魔王「・・・おかしい」
側近「・・・・・・そうですね」
勇者が来ない。
30年に一度、この魔界に降り立ち、鎧を全身を同胞の
血で濡らし、この地に暴虐を巻き散らす化け物ーーー勇者という人間。
その畏怖の存在は、20年前に訪れるはずだった。
魔王「何も起こらなければ良いのだが・・・」
側近「・・・というかあと何回このやり取りすれば気がすむん
です?」
魔王「む、良いではないか。こうしないと気が緩んでしま
ってなぁ・・・・」
5年前に先代魔王の後を継いだ魔王は、勇者という化け物
に会った事がない。勇者について知っていることは、
自分を殺すことだけに命をかけ、魔物の滅亡を望む人間
という事だけだ。
勇者が来ないということに、不安だけでなく幾らかの安堵が隠れていることも
確かだった。
勇者「・・・あの~、すみません」
元スレ
魔王「お前の泣き顔が見てみたい」
http://hayabusa2.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1325736048/
魔&側「「ーーーーーッ!!!」」
そこに立っていたのは、みすぼらしい佇まいの人間の男だった。
旅人の服を身に纏い、首につけている黒い首輪は目につい
たが、杖代わりに手に持っているのはただのヒ
ノキの棒だけで、武器らしいものは何も持っていない。
顔は魔王の種族の中でも類を見ない程整っていたが、全体として
まとめるとやはりただの貧相な人間だった。
魔王「・・・何者だ、貴様。」
勇者「一応、勇者やってます」ニコッ
魔王「笑えない冗談だな」
そんなわけあるか、純粋にそう思った。伝承の勇者とこの眼で
見る勇者とは明らかに違いがあったからだ。
殺気を感じない、いや、殺気どころか覇気すら感じない
。というかそもそもその風格がこの男には存在しなか
った。こんな弱そうな人間が勇者のはずがない。
勇者「うぅッ・・・・。なんか凄いけなされてる気がする・・・」
魔王「・・・本当に貴様は勇者、なのか?」
勇者「やっぱりそうですよね・・・、疑問系はいっちゃいま
よね・・・でも勇者なんです・・・、ごめんなさい」
うん、やっぱりこいつは勇者ではないな。
と、ここで我と取り戻した側近が叫んだ。
側近「勇者ッ!よくもぬけぬけと一人でここでッ!
死んでもらいます!!」
魔王「待て」
側近「魔王様ッ!?」
魔王「よく見ろ、こんなナリの勇者がいるか。第一
弱そうだ」
側近「そんな馬鹿なことが・・・・あれ?」
その勇者は「やっぱり納得しちゃいますよね・・・ごめんなさ
い・・・弱そうで、勇者に見えなくて・・・」とかぶつぶつ言って
背中を小さくしていた。
側近の方も我を取り戻すのに時間がかかりそうだ。
魔王「・・・で、だ。人間、お前はこの魔界の中心に何を
しに来た。話せ。」
勇者「話が早くて助かります!用件というのは
ですね・・・」
この言葉から、全てが始まったのだ。
勇者「雑用でも何でも良いのでこの城で働かせてもらえま
せんか?」ニコッ
魔&側「・・・ぇぇええええッ!!?」
魔王「・・・こほん、だが勇者、お前は私の同胞を散々殺して
この城までやってきた、もちろんこの城の者達もな。
そんな道理は通らない事ぐらい貴様にもわかるだろう・・・?」
勇者は弱弱しい事で呟いた。
勇者「でも僕、魔物は一度も殺したことなんかないんですけど・・・」
魔王「何・・・だと・・・?」
側近が復活した。
側近「大体、この城の頂上まで来るに一回も戦わずに来れる
なんてありえないじゃないですか!」
勇者「ああ、それは魔法でちょちょいと」
何のこともないかのように「難しい事じゃないですよ」と
付け足した。
側近「そんな馬鹿な事がッ・・・!」
魔王が片手で制す。
魔王「貴様のいう事が本当ならば確かに勇者なのかもな」
側近「魔王様!?」
魔王「(まぁ、待て・・・、仮にこの人間が勇者ではないとしてもこの私に存在を感じ取らせないほどの魔法使いだ、
・・・下手に手を出せばこちらが殺られる)」
魔王「(それに勇者だとしても敵意はないようだ、何事もないのであればそれに越した事はない。
私達は戦いを望んでいるわけではないのだから。)」
側近「(・・・・それは・・・)」
勇者「あの・・・それで僕はここで働かせてもらえるのでしょうか・・・?」
それに魔王は応じる。
魔王「ああ、許可しよう」
魔王「当然、貴様が勇者だという事は皆の者にはふせる」
言う必要はないと思うが、と念のために確認をとる。
勇者「僕はここで働ければ何でもいいですよ?」
側近「・・・私はそんなの認めたくありません・・・」
魔王は呆れながら
魔王「私とてこんな事は不本意だが、仕方のない事だ」
と諭した。
勇者は具合が悪そうにあはは、と乾いた笑みを顔に
浮かべた。
魔王「さて、勇者よ。ここで働くのならこの城の
者に挨拶でもしてきたらどうだ」
勇者「それはそうですね。では失礼します」
魔王「・・・さて、どうしたものか」
側近「・・・あの者は本当に勇者なのでしょうか?」
魔王「それは私にもわからん。ただ、わかるのはあの人間
が私とは比較にならない程の魔力を持ち、敵意のかけらさえも
持っていないという事ぐらいか」
側近「私もあのような勇者は見たことがありません」
側近「これまでの勇者は皆、殺気と狂気に満ち溢れていました
から・・・・」
魔王「とりあえず今のところは雑用・・・という形を維持する
しかないな」
勇者が魔王の雑用など聞いたこともないがな、と笑う。
側近「もう、笑っている場合じゃないんですよ?」
魔王城の厨房室に鈍い音が響く。
勇者「うぅ・・・、いたた・・・」
勇者が頬をさすりながら床にへたりこんでいた。
厨房室の魔物「人間臭ぇっていってんだろ!まったく・・・
なんで魔王様は人間なんか雇ったんだ!!」
勇者「あはは、それは色々ありまして・・・」
厨房室の魔物「笑ってんじゃねぇ、胸糞わりぃ!」バキッ
勇者「ふぎゃっ」
そこで声がかかる。
厨房室の魔物2「もうその辺でやめときなよ、その人間は
何したってんだい?ただ挨拶に来ただけじゃないか」
厨房室の魔物「だがよ・・・」
どうやら止めてくれた魔物はこの魔物よりも上の立場に
あるらしい。
厨房室の魔物「ほら、あんたも今日のところは戻りな」
勇者「はい、ありがとうございます」
勇者「あの」
厨房室の魔物1「・・・なんだよ」
勇者「これから暫くの間よろしくお願いします」
厨房室の魔物1「・・・ッ!また殴れてぇのかテメェッ!!」ブンッ
勇者「わわっ、ごめんなさいっ」ダッ
厨房室の魔物1「ったくよぉ・・・」チッ
厨房室の魔物2「・・・何が不満なんだい?人間にしては
いい奴じゃないか」
厨房室の魔物1「・・・うるせぇっ」
心底愉快そうな顔で魔王は勇者に尋ねた。
魔王「・・・で同じような事を延々と繰り返してきてその顔か」
勇者「とりあえず皆さんに挨拶できてよかったですよ~」
あはは、と何も無かったかのように笑う。・・・笑うその顔は不気味だが。
勇者「後半は一度も殴られないで挨拶を終えられたん
ですよ?皆さんやさしいですね」ニコ
それはもはや殴るところがないからだ、というのが喉まででかかったが抑える。
魔王「フフッ・・・お前はなんだかおかしな奴だな」
勇者「それは光栄ですね」
勇者はそれに答えるように、恭しくお辞儀をしてみせた。
側近「・・・・こんな夜中に何をしているのですか」
勇者「こんばんわ側近さん。あ、あとすみません雑用なのに部屋なんか
使わせてもらっちゃって・・・・」
側近「何か企んでいるつもりではありませんよね」
勇者「えっ、いやっ、そんな事全然考えてないですっ」
首をぶんぶんと振り否定するが、逆に肯定しているようにしか見えない。
勇者「窓から景色を見てただけですよぉ。ほら、魔王城ってすごく高いから
とても綺麗なんですよね」
側近「それだけの為に起きていた、というのはやはりおかしいです」
勇者「うっ、・・・・本当の事を言えばですね。僕は寝る必要がないんですよ」
側近「・・・・どういう意味ですか」
勇者「いや、言葉通りの意味なんですけど・・・。他に意味なんてないから困りましたね」
側近「・・・わかりました、もう結構です」
勇者「あっ、側近さん」
側近「・・・・何か?」
勇者「おやすみなさい」ニコ
側近「・・・明日から早いので覚悟してください」
一ヶ月後
魔王「・・・相変わらずだな」
勇者「面目ないです・・・・」
勇者は申し訳なさそうに頭をさげた。
側近「全く・・・・!一ヶ月たってもロクに雑用さえできないなんて・・・この人間の食事、今日も抜こうかしら」
勇者「うえぇ・・・勘弁してくださいよ~」
もう三日間何も食べてないんですよ~、と泣きそうな顔で懇願した。
魔王「ふふ・・・、まぁそう邪険になるな。勇者が仕事できないのは城の者からはぶかれてるからという事ぐらい
側近もわかっているだろう?」
あといい加減人間じゃなくて勇者と呼んでやれ、と微笑を浮かべながら付け足した。
側近「これのっ!どこがっ!勇者なんですか!?見てて情けないったらありはしませんよ!」
魔王「・・・それ以上言ったら勇者が小さくなりすぎて消えるぞ」
勇者の縮小具合は魔法でも使ってるのか?というくらい凄かった。
兵士1「失礼します。側近殿、お伝えしたい事が」
側近「・・・はい、今そちらに行きます」
魔王「・・・どうした」
兵士1「・・・」
兵士1は何も答えない。
魔王「・・・・ッ!!何がいう事があるならば、ここで言えば良い
だろう!!」
魔王の体から怒りと共に魔力があふれる。
顔を歪ませ、その口から呻くように言葉が零れ落ちる。
魔王「・・・・・・・・そんな私が魔王の座に居座っているのが気にくわないというのか・・・!」
兵士1「ひっ・・・!・・・あの、この城の辺境の村に八岐大蛇が出現したと報告があったのですが・・・はい」
魔王「八岐大蛇、だと・・・!?いかん、すぐに戦闘の準備を!」
八岐大蛇、前触れもなく現れ、山の如き巨躯を動かす
毎に大地が震え、あらゆる魔法を無効化する龍の鱗を
身に纏い、八つの首を持つ、《災害》の二つ名を持つ魔物。
ーーーーそんな化け物が村を襲えばどうなるかは考えるまでもないだろう。
側近「行ってはいけません」
魔王「・・・邪魔をするな!」
側近「子供のような事を言わないでください。貴方様はこの先何百年のも間この魔界をお導きになるお方・・・、
今ここでその命を危険にさらすわけにはいけません」
魔王「ここで命をかけずに・・・何が王だというのだ!!」
勇者「じゃぁ、僕がいってきましょうか?」
勇者は元の大きさに戻っていた。
魔王「・・・な、」
八岐大蛇は魔王ですら一人では苦戦を強いられる程の相手。
それをこの人間は気負いもなく口にしてみせた。
側近「八岐大蛇がどういう化け物なのかわかってるんですか・・・・?」
勇者「いや、全然知りませんよ?会ったこともないですし」
魔&側&兵「・・・・」
暫しの沈黙の後、魔王が口を開いた。
魔王「現状はどうなってる」
兵士1「はい、鳥族部隊が既に村に到着していますが、あと数時間ももつかどうか、というところでしょうか・・・・」
魔王「・・・よし、兵士1は城門に龍族、狼族部隊を配置させろ、・・・・指示は私が城門に到着したら下す。」
兵士1「・・・よろしいので?」
兵士1は側近の方に目を向ける。
側近「駄目に決まっているでしょう」
魔王「うるさい!私は行くと言ったら行くのだッ!」
勇者「あの~、無視ですか・・・?」
勇者がまた小さくなった。
側近「はぁ・・・、本当に魔王様は子供ですね」
その言葉に魔王は不敵に口を吊り上げ
魔王「はっ、私の5倍生きてるババアの側近よりはマシだ」
とはき捨てた。まるで心臓に杭を刺されたかのように
側近の表情が歪むが、その表情はすぐに凶暴な笑みに塗り替えられる。
側近「・・・・・・どうやらお仕置きが必要みたいですねぇ」
魔王「いつまで世話係顔してるつもりだ・・・?」
勇者「・・・ちょっと僕の話を聞いてくださいよ!」
泣きそうな顔で勇者が口をはさんだ。
魔王「・・・なんだ」
勇者「だから僕が行くって・・・」
魔王「ふざけている場合ではないのだ!」
この状況下でまだ戯言をぬかすとは、面白い奴だと
思ったが思い違いだったか、と内心で失望していると
勇者「・・・しょうがないですね」スタスタ
勇者は窓に向かって歩き始めた。
魔王「おい、ここは最上階だぞ。一体」
ーーーどれだけの高さがあると思っているのだ、と言う前に
勇者「じゃあ、いってきます」タン
いつもの穏やかな笑みを浮かべながら飛び降りた。
魔&側「・・・・ぇええええええええええ!?」
勇者「わぁ、高いなぁ」
絶賛落下中にも関わらず勇者はその笑みを崩さない。その右手に魔方陣が描かれる。
勇者「流石にこのまま落ちたら怪我しそうだしなぁ・・・、ほっ」
左手には異なる魔方陣が輝き、両手を下にかざす。
すると紋様と紋様が溶けるように交じり合う。
勇「急がないとね」
その瞬間、ドンッ という音と共に、勇者の体はかき消え
その軌道が二つの光の残像によって赤い空に描かれた。
側近「なんて速さなの・・・!?」
魔王「魔法の・・・同時発動だと!?そんなものは今まで聞いたことが・・・!」
本来魔法というものは一つの役割の為に《元始の魔王》が生み出した
ものだ。元々重複ができるように作られていない。
魔王「勇者・・・か。何て怪物だ」
側近「・・・魔王様」
魔王「・・・なんだ、話せ」
側近「歴史上の勇者の中でも・・・あんな事をしてのけるのはあの人間だけです」
鳥族1「早く地下に避難するんだ!」
