ーーーーーーーー11時間後
王「・・・さて、お前はどこまで人間の事を知っている?」
勇者「・・・・今の人々に自由はない」
王「・・・・そこまで知っていたとはな。流石は《王国の英雄》といった
ところか」
流暢に言葉を続ける。
王「・・・当然だろう?下僕が力を得れば、その分反乱を起こす危険性は
増す。それを抑える手段が無ければこの国は成り立たない」
勇者「刃向かう者は皆殺しか」
元スレ
魔王「お前の泣き顔が見てみたい」
http://hayabusa2.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1325736048/
王「・・・王に対してその口の聞き方、気に食わんなぁ」ドガッ
勇者「ぐっ・・・・そんな事を護衛の前で話していいのか」
王「かまわんよ。なぜならこいつ等もお前同様に全てを知っている。
・・・この期に及んで他人の心配とは呆れた奴だ」ガスッ
戦士長「・・・・」
護衛達「「・・・・」」
王「くはは、こいつ等は私に逆らう事はできない。何故かはもう
わかるな?」
勇者「・・・・人質」
王「そうだ。私はこの王国周辺に存在する全てのオーブを操る事ができる。
それはそのオーブを宿す者の命を掌握している事と同義なのだよ」
王「この私に刃を向ける程の猛者だ。良い働きをしてくれる」
勇者「・・・なぜそんな事が」
王は嘲笑めいた笑みを勇者に向けた。
王「おや?流石の勇者殿もこの私の秘密についてはわからなかったか」
王「お前は生まれながらの化け物だが、私もまた化け物となったのだ。
・・・・何百もの《魂のオーブ》を体内に取り入れる事でな。私には
神から与えられた適正があった。だからこそ私は王国周辺全ての
オーブを従えることができる」
勇者は静かに王を見据える。
勇者「・・・・・なぜ貴方はそこまでして力を望む」
ぎしり、と王の表情が歪む。
王「・・・・貴様がそれを言うか。お前にはわかるまい、生まれながらに力を
持たぬ者の思いなどな」
王「お前ら《神の子》の伝承を初めて知った時、私は何を想ったと思う?
この世界の真実を我ら人間は何も知らずに生きてきたのだ!!!」ガンッ
王「力のある者だけが世界の運命を決めるというのか!?我らのような矮小
な存在では自分の運命を決める権利さえないと!?・・・・そうではない!我らこそが至高の存在よ」
王はまるでこの世の全てを憎んでいるかのように吼える。
王「その時私は誓ったのだ!!!魔王が!勇者がこの世界を変えるというのなら
我らがそれを創れば良いとな!!我らは《勇者》を創った!!!《魔法》を
魔族から奪った!!この世界を変えるのは我ら人間こそふさわしい!!」
その表情は狂喜に変わる。
王「・・・そして我らは力を得た。魔族などというゴミ虫共よりもな」
勇者「・・・でもそれで民が苦しめば意味なんかない」
王「くははッ!!王の為に身を捧げられず何が民!?誰が力をくれてやったと
思っている!?無能な下僕共をここまで昇華させてやってのはこの私だぞ!!!」
王は我を謳う。
王「私こそが・・・・・神なのだ」
王「全てを手に入れた私にとってただ一つ懸念が存在した」
勇者「・・・それが僕か」
王「・・・これまでの歴史でも世界が変わる直前に《神の子》は誕生した。
それが私の最大の障害だった」
王「村からお前の事を聞いた時には全身が震えたよ。ああ、ついにこの時が
来た、となぁ。・・・まさか《王国の英雄》が育てていたとは思わなかったがな」
王「あいつは厄介な奴だったよ。下手に殺せばお前は心の枷を失い暴走
する危険性があったからな。生かしておくべきではなかった」
勇者「・・・でも貴方は父を殺した」
王「くはは、まさかお前の方からのこのこと王国に来てくれるとは思って
いなかったぞ?できる事ならお前にオーブを埋め込んで手駒にしたか
ったのだがな、欲をかきすぎたせいか貴重な配下達を失ってしまった」
王「お前さえこっちに来てしまえば《王国の英雄》の死など幾らでも
ごまかせる。あとはお前に父の死を乗り越えるだけの勇者の意義
を与えてやればいいだけだ」
勇者は力なく笑う。
勇者「あはは、・・・僕は最初から貴方の掌で踊っていただけだったんだな」
王「今更気づいても遅い、そしてそれら全ては今報われる。20年前に
お前に打ち込んだ楔はここまで大きく、貴様を蝕んだ!!!・・・・本当は
この部屋には数々の仕掛けが施されていたのだがな、使う必要性はないようだ」
お見せできなくて本当に残念だよ、と狂ったように王は笑い続ける。
王「安心しろ、私は寛大だ。・・・・もうこれ以上苦しませずに逝かせてやる」
勇者は静かに口を開けた。
勇者「・・・・貴方は嘘をついている。僕が貴方にとって最大の障害なら、
殺すという手段よりもっと危険の少ない手段で僕を遠ざければ良か
った。違うか?」
勇者「・・・・貴方は僕の力が欲しいんだろ?《神の子》の力を貴方は求めて
いる。オーブを僕に埋め込もうとしたのも手駒にする為じゃない、
・・・従順な研究材料にする為だ」
王「・・・・よくそこまで気づいたものだ」
笑みを絶やさずに王は言葉を続ける。
王「そうだ、当たり前だろう?使いようによっては世界を思い通りに
改変できる程の力だ。・・・欲しない方がおかしかろう」
王「・・・お前の血肉は人間と変わらん。となればお前の力の根源は」
勇者「《魂》の力か」
王「くはは!正解だよ!私はお前を殺し、その神から授けられた《魂》
を我が物にする!!私にこそその神たる力は相応しい!!!」
勇者「・・・その強欲が世界を滅ぼすのがわからないのか」
王「お前の意見など聞いていない!これからは私が《神の子》となり、
世界を導くのだからなぁ!!お前はもはや世界に不要な存在となるのだ!!!」
>>798 コピペだから落ち着いて・・・
勇者「寛大な王様なら、これから僕がいう事も許してくれるだろう?」
王「・・・・お前は何が言いたい?」
勇者「僕は何も、ただ20年かけて魔王城に向かったわけじゃない。
僕は貴方が知らない魔法をいくつか使える。・・・分身魔法はその一つだ」
王「・・・・馬鹿、な。分身魔法だと!?」
勇者「できればこの魔法は使いたくなかった・・・、魔脈の事は知ってい
るな?・・・・魔力は世界を巡っている、その溜り場の事を」
王「・・・・まさ、か」
王の顔が苦渋に満ちる。
勇者「20年かけて僕は何百もの分身を魔脈に配置したんだ。・・・確かに
《神の子》としての魔力が半減以下にまで弱体化した僕では
世界を改変する事はできないかもしれない」
勇者「でも世界の巡る魔力を借りれば話は別だ」
王「貴、様・・・・ッ!!」
勇者「王はなぜこの地に居城を構えたのか、それは簡単な事だ」
勇者「・・・・ここには莫大な魔脈が眠っているからだ。この地の力を借りる
事無しには僕の目的は達成できない。・・・・どうして僕が
分身ではなくわざわざ本体でここまで来たと思う?」
勇者はにこりと笑う。
勇者「僕の分身が既に王国の中央で魔法陣を構築している。・・・それを
邪魔させない為だよ」
王に先ほどの狂喜と余裕はもはや存在しない。
勇者「貴方が僕をここでおびき寄せたんじゃない、僕が貴方をここに
閉じ込めたんだ」
勇者「僕は最後まで待ち続けた。王、貴方が民を思う言葉を発するまでね。
これは貴方が選択した事だよ。僕も今から自分のする事が良い未来を描く事を願う」
王「ゆ、勇者ぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
王の絶叫に勇者は穏やかな笑顔で応える。
勇者「もう遅い」
世界を改変する魔法が発動した。
ーーーーーーーーー魔界・上空
魔王「むむむ、まだ着かないのか?」
その顔には焦りの色が見えている。
側近「・・・そんな事を言っては飛竜さんに失礼ですよ」
飛竜「きゅるる・・・」バサッバサッ
魔王「あ・・・、う、すまない」
側近「しょうがないでしょう?人間と協定を結ぶなんてそんな
軽々しく決まるものじゃないんですから。きっと魔王城は
今も混乱の嵐ですよ?」
魔王「無理やり決めたようなものだからなぁ・・・・、兵士達は賛成
してくれだが・・・・・・これはッ!?」
魔王の目が上空に固定される。
側近「なんなの・・・・これ」
赤い空が数え切れない程の魔法陣で埋め尽くされている。その一つ一つ
からとても自分では理解できないほどの構成の緻密さが読み取れ、歯車のように蠢いている。
空に描かれるこの壮大な魔法陣は一体どこまで続いているのか。
側近「・・・・勇者」ボソッ
だがそれだけでは終わらなかった。
魔王「・・・・・嘘だろう?空、が・・・・」
空の焼けるような紅は、美しく澄んだ青に変わっていた。
魔王「・・・魔力が減少していないだと・・・・!?」
人間界の空の下では力の強い魔物は充分な力を発揮できない筈だ。
・・・・何が起こっている?
魔王「・・・・急ぐぞ」
側近「・・・はい」
飛竜「きゅるるるるぅ!!」バサッ
ーーーーーーーーーー10日後 王国・下町
魔王「・・・ここが人間の居城か、広いな」
魔王の声は暗く、沈んでいる。
側近「・・・・人間は私達にも劣らぬ魔力を有している、と勇者は言っていましたね」
勇者は自分自身のやるべき事を成したのだ。
魔王「・・・なぜ人間からごく微量の魔力しか感じ取れない。・・・本当にこれを勇者
がやったと言うのか」
人々の表情は暗い。
側近「・・・会えばわかります」
魔王「・・・そう、だな」
魔王の声は少し震えていた。
決して考えてはいけない事が脳裏から離れない。
ーーーーーーーーーーー王国・城
王「・・・来ると、思っていた」
その顔はやつれ、その眼は淀んでいる。
人間の王の様はこんなものなのか、と魔王は内心で落胆する。
魔王「・・・全てを知っているようだな」
王は皮肉げに笑い、はき捨てる。
王「ああ、そうだな。少なくとも貴様らよりはな」
魔王「・・・では早速、私達魔族と協定をむすんでもらえるか」
王「くはは、断る道理などなかろう。今の私達人間では貴様には勝てん」
魔王「・・・人の王よ、一つ聞いても良いか」
王「・・・いいだろう」
魔王「・・・勇者は今どこにいる?」
・・・勇者のあの膨大な魔力が王国で感じられない。
王は狂喜を孕んだ笑みを浮かべた。
王「くはは、そんなに知りたいか」
王「・・・勇者は死んだよ、無様になぁ。くは、くははははははははははは」
馬鹿な。
馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な。
勇者、お前が死んだだと?
