少年「ねえ」
少女「…………」
少年「ここはなに?」
少女「ここはわたしの家」
少年「キミ、こんなところに住んでるの?」
少女「そう」
少年「嘘だあ」
少女「ほんと」
少年「こんなところで暮らせるわけないよ」
少女「どうしてそう思う?」
少年「だって、窓もない。光もない。まるで牢屋みたい」
少女「牢屋じゃなくて牢獄」
少年「それって違うの?」
少女「天国と地獄くらい違う」
少年「そうなんだ」
元スレ
少女「血が呪われた」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1353020147/
少女「ここになにをしにきた?」
少年「探検だよ。でも道に迷っちゃった」
少女「山で迷う? なにを言ってるの。お前は村の人間じゃないの?」
少年「昨日からこの辺に引っ越してきたんだ」
少女「外からきたの。珍しい」
少年「ここにはなにもないね」
少女「この村にはなにもない。確かにそう」
少年「僕が前いたところにはいろいろなものがあった」
少女「そう。全部忘れたほうがいい」
少年「どうして?」
少女「この村にきた以上、これからそういったものは滅多に目にかかることはないと思うから」
少年「確かに、車で5時間、ここに来るまでは退屈で仕方なかったよ」
少女「これからその退屈は何年も続くんだろう」
少年「僕はそんなに退屈じゃないけどなあ。こんな場所が世界にあるなんて知らなかったし」
少女「200時間ほどでそれも飽きる」
少年「キミはなんかしゃべり方が変だね」
少女「そう? それはごめんなさい」
少年「何歳なの? 僕は12だけど」
少女「歳はわからない」
少年「……すごい」
少女「どうして」
少年「自分の歳がわからないなんて人、僕初めて見たよ」
少女「お前は少し変なやつだね」
少年「それ、キミが言う?」
少女「わたしから見れば変だ」
少年「僕から見ればキミのほうが変だ」
少女「僕からではなくて、世界から」
少年「変、っていう自覚はあるんだ」
少年「んん、同じくらいかなあ」
少女「なにが」
少年「キミの歳。大体僕と同じくらいに見えると思うんだけど」
少女「そうか。それじゃあそうなのかも」
少年「ほんとにここで暮らしてるの?」
少女「そう。ずっとここにいる」
少年「ちょっとそっちに行ってみてもいい?」
少女「ここを開けろ、ということ?」
少年「うん。さすがにこの鉄の棒の間は抜けられそうにないなあ」
少女「開けられない」
少年「? どうして?」
少女「鍵がない。それに、わたしがここを開けられるようじゃ牢獄の意味はない」
少年「キミはどうやって外にでるの?」
少女「わたしはここから外には出ない」
少年「こんな暗いところにいたら目が悪くなるよ」
少女「目はいい」
少年「暗い所にいすぎて逆に目がよくなるのかな」
少女「知らん。でも物が見えなくなることはない」
少年「そっちの壁の裏にはなにがあるの?」
少女「便器があるだけだ」
少年「それだけ? ご飯はどうしてるの?」
少女「? ああ」
少年「?」
少女「ご飯は食べたことがある」
少年「食べたことがあるって、変な言い方だね」
少女「そうか。それはごめんなさい」
少年「やっぱり変なしゃべり方だなあ」
少年「あ……サイレンだ」
少女「もう夕方」
少年「このサイレンの音、怖いよね」
少女「そうか。わたしは愛しく思う」
少年「そう?」
少女「そう。もう行ったほうがいいんじゃないの」
少年「ああ、そうなんだけど」
少女「?」
少年「家のあるほうにはどうやって行ったらいいんだろう」
少女「知らん」
少年「だよね。大丈夫、なんとかなるよね」
少女「それも知らない」
少年「じゃあ僕行くよ」
少女「うん」
男「今日はどこへ行ってたんだ?」
少年「探検だよ。山、すごく広かったよ」
男「山って、どの山だよ。腐るほどあるぞ。この村には」
少年「そうなの?」
男「むしろ山以外になにがあるんだよ」
少年「それもそうだね。どの山だったかなあ」
男「やめとけよ。どうせ思い出せないんだから」
少年「酷いなあ。兄ちゃんはいつもそうだ」
男「そうか? それは悪かったな」
少年「兄ちゃんは今日なにしてたの?」
男「お前には関係ないことだよ」
少年「そうなんだ」
男「もう降りよう。そろそろ夕食の時間だ」
少年「うん、そうだね」
女「おはよう」
男「おはよう」
女「昨日はよく眠れた? あなたは昔も寝つきが悪かったから」
男「母親みたいなことを言うな」
女「恥ずかしがってるの? ふふ、可愛いとこあるじゃない」
男「嫌がってるんだよ。そういうのはやめてくれ」
女「13年そこらで変わるものね。子供のころはもうちょっと愛想よかったよね、あなた」
男「もう覚えてないな。いったいいつの話だよ」
女「だから、13年前の話よ。この村の外であなたは、愛想よく人と話す術は失っちゃったのかな?」
男「特に意識はしてなかったな。必要もなかった」
女「困るなあ。それじゃあ必要に駆られてもらおうかな」
男「?」
女「わたしからのお願い。もっと楽しそうにして?」
男「楽しくないつもりはない。お前の前で少し、緊張しているのかもしれない」
女「あら、喜ぶところかな。やっぱり可愛いところあるわ」
