1 : HAM ◆HAM/FeZ/c2[... - 2012/09/03 23:13:34 roT2zndI 1/80

少女「……」

「……」

少女「え、ここ、どこ??」

「……あん?? なんだ、ここ」

少女「……」

「……」

少女「あんた、誰」

「お前こそ誰だよ」

元スレ
少女「記憶の中でずっと二人は生きていける」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1346681614/

2 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/03 23:20:10 roT2zndI 2/80

少女「あれ、私、死んだはずじゃあ」

「あ、そういやおれも、死んだ気がする」

少女「……」

「……」

少女「じゃあここ、天国??」

「んん、地獄ではなさそうだけど」

少女「真っ白だね、この部屋」

「地獄は真っ黒か赤いイメージだしなあ」

3 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/03 23:25:48 roT2zndI 3/80

少女「地獄に行くほど悪いこと、してないし」

「ああ、おれもだよ」

少女「でも天国というには殺風景すぎるよね」

「なんの部屋だろう」

少女「ドアも窓もないし」

「あそこにノブだけあるぞ」

少女「死んだ人が来る部屋かなあ」

「じゃあ、続々と後からもやってくるのか」

少女「うわ、いやだな」

「死んだときの姿でってことはねえよな」

少女「やめてやめて!! 気持ち悪い!!」

4 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/03 23:33:01 roT2zndI 4/80

「ちょっと、あのノブ回してくる」

少女「うん」

「ん……」グイ

少女「どう??」

「開かない」

少女「ま、そうでしょうね」

「閉じ込められてんのかなあ」

少女「どうせ死んだんだし、どうでもいいよ」

「さっぱりしてんなあ」

5 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/03 23:40:32 roT2zndI 5/80

「君、いくつ??」

少女「14」

「死ぬには若すぎないか」

少女「そっちだって、たいして変わんないじゃん」

「まあ、そっか」

少女「あんた、いくつ」

「18」

少女「受験のストレス??」

「おい、自殺だと決めつけんな」

6 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/03 23:44:40 roT2zndI 6/80

少女「違うのか」

「違うよ、事故だよ事故」

少女「事故かあ、私も一緒」

「車??」

少女「うん、交差点でね」

「そっか、痛かった??」

少女「覚えてないよ」

少女「知らないうちにこの部屋に来てた」

「そっか」

7 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/03 23:51:59 roT2zndI 7/80

少女「あんたも車の事故??」

「いや、学校の屋上から落ちて」

少女「それ自殺じゃん!!」

「いや、違うんだって、友だちと、その、じゃれあってたらさ」

少女「付き落とされたの!? 殺人じゃん!!」

「いや、違う違う」

少女「犯人はその友だちじゃん!!」

「違うって」

8 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/03 23:55:50 roT2zndI 8/80

少女「痛かった??」

「覚えてない」

「ふわっと落ちてる間に気を失ったんだと思う」

「あーこれ死ぬわ、って思ってるうちに、この部屋に来てた」

少女「楽に死ねて、良かったんじゃない」

「んん、不幸中の幸いというか」

少女「あ、それ、まさにその言葉が合うね」

9 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/03 23:59:47 roT2zndI 9/80

