男「はい?」
お嬢様「貴方のこれから過ごす未来が見られるのです。どうでしょう?」
男「別に良いよそんなの」
お嬢様「そうおっしゃらず」
男「間に合ってます」
元スレ
お嬢様「未来を見たくはありませんか?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1351254340/
お嬢様「自分の未来が分かるのですよ?楽しそうじゃないですか」
男「生憎だけど僕は今の人生が気に入ってるんだ。未来がどうなろうと知ったことじゃないね」
お嬢様「ふぅむ」
男「それと」
お嬢様「はい?」
男「こんな人の居ない場所でずっといると危ない。早くお帰りなさい」
お嬢様「大丈夫です」
男「?」
お嬢様「大丈夫なんです」
お嬢様「ところで」
男「なんだい」
お嬢様「見たくはありませんか?」
男「もうその話はいいよ」
お嬢様「知り合いの方の未来でもいいのです」
男「・・・・・知り合い、か」
少しくらいは付き合ってみてもいいかもしれない
どうやらこのお嬢様も騙すつもりはないようだ。
男「まぁ、そこまで言うなら」
お嬢様「よかった! なら急いで準備をしませんと」
男「準備?」
お嬢様「未来を見る準備ですよ」
お嬢様が取り出したのは何の変哲もない鏡だった。
男「これで何をするのです?」
お嬢様「鏡を見ておいてください」
男「はぁ」
お嬢様「見てます?」
男「見てますよ」
鏡を見続けているが、一向に何も起きない。
そこに映るのは毎朝洗面台で見る自分の顔だ。
男「・・・・・・なにも起きないんだけど」
そう言って顔を上げると、もうそこに居たお嬢様は既に居なかった。
男「誂われてたって訳か」
全く、酷い誂い方もあるもんだと憤りつつ帰宅する。
いつものように風呂に入り、テレビをつけ、ビールを開ける。
男「何が未来だ」
ちょっと信じてしまった自分が情けなく思うね。
テレビに向かって愚痴の一つでも言いたくなる気分はどうしようもない。
だけども反応をしないテレビに悪態をつきつつチャンネルを回す。
いつものようにお笑い芸人が立ち並ぶバラエティ番組にチャンネル止めて、一旦台所へ行く。
もうビールが空だ。
男「ん?」
するとそこに一本の電話が来た。
相手は長らく会っていなかった妹からだった。
なんとも言えない挨拶を交わしつつ妹が本題に入る
妹『明日行くから』
どこに行くんだと聞けば何を言ってるのお兄ちゃんのところだから、と一蹴されてしまった。
この汚い部屋に何をしに来るんだ。
妹『掃除』
なるほど。
男「じゃあまぁ、気をつけてこいよ」
妹『わかってるって。』
そういって電話を切った。明日は少し多めに食料を調達しないといけないようだ。
次の日の朝
男「・・・・もう10時か」
一人暮らしが長いせいか、誰も居ないのに声に出す。
恥ずかしいね。
誰に恥じてるかわからないが時計から視線をそらす。
視線を逸らした先には電話があり、赤いランプが点滅していた
どうやら妹から着信があったらしい
男「・・・・・・・・もしもし」
急いで妹に電話を掛ける
妹『もう駅に着いてるんだけど』
男「迎えに来いってか?」
妹『当然でしょ。結構遠いじゃないのお兄ちゃんの家』
男「迎えと言っても俺は車持ってないのは」
妹『知ってる』
男「知ってるなら・・・」
妹『・・・・・行き方忘れたの』
全く。素直じゃないらしい。
着るものとりあえず、と言った感じでそこらへんに脱ぎ散らかしていたGパンとパーカーを羽織って外に出る
結構遠いと言われたが、まぁ3km程度の距離だ。そうでもない。
少し早歩きすることにした。怒られかねないからね。
ある程度歩くと、昨日お嬢様に騙された場所に差し掛かった。
ここは駅と僕の家の間を最短距離で行く時に通る場所で、滅多に人は来ない。
ふと、昨日の会話を思い出す。
お嬢様『知り合いの方の未来でもいいのです』
知り合いってのは妹もはいるのかね。
あいつの未来は少しは気になるかな、どんな彼氏が出来るのやら。
お兄ちゃんは心配だよ、と。
そんなことを考えてる内に駅へ着いた。
妹はどこだろう、と見回していると後ろからお兄ちゃんと呼ぶ声が聞こえる。
どうやら駅向かいのコンビニに立ち寄っていたらしい。
駅とコンビニとの間には大きな道路が有るが故に、見つけたからといってすぐに駆け寄ることも出来なかった。
ご立腹らしく、横断歩道の向こうで大きく手で作ったバッテンを掲げていた
別に僕は悪くないのに。
信号が青になり、妹も僕も、横断歩道を渡ろうとした時
―――妹が車に轢かれた。
轢かれた。その事実を見た瞬間、僕は自分の顔を拝むことになる。
男「はっ・・・・はっ・・・・・・・」
おこった出来事のせいで動悸が激しい。
心臓が血を全身に送り込む音がする。
男「い、妹はどこだ!!」
いきなり移り変わった景色に唖然とした。
なんで僕は自分の顔を見ているんだ。
すると、前から女の声がした。
お嬢様「どうでした?見てきた未来の感想は」
男「み・・・未来・・・?」
お嬢様「今見てきたのでしょう?貴方・・・ではなく、貴方の知り合いの未来を」
男「なにを言って・・・・」
と言った瞬間気づく。
・・・・・・此処は昨日、お嬢様と出会った場所だ。
男「・・・・じゃあ今僕は未来を見てきたって言うのか?」
お嬢様「言ってるじゃありませんか? 見てきたのでしょう?と」
男「・・・そう、か。未来・・・か」
自分のさっき遭遇した出来事が今現実で起こっていないことに安堵する。
よかった、妹は轢かれてないらしい。
だがちょっとまて。未来?未来といったよな?
