ーーーー初の国・王城ーーーー
勇者「何の用?」
初王「魔王を征伐してこい。あとメモに書いてある用件をこなしてこい」
勇者「魔王を?」
初王「ああ。いい加減、人間以外の知的生物が憚っているのが我慢できない。魔王を倒せば畜生共も殊勝になるだろ」
勇者「適当だな」
初王「ぶっちゃけると諸外国へのアピール目的だ。初の国が世界の主権を握る為にも、お前には頑張ってもらいたい」
勇者「条件が一つ」
初王「なんだ? 援助は可能な限り行うが」
勇者「姫を嫁にちょうだい」
初王「あん?」
元スレ
勇者「幼女大好き」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1345728486/
勇者「姫を嫁にちょうだい」
初王「……何を言ってるんだ。姫は十歳だぞ」
勇者「最高。美幼女は世界の宝。所有物にするけど」
初王「……曲者だとは知っていたが、ド変態だったとはな」
勇者「それで。くれるのか?」
初王「……ふん、勅命を果たせばくれてやる。国の為なら娘の一人痛くもない。だが、王座は渡さないからな」
勇者「ありがとう、屑親」
初王「うるさい。さっさと行け」
勇者「あーい」
ーーーー初の国と壱の国の国境付近ーーーー
魔物A「ニャー、ニャー」
魔物B「キャン、キャン」
勇者「魔物だ」
魔物C「モー、モー」
魔物D「ヒヒーン」
勇者「出会った魔物は全部殺せとメモに書いてあった」
魔物E「メー」
魔物F「パオーン」
勇者「無害なのばかりだけど殺すか。美幼女と結婚するためだ」ズルッ
魔物G「チュー、チュー」
魔物H「コン、コン」
勇者「ていっ」ブンッ
魔物「ーーーー」ブシャッ
勇者「ふふん」ズブッ
勇者「どんどん行こう」
ーーーー壱の国・王城ーーーー
壱女王「其方が勇者か」
勇者「そうだ」
壱女王「其方の勇名は我が国でも轟いておるぞ。聖剣を振るって数多の悪を滅ぼす光だとな」
勇者「照れる」
壱女王「しかし、肝心の聖剣が見当たらぬが」
勇者「それより困ってる事ない?」
壱女王「む。困ってる事とな」
勇者「初王の用事」
壱女王「……なるほど。翳りつつある友好関係の修復を図ろうという魂胆か」
勇者「そうかも」
壱女王「ふん、国境線付近にある初の国の軍隊が厄介事だな。早々と撤退させてもらいたいところだ。
名目上は同じく隣接している肆の国との戦争に備えてと言っているが、真偽はどうだか」
勇者「撤退は無理。初の国にとって不利益になる事は禁止だとメモにあった」
壱女王「……意外に従順なのだな。偏屈な気性の人物だと噂には聞いていたが」
勇者「そうか」
壱女王「……ふむ。北西の町で大型の魔物が民を襲っているらしい。犠牲者も相当の数だそうだ。
民兵では歯が立たないらしく、常備兵を遣わそうと検討していたところだ」
勇者「代わりに倒してくる」
壱女王「それは助かる。頼んだぞ」
勇者「あーい」
ーーーー壱の国・北西の町ーーーー
勇者「ふう」
町民「……」フラフラ
勇者「魔物は?」
町民「……今は外れの森にいるはずです」
勇者「そうか」
町民「今日も、あのバケモノに何十人も殺されました……。骨を、噛み砕く音が、耳に残って……」ポロポロ
勇者「そうか。じゃあ」
町民「あ……」グスッ
町民「き、消えた……?」
ーーーー外れの森ーーーー
巨人「ごおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!」ブオンッ
勇者「いきなりバレた」サッ
巨人「ぐおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」ドゴッ!
勇者「当たらない」サッ
巨人「っ!? があああぁぁぁああああああああああ!!」
勇者「当たらないって」ズルッ
巨人「おおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」グオオッ
勇者「ていっ」ブンッ
巨人「ーーーー」プシャッ!コロン
勇者「ふふん」ズブッ
勇者「帰ろう」ガシッ
ーーーー北西の町ーーーー
勇者「どうも」
町民「あ、ど、どうも」
勇者「これ」ポイッ
町民「え……? ひっ!ば、バケモノの首……!?」
勇者「うん。じゃあ」
町民「あ……」
ーーーー壱の国・王城ーーーー
勇者「ただいま」
壱女王「む……。忽然と消えたと思えば」
勇者「倒してきた」
壱女王「……魔物を?」
勇者「そうだ」
壱女王「……この短時間にか?」
勇者「そうだ」
壱女王「……俄かには信じられないが、嘘を吐いているようにも見えないな」
勇者「そうか」
壱女王「……私の国で力を振るわぬか? 初の国よりも厚くもてなすぞ」
勇者「無理」
壱女王「む……。私の夫として迎えても良いぞ。中々気に入ったしな」
壱大臣「陛下!?」
勇者「何歳?」
壱女王「む。あまり女性に年齢を訊くものではないぞ。……二十二だ」
勇者「ババアには興味ない」
壱女王「……何だと」
勇者「十五以上は熟女だ。二十歳以上は生ける屍だ」
壱女王「き、貴様……!!」ガタッ
壱女王「……!?」
壱女王(いつ私の前に移動した!?)
壱大臣「陛下!!」ダッ
勇者「動いたらリビングデッドを殺す」
壱女王「ひっ……」ビクッ
壱大臣「くっ……!」ピタッ
勇者「そっくりの美しい娘を産め。そっちを貰う」
壱女王「っ……」
勇者「じゃあ」
壱女王「あ……」トサッ
壱大臣「陛下! ご無事ですか!?」
壱女王「あ、ああ」ガタガタ
壱大臣「すぐさま兵にあの賊を追わせます!」
壱女王「や、やめろ」ガタガタ
壱大臣「何故ですか!?」
壱女王「わ、分からないのか?」ガタガタ
壱女王「あれは……魔物以上のバケモノだ」
ーーーー壱の国と弐の国の国境付近ーーー
魔物の群れ「ーーーー」
勇者「ふふん」ズブッ
ヒュッ
勇者「……危ないよ」ヒョイッ
ローブ「……」
勇者「暑そうな格好」
ローブ「……不意打ちを避けられた。身体から剣も出し入れするし、相当のバケモノ」
勇者「腕が刃の異形にバケモノ呼ばわりされたくない」ズルッ
ローブ「……なら槍にする」ミキミキ
勇者「すごい。でもバケモノであることには変わらない」
ビュウッ
勇者「おっと。風邪が強い」
ローブ「あ、フードが……」ファサッ
勇者「…………」
ローブ「あ、名乗るのを忘れてた。わたしは四天王『黒』。
魔王様より、あなたを始末する命令を受けた」
勇者「…………か」
黒「ナノマシンの群体であるわたしに狙われたのが、あなたの運の尽き」
勇者「……か、か、か」
黒「……?」
勇者「褐色美幼女きた……!!」ツー
黒(……無表情で泣いてる)ヒキッ
勇者「生きてて良かった。今まで生きてて良かった。
今までの全てに感謝したい。褐色美幼女に出会うまでの全てに感謝したい」ポロポロ
黒「……身の危険を感じる」
勇者「大丈夫。ちょっと穴という穴を犯すだけ。ふひひ」
黒「……先手必勝」タッ
勇者「悪くない動き」ヒョイッ
黒「く……」
勇者「褐色美幼女のお腹にパーンチ」ゴッ
黒「う……」
勇者「ごめん。本当にごめん」
黒「……まだ」ブンッ
勇者「おお。びっくり」ヒョイッ
黒「っ」ヨロッ
勇者「パーンチ」ゴスッ
黒「っ……」フラッ
勇者「中々の耐久力」ダキッ
勇者「ふむふむ」サワサワ
勇者「全身がプニプニだ」
勇者「ほっぺた」ツンツンプニプニ
黒「むにゅ……」
勇者「……」ツンツンプニプニ
黒「にゅぅ……」
勇者「しあわせ」ポカポカ
勇者「おっと。先ずは身体検査」サワサワ
勇者「この褐色美幼女、魔物じゃないな」
勇者「……うなじに魔蟲が寄生している。これで操られているのか」
勇者「なのましん。群体。……何かの塊? 極小の粒?」
勇者「……粒が集まっていて、それを極細の糸が繋げている。そして、魔蟲がその糸に命令を信号として伝えている?」
勇者「……どうでも良いか」
勇者「命令を書き換えられるか?」
勇者「……無理か。蟲は殺そう。ていっ」ブンッ
プシャッ
ポロ
勇者「一から褐色美幼女を手懐けるのも悪くない。ふひひ」ズブッ
ーーーーーー
ーーーー
ーー
黒「……」ムクッ
黒「……ここは?」
勇者「弐の国の宿屋」
黒「っ!?」ビクッ
勇者「おはよう。外暗いけど」
黒「……」ジトー
勇者「睨まないで。仲良くしよう」
黒「イヤ」プイッ
勇者「ぐすん」
黒「……わたしに何かした?」
勇者「うん。気持ち良かった」
黒「……うそ」
勇者「嘘」
黒「……」ヒュンッ
勇者「刃は危ない」ヒョイッ
黒「……何をしたの?」
勇者「ちょっと蟲が付いていたから払った」
黒「むし?」
勇者「魔蟲が首筋に付着してた」
黒「……側近のしわざ」
勇者「側近?」
黒「心配性の腹黒男」
勇者「なるほど」
黒「殺意が薄まってるわけが分かった。もともと上乗せされてたみたい」
勇者「消えては無いのか」
黒「お腹をなぐられた。悪い冗談を言われた」ジトー
勇者「ごめん」
黒「……ぷいっ」
勇者「ぐすぐすっ」
黒「……えっと」オロオロ
勇者「冗談」
黒「むぅ……」
グウウゥゥウウウ
勇者「良い音だ」
黒「……お腹すいた」
勇者「夕食を食べに行こう」
ーーーー弐の国・高級レストランーーーー
黒「……」
勇者「どうかした?」
黒「この一帯だけ建築様式が異なってる。まわりに比べて豪奢」
勇者「この辺りは初の国の民が移住しているから」
黒「……?」
勇者「知らない? 弐の国は、初の国の被保護国。あからさまに言えば植民地」
勇者「弐の国の大多数は農民。初の国は、綿花や砂糖の原料を栽培させて安価で買い占め、商業大国である参の国に出荷する。
その代わりとして、軍事大国らしく領土防衛を約束してる」
勇者「この店のお客も殆どが初の国出身の民。現地民に富裕層は少ない」
