小椋「こないだ松子とかとご飯食べててさ、三組の男子ってレベル高いよねーって話になって」
綾野「あぁー確かに。ウチのクラスの男子は校内でも人気ある奴多いわ」
小椋「でさ、じゃあ他のクラスはどうなのかーって。あたし男友達少ないし」
綾野「へー。んで私に聞きたいって訳か」
小椋「そういう訳。で、どうなの?」
綾野「って言ってもなー。他のクラスでも人気ある男子はいるけどさ、やっぱ三組程じゃないんだよねー」
小椋「ふーん。そんなもんなんだ」
元スレ
小椋「三組以外の男子ってどうなの?」綾野「どしたの? いきなり」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1346130518/
綾野「水野君と同じバスケ部の子とかはいるよ。告られたって噂も聞くけどまぁ、水野君程じゃないっぽい」
小椋「水野そんなにモテんの?」
綾野「そりゃーバスケ部エースでイケメンだしねー。彼女いても告る女子は後を絶たないっぽいよ」
小椋「え、あいつ彼女いんの?」
綾野「バスケ部の後輩マネージャーだって。昔から知ってる子らしいよ」
小椋「そっか、確かに彼女いてもおかしくは無いわねあいつは」
綾野「他のクラスのイケメンて言うとあとはサッカー部の男子とかいるけど、ウチの学校サッカー部強くないしね」
小椋「部活の強さがそのまま人気になりがちだもんねー。バスケ部強いしそっちが人気の分、サッカー部は注目されないか」
綾野「そうそう。後はまぁどんぐりの背比べっていうか。垢抜けない芋っぽい男子しか居ないわけよ」
小椋「また辛辣な事言うわね」
綾野「ま、事実だしねー。その点三組はほんと、レベル高いと思うよ。水野君に米村君、前島君と川堀君がいるしね」
小椋「へぇー。その四人が人気なの?」
綾野「校内でかなりね。四人とも運動できるし、顔も上のほうじゃん? 前島君はカワイイ系だしね」
小椋「その中でも水野がトップって感じ?」
綾野「あと前島君だねー。可愛い顔してるし人気高いよ」
小椋「王子とかどうなの? あれもイケメンなんだと思うけど。あと望月?」
綾野「王子君は遠目で眺めてたいとか、額に入れて飾りたい感じの人気だね。実際告られた事はあんまないと思うよ」
綾野「もっちーはほら、ホの字の人があからさまだしね。生暖かく周囲が見守って癒されてる感じ?」
小椋「なんか歪んだ見方してるわね……」
綾野「そんなもんだよ。それでも確かにその二人も人気だし、てっしーも何だかんだで下級生には好かれてるしね」
小椋「あぁ勅使河原。ちゃらんぽらんにしか見えないからあたしあんま好きじゃないんだけど」
綾野「由美意外と真面目っ子だしねー。あの気さくな感じっていうか、軽いノリが楽しいって下級生の間じゃ人気あるよ」
小椋「そんなもんかしらねぇ。あたしには分からないわ」
綾野「ま、三組男子に対する女子評も、5月から一気に変わったけどね」
小椋「……やっぱ他クラスでも人気あんの? 榊原君」
綾野「下級生からもね。もーほんとゴールデンウィーク明けてから榊原君の噂で持ち切りだったもん」
綾野「都会から来た転校生で、父親が大学教授、本人も元々私立の進学校で頭も良い、おまけに超イケメン」
小椋「あの三神先生の甥っ子ってだけでも注目されるのは目に見えてたもんね。本人来て更に火が付いたか」
綾野「あっ、こういっちゃん!」クワッ
キャーキャー ミズノセンパーイ ガンバレー マエジマセンパーイ キャー
水野「ほい米村!」ダムダムダム シュッ
米村「おっしゃナイス!」パシッ
前島「抜かせねぇよ!」
米村「うわっ、てめぇ邪魔すんなこら!」ダムダムダム
前島「するわアホ! 3on3だろこれ!」
水野「米村! こっち回せ!」ダッ
川堀「やらせはせんぞ!」ダッ
榊原「米村君こっち!」
米村「ナイスサカキ!」シュッ
中尾「ちっ、榊原に回すのかよ!」
榊原「ナイスパス! 」パシッ
中尾「ガードなら任せろー!」ダッ
榊原「ここから狙い撃つ!」シュッ ガコンッ パサ…
キャーッ!! サカキセンパイカッコイー! アタシトケッコンシテー! タイサクスルゾメスブタコラー! チョ、イズミー!!
中尾「なん……だと……!」
水野「ナイススリー!」パンッ
榊原「へへ、ありがとう」
米村「ほんとナイスだわサカキ!」パンッ
榊原「米村君も、ナイスパスだったよ」
川堀「あーダメだわ。負けしかねぇわこれ」
前島「次から水野とサカキは別チームな! つかサカキ激しく動けないんだからスリー狙うの分かるだろ中尾!」
中尾「前出ると思ったんだよ! チクショー榊原!!」
水野「とりあえず昼休み終わり前にジュース奢りな」
米村「へへ、ゴチんなるぜ」
榊原「ごちそうさま、三人とも」
小椋「うわー、凄いわねあれ。水野達と張り合ってんじゃん」
綾野「今は胸の病気でそんなに運動できないけど、前はスポーツも色々やってたんだってー」
小椋「なにそれ。ぶっちゃけモテ要素しか無くない?」
綾野「だよねー。モテない理由を探すほうが難しいと思うわ」
勅使河原「だよなー。ほんと羨ましいわサカキ……」
小椋「うわっ、いきなり勅使河原沸いた」
綾野「てっしーおつ。あれに混ざればてっしーもキャーキャー言われたかもよ?」
勅使河原「いや、混ざっても水野やサカキの引き立て役になるだけだろ。さっきの中尾みたいに」
小椋「見事な引き立てっぷりだったよね中尾。大方泉水に良い所見せようとしたんでしょあれ」
綾野「スポーツぐらいしか勝てそうなのないもんねぇ。それでも負けちゃったけど」
勅使河原「ま、俺はあいつに張り合うとか無いからな。俺は俺のモテ道を探求するのみよ!」
小椋「うわぁきもい」
綾野「てっしーはその下心とバカを治せばマシになると思うよ。基本イイヤツだし」
勅使河原「お前らほんと……。いや、三組女子ほんと、俺に対して辛辣だよな……」
小椋「別に。あたしちゃらんぽらんなの嫌いなだけだし。なんで榊原君の親友ポジにちゃらんぽらんなのがいるのとか思ってないし」
綾野「基本イイヤツだけどそのバカとスケベでこういっちゃんに迷惑かけてるから女子の当たりが強いんだよ」
勅使河原「うぐっ! いや俺も悪気がある訳じゃねぇんだって! なんつーかほら、タイミングっつーかよ」
小椋「でも榊原君が毎回フォローしてんの事実じゃん。バカは死ねよ」
綾野「まぁまぁ由美。てっしーのバカは今に始まった事じゃないからしょうがないって」
勅使河原「もうほんと、俺が悪かったから勘弁して下さいほんと……」
綾野「じゃあ勘弁するから何かこういっちゃんの面白い話教えて!」
勅使河原「サカキの? まぁ言うと思ったけど。お前の言うおもしろ話ってどーせ恋愛の話だろ?」
小椋「榊原君彼女いるの?」
勅使河原「また直球だな。いねーよ。前の学校でも特に付き合ったりとかは無いって聞いてる」
小椋「へー。こっちはともかく前の学校では居てもおかしくないんじゃない?」
綾野「都会だもんねー。向こうじゃ中学生カップルなんて珍しくないっしょ」
勅使河原「まぁモテてたみたいだけどな。何度か告られたけどよく知らない人ばっかりだから断ってたって」
小椋「ふーん。真面目なんだ」
勅使河原「かなりな。あいつ何でもマジだからよ、相手の事知らないで付き合っても相手に失礼だって思ってるみたいだわ」
綾野「てっしーなら即OKして付き合いそうだよねー」
勅使河原「ほっとけ! でな、やっぱり断ると泣く子もいるらしく、あいつ良い奴だから心苦しくて超辛いらしい」
綾野「女泣かせなのね。さすがこういっちゃんだわ」
小椋「それ意味違うから。でもま、榊原君らしいっちゃらしいわよね」
勅使河原「こっちでも今まで何度か告られてるけどみんな興味本位だから断るのに気が楽とか言ってたわ。思わず殺意が沸いた」
綾野「その殺意をこういっちゃんに向けたら全身にガラスの破片突き刺すからね」
小椋「あたしなら完成形マッスル・スパークができると思う」
勅使河原「冗談だから本気にすんなよ! 特に小椋お前マジでやる気だろ!」
綾野「それにしても、噂通りこういっちゃんに告った子いるんだねー」
小椋「でもそれうちのクラスの子じゃないでしょ?」
綾野「そうだったらこういっちゃんが色々気を使いそうだから分かると思う」
勅使河原「だよな。俺が聞いたのじゃ二組の寺田と二年のサッカー部のマネージャーだって」
小椋「げ、寺田かよ。確かにあいつホイホイ告りそうだわ。イケメン好きだし」
綾野「去年水野君に告ってフラれたんだよねあの子。男の取り巻きいるのになんで他の男に告るんだろ」
小椋「勅使河原みたいにモテたいだけなんじゃないの? 色んな男侍らせたいとか悪趣味な事考えそうだもんあいつ」
綾野「由美辛辣だねー。去年同じクラスだったよね確か。喧嘩でもしたの?」
小椋「あいつが一方的に喧嘩売ってきただけよ。一発殴ったら大人しくなったけど」
勅使河原「それあれだろ、小椋が寺田の狙ってた男から告られてフったって噂の」
小椋「あんたその話次したらマジで殴るからね。マジ最悪よあいつ」
綾野「あーそれなんだ。それ由美悪くないもんねー。こういっちゃんもOKしなくて正解だわ」
勅使河原「そういや綾野も結構告られてんだろ? 今年は無いみたいだけど」
綾野「まぁ確かにねぇ。仲いい男友達だと思ってる子から告られたりとか去年まであったよ。結構キツいんだよね」
小椋「今年はねぇ。もう彩榊原君しか見てないレベルだもんね」
綾野「そ、そんな事無いよ! ていうか、そんなあからさまな事してないしっ!!」
勅使河原「いやぁ毎朝ウキウキ挨拶したり休み時間に頻繁に話し掛けたりしといてそれはないだろ」
小椋「偶に勢い余って背中から抱きついたりしてるわよね」
綾野「えっえっ? そ、そんなに分かり易いかな」アセアセ
小椋「傍から見てるとねぇ。泉水とかぐぬぬって顔で偶に見てるわよ」
勅使河原「本人気づいてないけどな。あいつ自己評価低くてなぁ」
小椋「自分に自信を持つタイプじゃ無さそうだもんね、一見ナヨっとしてるし。落ち着いてるし初見では根暗だと思ってた」
勅使河原「本当はそんな事無いもんな。気さくな奴だしそれなりに冗談も言う、垢抜けた奴だよな」
綾野「そうなんだよねー。夜見山みたいな田舎で育った芋っぽい男子とは全然違うんだよねー」
勅使河原「おい綾野、ここに夜見山で育った男子がいるんだけど平気で言うかそれ」
小椋「でもあんだけ垢抜けてればある程度の自信はあってもいいと思うんだけどな」
勅使河原「まぁ自己評価が低いのは色々理由があるみてぇだししょうがねぇみたいだ」
綾野「理由ねぇ。こういっちゃんも色々あるんだなぁやっぱり」
小椋「あたしらじゃ想像できない事かもね。都会育ちが原因なのかもしれないし」
勅使河原「ま、そんな事気にしないで綾野は今まで通りサカキを追っかけ回してればいいんじゃねぇの?」
綾野「おっ、追っかけ回してなんかないもん!」
小椋「そうかなー」ニヤニヤ
綾野「もーやめてよー! 次からどうこういっちゃんに話しかければいいかわかんなくなっちゃう」
勅使河原「でも話しかけるのを辞めようと思わない辺り重症だな……」
小椋「ま、そんぐらいじゃないと榊原君は諦めるしかないもんね。ライバルは多いし」
綾野「あー、ライバル、ねぇ……」
勅使河原「ウチのクラス女子のレベル高いからなー。その中でライバルいるのは大変そうだわ」
勅使河原「あからさまなのは綾野の他には赤沢だろ、あと見崎」
小椋「見崎か、結構榊原君と一緒に居るよね」
勅使河原「何でも4月に入院してた病院に見崎の双子の妹が入院してたらしくてな。見舞いに行く内に仲良くなったらしいぞ」
勅使河原「あとその見崎の双子の妹と、水野の姉ちゃん」
綾野「水野君の? なんで?」
勅使河原「それも病院。担当の看護婦さんだったんだってよ。ちょこちょこイノヤでお茶してるのを望月の姉ちゃんが見てる」
小椋「うわぁなにそれ。水野の姉貴ショタコン?」
勅使河原「趣味が同じらしい。サカキも話がわかる可愛い人だって言ってたわ。本の貸し借りしてるらしいぜ」
綾野「なにそれ……超強敵じゃん……」
勅使河原「それと桜木も入院してる時からノートのコピー渡したりしてたみてぇだぞ」
綾野「えぇ、なにそれずるいゆかりん……」
勅使河原「あとは学年一告られてる女子の多々良だろ、癒し系の佐藤に小動物系の有田。あと小椋」
小椋「ちょ、あたし含めんなよっ!」
勅使河原「えっ? 違うのか? お前偶に授業中サカキの席チラチラ見てんじゃん」
綾野「だよねー。絶対そうだよねー」
小椋「えっ、いや、ち、違う! 違うからっ!!///」カァァ
綾野「またまたーそんなに赤くなっちゃってー」ウリウリ
勅使河原「またまたー」ウリウリ
小椋「うっぜぇ! 勅使河原てめぇ死ねコラ! シネ!///」ゲシゲシ
勅使河原「いてっ、ちょっ、悪かった悪かった! だから脛蹴るのやめてください!!」
キーン コーン カーン コーン
綾野「あ、チャイム。五時間目なんだっけ」
小椋「確か美術かな。移動教室でしょ」
綾野「もっちーのニヤニヤタイムかー。今日はこういっちゃんと同じ班になろー」
小椋「はぁ……あんたそれがあからさまだって言われんのよ」
綾野「うっ、うるさいなー。もういいもん開き直るから」ガタッ
小椋「はいはい。どうせ本人の前じゃそんな態度になれないんでしょ」ガタッ
綾野「い、言ったなこのー。じゃーいいよ五時間目頑張るから!」スタスタ
小椋「はいはい……」スタスタ
勅使河原「……俺の扱いがひでえ」ボロッ
.