女「で、今日も外のことを聞かせてくれるのかな? 話を聞くだけってのは実際むなしいものがあるのだけど」
男「安心しろ。そんなにいいものじゃない」
女「ないものねだりね。自分の身に起こらないことが良く見えてしょうがないの」
男「この村の子はみんな、勉強が好きか?」
女「好きなんじゃない? もちろんみんながみんなそうとは言わないけど」
男「羨ましいな。さすがに俺はもうそろそろ飽きてたところなんだ」
女「娯楽になってる、とまでは言わないけどね。ただとにかくここは変化のないところだから」
男「俺がいなかった間、この村には特に変わったことはなしか」
女「そうね。特に大きなことは」
男「なによりだ」
女「ああ、ただね……」
男「なんだ」
女「忌み子が一人、生まれたわ」
男「ああ………あの女の子か」
女「そうね」
少年「やっと見つけた」
少女「ん……」
少年「ここを探すのに結構かかっちゃった」
少女「お前か」
少年「久しぶりだね」
少女「そうだったか」
少年「何日くらいだろう」
少女「あれから……サイレンを確か、12回聞いた」
少年「じゃあ6日くらいかなあ」
少女「そう。あれから6日」
少年「元気だった?」
少女「わたしはいつも元気だよ」
少年「ここ、寒そうだけど風邪とかひかないの?」
少女「身体、丈夫だから」
少年「すごいなあ」
少年「今日はこういうのを持ってきたんだ」
少女「………紙?」
少年「教科書だよ、国語の」
少女「なんだそれ」
少年「んー、勉強に使うんだ」
少女「聞いたことがある」
少年「僕がここに来る前に使ってたものなんだけど、よかったらあげる」
少女「わたしに」
少年「キミに」
少女「ありがとう」
少年「キミは言葉遣いが変だからさ」
少女「そんなにか」
少年「微妙に」
少女「そうか」
少女「………?」
少年「? どうしたの?」
少女「これは何て読む」
少年「……え。『を』だよ」
少女「お」
少年「ひらがな、読めないの?」
少女「読めるものとそうでもないものがある」
少年「じゃあこれは」
少女「め」
少年「『ぬ』だよ。『め』はこっち」
少女「たしかに、ちょっと違う」
少年「あのさ」
少女「なに」
少年「僕がキミに、ひらがな教えてあげるよ」
少年「それじゃあ、これ読んでみて」
少女「きつねは こおりのやまにかえりました まる てぶくろをくちにくわえたまま じぶんのうちをさがしました」
少年「すごい!! 完璧だよ!!」
少女「そ、そう?」
少年「こんなにはやく読めるようになるなんて」
少女「がんばったから」
少年「そうだね。がんばったね…………あ」
少女「サイレンだ」
少年「うん」
少女「行ったほうがいい」
少年「ううん。少しくらいは大丈夫だよ」
少女「だめ。だめだ。行ったほうがいい」
少年「そう? まあ今日は疲れたしね。それじゃあ帰るよ」
少女「うん」
男「今日は機嫌がいいな」
女「そう? そう見えるならそうなのかも」
男「なにかいいことでもあったか」
女「特になにもないよ。ただ、あなたがよく笑うようになってきたからなのかも」
男「そうか。それなら努力した甲斐があったのかもしれないな」
女「努力しないと、わたしといるときに笑顔はでないの?」
男「言い方が悪かった。そういうことじゃないんだ」
女「なんてね。わかってるよ。あなたは感情表現するのが、下手だものね」
男「そうか。すまん」
女「謝らないで。不器用なところもあなたの魅力って言えるの」
男「お前は、もし鳳の家の女じゃなくても、同じことを言うのか?」
女「さあ、それはわからない。でも自分の気持ちに嘘をついたことはないと思う」
男「……そうか」
女「落ち込んでるの?」
男「そういうわけじゃない」
女「わたしは自分の生まれについて、一生分の運を使い果たしたと思ってるよ」
男「そうなのか?」
女「おそらく。もしかしたらそれも周りから洗脳されている感情なのかもしれないけど」
男「俺は自分の生まれについて、どう考えたらいいだろう」
女「あなたは、わたしのことが好き?」
男「好きだ」
女「それじゃあ、ラッキー! でいいじゃない。生まれついて、自分の想う人と結ばれることが決まってるんだから」
男「でもそれはやっぱり、そういう風に仕向けられているのかもしれない」
女「それはわたしたちが考えたって仕方ないよ。それに、村のみんながそれでまた幸せに暮らせるならそれで」
男「できれば、俺は竜の家の子じゃなく、お前は鳳の家の子じゃなく、普通の家の生まれで、お前に会いたかった」
女「ないものねだりね」
男「そうなのかもしれない」
女「ん」
男「もう屋敷のなかに戻ったほうがいい。身体が冷える」
女「優しいのね。いや、残酷なのかな。わたしはもうちょっとあなたと話をしていたいのに」
男「毎日来てやる。それは最初にも言ったろうに」
女「それでも全然足りないのよ。せめてわたしがもうちょっと丈夫だったらな」
男「言ってもしょうがない」
女「そうね。車いすを押してくれる?」
男「ああ」
女「ねえ、わたしはあなたの子をきちんと産めるのかな」
男「………できるさ」
女「こんな身体なのに?」
男「それもすぐ治る」
女「不安だよ」
男「安心しろ。俺がいる」