黒「……ふつりあい」
勇者「うん。強いのが弱いのを虐げる。いつだって変わらない」
ウェイトレス「お待たせしました」コトッ
黒「……おいしそう」
勇者「食べよっか」
・
・
・
黒「おいしい」モキュモキュ
勇者「良かったね」チビチビ
黒「……勇者はそれだけ?」モキュモキュ
勇者「水とパンで充分。水だってここらでは贅沢品」
黒「そう。おいしいのに」モキュモキュ
勇者「褐色美幼女が喜んでくれるならそれで良い。
……この後、弐王に謁見してくる」
黒「……独りで?」モキュモキュ
勇者「そのつもり」
黒「……逃げるチャンス」
勇者「多分無理だよ」
パチンッ
黒「ひゃっ……」ビクッ
勇者「猫だましにビックリする褐色美幼女可愛い」ホクホク
黒「……いきなり何?」
勇者「音の速さ」
黒「音?」
勇者「吾人はその三倍速く動ける」
黒「……」
勇者「聖剣パワーの恩恵。ふふん」
黒「……ズルい」プクー
勇者「……そうでもない。とにかく。逃げても無駄」
黒「……運の尽きだったのは、わたしの方だった」
勇者「そうかも」
ーーーー弐の国・宿前ーーーー
黒「お腹いっぱい」ポンポン
勇者「腹ぼて褐色美幼女。ふひひ」サスサス
黒「……」ジトー
勇者「美幼女成分を摂取したし行ってくる。治安はあまり良くないから、宿で静かに待機していて」
黒「分かった」
勇者「じゃあ」
黒「……行った?」
黒「探検に行こう。あんなやつの言い付けなんて守らない」
黒「ふんふーん」トテトテ
黒「……?」ピタッ、コソッ
弐女性「ね、ねえ……。ちょうだいよお……」
弐男性「はっ、もう使い切ったのかよ。馬鹿な売女だな」
弐女性「ちょうだいよぉ……。何でもするからぁ……」
弐男性「そんなに欲しいなら、いつもの廃屋まで行くぞ。みんなで可愛がってやっから」
弐女性「良いから早くぅ……! 切れてきた……! 切れてきちゃったのぉ!」
弐男性「でけぇ声出すんじゃねぇよ糞売女……! 最近、取り締まりが厳しいんだよ……!」
弐女性「早くぅ……! ちょうだいちょうだいちょうだい……!」
弐男性「ちっ、おら、さっさと行くぞ」
スタスタ
黒「……気になる」
トテトテ
ーーーー弐の国・王城ーーーー
勇者「民の不満は暴動の域には達していない。生産の具合は良好。
他国ーー特に肆の国からーーの干渉も看過できる程度、と」カキカキ
弐王「これで近況調査はお終いですかな」
勇者「そうだ」
弐王「わざわざお疲れ様です」
勇者「そうでもない。それで、困ってる事無い?」
弐王「困ってる事?」
勇者「初王からのもう一つの用事」
弐王「……ふむ。あまりに安値で生産物を買い占められるため、民の生活が困窮していることでしょうか」
勇者「吾人にはどうにもできない。他は」
弐王「……近頃、国内での麻薬流通が激増しました。貧しさゆえ、刹那の快楽を欲してしまうのでしょう。
取り締まりを行っておりますが、検挙したのは個人の所有者ばかりで、密売組織への足がかりは見つかっておらぬようです」
勇者「なるほど」
弐王「麻薬が直接的に伍の国から流通しているのか、参の国を経由して輸入されているのかさえ不明ですからな」
勇者「密売組織を探し出して潰してみる」
弐王「はあ……。お願いします」
勇者「じゃあね」
ーーーー弐の国・廃屋ーーーー
弐男性「おらっ!中に出すぞ!」
弐女性「あひゃぁぁああ! 気持ち良いのぉぉおお!」
弐男性A「ぎゃははは! 薬でトンでやがる!」
弐女性「もっとぉぉおお! ×××も薬も欲しいのぉぉおお!」
弐男性B「次は俺だ!」
弐男性C「じゃあ、俺は口もらい! 歯立てんなよ!」
弐女性「うぼっ!? ぐっ! うぐっ!」
弐男性D「ひひひっ、いっぱいいるから、どんどんいこうね!」
黒「……ひどい」ギリッ
ガシッ
弐男性E「なーにがー? うはっ、可愛い女の子」
黒「……」ミキミキ
弐男性E「あっちは後がつっかえてるし、ガキのきっちぃ締め付けもたまには悪くな……」
ザシュッ
弐男性E「ーーーー」
黒「汚い手で触らないで」
ドサッ
弐男性F「あ?」
弐男性G「……Eがやられたのか?」
弐男性H「なにもんだ、このガキ。腕がでっけえブレードだぜ」
弐男性I「とにかく殺すしかねぇだろ」
弐男性J「……ちっこいけど結構可愛くね?」
弐男性K「こんなガキに欲情するかよ」
ゾロゾロ
黒(……囲まれた。でもたかが人間に負けるわけがない)
弐男性L「うへぇ、怖えな」
弐男性M「……魔物か。危険だな」
黒「わたしに出会ったのが運の尽……」
ズキッ!!
黒「……っ!?」
黒(なに……? 頭が……)
黒(……魔蟲の影響で不具合が起きたから?)
黒(自動初期化が開始してる……。どうしてこのタイミングで……?)
黒(……激しい感情の喚起のせい?)
黒「う……」ヨロッ
ーーーー友だちになろう!
黒「あ……」
ーーーー友だちになろ……
黒「いや……」トサッ
ーーーー友だちに…………
黒「やだ……。忘れたくない」ポロポロ
ーーーー友………………
黒「やだ! やだ! やだよぉ……」
……………………………
黒「ーーーー」
弐男性「気絶した? ……まあ、良い。性奴隷に調教してやろうぜ」
スタスタ
スッ
勇者「ていっ」ブンッ
全弐男性「ーーーー」ブシャ
弐女性「はひゃ?」
勇者「褐色美幼女に汚い手で触るな」ズブッ
弐女性「あ、ひっ……」
勇者「……」ジロッ
弐女性「いやぁあ! た、たしゅけ! たしゅけて!」ダッダッダッ
勇者「……別に良いか。
この肉塊たちは組織の手がかりみたいだったけど、美幼女がすべての最優先だ。しょうがない」
勇者「取り敢えず宿に運ぼう」グイッ
黒「……」ツー
勇者「……」ナデナデ
ーーーー弐の国・宿屋ーーーー
黒「……ん」パチ
勇者「おはよう。今は暁の時間」
黒「……誰?」ムクッ
勇者「……」
勇者「お兄ちゃんだ」
・
・
・
勇者「知識などは保持したままで、経験の記憶を失ったと。つまり記憶喪失みたいなもの?」
黒「うん」
勇者「ほほう。なるほど。ふひひ」
黒「……身の危険を感じる」ヒキッ
勇者「大丈夫。強姦より和姦の方が好み。……いや、無理やりも中々」
黒「……」ジトー
勇者「冗談。幼女はチュッチュッしたり、ぎゅーとして愛でるもの」
黒「……それもイヤ」
勇者「ぐすん」
黒「それで。あなたは誰?」
勇者「義理の兄」
黒「……事実だとして、どんな経緯でそうなったの?」
勇者「捨て子だった君を両親が拾ってきた。寒村で貧しい生活をしていたけれど、両親は君を保護して確かな愛情を注いでいた」スラスラ
黒「……まったく身に覚えがない」
勇者「でも数年前に肆の国に侵攻されて村は焼かれた。仮初めの停戦条約が結ばれた今となっても、復興には至ってない。何故なら生き残りは……」
黒「……どうしたの?」
勇者「……全部嘘。君は行脚の中途で偶々出くわした褐色美幼女。
初対面時は『黒』と名乗っていた。それ以外には何も知らない」
黒「……黒」
勇者「そうだ」
黒「……」フルフル
黒「……琴線に触れない」
勇者「そうか」
黒「……」
勇者「どうかした?」
黒「わたしは、これからどうすれば良い?」
勇者「ついてくれば良い。悪いようにはしない。ふひひ」
黒「……気乗りしないけど、そうする」
勇者「……そうか」
勇者「もう少し明るくなったら、朝食を食べよう。それから、旅に必要な物品や食料を購入しよう」
黒「分かった」
勇者「……」スンスン
黒「……なに?」
勇者「風呂に入って無いはずなのに全く臭わない。むしろフローラルな香りがする」
黒「特定のナノマシンが自動で表皮から体内まで除菌してるから」
勇者「……よく分からないけれど、いつでも褐色美幼女の匂いを堪能できて、いつでも綺麗なぷに肌をペロペロできるということ?」
黒「……気持ち悪い」
勇者「ぐすん」
ーーーー弐の国・服屋ーーーー
黒「着替えた」シャッ
勇者「……素晴らしい。特に露出したヘソが良い。ペロペロしたい」
黒「……へんたい」
勇者「しかし、人工物らしいそうだけど、ヘソが有るのはどうして?」
黒「限りなく人間に酷似した形で作られたから。わたしの製造目的は、情報の破損で不明だけど」
勇者「きっと素敵な感性を持った開発者が、愛玩目的で造ったに違いない。愛玩褐色美幼女。ふひひ」
黒「……そんなのヤダ」
勇者「そうか」
勇者「しかし、弐の国では最大規模の服屋でも品揃えは大したことない」
黒「そうなの?」
勇者「参の国にはもっと大きな服屋が結構有る」
黒「すごい」
勇者「あの国で手に入らない物は無いと言われているくらい」
黒「行ってみたい」
勇者「連れて行く。野暮用を終わらせたら」
黒「うん」
勇者「だからちょっとヘソをペロペロさせて」
黒「イヤ」
勇者「ぐすん」
勇者「……」
・
・
・
黒「だいぶ買った」
勇者「大型の台車も買った事だし道中は安泰だ」ガラガラ
黒「何が引くの? 牛? 馬?」
勇者「吾人が引く」
黒「そう。……ところで、気付いてる?」ヒソッ
勇者「勿論。二人組が三つ」
黒「どうするの?」
勇者「褐色美幼女は大通りを複雑に入れ換えて歩き、尾行を撒けば良い」
黒「あなたは?」
勇者「人通りの絶えた処で迎え撃つ。ちょっと野暮用が有る」
黒「……危ない。わたしも戦う」
勇者「大丈夫。強いから」
黒「でも……」
勇者「心配しなくて良い。誰かに守られるほど弱くない」
黒「……」
勇者「それに幼女は宝。大切に守るもの」
黒「……そう。じゃあ、後で」
勇者「気を付けて」
黒「そっちもね」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
追手達「ーーーー」
