冬、見滝原。
雪が降り積もり、町が白に染まっていく様はなんとも美しい。
そして此処は、そんな見滝原の郊外に聳え立つ大きな山。
こんな場所あったかとか、その他色々のそういったツッコミを無視して存在する其処は、今年一番の豪雪により見事なまでの雪山と化している。
そしてそんな雪山に迷い混む、一人の少女がいた。
「くっそー。 ここどこだよ……」
彼女の名前は美樹さやか。
青い髪に浮世離れしたこれまた青を基調とした服を着た、どこにでもいる普通の魔法少女だ。
つい数時間前、同じく魔法少女仲間である巴マミや鹿目まどかと共に倒すべき敵――魔女を倒しに来たのだったが、どうやら彼女一人だけ道をはぐれ迷ってしまったらしい。
その手に持つ剣を振るい、道を阻む草木を切り、退かす。
本来魔女を倒すために持ったそれが草木を切り伏せる様は、この上なく悲しいものがあった。
元スレ
さやか「雪山の決戦!」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1335271069/
そしてどこに行けばいいのかもわからずしばらく先に進むと、小屋があった。
恐らくは登山者を気遣った休憩施設なのだろう。
よかった、あそこならとりあえずこの耐え難い寒さを凌げる。
そう思ったさやかは早く身体を休めるため、少し急ぎ足で小屋に向かう。
そして扉に手を掛ける。
その時、中から声が聞こえた。
「めざめたこーころはーはしりーだしたーみーらいをーえがくためー♪」
止まった。時が止まった。
何故こんな時、こんな場所で小屋の中からコネクトが聞こえてくるのか。
とりあえず様子をみるため、開きかけた扉をそのままに、耳を澄ませる。
「むずかしいーいちでーたちどまってもーそらはーー♪」
「いーつーかきみがーひとみにともすーあいのひかりが♪」
「トーキーヲコーエーテ」
「(試しに歌ったらハモってきた!?)」
雪山に訪れた奇跡である。
そして聞こえてきた声、その選曲チョイスで中にいる人物を特定したさやかは、勢いよく扉を開ける。
そこには、
「なっ美樹さやか!? 私が歌い狂っていたのを盗み聞きして、嘲笑っていたのね、この卑怯者!!」
「アンタが勝手に歌ってたんだろうが!!」
謎の転校生、暁美ほむらがそこにいた。
こうして彼女達の長い戦いが始まった。
「それで貴女、どうしてこんな所にいるのかしら?」
木材で作られた、小さな小屋。
簡易的な作りとはいえ扉や窓、そしてテーブルや椅子があるそこは、一時的な避難場所としては充分な作りになっていた。
そして彼女らと言えば、お互い部屋の隅と隅に陣取り、更にはペンでライン引きまでして「ここより先に入ればコロス」とまで書いてかれこれ小一時間は睨み合っていた。
そんな火花散る最中、ようやくほむらの口から出たのはそんな疑問。
さやかは、出来るだけ簡潔に答える。
「仲間が全員、迷子になった」
「いやそれ、貴女が迷子になったのよね?」
さやかは大真面目だ。
「そう言う転校生こそ、こんな所で何やってたんだよ」
次はさやかが問う番だ。
「ふっ。そんなこと、貴女に話す必要あるのかしら?」
「いいでしょ、あたしも話したんだし」
「却下ね。私、貴女と馴れ合うつもりはないから」
「あっまどか!」
「どこよ!?言いなさい美樹さやか!!早く彼女を救出しないと凍えて死んでしまうわいやこの場合寂しくて死んじゃうという方が愛らしくていいわねそして私が颯爽と現れて『きゃーほむらちゃん結婚して!』とか言われちゃったりなんかしちゃったり
「わかりやすいなアンタ」
「この雪山に巣食う、魔女を倒しに来たのよ」
「いやもうおそいよ!」
しまったと頭を抱え悶絶するほむら。その様子は見ていていたたまれないが、100%自業自得ということにきっと本人は気付いていない。
「チッ小賢しい美樹さやかね……」
