【第11話】
―第10話から1年の時が経った―
【魔王城・魔王の部屋】
大臣「先日の勇者と魔王様の共同宣言、影響は両国ともにかなりのものでしたぞ」
魔王「けっ!あの時のことを思うと胸くそ悪いわ!!」
元スレ
魔王「勇者よ、ここで終わりだ!」勇者「ちいぃッ……!」 【完全版】
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《3日前》
【魔王国・人間国国境】
勇者『と、言うわけで私は魔王との会談を経て、両国の和解を提案する!』
女A「キャー!!!!!!イケメン!!!!!!」
女B「ステキー!!!!!!!」
サキュバス「ダイテーーー!!!!!!」
メイド長『はい、と言うわけで勇者様ありがとうございました。続いて魔王様の………』
魔王『あ……あー、えー、あのー、魔王国の皆さんこんにちは。人間国の皆さん、はじめまして……ええ、我輩が先程ご紹介に預かりました………』
「キャー!!!勇者さまこっちむいてーー!!!」
「勇者さまと目があったぁ!!!!!!!!!!!!」
「ヤダー!!!!!!キャー!!!!!!!!!」
魔王『あの………我輩………魔王と………もうすもので…………』
魔王『ええ………あー、今回人間国との和解を…………』
「勇者さま!かっこいー!!!!!!」
「ステキ!!!!!!!!!!!!」
「イケメン最高!!!!!!!!!」
魔王『我が輩の話……聞いてよね……』
――――――――
魔王「くうううう!!!!我輩側が大分譲歩してやってるってのに何だあの態度は!!超ムカつく!!!」ドンッ
大臣「人間だけならまだしも、魔族連中までああでしたからな……」
魔王「くやしい!くやしい!くやしい!くやしい!くやしい!くやしい!」ジタバタジタバタジタバタジタバタ
魔王「人間って、超頭おかしいんじゃないの!」
魔王「色々恵んでやったのに和解の条件は『次期魔王に勇者を据えること』とかさぁ!何なの!どんだけ図々しいの!!」
大臣「でも……現状勇者に対抗しうる存在は魔王国にもいないのですし、奥様と殿下のご意向でもありますし……」
魔王「もういいよ!この際魔王の座についてはどうでもいい!だけどね!娘の件に関しては、ずぇっっっっっっったいに許さんぞ!!!!!!」
魔王「見ておれ勇者!!!!!!お前を絶望の淵に………」
魔王「 叩 き こ ん で や る 」クワッ
大臣(相変わらず、ちいっっさいですなぁ…………)
【キッチン】
メイド長「らららら~♪人間国と~魔王国が仲良くなりましたわ~♪」トントン♪
勇者「やあ、メイド長。夕飯の支度かな」
メイド長「そうですわ。ふふっ、今日はご馳走ですわよ勇者様」
勇者「そうか……メイド長の料理はどれも絶品だから楽しみだな」
メイド長「そんなぁー、照れますってぇばぁー」ヒュン!ヒュン!
勇者「………ほ、包丁は振り回さないで頂けるかな」
メイド長「でも話が良い方向に向かって嬉しいですわ。和解は魔王様の悲願でしたし」
メイド長「それに勇者様が次の魔王様とあらば、死ぬまで退屈せずにすみますわね」
勇者「いや、私は和解には賛同したが、次期魔王になる事までは同意していないぞ」
メイド長「あら、でも人間国の和解の条件がそれではなくて?」
勇者「欲張り過ぎと言うものだ。そういうチキンレース的な機運が高まっているだけで、落ち着けば意見も変わろう。第一、私はそんな器ではない」
メイド長「謙遜を。器なら皆が認めている事でしょう。魔王様も飲んだということは同意してらっしゃることですし……それとも未だに魔族に嫌悪感を抱いてますの?」
勇者「まさか。ならば和解になど持ち込まんさ」
メイド長「では何故ですの?人間も魔族もあなたを次期魔王として据えることを望んでいるのに」
勇者「魔王国内部でひと悶着あったのだろう?今朝も抗議の運動が行われているという話だ」
メイド長「ええ……まあ……」
勇者「無理は無いさ。初めに彼らを迫害したのは人間であったし、人間側が魔族を敵視していたはずなのに、あっさり和解を受け入れたのは魔族の方が力関係では上だったからだ。」
勇者「しかし……人間を、ましてや魔王を脅かす存在であった勇者を嫌悪する魔族に関してはそうはいかないだろう」
メイド長「それはそうですが、魔王国は先日の演劇のお客様の様な者ばかりですわ。全ての人間の支持を得る必要はありませんでしょう?」
勇者「多数派の原則から言えば、そうかも知れない。だが根が深くデリケートな問題である以上、そう簡単に物事は進まないさ」
メイド長「でも、勇者様………」
キャアアアアアアアア!!!!!!
勇者「……また娘か」
メイド長「みたいですね勇者様。そんなことよりパンはゴマか大豆か……」
キャアアアアアアアア!!!キャアアアアアアアア!!!
勇者「………」
メイド長「勇者様ー。どうせ下らない事なんですから、気にしなくていいんですわよー」
キャアアアアアアアア!!!キャアアアアアアアア!!!キャアアアアアアアア!!!
勇者「むぅ………!」タッ
バタン!
メイド長「あーあー……もう、お人好しなんですからぁ……」
――――――
勇者「私の部屋からか!?」
勇者「……何故娘が私の部屋なんかにいるんだか分からんが」
勇者「まあいい!!!無事か!!!!!!」
ガチャッ!!!!!!
【勇者の部屋】
勇者「どうしたああああああああ!!!!!!」
魔王娘「ああ!勇者さま!」
勇者「な………」
なあああああああああ!!!!!!!!!!!!
メイド長「………勇者さまの叫び声ですわ!」タタッ
ガチャッ!!!
メイド長「どうしましたお二人とも……って」
勇者「 」
魔王娘「あらメイド長いらっしゃーい」すっぱだかー
メイド長「って……!殿下……何で勇者様のベットの上に裸で………まさか!」
勇者「い……いや………!」
魔王娘「うふふ///」
メイド長「勇者様!殿下に襲われましたの!?御貞操は!御貞操は!」
勇者「え……ま……まあ、その辺は……」
魔王娘「ちょっと!ちょっと!心配するところ違いますよメイド長!」
魔王娘「勘違いするにも普通は逆じゃありませんか!」ぷんすかっ
メイド長「……だって、ねぇ勇者様」
勇者「なぁ、メイド長」
魔王娘「………」
メイド長「それよりともかく、なーんで殿下はすっぱだかでいらっしゃいますの?」
魔王娘「よくぞ聞いてくれましたね!私はこの間勇者さまとキッスをすませました!」
勇者「いや……まあ………」
メイド長「まあ………ねぇ………」
魔王娘「最早こうなったら勇者様のお嫁さんになるしかありません!」
勇者「それは………なぁ………」
メイド長「どうかと思いますけど………」
魔王娘「でぇ、まぁ、そう言う関係なんですからぁ、早いとこ世継ぎをこしらえないと世間体が………って何言わせるんですか恥ずかしいいいいい!!!!!!!!!////」ジタバタジタバタ
メイド長「……恥ずかしがるところが違いますわよ殿下」
勇者「早く前だけでも隠したらどうか」
メイド長「ああもう、シャワーも浴びてないのにバッチいですわよ殿下」
勇者「悪いがメイド長、後で布団一式の洗濯を頼めるか」
メイド長「はいはい。もう殿下ったら、余計な仕事を増やしてくれちゃって………」
魔王娘「ちょ、ちょっとちょっと!もうちょっと違う反応ってものが……」
勇者「反応と言われても」
メイド長「そんなツルペタバディじゃ反応するもんもしませんわよ。ねぇ?」
勇者「……顔に似合わない言葉遣いはやめた方がいいぞメイド長」
魔王娘「むぅ………」しょんぼり
メイド長「しかし分かりませんね、勇者様が叫ばれたのは合点がいきますけど、なーんで殿下はあんな大騒ぎをなさったんです?」
魔王娘「そう!そうなんですよメイド長!!よくぞ聞いてくれました!」ガタッ!
メイド長「……もしかして私、余計なこと言いました?」
勇者「言った」
魔王娘「勇者さま!」ビシッ
勇者「なんだ娘」
魔王娘「私は今!大変遺憾なんですよ!」
勇者「うむ……私がなにかしたかな?」
魔王娘「したかな?じゃないですよ!なんなんですかこれは!!!!!」バッ
うふ~ん
メイド長「これは……」
勇者「なぁ………!」
メイド長「『週刊縛られる人妻サキュバス』……ですか」
勇者「い、いや!知らん!わ、私は知らんぞ、こんなもの!!」
魔王娘「さいあくです勇者さま!こんな……こんないやらしいものを……な、なんですか…こんな………」
メイド長「………」
勇者「だからだな!わ、私は知らない!私は知らないぞ!なあ、メイド長!」
メイド長「…………」
勇者(め、メイド長が……先ほどからずっと無言のままだ………)
魔王娘「メイド長!勇者様を折檻してやってくださいよ!」
メイド長「………ふふっ」
勇者(わ……笑った………?)
勇者「い、いや、ホントに私………」
メイド長「ふふふふふふ!!!!!!」
勇者(ダメだ殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される)
ポンッ
メイド長「安心しましたわ、勇者さま」ニコッ
勇者・魔王娘「えっ」
メイド長「いえね、勇者様って全く、そう言う気配がありませんでしたでしょ?」
メイド長「だから、精神的に異常をきたしてらっしゃるのか、もしくは『そっちの気』がおありなのかなって、ずっと心配していたんですわよ。」
メイド長「良かったですわぁ、ちょっと一般的には、どぎつい趣味でらっしゃいますけど、とっても勇者様らしくって」ニコッ
勇者「い…今までどう言う目で私を見ていたのかメイド長……」
魔王娘「ま、待ってくださいよ!だ…だって裸の女の人が表紙なんですよ!い、いやらしい!!」
メイド長「………どの口が言ってるんですか」
メイド長「それにね、殿方ならこれくらいお持ちになってて当然ですのよ殿下。健康的ですわ」
魔王娘「で……でも!」
メイド長「いい加減お洋服でも来たらいかがです」
魔王娘「ぐぬぬっ………」
メイド長「ま、大人の女性である以上これくらいは許容して当然ですわよ」
勇者「……私のじゃないってさっきから何度も」
魔王娘「……大人になるって……大変なんですねメイド長」
勇者「いや……だから……」
魔王娘「私…乗り越えます!勇者さまが、例えどぎつい趣味でも…受け入れます!」
メイド長「うんうん。成長なさりましたね殿下」ぐすっ
勇者「…………だから」
――――――
魔王(さーて、そろそろ勇者の株がストップ安になってるころかなぁ~♪)
ガチャッ
魔王「やいやい勇者!我輩の娘を泣かせるとは……」
魔王娘「勇者さま~♪」てててー
勇者「く、来るな!服を!服を着ろ娘!」
メイド長「めでたしめでたしですわねー」
魔王「……あれっ?」
魔王「い、いや!ほらっ!我が娘よ!」
魔王娘「なんですかクソジジイ、こっち見ないでくださいよイヤらしい」
魔王「ク………」
魔王「いや!ほら、ほら、我輩の言うとおり勇者の部屋に堂々と置いてあっただろ、猥褻物が!」
魔王娘「それがなんですか」
魔王「破廉恥だよなぁ!最低だよ、勇者って男はなぁ!!」
魔王娘「別にあれくらい当然です。大人の女性であるなら寛容すべきです」
魔王「いや!しかしだな!このP56の団地妻特集のこの……このだな、ここの………ここは酷くいやらしいだろう!!!流石に許せないだろう!」バッ
勇者「なあっ………!」
魔王「それからP125の………」パラパラ
メイド長「………っていうか魔王様、なんでそんなにその本にお詳しいので」
魔王「えっ」
魔王娘「それもそうですよね。なんで勇者様の持ってるエッチな本を……お父様がそんなに詳しく知ってるんだか」
魔王「…………」
魔王「いや……その……だな」
勇者「だから私は、そのような本、所持してなどいないのだって何度も!!」
メイド長「確かに……昨日お掃除したときにはこんなもの、ありませんでしたわよ」
魔王娘「ん?」
魔王「い……いや……だから………」
勇者「私が街に出たのは憲兵隊の劇以来だ。あの時はメイド長もずっと一緒だったであろう」
メイド長「それもそうですわねぇ…」
魔王「いや…我輩は……そのぉ………」
魔王娘「ん?ん?」
メイド長「状況からすると」
メイド長「魔王様が勇者様を陥れになるために、ご自分の成人向け冊子を勇者様の部屋に置かれたのでは?」
魔王「 」
魔王娘「お父様………また…………」フルフル
魔王「い、いや……これは……だなぁ………」
魔王娘「お父様のエッチ!ヘンタイ!スケベ!破廉恥!汚物!廃棄物!ゴミ!能無し!大便製造機!置物以下っっ!!!!!!!」
魔王「落ち着け我が娘よ!ほら、大人の女性の寛容さを………」
魔王娘「私はまだ!子供でいいです!!今日という今日は………」ポゥッ
魔王「うげぇ………!」
魔王娘「お父様のバカアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
チュドーーン!!!!!!!!!!!!
▼まおうむすめの ばくはつまほう!
魔王「また失敗したあああああああ!!!!!!」
大臣「どうして私までぇええええ!!!?」
▼まおうは とんでいった………
▼だいじんも とんでいった………
メイド長「……全く、みんな大人気ないんですから」
―――――
警備隊長「やあ、メイド長殿。すこし騒がしいようだったが」
メイド長「大したことはありませんわよ。それより何か?」
警備隊長「勇者殿を訓練に誘いたいのだが大丈夫かな」
メイド長「ええ。むしろ喜びますわよ。例によって殿下に追いかけ回されてますし」
警備隊長「ははっ。相変わらずだな、あの二人は」
メイド長「ふふっ。そうですわ、警備隊長さんのお部屋を久々に掃除しようと思ってましたのよ」
警備隊長「それはありがたい。」
メイド長「では……」
警備隊長「……さて、勇者殿を」
警備隊長「あれ。なんだか私、大変なことを忘れているような気が……」
警備隊長「………」ポクポク
警備隊長「………」ポクポク
警備隊長「!」チーン
警備隊長「ぬわあああああアアアアア!!!!!!!」
警備隊長「き!昨日買った本が机に置き放しだったのだ!!」
警備隊長「まずい!!!!」タッ
ガチャッ!!!
警備隊長「め、メイド長!やっぱり掃除は………」
メイド長「…………」
警備隊長「め……メイド長?」
メイド長「『陵辱されるメイド』『メイドの淫靡な昼下がり』『エッチなメイドがご主人様の(自主規制)を(自主規制)でお掃除しちゃいます』『汚されたメイド』『メイド』『メイド』『メイド』………」
メイド長「 素 敵 な ご 趣 味 で す わ ね 」にこっ
警備隊長「 」
▼その後、警備隊長はメイド長に1週間程口を聞いて貰えなかった………
【第11話・おわり】
【第12話】
勇者「さて、今日から警備隊にて仕事だな」
勇者「剣はもった、財布ももった、支給された制服は着た」
魔王「………」
勇者「うむ。我ながらばっちりだな!」
魔王「………」
勇者「………」
ガチャッ
メイド長「あらあら勇者様おはようございます。随分張り切ってらっしゃるご様子ですわね」
魔王「………」
勇者「ま、まあ……娘と警備隊長がどうしてもと…うるさいのでな」
勇者「このままヒモ扱いされるのもシャクだ」
魔王「………」ずいっ
メイド長「ええと、必要な品物の支度終わりました?」
勇者「あ、マズい。資料をまだまとめていなかった……」
メイド長「お手伝いしますよ」
勇者「悪いな」
メイド長「いいんですわよ。最初は警備隊の訓練に参加すること自体嫌がってらっしゃいましたのにね、うふふっ」
魔王「…………」ずずずずいっ
勇者「………あまり気は進まんがやらねばならん。人間が魔王国の自治に介入したそれ自体に意味があるのだからな」
メイド長「もう、素直じゃないんですからぁ」
勇者「べ、べつに素直とか素直じゃないとかの問題じゃあ……」
魔王「………」ずずずずずいっ!
勇者「って!先程から鬱陶しいぞ、魔王!」
魔王「ふふふふ………」
魔王「ふははははははは!!!!!!!!!」
魔王「ふははははははははははははは!!!!!!!!!!!!」
勇者「!?」ビクッ
メイド長「でましたね、嬉し恥ずかし三段笑い」
魔王「我輩はナーイスアイデアを思いついたのだよ勇者!!!!!!!!!」
メイド長「……またどんな下らないことですの」
魔王「我輩が勇者にピッタリくっついていれば娘はお前に寄らないのだ!ほらっ!」ピトッ
勇者「ひゃあ!?」
魔王娘「ぐぅぅ………お父様がクサいから近寄れないです」ぐぬぬっ
勇者「い……いたのか」
魔王「これであっぱれ解決だ!!!!!!我輩あったまいーい!!!」
魔王「ふははははははは!!!!!!」
魔王娘「ぐぬぬ………」
メイド長「………んで、魔王はお仕事どうなさるんです」
魔王「えっ」
メイド長「いやまさかこのまま一日中勇者様と同伴なさるんですか」
魔王「えっ」
メイド長「寝るときも、トイレに行くときも、自分をお慰めになるときもご一緒するので?」
魔王「えっえっ」
勇者「………『お慰め』ってメイド長よ」
メイド長「どうなさるんです」
魔王「しょ……正直そこまでは」
メイド長「と、言うわけです。勇者様の支度の邪魔ですから、魔王様も殿下も出てった出てった」
魔王「ちょっ!ちょっ!」ズルズルズルズル
魔王娘「ヤダヤダヤダヤダヤダ!!!」ズルズルズルズル
バタン………
メイド長「失礼しましたわ勇者様」
勇者「あ……ああ……」
メイド長「しかし勇者様も随分馴染みましたわね魔王国に」
勇者「ま、郷に入れば郷に従えと言うしな。嫌でも慣れるものさ」
メイド長「あらあら、殿下のみならず世の女性のハートを射止めておきながら」
勇者「……妙な言い方はよしてくれよ」
メイド長「うふふっ、やっぱりそう言う面でも勇者様は魔王様に向いてるんじゃありませんかね」
勇者「それとこれとはまた別だ」
メイド長「あら、でも統合の立役者なんっすから」
勇者「……私の業を償っただけに過ぎん」
メイド長「何にせよ、あれから随分経ったんですわよねぇ」
勇者「………そうだな」
メイド長「あの時のことを思い出しますわ………」
《以下、回想》
魔王「お前、人間国に行け」くるっ
勇者「断る」
勇者「何故私がお前に命令を……」
勇者「……お前今、なんと言った?」
魔王「だから人間国に行けと」
勇者「……冗談も程々にしておけよ」
魔王「冗談ではない。」
勇者「………どういうつもりなんだ」
魔王「イヤなのか」
勇者「い……イヤではないが………」
勇者「………」
大臣「ぷふっ、魔王国でお気楽極楽してたとあれば、そりゃ帰りづらいだろうなっ!」
勇者「………」
魔王「しかし、単に帰してやるわけにはいかん。我が輩の指定した場所で、仕事をやってもらう」
勇者「私はお前の臣下ではない」
魔王「1506712G」
勇者「は?」
魔王「お前の今までの生活費だ。払え」
勇者「そっ、そんな金、あるわけが!」
魔王「じゃあ働け」
勇者「…………ぐぬぬっ」
魔王「ふふん!」
勇者「………それでもイヤだと言ったら、どうする魔王」
魔王「えっ」
魔王「それは…………」
勇者「ヤダ。借金など知ったことではない」
魔王「………ぐぬぬっ!貴様!」
勇者「ふふん!」
勇者「じゃあ、私は………」
グイッ
魔王「………」
勇者「は、はなせ魔王!私はお前に命令されるいわれなど……!!!」
魔王「………ヤダ」
勇者「ちょ!はなせ!はなせ!」
魔王「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!言ってくんないと我輩ヤダ!!!!」
勇者「知ったことか!!!はなせ!はなせ!」
魔王「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!!!!!!!!!」
勇者「はなせ!はなせ!はなせ!はなせ!」
魔王「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ」
【小一時間経過】
魔王「………と、言うわけでだ」
勇者「………根負けした」
魔王「ま、お前が適当に仕事をしたり脱走したりということもあるだろうから見張りをつける」
勇者「見張り………?」
【翌日】
パカラッパカラッパカラッ………
魔王娘「もっと広い馬車なかったんですかー。暑いですよぅ」パタパタ
メイド長「帰りは荷物が減りますから、広くなりますわよ。我慢なさいな」
警備隊長「………もっとそっちに寄らんか邪魔者が」ぐぬぬっ
憲兵隊長「………そっちこそ」ぐぬぬっ
勇者「見張りとはお前たちか………」
魔王娘「良かったですね!寂しくないでしょ勇者さま!」むぎゅっ
勇者「………よ、寄るなよ暑い」
魔王娘「キャー!ムラムラしてきたなんて勇者さまのエッチー///」
勇者「………どうしてそうなる」
メイド長「本日のスケジュールは補給部隊のお手伝いで外れの村に物資を渡し、そのまま宿泊です。ま、補給庁も人手不足ですからね」
勇者「…………」
警備隊長「どうした勇者殿、随分とテンションが低い様子だが」
魔王娘「そうですよ、ふるさとなんですから、もっとはしゃいでいいんですよ勇者さま」
勇者「い、いや……うれしくないわけではないんだが…………」
憲兵隊長「それはそうだろう。貴様は陛下に負けたあげくの果てに、あろうことか城に寄生して悠々自適な生活をしていたのだからな、顔見せできまいに」ニヤニヤ
勇者「………」ズーン
警備隊長「貴様!なんと陰険で陰湿な奴なんだ!例え真実でも、言って良いことと悪いことがあるぞ!いくら真実でもだ!!!!!!一応は真実だが、気にすることはないぞ勇者殿!!!!!!」
勇者「………」ズーンズーン
魔王娘「そうですよ!いくら勇者様が魔王国に寄生してたからって誰もみてないんだから落ち込むことないですって!勇者さまは顔だけは良いんですから大丈夫です!!ふぁいと!」
勇者「………」ズーンズーンズーン
メイド長「わざとやってますでしょ、あなたたち」
憲兵隊長「そこで勇者、私も鬼ではない…。提案がある………」
勇者「……提案だと」
憲兵隊長「裏に積んである荷物だが……」
勇者「………荷物?」
憲兵隊長「開けてみたまえ……」
警備隊長「通りで狭苦しいと思ったら貴様……」
勇者「………ヤケに大きいが」ガサゴソ
憲兵隊長「それを使えばお前の正体は知られずに済むだろう……」
魔王娘「憲兵隊長、なんか今日は気が聞きますね」
憲兵隊長「ふっ………」
カポッ
勇者「こっ………これは…………!」
【人間国・一番端の村】
長老「いやいや、悪いのぅ。毎年毎年こんな………」
メイド長「いえいえ、お気になさらずに」
村娘「助かるよ、ホントにさ。国からは見放されちゃってるようなもんだし、あんたのご主人様は太っ腹だね。で、いつもの人たちは?」
警備隊長「色々忙しいようで。今回は私達が」
村娘「そうかい。いや、初めましてだね。で……」
ケルベロス(勇者)「ちょ!暑いから寄るな!寄るな!」
幼女A「キャー!いぬだー!」ぴょん
幼女B「かわいい!かわいい!」ぴょん
幼女C「だっこしてー!!!」ぴょん
魔王娘「ちょっと私の勇者さまに近づくなですよ!!尻軽が!」ぴょんぴょん
ケルベロス(勇者)「だからだな!だからだな!」むわわ~ん
村娘「どうして一人、このクソ暑いのに着ぐるみなんか着てるんだい」
憲兵隊長「…………」ニヤニヤ
ケルベロス(勇者)(憲兵隊長を信じた私がバカだった…………)
村娘「ま、まあ良いか。そうだ、何にも無いけどさ、この村案内しようか」
メイド長「そうですわねせっかくですし」
警備隊長「せっかくだからな」
魔王娘「うわあああああん!!!!!!!!!」
メイド長「………って、早々なんですの殿下」
魔王娘「ぴょんぴょんしてたら、すっころんじゃいました……」
メイド長「あらやだ、ぱっくり行っちゃってますわ。早く消毒しないと……」
村娘「じ、じいちゃん救急箱ってどこにあったっけ!」
長老「ああ……確か………」
長老「軒下……いやあれは違うな、引き出し……いやいやラジオの……いやいや……わしの布団の、いやあれは………」
長老「キッチンの……いや違うな、トイレ……じゃなくて、庭の……いやいや……」
長老「応接室でもなく、客間でもなく、洗面所でも……いや、台所か……いや…便所だったような」
長老「わしの布団の……いやそれはちがくて……引き出し………」
村娘「ループしてるよぉ!」
あたふたあたふたあたふたあたふたあたふたあたふた
憲兵隊長「……これをお使い下さい殿下」
メイド長「憲兵隊長さん」
魔王娘「な……なんですそれ」
憲兵隊長「効き目の強い薬草です。そこの裏手に生えていました………」
メイド長「助かりましたわ。はい、殿下ちょっと染みますわよー」ぺたっ
魔王娘「んにぎゃあああああああああ!!!!!!?」
ケルベロス(勇者)「確かあれは高級薬草だろう、とっさによく見つけられたな」
憲兵隊長「………ぷっ」
ケルベロス(勇者)「………なんだその笑いは」
村娘「………じゃあ落ち着いたところで」
村娘「最初に聞いて貰いたい。この村には、とある噂がある」
一同『………噂?』
村娘「そう。村には二人の若い男がいた。その男二人はことあるごとに争っていた」
ケルベロス(勇者)「………ん?」
村娘「そして二人は一人の僧侶の娘を好きになった。で、まあ、またその娘を巡って色々やらかす訳なんだが」
メイド長「………ん?」
村娘「そりゃすごかったらしい。ことあるごとに競いあってたんだから。で、ここの展望台で一番激しい戦いが行われたと言われてるんだが………」
魔王娘「わぁ、すっごい綺麗です!」タタッ
ケルベロス(勇者)「本当に壮観だなぁ!」タタッ
メイド長「ええ、あっちの方も……」タタッ
村娘「あっ、白線から外には出ない方が…………」
ズドオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!
