「はあ、今日もパンの耳か」
「あ、あの……すいません。私のせいで……」
「ん? ああいや、お前のせいじゃないよ。俺が仕事すぐにクビになっちまうのが悪いんだからさ」
「……だからそれは私のせいなんですが……」
「ん? 何か言った?」
「なんでもないです……」
「でも本当、こんな汚くて狭い部屋でごめんな」
「……いえ、私は嬉しいですよ。あなたの近くにいつもいられるから」
「あ……あはは、そうか。照れるなそれ」
(ずっと近くにいたいから……あなたにはずっと貧乏でいてもらうしかないんです……すいません)
元スレ
新ジャンル「貧乏神」
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貧「あ、あのっ!」
男「何?」
貧「わ、私が実は神様だって言ったら、信じますか!?」
男「は?」
貧「……(ジッ」
男「いや、そんなに真剣に見つめられても困る……」
貧「で、どうなんですか!? 信じるんですか!?」
男「……こんな可愛い神様なら、大歓迎だけどね」
貧「あう……頭なでないでください……」
男「でも神様なら、この窮乏から俺を救ってくれたりはしないのかな?」
貧「それは無理」
男「な、なんでそんなにきっぱりと言うの?」
貧「無理なものは無理ですから」
男「ついに水道まで止められたわけですが」
貧「……このままだと、しんじゃいますね」
男「でもバイトも見つからないし……一体どうすりゃいいんだろ……」
貧「あ、あの。私……しばらく出て行きますね?」
男「え、なんでお前が出て行くんだよ?」
貧「……すいません。理由は言えないんです……」
貧(あなたに死なれては……困りますから……)
一週間後
貧「ただいまです……」
男「お、おかえり! 今までどこいってたんだ!?」
貧「あ、いえ、ちょっと……」
男「そうだ。聞いてくれよ! 俺今日雇いのバイトしてるんだ。工事現場でさ……」
貧「そ、それは良かったですね!」
男「ああ、これでまだ生きていられるよ!」
翌日
男「またクビになったわけですが……」
貧「ど……どんまいっ。ですよ……」
男「今日は、外に飯くいにでも行くか?」
貧「えっ!!!!????」
男「どうしてそんなに驚くんだよ」
貧「いえ、どこにそんなお金があるんですか?」
男「この前のバイト、日雇いだったから。結構あるんだよ」
貧「はあ、なるほど」
男「それでさ、いつもパンの耳ばっかりで悪いから、ごちそうしようと思って」
貧「お気持ちは嬉しいんですけど……私とお出かけなんてしないほうがいいと思います……」
男「何言ってんだ。早く行こうぜ。ファミレスくらいしか無理だけどな」
貧「あ……だったら、ハンバーグ食べてもいいですか?」(食べられるのなら……)
男「おお、何だっていいぞ!」
男「……財布落としたわけですが」
貧「あう……ハンバーグ……」
男「ご、ごめんな! また今度金入ったらごちそうするから……」
貧「いえ、どうせ無理なのはわかってますから……いいです」
男「起きて半畳寝て一畳って言うけど、やっぱり狭いよな……」
貧「あ、あの。私、やっぱりお邪魔ですか?」
男「いや、そんなことないよ。……でも、お前は窮屈って思わないの?」
貧「いえ。そんなことはありません。屋根がある所で暮らしていられるだけで満足です……」
男「そうか?」
貧「ええ、あなたに拾っていただけるまでは、本当に泥を啜って生きてましたから……」
男「…………」
ボフッ
貧「え、え、あの。なんでいきなり抱きしめるんですか?」
男「……もう、夜になるとちょっと寒いからさ」
貧「そ……そうですね……」
>>22の前にこれをつけくわえてください
男「すいません。今日もパンの耳もらえますか?」
パン屋「あのさ、いい加減にしてもらえる? 迷惑なんだけど」
男「え……」
パン屋「もう来ないでくれ」
男「わかりました……」
男「というわけなんだ……。もう、今日から盗みでもしないと、飯にありつけないよ」
貧「あ、あの、私、その……あの……」
男「お前は、知り合いの所に連れてくよ。大丈夫、信用できる奴だから」
貧「私……あなたと一緒にいたいです……」
男「でも、このままだと餓死しちゃうんだぞ?」
貧「わ、私も働きます! 稼げるかどうかわかりませんけど! 身売りでもなんでもして働きますから!」
男「身売りするなんていうな」
貧「あう……すいません……」
男「わかった。お前がそこまで言うなら、俺も今日から死ぬ気でバイト探すから」
男「ごめん……今日もバイト、見つからなかった」
貧「あ、あの。大丈夫ですか? 顔色悪いですよ……?」
男「あはは、最近……水しか飲んでないからな。お前は大丈夫か?」
貧「わ、私は大丈夫ですけど……」
男「……もう、どうしようもないな」
貧(私は……やっぱり出て行くしかないのかな……)
男「悪い、金貸してくれないか……?」
友「この間貸した三万も返してもらってないのに、これ以上貸せるわけないだろ」
男「そ、そうだよな。ごめん……」
男「……これから、どうすればいいんだろう」
途方に暮れていた時、電柱にあった張り紙に目が行った。
【五万円まで即決でお貸しします 電話番号はこちら……】
男「……はは。後で働いて返せば、いいよな……」
貧「あ、おかえりなさいです……」
男「どうした。いつもより元気ないな」
貧「いえ……別に、そんなことないです」
男「そうか。それよりも、久しぶりの飯だ。コンビニ弁当だぞ」
貧「え……ど、どこにそんなお金が……」
男「はは……ちょっとね、借金なんだけど……」
貧「……っ!」
男「大丈夫だって。すぐにバイト見つけて返せばいいから!」
大家「家賃、三ヶ月分溜まってますよ?」
男「あ……すみません。とりあえず、一か月分だけはあるんですけど……」
大家「……ふん、早く払ってくださいよ」
男「……五万なんて、すぐになくなっちまったな……」
ドアの外では、金の取立てに来た男が騒いでいる。
貧「こ、怖いです……」
男「ごめん……ごめんな……こんな目に合わせて……。バイトだって、がんばれば見つかると思ったんだけど……」
貧「……いえ……私は……」
貧(もう、限界……かな)
男「もう……自殺でもするしかないのかな」
貧「だ、駄目ですよ! 自殺なんて!」
男「うるさいな……、大きな声で騒ぐな。空腹に響くから」
貧「す……すいません……」
貧「あ、あの……魚雷ゲームでもしませんか? 気がまぎれるかも……」
男「……外で遊んでこいよ」
貧「その……」
男「外で遊んでこいって言ったんだ!」
貧「わ……わかりました」
バタン。
男「あいつに当たるなんて、最低だな……俺」
ちゃぶ台の上に置かれた魚雷ゲームを片付けようとすると。
チャリーン
男「ん……。これは、10円玉……?」
男「10円玉でできること……か」
家の中の電話を見る。
そういえば、金を払ってないから電話も止められている。
家族とはほとんど絶縁状態だけど……頼るしかない、か?