「なんだろう、この、死んだはずなのに実体がある違和感」

少女「ね」

少女「夢って感じでもないし」

「ドッキリ??」

少女「誰がそんなこと仕掛けるのよ」

「共通の知り合いが……」

少女「いるわけないじゃん」

「実はおれたちには血のつながりが……」

少女「安いドラマかい」

15 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 20:17:41 VUvGM1Dw 10/80

「でも、死んだっぽいのは本当だと思うんだよなあ」

少女「私も」

「あ、そうだ、君はなんで死んだの?」

少女「だから、交差点で、車が突っ込んできて」

「余所見でもしてたの?」

少女「私が? 運転手が?」

「君が」

少女「ああ、いや、余所見って言うか……」

「ん?」

少女「友だちがさ、危なかったのよ」

16 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 20:22:03 VUvGM1Dw 11/80

「友だち?」

少女「そう」

少女「一緒に交差点を歩いてた友だち、ね」

「ふうん」

少女「で、そいつを突き飛ばして、代わりに私が轢かれたっていうか」

「自分が犠牲になって友だちを助けたわけか」

少女「ああ、うん、結果的にはそうなんだけど、そんな風には考えてなかったし」

「美しい友情だな」

少女「ううん、そういう風に言われてもなあ」

少女「無我夢中だっただけだから」

17 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 20:28:09 VUvGM1Dw 12/80

「じゃあ間違いなく天国行きだな」

少女「んー」

「まだ若いのに、良くできた子だ」

少女「もう、その上から目線の言い方、やめてくんない」

少女「あんたもまだ若いでしょうに」

「『でしょうに』っていう言い方は、若くないな」

少女「うるっさい!!」

「大人ぶってるのか?」

少女「違う!! お姉ちゃんの影響だっつうの」

「お姉ちゃんがいんのか」

少女「そうよ、私より何倍も何倍も良くできるお姉ちゃんよ!!」

「なに怒ってんだよ」

18 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 20:37:54 VUvGM1Dw 13/80

少女「怒ってなんかない」

「いつも優秀な姉と比べられたのか」

少女「……」

「図星か」

少女「わかんないわよ、あんたには」

「わかるよ」

少女「適当なこと言わないで」

「おれにも優秀な兄がいたからなあ」

少女「……そう」

19 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 20:49:11 VUvGM1Dw 14/80

少女「でもまあ、私じゃなくてお姉ちゃんが死んでたら、もっと辛かっただろうし」

「……」

「なんで」

少女「代わりに私が死んでたらよかった、みたいに言われたり」

「やめろって」

少女「聞いたの、あんたじゃん」

「ん、そうだけどさ」

少女「あんたも、同じこと思ってるんじゃない?」

「死んだのが兄貴の方じゃなくてよかった、てか」

少女「……うん」

「はっ」

20 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 20:55:09 VUvGM1Dw 15/80

「誰かの代わりに死ぬ、なんてのは死ぬ側の身勝手な妄想だ」

「そんな現実はないんだよ」

「死んだのはおれ!! 兄貴に代わりでもなんでもなく」

「ただただ平凡なおれという人間が死んだだけ!!」

少女「……そうね」

「君もだよ」

「姉ちゃんではなく君という人間が死んだんだ」

「友だちの代わりに、ではなく、君個人が死んだんだ」

少女「……うん」

「君は、あれだろ、友だちがどう思っているかを気に病んでいるんだろ」

少女「……」