・・・・そんな事があり得るわけないではないか。
体が重い、目の前が暗い、息が苦しい。
・・・・体の震えが止まらない。
魔王「・・・・嘘、だな」
王「・・・くはは、何故そう思う?」
魔王「我が城を勇者が出る前まで勇者は私など比較にもならんぐらいの
膨大な魔力を有していた。・・・お前に殺されるなど有り得ない」
王「だが勇者が私の前にやってきた時は搾りかす程の魔力しか残って
いなかったぞ?」
側近は王を睨む。
側近「・・・そうならないから勇者の魔力は膨大だと言ったのです」
王「く、くはは、くははははははははは!随分と信頼されていたようだな。
いいだろう、・・・絶望を貴様らに与えてやる」
王は懐から翡翠色の水晶を取り出した。
王「この魔具が何かは貴様らも知っているだろう?」
側近「・・・《記憶の水晶》」
王「そうだ。私の記憶の一部を貴様らに見せてやる」
水晶に内蔵された魔法が発動する。魔法陣が部屋の壁に投影され、
やがて映像を映し出す。
映し出されたのは狂気。
何千もの人々が一人の人間を囲み、罵声、呪い、憎しみを浴びせている。
・・・その中央に位置する人間を魔王は知っている。
魔王「・・・・勇、者」
ーーーーーーーー10日前
王「ぐっがっ・・・・あがぁっ」
力が消える。私がこれまで二千年もの間ずっと蓄えてきた力が。
戦士長「ぐっはぁ・・・うぐ」
護衛達「「ち、力が・・・」」
おのれ、おのれ、おのれ・・・・!!
王「貴、様ァ・・・・私に何をした?」ギロッ
勇者「・・・勇者はもう生まれない。・・・・その意味はわかるな?貴方の
計画の全ては潰えたんだ、これからは貴方達一人ひとりが
自分で運命を切り開いていく」
王「綺麗事をッ・・・・抜かすなぁッ!!!!!」ドガッ
王「貴様は!!自分が何をしたかわかっているのか!?われら人間を窮地に
追い詰めたのだ!!勇者の本分を忘れたか!!!」ドガッドスッバキッガスッ
勇者の血に濡れた唇が動く。
勇者「勇、者が人間を助けるって・・・・一体誰が・・・決めた」
王「・・・・ッ!!・・・・貴様はただでは殺さん!!貴様の慕う下僕共の前で!!!
全ての憎しみを身に受けながら死ぬがいい。・・・・連れて行け!!」
戦士長「・・・はっ、立て」
戦士長、護衛と勇者が部屋を出て行く。
王「・・・・もう全て、全て終わりだ。おそらく魔王共がこちらにやってくる・・・!!
協定を申しだされれば断ることはできん」
王は歪んだ笑みを浮かべている。
王「・・・だがただで終わるつもりはないぞ?・・・・勇者よ。貴様の努力の
全てを帳消しにしてくれるわ」
勇者「あはは・・・申し訳ないです、負ぶってもらっちゃって」
戦士長「このぐらいの事は何でもありません」スタスタ
暫しの沈黙が流れる。
戦士長「・・・・勇者様、折り入って申し上げたい事があるのです」
勇者「・・・僕は勇者なんかじゃありませんよ、人々を窮地に追い込んだ化
け物なんですから」
戦士長「貴方を助けたい。貴方様は私の、いえ、私達兵士の恩人なのです」スタスタ
勇者「・・・」
戦士長「この城の兵士のほとんどは子供や妻などの人質をとられていました。
・・・・貴方はそれを救ってくれた。あの邪悪な力があるかぎり私達
に未来はなかった・・・・」スタスタ
戦士長「だからこそ大恩ある貴方様を私達の命にかえてもお返しに救って
差し上げたいのです」スタスタ
勇者「・・・駄目ですよ。貴方達が死んだら、家族はどうするんですか」
戦士長の足が止まる。
戦士長「・・・・きっとわかってもらえます」
勇者「・・・それでも駄目なんですよ」
戦士長「・・・それはどういう意味でしょうか」スタスタ
勇者「僕は世界に存在するオーブを消しました。詳しく言えば一つの
肉体に魂は一つ、という定義を定めたんですけど。それは
世界全体の人間の弱体化を示唆します、当然人々は混乱に陥るでし
ょう。何せ自分の魔力がある日突然ほとんどなくなってしまうの
ですから。寿命も元の人間の平均に戻る」
戦士長「・・・・」スタスタ
勇者「当然人々は何故そうなったのか、誰がこんな事をしたのか、と
憎しみ、恨みを持ちます。それが誰かわからなければ人間は
前に進めない、乗り越える事ができない」
戦士長「まさか・・・・貴方様はそこまで」スタスタ
勇者「僕には勇者として化け物としてその役目を受ける義務がある。
僕がやった、という事実は変わりませんから。・・・こんな悲しい真実を
人々が知る必要なんてないんですよ」
戦士長「・・・その為に死ぬおつもりなのですか」スタスタ
勇者はあはは、と笑う。
勇者「そんなわけないじゃないですか。死んだふりでもして誤魔化したら、
さっさと逃げますよ。・・・化け物ですから殺されたって死にません」
戦士長「いえ、貴方様は世界を救う勇者様なのだと私達は思っております。
必ず死なないというお言葉・・・・信じますぞ」スタスタ
勇者「まかせてください」ニコ
ーーーーーーーーー3日後
勇者「この前はあんな事言っちゃったけど・・・・もう逃げるだけの魔力、
残ってないんだよなぁ」
勇者「・・・・僕が死んだら悲しむ人とか魔族っているのかな」
脳裏に浮かぶのは父の笑顔、魔王の笑顔、側近の笑顔、近境の村のみんな
の笑顔、これまで出会ってきた魔族、人々の笑顔。
勇者「・・・・申し訳ないなぁ」
勇者「まあ人は僕の事を憎むに決まっているけどね」
あはは、と笑う声が空しく響く。
勇者「・・・・あれ?」
自分の手を見ると微かに震えている事に気づく。
勇者「そっかぁ・・・・やっぱり死ぬのは怖いなぁ。昔はあんなに死にたがっ
てたのになぁ・・・・でも今は死にたくないや」
僕ってわがままなのかなぁ、とぼやきながら窓のない天井を見つめる。
勇者「・・・・でも僕は勇者だから・・・化け物だから」
ガチャリ、と扉の開く音がした。
戦士長「・・・・時間です、勇者様」
勇者「・・・今行きます」
見渡す限り人で埋め尽くされている。
「「そんな・・・・勇者様が私達を騙してたなんて」」
「「畜生。よくも俺達に呪いを・・・・!!」」
「「魔力を返せーーーーーーー!!!!」」
「「なんて悪魔なの・・・」」
「「早く死んでしまえーーーーーー!!!」」
幾千もの憎悪の塊が勇者に突き刺さる。
・・・僕はこんなにも多く、いやもっと多くの人をここまで苦しめたのか。
ジクリ、と心が焼ける。
王「静まれいっ!!!」
「「「・・・・・・・・」」」
王「・・・既に知っている者もいるだろう!!!」
増音の効果を持つ魔具を使って王は民に言葉を投げかける。
王「今から三日前、我らに卑劣なる呪いをかけた者がいた!!!そのせいで
我らの寿命は三分の一の減り、魔力をほぼ失った!!!」
王「だが我らは屈しはしない!!!その元凶たる者と捕らえる事に成功した
!!!それがこの男、勇者だったのだ!!!この化け物は我らにとって魔族
などよりも遥かに危険な存在だ!!!」
王「この場にてこの化け物を討ち、前に進もうではないか!!!」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」
地鳴りのように人々の咆哮が響き渡った。
魔具を外し、王は勇者に語りかける。
王「・・・どうだ勇者よ、貴様が自由にした者達に憎まれ、蔑まれる気分は・・・・!」
謝りたい。
勇者「・・・・嫌だ」
王「・・・どうした?死ぬのが怖くなったか」
王の顔が笑顔で歪む。
でも駄目だ。僕は最後まで人々に危害を加える化け物でなければならない。
勇者「死ぬのは嫌だ!!死ぬならお前らが死ねばいい!!離せえええええ!!!」
勇者は喚きながら、拘束から逃れようとする。
王は狂喜に歪んだ表情で吼える。
王「見るがいい!!!これがこの勇者の本性なのだ!!!民の事など何も考えて
はいない!!!取り押さえろ!!!」
護衛「「・・・・っは」」
護衛と戦士長の裏切られたような顔を見るだけで心が張り裂けそうに
なるよ。でもこうしなきゃ憎しみは受けきれない。
勇者「何をするんだ!!離せ!!離せよっ!!!」
「「この期に及んで命乞い?ふざけないでよ!!」」
「「こんな奴に期待してたのか私達は!!!」」
王「くははっはははっははははっはは!最後に貴様の本性が見れて嬉しいよ!
・・・・だがさようならだ」
勇者「やめろっ!!撃つなぁあああああああああああああああああ!!!」
これでいい。これでいいんだ。
王は叫ぶ。
王「撃てぇええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
泣くのは死んでからでいい、・・・だから今を精一杯生きるんだ。
勇者「・・・命ある限り、生きる事を諦めてはいけない」ニコ
そうだよね、皆。
王国に十数発もの銃声が鳴り響く。
それと共に民の歓声が轟き、黒い首輪は勇者の血で濡れた。
ーーーーーーーーー7日後
やめてくれ、と何度も願った。でも、銃撃は止まなかった。
勇者は・・・死んでしまったのだ。
王「くははははは!どうだ・・・・?何とも不様な最後だろう?」
魔王「不様などではない・・・・ッ!あいつは・・・・勇者は最後に笑っていた!
全てを背負って笑って死んでいったのだ!!」
王「全て、だと?・・・貴様にその全てがわかるとでも?」
魔王「・・・・何だとッ!」ギロッ
王「わからんよ!貴様は勇者を知っているだけで何も理解などしていない
!!なんなら教えてやろうか!?」
側近「やめなさいッ!!」
いけない。今の状態で全てを知ってしまったら魔王様は・・・・!!