男「結局、うまい棒買っちまった……」
公衆電話にたどり着く前に空腹に負けた……。
男「あいつに食わせてやるか……」
ちょんちょん。
その時、誰かに服の裾を引っ張られる。
男「ん……?」
そこには、着物を着た、おかっぱ頭の少女が立っていた。
男「……誰?」
座「お初にお目にかかります。私、座敷わらしです」
男「はあ……? 座敷わらし?」
座「はい」
男「……うまい棒食べる?」
座「あ、どうも……もぐもぐ」
男「それで、俺に何か用?」
座「ええ、あなたにというより、あなたの家に居候しているのに用があるんですが……」
男「あいつに……? まあ、とりあえずウチくるか?」
座「はい、そうさせて頂きます」
アパートに戻ると、部屋の前には893が立っていた。
男「げ……!」
893「おう、兄ちゃん……」
男「な、なんでしょう」
893「良かったのう、大家さんがええ人で」
男「は?」
893はそれだけ言ってアパートから去っていった。
男「なんなんだ?」
座「さあ……」
男「まあ、とりあえず中に入って?」
座「お邪魔します」
男「はい……お水。ごめんね、お茶とかなくて」
座「どうぞお構いなく。私はあいつを待っているだけですから」
貧「ただいまです……野いちごとってきたんですけど、食べます……か!?」
男「あ、おかえり」
座「お帰りなさい」
貧「な、なんであなたがここに……」
座「あなたを、ここから引き離す為に来ました」
男「……どういうこと?」
座「この娘はね……」
貧「だ、駄目っ、言わないでっ!」
座「貧乏神なんです」
男「え……貧乏……神?」
貧「あ……はい……」
男「あはは、なるほど……貧乏神か。道理でお金も溜まらないわけだ」
貧「す、すいません……。私、あなたから離れたくなくて……!」
座「それがこの人に、どれだけの不幸を強いるかわかっているんですか?」
貧「い、いいもん! ボロは着てても心は錦だから!」
座「意味がわかりません。あなたはここを離れるべきです。貧乏神や疫病神などの不幸をもたらす神は、一箇所に留まってはいけないんです」
男「……いや、いいよ」
座「え?」
男「借金しちゃった時は流石にやばかったけど……こいつと一緒にいるの、楽しかったからさ」
貧「あ……」
座「これからも、ずっと貧乏のままなんですよ?」
男「負け犬の言葉かもしれないけど、心が貧しいよりはずっといい」
貧「私、一緒にいても……いいんですか?」
男「貧乏でも、いいならね」
貧「あはは……それ、私のせいなんですけど……」
男「そういえば、そうだったな」
ふたりで、笑いあう。
座「私を無視しないでほしいんですが……ぷぇっ、この野いちご、腐ってます……」
座「仕方ありませんね……こうなったら……」
男「ん、どうするんだ?」
座「私もここに居候させて頂きます」
貧「えっ……えええっ! だ、駄目だよっ……!」
座「私は幸福を呼ぶ妖怪です。私が一緒にいれば、正と負の力が相殺しあって、少しはマシになるでしょう……」
貧「で、でもっ、狭いから駄目っ……!」
男「狭い言うな。……まあ、君が一緒にいるだけで貧乏から抜け出せるなら、こちらとしても願ったり叶ったりな提案だし。かまわないよ」
貧「そんな……」
座「ありがとうございます。それでは、ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」
座「それでも、多少……ですけどね」
男「どういうこと?」
座「力で言えば、この貧乏神の方が勝っています。腐っても、【腐っても】! ……神様ですからね」
貧「腐ってもって……強調しないでよっ……」
男「そういえば、ちょっとくさいな…。風呂入ってないから」
貧「あぅ……」
座「まあ、それでもバイトくらいは見つかると思いますけどね……」
男「そっか。じゃあ今日から早速、バイト探してみるよ」
男「ふたりとも出かけてるな……よし」
たたみの下から秘蔵のエロ本を取り出す。
男「ふたりがいる時にオナニーなんて出来ないからな……」
チャックをゆっくりと下げていくと……。
座「……ただいまで……!?」
貧「あはは、忘れ物しちゃいまし……た!?」
男「え……」
硬直する。
ちなみに股間のアレも硬直している。
貧「えっ、あのそのっ、な……なんですかっ! ナニですかっ!」
男「あああああ、いやその確かにナニだけどいやその」
座「と……とにかく、早くしまってください」
そんな風に言いながら股間を凝視するのはやめてください。
男「ふう……急に帰ってくるなよ……」
貧「すいません……。その……あの……溜まってるんですか……?」
男「え……」
貧「そ、その……私の貧相な体でよかったら……!」
男「えええ!?」
座「貧乏神とえっちなんてしたら、貧乏が体に染み付きますよ」
貧「…………」
男「やめとこうか……」
貧「はい、すいません…………」
男「……ところでさ、座敷わらしとエッチしたら、幸福が体に染み付くの?」
座「そんなこと知りません……!」
男「そ、そうだよね。ごめん……」
座「…………………して、みます?」
貧「駄目に決まってるでしょっ!!」
男「そういえば……大家さんに話聞きに行かないとな」
コンコン。
男「すいません」
大家「はい、なんですか……って、あんたか」
男「どうも……。いつも綺麗ですね……」
大家「余計なお世辞いらないから。……用は?」
男「あの、この間893から、大家さんのこと聞いたんですけど……」
大家「ああ、借金立て替えといた話な……」
大家さんはだるそうに、煙草に火をつけた。
男「あ……ありがとうございます!」
大家「あのヤクザうるさかったからなぁ。まあ、家賃含めいつか返してもらうから、きっちり働くことだね」
男「は、はい、がんばります!」
男「ただいま」
座「お帰りなさい……。嬉しそうですね?」
男「いや、大家さんには本当に感謝しなくちゃなあって」
座(それ……本当は私の力なんですけどね……)
男「げほっ…げほっ……」
貧「だ、大丈夫ですか……!? 風邪ですか……!?」
座「あなたのせいですね」
貧「ち、違うもんっ。私疫病神じゃないんだから……!」
座「いえ、あなたが男さんにキツイ労働を強いているんですから、あなたのせいですよ」
貧「あう……」