村では民の避難が行われていた。地下があるのは勇者一行による
被害を最小限に抑える為のもので、日頃から訓練をしているからか
民の避難も速やかだった。
鳥族1「このままいけばなんとか被害は食い止められるか・・・・!」
仲間の悲鳴と共に大気を震わす程の咆哮が響き渡る。
鳥族2「ぐあああぁッ!!」
八岐大蛇「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
鳥族1「くッ、東ももう長くはもたねぇか・・・!早く、早く来てくれッ・・・・!!」
民の一人がこちらに必死の形相で走ってくる。
鳥族1「おい、何をしている!ここは危険だ!戻れ!!」
だがその民はその場を動かず上空を飛ぶ鳥族1に何かを叫んでいる。
鳥族1「チィッ・・・!!」スタン
鳥族1「何してやがる!!死にてぇのか!」
エルフの女「お願いです!助けてください!お願いです!」
鳥族1「あぁ、助けてやる!だから早く逃げろっつってんだろ!」
エルフの女「違うんです!娘が・・・娘がいないんです!」
鳥族1「何だと・・・!?おい、あんたどこから逃げてきたんだ」
エルフの女「ひ、東です!」
鳥族1「よりによって東かよ!あぁもう畜生!!」バサッ
翼に力を込める。
鳥族1「おいあんた!ガキは必ず助けてやっからあんたは逃げろ!」
エルフの女「はい・・・!あ、ありがとうございます!」タッ
鳥族1「畜生、畜生・・・!誰も死なしてたまるかってんだ
よ・・・!罪のねぇ民が死ぬのは勇者でもうたくさんなんだっ!!」
鳥族1はさらにあらん限りの力を翼に込める。もう二度と
、自分の目の前で民を殺させない為に。
辺境の村ーーー東
殺戮の音が鳴り響く中、少女は家の影でうずくまって震えていた。
エルフ少女「みんな・・・怖いよぉ」ポロポロ
鳥族3「ぐはぁッ!・・・ここまでか・・・!」ドサ
鳥族4「くそッ、このままでは・・・!」
八岐大蛇「グルルル・・・・」
鳥族3の視界が少女の姿を捉える。
鳥族3「なんてことだ・・・・。おい!鳥族4!」
鳥族4「大声出すんじゃない!殺されるぞ!」
鳥族3「そんなのはどうでもいい!ここに・・・まだ民が残ってるんだ!!」
鳥族4「何だと・・・!?」
化け物にやられた同胞たちが視界に入る。
鳥族4「くそッ・・・・!まだ死ぬわけにはいかないじゃないか!!」
助けて、ぽつりと少女は呟く。
城の兵士の方が来てくれた。助かるかもしれないと思った。
でもそれは間違いだった。自分の為にあの化け物と
戦ってくれた兵士様は簡単に殺されてしまった。
死が自分に近づいてくる。その度に大地は震え、その八つの顎から炎が漏れる。
ーーーーー死にたくない。
エルフ少女「・・・助けて」
誰に助けを求めているわけではない、ただ言葉が漏れる。
八岐大蛇「ギャォオオオオオオオオオオオオオオ!」
その死は口から灼熱の炎を吐き出した。空気がちりちり
と焼けていく。死が少女の目前まで迫る。
少女はああ、本当に私は死んでしまうんだ、どうせなら
お母さんとお父さんにもっといい子にして喜ばせてあげ
たら良かった、と思う。その心の中はとても静かで、
別の自分が今の私を見ているようだった。
だが死が少女を飲み込むことはなかった。
勇者「・・・随分と遅くなってしまいました」
エルフ少女『もう行っちゃうんですか?』
勇者『そうだね』
エルフ少女『でっ、でもこれからも私達が危険にさらされた時は
助けに来てくれるんですよね』
勇者『・・・ごめん、ずっと守り続ける事はできないかもしれない』
エルフ少女『・・・そうなんですか』
勇者『絶対なんて言葉は存在しないんだ、・・・わかってほしい』
エルフ少女『・・・じゃあ私、強くなります!勇者様が助けにこれなくても
村を守れるように!』
勇者『ああ、お願いするよ。約束だ』ニコ
エルフ少女『はいっ!約束です!』
私はこの目の前に現れた人間を知っていた。3年前に
私達の村を訪れた勇者と名乗る人間、私が小さい頃に
森に迷い込んでしまって泣いていた時に出会った人間、
いつも私を助けてくれた人間。
でも村に来てから2年ほど経った頃に村を出たはずだった。
もう勇者様に助けてもらわなくてもいいように、私は強くなった筈なのに。
私の魔法はあの怪物には全然効かなくても、もう泣かないと約束したのに。
エルフ少女「勇者様、・・・私っ、約束・・・」ポロポロ
勇者「もう充分すぎるくらいだよ」
あの時と何も変わらない、私を安心させる笑みを向けて、
勇者「あとは僕にまかせて」
勇者様は怪物を見据えた。
誰か見てる人いるのかな・・・・
八岐大蛇「ギャオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
憤怒に塗られた咆哮が響き渡る。獲物を横取りさせた為
か、十六つの憎しみの目を勇者に向ける。
勇者「これならまだ助けられますね」
勇者はそれに見向きもせず、鳥族達を見渡す。
その時には恐るべき速度で鋼鉄の鞭の如き尻尾がうなり
をあげて迫っていたが、突然勇者の後ろに現れた魔法陣に容易く弾かれた。
勇者「僕は貴方を殺したくない」
微笑んでいるがその目には何の感情も映していない。
八岐大蛇「グルル・・・・」
軽く唸り声をあげ、ゆっくりを勇者の前に八つの頭を差し出した。
勇者「もう二度とこの周辺には近づかないてほしい。・・・お前の一族
にはそう伝えておけ」
私には目前のまるで御伽噺のような光景を信じる事ができなかった。
エルフ少女「嘘・・・あの八岐大蛇を手懐けるなんて・・・」
鳥族3「・・・・お前、雑用の人間・・・か」
勇者「覚えててくれて光栄ですよ」ニコ
勇者の手には白い魔方陣が創られている。
鳥族4「回復、魔法なんて・・・代物、ポンポン使いやがって・・・お前何者だよ・・・」
勇者「皆さんを治してる・・・ただの人間ですよ。安心して
ください、命さえあれば助けられますから」
鳥族1「・・・おい」
その目には殺気が篭っている。
勇者「・・・なんでしょうか?」
鳥族1「しらばっくれてんじゃねぇ・・・・!!」ジャリン
鞘から鈍く輝く刀剣が抜かれる
鳥族1「お前・・・勇者なんだろ?」
勇者「・・・そうだったらどうします?」
鳥族1「お前を・・・殺す!!」
鳥族1「お前が来てから城の中は変わった・・・!!どいつもこいつ
も腑抜けになってんだよ・・・!!」
勇者「・・・」
鳥族1「この八岐大蛇の襲撃もそうなんだろ・・・?お前が
来たら直ぐに収まったもんなぁ・・・!おまけに殺さなかったんだって?
どう考えても正気の沙汰じゃねぇ」
鳥族1「なぁ勇者さんよ・・・。お前らはあとどれだけ俺たち
を苦しめれば気が済むんだ?この襲撃の件を経て
信頼を得た後でお前は何をする気なんだ?」
鳥族1「なぁ・・・教えてくれよ!!」ビュッ
剣が勇者の足元に刺さる
鳥族1「・・・その剣ととって俺と戦え」
勇者「・・・ずいぶんと優しいんですね」
だが勇者は動かない。
鳥族1「その剣をとれといってんだよ!!!」
エルフ少女「やめてください!」
鳥族1「お前はあの女のガキか・・・!」
助かったのか、と一瞬気が緩みそうになったのを引き締める。
エルフ少女「勇者様は・・・この方は怖い人なんかじゃ
ないです・・・!・・・どうして決め付けるんですか?!」
鳥族1顔がビキリと歪む。
鳥族1「何もわかってねえな・・・何もわかってねえよ。
何だ、同胞だけじゃなくこんな子供まで洗脳したってのか・・・?」
エルフ少女「そんな酷い言い方ッ・・・」
鳥族1「勇者共が今まで何をしてきたか本当にわかって
んのかッ?!!お前の村だって今まで一体何回
勇者共に襲われたと思ってんだ!?お前はその化け物に騙されてんだよ・・・・!」
エルフ少女「それでもこの人は違うんです・・・!化け物
なんかじゃ・・・ッ」
勇者「もういい・・・もう充分だよ、ありがとう」ニコ
エルフ少女「でも・・・」
勇者「僕から離れた方がいい。なに、大丈夫だよ」
僕はこういうのにはもう慣れてるからね、と微笑みながら呟いた。
鳥族1「・・・ずいぶん余裕じゃねぇか、なぜ剣をとらねぇ」
勇者「あなたを殺す気なんかさらさらありませんからね」
鳥族1「・・・・あ?」
勇者「あッ、でもできれば僕も今はまだ死にたくないんですよ」
あはは、と困ったような表情を浮かべる。
鳥族1「・・・もういい。お前の都合など知ったことか」ジャキ
鳥族1「お前ら勇者共もいきなり何の罪もねぇ民を皆殺し
にしてきたんだ・・・・、俺にその権利がねぇとは言わせねぇ!!」ダッ
エルフ少女「勇者様・・・!!」
くそったれが。
俺にだってわかってんだ、この勇者が他の奴らとは違うって事ぐらい。
八岐大蛇がこの野郎のせいじゃねぇって事ぐらい目を見ればわかる。
だがよ、こいつに本当に危険がねぇかどうかはわから
ねぇじゃねぇか。ほんの少しの危険性でも見逃すわけにはいかねぇんだ。
こいつが少し指を動かすだけで俺なんか簡単に殺される
んだろうな、だからよ
俺の命でこいつの化けの皮を剥いでやるよ。
目にも追えない速さで勇者の心臓に向かって剣突が繰り出される。
さぁ見せろ!!お前の本性をよ!!
だが勇者は決して動かない、鳥族1を見据えたまま。
・・・こいつッ!!避けないつもりかッ!!・・・くそ!俺も後には引けねぇ!
鳥族1「うぉおおおあああああ!!!」
ドスッ・・・・・・
場に静寂が満ちる。・・・その静寂をついたのは少女の震える声だった。
エルフ少女「いや・・・・、やだよそんなのぉ・・・」ポロポロ
翡翠色の瞳に映されたのは、勇者が胸を剣で貫かれた姿だった。
かすれる声が漏れた。その声は震えている。
鳥族1「・・・・なぜ・・・避けなかった」
勇者「そりゃぁ・・・信じてましたからね」ニコ
勇者「やっぱり鳥族1さんはやさしい方ですよ、こうして
僕は生きてるんだから」
鳥族1「ハハッ・・・急所をずらした事もお見通しかよ」
無償に笑いたくなった。
鳥族1「なんかもう・・・いいや、俺の負けだ」
・・・こんなに馬鹿みたいに何でも信じる奴が命を奪えるわけねぇじゃねえか。
エルフの少女はうずくまってエグエグ泣いている。
鳥族1「おいガキ」
エルフ少女「・・・・ッ!・・・貴方は絶対に許しません」キッ
鳥族1「安心しろ、お前の勇者様は生きてる。ピンピンしてるぞ」
勇者「いやっ、急所は外れてるけどすごく痛いですからっ!」
エルフ少女「勇者様っ!」ダッ
頭から勇者に突っ込んだ。
勇者「ふぎゃっ・・・・死んじゃう」
皆さん優しい・・・。
かなり書き溜めてるから長いけどよろしく
その数時間後、狼族部隊、龍族部隊と共に側近が到着
した。結果的に八岐大蛇による村の被害は東の一部分のみで誰も命を落とすことはなかった。
魔王「勇者、何と礼を申せばよいか・・・本来ならば
私自身がやらなければいけなかったものを」
勇者「ん~、でもあの状況で動けるのは僕だけでしたし」
側近「それにあの八岐大蛇が襲撃したにもかかわらず
民も兵も誰も命を落とさずにすんだなんて・・・どっちが化け物なのかわかりませんね」
勇者「側近さんの精神攻撃にはどんな防御魔法も効きそうにないです・・・」
こほん、と魔王は咳をする。その顔は少し赤い。
魔王「で、だな勇者よ。これだけの功績をあげたお前に
だな、こほん。わ、私から何かしてやれる事があるならばやってやってもよいぞ?」
側近は何か得心したかのように手をポンと叩いた。
側近「まぁ、誘惑ですか?」
魔王「違うわ阿呆っ!!」スパーン
魔王「・・・・で、何かしてほしいことはあるか?」チラッ
勇者「う~ん、そういうのはあまり考えた事がありませんからねぇ」
魔王「そ、そうか」
勇者「・・・・あっ、今一つ思いつきました!」
魔王「準備はまだか?」
その声は少し弾んでいる。
側近「もう少し待ってください。魔王が少しの間でも城を
離れるなんて特例中の特例なんですから・・・村がとても近い
から許可がなんとかとれたんですよ?」
魔王「それはそうだが・・・」ウズウズ
側近「魔王のこんな姿をあの人間が見たらどう思うか・・・」ハァ
魔王「なぜそこで勇者が出てくるのだ?・・・む、その前に勇者はどこに行ったのだ?」
側近「もう、さっき部屋を出て行ったのを見てなかったんですか
・・・。あの人間は一足先に村へ向かったそうですよ?」
魔王「勇者め、先に行くなんて卑怯な奴なんだ」
側近「・・・」
魔王「ええい、そんな目で私を見るでない!仕方ないだろう?
私が外に出るなんて一体何年ぶりだと思っている!」
側近「・・・たった8年ですが?」
魔王がクワッと目を見開く。
魔王「8年も、だ!今まで生きてきた時間の約半分だぞ?正直言って息がつまる!」
子供のように喚く魔王を横目に見ながら
側近「・・・本当ここにあの人間がいなくて良かったです」
とやるせなそうに呟いた。
・・・もしここに勇者がいたら魔王の尊厳が急激に降下
を始めていただろう。
訂正
魔王「勇者め、先にいくなんて卑怯な奴だ」
ーーーー辺境の村
勇者を満面の笑みで出迎えたのはエルフ少女だった。
エルフ少女「勇者様っ!来てくれたのですね!」ダッ
勇者「うん、今は何かと手が足りないんじゃないかと
思ってね。あとでまた城の者が来ると思う。魔王様も来るよ」ニコ
エルフ少女「ま、魔王様が来るって本当ですか!?」
勇者「うん、少し遅れてくるみたいだけどね」
エルフ少女「新しく就任なされた魔王様ってどんな御方なんですか?」
勇者「・・・すごく純粋な御方だよ」ニコ
エルフ少女「むっ!その笑みに何か危険な匂いを感じま
したよ!さては魔王様は女性ですね?」
勇者「おぉ、よくわかったね」
エルフ少女「ふぐぐぐ!権力なんかに私、負けません!