王「ほう・・・、お前は何か勇者について知っているようだな」
側近「・・・・ッ!!」
魔王「そう、なのか・・・・?側近」
側近「それは・・・」
魔王の顔が悲痛に歪む。
魔王「ふふ・・・・なんだ、何も知らなかったのは私だけか」
魔王「・・・人の王よ、勇者について知っている事を話してほしい。・・・全て」
王は笑みを崩さずに口を開いた。
王「・・・いいだろう」
王「・・・これで勇者に関する話は終わりだ。どうだ?壮絶な生涯だろう?」
魔王「・・・・お前のせいで勇者は死んだのだな、この首輪も・・・」
王「ああ、あの呪いの首輪がなければ勇者をこの手で殺す事は叶わなかった
だろうな、それはそれ程に強力な魔具なのだ。込められた魔法を壊す事など
勇者にすらできはしなかっただろうよ、まさに最凶の魔具と言える」
王はにたり、と口を歪める。
王「・・・・だがそれを選択したのは勇者自身だ」
側近「・・・・何をいっているのですか」
王「・・・《元始の魔王》の魔具は何も使用者から代償だけを奪い取るもの
ではない。非常に強力な力を与えてくれるのだよ」
王「この首輪の代償は生命力の全てだ、人間には使えん。勇者は強大な魔力で代用したがな、
・・・・・まるで《神の子》の為に創られたかのような魔具だろう?」
魔王「・・・代わりにどんな力を得たのだ?」
王「自分が触れた者から命を奪う・・・・いわばライフドレインだよ。
これで勇者は正真正銘の化け物となったわけだ」
側近「・・・・まさか」
王「くはは、貴様らの思っている通りだ、勇者は自身の魔力が半分に低下した
だけで回復する事はできる。奴はその恐ろしい力を封じるために魔力の
回復力分を常に消費し続けていたのだよ!!死ぬまでずっとなぁ!!!」
王「なんという愚かな奴よ!首輪の力さえ使えば死ぬ事は無かったという
のに!!・・・・だからこそ首輪を奴に着けたのだがなぁ!!」
側近「・・・・これが人間なのですね」
側近は右手に魔力を集め、魔法陣を展開する。
だがその魔法が発動する事は無かった。・・・・魔王によって魔法陣が砕かれたのだ。
魔王「・・・うむ、勇者の見様見真似だがうまくいったな」
側近「・・・魔王、様?」
魔王「お前は私を守るのだろう?ちゃんと自分を保て」
静かな声が側近の耳に届く。
側近「・・・申し訳ありません」
魔王「・・・悪いがそのような安い挑発に乗る程、私は愚かではない」
王「・・・・ッく!!」
魔王は顔を憎憎しげに歪める王を静かに見据えた。
魔王「・・・・人の王よ、お前は私達魔族の協定の申し出をお前の一存で断る
ことはできない、そうだろう?」
魔王「・・・だからお前は考えたのだ、私にこの王国を落とさせれば良いと。
そうなれば人間との協定など結ぶ事はできなくなる。・・・なぜそこ
まで我らを憎む?どうして共に生きる事を拒むのだ」
王「だ・・・・まれ、黙れ黙れ黙れぇええええ!!!このゴミ虫共がぁ!!!貴様ら
がこの世界に存在している事自体が異端なのだッ!!!貴様らが
消えなければこの世界に平和は訪れない!!」
魔王「・・・そうか、だが私はこの国を落とすつもりはない。勇者のした
選択が正しかったと証明する義務が私にはある」
王はまだ狂気を失わない。
王「くはは、・・・・・それはできん。貴様は必ず人を憎み、殺す」
側近「・・・・魔王様、いきましょう。次の王国へ」
王「・・・魔族の王たる者として城を空けるというのはどうなのだ?」
魔王「・・・・何が言いたい」
王「・・・7日前から我が王国の兵士団が貴様の城に向かっている。本当に
思ったか?魔力が使えなくなった程度で本当に我が兵士の牙が抜ける
とでも?・・・・魔法が使えなくとも魔具がある。まさか我ら人間が
魔法の研究だけど続けてきたと思っているわけではあるまいな?」
側近「・・・・ッ!!」
魔王「・・・・・行くぞ」
ーーーーーーー王国・下町
魔王と側近は最初にここを通った時に目に付いた一軒の家の前にいた。
家とは言っても焼け落ち、おそらく町人達が投げ込んだであろう土や石で
その原型はほとんどとどめていない。
魔王「・・・・ふふ、勇者め、こんな所に私達を招待しようとしていたのか。
失礼な奴だ」
魔王が浮かべるのは勇者がいつも浮かべていた、あの笑み。
側近「・・・・貴方は強く・・・なられました」
魔王「さて、・・・・こんな場所で時間を割いているわけにはいかん。急ぐぞ」
側近「・・・はい」
魔王は静かな笑みを浮かべて呟く。
魔王「・・・泣くのは死んでからでいい。勇者・・・・そうだろう?」
ーーーーーー8日後 魔界・上空
魔王「・・・・あれは」
数百人単位の王国の兵団の軍勢が、魔王城とは反対の向きに
引き返しているのが見える。
側近「・・・・・人間ッ!」
側近の殺気が急激に膨れ上がる。
魔王「よせ、それよりもするべき事がある筈だ」
魔王「・・・私達の民の命が奪われたから殺すのか?それでは
何も解決しない、・・・何も変わらない。勇者はそんな事を望んではいない」
側近「・・・貴方様は勇者のように振舞おうとしてらっしゃるのですね」
魔王「・・・楽ではないがな。それよりもどうやら私達がいなくとも
城は守られたようではないか、急ぐぞ」
側近は飛竜の手綱を握る魔王の手が血で滲んでいるのを見て、
側近「・・・はい」
そう答えることしかできなかった。
ーーーーーーーー2日後 魔界・辺境の村
側近「・・・・」
魔王「・・・こうなるのはわかっていた事だ、行くぞ」
村だったその場所には木材と瓦礫だけが散らばっていた。
民の姿は見えない、いや見えなくて良かったというべきか。
土に紛れる程に八つ裂きにされたのか、それとも魔具で
灰にされたのか、それを考える意味はもはや存在しない。
ただわかるのは、人間による暴虐の嵐によって民の命が
全て奪われた、という事だけである。
魔王「・・・・駄目だ」
魔王の脳裏に村の民達の優しい笑顔が浮かぶ。
魔王「泣いては駄目だ。・・・私は勇者の意志を継ぐのだから」
側近「・・・魔王様」
魔王は逃げるように飛竜の元へ向かおうとする。
魔王「・・・む」
足が何かを踏んだ。どうやら石でも木材でもないらしい。
側近「・・・・それは」
側近の目が見開かれる。
『えっと、私達みんなを助けてくれて、ありがとうございました!』
魔王「・・・違う」
『やっぱりお母さんの言った通りだった!魔王様
は私達魔物の事をいつも考えてくれていて、いつも
助けてくれる凄い御方だって言ってたもん!』
魔王「違うんだ」
魔王の声は震えている。
『魔王様はこれからも私達が危ない時は助けてくれるんだよね!』
『ああ、そうだな』
魔王「・・・・私は大嘘つきだ」
涙を頬を伝う。
『その首飾りにかけて誓おう。私は必ず皆を守ると』
魔王「・・・・私は約束を破って、しまった」
魔王は青い空を見上げ、呟く。
魔王「・・・・やはり私はお前のようにはなれないよ、勇者」
魔王の眼からあふれ出す滴は、絶えず土で汚れた首飾りに落ち続けた。
勇者、お前が死んだとあの人間の口から聞いた時、
私は何を思ったと思う?
憎い、殺してやりたいと思ったんだ。
あの人間のにやついた顔を潰してやりたい、
お前を死に追いやった人間共を皆殺しにしてやりたいと思った。
私を笑ってくれ、勇者。
私はあの人間と何も変わらない、自分の感情に振り回される大馬鹿者だ。
・・・・だが私には勇者、お前のした事が間違っていただなんて
何よりも耐えられなかったんだ。
魔王「・・・・だが勇者、私はそれさえも・・・・できやしない」
・・・お前の意志を継ぐ事さえも
魔王「・・・私を許してくれ」
側近の震える声が耳に届く。
側近「・・・・魔王、様」
魔王「・・・馬鹿な」
魔王の眼はある一人の人間を捉えていた。
・・・この膨大な魔力に何故気づけなかったのだろうか。
その人間はあの懐かしい笑みを浮かべている。
勇者?「・・・お久しぶりですね、魔王様、側近さん」ニコ
かろうじて自我を保ちながら魔王はその人間に問いかける。
魔王「・・・・お前は勇者だか勇者ではないな。何者だ」
勇者のように見える男は満足そうな笑みを見せる。
勇者?「流石魔王様ですね」
魔王「・・・その顔で笑うんじゃない」
勇者としか思えないその笑顔が、その言葉が魔王の心を深く抉る。
勇者?「・・・魔王様の言っている事は正しいです。僕は
勇者の分身ですから」
側近「分身魔法・・・ッ!?」
魔王「・・・では」
魔王は震える声でぽつり、と呟く。
魔王「では勇者は生きているのか・・・・?」
魔王自身、自分がどんな顔をしているのかはわからない。
だが代わりに勇者の分身の顔が苦渋に歪むのがわかった。
勇分「・・・・いえ、僕の本体、勇者はおそらく王国で死にました」
勇者分身→勇分 でお願いします
魔王「・・・お前は確かにここにいるではないか」
魔王は震える手で勇者分身の服を掴む。
魔王「なのにお前は既に死んでいるというのか・・・ッ!」
勇分「・・・はい」
側近の顔は悲痛に染まっている。