村娘「…………て、遅かったか」
ケルベロス(勇者)「 」チーン
魔王娘「 」チーン
メイド長「………なんで落とし穴がこんなところに沢山」
村娘「落とし穴をお互い掘りまくって、いち早く相手の掘った穴にはまった方が負けって勝負だったらしいんだけど」
メイド長「………どっちが勝ったんです」
村娘「それが、二人とも即座に自分の掘った穴にハマっちゃったらしくて」
メイド長「バカじゃありませんの………」
警備隊長「…………」
憲兵隊長「…………」
村娘「で、次はこの森なんだけど」
魔王娘「森ってより、ちょっとした茂みじゃありませんか」
村娘「広大な森だったんだけど……ケンカの結果こんなんなっちゃったらしくて」
ケルベロス(勇者)「どんなケンカだ………」
憲兵隊長「………」
警備隊長「………」
村娘「あとはこの武器屋。元々バイキングレストランだったんだけど度々ケンカの舞台になった結果廃業を余儀なくされて………」
村娘「二人が来てもすぐに追い払える様に武器屋になったんだってさ」
魔王娘「はた迷惑ですよね」
メイド長「わよねぇ」
警備隊長「………」
憲兵隊長「………」
村娘「で、次はこの湖なんだけど……」
魔王娘「湖ってより水溜まりですよね」
村娘「これもまた………」
憲兵隊長「…………」
警備隊長「…………」
ケルベロス(勇者)「二人とも黙りこくってどうした」
警備隊長・憲兵隊長『別に………』
魔王娘「っていうか、この村の名所ってケンカの場所ばっかじゃないですか!」
村娘「だって本当にこれくらいしかないんだよ」
ケルベロス(勇者)「で、結局どっちが勝ったんだ」
村娘「それがさ、分かんないんだよ」
魔王娘「わからない?」
村娘「三人とも、なんかどっかに行っちゃったらしくってさ、どっちとくっついたのか、はたまたどっちともくっつかなかったのか分からないんだ」
魔王娘「なーんか、はっきりしない人たちってどこにでもいるんですね」ジロッ
メイド長・警備隊長・憲兵隊長「な……なんです殿下」
ケルベロス(勇者)「それよりこの村……ヤケに静かだな」
魔王娘「というより、男の人、長老さんくらいしか見当たりませんよね」
村娘「ああ、ちょうど訓練に駆り出されてるんだよ。」
警備隊長「訓練……?」
村娘「半年に一度だったんだけど最近はヤケに頻繁にね。」
警備隊長「…………」
村娘「働き手が抜けて大変なんだ。国もさ、ちょっとは考えて欲しいって言うか………ああ、もう夕飯時か。家に行こうか」
メイド長「申し訳ないですわ、お邪魔しちゃって」
村娘「毎年のことだ。私達も楽しみにしてるんだよ。って、ほら!迎えがきたきた!」
幼女A「ワンワン!!!!!!」タターッ
幼女B「あいたかったよー!!!!!!」タターッ
幼女C「キャー!!!!!!」タターッ
ケルベロス(勇者)「………げっ」
魔王娘「来たなアバズレ!先にツバつけたのは私なんですからね!!!!!!」
ヤメロ!ヤメロ!キャー!!!キャー!!!キャー!!!キャー!!!
村娘「人気ものだねぇ」
メイド長「ですねぇ」
【長老の家】
ケルベロス(勇者)「………」
幼女A「おひざー!」
幼女B「次あたし!」
幼女C「あたしなの!」
魔王娘「ナマいうな!わたしですよ!」
警備隊長「酒、おかわりいただけるか!」ゴトッ
憲兵隊長「おかわりいただけるかな………」ゴトッ
村娘「はいはい」
警備隊長「……いま、何杯かな」
村娘「同数だよ」
警備隊長・憲兵隊長「ちぃぃ!!!!!!」
村娘「賑やかだねぇ」
メイド長「………すいません」
村娘「やだな、嫌みじゃないよ。普通に羨ましいだけさ。ねぇじぃちゃん」
長老「………」ジーッ
メイド長「ど、どうかなさいました?」
長老「べっぴんさんじゃな!」
メイド長「ど、どうも………」
長老「ワシの娘も大層べっぴんさんじゃったが……あのクソガキ共が娘をたぶらかして………結果三人揃って行方不明じゃ!!!!!!」グググッ
メイド長「へっ?」
村娘「その……僧侶ってじぃちゃんの娘………つまり私の叔母でして」
メイド長「……そ、そうなんですの」
長老「イライラする!イライラする!」ガバッ
長老「…………」カツカツカツカツ
憲兵隊長「…………」グビグビグビグビ
警備隊長「……………」グビグビグビグビ
警備隊長・憲兵隊長『おかわり!!!!!!』
ドゴォオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!
長老「…………」ハァハァ
警備隊長・憲兵隊長『 』チーン
長老「まとめて殴ってやったわい!!!!!」
村娘「ってじぃちゃん!お客さんに何てこと!!!!!!」
長老「はっ!そうじゃった……何か無性に腹が立って……」
村娘「ダメでしょっ!大事なお客様なんだから!」
長老「そうじゃな……すまんかった。ほれほれ、大丈夫かね二人とも………」
憲兵隊長「ん………」
警備隊長「一体………」
長老「やっぱりムカつく!!!!!!!!!」グワッ!!!
警備隊長・憲兵隊長「ひいぃぃぃ!!!!!!」
村娘「って、ダメでしょじいちゃん!飲み過ぎだよ!!!!!」
長老「殴らせろ!殴らせろ!」ジタバタジタバタ
警備隊長「な………」ガクガクブルブル
憲兵隊長「なんで………?なんで………?」ガクガクブルブルブルブル
メイド長「ちょっと、ゆう……じゃなった、ケルベロスさん仲裁に………」
ケルベロス(勇者)「頭は取るなあ!!!!!!」
メイド長「………カオスですわね」
幼女ABC・魔王娘「うんしょおおお!!!!!!!!」
スッポーン!!!!!!
メイド長「あっ」
警備隊長「あっ」
憲兵隊長「あ………」
コロコロコロコロ………
勇者「 」
幼女A「キャー!イケメンだぁ!」
幼女B「イケメンだね!イケメンだね!」
幼女C「キャー!キャー!キャー!」
勇者「いや………あの………」
村娘「………」ジーッ
勇者「あの…………」
村娘「あんたさ、勇者にそっくりだね」
勇者「 」
村娘「すっごいそっくりだね」
勇者「 」
メイド長「ま、まさかぁ!勇者様が生きてる訳ありませんわよねぇ!」
警備隊長「そうだ!あんなあっさり魔王様に追い詰められちゃうような勇者殿が生きているわけなんて!」
憲兵隊長「そうだ。たまたま殿下に見初められ、それを良いことにだらしなく魔王城に寄生してるわけなんて……」
魔王娘「絶対ありませんよ!!!」
村娘「そうだな、ないよなぁ!」
一同『あはははははははは!!!!!!!!!』
勇者「…………」
村娘「そうそう、勇者と言えば……」ガサガサ
村娘「この新聞なんだけどさ」
メイド長「えーと……」
メイド長「『勇者、自らの命と引き換えに魔王軍の三分の一を壊滅させた!』………」
勇者「………」
憲兵隊長「………ぷっ」
警備隊長「……どゅふっ」
メイド長「……………んふっ」
魔王娘「…………むふっ」
ぬははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
勇者「…………」
魔王娘「ひぃ!ひぃ!」
メイド長「………わ、笑っちゃいけませんわよね……ごめんなさい………」
村娘「いや、その反応が正しいよ。ついでに勇者追悼の派遣中隊もさらにその三分の一を壊滅させたって噂だけど、眉唾もんだよ」
勇者「………」
長老「まあ………大本営発表はなれているがな、今回のはさらに酷い」
メイド長「……確かに、普通に見れば笑ってしまう記事ですわね」
村娘「だけどさ、みんな信じちゃってんのさ」
魔王娘「なんでです」
村娘「今回の勇者が現れるまで20年かかった。だからみんなその分期待してたんだよ、魔王を倒してくれるってさ」
村娘「だけど結果的には叶わなかった。とすれば次の勇者が現れるには何年……いや何十年かかるのか」
村娘「その間に……今まで通り魔王国との目立った衝突は起こらないのか」
村娘「みんな、不安なんだよ。だから、気休めにあることないこと作り出して信じる。ま、信じるだけならいいんだけどさ」
メイド長「それが狂信に変われば………」
長老「実際変わってるよ。仕方あるまい。元々我々人間は待つことしか出来んからな。」
勇者「………」
長老「まあ、難しいことはよう分からん。もう眠いのぅ」
村娘「だね、じゃ、お開きにしよっか」
幼女一同『ええええ!!!!!!』
村娘「寝るんだよ。ほら、イケメンさんが寝るまで一緒にいてくれるっていうからさ」
勇者「ええええ!!!!!!」
憲兵隊長「正直わたしも………」ふらふら
警備隊長「酔いが…………」ふらふら
メイド長「はいはい。それじゃ皆さんお休みなさい」パンパン
―――――――
カチャカチャ
村娘「悪いね、片付けまで……」
メイド長「メイドですから、慣れてますのよ」
村娘「お客様なんだから……ゆっくりしてくれりゃ」
メイド長「性ですかねぇ、落ち着きませんのよ」
村娘「ありがとう。ふぁっ………んじゃ、寝るね」
メイド長「おやすみなさいませ」
ガチャッ………
メイド長「………ふぅ」
メイド長「私も寝ますか……」
カタッ………
メイド長「………ん?」
メイド長「あらやだ、ドアが………」
ガチャッ………
サアアアアアアアッ…………
メイド長「良い風ね………」
長老「じゃろ?」
メイド長「ひゃっ!?」
長老「おお、すまんかった。すまんかった。」
メイド長「長老さん………」
長老「年寄りになると寝つきが悪くてな」
メイド長「ハーブティでもお入れしますか」
長老「ハーブティもいいがな、この風が最高の安眠だ」
メイド長「…………確かに心地よい風です」
長老「ずっと、変わらない。この村には何にもないが、この風だけは誇れる」
メイド長「ええ」
長老「風は目に見えない、だから変わらない。変わらないものは、目に見えない。って当たり前じゃなあ………」
サアアアアアアア………………
長老「今日の晩は静かだ」
メイド長「殿方がいらっしゃないと寂しいところはありますわよね」
長老「それにしても、だ。なんだか……………」
メイド長「風が生温い……ですわね」
『父さん!!!』ハァ!ハァ!ハァ!
長老・メイド長「!?」
長老「お前………!」
ガチャッ………
村娘「あれ、メイド長まだ………」
男「…………」
村娘「って!お、お父さん!なんでいんのよ!訓練は!」
男「いいか、よく聞いてくれ!荷物をまとめて、面に停めてある馬車に乗れ!30分以内に!早く!」
村娘「は………はぁ?」
メイド長「あ……あの………」
男「こ、この人は?父さん……」
長老「客人だ」
男「悪いですが、あなた方も早く荷物を纏めてください!早く!」
メイド長「えっ………?」
ガチャッ………
勇者「騒がしいな………」
魔王娘「起きちゃいましたよぉ………」
村娘「お父さん!事情を言ってよ!なんで!!!」
男「なんでもだ!!!」
メイド長「男手がありますので、荷造りはすぐに終わりますわ。ですから、事情をお話頂いた方が無用の混乱がありませんわよ」
男「…………」
長老「そうだ、気持ちの準備も必要な事の用だ。手短に話せ」
男「………この村、燃されちゃうんだよ」
一同「!」
村娘「な………」
村娘「なんでよ!なんでよ!」
男「………戦争、やるんだ」
村娘「せ………戦争?」
男「戦争やるんにも、引き金が必要だ!だから、この村は魔王国に襲われたことになるんだよ!」
村娘「意味わからん………」
村娘「意味わからんよお父さん!!!!!!!!!」
男「俺だって意味わからない!!!!!!でも、やるってんだから、仕方ないだろう!!!」
村娘「やだよ!なんとかしてよ!」
男「ならんから来てる!来てるんだヨ!」
村娘「………」
魔王娘「………許せないです、こんなの」
魔王娘「私が………」
ぐっ
魔王娘「!」
メイド長「おやめなさい」
魔王娘「…………メイド長、止めないでくださいよ!」
メイド長「止めますよ」
魔王娘「私ならなんとかできますよ!どうせ大隊一つくらいなら……」
メイド長「ダメ」
魔王娘「なんで!人間だからって、見て見ぬ振りしろっていうんですか!」
メイド長「はい」
魔王娘「………」キッ
メイド長「戦争、起こしたいんですか殿下は」
魔王娘「だから、起こさないために!」
メイド長「ではあなたは相手方に一切の被害も出さず、痕跡もお残しにならないと?」
魔王娘「………それは」
メイド長「ならないと」
魔王娘「…………できないです」
メイド長「なら、相手の望む既成事実をまんまと与えてしまいますわよ」
魔王娘「………でも!村は」
メイド長「村ならもう一度作ればいいです。」
魔王娘「………メイド長は人事だから簡単にいいますね」
メイド長「言いますよ。このまま和平のチャンスを失いたくないですから」
魔王娘「ここまでやって、何が和平ですか!もう戻りようが………」
メイド長「我々が今すべきなのは『見て見ぬ振り』することなんですわよ」
メイド長「真実を明らかにすることより、真実を明らかにしないことが大切なんです」
魔王娘「………意味がわかりませんよ」
メイド長「それが大人なんですのよ」
魔王娘「…………」
勇者「………行くぞ、娘」
魔王娘「勇者さま!」
勇者「メイド長の主張は正しいよ。私たちの取るべき行動は極力痕跡を消すことだろう」
魔王娘「………勇者さま」
勇者「それに、人間側の行動も悪そのものではないよ。憎むべきではないさ」
勇者「……むしろ、私に責がある」
警備隊長「荷物、できたぞ!」
憲兵隊長「子供達も全員揃っている………」
長老「おお、すまない………」
村娘「…………」
男「君達はどうするか!」
メイド長「私どもは自力で戻りますわ。ですから、お先に」
男「そうか、ありがとう」
男「行くぞ!急げよ!」
幼女A「えっ、お出かけ!」
幼女B「やった!」
幼女C「ピクニック!ピクニック!」
村娘「………」
男「………行くぞ」
メイド長「………」
長老「メイド長」ひょこっ
メイド長「!」
メイド長「………長老さんお急ぎにならないと」
長老「君は、幸せかな」
メイド長「えっ」
長老「幸せかな」
メイド長「それは………」
メイド長「楽しいですわ、とっても」ニコッ
長老「………そうか」くるっ
スタスタスタスタスタスタスタスタ
ガッ
警備隊長「へっ」
長老「泣かせたら殺すからな」ギロッ
警備隊長「へっ」
長老「お前だ」ギロッ
憲兵隊長「…………」
長老「じゃ、達者でな」
スタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタスタ
メイド長「……………」
警備隊長「…………」
憲兵隊長「…………」
――――――――
パカラッ………パカラッ…………
魔王娘「………ZZZ」
メイド長「よく寝てますわ」
勇者「………へそを曲げていたようだが」
メイド長「曲げてるんじゃなくて、折り合いをつけてるんですわ。無駄に正義感があるんですから……」
勇者「………そうなのか」
メイド長「そうですわよ」
勇者「………」
メイド長「気になさらない方がよろしいですわよ」
勇者「………」
メイド長「どちらにせよ、こうなることは規定事項でしたし、どうにかさせようと思って魔王様は私たちを寄越したのではないでしょうし」
勇者「………やはり、魔王は知っていたのか」
メイド長「でしょうね。それに、多分情報を流したのと彼らの保護は皇后様のお仕事でしょうし」
勇者「………そうか」
勇者「メイド長は、分かっていたのか」
メイド長「何がです」
勇者「……全てだ」
メイド長「冗談。ただ、信じていただけですし、これからも信じているだけです」
勇者「何を」
メイド長「魔王様です。それから」
メイド長「あなたを」
勇者「…………」
メイド長「ってあれ………」ポロポロ
メイド長「なんで………なんで私泣いてるのでしょう、嫌だわ………」
勇者「………」スッ
メイド長「………勇者さま」
勇者「………拭いてくれ」
メイド長「………ありがとうございますわ」チーン
勇者「………鼻をかんでくれとは一言も言ってないのだが」
キキーッ!!!