少年「キミはここから出たいと思ったことはないの?」
少女「ない」
少年「どうして? たしかにこの村にはなにもないけど、でもこの地下の部屋よりはマシだよ」
少女「わたしからしたら、この牢獄のなかのほうが村のなかで生きるよりいくらかマシなの」
少年「キミは変わってるね」
少女「そういう風に言うお前も、なかなか変わっていると思う」
少年「そうかな。普通だと思うけど」
少女「お前は普段、なにをして過ごしてる」
少年「えーっと、大体家庭教師の人と勉強したりかな」
少女「だからお前は、わたしにいろいろ教えてくれるの?」
少年「なかなかうまいでしょ、僕の教え方」
少女「わからない」
少年「前いたところでは、友達に褒められてたんだよ」
少女「そうか」
少年「でも今、友達はキミだけだ」
少女「友達……?」
少年「うん。この村に来て何週間か経ったけど、僕以外の子供はキミしかいないみたいだ」
少女「この村では子供は外出を控えさせられるから」
少年「そうなの? どおりで」
少女「陽が落ちてからは、特に」
少年「僕も言われたよ。サイレンがなるまでに帰りなさいって」
少女「それがこの村の決まりだから」
少年「どうして?」
少女「子供が大切なんだ。ここでは」
少年「そういうの、過保護って言うんじゃないの?」
少女「ここでは過ぎた保護なんてない」
少年「キミもそうなの?」
少女「そうだと思う?」
少年「キミのは保護されてるっていうより……」
少年「サイレンだ」
少女「そうだな」
少年「今日は帰れって言わないんだ?」
少女「言わなくてもわかると思った」
少年「うん。わかるよ。帰らなきゃ」
少女「そうしたほうがいい」
少年「キミは僕が帰ったあと、どうして過ごしているの?」
少女「そんなどうでもいいことが知りたい?」
少年「少しだけ」
少女「そうか」
少年「言わないんだ」
少女「うん」
少年「今日はもう少しいようかな」
少女「馬鹿なことはやめろ」
少年「でも……」
少女「でもじゃない」
少年「家は退屈なんだ。父様も母様も優しくない」
少女「そんなことは聞いてない」
少年「僕は生まれちゃいけない子供なんだって」
少女「………」
少年「どうしてそんな顔をするの?」
少女「お前、兄か姉がいるか?」
少年「いるよ。あれ? どうして知ってるの?」
少女「帰るといい」
少年「え?」
少女「いいから」
少年「う、うん……」
男「出かける支度をしろ」
少年「どこへ?」
男「お前の姉になる人間を紹介する」
少年「お姉ちゃん?」
男「俺の婚約者だ」
少年「!! 兄ちゃんの恋人!?」
男「恋人……ああ、そうなるな」
少年「どうして? 僕には会わせないって言ってたのに」
男「今日は特別だ」
少年「どうして?」
男「…………菓子でも食べるか?」
少年「? いきなりどうしたの?」
男「いや、欲しくないかと思ってな」
少年「ううん。今はいらないよ」
男「そうか。それじゃあ早く支度をしろ」
少年「すごい……綺麗な人だ」
男「そうだろう」
女「ふふ、ありがとう」
少年「でも、お姉ちゃん、病気なの?」
女「ああ、これはね。病気じゃないの」
少年「じゃあどうして?」
女「これはね……」
男「おい」
女「あ……」
少年「?」
男「そういうことをむやみに人に聞くもんじゃないぞ」
少年「あ。ごめんなさい。お姉ちゃん」
女「ううん。いいのよ」
少年「でもすごいよ。ほんとに、お姫様みたいだ」
女「そんな、言い過ぎよ」
少年「僕の友達もすごくきれいな子だから、おねえちゃんみたいなかっこしたら似合うんだろうなあ」
女「友達?」
少年「うん」
女「前いた場所の子かな?」
少年「えっとね……」
男「おい」
女「?」
男「無駄話はもういいだろう」
女「…………あのね」
男「わかってる。今日は無理だと思ってた。最初から」
女「……ごめんなさい」
少年「? 何の話?」
男「帰るぞ」
少年「え、もう?」
男「もともと今日は紹介だけのつもりだった」
女「また会いましょうね」
男「先に門のところに行ってろ」
少年「あ、うん」
男「…………すまん。辛いことを」
女「ううん、あなたのせいじゃないもの」
男「できそうか?」
女「それしかないのなら、きっとできるわ」
男「あまり、情を移すようなことはするなよ」
女「わかってる」
男「お前はあれを、食うんだ」
少年「兄ちゃん、あの一番高い山にある社には誰か住んでるの?」
男「なんだお前、あんなところにも遊びに行ってたのか」
少年「一回だけだけどね。偶然見つけたんだ」
男「悪さはしてないだろうな?」
少年「すぐに帰ったよ。だれもいなかったしさ」
男「あそこには、この村の神様がいるんだ」
少年「神様?」
男「知らないか?」
少年「おとぎ話でしょ?」
男「違う。確かにおとぎ話にはなってるが、本当にあった話だ」
少年「ふうん。どんな話だっけ」
男「なんだお前は本当に忘れっぽいな。昔話してやったろう」
少年「もう一度聞きたいな。話してよ」
男「しょうがないやつだ」
この村には昔呪いが降った。木は枯れ、水は枯れ、作物も枯れて、人がたくさん死んだ。
どんどん人が減り、大人も減り、当然子供も減った。どうして村に呪いが降ったのだろう?