側近「・・・・本当に死んでしまったのですね」
勇分「それでも貴方達は前に進まなければいけません。
僕に出来る事は、もう全てやりましたから」
村に魔王の拳が勇分をとらえる音が響く。
魔王「お前は何を言っている・・・?」
魔王は自分の溢れる感情を吐き出す。
魔王「どうやって前に進めというのだ!?私は大勢の民を
失ってしまった!!お前も死んでしまったのだぞ!?」
勇分は静かに口を開く。
勇分「・・・・前になら、進めますよ」
勇分「ここの辺境の村の方々は誰も死んでなんかいません。
王国の兵士の人々には一つも命を奪わせてなんかないですから」
側近「では民達はどこに・・・?」
勇分「申し訳ありませんが魔王城にまで来てもらいました。
その方が守りやすかったので」
魔王「・・・まさかお前は」
勇分「・・・そうです。僕の魔法としての役目は『自身の魔力が
尽きるまで魔族を守ること』なんですよ」
勇分「・・・王が魔王様のいない隙に、兵を魔王城に攻めさせる
だろうという事ぐらいは容易に想像できましたからね」
側近「・・・だから勇者は貴方にそれほどの魔力を託したのですね」
勇分「ええ、僕の本体は役目を確実に果たさせる為に自身の魔力
のほとんどを僕に与えました」
魔王「・・・城を守りきった割りには随分と魔力が余っているようだな」
勇分は困ったように笑みを浮かべる。
勇分「あはは、でも守れたんで良かったですよ」
魔王が激情に顔を歪ませる。
魔王「そうではない!!その余った魔力が少しでもあれば!!・・・勇者の
命は助かったのではないのか・・・・・・ッ!」
勇分は穏やかに答える。
勇分「・・・・でもそうしたら守りきれないかもしれなかった。違いますか?」
魔&側「・・・・・・ッ!!」
勇分「ほんの少しでも危険性が存在している限り、それを見逃すわけに
はいかないんですよ」ニコ
魔王「・・・・お前はッ、どう、して・・・・そこまで」ポロポロ
勇分「・・・僕を信じてくれたからですよ。信じてくれる事、それは僕に
とって何よりも大切な物だから」
魔王は勇分を抱きしめる。
魔王「お前は・・ひっく・・やはり馬鹿だッ!!」ギュッ
側近「・・・今回は見逃してあげます」
まぁ本人だったらぶっ飛ばしますけど、これはノーカンですよね、
と側近はぶつぶつ呟いていた。
ーーーーーーーーーーー王国・城
おのれ、おのれ、おのれ
私の全てを台無しにした、憎き勇者め。
魔王城から逃げ帰る兵士団から連絡を受けた王は拳を台座に
打ちつけ、叫ぶ。
王「死して尚、この私の邪魔をするか勇者ぁあああああああああああああ!!!!!!」ガンッ
もはや人ならざる表情を浮かべ、呻く。そしてよろよろと
歩き出す。一体どこに向かっているのかは誰にもわからない。
王「ゴミ虫以下の腰抜け共め・・・!!くは、くはははははっははは
は戻ってきたら全員縛り首にしてくれる!!くはははは」
王「くはは、私がこの眼で魔族共の滅亡を見なければ意味などないのだ
・・・・・ッ!!どいつもこいつも使えぬ!!!」
口が裂けるかのような笑みを顔にはりつけながら王は一人歩き続ける。
王「くはは、そうだ。使えぬ下僕共などに価値などないではないか、
くはは、ははははは。私だけが至高の存在であれば良いのだ。
私こそが神に選ばれた存在なのだ」
王はやがて漆黒の扉の前にたどり着いた。そしてその扉を開ける。
ぞわり、と闇があふれ出す。
王「くは、くははははは、貴様らが無能だから高貴なる私が前に出て
やるのだ。貴様らが無能だから無能だから無能無能くはははははは。
誰が愚図共に勇者などまかせるか」
王の目前にあるのは漆黒の武具。正気であれば決して触れなかったで
あろう手をそれに触れる。
闇が、呪いが、苦痛が、悲しみが、憎悪が、憤怒が、力が王の体を包んだ。
王「くがッ!?がぎゃぁがっがぁああああああ!?く、くぎゃ、はははははは
ハハハはははハはあはははははは!!!!!!!」
求めるはゴミ共の血のみ。
王「・・・・我こそが至高の存在なのだ」
一人の人間の狂気の末に一匹の化け物が誕生した。
ーーーーーーーーー魔界・辺境の村
勇分「・・・魔王様と側近さんは先に城へ向かっててくれますか?
まだやるべき事ができたみたいなんです」
魔王「・・・なら私も行くぞ」
側近「魔王様が行くのなら私もご一緒します」
勇分「あはは、本当に大した事じゃないので一人で大丈夫
ですよ」ニコ
魔王「嘘だな」
勇分「・・・・嘘なんかじゃないですよ」
魔王「・・・お前はいつもそうだ。全てを自分で抱えて全てを
自分で解決しようとする」
魔王「その嘘が私達魔族を傷つけているのがわからないのか。
お前がもし前もって話してくれていたら何かが変わった
かもしれんなかった。・・・お前は死ななかったかもしれなかったんだぞ」
勇分は困ったように笑う。
勇分「・・・本来なら全て僕が終わらせるつもりだったんですよ?
魔族さん達を巻き込んでいるというだけで謝っても謝り
きれないぐらいなんですから」
側近「そうです。貴方は私達魔族に多大な迷惑をかけました」
魔王「・・・・側近?」
側近「だから全てが終わってから、思う存分謝ってください」ニコ
勇分「・・・あはは、厳しいのか優しいのかわかりませんね」
勇分は眼を閉じ、暫しの間の後口を開いた。
勇分「・・・王国の方角に強大な魔力が感じとれました、恐らく
王が何かしたんでしょう。それも異常な事を」
魔王「・・・奴めまだ何かするつもりなのかッ!?」
勇分「だから僕はそれを止めに行ってきます」
魔力がほとんど余ってて良かったです、と勇分は笑う。
魔王「・・・止めてもお前は行くのだろう?」
勇分「・・・はい」
勇分「民の方々にはもうお別れはいってあるので、
鳥族1さんからはなんと剣を一本もらっちゃいましたよ」ニコ
勇分が魔法を発動させる。
魔王「・・・お前にはまだ言ってやりたい事が山ほどあるんだ。・・・必ず戻って来い」
勇分はあの笑みを浮かべて答えた。
勇分「もちろんですよ」
大気を震わす衝撃とともに勇分の姿は消えた。その軌道を見上げながら魔王は呟く。
魔王「・・・・嘘つきめ」
力が満ちる。
何でもできそうだ。
体が軽い、最高の気分だ。
力を持つ者の気持ちが今ならわかる。
我が下僕と呼んでいた物はもはや蟻ほどの存在感も感じない、
どうでもいい。
そんな事よりもはやくこの力を振るおう。
ゴミ虫共を皆殺しにしてやろう。
我ならできる。
・・・・その為には我が国からでなければ。
王「・・・くはは」
自らの足に軽く力を込める。
ゴッ!!!! 轟音と共に地面が爆ぜる。
その跳躍を眼で追える者は、いない。
王「・・・良い眺めだ」
闇夜に月が輝いている。
我の上に存在する者はいない。
我は全てを見下ろしているのだ。
漆黒の鎧から鮮血が滴り落ちる、そんな事はどうでもいい。
・・・我は満たされている。
「そうはさせない」
何だ、コレは。我が国から飛んできた。
我と同じ高さに位置している。
邪魔だ、邪魔だ。頂点に君臨するのは我のみでいい。
消せ、消せ。
勇分2「さて、時間稼ぎをさせてもらうよ」
化け物は一人、呟く。
王「ああ、コレは・・・・邪魔だな」
王国の夜に閃光が迸った。
ーーーーーーーーーーー7時間後
何だ、コレは。
消しても消しても沸いてくる。
ゴミ虫程の力しか感じない筈。しぶとい、邪魔だ。
腕を振るう。
ゴミ虫の首がひしゃげ、消える。
またゴミ虫がやってくる。我が剣を横に払う。
ゴミ虫の胴体が二つに分かれ、消える。
「・・・なんとか間に合いましたね、他の分身はほとんど消され
てしまったようですが」
なんだ、またゴミ虫か。
王「・・・コレで、最後、か」
勇分は静かに王を見据える。
勇分「・・・そうだ。・・・僕の事は忘れられてるみたいだな、
それとももう見えないのか」
いや、違う。
コレはゴミ虫などではない。
危険だ、危険だ。
こいつの力量は我に届く。
何だ、こいつは、消せ、消せ。
勇分は気負いなく刃を抜き放ち、刃に無数の魔法陣が展開される。
勇分「・・・王、貴方は人として未来を生きるべきだった」
刃を我に向けるだと、無礼な。
黒が鎧の全てを塗りつぶす。全てを消す。・・・・そうかお前は。
王「・・・勇、者ッ!!!」
勇分「これが《勇者》としての最後の戦いだ」
王「我こそがッ!!勇者なのだッ!!!!!!」
光と闇がぶつかった。
その衝撃は人知を超える。
雲は掻き消え、空は割れる。その轟音は全ての生物に畏怖を与えた。
地上の全ての生物には、それが世界の終焉に見えた。
《補足》 なぜ多くの分身が王の足止めをしたのか、という事について
当然、勇者が王の兵士から辺境の村のみを守ったわけではありません。
辺境の村は魔王城への通り道に位置している為に他の村のように気配を
消すだけでは対応できなかったという事です。
要するに勇者は魔王城の通り道周辺全ての村に分身を置いて気配を消していた
というわけですね。
あとは魔脈の使用が終了した分身が王に向かえば筋は通っているかな?