警備隊長「あれは………!」
勇者「何事!」
ザッザッザッ………
憲兵隊長「………どうした」
警備隊長「警備隊……にしては数が………まさか魔王軍………!」
勇者「なに!」
ザッザッザッ………
勇者「………進軍、させているのか?」
ザッザッザッ………
ザッザッザッ……
ザッザッザッ…
―――――――
パカラッパカラッパカラッ
勇者「………もっと急げないか!!!」
憲兵隊員A「いっぱいいっぱいだ!」
勇者「ぐっ………」
警備隊長『私が先端の兵は止める!だから、勇者殿は……ご自分のなされることを』
憲兵隊長『道を開けさせる。大きな貸しにするぞ』
メイド長『勇者さま、どうか………』
パカラッパカラッ…………
勇者(…………魔王!)」
魔王娘「勇者さま」 ひょこっ
勇者「……む、娘!?お前はメイド長のところで寝てたんじゃ」ビクッ
魔王娘「だだ、こねてても仕方ないですから」
魔王娘「お父様のとこまで転送します。この距離なら出来ると思いますから」
魔王娘「いきますよ」ポウッ
勇者「あ…ああ………」
魔王娘「……勇者さま」
勇者「なんだ」カチャリ
魔王娘「………“スキ”あり!」チュッ
勇者「!」
パッ
魔王娘「勇者さま、私」
魔王娘「待ってますから……」
チッチッチッチッチッチッ
魔王「……」
勇者「……」
魔王「来たか」
勇者「……ああ」
魔王「で、何だ」
勇者「進軍をやめさせろ」
魔王「無理だな」
勇者「何故だ!」
魔王「戦争を仕掛けたのはお前達人間だろ。防衛のため先手を打っているだけだ」
勇者「ああいう村を増やすのか」
魔王「もっと悲惨だな。なるべく強奪や強姦はするなと兵には厳しく伝えてあるがどの程度遵守されるかな」
勇者「………」
魔王「で、何をしに来た、私を刺しにでも来たか」
勇者「それも良いかも知れん」
勇者「が、その前に聞きたいことがある」
魔王「何だ」
勇者「お前達は何故勇者を迎え入れる」
魔王「………」
勇者「そもそも勇者を迎えることなくともお前達は戦争を仕掛ければ人間を支配できた」
勇者「何故、それをしなかった」
魔王「……一つは人間国のガス抜きの必要があったからだ」
魔王「そもそも、我々は戦いを好まぬ。人間と剣を交えたことなど実際は数えるほどしかない。だろう?」
勇者「…………」
魔王「とまあ、言ってはみるが、それだけではない。」
魔王「その昔、ある独りの勇者がいた」
勇者「………」
魔王「勇者は仲間を失いながらも辛うじて魔王の元にたどり着いた」
魔王「しかし、命からがらたどり着いた勇者に、魔王………どちらが勝つかは一目瞭然だった」
魔王「そして勇者は殺された、魔王に。だが、それで話は終わりではない」
魔王「魔王は喜んだ。魔王国中探しても居なかった継承者が見つかった……と」
魔王「正しき君主制は永続性がある。しかし家系で君主を決めるのでは国は廃れる。ならば、相応しい君主を君主が選び、指名すればよい。」
魔王「そう思った魔王は国中を探したが、魔王の器を持った者は現れなかった」
魔王「そして魔王は考えた。そうだ、人間国からも探せばよいと……そして、気に入った者は生き返らせ、魔族契約を施して次期魔王にしよう……と」
魔王「こうして勇者という存在は生まれた。そして魔王の目論見通り気に入った男が現れたのだった。早速魔王は勇者の亡骸を『黄泉がえり』の儀で復活させた」
魔王「勇者は何も覚えていない。それもそのはずで、記憶全てと魂を取り替えるのだから仕方あるまい。」
魔王「でも、それは逆に好都合だった。勇者としての記憶があれば、多分魔王という存在自体を許せないかもしれなかった。しかしその心配はない」
魔王「こうして魔王は勇者を警備隊に配属させ、心身ともに鍛え上げた。そして自分の娘とも結婚をさせた。娘も一人、生まれた」
魔王「そして、勇者は魔王になった」
勇者「………まさかお前」
魔王「この話は冠を授かる時に義父から聞いた。まあ、聞いたからと言って何かが変わる訳ではなかったし、第一真偽はわからぬ」
魔王「ただ、我輩が本当に勇者であり、記憶を保持して居たままであれば………と思わなくもない」
勇者「………」
魔王「ただ、お前を殺していたら事態が暗転していたかも知れぬことは事実だ。こうも早く動くとは想像していなかった。教育が間に合わなかっただろうな」
勇者「………魔物が人間の敵ではないと言うことは知っている。本当の敵は愚劣な支配者だ」
魔王「そうか、では私が逆に問いたい」
魔王「勇者、お前はどうする」
勇者「したい、ではなくか?」
魔王「願望などというものを持ち合わせるほど貴様は温い男か」
勇者「………私は」
勇者「私は、『魔族』を無くす」
魔王「……私を殺すのか」
勇者「いいや。そうではない、概念の話だ。」
勇者「魔族は個性的な人間、これで良いではないか」
魔王「…………」
魔王「人間が個性的な魔物と言う手もあるぞ」
魔王・勇者「………」
魔王・勇者「………ふっ」
――――――――――
警備隊長「だからだな!もう少し……」
兵士A「限界ですよ。もう、あちらに人間が見えるでしょう!」
警備隊長「下がれば………」
兵士A「無茶言わないで下さい!敵に背中を見せろと仰るのかアナタは!!!」
警備隊長「…………」
警備隊長(限界か…………)
人間軍兵士A「かかれええええ!!!!!!」
魔王軍兵士B「こちらも後れを取るな!!!!!!」
警備隊長「ま………待て!」
警備隊長(すまない………勇者殿…………………)
魔王娘「わ、私が止めます…………」
メイド長「無茶ですわよ!あの距離の転送魔法を使ったばかりでは…………」
魔王娘「でも!勇者さまに待ってるって、私…………」
『剣を、納めよ!!!』
人間軍兵士「!」
魔王軍兵士「!」
魔王娘「………えっ」
勇者「人間軍、剣を納めよ!」
魔王「魔王軍、我が名の元に、撤退を命ずる!」
人間軍兵士A「な…………!」
人間軍兵士B「ゆ………勇者?」
人間軍兵士C「勇者だよな……あれ…………」
勇者「私は先刻魔王との和解条約の締結を約束した!これ以上、違えることはない!」
魔王「魔王軍、武器を捨てい!!!」
魔王軍兵士「え………」
魔王「捨てい!!」
ガシャン………
ガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャン
人間軍兵士「……!」
勇者「我々も、武器を捨てよう!」ガシャン
人間軍兵士A「……戦わなくてもいいのか?」
人間軍兵士B「………みたいだな」
勇者「捨てよう」
人間軍兵士一同「…………」
人間軍兵士A「…………捨てようか」
人間軍兵士B「ああ!」
ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!
ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!
ひゃほおおおおおおお!!!!!!!!!
―――――
メイド長「ああ、こうして、和解条約の締結にいたったんですわよね!やっぱり魔王様の後継者は勇者さましか………」
勇者「記憶を捏造するんじゃないぞメイド長」
メイド長「えっ?」
勇者「第一、我々は村なんか行ってないだろう」
メイド長「そうでしたっけ」しれっ
勇者「決まったときに魔王のやつ、鼻クソほじっていただろうに」
メイド長「そうでしたっけー」
勇者「そうだろう」
メイド長「そうでしたっけねー」
勇者「そうだろう。第一なんだ、戦争というものは安い居酒屋じゃあるまいし、顔パス程度でどうにかなるようなものなのか」
メイド長「…………」
メイド長「うふふっ」
勇者「…………」
メイド長「とにかくです、和解条約が成立したんですから勇者さま。腹をお決めになったらいかがです。」
メイド長「和解の仲介をされたのは事実ですし、どうせ後世の歴史家はこんな風に脚色しますわよ。」
勇者「ああ、魔王にならないと言う方向で腹を決めているが」
メイド長「なぁっ!」
勇者「イヤなものはイヤだからだ」
メイド長「もうっ!この話、丸々二週間掛けて作ったんですわよっ!どうしてくれるんですかっ!」ぷんすか!
勇者「………そんなこと言われても」
メイド長「私の二週間を返してください!」ポカポカ!
勇者「いや、だから何故……いたっ」
メイド長「もう!勇者様といい魔王様といい、なんなんです!なんなんです!」ポカポカポカポカ
勇者「だからメイド長が何を言いたいんだか………痛い!痛い!」
こっそり
魔王娘「あれ、なんかお父様、汗ダラダラですよ」
魔王「そ………そう?」ダラダラダラダラ
【第12話・おしまい】
第13話
【警備隊本部】
警備隊長「と、言うわけで今日は皆に転校生を紹介する」
ひゅーひゅー!ひゅーひゅーひゅーひゅー!
警備隊長「勇者殿、入ってくれたまえ」
勇者「………」カツカツ
警備隊長「ほーら、勇者殿。皆に挨拶を」
勇者「………挨拶など必要なかろう」
「おいこら!愛想わりーですよ!」
「最初が肝心ですわよー、頑張ってくださいまし勇者様」
警備隊員A・B「……」
警備隊長「すまんな勇者殿は緊張してるだけみたいなのだ…ほーら、勇者殿!ファーイトっ」
勇者「だから警備隊長!今更挨拶など必要ないと私は言っているのだ!」
警備隊長「いいや!挨拶は大事だぞ勇者殿!どんなときだって!ねー」
魔王娘「ねー」
メイド長「ねー」
警備隊員A・B「…………」
勇者「………何が『ねー』だ」
勇者「どういうことだ警備隊長。隊員が全て見慣れた顔だぞ」
警備隊長「それがだな……まあ、警備隊はもともと500人規模だったのだが……」
警備隊長「………ほら、ねぇ」
魔王娘「ね」
メイド長「ね」
勇者「わ、私のせいだと……」
警備隊長「違うか」
勇者「……違わんが」
警備隊長「と、言うわけでお役御免となった警備隊はほぼ解体状態だ。他の隊員は憲兵隊もしくは軍本部へ戻った……と言うわけで正規の隊員は私を含め三人」
メイド長「勇者様はじめ私達二人は特別役職と言うわけですわね」
勇者「………仕事は」
警備隊長「へ?」
勇者「この面子で仕事は何をするのだ」
警備隊長「そうですな、憲兵隊に断られた依頼の持ち込みか」
勇者「それがなかったら」
警備隊長「パトロールか。ああ、でもこれは憲兵隊の仕事か」
勇者「他には」
警備隊長「………」
警備隊長「草むしりとか」
勇者「……」
メイド長「私はやりませんけどね」
魔王娘「えー、こんなだだっ広いとこ、むしるの超面倒ですから、全部燃やすかドラゴン召喚して食べさせちゃいましょうよー」
勇者(2人が戦力外、か………)
メイド長「さてお昼ご飯を作りませんと」
魔王娘「その間に勇者さま、2人で子供を作りませんと」ぽっ
勇者「作らん!」
警備隊長(わ、私はメイド長殿と二人きりでお話する機会を作らんと)
憲兵隊長「では私は邪魔する機会を作らんとならんな………」
一同「!?!?!?!?」
警備隊長「け……憲兵隊長!?」ずささっ
憲兵隊長「どうした情けない表情など作って」
メイド長「あらあら憲兵隊長さんいらっしゃいませ」
憲兵隊長「メイド長、さ、差し入れであります………」サッ
メイド長「あら、しゃれこうべのカルシウム粉末入りドーナツをこんなに…あらそれから花束まで」
メイド長「ありがとうございます」にっこり
憲兵隊長「えへ、えへ……」でへりでへり
魔王娘(誰だよ)
勇者(こいつ)
憲兵隊長「おほん。まあ、冗談はこれくらいにして」
警備隊長「え、え、じゃあ貴様は冗談でメイド長殿にこんなことをしたワケ?」
憲兵隊長「へっ」
警備隊長「なるほど。メイド長殿への気持ちはお遊びだと、おふざけだと言うことかぁ!なるほどなるほど」
憲兵隊長「そっ!そこまでは………」
憲兵隊長「揚げ足をとるな……!必死で醜いぞ……!」
警備隊長「うっわ、顔色悪い癖にプレイボーイ(笑)気取っちゃってるぅー。メイド長殿、こういうふざけた男はですね」
憲兵隊長「ちょ!ちがっ!!」
ワーワーワーワーワーワーワーワー
勇者「……話が進まん」
魔王娘「進みませんね」
【5分後】
メイド長「うふふふ」
警備隊長「…………」
憲兵隊長「…………」
勇者「……で、話とは何か」
憲兵隊長「憲兵隊にある案件が持ち込まれた……」
魔王娘「案件、ですか」
憲兵隊長「はい。どうやらこの先の村にてよく分からない魔物が畑を荒らしているらしいのです」
魔王娘「なるほど、それは大変ですね」
警備隊長「んで、なーんでそんな案件を我々の下に」
憲兵隊長「人口が増えたのだ…。我々だけでは到底手が足りぬ…」
魔王娘「ま、魔族側と人間側の急進派が大分バチバチ言わせてますからね」
憲兵隊長「左様です殿下。いつ本格的な衝突が起きても可笑しくはありませぬからな…」
憲兵隊長「誰かが責任をとろうとしないから………」
勇者「べ…別に責任を取っていない訳ではない!私には私の主義がだな!」
憲兵隊長「今それを論じあっても仕方あるまいな…」
憲兵隊長「とにかく、だからと言って、直接持ち込まれた案件を無碍には出来ぬのだ………」
魔王娘「憲兵隊長ったら良いこと言うじゃないですか!そうと決まったら!はい!はい!」
メイド長「あらあら張り切っちゃって」
警備隊長「こいつの案件ですよ。ろくなことになりませんよ殿下」
勇者「外はまだ暑いし止めた方が………」
メイド長「基本的に殿下はお暇を持て余してらっしゃいますし、多分、勇者様と何かなさりたいんじゃありません?」
魔王娘「引き受ける!引き受ける!引き受ける!引き受ける!引き受ける!」ジタバタ
勇者「しかしだなぁ………」
魔王娘「やるんです!やるんです!やるんです!やるんです!やるんです!やるんです!やるんです!」ジタバタジタバタ
メイド長「いいじゃありませんか。1日ここで喚かれても暑苦しいだけですわよ」
勇者「むぅ……」
【この先の村】
勇者「確かに畑が大分荒らされているなあ」
メイド長「まるで重機か何かでぐちゃぐちゃにされてしまったみたいですわねぇ」
警備隊長「これはヒドい有り様だな。」
魔王娘「キャッホー!来ましたよー!」ぴょんぴょん
メイド長「良かったですわね殿下ー」
勇者「………非常に不本意なのだが」
警備隊長「まあ、良いではないか勇者殿。我々が憲兵隊長の罠にはまらんよう注意すれば良い話なのだから」
勇者「それはそうなのだが、なんだか娘に折れた形になったのが何ともだな……」
メイド長「この村は半数が人間半数が魔族が暮らしています」
勇者「なるほど。ということは人間側も魔族側も所謂穏健派と呼ばれる連中か」
村人A「へへー」
村人B「へへー」
勇者「………な……何をしている村人」
村人C「おめーさんは和解を成立させてくれた上にこうしておら達まで助けてくれようとしとる」
村人D「ありがたやーありがたやーありがたやー」
勇者「い、いや!拝まなくて良いから!顔をあげろ!顔をあげろ!」
メイド長「お年寄りから絶大な人気を誇ってらっしゃるんですよ勇者様は」
警備隊長「だから魔王、やっちゃえば良かろうに」
魔王娘「良かろうに」
メイド長「良かろうに」
勇者「……だから、それとこれとは別の話だろうに」
勇者「とにかく、話を聞こう」
村人A「へぇ、私らの畑をでっかい竜の化け物が夜中に襲いに来たんですわ」
メイド長「皆さんが目撃者で?」
村人B「見たぞ!」
村人C「おらもだ!」
村人D「でっかかったぁ!」
勇者「……と言うかお前たち酒臭いな」
村娘「お父さんたち、やけ酒してるのよ、毎晩ね」
村人A「ううっ……悔しくってなあ!」
村娘「だから私たちも困ってるの………酔っ払いは嫌いだから」
メイド長「なるほど、苦労なさってるのね」
警備隊長「貴殿は?」
村娘「この村の者です。ね?お父さん」
村人A「………」
村娘「お父さん!」
村人A「あ、ああ!私か!」
村娘「そうよ。全くボケッとしちゃってさ」
村人A「すまん……最近恐怖で寝付けんのだ……」
メイド長「それはそれは……」
勇者「………なるほど、では詳しいことを聞こうか」
村人A「夜中に竜が一匹やってきてバーって畑を荒らしてだな」
村人B「それで爪でガッとやってだな」
村人C「バーって行ったのだ」
村人D「怖かったな」
勇者「………」
勇者「分かったか」
メイド長「……いえ」
警備隊長「全く」
村人A「だからだな、バーって」
村人B「ドーンと!」
村人C「ジャーンと!」
村人D「ガーンと!」
勇者「あー、わかった。わかったぞ。」
勇者「貴殿らには目撃した竜とやらの絵を絵を書いてもらおう」
村人A「絵………絵か?」
村人B「あんまり上手くないんだがなぁ」
勇者「それでも良い。書いてくれ」
村人C「わ、わかった………」
【10分後】
勇者「な………なんだこれは………」
メイド長「翼が生えていて巨大な爪を持っている以外は全く違う生き物みたいですわねぇ」
警備隊長「ど………どういう事か」
村人A「間違いなく見たんですってば!」
村人B「これに違いねぇ!」
村人C「違いねぇ!」
村人D「んだ!んだ!」
村娘「ま…まあ、本当なんだと思うわ」
勇者「…これはどうしたものか」
メイド長「謎が深まりますわねぇ………」
勇者「まあ、被害にあった当事者達だからなぁ。なんていうか、個々に余計な主観のようなものを挟んでも仕方なかろう」
メイド長「つまり無意識のうちに見間違えを起こしている可能性もあると」
勇者「魔族はどうか知らんが人間にはよくあることだ」
メイド長「ま、失礼ですわね。魔族だってそれくらいのおっちょこちょい、しますわよ!ねぇ!」ぷんすか
魔王娘「ですよ!遺憾です!遺憾です!」ぷんすか
勇者「じょ……冗談にそんなにムキにならんでくれ……」
警備隊長「と言うことはなんだ、第三者に話を聞きたいと言うわけか」
勇者「そうだ。そんなに巨大な竜であれば、この村の者以外も目撃しているに違いあるまい」
メイド長「たしかに、この中のどの証言が正しいか、裏付けが出来ますからね」
勇者「ここから一番近い村はどこかな」
警備隊長「ええ………」
村娘「ええと、ここから約1里ほど南東に町があります。そこなら」
勇者「では行こう。」
村娘「あの、勇者さん!私も、私も行ってもよろしいでしょうか!父の敵を取りたいのです」
勇者「か、構わないが……」
村人A「頼んます……」
勇者「あ、ああ………」
メイド長「…………」
【南東の町】
魔王娘「い………意外と遠いです」
メイド長「1里って歩くと1時間弱かかりますからねぇ」
勇者「しかし、ここもまた寂れた町だなぁ」
町人A「………」トコトコ
勇者「あ、少し聞きたいことがあるのだが」
町人A「ああ……なんだね」
勇者「あのだな………」
町人A「!」
勇者「どうした?」
町人A「すまん!私は急いどるんだ!」タタタタタッ
勇者「ちょ、ちょ、ちょっと!」
警備隊長「いきなり何なのだ……」
メイド長「なんだか見てはいけないものを見ちゃったみたいですわね」
魔王娘「な、なにも見えませんけどね」
勇者「あの」
魔王娘「すいません」
町人B「すまん!」タタタタタッ
町人C「何もしらない!」タタタタタッ
町人D「ごめんなさい!」タタタタタッ
勇者「………」
警備隊長「ぶ……不気味な町だな」
メイド長「この事件……かなり闇が深そうな予感ですわ」
カァカァカァ………
勇者「ダメだ……全く証言が得られん」
メイド長「見事に全員沈黙を貫いてましたわねぇ」
警備隊長「じ、じ、実は、お、お、お化けの仕業か何かなのか?」ガクガクガクガク
魔王娘「まさかですよ。それより喉乾きました」
警備隊長「そうですね殿下。」
村娘「そうだ。じゃあ喫茶店に寄ってきましょう」
メイド長「ご存知で?」
村娘「ええ。この町に来たときにはいつもいくお店があります。サラマンダーの生き血100パーセントジュースがおすすめです」
魔王娘「じゃああたしそれがいいです!」
勇者「わ、私は遠慮しとこうかな……」
【店】
カランコロン
村娘「こんにちは~」
魔王娘「こんにちはです」
女店主「はーい」カチャカチャ
メイド長「あら………準備中でした?」
女店主「まあね、昨日夜遅かったからさ。宴会だったんだよ。」
勇者「喫茶店なのに夜中も営業しているのか。珍しいな」
女店主「昼は喫茶店だけど夜は酒場になるんだよ。ごめんね、今日は夜からのつもりだったからすぐに出せるもんといったら水しかなくってさ」
勇者「いや、悪いのはこちらだ。それで聞かせていただきたいことがあるんだが」
女店主「なぁに?」
勇者「隣の村で起こった事件についてだが、その……竜らしきものを見なかったか」
女店主「見なかったよ」
一同「えっ」
女店主「だから見なかったって」
村娘「ま、待ってよ!間違いなくここにも来たはずで……」
メイド長「ですわね。地理的に考えれば普通ここを通らないはずはありませんわよね」
女店主「でも見なかったもんは見なかったんだよねぇ」
村娘「そんな………」
警備隊長「ま、マジでお、お、おばけなんじゃあ!」ガクガクガクガク
魔王娘「まさかそんなわけないですよ」
勇者「………」
メイド長「奇妙なことになりましたわね……」
女店主「それより勇者だっけ?うわさ通りイケメンさんだねぇ。」ペタペタ
勇者「!」ぞくぅっ
魔王娘「ちょ、ちょっと触らないでくださいよぉ!」
女店主「あたし、もしなんかあったら、あんたに付くよ。」ぎゅううっ
勇者「い……いや……あの……」
魔王娘「もしももクソもねーです!離れてくださいよぉ!」
警備隊長「最近の女性は積極的だなぁ………」チラッ
メイド長「なんです?」
警備隊長「い……いや……」
【警備隊本部】
メイド長「さて、今までの状況を整理すると」
メイド長「村人ABCDの畑がドラゴンらしき生物に襲われました。予想するにかなり巨大ですわ。」
メイド長「しかしABCDいずれも竜を目撃はしたものの、描いた竜の姿がまるで異なる」
メイド長「その上地理的に絶対に通過するはずの町で証言を求めるも黙りか、見ていないとの証言か……」
警備隊長「奇妙だな……」
魔王娘「奇妙ですねぇ……」
メイド長「さて、問題はこの事実から何が導き出されると言うことですが」
勇者「導き出されると言われても……こう証言が一致しないのではなぁ」
メイド長「複数体……いたんですかねぇ」
警備隊長「竜の習性上ありえんな」
勇者「となると店主が見なかったことに関して更におかしくなる」
警備隊長「化け物が特定されんことには我々も対処のしようがないからな。」
メイド長「そうですわねぇ……」
一同「う~~~ん……………」
ポクポクポクポクポクポク
チーン!