.
.
綾野「……はぁ」ショボン
小椋「はいはい、そう落ち込まないの。誰にだって得手不得手はあるんだから」ポンポン
綾野「由美ぃ。でもこういっちゃん顔引き攣ってたよ……」
小椋「あの似顔絵じゃ流石に引き攣るわ。顔が劇画チックなのに耳から腕生えてたし」
綾野「うぅ、そうだよね」
小椋「まぁ望月よりマシでしょ。三神先生半泣きだったわよ」
綾野「あぁあれはないわ。私だったら助走つけてグーで殴る」
小椋「でもあの後榊原君が慰めて三神先生復活したのよね。なんだかなぁ……」
綾野「三神先生かぁ……もしかしたら最大の敵なのかも」
小椋「え、ちょっと止めてよそれ。そんな倒錯した関係ありえないでしょ」
綾野「いやーわかんないけどさ。先生も独身だし? 一緒に住んでるし? 校内じゃ美人教師で有名だし? コウイチクン、レイコサン、なん
て事も」
小椋「キャーちょっとやめてよ! 色々想像しちゃうじゃない!」バシバシ
綾野「ちょっ、いたっ、ちょっとした冗談だって! でも実際絶対に無いとは言い切れないじゃん」
小椋「それはまぁそうかもだけど。でもそんなの」
綾野「あ、なんか想像したら落ち込んできた。いやだなぁそうだったら三神先生じゃ勝てないなぁ」
小椋「若さぐらいしか勝てないよねぇ。でも中高生の男子なんて大人の女性が好きとかよく言ってるし」
綾野「ねー。やばいやばいほんとに警戒しないと」
小椋「で、あたしらどこ向かってるの?」
綾野「ん? 屋上。泉水が今日ゆかりんのお手伝いしてるから文化祭に向けて自主練習」
小椋「あーまぁいいけどね。なんであたしも行かないといけないの」
綾野「えーだって一人じゃ寂しいじゃん。由美も一緒に練習しようよ」
小椋「わかったわよ。もう……」
ギイ バタンッ!!
綾野「わっ!!」ドンッ
小椋「ちょっ、大丈夫彩?」ガシッ
後輩「ご、ごめんなさいっ!」タッタッタッ
綾野「えっ? ってこらー! 謝るだけかー!」ムカーッ
小椋「ま、まぁまぁ。大丈夫だったんだしいいでしょ」
綾野「むー、そうだけどさー」
小椋「それになんか、あの子泣いてたみたいだし……」
綾野「えー……じゃあしょうがないのかなぁ」
小椋「うん、そうしとこう。で、どうする?」
綾野「え? 屋上でしょ? 行くよ」
小椋「えっ? 行くの?」
綾野「行くよ。練習しないとだし、それに興味あるっしょ?」
小椋「うわぁー。確かに多少興味はあるけどさ……」
綾野「でしょ。だからほらほら、行くよ」ギィ
小椋「わっ、ちょっとゆっくり、ゆっくり入ろう!」コソコソ
綾野「そうだね、様子見て入ろっか」ギィ…
榊原「………………」
綾野「(あー……こういっちゃんか……)」コソコソ
小椋「(少しは想像してたけど、実際にそうだと、なんだかな……)」コソコソ
綾野「(うー……何か胸がモニョモニョする……)」コソコソ
小椋「(ずっと空見上げて……なんか落ち込んでる?)」コソコソ
榊原「ん? あれ、綾野さんと小椋さん?」
綾野「あっ、わっ、えとえと」アセアセ
小椋「バ、バレた! わ、わ、ど、どうする彩!」アセアセ
榊原「……いや聞こえてるよ? 二人ともどうしたの」クスッ
小椋「お、屋上で部活の自主練しようと思って、その、ね」
綾野「うっうん! そ、そうなんだよこういっちゃーん奇遇だねー」
榊原「あぁ、そうなんだ。でもなんでそんなコソコソ」
綾野「いや、それは、その」
小椋「ちょ、ちょっと屋上に誰かいるかなって……」
榊原「……もしかして、ずっと見てた?」
綾野「ず、ずっとじゃない! ずっとじゃないよっ! 女子が屋上から飛び出してきたからその」
榊原「あぁ……うん、そっか……」ショボン
小椋「……なんか、ごめんね。榊原君」
榊原「いや、小椋さんが謝るような事じゃないけどさ。……その、女の子ってさ、やっぱり泣いてた?」
綾野「あぁー……まぁ、うん」
榊原「はぁ……そうだよね。なんか、ごめんね」ショボン
綾野「いや、それはこういっちゃんの謝る事じゃないけど、さ」
小椋「やっぱりさ、その。断った、の?」
榊原「……泣いてる姿見てるんじゃ、誤魔化せないよね」
綾野「まぁ、ね」
小椋「でも、その。さ、榊原君が落ち込む事ないって!」
榊原「そうかもしれないけどね。泣かれちゃうとどうしても、ね」
榊原「あの子、凄く真剣だったから、さ。でも適当な気持ちで付き合う事なんて出来ないし、どうしてもあぁなっちゃう……」
榊原「って、なんか愚痴っぽくなっちゃった。ごめんね」アハハ…
綾野「……こういっちゃんは、さ」
榊原「うん? なに、綾野さん」
綾野「こういっちゃんはさ、なんで断るの? あの子結構可愛かったし、真剣だったんでしょ?」
小椋「ちょ、彩……」
榊原「そうだね……。確かに可愛かったし、真剣に僕に対して好意を持ってくれてるんだなっていうのは分かるよ」
綾野「だったら、付き合っちゃえば良かったんじゃない、の?」プルプル
小椋「(……震えながら言うぐらいなら聞くなよ。まぁ気持ちは分かるけど、ね)」
榊原「そうかもしれないけど、さ。なんていうか、わかんないんだよね、僕」
小椋「分かんない? なにが?」
榊原「えっと、説明が難しいんだけどさ。こう、可愛いから、相手が真剣だから、で付き合うのは違う気がするし」
榊原「正直に言って、付き合うってなんだろう、って考えちゃうんだ」
綾野「付き合うってなんだろう、ね……」
榊原「うん。僕だってそりゃ男だし、可愛いなぁと思ったり好きっていう気持ちはあったりするけど」
榊原「その自分が持つ好きっていう気持ちが恋愛なのか、全然わかんないんだ」
榊原「付き合うっていうのが距離感が縮まる事なのか、行動を共にするだけなのか、別の何なのか、わかんない……」
榊原「そういう曖昧な気持ちで簡単に『はい』なんて承諾できない、かな」
小椋「……もしかして榊原君、初恋って、まだ?」
榊原「あはは、どうなんだろう。良く物語で言う胸が掻き毟られるような気持ちっていうのは、経験無いかな」
榊原「あーでもちっちゃい頃によく怜子さんと結婚するーなんて言ってたみたいだけどね」アハハ
小椋「(なんかもう色々可愛いなぁチクショウ榊原君!?)」
榊原「僕の持つ好きって気持ちが恋なんだったら、僕の中で一番は怜子さんになっちゃうけど、なんかそれも違うのかなぁって思うんだ」
綾野「(怜子さん、三神先生か。やっぱ最大の障害!?)」
榊原「そんな自分の気持ちも曖昧なのに、他人の好意を受け止めたって、お互いに良い事ないと思うんだ」
小椋「……勅使河原に聞かせてやった後で爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい話ね」
榊原「そ、それはちょっと言い過ぎじゃ。それにあいつも良い奴だし」
小椋「でもあいつちゃらんぽらん過ぎるのよ! ドスケベだしね!」
榊原「そ、それは否定できないかな。僕にも色々押し付けてくるし……」
綾野「てっしーはどうでもいいとしてさ。こういっちゃんがすっごい真面目に考えてるのは分かったなー」
小椋「あと初恋がまだかもっていう事もね」
榊原「ちょっ、か、勘弁してよ……」アセアセ
綾野「でもさ、こういっちゃんも女子の仕草とかにドキッとしたりする事ってあるでしょ?」
榊原「そりゃ、あるけどさ……。それはなんか、恋愛とは違う性欲な気がして」
小椋「せ、性欲……。ま、まぁ確かにそうかもしれないけど。でも、恋ってそういうものじゃないかな」
榊原「そ、そうなのかな……。僕にはちょっと、まだわかんない、かな」ショボン
綾野「(ショボンとしてるこういっちゃん、カワイイ///)」ドキッ
小椋「(恋に悩む榊原君、か。ヤバッ、顔どんどん熱くなってきてる)」ドキドキ
小椋「(あーごめん彩。あたし駄目だ……色々抑え効かないよ///)」バクバク
小椋「あ、あんまり難しく考える事でも、ないんじゃない、かな」ドキドキ
榊原「そう、なのかなぁ」
小椋「そうそう。例えば、さ」スタスタ
綾野「え、由美?」
榊原「ど、どうしたの? 小椋さん」ビクッ
小椋「スーハー……。っ、えいっ!」ギュッ!
榊原「えっ、ちょっ! な、なんで抱きついて……」ドキッ!
綾野「あーっ! なにしてんの由美ーっ!」ダッ
小椋「ど、どう? ドキドキする?」ドキドキドキ ギュゥゥゥ
榊原「そ、そりゃ、する、するけど!」ドキドキ
綾野「こらー! は、離れなさい由美!」グイッ
小椋「あたしも、ドキドキする。これってさ、性欲だけじゃないんだよ、きっと」ドキドキドキ ギュウウウウウ
綾野「こ、この! い、いいもん分かった! 由美がそのつもりなら私だって!」
榊原「性欲だけじゃない、のかな。って、綾野さん何するつも」
綾野「こういっちゃんの背中は私が貰ったーっ!」ギュウウウウウ
榊原「うわぁっ! ちょ、綾野さんもはな、離して!?」ドキィ!
小椋「あたしは、この気持は欲だけじゃないって、嘘じゃないって、信じてるから。だから」
綾野「こういっちゃん、ドキドキしてる。あったかーい安心するー」
榊原「わかった、よく分かんないけどわかった、わかったから! いい加減、離して!?」ドキドキドキドキ
小椋「榊原君、あたし、あたし……」ドキドキ ギュウウウ
綾野「こういっちゃーん……」ドキドキ ギュウウウ
榊原「ちょ、ちょっと、誰か来たらどうすんの二人と」
ギィ
小椋「榊原、恒一、恒一、君……」ギュウウウ
綾野「えへへ、こういっちゃーん」ギュウウウ
見崎「………………」
榊原「」
見崎「…………だっこちゃん人形」
榊原「違うよっ! ていうか何言ってるの見崎!」
見崎「見たまま。お邪魔するのも悪いから明日にするわ」スタスタ
榊原「えっ、ちょっと、怒ってない? ていうか怒ってる、怒ってるよね? 見崎!」
見崎「さようなら、サ・カ・キ・バ・ラ・君!」バタンッ!