勇者「組織側から接触してくれて助かった」ズブッ
勇者「……情報を告げたらしい昨夜の女は、殺されたかな」
勇者「……別に良いか。リビングデッドだし」
勇者「さっさと組織を潰そう。そして褐色美幼女とデート。ふひひ」
勇者「……げほっ」
ビチャッ
勇者「……」グイッ
勇者「最近、吐血の間隔が短くなってきた」
勇者「あと、どれだけ生きられるだろう」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
弐王「……一日で巨大密売組織を壊滅なさったと?」
勇者「そうだ。証拠品も押さえておいた」
弐王「……流石は、勇者様といったところでしょうか」
勇者「そうだな。それじゃ」
弐王「……行ったか」
弐大臣「……我が国の警察軍たちは組織と癒着していたのでしょうか。勇者様が一日で発見して壊滅できるような組織がまったく見つからないと報告していましたし」
弐王「それは違うだろう。あの方が……アレが規格外なだけだ」
弐大臣「……聖剣の力ですか?」
弐王「そうであろうな。私自身もその威力を目の当たりにした事が有るが、人間の領域を遥かに超えていた。正直、あの剣を聖剣と呼んで良いのかも怪しい」
弐大臣「……」
弐王「やはり初の国には逆らえない。最低でも、アレが機能している間は」
ーーーー弐の国と参の国の国境線付近ーーーー
勇者「ふんふーん」ガタガタッ
黒「すごい力。道もデコボコなのに」
勇者「乗り心地が悪いのは勘弁して」
黒「うん」
・
・
・
勇者「……今日はこの辺りで野宿」
黒「分かった。……それにしても速かった」
勇者「ふふん」
・
・
・
パチッパチッ
黒「……あまりおいしくない」
勇者「保存食だからしょうがない。明日は美味しいものをたくさん食べられる」
黒「楽しみ」
勇者「良かった」
黒「……ところで良いの? 焚き火をして」
勇者「なんで?」
黒「獣や獣型の魔物は寄り付きにくくなるけど、賊や人型の魔物には格好の目標だから」
勇者「追い払えば大丈夫。任せて」
黒「……分かった」
勇者「でも、やっぱり危ないからくっついて寝るべき。ふひひ」
黒「イヤ」
勇者「ぐすん」
ガサッガサッ
山賊頭「おっと暴れんなよ。囲まれてんだからな」
勇者「出た」
黒「数が多いね」
勇者「この辺りは、商隊が頻繁に通るから、それ目的の強盗も多い」
黒「……だったら、どうしてこの辺りで野宿しようとしたの?」
勇者「美幼女が夜更かししちゃいけないから」
山賊頭「呑気に駄弁ってんじゃねぇ! 荷物全部出せや!」
勇者「うるさい」ガシッ
山賊頭「な……」
勇者「ていっ」ブンッ
山賊A「なに!?」
ガシッガシッガシッ
勇者「ていっ」ブンッブンッブンッ
山賊D「ば、バケモノ!!」
山賊E「逃げるぞ!」
勇者「無理。全員、風になってこい」
山賊達「ひいっ……」
・
・
・
勇者「おしまい」
黒「あれだけ飛んだら、死んじゃう」
勇者「森に投げたし、運が良ければ生き延びる。多分串刺しかバラバラだろうだけれど」
黒「……ひどい」
勇者「どうせ人殺したちだ。安らかに死んで良いわけがない」
カサッ
黒「まだいたの?」
勇者「…………」
幼女「えぐっ……。こわいよぉ……」
勇者「……美幼女きた!!」
幼女「ひうっ……!」ビクッ
勇者「ふひひ、可愛い。あの薄汚い男たちに捕まってたのか?」
幼女「え、う、うん」
勇者「可哀想に。お兄ちゃんが守ってあげるからね。ふひひ」
幼女「え、う、うん……」
勇者「びくびくしている美幼女可愛い」
黒「……ちっちゃければ誰でも良いんだ」
勇者「嫉妬?」
黒「本当に見損なっただけ」
・
・
・
パチッパチッ
幼女「……おいひいです」
勇者「よほどお腹が空いてたんだね。明日は美味しいものをいっぱい食べさせてあげるから」
幼女「あ、ありがとうございます……」
黒「わたしも」
勇者「勿論」
幼女「あの……」
勇者「ん?」
幼女「勇者さんは、魔王を倒しに行くんですよね……?」
勇者「そうだ」
幼女「だ、大丈夫なんですか……?」
勇者「強いから大丈夫」
幼女「そ、そうですか」
勇者「むしろ倒すまでの雑用の方が面倒」
幼女「……そうですか」
パチッパチッ
勇者「ぐう……」
黒「…………」
幼女「起きてるか?」
黒「……一応」パチ
幼女「勇者に捕まるとは。同じ四天王として恥ずかしい限りだ」
黒「……四天王?」
幼女「龍だ。ほら、鱗」ス-
黒「……」
龍「助けに来たんだが、いつでも逃げ出せる状況じゃないか。王はこの男を危険視していたが、それ程の者でも無いようだ」
黒「……」
龍「さっさと帰るぞ。魔姫もお前の帰りを心待ちにしてる」
黒「……ごめんなさい」
龍「……なに?」
・
・
・
龍「つまり、過去の記憶を失って行くあてが無いから、この男と共に行動してると」
黒「うん」
龍「そうだとしても一緒に帰るぞ。記憶を無くしても、終の国はお前の居場所だ。記憶を喪失しても最初からやり直せば良いさ」
黒「……あなたの言葉を信じる根拠が無い。悪者では無いみたいだけど」
龍「……ならば、信頼されるまで暫くは同行させてもらおう。
この男は無表情で何を考えているか分からず、幼い娘に発情する変態だが、あまり乱暴を働く事も無いようだしな。この姿は良い隠れ蓑だ」
黒「そう」
龍「問題は幼い娘を演じ切れるかだな」
黒「頑張って」
龍「……まったく。終の国は不穏な状況に有るから暢気にもしていられないというのに」
黒「……?」
龍「王の乱心だ。数年前から様子がおかしくなっていたが、近頃はそれに拍車がかかった」
黒「……」
龍「王が狂い始めたのは、天から降り落ちた剣を手にしてからだ。
だから私は、正気に戻ってもらう為にもそれを王から奪い返そうと思う」
黒「わたしに言われても……」
龍「……それもそうか。お前の助力が必要なのだが、記憶を無くしていてはな」
黒「……ごめんなさい?」
龍「謝る事では無いだろう。とにかく、今は色々と様子見だな」
ーーーー参の国ーーーー
勇者「到着」
龍(……信じられない速さだった。勇者とは人間から逸脱した存在なのか?)
黒「大きい……」
勇者「平地で土地が肥沃だから、昔から住人が多かった。それに多くの国と隣接していて交通の便が良かったから商業大国として発展した」
黒「そうなんだ」
龍(……前回訪れた時とは建物の様式も、人の数もだいぶ違うな)
勇者「取り敢えず宿泊場所を決めよう」
黒「うん」
ーーーー参の国・高級ホテルーーーー
黒「……すごい立派」
勇者「弐の国の城よりは確実に豪華」
龍(魔王城よりも絢爛だな。尤も、ここまで壮麗にする必要性も感じられないが)
勇者「部屋に備え付けの浴槽が有るから、入って来ると良い。
着替えは今すぐ買ってくる」
龍「え? う、うん……。ありがとう……」
龍(人間はあまり風呂に入らず、臭い香りを身に付ける不潔な生物だと思っていたが、時の流れで変わったのか?)
龍(人間の変遷の速度は凄まじいからな)
勇者「褐色美幼女も一緒に入って来ると良い。美幼女二人の入浴。ふひひ」
黒「わたしはお風呂に入る必要が無いから良い」
勇者「そうか。残念」
・
・
・
黒「この国にも用事が有るの?」
勇者「無い。むしろ面倒事を起こすなと書いてあった」
黒「じゃあ、すぐに出て行くの?」
勇者「分からない。今は待機する期間だから」
黒「待機?」
勇者「そうだ。……服屋に行ってくる。褐色美幼女とは明日ね」
黒「今更だけど、その呼び方はイヤ」
勇者「……黒とは明日行こう」
黒「うん」
・
・
・
龍(……なんだこの服は? ヒラヒラした布が数多く施されている。しかも生地が薄い)ホカホカ
龍(このような華美な衣服を好んで着るとは、やはり人間は面妖な生物だな)ホカホカ
龍(まあ、王の生命を狙う者のとはいえ、せっかくの厚意を無碍にするのも憚られるな)
龍「……」スルスル
・
・
・
勇者「美しい。もはや一つの芸術品だ」
黒「きれい……」
龍「あ、ありがとう……」
龍(所詮は仮初めの姿に過ぎないのだがな)
勇者「早く黒にも煌びやかな衣装を来せて、華やかな美幼女を両手に抱きたい。ふひひ」
黒「気持ち悪い」
勇者「ぐすん」
龍(この男、ずっと無表情だな)
勇者「昼食にしよう。要望は有る?」
黒「おいしいもの」
勇者「そうか。君は?」
龍「え……。え、えっと、まかせます」
勇者「そうか」
ーーーー参の国・最高級レストランーーーー
黒「おいしい」モキュモキュ
龍「おいひいです」モグモグ
龍(人間は中々上等なものを食しているのだな)
黒「勇者は食べないの?」
勇者「ここではパンと水がメニューに存在しない。だから後で食べることにした」
龍(随分と克己的な食生活を送っているのだな。最初の印象ほど不貞な人間では無いようだ)
勇者「おいしそうに料理を頬張る美幼女たち可愛い」ポカポカ
黒「……」モキュモキュ
勇者「……ところで。君の住所は何処? 参の国としか聞いてない」
龍「えっ……」ドキッ
龍(……失敗したな。すぐに黒を取り返して去るつもりだったから近くの国を答えたが、予定を大幅に変更したからな)
龍(どうしたものか……。この辺りの近況なんて知らないし、黒に援護を頼むか)チラッ
黒「これもおいしい」カリッ
龍(……無理だな。食事に夢中だ)
勇者「どうかした?」
龍「あ、えっと、えっと……。南西の街……です」
勇者「伍の国に近い場所か。治安が悪そうだね。麻薬流入を取り締まる警備兵も多いんじゃない?」
龍「え、えっとぉ、私、まだ子どもだから分かんない。てへっ」
黒「…………」プッ
勇者「…………」
龍(……色々とやらかしてしまった)カアー
勇者「……マーベラス」ツー
黒「泣いてる……」
龍(ど、どういうことだ……?)