魔王娘「はい!はいはい!」
メイド長「はい殿下。なんです?」
魔王娘「この竜って、もしかしたら見る人によって形を変えるんじゃありませんかね」
一同「!」
魔王娘「……ど、どうしました」
メイド長「い……いえ………その」
警備隊長「ま……まさか………」
勇者「お前がそんなまともな事を言うとは思わなかったからだな……」
魔王娘「失礼ですね!」
勇者「しかし、そんな竜いるのか?」
警備隊長「噂では聞いたことがあるような……」
メイド長「ええと、百科事典によると『変化竜』といってすでに絶滅したとか」
勇者「……だが、生き残りがいないわけではないか」
魔王娘「ねっ!ねっ!」
メイド長「草食で、食事中以外普段は透明なんですってよ」
魔王娘「店長さんの証言とあいますね!間違いないですよ!」
メイド長「まぁ……とりあえず確かめてみないことには」
勇者「………そうか」
警備隊長「襲われていない畑がまだある。竜の習性を考えれば必ずもう一度やってくるはずだ」
勇者「となると今晩から張り込みか……」
勇者「しかしどうせ張り込みするのだったらこんな推理ごっこをする必要、なかった気もするな……」
警備隊長「いや、そうでもないぞ勇者殿。相手が竜らしい、と言うことと、それから一体だと言うことが分かっただけ対処しやすくなったぞ」
警備隊長「それに竜は、一族でない竜が手を着けた場所には近寄らんらしいからな。」
勇者「ま、それもそうか……」
メイド長「とりあえず、話を総合するとどうやら相手は夜行性のようですし、今夜見張りを開始しましょう」
【夜】
村人A「ようこそおいでくださいました」
村人C「おらの畑、大丈夫かなぁ。ただでさえ今年は不作なんだっぺ」
勇者「村全体がか」
村人B「んだんだ。昨年も一昨年もだ」
村娘「ありがとうございます。」ゴホゴホ
勇者「大丈夫か」
メイド長「風邪ですか?」
村娘「ええ…本当は皆さんと御一緒したいんですが……」
警備隊長「ゆっくり休んでくれたまえ」
村娘「はい……失礼します」
メイド長「可愛らしい娘さんですね」
村人A「いや、私に似て芋っこくていけねぇ」
勇者「……似てるか?」
警備隊長「いいや」
村人A「あっ……違う方の娘の話しちまった……今の娘のほうか!今の娘はカーちゃんに似て美人で技量良しだぞ!疲れてるんだな!あははははは!」
魔王娘「すごく思い詰めちゃってるんですねぇ」
勇者「ああ……」
警備隊長「では、装備も完了したことだ。早速………」
ギャアアアアアアアアアアス!!!
魔王娘「ま、まさか竜!?」
勇者「来たか!」
魔王娘「あっちみたいですよ!」
村人A「ま、まさか…おらの家で!」
村娘「竜が!竜が!」
メイド長「大丈夫です!?」
村娘「私は……だけど、家が………」
警備隊長「いつの間に………!」
メイド長「大きい竜ですわねぇ赤くて」
警備隊長「牙が大きい」
魔王娘「あと爪が大きいですねぇ……」
勇者「とりあえず全てはあとだ!警備隊長、装備を!」
警備隊長「はい」ポンッ
勇者「………」
勇者「これは私の剣だが」
警備隊長「そうだが」
勇者「た……大砲とか、なんかこうもっと……」
警備隊長「ない」
勇者「……まさかこれだけな訳は」
警備隊長「これだけだが」
勇者「えっ」
メイド長「前も勇者様お一人で竜を倒された事がありましたし、この赤い竜も大丈夫ですよ」
勇者「えっえっ」
魔王娘「ふぁーいと!勇者さま!赤い竜なんかにまけるなです!」
勇者「えっえっえっえっ」
赤いドラゴン「ギャアアアアアアアアアアス!!」
勇者「えっえっえっえっ」
勇者と竜の壮絶な戦いが幕を開けた――――
(中略)
勇者「 」チーン
魔王娘「勇者さまああああああ!!勇者さまああああああ!!」ゆっさゆっさ
メイド長「まさかあそこでああなってああして勝つとは」
警備隊長「そこでこうしてこうなってこうなるとは、流石だな勇者殿は!」
勇者「じょ、冗談ではない……死ぬところだったぞ…………」
魔王娘「あ、起きました」
村人A「しかしこれで安泰ですな!」
村娘「竜も倒されたことだしね!」
一同「ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!」
勇者「…………」
魔王娘「勇者さま、よろこびましょうよーばんざーい!」
村人A「勇者ばんざーい!勇者ばんざーい!」
村娘「ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!」
【夜中】
勇者の部屋
勇者「………」
メイド長「失礼しますわ。お加減は?」
勇者「もう問題ないさ」
メイド長「そうですか。相変わらずすごい適応力でらっしゃって」
勇者「………」
メイド長「どうかなさって?」
勇者「……いやな、どうも引っかかるのだ」
メイド長「何が引っかかるんです?」
勇者「なんだか……な。果たして絶滅した竜なんてものの仕業なのだろうか」
メイド長「絶滅したと思ったら生きてたケースって以外にありますわよ」
勇者「まぁな。だが」
勇者「村人は本当に救われたのか……考えてしまうのだ」
メイド長「お優しいんですのね」
勇者「だが……何が引っかかるのか自分でも正直」
メイド長「コペルニクス的転回、かもしれませんわ」
勇者「………天地をひっくり返せと」
メイド長「というか、前提をひっくり返したら如何ですかと」
勇者「なる程」
メイド長「こちら、書庫の鍵です。なにかご参考になればと」
勇者「いいのか……」
メイド長「魔王様にはご内密に」
勇者「ああ」
メイド長「では失礼を」
ガチャ……
勇者「………メイド長」
メイド長「なんです」
勇者「あなたは……もしや事の顛末を知っているのではないか」
メイド長「まさか。私は全く知りませんわよ」
メイド長「私はただのしがない使用人」
メイド長「で・す・わ」
勇者「…………」
【次の日】
勇者、お手柄!迷惑ドラゴンを一撃で退治!
勇者「………」
メイド長「新聞はどこもこの話題ですわねぇ」
警備隊長「流石だな、勇者殿は」
魔王娘「どこもかしこも勇者さまワッショイですね!」
勇者「………」
メイド長「そうですね、ますます勇者様の支持率が上がっちゃいましたわ。本人は不本意でしょうけど。」
勇者「………」
メイド長「勇者さまーきいてらして?」
勇者「………ああ」
警備隊長「どうした勇者殿」
勇者「どうもしとらんさ」
メイド長「そうだわ、夜には村の皆さん方が宴会を開いて下さるらしいですよ。」
勇者「それはたのしみだな。」
魔王娘「勇者さま………?」
【夕刻・町の酒場(喫茶店)】
やんややんややんややんや
女店主「ビールだよ!」
村人A「勇者様ありがたや!ありがたや!」
村娘「おかげで村は救われましたね!」
魔王娘「世間は勇者様ふぃばーです!やりましたね!」
村人B「勇者ばんざーい!ばんざーい!」
勇者「………」グビグビ
メイド長「そうだわ、夜には村の皆さん方が宴会を開いて下さるらしいですよ。」
勇者「それはたのしみだな。」
魔王娘「勇者さま………?」
【夕刻・町の酒場(喫茶店)】
やんややんややんややんや
女店主「ビールだよ!」
村人A「勇者様ありがたや!ありがたや!」
村娘「おかげで村は救われましたね!」
魔王娘「世間は勇者様ふぃばーです!やりましたね!」
村人B「勇者ばんざーい!ばんざーい!」
勇者「………」グビグビ
メイド長「勇者さま、テンション低いですけど、どうかなさって?」
勇者「…………」グビグビ
警備隊長「今日は飲むペースが少し早くはないか?」
女店主「倒れちゃうよ」
勇者「…………」ぶはぁ
勇者「そりゃそうだ。やけ酒なんだからな」ひくっ
警備隊長「………やけ酒?」
メイド長「なにかおありで?」
勇者「一晩経って気がついた!この一件の一番の被害者は私だ!」ひくっ
メイド長「そりゃ……怪我はされましたが」
警備隊長「極論というものではないか」
勇者「極論ではない、事実だよ」ひくっ
メイド長「どういう……」
勇者「まずドラゴンの件からだ。」ひくっ
勇者「村人は各人バラバラな姿を描き、街の喫茶店の店主は姿を見なかったと証言した。変化竜ということであればその点納得いく」グビグビ
魔王娘「じゃあいいじゃないですか」
勇者「しかし昨日現れた竜に関してはそうは行かない。メイド長、昨日はどんな竜を見た」グビグビ
メイド長「赤くて……爪が大きい……」
勇者「間違いないか、皆よ」
一同「………」コクリ
勇者「だとすれば可笑しいではないか。変化竜は」
勇者「『みた者によって姿が変わる』のではないか?」
一同「あっ」
村人A「た………確かに……」
村娘「そ……そうね………」
勇者「だとすれば、昨日の竜は変化竜ではなかった……と」
村人B「い、異議あり!この間とは違う竜では……」
勇者「私が竜であればこんな痩せこけた土地の為に他の竜と戦うのは馬鹿らしいと思うがな……それに第一、一度別の竜が手を出した場所には竜は手を出さぬのだろう!習性上!」ビシッ
村人B「それは………」
勇者「ここから導かれる答えは一つ。『誰も最初から竜なんて見ていなかった』という訳だ、なぁ?」
村人一同「………」
警備隊長「ええっ!?」
村人一同「………」
警備隊長「じゃあ、爪痕やらは…」
勇者「それこそ重機でほじくり返したのだろう?跡はいくらでも作れるからなぁ」
勇者「それから最初に酒臭かったのも宴会を開いていたのだろう?ここで」
村人A「そ、それは……」
勇者「昨年も一昨年も不作だった村の者がよく宴会を開けたものだ」
村人B「異議あり!わ、わたしらは宴会なんか……」
勇者「なあ、店主」
女店主「うん。豪勢な宴会、開いてたよ」
村人一同「!」
村娘「ちょ、ちょっと!!」
女店主「まぁ、いいじゃん。ばれちゃったほうがさぁ。言い訳できないよ、最早さ」
村娘「それは………」
勇者「つまり」
勇者「おまえ達は首謀者から大金を受け取りドラゴンに襲われたふりをしていた!」
警備隊長「な……なるほど」
メイド長「そう考えるのが自然ですわね」
勇者「では問題は何のために、誰がと言う話だが…それに関しては今朝気がついた」ドンッ
勇者「その首謀者はある事を狙って村人を買収したあげく余計なことを言わないようにいわゆる箝口令を町人達にしいていた」
勇者「あのとき町人が脅えていたのは……首謀者が見えていたから。と言うことはあの時町にいた者のなかの誰かになる」
勇者「そうそれから察するに、いや結果からして察しなくとも首謀者は…………」
勇者「娘、お前だ!」びしっ
魔王娘「えへっ☆」
メイド長「で、殿下!やっぱり!」
魔王娘「………やっぱりってなんですか」
勇者「何が『えへっ☆』だ。私はまんまとお前の詰まらん、今思えばバレッバレの策に填められてたのだ……やけ酒せずには居られんよ!」
警備隊長「まさかあの堅物の憲兵隊長まで協力するとはな………」
メイド長「まあ、あの人はしますわよ。見かけによらず。」
勇者「それから」
勇者「娘は店主の店に行くよう仕向けたり、憲兵隊長の依頼を引き受けたがったり……」
勇者「あんなに幽霊というワードに弱いお前が余裕ぶっていたりと、まあ、色々と不自然だった」
勇者「私の武勇伝を作り上げたかったのだろうことは分かった。しかし分かった時には……」
メイド長「遅かったんですわね」
勇者「ぐぅ………」
勇者「それからもう一つ」
勇者「今回の事件は娘一人には荷が重い。まあ、こう言ってはなんだが、易々と私が乗せられてしまったのだからな。」
警備隊長「たしかに」
メイド長「殿下一人では……ね」
勇者「だからフォローを買ってでたのが」
勇者「……あなただ」
村娘「………」
勇者「皇后!!」びしっ
警備隊長「えっ、ええええええええ!?」
村娘「はぁ~……バレちゃったか………」ぺりっ
皇后「ざんねん~」にこにこ
警備隊長「 」
メイド長「皇后さま…なにやってるんですか最近みないと思ったら……」
皇后「これの準備してたのよ~」
皇后「しかしよくわかったわ~。完璧に化けたと思ったのに」
勇者「貴殿は完璧だったさ。しかし、親子にしてはぎこちなかった、父親がな。」
村人A「………すまんです」
皇后「仕方ありませんよ~打ち合わせしたの一昨日だったんですからぁ~」
勇者「それからドラゴンだ」
皇后「ドラゴンがどうかした~?」
勇者「前に戦ったドラゴンと似た感触だった」
皇后「まあ、召喚した者の癖がでるっていうから~」
メイド長「……そんなのよく分かりますわね」
勇者「それに、諜報部を指揮していると言っていたからな。変装ぐらい造作もないとすれば……あなたしか居ないだろうと」
勇者「大方、店主は知り合いの協力者だろう」
皇后「お見事だわ~参りました~」
魔王娘「バレちゃ仕方ないです解散解散。残りの謝礼は口座に明日中に振り込んどきます」
村人A「まいど~」
村人D「助かります~」
皇后「もぅ~あの時みんなバラバラの絵を描くからぁ……」
村人一同「すみません……」
皇后「それに裏切るなんてひどいわ~」
女店主「ごめんごめん」
メイド長「そういえばこの方、お友達で?」
魔王娘「そうです。私も詳しく聞いてませんでした。誰ですか?一体」
皇后「お父さんの隠し子よ」
勇者「えっ」
メイド長「えっ」
警備隊長「えっ」
魔王娘「えっえっ」
皇后「でも良かったわ~バレちゃったけど目的は達成できてぇ」
メイド長「ダメですわよ!こんなヤラセみたいな方法!」
魔王娘「え、あの………」
皇后「え~だって~」
メイド長「でも結果的に勇者様の支持は増えちゃいましたけどね」
警備隊長「もう逃げられませんぞ勇者殿!」
村人A「ゆうしゃ!ゆうしゃ!」
村人B「ゆうしゃ!ゆうしゃ!」
勇者「わ、私は絶対やらんからな!やらんからな!」
魔王娘「あの…みなさん…」
メイド長「ま、時間の問題ですわね」
勇者「ぐぅぅ………」
警備隊長「ははははは!!!」
一同「あははははははは!!!」
魔王娘「えっえっえっえっ」
【第13話・おしまい】
第14話
【キッチン】
メイド長「…………」トントン
勇者「メイド長、皿はどこへ置けばよいか」
メイド長「………」
勇者「メイド長?」
メイド長「あっ、ごめんなさい。確かにチューリップとストリップって似てますわよね」
勇者「……そんな会話はしていないのだが」
魔王娘「どうちゃったんですかメイド長、今日はボケッとしちゃってますよ」
メイド長「なんともありませんわよっ。今日は憲兵隊長さんも来るんですから、気合いをいれなくっちゃいけませんわ!」
警備隊長「ふん。ナメクジみたいな男には塩でもなめさせときゃいいのだよメイド長殿」
メイド長「もう警備隊長さんったら憲兵隊長さんのことになると…」くらっ
警備隊長「ど……どうなされたメイド長殿」
メイド長「い、いえ………」
魔王娘「め……メイド長、どうしちゃったんですかぁ……」あわあわ
メイド長「大丈夫ですから殿下……お慌てにならない………」ふらっ
バターン!!!
メイド長「 」
一同「め!メイド長おおおおおっ!!!!!!!!!!!!!!!?」
【メイド長の部屋】
医者「風邪ですね」
メイド長「………」zzz
魔王娘「いやああああ!!!!!!死んじゃやだぁ!!!!!!メイド長おお!!!!!!」ゆっさゆっさ
大臣「うおおお!!!!!!私はメイド長がいなきゃ何にも出来ませんぞおお!!!!!!!!!!!!」
警備隊長「アアアアア!!!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!」
魔王「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」
医者「いや、だから風邪ですってば」
勇者(相変わらずアドリブに弱い連中だな………)
勇者「お前達、もう少し冷静に物事を考えたらどうだ………」
ガチャッ
憲兵隊長「………いかがした」
勇者「ようやく一応まともそうな奴が来たか。実はメイド長が倒れてな……」
憲兵隊長「把握した………」
勇者「そうか。で、だな……」
憲兵隊長「例のものを用意しろ」
憲兵隊員A「はっ」
勇者「なんだ、花か果物か」
憲兵隊員B「シグザウエルP220です」
勇者「えっ」
憲兵隊長「よし、自害する」カチャ
勇者「ちょっ!」
勇者「全く………まともな者はいないのか」
魔王娘「オロオロオロオロ!」
大臣「オロオロオロオロオロオロ!」
魔王「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」
警備隊長「メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!メ!」
憲兵隊長「縄をほどけ!!!!!!私を死なせろ!!!死なせろ!!!!!!」ジタバタジタバタ
勇者(………どうしよう)
メイド長「ん……もぅ、私はゆっくり寝てもいられないんですか………」
一同「め!メイド長!!!!!!!!!」
魔王娘「良かったよぅ!!!良かったよぅ!!!」ぎゅううっ!
魔王「どうしようかと!どうしようかと!」ぎゅううっ!
大臣「いかんですな!風邪程度で慌てるなんてまだまだメイド長に頼り切ってる証拠ですぞお二人共っ!」ぎゅううっ!ぎゅううっ!