小椋「恒一君、恒一君……」ギュウウウ
綾野「こういっちゃーん、安らぐー」ギュウウウ
榊原「終わった……何かが色々と、終わった……」ガックリ
この日の出来事を三組女子全体へ伝えた見崎鳴により、三組女子による恒一を巡る熾烈な争いの火蓋が落とされる。
時は戦国、群雄割拠の時代の幕開けである。
END
綾野「こういっちゃんが攻め落とせない」小椋「攻め落とすっておい」
綾野「なんかさーこうさーふとした出来事から恋心に自覚するとか、そういうのあると思うんだよね」
小椋「物語だけじゃなくよくある話ではあるよね。何か手伝ってもらった、助けてもらったみたいな」
綾野「こないだのはさー、結構衝撃的な出来事なんじゃないかと思うんだよね」
小椋「まぁ……お互いに衝撃的ではあった、よね」ポッ
綾野「なのにさー。なんか凄く上手い具合に消化された気がするんだよね」ハァ
小椋「確かにね。なんか、もっと中学生男子だったらガーって来てもおかしくはないよね」ハァ
綾野「こういっちゃん、枯れてるのかなぁ」
小椋「まだ芽が出てない可能性もあるよね」
綾野「根腐れ?」
小椋「そういう言い方やめい」ポコッ
綾野「見崎ちゃんのアレから周囲は結構色めき立ってるし」
小椋「泉美なんか特にヤバいわね。偶に敵愾心剥き出してる事あるもん、見崎に」
綾野「泉美見崎ちゃんの事嫌いっていうか、ライバル意識強いんだよね」
小椋「お互い様みたいだけどね。あいつにだけは負けたくないみたいな意識ビリビリするよ」
綾野「おぉこわいこわい」
小椋「いやだわぁ」
渡辺「あんたらが発端でしょうが」
綾野「あら珊さんごきげんよう」
小椋「うわぁひどい」
渡辺「なに喧嘩売ってんのあやのあや」
綾野「そんな事ないよー珊はお姉さんキャラだから何となく」
渡辺「やめてよね、よく言われるから」
小椋「誰に?」
渡辺「バンドのファンとか。お前等あたしより年上だろって」
綾野「あーありそ。というか違和感無いでしょそれ」
渡辺「確かにね。大概がニワカでボーカルとかギターの野郎狙いの空っぽ頭だし」
小椋「こわ……怖いわ渡辺さん」
渡辺「まぁそれは置いておいて。あんたらほんと榊原しか見てないのね」
綾野「そうかな、そうかも。ていうか他に誰がいるの?」
小椋「他にって考えると、あたしも想像つかないかな、正直」
渡辺「色々いるじゃん他のクラスの男子とか、他校の生徒とか」
綾野「興味ないなー。ていうか他のクラスの男子も他校の生徒も知り合いいるけど、こういっちゃんには敵わないな」
小椋「あたしは男友達少ないし。それに他の男に関しては彩と同じ意見かな」
渡辺「えー。じゃあ高校生とか、大学生見てみるとか」
綾野「大学生はパスかな、別に年上に憧れとかないしそういう関係になったら逆に怖いし」
小椋「あたしも大学生は。てかそれはキモい」
綾野「でも高校生でもなー。あたしの知ってる年上なんてロクなのいないわ」
小椋「あたしも。アレより恒一君のほうが万倍いいし」
渡辺「じゃああんたらの知らない高校生紹介したげよっか? バンドの面子とかその友達とか」
綾野「別にいいけど。条件はあるよ」
渡辺「どんなのよ」
綾野「こういっちゃんより頭良くて、落ち着いてて、思慮深くて、優しくて」
小椋「恒一君よりイケメンで、垢抜けてて、将来性あって、ご家庭がしっかりした人」
渡辺「わかった。お前等には絶対男紹介しない」
小椋「いや、そもそも紹介してくれって言ってないけど」
綾野「ていうか珊だって別に彼氏いるとかじゃないでしょ?」
渡辺「そりゃ居ないけどさ。榊原ばっか見てるからもっと他の男に目を向けてもいいんじゃないかなぁって」
綾野「他に向ける価値ある人が居たら勝手にそうすると思うよそりゃ」
小椋「高校入ったら恒一君より素敵な人居るかもしれないけどね」
綾野「別に私はこういっちゃんのスペックだけ見てる訳じゃないけどね。こう、惹かれるんだよね」
小椋「そんな感じかな確かに。何か惹かれるものがあるんだよ」
渡辺「そんなもんか……。それにしてもクラス内に多くないかそういう奴」
綾野「人柄なんだよそういう。女性を惹きつけてしまうものを持つ魔性の男!」
小椋「優しいんだよね。ちょっとお茶目でそこが可愛いし、それなのに包容力がある」
綾野「思わず頼りたくなるっていうかー甘えたくなるっていうか」
小椋「あったかかったなぁ……」ホワワン
綾野「安らぐんだよねぇ……」ホワワン
渡辺「妄想の世界に飛んで行っちゃったよこいつら……」ハァ
綾野「で、相変わらず攻め落とせないんですけど」
小椋「彩、最近慣れられてるよ背中から抱きつくの」
綾野「マジですか……興奮しないですか私には……」
小椋「いやそういう話じゃなく。なんていうか、もうしょうがないなぁって感じ?」
小椋「甘えたがりの妹をあやすお兄ちゃんみたいな顔してる」
綾野「あー、うーん。嬉しいけど駄目だよねそれ」
小椋「多分駄目だと思うわ。それは恋愛には発展しない」
綾野「うーん。じゃあ意識させるには次はどうすればいいかなぁ」
小椋「自分で考えなさい。あたしは意識されてる自覚あるし」
綾野「はっ? なんで? なんで由美が意識されて私駄目なの?」
小椋「なにそれ下に見てるのあたしの事」ピキピキ
綾野「そうじゃなくて。抱きついたりしてないでしょ由美。なんで意識されてんの」
小椋「抱きついてないからじゃない?」フフン
綾野「ガーン! マジで!? そんな落とし穴があったの!!」ガーン
小椋「いや墓穴でしょそれ」
綾野「そうか……。じゃあちょっと控えめに行動するしか」ハァ
小椋「そうしときなさい。流石に眼中にないって訳じゃないでしょうけど今の彩は間違いなく妹だわ」
綾野「うぅ……寂しくなるなぁ」
渡辺「また榊原の話してんのあんたら……」ハァ
小椋「珊どうしたの。いきなりため息ついて」
渡辺「いや、なんていうかさー。こないだの榊原の話でファンの高校生の奴らに聞いてみたんだよね」
綾野「聞くって何を?」
渡辺「榊原の将来性? あいつの通ってた中学校がどんなもんなのよって思ってさ」
小椋「へぇー。どうだったの?」
渡辺「あー、なんか、捕まえておけば将来安泰とか言われたわ。てか自分が捕まえるから紹介しろって」
小椋「スペックだけ聞いたらそうなるのも納得かなぁ」
渡辺「いやこないだの遠足で撮った写真見せたんだけどさ。もうお姉様方に大好評なんだよね」
渡辺「そこから根掘り葉掘り聞かれてもうキャーキャーうるさいの。食いつきハンパなかった」
綾野「紹介とかしたら許さないから」ドヨッ
渡辺「しねぇよ! 判ってるから瞳孔開くな!!」
綾野「ならいいけどね。んで、それが原因でため息?」
渡辺「いやーなんつーか。私がズレてんのかなぁって。全然そういう風に榊原の事見てないからさ」
小椋「あぁーなるほど。周りのテンションについて行けなくて自分が異端なんじゃないか、と」
渡辺「端的に言うとね。自分でもメタルヘッズな女は珍しいと思ってるけどさ、そういう感覚もズレてんのかなぁと不安になった」
綾野「好きな男の子とか居ないの珊は」
渡辺「居ないなぁ」
小椋「じゃあ好みのタレントとか歌手は?」
渡辺「マイク・ヒッキー」
綾野「えっと……だれ?」
渡辺「顔は白人のおじさん程度に思っておけばいいよ……」
小椋「それはズレてるわよね、果てしなく」
渡辺「うわぁあだよねぇぇ」バタッ
綾野「まぁまぁ、好みなんて千差万別だよ。しょうがない」ポンポン
渡辺「うぅ、なんか自分の将来が不安になってくるわ。大丈夫なのかなぁ私、結婚とかできんのかなぁ」
小椋「うーん、その好みだと社会に出て壮年の白人男性と出会う機会を作らないと難しそう……」
綾野「あ、ほらっ。神奈川の横須賀には米軍基地あるからそっちで働けば何とか!」
渡辺「白人なら何でもいい訳じゃないんだよおい」
小椋「もー。我侭だなぁ」
渡辺「え、我侭なのこれ? おかしい? 言ってることおかしい?」
綾野「おかしいよ。白人のおじさんが好みなんでしょ? それはおかしい」
渡辺「おい綾野表出ろ今すぐ私のベースでぶん殴ってやる」ガタッ
綾野「いやーんこわーい珊さんさん」クネクネ
小椋「こらこらこら! 二人ともストップストップ! って、あれなに?」
キャー シャシンヨリカワイイー エッ チョ ナンデスカ オネーサントアソボーヨ! イイコトシマショウウフフフ ウウワアアアア!!
渡辺「は? あれウチのファンじゃん。なんで校門いんの」
綾野「オオワアアア!! こういっちゃんが拘束されてる! なんなのあの女ども!」
小椋「よし殺そう」ダダッ!!
綾野「殲滅だ! 滅殺だ!」ダダッ!
渡辺「ちょ、ま、待て! 私も行くから! 暴力だけは止めてあげてーっ!!」ダッ!
渡辺「あ、あの、さ……榊原、君」
榊原「あぁ、渡辺さん。どうしたの?」
渡辺「あの、こないだの、校門でのお詫びと、さ。しょ、商店街での事」
榊原「え? ……あ、あぁ。大丈夫、気にしないでよ。別に渡辺さんが悪い訳じゃないから」ニコッ
渡辺「いやいや! そ、そういう訳にも行かないから、さ。お、お礼で、その、これっ!」サッ
榊原「えっと……うん、わかった。有難く貰っておくね。中身はお菓子? 開けてみていい?」
渡辺「う、うん。その、私初めて作ったから、あまり美味しくないかもしれないけど」
榊原「クッキーだね。うん、ちゃんと綺麗に焼けてるじゃないか」パクッ
渡辺「あっ!?」ドキッ
榊原「……うん、ちょっと粉の分量が多い、かな」モグモグ
渡辺「そ、そうだよね……。ごめんね、お礼で作ったのに……」ショボン
榊原「でも味付けとかちゃんとしてるし、凄くおいしいよ。ありがとう」ニコニコ
渡辺「あっ……! う、うんっ! 次はもっと美味しく作るから!!」パアァァ
榊原「次って、僕はそんな、何か貰うためにした訳じゃないから」
渡辺「わ、私がしたいのっ! その、練習してクッキー作るから、食べて貰えない、かな?」ウワメヅカイ
榊原「う、うん、わかった。じゃあ、期待して待ってるね」ニコッ
渡辺「/// ……う、うん! 期待しててね!」パアァァ
綾野「……どういう事でござんしょ」ジトッ
小椋「可及的速やかに状況の詳細な説明を求めるわ」ジロッ
渡辺「なんていうかさー。私、見てなかったんだなぁって///」
綾野「は? なにが?」
渡辺「榊原君の事、見えてなかったんだなぁって。なんで見てなかったんだろ」
小椋「何か切欠でもあったの?」
渡辺「まぁ、ね。……こないだ商店街のライブハウスでライブ終わった後、バンドのドラムに告られたんだよね」
綾野「おーおめでとうカップル成立よかったねー!」
小椋「おめでとう! 念願の年上ゲットじゃんやったね!」
渡辺「まぁ断ったんだよ。相手高校生だけどガキくせぇし頭悪いしね。そこそこイケメンだったけど」
小椋「チッ」
渡辺「でもさ、そいつしつこくって。ライブハウス出た所で強引にその、さ」
綾野「えっ、マジで……?」
小椋「は、マジそれ最低じゃん。え、ていうか、大丈夫なのアンタ!?」
渡辺「だ、大丈夫大丈夫! その、た、助けて貰ったんだよ」
綾野「……あー。そういう話」
小椋「先が見えたわ……」
渡辺「近くの酒屋から榊原が出てきてさ。私とソイツの揉み合い見つけたらしく、声かけてくれて」
渡辺「ドラムの奴榊原よりでかいのにさ、勇気あるよな」
綾野「はいはいそれでそれで」
小椋「早く先を話しなさいよ」
渡辺「なんだよ、もう。それでもあいつは引かなくて、私怖くて声出ないけど怯えてる事は察してくれてさ、『手を離せよ』って」
綾野「なんでちょっとモノマネすんのよ」
渡辺「んでソイツ、私がファンに見せた写真の事とか覚えてて、私の彼氏と勘違いして榊原君に掴みかかってさ」
小椋「そいつの名前と住所教えて殺ってくるから」
渡辺「でも榊原君は慌てずに説得っつーか説教してさ。それでもソイツ止まらないで榊原君の腹殴って」
綾野「よし滅殺だ」
渡辺「でも榊原君は説教を辞めようとしないで、ソイツが今度は私に掴みかかろうとしたら、榊原君も怒って右ストレート」
渡辺「『戦ってやるよ。年上だろうがドラムだろうが知った事か。テメェがまた渡辺さんを狙うってんなら、僕は何度でも歯向かってやる』って」
綾野「……なんかイメージ違くない?」
小椋「脳内イメージ補完?」
渡辺「なんつーか、カッコ良かったなぁ。んでソイツも逃げてさ、その後優しく『大丈夫?』って」
渡辺「なんか胸がキュンキュンいっちゃって、あぁこれはもう駄目だなぁって切なくなって抱きついちゃった」
綾野「殲滅する目標が変更されそうですね」
小椋「勢い余ってそうなる気持ちは分かるわぁ」
渡辺「で、さっきその御礼に焼いたクッキー渡したワケ」
綾野「で? 結局どうなの?」
渡辺「私も頑張るって事。あんたらにも誰にも負けないから」
小椋「そっか……。まぁ、頑張ろう、うん」
綾野「そうだね、うん。頑張ろう」
渡辺「なにそれ。もっとこう、何かないの? 横から出てきてーとか」
小椋「だって……ねぇ」
綾野「こういっちゃん、攻め落とせないし」