勇者「君は幼女の鑑だ。惜しみない賛辞を送る」
龍「え、あ、はい……」
勇者「数日後にはちゃんと送り届けるから安心して」
龍「ありがとうございます……」
勇者「あと『お兄ちゃん』と呼んで」
龍「……お兄ちゃん」
勇者「アメイジング」グッ
龍(……奇天烈な男だな)
黒「……」モキュモキュ
ーーーー参の国・高級ホテルーーーー
黒「午後は何をするの?」
勇者「参王に謁見してくるから、部屋で待っていて」
黒「どれくらい?」
勇者「できる限り早く戻る。参王は嫌いだ」
黒「どうして?」
勇者「傀儡であることに満足しているからだ」
龍(どういうことだ?)
黒「どういうこと?」
勇者「この国は商人が多い。それは国家自体が商業を促進させようとする法律を制定したり、そういう政策を行っていることも大きな要因。
入国料や土地代を格安にしたり、関税の税率を極めて低くしたり。
新規で商売を始めた人間にも有利になる制度も、古株を保護する制度も多い」
黒「それは悪いこと?」
勇者「いや。農民には重苦だけれど、そもそも殆どの農民はもう参の国に残っていない。
問題なのは法律や政策が正常に機能していないこと」
黒「……?」
勇者「賄賂。現王は多くの不正な上納金を豪商たちから受け取って、彼らを優先的に保護している。非合法の商売を黙認したり。
それどころか、最近は豪商たちの言い成りと化しはじめている」
龍(……“水清ければ魚棲まず”とはいうが、あまりに濁っていては仕様がない)
黒「……」
勇者「尤も嫌っている一番の理由は別にある」
黒「一番の理由は?」
勇者「幼女」
黒「は……」
勇者「参王は小児性愛者との噂。しかも嗜虐癖が有るらしい。更に肥え太った豚のような体型だ」
龍(それはきついな)
勇者「到底好きになれる訳が無い」
黒「……同類な気がする。あなたは太っていないけど」
勇者「心外だ。吾人の基本理念は『Yes,ロリータYes,タッチNo,ファック』」
黒「どうでも良い」
勇者「そうか」
勇者「じゃあ、行ってくる。くれぐれも外に出るなよ」
黒「うん」
龍「はい」
龍「……行ったか」フー
黒「うん。さあ、外に行こう」
龍「部屋で大人しくしていろと言われただろう」
黒「言い付けを守るわたしじゃない」フンス
龍「良いから部屋で静かに過ごしてろ」
黒「むぅ……」プクー
龍「……自分の過去の話を知りたくないか?」
黒「……」
黒「聴かせてもらう」ポスッ
黒「さあ、隣に座りたまえ」ポンポン
龍「随分と偉そうだな」ハア
黒「気にしない、気にしない」
龍「……それもそうだな。失礼」ポフッ
黒「なかなか良い座り心地」
龍「そうだな。素晴らしいベッドだ」
黒「それで。わたしの過去について教えて」
龍「うむ。何処から話そうか」
黒「どこからでも」
龍「……だいぶ前、終の国で未知の遺跡が発見された。
おそらくは現在の文明を遥かに卓越した技術で建造された建物だ」
黒「……私はそこに居たの?」
龍「そうだ。私たちが一つの巨大なカプセルの前に辿り着くと、カプセル内が発光してお前が生成された」
黒「……」
龍「私たちはお前を保護した。お前は最初こそ心を開いてくれなかったが、その内私たちに馴染んでいった。魔姫の存在が大きかったんだろうな」
黒「魔姫……」
ーーーー……………う!
ズキッ!
黒「っ……!」
龍「大丈夫か? ……思い出したのか?」
黒「分からない……。分からないけど、大切なことを忘れてる気がする……」ポロポロ
黒「苦しい……。胸が苦しい……」ポロポロ
龍「……」ギュッ
黒「もっと、知りたい……。思い出したい……」
龍「……ああ、幾らでも話すさ」
ーーーー参の国・王城ーーーー
参王「勇者殿か」
勇者「如何にも」
参王「わざわざご苦労」
勇者「いえ」
参王「ふむ。初の国と結んだ盟約の確認に来たのであろう?」
勇者「そうですね」
参王「心配は無い。肆の国への傭兵の派遣は禁じた。また、弾薬などの銃火器類の輸出先は初の国を最優先にするよう話を通してある」
勇者「……」
参王「ふふ、姫を余の物にする為なら、どんな労力も厭わん。あれ程美しい娘、世界中を探しても居ないだろうからな」
勇者「…………」
参王「幼い娘というのは素晴らしいと思わぬか?」
勇者「その通りです」
参王「ほう、即答とは話が分かる。勇者殿も嗜む口か」
勇者「ええ。誇らしいことに」
参王「幼児には神聖な美しさが有ると思わぬか?」
勇者「よく分かります」
参王「それを穢し、壊すことに恍惚を覚えないか?」
勇者「分かりかねます」
参王「そうか。残念だ」
参王「……ところで、勇者殿に頼みがある」
勇者「なんですか?」
参王「三日後に大武闘会が開催される。勇者殿には是非参加してもらいたい」
勇者「……」
参王「主催者である大豪商殿に懇願されてな、世界の希望と評される勇者殿の威力を見れば、多くの者が勇気付られ、また明日を生きていく糧になる。多くの民の為にも是非お願いしたい」
勇者「……」
勇者「承諾しました」
参王「ふん。勇者も存外阿呆だな。あの程度の煽てでその気になっている」
参大臣「ええ、まったく」
参王「実際は集客効果を狙ったに過ぎないだろうに」
参大臣「聞けば農村の出だとか。所詮、低俗な血が流れる者。幼稚なのもいた仕方有りませぬ」
参王「ふふ、まったくだ」
ーーーー参の国、高級ホテルーーーー
勇者「ただいま」
龍「あ、おかえりなさい」
黒「すう……」
勇者「美幼女が美幼女を膝枕する構図。……ワンダフル」ウンウン
龍「は、はあ」
勇者「ところで。君は今夜にもう一度風呂に入る?」
龍「いえ」
勇者「そうか。一緒に入ろうと思っていたのに残念だ」
龍「そうですか……。あの、ごはんは?」
勇者「適当な店で買って食べた」
龍「そうですか」
勇者「明日は一緒に露店巡りもしよう」
龍「あ、はい」
勇者「中心街は活気があって、見ているだけでも楽しい。きっと新しい発見もたくさんあると思う」
龍「そうですね」
勇者「……疲れただろうし、黒を移動させる」スッ
龍「あ、はい」
龍(別に黒なら重みも感じないが)
龍(……しかし、この男の所作からは黒に対する労りや慈しみを感じさせる)
龍(言動や変化の無い表情からは読み取り辛いが、優しい性質のようだ)
勇者「どうかした?」
龍「あ、何でもないです」
勇者「そうか」トサッ
・
・
・
黒「夕ごはんもおいしかった」
龍「うん」
勇者「それは良かった」
黒「勇者も食べれば良いのに」
勇者「質素な食事で充分。色々求め過ぎると、肝心なものが手に入らなくなる」
黒「そんな事ないと思うけど」
勇者「ジンクス。それに、美幼女と戯れるだけで幸福でお腹がいっぱい」
龍(本音にも冗談にも聞こえる)
勇者「風呂に入ってくる。黒も入る?」
黒「イヤ」
勇者「そうか」スタスタ
黒「……あれ?」
・
・
・
勇者「一緒に寝よう」ホカホカ
黒「イヤ」
勇者「そうか。君は?」
龍「えっと……」
龍(黒に便乗した方が良いか)
勇者「よし、一緒に寝よう。ふひひ」ガシッ
龍「え、う、うん」
黒「え……」
龍(……勢いに押されて承諾してしまった。まあ、添い寝程度なら良いか)
・
・
・
黒「……」スヤスヤ
勇者「良い匂いがする」スンスン
龍「ありがとうございます……」
龍(……こうして密着すると勇者の力量がよく分かる。
……私でもこの男に勝てないかもしれない)
龍(……しかし、随分と固く抱き締めるんだな)
勇者「あったかい」
龍「私もです……」
勇者「おやすみ」
龍「おやすみなさい」
龍(……たまには抱き締められるのも悪くないな。
王の生命を狙ってる者だが、あまり嫌いでは無いし)
勇者「ぐう……」
龍「…………すう」
ーーーー参の国・服屋ーーーー
黒「……高そうな服がいっぱい。それに広い……」
勇者「世界でも最大規模の高級店だから」
龍(衣服に拘泥する人間の性は理解できそうにないな)
勇者「どんどん試着していこう」
・
・
・
・
・
・
黒「……お姫様みたい」
龍「そっちも」
勇者「良い。とても良い」
参服屋店員「真にお似合いでございます」
黒「……キレイな格好だけど、動き辛い」
勇者「華やかさを追求した服で、機能性は意識してないみたい」
参服屋店員「しかし、こちらは一級品の絹を原材料に作られていまして、滑らかな手触りな上、通気性にも優れております」
勇者「そうか。欲しい?」
黒「お洗濯が大変だから良い」
龍「私も……」
勇者「そうか。可愛いのに残念」
・
・
・
黒「……これ、服じゃない」
龍「うん……」
勇者「黒い柔肌と白い玉肌。主張の激しくない水着。マーベラス」
参服屋店員(マジでマーベラス)
勇者「次はこれとこれとこれとこれと……」
黒「まだそんなに……?」
勇者「勿論。あ、これも……」
ーーーー参の国・大通りーーーー
黒「疲れた……。結局、大して買ってない」
勇者「美幼女は何を着ても素晴らしい」ツヤツヤ
龍(色々な店があるな。人熱れも凄まじい)キョロキョロ
黒「お腹すいた」グー
勇者「何か要望はある?」
黒「おいしいもの」
勇者「分かった」
龍(む、香辛料に砂糖。以前は相当貴重なものだったらしいが、現在では庶民でも普通に買えるのか)
勇者「君は食べたいもの有る?」
龍「え? えっと、勇者さんに任せます」
勇者「お兄ちゃんだ」
龍「……お兄ちゃんに任せます」
勇者「うむ」ナデナデ
龍「ん……」
黒「……」
勇者「物欲しそうな黒にも」ナデナデ
黒「別にそんなことない」
勇者「実は個人的に撫でたいだけ」ナデナデ
黒「……そう」
・
・
・
黒「……食べ過ぎた」ゲプッ
勇者「よしよし」サスサス
ーー♪
龍「……?」
ーー♪
黒「……キレイな音」
勇者「手風琴の音か。あそこに立っている男の演奏だ」
黒「もっと近くに行きたい」
勇者「分かった」
ーー♪
肆歌手「ーー。ーー」
勇者「……肆の国の唄か」
黒「……良い唄」
龍「うん」
龍(……所詮は音の羅列に過ぎないのに、どうして心揺さぶられるのだろう)
ーー♪
肆歌手「ーーーー。ーーーーーー」
黒「でも、歌詞はなんだか哀しい」
勇者「あの言語が分かるのか」
黒「分からないの?」
勇者「肆の国は周囲の国と唯一言語が違う。昔に存在していた帝国の領土外の土地だから」
龍(私も言葉を理解できるが、無知の振りをした方が良いな)
勇者「……どんな歌詞?」
ーー♪
肆歌手「ーーーー。ーー」
黒「『神は遠い。体燃える。心彷徨う。愛を抱いて安らかに眠れ。人。生命。安らかに微睡め』」
勇者「……」
勇者「この紙幣を彼の足下の缶に入れて来て」スッ
黒「うん」
龍(結構な大金だな)