メイド長「く、苦しいですわよぉ……」
警備隊長・憲兵隊長「………」オロオロオロオロ
勇者(あの二人は、別の意味でオロオロし始めたか……)
―――――
魔王「ま、たいしたことなくって我輩は安心したぞ」
メイド長「ごめんなさいね。私ったら体調管理もろくに出来ないなんて……」
魔王娘「そんなこと無いですよ。私たちと一緒にいたら必要以上に疲れちゃうのは当然ですって」
勇者「……自覚はあったのか」
メイド長「でも、食事は……」
警備隊長「心配はいらんよメイド長殿。我々だって出前くらいは頼めるさ」
メイド長「本当に、お招きしておきながら、ごめんなさいね憲兵隊長さん」
憲兵隊長「き、気にしてはいません………」
魔王娘「思いっきり気にしてる顔してますけどね」
―――――
魔王娘「それじゃあ出前を取りましょうよ!何が良いですか?」
大臣「今は午後5:00だ。大体多くの店が6:00には出前を終いにするから早く決めねばならんぞ」
勇者「そうだな、今日と同じような料理が良いのではないか?」
警備隊長「しかし、それだとメイド長の顔を潰す事にはならんか」
魔王「我輩電気うなぎ丼がいい」
大臣「いや、だが場を維持するという目的であれば致し方ないのではないかね。それに時間も無いのだからある程度目安があったほうが」
憲兵隊長「ふむ……。勇者の主張も大臣の主張も一理あるが、メイド長が本日の為に用意した食材を次の日に流用することは想定できる……それにこうなっては場を維持する必要はあるのか」
魔王「我輩電気うなぎ丼がいい」
魔王娘「ありますよ。みんなそう言う気分なんですから。それに、今日私たちが何を食べたかメイド長に喋れば、それ以外のものをおんなじ食材でも作ってくれますよ」
警備隊長「だが、そうなると殿下、メイド長が気にするかもしれませんぞ」
大臣「少し神経質過ぎるのではないか」
憲兵隊長「いやしかし大臣、病み上がりは神経質になりがちというものです………」
勇者「いやしかし、これから何を出前に取るか議論するのか?しかも出前の場合大体意見を統一しなければならない」
魔王「だから我輩電気うな丼がいいって」
憲兵隊長「貴様達は大人であろう。年長者の意見に合わせればいい」
魔王「うん。だから電気うな丼……」
勇者「そのりくつはおかしい。食欲は三大欲求の一つなのだ。それを年功序列程度の理屈で支配されるなど、あってはならないことだ」
魔王娘「そうですよ。そのための話し合いです!」
警備隊長「しかし、そうすることでメイド長は傷つかずに済むのだ」
大臣「なぜメイド長が傷つく前提なのだ」
憲兵隊長「病人はデリケートなのですから、当然配慮はすべきでしょうな……」
魔王「う!な!う!な!」
勇者「まだ時間はある。何が食べたいかの折衷案については時間を区切って議論してみるか」
魔王「我輩電気うなぎ丼がいい!」
魔王娘「私、でたらめなさかなのパスタがいいです」
大臣「私は古代魚のチャーハンをいただきたい」
警備隊長「私は黄金魚の炊き込みご飯かな」
憲兵隊長「私は軟骨魚のパイ包みだな………」
勇者「そうか。ちなみに私は暗黒雷魚の炊き込みご飯だが、我々の意見の共通点を見出すとすれば『魚』そして『調理済』であることだ」
魔王「うん。だからだな、うな丼が……」
勇者「そこから妥協案を見つけていきたい」
魔王「電気うな丼」
魔王娘「私は味が濃い方がいいな」
大臣「お米が食べたい」
警備隊長「右に同じだ」
憲兵隊長「出来るなら、安っぽくない料理が良い……」
勇者「相反する意見がないのでそのまま採用すれば『魚』『調理済』『米』『味が濃い』『高級感のある』ものが統一の案に一番近いものになる」
魔王「いや、だから電気うな丼だって」
魔王娘「チャーハンも炊き込みご飯も安っぽいかもですよね」
大臣「刺身御膳は生ですからねぇ」
警備隊長「焼き魚定食は何か違うし」
憲兵隊長「鍋……は季節柄、暑苦しいな……」
勇者「と……なると……」
一同「う~~ん……」
魔王「いや、だからさぁ………」
魔王娘「そうだ!」
勇者「どうした」
魔王娘「電気うなぎ丼なんてどうです?」
魔王「そう!それだよ!それ!」
警備隊長「おお!それは名案だな!」
憲兵隊長「何故今まで出てこなかったのか……」
魔王「………えっ?」
大臣「誰も思いつきませんでしたからなー」
勇者「お手柄だな」
魔王娘「えへへー」
魔王「えっ、えっ」
魔王娘「でも一応、年功序列でお父様に聞いて置いたらどうです」
大臣「そうですな。後でうるさいですからな」ヒソヒソ
警備隊長「ですよね。揉め事はイヤですからね」ヒソヒソ
憲兵隊長「ああ見えて子供だからな………」ヒソヒソ
勇者「じゃあ聞くぞ……」ヒソヒソ
魔王「………」
勇者「なあ、魔王。お前は何が食べたい」
魔王「………なんでもいい」
魔王娘「なんでもいいんですって!」
警備隊長「じゃあうな丼だな!」
大臣「決まりですな!決まりですな!」
勇者「じゃあ電話をするぞ」
警備隊長「5時58分、ギリギリだなぁ!」
大臣「いやあ、危なかった危なかった」
魔王「………」
プルルルルル………
ガチャッ
勇者「ああ、もしもし出前を頼みたいのだが」
『いつもご利用ありがとうございます。ウナギやです。本日は定休日と……』
定休日と
定休日と
定休日と
定休日と
定休日と
定休日と
勇者「…………」ガチャリ
皇后「あらあらお困りのようねぇ~」
勇者「………いつの間に」
皇后「よかったら私が………」
一同『 お 断 り し ま す ! 』
勇者「………どうする」ぎゅるるるる
魔王娘「どうしましょう…」ぎゅるるるる
大臣「どうしよう……」ぎゅるるるる
警備隊長「どうしたものか……」ぎゅるるるる
魔王「どうしたらいいのだ……」ぎゅるるるる
憲兵隊長「………」ぎゅるるるる
一同「………」ぎゅるるるる………
勇者「……定休日ということも想定しておくんだったな」
魔王娘「こうなったら贅沢言わないで片っ端から出前してくれそうなお店を探しましょう!」
魔王「ヤダヤダヤダ!我輩うな丼じゃなきゃヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!!」ジタバタジタバタ
警備隊長「そうだな……この大衆食堂なら深夜までやっているようだな」
憲兵隊長「致し方ないな………」
魔王「ヤダヤダヤダ!ヤダヤダヤダ!ヤダヤダヤダ!ヤダヤダヤダ!ヤダヤダヤダ!ヤダヤダヤダ!」ジタバタジタバタ
勇者「じゃあ電話を掛けるぞ」
魔王「うな丼!うな丼!うな丼!うな丼!うな丼!うな丼!うな丼!うな丼!」ジタバタジタバタジタバタ
魔王娘「勇者さま~!ファイトです~!」
プルプルプルプルプルプルプルプル……
魔王「うな丼じゃなきゃ食べない!食べないからな!ヤだからな!」
勇者「あ、もしもし。たいしゅう食堂か。出前を頼めるか」
『はい。ご注文は』
魔王娘「やったー!」ぴょんぴょん
大臣「やった!やった!」ぴょんぴょん
警備隊長「やったぞ!やったぞ!」ぴょんぴょん
憲兵隊長「………」ぴょんぴょん
魔王「ヤダーヤダーヤダーヤダーヤダー」
勇者「じゃあ出来るだけ早くできるものをお任せで7つ。」
『かしこまりました。お届け先は』
勇者「魔王城で」
『ま……魔王城…………?』ガタガタガタガタ
勇者「ど、どうした?」
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』プシャアアア!!!
勇者「い、いや、だからなにが」
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……勘弁してください………』ジョボジョボジョボジョボ
ガチャリ!
ツーツーツーツー………
勇者「えっ」
魔王娘「ちょっとちょっと!どういうことですよ!」
警備隊長「尋常な様子じゃあなかったぞこれは」
勇者「『魔王城』と聞いた途端にあちらが掌を返したように怯えだしたぞ」
魔王「ああ、そう言えば昔………」
魔王娘「……お父様、何かやらかしたんですか」
魔王「そんな大したことでは、なあ?」
大臣「………ノーコメントです」
プルプルプルプルプルプルプルプル
勇者「あのだな、魔王城に………」
『勘弁!』
ガチャリ!
プルプルプルプルプルプルプルプルプルプル
勇者「魔王城だが………」
『今日から出前は辞めたんですすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません』
ガチャリ……
プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル
勇者「あの魔王j………」
『ひゃああああああああああ!!!』
ガチャン!!!!!!
勇者「………これで24件目だ」ぎゅるるるるるるる
魔王娘「一体何をしたんですかお父様………」ぎゅるるるる
魔王「…………」ぎゅるるるるるるる
勇者「次……どうするか…………」ぎゅるるるるるるる
警備隊長「もう………22:00を回ってるのだ。流石に………」ぎゅるるるるるるるるるる
憲兵隊長「 」ぎゅるるるるるるるるるる
魔王娘「もう……絶対絶命です………」ぎゅるるるるるるるるるる
ヒラリ
魔王娘「これは……広告」
警備隊長「なになに。新規オープン!24時間配達OK……これだ!最後にこれに掛けてみよう勇者殿!!!!!!!!!」
勇者「りょ!了解した!」ガバッ
プルプルプルプルプルプルプルプルプルプル
一同「……………」
プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル
ガチャッ
一同「!」
『っし、っし。新規オープンざんぱん亭れーす』
勇者「あ、あの……魔王城まで配達を頼みたいのだが!」
『りょーかいしゃしたー。なにんしゃすかー』
勇者「何でも良い!早く出来るものを7つ!超特盛りで!」
『地雷鯖の刺身定食しかないんすけど、よろしっすかー』
勇者「いい!はやく!はやく!」
『あじゃっしたー』
ガチャリ!
魔王娘「どうでした……?」
勇者「頼めた!頼めたぞ!」
大臣「よくやった!よくやったぞ勇者!」
警備隊長「で、で、どのくらいで届くのだ?届くのだ?」
勇者「すぐとは言っていたが……ええと場所は………」
魔王娘「ええ、A地方のE町ですね。魔王城からは………」
一同「から?」
魔王娘「………600キロ離れてます」
一同「 」
【翌朝】
チュンチュンチュンチュン
店員『出前っすー』
勇者「…………」ゾゾゾゾ………
店員『ばぁ!化け物!!!!!!!!!?』
大臣「はや………はやく……………はやく………めし…………」ゾゾゾゾ………
店員『ひゃ!ひゃい!!!』カタッ!
勇者「な゛はああ゛あ゛ああ゛ああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」ガバッ!!!
魔王娘「あ゛ああ゛ああああああ!!!!!!!!!」ガバッ!!!!!!
魔王「めしあああ゛あ゛あ゛ああああ゛ァァァァァ!!!!!!!!!」 ガバッ!!!!!!
警備隊長「はふっ!!!!!!はふっ!!!!!!」 ムシャムシャムシャムシャ !!!!!!
憲兵隊長「うま!!!!!!!うまうま!!!!!!」ガツガツガツガツ!!!!!!
大臣「びゃあ゛うまぃい゛ぃぃぃ!!!!!!!!!!!!」クチャクチャクチャクチャ!!!!!!!!!!!!
店員『ひゃあ…………』ガクガクブルブル
魔王「金なら!小切手に適当に金額をかいていけ!!!!!!」ガツガツガツガツ
店員『ひゃい!ひゃい!失礼します!!!!!!失礼します!!!!!!』
バタン!!!!!!!!!!!!
魔王「なんかくさい!くさいがうまいぞ!!!!!!!」
ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ
勇者「確かにくさいがもうどうでもいい!!!!!!!」
ガツガツガツガツ!!!!!!
魔王娘「どけええええええ!!!!!!それはあたしのだ!!!!!!!!!」
ムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャ
大臣「私のです!!!!!!私のですぞ!!!!!!」
クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ
――――――――
メイド長「………と、言うわけでこんな有り様に」
勇者「………ぅぅ」ぎゅるぎゅるぴー………
魔王娘「 」チーン
魔王「 」チーン
大臣「 」チーン
警備隊長「 」チーン
憲兵隊長「 」チーン
メイド長「……そりゃ地雷鯖の刺身は腐りやすいんですから、あれだけの距離を運べば食中毒にもなるでしょうに」
メイド長「はぁ……仕事が増えましたわ………」
▼メイド長のくのうは、つづく………
【14話・おしまい】
【第15話】
国民「ゆ!う!しゃ!ゆ!う!しゃ!ゆ!う!しゃ!」やんややんや
国民「ゆ!う!しゃ!ゆ!う!しゃ!ゆ!う!しゃ!ゆ!う!しゃ!ゆ!う!しゃ!」やんややんや
レポーター「レイディオをお聞きのみなさん!現場はすっごい盛り上がりです!」
レポーター「あ、来ましたよ!両国の戦争を阻止した英雄、勇者です!」
警備隊長「はいはい!押すな押すな!」
メイド長「前通してくださいねー」
レポート「キャー!マジイケメン!チョーイケメン!」
勇者「…………」
サキュバス「はあああああんイケメン……勇者様、抱いてぇ……もうびっちょりよ………」ぼよよ~ん
サキュバス「たくさん絞ってあ・げ・る」ぼよよ~ん
老オーク「ウォウ……(勇者様~ありがたや~ありがたや~)」ナムナム
子供「勇者ばんざーい!ばんざーい!」ぷるるん
村娘「勇者くーんキャー抱いてぇ!」
オカマゴブリン「ウォウ!オオオ!!!(うふふ………かわいいわぁ……勇者ちゃん………)」
メイド長「はいはい!分かりましたから!」
警備隊長「通してくれー!これでは本部まで行けん!!」
勇者「………なんだこれは」
メイド長「日に日に勇者様を魔王に推す声が高まってこんなことに」
勇者「通勤一つ満足に出来ないではないか」
メイド長「だったら魔王になればいいじゃないですか」
勇者「それはイヤだ」
メイド長「……ワガママなお方ですわ」
警備隊長「全く、これでは魔王国警備隊ではなく勇者専属警備隊だぞ」
メイド長「毎日草むしりしかなさってないと言うのにねぇ」
勇者「そ………それについては悪いとは思っている」
メイド長「ああ!ようやく、本部が見えて………」
憲兵隊長「…………」ぬっ
一同「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!?」
勇者「び、び、び、びっくりさせるなよ貴様!」
憲兵隊長「勇者、大変な騒ぎだなぁ…………」
勇者「ま……まあ………」
憲兵隊長「このような歓迎ばかりならば憲兵隊も苦労はせんのだがな………」
勇者「………どう言う意味だ」
憲兵隊長「問題が起きた。お前が原因でな………」
勇者「わ……私が?」
憲兵隊長「それからお前にも付いて来て貰おうか。どうせ暇であろう………」
警備隊長「貴様、どうせ暇とはなんだ!暇とは!」
メイド長「事実でしょうに」
警備隊長「うぐうっ………」
勇者「…………」
大臣「おお!待っていたぞ!」
憲兵隊長「お待たせした………」
勇者「問題とは………一体何が………」
ゴブリン『ウォウ!ウォウ!ウォウ!』
オーク『ウォォオオ!!!!!!!!!』
スライム『ギャーギャーギャー』ぷるぷる
エルフ『勇者、はんたーい!』
『NO!ゆうしゃ!』
『我々は勇者の魔王化計画に断固反対する!』
『勇者!死ね!』
『勇者利権を許すな!』
『この国に勇者はいらない!』
『勇者に謝罪と賠償を要求する!』
メイド長「こ………これは……」
警備隊長「しゅ、シュプレヒコールと言うやつか」
メイド長「一体何が……」
勇者「あったのだろうなぁ」ニヤニヤ
メイド長「……なんでちょっと嬉しそうなんですか勇者様」
オーク『ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
メイド長「ちょっとちょっと。エルフさん以外言葉がわかりませんわよー」
ゴブリン『が、ガウッ…(い、いっけね、興奮しすぎて形態変化しちまった……)』
パアアアアアアアア……
男A「勇者、はんたーい!」
男B「勇者はくたばれー!」
男C「勇者はこの国にはいらなーい!」
男D「勇者は今すぐ死んでわびろー!」
警備隊長「……何があったのだ、一体」
大臣「それがな、別にあの者達は直接勇者に何かされた訳ではないのだ」
警備隊長「………どう言うことなんですか」
大臣「あの者達は労働者だ。で、その雇い主が」
メイド長「人間で、彼らはボロ雑巾のように使われた挙げ句の果てにクビにされたと」
大臣「………私のセリフ、とらんで頂けるか」
警備隊長「しかし何故それで勇者殿を………」
憲兵隊長「最近、人間が異様に幅を利かせているのだ。弱い立場であることを逆に利用してな………」
大臣「保護が過剰になりがちなのだよ」
憲兵隊長「その原因として勇者が次期魔王候補であることも………」ジロッ
勇者「な………なんだ、その目は」
勇者「ま、まあ……確かに。だが、今すぐどうにか出来る問題でもなかろう」
憲兵隊長「逃げるのか」
勇者「………そうではない。私が出て行ったところでなんの解決にもならんと」
男A「われわれはー!勇者にその責任を取ることを要求する!」
勇者「……責任?私には」
男D「ないとは言わせん!言わせんぞ!」
勇者「……確かにないわけではないが」
メイド長「逃げ腰ですわねぇ」
警備隊長「勇者殿、チキンさが増したな」
男B「いいか!お前がなんとかしてこい!」
勇者「いや、だからだな………」
男C「で、でないと!人質を殺すぞ!」
勇者「………人質?」
「キャアアアアアアアアアアアアア!」
男C「おいこら、大人しくしろ!」
魔王娘「助けてくださーい!」ジタバタジタバタ
一同「 」
勇者「なっ……」
メイド長「お……お使いから、なかなか帰ってこないとおもったら………」
魔王娘「助けてくださーい!」ジタバタジタバタ
勇者「………っていうかお前、簡単に逃げられるだろうに」
魔王娘「キャア!私はとらわれの姫!勇者さま助けにきてー!」ジタバタジタバタ
メイド長「……ダメですね完全にモードに入っちゃってますね」
勇者「………おまえら、そいつは魔王の娘だぞ」
男C「そんなまさか姫様が」
男B「ヘッタクソな鼻歌歌いながら、ノコノコ、小脇にネギ抱えてやってくるなんて」
男D「あるわけないよなぁ!」
一同「ねー!」
魔王娘「助けてくださーい!助けてくださーい!」ジタバタジタバタ
勇者「………だめだ、こりゃ」
メイド長「どうしましょう、面倒になりましたわね」
勇者「放って置いても良い気もするのだがな……」
警備隊長「いや、殿下はともかく、これこそ反体制の火種になりかねんぞ」
憲兵隊長「エスカレートすれば今度は逆に原因である人間側が危ない目に会うぞ」
メイド長「殿下がご自分で帰られるとすれば力づくでしょうに、穏便にはいきませんわ」
大臣「と、すると殿下がデモを行っている者を弾圧したと言う構図が出来上がり………」
勇者「………色々な連中を刺激することになるか」
メイド長「っていうか、絶対主義者達をヒートアップさせますわよ。」
勇者「ううむ………」
勇者「………面倒なことになった」
大臣「とりあえず穏便に済ませたいのだが」
メイド長「………はぁ」
魔王娘「キャー!勇者さま~///」
メイド長「勇者様。一応彼らは納税者なんですから、『誠意溢れる』説得をお願い致します」
勇者「……分かっている」
勇者「あ、あ、マイクテスマイクテス」
勇者「聞こえるか?デモ主催者」
男A「………ああ」
勇者「事情はわかった。私に出来ることなら協力させて貰いたい」
男A「……本当か」
勇者「ああ。その前におまえ達が雇い主に何をされたのか、聞かせて貰いたい」
男C「俺たちは人間より働くのに給料は半分以下だ!」
男B「だからって人間相手に何かをすれば、酷い地域だとすぐに逮捕されちまう!」
エルフ「役所には何度も相談したが『人間とのトラブルには干渉できない』の一点張りだ!」
男A「人間は権利がないと野賜っているが、権利がないのは俺たちのほうだ!」
勇者「……弱者故に権利を持ちすぎた、か」
メイド長「どうするんです?」
勇者「……確かに、このままでは良くないと言うのはわかる。娘の件とは別としてだ」
メイド長「ですから具体的には」
勇者「………」
勇者「直接雇い主に注意にいく」
メイド長「ほ、本気でおっしゃってるので?」
勇者「私は本気だぞ。相手は人間だろう」
警備隊長「ま……まあ……」
勇者「誰にもせよ美しき心がある!力強く訴えかけていけば分かり合えるに違いない!!」
勇者「雇い主はこの者達の苦しみがわからんだけなのだ!」
メイド長「確かに……わかってないでしょうけど」
勇者「この先の村だな。よし、分かり合うぞー!!」
一同「………」
男A「ほ……本当に大丈夫なんで?」
メイド長「え……ええ……」
警備隊長「多分……」
【おだやかな村】
女「キャー勇者さまよー!」
女「ステキー!」
警備隊長「この村は人間が多いのだなぁ」
メイド長「あら、勇者様は?」
女「勇者様///ダイテッ」ギュッ
幼女「だいてっ///」ギュッ
老女「抱いてくだされっ///」ムギュッ
勇者「ちょ!ふ、二人とも!た!助けて!!助けて!!」
女「みんなー勇者さまがきたわよー!」むぎゅううう
女「キャー!イケメンよー!」むぎゅううう
メイド長「………」
警備隊長「………」
むぎゅうううっ!むぎゅうううっ!むぎゅうううっ!むぎゅうううっ!
むぎゅうううっ!むぎゅうううっ!むぎゅうううっ!むぎゅうううっ!
勇者「あ……圧死……する………」むぎゅうううっ!むぎゅうううっ!
キャーキャーキャーキャーキャーキャー
メイド長「ある意味自業自得ですわね」
警備隊長「ですな」
――――――
ギンギラギンギン
勇者「こ………これは………」
メイド長「ま、周りに似合わず……ど派手な看板……ですわね」
警備隊長「……うはぁ」
勇者「…………失礼するぞ」
ガチャッ
雇い主「ああ、勇者はん!勇者はんでっか!よう来てくれましたなぁ!」ギンギラギンギンギンギン
一同(う、うわっ、典型的な………)
勇者「あ……あのだな、雇い主……」
雇い主「ああ、すいません勇者はん!うちの元従業員がご迷惑おかけしとるようで、ほんまに」
勇者「そのだな、我々としては事態を収拾したいのだが」
雇い主「なるほどなるほど、ほな、勇者はん、わてにどないしてほしいんです」
勇者「彼らを再雇用してやってほしい」
雇い主「しかしですなぁ……」
勇者「彼らにも!家族がいるのだ雇い主!」ドンッ!
