無くすために、いま勇者は戦ってる)

僧侶「……」

僧侶(……僕は以前、その勇者のパーティーに居た)

僧侶(のに、僕はそれを放っておいて、今まさに逃げ出そうとしている)

僧侶(逃げ出そうとしている。そんなのは、まっすぐな『ひのきのぼう』らしくない)

僧侶(僕は元勇者パーティーの一員だ。それを誇っていいし、勇気も分けてもらってるんだ)

僧侶(勇者を手伝わなきゃ)

僧侶(足手まといだなんて、勝手に決め付けちゃいけない)

僧侶(回復役でも弾除けでもいい、僕にできることは必ずあるはず)

僧侶(行こう)

僧侶(仮にそれが叶わなくてもいい、行動することに意味があるんだ。行こう――!)

885 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:10:27.20 UW5dTRYB0 242/411

僧侶(……その前に、この290ゴールドで何か買って行こう)

僧侶(できれば、勇者の助けになるようなアイテムがあれば……)

僧侶(装備品はダメだ。この金額じゃ消耗品しか買えない)

僧侶(かといって『やくそう』程度じゃ何の足しにもならないし)

僧侶(例えば、魔力を少しだけ回復させるような――)

僧侶「『まほうのせいすい』とか」

露天商「いらっしゃい」

僧侶「!」

露天商「『まほうのせいすい』だって? 金はあるんだろうな?」

僧侶「ええっと」

僧侶「290ゴールドです。これで全部です」

露天商「はっ、冷やかしなら帰っ……」

露天商「……ん。ちょっと待て」

露天商「ああ、あるぞ。『まほうのせいすい』なら」

僧侶「本当ですかっ?」

891 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:11:08.43 UW5dTRYB0 243/411

露天商「この木箱の中にあるのが、『まほうのせいすい』だ」 ガシャン

露天商「一本300Gだが、特別に10Gまけてやろう!」

僧侶「本当に? やった、ついてる!」

露天商「くく……」

露天商(『ひのきのぼう』なんぞを携えてる時点で、思った通りよ)

露天商(まるでアイテムを見る目がねえ、ただの馬鹿ガキだ)

露天商(こりゃ全部売れ残りのただの『せいすい』)

露天商(原価はせいぜい38ゴールド。100ゴールドで売っても大もうけだぜ)

僧侶「……これ」

僧侶「全部『せいすい』に似てますね」

露天商「!!」

露天商「あ、ああ、ビンのを適当に突っ込んでるから、何か混じってるかもしれねえな」

露天商(くそっ、さすがにそこまでアホじゃなかったか……?)

僧侶「でも、『まほうのせいすい』もありますね」

露天商「!? あ、当たりめえだ!」

894 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:11:54.93 UW5dTRYB0 244/411

露天商(ククク、こいつやっぱただの馬鹿だったぜ!)

僧侶「これを下さい」

露天商(どれも同じだ、笑いが止まらねえ)

露天商「あいよ、290ゴールドな! まいどあり!」

僧侶「……でもこれ」

僧侶「『まほうのせいすい』じゃない気もする」

露天商「へっ、もう返品はきかねえからな!!」

僧侶「なんだか『まほうのせいすい』より、すごく魔力が詰まってるようにみえる」

露天商「あ?」

僧侶「きっと上物なんですね」

僧侶「お金が足りないのに売ってくれて、本当にありがとうございました。では――」

 

露天商「お。おい」

露天商「おい、まさかそれ……」

露天商「いや、あんな馬鹿そうなガキに……そんなはずはねえ……」

911 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:13:04.03 UW5dTRYB0 245/411

僧侶(これでお金も使い切ったし、思い残しもないかな)


 ボー――……


僧侶「……」

僧侶(さっきの客船が出る音だ)

僧侶(あれに乗っていたら、僕の運命も変わったのかもしれない)

僧侶(……けど。もう決めたんだ)

僧侶(行こう)

僧侶(魔王の城に行くんだ)

僧侶(ここから北のルートを通って、山を越えて、城に入って)

僧侶(勇者と、戦士さんと、商人さんと、賢者さんの役に立つんだ)

僧侶(最後に勇者に会ったときのことを考えると、今日あたりもう出発してるかもしれない)

僧侶(今からじゃとても間に合わないかもしれないけど……)

僧侶(どの道行く当てなんてないんだ。無駄足になったって構わない)

僧侶(最後まで……僕にできることを、目指そう)

916 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/27 02:14:02.08 UW5dTRYB0 246/411

――

僧侶(港町を離れるにつれ、どんどん町の音が遠くなっていく)

僧侶(向かう先は北。魔王城だ)

僧侶(陸続きの道を通ったら、高い山にぶつかるけど――)

僧侶(よくよく考えたら、装備の軽い僕なら、きっと登れないことはないはずだ)

僧侶(それに、僕のこの大陸巡りは、逃げて逃げての、走りっぱなしだった)

僧侶(だから足腰だって丈夫なんだ)

僧侶(そして、この心強い『ひのきのぼう』がそばにある限り、僕はきっとやれる)

僧侶(やれるんだ)


魔物のむれが あらわれた! ▼


僧侶(こんなところで、体力と魔力を消耗しちゃいられない)

僧侶(できる限り、隙を作って逃げよう。目的地は、まだまだ先なんだから!)


僧侶は バギマを となえた! ▼ ――

【後編】に続きます。

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