と思います。
ーーーーーーーーーーーーーー魔界・魔王城
魔王「遂に始まったのだな」
大気は震え続けている。
側近「・・・では行きましょうか」
魔王「そ、側近?」
側近「もしかしたらもう勇者とは会えなくなってしまう
かもしれないのでしょう?行かなくても良いのですか?」
側近は穏やかな笑みを浮かべている。
魔王「ふふっ、そうか・・・・側近も変わったのだな。勇者に会って」
側近「ええ、本当の本当に不本意ですがね。認める他ないでしょう」
民幼女「あ、あのっ」
魔王「どうした?」
民幼女「勇者様は戻ってきてくれるんですよねっ?」
魔王「・・・・きっと私が連れ戻してこよう」ニコ
エルフ少女「私からもお願いします!!・・・まだ何もお礼してないのに
もう会えないなんて嫌だよぉ」ポロポロ
厨房室の魔物1「そ、そうだ!!雑用がいねぇと毒味できなくてよ!!」
鳥族1「・・・・俺達が行っても足手まといになっちまうからな」
「「「「そうだ!勇者はいい奴なんだ、あいつを連れ戻せるのは魔王様しか
いない!!あいつはこの城に必要なんだ!!」」」」
「「「「お願いします!!魔王様!!」」」」
魔王「ふふ、・・・とんだ他力本願もあったものだな」
側近「それでいいのでは?貴方様は今間違いなく人間との協定を超えて
城の者全員から慕われてる、それが貴方の目指す《魔王》だったのだから」ニコ
魔王「・・・そうだな」
・・・これもお前のお陰なのかな。
魔王「勇者、わかるか?お前はこんなにも多く、いやそれ以上の者達に慕われている。
・・・・化け物としてではなく」
魔王「お前は一人じゃないんだ、勇者」
ーーーーーーーーーー王国・下町
「・・・なんだアレは」
「も、もう世界は終わりだ・・・」
「魔力もほとんど失って・・・、寿命も半分以上も失って・・・俺達はもうどうすればいいんだ」
戦士長「ふざけるんじゃないッ!!!何故命がある事を喜ばない!!前に進もうとしないんだ!!!」
私は知っています。勇者様、貴方がわざとあのように振舞われた事を。
貴方は私に何を託したのでしょうか。
「何言ってんだ!!今の状態で魔物共に攻められたらもうお仕舞いだぞ!!」
「魔物なんかに殺されるなんて嫌!!」
民の命でしょうか、王国の未来でしょうか。
戦士長「生きる為ならどんな手段でも使えば良いだろう!!魔族と協定を
結ぶ事だって!!!私達は先人の為に生きている限り生きる希望を捨ててはいけないのだ!!!」
私は貴方様のようにはなれないかもしれない。
でも、それでも私は私なりのやり方で生きる希望を育てていきたい。
戦士長「私達が生きている限り!!希望は潰えない!!私達こそが希望なのだ!!」
貴方様の意志を、私は守り続けると誓います。
ーーーーーーーーーー上空
強い、本当に強い。
本来なら一個体を対象に振るってはいけない僕の力が押されている。
王がどれだけの犠牲を払ってこんな力を得たのか想像もできない。
命だけでなく魂までも捧げたのか。
いや、それだけでは代償として足りない。
まだ人の体の中に入っていない全てのオーブの中に入っている
何万もの魂を代償として捧げたのかもしれない。
ただわかるのは王が自分だけを代償にしただけでこの力を得た
わけではないという事か。
勇分「・・・それを見逃すわけにはいかないな」
莫大な魔力を刃に込め、同時に飛行魔法の加速を最大に挙げる。
それに対し王は大気を蹴り、勇者に勝る速度で向かってきた。
王が剣を振るう度に、勇分が剣を振るう度に大気が割れる音が
何度も響き渡る。
王「くはッ!くははははッ!楽しい!楽しいぞ勇者ぁあああ!!!」
王が手を、足を動かす度に鎧から血が噴出す。
勇分「僕が消されるのが先か、王が自滅するのが先かってとこか・・・」
勇分は自分の魔力が王と剣を交える毎に減っているのを感じ取る。
減るというよりは消えるという表現の方が正しいだろうか。
勇分「あはは、・・・・その剣は怖いなぁ」
王と勇者を何百もの魔法陣が一瞬で構築される。
勇分「僕は生身じゃないんでね」
雷、風、炎、水、その全てが世界をほろぼす災害となって王と勇者にのみ襲い掛かる。
王は狂った笑みを浮かべ叫んだ。
王「そんな物がッ!!!我に効くとでも思ったかぁあああああああああ!!!!!」
ゾンッ!!!! 全てを断ち切る一撃が勇者の右肩を襲った。
勇分は咄嗟に剣を左手に持ち変える。
右腕が綺麗な弧円を描いて飛び、勇分は困ったような笑みを浮かべた。
勇分「・・・このままじゃ勝てそうにないよ、まいったなぁ」
やっぱり魔王の所へ戻ろうとする事自体が軽率だったのか。
・・・僕は約束を破ってばかりだな。
勇分「貴方は僕が今まで出会ってきた中で最も強い」
勇分「・・・だから僕の全てを賭けて貴方を倒す」
勇分の全ての魔力を賭けた魔法が発動した。
何だアレは。
勇者め。あんな魔法を我は知らない。次元が違いすぎる。
また我の邪魔をするのか、我の全てを壊すというのか。
ごぽっ、と血と共に王は掠れた声を絞り出す。
王「我も、真の力をもつよ・・・うになり、わかった」
力を持つ者はその力を行使したい、思う存分振るいたいという
衝動に支配される。我も例外ではない。
王「だがお前は・・・・・それほどの力を持ちながらなぜ力に支配されない・・・・ッ!!!」
認めたくない、目の前の存在を。
有り得てはいけない存在なのだ、この男は。同じ力を持ってしても
同じ高さに登れぬ程の絶対的な差。
奴こそが真の化け物。奴の絶対的な理性こそが化け物たる所以なのだ。
勇分は涼しい顔で笑って答える。
勇分「・・・・ほら、僕って怖がりだからさ」
全ての魔力が込められ、神神しく輝く刀身を我に向ける。
勇分「もう終わりにしよう、これからは人も魔族も、皆前を向いて
生きていけるんだ」
王「ふ、ざけるなぁあああああああああああああああ!!!!!!」
王は咆哮と共に大気を蹴った。轟音と共に王の姿は消え、勇分に
迫る。そして王は渾身の力を込めて勇分の心臓を穿った。
王「くは、くはははははははは!!!!どうだ!!」
王の剣で心臓を貫かれた勇分は笑みを失わない。
勇分「・・・生身だったら即死だったよ」
自分の残り少ない魔力が急激に減少するのを感じながらも勇分は笑う。
勇分の剣は静かに王の心臓を貫いていた。
勇分と王は共に重力に従って落ち始める。
王「く・・・・か」
ずるり、と王の黒剣が勇分から抜ける。
勇分「・・・恐らく貴方は自分の肉体と魂だけでなく色々な物を犠牲に
してその力を得た筈だ。それらを全て解放するにはこの手段しかなかった」
王「く、はは、私の魂にかかる、《元始の魔王》の魔法を強制的
に・・・解いたのか。もはや契約自体を無かった事にされる・・・とはな」
勇分「あはは、・・・貴方の鎧を貫くのは容易ではありませんでしたけどね。
その鎧があの首輪程の魔法で守られていたら、とても壊せませんでした」
勇分は剣を王から抜き、に鎧に手を当てる。
王「・・・おい、何を・・・している、まさ、か」
勇分「貴方は生きなければいけません。貴方が僕に昔言った事を覚えていますか?
・・・・貴方が死んだからって苦しめた民への罪を償った事にはならない」
回復魔法が展開された。勇分は穏やかな笑みで言葉を続ける。
勇分「なら貴方も他の方法で償い方を探してください、僕に言ったように」
王「そん、な事ができるとでも・・・・・ッ」
勇分「・・・・貴方は正気に戻ったのでしょう?」
王「・・・・・・ッ」
勇分「なら貴方を慕う人々に何をしてきたのか、理解できる筈です。・・・
どう償えば良いかも。・・・・地上が近づいてきましたね」
勇分は王に飛行魔法をさらに発動させる。王の体の自由がきかなくなる。
王「・・・・勇者はどうするのだ」
勇分「ほら、僕は生身じゃありませんから。・・・ここでお別れです」ニコ
大気を振るわせる音と共に王の姿は消えた。
王「・・・・勇者よ、何故私を憎まない。お前を殺し、父を殺し、全てを奪ったのは
この他ならぬ私だというのに。私を殺す事など世界改変の時にできた筈」
私もかつては人間全体の事を何よりも考えていた筈だ。
王「・・・・どこで間違えてしまったのだろうなぁ」
王「・・・・負けた。化け物としても・・・・・人としても私は勇者、お前には歯さえ
立たなかった」
・・・・終わった、これで全部終わったんだ。
僕の分身としての、勇者のとしての役目は全て・・・。
きっと魔王は人間と未来を創っていける。
もう僕には信じる事しかできないけれど・・・・。
勇分「・・・・もう眠っても良いんだよね」
もはや体はぴくりとも動かす事はできない。
かろうじて喋る事ができるくらいだろうか・・・・。
勇分「あとは・・・・自然に魔力が流れて僕の存在が消えるのを待つだけか」
勇分「怖いなぁ・・・・怖いよ。やっぱり消えるのは。僕の本体も怖かった
んだろうなぁ・・・・生身だもんなぁ」
かろうじて勇分は笑みを作る。
勇分「・・・・おやすみ、みんな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー15日後
「-------------」
・・・あれ、僕まだ消えてなかったんだなぁ。
さっきから何か音がする・・・・・誰だろう?
「------------!!!」
・・・・よく聴こえないよ。眼を開けてみようかな。頑張れ、僕!!
眼を開くとそこには僕が知っている顔が映っていた。
勇分「・・・・ああ、久しぶりです、ね」
魔王「・・・随分とやられた様だな」
あ、側近さんもいる。どうして悲しそうな顔をしてるのかな?