21 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 21:02:41 VUvGM1Dw 16/80

「私の代わりに、あの子が死んじゃった、どうしよう」

「そんな風に友だちが思ってないか、心配してるんだ」

少女「……」

「優しい子だね、君は」

少女「女の子じゃないの」

「あん?」

少女「男の子よ、その友だちって」

「あ、そう、そりゃあ早合点してたな」

22 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 21:08:38 VUvGM1Dw 17/80

少女「今どう思ってるかな、って、ちょっと不安になる」

「……わかるよ」

少女「あのねえ、さっきからさあ、なんか人を見下してない?」

少女「私の気持ちがわかるって言うの?」

「わかるよ」

少女「どうしてよ」

「おれも、似たような死に方をしてるからだよ」

少女「ん……」

24 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 21:14:56 VUvGM1Dw 18/80

少女「そ、そう」

「自分の死のことを、自分のせいだ、なんて重荷に思ってほしくない」

少女「……」

「だけど、なにも感じていないのも寂しい」

少女「……」

「そういう、曖昧な感じだろ」

少女「……なんで、わかるの?」

「だから言ったろ、おれも同じような死に方をしたんだって」

25 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 21:27:03 VUvGM1Dw 19/80

少女「どんな?」

「屋上でさ、友だちとじゃれあってたって、言っただろ」

少女「うん」

「友だちのさ、ハンカチがさ」

少女「ハンカチ?」

「そう、気に入らなくてさ、取り上げて」

少女「取り上げて? あんたガキじゃないの!?」

「おっしゃる通り」

少女「友だちのハンカチを気に入らないからって?」

少女「そんなのその人の勝手じゃん!!」

「おっしゃる通り」

26 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 21:33:43 VUvGM1Dw 20/80

少女「はあ、ちょっと意味わからない」

「あの、その友だちってのはさ、女でさ」

少女「ああ」

「別の男からもらったプレゼントらしくてさ」

少女「はあ」

「なんつーか、嫉妬って言うか」

少女「その女の人、あんたのなんなのよ」

「……友だち」

少女「じゃあ、あんたに嫉妬される筋合いはないじゃんか」

「……おっしゃる通り」

27 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 21:40:15 VUvGM1Dw 21/80

少女「片思いってわけね」

「うん」

少女「で、他の男のプレゼントに嫉妬して、取り上げて、それで?」

「屋上で走り回って、バランス崩して」

少女「ハンカチは?」

「握りしめたまま、落ちた」

少女「もう、なんていうか、最低な死に方ね」

「返す言葉もないよ」

少女「その人にしてみたら、ほんと、5割増しで最低ね」

「……はあ」

28 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 21:54:19 VUvGM1Dw 22/80

少女「わからないでも、ないけどね」

「嘘つけよ」

少女「慰めで言ってるんじゃないよ」

少女「私も、そうだったもん」

「はあ?」

少女「その男の子のこと、好きだったもん」

「……」

少女「だから、自分の命のことなんか、全然考えてなかったもん」

「……」

少女「あいつが死んだら嫌だって、そんなことしか、考えてなかったもん」

29 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/04 22:04:34 VUvGM1Dw 23/80