私まだ子供ですし!これからですし!うわーーーん!」ダッ
いきなり涙目になって走り去ってしまった・・・。
勇者「2年ぶりに会ったからまだたくさん話したい事あったのになぁ・・・」
ーーー辺境の村・東
村長「勇者殿、お久しぶりですな~」ニコ
勇者「こちらこそどうも~、ご無事で何よりです」ニコ
一瞬にしてのんびりした空気が周辺を支配する。
村長「いやはや、もうこれで何度村を助けてもらったかわかりませんなぁ」
勇者「・・・東の一部に被害をだしてしまったのは申し訳ないですけどね。よっ」
角材を持ち上げ、肩に担いだ。民の一人が声を上げる。
「勇者さんこっちにその角材持ってきてくれ!」
勇者「今行きます~、あ、村長またあとで」タッ
村長「人間が皆勇者殿の様であれば、人と魔物が憎しみ合う
事は・・・・・・ふふ、意味のない事だとわかっていても
勇者殿を見ていると何度もそう思ってしまう」
城の者が村に到着してからは修復速度は上がり、日が
落ちる前には村はほぼ元通りになった。・・・・当然魔王が着く頃には。
魔王「・・・私が来た意味はあったのだろうか」
側近「じゃあ戻りましょう」
魔王「待て」ガシッ
側近「ならそんな事を言ってないで民と城の者達に労いの言葉でもかけたらどうです?」
魔王「むむむ、最近私に対する口が悪すぎるのではないか?」
側近「だったらもう少し魔王らしく堂々としてください」
魔王は顔をしかめた。
魔王「むぅ、そう言われてはかなわんな」
村長「お目にかかれて光栄でございます魔王様」
魔王「うむ、此度の件はご苦労だったな」
民幼女「あっ、魔王様だ!」
元気な声を上げて子供が魔王のもとへ駆け寄ってくる。
村長「こら!魔王様の前でそんなはしたない!」
魔王「よい」
民幼女「わぁ!魔王様ってきれいなお姉さんなんだぁ!
私魔王様に初めて会っちゃった」
魔王「き、綺麗・・・?そういう事はよくわからないが礼を
言っておくべきなのだろうな・・・」ニコ
民幼女「うん!私の種族の中ではすっごく綺麗な方だよ!あ、あとね!魔王様にお礼が言いたいの!」
魔王「お礼・・・?」
うん!と花が咲くような笑みを顔一杯に広げて幼女は魔王に言った。
民幼女「えっと、私達みんなを助けてくれて、ありがとうございました!」
魔王の瞳が見開かれた。そして顔に微笑みを浮かべて幼女の頭を撫でる。
魔王「・・・私は何もしていない。礼を言うなら城の者や・・・勇者に言えばいい」
民幼女「うん、もうみんなにお礼を言いにいったんだけどね!
みんな言ってたよ!お礼は魔王様に言ってくれ、って!」
魔王「・・・何?」
民幼女「だってね?確かに自分達はこの村を助けたけど、
それができたのも魔王様が素早く決断してくれた
からだって!この村を助ける事ができたのも、
元通りにできたのも魔王様のお陰だからって!」ニコッ
民幼女「やっぱりお母さんの言った通りだった!魔王様
は私達魔物の事をいつも考えてくれていて、いつも
助けてくれる凄い御方だって言ってたもん!」
魔王「・・・っ!」
だめだ、泣くことは許されない。私はこの子の前では《魔王》なのだから。
民幼女「魔王様はこれからも私達が危ない時は助けてくれるんだよね!」
魔王「・・・ああ、そうだな」ニコ
あふれ出る想いを必死に抑えて笑みをつくる。
そして魔王は自分の首から首飾りを外し、その子の首にかけた。
側近「魔王様ったら・・・」ハァ
民幼女「わぁ~、きれー。これくれるの!?」
村長「ま、魔王様!?」
魔王「いいんだ、元々私はこういう物にあまり興味がないからな」ニコ
魔王はその子の頭をやさしく撫でた。
魔王「その首飾りにかけて誓おう。私は必ず皆を守ると」
魔王が勇者を倒し、また倒される存在だと誰が決めたのか。
そうではないのだ。今ならわかる、魔王とは民の事を
考え、守る存在なのだ。たとえ私がまだ魔王たるに未熟だとしても、もう私に迷いはない。
魔王「・・・あそこにいるのは勇者か」
村長は静かな声で答える。
村長「・・・はい。かれこれもう3時間は」
魔王「なぜあいつは墓の前で祈っているのだ?」
村長「あの墓には・・・歴代の勇者一行達の犠牲になった民達が眠っているのです」
魔王&側近「・・・・・・ッ!!」
昔を懐かしむように村長は言葉を続ける。
村長「・・・勇者様がこの村にいた頃は毎日ここで何時間も祈っていたものです」
側近「やはりあの人間はここに来たことがあるのですね?」
そうでなければ民の勇者へ対する態度の説明がつけられない。
魔王「城に来るにはこの村を通らなければならないからな。・・・勇者はどうやって村を通るこ
とができたのだ?」
村長「勇者様がわざわざ私の所へ来て頼んだのですよ。
やる事があるんです、ここを通させてもらえませんか、と」
魔王「貴方はそれを許可したのか?」
村長は困ったように笑う。
村長「まさか、そんな事を許可する筈がないでしょう?あの勇者ですよ?
そんな危険な存在を魔王様の城へ近づかせるなど考えただけで恐ろしい」
魔王「・・・それで?」
村長「ええ、本当ならすぐに村から追い出したかったのですが、村の外の森で
エルフ少女を助けられたという事もあったので少しだけ滞在を許可したんです」
村長「それに勇者ほどの力をもつならこの村を通るのは
力ずくでも容易な筈なのに何故私に許可を求めたのかが疑問でしたからね」
側近「・・・ですが民はあの人間の滞在なんて許せないのでは?」
村長「それは当たり前ですよ、なにせこの村はこれまで
幾度も勇者一行に苦しめられてきたのですから」
村長「勇者様の民の墓で祈りを捧げる行為も民の怒りの
琴線に触れたのかもしれません」
村長「民の勇者様に対する行動は私の目から見ても凄まじい
物でした。勇者様に対する罵倒、暴力、・・・魔法によ
る攻撃さえありました。おそらく食事をまともに
摂ることさえできなかったのではないでしょうか」
魔王「・・・」
村長「しかし勇者様は必ずそれに謝罪を返すだけで
反撃をする事は一度もありませんでした」
村長「・・・私にはその光景がまるでこの村に歴代の勇者達が
民に与えてきた恐怖、憎悪、怒り、悲しみの全てを勇者様
お一人で背負っているかのようにも見えました。」
村長「そのような状態が半年は続きました。しかし私は
こう思うようになりました。この勇者はこれまでの
勇者とは違うのではないか、と」
村長「森の主が村をいきなり襲ってきた時のことです。
その時は民のほとんどが狩りに出かけていて守りが
手薄だったのです。村への侵入を許してしまいまし
た」
側近「それをあの人間が・・・」
村長「はい。私は心から後悔していました。ああ、もし
最初から勇者様とちゃんと接していれば村を
主から守ってくれたかもしれないのに、と都合の
良いものですね。私達は勇者様にこれまで何を
してきたのかを考えれば希望などない筈なのに」
村長は自嘲的な笑みを浮かべる。
村長「ですが勇者様は私達の村を助けてくださりました。
疾風の如き速さでその場に駆けつけ、主を打ち倒したのです。」
村長「私達は勇者様に言いました、そいつを殺してしまえ
、と。ですが勇者様は何と言ったと思いますか?」
村長「この魔物おいしそうじゃないですよね、と言ったんですよ」
くっく、と村長は堪えきれずに笑う。
村長「つまり勇者様はこう言いたかったのでしょう。
生きる糧にする為に殺すのはかまわないが、私情の為に殺す事はできないと」
村長「その時からでしょうか。民の勇者様に対する態度
が徐々に徐々にゆっくりと和らいでいったのは」
村長「今から半年前にここを出る頃にはもうすっかり
私達の家族のようになりました。できれば
ずっと村にとどまってほしかったのですがね」
未だに祈りを続けている勇者に目を向ける。
村長「・・・このような事をあの方は何度繰り返して
きたのでしょうか・・・。どれだけの魔物の心
を救ってきたのでしょうか。私などでは想像もできません」
魔王「・・・」
村長「・・・さて私の長話もここまでです。お付き合い頂いて有難うございました。」
魔王「・・・いや、有意義な時間だったよ」
村長「ただ、これだけはわかっていただきたいのです」
魔王「・・・何だ?」
村長「勇者様は魔王様にとって危険な存在などでは決して
ありません。必ず貴方様のお力になるということを・・・」
ーーーー魔王城
勇者「いやぁ、本当申し訳ないです。遅くなっちゃって」
あはは、といつもの笑みを浮かべて勇者が戻ってきた。
側近「全くもってその通りですね。雑用という立場とちゃんと弁えて下さい」
勇者「うっ・・・、ご、ごめんなさい・・・」
側近「謝るだけなら誰でもできます。態度で示してください」
勇者が小さくなった。
魔王「まあ今日くらい良いではないか、何をイラついているんだ?」
側近「魔王様も魔王様ですよ!あの首飾りがどんなに
貴重なものがわかってるんですか!?」
魔王「ええと、マくやらなんとかだな」
側近「魔具ですよ!魔具!魔法が籠もっている装飾品な
んてそうそうないのに・・・!」
魔王「いいんだ、あれは私の誓いの証なのだからな」
その声は静かだが、確かに熱が篭っていた。
側近「・・・なんだか魔王様変わりましたね。この人間のせいですか?」
魔王「ち、違う」
勇者「・・・・何がですか?」
魔王「勇者!お前は雑用だろう!さっさと行け!」クワッ
勇者「は、はいぃ!」ダッ
側近「・・・」ジトー
魔王「・・・な、なんだその目は」
「あいつが勇者か・・・」
「まさかあの雑用が勇者だとはな・・・」
「いますぐ殺してやりてぇが・・・」
「ああ、辺境の村を救ったらしいじゃないか」
「くそっ、敵なのか味方なのかハッキリしてほしいもんだな・・・」
勇者「な、なんかいつもより皆さんの視線が鋭いような・・・」
後ろから声がかかる
鳥族1「よう」
勇者「あっ、鳥族1さん!この前はどうも・・・」
鳥族1「前置きはいいからよ、ちょっと話そうぜ」
勇者「でも僕仕事が・・・」
鳥族1「こんな状況で仕事なんかできねぇよ。お前雑用
なんだから兵士に付き合うのも仕事の内だろ?」
勇者「そうですか・・・、ばれちゃいましたか・・・。
あっ、わざわざ伝えてくれてありがとうございます!」
鳥族1「ああ、別にかまわねぇ」
鳥族1「正直な所、荒れてるな。お前が敵なのか味方なのか判断もつかねぇ状態だ」
勇者「あはは、それは当たり前ですよね~」
鳥族1「見たところ余裕そうだが・・・お前これからどうするつもりだ?」
勇者「いや、どうもしませんけど・・・・」
鳥族1「・・・本気か?」
勇者「ええ、こういうのは慣れてますからね」ニコッ
鳥族1「はは・・・お前はそういう奴だったな」
鳥族1「・・・一ついいか」
空気が少し張り詰める。
勇者「・・・なんなりとどうぞ?」ニコ
鳥族1「なんでお前はこの城の者達の中に知ってる奴が
何人もいることを隠してる。・・・お前が口止め
したんだろ?僕の事を知らない振りをしてくださいってな」
勇者「あはは・・・みなさんしゃべっちゃったんですか」
困ったように勇者は笑う
鳥族1「馬鹿が、俺は目を見れば大抵の事はわかるって
言っただろうが。あいつらは絶対に口を割らなかったぜ」
勇者「・・・貴方は怖いですね」
鳥族1「前から疑問に思うことがあった。たまにお前と
他の奴を見かけるとき明らかにお前の相手の目つきが
お前を嫌っている物じゃなかったからな。」
鳥族1「お前はここに来るまでに多くの村や集落を訪れた
んだろ?そんだけ知り合いが多くて城の中にはだれ
も僕の事を知りませんなんて事はありえねぇ」
勇者「・・・」
鳥族1「・・・そもそもこの状況も元からお前が城の者と知り合
いがいることを隠さなければ起きなかったんじゃねぇか?」
勇者「・・・それじゃ駄目なんですよ」
鳥族1「あ?」
勇者「確かに鳥族1さんの言う通りにしていたら城の方々
が僕を見る目は今ほど厳しくなかったかもしれません」
勇者は穏やかに言葉を続ける。
勇者「ですが城の友人が勇者は危険ではない、と
聞かせれても本当に納得できますかね?納得した
としてもそれは表面上だけで、心の底には僕に対する
不信感は消えない筈です」
鳥族1「・・・だったら初めからお前の事を知らない方が
いいってか」
確かに俺だったら聞いただけじゃ納得なんかできねぇ。
勇者「ええ、自分で感じた事以上に信じられるものはあり
ませんから」ニコ
鳥族1「・・・そりゃその通りだ」
勇者「僕が危険なのか危険じゃないのかは城の方達に
自分自身で判断してほしいんです。・・・危険かどうか
なんて事は僕にもわからないんですからね」
鳥族1「・・・そうかい、じゃぁせいぜい城の奴らにボコボコにされるこったな」
鳥族1が手を振りこの場を離れて歩き出す。
勇者「あっ、鳥族1さん!」
鳥族1「・・・何だ」
勇者「話してくれて、ありがとうございました。
やっぱり貴方は優しい方です」ニコ
鳥族1「・・・お前に言われたくねぇってんだ、ボケが」スタスタ
勇者はその後ろ姿を見送り、静かな声で呟いた。
勇者「・・・僕は優しくなんかない、ただの臆病者なんですよ」
魔王「で、またそうなったか」
勇者「・・・ふぁい」
勇者の顔は約1,5倍に膨らんでいる。
側近「そんな馬鹿げた姿晒してないでさっさと回復魔法でも
使えば良いでしょうに」
勇者「へふれふぁほふぉおわつかへいたくないんえすよ」
側近「何を言っているのか全然わかりませんね」
それから勇者は話せるようになるまで30分ほど要した。
勇者「・・・ええと、何を言ってたんでしたっけ?」
側近「その腫れた顔をさらに倍の大きさにしますよ?」
勇者「そうでした!魔法の話でしたねっ!」キリッ
魔王「そういえば前から疑問に思っていたんだ・・・」
言葉を続ける。
魔王「どうしてお前は魔法をあまり使わないのだ?」
魔王「城から飛び降りた際の飛行する魔法といい
あの村で使って見せたという高度な回復魔法、
それだけではお前は並ならぬ魔法使いだろう?」
勇者「いやあ、照れますね~」テレテレ
側近「ふざけないでください」ガスガスガスガス
勇者「・・・ッ!!腿にヒザは勘弁してくださいよぉ!」
魔王「・・・こほん、だがお前はそれを日常で使う事はな
いな。自分の怪我の時、修復の為に村へ向かうときも徒歩だったではないか」
勇者「ああ、それは魔力がもったいないからですよ?」
魔王「・・・魔力なら休めば回復するではないか」
勇者「あれ、言ってませんでしたっけ?僕の魔力が回復する事はないって」
そんな事あるわけがない、と思ったが思い直す。
魔王「・・・お前に有り得ないなんて事は通用しないか」
勇者「あはは、そんなにすんなりわかってもらえるとは
思ってませんでしたけどね」
側近「・・・その首輪が原因ですか?」
側近は勇者の首につけられた黒い首輪に目を向ける
勇者「ぉお!流石側近さんです!ご名答ですよ!・・・なぜわかったんです?」
魔王「私はわからなかったのに・・・」
側近「首輪から幽かな違和感を感じられますから。」
まぁそこまで気にするほどではありませんが、と付け足す。
勇者「う~ん、じゃあこれでどうです?まだ違和感は感じますか?」
側近「・・・・!いえ、全く・・・」
先ほどの違和感は嘘のように掻き消えていた。
勇者「あはは、やっぱりまだ完璧には押さえ込めていな
かったんですね~。詰めが甘かったなぁ」
魔王「その首輪は何時から着けているんだ?」
勇者「う~ん、大体30年前ぐらいですかねぇ」
魔&側「・・・・・・ッ!!!」
魔王「ど、どういう事だ?人間の寿命は100年と聞いていたが・・・・」
勇者の外見がおかしい。人間は20歳を超えたら肉体が衰え始
めると聞いていた。勇者はどう考えても30歳を超えていない
、肉体が全く衰えていないのだ。
勇者「それはすっごく前の事ですよね?」
側近「それは・・・そうですが」
確かに人間に関する情報ははるか昔から伝えられてきた
もので、確実に信憑性があるわけではない。
勇者「変わったんですよ、人も。今の人間の寿命は300歳を超えていますから」
魔王「3倍だと・・・・!?」
生物の寿命を決めるのはその肉体と魔力の許容量だ。
人間の肉体自体は今も変わっていない筈だ。
魔王「・・・それほどの魔力をもつようになったのか」
勇者「ええ、そうです」
魔王「・・・なあ勇者よ」
勇者「・・・・なんですか?」
魔王「・・・何故そんなにお前は辛そうな顔をしている」
何故お前は辛くて、悲しくて、悔しくて、痛くてたまらないかの
ような顔をしているんだ。人間が力を持つようになった
んだ、お前は喜んでも良いのではないか?