肆歌手「……」ピタッ
スタスタ。
肆歌手「ーーーー。ーーーー」
勇者「……何だって?」
黒「『こんな大金は申し訳ない』だって」
勇者「……気にしないで良い。それだけの音楽だった」
黒「ーー。ーーーーーー」
肆歌手「……ーー。あり、がと……」
勇者「……」コクリ
勇者「もっと聴かせてくれ」
黒「ーーーー」
肆歌手「ーー」ニコッ
ーー♪
肆歌手「ーーーーーー。ーー」
ーー♪
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ーーーー終の国・魔王城ーーーー
側近「来ましたか、人狼」
狼「親分が逝っちまったのなら集うに決まってんだろうよ。
……てめえ、片腕はどうしたんだ?」
側近「邪魔なので切り取りました。
しかし、本当に残念です。陛下が崩御なさるなんて」
狼「……あんまり落胆してるようには見えねえが」
側近「感情を表に出したくないんです」
狼「けっ、そうかい」
側近「……しかし、四天王も減ってしまいましたね」
狼「ああ。まあ、姉御も娘っ子も無事である事を信じるしかねえさ」
側近「そうですね。黒はともかく、龍には生還してもらわないと。
まったく、魔物でもない輩など放っておけば良いものを」
狼「姉御だからな。それに娘っ子も身内だろうが。
……ところで、骸の野郎は何処にいやがるんでい?」
側近「彼なら陸の国に遣わしました」
狼「……」ギロッ
側近「なにか?」
狼「骸の野郎が人間のいる場所で何をしてるは知らねえが、今は親分を悼む時じゃねえのか?」
側近「しょうがないでしょう。今は終の国の過渡期なのですから」
狼「けっ。……お嬢は何処だ?」
側近「自室に引きこもってますよ」」
狼「……親分が逝って、一番辛いのはお嬢だろうが。何で独りにしていやがる」
側近「私では慰撫できないからですよ」
狼「……けっ」スタスタ
側近「待ってください」
狼「あ?」ギロッ
側近「魔姫様を慰め終えたら、もう一度私を訪ねてください。渡したいものが有ります」
狼「嫌だね」スタスタ
側近「魔剣」
狼「っ!?」ピタッ
側近「ふふ。……陛下を狂気に誘ったと考えられる恐ろしき剣。それを貴方に渡したい」
狼「……」
側近「陛下は大変素晴らしいお方でした。貴方も勿論そう思うでしょう?」
狼「今更口に出す必要もねえよ。あれ程の漢を超える奴は一人として存在しねえ」
側近「人狼、貴方が陛下に厚い忠義を尽くしていたのはよく存じています」
狼「それも、言うまでもねえことだ」
側近「しかし同時に、貴方は一人の漢として陛下を超えたがっているように見えていましたが?」
狼「……否定はしねえ」
側近「貴方にその機会を送りたい。陛下の御心さえも狂気に染めた魔剣。
これを御することができれば陛下を超えたも同然でしょう」
狼「……けっ。実際のところは、てめえ自身があの力を所有してえのに、てめえ自身が壊れる危険性にビビってんだろう?
もしや腕がねえのも魔剣のせいか?」
側近「さあ、どうでしょうね」
狼「そして、俺を魔剣の使い手にして間接的にその威力を用いようって魂胆なわけだ」
側近「どうでしょうね」
狼「……ふん、良いさ。乗ってやるよ。
……だが、てめえの飼い犬にはならねえ。よく覚えていやがれ」
スタスタ
側近「……私の意図に気付きながらも承諾しますか。
勘は良くても阿呆な男です。助かりますが」
ーーーー終の国・魔姫の部屋ーーーー
狼「勝手ながら失礼いたしやす」
魔姫「……」ポー
狼「熱心に窓を覗いて、何か面白ェもんでも見えるんですかい?」スタスタ
魔姫「……」ポー
狼「なんでい。面白ェもんなんか、ありゃしない」
魔姫「……狼だ。久し振り」ポケー
狼「お久しゅうござんす。随分と遅いお気づきで」
魔姫「ん、何だかボーッとしちゃって」
狼「……ひでえ窶れようだ。ちゃんと飯食ってますか。それにクマもひでえ。可愛らしいお顔が勿体ねえですぜ」
魔姫「お腹が空かないの。食事を見るだけで気持ち悪くなっちゃう」
狼「お嬢……」
魔姫「それに眠れないの。すごく眠いのに、何だか頭の芯はハッキリした感じがして」
狼「無理はしないでくだせえ」
魔姫「うん……」
狼「ところで、あっしの尻尾を見てくだせえ!」クルッ
魔姫「……お花の飾り。自分で作ったの?」
狼「そうですとも! 前にお嬢と娘っ子に教わったのを思い出して作ってみたんでさあ。ひでえ不格好な形になっちまいましたが」
魔姫「……ぷっ」
狼「一番大変だったのは尾に巻きつける時でさあ。あんなに集中したのは久方振りでした」フリフリ
魔姫「あははっ」ギュッ
狼「おふっ。尻尾を掴むのは堪忍してくだせえ」ビクッ
魔姫「やっぱり狼はおもしろいね。あはは」ニコ
狼「ははは」
ツー
魔姫「……あれ?」ポロポロ
狼「……お嬢。溜め込まねえでください。あっしが幾らでも受け止めますから」
ギュッ
魔姫「……どうしてっ! どうしてお父さん、死んじゃったの……!
優しかったのに、おかしくもなって……。どうしてなのっ……!」
狼「……誰だっていつかは去っていくもんです。順番なんぞありゃしません」
魔姫「それに……! 黒ちゃんも、龍さんも、いなくなっちゃうし……!」ポロポロ
狼「きっと何処かで小石にでも躓いちまったんでしょう。
直に帰ってきますよ」ニカッ
魔姫「……本当?」グスッ
狼「あっしがお嬢に嘘を吐いたことが有りやしたか?」
魔姫「……ない」
狼「なら、信じてくだせえ」ニカッ
魔姫「……うん!」
狼「それじゃあ、飯を食べて、風呂に入って、糞して眠ってくだせえ」
魔姫「……もうっ! 汚いこと言わないの!」プクッ
狼「こいつあ、失敬しやした」
魔姫「……ねえ」
狼「何でござんしょう?」
魔姫「狼は、わたしを置いていかないよね?」
狼「その契りは……」
魔姫「……」ジワ
狼「……勿論でさあ! 男一匹、しかと心に誓いやした!」
魔姫「うん!」ニコ
・
・
・
狼「げほっ……!」
ビチャビチャ
側近「吐血だけで済みますか。流石ですね」
狼「……親分は血さえ吐いて無かったろうが」
側近「そうでも有りませんよ。陰で大量の血反吐をはいていました」
狼「……そうだったのかよ」
側近「それで。魔剣の具合はどうですか?」
狼「……」
ビキビキ
側近「……なるほど。陛下と同様に肉体と同化していますね。
狼「……気を抜けば、こいつに喰われちまいそうだ。
親分が狂っちまったのもよく分かる」
側近「気をしっかり持ってくださいね」
狼「けっ、言われるまでもねえ。……誓いは破れねえからな」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ーーーー参の国ーーーー
情報屋「暁の時分からご苦労なこった」
勇者「昨日と同じ用件。金額は同じで良いな」スッ
情報屋「昨日より減ってるが?」
勇者「昨日は、初国の貨幣の価値が上がった。正確にいうと、ようやく相場に反映された」
情報屋「……耳聡いな」
勇者「本当に知らなかったのか、巻き上げようとしたのかは知らないが、どちらにしろ信用問題に関わる。
情報屋は信頼が最重要のはずだ」
情報屋「……そうだな」
勇者「それで。肆の国の情報」
情報屋「ああ。初の国への侵攻はまだのようだな。だが確実に差し迫ってはいる。一週間も経たない内に交戦状態を迎えるだろうな」
勇者「そうか。それじゃ」
情報屋「毎度有り」
バタンッ
情報屋「……あれが噂の勇者か。おっかねえな」
ーーーー参の国・高級ホテルーーーー
龍「……明け方なのに、どうして勇者が居ないんだ?」
黒「わたしが起きた時には、もういなかった」
龍「私なんて抱き締められてたのに、気付かなかったぞ」
黒「龍はいつも幸せそうに寝てる」
龍「……私が?」
黒「うん」
龍「……そんなことは無いはず」
勇者「ただいま。起きてたのか」
黒「おかえり。どこに行ってたの?」
勇者「美幼女の探索」
黒「気持ち悪い」
勇者「ぐすん」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
黒「上がり」ポンッ
勇者「負けた。これで上がり」ポンッ
龍「うう……」
黒「……大富豪も飽きた」
勇者「もうお昼の時間だ。今日は何が食べたい?」
龍「も、もう一回! 次こそ……!」
黒「正直、弱すぎて話にならない」
龍「うう……」
勇者「……もう一回だけ」
龍「……!」パアッ
黒「それは喜びすぎ」
龍「次こそ……!」
勇者「……」チラッ
黒「……」チラッ
コク
・
・
・
龍「勝った……!」
勇者「わー、つよーい」
黒「かなわない」
龍「ふふ……そうだろう、そうだろう」
黒「……素が出てる」ボソッ
龍「あっ、う、嬉しいです! わあい!」アタフタ
勇者「そうか」
龍(……不審には思われなかったようだな。良かった)
黒「お腹すいた」キュー
勇者「昼餉にしよう」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
勇者「ちょっと手続きしてくる」
黒「手続き?」
勇者「明日は大武闘会に出るから、その手続き」
黒「そっか」
勇者「お金を渡して置くけれど、無駄遣いしないように。あと人目の多いところにいて」
龍「はい」
勇者「それじゃ。……どうせなら見送りのチュウを」
黒「イヤ」
勇者「ぐすん」
・
・
・
龍「さて。何をしようか」
黒「ごはんも食べたし、ゆっくりしたい」
龍「なら、帰って寝るか?」
黒「でもどうせならお店とか見たい」
龍「……じゃあ、ゆっくりと歩き回るか」
黒「うん」
・
・
・
黒「ほわあ……」
龍「甚く精巧な人形だな」
黒「本物の人間みたい」
龍「そして高い……」
黒「うん……」
参人形師「おや、可愛らしいお客さんだ。いらっしゃい」
黒「えと。……いらっしゃった?」
龍「何だそれ?」
黒「『いらっしゃい』への返事のつもり」
参人形師「ふふ、面白い娘たちだ」
龍(私も含まれているのか)
参人形師「ーー君たちは人形が好きかね」
黒「あんまり。でもこの人形はキレイだと思う」
参人形師「ふふ、ありがとう。私は人形が大好きだ。世界中で一番愛している」
黒「そうなんだ」
龍(人間というのは奇妙な嗜好を持った奴が多いな)
参人形師「……お願いが有る。きいてくれれば、好きな人形を上げよう」ニヤ
黒「……っ」ビクッ
黒「イヤ」
参人形師「良いから。ほら」
ガシッ
黒「いたっ……」
参人形師「こんな美しい娘たちは初めて見た。奥でじっくり調べさせてもらおう。ふふふ」
龍(……目が血走ってる。面倒だし、気絶させてしまおうか)
ガチャッ
龍(……仲間か?)
