折木(というか現在俺しかいない)
折木(里志と伊原は分かるが千反田が遅れるのは珍しいな……)
折木「………まぁ、静かなのに越したことはないが」
コンコンッ
折木「…………?」
「誰かいるか?」
折木「………どうぞ」
「失礼する」ガラガラッ
折木「……………入須、先輩?」
元スレ
折木「部室は人が少ない」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1343924392/
入須「君か。ということは、古典部の部室はここで間違いないか?」
折木「は、はい」
入須「そうか。実は千反田に少し用があるのだが、まだ来ていないか?」
折木「ええ………あの、教室には?」
入須「行ってきたが入れ違いだったようだ」
折木(さいで)
入須「ふむ……ならば申し訳ないが、ここで待たせてもらってもいいか?」
折木「は?」
入須「引き返してまた入れ違いになっても面倒だからな。
もちろん迷惑なら無理強いはしないが」
折木「…………まぁ、かまいませんが」
入須「すまない」
………
……………
…………………
折木「…………」
入須「…………」
折木「………………」
入須「………………」
折木(………沈黙が重い)
折木(いや、無理に話しかけてこないのはありがたいんだが……)
折木(プレッシャーが半端じゃない。読書に全く集中できんぞ)
入須「ちょっと」
折木「!」ビクッ
入須「何をそんなに驚く?」
折木「いえ、あの……すみません」
入須「別に謝ることはないが……千反田は本当に来るのか?」
折木「ああ、それは間違いないと思いますよ。
理由もなく休むやつではないので」
入須「そうか………」
折木「………そんなに大事な用なら電話でも……あ」
入須「……知っているだろう。あの子は携帯電話を持っていない」
折木「そうでしたね………」
入須「それに、本当に大した用事ではないんだ。それこそ、君に伝言を頼むのもはばかられるくらいのな」
折木「そうですか………ん?」
入須「…………」
折木(今……何か違和感が……)
入須「まだかな……」
折木「………先輩は」
入須「何だ?」
折木「先輩は、千反田と前から知り合いなんですよね」
入須「家同士の付き合いでな。それがどうかしたか?」
折木「いえ、別に……」
入須「何だ、珍しくハッキリしないな」
折木「………じゃあ、はっきり言いますけど」
入須「ああ」
折木「先輩と千反田って行動も思考も何もかも正反対ですよね」
入須「」
折木「『立ってる者は親でも使え』を地で行く先輩が、千反田と親交があるのは少し意外な気がして」
入須「…………」
折木(動揺している……あの『女帝』が)
折木「かくいう俺もまんまと利用されてしまいましたし」
折木(……さあこの安い挑発にどう動く)
入須「………君は、映画の件を根に持っているのか?」
折木(乗ってきたな)
折木「いいえ。あの件は俺が単純だっただけです。先輩のことは……
まぁ多少の苦手意識は残りましたが、恨んでいるわけじゃない」
入須「………」
折木「ただ、ウチの千反田に余計なことを吹き込むのはやめてほしいですね」
入須「」ピクッ
折木「千反田から聞きましたよ。アイツに頼まれて物の頼み方を伝授したそうですね」
入須「伝授というほど大げさなものではないがな」
折木「その結果があの校内ラジオですよ」
入須「………」
折木「アイツのメンタリティで貴方の技術を使うのは無理があるでしょう」
入須「アレは私も想定外だったよ」
折木「長い付き合いなのにそんなことも分からなかったんですか?」
入須「………さっきから君らしくないな」
折木「何がです?」
入須「君はもっと他人に無関心だと思っていたよ」
折木「俺だって千反田が助けを求めた相手がアンタじゃなかったらここまで言いませんがね」
入須「……………おい」
折木「何です?」
入須「あまり調子に乗るなよ、小僧」ゴゴゴゴゴゴゴ
折木「………」ゴゴゴゴゴゴゴ
入須「聞いていれば先程から千反田千反田と……同じ部に所属している程度で保護者面か?」
折木「先輩こそやけにつっかかりますね。『女帝』らしくもない」
入須「黙れ」
折木「…………」
入須「………私だって」
折木「?」
入須「私だってあの子と……えるともっと仲良くしたい!」
折木「」
入須「そうとも、あの子のことは子どものころから知っている。
かれこれ10年以上の付き合いだ」
入須「よく父上に連れられて家へ遊びに来てな。人見知りしない子ですぐ懐いてくれた」
入須「そりゃあもう可愛かったとも!!」
折木「…………」
入須「ちなみにその頃は何と呼ばれていたと思う?」
折木「……………」
入須「知りたいか?」
折木「…………知りたい、ですね」
入須「……『冬実おねーちゃん』、だ。
…………きゃーーーーーーっ!」
折木「」
入須「お姉ちゃん……何と素晴らしい響きだろう」
入須「私も姉妹はいなかったからな。あの子を実の妹だと思って可愛がったよ」
折木「……そんなに親しかった割に、今は苗字にさん付けですね」
入須「」
折木「疎遠だったんですか?」
入須「…………ああ、そうとも」
入須「とにかく気遣いのできる子だったからな。私が高校を受験するとき、今から2年前だな。
それくらいからあまり家に来なくなった」
入須「学校の帰りに待ち合わせをして茶を飲んで帰ることもなくなった」
折木(まぁ千反田ならそれくらいはするな)
入須「………正直受験勉強よりもあの子に会えないストレスで胃に穴が開きそうになった」
折木(愛されてるなあ、千反田)
入須「そしてようやく私の受験が終わったと思ったら……」
折木「ああ………俺たちの、というか千反田の」
入須「そうだ」
入須「あの子も受験生になって、とうとう会う機会がなくなった……」
折木「………」
入須「私もあの手この手であの子に会う口実を作ろうとしたんだがな」
折木「口実……」
入須「おじさま……あの子の父上に、あの子の家庭教師をさせてもらうようそれとなくたのんでみたりもした。
やんわり断られてしまったがな」
折木(それとなく、ねえ)
入須「それどころか
『冬実さん面倒をかけるわけにはいきませんからな』
などと言われてしまった。
…………面倒なんて!毛ほどにも思ったことはない!!」
折木「はぁ」
入須「……実は我慢しきれず様子を見に行ったことがある」
折木「え」
入須「…………こっそり、な」
折木(今更照れても遅いだろう)
入須「一目姿を見たら帰ろうと思って、あの子の通学路を張っていた」
折木(張り込み……)
入須「2時間ほど待っていたら正面から歩いて来てな」
折木(自分の授業はどうしたんだ?)
入須「英単語帳を開いて勉強していた。
………その姿を見たとき、思わず抱きしめそうになった」
折木「へぇ………」
入須「ほぼ一年ぶりだったからな……我ながらよく耐えたと思う」
折木「………それで、一年ぶりの千反田を堪能……、じゃない、
確認して帰ったんですか?」
入須「いや、あの子が帰りつくまでついて行った」
折木「は?」
入須「………あの子が参考書なんか読みながら歩いていたら、どうなると思う?」
折木「あー…………転びますね、ほぼ確実に」
入須「転ぶだけならまだいいがな…………決してよくはないが。
事故にでも巻き込まれたらと思うと気が気じゃなかった」
折木「それで、千反田が家に着くまで尾行……じゃない、警備を」
入須「ああ。千反田の邸が見え始めたあたりから胸が苦しくなったがな」
折木(付き合い始めのカップルか。いや知らないが)
入須「それから少しして、あの子の志望校が神山高校だとおじさまから聞いた」
折木「…………それはうれしかったでしょうね」
入須「それはもう。自分の部屋で思い切りガッツポーズをしたぐらいだ」
折木(………それは見たかったな、ものすごく)
入須「同じ学校に通える、これから毎日会えると胸が躍ったよ」
折木「それは………まあ分かります、見てれば」
入須「…………その頃はよかったんだ。
そのあと想像を超える絶望が待っていると知らなかったからな」
折木「………?」
入須「4月になった。もうあんなに待ち遠しい新学期は二度とやってこないだろう」
折木「はぁ」
入須「本当は、入学式のあとすぐに会いに行こうとしたんだ。
……だがそう言う訳にもいかなかった」
折木「というと?」
入須「……その頃既に、私はあのありがたくない二つ名を拝領していた」
折木「………『女帝』、ですか」
入須「そうだ」
入須「新入生の女子に息急き会いに行く、というのは私のイメージに合わないだろう?」
折木「……先輩はそういう風評を気にしない人だと思っていました」
入須「私だってそんなものに興味はない。
が、やはり周囲の期待というものは応えておくに越したことはない」
折木「それが先輩流の交渉術、ですか」
入須「処世術、だよ。
それよりなにより、あの子が私の所為で厄介事に巻き込まれることだけは阻止しなくてはならなかった」
折木「なるほど………」
入須「そもそもこれから同じ学校に通うのだから、チャンスはいくらでもある。
そうでなくても、そのうちあの子の方から会いに来るかも知れない
…………そう思っていた」
折木(……………そういうことか)
入須「古典部に入ってからというもの、あの子は急に忙しく何かを調べ始めた。
……ああ、何を調べていたかは文集で知ったよ。
だけどあの頃は何をしているのかまったくつかめなかった。この私が、だ」
折木「………あいつ、口は堅いですからね」
入須「知っている。父を介しておじさまに探りを入れてみたりもしたんだが空振りだった」
折木「『立ってる者は親でも使う』、ですか」
入須「一番効果的だと思った方法を取ったまでのことだ。無駄だったがな」
入須「そうやって一度も話せないまま4月が過ぎ、5月が過ぎ、6月の半ばにさしかかったころだ。
2年間私にそっぽを向き続けた幸運の女神がほほ笑んだのは」
折木「幸運の女神………」
入須「私が頼まれごとを済ませて職員室から戻る途中、偶然あの子に出会った」
折木(……寧ろ今まで一度も出会わなかったのか?広い学校でもなかろうに)
入須「思わず大声をあげそうになった。いや、むしろ駆け寄って抱きしめようとしたよ。
だがあの子が…………」
折木「千反田が?」
入須「………あの子は私の姿を確認すると、深々と一礼してこう言ったんだ。
『お久しぶりです、入須さん』、とな」
折木「あぁ………」
入須「一瞬頭が真っ白になった。耳がおかしくなったかと思ったよ」
折木「…………」
入須「『入須』『さん』………名字の上に敬称まで……」
折木「……何と言うか……その」
入須「いい。気を使うな。
私もとっさに、
『ああ、千反田か。久しぶりだな』
と言ってしまったからな」
折木(うわぁ……)
入須「……その夜は絶望と自己嫌悪で一晩中泣き明かした」
折木「………よくバレませんでしたね」
入須「目が腫れない泣き方というのがあるんだ」
折木(本当か?聞いたことがないぞ……)
入須「………後は君の知ってる通りだ」
折木「はぁ………何と言うか……、
辛いことを思い出させてすみません」
入須「思い出してなどいないさ。
その日から忘れたことなどないからな」
入須「どうして………昔はあんなにお姉ちゃん、お姉ちゃんと屈託なく呼んでくれていたのに……」
折木「…………」
入須「せめて、せめてあと一度だけでも、『冬実お姉ちゃん』、と呼んでもらいたい………」
折木「……もしかして、先輩の用事というのは……?」
入須「違う。そんな子どもみたいなことを頼みに来たんじゃない」
折木(さいで)
入須「ただ………」
折木「ただ?」
入須「た、たまには一緒に帰ろう、と……その……」
折木「」
入須「ぶ、文化祭もひと段落したし、あの子も私も色々なことから解放されたからな!
文化祭を振り返りがてら旧交を温めようとしても不思議ではあるまい?」
折木(………何だこれは。これが、あの『女帝』か?)
折木(俺の追及を眉ひとつ動かさずに躱した女が、頬を染めながら口ごもっている)
入須「…………何か言いたそうだな」
折木「いえ、別に」
入須「今だから言うがな、君のことは春から知っていたぞ。
あの子とよく親しげに話していると、噂になっていたからな」
折木「噂?」
入須「……もう一度言おう。君はもう少し自分を自覚するべきだ。
そう、あの子に、えるに頼られている自覚をな」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
折木「……さっきご自分で言ったはずですよ。保護者面をするな、とね」
入須「そうだな。それについては撤回しよう。
だが最高の気分だろう?あの子に頼られるというのは」
折木「…………」フイッ
入須「文化祭当日もそうだった。文集をうちのクラスで売ってくれないかとあの子が頼みに来た時もあんなに嬉しいことはなかった」
入須「私が見本を渡すようにこう、手を差し出すとな、どうしたと思う?
……自分の手を乗せてきたんだ。
…………もうあの時の愛くるしさときたら、校内でなければ抱きしめていた!」
折木「そうですか………」
入須「いや、結果的にはその方が良かったかもしれないな。
そうしたら、この溝も埋まったかも知れないのに………」
折木(溝て)
入須「える………」
折木「はぁ………」
折木「子どもの頃から仲の良かった姉のような人が、
高校で『女帝』なんて呼ばれていたら誰でも引くと思いますよ」
入須「………何だと?」
折木「だってそうでしょう。女子高校生の二つ名じゃないですよ、『女帝』なんて」
入須「そんなこと、私に言われても困る。そう呼ぶように頼んだ覚えはない」
折木「そうじゃなくて、周りがそう呼ばざるを得ないアンタの手管が原因だって言ってるんですよ」
入須「何を!言わせておけば知ったようなことを……」
折木「少なくともアンタの思考が千反田の教育上よくないことはわかる」
入須「………さっき『保護者面するな』と言ったことは撤回すると言ったな。
アレは嘘だ。少しくらい頼られているからといっていい気になるなよ小僧」
折木「その言葉そっくりお返ししますよ。俺ももう一度言わせていただきますがね、
千反田に妙なことを吹き込むのはやめてくれませんか。
千反田がアンタみたいな性悪になったら責任とれるんですか」
入須「この………っ!図に乗るなと言ったはずだぞこのヘタレ!」
折木「ぐっ!!」
入須「とある筋から話は聞いているぞ。親しくなって随分経つのに、まだ手もつないでいないらしいな。
…………ヘタレ」
折木「くっ」
入須「ヘタレ」
折木「ぬ……」
入須「へ・た・れ」
折木(クソっ……はっ!)
入須「君が『そこそこ』使える人間だということは知っているが、
それじゃああの子を任せるわけには……」
折木「………手なら繋いできましたよ。アイツの方から」
入須「何だと!?」
折木(嘘は言っていない……少し脚色しているだけだ)
折木「それも一度や二度ではないですね」
入須「そ、そんな………」
折木「それにしても、こんなうるさい小姑がついて来るんじゃアイツも大変だ」
入須「………おい」
折木「何ですか?」
入須「誰 が 小 姑 だ っ て ?」ゴゴゴゴゴゴゴ
折木「アンタ意外に誰がいるんだよ」ゴゴゴゴゴゴゴ
入須「よほど地獄が見たいらしいな……
表へ出ろ。好むと好まざるとに拘わらず、私が『女帝』と呼ばれている本当の理由を教えて………」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
える「すみません、遅くなりました!」ガラガラッ
折木「!」
入須「!!!」
える「あ、入須さん!こちらにいらしていたんですね」ニコニコ
入須「あ、ああ。お前に少し用があってな」
入須(聞かれてはいないみたいだな)
折木(ですね)
える「まぁ、それは奇遇ですね!私も入須さんにご用があったんです」
入須「私に?」
える「はい。
入須さん、今日帰りにご一緒してもよろしいですか?」
入須「!!!!!」
入須(何だこれは。夢か?私は夢を見ているのか?)
入須「………と、突然どうした?」
える「あ、いえ、特に理由はないのですが、
行事もひと段落したので、久しぶりに入須さんと旧交を温めようと思いまして」
入須「…………そうか」フルフル
折木(肩がふるえているな)
える「それで、入須さんのご用というのは?」
入須「………今叶った」
える「?」
入須「何でもない。ならば私は教室で待っている。下校するときに呼びに来てくれ」
える「はい!わかりました!」ニコニコ
入須「………では、また後で。
……………折木君」
折木「……………何です?」
入須「…………………フッ」ニヤッ
折木「」イラァッ
………
……………
…………………
える「折木さん!」
折木「何だ?」
える「いつの間に入須さんと親しくなられたんですか?」
折木「は?」
える「さっき、眼と眼で会話していました!」
折木「いや………あれはアイコンタクトというか、一方的な勝利宣言というか……」
える「?」
折木「何でもな…」
える「私、気になります!」
折木「何でもない!………それよりもお前だ」
える「私、ですか?」
折木「あのこじゅう……入須、先輩は昔なじみだそうだな」
える「あ、はい。小さいころからお世話になっています」
折木「なぜそんなに他人行儀なんだ?要するに幼馴染だろう?」
える「それは………そうですね。理由がない訳じゃないんです」
折木「ほう?」
える「実は入須さんが受験生になったころから、私がこの高校に入るまでの2年間、
入須さんとはほとんど会っていなかったんです」
折木「ふむ」
える「私が入学した後も、私は『氷菓』の謎を追うために、あまり他のことに時間を撮れませんでした」
折木(ここまでは入須の話と同じだな)
折木「それで、何となく疎遠になってしまったということか?」
える「いえ、そうではなくて」
折木「うん?」
える「6月ごろ、学校の廊下で偶然お会いしたんです。
その時に……その…
あ、あまりに綺麗になっていたので、見とれてしまって……」
折木「」
える「昔のように声をかけようと思ったのですが、
2年の間にすっかり大人になったお姉……入須さんに気後れしてしまって」
折木「へぇ…………」
える「それ以来、何となくそのままで……」
折木「なるほど………」
える「やっぱり、高校生にもなって、昔のようにはいかないですよね」
折木「……………いや」
折木「そうでもない、かもしれないぞ」
える「えっ?」
………
……………
…………………
数日後、里志からある噂を聞いた。
何でも、神山高校七不思議に新たな怪談が加わったという話だ。
その名も『微笑みの女帝』。
週に一度、入須冬実の機嫌が異常に良くなる日がある。
その日に運悪く、満面の笑みを浮かべ、鼻歌を歌いながらスキップで校内をうろつく入須の姿を見たものは、
次の日必ず学校を休む、というものだ。
怪談扱いされている理由は、
「目撃した生徒が一人残らず自分の見たものを信じていないから」
ということらしい。
折木「……そんなもの見たら体調も崩すよな」
おしまい
オマケ
える「…………ということなんです!」
入須「………そう」
える「………あの、私の話、つまらないですか?」
入須「え!?そ、そんなことはない!」
える「…………」
…………………
折木『あの人だって、俺たちとそう歳の変わらない高校生だ』
折木『そう簡単に大人になったりはしないさ』
折木『試しに、呼んでみたらどうだ?』
…………………
える「………」
入須「どうした?」
える「………冬実、お姉ちゃん」
入須「!!!!!!??????」
える「ご、ごめんなさい!私ったらつい……」
入須「……い、いや、謝る必要はないが………
急にどうした?」アセアセ
える「こうして入須さんと並んで歩いていると、つい懐かしくなってしまって。
すみません、もう子どもじゃないのに……」
入須「…………」
える「いつまでも私にまとわりつかれたら、入須さんも……」
入須「迷惑だと思うか?」
える「!」
入須「私はお前を迷惑だと思ったことなど一度もない」
える「でも……文化祭の時も、ご迷惑を」
入須「くどいぞ。迷惑なんかじゃない」
える「………」
入須「寧ろ逆だ。お前が私を頼ってくれて、
嬉しかったよ、える」
える「!!!!」
入須「私も、お前と昔のようにこうして話がしたいと、ずっと思っていた」
える「いりす、さん……」
入須「違うでしょう?」
える「………冬実お姉ちゃん?」
入須「…………そう」ギュッ
える「冬実お姉ちゃん……!」ギュウウ
入須「える……」
………
……………
…………………
える「ですが、人前で『冬実お姉ちゃん』と呼ぶのは、やはり少し恥ずかしいですね」
入須「そうね………じゃあ、二人だけのときならどう?」
える「二人だけ……?」
入須「人前じゃなければいいでしょう?
こうやって一緒に帰るときに、そう呼んで?」
える「……はいっ!」ニコッ
入須(………クックック)
入須(見たか折木奉太郎!天はこの入須冬実に味方したぞ!)
入須(誰が貴様のようなヘタレにこの子を渡すか!この子は……えるはこの入須冬実の…)
える「ふふっ……」
入須「どうしたの?」
える「いえ、冬実お姉ちゃんって呼べるのが嬉しくて」
入須「えっ?」
える「なんだか昔に戻ったみたいで嬉しいです!」
入須「ふふっ、大げさね。私もまだ高校生だもの。そんな急に大人になったりしないわ」
える「はい!折木さんの仰った通りでした!」
入須「」
える「実は、試しに呼んでみたらどうか、っておっしゃったのも折木さんなんです」
入須「そ、そうなの………」
える「こんな簡単な方法だったなんて、やっぱり折木さんはすごいです!
この前も………」
入須(…………折木め、こうなることを読んでいたな……!)
入須(………だが、状況が限りなく私の望み通りに動いたことも事実)
入須(……君への評価を改めなくてはいけないな)
…………………
折木(また入須の思い通り、というか望み通りに動いてしまった)
折木(けどまぁ)
折木「今回だけは、痛み分けということで」
おしまい
83 : ◆r4vICyDKLo [] - 2012/08/03 06:20:52.72 w86aQmiH0 51/51終わりん
筆鈍りすぎワロタ
じゃあの。