渡辺の参入により、三組女子に巻き起こる戦乱の息吹は暴風へと変わろうとしていた。
時は戦国、群雄割拠の時代に、また一つ春が芽生えたのである。
END
小椋「宿題終わらせるわよ」綾野「まだ夏休み三日目だよぅ」
小椋「去年そう言って最終日までズルズル引き摺って人に手伝わせたのは誰ですか」ピキピキ
綾野「あ、あはは。そ、そういう事も確かにあったり無かったり……」アセアセ
小椋「大丈夫、宿題終われば後は目一杯遊べるんだから」
綾野「でも初日から今日までずっと宿題しかやってないじゃん! もういやだよぅ!!」プンプン
小椋「大丈夫、今日は彩の為に色々用意してあるから」
綾野「へ? 色々ってなに?」
小椋「今日の勉強場所はイノヤ。冷たいジュースとおいしいケーキがあなたを待ってます(自腹)!」
綾野「イノヤかー。確かに部屋でやるよりはいいかもね」
小椋「続きまして、今日は助っ人先生もお招きしております! どうぞ!」
多々良「助っ人先生って……」
佐藤「綾野さん、こんにちは」
綾野「おぉー! 多々良ッティと和枝! 確かに由美より協力な助っ人だ!」
小椋「余計な事言うな! とにかくクラス内で成績が半分より上行ってる二人が付けば大丈夫!」
多々良「ちなみにTOPは榊原君。その下にゆかり、多佳子って感じだったかな」
佐藤「そういえばウチのクラス男子の成績優秀者ってそんなに居ないよね。榊原君以外には王子君とか望月君くらいかな」
小椋「風見は最近伸ばしてるみたいだけどねぇ。ちなみにあたしも半分より上!」
綾野「半分より下はほとんど男子じゃん……。とにかく二人ともよろしーく!」
小椋「最後に、これは情報なんだけど……。榊原君が初日からイノヤで望月と勉強してるらしい」
綾野「よし行こう、すぐ行こう」
多々良「切り替えはやっ」
佐藤「私達も似たようなものだけどね……」
小椋「はいはい彩がヤル気を出してくれた所で、行きますか」
知香「いらっしゃいませ。あら、由美ちゃん達」
小椋「こんにちは。席空いてますか?」
知香「えぇ。四人席なら壁側が空いてるわよ。お客さんも少ないし、好きな所にどうぞ」
多々良「えっと、えっと」キョロキョロ
佐藤「どこ、かな……」ソワソワ
綾野「こういっちゃん、こういっちゃん」ギョロギョロ
知香「……優矢くん達なら、あっち」クスッ
望月「カリカリカリカリカリカリ」
榊原「……そこ計算間違ってる。先に左の括弧の中から計算しないと」
望月「あ、ほんとだ。ありがとう」ケシケシ
榊原「苦手意識があるのは分かるけど、もうちょっと慎重に解かないと試験でミス連発する事になるよ」
望月「分かってはいるんだけどね。嫌な事は早く終わらせたくって」テヘヘ
榊原「気持ちは分かるよ。でも慎重にね」
小椋「へー。マンツーマンで恒一君と宿題か……」
多々良「な、なんて羨ましい」
佐藤「私も教えて欲しいなぁ」
綾野「ぐぬぬ。モッチーめ……」
知香「今年は榊原君のお陰で優矢君の宿題の進みも早くて助かっちゃった。前の席でいいかしら?」
多々良「はい、そこでお願いします」
綾野「よっしゃー! こういっちゃんの前の席ゲットー!」ダダッ
小椋「あ、こら! 店の中走るな!」
綾野「こういっちゃん、こんにちは!」
榊原「あ、綾野さん。小椋さんと多々良さん、佐藤さんも一緒なんだ」
多々良「こ、こんにちは! 榊原君」ドキドキ
佐藤「こ、こんにちは……」ドキドキ
小椋「こんにちは。恒一君は望月と宿題?」
榊原「僕はもう終わってるんだけどね。望月が今日で終わらせようって一緒に勉強」
望月「カリカリカリカリカリカリ」
綾野「お、終わってるんだ、もう……」
榊原「うん。三年だからそんなに量も無かったしね」
多々良「け、結構あるんじゃないか、なぁ」
榊原「うーん、僕の前居た学校だと夏休みの宿題は13科目あったから、5教科しかないこっちは少ないほうだよ」
佐藤「じゅ、13科目、ですか……。凄い量、ですね」
榊原「まぁ、ね。やるとなるとペースによるけど一ヶ月はかかるかな。1科目ごとの量も多かったし」
榊原「数学ABが特に面倒だったなぁ。問題も多かったけど解法まで書かないと駄目だったし」
綾野「そ、そうなんだ。ふ、ふーん(お、恐ろしい事をサラッと言ってくれる)」ガタガタ
多々良「宿題終わったんなら、今は何をやってるんですか?」
榊原「これは受験対策。東京のK高受験対策用の問題集だよ」
小椋「え、専用の問題集なんてあるの?」
榊原「一応ね。K高は偏差値高い私立で独自の試験問題出すし、結構大変なんだ」
佐藤「ちょ、ちょっと見せて貰ってもいい、ですか?」
榊原「うん、いいよ。はい」サッ
綾野「(……えっ、なにこれ。授業範囲と全然違う)」ヒソヒソ
小椋「(いや、これ高校の範囲だよ。ウチの兄貴が昔やってたの覚えてる)」ヒソヒソ
多々良「(三科目だけみたいだけど、凄く難しい)」ヒソヒソ
佐藤「(め、面接対策まである。なにこれ、高校入るまでにこんなに勉強するの?)」ヒソヒソ
小椋「(いや、多分K高だけでしょ。全部こうだったらあたしら絶対合格できないじゃん)」ヒソヒソ
綾野「(なんか、住む世界の壁を感じるよ……)」ヒソヒソ
榊原「基本はこっちの授業でもやった範囲だし、その応用がほとんどだよ」
多々良「う、うん。そっか。ありがとう、榊原君」
榊原「どういたしまして。四人とも、宿題頑張ってね」
綾野「カリカリカリカリカリカリカリカリ」
小椋「カリカリカリカリカリカリカリカリ」
多々良「カリカリカリカリカリカリカリカリ」
佐藤「……なんだか、凄い気迫を感じるよ」
綾野「カリカリカリ……こんぐらいしないと、こういっちゃんに馬鹿だと思われそうだし」
小椋「そうよ。せめて背中が見えるぐらいまでに追いつかないと」
多々良「宿題なんかで躓いていられないのよ」
佐藤「た、確かにそうだね。うん、私も頑張ろう……カリカリカリカリ」
綾野「カリカリカリカリカリカリカリカリ」
小椋「カリカリカリカリカリカリカリカリ」
多々良「カリカリカリカリカリカリカリカリ」
カランカラーン イラッシャイ ヤアヤアトモカチャン アラコンニチハ レイコサン
綾野「ん? あれ、三神先生?」
多々良「え? あれ三神先生?」
小椋「ビニール袋一杯下げてる」
佐藤「……三神先生、なのかな?」
怜子「恒一くん、やっほー」
榊原「あぁ怜子さん。買い出しですか?」
望月「み、三神先生! こ、こんにちは」
怜子「望月君。今日は学校休みなんだから先生はやめて!」
望月「は、はい! 三神先生!」
怜子「んもう、まぁいいわ。恒一君、隣いい?」
榊原「はいはい。どうぞ、三神先生」
怜子「もー恒一君まで! やめてよねー!」
キャッキャッ ウフフ
綾野「……なにあれ、あれ三神先生?」
小椋「学校とだいぶイメージ違うわね」
多々良「榊原君、楽しそうだなぁ」
佐藤「眼鏡と髪の毛でかなり印象変わるんだね、三神先生」
綾野「いやこういっちゃんへの接し方とか大分違うでしょあれ」
小椋「キャラ変わった勢いの変貌ぶりよ」
多々良「自宅だとあぁなのかなぁ。いいなぁ三神先生、榊原君と一緒に住んでるんだもんね」
佐藤「うん、羨ましい……。いいなぁ三神先生」
榊原「それで、買い出し帰りに寄っただけですか?」
怜子「それも一つだけどね。あ、知香ちゃん私グラスビールね!」
知香「偶にはコーヒー飲んで下さいよ。恒一君もオススメのハワイコナとか」
怜子「今日はビールなの! もー外暑くて飲まないとやってらんないわよ」
榊原「家にずっといる時だって飲んでるじゃないですか怜子さんは」
怜子「そーゆー時は仕事のリフレッシュ! 恒一君にだって偶に飲ませてあげてるでしょ?」
榊原「無理やりでしょそれ。おばあちゃんに怒られるの僕なんだから勘弁して下さいよ」
怜子「とにかく、今日はビール! よろしくね!」
知香「はいはい、分かりました。恒一君に飲ませちゃダメですよ」
怜子「分かってるわよー。それで恒一君、キミ、携帯の電源切ってるでしょ」
榊原「あ……。そういえば今朝から切ってました」
怜子「んもー。お義兄さんからウチに電話があったわよ。『恒一の携帯が通じないー!』って」
榊原「あの親父……。すいません、夏休み入ってから毎朝親父の長電話だったもので」
怜子「あー……。まぁ私からも言っておくから、携帯の電源は入れておいてあげてちょうだい」
榊原「分かりました。本当ウチの親父が迷惑かけてすいません」ハァ
怜子「迷惑なんて思ってないけどね。お義兄さん恒一君溺愛だもん、恒一君が大変そうだなー」
榊原「離れるとすぐこうなんですよね……。電話で他に何か言ってました?」
怜子「来週に一時帰国するって。その時夜見山に来るから今後の相談したいとか言ってたわ」
榊原「今後のですか。分かりました、ありがとうございます」
怜子「いえいえー」
綾野「……聞いた?」
小椋「聞いたわ」
多々良「榊原君のお父さん、夜見山に来るのね」
佐藤「大学教授なんでしょ。凄いよねー」
綾野「重要なのはそこじゃない! 今後の相談よ!」
小椋「そうね。今後の相談、進路の事なのか何なのか……」
多々良「き、気になるね」
佐藤「でも、勝手にご家庭の事情を聞くのも」
綾野「よし、混ざってくる」
多々良「えぇっ!」
小椋「変な所でアグレッシブね……」
綾野「だって気になって眠れなくなりそうだもん! いってくる!」
佐藤「ちょ、ちょっと綾野さん」
綾野「三神先生、こんにちは!」
怜子「うげっ。 あ、あら綾野さん、こんにちは」
榊原「今うげって言いませんでした?」
怜子「何言ってるの、榊原君。そんな事言うわけないでしょ。って、小椋さん達も一緒?」
小椋「こんにちは、三神先生」
多々良「こ、こんにちは」
佐藤「す、すいませんお話中」
怜子「別に構わないわよ。というか、今の話聞いてた?」
多々良「す、すいません! 盗み聞きするつもりは無かったんですが」
怜子「あぁいいのよ。怒ったりしてないから。それで、恒一君のお父さんの話?」
佐藤「いえ、その、気になって、というか」
怜子「そうね……。良かったら、恒一君のお父さんが夜見山に居る間、夜見山を一緒に案内する?」
綾野「いいんですかっ!?」
榊原「ちょっと怜子さん!」
怜子「べっつにいいじゃない。一週間ぐらいしか居ないけど、お義兄さんそんなに夜見山回った事無いしね」
怜子「恒一君もまだそんなに夜見山の事知らないでしょ? いい機会だし一緒に回ればいいじゃない」
榊原「た、確かに僕もそんなに詳しくは……。じゃあ、お願いしてもいいかな?」
小椋「ま、まっかせて!」
多々良「さ、榊原君が夜見山を好きになるように案内するね!?」
佐藤「が、頑張ります!」
榊原「そ、そこまで頑張らなくてもいいよ、うん……」
綾野「やー、こういっちゃんのお父さん、面白い人だったね!」
小椋「大学教授って聞いてたからお硬い人かと思ったけど、凄い気さくな人だったよね」
多々良「榊原君を溺愛っていうのは分かりましたね」
佐藤「案内中ずっと榊原君にくっついてたもんねー」
綾野「しっかし、どこから聞きつけたんだろうね泉美は。いつの間にか混ざってたし」
小椋「ほんと。しかも自宅に招いてパーティなんて」
多々良「恒一君のご好意で私達も混ざりましたけどね」
佐藤「見崎さんもいつの間にか居たし」
綾野「見崎ちゃんのお父さん実業家なんだって。全く知らなかったよ」
小椋「でも恒一君も、お父さんも場慣れしてる感じだったね。流石というか何というか」
多々良「いつくか本も出してるらしくて、赤沢さんのお父さんとか著書を持ってたんだって」
綾野「うへー、そうなんだ。本出してるとか凄いねぇこういっちゃんパパ」
佐藤「完成パーティとか色んなパーティ呼ばれたりとか、昔からしてたって榊原君が言ってたよ」
小椋「なんか、住む世界が違うわぁ……」
多々良「ほんと、別世界って感じで、ちょっと気後れしちゃうかも」
佐藤「自信無くすなぁ。ほんとに住む世界違うもんねぇ」
綾野「こらこらこら! そんな風に諦めてどうすんの!」
小椋「だって、ねぇ」
多々良「私達なんて、田舎に住む小娘だし……」
佐藤「都会育ちでそういう世界に住んでた榊原君となんて、無理なのかなぁって」
綾野「うぐっ。そ、それはそうかもだけど……。でもでも、こんな可愛らしい子達は都会に居ないって!」
小椋「確かに言ってたけどさぁ」
多々良「社交辞令って奴じゃないかなぁ」
佐藤「都会にはもっと可愛い子一杯いるだろうし」
綾野「うがー! じゃあいいよ、あんたらはそうやって諦めれば! 私はこういっちゃんとイチャイチャしてやるから!」
小椋「そ、それとこれとは話が別よ!」
佐藤「そ、そうだよ! 私だって頑張るから!」
多々良「よ、よし、今日からまた頑張ろう!」
カランカラーン イラッシャイ コンニチハトモカサン アラコウイチクン
榊原「こんにちは、みんな」
綾野「あっ、こういっちゃん!」ダキッ
榊原「うわっ! ちょっと、いきなりどうしたの綾野さん」
小椋「彩。ハウス!」
綾野「いやだよーん。えへへへ」ギュウウウ