スタスタ
ガシッ
参人形師「な、何だね!?」
肆歌手『その娘たちから手を離せ』
参人形師「な、何だ!?」
グイッ
肆歌手『行こう』
黒『……うん』
肆歌手『君も』
龍「……」
スタスタ
バタンッ
黒『助けてくれてありがとう』
肆歌手『何ということはないよ。
同郷の人から、あの人形師の不穏な噂を聞いていたからね。
君たちが人形屋に入ったのを見かけて、心配で見守ってたんだ』
黒『そうなんだ……』
肆歌手『昨日の彼は? 君たちの保護者なんだろう?』
黒『用事が有るらしくて今はいない』
肆歌手『そうか。こんな小さな娘たちを放置するとは非常識だな』
黒「……悪い人では無いけどね」
肆歌手『ん?』
黒『なんでもない。
……あなたの唄が聴きたい』
肆歌手『ん、それは嬉しい言葉だ』スッ
ーー♪
肆歌手『風が巡る ? ? ?君が薫る』
ーー♪
肆歌手『内包された久遠 ? ? ? 再生された虚空』
ーー♪
・
・
・
黒『よかった』パチパチ
龍「……」パチパチ
肆歌手『ありがとう。嬉しいよ』
黒『他にも唄は有るの?』
肆歌手『有るよ。因みに即興で唄を作るのが得意なんだ』
黒『即興で?』
肆歌手『そう。和音を奏でるとね、その和音が具有する連続性が次の和音を導いてくれるんだ。神が僕たちの魂を導くようにね』
黒「……?」
肆歌手『音が音を呼ぶといえば良いのかな。僕はそれを繋げるんだ。あと詞は結構適当だったりする』
黒『すごい』
肆歌手『何ということはないよ。僕にとってそれは当たり前の事なんだ。特別なんかじゃない』
黒『そんなもの?』
肆歌手『そんなものさ。……君たちも手風琴を弾いてみるかい?』
黒『良いの?』
肆歌手『誰にでも触らせる訳ではないよ。ただ、君たちなら良いかと思ってね』
黒『弾いてみたい』
肆歌手『じゃあ、両帯を肩にかけて』
どしっ
黒『……けっこう重い』
肆歌手『重い方が基本的に音色が良いからね。立ちっぱなしで演奏すると腰が痛むけど』
黒『そうなんだ』
肆歌手『蛇腹はなだらかな丘を描くように広げて、戻す時はその逆だよ。そうしないと音が出ないからね』
黒『こう?』
肆歌手『そうそう。うまいね。それで右側が主旋律で左側が……』
龍(……退屈だ)フア
・
・
・
ーー♪
肆歌手『……すごい上達ぶりだ。素晴らしい才能だよ』
黒『そう?』
肆歌手『ああ、驚きだよ。僕なんか直ぐに追い抜かれそうだ』
黒『それは大げさ』
肆歌手『そうでも無いと思うけど』
黒『重くて疲れた……』
肆歌手『ん、一旦外そうか』スルッ
黒「ふう」
龍「……」ボンヤリ
肆歌手『君もやってみるかい?』
黒「やるか、だって」
龍「言葉なら分かっている。断ってくれ」
黒「話せるなら自分で話せば良いのに」
龍「今更話すのも不自然だろう」
黒『見てるだけで良いって』
肆歌手『そっか。……ところで君に憶えて欲しい唄が有るんだ』
黒『どんな唄?』
肆歌手『今弾くよ』スッ
黒『今のも良い唄だった』パチパチ
龍「良いな」パチパチ
肆歌手『ありがとう。これは先に詞から作った唄なんだ』
黒『切ない歌詞』
肆歌手『……そうかもね。それじゃあ、教えるから』
黒『うん』
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ーーーー参の国・王城・娯楽の間ーーーー
参王「来られたか、勇者殿」
勇者「ええ」
参少女「むぐっ、ぢゅ……れろ」チュプ
参王「ちゃんと奥まで咥えろ」グイッ
参少女「むぐっ!? ……あむっ」
参王「歯を立てたりしたら即刻殺すからな」
グポグポ
参少女「っ……。ぐむっ、えろっ」グスッ
勇者「何の用でしょうか?」
参王「なに。勇者殿も幼い娘が好きなのだから、共に愉しもうと思ってな」
勇者「有り難いお心遣いでございます」
参王「なに、気にするな」ズルッ
参少女「ぷあっ……。げほっ」
参王「この娘は今日で最期だからな。誰かと分かち合うのも余興だ」スラッ
参少女「え……」
勇者「意味を分かりかねます」
参王「余は常に七“匹”の娘を飼っている。皆美しい娘たちばかりだ」
勇者「はあ」
参王「そして新しい娘を買うたびに、その分古いのを殺すのだ。
そして今日、新しい美少女を入手したのだ」
参少女「やだ……。死にたくない……!」フルフル
参王「勇者殿にも美しいものを壊す快感を堪能して欲しくてな」
勇者「ふむ」
参少女「た、たすけて、ください……」ガタガタ
参王「強烈な快感を余に与える事ができるのだ。光栄に思え」スッ
参少女「いやぁ……!」
勇者「お待ちください」
参王「何かね?」
勇者「その美しい娘を吾人に賜っていただけませんか」
参王「断る。美の破壊は余の生き甲斐だ」
勇者「重々承知いたしました。無論、相応の対価をお支払い致しましょう」
参王「端金など要らん」
勇者「貴方様の勅命を一つ、承りましょう。どのようなものでも必ず遂行致します」
参王「……ふん。『この娘を殺せ』という命令もか?」
参少女「っ……」ガタガタ
勇者「……」
参王「沈黙か。……まあ、良い。ならば命令をくだそう」
勇者「はい」
参王「明日の武闘会で、ひたすら嬲られろ。勿論、無抵抗でだ」
勇者「その程度ならば幾らでも」
参王「ふふ、かの勇者がひたすらに圧倒される。さぞかし面白いだろうな」
勇者「左様ですか」
参王「娘は手形として持っていけ。」
勇者「はい」
スタスタ
ファサッ
参少女「あ……」
勇者「粗末なものだが我慢してくれ」
参王「……勇者殿は初王殿から支援金を貰っているのだろう?」
勇者「ええ」
参王「ならば、そのようなみすぼらしい格好はやめておけ。失敬だ」
勇者「了解致しました。それでは失礼します。……行こう」
スタスタ
バタンッ
参王「……偽善者が。その娘だけを救ってどうするというのだ」
参王「……まあ、良い。“新品”の具合でも試すか。それと何処から調教するかも考えなくては」ニヤッ
ーーーー参の国・高級ホテルーーーー
勇者「ただいま」
黒「おかえり。……また新しい娘」
龍「おかえりなさい」
参少女「……」ビクビク
勇者「拾った。ふひひ」
参少女「ひっ……」
勇者「おっと。ごめん」
黒「……どうしてそんなに薄着なの? しかも羽織ってるのは勇者の服」
参少女「あ……」オドオド
勇者「色々とあった。黒、一緒にお風呂に入ってあげて。
服は……できるだけ大きいのを貸してあげて」
黒「……分かった」
・
・
・
勇者「はあ」
龍「あの娘はどうするんですか?」
勇者「敬語を使う必要はない。龍」
龍「……いつから気付いていた」
勇者「最初に会った時から」
龍「知っていて色々とからかっていたのか」
勇者「いや、ハグとかは実際にその姿が可愛いから」
龍「ふん、人間は形に囚われすぎだ。形とは、虚空と等しいのに」
勇者「そうか」
勇者「そうか」
龍「ところで、打ち明けたということは戦うということか」スー
勇者「銀鱗美幼女。そんなものも有るのか」フムフム
龍「……は?」
勇者「現時点で戦意はない。ただ訊きたいことが有った」
龍「……何だ?」
勇者「龍というからには長寿のはず」
龍「まあ、そうだな」
勇者「多くのものを見てきただろう? 多くの哀しみも、多くの死も」
龍「まあ、そうだな」
勇者「龍は、死をどのように考える?」
龍「勿論生命の終わりだろう。ただの物体に還るんだ」
勇者「うん」
龍「死は必ず発現する。天候に、偶然に、疫病に、害獣に、自身によって」
勇者「うん」
龍「だから、死自体は何も問題ではないんだ。死は生にとっての絶対だ。それ以上でもそれ以下でもないのだから」
勇者「龍は人間がーー君の場合は魔物がどのように生きて、どのように死んでも良いと?」
龍「そんな訳ないだろう。どのように生きるかは重要な事柄だ」
勇者「……人が人を殺すのは?」
龍「同族殺しなど有り得ないな。少なくとも魔物はそのような事はしない」
勇者「龍は、人を殺すのか?」
龍「……場合によってはな。なるべく穏便に済ませたいところだが。無益な殺生は極力減らしたい」
勇者「なるほど。
あと、魔物について訊きたい」
龍「答えるかは訊問によるな」
勇者「近年、魔物の数が唐突に増えた。何故だ?」
龍「……終の国から流出しているんだ。理由は幾許か有るが、最大の原因はおそらく……」
勇者「王の乱心か」
龍「……ああ。だが、それだけではなく、食糧に乏しいんだ。
より豊富な食糧を求めて北方の祖国を捨てて南に下る者が増加しつつある」
勇者「そのような時期に、無為に時を過ごして良いのか。
四天王はおそらく国務大臣に該当するのでは?」
龍「私だって煮詰まった時は気分転換もしたくなる。
そこから妙案が浮かぶことも有るしな。……詭弁か」
勇者「次に。魔物同士は意思の疎通が取れるのか?