勇者「えっ、今そんな顔してました?」ニコ
・・・その笑みの下に何を抱えているんだ?
魔王「まあいい、・・・で、お前もその影響でその若い姿のままなのか?」
勇者「・・・」
勇者の笑みがわずかに強張るのがわかった。
魔王「頼む、教えてくれ・・・」
お前の事が知りたい。
側近「魔王様・・・」
勇者「・・・・あはは、僕の事が知りたいなんて言われたのは
生まれて初めてですよ」
その笑い方は今までで見たことがなかった。その笑い方
は子供のように無邪気で、だがとてもぎごちない。
勇者「そうですね・・・、どこから話せば良いですかね。
一つ、昔話でもしましょうか?題名は・・・そうですね・・・」
勇者「加護と祝福を受けなかった勇者の誕生の物語」
勇者「ある王国のはずれの村にその子は生まれました」
勇者「そしてその親はその赤ん坊を恐ろしく思い
村の外の森の奥深くに捨てました」
勇者「その赤ん坊は化け物でした。長い間何も食べずに
そのままにされていても死ぬことはありませんでした」
勇者「そこにある男の人が通りかかりました。その男の
人はその赤子をかわいそうに思い、自分が育てることにしました。」
勇者「この国では子供が新しく生まれると必ず《神の祝福》
を受けさせる為に王国へ向かう義務がありました。
それは他の国でも同様でした。そうすることで
その子供は病なく健やかに生きることができます」
勇者「でもその男の人はその赤子を王国に連れて行く事は
ありませんでした。その男の人は王国を嫌っていたのです」
勇者「それから数年が経ちました。村の子供は普通の
人間の3倍の速度で成長するその少年を気味が悪いと
執拗にいじめました。毎日毎日化け物、化け物と
呼ばれて過ごしました」
勇者「しかしその少年は絶対にやりかえしませんでした。
自分を拾ってくれた男の人、父の教えだからです。
その少年の体は傷ついてもすぐに治りました。
でも心はなかなか治りませんでした」
勇者「父だけはいつもその少年にとても優しくしてくれ
ました。少年もそんな父の事が大好きでした。
父だけが少年の味方でした」
勇者「10歳になる前日、少年は父に王国に行きたいと
お願いしました。10歳になると王国に行き、
を受けているかどうかを調べる
しきたりがあったからです。《神の加護》を
受けているとわかると、その子は勇者に
なる事ができます」
勇者「少年はもう皆から化け物と呼ばれるのは嫌でした。
勇者になれば皆も自分に優しくしてくれる、そう信じました」
勇者「でも父は自分が王国に行くのを許してはくれません
でした。少年がどんなにお願いしても駄目でした。
少年は絶望しました。」
勇者「このまま化け物を呼ばれ続けるのなら、と少年は
死ぬことに決めました。そして崖から飛び降りたのです。」
勇者「少年は死にませんでした。全身がどんなにぐちゃ
ぐちゃになっていても、みるみるうちに体が
元に戻っていくのです」
勇者「少年は自分に恐怖しました。自分はなんて化け物
なんだ、と。もう死ぬことができない少年に
残された道は王国に行く事だけでした」
勇者「少年は父には何も告げずに王国へ行きました。
教会の人は少年にきみを何年も待っていた、と
言いました。少年はもしかしたら勇者になれる
かもしれないと嬉しくなりました」
勇者「少年はを受けているかを調べるために
薬を飲まされました。そこで少年の意識は消えました。」
勇者「次に目を覚ました時に少年は絶叫しました。
辺り一面が血の海だったのです。周りをみると
たくさんの教会の人達が横たわっているのがわかりました」
勇者「ああ、自分がやったのだ、すぐにわかりました。
少年は泣きました。少年の心では複数の命を
奪った事に耐えることはできませんでした」
勇者「それからすぐに教会の人たちが少年の下に
やってました。君は何も悪くない、そう言われま
した。でもそんな言葉はもうその少年の心には届きませんでした」
勇者「そして少年は王国の王の前に連れてこられました。
少年はとても信じられませんでした。自分なんかが
このような御方の前にいるなんて、と」
勇者「少年は懇願しました、自分を殺してくださいと。
少年は自分がどんな化け物なのかということ、
複数の命を奪ってしまった事を泣きながら訴えました。」
勇者「王様は少年にある黒い首輪をかけました。すると
驚くことに自分の内にある力が半減したのが感じ
とれたのです。しかしそれでも自分が化け物の
ような力を持っていることには変わりませんでした」
勇者「少年は自分が恐ろしいと言いました。
この自分の内にある力が恐ろしくてたまらないと」
勇者「王様はやさしく言いました。その命を奪ってしまっ
たなら、その者達の分まできみは出来ることをする
義務がある、と。」
勇者「そして王様は言いました。きみは勇者になるのだ、と」
勇者「そうして世界にもも
持たない勇者がこの世界に誕生したのでした」
勇者「・・・と話はここまでで終わりです」ニコ
魔&側「・・・・・・」
勇者「もうわかりますよね」
勇者「僕は勇者なんかじゃない・・・・」
勇者は笑う。
勇者「ただの化け物なんです」ニコ
魔王「・・・だがお前が他の人間と違って3倍の速度で成長
しているなら何故・・・」
勇者「ああ、僕の肉体年齢は昔の人間で言えば18歳ぐらい
で止まってるんですよ。僕の力が20歳から始まる
老化をダメージとして排除してるんですよ」
側近「でも顔の傷は・・・自動的に治らないんですか?」
勇者「それは意識的に止めてるんです。この老化を止める
魔法を止めるのは今もできないままなんですけどね」
魔力がもったいないです、と勇者は困ったように笑う。
勇者「老化と止めるのにも魔力を使いますからね」
言いにくそうに側近が尋ねる。
側近「あの・・・・その父親はどうなったのですか?」
勇者「死にましたよ?」
側近「・・・」
勇者「僕が勇者になってからすぐに、僕を取り戻す為に
王国へ一人で攻めたらしいです。まぁ返り討ちに
あったんですけどね」
勇者「あの時ほど泣いた事はなかったなぁ・・・。あ、
昔は僕ってすごく泣き虫だったんですよ?」
あはは、と勇者は笑う。
魔王「・・・なぜ笑ってそんなことが言える」
その声は震えている。
側近「魔王様・・・」
魔王「なぜお前は笑っていられるのだ!泣きたいのなら
泣けばいいだろう!?」
勇者「・・・笑うしかないじゃないですか。泣けば何か
解決するんですか?・・・誰が助けてくれるんですか」
勇者「ましてや僕は救う側ですし、助けるためには
安心を与えなきゃいけないでしょう?こんな
化け物でも・・・・一応僕は勇者ってことになってるんですからね」
魔王「お前が泣けば私が救ってやる」
勇者「・・・・・・っ!!」
勇者の顔がくしゃりと歪む。
魔王「試しにやってやろうか」
魔王が勇者をやさしく抱きしめる。
魔王「・・・お前は化け物なんかじゃないよ」
勇者「あはは・・・・・・・そんなくしゃ、くしゃな顔で言い、ますか、普通・・・」
魔王「・・・・うるさい奴だ。・・・・ここまでしてやっても
お前は泣かないのだな」ギュ
勇者「・・・泣くのは死んでからって決めてますから」
側近の咆哮が雰囲気がぶち壊した。
側近「ナニ勝手に魔王様に触れとんじゃ貴様ァアアアアアアア
アアアアア!!!!」バッキィイイイ
勇者「ふげらばっ!!」ブシャァア
勇者の体が錐揉み回転しながら見事なアーチを描く。
その軌跡を勇者の血が美しい弧円を描く。
側近「このっ!雑用のっ!分際でっ!!」ドガッガスッバキッ
勇者「な、泣いちゃう!ごふッ、違う意味で泣きそう!あと
一発一発が重いよ?!ぐはぁッ」
魔王「・・・まぁ頑張れ」
ーーーーーーーー約1年後
魔王「・・・勇者もすっかりここに馴染んだものだな」
側近「そうですね」
「おい!勇者ちょっとこっちきてくれ!」
「あとでこっちもよろしくね!」
「おいおい!まだか勇者!」
勇者「は、はい!今すぐ!」ダダダダダ
魔王「なんだかもう別の意味で大変そうだな・・・」
側近「もう城の中では勇者=雑用みたいな意味になってますね・・・」
魔王「代わりに私が暇なのだが・・・」
側近「仕事してください」
勇者「や、やっと今日は大体の仕事終わったかな・・・」
鳥族1「よっ」
勇者「ど、どうも鳥族1さん・・・」
鳥族1「今日も忙しそうだな」
勇者「ええ、お陰様で・・・」
鳥族1「あぁ、そうだ。狼族部隊の連中がな、また
組み手しようってよ」
勇者「あぁ・・・・、ほんとですかぁ・・・・」ニコ
泣きそうな顔で笑った。
鳥族1「あとお前に伝えときたい事があってよ」
勇者「はい、なんです?」
鳥族1「遠征に行ってた兵がよ、お前の事見たって
言ってたんだよ。流石にそんなの・・・」
勇者が目を逸らした
鳥族1「・・・・・ってあんのか?なんだお前話聞くときは相手の
目を見るって礼儀も知らねぇのか、おい」ガシッ
勇者「な、なにもしりもふぁん」
鳥族1「・・・何か知ってんだな?」パッ
勇者「うぅ・・・、鳥族1さん以外ならごまかせたのに・・・」
鳥族1「何を知ってる?話せ、おい」ギロッ
勇者「・・・魔法ですよぉ、魔法」
鳥族1「ま、さか・・・・分身ってやつか?はは・・・とうとう
ありえねぇぞ、おいおい・・・・」
勇者「・・・別に信じてくれなくてもいいんですけどね」
鳥族1「そんな事・・・可能なのか・・・?」
勇者「できますよ~、でもまぁけっこう魔力食うし、
あの魔法って魔力を使うっていうか分けるって感覚で発動させますからね」
鳥族1「そりゃ・・・・すげぇな」
勇者「でも魔方陣の構築も構成も死ぬほど面倒くさいから
一気に何体もってわけにはいかないんですけど」
鳥族1「それでお前はその分身を使って何をするつもりなんだ?」
勇者「・・・・やっぱり鋭いですね」
勇者「いずれわかりますよ。安心してください。絶対に悪い事にはなりませんから」
あの人間がこの城に来て約1年半。
今のところはまだ何も起きていない。
でもきっとあの人間は尻尾を出す筈・・・・。
城の者達が、・・・たとえ魔王様があの人間を信用してい
ても、私だけはあの人間を疑い続けなければいけない。
私は魔王の側近、魔王様を、あの子を守らなくてはいけないのだから。
ーーーーーーーーーーーーー8年前
「今の魔王様ももう長くはないだろう。・・・・長年勇者共に与えられてきた傷は深い」
側近「・・・・はい」
「そこでお前には次期魔王の世話をしてほしいのだ」
側近「私が・・・・世話係ですか?」
「そうだ。次期魔王に姿が似ているのはお前ぐらいなものだからな。それに同じ女だ」
側近「私と同じ・・・・人型。相当な魔力をお持ちなのですね」
魔物で人の姿に似ている者は珍しい。
当然人に似ている為に、その肉体は並の魔物に劣るのだ。
「・・・お前と同様にな」
「すでにその者は城に到着しているようだ、会ってみるがいい」
その小さな魔王は側近に満面の笑みを向けている。
絹糸のように艶やかな金色の髪をなびかせてこちらに
走ってきた。
魔王「お姉さんが私のお世話をしてくれるの?これから
よろしくお願いします!って言ったほうがいいのかな?」
・・・・こんな小さい子が、魔王だなんて。
側近「・・・・はい、こちらこそ宜しくお願い致します」
側近「・・・・一体どういう事ですか!?」ダンッ
「・・・何がだ?」
側近「・・・・あんな小さい子が次期魔王だなんて聞いていません」
その声が震えている。
「はは、魔王に同情するつもりか?・・・そんなものは無駄
にしかならん。魔王がいなければ我らは滅ぶ、必要な犠牲
なのだ。お前が一番良くわかっているのではないのか?」
側近「・・・・ッ!!」
「それにあの小娘は充分に魔王たりえる魔力を有している。
・・・・・300年ぐらいは城を守れるのではないか?」
側近「・・・・・このッ」
「お前が無駄に事を計ることはないのだ、側近よ。・・・ただ
お前はあの小娘に魔王の意義を与えていれば良いのだ。
魔王は戦い、我らは事を計るのが役目なのだからな」
魔王「ねぇねぇ側近さん!」
側近「・・・何でございましょう」
魔王「すっごく暇なんだけどなぁ?」
魔王が上目遣いで側近を見つめ、小首を傾げて尋ねる。
いわゆるカワイイ攻撃である。
側近「そうですか」
側近には効果がないようだ・・・・。
魔王「・・・うぅー、暇暇暇暇ーーーー!!!なんか一緒にやろうよ側近さんっ!」
側近「その言葉遣いの矯正、魔法の訓練、掃除などでしたらかまいませんよ」
魔王「うぇっ、そんなの楽しくないよっ!?」
魔王はくしゃっと顔をしかめた。
魔王「うう、やっぱり村の方が楽しかったなぁ・・・・」
側近「・・・・」
魔王「・・・・ねぇ側近さん」
側近「なんでしょうか」
魔王「・・・・魔王になることって、悲しい事なのかな」
ぽつり、ぽつりと魔王は言葉を続ける。
魔王「私が次の魔王になるってきまって・・・・・お父さんとお母さん、泣いてたんだ」
魔王「どうして泣いてたのかな?城の人たちは誇らしい事って言ってたのになぁ・・・・」
側近「・・・それは、」
私は何もこの子に感じてはいけない。
側近「・・・・・とても誇らしい事なのだと思います」ニコ
だが自分の胸にささる痛みが止むことはなかった。
ーーーーーーーーー1年後
魔王「どうして外に出ちゃ駄目なの!?」
その目は涙で赤く腫れている。
側近「・・・貴方様は魔界にとって重要なお方ですから」
魔王「そんなのわからないよ!」
側近「貴方様を危険にさらすわけにはいかないのです」
魔王「だったら魔王なんかやめる!言葉遣いだって直さない!