多々良「こ、こら綾野さん! 榊原君が困ってるでしょ!」グイッ
佐藤「そ、そうだよ! 早く離れなさい!」グイッ
綾野「あーん! こういっちゃーん!」シクシク
榊原「あ、あはは。それにしても、みんなイノヤに居て良かったよ。この間のお礼をしたくてね」
小椋「この間って、夜見山案内した事?」
榊原「うん、そう。僕も知らない場所ばっかりだったけど、親父も楽しんでくれたから」
多々良「そ、そんな。私達が無理やりしたみたいな事ですし」
榊原「それでも、僕も助かったからさ。ありがとう」ペコッ
佐藤「い、いえいえ。こちらこそすいません」ペコッ
綾野「それでこういっちゃん。お父さんの話ってなんだったの?」
榊原「あぁ、それに関しても一つみんなに相談しようかと思ってさ」
多々良「私達に、相談、ですか?」
榊原「うん。実は親父のインド在住が長引きそうでさ。帰ってこれても一年間東京に居続けとかは出来なさそうなんだ」
小椋「えっ。それじゃあ榊原君どうするの?」
榊原「うん、それでインドに一緒に行くか東京で一人か、夜見山に残るか考えたんだけど、夜見山に残ろうかと思って」
佐藤「ほっ、ホントですかっ!?」ガタッ
榊原「う、うん。それで今まで進路はK高にしてたんだけど、ここからじゃ通えないから、こっちの高校探してて」
榊原「良かったら、夜見山の学区内にある高校の話とか聞かせてくれないかな?」ニコッ
小椋「わ、分かった! 色々教える!」
多々良「行くなら西高がいいですよ! 私もそこ希望なんですけど!」
佐藤「わ、私も西高希望で! 学区内では一番進学校っていうか、大学合格率が高くて」
綾野「ちょっ、ま、マジで! じゃあ私も西高! 西高行く!」
榊原「ちょ、ちょっと落ち着いて! ゆっくり話を聞かせてよ!」
綾野「(こういっちゃんが夜見山に居続けるという事は!)」
小椋「(まだこの先いくらでもチャンスがあるという事!)」
多々良「(卒業が別れじゃなく、第二ラウンド開始のゴング!)」
佐藤「(高校生にもなればあんな事とか色々と待ち構えているはず!)」
綾野小椋多々良佐藤「(まずは、一緒の高校に入る事から勝負は始まる!!)」
恒一の夜見山残留が確定した事で、戦火は激化の一途を辿る事となる。
時は戦国、群雄割拠の時代にまた一つ、火種が舞い落ちたのである。
END
小椋「え、和久井と付き合ってる?」綾野「マジで?」
藤巻「だからそうだって言ってるだろ……。何回言わせれば気が済むんだよ」
小椋「いや、新学期早々衝撃的な告白なもので」
綾野「ちょっと気持ちの整理がつかないってゆーかなんというか」
江藤「でも正直そこまで予想外じゃないでしょ? 二人が仲いいのは判ってたし」
小椋「あぁ、確かに」
綾野「言われてみるとねー。教室で和久井が咳してると心配して声かけたりしてたもんね」
藤巻「いや、あのさ、そういう事言うのやめようよ。ハズいから」
綾野「んで、一体どういう経緯があったワケ? 夏休み中に」
小椋「そうそう。とりあえずそこ詳しく」
江藤「県大会の最終日だったよねー。奈緒美がテニス部の大会出てさー」
藤巻「ちょ、待って悠! 落ち着く時間頂戴よ!」
江藤「って言われてもねー。ベスト4で泣いてた奈緒美を和久井が慰めてたら『うおー! 好きだー!』っていきなり抱きついた
んじゃん」
藤巻「ぎゃあああ! やめろおおお!!」ブンブン
小椋「……何というか」
綾野「凄い男らしい告白だね。普通逆な気がするけど」
藤巻「うるせーよ! 悪かったな男らしくて!」
綾野「いやなんか奈緒美らしいっちゃらしいよ、うん」
小椋「もうちょっと女らしい告白したかった、みたいな?」
藤巻「そりゃそうだよ……。なんだよ好きだって言いながら泣いて抱きつくって」
江藤「まぁまぁ終わった事はしょうがないよ」ポンポン
藤巻「うるせーよ!」パシッ
小椋「慰められて色々ぶち撒けちゃった訳ね。青春だねぇ」
藤巻「もういいよ、その話は……。でさ、相談の事なんだけど」
綾野「何となく想像つくけどさ、あれかな、カップルって何だろう的な? どう付き合えばいいかわかんない的な?」
藤巻「……まぁ、そういう事で」
綾野「彼氏が居ない私らに聞くとかどういう事?」
小椋「あれかな? 喧嘩売られてるのかな? 買うよ?」
藤巻「いやいやいや! そういう意図は無いから! あんたら雑誌とか読んでそういうの知ってるかなって!」
綾野「妄想だけの女って言いたいのかな? 喧嘩かな?」
江藤「まぁまぁ、あたしもこういうの分かんないからさ。ちょっと相談乗ってあげてよ」
小椋「って言われてもなー。あたしもそういうの分かんないし」
藤巻「ていうかさ。私由美は榊原と付き合ってるのかと思ってたわ」
小椋「え! い、いや、付き合ったりとか、そういうんじゃない、けど///」ゴニョゴニョ
綾野「は? なんで由美なの? 私じゃないの?」
藤巻「いや彩は妹みたいな感じじゃん、榊原のあしらい方が。由美は榊原も意識してるみたいだし」
綾野「……ごめん帰っていいかな」ドヨォン
江藤「わー待って待って! 謝るから! 奈緒美が謝るから!」ワタワタ
藤巻「わ、悪かった悪かった! 謝るからとりあえず相談に乗ってよ!」バタバタ
綾野「……次から発言に気をつけるように。っていうか由美おい」ジロ
小椋「……でもそんな、彩に悪いし、本当はどうでもいいけど。だからその、そんな関係じゃなく///」ゴニョゴニョ
綾野「こらー! 何ゴニョゴニョ言ってんだ!」バシッ
小椋「った! ちょっと何すんのよ!」
綾野「あんたがゴニョゴニョと現実見ないで言ってるからでしょ!」
小椋「現実見てないのはどっちよ! あんたが恒一君に意識されてないのが現実でしょ!」
綾野「言ったなこのアマ。表出ろコノヤロウ」ガタッ
江藤「わーわー! 待って待って! 喧嘩はダメだよ喧嘩は!」
綾野「……悠がそう言うなら」ストッ
藤巻「で、で! とりあえず相談、私の相談!」
小椋「そうだったそうだった。でもカップルの振る舞い方なんて千差万別じゃないの?」
綾野「えー、そうなのかな。デートしたりとか手繋いだりとか、そういうのあるでしょ」
小椋「手繋いだりするのがカップルならあたしと恒一君もカップルじゃん。てか彩は抱きついてるし」
江藤「ん、確かに。でもデートしたりとかはカップルじゃないとしない?」
綾野「んー。そう考えるとカップルじゃなくてもするよねぇ。私もこういっちゃんと二人で買い物したりするし」
藤巻「え、そうなの?」
綾野「うん。普通に服見に行ったりとかしてるよ」
小椋「あたしも夏休みの時映画見に行った後一緒に御飯とか食べた」
綾野「あぁそれ聞いた。海外ホラーだったんでしょ? 結構スプラッタなやつ」
小椋「そうなのよねー。なんかCMと本編のイメージ違ってガッカリだったわ。って誰から聞いたのそれ」
綾野「え? こういっちゃんから買い物の時に」
小椋「なんだろ、この納得するけど納得いかない感情」
江藤「……なんか、大変そうだね。あ、あたしも県大会の後とか結構榊原君と遊んでるかも」
藤巻「悠の場合ほとんど宿題見てもらってたでしょうがここで」
江藤「え、えへへ。榊原君教えるの巧いからさぁ、ちょっと頼りすぎちゃったかもねぇ」
小椋「……へぇ。夏休みの宿題見てもらってたんだ」ジロッ
綾野「部活の大会を口実に? 宿題やってないから教えてって?」ギロッ
江藤「ちょっ、怖い怖い! そんな目で見ないで!」ガタガタ
藤巻「まぁ私も一日だけ一緒に見てもらったけどね。もう榊原も必死だったよ、悠全然やってなかったから」ハァ
江藤「部活に必死だったの! 奈緒美は分かるでしょその気持が!」
小椋「奈緒美の場合は必死すぎて和久井に告っちゃったもんねぇ」
藤巻「う、うるさいな! それよりほら! カップルの話だ!」
綾野「あぁあれ? なんか雰囲気に任せて何となく振る舞えばいいんじゃない?」
藤巻「テキトーだなおい! なんだよそれ!?」
小椋「だってねー。あたしら彼氏いないしねー」
江藤「確かに聞かれても困っちゃうよねぇ」
綾野「そーそー。なるようにしかならないって」
藤巻「そうかもしんないけどさぁって、あれ?」
カランカラーン
知香「おかえり、優矢君。榊原くん達はいらっしゃい」
望月「ただいま、お姉さん」
榊原「こんにちは、知香さん」
和久井「ど、どうも失礼します」
勅使河原「どもーっす」
知香「優矢君入れて4名? 4人席空いてるわよ」
綾野「あれ、こういっちゃん達じゃん」
小椋「和久井もいるね。これはアレかな?」
江藤「奈緒美と似たような話なのかなー?」
藤巻「マジかよ……。え、ど、どうしよう」
綾野「うーん。どうしようか」
小椋「もうさ、直接話したほうが早いんじゃないかな」
江藤「そうかもだけど、いいのかなぁ。結局奈緒美の結論て出てないし」
藤巻「そ、そうだよ! 私の相談の結論出てないぞ!」
綾野「だからー。それはもう本人同士でなるようにしかならないって」
藤巻「納得できるか!?」
小椋「はいはい。いーから行こういーからー」
藤巻「ちょっ、ま、分かった分かったから引っ張るな!」
勅使河原「だからよー、カップルなんてこう勢いに任せてぶちゅーっとだなぁ」
和久井「ぶ、ぶちゅーって」
望月「それは流石に欲望に忠実過ぎるんじゃない?」
榊原「もうちょっと健全なアドバイスはできないのか」
勅使河原「とは言うがなサカキ。恋愛にそういうもんは付き物だろ!?」
小椋「あんたの性欲丸出しな意見には同意できないわね」ゲシッ
勅使河原「ぐおっ!! って、小椋!?」
綾野「私もいるよん」
江藤「こんにちは、みんな」
榊原「あぁ、綾野さんと江藤さんも。こんにちは、お茶してたの?」
綾野「んー、お茶っていうかー」
江藤「多分、和久井と同じ話かな」
望月「和久井君と、って事は……」
和久井「……その、こ、こんにちは」///
藤巻「お、おう……」///
勅使河原「おぉう、カップルが揃ったのか」
綾野「なんか、お互いテレて会話できなさそうなカップルだね」
榊原「こういうのを、初々しいっていうのかな」
江藤「なんだろうけどね。このままじゃ話進まなさそうだし仕切り直しましょ」
綾野「えー、という訳で」
勅使河原「交際を初めた二人に対するアドバイス会議を始めます」
小椋「……いつの間にか会議になったわね」
榊原「まぁ、合流した時点でこうなる事は予想できたというか」
勅使河原「はいソコ茶々入れんな! って訳でだ、まずはカップルとしての行動方針をだな」
江藤「勅使河原の意見は基本的に却下だからね」
望月「僕もそれには賛成」
勅使河原「なんでだよ!? 俺メッチャ良い事言うぜ!」
綾野「例えば?」
勅使河原「えっとだな。とりあえずはだ、雰囲気に任せてガバーっと」
小椋「却下でしょ」
江藤「却下だね」
藤巻「勅使河原後で殴る」
勅使河原「なんでだよ!? 雰囲気大事だろ!」
望月「後先考えなさすぎだよそれ」
和久井「ていうか、僕としてはこんな会議みたいに話されるのが恥ずかしいんだけど」
藤巻「……言われてみれば、そ、そうだ、よな」///
小椋「先に相談に来たのはそっちでしょうに」
藤巻「うぐっ!? そ、それを言われると」
榊原「まぁ、後先考えない意見は置いておいて。僕は和久井君と藤巻さんの事応援するから、何かあったら言ってよ」
和久井「さ、サカキ……。ありがとう、サカキ」
藤巻「あ、あのさ。早速なんだけど、都会のカップルっていうのはどんな事してんの?」
綾野「あ、それ興味ある」
江藤「あたしもあたしも」
榊原「うーん、僕の知ってるカップルなんて限られるけど、それでも良ければ」
望月「聞かせてよ榊原君」
榊原「そうだね……。僕の知ってるカップルは、二人で図書館で勉強したりとか」
小椋「べ、勉強か。確かに健全なお付き合いっぽいわね」
榊原「あと遊園地とか多いから、そこで一日遊んだりプールに行ったり」
和久井「遊ぶ所多いもんなぁ……」
江藤「こっちじゃ出来ない事だね。少し遠出しないと」
榊原「後はそうだね、カラオケとか映画行ったりとか、ショッピングモールでウィンドウショッピングとか」
藤巻「ショッピングモール?」
榊原「あぁえぇっと、電車の駅に隣接してる、色んなブランドが出店してる大規模なデパートみたいなもの、かな」
綾野「安い専門店とかも出てるんだよね!」
榊原「うん、アウトレットモールっていうアウトレット品だけ扱ってる場所とかもあったり、中にペットショップやドックラン
が入ってたりもするよ」
望月「ドックランって何?」
榊原「犬を放し飼いにする広場、かな。都内には広い場所がそんなに無いし、車に轢かれたりとか怖いからそういう所を使うん
だよ」
江藤「そうなんだ。都会じゃペット飼うのも大変そうだね」
榊原「確かに、散歩とかしてても車が普通に通る道ばかりだから気をつけないといけないからね」
藤巻「ほ、他にはどんな事するんだ?」
榊原「うーん、後はそうだね、どちらかの家に行ってゲームしたり、一緒に御飯食べたりとか」
小椋「なんか、意外と普通ね」
榊原「都会ならでは、っていうのは早々ないよ。あぁただ東京タワーやサンシャインの展望台に行ったりとかは東京じゃないと
できないかな」
綾野「去年修学旅行で行ったよね! 高かったなー!」
望月「眼下に広がるビル群の窮屈な様相とか、世界の叫びが見えそうで凄く興奮したよ!」
小椋「相変わらず歪んでんなー望月」
榊原「あと皇居周辺を散歩したり、国会議事堂までふらっと散歩したりとかも都内じゃないと難しいね」
勅使河原「国会議事堂凄かったな! 周囲に居た警官超怖かった!」
和久井「何か後ろめたい事でもしてたのかよ」
榊原「あはは、確かにあそこら辺に居るのは機動隊の人だから、普通の警官と違うし怖いよね」
藤巻「しかし、細かく聞くと本当に都会は色々あるんだな……」
江藤「確かに。今聞いた中で夜見山じゃ出来なさそうなのって何かな」
勅使河原「とりあえずプールは海で代用するにしても、一日遊べる遊園地なんてのは無いよな」
望月「電車で行ける範囲のは三時間程度で飽きちゃうもんね」
綾野「あとショッピングモールも無理だけど、近所のデパートで代用、かな」
小椋「それでも二時間で回れちゃうよねぇ」
榊原「水族館も無いし、動物園、も無いか。美術館とかも難しいし……見崎の家の人形館、とか?」
藤巻「あそこにカップルで行けってのか……」
榊原「ごめん、流石に無理があるよね」
和久井「無理がありすぎるよ」
望月「ファミレスなんかも無いよね、ココら辺。まぁこのお店で代用できると言えばそうなんだけど」
勅使河原「後はゲーセンで遊ぶか、映画見るか。図書館で勉強するか? 二人で」
藤巻「そこは、まぁ……」
和久井「僕は別に構わないよ。受験も控えてるし二人なら捗るだろうしね」
藤巻「じゃ、じゃあ今度お願いな!」
和久井「うん、分かったよ」
綾野「ほほぅ」
小椋「何だかんだでちゃんとカップルしてんじゃん」
藤巻「ちょっ!?」カァアア
和久井「そ、そんな事言わないでよ恥ずかしいから!」カァアア
榊原「まぁ、二人がしたいと思った行動をすれば、それがカップルらしく見えるんじゃないかな?」
藤巻「そ、そうか……。なんか、ありがとうな、榊原」
綾野「私だって同じ事言ったのに、納得いかなーい」
藤巻「あんたは投げやり気味に言ったんだろうが。説得力が違うんだよ」
綾野「ぶー。あっ、そうだ! 納得いかない事と言えばこういっちゃん!」
榊原「え? 急になに綾野さん」
綾野「さっき奈緒美に言われたんだけど、こういっちゃんなんで由美の事意識してんのっ!?」
小椋「ちょっ!? な、何聞いてんの彩!!」カァァ
榊原「な、何でって言われても、その……」チラッ
江藤「あっ! 今目線で由美に合図送った!!」
榊原「ち、違うよ! 合図とかそんなんじゃなくって!」ワタワタ
小椋「も、もうやめてよ二人とも!?」
綾野「だって納得いかないもん! なんで私は意識してないのに由美は意識すんの!?」
榊原「そ、それはだから」
勅使河原「なんだーサカキ、急に慌てて。もしかして小椋に告られでもしたのかー? なワケねーか、アハハ」
小椋「………………」
榊原「………………」
勅使河原「ハハ……ハ?」
小椋「ねぇ勅使河原。脳味噌ぶち撒けるのとハラワタぶち撒けるの、どっちがいい?」
勅使河原「ど、どっちも勘弁して欲しいんですが……マジ?」
望月「本当、勅使河原は後先考えないよね」ハァ
和久井「まぁ、ちょっと鈍くて恋愛とか分かんないサカキが女の子を意識する理由なんて、限られるよね」ハァ
綾野「………………ウソ」ドンヨリ
江藤「………………マジ?」ハイライトケシ
榊原「……断ったんだけど、そうだよ」ハァァ
藤巻「はぁぁっ!? 断ったぁっ!?」ガタッ
小椋「はぁ。そうよ、告白した、そんでフられた!! 何か文句でも!?」ガンッ
勅使河原「い、いや文句とかねぇけど……。お、おい、なんで」
榊原「小椋さんの事は好きだよ。でも僕には、それが恋愛感情なのか何なのか分からなかった」
小椋「そういう事よ。まぁ正直、それ以来恒一君との距離が近くなった気がするからいいかなって今は思ってる」
綾野「あの時と、同じなんだ」
榊原「うん、まぁ……。まるで成長してないみたいで、ごめんね」ショボン
小椋「いいの。そりゃ確かに直後はちょっとキツかったけど、3日もして恒一君が意識してくれてるって自覚も出来てから、何
だか余裕ができた気がするんだ。あの時気を使ってくれてたし///」ニッコリ
江藤「あぁ、確かに。言われてみれば由美の様子がちょっとおかしかった時期が」
綾野「あれ……待って。それって一学期の」
榊原「うん、まぁ……。あの日の翌日、かな」
綾野「ちょっ! 由美貴様騙してたなー! ていうか何やってんだー!?」
小椋「う、うっさい! あたしが何しようと自由でしょお!!///」カァアアア
綾野「なんで私にも声かけないの!? 私達親友でしょ!」
小椋「なんで告白するのにあんたに声かけんのよ! それに一人じゃ告白もできないからそう言ってんでしょ!!」ガタッ
綾野「おー言うたなー!? こういっちゃん、大好き結婚して!?」ガタッ
榊原「え、えぇえええっ!!」
江藤「あたしとマンツーマンで勉強教えて! 手取り足取り色々と!?」ガタッ
榊原「わぁあああ!? 江藤さんまで何言ってるの!!」
小椋「二人共なに勢いに任せて言ってんのよコラ! ぶん殴るぞ!」
綾野「上等だコラー! こういっちゃんに抱きついていいのは私だけなんだよー!」
江藤「運動部ナメんな! あたしだって頑張るんだからなー!?」
榊原「ちょっ、ちょっと三人とも! とにかく、とにかく落ち着いてくれぇええ!!」
藤巻「……なぁ、あれ止めなくていいのか?」
望月「いいよ、お店の備品さえ壊さなければ」
和久井「しかし、大変だなサカキも。無自覚なのが悪いのかもしれないけど」
勅使河原「自業自得だろ……。だがやっぱり羨ましいなぁ」
望月「勅使河原はもうちょっと後先考えろよ」
勅使河原「ハイ、スイマセン。気をつけます」
小椋由美の攻勢が知れ渡ると同時に、各武将は我先にと恒一を目指す。
時は戦国、群雄割拠の時代をまた一つ彩る侵攻の開始である。
END
綾野「来月は文化祭かぁ……」小椋「今体育祭の最中だってのに」
綾野「だってさー疲れるじゃーん。今月体育祭だよ? 来月文化祭だよ? 一学期後半から準備してる演劇部は大変だっての!?」
小椋「でも吹奏楽部よりはマシでしょ。夏休みにコンクールあって、その後すぐ文化祭の楽曲の練習して。恵よくやれてると思うわ」
綾野「確かに、猿田とか超忙しそうだったもんねぇ。受験もあるし」
小椋「ま、吹奏楽部の面子は成績もいいしコンクールで賞も取ったし、推薦でいけんじゃないの?」
綾野「あーその手があるか! そう考えると演劇部は厳しいなぁ、演劇コンクールなんてあるとこにはあるだろうけどこっちには無いし」
小椋「そこは実力で受験頑張ればいいのよ。それに成績優良者だったら推薦受けられるし」
綾野「そっか……がんばるしかないか……」
『ただいまより、借り物競走の準備を行います。出場する選手は東門へ集まって下さい』
綾野「あ、呼ばれた。よっこいしょっと」ジャリ
小椋「適当に頑張りなさいよー」ヒラヒラ
赤沢「あら、彩出番? 頑張ってね」ザッ
綾野「泉美ー、100M走お疲れ」
赤沢「えぇ、ありがと。二位だったけどしょうがないわね」
小椋「一位は陸上部だったもんね。それでも二位は流石よ」
赤沢「ありがと由美。ほら彩いってらっしゃい」
綾野「ほーい、いってきまー」ダダッ
赤沢「ふぅ……。あ、由美隣失礼するわ」ガタッ
小椋「気にしないで。あ、スポーツドリンクあるけど飲む? 今日水筒に入れてきたの」サッ
赤沢「ありがと。……ゴクッ、はぁ、落ち着いた」
小椋「全力だったもんね泉美。後半バテないでよねー」
赤沢「大丈夫よ、後はチームリレーと玉入れだけだから」
小椋「あれ、応援合戦無かったっけ?」
赤沢「あれは時間的に余裕が無かったから多佳子に代わってもらったわ。中尾と一緒にやるから張り切ってるみたいよ」
小椋(それもあるだろうけど、泉美に頼られたから張り切ってるって方が可能性高そうだなぁ)
赤沢「それより由美。その、恒一君は……?」
小椋「あぁ、恒一君は今目の前でやってる障害物競争に出てるよ。多分最後じゃない?」
赤沢「そう、だったわね。……胸のほうも大分調子良くなったみたいだし全力で走らないようなもの、で障害物競走になったけど」
赤沢「正直、大丈夫かしら?」
小椋「ウチの障害物競走謎だもんねぇ。平均台の後お玉にピンポン玉載せて走って、最後に紙を選んでクイズだもん」
赤沢「点数配分が意外と大きいのよねぇ。……あ、恒一君!」
小椋「あ、ホントだ!」
赤沢「こういちくーん! がんばって~!」
小椋「無理しないでねー!!」
キャー コウイチクンガンバー! ウワーコウイッチャンガミエナイー!! キャーキャー
赤沢「次の走者みたいね。って、最終走者か」
小椋「そうみたい。さっき和久井が走ったからこれでほんとに最後ね」
赤沢「それにしても、中々恒一君の体操着姿って見なかったけど、新鮮ね」デレッ
小椋「おい怖いぞ泉美通報しますよ?」
赤沢「ちょっ、いいじゃないちょっとぐらい!」
小椋「あーほらほらもう恒一君走るよ」
赤沢「ホント! 何かあったらすぐ飛び出すわよ!」
小椋「わかってる」
パーンッ
小椋「おっ、恒一君速い!」
赤沢「バランス感覚いいわね、もう平均台渡り終わった」
小椋「あーピンポン玉が! おちっ、持ち直した!?」
赤沢「最後のクイズね。問題の入った封筒を地面から拾って係に届けるんだけど」
小椋「なんか一番大きい封筒選んだー!?」ガビーン
『これは難問です! それでは問題!』
赤沢「あぁ、やっぱりそうなのね!」
小椋「拾いやすいのはトラップ……中には難問が入っている。お約束ね!」
赤沢「間違えるとまた拾いに戻らないといけない……今はトップだったけど、恒一君……」ギリッ
『うから1引くとわ、しから1引くとそ』
小椋「うから1? 計算問題じゃないわよね」
赤沢「うがわになって、しがそになる、なんだろう……」
『ではえから1』榊原「答えはに! カタカナで考えてエから1つ引くとエがニになる」
赤沢「カタカナ!?」
小椋「あーなるほど分かったわー。しかし回答はやっ」
赤沢「正解みたいね。出題係の子早すぎてビックリしてるわ」
『お、驚きの速さ! さすがは私立進学校から転入してきた優等生!?』
キャー! コウイチクンカッコイー!! サカキセンパーイ!! キャーキャー
小椋「変な煽り入れてんじゃねぇよ」
赤沢「とりあえずあの放送部員後で殴る。それより恒一君、一位ね」
小椋「良かった……倒れたりしたらどうしようかと思ってた……」ホッ
赤沢「……由美、やっぱり変わったわよね」チラッ
小椋「そう、かな? うん、そうかも」
赤沢「なんか、素直になったというか、感情の起伏を結構あからさまに出すようになったというか」
小椋「良いのか悪いのかは別として、ね。良い方向に向かってるならいいかなぁ」
赤沢「多分、悪くはならないと思うわよ。……やっぱり、恒一君か」
小椋「ん、そうだね。って、それを言うなら泉美も笑顔が増えたというか、柔らかくなった気がする」
赤沢「そうかしら。そう見えるなら、それもやっぱり恒一君のお陰かな」
小椋「……なんかさ、笑顔が増えたよね。クラス全体が」
赤沢「そうかも、ね。あの見崎さんもクラスに溶け込んでるし、良い傾向よね、クラス全体で」
小椋「凄いなぁ、恒一君は」
赤沢「本人は全く意識してないんでしょうけどね。自分が空気を変えたなんて思ってないわよきっと」クスッ
小椋「だよねぇ。まぁそんな無自覚が困った所でもあるんだけど」ハァ
赤沢「そうよね……。来月の文化祭、どうしようかしら」ハァ
小椋「クラスがモメないように、色々考えないとねぇ~」ハァァ
綾野「結局こういっちゃんの障害物競走見れなかった」シクシク
赤沢「はいはいそう落ち込まないの。後半の騎馬戦で応援すればいいでしょ」ポンポン
小椋「それより早く恒一君見つけないと! お昼一緒に食べられなくなるわよ!」
赤沢「分かってるわよ。でも由美、あなたお弁当は?」
小椋「あぁ。それはそろそろお母さんが持ってくる約束になってるんだけど……」キョロキョロ
綾野「あ、あれ? ちょっと由美、アレは?」カクカク
小椋「え?」
不審者「ハァ、ハァ、き、キミこの学校の生徒? ご家族の子かな? 僕も妹がこの学校でね」
???「は、はぁそうなんですか。私は従姉妹がこの学校でして……」
日陰者「そ、そうなんだ。き、キミ可愛いよね、ちょっと写真撮らせてくれないかな? ハァハァ」
???「ひ、ひぃぃ!」
綾野「あれって由美のお兄さんじゃって、あれ由美?」
赤沢「由美ならもうあそこよ」
ヒサビサニソトデタラナニシテンジャクソアニキガー!! チョ、ヤメ、タス、タスケテクレワルカッタユミー! ウワーメノマエデヒトガチダラケニ!? タスケテメイー!!
見崎「あっという間に血達磨の完成ね」
綾野「うわっ見崎っちゃん!?」
赤沢「あんたいきなり出てくるの止めなさいよ。心臓に悪いわ」
見崎「そう、ごめんなさい綾野さん」
赤沢「なんで綾野だけなのよ……」ピクピク
見崎「あなたに謝る必要も意味も無いから」
赤沢「なに喧嘩売ってんの買うわよコラ」ピキピキ
見崎「そろそろ止めないと未咲が泣き出すから行ってくるわ」タッ
綾野「あっ、行っちゃったって、そういやあの子見崎っちゃんにソックリじゃん!?」
赤沢「そういえばそうね。似ているというより、まるで同一人物みたいに……」
綾野「ウヒヒ、これは面白そうな話の予感! 行こう泉美!」タタッ
赤沢「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! ハァ……あの眼帯女に絡むの嫌なのに」トボトボ
小椋「ハァ、全く。あの引き籠りが家出たと思ったらロクな事しないで」
綾野「いやいや、由美も大概でしょ。お兄さん鼻血出して泣きながら帰っちゃったじゃん」
小椋「いいのよ別に! お母さんからの弁当は回収したから」
赤沢「しっかりしてるわね。しかし、まぁ何というか」
見崎「……何、アカザーさん」
藤岡「どうかした? アカザーさん」
赤沢「赤沢でしょアカザワ! 失礼な姉妹ね全く!」プンスコ
綾野「見崎っちゃんの従姉妹というか、血縁上双子の姉妹が未咲ちゃんか。ミサキとミサキで分かりづらいね!」
小椋「苗字で呼べばいいでしょ。見崎さんと藤岡さんなんだから」
榊原「あーここに居たんだ。というかみんな集まってどうしたの?」
赤沢「こ、恒一君っ!?」
綾野「あれあれ? ダレを探してたのこういっちゃん?」
藤岡「あたしー、でしょ? 恒一」
榊原「というか見崎、かな。藤岡さん来るから一緒に御飯食べようって誘われてたし」
小椋「な、なんだと……」
見崎「……先手必勝」ニヤリ
藤岡「あたしをダシに使わないの! でも久しぶりだもんねー恒一と会うの。じゃあご飯食べよう!」
綾野「ちょちょちょい待ち! 折角だしみんな一緒に食べようよっ! ねっねっ?」
榊原「僕もそのほうが楽しいと思うけど、どうかな?」
小椋「やり! じゃあそれで決まりね!? あたしお弁当持ってるしそこの空いてる広場で食べようよ!?」
綾野「じゃあ私ビニールシート持ってくるねー!」
赤沢「後手の先、て奴ね」ニヤリ
見崎「別に、未咲がそれでいいなら構わないもの」
赤沢「減らず口を……」ギリッ
見崎「器の小さい奴め……」ギリッ
藤岡「ふへほー、ほふっらほはほふらほーへほー?」
榊原「藤岡さん、口に含んだまま言われても分かんないよ……」モグモグ
赤沢「見崎さんとは逆の慌ただしい子ね」モグモグ
綾野「明るくっていいんじゃない? 私は仲良くできそうだなー」モグモグ
見崎「綾野さんに似てる感じ。別け隔てなく人と接する明るい性格」モグモグ
小椋「へー、確かに彩っぽいよねー色々と」モグモグ
藤岡「ゴクッ。えーっと、あれ、恒一に告白したのが小椋さんでしょ? って聞いたの」
小椋「ブーッ!!」
綾野「うわぁあ! 由美がお茶吹いた!」
赤沢「はい、ハンカチ」
小椋「ゲホッゴホッ。あ、ありがと……」
榊原「ングッ。ご、ご飯喉に詰まらせそうになった」ゴクゴク
見崎「未咲。いくらなんでも不躾すぎ」モグモグ
小椋「そ、そうよっ! ていうか見崎は落ち着きすぎ!?」
見崎「そう? 三組女子じゃ知らない人はいない話だもの」モグモグ
赤沢「それにしても良く食べるわね……」
藤岡「んで、その小椋さんから三組の告白大会が始まったんでしょ?」
綾野「二番手は私で、その後悠、あとはもうしっちゃかめっちゃか、かな」
見崎「確かに。人が告白している所に割り込んで告白とかもあったわね、赤沢さんが」モグモグ
赤沢「あんたが私の約束してた場所に来て人より先に告白しようとするからでしょ! なんなのよ!?」
見崎「アカザーさんに遅れを取るのだけは許せなかっただけ。他意はない」モグモグ
榊原「それって凄く他意がある話だと思うんだけど……」
藤岡「んでんで? 恒一的にはどうだったの? 嬉しかった? なんかこう、漲ってきた?」
榊原「漲るってなんだよ……。嬉しいのはそう、だけど。何て言うか、一度に来すぎて正直困惑、かな」
綾野「まぁ、そうだよねぇ」
小椋「ほんと、あのイノヤに勅使河原さえ居なければ……」ワナワナ
藤岡「まーまー。遅かれ速かれそうなってたと思うよー。あたしが告白したって聞いた後鳴がじゃあ私も! って張り切ってたし」
赤沢「はっ? どういう事?」
小椋「……もしかして、藤岡さん」
藤岡「うん、あたしも告白した。5月の後半ぐらいに」
綾野「ゆ、由美より速い!?」
榊原「……もうやめようよ、この話」
藤岡「だめー。恒一にはもうちょっと自分の罪を理解して貰わないとねー」ニシシ
見崎「程々にしてあげてね」モグモグ
藤岡「はーい。でさーあたしもちょっと体調崩して恒一と同じ病院で入院しててさー。病院で会ったわけよ、4月に」
小椋「出会いも早いわね……一ヶ月差か」
赤沢「私は4月に会ってるわよ」
見崎「クラス代表でしょ。しかも一度だけ」モグモグ
藤岡「はいはい、そこは喧嘩しない。んでね、中庭で会うようになって仲良くなって、お見舞いに来た鳴とも仲良くなってね。鳴が懐く人なんて珍しーと思って興味本位だったんだけどさー。色々話してたらなんていうの? こう楽しくって幸せでキュンキュンしちゃうようになっちゃったのよ!」
綾野「あーわかるわかる! そんな感じするよね!?」
榊原「もうほんと、勘弁してよ……」
藤岡「んでさ、恒一が退院してからもちょこちょこお見舞いに来てくれてさ、あぁもうこれはダメだ告白しようと思ってあたしの退院した日に言ったワケ。『責任取ってこれからも幸せにしてよっ!』って」
赤沢「それは、告白?」
小椋「どっちかと言うと脅迫のような……」
藤岡「そしたら何て言ったと思う? 『幸せにする事はできるかもしれないけど、恋愛とか僕分からないから付き合えない』って言ったのよ!? なにそれ意味分かんないって感じよ!?」
榊原「もうほんとに止めてくださいいいいい!!!!」
綾野「ないわー。こういっちゃん流石にそのセリフはないわー」
小椋「ちょっと変えれば完全にナンパ男のセリフね。『キミとは付き合えないけど幸せにする』みたいな」
藤岡「でしょでしょ、そう思うでしょ!?」
赤沢「……それで、あなたは何て言ったの?」
藤岡「それでもいいからお願いしますっ!!」
小椋「ブーッ!! ゲホッゲホッ!」
綾野「あー言うわー多分私もそれ言うわ~」
見崎「小椋さん、ハンカチ」モグモグ
小椋「あ、ありがと……。っていうか、それでいいのあんた!?」
藤岡「んー、なんか幸せにしてくれるならいいかなーって。いつか恋愛に目覚めて付き合えるかなーってね」
見崎「その結果今に至る。榊原君に会うとべったりで困る」モグモグ
藤岡「えー、鳴だってべったりじゃーん。出かける時はいつも三人だし、あたしと二人の時はいっつも学校での恒一の事ばっかり」
見崎「そ、それは言わない約束!」ワタワタ
赤沢「なるほど……、結局そういう感じに落ち着くのね」
綾野「藤岡ちゃんと同じようなポジションの人間が三組でどれだけ居るんだろうねーこういっちゃん」
榊原「ははは……、もう、ほんと、ごめんなさい。僕が全部悪いんです」ドゲザー
藤岡「うむ、反省してさっさと恋愛に目覚めてあたしと結婚しろー!」
榊原「それは展開が早すぎませんか!?」
小椋「じゃああたしと付き合って!」
榊原「勢いで付き合っちゃダメでしょ!?」
赤沢「あぁもう今は恒一君を責めないの! ちゃんと考えて結果を出すのが一番でしょ!?」
綾野「うむうむ、それには同意」
見崎「……何年かかるんだろうね、結果が出るまで」ジー
藤岡「それは結局」ジー
小椋「恒一君次第、よね」ジー
榊原「は、ははは……。ど、努力します……」ダラダラ
END
綾野「来月からは高校生かぁ」小椋「あっという間だったねぇ」
綾野「なんだか今年に入ってからは時間の進み方が早かった気がするよ」
小椋「あぁ、それ分かる。あたしも体感だと一、二年生の時より早かった気がするわ」
綾野「そんだけ三年生が大変だったんだろうね、受験あったし」
小椋「あんたは大変だっただろうね。二年生とかで授業サボったりしてたし」
綾野「え、えへへ。まぁ後から挽回できたからいいんだよ、うん!」
小椋「周囲のサポートのお陰で挽回できたんでしょうが。ちったぁ自覚しなさい!」
綾野「か、感謝してるよー由美! ほんとに助かった!」パンパン
小椋「本当よ全く。あたしもそうだけど恒一君も居なかったらあんた今頃泣きながら過ごしてる毎日よ」
綾野「あ、あんま考えたくない事だけど確かにそうだよね……。いやー西高受かって良かったーっ!!」バッ
小椋「ちょ、馬鹿立つな!」
三神「綾野さん。高校受かって嬉しいのは分かるけど、今校長先生のお話中だから静かになさい」
綾野「あっ、す、すいません……」ガタッ
クスクスッ アヤノサンサスガダワー ソツギョウシキデモヤラカストハ……
小椋「良かったわね、横にいたのが三神先生で」
綾野「え、えへへ。やっちゃった」カァ
小椋「久保寺先生頭抱えてるけどね」
綾野「あ、後で謝るよぅ……」
綾野「ズビッ……ふひぃ~ん、由美ぃ~。卒業してもずっと一緒だよぉ~!」ズビズビ
小椋「何言ってんのよあんた、卒業しても同じ高校でしょ」
綾野「そうだけど、そうじゃなくてぇ~!」ズビズバ
小椋「ていうかいつまで泣いてるのよもう。卒業証書受け取ってからずっとじゃない」
赤沢「ほんと、この子あれからずっと泣いてるのよ。お陰で私の感動も半減よ」ハァ
小椋「あぁ……お疲れ様、泉美」ポンポン
綾野「ぶえぇ~んっ! 泉美ぃ~! 卒業しても一緒だからねぇ~!」ズルズル ダキッ
赤沢「はいはい、同じ高校ね。っていやちょっと泣きながら抱きつくな! というか鼻はかみなさい!」
綾野「う、うん……チーン」
小椋「なんかもぉ、ほんと感動とか台無しね……」ハァ
赤沢「いい加減、表に出たいんだけどね。もう教室の半分くらいの生徒は外に出ちゃってるわよ」
小椋「あぁ、そういえばそうね。もう先生の話も終わったし、後は帰るだけだしね」
綾野「先生……久保寺先生泣いてたねぇ」
赤沢「そうね。若いのに生徒の為に心を砕いてくれる、いい先生だったわ」
小椋「流石にあんなにおいおい泣かれるとちょっと引くけどね……」
赤沢「なんでこう、感動を砕くような泣き方する人しか居ないのかしら」ハァ
ガラッ
榊原「あれ、赤沢さん達。まだいたんだ」
小椋「あっ、恒一君」
赤沢「恒一君こそ、どうしたの?」
綾野「ぶひぃ~ん! こういっちゃぁあんっ!!」ガバァッ
榊原「うわぁなにどうしたの! ていうか鼻水出てるから綾野さんっ!?」
綾野「ズルズル、チーンッ!! マダデル」
望月「はい、綾野さん。ティッシュ使って」
綾野「あ、ありあと……チーンッ!」
赤沢「ごめんね、彩が。それで、恒一君と、望月はどうしたの? バケツなんか持ってきて」
榊原「あぁ、僕達はちょっと、ね。最後の思い出作り、かな」
望月「もうこの教室に来るのも最後だし。徹底的に綺麗にして行こうかなって」
赤沢「立つ鳥後を濁さずって訳ね。いいじゃない」
小椋「そういう事なら、あたし達も手伝うよ」
綾野「ズビズビ……あ、あらひもてつらう」ズルズル
赤沢「彩はまず泣き止みなさい。で、他に参加する人は?」
榊原「今桜木さんが三神先生に許可貰いに行ってて、有田さんと杉浦さんと中尾君が掃除道具取りに行ってるよ」
望月「本当に徹底的にやるつもりだから、モップとかブラシをね」
ガラッ
桜木「榊原君、許可貰ってきました。というか、三神先生も参加するって」
三神「一緒に着いてきちゃいました~」
望月「み、三神先生も!」
榊原「というか、スーツなのに眼鏡に後ろ髪結んで……」
三神「もー卒業式も終わったしね! 次のお仕事は来週から。もうお休みモ~ド~」
桜木「あ、あはは……」
小椋「ほんと、あの切り替え様は凄いと思うわ……」
ガラッ
有田「恒一くぅ~ん、掃除道具持ってきたよ~!」
中尾「ぐおっ、お、も……」ドサッ
杉浦「はいはい、ご苦労様。男手あって助かったわ」
中尾「こ、この……全部持たせやがって……」
杉浦「だから感謝してるじゃない。ご苦労様って」ポンポン
有田「他の子は色々忙しいみたいだから、私達だけかなぁ参加するのは。って、赤沢さん達もか」
赤沢「えぇ。最後の思い出作りに、ね」
小椋「モップと、タワシ。それと箒と塵取り、雑巾ね。窓拭きとかもいけそうだし、徹底的にできそうね」
榊原「じゃあ準備も出来た事だし、始めちゃおうか」
桜木「はいっ。頑張りましょう!」
ガタガタッ ヨイショッ アッコッチケッコウヨゴレテル
綾野「いやぁ、こうして見ると結構汚れてる所があるもんだねぇ」ゴシゴシ
有田「ほんと。すぐに雑巾が真っ黒になっちゃうし」
桜木「見えない所に汚れが溜まるものなんですよ。だからこうして、最後に綺麗にしようかなって」
綾野「あっ、やっぱりゆかりんの提案だったんだ」
桜木「えぇ。幸い榊原君も賛成してくれましたから」
有田「へぇ~。真っ先に声かけたのは恒一君なんだ」
桜木「は、はい、まぁ。な、なにかおかしいですか?」カァ
綾野「いんやぁ~、別にぃ~」ニヤニヤ
有田「知らない人なんてクラスの中にはいないしねぇ~」ヘラヘラ
桜木「も、もうっ。あんまりからかわないでくださいっ」
綾野「ごめんごめん。でもなんか、掃除で思い出作りっていうのもゆかりんっぽいよねぇ」
桜木「そ、そうですか? 何て言うか、このまま帰るのも勿体無いなって思って」
有田「んー確かに。普通にはしゃいで帰るだけじゃ勿体無かったかな」
桜木「中学校の卒業は今日だけだから。一つでも多く思い出を作っておきたいなって」
綾野「こういっちゃんと?」
桜木「そっ、それは、否定、しません……」カァァ
有田「乙女だねぇ~」ニヤニヤ
桜木「も、もう! 有田さん手が止まってます! 早く窓拭いて下さい!!」
有田「怒らない怒らない~」
綾野「ま、高校での思い出はこれから作っていけるもんね。同じ学校だし!」
桜木「それは、そうですけど。……正直、一緒の思い出を作っていけるか不安で」
有田「あぁ……。ウチのクラスの女子半分以上西高進学だもんねぇ、私もだけど」
綾野「夜見北で稀に見る快挙だって言ってたね、そういえば。西高進学率がトップのクラスって」
桜木「みなさん、榊原君が西高に進学するって分かってから眼の色変わったみたいに勉強を始めて。クラス委員としては嬉しい事なんでしょうけど……」
有田「これも恒一君マジックって事かなぁ。本人は悠々と推薦入学決めてたけど」
綾野「そのお陰でみんな勉強見て貰ってたしいいんじゃないかなぁ。ていうか、ゆかりんも推薦だったよねぇそういえば」
桜木「はい、お陰様で。そのお陰で榊原君とアルバム委員になれましたし」
有田「ねぇ~ずるいよ~ゆかり! 二人でラヴラヴアルバム製作するとか!」
桜木「いや、でも、多々良さんとかも推薦決まってましたし、結構手伝ってもらったり」
綾野「多々良ッティも和江も! 三人ともずるい!」
桜木「推薦云々に関しては学校側が決める事だから、私に言われても」
有田「そうなんだけどねぇ。こう、なんていうか、成績不良者の僻み?」
綾野「我々にも人権を~っ!」
桜木「ま、まぁまぁ。西高受かったんだからいいじゃないですか」
有田「でもさ~。アルバム見ながら思い出す訳ですよ。あぁ、このアルバムはゆかりと恒一君がラヴラヴしながら作ったやつだなぁって」
綾野「うぅっ、な、なんだか胸がジクジク痛む。そんな嫉妬塗れの思い出嫌だわぁ」
桜木「い、いいじゃないですか! ちょっとぐらい私も榊原君と楽しく過ごしたって」
有田「いやいや、半年近くアルバム委員やってたでしょうが。きっと恒一君とそういう風に一番過ごしたのはゆかりだよ」
綾野「う、羨ましい……」
桜木「そ、そういえばそうですね。うふふ、アルバム見る度に思い出しちゃいそう」
綾野「ぬ、ぬおお……私も、私も成績優秀だったら……」
有田「まぁ、そういう思い出は高校で作っていくしかないか……。それより、掃除進めちゃおうよ。向こうはもう机の乾拭き終わりそうだよ」
赤沢「なんだか、実感湧いてくるわね、こうして最後の掃除をしてると」
杉浦「そうね……。でも、ウチのクラス半分近く西高進学だから、お別れって感じでは無いわね」
赤沢「確かにそうね。多佳子も中尾も、来月になって今度は高校で顔を合わせるもんね」
杉浦「泉美も、西高行くの親が認めてくれたしね。榊原と同じ高校行けて良かったわね」
赤沢「げ、現実と理想が合致するのが西高だったのよ。恒一君いるし、大学進学率も高いし。多佳子だって中尾と一緒で良かったじゃない」
杉浦「ま、まぁそれは……。で、でもそれより泉美と同じ高校行けるほうが嬉しいし」
赤沢「それは私も嬉しいわよ。でもまぁ意外だったのは中尾も西高に入学出来た事ね」
杉浦「まぁ、中尾、頑張ってたし……」
赤沢「頑張ったのは多佳子でしょ。同じ高校行くって張り切って教えてたじゃない」
杉浦「そ、それはそうだけど……。でも、榊原にも教えて貰ってたらしいし」
赤沢「そうみたいね。……なに、嫉妬?」
杉浦「どうだろ。正直、私自身榊原に対してどう思ってるのか分かんないけど、好きではない、かな」
赤沢「……別に私が恒一君を好きな事で、多佳子との友情が変わるなんて事は無いわよ」
杉浦「分かってるんだけどね。泉美も、いつの間にか中尾も榊原と仲良くなってるし。なんか、取られた気分」
赤沢「ま、そういうのは自分で決着着けないとね。ただ、多佳子のそういう所嫌いじゃないわよ、私」
杉浦「そういう所って、どういう所?」
赤沢「変な所で子供っぽい所。友達が他の子と仲良くしてると不機嫌になっちゃうとか、そうじゃない」
杉浦「そ、そう言われるとなんか本当に子供っぽいからやめて」カァ
赤沢「うふふ。普段は落ち着いて大人びてるのにそういう所があるからいいのよ多佳子は」
杉浦「……ほんと、泉美は落ち着いたよね。先が見えるようになったというか」
赤沢「そうかもね。自分でも実感はあるの。両親に高校の話をした時とか、理路整然と説得してる自分を鑑みて昔と違うなって思ったわ」
杉浦「大人になったのねぇ」
赤沢「ちょっと! 親戚のおばさんみたいな言い方止めてよ!」
杉浦「ごめんごめん。ほら、もうすぐ終わるから早く済ませちゃいましょ」
中尾「ハァ~、疲れた……」
望月「お疲れ様、中尾君。悪いね、色々運ばせて」
小椋「しょうがないでしょ、望月じゃ榊原君と背丈合わないから一緒に持ち上げると大変なんだし」
榊原「そうだね、ありがとう中尾君」
中尾「はいはい、わかったよ」
三神「それにしても、綺麗になったわねぇ教室」
赤沢「そうですね……。次はこの教室を今の二年生が使うんですね」
三神「そうね。なんだか私も感慨深いわ……」
榊原「そう言えば、怜子さんも」
三神「そ。来月からは夜見山南中学校に転任、あなた達と一緒に卒業って事ね。それに、私も元三年三組だしね」
望月「そ、そうなんですか。じゃあ、学校に来てももう居ないんですね、三神先生」
三神「そうだけどね。望月君なんかは恒一君と同じ高校だし、ウチなんかで結構会いそうよねぇアハハ」
榊原「あぁ、確かに。きっと高校あがってからもちょくちょく遊ぶし、良く会いそうですね。一緒に夕飯食べたりとか」
綾野「な、なにそれ一緒に夕飯!? わ、私もこういっちゃんと一緒に夕飯食べたい!!」
小椋「あんたね、なんなのその欲望全開のコメントは」
三神「そうね、いいんじゃないかしら。一緒に夕食」
有田「えっ、三神先生。それって期待してもいいんですかっ!?」
榊原「ちょっと、怜子さん?」
三神「パーっとやっちゃう? 全員集めてっていうのは難しいけど、イノヤならある程度大丈夫でしょ」
望月「いいですね、それ! お姉さんに電話して聞いてみます?」
榊原「はぁ……望月、携帯貸すからこれで電話して。どうせ怜子さんはもう歯止め効かないだろうから。どうせ騒いでお酒飲みたいだけ
でしょ?」
三神「んふふ、バレちゃった?」
榊原「もう一年近く一緒に暮らしてるんですから、そのぐらい分かりますって」
小椋「やったー! じゃあ一度帰ってからイノヤ集合でいいよねっ!」
三神「親御さんにはちゃんと伝えておくのよ? あっ、折角だし久保寺先生と千曳先生も呼びましょう。久保寺先生は兎も角、千曳先生も
陰ながらお世話になった事だし、ね? 赤沢さん」
赤沢「そうですね。短い期間でしたが、お世話になった御恩もありますし、私もお呼びしたいです」
綾野「私達演劇部の顧問だしね、一緒にパーっとやりたい!」
桜木「じゃあ私、他の皆さんに帰宅した後で連絡網回しますね」
杉浦「それじゃあ、そろそろ出ましょうか。多分昇降口出た辺りで色々待ってそうだし……」
中尾「は? 何かあんのか?」
杉浦「あんたじゃないから安心しときなさい」
赤沢「安心してるのは多佳子よねぇ」ボソッ
有田「だよねぇ」ボソッ
小椋「くふふ。あぁいう接し方しかできないの可愛い」ボソッ
杉浦「こらそこっ! な、何ボソボソ言ってるのっ!!」カァ
榊原「そうだね。じゃあ最後に―――」クルッ
桜木「……榊原君?」
榊原「三年三組。一年間、お世話になりました」ペコッ
三神「……卒業して、赴任して、長くて短い間だったけど。お世話になりました」ペコッ
望月「そうだね……」
赤沢「うん、そうよね」
「一年間、ありがとう。三年三組」
122 : ◆1Iuu./xGEk[sag... - 2012/10/03 18:56:52.85 8si0b/WPo 92/94以上、投下終了です。
長い間お付き合い下さいましてありがとうございました。
途中ダレてしまい申し訳ありません。
明日にはHTML化の申請しようと思います。
それでは、またの機会に
123 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/03 19:22:04.57 ddRMRw5Ko 93/94おつ
面白かった
124 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/10/04 05:46:43.57 UO6Pdgcd0 94/94おつ
よかったよー