言語を解す魔物の数は少ないようだが」
龍「基本的な種とは様々な方法で取れる。
お前たちは大味に分類するが、私たちはかなり厳密に細分化しているんだ。
まあ、通じない奴の殆どは家畜のようなものだな」
勇者「なるほど。分かった」
龍「質問は終わりか?」
勇者「最後に要望が一つ」
龍「何だ? 私のために購入した服の返却か?」
勇者「抱き締めさせて」
龍「は……?」
ボフッ
勇者「さあ、吾人の上に腰掛けて」
龍「……どうしてそうなる? 理解が追いつかない余り頭痛がしてきた」ズキズキ
勇者「さあ、ハリーハリー」オイデオイデ
龍「はあ……」
ポフッ
ギュウ
勇者「温かいままだ。その姿でも恒温動物のままか。
……それにしても、素晴らしい抱き心地」
龍「……まあ、お前に抱き締められるのは嫌いじゃない」
勇者「そうか」ギュッ
龍「ん……。強過ぎだ……」
勇者「……」ペロ
龍「ひゃっ……!?」ビクッ
勇者「身体を強張らせる銀鱗美幼女可愛い」ナデナデ
龍「お前……!」
勇者「二人が上がってきそうだから鱗を消して」
龍「……ちっ」スウ
・
・
・
勇者「ところで。この手風琴は何処から?」
黒「昨日会った人から預かった。暫く遠くに行くからって。
それと、その人に色々と唄を教えてもらった」
勇者「そうか」
参少女「……」ウツラウツラ
勇者「そろそろ寝よう。君は吾人のベッドを使うと良い」
参少女「でも……」
黒「勇者は?」
勇者「黒、一緒に寝よう」
黒「イヤ」
勇者「ぐすん」
龍「仕様がない。私のベッドで眠れ」
黒「……口調」
龍「バレたからもう良い」
黒「えっ」
勇者「そうする」
参少女「あの……わたし、あなたに感謝してもしきれなくて……どうすれば……」
勇者「良いから今日は早く眠って。
あの肥満体に襲われることは絶対に無いから安心して」
参少女「は、はい……」
勇者「おやすみ」
参少女「おやすみ、なさい……」
参少女「…………」スウ
黒「……お風呂に入ってる間もずっと何かに怯えてた。
本当に何が有ったの?」
勇者「色々と。今は彼女の為にも訊かないでくれ」
黒「……分かった」
勇者「寝よう」
黒「うん」
龍「変な事するなよ」
勇者「難しいかもしれない」
龍「おい」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ーーーー参の国・円形闘技場・特別席ーーーー
ガヤガヤガヤガヤ……
参王「通常を遥かに超える観客数ですな」
参大豪商「ええ。勇者参加の集客効果は素晴らしいです。
この調子ならば一日中満席になりそうだ」
参王「諸国に名を轟かせる猛者ですからな。その力を直に見たい者も多いでしょう」
参大豪商「ふはは、その通りです」
参王(その勇者は無抵抗のまま蹂躙されるがな)
ワアアァァァアアア!!
参王「おっと、入場のようですな」
ーーーー参の国・円形闘技場・観客席ーーーー
黒「勇者はどうして闘うの?」
龍「知らん」
龍(それにしてもこの建造物。以前に来た時は国事犯の処刑に使われていたが、他にも用途があったのだな)
参少女「……」グスッ
黒「……どうしたの? 朝からずっと暗い顔してたけど」
参少女「勇者さまは……わたしのせいで……」ヒグッ
龍「何の話だ」
参少女「たすけてもらう時、勇者さまは約束していました……。
この闘いで一切手を出さないと……」
黒「……それって、勝ち目がないってこと?」
参少女「……勇者さまの身に、もしものことがあったりしたら……私、どうしたら……」ポロポロ
龍「おそらく大丈夫だろう」
黒「うん。勇者は強いから。だから落ち着いて」ギュッ
龍「……」ギュッ
参少女「……ありがとう」ポロポロ
ーーーー参の国・円形闘技場・舞台上ーーーー
ガーーーン
参戦士「昨夜、王の使者がわざわざ伝えに来たぜ。
アンタは俺に攻撃ができねえんだってな。がはは!
まあ、殺しはしねえよ。半殺しにはするが」
勇者「口を動かしてないで殴ったら?
大して弁が立つわけでも無い男の、野蛮で不快な声なんて聞きたくもない」
参戦士「……粋がってんじゃねえぞ!」ダダッ
勇者「……」
参戦士「っらああぁぁああ!!」ブオッ
ゴキッ
参戦士「……あ?」プシャッ
勇者「指と手首の骨折と、指の肉が裂けたみたいだな」
参戦士「……このやろおおぉぉぉおおお!!」ブオッ
ガキッ
参戦士「ぐっ……!」
勇者「次は足をやりたいのか」
参戦士「くそっ!」タッ
勇者「さっさと諦めたら?」
参戦士「調子にのんなあぁぁあああ!!」スラッ
勇者「抜刀か。たしか銃以外は使っても良い規定だったな」
参戦士「うおおおぉぉぉおおおおおおおお!」ブオッ
勇者「振りかぶり過ぎだ。普通なら当たらない」
ゴキャッ
参戦士「あ……」ポロッ
勇者「それと、このような鈍の剣では掠り傷も負えない。
今みたいに折れて終わり」
参戦士「バケモノ……」ドサッ
勇者「それ以外の何だと思っていた?」
参戦士「……ひっ」ジリッ
シーーン
勇者「……面倒だ。吾人の負けで良い」クルッ
参戦士「…………は?」
スタスタ
ーーーー参の国・円形闘技場・特別席ーーーー
参大豪商「……なるほど、あれが勇者か」
参王「……真のバケモノですな」
参王(……示威しながらも敗退するとはな。面白くない)
ブーブー!
参大豪商「……ブーイングが多い。このままではいかんな。おい、お前」
参大豪商使者「はっ、何でしょう」
参大豪商「余興へ参加するよう勇者を説得してこい。得意の色仕掛けでも使ってな。
承諾が得られたら、アレも此処まで連れて来い」
参大豪商使者「了解致しました」
参王「何をお考えで?」
参大豪商「ふはは、客を沸かせるサプライズですよ」
ーーーー参の国・円形闘技場・観客席ーーーー
勇者「やっほー」
参少女「勇者さま!」ダキッ
勇者「おっと」ナデナデ
参少女「無事で良かったです……!」
勇者「まあね」
龍「負けたが良かったのか?」
勇者「勝って得することもない。それより二人もおいで」
龍「遠慮する」
黒「わたしも」
勇者「ちぇ」
黒「この後はどうするの?」
勇者「帰るつもり。それとも見たい?」
黒「……」フルフル
龍「私もいい」
参少女「勇者さまにおまかせします」
勇者「そうか」
参大豪商使者「勇者様」
勇者「ん、何の用?」
参大豪商使者「見事な闘いぶりでした。私、思わず固唾を飲んで見入ってしまいました」
勇者「どうも」
参大豪商使者「しかし、観客の中には勇者様の実力を理解できていない者がいるようで……」
勇者「面倒だ。要件は簡潔に言え」
参大豪商使者「……すいません。勇者様にもう一度舞台で闘っていただきたいのです」
勇者「人間と?」
参大豪商使者「いえ、魔物です。数多のの人間を喰らった凶獣です」
龍「……」ピクッ
勇者「そうか」チラッ
参大豪商使者「……参加していただけるならば、何でも致します。……何でも」クスッ
勇者「……分かった。じゃあ大豪商に麻薬の密売を止めろと伝えておいて。それと非道な奴隷貿易を止めろとも」
参大豪商使者「っ!?」
勇者「あ、やはり伝えなくて良い。伝える必要も無くなる」
参大豪商使者「……それでは半刻ほどしたら控え室にいらしてください」
龍「……」
勇者「囚われた魔物について、龍はどのように考える」
龍「……祖国を捨てた者だ。何とも思わないさ。私には関係ない」
勇者「言い聞かせているようにしか見えない」
龍「……うるさい」
勇者「そうか」
黒「龍……」
参少女(事情は分かりませんが、不穏な感じです……)
勇者「そういえば君の事だけど」
参少女「は、はい……」
勇者「身寄りが無いそうだし、吾人の知り合いーー師匠に預かってもらう予定」
参少女「え……」
勇者「偏屈な人だけど悪人では無いから安心して」
参少女「あの……わたしは勇者さまと別れるんですか……?」
勇者「そうだ。これからは危険が格段に増す。
ちっちゃい子を連れていくわけには行かない」
参少女「で、でも……この二人は……」
勇者「黒と龍とはこの国で別離だ」
黒「……え?」
龍「……」
勇者「元々そのつもりだった」
黒「……『ついてくれば良い』って最初に言った」ムスッ
勇者「今は状況が違う。龍の言葉通り、帰りを待っていてくれる者がいるなら帰らなければいけない」
黒「……“わたし”はそんな人たちを知らない。知らなければ他人」
勇者「吾人とだって他人だ」
黒「そんなこと……!」
勇者「吾人の何を知っているというんだ?」
黒「ヘンタイなところ」
勇者「あ、確かに」
龍「……勇者は私の敵だ。魔王を狙っているんだからな」
勇者「その通りだ」
龍「……だが、お前が悪者では無いことは知っている」
勇者「……そうでもない」
龍「……戦うのは次に会う時まで延ばしておこう」
勇者「分かった。……吾人は違うところで時間を待つ。
戻ってくるまでの間、彼女の面倒を見ておいてくれ」
龍「それぐらいなら構わない」
勇者「どうも。それじゃ」
龍「……黒はどうする? 私について来るか?」
黒「……どうすれば良いか分からない。唐突過ぎて」
龍「……まあ、一緒に帰還することも考えていてくれ」
参少女「……二人は、魔物なんですか?」
龍「私はそうだが、黒は違う」
黒「わたしは人間でもないけど」
参少女「……人を食べたりするんですか?」
龍「大飢饉の時代には有ったな。私の口には合わなかったから、それ以降は食べて無いが」
参少女「……」
龍「怖いか?」
参少女「……少し。でも、悪人には見えません。王様よりもずっと」
黒「参王は悪い人なの?」
参少女「……ずっとひどい事をされてきました」
黒「……」
参少女「仲の良かった女の子が帰って来なくなった時、わたしたちを見張っている兵隊さんは『あの娘は遠くで幸せになった』って言っていました。
昨日、『今日が最後』と言われた時は、わたしも自由になれると思っていました。
わたし、知らなかったんです……。わたし……」ガタガタ
龍「無理して喋らなくて良い。こういうのは楽しく過ごしてさっさと忘れた方が良いんだ」
黒「……思い出させてごめんね」
参少女「いえ……。……やっぱり二人は悪い人に思えません」
龍「……そうか」
ーーーー参の国・円形闘技場・舞台上ーーーー
ワアアァァアア!!