魔法の練習だって、全部、全部止める!!」
側近「・・・それはできません。・・・・・もう決まった事ですから」
魔王「・・・・・もういい、出てってよ」
側近「・・・・わかりました、失礼します」バタン
魔王「お父さん、お母さん・・・・もう会えないの?」ポロポロ
側近「・・・・いつまでこんな事を続ければいいのよ」
側近「・・・落ち着きましたか?」
魔王「・・・うん」
側近「・・・貴方様は一年前、私に魔王になる事は良い事な
のか、と聞きましたね」
魔王「うん」
側近「正直、私は誇らしい事などとは少しも思っておりません」
魔王「・・・・えっ」
側近「私の兄は・・・・・現代魔王なのです」
魔王「・・・・じゃあ今の魔王って側近さんのお兄さんなの?」
側近「・・・そうです。兄とは言っても、200歳程年上ですが」
側近は静かに言葉を続ける。
側近「兄は魔王として城を、魔界を約300年守り続けました。
そして魔王である事を今も誇りに思っています。
・・・・今ではもう立つ事さえできないのに」
側近は唇を血が出る程かみ締める。
魔王「側近さん・・・」
側近「誇りと引き換えに命を失うなどこんなにも馬鹿げた事
はありません、そう私は思います」
魔王は力なく笑う。
魔王「じゃあ・・・・私もいつか勇者に殺されちゃうんだね」
側近「そうはなりませんよ」
魔王「・・・どうして?」
側近「私が守りますから」
ーーーーーーーーーーーーーー2年後
「魔王就任、おめでとうございます」
魔王「うむ」
「これからの魔界は貴方様にかかっています。
貴方様の御力で勇者一行を幾度もはねのけて
いただける事を期待していますぞ」
魔王「・・・わかっている」
魔王「・・・・少し一人になりたい、下がれ」
「「はっ」」
城の者達が部屋を出て行く。そしてやがてその扉は
また開かれた。
側近「魔王様、就任おめでとうございます」ニコ
魔王「側近っ!久しぶりっ」ダッ
魔王は側近に抱きつく。側近はクスリと笑った。
側近「もう、言葉使いはどうしたんですか?」
魔王「うぅ、あの話し方、年寄りっぽくてちょっと・・・・」
魔王は急に沈痛な面持ちになった。
魔王「側近の兄さんの事は残念だったね・・・・」
側近「・・・・・兄は最後まで笑って逝きました」
魔王「・・・すごいお方だね、私なんか全然だよ」
側近「・・・兄のようになってはいけないのですよ?」
魔王はにっこりと笑う。
魔王「わかってる」
ーーーーーーーーーーーーーーーー3年後
魔王「やはり私では力不足、か」
魔王は自傷気味に笑う。
側近「辺境の村に森の主が来るのを事前に止められなかったのは
貴方の責任ではありませんよ」
魔王「だが側近もわかるだろう?城の者全員が私を信じている
わけではない」
側近「これから皆に慕われるような魔王になれば良いのですよ」ニコ
魔王「・・・・側近」
側近「何でしょうか」
魔王「・・・・本当に皆から慕われる魔王とは何なのかな?死ぬまで
勇者一行から城を守り続ける魔王がそうなのか?」
側近「・・・それは」
魔王「他の道はないのか?人と魔物が手を取り合って共に平和を
得る事は本当にできないのか・・・?人と話し合うことは本当にできないのか?」
側近「・・・・それはこの魔界の歴史が示していますよ」
その声は重く、冷たい。
魔王「・・・私は魔族の為に本当に必要な事をしたいんだよ、側近」ニコ
側近「・・・魔王様」
・・・なんて優しい魔王。
でもその道は最も辛く、苦しい道。
純粋すぎる貴方一人では耐え切れないかもしれない。
だから私は貴方様を命を懸けて守ろう。これからもずっと、いつまでも。
ーーーーーーーーーーーーーーーー2年後
側近「もうっ!あの人間はどこにいったのですか!?」スタスタ
「・・・・・・・・す」
側近「これはあの人間の声・・・・?」
今は城の中で誰も使っていない筈の部屋から勇者の声がしたのだ。
側近「一体何を話しているの・・・・?」
勇者「ええ・・・・、もうすぐです」
側近が聞いたこともないほど冷たく鋭い声。
「そうか、だが期限は明日までだ。」
勇者「・・・・申し訳ございません」
「良い、律儀にお前が王国を出てから20年も待った甲斐が
あったというものだ」
勇者「はい。必ずや貴方様のお望みに応えられるような
戦果を持ち帰りましょう」
勇者「・・・・必ず王様に魔王の首を」
王「うむ」
側近「・・・・・・・・・・嘘・・・・よね」
側近「はっはっ」タッタッ
・・・早くこの事を魔王様に伝えなければ
勇者は嘘をついていた。
魔物を救う気などなかったのだ。
ここにくるまで村に立ち寄ったのは今度攻める時に
警戒心を根こそぎ奪う為。
この城に来たのも魔族の戦力の要を潰す為。
いつも浮かべていたあの笑みさえ嘘だったのか。
1年前に魔王様に対して浮かべたあの表情さえ・・・
早く、早くこの事を・・・
ぽたり、と床に滴が落ちる。
側近「はっ・・・・はっ・・・・・・・・・・どう伝えればいいのよ・・・・うっ」ポロポロ
言えない。
言える訳がない。
なぜ私が泣いているのかはわからない。
こんな事などわかっていた事ではなかったのか。
それとも私もあの人間を心の底では・・・
側近「うっ・・・ひっく・・・・・・もう・・・・勇者を信じる
しかないじゃないのよ・・・・・」ポロポロ
側近「・・・・勇者」
勇者「うぇっ」ビクッ
勇者「ど、どうも側近さん・・・本日はお日柄も良く」ビクビク
側近「・・・・」
勇者「・・・・あれ?今日は殴らないんですね。ってぇえ!?
今僕の事勇者って・・・・」
側近「・・・・私は貴方の事を信じますよ、・・・・勇者」スタスタ
勇者「・・・・ありがとうございます」
勇者はその後姿を見送る
勇者「・・・そっかぁ・・・見られちゃったんだな・・・」
勇者「それでも僕の事を信じてくれたのか・・・」
魔王「ううむ、暇だな」
側近「・・・・・そうですね」
勇者「どうも」
魔王「む、なんだか結構久しい気がするぞ・・・、仕事は良いのか?」
側近「・・・・・ッ!」
勇者「・・・・・はい、仕事は今日全て休んできましたから」ニコ
・・・・その笑みに何が含まれているのか
側近「・・・・・」
勇者「少し、お話したい事があるんです」
魔王「・・・・話とは何だ?」
勇者「はい、今日をもってここを辞めさせていただこうと思いまして」ニコ
魔王「・・・・どういう事だ」
勇者「言葉通りの意味ですよ?だからですね・・・・」
勇者「記念作りに魔王様と一度戦ってみたいなぁ、と」ニコ
側近「信じてるって・・・・言ったのに・・・・ッ!!!」ダッ
側近「勇者ァアアアアアアアアアア!!!!!」
魔王「そ、側近?!」
側近は城の歴戦の兵士とは比べ物にならないほどの
早さで魔方陣を組み立てる。
勇者「遅すぎですよ」ブン
勇者が軽く手を横に振るっただけで魔法陣がこなごなに
砕け散った。
側近「なっ・・・!?」
勇者「少し大人しくしててください」
一瞬にして側近の自由が拘束される。
側近「・・・・・・ッ!・・・・・・魔王様・・・!!逃げ、て・・・・・・ッ!!」
勇者「そんな状態でよく喋れますねぇ・・・・・」
魔王「・・・・・勇者、貴様本当に何のつもりだ?」ギロッ
勇者「・・・やっとですか、戦闘態勢に入るの遅すぎですよ?」
勇者「言ったじゃないですか、これはただの記念作りだって、遊びですよ遊び」
魔王「遊びで側近にこんな事まで・・・・・!!!私はお前の事
を誤解していたようだな」
勇者「・・・・いいから早くやりましょうよ」
側近「や・・・・・め、て・・・・・」ポロポロ
ぎしり、と魔王の顔が歪む。
魔王「いいだろう・・・・!!やってやる・・・・!!!」
魔王「・・・・どうした、来ないのか」
勇者「そんな言葉を吐ける程、貴方に余裕なんてない筈なんですがね」ニコ
勇者「・・・・お先にどうぞ?」
勇者は魔王に恭しくお辞儀をしてみせる
魔王「どこまでも・・・・嘗めた奴だ」
魔王の膨大な魔力が魔方陣に転換され、掌に巨大な魔弾が構築される。
魔王「・・・どうだ、これでもお前はそんな口が利けるのか?」
勇者は退屈そうに口を開く。
勇者「あはは・・・そんなに僕と戦いたくありませんか?
勇者はこんな事しない、勇者は優しい、って今でも思ってるんですか?」
勇者「・・・・側近さんでも殺してみれば貴方の気も変わるんですかね」
勇者はいつものあの笑みを浮かべた。
魔王「・・・・もう、いい」
その声には殺気が篭っている。
魔王「お前はやはり《勇者》だったのだな」
ゴッッッッ!!!!!! という音と共に唸りを上げて魔弾が
勇者に放たれた
勇者「・・・そんな顔で泣かないでくださいよ」
勇者は目の前に迫る魔弾を前にして笑みを浮かべたまま、
そうぽつりと呟いた。
側近「(・・・・ッ!まさか・・・・!)」
耳が割れるほどの轟音が城中に響いた。その魔弾の余波
で城の頂上の屋根の半分が吹き飛ぶ。・・・そして静寂が訪れた。
魔王「・・・どうせお前にはかすり傷一つついてはいないのだろう?」
魔王は自傷気味にはき捨てる。勇者の姿は巻き上がった
粉塵のせいで確認することはできない。
魔王「お前に勝てるとなどは思っていない、だが魔王として私は最後まで戦おう」
側近「魔王様!」
魔王「な、何!?拘束が解けたのか!」
側近「ああ、魔王様、貴方は何ということを・・・」
魔王「・・・どういう事だ」
側近は数時間前に勇者と王様のやり取りの件について話した。
魔王「なん・・・だと」
魔王の顔が蒼白に染まる。
側近「・・・おそらく勇者はわざと魔王様を嗾け、魔王様が自分を殺すように・・・」
震える声で側近は呟く。
魔王「ゆ、勇者・・・・、どこにいるのだ?・・・勇者ぁあああ!!」
悲痛な叫びに応える声は聞こえない。
魔王「う、・・・ぅぁああぁああああああああああ!!」
勇者「か、勝手に殺さないでくださいよぉ・・・」
弱弱しい声で勇者はそう呟いた。
魔&側「ひゃうっ!?」
そういえばよく目を凝らすと人影が見える。
魔王「お、お前よくも私を騙し・・・・・」
そこから言葉が出なかった。我が目を疑った。
服はずたずたに破れ、その服は真紅に染まり、ところ
どころがおかしな方向に曲がっている。
その血に染まった顔はあの笑みを浮かべていた。
勇者「あはは、ちょっと死ぬかと思いましたね・・・。ごほっ・・・流石魔王様です」ニコ
魔王「あ、・・・・あ・・・そん、な」ガタガタ
自分に対する嫌悪で体が小刻みに震える。これは私がやったのだ。
側近が勇者に駆け寄る。
側近「勇者!大丈夫ですか!?今、回復魔法を・・・・」
側近の手を勇者が掴む。
勇者「しなくていいですよ・・・。これは僕に対する罰です
から。回復魔法なら自分で今やってます。まあ、
ぎりぎり立てるぐらいまでで止めますけどね」
魔王「・・・なぜこんな事をしたんだ、お前ならあんな魔弾
ぐらい軽く止められるだろう?」
魔王の手はまだ軽く震えている。
勇者「元々魔弾自体はくらう予定だったんですけどね。
魔王様の泣いている顔を見たら防御魔法を使う
気になれなかったんですよ・・・・」
魔王「・・・馬鹿だな、お前は本当に・・・」
側近「・・・勇者はこれからどうするつもりなんですか?」
勇者「これから王国へ向かいます。魔王討伐の期限は明日ですから」
魔王「そんな体で行くのは無茶だ!」
勇者「大丈夫ですよ。歩いていくわけじゃないですから、
それに徒歩じゃ1日で王国に着きませんし」
夥しい数の足音が響いてくる
兵士達「一体何があったのですか!?」
側近「後で説明しますから、今は出て行ってもらえますか」ギロッ
兵士達「は、はい」
ぞろぞろと部屋を出て行った。
側近「どうして勇者はこのような事を・・・?」
勇者「王国に僕が魔王に敗北した事を知らせる為ですよ」
魔王「・・・・勇者」
勇者「人間の魔法に関する技術はもはや魔物を超えてい
ます。並大抵の事では誤魔化すことができないんですよ」
魔王「私と戦ったのもその為なのか・・・?」
勇者「ええ、そのお陰で僕の体には魔王様の残留魔力
が残ってますから、少しぐらいなら誤魔化せるはずです」
魔王「そういう事なら事前に話してくれれば・・・!」
勇者は穏やかな顔で魔王に告げる。
勇者「僕と本当に戦いましたか?」
魔王「・・・・それは」
勇者「・・・もう時間もありませんからね」
側近「それならもっと前に話していれば良かったのでは?」
勇者はすこし困ったような顔になった。
勇者「うぅ、・・・痛い所つきますね」
勇者「・・・それは楽しかったからですよ」ニコ
側近「・・・それはどういった・・・」
勇者「僕が最初に来たときの事を覚えていますか?」
魔王「ああ、見たときからおかしな奴だと思ったぞ?」
勇者「うっ、それはちょっとおいときまして・・・最初は
僕も大変だったんですよ。皆さんからボコボコに
されたり、食事五日間連続なしとかされたり」
側近「それは誰の事を言ってるんですか?」ガスッ
勇者「ぐはっ!うぅ・・・怪我してるのに容赦ないですね」
勇者「でもそれも時間が経つにつれてだんだん皆さん
も僕に対してそんなに厳しくなくなっていって
、そこからだんだんと楽しくなってきたんですよ」
側近「・・・・」
勇者「ちゃんと話ができるようになってからは皆さん
の事がよくわかるようになって・・・・仕事もちゃんと
やらせてもらえるようになって」
勇者は満面の笑みを浮かべて話を続ける。
勇者「今となっては逆に僕に話しかけてくれたりして、
毎日忙しいですけど色んな方と笑って話せて」
勇者「そんな生活が僕にとってはすごく大事になった
ですよね、魔王様や側近さんや皆さん全員がいる生活が」
勇者「村の人たちだってそうです。僕がここまでくるまで
に出会った人たちも本当に良い方達ばかりで、辛い事も多かったですけど」