雇い主「そらわかってますわ。しかし商売はボランティアじゃ……」
勇者「生きると言うことはすなわち働くことだ。」
勇者「同時に当然の権利であり、我々は慈愛に満ちた心で商売をしなければならない。」くどくど
勇者「そうすることで経済の神の手は我々を見放すことなく………」くどくど
雇い主「は……はあ………」
勇者「つまりだな、商売にも愛という概念をいつも心にだな……」くどくど
勇者「人はみな平等に愛されるべくして……」くどくど
勇者「人間のあり方として常に金銭授受の関係上でも奉仕の精神を………」くどくど
メイド長(誠意溢れる説得っちゃ説得ですけど)
警備隊長(うぜえ)
【6時間後】
くどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくど
雇い主「あの……これいつまで」
メイド長「多分折れるまで続きますよ」
くどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくど
勇者「つまりだな、労働は本来労働者のためにあって、しかし共産というものも国の暴走を招きかねず」くどくどくどくどくどくど
雇い主「わかりました!わかりましたよ!勇者はん!」
勇者「なに、ここからが共産主義と資本主義のあり方を踏まえた修正資本主義の話が」
雇い主「もうええですから……」
勇者「いやいや、これからの企業価値は商売云々より奉仕的な政策を………」
雇い主「もうええです!再雇用しますさかいに!!」
勇者「そうか!私の誠意溢れる説得のかいあったな!」
勇者「わはははははははははははは!!」
雇い主「………はぁ」
警備隊長「………誠意ってすごいのな」
メイド長「ね」
―そして―
勇者「やはり、誠意は伝わるのだな!まさに愛は地球を救うだな!」
メイド長「………」
警備隊長「………」
勇者「おーい!おまえたちー!」
男A「あの……粗茶ですが」
魔王娘「ありがとです」ズズ
魔王娘「お饅頭とかあるともっといいナァ………」ボソッ
男B「か、買ってきます!」
警備隊長「あれは………」
メイド長「………何やってんですかアナタは」
魔王娘「『誠意ある説得』の成果ですよぉ!ねっ」
男一同「はい……あねさん…」
魔王娘「にゃはははははははは!!!!!!!!!」
勇者(誠意ある『恫喝』というのではないか………)
かくがくしかじか
男A「そうか!私たちはまた働けるのか!」
勇者「ああ、よかったな」
男一同「ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!」
男A「勇者ばんざーい!」
男B「勇者ばんざーい!」
男C「勇者ばんざーい!」
男D「勇者ばんざーい!」
勇者「や……やめろよ………」てれっ
大臣(やっぱ)
警備隊長(なんだかんだ言って)
メイド長(嬉しいんですね、勇者様)
【二日後】
キャーイケメンキャーキャーキャーキャーキャーキャー
勇者「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」ハァハァ
警備隊長「きょ、今日は一層はげしかったな……」ハァハァ
メイド長「さ、流石の私も………」ハァハァ
魔王娘「あ、いらっしゃいです」ズズズッ
勇者「む、娘………先にいたのか」
魔王娘「私は皆さんと違って、移動魔法使えちゃったりしますからぁー。えへへ~」もぐもぐ
一同(えへへじゃねぇよ)
男A「あねさん!お茶のおかわりは!」
魔王娘「あたしはいいんで、皆にいれてあげてください」
男B「へい!」
メイド長「ん」
警備隊長「ん」
勇者「ん」
勇者「………何でお前たちがいる」
男C「ああああああ!!!勇者!勇者がきたぞ!」
男D「オイゴラァ!待ってたんだぞ!!!!!!」ガバッ
勇者「な、なあああ!!!!」
魔王娘「まちな!」
魔王娘「いきなり私の勇者さまに飛びかかるんじゃないよ!」
男一同「へ、へい!あねさん!」ぺこりっ
警備隊長「うわぁ……」
メイド長「なんです、この茶番」
魔王娘「ワケを聞かしてぇー貰おーうじゃねぇか!」ででん!
男A「それが………」
一同「えええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
勇者「ま、またクビになったぁ!?」
男B「……無茶なスケジュールに無茶な給料減額」
男C「その上、無理やり理由を付けられクビになりました………」
警備隊長「なんてことだ………」
男D「ううう!!!!」
メイド長「おかわいそうな皆様方………」
勇者「あの雇い主が………約束を…………」
メイド長「約束を守るような方が最初から皆さんをクビにしますか」
勇者「し、しかし」
メイド長「成り行きとは言え、一度引き受けたお仕事でしょ?」
警備隊長「責任を持つのが筋ではないか、勇者殿」
勇者「…………」
【村】
勇者「いいか、下手に暴れるんじゃないぞ。不利になるからな」
男A「なんでお前の言うことなんか」
魔王娘「暴れるんじゃないよ!」
男A「へぇ!」
勇者「………」
勇者「雇い主ー。いるかー」コンコン
雇い主「はいはい」
ガチャッ
勇者「………」
男A「…………」
男B「…………」
男C「…………」
男D「……………」
雇い主「おやおや、勇者はんと」
雇い主「役立たずオールスターの皆さんやぁないですかぁ~」
男一同「ああああああん!!!!?」
魔王娘「やめな!」
男一同「へぇ!!!!!」
メイド長(役立たずオールスターズのてっぺんが殿下……)
勇者(ぴったりだな)
雇い主「なんのご用事ですか」
勇者「私と交わした約束と異なるようだが」
雇い主「なに、わしはきちんと守ってまっせ!」
勇者「………はぁ?」
雇い主「『再雇用』はしましたから」
雇い主「その後辞めるかどうかは本人次第ですわ」
勇者「なあ………!」
勇者「貴様!そんなおかしな理屈!」
雇い主「揚げ足取りは勇者はんの方ですわ」
雇い主「なんなら労働局にでも言いはりますか?ま、人間特権で誰も相手にしてくれませんでしょうが」
勇者「なんて事を……自分が何を言ってるんだか!」
魔王娘「お、お父様に……!」
勇者「いい!それには及ばん!」
勇者「どう言うつもりだ、と私は聞いている!雇い主!」
雇い主「あんたは立派や、英雄や」
雇い主「しかし、あんたには『権力』がない」
勇者「!」
雇い主「ほんなら、わしをどうこうできんやろ?潰れかけの役立たず警備隊程度が」
勇者「…………」
警備隊長「貴様!いくらなんでも言って良い事と悪い事が!!」
雇い主「納得して、そろそろお引き取りいただけませんかね」
ゾロりっ………
ヤクザ一同「ふへへへ………」
雇い主「でないと、部下にお願いさせることになります」
勇者「なぁ…………!」
警備隊長「ま、ま、まさか」
メイド長「あ、あなた方のお仕事って………」
男A「ヤクザです」
男B「いいませんでしたっけ」
一同「 」
勇者「え、じゃあなんだ、私はヤクザ同士の内輪もめに巻き込まれていたのか」
メイド長「なんてこと………」
魔王娘「おひけなすって!!!!!!!!」
一同「!?」
魔王娘「雇い主!あなたのやってることは、『仁義』に反する酷いことです!」ビシッ
魔王娘「ヤクザの下っ端を大事にしてこそのファミリーってもんでしょっ!」
メイド長「なんか色々まざってますわね……」
雇い主「嬢ちゃんにはまだ、大人の世界がわからんようやな」
魔王娘「わかります!これが酷いってことくらい!」
魔王娘「あなたは弱い立場を振りかざした、真正のクズですよ!!」
雇い主「おのれ、黙って聞いておれば田舎娘の分際で!」
雇い主「構わん、一人残らず斬り捨てい!」
ヤクザA「へい!」
魔王娘「ぐぅぅ……こうなったら!」
メイド長「殿下、人間相手にあんまり強い魔法つかったらだめですからね」
魔王娘「警備隊長さん、勇者さん、懲らしめてやりなさい!」ビシッ
勇者・警備隊長・メイド長「えっ」
警備隊長「ちょっ!殿下!」
勇者「娘、お前ひとりで片づけられるだろうに!」
魔王娘「懲らしめてやりなさいです!!!!!!」ビシッ
メイド長「………後が面倒なのでお願いします」
警備隊長「………」ジッ
勇者「………」ジッ
警備隊長・勇者「……………」ハァ
カキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーン
ヤクザC「ぐあああ!」
勇者「み、峰打ちだからな!峰打ちだからな!」
ヤクザD「ぐふぅううう!!!!!!」
警備隊長「……逆に斬りにくいリアクションをするな!」
カキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーン
勇者「おおかた片づいたな」ハァハァ
警備隊長「ああ………」ハァハァ
魔王娘(勇者さまが疲れてらっしゃいます!)
魔王娘(ここは私が………)
魔王娘「愛の回復魔法です!」
パアアアアアアアアアア!!!!!!
ヤクザ一同「復活ッッッッッッ!!!!!!!!!」
勇者・警備隊長「ギャアアアアアアア!!!」
魔王娘「あ」
魔王娘「間違えちゃいました」テヘッ
メイド長「殿下……」
勇者・警備隊長「 」
カキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーンカキーン
勇者「よ………ようやく」ゼェゼェ
警備隊長「終わり…………か」ゼェゼェ
魔王娘「じゃあ回復魔法を」
勇者・警備隊長「やめろオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
魔王娘「そ……そんなに怒んなくても」ブルブル
魔王娘「警備隊長さん、勇者さん、もういいでしょう!」
男A「ええい静まれぇ!静まれぇ!」
男B「静まれ静まれ静まれ!」
男C「………」チラッ
警備隊長「えっ」
勇者「な、なに」
魔王娘「もういいでしょう!!」
警備隊長「し………静まれ静まれ………」
勇者「静まれ………」
魔王娘「2人が静まってどうするんですぅ!」
警備隊長「この………」
警備隊長「って、これから何をみせればいいんです、殿下」
メイド長「殿下の紋章です、一応」
魔王娘「あったんですか。初めてみました」
メイド長「ありますよ、そりゃ。でも無くすでしょ」
魔王娘「むぅ………」
警備隊長「で、では」
警備隊長「こ、この紋章がめ、目にはいらぬかぁ!」カアアッ
勇者「………こちらにおわす御方をどなたと……心得る………」カアアッ
魔王娘「畏れ多くもかの魔王、第一王女にあらせられるぞ! 一同、殿下の御前である、頭が高い! 控え居ろおおおおおおおおう!!!です!!!!!!」
一同(自分で言うなよ……)
魔王娘「にゃはははははははははは!!!!!!!!!」
雇い主「ま、まさか……姫様とは………」
ヤクザ一同「へへぇ………!」
男A「えっ、じゃあなに、俺たち姫様誘拐してたのか」
男B「 」
勇者「だから言ったろうが」
メイド長「確かに殿下が警備隊にいらっしゃることは大々的には公表してませんから気がつかれないのは仕方ありませんが……」
魔王娘「雇い主、お前は人間特権をタテに魔物達を不要に追い詰めた罪は重い!!」
魔王娘「って言うか、私の勇者様に切りかかった罪はもっと重いです!」
雇い主「へへえ………」
魔王娘「追って藩公より厳しき沙汰があるであろう、覚悟いたせ!」
雇い主「ま、参りました…………」ガクッ
魔王娘「ってことで憲兵隊長を呼んでくだ………」
憲兵隊長「呼びました………?」
一同「ひ、ひいいいい!!!!!!」
憲兵隊長「お前たち、ひったてい……」
魔王娘「な、なななななんで憲兵隊長がぁ!」
憲兵隊長「ご協力ありがとうございます殿下。おかげで楽に組を潰せましたよ………」
魔王娘「えっ」
勇者「ま、まさかお前、私達を利用したのか………?」
憲兵隊長「ああ」
一同「 」
憲兵隊長「労働問題が起きたと聞いて、いけると思ったのだが、まあ我々が直接介入するわけにはいかぬからな………」
警備隊長「貴様ああああああ!!!!!!」ガバッ
男A「…………」
ヤクザA「どうしよう………」
ヤクザB「仕事なくなっちまった………」
魔王娘「……この人たちは?」
警備隊長「雇い主の命令で動いていただけですからな。幹部以外は免罪されるでしょう」
魔王娘「………働き口は?」
憲兵隊長「ないでしょう。元ヤクザなんて誰も雇いません………」
魔王娘「なんかかわいそうです………」
魔王娘「わかりました!」
勇者「何がわかったのだ」
魔王娘「国で引き受けます!!!!!!」
一同「!!!!!!?」
メイド長「ちょ、ちょっと!殿下、引き受けますって言ったって!」
勇者「百人単位だぞ!」
魔王娘「お父様は私が説得しますから。みなさーん!お仕事頑張りましょうねー」
ヤクザ一同「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
メイド長「そんな………勝手な」
勇者「……娘」
勇者(いいところも、あるのだな……)ニコッ
勇者「メイド長よ」
メイド長「なんです?」
勇者「私も娘に協力したいのだが」
メイド長「責任感じてらっしゃって?」
勇者「まあな……」
メイド長「世の中、武力でも愛でも解決しない問題だらけです」
メイド長「権力も、悪いものでもありませんわよ勇者様」
勇者「………毒には毒を、か」
メイド長「まあ、そう言うことです」
勇者「…………」
メイド長「踏ん切りは早くお付きになった方がよろしくってよ」
メイド長「そのうち、こういう些細な人間と魔族の摩擦が大きな問題になりかねませんから」
勇者「むぅ………」
メイド長「しかしまぁ」
ヤクザA「あねさん!あねさん!」
魔王娘「にゃはははははははははは!!!!!!もっと称えるです!!!!!!!」
メイド長「バカな子ですねぇ………」
勇者「………だな」
警備隊長「死ね!」ペッ
憲兵隊長「お前こそ死ね………!」ペッ
メイド長「バカな大人ですね」
勇者「だな」
【第15話・おしまい】
第16話
【警備隊本部】
メイド長「暇ですわ」
警備隊長「暇ですな」
勇者「暇だな」
魔王娘「なんでこんなに暇なんですか!!」バンッ!
メイド長「そりゃこの警備隊自体、この間(※13話参照)のためにごり押しで残して貰ったんでしょう」
警備隊長「いわば我々は絞りかすですからな」
勇者「暇になるのは当然だろうに」
魔王娘「………ぅぅ」
魔王娘「この間はメイド長にすっごく叱られてお尻が真っ赤になっちゃいましたよう……」
メイド長「そりゃそうです。一歩間違えれば勇者様も魔王様も立場が危うくなるんですから」
勇者「私は別に、いっこーに構わんがな」
魔王娘「でもでも結果オーライじゃないですか!」
ピンポーン
メイド長「はぁい」
ガチャッ
メイド長「どなた?」
サキュバスA「あの、あの勇者さまに差し入れです」
サキュバスB「私たちの母乳で作ったケーキです」
メイド長「これはこれは」
少女「あたしはクッキーを!」
老人「あたしゃ饅頭を!」
マッチョ「僕はプロテインを……///」
幼女「あたちは搾りたてケンタロスのミルクでちゅ!」
メイド長「どうもどうも」
私も!私も!私も!私も!私も!私も!私も!私も!私も!私も!私も!私も!
どっさり
メイド長「また大量に頂いてしまいました」
警備隊長「す……すごいな」
勇者(日に日に掛かるプレッシャー……)
魔王娘「もうこれは魔王になるしかないんじゃないんですか?」
メイド長「昨日の新聞社の調査による勇者支持率は脅威の97パーセントでしたしねぇ」
警備隊長「いよっ!カリスマ!」
勇者「や!やめろ!私はそんなつもりはさらさらない!」
メイド長「なーんで」
勇者「……私は一市民でありだな……そんな立派なことも成し遂げてないだろ……」
勇者「……統合も成り行きだったし」
警備隊長「過小評価だぞ」
勇者「それに、自分の力で今までなんとかしてきた。魔王なんて立場でなくとも人助けはできる……」
メイド長「この間の件をお踏まえになっても?」
勇者「………」
メイド長「そんなことばっかり言ってると、今に大変なことが起きますよ」
勇者「…………」
メイド長「とにかく、殿下。いくらお膳立てしたって勇者様の気を悪くさせては意味がないんですわよ」
魔王娘「むぅ…」
警備隊員A「あの、それよりこのお菓子いかがしますか」
警備隊員B「美味しそうですよ」
魔王娘「まずは新鮮ミルクがのみたいです!」ふんふん!
メイド長「そうですね、いただきましょう」
メイド長「色々用意します。待っていてくださいまし」
警備隊長「……勇者殿よ」
勇者「なんだ」
警備隊長「確固たる意志を持つのは一向にかまわんのだがな、それをまんま実行するには他人にも負担を掛けるのだぞ」
勇者「……負担など掛けてはいないだろう」
警備隊長「メイド長は気丈に振る舞ってはいるがだな、やはり思い詰めてるのだ。この間倒れたのだって、最近夜中まで起きているのが祟っていたのだろうし」
勇者「……私のせいだと?」
警備隊長「それ以外にあるのか?」
勇者「存外、恋煩いなどかもしれんぞ、警備隊長」
警備隊長「な、なあ!」
勇者「私の心配をする前にメイド長との仲を、少しは進展させたらいかがかな」 ニヤニヤ
警備隊長「よ、よ、余計なお世話だ!」
メイド長「お待ちどうさま~」
勇者「ああ、すまないな」
警備隊長「ありがとうメイドc………」
一同「!?!?!?!?」
メイド長「?」
魔王娘(め、め、めめめめめめめめめめめめめめめめめめめ……)
勇者(め、め、めめめめめめめメイド長の……)
警備隊員A・B(く、くくくくくくくくくくくくくく口のまわりに………)
一同( 牛 乳 ひ げ が )
警備隊長「 」
メイド長「なにか?」
一同「いいええ!!」ぶんばぶんば
メイド長「クッキーおいしいですわよ」もぐもぐ
勇者(どうする、どうするよ)
警備隊長(どうするたって、私になんとかできると思うか?)
勇者(そうだ、娘お前が言え!一応主側だろうに!)
魔王娘(な、何言ってんですか!見てくれの主従関係なんて何の役に立つってんですか!)
警備隊長(そうだ!そうだ!実質魔王国で一番偉いのはメイド長みたいなところがあるのだ!)
勇者(ま……まあな……)
魔王娘(だったら魔王国とあんまり関係ない面してる勇者さまが言えばいいじゃないですか!)
勇者(え、ええっ)
警備隊長(そうだ!魔王にならないなら言え!言えないなら魔王になれ!)
勇者(ま、まて!なんだその理不尽な2択は!)
魔王娘(勇者のくせにびびってんじゃねーですよ!)
メイド長「皆さん全然食べないみたいですけど、どうかしましたの?」もぐもぐ
一同「いいええ!!なんでも!!」
メイド長「もうっ。私が全部食べちゃいますよ、これ」
一同「どうぞどうぞ!!!」
メイド長「なんだか変な人たちですわねぇ………」もぐもぐ
勇者(……とりあえず、何とかしないか)
魔王娘(口に牛乳ひげつけたまま外出なんかしたら女の子としておしまいですよ)
警備隊長(……とは言ってもどうする)
ガチャ
一同「!!!?」
勇者「だ、誰だ!!!」
憲兵隊長「ふん。貴殿等は相変わらず暇を持て余しているようだな………」
警備隊長「げっ」
勇者「……憲兵隊長」
憲兵隊長「暇な貴殿らをあざ笑いに来た………」
魔王娘「……つまり憲兵隊長も超暇なんですね」
憲兵隊長「警備隊長、貴様がメイド長殿に劣情に駆られて何をするのか分かったものではないからなぁ………」
警備隊長「き、貴様!私を愚弄する気か!」ガタン!
メイド長「ちょっとちょっと、お二人ともお止しになって………」
憲兵隊長「あ、め、め、めめめメイド長……こ、これ、さ、差し入れであります……」
メイド長「ありがとうございます。まあ、まあ、立派なスウィーツですこと。どれも行列の出来るお店の……並ぶのも大変でしたでしょう?」
憲兵隊長「でゅふっ………メイド長の為でしたら……苦なことなど……ふひひっ」でへりでへり
一同(キメェ)
メイド長「ありがとうございます。憲兵隊長さん」
憲兵隊長「そんな……」
憲兵隊長「ん……?」
メイド長「………」にこにこ
憲兵隊長「えっ」
メイド長「なにか?」にこにこ
憲兵隊長「えっえっえっ」
勇者「ああ……」
魔王娘「気がついちゃいましたか………」
憲兵隊長「 」
メイド長「あらあら、なにか?」
憲兵隊長「い、いや……」
憲兵隊長「その………」
メイド長「ん?」
魔王娘(ああ、困ってます困ってます)
勇者(困ってるな)
警備隊長(ぶっちゃけ小気味良いな)
憲兵隊長「すみません………メイド長殿。ちょっと急用が」
メイド長「あらあら?残念ですわねぇ」
憲兵隊長「では、まt」
ガシッ
警備隊長「そんなこと言わずにぃ、ゆっくりしていきたまえ~」ニコニコ
憲兵隊長「な!や!は、はなせ警備隊長!」
勇者「そうだ!ゆっくりしていけ!交流を深めようではないか!!」ガシッ
魔王娘「そうです!せっかくですから、憲兵隊長も警備隊長や勇者さまと仲良くなれちゃう機会ですから!ね!」ガシッ
憲兵隊長「で!殿下まで……!は、離してくださ………」
警備隊長「 逃 げ ら れ る と 」ボソッ
勇者「 思 う な よ ? 」ボソッ
魔王娘「 そ う DEATH よ ? 」ボソッ
憲兵隊長「ひ、ひいいっ……!?」
警備隊員A・B(………ご愁傷様です)
メイド長「あらこのスウィーツ、美味ですわ~」
一同「…………」
警備隊長(おい、なにか言えよナメクジ)
憲兵隊長(黙れ脳筋……)
警備隊長(ああん?)
魔王娘(ちょっとちょっと!ケンカはよしてくださいよ!)
勇者(全てはメイド長に牛乳ひげを取らせた後だ。)
警備隊長(だからどうやって)
勇者(………それは)
メイド長「皆さん、食べましょう。美味しいですわよ」
勇者(………とりあえず今の状況は不自然だ。自然に振る舞うことから始めよう)
憲兵隊長(賛成だ……)
警備隊長(そうだな)
魔王娘(まずはそうしましょう)
メイド長「皆さん?」
勇者「す、すまんなぁ!ちょっとお腹が痛くてわれわれ!」
魔王娘「あは、あはははは!ぽんぽん痛くて痛くて仕方ないですぅ!!」
メイド長「……そうなんですか?」
警備隊長「そうです!そうなんです!痛いんです!」
憲兵隊長「痛い………痛い………」
警備隊員A(ふ……)
警備隊員B(不自然だ………)
メイド長「じゃ、しまいます?」
魔王娘「い、いえ!今食べたいです!」
メイド長「お腹いたいのに?」
勇者(お……おま!)