ツギハニゲンナヨー!
マモノヲブッコロセー!
勇者「……」
ドッ
ドッ
ドッ
ジャラッ
ジャラッ
ジャラッ
マモノダー!
オッカネー!
魔獣「グルルルッ……!」
参魔物商人「三日間の間、餌を与えていない為、極めて凶暴です。
鎖を外した瞬間、襲撃してくるでしょう」
勇者「そうか。……退いてろ」ズルッ
参魔物商人「……腕から剣が」ポカン
勇者「二度も言わせるな」
参魔物商人「は、はい! おい! 撤退だ!」
ドダダダッ
勇者「ていっ」ブンッ
バキッ
魔獣「グオオォォオオオッッ!」
勇者「中々の迫力だ」ズブッ
ブンッ
勇者「当たらない」ヒョイッ
ワアアァァアアアア!!
ブンッ
ヒョイッ
ブンッ
ヒョイッ
魔獣「グオオオォォオオオオ!!」ブンッ
勇者「済まないが利用させてもらう」ガシッ
魔獣「ッ!?」
勇者「投擲」ポイッ
魔獣「ガアアァァアアア!」
勇者「さて。屑共に相応の報いを」
ーーーー参の国・円形闘技場・特別席ーーーー
バリバリッ
ガリッ
グチャグチャ
参大豪商「ーーーー」
ポイッ
魔獣「グルルルッ」ガシッ
参王「た……すけて……」
魔獣「グア」アーン
参王「ひ……いやだ……死にたくない……いやだ……」
ゴキャッ
参王「ーーーー」
グチャグチャ
グチャグチャ
勇者「ていっ」ブンッ
魔獣「ーーーー」プシャッ
ボトッ
勇者「感謝しているけれど所詮は人喰い。生かすのは無理だ」ズブッ
ーーーー参の国・円形闘技場・観客席ーーー
龍「……」
黒「顔色が悪いよ……」
龍「……大丈夫だ。……少し野暮用ができた。黒、お守りは頼む」
黒「分かった」
参少女「お、お守りって……」
タタタッ
参少女「あ……行っちゃいましたね」
黒「……取り敢えず勇者のところに行こう」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ゾロゾロ
魔物商人「今日は大金が入ったし、全員で飲みに行くか」
ヒューヒュー!
イエーイ!
龍「……」コソッ
ゾロゾロ
龍(あの建物に入って行ったが、どうやって侵入するか)
龍「……強行突破で良いか」
トテトテ
龍(……杞憂に終われば良いが)
ガチャッ
龍(……汗臭いな)
魔物商人「あん、どうした嬢ちゃん?」
龍(……っ! 汗に混じって血の臭い!)
ダッ!
魔物商人「あ、おいっ! 誰かそのガキを止めろ!」
龍「邪魔だ!」
ドンッ
「っ!? 人間の力じゃねえぞ!」
魔物商人「……魔物か!?」
龍(奥には厳重な鋼鉄の扉)
龍「はあっ!」ブンッ
ゴシャッッ
龍「…………はは」
た……すけ……
ぐる……じ……
パパ……ママ……
し……にたく……な……
あひゃ……くしゅり……くしゅりぃ……
いたい……いたいよ……
龍「ははは」
龍「おい、そこのサキュバス。四肢はどこに置いてきたんだ?」
龍「おい、ゴブリン。背中にミミズが大量に這ってるぞ」
龍「おい、セイレーン。どうしてお前は腹を割かれてるんだ?」
龍「全員そんなに血を流して、人間の返り血でも浴びたのか?」
龍「ははははは」
魔物商人「食らいやがれっ!」ブンッ
ズドッ
魔物商人「……尻尾?」フラッ
ズルッ
ズドッ
魔物商人「ーーーー」
……ウオオォォォオ!
龍「……殺してやるっ!!」
勇者「皆殺しか」
龍「……勇者」
勇者「祖国を捨てた者は関係ないんじゃ無かったのか?」
……りゅう……さま……
りゅう……さま……たず……けて
龍「……」
勇者「……」
龍「……勇者」
勇者「何だ?」
龍「お前は、この状況を知っていたのか?」
勇者「ずっと前から知っていた」
龍「勇者」
勇者「何だ?」
龍「人間は敵だ。殺すしかない」
勇者「ならば、吾人はお前を殺すしかない」
龍「……くそが。くそがぁぁあああああっっ!!!!」
ミキミキミキミキ
勇者「……龍というよりもドラゴンだな」
ブオンッ
勇者「……ちっ」
ドゴォォッッッ!
龍「ふざけるなふざけるなふざけるなぁぁああああっ!!」
ドゴォッッ
ゴシャアッッ
龍「私はお前に一目を置いていた!」
ブオンッ
ゴシャッッ
龍「大きな過失だ! 人間など屑だ!」
勇者「なんだ、そんなことも知らなかったのか」ピョンッ
龍「……っ! ちょこまかするなぁ!」
ドゴオッッ
ドゴオッッ
勇者「大体、お前は情弱過ぎる。長命の割には余りに無知だ。
もっと人間の事を知っていれば予防策なんて幾らでも打てた」ピョンッピョンッ
龍「黙れ!」
勇者「お前にも責任が有るんだ。自覚しろ」タタタッ
龍「詭弁を吐くなぁ!」
ゴシャッッ
ズドオッッ
タタタッ
ピョンッ
スタッ
勇者「やーい、こっちまでおいでー」
龍「くそがぁぁああ!」
ブオンッ
ピョンッ
ドコオォッッ
勇者「次は……あっちか」ボソッ
ドゴオッ
勇者「建物にダーイブ」
龍「……意味の分からないことばかりして何がしたい!?」ブオッッ
ズシャァァッ
参兵隊長「魔物を止めろぉ! これ以上我等の街を破壊させるな!」
ウオオオォォォオオ!
パンッパンッパンッ
ドンッドンッドンッ
龍「……」ギロッ
ブンッッ
ガシイッッ
龍「っ!?」
勇者「お前は吾人にだけ集中してれば良いんだ」
タタタッ
龍「……意味が分からないんだよっ!!」
ドゴオオッッッ
ドゴオオッッッ
勇者「良いから手の鳴る方においで」パチパチ
龍「……っ!!」ギリッ
ブオンッッ
ドガアッッ
・
・
・
龍(……勇者が立ち止まったり侵入する建造物は有る程度同じだ)
龍(もしかして……)
ピタッ
龍「お前……」
勇者「……この破壊者め! 絶対に倒してやる!」シー
龍「……」
ドゴオッ
ドゴオッ
・
・
・
勇者「くそう! すぐに倒してやるう!」タタタッ
龍(国外に出るようだな)
勇者「……ここまで来れば良いか」ピタッ
龍「お前が誘導して私が壊した建物は何だ?」
勇者「奴隷の収容所やら市場やら、麻薬の保管庫やら、武器製造工場やら、武器庫やら色々だ」
龍「何の為に……」
勇者「吾人は人間相手に勝手な事は出来ないから。魔物に壊してもらうのが一番体裁が良い」
龍「……」
勇者「それと、囚われていた魔物たちは全員無事だ。
黒たちに逃走経路を教えて誘導させたから多分逃げ切れたはず」
龍「……冗談を言うな。どいつも疲弊し切って逃げ切れる体力など無かった。
サキュバスとセイレーンに至っては四肢と肝を奪われていたんだぞ……!」
勇者「吾人が治した」
龍「……はあ?」
勇者「聖剣パワーは万能。ふふん」
龍「……本当か」
勇者「本当だ。……それで。悪いけれど」ズルッ
チャキッ
龍「……ああ。この生命を以って事態の収拾をつけろ」スッ
勇者「……ていっ」ブンッ
ボトッ
ーーーーーー
ーーーー
ーー
サスガ、ユウシャサマダ!
ユウシャサマ、バンザイ!
バンザーイ!
バンザイ!
バンザーイ!
・
・
・
勇者「ふう」
参少女「勇者さま!」タタタッ
ダキッ
勇者「おっと」
参少女「ご無事で良かったです……!」ウルウル
勇者「ありがとう」ナデナデ
黒「龍は……?」
黒「龍は……」
龍「此処にいるぞ」ピョコッ
黒「……ネズミ?」
龍「目立たないようにな」
勇者「翼を掲示しただけだから逃亡を許したことにしかできなかった」
龍「充分だ」
黒「……無事でよかった」ホッ
勇者「……ちょっとした用事が有るから、先にホテルに戻っていて」
参少女「分かりました」
龍「……勇者」
勇者「何だ?」
龍「見直した。お前は凄い奴だ」
勇者「ふふん。惚れた?」
龍「……ああ。これ以上無いほどな」
黒「えっ」
勇者「えっ」
龍「……もう少し、一緒にいさせてくれ。
お前といれば多くの事を知れる。そうすれば人間との和解の道も見つかるかもしれない」
勇者「そうか」
龍「それに私自身、お前といたいんだ」カァ
勇者「……そうか」
黒「ネズミが告白してる……」
勇者「取り敢えず、ホテルに戻っていて。龍を頼む」スッ
参少女「わかりました」キュッ
勇者「それじゃ」フラッ
黒「……?」
勇者「……此処なら良いか」
勇者「……ごぼっ」
ドボドボ
勇者「ぐっ……がぼっ、ごぼっ……」
ボドボド
勇者「とまらな……げぼっ……」
ボチャボチャ
ドサッ
勇者「げほっ……。……多分、致死量だな」
勇者(……無茶し過ぎたか)
勇者(……久しぶりに感情が戻ってきた感じがするな)
勇者(……愚かだ。魔物を救って、奴隷を救って、麻薬を処分して、武器を破壊して……)
勇者(それで何が変わるんだよ)
勇者(どれだけ大きな力を持っても、その場の者を救うのが限界だ)
勇者(くだらない……)
勇者(……それは妹を救えなかったあの時からか)
勇者(自分は、何がしたいのだろう……)
ギュッ
勇者「……?」
黒「死んじゃダメだよ……」
勇者「なん……で……」
黒「様子がおかしかったから、心配で見に来た」
勇者「……そう……か……」
勇者(……ちっちゃい手だ)
勇者(……あったかい手だ)