言いながら、ほむらは腕に装着した盾から何かを取り出す、それは
「お、携帯電話じゃん!ならそれで……」
「よく見なさい、美樹さやか」
「?」
ほむらはピッピッと携帯を弄くり、それをさやかに投げて寄越す。
何かあるのかとディスプレイを覗き込むさやか。
0001 暁美ほむら homu-mado.family@×××――
0002 登録はありません
――――――――――――
「そういうことよ」
「いや寂しすぎるでしょ!?何でドヤ顔なの転校生!?」
「まあどのみち電波繋がってないから、意味ないんだけど」
「じゃあ何で出したんだよ!」
肩で息をしながらツッコむさやか。
何だかんだ息ピッタリなのは、もはや言うまでもない。
「じゃあ結局、マミさんやまどかが来るまでこのままかあ。なんというか」
「早く帰りたいわ」
「それあたしの台詞だから。はあ、アンタと話してると疲れる……」
「じゃあ、御詫びといったら何だけど私が面白い話をしましょうか」
「ほむらが?」
彼女の意外な提案に、さやかは顔を上げる。
どうせまどか関連の話だろうとタカを括りながらも、仕方なくさやかは耳を傾ける。
そして彼女の口が開いた。
「さやかが私に贈り物をしました」
「………………」
「これ、さやかからのさ『さやか』なお礼です!」
「(つまんなっ!?)」
あまりのくだらなさに、さやかはどうツッコミをすればいいかわからず、口を開けなかった。
「……………………………………………………………………ごめんなさい」
「……………………………………………………………………いや、あたしも悪かったよ」
気まずい雰囲気が、小さな小屋に広がった。
と、そんな感じに時間だけが過ぎていったある時、ほむらの口が再び開く。
「――――美樹さやか、気付いてる?」
「……うん、これ、魔女の反応だね」
両者視線を外に向ける。
隠しても隠しきれない力の奔流。
それは明らかに魔女による波動だった。その証拠として、ソウルジェムが輝かしく光る。
ほむらはそれを確認し、立ち上がる。
「貴女も来なさい、美樹さやか。此処で倒しておけば、巴マミや鹿目まどかの負担を減らせる事になる。わかるわね?」
「――ふん。まさか、転校生と共闘することになるとはね……」
続いてさやかも立ち上がり、剣を力強く握る。
「せいぜい私の足を引っ張らない事ね、美樹さやか。ちょっとでも遅れをとったと思ったら、誤って殺してしまうかもしれないわ」
「ふふん、それはこっちの台詞だよ転校生。魔女にアンタが捕らえられたら、真っ先に魔女ごと剣を突き刺すからそのつもりでいなよ」
「じゃあ貴女が捕らえられた際には、クロックアップ→時間停止→分隊支援火器で貴女を塵一つ残さず消してあげるから、よろしく頼むわ」
「せめて魔女狙えよ!?」
そんな軽口を叩きあう二人。
端から見れば友情微笑ましいと思う人もいるかもしれないが、少なくとも両者は殺る気満々だった。
戦闘を前に、僅かな静けさが生まれる。
そして戦いの合図は、あまりにも突然に訪れた。
「「えええええええっ!?」」
二人は驚きのあまり思わず声を重ねる。
驚きの原因は天井にあった。
なんと、僅か一瞬の内に天井が吹っ飛んだのだ。
そしてそこから顔を覗かせる元凶。
それこそが
「「でかっっ!?」」
またしても声が重なる。
現れたのは、なんとも形容のし難い怪物だった。
全長推定6メートル、白に覆われたその姿は、この場においては雪男を連想させる。魔女なのに雪男というのは、何とも可笑しな表現であるが。
『雪の魔女』――その性質は『固執』。
彼女に目を付けられた者は、例外無く追い詰められ、氷に閉ざされてしまうだろう。
使い魔も従えず一吼えするその魔女は、目下に映ったほむらとさやかを凝視する。
それが合図だった。
豪々と吹き荒れる雪吹の下、文字通りの殺し合いが始まる――――!