魔王娘(つ……つい食い意地が………)
メイド長「……なにか隠してません?」
一同「 」ギクギクギクゥ!
魔王娘「べ、べ、べ、別に!」
勇者「な、な、な、な、なにも!なあ!」
警備隊長「ああああああああああああああああああ!!」
憲兵隊長「ううううううううううううううううううううううううむ………!」
メイド長「ふぅん」
メイド長「まあ、悪いことはしないでくださいよね。ケーキは人数分残していきますわ」
勇者「ど……どこへ」
メイド長「片付けを」
魔王娘「い、い、い、いってらっしゃいです!」
………ガチャッ
一同「はあああああ………」
魔王娘「どうしましょう……」
警備隊長「もう、何か尋常ならざる事態がおきていることは隠し切れませんな」
勇者「……もういっそ」
憲兵隊長「それはならぬ……!メイド長が傷ついて魔王城を止めたりしたらどう責任をとるつもりだ貴様………!」
勇者「じゃあ、一体どうすればいい!」ドンッ
憲兵隊長「………」もぐもぐ
警備隊長「………」もぐもぐ
魔王娘「…………」もぐもぐ
勇者「ぐぅぅ………」もぐもぐ
勇者「………食べてる場合ではないというのに」もぐもぐ
魔王娘「最早食べて現実逃避するしかねーですよ……」もぐもぐ
警備隊長「殿下、口にクリームたっぷりついてますよ」
魔王娘「あ、本当です」
魔王娘「ティッシュください勇者さま」
勇者「………これだ」
一同「?」
勇者「これだ!!!」ドンッ
――――
魔王娘「あ、あの勇者さま」
勇者「なんだ娘」
魔王娘「………みんなで口にクリーム付けっぱなしって」
憲兵隊長「私や殿下に何ということをさせる………」
勇者「我々が上目線だというのがよろしくなかったのだ。」
警備隊長「う…上目線…?」
勇者「誰を導くにせよ、そのものと同じ立場に立たなければならん」
勇者「つまり、我々もメイド長と同じく、口の周りを汚すことによって、注意しやすい空気を作り出すのだ」
警備隊長「な、なるほど………」
魔王娘「たしかに、気軽に注意しやすくなるかもです!」
警備隊員A「流石は勇者さん!」
警備隊員B「やりますね!」
勇者「ふっ、なんのなんの!」
勇者「まあ、脳みそ筋肉の魔王みたいなやつには思いつかんだろうがなああ!!ぬははははははは!!!」
憲兵隊長(なんやかんやで勇者も染まってきたか………)
ガチャッ
メイド長「お待たせしましたわ」
一同(キタッ!)
メイド長「お茶、おかわりいかがです?」にっこり
勇者「なあ、メイド長!………って」
魔王娘「あ………」
警備隊長「あれ………?」
メイド長「なにか?」
勇者「いや……あの………」
勇者(ぎゅ………牛乳ひげが………)
一同(ないッッッッッッッッッッ!?)
メイド長「うふふ」にこにこ
勇者(な……なぜだ………)
警備隊長(我々完全に………)
魔王娘(マヌケじゃないですか………)
メイド長「皆さん」
勇者「なっ……なんだ」
メイド長「お口にクリーム、ついてますわよ?」ニコニコ
一同「!」
メイド長「もう、間抜けなんですから~」にこにこ
魔王娘「あ……ありがとうです……」
勇者「す、すまないな……」
メイド長「いえいえ」にこにこ
一同(な、なんだこの)
一同(理不尽さは………)
一同「………」どよんど
メイド長(あらあら、ちょっと意地悪しすぎましたかしら)
【16話・おしまい】
最終話につづく
魔王「勇者よ、ここで終わりだ!」勇者「ちいぃッ……!」
【最終話・前編】
チュンチュン……
勇者「……ん」
勇者「……今は何刻だ」
勇者「正午………」
勇者「は!まずい!まずいぞ!」ガバッ
勇者「わたしとしたことが……ち…遅刻………」ワナワナワナワナ
勇者「…………むぅぅ」
勇者「し、しかしメイド長が起こしてくれなかったから……」
勇者「…いや、言い訳にならんか」
勇者「あいつらの事だ……」
魔王娘『勇者さま、だらしないですねぇ。ぷぷっ』
メイド長『私が起こして差し上げないと起きられないなんて、勇者様って一人じゃなーんにもできないんですのね。ぷぷっ』
憲兵隊長『無能だな……ぷぷっ』
警備隊長『みんな、やめ………ぷぷっ』
ぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっぷぷっ
勇者「ぐううう!!!!!!」ドンッ!
警備隊長「何を騒いでいる」
勇者「!?」
勇者「け、警備隊長!い、い、いつの間に!」
警備隊長「さっきからだよ。それより超遅刻だぞ。今日買い物いくって約束したろ。ふざけんなよ」
勇者「えっ」
警備隊長「なんて顔してるんだよ、お前」
勇者「……ん?」
警備隊長「ああん?」
勇者「んっんっんっんっ」
▼ゆうしゃは こんらんしている!
警備隊長「どうしたんだよ、いきなり」
勇者「いやいや。警備隊長、君こそどうした」
警備隊長「はっ?」
勇者「いや、だから……感じが変だぞ。いつも、君は私を『お前』などとは呼ばんだろうに」
警備隊長「………」
警備隊長「あはははははははは!!!」
勇者「えっ」
勇者「えっえっ」
勇者「い、いや、なにがおかしい」
警備隊長「だっておかしいだろう!私を『あちらの名』で呼ぶし、お前、役が抜けてないんだろう!」
勇者「えっ」
勇者「や………『役』?」
警備隊長「そうだ。役だ。そうか……役者が度々役から戻れなくなるときがあるというが、これか!」
勇者「待て、待て警備隊長、君は一体何を」
警備隊長「そうだな、ばかばかしいが仕方あるまい。分かり切っている事だが説明してやろう」
警備隊長「君は演劇、『勇者と魔王』の勇者役を演じている俳優で」
警備隊長「いわゆる、主役というやつだ」
勇者「えっ」
勇者「………」
警備隊長「理解したか」
勇者「えっ……………!?」
勇者「う、うそを言うな!私は!私は!」
警備隊長「で、私が警備隊長役の俳優。お前とは劇団の同期だ。思い出したか」
勇者「冗談!貴様はどうかしているぞ!」
警備隊長「参ったな……どうかしてるのはお前の方なんだがな………」
勇者「…………」
警備隊長「まあ、芝居が打ち切りになってショックなのは分かるだろうが何とか立ち直ってくれ」
勇者「…………」
警備隊長「苦しいのはみな同じだぞ」
勇者「………えっ」
勇者「………娘は」
警備隊長「は?」
勇者「娘はどうしたと聞いている!!!」
警備隊長「ああ……あの子か……親父さんと一緒に出てた」
勇者「どうした!!!!」
警備隊長「怖い顔すんなよ………この先に住んでるよ、2人で」
勇者「メイド長は!」
警備隊長「…………」
勇者「どうしたと聞いている!答えろ!」
警備隊長「聞かない方がいい」
勇者「…………!」
勇者「それは一体どう言う意味だ」
警備隊長「………自分で確かめろ。俺は話したくない。」
勇者「なあ………!」
警備隊長「お前はいいな。ショックで頭がおかしくなれて」
警備隊長「俺もお前みたいになりたいよ」
勇者「警備隊長!お前、本当に…………」
警備隊長「………医者を見つけてきてやる。それまで問題起こすなよ。じゃあな」
勇者「ちょ、ちょ、ちょっと待て!」
バタン
勇者「………」
勇者「な……何が一体………どうなって」
勇者「……そういえば」
勇者「ここ、城ではない……」
チュンチュン チュンチュン チュンチュン チュンチュン
勇者「…………」
勇者「………何が何なのか」
ガチャッ
大臣「おい!いるか!」
勇者「だ……大臣!」
勇者「よかった!よかった!なんだか警備隊長と部屋が変なのだ!お前なにか……」
大臣「そんなことはどうだっていい!」
勇者「ど、どうだって良いことなど!」
大臣「また二丁目の娘さんが暴れてるんだ!私では手をつけられぬ!早く!」ぐいっ
勇者「に………え?」
大臣「ったく、あの娘は………」
勇者「え?え?え?」
―――――
勇者「な、なにが、あ、暴れてるんだ………」
大臣「あれだよ!はやくしてやってくれ!親父さんが死んじまう!」
勇者「だから!状況が………」
魔王娘「ゴルァアアアアアア!!!金用意しとけっつったろ!!!死に損ない!」バンッ!!!
魔王「ひ、ひぃぃっ!」ビクッ
魔王「ごめんなさい……ごめんなさい………」
大臣「あああ………」
勇者「む、娘に………魔王?」
魔王娘「5万じゃ足りねぇんだよ!オラァ」ドゴォ!
魔王「い……いたいよ………」
魔王娘「痛いか?痛いかクソ親父!」ドゴォ!!
魔王「ギャアアアアアアアア!!!!!!!!!」
勇者「な、なあ………」
魔王娘「死ね!死ね!死ね!死ね!」ドカッ!ドカッ!ドカッ!
魔王「やめてくれェェエエエエエ!!!!!!!!!痛いィイイイイィイイイイィイイイイ!!!!!!!!!」
勇者「む、娘!止めろ!貴様親に向かって!!!」
魔王「ひ、ひぃぃっ!」ガクガクガクガクガクガク
魔王「やめてくれぇ!やめてくれぇ!後で……後でぇ………」
勇者「どうした魔王…!お前、そんな器じゃ………」
魔王「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
勇者「……魔王?」
魔王娘「あ、勇者くんじゃーん!ひさしぶりぃ」
勇者「娘!貴様!!!!」
魔王娘「え~、なにムキになってんの?勇者くんもコイツ嫌いぢゃんワラ」
勇者「………娘?」
魔王「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
魔王娘「うっせんだよ!!!!!壊れたラジオかよテメー!!!!」ドゴォ!
魔王「ウゲェェェエエエエエエエ!!!」
勇者「ひゃ、ひゃあああああああ!!!!!!」
勇者「こ……こんなのは………なんなんだ………」
大臣「うわああああああああああああああああああああああああ」
勇者「だ、大臣………?」
【街】
勇者「魔王と娘と大臣もおかしくなってしまった!」
勇者「メイド長!メイド長なら!メイド長なら!」
勇者「メイド長はどこだ!メイド長はどこだ!」
憲兵隊長「お客さ~ん遊んでかない?」
勇者「憲兵隊長!」
勇者「あ、あのな!魔王と娘と……みんな!みんなおかしくなってしまってだな!」
憲兵隊長「……勇者!」
勇者「な、なんだ!お前は!お前は!」
憲兵隊長「勇者さん久しぶりっすねー!メイド長探してるんすか!」ニコーッ
勇者「ああ………」
勇者「…………」
勇者「憲兵隊長、メイド長は知らんか」
憲兵隊長「メイド長すか……まあ、知ってますけど」
勇者「メイド長を!メイド長を知っているのか!」
憲兵隊長「え………ええ……まあ………」
勇者「あわせてくれ!」
憲兵隊長「いいですけど……」
勇者「けどなんだ」
憲兵隊長「いいんですか?」
勇者「いい!いいから、早く!」
憲兵隊長「じゃあ……ついてきてください」
勇者「ああ」
勇者(良かった!メイド長に……)
勇者(これで………)
勇者(メイド長がなんとかしてくれる………)
勇者(しかし、何故、突然こんなことに…………)
憲兵隊長「勇者さん、ここです」
勇者「ああ………」
キィィ………
―――――
勇者「な……何故シャワーを浴びさせられたのだ」
勇者「しかも妙な空気が漂う場所だ」
勇者「布団……?何に使うんだこれ」
勇者「昼寝でもするのか」
勇者「にしては照明が落ち着かん………」
ガラッ
勇者「………!」
メイド長「本日はご指名ありがとうございますぅ~」
勇者「メイド長!」
メイド長「………『勇者様』」
勇者「よかった!よかった!君は………」
メイド長「ぎゃははは!ウケる!んじゃ、パンツ脱いでよ!!!」
勇者「えっ」
【後編に続く】
【最終話・後編】
勇者「 」
メイド長「は・や・く」
勇者「……い、いや、その」
メイド長「あ、脱がされる方が好き?」
勇者「ま、ま、ま、まて!まて!まて!ままて!まて!まて!」
勇者「な……なんてことを………メイド長!」
メイド長「なんてことを、って仕事だし」
勇者「……仕事?」
メイド長「舞台が打ち切りになった後仕事がなかなかないし。男に抱かれて金稼いでるんだよ。悪い?」プハー
勇者「えっえっ」
メイド長「最初は評判がよかったんだけどね、勇者がなかなか魔王になろうとしない展開が良くなかったせいで打ち切りになったんでしょうが」プハー
勇者「そんな………」
メイド長「姫役のガキは悪い仲間に誘われてヤクやってるらしいし、親父はキチガイになっちまったし。」
メイド長「大臣役のハゲジジイも家庭崩壊だってね。ちなみに姫様は来月このお店に入るらしいよ。」
メイド長「No.1取られちゃうか心配だわ~。ま、イジメてやるけど」
勇者「嘘だろ?」
メイド長「嘘言ってどうすんだよ」
勇者「夢だ……夢なんだよ………」
勇者「覚めろ!覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ!!!!!!!!!」
勇者「…………」
勇者「夢じゃない」
メイド長「じゃ、勇くん。ちゃっちゃとエッチしちゃおっか」
勇者「ああああああ…………」
メイド長「とくべつにさ…ゴムなしで」ヒソッ
ドンッ!
メイド長「!」
勇者「やめろ!やめてくれ………!」
メイド長「……えっ?」
勇者「金なら…有り金全部置いていく」
勇者「だから……やめてくれ」
メイド長「………」
勇者「帰る」
勇者「すまなかったな」
―――――――
警備隊長「…………」
勇者「…………」
警備隊長「どこ行ってた」
勇者「娘とメイド長のところへ」
警備隊長「そうか」
勇者「ああ」
警備隊長「…………」
勇者「…………」
警備隊長「俺さ、もう疲れたんだ」
勇者「………」
警備隊長「死のうと思う」
勇者「何を馬鹿なことを!」
警備隊長「疲れたんだよ!!」
勇者「警備隊長………?」
警備隊長「疲れたんだ………」
警備隊長「ぅぅぅ…………」
勇者「………」
ガチャッ!
大臣「………二人とも!二人とも!」
勇者「どうしたまた」
大臣「い、いいから!いいから!来てくれ!来てくれェェエエエエエ!」
―――――
ピーポーピーポーピーポーピーポーピーポー
魔王娘「 」
魔王「ぬふふふふ…………」
村人A「あわわわ………」
村人B「女の子が!女の子が死んでるぞ!」
村人C「ち、父親が殴り殺したのか………」
魔王「あはははははははは!!!!!!!!!!!!!!!」
警官「黙らんか!」
勇者「な…………」
勇者「なあ………………!」ガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガク
大臣「お……遅かったか……………」ガクッ
魔王「ぎゃははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
警備隊長「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
勇者「警備隊長………?」
大臣「そりゃ気が狂うよ………」
大臣「この世界はまるで『地獄』だ」
勇者「…………」
魔王「ぎゃははははははは!!!ぎゃははははははは!!!ぎゃははははははは!!!ぎゃははははははは!!!ぎゃははははははは!!!ぎゃははははははは!!!」
警備隊長「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
大臣「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
勇者「や、や、やめろ!やめてくれ………やめてくれ!これは違う………こんなのは違う…………」
メイド長「いや。これが真実ってやつなんだよ」
勇者「メイド長!」
勇者「違うと!違うと!」
メイド長「かわいそうだね………気が触れちゃったか」
勇者「ちがぅぅ…………」
勇者「………やめてくれよ」
メイド長「かわいそうだね、作りものの世界から帰ってこれなくなったんだ」
勇者「だって!だってメイド長!」
メイド長「そんな、都合の良い話、有るわけないじゃないか」
メイド長「殺される寸前に敵の娘に惚れられて、気ままな生活送ってさ」
メイド長「その末敵と和解なんて、都合が良すぎるよ」
勇者「だって………」
メイド長「現実、みなさいよ」
勇者「現………実?」
勇者(メイド長にどぶを飲まされた事も)
勇者(警備隊長に散々な目にあわされた事も)
勇者(皇后にドラゴン召喚されたことも)
勇者(憲兵隊長に殺されかけたことも)
勇者(………魔王に陥れられそうになったことも)
勇者(娘にだまされたことも)
勇者(ろくなことではなかったが………)
全て幻想、だったのか?
警官「あ、そうだ!そこのお前!」
大臣「ゲッ」
警官「痴漢で指名手配されているヤツだ!逮捕する!!!」
大臣「い……いやだ!いやだああああああああああああああああああ!!!!!!!」
警官「逮捕だ!」
大臣「触ってなにがわるい!触られるような格好している方がわるい!!!!!!」
大臣「うわああああああああああああああああああああああああああああああ」
メイド長「ま、でもあんたの気持ちは分かるよ」
メイド長「あーあ……あの劇が打ち切りになってさえいなけりゃ」
メイド長「早く勇者が魔王になってりゃ」
メイド長「 こ ん な こ と に は な ら な か っ た の に 」
勇者「私が………魔王に…………」
勇者「…………」
勇者「これは悪い魔法なのか」
勇者「いや、多分気が違ってしまったんだろうな………私は」
勇者「あははははは、今までの生活は一体全体何だったのか!」
勇者「そうか……イヤだな、馬鹿だな、私は………」
勇者「私が魔王にでもなれば幻想から覚めなかったのだろうか!メイド長!なぁ!」
メイド長「…………」
勇者「答えてくれよ………」
勇者「…………こんなことなら……私は」
メイド長「…………」
勇者「魔王にでもなんでもなって置けばよかった!!!!」
勇者「娘とも契りを交わして置けばよかった!!!!!!!!」
勇者「私は………私は………」
勇者「幻想でも……なんでも………守りきれなかった………」
勇者「何が勇者だよ…………」
メイド長「…………」
勇者「ぅぅぅ……ぅっ…ぅっ…」
勇者「魔王になる!私、勇者は魔王になる!だから………」
勇者「だからぁ………」
メイド長「…………」
それでも、世界は変わらない
魔王と勇者が
魔族と人間が
分かり合うなんて事ありはしない
魔王娘が勇者に一目惚れ
そんな事だってありはしない
全部ひとりの男の
「都合のいい妄想でした」
メイド長「おしまい♪」
595 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/04 00:17:56.99 1YVY4kMAO 532/580えっ
597 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/04 00:24:06.53 HDjX4+L1o 533/580嘘だろ、おい
カチッ
メイド長「はい、勇者様バッチリ取れましたわ」
勇者「………へっ」
メイド長「………」にこにこにこ
勇者「えっ」グスッ
メイド長「お疲れ様でした勇者さま」にっこり
■再生
勇者『魔王になる!私、勇者は魔王になる!』
メイド長「うふふっ」
勇者「…………」
勇者「えっ」
メイド長「ほらほら、涙をお拭きになって………いい男が台無しですわ」
勇者「えっえっ」チーン!