側近「・・・ようやく目覚めてその一言ですか、まったく」
勇分「あ、れ・・・・?僕膝枕してもらっちゃって、るよ。
側近さんに怒られちゃうなぁ・・・・あは、は」
側近「・・・・今日の所は見逃して上げますよ」
勇分「・・・・今まで本当にご迷惑をおかけ、しました。感謝
しても、しきれ・・・ません。そしてこれからもきっと
僕のした事で、迷惑・・・かけてしまうかもしれないですけど」
勇分は力を振り絞って笑おうとするが半笑いのような状態で
止まってしまう。
勇分「・・・・全て、全てうまくいきました。誰も死なないで・・・・
誰も酷い怪我を負わないで・・・・皆、前に進める」
魔王「・・・・お前は死んでしまった」
魔王の顔から滴が勇分の顔に落ちる。
勇分「そんな・・・泣か、ないでくださ、いよ・・・・。どうして、
泣くんですか?・・・・笑ってくださいよ」
魔王「・・・・笑えるわけがないではないか、私はまた約束を破ってしまう」
勇分「・・約、束?」
魔王「お前を必ず城へ連れて帰ると・・・ッ!皆に約束したのにッ!」ポロポロ
勇分「・・・それは悪い事を・・・・してしまいました、ね」
魔王「なぁ、勇者。・・・・お前は未来を私に託したんじゃない、押し付けたんだよ」
勇分「・・・・それは、わかってますよ」
魔王「・・・それ相応の報いがあっても良いのではないか?」
勇分「ええ・・・、僕に、できる事なら・・・。とは言っても、もう今の僕に
できる事なんか、ほとんど・・・ありませんけど」
魔王「私はな・・・・勇者」
魔王は穏やかな笑みを浮かべていた。その両目は赤く腫れている。
魔王「お前の泣き顔が見てみたい」
勇分「あは、は・・・・・残念ながら、この体は・・・泣けないんですよ」
魔王「・・・なら怒ってみろ、叫んでみろ」
勇分「・・・・・ッ!!」
僕には魔王の言っている事がわかる。
魔王「私がこの世界をお前が正しいと思う世界へ導くと誓う。
お前の意志は私が受け継いでいく、私の命ある限り」
魔王「・・・もう良いのではないか?お前は人と魔族の為に精一杯頑張った。
・・・・もうお前が《勇者》であり続ける必要はないんだ」
まるで母親が我が子に聞かせるように言葉を続ける。
魔王「私など想像もできぬ程にお前はこれまで苦しかった筈だ、
悲しかった筈だ、怒りたかった筈だ、・・・・泣きたかった筈だ」
魔王「・・・これで最後なんだ、またお前は死んでしまう。もう二度と
私の前にお前が現れる事はないだろうな」
魔王「・・・私は最後にお前の全てが知りたい、お願いだ、・・・頼む」
勇分「・・・・本当に、魔王には敵・・・わない、よ」
いつもだったら僕は笑っていたのかな。
話してもいいかな、本当の僕。
いや、本当の僕の為にも話さなきゃ駄目なんだ。
魔王の為にも。
自分自身のごくわずかな魔力を対価に魔法を発動する。
魔王「・・・何をしている!?」
勇分「話せるようにならないといけないからね、・・・・どうせ消えるのが
少し早くなるだけだよ」
魔王「話してくれるのだな・・・・」
勇分「うん、・・・・僕が10歳の頃に勇者になったという事は知ってるかな」
魔王「・・・・ああ、人の王から聞いたよ」
勇分「どうして僕が勇者になったと思う?」
魔王「・・・人と魔族が共存できる世界にする為だろう?」
勇分は困ったように笑う。
勇分「本心では違うんだ」
魔王「・・・何?」
勇分「・・・怖かっただけなんだ」
勇分「僕が勇者になったあの日、僕は両手では数え切れない程の人の命
をこの手で奪った。それから僕は全てが恐ろしくなってしまってね。
ああ、小さい頃からずっと力を押さえ込んできた筈なのに僕は
存在するだけで命を奪ってしまうんだってね。・・・勇者になったのは
その責任から少しでも逃げたかったからなんだ」
魔王「・・・」
勇分「僕はずっと逃げてきたんだ。命が怖かった、奪ってしまうのか怖かった。
魔族さん達からどんなに攻撃されても、僕は絶対に命を奪いたくなかった」
勇分「もう分かるよね、僕は勇気なんかない、優しくなんかない。ただの
最低の臆病者なんだって」
今僕がどんな表情で言葉を続けているのかはわからない。
勇分「そんな僕は勇者になってすぐに父から魔界と人間の真実の全てを知らさ
れてしまった。僕は思ったんだ、たとえそれが正しくても、悪くても
絶対に最も命が失われにくい世界にしようって」
魔王「それが魔族と人間との共存、か」
勇分「・・・・そうだよ。僕を軽蔑してくれてもいい」
勇分「僕は世界の為、だなんて少しも考えてなんかいなかったよ。
ただの僕の独り善がりでみんなを巻き込んだ。」
勇分「でもそんな僕に王国の人々は笑いかけてくれた、僕を一切疑っていないんだ。
それだけじゃない、魔族さん達だってそうだ」
勇分の声が震える。
勇分「最初は辛かったけど本当はとても優しい方々なんだ。魔族を何度も苦しめて
きた《勇者》の僕に・・・・それでも笑いかけてくれたッ!」
僕の顔が歪むのを感じる。
勇分「僕はその笑顔が嬉しかった・・・!でも同時に恐ろしくなったんだ」
勇分「僕に笑顔を向けてくれる皆は僕が知っている真実を知らないんだ、って!!!
僕の眼にはその眩しい笑顔がとても儚く、脆い物に見えた・・・・ッ!だって
ほんの少しでもあの恐ろしい真実に触れただけで壊れてしまうんだから!!!」
勇分「人々が本当は実験台にされているって知ったらどうなってしまうのかな!?
魔族さん達がこれまでの苦しみが人間同士のただの内輪もめだって知ったら
どうなってしまうのかな!?」
勇分「僕にはもうわからなくなってしまったんだ。魔王を殺せば、人間を殺せば
皆は救われるのかな・・・・?だから僕はその選択が与えられる時を待つ事に
したんだ、その時の為に全てを備える事にしたんだ」
勇分「・・・・僕に選択を与えてくれたのは君なんだよ、魔王」
勇分「魔王を最初に見た時は驚いたよ、人とそっくりだったからね」
勇分「でも・・・魔王は僕なんかとは全然真逆だったよ。何もかもからも
逃げないで真正面から立ち向かうんだ、僕は心を救われた」
勇分「それが僕には光にみえた、魔王なら正しい選択をしてくれる
かもしてない・・・・そう思ったんだ」
暫しの沈黙が訪れる。
魔王「・・・私はお前を光なのだと思い、お前は私を光だと思っていたのだな」
魔王「・・・・お前は臆病者なのだろう?死ぬのが怖くはないのか」
勇分は静かに口を開ける。
勇分「・・・・もちろん怖いに決まってるよ、でもそんな事よりも
魔族の皆が死んでしまう方が・・・・・・よっぱど、怖かった」
魔王「やはりお前は勇者だよ、臆病者などではない」
勇分「そういってもらえるなら・・・・嬉しいよ」
勇分の体が透け始める、魔力が尽きかけているのだろうか。
魔王「・・・・なぁ勇者、一つか二つ最後に言っておきたい事があるんだ」
勇分「うん」
魔王「まず一つ目だが、お前は勘違いしているよ」
勇分「・・・・勘違い?」
魔王「ああ」
魔王「・・・お前は魔族が優しい、お前が勇者でも笑いかけてくれた。
そう言ったな?」
勇分「そうだね」
魔王「魔族が《勇者》に気を許すと、本当にそう思うのか?」
魔王「お前は気づいているのではないか?私達魔族は《勇者》にでは
なくお前に気を許したのだと」
勇分「・・・・」
魔王「私も城の者も、お前が来るまでは人などに心など許していなかった。
お前がいつも浮かべていた笑みは本当の笑みではない、とお前は
言っていたな。・・・・だが私達はお前の笑顔に救われたのだ」
魔王「お前が城に入り込んできてからは、予想もできない事ばかりが
起こったなぁ、楽しかったなぁ・・・・あれほど笑う事はもう二度
とこないのだろうな。ふふ、お前の所為で私の城はとんだ腑抜け
の集まりになってしまったよ。皆常に笑っているのでは示しが
つかないだろう?」
魔王「お前のいた一年半は・・・・これからも永遠に続くかのように心地よかった」
魔王「・・・・全部、お前のお陰だ」
勇分「・・・・・あは、は、もし僕が泣ける体だったら泣いてましたね」
魔王「次で最後だ」
魔王は勇分の体を抱きしめる。
魔王「・・・お前に会えて良かった、今まで助けてくれて、笑ってくれて
・・・傍にいてくれて、ありがとう」ギュ
魔王「・・・お前の事が好きだ、勇者」
魔王「む、・・・返事はどうした」
勇分「・・・僕が返事をしても、君は僕の事を忘れると約束してほしいんだ」
魔王「・・・何を言っている」
魔王は腕に力を込める。
勇分「・・・《勇者》はもう生まれない、未来に《勇者》はいらない、
僕は忘れ去られるべきなんだ。・・・・皆には笑ってて欲しいんだよ、僕の最後の願いだ」
魔王「・・・わかった」
勇分「こんな事は本当の僕だって死ぬまで言わない筈だった
んだけどなぁ・・・」
勇分「君と一緒に城で過ごした時間は楽しかったよ、初めて
太陽の下に生きているようだったよ。・・・・そしてできるなら
ずっと・・・そのまま皆で暮らしていたかった」
勇分の体が淡い光に包まれる。
魔王「・・・どうしてお前だけが死ななければならないのだろうな」
勇分「そんな顔をしないでほしいな、僕は君の笑顔を見て消えていきたい」
魔王「ああ、・・・・そうだな」ニコ
勇分「何も僕だけがこういう運命をたどっているわけじゃないよ。僕なんかより
もっと苦しい運命を背負っている人や魔族だっているんだ」
勇分「なのに僕はなんて幸せなんだ・・・色んな出会いが会って、仲良くなって
、未来を創れて・・・・最後には君が笑っててくれる、僕の本体も
そう思っていた筈だよ」
勇分は魔王が今まで見たこともない程、ぎこちない笑顔を浮かべた。
勇分「大好きだよ、魔王」
魔王は勇分が確かにいた空間を、ゆっくりともう一度抱きしめる。
魔王「・・・知っているか、勇者」
魔王「私は・・・嘘つきなんだ」
側近「・・・・魔王様」
魔王「・・・」
側近「今は城の方も貴方がいなくて忙しい筈です、辺境の村の復興だって
まだ手がついていないのですよ?そろそろ向かッ」
側近「・・・・魔王様?」
魔王「・・・・・・察しろ」ギュ
側近「もう、勇者が目を覚ます前にあんなに泣いていたのにまだ泣き足りない
んですか?」
側近は優しく魔王の頭を撫でた。
側近「もう少し・・・だけですよ?」
魔王「・・・・ぅ・・・ひっく・・・う、うあああああああああああああ!!」
側近「・・・・今は悲しくても、苦しくても、少しずつ乗り越えてい
けばいいんです。・・・どんなに時間がかかっても」
----―----―----3年後 辺境の村
エルフ少年「ちょ、ちょっと待ったぁっ」
少年はもはや半べそ状態だ。
エルフ少女「もうっ、情っけないわね!もっとちゃんとしないと
相手にならないじゃない!」
エルフ少年「だ、だってお前もう魔王城の兵士より強いじゃないか!
俺には荷が重いって!!」
エルフ少女「ほら立って!今日は大事な日なんだから、もう一回よ。
私の成長ぶりを見てもらわなくちゃ!」
エルフ少年「何だよ・・・もう3年も経っているのに」ボソッ
エルフ少女「・・・何か言った?」ギロッ
少年は空気が間違いなく冷たくなったのを感じた。
エルフ少年「な、何でもねぇよ畜生ぉおおおおお!!!!」ダッ
エルフ少女「・・・そんな事、私にだってわかってるわよ」
ーーーーーーーーーーーーーー魔王城
「魔王様、お伝えしたい事が」
魔王「何だ、今日城の者達は皆休暇をとっている筈だが」
「・・・それか今年は人間の中に我らと一緒に祈りを捧げたいとい
者がおりまして」
魔王「・・・良い、許す」
「承知いたしました」
その者は一礼をして去って行った。
魔王「そうか・・・、真実を知った人間もいるのだな」
側近「魔王様、・・・そろそろお時間です」
魔王「ああ、行こうか」
魔王は穏やかな微笑を浮かべた。
――――――――辺境の村・墓
魔王は村にある他となにも変わらない一つの墓の前に立っていた。
村は数え切れない程の魔族で埋め尽くされていて、中には
人もまぎれている。
・・・あらゆる種族の壁がこの場ではなくなっていた。
魔王の凛とした声が村を通る。
魔王「今日この場に足を運んでもらい、勇者の友として感謝する」
魔王「皆・・・祈りを」
お前は皆に忘れろと言ったな。
・・・勇者、見えるか。
これがお前にはどう見える?