男「一つ伺ってもいいか」
お嬢様「はい?どうぞ」
男「未来ってのは・・・これから起こる事実なんだよな?」
お嬢様「はい。未来ですから」
男「・・・・変えられたりしないのか?その・・・ほら」
お嬢様「変える?面白いことをおっしゃいますね」
ふふふ、と笑みを浮かべる。
その笑みが、僕から見た時、いや光の具合かも知れないがね。とても怖いものに見えたのさ。
お嬢様「未来は未来ですよ?これから起こること、なのです」
男「・・・・・・・・・」
絶句した。やっぱり怖いものだよあの笑みは
お嬢様「ああ、貴方に未来を見せてよかった」
男「何でだ」
自然と声が低くなる
お嬢様「だって貴方、すごく今感情が表情に出てるわ。焦りとか苛立ちとか」
男「誰のせいだ」
お嬢様「私のせい?」
男「わかってるなら、未来の変え方を」
お嬢様「だから、未来は未来と言ってるじゃありませんか」
男「なっ・・・」
お嬢様「そう・・・・・未来は、これから起こること。」
全く、酷いいたずらにあったもんだと憤りつつ帰宅する。
いつものように風呂に入り、テレビを付け、ビールを開ける。
男「何があったんだよ、全く」
狐に騙されたのか、全く情けないね。
テレビに向かって一人で愚痴をつぶやく気分になるのも仕方ない。
僕はあそこで何をやってたんだか。早めに家に帰るつもりだったのにさ。
適当にチャンネルを回すと、どこかで見たことがあるようなバラエティ番組があっていた。
まぁいまのバラエティ番組なんてどれも似たようなので区別がつかない。
なぜかビールが進まない。ツマミでも取ってくるかと台所へ立つ。
男「ん?」
するとそこに一本の電話が来た。
相手は長らく会っていなかった妹からだった。
ありがちな挨拶を交わしつつ妹が何かお願いしたそうにする
妹『明日行くから』
なんだお願いじゃないのかと思いつつ、とりあえずどこへ行くのかと聞く。
お兄ちゃんの家に決まってるじゃないと一蹴されてしまった。
この汚い部屋に来てどうするんだ。
妹『掃除』
なるほど。
男「じゃあまぁ、気をつけてこいよ」
妹『わかってるって。』
そういって電話を切ろうとしたが、別れ際にもう一度気をつけてこいよと言うと心配性キモいと言われた。
なぜかとても心配なんだよお兄ちゃんは。
次の日の朝
男「・・・・・もう10時か」
一人暮らしが長いせいか、誰も居ないのに声に出す癖がある。
意識すると恥ずかしいね。
誰に恥じてるかわからないが時計から視線を逸らす。
視線を逸らした先には電話があり、赤いランプが点滅してた
どうやら妹から着信があったらしい
男「・・・・・・・・もしもし」
急いで妹に電話を掛ける
妹『もう駅に着いてるんだけど』
男「迎えに来いってか?」
妹『当然でしょ。結構遠いじゃないのお兄ちゃんの家』
男「迎えと言っても俺は車持ってないのは」
妹『知ってる』
男「知ってるなら・・・」
妹『・・・・・行き方忘れたの』
全く。素直じゃないらしい。
着るものとりあえず、と言った感じでそこらへんに脱ぎ散らかしていたGパンとパーカーを羽織って外に出る
結構遠いと言われたが、まぁ3km程度の距離だ。そうでもない。
少し早歩きすることにした。怒られかねないからね。
ある程度歩くと、昨日お嬢様に騙された場所に差し掛かった。
ここは駅と僕の家の間を最短距離で行く時に通る場所で、滅多に人は来ない。
ふと、昨日の会話を思い出す。
お嬢様『知り合いの方の未来でもいいのです』
知り合いってのは妹もはいるのかね。
あいつの未来は少しは気になるかな、どんな彼氏が出来るのやら。
お兄ちゃんは心配だよ、と。
そんなことを考えてる内に駅へ着いた。
妹はどこだろう、と見回していると後ろからお兄ちゃんと呼ぶ声が聞こえる。
どうやら駅向かいのコンビニに立ち寄っていたらしい。
駅とコンビニとの間には大きな道路が有るが故に、見つけたからといってすぐに駆け寄ることも出来なかった。
ご立腹らしく、横断歩道の向こうで大きく手で作ったバッテンを掲げていた
別に僕は悪くないのに。
信号が青になり、妹も僕も、横断歩道を渡ろうとした時
――――あれ、これ妹が轢かれるんじゃないのか?