少女「付き合ったりとかじゃなかったけど、でも、それでもいいっていうか」

少女「一緒に帰れるだけで、嬉しかったし」

少女「一緒にいられるだけで良かったんだもん」

「……」

少女「大袈裟じゃなく、あいつじゃなくて、死んだのが私でほんと良かった」

「……」

「それって……」

ガチャリ

少女「!!」

「!!」

31 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 19:29:17 SMJlWAL. 24/80

少女「ドアが……開いた?」

「……」

「失礼します」

「御二方、御自分の状況を把握しておられますか?」

少女「……は、はあ」

「死んだってことくらいは、まあ」

「ええ、十分です」

少女「あの、ここはなんなんでしょうか」

「ああ、それ、それを聞きたかった」

32 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 19:34:56 SMJlWAL. 25/80

「ここは、天国と地獄の間です」

少女「はあ」

「なるほど?」

「正確には、天界と冥界の間です」

少女「うん?」

「な、なるほど?」

「まあ、簡単に言いますと、天界へ行くか冥界へ行くか、その審判の待合室です」

少女「ああ、それが一番わかりやすい」

33 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 19:39:59 SMJlWAL. 26/80

「いつまで待ってりゃあいいの?」

「ええと、今は待っている人が少ないので、一日もあればどちらも呼ばれると思います」

少女「一日!?」

「それって遅いんじゃないの?」

「人死にが多いと、何日も待つ場合もありますので」

少女「はあ」

「よくわかんねえけど、呼ばれるまで待ってたらいいのか」

「ええ」

少女「貴方は天使?」

天使「ええ、そういう役割を仰せつかっております」

「天使ね、実在するとは」

35 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 19:45:33 SMJlWAL. 27/80

少女「ここで一日過ごしてたらいいのね」

「ヒマだなあ」

天使「四方の白い壁は、念じれば現実世界の様子が見られるスクリーンになります」

少女「へえ」

「すげえ」

天使「それを見て、現世との別れを惜しむのも悪くないかもしれません」

少女「ううん、どうしよ」

天使「見る見ないは自由ですから、お好きになさっていてください」

36 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 19:53:47 SMJlWAL. 28/80

バタン

「なんの話、してたっけ」

少女「もう、いいよ」

「あ、そうだ、君の友だちの話」

少女「うん、もう、いいの」

「好きだったんだろ、見ないの? スクリーンで」

少女「……どうしよっかなあ」

「怖いか」

少女「そりゃあね」

少女「あんただって、そうでしょ」

「まあね」

37 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 20:01:34 SMJlWAL. 29/80

少女「あんたもさ、そのハンカチの持ち主の女の人がさ、重荷に思ってないか心配なんだ」

「ていうか、おれの場合は完全におれが悪いからなあ」

少女「そうだけど」

「目の前で自分のハンカチ持ったまま落ちて死んだ同級生に、同情はできないよなあ」

少女「そうだけど、さ」

「トラウマになってないか、心配」

少女「あはは、そっちか」

38 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 20:38:41 SMJlWAL. 30/80

「おれは、見てみようかな」

少女「……そう」

「別に、君も見てもいいからな」

少女「……うん」

「んっと、どうやんのかなあ」

ヴォーン

「お、出た出た」

少女「……」

39 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 20:45:10 SMJlWAL. 31/80

「……」

『あいつは……まだ……18だぞ!!』

「兄貴……」

『どうして……どうして……くぅっ』

「ははは、なんか、申し訳ないな」

『馬鹿野郎……おれより先に死にやがって……』

「親父……」

『くそっ……くそっ……』

「……」

40 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 20:51:01 SMJlWAL. 32/80

少女「ねえ、辛くなるなら見ない方が……」

「いい、全部見る」

少女「でも」

「辛くなってもさ、仕方ねえじゃん」

「そもそもおれが阿呆な死に方をしたのが悪いんだし」

少女「ん……」

「反省して、うん、天界でも冥界でも行って、もっと反省する」

41 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 20:57:54 SMJlWAL. 33/80

『馬鹿な死に方して……あの子はほんとに……』

「母ちゃん……」

『なんで……なんでこんな……』

「母ちゃん、御免」

「おれが悪いんだよ」

『屋上でふざけあってたって言う、あの子たちが悪いのよ……』

「違う!! おれが悪いんだ!! あの子は悪くないんだ!!」

「おれが……」

42 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 21:04:26 SMJlWAL. 34/80