村人はもだえ苦しむ中で、疑問に思った。呪いというのは呪う人間がいなければ存在しない。
それが節理だった。村に呪いをかけた人間はすぐに見つかった。みんな身体が悪くなっていく中で
一人だけそんな様子もなく平然としている女がいたからだ。女は子を産んだ。他の村人が
息も絶え絶え、子など産めるはずもない状態のなかで、女はひとり、女を産んだ。
女は生まれつき身体が弱かった。だから神に願った。夜遅く社に通い、膝をつき、手を合わせた。
600日もそれを繰り返し、そしてついにそれは叶った。呪いという形で。
男「ん、なんだ寝てしまったのか」
少年「………」
男「部屋に連れていかなきゃな」
少年「………すう」
男「………本当にすまん」
女はただ、自分の身に憑いた弱さを払ってくれと願っただけだった。本当にそれだけだった。
だが神はその願いを女の意に沿わぬ形で叶えた。そもそも女に弱さなどついてはいなかった。
女には弱さが付加していたのではない。強さが欠けていた。生命力というのか、命の強さが
女には欠けていた。神は命を司るが、命を生み出すことはできない。命を生み出すことが
できるのは、生き物だけであった。だから神は女に与えた命を、他から補う必要があった。
木々から、水から、動物から、女以外の村人から。多くのモノからかき集めた命を
女一人に与えた。女は不死となった。1200回も通った参道を、1200回も死にかけた参道を、
信じられないほどに足取り軽く、女は下って行った。村に着くと、村は死にかけていた。
死にかけながら生きていた女は、かつての自分が村中に拡散したことを目の当たりにした。
少年「ここに来るの、何回目くらいかなあ」
少女「もうさすがに覚えてないよ」
少年「サイレンの音は?」
少女「200回は聞いたと思う」
少年「それじゃあ100日は立ってるんだ」
少女「飽きもせず、よく来てくれるものだ」
少年「キミと話すのが楽しいんだよ」
少女「そうか……」
少年「っつ……」
少女「ん、その指はどうしたの」
少年「あ、ああ。大したことないよ。ここに来る途中葉っぱで切ったみたいでさ」
少女「見せて」
少年「え?」
少女「腕をこっちに伸ばせ」
少年「こ、こう?」
少年「!? な、なにして……」
少女「ん……驚き過ぎ。舐めただけ」
少年「どうしていきなり……」
少女「こうしたら治りが早い」
少年「どきっとしちゃったよ」
少女「臆病だな。檻に入ってるわたし相手に」
少年「そうじゃなくて、ええと、多分、キミがかわいいから」
少女「…………そんなことは初めて言われた」
少年「僕もこんな気持ちになったのは初めてだよ」
少女「……そうか」
少年「ねえ、もうちょっと近づいていいかな」
少女「?」
少年「鉄格子の、ぎりぎりこっちまで近づいて」
少女「こう?」
少年「うん、ありがとう」
少女「え、あ……?」
少年「いやだったら言って」
少女「なんだ……これは」
少年「キミのこと抱きしめたいって思ってたんだ、こんな感じに」
少女「なんで」
少年「好きってことじゃないかなあ」
少女「好き………」
少年「うん。鉄格子越しにしか触れられないのが残念だけど」
少女「鉄が、冷たい」
少年「うん、そうだね」
少女「でもお前は、あったかいな」
少年「ありがとう。キミもやっぱり、あったかいよ」
少女「そうか」
少年「ずっと、冷たいのかもと思ってた」
少女「どうして」
少年「キミは綺麗過ぎたから」
少女「ああ」
少年「こんなところで暮らしているのに、キミはいつも傷もなく汚れもなく」
少女「そう」
少年「しみもなく、肌は白くて、なんだか冷たそうだった」
少女「………」
少年「笑わないしさ。でも、こうして触ってみるとやっぱり暖かかった」
少女「そうか」
少年「………どうして、こんなところで暮らして……閉じ込められて、いるの?」
少女「それは………」
少年「それは?」
少女「わたしが、不死だから」
少年「不死……」
少女「死なない、ということ」
少年「どこかで聞いたことがある……不死っていうのは……」
少女「この村の敵だよ。外で生まれたお前にはわからないかもしれない」
少年「キミはなにか悪いことをしたの?」
少女「した。不死は悪いことをした証。わたし自身は、なにもしてないけど」
少年「どういうこと?」
少女「お前は竜の家の子だろう」
少年「うん……」
少女「でも長子ではない」
少年「ちょうし?」
少女「それならお前はきっと……いや……」
少年「何を言ってるのか全然わからないよ……」
少女「すぐにわかる時がくる、よ」
すぐに女は山を登った。神に願った。村を助けてくれと願った。神はそれを聞き入れなかった。