男「気にしなくていいから、な?」
貧「ありがとうございます……」
男「今日は、コンビニで弁当買ってきてくれないか……?」
じゃあ……
貧・座「私が行きます!」
貧・座「…………」
座「ふん……あなたにお金なんて預けておけるわけないじゃないですか」
貧「わ、わたしだって買い物くらいできるもん!」
座「嘘をつかないでください。この間男さんに渡してもらった千円札を半分に破って帰ってきたのを忘れたんですか?」
貧「……そうだけどっ……」
男「まあまあ、ふたりで仲良く行ってきたらどうだ?」
座「でも……私の力の方が負けてますから……どんな不幸があるか……」
男「大丈夫だよ。……余ったお金は、ふたりで使っていいから、な?」
座「は……はい」
貧(私……迷惑をかけてばっかり……なのかな……やっぱり)
座「うどん……食べさせてあげますね……ふーっ……ふーっ……」
男「だ、大丈夫だよ。自分で食べられるから」
貧「は、ハンバーグも食べますか?」
男「いや……ハンバーグはちょっと、重いかな……」
貧「あっ……そうですね……」
座「だから言ったんです。病気の人にはおかゆやおうどんがいいんです」
貧「そうです……よね……」
男「…………」
パクッ
貧「あっ……!?」
男「うん、ハンバーグもうまいよ」
貧「……えへへ」
男「今日は、銭湯行くか」
座「銭湯ですか……」
貧「え、お風呂……?」
男「何嫌な顔してるんだ?」
座「貧乏神は汚いのがデフォですから。お風呂は嫌いなんですよ」
貧「そ、そんなことないもんっ……! いつもきれいきれいだもん!」
男「キレイキレイって……。まあ、お前くらい小さければ一緒に男湯入っても大丈夫だろ」
座・貧「えええええっ!?」
男「いつ見ても古式ゆかしい場所だな、ここは……」
貧「あ、あの……本当に、一緒に入るんですか?」
男「いや、別でもいいけど……」
座「私は一緒に入りたいです……」
貧「えっ、じゃあ私もっ……!」
男「まあ、行くか」
座「はい」
貧「はーい」
座「わあ……大きい……」
貧「お風呂……」
男「他に客いなくて良かったな……」
座「あ、あの。泳いでもいいですか?」
男「駄目だから……」
座「そ、そうですよね……」
貧「うう……お風呂……」
男「ほら、さきに頭洗ってやるから、どっちか先にこっちおいで」
座「わ……私が先に……!」
貧「私だよっ!」
座「あなたは自分で洗っててください。男さんに貧乏が移ります」
貧「うつらないもんっ……!」
男「どっちでもいいから。……お前はさ」
貧「え?」
男「風呂苦手なら、自分で頭洗えないんだろ?」
貧「え……あ……うん……」
男「じゃあ、お前が先。ほら、前こい」
貧「えへへ……べーっ……」
座「……ふんっ。男さんなんて、貧乏のどんぞこに落ちればいいんです……!」
男「お前……髪が結構脂ぎってるな……」
貧「今まで……お風呂なんて……あんまり入らなかったから……」
男「綺麗にしておかないと、家に置いておかないぞ?」
貧「え……ええっ、それはいやっ……」
男「いやだろ? じゃあ、今から綺麗にしてやるから」
貧「そ……そこは洗わなくてもいいよぉっ……」
座「…………離れてくださいっ!」
貧「きゃあっ!」
男「うわっ、どうした?」
座「…………わ、私も、洗ってくださいっ……! 幸福になれますよ!?」
男「た、タオルとるな馬鹿! 目のやりどころに困るだろ……!」
座「べ、別に、男さんになら見られてもかまいません……」
男「え……」
男「……馬鹿なこと言ってないで、早くタオル巻け」
座「わ、私の体、魅力ありませんか? 少しは成長してるんですよ?」
男「そういう問題じゃないんだよ。ほら、二人仲良く洗ってやるから、並べ……」
座「あ……はい……」
貧「やーい、怒られたー」
座「うるさい、不潔な貧乏神……」
貧「むうっ……」
男(ちょっとあそこが反応しただなんて、いえないっての……)
男「ふう……いい風呂だったな……」
座「そうですね……」
貧「もう、一週間はお風呂入らなくてもいいよね……」
男「それは駄目だ。……でも、本当は毎日入らせてやりたいけど、金がないからな……」
貧「私はかまわないもん……」
男「はあ……じゃ、フルーツ牛乳でも飲ませてやるよ」
座「ありがとうございます」
男「で、代えの下着とかあったっけ?」
貧・座「え?」
男「え? って言われても……」
貧・座「最初からはいてませんけど……」
男「フルーツ牛乳はなしっ! 今から下着買いにいくぞ!!」
男「下着買いにいくっても……コンビニでいいのかな……」
座「あの……お金はあるんですか……? 別に無理してもらわなくてもいいですよ……」
男「んー、あんまないな……」
貧「あう……すいません」
男「お前のせいじゃないから、気にするな」
座「いえ、こいつのせいですよ」
貧「余計なこと言わなくていいのっ!!」
男「なあ……思ったんだけどさ、座敷わらしと貧乏神では、どのくらいの力の差があるんだ?」
貧「えっ、そんなの……わかんないですよ……」
座「そうですね、もし私が男さんと道を歩いていたら、1時間に一回は千円拾えます」
男「まじか!? よし、こんど散歩行くか」
座「それもいいですね。是非そうしましょう」
貧「わ、私の場合はどうなるのよ!?」
座「……もしあなたと男さんが二人であるけば、30分に一回は財布を落とします」
男「…………ま、二人で散歩は勘弁してくれな」
貧「あぅぅ……」
男「そういえば、貧乏神ってのは暖かいのが苦手らしいな」
貧「は……はい。あまり好きじゃありません……」
座「心が貧しいですから、ぬくもりが苦手なんですよ」
貧「そ、そんなことないもんっ! 男さんと一緒なら心もいつも暖かいもん!」
男「うわっと、急に抱きつくなよ……」
貧「こんな風に暖かいのなら大好きだもん……」
座「…………(ビキビキ」
男「ふう……泣きつかれたのか、眠っちまったな」
座「ふん、本当に手のかかる神です」
男「で、なんで今度はお前が抱きついてきてるんだ?」
座「お、男さんの身に染み付いた不幸を追い払うためです……。他意はありません……」
貧「何読んでるんですか?」
男「昔話の本……」
座「男さん、期待しているところ悪いんですけど。この貧乏神は福の神に転生したりしませんよ」
男「えっ、そうなのか!?」
貧「期待してたんだ……」
男「ああ、いやその。お前が嫌ってわけじゃなくて、そうなったらいいなあっていう一縷の望みというかなんというか……」
座「貧乏神が永遠に貧乏神ですから。男さんは残念ながらずっと貧乏なままです」
貧「す……すいません……でも、私……」
男「大丈夫だよ、お前を捨てるつもりなんてないから」
座「…………ま、まあ。この貧乏神がずっとここにいるつもりなら、私もここにいるしかありませんからね。感謝してください」
男「あ、大家さん。おはようございます」
座「おはようございます」
貧「お……おはようです」
大家「……………………………未成年略取?」
男「ち、違いますよ!」
大家「愛玩性奴隷?」
男「それも違いますっ! えーと、この子たちはその、親戚の子たちで、今ちょっと預かってるんです」
大家「……自分の住んでるアパートの家賃も払えないくせに、育ち盛りのガキ二人も引き取る余裕はあるんだねえ」
男「そ、それを言われると……」
大家「ま、いいけどね。あんた達、名前は?」
貧「び、貧乏神です……」
座「座敷わらしです……」
男「あ、こらバカ!」
大家「び、貧乏神ってーと、あの貧乏神かい?」
貧「あ、はい…そうだと思います」
大家「座敷わらしってーと、あの幸福を運んでくる座敷わらしかい?」
座「はい、そうです」
大家「…………(思考中)…………仕方ないねえ。座敷わらしの方『だけ』私が面倒みてやるよ」
男「ええ!?」
貧「いよっしゃあ!」
男「え?」
貧「…………」
座「すいません。せっかくもお申し出ですが、受けるわけには参りません」
大家「なに、冗談さ……」
男「冗談に聞こえませんでしたが」
大家「何か言ったかい?」
男「いえ、何でも……」
貧「ちっ、冗談かよ……」
座「あなた、本性出てますよ」
貧「そっ、そんなことないもんっ……!」
男「どうやら日本には貧乏神神社というものがあるらしい」
貧「え、本当ですか!?」
男「ああ……長野県だし、ここからでも少し金出せば十分いける距離だな」
貧「わ、私、行って見たいです! 私が祀られてるところ、見てみたいです!」
座「ええ、そうですね。是非行きましょう」
男「ま、なんにしても金溜めないとな。じゃあ、俺はバイト行ってくるから」
座・貧「いってらっしゃい」
座(貧乏神神社は……貧乏神を追い払うための神社ですから……ふふ)
男「ふう……今日のバイトも、そろそろ終わりか……」
座「あ、あの。男さん……」
男「ん、どうしたんだお前?」
座「あ、あの。お迎えにきたんですけど……」
男「そっか。ありがとな。もうすぐ終わるから待っててくれ」
座「はい」
店長「ん……?」
男「どうしたんですか? 店長」
店長「収支が合わない……」
男「え、まさか、足りないんですか?」
店長「いや、500円多い……」
男「お、多いんですか」
店長「ま、この500円はやるよ。迎えに来た妹さん、か? あの子に何か買ってやれ」
男「あ、ありがとうございます」
座「えへへ……アイスクリーム美味しいです……」
男「これもお前のおかげだけどな」
男「ふう、今日も疲れたなー」
貧「男さんっ。迎えにきましたよ……!」
男「おお、お前か。もうちょっと待ってろ、もう終わるから」
貧「はーい……」
店長「ん……?」
男「どうしたんですか、店長」
店長「収支が合わない……」
男「え、まさか。また多いとか?」
店長「いや、今度は一万円足りない」
男「い、一万円!?」
店長「今日レジたってたのお前だけだったよなあ? バイト代から差っ引いておくから」
男「そ、そんな!?」
貧「あ、あの……なんでそんなに悲しそうなんですか?」
男「いや……なんでもないよ。うん。お前のせいじゃないから……な?」
男「俺、定職を探そうと思うんだ」
貧「お、お手伝いします!」
男「いや、余計に見つからなそうだから、いいよ」
貧「あう……」
座「定職は、さすがに難しいと思います……」
男「え、そうなのか?」
座「はい。もし、もしも、運良く見つかったとしても。せいぜい月収10万そこそこの無制限残業。ボーナスなんて出るかどうか……」
男「そ、そうか。それはちょっと嫌だな……」
座「すいません。私の力が至らないばかりに……」
男「ああほら泣くな……お前のせいじゃないから、な?」
貧「……そうですよっ……どうせ私のせいですよ……!」
男「あ、ゴキ発見!」
座「ひっ……!」
男「座敷っ! ほら、そこの雑誌で潰せ!」
座「む、無茶言わないでくださいっ……。私には無理です……!」
貧「とりゃああっ!」
男「す、素手で……!?」
貧「ゲットしました。慣れてますから」
男「そ、そうか……」
貧「は、はい」
座「…………」
男「…………」
貧「…………あ、あの。食べていいですか?」
男「食うな!!!!」
男「神様との間にも子どもってできるのか……?」
貧・座「え……!?」
男「ああいや、変な意味じゃなくてさ……ただできるのかなって」
貧「あああああの。ちょっとわかりませんけど、試してみますか?」
男「いや試さないから……。その捲し上げたシャツを戻せ」
貧「はい……」
座「それにもし出来たとしても、貧乏神と人間のハーフだなんて、子どもが可哀想です。どうせ一生貧乏のままでしょうから」
男「そんなもんか」
座「はい。それと違ってもし私と貴方の子どもなら……」
貧「何脱ごうとしてるのよっ!!」
男「今日は友達からゲーム借りてきたぞ!」
貧「えっ、本当ですか!?」
座「…………男さん」
男「どうした?」
座「このテレビ、接続する端子がありません」
男「…………そうだね、古いからね」
大家「で……なんでウチのテレビでゲームやってんだい?」
男「すいません、こいつらもたまには遊ばせてやりたくて」
大家「ま、いいけどね……」
貧「わーーーん、ボンビーが離れないよぉっ」
座「ふん、あなたは一生ボンビーに付きまとわれるのがお似合いです」
大家「で、そろそろ家賃払ってほしいんですけど」
男「う……。も、もうすぐバイト代入るんで、待ってもらえますか?」
大家「先月もそういってた気がするけど?」
男「そ、それは……この間貧乏神か給料落としちゃってですね……」
大家「それが言い訳になるとでも?」
貧「あ、あの……私が悪いんです……! だから、怒るなら私を怒ってください!」
男「お、おい……!」
座「私からもお願いします。私が絶対にお金を集めてきますから、どうか追い出さないでください……」
大家「……仕方ないねえ」
大家「私とあんたが結婚すれば全部解決するんだけどねえ」
座・貧「ふざけるなよ年増」
男「あー……後一週間で俺の誕生日か……」
貧「!」
座「っ!」
男「ま、ケーキなんて買う余裕ないけどな……って、お前らどうした? 挙動不審だぞ?」
貧・座「いえ、なんでもありません」
座「ふん、どちらが男さんの為に立派なプレゼントを上げられるか、勝負です」
貧「望むところ……」
一週間後
座「男さん、これ……どうぞ。誕生日おめでとうございます……」
男「ど、どうしたんだ。このケーキ……! まさか盗んできたんじゃ……」
座「そ、そんなわけありません! ちょっと、頑張って働いただけです」
男「そっか……ありがとな」
座「えへへ……」
男「で、なんでお前はそんなに暗いんだ?」
貧「…………ひっく……うっ…く……」
男「お、おいおい。なんで泣いてるんだよ」
貧「わ、私だって、頑張って働いて、ケーキ買ったのに……。ひっく、さっき、外で、野良犬に襲われて……ケーキ……盗られちゃったのぉ……」
座「…………」
男「……そっか。頑張ったんだな」
貧「うん……」
男「その気持ちだけで、嬉しいから」
貧「ありがとぉ……」
座「……ふん」
座「何故あなたは、そうも男さんに付きまとうんですか?」
貧「だって、好きなんだもん」
男「ありがとな。俺も好きだよ」
貧「えへへ……」
座「早く理由を言いなさい(ビキビキ」
貧「えっと……ある雨の日にね……私は橋の下で寝てたの……。
誰かの家にもぐりこんでも迷惑になっちゃうから、ずっと泥を啜ったり、鼠を捕まえたりして生きてたの……」
男「腹壊さなかったのか」
貧「一応、神様だし……」
座「それで?」
貧「こんな汚い身なりだと、誰も近寄ってこなかった。でも……男さんだけが、私に声をかけてくれたの」
男「まあ、放っておけなかったしな……」
座「なるほど……。男さんは、優しいですね……」
男「別に、そんなことないよ……」
座「いえ、優しすぎて、惚れてしまいそうです」
男「ええ?」
貧「既に惚れてるくせに」
座「何を言うんですかっ、あなたは……!」
座「あなた、一応神なら神らしいとこ見せてくださいよ」
貧「わ……我の眠りを妨げるものはだれだぁ~」
座「ピラミッドのミイラですかあなたは」
貧「うぅ~、そ、そういわれたって、私には特別な力なんてないんだもんっ……」
座「ふん、本当に人を貧乏にするだけの神なんですね。役に立たないったら……」
男「いやいや、十分役に立ってるよ」
貧「え……?」
男「近くにいるだけで、こんなに幸せな気分になれるからさ」
貧「……あぅ……恥ずかしい……」
座「……チッ」
座「なによ、この貧乏神……!」
貧「喧嘩でもする? ちんちくりんの妖怪ごときがっ!」
座「くっ……良くも言いましたね」
男「おいお前ら。あんまり暴れるな! こんなボロアパートで暴れたりしたら……」
貧「きゃあっ!!」
ズボッ
男「床がぬけ……ちまったか……」
貧「うーーーーんっ! 抜けないよぉっ……!」
完全に下半身だけが下の階に突き抜けてしまっている。
座「ふん、真性のうつけですね」
貧「そんなこといってないで、助けてよぉっ!」
大家「あんたら……何人のアパートの床ぶちぬいてるのさ……」
男「あ、大家さん……そういえば下の階って大矢さんの部屋でしたっけ……」
大家「ったくあんたは……人に苦労ばっかりかけさせて……」
男「あ、あつっ、煙草あっつ!」
座「げほっげほっ」
座敷が煙たそうにしていた。
大家「後……下着くらい履かせてやりな」
男「え?」
大家「下から丸見えだったよ? まったく……」
貧「み……見ないでくださいよぉ……」
男「……いいか? 俺は今日から三日住み込みのバイトに行ってくる」
貧「わ、わたしも一緒に……」
座「駄目に決まってるでしょう。男さんの迷惑を考えてください」
貧「あう……」
男「いいか? ここに一万円を置いておく。虎の子の一万円だ。これだけあれば三日間は十分暮らしていけるだろう」
座「はい」
男「でも、この一万円をなくしたら……もう俺には責任がもてない、頑張れ」
貧「はい、いってらっしゃいです……」
バタン
貧「はあ~……あんたと二人っきりかぁ……いやだなぁ」
座「それはこっちの台詞です。……ちょっと、何一万円札持ってるんですか。こちらに渡してください」
貧「は~い……」
貧乏神が座敷わらしに一万円札を投げ渡そうとしたその時、
ゴォッ……
部屋の中に一陣の風が舞い込む。
座「あっ……!?」
一万円札はそのまま風に乗って、窓からはるか彼方へと飛んでいった。
座「…………………………………」
貧「あー……あはは……ごめん……めんごっ」
座「めんごじゃありません! この貧乏神ーーーっ!」
貧「わかりきってることいわないでよ座敷わらしっ!」
座「はあ……過ぎたことを言っても仕方ありません……」
貧「そうだよね……」
座「まずこの部屋の中で食べられそうなものを探しましょう」
貧「あっ……!」
座「何かありましたか?」
貧「ごきぶりー」
座「捨てろカス」
貧「うーん……」
座「……ないですね……」
貧「あっ、これはいけそう!」
ハッピーターン
座「……まあ、スナック菓子なら大丈夫でしょう」
貧「賞味期限、2005年 八月二十四日」
座「…………一年以上過ぎてますね、捨ててください」
貧「まだまだいけるよ?」
座「食べるなっ!!」
座「この部屋に冷蔵庫なんて上等なものはありませんし……仕方ありません、大家さんに頼りましょう……」
貧「えーっ……あの人煙草くさいし、ちょっと怖いから苦手……」
座「失礼なことを言わないように。確かに私も煙草は苦手ですが、あの人はいい人だとわかりますから」
大家「(ぷはーっ)……で、飯を食わせてほしいって?」
座「は、はい……お願いできませんか?」
貧「……………」
座「ほら、あなたも頭を下げて……!」
貧「あ、お、お願いしましゅ……」
大家「ま……掃除洗濯するってんなら、三日間くらい置いといてやるよ」
座「あ、ありがとうございます!」
貧「ありがとうです……」
大家「……………………はあーっ……あたしもたいがいお人好しだねえ……」
大家「ほら、じゃあ、そこの座敷わらしは皿洗い。貧乏神は洗濯な」
座「はい」
貧「はーい」
数分後
大家「あっ、こら! 色物はちゃんと別にして洗う! あーっ、せっかくの高かった服がっ!」
貧「あ……あぅ……ごめんなさい……」
大家「……全く……男もこれじゃあお金がたまらないわけだ……」
貧「…………」
座「あ、あの。お皿洗い終わりました……」
大家「ああ、ご苦労さん……。貧乏神、あんたはまあ、特になにもしなくていいから」
貧「はーい……」
三日後
男「ただいまー……って、あれ……? 誰もいないな。出かけてるのか?」
大家「ああ、お帰り……。あの子たちなら、あたしの部屋にいるよ」
男「大家さんの部屋ですか?」
座「くーっ……くーっ……」
貧「すー……すー……むにゃ……」
大家「全く、気持ちよさそうに寝て……。暢気なもんだね……」
男「すいません、随分とお世話かけたみたいで……」
大家「ま、いいさね……。ただ、貧乏神が駄目にした服やら皿は、きっちりと返してもらうよ?」
男「……俺も一緒に寝ていいですか?」
大家「…………」
ジュッ
男「あっつ!!! 根性焼き熱っ!!」
座「男さん……少しお話があります……」
男「ん、どうした?」
座「……最近、私がここにいる意味がなくなってきています……」
男「……拗ねてる?」
座「そ、そういう問題じゃありませんっ……!」
男「じゃあ、どういうこと?」
座「男さん、今月で何回財布を落としました?」
男「………5回くらい」
座「やっぱり……」
男「ん、どういうこと?」
座「段々……貧乏神の力が強くなってきてるみたいです……」
男「んー、それは……なんで?」
座「おそらく、貧乏神の男さんを思う力が強くなってきているのでしょう……」
貧乏神は、気持ちよさそうにおなかを出して寝ていた。
男「ああもう、また布団蹴って……」
座「……ヤマアラシのジレンマと似たようなものです。貧乏神は相手のことを思えば思うほど、相手を不幸にする」
男「…………だから、離れろって?」
座「今はまだ私がいるから、ギリギリのラインを保っていられますけど、このまま時が過ぎると、まずいですよ」
男「………………はあ……」
座「男さん、大丈夫ですか……?」
男「ああ、なんとかね……」
貧「ひっく……う……っく……」
男「ほら、泣かなくてもいいって。たいした怪我じゃないからさ」
座「ひき逃げされて足を骨折したことの、どこが『たいした怪我じゃない』なんですか」
男「一番まずいのは、バイトにいけないってことだよな……」
貧「ごめんなさい……。ごめんなさい……。私、男さんと一緒にいたいだけなのに……」
男「だからさ……俺の運が悪いだけで、お前は何の関係もないんだってば」
コンコン
座「……ん? 誰か来たみたいです」
大家「…………よっ」
座「こんばんは」
男「大家さん……。どうしたんですか? こんな夜遅くに」
大家「……いや、怪我したっていうから、見舞いに来たんだけど……。なんだか葬式みたいな空気だねえ」
貧「………………」
大家「ま、酒とジュース持ってきたし、飲もうじゃないか……」
男「あ、はい……。ちょっとコップ持ってきてくれるか?」
座「はい……」
そして、ささやかな飲み会が一時間ほど続いたころ。
大家「その怪我、いつくらになったら治るんだい?」
男「ええっと……一ヶ月くらいだったと思いますけど」
大家「……そうかい。それは、なんつーか、丁度いいさね……」
男「どういうことですか?」
大家「後一ヶ月で、このアパートがなくなるからさ」
貧「えっ……!?」
座「……っ!」
男「そ、それって……どういう……ことですか?」
大家「ああ、ここって、あたしの親の土地なんだけどさ……。こんなボロアパートいつまでもやってても仕方ないからって、
土地を売りにだしたんだよ。……それで、この土地を買った人は、ここにマンションを建てるんだってさ」
男「そのまま住み続けるってわけには……」
大家「いいけど……。家賃はここの五倍くらいにはなるよ?」
男「はは……それは、無理ですね……」
大家「あんたには酷な話だけど……。仕方のないことなんだよ……」
男「大家さん、そんな風に頭を下げないでください」
座(……どうやら、周りの人間にも影響を及ぼすほどの力を、持ち始めているようですね……)
貧「………………」
話を聞いてから、貧乏神は、ずっと部屋の隅で膝を抱えている。
大家「……そういうことだから、一ヵ月後には工事が始まる。……家賃のことは、忘れてあげるけど……立ち退きは絶対さね……」
男「……はい、わかりました」
バタン
大家さんが出て行く。
男は座敷わらしと顔を見合わせた。
男「どうしようか……」
座「どうしようもありません……」
座「貧乏神を、祓いましょう」
貧「いやだっ!」
座「我がままを言っても仕方ありません。男さんを殺したいんですか?」
貧「それもいやっ!」
座「でも、このまま近くにいるというのなら男さんは確実に死にます」
男「……座敷、まだ、大丈夫だからさ」
座「男さん……」
男「立ち退きする頃には、怪我はもう治ってるし……。またすぐに働けば大丈夫だよ……」
座「大丈夫なわけありません! 見えるんです、あなたにまとわりつく不幸が。このままだと一ヶ月ももたずに死んでしまいますよ?」
男「人はそう簡単に死なないって、とりあえず内職でもするからさ……」
座「…………もう、私は何もいいません…………」
男「そっか。悪いな……」
座「……いえ、本当は、わたしの力が至らないのが悪いんです……」
貧乏神は、泣きつかれて眠っている。男の胸にすがるように。
男「俺はさ……こいつと一緒に暮らしてきて、本当に楽しかったんだ。親に見栄はって上京して、いきがって一人暮らししてたけど、
本当に寂しかったんだ。どんどん、心が貧しくなっていったんだ。……だけど、こいつを拾ってから、生活が変わったんだよ……」
座「……………………」
男「くだらない理由かもしれないけど。俺の心を豊かにしてくれたこいつが、貧乏神だなんて、俺は思ってないから」
座「そう……ですか」
男が優しく貧乏神の頭を撫でると、一筋の涙が、貧乏神の頬を伝った。
そして、あっという間に一ヶ月が過ぎ、立ち退きの日がやってきた。
大家「……あたしは、実家に帰るけど……。あんたも、達者でな」
男「あはは……。はい、なんとか頑張ってみます」
両手には、座敷わらしと貧乏神の手がつながれている。
貧「あ、あの……今までお世話になりました……」
座「大家さん、さようならです」
大家「ああ……またな。……それより、荷物かなんかはないのかい?」
男「ええ、どうせロクなものありませんし、邪魔になるだけですから……」
大家「そう……」
男「それじゃあ、今までどうもありがとうございました」
そして、三人で歩き出す。
ギプスはとれた足は大分弱っていて、歩くとまだ少し痛い。
もう秋の色が濃くなってきている、三人に、目的地なんてなかった。
男「治療費やらなんやらで、大分金が飛んでいっちゃったな……」
財布の中には、4千円しか入っていない。
男「これじゃあ、実家にも帰れない……」
座「……とりあえず、腹ごしらえしませんか?」
男「ああ、そうだな……」
貧「………………」
男「じゃあ、お前達はここのベンチに座って待っててくれ。コンビニで何か買ってくるからさ」
座「はい……」
貧「………………」
男「おい、どうした……?」
貧「………………わかった」
男「よし」
男「…………」
パタパタ。
座「あの……」
男「ん、どうした? 待ってるように言っただろ?」
座「いえ、少しでも幸運があればいいなって……思いましたから……」
男「……ありがとな」
座「えへへ……」
男「あのさ……」
座「なんですか?」
コンビニの袋をぶら下げながら、二人で歩く。
男「お前はさ……俺達についてくる必要ないんだよ? 座敷わらしなら、どこの家でも引っ張りだこだろ?」
座「…………私は、私がいたいところにいるだけですから」
男「そっか……。座敷わらしもさ……相手のことを思えば思うほど、幸福の力は強くなったりするものなのか?」
座「……わかりません」
電器屋の前を通りかかる。
ショーウインドウの中のテレビにはニュースが映っていて、どこぞの会社の役員が横領で捕まったなどということをキャスターが話していた。
男「金ってもんは、あるとこにはあるんだな……」
男「ほら、おにぎり買ってきたぞー……」
座「ありがたく食べなさい……」
男がうめのおにぎりを貧乏神に手渡そうとする。
パシッ
男「え……?」
おにぎりは、貧乏神の手に払い落とされていた。
男「お、おい。何するんだ。もったいないだろ?」
座「あなた、今がどういう状況かわかってるんですか?」
貧「わかってるよ……」
男「だったら、食べ物を粗末にしちゃだめだろ?」
貧「わかってないのは、男さんだよ……! なんで私を怒らないの? 鬱陶しいって追い払わないの?
死んじゃうかもしれないんだよ、それでもいいの!?」
男「……お前な、アパートで言ってたことと反対のこと言ってるぞ?」
貧「あんなの……ただの未練だよっ……! みんな、私のこと貧乏神だって知ったら、いじめて、石を投げて追い出したりするのに。
あなたはいつも笑っていて……いつの間にか、大好きになってしまっていた……」
男「…………」
座「…………」
貧「わかってた。こんなの、どうせ長続きしないって。どうせ私がずっと近くにいると、その人は死んじゃうんだから」
貧「でも、あなたは、大怪我しても、住処を追い出されても、怒らないで笑ってる。馬鹿じゃないの……?
あなたが離れてくれないなら……。私が離れるしかないじゃない……!」
貧乏神が、公園から走り去っていく。
男「お、おい、どこ行く気だっ……! くっ……」
座「だ、大丈夫ですか?」
まだ治ったばかりの足は、走れるほどにはなっていなかった。
貧乏神をすっかり見失ってしまった。
男「おれはこっちを探すから……お前はあっちを探してくれ……」
座「わかりました……」
男「…………無事でいてくれよ……」
痛む足を引きずりながら、走る。
日は暮れ始め、夕日の赤が世界を染めていく。
その中で、俺はただ走るしかなかった。
貧「…………」
貧乏神は、この街で一番大きな道路の脇に立っていた。
ここから一歩でも踏み出せば、あっという間に轢かれて、私は死ぬだろう。
神とはいえ、肉体の損傷が限度を超えれば死にいたるのだ。
貧「…………でも……」
死にたくない。
そう思っていた。
男から離れれば、また橋の下で泥を啜るような生活に戻る。
男には決して近づいてはいけなくなる。
……でも、私は決してあの人のことを忘れられないだろう。
それならば、いっそのこと死んでしまったほうがいい――。
貧「でも……死ぬのは……怖いよ……」
いつまでも、怖くて一歩が踏み出せない。
両足を一歩ずつ前に出せば、それだけで死ねるというのに。
やっぱり、私の心はいつまでも貧しくて、いつまでも未練ばかりが溜まるんだ。
震えが止まる。覚悟を決める。
貧「…………」
息を止めて、一歩を踏み出そうとして。
男「待てっ……!」
一番聞きたくない人の声を、聞いてしまった。
男「絶対に、その足を出すなよ……」
貧「なんで、来るんですか! そんなに不幸になりたいんですか!」
男「お前が死んだら、もっと不幸になる」
貧「え……?」
男「お前は、楽しくなかったか? 三人で、貧乏だけどわいわい楽しくやって、仲良く生きてたあの時間が」
貧「…………」
男「もし、お前が死んで……。俺が座敷わらしと幸せになったとしても、そんなのは嘘なんだよ! お前がいないと、俺の心は幸せにはならないんだよ!」
貧「……でも、どうしろって言うんですか!? 私が一緒にいたら、絶対に男さんは死ぬんですよ!? 私の力は、もうそれくらいに膨れ上がっているんですから!」
座「……本当に馬鹿ですね、あなたは」
貧「え……?」
座「本当に、発想も貧困。どうやら、おつむも貧しいみたいですね」
貧「な……だったら……どうしろっていうのよ……! 私は絶対に、一緒にはいられないんだよ!?」
座「……そのことなら、もう心配ありません」
男「ど、どういうことだ?」
貧「え………………?」
座「さっき、私は男さんに、『座敷わらしも、相手のことを思えば思う程、幸福の力が強くなるのか?』って聞かれましたけど……」
男「ああ……」
座「どうやら、そうだったみたいです……」
男「え……?」
座「私も……男さんのことが好きなんです!」
貧「ちょ、ちょっと……どういうことよ……?」
座「あなただけが、男さんを思っているわけではありません。
私があなたと同じ分だけ。ううん……あなた以上に私が男さんのことを好きになれば……何も問題はないということなんです」
貧「そ、そんな簡単なことで……いいの?」
座「ええ、その証拠に……」
大家「……はあっ……はあっ……。あんた、足速すぎさね……」
男「お、大家さん!? どうしてここに……」
大家「さっきさ…ニュースで、会社の役員が捕まったってやってたの……。あれ、あそこの土地を買った人でさ……」
男「え、ええ。まさか……」
大家「そう。マンション建てる計画もチャラ。しばらくアパートもそのまんまだから。あんた達はまだあそこに住めるってわけ……!」
座「……そういうことです。私が運んでくる幸福も、まだ捨てたものではありません」
男「ははは……あははははは……良かったな……まだまだ、神様は俺達を見捨ててなかったみたいだ」
貧「……あ……はは……。私が、神様……なんですけど……」
男「そういえば、そうだったよな……」
貧「わ……私、一緒にいても、いいんですか?」
座「だから、何も問題はないと言ったでしょう。私がコレまで以上に、男さんを愛せばいいだけですから」
貧「な、なによ……! 男さんは、渡さないんだから……!」
座「……ふん。男さんを不幸にしないためにも、私、負けませんから」
男「あー、わかったわかった……。せっかくのいい報せがあったんだ。皆で美味いものでも食いにいこうぜ?」
大家「そうだねえ。皆でパーッといこうか!」
貧「やった……!」
座「賛成です…………」
男「ま、金はそんなに無いんだけど……って、あれ?」
大家「ど、どうしたんだい?」
座「まさか……」
男「財布、落としたみたいだ……」
大家「……ぷっ……あっはははははははは」
大家さんがはじけるように笑うと。皆がつられたかのように笑い出す。
結局はこれからも、ちょっとだけ貧乏で、とても幸せな暮らしが続いていくのだと思う。
そう、ずっと……。
男「ふう……我が家に戻ってきたー……」
座「ほっとできますね……」
貧「…電気、つけるね?」
男「ああ」
パチッ……。
男「えーっと、家具が何も無いわけですが」
貧「え、え……? どういうこと?」
座「どうやら、空き巣みたいですね……」
がらんとした部屋を見渡して、俺は溜息をつく。
男「ま、すっきりして心機一転ってことでいいだろ。どうせたいしたもの無かったしな」
貧「あぅ……ごめんなさいぃ……」
座「やっぱり、どっちにせよ私の力は少し押され気味なんですね……」
男「じゃあ、今日はもう寝よう……。幸いにも布団は盗まれてなかったみたいだし……」
貧「あ、あの……けーさつに言わなくていいんですか……?」
男「……面倒だから。いいや……ふぁぁぁぁ」
座「…………(もぞもぞ」
貧「ちょ、ちょっと! 何一緒の布団にもぐりこもうとしてるの!?」
座「私は、男さんと同衾させていただきます。あなたみたいな貧乏神は一人で丸まっててください」
男「あー、ほら……お前も反対側こればいいだろ……?」
貧「え、いいの……?」
男「いいから……早くはいれ……」
貧「えっへっへ……」
座「むぅ……」
ギュッ。
男「二人とも、あんま抱きつくな……暑いから……」
貧「エターナルフォースブリザードォ!」
座「な、なんですか!? この力はっ……!」
男「俺の財布の中身が余計に寒くなったわけですが」
男「ふう、じゃあ今日は久しぶりに銭湯いくか」
貧「えっ……お風呂……?」
座「その身に溜まった厄を落とすいいチャンスでしょう」
貧「や、厄なんて溜まってないもん!」
大家「ん? 三人でどこに出かけるんだい?」
男「ええ、ちょっとそこの銭湯まで」
大家「銭湯か……」
貧「今、ちょっとした小話を思いつきました」
座「言ってみてください」
貧「やあ熊さん。これから銭湯にいくってのになんで銃なんてもってんだい? それはね、これから銭湯(戦闘)に行くからさ!」
座「…………………」
大家「……………さむっ。 しかもぱくり」
男「…………あっ、小銭落としちゃった……」
大家「そうか。銭湯なら、あたしも一緒に行こうかな」
座・貧「っ!!!!!」
大家「な、なんだか悪寒がするねえ……。さっさと風呂入ろうか」
男「ええ、そうですね……。一緒に行きましょうか」
座・貧(なんで誘うんですかっ……!)
大家「じゃあ、あたしはこっちだから……っておい!」
男「え?」
座・貧「??」
大家「あんた達は女湯だろ?」
男「ああ……こいつら自分じゃ頭洗えないから、一緒に洗ってやるんですよ」
座「そうなんです……すいません……(フヒヒ」
貧「私達は男さんと入りますから(グギャギャギャ」
大家「……そうかい。じゃあ、あたしもそっちに入ろうかねえ。どうせ他に客いないし」
男「ええ!?」
座・貧「はああ!?」
かぽーん……。
大家「ふう……いい湯だねえ」
男「本当にいいのかな……」
貧「いいわけ……ないじゃないですか……」
男「ん? なにかいったか? というかお前、いつもどおりすげー垢だな」
貧「あう……」
座「汚い神様……ぷっ……」
貧「う、うるさいなあ……! あたっ……! シャンプーが目に入ったー!」
男「あ、こら暴れるな馬鹿!」
大家「風呂くらい静かに入れないのかい……?」
大家「ふう……いいお湯だった……」
男「フルーツ牛乳……は、飲む金がないですね……」
貧「次の給料日まで、また極貧生活だよぉ……」
座「それがいやなら、出て行ったらどうですか?」
貧「そ、それはいやっ!!」
大家「今日は、あたしがフルーツ牛乳くらい奢ってやるさね」
座・貧「やったー!」
男「現金なやつら……」
大家「って、あれ……? あ、……あたしも財布おとした……!?」
貧「…………すいません…………」
貧「もうすぐ……皆さんとお別れですね……」
座「次回は新ジャンル「座敷わらし」で復活ですね」
貧「な、なにそれっ!?」
座「当然、貧乏神の出番はなしということで……! どうかひとつ……!」
男「なにがどうかひとつなのかな……」