メイド長「…………鼻をかんで良いとは言ってませんわよ」
魔王娘「起きていいです?」ムクッ
メイド長「オッケーですわ。皆さんもご苦労さまでした~」
勇者「えっ」
警備隊長「はははっ!難しい役どころだったな!メイド長!」
魔王娘「熱演でしたよ~」
メイド長「お止めになって……もう、思い出したら死んでしまいそうです」カアアッ
勇者「えっ」
魔王「我が輩が泣き叫ぶとこ、ちょっとやり過ぎだった?」
大臣「いやあれくらいで。男優賞モノですよ」クイックイッ
憲兵隊長「ふっ………」
勇者「えっ」
勇者「えっえっえっ」
村人A「いやぁ、準備も大変だったなぁ!」
メイド長「あ、これバイト料です」
村人C「あ、すいませんねぇ」
勇者「えっ……」
勇者「なにこれなにこれ」
メイド長「なにこれって」
魔王娘「ぜーんぶ今までのは」
警備隊長「お芝居なのだが」
メイド長「勇者さまに思わず魔王になる!と言わせるための」
勇者「…………」
勇者「えっ」
メイド長「勇者さま、こんな古典的な手に引っかかりますかねー。ぷふっ」
魔王娘「ぷふっ勇者さま、超ダセーです!」
警備隊長「情けないなぁ勇者殿!ぷふっ!」
憲兵隊長「ぷふっ………」
勇者「 」
勇者「えっえっえっえっえっえっえっ」
勇者「えっ、だって城がないじゃないか。」
警備隊長「まあな」
勇者「えっ、ここはどこだ」
メイド長「魔王城周辺とそっくりな作りの村です」
皇后「探すの苦労しちゃったんだからぁ~」
勇者「えっ、じゃ、なんだ、私が眠ってるあいだに」
魔王娘「はい」
勇者「えっ、この建物は」
憲兵隊長「憲兵隊の総力をあげた」
憲兵隊員「憲兵隊の寸劇にかける情熱をなめるなよ!」
一同(お前ら………本業ちげえだろ………)
勇者「そ、そうだ………あの時、メイド長………」
メイド長「よかったですわね勇者様。あの時ヤケにならなくって」にこにこ
憲兵隊員「私たちが」
警備隊長「みていたからなあ………」
警備隊長・憲兵隊長「あはははははははは!!!」
勇者(じ、地味に命の危機だったのか………)
勇者「つ………つまり、ドッキリ?」
メイド長「ドッキリです」
勇者「ち、ちなみにタバコは?」
メイド長「おもちゃですわよ」
勇者「そうか………」ほっ
警備隊長「良かった」ほっ
憲兵隊長「うむ……」ほっ
メイド長「なんでみんな揃って、ほっとしてるんです」
勇者「えっ、じゃあまて!さっき録音した………」
メイド長「もちろん、ねぇ」
一同「ねぇ」
勇者「だ、だってあれは!」
メイド長「もう遅いですわ勇者さま」
勇者「えっ……」
メイド長「だってもう」
魔王娘「レイディオで国中に流しちゃってますもん」
勇者「 」
一同「新魔王誕生ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!」
勇者「 」
勇者「ま、まままままままマテ!だって魔王、お前」
魔王「は?別に私はお前に魔王の椅子を譲ることは構わんぞ。むしろ」
魔王「毎日お前と娘を監視」
魔王「で・き・る」
魔王娘「はああああああああああ!?」
魔王娘「クソジジイ何言ってるんですか!殴られ足りなかったですか!」シュッシュッ
魔王「あはははははははは!!!我が輩、楽しみだなあ!」サッサッ
魔王娘「お父様のバカバカバカバカァ!!!!!!」シュッシュッシュッシュッシュッ
魔王「ぬははははははは!!!!!!甘いぞ!我が娘よ!!!」サッサッサッサッサッサッ
勇者「………なんてこった」
メイド長「こうでもしないとあなた、魔王になるって踏ん切り、つかないでしょう」
勇者「………ぐぅ」
メイド長「ふふふっ。ま、落ち着くとこに落ち着きましたわね」
警備隊長「メイド長、君は」
メイド長「なんです」
警備隊長「明るくなったな」
憲兵隊長「ああ………」
メイド長「お二人も十分お変わりになりましたわよ」
警備隊長「………」ジッ
憲兵隊長「………」ジッ
憲兵隊長・警備隊長「ふんっ…!」
魔王娘「ふん!こうなったら既成事実を作っちまえばいいんです!」
魔王娘「ってことで、勇者さま!早速抱いてくださーーーいっ!」ダダダダダダダダ
勇者「なっ!来るな!来るなあああああああ!!!!!!!」ダダダダダダダダ
魔王娘「ちゅーっ!」バッ
勇者「ぬわああああああああ!!!!!!」
皇后「平和ですね、あなた」
魔王「い、いたのか」
皇后「ずっと」
皇后「ね、あなた」
魔王「う………」
魔王「…………うむ」
魔王娘「勇者さまあああああああ!!!!!!」
勇者「ぬわあああああああああああああああ!!!!!!」
【魔王「勇者よ、ここで終わりだ!」勇者「ちいぃッ……!」最終話
おしまい
610 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/04 00:42:33.79 ABCiORBAO 544/580というわけで最終話終わりです
今までありがとうございました。
エピローグ終了まで、あと少しお付きあいください
―epilogue―
▼そして
▼20年の月日が経った……
【いつぞやの喫茶店兼酒場】
カランコロン♪
女店主「いらっしゃーい」
メイド長「お久しぶりですわね」
女店主「お元気そうで。2人とも、待ってるよ」
「やあ、メイド長」
「待っていました………」
メイド長「警備隊長さんに、憲兵隊長さんお待たせしま………」ハッ
メイド長「あ、いやですわ。」
メイド長「いつもの癖で。お二人とも、外では元帥さんに法務大臣さんとおよびしないと、ね」ニコッ
元帥(警備隊長)「そんな大層なものではないさ。軍は基本的には暇だからな」
法務大臣(憲兵隊長)「そうだな」
元帥「ああん!?」
メイド長「もうっ……」
女店主「店の看板、外したから私も入れてくれないかな」
メイド長「よろしいですわよ」
元帥「では、殿下と勇者くん……いやもとい、皇后と陛下のお子様の誕生に」
一同「かんぱーい!」チーン
メイド長「全く、長かったですわね……ここまで」
元帥「あれから結婚まで10年、子供が出来るまで10年だからな」
法務大臣「まあ……前魔王様の監視があっては」
女店主「仕方ない、かもねぇ」
一同「ふふふっ……」
メイド長「あれからみんな多少なりとも変わりましたわね」
メイド長「大臣は引退されて“指導員”とやらとして部下の皆さんにケチをつける毎日ですし」
元帥「娘さんが結婚した途端に熟年離婚を突きつけられていたな」
法務大臣「一方我々の部下達はみんな出世したな」
メイド長「魔王様……前の魔王様は今は」
元帥「以前の姿はまるで見る影もなく」
法務大臣「孫に骨抜き状態だな………」
女店主「あらあら………」
メイド長「この間なんてまるまるおもちゃ屋一軒買い取って奥様にしかられてましたよ」
元帥「ま、魔王様らしいな」
元帥「その点殿下はしっかりなされた」
法務大臣「完全に勇者………ではなかった魔王陛下殿を尻に敷いているからな………」
メイド長・元帥・法務大臣「……ぷっ」
メイド長「あの殿下がねぇ………」
元帥「子供を産むと変わるというが」
法務大臣「まさかあれほどとは、なあ………」
メイド長「変わっていないのは、私の地位くらいのものですわね……」
元帥「へこむこともないぞメイド長」
元帥・法務大臣(……あなたは最初から偉いんですから)
女店主「そうかな、あたしにはあんた達三人まとめて全く変わってない気がするけど」
メイド長・元帥・法務大臣「へっ!」
メイド長「………」グビグビ
元帥「………」グビグビ
法務大臣「…………」グビグビ
女店主「酒飲んでごまかすんじゃないわよ」
【30分後】
元帥「ひくっ」
法務大臣「ひくっひくっ」
法務大臣「ったくよぉ、勇者のやつめ、偉そうにヒゲなんか蓄えちゃって……」ひくっ
元帥「むかつくよな!」ひくっ
元帥「ったくよぉ、勇者くんのやつめ、魔王になったとたん、出世させやがってぇ………」ひくっ
法務大臣「おかげで忙しくなっちまったぁ、よなぁ………!」ひくっ
女店主「とんだいちゃもんだね」
メイド長「酔っ払い過ぎですわよ、お二人とも……」
元帥「今じゃ勇者くんも殿下のいいなりだからなぁ」
メイド長「殿下に骨抜き状態ですわよね」
法務大臣「この間なんて殿下に泣きながら土下座なんかしてたぞ」
魔王(勇者)『ごめんなさい……本当にすまなかったぁ……!』
皇后(魔王娘)『誠意がみられないわ。離婚かしらねぇ』
魔王(勇者)『そ、そ、それだけは嫌だ!ゆ、ゆ、許してください!』ペコペコ
皇后(魔王娘)『まったく!もっとキチンとなさいと私は言っているでしょう!』
魔王(勇者)『ごめんなさいぃ………』
元帥「勇者くんは最初はあーんなに殿下にビビってたのにな」
法務大臣「今でもビビりっぱなしだろ………」
一同「あはははははははははは!!!!!!」
元帥「でも楽しいだろうなぁ、結婚」ひくっ
法務大臣「なあ………」ひくっ
元帥・法務大臣「………」ジッ
メイド長「えっ」
元帥・法務大臣「結婚してください!!!!メイド長!!!!!!」バッ
メイド長「えっ……」
女店主「良かったじゃーん」
メイド長「えっえっ」
元帥・法務大臣「…………」ひくっ
メイド長「………分かりました」
メイド長「じゃあ……」
元帥・法務大臣「………」
メイド長「ゲームで決めましょう」にっこり
一同「……」ズコーッ
女店主「ひ、酷い女だなあんた………」
メイド長「し、仕方ないじゃありませんか」
元帥「よし、乗った!」ヒクッ
法務大臣「ヘイヘーイ!ビビってるよ警備隊長!ヘイヘーイ!」へべれけー
メイド長「ここにトランプ52枚がありますわ」
元帥・法務大臣「………うむ!!!!!!!」
メイド長「必ず1枚以上8枚以下を取ることに致します。最後のカードを取った方が勝ちです。このコインで先攻後攻を決めますわ。どちらから?」
法務大臣「私がやるぞ!!!」ヒクッ
メイド長「……私が表でよろしくて?」
法務大臣「うむ!!!!!!!!!」
メイド長「ではコインをお投げ頂けます?」
女店主「う、うん」
チャリーン……
女店主「………表」
メイド長「じゃあ私が先攻ですわね。さきに7枚取らせて頂きます」
法務大臣「では私は6枚!!!!!!」
メイド長「私は3枚」
法務大臣「2枚!!!!!!」
メイド長「7枚」
法務大臣「1枚!!!!!!」
メイド長「8枚」
法務大臣「5枚!!!!!!」
メイド長「4枚」
法務大臣「4枚!!!!!!……って、アレ」
メイド長「5枚……私の勝ちですわね」にっこり
法務大臣「 」
元帥「ざっまああああああああ!!!!!!!!!」
元帥「じゃあ次は私だ!!!!!!」
メイド長「じゃあまた私、コインは表に掛けてよろしくて?」
元帥「了解した!!!!!!」
チャリーン!
女店主「また表だ」
メイド長「では私は1枚」
元帥「……私は3枚」
メイド長「………3枚です」
元帥「じゃあまた3枚!!!」
メイド長「6枚」
元帥「2枚!!!」
メイド長「7枚」
元帥「1枚!!!!!!!!!」
メイド長「8枚」
元帥「6枚!!!!!!」
メイド長「3枚」
元帥「5枚!!!!!!」
メイド長「4枚ですわ」
元帥「ええ…次は………」
元帥「次は……」
元帥「ない………」
元帥「 」チーン
女店主「二人とも気絶しちゃった」
メイド長「………」
女店主「しかし強いねーあんた」
魔王(勇者)「いいや、メイド長が強いのではないさ、このゲームがそう出来ているんだよ」
女店主「ゆ………ゆ………」
メイド長「勇者さま。いつの間に……」
魔王(勇者)「面白そうなことが起きていると、風の知らせでな」
女店主「あらまあ………」
皇后(魔王娘)「私もいるわよ。良かったじゃないですか、メイド長」
メイド長「で、殿下まで………」
女店主「さ、さっき勇者くんが言ってた事って……」
魔王(勇者)「最小の数1と8を足すと9になるだろう?52以内にある、9の倍数は最大45だ。」
女店主「う、うん」
魔王(勇者)「最初にそのあまりの部分……7をとってしまえば、後は相手が何を取ろうと、1ターンの合計が9になるように調整すれば勝ちだ」
女店主「……つまり先攻をとっちゃえば、絶対勝てるってワケか?」
魔王(勇者)「投げたコイン、どっちも表になってるだろ」
女店主「あっ………本当だ」
メイド長「バレては仕方ないですわねー」
女店主「……なんでこんなことするんだよ」
メイド長「……お酒の勢いでって言うのがイヤなんですのよ」
女店主「ま、そりゃそうか……」
女店主「でもなーんで勇者くんががそんなこと知ってたの?」
魔王(勇者)「この手で昔っからメイド長に一杯食わされ続けていたからな」
皇后(魔王娘)「そうです。そうやって昔からおやつ、メイド長に食べられてしまっていたのですから」
メイド長「うふふっ」
女店主「ワォ…………」
魔王(勇者)「ん、しかしそうなるとおかしいな」
メイド長「何がです」
魔王(勇者)「メイド長は確実に勝てない試合を………」
メイド長「何です」
ドカッ
魔王(勇者)「イタっ!」
皇后(魔王娘)「おやめなさい!だからアナタって人は」
魔王(勇者)「な、な、な、なんで………」
女店主(あっ、なるほどそう言う………)
法務大臣「………ぅぅっ」
女店主(法務大臣も意外といい男っちゃ男なのよね……)
メイド長「殿下、姫様は?」
メイド長「ってあらやだ、意味が同じになっちゃいましたわ」
皇后(魔王娘)「ふふっ。気にしないでメイド長。娘はすこぶる元気よ」
魔王(勇者)「義父に取られっぱなしだがな」
メイド長「ふふっ。そうですか………」
皇后(魔王娘)「と、そろそろ帰らないとあの子が愚図るわね。」
魔王(勇者)「先に失礼する」
メイド長「あら、じゃあ私も………」
皇后(魔王娘)・魔王(勇者)「い・い・で・す」
皇后(魔王娘)「今晩は休暇をあげるわ。じゃあね」
魔王(勇者)「今夜は帰らなくていいからな」
メイド長「…………」
女店主「法務大臣さん、あたしと呑みましょ!」ピタッ
法務大臣「えっ……」
女店主「……ほらほら、あっちのテーブルで!ね!」チラッ
法務大臣「ちょっ………!」ズルズルズルズル
メイド長「………」
元帥「………」
メイド長・元帥「……かんぱい」チーン
メイド長「ふふっ」
元帥「ふっ」
―――――――――
サアアアア…………
皇后(魔王娘)「あなた」
魔王(勇者)「なんだ」
皇后(魔王娘)「………私と結婚してくれて、ありがとう」
魔王(勇者)「あ……ああ………」
皇后(魔王娘)「照れなくったっていいじゃないの。私がアナタのこと、大好きだったんだから」
魔王(勇者)「………」
皇后(魔王娘)「あー、アタックし続けるのも疲れちゃったわ」
魔王(勇者)「い、いまは」
皇后(魔王娘)「?」
魔王(勇者)「私の方が…大好きだ………」カアアッ
魔王娘「ふふっ」
皇后(魔王娘)「うふふっ」
魔王娘「勇者さま」
勇者「な……なんだ」
魔王娘「“すき”あり!キーーーッス!」
チュッ
勇者「!」
こうして勇者と魔王娘はいつまでも幸せに暮らしましたとさ
魔王「勇者よ、ここで終わりだ!」勇者「ちいぃッ……!」
―fin―
640 : VIPにかわりましてNIPPER... - 2012/09/04 01:32:55.85 ABCiORBAO 566/580魔王「勇者よ、ここで終わりだ!」勇者「ちいぃッ……!」 本編はこれにて終了です
夜中までお付きあいありがとうございました。
普段はVIPで色々書いていると思うので機会がありましたからよろしくお願いします。
外伝はそのうち書くかもわかりませんがそちらもよろしくお願いします。
本当にありがとうございました
―蛇足―
【魔王城】
勇者「黙れナメクジ(笑)」
銃士「黙れ脳筋……(笑)」
魔王「あ、あのさぁ………」
勇者「死ね!」
銃士「お前こそ死ね…!」
魔王「あの……」
僧侶「ごめんなさい。もう少しで終わると思うので………」
魔王「もう一時間だよ!待てないよ!始めるよ!」
魔王「ぬはははははは!!!!!!我輩は魔王である!!!!!!!」
魔王「愚かな勇者共よ!ここで終わりだ!命乞いを………」
銃士「ほら、魔王が困ってるではないか。お前のせいで…」
魔王「するなら………」
勇者「はぁ?いちゃもんをつけるんじゃない」
魔王「あの…………」
魔王「うがあああああああああ!!!!!!!!聞けよ我が輩の話を!!!!!!!!!!」
勇者「第一なんだ、銃って!ふざけるなよ!!」
銃士「はぁ……?」
魔王「あの」
勇者「いいか、相手は誰であれ、誰かを倒す時には、自分も己の身体でその痛みを感じなきゃいけないんだよ!」
勇者「なのに飛び道具って(笑)」
銃士「はぁ?心が痛んでるんだがぁ~……(笑)」
勇者「はぁ?誰も心の話をしてないんですけどぉ(笑)僕は身体の話をしてるんですけどぉ(笑)」
銃士「引き金を引くとき、指が痛いからぁ~……!お前何にも知らないのなぁ……(笑)」
勇者「はああ?指が痛い(笑)(笑)」
銃士「黙れ、銃の使い方もわからん脳筋……(笑)」
勇者「黙れ、陰湿な倒し方をしやがってナメクジ(笑)」
魔王(あれ…なんで我輩微妙に傷ついてるんだろ……)
僧侶「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
勇者「顔色悪っ(笑)」
銃士「ワキガ……(笑)」
魔王「っていうかお前達、こんなんでよくここまで来られたな」
僧侶「ええ……まあ色々苦難はありました」
魔王「ほぅ、待ってる間にちょっと我が輩に聞かせてみろ」
僧侶「そうですね例えば……」
魔王「例えば」
僧侶「ある村では喧嘩の決着をつけようと町中のスライムを2人で倒していったんですが………」
魔王「結局同数で決着がつかなかったとか?」
僧侶「ええ……っていうか」
魔王「っていうか?」
僧侶「それ、全部村の特産品のタマネギだったんです……」
魔王「ええ!?」
魔王「っていうか、おおまかな形しか似てないじゃない!!っていうか、最初に気がつくよね普通!」
僧侶「まあ……二人とも夢中で周りが見えなくなってしまうと言いますか」
魔王「村の人、怒ったでしょ」
僧侶「はい。ですから、有り金は全部没収されて、その上1年は奴隷扱いでしたのよ……」
魔王「道理で、なんか来るのが遅いと……」
魔王「ほら!お前達我輩を倒しに来たんだろ!我輩はここだぞ!オイコラ!」
勇者「オラオラオラオラオラオラ!!!」カキーンカキーンカキーン
銃士「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」バンバンバンバンバンバンバンバン
魔王「ちょ!ちょっとや、やめ!」
ガッシャーン!パリーン!パリーン!パリーン!パリーン!パリーン!ガッシャーン!
ガッシャーン!パリーン!パリーン!パリーン!パリーン!パリーン!ガッシャーン!
魔王「あ………ああああああ…………」
魔王「我輩の調度品がぁ………」
僧侶「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
魔王「………他には」
僧侶「そうですね、喧嘩の末町一つ焼いてしまうことはしばしば……」
魔王「ええっ、我輩だってそこまで………」ひきっ
魔王「お前達……評判悪いだろうに」
勇者「それがそうでもないんだな!」カキーンカキーンカキーンカキーン
銃士「美しき僧侶殿がフォローしてくれるからな……!」バンバンバンバンバンバンバンバン
勇者・銃士「あはははははははははは!!!!!!!!!」カキーンカキーンカキーンバンバンバンバンバンバン
僧侶「…………」
魔王「うっわ……」
魔王「貴様ら!そこに直れ!」
勇者「はあ?誰が魔王などの指図を」カキーンカキーンカキーン
銃士「受けるものか……!」バンバンバンバンバンバンバンバン
僧侶「 そ こ に な お れ 」
勇者・銃士「…………ハイ」
僧侶「はい、魔王さん」
魔王「ハ、ハイ………」ビクビク
魔王「お前達恥ずかしくないのか」
勇者「何が」
魔王「………勇者一行のクセに破壊活動ばかりしている事に関して」
銃士「お前に言われたくないし…(笑)」
勇者「って言うか説得力0(笑)」
魔王「い、良いんだよ!俺は魔王だから!」
勇者「え、なに魔王だから?いいの?」
銃士「それ理由になってると思ってる?思ってるの……?ねえ……」
魔王「………ぐぅぅ」イライラ
僧侶「すみません……すみません………」
魔王「魔王になってから屈折数百年」
魔王「ようやく我が輩の元にたどり着いた勇者が居たと思ったら……」
魔王「居たと思ったら……」
勇者「やるかぁ?」
銃士「ああん……?」
魔王「もう良い、独りで話すから」
魔王「我輩も色々やってきた。やってきたが………」
魔王「お前達程は………」
勇者「ああん?ああん?」
銃士「ああん…?ああん…?ああん…?」
魔王「…………僧侶に対して貴様ら、申し訳ないとは思わないのか」
勇者・銃士「………えっ」
魔王「いつでもお前達を許し、フォローしてきた僧侶にお前達はこれからも苦労掛けるのか」
勇者・銃士「…………」
僧侶「魔王さん…………」
魔王「はっきり申す。今のお前達には」
魔王「私と戦う資格はない!!」
勇者「!」
銃士「!」
魔王「………僧侶を苦しめたお前達は、正義でもなんでもない。わかるか」
勇者「………確かに」
銃士「僧侶殿には………」
魔王「分かったなら、もう一度出直せ」
勇者「………」
銃士「………」
僧侶「そうですわ。二人とも……」
僧侶「魔王さんの前には我々は完璧な正義として現れなければならないのよ。お二人にはそれがあって?」
勇者「いや」
銃士「………ないな」
魔王「だから、もう一度………でなければ私が困る」
僧侶「私ももう一度、お付きあいいたします」
勇者「うむ!そうだな!」
銃士「うむ………」
魔王「じゃあ、ここまで頑張って来たんだから、我輩が最初の村まで移動させてやろう!」
勇者「頼む」
銃士「すまないな……」
僧侶「ありがとうございます」
魔王「行くぞ………移動魔法(最大)!」
勇者(もう一度!)
銃士(正義を取り戻す旅へ……!)
僧侶(良かったですわね……お二人とも!)
ビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ!!!!!!!!!
魔王「さーて三人は上手くはじまりの村に……」チラッ
勇者「 」
銃士「 」
僧侶「 」
魔王「えっ」
魔王「や、やだな、我輩……失敗しちゃった?」
魔王「おーい」ツンツン
勇者「 」
銃士「 」
僧侶「 」
魔王「………死んでる」
魔王「どうしよう……………」
【蛇足・おわり】