少女「……」

ヴォーン

『あの子は、優しい子だった』

少女「お姉ちゃん……」

『私には、ないものを、たくさん……うぅっ』

少女「……」

『早すぎる……早すぎるわよぉっ……』

『本当に……どうしてあの子が……』

少女「ママ……」

43 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 21:13:38 SMJlWAL. 35/80

『あの子が事故に遭っているとき……おれは……涼しい部屋で……書類なんか見ていて……』

『あの子の苦しみも知らず……あの子を想ってやれず……』

少女「パパ……」

『もっと……もっと構ってあげれれば良かったっ……』

少女「うっ……うっ……」ポロポロ

『それは、私も同じよ……』

『あの子……ずっと私に遠慮していたもの……』

『もっとお姉ちゃんらしいこと……してあげるんだったわ……』

少女「そんなこと……言わないで……」ポロポロ

44 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 21:19:27 SMJlWAL. 36/80

プツン

「……」

少女「見るの、やめちゃったの?」

「ああ、ちょっと、精神的に来るものがあるな」

少女「……私も」

「なんだ? 目が赤いぞ?」

少女「……気のせい」スイッ

45 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 21:24:10 SMJlWAL. 37/80

「泣いたのか」

少女「……」

少女「いいじゃない、別に」

「悪いなんて、言ってないよ」

「悲しくて泣けるなら、人間らしい」

少女「人間らしくなかったら、どうなるの?」

「悲しくても泣かない」

少女「そんな人、いっぱいいるでしょう」

「じゃあ、えっと、悲しいとき笑う」

少女「それ、ただの変な人じゃん」

46 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 21:36:57 SMJlWAL. 38/80

「悲しいという感情がない」

少女「ああ、それは人間らしくないね」

「……」

「……なんの話をしてたんだっけ」

少女「忘れちゃった」

「悲しいのはどんなとき、って話だっけ」

少女「そんな話、してたかな?」

47 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 21:44:53 SMJlWAL. 39/80

「おれさ、15のときにさ、ばあちゃんが死んで」

少女「うん」

「病院で、めちゃくちゃ泣いたんだ」

少女「……うん」

「身近な人が死ぬのって、それが初めてだったから」

少女「……うん」

「なんか、リミッターが外れたって言うか、ボロボロ涙が勝手に出てさ」

少女「……うん」

48 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 21:49:33 SMJlWAL. 40/80

「でも、落ち着いたら、すごくすっきりしたんだ」

「ばあちゃんは、高齢だったし、大きな病気とかもしなかったし」

「天国で幸せに暮らしてね、って素直に思えたんだ」

少女「寿命なの?」

「うん、まあ、そうかな」

少女「私、おじいちゃんもおばあちゃんも、まだ生きてるの」

「そっか、羨ましいね」

少女「でもいつか、死んじゃうんだよね」

「そうだね」

49 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 21:57:28 SMJlWAL. 41/80

少女「私ね、お葬式って、行ったことがないの」

「そう」

少女「どんな感じ?」

「ん、みんな下向いてて、寂しくて、暗い感じ」

少女「行ったことあるの?」

「ばあちゃんのとき、一回だけだけどな」

少女「悲しかった?」

「おれは、病院でひたすら泣いたから、葬式では泣いてないよ」

少女「そっか」

50 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 22:05:35 SMJlWAL. 42/80

「なんか、気になる?」

少女「ん? んっと、私のお葬式って、どうなるのかなあ、とか」

「ああ、そうか」

「明日は、おれたちの葬式か」

少女「今日じゃないの?」

「今日はお通夜かな、たぶんね」

「宗派にもよるだろうけど」

少女「宗派ってなに?」

「仏教か、神道か、みたいな」

51 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 22:13:27 SMJlWAL. 43/80

少女「仏教はわかるけど、神道ってなに?」

「えっと、家に神棚か仏壇かある?」

少女「神棚があるよ」

「じゃあ君んとこは、神道だ」

少女「そうなの?」

「たぶんね」

「それ以上の細かいことは、詳しくないけどさ」

少女「ふうん」

52 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 22:24:43 SMJlWAL. 44/80

「今日、お通夜があって、明日は火葬して……」

少女「火葬って……」

「焼いて、埋めるんだよ」

少女「私たちの身体、焼かれちゃうの?」

「……そうなるね」

少女「身体、なくなっちゃうの?」

「……そうだね」

53 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/05 22:30:43 SMJlWAL. 45/80