私には光に見える、きっと未来を照らしてくれると確信できる光だ。
だから私達はお前の事を決して忘れない。
あと今年はすごかったんだ。なんと数は少ないが、人が
辺境の村へ移住してきた、すごいだろう?
この一年もまたお前の願う未来に少しだが近づけたのか?
・・・私は私なりのやり方で来年も頑張ってみるよ。
だから次の年にもう一度お前に会いにくる事だけは許して欲しい。
>>889 あと1割ちょっとでしょうか・・・・
側近「・・・」
かつて《勇者》と呼ばれた化け物。
村長「・・・」
その化け物は魔族に災厄をもたらす筈だった。
エルフ少女「・・・」
だが魔族は誰も命を落とすことはなく、
鳥族1「・・・」
今を生きている。
戦士「・・・」
ならばその化け物は人を滅ぼしたのか。
僧侶「「・・・」」
だが人は生きている。
王国の女「・・・」
両者の大切な命を一つずつ失う事で、私達は今を、未来を生きている。
王国のはずれの村人「・・・」
その尊い犠牲の為は私達は祈り続ける。
魔王「・・・」
勇者の為に私達は祈り続ける。
------------3日後 辺境の村・墓
民幼女「ねぇねぇ!何してるの?」
「・・・ん?お墓参りかなぁ・・・」
民幼女「わっ、わっ、人間なのにお兄さんすごくかっこいいねぇ!」
「あ、あはは・・・、お礼とか言った方がいいのかな・・・?」
民幼女「ってあれ!?どうしたの?・・・どっか痛いの?」
「どうして?」
民幼女「だって・・・お兄さん泣いてるよ?」
「えっ、・・・・・あは、は・・・本当だね」
民幼女「すっごい泣いてる!すっごい涙出てるよ!?すごく痛いの?」
民幼女その男の頭を頑張って撫でようとする。
「・・・・あ、はっ・・・・いや・・・っ、これは・・・そういう涙じゃ、ないんだ」
民幼女「・・・じゃあ痛くないのに泣いてるの?・・・ふふっ、おかしいねっ」
「あはっ、は・・・・僕もこういう涙は生まれて初めてだよ」
民幼女「あれ?どっか行くの?」
「うん、・・・ある魔族さんに会いに行くんだ」
----ーーーーーーーーーーーーーーーーー魔王城
側近「・・・魔王様、貴方様に会いたいという人間がいるのですが」
魔王は忙しなく筆を動かしている。
魔王「・・・む、悪いが今は忙しい、今日の所は帰るように伝えてくれ」
側近「・・・忙しくても会う価値はあるかと」
魔王「・・・・何かあったのか?」
側近「そうですね・・・・、今までで最大の危機かもしれません」
魔王「何だと!?」
魔王が慌てて椅子から立ち上がる。
側近「今回の機会を逃せば魔王様は間違いなく大切な物を失うでしょう」
魔王「・・・・そいつは何者なんだ」
側近「さぁ、私では正体がわかりませんでした。ただ、貴方様にとって
重要な意味を持っている事は確かです」
側近「その人間はこの城の庭園にいます。いますぐお会いに行かれた方がよろしいかと」
魔王「・・・わかった!」ダッ
側近「・・・まだ気づかないなんて、世話が焼けるんだから」ニコ
そんな事があってたまるか。
私が、私達がどれだけの犠牲を払ってここまで来たと思っている。
私が止めてみせる、邪魔などさせん。
魔王は毛皮のフードを被った人間を見つける。
・・・・あいつか。
魔王「お前が側近のいっていた人間かッ!!!」ギロッ
勇者「はっ、はいっ!?」ビクッ
えっ、えええええええええええええええ!?
なんか魔王すっごい怒ってるよ!?あれ?なんか想像してた再会と違う!!
というか魔王の魔力凄い!殺気凄い!今の僕だと一瞬で消し炭だよ!?
側近さん一体何言っちゃったのかなっ!?
魔王「・・・お前はようやく手に入れた平穏を壊したいらしいな」
勇者「えっ・・・、いやぁ・・・・そんな事するつも」
魔王「はっきりと話さないか!!!」
勇者「はいっ!すみませんっ!」ビシッ
どうしよう、すごく怖い。
きっと殴られたら当たった部分どっか飛んで行っちゃうよ。
魔王「・・・ん?なんかこの小物みたいな感じ・・・どこかで見たか?」
もうせっかく会ったのに心がズタズタだよっ!?なんて言った瞬間、
僕は粉々になっちゃうんだろうなぁ。
勇者「・・・・はい、まぁ一応は」
魔王「・・・・・んん!?その声・・・・、おい、ちょっと顔見せろ」
魔王は勇者が被っていたフードを上げた。
勇者「あは、は・・・・どうも、久しぶりだね魔王・・・」
魔王「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
魔王「・・・悪ふざけにしては度がすぎるのではないか?」
勇者「・・・・・え?」
魔王「・・・勇者はもう死んだ、この世にはもういない。
お前は何だ、変化の魔法でも使っているのか」
魔王の声は震えている。
勇者「・・・この首輪を見れば僕だってわかるかな」
魔王「それは・・・・ッ!」
勇者は魔王を抱きしめる。
勇者「僕はちゃんと戻ってきたよ」
もう本編もおしまいですが補足用の書き溜めがほんの少しだけあるので
本編が終わっても少しの間静かにしてもらえると助かります。
魔王「・・・本当に・・・お前なのか・・・・ッ!」
一粒の滴が魔王の眼から落ちる。
勇者「うん」
魔王「ひっく・・・分身では、ないんだよな・・・・ッ?」ギュ
ぽろぽろと涙が落ち続ける。
勇者「そうだよ」
魔王「・・・・信じるぞ?いいのか?」
勇者「うん。だからさ、せっかく久しぶりに会えたんだから笑ってよ。
君の笑顔が見たい」
魔王「ふふ、なんだ・・・・お前だって泣いているじゃないか」
勇者「・・・・うん」
魔王「まったく・・・せっかくお前の泣き顔が見れると思ったのに、
・・・お前は泣く時も笑っているのか?」
勇者「・・・たぶん嬉し涙じゃないかな」
魔王「ふふっ、それにしてはぎこちない笑い方だな」
勇者「・・・これからはきっと自然な笑い方になるよ」
勇者「ねぇ、魔王・・・・、僕さ・・・君に伝えたい事があるんだ」
魔王「・・・ああ」
勇者「君の事が好きだ」
魔王「なんだ・・・・そんな事はとうの昔に知っている」
勇者「ばれてたのかぁ・・・・、じゃあ返事はッ・・・・・・・」
二人の時間が止まる。
魔王「・・・・・・・・・・・・・・これで返事にはならないか?」
勇者「・・・・・・本当に、君には敵わないよ」
魔王「・・・いや、やはり言葉にしておこう」
勇者「どうして?」
魔王「察しろ・・・言いたい気分なんだよ」
その笑顔は僕が今まで見た中で最も輝いていた。
魔王「私はお前の事が大好きだっ!勇者っ!」
fin
おい、結局《元始の魔王》って何、魔具とか初代勇者とかよくわからん
事多すぎだろks、と仰られる方がいるだろうと思い、一応書いておきました。
ここに出てくる人物についてですが、名前が同じでも本編と異なるので
注意、王とか。王国も本編とは違います。ややこしくてすみません;
----―--------約4千年前 王国
唐突に銃声が鳴り響いた。
男「・・・・」
男がうつ伏せに倒れている。
どうやらこの男が撃たれたようだ、その頭から血がじわりと流れ出る。
男「・・・・・またか」
重く冷たい声がその男の口から漏れ出た。
「・・・・くそっ!化け物め・・・・!!」
男「・・・邪魔をするな」
男はのそりと立ち上がり、また歩き出す。
王「またお前か・・・・ッ!!」
王は憎憎しげに呻く。
王「お前が何度ここに来ようとも何も変わりはしない!さっさと消えろ!」
男「・・・・お前達人間がこのまま木々を殺し続ければこの星は滅ぶ」
王「星?・・・星とは何だ」
男「人間にとって星とは世界だ」
王「世界を滅ぼす程の力を持った我ら人間ならば恐れる事など何もない!
私は間違ってるとでも言うつもりか?」
男「・・・間違っては、いないな」
----―----―----王国のはずれの荒野
男「・・・ここも昔は木々が生い茂っていた筈だ」
男「このままいけば恐らくこの星の命は絶たれるだろう」
王国での会話が脳裏に浮かぶ。
男「・・・王の言い分は確かに正しい、力を持つ者だけがこの世を思い通りにできる」
男「人間全体にその概念が植えつけられている限り、人間にとってそれ
が正論、正義となる。またそうである限り星は蝕まれ続けるのだ」
>>910 既に書き溜めがありますので安心してください。
『この化け物はどうして死なないんだ!』
『・・・なんておぞましい存在なの!?』
『そんな化け物は谷へ突き落としてしまえ!危険だ!』
男「人間は・・・・・危険だ」
男「このままにはしておけない」
ならば使え、お前の力を、全てを思い通りにできる力を。
使い方はわかるだろう?
男「ああ」
やっとその燻っていた力を思う存分に振るえるぞ、喜べ、喜べ。
男「星を守ろう」
そして男は《元始の魔王》となった。
----―----―----約千年後 魔界・魔王城
魔王「・・・来たか」
勇者「お前を倒し、世界に平和を取り戻させてもらうぞ」
勇者は無数の魔法が込められた剣を鞘から抜いた。
魔王「・・・やはり人間に力を与えたのはお前か、物に魔法を込めると
はな・・・・・どうりで我が同胞が人間に殺されるわけだ」
勇者「そうだ・・・・!もう人間は魔族などに屈しはしない!私の魔具が皆に力を与える」
魔王「・・・お前も気づいている筈だ、我とお前は同じ力を有していると」
勇者「・・・・ッ!!」
魔王「ならばわかるな?共に消え去る以外にこの戦いの終結はない」
魔王「どうせ消え去るのなら尋ねておきたい事がある」
勇者「・・・・・」
魔王「何故お前は魔族を殺す?」
勇者「・・・・魔族がいれば人間は滅亡してしまう、お前達の存在は異端だ。
世界に破壊をもたらす」
魔王「・・・そう人間に教えられて生きてきたのか?」
勇者「・・・お前達は平和を乱す、魔族が人間を襲っているのは事実だ」
魔王「逆に問おう、魔族は人間に危害を多少だが加えているかもしれん。
だが強力な魔族が攻め込んで来た事はあったか?」
魔王「何故数少ない魔族の侵攻を槍玉にあげる、その程度の事に比べれば
人間同士の争いの方が遥かに卑劣なのではないか?」
勇者「・・・黙れ」
その声はかすかに震えている。
魔王「なぜ魔界が世界の半分で収まっているのか考えた事はないのか?