女が美しかったからだ。自分のもとに足繁く通った女を、神は見初めた。神は女を死なせることを
良しとしなかった。神は女に子を授けた。自分の子を女に産ませた。生まれた子もやはり、不死だった。
不死の女は、不死の子に自分を殺してくれと頼んだ。不死が死ぬ方法は、不死に殺されることだったから。
不死の子は不死の親を殺した。しかしそれは神の逆鱗に触れた。愛する女を殺された怒りから、神は自らの子を
を殺すことにした。神は天より竜を呼び出し、不死の子を食わせた。不死は死なないが、竜は不死をどこかに
つれていくことができた。この世ではないどこかに。そこは永遠の苦しみが続く場所だった。竜の腹の内はどこに繋がっているのか。
男「お帰り」
少年「ただいま、兄ちゃん」
男「近頃、帰りが遅いことが多いな」
少年「って言っても兄ちゃん、まだ五時半だよ」
男「好きな女の子でもできたか?」
少年「!!」
男「はは、お前はわかりやすいな」
少年「やだな、やめてよ兄ちゃ………!?」
男「…………本当にお前はわかりやすい」
少年「兄ちゃん……! なにこれやめてよ……!」
男「弟に刃を突きつけなきゃいけない俺を許してくれ」
少年「なに言ってんだよ兄ちゃん!! 冗談やめてよ!!」
男「冗談でこんなことはせん」
少年「あ……!」
男「騒ぐな。頬を少し切っただけだ」
少年「…………」
男「あまり怯えるな。少し確認したいことがあるだけなんだよ」
少年「何を……?」
男「お前、不死と会っていたな」
少年「不死……」
男「もう少し早く気づくべきだった。間抜けだな俺も」
少年「それが……なに……あの子は……、なんなの……?」
男「あれは呪われた子供だ。お前は関わるんじゃない」
少年「呪われた子供……?」
男「おとぎ話をしてやっただろう」
少年「でもあれはおとぎ話じゃ……」
男「おとぎ話じゃない。少なくともこの村ではそう信じられてる」
少年「嘘だ…………」
男「黙れ」
男「頬の傷は……治らないか」
少年「…………?」
男「おい」
少年「………なに」
男「次にあの子供に会いに行ったら、殺す」
少年「………いやだ」
男「…………ここで殺すか」
少年「やって……みろよ………」
男「口のきき方まで忘れたか」
少年「殺せるもんなら殺してみろ……!」
男「…………くだらん」
少年「なんだよ」
男「付き合いきれん。お前、明日からは屋敷を出るな」
少年「いやだ」
男「……………おやすみ」
村を憂いた竜は、鳳凰を召した。鳳凰は命を分け与えることができる。村人はみな生命の力を取り戻し、村は救われた。
自らの命を分け与えた鳳凰は、死にかけていた。竜は神に頼み、自らの命を鳳凰と分け合った。力を失った竜と鳳凰は
地に堕ち、人間の姿となって村で暮らすようになった。村を救った竜と鳳凰は歓迎され、家を持ち、繁栄した。
それから両家は、竜の家と鳳の家になり、村で力を持つようになった。その祖先は今もなお、村に生きている。
男「急かすようで悪いが、もうそうそう時間かけてはいられなくなった」
女「そう……昨日そんなことが……」
男「………やれそうか?」
女「それが必要ならば、覚悟はできています」
男「すまん」
女「いえ、わたしは鳳の家の女だから」
男「それじゃあ、明日にでも」
女「うん。あなたがついていてくれれば、大丈夫だから……」
男「ああ、一緒に背負おう」
女「…………はい」
村は元通り平和になったが、しかし神は見初めた女を諦めたわけではなかった。長い時間をかけて、不死の女を蘇らせようと
していた。しかしそれは禁忌であった。遠く連れて行かれた不死の子を素材とし、神は女を蘇らせようとした。
その企みは結局、竜と鳳に感づかれ阻止される。竜の家の子と鳳の家の子は力を合わせ神を討った。両家の子は神を封じた。
もう二度と不死が生まれぬようにと。この村で不死は、村を滅ぼしかねない呪われた象徴とされた。
不死を死する方法は二つある。不死を持って不死を消すか、竜に食わせるかである。しかし今はもう竜はその力を失ってしまった。
不死を食う力はもう竜にない。竜が不死を食わんとすれば、鳳凰から生命力を授からねばならない。鳳凰は生命力を授けるが、それは
無限ではない。鳳凰は竜を食うことによってそれを生命の力に変える。それが竜と鳳の関係である。
少年(牢獄から……声が聞こえる?)
少年(やっぱりあの階段の下から聞こえてくる……)
少年(誰かいる? 大人の声だ………)
少年(ん、誰かでてきた……多分ここなら見えないはず……)
少年(大人……二人………帰っていく……のか?)