結果から言うと、妹は轢かれた。
それはもう無残な姿だった。
妹から出た液体がさながら現代アートのように地面に真っ赤なバラを描いていた。
涙も出ない
声も出ない。
周りから叫び声が聞こえ、パトカーのサイレンが聞こえても
僕はその場に立ち尽くしていた。
なぜなら、というと
衝撃だったのもある。
妹が轢かれたという事実だから、というのもある。
しかし何よりも僕をその場から動けなくさせた事実は、僕が『妹が轢かれるという未来』を忘れていたということだ。
警察でのいろいろな用事を済ませると、僕が開放されたのは夜中の事だった。
このまま家に帰ろうと思っていたが、その前に一つやらなくてはいけないことがあった。
あのお嬢様に会わなくてはいけない。
アイツには言わなくちゃいけないことが山ほどある。
ふらふらとした、我ながら覚束無い足取りで歩く。
男「妹・・・・」
なんであの記憶がなかったのか
そしてなんで今になってあの記憶が戻ってきたのか
畜生、となんども口の中で叫ぶ。
自然と歩く速さも早くなってくる。早くお嬢様にあってこの憤りをぶつけたい。
でないと収まらない。
いつもだったら十分以上かかる道のりを5分で歩いていたようで
いや、もう走っていたのかもしれない。
走りながら殴りかかりそうな勢いだ。
そういうわけで、僕は思った以上の速さで彼女の居た場所へ来た。
この場所に彼女がこの時間に居るという確証はなかったが。
お嬢様「あら、遅かったですね?」
日も照って居ないのに日傘をさしながら、優雅に椅子に座るお嬢様が待っていた。
男「なんで・・・!!!」
なんで、なんでなんで、と意味のない問を投げかける
頭がこの時はカッカしていたと今は反省してるよ。
お嬢様「まぁまぁ落ち着いて貴方様」
男「落ち着いていられるか・・・!」
お嬢様「貴方の一つの『なんで』にまず答えて差し上げましょう」
男「・・・・・答えられるのか」
わかっているのか、と言うニュアンスも込めて、僕は低く言う
お嬢様「何で記憶をなくしていたか?でしょう?」
男「・・・ああ」
お嬢様「正直これさえ答えれば後の何では芋づる式に納得できそうなものですが」
男「いいから答えてくれ」
お嬢様「簡単ですよ。貴方に見せたのは未来です。だからアレが起きるのは確定事項なんですよ」
たとえ私からあの未来を見せられてもね、と彼女は付け加えた
お嬢様「世界の不可逆性と言いましょうか。まぁあの未来が起きるためには貴方の記憶がなくなるのが妥当だと判断されたんでしょう」
男「だからってなぁ・・・!」
お嬢様「だから?」
男「こんなの惨すぎるだろう!」
声が震えてきた。涙が出そうだ
お嬢様「ああ、泣かないでください」
男「お前は何ものなんだ・・・くそっ」
お嬢様「何者?獏の亜種みたいなものですかねぇ」
男「やっぱり人じゃないんだな」
お嬢様「人なわけ無いでしょう。貴方は人の未来を誰かに見せれます?」
男「見せれるわけ無いだろう」
お嬢様「そういうことですか」
男「・・・・・・・」
お嬢様「不満そうですね」
男「当たり前だ・・・」
男「だいたい獏ってのは夢を食べるんだろう?未来を見せて人を傷つけるのとは大いに違う」
お嬢様「人の夢ってイコール希望みたいな感じじゃありません?人の不幸は蜜の味、私はそのみつを舐めるさながら蝶々と言う名の獏」
男「都合がいいんだな」
お嬢様「ええ。私のようなモノの居る世界は都合がいいんです」
男「ならその都合の良さに一つ付け加えろ」
お嬢様「はい?」
男「過去を変えられると」
お嬢様「そう言われましても」
男「世界の不可逆性がなんとかと言ったね?だったら過去を見ればその過去もその力で本当の世界になるんじゃないか」
お嬢様「矛盾してますよ」
男「この際どうでもいいんだ。妹が・・・妹が助かれば」
お嬢様「そうですか」
男「お前が未来なんか見せたからだ。俺は過去が変わらなければお前を殺す」
お嬢様「まぁ物騒ですね」
お嬢様「ですが・・・まぁ獏はもともと悪夢を払う生き物とされています」