魔王「勇者・・・・」
勇者「だから僕はどんなに辛くなっても限界までこの
生活を続けたかった、続けたかったんです」ニコ
勇者「でも、もうその時は来ました」
魔王「ああ、・・・・そうだな」
勇者「魔王様、お願いしたいことがあるんですが」
魔王「・・・言ってみろ」
勇者「人と、・・・・人間と協定を結んでくれませんか?」
魔王「・・・無理だな」
勇者「何故ですか?」
魔王「人間は、奴らは私達に対する敵対心が強すぎる。
それに勇者は今の人間は強い魔力を有していると
言ったな。仮に奴ら一人ひとりが勇者一行の一人
と同等の働きができるとするならば危険が高すぎる」
勇者「その為に僕がいるんです」ニコ
勇者「それに全ての人間が魔物を嫌っているわけでは
ありませんよ?」
側近「そんなことは・・・・ありえるかもしれませんね」
・・・このような人間がいるなら。
魔王「それでもだな・・・」
勇者「なら信じてください、僕の事を」
魔王「・・・魔王が勇者を信じる・・・か」
魔王「あはっ、あははは!本当にお前は面白い奴だっ」
魔王は腹を抱えて笑う。
魔王「ふふっ・・・・いいだろう、その冗談呑んでやる」ニコ
勇者「ありがとうございます」ニコ
勇者「では僕は先に王国に行ってるので後を追ってきてくださいね」
魔王「王国の下町にあるお前の家を見せる約束、忘れるなよ?」ニヤ
勇者「うっ、い、いってきますっ」ドンッ
赤く焼けた空を見上げて魔王は呟いた。
魔王「あの飛行魔法、今度教えてもらいたいものだな」
側近「そうですね・・・」
魔王「・・・それと側近、お前さっき勇者と何をを長々と話してた?」
側近は勇者のような笑みを浮かべる。
側近「・・・・些細なことですよ」ニコ
10時間後
ーーーーーーーーーーーー王国のはずれの村
村人1「ひっひっぃいいい!!!ば、化け物め、今頃何しに
きやがった!!ここには何もねぇぞ!!」
勇者「・・・すぐに出て行きますから、安心してください」ニコ
勇者が村の中を歩くたびに悲鳴があがる。
来るな、化け物。
悪魔め。どこかへ消えろ。
勇者は涼しい顔をして歩き続ける。
・・・やがてある墓標に行き着いた。
勇者「あはは、埃と雑草だらけ、ひどいね、掃除しないと」
勇者「久しぶり、父さん」ニコ
ーーーーーーーーーーーー約30年前
家の前にある少年が立っている。
その顔は暗く、沈んでいたが、やがて手で自分の顔が
モニュモニュ揉むと笑顔になった。よし、と少年はドアを開ける。
少年「ただいま!父さん!」バタン
父「おう!おかえり!遅かったなぁ、今日も友達と遊んできたのか?」ニカッ
少年「う、うん!そうなんだ!」ニコ
一人森の中で時間を潰していた、などとは当然言えない。
少年「今日のご飯は何?」
父「くくく、聞いて驚け!今日はグリズリーを使った肉鍋
だぁーーー!!!」ドーン
少年「わぁ、お肉たくさん入ってるね!」
父「おう!たくさん食えよ?」
少年「もぐもぐ・・・ねぇ父さん」
父「なんだ?」
少年「・・・僕、もうすぐ10歳だよね?」
父の顔がびきりと固まる。
父「・・・・・・・ああ、そうだな」
少年「僕、王国に行きたいんだけど・・・・」
父「駄目だ」ギロッ
少年「ど、どうして?」
父「駄目なもんは駄目だ。他の事なら何でも許してやるが
王国に行くのだけは駄目だ」
少年「・・・・どうしてさ、どうして駄目なの?理由がなきゃわからないよ!」
少年の目に涙がたまる。
父「・・・・・ッ!!お前は知らなくていい事だ。知っていい事と
知ってはいけない事があるんだ。」
少年「・・・・ねぇ、父さんも僕には言わないでくれてるけど知ってるんでしょ?」
少年「僕が化け物って呼ばれてる事」
>>174 では時間の許す限り続きを書かせていただきます。
父「・・・・・・」
少年は震える声で言葉を続ける。
少年「本当は今日一人で森にいたんだよ?それだけじゃ
ない、ずっと、ずっと!ずっと前から僕は一人で森にいたんだ!!」ポロポロ
少年「もう嫌なんだよ・・・・化け物って呼ばれるのはもう嫌なんだ」
父「・・・お前は化け物なんかじゃねぇ、俺の息子だ」
少年「でも!!みんなは違う!父さんは僕の事を認めて
くれてもみんなは違うんだよ父さん!!」
少年はもう目から溢れるものを止めようともしない。
少年「勇者になれば!!みんなだけじゃなくて父さんも
喜んでくれると思ってたのに!!」
父は少年を抱きしめた。
父「今だけは、今だけは我慢してくれ。頼む・・・・ッ!!!」ポロポロ
少年「今って・・・・いつまで僕は我慢すればいいんだよぉ・・・ひっく」
少年「父さんはああ言ってくれたけど・・・・やっぱり僕
にはもう耐えられないよ」
20メートルはあろうかという崖の上に少年は立っていた。
少年「ごめん、父さん」タンッ
目を閉じながら少年は願う。
少年「次に生まれてくる時は皆と同じように生まれますように・・・」ギュ
ゴチャッッ!!! その直後に鈍い音が響き渡った。
・・・もう僕は死んだのかな?
真っ暗で何も見えないよ。
天国にいけたのかな、地獄にいっちゃったのかな?
地獄かもしれないな、父さんにひどい事言っちゃったから。
あ・・・、だんだん目が見えるようになってきた。
だがその光景は地獄でも天国でもなかった。
少年「なん、だよ・・・・これぇ・・・・」
そこに拡がっていたのは血、血、血。
手足はぐちゃぐちゃに折れ曲がり、内蔵のいたる所が
飛び出している。おそらく目が見えなかったのは
頭も潰れていたからだろう。
少年は絶叫する。
少年「なんでこんなになっても僕は生きてるんだよぉおおおおおおお!!!!!!!」
べきべき、めきめき、と歪な音をたてながら少年の意に
反して体が再生する。
僕は化け物。
その絶対的な事実が少年の頭を埋め尽くす。
少年「・・・・僕は死ぬこともできないんだ」ポロポロ
少年に出来ることは・・・ただ泣くことだけだった。
少年「・・・・王国に行こう」
誰に言うでもなくぽつり、と少年は呟いた。
少年「僕みたいな化け物が皆に認められるには勇者になるしかないんだ・・・・」
ーーーーーーーーーーー王国・下町
少年「わぁ・・・・、すごいや」
目の前に広がる光景は、少年に衝撃を与えていた。
材木ではなく石材で形作られる家の数々、そしてその遠方にそびえる城は
とても言葉では言い表せない程の絢爛さを誇っている。
その門には豪華な装飾が施されており、城壁には外敵を絶対的に遮断する
魔法が無数に組み込まれている。それらの全てが王国の強大さを物語っていた。
どん、と唐突に背中に何かが当たった。
少年「うわっ」
下町女「あら、ごめんね僕。大丈夫?」
どうやら女の人の荷物が自分に当たったらしい。
少年「だ、大丈夫です」
そう、と女は笑って去っていったが、少年はそれどころではなかった。
少年「ここでなら・・・・、僕はただの少年なんだ」
その事実は少年にわずかな希望を与えた。
ーーーーーーーーーー王国・教会
教会男1「そうですか、貴方はここに勇者になる為にやってきたと?」
少年「は、はい」
教会男1「・・・・ですが、貴方は生まれたときに《神の祝福》を受けていま
せんね?もしそうなら残念ながら貴方では・・・・」
少年「・・・・やっぱりそうですよね、村生まれの僕なんかじゃ勇者になれる
わけ・・・・ないんだ」
少年は視界が絶望に染まるのを感じた。
教会男1「・・・・今、村生まれと言いましたか?」
少年「はい・・・、そうですが」
教会男1「もしや・・・・君の名前は少年というのでは?」
少年「・・・・はい。どうして僕の名前を・・・・?」
教会男1はにこり、と笑う。
教会男1「君の事をずっと待っていたのですよ」
>>183 それはちょっと厳しいかもしれないです・・・
「とうとうこの時が来たのか」
「まさか奴の方からのこのこやってくるとはな」
「これが成功すれば王は世界の全てを手に入れなさる」
「今まで10年もの間我らを欺いてきた《王国の英雄》でさえも、もはや
我らの邪魔はできんよ、くはは」
僕は勇者になれるって教会の男の人が言ってくれたんだ。
これでやっと僕もみんなに認められる。
もう僕は化け物なんかじゃない。
勇者なんだ。
教会男1「この聖水を飲みなさい、そうすれば次に目覚めた時には・・・」
少年は頷き、渡された聖水を飲み干した。
教会男1「君は《勇者》だ」
少年「あ・・・・れ」グラッ
その瞬間、少年の意識は暗転した。少年が最後に見たのは、教会の男の
魔物のように凶暴な笑みだった。
あ・・・・れ・・・・。
僕は勇者になれたのかな?
体がうまく動かないよ、どうしてだろ?目を開けなきゃ・・・・
少年「何・・・これ」
少年は何も身に纏うものは纏っていない。その上手足には強固な鎖が
繋がれており、体には血で魔方陣が描かれてる。目を動かせば
自分は30メートルもの巨大な魔方陣の中央にいる事がわかった。
遠くで教会の人が騒いでいるのがぼんやりと聴こえる。
「馬鹿なッ!!なぜ奴は起き上がっている!?」
「・・・・化け物め、奴に与えた睡眠薬は一万人分相当の量を凝縮したものだぞ・・・・!!」
「こうなってしまっては・・・・、アレを使うしかないようだ」
合図の声と共に教会の人間達は皆一斉に巨大な魔方陣に手をつけた。
少年に対する魔法が発動する。
少年の絶叫が教会の地下に響いた。
少年「あぎゃ、ぐがぁあああああぁああがががががががあああああ!!!」
崖から落ちた時とは比べ物にならない激痛が少年を襲う。
痛みに暴れまわりたくても鎖がそうはさせない。
教会男1「これでも死なないとは・・・・、やはり王の仰っていた通りだったか。
全く恐ろしい化け物だよ、お前は」
男は少年に近づく。その手にナイフとある水晶のような珠を持って
教会男1「・・・・少し大人しくしていてくれよ?」
そう言ってナイフを少年の胸に突き刺し、その傷をこじ開ける。
少年「あがっ!?ぐがぁああが・・・・ッ!!!」
教会男1「こいつをお前の中に入れればお前は《勇者》になれるんだ」
教会の男がその珠を傷口に近づける。
なんで・・・、なんでボクだケが。
なンデボクダケガ。
コンナメに遭ワナキャイケナインダ。
ボクハナニモシテナイノニ、・・・・・・ボクをイジメルのワオマエタチカ?
ぷつん、と少年の頭の中で何かが切れた。
ガキンッ!!! と何かが千切れた音がした。
教会男1「・・・・なんだ今の」グキャ
だらりと糸が切れた人形のように教会の男は倒れる。
その時、教会の人間達は何を見たのかを知るものは今はもういない。
「ば、化け物・・・・・」ガチガチ
「い、命だけは助けてくれ・・・・」ガタガタ
少年「なんだよ」
少年は呟く。血の涙をながしながら
少年「・・・・そんな目で僕を見るなよ」
少年は笑っていた。
少年「・・・・うっ」
少年のいる場所は静まりかえっている。
少年「どうして僕・・・・、確か教会で聖水ももらって・・・・うぅ、頭が痛いよぉ」
ぬるり、と急に足元に生暖かい感触を感じる。
少年「うわっ!な、何これ・・・・・、え・・・・?」
自分のいる部屋に明かりはなく、明確に判断する事はできない。
少年「これって・・・・・血?ま・・・・さ、か」
少年の顔が蒼白にそまる。すぐに明かりと灯す魔法を行使した。
だが明かりに照らされる少年の顔は赤い。
少年「・・・・・ぁ、・・・・あ・・・・・あぁ」ガチガチ
目の前の光景を信じる事ができない。
殺戮と破壊。この二つの言葉以外にこの状況を表す事はできない。
・・・・・・・・・これを僕がやったんだ。
少年「う、うぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」
少年がどれだけ後悔し、悲しみ、泣き叫んでも・・・・・一度自分が奪った
命が再び元に戻る事はなかった。
・・・・もう僕に出来る事は何もないんだ、もう何も。
死ぬこともできない、命を助ける事もできない、それどころが
多く人の命を奪ってしまった、生きるためではなく、ただ殺した。
もはや僕に勇者になる資格は、ない。
・・・・・僕は何のために生まれてきたのかな。
教会の人間が少年の下に駆けつけたのは、一時間ほど経ってからだった。
教会女1「・・・貴方が責任を負う必要はありませんよ」
やさしい声で少年を諭す。
少年「・・・・・はい」
だがその声は少年の心には届かない。
教会女1「さぁ、行きましょうか」
少年「・・・・行くって、どこに行くんですか」
教会の女は微笑む。
教会女1「・・・・王様がお待ちです」ニコ
ーーーーー王国・城
王「おぉ、会いたかったぞ、少年よ」
ゆったりとした声が応接間に響く。その端整な顔立ちに
皺が加わり、より荘厳な雰囲気がかもし出されている。
少年「お目にかかれて光栄でございます、陛下」
こんな僕なんかが会っていい方ではない、と少年は思う。
王「もう少しくだけた口調でもよい」ニコ
少年「・・・何故陛下は僕などに会おうと思われたのですか?」
王「少年の話は村から届いている」
少年「・・・・・・ッ!!」
では王は知っているんだ、本当の僕を。
王「少年の事を化け物、などとは私は思わんよ。むしろ特別な力がある
と誇るべきだろう」
少年は震える声で呟く。
少年「・・・・・本当にそうでしょうか」
>>192 自分が使ってるPCは家族共有でして・・・、親が帰ってきたら死亡なんです;
申し訳ありません・・・
少年「僕はこの力のせいで死ぬこともできないんです。先ほども教会
で・・・・・多くの命を奪いました」
王「・・・・それは、難儀であったな」
少年「・・・・・それだけ、ですか?」
王「だがそれは少年の意志でやったわけではないのだろう?」
少年「・・・殺した事は事実です。僕は死ななければならないんですよ・・・!