少年(声はやんでる。いこう)
少年「……………んだこれ………」
少女「…………ああ………お前か…………」
少年「なんだよこれ」
少女「どうした………今はもう、夜だろう………?」
少年「これはなんだって聞いてるんだよ!!!!!!」
少女「あまりがなるな……さっきの大人たちが戻ってくる」
少年「だれがこんなひどいことを………!!」
少女「さあ……誰だったか、顔も覚えてない。覚えてられない」
少年「まさか………今日だけじゃない……の?」
少女「日課だ」
少年「日課って………そんなに傷だらけで……血まみれで………」
少女「傷もなにもかもすべて、すぐに治る。今日初めに殴られたところはすでに傷跡もない」
少年「キミは悪いことをしたの……?」
少女「わたしは、不死だから」
少年「不死って、なんだ………」
少年「ねえ、教えてよ。不死ってそんなに悪いことなの?」
少女「…………」
少年「キミはいつから、死なないの?」
少女「……生まれたときから」
少年「僕、昨日兄ちゃんにナイフを突きつけられたんだ」
少女「殺されそうになった?」
少年「殺す、って言われた。今後キミに会っても殺すって言ってた」
少女「安心しろ……おそらくお前の兄はお前を殺せない」
少年「殺せない?」
少女「殺すわけにはいかない……かな」
少年「教えて……」
少女「なにを」
少年「キミの知ってること全部。もう嫌なんだ。みんな僕に何かを隠してる。わけがわからないんだ。全部知りたいんだ」
少女「そもそも、竜の家に子が二人いる時点でおかしい」
少年「そうなの?」
少女「禁忌なの。竜の家に限らず、鳳の家でも、第二子をもうけるのは」
少年「それはなぜ?」
少女「村の掟。それぞれの家の子は特別な力を持つから。唯一の存在でなければいけない」
少年「じゃあなぜ僕はいるんだろう」
少女「おそらく、鳳の子へ捧げられるため」
少年「鳳……お姉ちゃん?」
少女「今、鳳の子は身体も力も、とても弱い状態にあると聞いた」
少年「確かに、車いすに乗ってたよ」
少女「鳳の力は竜から得るしかない。多分お前は……」
少年「お姉ちゃんに殺されるために、生まれたってこと?」
少女「そう」
少年「馬鹿に……してるのかな…………」
少女「馬鹿にはしてない。この村の人間は一人残らず、真面目にそれを信じてる」
少年「おかしいって思わないのかな」
少女「老人が多い村だから。妄信的な人間は多い」
少年「考えたくもない」
少女「わたしの……わたしたちのせいでもある」
少年「どうして」
少女「だって、おとぎ話でもなんでもなく現にここに、不死の人間がいる」
少年「それは……」
少女「昔話の信憑性も増すだろう?」
少年「わたしたち……っていうのは」
少女「わたしの母も、不死だった」
少年「お母さんはどうしてるの?」
少女「わたしが殺した」
少年「不死を………」
少女「不死は、不死と竜にしか殺せない」
少年「どうして殺せたの? 自分の……お母さんなのに」
少女「母親がそれを望んだから」
少年「でも……」
少女「というより母は、そのためにわたしを産んだの。はっきり言われた」
少年「お父さんは?」
少女「知らない……見たこともないし、聞いたこともない」
少年「キミのお母さんも、自分のお母さんを殺したのかな」
少女「わからない……そもそもなんで不死がまだ村にいるのかも」
少年「おとぎばなしでは、不死は消えたもんね……」
少女「神様の仕業なのかもね。神様は、不死の女を愛したから」
少年「作られた、ってこと?」
少女「迷惑な話………ほんとに………人の身体をこんなにしてくれちゃって」
少年「ねえ、逃げようよ」
少女「どうやって? ここからわたし、出られないのに」
少年「屋敷にきっと鍵がある。そう思わない?」
少女「確かに竜の家、鳳の家の人間はここを管理してる。でも無理」
少年「どうして。そんなこと言わないでよ」
少女「殺される」
少年「キミは死なない。僕も、鳳のお姉ちゃん以外には殺されないんだ」
少女「そうね。でも」
少年「これを持ってて」
少女「ナイフ? どうしてこんなの」
少年「護身用に持ってきたんだ。キミが持ってて」
少女「こんなの一本でどうしろって」
少年「いい? 必ず迎えに来るから。そしたら一緒に逃げよう」
少女「どうして……わたしにかまうの? かわいそうだから?」
少年「………好きだから」
少年「…………」
男「おかえり」
少年「!?」
男「窓から帰宅か。随分行儀が悪いな」
少年「……兄ちゃん」
男「なんだその目は」
少年「兄ちゃん、僕はなんで生まれたの?」
男「………あの子供になにか聞いたか」
少年「全部」
男「そうか」
少年「ねえ、兄ちゃんは今までどういう目で……僕のことを見てくれてたの?」
男「…………かわいい弟だ」
少年「嘘だ」
男「嘘じゃない」
少年「じゃあどうして……」
男「愛してるんだ」
少年「鳳のお姉ちゃんを」
男「そうだ」
少年「そのためなら僕も殺す?」
男「そうだ」
少年「ひどいよ……」
男「黙れ」
少年「ひどい」
男「お前は子供だ」
少年「だからなに」
男「俺がどういう想いでいるか、想像もできない」
少年「想像したくなんてないよ」
男「そうだな……」
少年「なにを……ぐうっ!!!!???」
少年(後ろ!? 殴られ……!!)