男「なら・・・!」
お嬢様「やるだけやってみましょうか」
そういってお嬢様は考えこむ
お嬢様「貴方が見た未来は確か、妹さんが轢かれるという瞬間まででしたよね?」
男「ああ」
お嬢様「なら、彼女が轢かれるという事実は消せません」
男「っ!ならダメじゃないか!」
お嬢様「待ってください。轢かれても死ぬとは確定していませんよ?」
男「じゃあ・・・」
お嬢様「ですがいま貴方が経験してきた事実は掻き消すことはできません」
男「ヤル気有るのか・・・!」
お嬢様「ありますよ?」
日傘をくるくる回しながらニコニコしているその姿は遊んでいるようにしか見えない
お嬢様「閃きました」
男「!」
お嬢様「妹さんをゾンビにしましょう」
男「は?」
お嬢様「お亡くなりになられました。でも生き返りました。どうです?」
男「馬鹿にしてるのか」
お嬢様「馬鹿にしてなんかいませんよ」
男「・・・・・・じゃあ兎に角未来を見せてくれ」
お嬢様「わかりました」
正直、半分ぐらいはこの時点で無理かもしれないと思っていた。
妹のことは諦めかけてた。
事実なら仕方ない・・・とか思っていた。
男「でも・・・妹が・・・妹が元気な未来があるなら・・・!」
気がつくと自分の部屋に居た。
妹「なにやってんのお兄ちゃん」
? 本当に僕は何をやってたんだ?
妹「間抜け面」
あれ、すごく部屋綺麗になってるな
妹「掃除したしね」
さすが僕の妹
妹「お兄ちゃんの妹じゃなくても」
酷いなぁ
妹「ひどくない」
といって何かを取りに行く妹
ところでさ、と言いながら味噌汁を持ってきた
妹「味見してみてよ」
男「ほう?お前の料理は美味しいから期待しておくぞ」
妹「・・・・うん」
なぜか妹はすこし言葉に詰まる
男「・・・・・なんか少し塩辛いかも」
妹「あはは・・・やっぱり?」
男「なんでだ?間違えて塩突っ込みすぎたのか?」
妹「いいや・・・・違う。分かんないの」
男「分かんないってなんだよ」
妹「ほら・・・・だってさ」
妹「私・・・・・・ゾンビじゃん?」
彼女の頬から涙がこぼれた。
男「っ!!!!」
妹の涙を見た途端に、また見覚えのある夜のあの場所へと戻った。
男「こんなのが・・・・!!!」
こんなのが元気な妹って言えるのか・・・・
張り上げようとした声は嗚咽にまみれ、デクレッシェンドに小さくなる
お嬢様「まぁ、こんなものですよ」
お嬢様「私は人の不幸のみつを舐めるモノと言ったでしょう?」
お嬢様は椅子から立ち、くるくると回りながら踊る
その姿は実に軽やかで、楽しそうだった。
お嬢様「ああ、なんて楽しいんでしょう」
お嬢様「私、今すごく気分がよろしいんですよ」
お嬢様「なので、もう一つ貴方に素敵な夢を。そう、貴方の知り得ないはずの夢を見せてあげましょう」
お嬢様「といってももうすぐに忘れてしまうんですがね」
ぼんやりとしている
周りが真っ白だ。一周見回すが、何も見えない。
ん?
アナウンサー「・・・・・・の・・・で」
声のする方へ振り向くと、何もなかった空間に、テレビが出てきた。
ブラウン管?このご時世にブラウン管とはなんとも
アナウンサー「次のニュースです」
どうやらニュース番組らしい。
他にやれることも無いので、そのニュース番組を見ることにする。
アナウンサー「―――――今日未明、山奥で20代頃とみられる男性の死体が発見されました」
物騒だな
アナウンサー「首に切り傷があり、出血多量が死因だと思われます」
自殺かね
アナウンサー「手にはナイフを持っており、自殺とみられています」
やっぱりか
アナウンサー「傍らには10代女性の白骨死体があり、事件の可能性もあるとみて―――――」
そこで僕の意識は途切れた。
お嬢様「人の不幸は蜜の味・・・・とは言いますが」
お嬢様「なによりも美味しい蜜というのは」
お嬢様「絶望の谷から這い上がった人間を絶望の谷へとまた叩きこむ・・・」
お嬢様「―――この瞬間が一番・・・ですよね?」
END