これ以上命を奪わないために!早く!」
少年は泣き叫んだ。
少年「でも駄目なんですよぉ・・・!僕じゃ、僕じゃ自分で死ねないんですよ!
お願いします・・・僕を殺してください、お願いします・・・・!」ポロポロ
王「・・・・そうだな。少年は多くの命を奪っただろう、そのそれぞれにこれからの
未来があった筈だ。・・・お前はそれを奪った」
少年「・・・・・はい」
王「だがそれで償いになるのか?少年が死ぬことでそれを償いきれると?」
少年「・・・・・それは・・・」
王「なら別の形で償いべきではないのか?」
少年「・・・・そんな事できるのでしょうか」
王「《勇者》となるのだ少年よ、《勇者》となり、より多くの人々の未来を救うのだ」
少年「・・・勇者にはなれません、この力がある限り・・・・!!僕はまた
命を奪ってしまうかもしれない!」
王「・・・・・・いや、その力を弱めることなら、できる」ニコ
・・・・嘘だ。
この力がどれだけのものなのかは僕が一番よくわかってる。
王「戦士長、アレをここへ」
戦士長「はっ」
少年「そんな事・・・・本当にできるのでしょうか」
王「おそらくは、な」
少年は何故かこの時の王の表情に違和感を感じた。
戦士長「お持ちしました」スッ
それは黒い首輪だった。少年は一目見てそれに異常な魔法がかかっていること
を理解する。
王「うむ、少年よ。それを首につけるのだ」
少年「はい」
少年は潔くその首輪を首に着けた。
恐らくこの首輪は危険だ。自分の本能が拒否反応を起こしている。
だがこれで良いんだ、と少年は思う。
少年「うぐっ!」
首輪を着けた瞬間に体に激痛が走る。
それからじろじろと体の中が蝕まれていくのがわかった。
自分の中の力が殺されていく。そしてそれに呼応して力が再生する。
やがてその殺戮と再生は自分の半分ほど力が減ったところで止まった。
それと共に自分の力に対する恐怖が薄れていく。
王「・・・・どうだ?」
少年「は、い。信じられませんが、・・・・本当に力が減りました」
王「少年よ、・・・・・《勇者》をやってくれるか?私はお前にやってもらい
たいのだよ」
少年「・・・・王の御心のままに」
この弱まった力なら僕にも扱えるかもしれない。
この化け物の力を命を助けるために使えるかもしれないんだ。
なら僕は勇者になるしかない。
・・・父の死を聞いたのはそれから五日後の事だった。
父が王国へ一人で攻め入り、返り討ちにあったとの事だ。
・・・・おそらく僕を取り戻す為に。
勇者「暫しの間、城を空ける事をお許しください、陛下」
王「良い。勇者の父への手向け、存分にしてくるがいい」
勇者「有難きお言葉、失礼します」スッ
勇者の後ろを見送り、王は一人、笑う。
王「さて、どう動く?勇者よ」
ーーーーーーーーーー王国のはずれの村
村人「・・・・おめぇか」
勇者「・・・・ご無沙汰してます」
村人「はっ、えらくなったようだがな、ここじゃ誰もお前の事を勇者と
呼ぶ奴はいねぇぞ」
勇者「それは、わかってますよ。僕の父の墓は、どこにありますかね」
村人「・・・・お前らの家の傍だ。作ってやっただけ有難く思えよ」
勇者は唇をかみ締める。
勇者「有難う・・・・ございます」
勇者は自分の家へと向かった。父の墓を目の前にして、勇者は笑う。
勇者「・・・・小さいお墓だね」
墓にぽろぽろと滴が落ちる。
勇者「ごめんなさい、父さん」
勇者「この家にいるのは、・・・・もう僕一人だけなんだ」
数日離れていただけなのにひどく懐かしく感じる家
の中を見渡す。
勇者「・・・・これは?」
勇者はテーブルの上に一冊の本を見つけた。
勇者は椅子に座り、本を開く。するとそこに父の字があった。
勇者「父さん・・・・?」
息子へ
お前がこれを開いているなら、俺は死んだんだろうな。
俺が死んだのはお前のせいじゃない。俺がお前をもっとちゃんと
見てやれなかったからだ。・・・・本当にすまん。
・・・この本には俺の全てが書いてある。もちろんお前に初めて会った
時のこともな。
もっと前にこの事を話していれば良かったのに、と今は思う。
だがこれは決してお前の為を思って話さないでいたんだ。
だからこれから書いてある、まぁ話すことは楽しいことじゃない。
でもお前にはもう伝えると決めた。・・・・さぁ紙をめくるんだ。
お前にはここから話そうと思う。
・・・・俺が《王国の英雄》と呼ばれていた頃について
お前の父より
勇者「・・・・父さん」ペラッ
勇者は本のページをめくると魔法が発動した。
父『よう、開いちまったんだな、息子よ』
勇者「・・・・・本当に父さんなの・・・・?」
父『それ以外だったらなんだってんだよ?』
勇者の頬から涙が伝う。
勇者「・・・・・どうして死んだんだよぉ」ポロポロ
父『・・・・男にはやらなきゃなんねぇ時があるってことだよ』
父『あ、一言いっとくがこの喋っている俺は正真正銘の俺じゃねぇからな。
簡単に言えばこの本に俺の記憶と意識を複製したんだ。まぁそんな
の簡単にできるわけねぇから完璧じゃないって意味でな』
勇者「父さん、そんな魔法が使えたんだ・・・・・」
父『おうよ!崇めていいんだぜ!?なんたって俺は《勇者》だったん
だからな!!お前の先輩だ!』
勇者「・・・・・嘘、でしょ?」
父『だから全部話すって言っただろ?俺は300年前に魔王を打ち倒した
《王国の英雄》って呼ばれた勇者だ』
父『まぁ、本当に伝えたいことはそんな事じゃねぇんだけどな』
父『俺は王国で生まれ育ったんだ。お前は村で育ったからわかんなかった
だろうが、王国では憎むべき敵は魔物、魔物を殺す事は名誉って
なんとも馬鹿らしい洗脳教育が流行っててな』
父『・・・・俺もその洗脳された馬鹿の一人だった。俺は10歳の時に
《神の加護》を受けているって発覚してな。勇者の素養があったんだ』
勇者「そうなんだ・・・・」
父『俺は浮かれてたよ。周りから勇者様、勇者様って言われてな。魔法だ
ってその辺の魔法使いなんか俺の足元にも及ばなかった』
父『だから勘違いしてたんだ。勇者になるってことがどういう事かをな』
父は静かに言葉を続ける。
父『俺が24歳ぐらいになってよ。とうとう魔王討伐の命が下されたんだ』
父『でもそのころには俺も流石に異変に気づいてな。どう考えても
4人だけで魔王討伐って無茶だろってな』
父『4人の他にも魔王と戦える奴はごろごろいるのになんで4人で行かな
きゃいけないんだって俺は何度も王に問い詰めたさ。でも王は
そういう決まりなのだ、の一点張りだった』
父『だから俺達は行ったよ、4人だけでな。まるで死刑台に送られる
囚人みたいだったぜ?ははは』
勇者「・・・・・」
父『最初は良かったよ。人間界だと殺すのに罪悪感も感じねぇ姿、知能
を持った奴しかいなかったからな。だが魔界では違った。
どう考えても俺たちと同じ知能と、感情を持った奴らがいたのさ。
いや、俺たち人間なんかよりずっと頭の良い奴もいたぜ?』
父『そんな奴らを殺して心は痛まないのかって?そりゃ痛むさ、だがよ。
そんなもんは麻痺しちまうのさ。あの時は何でも恨んだ。4人だけで
この痛みを背負わされなきゃいけなかったことを、仲間が俺以外
皆死んじまった事をな』
父『死んでった仲間は俺になんて言ったと思う?勇者、お前ならできる、
だからお前だけでも生きろ、そう言ったんだ。そんな俺はどう
すりゃいい?』
父『俺にできるのはその責任から逃げることだけさ。痛みから逃げないと俺が
壊れちまう。逃げる為に殺して殺して殺して・・・・・結果的に俺に
残されたのは魔王の抹殺の命と魔物に対する憎悪だけ』
父『魔物達に俺の姿はどう映ったんだろうな・・・・、よっぽどの化け物
に映ったに違いねぇ。お前よりもよっぽどな。・・・・話し合えば
分かり合えたかもしれねぇのになぁ・・・・』
勇者「・・・・父さん」
父『最終的に俺は魔王を殺しちまった。どうやったかなんて覚えてねぇよ。
命からがら城に逃げ戻った俺は英雄扱いだ。・・・・だが俺にはもう
何も残っちゃいなかった。そんな俺が《王国の英雄》だと?
ふざけんじゃねぇよ』
父『だが俺には人並みの王国へ対する憎しみだけは残ってたらしくてな。
俺はどんな事でも《王国の英雄》の伝を使って王国の事を
調べて調べて調べまくってやった』
父『・・・・そして俺は人間として知っちゃぁならねぇ事を知った。
それがばれて王国から追放さ、まぁ命あっただけマシだけどな』
父『そっからの俺は魂が抜けたみたいになっちまってな。全てがもう
どうでも良くなっちまったが、3人の事が頭から離れなくってよ、
・・・・・死ねなかった。それがあいつ等との最後の約束だからよ』
父『それで俺は王国のはずれの村に住むことに決めたんだ。近かったし、
それに村に入ってくる魔物を人から守ることで俺の心を慰めたかった
んだよな。俺は良い事してる、ってな大した偽善だろ?』
勇者「そんな事・・・・ないよ」
父『・・・・そんな生活が300年続いたよ。いつものように俺は森で飯の為に
適当な獲物を探してたらよ。森の奥である赤子を見つけたんだ』
勇者「・・・・・それが・・・」
父『そう、お前だよ』
父『俺は急いでその赤子に駆け寄ったよ。餓死してるだろうとは
思ったけどな』
勇者「でも僕は死んでなかった」
父『・・・・そうだ。俺はお前をその時見た瞬間にわかった、ああ、この子は
特別な存在なんだ、とな。そして同時に思ったんだ、この子がこの
先どのように生きていくのかをな』
父『皆から化け物と呼ばれる事は容易に想像できた。それだけじゃない、
皆がこの子を災厄の子として殺そうとするだろう、と』
父『なんて悲しい運命を背負った子だ、と思った。だからこそ俺は
お前を自分で育てようと思ったんだ。自分で運命を選択できる日まで
俺がお前を守り通そうと思った。まあ、そうする事で俺がしたことの
罪を償いたかったのかもしれないがな』
勇者「・・・・・そして今が選択の時なんだね」
父『ああ、できればお前がもっと成長してから選択させてやりたかった
んだがな。さて、これから俺がお前に話すことは全て最も重要かつ
本当の事だ。覚悟はいいな?その上でお前が自分の運命を決めるんだ』
勇者「うん、受けてたつよ」
勇者「・・・・・全てわかったよ、父さん。この王国のことも、魔界のことも
・・・全部」
その声は落ち着いている。
父『・・・・・ならお前の選択を聞かせてもらおうか』
勇者「今の話が本当でも僕の選択は変わらない、僕は・・・・」
勇者「・・・・人間と魔物が共存できる世界を作るよ」
父『ああ・・・・、それがお前の選択ならもう言うべき事はねぇ・・・。お前なら 、できる』
父『最後に一言言ってもいいか・・・・、もう、この魔具の魔力が切れそうだ』
勇者「なんでも言ってよ、父さん」
父『お前と、・・・・過ご・・・せた、10年間は・・・・何よりも幸せだった』
勇者「・・・・じゃあ、僕も一言」
勇者はもう泣いてはいない。
勇者「僕、本当に父さんの息子で良かったよ」ニコ
父『は、・・・・・は、最後の、最後に、嬉しい、事言いやが・・・・』
・・・・もう父の声は聞こえない。
勇者「おやすみ」
勇者は穏やかな顔で、そう告げた。
ーーーーーーーーーーーー30年後
勇者「確かに勇者になってから辛いことも悲しいこともあったけど、
・・・・・楽しい事もたくさんあったよ?」
勇者は父の墓に話しかける。
勇者「やっぱり父さんの言った通り、ちゃんと魔物さん達だって話せば
僕の事をわかってもらえた」ニコ
勇者「初めてだったよ。・・・・僕の事を化け物ってわかってても純粋に僕の事
を見てもらえたのは」
勇者「皆僕に普通に接してくれて、あれほど嬉しい事はなかった。
やっぱり30年前の選択は間違ってなかったんだって、今は
はっきりとそう思えるんだ・・・。父さんのお陰だよ」
勇者「・・・僕がこれからやろうとする事は、もしかしたら人も魔物も
全ての生き物達が喜ぶ事ではないかもしれない」
勇者「でも皆は僕の事を信じてくれたんだ。・・・・だから僕も自分の事を最後
まで信じてみるよ。じゃあ父さん」
穏やかな笑みを浮かべて、
勇者「いってきます」
勇者は歩き出す。
>>221 ではあと30分頑張ります
永かった。
私のしてきた事の全てが、今日報われる。
やっと、やっと私は世界の運命を掌握する事ができる。
・・・・世界の王になるのだ。
王「・・・・久しいな」
王はその者を見据える。
王「勇者よ」
勇者「ええ、お久しぶりです。陛下」
>>222 恐らく今日中は無理だと思います・・・申し訳ありません;
王「話は聞いている。・・・随分なやられ様だな」
勇者「・・・申し訳ありません。私の力が至らなかったばかりに王様のご期待
に副うことがかなわず」
王「良い。20年間、よく《勇者》をやってくれた」
王にどす黒い笑みに口を歪めた。
王「・・・・もう休め」
その瞬間、巨大な魔方陣が勇者を中心に展開される。
勇者「これは・・・・・ッ!!」
王「・・・お前にこの魔法を破壊する魔力がもう残っていないことなどもう
わかっている」
勇者「・・・・ッ!!ぐっあっ・・・・がっ!?」ビキビキ
勇者はこの激痛を知っている。何故かはわからないが体が覚えている。
王「くはは、どうだね。30年振りの激痛の味は」
>>224 あと4,5割ぐらいでしょうか・・・
勇者「それは・・・どういう、事だ・・・・ッ」
王「ああ、そうだった。お前は覚えていないのだったなぁ、30年前の
あの事を」
王「しかしこの20年間のお前の《勇者》としての働きは素晴らしいもの
だったよ」
心底愉快ような笑みを浮かべて王は言葉を続ける。
王「・・・お陰で今度こそ魔族を一匹残らず殲滅できる」
勇者「・・・・王、貴方は・・・・ッ!!」
王「何も私が知らなかったとでも?お前がこの20年間何をしていたかを、
私がそこまで無能だとでも思ったか」ドカッ
勇者「ぐっ・・・・」
王「いやはや、この20年間お前がずっと魔族に媚を売ってくれたお陰で
随分と奴らの守りが薄くなった。その点については感謝している」
王は勇者の血に濡れた金色の髪を掴みあげる。
王「だがそんな事はどうでも良いのだよ」
王の笑みが一層深まる。
王「私にとって重要な事はお前に《勇者》として奴らとの壁を薄くする
ことではない。その20年という期間こそが必要だったのだ!!」ガスッ
王「そうだ。・・・・全てはお前を殺す為だ、勇者」
勇者「ごほっ・・・・殺すなら30年前に殺せば良かっただろう」
王「ああ、ああそうだな。できるならそうしていた。」
王の表情が狂喜から憤怒に切り替わる。
王「だが殺せなかったのだよ!!お前は!その力を半減させたとしても
この私でさえ!殺す事ができなかったのだ!・・・ああ、なんという化け物だろうな」
王「逆に殺そうとすれば、その力が暴走しこちらが皆殺しにされる可能性
があったのだよ。・・・だから私はお前に楔を打ち込んでおいたのだ」
勇者は激痛に脂汗を滲ませながらかすれた声を漏らす。
勇者「・・・・それがこの首輪、か」
王「ああ、そうだ。その首輪はただの魔具ではない。呪われた魔具なのだよ。
なにせお前ほどの存在にその力が届くのだからな。それを創り出した
存在はある意味お前と同様の存在と言えるだろう」
王「・・・・その魔具は《元始の魔王》が創り出したものなのだよ」
痛みを驚愕が上回る。
勇者「《元始の魔王》と僕が・・・・同じ・・・だと?」
王「・・・そうだ。お前がただの化け物だとでも?笑わせるな。・・・
私はお前以上にお前の事を知っている」
王「そうだな、冥土の土産に教えてやろう。大昔の伝承だ、もっとも
この事を事細かに知っているのは今では私ぐらいしかいないだろうがな」
王「・・・この伝承ではお前という存在は《神の子》と呼ばれている」
勇者「《神の子》・・・・?」
王「そうだ。真に《神の祝福》と《神の加護》を受けた者のことと記さ
れている。私から見ればただの呪いにしか見えんがね、・・・簡潔
に言い直してやろうか」
王「生まれでたその時から世界を改変するほどの魔力を有している存在、
それを《神の子》というのだ」
>>230 できないです、ごめんなさい;
王「魔法を行使するという事はその一定空間における事象改変を行う事
と同義だという事はお前も知っている筈だ。そしてその規模はその
対価として消費される魔力量によって左右される」
勇者「・・・・」
王「・・・初めて《神の子》がこの世に生まれ出たのは遥か昔の事だ。
そのときの世界には・・・・・魔族などというおぞましい存在はいなかった。
もちろん魔界もな」
勇者「・・・・そん、な」
王「・・・もうわかる筈だ。元々魔族など存在しなかったのだ、本来
この世を支配するべきは人間なのに!!それを《神の子》は邪魔をした!!