少女「なんか、実感わかないなあ」

「まあ、まだ実体はあるもんねえ」

少女「お通夜の様子、見てみようかな」

「悲しくなるよ?」

少女「悲しくて泣くのが、人間らしいって、さっき言ってたじゃん」

「そうだけど……」

少女「泣いてすっきりするの、私も」

「そうかい」

57 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 20:38:39 vXX/6iJ2 46/80

少女「今何時なんだろうねえ」

「わっかんねえなあ」

少女「ここに来てからどれくらい経ったんだろうねえ」

「わっかんねえ」

少女「なんかさあ、こういう映画あったよね」

「どんな?」

少女「なぜか、見知らぬ部屋に閉じ込められてるってやつ」

「よくあるよな」

少女「ホラーにもコメディにもあるよねえ」

「ああ」

58 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 20:45:49 vXX/6iJ2 47/80

少女「ああいう人たちって、どうやって時間を知ってたんだっけ」

「さあ?」

少女「携帯とか、持ってない?」

「ポケットにはなんも入ってなかった」

少女「そっか」

「ハンカチも、持ってなかった」

少女「それは、いいでしょ、別に」

「あいつの」

少女「ああ」

59 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 20:52:35 vXX/6iJ2 48/80

「まだ、現世は明るいみたいだったけれど」

少女「お通夜って、夜だよね、だいたい」

「まあそうだろうな」

少女「それまで、なにしようかなあ」

「あの、友だちの」

「やっぱなんでもない」

少女「ははは、私もそれ考えてたんだけどさ」

「……うん」

少女「やっぱちょっと、勇気、いるよね」

「ああ」

60 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 20:59:11 vXX/6iJ2 49/80

少女「でも、見ないと、きっと後悔する」

「そうだな」

少女「だから私、見るよ」

「偉いな、君は」

少女「え?」

「おれがビビって足踏みしてる間に、どんどん先に行くんだもんな」

少女「でも、スクリーンを最初に見たのは、あんたの方だったでしょ」

61 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 21:09:17 vXX/6iJ2 50/80

「そうだっけ」

少女「あんたも、友だちの姿を見るのを怖がってる」

「……ああ」

少女「私も、怖いよ」

「……だろうね」

少女「だからさ、せーので見ようよ」

「……はは」

少女「なによ」

「いいアイデアだ、と思ってね」

少女「……でしょ」

62 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 21:17:15 vXX/6iJ2 51/80

……

「よし、じゃあ見よっか」

少女「うん」

「背中合わせで座ろうか」

少女「……うん」

「ふーっ」

少女「ふーっ」

「よし、いくぞ」

少女「や、や、や、ちょっと待って!!」

63 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 21:22:42 vXX/6iJ2 52/80

「なんだよ」

少女「心の準備が」

「ったく、さっきまでの威勢はどこ行った」

少女「大丈夫、大丈夫」

「そうそう、大丈夫」

少女「うん」

「どうせさ、おれらは死んでるんだから、客観的に見てようぜ」

少女「そんな自信ないけど……」

「いいから、ほら、いくぞ」

少女「うん」

64 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 21:29:13 vXX/6iJ2 53/80

ヴォーン

「あれ、もう、お通夜の時間?」

ざわざわ

「クラスのやつら……先生……叔父さん……叔母さん……」

『あんなにいい子が……』

『このたびは誠に……』

『お悔やみ申し上げます……』

「みんな……」

ぐすっ……えぐっ……ひっく……

「みんな……おれのために……」

65 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 21:34:45 vXX/6iJ2 54/80

ヴォーン

少女「これが……お通夜?」

ざわざわ

少女「みんな……先生……」

『このたびは……』

『あのトラック……許せない……』

『神も仏も……ありませんね……』

少女「パパ、ママ……」

『本日は、あの子のために、ありがとうございます』

少女「ほんと、こんなに集まってもらえて、私、嬉しいよ」

66 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 21:41:18 vXX/6iJ2 55/80

ヴォーン

「みんな……泣いて……」

「おれなんかのために……」

『あいつは、真面目で、いつも一生懸命勉強して……』

「先生……」

『いつも、おれ、相談聞いてもらってました』

『今でも、あいつには感謝しています』

『……もっと……伝えたかったっ……』

「くぅっ……」ポロポロ

67 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 21:49:00 vXX/6iJ2 56/80

ヴォーン

ぐすっ……ひっく……うぇ……うぇ……

『うぇえ……悲しいよ……悲しいよ……』

『もっと一緒に……遊びたかったよっ……』

少女「私も……だよ……」ポロポロ

『いつもみんなのことを考えて動ける、優しい子でした……』

『私たちが喧嘩したときも、間を取り持ってくれて……』

『なんで……死んじゃったの……うぅっ』

少女「御免ね……御免ね……」ポロポロ

68 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 21:53:13 vXX/6iJ2 57/80

ヴォーン

「お開きか……みんな帰っちゃったな……」

「ていうか、おれの遺影、もっと男前のやつなかったのかよ……ふふっ」

「あ……」

『……』グスッ

「残ってくれてたんだ……」

『……』グスッ

「でも、どうして……」

69 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 22:02:23 vXX/6iJ2 58/80

「……」

『御免ね……御免』グスッ

「なんで、謝ってるの」

『私、酷いこと、したね』グスッ

「なんで? 君はなにも悪くないよ」

「おれが勝手に嫉妬して、勝手に死んだんだから」

『なんで、あんなことしたんだろうね、私』グスッ

「なに、言ってるの?」

70 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 22:09:57 vXX/6iJ2 59/80

ヴォーン

少女「お通夜って短いんだね……」

少女「もうみんな、いないのかな……」

少女「あ……」

少年『……』ポロポロ

少女「残ってくれてたんだ……」

少年『……』ポロポロ

少女「でも、泣いてる……」

71 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/06 22:17:05 vXX/6iJ2 60/80

少年『御免なさい、御免なさい……』ポロポロ

少女「あんたは悪くないよ、あんたが無事だったら、それでいいの」

少年『僕、僕、トロくて、いつも、君に迷惑かけて……』ポロポロ

少女「そんな風に思ってない!!」

少女「ずっと大好きだった!!」

少年『僕の代わりに君が死んで……うぅっ』ポロポロ

少女「今でも大好きなんだから!!」

74 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/07 23:17:00 5pYQ.YMk 61/80