「先手必勝だ!」「先手必勝よ!」
掛け声は同時。
さやかは驚異的なスピードで相手に突進し、ほむらは素早い動作で拳銃を取りだし、発砲する。
それは当然お互いの動きを封殺してしまい――ほむらの撃った銃弾がさやかの頬を掠め、空を切った。
悲しきかな、二人は全く息が合っていなかった。
「ほむら、アンタ!」
「いや貴女のせいでしょ」
とりあえず両者譲る気はないらしい。その時、魔女の豪腕が二人を襲った。
「きゃあ!?」
「くっ――――!」
その怪力により、吹き飛ばされる。
魔女は目が血走り、物凄いスピードで飛んでいった二人を追いかける。
非常にピンチだ。
「いい?あたしが主になってアイツを切りつけるから転校生は支援を――」
「却下よ。私が仕留めるから貴女は隅で素振りしてなさい」
それでも共闘しようとしない二人。
先程のやりとりはどこへやら、両者完全に相手を間違えていた。
「くっ仕方ない――。なら美樹さやか、貴女が先陣を切りなさい。私が後方から敵を討つから」
「最初からそう言えばいいんだよ!魔女覚悟おおお!!」
会話を終え、勢いよく魔女にぶつかっていくさやか。
そして今、日々の修行の成果を披露せんと剣を閃かせる。
「てやあ!スパークエッッジ!!」
一瞬の内に上空に跳び、渾身の一撃を魔女に叩き落とす。
まさにそれは神速の一撃だった。しかし魔女は元々物理攻撃に耐性があるのか、あまり効いてないようだった。
「ちぃ――――!」
反撃を恐れ、防御の姿勢をとるさやか。
その時だった
「……危険物資、第四類」
ほむらが呟く。
そして目の前に召喚されたタンクローリーは魔法いより魔女へとその身を走らせ、辺り一帯を全てを焦がす爆炎で包んだ
焦土と化した辺り一面。
煙に包まれた目の前に向かいほむらは腹から声を出し、叫んだ。
「美樹さやかーー!生きてるーーーー!?」
「死ぬわ!!」
煙から脱出し、開口一番ツッコむさやか。
余程ピンチだったのだろう、膝をつき、所々が焼き焦げる一歩手前までいってしまっている様がその壮絶さを物語っている。
そして何はともあれ、これで――
「さやかちゃーーーーん!」
「あ、まどかあ!!」
「いや何でアンタが返事してんの!?」
魔女は消え去り、その影響か雪も止んだ。
かくして、今回の事件はこれで解決したのだ。一件落着である。
「ふう、さやかちゃん。心配したんだよ……」
「ははは、ごめんごめん!あたしも皆探す前に魔女と遭遇しちゃってさあ」
「でもよかったわ。暁美さんによる爆発がなかったら、もう少し捜索に手間取っていたわ」
「そのお陰であたし死にかけましたけどね。……そんで、転校生」
「……………ええ、わかっているわ」
「「?」」
お互い物凄い形相で、お互いを睨む。その他2名が訳もわからずに首を傾げているが、余人にこの二人の間にある何かを読み取る事など出来ない。
そして二人は同時に叫ぶ。
「「次あった時は、容赦しない!!!!!!!!」」
「(…………この二人、遭難中何があったのかしら)」
「(でも二人とも楽しそうですね。遭難してよかったのかも、なんて。ウエヒヒ!)」
火花散らす二名と、コソコソ話し合う二名。
こうして、暁美ほむらと美樹さやかの宿命は、運命付けられたのであった。
そして時は流れ、本編
美樹さやかの暴走、そしてソウルジェムの消耗が激しい中での使い魔狩り。
そんな事が行われている此の場所で、今遠くで熾烈な視線を交わす、二人の姿があった。
「転校生――」
「美樹さやか――――」
それはもはや視線というより、殺気に近い。
元々GSをさやかのために持ってきたほむらだったが、彼女もそんな目的とっくに忘れている。その笑み、その殺気は漫画版まどかマギカ、第8話のそれより圧倒的に鋭い。
そして、両者は各々の得物を構えた後―――――
「「戦争じゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」
己の最大の敵を今滅さんとするため。
さやかVSほむらによる、死闘が始まる!!
「(あれ、あたし入る隙間無くね?)」
その影で赤い髪をした少女が戦いを見届けていた事は、誰も知らない。
おわり!
30 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/04/24 22:24:19.92 JHMnVlSVO 17/18乙乙
やや短い気もしなくもないが
どうみてもトムとジェリーです本当に
32 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/04/24 22:27:52.95 yaEL+eKZ0 18/18ほむさやって、この微妙な仲がいいんだよな
乙