男「俺はお前だけじゃなく、忌み子も殺さなくちゃならん」
少年「痛……うあっ……」
大人「弟さん、どうします?」
男「もう立てないだろう。縛って明日まで閉じ込めておきたい」
少年「に、兄ちゃ…………ん……………」
男「忌み子を殺すには、必要なんだ。竜と鳳の子が」
少年「なんで……」
男「村のためなんだよ」
少年「…………くそ……」
男「…………俺だって竜の家になんか、生まれたくなかった」
大人「気を失ったみたいです。どこに連れて行きましょう?」
男「蔵がいい。大丈夫だろうな」
大人「はい?」
男「間違っても死なせるなよ。お前を殺すぞ」
大人「は、はい………」
少年(ああ……寒い………)
少年(頭の後ろがジンジンする……)
少年(身体が動かせない……ああ、僕、兄ちゃんに………)
少年(くそ……結局鍵も探せ……ないなあ……)
少年(あの子……まだあそこで待ってくれてるかな……)
少年(ごめんね………僕……いけそうに……)
少年(………あー……なんか眠い……意識が………)
少年(………ごめ………んね…………)
??「ねえ」
少女「起きて」
少年「………」
少女「寝てる場合じゃない」
少年「………ん」
少女「起きた」
少年「あれ………寝ぼけてるのかな」
少女「そうかもね」
少年「!? っつ! いってえ………」
少女「頭、殴られたんだね」
少年「っていうか……! なんでキミが!?」
少女「あんまり大きな声出さないで。見つかる」
少年「え、あ、ああ……ごめん」
少女「ほら、縄切れた」
少年「ありがとう……」
少女「立てる? 天窓からならなんとか逃げれそう」
少年「意外と見張りとかいないね……」
少女「深夜だから」
少年「まあ逃げられるとか思わないよね。あの状況から」
少女「蔵の入口に一人寝てる大人がいるだけだった」
少年「っていうかキミ、どうやってここまで来たの?」
少女「竜の屋敷は大きいから、目立つ」
少年「そうじゃなくてさ、どうやってあそこから出たの?」
少女「聞かないほうがいいよ」
少年「いやいやいや気になるよ」
少女「………お前がくれたやつで出れた」
少年「え、ナイフ? 鍵壊したとか?」
少女「身体を切った」
少年「…………はい?」
少女「鉄格子の間を通れるように、身体を切ってから通った」
少年「ば、バラバラになったってこと!?」
少女「一つずつ切って通して、くっつけて。って繰り返した」
少年「聞くだけで痛いんだけど……」
少女「痛かった。三時間くらいかかったし」
少年「なんでそこまで……」
少女「痛いのは慣れてるから。それに」
少年「それに?」
少女「嬉しかったから。好きって言ってくれて」
少年「あ………」
少女「行こう」
少年「うん!」
少年「多分、この道だよ。見覚えがある」
少女「村の外へ行く道?」
少年「うん、多分。自信はないけど」
少女「そう」
少年「…………」
少女「……なに?」
少年「いや、あの場所以外で見るとなんか新鮮だなあって」
少女「そう……かな」
少年「うん。なんか、柔らかい感じがする」
少女「しゃべり方……」
少年「ん?」
少女「変えたいと思ってるから……お前にだけ……」
少年「………とりあえず、お前っていうのやめてみよっか」
少女「?」
少年「あはははは!」
少年「あ……」
少女「サイレン」
少年「だね」
少女「もう朝になる」
少年「朝のサイレンをキミと聞くのは、初めてだね」
少女「うん」
少年「なんか幸せかも」
少女「わたしも」
少年「………!」
少女「なに?」
少年「いや………なんでもないよ。いこっか」
少女「うん」
少年「まだ歩ける?」
少女「ぜんぜん」
少年「朝陽だ」
少女「………んん」
少年「まぶしいの?」
少女「陽を見るのは……久しぶりだから」
少年「あ………」
少女「ん?」
少年「これから、すぐに慣れるよ」
少女「ほんと……?」
少年「うん、これから何回も一緒に、朝陽を見るんだ」
少女「………うん」
少年「慣れたら、すごく綺麗だよ」
少女「うん」
少女「水の音、聞こえるよ」
少年「……? あ! ほんとだ! 多分川があるんだよ」
少女「川?」
少年「うん、水が飲めるよ。ついでに身体も流そうかな。ドロドロだし」
少女「水、飲みたいの?」
少年「そりゃ、まあね。ずっと歩きっぱなしだったし」
少女「そっか。行こう」
少年「行こう行こう!!」
少年「あの、あっち向いててくれる?」
少女「どうして?」
少年「身体流すために服脱ぐからさ」
少女「あ……」
少年「うん……」
少女「ご、ごめん………?」
少年「いや、いいよ」
少女「あっ……」
少年「危ない!!」
少女「……っ」
少年「足場気を付けないと……落ちちゃうよ」
少女「あり……がとう……」
少年「でもよかった、間に合って」
少女「あ、えっと……」
少年「ん………? うわ……」
少女「あ、やめないで……!」
少年「え? で、でも……」
少女「お願い」
少年「う、うん」
少女「今は、鉄格子ないから……」
少年「……そうだね」
少女「前よりももっと、あったかく感じる」
少年「………うん」
少女「夢かもしれない………」
少年「夢じゃないよ」
少女「うん……」
少年「だいぶ歩いたよね」
少女「うん」
少年「結構疲れちゃった。キミは大丈夫?」
少女「うん………でも」
少年「ん………? 手?」
少女「…………」
少年「つなぎたいの?」
少女「ん………」
少年「そっか。いいよ」
少女「…………」
少年「あとどれくらいだろうね」
少女「わかんない」
少年「でもなんか、どこまでも行けそうだ」
少女「うん」
少年「夕焼けだ」
少女「………すごい」
少年「綺麗だね」
少女「うん!」
少年「……キミは、もっともっと笑ったほうがいいね」
少女「!」
少年「今は、笑ってたよ」
少女「ほんと?」
少年「うん。すごく、すごくかわいいと思った」
少女「…………」
少年「あ、その顔もすごくいい」
少女「ど、どの顔がいいの……」
少年「あはは、複雑な表情になってる」
少女「だって………」
少年「…………」
少女「…………」
少年「…………」
少女「…………」
少年「ん………」
少女「あ………」
少年「……寝ないの?」
少女「…………平気」
少年「そっか。ごめんね……」
少女「ううん」
少年「もうちょっとだけ……」
少女「うん」
少年「すぐ起きるから……」
少女「うん」
少年「どんぐりって食べられると思う?」
少女「わかんない」
少年「だよねえ」
少女「焼けば、いけるかも」
少年「火かあ。起こせるかな」
少女「木と木で、こう……」
少年「やったことあるの?」
少女「ない……けど……」
少年「そっか。でも、やってみよっか」