ヴォーン

『私ね、君にね、焼きもち焼かせたかったんだぁ……』グスッ

「え……?」

『いつも、さ、曖昧な関係だったでしょ、私たち』グスッ

「え? え?」

『だから、私のこと、どう思ってるのかなって、それであんなこと、しちゃって』グスッ

「……」

『御免ね……御免なさい……』ポロポロ

「そんな……」

『許してなんて……もらえないの……わかってる……』ポロポロ

「そんなこと……」

75 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/07 23:23:32 5pYQ.YMk 62/80

「はは……死んでから気づくなんて……遅かったな……おれ」

「ほんと、馬鹿だなあ……」

『御免ね……御免ね……』ポロポロ

「謝る必要、ないよ」

「おれが馬鹿だった、ただそれだけだ」

『……』ポロポロ

「ハンカチ、御免ね」

76 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/07 23:29:27 5pYQ.YMk 63/80

ヴォーン

少年『あのとき……僕……フラフラしてて……また君に迷惑をかけて……』ポロポロ

少女「そんな風に言わないで!!」

少年『僕が死ねば……』ポロポロ

少女「そんな風に言わないでったら!!」

少女「もう十分だから!! 自分を傷つけないで!!」

少年『御免ね……ほんと……ダメだ……僕……』ポロポロ

少女「もう!!」

77 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/07 23:37:28 5pYQ.YMk 64/80

少年『もう一度会って……君に……謝りたい……』ポロポロ

少女「ぅうっ……」

少年『御免ね……御免ね……』ポロポロ

少女「わ……私だって……もう一度……会いたいよ……」

少年『……』

少女「会いたい!! 会いたい!!」

少年『……』

少女「まだ!! まだ死にたくないよぉ!!」ポロ

少女「死にたくない!! もっと生きて……生きていたかった!!」ポロポロ

78 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/07 23:44:13 5pYQ.YMk 65/80

少女「うああ……ああああん」ポロポロ

少女「死にたくないよぉ……なんで……なんで……」ポロポロ

少女「もっと、お喋りして、一緒に、帰って」ポロポロ

少女「ぐす……ひっく……」ポロポロ

少女「楽しい毎日を……もっと……もっと……」ポロポロ

少女「過ごしたかったのに!!」ポロポロ

少女「もっと続くと思ってたのに!!」ポロポロ

少女「ぅあぁああああん……」ポロポロ

「……」

79 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/07 23:48:35 5pYQ.YMk 66/80

少女「……」グス

「ねえ」

少女「……なに?」グス

「おれが偉そうに言うことじゃないかもしれないけれど」

少女「……」

「おれたちはさ、やっぱさ、死んだんだよ」

少女「……わかってるわよ、そんなこと」

「おれもさ、わかるよ、生きてたいって気持ち」

少女「……うん」

80 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/07 23:53:48 5pYQ.YMk 67/80

「だけど、その、なんていうか、おれたちは死んだけど、存在が消えるわけじゃない」

少女「?」

「現にさ、あの男の子は君のこと、心に刻んでくれてるじゃないか」

少女「心に?」

「そう」

「あの子が君のこと、忘れると思う?」

少女「……ううん」

「だろ?」

81 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/07 23:59:00 5pYQ.YMk 68/80

「思い出に残ることができるじゃないか」

少女「……」

「おれたちは死んだけどさ、みんなの記憶の中で、ずっと二人は生きていけるんだよ」

少女「記憶の中で……ずっと二人は……生きていける……」

「そう」

「君のパパも、ママも、お姉ちゃんもさ、君のこと、忘れないよ、きっと」

少女「……うん」

少女「あんたも……家族と、あの子の心の中で……」

「ああ、生きていけるんだ」

82 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/08 00:06:55 Fvyr7wBc 69/80