全ては一つの答えを出している」
勇者「・・・そんな、の理解できないな」
魔王「人間は危険だ、我らは人間の破壊に対する抑止力なのだよ」
魔王「勇者、お前の言う平和とは人間にとっての平和なのだ。
・・・・決してこの世界の平和を指すわけではない」
勇者「黙れッ!お前の言葉などッ!私には届かない!」
魔王「本当は既にそんな事はわかっていたのだろう?」
勇者「黙れぇえええええええええええええ!!!!!」
一瞬の内に魔王の周囲に無数の魔法陣が構築され、魔法が発動する。
魔王城の大半が消えた。
魔王「その化け物たる力を振るいたかったからだ!お前は平和など何も
考えてはいない!その力を行使する理由が欲しかっただけだ!」
勇者「うあああああああああああああ!!!!」
勇者が作り出す無数の魔法の全てに魔王は同じ魔法で応じる。
紅い空が閃光に包まれた。
>>917 それは本当に申し訳ない;
魔王「ならば質問を変えてやろうか!何故お前は地に向かって魔法を行使しない!?」
勇者「・・・・やめろ」
魔王「それはこの星を守る事が我らの宿命だからだ!お前は宿命に背いている!
力をただ振るえば世界は狂う!」
魔王「ならば何故《神》は我らに心を与えた!?何故我だけでなくお前を創りだしたのだ・・・!
心があるからこそ我らは狂う、内なる力に侵される!
だが我らは宿命に従わなければならない!」
勇者「・・・・私は宿命など信じない、自分で運命を切り開いてやる・・・!
魔王、お前は殺す!世界に平和をもたらしてみせる」
魔王「人間に埋め込まれた概念こそがお前を蝕んでいるのがわからないのか」
勇者「私はッ!!《勇者》だッ!!」
魔王「・・・残念だ」
勇者「ぐっ・・・・かはっ・・・」
魔王「我とお前との戦いにおいて肉体的損傷は意味をもたない」
勇者「・・・その・・・武具は・・・ッ!?」
魔王「お前にできる事が我にできぬとでも?」
勇者「・・・・・ッ!」
魔王の鎧が、剣が、無数の禍々しい魔法に蠢いている。
魔王「我が黒剣に込めた魔法は身をもってわかる筈だ」
勇者「消滅魔法か」
魔王「そうだ、我が剣ならお前を殺せる。この魔法は我が千年かけて創りだした、
お前では扱えぬ」
魔王「・・・・この魔法でお前の力ごと消し去ってくれる」
魔界の紅い空には一人の漆黒の騎士のみが存在している。
魔王「・・・・やはりこうなったか」
自分の体が徐々に消えてゆく。
魔王「・・・勇者、わかるか?最後に我を消し去る事象改変を起こした時」
魔王「・・・お前は笑っていたよ」
誰に言うわけでもなく言葉を続ける。
魔王「・・・・この過剰な力がお前を狂わしたのか、我と同様に」
魔王「千年前の我にもう少しばかりの理性が残っていれば、・・・・世界は
明るく変わっていたのだろうか、千年前の我の選択は・・・・」
魔王は眼を静かに閉じた。
魔王「・・・・《神》よ、未来にまた我らと同様の存在が生まれて
しまうのだろうか、その度に我らのような選択を迫られるのだろうか」
首輪に手を触れる。
魔王「ならば我はその者に新たな選択肢を与えたい」
魔王の残る全ての魔力を使い、魔法を首輪に込める。
魔王「命を奪いつづけ世界を破壊するも良し、抑えられた力で
《理性ある選択》をするのも良し」
魔王「《理性ある選択》は我らとは異なる未来を見せてくれるのか、
・・・・・本当の平和を見せてくれるのか」
魔王「お前に全てを託そう」
その千年後に王によってその運命の首輪は発見される。
《理性ある選択》は魔王の望む未来を見せる事はできたのだろうか。
わかる事はただ一つ。
その未来では全ての生物が前を向いて生きている、という事だけだ。
fin
ちょ、なんで勇者生き返ってんだwと仰られる方がいるだろうと
思い、一応書いておきました。ここでの登場人物は本編と一致
してます。
体が重い、熱い、息ができない。
そう感じる事ができるという事は、まだ生きているという事は
僕が最低限の防御に成功したという事か。
王「くはは・・・・、まるでぼろ雑巾のようだな。おい」
戦士長「・・・・っは」
王「このゴミは死体置き場にもっていけ、・・・決して首輪を外すなよ。
完全に腐って粉々になるまで首輪は回収しなくていい」
戦士長「承知しました」
戦士長は僕を背負い死体置き場に向かう。
すすり泣く音が聞こえる。
僕は生きている、そう伝えなくては。
僕に触れてはいけない。
そうしなければ僕はこの人の命を奪ってしまうかもしれない。
絶対に意識を失ってはいけない、抑えている首輪の力が発動してしまう。
僕が生きようとしたせいで殺したくはない。
渾身の力を絞れ。
勇者「・・・・・ぁ・・・・」
戦士長「・・・・・勇者殿?まさかまだ生きておられるのですか!?」
ああ、気づいてくれた。ありがとう。
勇者「ぁ・・・・・・・・ぅ」
戦士長「・・・ッ!!こうしてはおられん!」ダッ
・・・・ぁあ、駄目だ。意識を保たなければ。
戦士長「早く!!回復用の魔具をありったけ持って来るんだ!!」
僧侶達「は、はい!」ダッ
どうして僕から離れてくれないんだ。
戦士長「くそっ・・・・!!我らの恩人を死なせてなるものか!!」
人々は魔具に込められた回復魔法を展開させる。
僧侶1「・・・なんて傷の深さなの・・・・!!お願いだから耐えてッ!!」
僕の首輪の事ぐらい知っている筈なのに。
僧侶2「ここを止血します!」
銃弾の摘出が開始される。
・・・・こんな僕の為にこんなに多くの人が頑張っているのか。
僕は人々から寿命と魔力を奪ったというのに。
泣くのは死んでからって決めた筈なんだけどなぁ。
------------約一週間後
勇者「・・・・・」
戦士長「御体の具合は?」
お陰で僕は生きているよ。
勇者「ぉ・・・ぃ・・・・・」ニコ
戦士長「・・・・本当に良かった」
戦士長「・・・勇者様には申し訳ありませんが、人目に触れなれない為
このような粗末な病室になってしまいました」
戦士長「安心してください、今度は私達が貴方様を必ず守ります」
勇者「・・・・」ニコ
・・・ありがとう。
ーーーーーーーーーーー約二週間後
戦士長「・・・貴方様に面会したい方がいらっしゃいます、よろしいでしょうか。
危険はないと思われます」
勇者「は、い」
病室の扉が開かれる。
そこに現れたのは、二週間前に僕を殺そうとした人間だった。
だがその顔にもはや狂気はなく、重い罪を背負っている囚人のように見えた。
王「・・・こんな私などの言葉では意味などないかもしれない、だが言わせてほしい」
王「申し訳ない・・・・ッ!!」
顔を見ればわかる、どんなに後悔して、どんなに苦しんでいるかって事ぐらいは。
勇者「顔、を・・・・上げ、てくださ、い。一国の、王なん、ですから」
勇者「今の、貴方なら、魔族とも・・・・未来、を築いて、いける」ニコ
王「・・・・貴方の分身にも同じことを言われました」
王「貴方さえ良ければ・・・人の眼のつかないもっと環境の良い病室に移りませんか?」
勇者「いえ、ここで、充分です、よ」
勇者「また、体が自由、に動く、ようにな、ったら、ここを出て、行きますから」
王「・・・貴方の居場所はここではないのですね」
勇者はそれに笑顔で答えた。
ーーーーーーーーーーーーーーー約1年後
戦士長「失礼します」
勇者「ああ、どうも。いつも尋ねてきてくれてありがとうございます」
戦士長「・・・・勇者様、一つ聞いてもよろしいでしょうか」
勇者「ええ、いいですよ?」
戦士長「貴方様は・・・・魔族の皆さんに会わなくても宜しいのですか?
必ず悲しい思いをしている筈です」
勇者「・・・・だってまだ僕ロクに歩けませんしね、どうせ会うなら
元気な状態で会いたいじゃないですか」
勇者は穏やかな笑みを浮かべる。
戦士長「・・・・貴方というお方は」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー約2年後
王「流石は勇者様か、本来なら普通に歩けるようにはならない
筈の物をたった3年でここまで回復させるとは」
勇者「あはは、3年も長い間お世話になりました」
戦士長「・・・本当に魔王城までご同行する者がいなくても宜しいのですか?」
勇者「ええ、これでも勇者だったんですからね、確かに僕の使える魔力は
もうごくわずかですが・・・・体技とかでは負けないですから」
戦士長「いえ、貴方様は今でも私達にとって勇者様なのです。
この御恩は・・・・・一生忘れませんぞ」
僧侶1「本当に元気になって良かったです・・・!」
王「・・・・勇者様」
勇者「何ですか?」
王「・・・本当に王国の者達、そしてその他の人々に真実を伝えなくて
宜しいのですか?私はいつでも罰を受ける覚悟はできています」
勇者「あはは、そんな事しなくていいって言ってるじゃないですか。
知らないほうが幸せですよ」
王「・・・私は人間は決して貴方様が勇者として世界を救ったという事を
忘れません。かならず王家に語り継いでいきましょう」
勇者「・・・それは光栄ですね、それでは皆さん」
勇者「またお会いできたら」ニコ
元気になるまで3年もかかっちゃったなぁ。
魔王や側近さんや村の方々・・・・皆元気かなぁ。
早く皆に会いたいなぁ・・・・。
僕が生きてるって知ったら魔王はどんな顔するんだろう?
できたら笑ってほしいな。
側近さんは相変わらず厳しそうだなぁ。
村のエルフの女の子とかはどうなってるのかな?
村長さんも元気かな。
会いたい人がたくさんいるよ。
勇者「まぁ、自分で見に行けばいいよね」
その笑顔はぎこちない。
上を見上げると空は青く、透き通っている。
勇者「今、会いに行くよ」
本当に終了
皆さんのご協力がなかったらとても完結する事はできませんでした。
本当にありがとうございました;
自分もまさかここまで支持してもらえるとは思ってなかったです・・・
罵倒の嵐がくると思ってました