魔物を、魔界を作り出したのはその《神の子》なのだ!!!!!そしてその
《神の子》は自身の存在を創りかえ、・・・・《元始の魔王》となった」
王「当時我ら人間が有していた技術は奴らが生み出した魔法の前に
完膚なきまでに叩きのめされた。そのせいで我らは世界の半分に
追いやられたのだ。その世界の半分を人間界、その片割れを魔界
と今では呼ばれるようになったがな」
王「奴らが人間界に攻めてくる事はなかった。脆弱な魔物を除いてな。
それは強い魔力を持つ者は魔界の赤い空の下でないとその力を
充分に発揮できないからだ、と今ではわかっているが。だがたとえ
脆弱な魔物であっても、ごく僅かな魔力しか持たない我ら人間に
とっては恐怖の対象である事に変わりはない・・・・!!我らは常に
恐怖にさらされて生きていたのだ」
王「だがそこで我らの救世主になったのも新しく生まれた《神の子》
だったのだ。人間共はほんの一部を除いてその《神の子》を
救世主だと信仰した、私は違うがな」
王「そして《元始の魔王》に一人で立ち向かう《神の子》の勇気溢れる
その様を見て人間は奴を《勇者》と呼ぶようになった」
王「《元始の魔王》と《勇者》元々同じ存在だ。結果はおのずとわかるだろう?」
勇者「・・・・相討ち」
王「・・・・そうだ。そこから魔族と人間の力は徐々に均衡を保つようになり今に至る」
勇者「・・・今では人の方が勝る、か」
王は狂喜に顔を歪める。
王「・・・そうだ。今では我らの方が強く、賢い」
バリンッ と何かが壊れた音がした。
王「・・・ほう、その残り少ない魔力でこの巨大な魔法陣を壊すとはな。力
だけではないようだ」
勇者「・・・でもそれは幾万もの魂を縛ってまでやる事じゃない」
勇者は立ち上がる。
王「・・・・やはり知っていたか」
王がその笑みを変える事はない。
>>235 皆さんに負担をかけてしまうと自分が心苦しいです・・・・
ーーーーーーーーーーーー11時間前
勇者「側近さん、すこしお時間よろしいですか?」
側近「・・・別にかまいませんが」
魔王が話に割り込む。
魔王「なんだ、何を話すのだ?」
勇者「本当に、くだらない事なんです」ニコ
魔王は口をへの字に変えた。
魔王「むむ、くだらない事ならここで話せるだろう?」
勇者「・・・魔王様は僕を信じてくれないんですか?」
魔王「うぐ・・・なんだかお前はずるいぞ!」
もういい!と言って魔王は歩いていってしまった。
側近「・・・・これは」
側近は防音魔法が張られていることに気づく。
勇者「ええ、これから話す事は本当に聞かれたら困る事なので・・・」
一息入れて、勇者は口を開く。
勇者「側近さん、貴方には全てをお話します」
勇者はいつもの笑みを浮かべてはいない。
勇者「まず貴方には今の人間の実態をお話したいと思います」
側近「・・・・はい」
勇者「側近さんは疑問に思ったことはありませんか?勇者一行はなぜ
30年周期で攻めてくるのか、・・・なぜたった4人だけなのか」
側近「・・・そういえば勇者は一人でしたね」
勇者「この役目は僕一人で充分ですからね」
側近「確かにそれについて考えた事はあります。ですがいくら考えても
それを知る方法がないので。・・・あと一つ質問してもいいですかね」
勇者「どうぞ」
側近「どうして貴方はここに来るのが他の勇者よりも20年遅かったの
ですか?」
勇者「・・・どう言えば良いでしょうか、そうですね。魔王討伐の任務期間
は本当は20年なんですけど僕以外の勇者は皆2年もかからないで
魔王城に到達してるんです、だからでしょうか」
側近「なっ!?・・・で、ではなぜ30年周期なのですか」
側近は言葉を続ける。
側近「だっておかしいじゃないですか。《神の祝福》と《神の加護》を
受けた人間が30年に一人ずつ都合良く生まれるなんて」
勇者「・・・その認識自体が間違ってるんですよ」
側近「それは、どういう・・・・?」
勇者「本当の勇者なんて、この世にはいないんですよ。これまでの勇者は
全員・・・・人工的に作られたんですから」
側近「・・・嘘」
勇者「残念ながらこれは真実ですよ、これはその《勇者》本人から聞いた事なんですから」
側近「・・・それは」
勇者「ええ、僕の父です」
勇者「人は強欲ですから、今までずっと魔法と強い魔力を手に入れる研究を
続けてきたんでしょうね。・・・・どんな手段を使っても」
勇者「まず最初に始めたのは魔族の肉体の移植です。これも長年の間
人体実験を繰り返してきたみたいですが、結局拒否反応が強すぎて断念したらしいです」
側近「なんてひどい事を・・・・」
勇者は表情を変えずに言葉を続ける。
勇者「次に人は魔具を集め始めたんです。その魔具を元にして研究設備も
一気に段階が進んだらしいですよ?その成果もあって遂に肉体的な実験
から魔力への実験へと移行できるようになりました」
勇者「そして人は弱い魔物ぐらいなら魔具を使って殺せるようになった
んですよ。そのお陰で人は恐ろしい事を発見しました」
側近「何が・・・わかったんですか」
勇者「魔物の肉体が死んでも魔力の反応が少しの間残ってたんですよ。
そこから人はこう結論づけました」
勇者「魔物には肉体と魔力を繋ぎとめる何かの源が存在しているのでは
ないか、と。・・・・それを人は《魂》と呼びました」
勇者「人はすぐに《魂》を抽出する研究を進めました。そして長年の
研究の結果、ついに《魂》を抽出し結晶化する事に成功したんです」
側近「・・・その結晶が体内に入っている者が《勇者》なのですか?」
勇者「・・・その結晶を人は《魂のオーブ》と呼びましたが、《魂のオーブ》
が体に入っている人間全てを《勇者》と呼ぶわけではありません。
当然拒絶反応は存在しますからね、肉体の移植と比べると危険度は
下がりますが」
勇者「適正があるんですよ」
側近「適正・・・・?」
勇者「はい、ずっと研究をしてきた人々、《教会》は新しく生まれる
子供に《神の祝福》という名の実験を始めました。《魂のオーブ》
のほんの一欠けらをその赤子の体内に入れるんですよ。ほんの
一欠けらなら拒絶反応はほとんどないので」
側近「・・・・」
勇者「その欠片が体内に入った赤子達は欠片の中の何百もの魔物の魂
と適応しながら育っていきます。ある子は肉体の強い魔物の
魂と反応して戦士の素質を、また魔法に長けた魔物の魂に
反応して魔法使いとしての素質を、という風に」
勇者「それを適正といいます。そしてごくまれに複数の魔物との適正が
ある子がいるんです」
側近「・・・それを調べるのが《神の加護》なのですか」
勇者はにこりと笑う。
勇者「・・・流石側近さんです。そしてその審査に受かった子は
《魂のオーブ》の珠を新たに体に埋め込まれます」
側近「・・・・それが」
側近の声は震えている。
勇者「はい、その子供は《勇者》と呼ばれます」
>>245 えっ、そんな迷惑をかけるわけにはいかないです
側近「本当に勇者の言うとおりなら・・・・・」
勇者「そうです。今生きているほとんどの人間の体内には欠片が入って
いるんですよ。考えれば当たり前の事ですよね、勇者一行の勇者
だけが特別だったとしたら他の3人はとてもついてこれるわけ
ありませんから」
側近「・・・なら私達魔族を簡単に滅ぼせるのでは?人間全体が手を組めば
私達を上回る戦力になる筈です」
勇者「・・・人間だからこそできないんですよ。力を持った人間は人間界の
弱い魔物にもはや恐れる事はありません、言い換えれば協力
する必要がないんですよ」
勇者「初めは手を取り合っていた国々も、個々に力を持つにつれて
他の国を押しのけて我が我がと国の頂点に立とうとしました」
勇者「そしていつしか人間界には十つの巨大な王国が君臨していました。
でも人間同士の殺し合いを嫌った国々はある提案をしたんです」
勇者「30年に一度、順番に王国から勇者を含めた4人を魔王城に送り出す。
そしてその王国の勇者が魔王を討ち取ったならば次に魔王が
倒されるまでその王国が全ての主導権を得ることにしよう
じゃないか、と」
・・・・勇者は何を言っているの?
嘘よ、嘘に決まってるじゃない、そんな事。
人間の内輪もめの為に、私達魔族は苦しめられてきたというの?
側近「・・・・・ふざけないで」
勇者「・・・え?」
側近は勇者の首を掴み、床に思い切り押し倒す。
側近「ふざけないでよ!!!貴方どうしてそんな事が言えるのよ!?
私達がどんな思いで日々を暮らしていたか知ってるくせに!!」
勇者は側近の手を掴み、その目を静かに見据える。
勇者「・・・幸い王国単体では魔族を全て滅ぼす事はできません。だから
魔族は今もこうして存在していられる」
側近「・・・・貴方は何が言いたいのよ、私に絶望を与えたいの?」
勇者「・・・・僕がこの状況を壊してみせますよ」
静かに勇者はそう言った。
側近「・・・貴方何を言っているの?」
勇者「・・・言い換えるならば、今の人間の力を半減させます。今の魔族で
人間を追い込めるぐらいには」
側近「・・・・人と魔物が共存できるようにするって言ってたじゃないの、
貴方、やっぱりおかしいわよ」
勇者「僕は魔王様を信じてますから」ニコ
側近「・・・・・ッ!!」
勇者「現代魔王があの方じゃなかったら、僕はこの選択をしなかったかも
しれません。・・・・でも魔王様なら、正しい事をしてくれると僕は
信じてる」
側近「・・・貴方自身がやればいいじゃない」
勇者は困ったように笑う。
勇者「・・・僕じゃ駄目ですよ、・・・色々な物を知りすぎてしまった」
勇者「魔王様は僕なんかよりよっぽど純粋で、心が綺麗だ。でも
それゆえに脆い」
勇者「人は強い、恐らく窮地に追い込まれたとしてもまた力をつけて
魔族の脅威となって立ちふさがるでしょう。・・・僕はこの連鎖を
止めたいだけなんですよ」
勇者は穏やかな笑みを浮かべる。
勇者「これから魔王様には色々な困難が降りかかると思います。その時に
は必ず傍に心から支えられる方がいなければいけない。・・・側近さん、
これからもずっと魔王様の傍で守っていただけると約束してもら
えませんか?」
側近「・・・・貴方なんかに言われなくてもわかってるわよ」
勇者「・・・良かった」ニコ
側近「・・・話がこれで終わりなら戻るわ」
勇者「・・・今の話は魔王様にはまだ耐えられないかもしれません。でも
それを話すかどうかは側近さんにお任せしますね」
側近「・・・・・」
側近は無言で歩き出す。
勇者「あっ、あと一つ!」
側近「・・・・何よ」
勇者「側近さんの素の口調って、そんな感じなんですね」ニコ
側近「・・・・・・・ッ!!!」カァァァ
ドガッ ゴスッ バキッ
勇者「ご、ごふっ・・・・・僕まだ怪我人なのに・・・」
側近「ふん・・・」
勇者「うぐぐ・・・僕の話はこれで終わりです。じゃあ魔王様の下に戻りましょうか」
側近「・・・待って、勇者・・・・、貴方はもしかしたら」
勇者「はい?」
側近「・・・いえ、後に王国でまた会いましょう」スタスタ
勇者「・・・・ありがとう」