少女「ありがと」

「ん?」

少女「なんか、すっきりしちゃった」

「ははは」

少女「泣いてすっきりするって、こういう感じなのね」

「そうそう」

少女「一つ勉強になりました」

少女「さすが、私より長く生きてるだけあるのね」

「そんなに変わんねえよ」

83 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/08 00:12:57 Fvyr7wBc 70/80

少女「ねえ……こっちからさ、現世に言いたいことは伝わるかな」

「ん……どうだろう」

少女「あいつに、思いっきり叫びたいんだけど、色々と」

「ああ、おれもだ」

少女「叫んだらさ、ちょっとは伝わるかな」

「やってみようか」

少女「うん」

ガチャリ

天使「……?」

84 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/08 00:18:36 Fvyr7wBc 71/80

「おれは!! お前が好きだった!!」

「ていうか今でも好きだ!!」

少女「ねえ!! いっつも一緒にいてくれて、ありがとう!!」

少女「大好き!! すっごく好き!!」

「気付かなくて馬鹿な真似して御免!! 嫉妬して御免!!」

「あんな死に方して御免!! 目の前で死んじゃって御免!!」

少女「あんたは悪くないよ!! むしろあんたを庇って死んだこと、胸を張れる!!」

少女「今までありがとう!! ずっと忘れないから!!」

85 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/08 00:26:20 Fvyr7wBc 72/80

『許してくれるまで……ずっと償い続けるから……』

「気持ちだけで十分!! もうもらってる!! 十分!!」

少年『僕……君の分まで……一生懸命生きるから……』

少女「重いよ!! もっとリラックスして!! 気楽に元気に生きて!!」

『御免ね……でも、ありがとう』

「!!」

少年『ずっと忘れないから!!』

少女「!!」

86 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/08 00:32:55 Fvyr7wBc 73/80

「ありがとう……か」

「そうだよ、『御免』なんかより、そっちの方がいい」

少女「忘れないで……いてくれるの……?」

少女「嬉しい……嬉しい!!」

天使「……」

88 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/08 00:38:48 Fvyr7wBc 74/80

「伝わったかな、気持ち」

少女「どうかなあ」

「まあ、伝わんなくても、すっきりしたからいいか」

少女「そう!! 終わりよければすべてよし!!」

天使「……」

「うおっと!! いつの間に」

少女「や!! びっくりした」

天使「ええ、ええ、邪魔してしまって申し訳ありません」

89 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/08 00:45:37 Fvyr7wBc 75/80

天使「御二方、スクリーンをご覧ください」

「ん?」

少女「なあに?」

天使「私からの、ささやかな悪戯です」

「……?」

少女「……?」

「うお!!」

少女「や!!」

『遺影がウインクした!!』

90 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/08 00:51:20 Fvyr7wBc 76/80

天使「では、失礼します」

「ははは、びっくりした」

少女「あんなん見たら、腰抜かすよね」

「ははは、あいつ、ポカーンてしてる」

少女「あはは、あいつも目が点になってる」

「でも、これで、伝わったかなあ」

少女「素敵なプレゼントだったね」

「ああ」

91 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/08 00:56:30 Fvyr7wBc 77/80

天使「あ、そうそう、忘れていました、仕事」

「仕事?」

天使「大天使様がお呼びです」

天使「今から御二方とも、審判が下ります」

少女「ああ、そっかそっか」

少女「天国行きか地獄行きか」

「へいへい、そうだったな」

天使「まあ、そんなに身構えなくて大丈夫ですよ」

天使「地獄で拷問を受けたり、なんていうのはありませんから」

少女「そっか」ホッ

92 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/08 01:06:27 Fvyr7wBc 78/80

「あのさ、生まれ変わりって、あるの?」

天使「ありますよ」

少女「じゃあ、またあいつと会える?」

天使「さあ、それは……貴方の頑張り次第ですね」

少女「ふうん?」

「おっし、行こうか」

少女「うん」

93 : 以下、名無しが深夜にお送りします... - 2012/09/08 01:09:27 Fvyr7wBc 79/80

「じゃあな!!」

『……じゃあね』

少女「またね!!」

少年『……また、会えるといいな』


★おしまい★

94 : HAM ◆HAM/FeZ/c2[... - 2012/09/08 01:13:04 Fvyr7wBc 80/80

またどこかで

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