少女「うん!」
少年「ごめん………今日はあまり進めなかった」
少女「ううん……いい」
少年「明日はもっとがんばって、歩くよ」
少女「大丈夫」
少年「でも、逃げないと」
少女「うん………でも」
少年「大丈夫、大丈夫だから」
少女「うん………」
少年「……おやすみ」
少女「……おやすみ、なさい」
少年「あ、この葉っぱ……」
少女「?」
少年「ほら、傘になりそうじゃない?」
少女「ほんとだ!」
少年「持ってみて」
少女「こう?」
少年「あはは、似合うなあ……」
少女「そ、そう?」
少年「うん、すごくよく似合う」
少女「これ………宝物にする……」
少年「えー……葉っぱだよ?」
少女「いいの」
少年「……そっか」
少女「うん」
少年「………なんかさ……寒くない……?」
少女「平気」
少年「そっかあ……」
少女「寒いの……?」
少年「んー……寒いんだか暖かいんだか、よくわかんないや……」
少女「………?」
少年「あはは………変な、天気だね」
少女「うん………」
少年「……あっ………っと」
少女「!!」
少年「だいじょうぶ……ちょっと、つまづいただけだよ。あはは」
少女「………休もう?」
少年「ううん。平気だよ。ちょっと、ちょっとだけ疲れただけだからさ……」
少女「でも………」
少年「ごめ………ん。肩……借りちゃって……」
少女「ううん。平気」
少年「重くない……?」
少女「軽い……軽いからだいじょうぶ」
少年「そっかあ………はは、もともと軽いからなあ、僕」
少女「そうなんだ」
少年「うん……喧嘩とか……弱くてさ………」
少女「そっか」
少年「うん…………」
少女「だいじょぶ……?」
少年「うん……平気………だよ……」
少女「食べて」
少年「…………これ、なに?」
少女「肉……。食べたら、元気でるから」
少年「………………ねえ、手、見せてくれる?」
少女「…………やだ」
少年「……手、見せて?」
少女「…………………」
少年「………………どうして、こんな…………」
少女「また生えてくるから、平気」
少年「……………そっか」
少女「うん」
少年「いただきます」
少女「……………」
少年「ありがとう………おいしいよ………」
少女「うん…………うん………よかった………よかった……………」
少女「…………」
少年「…………あと、どれくらいかな」
少女「きっと、もう少し」
少年「結構……歩いたもんねえ………」
少女「うん」
少年「…………」
少女「…………」
少年「…………明日にはさ」
少女「うん」
少年「海とか見えたら、いいな………」
少女「うん、うん」
少年「山はもう、飽きたよねえ」
少女「うん…………うん……」
少年「…………」
少女「…………」
少年「朝陽だ………」
少女「うん」
少年「………起きなきゃ……」
少女「…………」
少年「ああ………」
少女「……………」
少年「あの………さ………」
少女「ん………?」
少年「………好き……だよ………」
少女「……………」
少年「……………」
少女「……………うん」
少年「……………」
少女「……………」
少年「……………」
少女「……………」
少年「……………」
少女「……………」
少年「……………」
少女「……………」
少年「……………」
少女「……………」
少年「……………」
少女「わたしも…………」
少年「……………」
少女「………………………好き」
少年「……………」
少女「……………」
少女「……………」
少女「……………」
少女「……………」
少女「……………」
少女「……………」
少女「……………」
少女「……………」
少女「……………」
少女「…………あ………」
少女「……ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
男「結局、二人とも見つからなかったみたいだ」
女「そう………」
男「町までの道くまなく探させたけど、とうとう見つからなかったらしい」
女「どこへ行ったのかな」
男「わからん。ただな」
女「ただ?」
男「指が落ちていたそうだ」
女「指?」
男「しかもかじった跡があるような、女の子の指だそうだ」
女「…………」
男「なにを想ってたんだろうな」
女「…………」
男「………行こう」
女「うん」
少女「ほら……朝陽」
少女「ここは、夕陽も綺麗に見えるね」
少女「…………ねえ」
少女「……海、来たよ」
少女「飽きたって言ってたから……山は…………」
少女「…………ねえ」
少女「わたし、不死で良かったよ」
少女「…………約束通り」
少女「ねえ………」
少女「ここで何回も………陽を眺めていられるから…………」
少女「ねえ」
少女「ねえ………」
少女「………………………………………ねえ」
おわり
101 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/16 10:23:17.86 gMnaX9ms0 76/82終わりです
ちょっと長かったけど見てくれた人ありがとう
102 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/16 10:24:56.97 ZGO8HaEhO 77/82あかん
103 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/16 10:25:33.91 GV4/mfj+P 78/82あかあああん
104 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/16 10:29:35.63 0TMyRJs00 79/82何で少年すぐ死んでまうの…乙
105 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/16 10:32:25.76 GnJgKCoq0 80/82乙でした
せつない…
106 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/16 10:37:20.30 dEGn86Vo0 81/82つまりこれ、鳳の女も助からんというわけか・・・
107 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/11/16 10:44:58.82 5ogZwVLvO 82/82なるほど、ね
お疲れ様。良かったよ
ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか