姫「魔王様のご要望通り、私の身と、国の宝を貴方様に捧げます」
魔王「……」
姫「ですからもう、国を脅かさないで下さい……どうかお願いします」
魔王「……」
姫「……」
魔王「……」
姫「あ、あの……」
元スレ
魔王「世にも恐ろしい兵器を手に入れた」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1301830625/
代行ありがとうございます!
姫「どうなされたのですか……?先ほどからずっとお黙りになられて……」
魔王「私は……だな」
姫「は、はい」
魔王「貴様の国には、それはそれは恐ろしい兵器があると聞いた」
姫「はい……」
魔王「あらゆる者を内に取り込み、もってじわじわとした破滅に追いやるが……死の季節にのみ効果を発揮するという変わった兵器」
姫「その通りです」
魔王「私は長く生きてきたが、そのような変わった兵器の存在など寡聞にして知らなかった。だから少々興味を抱き、貴様の国を脅してみたのだ……丁度今は冬だしな」
姫「くっ……!」
姫「面白半分で我が国の宝を奪い、利用しようとするだなんて……!あんまりです!鬼です!悪魔です!」
魔王「魔王だが……で?」
姫「はい?」
魔王「この、宝とやらは一体何なのだ……」
姫「ふっ……分からないのも無理は無いでしょうね」
姫「これは王家に代々伝わる物。王族の血筋でなければ起動することは出来ません。それ故この存在は伝説と化し」
魔王「それも聞いた。だからお前も兵器と共に要求したのだ。大人しくこの兵器、動かして見せろ」
姫「……逆らえばどうなりますか?」
魔王「お前の国が地図から消える」
姫「ああ神よ……魔王に屈してしまう私をお許しください」
魔王「いいから早くしろ。最早お前が祈りを捧げるべきなのは、この私だ」
姫「うう……分かりました」
魔王「ああ、そうだ。試しに私にこの兵器を使ってみろ」
姫「!?」
魔王「『あらゆる者を破滅に追いやる』という謳い文句が気に入らん。どんな兵器を用いようと、魔王たる私を討つことは出来んのだとこの場で証明してやろう」
姫「恐ろしいお方です……ですが分かりました。そうおっしゃるのでしたら、一つ勝負といきましょう」
魔王「はっ、威勢の良いことだ」
姫「ではまず、靴をお脱ぎになって下さい」
魔王「ああ」
姫「そして、こちらに座って……あ、ちゃんと足を中に入れて下さいませ」
魔王「……こうか?」
姫「はい」
魔王「これは一体何なのだ……随分と柔らかいが」
姫「綿が詰まっておりますの」
魔王「兵器に……綿?」
姫「いいですね。起動しますよ」
魔王「あ、ああ。好きにしろ」
姫「では……スイッチオンです……!」
魔王「……?」
姫「どうですか。じわじわと足元が温まってきましたでしょう」
魔王「あ……ああ」
姫「ふっ……ろくに言葉も出ないご様子。これこそが我が国の誇る宝です!」
魔王「……」
姫「その名も"こたつ"と申します!」
魔王「つかぬことを聞くが」
姫「何なりと」
魔王「これはどういった兵器なのだ……?」
姫「全くもう……兵器だなんて怖いことをおっしゃらないで下さますか。これは王家に代々伝わる暖房機具でございます」
魔王「…………は?」
姫「あまりの快適さ故に、一度入ってしまえば出ることが出来なくなるという魔の机なのです」
魔王「……」
姫「そして注目すべきは敷布団と掛布団!今年は私の好みで大人しめの花柄に統一し」
魔王「よし分かった」
姫「?」
魔王「ちょっとお前の国を地図から消してくる」
姫「なっ……!話が違うじゃありませんか!こたつを差し出せば見逃して頂けると……!」
魔王「喧しい!私はわざわざ、このようながらくたを掠め取ったというのか!?虚仮にするのも大概にしろ!!」
姫「何ですって!?がらくたとは聞き捨てなりません!」
姫「見て御覧なさい!今にも貴方はこたつの虜と……!?」
魔王「逆に見ろ。すんなり出れたのだが」
姫「まだ出ちゃいけません!半時間くらい入っていないと効果が出ないんです!」
魔王「効果とは何だ。血行でも良くしろと言いたいのか」
姫「違います!もっと深い何かです!ほら早く座りなおして下さい!早くっ!!」
魔王「お前、国の存亡よりも、これのことでムキになっていないか?」
魔王「まあいい。そこまで言うのなら、少し付き合ってやろう」
姫「望むところです!こたつが魔王なんかに負けるわけがありません!」
魔王「ふっ……勝負などあってないようなものだろう。さてどのように貴様の国を潰すかでも考えながら」
姫「あ、蜜柑でも食べますか?」
魔王「聞けよ」
魔王「まあ、貰ってやってもいいが……どうした、この蜜柑」
姫「ふっふっふ……実はこのこたつには大きな秘密があるのです」
魔王「何、秘密だと……?」
姫「こたつの上に置かれたこの篭は……無限に蜜柑が沸く魔法の篭なのです!」
魔王「……蜜柑の他には何か出せんのか」
姫「蜜柑だけで十分でしょう」
魔王「もう何もコメントをしないと決めた」
姫「あ」
魔王「何だ」
姫「蜜柑はですね、こう、手の平で転がすと甘くなるのですよ」
魔王「……おう」
姫「いいですか。貴方はこたつを侮っておいでです」
魔王「いや、侮るも何も。たかだか暖を取る便利な機械だろう」
姫「ふっ……そう言っていられるのも今の内。そう遠くない内に、貴方はこたつなしでは生きていけない体になるのです」
魔王「大袈裟な……」
姫「そう!私がそうであるように!」
魔王「……はあ」
姫「ああ……貴方に差し出せと言われた時はこたつとの別離を思い死すら覚悟しましたが……こうしてこたつと共に在れるなんて……私は幸せ者です」
魔王「頬擦りするほどか。気色悪いな」
姫「ふふん……何とでも言うといいのです。よいしょっと」
魔王「おい」
姫「何ですか」
魔王「お前も入るのか。こたつに」
姫「当然です」
姫「ああでも……どうしましょう」
魔王「何がだ」
姫「真正面は貴方の顔を見なくちゃいけませんし、側面は貴方と距離が近い……どちらに座ればいいでしょうか」
魔王「知るか。いっそ入らないという選択肢はないのか」
姫「こたつを独占されて黙っていられませんもの!やっぱり真正面にします!」
魔王「……もう勝手にしろ」
姫「はあ……今年もお世話になりますこたつ……なでなで」
魔王「大丈夫か、お前」
姫「愛しいこたつと半年ぶりくらいに再会できたのです。涙を流して喜ばずしてどうしろとおっしゃいますの」
魔王「そもそもその執着が恐ろしいと言うか……そこまで良いものか?」
姫「もちろんです」
魔王「やはり分からない……」
姫「……」
魔王「……」
姫「……」
魔王「……おい」
姫「何でしょう?」
魔王「先程から、私達はろくな会話もなく蜜柑を貪り食っているだけなのだが」
姫「こたつとくれば蜜柑です。これらは不可分なのです」
魔王「まあ……それはいいのだが……その」
姫「何です。はっきり申し上げて下さい」
魔王「何と言うか……近くなるよな」
姫「ふっ……そんなことですか」
姫「私くらいのこたつ中毒者ともなれば当然対策済みです。こたつに入る前に、お花を詰みに行って参りましたから!」
魔王「自慢げに言われたところでどうしろと。私は少し部屋を出て行くが……せいぜい大人しくしていろよ。決して逃げようなどとは」
姫「こたつのある場所が私の死に場所です。逃げようなど思うはずがありません」
魔王「…………行ってくる」
魔王「本当に大人しくしているとは」
姫「あ、お帰りなさいませ」
魔王「もう少し自覚を持て……よっと」
姫「あら」
魔王「何だ」
姫「ふふふ……貴方もこたつ中毒初級のようですわね。私が何か言う前にこたつに戻るとは」
魔王「そういう事では断じてない。付き合うと言っただろう。暇潰しにな」
姫「ふっ、これなら案外早く堕ちそうです。何よりです。よいしょっと」
魔王「そうかそうか。良かったな……ってお前、何だそれは」
姫「ふふん」
姫「こたつといえばこれなのです!」
魔王「だから何だと」
姫「人生ゲームと申します!」
魔王「…………は?」
姫「その名の通り、人生をなぞるゲームですの。ルーレットを回して自身の駒を進め、止まったマスごとにお金を稼いだり払ったり結婚したり子供を持ったり……最終的に稼いだお金の総額で勝負を競うのです」
魔王「お前はそれを持ち出して、どうしようと言うのだ」
姫「はい、こちらが貴方の駒で」
魔王「やるか」
書きつつ投下しつつやってきます。
姫「や、やらないのですか!?どうしてです!?」
魔王「戯れにこの、こたつとやらの性能を見てはいるが、お前にそこまで付き合ってやる理由が無い」
姫「こたつとくれば人生ゲームなんですよ!?一心同体なんですよ!?」
魔王「蜜柑といいセットとなる物が多いなこたつ」
姫「それを否定するだなんて!貴方には人の心が無いのですか!?」
魔王「だから魔王だと」
魔王「と言うよりも、リアルの人生が今ここで終わりを迎えようとしていることに気付いていないのか?私が言うのも何だが、ゲーム等に興じている場合では」
姫「うう……こたつでの人生ゲームが否定されるだなんて……今までの人生で一番屈辱的です」
魔王「だから聞けというに」
姫「いいですよもう!せいぜい私が楽しんでいるのを、指を咥えて見ていなさい!」
魔王「はっ、勝手にしろ」
姫「いち、に、さん……あー!また借金ですわ!」
姫「あらあら残念。私は……あら。鉱山を当てました」
姫「私はまた子供が生まれました。さあ皆さん、出産祝いをお寄越しなさい」
姫「また借金……!くっ……しかし勝負はまだこれからです!見ていなさい!」
姫「ふふふ!望むところです!さあ早く這い上がっておいでなさいな!」
姫「そして私が一回休みから華麗に舞い戻ります」
魔王「…………」
魔王「おい……」
姫「あら、なんですか。楽しそうな空気に耐えかねたように」
魔王「正に耐えかねる空気だ。お前、一体先程から何をやっている」
姫「一人四役人生ゲームです」
魔王「……」
姫「ふふん。これはプロにのみ許された業ですのよ。素人は役に入りきる事も、臨場感を出す事も叶わずってあー!!」
姫「何をなさるのです!」
魔王「……ボードを引っくり返した」
姫「折角私②が首位独走していましたのに!全くもう……駒をちゃんと並べなきゃ」
魔王「ええい。貸せ」
姫「ちょ、何ですか返して」
魔王「一回だ」
姫「な、何がです」
魔王「一回だけなら……付き合ってやる」
魔王「四、五、六……おっと」
姫「ぐ、ぐぐぐ……」
魔王「また、つまらぬカジノで大儲けしてしまった」
姫「な、なんでそんなに強いのです!さてはあなたプロですわね!?」
魔王「素人だが。ほら、お前の番だぞ」
姫「くっ……私だってプロの端くれ!これから巻き上げ……」
魔王「『魔王に刃向い一回休み』、か」
姫「どこの魔王も私の敵です!!」
魔王「何故魔王に刃向って、一回休みで済むのだろうかこのゲーム」
魔王「ほれ、終わったぞ」
姫「酷いです……鬼の所業です……」
魔王「私が億万長者、お前が借金まみれ。分かりやすい勝敗がついたな」
姫「しかも私は無意味に子供が増えるばかりだったのに、貴方ときたら子供二人にマイホーム持ちという何だか理想的な一家を築き上げての大成功……うう」
魔王「まあまあそう落ち込むな。所詮これはゲーム……お」
姫「何ですの」
魔王「所有していた株券を計上するのを忘れていた。私の総資産、更に一億追加で」
姫「あんまりです!!」
姫「いいんです。いいんです。私にはこういう対人ゲームは合わないのです、きっと……」
魔王「お前、これのプロではなかったのか」
姫「プロですよ。でも、誰かと遊ぶのは初めてです」
魔王「お……おお」
姫「むう……何がいけなかったのでしょうか。長年の一人四役人生ゲームで、シュミレーションは完璧でしたのに」
魔王「……」
姫「まあいいのです。私にはこれがありますから」
魔王「……どこから持ち出した。そのゲーム機」
姫「城からに決まっておりましょう。こたつと一緒に過ごすべく持参いたしました」
魔王「お前は一応人質とか、そのようなものだよな?」
姫「そうですね……はあ、明日をも知れぬ我が身が嘆かわしいことです……」
魔王「言いつつ電源を入れるな」
姫「良いではありませんか。何なら貴方もやりますか?はいどうぞ」
魔王「何故同じものを二台も所有しているんだ」
姫「こたつ中毒者の嗜みです。一人で通信する際に便利でしょう」
魔王「……お前、さては社会不適合者だろう」
姫「魔王に言われたくありません!」
魔王「とは言え私はこの手の物を触ったことがない」
姫「それは人生の八割方損をしていますわね。ではこのゲームなんて如何です?」
魔王「何だこれは」
姫「モンスターを集めて育てて、戦わせるゲームです」
魔王「ほう……それはそれは」
魔王「魔王のような仕事を行うものもあるのだな」
姫「興味を持って頂けたようで。説明書はこちらにございますので、試しに最初から初めてごらんになっては如何でしょう」
魔王「そうだな。丁度暇を持て余している所だった。いいだろう、やってやる」
姫「ではまあ、存分にお楽しみくださいませ」
魔王「ああ」
魔王「おい」
姫「はいはい何ですか……って、まだ始まってすらいないじゃないですか」
魔王「最初に、この三つの内から選べと言われたのだが……これ以外には選べないのか」
姫「無理ですね。早くどれかお選びくださいな」
魔王「しかしなあ……」
魔王「どれもこれも弱そうなんだが」
姫「何を仰るかと思えば。今はこんな可愛らしい容姿ですが、育てれば逞しい姿に変化し、良きパートナーとなってくれるのですよ?」
魔王「いやしかだな……こいつら、可愛いのか?」
姫「お黙りなさい!流石に私も最初見た時はちょっと言葉を失いましたけど!特にラッコは!」
姫「それでもじっくり見ていれば可愛い子達です。現にこの青いラッコ、今では私のお気に入りなのですよ」
魔王「解せぬ……こんな弱そうなモンスターを何故わざわざ育てねば……」
姫「魔王の仕事もも似たような物でしょう。魔物を見出し育て上げ、自身の望む軍団を作るという」
魔王「大袈裟な。たかだかゲームだろう、これは」
姫「たかだかゲームで出来ない事が、リアルで出来るはずがありませんよ」
魔王「……やってやる」
魔王「で、お前は最初、どれを選んだ」
姫「仰いましたでしょう。こちらの青いラッコです」
魔王「では……私はこちらでいこう」
姫「あら、炎タイプをお選びになるとは」
魔王「炎は水が弱いのだろう。説明書に書いてあった。お前よりも不利な状態から、私はこのゲームを華麗にクリアしてやろう」
姫「別にそういう難易度変化があるわけではないのですが……」
姫「……あら」
魔王「……」
姫「もうこんな時間です。すっかり夜中になってしまいました」
魔王「……」
姫「あの……私は今夜どこで寝ればいいのでしょうか?」
魔王「……」
姫「さ、流石にこたつで一夜を過ごすのはお行儀が悪いですし……それも魔王とはいえ殿方と……だなんて」
魔王「……」
姫「……あのー」
>>81
ばれたか!
姫「……えいっ」
魔王「……足を蹴るな」
姫「もう、何度も呼びましたのよ。そんなに熱中なされるなんて」
魔王「こんな下らない物に、私が熱中しているわけがないだろう」
姫「充電器を繋ぎながら黙々とプレイなさっていながら何を……」
姫「でもおかしな話ですねえ」
魔王「何がだ」
姫「一人の時ではあんなに広かったこたつも、貴方がいるだけでこんなに狭くなるだなんて」
魔王「……いつも」
姫「はい?」
魔王「いつも一人だったのか?」
姫「はい」
姫「お父様ともお母様とも、お嫁に行かれたお姉様達とも。一緒にこたつに入ったことはありませんね」
魔王「……」
姫「でも、ちょっと足を伸ばせば真正面にいる方に届くのですね。こたつ中毒は長いのですが、今になってようやく発見しました。こたつには色々な発見がまだまだあるのです」
魔王「そうか……む」
姫「どうなされましたか?」
魔王「この……ポケルスとは何だろうか」
姫「……それは、クリアなさってからお調べ下さい」
魔王「?」
姫「で、私はどこで眠ればいいのでしょうか。もう夜も遅いですし」
魔王「ああ……一応部屋を用意しているが」
姫「では、とりあえず今夜はそこを使わせて頂きます」
魔王「勝手にしろ」
姫「それではお休みなさいませ。また明日」
魔王「ああ」
魔王「変な女だな……」
魔王「まあいい。私は早くこれをクリアしなければ」
魔王「……」
魔王「……」
魔王「……」
魔王「……む?」
姫「はあ……やはりこたつは素敵でした」
姫「住み慣れたお城ではないのが少し悔やまれますが……」
姫「ですがこたつさえあればどこでも都です」
姫「少々狭くなってしまいましたが、そんなことでこたつの魅力が減りませんでした。明日もこたつ天国です」
姫「やはりこたつこそ正義!こたつこそが世界を平和に導くのです!」
魔王「何の宗教だ」
姫「!?」
姫「な、な、な!何ですか急に!ノックも無しに淑女のお部屋に入らないでください!」
魔王「いや、お前が淑女かどうかは、大いに疑問が沸く所だが……」
姫「はっ……!まさかこれがいわゆる"よばい"というやつなのでしょうか!?」
魔王「そこまで飢えてはおらぬ故、安心しろ」
姫「どうだか!そう仰る方こそ怪しいのです!漫画で読みました!」
魔王「ええい喧しい……いいから来い」
姫「え、え?」
姫「な、何なのですか。部屋に連れ戻して」
魔王「見ろ」
姫「こたつがどうかなさいまして?」
魔王「お前が部屋を出て、急に冷めてしまった。どういうことだ」
姫「ああ、それは当然ですわ」
姫「これは王家に伝わる物。血統でなければ動かせないと、そう申し上げましたでしょうに」
魔王「……つまり、お前がいないと」
姫「こたつの温もりは幻の物となってしまいます」
魔王「よし分かった。命令だ」
姫「?」
魔王「一晩ここにいろ」
姫「ま……まあ!」
姫「つまり貴方もついにこたつが無ければ生きていけない体に!」
魔王「馬鹿を言え。夜も深まり更に冷えてきたのは確かだが、わざわざ他の暖房器具を用意するのが面倒なだけだ」
姫「口ではそう言ったところで、体は素直ということですね!これも漫画で読みました!」
魔王「黙れ」
姫「うう……ノリが悪いです」
姫「でも、流石に私も眠いのですけれど……」
魔王「ここで眠ればいいだろう」
姫「安らぎの地とはいえ、一国の姫が眠って良い場所ではないでしょう」
魔王「人質として魔王に捧げられたお前に、今更身分も何もないだろう」
姫「……それもそうですわね!」
魔王「何故今の台詞で活気が出る」
姫「ちょ、ちょっと憧れだったのですよね。こたつで眠ってしまうのって」
魔王「ならば好きなだけ惰眠を貪れ」
姫「望むところです!」
魔王「おい待て」
姫「はい?」
魔王「何故私から見て……側面に陣取る」
姫「こう、真っ直ぐに足を伸ばして眠るにはここが一番ではないですか」
魔王「ま、まあ確かにな……」
姫「それでは今度こそお休みなさいませ」
魔王「……休め」
姫「うふふ……今夜は一晩中こたつと一緒……ふふふ」
魔王「……」
姫「うう……」
魔王「起きたか。もう朝だぞ」
姫「か……体がだるいです。あちこち痛いです……」
魔王「一晩の寝所には適さぬか、こたつ」
姫「でも……暖かくて良かったですわ」
魔王「起き抜けに頬擦りする元気があれば大丈夫か」
姫「ふわーあ……おはようございます」
魔王「ああ」
姫「……一晩中やってらしたのですね」
魔王「当然だ。そろそろ終わりが見えて来たぞ」
姫「何が当然なのかよく分かりませんが……まあ、頑張って下さいまし」
魔王「おい、どこへ行く」
姫「お顔を洗ったり、歯を磨いたりと……朝の支度をしに。」
魔王「……朝食はここに用意させる。早く戻れ」
姫「……はいはい」
姫「ただいま戻りました」
魔王「ああ。ところで見ろ」
姫「まあ!」
魔王「これでクリアだ。どうだ。手際が良いだろう」
姫「凄いですこんな短時間で!初めて手を出した方の出来とは思えません!」
魔王「ふっ……当然だ」
姫「社会的にはどうかと思われますけどね」
魔王「お前がそれを……言うか」
言い忘れた!保守ありがとうございました!
魔王「しばらくこの手のものは十分だな」
姫「不眠不休でクリアなされたのですもの。当然です」
魔王「そうすると、再びやることが無くなってしまったのだが」
姫「大丈夫ですよ。あっても無くても変わりませんから」
魔王「どういう意味だ」
姫「こたつの魔の手に一度でも絡め取られてしまえば、本来の目的や仕事などはあっさり無に帰すのです」
魔王「恐らくそれらは無に帰してなどいない。見えない振りをしているだけだ」
魔王「しかし……ここに昨日初めて座った時は、何かを考えようとしていたような」
姫「考え事ですか?」
魔王「ああ……何と言うか、かなり大事な仕事についてだったような」
姫「お夕食のメニューについてとか……昨今の少子化問題についてとか!」
魔王「後半は何故私が悩まねばなぬのかと。むしろ邪魔な人間共が減るなら大歓迎だ」
姫「つまり……お年を召した女性が好みなのですね?」
魔王「会話を繋げる努力をしろ。全く違う」
姫「まあまあ、そうカリカリなさらないで下さい。無理に思い出そうとしてもきっと無駄ですよ」
魔王「お前にだけは言われたくはない……いや待て、確かお前絡みで何か考えようと」
姫「あ、この蜜柑特に甘いです。半分差し上げましょう。はい、あーん」
魔王「いるか……!!」
姫「……折角慰めて差し上げようと思いましたのに。あ、あら、如何なされましたの?突然こたつに泣きつくだなんて」
魔王「後一歩で思い出しそうだったのだ!それをお前が余計なことをするから……!」
姫「よ、余計なこととは何ですか!」
姫「折角気を利かせて食べさせて差し上げようと思いましたのに!」
魔王「それが余計なことだと言うんだ!」
姫「く……!もういいです!蜜柑、もうあげませんからね!」
魔王「いらんと言っているだろうが」
姫「昨日からあれだけ召しあがっておきながらよくもまあ……!」
魔王「全く……静かにしておけ」
姫「ふんだ……寝ます」
魔王「……勝手にしろ」
姫「……」
魔王「……」
姫「……」
魔王(……)
魔王(……そうか)
魔王(こいつの国を滅ぼす算段だったな……)
魔王(結局ペースを乱され、ろくに整っていないが……)
魔王(丁度静かになったし、今一度考えてみるか)
魔王(さてどうするか。こんな馬鹿げたガラクタと変な女を掴まされたのだから、一夜にして焼き払われても文句は言えんはずだよな)
魔王(うむ。胸が躍るな。やはりこれこそが私の本業だ)
魔王(何故私がこんな女と共に、無為な時間を過ごさねばならなかったのかと)
姫「……ぐすん」
魔王「!?」
魔王(い、いやいや……何を怯えているんだ私は)
魔王(いや違う……!怯えてなどいない!!)
魔王(これはあれだ、面倒の予感に辟易しているだけだ)
魔王(よし。無視だ無視。そもそも私はこれから大量の人間を葬り去ろうとしているのだ)
魔王(こんな女一人泣かせたくらい何も)
姫「ぐすん」
魔王「……」
魔王「お……おい」
姫「……」
魔王「その……何だ」
姫「……」
魔王「先程は少々言い過」
姫「ぐすん……やっぱり」
魔王「……?」
姫「やっぱり何度読んでも泣ける、名作ですわ……ぐすん」
魔王「おい待て何をしているお前」
姫「結局眠れずに……漫画を少々」
魔王「これだけ大量の書物をどこからどうやって持ち出した……!?」
姫「淑女の嗜みです」
魔王「意味が分からない……」
姫「あ、何か仰っていらしたようですけど。何かご用ですか?」
魔王「もう……何もかもがどうでもいい」
姫「まあ!とうとうこたつ中毒者としての心構えが出来ていらしたのですね!」
魔王「……それでいい」
姫「?」
すみませんでした。再開です。依然定まらない方向性。
姫「何だか元気がないご様子ですが……どうかなさったのですか?」
魔王「むしろお前がどうした……先程までへそを曲げていたというのに……」
姫「名作の力は偉大なのです。機嫌が直ったついで、貴方にもオススメしてみましょう」
魔王「結構だ」
姫「面白いですのに……全四十三巻ですよ」
魔王「だからいらんと」
姫「未だに誰も読んでいる方に巡り合えませんが、一人感想会などを催す程に大好きな」
魔王「……今度読む」
>>241
からくりサーカスのつもりだったww
魔王「しかし……しかしだ」
姫「何ですか?」
魔王「お前は、私がこたつ無しでは生きていけない体になると言っていたな」
姫「現にそうではありませんか」
魔王「……まあ、昨日から自堕落な生活をしていることは事実だが」
姫「ほらご覧なさいな」
姫「こたつに打ち勝つ事など、誰であろうと不可能なのです!」
魔王「しかし、だ」
姫「まだ何か反論がございまして?」
魔王「お前が推しているのは『自堕落な生活』であって」
姫「ええ」
魔王「『こたつ』自身ではないと思うのだが」
姫「そ」
姫「そんなことはありません!」
魔王「お前、本当はこたつ中毒なのではなく、単なる怠け者なのでは?」
姫「違います!私は……私は本心からこたつを愛しております!」
魔王「とは言えお前が推すのはゲームや蜜柑。こたつとセットでなくとも構わないような物ばかりで」
姫「蜜柑は温かいこたつに入ってこそ美味しくなるのです!凍えていては手がかじかんでゲームなどまともに出来るはずがありません!」
魔王「しかしなあ……」
姫「そうまで仰るのでしたらいいでしょう!これから貴方にこたつの魅力を隅々まで伝授して差し上げましょう!」
魔王「あー……いや別に、そうした無駄な熱意はいらんのだが」
姫「遠慮なさる事はありません!今日からあなたもこたつマスターです!」
魔王「マスターしてもな……まあいい。暇潰しに付き合ってやろう」
姫「そう言うと思いました!貴方は何だかんだと口では否定しながらも、体はこたつを求め」
魔王「もうその件は聞き飽きた」
姫「では一つ……ねこを用意して頂きましょうか」
魔王「猫……?」
姫「はい。ねこです。も、もうそれはそれは可愛らしいねこを一匹用意して」
魔王「どうするんだ?」
姫「こたつに入れるのです!」
魔王「……焼いて食……何をする叩くな。やめろ」
姫「この!この!悪魔!謝りなさい!ねこさんに!」
四十八手でググって来いよ!
魔王「ならば……ねこをこたつに入れてどうするんだ」
姫「ねこはこたつの中で丸くなるのです」
魔王「……は?」
姫「これは我が王家に代々語り継がれる伝説なのです!」
魔王「今更だが、お前の家系は平和ボケにも程が無いか?」
姫「何の事だかさっぱり分かりません!」
姫「ですが私も実際に見た事はないのです……」
魔王「見たところで何も得られる所は無いと思うのだが」
姫「そんなことはありません!ねこが丸くなるんですよ!?あのねこがですよ!?」
魔王「少しまともな言語を操ってくれるか。主述をしっかりと」
姫「これは良い機会!今こそ伝説を再現する時なのです!」
魔王「まあ、いいんだがな……」
姫「さあ、行くのです!」
魔王「魔王使いの荒い奴め……しかし、待て」
姫「な、何故です。付き合うと仰ったのに」
魔王「そうは言ったが、部屋を出るのが面倒だ」
姫「貴方が出たくないのは部屋ではなく、こたつでしょう!?いい加減認めたらどうですか!?」
魔王「まあ待てまあ待て。別に猫など逃げるものでは」
姫「逃げますよ!撫でたり抱いたりしようとしたら、すぐ逃げるんですよねこは!」
魔王「実体験か……」
魔王「分かった分かった……少し待っていろ」
姫「はい!ねこ、お願いしますね!」
魔王「しかし猫か。生け捕りは面倒臭いな」
姫「ちゃ、ちゃんと生かして連れて来て下さいよね!?」
魔王「善処する。では、大人しくしていろよ」
姫「はい!はい!それはもう!」
魔王「で、連れて来たのだが」
姫「……何ですか」
魔王「猫を見つけるよりも手早いかと思い、配下の猫科獣人を一匹」
姫「ねこじゃありません!可愛くないです!クーリングオフです!」
魔王「お前は本当にずけずけと……ああ、気にしなくていいからな、こいつはこういう女で」
姫「ねこが来ると思ったから、急いで蜜柑の皮を片付けましたのに……」
魔王「まあ、とりあえず、この中に入って丸まってくれるか。そうしたらこの女も満足するようなので」
姫「満足しません……意地でも……」
魔王「猫に変わりはないだろう。さあ入ってくれ」
姫「……」
魔王「……」
姫「……も、もういいですよ。狭くて辛いのは分かりましたから」
魔王「こちらも無理なことを言って、すまなかった……」
姫「何故連れてくる前に気付かなかったのですか……あの方ではこたつで丸くなるのは物理的に無理だと」
魔王「いや、頑張ればギリギリでいけるサイズかと」
姫「あの方ずーっと謝ってから帰りましたね……悪いのはこちらですのに」
魔王「まあ、下らないことに付き合わせたんだ。後で何か褒美でもやろう」
姫「うう……無意味に良心が痛むだけで終わりました」
姫「いいです……ねこは今度でいいです」
魔王「諦めるまではいかないのだな」
姫「人間前だけを向いて進まねばなりませんからね!次です!」
魔王「……今度は何を連れて来いと。犬か?」
姫「ふふん。伝説では、いぬは雪の日に庭を駆けるのですよ」
魔王「お前の家の伝説とは一体」
>>271
書いてる人間がポケモン対戦にそこまで詳しくないから、戦わせるとえらいぐだぐだになるんだ絶対に。
姫「今度はですね!鍋です!」
魔王「……鍋?」
姫「はい!こたつに入って鍋をつつく!これぞこたつの醍醐味なのです!」
魔王「鍋か……」
姫「まあこれも未だ実証検分していない伝説なのですが!」
魔王「お前は本当、そればかりだな」
姫「だってだって……そもそも鍋とはどのようなお料理なのかも存じ上げませんし」
魔王「奇遇だな。私も聞いた事の無い料理だ」
姫「お料理用のお鍋を使うのでしょうか?」
魔王「使ってどうするのだろうか……」
姫「食材を煮るに決まっているじゃないですか」
魔王「味付けは?」
姫「……うーん」
魔王「で、手下に『鍋』の用意を命じたのだが」
姫「……こんなお料理だったのですね」
魔王「うむ。紫色のだし汁に、蛍光緑や桃色の食材が実によく栄えているな」
姫「美味しそうな匂いがするだけに、余計に恐ろしいです……」
魔王「しかし鍋を食うと言ったのはお前だろう。覚悟を決めろ」
姫「うう……分かりました。こたつで死ぬなら本望です!」
魔王「流石に毒は盛られていないと思うが」
姫「小鉢に盛って……おだしを入れて……」
魔王「……何の肉だろう、これは」
姫「ふ、不安を煽らないでください!貴方の用意は出来ましたか!?」
魔王「ああ」
姫「それでは……頂きます!」
魔王「さて食うか」
姫「……おいしいです」
魔王「案外いけるな」
姫「……」
魔王「……」
姫「……あったまりますねえ」
魔王「そうだな」
姫「やはりこたつは偉大なのです」
魔王「鍋の功績が大きいと思うのだが?」
姫「しかし考えても見て下さい。もしこたつではなく、普通の食堂でお鍋を食べていたら」
魔王「……こたつの方がいいかもな」
姫「ええ、その通りです」
姫「鍋を食べるには、これくらいの狭さが一番です。あんなに広いテーブルでは、鍋にお箸が届きませんもの」
魔王「こたつのためにある料理なのかもしれんな、これは」
姫「しかしこたつ単体でも十分に楽しめる!どうです、そろそろこたつの魅力を認めますか?」
魔王「さあな」
姫「くうう……これがいわゆるツンデレというやつなのでしょうか」
魔王「私がいつデレたのか、言ってみろ」
姫「さてとーお鍋もすっかり綺麗になったところで!」
魔王「何だ?」
姫「〆にうどんを煮たり、ご飯を入れて雑炊にするのが作法なのだそうです」
魔王「それもまた伝説か?」
姫「はい!ちなみに雑炊がかなりの美味だとか」
魔王「ふむ」
姫「どうかなさいまして?」
魔王「私は米より、麺類派だ」
姫「…………じゃーんけーん!」
魔王「ほれ」
姫「うう……お雑炊……」
魔王「ぐちぐち言うな。負けたのはお前だろう」
姫「そうですけどー……うどんも美味しいですけどもー」
魔王「なら文句はないだろう」
姫「……ずるずる」
魔王「……明日また、鍋を作らせる」
姫「!」
魔王「明日の〆は譲ってやろう」
姫「わ、わ、ありがとうございます!」
魔王「ふん……たかだか下らぬ貢物の分際で、生かされただけでなくこうして気にかけて貰える事、光栄に思えよ」
姫「はい!貴方ってやっぱり良い方なのですねえ」
魔王「……嫌味のつもりだったのだが」
姫「はー……お腹いっぱいです」
魔王「良かったな」
姫「しかし……まだなのです」
魔王「は?」
姫「まだこたつの魅力伝授・食べ物部門は終わっていません!」
魔王「……まだ食わせる気か」
姫「別腹ものですから大丈夫ですよー」
魔王「……持って来させたぞ」
姫「わーいアイスです!」
魔王「暖房器具活用しつつ冷たい物を食すとは……何とも背徳的だな」
姫「これぞ贅沢というものです。あ、あら?」
魔王「どうした」
姫「一つしかありませんよ、アイス」
魔王「何かと思えば。私は満腹で、いらんからな」
姫「えー……伝授できないじゃないですか」
魔王「また次の機会にな」
姫「貴方は次に、次に、ばっかりです。曖昧です」
魔王「何とでも言え」
姫「そういう殿方は、きっとモテませんよ」
魔王「よし、黙って食え」
姫「うー……残り半分……」
魔王「どうした」
姫「ちょっと……辛くなってきました」
魔王「ほらな。少し時間を置いてから食うべきだったのだ」
姫「残り……食べて下さいませんか?」
魔王「お前は魔王に、残飯を押し付ける気か」
魔王「残せばいいだろう、そんなもの」
姫「勿体無いじゃないですか」
魔王「知るか。第一、お前が何の計画も無」
姫「よし、まずは一口」
魔王「……何をした」
姫「得意げに口を開いている所を狙って、食べさせました!」
魔王「もういい分かった。全て寄越せ。食ってやるから」
姫「あ、あら。いきなり従順になりましたね」
魔王「頭が……」
姫「もう、一気に召し上がるからですよ」
魔王「うるさい元凶め……」
姫「変な方。まあいいでしょう。これよりこたつの魅力伝授、最終奥義へと移行します!」
魔王「まだ……あるのか」
姫「あからさまに嫌そうな顔をしないで下さい!」
魔王「やれやれ……で、今度は何だ……」
姫「まだ横になっちゃ駄目です!食べてすぐ寝ると牛になるんですよ!?」
魔王「既にそれらしき角は持ち合わせている。魔王だからな。なので問題はない」
姫「問題しかありません!起きて下さい!」
魔王「その、奥義の内容を聞いてから、起きるかどうか決めてやる」
姫「くっ……いいでしょう!聞いて驚かないでくださいね!」
魔王「分かった分かった。で、何だ」
姫「人間座椅子です!」
魔王「…………で?」
姫「ふっふっふ!やはり素直に起きましたね!目論見通りです!」
魔王「……その、人間座椅子とは一体何だ?」
姫「こう、こたつに座った人を、座椅子にしてこたつに入るという」
魔王「ああ……」
姫「別名“こたつがかり”とも言うらしい伝説の」
魔王「よし分かったもう黙れ。何も言うな」
姫「?」
姫「もしかして、貴方……伝説の“こたつがかり”が何かご存知なのですか!?」
魔王「偶然にも……と言うよりもそれは伝説でも何でもなく」
姫「ならば話は早いですね!早速実践して」
魔王「それ以上言ってみろ……!二度とこたつに入れてやらんぞ……!」
姫「わ、私がいなければこたつは付かないのに……」
姫「うう……奥義が封じられてしまいました……」
魔王「分かったらもう伝授など諦めて、先程の漫画でも」
姫「こうなったらプチ奥義です!」
魔王「まだあるのか」
姫「舐めないで頂きたいですね!こたつマスターは伊達ではありませんよ!」
魔王「出来ればもう勘弁して頂きたいのだが。全力を賭して」
さる怖い\(^o^)/
姫「今度はこれですよー!」
魔王「……」
姫「それにポータブルDVDプレイヤー!」
魔王「……」
姫「一緒に見ましょう!」
魔王「……」
魔王「まあ、それなら……いいだろう」
姫「ありがとうございます!よいしょっと」
魔王「待て」
姫「待ちます!」
魔王「どうして私の隣に入ろうとする?」
姫「一つの面に二人いないと、一緒に見れませんよ?」
魔王「……仕方ないな。ほれ」
姫「おじゃましまーす」
魔王「で、何を見るんだ。かったるい恋愛ものだなど抜かしたら、今すぐ寝てやるからな」
姫「そういうのは一人でも見れますから……二人でないと見れないものです!」
魔王「ほう……で、ジャンルは?」
姫「血肉まみれのホラー映画です!」
魔王「……なあ、お前」
姫「はい?」
魔王「目の前の者が魑魅魍魎の類の大ボスだと、知っているよな?」
姫「知っていますよ?」
姫「ううう……怖いです怖いです」
魔王「……」
姫「だ、駄目です!そっちは絶対一人で行っちゃ駄目です!」
魔王「……騒ぐな」
姫「ああー!『すぐ戻る』だなんてそんなこと言っちゃ……きゃー!!」
魔王「腕に……しがみつくな」
姫「こ、怖かったです……」
魔王「私も恐ろしかった」
姫「ま、魔王を震え上がらせるとは……やはり凄い映画でしたのね」
魔王「ああうん。それでいい。もう夜も遅い。寝ろ」
姫「え」
姫「あれを見て眠れるわけないじゃないですか……夢に出てきたらどうするのですか!」
魔王「お前、昨夜どこで寝た」
姫「ここですよ?」
魔王「誰がいた」
姫「貴方がゲームしていました」
魔王「で、今夜は怖くて眠れないと」
姫「はい!」
魔王「はあ……分かった」
姫「は、はい?」
魔王「眠気の限界まで付き合ってやる」
姫「あ、ありがとうございます!じゃあ、また映画でも見ましょうか」
魔王「ああ……もう少しまともな映画を頼む」
姫「ではファンタジー映画でも見ましょう!魔王が勇者に倒されるような王道物!」
魔王「悪意が無いのがこれまた酷い」
半月後――
姫「うー……」
魔王「何だ?」
姫「じゃーんけーん」
魔王「ほれ」
姫「か……代わりにお花を詰みに行って下さいませ」
魔王「だから、それは無理な話だと何度言えば」
姫「……使えない魔王です」
魔王「こういう面で使えても困るだろう」
姫「そういえば最近、お城が静かになりましたねえ」
魔王「ああ」
姫「どうしてでしょうか?私が来た頃は、もっと魔物さん達が騒がしくしていたはずですのに」
魔王「以前、お前が猫を連れて来いと言っただろう」
姫「はい。あの獣人さんには悪い事をしました……」
魔王「あいつのせいだ。静かなのは」
姫「?」
魔王「あいつはこの部屋で見たこたつを、えらく気に入ってしまったようでな」
姫「はい」
魔王「独自に開発を行い、大量生産までこなしてしまったらしい」
姫「ということは……今やこのお城は」
魔王「私達並の、こたつ中毒者まみれとなってしまった……」
魔王「しかし私はまだ屈さぬ……今はまだこのような体たらくだが、いずれ春の訪れと共に人間共を恐怖に陥れ……」
姫「春と共に目覚めるだなんて、平和な存在ですねえ」
魔王「くっ……まだ大丈夫だ。私はまだまともだ……貴様とは違う」
姫「そう仰るのでしたら……5Vメタモンは渡しませんよ?」
魔王「もう駄目で良い」
姫「よろしいでしょう」
6Vでしたねー!所詮その程度の知識よ!!
魔王「まあしかし、今から春に行うべき悪事を考えておくのもいいだろう」
姫「でも、あんまり長引くような悪い事だと、次の冬にこたつでだらだら出来ませんよ?」
魔王「む……それはかなり死活問題だな」
姫「お手軽簡単な悪事と言えば……あ」
魔王「何か名案でも?」
姫「魔王様……」
魔王「何だ」
姫「魔王様はご存知ないのですね。我が国にはもう一つ、宝があるのです」
魔王「な……それは一体」
姫「暑い夏を少し快適に、だらだら過ごすためだけに使われ、その指し示す方向を人々が追い求めると言う……」
魔王「……名は?」
姫「"せんぷうき"……と申します」
魔王「よし分かった。次はそれを要求しよう」
姫「あ、その際は一つお願いが」
魔王「?」
姫「私には嫁いだ姉さま達がおりますが……彼女らの身はどうか要求しないで下さいね」
魔王「……お前がいれば他に何も必要ないだろう」
姫「……はい!」
【完】